モバP「無名のコーヒー」
―――事務所
がちゃ
P「はぁ……そろそろ資料室も整理しないとなぁ」スタスタ
P「ファイル崩れたら確実に生き埋めになるぞ……って、あれ?」
P「――ちひろさーん。もしかしてコーヒー淹れてくれました? ありがとうございます」
ちひろ「へ? いえ、私ではありませんよー。少し離れてましたから」
P「え、そうでしたか。じゃあ誰が……?」
P「ええ、そうかもしれません。でもこんなふうに何も言わずにデスクのど真ん中に置かれてるのは初めてで……」
ちひろ「みんなプロデューサーさんに直接褒めてもらいたいと思ってますからね♪」
P「あはは。笑顔で手渡しされるのは嬉しいですよ、やっぱり」
ちひろ「とすると……今回は恥ずかしがり屋さんなのかしら?」
P「どうでしょう? まぁせっかく淹れてもらいましたし……」ズズッ
P「ん、美味い! ちょっと甘いけどすごく美味しいですよこれ」
ちひろ「うふ、良かったですね♪」
??「…………」ジッ
??「…………」フイッ トコトコ…カチャ パタン
―――次の日
がちゃ
P「おおう……資料の雪崩が……雪崩がぁ……」フラフラ
P「……ん? あ、またコーヒーが……昨日と同じ子かな。いただきます」ズズ
P「うっま。ブラックだ」
P「ああ、沁みる……。淹れてくれた子はきっとすごく優しいんだな」ドヤ
P「……みんな仕事やレッスンだから1人だと寂しいなぁ」
P「俺も頑張るぞ!」
??「…………」ジーッ…
??「――!」ササッ
がちゃっ
李衣菜「お疲れさまでーす。プロデューサーさん、独り言廊下まで聴こえましたよ?」
李衣菜「あははっ、全部聴こえてましたって。普段なら誰かしら事務所にいますもんね。最近みんな忙しいですし」
P「うぐっ……ま、まぁな。新人の子たちも軌道に乗り始めたから」
李衣菜「私も久しぶりにMasque:Radeとしてお仕事が出来て嬉しいですよ、へへへ♪」
P「そう言ってもらえたら俺も嬉しいよ。だから寂しくても大丈夫!」
李衣菜「あ、寂しいって認めましたねっ?」
P「ははは。……あ、ところで李衣菜……じゃないよな、今帰ってきたんだし」
李衣菜「? 何がですか?」
李衣菜「昨日から……いえ、私じゃないですよ。今日も昨日もお仕事でしたから」
P「だよなー……」
李衣菜「そもそも私だったらちゃんと手渡ししますよー。きっと照れ屋さんなんですね、その子」
P「ちひろさんも言ってたな。結構絞られそうだ――って、ダメだダメだ! なんかこれじゃ犯人探しみたいじゃないか。せっかく淹れてくれたのに失礼だな」
李衣菜「ふふ、それもそうですね。プロデューサーさんらしいですっ。ロックですよ!」
P「美味しいから大丈夫だよ~、の精神でありがたくいただこう……ああ美味い」ズズズ…
??「…………」コソコソ
??「……なぜ私がこんな……」ブツブツ…
李衣菜「?」クルッ
李衣菜(この声……?)
―――さらに次の日
がちゃ
P「やべぇよやべぇよ……終わんねぇよ整理……どうすんだよ……」ヨロヨロ…
P「ちょ、ちょっと休憩……はぁ。こういう時こそあの無名のコーヒーを……」
P「無い……だと……?」ガーン
P「いやいや待て俺、淹れてもらってる分際でなにがっかりしてんだ……甘えすぎだろ」
P「自分で淹れよう……あのコーヒーより上手く出来る自信はないけど」
がちゃり
ちとせ「はぁ~……お疲れさまでーす。レッスン疲れたぁ」フラフラー
ちとせ「魔法使いさん……うん、平気平気。だんだん体の使い方が分かってきたから。貧血にもあんまりならなくなってきたし」
P「キツかったら俺に連絡来るようになってるから、すぐ飛んでくよ」
ちとせ「はーい。『キツかったらレッスン軽くするよ』、とは言わないんだ?」
P「そこは頑張ってくれると信じてるからな」
ちとせ「あはっ♪ そんな真っ直ぐな目で言われたら頑張りたくなっちゃうな。うん、頑張るね」
P「もちろん無理はしてほしくないけどさ」
ちとせ「それはあなたにも言えることだよ。最近ずっと資料室に籠りっぱなしだって聞いたよ?」
ちとせ「あなたを心配する人は大勢いるってことを考えてね。……なんて、私は主に心配される立場だから言えた義理じゃないけれど」
P「いや……うん、そうだな。心配してくれてありがとうな」
ちとせ「……ありがとう、か。ふふ、そう真心で返すことが出来るから、あなたの縁はとっても深くて大きいんだね」
P「ん? どういう意味だ」
ちとせ「あは。普通は『ごめんなさい』でしょ、ってツッコミだよ。私よりも魔法使いさんこそが魔性なのかも」
ちとせ「もちろん♪ それに、私だけじゃなくて千夜ちゃんもね。資料室で頑張ってるっていうのもあの子が……」
P「え、千夜が――」
ちとせ「あ、ううん。やっぱり今の無し。忘れて?」ジッ
P「あ……ハイ、ワスレマス…」グルグル
ちとせ「よろしい♪」
P「……はっ!? い、今なんかした?」
ちとせ「ううん、何も~♪ 千夜ちゃんたら最近レッスンやお仕事終わったら別行動で寂しいよ~って話だよ♪」
P「あ、ああ。他の子とも馴染んできたみたいだからな。俺にも優しくしてほしいよ……」
P「そうかなぁ……。前にレッスン後に鉢合わせたら『近寄らないでください』とか言われたし……」
ちとせ「汗まみれだったら当たり前でしょう? もう、あなたってばそういうところがダーメ」
P「うぐぅ……」ススス…
ちとせ「え? あ、私はさっきシャワー浴びたよ? 面白いね~魔法使いさん♪ やっぱりかわいくて好き♪」ケラケラ
P「ぐぬぬ……! と、ところで! ちとせもなんか飲むかっ?」
ちとせ「あはははっ♪ 誤魔化さなくてもいいのに~。じゃあトマトジュースがいいな♪」
P「ちくせう、ちくせう!」スタスタ…
ちとせ(うんうん……分かるなぁ、千夜ちゃん♪)ニコニコ
―――さらにさらに次の日
がちゃ
P「はーあ! 朝から腰がいてーや! がはは!」ゲラゲラ
P「…………進んではいる……大丈夫……もうちょっとだ……」ドヨン
P「……あ。今日はコーヒーがある……ありがてぇ。……ん?」
P「四葉のクローバーも。智絵里かな?」
メモ『無理せず頑張ってください』
P「……智絵里の字じゃないな。あの子はもっと丸っこい字だし……几帳面な字だなぁ」
P「ありがとうな。俺も頑張るから」
??「…………」
??(……よし、バレていない)トコトコ…
―――廊下
李衣菜「……ふふ」
加蓮「こら、覗き見しなーいの。お仕事行くよ」
李衣菜「あ、うん! 待って加蓮ちゃんっ」タタッ
―――前日の夜、黒埼家
千夜「――ちとせお嬢さま。今日も1日お疲れさまでした」ペコリ
ちとせ「うん、お疲れさま千夜ちゃん♪ ねえ、今日はレッスン終わったあと何してたの?」
千夜「まだプロダクションの敷地を把握できていなかったので、少し散策を。裏庭もあったんですね」
ちとせ「そうなんだ。表のお庭は行ったことあるけど……そっちは何かあった?」
千夜「たくさんのクローバーが茂っていましたよ。丁度、四葉のクローバーを探している方にお会いしました」
ちとせ「クローバー……確か、智絵里ちゃん?」
ちとせ「あはっ。まゆちゃん、美穂ちゃん、李衣菜ちゃんに加蓮ちゃんだ。Masque:Radeだね」
千夜「ふふ、正解です。流石はお嬢さま」
ちとせ「私たちも同じ薔薇の意匠を魔法使いにもらったユニットだしね♪ 先輩であり、ライバル……みたいな?」
千夜「そうですね。共に精進しましょう、ちとせお嬢さま」
ちとせ「ああっ、千夜ちゃんが燃えてる! あの人が聞いたら泣いて喜んじゃうね♪」
千夜「あいつは関係ありません」プイ
ちとせ「またまたぁ。知ってるよ?」
千夜「…………。ところで、そのMasque:Radeの皆さんとの話ですが」
ちとせ「ふふ、うん♪」
ちとせ「初めて聞いたよそんな言葉」
千夜「私もです。まぁ、ジャンクフードでしたね、普通の」
ちとせ「私もたまには食べたいなぁ」
千夜「いけません。……それで、ギターのワンフレーズを聴かせてもらったり、寝ているほっぺたをつついて遊ばせてもらったり、編み物の勉強にもなりましたね」
ちとせ「千夜ちゃんがすごく楽しんでてお姉さん泣きそうっ」ヨヨヨ
千夜「お戯れを……。最後に四葉のクローバーを一緒に探しました。結局私だけが見つけてしまって申し訳なかったですが」
千夜「……私には相応しくありません。幸せなど……」
ちとせ「またそんなこと言って……」
千夜「――そう、言ったのですが。そんなことない、と皆さんに諭されてしまいました」
ちとせ「!」
千夜「皆さん、あの男に影響されたのでしょうね。眼差しが……同じようにとても温かかった」
ちとせ「うん。魔法使いだから、あの人は」
千夜「…………はい。ほんのささやかな幸せならば……」
千夜「――私でも、望んでも良いのかと……そう、思えます」
千夜「………………内緒、です」
―――
――
―
P「――やっぱり智絵里じゃないかぁ」
智絵里「はい……昨日はクローバー探しをしましたけど、わたしは見つけられなかったので」
P「そっか。……ん? 『わたしは』?」
智絵里「あ。……えっと、聞かなかったことに……李衣菜ちゃん直伝、ぐるぐるぐるー」グルグルー
P「ははは、催眠術など効かんぞ~」
智絵里「えへへ。きっと、いつかその子も素直になってくれますよっ」
P「……ああ。気長に待つとするよ」
智絵里(……ふふっ。先輩っぽいかなぁ、今のわたし……♪)
智絵里「いえ、プロデューサーさんもお忙しいのに……。ちょっとでもお話出来て嬉しかったです♪ また今度、お暇が出来たらお茶会しましょうねっ」
P「お、いいなそれ」
智絵里「ふふ、千夜さんやちとせさんもお呼びしようかなって計画してて♪」
P「そりゃ楽しみだ。そのためにもここが頑張りどころだな!」
智絵里「はい♪」
かちゃ、ぱたんっ
P「……よし、俺ももう一踏ん張り――あちっ」
P「んん、今日も美味い! やるかぁ!」
がちゃ ばたん
……ばさささささがたんがたんごとんっ!!
「ぎゃああああああああああああああまた崩れたああああああああああ!! うおおおおおおおおおああああああ」
??「……行ったか」
千夜「――まったく。息を潜めるのに慣れてしまった……」
千夜「…………ふふ。馬鹿が伝染りましたね」クスッ
千夜(――こうすることが、私なりのささやかな――)
千夜「――今度は、…………」カキカキ…
『残念ながら白雪です。ばーか』
おわり
はじめてのちよとちとせ
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コメント一覧 (21)
-
- 2019年09月23日 11:37
- ふーん、疲れてるときなら「中身」も分からないコーヒー飲むんだね……ふーん♪
-
- 2019年09月23日 13:18
- 大抵の物事はコーヒー一杯の間に解決するものだ。
-
- 2019年09月23日 17:28
- >>3
テクス先生すこすこ
-
- 2019年09月23日 13:24
- 珈琲だと!?君はあんな下品な泥水を啜るのか!!紳士なら紅茶とスコーンで優雅なティータイムだ。
-
- 2019年09月23日 13:53
- >>4
少佐は仕事してください。
-
- 2019年09月23日 13:25
- このろくでもない世界に
-
- 2019年09月23日 13:36
- こいつのお山は大きく盛らねぇのか?
-
- 2019年09月23日 16:53
- >>6
貴様盛りたいのか?
-
- 2019年09月23日 18:26
- >>9
ああ!
-
- 2019年09月23日 14:13
- この距離感維持してくれ
三代目みたいにならないでくれ
-
- 2019年09月23日 17:49
- 某同人誌の飛鳥みたくオシ○コ入りのコーヒーなんでしょ?
-
- 2019年09月23日 19:25
- >>11
かな子「おしるこ!?」
-
- 2019年09月24日 11:46
- >>14
三村!ステイ!みむ...榊原!!ステイ!!!塩見!ステ...三村!!!ステイ!!!三村!!!!!!
-
- 2019年09月23日 19:21
- 気が利きませんね、私ならコーヒーにプラスしてお腹にたまる美味しいパスタを添えて置きますがね!
-
- 2019年09月23日 20:38
- >>13
イチゴパスタはやめろよ、橘
-
- 2019年09月23日 22:16
- >>13
イチゴのパスタのせいで…俺の体はボロボロだ!
-
- 2019年09月24日 03:30
- >>13
お前はまた自分のプロデューサーを食中毒にさせる気か?橘ァ!
-
- 2019年09月23日 22:41
- 珈琲もいいけどヌカッと爽やかな青いコーラも旨いぜ~
-
- 2019年12月27日 07:21
- >>17
っヌカ社お詫びセットやるから成仏しろし
-
- 2019年09月29日 18:37
- 素晴らしい作品をありがとう…
もう俺と千夜は既に運命共同体となっておりますので、どうか最後までお付き合いください(笑)
明日の晩は抱っこして、腕枕して寝てあげるからね
千夜!俺にもチュッは?(笑)
まだお風呂かな?一緒に入ろう! 今度ね!って…もう俺と千夜は、何でもありでしょ?(笑)
また湯船に浸かって、ちょっと恥ずかしそうな顔のかわいい千夜を見せてね! チュッ