「核のボタンを押してください!」
「核のボタンを押してください!」
人類救済コントロールセンターに響いた声はしかし、その場を占める重苦しい沈黙によって空耳のように扱われた。
室内には制服を着た人間が四、五人。
その誰もが絶望を堪えるように沈痛な面持ちで座っている。
「聞こえませんでしたか、局長? 今こそ核の出番だと言ってるんです」
中でも一番若いワカモトがそう皆に進言したのだった。
核。ご存知核ミサイル。恐らくは人類史に残る破壊力を有していた兵器の名前である。
ワカモトの、そして職員たちの視線が局長に集まった。
待ち望まれる彼の言葉。
しかし局長は落ち着き払った動作で煙草を一本取り出すと、
「ワカモト、提案ってのは思い付きだけで口に出すもんじゃない」
火をつけ、吸い、煙を吐いて。
彼は壁面に備え付けの巨大なモニターを睨みつける。
「確かに核は用意してある。もしもの時の最後の手段、それはこの場にいる全員が以前より承知していたことだしな」
「だったら悠長にしていないで! 我々には時間が無いんですよ!?」
「分かっている。だからこうして皆思案している」
「わか、わっ、わかってるって――それで結局、何時間無駄に過ごしてきたと思ってるんです!?」
ワカモトの叫びに誰もが心で肯いた。それは局長だって同じだった。
事態がこうなってしまうまでに有益だと思われていた行動は既に取り尽くされ、
事前準備されていた他の装備も使い潰された後だった。
最早今、現時点で、コントロールセンターにはワカモトの言う核しか残っていないのだ。
これ以上の時間の浪費には耐えられない。
有効な代替案が出ない以上は使用も止むを得ないことを局長だって分かっていた。
「だが使わん。いや、使えん」
「なぜです! 道徳的な問題なら――」
「ワカモト! それはな、僅かとは言え希望が残っているからだ。
丸一日に近い時間が残されているからだ。……故にボタンを押すのはまだ早い」
局長がモニターに表示されたカウント表示に目を向ける。ワカモトも追って視線をやった。
しばしの沈黙、誰も動かず、刻々と迫るタイムリミット。
「局長!」
言って、再び局長と向き合ったワカモトの手には鈍く輝く武器が握られていた。
躊躇している時間はもう無かった。こうなったら暴力的手段に訴えてでも自分がボタンを押してやる。
「僕は押します、僕が押します。もうこんな状況には耐えられない!」
局長のデスクへにじり寄り、凄むワカモトの手の中で武器が光る。
「抵抗なんてしないでください、その瞬間にあなたを撃ちます」
周りの誰も止めなかった。武器を持つワカモトが危険だとしり込みしたからか?
……違う、皆分かっていた。残された手段はそれしかないと。
人類が生き延びるにはこの兵器に望みを賭けるしかないということを。
「ふっ、まぁ、それも良かろう」
局長が椅子から立ち上がった。
まるでボタンの前へ招くようにワカモトの進路を空けて言った。
「その方がアッサリ死ねて楽かもしれん」
「……強情をっ!」
「強がってないさ。遅かれ早かれ一日のズレだ」
もう言い返す気分にもなれなかった。局長は既に事態の解決を諦めているとワカモトには直感で理解できた。
――しかしいざボタンの前に立つと緊張が増した。
その手で握りしめる武器も機械相手では自信をつけてくれなかった。
「核を……使うならもう、これ以上は……」
自身に言い聞かせるようにワカモトが呻る。
事態を静観していた全職員からの注目が彼の指先へと注がれている。
モニターには依然とカウントダウンの表示。
プレッシャーで息苦しくなったワカモトがゴクリと喉を鳴らした瞬間、
「どうした、ボタンを押さないのか?」
局長の声が背中を押した。
ワカモトの指先が吸い込まれるようにボタンに触れる。
次いで無機質な合成音声がミサイルを発射したことを施設内の全職員に告げた。
「ああ……!」
ワカモト含め、職員達の視線がモニターの変化に釘付けとなった。
誰ともなしに声が上がり、そこには新たなアイコンが表示された。
ミサイル。それが先程から映し出され続けていた巨大隕石の表示と今重なる。
「やったか!?」
職員の一人が思わず立ち上がった。
しかし隕石の表示は消えなかった。
それはこれまでと全く同じ結果――旧時代に作られた強力な爆弾、放たれた核よりも何倍も威力を持つ
数々の破壊兵器がそうであったように――地球へと迫る巨大隕石に傷の一つもつけられやしなかったのだ。
最早人類、いや、地球にはその崩壊を免れる為の手段が残っていない。
局長が悟った様子で顔を伏せた。
「そらみろ」
カウントダウンは依然止まらず。
センター内の緊張は先程までと比べられない。
「だから押すのが早いと言ったんだ」
「SS」カテゴリのおすすめ
- 彡(゚)(゚)「食べないで、食べないでクレメンス」
- 村娘「やだ、これって勇者様の死体じゃない・・・」
- Ubuntu「それではLinuxをどうやって普及させるか会議を始めます」
- 春原「なあ、岡崎。なんとかして坂上智代を僕に惚れさせる事って出来ねえかなぁ」
- 橘ありす「プロデューサーさんにデートに誘ってもらいたいんですけど、、、」
- 真田弦一郎「ここはどこだ?」上条「学園都市ですけど……」
- 北上「暇潰し?」球磨「クマー」
- 渋谷凛「七夕」大石泉「短冊」橘ありす「織姫」佐城雪美「……彦星」
- 綾瀬穂乃香「もし柚ちゃんのプロデューサーが加蓮ちゃんだったなら」【前半】
- 八幡「ホワイトアルバム2?」
- ガルパンSS・みほ「黒森峰大学かあ」
- アキ「遊星髪型変えるの!?」 遊星「ああ」
- 魔王「魔王を倒そう」
- まどか「他の女の匂いがするよ…」ほむら「え…?」
- P 「お絵描き予行演習をしよう」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- モバP「結婚の幻」
- 渋谷凛「もしも武内Pが山育ちのティーチャーだったら……?」
- 貴音「らぁめんに飽きました」
- 両津「もう警官辞める」
- マミさん「一人でするスマブラは楽しいわね」
- 恒一「恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです」
- まどか「ほむらちゃんが胸パット入れて登校してきた」
- 川越シェフ「今日のミッションも過酷だなぁ…」
- 宇水「安価で志々雄殺す」
- アスナ「キリト君、メリークリトリースwwwwwwwwwwwww」
- 妹「お兄ちゃんの様子が変」姉「妹ちゃんの様子がおかしい」
- 京子「あかりに嘘発見器!」
- 【ミリマス】七尾百合子「孤立した洋館で殺人事件が起きちゃったりとか!」P「そうだな」
- 上条「ザ・チルドレン!解禁ッ!!」薫紫穂葵「「「はーい」」」
- ホロ「大好き」
コメント一覧 (32)
-
- 2019年05月10日 22:17
- 一方その頃とあるスタジオでは、マジック三井が「手品師」ではなく「超能力者」である事をカミングアウトしていた
-
- 2019年05月11日 06:04
- >>1
そう考えると地球の最後にあの番組を企画したのは人類史に残る奇跡だな…
-
- 2019年05月10日 23:09
- 残り1日絶望の中過ごすしかなくなったから押すのが早いってこと?
-
- 2019年05月10日 23:09
- 諸君。お別れナリよ
-
- 2019年05月10日 23:31
- 衝突1日前というほど接近してるなら
核爆弾で隕石を破壊出来ようが出来まいがそのまま地球への衝突軌道を維持するからな
地球に出来るクレーターが1つなのか3つ4つなのかの違いだけで
それを数えられる人間はいないという結果はもう変えられないよ
-
- 2019年05月11日 01:00
- ハイパーゼクターがあれば、どうにかなるよ
-
- 2019年05月11日 02:42
- どうせ効かないなら、あと1日待った方が「まだ核ミサイルがある!」って希望を残して過ごせたのに、ってことか?
-
- 2019年05月11日 03:31
- 左のボタンを押して下さい。
-
- 2019年05月11日 03:48
- よくある「もっと引き寄せてから撃て」というやつなのか?
でも命中はしてるみたいだし
彼我距離が遠くでも近くでもミサイルの威力に差は無いだろうしなあ
-
- 2019年05月11日 03:56
- ぽちっとな
-
- 2019年05月11日 05:16
- いとしさとせつなさと
-
- 2019年05月11日 05:59
- iDOLがあればこんなことには…
-
- 2019年05月11日 06:03
- 俺の動画に低評価付くようになったな。
前は付いてなかったのに動画も見ずに低評価押す馬鹿が増えてきたのか
-
- 2019年05月11日 06:11
- 司令官が適切なプロセスの中で、核攻撃を命じたなら、現場は黙って従ってボタンを押すだけだろう。
核攻撃しても効果がないことが早めにわかれば、次の手を打てる。
-
- 2019年05月11日 06:45
- >>14
次の手は打てない前提で話が進んでるだろ
オマエ評価D-な
-
- 2019年05月11日 06:38
- 「核のボタン」←押す?
-
- 2019年05月11日 07:11
- 読解力低すぎない?冗談で言ってるだけ?
-
- 2019年05月11日 07:42
- マジで意味が分からん
誰か教えて
-
- 2019年05月11日 08:53
- 核を撃ったことで、後一日を残して人類の滅亡は確定したってこと。
核爆弾を発射しなければ、核で壊せるか壊せないかは五分五分なので希望はあった。しかし核を発射し、失敗したことで希望は0になって絶望に変わった。
最後の瞬間まで核を残しておけば、もしかしたらと思い続けることができる。
-
- 2019年05月11日 09:19
- これ系スコ
-
- 2019年05月11日 10:14
- 俺はまだ本気出してないだけって言ってるニートが
バイトの面接に落ちて現実を知る、そういう物悲しさ
面接を受けなければ「まだ本気を出していないだけ」って言い続けられたのに
-
- 2019年05月11日 10:57
- >>21
さすが経験者の言葉は重い
-
- 2019年07月20日 05:07
- >>21
お前は俺か
-
- 2019年05月11日 11:29
- 赤いボタンを知ってるか
青いボタンを知ってるか
-
- 2019年05月11日 14:34
- >>23
宇宙Bかな?
-
- 2019年05月11日 15:14
- 空を見ろ発進5秒前
-
- 2019年05月11日 15:39
- そもそも普通に考えたら衝突コースの隕石への対応で核ミサイルの使用を想定するなら、最後の手段じゃなくて最初の一手で使うだろうよ。
-
- 2019年05月11日 18:14
- つまんない
-
- 2019年05月11日 20:35
- 犬屋敷さんがなんとかしてくれると思った
-
- 2019年05月15日 18:42
- めっちゃええやん。好きだわ
意味分からなかった人は好きなラーメンの味を書くんだよ
-
- 2019年05月16日 23:37
- >>29
蕎麦つゆと勘違い得る様なあっさり正油です
-
- 2019年06月21日 00:13
- ネタにマジレス。
傷を付けられなくても(金属含有量が多い?)
この衝突天体の質量が分からないのですが、できるだけ遠くで、複数個を命中させて、ほんの少し軌道変更させて
地球落達を妨害すれば良いと思います。出来れば、カウントダウン→ある程度正確な軌道計算が出来ているらしいので、出来ればロケットエンジンかソーラーセルをこの天体に設置して、ほんの数ミリ角この天体の軌道をずらせば良いと思います。作品内では命中はしているようですが、軌道に変化が見られないのと、命中時間までの描写から見ると、かなりの至近距離のようですね。
※29 塩とんこつ