勇次郎「異世界転生小説とやらを執筆してみることにした」刃牙「エ~~~~~ッ!?」
刃牙「なに?」
勇次郎「異世界転生小説って知ってるか?」
刃牙「異世界……? ゴメン、ワカんない……」
勇次郎「一言でいや、現世で死んだヤツが異世界で活躍するって物語だ」
刃牙「へぇ~、面白そう」
勇次郎「チートだの、ハーレムだの、己の願望を具現化したかの如き愚にもつかぬ駄文だという」
刃牙「相変わらず手厳しいね、オヤジは」
勇次郎「とはいえ、戯れに踏み込んでみる価値はある領域と考える」
勇次郎「そこで……だ」
刃牙「?」
勇次郎「俺も異世界転生小説とやらを執筆してみることにした」
刃牙「エ~~~~~~~~~~ッ!?」
刃牙(これほど似つかわしくないものがこの世にあるだろうか)
刃牙「どうやって書くの?」
勇次郎「もちろんパソコンでだ」
刃牙「オヤジ、パソコンなんて持ってたっけ?」
勇次郎「ストライダムのヤロウに、適当なのを見繕ってもらうことにする」
刃牙(キャプテン……今日もお疲れ様です)
勇次郎「よし……すぐ用意しろ」
ストライダム「しかしユージロー、パソコンなどなにに使うのだ?」
勇次郎「小説の執筆だ」
ストライダム「What!?」
勇次郎「……」
ストライダム(Oh……見事なタイピングだ)
ストライダム(いったいどんな小説を……)
勇次郎「ストライダム、覗き見はマナー違反だぜ」ギンッ
ストライダム「ソ、ソーリー……」
ストライダム「ちなみに君の小説、読者第一号は誰に……?」
勇次郎「そうだな……やはり刃牙だろう」
ストライダム(刃牙……いつもいつも大変だな)
刃牙「できたの!? てか、ホントに書いてたの!?」
勇次郎「当たり前だろう」
勇次郎「書いたやつを印刷して、雑にではあるが一冊の本のようにしてみた」
勇次郎「読んでみろ」
刃牙「ウ、ウン……」
刃牙(オヤジの書いた異世界転生小説……一体どうなってしまうんだ!?)
転生した≪主人公≫は、片田舎である母親の一人息子として生を受ける。
刃牙「アレ……? 思ったよりマトモじゃん」
刃牙「文章も読みやすくて引き込まれるし、これ案外イケるんじゃない?」
勇次郎「おだてるんじゃねェ」
刃牙(きっとこの≪主人公≫が、大帝国を倒すハナシになるのかな……)
産まれた時にはすでに歯が生えていた。
母親はこの屈辱に耐えられず、我が子の元を去る。
この日、この異世界の全生物の強さのランクが自動的に一つ下がった。
刃牙「~~~~~~~~~~~ッッッ!!!」
勇次郎「どうした?」
刃牙「イヤ……なんでもない」
刃牙(オヤジィ……いきなり飛ばしすぎだっつーの!)
多くの敵を屠ったその背中には、いつしか“龍(ドラゴン)”が宿っていた。
刃牙「鬼(オーガ)は龍(ドラゴン)に変えてきたんだ」
勇次郎「まァな。そっちの方が読者ウケがいいンじゃねぇかと判断した」
刃牙(ちゃんと研究してらっしゃる……)
歴代皇帝は着任時、≪主人公≫へ宣誓することが義務となるのだった。
刃牙「早ッ!」
勇次郎「なにがだ?」
刃牙「まだ20ページぐらいなのに、もう大帝国が敗けちゃったじゃんッ!」
勇次郎「どうでもいいところは省略(はしょ)るのが主義だ」
刃牙「主人公が大帝国を倒す物語だと思ってたのに……」
≪主人公≫は巨大な象を屠った。
≪主人公≫は雷に打たれたが、そのまま散歩を続けた。
≪主人公≫は拳で地震を止めた。
刃牙「……」
刃牙「スゴイね……この主人公」
勇次郎「別に大したことはねェだろ」
刃牙(イヤイヤイヤ……アンタの基準じゃフツーなのかもしれないけどさ……)
≪主人公≫は≪息子≫を鍛え上げた。
≪息子≫は≪主人公≫の血を色濃く受け継いでおり、瞬く間に格闘技の王者になった。
刃牙「これ、もしかして――」
勇次郎「うむ、お前がモデルだ」
刃牙「やっぱり……」
刃牙(この息子、やたら強く書かれてるけど、嬉しいやら恥ずかしいやら……)
力自慢の怪人と力比べして圧倒したり、古代人や二刀流の剣士と出会ったりした。
刃牙「多少アレンジされてるけど、だいたいどの人かワカる!」
勇次郎「アイツらも、俺の小説に出られて光栄だろうぜ」
最終的に≪主人公≫は≪息子≫に手作りのスープを飲ませ、「ウマい」と褒められた。
完
刃牙「読み終わった……けど」
刃牙「これほとんど実話じゃんッッッ!」
勇次郎「リアリティを追求するなら、実体験を土台にするのが当然だろう」
勇次郎「俺の小説は妄想を書き殴っただけのそこらの有象無象とはワケがちげェんだ」
刃牙「そうかい……。だけど、一つだけ事実と違うところがあるね」
勇次郎「なんだ?」
刃牙「オヤジの味噌汁は少ししょっぱい」
勇次郎「イヤミかキサマッッッ!!!」
勇次郎「……そうか」
刃牙(心なしかホッとしてたような……この人にもホッとするなんてことがあるのか)
刃牙「じゃあ、この小説を本格的に書籍に――」
勇次郎「うむ、アニメ化する」
刃牙「はい?」
刃牙「あの……普通は、小説のアニメ化って、まず小説を本として売り出して」
刃牙「人気が出たら、アニメ化するって流れだと思うンだけど……」
勇次郎「不要だ」
刃牙「へ」
勇次郎「いきなりアニメ化するッッッ!!!」
刃牙「~~~~~~~~~~ッッッ!!!」
「ええ……いきなりでしたね」
「いきなり部屋に乗り込んできて、原稿を机に叩きつけ――」
「“これをアニメ化しろ”」
「“失敗は許さねェ”」
「ええ、この二言だけでした」
「断る? ムリムリムリムリムリ」
「次の瞬間、私の知る限りの凄腕のアニメーター達に片っ端から電話かけてましたわ」
勇次郎「うむ」
刃牙「どんなアニメになってるか楽しみだなァ」
勇次郎「所詮アニメなど絵に音と動きがついただけのシロモノ……大の大人が見るもんじゃねェがな」
刃牙(そのわりに口元が緩んでるよ……オヤジ)
刃牙「お、開始(はじ)まった!」
勇次郎「……」ギンッ
刃牙「……ウン、よかったよ!」
刃牙「俺アニメってあまり見たことないけど、キャラクターがぬるぬる動いてたし」
刃牙「声優の演技や演出もすごくよくて、オヤジの原作にも忠実だったもん!」
勇次郎「フン……思ったよりは上等な出来だったといえるだろう」
勇次郎「とにかくこれで、昨今のおよそ現実味のない異世界小説に一石を投じれたのは間違いねぇ」
勇次郎「さっそくネット上で感想を見てみるか」
刃牙「ア……それはやめた方が……」
勇次郎「どれ……」
『チート主人公大好きだけど流石にこれはやりすぎ』
『主人公強すぎてつまんねwwwwwwwwww』
『妄想もここまでいくと逆に尊敬する』
『リアリティなさすぎだろ……一話切り余裕でした』
勇次郎「殺゛し゛て゛や゛る゛~!!!」
刃牙「ヤッパリね……」
― 完 ―
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コメント一覧 (22)
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- 2019年02月05日 20:56
- 仲良し親子か
なおジャック
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- 2019年02月05日 21:01
- 全然似てないのに解体屋ゲンの異世界転生思い出した
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- 2019年02月05日 21:29
- 剣と魔法とスキル()が主流の世界に最強格闘家が転移という妄想は俺もよくやったわ。
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- 2019年02月05日 21:32
- ※1
急に聖人ぶったりやたら賞賛する取り巻きがいたり敵がことごとく策に嵌る白痴化したり本編でやってることが既に異世界転生主人公そのもの
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- 2019年02月05日 21:32
- オチがひでぇw
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- 2019年02月05日 22:01
- ほとんど実話なのに味噌汁の件だけ都合良い風に改変してるの笑えるw
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- 2019年02月05日 22:08
- そもそもバキって異世界物だろ?
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- 2019年02月05日 23:41
- 原人や剣豪のクローン出てるから十分ファンタジーなんだよなぁ…
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- 2019年02月06日 05:16
- 面白かった
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- 2019年02月06日 07:47
- 割と笑ってしもうた
刃牙愛が溢れてるのがわかるような刃牙らしい文章だったな
勇次郎らしい単純かつ思いっきりでわかりやすすぎる内容は面白かった
でも勇次郎が異世界転生とかしたら「前世が最強だったんで今回は最弱で」とか制約付けられそう
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- 2019年02月06日 08:37
- まあ勇次郎じゃないとチートもびっくりな活躍だし
仕方ないね
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- 2019年02月06日 09:41
- かりそめのメロディーが溶けそう
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- 2019年02月06日 13:44
- 最近は戦闘以前に相手を強制終了させる、世界の法則みたいなのが主人公ってのも流行ってるとか。
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- 2019年02月06日 15:33
- もしも勇次郎が異世界召喚されたら・・・?
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- 2019年02月06日 20:47
- 勇次郎「貴様ネットで俺をバカにしていたな?」
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- 2019年02月06日 21:33
- 面白いんだけどなんか小っ恥ずかしくなってきてしまって読み進められない…
本物の勇次郎が書いてるような気がしてきてしまう…
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- 2019年02月06日 21:44
- やっぱり最強設定キャラは敵役でこそ輝くんだなあって
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- 2019年02月07日 16:35
- お約束のインタビューあってワロタw
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- 2019年02月08日 02:12
- 嫌そりゃアンタ基準じゃ普通かもしんないけどさwレビューは正しいと思ふわはははははw
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- 2019年02月09日 06:55
- タイトルがもうずるい
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- 2019年02月16日 15:14
- ただの自伝で草
武芸百般だし、異世界でも上手くやるでしょ。