騎士「これが……私?」仕立屋「よくお似合いです姫さま」
騎士「 軋む鋼の音、香しい革の匂い……うん、やっぱいい!」
仕立屋「ええ姫さま、よくお似合いですとも」
騎士「やだなあ目が笑ってないよ」
仕立屋「かように無骨なものが姫さまの絹のごときお肌に……!
ああこの仕立屋、死んでお詫びを」
騎士「待って」
騎士「う、それを言われると辛いなあ…」
仕立屋「ならばこれを!慰さめると思って!」
騎士「ここのところ、何を縫ってるのかと思えば……ウェディングドレス!?」
仕立屋「さあ!王子をかどわかして、この国を手中に!」
騎士「え、これってそういう方向性?」
騎士「ええ…」
仕立屋「ちょっとだけ!ね!ね!」
騎士「仕方ないなあ…」
……
仕立屋「さ、髪も結い上げましたよ、鏡をどうぞ」
騎士「ん……」
仕立屋「いかがですか?」
騎士「……これが…………私?」
騎士「とはならないからね、もう脱いでいい?」
仕立屋「ま、まだとっておきのヴェールが!」
騎士「はー、慣れないドレスは肩こるね」
仕立屋「後生ですから、姫さまぁー!」
騎士「はあ、楽になった」
仕立屋「うう、う! 姫さまのいけずー!」ウワーン
バターン
騎士「よ、ようやく静かになった…」
バターン
騎士「あれ、随分と早く帰ってきた…ね…?」
美丈夫「……」ニコッ!
騎士「………?」ニコッ!
美丈夫「……… 」キラッ!
騎士「……… 」キラッ?
美丈夫「………」ジイッ
騎士「…私の顔に何か?」
美丈夫「………ふっ……、失礼!」
仕立屋「あ、首尾はどうでしたか!?」
美丈夫「……… 」フルフル
仕立屋「……話が違うじゃないですかあ!城下町いちのカリスマ店員の腕はどこいきました!?」
美丈夫「いやあ、まさか僕のスマイルが効かないとは!」
美丈夫「…ふっふっふ!この僕がこんな辱めを受けるとは…」
美丈夫(…燃えてきた!これは…まさか恋か!?)
美丈夫(僕は必ずや彼女を振り向かせて…みせる!?)
スパーン
美丈夫「!? なぜ頭をはたく?」
仕立屋「いえ、なにやら無性に腹立たしさを感じたので」
仕立屋「…お引き取りください」ガクッ
仕立屋「ひーめーさーまー!」
騎士「あ、帰ってきた」
騎士「やだなあ怖い顔して」
仕立屋「うっ、うっ、この仕立屋泣かせの姫さまは…」
仕立屋「どうしたら着てくださるので!?」
仕立屋「こんなに愛らしいのに…」
騎士「いやあ、その、まあ確かに、可愛いんだけどね、ちから一杯ドレスって感じがして恥ずかしいのさ」
騎士「もっとこうシンプルなのが…」
仕立屋「そうは言っても!あなたは、正真正銘、お姫さまなんですよ?」
騎士「だからもう姫さまじゃないってば」
騎士「亡き父上の後を継ぎ、公爵になったんだよ」
仕立屋「うっうう、本当は、わ、わかってはいるのです」
仕立屋「ご立派なお志です姫さま…いえ、…公爵さま」
騎士「はは、あらためて呼ばれてみるとなんか恥ずかしいな、やっぱり」
騎士「もうしばらく、姫さまでいいよ」
騎士「これからも宜しくね、仕立屋」
仕立屋「はい…、宜しくお願い致します姫さま」
--- 王宮 ---
騎士「隣国への挨拶回り、ですか?」
王子「そう、君が先代から爵位を継いで半年、ちょうど良いかと思ってね」
王子「それにわが国では初めての女公爵だ、早く紹介しろって圧力が…おっと」
騎士「はは、歓迎されているのはわかりました」
王子「近々訪問する予定にしているのは、深緑の国、渓谷の国、熔鉱の国の3国だ」
王子「戴冠を控えている兄王子は国を空けられないけど、私が同行するし、まあ、気を楽にしていてくれ」
騎士「お心遣い感謝致します、では、私はこれで…」
王子「ああ」
王子「あ、そうそう!各国ではささやかではあるが祝宴も用意されるからね」
王子「ド・レ・ス・も! 公爵の正装と併せて準備していくように!」
騎士「な…何ですって?」
王子「三国でも持ちきりの噂の美貌を持つ女公爵だ、わが国の為にもアピールしない訳にはいかないだろう?」
王子「ふっふっふ、各国の老若男女、まるっと骨抜きにしてこようじゃあないか!」
騎士「 」
騎士「ただいま……」
騎士「仕立屋…仕事、君に仕事だよ」
仕立屋「どうされました姫さま!しかも仕事ですって!?」
騎士「隣国への挨拶回りに…ちょっとね、駆り出されて」
騎士「そこで、だ! 私の為にとびっきりの正装を作って欲しいんだ…!」
仕立屋「う、うう!ついに公爵として晴れの舞台ですか…仕方ありません!」
仕立屋「私も仕立屋の端くれ!覚悟を決めました!」
仕立屋「くーるに決めますか!?だんでぃーに攻めましょうか!?」
騎士「くっ…!」
騎士「びゅ、びゅーてぃふるを少々………」
仕立屋「 」
--- 3日後 ---
騎士「ふああ…ん?もう仕立屋は起きているのかな?」
騎士「おはよう、仕立屋……って」
騎士「な、なに!? 部屋に何もない……!」
仕立屋「あ、おはようございます姫さま!」
騎士「え? 空き巣にでもあったの!? 家具とか何から何までないんだけど?」
仕立屋「すみません、驚かせてしまいましたね!」
仕立屋「ですがご安心を! 一時的に余所で預かってもらっているだけですので!」
仕立屋「ドレスを仕立てるのに若干手狭だったもので……」
騎士「や、高価なものにし過ぎて、金策で質屋とかに入れているとかじゃなければいいんだけどさ…」
仕立屋「いーえ、それはもう! 十分に支度金も頂きましたし!」
騎士「…こ、これは思ったよりもとんでもないことに…」
騎士「あ、あのさ、や、やっぱり…」
仕立屋「え?なんですか!?姫さま!………」キラキラ
騎士「ああ、無垢な眼差しで…」
騎士「そ、そうね…外交用のドレスは、ちょっと控えめにして…欲しいななんて」
仕立屋「……」グググッ
騎士「聞いてる?」
仕立屋「……もちろんですよ姫さま!不肖私め!やる気が漲ってはち切れんばかりです! 」グッ、ググッ、グイーッ
仕立屋「ええ、ええ!もう私に全てお任せください!」ノビー
騎士「え、いや、だから控えめに……って、さっきからどうしたの?それ、なんの準備運動!?」
仕立屋「何って……これから出発まで、昼夜を徹して、全力でドレスを仕立てませんとね!」
仕立屋「い、やー!燃えて来ました!」
騎士「ちょ、ちょっと……」
仕立屋「……深緑の国では、木漏れ日に煌めく、深いエメラルドグリーンのドレス」
仕立屋「渓谷の国では、そうですね、透き通るような淡いブルーのドレス」
仕立屋「溶鉱の国、少し難しいですが、煤けた大地にも艶やかさを添える、クリムゾンレッドなんかどうでしょう」ハッスルハッスル」
騎士「あの」
仕立屋「はっ!もうこんな時間、早速布地を調達してきますね!それと私の部屋には立ち入らないようお願いします!」
仕立屋「では!」シュタッ
騎士「ああ行ってしまった……」
--- 2週間後 ---
騎士「仕立屋が部屋から出てこない……」
騎士「おーい、王宮に行ってくるよー」
騎士「食事は置いておくからねー……」
騎士「……いってきまーす」
………
騎士「帰ってきたよー……」
騎士「……食事には手をつけているようだけど」
ズガガガガガッ!
ドッカンドッカン!
ガーンガーン
グシャアアアアア
騎士「……およそ服を作ってる音じゃない気がするんだけどなぁ」
-- 出発前日 ---
シーン……
騎士「も、物音ひとつしない」
騎士「ちょっと、仕立屋? 生きてる!?」
騎士「……開けるよ!?」
ギイイイィィィ
騎士「仕立屋?」
ガッ
騎士「あたっ」
騎士「なんだろ、大きな固まりが……新しいマネキンか……な」
ズルリ
仕立屋「 」
騎士「ひっ!」
騎士「ちょっ……!」
騎士「ちょっと、白目向いてるじゃない!」
騎士「起きて、起きて! 仕立屋ー!」
--- 数時間後 ---
仕立屋「……まったく面目ございません」
仕立屋「我を忘れて没頭してしまうなど……とんだ醜態を」
騎士「や、生きてるならいいんだけどね……」ゲッソリ
騎士「それで、納得いくドレスは出来た?」
仕立屋「え……、ええ!それはもう!会心の出来です!」
騎士「よかったね、私も楽しみにしてるよ」
仕立屋「え…今なんと…、私の作ったドレスを? た、楽しみ、と?」
騎士「あんなに一生懸命作ってもらったら、そりゃ…そうね」
仕立屋「ひ……ひ、め、さま……」ブワワッ
仕立屋「わ、わたしは、もう、いまほど生きててよかったと思うことはありません~!」
仕立屋「……うわあああ!」
騎士「うん、うん、よしよし、お互い生きててよかったね」
騎士「お父様、お母様、姉様がた、私と仕立屋は元気でやってますよ、どうか天国から見守っていてくださいね」
仕立屋「うわあああ~! 旦那様、奥方様~!」ズビー
騎士「あ、このやろ! 私の服で鼻をかんだな!」
仕立屋「ず、ずびばぜん~!う、うわあああ~!」ズビビー
騎士「……やれやれ、まったくもう」
--- 出発当日 ---
騎士「すみません、お待たせしました」
王子「いえ、定刻より早いくらい、……そちらの方は?」
仕立屋「……」
騎士「ええと、私の家の仕立屋です、今回のドレスも彼女が用意を」
騎士「是非旅に同行して私の身の回りの世話をしたいと」
騎士「腕は確かです、ほかにもお役に立てるかと」
王子「なるほど……それは有り難い、歓迎するよ! よろしく!」
王子「ところで……」
騎士「?」
王子「彼女は、こう、随分帽子を深く被っているね! 前は見えるのかな? 」ヒソヒソ」
騎士「あ、あはは、少し事情がありまして……」
仕立屋「うう……目が腫れて開かない……」
王子「君が公爵になってこのかた、あまりゆっくりと喋ることもできなかったけど」
王子「これも色々と話すことのできるいい機会だ、公爵になってみてどうだい?」
騎士「まあ実感が沸かないといいますか…、突然でしたから」
王子「そうだね、先代公爵である貴女のお父上を含め、流行病で次々に亡くなられて」
王子「末子で、我が国の騎士として留学に出ていた君だけが難を逃れて、家を継いで…」
騎士「はは、継いだといっても爵位とわずかばかりの財産だけですが」
騎士「流行病を恐れていた使用人達にも暇を出しましたし、屋敷も取り壊してしまいましたので」
騎士「王都に邸宅を貸していただけて感謝しています」
王子「いやいや、困った時はお互い様、何より爵位を継いでくれて感謝しているよ」
王子「我が国初の女騎士、そして女公爵ということで頭の固い爺様達は色々と言うかもしれないが」
王子「そんな評価、ひっくり返してやって欲しいな」
王子「何より私は君のファン一号だからね」
騎士「王子……」
仕立屋(……うふっ)
仕立屋(……うふっふっふっふ!)
仕立屋(…こ・れ・は! い~い雰囲気! 大人! 大人の雰囲気!)
仕立屋(……ああ、お似合いですよお二人とも!)
仕立屋(これです! 私はこれを待ち望んでいたのです!)
仕立屋(先の流行病で公爵家は断絶の危機にありました…)
仕立屋(しかし、姫さまが爵位を引き継ぎ、家を存続させた…)
仕立屋(それから姫さまは公務も大変積極的に取り組まれて…うう、ご立派、ご立派です!)
仕立屋(……ですが! 足りないものがあります)
仕立屋(今や姫さまは天涯孤独、そう、……素晴らしい旦那様が必要なのです!)
仕立屋(なのに、当の姫さまにその気がない!)
仕立屋(あまつさえ自分の正装はこれだと言わんばかりに鎧姿で出歩く始末…)
仕立屋(世の殿方は、姫さまの魅力に気づけない!)
仕立屋(よしんば気づいたとしても、姫さまの…あの、あの、腕っ節にたじろいでしまう…)
仕立屋(しかし、しかーし、巡ってきましたこの好機!)
仕立屋(我が国の第2王子…、民に慕われ武芸にも秀でていると聞きます)
仕立屋(この旅で姫さまにはなんとしても王子のハートを!)
仕立屋(この先……各国で行われる3つのパーティー)
仕立屋(そこに私の渾身のドレスを纏った姫さまがあらわれる……)
仕立屋(王子の好みはどこかわかりませんが、必ずやどれかは心に響くはず!)
仕立屋(仮に……王子が駄目でも)
仕立屋(各国の太子がおりますし!)
仕立屋(この、二段構えの隙のない作戦!)
仕立屋(姫さま、貴女は必ずや私が幸せに致します!)
仕立屋「……うふっ、うふふっ、うふふふふ」
王子「帽子で顔が見えないけれど、なんだか笑っているようで何より!」ヒソヒソ
騎士「……何やら不穏な気配が」
騎士「…そういえば王子、以前仰られていた隣国のご令嬢とのご縁談はいかがでしたか?」
仕立屋(!?)
仕立屋(ひ、姫さま!? まさか姫さまからそのように積極的に!?)
仕立屋(やはり脈あり!そぶりは無くともその気ありですか!?)
仕立屋(はっ! というより、ご縁談!? 最有力候補がここで脱落ですか!?)
王子「いや、あれは申し訳ないがお断りしたよ」
王子「兄が戴冠するまで間もないしね、しばらくは私が支えないと」
騎士「そうでしたか…」
仕立屋「…お、王子!」
騎士「仕立屋!?」
仕立屋「あ、あの、僭越ながら申し上げたいことがございまして…!」
仕立屋「? どうぞ?」
仕立屋「あの、いいですよう、うちの姫さま! ちょっと剣が趣味とか、……お胸がさっぱりなくてあんまりドレスが似合わないとか、ありますけど!」
騎士「はああああ!? ちょ、ちょっと、仕立屋!」
王子「お胸がさっぱり……ふむ」
騎士「王子!」
仕立屋「スレンダーな体型に合ったドレスは私が作れますゆえ! どうかどうか~」
王子「考えさせてくれ! 私も少しばかり好みが……」
仕立屋「詰め物もたくさん入れますゆえ~~~!!!」
王子「そ、それは国家予算をやり繰りしないと……!」
騎士「二人して胸元を見つめたまま会話しないで!」
● 深緑の国
--- パーティー当日 大広間入り口 ---
騎士「うう、やっぱりドレスは着慣れないなあ」
騎士「腰回りもこんな親の仇のように締め上げなくたって」
騎士「それに……この、胸! ちょっと、盛り過ぎじゃない!?」
仕立屋「ふ、それもこれも王子を射止めるため!」
騎士「あ、まだ続いてたのね、それ」
仕立屋「当然ですとも!」
仕立屋「さあ、会場へ入りましょう」
ザワザワ……
「あの方が……?」
「ああ、女公爵様らしいよ」
「へえ……お美しい」
「あのグリーンのドレスがまた華を添えていますね」
仕立屋(お、おおお!いい感じです!)
騎士(うわー……見られてる見られてる)
仕立屋「姫さま!もっと背筋を伸ばして、胸を張ってください!」ヒソヒソ
騎士「ない胸は張れません」
仕立屋「もう!謝りますから~!」
王子「騎士殿、やあなんとお美しい」
騎士「王子、お待たせしました」
王子「おお、これが仕立屋殿のドレスですか」
王子「ううん、綺麗なものだねえ、へえ、これはなかなか…」
仕立屋(……当たり障りのないコメントですね)
仕立屋(これは……王子にあまり響きませんか)
仕立屋(それではこの国の太子様は……)
「おお、そなたが件の女公爵殿か」
仕立屋(大臣様……でしょうか、随分と威厳のあるお爺様……)
騎士「は、お初にお目にかかります」
「よい、さあ顔を上げてくれ」
「ようこそ深緑の国へ、私がこの国の第一王子、緑太子だ」
仕立屋「ひぇ!?」
騎士「?」
緑太子「どうかされたか?」
仕立屋「あ、い、いええ、失礼致しました……」
緑太子「はっは、構わんよ、可愛らしい侍女だな」
仕立屋「お褒めに預かり光栄です……」
仕立屋(うわあうわあ!緑、太子!?王子様!?)
仕立屋(だって明らかに齢60は超えてらっしゃる!)
仕立屋(ひ、ひええ……どういうこっちゃ……)
緑太子「いやはや、王子は羨ましいな、こんなに美しい方を連れているとは」
緑太子「いや、本当にお美しい…… 」ジッ
騎士「ありがとうございます」 ニコッ
仕立屋(……ああああっ!)
仕立屋(いや、狙い通りですけど! ですけど!)
緑太子「是非、一度私と踊ってはくれませんか?」
騎士「喜んで」 ニコッ
仕立屋(ああ、事が上手く進んでる!?)
仕立屋(姫さま!?まさかおじさまが趣味ですか!?)
仕立屋(ああ!喜んでいいやらわるいやら!)
「緑太子と公爵様……素敵なダンスね」
「ああ悔しいが……やはり緑太子の貫禄には敵わん」
「緑太子も奥様に先立たれてずっとおひとりだったけれど……」
「俺は応援するよ!」
仕立屋(あああ外堀も着々と)
緑太子「さ、少し夜風に当たりましょうか」
騎士「ええ」
仕立屋(いやー!)
王子(仕立屋殿、さっきから表情がコロコロ変わってるなあ、面白い子だ)
--- 翌日 ---
騎士「は? 嫁ぐ? 誰が? どこへ?」
仕立屋「昨夜はお楽しみでしたね」
騎士「ええ?私が緑太子にってこと?」
騎士「いやあ、さすがにお父様以上の年齢の方は……」
騎士「ほら、社交辞令だってば」
騎士「あ、でも、確かにちょっと素敵だったかなあ、渋いロマンスグレーの太子様」
仕立屋「うう……姫さまにはもう少し歳の近いお方がお似合いかと思います」
騎士「はは……、あ、でも次に行く渓谷の国の青太子はなんか若い美青年らしいよ」
仕立屋「なんと!……さすが姫さま!情報収集抜かりなし!やっぱりやる気なんですね!」
仕立屋「くわー!また燃えて来ましたよ!」
騎士「ほどほどにね……」
--- 出発の日 ---
王子「緑太子、それではまた……」
緑太子「うむ!またいつでも来るとよい!
緑太子「うちの国王ももう90を超えて、いつあの世に行くかわからんでな」
王子「またまた、素晴らしくお元気ではないですか 」
騎士「それではまた、パーティーではありがとうございました」
緑太子「こちらこそ楽しめたわい、……その」
騎士「なんでしょうか?」
緑太子「いや、大事ない、達者でな!」
--- 道中 馬車の中 ---
王子「仕立屋殿は……より一層深く帽子をかぶってるね」
騎士「なにか……この何日かほとんど眠れなかったようで」
仕立屋「うう……目の下の隈がひどい」
王子「いや、しかしお二人ともお綺麗でした」
王子「ドレスに身を包んだ騎士殿もさることながら、仕立屋殿もまた可愛らしく」
仕立屋「へ?……いいいえええ!?そんな、わた、私は姫さまのお付きですので、可愛いとか、そんな」
王子「いやいや、本当に、上品な装いだったよ」
王子「あれも仕立屋殿が自分で?」
仕立屋「は、はあ……、私には、あれぐらいしか、取り柄がありませんので……」
王子「なるほど、素晴らしい特技だね」
仕立屋「はあ……ありがとうございます……」
仕立屋(……次からは少し地味な方にしよう)
●渓谷の国
王子「私は少し大臣と話して来ます、近くに庭園があるので、そちらで待っていてください」
--- 庭園 ---
仕立屋「ふはー!綺麗ですね、ね、姫さま!」
騎士「大陸いち水の綺麗な国だったかな?素敵な庭園だね」
仕立屋「ほー!ほほー!創作意欲が掻き立てられます!」
ブワッ
仕立屋「わ! 風で帽子が……!」
騎士「……よっ!」
パシッ
騎士「やったー! つかまえ、た……って、おおお!?」
ザッパーン
仕立屋「あ、ああ!姫さまが小川に!」
仕立屋「だ、大丈夫ですかー!?」
「おい」
仕立屋「は?」
「あんただよ、あんた」
「見ない顔だな、城への客か?」
「貴族……?それにしては身なりが、新しく入った侍女か?」
仕立屋「わ、わたしは……」
騎士「仕立屋ー、どうしたの」
仕立屋「ひ、姫さま……」
騎士「あれ、その子は……?」
騎士(……随分と身なりのいい、貴族の子どもか?)
「あんたらが今晩パーティーに招待されている客人か」
騎士(やはり貴族か)
騎士「はは、すみません、このようなお見苦しい格好で」
騎士「騎士と言います」
「はっ?騎士だって?あんたが!?」
騎士「ええ、それが何か?」
「いや……貴国を訪問していた臣下の報告では、それはそれは美しい姫君と聞いていたからな」
「あいつめ……何を見ていたんだか」
騎士「んなっ……」
「こんな風に」
「川に飛び込むような」
「粗野で」
「髪はボサボサで」
「肩幅が広くて」
「色黒で」
「おまけにまったく胸のない」
「男のような女、いや、実は男か?」
騎士「な、なな……」
仕立屋「ちょ、ちょっと、あな、貴方は!」
「たーいし……青太子……」
「ちっ、もう探しに来たか」
「今晩のパーティーは……まあ怖いもの見たさで楽しみとするか」
「さらばだ!」
シュタッ
「あっ!青太子!見つけましたよー!」
騎士「あの子どもが……青太子?」
ポツーン……
騎士「……」
仕立屋「……」
騎士「……仕立屋」
仕立屋「……はい姫さま」
騎士「こんな男女でも綺麗になれるかしら」
仕立屋「私を、誰だとお思いですか?」
仕立屋「どスレンダーな姫さまでも魅惑の腰つきにして見せた私ですよ?」
仕立屋「私の手にかかれば、容易いことです!」
騎士「…ふっ、…よろしい!」
仕立屋「おのれ青太子、たとえ本当のことだとしても、なんたる暴言を」
仕立屋「姫さまへの無礼千万許せません!」
騎士「色々ツッコミたい所だけど、とりあえずは奴だ!」
騎士「いくよ、仕立屋!」
仕立屋「はい、姫さま!」
ガシッ!
騎士「……くっくっくっく……」
仕立屋「……うっふっふっふ……」
王子「……やあ、いたいた」
王子「お待たせしまし……た……?」
騎士・仕立屋「「わっはっはっはっはー!青太子、子どもと言えど、許すまじ!」」
王子「……何があったんだろう、騎士殿はずぶ濡れだし」
--- パーティーの夜 大広間 ---
騎士「……」シャナリシャナリ
ザワザワ
青太子「おい、あの美女はどこの誰だ?」
側近「誰って……あ、こちらへ来ますね」
騎士「ご機嫌麗しゅう」
青太子「なんと美しい、名をお聞きしたいがよろしいか?」
騎士「……いやですわ、昼に庭園でお会いしたばかりだと言うのに」
青太子「庭園で……?」
青太子「はっ」
青太子「ま、まさか……あの……」
青太子「な、なに~!?あれが!?嘘だろ~!?」
騎士「うふ、ごめんあそばせ」
シズシズ
仕立屋「姫さま、お見事です!」
騎士「仕立屋、やってやったわ!」
キャッキャッ
王子「……ほんとに何があったんだろうか、青太子は顔面蒼白だし」
--- 翌日 ---
騎士「あーうー」
仕立屋「ひ、ひめさま……そのお顔は」
騎士「ふっ」
騎士「仕立屋、私の笑顔はもう空っぽだよ」
仕立屋「無表情にも程があります! うう、なんという代償を……!」
騎士「顔がひきつって動かないのさ……」
仕立屋「無理をさせて申し訳ありませんでしたー!」
騎士「私も乗り気だったし、気にしないでよ」ニヤリ
仕立屋「引きつった笑顔がなんとも怖い!」
--- 数日後 出発の日 ---
王子「それでは、これで」
青太子「ああ、旅の無事を願っている」
騎士「青太子、ありがとうございました」
青太子「いや……その、俺も、すまなかった」
騎士「はは、構いませんよ、確かにあのずぶ濡れ姿はあんまりでしたし」
騎士「それでは……」
青太子「……あ、騎士、……殿!」
騎士「……なんでしょうか!?」
青太子「いや……、達者で!」
騎士「青太子もご健勝の程を!」
青太子「……」
側近「青太子、どうなされました?」
青太子「……い」
側近「い?」
青太子「………旅姿も、いいな」
側近「青太子、鼻血が、鼻血が」
--- 道中 馬車の中 ---
パカッパカッパカッ
ゴトゴトゴト
王子「パーティーの時は二人して、してやったり!てな顔していたからヒヤヒヤしたけど」
王子「終わりの方には青太子と談笑もしていてホッとしたよ」
王子「何かあったのかい?」
騎士「まあなんというか、青太子とは境遇が近いものがあったので、そこから勝手ながら親近感というか、あの生意気さ加減も可愛く見えるというか……」
王子「ああ、そうだね……」
王子「青太子には、兄王子たちが何人かいたんだけど、みな流行病で亡くなられてね」
王子「妾の子で、城の外に出されていた彼に白羽の矢が立ったんだ」
騎士「はい、そのように聞きました」
仕立屋(……深緑の国、渓谷の国と、若干当てが外れてしまいましたが…)
仕立屋(今度の国こそは……!)
仕立屋(……パーティーの夜)
仕立屋(姫さまはとっても積極的にドレスを着ていられました……)
仕立屋(皆様にもこれでもかと言わんばかりに笑顔を振りまいて……)
仕立屋(あの!あの感じがいつも続けばよいのですが……)
ゴトゴト……ゴト
仕立屋「あれ……?馬車が止まった、もう着いたんでしょうか……?」
王子「さ、申し訳ないけどここからは歩きだ、馬車が入れないんでね」
……ゴオオオオ
……オオオォォォ
仕立屋「……」
仕立屋「……王子、これは」
王子「さあさっ、ここからはちょっと険しい山道だよ!」
王子「熔鉱の国は土地のほとんどが山地なんだ」
仕立屋「は、はは……」
●熔鉱の国
仕立屋「ああ、あれは、川? 川と花畑が見える」
仕立屋「旦那様、奥様……かような笑顔、私にはもったいなく……」
仕立屋「うふふ、うふふ」
騎士「……仕立屋ー!もうちょっともうちょっと!」
仕立屋「はひ……」 ドサッ
騎士「はい、よく頑張った!」
仕立屋「う、うう…… 」
王子「さ、ここまで来れば城下町までもう少しだね」
騎士「王子はこのあたりには来た事がおありで?」
王子「熔鉱の国の赤太子は私の古くからの友人でね」
王子「互いの国へ留学もしたし、よくお互いに剣の腕を競いあったよ」
王子「この国自体が剣技が盛んな国でね」
王子「国民から貴族まで、みな己の腕を磨いている」
王子「私の方はもうからっきしだが、赤太子の武名は大陸でも有名だ」
王子「この数年は会えていないが……立派に国をまとめていると聞く」
騎士「そうですか、凄い方なんですね」
仕立屋(……こ、れ、は……、これは……)
仕立屋(……これは!期待大です!) ガバッ!
仕立屋(きっと王子と歳も近いでしょうし、剣が好きなんて、姫さまとも趣味が合う!)
仕立屋(ここは勝負のかけどころですね!)ゴゥ!
騎士「……何やらまた燃え上がってますね」
王子「本当だね、……はは、面白い子だなあ」
仕立屋「は、はあ、なんという、試練……」
仕立屋「あと少し、あと少し……?」
王子「いやあ、久しぶりだとこたえるね」
王子「ん? あそこにいるのは…」
騎士「お知り合いですか?」
王子「ああ、彼は赤太子の執事殿さ、しかしなぜこんな道すがらに…」
王子「え?赤太子が行方不明?」
執事「そ、お、なんです~!もう半日も……!」
王子「一体何が……」
執事「それが……行方不明になった炭坑夫を探しに炭坑の奥へ」
執事「今は収穫の時期で、皆麓の町に行っており人手が足りないのです…」
執事「それも危険だからとお一人で……!」
執事「崩落が何度かあって、他の誰も近寄れなくて……」
王子「あいつはもう……変わってないなあ」
--- 炭坑の入口 のひとつ ---
王子「ここか……」
執事「ああ、ご無事でしょうか……」
……ン
騎士「……? 王子、何か聞こえませんか」
王子「え?……本当だ、何か……石を砕く様な……」
……ガーン、ガーン……
仕立屋「お、音が近づいてきます!」
……ガーン ドガァァァァ!
執事「岩壁が崩れた!?」
ガラガラ……
赤太子「……お? おおお!?」
赤太子「おい、やっと出られたぞ! しっかりしろ!」
「うう……助かった……の、ですか?」
赤太子「そのようだ! はっは! 久方ぶりの日光は眩しいなあ!」
王子「赤太子!」
赤太子「……? 眩しくてよく見えないが、誰だ?」
王子「私だ! 王子だ!」
赤太子「……王子だと!?なんだどうした、奇遇だな!」
王子「奇遇だな、じゃない!お前はまた無茶をやって……」
赤太子「わっはっは!これが俺の性分だ、仕方なかろう!」
執事「あああ赤太子~!ご無事で~」
赤太子「おう!心配をかけたな!」
ワイワイ
仕立屋「……」
仕立屋「逞しく、精悍な顔つき」
仕立屋「関係ない私ですら飛び込みたくなる広く厚い胸板!」
仕立屋「屈託のない笑顔、そしてこの度量……」
仕立屋「……こ、これは!このお方なら……!」ワナワナ
--- 数日後 練兵場 ---
騎士「はっ!やっ!」
騎士「……ふう、ドレスもまあ悪くないけど……やっぱり剣を振ってるのが性に合ってるなあ」
騎士「しかしなんだか妙に視線を感じるんだよなあ」
騎士「なんだろう、うーん…… 」
貴族A「おい、あの騎士殿は剣技に長けているらしいな」
「貴族B「ああ、なんと素晴らしい、強い女性は素敵だな」
「貴族B「彼女が来てから兵士達の間では彼女の噂で持ちきりだ」
貴族B「誰か連れ合いの方がいるのだろうか」
貴族A「いや……侍女達の噂によれば、この旅で婿を探しているらしいぞ」
貴族B「なに!それは本当か!」
貴族A「ああ、どうやら騎士どのと一緒にいる仕立屋からの情報らしい、確かだ」
貴族B「う、うむむむ!実にいいことを聞いた!」
貴族A「……隙あり!」
貴族B「ぬお!お前、騎士道精神はないのか!」
騎士「……なーんかちょっと熱っぽい視線だなあ」
騎士「……私と手合わせでもしたいのかな?」
赤太子「……おお、そこにいるのは騎士殿か」
騎士「赤太子、身体はもうよろしいのですか?」
赤太子「わはは! たっぷり食べてたっぷり寝たからもう何ともないな!」
騎士「そうですか、よかったです」
赤太子「……それはそうと、騎士殿はなかなかの剣の腕前と見える」
騎士「はは、留学中はずっと剣を学んでいたもので」
騎士「おかげでこのようなついぞ女らしくない風体ですが」
赤太子「はは、健康的でよいと思うぞ」
赤太子「どうだ、ひとつ手合わせしてみないか、私も身体を慣らしたくてな」
騎士「私でよろしければ、喜んで」
王子「あれ?騎士殿は?」
仕立屋「姫さまは練兵場の方へ」チクチク
王子「そうか……仕立屋殿は何をやってるんだい?」
仕立屋「わたしですか?私は……リーサルウェポンの用意を……」ヌイヌイ
王子「はは、なんだいそれ」
仕立屋「大・変、重要なのです」
王子「仕立屋殿はなぜその仕事を?」
仕立屋「え? 姫さまではなく、私のことですか?」
仕立屋「ええ、ええと……私は……その」
仕立屋「……姫さまが、私のつくる服がよいと、おっしゃってくださったので」
王子「騎士殿が?」
仕立屋「まだ私が侍女の使いっ走りだった頃のことです」
仕立屋「たまたま私がつくった服を見て、いたく気に入ってくださって……」
仕立屋「それから姫さまのお召し物を沢山作らせて頂いて……」
仕立屋「だんだんと……皆様の仕立てを任されるようになりました」
仕立屋「だから今の私があるのは……姫さまのおかげなんです」
仕立屋「その後、流行病があって、私はなんとか命を繋ぎました」
仕立屋「そしてなんとか留学から帰ってこられた姫さまにお会いすることができた」
仕立屋「そしたら姫さまはこう仰って下さったんです……」
$~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~$
仕立屋『ひ、姫さま、旦那様が、奥さまが、皆様が……』
騎士『うん』
仕立屋『私には何もできず、ただ、ただ……』
騎士『うん、うん』
騎士『辛かったね、仕立屋が無事でよかった』
騎士『大丈夫?お腹空いてるでしょ、何かあったかい物を食べよう?』
$~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~$
仕立屋「ご自分もお辛いでしょうに、まず何よりも私の心配をしてくださって……」
仕立屋「……姫さまにはなんとしても幸せになって頂きたいんです」
仕立屋「私のできることと言えば、服を縫うことくらいですが……」
仕立屋「いえ、それくらいしかできない、有事にはなにもできない役立たずだったんです…」ボソッ
王子「うん?」
仕立屋「はっ、す、すみません、気付けばなんともペラペラと無駄話を……」
王子「いや、はは、二人とも凄いね」
王子「仕立屋殿の気持ちはとても尊いと思うよ」
仕立屋「……い、いえ、私は……」
仕立屋「そ、そういえば、お、王子は……何かご縁談があったとか……」
王子「ああ、そうだね」
王子「兄も無事に王位を継ぐし、あとは子でもできれば私も一安心さ」
王子「私など、兄の代わりでしかないからね」
仕立屋「そのようなことは……」
王子「まあ幸い、兄も、これからは自分が思うようにやってみろと言ってくれたし……」
仕立屋「自分が思うように……」
バターン
赤太子「わっはっは!いやー楽しかった!」
騎士「あっはっは!こちらこそ!」
赤太子「こんなに達者な御仁はそうそうおるまいよ!」
騎士「赤太子こそ、加減していたのでは!?」
赤太子「そんなことないぞ、いや、必死だったわ!」
騎士「またまた、ご謙遜を!」
王子「おお、すっかり意気投合してるね」
仕立屋「ひ、姫さま~!ドロドロじゃないですか~!御髪もこんなに乱れて~!」
騎士「あ、かすり傷」
仕立屋「いやー!誰か、誰か腕のいい医者をー!」
--- 城下町 ---
仕立屋「うう……早く、早くこの国を脱出しなければ」
仕立屋「赤太子、姫さまと気が合いすぎです……」
仕立屋「日に日に、姫さまに生傷が増えている気がします……」
仕立屋「やや、噂をすれば、あれは赤太子……なにやらこども達とやっていますね」
仕立屋「太子さま、どうかなあ?」
赤太子「はっは、もう少しで直るぞ、任せておけ」
赤太子「とはいうものの、うーむ、これは……」
赤太子「おっ? そこにいるのは騎士殿の侍女か」
仕立屋「は、はい」
赤太子「おお、そういえばそなたは仕立屋とのことだったな」
赤太子「ちょっとこっちに来てみてくれないか」
仕立屋「…布の…ブローチですか?」
赤太子「ああ、この子の母親のものらしいんだが…壊してしまったようでな」
赤太子「私も、こう見えて手先は器用な方なんだが…なにぶんかなり凝った作りをしていてな」
仕立屋「ははあ、少し貸して頂けますか?」
………
仕立屋「はい、どうぞ、直りましたよ」
赤太子「なに、本当か!? なんという手捌きだ…!」
「うっわあ、お姉ちゃん、太子様、ありがとう!」
仕立屋「い、いえ、大したことでは…」
赤太子「……私に是非手ほどきを……」
仕立屋「? 何か仰いましたか?」
赤太子「い、いや、なんでもない」
赤太子「大した腕前だ、これは騎士殿の装いも楽しみになってきたな」
仕立屋「……! ええ、ええ、楽しみになさっていてください!」
--- パーティー当日 ---
~♫~♫
騎士「仕立屋……これは」
仕立屋「最終決戦ゆえ、あらん限りの力を尽くしました!」
騎士「もう少し控えめにならないかな……」
仕立屋「なりません」
仕立屋「さ、さ、皆さんがお待ちですよ」
騎士「そんな~」
「おい、あれが騎士どのか」
「鎧姿もよかったが、ドレス姿もまた……なんと美しい……」
「おお、なんと鮮やかな深紅のドレスだ……」
「それにじつに妖艶な……」
「あのヴェール、なんて綺麗……」
「美しい……」
騎士(ひ、ひええ……)
騎士(胸元もこれみよがしに開いてるし……)
仕立屋(うふふふ!前の国ではギャップの効果を体感しましたからね!)
仕立屋(それにこの国では鎧姿もうけているようですし!)
王子「騎士殿」
騎士「王子」
王子「よくお似合いです、これもまた美しい」
仕立屋(……王子は相変わらずの淡白さ、……ですが!)
赤太子「騎士殿」
騎士「赤太子……」
赤太子「よく似合っているな、実に…、実にいいドレスだ! うむ!」
赤太子「これはどう縫製しているんだ? このさりげない装飾も素晴らしい…」
騎士「あ、ありがとうございます」
赤太子「……うむ、うーん、その、なんだ」
赤太子「その……いや、これはうちでも…」
騎士「?」
赤太子「いや、なんでもない」
騎士「そうですか?」フフ
仕立屋「あ、赤太子ー!もうひと声!恋には奥手ですか~!? 」ガクッ
王子「ほら、項垂れてないでしゃんとしなさい」
仕立屋「へっ? 王子、何を……」
王子「さ、こちらはダンスなどいかがですか?」
仕立屋「えっ、ちょっ!ちょっと!?私は踊れませんよお!」
王子「大丈夫! リードは任せてくれたまえ!」
仕立屋「ひ、ええええええぇぇぇ……!」
~~~♫
~~~♫
王子「ほら回って回って」
仕立屋「~~あ~~~れ~~~!!」
~~~♫
騎士「……仕立屋のあんな顔、はじめて見たなあ」
~~~♫
執事「た、太子~!」
赤太子「執事か、どうした」
執事「また落盤事故です! 今回は行方不明者はいませんが…何人かけが人が…」
赤太子「そうか…」
赤太子「王子、騎士殿、すまない、宴は一時中断させてもらって構わないか?」
赤太子「いますぐ現場に向かいたい」
騎士「お役に立てるかはわかりませんが、多少なりとも手当の心得はあります」
王子「私も行こう」
王子「人手は多い方がいいだろう」
赤太子「…恩に着る」
「い、いてえ…」
赤太子「大丈夫か!」
「ああ、赤太子さま、すんません、宴の最中だったでしょう…」
赤太子「阿呆、気にするな」
王子「これはひどい怪我ですね、骨も折れている…」
仕立屋「う、うう…痛そう、うう」
騎士「応急手当てだけでも…何か添え木と清潔な柔らかい布を…」
仕立屋「清潔な、柔らかい布…」
仕立屋「ひ、姫さま、し、失礼します!」
騎士「仕立屋!? ドレスを…切るの?」
仕立屋「ええ、申し訳ありません! きっと…また私が仕立て直しますゆえ!」
赤太子「…ふう、大事には至らなくてよかったな」
王子「ええ、しかし…」
騎士「はは、ボロボロになってしまいました」
仕立屋「ああ~姫さま、ご容赦を~平に~平に~」
騎士「なに言ってんの、いいよ」
仕立屋「ひ、姫さま」
騎士「それに、また仕立て直してくれるんでしょ?」
仕立屋「は、はい、お任せください!」
騎士「楽しみにしてる」
--- パーティー仕切り直し ---
騎士「ねえ? ねえ仕立屋?」
仕立屋「はて?」
騎士「随分と、絢爛豪華に、なってやしませんか?」
仕立屋「うふっ!」
仕立屋「それはもう、大変だったんですよ」
仕立屋「異国の姫が手当の為にドレスを割いたって話が城下町、麓の町まで広まって…」
仕立屋「貴族平民問わず、あちらこちらから、代わりの布地やら、果ては装飾品やらが、使ってくれと集まって…」
仕立屋「ご厚意にはお答えしませんと!」
騎士「…そうね、その通りね」
仕立屋「さ、行きましょう!」
--- 出発当日 ---
赤太子「ではな」
赤太子…あんまり無茶はするなよ」
赤太子「はっは、わかっている」
赤太子「騎士殿も、また手合わせしたいものだ」
騎士「ええ、喜んで、楽しみにしています」
赤太子「それから…仕立屋殿!」
仕立屋「は、はぇっ!?」
赤太子「そなたにも世話になったな、感謝する!」
仕立屋「は、は、もったいないお言葉…」
赤太子「では……さらばだ!」
赤太子「なあ」
執事「はい」
赤太子「あの仕立屋…うちに来ないかな」
赤太子「実に…実にいい腕をしている…」
執事「……」
赤太子「陰ながら、師匠と呼ばせてもらうぞ……」
--- 帰路 ---
仕立屋「姫さま」
騎士「うん?」
仕立屋「どう、どうでしたか? 赤太子と何か進展はありましたか?」
騎士「ええ、そんな、別にないよ」
騎士「それに、赤太子は私というよりドレスを凝視していたような……」
仕立屋「……ぐふっ」
仕立屋(ああ、これは、やり過ぎってやつですか!? 悪目立ちしちゃいましたか!? ああ、千載一遇の好機に、私はなんてことをー!)
王子「なにやら随分と項垂れているね!」
騎士「はは、疲れたんでしょう…」
仕立屋「あああああ」ジタジタ
--- 数日後、城下町 ---
仕立屋「うう…結局あれからなにも進展せず…」
仕立屋「ああ、もう、私は本当に…なにをやって」
仕立屋「旦那様、奥方様に頼まれたのに…」
仕立屋「…? 邸宅の前に誰かいる?」
仕立屋「あの、どちら様ですか?」
--- 数日後、城下町 ---
仕立屋「うう…結局あれからなにも進展せず…」
仕立屋「ああ、もう、私は本当に…なにをやって」
仕立屋「旦那様、奥方様に頼まれたのに…」
仕立屋「…? 邸宅の前に誰かいる?」
仕立屋「あの、どちら様ですか?」
使いA「おお! あなたが仕立屋殿ですね!」
使いB「ですね!」
仕立屋「は、はあ、騎士様にご用ですか? 今はお城に行っていますが…」
使いA「いいええ! 我々が探していたのは貴女です、ええ!」
使いB「おさがししてました!」
仕立屋「わ、私?」
…………
使いA「かくかくしかじか」
仕立屋「ちょ、ちょおーっとお待ちください!」
使いA「失礼! 何かお気に障るところが…!」
使いB「あああ、しんでおわびを!」
仕立屋「待って」
仕立屋「わ、私はただのお針子ですよ?」
仕立屋「それを、王の戴冠式で皆様の装いの仕立てをする、だなんて…」
使いA「王子からの推薦なのです」
使いB「ごしゅーしょーさまです!」
仕立屋「あながち間違った意味じゃなさそうなのがあれですが…、いや、しかし」
使いA「こほん! それに戴冠式に出席される各国の来賓の方々からもたっての希望が」
仕立屋「は、はああ?」
……
使いA「それでは良いお返事をお待ちしております!」
使いB「おとといきやがれ!」
ポツン
仕立屋「え、えええ?」
仕立屋「い、いや断らないと……私にはそんな大それたこと……」
コンコン
仕立屋「…どなたですか? 申しわけありませんが今少したてこんでおりまし…て…」
仕立屋「……?」
美丈夫「……話は窓の外で聞いていたよ!」
美丈夫「僕にできることがあれば何でも言っておくれ!」
美丈夫「一肌だって、ふた肌だって脱ぐさ!」
仕立屋「……とりあえず、お引き取りを」ガクッ
騎士「ただいまー」
仕立屋「ひーめーさーまー!」
騎士「や、やだなあ怖い顔して」
仕立屋「聞きましたよ、そして問いただしますよ!」
仕立屋「戴冠式での仕立て! 姫さまも賛同したそうじゃないですか!」
「あ、もう知らせが来たの? あ、ははは、いやー、話の流れで」
仕立屋「な・が・れ」
仕立屋「うう、なんて軽い響き……」
仕立屋「反して荷が、荷が重すぎます、なんて場に引きずり出したんですか…」
仕立屋「うう、断ったら極刑でしょうか?」
騎士「あ、あのさ仕立屋」
仕立屋「うう、何でしょう」
騎士「私からもひとつお願いがありまして」
仕立屋「!」
仕立屋「ええ! ええ! お任せめされ!」
仕立屋「戴冠式での衣装ですね!」
仕立屋「姫さまのことでしたら、不肖私めに何なりと!」
仕立屋「今度はどうしましょうか、ギャップ狙いでぷりてぃーなど!?」
騎士「ええと…これを仕立て直して欲しいんだ」
仕立屋「これは……」
仕立屋「旦那様の、…公爵の礼装、ですね」
騎士「うん、…お願い、できるかな?」
仕立屋「…ええ、ええ! お任せください!」
騎士「ありがとう」
-- 数日後の夜 ---
仕立屋「……」
仕立屋「……ふう」
仕立屋「はっ、いけませんね」フルフル
仕立屋「何だか手が進みません」
仕立屋「公爵の、礼装……」
仕立屋「……姫さまは、立派になられました」
仕立屋「私などいなくてもとうに……」
仕立屋「……旦那様探しなど、余計なお世話でしたかね……」
仕立屋「……あいた!」
仕立屋「ああ、切りすぎてしまいました」
仕立屋「でもこれくらいなら…、ええとこの色の糸はどこにしまってましたか」
ゴソゴソ
仕立屋「あ、あったあった」
ドサササ!
仕立屋「ぐえ!」
仕立屋「い、いったあ…な、なにが落ちてきたのか」
仕立屋「……箱? ……これは、姫さまの?」
仕立屋「これ、は……姫さまにはじめて着て頂いたドレス……」
仕立屋「姫さま、ずっと持っていてくださった……?」
仕立屋「……これははじめてお贈りしたワンピース」
仕立屋「……これも、これも」
仕立屋「……これ、は」
仕立屋「……なんという恥のデパート……!」ワナワナ
仕立屋「この、ほつれ! 裁断の甘さ! 縫製の粗さ! センスの……なさ!」
仕立屋「ほんとへタッくそ……なのに」
仕立屋「ずっと持っていてくださったんですね……」
仕立屋「……グスッ」
仕立屋「……」
チクチクヌイヌイ
チクチクヌイヌイ
…………
コンコン
…………
コンコン
仕立屋「……間に合っております」
「え!?」
「ええ? いや、困ったな」
仕立屋「? 声が違う、どなた…でしょうか?」
王子「やあ、良かった、どうも」
仕立屋「お、お、王子!?」
仕立屋「し、しかも、なんですか、そんなに汚れて!」
王子「ええっと、戴冠式の準備で缶詰にされててね」
王子「色々とお願いしておきながら、全然挨拶にも来れず悪かったね」
王子「何とか城を抜けてきたんだけど、暗い中何度か転んで……」
仕立屋「ああ!? こんないい生地のマントに穴がー!」
仕立屋「いい仕事しているブーツが千切れてー!」
仕立屋「ぎゃー!ボタンが全部取れているー!?」
王子「え、ええ?」
仕立屋「王子!ちょっとこちらへ!グイグイ」
王子「し、仕立屋殿?」
…………
ザー
王子「……ふう、さっぱりした」
王子「すっかり身包みはがされてしまったな……」
王子「昨今の追い剥ぎだってここまでしないだろうに……」
王子「……ぶぇくしっ!」
仕立屋「……王子ー……そこにある服を着てあがってきてくださいー……」
王子「これだろうか」
王子「ふう、なんとも肌触りのいい服だね」
王子「仕立屋殿」
仕立屋「ああ、お上がりになられましたか」
仕立屋「すみません、つい仕立屋としての血が騒ぎ」
王子「いやいや、こちらこそどうも」
仕立屋「……」
王子「……」
王子「はは」
仕立屋「どうかされましたか?」
王子「いや、仕立屋殿の顔を初めてちゃんと見たなあと」
王子「いつも帽子を目深にかぶっていたから」
仕立屋「こ、こんな夜更けに訪ねてこられたので…油断を!」
王子「ふふ」
王子「改めて、今回はありがとう」
王子「そしてこの前の旅に同行してくれたことも重ねて礼を言わせてもらうよ」
王子「いや、ホント各国の太子たち、貴族たちにも好評でね」
王子「騎士殿も公爵としてするっと受け入れられて」
王子「目論見通り、まるっと骨抜きにできたよ」
仕立屋「はい?」
王子「いやいやこちらの話」
王子「さ、十分迷惑をかけたけど、これ以上かけないようにもう帰ろうかな」
王子「大臣たちもうるさいだろうし」
王子「夜も遅くに申し訳なかったね、もう失礼するよ」
仕立屋「え、こ、これだけの為に?」
王子「うん? そうだよ? あ、そうだ、お礼をしなきゃね、なにがいいか考えておいて」
仕立屋「あ…」
仕立屋「あの、それでは私からひとつだけ」
王子「なんだい?」
仕立屋「ひとつだけ、たわいのない小話を聞いては頂けないでしょうか」
王子「…どうぞ?」
仕立屋「……私と、姫さまはいわゆる乳姉妹というやつでして」
仕立屋「私は、孤児だったところを乳母に拾われました」
仕立屋「私の方が、少し、年が上なのですが」
仕立屋「姫さまは可愛い妹のようで、幼い頃から、ずっとご一緒させて頂いていました」
仕立屋「姫さまは、それはもう可愛らしく、ご聡明で、少しご趣味が変わって、らして…」
$~~~~~~~~~~~~~~~~~$
仕立屋「姫さま!」
騎士「どーしたの?」
仕立屋「これ、感謝祭の贈り物です!」
騎士「わあ! なんて、可愛い、フリルのハンカチ……」
仕立屋「どうですか!?この、編み込みがね、また可愛くて、よく似合うかなって!」
騎士「う、うん!」
騎士「そうだ、仕立屋にもプレゼント!」
仕立屋「わあ! なんて……、禍々しい、ナイフ」
騎士「どうかなどうかな!?この刃紋!うっとりするよね!」
仕立屋「は、はい!」
仕立屋「うっふっふ!」
騎士「えっへっへ!」
$~~~~~~~~~~~~~~~~~$
仕立屋「……いま思えばなんという平行線を繰り返して来たんでしょう」
王子「どうしたんだい、遠い目をして」
仕立屋「いえ、なんでも」
仕立屋「姫さまは絶対に私がお幸せにするんだと、子どもながら思っていました」
仕立屋「いや、はは、とは言ってもお針子しか取り柄もないのですが」
仕立屋「姫さまは騎士になられて、隣国へ留学されて」
仕立屋「その折に、流行病で皆様が亡くなられて」
仕立屋「…皆様にお願いされたんです、姫さまを助けてやってくれと」
仕立屋「私には、服を仕立てることでしか、お役に立てないのに」
仕立屋「お幸せにするといいながら、私が幸せを頂いていたんです」
仕立屋「何もない私に、生きがいを与えてくれたのは姫さまだったので」
仕立屋「姫さまがご立派になられるのが、誇らしくて、でも、寂しくて」
王子「……十分」
仕立屋「え?」
王子「君は、十分助けになってると思うよ」
仕立屋「そう、そうでしょうか」
王子「それ、今縫ってるそれは公爵の礼装だね」
仕立屋「はい」
王子「大切なものだからこそ、騎士殿は仕立屋殿に頼んだんだと思うよ」
仕立屋「はい、ありがとう、ございます」
仕立屋「……」
王子「…ああ! 危ない、忘れるところだった! 」
仕立屋「は!? え?」
王子「だーいじな用だ、ああ、くそ、私の阿呆め」
王子「これとこれと…ええとまだあるな」ドサドサ
仕立屋「な、何ですかこれは」
王子「ドレスの注文書さ」
王子「さっき言ったろう?」
王子「各国から好評だったって」
王子「質問、我が国の特産品は?」
仕立屋「え…絹、綿、布…でしょうか?」
王子「そう、そうなんだよ」
王子「でもね、これ、もっと売りたいんだ」
王子「その為には、素材だけではなく、付加価値を付けないといけないと思うんだ」
王子「だから、ね、君には是非、私のびじねすぱーとなーに…」
仕立屋「ええ!? 大事な話って、お金儲けの話ですか!?」
王子「…そう! お金は大事だよ!」
王子「王位は兄上が無事に継ぐし、私は自由だ!」
王子「この前はびじねすの話を隣国の商家に持って行ったら、いつの間にか縁談の話になっていて焦ったけど、いい経験になったよ」
王子「今度こそ成功させてみせる!」
王子「ふっふっふ、戴冠式、ここが好機!」
王子「広く我が国のぶらんどを知らしめるんだ!」
王子「さあ、ともに握ろうじゃあないか、大陸の覇権を!」
仕立屋「 」
--- 戴冠式当日 ---
仕立屋「ああ、ハラハラします」
仕立屋「本当に私などで良かったのでしょうか…」
緑太子「……おう、そなたはあの時の」
仕立屋「は、緑太子!」
緑太子「おお、何やら雰囲気が違うので人違いかと思ったぞ」
仕立屋「あ、あわわ、ぼ、帽子は……持ってきていないんでした」
緑太子「? はっは、今回は無理を言ってすまなかったなあ!」
緑太子「儂の娘たちもどうしてもと煩くてかなわんでの」
緑太子「そなたが作ってくれると聞いて、まあはしゃいでおったわ」
仕立屋「いい、え、そんな恐れ多い…」
仕立屋「でも」
仕立屋「喜んで頂けたようで、何よりです」
緑太子「はっは! では、後でな」
仕立屋「ああ、幾分か楽になったような…」
ドンッ
青太子「っと」
仕立屋「し、失礼しました!」
青太子「あれ、あんたは……」
仕立屋「あ、青太子……」
青太子「あの時の侍女か……、いや、仕立屋殿といったか」
青太子「……」キョロキョロ
仕立屋「どうされました?」
青太子「いや、騎士殿は一緒ではないのだな」
仕立屋「姫さまは、聖堂の方に…お呼びしましょうか?」
青太子「い、いや、いい! まだ心の準備が……」
青太子「……あの時は随分と驚かされたな」
青太子「今日は……お手柔らかに、頼む」
青太子「騎士殿の装い、いや、他も色々と、楽しみにしている」
仕立屋「は、はい!」
仕立屋「うう、そろそろ準備に取り掛かりませんとね…」
仕立屋「ええと、まずあれをして、これをして…」
赤太子「……お師匠!」
仕立屋「……?」
赤太子「は、いや、間違えた、仕立屋…殿!」
仕立屋「赤太子…、いま何と?」
赤太子「いや、ははは!」
赤太子「うーむ、うん」
赤太子「よし、私も腹を決めたぞ!」
赤太子「仕立屋殿! …私を貴女の……弟子にしてくれ!」
仕立屋「ははあ、弟子ですか……って、何ですって!?」
赤太子「私はな、ずっと、……服飾に興味があったのだ」
赤太子「しかし、なかなか周りには言えなくてな……」
赤太子「だが、やはり尊敬できる貴女の元で学ばせて頂きたい!」
仕立屋「な、ななな……」
使いA「仕立屋殿~~そろそろお時間です~~~」
仕立屋「ああ、もう時間ですか!」
赤太子「おお!早速お手伝いしますよ、師匠!」
赤太子「さあ行きましょう!」
仕立屋「ちょ、ちょ、私はまだ何も返事してませんよ~!」
--- 控え室 ---
仕立屋「……姫さま」
騎士「ん」
仕立屋「さ、もういいですよ、目をお開けください」
仕立屋「鏡をどうぞ」
騎士「……おお! いいね!」
仕立屋「よくお似合いです、姫さま……いいえ、公爵さま」
仕立屋「うっう、もうドレス姿は見れないかと思うと」
騎士「ま、まだ諦めていないのね」
騎士「着る、着るよ、……気の向いた時に」
仕立屋「ほ、本当ですか!?」
仕立屋「じ、実は今回もご用意しているのです!」
騎士「ええ!?」
騎士「き、気の向いた時にね!」
仕立屋「そんな、殺生な!」
仕立屋「後生ですから、生殺しですか!?」
騎士「うーん、じゃあひとつ教えてくれたら考えてあげる」
仕立屋「な、何でしょうか?」
騎士「私が留学していた頃、姉様方から仕立屋の噂を聞いたんだけど」
騎士「仕立屋には、……いい仲の人がいたとかいないとか」
仕立屋「!!!」
仕立屋「だ、だれがそれを」
騎士「いやー、もう、姉様方、そういう噂とか大好きだったからなあ」
騎士「実は結婚も考えてたりしたけど、流行病の件でうやむやになって」
騎士「そのあとは私の為に一緒にいてくれたんでしょ?」
仕立屋「う、うう」
騎士「結構、気になってたんだよね」
騎士「それに、この前も誰が一体家具を動かしたり手伝ってくれたのかなーって」
騎士「噂では確か……」
仕立屋「わー! わー! 姫さま! もうそれ以上は!」
仕立屋「さ、さ、それはさておき、時間ですよ! 行きましょう!」
騎士「ええ? しょうがないなあ」
騎士「じゃあまた後でね……」
--- しばらくして ---
仕立屋「………」
仕立屋「…………」
赤太子「………さ、もういいですよ、目を開けてください」
仕立屋「………これが、私?」
騎士「………よく似合ってるよ、仕立屋」
仕立屋「うう、姫、さま……」
仕立屋「姫さまの為に仕立て直したこのウェディングドレスも、結局また私用になってしまいましたね……」
赤太子「いかがですか師匠、修行の成果がいま!」
仕立屋「ここのところの縫製が少し甘いような…」
赤太子「な、なんですと!? すぐ直します!」
仕立屋「はは、お願いします」
騎士「さ、お相手が首を長くして待ってるよ」
騎士「お手をどうぞ、一緒に行こうか」
仕立屋「ええ、ええ、姫さま」
「………おお、待っていたよ! なんて美しいんだ!」
「………え? なに言ってるんだい、今日はお引き取りなどさせないでくれよ!」
…
………
………………
ある国の町外れ
王子や公爵がこっそり通う工房があるとか、ないとか
騎士「これが……私?」仕立屋「よくお似合いです姫さま」
おしまい
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コメント一覧 (8)
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- 2019年08月20日 08:16
- 疲れる
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- 2019年08月20日 09:51
- 長いだけで中身がない
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- 2019年08月20日 11:14
- うーん……
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- 2019年08月20日 12:59
- 恋愛でもコメディでもない、なんとも言えない微妙なss
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- 2019年08月20日 18:23
- この仕立屋の結婚相手って誰?
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- 2019年08月20日 19:40
- 世界観中々よかった
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- 2019年08月20日 21:11
- ※5 お引き取りなどさせないでくれって言ってるから相手は美丈夫じゃない?
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- 2019年08月24日 02:11
- おつ良かったよ