女「新入社員で忍者が入ってきちゃった」忍者「任務はなんでござるか!?」
- 2019年01月24日 00:10
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課長「今日からこの課に配属になった忍者君だ」
忍者「よろしくにござる」
ザワザワ…
「忍者……?」 「本物?」 「まさか……コスプレだろ」
課長「とりあえず……忍者君は君が見てもらえるかな」
女「私ですか?」
課長「うむ、頼むよ。君はそこらの男性社員より仕事ができるし……」
女「分かりました」
女(こういう扱いにくい新人は、私みたいな無愛想で扱いにくい女子社員に預けて)
女(まとめて厄介払いってわけね。分かりやすいわ)
忍者「応!」
女「じゃあ、さっそくだけど……」
忍者「任務はなんでござるか!?」
女「この書類を総務課まで届けてきてもらえる?」
忍者「承知したでござる!」クルクルッ
女「! ちょっと、なんで丸めてるの?」
忍者「やはり機密書類は巻き物にしないと……」
女「大して機密でもないし、普通に届けて!」
忍者「とあっ!」シュタタタタッ
女(速ッ!)
女「ご苦労様」
女「今度は私と一緒に外回りに出かけるわよ」
忍者「外回り……つまり敵地偵察でござるな?」
女「偵察じゃないわ」
忍者「では、まさか暗殺任務!? ならば拙者にお任せあれ!」
女「暗殺でもない! あんたは私の後についてくればいいの!」
忍者「承知!」
取引先課長「ほう、忍者のサラリーマンとは珍しい」
女「でしょう? 私もこんな後輩を持つのははじめてで……」
取引先OL「コーヒーをお持ちしました」
女「ありがとうございます」
忍者「不要でござる」
取引先OL「え」
忍者「拙者、敵地で出された茶を飲むほどお人好しではござらぬ」
取引先課長「…………」ポカーン
女「ちょ、ちょっと! なにバカなこといってんの!」
忍者「拙者、馬鹿ではないでござる」
女「……もうあんなことがないようにしてよね」
忍者「すまぬでござる」
女「じゃあ……今日の報告書を書いてもらおうかしら。打ち合わせの内容をまとめてくれる?」
忍者「承知したでござる」カタカタ
女(あら、パソコン操作はなかなかのものじゃない)
女(てっきり“パソコンなんて触ったことがない”なんてオチだと思ってたのに)
女「…………」
女「……なにこれ」
『いろろろろはににほへへへとととととといろろろはにににほへへへへとととと……』
忍者「我が里に伝わる“いろは暗号”にござる」
女「暗号にしなくていいから!」
課長「なにかね?」
女「率直にお聞きします。なんで人事部はあんなのを入社させたんですか?」
課長「うむ……どうも今年は“変わったのを入れてみよう”ということになったらしくてね」
女「いくらなんでも変わりすぎですよ」
女「まともな報告書作らせるだけでも一苦労です」
課長「だよね……」
課長「しかし、一度入れてしまったからには、そう簡単にクビにはできんし……」
課長「それになんたって忍者だ。きっと役に立つこともあるだろう」
課長「なんとか頑張って教育してみてくれ」
女「……分かりました」
女「ハァ……」
<会社>
忍者「総務から備品を受け取ってきたでござる」シュザッ
女「ありがと」
女(少しは社会常識をわきまえてきたかな)
女「ところで、私も忍者に詳しいわけじゃないけど、忍者って色んな流派があるじゃない?」
女「伊賀とか甲賀とか……あなたはどっちなの?」
忍者「いやぁ、拙者はそんなメジャーな流派ではなく、≪天賀≫でござる」
女「て、天賀!?」
忍者「あ、さては別のものを想像してるでござろう? なかなか助平な女人にござるな」
女「!」ギクッ
女「ち、違うわよ!」
忍者「ちなみにそちら、拙者愛用しているでござる」
女「言わんでいいから! このスケベ忍者!」
ガタンゴトン… ガタンゴトン…
女「今日の訪問先は難攻不落だから、気合入れて行くわよ」
忍者「…………」ジーッ
女「どうしたの?」
忍者「窓の外の景色に忍者を走らせてるのでござるよ」
女「なにやってんだか……」
取引先部長「どう? このピースしてるのがうちの娘、なかなか美人でしょ?」
女「ええ、ホントですね」
女(いつもいつも、どうでもいい話題で本題を逸らされちゃうのよね……)
女(かといって、露骨に話題を戻そうとすると機嫌損ねちゃうし……手強い相手だわ)
取引先部長「しかし、最近ボーイフレンドができたと言っていてねえ」
取引先部長「どんな奴か気になって、なかなか夜も眠れんのだよ」
女「はぁ……」
忍者「でしたら、拙者が相手の男を調べるでござる」
取引先部長「え」
女「え」
忍者「諜報任務は忍者の十八番、お茶の子さいさいでござるよ」
女(だったら、なんでウチみたいな会社に入社したのよ。CIAとかに入れっての)
取引先部長「うむむ、是非お願いしたい!」
忍者「承知したでござる。結果は三日後には報告できるかと」
取引先部長「おおっ! ありがとう! この礼は必ずするよ!」
女(あら? 思わぬ展開に……)
忍者「この通りでござる」サッ
取引先部長「す、すごい! たった三日でこんなに詳しく……」
取引先部長「ふむ、ふむ……どうやら真面目な好青年で間違いなさそうだ」
取引先部長「これで今夜から安眠できる……」
忍者「お役に立ててなによりでござる」
取引先部長「これほどのことをしてもらって、お返しをしないわけにはいかないねえ」
取引先部長「今度の件、君のところと契約しよう!」
女「! ……ありがとうございます!」
忍者「おおっ、拙者が役に立てたでござるか」
女「ええ、今までは変な社員だとばかり思ってたけどごめんなさい。あなたは立派に戦力になるわ」
忍者「いやいや、なんのなんの」
女「というわけで、これからはもっとバリバリ鍛え上げていくわよ!」
忍者「望むところでござる!」
女「あちゃ~、失敗したわね。このあたり、お店がどこにもないわ」
女「仕方ない、今日はお昼ご飯は食べずに……」
忍者「いえ、拙者に任せるでござる」
女「どうするつもり?」
忍者「こいつを使うでござる」サッ
女「これはハト? まさか食べるつもり!?」
忍者「こいつは伝書鳩でござる。これで弁当を届けてもらうでござる」バサバサッ
女「へぇ~、そんなこともできるの?」
スタッ
くノ一「兄上、ただいま参上!」シュザッ
忍者「うむ、ご苦労でござる」
女「え、妹さん!?」
くノ一「お弁当を二つ持って参りました。さ、どうぞ」サッサッ
忍者「ありがとう」
女「ど、どうも」
くノ一「では私、これにて!」シュザッ
忍者「ちなみに妹は女子大生でござる」
女(この兄にして、あの妹さんアリって感じね……)
女「きゃっ、ゴキブリ!」
忍者「むっ!」シュシュシュッ
カカカッ
女「ひっ!」
忍者「どうでござるか」ニッ
女「手裏剣のが怖いっての!」
~
女「忍者君、ちょっと」
忍者「なんでござるか?」
女「これ……間違ってるわよ」
忍者「む……」
忍者「忍法、変わり身の術!」ドロンッ
同僚「え、俺!?」
女「コラ、逃げるなーっ!」
課長「ハハハ、まあまあ」
女「まあまあじゃないですよ、課長!」
課長「しかし、こういうこというとセクハラになってしまうかもしれんが……」
女「? どうぞ」
課長「君、前より感情を表に出すようになった気がするねえ」
課長「前はもっと無感情で、人を寄せつけないカミソリのような感じだったのに」
女「…………」
女(そうかもしれない……)
女(他人に対して声を荒げたりすることなんて、あの時以来ほとんどなくなってたのに……)
忍者「……ところで、前々から気になっていたでござるが」
女「なに?」
忍者「なかなか綺麗な指輪にござるな」
女「ああ、これ?」キラッ
女「これね……昔の彼氏にもらったものなのよ」
忍者「ほう、そのような男性がいたのでござるか」
女「意外だった?」
忍者「意外でござった」
女「コラ、忍者なんだからもっと本音は忍ばせなさい」
忍者「すまぬでござる」
女「それからかな。周囲との関わりを避けて、仕事に没頭するようになったのは……」
女「でも、この指輪は捨てられなかったわ……未練よね」
忍者「…………」
女「だけど、もういいかな。ちょうどいいところに川あるし」
女「えいっ!」ヒュンッ
ポチャンッ
女「え!?」
バッシャーン!
忍者(水遁の術……)スイーッ
女「ちょっと何やってるのよ!」
ザバァッ!
忍者「見つけたでござる!」
女「見つけたって……なんでわざわざ捨てたのを取ってくるのよ!」
女「…………!」
忍者「捨てるぐらいなら、質屋に売るとか、もっといい処分の方法はあるでござろう」
女「……ぷっ」
女「アハハハハハッ! ハハハハハハッ!」
忍者「な、なんで笑うでござるか!」
女「いやー……ごめんなさい。忍者だけあって合理的なのね」
女「……ありがとう」
忍者「お役に立てて何よりでござるよ」
女「さあて、今日は残業するわよー!」
忍者「承知でござる!」
女「忍者君、この書類お願い」サッ
女「忍者君、これ入力しといて」サッ
忍者「応!」カタカタ…
女(よく働いてくれてるわ。これなら、何とかなりそうね)
女(あの人から!?)
『今から会えないかな? レストランに来て欲しいんだ』
女「…………!」
女(なによこれ……あんなひどい振り方しといて、いきなり会いたいだなんて……)
女(だけど、会いたくなってる自分がいる……)
女(私ったら、なんて情けない女なのかしら……)
女「……あ」
女「あのね、忍者君……」
忍者「何でもおっしゃって下され」
女「実は……ちょっと急用ができて……仕事抜けてもいいかな?」
忍者「もちろん、いいでござるよ!」
忍者「あともう少しでござるし、あとは拙者だけで大丈夫でござる!」
女「……ありがとう」
女(ごめんね……忍者君)
女(指定されたレストランはここだわ……)
女(私は何を期待してるの? 今さらよりを戻したいの?)
女(自分の気持ちが分からない……)
従業員「いらっしゃいませ」
女「先に人が入ってるんですけど……」
従業員「あちらの席のお客様ですね。ご案内いたします」
元彼「やぁ、君なら必ず来てくれると信じてたよ」
女「…………」
元彼「さ、座って座って」
女「それで……なんの用?」
元彼「あのね……」
女「…………」ドキドキ
元彼「今はこの≪忍者ソード≫っておもちゃを売ってるんだけど、全然売れなくて困ってるんだよねー」
女「忍者……ソード……」
元彼「ほら、振るとピカピカ光るんだ」ピカーッ
元彼「だからさ、昔のよしみで買ってくれないかな? 一本5000円なんだけど……」
元彼「頼むよ! 人助けだと思って!」
女「…………」
元彼「え、マジ!?」
女「今、何本持ってるの?」
元彼「えぇっと……10本」
女「じゃあ、10本とも買うわ」
元彼「マジで!? 超助かるよ! 持つべきものは元カノだなぁ、ヒャッホウ!」
女「…………」
元彼「!」ビクッ
女「あなたとはもうこれっきりだから。二度と連絡してこないで」
女「いいわね」
元彼「……あ、ああ、分かったよ。悪かったよ……」
女「それじゃ」
スタスタスタ…
女(勝手に期待して、おもちゃ買っちゃって……何やってんのかな、私)
女「……ん?」
忍者「とうっ!」ドロンッ
女「に、忍者君!?」
忍者「仕事が終わったので、つい追いかけてきてしまったでござる! 失敬!」
忍者「レストランに入ってすぐ出てきたでござるが、よかったでござるか?」
女「うん、もう用は済んだから」
忍者「そうでござるか!」
忍者「おおっ! 指輪をくれた御仁でござるな?」
女「でさ、≪忍者ソード≫なんておもちゃ、つい10本も買っちゃった」
女「バカよね、私……」
忍者「こ、これは……!」
忍者「こりゃあすごいでござる!」
女「え?」
忍者「おおっ、振ると光るでござるか! なんというハイテクでござるかぁぁぁ!」ブンブン
女「……気に入ったならあげるわよ。10本全部」
忍者「こんな名刀をいいでござるか!?」
女「うん、いいよ」
忍者「か、かたじけない! いやぁ、嬉しいでござる!」
女「ふふっ……」
女「いいわよ、そんなの……」
忍者「かといって、今の拙者に持ち合わせはないので……」
忍者「そうだ、飛ぶでござる!」
女「へ?」
忍者「この風呂敷で一緒に空を飛ぶのでござる。さぁ!」バサッ
女「えぇぇ!?」
女「きゃあああああっ!」
忍者「これぞ忍法、ムササビの術でござる!」
女「すごい、すごい! 私、飛んでるわ! ハングライダーみたい!」
忍者「風に乗れば、どこまでも飛べるでござるよ」
女「きゃーっ! 気持ちいいーっ!」
忍者「こうして空を飛ぶと、どんな悩みも吹き飛ぶでござるよ」
フワフワァ~……
女「おかげでスッキリしちゃった! ありがとね!」
忍者「…………」
女「? どうしたの?」
忍者「先輩は忍者ではない」
忍者「いつもいつも耐え忍ぶ必要は……ないでござるよ」
女「…………」
女「全部……お見通しだったってわけね。さすが、忍者……」
女「うっ……」
女「ああああああああああああああああああんっ!!!」
忍者「思う存分、泣くでござる」
女「……うん。ありがと」
…………
……
女「…………」
女(あれから忍者君と付き合うことになっちゃって、今日はいよいよ初デート……)
女『忍者の格好だけはやめてね』
忍者『う……分かったでござる』
女(――って釘を刺しといたけど、一体どんな格好で来るやら……)
「お待たせでござる!」
女「あら! 結構イケてるじゃない!」
忍者「そうでござるか?」
女「うん、これからは会社にも普通のスーツで来なさいよ。みんな見直すから!」
忍者「いや、それは忍者の矜持に反するし……」
女「忍者の矜持もいいけど、サラリーマンとしての矜持も持ちなさいっての」
忍者「むむむ、努力するでござる」
女「ま、いいわ。今日は思いっきり楽しみましょー!」
忍者「そうでござるな!」
子供B「あ、いいなぁ!」
子供C「光るだけじゃなく、変形もするんだろ、それ!?」
ワイワイ…
忍者「――むむ!?」
忍者「ちょっと見せて欲しいでござる!」シュババババッ
子供A「わっ!?」
子供B「なんなの、お兄さん!?」
忍者「拙者、忍者ソードの愛好家でござるよ!」
女「…………」
子供A「でしょでしょ!」
子供B「お兄さんの刀の握り方、本物の忍者っぽくてかっけー!」
忍者「当然! 拙者、本物でござるからな!」
ワイワイ… キャッキャッ…
女「まったく、連れをすっぽかして忍者ごっこしてるんじゃないっての……」
女(でも、この忍者と付き合ってたら、笑顔を忘れることはなさそうかな)クスッ
―おわり―
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コメント一覧 (12)
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- 2019年01月24日 01:57
- 忍者の責務あるなら余計普段着着ようよ、普段は農民とかとして情報収集してたのが忍者なんだから
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- 2019年01月24日 02:03
- 忍んでねえ忍者なんかたくさんいるってばよ
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- 2019年01月24日 02:04
- 忍べよ
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- 2019年01月24日 07:07
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- 2019年01月24日 16:31
- すこ
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- 2019年01月24日 17:05
- それよりも妹忍者を詳しく
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- 2019年01月24日 17:10
- おもちゃのニンジャソード貰ったお礼に自前のニンジャソード♂あげたわけか
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- 2019年01月24日 18:34
- 天賀衆なら実在してたんだよなあ…
伊賀か甲賀か忘れたけどその集団の中で、天皇の元に仕えたり、またはいわゆる天下を取った将軍の元に仕えるための選り抜きの忍者達のことを「天賀衆」と言ってたんだぞ。
ちなみに天下を取った将軍に元々仕えていた忍者を将軍が傍に置き続けるのを希望したらその忍者も「天賀衆」になる。
勿論全部嘘
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- 2019年01月24日 18:45
- サラリーマン…忍者…単身赴任?
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- 2019年01月25日 01:12
- こんなのただのコスプレ、と思わせる忍び方だぞ
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- 2019年10月09日 23:49
- アイエエエエエエエエ!!???