魔女(♀)「あなたは二度とここから出ることは出来ないわ。ご愁傷さま、ね。」
魔女「あなた、ちょうどいいわ。私が癇癪を起こして八つ当たりする相手としては、かなり良い物件よ。」
魔女「……本気にしたの?……馬鹿ね、あなたも。」
魔女「答える必要があるかしら。私があなたを近くに置きたい、それ以上なにを聞きたいの?」
魔女「もしかして、私から愛の告白が聞けるとでも?」
魔女「だったら、なおのこと聞かせられないわね。私はあなたにそんな感情は抱いていないわ。……どう、残念?」
魔女「……ひとつ言えることがあるとしたら…………」
魔女「……あなた、首を突っ込みすぎよ。生き物にはね、生きる領域ってものがあるの。テリトリーと呼ばれるものよ。」
魔女「でも、あなたはそれを侵した。人間のテリトリーを抜けて、私のような人外のところまで来てしまった。」
魔女「好奇心は猫を殺すと言うけれど、どうやら人間も殺されてしまうようね。過ぎた好奇心は身を滅ぼすだけよ、と今さら言ってももう遅いか。」
魔女「……馬鹿、言葉のあやよ。どうして私があなたを殺さなければならないの?そんな面倒なこと、死んでも御免だわ。」
魔女「…………まあ、犬に噛まれたとでも思って諦めることね。どうせあと80年も生きられないんだから、些細なものでしょう?」
魔女「幸い、ここには数十年程度では読み切れないだけの蔵書があるわ。残りの人生の暇つぶしとして、最適だと思うわよ。」
魔女「……もしかしたら、ここから出られる方法を記した本も、あるかもね。」
魔女「…………ま、そんなものを見つけたら、破るなり燃やすなり、してしまえばいいのだけど。ふふふ。」
魔女「そんなにお腹が減ったならそこらにある本でも煮て食べたらどう?……馬鹿、冗談よ。本当に食べたら承知しないわよ。」
魔女「……面倒ね、人間って。定期的に食事を摂らなければ苦しくなるなんて、生命体として欠陥品じゃない?」
魔女「……まあ、私にも覚えはあるけど、ね。今となっては、もう春の雲のように薄らとした記憶だけど。」
魔女「あら、言ってなかった?私はなにも生まれたときからこんな誇り臭いところにいたわけじゃないのよ。生まれたときは、たしかに人間だったわ。」
魔女「それがどういうわけか、こうなってしまった。今の状態が望んだ結果なのかそうでないのか、それすらよく覚えていない。」
魔女「まあ、こうして本を読んでいる今の生活になにも不自由は感じていないから、どうでもいいけどね。私、あまり過去に執着しないタイプなのよ。」
魔女「あなたもいい加減昔のことなんて忘れたら?あなたはここにいる。ずっとここにいる。ここには本がある。そしてここには、私がいる。それでいいじゃない。」
魔女「……今、もしかしておばさんくさいとでも考えた?……人間だった頃のことはあんまり覚えていなくとも、年寄り扱いされるのが不愉快なのは魔女も一緒よ。」
魔女「せっかく軽食でも用意させようかと思ったのだけどね。あなたがそういう態度を取るなら、そんなことをしてやる義理もないわね。さ、どっか行った。しっしっ。」
魔女「一応、私もお腹は減るのよ。ただ人間のように頻繁でないだけで、活動するのにエネルギーを消費するのは一緒だもの。」
魔女「だからもちろん、ここには食糧の備蓄もあるわ。保存庫の時間を止めているから鮮度も抜群。どう、魔女って便利でしょ?」
魔女「そういうわけだから、たまに食事を摂ることもあるの。と言っても、私はあまり食べ物に拘りはないから、簡単なもので済ませてしまうけれど。」
魔女「……馬鹿ね、そんなに慌てて食べなくても勝手に取りやしないわよ。落ち着いて食べなさいな、時間はいくらでもあるんだから。」
魔女「…………そんなに美味しい?ただ、野菜と燻製肉をパンで挟んだだけなのに?……ああ、そう。」
魔女「目の前でそんなに美味しそうに食べられると、なんだかこっちまで食欲をそそられるわね…。せっかくだから、私もなにか食べようかしら。」
魔女「おかわり、って……あなたね、仮にも客なんだから少しは遠慮ってものを…………ん、いや……もう客じゃないのか。」
魔女「そうよね、だってあなたはここから出られないんだもの。ある意味、新しい同居人とも言えるわ。……扱い的には、ペットの方が適当だけれど。」
魔女「……だったら、もてなす必要もないわよね。……さ、私についてきなさい。お料理の時間よ。」
魔女「せっかく二人で食べるんだし、今回はちょっと手の込んだものにしましょうか。なにがいいかしら……シチューとかにしてみる?」
魔女「食べ物の好みもこれを機にすり合わせた方がいいわね。これからは二人で、同じものを食べるんだから。」
隠し事だらけの魔女さんと仲良ししたい
魔女「見てのとおり、図書館よ。以上。……なによ、その釈然としてなさそうな顔は。…………はぁ。」
魔女「……ここは、人間界からは隔絶された空間にできた、私だけの住処よ。図書館のような造りになっているのは、私が本を好きだから。」
魔女「立場上と言うべきか仕事柄と言うべきか、どうしても本からは離れられない体でね。集めているうちに膨大な数になってしまったから、時空を切り取って独立させたのよ。」
魔女「……どうやら、いまいち理解しきれていないようね。まあでも、どうやら自力で脱出できないだろうことくらいは分かったかしら?」
魔女「私?もちろん、私は自由に出入りできるわよ。万が一新しい本が欲しくなったり、食糧が足りなくなったら大変だもの。」
魔女「……ええ、あなたのこともここから出してあげることはできるわよ。出さないけど。」
魔女「…………前にも言ったでしょう、答える必要なんてないと。私があなたをここに閉じ込めたい、それで答えは完結しているのよ。」
魔女「さあ、もういいかしら?はやくこの本の続きを読みたいんだけど。それとも、くだらない質問をされて疲れたから、少し休もうかしら…。」
魔女「……待ちなさい。ここに、いて。」
魔女「……別に、勝手にうろちょろされるのが不愉快なだけよ。だから、目の届く範囲にいなさい。」
魔女「…………私が本を読むときは、私の隣であなたも本を読みなさい。私が休んだときは……」
魔女「……しばらく、見守ってなさい。寝たのを見計らって勝手にどこかへ行ったりしたら……消すから。」
魔女「ああそう。それなら、たしか春画を集めたコーナーがはるか数十キロ向こうにあったはずだから、そこで済ませてきなさい。」
魔女「大丈夫よ、そこまで歩いて行けなんて言わないから。初めて行くところですものね、転移魔法で飛ばしてあげるわ。ただし帰ってくるときは歩いて帰ってきてね。」
魔女「それと、出したものはハンカチで拭き取るなりあなたが飲むなりしなさい。万が一本や本棚に付着させたら殺すからね。言っておくけど、シリアスよ。」
魔女「それと最後に。図書館では静かにね。もしあなたの汚い声が私の耳で届いたら二度と喋れない体にしてやるからそのつもりで。それじゃ、スッキリしてきなさいな。バーイ。」
魔女「……はあ。……男っていうのは、本当に馬鹿な生き物ね…。」
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コメント一覧 (5)
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- 2019年01月14日 17:41
- この手のやつは青葉りんごの声で再生されてしまう
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- 2019年01月15日 00:37
- 好きです
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- 2019年01月15日 05:21
- 好き
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- 2019年01月16日 00:47
- この魔女さん喘息持ちじゃありませんかね?
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- 2019年03月01日 18:31
- 最高!