うしおとセイバー【後半】
関連記事:うしおとセイバー【前半】うしおとセイバー【後半】
【第二十一話 うしおとセイバーの縁『全て遠き理想郷』 】
・蒼月家蔵
うしお「悪いなセイバー、蔵の寄贈品の整理なんて手伝ってもらってよ」
セイバー「いえ、マスターが聖杯戦争に専念出来るようにするのもサーヴァントの務めです」
セイバー(……あれから数日、サクラの体調は良好だ)
セイバー(アサコたちは、リンとサクラが姉妹だという話を聞いたときは驚いたようだった)
セイバー(しかし、彼女たちの人柄の良さか今は既に馴染んでいる)
セイバー(それに他サーヴァントの襲撃もなければ、気配も感じられない)
セイバー(穏やかな日々が続いている……)
桜「イズナさん、本当にありがとうございましたっ!!」
ムギュ
イズナ「はっー、イイってことよォ~」
とら「イズナ、なーにニヤケてんだよ……」
セイバー「次は私の番ですサクラ!!」
イズナ「えっ?」
セイバー「この肌触り……なかなか……」
ギュ
イズナ「…………」
セイバー「ん? 先ほどと反応が違いますね。抱き方を間違えましたか」
イズナ「い、いや、そんなことはねえぜい……」
とら「イズナ……おめえ……」
おんじ「うーむ……。聖杯戦争、ねぇ……」
とら「なんだじじい。まーだ信じてねえのかよ?」
おんじ「説明されても信じられんわい」
イズナ「ま、そりゃそうだ」
おんじ「人間は土に帰るが妖怪は違う。その土からさえ帰ってくるのが妖怪じゃ」
おんじ「それには長ーい時間がかかる。だが、長飛丸はここにおる」
おんじ「あーあ、信じるしかないかの……」
イズナ「クク、確かに消えてもすーぐ戻ってきて同じ人間にとり憑くヤツなんて聞いたことねえや」
とら「ああ!? イズナ、そりゃわしのことじゃねえだろうな!?」
おんじ「イズナはどうするんじゃ、わしは鏡に帰るぞ」
イズナ「オレは久しぶりにこっちに来たから暫く厄介になるぜい」
とら「チッ、いつもの観光まじりかよ」
イズナ「いやあ、久しぶりにうしおと長飛丸の漫才が見たいのさ」
とら「イズナァァァァーーーー!!!!」
イズナ「おっと、オレは焼かれんうちにズラかるぜ~~!!」
おんじ「長飛丸に土に帰されそうなことをようやるわい……」
うしお「おんじ、本当にサンキューな」
おんじ「今回だけだぞ蒼月潮。本来、妖怪と人間は」
セラ「おんじ様、ありがとうございました」
おんじ「だから妖怪と人間は」
リズ「おんじ、またね」
おんじ「…………」パリンッ
おんじ「妖怪と人間は手を取り合ったりしねーの!!」
とら「ったく、うるせーヤツが増えやがったぜ」
ぱく、もぐもぐ、もぐもぐ
イリヤ「トラ、それなに?」
とら「ああ? なんだよおめえも『はんばっか』知らねーのか」
イリヤ「ハンバッカ……」
とら「おいマユコ。まだあるんだろ?」
真由子「はう。とらちゃん、もうハンバーガーないよ」
とら「なら仕方ねーな。食いたきゃ買いに行きな」
イリヤ「ハンバッカを買いに?」
とら「あぁ、わしも前に知り合いの妖と町に買いに行ったことがあるぜ」
真由子「えっ!?」
セラ「いけませんお嬢様!!」
セラ「お嬢様の食事は栄養バランスもカロリー計算も含めて、全て私が完璧に管理してるのです!!」
セラ「ハンバーガーなど買いに行かせませんよ!!」
イリヤ「セラ、うるさすぎ……」
イリヤ「ねぇキリオ。今度二人でハンバッカ食べに行くわよ」コソコソ
キリオ「え、えぇっ、それって、デー……」
真由子「とらちゃんが私の知らないところでデートしてた……」
とら「なに言っとんだマユコ……」
うしお「桜姉ちゃん、間桐先輩は?」
桜「間桐の家には帰ってないみたいでした」
うしお「そうか……」
凛「アイツに借りがあるなんて、ちょっと癪だけど」
凛「中村さんたちの話を聞くとそうも言ってられないわね」
うしお「あぁ、今回は間桐先輩に助けられたんだ。でも先輩はどこに……」
桜「大丈夫だと思います」
うしお「桜姉ちゃん……?」
桜「兄さんも間桐なんですから、必ずあの家に帰ってきます」
桜「私はそう思います」
凛「そうね。アイツに限ってこのまま消えるなんてないでしょ」
うしお「あぁ、それならそのときに今回の礼を言うさ」
凛「うしおくーん!!」
うしお「り、凛、姉ちゃん……。こ、これでいいのかい?」
凛「ちょっとまだぎこちないわねぇ」
桜「蒼月くん、姉さん、これはどういうことですか……?」
うしお「桜姉ちゃんっ!?」
凛「あぁ桜、そろそろ呼び方を変えようと思ったのよ」
凛「もう蒼月くんとの同盟関係も長く続いてるんだし、遠坂先輩って呼び方は余所余所しいでしょ?」
桜「それで、姉さんを、お姉ちゃんと……」
凛「桜が桜お姉ちゃんなら、当然、姉の私も凛お姉ちゃんでしょ」
うしお(桜姉ちゃんは間桐先輩がいたからそう呼ぶようになっただけで遠坂先輩は別にいいんじゃ……)
凛「とにかく、同盟関係を円滑に進めるためにも呼び方は重要なのよ」
凛「だから私も蒼月くんをうしおくんって呼ぶことにしたしね」
桜「え……」
うしお「それは別にいいぜ。みんなそう呼んでるしよ」
桜「なっ……!?」
凛「あら桜、どうしたの?」
桜「……もう我慢出来ません……。姉さん、お話があります……」
凛「ふふ、いいわよ。どこにする。広い場所がいいわね、本堂でも行く?」
うしお「え……?」
桜「本堂は私と照道さんが掃除をしたばかりです……。境内にしましょう……」
凛「オッケー。それじゃ行きましょうか」
うしお「えっと、話し合い、なんだよな……?」
・蒼月家蔵
うしお「また手伝ってもらってすまねえな、セイバー」
セイバー「いえ、気にしないでくださいウシオ」
セイバー「ん……。ウシオ、あれはなんですか?」
うしお「え? どれのことだい?」
セイバー「その一番奥にある、その、この蔵には不釣合いなアタッシュケースです」
うしお「アタッシュケースゥ……?」
うしお「そんな大層なモンはウチの蔵にはねえさ」
うしお「ここにはお祓いを頼まれた変なものと、ムシぼしが必要な古本ぐらいだぜ」
セイバー「いえ、そこにあるではないですか、大きなアタッシュケースが」
うしお「え……?」
セイバー「……?」
うしお「ははっ、なんだよ、セイバーが冗談言うなんて珍しいなァ」
セイバー「なっ……」
うしお「まぁ確かに、こんな古い蔵の整理なんて冗談の一つでも言いたくならァ」
セイバー「ウ、ウシオ……?」
うしお「よっと、オレはこの古本を外に出してくるから、セイバーは休んでてくれよ」
セイバー「ウシオには、見えてない……?」
セイバー「認識阻害の魔術……」
セイバー(リンに報告を……。いや待て、他サーヴァントが仕掛けた罠の可能性も……)
セイバー(……それはないか。こんな場所に仕掛けて効果があるとは思えない)
セイバー(それになにより、私はこれに見覚えがある気がする……)
ガチャ
セイバー「……………………」
セイバー「……そうか。これを、貴方は……」
セイバー(前回の聖杯戦争の私のマスター、衛宮切嗣……)
セイバー(キリツグ、私は『あの後』なにがあったのか知らない……)
セイバー(しかし貴方は当時協力関係だったウシオの父、シグレにこれを託したのですね)
セイバー(謎が解けた……)
セイバー(魔術師ではないウシオが私を召喚出来たのは、この蔵に私の聖遺物があったから……)
セイバー(マスターとサーヴァントの境遇で召喚したのではない……)
セイバー(私とウシオは違う……。私は、国を救ってなどいないのだから……)
・蒼月家居間
セイバー「それで、その、ピクニックというのは……?」
凛「そうね。簡単に説明すると綺麗な景色の場所に行って、お弁当を食べたり遊んだりすることかしら」
セイバー「なるほど……。専門的な言葉かと思いましたが、理解しました」
セイバー「しかし私たちは聖杯戦争の最中なのです。そんなことをしている時間はありません」
セイバー「ここ数日、敵サーヴァントの気配がないことから気が緩んでいるのではないですか?」
うしお「そんなつもりはねえけどさ……。セイバー、なにかあったのかい?」
セイバー「いえ、別に……。しかし何故いきなり、そのピクニックを?」
うしお「あぁ、よく分からねえけど麻子がどうしてもセイバーにお礼がしたいとか言ってよ」
セイバー「アサコが……」
セイバー(初めて会ったときの、騎士の誓いか……)
セイバー(残るサーヴァントはランサーとあの男……。聖杯戦争も終盤、こんな機会はもう……)
セイバー「……分かりました。ピクニックに行きましょう」
イリヤ「はいはいはーい!! 私たちもピクニック行くーー!!」
キリオ「イリヤ!?」
イリヤ「キリオも行くでしょ?」
キリオ「う、うん、行くよ」
リズ「もちろん私たちも、行く」
セラ「それではピクニックの準備を始めましょう」
凛「ええ、そうね。まずはお弁当を作らないと。桜、手伝って」
桜「はい姉さん。美味しいお弁当を作りましょう」
イズナ「なんだか楽しそうなことになってきやがったみたいだな」
イズナ「長飛丸~! オレたちも何か美味いモン作ってもらおうぜー!」
とら「妖が人間の食いモン欲しがってんじゃねえや!!」
・海浜公園
とら「おいマユコ。妖はな、人間の食いモンなんか」
真由子「じゃーん、このケーキ私が焼いたんだよ~」
真由子「とらちゃん、私が前にケーキも焼いてあげるって言ったの覚えてる?」
とら「あぁ? そんなこともあったかよ。でもなマユコ、妖は」
真由子「はい、あーん」
パクッ、もぐもぐ
とら(相っ変わらず話を聞かんヤツだ……)
イズナ「おっ、タマゴのサンドイッチか。一つ貰うぜい」
セラ「タマゴが好きなのですか?」
イズナ「おうよ。それにこいつを混ぜて飲むお蕎麦がまたいいんだよなァ」
リズ「イズナ、人間くさい」
少年「そっち行ったぞーー!!」
少年「よし、次はオレだ~~!!」
セイバー「…………」
麻子「セイバーさん?」
セイバー「アサコ、あの子供たちは何をしてるのですか?」
麻子「え? あぁ、あれはサッカーですかね」
セイバー「サッカー……」
麻子「まぁゴールがないから、ただボールを取り合ってるだけみたいですけど」
セイバー「なるほど、あの球体を奪い合っていると……」
麻子「もしかしてセイバーさん、興味あります?」
セイバー「……少し」
麻子「それなら私たちも入れてもらいますか。おーい!!」
少年「ん?」
セイバー「し、しかしアサコ」
麻子「きっと見ているより楽しいわ。だから行きましょ、セイバーさん」
セイバー「……そう、ですね。ええ、望むところです」
イリヤ「キリオ、次はブランコね!!」
キリオ「ちょ、ちょっと待ってよイリヤ~~!!」
凛「うしおくん、もちろん私のお弁当のほうが美味しかったでしょ?」
桜「私のお弁当のほうが美味しかったですよね、うしおくん?」
うしお「い、いやァ、えーと、どっちもウマかったっていうか、その」
麻子(なにようしおのヤツ、凛先輩と桜先輩にデレデレしちゃって……)
少年「ねーちゃん、ボール見つかったー?」
麻子「えっ、あぁ、あったわよ」
麻子(私のお弁当には美味しいなんて言ってくれなかったくせに……)
麻子「あの……あの……馬鹿ァーー!!」
セイバー「ア、アサコ!?」
少年「ねーちゃんどこ蹴ってんだよーー!!」
麻子「ご、ごめーん!!」
うしお「どっちかなんて決めれねえよォーー!!」
セイバー「……なるほど。そういうことですか」
麻子「セ、セイバーさん……」
セイバー「そうではないかと思っていましたが、やはりそうなのですねアサコ」
麻子「……私って、そんなに分かりやすいですか?」
麻子「よくクラスメイトにもからかわれるんですよね……」
セイバー「いいではないですか。アサコ、貴方は素晴らしい人柄をしている」
麻子「ええ? そんなことは……」
セイバー「先ほど、あの子供たちに自然に混ざっていったのを見ても確信しました」
麻子「それはただ私が子供っぽいだけのような……」
セイバー「いえ……」
セイバー「私も、アサコのように輪に入ればよかったのかもしれません」
麻子「セイバーさんが、私みたいに……?」
セイバー「はい。貴方のような人物なら、きっと……」
セイバー(……そう。私より相応しい王がいるはずだ。国を救う王が……)
麻子「なに言ってるのセイバーさん、そんなの駄目よ!!」
セイバー「えっ?」
麻子「私なんて短気でがさつで、英雄になんて絶対なれないわ!!」
セイバー「いえ、そんな」
麻子「えっと、そうだわ。消防士さんは火を消せるでしょ、パン屋さんはパンを作るのよ」
セイバー「は、はぁ……」
麻子「でもパン屋さんが消防士さんになろうとしたら大変よ。パンがなくなって消防士さんは腹ペコなの」
セイバー「腹ペコは、一大事ですね……」
麻子「そうでしょ!?」
麻子「あれ、こんな話、前にも……。と、とにかくセイバーさんだからセイバーさんなのよ」
セイバー「それは……」
麻子「なに言ってるんだ私……。だから私が言いたいことはねえ」
麻子「セイバーさんがセイバーさんだから、英雄のセイバーさんなのよ!!」
セイバー「私が……私だから……」
遠い誓いを、思い出した
うしお「あれ、セイバー?」
セイバー「……ウシオ」
セイバー「リンとサクラからは解放されたのですか?」
うしお「えっ、あ、あぁ、なんとかな……」
うしお「セイバーのほうは何をしてたんだい?」
セイバー「この公園の地形を把握するために歩いていました」
セイバー「この場所で戦闘になることがあるかもしれませんから」
うしお「ピクニックでもセイバーは相変わらずだなァ。あっ、そうだ!!」
セイバー「ウシオ?」
うしお「一緒に来てくれセイバー。オレのとっておきの場所に案内するぜ」
・夕暮れの高台
セイバー「これは、凄いですね。この町を一望出来る。こんな場所があったとは……」
うしお「地元の人間ぐらいしか知らない場所さ」
セイバー「なるほど。ここがウシオのとっておき、ですか」
うしお「ははっ、ガキん頃は近所の公園のジャングルジムやここがオレの特等席だったからよ」
うしお「おっ、見ろよセイバー。夕日が綺麗だぜ」
セイバー「…………」
セイバー「……ウシオ。一つ聞いてもいいですか?」
うしお「ん? なんだい?」
セイバー「聖杯を……いや、聖杯でなくてもいい」
セイバー「もし今、どんな望みでも叶うとしたら貴方は何を望みますか?」
うしお「あぁ、もしもの話かい? そうだなァ……」
セイバー(私は確かめたい……)
セイバー(もし万が一、貴方が聖遺物ではなく私との境遇の一致や相性で召喚したのなら……)
うしお「そりゃオレだって欲しいモンはあるさ。あの画材セットにあの筆もいいよなァ」
うしお「あ、でも画材いれは麻子がオレの名前の刺しゅうが入った袋をくれたし、うーん……」
セイバー(ウシオ、貴方なら私と同じ選択をするのではないですか……?)
うしお「オレなら何を望むかなァ……」
セイバー「あの戦いを……」
セイバー「あの旅を、なかったことにしたいとは思いませんか?」
うしお「え……」
セイバー「貴方はトラと出会い、様々な人間や妖怪と戦っていった」
セイバー「その戦いの旅のなかで貴方は沢山のものを失ったはずだ」
セイバー「そして白面という巨大な妖怪。この国の一学生だった貴方が背負うには重すぎる運命だ」
セイバー「一度でも考えたことはありませんか? いや、あるはずだ!!」
うしお「セイバー……?」
セイバー「あのとき、獣の槍を抜かなければ……」
(選定の剣を抜かなければ……)
セイバー「トラに出会わなければ……」
(私が王にならなければ……)
セイバー「もっと自分には、より良い未来があったのでないかと!!」
(私より相応しい王が、あの国をより良い未来に救済してくれる!!)
うしお「セイバー……」
セイバー「ハッ、す、すみません。私は何を言って……」
うしお「いや、いいんだ」
うしお「セイバーの言うとおりさ。一度なんてもんじゃねえ、何度だってあるよ」
うしお「後悔だってした。あの時もっと周りを見ていたら、もっと飛び込んでいたらって」
セイバー「それなら……」
うしお「確かにつかめなかったモンは沢山あるよ」
うしお「でもよ、あの旅をなかったことには出来ねえよ」
うしお「あの旅があったから、何も知らなかったオレが少しはマシになったんだ」
うしお「オレとアイツの旅は無駄じゃなかった。オレはそう思ってる」
セイバー「ウシオ……」
うしお「それに決めたんだ」
セイバー「決めた?」
うしお「あぁ、もう誰もこぼさねえって」
うしお「そう決めたからには、なかったことになんて出来ねえさ」
セイバー「決めた……」
決めた
戦うと決めた
胸に抉られた一つの言葉
何もかも失って、みんなに嫌われることになったとしても
たとえその先に、避けえない、孤独な破滅が待っていても
それでも戦うと決めた、王の誓い
遠い誓いを思い出した
うしお「まぁ、それによ……あれだ……その……」
セイバー「ん?」
うしお「アイツに出会わなかったらなんて、もう考えられねえや」
セイバー「……なるほど。いえ、そうですね」
うしお「でもそれはセイバーもだぜ」
セイバー「私も?」
うしお「全部なかったことになんてしたらセイバーとも出会えないかもしれないだろ?」
うしお「オレはそんなの、やーだね」
セイバー「貴方は……」
セイバー「それは私もだ。ウシオ」
うしお「ははっ、それなら良かったぜ」
とら「やーっと見つけた。こんなとこにいやがったかよ」
うしお「とら!?」
とら「おめえのアホ面が見えねえからリンが探しに行けってウルセーのよ」
うしお「なにをとらァ!! 誰がアホ面だァーー!!」
貴方たちに出会って、思い出した
無駄ではない。私の戦いもそうだ
斬り伏せた者も散っていった者も、無意味などではない
私も、私の戦いに胸を張れる
とら「おい剣使い、なにやってやがる。行くぜ」
うしお「セイバー、みんなが心配してるらしいんだ。さ、行こうぜ!!」
その道が正しかったと、今までの自分が間違ってなかったと信じている
王は国を守った、けれど国は王を守らなかった、ただそれだけ
私の結果は無残だったけれど
その過程に一点の曇りもないのなら、それは……
セイバー「はい、マスター」
・海浜公園
うしお「それじゃ遠坂せ……」
凛「ん……?」
うしお「り、凛姉ちゃん、この公園の対岸にサーヴァントが?」
凛「よし。ええ、とらが感じたって言うからには間違いないでしょ」
凛「敵サーヴァントが近くにいるのにうしおくんもセイバーもいないから心配したのよ?」
うしお「ごめん、急にいなくなったのは謝るからさ」
凛「まったく……。それで、セイバーはどう?」
セイバー「……はい、いますね。ランサーかあの男かまでは分かりませんが」
凛「こちらを誘ってるってことかしら?」
セイバー「いえ、本当にただこちらを見ているだけ、といった感じです」
凛「見てるだけ? 逆に不気味よそれ……」
とら「罠だろうが関係ねえな。槍使いでもあの金色野郎でも借りがあるのよ。わしは行くぜ」
凛「ちょっと待ってよとら。もうすぐ日も落ちるし桜たちもいるのよ。戦闘は許可しないわよ」
とら「チッ……。しかしいいのかよりん、今は敵の手がかりがなーんもねえんだぞ?」
凛「それは……」
セイバー「トラの言うとおりだ。ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま逃がしたくはない」
うしお「セイバーには何か考えがあるのかい?」
セイバー「ウシオとリンは、アサコたちを連れて先に帰宅してください」
セイバー「敵サーヴァントは私とトラで追います」
とら「ああ!? なんでわしがおめえと!!」
凛「それじゃ私たちの護衛が……」
セイバー「ウシオの家にはリンやイリヤの結界があります。いざという時は令呪もある」
うしお「そう、だな。それに、このままウダウダして夜になったら敵の思う壺かもしれねえ」
凛「……分かったわ。でもあのサーヴァントが陽動や罠だったら即時撤退すること」
セイバー「了解です」
凛「いいわね、とら?」
とら「けっ、分かったよ」
・蒼月家居間
うしお「…………」
凛「うしおくん、立ってないで座ったら?」
うしお「え? あ、あぁ……」
凛「そんなにセイバーが心配?」
うしお「そりゃまぁね」
凛「そっか。うしおくんとセイバーは魔術の繋がりがないから不安になるわよね」
うしお「あぁ、でもセイバーが強いのは知ってるさ、それでもさ」
凛「大丈夫よ。私ととらは繋がってるから分かるの。戦闘にはなってないわ」
うしお「ってことは逃げられたのかな?」
凛「どうかしら。帰ってきたみたいだから直接聞きましょ」
とら「けっ、面白くねえぜ」
凛「どうだったの?」
とら「それが分からねえのよ。あの逃げ足の速さなら槍使いか、それとも……」
うしお「とら、セイバーはどこにいるんだ?」
とら「剣使い? わしが知るかよ」
凛「は……?」
とら「臭いが途中で分かれて二手になったからな」
凛「なっ……。それじゃセイバーは今一人で……」
うしお「セイバー…………」
ダッダッダッ
凛「ちょ、うしおくん……!?」
とら「なんだよ、剣使い帰ってねえのか」
凛「とらァ!! なんでセイバーと一緒に行動してないのよ!!」
とら「こっちも事情があったのよ仕方ねーだろ!!」
凛「このアホとら……。さっさと追いかける!!」
とら「はあ!? なあんでわしが」
凛「令呪をもって命ず」
とら「ば、馬鹿やめろ!! 分かった、分かったよォ!!」
・海浜公園
セイバー「…………」
??「どうしたセイバー」
セイバー「…………」
??「我(オレ)がわざわざ出向いてやったのだ。いつまでも黙っているのは無礼であろう」
セイバー「…………」ダダッ
??「山のなかに逃げ込んだか。身を隠すつもり……いや……」
??「ほう、抜け道か」
・海浜公園上空
とら「ちっ、なあんでわしがこんなこと……」
うしお「とら!! しっかり飛んでくれよ!!」
とら「分かっとるわい!!」
うしお「セイバー、どこだ……」
うしお「あっ!!」
・高台
??「フフ、逃げ込んだ先が行き止まりか。つくづく運のない女だなセイバー」
セイバー「……それは、どうかな」
??「ほう、まだ無駄な足掻きを続ける気か?」
セイバー「無駄などない。これまでの日々も、そして今日という日も」
??「なに……?」
うしお「セイバァァーー!!」
とら「なんだよ剣使い遊んでやがったのか。わしも混ぜなァァ!!」
セイバー「ウシオ!! トラ!!」
うしお「セイバー、大丈夫なのか!?」
セイバー「はい。ウシオならここで私を見つけてくれると思ってました」
セイバー「ここは貴方のとっておきですから」
うしお「へへっ、あぁそうだぜ」
??「ここがマスターとの合流地点だったわけか」
??「いいぞ。男を誘い込むとは、女としての自覚が出てきたかセイバー」
うしお「コイツは……キャスターのときの……」
とら「金色野郎……!!」
??「これで、小僧と獣を足して三対一の形は出来たわけだ」
??「それでどうするセイバー。我と戦うか、この場で」
セイバー「それは……」
うしお「ちょっと待ってくれよ。戦うとか、その前にさ!!」
??「どうした小僧」
うしお「教えてくれよ、お前はいったい誰なんだ!?」
うしお「いや、それよりも一番聞きたいことがあるんだ」
うしお「お前が持ってる獣の槍はなんなんだ!!」
??「獣の槍、か……。ククッ……フフ、ハァーハッハッハッ!!」
うしお「っ……!?」
??「小僧、貴様は獣の槍がどう創られたか知っているな?」
うしお「あ、あぁ、知ってるよ。いや、この目で見たよ」
??「ならば槍を打った鍛冶師、その人間はどこでその製法を知った?」
とら「なんでえ、なんの話だよおい」
うしお「とら、オレは覚えてるよ。ギリョウさんとおじさんの話を」
うしお「ギリョウさんは、干将と莫耶っていう名剣の話をおじさんにしたんだ」
うしお「それでおじさんはおばさんの髪を使って、神剣を造った。でもそれは折れちまった……」
うしお「だからギリョウさんは、もうあの方法しかないって……」
うしお「暗黒の邪法、人身御供で造られた大鐘の話さ。それを造剣の師匠から聞いたって言ってた」
うしお「でも、それが何だっていうんだ……?」
??「そうか。では獣の槍の元を辿れば、その名剣や大鐘になるわけだ」
セイバー「元を、辿る……?」
??「そうだセイバー。どんな宝具も元を辿っていけば『原典』に辿りつく」
セイバー「原典だと……」
??「伝説や逸話には必ず原典が存在する。それは獣の槍も例外ではない」
うしお「それじゃお前が持ってる槍は、オレたちが知ってる獣の槍じゃなく……」
とら「獣の槍の、原典の槍とでもいうつもりかよ……!!」
セイバー「馬鹿な……。宝具の原典を持つ英雄など、いるはずが……」
??「それは早計だなセイバー」
??「最も古い時代、まだ世界が一つだったころ、全ての財はたった一人の王の物だったではないか」
セイバー「なっ、そんな、貴方は……」
うしお「セイバー……?」
??「小僧、我が誰かと聞いていたな」
??「現存する英雄の端くれでありながら王の名を知らぬとは、戯けが」
??「知るがいい、我が真名を」
??「我は人類最古の英雄王、ギルガメッシュ」
うしお「英雄、王……!?」
セイバー「ギルガメッシュ……!!」
ギル「覚悟を決めよ。この身は、人間も妖怪も敵うべくもなき英霊よ」
とら「英雄王だかなんだか知らねえが、それがどうしたってんでえ」
とら「おめえはわしの獲物を横取りしやがった」
とら「わしは、その借りを返すだけよォォーー!!」
ギル「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」
パチンッ
うしお「なにもない空間から剣や槍が、矢みたいな速さで……!!」
とら「ちぃぃ~~~~!!!!」
ガスッ!!
とら「ぐはっ!!」
セイバー「トラ!! 無事ですか!!」
とら「わしがこんなもんでくたばるか……こんな……な、なんだァ!?」
セイバー「これは……」
セイバー「トラに刺さった剣が、形状を変えて地面に同化している……!?」
とら「こいつァ似たようなやつをやられたことがあるぜ……」
とら「黒炎どもが使ってた妖を千年ぬいつける『千年牙』と同じやつかよ……!!」
ギル「これで分かったか獣よ。古今東西、対妖怪の宝具など幾らでもある」
うしお「あ、あぁ……。空一面に武具が……」
セイバー「まさか、これが全て、妖怪のトラに対して有効な宝具……」
ギル「言ったであろう、我は妖怪が敵うはずがない英霊だと」
ギル「クククク……。ハァーハッハッハッハッ!!!!」
とら「くそったれぇぇ~~~~!!!!」
とら「うしお!! 早くこいつを抜きやがれェ!!」
うしお「よ、よし……!!」
ギル「しかし白面を倒した英霊がこの程度か。まだ『紅煉』のほうが手応えがあったな」
とら「あんなカスと比べるんじゃねぇ……!!」
うしお「紅煉を、知ってる……!?」
ギル「戯れに遊んでやっていたが宿敵に見つかり、我から尻尾を巻いて逃げたがな」
うしお「宿敵……ヒョウさん……。それじゃ……」
セイバー「ギルガメッシュ、やはり貴様は……」
ギル「よい見世物であったぞセイバー」
ギル「白面に対峙する人間と妖怪の連合、その最終決戦はな」
とら「てめえ、あの場にいやがったのか……!!」
うしお「いや、そうだ。おかしい事じゃねえのか」
うしお「凛姉ちゃんの言うとおり、コイツが前回の聖杯戦争から生き残ってるなら……」
セイバー「ウシオとトラたちの最終決戦の場にいてもおかしくはない」
セイバー「だがギルガメッシュ、貴様が『白面の者』と戦ったのか?」
ギル「戦うだと、我があの道化と。戯けたことを抜かすな」
ギル「我が手を下すまでもない、ヤツは王の器ではなかったからな」
セイバー「王の器……」
ギル「いいだろうセイバー」
ギル「貴様も無関係な話ではない。我と白面の話を聞かせてやる」
・最終決戦、北海道上空
白面「かかかかかか!!!!」
白面「美味!! 他者の恐怖とはなんと美味なことか!!!!」
白面「獣の槍は砕け、全ての人と妖は我を恐怖している。くくくっ、もはや我に敵なし」
白面「ここがこの国の北端か。めぼしい所は焼き尽くし、ここまで来てしまったな」
白面「…………」
白面「何だ……。何かが近づいてくる」
白面「あの形状……。しかしこの速さ、自衛隊の戦闘機ではない……」
白面「そして我を恐怖しておらぬ。そのような者がまだこの国にいるのか……?」
「フハハハハハハハハハハ!!!!!!」
白面「何奴…………!?」
ギル「貴様が白面の者か」
ギル「この国の怪獣映画というのを見たことがあるが、まるでそれでな」
白面「人間では、ないな。だが妖怪でもない」
白面「一瞬で消滅させる前に聞いておこう、お前は何者だ」
ギル「クク、貴様を恐怖しない我の正体が気になるか、白面よ」
白面「見当はつく。おおかた守護者の類だろうな」
ギル「ほう、守護者を知っているのか」
白面「この国に封じられる前、我の前に幾度となく現れた」
白面「だが……」
白面「全て燃やしてやったがなァア」
ニヤァァ
ギル「面白い。我は貴様を気に入ったぞ白面よ」
ギル「特に、その眼にな」
ギル「そうだ。王である我への眼差しはそうでなくてはいけない」
白面「王か……。人間の言葉で国の君主、支配権を持つ者、それらの意味を持つ言葉だ」
白面「くっくっくっ。おかしなことを言うなァ人間でも妖怪でもない者よ」
白面「人間と妖怪の希望は砕け、この国は沈み始めている」
白面「今この国で最も強い者は我だ。ならば我を王と呼ばずなんという?」
ギル「ククッ、やはり貴様は我を愉しましてくれるな」
ギル「いいだろう、貴様の言葉に乗ってやる」
ギル「この小さな国が完全に沈んだとき、我は貴様をこの国の王と認めてやろう」
白面「我はこの国に飽いてきていた。ただ一人我を恐怖しない者よ」
白面「ならばこうしよう。この場所は北端、我は今より南下し更に蹂躙する」
白面「今度は人間と妖怪、全てを燃やし尽くして戻ってこよう」
白面「そして最後に残ったお前は、ついには我を恐怖し後悔する。くっくっくっ」
白面「我を王と認めながら上げる断末魔、それがこの国の最後を飾ることになる」
ギル「ククッ、フフ、いいぞ。それでいい。道化はそうでなくてはな」
ギル「だが、そう簡単に行くかな白面よ」
白面「何……」
白面(心なしか、人間どもの恐怖が薄らいできている……?)
ギル「白面は行ったか」
ギル「ククク、道化が。貴様は王の器ではない」
ギル「その見上げる眼で王を語るなど嗤わせる」
ギル「そして……」
ギル「貴様を恐怖していない者は、我だけではないようだぞ」
ギル「白面の者よ」
「雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ!!!!!!」
うしお「そんなことがあったのか……」
とら「てめえがあの場所にだとォ!!」
ギル「その後、白面は小僧と獣に倒され、我の前に戻ってくることはなかった」
ギル「賭けは我の不戦勝。いや、ヤツが戻ってこれなかったのだから完全なる我の勝ちか」
うしお「ギルガメッシュ、お前が前回の聖杯戦争の生き残りだっていうのは分かったよ」
ギル「そうだ。我は前回からこの世界に残り続けている」
うしお「でも、それならやっぱりおかしいぜ」
うしお「前回の生き残り、聖杯戦争の勝者なら聖杯で望みを叶えたんだろ!?」
うしお「なら今回の聖杯戦争に参加する必要はないじゃないか!!」
ギル「聖杯で望みを……?」
ギル「ククッ、フフ、ハハハハ!!」
ギル「セイバー、貴様、己がマスターに自分が聖杯に何をしたのか語ってないのか!!」
うしお「えっ……?」
セイバー「…………」
ギル「前回の聖杯戦争、その女は聖杯を前にして宝具を使い破壊したのだ」
うしお「セイバーがっ!?」
とら「聖杯を手に入れるために、聖杯戦争に参加してるのにかよ」
セイバー「それは……」
ギル「まったく愉しませる女だ」
ギル「その様子では、その聖杯破壊が小僧との繋がりだというのも気付いていないのだろう」
セイバー「な、に……。どういう意味だ……」
ギル「ククッ、いや、話がそれたな。小僧、我は別に今回の聖杯戦争に参加しているワケではない」
ギル「我が関心があるのはセイバーだけだからな」
うしお「セイバーだけ……?」
ギル「我は前回の聖杯戦争で、その女と婚姻することに決めたのだ」
うしお「えぇっ!? こ、婚姻って、結婚だよな……」
とら「なんだよそりゃ……」
セイバー「戯れ言はやめろ英雄王。言ったはずだ、私は誰のモノにもならないと」
セイバー「私は一人の女である前に……」
セイバー「王なのだから!!」
ギル「あの聖杯問答を乗り越え、あくまで王を名乗るか」
ギル「ならば貴様のいう王の真髄、その後ろの民を守ってみせろよセイバー」
セイバー「あぁ、望むところだ……!!」
ギル「いい気迫だ。いいだろう、こちらもそれ相応のモノで相手をしてやる」
ギル「この英雄王しか持ちえない、剣でな」
うしお「あれが剣!? いや、本当に剣なのか……?」
とら「おいうしお、わしに刺さったコイツを早く抜きな……」
うしお「とら……?」
とら「この馬鹿が分からねえのかァ!! とんでもねーのが来るってんだよ!!」
うしお「えっ!?」
とら「剣使いっ!!」
セイバー「分かっていますトラ。ですが私は引くわけにはいかない」
ギル「行くぞセイバー」
セイバー「はああああああああ!!!!」
ギル「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!!」
セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」
セイバー「ぐっ……。う、あぁ……!!」
ギル「味気ない。人類最強の剣がこの程度とは、相殺もまともに出来んのか!!」
うしお「そ、そんな……。セイバーの聖剣が、負けちまった……」
とら「当たり前だろうが、剣使いはりんと白いガキから魔力を少しずつ貰ってるだけよ」
とら「そんな状態で満足に宝具が撃てるかよ馬鹿剣使いがァ……」
セイバー「……ウシオ、トラ、私の後ろにいますか……?」
うしお「セイバー大丈夫なのか!?」
とら「もういい剣使い!! わしと代われェ!!」
ギル「ほう、耐えていたか。ククッ、そうでなくてはな」
セイバー「ウシオもトラも、そこにいるのですね……」
うしお「あ、あぁ、セイバーのすぐ後ろ、手の届く距離にいるよ」
セイバー「よかった。ならばそのままで……今までのように……」
セイバー「私を……私の道を、照らしていて下さい」
うしお「セイバー…………」
とら「おめえ…………」
セイバー「ギルガメッシュ、勝負はこれからだ……!!」
ギル「立ち上がるかセイバー。国のため、民のため、それが貴様の道か」
ギル「未だ分からないようだな、王にとって国とは己のモノに過ぎないことが」
ギル「そんな事だから騎士王よ、貴様は国によって滅ぼされたのだ」
セイバー「あぁその通りだ。だが英雄王よ、そんな事だから貴様は国を滅ぼしたのだ」
ギル「減らず口を……」
ギル「しかしそこまで言うのなら次も耐えれるな、セイバーよ」
セイバー「…………」
ギル「天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!!」
うしお「セイバァァァァ!!!!」
とら「剣使い…………!!!!」
その道を信じている
太陽と月が照らす私の道は
間違ってなかったと信じている
結果は無残でも
その過程に一点の曇りもないのなら
それは……
それこそは……
セイバー「全て遠き理想郷(アヴァロン)!!!!」
ギル「な、に…………!?」
とら「こ、こいつァなんだァ!?」
うしお「あのギルガメッシュの攻撃をセイバーが防いでる!?」
うしお「あれもセイバーの聖剣の力なのか……!?」
とら「いや違うぜ、ありゃ剣じゃねえ……!!」
ギル「アヴァロン、何ものにも侵害されぬ究極の護り、それこそが貴様の真の宝具……」
ギル「伝説の聖剣の鞘の力か……!!」
ギル「憎らしい女だ。そうまで我に刃向かうか、それが貴様の答えかセイバー!!!!」
セイバー「あぁそうだギルガメッシュ」
セイバー「貴様のいう王の器ではない、ライダーの語った覇道でもない」
セイバー「だが、これこそが私の理想…………」
セイバー「私の夢…………」
セイバー「私の……王道だ!!!!!!」
ギル「世迷言をォォーーーー!!!!」
セイバー「ぐっ…………くぅ…………!!」
パシィッ、ガシッ
うしお「負けるなセイバァァーー!!!!」
とら「そんな野郎に負けるんじゃねえ剣使い!!!!」
セイバー(あぁ……。感じる、私が守りたいもの、その温かさを……)
セイバー「はああああああああ!!!!」
セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」
「アーサー王……?」
ああ……
確かに感じる
この木漏れ日の向こうに
貴方たちの温かさを……
「……見ているのですか、アーサー王」
「夢の、続きを…………」
セイバー「ハァ、ハァ…………」
うしお「セイバー大丈夫か!?」
セイバー「はい、なんとか……」
とら「あの金色野郎をやったのかよ?」
セイバー「いえ、逃げられました」
セイバー「おそらくギルガメッシュのあの宝具は大量の魔力を消費するのでしょう」
うしお「そうか、魔力が低下したからとらに刺さった剣も消えたのか」
とら「けっ……!!」
とら「おい剣使い、わしは借りだなんて思っとらんからな!!」
セイバー「いや、借りが出来たのは私のほうだ」
とら「ああ?」
うしお「セイバー?」
セイバー(やっと見つけた、私の答え……)
セイバー「帰りましょう。ウシオ、トラ」
うしお「あぁそうだな」
セイバー(貴方たちのおかげだ)
セイバー「お腹が空きました」
とら「ったく、おめえはいつもそれだな」
セイバー「む……。トラに言われたくはない!!」
とら「ああ!? やんのかァ!?」
うしお「もう夜中だぞ静かにしろい!!」
セイバー(ウシオ、トラ、ありがとう)
・潮の部屋
うしお「白面とギルガメッシュ、か……」
うしお「なんだか眠れねえなァ」
うしお「あれ……」
うしお「セイバー……?」
・蒼月家蔵
うしお「セイバーも眠れねえのかな」
うしお「でも、だからってこんな夜中に蔵の整理なんか……」
うしお「おーい、セイバー」
うしお「蔵の整理を頼んだのはオレだけどよ、なにもこんな、あれ……?」
・蔵地下室
うしお「なんだセイバー、ここにいたのかい」
うしお「ここには何もねえぜ。いや、それよりもう遅いし」
セイバー「問おう、貴方が私のマスターか」
うしお「えっ……?」
セイバー「問おう、貴方が、私のマスターか」
うしお「…………」
うしお「……うわああああ!!」
うしお「なんだなんだ姉ちゃんなんだ!?」
セイバー「やれやれ、前回は無口な男だったが今回は騒がしい少年か」
セイバー「だが、サーヴァントセイバー、召喚に従い参上した」
うしお「サーヴァント、セイバー……」
セイバー「我が真名はアルトリア・ペンドラゴン」
セイバー「問おう、我がマスターの名を」
うしお「オレの名前は、蒼月潮さ!!」
セイバー「ウシオ、これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」
うしお「運命か……。負けたくねえぜ、オレは」
セイバー「この聖剣に誓って、我は貴方の勝利を約束する」
セイバー「ここに、真の契約は完了した」
セイバー「…………」
うしお「…………」
セイバー「フフ……」
うしお「ふ、ふふ……」
うしお「あはははははは!!!!」
うしお「はははっ、どうしたんだよセイバー、急にこんなこと」
セイバー「フフ、すみませんウシオ。貴方が私の後ろについて来ていたのに気づいて、つい」
うしお「いやいや、いいんだけどさ。昔とらと似たようなことやったしよ」
セイバー「トラと……。なるほど、ここはそういう場所なのかもしれませんね」
うしお「でも、なんで……」
セイバー「あの日、ランサーの襲撃がなければこうなる予定だったのです」
うしお「そうか、あのときは大変だったもんなァ」
セイバー「それに……。貴方には知っておいてもらいたかった、私の真名を」
うしお「真名、セイバーの本当の名前……」
セイバー「はい」
うしお「アルトリア・ペンドラゴン……。アルトリアかァ……うん……」
うしお「いい名前だな、アルトリア!!」
セイバー「っ……」
セイバー(まったく、確かにこれではアサコも怒るわけだ……)
うしお「それじゃ今度からはアルトリアって呼んだほうがいいのかい?」
セイバー「……いえ、残りサーヴァントが少ないとはいえ、それは敵に正体を晒すことになります」
セイバー「それにアルトリアは過去の人間、自分の信じる王道を貫いて死んでいった王の名前です」
セイバー「今の私は貴方の剣、セイバーです」
うしお「そうか、そうだな。それじゃセイバー、これからもよろしく頼むぜ!!」
セイバー「はい、ウシオ」
【第二十二話 遠景『最後の令呪』 】
・蒼月家縁側
凛『前回の聖杯戦争の生き残り、英雄王ギルガメッシュか……』
凛『今回参加するつもりはないって言われても、あんな手出しされたら参加してるのと一緒よ』
凛『対策が必要ね……。そういえば前回の戦いなら私の家に少しは資料が残ってるかも』
凛『協会の機密があるからって、綺礼にほとんど処分されちゃって期待出来ないけど……』
凛『うしおくん、ちょっと私は家をかき回してみるわ』
うしお「そう言って凛姉ちゃんは出て行ったけど、とらは一緒に行かなくていいのか?」
とら「おめえが昨日みたいに飛び出さないようにとり憑いたように見張ってろってよ」
うしお「へっへっへ、返す言葉もごぜーません」
うしお「あ、でもサーヴァントなしで凛姉ちゃんの護衛はどうしてるんだ?」
とら「剣使いがついて行ったのよ。そもそも家捜しなんてのはわしよりアイツ向きだしな」
うしお「まぁ確かにそうか、とらよりは」
とら「それに前にりんが家を綺麗にしろとか言いやがるから炎で色々燃やしたら怒ってよォ」
とら「あれ以来、家に入れてくれねーのよ」
うしお「凛姉ちゃん……」
うしお「でもいいのかなァ」
とら「何がだよ?」
うしお「これじゃまるでサーヴァントを交換してるみたいじゃないか」
うしお「聖杯戦争のルール的に大丈夫なのかなァ」
とら「こいつアホウかよ!! 今さら聖杯戦争の決まりごとなんて気にしてんのか!?」
うしお「なにをとらァ!!」
うしお「人間はなァ!! ルールを守って、ルールを……」
うしお「それだっ!!」
とら「ああ?」
うしお「なんで気付かなかったんだ。そうだよ、聖杯戦争にはルールがあるじゃないか!!」
とら「なんの話だ?」
うしお「聖杯戦争の監督役、教会の言峰神父さ。あの人に言えばよかったんだよ」
うしお「今回の聖杯戦争に前回のサーヴァントが参加してる、八人目のルール違反がいるってよ」
うしお「ギルガメッシュみたいなのがいたらまともに戦えないだろ、そうなれば聖杯戦争は中止さ!!」
うしお「中止になればランサーのマスターだって戦うのをやめる、妙案だぜ!!」
とら「けっ、そんなに上手くいくかねえ」
うしお「とにかくオレは言峰神父にギルガメッシュのことを報告に行くぜ」
とら「おい待ちなうしお。せめてりんが帰ってきてからに……」
うしお「凛姉ちゃんやセイバーだって頑張ってるんだ、負けてられねえさ」
うしお「とら、凛姉ちゃんが帰ってきたらオレは教会に行ったって言ってくれよ!!」
タッタッタッ
とら「ちっ、うーつけ者がなにを言ってやがる」
うしお「とら!?」
とら「わしはりんにおめえを見張ってろって言われたのよ」
とら「とり憑いたようになァ!!」
うしお「へっ…………」
うしお「好きにしろォ!!」
・言峰教会
うしお「おーい、言峰神父さーん。いないのかーい?」
うしお「とら、何か分かるか?」
とら「人間の気配はしねえな」
うしお「留守か……。教会の扉は開いてたけど不用心だなァ」
とら「おめえのトコも似たようなもんだろうが」
うしお「うっ……。ウチは大丈夫だろ、照道さんもいるし……ん?」
うしお「へぇ、教会ってここから奥に入れるんだなァ」
とら「おい、入っていっていいのかよ」
うしお「今回は緊急事態さ」
うしお「早く言峰神父にギルガメッシュのことを伝えて、聖杯戦争を中止にしてもらいたいからな」
とら「けっ、いつもわしに勝手に行動するなとか言っといてこれだぜ」
うしお「言峰神父、本当にいないのかーい?」
・中庭
うしお「ひゃー、とら見てみろよ。シャレてるぜ~~」
とら「なぁうしお。もういいだろ帰ろうぜ」
うしお「ウチとは大違いだ。こんな中庭があったらスケッチするんだけどなァ」
とら「なぁなぁうしお帰ろうぜ。なーなー、なーなー、なぁってばよォ」
うしお「だーーっ!! うるせーぞとらァ!!」
うしお「今オレは脳内スケッチをだなァ!!」
とら「だってよー、なんかわしここ嫌いなんだよ」
うしお「そりゃ教会が好きな妖なんて聞いたことねえけどさ」
とら「そういう意味じゃねえよ。教会で吸血鬼ブッ倒したわしがそんなもん気にするかよ」
うしお「それじゃ……」
とら「臭いがな、他と違うのよ。何かありそうだぜ、ここは」
うしお「この教会に……?」
うしお「ははっ、とら考えすぎじゃないのか? 言峰神父は凛姉ちゃんの後見人だぜ?」
うしお「いいからコッチに来てみろよ、中庭がキレイだぜ」
とら「相変わらずニブイよなァ…………ッテェ!!」
とら「なんだァ!? (>>>0�ぎやまんかっ!?」
(>>>0�ガラスの古い呼び名
うしお「とら……?」
とら「おめえどうやってそこに入ったんだよっ!!」
うしお「なに言ってんだとら、オレは普通に……」
とら「うしお後ろだ!!!!」
うしお「ッ……!?」
「チッ、まーた外したか」
とら「おめえは…………!!!!」
うしお「ランサー…………!!!!」
ランサー「よォ坊主。久しぶりだな」
とら「てめえか槍使い、こんなチンケな罠ァ張りやがったのはァ!!」
ランサー「おいおい人聞きが悪いな。オレがそんなトラップ仕掛けて気長に待つと思うか?」
ランサー「ここは教会だぜ。妖のための結界なんて腐るほどある。それをちょっと借りただけさ」
ランサー「だが……ハッ、こんなに上手く分断出来るとは思ってなかったがな。雷獣さんよ」
とら「ちぃ~~~~」
うしお(コイツは槍を使うサーヴァント、ランサー……)
うしお(キリオから聞いた赤い槍の男、オレがこの聖杯戦争で初めて戦った相手だ……)
ランサー「そんなに身構えるなよ坊主。あのとき殺しかけたことを根に持ってんのか?」
うしお「それもあるさ。それよりこの教会、聖杯戦争では不可侵だってオレは聞いてるぜ」
ランサー「そんなルールもあったかもな」
うしお「それじゃ……!!」
ランサー「だから戦いは止めましょうってか。坊主、忘れてるみてえだな」
ランサー「オレたちがやってんのは何でもありの戦争、聖杯戦争なんだぜ?」
うしお「……本当は分かってたさ」
うしお「ルール違反なんてない。この戦いを終わらせるには勝つしかねえんだろ」
ランサー「そういうことだ坊主」
ランサー「さてと、そろそろ始めるか。坊主、早く出しな」
うしお「えっ、なにを……?」
とら「タコがっ!! 槍だよ!!」
とら「早くわしの宝具、獣の槍を呼べってんだよ!!」
うしお「で、でも、凛姉ちゃんの許可なしに宝具を使うなんて……」
とら「馬ッ鹿ヤロウ!! そいつは槍なしのおめえが敵う相手じゃねえ……!!」
とら「そいつと戦ったことがあるならおめえも分かってんだろうが、うしお!!」
うしお「それは…………」
ランサー「いいぜ。待っててやるよ」
ランサー「というより、オレはそれを期待してるんだがな」
うしお「…………槍よ」
うしお「来い!!!!」
パシィッ!!
ランサー「そうこないとな」
うしお「…………」
ランサー「へぇ、本当に噂通り髪が伸びるんだな」
うしお「噂……?」
ランサー「あぁ。坊主、お前がセイバーを召喚したあの日の夜を覚えてるよな?」
ランサー「あのときは驚かされたぜ。オレの槍を何度も避けるんだからな」
ランサー「それもあってお前を調べたんだ。そうしたら面白い話が山ほど出てくるじゃねえか」
ランサー「獣の槍……白面の者……。もちろんあそこの雷獣も含めてな」
ランサー「あんな決戦をくぐり抜けた英雄が槍兵で、しかも現存しているときてる」
ランサー「そしてこの聖杯戦争でも、その槍を手にあのバーサーカーを倒した」
ランサー「そんな話を聞いたらよ……」
ランサー「同じく槍を使う者としては戦ってみたいと思うのが自然だよなァ」
ランサー「お前もそう思うだろ?」
ランサー「獣の槍の使い手、蒼月潮もよ」
うしお「……オレもセイバーからお前の正体を聞いてるよ」
セイバー『ランサーの正体は、クー・フーリンです。間違いありません』
凛『アイルランド神話の……。そっか、まぁあんな槍の使い手、他にはいないわよね……』
うしお『食う風鈴……』
うしお『遠坂先輩、アイルランドには食える風鈴があるのか!?』
セイバー『え…………』
凛『……蒼月くん、この前の世界史のテスト、何点だったのよ』
うしお『い、いやァ、人に言える点数じゃねえかな』
セイバー『リン、これは…………』
凛『ダメみたいね』
うしお「お、お前は外国のすげえ槍の使い手なんだろ……!!」
ランサー「えらく大雑把な覚えられ方だな……」
ランサー「こっちもセイバーには必殺の槍を見せたんだ、正体ぐらいバレてると思ってたさ」
ランサー「まぁ、これでお互い実力は分かってるってワケだ」
ランサー「それにお膳立てはもう出来てるしな」
とら「チィッ!! 雷も炎も駄目かァァ!!」
うしお「とら……!?」
ランサー「無駄だ。この中庭の結界はかなり頑丈なものだぜ」
ランサー「あの雷獣だって、ここの結界を破壊するには時間がかかるはず」
ランサー「これで邪魔は入らねえ。サシの勝負の出来上がりだ」
うしお「お前を倒さない限り、この中庭からは出れないってことか」
ランサー「そのとおり。さぁ槍を使うランサー同士、楽しくやろうじゃねえか……!!」
ランサー「まずは槍兵としての腕試しだ。かかってきな」
うしお「ランサー……。行っくぞォォーー!!!!」
ランサー「ハッ!! いいぜ、いい突進力だ!!」
うしお「うおおおおおおおお!!!!」
ランサー「なるほどな、驚かされるぜ」
ランサー「その宝具の槍を使えば坊主でもサーヴァントとやり合えるってワケか」
うしお「なんで…………槍が、当たらない…………!?」
ランサー「おいおい。オレは槍のサーヴァント、ランサーなんだぞ?」
ランサー「そんな攻撃に当たってやるワケにはいかねえよなァ」
うしお「くっ、これならァァーーーー!!!!」
ドガァッ
ランサー「どこ攻撃してる。それは中庭の柱、オレはここだぜ?」
うしお「そ、そんな…………」
とら「あんのォ~~~~馬鹿たれがァ~~~~」
とら「なにを槍使いにいいように遊ばれてやがる…………ん…………?」
とら「けけ…………」
うしお「はぁ……はぁ……」
ランサー「まさか槍兵がもう足を止める気か?」
うしお「まだまだ……!!」
ランサー「いいぜ。出来ることは全部試してくれ。その上を行ってやるからよ」
うしお「言ったなァーー!! ランサァァーー!!」
うしお「おおおおおおおお!!!!」
ランサー「ハッ!! 槍の一撃が当たらないからって、破れかぶれの乱撃かァ!!」
うしお「全部、避けられて……!?」
ランサー「この調子じゃ教会が穴だらけになりそうだな」
うしお「くっそォォ~~~~!!!!」
ランサー「あのなァ、槍を使うからってお前は攻撃が直線的過ぎるぜ」
うしお「ッ……消え……!?」
ランサー「終わりだ」
うしお「がっ……はっ……。蹴、り…………」
ランサー「期待外れだな」
うしお「な、に…………」
ランサー「あんな巨大なバケモノ、白面を倒した槍の使い手がこの程度か」
ランサー「いや、本当は白面は雷獣が倒し、バーサーカーもセイバーが倒したってところか」
ランサー「どっちにしろ期待外れだぜ」
うしお「ぐっ…………」
ランサー「坊主、お前に師はいるのかよ?」
うしお「し……?」
ランサー「師匠だよ師匠。槍の師匠さ」
うしお「槍の師匠…………」
うしお(う~~~~ん…………?)
うしお(親父はケンカ相手……。麻子のおじさんは空手か……)
うしお(杜綱さんの空骸の糸の骸……。いや、あれを師匠って呼ぶのはちょっとなァ……)
うしお「う~~ん……」
ランサー「そのツラ見る限り、いねえみたいだな……」
ランサー「どうりでおかしいと思ったぜ」
ランサー「お前の槍はなにかがモノ足りねえと思ったからよ」
ランサー「まぁスジは良かったぜ。その宝具の槍の力といっても英霊とやり合えるワケだからな」
ランサー「違った形で出会ってれば、オレが教えてやったんだが仕方ねえ」
ランサー「槍使いのよしみだ。手向けとして槍の一撃で終わらせてやる」
うしお「……ランサー。オレも同じだって言ってたよな」
ランサー「あ……?」
うしお「オレは別に、誰かと戦いたいとか思ってねえよ」
ランサー「そうかい。そいつは残念だな」
ランサー「でもな坊主、そんなお前はここで死ぬんだぜ」
うしお「いや、そんなオレでも出来ることは…………」
うしお「あるさ…………!!!!」
ドゴォォォォォォン!!!!
とら「へっ、お前にしちゃ上出来よォ」
ランサー「雷獣……!?」
ランサー「こんな短時間で、あの結界を壊せるはずが……!!」
とら「周り見てみなァ槍使い」
ランサー「中庭の四方の柱……結界の起点が壊されて……」
ランサー「ハッ、そうか、あの大振りな槍の攻撃は柱を破壊するために……!!」
とら「よく気付いたな、うしお」
うしお「西の空屋敷を脱出したときの間鎚の結界線を思い出したのさ」
うしお「四方の柱を壊せば結界線が途切れるんじゃないかと思ったんだ」
とら「けけけ、やるじゃねえか」
ランサー「一杯食わされたな……」
ランサー「だが坊主、まさか結界がなくなったからってオレから逃げれるなんて思ってないよな?」
とら「うしお、こいつァ結界があろうがなかろうが関係ねえよ。どこまでも追いかけてきやがるぜ」
うしお「そんな、それじゃ……」
とら「やるしかねえってことよ」
ランサー(中庭の結界がなくなり二対一か……)
ランサー(だが坊主の槍を見させてもらったことに変わりはねえ)
ランサー(あっちは気にすることはない。動きは英霊並みとはいえ、あの程度の槍なら問題ないな)
ランサー(問題は雷獣だ。雷に炎、宝具も他にあると考え)
とら「まだだぜ槍使い、まだ言い足りねえよなァ?」
ランサー「は…………? なんのことだ?」
とら「この馬鹿に言い足りてねえって言ってんだよ!!」
とら「てめえの言うとおりだぜ!! このクソは戦い方がまるでなっちゃいねえのよ!!」
うしお「んだとォ!? とらァ!!」
とら「はっ、おめえの槍なんざ槍使いに比べりゃ三流よ三流」
とら「そのせいでわしは毎回メーワクかけられんのよ!! 分かるか槍使い!?」
うしお「おめーはどっちの味方だとらァ!!」
ランサー「お、おいおい……。お前ら、今はオレと戦って……」
うしお「そこまで言うなら見てろよォとらァ!!」
うしお「行くぞォォ!! ランサァァーー!!」
ランサー「ハッ、またそれかよ」
うしお「くっ、外した……!?」
ランサー「だから言ったろ。お前の槍は足りてねえ、直線的過ぎるってな」
ランサー(この一撃で坊主は仕留めて、雷獣に専念と……)
「な、だからもっと言えって言ったのよ」
ランサー「…………ッ…………!?」
とら「この馬鹿は言うこと聞かねえからよォ!!!!」
ランサー「ぐぅっ…………!!!!」
ランサー(雷獣…………。オレの動きを読んで…………)
ランサー(いや違う。今のは違うぜ…………)
ランサー(雷獣は、坊主の動きを読んで先に動いていた……!?)
とら「おいうしおォ!! もう終わりかァ!?」
うしお「なにをォーー!! まだまだこれからさァ!!」
ランサー(こいつ…………こいつらは…………)
うしお「ランサー!! これならどうだァァ!!」
うしお「うおおおおおおおお!!!!」
ランサー「その乱撃はもう見させてもらったぜ坊主……!!」
うしお「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」
ランサー(なんだ、さっきより動きが…………避けきれねえ…………!?)
ランサー「チィッ…………!!」
とら「どうしたァ槍使い、遊びでもマジメにやらなきゃなァ!!」
ランサー(そうだろうと思ったぜ。お前が坊主のただのフォロー役なら…………)
とら「いねえ!? 消えやがった!?」
ランサー(こっちもそれを想定して動くまでよォ…………!!!!)
ランサー「その背中、貰い受ける…………!!!!」
キィィィィン!!!!
ランサー「毛の中から槍が…………!?」
うしお「危なっかしーなァ!!!! とらァ!!!!」
とら「いらんことすんじゃねえチビ人間!!!!」
うしお「そうかい、オレには大ピンチに見えたがな大妖怪!!!!」
ランサー(……ハッ、坊主の槍がモノ足りないだと……そりゃそうだ……)
ランサー(こいつらは、これで完全なんだからな……!!)
そうか、そういうことか
分かったぜ、お前たちのことが
とら「うしおォ!!!!」
うしお「任せろォォーー!!!!」
ランサー「ぐううぅぅ…………!!!!」
雷獣はアーチャーの枠を使って特殊に召喚された
この聖杯戦争、どの陣営もお前を重要視して監視した
それはお前が規格外の妖怪の英霊だから
いや、それもあるが一番の理由じゃない
それはクラスが分からなかったからだ
しかしお前と戦っても何もクラス補正を感じない
どんなイレギュラーなエクストラクラスなのか見極められなかった
気づけるはずがねえ……
特定の相手とともに戦わねえと……
クラス補正すら発動しねえ英霊なんて…………!!!!
坊主、お前は槍を使うがランサーなだけじゃねえ
しかし何かを乗りこなすだけのライダーも違う
雷獣、お前の宝具は槍だがランサーじゃねえよな
しかしその気性とは違って理性のないバーサーカーでもない
お前は…………お前たちは…………
どちらが欠けても、補正すらなくなるクラス
だが混然一体、混ぜるとキケンなほど力を発揮するサーヴァント
しいて名づけるとするなら…………協力者…………相棒…………いや…………
うしお「行っくぞォォーー!! とらァァーー!!!!」
とら「決めちまいなァ!!!! うしおォォーー!!!!」
戦友のサーヴァント!!!!
ランサー「ぐっ…………はっ…………」
二体で一体の英霊…………
うしおととら!!!!
ランサー「…………負けちまったか」
ランサー「よっと……。だが妙に清々しい気分だ」
ランサー「お前たちにやられたヤツらは皆こんな気分になるのか?」
とら「何を抜かしてやがる槍使い……。わしはこれがおめえとの決着だなんて思っとらんぞ!!」
とら「大体なんで宝具を使わねえ!!」
とら「その赤い槍の力を使えば、クソうしおなんて一発で仕留めれるはずだぜ!!」
うしお「えっ……!?」
ランサー「おっと坊主、勘違いするなよ。オレは手加減なんてしねえ、やるならいつも全力だ」
ランサー「ただ、そうだな、そろそろ雇い主に嫌気がさしててね」
ランサー「お前たちと派手にやり合って、大暴れしてスカッとしたかったのさ」
うしお「ランサー…………」
とら「こっちはそんなことに付き合わされたのかよ」
ランサー「まぁそう言うなよ雷獣。わりと楽しかったろ?」
とら「けっ…………」
うしお「なぁ、ランサーのマスターって」
「何をしているランサー」
うしお「え…………」
言峰「私は侵入者の始末を命じたはずだが」
うしお「言峰、神父…………」
言峰「あの夜以来か蒼月潮。よく来た、とでも言っておこうか」
言峰「しかし、いくら教会とはいえ勝手にこんな奥まで入り込むのは考えものだがね」
うしお「今、ランサーに命じたって…………」
言峰「あぁそうだが?」
うしお「ウ……ウソだろ……。ランサーのマスターは言峰神父……!?」
とら「けっ、思ったとおりかよ」
言峰「ほう、雷獣のほうには勘付かれていたか」
とら「あたりめえよ。わしは中庭の結界とかいうのを壊すのに特大の雷を落としたんだぜ」
うしお「そうか……こんな真っ昼間に落雷なんかあったら……」
とら「教会の、いや、ここら周辺の人間どもが集まってくるもんだろうが!!」
とら「それが人っ子一人かけつけねえ。そいつァこいつが教会全体に結界を張ってるからよォ!!」
言峰「そのとおりだ。まぁ、教会の結界はあくまで聖杯戦争のためのものだが」
ランサー「おい、そんなことより聞いてた話と違うぜ言峰」
ランサー「テメェはこの聖杯戦争、最後まで姿を晒さずに勝ち残るんじゃなかったのかよ」
言峰「意外だな。お前が私のそんな話を信じているとは思ってなかった」
ランサー「信じちゃいねえよ。テメェの話も、テメェのこともな」
うしお「ど、どういうことなんだ……?」
うしお「言峰神父がランサーのマスターっていうのは本当なんだよな……?」
ランサー「あぁ、今はな」
とら「今はァ?」
ランサー「こいつはオレの正規の召喚者じゃない」
ランサー「オレを召喚したマスターは言峰に殺され令呪を奪われた」
うしお「殺されて、令呪を……!?」
とら「ちっ…………」
ランサー「契約者を失ったサーヴァントは魔力が枯渇し消滅を待つだけだ」
ランサー「だが、そのまま消えるには寝覚めが悪すぎる。だからオレは言峰と再契約した」
ランサー「いつか言峰を討つためにな。ま、今は令呪の縛りで言うこと聞くしかねえがな」
うしお「そんなことが……」
言峰「殺された、か。フッ、まぁいい」
言峰「しかしランサー、蒼月潮にそんなことを語ってどうする?」
言峰「彼は聖杯戦争に巻き込まれただけの少年だぞ」
言峰「まして魔術師でもない彼に令呪の奪い合いの話をしてなんになる」
うしお「ちょっと待ってくれよ言峰神父……」
うしお「ランサーの話は、マジなんだな……?」
言峰「うむ……。そうだな、こちらとしては訂正する箇所はなさそうだ」
うしお「そうかい……。でもよ、他は訂正してもらうぜ」
言峰「なに?」
うしお「ここで言峰神父に初めて会ったときは、オレは何も知らねえガキだったよ」
うしお「ワケも分からねえ戦いに巻き込まれただけのさ」
うしお「でも、今ここにいるのは…………」
うしお「セイバァァァァーーーー!!!!」
セイバー「……マスター、指示を」
うしお「この聖杯戦争のいちマスター、蒼月潮だいっ!!!!」
言峰「令呪による空間転移……。セイバーを呼び出したか……」
セイバー「あの男は……それにランサー……。なるほど、そういうことですか」
言峰「蒼月潮、それは確かに聖杯戦争のマスターとしては正しい選択だ」
言峰「フフ、こちらとしては好都合な展開だがね」
「どういうつもりだ。まさかこのような場所で宴の開幕を告げるつもりか」
セイバー「なっ…………」
うしお「お前は…………!?」
ギル「教えたはずだがな言峰。宴にはそれ相応の場所と余興が必要だと」
言峰「紹介しよう。彼は、前回の聖杯戦争で私のパートナーだった英霊だ」
うしお「前回の聖杯戦争の……!?」
ランサー「どういうことだ!! そいつがお前のサーヴァントだとォ!?」
言峰「フフフ……。それはそうと十年前の再現になったなセイバー」
セイバー「なんだと……?」
言峰「私とサーヴァントと協力者、そしてお前もマスターと協力者」
言峰「十年前の再現だと思わんかね?」
セイバー「貴様、なにを言っている……」
言峰「ほう……。なるほど……」
言峰「ギルガメッシュの言うとおり、衛宮切嗣はセイバーには何も語っていないようだ」
うしお「えみや……? 誰のことなんだ……?」
とら「てめえ、さっきから何を言ってやがる……!!」
言峰「そうだな。ならば教えよう蒼月潮に雷獣よ」
言峰「なに、お前たちも無関係な話ではない。むしろお前たちはこの聖杯戦争の関係者なのだから」
とら「なにィ……?」
言峰「まずは順序を追って話すとしよう」
言峰「前回の聖杯戦争のその前、第三次聖杯戦争の話だ」
言峰「ある陣営は早期に敗退した。だが、その陣営は他の陣営に聖杯が渡るのを阻止したかった」
言峰「そう……聖杯そのものを破壊してでも……」
言峰「その陣営は密かに手に入れたある物を、聖杯に混ぜた」
うしお「ある物……?」
言峰「蒼月潮、君も知っている物だ」
言峰「カムイコタンにあった物と同じ物だよ」
うしお「カムイ、コタン…………」
うしお「まさか…………白面の者の…………体の欠片…………!?」
とら「馬鹿がァ、んなことしたらなァ…………!!」
言峰「無論、聖杯は白面の陰の気により汚染された」
言峰「その陣営の計画通り、第三次聖杯戦争の聖杯は誰の手にも渡らなかったが……」
言峰「聖杯は白面に汚染され、時間をかけて龍脈から力を吸い上げることになる」
言峰「そして十年前の第四次聖杯戦争」
言峰「白面の者は龍脈の、いや、自身の力を察知し聖杯戦争に使いを送り込んだ」
セイバー「そんな……。前回の戦いに白面が……」
言峰「しかし、白面のこととなると現れるのが光覇明宗のお役目だ」
言峰「光覇明宗はその事実を知ると、聖杯戦争に蒼月紫暮を参戦させた」
うしお「親父が…………!?」
言峰「ああ、そうだ」
うしお「ほ、本当なのかセイバー!?」
セイバー「はい、あの男の言っていることに嘘はありません」
うしお「親父が聖杯戦争に…………」
セイバー「すみませんウシオ……。いつか話すつもりではあったのですが……」
言峰「それから蒼月紫暮は前回のセイバーのマスター、衛宮切嗣と出会うことになる」
うしお「衛宮、切嗣……。セイバーのマスター……」
セイバー(……しかし、キリツグもシグレも白面の話などしていなかったはず……何故……)
言峰「蒼月紫暮と衛宮切嗣は協力関係になった。白面の使いを倒すという目的のために」
うしお「白面の使い…………」
言峰「そうだ蒼月潮。そして、私も出会った…………」
言峰「私の心の虚無を埋める方法、それを享受してくれた存在…………」
言峰「それがこのギルガメッシュと、白面の者だ」
ギル「ククク…………」
とら「白面だとォォ~~!?」
言峰「私は白面の使い斗和子を通じて、白面の者と出会ったのだ」
うしお「斗和子……。キリオのときのアイツか……!!」
言峰「そして白面は私に命じた」
言峰「汚染された聖杯、龍脈を吸い続ける白面の欠片の力を使って…………」
言峰「白面の者を封印するお役目、その者がいる石柱の破壊を」
うしお「石柱…………母ちゃんがいた場所…………!!!!」
言峰「しかし聖杯戦争も終盤、それを知った衛宮切嗣はセイバーに聖杯を破壊させた」
言峰「聖杯の破壊による反動……。その火災により私はその場から離れた」
言峰「そして斗和子は消え、衛宮切嗣は死んだ。そのとき何があったのかは私も知らない」
うしお「それじゃ、セイバーが聖杯を破壊してなかったら…………」
とら「白面が起き上がってたってことかよ…………!!!!」
セイバー「だからキリツグは、私に…………」
ギル「その聖杯破壊こそセイバー、貴様と小僧の繋がりよ」
ランサー「過去と現在で同じバケモノから国を守り、世界を救った英雄同士か」
ランサー「確かにこれ以上の繋がりはねえな」
言峰「フッ、だから初めて会ったときに言っただろう蒼月潮」
言峰「お前がセイバーを召喚したのは偶然ではない、必然だと」
とら「この聖杯戦争に白面が関係してるってのは信じてやらァ」
とら「確かにヤツがかかわってるなら、わしもうしおも無関係とは言わねえよ」
とら「だがな、もう白面はいねえ。わしらがブッ倒したからな」
とら「それで白面入りの聖杯で何が出来るってんでえ。わしらを戦わせて何が目的なんだよ?」
言峰「フフ、何か思い違いをしているようだな雷獣よ」
言峰「私は白面に聖杯を汚染されたと言ったが、何も機能を失ったとは言っていない」
セイバー「まさか……願望機としての力を残していると……?」
言峰「そのとおりだセイバー。考えてみろ、お前たち英霊を召喚出来ていることが何よりも証明だ」
言峰「聖杯は汚染された。しかし聖杯降霊の儀式、それが壊されたワケではない」
言峰「そして教会の監督役、私の役割はその聖杯の持ち主を見極めることだ」
うしお「見極める、だけ……?」
とら「てめえ、槍使いを仕向けておいて、やり合う気はねえとでも言うつもりかよ!!」
言峰「誤解があるようだな」
言峰「私はお前たちが望むなら、お前たちにも聖杯を与えようと言っているのだよ」
ランサー「待てよ言峰。聖杯はサーヴァントが残り一人になるまで現れないんじゃなかったのか?」
言峰「そうだ。残り三人ではまだ早いが、二人なら完成に近い。聖杯は降霊出来る」
言峰「……どうだセイバーよ」
言峰「その隣のマスターと雷獣を斬り殺せば、聖杯を与えよう」
セイバー「なに……?」
言峰「雷獣のことを案ずることはない。ギルガメッシュとランサーも協力させる」
言峰「お前たち三人なら雷獣にも負けることはない」
言峰「さぁ…………セイバーよ…………願いを叶えるがいい…………」
セイバー「……………………」
うしお「セイバー…………」
セイバー「聖杯など…………いらない…………」
言峰「ほう……。願いが叶わなくてもいいと?」
セイバー「あぁそうだ。聖杯など必要ない、ウシオもトラも殺させない……!!」
セイバー「私の願いは、すでに叶っていたのだから…………!!!!」
うしお「セイバー……!!」
とら「くくく…………」
言峰「つまらん答えだ…………。お前たちはどうだ、蒼月潮に雷獣よ」
言峰「セイバーを殺せば聖杯、あらゆる願いを叶える器が手に入るぞ」
とら「そもそもわしは聖杯なんてものに興味ねえのよ」
とら「わしはただ気に喰わねえヤツらをぶっ飛ばす、それだけよォ」
言峰「フン……。いや、人間と価値観が違う妖怪に何を言っても無駄か……」
うしお「あらゆる願いを叶える、か…………」
言峰「そうだ蒼月潮。どんな物でも手に入る、欲しいと思うもの全てがお前のものだ」
うしお「悪いね言峰神父、もうオレは欲しいもんは持ってるしよ」
言峰「なに…………?」
うしお「見えないかい?」
うしお「オレの両隣に、オレの欲しいもんは揃ってるぜ…………!!!!」
セイバー「ウシオ…………」
とら「ったく…………」
言峰「予想通りとはいえ、くだらん結果だ」
言峰「まぁいい。ランサー、宝具を使用し蒼月潮を始末しろ」
ランサー「…………」
セイバー「くっ、ランサーの因果逆転の魔槍か……。ウシオを守らなければ……」
ランサー「……やめだ、やめやめ。オレは降ろさせてもらうぜ」
ギル「ほう、聖杯を目の前にして契約を切るというのか」
ランサー「テメェと一緒にするな。もとよりな、オレは二度目の生なんぞに興味はない」
ランサー「それにな言峰、まさかオレがこの教会の地下にあるもんに気付いてねえと思ってねえよな?」
言峰「さて…………?」
ランサー「とぼけるんじゃねえ」
ランサー「調べたがよ。坊主と雷獣の戦い、白面との決戦で大勢の犠牲者が出てる」
ランサー「そりゃそうだ。あんなバケモノと戦って、死人が出ないなんてことはねえ」
ランサー「だがな、おかしいんだよ…………」
ランサー「この町だけ多くねえか、死亡者より行方不明者がよ…………!!!!」
言峰「さぁ、何のことを言っているのか分からんなァ……ランサー?」
ランサー「言峰ェ…………!!!!」
言峰「しかし……。どういう心情の変化だ、ランサー」
ランサー「さーてね。まぁ、あの坊主の真っ直ぐな眼を見てたらよ……」
ランサー「死んだ魚のような眼ェしたヤツなんかに従うのが嫌になっただけかもな」
ギル「クク、よく吠える」
言峰「彼と共同戦線を張れば必ず勝てるとしても、降りると?」
ランサー「フンッ、それこそ死んでもごめんだ」
言峰「……そうか。ならば死んでもらおう」
ランサー「あ?」
言峰「ギルガメッシュ、先ほど宴には余興が必要だと言っていたな」
言峰「最後の令呪をもって命じよう」
言峰「自害しろ、ランサー」
ランサー「なっに…………なっ、身体が…………勝手に…………!?」
セイバー「ランサー…………!?」
うしお「待っ…………!!」
とら「ちぃっ…………!!」
ザシュッ……
ランサー「おい…………」
とら「ぐぅ…………がっ…………」
ランサー「なに、やってやがる、雷獣…………」
とら「けけ、お前は、槍使いだろが…………」
とら「槍を使うヤツはなァ、わしの前でそう簡単に殺させねえのよ…………」
セイバー「トラ…………!!!!」
うしお「とらァ!!!!」
ギル「ククッ、フハハハ!! 獣が狗を助けたか!!」
ギル「いいぞ!! 余興としては盛り上がりに欠けるが趣向は悪くない!!」
言峰「ギルガメッシュ、ここは任せる」
言峰「光覇明宗と蒼月紫暮が動き出した。私はことを進めるとしよう」
うしお「光覇明宗が…………。何を、企んでるんだ…………」
うしお「何をする気だよ言峰神父…………!!!!」
言峰「フフフ……。ギルガメッシュ……」
言峰「ゴミを始末しろ」
とら「ぐっ……聖杯、だ……」
うしお「とらァーー!!」
セイバー「トラ、大丈夫なのですか!?」
とら「胸ェ貫かれたぐらいで、わしがくたばるかよォ」
とら「おめえら人間の英霊と一緒にすんじゃねえ、剣使い」
セイバー「全く貴方は……。ランサーの槍をその身で受けるなど無茶をする……」
とら「それより、やつァ槍使いを消して英霊の数を減らすつもりだった」
とら「それなら目的は聖杯しかねえ」
セイバー「あの男が聖杯降霊の儀式を強攻すると?」
とら「ああ、だが槍使いは殺せなかった。うしおはここにいる。それなら次の獲物は……」
うしお「まさか、凛姉ちゃん……!?」
セイバー「そうか……。リンを殺せば、一番の強敵のトラも消せる……!!」
とら「ちぃっ~~!! 胸の傷塞ぐのに魔力使っちまった……!!」
とら「わしとしたことが、しばらく動けそうにねえかよ……!!」
とら「うしお、剣使い、りんのもとへ行きな!!!!」
セイバー「トラ、ですが……!!」
とら「わしのこたァーいい!! どの道りんが死んだらわしも終わりよォ!!」
うしお「そ、そうか……そうだよな……。分かったよ、とら」
うしお「早く凛姉ちゃんに知らせねえと……。セイバー!!」
セイバー「分かりました……。ただ、ここから脱出するには……!!」
ギル「クックックッ…………」
ランサー「行きな、坊主とセイバーは」
うしお「ランサー……?」
ランサー「坊主、言峰にやった啖呵の切りかたはよかったぜ」
ランサー「そうだ。槍使いは敵を貫くだけじゃねえ、信条を貫いてこそだ」
ランサー「雷獣には借りが出来た、もう令呪の縛りはねえ」
ランサー「必ずお前たちのもとに雷獣は送り届ける。だから先に行きな」
うしお「ランサー、兄ちゃん…………」
セイバー「しかし、いくら貴方でもあの宝具の雨に無事には…………」
ランサー「けっ、仲間意識なんか持つんじゃねえセイバー」
ランサー「お前の剣に誓いがあるように、オレの槍にも誇りがある。ただそれだけだ」
ランサー「さっさと行け、育ちのいい騎士王様は目障りだぜ」
セイバー「ランサー……。ご武運を」
とら「うしおォ早く行けェ!!!!」
うしお「とら…………。兄ちゃん、頼んだぜ…………!!!!」
ギル「フフ……」
ランサー「テメェ、何故だ。なんで何もしねえ」
ランサー「オレたちを始末するように言われたはずだぜ」
ギル「実はなランサー、我もこのような決着は好みではなかったということだ」
ギル「貴様がそうやらなければ我がやっていた」
とら「うしおや剣使いを見逃すつもりだったってのか?」
ギル「あの女は我のモノだ」
ギル「そして、聖杯を呼ぶ儀式にはサーヴァントを残り一体にする必要がある」
ギル「ならば必要のないサーヴァントは誰と誰だ。クックックッ……」
とら「ちっ……。こいつの狙いはハナっからわしらかよ……」
ギル「それにだ、この聖杯戦争で言峰が主催する最初で最後の宴だ」
ギル「それ相応の参加者がいなければ盛り上がりも欠けるというもの」
ランサー「テメェら、一体なにを考えて……」
ギル「ランサーよ、この場は余興だ」
ギル「獣に助けられた命、余興なら余興らしく我を愉しませろ」
ギル「ククッ……。だが貴様に勝ち目などない」
ギル「狗畜生らしく逃げてもよいぞ、ランサー」
ランサー「テメェ……。今、オレのことを狗といったか……!!」
とら「待ちなァ!! そいつの宝具は……!!」
ギル「フフ……」パチンッ
ランサー「チィィ……!!」カキィィン!!カキィィン!!
とら「この馬鹿槍使い!! なーにをやっとる!!」
とら「あんな野郎の挑発に乗るんじゃねえや!!」
ランサー「へっ、言ってくれるぜ……!!」
ランサー「いいからテメェはオレに守られてなァ!!」
とら「な、なにィィ~~~~!?」
・遠坂邸
うしお「セイバー!! そっちはどうだ!?」
セイバー「いえ、こちらもリンの姿は見当たりません」
うしお「そうか……。凛姉ちゃん、どこに……」
セイバー「おそらく、探し物を終えたリンはウシオの家へ戻ったのではないでしょうか?」
うしお「オレの家に……。よし、セイバー急ごう!!」
セイバー「はい、ウシオ!!」
ランサー「ハッ……ハッ……」
ギル「どうしたランサーよ」
ギル「槍兵が足を止めるなと語っていたのは貴様のはずだが?」
ランサー「ハァッ……!!」カキィィン!!
ギル「ククッ、獣をかばいながらとなると自慢の足も使えんか」
ギル「己が信念を貫くのは厳しいな、ランサー」
ランサー「これも成り行き。ま、こういうのもいいもんさ」
とら「…………いいや、よかねえな」
ランサー「お、お前…………」
とら「槍を使う人間になァ、守られるなんざ…………」
とら「わしが一番キレエなことよォ!!!!」
ランサー「おいおい、もう動けるのか……」
ランサー「バケモンかよテメェ……いや、バケモンか……」
とら「りんに渡されてた石ころだ。そいつを喰ったからな」
とら「うげぇー、こいつが不味いのなんの……」
とら「はんばっかになァ、はさまねえと喰えたもんじゃねえや」
ランサー「ハッ、魔力入りの宝石を持たせてたのか」
ランサー「あの嬢ちゃん、うっかりしてそうでそういうところは抜け目ねえな」
とら「まぁ悪かねえぜ」
ランサー「それに美人で強情で肝が据わっているときている」
ランサー「女をマスターにするんならああいうのがいいよなァ、雷獣」
とら「りんはやらねえぞ。ありゃわしの喰いもんだ」
ランサー「そいつは残念」
とら「足ィやられてんのか?」
ランサー「まぁな、テメェの傷に比べりゃまだマシだが」
とら「わしはまだ動ける程度だ。雷も炎も出せやしねえ」
ランサー「刺されてすぐに動かれちゃ呪いの朱槍の名折れだぜ」
とら「ぬかせェ。わしは槍に貫かれてもそのまま五百年は平気な能力持ちよォ」
ランサー「ハッ、それがマジならテメェとやり合うランサーは相当長生きしねえとな」
ギル「クク……。どうだ、次の余興の準備は整ったのか?」
ランサー「……悪いな雷獣。テメェが動けるまで時間は稼げたが窮地に変わりなしだ」
とら「そうでもねーさ」
ランサー「あ? 何かあんのか?」
とら「わしは動けるが雷も炎も出ねえ、おめえは足ィやられてる」
とら「ならやるこたァ、一つさ」
ランサー「……おいおい、オレはランサーだぞ?」
とら「けけ、退屈はさせねーぜ?」
ランサー「へっ……。ま、これも成り行きかね」
ギル「ほう、次の余興は曲芸か。ククク、愉しませるではないか」
ランサー「よっと……。おー、意外に乗り心地はいいな」
とら「てめえ槍使い!! わしを乗り物扱いすんじゃねえ!!」
ランサー「ワリィワリィ、そう怒るなって」
とら「ちっ……。わしはヤツの妖怪用の宝具に一発でも当たったら終わりよ」
ランサー「安心しな。オレの槍で全部弾き落としてやる」
とら「ったく、本当だろうな」
ランサー「さてと、そろそろ始めるかい…………」
とら「おう、それじゃ…………」
とら「ドジるんじゃねえぞ槍使い!!!!」
ランサー「テメェもな雷獣よォ!!!!」
ダッダッダッダッ
うしお「言峰神父の目的はまだ分からねえ!!」
うしお「でも、本当に光覇明宗も動いてるなら……!!」
セイバー「あの男が聖杯で何かを行うことを止めようとしている?」
うしお「ああ!!」
うしお「前回の聖杯戦争で、言峰神父は白面を解き放とうとしていた……!!」
セイバー「今回も聖杯の力で似たような……いや、もしかするとそれ以上のことを……」
うしお「もしそうなら……。凛姉ちゃん、無事でいてくれ……!!」
ランサー「ハッハァー!! こいつはいいぜェ!!」
ランサー「こりゃライダークラスで召喚されるのもいいかもなァ!!」
とら「おい槍使い!! 次が来てんだろうが!!」
カァァン!!
ランサー「余裕よ余裕!!」
とら「てめぇ今危なかったぞ!!」
ギル「ククク……。なるほど、次の見世物はなかなか動き回る」
とら「ちっくしょ~~~~!!!!」
とら「避けるのが精一杯で近づくことも出来やしねえ!!」
ランサー「あの宝具の射出がある限り間合いには入れねえか……!!」
ギル「さて、次は何を見せてくれる?」
とら「見下しやがってェ……!!」
ランサー「見下し……そうか……」
ランサー「おい雷獣、無理にヤツに近づくことはねえぞ」
とら「ああ?」
ランサー「ヤツの間合いに付き合う必要はねえって言ってんだ」
とら「もうわしの話を忘れたかよ槍使い!!」
とら「まだ雷も炎も出せねえって言っただろ!!」
ランサー「忘れちゃいねーよ。それに仕掛けるのはオレだ」
とら「まさかおめえ…………」
ランサー「雷獣、出来るだけヤツの宝具を引き付けて、上空に飛んでくれ」
ランサー「そのあとはオレの仕事だ」
とら「ちっ、仕方ねえ……。おめえの話に乗ってやるかァ……!!」
ランサー「乗ってるのはオレだけどなァ雷獣!!」
とら「うるせーよ槍使いがァ!!」
カキィィン!!
カキィィン!!
ランサー「よし、今だ雷獣……!!」
とら「跳べばいいんだろォォ!!」
ギル「余興ごときの獣どもが、天に仰ぎ見るべきこの我の上を取るか」
ギル「痴れ者がァ……!!」
とら「どうだァ槍使い!! こんだけ跳べば文句ねーだろ!!」
ランサー「この跳躍……マジにバケモンだな……」
ランサー「だがよ、オレも猛犬の名前は伊達じゃねえよ!!」
ランサー「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!!!」
ギル「フンッ…………」パチンッ
ドゴォォォォン!!
とら「な、なんだこりゃ~~~~!?」
ランサー「壁……いや、盾か……!?」
ギル「クックックッ…………」
ランサー「こいつは…………!!!!」
とら「馬鹿デケエ剣かよ…………!!!!」
とら「くっそ~~!! 槍使いの宝具でも駄目かァ~~!!」
ランサー「これでいい。あの剣がある限り宝具の射出は遮られる」
ランサー「ここはもういいぜ雷獣。テメェは嬢ちゃんのとこに急ぎな」
とら「ああ!? なに言ってやがる!!」
ランサー「借りは返した。あとはオレの好きなようにやるだけさ」
とら「足ィやられたおめえが一人でアイツに勝てるワケねえだろうが……!!」
ランサー「テメェのほうこそなに言ってる、サーヴァントならなァ……」
とら「あ……?」
ランサー「サーヴァントならテメェのマスターを一番に考えやがれェ!!!!」
とら「りん…………」
とら「ちっ……。槍使いはどいつもこいつもうるせえなァ!!!!」
とら「死ぬんじゃねえぞ槍使い!!!!」
ランサー「ハッ、この程度でくたばるならオレは英雄になれてねえよ、雷獣」
ランサー「よっと……」
ギル「二対一の状況を自ら壊すか」
ランサー「あのままアレに乗り続けてたら坊主が羨ましくなっちまう」
ランサー「ま、テメェみてえに欲の皮がつっぱった怨霊には分からないだろうがな」
ギル「ククッ、死に際が鮮やかだった男は言うことが違う」
ギル「さあ、最後の見せ場だぞランサー」
ランサー「ハッ、もう少し付き合ってもらうぜ」
ランサー「テメェを嬢ちゃんたちのところに行かせるワケにはいかねえんでな」
・大橋歩道橋・入口
ダッダッダッダッ
うしお「うわっ……」ガクッ
セイバー「ウシオ!? 大丈夫ですか!?」
うしお「あ、ああ、平気さ」
セイバー「まさか先ほどの戦闘の傷が……」
うしお「いや本当に大丈夫だ。ちょっと転びそうになっただけさ」
セイバー「そうですか……」
うしお「……サンキューな、セイバー」
セイバー「えっ?」
うしお「言峰神父が聖杯の力で破壊しようとした石柱……」
うしお「あそこには白面を封印してたオレの母ちゃんがいたんだ」
セイバー「石柱に、ウシオの母親が……」
うしお「セイバーと衛宮切嗣って人が聖杯を破壊してなかったら、白面は起き上がってた」
違う……
私は何も知らなかった
ただ、令呪で強制的に宝具を使用しただけ……
うしお「その頃はとらもいない、獣の槍もなかったんだ。もちろんオレだってただのガキさ」
うしお「きっとこの国、いや、世界中の人間が沢山死んだはずだぜ」
うしお「セイバーと衛宮切嗣さんが世界を救ったんだ!!」
まさかキリツグ……
貴方が言っていた世界の救済とは……
うしお「二人のおかげさ。だからサンキューな、セイバー!!」
セイバー「ウシオ、私は…………」
そんな目で……
あのときの私は、そんな目で見られる資格はない……
うしお「……っと、すまねえセイバー」
うしお「今はこんなこと言ってる場合じゃねえよな」
セイバー「そう、ですね……」
セイバー「リンたちが心配です。急ぎましょう、ウシオ」
うしお「ああ!!」
セイバー「…………」
キリツグ、貴方がくれたのですね
聖遺物などではないウシオとの確かな繋がり
白面から世界を救う
それを成し遂げた貴方と私は、たった三度の令呪のやり取りだけ……
どうして語ってくれなかったのです……
あの男は言っていた
聖杯が破壊された後、白面の使いは消え、貴方は死んだと
あの後、何があったのですか…………貴方に…………
キリツグ…………!!
【遠景『最後の令呪』】
・第四次聖杯戦争終盤・市民会館・地下駐車場
切嗣「……手を上げろ」
言峰「なんともつまらぬ結末だな」
言峰「なぜ聖杯を、いや、白面を拒んだ?」
切嗣「……貴様にも見えていたのか」
切嗣「ならば、今のは幻覚などではなく……」
言峰「聖杯は白面に汚染されたとはいえ、願望機には違いない」
言峰「お前は全てのものを犠牲にしてここまで辿り着いたはずだ」
言峰「なぜそれを今になって拒む。愚か過ぎて理解出来ん」
切嗣「願望機だと?」
切嗣「あんなものは万能の願望機などではない……!!」
言峰「願望機だ。お前にとっても、私にとっても」
切嗣「なに……?」
言峰「お前の望み、理想とは紛争の根絶……」
言峰「その願いを叶えようとしたのだ。聖杯が、白面が」
言峰「ならばそれを願望機と呼ばずなんという?」
切嗣「あぁそうだな。争う人間すべてが消え去ればそれは根絶だろう」
切嗣「あの聖杯がもたらすものはそういうものだ。白面による滅びしか手に入らない」
切嗣「僕が望んだ奇跡は、あんなものじゃない」
言峰「理解出来んな」
言峰「闘争は人間の本性だ。それを根絶することなど出来るわけがない」
切嗣「いつまでも人類同士で争っている場合じゃない。いつか必ず白面は起き上がる」
切嗣「終わらぬ連鎖を終わらせ、人類が手を取り合わなければ白面には打ち勝てない」
切嗣「人間、いや、きっと人間以外とも……。それを果たし得るには聖杯という奇跡しかない」
言峰「……なるほど、それがお前の本当の望みか。ならば聖杯は私に譲れ」
言峰「あの聖杯がお前にとっては願望機でなくても、私にとっては願望機だ」
言峰「いや……私と白面の使いにとっては、か」
切嗣「貴様……!!」
切嗣「この聖杯戦争には、お役目の予見通り白面の使いが……!!」
言峰「お役目……白面の者と未来永劫ともにいる女か……」
言峰「やはり、お前は光覇明宗と繋がっていたようだな」
切嗣「言え。貴様とともに行動していた黒髪の女、あれが白面の使いだな?」
言峰「さぁ、何のことか」
ドゥゥン!!
言峰「がっ……」
切嗣「次はどこを撃ち抜かれたい?」
言峰「フッ、無駄だ。私を拷問しても……。すでに白面の泥はあふれ始めている……」
切嗣「貴様は何を考えて……」
言峰「白面の者……。この世全ての陰の気の化生……」
言峰「あんなものが存在するのなら、私の迷いの答えも出るというもの……」
言峰「だからこそ解き放つ必要がある……!!」
言峰「私は生まれながらにして善よりも悪を愛する者!!」
言峰「どんな事柄よりも他者の苦痛に愉悦を感じるのならば!!」
言峰「白面がもたらすものこそ、私の望みなのだから……!!!!」
言峰「それを見届けるまで、私は……!!!!」
ドゥゥゥゥン!!
切嗣「貴様こそ、愚か過ぎて理解出来ないよ」
・市民会館・通路
切嗣「くっ……」
切嗣(誰かが近づいてくる……敵サーヴァント、ではない……。あれは……)
紫暮「切嗣ッ……!!」
切嗣「紫暮……」
紫暮「その怪我……。言峰綺礼をやったのか?」
切嗣「あぁ、仕留めたよ」
紫暮「そうか……。とにかく移動しよう、この会館は崩れ始めている」
切嗣「待ってくれ紫暮。状況を、教えてほしい」
紫暮「あ、ああ、舞弥殿は無事だ」
紫暮「危険な状態だったが光覇明宗の病院に運んだ。もう安心していい」
切嗣「……紫暮。アイリは?」
紫暮「アイリスフィール殿は……」
紫暮「…………」
切嗣「…………」
紫暮「すまん……」
切嗣「紫暮、君が謝ることじゃない」
切嗣「僕もアイリも覚悟の上でこの聖杯戦争に挑んでいる」
切嗣「それに、謝るのは僕のほうだ」
紫暮「ん……?」
切嗣「さっき一瞬だが聖杯に触れたよ」
紫暮「聖杯に!?」
切嗣「ああ……。そのとき感じた……アイリは器になったんだとね……」
切嗣「すまない紫暮……。本当は、分かっていたんだ……」
紫暮「切嗣…………」
切嗣「お役目の言うとおりだったよ」
切嗣「聖杯はすでに万能の願望機なんかじゃなかった」
切嗣「僕が求めた奇跡は、すでに白面に汚染されている」
紫暮「白面を倒すために求めた聖杯すら、白面に染められて……」
切嗣「あれを白面の使いに奪われるわけにはいかない」
紫暮「ああ、それを阻止するために私はここにいるのだからな」
切嗣「この先のホールでセイバーが交戦中、相手はおそらくアーチャー」
紫暮「分かるのか?」
切嗣「これでも僕は魔術師、マスターだからね」
切嗣「僕はセイバーを令呪で使って、聖杯を破壊する」
紫暮「セイバー殿を……。結局、セイバー殿には何も話さなかったのか?」
切嗣「言えるわけがない。僕たちは願いを叶えるという餌で彼女を釣ったんだ」
切嗣「お役目に言われるまで、聖杯が白面に汚染されているなんて知らなかった」
切嗣「アインツベルンは白面のことを伏せていた。いや、話す必要がなかったんだ」
切嗣「ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンにとっては白面なんて関係ない」
切嗣「どんな聖杯でも、アインツベルンが手に入れた、という事実が欲しいだけなんだから」
紫暮「今更セイバー殿に、願いを叶えるかどうかも分からない聖杯……」
紫暮「白面入りの願望機のために戦ってくれ、とは言えないか」
切嗣「アイリにも、セイバーには白面のことは伏せるように言ってあった」
切嗣「僕は聖杯が万能の願望機ではないと確認出来たら、破壊するつもりだったからだ」
紫暮「それをセイバー殿に気づかれないために、か」
切嗣「いや、彼女の望みを叶えるのは聖杯ではないと思っただけだよ」
紫暮「お前……まさか……だからあえて何も話さず……」
切嗣「いつか彼女をあの呪縛から解放する者が現れる、でもそれは僕じゃない」
切嗣「結局、僕は僕らしく最後まで英雄様を利用するだけさ。何も変わっちゃいない」
切嗣「君と出会ったからって、僕とセイバーの関係が変わることはないんだ」
紫暮「なるほど……。お前らしくか」
紫暮(以前、アイリスフィール殿や舞弥殿に言われたことがある)
紫暮(私と出会い切嗣は変わったと。しかし本当は、お前は元はそういう人間だったんじゃないのか)
紫暮(それがいつか、セイバー殿にも伝わればいいのだがな……)
切嗣「……セイバーのことで紫暮の言いたいことは分かる」
切嗣「自分でも、自分が器用な人間だなんて思っちゃいないよ」
紫暮「それはお互い様だな切嗣。私も器用な人間じゃなかった」
切嗣「紫暮が……? そうには見えないが」
紫暮「私にも荒れてた時期ってやつがあったんだ。妻に出会うまでな」
切嗣「妻に、出会うまで……」
切嗣「前にアイリが言ってたよ。僕と紫暮は似た者同士だって」
紫暮「私とお前がァ~~?」
紫暮「そりゃアイリスフィール殿の勘違いだ。私はお前より器用だぞォ~~?」
切嗣「フッ、相変わらず言ってくれるね」
切嗣「すまない紫暮、肩を貸してくれないか?」
紫暮「よし……これでいいか?」
切嗣「ああ、この先のホールの入り口まで頼む」
切嗣「はぁ……はぁ……」
紫暮「もう少しだ、切嗣」
切嗣「紫暮……」
紫暮「ん?」
切嗣「……僕はね、正義の味方になりたかったんだ」
紫暮「正義の、味方……?」
切嗣「笑うかい?」
紫暮「お前とはまだ短い付き合いだが、こんなときに冗談を言うようなヤツじゃないのは知っている」
切嗣「フッ、そうか」
紫暮「それで、その、正義の味方というのは?」
切嗣「僕は世界を救いたかったんだ。獣の槍を使い、白面の者を倒して」
紫暮「獣の槍ッ……!?」
切嗣「ああ」
紫暮「そうか……。だから、お前は初めて会ったときに蔵の扉を……」
切嗣「でも、僕は伝承者じゃないみたいだ」
切嗣「それに調べたが、きっとあの扉はどんな爆薬を使っても壊せない」
紫暮「お前……私の家の蔵を吹き飛ばす気だったのか……」
切嗣「そういえば、あのときの決着がまだだったね」
紫暮「あぁ、次にやるときはお前のあの動きを見切ってみせる」
切嗣「僕だって、次は君の千宝輪を全て撃ち落としてみせるよ」
紫暮「しかし……お前が獣の槍を求めていたなんてなァ」
切嗣「いや、獣の槍でなくてもいいんだ。白面の者を倒しうる兵器ならなんだって」
紫暮「兵器……。切嗣、お前の望み、理想は以前聞かせてもらった。だが……」
切嗣「その理由かい?」
紫暮「聞かせてもらってもいいのなら」
切嗣「…………」
切嗣「……紫暮、僕たち魔術師はね、さまざまな研究をしているんだ」
切嗣「でもね、どんな分野、系統、属性、あらゆる魔術の辿り着く場所は全て同じなんだよ」
紫暮「違う研究をしているのに同じ……。それは……?」
切嗣「……永遠さ。魔術師は必ず、永遠の命に辿り着く」
紫暮「永遠の、命……」
切嗣「いつか必ず来るという世界の滅亡……」
切嗣「白面による絶対の滅びから逃れるために」
切嗣「魔術師は、永遠を目指す」
紫暮「白面から逃げるため……それが魔術師の辿り着く場所……」
切嗣「ああ……」
切嗣「白面が存在する限り魔術師は、どれだけ死体の山を積み上げるか分からない」
切嗣「…………」
紫暮「切嗣……?」
切嗣「……白面さえいなければ、僕の父親も狂うことはなかったはずなんだ」
切嗣「そして、僕の大切な人たちも……」
紫暮「お前が白面の者にこだわる理由は……そうか……」
切嗣「紫暮、これを持っていってくれ」
紫暮「これは……。セイバー殿の聖遺物、聖剣の鞘か?」
切嗣「ここから先は僕一人で行く。紫暮は予定通り行動してほしい」
紫暮「ばっ、馬鹿を言うな!!」
紫暮「そんな怪我をしたお前を単独で行かせられるか!!」
紫暮「言峰綺礼は倒したようだが、まだ白面の使いがいる。どこに潜んでいるか分からんのだぞ!!」
切嗣「だからこそだよ、何が起こるか分からない」
切嗣「その鞘を白面の使いに奪われるワケにはいかないんだ」
紫暮「それは、そうだが……」
切嗣「アヴァロンを、いつか現れる獣の槍の正統伝承者に渡してほしい」
切嗣「白面との決戦で役に立つはずだ」
切嗣「行ってくれ紫暮」
切嗣「それに住民の避難や誘導は、魔術師殺しの僕には出来ない」
切嗣「でも、光覇明宗の蒼月紫暮にはそれが出来る」
紫暮「…………」
紫暮「その人が出来ることを、その人が出来る限り精一杯やればいい」
切嗣「え……?」
紫暮「商店街の中華料理店の親父が、娘にそうやって言い聞かせてたのを思い出した」
切嗣「それは、いい父親だね」
紫暮「ああ、それに作るメシも美味いんだ」
紫暮「……前に約束したことを覚えてるか、切嗣」
紫暮「私の息子とお前の娘をいつか会わせようと」
切嗣「もちろん覚えてるよ」
紫暮「こんな聖杯戦争パーッと終わらせて、その店にメシを食いに行こう」
紫暮「私たちの子供を連れて」
切嗣「それは…………願望機に頼らなくても叶えられる…………」
切嗣「僕が一番、叶えたい望みだ」
切嗣「……………………」
切嗣「紫暮…………。イリヤを、頼む…………」
紫暮「切嗣……?」
紫暮「いや、気のせいか。声が聞こえるはずがない」
紫暮「それよりも急いで光覇明宗に……」
・市民会館・コンサートホール
切嗣「衛宮切嗣の名をもって命ずる」
切嗣「セイバーよ、宝具をもって聖杯を破壊せよ」
ギル「我が婚儀を邪魔立てするか雑種!!」
セイバー「や、やめろ…………」
切嗣「セイバー。聖杯を、破壊しろ」
セイバー「やめろおおおおーーーー!!!!」
切嗣「ハァ……ハァ……」
切嗣「聖杯を、破壊……出来たのか……?」
切嗣「やった……終わった……。終わったんだ……」
??「それは、どうかしらねえ」
切嗣「お、お前は……!?」
??「この姿で会うのは初めてね、人間」
切嗣「言峰綺礼と協力し、この聖杯戦争を裏で操り、聖杯を手に入れようとした黒髪の女……」
切嗣「白面の使い…………!!!!」
??「ふふふ、よーく知ってるのね」
??「そう……。私は白面の御方の分身、斗和子」
切嗣「斗和子……。残念だったな、すでに聖杯は破壊した」
斗和子「ええ、そのようね」
斗和子「この聖杯戦争で貴方はことごとく邪魔をしてくれたわ、セイバーのマスター」
切嗣「これで、貴様の計画は水の泡だ」
斗和子「ふふふふ」
斗和子「そうね、綺礼もお世話になったようだし、お返しをしないとね」
切嗣「なに……?」
斗和子「空を見上げてご覧なさい」
切嗣「なっ……なんだ……あれは……!?」
切嗣「馬鹿なっ!! 聖杯は破壊したんだぞ……!?」
斗和子「すでに御方の力は器からあふれ始めていた。それなら器を破壊しても……」
斗和子「ね、分かるでしょ?」
切嗣「そ、そんな……そんな馬鹿なことが……」
切嗣「白面の聖杯は、もう止められないっていうのか……!!」
斗和子「ふふっ……。ほほほほ!!」
切嗣「まだだ、まだ!! 貴様にさえ聖杯を渡さなければ……!!」
ドゥゥン!!
斗和子「本当に残念ねぇ」
切嗣「妖怪用の銃弾が効かない……!?」
切嗣「今のは銃弾を体外に反射した……。こいつの能力は、まさか……」
斗和子「セイバーのマスター、私は聖杯戦争のお返しをすると言ったのよ」
切嗣「ぐっ……。なんだ、黒い靄、囲まれて……!?」
斗和子「私とお揃いの黒いドレス。よーく似合ってるでしょう?」
切嗣「アイ、リ……。くっ……はっ、放れ、ろ……!!」
斗和子「先ほどの聖杯はちょっとした試験だったの」
斗和子「貴方が綺礼のように御方の素晴らしさを理解出来たら聖杯を与えようと」
斗和子「でもね、御方を拒否するというのなら……。染まりなさい……」
切嗣「くそっ……このォ……!!」
斗和子「今度のは戯れも何もない。本物の御方の聖杯、極大の呪い……」
切嗣「ぐっ……うっ……ああああああああ!!!!」
斗和子「染めさせておくれ、人間」
斗和子「ふふふふ……。ほほほほほほ!!!!」
切嗣「………………」
切嗣「ここは……?」
『片方の船に三百人、もう一方の船に二百人。この二隻に同時に致命的な大穴が開いた』
切嗣「なんだ、これは……」
『船を修復するスキルがあるのは衛宮切嗣だけだ。時間的にどちらか一隻しか修復出来ない』
『さて、どちらの船を修復する?』
切嗣「そんなものは……。当然、三百人の船のほうだ」
『正解。それが正しい選択、賢い選択。それでこそ衛宮切嗣だ』
切嗣「やめろ白面……!!」
切嗣「こんなものを僕に見せてなんになる!!」
切嗣「もう僕はそんな選択をしたくないから、奇跡を……」
切嗣「聖杯を求めたんじゃないか……!!」
『しかし、生き残った三百人の船、その船には人間以外のバケモノが混ざっていたようだ』
切嗣「化け物……?」
『白面の者だ。白面は次に滅ぼす国を、弄ぶ国を決め、この船に乗っている』
『あの島で起こった悲劇を、白面はまた引き起こすつもりだ』
切嗣「そんな……。そんなこと、させるものか……!!」
『もう船は港に着く。衛宮切嗣には三百人のなかの誰が白面の者かは分からない』
『さて、どうする?』
切嗣「それは……だが……」
切嗣「やめろ、待ってくれっ……!!」
『正解。全員を殴殺する。正しい選択、賢い選択だ。これで次の国の大勢の人間は救われた』
切嗣「やめてくれ……」
切嗣「こんな天秤の計算なんてやりたくないから、僕は……!!!!」
「だが、残念だったなァ……」
切嗣「っ……!?」
「すでに我は、その船にはいなかったのだ」
切嗣「な、なにを……なにを言ってる…………」
切嗣「そんな…………それじゃ…………」
切嗣「僕が、救いたかった四百九十九人は…………」
「無駄死に、だったなァア」
切嗣「あ、あぁ…………」
切嗣「ふざけるな白面…………ふざけるなっ…………」
切嗣「馬鹿ヤロウ…………馬鹿、ヤロウ…………!!!!」
「くっくっくっ…………」
切嗣「貴様は……貴様は……」
切嗣「なんて、嬉しそうな……カオなんだ……」
「我を、憎め……」
切嗣「う、あ…………あぁ…………」
切嗣「ああああああああああ!!!!!!」
「我を憎めよ…………人間…………」
切嗣「…………っ…………」
斗和子「その苦痛の顔、たまらないわァ」
斗和子「ふふ、御方の泥で溺死出来るのだから光栄に思いなさいな」
切嗣「……………………」
泥、か……
ああ……そうだ……
あの時も、僕は…………
舞弥『切嗣。切嗣?』
切嗣「ん……。あ、あぁ、舞弥……」
舞弥『どうしたのです切嗣。放心するなど貴方らしくない』
切嗣「いや、何でもないんだ舞弥。気にするな」
舞弥『はい。それで、紫暮との定時連絡は?』
切嗣「ああ、終わったよ」
切嗣「これから紫暮は息子と用事があると言っていた」
舞弥『それでは予定通り別行動で動きます』
舞弥『しかし、紫暮のご子息に会わなくてもいいのですか?』
切嗣「必要ない。紫暮の家族や周辺に接触することは最小限に抑える」
切嗣「光覇明宗と僕が繋がっていることを他のマスターに知られるワケにはいかない」
舞弥『そうですね。どの陣営に白面の使いが紛れ込んでいるか分かりませんから』
少女「あぁっ……!!」
切嗣(なんだ……?)
少女「そんな……風で、帽子が……」
切嗣「…………」
切嗣「舞弥、そこから見えるか?」
舞弥『はい、見えています』
切嗣「あれをどう見る?」
舞弥『……少女の帽子が突風で飛ばされ、沼のなかに落ちた』
舞弥『幸い、帽子は木の枝にかかり泥に浸かったわけではない』
舞弥『少女はそれを見て、取りに行くか迷っている。簡単な罠ですね』
切嗣「ああ、その通り。子供を使った典型的なトラップだ」
舞弥『近づけば少女の身体に巻きつかれた爆薬が爆発』
舞弥『それとも帽子が落ちた沼のほうに仕掛けが?』
切嗣「あの子に話しかけた瞬間に狙撃、いや、少女自体が特殊な訓練を……」
切嗣「どれにせよ、こんなもの戦場で腐るほど見てきた」
切嗣「フッ……」
舞弥『切嗣?』
切嗣「あの程度のトラップを切り抜けられないようじゃ、この聖杯戦争は勝ち残れない」
舞弥『なるほど。受けて立つと』
切嗣「舞弥、周辺の確認を任せる」
切嗣「事の顛末を見ている狙撃者、マスター、サーヴァントを見逃すな」
舞弥『了解です切嗣』
切嗣「どうかしたのかい?」
少女「えっ……あ……」
切嗣「ああ、帽子が飛ばされてしまったんだね」
少女「はう……。赤いリボンが可愛くて、お母さんに買ってもらった帽子……」
少女「取りに行きたいけど……」
切嗣「暗くてじめじめしている。そんなに深くはなさそうだが泥の沼だ」
少女「私やあさこ、みんなはヘビ沼って呼んでるの」
切嗣「ヘビ沼か。それは危険だね、どんな蛇がいるか分からない怖い沼だ」
少女「ど、どうしよう……」
切嗣(洗脳は違うな、魔力は感じられない)
切嗣(トラップではなかった、か……。いや、油断はしない)
切嗣(だが接触した以上、何も言わずに立ち去るのも不自然か)
切嗣「…………」
少女「うぅ……」
切嗣「君は……。君は、賢い子だね」
少女「え?」
切嗣「君は正しい選択をしたんだ。賢い子だ」
切嗣「あの帽子と、この沼に入って帽子を取りに行く危険性を天秤にかけたんだ」
少女「てん、びん……?」
切嗣「それでいいんだ。それは正しい選択だよ」
切嗣「危険性だけじゃない。君のその綺麗な洋服、きっと泥だらけになってしまう」
切嗣「そんな姿を見たら君の親御さんも心配する」
切嗣「帽子を買ってくれた大好きなお母さんに心配をかけたくないだろう?」
少女「は……う……」
切嗣「賢い君は、あの帽子を天秤にかけて計算したんだ」
切嗣「大のために小を切り捨てる。当然だ」
切嗣「天秤が傾かなかった帽子は尊い犠牲さ。気にすることはない」
少女「で、でも……!!」
ガッポォ、ガッポォ、ガッポォ、ガッポォ
少年「……………………」
少女「えっ……!?」
切嗣「な……!?」
ガッポォ、ガッポォ
少年「…………」
少女「あっ……あっ……」
切嗣「お、おい!! 君、駄目だ!! この沼は危険なんだ!!」
切嗣「何をしてるんだい!! 戻ってくるんだ!!」
少年「…………」
ポフ
ガッポォ、ガッポォ
少年「ん!!」
少女「あっ、ありが」
切嗣「……待ってくれ、どうしてだい」
少年「ん?」
切嗣「どうして君は帽子を取りに行ったんだ」
切嗣「あれは救うことが出来ない少数、助けられないんだよ」
少年「……?」
切嗣「駄目なんだ……諦めるしかないんだよ……」
ビュゥゥウ
少年「あっ……!?」
少女「また帽子がっ……!!」
切嗣「くっ……!!」
バシャ、バシャ、バシャ、バシャ
バシャァァァァ
切嗣「…………」
切嗣「……やった」
切嗣「間に合った!! 帽子に泥はついてない!!」
少女「わ、私……」
切嗣「今日は風が強い日だ。もう飛ばされないようにね」
少女「はいっ」
少年「へへ」
切嗣「君は……。いや、教えてくれないかい」
少年「ん?」
切嗣「その格好は結婚式かなにかの服だ、しかも下ろし立ての」
切嗣「きっと君は、今から親御さんに酷く怒られるだろう」
少年「うっ……」
切嗣「計算しなかったのかい?」
少年「だって……。大事なんだろ、それ?」
少女「う、うん」
少年「それならさ」
切嗣「たった、それだけの理由で…………泥だらけに…………?」
少年「…………!!」
切嗣「今、なんて……」
少年「でもオジサン、変なこと聞くんだね」
切嗣「え?」
少年「オジサンだって、泥だらけじゃーないか」
切嗣「えっ…………あ…………」
グイグイ
少女「あの……てんびんのはなし分からなくてごめんなさい……」
少女「でも、帽子を取ってくれて……」
少女「ありがとう!!」
切嗣「……っ……」
ああ……
僕は……
僕は、本当は…………
斗和子「そろそろ終わりかしらねぇ?」
切嗣「………………ぃ……」
斗和子「な、なにィ……?」
切嗣「……て…………」
斗和子「あっ……ありえない……御方の極大の呪いを受けて……」
斗和子「人間が立ち上がれるはずがない……!!」
斗和子「聖杯の泥を浴びて……!!!!」
切嗣「…………だ……い……」
切嗣「泥なんて、なんだい……!!」
斗和子「魔術師ごときがァ……!!」
切嗣「…………」
カチャ
斗和子「ふ……ふふふ……」
斗和子「いいわよ、何度でも撃ちなさいな」
斗和子「私も何度だって溺れさせてあげる……」
ドゥゥン!!
斗和子「ッ……!?」
斗和子「こ、これは…………!?」
切嗣「貴様の能力は、もう分かってる」
切嗣「その弾は反射出来ないだろう?」
切嗣「僕の起源弾と紫暮の念を合わせた、特製弾さ」
斗和子「た、たかが特殊な銃弾で……御方の分身である私がァア……!!」
ドゥゥゥゥン!!
斗和子「きええええええええ!!!!!!」
切嗣「いつか貴様に会ったときにお見舞いするために準備していたんだ」
切嗣「遠慮せず味わうといい」
斗和子「そう……そうよねぇ……」
斗和子「準備していたのは貴方も一緒なのね、セイバーのマスター」
斗和子「でも貴方が何をしても勝者は私よ」
斗和子「あの聖杯……御方の泥は、貴方には止められない」
斗和子「ふふ、この周辺は灼熱地獄になり、人間は全て悶え死ぬことになる……」
切嗣「僕には止められない、か……。ああ斗和子、確かにその通りだ」
切嗣「でも、それならば僕以外が止めてくれればいいさ」
斗和子「なに……。おのれ、以外……?」
切嗣「まだ気付かないのかい。この会館の周りに人の気配を感じないか?」
斗和子「な、なんだ、あれは……。大勢の人間が会館を囲っている……」
斗和子「まさか……光覇明宗の法力僧!?」
切嗣「貴様の言葉だ。僕はこの聖杯戦争に準備をしてきたと」
斗和子「おのれ…………おのれええ…………!!!!」
斗和子「魔術師でありながら、本当に法力僧と繋がっていたのかァァ!!!!」
切嗣「これは驚かされるな斗和子。貴様は魔術師の事情に詳しいらしい」
切嗣「でもね、およそ僕ぐらい魔術師から程遠いところにいる魔術師もいないんだよ」
斗和子「きききき!! 謀ったなセイバーのマスター!!」
切嗣「炎の、尾……!?」
斗和子「法力僧のちゃちな結界など内側から破壊してくれるわ!!!!」
ドゥゥゥゥン!!
斗和子「かっ…………まだ……その、弾が…………」
切嗣「そんなことはやらせはしない。戦友との約束があるからね」
切嗣「斗和子……。貴様は聖杯ともども、ここで燃え尽きるんだ」
紫暮「なんなのだ……あの炎の渦は……!!」
紫暮(切嗣、お前は聖杯を破壊したらすぐに脱出するのではなかったのか……!?)
紫暮(まさか一人で白面の使いと……。お前はこうなると知っていたから私を外に……)
紫暮「くっ……。通せ!! 通してくれ!!」
法力僧「し、紫暮様!? いけません!!」
法力僧「結界内には誰も通すなとお達しが出ております!!」
紫暮「私はそんな命は出していない……!!」
御角「私が出しました、紫暮」
紫暮「お…………お役目様…………」
和羅「お役目様、やはり本山で待たれたほうがよかったのでは……」
御角「いいえ和羅。白面の使いが現れたというのなら私は出向かねばなりません」
御角「白面を三百年封じた二代目お役目、日崎御角として」
和羅「しかし……いえ、分かりました……」
紫暮「申し上げます、お役目様」
紫暮「あの炎上する会館のなかに逃げ遅れた者がおります」
紫暮「ご命令いただければ、今すぐに私が救出に」
紫暮「ですので、結界を……」
御角「紫暮、それは出来ません」
紫暮「で、ですが……!!」
四師僧「紫暮っ!! 貴様ァ!!」
四師僧「お役目様に意見する気かァ!!」
御角「下がりなさい」
四師僧「うっ……」
四師僧「は、はい……」
御角「紫暮、貴方にこそ聞こえているはずですよ」
御角「あの炎のなかで戦う彼の者の叫びのような念……」
紫暮「そ、それは……」
御角「自分に構わず結界を張り続けろと、聖杯の泥を一滴とも外に出すなと」
御角「この念が聞こえないとは言わせませんよ」
紫暮「お役目様……」
御角「紫暮、彼の者の名前を教えてはもらえませんか?」
紫暮「はっ……。名前は、衛宮切嗣……」
紫暮「魔術師殺しの異名を持つ魔術師であり……私の……戦友です……」
御角「衛宮、切嗣……」
御角「その名、このお役目がしかと覚え込みました」
紫暮「お、お役目様が……」
御角「我が光覇明宗の長い歴史のなかでも、今日は特別な日になります」
御角「おそらく魔術協会は、聖杯戦争に白面の使いが紛れ込むという失態を隠蔽するでしょう」
御角「ですが、我が光覇明宗だけは語り継ぐのです」
御角「いつか獣の槍を抜くといわれる伝承者……その者が現れる前に……」
御角「白面からこの世界を護った彼の者の名を」
四師僧「い、いけませんぞ!! お役目様……!!」
四師僧「仏門光覇明宗に西洋魔道の輩の名を残すなどと……!!」
和羅「……お役目様、確かに受け賜りました」
御角「頼みましたよ、和羅」
四師僧「そ、僧正様……」
和羅「………………」
紫暮(切嗣……。お前はなったのだな…………)
紫暮(世界を救う……正義の味方に…………)
和羅「聞けえい!!!! 光覇明宗の僧たちよ!!!!」
和羅「あの燃え盛る泥を外に出すでないぞ!!」
和羅「念を振り絞れええい!!!!」
法力僧「はっーー!!」
法力僧「はっーー!!」
紫暮「お役目様。私も結界の列に加わりたいと思います」
御角「そうですね。紫暮、頼みます」
御角(御髪が……。また貴方には心憂い戦いをさせてしまいましたね……)
紫暮「よし……!!」
紫暮(切嗣、お前がそこで戦うというのなら……私もここで戦うぞ……!!)
紫暮(場所は違えども最後まで、お前と、ともに…………!!!!)
切嗣「はぁ……はぁ……」
切嗣「どうした斗和子、もう暴れ回るのは終わりかい?」
斗和子「ふ……ふふ……そうねぇ……」
斗和子「これだけ撃ち込まれたら……さすがの私も動けないわ……」
斗和子「喜びなさい。聖杯戦争の勝者は貴方よ、セイバーのマスター」
切嗣「勝者だと? そんなものは存在しない……」
斗和子「それならやはり私の勝ちかしらねえ。私は得るものがあったのだから」
切嗣「な、に……?」
斗和子「西洋魔道……ホムンクルス……」
斗和子「ふふ、この聖杯戦争で手に入れた知識は使えそうだわ」
切嗣「き、貴様ァ……!!」
斗和子「まさか魔術師……」
斗和子「私の計画が、この聖杯戦争の一つだけなはず……」
斗和子「ないわよねぇ……?」
ニヤァア
切嗣「斗和子っ……!!」
斗和子「ふ、ふふふ…………ほほほほ…………」
切嗣「ホムンクルスだとォ……。やめろ、イリヤにはっ……!!」
斗和子「かか……」
切嗣「貴様は何を企んでいる!!!! 言えっ!!!!」
斗和子「かかかか、かかかかかか!!!!」
切嗣「斗和子ォ!!!!」
切嗣「……っ…………」
切嗣(炎と煙で、僕は意識を失って……)
切嗣(斗和子は……。そうか、完全に燃え尽きたか……)
切嗣(いや、ヤツは白面の分身……。ここで消滅しても本体がいる限り……)
切嗣(だが妖怪の復活にはそれなりの時間がいるはず……)
切嗣「ぐっ……う……」
切嗣(身体に魔力を通して、無理やり動かそうとしても駄目か……)
切嗣(あんな化け物を相手にしたんだ、当然といえば当然……)
切嗣(だけど、紫暮が上手くやってくれたみたいで……よかった…………)
切嗣(ああ……本当に、安心した……よ…………)
紫暮『……なぁ切嗣、もしもの話だ』
切嗣『なんだい急に、紫暮』
紫暮『なーに、ただの暇つぶしだ』
紫暮『いつの日か現れるといわれる獣の槍の伝承者、お前はどんな人間だと思う?』
切嗣『伝説の獣の槍、その伝承者か……。そうだね……』
切嗣『あの白面を滅ぼす力があるといわれる槍の使用者だ。屈強な身体の人間だろうな』
切嗣『いや待て……。おそらく、それだけではないはずだ』
切嗣『槍を補助する近代兵器の技術……いや、それよりも妖怪に対しての知識が……』
切嗣『そうだ。きっと僕よりも爆薬に』
紫暮『ふふっ、はははは!!』
切嗣『……紫暮、これでも僕は真面目に』
紫暮『すまんすまん、あまりにもお前らしい答えだからついな』
紫暮『だが、本当にどんな人間なのだろうなァ、伝承者とは』
切嗣『獣の槍を抜き、白面の者を倒す人間か……』
そうか……
今なら分かる……
獣の槍の伝承者……
白面の者を倒す人間というのは……
きっと…………
あの少年のような…………
「……ああ。ただいま、アイリ」
「その、一つ聞きたいことがあったんだ」
「君は、僕といて……幸せだったかい?」
「そうか……」
「ありがとう」
法力僧「はい、そうです。二名発見しました」
法力僧「おいお前、何か着るものを」
法力僧「は、はいっ」
言峰「…………ここは?」
ギル「やっとお目覚めか、綺礼よ」
言峰「ギルガメッシュ……。これは、どうなっている?」
ギル「どうもこうもない。あの薄汚れた聖杯が我たちを結界の外に吐き出したのだ」
言峰「結界……?」
ギル「見るほうが早かろう」
言峰「なんだ、あれは……」
言峰「馬鹿なっ、あんな建物一つ炎上しただけで終わるはずがない!!」
言峰「聖杯は……白面の泥は……この周辺全てを焼き尽くすほどの……!!」
ギル「セイバーのマスター、あれが何か仕組んでいたようだな」
言峰「衛宮切嗣……。ヤツが……!!」
言峰「私はヤツに撃たれた……何故……。心臓の鼓動が、ない……」
ギル「あの泥に飲み込まれ、お前は生き返り、我は受肉した」
言峰「そんなことが……有り得るというのか……?」
言峰「だが確かに、私の身体から溢れるこの黒い力は、聖杯の……」
ギル「あの女がセイバーのマスターにやられる寸前で計画を変更したとも考えられる」
言峰「斗和子が……。そうだ、それしか説明が……」
ギル「妖の分際でしたたかな女だったからな。しかし、もしかしたら……」
ギル「聖杯のなかにある確かな意思が、同属のお前をそうさせたのかもしれないな」
言峰「白面が……私を生き返らせ、炎のなかから逃がした……?」
ギル「クックックッ、ヤツはまだお前に何かをやらせたいようだぞ、綺礼よ」
言峰「フフ……。そうか……白面が、私に……!!」
ギル「我もヤツには興味が湧いた」
ギル「綺礼よ。白面を海底から引き上げ、我の前につれて来い」
言峰「いいだろうギルガメッシュ。契約は継続だ」
言峰「白面が自力で起き上がるか、それとも次の聖杯戦争が先かは分からぬが……」
言峰「必ずや私は、白面を世界に解き放とう」
言峰「それこそが、私が産まれながらに持つ疑問の……」
言峰「答えなのだから……!!」
・大橋歩道橋・出口
セイバー(……キリツグに何があったのか、私に知るすべはない)
セイバー(だが、これだけは言える)
セイバー(やり方は違えど、確かに貴方と私が目指した場所は同じだったと)
セイバー(ならば、迷うことなどない)
うしお「どうしたんだセイバー? 急に立ち止まって」
セイバー「ウシオ、先ほどの話の続きになるのですが」
セイバー「私は……白面から世界を救おうと聖杯を破壊したワケではありません」
うしお「そう、なのかい……?」
セイバー「はい。ですが、もしこれから同じことが起きようとしているのなら……」
セイバー「今度は私の意思で、聖杯を破壊します」
うしお「ああ……!!」
うしお「セイバーならそう言ってくれると思ってたぜ!!」
セイバー「はい、マスター」
・教会中庭
ギル「クックックッ」
ランサー「まだ、まだァ……」
ジャラ……
ギル「鎖に繋がれ狗らしさが増したな、ランサーよ」
ギル「退屈よなァ。我が手を下すまでもなかったわ」
ランサー「どこに行く……。待ちやがれェ……!!」
ギル「ランサークラスといえど、マスターを失ったあとに宝具を連発すれば魔力は尽きる」
ギル「猟犬よ。そのまま身動き出来ずに、己の無力さを噛み締めながら逝くがいい」
ランサー「待てって……言ってんだろォ……!!」
ギル「ククッ……フフフ……ハーッハッハッハッ!!!!」
・蒼月家付近
真由子「それで凛先輩が録画のやり方を教えてくれって」
麻子「え~? あの凛先輩が~?」
言峰「これはこれは……。探す手間が省けたか」
麻子「あれ? 言峰さん?」
言峰「このような場所で会うのは珍しい。米次店主は壮健かな?」
麻子「あはは……。また言峰さん用に新しい激辛麻婆を試作してるみたいです……」
言峰「それは楽しみだ。是非伺わせてもらうとしよう」
真由子「麻子、その……」
麻子「あぁ真由子ごめん。こちらは言峰さん、ウチの常連なの」
言峰「そう警戒することはない、井上真由子」
真由子「どうして私の名前……」
言峰「私はこの土地を任された教会の神父だよ」
言峰「いわば光覇明宗の蒼月紫暮と同じ立場の人間だと思ってくれるといい」
真由子「うしおくんの、おじさんと同じ……」
言峰「無論、私も君のお役目の力は知っている」
言峰「魔術協会……いや、世界中の組織が狙っていることも」
真由子「それは……」
言峰「君をホルマリン漬けの標本にしようとする連中がいるなど許し難い」
言峰「しかし井上真由子、安心していい」
言峰「この国の光覇明宗はもちろんのこと、私もそんなことはさせはしない」
真由子「は、はい……。ありがとう、ございます……」
言峰「フフ、分かってもらえたようで嬉しいよ」
言峰「ところで、君たちはどこに行こうとしていたのかな?」
麻子「それはうし……同級生に会いに芙玄院に」
言峰「なるほど。実は私も芙玄院には行くつもりだったのだよ」
麻子「言峰さんも? 教会のお仕事で?」
言峰「ああ、そんなところだ」
言峰「道すがら君たちに同行することになるかな」
真由子「それは……そうですね……」
言峰「では、行こうか」
麻子「そういえば言峰さんっていったら前にお父さんが変なこと言ってたわ」
言峰「ん……?」
麻子「商店街の催し物で空手をやったじゃないですか?」
言峰「ああ、米次店主が主催したものだ」
言峰「参加者が少なく、私も無理やり出場させられて困りものだった」
真由子「そんなことが……」
麻子「それがお父さん、言峰さんはもっと強いんじゃないのかって言ってましたよ?」
言峰「フ……。それは米次店主の買いかぶりだ」
言峰「私も昔はそれなりだったんだが、衰えていた」
麻子「やっぱり言峰さんなにかやってたのね」
麻子「でもお父さん残念がってたなァ」
麻子「言峰さんは得体の知れない強さがあるから、きっと強いって」
言峰「得体の知れない、か……。フフフ……」
言峰「さて、芙玄院はすぐそこだ。人通りも消えた」
言峰「頃合いだ」
真由子「え……?」
ガシィッ
真由子「な……んで……」
言峰「結界を張るのが一瞬遅れたな、井上真由子」
麻子「言、峰さん……? なに、してるの……」
言峰「感謝しよう中村麻子」
言峰「お前が警戒を解いてくれなかったら、こうも簡単にはいかなかった」
麻子「放して……。真由子を放して……!!」
麻子「はぁ……はぁ……」
言峰「悪くない蹴りだ」
言峰「娘が空手をやめてしまったと相談されたが、なるほど……」
言峰「才能はある。そのまま鍛えていれば凛に及ばずとも、それなりには」
麻子「きぃえええ!!」
ビシィッ
言峰「無駄だ」
麻子「そ、そんな……。う、あ……」
真由子「あ……麻子ぉ……」
言峰「衰えたといってもお前のような小娘に負けることはない」
麻子「言、峰……さん……どう、して……」
言峰「フフ、いい顔だ中村麻子」
言峰「その顔が見れるなら地域のくだらん交流というのも時間の無駄ではなかったな」
麻子「うぅ……あ……ぁ……」
麻子「…………」
真由子「…………」
言峰「なに、殺しはしない」
言峰「お役目の力は最も厄介だが……」
言峰「同様に、最も魅力あるものなのだから」
言峰「フフフ……!!」
・蒼月家居間
凛「桜、イズナ見なかった?」
桜「イズナさんなら先ほど、妙な臭いがするから仲間を呼んで来ると言って出て行きましたけど」
凛「なにそれ……。ま、妖怪には妖怪の事情があるか」
凛「書庫にいたはずのセイバーは急に消える。とらとは連絡つかない。今日はどうなってるのよ」
凛「うしおくんも勝手に出歩いてるみたいだし、これは帰ったらお仕置きね、お仕置き」
凛「あっキリオくん、いいところに……」
キリオ「え?」
凛「ちょーっと聞きたいことがあるのよねぇ」
キリオ「うん、お姉ちゃん」
凛「蔵を整理してたら綺麗な石が出てきたじゃない?」
キリオ「綺麗な石……。お祓いを頼まれてる宝石のことかな……」
凛「そうっ、それ!!」
キリオ「う、うん」
凛「それって光覇明宗のお祓いが済んだら、ど、どうなるのかしら?」
キリオ「詳しいことは紫暮様に聞かないと分からないけど……」
キリオ「多分持ち主に返したり、処分したりしてると」
凛「しょ、処分!?」
凛「…………」
凛「キリオくん、実は私は魔術でお祓いが」
桜「姉さんっ!!」
凛「さ、桜!? 聞いてたの!?」
桜「いくら金銭的に厳しくなったとしても、お祓い品を宝石魔術に使うなんて!!」
凛「冗談よ冗談っ!!」
凛「キリオくんも今のは忘れて、ね?」
キリオ「お姉ちゃん、僕も分かるよ……」
凛「え?」
キリオ「本当は僕もスーパーカーのプラモデルが欲しかったんだ……」
凛「キ、キリオくん……?」
キリオ「お金って、大事だよね……」
凛「よく分からないけどキリオくんも苦労してるのね……」
桜「姉さんのとは少し違うような感じですが……」
凛「……っ……!?」
桜「姉さん……?」
イリヤ「リン」
凛「分かってる。さてと、これはどういうことかしらねぇ」
セラ「すでに正門は越えられています」
リズ「迎撃、する」
凛「なーんでとらもセイバーもいないときに限ってこれなのよ……!!」
凛「うしおくん、早く帰ってきてくれないと本当に怒るわよっ」
・蒼月家玄関前
言峰「どうした凛。そのように身構えて」
凛「……綺礼…………」
麻子「…………」
真由子「…………」
凛(後ろの二人に目立った外傷はない。おそらく魔術で操られてるだけ……)
凛「それで、説明ぐらいしてくれるんでしょうね?」
言峰「お前のことだ、大体の予想はしているのではないか」
凛「まぁね。でも監督役がゲームに参加するなんて、ルール違反なんてもんじゃない反則よ」
言峰「ルール違反か……」
言峰「フフ……。凛、お前は未だ聖杯戦争をしているようだな」
凛「どう、いう意味よ……」
言峰「聖杯戦争とは聖杯を降臨する儀式のことだ」
言峰「ならば、この聖杯戦争は始めから聖杯戦争ではないのだよ」
凛「なにワケの分かんないことを……。とにかく二人を解放してもらうわよ」
言峰「出来ない相談だな、凛」
イリヤ「待ちなさい監督役」
凛「イリヤ……」
言峰「うむ、アインツベルンが用意した器か」
イリヤ「私が必要なんでしょ。だったら連れて行けばいいわ」
セラ「お嬢さまっ!!」
リズ「イリヤ、駄目」
イリヤ「ウシオやキリオには悪いけど、いつかこんな日が来るかもって覚悟はあったわ」
イリヤ「アサコとマユコをどう聖杯の器にする気だったかは知らないけど、私のほうが適任よ」
イリヤ「だから二人を解放しなさい」
凛「イリヤ、アンタ……」
イリヤ「勘違いしないでリン。二人を巻き込めばウシオが悲しむ、だからよ」
イリヤ「それに、アサコとマユコのお弁当は美味しかったから」
言峰「フフフ……!!」
言峰「勘違いをしているのはお前だ、アインツベルンの器よ」
言峰「私が必要としているのは聖杯を受け止める器ではない」
言峰「包み込む、皮だよ」
イリヤ「えっ……な、なにこれ……」
凛「この黒い靄……まとわり、ついてっ……!?」
言峰「なに拒むことはない。お前たちはそれを求めて戦っていたのだから」
リズ「魔力、吸われて」
セラ「こ、こんなこと……」
言峰「素晴らしいな、この力は」
??「くっ……」
言峰「どうした少年。出てこなくていいのか、では」
イリヤ「うっ……あ……」
キリオ「や、やめろっ!!」
言峰「引狭霧雄、いや、今は井上霧雄か」
言峰「その後ろ手の千宝輪、練っている念を解除してもらおうか」
キリオ「気付いて……」
言峰「フ、法力僧と戦うのはお前が初めてではない」
凛「綺礼……アンタねぇ……」
言峰「凛、お前がもう少し出来の悪い弟子ならばな」
言峰「まさか雷獣を召喚するとは予想外だった」
凛「アンタの予想なんか裏切り続けてやるわよ……」
言峰「それでこそだ凛。最後に何か言い残すことはあるか?」
凛「逝き場に迷えクソ神父っっ!!」
言峰「フフ、まさか親子二代に渡って引導を渡せるとはな」
凛「…………」
凛「……そう。父さんを殺したのは、アンタだったんだ」
言峰「当然だろう。恩師であったからな。騙まし討ちは容易かった」
凛「……っ……!!」
言峰「凛、お前は最期まで私を愉しませる」
言峰「真相を知った瞬間のお前の顔は格別だったぞ」
言峰「ん……?」
「凛姉ちゃーーん!!」
「リン!! どこですか!!」
言峰「……手を抜いたな、ギルガメッシュ」
言峰「まぁいい。儀式に必要なものは手に入っている」
言峰「雷獣のマスターを仕留めていないのは懸念事項だが……」
言峰「ギルガメッシュの言葉を借りるなら、これも沸き立たせる要素か」
凛「アンタ……いったい、何を考えて……」
言峰「言っただろう凛。これは聖杯戦争ではないと」
言峰「この儀式、いや、この戦争は……」
言峰「白面の者を降臨させる、白面戦争なのだから」
凛「……なに、を…………うぅ…………」
・蒼月家居間
凛「……ここは…………」
うしお「凛姉ちゃん、気がついたのかい!?」
凛「うしおくん……。ええ、なんとかね……」
凛「私はどのくらい気を失ってたの?」
セイバー「ほんの数分です。おそらく魔力を奪われたのではないかと」
凛「多分そうでしょうね。他のみんなは?」
うしお「イリヤたちも無事さ」
うしお「隠れてた桜姉ちゃんが今みんなを介抱してくれてる」
凛「桜、私が言ったとおり隠れててくれたのね。良かったわ」
とら「りん!! ここにおるのか!?」
凛「とらァ、アンタねぇ……!!」
とら「こりゃどうなってやがる……。何があった?」
凛「アンタがいないから大変なことに……!!」
うしお「ま、待ってくれ凛姉ちゃんっ。こっちも大変なことがあったんだ!!」
凛「え……?」
セイバー「この聖杯戦争は、初めから仕組まれていたものだったのかもしれません」
凛「仕組まれて……」
うしお「凛姉ちゃん。オレたちが見てきたこと、聞いたことを話すよ」
凛「ええ、お願い」
凛「それに……私も話すことがあるわ……」
凛「綺礼がギルガメッシュとランサーのマスター……」
凛「そして、白面の入った聖杯か……」
うしお「麻子と真由子が……」
とら「マユコ……ちっ……」
キリオ「ごめんうしお兄ちゃん。真由子姉ちゃんを守れなかった……」
うしお「なに言ってんだよキリオ。まだ終わりじゃねえさ」
とら「そのとおりよ。あの野郎をブッ飛ばしてマユコを取り戻す……!!」
とら「りん!! あのクソ野郎はどこにおる!?」
凛「……おそらく柳洞寺でしょうね」
セイバー「あの男は柳洞寺で聖杯を降臨すると?」
凛「キャスターが陣取った場所よ。聖杯の降臨場所として、あの場所以上はないもの」
うしお「柳洞寺に言峰神父や麻子たちが……」
とら「あの寺か。場所さえ分かればこっちのもんよォ」
凛「まだ私やキリオくんたちは動けないわ」
セイバー「リンたちは休んでいて下さい」
うしお「ああ、後は任せてくれよ!!」
凛「……うしおくん。これを持っていって」
うしお「これは……?」
凛「アゾット剣。その柄を魔術で伸ばして補強したの」
凛「ま、アゾットの槍ってところかしらね」
うしお「アゾットの槍……」
凛「アゾット剣は魔術師の世界ではよく使われるのよ」
凛「魔術の師匠が一人前になった弟子に贈ることが多いわ」
うしお「そうか、言峰神父は凛姉ちゃんの……」
凛「もちろん獣の槍みたいな能力はないから気をつけてね」
うしお「分かったよ凛姉ちゃん」
凛(でも、私の予想通りなら、きっと……)
とら「おいうしお!! なにしてやがる!!」
とら「ウダウダやってるヒマはねェだろうが!!」
うしお「おう!!」
うしお「よーし。とら、セイバー、行こう!!」
凛「とら、待って」
とら「ああ?」
凛「……アンタはランサーに刺されたのよ。魔力の補充がいるわ」
とら「わしにゃそんなもんいらねーよ」
セイバー「そうですね……。あのランサーの槍を受けて無事なはずがない」
うしお「とらはランサーを庇った後も、ギルガメッシュとも戦ったんだもんな……」
凛「うしおくんとセイバーは先に柳洞寺に行って待ってて」
凛「とらなら魔力を補充した後に、ひとっ飛びで追いつけるわ」
セイバー「分かりました。行きましょうウシオ!!」
うしお「ああ。とら、先に行って待ってるぜ!!」
とら「…………」
とら「おい。りん、おめえなに言って」
凛「私に隠してたわね。とら」
とら「……なにをだよ」
凛「さっきうしおくんは、ランサーと戦ったときに獣の槍を使ったって言ってたわ」
とら「それがどうしたってんでえ」
凛「なんで私からの魔力供給量が変わってないのよ?」
とら「そいつは……」
凛「確かに、宝具の発動や維持には私の魔力がいるのかもしれない」
凛「実際桜の体内に入ったときは、獣の槍を維持出来ずにイリヤたちに助けられたわ」
凛「でも獣の槍の、能力の魔力はいつ私から取ってるの?」
とら「…………」
凛「考えてみたら当たり前のことよ」
凛「私の思っている獣の槍の真の能力は、魔術、魔法、いや、奇跡と言っていいわ」
凛「そんなの私一人の魔力で供給出来るはずがないもの」
とら「……りん。なにが言いてえ」
凛「獣の槍は、魔力消費型じゃない」
凛「使用回数に制限のある宝具よ」
桜「そんなの、あるんですか……?」
イリヤ「別に珍しいものじゃないわ」
イリヤ「ちょっと違うけど私のバーサーカーの十二の試練だって回数のある宝具よ」
キリオ「獣の槍は、使用者の魂を喰らい力を貸す退魔の霊槍」
キリオ「そして槍に魂を全て喰われた者は、獣と化し元に戻ることはない」
リズ「その逸話を元に、宝具の獣の槍は出来た」
セラ「なるほど……。魂を奪われる回数、それが制限に……」
凛「とら……教えて」
凛「あと何回、宝具は使えるのよ?」
とら「…………」
凛「本当は前から限界だったんじゃないの?」
・蒼月家玄関前
うしお「槍か……」
セイバー「ウシオ? どうしたのです?」
うしお「あ、いや、前にイリヤが魔術で作ってくれた槍を思い出してさ」
うしお「あれもオレの部屋にあるんだ。持っていこうかと思ってよ」
セイバー「予備の得物ということですか?」
うしお「凛姉ちゃんから渡されたこの槍が壊れるなんて思ってない。でも……」
セイバー「……おそらく、これからの戦いがこの聖杯戦争の最後の戦いになるでしょう」
セイバー「戦場に万全の状態で挑みたい。その気負い、騎士として理解出来ます」
うしお「最後の戦い……。槍が、壊れ……」
うしお「すまねえセイバー!!」
うしお「やっぱりイリヤの槍を取ってくる!! 先に行っててくれっ!!」
セイバー「了解です。マスター」
凛「マスターとサーヴァントは魂で繋がっている」
凛「隠そうと思っても隠しきれるものじゃないわ」
とら「…………」
凛「直感的に分かってしまうのよ、私はアンタのマスターだから」
凛「ずっと前から限界だった。でも、うしおくんや井上さんのいるこの世界に留まるために……」
凛「ねえ、本当は分かってるんでしょ?」
凛「この次に宝具……獣の槍を使ったら……」
凛「とらは、消えるのよ?」
とら「……魔力の補充は終わりか、りん」
凛「こ……のォ……!!」
とら「ハラァいっぱいだ。わしはもう行くぜ」
凛「馬鹿……とらァ……」
・廊下
うしお「……………………」
・柳洞寺山門前
ダッダッダッダッ
うしお「ハァッ……ハァッ……」
セイバー「ウシオ……?」
うしお「えっ、な、なんだいセイバー」
セイバー「予備の槍を取りに行ったのではなかったのですか?」
うしお「あ……あぁ……。いや、そのオレさ、二刀流なんてやったことねえからよ」
セイバー「それは、確かにそうですね」
セイバー「二槍使いと戦ったことがありますが、あの技術が一朝一夕で手に入るとは思えない」
うしお「そ、そうだろセイバー。槍なんていらないさ……」
うしお「槍なんて、使わなくたって……」
セイバー「……?」
セイバー「ん? トラが追いついたようですね」
うしお「…………」
セイバー「トラ、魔力の補充は十分ですか?」
とら「けっ、わしの心配なんかしてんじゃねーよ剣使い」
セイバー「その様子だと大丈夫のようですね」
とら「それよりこのニオイ、もう始まってやがるか?」
セイバー「はい、日も暮れ魔力の密度も高い。前回の聖杯戦争の終盤と同じです」
セイバー「聖杯の降臨は始まっていると考えていいでしょう」
とら「いいぜ。わしの食い物を奪ったクソ野郎をブッ倒せばいいだけよォ……!!」
とら「そうだよなァうしお、マユコたちを取り戻すんだろォ!?」
うしお「あ、あぁ……!!」
うしお「全部、オレに任せろってんだ!!」
うしお「お前の……お前の出番なんてねえぞ、とらァ!!」
とら「けけけけ!! 言うじゃねえか、気合い入ってんなァうしお!!」
セイバー「これは、負けていられませんね」
うしお「それじゃ行こうセイバー、とら……」
・柳洞寺境内
ギル「待ちわびたぞセイバー。小僧、それに獣よ」
セイバー「英雄王……」
うしお「ギルガメッシュ……!!」
とら「てめえがここにいるってことは……。槍使いはどうした!?」
ギル「ククッ、ランサーならば狗畜生らしく鎖に繋いで躾けている最中だ」
とら「ちぃ~~!! あの馬鹿槍使いがァ~~」
ギル「この魔力の密度、頃合いは十分だ」
ギル「ようやく聖杯も化けの皮を着込み始めたとみえる」
セイバー「貴様たちは何を……。ギルガメッシュ、貴様の目的はなんだ!?」
ギル「目的などない。言っただろうセイバー、我の関心はお前だけだと」
うしお「一つだけ教えてくれねえか、ギルガメッシュ」
ギル「いいだろう小僧。宴の席だ、多少の無礼も許そう」
うしお「……オレは、白面のせいで変わっちまった人を知ってんだ」
うしお「もしかしたらお前や言峰神父も、聖杯のなかの白面のせいで……」
ギル「我が白面の陰の気に染められているのでは、と」
ギル「小僧、侮るな」
うしお「えっ……」
ギル「あのような見上げることしか出来ぬ小者など……」
ギル「何匹いたとしても我を染めれるものかァ!!!!」
うしお「うっ……こ、これが英雄王……ギルガメッシュ……」
ギル「クックックッ……」
ギル「しかし、言峰のほうは分からんな」
ギル「言峰の身体のなかに流れる力は紛れもなく白面のものだ」
ギル「この聖杯戦争を仕組んだのは言峰の意思か、はたまた白面の陰の気か」
ギル「それも間もなく分かる」
セイバー「なるほど。貴様たちの目的は見えずとも時間はなさそうだ」
セイバー「ウシオ、トラ。先に行ってください」
とら「いーや、先に行くのはおめえよ剣使い」
セイバー「トラ……?」
とら「おめえはあの日の夜に借りを返したろうが」
とら「わしはまだなのよ。槍使いの分も含めて、あの金色野郎はわしの獲物だ」
セイバー「トラ、これはもう貸し借りの話ではありません」
セイバー「貴方も分かっているはずです。貴方と英雄王の相性は最悪と言っていい」
うしお「相性……。確かサーヴァント同士にはクラス相性があるんだよな?」
セイバー「はい。トラは特殊なクラスですが英雄王の対妖怪の宝具は致命的です」
セイバー「勝率のことを考えれば、この場に残るのは私だ」
とら「相性だの勝率だの関係ねーな。わしがあいつより強けりゃいいだけよォ」
セイバー「ですがトラ、ここは」
うしお「ここはとらに任せよう、セイバー」
セイバー「ウシオ、これは戦局を左右する選択です。貸し借りの優先など」
うしお「ああ、セイバーの言い分のほうが正しいと思うぜ」
うしお「きっと凛姉ちゃんがいたらセイバーを残したんだろうな」
セイバー「それならば……」
うしお「オレはサーヴァントの相性とか知らねえけどよ。ただ……」
うしお「とらが同じヤツに何度も負けるなんて、オレには思えねえんだ」
とら「へっ」
セイバー「……まったく。分かりました。トラ、ここは任せます」
とら「けけ、おめえにしちゃ聞き分けがいいじゃねえか」
うしお「別に本当にそう思っただけさ。それに……」
うしお「お前がここに残ってくれたほうが、オレも安心出来るしな……」
とら「……?」
セイバー「トラ、一つだけ言わせてください」
セイバー「英雄王の対妖怪の宝具は確かに強力です。ですが」
とら「それなら言わんでいい。やつの原典の槍を見たときから分かっとる」
セイバー「え……?」
とら「いいから行きなァ、聖杯が完全に降臨しちまうぜ」
とら「マユコのこともあるのよ。わしもこいつをすぐにブッ倒して追いつくからよ」
うしお「そうだな、麻子たちを早く助けないと……。行こうセイバー!!」
セイバー「はい。トラ、ご武運を」
とら「生憎だったなァ。てめえの欲しいもんは行っちまったぜ?」
ギル「どこに行こうがあの女は我のモノだ」
ギル「むしろ自ら聖杯に染まりに行くとは……」
ギル「ククッ、泥を飲ませる手間が省けるというもの」
とら「ちっ……。計画通りってか……」
ギル「選択を見誤ったな獣よ」
ギル「我と対峙するのがセイバーならば、万が一の可能性があったかもしれぬというのに」
とら「なにも間違っちゃいねーよ」
ギル「ほう……。獣ふぜいが策を練ったか」
とら「さーて、どうだかね。それよりわしは……」
とら「そのニヤケ面をブン殴りてえだけよォーー!!!!」
ギル「その気合い……妖怪ごときでも宴を飾るに悪くないか」
ギル「よかろう、相手をしてやる。フフフ……フハハハハハハ!!!!」
言峰「ようこそ聖杯降臨の儀式へ、とでも言おうかな」
言峰「蒼月潮にセイバーよ」
うしお「言峰神父、やっぱりここに……!!」
セイバー「あの後ろの空中に捕らわれているのはアサコとマユコ……外道め……!!」
言峰「フッ……」
セイバー「貴様の欲する物は聖杯だろう、彼女たちは関係ないはずだ!!」
うしお「そうだ言峰神父!! 麻子と真由子を下ろしてくれよォ!!」
言峰「それは出来ない相談だな」
言峰「確かにセイバーの言うとおり私の望みは聖杯だ」
言峰「しかし、それには彼女たちの力が不可欠なのだから」
セイバー「なにを……。二人は魔術師ではない、何の力も……いや……」
うしお「まさか真由子の……お役目の力……!?」
言峰「フフ、そのとおりだよ蒼月潮」
言峰「聖杯などという小さな器では白面の泥は溢れてしまう」
言峰「前回の聖杯戦争で、光覇明宗が結界で泥を阻止したときから考えていた」
言峰「あの白面の泥を余すことなく受け止める術はないのかと」
セイバー「それがマユコの力か……!!」
うしお「それで白面の泥を全部手に入れて何をしようってんだよ!?」
言峰「私の望みは変わっていない」
うしお「変わって、ない……?」
セイバー「ここにきて虚言か」
セイバー「貴様の前回の望みは、白面を解き放つことだったはずだ」
セイバー「その白面はウシオとトラによって滅ぼされている」
言峰「うむ、そうだなセイバー。確かにその白面はすでに存在しない」
うしお「それなら……!!」
言峰「ならば新しく白面を生み出し、この世に解き放つ。それが私の望みだ」
セイバー「白面を生み出すっ……!?」
うしお「そ、そんなこと出来るはずがねえっ……!!」
言峰「フフ……」
言峰「聖杯のなかにある白面の体の欠片は、龍脈の力を吸い上げ続け、すでに聖杯を乗っ取っている」
言峰「最早あれは聖杯と呼ぶようなものではない。まさに白面の力そのものと呼ぶに相応しいものだ」
言峰「その白面の泥を、白面の毛皮に形作ったお役目の結界に流し込めば……」
うしお「白面が生まれるっていうのか……!?」
言峰「そうだ蒼月潮」
言峰「私が誕生させるのだ。『この世全ての悪』を」
言峰「私が生み。私が生かす。私が傷つけ私が癒す」
言峰「これこそ我が望み、我が願望……」
言峰「初めからこの世に望まれなかったもの……」
言峰「白面を……!!」
言峰「私が、誕生させるのだよ……!!!!」
セイバー「ば、馬鹿な……」
うしお「また白面が生まれる……。あの白面が復活する……」
言峰「それも間もなくだ。すでに聖杯の降臨は始まっている」
うしお「やらせるかよ……。やらせねえぞォ言峰神父!!」
セイバー「そもそも白面の皮の結界など、マユコが手を貸すはずがない!!」
言峰「それはどうかなセイバー」
言峰「中村麻子の首を圧し折る仕草を見せたら、井上真由子は快く引き受けてくれたが?」
セイバー「外道、貴様ァ……!!」
うしお「真由子を言い聞かすために麻子をォ……!!」
言峰「フフフ……」
言峰「さあ、そろそろ宴を……白面の誕生祭を始めよう」
言峰「この白面戦争、お前たちが最後のマスターとサーヴァントだ」
うしお「えっ!? な、なんだ、この黒い靄は……!?」
セイバー「次第に輪郭がハッキリと……。気をつけてくださいウシオ!!」
黒炎「ケケ……ケケ……」
うしお「こいつらは、黒炎……っ!?」
言峰「ほう、この力がここまで実体化するとは……」
言峰「フフ……。そうか白面よ、間もなくなのだな」
言峰「間もなくお前は完全に具現化する……!!」
うしお「そんな……本当に、白面が復活しちまうのかよ……」
黒炎「キシャァァァァ!!」
セイバー「ウシオっ!!!!」ザシュッ!!
うしお「す、すまねえセイバー!!」
セイバー「この黒い鬼たちは私に任せてください」
セイバー「ウシオ、まだ聖杯は完全に降臨したわけではありません」
セイバー「泥を受け止める結界さえなければ白面の復活はない」
セイバー「ウシオはあの男を倒し、アサコとマユコを助けるのです!!」
うしお「よし……分かった。セイバーここは頼んだぜ!!」
うしお「言峰神父……!!」
言峰「フフ……。開幕の夜から予感があった」
言峰「蒼月潮、最後にお前と対峙することになると」
うしお「え……」
言峰「私の身体のなかには白面の力が流れている」
言峰「つくづくお前と白面は縁があるらしい」
うしお「白面との縁か……。確かに縁がないなんて言わないさ」
うしお「最後に聞かせてくれ言峰神父。白面の復活なんてやめないかい?」
言峰「フッ、出来ない相談だ」
うしお「そうかい……。だったら……」
うしお「行っくぞォォーーーー!!!!」
言峰「さあ……。真の開幕を告げよう……!!!!」
ドガガガガガガ
ギル「……向こうも始まったか」
とら「余所見してんじゃねえーーっ!!」
ギル「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」
パチンッ
とら「ちぃぃ~~~~!!!!」
ギル「なんだそれは……。以前と変わらず対妖の宝具を避けるだけか」
ギル「無様な、それでは宴は盛り下がるというもの」
とら「けっ、好き放題言いやがるぜ」
とら(あの宝具の雨をかわして、金色野郎に近づけりゃ……)
ギル「まさか獣よ、このまま一芸の披露もなしではあるまいな」
とら(近づけりゃあとはどうにでもなる。だが、どうやって近づくかよ……)
うしお「うおおおおおおおお!!!!」
言峰「その槍……。いや、その剣は……」
言峰「フフ、どこぞの小娘にやった物だが。なるほど、意趣返しのつもりか」
うしお「ああ!! だから、負けられないのさァーー!!」
言峰「脇目も振らずに槍の突進、実にお前らしい。だが……」
うしお「あ、あれは……っ!?」
うしお「ぐっ……!!」
言峰「ほう、黒鍵を防いだか」
言峰「今のは知っている動きだったな、蒼月潮」
うしお「それを使う姉ちゃんと一緒に戦ったことがあってさ!!」
言峰「代行者と……。それでは黒鍵は有効ではなさそうだ」
言峰「しかし、それはこちらとしても……。フ……ッ!!」
うしお(はやっ!?)
うしお「が……はっ……。こ、拳…………」
言峰「ふー……。私としても、こちらのほうが得意だがね」
黒炎「ケケケケーーーー!!」
セイバー「はああああああ!!」
ザシュッ!!
黒炎「ケケ……ケケ……」
セイバー「際限がない……。黒炎といったか、無数に増え続ける……」
セイバー「おそらく大元の聖杯を破壊しなければ、この増殖は止まらない」
セイバー「早くウシオの援護に行かなければ……!!」
黒炎「キシャァァァァ!!」
セイバー「くっ……!!」
セイバー「ウシオ……トラ……!!」
ギル「どうした獣よ。もう逃げ場がないぞ」
とら「わしが逃げるかよォ!!」
ギル「この国の言葉で袋のネズミといったか、まさにそれだな」
とら「ちぃっ、こっちもかァ~~!!」
ドスッッ!!
とら「ぐぅぅうおおおお!!!!」
ギル「すでに身体中は穴だらけ、そろそろ終わりか」
ギル「くだらん見世物だったな」
とら「まだまだァ、終わりじゃねえ……!!」
『わたし達を使え』
とら「……やっぱそれしかねえか」
とら「わしだけの力でやりてえのによォ」
とら「しっかし本当におめえら使って上手くいくのか、それ次第だぜ」
『力を、さらなる力をやる。とら、わたし達を使え』
とら「けっ、しゃあねえな。使ってやらあ!!」
『そうだ。そうすれば、おまえは強くなる……!!』
とら「雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ!!!!!!」
ギル「追い詰められ、最後は苦し紛れの真正面から特攻か」
ギル「所詮は獣よ。これで終わりに……なっ……貴様、その姿は……!?」
とら「ひゃーっはっはっはっはっ!!!!」
宝具『字伏の鎧』!!!!
ギル「貴様ァ…………。獣の分際で鎧を着込むのかァァーー!!」
とら「こいつらの力を借りるのはちょいと気に入らねーが……!!」
とら「てめえのその驚く顔が見れるなら悪かァねえなァ!!!!」
ギル「戯れ言をォォーーーー!!!!」
ドガァッ!!
字伏『ぐぅぅ……!!』
とら「お、おい!!」
字伏『わたし達のことは案ずるな。やつに近づくまで必ず保たせる』
字伏『しかし、このような方法が通じるのは一度だけ』
字伏『これで決めるのだ、とら』
とら「言われるまでもねえーーーー!!!!」
ギル「くっ……!!」
ギル「クッ……ククク……」
とら「なんだァ!?」
とら「もうやつは目の前だってのに身動き出来ねえ!?」
ギル「フフフ……」
とら「こ、こいつァ……」
とら「わしの身体を無数の鎖が縛ってやがるのかよ!?」
字伏『ぐっ、がっ……』バキバキィ
ギル「フハハハ!! ハァーハッハッハッハッ!!!!」
とら「金色野郎!! てめえの宝具かァ!!」
ギル「褒めてやるぞ獣よ。我はこれを使う気はなかったからな」
とら「ちぃぃ~~!!」
とら「こんな宝具も持ってるかよ……!!」
ギル「ククク……。しかし、最後の一芸はなかなかに愉しめた」
ギル「獣が鎧を着込むなど珍奇な見世物だが、王としては褒美をやらんとな」
とら「くっそっがァァ~~!!」
ギル「暴れても無駄だ。その鎖は妖怪の貴様でも引き千切ることなど出来ん」
ギル「フフフ、褒美だ。受け取るがいい」
とら「そ……そいつァ……!!」
ギル「やはり貴様を消滅させるなら……」
ギル「この獣の槍の原典でなくてはな」
ギル「聞くところによると貴様は多くの異名を持つらしいな」
ギル「長飛丸、わいら、雷獣、字伏……。そして、黄金の獣」
ギル「これで妖怪ふぜいの貴様も理解出来たであろう」
ギル「黄金の名に相応しい英霊は我だけよ」
ギル「終わりだ」
ドスッ……
ギル「ククッ……。フフフ……ハァーハッハッハッハッ!!」
とら「……けけ、けけけ……。けけ……」
ギル「な……。笑っている……?」
ギル「何故、獣の槍で刺されて消滅しない……!?」
とら「なーんだ、やっぱりかよ。なんのことはねえ」
とら「けけっけっけっ!!」
ギル「生前、貴様は獣の槍を忌み嫌っていた……」
ギル「サーヴァントとなった貴様の弱点は、獣の槍のはずだ……!!」
とら「けけ……。ああ、そうだぜ」
とら「わしら妖にとって獣の槍は忌々しいクソ槍よォ」
とら「だが、そりゃてめえの持ってる槍じゃねえよなァ?」
ギル「な、に……」
とら「獣の槍の原典だと、けけっけ」
とら「タコが、そんなモンあるわきゃねーだろ」
ギル「この原典の槍が、獣の槍ではないだと……?」
ギル「妖怪ごときが戯れ言を抜かすな……っ!!」
ギル「獣の槍を辿って行けば、必ずこの原典に辿り着く……!!」
とら「けけけ……。いいぜ……」
とら「そこまで言うならよォ、その槍を真名解放してくれねえか」
ギル「真名解放、だと……?」
とら「その槍にゃ封印の赤布がねえ、獣の槍が出来たときのように暴走してねえワケだ」
とら「だったら使用者が能力を解放しねえとなァ」
ギル「……お…………」
とら「獣の槍は認められた人間が使わなきゃ、ただの頑丈な槍だ」
とら「てめえがその槍の使用者だって言うなら真名解放してくれよォ」
ギル「……お……のれ…………」
とら「けけえけっけっけっ!!!! 出来るわきゃねえよなァ!!!!」
とら「槍を手に持ってるのに髪がまったく変化してねえんだからよォォーー!!!!」
ギル「おのれええええ!!!!」
とら「笑わせるぜェ!!!! おめえは宝具を持ってても使えねえのよォ!!!!」
とら「英雄王とやらのくせによォ!!!!」
ギル「おのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇ!!!!」
とら「ひゃはははは!!!! 怒りやがった!!!!」
とら「英雄王が怒りやがったぜええ!!!!」
ギル「首を伸ばして、自身の四肢を噛み切るだと……っ!?」
ギル「おのれバケモノめええーーーー!!!!」
とら「そうだァ!! わしはバケモノだぜェ!!」
とら「これだけ近づかれりゃ得意の宝具の撃ち出しは出来ねえよなァ!!!!」
ギル「ぐぅぅ……くっ……!!」
とら「たわけえ!! そのねじれた剣は使わせねえ!!」
ギル「がっ……」
とら「そいつがてめえの真の宝具なんだろうが使わせるかァーー!!」
とら「わしは剣使いと違って騎士道精神なんて持っとらんのよォ!!!!」
ギル「おのれええ……っ!!」
とら「慢心したなァ英雄王!!」
とら「わしを殺すのにわざわざ獣の槍を使おうとするからこうなるのよォーー!!」
ギル「おのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇーーーー!!!!」
とら「妖殺しの逸話のある剣でも弓でも出しときゃ勝負は違ってたぜェェ~~~~!!!!」
ギル「おのれええええええええええええええええええええええええ!!!!」
とら「おのれの…………負けだ…………!!!!!!」
ギル「ククク……」
サァァァァ
ギル「いつの時代も、バケモノは我を愉しませる」
とら「けっ、こんな決着で納得出来るかよ」
とら「ただのまぐれ勝ちじゃねえか」
ギル「早く行くがいい。小僧とセイバーだけではアレには勝てぬ」
ギル「獣よ、あのときと同じだ」
とら「あのときだァ?」
とら「……待てよ……。そうだ、あのときもおかしいと思ったぜ」
とら「白面との最終局面、なんで北の土地神や雪妖があんな簡単に南の海に来れた」
とら「空は婢妖と黒炎に覆われてたってのに……!!」
ギル「フフ……舞台を盛り上げるのは、なにも演者だけではない」
ギル「ときには観客の一声で盛り上がることもある」
とら「てめえ……っ!!」
とら「……ちっ……いろんな人間を喰ってきたが……」
とら「ここまで喰えねえやつは初めてよ、英雄王」
ギル「クックックッ…………フフフフ…………」
ギル「ハァーーーーハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!」
うしお「うおおおおーーーー!!」
言峰「ハァァッ!!」
うしお「ぐっ……はっ……」
言峰「フッ……」
うしお「はぁ……はぁ……。つ、つえぇ……」
うしお「これは聖杯の力じゃない、言峰神父自身の力だ……っ!!」
言峰「私も衰えはしたが、獣の槍を持たぬお前に負けるつもりはない」
うしお「獣の槍は必要ねえさ……。それより言峰神父……」
うしお「なんでだよ、なんで白面を復活しようなんて思うんだ……!!」
言峰「……そうだな。私の望みは語ったが、その理由までは語っていないか」
うしお「白面が復活したらどうなるかなんて、もう二年前のときに分かっただろ!?」
言峰「フフ、だからこそだ。私はまたあれが見たいのだから」
うしお「え……」
言峰「二年前の白面、あれは本当に素晴らしかった」
言峰「あのような地獄の光景こそ、魂の炸裂、人間の最高の煌めきがある」
言峰「生存という助走距離をもって高く飛び、空に届き、尊く輝くもの……」
言峰「その瞬きこそ、人間の価値だ」
うしお「なにを……言って……」
言峰「理解出来ないか蒼月潮」
言峰「人間とは、死の瞬間にこそ価値がある」
うしお「言峰神父……。本気で、言ってるのかい……」
言峰「ああ、もちろんだ」
言峰「歪な形ではあるが私ほど人間を愛している者はいない」
うしお「そんなこと……そんなこと……」
うしお「分かってたまるかァァーーっ!!」
言峰「お前は白面と、いや、『この世全ての悪』と対となる存在……」
言峰「蒼月潮が理解出来ないのも道理か」
言峰「我が生涯をかけた問いの答え、それこそ白面がもたらすもの」
言峰「許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を」
言峰「光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」
言峰「白面の者こそ、我が望みの全て」
うしお「だから……白面を復活させるなんて言うのかよ……っ!!」
言峰「そうだ。あの地獄の光景を私は再び見る」
言峰「何故なら、白面がこの国を蹂躙していくさまを見て……」
言峰「私は生まれて初めて……」
言峰「心から嗤ったのだからなァア」
うしお「そ、その顔は……っ!?」
うしお「言峰神父、やっぱり聖杯に……」
うしお「白面に汚染されて……!!」
言峰「フフ、それは違うな蒼月潮」
言峰「私は染められてなどいない」
言峰「そしてそれこそが、私が生まれながらにして悪だという証明だ」
うしお「証明……!?」
言峰「私は前回の聖杯戦争で白面の泥を浴びた」
言峰「しかし私は白面に染められることなく生き返り、聖杯の力を手に入れたのだ」
言峰「これこそ私が白面と同じ存在であるということ」
言峰「自身の本質の証明、私が探し続けた答えだ」
うしお「言峰神父が……白面と同じ……」
言峰「つまるところ、私とお前の戦いは二年前の延長戦だ」
うしお「もう…………分かったよ…………」
うしお「言峰神父は、白面に染められてるワケじゃねえんだな……」
うしお「あの戦いの延長戦か……。だったらよ、だったら尚更……」
うしお「負けられねえじゃねえかァァーーーーッ!!!!」
言峰「それでいい蒼月潮。お前の全てを賭けろ」
言峰「私がお前を、陽の存在を破ることで白面の敗北を……」
言峰「あのようなツマラナイ結末を帳消しに出来る……!!!!」
うしお「なにをォォ!!」
言峰「私が白面を誕生させる理由、それはつまり自身を解き放つということだ」
言峰「これほどの欲望の解放があるだろうか……!!」
言峰「娯楽、愉悦、それらを超えて私は自身の、白面の誕生を祝福しよう……!!!!」
うしお「うおおおおおおおお!!!!」
言峰「フッ……!!」
うしお「どうだァァーーーー!!!!」
言峰「悪くない、やるではないか……!!」
うしお「おおおおおおおお!!!!」
言峰「しかし甘いな……!!」
うしお「くっそォォ~~~~!!!!」
言峰「ハァァッ……!!」
うしお「ぐ……はっ……」
うしお「はぁ、はぁ……」
言峰「うむ……。まだ立ち上がれるか」
言峰「これでも並の人間なら死ぬ程度には拳打を入れているつもりだが」
うしお「オレは何度でも立つぜ……」
言峰「その果てに、私に敗北するとしてもか?」
うしお「勝つさ……!!」
言峰「フフ、雷獣とセイバーの援護を期待しているなら無駄だ」
言峰「いくら待っても来れるはずがない。今のお前は一人だ」
うしお「いーや、違うぜ。言峰神父……」
うしお「今、オレは凛姉ちゃんと一緒に戦ってんだ……!!!!」
ボオォッ
うしお「こ、これは……!?」
言峰「槍が燃えて……。それは、炎の魔術……」
言峰「遠坂時臣の魔術に似せた小細工か。凛め、くだらんことをする」
言峰「……いや待て、回路のない蒼月潮に魔術の発動は出来ない」
言峰「その力は誰のものだ……っ!?」
うしお「すげえぜ凛姉ちゃん。アゾットの槍から力が溢れてくる、まるで獣の槍みてえだ」
うしお「よーし、これならァ……!!」
言峰「あのアゾット剣にそんな能力はなかったはずだ……」
言峰「だが、その力は我が師の…………馬鹿な…………」
うしお「言峰神父、行っくぞォォーーーー!!!!」
うしお「うおおおおおおおお!!!!」
言峰「ぐううううぅぅぅぅ…………!!!!」
うしお「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!!!」
言峰「ぐっ…………!!!!」
言峰(この聖杯戦争で観測された不可解な現象……)
言峰(暴走したバーサーカーの解放……間桐桜の呪縛の断ち切り……)
言峰(それらは全て雷獣の宝具、獣の槍の能力だと極め込んでいた)
言峰(そういうことか……!! 蒼月潮は……現存する英霊……!!)
言峰(宝具と呼べるほどの、昇華された能力を持っていたとしても……!!!!)
うしお「これで言峰神父……!!」
うしお「終わりだァァァァーーーー!!!!」
言峰「がっ…………はっ…………」
言峰「は……はっ……。そう、か……」
言峰「生者も死者も、関係なく……陽の存在を連れてくる……」
言峰「蒼月潮の……使用者に自覚がなくとも、能力を発揮する……」
言峰「常時発動型の宝具…………」
言峰「フ……フフ…………」
言峰「なるほど…………あの白面が敗れるはずだ…………」
うしお「もう聖杯の儀式を……。言峰神父、白面の復活を止めてくれ」
言峰「フッ……。私は言ったはずだぞ蒼月潮」
言峰「出来ない相談だと」
うしお「えっ……」
セイバー「ウシオーー!!」
うしお「セイバー!? そっちは大丈夫か!?」
セイバー「はい、私は問題ありません。一時的だとは思いますが黒炎も掃討出来ました」
セイバー「しかしウシオ、気をつけてください!!」
セイバー「このような魔力の密度は今まで感じたことがありません……!!」
とら「ちぃぃ~~~~!!!!」
とら「英雄王が言ってやがったのは、やっぱりかよォ……!!!!」
うしお「とらァ!?」
セイバー「ま、まさか……トラ…………」
セイバー「これが……これが……そうだと、いうのですか…………」
うしお「とら、セイバー、どういうことなんだ!?」
言峰「サーヴァントの雷獣とセイバーには視えているか」
言峰「いや、もうお前にも実体が視えているのではないかね」
うしお「え…………あ…………あぁ…………そ、そんな…………」
言峰「もはや誰にも聖杯の儀式を止めることは出来ない」
言峰「私にも、そして蒼月潮、お前にもだ」
『くっくっくっ…………』
言峰「さぁ…………白面の誕生だ…………」
セイバー(これが……)
セイバー(原初と混沌の時代、わだかまった陰の気より誕生した邪悪の化身……)
セイバー(白面の者……!!!!)
セイバー(黒炎のときと同じだ。まだ輪郭程度しか分からないが……)
セイバー(確かに視える。そこに存在している、生まれようと……!!)
『また、会ったな』
とら「ちっ……」
セイバー「な、なんだ、頭に響くような……」
言峰「フフ……この声は……」
うしお「白面の、声だ……」
うしお「また……って聞こえた……」
セイバー「ウシオもトラも白面と因縁のある相手、おかしくはない」
セイバー「だが、今のはトラに向けた言葉だったような……」
うしお「分からねえ……」
うしお「でも今のはオレの知ってる白面の声だった」
セイバー「しかし、まだ白面は完全には実体化していないはず。どうやって……」
セイバー「あれは……」
セイバー「ウシオ、見てください!!」
うしお「皮の結界の中心……。あれは白面の体の欠片!?」
セイバー「聖杯を染め上げ、聖杯戦争を狂わせた全ての元凶……!!」
うしお「あれから白面の声が聞こえてるのか……っ!?」
セイバー「あの白面の欠片が龍脈を吸い上げているのなら、欠片さえ壊せば……」
うしお「白面の復活を止めれる……」
セイバー「ウシオ、欠片を破壊しましょう!!」
うしお「ああ!!」
キィィン!!
うしお「これは、黒鍵……!?」
言峰「そのような行為を私が見逃すと?」
黒炎「キキキキ……」
黒炎「キシャァァァァ!!」
セイバー「貴様たち……!!」
うしお「言峰神父……!!」
『この世界……この次元だと何度目だ?』
とら「さーて、もう数えちゃいねえよ」
『くくっ……。だが、不思議に思ったであろうなアァ……』
とら「あ……?」
『守護者の召喚ではなく、聖杯戦争などという召喚……くくく……』
とら「何が、言いてえ……」
『聖杯のなかの我が、おまえを呼んだのだ』
とら「なにィ……!?」
『やはり……我が生まれるなら…………』
『おまえの魔力……いや……血肉で育ち生まれなければ…………』
『なァ、シャガクシャァア』
とら「てめえ…………っ!!!!」
『くっくっくっ…………永遠のときの淵……星の滅びで…………』
『また会おうぞ』
『……お…………』
とら「ちぃ……。そういうことかよォ~~~~!!」
『…………お………………お……………………』
うしお「白面の……」
セイバー「様子がおかしい……?」
言峰「これは、どうなっている……」
ピキピキピキ……
パリィィン!!
セイバー「聖杯のなかの、白面の欠片が……!?」
うしお「割れた……っ!!!?」
『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
とら「くっそがァ~~~~!!」
うしお「お、おいとら!! こりゃどうなってんだ!?」
とら「どうもこうもねえ、ヤツの本当の狙いは始めからこれだったのよォ!!」
セイバー「あれが白面の狙い……!?」
うしお「白面は言峰神父と協力して、復活を企んでたんじゃ……」
とら「タコが、そんなもんヤツは考えちゃいねーよ」
言峰「な、に……?」
とら「考えてみろクソうしお」
とら「あの白面が魔術師の儀式ひとつで復活なんて出来るのかよ?」
うしお「そ、そりゃ多分すげえ魔術師なら……」
とら「もし本当に出来るんなら大昔からヤツは世界中の魔術師に使いを送ってらァ」
セイバー「なるほど……。それでは白面は聖杯で復活出来ないことを知っていたと?」
とら「ああ、分かってたのさ」
とら「聖杯なんて大そうな名前で呼んでやがるが、ありゃただの魔力の塊よォ」
セイバー「しかし白面は、前回の聖杯戦争からあの男と組んでいたはず」
うしお「そうだぜとら。聖杯を利用して母ちゃんのいた柱を壊そうと……」
とら「そりゃヤツの分身の目的だ。白面の本来の目的じゃねえな」
セイバー「それでは……まさか……」
うしお「斗和子と白面の狙いは別だったってことかよ……っ!?」
とら「白面にとっちゃ聖杯も聖杯戦争もどうでもよかったのさ」
とら「ヤツに重要なのは、聖杯のなかにあるモンだけだからな」
セイバー「白面の体の欠片……」
とら「人間どもが勝手にやってた聖杯戦争だ」
とら「それを壊すために欠片を利用するなんざ、ヤツが見逃すわけがねえ」
うしお「そうか……。白面の本当の目的は……」
セイバー「自身の欠片を利用した魔術師たちへの報復……!?」
とら「ヤツは前回の聖杯戦争から仕組んでやがった」
とら「あとはそこの野郎にあることないこと吹き込んで今回の聖杯を降臨させたのよ」
とら「そして龍脈の魔力が大量に集まったところで、欠片を割って聖杯を違うモンに変える」
とら「それがヤツの……白面の計画よォ……!!!!」
セイバー「あらゆる願いを叶える聖杯が手に入る直前で……」
うしお「聖杯を変える……!?」
セイバー「それは確かに、魔術師への報復としては最大限のもの……」
うしお「いや、きっとそれだけじゃねえ」
うしお「白面は自分への恐れや憎しみを取り込んで力に変えるんだ」
うしお「どんな魔術師だって、そんなことをされたら……」
とら「ああ、それも狙いだろうな」
とら「まぁヤツにも誤算はあったぜ」
セイバー「誤算……?」
とら「欠片より先にてめえがブッ倒されるなんてヤツが想像するかよ」
うしお「そうか、憎しみを取り込む白面の本体はもういねえからな」
『…………お………………お……………………』
うしお「それじゃあよ、とら……。こいつは…………」
セイバー「願いを叶える聖杯でもなく、邪悪の化身の白面の者でもない……」
とら「ああ、そうだ」
とら「こいつは白面の泥…………陰の気に染まった大量の魔力…………」
とら「それが白面の皮を被っただけの…………」
とら「バケモノだぜ…………!!!!」
白面の泥『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
言峰「フ……フフ……。そうか雷獣よ、白面は誕生しないか」
うしお「言峰、神父……?」
言峰「いや、その通りだ」
言峰「確かに白面の欠片とお役目の結界を使おうとも荒唐無稽な話か」
言峰「あの白面の者を誕生させるなど、魔法使いでも及び難い」
セイバー「まさか貴様、それを知りながら……!!」
言峰「それは違うなセイバー。私は白面の者を降臨するつもりだった」
言峰「白面の欠片の囁きに従い、聖杯戦争を開幕させた。私の願いのために」
言峰「そして……。その願いは叶ったようだ」
とら「あ……?」
うしお「とらの話を聞いてただろ言峰神父!! 白面に騙されてたんだぜ!?」
うしお「言峰神父のために復活なんて、白面はこれっぽっちも考えちゃいねえよォ!!」
うしお「あれは白面でもなけりゃ聖杯でもねえんだ!!」
言峰「やはり理解出来ないか、蒼月潮」
うしお「えっ……?」
言峰「聖杯を制御する中枢、白面の核となるはずだった欠片が割れた」
言峰「最早この聖杯、このバケモノが望むまま暴れるだけだ」
言峰「お役目の結界以上に龍脈の魔力を吸い上げ続け、泥を作り続けるだろう」
うしお「そ、そんな……」
言峰「龍脈とは星に流れる魔力の軌跡、一つの巨大な生命の鼓動、この大地の要だ」
うしお「大地の要……。妖たちが石となって支えてくれた場所……っ!?」
とら「そいつの力が吸われるってえことは……」
セイバー「この地、この国が、再び沈み始める……!!」
言峰「フフ……。蒼月潮、あれはお前にとって聖杯でも白面でもないか」
言峰「私にとっては、このバケモノは望みを叶える聖杯であり白面だよ」
白面の泥『おおおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!!!』
黒炎「!?!?!?!?」
黒炎「ギャッ……!?」
セイバー「なんだ……。仲間割れ……!?」
とら「いーや、ヤツは黒炎どもを取り込んでやがるのよォ!!」
うしお「白面の細胞が暴走したときと同じだ……」
うしお「力を……魔力を手当たり次第に飲み込んで……」
うしお「こいつは言峰神父の言うとおり、この星の龍脈も吸い尽くしちまう……!!」
白面の泥『おおおおおお…………おおお………………』
ガシィッ
言峰「そうか、白面よ、聖杯降臨後は用済みか。フフ……ハハハハ……!!」
うしお「言峰神父!?」
言峰「身体が動かん。いや、そうだろうな」
言峰「私はお前と同じ悪性を持つもの、何よりも先に取り込もうとするのは道理」
言峰「『この世全ての悪』を名乗るならば、私を取り込むのも必然か」
言峰「思惑通りだろうな白面よ。だが本来この力はお前のものだ」
言峰「前回の聖杯戦争、その力を借りて生き返った。それを返すだけのこと」
うしお「ま、待て……っ!!」
言峰「私としては好都合だ。二年前に見るはずだった地獄の光景、私が望んだ世界……」
言峰「それを、この白面に成り変わり見ることが出来る」
言峰「悦ばしい。私の望みはようやく、かな」
白面の泥『おおおぎゃああああああああ!!!!!!』
グシャァッ
うしお「あ……あぁ…………言峰神父………………」
とら「ちっ……。英雄王と同じ勝ち逃げかよ」
セイバー「しかし、置き土産が強大すぎる……」
ドロォ……ベチャ……
ベチャ、ベチャ
セイバー「トラ、あれは……」
とら「泥が溢れ出てやがる、白面の皮の許容量を超えやがった」
セイバー「それでは、このバケモノは完全に実体化を……」
とら「ああ、その通りよ」
とら「こいつは今すぐにでも暴れ出すぜェ……!!」
セイバー「私たちが倒せなければ、この国、いや、この世界は……」
とら「けけけ、なーに剣使い、心配なんかすんじゃねえよ」
セイバー「トラ……?」
とら「わしらは倒したことがあるのよ」
とら「こんな真っ黒な気味の悪ィ白面なんかじゃねえ、本物の白面よォ!!!!」
うしお「………………」
セイバー「そうか……。トラの宝具の特性は白面に対して有効のもの……!!」
とら「獣の槍がありゃ、こんな白面くせえだけのバケモノに負けるかよ」
とら「なァ、うしお?」
うしお「……っ………」
とら「くくっ、やーっとこの聖杯戦争もしめえに出来そうだぜ!!」
セイバー「そうですね。ウシオ、私たちの手で決着をつけましょう!!」
とら「さぁうしお……!!」
とら「槍を呼びなァ!!!!」
うしお「…………」
とら「あ……?」
・柳洞寺付近道路
タッタッタッ
凛「ふー……」
凛「こっちはどうかしらキリオくん、みんな集まってる?」
キリオ「うん、大丈夫だよ。お姉ちゃんのほうは?」
凛「宝石はなんとか確保出来たわ」
凛「ま、帰って来たらメイドでもなんでもやってやるわよ」
キリオ(メイド……?)
凛「キリオくんのほうはどう?」
キリオ「大丈夫。法力もエレザールの鎌も準備は出来てる」
凛「了解、お互い戦闘準備はオッケーってことね」
キリオ(真由子姉ちゃん、必ず助けるよ)
桜「でも姉さん、この山の上に本当にあの白面がいるんですか?」
凛「私だって信じたくないわよ。この聖杯戦争が二年前の延長戦だったなんてね」
凛「でも、私ととらの繋がりで大体の状況は把握してるつもりよ」
イリヤ「そのバケモノを倒せば全てが終わるならやるだけよ」
イリヤ「アインツベルンの……ううん、私自身の手で聖杯戦争を終結させるわ」
セラ「お嬢さま……。はい、やりましょう」
リズ「私も、戦う」
凛「みんな準備も覚悟も出来てる、か」
桜「私に出来ることは少ないかもしれません」
桜「それでも、私もうしおくんやとらさんたちと戦いたいです」
凛「桜……。ええ、そうね。それは私もよ」
凛「それじゃみんな、行くわよ!!」
タッタッタッ
凛(とら……。アンタは、どうするのよ……)
セイバー「ん……?」
とら「おいうしお、聞こえなかったのかァ?」
とら「わしが槍を呼べって言ったろうが」
うしお「………………」
セイバー「ウシオ、どうしたのです?」
うしお「槍は……」
うしお「獣の槍は、使わなくてもいいさ」
セイバー「それは……どういう意味ですか……?」
とら「けけけっ、おいおいうしお」
とら「まさか今更おめえが白面に怖じ気づいたなんて言うんじゃねえだろうなァ?」
うしお「そんなんじゃねえよ、とら……。オレは……」
とら「ああ……?」
セイバー「ウシオ、もちろん私たちも理解しています」
セイバー「サーヴァントである我々がマスターの貴方に戦いを要請するなど間違っている」
セイバー「ですが現状の戦力を考えればウシオも分かるはずです」
うしお「そりゃ、オレだって……」
セイバー「あの白面の泥のバケモノを倒すにはトラの宝具が、獣の槍が不可欠です」
セイバー「それにウシオの得物はリンの魔術か何かで焼失してしまっている、二槍になることもない」
セイバー「獣の槍を呼び出すことに何も問題はないはずです」
うしお「…………。ダメなんだ、セイバー……。獣の槍を呼んじゃ……」
セイバー「え……」
とら「おめえ、まさか……」
うしお「……っ………」
うしお「そ、そうだ……っ」
うしお「何も宝具は獣の槍だけじゃねえ」
うしお「オレたちにはセイバーがいるじゃないかっ!!」
セイバー「私、ですか……?」
とら「……………………」
うしお「ははっ、なんで思いつかなかったんだ」
うしお「セイバーの宝具を使えば泥のバケモノなんて簡単に倒せるぜ!!」
うしお「なぁ、とらだって認めてたじゃねえか、セイバーの聖剣はすげえってよ」
とら「……………………」
うしお「そうだろとら、獣の槍を使う必要なんてないぜ……!!」
とら「うしお」
うしお「な、なんだよ……。それじゃダメなのかよ……」
うしお「待てよ……。凛姉ちゃんから聞いたことがあるぜ」
うしお「セイバー、聖杯戦争の大元は魔術協会ってところなんだろ?」
うしお「白面の泥なんてオオゴトになったんだぜ、あとはそこに任せたほうがいいんじゃねえか?」
セイバー「ウシオ……。なにを、言って……」
うしお「それもダメだって言うなら、光覇明宗のみんなもいるじゃねえか」
うしお「親父も動いてるって話しだし……無理にオレたちが戦わなくても……」
ガシィッ!!
とら「おめえ、それ本気で言ってんのか?」
うしお「なんだよとら、放せよ……」
うしお「オレ、そんなに変なこと言ってるか……?」
とら「ああ、言ってるぜ」
とら「おめえらしくねえことをべらべらとなァ……!!!!」
セイバー「本当にどうしたのですか、ウシオ」
うしお「………………」
とら「いいさ剣使い。この馬鹿が忘れたっていうんなら思い出させるだけよ」
とら「白面は、いや、白面に関係するものは獣の槍じゃなきゃ倒せねえ」
とら「そいつをこの世で一番よーく知ってんのはおめえだぜ」
とら「うしおォ!!!!」
うしお「そんなの…………分かってらい…………」
とら「だったら槍を呼べと言っ」
うしお「……え……んだろ…………」
とら「あ……?」
うしお「消えんだろ……。次に、獣の槍を呼んだら……」
うしお「とら…………消えちまうんだろ…………?」
・言峰教会
紫暮「間に合わなかったか……」
紫暮(この国と魔術協会、その二つの上層部に阻まれ光覇明宗は今回の聖杯戦争に関われなかった)
紫暮(しかし両者のパワーゲームが終わり、やっと光覇明宗が動けるようになったと思った矢先に……)
紫暮(言峰綺礼……。侮れん人物だ、前回の聖杯戦争で切嗣が最も警戒していただけはある)
紫暮「この瘴気の密度……。やはり聖杯の降臨場所は柳洞寺……」
??「紫暮」
紫暮「舞弥か。そちらはどうなっている?」
舞弥「全て伝令通りに」
舞弥「すでに厚沢一尉率いる特殊災害対策室の部隊はこちらに向かっています」
紫暮「うむ……。総本山の法力僧たちも駆けつけている」
紫暮「遅れたが聖杯戦争は終わっていない。舞弥、私たちも戦うぞ」
・柳洞寺付近
タッタッタッ
紫暮「………………」
舞弥「どうかしましたか、紫暮」
紫暮「私は、切嗣との約束を何一つ果たせてないと思ってな」
舞弥「どういう意味です?」
紫暮「あれから、託された娘には森の結界で会うことも出来ず、使用人の二人に会えた程度だ」
紫暮「それに聖剣の鞘は、記憶を喰らう婢妖から逃れるための石化でうしおに渡せなかった」
紫暮「私は、前回の聖杯戦争で白面から世界を救ったアイツに何も出来ていない」
舞弥「……切嗣への手向けならば今からでも遅くはありません」
舞弥「あの人の望みは白面のいない世界、あの白面入りの聖杯を破壊することが最大の手向けです」
紫暮「舞弥……。ああ、そうだったな」
紫暮「それはそうと舞弥……」
紫暮「やはり、その……須磨子は、来とるのか」
舞弥「はい。紫暮の言葉、総本山に残るようにと伝えたのですが」
舞弥「押し切られました」
紫暮「舞弥でも駄目だったかァ~~」
紫暮「あれは本当にニコニコ笑って押しが強いんだよ……」
舞弥「また保険の勧誘、すすめてみますか」
紫暮「ホントーにやらせてみたくなってきたなァ」
舞弥「フ……」
紫暮「舞弥」
舞弥「そうですね、分かりました。護衛に戻りましょう」
紫暮「いつもすまん」
舞弥「いえ、押しの強いマダムの護衛は初めてではありませんから」
・柳洞寺山門
純「紫暮様!」
紫暮「おお。純、間に合ったか」
純「はっ。伝令通り聖杯戦争の後処理の件、埋葬機関の代行者へ伝えました」
紫暮「彼女はなんと?」
純「『この国の代行者として仕事をするだけです』と」
紫暮「そうか、彼女が動いてくれるならば安心だ」
純「それと、その……紫暮様に、伝言が……」
紫暮「ん……?」
純「『これは貸しですよ。またカレーの美味しい店に連れて行ってください』とのことです……」
紫暮「ふふ……」
純「紫暮様……?」
紫暮「いや、彼女も変わらずだな」
紫暮「杜綱、日輪。準備は?」
杜綱「整っています」
紫暮「そうか」
紫暮「しかし用意していたとはいえ、こんな手は使いたくなかったんだがなァ」
日輪「ですが紫暮様、今のヤツなら自分からひと役買ったかと」
杜綱「日輪がそんな風に言うとは思わなかったな」
日輪「フンッ……。まだまだ未熟者だがな」
杜綱「確かに、だが魔術の才能はなくても法力の才能は分からない」
杜綱「このまま修行を続ければあるいは……」
紫暮「うむ。なんにせよ、あとは彼しだいか」
杜綱「はい、ですが彼ならきっと」
日輪「無様な戦いをしたら私が許さないわよ、間桐」
照道「近隣の光覇明宗の法力僧、可能な限り集めております」
紫暮「よし……。総本山の和羅様たちが到着するまで我々だけで敵を阻止するしかない」
紫暮「聞け、光覇明宗の者たちよ!!」
紫暮「おそらく敵の魔術師の目的は、聖杯の力による白面の者の復活だ」
紫暮「白面の完全なる消滅は……我ら光覇明宗の悲願……」
紫暮「心せよ!!」
「「はっ!!」」
・穂群原学園付近
タッタッタッ
慎二「よくも関守のヤツ、この僕に何度も遠慮なく土剋水を……」
慎二「いつかこの借りは……ん?」
慎二「柳洞寺の山の上のほうが光って……。チッ、もう始まってるか……っ」
・穂群原学園校門
「おーーい、慎二。やっと来たか」
慎二「ああ、それより頼んだヤツらは集まってるのか?」
「言われたとおり弓道部の連中、それに生徒会の一成たちにも集まってもらった」
慎二「よし……。やっぱりこういうのは人並みにお人よしのお前に頼んで正解だったね」
「人並みってなんだよそれ、褒めてるのか……?」
慎二「気にするなよ。とにかく人手がいるんだからさ」
「それなら遠坂に頼まれたとかで三人組の女子や、それ以外にも結構な人数が集まってるけど……」
「でも本当に、柳洞寺一帯でガス漏れ事件が起きてるのか?」
慎二「いや、ガス漏れより恐ろしい二年前と同じことが……」
「えっ……?」
慎二「とにかく僕たちで周辺の住人を避難させるんだよ」
慎二「地元の人間なら抜け道の一つでも知ってるだろ」
慎二「それは光覇明宗の連中には出来ない、僕たちの使命さ」
うしお「とらは、消えちまうんだろ?」
とら「おめえやっぱり、わしとりんの話を聞いてたのか」
セイバー「消える……? トラが……?」
セイバー「……いやウシオ、それは何かの間違いです」
セイバー「確かに我らサーヴァントの宝具は多大な魔力を消費します」
セイバー「ですが存在が消えるほどの消費はそうありません」
セイバー「リンは優秀な魔術師だ」
セイバー「それにトラがいくら大食いだといっても、今はサポートにイリヤやサクラもいる」
セイバー「獣の槍を使ったからと……トラが消えるようなことは……」
とら「………………」
セイバー「トラ……なぜ、否定しないのです……」
セイバー「本当、なのですか……?」
うしお「教えてくれよ、とら」
うしお「なんで……なんで獣の槍を使うと、お前が消えるなんてことになるんだよ……」
とら「………………」
セイバー「トラ……」
とら「……そういう、契約なのよ」
うしお「契……約……?」
セイバー「まさか守護者の……英霊の……」
とら「うしお、獣の槍はどんな理由で作られた?」
うしお「え……。そりゃ、ギリョウさんが白面が憎くて、白面を倒そうと……」
とら「そうだ、獣の槍は白面を倒すために作られた。それだけに特化した宝具だ」
とら「宝具、獣の槍は……対白面専用宝具なのさ」
うしお「獣の槍が、白面専用……」
セイバー「専用宝具……。いえ、そんなはずはありません」
セイバー「現に貴方はこの聖杯戦争で何度も獣の槍を使っている」
とら「けけ、そうさ。だからおめえらが見てねえところで何度も消えかけたぜ」
うしお「なっ……!!」
とら「なにを驚いてやがる、うしお」
とら「獣の槍を使えば代償がいるのはおめえが一番知ってんだろが」
うしお「そ、そんなことならオレは……っ!!」
セイバー(……きっとウシオは宝具を、獣の槍を使わなかった。使えなかった……)
セイバー(ですがそれではバーサーカーを倒せず、サクラも救えなかった)
セイバー(トラ……。貴方はそれが分かっていたから、何も言わず……)
とら「なーに気にするこたァねえよ。うしお、剣使い」
とら「わしが消えるなんてことは、はなから決まってたことよ」
うしお「え……」
セイバー「それは、どういうことですか?」
とら「前に言っただろ、全部思い出したってよ」
とら「わしはこの聖杯戦争の正規の参加者じゃねえ、割り込んで来たのさ」
とら「あの白面を、獣の槍でブッ倒すためにな」
セイバー「……っ!?」
セイバー「そうか……。貴方は聖杯戦争の聖杯、あの白面を倒すために召喚された守護者……」
とら「その通りよ。本来ならこの聖杯戦争にゃわし以外の誰かが参加するはずだったろうよ」
セイバー「おそらく残ったアーチャークラスの誰かが……」
セイバー「しかし、この聖杯戦争には白面がかかわっていた。だから貴方が召喚された」
セイバー「白面を倒す唯一の宝具、獣の槍を持ったトラが」
うしお「とらは白面を倒すために……」
とら「まぁ、わしも記憶をなくして忘れてたけどよ」
とら「りんが召喚で下手をこいたか、それともわしが無理やり割り込んだのが原因か」
とら「やつのたわ言を真に受けるなら、聖杯のなかの欠片がわしを呼んだからか」
とら「どれにせよ思い出すまで時間をかけちまった」
セイバー「多重の召喚の不具合で……。だから記憶を……」
セイバー「しかし、なぜ白面のことを黙っていたのです?」
とら「どの陣営にやつがいるのか分からなかったからな」
とら「りんに話せばりんが白面に狙われる。わしもますたーを失うわけにゃいかねえ」
とら「しっかし、聖杯自体が白面だとは思わなかったぜ」
セイバー「なるほど……。イレギュラーなエクストラクラスが召喚されたと思っていましたが」
セイバー「この白面主催の聖杯戦争、フタをあけて見ると貴方が最も相応しい参加者だったワケだ」
とら「へっ……。わしはやつをブッ倒すために来たんだ。契約は守るさ」
うしお「なにが…………契約だよ…………」
うしお「オレは、お前が戻ってきたって思ったんだ……」
うしお「だからこんな聖杯戦争は早く終わらせて、またお前と……っ!!」
セイバー「ウシオ……」
うしお「これからじゃねえか、これからまた昔みたいにさ……!!」
うしお「お前だって真由子の顔を見ただろ!? あんなに喜んでたじゃねえかよっ!!」
うしお「いや真由子だけじゃねえさ、他のみんなだって…………!!!!」
うしお「それに……オレだって……な…………とら…………だから…………」
とら「………………」
とら「そういやァ、うしお」
とら「なーんでわしが英霊なんざやってるか話してなかったな」
とら「うしお、覚えてるか」
とら「わしとおめえで白面をブッ倒した、あの最終決戦だ」
うしお「ああ…………忘れるかよ…………」
とら「あんとき確かにわしはこの世から消えたのよ」
とら「けけけ、あんだけ大暴れしたんだ、仕方ねえさ」
とら「ちーっと休むのも悪かねえか、わしはそう思ってた」
うしお「とら……」
とら「だがな、気がつくと妙な場所にいた」
とら「やけに静かで、蔵の地下よりも真っ暗な場所さ」
セイバー「……っ……そこは…………」
とら「そしてわしの目の前に、あの野郎が現れやがったのよ」
うしお「だ、誰が……」
とら「そいつは、てめえのことを『世界』だと名乗った」
うしお「世界……?」
セイバー「…………」
とら「ごちゃごちゃとそいつは何かを言ってやがった」
とら「星がどうとか抑止力がどうとか、ほとんど聞いちゃいねーがな」
とら「わしはそいつに、興味ねーから他をあたんなって言ってやったのよ」
セイバー(それは……貴方らしいですね……)
とら「だが、そいつは何を思ったのか、わしに妙なもんを見せてきやがった」
うしお「なにを……」
とら「白面さ」
うしお「は、白面……っ!?」
とら「ああ、だがわしらが知ってるあの白面じゃねえ、別のやつだ」
とら「いろんな次元、時代、場所に、やつみてえのが大勢いやがるのさ」
うしお「そんな……白面が、たくさん……!?」
とら「奴らはわしの知らないところで、わしの食いモンを殺してやがった」
とら「そんな場面を、世界の野郎は何度も何度も見せてきやがる」
セイバー「…………」
とら「それを見てるだけなのが、なんだか悔しくてよォ……」
とら「それで、わしは英霊の契約をしたのさ」
うしお「……とら…………」
とら「どの場所にも白面を倒したい人間はいたぜ」
とら「そいつに宝具の獣の槍を渡して、そいつと白面をブッ倒す」
とら「けっけっけっ、そうやって何度も白面を倒してやったぜえ……!!」
とら「この前なんて目玉のついた四足の気味がわりい奴をブッ飛ばしてやった……!!」
うしお「何度も……」
セイバー「そうか……。先ほどの白面との会話には、そのような意味が……」
とら「そしてわしは消え、次の白面のもとへ行く」
とら「それが、わしの契約だ」
とら「なァ剣使い。この聖杯戦争、おめえは退屈したかよ?」
セイバー「それは……。いえ、退屈など一度たりとも」
セイバー「むしろ、これ程までに誇りを持って戦えたのは幾久しい」
とら「くく、そうさ剣使い。こいつといると退屈しねえのよ!!」
とら「わしは消えた後も退屈しなかったぜえ!!!!」
うしお「……とら…………」
とら「うしお、なんでわしが英霊になったと思う」
ガシィッ
うしお「……っ…………」
とら「おめえとの、あの旅があったからだろうが……!!」
うしお「…………!!」
とら「わしが英霊になったのは、おめえのせいなんだぜ!!!!」
とら「そのおめえが…………」
とら「白面が暴れ出しそうな今なにしてやがる!!!!」
とら「うしおォ!!!!」
うしお「…………よ………………」
セイバー(トラが英霊になったのはウシオとの旅を無駄にしないため……)
セイバー(ウシオは夕暮れの高台で、もうこぼさないと言った……)
セイバー(貴方たちは遠く、遠く離れていても……互いに続けているのですね……)
セイバー(あの旅を……)
うしお「……獣の……槍よ…………」
うしお「来い…………っっ!!!!」
パシィィッ!!!!
うしお「……い…………」
うしお「行っくぞォォーーーっ!!!!」
うしお「とらァァーーーーっ!!!!」
とら「へっ……。うるっせーんだよ」
とら「うしお」
【最終話 『太陽と月に集う者たち』 】
とら「剣使い。わしが消えたらあの馬鹿を」
セイバー「それは出来ません」
とら「あ……?」
セイバー「ウシオと私はマスターとサーヴァントです」
セイバー「何があっても私はウシオの背中を必ず守ります」
セイバー「ですから、横に立つ貴方の代わりは出来ません」
とら「おめえ……」
セイバー「……それに、そう簡単に消えてもらっては困る」
セイバー「この聖杯戦争、私との決着をつけないつもりか?」
とら「へっ……。いいぜ、あの白面をブッ倒したら次はおめえよ」
セイバー「ええ、それは楽しみです」
セイバー「それでは行きますよ、トラ!!」
とら「わしに命令すんじゃねえーーっ!! 剣使い!!」
・言峰教会・中庭
ランサー(……言峰の魔力が消えたか、だが他にとんでもねえ魔力を感じやがる……)
ランサー(何かが始まりやがったな……。おそらく、それが言峰の聖杯への望み……)
ランサー「チッ、こんな場所で鎖に繋がれてる場合じゃねえよなァ……」
カツン、カツン……
ランサー「誰だ!?」
須磨子「………………」
ランサー「し……いや違うか……」
キィィン、パキィィン
ランサー「鎖を……。何者だよアンタ……」
須磨子「ある方に頼まれました。ここに貴方がいる、助けてほしいと」
ランサー「ま、確かに助かったぜ」
ランサー「だがオレはもう消える身だ、無駄なことをさせちまったな」
須磨子「いいえ、きっとそれが私の使命だったのでしょう」
須磨子「私は貴方の事情を知りません」
須磨子「ですが、貴方はまだ立ち止まるような方ではない気がします」
ランサー「……へっ、槍兵が足を止めるなんてな」
ランサー「いい女にはとことん縁が無かったんだが……」
須磨子「……?」
ランサー「アンタの言うとおりだ、まだオレにはやり残したことがある」
ランサー「誰に言われたか知らねえが礼を言っといてくれ」
須磨子「はい」
ランサー「それじゃオレは行くぜ。あばよ!!」
須磨子「お気をつけて」
舞弥「……マダム」
舞弥「いつも言っていますが、このような無茶は困ります」
須磨子「ごめんなさい舞弥さん」
須磨子「ですが、そちらの方がどうしてもと言われるので」
舞弥「え……」
??『………………』
舞弥「スーツの……女性……」
須磨子「これで良かったのでしょうか?」
??『………………』ペコリ
スゥ……
舞弥「き、消えた……」
舞弥「マダム……今のは……」
須磨子「私にも分かりません」
須磨子「ただ、槍を持つ男性を助けてほしいと頼まれました」
舞弥「槍を……。なるほど、貴方が無茶をするはずだ」
須磨子「ふふ、槍を持つ方とは縁があるのでしょう」
須磨子「なにかが起こり始めています」
舞弥「それは……」
須磨子「舞弥さん、私たちも」
舞弥「フ、やはり止めても無駄のようですね」
須磨子「はい。行きましょう、柳洞寺へ」
白面の泥『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
ドロォ……ベチャ……
ベチャベチャ
うしお「な、なんだありゃ……っ!?」
セイバー「白面の後方……なにかが実体化を……」
とら「おめえら、なーに驚いてやがる」
とら「こいつは魔力の泥でも白面なんだぜ……!!」
セイバー「まさか……そんな……」
うしお「聖杯は、白面の尾まで……」
うしお「完全再現ってことかよ…………っ!!!!」
セイバー「これが各々違う能力を持つ、白面の尾……!!」
うしお「ああ、そうさ!!」
うしお「海蛇に似た超巨大妖怪……あやかし!!!!」
うしお「霧状の体で触れるものを溶かす妖怪……シュムナ!!!!」
うしお「力を反射する能力を持つ妖怪……くらぎ!!!!」
うしお「前回の聖杯戦争でも暗躍していた白面の分身……斗和子!!!!」
とら「けけけけ、ほーんと退屈しねえぜえーー!!」
うしお「それでもオレたちは負けねえぞォーーっ!!」
黒炎「キキキキ……」
黒炎「キシャァァァァ!!」
セイバー「白面の尾から溢れ出る泥は、無数の黒炎と婢妖を生み出していく……!!」
セイバー「これでは…………宝具、獣の槍があったとしても…………」
凛「あらセイバー、なにか忘れてるんじゃないかしら?」
とら「りん!!」
うしお「凛姉ちゃん!!」
白面の泥『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
凛「……分かってたつもりだけど、こう目の前にするとさすがの迫力ね」
イリヤ「怖気づいたならリンは下がってなさい。あとは私がやるわ」
凛「まっさか、私の聖杯戦争のラストを飾るに相応しい相手じゃない」
桜「あれが聖杯から生まれた白面……」
リズ「大きい」
セラ「しかし、これほどとは……」
うしお「イリヤや桜姉ちゃんたちまで、もう大丈夫なのかい!?」
桜「はい。うしおくん、私たちも戦います」
キリオ「あの尾は僕たちに任せて、うしお兄ちゃんたちは本体をお願い」
キリオ「真由子姉ちゃんを助けるために……!!」
黒炎「ギャァ……!?」
セイバー「黒炎が何かに弾かれ……!?」
とら「今度は結界かよ!!」
紫暮「光覇明宗の者たちよ!!」
紫暮「結界にて黒炎が町に出るのを阻止するのだ!!」
「「はっ!!」」
うしお「親父っ!?」
日輪「まったく……。君のフォローはいつだって大変だな」
杜綱「だが、この柳洞寺から聖杯の泥を出しはしないさ」
純「それが私たちの使命だから!!」
うしお「光覇明宗のみんなも!?」
イズナ「おーーい!!」
イズナ「うしおーーっ!! 長飛丸~~!!」
イズナ「援軍を連れてきたぜ~~い!!」
セイバー「イズナ!! それに……空一面に妖怪の大軍!?」
うしお「ありゃ東西の妖たちだ!!」
とら「やいイズナ!! てめえ、どこに行ってやがった!!」
イズナ「なんでか白面のニオイがするからよ、おんじと仲間を呼びに行ってたのさァ!!」
おんじ「なーんでわしがこんなことを……。妖と人間は」
リズ「おんじー」
セラ「おんじ様!!」
おんじ「ま、まぁいいわい。ほれ長飛丸、この国の妖たちが来てくれたぞ」
一鬼「イズナの報告どおりだ。白面くせえバケモノがいやがる」
一鬼「東の長代理としちゃ、あんなバケモノは野放しには出来ねえなァ……!!」
黒炎「ガァッ……!?」
とら「てめえ一鬼!! わしのエモノまで取るんじゃねえや!!」
一鬼「長飛丸かよ。また五百年は見かけないかと思ってたぜ」
かがり「とら様……!!」
雷信「あの白面の尾は我らにお任せください!!」
イズナ「だから長飛丸は白面を頼むぜい!!」
とら「おめえら……へっ……」
とら「おう、横取りされる前にヤツをブッ飛ばすとするかよ!!」
イリヤ「なんで……」
バル「間に合ってよかった、イリヤ」
イリヤ「どうしてバルがここに……」
バル「今回のことを、この国の妖怪たちが教えてくれたんだ」
バル「世界の仲間たちを集めるのに時間がかかったけど、僕も戦うよ」
イリヤ「バル……」
バル「でも本当によかった。お兄ちゃんたちに会えたんだね」
イリヤ「……ええ。バルの言うとおり、この国にはスゴイ人間がいたわ」
セラ「まさかとは思いましたが……」
リズ「バル、久しぶり」
イリヤ「今度は私たちがスゴイところを見せないとね、バル」
バル「そうだねイリヤ」
イリヤ「やっちゃえ!! バルトアンデルス!!」
うしお「みんなが…………来てくれた…………」
黒炎「キシャァァァァ!!」
??「そこっ!! バレルレプリカ、フルトランス……!!」
黒炎「ギャァーー!?」
うしお「なっ……!?」
??「まったく、戦闘中に余所見とは感心しませんね」
シオン「うしお」
うしお「シオン姉ちゃん!?」
うしお「ど、どうして……」
シオン「別れのときに言ったはずですよ。果てのない契約をすると」
シオン「貴方が私を必要と思うとき、私は必ず貴方の力になる」
うしお「シオン姉ちゃん……」
シオン「それに私は白面に個人的な借りがあります」
シオン「あの白面との決戦前、記憶を奪う婢妖に貴方の知識を奪われた」
シオン「エーテライトで他者から知識を奪うエルトナムの私にあってはならない失態です」
シオン「その借りを今ここで返します。この計算は誰にも邪魔させません」
うしお「……へへっ、シオン姉ちゃんらしいや」
シオン「だから、その別に、うしおのためだけに来たワケではなく、その……」
シオン「と、とにかく志貴たちも来ています、下で黒炎たちの処理をしていますよっ」
うしお「そうか……兄ちゃんたちも……」
うしお「よォーし……それなら、オレだってえ……!!」
みんなが……
みんなが、来てくれたんだ
あのときみたいに……
今オレの隣には、とらとセイバーがいる
そして
この手には獣の槍が……
そうだ……
あのときみたいに……
そうだ……
行こうぜ、みんな……!!
・柳洞寺付近道路
慎二「おい、お前のはぐれた兄貴は本当にこっちに行ったのかよ?」
女の子「うぅ……ひっぐ……うん……」
慎二「チッ……。これだから妹ってやつは……」
慎二(山のほうから馬鹿デカイ音が聞こえてくる……)
慎二「こんな場所からは早く逃げないと……」
女の子「え……?」
慎二「ボーッとしてると置いてくって言ったんだよ」
慎二「ほら、行くぞ」
女の子「う、うん……っ」
慎二「はぁ……はぁ……」
女の子「ごめんなさい……足、くじいて……」
慎二「いいから黙って背負われてろよ」
慎二(もう柳洞寺からは距離もあるし、ここまで来れば……)
慎二「もう一人で歩けるか?」
女の子「うん……」
慎二「よし、この道を抜ければ」
黒炎「キキキキ……!!」
黒炎「キシャァァァァ!!」
女の子「えっ……!?」
慎二「こ、黒炎っ!?」
黒炎「キキキキーー!!」
女の子「きゃ……」
慎二「早く行けっ!!」
慎二「この僕が逃げろって言ってんだよ!!」
女の子「で、でも……」
慎二「まだ僕の法力じゃコイツらは倒せない……」
慎二「それでもさァ……!!」
黒炎「シャァァァァ!!」
慎二「ぐっ……がっ……」
黒炎「キキキキ!!」
慎二「ははっ……関守に、もっと真面目に土剋水を習っときゃよかった……」
黒炎「キシャァァァァ!!」
慎二(チッ、ここで終わりかよ……)
慎二(でも……これでいいんだろ、蒼月のオヤジ……)
慎二(まぁ確かにさ……悪い気分じゃ、ないかも……)
女の子「お兄ちゃん!!」
慎二「なっ!? この馬鹿、なんで逃げてないんだよ……!!」
女の子「この、お兄ちゃんをイジめるなっ!!」
黒炎「シャァァァァ!!」
慎二「チィッ!! これだから妹ってやつは嫌いなんだ……っ!!」
ガバッ!!
女の子「…………あ…………ぁ…………」
女の子「あ……お……」
慎二「な、なんで……。やられて、ない……?」
女の子「お姉ちゃん……」
慎二「え……」
ライダー『………………』
慎二「お、お前……ラ、ライダー……?」
ライダー『マスター、指示を』
慎二「は……はは……ははは……」
女の子「お、お兄ちゃん?」
慎二「お前はさ……僕のサーヴァントのくせに来るのが遅すぎなんだよ……」
慎二「……そいつら全員やっちまえ」
慎二「ライダー!!!!」
ライダー『了解』
黒炎「!?!?!?!?」
・柳洞寺裏
黒炎「キキ……キ……」
葛木「………………」
キャスター『やはりここでしたか』
葛木「光覇明宗の連中が結界を張ったようだ」
葛木「だが結界には脆い位置が存在する、柳洞寺ならばここだ」
キャスター『あまり、驚かれないのですね……』
葛木「驚く私が見たかったのか?」
キャスター『…………いいえ、微塵も』
葛木「キャスター。拳に対バケモノ用の補助を頼む」
葛木「私たちの家を荒らす連中に遠慮はいらん」
キャスター『ええ、もちろんです。宗一郎様』
・柳洞寺山門
黒炎「ギャァ!?」
かがり「今のは……!?」
アサシン『秘剣…………燕返し…………』
黒炎「キキキキ……!!」
アサシン『ほう、多勢に無勢か』
雷信「その刃の速さ、何者かは知らぬが頼りにさせてもらうぞ」
アサシン『それは僥倖』
アサシン『このような間近で物の怪の技が見れるなら、また呼ばれた甲斐があるというもの』
かがり「あなたはいったい……」
アサシン『なに、いささか太刀の鋭さには自信がある』
アサシン『お前たち鎌鼬とも舞ってみせようぞ』
リズ「大旋風ぐるぐるぐーるぐる。ごめんあそばせ」
一鬼「へっ、ちいせえくせにやりやがるな」
セラ「貴方ほどではありませんよ……」
バル「こうやって肩を並べて戦う日が来るなんて思ってなかった」
バーサーカー『■■■■■■■■■■』
リズ「よく分からないけど、みんな仲良くが嬉しい」
セラ「ええ、その通りです」
イリヤ「バル!! バーサーカー!!」
イリヤ「やっちゃえ~~~~!!」
バル「よーし!!」
バーサーカー『■■■■■■■■■■』
セイバー「これは……いったい…………」
セイバー「何が起こっているというのですか…………」
『『王よ』』
セイバー「そんな、まさか……お前たちまで…………」
セイバー「私と……また、戦ってくれるというのか…………」
アイリ『セイバー』
セイバー「アイリスフィール…………。キリ、ツグ…………」
切嗣『…………』コクリ
セイバー「……はい、マスター」
黒炎「キキキキ!!」
イズナ「姉ちゃんたち気をつけなァ!! 周りは泥だらけだぜい!!」
凛「そんなの見ただけで分かるわよっ!!」
桜「きゃっ……」
凛「桜!?」
イズナ「姉ちゃん!!」
黒炎「キシャァァァァ!!」
桜「……あ……あぁ…………」
時臣『………………』
桜「お、父さん……?」
イズナ「す、すげえ……。炎で、黒炎も泥も吹き飛ばしちまった……」
桜「……お母さん…………」
時臣『二人とも……』
葵『幸せに……』
凛「こんなの……もう、完璧よ……っ……」
桜「姉さん、今のは……」
凛「……桜。魔術の本にはね、必ず書いてあるコトワザみたいなのがあるのよ」
桜「え?」
凛「『太陽と月には、かかわるな』」
桜「太陽と、月……」
凛「私、あれって朱い月のことを言ってるんだと思ってたけど違ったみたいね」
凛「……そりゃそうよ、だって敵うはずがないもの」
凛「昼と夜のように交わることのないバラバラの存在、太陽と月……」
凛「でも何年何十年に一度、その太陽と月が交わる瞬間がある」
凛「そのとき、この世界では不思議な現象が起こるわ」
桜「それは…………」
凛「ええ、これが……これこそが獣の槍の真の能力…………」
とら「あいっかわらずトロいのなァ!!!! うしお!!!!」
うしお「お前だって危なかっしいぜ!!!! とらァ!!!!」
凛「そして……うしおくんととらの本当の宝具…………」
太陽と月に集う者たち!!!!!!!!
(ヒーローズ・カムバック)
「はぁ……はぁ……。ぐっ…………」
黒炎「キキィィーー!!」
??『……まったく長飛丸め。相変わらず無茶苦茶をする』
黒炎「キキ……キ……ッ!?」
??『これから頑張っていくと宣言したというのに、またこの世界か』
「黒と、白の……短剣……?」
??『この先に逃げ遅れた人間たちがいる。お前が行って誘導しろ』
「え……ど、どこに……」
??『弓兵の目を侮るな。早く行け』
??『どの世界でもお前にはやるべきことがあるはずだが?』
「……!!」
「はぁ、はぁ……」
「なんだったんだ、アイツ……」
「言われなくたって……分かってるさ……」
「白面との決戦を経験したヤツなら誰だって……」
「ああ、誰だって……」
「出来ることを精一杯やるだけだ……!!」
黒炎「キキィィーー!!」
紫暮「セイバー殿!!」
セイバー「シグレ……!?」
ガキィィィィン!!
黒炎「ギギ……ギ……」
黒炎「キキキキ!!」
黒炎「キキキキ!!」
紫暮「こりゃまた……次から次に……」
セイバー「ええ、再会を祝うことは出来ないようだ」
紫暮「ならばセイバー殿、前回の聖杯戦争ぶりにやりますかな?」
セイバー「そうですね」
セイバー「私とシグレの組み合わせは、どの陣営にも遅れをとらなかった」
セイバー「それをこの者たちに教えてやりましょう……!!」
黒炎「!?!?!?!?」
紫暮「今回の聖杯戦争、愚息が世話になりましたな」
セイバー「いや……むしろ世話になったのは私のほうです、シグレ」
紫暮「セイバー殿にそう言われるとは……。アイツもマシになったもんだ」
セイバー「シグレ、いい子息を持ちましたね」
紫暮「いやはや……どうしたものやら……」
紫暮「しかし、それはセイバー殿も同じでは?」
セイバー「え…………」
『うおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!!!!』
セイバー「ああ…………そのようだ…………」
とら「おらよォォ!!!!」
ゴォォォォォォ!!!!
シュムナ『ヒィィ~~~~』
凛「あの霧のバケモノ……。とらの炎を嫌がってた……?」
ランサー「なるほどな。アイツの弱点は火ってワケだ」
凛「アンタは……ランサー!?」
ランサー「まさかキャスタークラスで召喚されときゃよかったなんて思う日が来るとはな」
ランサー「やるぜ、霧ヤロウに炎の魔術を同時に叩き込む」
ランサー「嬢ちゃんも合わせなァ!!」
凛「ちょ、ちょっと!! アンタの魔術に合わせるなんて……!!」
キャスター『そうよランサー。あまり現代の魔術師に無理を言わないほうがいいわ』
キャスター『もちろん私なら余裕ですけど。ねぇ、お嬢さん?』
凛「キャスターまで!?」
凛「ああああ~~!! もう……っっ!!」
凛「やってやるわよっっ!!!!」
アサシン『ここが勝負どころよな……!!』
イリヤ「バーサーカー!!」
バーサーカー『■■■■■■■■■■』
アサシン『秘剣……燕返し……!!!!』
斗和子『ぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
バーサーカー『■■■■■■■■■■』
アサシン『終わりだ。女狐は一人で十分であろう』
あやかし『おおおおおおおおーーーーーー!!!!!!』
ライダー『あれだけ巨大なら狙いを定めなくて済みますね、セイバー』
セイバー「同感だライダー。何の憂いもなく剣を振れる」
ライダー『騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!!』
セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」
イリヤ「今なら……!!」
イリヤ「バル!!」
バル「よーし!! お姉ちゃんを助けるよ!!」
イリヤ「やっちゃえ!! キリオ!!」
キリオ「はああああああああ!!!!」
麻子「………ぅ………」
真由子「………ん………」
桜「麻子さん!! 真由子さん!!」
リズ「大丈夫」
セラ「はい、二人とも気を失っているだけみたいです」
キリオ「真由子姉ちゃん…………良かった…………」
ランサー「この一撃、手向けと受け取れ!!!!」
ランサー「突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!!!」
くらぎ『ギギィィィィーーーーーー!!!!!!』
ランサー「ハッ、呪いまでは反射出来なかったみてえだなァ!!」
サァァァァ……
凛「ラ、ランサー……!!」
ランサー「今のが最後の尾だな。さっきの宝具に残りの魔力を全部つぎ込んだ」
ランサー「直接の仇討ちは出来なかったが、悔いはねえさ」
凛「ランサー……。アンタは……」
凛「ううん、ありがとう。私、貴方が私のサーヴァントでも良かったわ」
ランサー「……あの女に言われるなら嬉しいが、小娘じゃあなァ……」
凛「なんですってええーーーーっ!!!!」
桜「ね、姉さんっ、落ち着いて下さいっ」
ランサー(また、やろうぜ……。なぁ……うしお……とら……)
黒炎「………………」
??『この周辺の黒炎は、これで終わりだな』
??『ん……?』
??『日の出か……』
??『あとは長飛丸たちに任せるとしよう』
??『挨拶は…………必要ないか』
??『すぐに会うのだからな』
??『あの場所で』
白面の泥『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
うしお「な、なんだ……!?」
セイバー「上空に飛んでいく……?」
とら「結界の皮を維持してたマユコを助けて、尾を全部ブッ倒したんだ。なら……」
凛「まさか今更、飛んで逃げようっていうの?」
イズナ「本物と違って往生際が悪い白面だぜい……」
とら「全ての悪なんて名前をつけられりゃ、それぐらいしても……ん……?」
サァァァァ……
とら「チッ…………」
とら「うしお!! 剣使い!! わしに乗れェ!!」
うしお「とら!?」
セイバー「なにを……!?」
とら「おめえらで決めんだよォ!!!!」
とら「この聖杯戦争を終わらせなァ!!!!」
うしお「聖杯戦争を…………ああ、分かったぜ…………!!!!」
セイバー「ええ、やりましょう…………!!!!」
白面の泥『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
とら「追いかけられてんのに気づいて向かって来やがったァ!!」
とら「うしお!!!! 剣使い!!!!」
とら「決めちまいなァァーーーーッッ!!!!」
うしお「白面…………!!!!」
セイバー「聖杯…………!!!!」
うしお「これで…………」
うしお「終わりだァァァァーーーー!!!!」
セイバー「約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!」
白面の泥『おおおぎゃああああああああーーーーーー!!!!!!』
・朝焼けの山頂
とら「白面は……聖杯はどうなった?」
セイバー「完全に破壊されました。魔力も感じません」
とら「そうかよ。まぁ悪くねえ散り様だったな」
セイバー「私は……」
とら「剣使い。おめえは英霊にゃ向いてねえよ」
セイバー「なっ、私は剣士の英霊、セイバーですよ!?」
とら「くく……英霊なんざ、わしみてえのがなればいいのよ」
セイバー「トラ……」
セイバー「……はい。私はこの世界に残り、見続けていたい」
セイバー「貴方とウシオが守った、この国を」
とら「剣使いっ!! まーたおめえ勘違いしとるようだなァ!!」
とら「わしはァ!!」
セイバー「気に喰わない相手を倒しただけだ、でしょう?」
とら「……分かってりゃいいのよ」
セイバー「トラ、ご武運を」
とら「おう」
とら「泣くんじゃねえよ、マユコ」
真由子「だ、だって、とらちゃん……とらちゃんが……」
とら「あーー、おい。涙でしょっぱくなるだろうが」
真由子「うん…………うん…………」
真由子「また……戻って来てね、とらちゃん」
とら「……マユコ。忘れてんじゃねえだろうな?」
とら「おめえは、うしおもりんも喰った後に最後に食べる……」
とら「わしの『でざぁと』よ」
真由子「そう……だよ…………」
真由子「だから、必ず食べに帰って来てねぇ……」
真由子「とらちゃん……っ」
凛「約束、果たしてもらったわ」
とら「あ?」
凛「初めに交わしたでしょ」
凛「私を聖杯戦争で勝ち残してくれるって」
とら「へっ、約束は守るさ」
凛「……一応、感謝してるわ」
とら「けけ、やかましい人間が変わったもんだぜ」
凛「な、なんですってーー!!」
とら「……ああ、そうだ」
とら「りん、言い忘れとった」
凛「なによ?」
とら「おめえを背中に乗っけて戦うの……」
とら「あの馬鹿と同じぐらい退屈しなかったぜ?」
凛「…………も、もうっ…………!!」
凛(馬鹿とら……なによ、それ…………)
凛(そんなの、最大級の褒め言葉じゃない……っ!!)
麻子「とら君…………」
うしお「……………………」
とら「……………………」
うしお「……プッ、アッハッハッハッハッ!!!!」
とら「くくっ、はははははははははははは!!!!」
うしお「お前とあらたまってお別れだってよォ!!」
うしお「笑えてしょうがねえぜ!!」
とら「ちげえねえ!! はっはっはっはっ!!」
うしお「はーーはーー…………」
うしお「とら」
とら「ああ?」
うしお「負けんなよ」
とら「……けけっ」
とら「このクソうしおが……わしを誰だと思っとる……」
とら「わしは『大妖』の英霊…………」
とら「とら様よォ!!!!!!!!」
強い朝日で目を瞑る。
目を開けると、そこにアイツはいなかった。
そうして……
オレたちの聖杯戦争は終わった。
・蒼月家正門
舞弥「今から学校ですか、うしお」
うしお「あっれー、舞弥さんがウチにいるなんて珍しいね」
うしお「総本山の仕事はいいのかい?」
舞弥「ええ、先日の聖杯戦争の後処理も終わり、紫暮に休暇を貰いました」
舞弥「ですので、久しぶりに家族に会いに行こうと思います」
うしお「ってことは海外旅行かァ~~いいなァ~~」
舞弥「それが……少し困ったことが……」
うしお「え?」
舞弥「いえ、その旅行に日輪と純も同行してくれるのですが……」
舞弥「純の兄が心配だからついて行くと急に言い出しまして……」
うしお「も、杜綱さん……相変わらずなんだなァ……」
舞弥「まぁ結局、慎二の修行に付き添う役目を押し付け残らせましたが」
うしお「あはは……」
・交差点
イリヤ「ウシオ~~!!」
うしお「お、イリヤにキリオも今から学校か」
キリオ「うん、うしお兄ちゃん」
イリヤ「今その学校の話をしてたんだから」
イリヤ「そういえばキリオ、昨日タツコたちが騒いでたんだけど……」
イリヤ「なんでも今日、私たちのクラスに転校生が来るらしいわよ」
キリオ「転校生?」
うしお「へぇ~、この時期に珍しいなァ」
イリヤ「仲良くなれればいいけど……」
キリオ「イリヤなら大丈夫だよ」
うしお「ああ、何も心配いらねえさ」
イリヤ「そうよね……。うん、きっと友達に……」
キリオ(僕は、どんな時もそばにいる)
キリオ(イリヤに……そしてイリヤの友達にも……)
キリオ(九印が、僕にそうしてくれたように)
桜「おはようございます、うしおくん」
うしお「桜姉ちゃんに凛姉ちゃん、それにセイバーも。おはよう」
凛「うしおくん、おはよう」
セイバー「お、おはようございます。ウシオ」
うしお「セイバー、どうしたんだ?」
セイバー「いえ、その、まだこの制服というのに慣れなくて……」
うしお「ははっ、よーく似合ってるぜ」
セイバー「しかし……本当に良かったのでしょうか?」
うしお「なーに、あのバカ親父はずっとセイバーや聖杯戦争のことを隠してたんだ」
うしお「これぐらいやってもらわなきゃよ!!」
麻子「あれ、うしおたちじゃない。なんで急いでないのよ!?」
真由子「もう遅刻ギリギリですよ?」
凛「えぇっ!? だって、まだ時間は……」
桜「姉さん、それ時計止まって……」
凛「ウソ……。また私うっかりを……」
桜「だ、大丈夫です。まだ間に合いますよっ」
セイバー「それならば走りましょう」
うしお「ああ、行こうぜ!!」
セイバー「……ウシオ!!」
うしお「ん? なんだいセイバー?」
セイバー「その……これからもよろしくお願いします、ウシオ」
うしお「ああ、もちろん!!」
「うしおととら」×「Fate/stay night」
『うしおとセイバー』
FIN
「SS」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (17)
-
- 2018年12月31日 14:32
- 今から読もうと思ったのにつまらないの?
長いからためらってしまう
-
- 2018年12月31日 14:56
- とりあえず読んで見りゃいいんでねえの
コメント欄の面白いつまらないが当てにならんのはいつものことだろ
-
- 2018年12月31日 18:07
- 読み切った。
良いじゃないか、作者のうしとら愛が良く伝わってきたし面白かったよ。
あと、頭の中で各キャラが藤田絵で再現されて展開していくな 笑
-
- 2018年12月31日 18:55
- 読み始めは2016年のスレかと思ったが完走したの昨日かよ!
-
- 2018年12月31日 20:38
- まだ前半しか読んでないけど、確かに出だしの部分はうしおが士郎ポジションで微妙に思うところはあったが読み進めていくと結構面白い
どちらかの世界にどちらかを持ち込んだ感じじゃなくて完全に同一の世界の話として描かれてるから多分※1は最初のほうしか読んでない
-
- 2018年12月31日 22:35
- とりあえず前半読んだけど微妙だった
効果音とかあんま使わないから躍動感がないと言うか情景がわかりにくい
後半読んだらまた違うのかも知れんが正直前半だけ見た時点だと長いしあんま読む気にならんな
-
- 2019年01月01日 13:25
- >>7
効果音……
-
- 2018年12月31日 23:15
- 想像力の乏しいやつには楽しめないということだ。
-
- 2019年01月01日 00:50
- Fateはあんまりよく知らないけど楽しめたよ
ただ最終決戦の相手が劣化としか感じられなくてそこは残念かな
-
- 2019年01月01日 22:57
- >>9
まあ、この戦力では劣化程度でないとどうにもならん本物は国の人間や妖怪と霊界からの援軍総動員しなきゃいかんのだから
-
- 2019年01月01日 13:28
- キンキンキンキンキンキンキンキンキン!
-
- 2019年01月02日 02:21
- うしおととらをがっつり読んでて、Fateも冬木市がらみの話は把握してて、しかもどっちも好きな人にしか書けないステキなお話でした。
これだけ色々入れたらそりゃボリューム出ちゃうよね。時間かかったけど面白く読ませて頂きました。
ひょっとして書きたかったけどあえて切り捨てた要素もあるんじゃないかな。ちょっとしか出なかったキャラや、全く出なかったキャラを盛り込んでたらどんな話を書いたのか、見てみたい気がします。
おつかれさまでした!僕は好きでした!
-
- 2019年01月02日 16:13
- 最初は微妙だなと思ったけど後になるほど面白くなっていった
スレのほう見たら作者も始めのほうもっと直せばよかったって言ってたw
この世界では結果として切嗣は正義の味方になれたんだね
前半で士郎が回想シーンにちょっとだけ出てたけど結局最後まで士郎としての出番なかったな
-
- 2019年01月02日 23:54
- 確かに前半は置き換えメインで若干退屈にも感じたけど
中盤以降のzeroの話も絡んでくる辺りからクロスオーバーの良さが出てる感じ
※9の言う通り敵は劣化版だしトドメ結局獣の槍じゃないしと
最後また少し失速感もあるけどけっこうよくできてたクロスだと思う
ただ後編>>844は誰かわからんかったわ
イリヤの言う転校生はここからプリズマイリヤへ、って事なんだろうけど
-
- 2019年01月05日 00:29
- ※15
>>844は鏢さんじゃないかな
-
- 2019年01月16日 17:03
- 言いたいことは多々あるがとりあえず泣いたよ
うしとらの世界にFateを持ち込んでたら数倍ましだったと思うよ。