殺し屋「便所で食う飯は最高だ……!」少女「依頼人来たよー!」
男「なんだこれは? ――公衆トイレじゃないか!」
少女「失礼ね」
男(女の子!?)
少女「このトイレはほとんど使われてなかった公衆トイレをお金で買い取ったものなの!」
少女「だから公衆トイレじゃなくって……えーっと個人トイレ? 私物トイレ?」
男「まさか……君が殺し屋?」
少女「んーん、違うよ。あ、もしかして、あなた依頼人?」
男「ああ……そうだけど」
少女「そっか! 仲介人さんから話は聞いてるよ! さ、入って入って!」
殺し屋「便所で食う飯は最高だ……!」ガツガツ
少女「依頼人来たよー!」ガチャッ
殺し屋「わっ!? 人が便所飯してる時に開けるな!」
男(トイレの個室でコンビニ弁当食ってる……)
殺し屋「って、あんたは?」
男「あなたに依頼したい者です」
殺し屋「ああ、これは失礼」グビグビ
男(便器に座りながらCCレモン飲むのやめて)
男「この県議会議員です」サッ
男「自分の地元に採算度外視したテーマパークを作ろうなどとバカなことを考えていて」
男「あまりに強硬に事を進めるものですから、消えてもらうしかなくなってしまったのです」
殺し屋「“トイレのテーマパーク”だったら俺は大歓迎だけどな」
男「は?」
殺し屋「いや……なんでもない」
男「しかし、狙われている自覚があるのか、公私ともにガードは固く……」
殺し屋「関係ない。どんな人間であろうと、トイレでは無防備になるものさ」
議員「ふぅ~……」ジョロロロロロ…
議員「今日は前祝いにビールを飲みすぎてしまったわい……」
議員「今度の議会で必ずテーマパーク案を可決させてやる! 反対派をねじ伏せてな!」
殺し屋「…………」ヌウッ
議員「うわっ!? なんだお前!?」
殺し屋「…………」シュルルッ ギュッ!
議員(これは……縄!? いや――トイレットペーパー!?)ミシミシ…
殺し屋「トイレットペーパーも、俺の手にかかれば立派な凶器となる」グググッ…
議員「ぐええっ……!」メキメキ…
議員「…………」ガクッ
殺し屋「もし生まれ変わったら、今度はトイレのテーマパークを建てるんだな」
殺し屋「ああ、この通りだ」
少女「お疲れ様ー!」
少女「うーん、相変わらず鮮やかだね」
殺し屋「まぁな……トイレでは俺は無敵だ!」
―ジムのトイレ―
格闘家「あんた、誰?」
殺し屋「殺し屋だ……お前には死んでもらう」
格闘家「へっ、俺を誰だか分かってんのか? 死ぬのはてめえの方だ!」ダッ
ビュッ! ビュッ! ブオッ!
格闘家(なんて動きだ……! 当たらねえ!)
殺し屋「リングの上ならともかく、トイレでは俺の方が上だ」シュッ
ガポッ
格闘家「もご!?」
格闘家(これは……ラバーカップ!?)
殺し屋「何の変哲もないラバーカップも、俺の手にかかれば立派な凶器となる」
格闘家「もご、もご……!」
殺し屋「このまま引っぱれば、お前は内臓を口からブチ撒けることになる」
格闘家(やっ、やめ――)
殺し屋「地獄から、お前が暴行した被害者たちに謝罪するんだな」グイッ
格闘家「!!!」
ゲボボボボボボボボボボボボボッ…
少女「うわぁ~、こりゃまたグロイ殺し方したね」
殺し屋「もう少し加減するべきだった」
…………
……
女(ここが……殺し屋のアジト……? どう見ても公衆トイレだけど……)
少女「あ、いらっしゃーい! お待ちしてましたー!」
少女「さ、入って入って」
女「入って……ってそっち男子トイレでしょ?」
少女「このトイレはあたしらの私物なんだから、男子も女子もないの」
女「じゃあ……お邪魔します」
少女「依頼人来たよー!」ガチャッ
殺し屋「わっ、だからメシ中は開けるなっていってんだろ!」
女(トイレの個室でカレーライス食べてる……)
少女「開けられたくないなら、カギ閉めときゃいいのに」
殺し屋「カギ閉めてたら、いざという時飛び出せないだろ!」
少女「ワガママだなぁ……」
殺し屋「あんたが依頼人か? これは見苦しいところを」フキフキ
女(トイレットペーパーで口についたカレー拭くのやめて)
女「トイレメーカー『JONBE』の社長です」
殺し屋「『JONBE』といったら、このところ急激にシェアを伸ばしてるトイレメーカーだな」
殺し屋「なんでまた? まさかあんた、『TOTO』の社員とか?」
女「いえ、違います」
女「私の恋人はこの『JONBE』に勤めていて……」
女「そして、殺されたんです」
殺し屋「……詳しく聞こう」
女「このところシェアを伸ばし始めたのも、その後ろ盾があるからだったんです」
殺し屋「ほう」
女「私の恋人はそれに気付き、独自に調査を始めたのですが、奴らに気づかれてしまい――」
少女「殺されちゃったってわけね」
女「……そうです」
女「ちなみに、これが彼の写真です」
殺し屋「……トイレ好きそうないい顔をしている。俺ほどじゃないがな」
女「ありがとうございます」
女「結局、事件は闇に葬られ……私は復讐のためにあなたに依頼しにきたのです」
少女「お互いなんのメリットもなさそうなんだけど」
女「それはまだ私にも……」
女「でもとにかく、『JONBE』の社長がとてつもない企みを持ってるのは確かなようです」
女「仇討ちはもちろんですが、それを阻止するためにも、なんとか社長を倒したいのです!」
女「お願いします! どうか引き受けるといって下さい!」
殺し屋「バックに犯罪組織がいる標的か……危険な仕事だな」
殺し屋「こんな依頼を引き受ける殺し屋は……まあ、まずいないだろうな。とても割に合わん」
女「…………!」
殺し屋「それに、個人的に『JONBE』の社長が何を企んでるかも興味が湧いた」
女「ということは……!」
殺し屋「ああ……引き受けよう」
少女「安請け合いしちゃって大丈夫~?」
殺し屋「心配するな……トイレでは俺は無敵だ!」
殺し屋「――と、その前に……」
女「え?」
殺し屋「お嬢さん、どうやらあんた尾けられてたな」
女「まさか……」
殺し屋「こいつと一緒に、そこの個室の中に避難しててくれ」
少女「さ、早く!」グイッ
女「は、はいっ!」
女「あれ? ここの個室だけ便器がないのね」
少女「ああ、それはね――」
個室の外――
ドタバタ… ドタバタ…
黒服A「おいっ、ここに女が来ただろう! 出してもらおう!」
殺し屋「断る」
黒服A「だったら死ね!」チャッ
殺し屋「ハァッ!」ドゴッ!
黒服A「げぼぉっ!」
殺し屋(トイレの鏡で――頸動脈を切断!)スパッ
黒服B「がっ……!」ブシュゥゥゥゥゥ…
殺し屋(デッキブラシで――頭を粉砕!)グシャッ!
黒服C「ぐぼあぁっ!」
ドサッ… ドサッ…
殺し屋「もう出てきていいぞ」
少女「おっ、さっすがー!」
女(すごい……ピストルを持ってた相手をあっさりと……!)
女(この人ならきっと、あの人の仇を取ってくれる!)
殺し屋「死体はひとまず隠して、“清掃業者”を呼ぶしかないな」
女「それより、ここはもう出た方がいいのでは……」
少女「そうだね、場所変えないとどんどん新手がやってきちゃうよ」
殺し屋「え、出るの!?」
少女「うん、出るの」
殺し屋「ああ……出たくない……」
少女「ったく、いつもこれなんだから……」
女「?」
スタスタ…
殺し屋「あああ……」オドオド…
殺し屋「トイレの外って、ホント嫌いだ……。空気よどんでるしさぁ……」
女「ど、どうしちゃったの? さっきまでとは別人だけど……」
少女「この人ねー、トイレ以外の場所だとこうなっちゃうの」
少女「別に便意がない時も、常にトイレにいないと気が休まらないのよ」
少女「仕事のために標的がよく使うトイレに行く時も、いっつも大変なんだから!」
少女「ただし、トイレに着いたとたん、やたら強気になるんだけど」
女「変わった性格ね……」
殺し屋「うう……トイレ行きたい、トイレ入りたい。トイレこもりたい」
少女「もうちょっと我慢しなさい」
女「せっかくなんで、色々とお話を聞いてもいいですか?」
殺し屋「どうぞ……」
女「どうして、そんなにトイレにいるのが好きなんです?」
殺し屋「なぜなら俺は……トイレで生まれ、トイレで育ったからだ」
女「え……?」
女「! それってもしかして――」
殺し屋「そう……俺たちのアジトになってるトイレだ……」
殺し屋「俺はトイレの水を飲み、トイレのゴミ箱に捨てられた飯を食い、生き延びた」
殺し屋「言葉や最低限の教養はホームレスに教えてもらって……」
殺し屋「たまたまあのトイレにやってきた殺し屋が、気まぐれに俺に戦闘術を教えてくれた」
殺し屋「それで……俺も殺し屋になって、稼いだ金であのトイレを買い取ったってわけだ」
女(なんてことなの……)
女「誰か、つきっきりでちゃんと育ててくれる人がいなきゃとても無理なような……」
少女「トイレのせいだよ」
女「それをいうなら、トイレのおかげじゃない?」
女「とにかく、トイレという空間が奇跡的にあなたを生き残らせたんですね」
殺し屋「あ、ああ……そういうことだ」
女「ええ」
殺し屋「じゃあ、ちょっとトイレこもってくる! このカフェにもトイレはあるようだし!」
ドタドタドタ… バタンッ!
女「…………」
少女「まったくもう、依頼人ほっといてトイレ行っちゃうなんて」
女「だけど、今の話を聞いちゃうと、もう彼のあの性格を笑えないわ……」
女「彼にとってトイレは用を足す場所……どころか、生きていくための空間そのものだったんだもの」
少女「あんな話聞いてもドン引きしないなんて、お姉さん優しいね!」
女「いえいえ」
女「ええ……彼なら信頼できるわ」
ザッザッザッ…
「すみません、相席してもよろしいですか?」
女「え? まだ他にも席は空いてると思いますけど……」チラッ
黒服D「よう」ニヤッ
女「あ……」
黒服E「おう!」
女「きゃあっ!」
少女「なにすんのよ!」
黒服E「こっちのガキはどうする?」
女「その子は関係ないわ! 連れてくなら私だけになさい!」
黒服D「まぁいい、荷物は少ない方がいいからな。さっさと連れてくぞ!」
黒服E「おう!」
ドタバタ… ドタバタ…
少女「お姉さーんっ!」
少女「なにやってんのよバカー!」
殺し屋「なんだよいきなり?」
少女「お姉さんが、お姉さんが……悪い奴らにさらわれちゃったよ!」
殺し屋「なんだって!?」
少女「『JONBE』本社に行くっていってた! あたしたちも行こう!」
殺し屋「え……もう!? もう一回トイレにこもりたい……」
少女「バカバカバカ!」ポカポカポカ
少女「あんたがそんなんだから……!」ポカポカポカ
殺し屋「わ、分かった! 分かった! 行くから! 助けに行くから!」
少女「さ、着いたよ!」
殺し屋「マジで行くの……?」
殺し屋「俺の戦闘スタイルは、基本トイレでの待ち伏せだからなぁ……」
殺し屋「こうやって乗り込んでいくのはどうも……」
少女「これだけの大会社なら、トイレいっぱいあるはずだし」
少女「トイレに入って敵を倒す、トイレから出て移動する、を繰り返せば大丈夫だって!」
殺し屋「大丈夫かなぁ……。せめてなにか武器を……」
少女「あんたは素手でも強いでしょ! 早くしないとあのお姉さん殺されちゃうよ!」
殺し屋「うう……参ったなぁ……」
殺し屋「…………?」
少女「なによ、あんたたち!」
黒眼鏡「お前ら、あの女を助けにきたんだろう?」
殺し屋「な、なんのことだか……」
ドゴッ!
殺し屋「うげっ!」ガクッ
少女「なにすんのよ!」
黒眼鏡「歓迎してやるよ。白馬に乗った騎士(ナイト)さんよォ……」
社長「お前が私のことをコソコソ探っていた女か」
社長「私の裏の顔を探ろうとさえしなければ、死なずに済んだものを……」
社長「死んだお前の恋人ともどもバカな女だ」
女「くっ……!」
女「なんで……? なんでなの?」
女「小さいけど優良なトイレメーカーだった『JONBE』が、なんで犯罪組織と手を組むのよ!?」
社長「まぁいい……最後に教えてやる」
社長「我々が進めているビッグプロジェクト……その全貌をな」
女「トイレ兵器!?」
社長「文明人ならばどんな人間でもトイレで用を足すだろう?」
社長「売れっ子の歌手だろうと、大企業の社長だろうと、一国の大統領だろうと」
社長「もし、そのトイレで便器が突如襲いかかってきたら、どうなる?」
女「!」
社長「答えは簡単……防ぎようがない!」
社長「便器を兵器化したならば、どんな人間でも暗殺できる最強の兵器となりえるのだ!」
社長「時代が変わるにつれ、武器もまた変わり、その都度主役となる武器は変化していった」
社長「刀や弓矢から銃へ、銃から戦車、戦車から戦闘機、戦闘機から核兵器……」
社長「そして、21世紀は――トイレの時代だ! トイレ兵器の時代になるのだ!」
社長「いかなる権力者をも容易く抹殺できる最強の暗殺兵器としてな!」
女「これで、犯罪組織があんたに手を貸す理由がやっと分かったわ……」
女「どんな相手でも暗殺できる兵器が手に入れば、どんな犯罪だって思うがままですもんね!」
社長「そういうことだ」
社長「近い将来、トイレで要人が変死するニュースが後を絶たなくなるだろうよ」
社長「それを想像すると、私も笑いが止まらんよ。クックック……」
女(なんて恐ろしい企みなの……!)
女「…………!」
社長「始末しろ」
黒服D「はい」チャッ
女(くっ……!)
プルルルルル…
社長「もしもし……なに? この女を助けに男と子供が?」
社長「おい、始末するのは少し待て。どうせなら三人まとめて始末するのだ」
社長「汚らわしい物は“一回の水洗でまとめて流す”が私の主義なのでね」
黒服D「分かりました」スッ
女(もしかして、殺し屋さんが助けに来てくれたの……!?)
殺し屋「いてて……」
少女「いったーい! 捕虜は丁重に扱いなさいよ!」
黒眼鏡「捕まえてきました」
社長「ご苦労」
女(ってあっさり捕まってるーっ!!!)
黒眼鏡「オラッ、オラッ!」ドカッ! ドカッ!
殺し屋「ぐえっ! げぶっ! い、いだぁい……蹴らないでぇ……」
女「どうして!? あなたならこんな奴ら――」
殺し屋「ううう……トイレじゃないとダメなんだ……」
女(そういえば、トイレ出ちゃうと全然ダメな人なんだったっけ)
殺し屋「ああ……トイレ……トイレ行かせてくれえ……」
黒眼鏡「行かせるわけねえだろ! そのまま漏らせ! 漏らしたまま地獄行け!」
女(この状況でトイレに連れてってくれるわけないし……今度こそオシマイだわ!)
社長「他に協力者もいないようだし、三人とも殺せ」
黒眼鏡「はい」チャッ
女(ここまでか……!)
少女「ねえお姉さん」
女「…………?」
少女「トイレの定義ってなにか分かる?」
女「えぇっと……なんだろ。用を足すための便器がある場所、とか?」
少女「そう、色々意見はあると思うけど、少なくともあたしはそう思ってる」
女(突然なに言ってるの、この子……?)
女「…………?」
殺し屋「ああ、トイレ……トイレ……トイレに行かせてぇ……」
少女「まったくもう、しょうがない子ね」
女(え!? 口調が――)
少女「いつまでたってもトイレ依存症が治らないんだから……」
少女「しょうがないから、久々に“元の姿”に戻ってあげるわ……」ピカーッ!
女(元の……姿!?)
黒服D「わっ!?」
黒服E「女の子が便器になった!?」
社長「なんだ!? なにが起こったんだ!?」
女(これが……あの子の正体!?)
女(そうか、あの空になってた個室にあった便器は、この子だったんだ!)
女「それどころか、もしかしたら殺し屋さんの“真の育ての親”は――」
便器「そう、私よ」
便器「捨てられた赤ん坊を気の毒に思って、私があの子を守り、育て上げたの」
便器「便器に命が宿った“トイレの精”である私がね」
女(あの時の“トイレのせい”ってのはそういうことだったんだ……!)
殺し屋「…………」グググッ
殺し屋「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」ブチブチィッ!
黒服D「な!?」
黒服E「こいつ縛ってた縄を……!」
社長「早く撃ち殺せぇっ!」
パンッ! パンッ! パンッ! パンパンッ! パンッ!
バババババッ!
黒服D「あ、当たんねえ!」
黒服E「なんて動きだ!」
殺し屋「ハァッ!」グシャッ!
黒服D「げぶぁっ!」
殺し屋「うりゃあっ!」ベキィッ!
黒服E「ぎゃばっ!」
ドギャッ! バキッ! ドゴォッ! グシャッ! メキッ!
「ぐぎゃあっ!」 「うげっ!」 「げぶっ!」 「がはっ!」 「ごぶっ!」
女(すごい……あんな大勢をたった一人で次々と……!)
黒眼鏡「いくらなんでも、機関銃(これ)はかわせねえだろォ!」ガガガガガッ!
殺し屋「…………」バッ
黒眼鏡「と、跳ん――」
殺し屋「ここがトイレである以上、お前らが俺に勝つことは絶対にない」
ドグチャッ!!!
黒眼鏡「ぐびゃっ……」
ドチャッ…
社長「…………!」
社長「気弱そうだった若造が、まさかこれほどの変貌を遂げるとは……」
社長「かくなる上は、まだ試作品の段階だったが仕方あるまい……」
殺し屋「試作品?」
女「――――!」ハッ
女「気をつけて、殺し屋さん!」
女「『JONBE』は、どんな人間でも暗殺できる≪トイレ兵器≫を開発していたのよ!」
殺し屋「トイレ兵器?」
社長「出でよ、トイレ兵器!」
女「…………?」
女(一見、なんてことのないただの洋式便器だけど……)
殺し屋「…………!」ゴクッ
女(殺し屋さんが……“トイレにいる状態の殺し屋さん”が汗を!?)
社長「まずあの男を殺れっ!」
トイレ兵器『ターゲット確認、ウォータービーム、発射』
ビッ!
殺し屋「ぐっ!?」ブシュッ
女「レーザー!?」
便器「水だわ……。ウォシュレットの要領で、高水圧で水を飛ばしたんだわ」
女「確実に、尻から体内を貫かれて死んでしまう!」
トイレ兵器『ウォータービーム、連射』ビッ! ビッ! ビッ!
ビッ! ビッ! ビッ!
殺し屋「……ちっ!」タタタッ
女「連射までできるの!? あんなのかわし続けられるわけない!」
便器「ふふ……」
女「なんで笑ってるの!? こんな大ピンチなのに!」
便器「“私の子”をあまり甘く見ないでもらえるかしら?」
サッ サッ サッ
トイレ兵器『…………』
殺し屋「どうした? 水芸はもうオシマイか?」
女「全部危なげなくかわしてる……!」
便器「あれくらいで死んでたら、あの子はとっくに命を落としてるわよ」
便器「あの子がトイレで過ごしてきた孤独の日々からしたら、あんなの大したことないわ」
便器「ただ……あのトイレ兵器が、あれで終わるとも思えないけどね」
コロコロ… コロコロ…
殺し屋「?」
殺し屋(このボールは……芳香剤? いや、違――)
ドゴォォォォォン!
ズガァァァァァン!
殺し屋「爆弾まで備えているのか……!」
トイレ兵器『トイレットペーパーブレイド、解除』ジャキーンッ
シュバッ! ズバッ!
殺し屋「ぐうっ……!」
殺し屋(だが……トイレでは俺は無敵だ!)ダッ
殺し屋「ハァッ!」シュッ!
ガキンッ!
殺し屋「うぐあっ……!?」
トイレ兵器『損傷率、0%』
殺し屋(さすがに素手で破壊できる相手じゃないか……!)
殺し屋(だったら、さっき倒した奴のマシンガンを借りて……!)ガガガガガッ!
ギギギギギンッ!
トイレ兵器『損傷率、0%』
社長「無駄だ! そのトイレ兵器は特殊合金でできているのだ! 爆弾でも破壊できん!」
社長「そろそろ最終兵器を発動させるのだ!」
トイレ兵器『最終兵器、解除』クワッ
殺し屋「!」
殺し屋(便座に……牙が!?)
トイレ兵器『攻撃開始』グワッ
殺し屋「は、速――」
ガブッ!
殺し屋「うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」ブシュゥゥゥゥゥ…
女「肩を噛まれた! 殺し屋さんっ!」
便器「まずいわね……」
トイレ兵器『追撃開始』グワァッ
ガチンッ! ガチンッ! ガチンッ!
殺し屋(俺の動きを読んでやがる……!)
社長「言い忘れてたが、トイレ兵器には高性能AIを搭載してあるのだよ」
社長「つまり――戦えば戦うほど学習し、強くなる! もはやお前に勝ち目はないッ!」
便器「…………」
便器「あなた、逃げた方がいいわ。今なら逃げられる」
便器「生きて、この『JONBE』の秘密を世間に暴露しなさい。そうすれば恋人の仇は取れるわ」
女「えっ、だけど殺し屋さんとあなたは!?」
便器「私はあの子と一緒に、ここで死ぬわ。私とあの子はずっと一緒だもの」
女「そんな……!」
女(トイレの精さんも、もう殺し屋さんに勝ち目がないって分かってるんだ……!)
便器「なにいってるの? あなたさえ生き残れば、私たちの勝ちなのよ」
女「ここまできて、依頼人の私だけ逃げるわけにはいきませんよ」
女「それに……殺し屋さんはあのトイレ兵器を倒してくれます! 絶対に!」
便器「バカな子ね」クスッ
殺し屋「ハァ、ハァ、ハァ……」
殺し屋(どんどん狙いが正確になっていく……)
トイレ兵器『ターゲットの動きは緩慢、抹殺予定時刻まで残り数十秒』
殺し屋(トイレで生まれた殺し屋が……よりによってトイレに殺されることになるなんてな……)
殺し屋「――ん?」
コワシテ… コワシテ…
殺し屋(幻聴か?)
殺し屋(いや、違う!)
ボクヲ、コワシテ……
殺し屋(これはトイレ兵器の声!?)
殺し屋(そうか……お前も便器として生まれた以上、本当は便器として働きたかったんだな……)
殺し屋「分かった……壊してやるッ!」
殺し屋「うおおおおおおおおおおっ!!!」
トイレ兵器『ターゲット突撃開始、迎撃を開始』
社長「フハハハ、バカめ! 向こうから死ににきよったわ!」
女「殺し屋さん!?」
便器(なにか考えがあるの……?)
ビッ! ドゴォォォォンッ! シュバッ!
殺し屋(なんとかかわして……接近できた!)
社長「さすがだといいたいところだが、牙によって喰い殺されるだけだ!」
トイレ兵器『抹殺開始』グワッ
ズボッ!!!
トイレ兵器『!?』
社長「な!?」
女「トイレ兵器の口(?)の中に腕ごと突っ込んだ!?」
便器「……なるほど!」
殺し屋「どんな便器も“詰まり”には弱い……」
トイレ兵器『…………ッ!』
殺し屋「トイレ兵器であるお前も、例外ではないはずだ」
殺し屋「詰まれッ!」グイイッ
トイレ兵器『ガガガ……ピーピー……!』プシュゥゥゥゥゥゥ…
トイレ兵器『…………』シュゥゥゥ…
殺し屋「俺の読みは……間違ってなかったらしいな」
女「や、やった……! トイレ兵器が止まった!」
便器「この子ったら、こんなに強くなってたのね……」
社長「そんなっ! 私のトイレ兵器が! たった一人の男にやられるなんてぇっ!」
殺し屋「あいにくだが……トイレでは俺は無敵だ……」
社長「ひっ!?」
殺し屋「ほら、お前が作った兵器に座らせてやるよ」ヒョイッ
社長「あ、あわわ……」ドザッ
トイレ兵器『自爆機能、作動……』ピコーンッ
社長「ちょ、ちょっと待っ……腰が抜けて動けない……」
殺し屋「自分が作った兵器と死ねるんなら、本望だろ?」
トイレ兵器『3、2、1……』ピッピッピッ…
社長「い、いや……助けっ――」
ドゴォォォォォォォォンッ!!!
殺し屋(安らかに……眠れ。トイレ兵器……)
女「これであの人の仇を討ち、社長の野望をくじくことができました……!」
殺し屋「ぐ……」ヨロッ…
女「殺し屋さん! 大丈夫ですか!? すぐ病院に――」
殺し屋「ふん、この程度……どうってことないさ。トイレの水かけときゃ治る……」
便器「じゃあ私もそろそろ……」ピカーッ!
少女「よっと」
殺し屋「あああっ! 痛い、やっぱり痛い! 早くトイレにこもりたい……!」
少女「とりあえず、トイレにこもるのは闇医者さんとこ行ってからだね」
女「私が肩を貸しますから、一緒に行きましょう」
殺し屋「いたたたた……! 早くトイレに連れてってぇ……!」ヨタヨタ…
…………
……
少女「おーい、買い物行ってきたよ! 新聞も買ってきた!」
少女「『JONBE』事件のことがでっかく記事になってるよ!」
殺し屋「どれどれ……」
殺し屋「ほう、『JONBE』に本格的に捜査のメスが入り」
殺し屋「つるんでた犯罪組織も芋づる式に主要メンバーが次々逮捕されてるそうだ」
少女「きっと依頼人だったあの人がうまくやってくれたんだね!」
殺し屋「ああ、これで彼女の死んだ恋人とやらも浮かばれるだろう」
少女「彼女からの報酬も振り込まれてたし、いっぱい買ってきたよ!」
殺し屋「牛丼にサラダ、サバ缶……栄養バランスの取れたいいメニューじゃないか」
少女「そりゃあ、あたしはあんたの育ての親だからね」フフンッ
殺し屋「それじゃ、個室に入ってゆっくりいただくとするか」バタンッ
少女「はぁ……また便所飯~?」
殺し屋「便所で食う飯は最高だ……!」ガツガツ…
―おわり―
ありがとうございました
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コメント一覧 (3)
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- 2019年01月18日 17:04
- 起承転結がハッキリしてるお手本のようなSS
-
- 2019年01月19日 07:34
- よかった。
産み落とされた便所から這い出てきて胎内回帰(物理)した挙げ句に浮浪者のアイドルになって自分を景品にバトルロワイヤルをさせるような人物はこの世界にはいなかったんですね
-
- 2019年01月19日 09:32
- ★★★★★