【ミリマス】星梨花「ちょっとだけ大人になった日」
誕生日記念ということで、拙作を流しちゃうぞ。
私――箱崎星梨花は、所属するアイドル事務所の765プロダクションを訪れていた。
今日はロケの仕事の予定があり、私ともう一人のアイドルがここに召集されていた。
もっとも、朝方から全く降り止む気配を見せない大雨に阻まれ、先ほど撮影延期の連絡を受けたばかりなのだが。
目の前で重苦しい声を漏らした少女も、どうしようもない理不尽にやりどころのない感情を抱えているようである。彼女の名前は七尾百合子。今日の撮影で私のパートナーを務めるはずであった、年齢的には先輩にあたるが事務所では同期の頼りがいのある仲間である。
「ねえ、星梨花ちゃん……」
眉は八の字に折れ曲がり、ほとんど半目の困りきった表情で私の名を呼ぶ。私は半分まで読み進めた社会の教科書を閉じて彼女に向き合った。
彼女は何かに頭を悩ませている。私にできることであれば何でもしてあげたい。
「この問題、分からないよおぉ……」
前言撤回。先程からの断続的な呻き声は、彼女の手元のプリントによるものであった。
とはいえ完全に見放すのも酷な話である。私は先ほどまでは軽かった重い腰を持ち上げ、机に身を乗り出して彼女の手元を覗き込んだ。
「ふんふんふん……」
案の定、私には身に余る問題であった。計り知れない期待の眼差しを一身に感じている以上、非常にバツが悪い。しかし、これ以上こうしているわけにもいかないので、私は身体を戻してもう一度、席に座りなおした。
「すいません、私にもわからないです……」
「うへぇ……」
一瞬、輝きを取り戻した彼女の表情がまたもや曇る。私と二人きりのこの状況下で、もはや頼るあては失われた。文字通り詰んでいる。
「ううん、私の方こそごめんね。せっかく星梨花ちゃんの誕生日なのに、こんなに辛気臭い私なんかと一緒で……」
そう、今日は私の誕生日である。今朝、彼女と会った時も、開口一番お祝いをしてもらったのと共にプレゼントを渡された。彼女の他にも今日出会った仲間たちやプロデューサーからもプレゼントを貰った。明日には事務所で誕生日パーティーを開く予定である。
それは受験を控えた彼女とて例外ではない。受験勉強と仕事の合間に、私のためにプレゼントを買いに行っていたのだとすると、何だか申し訳ない気分になってくる。
彼女は依然として眉間に皺を浮かべたままだ。都内の公立高校の入試は二度あり、彼女は一度目の試験を逃している。彼女の志望校は都内でも有数の公立高校であり、例年倍率は高い。志望を下げるという選択もあったが、彼女は意志を変えない決断をした。その決意の裏に、どれほど壮絶な葛藤や苦悩があったのか私にはわからない。しかし、彼女が答えにたどり着いたことが容易ではないことは私にもなんとなく理解できた。
気づいた時には声に出ていた。
「どうしたの、星梨花ちゃん?」
彼女はこれ以上プリントを睨み続けるのを諦め、私の目を見て少しやつれた笑みを浮かべた。
「いえっ……、あの、お邪魔だったらやっぱりいいです……」
「大丈夫だよ。そろそろ休憩にしようと思ってたところだからね」
「別に何でも大丈夫だよ。私、これでも星梨花ちゃんよりお姉さんなんだから、遠慮せずに言ってごらん?」
彼女の言葉により私の思考はさらに混沌を極めた。
焦りで正気を失っていた私が咄嗟に発した言葉は、最悪の言葉だった。
ここまで言って私は慌てて口を塞いだ。これでは彼女の努力を否定しているようなものだ。
私は顔を伏せた。私は彼女の顔を見るのが怖くて、目線を戻すことができなかった。
やってしまった。もっと考えて話すべきだった。
今、私になにができるだろう。このままここにいても気まずいだけだ。彼女のためにも場所を移そう。教科書を鞄にしまうと、いつでも立ち去れるようになった。
しかし、私がこの部屋を出ることはなかった。
その言葉は、強くはっきりと鮮明に発せられた。声の主を見遣ると、その瞳は先程とは別人のように輝いていた。
「私ね、研究者になりたいの。まだ誰も見たことがない景色を見てみたくて。だから私はやめない。諦めないよ、絶対に」
「も、もちろん、アイドルも続けるよ! 星梨花ちゃんたちとトップアイドルになるのも、私の夢だから!」
何も言えない私を気遣ってか、彼女は慌ててフォローを入れる。
ダメだな、私。誕生日を迎えて少しは大人になれたかと思えば、結局大人に助けられっぱなしだ。本当に非力な自分が辛い。
それに比べて私は、とは言いかけたものの、寸前のところで思いとどまった。これ以上、彼女を困らせるようなことをしたくない。
「えっ?」
思いがけず自分の名前が挙がって素っ頓狂な声が漏れた。一体どういうことだろうか。
今も地味で大したことはないけどね、と彼女は付け加えた。
「でもね、みんなとアイドルとして頑張ってるうちに幸せだなあ、充実してるなあって思えるようになったの。こんなの生まれて初めてだった。この時くらいかな、私が自分に自信を持てるようになったのは」
「だからね、みんなの……、いや、星梨花ちゃんのおかげ!」
そう言うと、彼女は私を見つめてウインクした。あまり上手ではなかった。
彼女の渾身の告白に、自分だけ黙ってはいられなかった。そんな気分だった。
「百合子さんみたいに大きな夢を持っていません。将来のことなんて、何にも考えたことがありません」
勢いに任せて葉なった言葉は、まるで小学生の屁理屈のようだった。
「だから、私はアイドルを頑張ります! これだけは絶対に譲れません!」
言い切った。真っ白な画用紙をビリビリに引き裂いたような爽快感だった。……そんなことをしたことはないが、きっと、多分そうだ。
「うん、頑張ろうね!」
彼女はふぅと息を吐いて伸びをした。そしてもう一度こちらに向かって、
「……いつか見つかるといいね。星梨花ちゃんの夢」
嬉しいような、気恥ずかしいような。どちらとも取れて、どちらにも当てはまらない。しかし、嫌に思えない不思議な気持ちだった。
「……はい」
今の私にはこれが精いっぱいだった。
いつか見つかるといいな、大人になったら。
読んでくれてありがとうね~
「SS」カテゴリのおすすめ
- リョーマ「松岡修造?」
- J( ’ー`)し「カアチャンと契約して社会適合者になりなさい」
- 紅莉栖「覚えててくれてるかな……」
- ミサト「大人のキスよ、帰ってきたら続きをしま――」シンジ「嫌だ」
- 男「好きです付き合って下さい」幼馴染「いまさら?」
- 千早「ぼくらはみんな生きている」
- 和「手のかかる妹」
- スネ夫「のび太の癖にゆるゆりを見ようだなんて生意気だぞ」
- 杏子「焼き魚食うかい?」さやか「うん!ありがと」
- 【デレマス】Re:MIKUs【デレアニ】
- ありす「文香さん引けませんでした……」 飛鳥「ああ……」
- スズメバチ♀「誰だお前?」
- サザエ「タラちゃん、もう新成人なんだからその足音やめなさい」
- エレン「進撃の巨人オルタネイティヴ?」
- 右京「346プロダクション?」
「ランダム」カテゴリのおすすめ
- 綾乃「歳納京子を振り向かせたい」
- PC「即決する人ってかっこいいよね?」PC「わかるわかる!」
- 【Fate/GO】ジル「大変申し上げにくいのですが……」 黒ジャンヌ「今度は何ですか」
- 少女「おにぎり食べる?」勇者の剣「食えん」
- ギル「貴様が我のマスターか」 両津「そうだ金ピカくん」
- 三神「席替えをします」赤沢「」ガタッ
- 「スマブラブライブ」
- 波平「わしが“チカラ”に目覚めただと?」
- P「コミュ障すぎて仕事が捗らない」
- 原始劣等生「石を尖らせて槍を作ろう」原始妹「さすがです」
- P 「そろそろ契約更新か」
- 彡()()「凄惨な事故現場に出くわしたンゴ…」
- 晶葉「新発明が出来たぞ!」モバP「…ミラーボール?」
- 未央「違うんです」
- 鳴上「強くてニューゲーム?」
コメント一覧 (1)
-
- 2019年02月22日 13:13
- アイドルに本気な星梨花好きだわ