男「俺の人生にはヒロインがいない」
男「だが俺には姉も妹も幼なじみもいない」
男「おかしい。平凡で何のとりえもない俺には姉か妹か幼なじみか落下系ヒロインがいるはずだ」
男「……なるほど。これから異世界に召喚されるってパターンもあるか」
男「サキュバスが襲いにくるのかもしれん」
男「公園で幼女とほのぼのストーリーを……今のご時世それは危ないか」
男「まったく俺の可能性は無限大だな」
男「はーっはっはっは」
母「ごはんよー」
男「もうちょっとでセーブできるから待ってー」
男「友にでも相談して……」
男「俺、友達いないんだった……」
男「……」
男「バイトでもするか? そこでヒロインと接点ができるかもしれない」
男「でも面接怖いし、履歴書書くのめんどくさいしな」
男「あー、だるい」
男「そもそも学校行きたくないな」
男「……」
母「ご飯!」
男「ノックしないで部屋入るなって!」
男「そう思わないと学校なんて行ってられんわ」
チャリーン
男「スタイリッシュな俺はアグレッシヴにママチャリ通学さ」
男「って、やべぇ遅刻だ」
男「今日は試験が。全速力だ」
ブーン
男「って曲がり角から女の子が」
ガッシャーン!
女「いったーい!」
男「うわ、ぶつかってしまった」
男「大丈夫ですか」
どくどく
男「うわ、すっげ、怪我してる。血が」
女「きゅ、救急車……」
男「なんとか示談ですんだけど……」
男「連絡先なんて聞けない。チキンだし。というか加害者だし」
男「曲がり角で女の子とぶつかってもフラグが立つわけじゃないんだな」
男「ていうか試験どうしよう」
男「……」
男「帰って寝よう」
ブーン
男「妹とかどっかに落っこちてねーかなー」
妹「えーん、お兄ちゃーん」
男「なんだい」
妹「あんただれ」
男「おにいちゃんだよ」
妹「お兄ちゃんじゃない」
男「(;´Д`)ハァハァ、こっちにおいで」
妹「うわーん、こわいよー」
兄「妹になにをしてる!」
妹「お兄ちゃーん」
男「チッ、ずらかるか」
男「俺が覚えてないだけで、幼なじみとかいたりしないんだろうか」
男「むっ、思い出してきたぞ。あれは幼稚園の時……」
もやもやもや
幼男「幼女ちゃーん」
幼女「幼男くーん」
幼男「ぐへへ」
幼女「えへへ」
幼男「大きくなったらけっこんしような!」
幼女「うん、するするー」
もやもやもや
男「こんなフラグを今まで忘れていたとは。回収しに行こう」
ブーン
幼なじみ「えへへ」
男「間違いない、あれが幼なじみだ。おーい」
幼なじみ「ん? 男くんじゃん。久しぶりー」
男「ああ、君は覚えてくれていたというのに。俺はそれを忘れていたなんて」
男「長年の君の想いを踏みにじっていたなんて俺は罪深いんだ。さあ、結ばれよう。今すぐ」
彼氏「ちょっと、アンタ、何?」
男「え」
幼なじみ「中学校の頃の同級生だよー。ね?」
男「え」
彼氏「あ、そ」
幼なじみ「ねぇねぇ、明日からの旅行の買い物早く行こうよー」
彼氏「ああ、親にはちゃんと、女友達と行くって言っておいたか?」
男「え」
幼なじみ「もっちろーん☆ あ、男くんまだいたの? ばいばーい」
男「そうか、なぜ俺の記憶が欠如してたか忘れていたぜ」
男「男は辛い過去を忘れて生きていかなきゃならねぇんだ」
ブーン
男「くそっ! くそっ!」
ブーン
警官「ちょっ、そこ止まりなさい」
男「はい」
警官「信号無視しちゃいけないよー。いくら車の通りが少ないからってね。しかも警察いるんだから、わかるよね?」
男「はい、はい」
警官「ね。気をつけてね。ん? 君、泣いてるの?」
男「すみません、もうしませんから。はい」
警官「ん、わかったならよろしい。次から、ね。気をつけてね」
男「はい、すみません。はい」
男「……」
男「……」
男「異世界からヒロインがこないかな」
男「……」
男「……」
女性「あの」
男「ひゃ、ひゃい」
男(綺麗な女性だ……これはフラグか)
女性「地区区民館ってどちらでしょう」
男「え、えっと……」
男「……」
男「わかりません」
女性「そうですか。ありがとうございました」
男「……」
男「裏のジュース1杯50円の漫画喫茶とか」
男「1コイン50円のゲーセンとかだったら……」
男「わかるのに……」
男「……」
男「夕方か……」
男「帰るか……」
ブーン
男「そういうところで、女の子が絡まれてたり」
男「幼女がさまよっていたり」
男「吸血鬼の女の子に襲われたり」
男「異世界の入り口だったり、ありがちだからね」
ブーン
男「っと、ここが隣町か」
男「裏路地、裏路地……」
男「……」
男「裏路地って、どこにあるんだろう……」
きょろきょろ
男「何も無いし、いない」
男「ああ、でもこういうところって落ち着くな」
男「……静かだ」
ふぎゃー
男「!」
男「な、なんだ! 断末魔か!」
ふぎゃー
男「だ、誰かが襲われてるのか……」
男「助けて、フラグを!」
猫「ふぎゃー」
男「ねこ」
男「助けた猫が擬人化して恩返しに来たりしないだろうか」
猫「ふぎゃー」
男「おーよしよし、撫でたろうか」
猫「ふぎゃー」
男「ぎゃっ、こいつ引っかきおった」
猫「ふぎゃー」
男「そうか、これがツンデレか」
猫「ふぎゃー」
男「おしおし、連れてかえってやるからな。無事に擬幼女化するんだぞ」
猫「ふぎゃー」
男「あ」
猫「ふぎゃー」
男「うちマンションだ。猫飼えない」
男「だれもいない」
男「……」
男「」
男
おとこ
おと
お
男「ハッ、ドリームか」
妹「朝から何言ってるんですか兄さん」
男「いや、すまんすまん」
妹「もう、朝食できてますよ。一緒に食べましょう」
男「はっはっは、本当によくできた妹を持って俺は幸せだよ」
妹「な。何言ってるんですか。何も出ませんからね」
男「まったく、いもにゃんはかわいいんだから」
なでなで
妹「な、撫でないでください! 先に行ってますよ!」
たたた
男「照れ屋な妹だぜ」
男「うわっぷ! 俺のベッドにボディプレスするな!」
幼なじみ「えへへ、おはよう、男くん」
男「毎朝、毎朝、突撃しやがって! おかげで俺の腹筋がこんなことに」
幼なじみ「きゃっ、男くん、だいたーん☆」
男「毎日俺のとこに来てないで、いい加減彼氏の一人でもつくりやがれ!」
幼なじみ「いいもん! 男くんがいるもん!」
男「え、それってどういう……」
幼なじみ「もうっ! 知らない!」
たたた
男「まさか、あいつ……俺のこと……」
男「こんにちわ、幼女ちゃん。あいさつできてえらいねー」
幼女「ほんと?」
男「うん、えらいえらーい」
なでなで
幼女「わっぷ! なでなででかみのけくしゃくしゃー」
男「ああ、ごめんね幼女ちゃん」
幼女「ううん、いいの。きもちいーからもっとしてー」
男「そう? よかった」
なでなで
幼女「きゃー」
男「姉さん、おはよ」
姉「うん。おはよう」
男「……どうしたの、そんなところで黙っちゃって」
姉「約束。忘れた?」
男「約束?」
姉「…………そう、ならいい」
男「あ、姉さんと買い物行くんだよね」
姉「……」こくり
男「まだ7時なのに着替えちゃったりして、そんなに楽しみだったの?」
姉「……待ってる」
たたた
男「照れた姉さんも……かわいい」
男「裏路地のそこらへんに落ちてたマッチに火をつけたらこんな幻想が見えるなんて」
男「なんて不思議なマッチなんだ」
男「どっかで聞いたことがあるような話だな……」
男「マッチもなくなってしまった」
男「しかし幻想の中の俺は幸せそうだったな」
男「こういう世界もあったのだろうか」
男「どこかで選択を間違えなければ、俺にも救いがあったのかも」
男「……」
男「いや、そもそも俺に妹も姉もいねーし」
男「幼なじみは、無理だろ、普通に」
男「幼女は、捕まるし。普通に」
男「しかし、こんなに暗くなってしまった」
男「帰れるだろうか」
?「おい」
男(そいつは、出刃包丁片手に服は返り血で真っ赤。どうみても)
殺人鬼「お前、こんな裏路地でなにしてる」
男「マッチに火を付けてました」
殺人鬼「最近、聞く放火魔ってお前のことか。お前も同類か」
男(勘違いしてらっしゃる)
殺人鬼「ところで、お前、見たか?」
男「(現場は)見てません」
殺人鬼「でも今(殺人鬼の姿を)見てるよな」
男「はい」
殺人鬼「じゃあ、死ぬか」
男「助けて下さいなんでもします」
殺人鬼「そうか、じゃ、付いてこい」
男「はい」
男(殺人鬼と2ケツしてる俺。これも青春だろうか)
殺人鬼「おい、上着貸せ」
男「はい」
男(返り血を隠すんだろうな)
殺人鬼「暖かいな」
男(寒い)
幼なじみ「あ、男くんだー」
男「げっ」
幼なじみ「やっほー」
男「彼氏と旅行に行ってたんじゃ」
幼なじみ「めんどくさくなっちゃった☆」
男(おいおい)
幼なじみ「ところで、その後ろに乗せてる女の子は誰?」
男(確かに怖くて顔を見ていなかった)
くるり
殺人鬼「あんだよ」
男(か、かわいい……)
幼なじみ「? よくわからないけど、がんばってねー☆」
男「あ、あの」
殺人鬼「あ?」
男「そういや聞いてなかったんですけど、どこ行けばいいんですか」
殺人鬼「とりあえず、この街からできるだけ遠くに、だな……」
男(女の子と逃避行……これは)
男(これはフラグが立ったのか?)
男(でも殺人鬼だぞ)
男(でもかわいいからいいじゃないか)
男(そうか! こんなに可愛い子が殺人を犯すはずがない!)
男(この子はきっと陰謀に巻き込まれてるんだ)
男(それを俺と一緒に乗り越えて)
男(艱難辛苦、辛酸を嘗めた末に二人の絆は強くなり)
男(最後にはハッピーエンドが待っている)
男(まずは真犯人を探しに)
警官「ちょっと」
男「はい」
男「はい」
警官「2人乗りは、犯罪なんだよ? 知らなかったかな?」
男「はい」
警官「ちょっと、後ろの子。フード被ってないで顔見せてくれるかな」
男「あの」
警官「なに」
男「この子、なんか裏路地にいました。包丁持ってます」
殺人鬼「ちょ」
男「僕は関係ないです。すいません。失礼します」
殺人鬼「お、おい」
警官「ちょ、君、待ちなさ。本当に包丁だ! 応援、応援頼む!」
殺人鬼「待てよ!」
男「さいならー」
ブーン
男「……何か大切なモノを失った気がする」
男「まぁいいか」
男「ただいまー」
母「遅い」
男「すいません」
母「ご飯」
男「いただきます」
男「案外ヒロインって転がってないもんなんだな」
男「ん……何か忘れてるような」
母「ちょっとアンタ!」
男「はい」
母「学校から、電話きてるよ!」
男「あ」
教師「もしもし、男くん」
男「はい」
教師「ここ1週間、連絡なしで学校にまったく来てないのはどういうことなの?」
男「はい。すいません」
男(ヒロイン探ししてたなんて言えない)
教師「とにかく今日は話し合います。学校に来て下さい」
男「はい」
男「はい」
男(なんていい加減な教師だ)
教師「一応、追試入れといたから。この日にはちゃんと出てね」
教師「うちのクラスから留年生が出たってなったら私の査定にも響くし」
男「はい」
男(なんてぶっちゃけマジトークな教師だ)
教師「うん、わかったならいいんだ。じゃ、解散」
男「はい」
男「ふぅ……教室行くか」
男「やあ。色々あってね」
男(ヒロイン探ししてたなんて言えない)
クラスメイト男「男、試験サボりかー。彼女と旅行にでも行ってたんかー?」
男「はは、彼女なんていねーよ」
男(殺人鬼と逃避行しようとしてたなんて言えない)
先生「授業始めるぞー」
男(話せる程度のクラスメイトはいるが)
男(放課後遊んだり、休みに遊んだりする友人はいない)
男(部活もなし)
男(よって必然的な孤独である)
男(夕焼けの教室に一人でいたら、忘れ物を取りに来るおてんば系ヒロインとか)
男(ラブレターを入れ間違えてて木刀で殴ってくる系のヒロインとか)
男(校庭で越えられないハードルをひたすら飛んでる男を眺めてる系のヒロインとか)
男(いねぇかな)
…………
ガラッ
男「!」
教師「下校時刻」
男「はい」
男「ゆとり教育な俺は休みなのさ」
男「これで休んでも文句は言われまい」
男「さて、今日はどこに探しに行こう」
男「ハッ」
男「そうか、外に出なくても」
男「押しかけ系ヒロインの可能性があったのか」
男「女神が突然俺の部屋に舞い降りたり」
男「ニートな俺にキューピットが恋人探しを手伝ってくれたり」
男「まきますか? まきませんかの手紙が来たり」
男「可能性は無限大だな」
男「よし、今日は家にいてみよう」
…………
母「ご飯よー」
男「一日が終わった」
男「自分から攻めていかないとな」
男「よーし、気をとりなおして、探しに行きますか」
男「初心に戻って、近所をうろついてみるか」
ブーン
女「あ」
男「あ」
男(この子は俺が不注意で轢いてしまった子じゃないか)
男(思えば、この子を轢いちゃってから【今週の】俺の運命は狂い始めてしまったんだよな)
男(つまり、この子は、俺にとっての──)
女「あの」
男「ひゃ、ひゃい」
女「どいてくれません? 通れないんで」
男「あ、すいません」
男(覚えられてねー)
男「繁華街に来たのはいいが」
男「なんだこの人だかりは」
男「こいつらはこんだけ集まって何をしようというのだ」
ブーン
男「こんなところにいても、ヒロインはいないか」
ブーン
男「お、ビルとビルとの間にこんな場所が」
男「ちょっとこの狭い通りを覗いてみたり……」
猫耳「ふー」
男「!」
男(ネ、猫耳メイドだと……!?)
男(ネ、猫耳メイド、猫耳メイドが……)
男「煙草吸っとる」
猫耳「すぱー」
男(通称「猫耳漫画喫茶(ネコミミモード)」そろそろ訴えられないかな、あそこ)
男(しかしこんなキャラだったのか、この人。普段はにゃんにゃん言ってるくせに……)
猫耳「ん?」
猫耳「あー、見られちゃったか」
すたすた
猫耳「アタシ、表じゃこういうキャラじゃないからさー」
猫耳「見られたからには……わかるよね?」
男(ひぃ、根性焼きだ! 根性焼きされる!)
猫耳「にゃん★」
じゅー
男「わあああああああああああ」
猫耳「にゃにゃん★」
じゅじゅー
男「熱いよおおおおおおおおお」
男(見なかったことにしよう……)
ブーン
猫耳「ん?」
…………
男「日曜も終わりか」
男「結局なんも収穫なかったな……」
男「このまま俺は日常に戻り」
男「ヒロインもなし、何も変わらない毎日を過ごし」
男「大人になっていくのだろうか」
男「大きくなって思い返しても何も残らない」
男「誰にも誇ることができない青春」
男「……それでいいのか?」
男「でも、俺には選択することさえできないんだ」
男「だから仕方がない。仕方がないんだ」
男「当たり障りの無く生きよう」
男「誰にも迷惑をかけないように生きよう」
男「それで何も得られなかったとしても」
男「それで何も失うこともないんだ」
男「だから、それでいいんだ」
男「いいんだ……」
?「よお、探したぞ」
警官「ほら、これ」
男「上着……」
警官「あの子が言ったんだ。君に貸してもらったってね」
男「……あの子は殺人犯だったんですか?」
警官「さぁ……」
男「さぁって」
警官「警察には守秘義務ってものがあるからね」
男「そうですか……」
警官「こんなところで何してるんだい」
男「……」
警官「そっか……。じゃあ、確かに返したよ」
男「はい、ありがとうございました」
キャー
警官・男「!?」
妹「お兄ちゃんが……! お兄ちゃんが……!」
男(この子は、この前の……)
男(この子の兄が、倒れていた)
男(腹には赤い染みと、出刃包丁)
男(この包丁は見覚えがある)
男(つまり、どういうことなんだ……?)
警官「犯人はどこに行ったかわかるかい!?」
妹「ひっく、あっち……」
警官「よし。君はここで救急車を呼んでくれ! 私は応援を呼んで現場に急行する!」
男「はい」
男(そうだ。これでいい。俺には関係ない。このまま救急車を呼んでここで待っていれば……)
男「やっぱりここにいたのか」
殺人鬼「……なんでわかった」
男「なんとなく、ここだと思った」
殺人鬼「ふぅん」
男(殺人鬼は、裏路地にいた)
男(服は返り血で真っ赤。片手には出刃包丁)
男(あの時と何も変わってはいない)
男(そう、どうみても──殺人鬼だ)
男「君は、本当に殺人犯だったのかい」
殺人鬼「さぁね」
男(俺にはその答えがイエスなのかノーなのかがわからない)
男(でも)
男「俺は、これからもつまらない人生が続くと思っていたんだ。さっきまで」
殺人鬼「? 何の話だ」
男「普通に暮らして、普通に死んで」
男「そんな当たり障りの無い人生でいいやって」
男「そう思ってた矢先にこんな事が起きて」
男「本当に人生は一寸先は闇ってことだね」
殺人鬼「何が言いたいんだよ」
殺人鬼「ああ、私が言っておいたからね」
男「ということは、君は釈放されたということだ」
男「君が本当に殺人犯として捕まってるとしたら」
男「そいつが着ていた上着の持ち主である俺も」
男「関係者と見られて、連行されるはずだからね」
殺人鬼「だからどうした」
男「そもそも、最初からおかしかったんだ」
男「彼女は、彼氏と旅行に行っていたはずだったのに、だ」
男「前日にあんなに楽しみにしていたはずなのにね」
男「彼女と俺は、それまでほとんど交流がなかった」
男「俺が存在を忘れてしまうくらいに」
男「そんな奴に、幼なじみは声をかけるかな?」
殺人鬼「……かけても別に不思議じゃないだろ」
男「そうかもね。おかしくないかもしれない」
男「俺は試験の日に学校を休んでしまった」
男「それから1週間、まったく学校に行ってない」
男「でも、試験の日に休んで、その日のうちに連絡がこないなんてこと、あるかな?」
殺人鬼「……別に1日休むくらいおかしなことじゃない」
男「うん、でも試験を2日、3日と休んで、まったく連絡がこないんだよ」
男「ちょっと変かな、って思ったんだ」
殺人鬼「……いい加減な教師なんだろう?」
男「うん、そうだね。あの人ならありえるかもしれない」
男「彼女が俺のことを覚えていない?」
男「そんなことが、ありえるわけがない」
男「何ヶ月も経ってしまったのなら忘れてしまうのかもしれない」
男「けど」
男「あの事故は昨日今日の出来事だったんだ」
男「それに、あんなに大怪我をしていたのに、普通に出歩いている」
男「そこからして、そもそもおかしいんだ」
殺人鬼「……」
男「でもね、これも別にそうだったとしてもありえない話じゃない」
男「次で最後だ」
男「でも、多分これが俺にとって一番決定的なんだよ」
男「俺は、兄に刺さっている包丁を確かに見たんだ」
男「なのに、どうして君が今、それを持っているんだ」
殺人鬼「ふ……」
男「この世界はあまりにも整合性がなさすぎる」
男「始まりはなんだったか考えてみたら、簡単だった」
男「これは君が見せてくれた、夢だったんだね」
殺人鬼「ふぎゃー」
男「ありがとう。とっても楽しめたよ」
男「最後のマッチを、燃やしてくれ」
猫「ふぎゃー」
男「てて、引っ掻くなって」
猫「ふぎゃー」
男「……長い夢を見ていた。いや、見せてくれたのかな」
男「よう、頼めばうちで飼えるかもしれないぞ」
猫「ふぎゃー」
ととと
男「行っちまった」
男「結構だ、ってことかな」
男「もう会うこともないだろうな……」
男「…………」
男「さて、俺も帰りますか」
男(行き慣れていない隣町だったからなのか)
男(それとも、あそこは最初から存在していなかった場所だからなのか)
男(俺にはわからない)
男(けどまぁ、俺には関係のないことだ)
男(あのあと帰ってすぐに母に学校から連絡がきていたらしい)
男(俺はこっぴどく叱られ、3日目からは試験を受け、2日目までの科目は追試との処分が下された)
男(そして試験が終わり、俺は轢いてしまった女の子の見舞いに行った)
男(どうやら軽傷らしく、今は大事をとっているだけらしい))
男(気にしないで下さいと、微笑む少女は綺麗だった。と同時に罪悪感で押しつぶされそうになった)
男(あの兄妹は普通に街で見かけた。元気そうだったが、俺を見て警戒心たっぷりであった。なぜだ)
男(幼なじみは無事に(?)親にバレずに旅行に行けたらしいということを後日たっぷりの惚気とともに聞かされた)
男(そして──)
猫「ふぎゃー」
男「いい加減風呂に慣れろ!」
男(あの時、帰ろうとした俺のママチャリの籠に、こいつはすっぽりと収まっていた)
男「せっかくかっこ良く別れようとしたのにな。台無しだ」
男(両親と管理会社に許可をもらい、無事に飼うことはできたのだが……)
猫「ふぎゃー」
男「いつまでたっても慣れないなぁ。いい加減なついてくれてもいいんだが」
男(あれから1ヶ月である。母には会ったその日から大人しいのが不敵だ)
男「いてっ! 引っ掻きぐせはなんとかしろよな……不思議に壁とかは引っかかないんだが」
ぽろっ
男「ん、こいつの毛の間から何か……」
ピンポーン
男「誰だ? って今母さんいないのか。はーい」
男(それは今まで通りだし、これからも変わりそうにない)
猫「ふぎゃ」
ととと
男「こいつ、泡だらけでついてくるな!」
男(ちなみにこいつは♀らしい。どうでもいい情報だ)
男「はい、はい、どなたですか」
女性「あの、こちらに……」
男(この人は)
猫「ふぎゃー」
女性「あ、猫ちゃん!」
男「え?」
猫「ふー」
男(女性は近所に住んでいる大学生だそうだ)
男(しかし、こいつは少し前から女性の前から姿をくらましていた)
男(あの時、地区区民館までの道を俺に聞いたのは、そこで猫を見かけたとの情報を聞いたからだった)
男(いなくなってから1ヶ月が経ち、こいつは俺のうちに住み着いた)
男(しかし、度々外を出歩いていたのだ)
男(その目撃情報を耳にした女性さんは、ここに訪ねてきた、というわけだ)
男(この猫を女性に返してめでたしめでたし──)
男「だったらよかったんだけど……」
女性「どうしたの? 男くん」
男「いや、なんでもないよ。女性さん」
女性「ふふ、ならいいけど」
猫「ふしゃー」
男「ってて!」
男(このままでは(俺の)被害が尋常じゃないということで、女性は猫の様子を見に、大学の帰りに定期的に俺の家を尋ねるようになっていた)
男(いつしか、猫と遊びつつ、女性と話すのが俺の毎日となっていた)
女性「ねーこちゃーん」
もふもふ
猫「ふぎゃー」
男「そんな撫でくりまわして……」
女性「男くんもさわりなよー。お腹もふもふしてきもちいーよー」
男「俺が触ると引っ掻くんだよなぁ……」
女性「そっかー、猫ちゃんも恥ずかしいんだねー。かわいいなー」
男(最初は綺麗系だと思っていた女性さんも、猫の前には型なしだ。猫より女性さんのがかわいいよ)
猫「ふぎゃ!」
男「ってー! また引っ掻きやがったな!」
猫「ふー!」
男(……わけでもない気がする)
男(女性さんはかわいい)
猫「ふー!」
男(最近は……こいつの扱いも分かってきた)
男「ほらほら、よしよし」
なでなでもふもふ
猫「ふにゃー」
男(刺激のない毎日)
男(変わらない未来)
男(そう思っていた)
男(でも、それは些細なきっかけで変わるのかもしれない)
母「ごはんよー」
男「もうちょっとでセーブできるから待ってー」
おわり
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コメント一覧 (7)
-
- 2018年12月08日 11:14
- なんだか頭が痛くなりました
-
- 2018年12月08日 11:34
- こういうたまにある数年前の良スレをまた読むのいいよね
-
- 2018年12月08日 11:50
- 結局妄想だったんか
-
- 2018年12月08日 12:46
- 青ブタを参考にしたんだろうな、と思ったら2011年の作品か。失敬。
ちょっと人物の描写が分かりにくかったが読めました。
-
- 2018年12月08日 18:27
- べた褒めするような作品じゃないけど結構好き
-
- 2018年12月08日 19:39
- 懐かしいな。こう言うの結構多かったんだよな。
※4
青ブタの作者も結構SS覗いてたらしいから似てるのかもよ?
-
- 2018年12月09日 00:51
- 読むの面倒くさい
というかこの男は何を拗らせてるのだか誰か要約して