勇者「長老、なんかこの剣喋ってない?」長老「なんじゃと」聖剣「……」
↑のつづき
メロンパン職人「あの」
勇者「うん?」
メロンパン職人「北の都市って、いま王都でも話題のヤバイところですよね」
勇者「そうだよ」
メロンパン職人「な、何でわざわざそんな所に……」
勇者「王様に頼まれたからな」
メロンパン職人「!」
勇者「まあ、行くしかないだろ。俺の立場上」
メロンパン職人「姫の見送りに続いて王様直々のお願い……?そんなビッグな背景があったなんて」
メロンパン職人「ますます何者なんだよ勇者さん」
メロンパン職人「な、なんか寒くないっすか」ガタガタ
勇者「うわぁ。遠くの方見てみろよ、メロンパン職人。雪積もってるぜ、雪。真っ白だ」
メロンパン職人「勇者さんの故郷って? 王都の人じゃないんですか」
勇者「西の方の田舎の村だよ。そこで聖剣と出会ってだな」
メロンパン職人「へぇ……」
メロンパン職人(……聖剣? 何の話だ?)
ピタッ
メロンパン職人「どうしたんですか勇者さん。急に立ち止まって」
勇者「……何か聞こえないか?」
メロンパン職人「え?」
グルルルル…
勇者「!」
メロンパン職人「!!」
勇者「白っぽい……こいつは狼型の魔物か」
勇者「さすが北国。雪っぽい。王都周辺から離れると、駆逐されてない魔物がやっぱりいるもんだ」
メロンパン職人「何をそんなに悠長なことを! あぁ、やっぱり北の方なんて目指すんじゃなかったんだ。魔物の動きが活発だって散々ウワサになってたのに!」
勇者「まあ落ち着けって」
メロンパン職人「落ち着けるわけがないじゃないですか! 俺ら、ただのしがないパン屋ですよ!」
勇者「パン屋なのはお前だけだろう」
メロンパン職人「え?」
勇者「実は魔物と戦うのは初めてなんだが」
勇者「けど、まあ何とかなるだろうさ」
勇者「女騎士や大臣と比べれば、こんな奴らなんて大したことないだろ!」シュッ!
ズバッ!
魔物「ぎゃいんっ!?」
メロンパン職人「……」
メロンパン職人「……」
メロンパン職人「ついていく人間違えたかな?」
メロンパン職人「さささ、寒い……」ガタガタ
勇者「やれやれ。北に行くのにそんな薄着で来るからだぞ」
メロンパン職人「俺に行き先を伝えなかったのはアンタですけどね!!」
勇者「あったかぱんつ履いてるからな。ぬくぬくだ」モッコリ
メロンパン職人「いやそんな胸を張られても」
勇者「……替えのパンツ、いる?」ゴソゴソ
メロンパン職人「遠慮しておきます」
メロンパン職人「季節的にも、あそこまで雪が積もるわけがない」
メロンパン職人「向こうの都市との連絡や通商も今は完全に止まってるらしいし、やっぱり何かがあったんじゃ……」
勇者「あっ」
メロンパン職人「ど、どうしたんですか。また魔物でも出たんですか」
勇者「いや、あそこ。明かりが見える」
メロンパン職人「……本当だ」
勇者「集落があるみたいだな。少し寄って行くか?」
メロンパン職人「そうですね……」
勇者「いや、あそこ。明かりが見える」
メロンパン職人「……本当だ」
勇者「集落があるみたいだな。少し寄って行くか?」
メロンパン職人「そうですね……」
聖剣「>>26」
勇者「パンティ!?」
メロンパン職人「いきなり何叫んでるんですかアンタ」
勇者「いや、なんでもない」
勇者「……少しだけ寄ろうか。野暮用ができた」
メロンパン職人「久しぶりに屋根の下で寝れそうだ……」
メロンパン職人「うーん。宿っぽいところ無いですね」
勇者「小っちゃい村だからな。観光客とかも来ないんだろう」
勇者「とりあえず大きめの家でも訪ねてみよう。部屋が余ってたら入れてくれるんじゃないだろうか。女の子が居ればパンティもあるかもしれない」
メロンパン職人「今なんて?」
勇者「なんでもない」
村長「はて。こんな時間に誰かな……おや?」ガチャッ
村長「見かけない顔じゃな。まさか旅人さんかな?」
勇者「ええ。俺は勇者。こいつは相棒のメロンパン職人です」
メロンパン職人「どうもメロンパン職人です」
村長「はぁ」
……
村長「こんな所に旅人なんてのも珍しい。お二人はどこから来たのかな?」
勇者「王都です」
村長「はぁ。王都から。それはまた……どうしてこの村に?」
勇者「北の都市に用事があって向かってるんですよ」
村長「!」
村長「ふむ……」
村長「噂は聞いておらんのかな? 北の都市への観光なら、もう少し時期を見てするべきじゃろうて」
村長「それとも、王都にはまだ伝わっておらんのか」
勇者「噂……?」
メロンパン職人(暖炉あったかいなあ)
勇者「魔物に……!?」
メロンパン職人「勇者さん、それってやばくないですか。俺ら、そこでパン屋を開こうとしてるんですよね?」
勇者「お前はいったい何を言っているんだ」
メロンパン職人「えっ」
村長「まあ、あくまでも噂じゃがな」
勇者「確かに。王都の方はまだ暖かかったし冬って季節でもないですもんね。ちょっと北に来た程度でここまで寒くなるのもおかしな話だ」
村長「……北の方には古くから伝わる話があってな」
村長「かつて、古の勇者に封印されし氷の魔女が復活したんじゃないかとこの村の年寄りどもは騒いでおる」
勇者「古の勇者に封印されし……」
メロンパン職人「古の勇者の魔王退治の話は確かに王都でも有名ですけど、そんな話ありましたっけ」
村長「さてな。ここらの地域だけの話かもしれん」
勇者(古の勇者って、こいつの元の使い手のことだよな……)チラッ
聖剣「……」
勇者「うーん……」
メロンパン職人「ねぇ勇者さん。今からでも遅くないですから、王都に引き返しましょうよ。何があるかわからないですし絶対危ないですって」
勇者「ばかお前、その何があるのかを調べるのが俺たちの使命だろうが」
メロンパン職人「俺、それ初耳なんですけど」
勇者「村長。ありがとうございます」
勇者「……」
勇者「……ところで」キョロキョロ
村長「なんじゃ」
勇者「村長は一人暮らしですか? 奥さんとかいらっしゃらない?」
村長「……妻か」
勇者「………………す、すいません……」
勇者「な、なら、お子さんは? 娘さんとか」
村長「娘ならおるよ」
勇者「!!」
村長「王都に嫁いでいきおったわい。まったく……わしを一人にしおって……」
勇者「……くっ!」
メロンパン職人「さっきから何をソワソワしてるんです?」
メロンパン職人「くかー、くこー、くかー……むにゃむにゃ」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」パチッ
勇者「パンティ探さなきゃ」
勇者「うーん、なかなか見つからないな」
勇者「娘さんが嫁いでったってのもそんなに昔って訳じゃないだろうし、どっかに忘れ物的なパンティ置いてたりすると思うんだがな」
勇者「娘さんもたまに帰省した時、家にパンティがないと困るもんね」
勇者「……ん?」ゴソゴソ
勇者「これは当たりを引いたか」
モゾモゾ…
パッ!
お婆さんの遺品パンツ「……」
勇者「お前はお呼びじゃないんだよなあ……」
お婆さんの遺品パンツ「……」
数十分後
勇者「くそ、この屋敷はダメだ。村長の奥さんの遺品しか出てこねえ」
勇者「……外に出るか」
勇者「ひゃー、寒いっ!」
勇者「この時間だからってのもあるかもしれないけど、ここまで寒いもんかね」
勇者「俺ら、昨日まで野宿してた筈なんだがな……急に寒くなりすぎだろう……」
勇者「ぱんつを重ね着してなかったら俺も危なかった」
勇者「……とりあえず、若い娘さんが居そうな家に潜入するか」
勇者「どうしたもんかな……」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」ブルルッ
勇者「……ちょっとおしっこ……」
勇者「雪積もってるなぁ。この辺だとこのくらい積もるのが当たり前なんだろうか」
勇者「そこの茂みで済ませるかな……」
ザクッ、ザクッ
勇者「うわっ、デカい氷塊があるぞ。なんだこれ」
勇者「北国だとこういうのがゴロゴロ転がってんのか。こんな氷がどうやって自然発生するんだろう」
勇者「……」
勇者「……よし」
勇者「せっかくだしこいつにマーキングしよう。北国の思い出ってやつだな。わはは」
勇者「……ぱんつ重ね着しすぎたか。取り出しづらいな」
モゾモゾ
勇者「……」
ジョロロロロ
ジョロロロロ
ズゴゴゴゴ
勇者「……ん?」
ジョロロロロ
ズゴゴゴゴ
勇者「なんか揺れてね?」
ジョロロロロ
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
氷塊「……」ムクリ
勇者「……」
ジョロ…
勇者「お前、魔物かよぉ!」
勇者「な、なんか怒ってらっしゃる?」
氷獣「GAAAAAAAAAAAA!!!!」
ドコン!
勇者「危ねえ!」バッ
勇者「……くそ、こんな時間に戦闘か! 村の中に魔物が居るとかどうなってやがる!」シャラン
村長「……はて、こんな時間に何の音かの」
村長「外か……?」
テクテク
ガチャッ
勇者「おおっ!!」
ズバッ!
氷獣「GAAAAAA!」
村長「ひえっ!」
勇者「村長! 村に魔物が入ってきてる! 外に出てきちゃダメだ!」
氷獣「GAAAA……」フラッ…
ズズゥン…!
勇者「はぁ、はぁ……」
氷獣B、C「GAAAAAA!」
勇者「……!」
勇者「まだ、居やがるのか……!」
勇者「お前ら、道を開けろ……! 俺はパンティを探さなきゃならないんだ!」
ズバッ!
氷獣「GAAAA……」フラッ…
ズズゥン…!
勇者「はぁ、はぁ……!」
勇者「こいつで、最後か……?」
ザワザワ…
勇者「!」
村人B「村の中にまで入ってきたの……?」
村人D「あの人が退治してくれたのか?」
村人C「や、やっぱり噂は本当だったんじゃ!」
勇者「あわわわわわわ戦闘音で村の人たちが起き出してきちゃったよ……これじゃあ潜入ミッションが……!」
村長「勇者殿!」
勇者「!」
村長「初めて会ったわしらの村のために戦ってくれたのですか」
勇者「は、はい」
村長「あなたがこの村に来たのも、魔物の気配を感じ取ったからですな」
勇者「うん?」
村長「……いえ。みなまで言わずともよろしい。この量の魔物に襲われては、この村はひとたまりもなかった。本当に、助かりました」
勇者「……」
勇者「いえ、当然のことをしたまでです」
勇者「……じゃあ、パンティを」
村長「うん?」
勇者「……やっぱりなんでもないです」
勇者「……」
勇者(しかしこれ、ある意味チャンスなのでは?)
勇者(今までわからなかった村人たちの顔が見えること見えること)
勇者(年寄りを除いた女の子たちの顔と、どの家に帰るかだけはしっかり目に焼き付けておかなければ……)
勇者「……」キョロキョロ
村娘「………………」ジーーーーーーッ
勇者「ん?」
村娘「っ!」バッ
勇者(来たかこれ? 俺の勇姿を見てしまって、来てしまったのか? まさかなのか?)
勇者(わたしのパンティ見てください的な展開来ちゃうのか?)
村娘「!! は、はい……」
勇者「どうかしたのかな。なんだか、ジッと見られていたみたいだけど」
村娘「!」
勇者「はは……なんだか恥ずかしいな。あんまり見られると、その……」
村娘「あ、あの……」
勇者「! 何かな」
勇者「うん」
村娘「チャックが……」
勇者「…………」
勇者(やべ、おしっこしてから締めてなかったわ)
メロンパン職人「くかー、くこー、すぴー」
勇者「いや、その……」
村長「まだ何か気になることがあるのかな?」
勇者「ほら、まだ魔物が出てくるかもしれないし、俺はもうちょっと残ることにするよ。みんなは先に家に帰っててください」
村長「なんと、そこまで……しかしお気持ちはありがたいが、そう言っておってはあなたが休めんでしょう。ここにはもともと休息のために立ち寄ったんじゃろ?」
勇者「そうですけど、俺は……!」
村長「大丈夫。先ほど、村の者で話し合って、村の若い衆で夜の番しようかと」
勇者「……」
勇者「えっ」
勇者「や、夜間の見回り? いやいやそんな」
男A「任せてくださいよ勇者さん」
男B「今夜は俺らがしっかり村を警備しますからね」
男C「あんたは安心して眠っててくれ」
勇者「……パンティ……」
メロンパン職人「……ふわぁ……」ムクリ
勇者「……」
勇者「……おはよう」
メロンパン職人「いやぁ。久々に屋根の下、お布団で眠ると気持ちいいもんですね」
勇者「……」
メロンパン職人「……勇者さん?」
勇者「……なんだよ」ギョロッ
メロンパン職人「うわっ、隈すごっ! まさか寝てないんですか!?」
勇者「……うるさいな。少し黙れよ」
メロンパン職人「何で俺がキレられてるんですかね」
勇者(俺が「あの村で何をする?」って安価を求めた訳じゃなく、聖剣が勝手なタイミングで喋りやがっただけだし)
勇者(もちろん今後パンティ奪取の機会があれば積極的に参加するつもりだけど、夜間の警備が入った以上、この村でパンティを探すのは流石に難しい)
勇者(今は一度引いて体制を立て直すべきか……?)
メロンパン職人「なんか急に黙り込んで何か考え始めちゃったよ……まあいいか」
メロンパン職人「さぁて、俺もそろそろ働きますかね」
勇者「?」
メロンパン職人「俺が何者であるか、まさか忘れた訳じゃないでしょ勇者さん。悩み事なんて吹っ飛ばして、すっきり目覚めさせてあげますよ」
村長「お二人とも、おはよう……おや?」
メロンパン職人「あ、おはようございます。少し台所を借りてますよ」
村長「はぁ……。メロンパン職人殿、何を?」
メロンパン職人「メロンパン作ってるんですよ。泊めてもらったんだし、お礼に朝食くらいはご馳走しようかと思って」
メロンパン職人「道具も材料も持ってるんでね。ここは俺に任せてください」
村長「なんと。お礼などと、昨晩の件だけで十分だと言うのに……」
メロンパン職人「いえいえ、気にしないでください。俺のせめてもの気持ちですから」
村長「では、お言葉に甘えるとしますかな」
メロンパン職人(昨晩って何かあったのかな?)
村長(朝からメロンパンとか、重いのぅ)
村長「では、いただきますかな」
勇者「いただきます」
勇者「…………」モサモサ
メロンパン職人「ふふふ。二人とも、お味はどうですか?」
勇者「……うん。まあ、いいんじゃないか」
村長「……おいしいですぞ」
メロンパン職人「そっかぁ。思えば俺、旅に出てから初めてパンを作ることになるんですよね……へへっ、なんか照れるな」
メロンパン職人「沢山あるんで、遠慮なく食べちゃってくださいね!」
勇者(別に、不味くはないが旨くもないな)
村長(朝食は白米の方が好きなんじゃがのぅ)
勇者「じゃあ村長、俺たちはそろそろ行くよ。宿、ありがとうな」
村長「もう行くのですかな。昨日はお疲れでしょうし、勇者殿が望むのであればもう少し休んでくださっても構わんのですぞ」
勇者「この村にまで魔物が入り込んで来るようになっているんだ。早いとこその原因を取っ払ってこないと、みんな安心して眠れないだろう?」
村長「勇者殿……」
勇者(夜間警備がある以上、この村に滞在続けてもパンティの入手は難しそうだしな)
メロンパン職人「そうですね。村長、お世話になりました」
村長「では勇者殿。今度は魔物等は抜きに、遊びに来てくだされ」
村人A「頑張ってくれよな」
村人B「応援してるぜ」
子供「勇者さーん、またねー!」
勇者「ああ! 行ってきます!」
メロンパン職人(まあいいか)
テクテク
北の都市の調査隊
パキィン……!
??「……」
騎士「う、うぅ……」
冒険者「あが……が……!」
??「はるばる都からこの街へ遊びに来たのであろう?」
??「もう少し楽しませてもらえると思ったのだがな」
??「興醒めだな……」
騎士「おのれ……魔女め……!」
氷の魔女「ふふふ……」
氷の魔女「物足りぬ。もっと足掻いてはくれないか」
氷の魔女「……うん?」
ヒュンッ
ザクッ
氷の魔女「……」
傭兵「……外したか」
氷の魔女「ほう。居るではないか。活きのいいのがひとり」
傭兵「バケモノめ」
氷の魔女「このような虫けらに絆されたか……? 少し、もったいないな」
傭兵「……」
冒険者「……あ、あんちゃん……」
傭兵「!」
冒険者「こっちのことは気にすんな……せめて、あんただけでも……」
傭兵「勘違いされては困る。別に、私は君たちのためにここに残っているわけではない」
傭兵「臨時の追加依頼とは言え、標的が目の前にいるのだ」
傭兵「この剣がまだ振るえる以上、そう易々と引き下がるつもりはない」
冒険者「……へっ……偏屈な野郎だな……」
傭兵「……」
氷の魔女「そなたの狙いは私だろう。わざわざ城から下りて来たのだ。少しくらい楽しませてもらわねば割に合わぬ」
傭兵「……言われずとも」
キィーーーーン……!
傭兵「っ!」
騎士「傭兵殿!」バッ!
傭兵「なっ……!?」
パキパキパキ……!
騎士「ぐああ……」
傭兵「……何故庇った」
騎士「はぁ、はぁ……! そこの、冒険者の言った通りだ。君はここから脱出するんだ」
傭兵「……」
騎士「こちらの隊は、ほぼ壊滅した。まともに動けるのは、もう君しかいないのだ」
騎士「……我らでなんとかできると思ったのだがな……奴は、あまりにも規格外だ……」
騎士「せめて、このことを、王に伝えなければ……!」パキパキパキ……!
傭兵「……」
騎士「はは……頼むよ……必ず逃げ切って…………王都に………………」
パキィン…
傭兵「……」
傭兵「……すまない」
タタタタッ
勇者(どこかにパンティ落ちてたりしないかな)
メロンパン職人「勇者さん。そろそろごはんにしませんか」
勇者「おっ。もうそんな時間か」
メロンパン職人「どうぞ、メロンパンです」
勇者「……また、メロンパンか」
メロンパン職人「あなたの認めるメロンパン職人の作ったメロンパンですよ。好物でしょ?」
勇者(何個作ったんだよ。さすがにそろそろ飽きるわ……)
魔物「ぎゃいんっ!?」
勇者「ふぅ。北に行くに連れて魔物の出る量も増えてきたな」
メロンパン職人「でも勇者さんって結構強いですよね。全然苦戦してないし、今まで全部危なげなく倒してるし」
勇者「鍛えてるからな。まあ剣の腕はまだまだって言われたけど。この聖剣のおかげってのもある」
メロンパン職人「聖剣って……なんか前もそんなこと言ってましたけど、それってどういう……」
勇者「ん……? おい、何か見えてきたぞ」
メロンパン職人「えっ、ま、また魔物ですかっ?」
勇者「違うよ、ほら」
メロンパン職人「……!」
勇者「たぶん北の都市で間違いないだろ。いやぁ、長かったなぁ」
勇者「早く行こうぜ、メロンパン職人」
タタタッ
メロンパン職人「ま、待ってくださいよ! 俺、一人にされたら魔物が出たときどうすればいいんですか!」
タタタッ
勇者「……」
メロンパン職人「……」
勇者「……」
メロンパン職人「……あの」
メロンパン職人「俺、北の都市には一度も行ったことはなかったんですけどね」
勇者「うん」
メロンパン職人「ガキのころから噂に聞くぐらいは、結構栄えた街って印象は持ってたんですよ」
勇者「俺もだよ」
メロンパン職人「人口も、そりゃあ王都ほどじゃないにせよ多い方だし、そりゃあまあ、立派な外門だって想像はしてましたよ」
勇者「そうだな」
メロンパン職人「……何で、外門全体がパッキパキに凍りついてるんですかね」
勇者「……何でだろうなぁ」
メロンパン職人「あるわけないでしょ。あれでどうやって門を開閉するって言うんですか」
勇者「……それもそうだな」
メロンパン職人「嫌だぁ……あの村で村長から聞いた噂って本当だったんだ……行きたくないよぉ……」
勇者「ばかやろう、行ってみなくちゃわからないだろうが」
勇者「うん」
メロンパン職人「調査隊って、調査したら帰って来るもんでしょ、王都に」
勇者「一般的にはな」
メロンパン職人「……俺ら、ここに来るまでに誰かとすれ違ったりしてないですよね。調査隊が出たのって結構前なのに」
勇者「そうらしいな」
メロンパン職人「絶対何かがあったじゃないですかぁ……」
勇者「参ったな。門が閉まってちゃ俺たちも都市に入れねえよ」
勇者「どうやって入ったもんか……」
聖剣「>>225」
勇者「メロンパン職人に?」
勇者「だけど、こいつは……」
メロンパン職人「はぁーーーー……王都に帰りたい……パンを焼いて細々と生きていればよかった……」
勇者「これはちょっと使い物にならないな」
勇者「何しに来たんだよこいつは」
勇者「仕方ない。ここは俺がなんとかしてみるか」
メロンパン職人「……何ですか」
勇者「俺はさ。これでも聖剣に選ばれし勇者ってやつらしいんだよ」
メロンパン職人「はぁ」
勇者「その聖剣に選ばれし勇者である俺が、唯一選んだ旅の共は、お前なんだよ」
メロンパン職人「……何で俺なんかを選んだんですか。王都にはもっと、こう、荒事に慣れた人とかいるじゃないですか。わざわざ俺なんかを」
勇者「お前しかいなかったからだ」
メロンパン職人「……俺しか、いない……?」
勇者(安価で出た奴が)
勇者「もっと胸を張れ。自信を持て。お前はお前自身を評価していないかもしれないけど、俺はお前のことをちゃんと見ているぞ」
勇者「俺はお前の可能性を、信じている。お前は、やればできる奴なんだってな」
メロンパン職人「勇者さん……」
メロンパン職人「俺たちにしか、できないこと……」
勇者「だが、このままじゃあ都市に入ることができない。使命を達成することができない。……なぁ、メロンパン職人」
メロンパン職人「は、はい」
勇者「俺はこの一件、お前に任せてみようと思うんだ」
メロンパン職人「お、俺に!? この門を!? そ、そんなの……」
勇者「お前はできないと思っているか? 自分を信じることが、出来ないか?」
メロンパン職人「……」
勇者「そして証明してくれ。お前を信じた俺が、間違ってなんかいなかったってことを」
勇者「お前が、やればできる奴なんだ、ってことをさ……!」
メロンパン職人「……!!」
メロンパン職人「アンタにそこまで言わせたんだ。必ず、どうにかしてみせるよ!」
メロンパン職人「俺を連れてきたアンタを、後悔なんてさせない!」
勇者「ああ! がんばってくれ!」
勇者「俺はちょっと離れたところで見てるから! 見させてもらうよ、お前の出した「答え」ってヤツをさ!」
メロンパン職人「任せてください!」
メロンパン職人「……」
スゥーーーーーー……
メロンパン職人「たのもーーーーーーっ!!」
メロンパン職人「この門を開けてほしいんですけどーーーーっ!!」
メロンパン職人「誰かーーーーっ!!」
メロンパン職人「おーーーーいっ!!」
メロンパン職人「……」
メロンパン職人「メロンパンありますよーーーーっ!!」
メロンパン職人「おいしいメロンパンいかがっすかーーーーっ!!」
勇者「……あいつ、あんなデカイ声出せたんだな」
勇者「店の売り子とかやってたんだろうし結構声張るのは慣れてんのかな」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……ん?」
勇者「門の上から、何かが……!」
バサバサッ
氷鳥「ギィ、ギィ!!」
勇者「あれは……あの時の村にいた魔物と似てる! 鳥なんかもいたのかよ!」
勇者「そのままメロンパン職人がつままれて、上空に……」
勇者「この距離じゃ追いつかないな」
勇者「攫われて、門の向こうに……飛んで、行っちゃったぞ……」
勇者「……」
勇者「メ……メロンパン職人ーーーーっ!!」
勇者「どうしよう、メロンパン職人が攫われちゃったぞ」
勇者「どうする、どうしよう……そうだ、安価!」
勇者「どうしよう!!」
聖剣「>>259」
勇者「残ったメロンパン……! そうだ、今日のメシで出たけど流石に飽きたからこっそり隠しておいたメロンパンがここにある!」
勇者「よいしょ……」
ポテ…
勇者「積むって言っても、一つしかないんだがな」
勇者「地面に置いちまったからもう食えねえな、これ」
勇者「まあ安価は達成したし大丈夫だろ」
勇者「ここはメロンパン職人を信じることにしよう」
氷の魔女「……そなたか。わたしの街の前で、なにやら喚いていたとか言う小僧は」
メロンパン職人「……」
メロンパン職人「…………」
メロンパン職人「……………………あの、メロンパンいかがっすか?」
勇者「ひとまずメロンパンを積むのは成功したから回収しておこう」
勇者「あとは……そうだな、とりあえず都市の外周でも回って見るかな」
勇者「驚いたな。この都市、東西南北の全部の外門が氷漬けにされてるじゃないか。都市間の連絡が途絶えるわけだよ」
勇者「これじゃあ、いよいよ中に入れないんだが」
勇者「……うぅっ、さぶい……」ブルッ
勇者「おぱんつ沢山履いてるとは言え、こんな所歩き回ってたら風邪引いちゃうよ」
勇者「日が沈んできたしおなか空いてきたし、今日はもう休むことにしようかな……」
勇者「パンティは見つからないしメロンパン職人はどっか行っちゃうし、前途多難だなぁ」
メロンパン職人「……」
氷の魔女「メロンパン?」
メロンパン職人「メ、メロンパンです」
メロンパン職人(く、食いついたっ!)
メロンパン職人「え。もしかして、メロンパン知らないんですか?」
氷の魔女「……ふむ」
氷の魔女「そなた、今わたしを無知だと笑ったか? わたしは馬鹿にされるのが嫌いなのだが」
キィーーーーン……!
メロンパン職人「めめめ、滅相もありません! 美味しいパンです! 食べ物なのですよ!」
氷の魔女「……どれ、見せてみろ」
メロンパン職人「こちらです」スッ
氷の魔女「……ほう」
メロンパン職人「はい、パンですから」
氷の魔女「……ふむ。まあ良いだろう。それで? メロンパンとやらの正体はわかったが、そなたはそれを持って何をしにここへきたのだ」
メロンパン職人「! お、俺は……」
メロンパン職人(ここで答え方を間違えたら殺される気がする)
氷の魔女「それで、この氷の魔女にもその腕を売り込もうと? そのような理由でわざわざこの地に足を踏み入れたというのか?」
メロンパン職人「そ、そうなんです!」
氷の魔女「……」
メロンパン職人「……」
氷の魔女「……ふふっ」
メロンパン職人「……」
メロンパン職人「……あはは……ははははは……」
氷の魔女「今わたしのことを笑ったか?」
メロンパン職人「笑ってません」
メロンパン職人「は、はい、ただいまっ!」
タタタッ…
ピキィィィン! パキパキパキパキ!!
氷の魔女「こら、気安くわたしに近寄るでない」
メロンパン職人「どうしろと!?」
フードの男「魔女よ。こんなところに居ましたか」
メロンパン職人「!!」
氷の魔女「……お前か」
メロンパン職人(だ、誰だ……?)
フードの男「なに、ちょっとした確認ですよ。この国の王都への侵攻は順調かなと思いまして」
氷の魔女「ふん。まあぼちぼちと言ったところだな。今、氷獣どもに向かわせている。焦らずとも、その内着くであろう」
フードの男「お願いしたのは随分と前のはずなんですがね」
氷の魔女「なんだ、文句があるのか?」
フードの男「いえ。ただ、貴女にしては少し遅すぎるなと思っただけですよ」
氷の魔女「……」
氷の魔女「……命令されるのは、好きではない」
フードの男「これは命令なんかじゃありません。ただのお願いです」
フードの男「ですが、こちらも貴女のお手伝いをしたのです。少しくらいの見返りは期待しても良いでしょう?」
氷の魔女「ふん。よく言ったものだ」
氷の魔女「あの忌々しい封印を取り払ってくれたことだけは認めてやろう。今回の件はあくまでもその見返り。別にお前たちに従うわけではないからな」
フードの男「それで結構。期待していますよ」
フードの男「……ああ。ところで、アレはどうしましたか?」
氷の魔女「殺しても殺しきれんのでな。かと言って赦すつもりもない。この城の下に閉じ込めてやった」
フードの男「……なるほど。貴女らしい」
フッ
メロンパン職人「き、消えた……!」
氷の魔女「うん? お前、まだいたのか」
勇者「……さて」
勇者「いろいろ考えてみたけど、どうも俺一人の頭じゃどうにもならないらしい」
勇者「聖剣よ。この状況を打破する方法はないか?」
聖剣「>>335」
勇者「二番煎じ……?」
勇者「……なるほど、そういうことか」
勇者「確かに俺は昨日、良い見本を見たばかりじゃないか」
勇者「メロンパン職人。お前のおかげで光明が見えてきたぜ」
勇者「……」
スゥーーーーーー……
勇者「たのもーーーーーーっ!!」
勇者「この街に入りたいんですけどーーーーっ!!」
勇者「門を開けてくれーーーーっ!!」
勇者「おーーーーいっ!!」
勇者「はぁ、はぁ」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」
バサバサッ
氷鳥「ギィ、ギィ!!」
勇者「……来やがったな!」
勇者「待ってろよ、メロンパン職人!」
氷鳥「ギィ、ギィ!」
ガシッ!
勇者「ん?」
氷鳥「ギィ!!!」バサバサッ
勇者「……あいたたたたた!!」
勇者「運んでくれるのはいいけど、食い込んでる! 爪がすごく食い込んでる!!」
勇者「いたたたたたたっ!」
勇者「思ったより痛い! 思ったより痛いって、この運び方! しかも冷たい! 氷だから仕方ないけど、もうちょっと丁寧に持てよ!」
勇者「てか、高い! 揺れるし! この持ち方で大丈夫? なんか不安になるんですけど!」
勇者「もっとしっかり掴んで! 俺が安心できるようにもっと深く、それでいて爪の先っぽ当たんないように優しく運んで!」
氷鳥「……」バサッ、バサッ…
勇者「聞いてんのか、このトリ野郎!!」
ポロッ
勇者「へ?」
勇者「……」
勇者「お前、覚えとけよおおおおぉぉぉ……!!」
ヒューーーーーー……
勇者「……」
ムクリ
勇者「ぺっぺっ……雪が口に入った……」
勇者「この高さから落とされたら、俺じゃなかったら危なかったぞ」
勇者「メロンパン職人のやつ大丈夫かよ」
勇者「建物自体は王都にもありそうな物が並んでるけど、建物全体に氷が張ってる」
勇者「……これ、住人はちゃんと生きているのか?」
勇者「まさか全員殺されてる訳じゃないだろうな」
勇者「……ん?」
ズズズズ…
氷像A「……」
氷像B「……」
氷像C「……」
勇者「さっそく魔物かよ。いよいよもって人が住める環境とは思えなくなってきたな」スラッ
氷像A「––––––––!」ズズゥン…!
勇者「おおおっ!」
ズガッ! ドシュッ!
氷像B「––––––––」
氷像C「––––––––」
ガラガラガラ…
氷像D「……」
氷像E「……」
氷像F「……」
氷像G「……」
勇者「はぁ、はぁ」
勇者「……いま、倒したので何体目だ?」
勇者「いくら何でも数が多すぎだろ。全然減ってる気がしねえっ」
氷像H「……」
氷像I「……」
氷像J「……」
勇者「いくらでも替えの効く量産品ってやつか」
勇者「こんなの全部相手してたらキリがない!」
ズバッ!
勇者「いつまでもこんなこと続けられたら先にこっちが参っちまう」
勇者「……こいつら、あっちの方向からゾロゾロ来てるな。大元がそこにあるのか?」
勇者「大元叩きに行くのもアリか。一旦逃げて立て直すのもいいか」
勇者「どっちにしろ、俺の居場所がバレてる以上こいつらいつまでも湧いて来るぞ」
勇者「聖剣! 何か良い策はあるかっ」
聖剣「>>429」
勇者「うるさいな! で、どうするんだよ」
聖剣「……」
勇者「……」
聖剣「…………」
勇者「…………」
勇者「……あれ? それだけ?」
勇者「なんかないのか! こう、状況を打破する何かとか!」
聖剣「……」
勇者「……どうして何も喋ってくれないんだ」
氷像「––––––––!」ブンッ!
勇者「……くそっ!」
ガァン!
無数の氷像「……」ゾロゾロ
勇者「やべぇ、モタモタしてたら完全に囲まれちまった」
勇者「なぜ何も答えてくれないんだ聖剣!」
聖剣「……」
勇者「……まさか」
勇者「俺がパンティの安価をなかなか達成しないからって拗ねてるのかお前!」
聖剣「……………………」
勇者「くそっ、そういうことかよ」
勇者「魔物に支配された都市を攻略するとか、それどころじゃないってわけか」
勇者「そうとわかればこんな奴らを相手している暇はない」
勇者「パンティ探しに行かなくちゃ!」
ズバッ!!
氷像「––––––––」ズズゥン…!
勇者「パンティ、パンティ……まずはこの都市で生き残りの女の子とかが居そうなところを見つけなきゃな」
勇者「火のないところに煙は立たない」
勇者「女の子のいないところにパンティは無いからな」
タタタッ
勇者「はぁ、はぁ」
勇者「あの氷像ども、足はあんまり速くないみたいで助かったな……」
勇者「一先ずは撒けたみたいだ」
勇者「えぇと、とりあえず状況を整理するか」
勇者「どれもこれも氷が張ってる……こんな中に人が居るもんかね。凍え死んじまうよ」
勇者「ドアなんかも凍りついてるから、人が出入りするのは難しそうだ」
勇者「都市全体があの氷のやつらの親玉に支配されてるっぽいな」
勇者「そして、その親玉ってやつは多分……」
勇者「……」
勇者「ここからでも見える、あのでっかい氷のお城にいるんだろうなぁ。如何にも!ってかんじがするし」
勇者「だが今はそんな奴を相手にしてる場合じゃないよな」
勇者「こんな時に頼りになりそうな安価は……」
聖剣「……」
勇者「……パンティ見つけるまではお預けか」
勇者「!!」
氷鳥「ギギィ! ギィ!」
勇者「あのクソドリめ……お前に落とされたの、絶対忘れないからな」
勇者「この剣が届く距離なら叩き斬ってやるところなんだが……」
勇者「……」
勇者「ところで。なんであいつ、あんな所でじっと止まってるんだ?」
氷鳥「ギギィ! ギギィ! ギギィ!」
勇者「……まさか」
氷像A「––––––––」
氷像B「––––––––」
勇者「俺の居場所を氷像どもに伝えてるのか!」
勇者「地上のどこにも……」
勇者「!」
氷像「––––––––!」ブンッ!
勇者「っ!」バッ
ズバッ!
ズズゥン…!
勇者「地上に逃げ場が無いのなら、空から見えない所になら生き残りがいるかもしれない……?」
子ども「お母さん……おなかすいた……」
母親「ごめんね……でも、今はどうにもならないの」
母親「配給の時間までもうすぐだから、もう少し待ってね……」
子ども「……」
市民B「仕方がないだろう。食糧にも限りがある。今は我慢の時だ」
市民A「我慢って言ってもよ、ここに閉じこもってから何日だ? 魔物どもに我が物顔で俺らの街を支配されて、こんな所で黙ってていいのかよ!」
市民B「……少し落ち着くんだ。気持ちは俺だって同じだが、今俺たちが上に行ったって、バケモノに殺されるだけだ」
市民A「……くそっ!」
市民B「やめろ。……聞こえるだろ」
市民A「聞こえるように行ってるんだよ。偉そうなこと言ったくせに、負けておめおめ帰って来やがって。一人分の食糧だって貴重なんだし、こんなことなら戻って来ない方がマシだったぜ」
市民B「言い過ぎだ! ……なあアンタ、すまない。こいつもちょっと、限界が来ていてな。どうしても何かに理由を付けて当たり散らしたいらしい」
市民B「アンタも俺たちのために戦ってくれたって言うのにな……すまない……」
市民B「けど、いざと言うときに戦える人が一人でも居るのは心強いんだ。気を、悪くしないでくれよ」
傭兵「……」
傭兵「私への配給は減らしてくれて構わない。その分、そこの子どもに与えてくれ」
市民B「……」
傭兵(外門があのザマでは隊長から請け負った最後の依頼も果たせない)
傭兵(……無様だな)
市民A「!」
市民B「!」
傭兵「……」
市民B「こ、この居場所がバレたのかもしれない」
市民C「そんな……ここがダメなら、後はどうすれば」
市民D「もう動けない人だって居るんだぞ……」
ザワザワ…
傭兵「私が様子を見て来よう」
市民「!」
市民A「いいじゃないか。ここでゴロゴロされてるよりかは役に立つ」
市民B「そんな言い方!」
傭兵「いや、その男の言う通りだ」
傭兵「敵の首魁を倒すと大言し、手も足も出ず見事に返り討ちにされたのが我々の隊だ」
傭兵「素直に王都へ救援を要請すれば良かったものをな」
傭兵「この状況は我々に責任がある。その生き残りとして、せめてもの尻拭いをさせてもらいたい」
傭兵「……ここで動かねば、私は本当に何をしに来たのかわからなくなる」
傭兵「……」
キョロキョロ
傭兵「……鳥は、いないようだな」
傭兵「……」
ズズゥン…!
傭兵「! 騒がしいのはあちらか」
傭兵「どうやらこの場所が見つかった訳では無さそうだが」
傭兵「……行くしかあるまい」
タタタッ
勇者「なんかさっき良い案が浮かびそうな良い所だったのに!
ズバッ!
勇者「考える時間もくれないってのかよ!」
ドシュッ!
氷像A「––––––––」
氷像B「––––––––」
ドシャァ、ガラガラ……!
勇者「くっそぉ……! あの憎たらしいトリ公め……いい加減にどっか行きやがれ!」
氷鳥「ギィギィ!」
勇者「……お前は必ず叩き斬ってやるからなぁ……!」
氷鳥「……ギ?」
ドシュッ!
勇者「……え?」
氷鳥「…………ギィ……」フラッ…
ドサッ
勇者「あれは、剣……?」
勇者「!」
氷鳥「ギィ……」
傭兵「……」
ズバッ
勇者「あんたは……?」
傭兵「……この鳥も、一度倒したところですぐに新しいものが出てくる」
傭兵「私と話をしたいのなら、まずはこいつらを撒くことに専念しろ」
……
勇者「はぁ、はぁ」
傭兵「……」
勇者「こ、ここまで来れば暫くは安全だろ……少し、休ませてくれ……」
傭兵「……そうだな。鳥がまた作られるまで、もう少し時間があるだろう」
傭兵「君の息も上がっているようだしな」
勇者「う、うるさいなぁ……こっちは街に着いてからずっと戦いっぱなしなんだ。勘弁してくれ」
傭兵「……!」
勇者「そうだよ。王様の命を受けてな」
傭兵「王の……!」
傭兵「つまり君は王都から派遣されて来たわけか」
傭兵「ならば部隊は? どのくらいの人数だ。戦力を知りたい。教えてくれ」
勇者「ん? 俺ひとりだよ」
傭兵「……何だと?」
勇者「ああ……。あっ、それと、メロンパン職人も一緒だな」
傭兵「メロンパン」
勇者「うん」
傭兵(……王は何を考えているんだ?)
勇者「せめてどこか落ち着けるところがあれば良いんだけどさ。あのトリ公め」
傭兵「……」
傭兵「……まあ、嘘をついているようには見えないか」
傭兵「と言うよりも、器用な嘘をつける人間ではないと言ったところか」
勇者「その評価はなんだかフクザツなんだが」
傭兵「ひとまず、君なら大丈夫だろう。案内しよう。この街の生き残りの住人達の、隠れ家のような場所だ。そこならまだヤツの目は届いていないからな」
勇者「……隠れ家……?」
勇者「生き残り!!」
傭兵「ああ。と言っても、怪我人や女子供……力のない者たちばかりだ。悪いが戦力としては期待はしない方が」
勇者「女子供!!」
傭兵「あ、ああ」
勇者「……良かったぁ……もう、ダメかと思っていたよ……」
勇者「この街に来て、誰も人が居ないからさぁ……もう、女の人とかはいなくなっちゃったかと……」
傭兵「……」
勇者「す、すまん」
傭兵「息は整ったか?」
勇者「ああ!」
傭兵「なら、ついてこい。少し走るぞ」
タタタッ
傭兵(この男。力のない者達の安否に、そこまで心を動かされるか)
傭兵(これが底の知れないお人好しと言うやつか)
傭兵(……少しだけ、眩しいな)
勇者(女の子がいるならパンティくらい持ってるよな……)
市民A「……で? あいつが王都から送られて来た救援だって言うのかよ。たった一人で?」
市民B「……」
市民C「……」
市民A「はぁーーーー……。あんな小僧ひとりで何ができるって言うんだよ。穀潰しがまた一人穀潰しを増やして来やがった」
市民B「……おい、言い方ってものがあるだろう……」
市民A「綺麗事はよせよ。お前だって同じことを考えてるくせに」
市民B「それは……」
勇者「なんか雰囲気悪いな」
傭兵「長い間ここに閉じ篭っているからな。ずっと日を浴びていない上、食糧も限られている。彼らの精神も限界に近い。大目に見てやってくれ」
傭兵「君がどうやって封鎖されたこの街に入って来たのかも知りたいしな」
勇者「それもそうだな……––––––––」
……
勇者「––––––––と言う訳なんだ」
傭兵「……」
勇者「どうしたんだよ、頭抱えて」
傭兵「……命知らずにも程があるだろう。君とその同行者とやらは、馬鹿なのか」
勇者「なんだと」
勇者「なんか引っかかる言い方だな」
傭兵「しかし、参ったな。都市に入る方法さえわかれば出ることも出来ると思ったが……そのような方法は到底マネのできるものではない」
傭兵「あの氷鳥が、わざわざ都市の外に出してくれるとも思えんしな」
勇者「調査隊のみんなはどうやって入って来たんだ?」
傭兵「私達が来た時には外門は封鎖されていなかった。おそらく、邪魔者がこれ以上入り込まないようにと、私達が来た後に張ったのだろう。あの氷は」
傭兵「人ひとりでどうこう出来る相手ではないと言っておこう。市民からこの地方に伝わる話は聞いたが、まさしく伝承通りの力を持っている」
勇者「伝承通りの……力……」
勇者「……」チラッ
聖剣「……」
勇者(お前も、その伝承の中に居るんだよな? 古の勇者の、魔女退治の伝承の……)
傭兵(邪魔者とすら認識されていなかっただけではないだろうか)
傭兵「?」
勇者「……」
傭兵「……」
勇者「……」
傭兵「……」
勇者「…………」ジーーーーッ
傭兵「…………」
勇者「いや……俺、アンタの顔、どっかで見たことあるような気がするんだよなぁ」
傭兵「……私は君の顔に覚えは……」
傭兵「……」
傭兵「…………」
傭兵(……言われてみれば、どこかで見たことあるような)
傭兵「や、やめろ……」
子供「うええーーーーん」
勇者「!」
傭兵「!」
母親「ごめんね、ごめんね……もう少しだけ、我慢してね……」
勇者「……子供か」
傭兵「……」
市民A「……」
市民B「……」
市民C「……」
市民D「……」
傭兵(良くないな……このような閉鎖空間で聞く子供の泣き声は、精神を追い詰められた者達にとっては猛毒だ)
勇者「確か、この辺に……」ゴソゴソ
勇者「お。あったあった。回収しといて良かったよ」
テクテク
傭兵「どこへ行く」
勇者「ちょっとな」
勇者「腹が減ったのか?」
子供「っ!」ビクッ
子供「……おなか、すいたよぉ……」
母親「ごめんなさい……みなさんに迷惑をかけてしまって。空腹なのは皆一緒なのに」
勇者「いやいや、文句を言いに来たわけじゃないんだ」
子供「!」
母親「こ、これは……」
勇者「しーーっ。……みんなには内緒だぞ。一個しかないんだ」
子供「メロンパン……」
勇者「男の子ならそれくらい我慢しなさい」
勇者(一回地面に落としたけど、ふーふーしたから大丈夫だろ)
子供「……ありがとう」
母親「ありがとうございます……貴重な食べ物を……」
勇者「いや、これくらい良いんです……本当なら、もっと食糧があるはずなんだけどな」
勇者(食糧の管理はメロンパン職人に任せてたんだが)
勇者(あいつ、どこをほっつき歩いてるんだよ。肝心な時に限っていやがらねえ)
メロンパン職人「ううぅ……このお城、氷で出来てるからか寒すぎるよ……」
氷の魔女「今、その生地に唾が入らなかったか?」
メロンパン職人「ひゃいっ!!?」
氷の魔女「まさかとは思うが、それをわたしに献上するつもりではあるまいな」
メロンパン職人「ととと、とんでもない! 今すぐ作り直しますっ!」
氷の魔女「早くせよ。暇潰しとは言え飽きが来る」
メロンパン職人(飽きられたらどうなるんだろうか。と言うか、舌に合わなかったらどうしよう)
勇者「なぁ傭兵、さっき魔女退治の伝承を市民から聞いたって言ってたよな」
傭兵「……それがどうかしたか」
勇者「詳しく聞かせてくれよ。特に、「魔女を倒した」部分についてさ」
傭兵「!」
勇者「聞いてたさ。氷の魔女は伝承通りのすごい力を持ってたんだろ?」
傭兵「その通りだ。そして、人ひとりの力でどうにか出来る相手ではない、とも言った筈だな」
傭兵「君と魔物との戦いは一部見させてもらった。確かに剣の腕は悪くはない。荒削りだが、そこそこの魔物とやり合う分には問題ないだろう」
傭兵「だが、それだけだ。それだけで魔女が倒せると言うのなら、この都市はここまで追い込まれてなどいない」
傭兵「勇者と愚者は違う。勇気と無謀を履き違えるな」
勇者「聖剣ならあるよ」
勇者「聖剣なら、ここにあるんだよ。古の勇者のさ」
シャラン…
傭兵「……!!」
勇者「なら、伝承通りの聖剣で、倒せない道理は無いんじゃないか?」
傭兵「君は……」
市民B「なに? ここを出るって言うのか?」
勇者「うん。明日出ようと思う。ちょっと氷の魔女を倒しに行ってくる」
市民B「正気か!? 命を捨てに行くようなものだぞ!」
勇者「大丈夫だって。何とかなるさ」
市民B「あんたは魔女の恐ろしさを知らないからそんなことを言えるんだ」
市民B「……おい傭兵さん、アンタからも何か言ってやってくれ。直接対峙したことのあるアンタならどれだけ無茶な話かわかるだろう」
傭兵「……私も、この男について行くことにする」
市民B「はぁ!?」
勇者「でも、いつかは食べ物が無くなって死んじゃうだろ。死ぬまでここに引き篭もってていいのかよ」
市民A「…………いいとか、悪いとかの話じゃないだろう。昨日今日ここに来た程度の人間が、偉そうにとやかく言うのはやめろ。虫唾が走る」
勇者「……」
勇者「まあ何にせよ、俺たちがここを出て行くことに変わりはないよ」
市民A「……」
勇者「でも、そうだな。俺たちが勝っても負けてもアンタにとっては得なんだろ? なら、どうせなら応援しといてくれよ。俺たち勝つつもりで行って来るから」
市民A「……勝手にしろ」
周りの市民「くかー、くこー、くかー……」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」
勇者「……」ムクリ
キョロキョロ
勇者「よし、みんな寝ているな」
勇者「……明日の決戦には、必ず安価が必要になる筈だ」
勇者「そんなわけで、今の安価が使えない状況は非常にまずいんだよ……」
勇者「今夜中に、安価を使える状態にしておかなければならないんだ」
勇者「だから……これは仕方のないことなんだ」
勇者「俺だって悪気があるわけじゃないんだ」
勇者「仕方ないんだこれは。仕方ない、仕方ない……」
勇者「坊や、坊や……起きておくれ……」
子ども「うぅん、だぁれ……?」
勇者「俺だよ。覚えているかい?」
子ども「あ、メロンパンのお兄ちゃん」
勇者「しーーっ。みんな寝ているから静かにしようね」
子ども「うん、わかった!」
勇者「静かにね!」
子ども「どうして?」
勇者「少し探し物をしていてね。坊やなら何か知ってるかと思って聞きたいことがあるんだ。お兄ちゃんを助けてくれないか?」
子ども「うん。ぼくの知ってることならいいよ。何かある?」
勇者「……大人のみんなは、お着替えとかどうしているのかな?」
……
勇者「坊やの話をまとめると、どうやら市民たちはここに避難するときにちゃんと個人の必要最低限の荷物を持ってきているようだ」
勇者「下着とか、必要だもんな。俺だって避難したり旅行するなら替えのパンツは必ず持ってくる」
勇者「今は重ね着してるくらいだしな」モッコリ
勇者「……そして、ここが荷物置き場か」
勇者「……」
勇者「失礼します」
勇者「うーん、あれも違う、これも違う……」
勇者「これは……うわっ、男のパンツじゃねえか」ポイッ
勇者「どれが男でどれが女の子の荷物か一目でわかればいいんだがな」
ゴソゴソ
勇者「……!」
勇者「これは……!!」
勇者「これが女の子の鞄ってヤツか」
勇者「言われてみれば、なんか良い匂いがする気がする」
勇者「と言うことは、この鞄にパンティも……!!」
ゴソゴソゴソゴソ
??「そこで何をしている」
勇者「ッ!?」
勇者「よよよ、傭兵っ? どうしてこんな所に……」
傭兵「君が起き出してどこかに行くのが見えてな。挙動がおかしかったのでついてきた」
勇者「起きてたのか……」
傭兵「いいや、明日に備えて寝ていたさ。だが、君も旅をする者ならば、誰かの動く気配で起きられるように訓練はしておいた方がいい」
勇者「アドバイスありがとね!!」
勇者「……明日の決戦までに、どうしても必要な物がある」
傭兵「どうしても必要な物……?」
勇者「ああ。とても重要な物なんだ。残念ながら、俺はそれを持っていなくてさ。それが無いと、俺たちに明日の勝ち目は無いかもしれない」
傭兵「そんな大事なことを、どうして言わないんだ」
勇者(言えるわけないだろ)
勇者「えっ」
傭兵「大丈夫なものか。私と君は一蓮托生。運命共同体のようなものなんだぞ」
傭兵「こんな夜中にこっそり他人の荷を漁るくらいだ。よほど切迫しているのだろう」
傭兵「明日の切り札は、君とその聖剣なのだ。少しでも万全な状態で戦って貰わなければ私が困る」
勇者「いや本当、大丈夫なんで。勘弁してください」
勇者「……」
傭兵「気にするな。多少の暗い仕事なら私にも経験はある。たとえ探している必要な物が、金品やそれに類する物だとしても、協力すると約束しよう」
勇者「……」
傭兵「氷の魔女に勝つためだ。手段を選んでいる暇はないのだろう?」
勇者「……」
勇者「……本当?」
傭兵「くどいぞ」
勇者「……」
勇者「やっぱりいいや」
傭兵「……協力は要らないと?」
勇者「ああ。でも、心配は要らないよ。手がかりは見つけた。丁度、もう少しで目当ての物が見つかりそうなところだったんだ」
傭兵「そうなのか」
勇者「うん。だから傭兵は先に戻って明日に備えて休んでくれれば」
傭兵「ちなみに、手がかりとはどんな物だ?」ズイッ
勇者「いややややややっ、だからいいって……」
傭兵「……それ、私の鞄じゃないか」
勇者「へ?」
傭兵「何を見つけた? 見せてみろ」
勇者「いや、その、あの」
傭兵「明日の決戦に必要な物なのだろう。私の荷で良ければいくらでも貸してやる。そいつを見せてみろ」
勇者「あっあっあっ……」
傭兵「……ばぶぅ」
勇者「と言うかこいつ、女だったのかよ」
傭兵「あうー……」
勇者「……本人の前だけど、失礼して……」
ゴソゴソゴソゴソ…
勇者「あったぁ!! パンティあったよ聖剣!! 白いやつだ!!」
勇者「待ってろよ、氷の魔女。明日は必ず倒してやるからな」ギュッ
勇者「……その前にこいつをどうにかしないとな」
傭兵「きゃっきゃっ」
傭兵「昨日の記憶が少し曖昧なのだが」
勇者(なんか気不味くて目を合わせられない)
勇者「今から魔女の城へ向かうわけだが」
勇者「道中の氷像達の強さは問題ないが、いかんせん数が多すぎる」
勇者「一日経ってるし、あの憎たらしい氷鳥も復活してるんだろうな」
勇者「真正面から乗り込もうにも、全てを相手にしていればそれだけで日が暮れちまうだろうな」
傭兵「ほう。さすがに少しは考えているか。ならば、何か策があるのか?」
勇者「そうだな……」
聖剣「>>610」
勇者「!!」
勇者(喋った……)
勇者(良かった、俺の昨日の努力は無駄じゃなかったんだな)
勇者(この調子で安価を出し続けてもらうためにも、このパンティは肌身離さず持っておこう)
傭兵「どうした」
勇者「なんでもない。ありがとうな」
傭兵「?」
勇者「なあ。ここの都市に出る魔物の中で、氷で出来た魔物以外を見たことがあるか?」
傭兵「……無いな。昨日見た氷像の魔物の他にも、氷鳥や氷獣。どれもこれも氷で造られたものばかりだ」
勇者「じゃあ、溶かそう」
傭兵「……」
勇者「熱源をバラまきたい」
傭兵「街中に? だが、一口に熱源と言っても色々ある。そもそも、この避難所に奴らを燃やし尽せるような物資は無いぞ」
勇者「ここに無くても、地上にならあるだろ」
傭兵「地上……」
勇者「上の様子は見ただろ。この街は、全てが氷に覆われているけど、破壊されてる訳じゃない」
傭兵「つまり、どうにかして建物に入り込み、熱源……燃料を手に入れようということか」
勇者「だろ? 昨日お前から聞いた魔女退治の話でも、古の勇者は火を使ったらしいじゃないか」
傭兵「古の勇者は聖剣から炎を出していたみたいだが……」チラッ
傭兵「君は炎を出せないのか? それが出来れば、そもそも熱源を探す必要も無いように感じるのだが」
勇者「……」
勇者(試したこともなかったな)
勇者(振って炎が出るようなもんかね)
勇者「やったことないけど、試してみるか」
傭兵「!」
勇者「よし、行くぞ」スラッ
傭兵「ば、馬鹿者っ、こんな所で試しては」
勇者「炎よ!!」
勇者「……」
傭兵「……」
勇者「……出ないな」
傭兵「馬鹿か君はっ! 試すならばせめて外でやらないか!」
勇者「す、すまん……」
傭兵「おそらく、この地方だけの伝承なのだろう」
勇者「うーん……そっかぁ」
勇者(こんなことなら魔法使いの師匠の所でもっとちゃんと勉強しておけば良かったな)
勇者(炎の魔法とか初歩中の初歩って教えられた気がするけど、あの時はどうやって赤ちゃん魔法に応用するかしか考えてなかったんだよなぁ)
勇者「ん?」
市民「話がチラホラ聞こえて来たんだが、本気で魔女を倒そうとしているのか?」
勇者「ああ。そうだよ。昨日宣言した通りだ」
市民「それで……燃やせる物を探しているんだったか」
勇者「!」
傭兵「!」
勇者「魔石……?」
傭兵「……最北の山でよく採れると有名なあの石か」
市民「そうだ。石の中に可燃性の特殊な魔力を持っている石でな。王都に流通しているのも大体うちから出ている物だ。……それを使ってどうにかできると言うなら、使ってくれて構わん」
勇者「良いのかよ。商売道具じゃないのか」
市民「確かにそうだが、こんな状況が続いてちゃあ二度と商売なんてできんからな。この避難所ももう限界に近い。せっかくだからあんたらに賭けさせてくれ」
勇者「おっさん……」
市民「心配しなくても、あんたらに請求はしないよ。王都から少しは貰うつもりだが」
勇者「!」
勇者「……ああ。任せてくれよ。これが終わったら、きっとおっさんの店は有名になってるぜ。ここから出たら忙しくなるから、今の内にゆっくり休んでおいてくれ」
勇者「……」
勇者「鳥は……居ないみたいだな」
傭兵「今の内に行くとしよう。あの商人の言っていた魔石倉庫は、ここからそう遠くはないようだ」
勇者「途中で氷像に見つからなければいいんだけどな」
傭兵「多少の氷像と鉢合わせるのは仕方がないが、極力建物の陰に身を隠して上空の氷鳥に注意しながら進むべきだな。奴に見つかると厄介だ」
氷像B「…………」
勇者「……」
傭兵「……今だ」
サササッ
勇者「あいつ、結構ノロマだよな」
傭兵「アレを作るのにそれ程のリソースを割いていないのだろう。もっとも、その質量だけで十分な力はあるがね」
勇者「そういうもんか」
勇者「なんかあっさり着いたな。少し拍子抜けだ」
傭兵「……昨日の騒動から、もう少し警戒されていると思ったが。君の死体は確認されていないし、私の生存も魔女は知っているはず」
傭兵「単に、見くびられているんだろうな。私達がこの都市に居たところで、大した脅威にはならないと」
勇者「……ちょっと気に食わないけど、今はラッキーと思っといたほうがいいみたいだな」
傭兵「商人から鍵は預かっているが……」
勇者「地道に氷を削ってみようぜ。扉が開けられる分だけなら何とかなるだろ」
傭兵「……このナイフを使え。私はこちら側を削ってみる」
勇者「お。色々持ってるんだな」
傭兵「備えるに越したことはないからな」
ガリガリ、ガリガリ……
勇者「……全然削れてる気がしないんだけど」
傭兵「……黙って手を動かせ」
勇者「これ、無理じゃね」
傭兵「……」
傭兵「この氷、特殊な魔力が通っているようだな。魔力の伴わない物理では削ることすらできないか」
勇者「なんだよそれ。インチキ臭いな」
勇者「……」
チラッ
聖剣「……」
勇者「こいつって確かすごい聖属性を持ってるんだっけか」
傭兵「聖属性……そうか」
傭兵「仮にも魔女を退治した聖剣だ。試してみる価値はあるな」
勇者「おっ! 削れてる! やるじゃん聖剣」ゴリゴリ
傭兵「そうか」
傭兵「……」
勇者「……」ゴリゴリ、ゴリゴリ
傭兵「……」
勇者「……あの」ゴリゴリ、ゴリゴリ
傭兵「どうした」
傭兵「その剣は君にしか使えないのだろう。私が動くだけ無駄と思うが」
勇者「そうだけどさぁ……なんか、こう、あるじゃん」
傭兵「手を休めるな」
勇者「はい」
傭兵「ここが魔石倉庫か」
勇者「滅茶苦茶疲れた」
勇者「うわ、でっかいドクロマークと注意書きが掲示されてるぞ」
勇者「なになに……強い衝撃を与えると発火するのか」
傭兵「それだけの危険物と言うことだ。実際、この量の魔石が一度に燃えたら大変なことになるぞ」
傭兵「くれぐれも、扱いには気をつけてくれ」
勇者「ああ!」
傭兵(運搬方法は……倉庫内にある用具を使わせてもらうとして)
傭兵(それでも二人で持てる量には限界がある)
傭兵(問題は使い方、か……)
勇者「お、可燃石以外にも色んな魔石があるじゃん。すげえ。初めて見た。傭兵も見てみろよ」
傭兵「少し黙っててくれないか」
勇者「傭兵には男のロマンがわからないんだな」
勇者「まあいいか」
テクテク
勇者「……お。これは風を発生させる魔石か」
勇者「色んな種類の石があるんだなぁ。俺の田舎にはこんなのなかったし、見てるだけでワクワクするぞ」
勇者「……さて」
勇者「安価を達成する方法を考えないとな」
……
勇者「おい、少し外に出てくるぞ」
傭兵「……構わないが、はしゃぎ過ぎて敵に見つかるんじゃないぞ」
勇者「わかってるって」テクテク
傭兵「どこに行くつもりなんだか」
傭兵「……うん? あいつ、何か背負ってないか?」
傭兵「……」
傭兵「まあ良い。とにかく魔石の運用方を考えなければ」
勇者「まずは屋根に登るか」
ヨジヨジ
勇者「聖剣が氷に刺さってくれるから登りやすいな」ザックザック
勇者「着いた。なかなか良い景色じゃないか。一面氷の世界だけど」
勇者「氷の城は……向こうの方向か」
勇者「……」
勇者「さて、倉庫から持ってきたいくつかの可燃石」
ドン!
勇者「まずはこいつで屋根を燃やします」
傭兵「……」
パチパチ…
傭兵「……うん?」
傭兵「何の音だ……?」
傭兵「……」
傭兵「……上か?」
傭兵「!!」
傭兵「て、天井が、燃えている……!?」
勇者「よしよし、ちゃんと燃えてるな。魔力の通った炎だから、氷もちゃんと溶けてくれてる」
傭兵「勇者!?」
勇者「あ。悪いな。先に注意しておくべきだったかもだけど、なんか考え事してたみたいだったからつい」
傭兵「この屋根の火事は君の仕業か!」
勇者「そ、そんなに怒鳴るなよ」
勇者「いや、街中に可燃石をバラまかないと」
傭兵「バ、バラまく!?」
勇者「この量の石を持って手分けしてバラまいてたら時間かかるだろ?」
勇者「そこで俺はある魔石を見つけて、いいことを思いついたんだ」
傭兵「ある魔石……? と言うか、バラまくとは」
勇者「まあ見てろって。絶対上手く行くから」
傭兵「倉庫の中に居ると危ないからと勇者に追い出されてしまったが」
傭兵「彼は一体何を考えているんだ」
傭兵「……」
傭兵「……」
傭兵「……む。倉庫から勇者がすごい形相で走りながら出てきたぞ」
タタタタッ!
勇者「伏せろおおお!!!」
傭兵「え?」
ガバッ
ドカァァァァァン!!!!!
傭兵「!?」
傭兵「……」
傭兵「倉庫が爆発した……」
傭兵「何を考えているんだ!?」
勇者「いやさ。そもそもとして、俺たちって熱源を都市にバラまくってのがまず第一の目的だろ?」
傭兵「そんな話は初耳なんだが!?」
勇者「可燃石の他に風を発生させる魔石もいっぱい見つけたからさ」
勇者「屋根を取っ払って、風の魔石で可燃石をコンテナごと空に打ち上げたんだ」
傭兵「頭おかしいんじゃないのか」
傭兵「じゃ、じゃあ……」
バラバラバラ……
傭兵「……」
傭兵「都市に火の雨が降り注ぐ……」
勇者「大成功だな」
傭兵「地獄絵図だが」
タタタタッ
傭兵「……街が……家が、燃えている。どんどん燃え広がって行く」
勇者「可燃石で氷が溶けるのは実証済みだからな。計算通りだ」
傭兵「街を救うどころか壊滅させているじゃないか!」
勇者「でもそのおかげで、あいつら苦しそうだぜ?」
氷像A「––––––––」ギシギシ…
氷像B「––––––––!」ギシギシ…
ズバッ!
ガラガラ…
勇者「こりゃあいくら出て来ても楽勝だな! このまま魔女の城まで突っ走ろうぜ!」
傭兵(これが終わったら英雄どころかテロリストだな、私達……)
傭兵「門の前に何かがいるな」
勇者「ああ」
傭兵「大きいな。二頭の、あれは虎か?」
勇者「そうだな」
傭兵「……苦しそうだな」
勇者「これだけ周りが炎上してればな」
氷虎A「グルルルル……」
氷虎B「…………」
ズバッ! グシャァ…
勇者「おいおいこんなのに門番任せてて良いのかよ、魔女さんよぉ!」
傭兵「もはや何も言うまい」
氷の魔女「下が騒がしいな」
コツ、コツ、
氷の魔女「……ほう。やってくれる」
氷の魔女「折角この街をわたし好みの色に染めてやったというのに、それを破壊してくれるか」
氷の魔女「考えられるのはこの間取り逃がした、あの活きの良い人間か」
氷の魔女「昨日入り込んだ虫が一匹いた気もするが……それはないか」
氷の魔女「しかし。わたしの氷を溶かすためとは言え、街全体を破壊するような行為」
氷の魔女「……この破天荒さは、あの忌々しい男を思い出すな」
勇者「おおおっ!!」
ズバッ!
氷獣「––––––––!」グシャァ
勇者「やっぱり城の中にも魔物はいるよな」
傭兵「気を付けろ。城の外とは違い、中は完全に氷の世界だ。熱で弱っていた魔物どもと一緒に考えると痛い目に合うぞ」
勇者「わかってるって!」
ズバッ!
勇者「階段か」
傭兵「上に行く階段と、地下に行く階段があるな」
勇者「やっぱり偉そうなヤツなら上の方に居るもんじゃないか?」
傭兵「……その言い方には何か問題を感じるが、概ねその通りだろう。奴の性格ならば尚更な」
勇者「そう言えば傭兵は直接会ったことがあるんだったか」
勇者「このまま上を目指して氷の魔女のもとへ急ぐべきか」
勇者「それとも城内を散策して、情報を集めるのもアリか」
傭兵「? 何を一人で喋っている?」
勇者「気にするな」
聖剣「>>710」
勇者「は?」
聖剣「飛べ」
勇者「……飛べと」
勇者「こいつはまた難儀な……」
勇者「………………」
傭兵「さっきから一体どうしたと言うのだ」
勇者「何でもない」
勇者「どうしたんだよ」
傭兵「何か匂わないか」
勇者「臭う? えっ、俺?」クンカクンカ
傭兵「……そうではない」
傭兵「そうだな、これは……甘い匂い」
勇者「何だよそれ。俺は全然感じないけど」
勇者「それってどこから匂ってるんだよ」
傭兵「地下の方からだな。しかし意外だな。人の営みからかけ離れた存在と思っていたが、まさか魔女の城でこのような匂いがするとは」
勇者「うーん……」
勇者(とりあえず安価を達成する手がかりもまだ見つからないし)
勇者(魔女の元へは飛んで向かわないといけないから、このまま走って向かうのはまずそうだ)
勇者(ここはその甘い匂いとやらの元へ行ってみるのもアリかもな)
勇者「行ってみようか。地下へ」
コツ、コツ、
勇者「……」
傭兵「……」
聖剣「……」
勇者「……ん?」
傭兵「どうした」
勇者「いや……」チラッ
聖剣「……」
勇者「……」
勇者「……気のせいかな」
傭兵「先に進むぞ」
聖剣「……」
勇者(何なんだ、この感じ)
勇者「おりゃっ!!」
ズバッ!
傭兵「大分手慣れているな」
勇者「まあな。この街に来るまでの道中とここに来てからを含めて何回も戦ってきてるんだ。嫌でも慣れるさ」
傭兵「頼もしいことだな」シュッ
ドシュッ!
氷獣B「GAAA……!」
傭兵「こんな時に世辞などいらん」
勇者「お世辞じゃないっての。こんなに強いのにフリーの傭兵なんてやってるんだからさ。勿体無いよな」
傭兵「私がどう生きようと私の勝手だろう」
傭兵「それよりも、私の剣では傷一つ付けられなかった魔女とこの城で戦うのだ」
傭兵「君とその聖剣の役割、わかっているんだろうな」
勇者「……ああ」
傭兵「匂いの元は、もうすぐ近くのようだ」
勇者「……ここまで来ると、俺も何となくわかってきた気がする」
勇者(地下へ行くに連れて、なんだか聖剣が反応しているような……)
勇者(もしかして、それと関係が……?)
傭兵「……待て」
勇者「!」
勇者「気配……魔女か!?」
傭兵「わからない。……が、恐らく違うだろうな」
傭兵「奴の気配はもっと冷たく、大きい。奴の性格なら、わざわざ自分のテリトリーで気配を隠すような真似はしないと見る」
勇者「……そうか」ホッ
傭兵(……いくら聖剣に選ばれし勇者と言えど、やはり魔女と聞くと気を張ってしまうものか)
勇者(今飛べてないから魔女と会うわけにはいかないんだよなぁ)
勇者「……わかった」
勇者「……」
傭兵「……三!!」
バン!!
メロンパン職人「はぁ……寒いし暗いし、魔女は怖いし……王都に帰りたいよぉ……」コネコネ
勇者「……」
傭兵「……」
メロンパン職人「本当はメロンパン嫌いなのに、俺に嫌がらせするためだけに作り直しさせてるんじゃないかなぁ……」コネコネ
メロンパン職人「はぁーーーー……おうち帰りたい」
勇者「……」
傭兵「……」
メロンパン職人「えっ? ………………ああーーーーーっ!!」
メロンパン職人「勇者さん!! 勇者さんじゃないですか!!」
勇者「……」
傭兵「……知り合いか?」
勇者「……うん」
勇者「……」
メロンパン職人「良かったぁ……ずっと一人ぼっちで、心細かったんですよ……」
勇者「……」
勇者「……ああ! 遅くなってすまないな。お前が無事で良かったぜ!」
勇者(すっかり忘れてたとか言えない)
メロンパン職人「実はあの後、氷の鳥に攫われて––––––––」
勇者「……それはまた」
勇者(なにやってんだこいつ)
メロンパン職人「その度に氷漬けにして来ようとするから、必死にお願いして作り直しさせてもらってたんですけど……おかしいですよね?」
メロンパン職人「俺のメロンパンの味は、勇者さんも認めてくれてるって言うのに」
勇者「……そっかぁ」
傭兵「……メロンパン職人と言ったか。彼がそうだったのか」
メロンパン職人「えーと。……そちらの方は?」
勇者「この都市で知り合った傭兵だよ。北の調査隊の生き残りだ」
メロンパン職人「調査隊の……!」
勇者「剣の腕も相当立つ。頼りになるおと––––……頼りになる奴だ」
傭兵「宜しく頼む」
メロンパン職人「は、はい」
メロンパン職人「メロンパンを作れます」
傭兵「……」
傭兵(そういう技能は訊いていないのだが)
メロンパン職人「ま、魔女を!?」
勇者「うん」
メロンパン職人「ダメですって! あんなの倒すとか無理! 危険すぎますって!」
傭兵(勇者はどうしてこの都市へ来るのにこの男を連れて来たのだろうか)
「勇者・魔王」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (9)
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- 2018年11月11日 18:23
- すこ
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- 2018年11月11日 18:35
- 俺も
丁度いいss
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- 2018年11月11日 23:36
- うーん、はよ完結してくれぇぃ
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- 2018年11月12日 01:01
- 安価裁きが素晴らしく読みごたえがある作品ですな
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- 2018年11月12日 02:26
- これ面白いけどいつ終わんのかね
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- 2018年11月12日 09:31
- 赤ちゃん魔法とか急に使いこなしてて笑うわ
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- 2018年11月12日 10:46
- 氷の魔女も赤ちゃん魔法で良いんじゃね?
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- 2018年11月13日 17:40
- かなり好き
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- 2018年12月02日 20:19
- メロンパン職人きゅんすこ