男「嫁がいつも狙撃銃で僕を狙ってる」 嫁「若い女の子と話してる……発射!」
- 2018年12月04日 00:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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同僚「お、今日は愛妻弁当か。いいなぁ~」
男「いいだろぉ~」パカッ
男「……あれ」
男(いつもはご飯に梅干し乗せてくれてるのに、今日は乗ってないな)
バシュッ!
男「!」
男(どこからともなく、ご飯の上に梅干しが飛んできた……)
男「……ん」
男「こんな季節にハエか……うっとうしいな」
プーン…
男「シッ、シッ!」バッバッ
バシュッ!
男「!」
男(ハエが狙撃されて、砕け散った……)
男「ああ、これはね……」
新人女「あぁ~、そうなんですかぁ~。ありがとうございますぅ~」
男「ちょ、近いって……(香水の匂いが……)」
ピシッ!
男「いでっ!」
ピシッ! ピシッ!
男「あうっ! はうっ!?」
新人女「?」
男(柔らかい弾が、僕に向かって何発も……!)
男「ただいまー」
嫁「お帰り」
男「……今日も僕のことを狙撃銃で狙ったろう」
嫁「なんのことだ?」
男「とぼけちゃって……」
男「ああそれと……その迷彩柄のエプロン、よく似合ってるよ」
嫁「! ……あ、ありがとう」
男「うん」
嫁「スープの中に……砂糖を発射!」バシュッ
ポチャンッ…
嫁「続いて、塩を発射!」バシュッ
ポチャンッ…
男「狙撃銃使わずにフツーに作りなよ!」
嫁「この方がおいしく出来上がるものでな……」
男「…………」ズズッ…
男「うん、おいしい!」
嫁「本当か!」
嫁「祝砲!」パンッ
嫁「祝砲!」パパパパンッ
男「ちょっ、やめて!」
嫁「ならば、狙撃で電気のスイッチをオフにしよう」パシュッ
男(なんて便利なんだ……)
男「君の狙撃銃は、何でも飛ばせるし、何でもできるんだね」
嫁「ああ、昔は銃弾しか飛ばせなかったが、そのように改造したからな」ジャキッ
男(どう改造したらそうなるんだか……)
男「しまった、寝坊した~!」ドタバタ
嫁「あれほど起こしたのに……!」
男「今日は遅刻するとまずいんだよなぁ、会社の健康診断もあるし……」ドタバタ
嫁「…………」
嫁「だったら、あれしかないな」
男「あれって?」
男「……え」
嫁「さあ、砲の中に入れ」
男「入れって……たしかドラえもんの道具でこんなのあったけどさ……」
嫁「会社は……あっちの方角だったな」
嫁「点火!」シュボッ…
男「あの、まだ心の準備が……」
ドォンッ!!!
男「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!
男(おお……?)
男(空気抵抗やらなにやらで、砲弾になってる僕がどんどん減速して……)ヒュルルルル…
ストンッ
男「着いた」
課長「おはよう。今日はずいぶん早いねえ」
<街中>
嫁「たまには二人でショッピングというのもいいものだな」ウキウキ
男「うん、このところ忙しかったしね」
男「どれ、洋服でも買うかい?」
嫁「いいのか!? ならば、新しく出た迷彩色の――」
後輩「先輩!」
嫁「なんの用だ?」
男(この人は、特殊部隊時代の後輩か……)
後輩「実は、立てこもり事件が発生しているんです」
後輩「犯人は体にダイナマイトを巻いており、一触即発の状況で……」
後輩「どうしても先輩の力をお借りしたいんです!」
嫁「私はすでに引退した身、しかもこの通りデート中なんだが……」
男「いいじゃないか。手伝ってあげなよ」
嫁「あなたがそういうなら……」
後輩「ありがとうございますっ!」
嫁「詳しい状況や犯人の位置を話してもらおう」
後輩「はいっ!」
後輩「ど、どうぞ!」
嫁「発射」ドギュンッ
嫁「終わった。返す」サッ
後輩「え!?」
男「え!?」
ザザッ…
後輩「!」
通信『立てこもり犯が、どこからか飛んできた弾に当たって失神した! すぐに確保する!』
嫁「ほらな?」
後輩「あ……ありがとうございますっ!」
男「せめて見て撃ってあげなよ……なんだか犯人が可哀想になる」
嫁「すまん……」
男(嫁さんは、かつて所属してた特殊部隊に未だに頼られてて、狙撃の指導をすることもある)
後輩「はっ!」ドキューン…
後輩「くそっ、わずかに中心から外れた!」
嫁「今外れたのは姿勢が悪かったせいだ。どれ、私が直してやろう」
後輩「お願いしますっ!」
後輩「こ、こうですか?」
嫁「両眼でしっかりターゲットをビッと見て、腕はこうバーッとする!」
嫁「そして、ガッと引き金を引くのだ! グワッと!」
後輩「は、はぁ……」
嫁「コラ! もっと腰はグンッといったろう! グンッ!」
後輩「さっきはギュッていってましたけど……」
嫁「そんなこといってないぞ! さあ、もっと腰をギュルッと曲げて……」
男(教えるのはヘタクソなようだ……)
<自宅>
男「ふぅ……」
嫁「どうした? 元気がないな」
男「実は……この前の健康診断で再検査しなきゃいけないことになって……」
嫁「再検査……!」
男「まあ、何でもないと思うんだけど、ちょっと憂鬱でね」
嫁「その通り! 絶対何でもない! 病気なんか私が狙撃してやる!」
男「おかげで元気出たよ。ありがとう」クスッ
嫁「それは何よりだ」
<病院>
医者「精密検査の結果、ご主人の脳に腫瘍が見つかりました」
医者「手は尽くしますが、今の状態が続くと、余命はあまり長くないかもしれません……」
男「…………」
嫁「そんな……! 何とか、何とか取り除けないのか!?」
医者「手術では取り除けないデリケートな箇所に出来ており……外科的な措置はまず不可能です」
医者「しかし、投薬や他の治療法を試してみましょう。決して希望は捨てないで下さい」
男「分かりました」
嫁(くっ……!)
嫁「…………」
男「どうしたの? 今度は君が元気をなくしちゃって」
嫁「夫が長く生きられないといわれて、元気をなくさない妻がどこにいる!」
男「夫の遺産目当てで結婚した妻なら、あるいは」
嫁「冗談をいってる場合か!」
男「ごめんごめん」
嫁「みんな、私を“狙撃手”と見る中、あなたははじめて私を“女”として見てくれた男だった」
嫁「おじいさんおばあさんになるまで、ずっと一緒だと思ってた」
嫁「それなのに……!」
嫁「!」
男「大丈夫……僕は死なないよ」
男「お医者さんも言ってたろう? 希望を捨てるなって」
男「絶対助かってみせるから……」
嫁「……うん」
医者「こちらがご主人の最新の脳の画像です」
医者「腫瘍の大きさは変わっていません。それどころか、より悪質なものに変性しています」
男「そうですか……」
嫁「…………」
医者「しかし、他にも治療法はあります。決して諦めず――」
嫁「あ、あのっ!」
医者「なんでしょう?」
嫁「もう一度、今の画像を見せてもらえるだろうか。出来れば色んな角度から」
医者「? かまいませんが……」
男「どうしたの?」
嫁「ドクター、頼みがある」
医者「なんでしょう?」
嫁「この腫瘍の除去……私にやらせてもらえないだろうか」
医者「はい? おっしゃる意味が――」
嫁「私が狙撃でこの腫瘍を取り除いてみせる!」
医者「は!?」
医者「外科手術で取り除くのは無理だと、何度も説明したでしょう!」
嫁「この画像を見ると、この角度から極めて小さい弾丸で腫瘍を狙えば」
嫁「脳を傷つけずに腫瘍を取り除ける可能性がある」
医者「奥さん、落ち着いて下さい。ヤケになってはいけません」
医者「今すぐ死ぬわけではありませんし、他にも治療法はあるのですから――」
男「……いいかもしれない」
医者「ちょっ!?」
医者「狙撃で脳腫瘍を撃ち抜くなんて聞いたことがない!」
医者「一ミリでもずれたら、どころのレベルじゃないんですよ!? まず即死、最低でも脳死!」
医者「ただの自殺――いや殺人だ! 断じて認められるわけがない!」
嫁「頼む、ドクター」
男「お願いします、お医者さん」
医者「…………!」
医者(夫婦揃って、私を撃ち抜くような目つきしやがって……)
医者「……いいでしょう。ただし、くれぐれも自己責任でやって下さいよ」
嫁「むろんだ」
男「ありがとうございます」
医者(ああ……なんで許可しちゃったんだろ私)
医者「では、麻酔医を呼んできますので……」
男「いや、麻酔はいりません。立ったままで狙撃を受けたいので」
医者「はぁ!?」
嫁「うむ、私としても立ってくれてた方がやりやすい」
嫁「現役時代も、標的は立っていることがほとんどだったからな」
男「というわけです」
医者「もう好きなようにしてくれぇ!」
男「うん」
シーン…
医者(ううう……マジで始まってしまった。狙撃による手術が……)
医者(しかし、奥さん……すごい集中力だ。銃を構えて、完全に自分の世界に入っている……)
医者(旦那さんも旦那さんだ。頭に銃を向けられてるのに、至って平然としている……)
医者(なんなんだ、この夫婦……!?)
男「いつでも」
医者「…………」ゴクッ…
バシュッ!
………………
…………
……
医者「手術は……成功です」
嫁「や、やった!」
男「……ありがとう」
医者「いやはや、すごいものを見せてもらいました」
医者「奥さんの狙撃の腕はもちろんですが、一切微動だにしなかった旦那さんもまたすごい」
医者「この手術は……まさにあなたがた“夫婦の手術”だったといえるでしょう」
嫁「おだててもなにも出ないぞ」
男「こちらこそ、無理を聞き入れて立ち会って下さってありがとうございます」
医者「今日のことは、私の一生の思い出となるでしょうね」
嫁「今になって……両手が震えている」プルプル…
嫁「我ながら恐ろしいことをしたものだ。脳腫瘍を狙撃だなんて……」
男「本当にありがとう」
嫁「いや……ドクターもいってたが、この手術の功績はむしろあなたにある」
嫁「私の腕を信じて、微動だにしなかったんだからな」
男「君の腕を信じる? 僕は別に、君の腕を信じてたから微動だにしなかったわけじゃないよ」
嫁「えっ、どういうことだ?」
男「だから、緊張せず普段通りの気持ちでいられたんだ。微動だにせずにいられたんだ」
男「たとえどんな結果になっても、僕は納得できていたと思うよ」
嫁「…………!」
男「どうしたの? 顔が真っ赤だよ?」
嫁(私としたことが、夫にハートを狙撃されてしまうなんて……まだまだ未熟だ……!)
男「?」
嫁「さ、さあ帰るぞ! ダッシュだ!」ダッ
男「あのー、僕まだ病み上がりなんですけど……」
男「うわぁ、遅刻遅刻!」
男「行ってきまぁ~す!」タタタタタッ
嫁「おいっ、定期を忘れてるぞ!」
嫁「仕方ない……定期入れをあの人のカバンめがけて――発射!」ズキューン…
おわり
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コメント一覧 (17)
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- 2018年12月04日 00:58
- 弾丸を夫の頭にシュゥゥゥーッ!
超! エキサイティン!
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- 2018年12月04日 01:39
- ゴル子
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- 2018年12月04日 01:44
- むちゃくちゃだが面白かったw
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- 2018年12月04日 01:48
- 良い
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- 2018年12月04日 01:55
- これには全米ライフル協会もにっこり
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- 2018年12月04日 02:26
- こういうのでいいんだよ
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- 2018年12月04日 02:30
- こうゆうSSを待ってた
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- 2018年12月04日 02:34
- てっきり重粒子線で狙撃するのかと思った。
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- 2018年12月04日 06:49
- 旦那の夜の命中率は如何ほどなんだぁ?
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- 2018年12月04日 09:06
- 腫瘍ができたのも普段狙撃で撃たれてたからなのでは
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- 2018年12月04日 09:58
- ヌクモリティとか死語を言っちゃう程度に懐かしさを感じる
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- 2018年12月05日 01:22
- ※10 夫はいつも打たれる側 あとは分かるな?
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- 2018年12月05日 23:14
- これを待っていた
というか昨今のSSのクオリティが酷すぎた
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- 2018年12月07日 14:52
- こういうのでいいんだよ
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- 2018年12月08日 18:35
- 色々とツッコミどころがあるけどSSらしい作品だわwww満足
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- 2018年12月14日 15:39
- 和風嫁の人かその読者か
こういうベタながらも読んでいて楽しいSSをまとめるのがアンタの仕事だよ