喪黒福造「至高の味のラーメンはすでに存在していますよ」 雑誌編集者「どこにあるんですか、それ!?」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
北野伸幸(41) 雑誌編集者
【至高の味のラーメン】
ホーッホッホッホ……。」
ライター「これが、来月号の原稿です」
北野「ありがとうございます。これで来月号の特集記事は面白い内容になりますよ」
テロップ「北野伸幸(41) 出版社『宝船社』社員、『月刊宝船』編集者」
出版社「宝船社」。『月刊宝船』編集部。編集長と、北野を含む編集者たちが仕事の話をしている。
編集長「よし、来月の『月刊宝船』はこの内容で行こう!」
編集者たち「はいっ」
机に置かれたノートパソコンを見つめる編集長と編集者たち。
ノートパソコンの画面には、来月号の『月刊宝船』の表紙の案が映っている。
オフィスで机に向かい、ノートパソコンを操作する北野。
北野(よし……、今日の仕事はこれで一段落ついた!仕事を終えた後は、久々にあれを楽しむか)
彼が向かったのは、とあるラーメン屋のようだ。カウンター席に座り、ラーメン職人に食券を渡す北野。
ラーメン職人「麺の硬さは?」
北野「普通で」
ラーメン職人「分かりました」
店に入り、自動券売機で食券を買う喪黒福造。喪黒は、北野の隣の席に座る。
喪黒「あなた、こんな遅くまでお仕事をしていたのですか?」
北野「そうです。今日の仕事を終えたので、そろそろ食事でもしようかと思って……」
喪黒「1日を通して働き続けると、お腹がすきますからねぇ」
北野「ええ」
喪黒・北野「ごちそうさまでしたーー!!」
ラーメン職人たち「ありがとうございまーーす!!」
ラーメン屋を出て、夜の街を歩く喪黒と北野。
喪黒「おいしかったですなぁ」
北野「やはり、夜食にラーメンを食べるのは最高ですよ」
喪黒「あなた、ラーメンがお好きなのですか?」
北野「ええ。ラーメンは私の好物であり、ある意味、趣味と言っても過言ではありません」
喪黒「ラーメンが趣味……。おそらく、あなたはラーメン店の食べ歩きを重ねてきたのでしょう」
北野「はい。ラーメンファンの端くれとして、店の食べ歩きはいろいろしてきましたね」
喪黒「どのラーメンが一番おいしかったのですか?」
喪黒「至高の味のラーメン?」
北野「ええ。私を含めたラーメンファンの人間は、心の奥底に『あるもの』を求めているんですよ」
「そう……。至高の味のラーメンというものを……」
喪黒「ならば……。いつか出会うであろう『至高の味のラーメン』が、一番おいしいラーメンになるというわけですね?」
北野「そうです。でも、私はまだそれに出会っていませんけど……」
喪黒「分かりました……。実は、それについていい話があるんですよ」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
北野「……ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「私はセールスマンです。ただし、他のセールスマンとは一味違っていますが……」
北野「セールスマン?もしかして、あなたはラーメン業界のセールスマンなんですか?」
北野「そうなんですか……。変わったお仕事ですね……」
喪黒「いい店を知っていますから、そこでゆっくり話でもしましょうか」
BAR「魔の巣」。喪黒と北野が席に腰掛けている。
喪黒「北野さんは、昔からラーメン店の食べ歩きとかをしてきたのですか?」
北野「はい。私は大学時代から今に至るまで、時間を見つけてはラーメン店の食べ歩きをしてきました」
「もちろん、日本列島の各地を巡って……」
喪黒「ほう……、あなたは筋金入りのラーメンマニアというわけですなぁ」
北野「まあ、その……。一般人に比べると、私はラーメンに詳しいんでしょうけど……」
「ラーメン評論の関係者に比べると、私のラーメンの知識や食べた量なんてアマチュアもいいとこ……」
喪黒「ラーメン関係者の人たちは、ラーメンが仕事や生活そのものになっているわけですから……」
喪黒「でも、ラーメン関係者の人たちは早死にをする人が多いでしょう?」
「いくらラーメンがおいしいからと言っても、毎日食べると身体に影響が出ますからねぇ」
北野「問題はそれなんですよ……。だから、私も今ではラーメンを食べる頻度が減りました」
喪黒「それでも、ラーメンの虜になる人は後を絶ちませんねぇ。なぜなら、ラーメンは今や国民食の一つですから……」
北野「それだけじゃありません。さっきも言ったように……」
「ラーメンファンの人たちは、至高の味のラーメンというものを求め続けているのです」
喪黒「それなんですが……。至高の味のラーメンはすでに存在していますよ。当然、いい店も知っています」
北野「どこにあるんですか、それ!?」
喪黒「それは秘密です。今日はもう夜中ですから、時間ができたらまたお会いしましょう」
「その時、あなたに教えますよ。至高の味のラーメンが何かを……」
北野「その話、本当ですよね?冗談はよしてくださいよ!」
喪黒「ホーッホッホッホ……。本当に決まってますよ」
喪黒「やぁ、北野さん」
喪黒と北野は、いつの間にか電車に乗っている。
喪黒「次の駅を降りた近くに、いい店があるんですよ」
北野「その店のラーメンこそが、至高の味のラーメンというわけですよね?」
喪黒「そうです」
電車を降り、駅の周囲を歩く喪黒と北野。
喪黒「着きましたよ」
北野「ここですか……」
ラーメン店の前にいる喪黒と北野。店の暖簾には、「らーめん有頂天」と書かれている。
喪黒「入りましょう、北野さん」
白石「やぁ、喪黒さん」
テロップ「白石巌(58) 『らーめん有頂天』創業者」
食券を白石に渡す喪黒と北野。
喪黒「オヤジさん、お久しぶりです」
北野「喪黒さん、この人と知り合いなんですか」
喪黒「ええ。白石さんは、らーめん有頂天の創業者なんです」
北野「創業者!?至高の味のラーメンを作っていたのは、この人だったんですか……」
喪黒「そうです。彼は、料理の腕は確かですよ」
北野「じゃあ、楽しみですね……。ここのラーメンの味がどんなのか……」
喪黒「この店のラーメンの味は、一級品ですよ。しばらく待ちましょう」
白石「へい、お待ち!!」
割り箸を割り、ラーメンを食べ始める北野。
北野「おいしい!」
喪黒「この店のラーメンは、無添加の麺を使っているんですよ」
北野「えっ、そうなんですか?」
白石「ああ。もちろん、化学調味料も全く使用していませんよ」
北野「化学調味料も使用していないんですか……。健康志向なんですね……」
陶製のレンゲで、ラーメンの汁を口にする北野。
北野「魚介類の出汁をベースにしたこの味……。おおっ!!」
「まるで……。口の中に海がいっぱい広がって、魚が泳いでいるような感じ……」
喪黒「化学調味料に、このおいしさは出せませんよ。『有頂天』のラーメンは、他の店とは一味違うんです」
北野「卵、ノリ、野菜、チャーシュー……。具の味もいい!産地を丁寧に選びぬいているようだ!」
「特に、ラーメンの中に入っているキノコがまた何ともいえない!」
夢中になってラーメンを食べ続ける北野。喪黒と北野は、ラーメンの汁も飲み干す。
喪黒・北野「ごちそうさまでしたーー!!」
白石「ありがとうございまーーす!!」
らーめん有頂天を出て、夜の街を歩く喪黒と北野。
北野「喪黒さん、さっきの店のラーメンは本当に最高でしたよ!!この世に、こんなにおいしいものがあったのか……と」
喪黒「ほら!『有頂天』の店のラーメンは、至高の味のラーメンなのですから……」
北野「はい……!あの店のラーメンこそは、まさに至高の味のラーメンと言ってもいいでしょう!!」
「言葉では言い尽くせないほどのおいしさ……!あれを食べている時は、心のからの快感を覚えましたし……」
「それに、食べ終わった後は……。身体の中から力がみなぎってくるような感じさえするんです!!」
喪黒「ほう……。北野さんは、『有頂天』のラーメンにすっかりハマり込んでしまったようですなぁ」
喪黒「そうですか。ならば、北野さん……。あなたには、私と約束していただきたいことがあります」
北野「約束!?」
喪黒「はい。らーめん有頂天に行くのは、今回の一度きりにしておいてください。あの店には頻繁に行くべきではありません」
北野「どうしてですか!?あんなにおいしいものの存在を知ってしまうと、また店に行きたくなりますよ!!」
「特に、ラーメンファンの私としては……」
喪黒「だからなのですよ。あの店のラーメンは、至高の味のラーメンなのですから……」
北野「なるほど。どんなに極上のものであっても、頻繁に味わうと慣れますからね……」
「めったに味わえないからこそ、ありがたみが増すってことでしょう」
喪黒「まあ、私の言いたいことが何かはいずれ分かりますよ。とにかく、約束は守ってください」
北野「わ、分かりました……」
北野「編集長、今度の『月刊宝船』はラーメン特集をやりましょうか?」
編集長「ラーメン特集か……。うちの雑誌はマニアックな内容の話題が多いし、読者もサブカル層が目立つ」
「だがな……。あんまりマニアな内容にすると読者に受けないんだよ。もう少し、普遍的で社会派のテーマの方がいい」
北野「で、ですが……、ラーメンを好きな人は多いですし……。私もその一人……」
編集長「君の好みで雑誌を左右されては困る」
北野と編集長を見つめる他の編集者たち。
編集者A「北野の奴、前に比べると何か変わったな」
編集者B「ああ。昔の北野は、もう少し聞き分けがよかった気がする」
夜。あるラーメン店。カウンターでラーメンをすする北野。
北野(確かに俺はラーメンが好きだ。しかし、『有頂天』の店のラーメンを知ってからは……)
(別のラーメン屋でのラーメンが、物足りなく感じるようになった。俺はもう一度、『有頂天』に行きたい……)
北野(らーめん有頂天に行きたい……。行きたい……。行きたい……)
夜。らーめん有頂天の店の前に立つ北野。彼の頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「らーめん有頂天に行くのは、今回の一度きりにしておいてください。あの店には頻繁に行くべきではありません」)
北野(構うもんか……!)
店の中に入る北野。
宝船社。『月刊宝船』編集部。編集長が北野を説教している。
編集長「北野君。最近の君は、勤務態度がなっていないぞ」
北野「すみません……」
編集長「遅刻をするわ……。原稿のチェックでミスを行うわ……。連載陣の一人のライターと喧嘩をするわ……」
「前の君はこんなんじゃなかった。しっかりしてくれよ!」
北野「は、はい……」
北野(チクショーッ!!編集長の奴、俺をクソミソにけなしやがって!ストレス解消のために、あそこへ行くしかないな)
らーめん有頂天。店のカウンターでラーメンをすする北野。彼がレンゲで、ラーメンの汁を飲むと……。
北野(おおっ……!!周りにあるものの輪郭がくっきりとして、世界が輝いて見える……!!)
毎日のように、らーめん有頂天に通い続ける北野。
テロップ「次の日――」「その次の日――」「さらに次の日――」「そして――」
宝船社。『月刊宝船』編集部。編集長と罵りあう北野。北野のげんこつが、編集長の顔面に命中する。
編集長「北野、お前はクビだ!!」
編集長にクビを宣告され、我に帰る北野。北野を見つめる編集者たち。
宝船社を飛び出し、駅へ向かう北野。
北野(くそっ……、どいつもこいつも……)
喪黒「おや、北野さん?あなたどこへ行くのですか?」
北野「決まってるでしょう、あの店に行くんですよ!今では、毎日のように通っていますから!」
喪黒「そうですか。北野伸幸さん……、あなた約束を破りましたね」
北野「……ああっ!!」
喪黒「私は言ったはずですよ。らーめん有頂天に行くのは、一度きりにしておけ……と」
「それにも関わらず、あなたはあの店に何度も通っているようですねぇ」
北野「だ、だって……!ここまでおいしいものを知ってしまったせいで、私はもう……」
喪黒「もはや手遅れです。約束を破ったのだから、あなたにはペナルティーを受けて貰います!!」
喪黒は北野に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
北野「ギャアアアアアアアアア!!!」
北野「『都合により、当店は閉店することになりました』だと……!?一体、どういうことだ!?」
通行人「帰って、テレビを見れば分かりますよ。あの店の人、やらかしたそうですから……」
夜。マンション。部屋でテレビを見る北野。テレビのニュースが、白石の逮捕を報道している。
テレビ「逮捕されたのは、ラーメン店経営者の白石巌容疑者です」
「警視庁は白石容疑者の自宅から……。LSD、コカイン、マジックマッシュルームを押収しました」
「警察の調べによると白石容疑者は、『店のラーメンに入れるために、薬物を購入した』と供述し……」
「容疑を認めているということです……」
北野「そ、そんな……!!あのラーメンが薬物まみれだったなんて……!!」
とあるラーメン店の前にいる喪黒。
喪黒「日本のラーメンは、国内で独自の進化を成し遂げ……。今や国民食の一つとして扱われるようになりました」
「全国には豊富な種類のラーメンが存在していますし……。ラーメンは日本人に人気のある料理の一つでもあります」
「ただ、おいしいラーメンも毎日食べるのは身体によくないですから……。たまに味わうのがいいかもしれません」
「ましてや、薬漬けのラーメンを毎日食べるなんて怖いですよ。おいしいものには気をつけるべきですねぇ、北野さん……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
元スレ
喪黒福造「至高の味のラーメンはすでに存在していますよ」 雑誌編集者「どこにあるんですか、それ!?」
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喪黒福造「至高の味のラーメンはすでに存在していますよ」 雑誌編集者「どこにあるんですか、それ!?」
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コメント一覧 (4)
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- 2018年12月01日 08:14
- ?
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- 2018年12月01日 12:49
- 「至高」=「薬物」という締め方はどうなんだろ?
今まで喪黒福造の手法はグレーはあってもブラックは無かった気がする
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- 2018年12月03日 19:42
- ラーメンの具にされるオチだと思ったが違ってた
むしろ店主がお客でドーンされた場合のオチの方が違和感ないかも
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- 2018年12月03日 21:00
- ※3 手首ラーメンって実際に食わせたか不明な事件がありましてね・・・。