男「生きるの面倒になったから安楽死施設に行くことにした」
- 2018年12月04日 08:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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男(こんなのを何十年も繰り返す……あーあ、生きるってめんどくさいな)
男「……ん?」
≪安楽死施設≫
男「そういや、この国でも安楽死法案が可決されて、安楽死できる施設が作られたんだっけ」
男「もうこの世に未練もないし……安楽死させてもらうか」
男「安楽死させてもらいたいんだけど」
職員「かしこまりました」
職員「当施設では、安楽死希望者に担当が一人つくシステムとなっております」
職員「席に座ってお待ち下さい」
男「はい」
男「はじめまして」
男「さっそく、安楽死したいんだけど……」
担当者「ではまず、こちらの書類に住所氏名、生年月日などをお書き下さい」
男「へ、なんで?」
担当者「こちらとしても身分が不確かな方を、安楽死させるわけにはいきませんので」
男「そりゃそうですね。分かりました」
担当者「どうも」
担当者「……コンピュータに照合したところ、あなたの身分は確かなようですね」
男「これで安楽死させてもらえるわけですね」
担当者「その前にまず、≪安楽死したい理由≫をレポートにしてまとめて下さい」
男「!?」
担当者「安楽死とは、単に痛みも苦しみもなく死ぬことではありません」
担当者「せっかく一生に一度しか味わえない死という体験をするのですから」
担当者「充実した気持ちで、胸を張って旅立たねばなりません」
担当者「そのためには、自己分析が必要不可欠なのです」
担当者「自分はこれこれこういう理由で死ぬんだ、と心の中で整理整頓することによって」
担当者「よりよい死を満喫できるというわけです」
男「分かるような分からないような理屈ですけど……決まりなら仕方ありません。書きますよ」
男「えーと……私は昔から成績もよくなく、仕事にも不熱心で……」カキカキ…
担当者「どれどれ……」
担当者「ん~……ここ、文章がおかしいですねえ。前後がつながってませんよ」
男「えっ」
担当者「それとここ、重要な部分なので、もうちょっと強調した方が……」
男(赤ペンでめっちゃ添削されてる……)
男「あの……いいじゃないですか。安楽死したい理由なんて適当で」
担当者「ダメです。安楽死したいのなら、きちんと書き直して下さい」
男「……はい」
男(やっと終わった……)
男「これで、いよいよ安楽死ですね。やっぱり薬品を注入されて安らかに……って感じなんでしょうか」
担当者「まだです」
男「え」
担当者「次のプログラム、電話であなたのお知り合い――最低10人と最後の会話をして下さい」
男「はぁ? なんでそんなこと……」
担当者「もしも“あの人にこれを伝えておけばよかった”という思いが少しでもあっては」
担当者「安楽死にはなりませんからね」
男「……分かりました」
男「お袋? ……元気? 別に用はないんだ……」
男「おう、俺だよ。昔クラスで一緒だった……ちょっと声が聞きたくてさ……ハハ」
――
男「ふぅ……やっと10人。これでいい?」
担当者「結構です。では別室にご案内いたします」
男(これでやっと安楽死か……長かったなぁ)
男「ここは?」
担当者「これからここで、あらゆる国や宗教の死生観についてのビデオを見てもらいます」
男「へ? なんでそんなものを――」
担当者「よりよい安楽死をするには、死とはどういうものか理解する必要があるからです」
男「いいよ、そんなもん理解しなくて」
担当者「ダメです」
担当者「ちなみにビデオは六時間」
男「六時間……!」
男(まぁ、眠ってりゃすぐに……)
担当者「なお、視聴後にはビデオの内容に関するテストを行います」
担当者「100点満点中90点以上を取らないと合格にはなりませんので、しっかり視聴して下さい」
男「なんだってぇ……!?」
担当者「お疲れ様でした」
担当者「ただいまより、ビデオ内容に関するテストを実施します」
担当者「解答時間は60分……はじめっ!」
男(えーと……第一問、○×教では人間は死後どこに向かうとされているか……)
担当者「85点。残念ながら不合格です」
男「そんなぁ! あんなに頑張ったのに……たった5点ぐらいおまけしてくれてもいいじゃんか!」
担当者「ダメです。1点足りなかろうが、30点足りなかろうが不合格は不合格です」
担当者「もう一度、ビデオを見て頂きます」
男「うへえ……」
男「やったぁ……!」グッ
担当者「では続いてのプログラムです」
男「!? ま、まだあるのかよ! もういいだろ!」
担当者「続いてはよりよい死を迎えるために体力をつけていただきます」
担当者「見たところ、だいぶ体がなまっておられるようですし」
担当者「とりあえず、腕立て伏せを100回くらいはこなせるようになってもらいましょうか」
男「はぁ!?」
担当者「“健全な死は健全な肉体に宿る”と聞いたことありませんか?」
男「ねえよ!」
担当者「とにかく、体力がなくては、より素晴らしい安楽死を体感することはできません」
担当者「バーベルやダンベル、プロテインも用意していますので、たっぷり筋トレして下さい」
男「うぐぐ……重い……!」ズシッ
担当者「お疲れ様でした」
担当者「続いては、パズル問題を1000問解いてもらいます」
男「パズルゥ!? しかも1000問!?」
担当者「頭を散々フル回転させた先にこそ、真の安楽死が待っているというのが当施設の考え方ですから」
男「意味分かんねえけど……やりゃいいんだろ!」
担当者「お見事です」
担当者「次は、体をほぐすためにヨガ体操をしてもらいます」
男「えええ……!?」
男「あのぉ、安楽死できるまでに、こういうプログラムが後いくつあんの?」
担当者「それは教えてはいけない決まりになってるので、お教えできません」
担当者「ではまず、ヨガの呼吸法から……」
担当者「それはようございました」
担当者「では、安楽死をテーマにした映画を視聴してもらいます」
担当者「映画は120分、終わった後にはもちろんテストがありますので寝たりしないように」
男「……!」
男「映画が結構面白かったんでね」
男「さ、もういいだろ! いい加減安楽死させてくれ!」
担当者「まだです」
担当者「それでは次は、安楽死された方の遺族からのメッセージを視聴して頂きます」
担当者「遺された人間がなにを思うかを知っておくことも、安楽死には必要……」
男「うへぇぇぇ……」
男「あー……もうめんどくせえ! こんなもんやってられっか!」
男「死ぬのがこんなに面倒だとは思わなかった!」
男「これなら生きてる方がよっぽどマシだぁぁぁぁぁ!!!」
担当者「では、お帰りになられますか?」
男「ああ、帰るよ! 帰りますよ!」
担当者「一度帰ると、また当施設に来られても、プログラムは最初からになりますがよろしいですか?」
男「いいよ! ていうか二度と来るかこんなとこ! 安楽死なんてバカらしいわ! やってらんねえ!」
男「じゃあな!!!」
バタンッ!
担当者「……」
男(安楽死なんてくっだらねえ! 生きてやる!)
男(いくら退屈だろうと、面倒だろうと、死ぬまで生きて生きて生きてやるよぉぉぉぉぉっ!)
男「――!」ハッ
男(あれ……俺、あんなに死にたがってたのに……いつの間にかこんなに生きたくなってる……)
男(もしかして……あの≪安楽死施設≫の真の目的はこれだったのか!)
男(あの施設は延々とプログラムをこなさせることで、死ぬのを思い留まらせるための施設だったんだ!)
男「筋トレだのヨガだの色々やらされたおかげで、心も体も充実してるし……」
男「よーし……今日から頑張って生きるぞーっ!」
――
職員「お疲れ様。今の気分はどうだい?」
担当者「あの人の安楽死を思い留まらせることができて、最高の気分です」
担当者「これで清々しい気分で旅立てるというものです」
職員「うむ、最後のプログラム≪当施設で働く≫はこれでクリアとなる」
職員「それでは希望通り、君を安楽死させることにしよう。さ、行こうか」
担当者「はいっ!」
― 終 ―
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コメント一覧 (10)
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- 2018年12月04日 08:44
- 頭も体も使いたくないから安楽死を望むのに、本末転倒すぎる
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- 2018年12月04日 09:11
- 電話の時点で帰って適当に自分でタヒぬわアホ
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- 2018年12月04日 10:55
- つまんなかったから途中でやめた
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- 2018年12月04日 11:27
- なんだこのコメント欄、やばそうな奴らばっかで草
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- 2018年12月04日 16:42
- 死ぬ為に生きるのは辛かろうて
死なぬ様に生きる方がよっぽど楽よ
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- 2018年12月05日 18:15
- オチが秀逸
そうきたか
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- 2018年12月06日 01:07
- オチはおもしろかったけど途中にちょっと無理があるかな。全然安楽じゃねーし
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- 2018年12月08日 11:33
- 電話の時点で諦めるわ
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- 2018年12月26日 21:20
- ほんのり星新一を思い出したよ
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自/殺を止める系のサイトばかりヒットして鬱陶しかった
作中の施設と一緒で大きなお世話すぎる