彡(゚)(゚)「このミステリー……何かおかしい」
彡(゚)(゚)「最後まで読んだのに犯人がわからへん……」
彡(゚)(゚)「なんでやろう、結局どんな話やったのかよく分からへん……」
彡(゚)(゚)「氷川が逮捕されてたから、たぶん氷川が犯人なんやろけど」
彡(゚)(゚)「短いし、もっぺん読み直したろ」
一時間後
彡(゚)(゚)「やっぱり佐藤やな」
彡(゚)(゚)「いや小泉かも……」
彡(゚)(゚)「小泉……小泉って誰やったっけ……」
彡(゚)(゚)「そもそも誰が被害者やったっけ……そうや氷川や……」
彡(゚)(゚)「というわけなんやけど」
(´・ω・`)「病院行ったほうがいいと思う」
(´・ω・`)「うーん、そもそも、最後まで犯人がわからないミステリもいくつかあるんだよ」
(´・ω・`)「東野圭吾とか、恩田陸もそんなの書いてるし」
(´・ω・`)「一番有名なのは芥川龍之介の「藪の中」だね」
彡(゚)(゚)「そうなんか?」
彡(゚)(゚)「でも探偵が「矢野さん、あなたが犯人です」って言うんや」
(´・ω・`)「? じゃあ矢野が犯人じゃないの?」
彡(゚)(゚)「えーとな、推理のあとで最初の動機が密室になって」
彡(゚)(゚)「探偵が刑事を借金で撲殺して」
(´・ω・`)「説明がヘタすぎる……」
彡(゚)(゚)「こいつはワイの友人や」
彡(゚)(゚)「ミステリーが好きなやつで、ワイの大学にミス研を立ち上げた奴や」
彡(゚)(゚)「どのぐらいミステリー好きかというと、マジカルミステリー劇場のビデオを全話ぶん持ってるほどで」
(´・ω・`)「何ブツブツ言ってるの?」
彡(゚)(゚)「そうか、持ってきてるで、これや」
(´・ω・`)「ふーむ、「殺人事件」シンプルなタイトルだね」
1時間後
彡(゚)(゚)「犯人わかったか?」
(´・ω・`)「……えーと」
(´・ω・`)「白河、いや、森、じゃなくて深水……」
(´・ω・`)「お、おかしい、別にほのめかす終わり方じゃないのに、犯人が思い出せない」
彡(゚)(゚)「深水なんておれへんかったで?」
(´・ω・`)「えっ」
彡(゚)(゚)「なんや、お前もワイと同レベルやな」
(´・ω・`)「敗北感すごい」
(´・ω・`)「というかこの本、文章がおかしいんだよ」
彡(゚)(゚)「そうなんか」
(´・ω・`)「えーとね、探偵が調査を始めるシーンはこんな感じでしょ」
――探偵の円山だか早坂だかは、古典的な、スタイルの象徴、と、しての
森の虫眼鏡を取り出し、フローリングの床に、這いつくばって足跡を、
収集し始めた、何か手伝うこと、は、あるかと容疑濃厚な、赤星または
白河が深水に問いかける、と、アリバイ工作の矢野は森、を容疑者として
辻村と捜査を始め、て、石黒がまず第一発見者とし、て、証言を約束
したのであった。
彡(゚)(゚)「何かおかしいか?」
(´・ω・`)「おかしい オブ オール」
(´・ω・`)「常に2・3人をまとめて呼ぶから誰が行動してるのかも分かりにくい」
(´・ω・`)「、て、みたいに助詞が読点で挟まれてるのは、作家の個性としても異様だ」
彡(゚)(゚)「ほーん、ワイはそのへんは気にならへんかったけど……」
(´・ω・`)「この本100ページしかないからね」
(´・ω・`)「なんか豆知識とかがやたら多いし、短い発言での会話が続くから、テンポ自体はいいんだよ」
彡(゚)(゚)「ふむふむ」
彡(゚)(゚)「あれかなあ、わざと読みにくくする芸みたいなことかな」
(´・ω・`)「そういう本もたしかにある……」
(´・ω・`)「極端に難解な語彙を使ったり、時系列をめちゃくちゃに入れ替えたりね」
(´・ω・`)「かのラノベ三大奇書、「戦乱学園」はこの比じゃなかったし」
彡(゚)(゚)「ほーん」
(´・ω・`)「この文章、まるで……」
(´・ω・`)「…………」
(´・ω・`)「やきう君、この本ってどこにあったの?」
彡(゚)(゚)「大学の喫煙室やで、あそこに置いてる本は持ってってええことになってるんや」
(´・ω・`)「……」
(´・ω・`)「なるほど、犯人が分かったかも知れない」
彡(゚)(゚)「?」
(´・ω・`)「やっぱりだ、この本のタイトルも、作者もヒットしない」
(´・ω・`)「そもそも背表紙に書籍コードもない、奥付もない、これは市販の本じゃない」
彡(゚)(゚)「どういうこっちゃ?」
(´・ω・`)「この本はね、たぶんAIが書いた本だと思う」
彡(゚)(゚)「AI?」
(´・ω・`)「そう、こんなふうに乱雑な文章はAIっぽい」
(´・ω・`)「文章の自動生成は助詞が苦手で、だからこんな不自然な助詞の置き方になるんだ」
彡(゚)(゚)「せやけど、なんでそんな本が喫煙室に?」
(´・ω・`)「うちの大学の情報学部か、どっかのサークルの仕業じゃないかな」
(´・ω・`)「AIにミステリーを書かせて、それに偽の装丁をかぶせて本に仕立てる」
(´・ω・`)「それを喫煙室に置いて、誰かに読ませるという実験だと思う」
彡(゚)(゚)「なるほどなあ」
彡(゚)(゚)(あれ、せやけど)
彡(゚)(゚)(ワイ、喫煙室に一人でおるときに拾ったし、戻さへんかったら実験にならへんよな)
彡(゚)(゚)(それに、原住民の言ってた深水ってキャラ、やっぱり居らんかった気がする……)
彡(゚)(゚)「……」
彡(゚)(゚)「なあ、本を戻しに行くから、ちょっと一緒に来てくれ」
(´・ω・`)「?」
(´・ω・`)「どうしたの? 双眼鏡まで用意して」
彡(゚)(゚)「あの本、やっぱり何かおかしいんや」
彡(゚)(゚)「実験のためいうても、あんなしっかり装丁を作るやろか? カバーなんか外しとけばいいのに」
(´・ω・`)「それはそうだけど」
彡(゚)(゚)「しかし喫煙室ってあんまり人が来えへんな」
(´・ω・`)「今の時代、あんまり利用する人も居ないしね」
彡(゚)(゚)「あ、誰か来たで」
彡(゚)(゚)「……なんやあれ、2メートルぐらいある」
彡(゚)(゚)「……肌が緑色や、襟を立てたコートと、帽子で隠してるけど…‥」
彡(゚)(゚)「口が前に突き出してる、キバも見える……」
(´・ω・`)「えっ……」
(´・ω・`)「な、なに、あのトカゲみたいな顔の人」
彡(゚)(゚)「本を拾ったで……中を開いて確認してる」
(´・ω・`)「に、逃げようよ、あんなのに関わったら危ない……」
彡(゚)(゚)「もう遅い」
(´・ω・`)「え?」
彡(゚)(゚)「あの本の近くにトラバサミ仕掛けてたんや」
バチーーーーン
(´・ω・`)「ええええええええええ」
彡(゚)(゚)「捕まえたけど、どうしよかな」
(´・ω・`)「これ教授とかが掛かってたら退学あるよね」
彡(゚)(゚)「お前は誰や、なんでこの大学におるんや」
トカゲ「あががが、わ、ワイはカッパ族や、この大学で寝泊まりさせてもろてるんや」
彡(゚)(゚)「カッパには見えへんけど、それはええわ」
彡(゚)(゚)「その本は何やねん、何の実験をしてたんや」
トカゲ「実験? ち、違う、これはワイの忘れもんや、ただの暇つぶしや」
(´・ω・`)「暇つぶし?」
トカゲ「これは「読んだつもりの本」なんや」
彡(゚)(゚)「なんやて?」
トカゲ「読む人間の記憶野を漁って、適当な名前と文章を引っ張り出してくるんや」
トカゲ「ほんで、文章を作ってミステリーの体裁に仕立てよる」
トカゲ「客観的に見るとバラバラな文章やけどな、本人の頭の中から引っ張り出したセンテンスの羅列やから、すごく読みやすいんや」
(´・ω・`)「なるほど、妙にすらすら読めると思った……」
彡(゚)(゚)「だから原住民の読んだ後に、キャラが増えてたんやな」
トカゲ「カッパ族……水棲人類と自称するもんもおるけど、ワイらは長く生きるからな」
トカゲ「真っ当に読書をしてると、頭の中が情報でパンクしてまうんや」
トカゲ「でも読書をしたい欲はある、そういうときにこの本を読むと、何かを読んだ気分だけが味わえるんや」
トカゲ「ワイらの国では普通の読書はもう廃れててな、この本しか読まれてへん」
(´・ω・`)「この本だけ……?」
トカゲ「本だけやない、音楽も映画もや」
トカゲ「見る人間の脳から情報を集めて、その場で作る、特に内容はないけど、満足感は残るんや」
トカゲ「そうかな? 人類だって近くそうなるんちゃうか?」
トカゲ「テレビだって、毎日似たようなことを……」
彡(゚)(゚)「なんかまとめようとしてるけど、普通に警察と自衛隊と韮沢さん呼ぶからな」
トカゲ「ちょ、ちょっと待て」
トカゲ「分かった、いくら欲しい」
彡(゚)(゚)「高く売れそうでできれば特許料とかで儲かりそうなものくれ」
(´・ω・`)「要求がえぐい」
彡(゚)(゚)「結局この本しか貰えへんかったな」
(´・ω・`)「人類が価値を理解できそうなものはこれだけだって」
(´・ω・`)「といっても、本の仕組みだとか素材だとか、未知の技術がぎっしりで」
(´・ω・`)「簡単に世の中に出せるものじゃないけどね」
彡(゚)(゚)「しゃあないなあ、まあカッパの恨みを買ってもあかんし、我慢しよか」
(´・ω・`)「すでに買ってそうな気もする」
彡(゚)(゚)「それにしても、あんな本だけが娯楽とはなあ」
(´・ω・`)「うーん、でも、あの文章……」
(´・ω・`)「AIが作る文章に似てるのは、勿論この本もAIが入ってるからなんだろうけど」
(´・ω・`)「なんだか嫌な予感がするよ、AIの文章生成って」
(´・ω・`)「究極的には「読んだつもりになれる文章」になっていくのかな」
彡(゚)(゚)「ワイらが気にしてもしゃーない」
彡(゚)(゚)「人の寿命は短いし、こんな本で暇つぶししてる暇もないやろ」
(´・ω・`)「ははは、そうだね」
(´・ω・`)「うん」
彡(゚)(゚)「あれやっぱりカッパちゃうよな……」
(´・ω・`)「……咄嗟に、ごまかしたんだろうね」
彡(゚)(゚)「ごまかすのヘタすぎるやろ……」
(おしまい)
「SS」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (16)
-
- 2019年01月17日 05:44
- 戦乱学園はホント状況把握しにくかったよなぁ
-
- 2019年01月17日 05:53
- メフィスト賞ネタか
-
- 2019年01月17日 10:30
- たけのこゾンビニキか。
-
- 2019年01月17日 12:25
- 今回短めね。面白さは変わらずだけど
-
- 2019年01月17日 12:28
- 戦乱学園は最後まで読めたら自慢できるぐらい読みにくい
しかも大して面白くない
-
- 2019年01月17日 13:15
- 元ネタがあるのか?この発想はなかなかできないと思う。とても面白かった。
-
- 2019年01月17日 15:02
- >>7
全自動小説執筆(AIhttps://ncode.syosetu.com/n7444fc/)
でも読んだのかもな。あれも何も分からないし残らないのにスムーズに読める。
-
- 2019年01月17日 18:58
- >韮沢さん呼ぶからな
草
-
- 2019年01月17日 19:10
- ちょっぴりぞっとするような面白い短編SS
-
- 2019年01月17日 22:21
- この人の作品おもしろかった記憶はあるんだけどタイトルが出てこない
どんなのがあったっけ?
-
- 2019年01月17日 23:37
- ※11
彡(゚)(゚)「本を読むだけのバイト!?」
↑これのコメント欄にいろいろある
-
- 2019年01月18日 07:14
- なろうも流し読みで読んだ気になれる
-
- 2019年01月18日 07:56
- いやおもしろいなこれ
ショートショート感ある
-
- 2019年01月19日 01:02
- ※12
サンクス
-
- 2019年02月03日 02:48
- 完成度高すぎなんだが
この人好き