男「俺の主催してるヒーローショーが迫力なさすぎて困る」
怪人「来ーい!」
ヒーロー「とりゃー!」ペシッ ペチッ
怪人「うわー、やられたー!」
シラー…
子供A「なにこれー……」
子供B「つまんねー!」
おっさん「……」
役者「……」
悪役「……」
男「もっと迫力を出してくれないと困るよ! あんなショーじゃ子供達は盛り上がらない!」
役者「そんなこといわれても……あれが限界ですよ」
悪役「ええ、殺陣って苦手だし、スーツの中熱いし、ギャラ安いし……」
男「……!」
悪役「お疲れっす」
男「ふぅ……」
男「バイト君、後片付け終わったら、君も上がっていいから」
バイト「はい」
男「はぁ……」
男(子供の頃、熱中したヒーローショーをやっと自分が企画・主催できたと思ったら……)
男(あんな子供だましにもならないショーしかできないなんて……自分が情けない)
おっさん「待ってたぜ」
男「……?」
おっさん「あんた、さっきやってたヒーローショーの責任者だろ?」
男「ええ、そうですが」
おっさん「だったら一言いわせてもらう。なんだあのつまんねえショーは!?」
おっさん「あんなやらせ丸出しの戦いで、ガキどもが盛り上がれるわけねえだろうが!」
男「う……おっしゃる通り……」
おっさん「だが、安心しろ。俺がもっと迫力を出す方法を教えてやろう」
おっさん「俺か? 俺はヒーローってもんに、特別な感情を持ってるもんだ」
男「はぁ……」
おっさん「で、どうする? 迫力を出す方法……教えて欲しいか?」
男「……ぜひ! ぜひ教えて下さい」
おっさん「よぉし……」
男「今日のショーも盛り上げていこうな!」
役者「はぁ」
男「ところで、君」
役者「はい?」
男「怪人役の悪役君が……さっき君のことを“バカ”っていってたよ」
男「ヒーローの正体が、あんなバカだって知ったら子供達も笑っちゃうよなって」
役者「それ、ホントですか?」
男「こんなウソをいってどうするんだよ。なんの得にもならないのに」
悪役「なんすか?」
男「ヒーロー役の役者君が、君のこと“アホ”っていってたよ」
悪役「なんですって?」
男「あんなアホじゃ、怪人役しかできるわけないよなーって、笑ってたよ」
悪役「そうっすか……」
男(あの人の言う通りにしたけど、こんなことで本当に迫力が出るんだろうか?)
怪人「来い、ヒーロー!」
バシッ! ドカッ! ババッ バシッ! バキッ! ババッ
ワーワー! イケーヒーロー! マケルナー! ガンバレー! ワーワー!
男「おおっ!?」
バイト「今日の二人の殺陣、いつもより迫力ありますね」
男(まさか、こんなに効果があるなんて!)
男「ありがとうございました! あなたのアドバイスのおかげで久々にショーが盛り上がりました!」
おっさん「俺としても嬉しいぜ」
おっさん「だけど、あんなんで満足してるわけじゃないだろうな?」
男「そりゃ、もっと上を目指せるものなら目指したいですけど……」
おっさん「だったらさらにショーを盛り上げる方法を教えてやろう」
男「え……」
おっさん「どうする?」
男「……お願いします!」
役者「ちょっと座ろ」
チクッ
役者「痛ッ! なんでこんなところに画鋲が……!」
男「……」
男「そういやさっき、悪役君が画鋲を持ってうろうろしてたけど、なにやってたんだろうなぁ」
役者(まさか、あいつが……!?)
男「そこにあったやつか? そういえば役者君が飲んでたぞ」
悪役「マジっすか?」
男「ああ、多分間違えたんじゃないかな? 悪気はないだろうし、許してあげなよ」
悪役「近くに俺のカバンがあるのに、普通間違えないっすよ!」
悪役「あの野郎……!」
男(これでよし)
ヒーロー「……」ザッ
怪人「……」ザッ
男(ふふふ……二人ともこないだより遥かに殺気立ってる!)
バイト「あの……」
男「ん?」
バイト「さっき椅子に画鋲を置いたり、ドリンクを飲んだりしたのは……」
男「ああ、俺だよ。だが、くれぐれも内密にな。これもショーのためなんだ」
バイト「はい……」
バシッ!
怪人「なんのぉ! お前なんかに負けるかァ!」
ドカッ!
ワーワー! ワーワー!
子供A「すっげー、迫力満点だ! どっちもすごい動き!」
子供B「うん、まるで生で特撮番組見てるみたい!」
おっさん「……」
役者「どうも……」
悪役「あざっす……」
男「このまま評判が上がれば、ギャラも上げられるし、もっと色んな場所でショーをできるようになるぞ!」
バイト「あの……」
男「ん?」
バイト「あの二人、とても険悪になってますけど……やはり仲直りさせた方が……」
男「大丈夫だよ、二人ともいい大人だし、喧嘩なんかしないよ」
男「ありがとうございます! 低予算にもかかわらず迫力が出たのは、全てあなたのおかげです!」
おっさん「ここまできたらもう一息だ。もっと迫力が出る方法を教えてやろう」
男「お願いします!」
おっさん「だったら……」ゴニョゴニョ
男「ええっ!? さすがにそれは……」
おっさん「やるんだ! ヒーローショーを盛り上げたいんだろう!?」
男「……!」
男「や、やります……! ショーのためならどんなことでもします!」
男「君……たしか彼女いたよね?」
役者「ええ、それがなにか?」
男「実は君の彼女……悪役君に寝取られたって知ってた?」
役者「は!?」
男「こないだ見ちゃったんだよねー、二人でホテル入るところをさ」
男「いやー、彼も大胆なことするもんだね。私生活でもとんだ悪の怪人だよ」
役者「あ、あ、あの野郎ッ!!!」
悪役「なんすか?」
男「さっき、役者君が君のことをいい年して彼女のいない寂しい奴って大笑いしてたよ」
悪役「なにぃ……!?」
男「可哀想だから、知り合いのブスでもおすそ分けしてあげようかなーだってさ」
男「ブスと怪人、きっとお似合いじゃないかーって」
男「彼も結構ひどいこというよねえ。ヒーロー役のくせにさ」
悪役「ふざけやがってぇ……!」
ヒーロー「……」
怪人「……」
マモナクヒーローショーガハジマリマース…
ワーワー… ワーワー…
バイト「なんだか今日の二人、異様な殺気が漂ってませんか……?」
男「いいんだよ、それで」
怪人(もう抑えらんねえ……)
ヒーロー「この野郎、ブチ殺してやるッ!!!」
バキィッ!
怪人「俺をバカにしやがって、クソ野郎ッ!!!」
ドゴォッ!
ワァァァァァ… ワァァァァァ…
子供A「すっごい迫力!」
子供B「二人とも本気で戦ってるみたい!」
バイト「やばいですよ、二人とも台本無視して殴り合ってます! 止めないと!」
男「分かってないなぁ、これがいいんじゃないか!」
男「これが……これが本当のヒーローショーというものだよ!」
ヒーロー「首を絞めてやる……!」グググッ…
怪人「ぐ、ぐええっ……」
怪人「クソがぁ!」ドカッ
ヒーロー「ぐふっ!」
ワーワー! ワーワー!
ワーワー! ワーワー! ドッチモガンバレー!
おっさん「……いいぞ」
おっさん「殴り合え、殺し合え!」
おっさん「未来あるガキどもの目の前で、ヒーローと怪人で凄惨な殺し合いを演じろ!」
おっさん「そうすれば、血の快楽を知ってしまったガキどももまた、成長すれば血を求めるようになる!」
おっさん「今日この会場にいるガキどもは全員、将来血塗られた殺戮者となるのだァ!」
ヒーロー「ここで殺してやるよォォォォォ!!!」
怪人「死ぬのはてめえだァァァァァ!!!」
「やめろーっ!!!」
黄金ヒーロー「とあっ!」バキッ
黄金ヒーロー「はあっ!」ドカッ
ヒーロー「ぐはっ!」ドサッ
怪人「うっ……?」ドザッ
ヒーロー「へ……?」
怪人「あんたは……?」
黄金ヒーロー「君たちが何を吹き込まれたか知らないが、それは全てデタラメなんだ!」
黄金ヒーロー「全て、一連の事件を仕組んだ“黒幕”による手引きなんだ!」
黄金ヒーロー「目を覚ますんだッ!!!」
ヒーロー「は、はい……」
怪人「あんたは、一体……?」
男「ちょっ……」
男「ちょっとちょっとちょっとぉ!」
黄金ヒーロー「これのどこがヒーローショーだ!」
男「!」ビクッ
黄金ヒーロー「役者同士を険悪にさせ、大勢の前で憎しみしか生まない殺し合いをさせる!」
黄金ヒーロー「これのどこに、子供に夢や希望を与える要素がある!?」
男「ぐっ……!」
男「俺は……俺は……」
男「ヒーローショーの迫力を出したいがあまり、なんてことを……!」
黄金ヒーロー「どうやら、暗示をかけられていたようだな。あなたを動かす“黒幕”に」
黄金ヒーロー「!」
男「あなたは、俺にアドバイスをしてくれた……」
おっさん「せっかく絶望の殺し合いショーをガキどもに見せられると思ったのに……余計なマネを」
男「ええっ!?」
黄金ヒーロー「お前の目論見は崩れた! 正体を現せ!」ビシッ
おっさん「いわれなくても見せてやる!」グググ…
暗黒怪人「グオオオオオオオオオオッ!!!」メキメキ…
ワーワー! ウワァァァァ… ヒエェェェェェ…
男「な、なにい!? あの人の正体は、あんな化け物だったのか……!?」
黄金ヒーロー「来いッ!」
――ガシィッ!
グググッ… グググッ…
ヒーロー「ひ、ひえええ……!?」
怪人「掴み合ってるだけなのに、すごい迫力……」
黄金ヒーロー「でやぁっ! ゴールデン・パーンチッ!」
ドゴォッ!
暗黒怪人「ぐげあぁぁっ!」ドザッ
ワァッ!
イイゾー! ヒーローガンバレー! ヤッツケロー!
男「よ、よし! 黄金ヒーローが押してるッ!」
暗黒怪人「ダークネスバインド!」バチバチバチッ
黄金ヒーロー「ぐっ!?」ギュッ
暗黒怪人「この拘束からは逃れられん! ブレードでトドメを刺してやるぞ!」ジャキーンッ
ヒーロー「まずいっ!」
怪人「黒いオーラで手足を縛られちまった!」
男(彼がやられたら、俺たちも全員オシマイだ……! こういう時こそ……!)
男「黄金ヒーローを応援するんだっ!」
ワァァァァァ…
ヒーローガンバレー! マケルナー! カイジンヲブッタオセー!
ヒーロー「はねのけてくれ、ヒーロー!」
怪人「正義は勝つって証明してくれぇ!」
黄金ヒーロー「おおっ、力が湧いてくる!」グググッ…
暗黒怪人「なんだとォ……!?」
暗黒怪人「バカな……!?」
黄金ヒーロー「暗黒怪人! 覚悟しろ!」
暗黒怪人「おのれえ……!」
黄金ヒーロー「だああああっ! ゴールデン・キィーック!!!」
ドゴォッ!!!
暗黒怪人「うぎゃああああああああっ!」
暗黒怪人「暗黒、大魔王様……おゆるし、を……」バチバチッ
ズガァァァァァンッ!
ヒーロー「やっぱり本物は違いますね……」
怪人「すげえかっこよかったっす!」
黄金ヒーロー「いえいえ、怪我人が出なくてよかったです」
黄金ヒーロー「これからはあんな輩に惑わされず、健全なショーを運営して下さい」
男「はいっ!」
黄金ヒーロー「とうっ!」
ワーワー…
アリガトー! サヨウナラー! カッコヨカッタヨー!
役者「いえ、申し訳なかったのはこっちです」
男「え……?」
役者「俺たち、あの黄金ヒーローを見て、まるで子供のように応援して、やっと目が覚めました!」
悪役「ヒーローってのは子供たちに夢を与える存在なんだと! 手を抜いちゃいけないって!」
男「二人とも……!」
役者「これからは俺たち、ヒーローショーに全力で取り組みます!」
悪役「期待してて下さいっす!」
男「ああ……もちろんだとも!」
ワーワー
ヒーロー「いくぞ、悪の怪人ッ!」
怪人「今日こそやっつけてやるぞ、ヒーロー!」
バババッ ドカッ バキッ バババッ
ワーワー! ワーワー!
男(あの一件以来、二人ともいい演技をするようになった……)
男「バイト君、そろそろクライマックスだ。盛り上がる音楽をかけてくれ」
バイト「分かりました!」
バイト(俺がここでバイトしてなかったら、どうなってたことか……)
バイト(だけど、暗黒怪人を一人倒せたし、ヒーローショーは前よりずっとよくなったし)
バイト(一石二鳥ってとこかな!)
― おわり ―
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- やよい「○あげます!」
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コメント一覧 (4)
-
- 2019年04月09日 03:31
- ええやん
-
- 2019年04月09日 03:42
- ボートを用意しろ
-
- 2019年04月09日 04:05
- 最後まで王道展開で面白かった
登場人物の皆にちゃんと意味があるのもいいね
-
- 2019年04月09日 20:07
- よきかな