女「あの……宗教に興味ありませんか?」男「えっ……!?」
男(だいぶ疲れたけど、いいことすると気持ちがいいな)
女「あの……」
男「はい?」
女「宗教に興味ありませんか?」
男「えっ……!?」
男(ヤバイ、これは話を聞いたらマズイやつだ。もう店を出よう)
男「いえ、そういうのはちょっと――」ガタッ
チンピラ「待てや、兄ちゃん!」
マッチョ「話ぐらい聞いていったらどうだ」
男「ひいっ!?」
男「ど、どうぞ」
女「ところで、あなたは今いくらお持ちですか?」
男「いや、僕はしがないフリーターですし、お金なんてあんまり……」
女「そうでしょう、そうでしょう」
男(私たちの宗教に入ればお金持ちになれますよ、みたいな話をしてくるのか?)
女「ですが、あなたはもうお金に困る心配はありません。むしろ、大金持ちになれます」
男(ほら来た!)
女「私たちと一緒に宗教を作りましょう!」
男「え、作るの!?」
男「いや、宗教を作るって、簡単じゃないだろうし……。カリスマ性とかがないと……」
女「大丈夫、あなたにはその力があります」
男「あるかなぁ……。ないと思うけど……」
チンピラ「あるんだよ! さあ、宗教を作るといいやがれ!」
男「ひっ!」
マッチョ「コラ、脅すんじゃない。あくまで、これは提案なのだからな」
チンピラ「ちっ……」
マッチョ「やってくれるな?」パキポキ
男「や、やります……」
男(結局脅しじゃないか……)
女「まずはあなたを敬う信者を集める必要があるでしょうね」
男「そこが一番難しいところだと思うんですけど……」
女「信者を集めるには、やはりあなたが神秘的な“奇跡”を起こす必要があるでしょう」
男「あるでしょうって……生まれてから一度も奇跡なんて起こしたことありませんよ」
女「大丈夫、あなたならできます」
女「とりあえず、あなたの地元で無料のお悩み相談所を開設するところから始めましょうか」
男「はい……」
女「いらっしゃいませー」
チンピラ「どんな悩みでも解決するぜー!」
マッチョ「騙されたと思って来るがいい」
男「…………」
チンピラ「オラ、お前も声出せよ! サボってんじゃねえ!」
男「ひっ、す、すみません!」
女「さあ、私とご一緒に。いらっしゃいませー!」
男「いらっしゃいませー!」
青年「あの……」
男「!」
青年「さっき指を突き指してしまったんですが……」
男「ああ、それなら冷やした方が――」
女「なにをおっしゃってるんです。ちゃんと治さなければ!」
男「いや、治すって、僕は医者じゃないし……」
女「大丈夫、あなたにはその力があります。さあ、彼の指に手をかざしてみて下さい」
男「こんなことしたって……」サッ
青年「!」
青年「な、治った! 突き指が治りましたぁ! 嘘のように痛みが消えた!」
男「えええ!?」
青年「ありがとうございましたぁ!」
男(ホントに治っちゃったの……?)
リーマン「たまには上司がひどい目にあわないかな、と思ってるんです」
リーマン「たとえば、病気になるとか……」
男「そういう仕事の悩みは、もっとちゃんとした所に相談した方が……」
チンピラ「おい、こいつに指を突きつけてやれ」
男「へ?」
チンピラ「いいから!」
男「は、はい」ビシッ
リーマン「?」
リーマン「もしもし」
リーマン「えぇっ、本当!?」
男「どうしました?」
リーマン「上司がインフルエンザになって、当分会社に来れないようです!」
リーマン「とても苦しんでるようで……少しスカッとしました!」
チンピラ「やったなオイ! お前の力だ!」
男(偶然だと思うけど……)
男「うーん、お母さんや先生に話したりはしてないのかな?」
子供「あてにならないよ……!」
マッチョ「この子と握手してやるのだ」
男「握手ですか?」
マッチョ「うむ」
男「じゃあ……はい。いじめっ子なんかに負けないでね」ギュッ
子供「…………!」ビビビッ
男「え」
子供「ものすごくパワーがみなぎってきたよ! それと勇気も!」メラメラ…
子供「今のぼくなら、いじめっ子なんかに負けないっ!」メラメラ…
子供「あいつら全員、やっつけてやる!」
子供「お兄さん、ありがとう!」タタタッ
男「……大丈夫かな。返り討ちにあってボコボコにされちゃうんじゃ……」
マッチョ「問題ない。今のあの子なら、年上の子にだって勝てるだろう」
男「大行列ができちゃった……」
女「評判が評判を呼んで、皆さんあなたの力に期待するようになったのですよ」
男「はぁ……」
女「これでようやく次の段階に進めますね」
男「え?」
女「今こそ、あなたが教祖となり、新しい宗教を立ち上げるのです」
男「えええ!?」
男「いや、僕は今のままでいい――」
チンピラ「バカ! 今のままじゃ一文も儲からねえだろ!」
マッチョ「教祖になるのだ!」パキポキ
男「わ、分かったよ! なればいいんでしょ!」
ザワッ…
男「今日から僕はあなた方の教祖となります! ついてきてくれますか!?」
ウオォォォォォ……!
「教祖様!」 「教祖様!」 「教祖様!」 「教祖様!」 「教祖様!」
男「すごい熱狂ぶりだ……」
女「宗教の名前はどうします?」
男「うーん、そうだなぁ……『ルクラミ教』なんてどうかなぁ?」
女「おおっ、素晴らしいです! なんて神秘的な響きなんでしょう!」
チンピラ「それいい! それでいこうぜ!」
マッチョ「やはり我らが見込んだ男……今日からお前はルクラミ教の教祖だ!」
男(“ミラクル”を逆さにしただけなんだけどね……)
ワアァァァァァ……!
ワアァァァァァ……!
「ルクラミ! ルクラミ!」 「教祖様バンザイ!」 「ルクラミ! ルクラミ!」
男「えー……皆さん、こんにちは」
男「今、大変風邪が流行ってるので、皆さんも体調管理には十分気をつけましょう」
ワアァァァァァ……!
「教祖様のありがたいお言葉だわ!」 「ありがとうございます!」 「ルクラミ! ルクラミ!」
男(こんな中身のない挨拶でも、こんなに熱狂してくれるなんて……)
男「みんなから慕われるのは悪い気分ではないけど、ちょっと怖いな……」
女「すぐ慣れますよ」
男「だといいんだけど……」
女「それでは、いよいよお布施をいただきましょう。信者の皆さんからお金を巻き上げるのです」
男「え、金取るの!?」
女「当然でしょう。あなたは彼らを助けているのですから」
チンピラ「おうよ、堂々といただこうぜ!」
マッチョ「お布施を多く納めた者が、高い地位にいけるようなシステムにするのだ」
男「わ、分かったよ……」
LV2 50万円
LV3 100万円
LV4 500万円
LV5 1000万円
女「こんな感じでいいでしょう」
女「お布施をして、上にいけばいくほど、教祖であるあなたに謁見しやすくなるシステムです」
女「謁見しやすくなれば、あなたの奇跡を受けられる機会も多くなるというわけです」
チンピラ「きっとみんなこぞってお布施をしてくれるぜ!」
マッチョ「うむ、ここからルクラミ教の隆盛が始まるのだ!」
男「…………」
信者「ですから……」
男「分かりました……あなたをLV5信者にしましょう」
信者「ありがとうございます、ありがとうございます!」
信者「なので、娘の難病をどうか……」
男「ええ、あとで病院にうかがいますよ」
女「では、私と一緒に向かいましょうね」
男「……うん」
社長「1000万といわず、一億用意しました! なので、会社の経営を……!」
タレント「あなたのおかげで芸能界に返り咲けたよ! センキュー!」
女「各界の大物が、こぞってお布施をしてくれるようになりましたね」
チンピラ「へへへ、見ろよ! この札束の山をよ!」
マッチョ「これも全てお前の力によるものだ。もっともっと儲けるのだ!」
男「…………」
男「最初は軽い気持ちで始めたけど、どんどんとんでもないことになっていくなぁ……」
男「このままでいいのかなぁ……?」
青年「あ、あのっ! 教祖様!」
男「君は……いつだったか僕が突き指を治した……」
青年「はい、僕も今ではルクラミ教の信者です! まだLV2ですけど……」
男(LV2ってことは50万円以上もお布施したのか……)
青年「って、すみません! 教祖様に話しかけるなんて……」
男「いや、いいよ。少し話そうよ」
男「ああ、自分でもよく分からないんだ……」
青年「でも、不思議な力っていうのは、だいたいある日突然目覚めるものじゃないんですか?」
青年「実際、あなたは奇跡を起こしてるわけですし、誇るべきですよ!」
青年「今では大勢の信者が、あなたの奇跡を待っているんですから!」
男「…………」
青年「そういえば、いつもあなたのそばにいる側近のお三方は、昔からの友達ですか?」
男「いや、大人になってから知り合ったけど……」
男(今思えば、あの三人との出会い、かなり唐突だったな)
男(あの日、彼女らに会う前……そういえば僕は――)
――――
田舎道――
男(いやー、一人旅ってのも楽しいなぁ)
男(こんな何もない道歩くなんて、大勢で行く旅じゃ絶対できないもん)
男「……おや?」
男(こんなところに目立たないけど、小さな道がある……)
男(ちょっと行ってみるか)
男(古い小屋がある……)
男(どうやら神様を祀ってるようだ……。祠(ほこら)ってやつかな?)
男(だけど、きったないなぁ。下手すりゃ何百年も手入れされてないんじゃないか、これ)
男「……よし」
男「せっかく来たんだ! 僕がこの小屋をキレイにしてあげよう!」
ゴシゴシゴシ…
キュッキュッキュッ…
男(あとはこの三体ある神様の像みたいなのを……きちんと並べておこう)
男「できた!」
男「これで少しは神様も喜んでくれるだろ」
男「じゃあ神様、もう来ることはないかもしれないけど……御達者で!」
男「喫茶店にでも寄ってから帰ろうっと」
スタスタ…
――――
――
男(そうだ、それで喫茶店で休んでたら、あの三人に話しかけられたんだ……!)
男(宗教に興味はないか、作ってみないかって……)
男「……まさか! あの三人は!」
青年「どうしました?」
男「…………」ダッ
青年「教祖様!? どちらへ行かれるんですか!?」
……
女神「今日もまた、大企業の会長から億単位のお布施がありました」
女神「だいぶルクラミ教も大きくなってきましたね」
邪神「ああ、俺らが教祖であるあいつに力を貸して、奇跡を起こさせてやってるおかげでな」
武神「何かを癒やしたいという願いは女神、誰かを陥れたいという願いは邪神」
武神「そして、自己を高めたいという願いはこの私の得意分野だからな」
武神「このままいけば、遠からず彼が実質的な日本の支配者となるだろう」
女神「だけど、まだまだ足りません」
邪神「こんなもんじゃ、まだまだ恩を返したとはいえねえよなぁ?」
武神「うむ、次に狙うのは世界だ。世界中で彼に奇跡を起こさせ、信者を増やすのだ」
邪神「おう! 世界進出だ!」
武神「我ら三神で、彼を人類の頂点に立たせるのだ!」
男「やっぱり、こういうことだったか……」
三神「あっ!?」
男「で、その恩返しのために人間として僕に近づき、宗教を作らせたわけか……」
武神「く……神ともあろう者が、盗み聞きされてしまうとは……」
男「もう、こんなことはやめてくれ!」
男「僕は大金持ちになるつもりも、まして人類の頂点に立つつもりなんかないんだ!」
女神「なぜ拒むのです? あなたにはその資格があるというのに……」
邪神「そうだぜ、俺たちは別にあいつらを騙してるわけじゃねえ」
邪神「お金をもらってその代わりあいつらを助けてやる。今風にいうならウィンウィンの関係なんだ!」
武神「うむ、人々に心の拠り所は必要だ。本当に願いを叶えてくれる拠り所がな」
女神「それが私たちが作ったルクラミ教なのです」
男「…………」
男「人々に心の拠り所が必要だってのも分かる」
男「だけど今の状態じゃ、彼らは拠り所どころか、完全に依存してしまっている!」
男「やっぱり、肝心なところは自分の力でやり遂げないと……ダメなような気がするんだ」
男「僕は僕を信じてくれる人たちに、神頼みをするだけの人にはなって欲しくない!」
女神「うう……」
男「そしてなにより――」
男「僕はあなたたちに恩を売るために、あの祠を掃除したわけじゃない」
男「こんなことするなんて、それこそ僕の親切に対する侮辱だよ!」
女神「ううう……」
邪神「むむむ……」
武神「ぐぐぐ……」
男(……ちょっと言い過ぎたかな)
邪神「悪かったよ」
武神「すまなかった……」
男「いや、分かってくれればいいんです」
女神「ですが、私たちも神である以上、受けた恩はきちんとお返ししたいのです」
邪神「俺たちはどうすりゃいいだろう?」
男「そんなの決まってる」
女神「え?」
男「これからも僕のよき仲間でいて下さい!」
男「えー……今日でルクラミ教は解散します!」
ザワザワ… ドヨドヨ…
男「今までに集めたお布施も、なるべく全てあなたたちに返却します」
男「これからはもう、僕はあなたたちの力になることはできませんが……」
男「ルクラミ教で過ごした日々は、どうかよい思い出として心に残しておいて下さい!」
男「それはきっと、皆さんの力になると思いますから……」
男「では、皆さんさようなら!」
ワアァァァァァ……!
「教祖様ーっ!」 「ルクラミ! ルクラミ!」 「やめないでーっ!」
男「もっと揉めるかと思ったけど、みんな分かってくれてよかったよ」
女「それはあなたの人間性のおかげですよ」
女「とはいえルクラミ教、せっかく作ったのに、ちょっともったいない気がしますね」
男「まあね……だけど、完全に消えるわけじゃない」
女「え?」
男「ルクラミ教は、僕ら四人グループの名称ってことにしとこう!」
男「ただし、僕を神の力で助けるのはナシで!」
チンピラ「お前、ホント欲ねえなぁ。神である俺でも呆れちまうぜ」
マッチョ「まあ、こういう男だからこそ、我らを助けてくれたのだし、我らだって助けようと思ったのだ」
チンピラ「……まぁな」
女「せめて、私たち三人、あなたのために祈ってもよろしいですか?」
男「祈るぐらいなら、どうぞどうぞ!」
女「では、これからのあなたの人生が実り豊かなものになりますように……」
チンピラ「柄じゃねえが邪神である俺も祈らせてもらうぜ! 祈ったら今日はカラオケだ!」
マッチョ「うむ、今日は祈って歌うぞ! 演歌を歌いまくってやる!」
男「アハハ……だったら僕も祈りに応えられるよう頑張らなきゃ!」
男(世界に宗教は数あれど、人が神様に祈ってもらえる宗教はきっと珍しいに違いない)
― 終 ―
「男女」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (14)
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- 2019年01月31日 00:32
- ルクラミ教のお陰で髪の毛が生えてきました
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- 2019年01月31日 00:41
- ルクラミ教
今までにない単語なのに妙に語呂がいい。
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- 2019年01月31日 00:57
- ルクラミ教
試しに200円お布施したら 帰りに買ったスクラッチで5000円当たって草
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- 2019年01月31日 01:53
- 俺は宗教なんかに興味ねーんだよ!二度とくんじゃねーよ!
-
- 2019年01月31日 02:06
- パキポキ………
-
- 2019年06月07日 12:56
- >>5
キョウソニナルノダ!
-
- 2019年01月31日 04:55
- もっと邪神のツン見たかった・・・
-
- 2019年01月31日 08:31
- まあ世界の頂点に立ってうれしい人とそうでない人はいるよね
-
- 2019年01月31日 11:20
- ※6
邪神のパンツに見えた。
-
- 2019年01月31日 11:21
- お金は欲しいが上に立ちたいとは思わんわ。
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- 2019年01月31日 11:28
- 押し付けがましい恩返しだけど、神話なんかの神様も人の話なんか聞きやしないもんなぁ
-
- 2019年01月31日 13:47
- 神は人間が作り出したモノだから人間に勝てるワケがないんだが?
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- 2019年01月31日 15:28
- ルクラミ教って語呂よくて、適度にカルト感があって、ネーミングとしてすごい好き
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- 2019年02月01日 01:30
- ssはこういうのでいいんだよ