妻「フランスの古物商からギロチン買ったからあなたの首切断していい?」夫「いいわけねーだろ!」
- 2019年02月16日 20:40
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妻「ジャーン! 買っちゃった! ギロチン!」
夫「買っちゃったて……」
妻「フランスの古物商がやってる通販サイトで見かけたから、ついポチっちゃったの」
夫「高かっただろ、こんなの……」
妻「フランス革命の年にちなんで17,890円だったわ」
夫「安いなオイ」
妻「せっかくだし、あなたの首切断していい?」
夫「いいわけねーだろ!」
妻「じゃああなたはルイ16世?」
妻「飾っとくだけじゃ勿体ないし、なにか切断したいな」
夫「だったらこの青首大根でいいだろ」
妻「そうね、本物の首は次の機会にとっときましょ」
夫「永久にとっとけ」
妻「じゃ、せーのっ」
ズバンッ!
夫「おおー、骨董品だろうに、よく切れるな!」
夫「ん?」
妻「ギロチンから煙が……」
モワモワモワモワモワ…
ルイ16世「……」
マリー「……」
夫「うおっ!?」
妻「ギロチンで大根切ったら、外国人の男女が出てきたわ!」
ルイ16世「朕はルイ16世」
マリー「私はマリー・アントワネット」
夫「は!?」
妻「ウソ!?」
ルイ16世「まあ、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。ハッハッハ」
マリー「よろしくね!」
夫「思ったよりフランクだな……」
妻「フランスだけに?」
ルイ16世「朕たち、二人ともギロチられて死んだだろう?」
ルイ16世「だから、ギロチンに残留思念めいたものがずっと残っていたのだ」
マリー「そこへあなたたちがギロチったから、それできっかけでこの世に呼び戻されたのね」
マリー「多分、残留思念に引き寄せられるような形で」
夫「ギロチるとか動詞みたいにいうな」
妻「それにどうしてフランス人なのに日本語ペラペラなの?」
ルイ16世「朕たちが死んであの世に行ってから、もう200年以上経つ」
ルイ16世「それだけあれば、日本語をマスターすることくらいできるさ」
夫「俺、2200年になっても、多分フランス語喋れないと思う……」
夫「お子さんたちとも、仲良くやってますか? たとえばルイ17世とか」
ルイ16世「ああ、もちろんだとも。家族みんな仲良しさ」
夫「よかった……」ホッ
妻「え、ルイ17世ってなにかあったの?」
夫「とても可哀想な死に方したんだよ」
妻「どんな?」
夫「いや、聞かない方がいい。マジ胸糞ってレベルじゃねーから。絶対調べるなよ!」
ルイ16世「へ?」
マリー「どうやって?」
夫「……え?」
四人「……」
ルイ16世「というわけでしばらくお世話になりまーす!」
マリー「よろしくねー!」
妻「こうなっちゃうのね」
夫「どうしてこうなった」
ルイ16世「ハッハッハ、この布団ペラペラだ。宮殿の絨毯よりもペラペラだ」
マリー「ホント! こんなペラペラなのはじめて!」
夫「お前ら……」
妻「あら?」
夫「どうした?」
妻「今日買ったはずの食パンが全部なくなってる……」
夫「ええ……? ホントに買ってたのか?」
妻「買ったわよ、6枚切りのやつ」
マリー「私たちが食べてしまったわ」
夫「なにい!?」
妻「朝食用のだったのに……」
マリー「まあまあ、パンがなければケーキを食べればいいじゃない!」
ルイ16世「おっ、名言いただきましたー!」
夫(うっぜえ……)
夫「てか、あなたそれ言ってませんよね?」
マリー「言ってないけど、あそこまで有名になっちゃったら持ち芸にしちゃった方が得でしょ?」
夫「持ち芸て」
妻「この200年で、すっかりメンタルがお笑い芸人化しちゃったのね」
ルイ16世「ボンジュール」
マリー「ボンジュール」
夫「あ、どうも。おはようございます」
ルイ16世「朝ご飯は?」
夫「ねえよ! あんたらが食っちまっただろ!」
マリー「ええー」
妻「あるわよ」
ルイ16世「おおっ! さすがマダム!」
妻「はい、ケーキ。さっきコンビニで買ってきたの」
ルイ16世「うっ……」
マリー「朝から甘いケーキなんて……」
夫「おおっ、妻も負けてないな!」
夫「今日は日本を案内するよ」
ルイ16世「ジャパニーズ・ゲイシャ楽しみネ!」
マリー「私、ニンジャ見たいヨ!」
妻「なんで急にエセ外国人みたいになってるの」
夫「あっちにうまいカレー屋が――」
ルイ16世「それにしても町並みが清潔で大変よろしい」
マリー「ええ、私たちがいた時代はあちらこちら大便まみれで大変だったものね」
夫「……カレーやめようか」
妻「イェーイ!」
ルイ16世「ハッハッハ、素晴らしい歌であった」
マリー「とてもよかったわ」
夫「次はお二人で、フランスの歌でも歌って下さいよ」
ルイ16世「フランスの歌か……。じゃあ……あれいくか!」
マリー「ええ!」
ルイ夫妻「ラ・マルセイエーズ!!!」
夫「それ革命側の歌じゃなかったっけ……」
夫「……ん」ゴソッ
妻「どうしたの?」
夫「やべえ、どっかでカギ落としてきたみたいだ」ゴソゴソ
妻「えーっ!? じゃあ家の中に入れないじゃない!」
ルイ16世「朕に任せたまえ」
夫「え?」
ルイ16世「これでも錠前職人という側面もあってね。この程度のカギなら……」カチャカチャ ガチャッ
マリー「ステキ!」
夫「助かったよ……ルイ16世」
妻「激動の時代に生まれてなきゃ、きっといい王になれたのにねぇ」
妻「やりましょ!」
バサッ パサッ バサッ バサッ
マリー「8切り!」サッ
夫「えっ、なにそれ。知らないんだけど」
マリー「フランスのローカルルールだとあるのよ」
ルイ16世「よし、ここで革命だ!」パサッ
夫「お前が革命すんのかよ」
妻「うん……なくなっちゃった……」
マリー「ビールがないならワインを飲めばいいじゃない!」
ルイ16世「おっ、名言いただきましたー!」
妻「ねえねえ、ルイ16世さんもなにか言ってよ~」
ルイ16世「よーし、朕は国家なりー!」
夫「それお前より2世少ない奴のセリフー!」
アハハハハ… ハハハハハ…
二組の夫妻は打ち解けていったのだが――
……
夫「……ただいま」トボトボ
妻「どうしたの、あなた? ずいぶん顔色が悪いけど……まるで白ワインみたい」
夫「……」
夫「リストラ……されちまったよ」
妻「……ええっ!?」
夫「どうやらうちの会社、水面下で相当負債抱え込んでたようでさ……」
夫「ここにきて重役お抱えみたいな奴以外は全員バッサリって……」
夫「俺なんか派閥とかに全く無縁のノンポリだったから、第一候補だったろうさ」
夫「ハハ……これからどうすりゃいいんだ……」
妻「気を落とさないで! まだ若いんだしどうにでもなるわよ!」
ルイ16世「そうそう! 君の不幸など朕たちに比べたら大したことないよ!」
マリー「正社員がダメならアルバイトでもすればいいじゃない」
夫「うるさいな……ほっといてくれ!!!」
夫「ここにギロチンがある。会社から首切られたんだ。いっそマジで首切っちまうのもいいか」
夫「お前、俺の首切りたがってたろ? やってくれよ……」
妻「ちょっと冗談やめてよ……」
夫「冗談なもんか! やってくれよぉ! 首切ってくれよぉ!」
ルイ16世「落ち着くのだ! 現実から逃げても何にもならんぞ! 逃げちゃダメだ!」
夫「お前だってヴァレンヌ逃亡事件起こしただろうが!」
ルイ16世「それをいわれると耳が痛い」
夫「もう俺のことは……ほっといてくれ……」
夫「――クソッ! いくら飲んでも酔えねえ……」ゲフッ
夫「酒だぁっ! 酒がねぇぞぉ!」
妻(あれからあの人はずっとあの調子……)
妻(あの人に愛想尽かして、ルイ16世とマリー・アントワネットも出て行ってしまった)
妻(なんていうか、見えない糸がぷっつりと切れてしまったって感じ……)
妻(私たち、もう終わりなのかな……)
テレビ『都内の公園などで、ルイ16世夫妻を名乗る男女が漫才をしている姿が目撃され、SNS上で話題に……』
妻「え!?」
妻「あなたあなた!」
夫「あんだよ?」
妻「これ見て!」
夫「……?」
夫「なにやってんだ……あの二人……」
マリー「マリー・アントワネットでーっす」
ルイ16世「髭男爵のパクリじゃございませんので、むしろこっちが本場ですので」
ルイ16世「じゃ、さっそく。ルネッサーンス!」
マリー「いきなりパクってどうする!」
どっ!
ハハハハ… ハハハハ…
マリー「はい、どうぞ」
夫「……なんでこんなことを」
ルイ16世「それはもちろん、君たちへの恩返しと、家計の足しにするためだよ」
マリー「あなたが立ち直るまでは、私たちが頑張るから」
マリー「リストラされたなら、休暇を楽しめばいいじゃない」
夫「……!」
妻「あなた……」
夫「やっと吹っ切れたよ……」
夫「俺は会社から切り捨てられて、自分が情けなくて、自暴自棄になってたけど……」
夫「フランス国王と王妃にここまでされて、立ち上がらないわけにはいかないよな」
夫「まだ首は繋がってる! 首があるなら、やり直せるんだ! バイトでも何でもやってやる!」
妻「私も一生懸命働くわ!」
夫「よーし、弱い心を断ち切るために景気づけにギロチン落としとくか!」
ガシャンッ!
……
面接官「……では採用ということで」
夫「ありがとうございます!」
面接官「前職での経験を生かして、当社でもバリバリ働いて下さい」
面接官「期待していますよ」
夫「はいっ!」
妻「よかったね!」
夫「ああ……これもお前とルイ夫妻のおかげだ!」
ルイ16世「ハッハッハ、照れるな」
マリー「お役に立てて光栄ですわ」
夫「どれ、二人に出会うきっかけになったギロチン……ちょっと磨いてやるかな」
夫「……ん?」
妻「どうしたの?」
妻「あらホント……ほとんど手入れしてないのに」
ルイ16世「……」
ルイ16世「どうやら……来るべき時が来たようだ」
夫「?」
妻「どういうこと?」
マリー「私たちの残留思念がなくなりつつあるのです。もう現世には留まれません」
夫「な、なんだって!?」
ルイ16世「現世では君たちにずいぶん楽しませてもらったからね……きっとそのおかげだろう」
ルイ16世「ありがとう……しかし朕たちも子供たちをいつまでも放っておくわけにはいかない」
ルイ16世「いさぎよく帰ることにするよ」
マリー「私たちがいなくなったなら、心の中にいると思えばいいじゃない」
夫「……くっ」
妻「二人とも……元気でね」
マリー「ええ、あなたたちとあの世で会うのを楽しみにしてるわ。……なーんて」
ルイ16世「ほんの少しだけ君たちに革命を起こすことができてよかった」
ルイ16世「どうか、血の流れることのない平和な家庭を築いてくれ」
夫「ええ……誓います!」
マリー「オ・ルヴォワール!」
夫「……さようなら!」
妻「さようなら!」
シュゥゥゥゥゥ…
夫「……消えた」
妻「あなた……うっ、うっ、うっ……」
夫「俺たちも、彼らに負けないような夫婦になろう!」
妻「……うん!」
十年後――
ガサゴソ… ガサゴソ…
夫「ふぅー、ちょっと物置整理しようと思ったら大掃除になっちゃったな」
妻「ホントだわ」
娘「二人とも、余計なもの買いすぎ! 健康器具とか、よく分からない骨董品とか……」
夫「面目ない……」
娘「……ん、なにこれ?」
妻「あっ、それは――」
夫「ああ、そうだよ」
娘「首を切断しちゃう、おっかない道具なんでしょ? こわーい!」
夫「……」
夫「たしかに怖い道具だけど、本質は罪人を苦痛なく処刑するための人道的な道具なんだよ」
娘「ふーん」
妻「それにね……お父さんとお母さんは、ギロチンのおかげで仲が切断されずに済んだのよ」
おわり
元スレ
妻「フランスの古物商からギロチン買ったからあなたの首切断していい?」夫「いいわけねーだろ!」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1550307865/
妻「フランスの古物商からギロチン買ったからあなたの首切断していい?」夫「いいわけねーだろ!」
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コメント一覧 (16)
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- 2019年02月16日 21:27
- 話作るの上手いな
簡潔に面白く纏めてあった
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- 2019年02月16日 21:38
- スレタイに反して意外にも良い話でまとまってて困惑した
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- 2019年02月16日 21:42
- ギロチる。
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- 2019年02月16日 21:48
- 面白いし所々に歴史小ネタ的なのがあって良かった
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- 2019年02月16日 21:55
- 自分の家の物置にギロチンあったらびびるわ
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- 2019年02月16日 22:39
- オーストリアの娘、マリア・アントーニアが出てて安心した
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- 2019年02月16日 22:59
- タイトルでなんだコレと思いながら読んだら、起承転結がしっかりした短編で面白かった
あとルイ17世はこれからも検索しないことにする
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- 2019年02月17日 02:10
- ルイ17世って10歳でとんでもなく惨い扱い受けて死んだのか…
調べなきゃ良かったよ
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- 2019年02月17日 08:05
- ギロチンって言ったら鈴の音は?
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- 2019年02月17日 09:01
- >>10
もう一度宇宙に放り出すぞ
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- 2019年02月17日 15:43
- 良かった
ここ最近では一番だ
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- 2019年02月17日 22:30
- この作者さんの作品を他にも読みたいと思うぐらいよかった
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- 2019年02月18日 06:21
- 偉人コントにクスり
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- 2019年02月19日 02:39
- これは良いものだ
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- 2019年02月20日 12:11
- 面白かった
しかしよくあんな値段でギロチンを買えたよな
レプリカ品だとしても高くつくと思うのだが
後、マジでルイ17世に関しては調べない方が良い