腹話術師「死体を使って腹話術をやれ!? 無茶ですよそんなの!」
腹話術師「悪だくみしてる人を腹黒いとか、相手の考えを知ろうとするのを腹を探るとか」
人形『そこいくと、俺なんか腹を探らせないのが得意だぞ』
腹話術師「ほう?」
人形『大勢のお客の前で口パカパカされるのもうやめたい』
腹話術師「本音出ちゃってるよ! そりゃ探れないわ!」
クスクス… ハハハ…
腹話術師(うーむ、イマイチ受けが悪いな)
師匠「単純な腹話術の腕なら、すでに俺だってしのいでる」
腹話術師「なのに、なぜでしょう! なぜ俺の腹話術はウケが悪いんでしょう!?」
師匠「そりゃあれだ」
師匠「お前の芸は……死んでるんだよ!」
腹話術師「…………!」
師匠「喋らせてる人形を死なせたまんまなんだな」
腹話術師「どうしたら一皮むけられるのか……」
師匠「いっそ死体を蘇らせてみるか」
腹話術師「え」
師匠「実はな先日、俺の知り合いが死んだんだ。近く葬式が行われる」
師匠「お前、その葬式に出て、その知り合いの死体を使って腹話術をやれ!」
腹話術師「死体を使って腹話術をやれ!? 無茶ですよそんなの!」
腹話術師「う……」
師匠「二流で終わりたいんなら、それもいい。だが、一流になりたいんなら……」
腹話術師「……やります! やらせて下さい!」
…………
……
腹話術師(というわけで、本当に葬式に来てしまった……)
長男「ありがとうございます」
腹話術師(この人が喪主を務める長男……たしかサラリーマン)
嫁「まもなく式が始まりますので、どうぞ」
腹話術師(で、この女性が奥さんか。料理が得意だと聞いている)
長女「手に包帯巻いてるけど、どうしたの?」
次男「作品を作ってる時にちょっと怪我をしちゃってさ」
腹話術師(これが妹と弟か。それぞれデザイナーと彫刻家だったっけ)
坊主「ナンタラカンタラ……」
腹話術師(なんて厳粛な空気……腹話術なんてやるムードじゃないぞ)
腹話術師(まして先日亡くなった人の死体を使ってだなんて……)
腹話術師(この場で袋叩きにされて俺の葬儀が始まってもおかしくない所業だ)
腹話術師(だけど――)
師匠『いくらテクニックがすごくても、お前の芸はしょせん人形をパカパカさせてるに過ぎねえってことだ』
師匠『二流で終わりたいんなら、それもいい。だが、一流になりたいんなら……』
腹話術師「…………」ザッ
腹話術師(やってやる!)
腹話術師(死体で腹話術……やってやるよぉぉぉぉぉ!!!)
腹話術師(あなたを使って腹話術、やらせていただきます!)グイッ
老人「…………」
「お、おいっ!」 「何やってんだ!」 「誰だあれ!?」 「なんてバチ当たりな!」
腹話術師「…………」
老人『静まらんかっ!!!』
ドヨッ…
腹話術師(あとは後頭部のここらへんをいじって、口をパクパクさせれば……)
老人『いやー、起きたらワシの葬式が開かれてるとはな。たまげたわい』パクパク
長男「オヤジ……本当にオヤジなのか?」
嫁「ウソ……」
老人『なにを疑う。この声はワシじゃろうが』
長男「た、たしかに……」
ザワザワ… ドヨドヨ…
次男「そうだ! だいたいその隣にいる奴は誰なんだよ!」
腹話術師(ゲ)
老人『こいつはワシのアシスタントじゃ!』
老人『足もとのおぼつかないワシを支えてくれる役目なのじゃ! なぁ?』
腹話術師「え、ええ、その通りです」
腹話術師「実はさっき意識を取り戻したこの方に密かに頼まれてたんです……」
腹話術師「葬式がある程度進んだら、起こしてくれと……」
腹話術師(我ながら無理のありすぎる説明だ……)
長男「しかし、よく息を吹き返してくれたな。火葬する前でよかったよ」
長女「ホント!」
老人『どうじゃ、すごいだろう!』
次男「信じられねえ、ちょっとさわらせろよ! 脈とかあるんだろうな!?」
腹話術師(まずい、さわられたら一瞬でバレる!)
老人『かーつ!!!』
次男「!?」ビクッ
老人『とにかく、デリケートな状態なんじゃ!』
老人『うかつに触れようとするでない!』
次男「ぐ……!」
腹話術師(引き下がってくれてありがとう)
長男「しかし、意識が戻ったならすぐに起きればよかったのに、どうしてこんなタイミングで?」
嫁「なにかみんなに言いたいことがあるんですか?」
腹話術師(言いたいこと……言いたいことねえ)
腹話術師(俺は今、このじいさんなんだ。このじいさんになったつもりで、なにか言わせなきゃ!)
腹話術師(ええと、ええと……)
老人『ワシは……殺されたんじゃ!!!』
ザワッ…
ドヨドヨ… ドヨドヨ…
腹話術師(ヤバイ……ついノリでとんでもない発言させちゃった……)
長女「そうよ、殺されたんじゃないわ。事故よ、事故」
腹話術師(え、そうなの!?)
老人『まあ、そうなんじゃけど……』
長女「だけど、ちょっと待って。お父さんにいつも食事を持っていくのはあなただったわよね?」
嫁「えっ!?」
次男「そうか、さてはあんた、オヤジが死ぬのを期待して餅を出したな?」
嫁「そんな……」
腹話術師(おおっ、まさかの展開!? マジで殺されてたのか!?)
嫁「違います!」
嫁「私はお義父さんのために、家に置いてあるお餅は全て細かく切り刻んでました」
嫁「だから、ノドに詰まらせて死ぬなんてありえないわ!」
嫁「お義父さんは自分で勝手に大きなお餅を買って食べて亡くなったのよ!」
長男「そうだ、妻は殺人などしていない!」
腹話術師(餅は切り刻んでいただと……? じゃあ犯人ではありえない……)
ザワッ…
老人『だとしたら、刻んである餅をもう一度くっつけて、一つの大きな餅にしたらどうなる?』
長女「そりゃあ喉に詰まるかも……」
嫁「刻まれた餅をかき集めてまとめて焼いたってことですか?」
嫁「しかし、そんなことしたらいびつな形に焼き上がって、お義父さんも食べたがらないんじゃ……」
老人『そうではない。おそらく焼く前に形を整えるようにくっつけたんじゃろう』
嫁「焼く前にお餅をくっつける? そんなことが……」
老人『いや、できる! 水で濡らしたり、米粒なんかでくっつければ十分可能じゃ』
老人『もちろん、不器用な人間では、なかなかうまくはいかんじゃろう』
老人『しかし、この中に、そういう図工が得意な人間が一人だけおるのう?』
ザワッ…
腹話術師(腕を持ち上げて……)グイッ
老人『彫刻家である次男……お前じゃよ!!!』ビシッ
次男「な、なにィィィィィ……!?」
次男「ふざけるな、出まかせだ! こんなの出まかせだ!」
次男「だいたい俺が餅をくっつけたとして、それがなんかの罪になるのかよ?」
嫁「たしかに……」
長女「それに今にして思えば、あの用心深いお父さんが、大きい餅を食べるとは思えないわ」
長男「ああ……形が整っててもきっと手をつけないだろう」
次男「ほらな! ほらな!」
次男「細かく刻んだ餅だってノドに詰まる可能性はゼロじゃない。これは事故なんだよ!」
老人『そう、たしかにワシは手をつけなかった。結局、お前から差し出された大きな餅を食わなかった』
次男「うっ!?」
老人『大きい餅は喉に詰まらすおそれがあると拒否したワシの口に……』
老人『無理矢理餅を食わせたじゃろう!』
次男「あ、ああ……」
老人『その手の包帯は彫刻の怪我なんかじゃなく、その時焼けた餅を手で掴んだためにできた――』
老人『ヤケドじゃろうが!』
次男「ひいいい……!」
老人『だとしたら、今すぐ包帯を取ってみい!』
老人『おそらくワシの死因となった餅と、その火傷の跡……一致するはず!』
次男「や、やってない……」
老人『往生際が悪いぞ!』
老人『実の親を殺しておいて、まだ言い逃れするつもりかァッ!!!』
次男「…………!」
次男「ごめんよぉぉぉぉぉ……!!!」
次男「俺……ここんとこ全然作品が売れなくてさ」
次男「それどころか、ギャンブルにハマって、借金まみれになっちゃって……」
次男「もうオヤジの遺産をあてにするしかなくなっちゃったんだ……」
次男「だから……オヤジに餅を食わせて死なせようと……」
次男「だけど家にあった餅は全部細かく刻んであったから、くっつけてから……焼いて……」
次男「拒否されたから、口の中に無理矢理……」
次男「うっ、ううっ……うっ……」
……
腹話術師(なんか……とんでもないことになっちゃったな)
腹話術師(ノリと勢いで腹話術やってたら、殺人事件が一つ解決してしまった……)
腹話術師(おっと、最後に芸を締めないとな)
老人『ふぅ、これでスッキリしたわい。ワシは……再び眠るとしよう』
老人『おやすみ……』パタリ…
長男「オヤジ!」
嫁「お義父さん……!」
長女「お父さん!」
腹話術師(ありがとうございました、皆さん。おかげで俺も一皮むけられたようです)
人形『あるある。時代劇で悪党が“片腹痛いわ”とか』
腹話術師「こないだ、ずうっと片腹が痛いから病院行ったら、なんと盲腸で!」
人形『ほう!』
腹話術師「もうおかしくって……大笑いしちゃった」
人形『おかしいのはお前の頭だろうが!』
ワハハハハハ… ハハハハハハ…
師匠「よう、今日の腹話術かなりよかったぞ」
師匠「まるで人形が生きてるように感じられた。もう俺を越えたかもな」
腹話術師「ありがとうございます、師匠」
腹話術師「……ところで、師匠」
師匠「ん?」
腹話術師「こないだの一件、全て師匠の目論見通りに事が運んだわけですね?」
師匠「まぁな……」
師匠「とはいえ、部外者の俺がよその死亡事故に立ち入るわけにはいかねえ」
師匠「だが、無茶ぶりされて一皮むけたお前なら、腹話術で事故の真相を暴けるかもって思ったんだ」
師匠「粗末に扱われたが、仏さんもきっと喜んでるだろうぜ」
腹話術師「つまり、師匠はお腹の中に本心を隠して、みごとに俺という人形を動かしてみせたわけだ」
腹話術師「しかも、犯人は逮捕され、俺もこの通り成長できました」
腹話術師「俺が師匠を越えただなんてとんでもない。まだまだ師匠の腹話術には敵いませんよ」
師匠「あまりおだてるなよ。太っ腹になってなにかおごってやりたくなっちまう」
おわり
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コメント一覧 (2)
-
- 2019年04月02日 08:49
- ?
-
- 2019年04月05日 09:54
- まあssだから雑な所もあるのは分かってたけど面白かったわ
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