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隊長「魔王討伐?」【その4】

関連記事:隊長「魔王討伐?」【その3】





隊長「魔王討伐?」【その4】






741: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 20:57:14.72ID:I5P21WD00


隊長「...もう、少女じゃないんだな」


魔女「...」


隊長「どんな手段を使ってでも...両親の元に逝かせてやるからな...」


少女「あははははは...あはは...」


魔女「...あの見た目、形は違うけれど蕾と同じ質感ね」


隊長「...相変わらず攻撃が通りそうにもないな」


少女「あははは...あは...」


──ずる、ずる、ずる...

彼女の足と思われる部位は根と繋がっており、歩行は不可能だった。

よってこの擬音と共に、体積を伸ばしながら這いずりを行っている。

しかし少女は盲目であるためか移動方向はメチャクチャであった、そんな鈍行で魔女が確信を掴む。


魔女「...じゃあやるわよ、さがってて」


隊長「あぁ...頼んだぞ」


魔女「──"雷魔法"っっ!」


────バチッ!

少しばかり淡い稲妻が地面を這う。

魔女の狙いはこの2階に蔓延っている根。

しかし出力を誤ったか、根の破壊は失敗におわる。


少女「────あは?」ピクッ


少女の動きが止まる、まるで身体に異変を感じたかのような素振りを見せた。

彼女の皮膚は蕾と同じような質感をしている、攻撃が通るわけないと思われていたのに。


魔女「...反応あり、成功ね」


隊長「...なにをしたんだ?」


魔女「あの子の皮膚、あの蕾と同じ見た目をしてるわよね?」


隊長「あぁ...そうだな」


魔女「だから外からの攻撃はすべて無意味、そうよね?」


隊長「...だから根を利用したのか」


魔女「もう気づいたのね...」


魔女が行ったのは伝導であった、外からの攻撃がだめなら中から攻撃すればいい。

おおよそ体内に繋がっていると思われる根を媒体とし雷を伝導させる。

そうすれば、あのとてつもなく硬い皮膚を無視することができる。



742: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 20:59:12.85ID:I5P21WD00


魔女「じゃあ、出力を上げるわね」


隊長「あぁ、わかった」


魔女「..."雷魔法"っ!!」


────バチバチバチバチバチッッ!!

根がギリギリ形を保てる程度の威力。

凄まじい稲妻が少女の体内へと駆け巡る。


少女「────あああああッッッッ!?!?」


隊長「──怯んだぞッ!」


魔女「このまま雷を流し続けるわよっ!」


少女は雷に囚われ、動きをかなり鈍くしている。

このまま沈黙へと持っていけるかと思われた。


隊長「...なッ!?」


──かぱぁっ...!

少女の首と思われる箇所が開かれた。

そしてそこからこちらを覗く者がそこにあった。

大きな目玉がこちらを捉えていた。


魔女「──変異したっ!?」


隊長「この短時間に何度変異を繰り返すつもりだ...ッ!」


魔女「まずいわ...あれが本当に目として成り立つのなら...」


先程まで、当てずっぽうで攻撃していた様なもの。

盲目の彼女に視力が戻ってしまったというなら。

これから始まる攻撃は、先程の比ではないだろう。


少女「────あああああああああああああああああっっっ!!!」


──シュババババババッッ!!

植物には動物的な視力などない、だがあの生物を動物や植物にカテゴリできるだろうか。

動物的な変異を遂げた植物が、蔓をこちらに向かわせる。

猛烈な風切り音とともに多数の蔓が彼らを貫こうとした。



743: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:01:01.96ID:I5P21WD00


魔女「──っ!?」


魔女(ダメ、ここで雷を途切れさせたら...)


魔女(視力を戻したあの子が、なにをしてくるかわからない...)


魔女(それに...もし雷に抵抗を得た変異をされてしまったら...)


走馬灯のように考察を重ねる、回避行動は絶望的。

そもそも、根を破壊しない程度ギリギリの威力を保っている。

その超精密作業中に行動できるわけがなかった。


魔女「ごめんっ! 動けないっっ!!」


──ババッッ バババッ バババババッッ!

いままで、眺めることしかできなかった彼が動く。

長年鍛え上げられた、誤射を防ぐために極められた射撃能力。


隊長「──まかせろ」


硝煙の匂いと共に、撃ち抜かれた蔓は力無く果てていく。

彼にできるのは、ひたすら魔女を防衛すること。


魔女「──ありがとうっ! 助かるわっ!」


隊長「そのまま安定させていてくれッ!!」


──バチバチバチバチバチッッ!!

絶えず、供給をやめずに流し続ける。

そして彼も銃声をけたたましく鳴らし続け、蔓を退けている。

少女も苦しんでいるように見える、このままいけば勝てる。


隊長「──下だッ!」


──メキメキメキメキメキッッ!!

先程まで動きのなかった根が、活動を再開する。

蔓の猛攻は止まらず、対応を追われている隊長にはどうすることもできない。


魔女「うっ..."雷魔法"っっ!!」


──バチバチッ!!

新たな雷が、2人の足元だけを強く保護する。

同時に2つの魔法を維持したためか、身体に負荷がかかる。


魔女「ぐぅぅぅ...絶っっ対にそこから動かないでっっ!!」


隊長「──わかっているッッ!」


下手に動かせば、感電してしまうだろう。

足元の周りに雷を展開したおかげか、根はこれ以上迫ることができずにいた。



744: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:03:11.82ID:I5P21WD00


少女「あああああああああああああああああああッッッッ!」


魔女「くっ...まだ元気そうね...」


人のモノとは思えない叫び声、銃声、雷音、植物の轟音。

ありとあらゆる要素が彼女の集中を邪魔する。


魔女「はぁっ...はぁっ...!」


少しでも気を緩めば、雷は途絶えるだろう。

途絶えてしまえば、少女は活発に動くかもしれない。

途絶えてしまえば、足元の根はたちまちに拘束してくるかもしれない。

そして気を緩めれば、足元の雷がこちらに牙を向くかもしれない。


魔女(...大丈夫、私ならできる)


魔女(だから...早く倒れてっ...!)


──くぱぁっ...!

魔女の願いを砕く、最悪の擬音とともに現れる。

先程も見た根から伸びるあの植物、それも大量に。


魔女「──こんな時にっ!」


隊長「...クソッ! また食虫植物かッッ!!」


魔女「任せられるっっ!?」


隊長「...やるしかないッッ! そっちは安定を維持してくれッ!」


魔女「お願い...っ!」


蔓、そして食虫植物の相手をまかされた。

彼は右手と肩でアサルトライフルをバイオリンのように安定させる。

そして左手で、新たな武器を握りしめる。


隊長(アキンボか...精度は落ちるがやるしかない...)スチャ


──ダンッ ババッ ダンダンッ バババッ!!

両手に銃、アキンボスタイルで植物を相手にする。

右手の照準は食虫植物、左手の照準は上から襲いかかる蔓。


隊長「──グッ...!」


左はともかく、右の負担が大きすぎる。

先程のような正確な射撃は不可能、かなり大雑把に敵を蹴散らしていた。



745: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:05:23.56ID:I5P21WD00


隊長「...持っても数分だッ! それ以上は無理だッ!」


魔女「わかったわっ! 限界が来たら離脱するわよっ!」


少女「あああああああああああああああああああっっっ!!」


隊長「──ッ!」


──ダンッ ダダンッ ババッ バババッ ダンッ!!

────カチカチッ!

2つの種類の銃声が植物を撃ち落とす、そして続いたのは弾切れの音。


隊長(Reload...)カチャカチャ


片膝立ちさせ、ふくらはぎと腿でアサルトライフルを挟む。

そして上向きになったマガジンを右手のみで取り外し装填する。

普段なら3秒以内に終わるリロード動作、片手時は5秒以上もかかってしまう。


隊長(まずい...今のだけでも集中力が切れそうで辛かったぞ...)


それも当然、片手リロード中は無防備。

それをカバーするべく、左のハンドガンで蔓と食虫植物を相手にしていた。

利き腕ではないのにエイムを派手に動かせば、集中することなど難しい。

そんなことを思いながらも、ハンドガンの片手リロードを卒なくとこなしていた。


隊長「魔女ぉ...まだかぁ...ッ!?」


魔女「もうちょっとだから...頑張ってっ!」


隊長「クッ...」


魔女「お願い...お願いだから早く倒れて...っ!」


少女「ああああああああああああああああああああ────」


──バチバチバチバチッッッ!

──ダンダンッ ババッ ダダンッ!!

2種類の攻撃音、そして2人の思い、それがようやく通じる瞬間。


少女「────っっっ!!」


隊長「──ッ!?」ピタッ


いち早く気がついたのは、隊長だった。

こちらを喰らおうとばかりの食虫植物。

そして貫こうとしていた蔓の動きが止まっていた。


隊長「──やったかッ!?」



746: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:07:01.92ID:I5P21WD00


魔女「...っ!」


少女「────」


下を向いてひたすら雷を供給し続けていた魔女も気がついた。

根が静まり、少女の鈍い叫び声が止まっていた。


隊長「...終わったのか」


魔女「あぁぁぁぁ...」ペタリ


お互いに集中力が途切れ、魔女は座り込んでしまう。

足元に展開していた雷は失せ、両手の銃の銃口は下を向いている。


隊長「...少女」


アキンボスタイルの影響か、右手に強い違和感。

ハンドガンを収納しアサルトライフルを背負い、沈黙する少女を見つめる。


魔女「...行きましょ」


隊長「あぁ...わかっている」


魔女「本当に、残念だったわね...」


隊長「...この手で終わらせただけ、十分だ」


隊長「今度は怒りに囚われずに...少女をこんな目に合わせた奴を討つ」


魔女「...そうね」


隊長「...立てるか?」


魔女「ごめん、手を貸してもらえる?」スッ


隊長「あぁ」グイッ


魔女「わっ...ありがと」


隊長「どういたしましてだ」


魔女「じゃあ...急ぎましょ」


隊長「...あぁ」チラッ


少女「────」


ここを出発する前に、もう一度少女を見つめる。

見えないはずの少女の瞳が開いている、それを見かねた魔女が言葉を発する。



747: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:09:07.88ID:I5P21WD00


魔女「...閉じてきてあげて」


隊長「そうだな...」


朽ち果てた少女に接近する。

そして開かれっぱなしであった瞳をそっと閉じる。

最後に少しばかり頬をなでた、とても人のモノとは思えない硬度に隊長は複雑な思いをする。


隊長「...行くぞ」


魔女「...えぇ」


足早にこの広間から離脱する。

階段を登る前にもう一度振り返りそうになった。

しかしその気持を押し殺し、上へと向かう。


隊長「────ッ!」ピクッ


魔女「どうしたの?」


隊長「...勘弁してくれ」


魔女「...っ!」


────パキッ...!

不審に思った魔女が思わず振り返る。

なにか殻が破けたような音を立てながら、アレが変異を始めている。

地獄はまだ続く、弱音を漏らすほどに隊長の精神が削れていく。


魔女「早くトドメをさすわよっっ!!」


隊長「...クソッタレッッ!!」ダッ


再び根を利用して内部から攻撃をしなければならない。

そうしなければ、少女にまともなダメージを与えることなど不可能。

来た道を急いで戻る、しかしすでに遅かった。



748: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:09:51.85ID:I5P21WD00











「あはは...あは...あはははは...」












749: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:11:20.26ID:I5P21WD00


──パキパキパキパキパキッッッ!!

まるで蛹の羽化のような光景だった。

朽ち果てていた身体が崩れ、新たな身体が芽生えていた。

新たな少女がここに生まれる。


少女「あはは...」


隊長「...ッ!」


魔女「...まずいわ」


二足歩行でこちらに向かって歩いてくる。

身体のいたるところに蔓が生えていなければ。

身体の色が緑じゃなければ人と遜色はないだろう。


魔女「...身体と根が分離してるわ、もうさっきの戦法は無理よ」


隊長「わかっている...」


魔女「それにあの蕾のような皮膚、健在ね」


隊長「わかっている...ッ!」


いままでしてきたことの全てが無駄だった。

初めからすぐに魔王子と合流し、対処してもらえばよかった。

お互いにそう思った、だが決して言葉にしなかった。


魔女「...こうなったら、あの子が下に行かないようにしないと」


魔女「こっちに誘導しつつ、上に向かって魔王子と合流するわよ...」


隊長「...あぁ」


魔女「相手は二足歩行よ...それにどんな速度で走るかわからないわ」


隊長「...絶対に油断などするか」


魔女「...行くわよ」


少女「あははは...あは...」


じりじりとこちらに詰め寄ってくる。

幸いにも、今現在は下に向かうつもりはないらしい。

追跡されながら人探し、困難極まりない行動を開始する。



750: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:13:48.46ID:I5P21WD00


魔女「──え?」


────グサッ...!

少女を注視しつつ、後退りで階段へ向かおうとした時だった。

油断、そのようなモノは一度もしていない。


隊長「────ゴフッ...!?」


魔女「なんで...!?」


隊長の背部から蔓が飛び出していた。

一体なぜ、しっかり少女を見張っていたというのに。

その答えは1つしかなかった。


隊長「はや...すぎる...」


魔女「──っ! "雷魔法"っっ!!」


──バチバチバチッッッ!!

高威力の雷が、器用に隊長だけを避けて蔓に命中する。

これで彼を貫いているモノは朽ちるはずだった。


魔女「──効いていないっっ!?」


隊長「ガァ...ゲホッ...」


魔女「ま、まさか...」


隊長「駄目だぁ...逃げろ...」


魔女「──そんなことできるわけないじゃないっっ!!」


少女「...あは」


蔓を目視する、その質感はなんども見た例の蕾のそれに酷似するモノ。

少女は愚か、そこから生える蔓にすら攻撃が通用しなくなってしまった。

隊長の出した命令は魔女1人での離脱、しかしそれを拒否、そんなことをしているうちに少女は仕掛ける。


魔女「──ぐえっ!?」グイッ


速すぎる蔓が、魔女の首に巻き付いていた。

女性らしからぬうめき声と共に、彼女の身体は宙に持っていかれる。


魔女「がはっ...ぐぅぅぅぅ...」グググ


──ぎゅううううううううっっ!!

とてつもない締め付けが魔女の意識を徐々に奪っていく。

首に強烈な痛みが走る、それだけではなく酸素すらうまく吸引できない。



751: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:18:14.75ID:I5P21WD00


隊長「ま、魔女ぉ...ッッ!?」スチャ


身体を貫かれた衝撃でアサルトライフルはどこかに吹き飛んでしまっていた。

腹部に残る激痛をこらえ、ハンドガンで蔓への射撃を試みる。


少女「...あは」


──ダンッ! ガギィィィンッッ!

射撃は命中、しかしまるで金属に当たったかのような音を立てて弾かれる。

その様子を見てなのか、少女は不敵な笑みを見せびらかす。


魔女(もうだめ...意識が────)


魔女「────」ピクッ


隊長「──魔女...ッッ!?」


少女「あは」


──ブンッッッ!!!

風切り音に続いたのは、衝撃音だった。

魔女は力強く投げ飛ばされ、少女が眠っていた小部屋に激突した。

ホコリが舞い上がり煙になる、遠いのも相まって様子を確認することは不可能。


隊長「────ッッッッ!!!」


隊長の口から血が流れる。

腹部を貫かれているからか、それとも口の中を切ったのか。

どちらにしろ、強い感情が彼の中で芽生えていた。


隊長「FUCK FUCK FUCKッッ!!!」


少女「...あはははは」


隊長「──AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!」


──ブチブチブチブチッッ!!

身体を貫いている蔓を、無理やり引っこ抜く。

自分の肉が裂ける音など気にしていられない。

深く呼吸をすることで痛みを誤魔化す、蔓は抜いた反撃するなら今。


隊長「フッー...! フッー...!」スチャ


──ダンッ ダンッッ! ガギィィィィィンッッ!!

トリガーは軽かった、しかし効果を得ることはできなかった。

腹には穴が空いている、蔓で拘束されなくとも、もう隊長は満足に動けない。


少女「あはははははははははははははは」


隊長「クソッ! 一体どうすれば────」



752: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:19:24.91ID:I5P21WD00











「...俺がいるじゃないか」












753: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:21:16.79ID:I5P21WD00


チリチリチリ、と頭の中でそう音が聞こえた。

誰かが話しかけてきた時、脳みそが焼けるような感覚がした。

まるで、周りの時が止まったような錯覚に陥る。


隊長「────黙ってろ...ドッペルゲンガー...ッ!」


ドッペル「ひどいじゃないか...こうして助けに来てやったというのに」


隊長「失せろ...ッ!」


ドッペル「...じゃあ言うが、これからどうするつもりだ?」


隊長「...ッ!」


ドッペル「もうわかっているんじゃないか?」


隊長「...黙れ」


ドッペル「魔王子に頼ろうとしたのは、どうしてだ?」


隊長「黙れと言ってる...ッ!」


ドッペル「...俺を受け入れろ、そしたら貸してやる」


それはどういう意味なのか。

あの強靭な少女を貫くには、なにかが必要。

魔王子が持っている、あの黒いモノ。


ドッペル「...なにを唱えればいいか、わかっているな?」


隊長「...」


その言葉を飲み込んだら、周りが動きはじめた。

薄々と渇望していた手段を手に入れてしまった、どうしても唱えなければならない。


少女「...あははははははははは」


隊長「...畜生...ッ!」


強制的に刷り込まれたあの言葉。

もう唱えるしかない、少女を倒すには。

鳥肌が立ち寒気が彼を襲う、彼は初めて魔法を唱えてしまう。


隊長「────"属性付与"、"闇"」


──■■■■■■...

凄まじい嫌悪感と吐き気を催す。

身体のあちこちが締め付けられるような痛みを覚える。



754: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:23:16.55ID:I5P21WD00


隊長「──があああああああああぁぁぁぁぁぁッ!?」


ドッペル「そうだ...そのまま委ねろ」


ドッペル「そして身体を寄越せ...そうすれば痛みが引くだろう」


隊長「だ、黙れ...ッ! このままでいい...ッ!」


ドッペル「...愚かだ、ただの人間に闇を纏えるわけないだろう」


隊長「力だけ寄越せばいい...ッ! そのまま失せろッ!」


ドッペル「...まぁいい、そのうちお前から懇願するだろうからな」


ドッペル「精々足掻いてみせろ」


身体につきまとう、もう1人の自分が黒と同化する。

残ったのは痛みと闇、そして対峙するのは少女だった者。

右手に握るハンドガンに力を注ぎ込む。


少女「...あははははは」


──ダン■ッッ!!

闇の一撃が少女の腹部に的中する。

弾かれた音はない、響いたのは別の音だった。


少女「──ああああああああああああああああああああっっ!?!?」


隊長「苦しいだろうな、俺も今とても苦しい...」


少女「ああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」


隊長「...すぐに楽にしてやる」


お互いの身体が闇に飲み込まれかけている。

長くは持たない、超短期決戦が見込まれる。

先に動いたのは少女だった。


隊長「──...ッ!」ピクッ


──ぎゅうううううううううううううううぅぅぅぅぅぅ

とてつもない速度、とても目で追えないソレが迫った。

隊長の身体を蔓がキツく締め上げた、しかしそれは無意味だった。


少女「あああああああああああああああっっっ!?」


──■■■...

闇の擬音、属性付与により身体に付着した蔓が無に帰る。

あらゆるものを破壊する性質の闇属性、絶対的硬度など役に立たない。



755: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:25:19.00ID:I5P21WD00


隊長「がはッ...ぐゥ...ッッ!!」


だがそれは彼も同じであった。

徐々に身体のあちこちに擦り傷のような物が浮かび上がる。

何もしていないのに闇の影響で骨が数本折れている、呼吸も厳しい、内蔵もヤラれている。


隊長「────くるしい」


ドッペル「...苦しいだろう? 俺が闇を調節していなければ既に身体は滅んでいるぞ」


しかしそれだけではなく、内面的な傷も負っていた。

もう1人の彼によって精神が弄ばれている。

まるで脳を素手で掴まれているような感覚が襲っていた。


少女「ああああああああああああああああああああああっっっ!!」


隊長「...ッ!!」スチャッ


──ダンダン■■■ッッ!!

射撃音と共に発せられる闇の音。

徐々に状況を打破していく、それほどに恐ろしい威力を誇っていた。

あの鉄壁を誇っていた少女の肌には、複数の銃痕が残っていた。


少女「あ...あああああ...ああぁ...」


隊長「...少女」


少女「────ああああああああああああっっっ!!」ダッ


──ヒュンッッッ!!

風のように靭やかな、それでいて常軌を逸した速度で飛びかかってきた。

しかしその行動は目で追える速度であった、彼が取り出したのは、ナイフ。


隊長「──さよならだ...」スッ


少女「あ...あ...ああぁぁぁぁ...」


──グサ■ッッッ!!

闇を纏ったナイフが彼女の柔肌を貫いていた、そのまま少女を優しく抱き寄せる。

深緑のマフラーの一部が深紅に染まる、どれほど見た目が変わろうとも血の色は不変であった。



756: ◆O.FqorSBYM 2018/12/18(火) 21:26:34.12ID:I5P21WD00


隊長「さよ...ならだ」


少女「きゃぷ...て...さん...」


少女は力をなくし、そのまま隊長にもたれかかった。

最後の言葉、理性を取り戻したかのような口調。

彼はゆっくりと腰をおろした。


隊長「...」


少女「────」


ドッペル「...まさか、事を終えるまで闇を纏っていたとはな」


ドッペル「次はないと思え...次は調節などしないからな」


隊長「...」


ドッペル「...抜け殻か」


そう言うと、ドッペルゲンガーは闇と共にどこかへと消え去った。

ここに残ったのは放心状態の隊長、死亡した少女、そして安否のわからない魔女。

今すぐにでも動かなければならないというのに。


隊長「...」


動かないのではなく、動けなかった。

腹には蔓が貫通した痕、骨折、軽い多臓器不全。

動けるわけがなかった。


隊長「────」


──トサッ...

そう音を立てて彼は倒れ込んだ。

仰向けの身体に、少女の遺体を乗せて。


???「..."治癒魔法"」


~~~~



758: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:09:12.00ID:pGMQTGcF0


~~~~


地帝「..."属性同化"、"地"」


闘いの火蓋が切って落とされる。

大地と同化するのは、地帝。

それと対峙するのは、女騎士とウルフであった。


女騎士「聞いたことのない魔法だ...それに素直に通してくれなさそうだな」


地帝「...」


女騎士「...力を貸してくれ、キャプテン、魔王子」


女騎士「そして...ウルフもな」


ウルフ「...もちろんっ!」


女騎士「それにしても...動きそうもないな」


地帝「...」


動かずの地帝、ならばこちらから動くしかない。

最も速く動いたのはウルフであった、文字通り、最も速く。


ウルフ「────がうっ!」シュンッ


地帝「...!」


気づけば、ウルフは間合いを詰めていた。

全身が岩や砂などに同化している地帝は動けずにいた。


女騎士「──速いっ!?」


女騎士(あの速さで、私を炎から助けてくれたのか...っ!)


ウルフ「────うりゃあああっっ!!」スッ


──ダダダダダダダッッッ!!

片足で重心をとり、もう片足で連続の蹴りをお見舞いする。

剣気のようなその脚気は岩をも砕く威力。


地帝「...」


ウルフ「──っ!?」ビクッ


──ピリピリッ...!

彼女が感じ取ったのは、野生の勘。

自らの本能が身体の動きを強制的に止めていた。

それを感じるとそしてすぐさまに、距離を取った。



759: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:11:05.89ID:pGMQTGcF0


女騎士「...どうした?」


ウルフ「な、なんかこわかった...!」


地帝「...」


女騎士「...殺気というやつか」


女騎士が解析しているうちに崩れた岩が再度地帝と同化する。

先程ウルフが果敢に行った攻撃は、無意味となってしまった。


女騎士「次は私だ」スチャ


──ダァァァァァァンッッッ!!

槍のように持っていたショットガンをしっかりと持ち直す。

肩でストックを抑え反動に備える、そうして発せられたのは強烈な炸裂音。


地帝「...!」


初めて見る武器に少しばかり動揺する。

しかし力強い発砲音は虚しくも、成果を残せずにいた。

地帝の岩を破壊することはできなかった。


女騎士「...だめか」ジャコンッ


ウルフ「どうする?」


女騎士「...」


この厳しい状況下、仮定も交えながら戦略を練る。

現状効果が見られたのはウルフの蹴りのみ。

答えは1つしか思い浮かばなかった。


女騎士「...もう一度、肉薄してもらえないか?」


ウルフ「わかったっ!」


女騎士(即答か...無茶な要望だというのに...)


先程、なにか怖い気配を感じ取ったから一度身を引いたというのに。

やや絶望的な状況、ウルフの微笑ましさに不安が少し和らいだ。


女騎士(...さて、あの属性同化とやら)


女騎士(私の仮説が当たれば、なんとかなるかもしれない...)



760: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:12:11.68ID:pGMQTGcF0


女騎士「...いいか?」


ウルフ「うん?」


女騎士「とにかくあの岩をたくさん砕いてくれ」


ウルフ「わかったよっ!」


地帝「...」


耳打ちは終了、早速ウルフが行動に移る。

地帝はただこちらの様子を見ているだけのようだった。


地帝「...!」


ウルフ「──うりゃりゃりゃりゃりゃりゃっっっ!!」スッ


──ダダダダダダダダダダダダダッッッ!!

再び間合いを詰めたウルフが繰り出したのは拳。

片足の足技と違い両手を使っている分、先程より遥かに攻撃回数が多い。

威力のある拳気が、凄まじい勢いで岩を崩す。


女騎士(私の読みが合っているのなら、包まれた岩の中に地帝がいるはずだ)


女騎士(...奴が見えたら私も肉薄して射撃だ)


その時に備えて、いつでも走り出せるように構える。

ウルフの攻撃は順調、岩の破壊とともに砂埃が舞い上がる。


地帝「...」


ウルフ「──これでっ! どうだっ!!」グッ


フィニッシュブローに移行する。

右腕を思い切り引き下げ、力を蓄える。

そしてそれを思い切り前に突き出す。


ウルフ「────ふんっっ!!!」


──バキイイィィィィィィィッッッ!!

その絶大な威力を誇る拳気に、岩は砕かれるしかなかった。

大地に囲まれていた地帝が顕になった。


女騎士「──居ないっ!?」


そのはずだった、しかし岩の中には誰もいない。

急いで攻撃しようと近寄ってきた女騎士の読みが外れる。



761: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:13:37.45ID:pGMQTGcF0


地帝「...」


属性同化という魔法はその属性自体になるということ。

炎なら炎に、水なら水に、風なら風に、地なら地に。

肉体という概念など存在しない、はなからこの戦略など意味がなかった。

あの時、魔王子が属性同化について軽く説明してくれていればよかったというのに。


女騎士「──ウルフっ! 戻ってこいっ!」


ウルフ「...っ!」


地帝「...もう遅い」


──さぁぁぁぁぁ...

岩と化した地帝から、大量の砂が出現する。

そしてソレはウルフを包み込む、優しさの欠片もなく。


ウルフ「──けほっ! な、なにっ!?」


地帝「...」


──ザリザリザリザリッッッ!!

まるで刃物のような鋭利な音だった。

大量の砂がウルフの肌を赤く染め上げる。


ウルフ「──っっっ!! いたいよっっ!!」


女騎士「──ウルフっっ!!」ダッ


急いで駆け寄る、砂に襲われているウルフの腕を強引に掴む。

鎧をしているお陰か、女騎士は砂の被害を大幅に軽減していた。


女騎士(鎧に助けられたか...いや、隙間から入られたら敵わん...)


自らも砂に突入したあとは、冷静にウルフを連れて離脱する。

顔には少し擦り傷が、そして気づけば鎧が傷だらけであった。


女騎士「...これを生身で受けたのか」


ウルフ「うぅ...いたたたた...」


女騎士「大丈夫か? すまない、私のせいだ...」


ウルフ「うん、大丈夫...気にしないでね...?」


付着した砂を、犬のように身体を震わせて落とす。

ダメージは負ったが、まだ戦闘続行できる様子であった。



762: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:15:04.77ID:pGMQTGcF0


地帝「...抵抗しなければなにもしない」


女騎士「それはつまり、ここで指を加えてろってことか?」


地帝「...」


女騎士「...まだ、抵抗させてもらうぞ」


ウルフ「...がうっ!」


女騎士(...と、意気込んだモノもどうするか)


今の地帝に実態がないことがわかった。

つまりは物理的な攻撃は無意味。


女騎士(...魔法ならどうだ)


女騎士「風属性が恋しいな..."属性付与"、"衝"」


即実践に移る、彼女が得意とする衝属性の魔法。

ショットガンの銃身からミシミシと音が立つ。


女騎士「...壊れないよな?」


ウルフ「うーん、わかんないけど...ご主人はらんぼうにつかってたよ?」


女騎士「そうか、なら大丈夫だな」スチャ


──ダァァァァァァァンンッッッ!!

再び岩に命中し、散弾の着弾ともに強い衝撃が発動する。

今度は岩の破壊に成功する、しかし地帝は動こうとしない。


地帝「...無駄」


魔法を使ったとしても、結局は物理的な攻撃になっている。

実態の無いものに対して全く効果は得られない。

しかし女騎士は別の効果に気づいた。


女騎士「...なるほどな」ジャコンッ


ウルフ「うん?」


女騎士「いや、なんとかなるかもしれないぞ」


ウルフ「ほんとっ!?」


女騎士「あぁ...また頼み事があるぞ」


地帝「...」


こそこそと密談、お互いがこれからやるべき行動を確認する。

そのささやきあっている様子を地帝は黙ってみている。



763: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:19:30.56ID:pGMQTGcF0


ウルフ「────がるるっっ!!」シュンッ


地帝「──っ!」


再度不意を疲れてしまった。

さきほどまでささやきあっていたというのに。

地帝ほどの者が気づけない速さであったが、彼女は直様に対応する。


地帝「...また、砂の餌食に──」


──さぁぁぁぁ...

砂がウルフを囲もうとしたその時、地帝はあることに気づけた。

すでにウルフが退避をしていること、そしてもう1つ。


地帝「...もう1人はどこ」


女騎士を見失っていたことだった。

ウルフの迅速な肉薄、そして退避に気を取られていた。

だが見失ったもう1人はすぐさまに発見することができた。


女騎士「悪いが、ここは引かせてもらう」ダッ


地帝「──!」


下の階へと続く進路を妨害している地帝。

その真横を女騎士が全力疾走で通り過ぎていった。

ウルフの行動は陽動、完全に踊らされてしまっていた。


地帝「──させない...」


──さぁぁぁぁぁ...

ウルフへと向かおうとしていた砂は、女騎士を追い始める。

やや距離を離されて入るが、人間の走行程度なら追いつけるだろう。


ウルフ「──がうっ!」グイッ


女騎士「──作戦通りだっ!」


先程まで退避していたウルフが女騎士の背中を押しつつ並走をしていた。

その桁違いの走行速度だからできる芸当であった。

砂など追いつけるわけがなかった。



764: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:20:35.64ID:pGMQTGcF0


地帝「──くそ」


女騎士(読みどおりだ...やはり鈍足か)


女騎士「ウルフっ! そのまま作戦通りにやるぞっ!」


ウルフ「うんっ!」


ウルフの助力もあってか、かなりの速度を出している。

すべてのバランスを背中を押しているウルフの手に託す。

女騎士の足の回転数はとてつもないことになっていた。


地帝「..."転移魔法"」シュンッ


鈍足という弱点を補うための魔法を使わないわけがなかった。

その詠唱速度は、ウルフたちの走行速度より早かった。

魔王軍最大戦力のうちの1人なだけはある。


ウルフ「──うわっ!?」


地帝「ここは通さない...」


女騎士「...っ!」


──さぁぁぁぁぁぁぁ...

もう少しで、階段に辿り着こうとした時だった。

岩とかした身体を瞬間移動させ、そして砂を展開させた。

再び地底は立ちはだかった。


女騎士「...ふっ」


地帝「...?」


女騎士「読みどおりだ」スチャッ


──ダァァァァァァァンッッ!!

笑みを浮かべた女騎士が、砂に向かって発射する。

なんも効果も得られない行為に思われた。


地帝「...なぜ」


女騎士「属性付与のおかげで、前方のすべてが攻撃範囲と化した」


女騎士「私の衝撃は、たとえ砂ほどに小さい物でも弾き飛ばすぞ」


──ジャコンッッ!!

力強くポンプアクションを行いながらそう宣言する。

そして射撃された方向の砂は全てどこかへ吹き飛ばされていた。

先程女騎士が気づいたのはこのことだった。



765: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:22:04.56ID:pGMQTGcF0


女騎士(この武器は前方を全面的に攻撃するモノ...だが攻撃範囲に不規則性がある)


女騎士(それを付与した衝撃で範囲を補い、文字通りに前方を全面的に攻撃することが可能になった)


女騎士(適当に使った魔法が、奇しくもこのような効果を生むとはな...)


まるで漁網のような攻撃範囲を得たショットガン。

砂のように小さな物でも、射線にある限り攻撃が当たることになるだろう。


ウルフ「──がおおおおおおっっ!!」


女騎士「ウルフっ! 砂は私ができる限り抑えておく!」


女騎士(あとは話したとおり、地帝の岩をできるだけ砕くんだ)


女騎士(そして一度攻撃をやめ、岩を再生しようとした隙を狙って階段に向かうぞ)


──ダダダダダダダダダダダダダッッッ!!

──ダァァァァァンッッ! ジャコンッ! ダァァァァンッッ!!

複数の攻撃音が大地を砕く。

おそらくこれでも地帝にまともなダメージは与えられていない。

だが時間が稼げればいい、ここで無理して勝利を掴むことはない。


地帝「...」


女騎士「...?」


しかし、ことがうまく行き過ぎているような。

そして地帝が無反応すぎる気がしている。

このような劣勢な状況でも、このような性格を貫いているのだろうか。


ウルフ「──おりゃあああああっっ!!」


──バキッッッ!!!

そんなことをしている間にウルフがほとんどの岩を砕きおわった。

あとは砂だけであった、当然ながらすべての砂を対処することは不可能。

ある程度の被弾は覚悟をしていた、ならば今しかなかった。


女騎士(──今だ)チラッ


ウルフ「──っ!」ピクッ


目配せをする、一度攻撃をやめる時の合図だった。

岩が再生している間に階段に向かおうとしたその時。



766: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:23:14.46ID:pGMQTGcF0


女騎士(...再生しないだと?)


地帝「...」


女騎士(...想定外だが、このまま行かせてもらおう)


女騎士「ウルフ、行くぞ」


ウルフ「う、うん...」


女騎士「...ウルフ?」


どこか、ビクついているような。

どちらにしろ地帝は動く気のない様子だ。

黙している彼女の横を通ろうとした。


地帝「...気が変わった」


──ピリピリピリッッ...!

真横でとてつもない殺気を感じ取る。

女騎士は鳥肌を立て、ウルフの毛は逆だっている。


ウルフ「ひっ...!?」ビクッ


女騎士「どういう...ことだ?」


地帝「魔法が突破されようが、抵抗されようが激昂するつもりはなかった」


地帝「だが後悔しろ...人間の分際で"その剣"を持っていることを...」


岩のなかから、元の地帝が生まれる。

その形相は無表情の乙女のモノではなかった、そしてその手には1つの剣が。


女騎士「──ウルフっ! 戻るぞっっ!!」


ウルフ「──う、うんっっ!」


地帝「"属性同化"、"衝"────」


剣に魔法がかけられていく。

その見た目はまるで、ビームセイバーのようなモノに。


地帝「──"地魔法"」


──メキメキメキメキメキッッ!!

地帝によって展開した大地は下へと続く階段と上へと続く階段を封鎖した。

完全に退路を塞がれてしまった、もう彼女から逃れられない。



767: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:24:35.99ID:pGMQTGcF0


女騎士「...本気でみたいだな」


ウルフ「こ、こわい...」


女騎士「よくわからないが...この魔王子の剣が逆鱗か...」


地帝「あの世で朽ち果てろ...」ダッ


女騎士「──来るぞっ!」


地帝「──オラァッッ!!」


──ガギィィィィィィイインッッッ!!

鈍足だった地帝が迫り来る、その速度は決して速くはなかった。

それでいて遅くもなかった、衝撃と衝撃がぶつかり合う。

方や剣、方や銃身が鍔迫り合う。


女騎士「──うわあああああああああっっっ!?」


──ビリビリビリッッッ!

まるで電撃が走ったかのような衝撃が女騎士を襲った。

その衝撃に人間は耐えられるわけもなく、身体ごと弾かれてしまった。


女騎士「くっ...参ったなぁ、武闘派だったのか...」


地帝「...立て」


ウルフ「女騎士ちゃんっ...!」


女騎士「ウルフっ! 逃げてろっ!」


ウルフ「で、でもぉ!」


地帝「...死にたくなければさっさと消えて、殺すのはこの人間だけ」


ウルフ「...っ!」


どうしたらいいのかわからない。

この激戦というなか、思わず立ち尽くしてしまう。

それほどに、動物に近い彼女は地帝の殺気に煽られてしまっていた。


女騎士「くっ...かかってこいっ!」


地帝「...」


それを見かねて、女騎士は自らを誘発する。

とにかく狙いをこちらに、動けないウルフに標的がいかないように。



768: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:25:50.23ID:pGMQTGcF0


地帝「"属性同化"、"衝"」


そして再び、同じ魔法を唱えた。

今度は身体全体ではなく、左手だけ。

彼女の右腕には衝撃の剣、左手は衝撃の拳が出来上がっていた。


地帝「"転移魔法"」シュン


女騎士「──目の前かっ!?」スチャ


地帝「...はあああああああああああああっっっっ!!!!!」スッ


──バキバキバキバキッッ!

まるで何かが砕けた音が響いた。

目の前に現れた地帝、女騎士は不幸にも剣での攻撃に備えていた。

しかし彼女が突き出したのは左手であった。


女騎士「────がはっ...!?」


女騎士(よ、鎧が...)


地帝「...鎧は砕いた」


地帝の掌底により露わとなった女騎士の腹部。

女性特有の柔らかでいて、引き締められた筋肉、そこに衝撃の剣が向けらた。


女騎士「────っっっ!!」


──サクッ...

掌底のあまりの威力に朦朧としていたせいか、すんなりと刃を許してしまっていた。

しかし身体に妙な違和感を覚える、刺された箇所が熱くならない。


女騎士「...これは?」


地帝「実体のない剣、血はでない」


地帝「地獄をみるのはこれから...」


女騎士「...?」


──ドクンッ!!

身体の中から、なにかが沸騰したような感覚が走る。

腹部から侵入した衝撃が彼女の全身に駆け巡る。


女騎士「──ぐああああああああああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」


ウルフ「女騎士ちゃんっ!?」


女騎士「ああああああああああああああああああああっっっ!?!?」


思わず、力強く握っていたショットガンを落としてしまう。

内蔵が全てぶちまけてしまいそうな、今まで感じたことのない痛みが彼女を叫ばしていた。



769: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:26:48.18ID:pGMQTGcF0


地帝「...このまま本当に破裂させる」


地帝「歴代最強と言われる魔王様の魔剣...人間如きが所持したことを後悔しろ...」


女騎士「あああああああああああああああああっっっ!?!?」


ウルフ「や、やめてよっっ!!」


地帝「...」


──ピリピリピリッ...!

ただの殺気が、再びウルフを襲う。

自分の中に眠る、野生の本能が叫んでいる。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。


ウルフ「────っっ!!」ビクッ


地帝「...そのまま死ね」


女騎士「ああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」


絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に近寄るな、絶対に近寄るな、絶対に近寄るな。

絶対に────。


ウルフ「...くぴっ」ゴクッ


地帝「...!」


──ブチッッ...

何かが、切れる音が聞こえた。

そして感じるのは、殺しを求めたケモノのような殺気。


地帝「...それは」


ただの野良魔物だった彼女に、膨大な量の魔力が集まる。

彼女の手には空き瓶が握られていた、その目つきは先程までの柔らかなものではなかった。


地帝「...魔力薬」


ウルフ「...」


女騎士の悲鳴がまだ響いているというのに。

まるで地帝とウルフしかいないような場の雰囲気と化している。

それほどに地帝は警戒をしている、そしてついにウルフは牙を剥く。



770: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:28:38.95ID:pGMQTGcF0


ウルフ「────ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」シュンッ


地帝「──っ!」


──グチャッッッッ!!!

まるで、転移魔法のようにみえた。

気づけば地帝の肩の肉は噛みちぎられていた。


地帝「..."治癒魔法"」ポワッ


ウルフ「グルルルルルルルルルルルルル...」


地帝「..."属性同化"、"地"」


大地が地帝の肌を護る。

たとえ狼であろうと、牙で岩を砕くことは不可能。

再び守りの型に移行しようとした。


ウルフ「────ッッッ!!」シュンッ


──ガコンッッッ!!

属性と同化しようとした最中だった。

まだ変化をしていない頭に強烈な裏拳が入った。

予備動作なしでのこの速度、完全に油断した一撃。


地帝「...っっ!!」グラッ


地帝「ここまで...速いか...」


身体がよろけつつも、完全に大地へと同化し終えた。

これによりウルフの物理的な攻撃はすべて無力化できる、再び優位に立つ。


地帝「...」


ウルフ「グルルルルルルルルルル...」


地帝「暴走に近いのか...さぁどうする、獣」


ウルフ「...グルルルルルルルル」


ウルフはまるで檻の前に佇む獅子のような立ち回りを見せている。

簡潔に言うと様子見に近い行動だった、そしてそれは地帝も同じであった。


地帝「...」


地帝が物静かに、考察を練る。

あの魔力薬は誰のものかのか、どのようにして得たのか。

悠々として時間を掛ける、それほどまでに属性同化の防御力を信頼している。



771: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:30:47.01ID:pGMQTGcF0


地帝「...」


ウルフ「グルルルルルルル...」


当然だった、この防御力の前にして通用する攻撃などない。

近接攻撃はもちろん、下位属性の魔法など相性が悪くなければ簡単に受けることができる。

しかし、彼女は忘れていた。


ウルフ「──ガアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!」ダッ


地帝「...くるか、獣」


今度は見える速度で迫ってきた。

どうやら、連続してあの見えざる速度を出すことができないらしい。

万が一に備え地帝もウルフに注視した、してしまったのであった。


地帝「────っ!?」


────■■■...

まるで岩が、紙のような音を立てて砕かれる。

そして続くのは爆発したような音、最後に響くのは衝撃の音。


女騎士「...私がいることを忘れるな」スチャ


────ダァァァァァァァァァンッッッ!!

彼女は地帝に突き刺した、闇をまとうベイオネットを。

そしてそこから射撃するのは衝撃のショットガン、とてつもない威力であった。

腹部を嬲られていたというのに、彼女は立ち上がりウルフを援護する。


地帝「...その状態になっても、闇を纏えるだなんて」


地帝「歴代最強の魔王様...とてつもないお方です...」


女騎士「──ウルフっっ! 頼んだぞっっ!!」ポイッ


ウルフ「────ッッ!」スチャ


地帝「──理性があるのか」


獣と化していたウルフ、半ば暴走に近いものと勝手に地帝は認識していた。

しかしその水面下ではしっかりとした理性が残っていた。

それがどれだけ恐ろしいことなのか。


地帝「──がぁっ...ぐっ...!?」


──サク■ッ! サクサク■■ッッ!!

銃剣によるでたらめな刺突、そしてでたらめな速度の攻撃。

ウルフに手渡されたショットガン、その先に装着した魔王子の剣が大地を砕く。



772: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:32:28.14ID:pGMQTGcF0


ウルフ「────ッッ!?」ゾクッ


女騎士「──それ以上持つなっっ!! こっちに投げろっ!」


ウルフ「...ッ!」ポイッ


女騎士「──ぐっ...!」ゾクッ


投げつけられたショットガンを受け止める。

すると身体に様々な反応が起きる、ショットガンの先からでる闇が少しばかり身体に付着すると。


女騎士「...クソ、ものすごく不快だ」


女騎士「魔法使いに嬲られていた時のほうがマシだな...」


女騎士(だが正解だった...魔剣士の使い方を真似たが、やはり魔力を剣に注ぎ込めば属性を放ってくれるみたいだ)


地帝「...闇の魔力を持たない者に、耐えられるわけがない」


地帝「尤も...人のことをいえない...がな...」


女騎士「...!」


地帝「身体が痛む...まさか折れてもなお、威力を保っているとは...」


地帝「いや...折れてようやく、この威力に抑えられたと言うべきか」


地帝「傷口から闇が身体に侵入した...もう治癒魔法など効かないだろう」


女騎士「...無口がよく喋るな?」


地帝「...こうして口を動かしていないと、気が飛んでしまいそう」


地帝「その一方で、その獣は逆みたい...」


そう見透かされて、女騎士は横目でウルフを確認する。

その様子はまるで毒を盛られ、身体が悶ているかのようなモノだった。


女騎士「...ウルフ、大丈夫か?」


ウルフ「話しかけないで...ッッ!」


女騎士(魔力薬の影響か...女賢者が言っていたアレだな)


女騎士(この様子だ、少しでも気を緩めれば巨狼化してしまうのだろうか)


女騎士(...しかしそうなってしまえばこの戦いは不利になる)


巨狼化してしまえば、どうなってしまうのか。

戦闘力が上昇するかもしれない、なのになぜ抑えているのか。



773: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:34:04.64ID:pGMQTGcF0


女騎士(...人の形でなければ、先程の奇策もできなかった)


女騎士(そして...あの予備動作なしでの俊足も、出せないのだろうな)


女騎士(...さらに、身体が大きくなるということがどれほど不利なことか)


人としての手がなければ、ショットガンを受け取ることはできなかった。

人としての足がなければ、予備動作なしでの俊足で不意をつけることができなかった。

人としての大きさがなければ、地帝の魔法の格好の的になる。

飲まなければよかったかもしれない、だがそうしなければ地帝の殺気で動けなかっただろう。


女騎士(...戦闘と言うものをよくわかっている)


女騎士(キャプテンが影響しているのか、それとも直感でわかっているのか)


女騎士(どちらにしろ、溢れ出る魔力を無理やり抑えているんだ...下手に刺激させるのは絶対に駄目だ)


女騎士「...わかった、返事はしなくていい」


ウルフ「フーッ...フーッ...」


地帝「...フっ」


地帝が笑う、ボロボロの岩の見た目をしているというのに。

しかし次の瞬間、その岩から元の地帝が現れた、属性同化を解除した様子だ。


女騎士「...何がおかしい?」


地帝「...久しぶり」


女騎士「...?」


地帝「燃えてきた...」


────ゾクッッッッ!!!

背筋が凍る、まるで氷魔法を受けたかのような錯覚。

しかし地帝が放ったのはただの言葉、それだけであった。


女騎士「────っっっっ!?!?!?」ビクッ


女騎士(なんだ今の殺気は...いや...違うっ!?)


地帝「地の属性同化を使えば鈍足になる...陳腐な攻撃も避けることができない」


地帝「しかし、避けばければその闇の剣が身体を簡単に砕く...」


地帝「だからと言って使わなければ、その獣による攻撃の格好の的...」


地帝「衝の属性同化を身体に使おうと思ったが...それはもういい」


地帝「火照った身体が、昔の戦い方を思い出させる...」


地帝「...やはり最後に頼れるのは」



774: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:34:33.49ID:pGMQTGcF0











「我が身のみ」












775: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:36:03.03ID:pGMQTGcF0


その言葉と共に、静寂が訪れた。

地帝が衣を破り捨てる、その見た目は肌着だけをきている女児。

とてつもない雰囲気を醸し出している、それを見て先程感じ取ったモノを女騎士は理解する。


女騎士「..."闘志"か」


地帝「..."転移魔法"」


自身ではなく、目先にある物に魔法をかけた。

先程まで女騎士を苦しめていた衝撃の剣を両手で握りしめた。

まるで持ち主の感情に煽られたのか、剣が地帝の身体よりも大きくなる。


ウルフ「フッー...フーッ...」


女騎士「...剣術か」


地帝「...」


どのような剣術でくるかわからない。

女勇者のように堅実なものなのか、魔剣士のように派手な動きなのか。

千差万別、どのような型の剣術がきてもいいように身構える、だがそれが仇となる。


地帝「"拘束魔法"」


女騎士「──なっ!?!?」


地帝「先に獣からやらせてもらう...」


女騎士「──クソっ! しまったっ!!」


まさか、この場面でこのような魔法がくるとは思わなかった。

魔法陣が女騎士の身体を強く縛り上げる、彼女はもう自由に動けない。


ウルフ「────ッッッ!!!」


地帝「行くぞ...」シュンッ


先程とは比べ物にならない、鈍足の彼女はもういない。

両手で持った衝撃の剣で、地面を削りながら肉薄してきた。

彼女の通った道はボロボロに。


ウルフ「ガアァァァァァァァァァッッッ!!」ブンッ


地帝「──っっ!」ブンッ


────ッッッッッッッ!!

音にならない衝撃音が響く。

毛で覆われた拳と、衝撃の剣が鍔迫り合う。

互角と思われる力比べ、しかし当然ながら地帝に分があった。



776: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:37:50.90ID:pGMQTGcF0


ウルフ「──っ!?」


地帝「貰った...」


──ブゥンッ...!

刀身は常に原型を保っておらず、動きに生じて剣の形は変化する。

その不安定な動きにウルフは対応できず、地帝の新たな動きを許してしまった。


女騎士「──斬り上げかっっ!?」


同じ剣術を嗜んだものですらようやく気づけた。

鍔迫り合いをしていた地帝の構えが、いつのまにかゴルフのスイングのような構えに変化していた。


ウルフ「──ウッッ...!?」


────ビリビリビリビリッッ...!

雷とは違った身体の痺れがウルフを襲う。

斬り上げ攻撃の衝撃に、ウルフの身体が宙に持ち上がる。


地帝「まだ続けるぞ...」ダッ


斬り上げから、次の攻撃へと移行する。

フルスイングを終えた地帝はそのまま跳ねる。

そして行なったのは前宙に近い行動だった。


ウルフ「────ッッッ...!」


──ブゥンブゥンブゥンッ...!

剣の動きが前宙により変化する。

まるで風車のような軌道を帯びたソレ。

容赦のない連続攻撃がモロに身体を痛めつける。


地帝「まだだ...」スッ


前宙を終え、再び動きを変化させる。

宙に浮く自らの身体を安定させ、両手を上に構える。

この無重力じみた地帝の行動、超高速の剣術移行速度がソレを可能にしていた。


女騎士「────兜割りだっっ!! 腕で頭を守れ、ウルフっっ!!」


ウルフ「──ッッッ!!!」スッ


地帝「────オラァッッッッ!!!」


────メキメキメキメキメキメキッッッッ!!

2つの要素が重なり、このような音を立てる。

1つは兜割りによってウルフを叩きつけられた地面が砕ける音。

そしてもう1つは、それを受けたウルフの両手の骨が悲鳴を上げる音。



777: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:39:15.25ID:pGMQTGcF0


ウルフ「──ガ...ハァ...ッ!」ドサッ


地帝「...直撃は防いだとはいえ、まだ息があるか」


女騎士「──ウルフっっ!!」グググ


拘束魔法により、なにもすることができない。

気づくとその悔しさにより口の中が鉄分の香りに包まれていた。

血を飛ばしながらウルフの無事を問いかける。


ウルフ「う...ゲホッ...」フラッ


地帝「立ち上がるか...」


女騎士「──もういいっ! 立ち上がるなっっ!!」


地帝「...獣、生まれは?」


ウルフ「......」


地帝「...答えないか、それとも無意識で立ち上がったのか」


女騎士「おいっ! ウルフはもうなにもできないだろっ!」


女騎士「私が相手だ、かかってこいっっ!!」


地帝「黙れ...数十年も倦怠はしたがこれでも剣士だ...」


地帝「立ち上がる敵は切り伏せる...これが礼儀だ...」


ウルフ「......」


──シュウシュウシュウッ...!

衝撃の剣に、力が蓄えられる音だった。

立ち往生するウルフ、その眼差しは鋭いまま。


女騎士(────受ける気か)


女騎士(ならば...これしかないな...)


女騎士「...ウルフ、いまからひどいことをするぞ」


女騎士「私も過去に試したことがある...身体への負荷は凄まじかった」


女騎士「...許してくれ」


ウルフのみなぎる闘志が、女騎士を非情にさせる。

身体は封じられ、もう手段はこれしかなかった。

彼女が得意なあの魔法、それがウルフの拳に付与される。



778: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:40:17.64ID:pGMQTGcF0


女騎士「────"属性付与"、"衝"」


ウルフ「────...ッ!」ピクッ


────メキッ...!

ウルフの両手に激しい痺れが伴う。

下位属性の魔法が行ってはいけない禁忌。


地帝「馬鹿な...なにをしているかわかっているのか?」


ウルフ「...ッ」


地帝「下位属性を身体に付与させると、自らの身体も傷つける」


地帝「それを避けるために近年、属性同化という魔法が極秘に研究された」


女騎士「...どおりで聞いたことがなかったのか」


地帝「これでは手を下す前に、獣の身体は滅ぶぞ...」


女騎士「さぁ、どうだかな...」


ウルフ「......」


地帝「──っ!」


女騎士に向かって、地帝は怒声に近い言葉を発していた。

しかしふと、ウルフの方を見てみるとその表情は変わらずにいた。

不滅の闘志が彼女の眼をギラつかせる。


地帝「...その目を止めずに、受けてみろ」


──ブゥンッッッッッ...!

まるでムチをしならせるか如く、衝撃の剣を振るう。

魔剣士が使う剣気、女騎士が真似ることができる衝撃。

それらを遥かに超える衝撃がウルフに向かい襲いかかる。


ウルフ「......ッッ!」シュンッ


地帝「──やはり避けるか」


放たれた衝撃など、お互いに無視をしていた。

肉薄してきたウルフに対抗するべく、すぐさまに剣を構える。



779: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:41:52.95ID:pGMQTGcF0


ウルフ「──ウラウラウラウラウラウラッッッッ!!」


地帝「──...っ!」


──ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ!!

──ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥン...ッ!

ウルフから連続で繰り出される、衝撃の拳。

相殺するように連続で振り回される、衝撃の剣。

常人には見えることのできない、超速度の出来事だった。


地帝(...属性付与自体の威力は大したことはないが)


地帝(拳を剣で受けるときの衝撃が手元を狂わせ始めている...)


──ドゴォッッッ...!!

そんなことを思った矢先、手元が狂う。

ウルフの連続パンチの1つが、地帝の懐に直撃する。


地帝「──ゲホっっ...!?」


ウルフ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラッッッ!!」


地帝「くそっ...」


血を吐きながらも、併行して相殺を続けていた。

パンチを食らった感想すら言わせてくれない。

しかし、それはウルフも同じだった。


地帝(こちらも1回は攻撃を受けた...あまりの威力に腕が止まりそうだった)


地帝(だが...あの獣...もう何度も攻撃を受けているというのに)


実はウルフも地帝がパンチを食らったのと同じく、何度も返し刃を食らっていた。

普通ならなんらかしらの反応があってもいい威力、それも1度だけではなく数回も。

しかしこの獣は無反応で攻撃を続けていた。


地帝(残っているのは、野生か)


地帝(それもそうか、痛みを感じる暇があるなら拳に付与された衝撃でのたうち回るはずだ)


地帝(魔力薬で強化されたといえ、この地帝をここまで追い詰めるとはな...)


地帝「...燃えてくる」


ウルフ「──...ッ!」


────ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンッッッ!!

相殺の速度が上昇した。

種も仕掛けもない、単なる意地にも似た闘志が地帝を強くする。

そして、被弾も覚悟で剣の構えを変える。



780: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:43:49.48ID:pGMQTGcF0


地帝「...そこだ」


──ドゴォッ...!

身体に軋む音が、1度だけではなく何発も響いた。

そしてその音に続くのは地帝側のモノ。


地帝「────オラァッ!!」


──ブゥンッ...!

横に一線、衝撃の剣がウルフの拳を避け腹部に斬りつける。

下がるのではなく前進しなければ、斬り下がりと言える剣術だった。


ウルフ「──ガハッ...!」


地帝「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ...」


さすがのウルフも、地帝も痛みに悶える。

地帝によって斬り吹き飛ばされたウルフはそのまま倒れ込む、完全に勢いを殺された。


ウルフ「グッ...ゲホッ...」ピクピク


地帝「...痛みを思い出せたか」


ウルフ「う、うぅ...痛いよぉ...」


地帝「...どうやら、魔力薬の効果も限界らしい」


ウルフ「うぅぅぅぅぅぅぅぅ...」


地帝「よくやった...この闘いは忘れない...」


地帝「だから...もうくたばれ──」


────ブゥンッ...!

先程のような剣気じみた衝撃が放たれる音。

それが聞こえるはずだった、しかし実際は違う音だった。


地帝「────な...っ!?」


──■■■■■■■■■■...

闇が忍び寄る音、熱き闘いに夢中になりすぎていた。

その音とともに身体は悲鳴を上げる。


地帝「投槍か...随分と不意をついたな」


女騎士「...ここは戦場だ、死ぬ者が悪い」


地帝「それも...そ、うか...」



781: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:45:49.00ID:pGMQTGcF0


女騎士「しかし...闇というのは...凄まじ...い、威力だな...」


地帝「...最強の魔王様が宿っているからな」


女騎士「...なる、ほど」


地帝「魔剣にありったけの魔力をつぎ込んだか...」


女騎士「そう...だ...」


魔力を得た魔剣が闇を溢れ出していた。

女騎士の魔力だけあって、かなり純度が低い。

しかしそれでいても、地帝の身体に致命傷を与えるのには十分であった。


地帝「なんて威力だ...折れていても...粗悪な魔力を餌にしても...」ポタポタ


地帝「血が止まらない...身体が闇に破壊されていくのがわかる...」


地帝「だが...朽ち果てる前にお前は滅ぼす...」スッ


女騎士「ここ...までか...」ドサッ


闇のショットガンが地帝の背中に刺さっている。

槍のようなそれを抜いて投げ捨て、彼女は衝撃の剣を構えた。

どうしても、女騎士だけは殺したくてたまらなかった。


ウルフ「────ッ!」


その様子を見て、ウルフは確信した。

ここしかない、ここでアレをやるしかない。

自らが抑え込んでいた野生をここで開放する。


ウルフ「────アォォォォォォォォォォオオオオオンッッッ!!」シュンッ


──グチャッッッ!!

魔力薬の効力も切れかけの影響か、その姿は人でもなく狼でもない。

非常に不安定な見た目をした獣人が、背後から尋常じゃない速度で地帝の首元に齧り付く。


地帝「────っ」


──ボキッ...!

有無を言わさずに、首の骨を砕く。

歴然の狩人である狼が、隙を与えるわけがなかった。

不意打ちに不意打ちを重ねられ、地帝はついに沈黙する。



782: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:51:48.18ID:pGMQTGcF0


地帝「────」


ウルフ「グルルルルルルルルルルルルル...」


──グチャッ...グチャグチャ...!

まるで死肉を喰らう狼、その口元は紅黒く染め上がる。

その光景にはとても恐ろしい野生が込められていた。


女騎士「...ウルフ、もういいんだ」


ウルフ「...ッ!」ピタッ


女騎士「そいつはもう...死んださ...」


ウルフ「...女騎士ちゃん」


逆だっていた毛、不安定な見た目、そして理性のない言葉。

それらが消え失せた、ウルフの飲んだ魔力薬はついに効果が無くなった。

そこに残ったのはムゴい死体と横たわった騎士、そして腕をぶら下げた獣。


女騎士「私も...だめみたいだ...」


女騎士「魔剣に魔力を注ぎ、大量の闇を溢れさせ...拘束魔法を壊した...」


女騎士「しかし...その際に私に付着した闇が想定外の威力を誇っていた...」


女騎士「身体が...もう動かない...」


ウルフ「そんな...」


女騎士「...ウルフ、すまない」


女騎士「お前にやった、属性付与...痛かっただろ?」


ウルフ「...うん」


女騎士「やっぱりか...私も昔試したことがあったが...」


女騎士「あのときは痛みのあまり、一日中寝込んだな...」



783: ◆O.FqorSBYM 2018/12/19(水) 20:56:48.49ID:pGMQTGcF0


女騎士「...今、それを解除してやる...こっちにおいで」


ウルフ「...うん」


──ふわりっ...

その擬音には2つの意味が込められていた。

1つはウルフが女騎士に寄り添った音、そしてもう1つは香り。

血に染まった嫌な匂い、その中にウルフのお日様みたいな匂いが残っていた。


女騎士「...これで、どう...だ?」


ウルフ「だいじょうぶ...もう、いたくないよ...」


女騎士「...よかった」


ウルフ「...えへへ」


いつものウルフがそこにいた。

口元はドス黒い紅に染まっているが、この子は間違いなくウルフだ。

そんな癒やしの笑顔を見れた女騎士は、この忠犬に言葉を告げた。


女騎士「...私のことは置いて、先に行ってくれ」


ウルフ「わか...た...よ」


女騎士「...ウルフ?」


ウルフ「ごめ...だ...め...」


──ばたんっ...!

当然だった、いくら魔力薬を得たとしてもただの野良魔物だったウルフ。

今まで身体の危険信号を無視していたツケがここにきてしまった。

微かに息はある、しかし動くことはできない。


女騎士「...頑張ったな」


女騎士「魔王子...すまない...キャプテンと合流...できなさ...そう...だ」


そして彼女も、ゆっくりと瞳を閉じる。

彼女もまた微かに息がある、まるで寝ているようだった。

激戦を終えた2人がここに休息する。


???「..."治癒魔法"」


~~~~



785: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:32:53.00ID:dyy2pbpW0


~~~~


水帝「...けど、この私も舐めてもらっては困るのよ?」


妖艶でいて、ただならぬ威圧感を醸し出す。

その声の主は魔王軍最大戦力の1人、水帝である。


女賢者「...それはこちらも承知です」


スライム「...」


水帝「じゃあ...行くわよ?」


女賢者(まずは様子見をするしかありません...)


女賢者「..."防御魔法"っ!」


女賢者とスライムの肌を優しく包む。

どのような魔法がきてもいいようにまずは守りを固めた。

これは戦術の基本である、悪手ではない。


水帝「..."属性付与"、"水"」


──ざぱぁっ...

どこからか、波が立つような音が響く。

この魔法をどこに付与させるのか、そう考えた女賢者は少し侮っていた。


女賢者「...とてつもないですね」


スライム「あわわ...」


水帝「水は私の、得意な場所ですからねぇ」


女賢者「...まさか、床一面に属性付与をするとは」


気づけば皆の足元は水浸しどころか、太もも付近まで水に満ちている。

魔王城の1階が大洪水に、それだけでかなりの魔力量が伺える。

自分の得意な場を作る、それが水帝の戦術であった。


女賢者(ここまでの規模とは...属性付与の範囲を見誤ったのが悔やまれます)


女賢者(しかし...ここからどう動くつもりなんでしょうか)


スライム「うぅ...足元がふらつくよ」


水帝「..."水魔法"」


水帝の足元の水が大きな激流が如くに荒れる。

そしてそれが、そのままこちらに向かってきた。



786: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:34:49.62ID:dyy2pbpW0


女賢者「...っ!」


スライム「──下がっててっ!」サッ


女賢者「頼みますよ、スライムちゃん!」


スライムが前に出ることによって女賢者の身を守る。

しかし水帝の狙いは別のものだった、彼女が新たに唱える魔法が女賢者には見えた。


女賢者(あの詠唱は...)


女賢者「...」ブツブツ


口の動きだけで、なんの魔法を唱えているのかがわかった。

読心術めいたその賢者としての能力、水帝の魔法に備えこちらも詠唱を行う。


水帝「..."雷魔法"」


────バチバチッッッ...

彼女自身の属性ではないためが、魔女の雷よりはるかに劣る。

しかしそれでいて、風属性が弱点であるスライム族を葬るには十分な威力だった。

水魔法は急激に勢いがなくなる、完全にフェイクであった。


スライム「──う、うわっ!?」


女賢者「...させません、"衝魔法"」


──ゴォォォォォォオオオッ...

女賢者が得意とする地属性の衝魔法。

下位属性の相性、その優劣は後出しが有利である。

かなり威力のある衝に雷は打ち消され、水帝の魔法は無に帰る。


水帝「...ふぅん?」


女賢者「スライムちゃんの弱点である風属性を...そう簡単に通すわけにはいきません」


スライム「あ、ありがとう女賢者ちゃん...!」


水帝「下位属性の相性を持ち出してくるのね...お利口さんねぇ」


水帝「頭を使う闘いは好きよ...炎帝も風帝も地帝も脳筋さんだからつまらないわぁ」


水帝「あの人たち...他の属性も使えるのに、威力や使いやすさを求めて得意な属性しか使わないから...」


女賢者(私も地属性以外はからっきしだとは言えませんね...)


女賢者「...褒め言葉として受け取ります」



787: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:36:19.28ID:dyy2pbpW0


水帝「でも...炎と水属性に対して無敵を誇るスライム族」


水帝「そしてスライム族の弱点である風属性に抵抗できる貴方」


水帝「...一筋縄じゃいかないわねぇ」


女賢者「...」


スライム「...」


口数が減る、全神経を水帝に向かわせなければいけない。

まだ底をしれない、四帝である彼女に油断だけはしてはならない。

しかしすでに遅かった。


水帝「やっぱり私も、得意な魔法が一番かもねぇ...?」


女賢者「──っ!?」


──こぽこぽっ...

女賢者の足元、太ももまで浸かっている水が反応を見せる。

肝心なことを忘れていた、それは先程水帝が行った魔法。

水魔法を囮としたスライム特攻の雷魔法、もしその雷魔法ですら囮であったのなら。


水帝「──はい、つかまえたぁ」


────ざぱぁっっっっっっ!!

まるで荒波が打ち寄せたかのような激しい音。

それとともに現れたのは、まるで意思を持ったかのような水。

気づけば女賢者の全身はその水に囚われていた。


女賢者(しまった...本命は水魔法でしたか...)ゴポゴポ


スライム「お、女賢者ちゃんっっ!?」


水帝「...防御魔法に助けられたわね」


過去に海の底を防御魔法を駆使して歩いた過去がある。

それと同じ光景がこの魔王城でも起こっていた。

防御魔法が周りの空気を固定しており、女賢者は窒息をせずに済んでいた。


女賢者(ひとまずは無事を確保できていますが...これでは...)


女賢者(当然ながら周りの音が聞こえない...視力だけで状況を確認しなければ...)


女賢者(本当なら...泳いで脱出したいのですが...)


──ミシミシッ...!

なにかが軋む音が女賢者にだけ聞こえている。

防御魔法の膜が、水の圧力に抗っている音だった。


女賢者(とてつもない圧力です...動けません...)



788: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:38:00.65ID:dyy2pbpW0


水帝「...さて、いくわよ?」


スライム「...っ!」


女賢者(あれは...雷魔法の詠唱...っ!)


水帝「..."雷魔──」


スライム「────っ!」


────ばしゃんっ!

水帝が詠唱を終え、魔法を放とうとした時だった。

そのときのスライムの表情はいつもと違って鋭かった。

まるで何か策があるような顔をして、身体を足元の水に預けた。


水帝「──"水化"かぁ...厄介だわ」


女賢者(...スライムちゃんがついに、動きましたか)


女賢者(大賢者様から詳細はじっくりと聞いています...任せましたよ?)


水と同化し完全に姿を隠したスライム。

水帝はある方法を駆使して対処しようとしたその時。

思わず彼女の思考が止まった、ある魔法によって阻害された。


水帝「...やられたわぁ、あの防御魔法の仕業ね」


水帝「少し...油断したかしらぁ...」チラッ


動きを封じられている女賢者を軽く睨む。

水帝戦の一番始め、防御魔法にある仕組みがあった。

すこしばかり辺りを見渡す水帝を見て、女賢者は察する。


女賢者(...もしかして、水帝は魔力を感知することができないのでは?)


女賢者(感知ができればスライムちゃんが水化した所で、すぐに発見できるはずです)


女賢者(...いや、違う...魔王軍最大戦力である彼女が感知能力を持っていないはずがありません)


女賢者(まさか...防御魔法...?)


始めの悪手ではない魔法が、図らずとも最善手となっていた。

防御魔法に包まれたスライム、その魔法は女賢者によるもの。

魔法は魔力に満ちている物、それが意味するのは1つ。



789: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:39:35.40ID:dyy2pbpW0


女賢者(...なるほど、そういうことですか)


女賢者(ならば、私ができることはこれしかありません)


女賢者「..."水魔法"」


唱えられた魔法が湧き水のように垂れ流される。

水の中で水を出したところでなにも変わらない、ただ流されるだけであった。

動きを見せた女賢者に水帝は感づいてしまう。


水帝「...気づかれたわね、私が感知ができない理由を」


水帝「鬱陶しいわぁ...この水の中、あの人間の子の魔力が点々としているじゃない」


水帝が魔力の感知をしない理由が明白になる。

スライム自身の魔力が、女賢者の魔力によって包まれていた。

女賢者の魔力によって作られた防御魔法、それが隠れ蓑と化していた。


女賢者(こちらを睨んでますね...どうやら読みが当たりました)


女賢者(おそらく先程雷魔法を衝魔法で打ち消した時にも、私の魔力が辺りに散らばったと思われます)


女賢者(さぁ...水の中で水を探すことはできますでしょうか)


彼女自身、防御魔法、衝魔法、そして水魔法。

様々な要素で散りばめられた魔力が感知を困難にしていた。

足元の水が波のように動く、それに伴い魔力も流れている。

どの魔力がスライムを包んでいるモノか、判断などつくはずがなかった。


水帝「...面倒くさいわぁ、一度解除しましょう」


風呂の栓を抜いたかのように水が消え始める。

水の中で水を探すのは不可能、当然の判断であった。

足元の水が消え失せて辺りは元の光景へと戻る、水に拘束され続ける女賢者を除いて。


水帝「さてと...どこに打ち上げられたかしらぁ」


水がなくなった今、感知なんかせずに目視でスライムを見つけることができる。

しかし辺りを見渡しても彼女はいなかった、困惑するを前に水帝の口は動いていた。


水帝「..."氷魔法"」


────パシュッッ...!

殺人的な威力を誇る速度でつららが発射された。

その先にはあの水があった、女賢者を拘束するあの水。


女賢者「────っ!」


──ぽよんっ

そのような可愛らしい音が響く。

つららは水を貫いていたが、途中で勢いを殺された。



790: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:41:50.06ID:dyy2pbpW0


水帝「...遅かったわね」


スライム「...へへんだ」


水帝「...もういいわ、一度魔法を解除してあげる」


──バシャンッ!

拘束していた水が消え失せた。

そこには弾力のある水が女賢者を完全に包んでいた。

女賢者が合図をすると、その水は彼女から分離した。


女賢者「...助かりました、すでに防御魔法は破られてて...あのまま水圧で潰されるかと思いましたよ」


スライム「どういたしまして! 女賢者ちゃんもありがとうね!」


女賢者「お互い様ですね、次は不意をつかれないようにします」


水帝「...既に私の水魔法に突入しているだなんて、入れ替わっていることに気づけなかったわ」


女賢者「それは私もです...私が水魔法を唱えた直後にスライムちゃんが気づいて来てくれましたから」


スライム「えへへ...」


水帝「認識を改めなければね...決して馬鹿にしているわけじゃないけれど...」


水帝「スライム族は基本的に知識に乏しい...戦術理解度や状況判断能力なんて皆無だと思っていたわぁ」


女賢者「...スライムちゃんは、一番成長しましたから」


女賢者「強くならなければいけない理由が、この子にはありましたからね...」


スライム「...うん」


女賢者(...戦況は振り出しに戻った、依然として水帝が圧倒的に優位のはず)


女賢者(ですが、これでいいのです...時間さえ稼げれば...!)


女賢者(時間さえ稼げれば...キャプテンさんが魔王子さんを連れて戻ってくるはずです...)


水帝「その子はいい子ね...でも、殺さなければならないの」


水帝「今日は...魔王様によって大事な日みたいらしいから...」


女賢者「...大事な日?」


水帝「だから...大人気なくいくわよぉ?」


水帝「..."属性付与"、"水"」


再び、あたりが水に満ちる。

太ももに冷たい感覚を覚えながらも、攻撃に備える。



791: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:43:51.55ID:dyy2pbpW0


スライム「うわわっ」


女賢者「...今度は、不意を食らいませんよ」


女賢者(当然ながら、先程の私の魔力は完全に水に流されて無くなってますね)


女賢者(それにしても...あたりに水を展開するのは確かに水帝にも有利ですが...)


女賢者(それ以上にスライムちゃんが有利になるはずです...)


女賢者「...なにが狙いですか?」


水帝「...」


──ゾクッ...!

殺意のこもった威圧感、それに気圧されたわけではなかった。

その水帝の口の動き、まったくもって未知な詠唱に驚愕する。


水帝「────"属性同化"、"水"」


女賢者「──え...?」


──ぱしゃ、ぱしゃ...!

水たまりに足を入れたような小さな音が響いた。

気づけば水帝を見失っていた、しかし彼女はそれどころではなかった。


女賢者「知らない魔法...っ!?」


スライム「女賢者ちゃん...?」


女賢者「...っ! すみません、動揺してしまいました...」


彼女にだって唱えられない魔法は幾つもある。

しかしそれでいて、彼女は大賢者によって育て上げられている。

この世のすべての魔法、詠唱の仕方を熟知しているはずだった。


女賢者(まずい...知らない魔法があるなんて思わなかった...)


女賢者(属性同化...まさか──)


水帝「──水化できるのは、スライム族の特権ではなくなったのよ?」


知らない魔法であっても、その名称で大体察することができる。

見失った水帝の声が聞こえたときにはすでに遅かった。



792: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:46:02.77ID:dyy2pbpW0


スライム「────っ!?!?」


女賢者「──なっっ!?」


まるで海流が可視化されたような光景が2人を驚愕させた。

渦潮が竜巻のように君臨し、蛇のような水流が足元の水よりも高い位置で存在している。

天変地異の一言としか言い表せない。


水帝「まずは...悪いけどそのスライムを隔離させてもらうわぁ」


──ざぱぁっ...!

大きく波打つ音が聞こえた。

その波はまるで、巨大な手のような形を成していた。


スライム「────へっ?」


女賢者「──スライムちゃんっっ!?」


水帝「...捕まえた、逃さないわよ」


巨大な水の手に握りしめられたスライム。

そのあとに続く魔法もまた、女賢者の知らないモノであった。


水帝「..."属性同化"、"氷"」


────ぱきっ...ぱきぱきぱきっ!

空気が冷える音が身を凍えさせた。

スライムを握る手の温度が急速に下がり始める。

そして出来上がるのは、氷の牢獄。


女賢者「──スライムちゃん! 脱出してっっ!」


スライム「う、うんっ!」


水帝「もう遅いわよぉ...少し早口過ぎて意地悪だったわねぇ」


姿を見せずに声だけを発する。

すでに隔離は終了していた、その早すぎる詠唱が故に。

凄まじく速い出来事であった、これに対応できるものはそう居ないだろう。


スライム「で、出れないよぉ!」


女賢者「しまった...どうすれば...っ!」


水帝「あの子の周りは全て囲んだわぁ...水化しても氷が邪魔して通り抜けないでしょうね」


水帝「さっきみたいなことはさせないわよぉ」


女賢者「...っ!」



793: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:47:43.10ID:dyy2pbpW0


水帝「じゃあ...まずは人間の子からやさせてもらうわね?」


女賢者(まずい...スライムちゃんが動けない今、先程の変幻自在の水を対処できる気がしない)


女賢者(やはり、水帝が本気になれば私たちなんて一捻りでやられてしまう...)


女賢者(キャプテンさん、早く来てください...なぜなら...っ!)


女賢者「...長くは持ちませんからね」サッ


懐から取り出したのは、小さな瓶。

大賢者から預かった大切なもの、これをウルフやスライムたちに渡すため。

彼女がここまできた理由の1つでもあった。


水帝「──!」ピクッ


女賢者「くぴっ...まずい...」ゴクッ


水帝「──魔力薬っ...!?」


女賢者「げほっ...げほっ...」


水帝「...」


──ざぱぁっっ...!

無言で攻撃を仕掛ける。

今度は右手だろうか、再び水の手が女賢者に襲いかかる。


女賢者「..."防御魔法"」


彼女の最も得意な魔法といっても過言ではない。

何百回、何千回も唱えた賜物、その詠唱速度は水帝のモノに迫る。

その堅牢さはもはや鉄といっても差し支えないものであった。


女賢者「...今のは先程の拘束していた水魔法の水圧なんかと比にならない威力でしたね」


水帝「ちょっと本気を出してみたんだけどねぇ」


女賢者「所詮は他人の力を借りてる身ですが、こちらも本気でいきますよ」


水帝「...少し、ムカつくわねぇ」


女賢者「...」


水帝に苛つかれながらも、静かに感知を行う。

魔力の感知、それはどこに魔力があるのかが感覚的にわかるということ。

そして、相手の魔力量も知ることができる。



794: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:49:04.37ID:dyy2pbpW0


女賢者(...これでも倒すことは出来ないでしょう、魔力薬を飲んでも水帝の魔力量の方が上です)


女賢者(ならば...時間を稼ぐしかありません、徹底的に粘らせてもらいます)


女賢者(それにしても、水帝がどこにいるかわかりません...)


女賢者(感知しようにも、足元の水は水帝の魔法によって生まれています)


女賢者(当然ながら、全範囲に魔力を感じます...これでは探せません)


女賢者「...姿は見せてくれないんですね」


水帝「あらぁ、もうとっくに見せているわよぉ?」


薄々と感づいていた、水帝は既に姿を見せている。

先程聞こえた、属性同化という言葉が説得力を持っていた。


女賢者「やはり...属性同化とやらは...属性そのものになるというわけですね」


女賢者「つまりあなたはこの足元の水と同化し、水化している...合っていますか?」


水帝「そういうことよぉ」


女賢者(この天変地異じみた光景も、水帝の身体一部というわけですか...)


女賢者(ここのどこかに、水帝の身体の中心があるはずです...)


スライムを拘束しているその手のような氷。

水帝の身体の一部だという具体性がそこにあった。


女賢者「...勉強不足でした、知らない魔法があるだなんて」


水帝「そう落ち込まないで、この魔法が生まれたのはつい数年前なんだから」


水帝「それも極秘...魔王様と四帝ぐらいしか知らないし、使えないわよ」


女賢者「...そういうことですか」


水帝「さて...時間稼ぎもここまでにしてもらおうかしら?」


女賢者「──っ!」


彼女の冷たい目線が女賢者を貫く。

背中に氷の粒を入れられたかのような不快感。

四帝の本気が向かってくる。


女賢者(この防御魔法でどこまで耐えられますかね────)


水帝「────ふっっっ!!」


────ミシミシミシミッッッ!!

掛け声とともに、巨大な水の手が襲いかかる。

それと同時に蛇のような水流が、こちらを貫こうと向かってきた。



795: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:50:26.44ID:dyy2pbpW0


女賢者「うっ...!?」


女賢者(防御魔法越しでも...ここまで圧が来るとは...)


女賢者(そう長くは持ちませんね...なにか策を練らないと...っ!)


水帝「水だけじゃないわよぉ?」


水帝「..."氷魔法"」


────サァァァァァァァァ...!

おそらく、水帝の本体がいる箇所の頭上に冷気が展開する。

扇状に展開したソレから、つららが生まれ始める。


女賢者「────これは、連続攻撃っ!?」


水帝「正解...っ♪」


──ドガガガガガガガガガガガガガッッッ!!

ここに隊長がいれば、聞き間違えていただろう。

ミニガンのような発射音と共につららが射撃される。


女賢者「くっ...まずい...」


──パキッ...!

見間違えでなければ、ヒビが入った。

防御の壁が脆くなる、つまりは生命線が切れかけている。

水帝の猛攻は、大賢者の魔力を用いた防御魔法でも簡単に砕く。


女賢者(どうする...また防御魔法を展開したところですぐに破壊されてしまうでしょう...)


女賢者(衝魔法であの氷が着弾する前に砕く...いえ、恐らくあのつららの速度に対応できないでしょうね)


女賢者(...だめだ、いくら強化されたからと言って、私の使える魔法じゃどうすることもできない)


女賢者(せめて生身の水帝に、衝魔法を当てることができたのなら...)


女賢者「...」


氷魔法の影響か、身体が冷えていた。

冷えの影響なのか身体が震えていた、本当に冷えのせいなのか。


水帝「...次で終わりにしてあげるわぁ」


女賢者「...っ!」ビクッ


女賢者(...恐い)


残酷なまでに冷たい空気が、彼女を凍えさせる。

身体も、思考も、すべてが萎縮させられている。

実感する実力差が女賢者を飲み込んでいた。



796: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:51:34.12ID:dyy2pbpW0


女賢者(...大賢者様)


女賢者(大賢者様なら...どうやってここを切り抜けますでしょうか...)


女賢者(...お得意のあの魔法で颯爽と解決しそうで────)ピクッ


自分が使える魔法ではどうすることもできない。

なかば自棄的に思い出を振り返ると、ある魔法を思い出した。


女賢者(私が今まで一度も使えることがなかったあの魔法...)


女賢者(今ならきっと...油断を誘うしかないですね)


女賢者「...もう、だめみたいですね」


水帝「...うん?」


女賢者「私の負けです...」


水帝「あらぁ、諦めがいいのね」


女賢者「...死ぬ前に、属性同化という魔法をもう一度教えてくれませんか?」


水帝「...」


先程まで戦闘を続行しようとしていた者が突如として諦めを告げる。

水帝は警戒をしていた、なにか策があるのではないかと。


女賢者「...」


水帝「...いいわぁ、教えてあげる」


水帝「けど、こうさせてもらうわね?」


──ざぱぁっ...!

巨大な水の手が、無抵抗な女賢者の首から下を握り持ち上げる。

顔だけ出されている、これなら会話が可能。

そして、どのような行動をされてもすぐに圧殺することができる。


女賢者「...!」


水帝「悪いけど、嘘つかれて魔法の情報だけ奪われるのは嫌だからねぇ...」


水帝「聞きたいことを言ったら、すぐに潰してあげるわぁ」


女賢者「...そこまで警戒しなくても」


水帝「私の魔力よりも格下だからと言っても、魔力薬を飲んだ相手に油断なんて禁物よぉ」



797: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:52:42.63ID:dyy2pbpW0


女賢者「そうですか...それで、属性同化という魔法とは?」


水帝「...簡単に言えば、属性付与の上位互換かしら...完全ではないけれど」


水帝「下位属性による属性付与、身体に付与すれば何らかの支障がでるのは知っているわよね?」


女賢者「...そうですね、炎の属性付与を身体に纏えば、身体中に大やけどでしょうしね」


水帝「その欠点を補うために開発されたのが、属性同化よ」


女賢者「なるほど、身体自体を炎にしてしまえばやけどする心配はない...ってことですか?」


水帝「まぁ、そんなところねぇ」


女賢者「...一体どんな人が創ったんですかね」


水帝「...側近様に教えられて、使えるようになったけれども」


水帝「どうやら、側近様だけが創ったわけではなさそうなのよねぇ...詳しいことは聞かなかったけど」


水帝「風帝はズカズカと側近様に詰め寄り、聞き出したらしいけど」


女賢者「...なるほど」


水帝「...さぁ、おしゃべりはお仕舞いよ」


────ミシッ...!

おそらく、もう数秒も持たない。

ヒビの入った防御魔法が最後の抵抗をする。


水帝「なかなかの、防御力ね...地帝を思い出すわぁ」


女賢者「...」


水帝「...あのスライムの子は殺さずに野に返すことにするわぁ」


水帝「あの子は...同胞ですからねぇ、それに随分と...」


水帝「...終わりよ」


女賢者「...」


────パキッ...!

ガラスが割れたような音。

最後の抵抗も虚しく、圧殺される直前まできた。

しかし、女賢者は声を荒げることもなくボソボソとつぶやくだけだった。



798: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:54:01.72ID:dyy2pbpW0


水帝「...詠唱?」


水帝(この期に及んで、やっぱりなにか仕掛けてきたわねぇ)


水帝(けど...もうこの手からは脱出できないはずよぉ)


水帝(それが可能な魔法なんて、光か闇魔法ぐらいしかないはずだわぁ)


水帝(...ソレをこの子が使えるとは思えない)


水帝「...悪あがきかしらぁ、けど普通の魔法じゃ無意味よぉ」


水帝の水化はスライムのモノとは似ているようで違う。

スライムが炎、水属性や物理攻撃に強い代わりに風属性に弱い。

その一方で水の属性同化は風属性には弱くない代わりに炎属性に弱い。


水帝(おそらく、唱えているのは炎属性の魔法ね...)


水帝(これだから下位属性は...後出しされたら問答無用で相性が悪いんだから嫌いよ)


水帝(あの子が魔法を出したらこちらも水魔法を...いえ、真似したほうが手っ取り早いわねぇ)


水帝「..."防御魔法"」


今の女賢者の防御魔法と遜色ない硬度を誇る。

水の身体、足元の水の一部が光り魔法が展開された。

これで、炎属性の魔法など寄せ付けない。


水帝「...やらせてもらうわね?」


女賢者「...」


握りしめている女賢者を、圧縮しようとした時だった。

ふと、彼女の目が水帝の目とあったような感覚がした。

今の水帝は水、目などないはずだというのに。


女賢者「...そこですね」


水帝「...使う魔法の選択を間違えたかしら」


水帝「でも...今更位置がわかったところでどうするつもり?」


今の水帝の周りには防御魔法という異物が展開している。

感知ができる女賢者は愚か、その様子は肉眼でも確認できる。

足元の水の一部が強く屈折しているような。


女賢者「...こうするんですよ」


水帝(...くるわね、その前に握りつぶしてあげる)



799: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:55:21.19ID:dyy2pbpW0


水帝「くたばりなさ────」


──ゴキッ...!

女賢者のどこかの骨が折れる音。

水の影響かその音を聞くことができたのは当人のみであった。

そして彼女は、痛みをこらえながらもあの魔法を放つ。


女賢者「────"解除魔法"」


水帝「──なっ...!?」


──ぱしゃぱしゃぱしゃっ...!

女賢者を握っていた水の手が垂れ流れる。

手だけではなかった、屈折させていた防御魔法、それどころか水の身体が。


水帝「──解除魔法ですって...っ!?」


女賢者「ぐっ...なんて魔力の消費量ですか...」


女賢者(それに詠唱も長いですし、こんな魔法をポンポンと出していたのですか...大賢者様は...)


持ち上げられていた身体は地面へと落ちる。

足元の水が緩衝材となったのか、やや危なかしく着地する。


女賢者(今しかない...今しかまともに通用しないはず...っ!)


水帝「──はっ、しまった...っ!?」


女賢者「もう遅いですっ! "衝魔法"っっ!!」


──ズシッ...!

重い一撃が、水帝の身体に直撃する。

生身の身体に響くその魔法は、過去を思い出す威力であった。


水帝「──地帝の並に重いわね...」


魔法の威力によって身体が吹き飛ばされた。

水帝はそのまま、大きな音をたてて水へと倒れ込んだ。


女賢者「はぁっ...はぁっ...」


女賢者(両腕の骨、折れてますね...)


女賢者(それに...解除魔法で今ある魔力の8割が持ってかれました...)


女賢者(...お手上げです、上げれる手はないんですが)


冷静に考えてはいるが、身体は正直だった。

あまりの痛み、そして身体の冷えに負け身体を震わせ得ている。

歯はガチガチと音を鳴らしている。



800: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:55:54.61ID:dyy2pbpW0











「..."氷魔法"」












801: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:57:06.55ID:dyy2pbpW0


──パキッ...!

鋭い一撃が、女賢者の肩を貫いた。

その残酷なまでに冷たい声の音、彼女の仕業であった。


女賢者「がぁっ...うぅ...」


水帝「やってくれたわねぇ...」


女賢者(どうやら魔法は通用したみたいですね...それで怒りを買ったみたいですが...)


女賢者「はぁっ...はぁっ...全力の魔法だったんですが...復帰が早いです、ね...」


水帝「...水帝ですからねぇ」


水帝「そんなことよりも...どうして、光魔法に類似すると言われる解除魔法を...?」


水帝「アレは魔王様は愚か、魔法に長けた魔王妃様ですら使えない超高等でいて化石みたいな魔法よ」


女賢者「はぁっ...それは、知りませ、んでしたね...」


女賢者「私は...大賢者様の...真似をしただけ、です...」


女賢者(まずい...もう意識が飛びそうです...治癒魔法すら唱える余裕がない...)


女賢者(もう少し...もう少しだけ時間を稼げれば...キャプテンさんが...きっと...)


水帝「大賢者...そういうことね...」


女賢者「ぶっつけ本番ですが、うまく...きました...ね」ピクッ


なにか、足元が引っ張られるような感覚がした。

彼女はそれを察し、気付かれないように懐から瓶を取り出した。

そしてソレを、落とした。


水帝「...その魔力薬もおおよそ、大賢者のモノね」


水帝「大賢者の魔力を借りたと言っても、実際に使うことができたなんてね...」


水帝「...やるわね」


女賢者「どう...い、たしまして...」


水帝「じゃあ...さよなら、"水魔法"」


怒りが込められた魔法が出現する。

付与も、同化もする必要のない、ただの水魔法。

局地的な津波、ソレが女賢者に向かった。



802: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 22:59:13.75ID:dyy2pbpW0


女賢者「...」


────ゴシャアァァァァァァァァッ...!

激流がぶつかる音が響いた。

人間が喰らえば、四肢なんて簡単にバラバラになる威力だった。

しかしソレを喰らったのは、人間ではなかった。


スライム「...」


女賢者「やっぱり...水魔法にはスライムちゃん...で、すね」


水帝「な...っ!?」


まともに受けた衝魔法が思考を鈍らせたのか。

頭に登った血によって判断が緩んだのか。

解除魔法を受けたならば、あらゆる魔法は阻害される。


水帝「...そうね、左手は氷の属性同化でその子を拘束していたんだったわねぇ」


水帝「解除魔法を受けた後は、現れる機会を伺っていたのね...お利口さんね」


スライム「...うるさいよ」


水帝「...え?」


思わず、聞きかえしてしまった。

まさかスライム族という下等な魔物に暴言を吐かれるとは思ってもいなかった。

しかし、聞き返しの言葉はそれだけの意味ではなかった。


水帝(...おかしい、あの子...先程よりも遥かに魔力が──)


水帝「──まさか、その子も魔力薬を...何時っ!?」


女賢者「ふふ...もしかし、たら私は...手品師の才能があるのかも、しれません」


水帝「...この性悪女...っ!!」


女賢者(あとは任せました...おそらく後天的に魔力を得た私よりも...)


女賢者(先天的に魔力を得た魔物...スライムちゃんのほうが効き目があると思われますから...)


スライム「ゆるさないから...わたしの友達を傷つける人は...」


水帝「────"属性同化"、"水"」


スライム「──消えちゃえ」


お互いが水と同化し、お互いが足元の水を利用する。

2人の背丈は原型をとどめていなく、もはや怪獣の粋。

流れるような水持つ者と軽い粘度を持つ者が、津波を、激流をぶつけ合う。



803: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:00:45.00ID:dyy2pbpW0


女賢者「うっ...す、すごい...光景ですね...」


女賢者(これが...水帝の本気というわけですか...)


女賢者(とてもじゃないが私は参戦できませんね...少し引かせてもらいます)


女賢者「スライムちゃん...頑張って...っ!」


動かせない両腕を慎重に扱い、後退りをする。

闘ってくれる仲間がいるおかげか、少しばかり魔力にも理性にも余裕がでてきた。

もう少しもすれば、治癒魔法で身体を癒やすことができるだろう。


水帝「──なんて力なの...っ!?」


スライム「うるさいっ! 許さないんだからぁぁっっ!!」


スライムが身体から高速の津波を生み出す。

それを対処するために、水帝も身体から津波を生み出し相殺する。

もはや天変地異などという枠に収まらない、この世の終わりのような光景だった。


水帝「くっ...これじゃ埒が明かないわぁ...まさか、ここまで対応してくるだなんてぇ...」


スライム「うるさいうるさいっ! よくも女賢者ちゃんをぉっっ!!」


水帝「魔力薬の影響ね...感情が昂ぶりすぎているわ...」


水帝(こうなるなら...事前に治癒魔法を使えばよかった...)


怒りに身を任せ、治癒よりも先に女賢者を攻撃したのが間違えであった。

未だに身体に鈍い痛みが走る、そしてこの激戦中に身体を癒やす余裕などない。


水帝(くっ...この水帝が、ここまで押されるだなんて...)


水帝(──え? 今...なんて思った?)


水帝(そんなことは...あってはならないのよぉ...?)


思ったとおりのことを、つい考えてしまう。

その実力上に、帝の名を魔王からもらったというのに。

水帝は身体が沸騰するような感覚に襲われた。


水帝「...」


スライム「────っっ! ──っっっ!!」


────ブチッ...!

なにか、頭の中の紐が切れたような音がした。

それ以外はなにも聞こえない、それでいて無意識に近い感覚でスライムの激流を相殺している。

いち早く異変に気づいたのは水帝でもなく、スライムでもなく、彼女だった。



804: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:02:09.59ID:dyy2pbpW0


女賢者「...?」


女賢者(なにか...物凄く気温が下がったような...)


余裕ができたのか、いつの間にか治癒魔法で身体を癒やしていた。

両腕の調子を確かめながらも、違和感を感じた方向に注目してみる。

また氷魔法でも唱えたか可能性があった、予想は的中、水帝の周りには先程の冷気が展開していた。


女賢者(氷魔法ですか...スライムちゃんにとっては驚異ではないですね...)


女賢者(...狙いは私でしょうか、もう少し距離をとったほうがいいですね)


足元の水に阻まれながらも、撤退を行う。

完全に足手まといな今、スライムの邪魔をするべきではない。

正しい反応であった、しかし水帝の狙いは彼女ではなかった。


水帝「......」


スライム「このっ! よくも────」ピタッ


津波や瀑布、海原での大嵐のような激しい闘いを繰り広げていた。

魔力薬の影響か、感情を熱くしていたスライムが思わず手を止めてしまった。

それほどに冷酷な寒さが理性を呼び覚ましていた、しかし一方で水帝は逆であった。


水帝「...ねぇ」


スライム「...なに?」


水帝「生まれは?」


スライム「...わからない」


水帝「そう...そうよねぇ、野良のスライムですものねぇ」


水帝「..."ただの"、スライムですものねぇ」


──ブチッ...!

今度ばかりは、この場にいた者全員に聞こえた。

水と化しているため表情を読み取ることはできない。

だがその声色で察することができた。


スライム「────女賢者ちゃんこっち来てっ!」


女賢者「──わかってますっっっ!!!」


なにが起こるのか、理解できた。

理解してしまっていた、これから始まる地獄の厳冬が。

水帝の周りに展開していた冷気が冬を呼ぶ。




805: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:03:39.80ID:dyy2pbpW0


水帝「......」


────ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォンッッッッッ!

とてつもない暴風雪が周りを凍てつかせていった。

足元の水はいとも簡単に凍り始める、表面だけではなく、水の底まで。


女賢者「──ひどい...先程の戦闘よりも遥かにまずいですよこれ...っ!」


スライム「わたしの真後ろにかくれててっっっ!!」


女賢者「は、はいっ...!」


スライムを盾に、女賢者が冷気から身を護る。

急速に体温が低下していくのが実感できる。

身体のあちこちはパンパンに腫れ上がり、呼吸も難しくなっていた。


女賢者「まずいまずいまずい..."炎魔法"」ガチガチ


スライム「うっ...わたしも凍りはじめてる...っ!?」


女賢者「だ、大丈夫です...凍りはしますが負傷することはないはずです...っ」ガチガチ


スライムの一部が氷へと変化していた。

一見重症そうなのはスライムだが、それは違う。

盾を手にしても、淡い炎で暖をとろうが隙間風が女賢者を襲う、重症なのは彼女だった。


女賢者「だめ...死にそ...う...」ガチガチ


スライム「──しっかりして! 起きてっっ!」


女賢者「うっ...スライ、ム...ちゃん...」


スライム「おねがい...耐えて...っ!」


どうすることもできない、もう気力で耐えるしかなった。

氷点下を大きく下回る気温に意識が奪われていく。

このあと数分、永遠の眠気との闘いに喘ぐ中ついに吹雪は止まった。


水帝「──...っ!?」ピクッ


水帝「あらぁ...? なにが起きてたのかしらぁ...」


数分に及ぶ、大厳冬を呼び起こした本人がようやく怒りから開放された。

無意識下で唱えていた、氷魔法があたりの状況を一変させていた。

眼の前には、ほぼ全身が凍りついたスライム。

そして、ロウソクみたいな虚弱さを誇る炎魔法で暖をとる女賢者がいた。



806: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:05:11.14ID:dyy2pbpW0


スライム「はぁっ...はぁっ...女、賢者ちゃん...っ!」


女賢者「...」


──ガチガチガチガチ...

目は虚ろ、足元の水が全て凍った影響で下半身は氷漬け。

彼女はただ、歯を鳴らすだけの抜け殻とかしていた。

意識はまだある、だが身体は耐えることができなかった。


水帝「...そう、また癇癪を起こしてしまったのねぇ」


水帝「もう何年前かしらぁ...あの時は炎帝が仲裁してくれたから誰も死ななかったけど」


スライム「女賢者ちゃん...しっかりしてっ...!」


女賢者「...」ガチガチ


水帝「...もう、手をくださなくても大丈夫ね」


スライム「...っ! よくもっ...!」


水帝「ごめんなさいねぇ、でも...負けるわけにはいかなかったの」


水帝「...その子も生きてる、見逃してあげるわぁ」


スライム「ふざけないで...っ!」


スライム「帽子さんの望みを...叶えなきゃいけないんだから...っ!」


身体が凍りついて動けない。

しかし、自らの闘志はまだ燃え上がっていた。

絶対に妥協してはいけない、帽子の野望のために。


水帝「...そう」


水帝「なら...死んでもらうわよ...?」


スライム「っ...!」ビクッ


水帝「..."雷魔法"」


────パチンッ...!

魔法がスライムの身体に命中する。

その威力はあまりにも高く、凍りついた身体は砕ける程。

勝利を確信し、魔法を放つと同時に属性同化を解除する。



807: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:06:54.78ID:dyy2pbpW0


スライム「────っ!」


──パキンッ

殺意のこもった細い雷。

そして響くのは、割れた音だった。


スライム「──...っ!?」


水帝「────...なっ」


受けた当の本人も驚愕をしていた。

砕けたのは身体の表面の氷だけ、動かせずにいた身体は元通りに、なぜ。


水帝「──ここにきて、始めの防御魔法が活きたですってぇ...っ!?!?」


スライム「────っっっ!」


まるで滝壺へと落ちる水のような速度で水帝に接近する。

なにか策がある、絶好の機会を逃すわけにはいかなかった。

だがそれは水帝も同じ、その機会を潰さなければならない。


水帝「何をする気かわからないけど、近寄らせないわよぉっ!」


水帝「..."転移────」


──パキッ...ボトンッ...!

魔法を唱えようとした瞬間、右腕に違和感を感じた。

いや、違和感を感じないことに違和感を感じていた。


水帝「...あ、ああぁぁぁぁぁぁ」


愚かにも、気づいていなかった。

気づけなかった、自らが氷と同化する感覚を覚えてしまっていたら、気づけるわけがない。

水帝の身体のあちこちが凍りついていた、同化しているわけではなく。


水帝「──腕が...」


魔力で強化された身体、決して寒さで死亡することはないと豪語できるほど。

それが不幸にも仇となってしまっていた、水帝は自分の放った氷魔法の威力を甘く見てしまった。


水帝「...っ!」


──ズキンッ...!

今になって、激烈な痛みが身を硬直させる。

彼女の放ったあの大厳冬は、自らの身体を壊してしまうほどに。

女賢者のように暖をとっていたら、スライムのように防御魔法を纏っていれば。



808: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:08:02.68ID:dyy2pbpW0


スライム「────つかまえたぁっ!」


水帝「────...はっ!?」


水の帝ともあろう者が、スライム族に出し抜かれてしまってた。

あまりの出来事に硬直していた隙に、既に身体の大体がスライムに取り込まれていた。

女賢者を拘束したあの水魔法のように、スライムは体内で水帝を拘束しようとしていた。


水帝「ぐっ...治癒...いえ、"転移──」


スライム「──させないよっっ!!」


──ミシッ...ミシミシッ...!

スライムがお腹に力を入れる。

当然ながら、そうすれば圧力が加わるのは確かだった。

スライムの身体に、赤い液体が混じる。


水帝「ぐっ...ごぼぼぼぼぼぼぼっ...!」


水帝(まずい...身体が全部あの子の中に...詠唱するために口を開こうとすると水が塞ぎにくる...)


水帝(ここまで自由に水を操れるのね...スライム族は...っ!?)


水の帝が、水に溺れる。

自らが得意とする氷に身体は破壊され、水に身を悶えさせている。

片手を失っている今、泳ぐこともできず完全に動きを封じられてしまっていた。


スライム「..."治癒魔法"」ポワッ


女賢者「...うぅっ」


スライム「女賢者ちゃん、起きて」


女賢者「あ...う...こ、これは...?」


スライム「ごめん、わたしの治癒魔法じゃ治りが悪いみたいだね...」


女賢者「...あ」


朦朧とする意識を覚醒させる。

次第に頭が冴えてくると、魔法を駆使して体調を整えようとする。

まずは、氷に埋まっている足元を正す。


女賢者「..."炎魔法"」ゴゥ


乏しい炎が再び発火される。

それでいて足元の氷は徐々に溶け始めていく。

これほどまでに、下位属性の相性とは簡単なものであった。



809: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:09:23.57ID:dyy2pbpW0


女賢者「..."治癒魔法"」ポワッ


そしてまばゆい光が女賢者を包み込む。

凍死寸前の身体、皮膚や臓器がまだ不調を訴えている。

しかし、それを無視してまでもやらなくてはいけないことがあった。


女賢者「...これはどういう状況ですか?」


スライム「うんと、女賢者ちゃんがやられたあの水魔法みたいなことをしてるよ」


女賢者「いえ...それは見ればわかるんですが...」


女賢者「...驚きました、まさか水帝を完全に拘束するとは」


スライム「...えへへ」


水帝「...」


スライムの身体に封じ込められた水帝。

その様子を、まるで水槽の中の熱帯魚を観賞するような。

そのような感覚が女賢者に余裕をもたせていた。


女賢者「...これで、時間を稼ぐことができますね」


スライム「...そういえば、キャプテンさんはまだ...かな?」


女賢者「...少し、感知をしてみますね」


近場にいる者を探すのとはわけが違う。

目に見えない箇所にいる者たちを探すために深く集中をする。

凍えた時の後遺症がまだ残っているのか、鋭い頭痛を我慢して感知を行った。


女賢者「────...え?」


その現実味のなかった結果に、言葉を失っていた。

この感知が確かなら口にしたくない減少が起きている、捉えられた魔力は3つ。


女賢者「な...なんで...?」


1つ、死にかけの風属性の魔力

2つ、死にかけの地属性の魔力

3つ、死にかけの獣の魔力。


女賢者「ど、どういうことですか...っ!?」


スライム「ど、どうしたの...?」


女賢者「...みんな死亡寸前です」


スライム「...え?」



810: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:10:21.12ID:dyy2pbpW0


女賢者「たぶんこれは...魔王子さんと女勇者さん、キャプテンさん以外の魔力を感知できました」


女賢者「つまりは...女騎士さん、魔女さん、そして...ウルフちゃん」


女賢者「みんな...死にかけてます...本当に微かにしか魔力を感じ取れません...」


スライム「......え?」


冷える。

身体ではなく、背筋が、肝が。

なぜ、このような状況になっているのかまったくもってわからない。


女賢者「どうしたんですか...キャプテンさん...っ!!」


女賢者「あの人は魔力を持ってない...だから安否すらわからない...っ!!」


スライム「...」


明らかに憔悴しきっている表情だった。

それほどに、彼女の感知は鋭いものだった。

友人がこのままだと死ぬという事実を突きつけられて焦らない人はいない。


スライム「...行って」


女賢者「...え?」


スライム「...わたしはここで、水帝を抑えておくから」


スライム「女賢者ちゃんは、先に進んで...っ!」


女賢者「...わ、わかりました...けど、大丈夫なんですか?」


スライム「......大丈夫だよ」


どこか、いつもと違う表情だった。

しかしその投げかけの言葉には一理がある。

今ここで女賢者が上へと向かい、治癒魔法を唱えたとしたら。


女賢者「じゃあ、行ってきますよっ...!」


スライム「...うん」


いざ、階段へと向かおうとしたその時だった。

再びスライムが声をかけてきた、その声色はとても表現できない。


スライム「...女賢者ちゃん」


女賢者「はい?」


スライム「...みんなによろしくね」



811: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:11:52.33ID:dyy2pbpW0


女賢者「え...? は、はい」


随分と突拍子のない言葉であった。

戸惑いながらもソレを受け止め、階段を駆け上がる。

残されたスライムの視界から彼女は消え去った。


水帝「...」


そして、残ったのはもう1人いた。

拘束され、腕を失くし、水に阻害され口を開き詠唱することさえも封じられた。

しかしまだ彼女は生きていた、彼女は魔王軍の最大戦力であるから故に。


水帝(もう少し、もう少しすれば)


水帝(...この子の魔力薬の効き目が切れるはず)


水帝(そうなったら...簡単に脱出できるわね)


並々ならぬ生命力、人魚のように水中での詠唱は無理、エラ呼吸も無理。

しかしそれでいて彼女も水系の魔物、窒息の気配はしらばくは見えない。

そしてずぶとい彼女はスライムの弱体化を狙っていた、負傷していたとしてもただの魔物に負ける要素などない。


水帝(...これを脱出したらこの子には死んでもらうわ)


水帝(そして階段を登っていった子を追い、抹殺...)


水帝(...片腕を奪った代償は高くつくわよ)


水帝(けど...人間の子とスライム族の子にここまでやられてしまうだなんて...)


水帝(油断...それもあったけれど...未熟だったわぁ)


スライム「...さてと」


スライム「もうすぐ...魔力薬が切れそうだね...」


スライム「怖いけど...やるしかないよね...」


スライム「...」ブツブツ


恐る恐る、ある魔法の詠唱をつぶやいた。

質を上げるために、長く、丁寧に。

そしてありったけの魔力をそこにつぎ込む。


スライム「女賢者ちゃん...嘘ついてごめんなさい...」


スライム「魔女ちゃん...キャプテンさんと仲良くね...」


スライム「ウルフちゃん...ごめんね、そしてありがとうね...」


スライム「キャプテンさん...帽子さんの夢...おねがいね」


スライム「帽子さん...今からいくね...待っててね...」



812: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:12:25.56ID:dyy2pbpW0











「...また、会えるよね?」












813: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:13:54.97ID:dyy2pbpW0


身体にが小刻みに震える。

そして空に言葉を託す、仲良しだった彼らに。

そして最後に開かれた言葉が。


スライム「────"自爆魔法"」


覚悟の言葉はあまりにも悲しいモノ、スライムの身体は内部から破裂する。

その階層にあるものはその威力故に、跡形もなく朽ち果てる。

誰も生き残ることはできない、たとえ水の帝であっても。


~~~~


~~~~


女賢者「────っ」


なにかを感知した。

別に感知しなくてもわかる、自分が登ってきた階段。

その後ろから、猛烈な爆風が届いていた。


女賢者「────どうして気づかなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


なぜ、スライムの覚悟に気づけなかったのか。

あの寒さで思考が麻痺していたからか、それとも自分の鈍感さなのか。

原因を追求しても、どちらにしろ過去には戻れない。


女賢者「なんでぇぇ...スライムちゃぁん...」


女賢者「どうしてぇ...ひどいよぉぉ...」


だが、ああしなければきっと水帝は近い内にスライムの拘束から脱出していた。

そしてスライムを殺害した後はこちらに追ってきていた可能性があった。

そうなってしまえば、瀕死の隊長らを庇いながら闘うことになる、そんなことは絶対に無理だった。


女賢者「ぐすっ...ひぐっ...」


覚悟の自爆魔法、先程はその思いを気づくことができなかった。

しかし爆風を肌で感じた今なら、あの魔物の想いを知ることができた。

身を滅ぼしてまでも、やり遂げてもらいたいという意志が。


女賢者「うぅ...い、いかなくては...絶対にやり遂げないといけません...っ」


口の中が熱い、極度の出来事で乾燥している上に、歯を食いしばりすぎていた。

しょっぱい味、鉄の味、奇妙な組み合わぜが味覚を刺激する。

そしてようやく階段を登り切る、その光景は1階の比ではなかった。


~~~~



814: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:14:49.95ID:dyy2pbpW0


~~~~


女賢者「これは...植物...?」


女賢者(...2階部分のほぼ全てが、謎の植物の根や蔓だらけです)


女賢者(やはり...激しい戦闘があったんでしょう...早く彼らを見つけなくては...)


微かに感じる魔力を頼りに、まずは魔女を探そうとする。

幸いにも簡単に見つけることはできた。

しかし問題なのは見つけてからだった。


魔女「────」


女賢者「...ひどい」


女賢者(本当に生きているんでしょうか...そのぐらいの状態です)


女賢者「..."治癒魔法"」ポワッ


優しい光が魔女を包み込む。

その癒やしは、曲がってはいけない方へと向いている関節すら治す。

次第に彼女の呼吸が深くなる、もうすぐであった。


魔女「────っ! げほっ、げほっ...!」ピクッ


女賢者「動かないでください、まだ全て治してないですから」


魔女「こ...ここは...?」


女賢者「わかりません...私はこの小部屋らしき所で魔女さんが倒れてたのを発見したんです」


女賢者「...状況説明は後でいいです、それよりも怪我を治さないといけません」


魔女「...ありがとう」


女賢者「......いえ」


外部の痛み、内部の痛みが晴れていく。

全快とはいかないところで、魔女が遮る。


魔女「...もう大丈夫、あとは自分の魔法で治すわ」


魔女「それよりも、ここにキャプテンがいるはずだから...そっちを優先してあげて」


女賢者「...わかりました、では早速探してきますね?」


魔女「...まって」


まるで、言いたくないことを言わなければいけない。

そんな神妙な面持ちであった、数秒感の沈黙の末に彼女は口を開いた。



815: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:16:17.42ID:dyy2pbpW0


魔女「...私は途中でここに投げ飛ばされ、意識を失っていたの」


魔女「だから...ここで起きた戦闘の勝敗がわからないの」


女賢者「...なるほど」


魔女「...いまは辺りが静かでしょ、決着はついたみたいだけど」


魔女「......どっちが勝ったか、わからないの」


女賢者「...」


魔女「私が最後に見た光景では...」


一番言いたくない部分がついに来てしまう。

しかし、可能性としてはこれが一番ありえる話であった。


魔女「...キャプテンは劣勢だった」


女賢者「なるほど...けど、先程感知したときはそれらしき魔力は感じませんでした」


女賢者「敵側が勝利したとしても、もうこの場にはいないのでは?」


魔女「...ないの」


女賢者「え...?」


魔女「私たちが戦ってた相手は...魔力がなかったの」


女賢者「...つまり、キャプテンさんのあの武器が単純に通用しなかったということですか?」


魔女「そうなるわ...詳しく話すと長くなるわ」


女賢者「...なるほど」


思わず、会話が止まってしまうほどに重苦しい空気であった。

女賢者は直感した、この2階で起きたであろう闘い。

それは1階の水帝戦並みの激戦であったと。


女賢者「...ともかく、私は辺りを探索し始めます」


女賢者「キャプテンさんが負けたとしても、まだ息があるかもしれまん」


女賢者「...もし、彼よりも先に敵とやらを発見したら、ここに戻ってくるか大きな音を出しますね?」


魔女「...それがいいわ、敵は植物みたいな見た目をしているわ」


魔女「私も...もうすぐしたら歩けるぐらいまで回復しそうだし、跡を追うわ」


女賢者「わかりました、ではまた」


足早に離れていく、すぐに魔女の視界から彼女は消えた。

闘いの勝敗はどうであれ、隊長が負傷していることは間違いない。

1秒でも早く見つけることが、怪我人の為になるからである。



816: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:17:46.44ID:dyy2pbpW0


魔女「...大丈夫よね、キャプテン」


魔女「そろそろ...立てそうね...よっ」スクッ


魔女「いたた...なにか杖になるものなんてないかしら...」


女賢者が去って数分後、治癒魔法を続けたおかげかようやく立つことができた。

なにか支えになる物がないか、ゆっくりと足を引きずりながら小部屋を探す。


魔女「それにしても...ここはあの子とは別の植物でいっぱいね...」


魔女「...ん、これは...茎かしら」


魔女「硬いわね...木の棒ぐらいの強度はありそう...」


魔女「使わせてもらうわね...って?」


──ぱさぁっ...!

先程、魔女がこの小部屋に激突した衝撃でいろんなものが散乱している。

木の棒じみた茎を拾うために持ち上げたら、なにかが引っかかって落ちた。

それがたまたま、彼女の目にとまった。


魔女「...本?」ピラッ


無意識の興味本位、それが作用していた。

好奇心に負け、痛みを我慢しながらも本をめくる。

そこにはあることが書かれていた。


魔女「これは...ゆっくり読みたいわね、借りるわよ」


魔女「今は...女賢者に追いつかなきゃ...」


先程首を締められたあの場所へと、足を進めていく。

大きな音は未だに鳴っていない、そのことが魔女の精神を安らがせる。

そして見えたのは、座り込んだ女賢者と彼らだった。


少女「────」


隊長「────」


魔女「...これは」


女賢者「...どうやら、勝利したようですね」


女賢者「私が発見したときは、この植物みたいな女の子がキャプテンさんの上で息絶えてました」


女賢者「そしてこの握られた刃物...傷口からみてこれでトドメをさした模様ですね」


魔女「そんな...ありえない...っ!?」



817: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:18:54.01ID:dyy2pbpW0


女賢者「...魔女さん? どうかしましたか?」


魔女「だって...この子の肌は極めて堅牢だったのよ...っ!?」


魔女「どうして攻撃が通用したのか...わからないわ...」


女賢者「...でも事実としてこの子は死亡していて、キャプテンさんにはわずかに息があります」


女賢者「どのように勝利したかは...目を覚ました本人から聞きましょう」


魔女「...そうね、そうだったわね...私も手伝うわ..."治癒魔法"」ポワッ


隊長の上で眠る少女をどかして、先に治癒魔法を唱えていた女賢者。

それに続き魔女も魔法を唱える、彼の傷が癒えていくのが見てわかる。

薄かった隊長の呼吸は徐々に大きくなっていった。


隊長「────ッ、がぁああ...っ!」


女賢者「まだ動かないでください...お腹の穴は塞がっても、まだ腕や足の骨は折れたままなんですから」


隊長「お、女賢者...ッ!? 魔女も...ッ!?」


魔女「...おはよ、ゆっくりでいいから何があったのか教えて」


隊長「...そうか、なんとか生きてたのか...俺も、魔女も」


魔女「そうよ...この子は...だめだったけどね」


隊長「...あぁ」チラッ


少女「────」


横たわりながら、顔を少女の方向へと向けた。

自分が殺した命の恩人を見るその表情はとても表現できないものだった。

ソレをみた魔女もまた、表現できない表情をしていた。


魔女「...まず、どうやってこの子を?」


隊長「...魔法を使った」


女賢者「...え?」


魔女「それって...どういうこと?」


女賢者「まさか、魔力に目覚めたんですかっ!?」


隊長「...いや、表現が悪かったな」


隊長「魔法を...借りたんだ...」


魔女「────っ! ま、まさか...っ!?」ピクッ


ある1つの説が魔女の頭をよぎった、もう答えは1つしかなった。

あの超硬度を誇る少女の肌、どのような魔法を使ってそれを破ったのか。



818: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:20:19.55ID:dyy2pbpW0


隊長「...闇の属性付与を、ドッペルゲンガーから借りた」


女賢者「...はいっ?」


魔女「...やっぱり、通りであなたの傷がえげつないのね」


女賢者「すみません、話が全く見えません...順に説明してもらってもいいですか?」


隊長「あぁ...女賢者はあの時のユニコーンを覚えているか?」


女賢者「は、はい...」


隊長「あの時、あのユニコーンはドッペルゲンガーに取り憑かれていたらしいんだ」


隊長「ソレが魔剣となり、帽子の手に渡り...そこからさらに俺の手に渡った」


隊長「そして...ドッペルゲンガーは新たな宿主として俺を選び...俺に取り憑いた」


女賢者「...そんなことが起きてたんですか」


魔女「...私もそれは初耳ね、というか聞く暇がなかったし」


隊長「俺も言う暇がなくてな...詳細を言ったのはこれが初めてだ」


女賢者「...それで、ドッペルゲンガーから魔法を借りたとは?」


隊長「言葉の通りだ、魔女がやられ俺の武器が通用しない状況...」


隊長「あらゆる感情が爆発しそうな時だった...奴はその弱みにつけ込んできた」


隊長「魔法を貸してやる...とな」


女賢者「...なるほど、それで闇の魔法を」


魔女「傷だらけになるはずね...」


隊長「本当なら俺の身体を乗っ取るつもりだったらしい...そうすれば傷つかずに闇を扱えただろう」


隊長「だが俺はそれを拒否し、本当に闇だけを借りた」


隊長「...結果としては少女を...沈黙、させることに成功したが...あと数分でも長引いていたら...」


女賢者「怪我の具合からみて、死亡もしくは重い後遺症が残ってましたでしょうね...」


隊長「だな...今も内蔵に違和感がある...もとの世界に戻ったら人間ドックにいかなければな」


女賢者「え? 人間どっく?」


隊長「あー...聞かなかったことにしてくれ...それよりも────」


なにか、聞きたいことを聞こうとした。

しかしその言葉は遮られるが、2人は同じことを質問しようとしていた。

魔女の言葉が、隊長の質問と一致する。



819: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:21:22.02ID:dyy2pbpW0


魔女「──スライムは、どうしたの?」


隊長「...その通りだ、スライムはどこだ?」


女賢者「...」


──ピクッ...!

前髪に隠れた女賢者の眉毛が少しだけ上がった。

病み上がりの彼でも、その些細な出来事を見逃していなかった。


隊長「...なにかあったのか?」


女賢者「...今は、水帝を取り込んで、拘束しています」


魔女「え...? そんなことできるの?」


女賢者「...はい、これを使ってですね」


そう言いながら取り出したのは、小さな瓶。

その内に秘められた、とてつもない魔力量を感じ取る。

言われずともわかった、魔力薬だ。


魔女「そういうことね...」


女賢者「...私は魔女さんたちの瀕死を感知することができました」


女賢者「そしたら、スライムちゃんが...先に行ってあなたたちを癒やしてきて、と言いました」


魔女「...ありがとう、助かったわ」


隊長「...」


女賢者「これが、最後の1瓶です...私とスライムちゃんで2つ、ウルフちゃんに2つ持たせました」


女賢者「...これは魔女さんが、いざという時に飲んでください」スッ


魔女「え...私でいいの?」


女賢者「基本的に、身体にいいものではないらしいので...人間が飲める量は1瓶が限界みたいです」


女賢者「私はもう飲んでしまいましたから...どうぞ」


魔女「あ、ありがとう...大切にとっとくわね」


服の収納に瓶を入れたとき、なにかにぶつかった。

小瓶が小瓶に当たる、特徴的な高い音が魔女にだけ聞こえた。


魔女(あれ...この瓶って...)




820: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:23:08.75ID:dyy2pbpW0


隊長「...女賢者」


女賢者「なんでしょうか」


隊長「...」


なぜか、非常に重苦しい空気を醸し出す。

まるで情報を吐かない犯罪者に尋問しているときのように。

その威圧感に思わず、小さな汗が女賢者の背中をたれていった。


隊長「...いや、なんでもない」


女賢者「...そうですか」


魔女「とりあえず、状況がわかったわ」


女賢者「では...3階に向かいましょうか、感知できたのは魔女さんたちだけではありませんから」


隊長「...つまり、ウルフたちも瀕死ってことか?」


女賢者「おそらく...3階で感じるのはウルフちゃんと女騎士さんの魔力です」


女賢者「どちらも...本当に薄い魔力しか感じません」


魔女「...急ぎましょう、話は歩きながらにしましょう」


隊長「あぁ...だが、先にいってくれ」


女賢者「...どうかしましたか? スライムちゃんの所に行くつもりですか?」


隊長「......いや、少女と別れたいんだ」


魔女「...先に行ってるわね」


隊長「あぁ...すぐに追いかける」


2人の女性が彼の視界から去っていく。

残されたのは大柄な男と無残な姿の少女。

物思いにふけながらも、隊長は少女の顔を撫でる。


隊長「...」


少女「────」


投げかけれる言葉なんてモノはなかった、ただじっと見つめることしかできない。

頭の中は真っ白、なにも考えることのできない無であった。

隊長は開きっぱなしの瞳を、乱れた前髪を、だらりとした身体を整えてあげていた。


少女「────」


その姿はまるで棺桶の中に入れられた安らかな格好をさせていた。

目は閉じさせ、手を組ませてお腹の上に置かせ、足を伸ばさせてあげた。

そして少女が散らせた花びらを、ある程度身体の上に乗せてあげていた。



821: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:24:57.08ID:dyy2pbpW0


隊長「...」


少女「────」


隊長「...Good bye」


立ち去ろうとしたとき、あるものが目に入る。

それは拳より少し小さい程度のなにかであった。

誰の落とし物なのかはすぐにわかった。


隊長「...種、か」


隊長「......」


どれだけ危険なものなのかは、わかっているはずだった。

しかしそれでいて、彼はその種子を収納にしまいこんでしまっていた。

少女に別れの言葉を伝えると、駆け足で彼女たちの元へと急いだ。


隊長「...」


無言で階段を駆け上がり、上へと辿り着こうとした時だった。

まるで落盤かの如く、3階への入り口が一部を覗いて岩で塞がれていた。

少しばかりバチバチと音がなっている、おそらく中へと入るために魔女が破壊したのだろう。


隊長「...これは」


ウルフ「────」


女騎士「────」


魔女「...っ! キャプテン、おかえり」


隊長「あぁ...やはり、ここも激戦だったようだな」


女賢者「えぇ...女騎士さんはもう少しすれば治癒魔法が効いて目が覚めるとは思いますが...」


魔女「...まずいのはウルフね、本当に瀬戸際だわ、"治癒魔法"」ポワッ


横たわる彼女らを見つめることしかできなかった。

彼はただ、回復を祈ることしかできない。

魔女がウルフを癒やしている間に、女賢者が癒やしていた彼女が目覚める。


女騎士「────っ! うっ...!?」


女賢者「動かないでください、どうやら内蔵がかなりやられてますね...」


女騎士「わ、私のことはいい...ウルフを...」


女賢者「大丈夫です、魔女さんが先に治癒魔法を唱えてますから...」


女騎士「そ、そうか...なら...よかった...」



822: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:26:31.27ID:dyy2pbpW0


隊長「...ゆっくりでいい、状況説明を頼む」


女騎士「キャプテン...魔女、無事でよかった...」


隊長「あぁ...とはいっても、俺たちも危険な状態だったみたいだ」


隊長「俺と魔女が瀕死なところを、女賢者が癒やしてくれたんだ」


女騎士「なるほどな...それで、状況説明だが...」


女騎士「まず、お前たちと分断されたあとは、炎帝と対峙したんだ...」


女騎士「そしたら...魔王子と女勇者が残り、私たちはキャプテンと合流するように言われたんだ」


隊長「...なるほどな」


女騎士「それで...下の階であるここに降りたら...私とウルフは地帝と対峙した」


女賢者「...地帝、ですか」チラッ


地帝「────」


隊長「...この様子だと、闘いには勝利したみたいだな」


女騎士「あぁ...ウルフが主力で私は補助に過ぎなかったがな...」


女賢者「...」ピクッ


ウルフが主力、この言葉の意味がすぐにわかった。

彼女は2本目のあれを飲んだ、なぜあそこまで死にかけている理由をなんとなく察する。


女騎士「ウルフが魔力薬を飲み...地帝をある程度圧倒させた」


女騎士「そしてその隙を狙って、私は魔王子の折れた刀身を使い...地帝に致命傷を追わせた」


女騎士「幸いにも、この折れた魔剣が闇をまとってくれた...これがなければ負けていた」


女賢者「...そうですか、あなたも闇を使ったんですね」


女騎士「..."も"?」


女賢者「えぇ...話せば長くなります」


女騎士「...悪いが、今は治療に専念させてもらう...あとでたっぷり聞こう」


隊長「あぁ、いまは休め...もう少ししたら移動する」


女騎士「...きっと今頃、女勇者たちは炎帝を泣かせているところだろうな」


隊長「そうだな...そうだといいな」


少しばかりの冗談、身体に余裕ができた証拠であった。

小さなものであったが空気が軽くなる。

それに相まってか、一番重症だった彼女の口が開いた。



823: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:27:54.71ID:dyy2pbpW0


ウルフ「────げほっ!? げほっ!?」


魔女「ウルフ、大丈夫?」


ウルフ「ま、じょ...ちゃん...?」


魔女「ゆっくりでいいわよ...状況も女騎士から聞いた...よく頑張ったわね」


隊長「大丈夫だ、みんなここにいる...な?」


ウルフ「う、うぅぅぅぅぅぅ...ご主人...」


女騎士「ウルフ...」モゾッ


女賢者「まだ動かないでください、気持ちはわかりますが、あなたも重症なんですから」


しばらく、治癒魔法を受け続けること数十分。

ようやく2人は立つことが可能になるまで回復する。

状況説明も行った、次に必要なのは指示説明であった。


隊長「...いまここにいる5人、いずれもある程度健康な状態だ」


隊長「俺としては先を急ぐよりも、1階へと戻り水帝を抑えているスライムに加勢したい」


魔女「...賛成ね、スライムが心配でしかたないわ」


隊長「...そうだな、魔王子や女勇者がやられるとは思えない...なら優先度は低いはずだ」


ウルフ「...スライムちゃんの方へ、いこうっ!」


女騎士「それがいい、水帝を各個撃破したほうが明確だ」


盛り上がる4人、一同は下へと降りる気で満々であった。

しかし1人だけは違っていた、唯一事実を知っている彼女が沈黙していた。


女賢者「......待ってください」


女賢者「大事な...話があるんです...」


その重すぎる口調、皆が注目する、そしてゆっくりとその唇を動かす。

あの時は嘘をついた、どうしてもウルフも一緒にいる時に言わなければならなかった。



824: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:29:25.93ID:dyy2pbpW0


女賢者「...スライムちゃんは...もう亡くなりました」


ウルフ「...え?」


隊長「...ッ!」


魔女「...は?」


女騎士「...たちの悪い冗談だな」


女賢者「...事実です、キャプテンさん、魔女さん...嘘をついて申し訳ございませんでした」


隊長「...やはり...か」


魔女「────嘘っ!? 感知しても本当にスライムの魔力を感じないっ...!?」


ウルフ「──...」


女騎士を除く、3人の目が憔悴しきっていた。

なんとなく察してしまっていた隊長、事実を確認してしまった魔女。

そして無言を貫くウルフ、それぞれ表情は違うが完全に目は見開いていた。


女騎士「...ウルフ、大丈夫か?」


ウルフ「...」


隊長「...落ち着け...頼む...落ち着いてくれ」


隊長「まずは...みんな座れ...」


魔女「...うん」


女騎士「...わかった」


女賢者「...すみません」


5人が座る、その面持ちは各々違う。

冷静そうに見えて指を震わせている隊長、動揺を隠せない魔女。

申し訳無さがある女賢者、そして虚空を見つめるウルフ、それを心配する女騎士。


隊長「まず...なにがあったのか...今度は嘘をつかずに教えてくれ...」


女賢者「...スライムちゃんが水帝を取り込み、拘束させた」


女賢者「その後、私がキャプテンさんたちを癒やしに先行したのは事実です」


女賢者「問題は...私が階段で2階へと上がろうとした時でした...」


女賢者「...ごめんなさい、少し時間を...ください...」


やや過呼吸気味になる。

つらいのは彼女も同じであった。

ここにいる5人は、スライムの死を直に見ていないのだから。



825: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:30:49.16ID:dyy2pbpW0


女賢者「...私がぁ、2階っ...へと上がろうとした時...」


女賢者「ひぐっ...後ろから爆風が...と、とどきましたぁ...っ」


魔女「...っ! それってまさか...っ!?」


女賢者「間違いあり...ません、あれは...自爆魔法です...っ!」


女騎士「────っ!!」


麓の村で、直に味わったことのある魔法。

なぜここに女賢者がいてスライムがいないのか、その理由がはっきりした。


女騎士「...ウルフ」


ウルフ「...」


冷たいかもしれないが女騎士はスライムとの面識があまりない。

この場にいる皆の中で、例外的に精神的ショックを受けずにいた。

だからこそ、彼女にしかできないことがあった。


女騎士「...」


────ぎゅっ...!

虚ろな目をしているウルフの手を優しく。

それでいて力強く握りしめる、言葉を失うウルフ、一番キテいるのはこの獣であった。

地帝戦で芽生えた友情のようなモノが彼女の手を握りしめた。


隊長「......なる、ほど」


そして口を開く、その口調からは余裕など一切感じない。

指を震わせながら、頭を抱えるしかなかった。

最大の友が愛したあの魔物の子。


魔女「そんな...あの子も守れなかったのっ...?」


魔女「これじゃ...帽子に会わせる顔がないわよっ...!」


隊長「...ッ!」


女賢者「ごめんなさいぃぃ...私が気づかずに先行しなければこんなことにはぁ...っ」


ウルフ「...」


先程までの、明るい顔立ちをしていた彼らなどいない。

士気はだだ下がり、とてもじゃないが戦闘などできない。

このままでは身を滅ぼしてしまう者もでてしまうだろう、だが彼女だけは違っていた。



826: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:32:06.86ID:dyy2pbpW0


女騎士「...落ち着け」


女騎士「いいか? 私は今から都合のいい解釈をさせてもらうぞ」


女騎士「話が気に入らなければぶん殴ってでも止めろ」


唯一、鋭い目元を保てた女騎士が言葉をつなげる。

スライムとの友情を持たずにいた彼女にしかできないことだった。


女騎士「まず...女賢者、お前が先行していなければ...」


女騎士「私やウルフ、キャプテンや魔女は死んでいたかもしれないんだぞ?」


女騎士「瀕死状態とは時間との勝負だ...私は、お前が悪いとは思わなかった、話を聞いている限り」


女賢者「...」


女騎士「...次だ、スライムが自爆魔法を唱えなければどうなっていたか」


女騎士「詳しい話はわからない...だが、その時はスライムは魔力薬を飲んでいたんだろう?」


女賢者「は、い...」


女騎士「なら、なおさらだ...おそらく効力が切れた隙を狙われ、拘束から脱出された可能性があったはずだ」


女騎士「そうしたらどうだ? スライムは水帝を足止めできずに殺されていただろうな」


女騎士「そうなってしまったのなら...無念でしかない」


女騎士「...違うか?」


魔女「...違わない...わ」


女騎士「...だが、今は違うじゃないか...スライムは足止めをすることができた」


女騎士「それどころか...水帝を滅ぼすことに成功した...喜ばしいことじゃないか」


女騎士「...私はスライムという子にあまり面識はない...だが」


女騎士「お前たちは違う...その子の友達...大事な仲間だったんだろ?」


隊長「...あぁ、その通りだ」


女騎士「...お前らは...その大事な子に守られたんだ」


女騎士「立場を変えて考えてみろ...ウルフ、お前がスライムの立場なら...」


女騎士「...たとえ死んでも、水帝を足止めするに違いないだろ?」


ウルフ「......うん」


少しずつ、活気が戻っていくような。

失った者の影響は確かに大きかった。

しかし、受け取った意志を蔑ろにできるわけがない。



827: ◆O.FqorSBYM 2018/12/20(木) 23:33:26.47ID:dyy2pbpW0


女騎士「...なら、我々にできることはなんだ?」


女騎士「私なら...スライムの望みを受け取ることだ」


その言葉とともに、4人の記憶がフラッシュバックする。

スライムの望みを知らないわけがない、彼の望む世界こそがあの魔物の望み。

ならば、ここで足止めを食らうわけには行かなかった。


隊長「...行くぞ、上へ」


魔女「そうね...弔うのは、すべてが終わってからね」


女賢者「天国というものがあるのなら...きっとそこで帽子さんと再開できるはずですね」


ウルフ「...うんっ!」


足が重たい、未だに受けたショックは大きい。

だが絶対にヤラねばならないことが残っている。

それをやり遂げるまでは止まってなどいられない。


隊長「...女騎士、助かった」


女騎士「なぁに、昔から士気を高めるため、戦闘前に説くことが多かったんだ」


女騎士「...気持ちの整理はついたとしても、彼女が亡くなったのは事実だ...無茶はするなよ?」


隊長「あぁ...大丈夫だ」


隊長「泣くのは...後だ」


仲間の死には慣れている、特殊部隊の隊長とはそういうモノであるはず。

だがこの世界での出会いはかけがいのないモノであった。

帽子、それに続きスライムまでもが亡くなってしまった。


隊長(鈍ったか...いや、人としては真っ当か)


隊長(...元の世界へと戻ったら、一度亡くなった隊員たちの墓に向かうか)


隊長(仲間が死んでも...作戦に支障が出ると理屈をこねて押し殺していてばかりだった...)


隊長(もう少し...向き合うべきだったな...感情とな)


今まで非情をもって、死と向き合っていた彼だった。

成長したのか、逆に衰退してしまったのかなんてわからない。

答えなど永遠にでてこないであろう問いに、悩みながらも足を進めていた。


~~~~



830: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:21:22.44ID:GhBtLxBr0


~~~~


炎帝「...燃えてきたよ」


早くも辺りは灼熱の温度に達する。

しかし、実際に温度が上がったわけではない。

炎帝から発せられるその威圧感が、精神的な熱気を誘う。


女勇者「...汗が止まらない、冷や汗かな?」


魔王子「どうだかな、それよりも...備えろ」


魔王子「こちらが本気でやる以上、炎帝も当然本気でくるだろう」


魔王子「...風帝の比ではないぞ、炎帝は四帝の中でも頭一つ抜けている」


炎帝「...だからといって、風帝が雑魚というわけでもないけどね」


炎帝「風帝の魔法理解度、魔法展開規模はとても真似できない」


炎帝「水帝の魔法持続性能、感知能力には追いつくことができない」


炎帝「地帝の防御性能、そして...意外性はとてつもない」


四帝それぞれの、得意な能力を述べ始める。

千差万別、十人十色、実に個性が豊かなモノであった。

そして残るのは、当人の能力。


魔王子「ならば炎帝、貴様の火力はどうだ?」


炎帝「...自慢じゃないが、どの帝よりかは強いと自負しているよ」


炎帝「──"属性同化"、"炎"」


────ゴォォォォォォォォオオオオオオオッッッッ!!!

地獄の炎が燃え上がる。

身体全身が炎に、そしてその内部には人の形のシルエットが。


魔王子「────くるぞ..."属性付与"、"闇"」


女勇者「──わかった..."属性付与"、"光"」


同化とは違い、闇と光が身体に身にまとうだけであった。

しかしそれが圧倒的に脅威なモノである。


炎帝「喰らえ...ッ!!」


両手と思しき部位を前に出す。

魔法を唱えなくても、炎が自在に活動する。

大きな音を立て、巨大な火炎放射が2人に襲いかかる。



831: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:23:18.06ID:GhBtLxBr0


魔王子「────■■■ッッッ!!」


────■ッ...!

ユニコーンの剣を抜刀する。

その拍子に現れた剣気に黒が追従する。

たとえ光の魔剣から生まれた闇でも、下位属性の炎を斬るのには十分であった。


女勇者「...っ!? いないっ!?」


魔王子「火炎放射の轟音に紛れて転移魔法を行ったはずだッ! 気をつけろッ!」


女勇者「──いや、違う...転移魔法だけじゃない」ピクッ


炎帝「────もう遅いよ、ほら」


──バコンッ...!

背後から彼の声が聞こえたと思ったら、眼の前から爆発音が聞こえた。

そして音だけではなく衝撃も身に受ける、闇はその衝撃を飲み込むが光は違う。


女勇者「────うっ...!?」


女勇者(これは...あの時の偏差魔法...っ!?)


爆発によって生まれる爆風だけが彼女を襲う。

しかし光の所有者は、闇の彼とは違い対策を行おうとしていた。

すでに片手で盾を構え終わっていたのが幸いし、直撃を防いだ。


魔王子「...これは、爆魔法...いや」


炎帝「悪いけど、君ら相手は本気じゃないとすぐ負けちゃうからね」


炎帝「...得意なアレをやるよ」


魔王子(爆の属性同化...まずい、この状態で本領を発揮するつもりか...っ!?)


魔王子「──女勇者ぁッ!! 連鎖爆発が来るぞッ!! 構えろッッ!!!」


女勇者「────っ!」


連鎖爆発、どのようなモノか簡単に想像つく。

しかし、それがどれだけ恐ろしいモノかも瞬時に把握する。

眼の前の空気が張り詰める音が聞こえる。



832: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:25:10.51ID:GhBtLxBr0


女勇者(まさか、これも偏差させる気なの────)


──バコンッ!

──バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

──バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ! バコンッ!

爆発が爆発を呼び覚ます、その連鎖的なモノはすべて偏差して行う。

盾などでは防ぐことができない、かといって光でも防ぐことはできない。

かといって、闇でも完全には防ぐことはできなかった。


魔王子(まだ続くか...炎帝め...器用に闇の隙間を狙って...ッ!)


女勇者(くっ...このままじゃ...)


この爆発は爆魔法によるものではなく、爆の属性同化によるものである。

つまりは、炎帝を怯ませることができれば一時的に止まるかもしれない。


魔王子「──いい加減耳障りだ、■■■...」


女勇者「──うおおおおおおおおおおおおおお□□□□□っっっ!!」


──■□□■□■■...ッ!

2人が身を震わせ、大量の魔力を活用し増幅させる。

気合で生まれた光、そして闇は決して混ざることはない。

しかしそれでいて伴おうとしている。


炎帝「──危なすぎる、離れさせてもらうよ」


退避、そしてその姿をようやく視認できる。

いつもの炎の身体に、小規模な爆発を常に身にまとっている。

どうみても、同化を重複させている。


魔王子「...炎と爆か、それも同時に」


炎帝「便利なものさ...もう高速詠唱なんてしなくても、炎と爆を同時に扱える」


女勇者「..."治癒魔法"」ポワッ


魔王子「治癒の光か...心強いな」


炎帝「なるほど...これは長引きそうだね」


女勇者「...あの連鎖爆発、厄介すぎるよ」


魔王子「あれが炎帝の十八番だ、奴に隙を与えるな」


炎帝「...参ったな、もう二度とヤラせてもらえなさそうだ」



833: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:29:22.09ID:GhBtLxBr0


魔王子「いい加減、おしゃべりは終わらせるぞ────」


──■■■ッッッ!!

次の瞬間、魔王子が消えたように見えた。

しかし彼はあまり魔法が得意ではない、転移魔法などできない。

ひたすら早く動くだけの、神速の疾走抜刀が炸裂する。


炎帝「────あぶないな」


──バコンッ!

斬られる寸前、魔王子と炎帝の間に爆発が起こる。

爆発が身代わりとなり、炎帝は闇の餌食にならずにすんでいた。

それどころか、爆風に煽られた炎の身体は魔王子からある程度の距離を取る。


魔王子「...猪口才な」


炎帝「悪いんだけど、君らの攻撃を一撃でも喰らったらおしまいだからね」


炎帝「こちらこそ、さっきみたいな闇や光を強くするアレ...二度とヤラせないよ?」


魔王子「...ならば、俺に隙を作らせるなよ■■■■」


炎帝「隙なんかなくても、属性付与がやってのけるじゃないか..."転移魔法"」シュンッ


再び2人から距離を取る。

未だに無傷を誇る炎帝に対し、治癒を行ったとはいえある程度負傷をした2人。

攻撃さえ当てることができるのならば、炎帝など敵ではないはずだった。


女勇者(まずいなぁ...僕じゃ全く歯が立たない)


魔王子「...女勇者、少し身を守ってろ」


女勇者「...ごめんね、役に立たなくて」


魔王子「治癒魔法がなければ持久戦において、もう既に負けている...炎帝のあの器用な爆発を見ただろう?」


その通りであった、治癒魔法というカードがなければ一方的に攻撃される。

もし女勇者がいなければ、炎帝は遠距離から爆を器用に魔王子に当てるだけの戦術に移るだろう。

逆に魔王子が隙間のない闇の展開をしたとしても、炎帝はひたすら逃げに入ることは確実だ。


魔王子「...治癒魔法という延命措置が、炎帝を慎重にさせている」


魔王子「下手に距離を取り、爆魔法でこちらを追い詰めても治癒されてしまったのなら無の一言」


魔王子「炎帝が無駄に魔力を使うだけに結果になるはずだ」


魔王子「つまりだ...持てる手札は多いに越したことはない」


女勇者「...ありがとう、優しいんだね」



834: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:30:53.00ID:GhBtLxBr0


魔王子「...いいからさっさと身体に光を強く纏え■■■■」


────■...ッ!

闇の予感が場を緊張させる。

今から始まるのは、あの地獄のような光景。

風帝に恐怖を抱かせた、闇の剣気の乱舞。


魔王子「連鎖爆発の名を借りるのなら、連鎖剣気といったところか...」


炎帝「これは...とてつもないね────」


──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

──■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ! ■■■■■■ッ!

この世の全てを破壊する勢いだった。

連続で繰り広げられる黒の剣気は炎帝へと向かう。

光で身を守った彼女は、ただ身体を縮みこませて耐えるしかなかった。


女勇者「...魔王子くんやりすぎっ!」


魔王子「────■■■■ッッッ!!」


部屋の全面を攻撃している、この場所に逃げ場などない。

かといって防御策も、光魔法を除いてはありはしない。

しかし、ある異変を感じ取り魔王子は手を止める。


魔王子「...あの野郎、逃げたか」


女勇者「...え?」


魔王子「この部屋に奴の気配が全くしない、攻撃を恐れて一時退避をされた」


女勇者「げっ...ってことをは今までの攻撃は?」


魔王子「無駄に終わったな...まぁそこまで魔力を使ったつもりはない、身体に支障はないはずだ」


女勇者「どんな魔力量してるの...」


炎帝「──終ったかい?」


半ば煽りのような口調とともにいきなり現れた。

闇に抵抗できるナニかを持っていない以上、退避するしかない。

卑怯にも思えるがこれも立派な戦術の一部、そのことは魔王子も認識している。



835: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:32:10.21ID:GhBtLxBr0


魔王子「...大技は無理だな、転移魔法で部屋外へと逃げられる」


女勇者「そうみたいだね、どうにか小さな隙を狙わないと攻撃を喰らわせることができないかも」


炎帝「...悪いね、下位属性の魔力しか持たないもので」


魔王子「黙れ...それよりも、本来ならとっとと逃げてもいい状況だというのに、わざわざ戻ってきたか」


炎帝「まぁね、魔王様から殺してでも足止めしろと言われているからね」


炎帝「逃げだけに徹するのはできないけれどね」


魔王子「...チッ、じゃあこうするしかないな」


──■■...

闇が溢れ出る音、それとは違っていた。

逆だった、闇が消え失せる。


女勇者「...え?」


魔王子「...どうだ、闇の属性付与を解除してやったぞ?」


炎帝「...」


魔王子「もう逃げる必要はない、とっととかかってこい」


女勇者「...なるほどね」


──□□...

光が溢れ出る音、それとは違っていた。

逆だった、光が消え失せる。


魔王子「...お前は別に、しなくてもよかった」


女勇者「うるさいなぁ、僕だって肉薄さえして貰えれば戦えるさ」


女勇者「この剣と盾は飾りではないよ」


魔王子「...フッ」


炎帝「...愚かな、この炎帝相手にソレをするか」


魔王子「仕方ないだろう? 闇があれば貴様は恐れて堂々と向かってこない」


炎帝「...」ピクッ


魔王子「その一方で、風帝はちゃんと闇に向かって闘いにきたというのに...」


見え見えの挑発、それが炎帝に響く。

当然だった、事実を言われてしまったら頭に血がのぼる。

そして魔王子は、禁忌の言葉を口にする。



836: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:34:16.43ID:GhBtLxBr0


魔王子「────どうした? "怖い"のか?」


炎帝「────もう二度と、属性付与を纏う隙など与えんぞ」


女勇者「──くるっ...!」


いつのまにか炎ではなくいつもの姿の炎帝が姿を表した。

よく見てみると右手には炎、左手には爆を纏わせていた。

同化させる範囲を絞っている。


炎帝「...消し炭となれ」


魔王子「──足元だッ! 退避しろッ!」


右手をゆっくりと下げる。

それと同時に魔王子たちの足元から炎柱が浮かび上がる。

いつのまにか、炎帝の右手から床をたどって炎を迫らせていた。


女勇者「な...ここまで自由に操れるのっ!?」


魔王子「これは昔の炎帝の闘い方だ、両手に短刀を持ちそれぞれの属性付与を纏わせる」


魔王子「それをいま己の両手で行っている、油断するな...あれが奴の最も動きやすい型だぞ」


女勇者「...結構頭にきてるみたいだね」


魔王子「それは結構なことだ...それよりも備えろ、肉薄してくるぞ」


炎帝「──"転移魔法"」シュンッ


魔王子の言葉通りに、早くも接近。

狙いは彼、先にこの生意気な小僧を塵芥に変えるつもりだ。

炎帝の狙い、魔王子は早くも気づけていた。


魔王子(左手、爆で仕掛けてきたか...ッ)


炎帝「喰らいなよ」スッ


──バコンッ!

左手を前に振りかざすと、魔王子の懐で小規模な爆発が起こる。

それを事前に備えて、ユニコーンの魔剣を抜刀する。


魔王子「────ッ!」スッ


──スパッ...!

見事な抜刀音であった、生半可な者では斬られたことすら認識できないだろう。

彼は闇を用いることなく、炎帝という男の魔法を両断した。


炎帝「...闇がなくても、魔法を斬ることができるとは」


魔王子「悪いな...魔剣士にじっくりと教えてもらっていてな」



837: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:36:09.17ID:GhBtLxBr0


女勇者「──僕もいるよっっ!!」ダッ


──ガコンッ!

彼女の最も得意とする攻撃が初めて通用する。

自身の走る速度と盾の硬度を利用したシールドバッシュ。

捨て身の突撃が炎帝の背中にぶち当たる。


炎帝「──ぐっ...生意気だね...」スッ


女勇者(右手っ! 炎がくるっ...!)


──ゴゥッッッ!!

右手を薙ぎ払うと、炎が扇状に展開した。

女勇者は盾を利用することで顔と胴体への被弾を防いだ。

だが防ぐことのできなかった箇所が燃えている。


女勇者「ぐっ...熱い...っっ!!」


炎帝「そのまま燃え尽きるかい...ッ!?」


女勇者「お断りするよ...」


魔王子「────そこだ」


──スパッ...!

抜刀から放たれる剣気、絶妙に調整されている。

燃えていた女勇者の身体の一部が剣による風で消火された。


女勇者「──っ! うおおおおおおおおおおっっ!!」ダッ


熱による身体の不調が取り払われた。

盾とは反対の手で握りしめられた剣を構える。

腕力と体重が低い彼女、再び走る勢いを利用した。


炎帝「調子に乗らないことだね...」スッ


──ゴオオオオオオオオオオオオオゥゥゥゥッッッ!!

右手から放たれた炎は凄まじい勢いで拡大される。

その余りの火力に、攻撃をしようとした女勇者の動きは止まってしまう。


女勇者「──あぶなっ!」


魔王子「────女勇者ッ! 爆が来るぞッッ!!」


炎帝「もう遅い...」スッ


わずか数秒にも満たない超速度の戦闘が続く。

次に繰り出されたのは左手、まるで何かを握りしめるような動きをみせた。

女勇者の周り全て、そこの空気が張り詰める。



838: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:38:22.73ID:GhBtLxBr0


女勇者(死角がない...まずいっ!?)


魔王子「──チッ、伏せてろッッ!!」


炎帝「君はこっちだ、焦げてしまいなよ...」


──ゴゥ...ッ!

右手をくるくると動かす、すると魔王子の身体の周りに炎が現れる。

その炎は渦を巻き、身体を燃やすと同時に動きを制限させる。


魔王子「これは...」


炎帝「下手に動くと炎が完全に身体に付着するよ...はい、さようなら」パッ


女勇者「──う...っ!?」


──バコンッ...!

──バコンッ...バコンッ...!

──バコンッ、バコンッバコンッバコンッバコンッ...!!!

握りしめられていた炎帝の左手が開く、するとあたりには連続した爆発音が響いた。


魔王子「──やられたかッ!?」


炎帝「これで残るは────」


────□□□...ッ!

絶対に殺したと油断した、数秒女勇者から目を話した瞬間。

その不意打ちじみた光は炎帝にまともに当たるはずだった。


炎帝「────"転移魔法"」シュンッ


わずか1秒、唱えた魔法により光を回避する。

目標を見失った光は魔王子の身体に付着する、正確には炎の渦だけに。


魔王子「...でかした、これで自由に動ける」


女勇者「けほっ...そりゃどうも」


炎帝「...手加減したつもりはないんだけどね」


女勇者「伊達に勇者を名乗ってないんだよ...」


女勇者「しかし...不意打ちの光魔法を避けるとはね」


炎帝「...こっちも伊達に、炎帝を名乗っていないのでね」


魔王子「女勇者、まだ動けるか?」



839: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:40:28.67ID:GhBtLxBr0


女勇者「......2秒」


魔王子「どうした...?」


その意味不明な答えに思わず聞き返す。

なにが2秒必要なのか、女勇者は鋭い目つきで炎帝を警戒しつつ、睨みながら答える。


女勇者「2秒間、炎帝の隙があれば光魔法を唱えられるよ」


属性付与を纏えば、炎帝は警戒し近寄ってこない。

ならば一瞬だけ光を放つことのできる、通常の光魔法を唱えることが出来れば決定打になる。

しかしそれには一々詠唱が必要、どうしても詠唱という予備動作が不可欠であった。


女勇者「逆をいえば、いままで2秒の隙もなかったんだね」


魔王子「...魔王軍最強と言われる男だからな」


女勇者「それで、魔王子くんの闇魔法は何秒かかる?」


魔王子「...属性付与に頼りすぎていたツケが回ったか」


魔王子「4秒だ、とてもじゃないがこれ以上早めることができん」


女勇者「...わかった」


魔王子「決め手は光魔法だ、なんとしても2秒を作るぞ」


炎帝「...お話は終わったかな?」


2人の口の動きを逐一見逃さなかった。

いつ光魔法や闇魔法など、とにかく魔法を唱えていないか警戒していた。

おそらく、なんらかしらの詠唱をした時点で攻撃に移っていただろう。


女勇者「さっき外した光魔法で、警戒されている可能性があるね」


魔王子「...どちらにしろ、一筋縄ではいかん」


炎帝「いくよ...」スッ


両腕を空に向ける、上空からかなりの威圧感を醸し出す。

大技がくることは間違いない、それでも2秒の隙を与えない。


魔王子「──くるぞッ!」


女勇者「これは...っ!?」


空を見上げるとそこには大量の炎と爆が展開していた。

そこから繰り出される攻撃方法は1つしかなかった。



840: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:42:38.36ID:GhBtLxBr0


炎帝「傘を持ってこなかったのかい?」


魔王子「...戯言を」


────ゴォォォォォォォォォォッッ!!

────バコンッ! バコンッ! バコンッ!

熱を帯びた炎の雨粒と、爆を含んだ風。

人を殺すためだけに生まれた嵐が2人に降り注ぐ。


魔王子「くッ...!」


──スパッ...!

抜刀により繰り出された剣気が嵐を斬る。

しかし、それは一部にしか効果がなかった。


魔王子「──焼け石に水か、ある程度の負傷に備えろ」


女勇者「そんなことはわかってるってばっ!」スッ


盾を傘に見立てる、両腕や頭、上半身を守ることはできる。

だがどうあがいても大きさがたりない、故に下半身は無防備に。

せめてもの抵抗、しゃがむことで被弾箇所をさらに減らそうとする。


魔王子「...ッ!!」


──スパッ...スパッ...スパッ...!

身に降り注ぐ雨を斬る、多少なりともマシ。

それでも防ぎきれない炎が徐々に身体に付着する。


魔王子(まずい...このままでは...)


彼が感じたのは、ある1つの直感。

このまま身を焦がし、爆ぜればどうなることか。

死の直感、闇がなければここまで追い詰められるか。


魔王子(せめて...魔法を使う隙さえあれば...)


属性付与をまとえば、確実に魔王子側が有利である。

しかしそうであれば炎帝は必ず逃げに入る、そうなってしまえば時間をただ奪われる。


魔王子(闇雲に抜刀するだけでは...状況は変わらん...)


時間を奪われれば分断された彼らが危機に晒される。

確実に他の四帝が動いている、できれば全員合流して各個撃破をしたい。

そうでなければ必ずあの集まりの誰かは殺される、分断された状態で四帝と対峙して無事にいられる可能性は低い。



841: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:44:11.08ID:GhBtLxBr0


魔王子(なにか...なにか手はないのか...ッ!?)


だからこうして、わざわざ属性付与を解除して闘っている。

狙い通り炎帝は逃げに入らずにいてくれている、だがそれがどうしても厳しいモノになっている。

炎帝も本気だ、もう二度と魔法を唱える暇を与えてくれない、いまさら属性付与を唱えることはできない。

なにか手段を見つけなければ、このまま焼殺されるだろう。


魔王子「もっと...俺にもっと力があれば...ッ!」


──スパッ...!

抜刀、そして彼が叫ぶ渇望。

どうしても力が欲しいという思い込みが、響いた。


魔王子「────力を寄越せ」


────スパ□□□ッ...!

雨を斬る音とともに聞こえたのは、明るい音。

そして幻聴だろうか、馬の嘶きがこの場に留まる。


炎帝「────な...」


時が止まった、当然の反応だった。

その魔王子の一撃で雨雲は消え去った。

なにが起こったのか全く理解できない、2秒。


女勇者「────"光魔法"っっっ!!」


──□□□□□ッッッ...!!

魔王子が放ったかのように見えた光とは桁違いの眩しさだった。

不意打ち、そして今度ばかりは逃げることができない代物。

それでも対応しようと炎帝、だが無残にも微かに光が身体に触れた。

ほとんど当たっていない、それでいて唱えていた転移魔法を止めてしまうのが光の強さだった。


炎帝「──しまった...ッ!?」


女勇者「──っっっ」ダッ


いくら防御姿勢をとったからと言って、身体の一部は雨に濡れ燃えている。

それでも彼女はそのまま炎帝へと特攻を仕掛ける。

先程とは比べ物にならない速度で放たれる、捨て身のシールドバッシュ。


女勇者「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」


炎帝「────うッ...!?」


──ガコンッ...!

盾が炎帝の頭部へと激突する。

脳が揺れる感覚に思わず彼はよろめき、そのまま吹き飛ばされる。



842: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:46:11.50ID:GhBtLxBr0


女勇者(手応えあり...だけど最初の光魔法はまともに当たってないはず...)


女勇者「──気をつけてっ! 魔力を抑えることはできなかったよっ!」


魔王子「...十分だ、それよりも光の扱いについて教えろ」


女勇者「大丈夫、きっとその子は...なにもしなくても力を貸してくれるはず...」


魔王子「...そうか」


ユニコーンの魔剣、同じ光の属性を持つ者同士。

以心伝心、心が通じたとはまでは言えない。

だがそれでいて、なんとなくという感覚が彼女の思考を巡った。


炎帝「ぐっ...クソ...まだだよ...」


まだ彼の両腕は漲っている、やはり光がまともに当たっていない。

転移魔法を唱えることはできなくても両腕は死守した。

武器を失ってしまえば負けてしまう、魔王子たちと同じく、属性同化を唱える暇など与えてくれないだろう。


炎帝「参ったなぁ...はぁ...まさか、魔王子が光を手にするなんてぇ...」


魔王子「...それは俺も思っている」


女勇者(まずいなぁ...思ったよりも負傷してない...これじゃ...)


次はユニコーンの魔剣に警戒して、逃げに入るだろう。

先程の打撃で致命傷を与えたかったが結果は残念の一言。

もう属性付与を解除していても、炎帝はまともに闘ってくれない。


炎帝「...もういいや」


女勇者「え...?」


炎帝「魔王子の闇、女勇者の光の属性付与を抑えているだけで十分さ」


炎帝「その...光の魔剣ぐらい...どうってことないさ...もう二度と喰らうつもりはない」


炎帝「だから...もう逃げないでおくよ」


まさかの、ここで妥協を行うとは思わなかった。

炎の帝、その名に相応しくない彼の冷静さなら絶対に逃げに入ると思っていた。

だがすぐになぜ逃げなかった理由がわかる。


炎帝「...ユニコーンの魔剣如きで、この炎帝を畏怖させることができると思ったかい?」


魔王子「...思わんな」


炎帝「そうかい...まぁいいや」


炎帝「どちらにしろ...相も変わらずに魔法を唱える隙なんて与えるつもりはないよ...」



843: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:48:13.31ID:GhBtLxBr0


炎帝「もう...全力で...いくからね...」


脳震盪に耐えながら、言葉を交わしていく。

その熱すぎる言葉とは裏腹に、女勇者の背筋は凍った。

ようやく底が見えた、見えてしまったが為に両手から放たれる炎と爆がいままでの比ではない展開を行っていた。


女勇者「...もう、噴火してるみたいだね」


魔王子「これが炎帝の真髄だ...直に見るのは初めてだ」


炎帝「さぁ...いくよ..."転移魔法"」シュンッ


2人の眼の前に現れた。

魔王子は剣を構え、女勇者は盾を構える。

そして炎帝は、まずは右手を構えた。


炎帝「燃えなよ...」


──ゴォゥッッ...!

超高温の炎が現れる、そのあまりの熱源に2人の動きは鈍る。

以前にも行ったことのある、光への対策の1つ。


魔王子「──チッ、やはり対策をしてくるか」


女勇者「あっつっっ!?!?」


炎帝「当然じゃないか...下位属性がまともに闘って勝てる相手じゃないんだから...」パチンッ


──バコンッ!

光の剣で燃え上がる炎を消化している間にも炎帝は動く。

憎たらしくも指を鳴らす、そうして生まれるのは爆発。

それも超高度な、絶妙に魔王子の攻撃範囲から離れた偏差魔法。


女勇者「──あぶないっっ!!」スッ


──ズズゥゥンッッ...!

両手で盾を構え、魔王子の前へと立つ。

直撃を防いたとしても、あまりの衝撃に女勇者の身体に嫌な音が鳴る。


女勇者(左腕に激痛...まさか今ので骨が...防いでいなかったらどうなってたの...っ!?)


魔王子「でかした、下がってろッッッ!!」


炎帝「──はああああああああああああああぁぁぁぁぁ...ッッ!!」


この時、初めて炎帝は声を荒げた。

炎帝の右腕の炎が床へと伸びる、そしてその炎が広く展開する。



844: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:50:00.21ID:GhBtLxBr0


魔王子「──跳べッッ!! 足元を焼かれるぞッッ!!」


女勇者「くっ...まるで炎の絨毯だね...っ!」


炎帝「...いい家具だろう、だがそれだけじゃないよ」スッ


右手を上へと持ちあげる。

なにが来るのか魔王子は察する。

炎の絨毯から、炎の棘が生まれる。


魔王子「──チッ!!」


──スパ□□□ッ...!

光の抜刀、その効力ゆえに炎の展開は止まる。

しかし振り終わった剣は、そこで動きを止めるしかない。


炎帝「────貰った」


──ゴォォォォォォォォォウッッ...!

一瞬にして放たれたのは、巨大な火炎放射。

その密度は濃く、たとえ闇をまとってたとしても無傷でいることは厳しいモノだった。


魔王子「くっ...抜刀の誘発だったか...ッ!」


女勇者「────うおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」ダッ


折れた腕を我慢して、有ろう事か魔王子に肉薄する。

このままでは一緒に消し炭にされてしまう瞬間だった。

右手で魔王子の手と重ね、そして魔力を注ぎ込む。


女勇者「────っ!」グイッ


────□□□ッッッッ!!!

教えてもいないというのに、魔剣に魔力を注ぎ込めばどうなるかを直感していた。

まだ光り始めて間もないというのに、光魔法を唱えたわけではないのにすでに炎は消された。

だが眩しすぎる光が次々と生まれようとした瞬間、炎帝は事前に対処の準備をしていた。


炎帝「ぐっ...憎たらしい光だね...っ!」パチンッ


──バコンッ!

魔王子と密着している女勇者、その僅かな隙間に爆発を産ませる。

小規模な爆発だが、女の身体を吹き飛ばすには十分な威力だった。


女勇者「──うっ...げほっ...」


女勇者(やばい...また逝ったかも...さっきまでの威力と全然違う...っ)



845: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:51:54.59ID:GhBtLxBr0


炎帝「そのまま動かないでいてね」スッ


左の手のひらを握りしめる。

先程見た、周囲全体を爆で囲む予備動作だ。

下手に動けば炎帝の手は開かれるだろう。


魔王子「あの小娘にかまっている場合か?」スッ


──スパ□□□□ッ...!

彼が最も得意とする抜刀剣気、光も備わり凶悪なモノに仕上がっている。

とてつもない速度、どうすることもできずに直撃する。


炎帝「────ぐっ...これが生身で受ける切れ味か...」


魔力で強化された身体など、光の前には無力。

今受けた攻撃は確実に負傷につながる一撃であった。


魔王子(...クソ...両手の同化を無力化させることができなかったか)


この攻撃が女勇者のモノなら、勝敗は決まっていただろう。

光と相反する闇属性の魔力を持つ魔王子、どうしても光の質を向上させることはできずにいた。

炎帝の身体の魔力を一瞬だけ抑えられても、両手の強大な魔力を抑えることができずにいた。


炎帝「...質が低いといっても、光に油断すれば確実に負ける」


炎帝「だから...もうやめようね、"転移魔法"」シュンッ


魔王子「──いい加減その高速詠唱をやめろ」


眼の前に現れる炎帝、この構え方は間違いない。

魔法を織り交ぜた近接攻撃、格闘が繰り出されるだろう。

しかし魔王子はその意外な攻撃に気づけずにいた。


炎帝「──そこだね」


──ドゴォッ...!

燃える拳が魔王子の懐にぶち当たる。

それと同時に感じるのは、灼熱の痛み。


魔王子「ぐっ...ここにきて素手だと...っ!?」


炎帝「やだなぁ、昔は短刀と素手を合わせた体術をよくやってたじゃないか」パチンッ


──バコンッ!

左手で握りこぶしを作りながらも、器用に親指と人差し指で音を鳴らす。

すると足元に小規模な爆発が起こる、その勢いで魔王子の身体は持ち上がってしまう。



846: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:53:14.76ID:GhBtLxBr0


魔王子「────なっ...!?」


そして次に見えた光景、いつの間にか宙に存在する炎帝。

これが剣術なら兜割りと表現してもいいかもしれない。

両手を組みソレを振り下ろす、まるで鈍器のような一撃。


炎帝「...地帝のを真似てみたけど、どうかな?」スッ


──ドゴォォッッ!!

そして地面に叩きつけられた背中に、嫌な感覚が巡る。

熱い、熱い、熱い、ここにきて初めてモロに炎を浴びる。

先程の炎の絨毯が、いつの間にか再度展開していた。


魔王子「────ぐおおおおおおおおおおおおおッッッッ!?!?」


炎帝「あぁ、闇があればこんな苦しみはしなかったのにね」


女勇者「魔王子くんっっ!!」


炎帝「────しゃべるな、次はないよ」スッ


光の魔法を恐れてか、炎帝はかなり女勇者を警戒している。

そして突きつけたのは握りしめられた左手であった。

次になにかを行動すれば、開かれてしまうだろう。


女勇者(──っ...どうすれば...っ!?)


魔王子「──いい加減にしろ...ッッ!!」スッ


──□ッ...!

熱に悶ながらも、ユニコーンの魔剣を地面に突き刺す。

その光の一撃は簡単に炎を消化する、背中に走る激痛に耐えながらもフラフラと立ち上がった。


魔王子「...チッ、この衣装は気に入っていたんだがな」


炎帝「背中のほうが焦げだらけだね、次は全身も燃やしてあげるから違和感なんてすぐなくなるさ」


魔王子「...戯言を」


魔王子(さて...どうするか...女勇者の動きは封じられた)


魔王子(この魔剣で光を扱うことができても質が低い...両手に直撃させないと無力化はできないだろう)


魔王子(...かといって動き回るであろう炎帝相手に精密な剣気を放つことなど難しい)


詰まる戦況、不利な状況に頭を悩ませる。

素直に闇を使わせてくれれば、ここまで苦戦することはない。

なにか、別の手がなければ勝てない。



847: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:54:40.35ID:GhBtLxBr0


炎帝「──考え事なんてヤラせないよ」


魔王子「...ッ!」


今度は不意打ちなど喰らわない。

間合いを確認して、右ストレートを避ける。


魔王子「魔闘士の方が早いな」


炎帝「...魔闘士はここから炎を放てるのかな?」


──ゴゥッッ!!

避けた拳から、炎が溢れ出る。

直撃せずにいても、その温度に身体は拒否感を覚える。


魔王子「──そこだ」


──□ッッ...!

徐々に光への扱いに慣れ、精度を増していく剣気。

しかしその攻撃は無残にも避けられてしまう。


炎帝「...両手にソレを当てる気かい?」


魔王子「無論だ、ヤラねば負ける」


炎帝「とてもじゃないが、無理だと思うけど...」


魔王子「当たるのが怖いのか?」


炎帝「...なら当ててごらんよ」


お互いに煽りながらも攻撃を繰り出したり、避けたりを繰り返す。

しかしながら、直撃しなくても熱や爆風が魔王子を襲う。

どうみても炎帝が有利に事を進めていた。


魔王子「──ハァッ...ハァッ...」


魔王子(もう...少しだ...もう少しで...)


炎帝「疲労を隠せてないね、息も、剣の精度も落ちてるよ」


炎帝「...もうおしまいだね、闇も使わずにここまで粘れたものだよ」


気づけば数十分にも渡っていた。

光の剣風、炎帝の炎や爆、そして近距離の体術をずっと避けていた。

たまに直撃することもあったが、それでいても抜刀をやめることはなかった。

しかし、ついに体力は底をつき始めていた。



848: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:55:55.05ID:GhBtLxBr0


炎帝「さよならだ...闇の王子よ...」


──ゴォゥッ...!

右手の炎が展開する。

体力が少なくなり判断力が鈍ったのか、避ける動作ができずにいた。

気づけば周りは炎に包まれている、もう避けることは不可能であろう。


魔王子「────...ッッ!?」


──□□□ッ...! からんからんっ...!

いつも通りに剣気を放とうとした時。

疲労からか、握りしめていた拳が緩んでしまっていた。

抜刀と共にユニコーンの魔剣はすっぽ抜けてしまう。


炎帝「じゃあね...」


魔王子「...」


炎帝「こっちも...勝ったとは言えないね...君は闇を使わずにいたのだから」


炎帝「本当なら全力の君と全力で対峙したかった...でも魔王様の大事な日らしいから...」


炎帝「絶対に勝たないといけない...悪いね」


魔王子「...」


炎帝「...風帝によろしく」


────ゴォォォォォォォッッッッ!!

灼熱が魔王子を包み込む。

そのあっけない終わりに魔王子は思わず目を閉じる。

耳に残るのは不快な焼ける音、そして。


女勇者「...」


────□□□...

光の擬音に紛れたが、確かにあの言葉があの女から聞こえた。

しかし女勇者は口を動かしていない、それにこの光は彼女のモノではない。


炎帝「────馬鹿な、光魔法...いや違うッ!?」


女勇者「...刃物を渡すときは、投げちゃだめってお母さんに言われなかった?」


魔王子「...言われた記憶はある」


炎帝「────爆ぜろッッ!!」パッ


────バコンッ...!

1つの爆発音が聞こえた。

だがそれは1つではない、いくつもの爆発が同時に爆ぜた音だ。

一瞬で起きた連鎖爆発、生身なら人としての原型を保つことは不可能だろう。



849: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 21:57:26.37ID:GhBtLxBr0


女勇者「──□□□□□□□っっっっっ!!」スッ


──□□□□□□□□□□□□□□□□ッッッ!!

彼女の右手にあるのは、ユニコーンの魔剣。

それを目視できるモノはこの場にはいない、あまりの眩さに見ることはできない。

それがどのような意味を持つのか、彼女は天に魔剣を翳した。


魔王子「...見事だ、あの密度の爆発を一瞬で無力化させるか」


炎帝「グッ...魔王子...図ったね...?」


魔王子「フッ...疲れたのは事実だ、剣がすっぽ抜ける演技に拍車がかかっただろう?」


炎帝「油断した...まさかあの疲労困憊が陽動だったとは...」


炎帝「それに...気づいたときにはもう遅かった...光の魔力を持つ者が光の魔剣を持つとこうなるのか...」


よそ見したつもりはない、横目ながらも常に女勇者を目視していた。

だが今は魔剣が女勇者の光魔法の性能を向上させている、通常の展開速度を上回っている。

魔剣が飛んで、拾って、光を放つこの出来事はわずか1秒の間、炎帝が手を開く速度よりも早い。


炎帝「────うッ...近すぎる...!?」フラッ


炎帝(まずい...これでは高熱で光への対策をすることすらできない...)


魔王子「眩し...すぎる...な...」フラッ


炎帝(まずい...もう逃げに入る以前に...ここまで高質な光を浴びてしまったら...)


身体に感じる倦怠感。

両手の炎たちが消火されている、明らかに光に侵されている。

この光が止まなければ、魔法を唱えることなどできない。


炎帝「────負けたくないよぉ...」


何歳をも歳を重ねたとはいえ、見た目は美少年。

その見た目らしい弱音が垣間見える。

光の眩しさ故に、心の底からの本音が漏れる。


女勇者「────□□□...っ!」


女勇者(凄い...ここまでの光を出したのは初めてかも...魔剣のおかげだ)


女勇者(それよりも...早く炎帝に属性付与を唱えなきゃ...っ!)


所詮は一時的に炎帝の動きを封じているだけであった。

これを中断してしまえば光は失せ、炎帝の身体に魔力が戻るだろう。

だが属性付与なら中断をしてしまう懸念がない、風帝の時のように拘束をするなら拘束魔法よりも遥かに性能がいい。



850: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:00:34.80ID:GhBtLxBr0


女勇者(もう少し近寄らないと...)


属性付与を纏わせるにあたっての有効範囲。

女勇者の場合は、手を伸ばせば触れれる程度の距離にいないと掛けることができない。

そのために足を歩ませたその時だった。


女勇者「────うっ...!?」


──ズキンッ...!

身体のあちこちから生まれる、危険信号。

折れた骨が悲鳴をあげた痛みだった。

その激痛は、女勇者の集中を中断させるのには十分であった。


炎帝「────ッ!」ピクッ


魔法で一番、難しいと言われるのは魔法の持続。

それは魔剣でも同じことが言えるだろう。

その隙を逃す男ではなかった、懐から取り出したのは瓶。


魔王子「────魔法薬かッ!?」


────ゴクリッ!

この世界では市販されている薬を飲む、すると急速に身体に魔力が満ちる。

自然回復など待ってはいられない、今すぐに膨大な魔力が欲しかった。


女勇者「"属性付────」


そして焦ったのか、彼女は間違えてしまう。

単純な詠唱速度なら、通常の光魔法のほうが早いというのに。

もし属性付与ではなく、上記のモノを唱えていたのなら状況は変わっていたかもしれない。


炎帝「────"炎魔法"」


────ゴォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!

この一撃は、この日最も熱いモノであった。

その灼熱の紅は自らの身をも焦がす火力であった。

負けたくない、その感情が魔法を強くする。


女勇者「──与"、"光"っっっ!!」


纏わせようとした炎帝に近寄ることはもう不可能であった。

ならば途中まで唱えたこの魔法を、自らに纏わせる。

魔法の炎からは身を守れる、だがこの地獄のような高温は防ぎようがなかった。



851: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:02:06.34ID:GhBtLxBr0


女勇者「ま...うじ...く....っ!」


魔王子「────これだから人間は...」ダッ


人間の柔な身体の作りとは違う。

光が消えた影響で徐々に魔力が蘇る、僅かな魔力でも彼は炎の中を駆け抜けていく。

身体が熱い、息苦しい、目が痛い、それでも歩けるのが魔物という生き物。


魔王子「肩に掴まれ...炎帝は今暴走状態に近い、危険な状況だが退避するのには余裕を持って動ける」


女勇者「う...ごめ...光...途絶え...」ポロポロ


煙のせいなのか、自分の過ちのせいなのか。

目から涙が止まらない、危機的な状況を作ってしまった自分が情けなく感じていた。

謝罪の言葉を、途切れ途切れでも言わなくてはならなかった。


魔王子「泣くな...俺も先程、まともに骨折の痛みを味わった...痛みで動きが制限される気持ちがよくわかる」


魔王子「...それよりも息をするな、口や鼻に布を当てろ」


女勇者「げほっ...うぅ...」


魔王子「...えぇい面倒だ、とにかく俺に掴まれッ!」ガバッ


彼女の顔を抱き寄せ、無理やり持ち上げて走り出す

これにより呼吸は魔王子の服越しに、身体を持ち上げられた為に歩行をする必要はなくなる。

身体に感じる人間の女の柔らかさ、それを理由に納得できることがあった。


魔王子(...軽い)


その一言、どれだけの意味が込められていたのだろうか。

属性付与を纏った女勇者を抱きかかえているからか、自分の身体の重さが実感できてしまう。

感慨深い何かを得ながらも、危険区域からの離脱に成功する。


魔王子「...炎帝の奴、どうするつもりだ?」


まるで焚き火を眺めているかの光景であった。

こちらへの敵意を全く感じられないその大豪炎はあっけなく魔王子たちを見逃す。

本当に暴走しているだけなのか、理解のできない現状に頭を悩ましていた。


女勇者「げほっ...げほっ...も、もう...大丈夫だょ...」


魔王子「...あぁ、時間に余裕のある今のうちに治癒魔法でも唱えてろ」


女勇者「う、うん...あ、これ...返すね?」


魔王子「...?」


どうも歯切れが悪いような、どこかに異常があるのか。

するとある1つの変異に気づけた、彼女のことではなく手渡してきた魔剣だった。



852: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:03:37.44ID:GhBtLxBr0


魔王子「...その魔剣、今は光っていないのか」


女勇者「"治癒魔法"...うん、なんか...ムラがあるというか」ポワッ


女勇者「今も魔力をこの剣に与えてたはずなんだけど...」


魔王子が炎帝の両手を狙った時、剣気を出せば必ず光ってくれていた。

先程は光魔法を展開する際に、力を助長してくれた。

だが今は、ただの剣のような見た目に成り下がっている。


女勇者「...常時、この魔剣の光を使うのは無理かもしれない」


女勇者「どこか...信用されていないような...そんな雰囲気を感じるよ」


魔王子「...とんだジャジャ馬だな」


女勇者「それよりも...ここからどうすれば」


炎帝が次々と生み出す炎がこの部屋を温めている。

すでに汗が止まらないまでの高温と化している、しばらくすれば人を殺す温度へと変化するだろう。


魔王子「...今なら炎帝はこちらを警戒する余裕はないみたいだな」


魔王子「ならば、もう一度闇を纏う────」


作戦内容を決定した矢先、声が遮られる。

その当人の声はいつもとは違う、どこか熱い声色であった。

炎の中から炎帝が話しかけてきた。


炎帝「──来なよ、闇を纏って」


魔王子「...なに?」


炎帝「たとえ、対策をしたとしても...たとえ距離を伺っても...」


炎帝「光や闇に...炎や爆が勝てるわけがなかったんだよね...」


魔王子「...随分と弱気になったな」


炎帝「仕方ないさ...元々僕は...魔王様の闇に怖れて...傘下に加わったじゃないか」


炎帝「それを...あの光を浴びて思い出したよ...」


上位属性の魔法、属性は違えど彼のトラウマを思い出させるのには十分であった。

しかしこの言葉は諦めの意味ではなかった、むしろその逆、ただただ熱い意味が込められていた。



853: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:04:56.88ID:GhBtLxBr0


炎帝「あの時、自分の力を過信し...無謀にも魔王軍に歯向かった...」


炎帝「風帝や地帝とあったのはアレが初めてだったね...彼らには勝てた」


炎帝「だが...大将であった...魔王様は違った...」


炎帝「炎じゃ...炎じゃ闇には勝てなかったよ...」


魔王子「...そうか、そういえばそうだったな」


炎帝「...闇に破れ殺される寸前、僕は情けなくも命乞いをした」


炎帝「まだ死にたくない...と、普通の戦場なら有無を言わさずに殺されていただろうね」


炎帝「だけど魔王様は違った...情けをくださった...」


炎帝「そこから僕は...魔王軍として生きることにした...」


炎帝「部下になれば...あの闇の矛先を向けられることはないと...そう考えた...」


炎帝「でも、魔王軍の一員になっても...植え付けられたあの闇の恐怖は払うことができなかった」


炎帝「どうしても...闇が怖い...その感情を隠しながら過ごすしかなかった」


炎帝「だが...時間とは最高の麻酔だったね...数年もすればその恐怖を徐々に消えていった」


炎帝「同期であった水帝と会話をしたり...上司になる風帝や地帝と打ち解ければ...安らいだ」


炎帝「...気づけば、恐怖の根源であった魔王様から...この地位を平然ともらえる程に忘れていた」


炎帝「そして...今、思い出した」


どこからか燃える音が聞こえる。

炎帝の出した炎魔法によるものではなかった。

彼の瞳が、紅くなる。


炎帝「どうしてかな...闇は怖いというはずなのに」


魔王子「...」


炎帝「...思い出したのは、恐怖だけじゃないみたいだね」


魔王子「...望み通りにしてやる」


炎帝「あぁ、頼むよ...遥か昔の...無謀だった僕のことまで思い出したみたいだね」


力に溺れ、自分の力を過信した彼。

光が思い出させたのは、彼の闇への挑戦。

燃えたぎる炎が色濃く染まる。



854: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:06:15.00ID:GhBtLxBr0


魔王子「...俺も過去に、無謀にも炎属性で挑んできた馬鹿がいた」


炎帝「へぇ...どんな子だろうね..."ドラゴン"かい?」


魔王子「冗談はよせ、笑ってしまう」


──■■■■■...ッ!

──ゴオオオオオオォォォォォォォォウッッッ!

方や剣に、方や両手に魔法が唱えられた。

属性付与でも、属性同化でもないただの魔法。


女勇者「...どうして、今になって真正面から?」


炎帝「...負けたくないからさ」


女勇者「え...?」


炎帝「今まで、僕と魔王子は全力を出せていなかったからね」


炎帝「魔王子が本気で闇を纏っている時、僕は逃げつつ隙を伺っていた...」


炎帝「だけど...これじゃとてもじゃないが僕の全力とはいえない」


炎帝「その一方で、魔王子が闇を纏っていない時...僕は全力だったけど彼はそうじゃない」


炎帝「...一度も、全力の炎と全力の闇が対峙していないんだ」


女勇者「でも────」


彼女が至極当然のことを言おうとした時、彼が言葉を遮った。

上位属性、下位属性の相性の話など、無粋なことを言わせなかった。

闇をまとった暗黒の王子が言葉を放つ。


魔王子「お前は先に行ってろ、下の階へ向かいキャプテンたちと合流しろ」


女勇者「...わかった」


魔王子「他の四帝も動いているはずだ、頼むぞ」


女勇者「わかったってば...」


闇と炎を尻目に、光を纏ながらも部屋の出口へと向かう。

すると、燃える男が声をかけてきた。


炎帝「...ありがとうね」


女勇者「...よくわかんないけど、僕は邪魔みたいだから」


炎帝「そうじゃないよ」


女勇者「へ...?」



855: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:07:34.14ID:GhBtLxBr0


炎帝「君がいなければ、魔王子をつまらない殺し方をしてたと思う」


炎帝「ただ遠距離から、闇の合間を狙って爆殺するだけの...本当につまらない勝利しかできなかったよ」


女勇者「...」


そんなことができるのであろうか。

魔王子の闇、確かに隙間があるのは彼女にもわかっていた。

しかしその隙はたとえ隊長の現代兵器を用いても、精密射撃することは不可能。

彼の闇は、本当に小さな小さな弱点しかないのであった。


女勇者「僕も...そう思った...ここに残った理由がソレだったかも」


炎帝「彼の闇は...魔王様のと比べるとかなり劣るよ...気をつけてね」


女勇者「うん...わかった...じゃあ────」


またね。

一番初めによぎった言葉はソレだった。

しかし彼女には、もう二度と炎帝と遭遇しないという強い確信があった。


女勇者「...さようなら」


炎帝「...あぁ、さようなら」


光の勇者と、炎の帝が言葉を交わす。

炎帝は彼女の背中を最後まで追った、視界から消えるまで。

そして感じるのは、闇の気配。


魔王子「...」


炎帝「...じゃあやろうか」


魔王子「当然全力だ、一撃で葬ってやる」


炎帝「僕も...一撃で灰にしてあげるよ」


お互いの気配の色が変化する、黒と真紅に。

魔法によって彩られたその殺気は、ついに放たれる。


炎帝「────いくよおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」


魔王子「──死ね■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!」


一撃の剣気、それは今まで放ってきたモノよりもドス黒い。

一撃の放射、それは今まで放ってきたモノよりも深く紅い。


~~~~



856: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:09:46.82ID:GhBtLxBr0


~~~~


女勇者「...」


部屋から出ると、その温度差に身体が不調を申し出る。

身体中に汗をかいていた影響か、とても冷える。


女勇者「困った...道がわからないや...」


女勇者「女騎士も...ウルフって子も、無事に行けたのかな...」


女勇者「...どうしよう」


道がわからない、ならば無闇矢鱈に進むしかない。

そして歩きながらも先程の闘いを思い返す。


女勇者(あそこで...あそこで炎帝が逃げに入ってたら...)


女勇者(僕たちは負けていたんだろうか...)


女勇者(...確実に負けていたね)


女勇者(たぶん向こうが...理を徹してずっと、逃げながら闘っていたら...)


女勇者(絶対に勝ててなかった...)


女勇者(さっきの闘いは...炎帝が────)ピタッ


己の非力さを嘆く。

そうこうしている間にも、ある地点を発見する。

階段ではなかった、そこにあったのは重厚なる扉。


女勇者「これは...」


説明してもらわなくてもわかる。

その扉越しに感じる、その圧倒的な魔力。

感知ができなくても、誰が放っているのか明白だった。


女勇者「...魔王がこの上に」


それは5階へと続く最後の扉であった。

歴代の勇者はこの階段を登っていた、ならば自分も登らなければならない。


女勇者「でも...勝てるのかな」


先程の闘い、炎帝が真正面からの勝負を受けなければ。

はたまた魔王子の挑発に乗らなければ負けていた。

実力での勝利をもぎ取ることができなかった、そのような者が魔物の頂点と闘って勝てるのだろうか。


女勇者「...今度ばかりは、真正面から来てくれないかもしれない」


女勇者「とてつもない戦略が、僕たちを一切近寄らせてくれなかったら...」



857: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:10:24.79ID:GhBtLxBr0











「...負けることを考えているのか?」












858: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:11:57.46ID:GhBtLxBr0


女勇者「...早かったね」


魔王子「あぁ...早くトドメを刺さなければヤラれていた」


魔王子「それほどに、密度の濃い炎だった...闇で破壊する速度が一瞬追いつけなかった」


魔王子「丸焼きになるところだった...」


女勇者「...すごいね、魔王子くんは」


魔王子「...何がだ?」


女勇者「僕は...弱いよ...光を使わなければ誰にも勝てない気がしてきた」


女勇者「剣術は魔王子くんに劣る...女騎士が出してくれる戦術もたまに理解できない時もある」


女勇者「...自分の愚かさが憎いよ」


魔王子「...ほざけ、その光には何度も助けられ、そして何度も喘がされた」


魔王子「光を自在に操れるだけ、誇れるだろう」


女勇者「その光が、現に炎帝に対策されていたじゃないか」


女勇者「きっと...魔王も対策しているに決まっている...僕は絶対に誰かの足を引っ張るよ」


魔王子「なら...今からでも田舎へ帰るのか?」


彼は覚えていた、女勇者がただの田舎娘であったことを。

自身を失った彼女に投げかけれる言葉はこれしかなかった。

数秒間の沈黙後、女勇者は言葉をひねり出す。


女勇者「そんなこと...できないよ」


女勇者「炎帝は"気をつけてね"と...敵であるはずの僕に言ってくれたよ」


女勇者「それだけじゃない...風帝や、いままで道中で倒してきた魔物たち...」


女勇者「いまここで帰ってしまったら...彼らの立場がなくなってしまうよ」


魔王子「...」


これが彼女の本心であった、慈愛にも似たこの優しさこそが女勇者であった。

どうしても人間側の平和を掴み取りたい、そのために邪魔をする魔物たちを退けてきた。

しかしそれでいて、その者たちへの立場を大切にしていた。



859: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:13:40.80ID:GhBtLxBr0


魔王子「...なら、前に進むしかない」


魔王子「俺も...殺した風帝や炎帝の死を無駄にはしたくない」


魔王子「彼らは...俺の野望のために散らした...」


魔王子「だからこそ...俺は魔王を絶対に殺さねばならぬ...」


自身の願いを叶えるために、殺さなければならない場面が多々あった。

だからこそ絶対に叶えなければならない、ここで諦めれば、ここで負ければ彼らの死は無駄になるから。

魔王子の道に立ちはだかる者は誰であろうと斬り伏せる、それがたとえ同胞でも、彼の覚悟は並のものではなかった。


魔王子「...」ピクッ


──カツカツカツ...!

そして聞こえてくるのは、歩くときに鳴る靴の音。

その音は鉄を彷彿とさせる硬いモノであった。

誰が鳴らしているのか、誰たちが鳴らしているのかはすぐにわかった。


女勇者「──女騎士...それにみんなも...」


女騎士「あぁ...無事でなりよりだ、女勇者」


魔女「...みんなボロボロね」


女賢者「...」


ウルフ「...」


隊長「...この様子だと、炎帝に勝利したようだな」


魔王子「...驚いたな、ほかの四帝はどうした?」


隊長「地帝はウルフと女騎士が、水帝はスライムと女賢者が倒した」


魔王子「...そうか、"ほぼ"無事だったようだな」


隊長「あぁ..."ほぼ"な」


女勇者「......"あの子"は?」


隊長「...駄目だった」


言葉を選んだ魔王子に比べ、彼女は選ばなかった。

不躾なわけではない、ただ純粋な彼女の心がそう訪ねた。

死者は弔わなければならないからだ。



860: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:16:09.18ID:GhBtLxBr0


女勇者「...辛くないの?」


隊長「辛いさ...だけど、泣くのは後だ」


隊長「スライムは...平和を勝ち取ってからの世界で弔う」


女勇者「...そっか、そうだよね」


魔王子「...」


どこかしんみりとした空気感、その中で逸脱する沈黙を放つのは魔王子であった。

その表情は知人の弔い、そのようなモノではなかった。

もっと、知人よりも先にある関係。


魔王子「...正直に言うぞ」


隊長「...なんだ?」


魔王子「俺はこの魔王城での闘い、四帝を各個撃破しなければ絶対に死者がでると思っていた」


魔王子「現に1名出てしまったがな...あのスライム族の娘とは面識はないが、どこか悲しいモノだ」


魔王子「...」


──ピリッ...!

怒りとも呼べない、悲しみとも呼べない、喜びとも呼べない。

表現できない感情が彼を襲う、空気はかなり緊張したモノへと変貌する。


魔王子「...たった、1名か」


魔王子「俺や女勇者と分断された者たちが、四帝と闘って...犠牲者は"たった"1名なのか」


女賢者「...なにが言いたいんですか?」


スライムの死を、どこか馬鹿にされている。

そのような思い込みが故に、女賢者は口調を強くした。

その一方で、隊長たちは黙り込むことしかできなかった。


魔王子「...わからない、死者を丁重に扱うことすらもできない」


魔王子「俺の中の感情が...おかしくなりそうだ...いや、もうおかしいのか...」


隊長「俺も...魔女も...ウルフも女賢者も...気持ちを整理して今ここにようやく立っている」


隊長「落ち着け、不用意な発言は控えてくれ...頼む」


魔王子「そうか...そうだな...すまなかった...」


女勇者「...」


魔王子が混乱する理由、それは自身の記憶にあった。

今は敵となってしまったが四帝は同胞でもある、よってその強さを十分に熟知しているはずだった。

それなのに、自分の手を下さずに彼らは負けてしまっていたのである。



861: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:18:04.74ID:GhBtLxBr0


魔王子「...今は迷っている場合ではない」


魔王子「進むぞ...この上に」


隊長「あぁ、わかっている」


女勇者「...うん」


神妙な面持ち、各々の派閥の主が先陣を切る、この重厚なる扉をあけるとそこにあったのは暗黒の階段。

まるでこの世のすべての闇を凝縮したかのような感覚が足を襲う。

だがそんなプラシーボなど、彼らには通用しなかった。


女騎士「...いよいよだな」


女勇者「そうだね...」


人間の平和のために、駆り出された田舎娘。

そして王に命令され護衛する騎士。


魔女「帽子、スライム...もう少しだからね...そしてお姉ちゃん、もうすぐ帰るからね...」


女賢者「そうですね、負けられません...スライムちゃんの為にも」


ウルフ「...まだ、がんばらなくちゃね」


隊長「...」


違う世界の男に魅入られここまで付いてきた魔物の女。

そして、その男の親友である男の意志を継ごうとする賢き女。

さらに、親友の男に惚れた亡き魔物の意思を思い返す獣、最後に、無言で階段を登る男。


魔王子「...」


彼もまた、無言であった。

なにを思っているのか、先程の四帝のことだろうか。

それとも、万の兵を相手に足止めをしている竜と武人のことだろうか。


魔王子「...ついたな」


女勇者「うん、扉の向こうからとてつもない気配がするよ」


隊長「...悪いが、すぐに殺すなよ? 尋問が待っているからな」


魔王子「...フッ、いまから魔王を相手にする人間の言葉とは思えんな」


魔女「仕方ないじゃない、魔王が世界を跨ぐ魔法を使えるかもしれないんだから」


魔女「そうでもしないと、キャプテンはもとの世界に────」


──ずきんっ...!

胸が痛む、なぜだろうか、先程の仲間の死で思考が麻痺していたのだろうか。

もう魔王との闘いは迫っている、勝敗はどうであれ隊長はあることをしなくてはならない。



862: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:21:53.31ID:GhBtLxBr0


魔女「...」


ウルフ「魔女...ちゃん?」


とても悲しい表情を見られてしまった。

一瞬だけみせたその顔を、よりにもよってウルフに見られてしまう。

白い毛並みを魔女に擦り寄せてくるその感覚は、とても優しいモノであった。


魔王子「...準備はいいか?」


女勇者「もちろんさ」


女騎士「...どんな激戦が待っているか」


隊長「あぁ...いつでもいいぞ」


魔女「...うん」


ウルフ「がう...」


女賢者「恐いです...けど、やるしかありませんね」


7人がそれぞれ反応を示す。

誰も扉を開けることを拒否していない。

そのことを確認し、魔王子がついに手を動かす。


???「...たどり着いてしまったか、息子よ」


────ガチャン■■■...ッ!

扉の闇の音と共に聞こえたのは、実の父の声。

とても耳障りな邪悪な声色、そこにいるのは間違いない。


魔王子「...魔王」


────■■■■■...ッッ!!

ただ、そこに存在しているだけだというのに。

気味の悪い闇の音が響いている、そしてその中心にいるのは当然この王であった。


魔王「...随分と愉快な仲間を連れているな」


魔王子「黙れ...不快な声を俺に聴かせるな...」


女勇者「あれが...魔王...」


その見た目は、魔王子と瓜二つの美男がそこにいた。

とても歳を召した者とは思えない若々しさであった。

だがそれがかえって不気味さを生み出していた。



863: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:23:09.75ID:GhBtLxBr0


魔王「これは驚いた...魔物を2人しか引き連れていないのか...」


魔王「あとの4人は人間か...よく生き残れてきたな」


魔王子「...ほざけ、ずっと感知していたのだろうが」


魔王子「その小芝居をやめろ...見え見えのヤラセは反吐がでる」


魔王「...なら、こうすればいいか?」


────■■■■■■■■■■ッッッ!!!

玉座に君臨する魔王の背後から放たれた闇の風。

そよ風のような心地よさを誇るソレは7人の精神を蝕む。

それほどに凶悪な一撃であった。


女勇者「──"光魔法"」


女賢者「──"防御魔法"」


この者2人の魔法がなければ魔王子を除いて全滅していただろう。

光が闇のほとんどを飲み込み、ほんの僅かに光を通過した闇を防御魔法が申し訳程度に護る。

闇を前にその防御はすぐに破壊されてしまった、だが身代わりとしては十分であった。


魔王「...やるな、勇者もそうだが...魔王子と一緒にいるだけはある」


女賢者「...褒め言葉として受け取ります」


女勇者「危ないなぁ...」


隊長「...2人とも、助かったぞ」


魔女「私も...もう少し早口の練習したほうがよさげね」


女騎士「それよりもどうする、今のが魔王の本気だとは到底思えない」


女賢者「あんな適当な詠唱でこの威力ですか...」


まるで小言のように適当な口の動かし方で、絶大の威力を誇る闇。

すでに戦力差が見え透いていた、だがここで折れる訳にはいかない。

各々がいざ奮起をしようとした瞬間、魔王がそれを遮った。


魔王「...悪いが、少し待ってくれないか?」


魔王子「...寝言か?」


魔王「いや、ほんの数分でいい...待て」


──ピリッ...!

空気が凍る、そのあまりの圧に思わず萎縮してしまう。

しかしそれでも魔王子と女勇者、隊長の目は鋭いままであった。

多大な緊張感を醸し出す大広間、そしてその奥の扉からある2人が現れた。



864: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:25:05.19ID:GhBtLxBr0


魔王子「側近...そして...母様...ッ!?」


側近「...ご無沙汰しております、魔王子様」


魔王妃「坊や...きてしまったのね...」


女騎士「...あれが、魔王夫妻というわけか」


女勇者「魔王子くんの...お母さん...?」


魔女「...側近ねぇ」


側近、いままで間接的に聞いたことのある人物であった。

あの時、暗躍者が魔力薬を飲む前に叫んだあの言葉。

魔女の耳にはそれが残っていた。


魔女「たぶんあの人よ、追跡者とかが飲んだ魔力薬を作った人は...」


女賢者「...みたいですね、あの時に近い魔力を感じます」


隊長「...なるほどな」


ウルフ「うぅ...怖い...」


帽子派の皆が過去の記憶を振り返っている間にも会話が進む。

話の主は魔王と魔王妃、そしてその息子の魔王子である。

側近はただ沈黙を貫く。


魔王「...さて、始めようとするか」


側近「承知いたしました」


そう言うと、側近は奥の扉へと戻っていってしまった。

なにかを準備するためだろうか、そして演説が始まる、魔王による言葉巧みな演説が。


魔王「...時に、諸君はこの世とは違う世界の存在を信じるか?」


まるでその言葉は、冗談を言っているようなモノだった。

どこか笑いが含まれているような、誰もが真に受けることはないだろう。

だがこの場にいる1人を除く6名はその発言に衝撃を受ける。


女騎士「...なんだと?」


女賢者「やっぱり...」


隊長「......」


言葉を漏らせたのはこの2人、あとの4人は沈黙することしかできなかった。

その一方で、完全に話に置いてかれてしまった女勇者。

彼女のみが魔王に質問をした。



865: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:26:17.38ID:GhBtLxBr0


女勇者「...どういうこと?」


魔王「よく耳にするだろう? 例えば死者の国...天国」


魔王「そんなモノがあると思うか?」


女勇者「...わかりっこないさ、僕はまだ死んでいないんだから」


魔王「それもそうだな...では実際に見てもらうか」


女勇者「...やる気?」


魔王「いや、この世の者ではない人物を連れてくる」


────ピクッ...!

その言葉を聞いて、眉が思わず動いてしまう。

この世の者ではない彼が、もうここにいる。


隊長「...」


魔女「なに...どういうこと?」


女賢者「キャプテンさんのことでしょうか...いや、話の感じとしては違うみたいですね」


ウルフ「...」


全くもって話が見えない。

ならば見守るしかない、魔王が連れてくるであろう人物を。

別の意味で緊迫した空気の中、先程の側近が大きな荷物をもって現れた。


側近「お連れ致しました」


魔王「ご苦労、では早速頼んだ」


側近「はい...後の事はよろしくお願いします」


魔王「...あぁ、この魔王に任せろ」


魔王妃「...しますよ?」


側近「えぇ、光栄です」


すると、大きな荷物に向かって詠唱を始める魔王妻。

そして側近はソレに手を触れさせている。

なにをしているのか全く理解できない現状。


魔王子「...いつまで待てばいい」


魔王「もう終わる、それよりも先程の話に戻そう」


女勇者「違う世界の人物だっけ...? どこにいるのさ」



866: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:27:19.19ID:GhBtLxBr0


魔女「後ろに居るわよ...」


女勇者「へ...?」


魔女「ごめんなんでもない、続けて」


魔王「...」


魔女がしびれを切らし、女勇者に思わず突っ込んでしまっていた。

その間に、魔王の視線はある男へと向けていた。

もうすでに気づかれている、彼しかない。


隊長「...なぜ俺を見ている」


魔王「いや...もしかして、貴様もか?」


隊長「そうだと言ったらどうなる」


魔王「どうにもならん、これ以上研究者のような人間の相手をするのは懲り懲りだ」


その偽名を聞いてもなお、腸煮えくり返る感覚が襲う。

もう既に間接的とはいえこの手で殺したというのに。

だがこれで明らかとなった、小声で皆にそれを伝える。


隊長「魔王が言っている、違う世界のことは...どうやら俺が元々いた世界のことみたいだな」


魔女「やっぱり...ってことはあれは転世魔法をやろうとしているってこと?」


女賢者「その可能性は大いにありますね...」


女騎士「...問題なのはその転世魔法とやらを誰が受けるかだな、あの様子だと側近みたいだが」


女騎士「側近がキャプテンの世界に向かったのなら...そっちの世界は大変なことになるぞ」


隊長「あぁ...そうだな」


魔王子「...ならば転世魔法が展開したのなら、そこに向かって走れ」


魔王子「あくまで仮説に過ぎないが...転地魔法と同じならその魔法の範囲内にいれば恩恵を受けれるはずだ」


隊長「...だが、それでは」


だがそれでは誰が帽子の願いを果たすのか。

他の誰でもない、彼がやらなければならない。

この場で自分1人だけ故郷に帰ることなどできるはずがない。



867: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:29:21.20ID:GhBtLxBr0


魔王子「...気持ちはわかる、友人の願いか、故郷を選ぶか...究極だな」


魔王子「だが...いま、彼の剣を誰が持っていると思うか?」


彼にしては意外な言葉であった。

魔王子の握る豪華な装飾のある、細い剣。

それを魅せられては、隊長は言いくるめられるしかなかった。


魔王子「この帽子とやらの忘れ形見、そしてその男の野望...」


魔王子「それは魔王を倒し、平和を掴みとること...それも人間と魔物の和平という意味でだ」


魔王子「...お前はこの俺に、この剣を託したのだろう?」


隊長「...あぁ、その通りだ」


隊長「目的はどうであれ、絶対的な力を持つお前になら...」


隊長「どこか、微かに帽子の理念に近いモノを持っていたお前に託した」


魔王子「...ならば、少しは信用して貰おうか」


信頼ではなく、信用という言葉を使う。

この場面において最も重要なのは、感情論ではない。

客観的な意見、魔王子の力なら魔王を討つことができるという第三者の視点であった。


魔王子「...俺がこの手で、必ず魔王を殺す」


魔王子「だから...キャプテン、貴様だけにしか出来ないことをしろ」


魔王子「悪いが、俺は地理には疎くてな...別世界に行ったら数年は散歩を費やすだろうな」


隊長「...お前は意外と、Jokeを言う奴だったな」


魔王子「じょーく?」


隊長「俺の世界の言葉で、冗談という意味だ」


女賢者「大丈夫ですよ、私がしっかりと...キャプテンさんの目の代わりとして...」


女賢者「平和になったこの世界を見据えますから...だからもし、転世魔法が発動したら行ってください」


隊長「女賢者...ありがとう」


女騎士「唐突だな...まさか魔王との戦いを前に別れの挨拶をするとは」


女騎士「...キャプテン、お前がいなければ今も私は囚われていたかもしれない」


女騎士「ありがとう...そして、元気でな?」


隊長「あぁ...」



868: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:30:43.85ID:GhBtLxBr0


女勇者「よくわかんないけど...お別れなんだね?」


女勇者「あんまり面識はないけれど...女騎士がすごくお世話になったみたいだね」


女勇者「また、どこかでね? 今度はゆっくりと君のことを聴かせてね?」


隊長「もちろんだ、その時は酒でも飲もう」


そして残るは2人、この世界で帽子と同じ位に大事な彼女ら。

唇を噛み締めてこちらを見ようとしない魔女、ソレに寄り添うウルフ。

別れの言葉は、彼から始めないと無理であった。


隊長「魔女...ウルフ...」


魔女「...突然すぎるよ」


ウルフ「...ご主人、いっちゃうの?」


隊長「あぁ...もしこの魔法が転世魔法なら、行く」


隊長「この世界も大事だが...俺の世界も大事だからな」


隊長「帽子の願いは...魔王子たちに頼むしかない...」


魔女「...私も帽子の願いとお姉ちゃんの村を天秤に掛けられたら、迷う」


魔女「でも...前者は魔王子たちが代わりに遂げてくれる...なら私は間違いなく後者を選ぶ」


隊長「あぁ...」


魔女「...また、会えるわよね?」


隊長「会えるさ...一度会えたのだから...な?」


魔女「...なにそれ、あなたらしくないわね」


隊長「だろうな...それほどに、俺も魔女との別れが厳しい」


魔女「...待っててね? 絶対私も、転世魔法を使えるようになるから」


隊長「あぁ、いつまでも...ずっと待っているぞ」


ウルフ「...がう」


その者たちの顔はとても悲しいモノであった。

しかしそれでいて、その目つきはとても希望的な色をしていた。

また会える、そう信じてやまない彼らのプラシーボが別れを麻痺させる。



869: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:31:55.53ID:GhBtLxBr0


魔王妃「────これで、いつでもいけますよ?」


魔王「ほう...ついに、念願が...」


女勇者「...どうやら準備が整ったみたいだな」


魔王子「...もう待たなくていいのか?」


魔王「あぁそうだ、この話で最後だ」


ついに状況が動く、先程まで唱えていた魔法がなにか判明する。

読み通りの転世魔法なのか、はたまた別の魔法なのか。

だがそれよりも1つ、気になるものがまだ残っている。


魔王「さて...単刀直入に言おう」


魔王「これより魔王軍...その先陣として我妻を選んだ」


魔王「侵攻する場所は...人間界ではなく別だ」


魔王子「...どこだ?」


魔王「..."異世界"だ」


隊長(...やはり、か)


アサルトライフルを握りしめる。

いつでも走ることができるように身体を準備させる。

あとは魔王の妻が唱えていた魔法が、どこに展開するのかを見定めなければならない。


隊長(どこだ...どこにくる...)


魔王子「...なんのために、世界を跨ぐつもりだ?」


魔王「それは言わん、作戦内容を敵に漏らすと思うか?」


魔王子「...チッ」


魔王「ところで...先程、別世界の人物を連れてくると言ったな」


女勇者「...そういえば嘘をつかれてたね、どこに連れてきていないじゃないか」


魔王「本当に、そう思うか?」


────ピクッ!

この擬音は、あらゆる方向から聞こえた。

1つは隊長が何かに気がついた時の音、1つは嘘をつかれていなかったことに反応した音。

そして最後の1つ、それは側近が持ってきた大きな荷物。



870: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:32:43.03ID:GhBtLxBr0


女騎士「...今、動かなかったか?」


その大きな荷物は、表現するならばとても丸い物体であった。

しかしソレをよく見てみると、薄い橙色をしている。

さらによく見てみると、目が合う。


隊長「────コイツは...ッ!?」


女賢者「うっ...これ...人じゃないですかっ!?」


魔女「えっ...!?」


四肢をもがれて、肥えさせられた。

そのような表現でしか形容できない人物がそこにいた。

だがそれだけれはない、隊長が驚愕したのは別の理由があった。


魔王「...まさかそこの男、顔見知りか?」


隊長「コイツは...俺と一緒に吹き飛ばされた奴じゃないかッ!?」


どんなに風貌が変わろうと、決してその面持ちを忘れることはない。

犯罪者は逃走するために整形すらする、それを逃さないように訓練させられた記憶力。

その記憶力が、彼だった者の身元を判明させる。


魔王子「...どういうことだ?」


隊長「...説明を端折るぞ、俺は向こうの世界で爆発に巻き込まれ、意識が飛んでいる間にこの世界に居た」


隊長「だが...巻き込まれたのは俺の他にもう1人いた...それが奴だ」


隊長「まさか...まさかコイツも一緒にこの世界に来ていたのか...盲点だったぞ...」


魔王「何たる偶然だな、だが話はこれでおしまいだ」


足早と話を遮る、この話題の振りは魔王当人であるというのに。

だが魔王子たち及び、特に隊長は先程の出来事に動揺を隠せずにいた。

つまりは完全に不意をつかれている。



871: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:33:17.42ID:GhBtLxBr0











「────"転世魔法"」












872: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:36:04.46ID:GhBtLxBr0


魔王妃が魔法を唱えた時、ある不可思議な現象が起きていた。

魔法の展開場所は側近と異世界の犯罪者、彼ら2人が消えた代わりにそこには何かが展開していた。

認識的には見えているというのに、どう目を凝らしても不可視であった。


女賢者「────キャプテンさんっ! 早く行ってっっ!!」


女騎士「魔王妃もいないぞっ! 急げっっ!!」


隊長「────ッッ!」


偶然の再開を強いられれば、誰もが足を止めるであろう。

いくら特殊部隊での過酷な訓練を終えて来た彼でも、それは変わりなかった。

完全に出遅れてしまった、おそらくもう魔王妃たちは異世界へと旅立った。


隊長「──クソッ!」ダッ


魔王「────行かせると思うか?」


────■■■■...ッッッ!

見間違えではなければ、魔王は翼を生やしてこちらに接近してきていた。

邪悪な黒の魔法を纏いながら、走り出す隊長の眼の前に。

しかしその後ろからは、まばゆい光たちが援護する。


魔王子「──行けッ! 母様を止めろッッ!」


女勇者「────急いでっ! 帰れなくなっちゃうよっっ!?」


────□□ッッ!

────□□□□□ッッッッ!!

闇に臆せずに、見えないなにかに向かって激走をする。

光の抜刀剣気と光の魔法が彼を援護した結果、魔王が少しだけ隊長を捕捉しそこねた。

わずか1秒、だがその時間がこの場面では非常に有効的であった。



873: ◆O.FqorSBYM 2018/12/22(土) 22:37:18.76ID:GhBtLxBr0


隊長「I KNOWッッ! TRYINGッッッ!!」


気の所為でなければ魔法が閉じようとしている、なぜわかるというのか。

それは彼の感情が昂ぶっているからであった。

魔力に目覚めているもう1人の彼が、魔力の感知能力を与えていた。


ドッペル「──急げ、閉じるぞ...俺にお前の世界を直に見せろ...」


隊長「────SHUT UP ASSHOLEッッッッ!!」


力が漲る、身体に何かを注入された感覚がする。

痛みはないので闇魔法に類するものではないのはすぐにわかった。

感じる箇所は足、いつもより早く走れるような気がする、ドッペルゲンガーが提供したのは魔力であった。

魔力で一時的に隊長の脚力を強化し、走行速度を上昇させていた。


隊長(駄目だ...間に合わない...ッ!?)


どう見積もっても、わずかに届かない。

もうその魔法は閉まりかけであることがわかっていた。

あと少し、ほんのあと少しで届くというのに、誰かが背中を押してくれるだけでそれは叶う。


隊長「────ッ!」


────ドンッ...!

誰かが背中を押してくれた。

全力以上で走る彼に追いつける者は1人しかいない。

その者は、さらにもう1人を連れて。


ウルフ「──まにあったよっ!」


魔女「────ごめんね、ついてきちゃった」


~~~~



875: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:05:51.22ID:mK23oEQG0


~~~~


隊長「...」


そして気づけば、周りの景色は一変していた。

この聞き慣れたドライブの音、この見慣れたビルの明かり。

この嗅ぎなれた排気ガスと人混みの匂い。


魔女「うぅ...な、ここは...?」


ウルフ「...なんか変なにおい」


隊長「...America、俺の...世界だ」


隊長「帰ってきた...帰ってこれたんだ...やっと...」


心の底からようやく落ち着けた、長かった、長過ぎる冒険はついに終わる。

だがまだやることはある、安著をしたつかの間、行動に移ろうとする。

まずは2人に問わねばならないことがある。


隊長「...ありがとう、2人がいなければ絶対に間に合わなかった」


ウルフ「...えへへ」


魔女「...どういたしまして」


隊長「そして...すまない...」


助けてもらった、彼女らがいなければ隊長は戻れなかった。

だがその一方でもう二度とあの世界へも戻れない。

あちらの世界の住民を2人も連れてきてしまった、その重すぎる事実に謝罪の言葉しか口にだせなかった。


ウルフ「...だいじょうぶ、スライムちゃんたちぐらいしかともだちいなかったから」


ウルフ「でも...魔女ちゃんは...」


隊長「...すまない」


魔女「...そうね、でも覚悟してあなたの背中を押したんだから...後悔はないわ」


魔女「もう二度と、お姉ちゃんと会えないかもしれないけど...大丈夫」


魔女「...あなたが居てくれれば、大丈夫よ」


隊長「...ありがとう」



876: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:07:44.60ID:mK23oEQG0


魔女「まぁ、この話は置いておいて...それよりも魔王妃を探さないと」


魔女「魔王の妻なだけあって、相当な実力があるのは間違いないわよね?」


隊長「恐らくそうだが...それは後回しにするぞ」


魔女「大丈夫なの...? 見つけられなかったらどうするの?」


隊長「...この世界はほぼ監視社会だ、なにか問題が起きればすぐわかるようになっている」


魔王妃が魔法を唱え都市を破壊しようとするならば。

まずはマスコミが動くことは間違いない、ならば捕捉は難しくはない。

ならば先にやるべきことは目標の発見ではなく根回しであった。


隊長「まずは格好をなんとかしよう、この世界の街なかでこの武器を持ってたらかなり注目される」


隊長「それとお前らの服装...魔女はともかくウルフ、その耳と尻尾を隠さないとならない」


隊長「この世界には魔物はいない...獣の耳をつけた人間がいれば、それも注目されてしまう」


魔女「...なんか、私たちの世界とは大違いね」


隊長「まずは応援を呼ぶ...そいつに服を持ってきてもらう」ピッ


耳につけたインカムを起動する。

これで部隊への通信が可能、人手を増やすことができる。

だがそう簡単に物事を運べるわけがなかった。


隊長「...」


──ザーッ...

そこから聞こえるのは、ノイズだけであった。

当然だった、いままで魔法による激しい戦闘と遭遇してばかりであった。

何度も闇にも包まれた時もあった、軍用とはいっても闇魔法に対しての耐久など持っているわけがない。


魔女「...どうしたの?」


隊長「いや...俺の耳につけているこの機械は...遠く離れた人物と会話ができるモノなんだが」


隊長「壊れているみたいだ...」ピッ


仕方なく起動したインカムのスイッチを切る。

だがそもそもの話、いまになって生まれた疑問が彼を横切る。

この居心地の良さは間違いなくアメリカ、だがその国のどこに自分がいるのか。



877: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:09:20.67ID:mK23oEQG0


隊長「...そういえばここは裏路地か」


ウルフ「ご主人っ! 夕方なのにあっちはすごい明るいよ?」


隊長「...少し、俺のこの武器を持っていてくれ、これは目立ちすぎる」スッ


ウルフ「わかったよっ!」


アサルトライフルをウルフに預け、裏路地を抜けていく。

この格好ならギリギリ通報はされないだろう、ハンドガンさえ見つからなければ。

周りを用心しながらも、裏路地から少しだけ身を乗り出した。


隊長「...」


いつもみたあの光景、どの国のテレビでもここの絵面を撮る。

懐かしくも、その一方でこの名所が魔法による戦火が降る可能性があると思うと。

言葉を発したい衝動を飲み込み、魔女たちへの元に戻った。


魔女「...どうだった?」


隊長「あぁ...幸いにも俺の自宅が比較的近くにある...まずはそこにいくぞ」


魔女「へぇ...キャプテンの家かぁ...」


ウルフ「...ちょっと楽しみかも!」


魔女「で、どうやって家に向かうの?」


隊長「...魔女に頼み事がある」


魔女「...へ? 私?」


隊長「あぁ、魔女の格好なら...ギリギリ目立たないだろう」


魔女「な、なにをすればいいの...?」


隊長「...この裏路地を抜けて、黄色い車を呼び止めてくれ」


魔女「く、車ってなに?」


隊長「箱状の乗り物だ、列車が小さくなったモノと捉えてくれ」


魔女「...まさか、1人で行って来いってこと?」


隊長「...すまん、ウルフは意外と露出度が高い...そして俺は見つかれば捕まる可能性がある」


隊長「捕まっても身分を証明すれば釈放されるが...それはヘタしたら数日かかる」


隊長「...頼んだぞ?」


ウルフ「がんばって魔女ちゃんっ!」



878: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:10:52.12ID:mK23oEQG0


魔女「ちょっとまって...すごい不安なんだけど...絡まれたらどうすればいいの!?」


隊長「いいか? なんか言われたら...Trick or Treatと言え、これでギリギリなんとかなる」


魔女「と、とりっくおあとりーと...?」


隊長「季節外れだがこれを言えば...ギリギリ頭のおかしな子ぐらいに思われるだけで捕まりはしない」


魔女「わ、わかった...やるしかないのよね?」


隊長「あぁ...それで、黄色い車を呼び止めたら、3つ指を立てろ」


魔女「それは...3人いますよってこと?」


隊長「そうだ、そして車を動かす人物...運転手が扉を開けたら俺とウルフは走ってそこに乗り込む」


隊長「多少は目立つが...乗ってしまえばこの武器が周りの人物の目に入ることはない」


隊長「...一番穏便にことを進める方法はこれしかない」


魔女「...やってみるしかないわね」


隊長「裏路地を抜けて、黄色い車...Taxiって言うんだが...それが無かったら道路のすぐ横で手を上げろ」


隊長「それでTaxiが近寄ってくるはずだ」


魔女「...わかったわ、なにかあったらとりっくおあとりーとね?」


隊長「頑張れ...魔女ならできる」


ウルフ「がう」


魔女「とりっくおあとりーと...とりっくおあとりーと...」


まるで詠唱のように、自分の精神を落ち着かせる魔法のようにつぶやく。

お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、そのような意味が込められているとは知らずに。

裏路地を抜けると歩道にたどり着く、目的の道路はもう少しだ。


市民A「Wow」チラッ


市民B「...halloween?」ジー


魔女(うぅ...なんか視線がキツイ...)


魔女(というか寒い...雪積もってるじゃない...)


通行人に怪訝な顔つきをされる。

ハロウィーンみたいなこの格好、とても真冬にするものではない。

しかしその冷たい目線をも忘れさせる光景が広がる。



879: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:12:36.60ID:mK23oEQG0


魔女(...なんか、キレイ)


魔女(自然が見せてくれるヤツじゃなくて...なんというか...幻想的ね)


それはむしろ魔女の世界の方だというのに。

今まで見たことのないネオンの光、超高層の建物。

車という未曾有の乗り物、そしてこの都を彷彿とさせる人混み。

彼女からしたらこの摩天楼がとても幻想的に見えていた。


魔女(...今度ゆっくり、キャプテンに案内してもらいましょ)


魔女(って...眼の前にある黄色のヤツ...これがたくしーかしら?)


偶然にも、裏路地の出口近くにそれは泊まっていた。

まだ確証はない、近寄って確かめればならない。

魔女がある程度近寄ると、扉が勝手に開き始めた。


魔女「──うわっ!?」ビクッ


運転手「Welcome?」


魔女「あ、う...」


魔女(びっくりした...でも聞かなきゃ...)


魔女「た、たくしー?」


運転手「...Yes」


少しばかり怪訝そうな表情で頷かれた。

そのイエスという意味はわからないが、身体の動きで理解できた。

運転手もたまに英語のできない観光客相手に商売している、完璧な対応であった。


魔女「やたっ...!」スッ


目標を達成できた、ならば次にする動作を行う。

指を3本立てる、これで伝わるはずだ。


運転手「Okay...Three people?」スッ


英語が話せないと察すると、運転手も指を3つ立ててくれた。

その人としての暖かい心遣いに魔女は軽く涙する。

自分の知らない世界、だけど意思疎通は問題なくできることに。


魔女「ま、まっててくださいっ!」


ついには異世界語、この世界で言う日本語を話してしまう。

だがそこにジェスチャーを加えていた、両手の平を運転手に見せる。



880: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:14:33.77ID:mK23oEQG0


運転手「Okay Okay...I will be waiting for you」


魔女が離れていくのを確認して、運転手はドリンクホルダーに入れていたコーヒーを飲む。

あの様子からしてしばらく時間がかかると踏んだ彼は今のうちに眠気を払っていた。

だがそれは無為に終わる、すぐに目が覚める光景を拝む。


隊長「────ッッ、 I'm begging youッ!」スッ


やや大きな声で叫んだのは、彼の住むマンションの名前。

この男はまるで軍人のような格好をしている、その横には白い髪の女の子。

そして助手席には先程の魔女っぽい子が座る、3人が突如として乗車したのでタクシーは揺れた。


運転手「O...Okay...」


隊長(発車したか...銃は見られてないな、とっさに足元に隠したのがバレずに済んでよかった)


ウルフ「うわぁ~、すごいっ! 走らなくても動くっ!」


魔女「いいわね、車...これは楽ね」


隊長「...俺の家にもあるから今度乗せてやる」


魔女「本当っ!? やったっ!」


隊長(...つかの間の、平穏だな)


何度も感じたことのある、車に乗るという感覚。

いまはそれを一度も感じたことのない2人がここにいる。

その微笑ましさが彼の心を非常に癒やしていた。


ウルフ「ご主人っ! あれなに?」


隊長「ん? あぁ...あれは博物館だ」


ウルフ「はくぶつかん?」


隊長「そうだ、あそこは確か...この世界の古い生き物の化石などが展示されてるはずだ」


ウルフ「そうなんだ...すごいねっ!」


隊長「...事が終わったら、観光案内してやるからな」


ウルフ「うんっ!」



881: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:16:42.16ID:mK23oEQG0


魔女「目新しいモノがありすぎて、楽しいわね」


隊長「...俺も、魔女たちの世界に来たときはそうだった」


隊長「美しい自然風景、魔法、そして魔物...どれも初めて見た」


魔女「ふふ...そうだったわね」


他愛のない雑談、久々な緊張しなくていい状況。

3人の肩の力は抜けており、完全にリラックスをしている。

そしてその中数分、車の動きが止まった。


運転手「Just arrived」


隊長「Thanks...Please wait for me...Bring my wallet」


運転手「Sure」


魔女「なんて言ったの?」


隊長「俺の家についたからここでTaxiの出番は終わった」


隊長「ここまで送ってくれた分の通貨を払わなければならないんだが...俺は今手持ちを持っていない」


隊長「だから、家にある財布を持ってくるまでここで待っててくれと言った...魔女たちも少し待っててくれ」


そう言い残すと、彼は武器を隠すようにウルフに持たせた。

そして建物の入り口へと颯爽と向かっていった。


魔女「...この世界で暮らすには、さっきの言語を覚える必要があるわね」


ウルフ「うぅ...むずかしそう...」


魔女「そうね...けど、なにからなにまでキャプテンに頼むのも良くないのよ?」


ウルフ「...そうだね」


魔女「...あら、もう戻ってきた」


大きめなカバンと、手に財布をもってこちらへと走ってきた。

そそくさとそのカバンに武器をしまい、運賃を支払う。

2回に分けて払った通貨を見て、魔女は不思議に思った。



882: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:18:11.26ID:mK23oEQG0


魔女「なんで1回にまとめなかったの?」


隊長「この世界...いや、この国にはそういう仕組があるんだ」


隊長「1回目に払ったのはここまでの走行距離に見合った金だ」


隊長「2回目は運転手に対しての...まぁオマケみたいなもんだ」


魔女「へぇ~...文化の違いね」


隊長「まぁとにかく上がってくれ、少しゆっくりしよう」


建物の入り口を潜ると、そこに待ち受けていたのは。

見慣れぬ光景に、いちいち質問をしたくてたまらない。

先陣を切ったのはウルフだった。


ウルフ「これは?」


隊長「Elevatorだ...吊り下がった箱に人が入り、滑車の要領で上下に移動する機械だ」


魔女「すごい技術力ね...私の世界とは大違い」


隊長「そのかわり俺の世界では魔法のマの字もないからな」


3人がエレベーターの中に入る。

そして隊長は先程自分が口にしたある単語について質問をする。


隊長「...そういえば、今は魔法を使えるのか?」


魔女「うん? たぶん使えるわよ」


隊長「...錬金術は?」


魔女「問題ないと思うけど...どうしたの?」


隊長「...間違っても、特に錬金術は人前で使うな」


隊長「この世界じゃ金はかなり貴重だ、それを得るために殺しをする奴もいるぐらいだ」


魔女「げぇ...気をつけるわね...って、えれべーたー止まった?」


隊長「あぁ、目的の階についたからな...行くぞ」


長らくしまっていた家の鍵を、再度取り出す。

先程は大慌てで思い返す暇はなかったが、今度ばかりは違う。

何週間ぶりの我が家、ようやく真の意味で心を落ち着かせることのできる場所。



883: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:20:18.96ID:mK23oEQG0


隊長「...ふぅ、やっとここに帰ってこれたか」


魔女「...おかえり、ね」


ウルフ「おかえりっ!」


隊長「あぁ...ただいま」


隊長(このマンションに住んで数十年、初めてただいまという意味のある言葉を言った...)


その疲れ果てた足取りで部屋の中へと向かう。

まず最初に行ったのは、リモコンを取り出すことだった。


隊長「...」ピッ


ウルフ「──うわっ! 箱が光ったっ!」


隊長「まず...状況を軽く整理しよう」


隊長「そこのSofa...椅子に座ってくれ」


魔女「うん...って、ふかふかね」


ウルフ「ふかふかっ!」


隊長「ありがとう、その椅子は結構お気に入りなんだ...で、軽く説明しよう」


隊長「まず今つけた箱...これはテレビと言うモノだ」


隊長「これは...情報を随時教えてくれる機械と思ってくれていい」


魔女「...あぁ、さっき言ってた監視社会ってこういうこと?」


隊長「そうだ、なにか事件が起きたら間違いなくこのテレビが反応する」


隊長「もし魔王妃が動いたとしたら、探さないでいてもこのテレビを見てたらすぐに場所がわかる」


隊長「だからしばらくの間、このテレビを代わり番こで見張るぞ」


隊長「この世界は広すぎる、魔王妃が動かない限り探すのは相当骨が折れるからな」


魔女「でも...魔王妃が動いてからじゃ遅いんじゃ...?」


隊長「この国のPolice...警備は優秀だ、危機的状況をすぐに対応してくれる」


隊長「多少の怪我人はでるかもしれないが...死傷者はでないはずだ...そう願う」


魔女「...わかったわ、まぁ私も知らない世界で人探しなんてできるとは思ってなかったしね」


隊長「ひとまずは休みながら待とう...みんなボロボロだからな」


治癒魔法で身体を治したところで、精神的疲労はどうしようもならない。

一度豪快に睡眠を取りたい、誰もがそう思っている。

そんな叶わぬ夢を思いながら、彼は冷蔵庫から缶を3つ取り出す。



884: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:21:52.60ID:mK23oEQG0


隊長「...久々に飲むな」


──ぷしゅっ...!

その弾ける空気の音に続くのは、爽やかな香り。

缶の蓋から見える黒い液体、間違いなく精神を癒やしてくれるであろう代物。


隊長「ほら、これでも飲め」スッ


ウルフ「うわっ!? なにこれなにこれっ!?」


魔女「うん...炭酸水? お酒?」


隊長「前者だな、酒ではない」


魔女「ふーん...いただきます」ゴクッ


魔女「...これ、病みつきになりそうね」


ウルフ「すごいしゅわしゅわしてる」


隊長「この世界で一番有名な飲み物だ、酒よりも人気かもしれん」


黒い飲み物に魅了されかけている彼女ら。

その間にも彼はコートを取り出し、出かける支度をする。

これならこのミリタリーな格好を誤魔化すことができるだろう。


隊長「俺はこれから仕事場に向かう、無事の報告と魔王妃のことについて話してくる」


隊長「魔女とウルフはここで休んでろ、誰か訪ねてきても出迎えなくていい」


魔女「...いや、待って」


魔女「私がウルフ、どちらかを連れて行くことをオススメするわ」


隊長「...なぜだ?」


魔女「いきなり魔法のことを言っても、信用してもらえないと思う...」


魔女「なら...私が行くならそこで魔法を唱えるし、ウルフが行くなら尻尾を見せれば説得力が生まれるわ」


隊長「確かにそうだが...休まなくて大丈夫か?」


魔女「私は大丈夫よ」


ウルフ「まだまだ元気だよっ!」


隊長「...そうか、ではどちらを連れて行くか」


長らく考える、どちらのほうが魔法に関しての説得力を持っているのか。

そしてもう1つの要素、どちらに留守番を任せられるか。

特に後者が決め手となった。



885: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:23:22.55ID:mK23oEQG0


隊長「ウルフ、ついてきてくれるか?」


ウルフ「がうっ!」


魔女「私はお留守番ね、本でも読んで待ってるわ」


隊長「あぁ...すまん、俺の家にある本は全部この国の言語...Englishという言語のモノしかないぞ」


魔女「あ、そうか...あっ、でも1つ持ってきた本があったわ」


隊長「そうなのか、悪いがソレで時間を潰していてくれ」


隊長「もし、テレビで魔王妃に関する情報が出たら────」


魔女に電話という仕組みをある程度説明する。

これで自分自身の携帯電話に連絡を入れることができるだろう。

問題はその携帯電話も仕事場のロッカーに入れてある、一刻も早く行かねばならない。


魔女「これお菓子? ちょっと貰うわよ」


隊長「あぁいいぞ...ウルフ、ちょっとこい」


ウルフ「なあに?」


隊長「このニット帽と...ちょっと大きいし似合わないかもしれないが...俺の服を着ろ」


取り出したのはジーンズとジャケット、そしてコート。

どちらも大柄な男物である、当然ウルフにはブカブカであった。

だがこれで、ウルフの耳と尻尾を隠すことができる。


ウルフ「...ご主人のにおいがする」


隊長「...臭くないか?」


ウルフ「ううん、いいにおいだよ?」


隊長「そ、そうか...照れるからあんまり嗅がないでくれよな」


ウルフ「すんすん...」


魔女「...ちょっと羨ましい」ボソッ


隊長「しかし参ったな...その白い髪はどうしようもないな」


魔女「目立つのかしら、あっちの世界じゃ髪の色なんて彩り鮮やかだったけど」


隊長「そういえばそうだったな...まぁこの世界じゃ黒か金か茶色ぐらいが基本だな」


隊長「その他の色は基本的に目立つ」


魔女「ふーん...そうなのね」



886: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:24:55.21ID:mK23oEQG0


隊長「まぁ...とりあえず行ってくる」


魔女「はーい、行ってらっしゃい、気をつけてね?」


隊長「お、おう」


魔女「どしたの?」


隊長「いや...そう言われるのは本当に久しかったからな...行ってきます」


ウルフ「行ってきます!」


隊長「ウルフ、俺の使ってない靴を履け」


ウルフ「はいっ!」


隊長(...独身時代が長すぎた...こんなにも暖かいモノだったんだな)


物思いにふけながらも玄関を開け、片手間に扉の鍵を閉める。

コートは上半身を隠すだけ、ボトムスは仕事着とミリタリーブーツ。

アサルトライフルもハンドガンも、ナイフ等の武器はすべて背負っているカバンに入れている。

これで見た目は一般的な服装に仕上がっている、通報される可能性は低いだろう。


ウルフ「いままで毛皮しかなかったから、服って変なかんじするよ」


ウルフ「そういえば靴も...初めてはいたらから歩きづらい...」


隊長「悪いな、この世界で暮らすにはソレに慣れてもらうしかない」


ウルフ「わかったっ!」


隊長「さて...とりあえずTaxiを呼ぶか」


エレベーターから降り、マンションの入口から外へ向かう。

すると淡く雪がちらつく、その光景に犬ははしゃぐ。

その様子を眺める彼の目はとても優しいモノであった。


ウルフ「ご主人! 雪っ! 雪っ!」


隊長「あんまり走るなよ、靴に慣れていないんだから転ぶぞ」


ウルフ「へっへっへっ...」


隊長「...完全に犬だな」


隊長「まぁいいか...確か公衆電話が近くにあったはず...」


隊長「ウルフ行くぞ、迷子になるなよ」


ウルフ「はいっ!」



887: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:26:48.63ID:mK23oEQG0


隊長(...雪か、そういえばあっちの世界で始めてみた光景は紅葉だったな)


隊長(季節感のギャップに驚いたものだ)


過去の記憶を振り返りながらも、近場の公衆電話でTaxiを呼ぶ。

待っている間にもウルフは隊長の視界の範囲内ではしゃぎまくる。

今はまだ昼間、雪が降る天気が相まってやや暗い、それでも彼にはこの光景が眩しかった。


隊長(...俺に娘がいたならこのような感じなのか)


隊長(おとなしい子よりは、ウルフみたいに元気な子のほうが嬉しいな)


隊長「...って何を考えているんだ俺は」


ウルフ「どうしたの?」


隊長「いや、なんでもない...っと、迎えが来たようだ」


そうこうしている間にも黄色い車両は到着した。

2人は後部座席に乗り込み、隊長は仕事場の住所を運転手に伝える。

そして、もう一言を添える。


隊長「Turn on a radio」


運転手A「Sure」


ウルフ「なんだって?」


隊長「情報を教えてくれる...音声を聞かせてくれと言った」


隊長「いつ、なにが起こるかわからない現状だからな」


ウルフ「そっかっ!」


隊長「と言っても、いま聞いている分には特に重要そうな情報が流れてないみたいだ」


流れてくる情報は、エンターテイメント性の強いモノや交通情報。

そしてどこかの州で馬鹿がアホなことをしている、ユーモアたっぷりのラジオでもあった。

久々に聞くそのラジオは、隊長を安らがせていた。


ウルフ「...なんて言ってるかわからない」


隊長「ん...今はCM...宣伝の情報が流れてるな」


隊長「ここから近くにチョコの店ができたらしい」


ウルフ「ちょこ?」



888: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:27:47.22ID:mK23oEQG0


隊長「...そういえば、ウルフは犬なのにチョコが好きだったな」


隊長「ほら、出会ったばかりの頃に食べた、あの甘い奴だ」


ウルフ「あれかっ! うんっ! だいすきだよっ!」


隊長「今度連れて行ってやる、聴く限りここのは飲むチョコが謳い文句らしい」


ウルフ「飲めるんだっ! すごいねっ!」


隊長「はは、そうだな...?」ピクッ


些細なことだった、なにか違和感を覚える。

気の所為でなければ車が止まっている、赤信号にしては随分と長い。


隊長「...What's up?」


運転手A「I...I don't know...」


ウルフ「どうしたの?」


隊長「いや...どうやら道が混んでいて進めないらしい」


隊長「あそこを見ろ、あの光...青色だろ?」


ウルフ「うん」


隊長「あれは進んで良しという合図なんだが...誰も動こうとしない...というより動けてない」


隊長「道が混みすぎている、事故でもあったのか...?」


隊長(...先程交通情報に関する情報も流れていたが、こんなことは言ってなかったぞ)


隊長「...仕方ない、ここから歩いて30分はかかるが降りるか」


ウルフ「わかったっ!」


隊長「stop here」


財布を取り出し、料金を支払う。

運転手もそのことに納得はしているものの、このような大渋滞に困惑している。

事故でも起きない限り、このようなことは起きないはずなのに。


隊長「...ウルフ、手をつなげ...この先は混みそうだ」


ウルフ「えへへ、はいっ!」ギュッ


隊長「...にしてもおかしい、まさか魔王妃の仕業か?」



889: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:28:30.17ID:mK23oEQG0











「────EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEKッッッ!」












890: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:30:26.28ID:mK23oEQG0


それは悲鳴を意味する言葉であった。

嫌な予想を口にした途端聞こえたそのスクリーム。

握りしめた手を引き、途端に足を動かした。


隊長「──行くぞッ!」ダッ


ウルフ「──うんっ!」ダッ


悲鳴を聞いた渋滞の主たちが下車し、様子を確かめようと背伸びをしている。

銃声は響いていない、少なくともテロリストや乱射事件によるモノではない。

いやな予感がする、一度足をとめ近くにいた人物に声を掛ける。


隊長「Can I borrow your phone?」


とても丁寧な言い回し、しかしその声色はかなり迫真。

この声をいつも聞いているのは犯罪者、それも尋問をしている時のモノだ。

それを聞かされた一般人は貸すしかなかった。


市民C「Y...Yep...」スッ


隊長「Much appreciated...」


借りたモノの画面をすぐさまにタッチする。

そして呼び出し先は自宅、扱い方は教えた、出てくれるのを待つだけだった。


魔女≪...キャ、キャプテン?≫


隊長「俺だ、なにかテレビに動きはあったか?」


魔女≪...あったわよ、魔王妃が映ってる≫


隊長「やっぱりか...で、どういう状況だ?」


魔女≪ええと、映ってるだけで動きはないみたい...どうやら空中に浮遊しているのが不思議みたいな映し方してる≫


隊長「...この世界にとってはそれは超常現象すぎる、どこにいるかわかるか?」


魔女≪えーっと...なんか巨大な像が後ろに見えるわね、これでわかる?≫


隊長「十分だ、じゃあまたあとでな」


魔女≪待って、私も行くわ...ウルフの魔力を感知して向かうから絶対に離れないで≫


隊長「...わかった、鍵と戸締まりを頼む、鍵は玄関の靴箱にもう1つあるからな」


魔女≪わかったわ、じゃあね...ってこれどうすればいいんだっけ?≫


隊長「受話器...手に持ってるヤツを元の位置に戻せばいい」


魔女≪こう?≫ブチッ



891: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:31:54.16ID:mK23oEQG0


隊長「...切れたか、よしウルフ行くぞ」


ウルフ「がうっ!」


隊長「...I owe you one」


市民C「Y...You're welcome...」


隊長「さて...」


携帯電話を持ち主に返すと、行き先を再確認する。

どこの道をどういけば早いか、どうすればあの自由な名所にたどり着けるか。

それとも先に悲鳴の原因を調べるか。


隊長「...まずは先に、このまま進むぞ」


ウルフ「わかったっ!」


悲鳴を聞いたおかげか、人混みはパニック寸前。

停泊している車や人々を丁寧に押しのけ、前に進む。

そして新たな悲鳴が発生する、それも連鎖的に。


隊長「...なにが起きているんだ」


ウルフ「...っ!」ピクッ


先に気がついたのはウルフ。

彼女の持つ嗅覚が何かを捉えた。

香る、ドロドロとした熱い匂い、アレしかなかった。


ウルフ「...血の匂い」


隊長「──ッ」スチャ


その言葉を耳にすると、彼はカバンから武器を取り出す。

向こうの世界でも大いに役立った、現代兵器。

アサルトライフルを握りしめた。


隊長「Get out of my wayッ!」スチャ


どけ、強い口調でありその手に持つ武器が人混みを割る。

そしてついに先頭にたどり着く、そこにあるのはパニックの一言。

彼の武器を見たからではない、その現場を見たからであった。


隊長「──これは」


ウルフ「ぐっ...血なまぐさい...」


紅く染まった道路、そこに横たわるのは冷たい男性。

そしてその近くに鎮座するのは犯人、このような光景は映画でしかみたことがなかった。

そしてこの状況を理解してしまった一般人がこう叫ぶ。



892: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:32:36.62ID:mK23oEQG0











「ZOMBIE────ッ!?」












893: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:33:31.83ID:mK23oEQG0


ゾンビという掛け声、そしてその現場を見たものは狂乱するしかなかった。

非現実的なことが起きてしまった、彼らにはその耐性など皆無。

しかし彼らは違う、このような生物を何度も見てきた。


隊長「...数十体はいるな」


ウルフ「がるるるる...」


隊長「ウルフ、近接格闘は控えろ、噛まれるとなにがおこるかわからん」


ウルフ「がう」


隊長「だからこれを使え、使い方は覚えているか?」スッ


そういってカバンから取り出したエモノを手渡す。

すると彼女は返答する、言葉もかわさずに。


ウルフ「────っ!」スチャ


──ダンッ!

その圧倒的な野生のセンスが素人同然の射撃精度を高めていた。

響いた銃声はゾンビの頭にぶち当たる。


ウルフ「覚えてるよ、ご主人っ!」


隊長「そのまま頭を狙え...」


隊長「────EVERYBODY DOWN GROUNDッッ!」


銃声が、ゾンビの衝撃よりも勝る。

この国がどれだけ銃に親しみを持たれているかが伺える。

逃げ惑うよりも伏せたほうがいい、銃声が聞こえたならばここの国民はそうする。



894: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:35:05.03ID:mK23oEQG0


隊長(...よし、一般市民のほとんどが伏せて動かなくなった、これで誤射する可能性が減った)


隊長「──STAY DOWNッ! KISS THE GROUNDッ!」スチャ


──ババッ バババッ!

そして、長年の撓ものである射撃精度。

誤射などありえない、跳弾も起こりえないその技術力。

動きの鈍いゾンビなど相手ではなかった。


隊長「...Zombies down」


数十体はいたゾンビたちは、跡形もなく駆除された。

いずれも頭部を破壊されている、定番の弱点であるはず。


隊長「動く気配はないな...先に進むぞ」


ウルフ「うんっ!」


隊長「こいつらの厄介なところは数だ、囲まれないように動くように」


ウルフ「わかったっ!」


隊長(...死者が出てしまったか、だがこちらが事前に対処のために動くことはできなかった)


隊長(胸糞が悪い...どうしようもない出来事と割り切るしかない...クソッタレ)


無残にも食い散らかされた男性を目線で弔う。

銃声が鳴り止んだのが影響してか、次第に周りの一般人たちは面を上げる。

こうなってしまったのなら、いまさら目立たないようにしても無駄。


隊長「...急ぐぞ」


ウルフ「うんっ!」


誰かがSNSにアップをする前に、姿を暗ます。

自分だけならともかく、国籍もない不法滞在者に順するウルフを注目させるわけにはいかない。

魔王妃の動向も気になる、急いで自由なあの場所へと徒歩で向かう。


~~~~



895: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:36:44.75ID:mK23oEQG0


~~~~


???「...どうなっていやがる」


場面は切り替わり、同じくアメリカのどこか。

その者たちの格好は異世界を旅した彼と似た姿であった。

なにかが原因だろうか、少し痩せてしまった人物がその英語でのつぶやきに反応する。


隊員「...間違いない、Zombieだ」


隊員、あの隊長が一目を置く人材。

日本のコミックブックスを仕事場に持ち込むほどの傾奇者。

萌えに悶える男、しかしあの時のような余裕は彼にはなかった。


隊員A「えぇ...まさか本当に...イタズラな通報かと思っていたのですが」


隊員B「...」


隊員「...冗談だと思いたいが...実際に今射殺したのはZombieで間違いない」


隊員「これから...どう展開していくか...クソッ」


荒れている、なぜならここの部隊の最高責任者は彼であった。

隊長が行方不明な今、彼が担うしかない、だが荒れているのはそれが理由ではなかった。


隊員「...もう死者が多数出ている、被害を最小限に留めなければならん」


隊員「各自少数で散らばれ、Civilianの保護や救護を最優先で行え」


隊員「...わかったら、散開しろ」


そして聞こえるのは、不揃いの返事。

作戦の内容に不満があるのか、それとも指示者に不満があるのか。

どちらにしろあまりいい空気感ではなかった、この場に居た数十名の特殊部隊の隊員たちは街へと繰り出した。


隊員A「...我々も行きましょう」


隊員「わかってる...クソッ!」


隊員B「...荒れても、Captainは戻ってこないぞ」


隊員「...黙れ」


険悪なムードのなか、3人が街へと繰り出す。

すでに街中は死体だらけであった、動く死体、動かない死体、どちらにしろ地獄絵図。



896: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:38:26.23ID:mK23oEQG0


隊員B「────ッ!」スチャッ


──ズドンッ!

無口な彼が放つ、スナイプショットがゾンビの頭部へ的中する。

隊員Bの所有している武器は、スナイパーライフル。


隊員A「──OPEN FIREッッ!」


──ババババババッ!

隊員Aの掛け声に反応して、険悪な隊員も射撃を行う。

2人の持っている武器は、アサルトライフル。


隊員「...発生推定時刻はわずか20分前だ、それなのにこの被害進行度か」


隊員A「Emergencyで出動したというのに...これが別の国によるテロならお手上げですよ」


隊員B「...おしゃべりは後にしてくれ、まだいる」スッ


──ズドンッ! ズドンッ!

軽快なボルトアクションが可能にする、連続スナイプ。

腕は確かであった、だがそれがコンプレックスでもあった。


隊員A「相変わらずのAccuracyですね」


隊員B「...これでもCaptainのには劣る、彼は動く相手にすら精度を誇る」


隊員A「...すみません、失言でした」


隊員「──ッ! 3人走ってくるぞッ!」


ゾンビが走ってこちらに向かってくる。

その絵面はどれほど恐ろしいモノなのか、アメリカ国民なら絶対に恐怖する。


隊員B「──ッ!」スチャ


────ズドンッ!

その一撃は惜しくも外れる。

これだから、先程のコンプレックスが助長される。


隊員B(Captainなら今のを当ててたな...)


隊員B「────MISTAKENッ! COVER MEッッ! 」


隊員A「──I KNOW I KNOWッッ!」スチャ


──バババババババババババッッッ!

そして放たれるフルオート射撃。

これなら精度が悪くても、ある程度は当たるはず。



897: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:41:24.43ID:mK23oEQG0


隊員「────FUCK OFFッッ!」


──バッ!

そして最後に隊員が放ったのは、スナイプ地味たセミオート射撃。

疎らな弾幕と、鋭い一撃が3名のゾンビを抹殺する。


隊員「...なんとかなったか」


隊員B「...申し訳ない、次からは気をつける」


隊員「ミスショットなど当たり前さ、普通は外れる」


隊員A「そんなに気を落とさないで、そのための仲間ですよ」


一連の連帯感が、先程の険悪な空気をある程度取り払っていた。

吊り橋効果と言われればそうかもしれない、だがこれが重要である。

作戦中に最も重要なのは士気の向上、そのことは隊員にもわかっているはず。


隊員「...しかし、これは何が原因でこうなったんだろうか」


隊員A「検討も付きません...こんな映画みたいな出来事なんて初めてですよ...」


隊員B「...バイオテロか?」


この手のゾンビは新種のウィルスによって生まれた、そういった映画はこの国に沢山ある。

だがソレを否定できる要素が1つ存在していた、この世界で最も売れたあのアルバムで証明できる。


隊員「...それにしては見た目がおかしい、身体と衣類を見てみろ」


隊員「ほぼ腐りかけだ...どう考えても墓地から蘇ったとしか思えない」


隊員A「...信じたくはないですけど、そうみたいですね」


隊員「それに...このZombie共に噛まれてしまった人々を見ろ」


隊員B「...どれも食い散らかされているか、出血多量で亡くなっているだけだ」


隊員「ウィルスによる感染でZombieになっていない、つまりこれはバイオテロではない」


連鎖的にゾンビが生まれることはなかった。

パニック映画さながらのアウトブレイクなど発生しないはず。

ネズミ算は起こりえない、だがまだ安心することはできない。


隊員「問題はこのZombieがどうやって生まれているかだ」


隊員A「...もし、墓地からコイツらが生まれているのなら...誰かが生産していることになります」


隊員B「...そんなオカルトを特定しなければならないのか」


隊員「まずいな...ここはキリスト教国だぞ、土葬の墓地など腐るほどある」



898: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:43:05.02ID:mK23oEQG0


隊員「...虱潰ししかないのか」


ゾンビの発生源はある程度絞ることができた。

だがその現場の候補が多すぎる、3人は軽く絶望するしかなかった。

そんな矢先、耳元のインカムが作動する。


隊員Z≪──Libertyだ、急げ≫


聞こえたのは、自由という単語。

そしてその後に続いたのは激しい銃撃音。

聞き慣れない声、別部隊の特殊隊員だ。


隊員「──WHAT'S HAPPENEDッッ!?」


だがその返答も虚しく、微かに聞こえたのは断末魔だった。

まるで炎で焦げたような音、突風で身を切り裂かれたような音。

様々な音が通信を妨害していた。


隊員「────HARRYッ!」


隊員A「──UNDERSTANDッ!」


隊員B「Wait...Need a car...」


適当にあたりを見渡す、すると扉の開いた車を発見する。

車の様子はボコボコ、ゾンビから逃げるために無茶な走りをしたと思われる。

だが中の様子は綺麗な状態、運転手は走って逃げたようだ。


隊員B「不用心だな...鍵が刺さりっぱなしだ...ローンも残ってるだろうに...」


隊員「運転を頼めるかッ!?」


隊員B「そうでなければ、率先して車を探さないさ...」


隊員A「早く乗ってくださいッ!」


シートベルトも閉めずに、ピックアップトラックを豪快に鳴らす。

その音に焦った2人はすかさずに荷台に跳び乗る。

足は確保できた、問題が起きない限りすぐに現場に到着できるだろう。


隊員A「つかのまの休息ですね」


隊員「そうだな...Captainならそう言いそうだな」


隊員A「...本当に、どこに行ってしまったんでしょうかね」


隊員「わからない...どうしてわからないんだろうか...」


あの時、この2人は隊長と共にヤク中の立てこもり犯をとっ捕まえていた。

現場にいた、特に隊員はすぐそばに居たというのに、なぜ。

どうしても理解することのできない現象に今までずっと苛つかされた。



899: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:44:21.81ID:mK23oEQG0


隊員B「────ッ!」ピクッ


運転免許を持つものなら、反応することができる行為。

それだけではない、元々の作戦は民間人の救援。

隊員Bは通行人を発見していた、つまりは急ブレーキを行った。


隊員「──どうしたッ!?」


隊員B「今、女の子を見かけた...」


隊員A「...まずいですね、小さい子ですか?」


隊員B「いや...高校生か...? どちらにしても危険すぎる」


隊員「...ッ!」


気づけば、身体が勝手に動いていた。

彼ならこの状況をどうするか、一番近くで見ていた隊員だからこそ率先できた。

ピックアップトラックの荷台から身を降ろし、こう伝える。


隊員「俺はその子と合流する、お前たちは先に行けッ!」


隊員A「That's dangerous...1人は危険すぎ──」


──ズドンッ!

気づけば、運転手の隊員Bがライフルを発砲していた。

女の子のいる方向へと走ろうとしていたゾンビを射殺する。


隊員B「──GO MOVEッッ!」


隊員「────Nice work! BABYッ!」ダッ


そして危険も顧みずに街へと姿を消した。

あっと今に残された隊員たちは、とくにAは呆然とするしかなかった。

隊員の起こした行動にではない、彼のその表情にだった。


隊員B「...少し戻ったな」


隊員A「戻りましたね...最近ド派手な事件などしていませんでしたし」


隊員A「この緊張状態が、Captainのことを一時的に忘れさせたんでしょうか」


隊員B「それだな...今は上司になってしまったが、同期のアイツには元気になってもらいたい」


隊員A「元気すぎてまた、職場にMANGAを持ち込まれても困るんですがね」


隊員B「...おしゃべりは終わりだ、行くぞ」


そして再びベタ踏みされるアクセルペダル。

その恐竜のような唸り声で街を疾走してく。

それの音を聞き、彼はようやく自らの立ち位置に気づけた。



900: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:46:25.61ID:mK23oEQG0


隊員(...車は行った、もう油断はできない)


隊員(早く女の子を保護しなければ...)スチャッ


──ババババッッ! バババババッッ!

走りながらもアサルトライフルでの射撃を行う。

ゾンビには遠距離攻撃ができない、一方的な殲滅だ。

そして自分自身の目でも、目視することができた。


隊員(──あれかッ!)


隊員「────WAITッ!」


その英語に反応したのか、それとも聞き慣れてしまった銃撃音になのか。

帽子をかぶった女の子は返事を行う、その見た目はまるで。


隊員「...Witch? Halloween?」


魔女「と...とりっくおあとりーと...」


魔女(キャプテンかと思ったら...ぜんぜん違う人だった...)


その、たどたどしい発音。

なんども聞いたことのあるそのイントネーション。

彼はすぐさまに言語を変える、伊達に日本文化にハマっているわけではなかった。


隊員「日本人か...?」


魔女「──っ! 言葉わかるのっ!?」


隊員「あ、あぁ...日本人にしてはずいぶんと派手だな...」


魔女「に、にほんじん...?」


彼の日本語には訛りがなかった。

英訳前の邦アニメを見すぎた影響か。

だがこの場面において、大いにソレが役に立つ。


隊員「ここは危険だ、安全なところへ行こう」


魔女「ま、待って...待ち合わせてる人がいるのっ!」


隊員「何人と待ち合わせている」


魔女「2人よ...1人は筋骨隆々な男の人で、もう1人は白い毛なm...白い髪の色をしてる女の子よ」


隊員「なるほど...俺も行こう」


隊員(まずそのCivilian3人をセーフティーゾーンに誘導した後に、目的地に向かうとするか)




901: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:48:14.63ID:mK23oEQG0


魔女「え、いいよ...危ないよ?」


隊員「...それは、こっちのセリフだ」


隊員(この女の子...妙だな、ちゃんとVISAは持っているのか?)


隊員「ともかく、不用意に立ち止まるのは危険だ、待ち合わせ場所に向かおう」


魔女「そうね...こっちよ」


そう言うと、彼女はなにかを頼りにゆっくりと歩きだした。

まるで気配を察知しながら向かっているような。

そしてあるフレーズが隊員の耳を反応させた。


魔女「キャプテン...ウルフ...まだ遠いわね」ボソッ


隊員「────ッ!」ピクッ


その小言が意外にも彼に届いてしまう。

特殊部隊の一員である以上、聴力も優れていなければならない。

おそらく待ち合わせをした人物の名前であろう単語に反応せざるえなかった。


隊員(...いや、ないな)


隊員(特殊部隊が血眼で探したのに見つからないんだ...この女の子が知っているわけがない)


隊員(そもそも...Captainは全くもって女っ気がない...ましてはこんな若い子と知り合いなはずがない)


隊員(...別人だな)


心の中での整理を勝手に終えて、様々な要因が彼を納得させてしまった。

すぐさまに頭を切り替え、歩きながらも再び周囲を警戒し始める。

そのおかげか奇襲は防げた。


隊員「────Wait、待て...いるぞ」


魔女「本当だ...厄介ね」


隊員「発砲をする、後ろに下がっていなさい」


魔女「え...? う、うん」


──ババババッッ! バババッ!

魔女が後ろに下がったのを確認すると、すぐさまに射撃を行う。

その反則じみた距離から放つ攻撃にゾンビたちはどうすることもできない、そのはずだった。



902: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:48:52.81ID:mK23oEQG0











「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」












903: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:50:17.95ID:mK23oEQG0


その唸り声が聞こえたのは、前方ではなく後方。

きっとどこかに潜んでいたのだろうか。

このままでは女の子がヤラれる。


隊員「──GET DOWNッッ!」スチャ


────バチバチッッ!

アサルトライフルでは急速な方向転換は難しい。

なのでサイドアームであるハンドガンを後方に向け、発砲を行おうとした。

だが響いたのは銃撃よりも激しい、別の音であった。


隊員「...な、なにが起こった!?」


魔女「へ...えっと...雷が降ってきたよ?」


魔女(...良かった、魔法を放ったところはギリギリ見られてなかったようね)


そこにあるのは、雷に耐えることができなかったゾンビの残骸。

全身は真っ黒、身体の組織が全て破壊された様子であった。

自然災害の恐怖、雷というモノの驚異はどの世界でも共通。


隊員「...空に雷雲なんてあるか?」


魔女「えぇっと...もう深い夕方だし、空の様子がわからないわね」


隊員「確かに、そうだが...おかしいな」


隊員「まぁ...自然に助けられたことを感謝するしかない、行くぞ」


魔女「えぇ、そうね」


隊員「...」


だがどうしても、腑に落ちない要素が多々あった。

雷にしては静かすぎる、そしてなぜあの女の子だけが無事なのか。

あのゾンビは、ほぼ肉薄していたと思われるというのに。


隊員(...原因究明は後だ)


隊員「...ん、あれは」


魔女「あれって...たくしー?」


黄色い塗装をされた車が放置されていた。

その座席、特に助手席には大量の紅がばら撒かれていた。

現場は保存された状態であった、エンジン音がまだ続いている。



904: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:51:22.55ID:mK23oEQG0


隊員「ひどい状態だ...どうしてこんなことに」


魔女「...逃げ切れなかったのね」


隊員「...女の子があまり、こういうのをマジマジと見るものではないぞ」


魔女「気遣ってくれてるの? でも、大丈夫...見慣れているから」


隊員(...看護系の仕事でもしているのだろうか)


あながち間違いではないその考察。

それはさておき、視覚的には酷い状態ではあるが足を確保できた。

見た目さえ気にしなければ、問題なく走行できるであろう。


隊員「君は後ろに座りなさい、汚れていないと思う」


魔女「あ、ありがとう...」


隊員「...Sundaydriverだが運転するしかないな」


自分のペーパードライバー加減にうんざりしている中。

アクセルペダルを踏み込もうとした瞬間、耳元のインカムから通信が入る。

聞き慣れた声、彼らからのモノであった。


隊員「What's happened?」


魔女「へ?」


隊員「すまない、君にじゃない」


隊員A≪現場に到着しました...ものすごくひどい状態です...≫


隊員「...Please continue」


その返答は魔女には通じない。

英語で話される通信、隊員Aの声色はかなり変化していた。

そしてソレを、淡々と聞かざる得ない隊員の顔色も変わり始める。


隊員「...」


魔女「...ど、どうしたの?」


隊員「いや...君は知らなくていい...」


魔女「...教えて」


柔らかな女性特有の可愛らしい声。

その中に、どこか力強いモノが含まれている。

それを聞いてか、思わず先程の報告を漏らしてしまう。



905: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:52:48.90ID:mK23oEQG0


隊員「...あの女神像の近くで大虐殺が起こっていたらしい」


隊員「別部隊の隊員も、マスコミも...燃やされたり、氷漬けにされていたらしい」


隊員「...一体、何が起きているんだ」


魔女「女神像...っ!?」


隊員「...話はここまでだ、先に君のツレと合流させることを専念する」


隊員「それで、どこに向かえばいい?」


魔女「...このまま、まっすぐよ」


このまま、まっすぐいけばどこにたどり着くだろうか。

魔力の感知を頼りにしているだけの魔女にはソレがわからない、だが彼は違った。

目的地、そこは偶然なのだろうか必然なのだろうか。


隊員「...まさか、"同じ"か?」


魔女「え...?」


隊員「このまま直進は、先程言った場所だぞ...?」


魔女「────っ!」


知らなかったのは当然、彼女は彼から見れば日本人なのだから。

その驚愕した表情を見れば察することができる。

彼女と待ち合わせ人物たちも、そこにいるのだろう。


隊員「──HANG ONッッ!」グイッ


魔女「──きゃっ!?」


彼にできることは、アクセルペダルをべた踏みすること。

この女の子のツレの安否を確認しなければならない。

さらに隊員ABとの合流もできる、急がないわけがなかった。


魔女「こ、こんなにも速度がでるのねっ!?」


隊員「公道でここまでトバしたのは初めてだッ!」


速度に耐えきれず、上に付属している取っ手のようなモノを握る。

幸いにも今現在、対向車線は愚か追い越しすら必要としない独走状態。

あるのは当たり屋じみたゾンビだけ。


~~~~



906: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:54:03.92ID:mK23oEQG0


~~~~


隊員「──ついたッ! 降りるぞッ!」


魔女「ま...まって...ちょっと気分が...」


わずか数分後、あっという間に目的地へと到着する。

クリアリングを怠らずに、周囲を警戒する。

するとすぐに目視することができた、彼らがいる。


隊員A「...隊員っ! 無事でしたか?」


隊員「あぁ...そっちはどうだ?」


隊員B「見ての通りだ、酷すぎる...」


隊員「...説明で聞いていた通りだな、どうなっているんだこれは」


あたりに散乱する死体の山。

焼死から凍死、はたまた身体がバラバラになっているモノもある。

このような現場、今まで見たことがなかった。


隊員A「...わかりません、まるで魔法としか形容できません」


隊員B「...」


隊員「Magical...」


隊員A「...ところで、その子が先程の?」


隊員「あぁ...そうだ、日本語しかしゃべれないらしい」


隊員がそう伝えると、彼らは車酔いに翻弄されている彼女に近寄る。

彼らには日本語がわからない、だが挨拶程度の言葉は知っている。

ならば、彼女の様子を伺うために接近するしかない。


隊員A「コ、コニチワ」


隊員B「...コンバンワ?」


魔女「えっ...こ、こんばんわ」


魔女(...どうして、私の世界の言葉を知っているのかしら)


不思議で仕方がなかった、なぜ異世界の言葉を知っているのか。

彼女からしてみればそれはとても可怪しく、彼らからすればそうでもない疑問。

だが今はそのような考察をしている場合ではない。


魔女(...ウルフの魔力、近いわね)



907: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:55:09.57ID:mK23oEQG0


魔女「...ウルフ? いる?」


──ガサガサッ...!

後ろの草むらから、野生の気配を感じる。

だがソレがどれだけ彼らを刺激する代物であったか。


隊員「Look out...」スチャ


隊員A「...Okay」スチャ


隊員B「...」スチャ


魔女「ちょ、まってまってっ!」


3人が銃口を向けていた。

それも当然、この状況なら誰もがゾンビだと勘違いする。

身に危機が迫っていることを知らずか、草むらからある人物が飛び出した。


ウルフ「...魔女ちゃん」


魔女「ウルフっ!」


草むらから出てきた、白い髪の毛の少女。

ニット帽を深く被っているが、その顔立ちはしっかりと目視することができる。

ゾンビではない、どうみても可愛らしい女の子であった。


隊員B「Japanese...?」


隊員A「It's like that...」


隊員「...この子が、待ち合わせの子か?」


魔女「そうよ...そうだけど...ウルフ?」


どこか悲しげな顔つきをしている。

なぜなのか、それは魔女にもなんとなくわかっていた。

もう1人、彼が見当たらない。


ウルフ「ご主人と...はぐれちゃったよ...」


魔女「...やっぱり」


ウルフ「匂いで探そうとしたんだけど...血の匂いがひどくて...わからないよ」


隊員「...匂い?」


魔女「え、えーっと...この子、鼻が利くのよ」


隊員「...犬みたいな子だな」


ウルフ「がう」



908: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 22:56:35.93ID:mK23oEQG0


隊員「────ッ!?」ピクッ


その瞬間、隊員に稲妻が走る。

魔女が魔法を放ったわけではない、彼のセンスが刺激されていた。

その可愛らしい見た目、そして今やった犬みたいな声がそうさせたのだろうか。


隊員「...Very pretty」


魔女「え?」


ウルフ「?」


隊員B「...again」


隊員A「That's a bad habit...」


また始まった、落胆の言葉が上がっていた。

しかしその中の意味には、少しばかり安心したかのようなモノを感じる。

完全に調子が戻ったな、とそのような失笑が生まれていた。


隊員「Take a pictureッ! PLEASEッッ!」


魔女「な、なに...怖いよ?」


ウルフ「がるるる...なんかいやな感じ」


隊員「Woooooooooo...Puppy....」


隊員B「Stop...Everybody fears」ドスッ


隊員A「...LOL」


みんな怖がっている、そう隊員Bがツッコミを入れる。

それ同時に脇腹に突き刺さった彼の手刀が隊員の目を覚ます。

この緊迫した状態でふざけている場合ではない、要は怒られている、それなのに隊員Bの顔つきはどこか優しかった。


隊員「...すまん、調子にのってしまった」


魔女「う、うん...」


ウルフ「もうしないでね、知らないことばはなんかこわいから...」


隊員「...それで、待ち合わせは2人のはずだったが、逸れたみたいだな」


魔女「そうね...状況が状況だし、仕方ないわね」


隊員「心配だ、探しに行こう」


魔女「...大丈夫、あの人...強いから」


魔女「それよりもウルフ、どんな状況だったの?」


ウルフ「えっとね、くさい人たちがたくさんいて...気づいたら囲まれてて...」



909: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:00:54.72ID:mK23oEQG0











「...まだここに、人が残っていましたか」












910: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:03:35.18ID:mK23oEQG0


────ゾクッ...!

その声は、はるか上空から突然降りてきた。

この世のものとは思えないプレッシャーが、特殊部隊である彼らに注がれる。

ウルフが説明をしている最中だと言うのに、気づけば全員銃を構えていた。


隊員A「Who are you...ッ?」


???「...こちらの言語はわかりません」


隊員「...誰だ、お前は」


魔女「......魔王妃よ、今の現れ方は転移魔法ね?」


魔王妃「おや...なぜ知っているのですか?」


魔女「あの後、閉じかけの転世魔法に突っ込んだのよ」


ウルフ「ガルルルルルルルル...ッ!」


魔王妃「...なるほど、2人は魔物のようですね」


隊員「...なにを言っているんだ? 君たちは...日本人じゃないのか...?」


魔女「...ごめん、そのにほんじんってのがよくわからないし...説明している余裕はないわ」


魔女「それよりも下がって...本当に危険よ」


話に全くついていけない男が3人。

ただ、照準を彼女に合わせることしかできない。

続々と生まれる不可思議な単語や、浮遊している魔王妃。


隊員A「Be in a dream...」


隊員B「...」


隊員「なにが起きているんだ...?」


魔王妃「────"地魔法"」


──メキメキメキッ!

5人の足元の地面が、魔王妃の放つ魔法によって変異する。

まるで大地が襲いかかってきている、そうとしか比喩できない現象。


隊員B「────WHAT'Sッ!?」


魔女「──"雷魔法"」


────バチンッ!

魔法陣から生まれたその雷は、大地を抉る。

下位属性の相性、優劣は後出しのほうが有利である。

大地の変化に驚いている間に生まれた新たな変化に、彼らの情報処理速度は追いつけない。



911: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:06:56.99ID:mK23oEQG0


隊員「────止まったッ!?」


ウルフ「──ッッ!」スチャッ


──ダンッ ダンッ!

そしてようやく、彼らの思考は定まる。

その聞き慣れた銃の音、自分たちのやることは1つ。


隊員A「────FOLLOW HERッッ!」


隊員B「...ッ!」スチャ


────ズドンッ!

いち早く発砲できたのは、Bだった。

その強烈な速度の一撃をあのオカルト地味た彼女に被弾させる。


魔王妃「──うっ...!?」


隊員A「──Did that workッ!?」


魔王妃「なかなかの威力ですね...でも、致命傷にはなりませんね」


隊員B「────NOT WORKEDッ!」


今まで弾丸を簡単に貫かせてきた魔物とは違う。

圧倒的な硬度を誇る彼女の肌に、ライフル弾は弾かれてしまっていた。

魔を統べる王の妻、その実力が伺える。


魔王妻「御返しです..."風魔法"」


──ヒュンッ...!

風切り音が響く、ソレはまるでライフルの射撃音のような鋭さであった。

人間にその音を伴う速度のモノを避けることができるであろうか。


隊員「──LOOK OUTッッ!」


────ドカッ...!

まるで鉄にぶつかったかのような鈍い音。

先程の鋭い風から繰り出される代物ではない、隊員Bの腹部に激しい激痛が生まれる。


隊員B「──ッ...Bitchッ!」


魔女「下がっててっ! あいつの魔法は人間には厳しすぎるわよっ!」


隊員「──Get back!」


隊員B「U...Understand...ッ」


隊員A「Stay with me...」


今まで感じたことのない痛みに耐えきれず、彼は言われたとおりに後方へと下がった。

銃で撃たれたほうがマシだったかもしれない、歩行が困難なのを察知して隊員Aが彼に付きそう。



912: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:08:43.66ID:mK23oEQG0


隊員「さっき...魔法と言ったな?」


魔女「...ええ、そうよ...あの魔王妃が...私が出したのは魔法よ」


隊員「...なるほどな、とんだJokeだな」


魔女(じょーく...)


向こうの世界で、隊長が魔王子に向かって使った言葉。

愛しの彼の言葉を忘れる彼女ではなかった、その皮肉を受け取れてしまう。


魔女「...悪いけど、冗談に思える?」


隊員「...思えないさ、この目で...見てしまったのだから」


隊員「簡単に...簡単にこの状況を説明できないか?」


魔女「...いいわ、魔王妃がいつ動くかわからないから絶対に鵜呑みにして」


魔王妃はまだこちらの様子を伺っている。

口の動きすらない、魔法を唱えることすらしていない。

ならば余裕のある今しかない。


魔女「私とウルフ、そしてあそこにいる魔王妃は別世界から来たの」


魔女「魔王妃は、向こうの世界の悪い王様の奥さんよ」


魔女「彼女の目的は、この世界の侵略...私たちはソレを食い止めるために彼女を追ってここにいるの」


隊員「...なぜそんなことを、君たちがこの世界を守ろうとしてくれるのは助かる」


隊員「だけど...メリットがないぞ...なにを理由にこの世界を?」


魔女「それは...さっき待ち合わせをしている人がもう1人いるって言ったわよね」


魔女「...実はその人は...元々この世界にいた人だったの」


隊員「──なに?」ピクッ


鼓動が少しばかり、早くなっていた。

確証がない、だけどもしかしたらそうかもしれない。

もしそうだとしたら、探しても見つからないわけだ。


魔女「その人はね...キャ────」


彼の名前を言おうとした瞬間、視界に捉えた。

魔王妻の口元が動いている、つまりはなにかを仕掛けてくる、だがそうではなかった。



913: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:09:58.21ID:mK23oEQG0


魔女(──魔法...いや、これは詠唱じゃないわね...)


魔王妃「...この世界の住民は、なかなかにしぶといですね」


魔王妃「私が墓地から死者を蘇らせ、市街地を襲撃させているというのに」


魔王妃「先程様子を見るために赴きましたが...まだ攻め落とせていませんでした」


隊員「やはり...あのZombieはお前の仕業だったのか」


魔女「...一体どうやって死者を蘇らせたの、そんな魔法なんて聞いたことないわよ」


魔王妃「...言葉を間違えましたね、厳密に言えば蘇らせてはいません」


魔王妃「私は土葬されていた死体を...媒体にしたに過ぎません」


魔女「...媒体ですって?」


隊員「墓の掘り起こしとは趣味が悪いな...」


どのような魔法を使えば、あのような芸当ができるのか。

ある1つの可能性が魔女の頭を冴えさせる。

彼と一番初めに対峙した時、あの知性のない奴が使っていた魔法。


魔女「...使い魔召喚魔法ね?」


魔王妃「正解です、よくお気づきで」


魔女「...氷竜がやってなければ気づけなかったわ」


隊員「それは...どういう魔法なんだ?」


魔女「...なにかを媒体として、文字通り使い魔を生み出す魔法よ」


魔女「私が見たことあるのは、トカゲを利用したモノだけど...」


隊員「...つまり、死体を利用して手駒を増やしたというわけか?」


魔女「その解釈で間違いないわ」


魔王妃「しかし困ったものですね...まさかここまでとは」


死者はすでに多数でている、だが予想を遥かに下回る数。

なぜここまで被害が抑えられているのか。

彼女は知らなかった、この国で所持を許されているあの武器を。



914: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:11:27.79ID:mK23oEQG0


隊員「...悪いが我が国民はこういった現象に慣れている」


魔女「え...? 何度もこのような出来事が起きてるの?」


隊員「いや、経験による慣れではない...何度も模擬されてきたんだ」


隊員「このようなB級な出来事には、これしかないってな」スチャ


彼が構えたのは、アサルトライフル。

そして耳をすませば聞こえる、銃火器の音。

特殊部隊だけではない、民間人ですらゾンビを処理できている。


魔王妃「...蘇らせたところで、所詮は人ですね...耐久力に難があります」


魔女「そうか、この武器は...この世界じゃかなり流通しているのねっ!?」


隊員「あぁそうだ、まぁそれが問題として挙げられることもあるんだがな...」


ウルフ「...?」ピクッ


────ズンッ...

会話に参加せずに、ずっとハンドガンを構えていたウルフ。

彼女が始めに気づけた、その違和感に。


魔王妃「魔力で強化したところで、身体は腐っています...その武器の前じゃ駄目みたいですね」


魔王妃「遠距離からその武器で攻撃されては...手も足もだせません...」


魔女「...魔法は? 氷竜の使い魔は魔法を使っていたけれど...?」


魔王妃「そうなんです...そこが難点でした」


魔王妃「あの子が媒体としたのは唯のトカゲではありません...一応魔物に属するトカゲです」


魔王妃「だから言葉を理解し話せる...でも死者は違います」


魔女「...そうか、発声できないのね...身体が朽ち果てているから」


魔王妃「...たとえ話せる状態だとしても、詠唱に必要な私たちの世界の言語が喋れません」


魔王妃「だから、この世界で使い魔召喚魔法を展開させるのはあまり得策ではありませんね」


被害が少ないのは、言語の壁。

もし向こうの世界の言葉が英語だとしたら。

まるで仕組まれたようなこの状況に助けられていた。



915: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:12:55.42ID:mK23oEQG0


隊員「...だが、もうすでに死者は出てしまっている」


隊員「それは許されることではない...覚悟しろよ?」


隊員(...裁判にかける時は、どのような罪状が適用されるんだろうか)


魔王妃「...私がなぜここから離れたかわかりますか?」


ウルフ「...まただ」ピクッ


──ズンッ...

音が近づいてきているような。

それよりも隊員と魔女が気にしているのは、魔王妃の問いであった。


魔女「...また、死者を蘇らせたとか?」


隊員「手駒を増やしたところで、大した驚異ではないぞ」


魔王妃「確かに、動く死体を増やしたところで意味はないですね」


魔王妃「...現に、ほぼすべての使い魔が処理されていました」


魔力で蘇ったとしても、先程彼女が言ったように所詮は人間。

人類最速の男が媒体となったとしても、簡単に射殺ができてしまう。

ならば魔力を注ぐべきなのは違うモノに。


魔女「...なに? やる気?」


魔王妃「えぇ、あなたたちには私と闘ってもらうます」


魔王妃「ですが...市街地には"別の子"に襲わせることにしました」


隊員「...別の子だと?」


ウルフ「...近づいてきてるよッ!」


────ズンッ...!

ウルフが吠えると同時に、ようやく気づけた。

まるで地鳴りのようなその足音に。


隊員「...なにをした、なにをしやがった...?」


魔女「...嫌な音ね、聞き覚えがあるわ」


魔王妃「この世界にも...この種族がいるとは驚きでしたね...もう絶滅してしまったみたいですけど」


隊員「絶滅...? まさか...ッ!?」


──ズンッ...!

視界に現れたのは、偉大なる大きさを誇る巨体。

過去に覇者として君臨していたドラゴン。



916: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:14:20.46ID:mK23oEQG0


魔王妃「...ありがとうございます、保存状態がよかったので肉体はおまけしておきました」


魔王妃「死体は便利ですね...腐りかけでも...骨だけでも使い魔として利用できますから」


魔女「...この世界にもドラゴンがいたとはね」


隊員「あれはDragonじゃない...」


蘇る最大級の肉食獣、暴君の大トカゲ。

ゾンビなどとはケタが違う、その皮膚の硬度の前には並の銃器じゃ致命傷を与えられない。

今度ばかりは被害が拡大する、厄災の竜がそこにいた。


隊員「────T-REX...ッ!?」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッッ!!」


ウルフ「う、うわ...っ!」


魔女「...見ただけでわかるわ、これが街なかで暴れたら酷いことになるって」


隊員「あぁ...コイツの出現も模擬されてきたが...有効手段などない」


隊員「少なくとも俺のみた映画の中じゃ、眠らせて隔離することしかできなかった」


魔女「...まずいわね、ここで食い止めなきゃ」


魔王妃「別に、食い止めてもいいのですが...もう遅いですね」


魔女「...なにがよ」


魔王妃「分身魔法...と、言えばわかりますかね?」


言葉の真意を知らなくても、わかってしまう。

あの巨体を分身させたというならば、彼女の言う通りもう手遅れだ。


隊員「──Shit mother fuck...」


魔女「...っ! やってくれたわね...」


魔王妃「...どういたしまして、さぁ行きなさい」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


──ズンッ...! ズンッ...!

誰もあの怪物を止めようとすることができなかった。

たった1匹を仕留めたところで、状況がよくなるわけではない。

魔女も隊員も、ウルフも、その後ろで様子を見ていた隊員ABもただ見送ることしかできなかった。


魔王妃「さて...やりますか」


──ゾクッ...!

先程、あの大トカゲを見送った真の要因が露となる。

彼女から醸し出されるその圧倒的な殺気、ソレを他所にT-REXとの戦闘を行えるわけがなかった。



917: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:15:55.51ID:mK23oEQG0


隊員「...君も魔法を使えるんだよな?」


魔女「それなりに強い魔法を使えるわ...でも...」


魔女「...アイツには敵わないわ」


肌で感じる魔力量の差。

どう考えても、魔王妃のほうが格上。

しかしやらなければならない、この世界を、彼が生まれた世界を守るために。


ウルフ「魔女ちゃん、どうするの?」


魔女「えっとね...試したい魔法があるの、けど詠唱に時間がかかるわ」


隊員「...何分あればいい?」


魔女「ごめんなさい...わからないわ、初めてやろうとするから見当がつかないわ」スッ


彼女が取り出したのは、本であった。

先程隊長の家で暇つぶしのために読んでいた本。

向こうの世界で、少女が眠っていたあの小部屋にあったモノだ。


隊員「わかった...なんとしても時間を稼ぐ」


隊員「様子を見たところ、ライフル弾ですら有効手段ではない...君の魔法に賭けるしかない」


隊員「...君、援護をしてくれ」


ウルフ「わかったっ! あとウルフってよんで!」


魔女「自己紹介がまだだったわね...私は魔女と呼んで」


簡易的な自己紹介が終わると、魔女が下がり隊員とウルフが前にでる。

その手に持つ銃器で時間を稼ぐしかない。


魔王妃「さぁ、行きますよ..."炎魔法"」


──ゴォォォォォォォオオッッ!

早速繰り出されたのは炎の魔法。

炎帝のモノと比べればやや火力が足りない。

しかし、それでも人を焦がすのには十分な威力である。


ウルフ「────...ッ!」スチャ


──ダンッ! ダンッ!

炎の有効範囲を瞬時に見極め、安置へと身を置く。

そしてそこから放たれる隙のない射撃。



918: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:17:31.71ID:mK23oEQG0


隊員「──しまった...ッ!?」


しかし彼にはできなかった。

特殊部隊の訓練の中に、巨大な火炎放射に関するモノなどない。

経験の無さが故、彼は対処をできずにいた。


魔女「────"風魔法"っ!」


──ヒュンッ...!

大雑把で鈍い風が彼の背中から通り過ぎていく。

その風が彼に迫る炎の一部を押し戻し、わずかな安置を作ってくれていた。


魔女「気をつけて、次は助ける余裕はないわよっ!」


ウルフ「次はついてきてっ! 魔法がこないところをおしえるからっ!」


隊員「申し訳ないッ! そして有難うッ!」


隊員(彼女の為に時間を稼がなければいけないというのに...足を引っ張ってどうするッ!?)


魔王妃「..."水魔法"」


ここは女神像近く、当然その周囲には海が存在している。

彼女の魔力がソレと伴い、巨大なモノに仕上がっている。

大きさだけなら水帝の水魔法と肩を並べられるだろう。


隊員「──冗談だろッ!?」


ウルフ「う...どこにもないっ!?」


彼女の野生が伝える、この水魔法に死角などない。

ならばやれることは1つしかない。

詠唱は終わっている、ならばこの水の塊を操る者の邪魔をするしかない。


隊員「────撃てッッ!!」スチャ


ウルフ「────ッ!」スチャ


──バババババッッ! バババッ!

──ダンッ! ダダンッ!

2種類の銃声が魔王妃を捉えた、捉えただけであった。


魔王妃「──"防御魔法"」


虚しくもその2つの銃声は通用しなかった。

彼女の展開した魔法が銃弾を弾く。

まるでなにもなかったかのように、彼女は水を操作し続ける。



919: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:18:55.78ID:mK23oEQG0


魔女(──詠唱を中断して助けなきゃ)


────ズドンッ!

魔女が動こうとした瞬間、鋭い音が響いた。

隊員とウルフが持っている銃よりも、かなり威力のある代物。


魔王妃「────うっ...!?」


隊員B「...Get stopped bitch」


──パリンッ...!

なにかが割れた音というよりか、なにかが貫かれた音だった。

魔王妃の周りに展開している魔法が徐々に貫かれた箇所からひび割れていく。

使用した銃弾の大きさが決定打だった。


魔王妃「...致命傷にはなりませんが、もう喰らわないほうがいいですね」


血は出ていない、おそらく何十発被弾させたところで仕留めることができない。

しかしそれでいて怯ませるだけなら十分な威力であった。

巨大な水を操作するという集中力が必要な作業、痛みを受ければその作業は途切れる。


ウルフ「──こっちっ! はしってっ!」


隊員「──UNDERSTANDッ!!」


そして生まれるのは、死角。

彼女の異常なまでの嗅覚が死の概念を捉えていた。

あそこまで逃げれば、殺されずに済むであろう。


隊員「──うわッ!?」


──バッッッッッシャァァァァァァァンッ!

水風船が弾けたような音、その規模はソレの比ではない。

まるで水系のアトラクションみたいなその光景。

冷たい海水が、彼の頭を冷やし現実味を産ませていた。


ウルフ「...しょっぱい」


隊員「あれが直撃していたと思うと...恐いな」


隊員B「...Are you okay?」


隊員「Yup...」


水の出来事に思わず尻もちをついていた。

その様子を見かねて隊員Bは近寄って手を差し伸べてくれた。

よく見ると、彼の手は震えていた。



920: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:20:09.48ID:mK23oEQG0


隊員(まだ、痛みは完全に引いていないみたいだな)


隊員(それとも...この夢のような出来事に緊張しているのか...)


隊員(...これは言葉にしないほうが良さそうだ...隊員Bのためにも)


魔王妃「..."雷魔法"」


ウルフ「────!!!!」


彼女の野生のみが感じ取れる死の概念。

狙いはこの面識のない男の人、先程の水魔法ような威圧を兼ねたものではない。

即効性の、殺害することを優先とした隠密じみた稲妻。


ウルフ「──どいてッッ!!!」ドンッ


隊員B「────What the」


────バチッ!

風帝よりかは劣り、魔女のモノよりは優位である。

そのような威力の雷が突如襲いかかってきていた。

そのことに気づけたのはウルフだけ、彼女がとった行動は1つ。


ウルフ「──うぐっ...げほっ...」


隊員「──身代わり...ッ!?」


魔女「...っ!」


魔女(...だめ、助けに行けない...あと少しで終わるから...耐えてっ!)


魔王妻「よく気づけましたね...」


隊員B「...BITCH ASSッッ!!」


言葉が通じなくても、彼が彼女にされてしまったことは伝わっていた。

例え異世界の未曾有の生物だとしても、見た目は女の子。

そんなことをされてしまったら特殊部隊の面目がつかない。


隊員B「──EAT THISッッ!」スチャ


魔王妃「それはもう避けさせてもらいます」


──ズドンッ! ズドンッ!

冷静さを欠いた、精度の悪いライフルの連射。

ソレも相まってか、この手の攻撃を受けないことに決めた魔王妻の前では無力であった。

目では捉えられない速度であっても、簡単に避けられてしまっていた。



921: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:21:28.50ID:mK23oEQG0


隊員「続けッ! ウルフは撃てるかッ!?」


ウルフ「うぅ...がんばる...っ!」


そして続く、アサルトライフルとハンドガンの音。

だがそれも虚しく、防御魔法に守れていない素肌の状態でも怯ませることができない。

火力不足、もう少し口径の大きな銃器が必要。


魔女(お願い...もう少しだから...)


魔女(なにも起こらないで...っ!!)


その願いも虚しく、叶わぬものとなった。

魔界を統べる王の妻、そのような実力者が大きな時間を与えてくれるだろうか。

そんなことはあり得なかった。


魔王妃「..."炎魔法"」


怒りの炎、紅色に染まった魔法が展開する。

先程のモノより遥かに魔力が込められている、一目瞭然であった。

単純な威力だけなら炎帝と同等かもしれない。


隊員「...さっきのとはまるで別物だぞ」


ウルフ「...ッ!」


隊員B「...Oh my GOD」


魔女「...」


4人の顔色は、絶望そのもの。

山火事レベルのその炎の規模に死角などない。

このままなにもできなければ、そのまま焼き殺されるであろう。


隊員「...Where is he?」


隊員B「Connect...」


この場にいない、彼は一体何をしているのだろうか。

無残にも殺害された、この場に居た特殊部隊が残した車両。

そこに搭載されている高精度な通信機器を操作していた。


~~~~



922: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:22:47.92ID:mK23oEQG0


~~~~


隊員A「...」


様子から察するに、既に通信は終えていた。

現状の出来事をすべて本部に伝えた。

ゾンビだけではない、恐竜や魔法使いが現れていると。


隊員A「...Trust me」


あとはどの程度まで信じてもらえているのか。

祈るしかなかった、鵜呑みをしてもらわなくては確実に被害が拡大する。

未だにゾンビですら半信半疑、たとえ動画を送っても迅速な対処をしてくれないだろう。


隊員A「Got to go...」


行かなくては、今は隊員たちが魔王妃と交戦しているに違いない。

自分もそこに加わり戦力として介入しなければ。

通信を終え、車の扉を開こうとした瞬間であった。


隊員A「...Zombies?」ピクッ


──ザッ...ザッ...!

足音が聞こえる、人数は1人。

不意打ちをされない限り、例えゾンビだとしても簡単に処理できる。

目標が徐々に近寄ってくる、隊員Aは息を潜めタイミングを測る。


隊員A「────What...ッ!?」


ドアガラス越しに見えたその人物。

予想外の出来事に思わず声を荒げてしまっていた。

見間違えでなければもう1人。


~~~~


~~~~


魔王妃「...おしまいですね」


巨大な炎が迫る、消火器を使っても鎮火させることはもう不可能。

急激な気温の変化からか、隊員たちの顔には汗が流れる。


魔女「...」ブツブツ


それでも彼女は詠唱を続ける、まだ諦めていない。

何を信じて、誰を信じてここまでやれているのか。

その様子を見た隊員はそう疑問した。



923: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:25:50.66ID:mK23oEQG0


隊員「...おしまいだな」


ウルフ「まだあきらめないで...ッ!」


隊員「いや...これはもう無理だ...たとえHurricaneが消えてもこの炎が収まる気がしない」


ウルフ「魔女ちゃんは...まだあきらめてないよッ!」


隊員「だがなぁ...」


隊員B「That's impossible...」


彼らの職業は特殊部隊、死と隣り合わせの仕事だ。

だから慣れてしまっている、慣れてなければいけない。

人一倍に死への抵抗感が薄れている、だから故の諦めの速さであった。


隊員「...最後に、もう一度会いたかったです」


ぽつりと漏らしたその言葉。

それと同時に聞こえたのは、背後からの足音。

そして今まで聞いたことのない、謎の擬音。


魔王妃「────な...っ!?」


──ババババババ■■■ッッ...!

アサルトライフルの音に、黒いなにかが纏わりついている。

気づけばウルフの顔は満面の笑みに、気づけば魔女の顔は安著の表情に。


ウルフ「────ご主人っ!」


魔女「...っ!」


詠唱を途切れさせない為に、魔女は目線だけを彼に送った。

ようやく登場してくれたこの男は、彼らに言葉を告げる。



924: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:26:33.37ID:mK23oEQG0










「"I'll be back"...だな」












925: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:27:25.75ID:mK23oEQG0


その有名すぎる言葉に反応できるのはこの国民だけであった。

振り返ればそこには、今まで見ることのできなかった彼がそこに居た。

よく見れば2人いる、だがそんなことはどうでもよかった。


隊員「────CAPTAINッッ!?」


隊員B「──CAPTAINッ! WHERE HAVE YOU BEENッ!?」


隊長「Not now...」


再開の会話も後ほどに、今は状況の打破が最優先。

だがしかし、もうやれることなどなかった。

先程の弾幕に付着した黒が炎を鎮火させていた。


隊員「な、なんで...ッ!?」


隊長「...そうか、隊員は日本語が喋れるんだったな」


魔王妃「なんで...あなたのような人間が闇を使用しているのですか...っ!?」


なぜ彼が闇を扱えているのか。

疑問しかなかった、そもそも魔力を持っていないというのに。

しかしすぐに解決することができた、彼のすぐ後ろの人物が証拠であった。


ドッペル「...俺が力を与えているからな」スッ


隊長「...そういうことだ」


魔王妃「────ドッペルゲンガー...っ!」


ウルフ「うぅ...もう1人のご主人...なんかいや」


隊長「嫌われているぞ、当然だな」


ドッペル「...まぁいい、ともかくあの女をとっとと仕留めたほうがいい」


ドッペル「なぜだかわからんが、殺意を向けられている」


隊長「...俺からすれば、お前など殺されてもいいんだが」


ドッペル「冷たいな、力を貸していなければどうなっていたことやら」


隊長「あぁ、そこは感謝している」


魔王妃「...目障りですね、その"屑"魔物」


意外な言葉であった。

侵略者ながらも、比較的丁寧な口調をしていた魔王妻。

たった今放った言葉にはとてつもない穢れが含まれていた。



926: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:28:43.04ID:mK23oEQG0


ドッペル「...嫌われすぎてないか?」


隊長「俺もお前が嫌いだ」


ドッペル「そんなことはわかっている...だが、俺はあの女に悪さなどした覚えはないぞ...」


魔王妃「黙れ...お前たちのせいで...っ!」


ドッペル「どうやら、俺以外のドッペルゲンガーがヤラかしたようだな」


隊長「...今お前に死なれては困る、下がってろ」


ドッペル「あぁ、戻らせてもらうさ...面白い世界を見れた礼だ、今回は丁重に貸してやろう」


ドッペル「──"属性付与"、"闇"」


そう言うと、黒い影が隊長の身体に入り込む。

それと同時に彼に纏わりつくのは闇、それも優しく。

少女戦の時みたいな傷は生まれていない、ドッペルゲンガーは本当に丁重に扱っている。


魔王妃「...あなたもドッペルゲンガーなど好んでいないはずです」


魔王妃「悪いことは言いません、あの屑を差し出せば呪縛から開放してあげますよ」


隊長「...それはできない、悔しいが奴がいなければお前に太刀打ちできない」


魔王妃「愚かな...ならばその身ごと滅ぼして差し上げます...」


魔王妃「..."属性同化"────」


そのとき、ある違和感が生まれた。

属性同化という言葉が、かぶって聞こえたような。

まるで誰かが、同じタイミングで同じ魔法を唱えたかのような。


魔女「──"属性同化"、"雷"...ってね」


────バチッ...!

小規模な雷がある特定箇所で生まれる。

そこは毛に覆われた、ある女性の右手だった。


ウルフ「うわっ!?」


魔女「ごめん、私の魔力じゃ片手が限界だった...でも、ちゃんと使えると思うわ」


魔王妃「...馬鹿な、属性同化はある人間と側近が創り出した魔法のはずです」


魔王妃「なぜあなたのような子が...っ!?」


魔女「悪いわね、幼い頃から手癖がわるいのよね...これよ」スッ


狼狽にも近い状況であった、魔王妃が投げかける問いに魔女は答える。

彼女が取り出したのは本であった、この本はあの時に持ち出した例のモノ。



927: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:29:48.47ID:mK23oEQG0


魔女「...手書きの教本、ありがたく頂戴したわ」


魔王妃「──この性悪女ぁ...っ」


ウルフ「────ガウッッ!!」スッ


─────バチンッッ...!

ウルフが虚空に向かって、右の拳を突き出す。

その方向の先には魔王妃が、そして空振りの掌打は稲妻を光らせる。

銃弾とは別物の痛みが、内部から染み渡るその痺れが思わず顔を曇らせる。


魔王妃「──ぐっ..."転移魔法"」


モロに受けてしまった雷に堪えながらも、逃げの魔法を唱えた。

専売特許であると思いこんでいた属性同化。

そして想定外の闇魔法を確認、一度引くべきであった。


ウルフ「...逃げられた」


魔女「そうね、どいつもこいつも早口が得意ね」


隊長「...すごいな、そんな魔法もあるのか」


魔女「そうみたいね...初めて見たし...初めて聞いたわ」


魔女「側近とかいう人の、マメさに感謝ね」


隊長「...しかし、ウルフの腕は大丈夫なのか?」


ウルフ「うーん、痛くはないけど...へんな感じがするよ」


魔女「...ぶっつけ本番だけど、大丈夫そうね」


隊長「みたいだな、まぁ体調に変化があったらすぐ言うんだぞ?」


ウルフ「わかったぁっ!」


魔女「まぁ...これでウルフの得意な近接格闘が遠距離格闘に化けたわね、右手だけだけど」


再会の挨拶もなしに雑談が進む。

それほどに魔女は隊長のことを信頼している証であった。

そんな中、ようやく部下である3人が介入する。



928: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:30:59.80ID:mK23oEQG0


隊長「...Long time no see」


隊員「日本語でいいですよ...その子たちにも伝わりますし」


隊長「だが...2人は日本語を話せないぞ」


隊員ABは携帯端末を取り出し、そしてなんらかのアプリを起動した模様。

彼らはその端末に向けて英語を投げかける、そして聞こえてくるのは機械的な女性の音声。


隊員A「コレデダイジョウブ?」カチッ


隊員B「...マイクノレンシュウ」カチッ


魔女「うわっ、ガタイのいい男が出す声じゃないわね...」


ウルフ「なんかやだ」


隊員「...我慢してくれ」


隊長「技術の進歩に感謝だな、自動翻訳というのはここまで性能が上がったか」


そして、日本語で話す隊長に向かって端末を向ける。

そこから聞こえてくるのは英語であった。

とてつもなくシュールな画がそこにはあった。


隊員「...募る話はありますが、まずは無事を確認できてよかったです」


隊長「あぁ...とてつもなく迷惑をかけただろうな...申し訳ない」


隊員「いえ...それで本題なのですが...」


隊長「...いままでどこにいたか、だろ?」


隊員「はい...ですがその子たちが教えてくれました」


隊長「...話の通りだ、俺は異世界にとばされていた」


隊員「信じられないです...が、現に魔法をこの目で見ましたから信じるしかないです」


隊長「あぁ、信じてもらえて助かる...」


隊員「...」


隊員A「...」


隊員B「...」


ようやくの再開、そして余裕のある時間。

それだというのに投げかけたい言葉がありすぎた。

言葉に詰まる異世界の人間たち、そんな中ある魔物が沈黙を破った。



929: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:32:12.71ID:mK23oEQG0


ドッペル「一度、付与を解除してもいいか?」


隊長「...あぁ、そうだったな...頼む」


隊長の周りに展開していた闇が消え失せる。

そして現れたのは、全く同じ見た目をした魔物。

身体の色、というよりも全体的に影のような色をした彼がそこにいた。


魔女「あなたが...あんたがドッペルゲンガーね?」


ドッペル「あぁ、そうだとも」


魔女「...ムカつくぐらい似てるわね」


ドッペル「お褒めの言葉をありがとう」


魔女「褒めてないわよ...虫唾が走るからその顔あんまり見せないで...」


魔女「あんたが、私の大切な人の身体を使って傷だらけにしたり...私を殺そうとしたのを覚えているんだから」


魔女「ねぇ、隊員...さん、こっちの世界の言葉で"失せろ"ってどう言うの?」


隊員「..."Fuck you"だな」


魔女「そう...ふぁっくゆ────」


魔女がとてつもなく汚い言葉をドッペルに投げかけている。

その間にも隊長はウルフの右手に再度注目する、視線を感じ取った彼女は拳を突き出した。


ウルフ「なんか、バチバチしてるね!」


隊長「あぁ、すごいな」


隊員A「コレハナンデスカ?」カチッ


隊員B「...キニナリマス」カチッ


隊長「なんだろうな...魔法なのはわかるが、どういうモノなのか」


魔女「...あぁ、それね...この本を見て」サッ


取り出したのは先程魔王妻の動揺を誘った代物。

本の中身は手書きの言葉の羅列が記されていた、よく見るとそこには研究結果が。



930: ◆O.FqorSBYM 2018/12/23(日) 23:34:58.54ID:mK23oEQG0


魔女「どうやら、側近と研究者がこの属性同化という魔法を創ったみたいね」


隊員「魔法って創れるんですね...」


隊長「あぁ、そうみたいだな...ちなみに研究者ってのは────」


隊員「...え?」


そこにいた隊員たち3名が度肝を抜かれる、隊長が発したのは研究者という男の本名。

向こうの世界での名前ではなく、こちらの世界での名前であった。


隊長「どうやら向こうの世界に滞在していたらしい...見つからないわけだな」


ドッペル「...あぁ、俺が殺した奴か」


魔女「そうね、それで...この属性同化だけども」


隊員(...戻さずに先程の詳細を聴きたいんですが、無粋ですかね)


魔女「下位属性の属性付与を身体に纏うと、どうなるかはわかるわよね?」


隊長「あぁ...魔剣士が言ってたな、炎を纏えば身体がやけどしてしまうなど被害が生まれる...だっけか?」


魔女「そうね...それでこれは、どうやらそれを改善するために創られたみたい」


隊長「...身体自体を炎にしてしまえば、やけどする心配などないということか」


魔女「そういうこと」


隊長「なるほど...それを魔女は使えるようになったのか」


魔女「...そうだけど、まだ詠唱に慣れないわ...発動させるのに数分はかかるわね」


魔女「それに...魔王妃もこの魔法を使おうとしてた...私よりも詠唱も早くに...あまり期待しないほうがいいわ」


隊長「だがこれでウルフの攻撃射程が伸びた、それだけでも十分だ」


魔女「...そうね、それじゃ人探しをしましょうか」


隊長「あぁ、早く魔王妃を探そう...被害が拡大するのは明白だ」


魔女「ウルフ、匂いで居場所を突き止められない?」


ウルフ「...うーん、いろいろな匂いがまざってむりかも...」


隊長「...参ったな」


隊員「Captain、居場所の特定なら簡単ですよ」スッ


そう言うと彼は端末を取り出し、あるアプリを起動させる。

この発想は隊長には無理、比較的若者だからこそ可能なモノであった。

隊員は画面を確認し、確信する。


~~~~



933: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:07:24.97ID:XUuL3A850


~~~~


魔王妃「...誤算でした」


ぽつりと呟く、独り言をしてしまうほどに追い詰められていた。

身体に残る痺れ、そして久方ぶりに我が身に向かってきた闇。

完全に想定外の出来事が起きていた。


魔王妃「困りました...街への侵攻はある程度順調なのですが...」


彼女が今いる場所はどこかの街中の宙。

そしてそこには、使い魔として生み出したゾンビやT-REXが跋扈する。

ここには抵抗する者などいない、殺戮の跡地であった。


魔王妃「...早く、炙り出さないと」


魔王妃「どこにいるのですか..."あの子"は...」


魔王妃「いえ...もう...本物の"あの子"などいない...」


魔王妃「...」


そこにあったのは怒りの表情なのか。

それとも悲しみの表情なのか、絶妙な顔つきをしていた。

まるで、なにか理由があってこの世界を襲撃しているような。


魔王妃「...随分と早いですね」


そして地上に投げかけたのはこの言葉であった。

聞いたことのない、機械の鼓動のあとに続くのは扉の開閉音。


隊員「...Jackpotだ、大当たり」


隊長「善良なる市民の、情報提供に感謝しなければな」


魔女「...」ブツブツ


ウルフ「がるるる...もう逃さないよっ!」


魔王妃「...どうやって、私の居場所を?」


ただただ疑問であった。

魔力を頼りに探したとしても早すぎる。

はじめから居場所がわかっていなければこの捜索速度は不可能。


隊長「...この世界は監視社会と化している、お前のような派手な女はすぐに特定できる」


隊員「SNS...といっても伝わりませんね...ともかく、情報を提供してくれた市民がたくさんいる」スチャ


端末をしまいアサルトライフルを構える、彼が直前までみていたのはSNSであった。

このような世紀末のような出来事、そして浮遊する女がいればどうなるか。

画像投稿され、多量に情報が拡散されるのは間違いなかった。



934: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:09:03.24ID:XUuL3A850


魔王妃「...どうやら、撤退は不可能みたいですね」


魔王妃「ならば...応戦するまでです...」


その言葉を待ってかのように、2人が魔法を唱え終えた。

1人は獣の子に、もう1人は同じ見た目をした男に。

稲光する右手と黒に包まれる身体。


ドッペル「──"属性付与"、"闇"」


魔女「────"属性同化"、"雷"」


そしてそれに続く、高速詠唱。

魔女が数分もかかると謳う魔法をものの数秒で発動させる。

彼女の身体が冷気に包まれる。


魔王妃「────"属性同化"、"氷"...」


────パキパキパキッ...!

魔女のモノとは違い、魔王妃の同化は全身に及ぶものであった。

その余波であたりにある摩天楼の低階層が凍てつき始める。


隊長「俺とウルフが前にでるッ! 魔女と隊員は後方を頼むッ!」


ウルフ「──ガウッ!」


魔女「わかったわっ!」


隊員「わかりましたッ!! お気をつけてッ!」


ドッペル「...俺は一度隠れておくか、真っ向から狙われるのは勘弁だ」


返事も待たずに、黒い隊長は闇へと消える。

そして先制を仕掛けたのはウルフであった。


ウルフ「────くらえッ!」ブンッ


────バチッ...!

ただの正拳突きが、とてつもない射程を持っている。

意外にもその攻撃はまともに命中する。


魔王妃「くっ...!」


彼女から見ればライフルから射撃される銃弾よりも避けやすいはず。

なにもどうして当たってしまうのか、それは本命が残っているからであった。

存在するだけで抑止力を誇るアレが控えているというのに、こんな粗末な雷を避けている余裕はない。



935: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:10:34.13ID:XUuL3A850


魔王妃「...くる」


──バババババババ■■■ッッッ!!

これだけは当たる訳にはいかない。

彼女はすでに気づいていた、あの武器は直線状に攻撃をしてくる。

ならば射線にいなければ、雷よりも早いあの攻撃を見切る必要などない。


隊長「──避けた...いや、この武器の性質に気づいたか...」


魔王妃「あぶないですね..."風魔法"」


──ヒュンッ!

殺意のこもった、鋭い風が隊長に向かう。

これが当たったのならば簡単に胴体は真っ二つになるだろう。

まともに当たればの話であった。


ドッペル「やらせると思うか?」


────■■...ッ!

隊長の胴体を包む闇が、向かい風を殺した。

その自動防御とも言える圧倒的な性能。


魔王妃「...やはり、先にドッペルゲンガーを引きずり出して潰すべきですね」


ドッペル「物騒だな、宿主に守ってもらうか」


隊長「...よくもまぁ、そんなことをほざけるな」


魔王妃(...あの人間の武器と、ドッペルゲンガーの相性が良すぎる)


魔王妃(あの発射速度といい、射程といい...遠距離戦では確実にこちらが不利)


魔王妃(かといって肉薄すれば、闇が迫ることは確実...)


魔王妃(...そして先程いた人間の数が足りません、後方に徹しているのは人間が1人と魔物の子が1人)


魔王妃(なにか仕掛けるために、離脱したのでしょうか...)


──バチッ...!

そう考察している間にも、ウルフによる雷が何度も被弾する。

おそらく効果的な負傷を追わせることはできていない、だが問題はそこではなかった。

いかに効き目がないとはいえ、蓄積させれば当然痺れが生まれる、それが例え氷の身体をしていたとしても。



936: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:11:55.85ID:XUuL3A850


魔王妃(...この雷を避けている暇はない、あの武器を目視するので精一杯)


魔王妃(あまり時間をかけれませんね...ならば──)


──ズンッ...!

主人の危機を察知してか、使い魔が現れる。

その重厚すぎる音、旧世界での生態系の覇者。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」


魔王妃「...頼みましたよ、ドラゴンさん」


ウルフ「うっ...」


その暴君を前にして吠えることのできる狼など存在しない。

野生が野生を威圧する、押し殺すことのできない感情がウルフを襲う。

地帝戦の時のように、魔力薬はもうない。


隊長「ウルフッ!」


魔女「あのドラゴンは私たちに任せてっ!」


隊員「Captainは引き続きあの女をッッ!!」


魔王妃「...さぁ、集まりなさい」


────ガサガサッ...!

なにかモノをどかす音が聞こえる。

まるで歩くために無理やり動かしたような音が。


隊員「────ZOMBIESッ!」


魔女「隊員さんはこいつらを、私があのドラゴンを相手にするわっ!」


隊員「UNDERSTANDッ!!」スチャ


──ババババッッ! ババッ!

的確な判断であった、銃を前にして接近ができるゾンビなどいない。

彼の精密な射撃が続々と集まるゾンビらを射殺していく。


魔女「──"雷魔法"っっ!!」


──バチッ...! バチバチバチバチッ!!

そして魔女から放たれる、一閃の稲妻。

それがあのドラゴンに被弾すると、まるで拡散するかのように雷が展開する。


T-REX「──HOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOWLッッ!!」


まるで、狼の遠吠えのような轟音であった。

少なくとも苦しんでいる、当然だった。

雷が怖くない動物など存在しない。



937: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:13:26.10ID:XUuL3A850


隊長「ウルフッ! 魔王妃にだけ集中しろッッ!!」


ウルフ「う、うんっ!」


魔王妃「..."属性同化"、"風"」


氷の身体に風が伴う、そしてそこから生まれるのは吹雪。

冬場の自然現象で最も恐ろしい出来事が起こる。

視界が白く染め上げられる、そして奪われるのはそれだけではなかった。


魔女「嘘っ!? 属性同化を重ねた...っ!?」


隊員「まずい、Whiteout寸前だぞッ!?」


魔女「...視界もそうだけど、風の音が凄まじすぎる...これじゃ意思疎通なんて無理よ」


隊員「だろうな...ここはともかくあの女の周辺にいるCaptainとウルフが危ない」


──バババッ!

──バチバチバチバチッッ!

幸いにも後方に展開していた彼らはそれほど視界と聴覚を奪われずに済んでいた。

ならば戦地の中心へと向かい、助けに行くべきであった。

しかしそのようなことを簡単に許してくれる使い魔などいない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR...ッ!」


ZOMBIE「Ahhhhhhhhhhhhhh...」


魔女「頑丈すぎるわ...怯ませて動きを止めることができても、何度やっても倒れない...っ!」


隊員「こっちは数が多すぎる...処理に追われてそれ以外のことができない...」


攻撃手段の相性は良いはず、どちらとも完封勝利が約束されている。

だがそれは時間をかければの話であった、今はソレを求められていない。

今すぐに必要なのは多少の負傷を覚悟した、速効性の勝利。


隊員「...役割を変えよう、いいか?」


魔女「私もソレ、今思ってたところっ!!」


魔女がゾンビの群れを相手に、隊員が恐竜を相手に。

果たしてどのようなことになるかなど、想像がつかない。

T-REXの硬い皮膚を銃弾で貫けるか、ZOMBIEたちが集まる速度に魔女の魔法や詠唱速度が追いつけるか。


魔女「ねぇ、数秒間私を守ってくれない?」


隊員「いいぞ、そのかわりそれが終わったら数秒間手を貸してくれ」


魔女「話がわかる人ね、じゃあよろしく」



938: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:14:45.76ID:XUuL3A850


隊員「あぁ...まかせてくれ」スッ


────からんからんっ

彼が取り出したのはピンを抜いた手榴弾。

しかしその見た目は、隊長の持っているモノとは違う。

そしてそこから炸裂するのは爆発ではなかった。


隊員「目を瞑ってろ、眩しいぞ」


魔女「わかったわ」


────カッッッッッ!!

言われたとおり、手で顔を遮る。

するととてつもない輝きが指の隙間から差した。


T-REX「────ッッ!?!?」


ZOMBIE「────ッッ!?!?」


魔女(...眩しいわね、これを直視したら完全に動きがとまるわけね...光魔法みたい)


隊員「ほら、あと3つほどあるぞ」ポイッ


────カッッッ!!

1つで数十秒ほど、相手の視界を奪うことができる。

それが3つもあるというならば、1分近く余裕を貰えることができる。

そんな時間があれば、彼女の魔法の威力がどうなることか。


隊員「...次で最後だ、間に合うか?」ポイッ


────カッッッッッッ!

眩いの閃光はあと1度しか時間を作ることはできない。

できれば大事にとっておきたかったフラッシュバン。

だがこのタイミングで使わなければ、どこで使うのか。


魔女「ありがとう、十分よ...伏せて...」


魔女「────"雷魔法"っっっっ!!」


──バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチッッ!!

その雷は、360度すべての方向へと放電する。

そのあまりの威力に腐った死体どもは、感電は愚か焦げ付いてしまう。

それどころではない、蒸発寸前の動かぬ死体たちがあたりに転がっていた。



939: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:16:10.48ID:XUuL3A850


隊員「...君は将来...発電所で働いたほうがいい...いい給料を貰えるぞ」


魔女「そう? こっちで暮らすつもりだからいいかもね」


魔女「それよりも...あのドラゴンはまだ生きているのね」


T-REX「...GRRRRRRRRR」


足元、脛あたりをよく見てみる。

そこにはまるで破裂したかのような赤黒さの中に、黄ばんだ白色が見えていた。

魔女による雷の威力が伺える、だがまだ生きている。


隊員「骨は無事みたいだな、よかった」


魔女「...くるわよっっ!」


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


──ズシンッ...! ズシンッ...!

あの映画で見たシーンを彷彿とさせる。

大怪我を無視してまでこちらに突進をしてくる様は、とても恐ろしかった。


隊員「──注意を逸らせッッッ!!」


先程隊員が言った、数秒間手を借りたいというのはこのことであった。

彼はすでにT-REXの弱点に気がついていた、というよりもわかっていた。

あの硬い皮膚を前に銃弾などまともに効かない可能性がある、ならば確実性を得たかった。


魔女「──"雷魔法"っっ!」


────バチッ...!

その一筋の雷は、暴君には直撃しなかった。

だがその音だけで警戒を誘うことは簡単であった。

たとえ知性がなくても、先程我が身をここまで削った魔法を無視することはあり得なかった。

隊員と魔女に走り向かっていたT-REXは、愚かにも真横に落ちた雷の方角を向いてしまう。


隊員「...Snipe」


──カチッ...

アサルトライフルに備え付けられたセレクティブファイア機能。

隊長がフルオートでのアサルトライフルの扱いに長けている。

隊員Bがスナイパーライフルの扱いに長けている、そして彼はその中間の立ち位置にいた。


隊員「......Fire」


──バッ!

セミオートで発射された、たった1発の銃弾。

過去に女騎士が、光竜に致命傷を与えたあの一撃。

だがこれは偶然ではない、彼の生み出す射撃精度がT-REXの光を奪う。



940: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:17:19.07ID:XUuL3A850


T-REX「────────ッッッッ!?!?!?」


音にならない悲鳴が発せられる。

身体に見合わぬあの小さな小さな瞳から吹き出すのは赤色。

見るまでもない、射撃は成功の様子だ。


魔女「...目に当てたの? あの小さな目に?」


隊員「当然だ、Captainに教えてもらったからな」


隊員「...ほら、もう片目も貰うからな」


──バッ!

長距離への射撃精度ならば、隊員Bに劣るだろう。

だが彼と隊長は、近距離ならばたとえ激しく動く相手であっても。


T-REX「────ッッッッッ!?!?!?」


隊員「──FOO! Fuck yeah!」


両目から赤き涙が流れてしまう。

とても可哀想な光景でもあり、その一方で致し方のないモノでもある。

一度は絶滅してたというのに、またこの世に戻されてはこの始末。


隊員「...やったかッ!?」


────ズシィィィィィィンッッッ!!

視界を奪われた暴君、その衝撃で遂には倒れ込んでしまう。

そして大きく開かれた口から発せられるのは、もがきのうめき声。


隊員「...あの映画の大ファンだったんだがなぁ」


魔女「これで、このドラゴンはもう動けないわね」


隊員「あぁ、もう立てないだろうな...」


魔女「もう道を塞ぐ使い魔はいないわね...急いで助けに────」


──バコンッ!

遠くから聞こえたというのに、思わず耳を塞ぎたくなる轟音。

その音だけで威力が伺える、そして視界に映ったのは。


隊員「────上を見ろッッ!!」


魔女「──ウルフ...?」


ホワイトアウト現象から飛び出してきたのは、狼の娘。

わずか数秒の出来事、だがそれ故に目で追うことができた。

誰しも異物が空を飛んでいたら、たとえ一瞬であっても視界に捉えることができるだろう。



941: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:18:55.83ID:XUuL3A850


魔女「...っっ!?」


そして不可視の白の空間から感じる、3つの魔力。

氷、風、そして最後に感知できたのは、爆発の気配。

彼女は同時に3つの同化を行っていた。


魔女「嘘でしょ...いや、それよりも...っ!」


隊員「──私があの子を追うッ! 君はCaptainと急いで合流しろッッ!」


魔女「...わかった、ウルフを頼むわよ」


隊員「あぁ、任せろッッ!!」ダッ


的確な判断であった。

魔女は治癒魔法を唱えることができる、なのでウルフを追うのは彼女の方が良い。

だがそれは地雷であった、例え上記が事実であっても、ある1つの問題点が存在していた。


隊員「ハァッ...ハァッ...!」


特殊部隊の彼が息を切らすほどの全力疾走、歩道に蔓延る雪が足元の調子を悪くする。

闇雲に走っているように見えるこの光景だが、むしろ逆で彼には考えがあって走っている。

彼の持っている土地勘が、ウルフが吹き飛ばされた方角への最短道を割り出していた。

たとえ魔女が魔力を感知したとしても、この迷路じみた合衆国の裏路地を全力疾走できるであろうか。


隊員「...ッ!! GET OUT OF MY WAYッッッ!!」スッ


──バッ! バッ! バッ!

三連のセミオート射撃が、裏路地にはびこるゾンビを射殺する。

これが意味する出来事に彼の足は更に加速する、ここにすらゾンビがいるということは。


隊員(まずい...急がないとZombieに群がられているかもしれない...)


隊員「────FOUNDッッ!!」


全力で走ること数分、ようやくウルフを見つけることができた。

とてつもない距離に吹き飛ばされたというのに身体に目立つ外傷は見当たらない。

その異様感を無理やり納得させ、彼女に近寄った。


隊員(...右手が元通りになっている、効力切れってところか?)


隊員「おい、大丈夫か? 返事ができるか?」


ウルフ「う...げほっ...う、うん...」


隊員「どこが痛む?」


ウルフ「お...おなか...ここにあたった...」


隊員「...服はボロボロになってしまっているが外傷は見当たらない、どうやら内蔵が痛むみたいだな」



942: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:20:13.35ID:XUuL3A850


ウルフ「こ...ここは?」


隊員「ここはCaptainたちが居るところからかなり離れたところだ」


隊員「...GunShopのようだな、その丈夫すぎる身体で店のガラスを突き破ったみたいだ」


ウルフ「ごめん...な、さい...」


隊員「謝るな、今肩を貸してやる」グイッ


自力で立つことが困難と思われるウルフを、起き上がらせた。

すると彼女のおしりで下敷きにされていたのか、ある武器の弾薬が目に入る。


隊員「これは...」


ウルフ「どうしたの...?」


隊員「いや、少し座って待っててくれ」


そういうと彼はやや歪な形になってしまった弾薬箱を手に取る。

そのパッケージには翼の生えたドラゴンが火を吹いているイラストが描かれていた。

それが何を意味するのか、隊員にはわかっていた。


ウルフ「...」ジー


彼が何かをしに行っている間に、ウルフはあるモノに視線を奪われていた。

視線の先には隊長の家にもあったあの光る箱、テレビが存在していた。

そこに移されていたのは、販促用に流されているとある映画。

男が両手に拳銃を持ち、派手な動きをするあの名作。


隊員「すまん、待たせたな...行こう」


ウルフ「あっ...うん」


座り込んでいたウルフを再び抱き寄せ、肩を貸した状態に。

気づけば彼は新たな武器を手にしていた。

そしてウルフも、新たな試みをする。


ウルフ「ねぇ...これ、もう1個もってない?」


隊員「ん? ハンドガンか? 持っているが...どうした?」


ウルフ「えっとね、借りたいの」


隊員「...あぁいいぞ、こっちも手持ちが増えて多分使わないと思うしな」


彼が新たに手にしたのはソードオフのショットガン。

そしてウルフが手にしたのは、隊員から預かったハンドガン。

この2つがこの先どのようにして活用されるのか。


~~~~



943: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:23:05.81ID:XUuL3A850


~~~~


隊長「──ウルフがやられたッッ!?」


局地的ホワイトアウトに囚われた隊長が吠える。

聞き間違えでなければ、爆発音とともに聞こえたのは悲鳴。

聞き覚えのあるあのウルフの声に違いなかった。


隊長「クソッ...なにも見えんし聞こえんぞッッ!?」


ドッペル「...まずいな、あの女...属性同化とやらの魔法を3つも重ねがけしているのか」


ドッペル「お前の身を闇で守ることはできても...これでは防戦一方だな」


隊長「せめて、魔王妃の居場所がわかれば...お前は魔力を感知できないのかッ!?」


ドッペル「出来てたまるか...あれを簡単に且つ高精度にこなしているあの女に感謝してろ」


隊長「...どうすれば────」


────ドクンッ...!

いくら攻撃から身を守ることができても、状況を打破することができない。

そのような手詰まりに近い現状、焦燥感からか心拍数があがる。


ドッペル「...くるぞ、爆だ...焦らず"俺"に任せろ」


──バコンッ!

その爆発は、あまりにも精密なモノであった。

あと僅かでも反応が遅れていたら直撃していたであろう。

野球ボールほどの大きさしかない爆発が、闇に飲まれた。


ドッペル「...ここまで小さな爆発も操れるのか、もう少しで展開している闇の僅かな隙間に通すところだった」


隊長「足元に手榴弾が転がったかと思ったぞ...」


ドッペル「まずいな...向こうはどうやら俺の闇の魔力を感じ取り、攻撃しているみたいだ」


隊長「...やはり感知をしてくるか、向こうは見えなくても攻撃ができるわけだ」


ドッペル「どうするか? 一度闇を取り払うか?」


隊長は魔力を持たない、よって感知による座標の特定はされないはず。

だがそれは同時に身を護る盾を捨てるような行為であった。


隊長「それはできない...もし当てずっぽうで魔法を大量展開されたら...」


ドッペル「...今現在感知されているということは、闇を取り払えばその変異にすぐに気づかれる」


隊長「そうなれば奴はナパーム爆撃みたいなことをしてくるかもしれん...いくらなんでも当たる」


ドッペル「参ったな...せめて奴の居場所がわかれば、闇の一撃が届くんだが」


隊長「振り出しにもどったな、もう少し考えさせてくれ...」ピクッ



944: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:24:05.53ID:XUuL3A850











「──きゃぷてんっっっ!!」












945: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:26:07.97ID:XUuL3A850


ほんの少し、僅かに聞こえたその最愛の声。

たとえ台風の中でさえでも聞き取ることができるだろう。

自身の聴覚を頼りに、彼女のいる方向へと声を投げかける。


隊長「──こっちだッ! わかるかッ!?」


ドッペル「...やかましいぞ」


憎たらしい影の嫌味などに返事はしない。

人として限界の大きな声が吹雪と共に轟く。

彼女には聞こえただろうか、結果はすぐにわかった。


魔女「──っ!」


ドッペル「...顔の周りの闇を除けてやる、今のうちに耳打ちで情報を共有しろ」


全身に纏う闇が、一部取り払われる。

そして彼女の柔らかそうな耳に接近するのは彼の口元。


隊長「──魔王妃はどこだッッッ!?」


魔女「────っ!」スッ


──バババババ■■■ッッッ!

そして彼女は指をさした。

隙かさずに隊長はそこへ銃弾を打ち込む。

そして響くのは、闇の音だけではない。


隊長「──やったかッ!?」


魔女「やってないっ! 逃げてるっっ!!」


猛烈なホワイトアウト、そして吹雪が視界と聴力を奪っていたというのに。

先程まで隊長たちを襲っていた環境は急激に変化を始める。

見る見る間にも、周りの景色が浮かび上がっていた。


ドッペル「...あの女に命中したようだな、闇が当たれば姿をくらますか」


魔女「転移魔法じゃないっ!? まだ魔力を感知できる距離にいるわよっっ!」


隊長「────急いで車に戻れッッ!」ダッ


──ガチャッ! バタンッ!

その言葉とともに、2人の足はすでに動いていた。

迅速な行動、気づけば既に隊長の足はアクセルペダルを踏んでいた。


魔女「──ウルフたちはっ!?」


隊長「隊員を信じろッ! アイツは俺が知っている中で一番優秀だッ!」


ドッペル「...一度闇をすべて取りはらうぞ、車とヤラが壊れかねん」



946: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:29:56.85ID:XUuL3A850


魔女「隊員さんがウルフの方へ行ったなんてよくわかったわねっ! まだ言ってないわよっ!?」


隊長「アイツならそうするッ! それよりももう大声で喋るなッ! 舌を噛むぞッ!」


魔女「...居たっ! 風の属性同化で、凄い速度で空を飛んでるわっ!」


隊長「──まずいッ! 逃げられるッ!?」


このような轟音を鳴らし追跡されたのならば誰だって気づく。

魔王妃はこちらを確認すると、車で追えないような裏路地へと姿を眩ませた。

その一方で飛行速度は保ったまま、邪魔になり得る障害物は同化させた風が追い払う。


隊長「────どうすれば」


魔女「──こうするのよ」クピッ


────ゴクンッ!

彼女から聞こえたのは、なにかを飲む音であった。

そして皮肉にも、この変化に気づけたのはドッペルゲンガーだけであった。

彼だけが感じ取ることができた、魔力量の変化。


魔女「"属性同化"、"雷"」


彼女が飲んだのは女賢者から渡された魔力薬。

無限のように湧く魔力が可能にするのは、詠唱速度の向上だけではなかった。

先程は右手だけしかできなかった同化が今度は全身へと。


魔女「もう逃さないわよっ──」


──バチンッッ!!

車に雷が落ちたかのような衝撃が生まれる。

ドアも開けずに飛びたった影響で、軍用車の助手席付近が完全に破壊されていた。


隊長「...凄まじいな」


ドッペル「見ろ、あの女が魔王の妻を追いかけているのが見えるぞ」


隊長「...今は魔女に任せるしかないか」


ドッペル「そうだな、それよりも人の姿が見当たらんな...これなら存分に闇を放てる」


隊長「先手は取られたが...我が国の部隊がこれ以上の被害を出させるわけがない」


ここはこの国屈指の大都市であるにもかかわらず、人の姿は見当たらない。

あたりに居るのはすでに銃殺されたような死体しか見当たらなかった。

どうやらすでに一般市民の避難、そして救護は完了している。


隊長「...HQ HQ」


~~~~



947: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:31:39.23ID:XUuL3A850


~~~~


ウルフ「ご主人たちがいない...」


隊員「車がない...状況を察するに、魔王妃は逃走して、Captainたちは車で追いかけたってところか?」


ウルフに肩を貸しながらも、冷静に状況を分析する。

ほぼ正解に近い考察を出しながらも、やや途方に暮れてしまう。


ウルフ「ん...もう大丈夫だよ」


隊員「...」


ウルフの顔、やせ我慢をしているようなモノではない。

本当に身体の不調がある程度緩和されている。

その事実に彼は再度実感してしまう。


隊員(服もほぼボロボロで脱げかけ、そこから見える濃い毛並み...)


隊員(そして被っていたニット帽はいつのまにか脱げている...そこから見える犬の耳...)


隊員「...本当に、人間じゃないみたいだな」


ウルフ「うん?」


隊員「いや...なんでもない...それよりもどうするか」


あたりは暗く、申し訳程度の街頭が道を照らしている。

先程の魔王妃が放った魔法の影響か、摩天楼を彩る明かりはほぼ壊滅していた。

薄暗い日差しが落ちようとしている。


隊員「...もう夜になる、辺りも暗い...奇襲に気をつけろ」


ウルフ「うん」


隊員(夜か...ゾンビものの映画だと夜に被害が拡大するんだがな...)カチャ


だがそのようなことはなかった、なぜなら彼はすでに情報を持っていたから。

片耳から聞こえる状況の最新情報、ラジオの如く自動的に聞くことができる。

本部の報告によると、ここに住む市民の9割をセーフゾーンに誘導できた模様だった。


ウルフ「うわっ! ビックリした...」


隊員「ん...あぁ、すまん...少し明るさが強かったな」


そして彼が手にかけたのは、銃に取り付けられたある装備。

ボタン一つで、射線の先を照らすことのできるタクティカルライト。

これで夜でも視界を確保できるだろう。



948: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:33:22.58ID:XUuL3A850


隊員「少しばかり歩くぞ、途中で動かせそうな車があったらそれに乗ろう」


ウルフ「わかったっ!」


隊員「...ハハ、元気な返事だな」


ウルフ「えへへっ...」


先程の激戦、最前線にいなくてもその疲労値は凄まじいものであった。

未曾有の攻撃である魔法、そのようなモノと対峙すればそうなる。

だがそんな中、彼女の眩しい笑顔が隊員を癒やしていた。


ウルフ「...あれって、さっきの」


隊員「あぁ...T-REXか」


T-REX「────」


少しばかり歩いていると、先程の場所へと到着していた。

そこにいたのは、両目から紅を流していた暴君の竜。

だがその様子はとても静かなものであった。


隊員「出血多量だな、完全に絶命している」


ウルフ「...すごい大きいね」


隊員「そうだろ? 子どもの時は大好きだった」


隊員「だが実際に対峙してみると...なんとも言えんな」


ウルフ「そうなの?」


隊員「あぁ、かっこいいと思っていたが...やはり怖い」


隊員「それに先程はまだ明るかったから動きがわかりやすく、眼を狙えたが...この暗さだともう無理だな」


隊員「...新たなコイツが現れたら、もう手に負えないかもな」



949: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:34:23.21ID:XUuL3A850


ウルフ「うーん...今の所、この辺にはいないみたいだよ」


隊員「わかるのか?」


ウルフ「うん、足音がすごいから...すぐわかるよ」


隊員「あぁ、そうだな...あの足音は映画でもすごかった」


ウルフ「えいがってなに?」


隊員「知らないか、今度見せてや────」ピクッ


軽く雑談をしながら、横たわるT-REXを通り過ぎようとした瞬間。

とてつもない違和感が彼を襲った、この死体の背中にできている新しい傷跡。


ウルフ「これって...」


隊員「...これは、噛み傷か?」


ウルフ「...たしかに、噛んだらこんな傷ができるけど」


隊員「Zombieでも群がったか...いやそれにしては...」ピクッ


考察をしている彼にある予感が走る。

もし自分が魔王妃なら、もし自分が兵力として恐竜を蘇らせるとしたら。

はたして強大であるかわりに愚鈍なT-REXだけだろうか。


隊員「...ヤバい、ヤバい...この予想が当たりならかなりヤバいぞ」


ウルフ「ど、どうしたの...?」


隊員「耳を澄ませてくれ...聞こえないか...?」


ウルフ「え...?」ピクッ


彼女の耳が立つ、このやや暗闇の中で頼れるのはコレしかなかった。

だがすでに遅かった、たとえ彼女の聴力を持ってしても厳しい。

居場所と数は特定できたとしてもその迅速な動きに対応できるであろうか。



950: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:35:04.97ID:XUuL3A850











「────CRRRRRRRRRRRRッッ!!」












951: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:37:16.83ID:XUuL3A850


ウルフ「────うしろっっ!!」


隊員「──"RAPTOR"だッッッ!!」


ラプトルと呼ばれる、比較的小型の竜。

某映画の影響でデイノニクスという恐竜がそう総称されている。

そして、その映画のお蔭でこの恐竜がどれだけ恐ろしいかもわかっていた。


RAPTOR「CRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


──ドカッ!

気づけば背後にいた暗殺を得意とする竜。

隊員はあっという間に押し倒され、かつ武器を解除されてしまった。


隊員(アサルトライフルが押し倒された際にどこかに...)


隊員「グッ...なんてッ...力だッ...!」グググ


RAPTOR「CRRRRRRッッ! CRRRRRRRRRRッッッ!!」グググ


ウルフ「──ガウッッ!!」スッ


──バキッ!!

ウルフが繰り出す回し蹴りが、ラプトルに命中する。

普通の人間なら全く効果が得られない、だが彼女は魔物だ。

その威力故に、ラプトルの身体は持ち上がる。


ウルフ「だいじょうぶっ!?」


隊員「あ、あぁ...すごい威力だな、Raptorを軽く吹き飛ばしてたぞ...」


RAPTOR「CRRRR...ッ!」スッ


隊員「──ッ!」スチャッ


蹴飛ばされたラプトルはすぐさまに立ち上がる。

そしてそれを察知して、彼はサイドアームのショットガンをすばやく取り出す。

しかし発砲することはなかった。


ウルフ「...にげた」


隊員「逃げたか...あの阿婆擦れ、厄介なモノも蘇らせやがって...」


ウルフ「さっきのよりかなり小さいけど...その分すばやいね」


隊員「あぁ...だが奴の恐ろしさはそこじゃない」


ウルフ「う?」


隊員「奴らは群れで襲いかかる...今のが数匹いたら、多分殺されていた」



952: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:38:49.54ID:XUuL3A850


隊員「そして最も厄介なのが...賢すぎるところだ」


ウルフ「そうなの?」


隊員「...あぁ、知性のない動物だからといって侮るな、容易に背後を取られるぞ」


隊員「それも集団で、戦術地味た行動もしてくる...映画ではそうだった」


ウルフ「...気を引きしめなきゃね」


隊員「慎重に動くぞ...お互いは必ず、お互いの背中を守ろう」


ウルフ「わかったっ!」


隊員「まずは車を探すぞ...とてもじゃないが車がないと奴らに追いつかれる」


道に転がっている明かりの元へと向かう。

そこにあるのは、先程武器飛ばされたアサルトライフル。

それを拾うとすぐさまに行動に移る。


ウルフ「...」ピクッ


隊員「どうした?」


ウルフ「...いる、それも7匹はいるよ」


隊員「まずい...早すぎる...囲まれたら終わるぞ」


ウルフ「早く行こっ...?」


隊員「あぁ...俺が後ろを向きながら歩く、ウルフは前を見ながら歩き始めてくれ」


ウルフ「わかったよ」


隊員「...ッ!」


──ガサ...ガサ...

ウルフの耳がなくともわかる、後方に奴らがいる。

街路樹の裏、廃棄された車の影からチラリとみえる長い尻尾。

タクティカルライトでソレを照らすたびに、緊張感が生まれる。


隊員「絶対に油断するな...」


ウルフ「う、うん...」


彼女はラプトルについてなにもしらない。

だがそれでいて同じ野生動物でもある。

野生が告げる、あの動物の危険性がウルフにも緊張感を与えていた。



953: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:40:42.26ID:XUuL3A850


隊員「...クソッ、様子を伺ってるみたいだ」


隊員「来るならすぐ来てくれ...」


ウルフ「...ッ!」ピクッ


────ポタッ...!

今はニット帽を被ってはいない、なのですぐに感じ取ることができた。

ウルフの敏感な耳がある液体を察知した、今は冬だというのに季節外れの天候に。


隊員「嘘だろ、こんなときに雨かよ...ッ!?」


ウルフ「う...この感じ...かなり降りそうだよ...?」


隊員「勘弁してくれ...野戦での雨は本当に厳しいんだぞ...ッ!?」


ラプトルが与えるプレッシャーからか、言葉に余裕を伺うことができない。

やや焦燥に駆られた隊員が思わず強い口調でウルフに投げかけてしまう。

それほどに、今のこの天候がどれほど不幸なのか。


隊員「...すまない、少し冷静を欠いた」


ウルフ「...しかたないよ、あたしも雨きらいだもん」


隊員「そうか...だが不幸中の幸いにも、この道路にはロードヒーティングがある」


ウルフ「なにそれ?」


隊員「要するに地面がある一定の温度を保つから、雪が降っても積もらない」


隊員「だからアイスバーン状態に...凍結しないから足を取られることはないってことだ」


ウルフ「...そうなんだ」


隊員「あぁ、だから歩行に関しては問題なく進められるぞ」


ウルフ「たしかに、そういえばこの道にだけ雪がつもってないねっ!」


隊員「そういうことだ」


他愛のない雑談、この切り替えの速さこそが隊員の良さであった。

つい昨日までは隊長という大事な人物を失い、その強みが失われていた。

だが今は違う、彼の話術が緊張感をほぐしていた。


隊員「...しかし、一向に襲ってこないな」


ウルフ「うーん...とびかかってくる気配はたまに感じるけど...」


隊員「警戒しているのか...却って厄介だな」



954: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:43:25.28ID:XUuL3A850


ウルフ「気をつけてね、雨が強くなってきているから聞きづらくなってきたよ」


隊員「...あぁ、大丈夫だ、この目でしっかりと注意しておく」


徐々に雨が強くなる、ハリケーンとまではいかない大雨だ。

ゆっくりと道を進むなかラプトルへの牽制も怠らずにいた。

アサルトライフルの射線を何度も変化させるも、常にどれか1匹のラプトルに向けていた。


隊員(銃を持ったテロリストを相手にしている方が気が楽だな...野生動物はいつ襲ってくるか全く検討がつかない)


──ゴロゴロゴロゴロゴロ...ッ!

その時だった、ラプトルに警戒しているとはるか上空から鳴り響く轟音。

まるで意思を持ったかのような雰囲気のある雷が響いた。

その音を奴らが利用しないわけがなかった。


隊員「──くるぞッ! 2匹だッッ!」


ウルフ「────わかったっ!」


RAPTOR1「CRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」


まずは2匹のラプトルが襲いかかる。

なにか狙いがあるのか、その2匹は愚かにも真正面から走り込む。

確かに不意打ちに近いかもしれないが、この武器を前にしてソレは自殺行為であった。


隊員「──Bye bye mother fucker...」スチャッ


──バッ! バッ!

2つのセミオート射撃が2匹のラプトルに命中する。

彼らはかのティラノサウルスではない、よってその皮膚の厚さは薄い。

とてもじゃないが、銃弾を堪えることはできない。


隊員「...こいつらなら一発で仕留められそうだ」


ウルフ「──後ろっっ!!」


RAPTOR3「CRRRRRRRRRッッ!!」スッ


隊員「────しまっ!?」


──ドカッ!!

決して油断していたわけではない、遠くで響く雷が、視線に広がる雨が彼の隙を産ませていた。

人間は大雨の中、果たして従来の集中力を持続させることはできるだろうか。

隊員の後ろを取った新手のラプトル、響いたのは雷の音ではなく鈍い打撃音であった。



955: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:45:02.48ID:XUuL3A850


隊員「......」


隊員(...身体に痛みはない)


思わず目を瞑っていた、その最後の光景には両手を上げ飛びかかろうとしたラプトルが鮮明に残る。

そして聞こえた鈍い音、間違いなく押し倒されたと思っていた。

恐る恐る視界を開けばそこには彼女がいた。


ウルフ「...」


隊員「...これは」


隊員(RAPTORの頭部が陥没している、まるでハンマーで殴られたかのような傷跡だ)


弱々しく横たわるラプトルを尻目にそう考察した。

ウルフが何をしたか、一目瞭然であった。

だがまだ会話を許してくれる状況ではなかった。


RAPTOR4「CRRRRRRッッッ!」


隊員「──ウルフッ! 新手は上だッッ!!」


新たなラプトルが廃車の屋根から信号機へと飛び移り、そこから奇襲をかけてきた。

その1匹だけではない、いままで機を伺ってきたすべてのラプトルがウルフに目掛けていた。

奴らの動きはすばやく隊員はアサルトライフルの照準を合わせることができなかった。

だがそれは違かった、あえてそうしなかったのであった。


ウルフ「...ガウッッ!!」


──ガコンッ...!

彼女の両手には、ハンドガンが握りしめられていた。

その持ち方は従来のものではなく、銃身を握りしめたものであった。

そこから放たれるのは銃撃ではなく、打撃。


隊員「──Gun kata...ッ!?」


──ドガッ! バキッ...! ダンダンッ! 

銃身を握りしめハンマーのように殴ったかと思えば、直ぐ様に元の持ち方へと戻し発砲する。

それだけではない、まるでトンファーのように持てば奴らの爪での攻撃を弾くことができる。

人間では受け流すことができない、だが魔物の筋力ならたとえ恐竜であっても。


隊員「ウルフの方が力は上なのか...」


ウルフ「────よしっ!」


──バキッ...! ダンッ!

最後の1匹、飛びかかりの攻撃を受け流しそのまま地面へと投げ飛ばす。

そして繰り出される一撃の発砲音。



956: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:46:47.08ID:XUuL3A850


隊員「今ので7匹目...全滅させたか」


ウルフ「そうみたい...うまくいったね」


隊員「...Gun kataか...実際に見たのは初めてだ」


ウルフ「がんかた?」


隊員「二丁の銃を使った近接格闘術のことをそう呼ぶんだ...映画の中ではな」


ウルフ「そうなんだ!」


隊員「こうもRAPTORをあしらうとは...流石だな」


ウルフ「...ううん、あと1匹多かったらヤラれてたよ」


隊員「...」


初めは7匹に追われ、2匹は隊員が射殺した。

そしてその後ウルフがガン=カタを駆使して5匹を始末した。

5という数字、それが彼女の限界であった。


隊員「...進もう、RAPTORは7匹だけじゃないはずだ」


ウルフ「うん...それにしても、雨が強いね」


隊員「あぁ、おまけに雷も鳴っている...急いで車にのって安全に移動しよう」


────カッ!

その時だった、まばゆい閃光が夜空を煌めかせた。

どこか近い場所で雷が落ちたようだった。

その明るみは、一瞬だけであったが暗闇の摩天楼を照らす。


隊員「...見えたか?」


ウルフ「うん...見えちゃったよ」


隊員「...前方以外囲まれている、10匹はいるぞ」


あたりは夜の帳、そして静寂とは正反対の雨の轟音。

頼れるものはウルフの嗅覚と聴覚、そしてタクティカルライトの視野。

一難去ったところで、緊張感が再度生まれる。


隊員「...5匹以上は相手にするな、わかったな?」


ウルフ「でも...もし全員でおそってきたら...?」


隊員「その時は...まかせてくれ...絶対になんとかする...」


彼の顔は水でずぶ濡れであった。

雨の仕業か、はたまた冷や汗がそうさせているのか。

とにかく進むしかない、再びウルフが先頭になり隊員が後方の帳を照らす。



957: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:48:12.59ID:XUuL3A850


ウルフ「...ねぇ! あれってっ!?」


隊員「...ッ!」


いつラプトルが襲ってくるかわからないこの緊迫状態。

再度進み始め数十分は経った、そんな中ようやく希望の光が見えた。

そこにあったのは、唸り声をあげながらも主人を待つ鉄の塊。


隊員「でかしたぞ...ッ! そのままゆっくり、派手な動きをせずに乗るぞ...」


ウルフ「うん...っ!」


隊員(助かった...あの様子だと鍵は挿しっぱなしみたいだな...)


────ゴロゴロゴロゴロッ...!

車を見つけたその時、遠くで雷が鳴り響いた。

それが影響してか、わずかに生き残った街灯が反応する。


ウルフ「──うわっ!?」


隊員(こんなときに停電かよ...ッ!!)


隊員「──離れるなッ! これだけが頼りだッ!!」


視覚は完全に奪われた、この暗闇に抵抗できるのはタクティカルライトのみ。

彼は背中でウルフの体温を感じ取ると、そのまま押すように前に進ませる。


隊員「...いいか? 一瞬だ...一瞬だけ前を照らす」


隊員「その一瞬で車の方向を完全に把握してくれ...いいな?」


ウルフ「...っ!」


前方のどこかに車がある。

本当ならずっと前を照らしてやりたい、だがそれを許してくれるラプトルなどいない。

あの狡猾な奴らが暗闇を利用しないわけがなかった。


隊員「...ッ! ...ッ!」


隊員(ヤバい...生まれて初めてだ...ここまで緊張するのは...)


隊員(これならPredatorに追われている方がマシかもしれないぞ...)


隊員(...まだだ、まだ前を向けない)


おおよそ10匹の奴らがこちらを狙いすましている。

彼ができるのは、ラプトルたちに光を当てて警戒心を強めさせることしかできなかった。

素早く手を動かし多くのラプトルに光をあてるだけという警告を送っていないと既に襲われている。



958: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:49:22.65ID:XUuL3A850


ウルフ「...」ピクッ


隊員「...すまない、まだだ...まだ無理だ...」


ウルフ「ううん...違う...聞こえたよ」


──ブロロロロ...ッ!

彼女にだけ聞こえた鉄が煙を吐く音、雨の轟音に紛れた希望の音が。

獣の耳をもってようやくそのエンジン音が聞こえるところまで詰め寄っていた。

あてずっぽうながらも、じりじりと進んだ甲斐がここにあった。


隊員「...やっぱり犬っ子は最高だ」


ウルフ「...うん、間違いないよ、なんか変なにおいもしてきた」


雨によりあたり周辺の匂いが流されていた。

雨によりあたりの音もかき消されていた。

狼という種族の長所を奪われていたが、ここにきてようやくそれが生きる。


隊員「このまま、進めるか?」


ウルフ「うん、だいじょうぶ...後ろはまかせたよ?」


隊員「...YES SIR」


思わず口角が上がってしまう。

ようやく逃げ足を確保することができた。

ゴールはすぐそこ、その事実が彼に癒やしを与えていた。


ウルフ「あとちょっと...」


隊員「いいぞ...まだ襲ってくる気配はない...このままいけるぞ...!」


──ザアアアアアアアアアアァァァァァァァ...!

車という存在に射幸心が煽られている、この雨の轟音すら気にならない程度に。

だが彼らから生まれたのはソレだけではない、いままで絶対に避けていたある感情がそこにはあった。


ウルフ「──ついたっ!」


隊員「そのまま乗...れ...」ピクッ


言葉が詰まってしまっていた、一体なぜなのか。

ウルフの手によって開けられた助手席側の扉。

そして開けた瞬間、車の窓ガラスになにかが映った。


ウルフ「────嘘」


────カッ!

雷が暗闇を照らした、そしてその閃光が見せてくれたのは。

彼らは実感する、ここにきて初めて油断というものをしたということに。



959: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:50:50.36ID:XUuL3A850


隊員「喋るな、動くな、目を合わせるな...コイツは動きに反応するらしい...」


ウルフ「...」


──ズンッ...!

その強烈な足音が物語るのは、圧倒的な恐怖。

先程の明るいときですらここまで近寄られたことはない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


隊員「...」


ウルフ「...」


先程とは別のレックスがそこにいた。

助手席に乗り込もうとしたときに開いた扉が唯一の隔てり。

彼らができるのは沈黙、そして不動であった。


隊員(...まさかこの雨音がT-REXの足音すらかき消しただなんて)


隊員(ふざけるな...B級映画ですらこんな展開をしないぞ...)


隊員(......いや、そうさせてしまったのは...油断か)


自責の葛藤、そして手には震え。

先程までラプトルを照らしていたライトは大いにブレている。

頭は冷静でいても、身体はもう抑え込めない。


隊員(...震えているのは自分だけじゃないか)


隊員(すまん...ウルフ...たとえ魔物とかいう種族でも、女の子にこれは酷すぎる)


ウルフ「...」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRR...」スンッ


あと僅かで車内へと入れるというのに、大雨の中で往生させられている。

急激に体温が低くなる、それは身体に付着した水分が影響しているだけではない。

眼の前へと移動してきた奴が匂いを嗅いでいるからだ。


隊員(...汗は雨に流れている...動物的な匂いはしないはずだ)


隊員(頼む...生き物だと気づかないでくれ...)


ウルフ「...」ブルブル


隊員の横で震えるウルフ、本能に刻み込まれた生態系の存在。

大きさがあまり変わらないラプトルなら話は別。

狼がティラノサウルスに立ち向かえるわけがなかった、そして劣悪な状況は更新される。



960: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:51:52.85ID:XUuL3A850


隊員(...嘘だろ)


────しと...しと...

先程まで聴力を奪っていた豪雨が、弱い音へと変わる。

この状況でなんと雨はあがってしまった。

その一方で身体から湧き出る冷や汗は止まらない。


隊員(まずい...雨が上がったことで匂いが流れなく...)


隊員(それに...T-REXだけじゃない...RAPTORもあたりにいるはずだ...)


隊員(奴らもT-REXの存在に警戒しているはずだ...すぐには襲いかかるとは思えんが...)


隊員(どうする...どうやって────)ピクッ


この状況、あの映画でも似たようなモノがあった。

あの時は発煙筒を使うことでこのデカブツを誘導することができた。


隊員「...」スッ


隊員(...気づくなよ...俺が動いていることに)


T-REX「GRRRRRRR...」


ごく僅かに腕を動かす、そして取り出したのはサイドアーム。

未だに近くに鎮座するT-REX、少しでも不審に思われたらお終いであった。


隊員「...」


隊員(一か八かだ...もしかしたら本命よりも射撃音に反応するかもしれない)


隊員(だがやるしかない...このままT-REXが大人しくこちらの様子を伺うだけとも限らない...)


隊員(タイミングは..."見えた"らだ)


先程まで恐怖によってブレていたタクティカルライトの光。

いかにして不自然な動きをさせずに、T-REXの目に入らないようにズラしていた。

その光をある方向へと固定させる。


隊員「...」


隊員「......」


隊員「.........」


まるで時が止まったかのような感覚でもあり。

まるで時が加速したかのような感覚でもあった。

矛盾するその体内時計、並々ならぬ緊張感がソレを実現させる。



961: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:53:11.85ID:XUuL3A850


隊員(...まだかッ!? まだ映らないのか...ッ!?)


ウルフ「...ぅぅ」ブルブル


隊員(まずい...ウルフも限界が近い...)


T-REX「...」スッ


そんなときだった、T-REXは動く。

こちらの様子を伺うために頭を下げていたが、その格好をやめた。

まるでどこか別の方へと向かうようなそんな素振りに見えた。


隊員(これは...なんとかなったのか...?)


ウルフ「...ふぅ」


だが、それは違かった。

なぜ頭を元の位置に戻したのか。

それはすぐにわかる、誰しも大声を出すときは予備動作が必要。


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッッッッ!!!」


その音色自体は今までも耳を刺激してきた。

だがその声量はとてつもないものであった。

人間の耳ですら厳しい轟音、それが狼の耳からすると。


ウルフ「────わああああああああああああああああああああっっっ!?!?!?」


隊員「────ッッ!!」ガバッ


ウルフ「わっぷっ!?」グイッ


隊員「──Shhhhhhhhh...Shh...」


人間の何倍もの聴力を持つウルフ。

彼女に襲いかかる多大なストレスが、思わず声を荒らげさせていた。

隊員が彼女の口を抑え、沈黙を促すがもう遅かった。


T-REX「...GRRRRRRR」


隊員(だめだ...目線が完全にこっちを向いているどころか...目があってしまった)


隊員「...ウルフ、覚悟してくれ」ボソッ


ウルフ「...もが」ピクッ


隊員(RAPTORならともかく...T-REXと真正面から撃ち合ったところで...)


その時だった、この一方的なにらみ合いに水を刺すものが。

今まで彼らを追い続けていた狩人の主。

ソレが偶然にもライトに照らされ、現れる。



962: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:54:32.18ID:XUuL3A850


RAPTOR「CRRRRRRRRRRR...!」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRR...」


隊員「...ッ!」


まるで獲物を横取りするな、そのような異議を申し立てているようにも見える。

ライトに照らされているのもあってT-REXの目線がラプトルに向く、それが一筋の勝機を導く。


隊員「────BIG MISTAKEッ! ASSHOLEッッ!!」


──ダァンッッ!

サイドアームにしたソードオフのショットガンから放たれる一撃。

それはただの射撃ではなかった、ある特殊な弾薬が可能にする魔法のような代物。

弾薬に入れられたマグネシウムが着火する。


RAPTOR「──CRRRRRRRRRRRッッ!?!?」


T-REX「──ッ!」ピクッ


ウルフ「──えっ!?」


隊員「────乗れッッッ!!!」グイッ


魔法を使えないはずの人間から放たれた炎魔法のような現象。

燃え盛るラプトル、それに気を取られたT-REXはラプトルの様子を伺うしかなかった。

呆然とするウルフ、そして気づけば助手席に座っていた。


隊員「──とばすぞッ!」


──ブロロロロロロロロッッッ!

彼が足元のペダルを思い切り踏むと、車は唸り声を上げて速度を出す。

緊張を生んでいた現場はすぐに視界から消え失せていった。


ウルフ「な、なにがおきたのっ!?」


隊員「この世界には発火性のある弾薬がある、それを撃ったッ!」


隊員「それよりもヘタに喋るな、道が荒れているから舌を噛むぞッ!」


ウルフ「う、うん...っ!」


──トタタタタタタッッ...!

窓から聞こえるのは、高速の足音。

そして車内のフロアライトによる明るさを利用することで、その全貌が伺える。



963: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:55:52.52ID:XUuL3A850


ウルフ「ついてきてるよっ!?」


隊員「...これだから普通車はッ!!」


RAPTOR「CRRRRRRRRRRッッ!!」


いかに速度を上げたところで民間の車では限界がある。

これがスポーツカーであるなら、これが緊急車両であるのなら。

残念なことに普通車では俊足のラプトルに追いつかれてしまう。


隊員「──ッ!」


ウルフ「まえっ! まえにっ!」


隊員「このまま轢くぞッ! なにかに掴まれッッ!!」


言われるがままに、ウルフは取手に捕まった。

そして目の前に見えるのは腐った死体、避けている暇はない、ぶつからざる得ない。


ZOMBIE「──...ッ!」


────グシャァァァァッッッ!!

いくら腐敗した身体だとしても、その衝撃はとてつもないものだった。

フロントに乗り上げた死体の一部が、フロントガラスにヒビを入れる。


隊員「死んでから迷惑かけてんじゃねぇぞッッ!!」


ウルフ「わあああああああああああっっ!!」


隊員「ウルフッ! 眼の前のコレを蹴破れッッ!」


ウルフ「わ、わかったよっ!」スッ


──パリンッ...!

衝撃の出来事が連発する、間違いなく自動車事故を体験したのは初めてだろう。

軽く混乱する、しかしそれでいて指示には答える、考えるよりも先に身体が動いていた。


隊員「外の奴を撃てッッ!!」


ウルフ「────ッ!」スチャッ


──ダンッ!

隊員の手元のスイッチにより、ウルフ側の窓ガラスが開かれる。

そしてそこから放たれる鋭い一撃。


RAPTOR「──CRRッ!?」ドサッ


ウルフ「あたったよっ!」



964: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:57:16.15ID:XUuL3A850


隊員「上出来だッ! 引き続きたの────」ピクッ


────ズンッ...!

遠くから聞こえる、重低音。

それが隊員の言葉を遮った、それだけではなかった。


ウルフ「うそ...もう追いついたの...?」


隊員「いや...これは新手だ...近くにいたのが並走してきたみたいだ...」


──ズンッ...ズンッ...!

そして聞こえる、連続した轟音。

それはすぐ近くに、そしてまた別の音が。


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」ズンッ


隊員「...こいつは足が遅いと聞いていたんだが、そうではないみたいだな」


ウルフ「き、きてるよぉぉおっっ!!」


T-REX「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRッッッ!!」


開いた窓のすぐそこに、ティラノサウルスの大きな頭が並んでいる。

そして開かれたのは大きな口、それが車に迫る。


ウルフ「──うわぁっ!?」サッ


──メキメキメキッ...!

ウルフは助手席から運転席側へと身を寄せた。

そうしなければ、確実にあの牙の餌食になっていた。


隊員「あの野郎ッ! 扉に噛み付いていやがるのかッ!?」


T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ! GRRRRRRッッ!」


ウルフ「ど、どうすればいいっ!?」


助手席側のドアに、正確には開いた窓とそのピラーに。

まるで肉がちぎれるような音が聞こえる、噛み付いているのは鉄だというのに。


T-REX「GRRRRRッッッ!」グイッ


──メキッ...! バキッ...!

そしてその捕食行為に耐えられるわけもなく、車の身体は欠損してしまう。

思い切り引っ張られた助手席側のドア全体が外れてしまった。



965: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:58:37.15ID:XUuL3A850


ウルフ「う、うわ...」ギュッ


隊員「随分と風通りをよくしてくれたな...このクソッタレ...」


ウルフ「うぅ...」


隊員「速度は落とせない、だがそれだと危険すぎる...この手を離すなよッ!?」


ウルフ「わ、わかってるよっ!」


藁にもすがる思いで、運転している隊員の腕にしがみ付く。

こじ開けられた助手席からは、外へと導こうとする風がウルフの身体を引く。

それだけではない、その狼の肉を喰らおうとする竜も待ち構えている。


隊員「...いいか? 次に大口を開いたら...その中を撃てッ!」


隊員「奴の皮膚はとてつもなく硬いはずだ、だがその内部はそうじゃない」


隊員「...言いたいことわかるよなッ!?」


ウルフ「...っ!」コクコク


──バサバサバサバサッ!!

風の騒音、返事をすることすら億劫に思える程だった。

だが隊員の指示は伝わった、彼女は片手でハンドガンを構える。


ウルフ「...」


──ズンズンズンッ...!

連続した、巨大な足音。

そして続くのは、古代の唸り声。


T-REX「──GRRRRRRRRRRRRッッ!!」


ウルフ「────ッ!」スチャッ


──ダンッ!

その一撃は見事にも、奴の口内へと命中する。

愚かにも大口を開けていた代償だった、しかしそれではまだ足りない。


T-REX「GRRRRRRRRRRRッッッ!!」スッ


隊員「だめだッ! 一発じゃ怯まないッッ!?」


ウルフ「そんなっ!?」


隊員「──衝撃に備えろッッ!!!」


威嚇していたと思えば今度は頭を大きく振り上げる、繰り出されるのは強烈なあの攻撃。

車の速度は落とせない、落とせば確実に後続しているであろうラプトルの餌食に。

車のハンドルはきれない、きれば確実に速度に煽られ横転する。



966: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 19:59:48.34ID:XUuL3A850


T-REX「────GRRRRRRRRRRRRRRRRッッ!」ブンッ


────ガッシャアァァァァァァァァンッッッ!!

文字通り頭を使った強烈なタックルが、普通車の助手席側をすべてを破壊する。

それどころではなかった、衝撃に負けた彼ら2人が車外へと飛び出してしまう。


隊員「──ッ!」


ウルフ「──うわああああっっ!?」


──ザリザリザリッ! ドサッ!

冬場の冷たいアスファルトが、2人の身体に強烈な擦り傷を負わす。

早くも高速移動が可能な足を失ってしまう、だが絶望に明け暮れている暇などない。


隊員(今ので左腕が折れたな...)


隊員「ウルフッ! 大丈夫かッ!?」


ウルフ「うぅ...だいじょうぶだけど...すぐそこに...」


T-REX「...GRRRRRRRRRRRR」


幸いにもここの街灯はわずかに生きていた、この巨体をライトなしで薄く目視することができる。

そしてその遠巻きに、様子を伺うような素振りをしているラプトルの群れが見える。


隊員(...こちらの装備は、アサルトライフルとドラゴンブレス)


隊員(そしてハンドガンが2丁...厳しいな)


ドラゴンブレス、それは火吹きのショットガンの総称。

対人武器としては非効率的な殺傷道具ではあるが、動物相手には効果は抜群。

だが、いま対峙している動物には相性はよくはない。


隊員(...RAPTORならともかく、T-REX相手に撃っても効果はなさそうだ)


隊員(あの巨体が...あの分厚い皮膚が炎を物ともしないのは確実だ...)


──ズンッ...!

先程の雨の影響か、あたりには水たまりが点在している。

そしてあの巨体が動くたびに、それが波紋を生み起こす。



967: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:02:34.09ID:XUuL3A850


ウルフ「あのね」


隊員「...なんだ?」


時の流れが遅く感じる。

身体が感じているのは、走馬灯に近いものであった。

お互いが死を覚悟している、だからこそ今落ち着いて会話ができている。


ウルフ「こんなにこわいんだね、死ぬ前って」


隊員「...」


ウルフ「...最後まで...いっしょにいてくれない?」


隊員「...もちろんだ、むしろ...犬っ子と最後まで逝けるだなんて光栄だ」


とんだ軽口、その一方で身体には震えが。

それを見透かしてか、ウルフは折れてない方の腕を組んでくれた。

そして徐々に近寄る捕食者。


ウルフ「...あのね、だいじなお友達がいたんだけどさ」


ウルフ「その子は殺されちゃったんだ...それも独りぼっちのときに」


隊員「...そうなのか、それは辛いな」


ウルフ「うん...」


そこから会話が続くことはなかった。

ただ最後にかの魔物の友人のことを、誰かに話したかっただけであった。

そして、目の前には大口を開けた捕食者が。


隊員「...少し諦めるのが早かったかな?」


ウルフ「...ううん、むりだよ」


隊員「...だな、車から投げ出された時点で死んでてもおかしくはなかった」


隊員「こうして死ぬ前の喋れるんだ...諦めは悪かった方だな」


ウルフ「...スライムちゃん、魔女ちゃん、ご主人...さよなら」


隊員「...Captain、先に逝ってます」


T-REX「────GRRRRRRRR」


────ドシュンッ...!

恐ろしく鋭い歯が最後の光景であった。

そして、肉から骨を貫く鈍い音が、最後に聞こえた音であった。


~~~~



968: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:03:45.57ID:XUuL3A850


~~~~


魔女「──居た」


──ゴロゴロゴロゴロッッ...!

空に響く鋭い音。

だがこれは自然がもたらしたモノではない、人為的な雷であった。


魔王妃「...まさか、空を追ってくるとは思いませんでした」


魔女「悪いんだけど、逃げられたら困るのよ」


人型の雷と人型の風が対峙する。

お互いが属性同化を行使している故の現象であった。

その様子はまるで嵐のような。


魔王妃「いえ、もう逃げません...無事に誘導できましたからね」


魔女「...どういうこと?」


魔王妃「簡単な話です、ここは地上からかなり距離があります」


魔王妃「...いくらなんでも、ここから闇魔法が飛んでくるとは思えません」


魔女「...そういうことね」


要は分断されてしまったということ。

魔王妃が逃げる理由、それは闇魔法というカードを持つ隊長がいるから。

いま彼女らがいる場所は宙、アサルトライフルでは狙うことのできない遥か上空。


魔女「...」


魔王妃「おっと、逃がすわけにはいきません」


魔王妃「強力な戦力は1つずつ、確実に潰す必要がありますからね」


ハメられた、冷静に考えれば魔王妃の後ろを追うのは危険すぎた。

このようにいつ踵を返してくるかもわからないはずだった。

無茶な追跡が窮地に追いやられる。


魔女「...へぇ」


だが追いつめられたのは魔女だけではなかった。

彼女は僅かにも油断している、魔王の妻ともあろう女が。

この油断が1つの勝機につながるかもしれない。


魔女「...これを見ても、その余裕が保てるの?」


──バチッ...!

1つの稲妻が魔女の身体から空の雲へと放たれる。

そして響くのは、神の鳴り音。



969: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:06:56.93ID:XUuL3A850


魔王妃「えぇ、余裕ですね..."属性同化"、"炎"」


風の身体に炎が新たに纏われる、そこから生まれるのは熱風。

生身でこれを受けたのならば全身大やけどは免れない。

2者の属性同化がぶつかる、それがどういうことなのか。


魔王妃「────喰らいなさい」


──ヒュンッッ...!

風が魔女を目掛けて襲いかかる。

それだけではない、風とともに来るのは。


魔王妃「...燃えてください」


魔女「そうはいかないのよ」


────バチィッ...!

魔女の身体が消える、どの方向に消えたのか。

魔王妃はそれを目視することができていた。

最後に見失ったのは自身よりも高い場所にある、雲。


魔王妃「...天候に味方されては困りますね」スッ


──ブンッ...!

属性の身体、その右腕を振りかざすと突風が巻き起こる。

その威力故に柔らかな雲を裂くことなど容易であった。

割れた雨雲から現れたのは、人の形をした雷であった。


魔女「げ...もう見破られたか...」


魔王妃「やはり...この雲を利用して目くらましをしつつ、高速移動をするつもりでしたね?」


魔女「...自然発生してた雷がいい感じだったんだけどなぁ」


魔女「──じゃあいくわよ」


その自然な会話から一転し、突如として放たれる。

彼女が気張るように両手を広げると、あたり全体に魔法が生まれる。


魔王妃「──チッ、私の雷よりも質が良さそうですね」


────バチバチバチバチバチバチバチバチッッッッ!!!

魔女の周り360度に展開する雷の網、その見た目は珠。

なにも対策をしなければ、確実に命中するだろう。



970: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:08:24.41ID:XUuL3A850


魔王妃「雷の密度が濃いですね...」


魔王妃「ですが...距離を取れば当たることはありませんね」


確かに魔女の放った雷は驚異的であった。

だがその見た目の派手さの代償にある欠点があった。

魔王妃の言う通り、その射程の短さに難あり。


魔女「...」


だがそのような見え透いた弱点を、魔女が気づかないわけがなかった。

彼女は賢い者への修行を終えた人物である、距離を取られたのなら取り戻せばいい。


魔女「──そこね」


────バチッ...!

細く鋭い雷が一点に伸びる。

侮りの戦術がもたらしたのは、強烈な一撃。


魔王妃「────うっ...!?」


魔女(...動きが止まった)


身体の痺れに悶える、不可視の風。

魔女の身体の周り全体にはまだ雷が展開している。

ならばやることは1つ。


魔女(──接近戦...)バチッ


魔王妃「近寄らせません...」


雷の珠が超越した速度で接近しようとした瞬間。

猿真似じみた行動を許してしまう、彼女はあの魔王の妻、故に許される。


魔王妃「────燃えろ...」


──ゴォォォォォォォォォオオオオオオオオッッッ!!

その太炎は炎帝のソレを超えている。

風に焚き付けられた炎は温度を加速させる。

ここに氷竜がいたとすれば、間違いなく刹那的に殺害できる。



971: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:09:22.97ID:XUuL3A850


魔女「──うっ...!?」ピタッ


魔王妃「...よく踏みとどまりましたね」


魔女「あっつ...何考えてるの?」


魔王妃「...ふふ、炎帝ほどの才能がなくても、他の属性の魔法を使えばここまで精錬できるのですよ」


魔王妃「あなたのように、得意な属性ばかりに頼っていては...私には勝てませんよ?」


魔女「...」


魔女(...さっきの一撃、まともに当てたつもりなんだけど...一瞬怯ませただけで致命傷になっていない)


魔女(これじゃ本当に...勝てないかも)


魔王妃「ところで、魔力薬の影響とはいえ...随分と懐かしい魔力をお持ちですね」


魔女「...え?」


魔王妃「とても懐かしいです...彼は私のことなど知らないはずでしょうけど」


魔女「...なに? 大賢者様と知り合いなの?」


魔王妃「...知りたければ、無理やり口を割らせてみてくださいね」


魔女「...腹立つわねぇ」


──バチンッ...!

魔女の身を包む雷の珠が痺れる音を鳴らす。

そしてソレが彼女全身に、特に両手へと収縮する。


魔王妃(両手に属性を...炎帝みたいな戦術ですかね)


魔王妃(いや、それとも...あの狼の魔物のように拳圧と共に雷を放つつもりでしょうか)


魔王妃(...どちらにしろ、接近はありえません...属性同化で実態がない身体とはいえ熱は伝わっているはずです)


魔王妃(身体を炎と同化させていない限り...高温の影響で身体に拒絶反応が起こる...)


魔王妃(...ならば、後者...じゃないにしても遠距離攻撃)


彼女が体制を変化させる。

風と炎の身体、そして少しばかり残る人としての型。

女性らしい特有の腰つき、彼女はいわゆる中腰の姿勢に。



972: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:11:09.02ID:XUuL3A850



魔王妃(来なさい...避けてあげます)


風があるなら、間違いなく高速で後部へと移動できる。

彼女の準備は万端、そして同じく彼女も万端であった。


魔女「──そこっっ!!」


──バチンッ!!

両手を前に突き出すとそこから強烈な雷が生まれる、魔王妃の読みどおり遠距離攻撃。

無駄に地属性の魔法を放たなくとも、これなら魔力を節約しつつ避けることができる。


魔王妃「──まずいですね、少し侮りました」


魔女「悪いけど、今はじめて...全力よ?」


────バチバチバチィィッッッ!!

侮りとは少し違う、魔女の全力はこれが初のお目見えなのだから。

適切な言葉は見誤り、彼女の魔力量を考慮すれば全力がどの程度なのかある程度察せるはずだった。

彼女の全力、それ故に放たれる雷の大きさは凄まじかった。


魔王妃「...」スッ


いまさら新たに地属性の魔法など唱えている時間などない。

ならばできることはただ1つ、そのために魔王妃は両手を前に突き出した。

すでに展開してある、属性同化のありったけをぶつけるしかない。


魔王妃「────っ!」


──ゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォッッ!

──バチバチバチバチィィィッッッ!!

2つの轟音が交わる、それに伴い生身の人間では耐えられない衝撃波が生まれる。

あたりの雲は怯えるしかなった、その炎に臆して積んでいた雪を雨に。

その雷に誘われて、貯めていた静電気を垂れ流してしまう。


魔女「────っ!」


魔王妃「──やりますね」


魔女「...っ! ...っ!」


残念ながら彼女には話している余裕などない。

その一方で魔王妃は冷や汗こそかいているが喋れている。

実力差がここに浮き出る、だが今はまだ互角。



973: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:12:48.75ID:XUuL3A850


魔女(くっ...少しでも気を抜くと押しこまれる...っ!)


魔女(だけどこのまま属性をぶつけ合っても...必ず負ける...)


魔女(...どうすればっ!?)


魔王妃「...このまま押し切らせてもらいます」


──ゴオオオオオォォォォォォォッッッ!!

互角だと思われていた、属性の押し付けあいに優劣が生まれ始める。

極太の雷の塊が風を纏う巨炎に負ける、このままでは間違いなく炎が魔女へと向かう。


魔王妃「...いくら実態のない雷の身体とはいっても、耐えられますか?」


魔王妃「それ以前に、その属性同化を保てますか?」


魔女「──こいつ...っ!」


見透かされた、早くも魔力がなくなりつつあることを。

そんなことは感知をすればすぐに気づかれる。

逆をいえば、魔王妃はもうすでに感知をすることができるまでの余裕を持っている。


魔女(...あとちょっとね、数分もすれば完全に雷は負けて私の身体を炎が焦がしてくるわね)


魔女(どうする...短い時間で解決策を考えなきゃ...っ)


魔女(どうにか...油断を誘えれば...)ピクッ


何かを考えついた、そのような雰囲気が醸し出す。

だがそれを拒む理性があった、行おうとするのはあまりにも危険。

油断を誘う方法、それは1つしかなかった。


魔女(...ギリギリ魔力は足りるはず...間に合わせるしかないわね)


このままでは負ける、ならば競う必要はない。

つまりは身体を元に戻すということになる。

それがどれほど危険なことか。


魔王妃「────なっ...!?」


当然、魔王の妻ともあろう者でも驚嘆する。

ある程度の力をだしていたといのに、突然手応えがなくなれば。

眼の前にあった巨大な雷、それどころか人型の雷も見えなくなったとすれば。


魔王妃(なにが狙い...っ!? いや、絶好の機会なのは変わりません...!)


魔王妃「──貰いました」


────ゴオォォォォォォォォォォォォッッッ!

炎が魔女の身体を焦がす、それだけではない。

風が更に焚き付け灼熱の温度を生み出す、極めつけは浮遊していた身体が。



974: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:13:51.69ID:XUuL3A850


魔女「──うわあああああああああああああああああああああああっっっ!?!?」


叫ぶしかなかった、身を蝕むやけど。

そして雲がもたらす雨、その温度差に身体が拒否反応を起こす。

そして最後に感じるのは地上へと引っ張られる重力。


魔王妃「...っ!」


魔王妃(狙いはなにっ...!? 全く読めない...っ!)


まるで意味不明な行動、予測できない自体に身を硬直させてしまう。

だが今しかない、属性同化という強力な魔法を使う魔物を仕留める絶好の機会。

重力に引っ張られる魔女をそのまま追い始める。


魔女(────あつい)


感想を述べている暇はない、魔女は次の行動へと移る。

身体が悲鳴を挙げているのなら癒やせばいい。

傷が治るまで何度も、何度も。


魔女「──"治癒魔法"」ボソッ


その声量は、とてもじゃないが他者には聞き取れない。

風が、炎が、うめき声が、雨が、雷が、5つの音がその小声をかき消す。

それだけではない、その治癒力はとても低いものだった。


魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ


魔力がないわけじゃない、こうしなければならなかった。

派手に治癒してしまえばその異変に彼女は気づくだろう。

今必要なのは、追いながらも狙いが読めず困惑している魔王妃。


魔王妃「...このまま手をかけなくても、地面に衝突して終わりですね」


魔王妃(しかしなぜ...まだ魔力薬の効力は続いている様だというのに)


幸いなことに彼女の性格が油断を誘えていた。

彼女は1から10までを調べないと気になって寝れない質。

様々な属性を自在に操る、つまりはかなりの探究心を持っているに違いない、魔女はそう仮説を立てていた。


魔女「"治癒魔法"、"治癒魔法"、"治癒魔法"」ボソッ


意識は消えかけ、生命維持のギリギリまで粘る。

熱に耐え、身を裂く風に耐え、失禁しそうになる落下速度に耐える。

そして時はきた。



975: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:16:19.85ID:XUuL3A850


魔王妃「...っ!」ピクッ


魔王妃(もしかしてこれは...私を地上へと誘い込んでいる...っ!?)


時はきてしまった。

魔王妃は気がついてしまった、これは明らかに地上へと誘導されている。

そして地上には誰がいるのか、忘れてはならないあの黒がいる。


魔王妃「────危なかった、気がついてよかった...っ!」ピタッ


魔女(...どうしてそこで...気がつけるの...っ!!!)


魔女「だめ...失敗したぁ...」


落下する自分を囮にして魔王妃を地上へと誘導する作戦は失敗した。

これしかなかった、せめて隊長の武器の射程範囲内へと誘導できたのならば。

だがそれはできなかった絶望感が彼女を襲った。


魔女(...属性同化をまた発動させて、落下を防ごうと考えていたけど...もう意味はないわね)


魔女(ごめん...スライム...帽子...ウルフ、そしてキャプテン...)


身体を焦がすやけどが多大な倦怠感を生み出していた。

すべてのやる気を燃やされてしまい、復帰は絶望だった。

もう1分もない、それを過ぎれば地面へと正面衝突だ。


魔王妃「...危なかったですが、そもそもあのドッペルゲンガーもいないみたいですね」


魔王妃「彼があそこにいると賭けに出たわけですね...ですが、博打すぎましたね」


魔王妃「...同じ魔物という種族ですから、最後まで見届けますよ」


魔物という種族、その王の妻。

哀れみにも近い表情で魔女の最後を見届けようとする。

その時だった、あらたな光が勝機を生み出す。


魔王妃「...」


────カッッッ!!

その音は稲光の音、だが魔女が創り出したモノではない。

これは自然が作り出した、神の鳴り音。


魔王妃「────うっぐ...っ!?」


身体に走る痺れ、完全なる油断。

知性のある生き物は雷に打たれる予想などしない、当然の不意打ちであった。



976: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:18:35.50ID:XUuL3A850


魔女「──っ!」ピクッ


魔王妃「な...どうし...て...」フラッ


不幸な一撃を貰いふらついた彼女、それに留まらず。

あまりの出来事に思わず、身体が地上の重力に負けてしまうほどに。

まさに奇跡であった、この異世界の自然は魔女を応援した様に見えた。


魔女(...ふふ)


魔女「────"属性同化"、"雷"っっ!」


──バチバチバチバチバチッッッ!!

倦怠に負けた身から元気を振り絞ったわけではない、何かを見て元気をもらったような雰囲気。

身体を雷にすることで重力に打ち勝ち浮遊する、これで地面との正面衝突を回避できる。


魔王妃「ぐっ...しまっ────」


──□□□...ッ!

身に感じる危険な音、それは黒くなく、白いモノ。

なぜそんなものがここにあるのか、不可解であった。


魔女「────信じてたわよ、あなた」


隊長「──あぁ、俺も信じていた」


闇の気配などない、だからこそ魔王妃は気づけなかった。

彼はもうすでにここに居た、居てくれていたのであった。

そして放たれるのは弾幕。


隊長「──Open fire...」スチャ


────ババババババババババ□□□ッッッ!!

なぜ彼は、闇ではなく光を使っているのか。

その答えはわからない、彼にすら。


魔王妃「──なぜ」


──グチャグチャッ...!

その高品質な光を前に、彼女の身体は実体を創らされていた。

それどころではない、属性同化という魔法を強制的に解除されてしまっていた。

眩しすぎるが故に。



977: ◆O.FqorSBYM 2018/12/24(月) 20:20:35.02ID:XUuL3A850


魔王妃「──なぜ、あなたが...」


隊長「...まだ耐えるのか」


魔女「その武器だけじゃだめ...もっと威力が欲しいっ!!」


──バチバチバチッ...!

この雷は、先程よりかはやや威力が低下している。

それでも決して低すぎるわけでもない。

だというのに、魔王妃の身体にはまともなダメージを与えることができずにいた。


魔王妃「──なぜ、あなたが光を...」


魔女「──頑丈すぎるっっ!?」


隊長「...大丈夫だ、来てくれた」


──バラバラバラバラバラバラッッッ!!

なにかが高速回転する音が訪れる。

雷にも引けを取らないその轟音、その音の主が上空から参上する。

そしてそこから覗くのはあまりにも大きすぎる銃身。


魔王妃「──なぜ、あなたが"あの子"の光を...」


隊員A「──I found enemy」


隊員B「Bitch ass...」スチャ


────ドシュンッ...!

鈍すぎるその音、どうやって発しているのか。

対物だからできる芸当、アンチマテリアルライフルの真骨頂がここに。

たとえ属性を持たぬただの武器であってもその一撃は計り知れなかった。


魔王妃「......そうか、"あの子"...そこに...いる...のね...」ポツリ


1人つぶやく彼女、その表情はどこか嬉しげなモノ。

光の弾幕でできた銃痕、雷によってできた身体の炭、そして対物ライフルの重すぎる一撃。

様々の要素が彼女の属性同化を完全に解除させていた、彼女は地面へと落下するしかなかった。


ウルフ「...」


隊員「...やったのか」


隊員Aが操縦するヘリコプター、そこから覗き込む2人。

ただその様子を見守ることしかできなかった。


~~~~



隊長「魔王討伐?」【その5】
元スレ
隊長「魔王討伐?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1542544023/
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