【とある】TV 「ねことあひるが力を合わせて」
- 2018年10月15日 13:10
- SS、とある魔術の禁書目録
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白井 「? 男さん、何か言いまして?」
男 「えっ?(き、聞かれたっ!?)
い、いえ、何も言ってないですよっ?」
白井 「そうですの?」
男 「う、うう初春さん!? (しまった……また厄介な子に)」
初春 「誤魔化しても無駄ですよ~。
……たしか、十年くらい前のテレビCMでしたっけ?
ネコとアヒルが~~~って奴」
白井 「……? 何ですの? それ」
男 「……白井さんって何でそういちいち辛辣かなぁ」
白井 「何か言いまして?」
男 「滅相もございません」
初春 「ともかくとして、警邏中に歌を唄い出しちゃうようなイタい方に
どうこう言われたくないですよ。ねぇ白井さん」
白井 「ですわね」
男(女子中学生ズめ……)
白井 「何か言いましてー? ジャッジメント研修中の男さんー?」
男 「い、いえいえ。何も申してはおりませんよ」
何だってジャッジメントなんかに……そうだよ、
そもそも僕は学園都市なんかに来たくはなかったんだよ。
大体なんだよ、超能力者って。なんだよ、レベル4だと偉いのかよ。
ええオイ? 白井お嬢様よぉ)ミャー
男 「わっはあっ!」
初春 「わっ、ビックリしたぁ……」
白井 「男さん! いきなり大声出さないでくださいまし!」
男 「ご、ごごごごめんなさいぃ! い、いきなりコイツが足下から奇声を発したもので……」ミャー
初春 「え……? わぁぁあ、ネコちゃんだー!」
初春 「ネコちゃんネコちゃんネコちゃん~」ムギューッミャーミャーミャーッジタジタ
白井 「おやめなさい初春! ネコさんが苦しがってるではありませんか!」
初春 「えー……でもこんなに可愛いのにぃ」フシャーーーッ
男 「…………」ヒョイッ
初春 「ぅあ……男さんにネコちゃん取られちゃった」
ニャーニャーミャーッ
男 「……うんうん……こっち? ……ああ、分かったよ」
初春 「……? 男さん?」
ニャーーーーッ
男 「うん、大丈夫。……安心しろって」
ミャーミャナーナー
男 「……うん、うん、……なら、こっち、か……?」テクテク
初春 「ねーねー男さーん。無視しないでくださいよー」
白井 「……初春。少しお黙りなさい」
初春 「白井さん、いいんですか? 巡回経路からどんどん離れちゃってますけど」
白井 「致し方ありませんでしょう? それに、男さんの能力を忘れましたの?」
初春 「男さんの能力……? あっ、それって……」
白井 「思い出しまして?」フフン
初春 「……何でしたっけ?」テヘッ
男 「ん、分かった。ここだな?」
ニャー
男 「よし。……白井さん、初春さん……って、何をやってるのです?」
白井 「ふふふ……スキンシップですの」
男 「僕には白井さんが初春さんに4の字固めをかけているようにしか見えませんけど」
初春 「暢気に解説してないで助けてくださいー!」
白井 「初春がボケるからいけないのではありませんか」
男 「……まあ、何でもいいんだけどさ、ちょっとコイツを頼めます?」ポン
初春 「わぁ、ネコちゃん! ……って何でわたしじゃなくて白井さんに渡すんですか!」
男 「白井さんの方が頼りになるからです」
初春 「うっ……反論したいけどそのことに関しては反論できないです……!」
白井 「まぁ、わたくしもネコさんの体温を感じるに吝かではありませんが」
白井 「一体なんですの?」
男 「いや、ちょっと……五分だけ時間をください。すぐに済ませますので」
初春 「うわー……下から眺めてるとさながら大きなお猿さんですねー」
白井 「まったく同感ですわ。突然ビルの外壁を登り出すなんて、一体何を考えていらっしゃるのか」
初春 「わけ分からないですよねー」ソーッ
白井 「本当ですわねー」サッ ニャー
初春 「っ……そ、それで、男さんの能力って、一体なんでしたっけ?」ソーッ
初春 「たしかESP系のレベル1でしたよね?」サッ
白井 「『特殊感応』」シュン
初春 「あっ! テレポートは卑怯です……」スカッ
白井 「俗に言うテレパシストの一種ですわ」モフッ ミャー
男 「いや、もう二つ、三つ上だったら……うぅ……」
男 「やれやれ……」ヨジヨジ
男 「手が痛い……足が痛い……制服が汚れる……そして何よりJCふたり組からの目線がイタい」
男 「うぁぁ……不幸だー」
……ミャー……
男 「!」
男 「今、たしかに聞こえたよな」
……ミャー
男 「聞こえた! 一つ上のひさしか!」
………………
白井 「お一人でブツブツと……本当に独り言の多い方ですわね」ミャー
初春 「若干キモイですよねー」
男 「ふぅ……やっと着いた」
ミャー!
男 「やっぱりここにいたのか。ほら、こっちに――」
男 (って待てよ……コイツ持ってどうやって下りるんだ?)
ニャーニャー トコトコ
男 「わ、わっ。ま、待て待て待て! こっち来るな早まるな!」
ター ジャンプ
男 「うわわわわっ」 ヒシッ 「……すごく嫌な予感」
男 「ししし、白井さーん! う、うう初春さーん!」
白井 「まったく、一体なんですの?」
男『ししし、白井さーん! う、うう初春さーん!』
男『落ちますから気をつけてくださーい!』
白&初 「「……は?」」
ヒューン・・・ドダン!!
男 「っ~~~~~~~~」ジダンバダン
白&初 「「…………」」
初春 「……あの、男さん?」
男 「ッ~~~~~~~」
白井 「腰ですか? 腰ですのね?」
男 「ッ~~~~~~~」コクンコクン
初春 「うわぁぁぁ……男さん、十メートル近い高さから落ちたんじゃないですか?」
白井 「そんなにないでしょう。せいぜいが七、八メートルですわ」
初春 「それ、そんなに変わらなくないですか?」
男 「っ~~~~~(僕に対しての興味は一瞬で消えたんだね薄情な子たち!)」
ミャー!
白井 「あっ、ね、ネコさん?」
男 「痛たたた……ああ、大丈夫だよ。ほら、この通り」
ニャー!
ミャー!
初春 「! 男さんの腕の中から一匹の子ネコが!」
白井 「……何ですの? その説明口調は」
白井 「ともあれ、なるほどなるほど、ですわ」
男 「ははっ、良かったなお前ら……痛たたたたた……」ナデリナデリ
男 「……で、なに白井さん? そのイヤな笑顔は」
白井 「いえいえいえ、何でもありませんわよ」
白井 「ねぇ、ネコさんのために身体を張れるお優しい男さん」
ミャーミャー ナーナー
男 「僕はジャッジメントにならなきゃいけないんでしょう?」
ナーナー ニャーニャー
男 「だから、ただジャッジメントらしいことをしただけですよ」
フニャー ゴロゴロ
男 「だ、だからっ、べつに君たちのためにやったわけじゃないんだからっ」
男 「そんな良い笑顔でお礼なんて言わなくていいのっ!」
初春 「……白井さん、何であの人いきなりネコちゃん相手にツンデレになったんですか?」
白井 「さぁ? 馬鹿だからじゃないですの?」
初春 「つまりアレですか? 男さんはこの子ネコちゃんを助けるために、」ビシリ!
初春 「あんな高いところまで登ったって言うんですか?」
男 「腰痛い……うん、そうですけど……」
ミャー ナー
初春 「…………馬鹿なんですか?」
男 「白井さんならともかく、初春さんからそんな辛辣なお言葉を賜わるとは思いませんでした」
男 「はい、それじゃ、今度からは気をつけるんだよ?」
ミャー ニャー
白井 「行ってしまいましたわね」
初春 「……ああっ!!」
男 「うわぁ! いきなり大声出すのやめてくださいよ! 腰に響くじゃないですか!」
初春 「男さんの能力、思い出しました!」
男 「間違っちゃいないけどさ……『』でくくる意味ないと思う」
男 「『特殊感応』だよ。僕は限られた特定の動物と会話ができる。脆弱な能力だけどね」
白井 「そんなにご自分を卑下なさることはありませんよ」ポン
男 「はにゃん!? し、ししし白井さん! 痛いから腰には触らないでください!」
白井 「あんな高さから落ちて腰が痛いレベルで済んでるのですもの。どこぞの類人猿と同様に悪運は強いようで」ポンポン
男 「ふにょっっほぉぉお!!」
白井 「……少し見直しましたけどね」
男 「………………」プルプルプル
白井 「まあ、一言だけ言わせてもらえるのなら、」
白井 「わたくしのテレポートなら一瞬で終わりましたのに」
男&初 「「………………あっ」」
男 「痛いッ! 痛いですもっと優しくしてください! できればもっと愛も込めて!」
固法 「うるさいわねぇ。湿布を貼るのに優しくも何もあるわけないでしょ? っていうか何よ愛って」パンパン
男 「っ……! い、今の音は優しさ以前の問題かと!」
固法 「ねぇ男くん。無い物ねだりって、とっても不毛だと思わない?」
男 「くっ……一瞬でも正論だと思ってしまった自分が嫌だ……っ」
男 「っていうか! 病院に行かせてくださいよ! 職務中の事故だから労災くらい出るでしょ!?」
固法 「風紀委員はあくまでボランティア。保険はかかってるけど……私の『透視能力』で異常が見受けられないから大丈夫よ」
男 「な、なんてアバウトな民間療法だっ……!」
白井 「ですわねぇ」
男『うわぁぁぁぁ何で冷湿布なんですかこういう時って普通は温湿布じゃないのです!?』
固法『……どっちもでもいいんじゃない?』
男『だからそのアバウトさは何なの!? 僕のこと嫌いですか!?』
固法『………………』
男『真剣な顔をして黙り込まないでくださいよぉ!』
白井 「…………」
初春 「見直したこと後悔してますね白井さん」
男 「痛たたたた……まだ腰の違和感が消えないな」
男 「ひょっとして何か異常があるんじゃ……ないよな。固法先輩がないって言ってるんだもんな」
男 「ただいまー、と」ガチャリ
?1『遅いじゃない! 今日は五時には帰ってくるって約束だったでしょ!?』
?2『本当よ! 私たちのことを何だと思ってるの!?』
男 「……すまん。若干忘れてた」
?1『忘れてた!? コイツのこととはともかくとして、私のことも!?』
?2『な、なんですってぇ!? それを言うなら忘れられるのはいつもアンタの方じゃない!』
?1『何訳の分からないことを言ってるのよ! このメスブタ!』
?2『ブタじゃないわよ! この泥棒ネコ!』
?1『それは……泥棒ってのが余計よ! この鳥類!』フシャーッバリバリ!!
?2『淫乱な哺乳類は黙りなさい!』ガーガーバキバキ!!
男 「特にネムサス! お前はふすまをガリガリやるな!」
ネ『何よ男! 私の爪がボウボウに伸びて根本から折れて化膿して壊死して腕がボロって取れてもいいっていうの!?』フシャーッ
男 「そこまでは言ってないよ! っていうかお前、デイジィも!」
男 「風呂場からろくすっぽ身体を乾かさずに居間に来るなよ! 畳がべっちゃべちゃじゃないか!」
デ『なに!? つまり私に干からびて死ねって言うの!?』
男 「だからそこまでは言ってないだろ!」
男 「うぅ……またテメェで直さないと……管理人のお姉さんに怒られる……」
ネ『なによ、若干期待してるくせに』ニャーニャー
デ『男ってほんと不潔よねー』ガーガー
男 「否定はしないけどな……ネコとアヒルに言われたくはないよ」
男 「……はぁ、何だって僕にはこんな能力しかないんだ……?」
男 「ネコとアヒルの言葉しか分からないなんて……限定的すぎだろ……」
男(5) 「はぁ……」
男(5) 「明日から学園都市……超能力者の街、かぁ」
男(5) 「僕はあんなトコに行きたくはないんだけどなぁ……」
男(5) 「お母さんも、離ればなれになってまで僕を超能力者にしたいのかな」
男(5) 「……ん?」
TV 「――ネコとアヒルが力を合わせてみんなの幸せをー――」
男(5) 「……みんなの幸せっていうんならさ、」
男(5) 「僕も幸せにしてよ」
TV 「――ニャフラック!」
男 「う、ん……フニャ……」
……ニャー! ガー!
男 「うーん……ムニャムニャ……」
……ニャーニャー! ガーガー!
男 「うー……うるさいなぁ……ムニャ……」
……キラン ギラン
……バリバリ ガッガッ
男 「痛ぁ!」
男 「が、顔面にネコパンチが! アヒルキックが!」
男 「こ、こら! ネムサス! デイジィ! 朝っぱらから何をするんだよ!」
ネ『時計見なさいよ! 馬鹿!』
デ『せっかく起こしてあげたのに、その言い草は何なの!?』
男 「何故だろう。ツンデレな女の子ふたりに起こされてるのに、悲しくて涙が出るよお母さん……って」
男 「ええ! 八時十分!? ち、遅刻するぅぅぅぅ!」ドタバタドタバタ
デ『――私がいないとダメみたいね』
ネ『…………』
バチバチバチバチ
デ『…………』
フシャーッ ガーッガーッ
男 「……聞こえない聞こえない。一羽と一匹の同居人(?)が喧嘩する音なんてこれっぽっちも聞こえない! いってきます!」バダン!
シャーッ バリバリ ガーッ ガッガッ
男 「……お願いだからこれ以上家を荒らさないでくれよ……」
男 「っていうか遅刻するー!」
男 「あっ、管理人のお姉さん。おはようございまーす」
お姉さん 「あら、男くん。おはよう。時間的にまずいんじゃない?」
男 「その通りです。なので失礼しまーす。お、飼い猫のシャムもまたな」
シャ『ふん、発情しおって。ガキが』ニャーウ
男 「……高級なネコ缶買ってきてもお前にだけはやんない」
お姉さん 「へっ?」
男 「い、いえ、なんでもないのですよー。ではまたっ!」ノシ
お姉さん 「気をつけてねー」ノシ
シャ『車に轢かれてネコの餌にでもなっちまえ』フニャー
?3 『あれぇー? 男さんじゃないッスか。チィーッス』
男 「んあ? ……誰かと思えばまた人間じゃないんだね」
?3 『ち、ちょっとちょっと、人の顔見てのっけからご挨拶じゃないッスかー』
男 「……一体このネコごとの口調の変化はどこから現れるのだろう」
男 「ともかくとして、おはよう。タマオ」
タ 『そうっす。オレがこの実験区域のボスネコ、タマオっす』
男 「嘘をつくな嘘を」
タ 『と、ところで男さん……ね、ネムサスちゃんは元気ッスかね?』
タ 『オレのことなんか言ってなかったッスか?』
男 「…………」
タ 『ねぇねぇ男さーん』ゴロニャーン
男 「まだアイツを抑え込むこともできなそうなチビが生意気に発情してんじゃないよ」ピーン
タ 『あ痛っ! 動物虐待ッスよ! 訴えるッスよ!』
男 「っ……かくなる上は、見つかるとまずいけど、実験区域をショートカット!」
男 「じゃな、タマオ!」ガサガサ
タ 『はいー、ネムサスちゃんによろしくー』
ガサガサゴソゴソ
男 「くそっ、ナントカ大学理学部の連中、ちゃんと整備しといてくれよ……」
アヒル1 『あっ、男さん! こんにちはー』スィスィー
アヒル2 『こーんにちはー』ッガッガ
アヒル3 『うわぁ、朝っぱらから草まみれでボロボロだね!』ガーガー
男 「……いいなぁお前らは。こんなワイルドな道を通らなくとも池を泳ぐことができて」
ズボッ
男 「っは……やっと実験区域を抜けたか。……身体中にくっつきムシが。うぅ……」
男 「でもショートカットのおかげで目の前はもう高校なのです!」
アヒル1 『男さん誰に話してるのー?』トコトコ
アヒル2 『あ、アヒル1くーん、ちょっと待ってよー』ヘコヘコ
アヒル3 『うわーん、ふたりとも置いてかないでよー』アセアセ
男 「………………」
男 「何で着いてきてるんだよお前ら!」
男 「ここは公道だから! 危ないから! 車来るから!」ブォン!
男 「って言ってるそばからかぁぁぁああ!」ガシッガシッガシッ
アヒル1&2&3 『お?』 『な?』 『わぁ!』
ブロロロロロロ……キヲツケロバカヤロー……
男 「あ、ああああ危ねぇぇえ……ヒュンってなった! 絶対に制服が車体にかすった!」
アヒル1&2&3 『『『?』』』
男 「つぶらな瞳で『何が起こったの?』みたいな顔をしてるんじゃないよ、まったく……」
男 「ん? ……うわ、何か超見られてるんだけど……」
アヒル1 『僕たちを三羽も抱えてるからじゃない?』
ナニアノヒトー アヒルモッテカタマッテルー キモーイ
男 「……不幸だ」
? 「あっ! コラお前ー!」
男 「へっ?」
おっさん 「このアヒル泥棒ー! 実験用のアヒル返せー!」
男 「い、いや、ちがっ……僕は泥棒じゃ――」ポイポイポイ
おっさん 「問答無よぉぉぉぉぉおおおおお!」タタタタタタッ
男 「ふ、不幸だぁぁあああああ!」ダダダダダダッ
アヒル1 『うわーい。今度は追いかけっこだね?』タタタ
アヒル2 『やったー』タタタ
アヒル3 『うわーん。だから待ってってばー』タタズルペタコケッ
? 「はい、遅刻ですぅー」スパコン
男 「ここでまさかの腰へのアタック!」ガクッ
男 「け、怪我人にも容赦ないとは……流石は合法ロリ……」
小萌 「? 男ちゃん怪我人さんなんですー?」
男 「怪我人さんなのですよー」エッヘン
小萌 「えばってないでさっさと席着くですよー」バシン
男 「痛い! だから腰は」スパン「ッ~~~~! こ、このドSロリめ……」
青髪ピアス 「男やん、おっはー。何やの? 朝っぱらからボロボロやん」
男 「ああ、青髪くん……ちょっと色々あってね……ハハハ」
青髪 「何やぁ? えっらい遠い目するなぁ」
青髪 「ってことはひょっとしてアレですか? 昨夜は同居中の女の子たちとしっぽりってことですか?」
男 「青髪くんって本当にグズだよね。ちなみに彼女らは女の子ではなく雌と言うんだよ?」
青髪 「男やん、そんな照れんでもええよ。この青髪ピアス様をしても獣姦はちと遠慮したいけど、」
男 「いやいや、あのね、そんなすごい存在を見るような目を僕に向けないで。僕は君よりは性癖まともだから」
青髪 「友達の性癖を否定するつもりも馬鹿にするつもりもありません。ただ温かい目で見守らせていただくわ!」
男 「……くそ。ネムサスがいればひっかき攻撃をお見舞いしてやるのに……」
小萌 「はーい。それでは根暗な独り言過多野郎が登校してきたのでー、授業を再開しますですー」
男 「ねえ何で? 何で僕の回りのロリっ娘は誰も彼も僕に厳しいの?」
青髪 「ええなぁええなぁ男やん! ロリっ娘からの言葉責め……溜まりませんなぁ」チョークガズビシ!
小萌 「青髪ちゃんはちょっとおねんねしましょうかー」
小萌 「男ちゃんも何か文句があるのですー?」
男 「いえ、そんな恐れ多い。小萌先生は今日も可愛らしいですね。授業もとっても分かりやすいです」
小萌 「うふふ、とっても嬉しいのですよ」
小萌 「ではでは、今日の本題に入りましょう」
小萌 「何度目になるか分かりませんが、今日は『自分だけの現実』についての授業ですー」
小萌 「『この手から電撃が出る』 『三次元的に線移動ではなく点移動をする』等々、普通の人間には為し得ないことを為し得る確率」
小萌 「その確率がゼロでないと認識し、現実からズレた人間が、あなたたち能力者なのですー」
小萌 「能力の種類は一人につき一つだけです。能力開発を受けた人間がどんな能力を身につけるのか」
小萌 「それは先天的に決まっているのか、それとも外的要因によって変化はあるのか、それはまだ解明されていませんです」
男 (……先天的に決まってたら嫌だなぁ。生まれたときからネコとアヒルが決まってたなんて)
男 (っていうか、ガキの頃、学園都市に来る直前に見たあのCM……間違いなくあれが原因だよなぁ)
小萌 「――ちゃーん?」
男 (僕の『自分だけの現実』の根幹が保険会社のCMかぁ……それも嫌だなぁ)
小萌 「――男ちゃーん?」
男 (まったくさ……どうせなら白井さんのテレポートや固法さんの透視能力みたいな格好いい能力が良かったよなぁ)
小萌 「――男ちゃーん? 先生のお話聞いてますー?」ヒュン!
男 「痛い! ってまたチョークか!? っていうか前から投げてどうやって腰にチョーク当てたんですか月詠先生!?」
男 「うぅ……答えになってないのに納得してしまう」
キーンコーンカーンコーン
小萌 「ありゃりゃ? もう一限目終わりですかぁー? それじゃあ、続きはまた来週です。簡単に予習しておいてくださいねー」ガラッスタスタ
男 「……うぅ……なんか昨日からずっと不幸続きだなぁ」ジロッ
? 「そこで何で俺を睨むのか……上条さんはまったく憤まんやるかたないですよ」
上条 「で、男。ボロボロじゃん。何? 何かあったの?」
男 「上条くんの不幸が移ったんだよ。うん。絶対そうだ」
青髪 「なに言ってるのん、男やん。カミやんの不幸が男やんみたいな惰弱野郎に移ったら、もう命なくなってるて……」バンバン
男 「青髪くんはどさくさに紛れて腰を叩くなよ!」
上条 「……気をつけろよー、男。青髪ピアスはショタなら男も喰っちまうゲスだからな」
男 「僕はショタじゃないよ!」
見てくれている人ありがとう。
プルルルルル……
男 「あれ、電話……?」ピッ
男 「もしもし?」
白井 『おはようございますですの。男さんの携帯電話ですわね?』
男 「うん。そうですけど、この声は白井さん?」
白井 『そうですの。昨日はお疲れ様でした。腰の御加減は如何ですの?』
男 「全力疾走してもちょっとしか違和感なかったけど、直接叩かれるとすっごく痛いです」
白井 『ああそうですか。まぁ、それはどうでもいいのですが』
男 『ねえ白井さん? 何であなたはいちいちそうやって言葉に毒を織り交ぜるのです?』
男 「フツーに無視ですかー」
白井 『今日は男さん、研修は休みですわね?』
男 「うん……休みだけど……すごく嫌な予感がするんですけど……」
白井 『では、一足早く風紀委員としてデビューしてしまいましょう。今日の放課後、第177支部に来てください』
男 「い、いや、あのね、白井さん? 僕の今日のお休みはいったいどうなるのです……?」
白井 『あ、わたくしの学校はそろそろ授業が始まりますので失礼致します』
白井 『もし来なかったら……分かっていらっしゃいますね?』プツン
男 「あっ、ちょっ、白井さん! ……」ジロリ
上条 「あん? だから何で俺を睨む?」
男 「不幸だー」
男 「風紀委員のひとー。中学一年生女子ー」
青髪 「!!!?? 何やて!? 中学一年生女子!?」ムッハー
男 「しかも美少女。ロリっ娘。ツインテール。けど声がちょっと不評。僕は嫌いじゃないけど」
青髪 「美少女! ロリっ娘! ツインテール!」
青髪 「う、うううう羨ましけしからん! こ、この野郎いつの間にそんな子ぉとお知り合いになったんや!?」
男 「むしろ僕が聞きたい。何だって僕が風紀委員なんかになるんだよ……」
上条 「? 嫌ならやめればいいじゃねぇか」
男 「数え切れないくらいの誓約書にもうサインしちゃったよ。研修中とはいえ、そう簡単にやめられるもんじゃないらしいし」
男 「はぁ……馬鹿なことしたなぁ……」
男 「にゃはあっ!?」
上条 「ぬわっ! いきなり何だよ男!」
青髪 「漏らしたか? 更年期か?」
姫神 「……しまった。マナーモード。にするのを忘れてた」イソイソ
姫神 「……? なに。男くん。私の顔に何かついてる?」
男 「えっ? あ、いや……むしろ特徴のない地味な顔だけど、」
姫神 「…………」
男 「そ、その着メロ……お、面白いね」
姫神 「そう。気に入ったから。ダウンロードしたの。何年か前のCM音楽」
姫神 「……いる?」
男 「えっ?」
姫神 「だから。この着メロ。ほしい?」
男 「あっ、う、うん(ってなに頷いてるんだよ!)。あ、ありがとう」ピッ
姫神 「どういたしまして」ピピピッ
青髪 「? 何や、そのけったいな歌は?」
上条 「俺にもよく分からん。何なんだ、それ?」
姫神 「だから。CM音楽。あなたも。ほしい?」
上条 「えっ? ああ、じゃあせっかくだから……」ピッ
姫神 「はい。送信完了」ピピピッ「それじゃ。また」ノシ
青髪 「……ボクは当然のごとく眼中になしですかー」
上条 「? この歌が何だってんだ?」
男 「……そのCMね、ネコとアヒルが踊って唄ってみんなに幸せを届けるっていう内容なんだよ」
男 「ネコとアヒルが唄うって……ねぇ」
青髪 「ああ、なるほどな。つまり男やんの能力にそっくりなわけやな!」
男 「……何で青髪くんは地声がそんなに大きいかなぁ」
上条 「ん、そういやお前の能力って、ネコとアヒルと会話ができるってヘンテコ能力だっけ?」
男 「へんてこ言うなよ。不幸体質が能力の上条くんの方がよほどへんてこでしょ」
上条 「……お前は時々辛辣になるよなぁ。上条さんは友達の不良化をただただ嘆くばかりです」
男 「うるさいなぁ」
♪ネコトアヒルガチカラヲアワセテミンナノシアワセヲー♪
男 「………………」
男 「懐かしいような、忌まわしいような……学園都市と外部じゃ接触がないから、もう二度と聞くことはないと思ってたけど」
♪ネコトアヒルガチカラヲアワセテミンナノシアワセヲー♪
男 「……はぁ……」トボトボ
幼女 「――おにーちゃーん!」
男 「……? リアル妹がいる奴なんてこの世に本当に存在するのか。はぁ……死ねばいいのに……」
幼女 「あっ! 無視だっ!」プンスカプン「おにーちゃんってばー!」
男 「くっ……耳に心地いいボイスだというのに、なぜ兄貴持ちだと分かった時点でこうも嫌になるのだろう……」
幼女 「あーんもう! いいよーだ! おにいちゃんがそういうたいどを取るんなら、こっちにだって考えがあるもんね!」
男 「――っていけないいけない。考え方が青髪くんに汚染されてきた」
幼女 「ブーーーーーーン!!」ダダダダダダダダダ……ズゴーン!!
男 「ッ……!? っ~~~~~~~!!!」
男 「ま、また、腰……だとッ……!?」バタリ
幼女 「? おにいちゃん、だいじょうぶ?」
男 「………………」パクパクパク
幼女 「えっ? だいじょうぶじゃない?」
男 「………………」コクンコクン
幼女 「うわー、涙目だー。おにいちゃんかわいそー」サスリサスリ
男 「!!!!! ッ~~~~~~!」
幼女 「あれ?」パッ
男 「ッ………………ハァ……ハァ……」
男 「……うぅ……い、医者……やっぱり、医者にかかるべきだったんだ……」
男 「不幸だぁぁああ……」
幼女 「あ、あのあのっ……」
男 「ん? ……にゃわぁ! リアル幼女キタコレ……じゃなくてっ、」
男 「僕の腰にぶつかったのって……」
幼女 「あ、それはわたしのここー」
男 「なっ……ポニテ幼女のおでこ、だとッ……!」ガバッ
男 「――ッ~~~~~(急に動いたから腰が! 腰が!)」
幼女 「あっ、おにちゃん忘れちゃったの? わたしだよ、わたし!」
男 「……? も、もしや、新手の幼女『わたしわたし』詐欺!?」
男 「ご、ごごごごめんなさい! 僕はお金持ってないので勘弁してください! ネコとアヒルのエサ代だけで手一杯なのです!」
幼女 「? おにいちゃんがなにを言ってるのか分からないけど、とにかくわたしを忘れてることだけは分かったよ」ポン!
男 「っ~~~~! 腰はやめて! 腰は! 何とかして思い出すから!」
ポニーテール カワイラシイオデコ オオキナオメメ ツルペタオムネ ネコノワッペン ミニスカート ……
男 「……ん? ネコのワッペン?」
男 「……ああ! もしかしてあの時の子?」
男 「うーわー……今日も今日とて遅刻するぅぅぅぅううう!」タタタタタ
男 「大体ネムサスもデイジィも、結局引っかいたり踏んづけたりして起こすんなら、最初からそうしてくれよ」
男 「中途半端に優しいからこうやって遅れちゃうんじゃないか……」
男 「今日もまた実験区域を突っ切るかぁ……嫌なんだよなぁ、あれ……」
男 「えーい、ままよ――」
ワァーーーーーーーン!!!
男 「……ん? 子どもの泣き声?」
男 (学生がみんな登校して人気のない学生寮街で泣く幼女……)
幼女 「~~~~~~~~~~~~~!!」
男 (どうしよう……面倒事のニオイしかしない……)
男 (っていうか、僕は入院してばかりの誰かさんみたいな善人じゃないし)
男 (放って……さぁ、放って実験区域の中へ突入するのだ!)
幼女 「ふぇ~~~~~~~~~ん!!」
男 「…………ハァ……」
男 「……君、どうかしたの?(僕のバカヤロウ)」
男 「学校はどうしたの? 行かないとダメじゃないか。……って僕に言われたくないか」
男 「何か困り事かな?」
幼女 「………………て――」
幼女 「――けて……」
男 「へ?」
幼女 「たすけて……おにいさん……!」ヒシッ
幼女 「ミケタをたすけてっ!」
男 「なっ……! ね、ネコ……?」
男 「と、とりあえずそのネコくんを僕に貸して」
幼女 「うん……うぅ……」
男 「うわっ、すごい弱ってる……すぐに動物病院に連れていかなきゃ」
幼女 「この近くにはないよぅ……隣の学区にしか、ないもん……」
男 「じゃあ早く行こう! バス停は……あそこか!」
幼女 「ダメなの……さっき、わたしもバスに乗ろうと思ったんだけど、運転手さんにダメって」
男 「へっ……? な、なんで!?」
幼女 「この時間は、小学生は学校に行ってる時間だからって……」
幼女 「ネコのことなんかより、早く学校に行きなさいって……」ポロポロ
男 「!! 何だよそれ……! ネコの命は学業以下かよ!」
男 「……くそっ……走るか……いや、弱ってるネコにショックを与えたくない……」
男 「どうしたら……!」
? 「――お困りかな?」
男 「えっ……? にゃわっ! か、カエル!?」
? 「……まったく、ご挨拶な少年だね? 僕は『冥土帰し』っていうんだけどね?」
冥土帰し 「見ての通り、しがない医者だよ。よろしければ、力になるけどね?」
幼女 「み、ミケタ……」
サッ
冥土帰し 「……なるほど。では少年、ミケタくんを白衣の上に寝かせてくれ」
男 「あ、はい……」・・・ポン・・・
冥土帰し 「……ふむふむ、動物を診るのは正直、初めての経験なんだけどね?」
男 「ど、どうですか?」
幼女 「どこが悪いのか分かったっ?」
冥土帰し 「……ふむ。そうだね。一言で言い表すのなら、」
冥土帰し 「皆目見当がつかない」
冥土帰し 「そう言わないでくれよ。僕はそれが誰であれ生きている人間ならば絶対に助けてみせる」
冥土帰し 「……けれど、動物のことはからきしなんだ。すまない」
男 「……ごめんなさい。あなたもミケタくんを助けたいんですよね……」
幼女 「うぅ……」
冥土帰し 「……せめて、せめてどこが悪いのかさえ分かれば」
冥土帰し 「それさえ分かれば、人間と同じ要領で手術なりの治療をするのだけど……」
男 「ん? ……!? そうだ、それなら分かります!」
冥土帰し 「ほぅ、なるほどね? 君がミケタ氏から患部を聞き出せれば、あとは僕が治療すればいい……」
冥土帰し 「素晴らしいアイディアだね。じゃあ選手交代だ。よろしく頼むよ?」
男 「はい! ……ミケタくん? ミケタくん? 僕の声が聞こえるかい?」
ミケタ 「……ゼー……ハー……ヒュー」
男 「っ……(僕の能力はテレパスの一種だけど、鳴いてくれないことには意思の疎通ができないんだよ……!)」
男 「ミケタくん! 君は今どこが痛いんだい? どこが苦しいんだい? お願いだ。僕に教えてくれ!」
ミケタ 「ニ……ニェ……」
男 「! 何!? もう一回言って!」
ミケタ 『の……ど……』
男 「の、ど……喉か!」
男 「先生! 喉! 喉です!」
男 「あ、はい!」ガシッ「痛っ……歯を立てないでくれよ……」
冥土帰し 「我慢できるね? ……ふむふむ。なるほど、灯台もと暗し、ということかな?」
サッ
冥土帰し 「……持ってて良かったケリー鉗子。少年、しっかり押さえていてね?」
男 「は、はい!」
サッ キュッ スポン!
ミケタ 「フニャッ! フガッ!」
ミケタ 『げほっ、ごほっ、っ……ぷはぁ!』
冥土帰し 「……施術、終了だね?」
ミケタ 『幼女ちゃーん! 苦しかったよー』ニャッニャッ
冥土帰し 「どうやらこれが喉に詰まっていたようだね?」スッ
幼女 「あっ……! これ、わたしのスーパーボールだ!」
男 「……まだあったんだ、スーパーボールって」
冥土帰し 「ミケタ氏がイタズラをしている最中に、誤って飲み込んでしまったのかな?」
男 「そうなのか?」
ミケタ 『……面目ありません』
男 「……っていうか先生も、物が喉に詰まってることくらいすぐに突き止めてくださいよ」
冥土帰し 「何度も言うけどね、僕は生きた人間以外は全て専門外なんだよ?」
冥土帰し 「……まぁ、ついこの間、一人だけ、完全には助けられなかった少年がいたけどね……」
男 「?」
冥土帰し 「これにて一件落着、だね。念のため、後で本物の獣医に診せることをお勧めするよ」
男 (そうだよ……そもそもあの一件が何故か風紀委員の耳に届いて、僕が風紀委員になることになったんだもんな)
男 (『ネコの言葉が分かるなんて、犯罪捜査に持ってこいじゃん!』……って、あれ? これはアンチスキルの人が言ったんだっけ?)
男 (『すっごい正義感じゃん!』……って、これもアンチスキルの人が言ってたんだ)
男 (ともあれ、善人でもなく、なおかつレベル1の僕が風紀委員になったのは、この子が原因だ……)
男 (後悔はしてないけど、なんか複雑な気分だな)
幼女 「久しぶり、おにいちゃん」キラキラ
男 「……うん。久しぶり(でもまぁ、この笑顔が守れたってだけでも良しとするか)」
男 「……痛いけど我慢しよう」
幼女 「おにいちゃんだいじょうぶ? ごめんね?」ウルウル
男 「いやいや、この程度じゃおにーさんはビクともしませんよ?」
幼女 「あのねあのね! わたし、あれからずっと、暇なときはおにいさんを探してたんだよ!」
男 「へっ? ……あ、ああ、そうなの?」
幼女 「うん! あの時はおにいさん、『って遅刻だぁぁぁあああ!』って言いながらいなくなっちゃったから」
幼女 「お医者さんにはお礼を言ったんだけどね、おにいちゃんにはまだ言ってなかったから」
幼女 「おにいちゃん。ミケタを助けてくれて、ありがとうございました」ペコリ
男 「えっ、あ、いや、えーと……」
幼女 「?」
男 「……ど、どういたしまして?」
幼女 「うん!」
幼女 「じゃーねー、おにいちゃん! 今度はミケタも連れてくるねー!」ノシ
男 「うん。じゃあね。また今度」ノシ
男 「……結局また会う約束をしてしまった。これってまずいんじゃないか? ……ま、いっか」
男 (『ありがとう』かぁ……。レベル1――低能力者の僕でも、人の役に立てるんだなぁ)
男 (っていうか、ネコと会話ができるなんて能力が、役に立つもんなんだなぁ)
男 「……へへっ」
男 (! ま、待て待て! 嬉しいなんて思っちゃダメだろ! 僕はまだ研修中だけど、本当の任務につくことになったら……)ガタガタブルブル
男 「だ、ダメだダメだ。ただでさえひ弱な僕なんだ。冗談抜きで死んじゃうよ」
男 「にゃひゃあ! し、白井さん!? 何でここに?」
白井 「あなたが来るのが遅いからでしょうが。わざわざこのわたくしが迎えに来て差し上げましたの」
男 「……そりゃあどうも。嬉しくて涙が出ますよ」
白井 「では、行きますわよ。テレポートをしますので目をつむってくださいな」パシッ
男 「へっ? 支部はもうすぐそこだよ?」ドキリ
白井 「あまり悠長なことは言っていられませんの。現場に直行いたします」
男 「げ、現場って……? なんか不穏な雰囲気しか感じられないんですが」
白井 「事件現場、というべきでしょうね。傷害事件の」
男 「…………ッ……」ダッ
白井 「ふん」グイッ
男 「うわぁ!(白井さん力強いよ!)」
男 「そ、そりゃあ逃げますよ! 傷害事件って、メチャクチャ怖いじゃないですか!」ヨジリ
白井 「もう終わった事件の現場ですのよ!」グイッ
男 「それでも、もし犯人が残ってたりしたら……怖いじゃないですか!」ヨジリ
白井 「……情けない……単純な膂力でわたくしに敵わないのみならず、この精神的惰弱は……まったく」グイッ
男 「そんなこと言われたって……白井さんはレベル4だからいいかもしれませんけど、僕は――」ヨジリ!
白井 「――レベル1の低能力者だから……ですの?」グイッ バン!
男 「……ッ!?(関節を極められた!?)」
白井 「分かりましたわ。でしたら、風紀委員でありレベル4である、白井黒子の名にかけて誓いましょう」
白井 「あなたに危険が及ぶことは絶対にありません。わたくしがあなたを命を賭してでもお守りいたしますわ」
男 「っ……」
白井 「これでよろしくて?」
男 「……分かりましたよ。行きます。行きますよ」
白井 「着きましたわよ、男さん」
男 「………………」
白井 「? ほら、行きますわよ?」グイッ
男 「ち、ちちちちょっと待ってください……」
白井 「何ですの? また怖じ気づいたんですの?」
男 「そ、そうじゃなくて……うっ……」
男 「……よ、酔いました」
白井 「………………」パン
男 「ッ~~~~! ま、またウェスト……!」
白井 「……酔いは覚めまして?」
男 「さ、覚めました! 覚めましたからもう一度手を振り上げるのはやめてっ!」
白井 「……事件現場はあの商店街ですの」
男 「なんていうか……懐古的でレトロな商店街だね。昭和って感じ?」
白井 「要は時代遅れでしたのね。大手のデパートなどに押されて、今やほとんどがテナント募集状態」
白井 「スキルアウトの溜まり場になってますの」
男 「……あの、ここ、本当に学園都市だよね? 外部とは科学力に30年の開きがある学園都市だよね?」
白井 「統括理事会はご老人ばかりですから……昔を懐かしみたい気持ちも分かりますけれどねぇ」
白井 「ああ、そうですわ。男さん。現場に入る前に……」スッ
男 「ん? これって……風紀委員の腕章?」
白井 「ですの。少し早いですけれど、昨日の件もありますし、お渡ししておきます」
白井 「風紀委員のお仕事にようこそですわ、男さん」
白井 「ですわねー。弾痕がそこかしこに残っていますし、若干火薬のニオイも残ってますわね」
男 「でも、傷害事件っていうよりは、暴力団同士の抗争後、って感じがしますけど」
? 「――へぇ、いい勘してんじゃん?」
男 「へっ……にゃはっ、重武装!」
? 「さすがは私、黄泉川愛穂の一押しじゃん?」カポッ
男 「……って、何だ。いつかのアンチスキルの方でしたか……ビックリしたぁ」
黄泉川 「はははっ、ビビらせて悪かったじゃん。お久しぶり、件のネコ少年くん」
白井 「それで、例の 『証言者』 は大丈夫ですの?」
黄泉川 「万事準備はオッケーじゃん。こっちとしては、ずっと少年の到着を待ってたんだからね」
男 「へ……? ぼ、僕を? 何で、そんな……」
黄泉川 「君にしかできないことじゃん。さ、着いてきな、少年」
黄泉川 「この、言っちゃ悪いがダサイ商店街がスキルアウトの溜まり場になってたことは知ってるじゃん?」
男 「あ、はい」
黄泉川 「で、スキルアウトってのも一枚岩じゃないわけじゃん。一応のトップは存在するんだが、いくつかのグループに分かれてる」
黄泉川 「その中のひとつがここを拠点にしてたってわけなんだけど……今朝方、ここに違うスキルアウトのグループが攻めてきたらしく、」
黄泉川 「外で言う暴力団同士の抗争を幼稚にさせたようなモンが起こったってわけじゃん。ま、幼稚だからこそ怖いってのもあるんだけど」
白井 「手加減というか、限界というか……そういうものを知らないのですわ。まさに子どもの暴力団」
黄泉川 「基本、良い意味でも悪い意味でもバカだからね、連中は。そのおかげで全員簡単に拘束できたんだけど」
男 「……いや、あの……」
黄泉川 「なに、少年?」
黄泉川 「ああ……ま、裏付け捜査みたいなもんじゃん。少年に話してもらいたい証言者がいるからね」
男 「? あのー」
黄泉川 「ん? 何じゃん? 少年」
男 「その証言者って、その抗争に巻き込まれた方、ってことですか?」
黄泉川 「? そうだけど?」
男 「それならいくら何でも、病院かどこかへ送られているんじゃ……」
黄泉川 「そうだねぇ。それも問題なんだよ。少年には彼の証言を聞いてもらいたいんだけど、」
黄泉川 「それと並列作業で、彼を保護してほしいじゃん」
男 「なるほど……」
……ガタガタガタプルプルプル……
男 「たしかにこれは、僕にしかできない仕事ですね」
黄泉川 「何でも、どっちかのグループが対戦車砲をぶっ放したらしいじゃん?」
白井 「そのせいでこの通り、この近辺は瓦礫の山ですわ」
男 「そして、それに運悪く巻き込まれたのがお前ってわけか……」
瓦礫の下で怯えるブチ 「ナーナー」 プルプル
男 「いや、つぶされなかっただけ運が良かったのかな……。不幸中の幸い、かねぇ」
ブチ 「ナー……ナー……ナー……」
白井 「……どうですの?」
男 「怖いよー、怖いよー、怖いよー……だそうです」
白井 「まるで先までの男さんのようですわね」
男 「おーい、ブチくんやーい。そんなとこにいないで出ておいでー」
ビクリ!
ブチ 『ひ、ひぃぃぃぃ……っ! お、おおおお助けをぉぉぉおおお!』プルプル
男 「………………」
男 「いや、僕はここまで情けなくはないぞ。……ないよね?」
ブチ 『お、オイラはしがないブチでさぁ……三味線にしてもいい音は出ませんぜぇ……』プルプル
男 「何を勘違いしてるのかは大体分かってるけどー、僕は君の味方だよー」
男 「出ーておいでー」
ブチ 『ひ、ひぃぃぃぃぃいいいい……っ!』プルプル
男 「……無理っぽいです」
黄泉川 「諦めんのが早いじゃん。もちっと努力しろよ少年」パシン!
男 「!!」
男 「……よ、良かったぁ……腰じゃなくて頭で、本当に良かったぁ……」
黄泉川 「それはもう試したじゃん? 食欲より恐怖の方が強いヘタレネコだったけど」
男 「なるほど……おーい、ブチくんやー」
プルプルプルプル
男 「一体どうしたら出てきてくれるんだい? こっちはヘティクリーチャムを用意してるんだよー?」
ブチ 『やだ、やだ……だって、出たらオイラ、三味線にされちまうもん……』
男 「その被害妄想は一体どこから来たんだい?」
男 「そんなことしないってー。ずっとそんなとこにいたら身体に悪いって。出ておいでったら」
ブチ 『……本当にヘティクリーチャムがあんですかい?』
男 「!(食いついた!) あるある。たくさんある。だから出ておいで」
ブチ 『……分かりやした。オイラも男です。出ましょう』
男 (やたっ!)
ブチ 『ただし、』
ブチ 『オイラはもう、人間が信用できなくなりやした』
ブチ 『けど、アンタだけは信じてもよさそうだと思いやす』
男 「そ、そっか。なら――」
ブチ 『だから、まずはアンタが本当に信用に足るか確かめさせていただきやす』
男 「信用って……どうすればいいの?」
ブチ 『危ないモンを持ってないことを示してくだせぇ』
男 「危ないモンって……武器? 持ってないよそんなの!」
ブチ 『信用できやせん! 示してください!』
男 「し、示すって……まさか……っ!」
ブチ 『……男同士、裸で語らおうじゃありやせんか』
男 「っていうか、白井さんも黄泉川先生も、こっそり覗いてたりしないよね……?」キョロキョロ
男 「しないよね……? 信じてますよ? 白井さん、黄泉川先生」
ブチ 『落ち着きがねぇですぜぃ、旦那ぁ』ハグハグムシャムシャ
男 「誰のせいだよ誰の……っていうか旦那って誰だよ」
ブチ 『そうイライラしないでくだせぇよ』パクリパクリウマーッ
ブチ 『旦那が公衆の往来で全裸になって誠意を見せてくれたからこそ、オイラは外に出ることができたんですから』
男 「……事件現場だから封鎖されてて本当に良かったよ」
ブチ 『旦那はオイラの命の恩人でさぁ。さ、何なりと質問してくだせぇ』
男 「その前にさ、服着ていい?」
ブチ 『………………』スゴスゴスゴ
男 「だぁぁあああ! 分かった! 分かったよ! 裸のままでいいから話を聞かせてください!」
男 (何の罰ゲームだよコレはー! ぜっっっったい、上条くんの何かが僕に感染したんだ……!)
インデックス 「うわわっ、とうま、うるさいんだよっ」
上条 「いや、すまん……なんだ? 誰か俺のウワサでもしてんのか? ……なんてな」
イ 「………………」ニコッ
上条 「? な、何なのでせう? そのシスター然とした素晴らしい笑顔は。インデックスさん?」
イ 「ウワサって……とうまはまた、女の子にウワサされるようなことでもしたのかな?」
上条 「い、いや待て! 誤解だ誤解!」
イ 「問答無用なんだよっ!」
上条 「いやぁーーーーー! 噛まないでー!」
上条 「ふ、ふ、ふ……不幸だぁぁぁぁぁあああああああ!」
男 「うぅ……もうお婿に行けない……」
白井 「あー、そうですの。それで、あのブチさんは一体何と?」
男 「そこは 『わたくしがもらってあげますの』 とか言う場面じゃないのです!?」
黄泉川 「うるさいじゃん」ゴツン「全裸になって興奮してるのは分かるけど、さっさと報告するじゃん」
男 「痛たたたた……でも腰じゃないのでオッケーです。先生グッジョブ」
黄泉川 「……真性Mじゃん……」
男 「それでですね、ブチくんに話を聞いたところ、ちょっと妙なことが分かりまして……」
ブチ 『ええ、そうですそうです。まだこの商店街が活気があった頃から』
白&黄 「ダウト!」
男 「い、いきなり何ですか!? ビックリしたなぁ……」
白井 「この商店街に活気があった頃なんてありませんわ! 昭和ですの!?」
黄泉川 「そうじゃん! 明らかに偽証じゃん!」
男 「そこら辺は、昔からの住人としての見栄でしょう。放っておいてあげましょうよ……」
男 「ともかく、続けますよ」
ブチ 『商店街が衰退してからも、オイラはここにい続けやしたよ……』
ブチ 『ここに集まる連中……スキルアウト、とか言いやしたか』
ブチ 『奴らはナリはアレですが……意外と良い奴らでしてね』
男 「ええ……」
ブチ 『オイラも連中に可愛がってもらいましたよ。餌をもらったり、』
ブチ 『バイクとかいうのに乗せてもらったり……』(絶対に真似しないでね!)
ブチ 『今日の朝に乗り込んできた連中だって、ちょくちょくここに来てやしたよ』
ブチ 『同じように気の良い連中で、仲が良かったようでしたねぇ』
ブチ 『それが何でこんなことになったのか……ハァ……オイラにはまったく分かりやせんよ』
男 「……って感じです。もちろんネコ視点ですけど、そんなに悪い連中じゃなかったようです」
男 「それに、争っていたグループ同士も仲が良かったそうで……」
男 「? 黄泉川先生?」
黄泉川 「うん、少年? メッチャ役に立ったじゃん! サンキュ!」ナデナデ
男 「えっ? あっ、いえ……そんな……」ニヘラ
白井 「………………」
白井 「……先生は……いえ、アンチスキルは何か知ってらっしゃいますのね?」
黄泉川 「……ふん。お前は目ざといな、白井」スッ
黄泉川 「だがこれ以上は大人の仕事じゃん?」
黄泉川 「……風紀委員の協力に感謝する。後はこっちにまかせて、さっさと帰るじゃん」
白井 「………………」
バヂバヂバヂバヂバヂ
黄泉川 「………………」
男 「……あれ? これ何てデジャヴ?」
男 「くそぅ……何で僕の周りの女性陣は、こんなに好戦的なのです?」
白井 「………………」
バヂバヂバヂバヂバヂ
黄泉川 「………………」
男 「聞く耳なしですかー。……っていうかねぇ、白井さん」
白井 「……なんですの?」
男 「帰りましょうよ。これはもう僕たち風紀委員の手に余る事件だって」
男 「黄泉川先生の言うとおり大人に任せて、僕らはもう――」
白井 「……ないんですの?」
男 「――へ……?」
白井 「悔しくはないのですかと、そう問うています」ギリッ
黄泉川 「………………」
白井 「アンチスキルは、貴方の一言で何かを得られたようですね」
白井 「……ねえ、男さん。それは、貴方が成したことですのよ?」
男 「…………?」
白井 「ふふ……気弱で惰弱な貴方のことですものね……どうでもいい、ですか? ですが――」
白井 「少なくともわたくしは、仲間が苦労して手に入れた情報を、ただで大人に渡すつもりはありませんの!」
男 「白井……さん?」
男 (えっ……? ひ、ひょっとして、白井さん……僕のために……?)
黄泉川 「……ダメじゃん」
白井 「ッ……!」
黄泉川 「わたしらはガキの遊びでこの街を守ってるんじゃないんじゃん?」
黄泉川 「言うなればお前ら風紀委員も、わたしらアンチスキルに守られるべきなんだよ」
黄泉川 「わたしら大人は、納得しうる理由でもない限り、ガキに情報を与えたりはしない」チラッ
男 「えっ……?」
男 (黄泉川先生……最後に僕を見た……?)
幼女 『おにいちゃん。ミケタを助けてくれて、ありがとうございました』
男 (特別なことをしたわけじゃない……ただ、全裸になったってだけだし……)
ブチ 『旦那はオイラの命の恩人でさぁ――』
男 (これ以上、事件なんかに関わりたくないし……)
白井 『悔しくはないのですかと、そう問うています』
男 (だって僕は……弱い弱いレベル1だし……ネコとアヒルにしか役に立たないし……)
白井 『少なくともわたくしは、仲間が苦労して手に入れた情報を、ただで大人に渡すつもりはありませんの!』
男 (ッ……でもッ……僕は……ッ)
白井 「っ……わたくしたち風紀委員は、子どもの遊びでは――」
男 「……黄泉川先生」
白井 「へっ……? お、男、さん?」
男 「(こ、怖ッ!) ……こ、この抗争は、スキルアウトの中では特異な、とても仲の良いグループ同士でのものでした」
男 「だ、だとすれば、一般的なスキルアウト……互いが下克上を狙い合うようなグループではどうでしょう?」
男 「もしそんな連中が街中で抗争を始めたら……一般人、一般学生に累が及ぶでしょう」
男 「今回の抗争の原因を探るのは、アンチスキルのみならず、我々風紀委員の領分でもあると思います」
男 「な、なので……黄泉川愛穂、先生! 僕たちに情報を、ください!」ジッ
黄泉川 「………………」ジロッ
男 「ッ……(怖い怖い怖い怖いぃぃぃいい……)」ジッ
黄泉川 「……ふっ、三十点、ってトコじゃん? 少年」バサッ
男 「――へっ? な、何ですか、この紙束……?」
黄泉川 「この事件の調書一式だよ。犯人の供述とかも載ってる」
黄泉川 「ま、せいぜい頑張るじゃん? 期待のネコ新人」
――なぜAグループの本拠である商店街に攻め込んだのか?
Bグループリーダー 『い、いや、それが……お、覚えてないんだよ! 何も覚えてないんだよ!』
B 『ほ、本当なんだって! 夜、俺たちの本拠で寝て……次に気づいたらあの商店街でぶっ倒れてたんだ!』
B 『信じてくれよ! 本当なんだよ! 本当に何にも覚えてないんだよ!』
――リーダー以下、全構成員共に上記と同様の供述。
――嘘発見器の使用。全員、偽証はなしと判定。
――Bグループは、昨夜から今朝抗争収束後までの記憶をなくしている。
男 「学園都市の最新鋭嘘発見器を、無能力者の彼らが騙し仰せるとは思えませんし……」
白井 「加えて、彼らはお互いのグループの仲が良かったとも言っている……」
男 「その裏付けは、あの証人……じゃなくて証猫のおかげでできた、と」
白井 「……まぁ、Bぐるーぷの全員が酒を飲んで酔っていたという可能性もありますが」
男 「……えーと、彼らからアルコールは検出されていないようですね」
白井 「………………」
男 「………………」
白井 「……だったらいったい何が起きたっていうんですの?」
男 「……(うわぁぁぁぁ……今さらだけど、僕は何であんなことを?)」トボトボ
男 (謎の事件に興味が湧くほど好奇心旺盛じゃないのに……)
男 (平穏無事が一番って考えるようなヘタレなのに……)
男 「……ハァ……」
白井 「? 何ですの、その溜息は」
男 「えっ? あ、いや……その、難解な事件だなー、と思いまして。……ハハ」
白井 「……嘘を仰有らないでくださいな」
白井 「どうせ、『何で僕はあんなことを言っちゃったんだ』とか考えていたんでしょう?」
男 「! な、なぜそれを……! て、テレパシストですかっ!」
白井 「それは貴方でしょう。わたくしは由緒正しきテレポーターですの」ヒュン
男 「にゃはっ!(突然目の前に白井さんが!)」
白井 「……ふん、冴えないお顔」
白井 「……けど、先ほどはちょっと、格好良かったですのよ?」
男 「へ……?」
白井 「ふふ……本当に、面白い方ですわねー」
白井 「それでは、わたくしは第177支部に寄ってから帰ります。男さんはお疲れでしょうから直帰してくださいな」
白井 「では、また。ごきげんよう、男さん」ヒュン
男 「………………」ハァハァ
男 「……び、ビックリしたぁ。中一とはいえ、美少女の顔が目の前に……」
男 「……良い香りだったなぁ、白井さん」
男 「って何考えてるんだ僕のバカーっ!」
ヒソヒソヒソ ナニアノヒト ヒトリゴトバッカ キンモー
男 「………………」
男 「……帰ろう」
ネ 『ネコパンチ!』
デ 『アヒルキック!』
ドガァー!
男 「ぶはっ! 顔面……!」
スタッ スタッ
ネ&デ 『遅いわよ!』
男 「ご、ごめん……でも急に用事ができて……」
ネ 『へぇぇ……私たちより大事な用事ぃ?』
デ 『一体なんなのかしらねぇ?』
男 「風紀委員のお仕事だよ! 仕方ないだろう!」
ネ 『本当かしら……ん? このニオイ……』
デ 『え……? あら、この香りは……』
男 「……えっ? えっ?」
男 「あ、あのー、一匹と一羽さん……? 一体どうしたのでせう?」
ネ 『このヤロウ……』
デ 『もう容赦しないわよ……』
男 「だ、だから、一体――」
ネ&デ 『思いっきりメスのニオイがするんじゃーッ!』ヒュン ヒュン
男 「うわっ、痛い! 痛い! ……って、この香り、白井さんの……? ってわぁ!」
ネ 『白井? そう……白井っていうのね! その泥棒猫!』シャッシャッシャッシャ
デ 『この裏切り者! 裏切り者! 裏切り者ぉ!!』ガスッガスッガスッ
男 「痛い痛い痛い――って腰はやめ――ッ~~~~~~」
男 「や、やっぱり……不幸だぁぁぁああ」
ネ&デ 『zzzzzzzz……』
男 「……っていうか、実験の一環とはいえ、ネコとアヒルを同時に飼うっていうのがそもそもおかしいよ」
男 「………………」
……ニャー ガー……
ネ&デ 『『zzzz……男ぉ……zzzzz』』
男 「ったく……」
男 (……ネムサス、デイジィ……お前らも不憫だよなぁ)
男 (僕の能力の解析のための実験動物……脳波をいじられて、僕専用にカスタマイズされて……)
男 (……僕の能力を一部だけ付与されて)
男 「……せめて僕が幸せにしてやらないと、だよなぁ」
……ニャー ガー……
ネ&デ 『『zzz……男ぉ……結婚してぇ……zzzz』』
男 「いやそれは断わる」
男 「……いいかい? ぜっっったいに騒ぐなよ?」
ネ 『分かったって言ってるでしょ』
デ 『しつこいわよ、男。そんなだから人間にモテないのよ』
男 「なっ……それは関係ないだろ!」
ネ 『いいからー早く行きましょうよー』トン! スタッ!
デ 『あっ、抜け駆けしないでよネムサス!』バサバサ トン!
男 「……お前ら僕の肩に乗らないで独力で移動しろよ」
ネ&デ 『『い・や』』
男 「……はぁ。ま、実験データ収集のため、っていえば月詠先生なら何とかなるよね」
男 「じゃ、学校に向けて出発――」
ネ&デ 『『しんこーーーーっ!』』ニャーニャー! ガーガー!
男 「(うぁ……今朝は会いたくなかった) お、おはようございます……」
お姉さん 「……って、ネムサスちゃんにデイジィちゃんじゃない!」
男 「あ、はい。……ども」
お姉さん 「あらもう……今日もどっちも可愛いわねぇ。リボンなんか付けちゃって、おめかし?」
ネ 『うるさいわねメス豚。近寄らないで頂戴』ニャーッ!
男 「!!」
デ 『年増ね。完全に年増ね。化粧で軽く十は若く見せてるよ』ガーッ!
男 「! お、おい……!」
お姉さん 「あらあら……」
男 (やばっ……!)
お姉さん 「ふふ……お姉さんの方が可愛いって?」
お姉さん 「もう、ネムちゃんとデイちゃんはイイコだなっ!」ツンツン!
男 「……ほっ (まだ僕以外の人間との意思の疎通は無理、か。助かった)」
男 「……まったく。もし会話が通じちゃったらどうするんだよ!」トコトコ
ネ 『あら? それが私たちの実験の通過すべき途中経過じゃなかったかしら?』ニャー
デ 『そうそう。私たちはもう、男以外の人間の言葉なら解することができるしね』ガー
男 「……次のステップとしては、僕以外の人間に言葉を伝えられるようにすること、か」
男 「べつにそんなの頑張らなくたっていいじゃないか……」
ネ&デ 『『バカ』』シャッ ベシベシ!
男 「痛い! 人の顔を引っかくな! 翼でベシベシするな!」
ネ 『あれもこれも、全部アンタのレベルを上げるためじゃないの!』
デ 『そうよそうよ! 私たちが誰とでも話せるようになれば、次のシステムスキャンでレベル2になれるかもしれないのよ!』
男 「む、ぅ……たしかにそうだけどさ……(それはもはや僕の能力じゃないような……)」
キャーアノヒトネコトアヒルカタニノセテルー キモカワイイー
男 「……レベルの代わりに、僕は多くのものを失うと思うんだ」
プークスクス……ナニアレー……ギャグー?……
男 「……ふん。これが僕の能力の一端だよ。悪いかよ」
? 「お、おいおい! そこな少年!」
男 「うん? この声は……」
? 「……あん? ああ、誰かと思えばネコ新人」
男 「やっぱり、黄泉川先生……そういえば、先生はこの学校の先生でしたね」
黄泉川 「昨日は捜査協力、どうもありがとじゃん」
黄泉川 「人命……じゃなかった猫命も救えたし、大活躍だったじゃん」ナデナデ
男 「いえいえ……そこまででも……」ニヘラァ
キランキラン シャーッバリバリ バサバサバンバン
男 「だから顔が痛い!」
ネ 『因果応報!』バリバリ
デ 『天誅!』バンバン
男 「ええ……まぁ、日常茶飯事ですからね」
ネ&デ 『『何よこの女! 男に馴れ馴れしい!』』プンスカプン
男 「……それで、僕に何か用ですか?」
黄泉川 「あ、いや、べつに構わないじゃん。コイツら、お前の能力に必要なんだろう?」
男 「……ええ。まぁ」
黄泉川 「イカした生徒が学校にペットを持ってきたのかと思ってね。悪い悪い」
男 「………………」
男 (まぁ、能力関係なくコイツらの気晴らしをさせてやりたかっただけなんだけど……)
黄泉川 「呼び止めて悪かったな。それじゃ、また会おうじゃん」ノシ
男 「はい。それでは、また(わざわざ言う必要もないよね)」ペコリ
小萌 「それで、ですね……先生、HRを始める前に一つ突っ込まなきゃならないことがあるのですがー」
男 「………………」
ザワザワ
小萌 「男ちゃーん? 我関せずって顔しないでくださいねー? あなたのことですよー?」
男 「……先生の言いたいことは分かります」
男 「大方、傷だらけの僕の顔について、疑問に思っていらっしゃるのでしょう?」
ズルッ
小萌 「ち、ちち違うのですよー! 顔の傷も……よく見れば酷いですが、それ以前に!」
小萌 「その両肩のネコちゃんとアヒルちゃんは一体なんなのですかー!?」
小萌 「……せ、先生そろそろ我慢の限界なのですよー!」ワキワキ
男 「……? 月詠先生?」
小萌 「ハァハァハァ……ね、ネコちゃんとアヒルちゃん、先生にモフモフさせなさーい!」バッ
ネ&デ 『『キャッ! な、何よこのガキ……! あ、あん!/////』』
ネ&デ 『『もうお嫁に行けない……クスン』』チラッチラッ
男 「……いや、僕はもらわないからね?」
シャッシャッ バシバシ
男 「だから痛い!」
小萌 「ふふふー……って、そうじゃないですよ!」
小萌 「男ちゃん! 学校に動物を連れてくるのは校則違反ですー!」
男 「ええ、まぁそうですよね……(くっ、意外としっかりしてるな、月詠先生は)」
男 (だったらいいよ……奥の手だ!)
男 「たとえば……あくまでたとえば、の話ですよ?」
男 「学校に銀髪シスター連れて来ちゃったり、」
ジーーーーーーッ
上条 「? ……って俺か!」
男 「学校に義妹を連れて来ちゃったり、」
ジーーーーーーッ
土御門 「? ……ま、待て待て、待つんだぜぃ! 俺はそんなことしたことはないんだにゃー!!」
男 「極めつけに……学校に妄想持って来ちゃったり……」
ジーーーーーーッ
青髪 「? ……ってボクですか!? いやいや、妄想なんてそんなアホなモン……くっ、否定できん……!」
男 「ねえ月詠先生? そんな連中よりはるかにマシじゃありませんか?」
小萌 「む、むむ……言われると確かにそんな気がしてきたのですよー」
小萌 「今日だけ特別ですー。これからは、システムスキャンの日以外に連れて来ちゃだめですよー?」
男 「はい、分かりました。ありがとうございます。……ほら、お前らも」
ネ 『はいはい。どーもどーも、年増ロリ先生』ニャーン
デ 『ありがとうございます。若作り先生』ギー
男 「お前ら……」
小萌 「ふふふ……けど、男ちゃーん?」
男 「は、はい?」
小萌 「……先生の視界に入ると、またモフモフしちゃいたくなるので、授業中は机の下においてもらえますー?」ワキワキ
ネ&デ 『!!』ビグゥ コソコソ イソイソ
男 「……なるほど。お前らは月詠先生が天敵なんだな」
吹寄 「……お、おおお男!」テカーッ
男 「にゃ? 吹寄さん? そんな怖い顔してどうしたの?」
吹寄 「こ、怖い顔なんてしてないわよ!」ユサッ
ネ 『何よこの乳牛!』ニャー
デ 『乳星人はおっぱい星に帰れ!』ガー
吹寄 「うっ……くく……かかかかか……」ユサユサ
男 「吹寄さん……?(やばっ、もしかして言ってること分かっちゃった!?)」
吹寄 「か、かかかかか……お、男ぉ!」ブルン!
男 「は、はい!」ビシィ!
吹寄 「も、もし、どうしてもって言うんなら……ッ」
男 「………………(な、何だろう? っていうか乳揺れがハンパない……!)」
吹寄 「そ、そのネコとアヒル……私に可愛がらせなさい!」バン! ブルン!
姫神 「ふふふ……。吹寄。日本語おかしい……ふふふ……」
ネ 『な、何よこのおっぱい女……』ギュムッ『……ま、まあ、悪くはないかしら?』
土御門 「ギャーッ! 俺のグラサンがアヒルに盗られるぜぃーーー!」
デ 『くふふ……この人おもしろーい。意外とタイプかも』
女子1 「吹寄ー、早くウチらにも代わってよー」
女子2 「順番待ってんだからー!」
吹寄 「あっ……そ、そうだったわね……」シュン パッ
ネ 『あっ……おっぱい……』
上条 「ギャーッ! 俺の頭は鳥の巣じゃねぇんだよ! とまるなー!」
デ 『ふふ……この人もおもしろいじゃない。貧乏そうなのが玉にきずだけど……』
青髪 「…………」
青髪 「動物のメスにも相手にされないボクって……」
男 「はっ……阿鼻叫喚の教室に思わず意識を手放していた……!」
男 「ネムサス! デイジィ! 戻っておいで」
ネ 『はいはい、今戻りましたよー、と』チョコン『……人間のおっぱ――メスも存外悪くはないわね……っ』
吹寄 「ふふ……ふふふ……ネコぎゅーっ!////」
男 「? (吹寄さんと何かあったのかな?)」
デ 『ふふふ……ダーリン3号の髪の毛、一束もらってきちゃった』バサバサトン
上条 「うぅ……今は誰も上条さんに話しかけないでください……うぅ……」
男 「………………(上条くんさすがだな)」
青髪 「エセ関西弁がアカンのんか……? そうなんか……?」ブツブツ
姫神 「ふふふ……。そう。私は。影の薄い女。モブキャラにも負ける。そんな女」ブツブツ
男 「そしてあの二人は何で死んでるの?」
男 「……はぁ。今日はクラスのみんなに迷惑かけちゃったなぁ」トボトボ
男 「でも、理解あるクラスで良かった」
ネ 『……ふん。ま、まぁまぁ面白かったんじゃない?』ニャー
デ 『そうね……もう少しイケメンがほしかったけどね』ガー
男 「君たち何様だい?」
男 「ま、楽しかったんなら何よりだ。連れてきた甲斐があるよ」
ネ 『……ねぇ、男』
デ 『私たちを思って学校に連れてきてくれたんでしょ?』
男 「え? ……まぁ、うん」ドクン
――君の能力を調べるために、こんなモノを用意したよ。
――君専用にカスタマイズしたネコとアヒルさ。
――君の脳波をインプットしてるから、ただのネコやアヒルではできないこともできる。
男 「ッ……(何であの時のことなんか……!)」
デ 『大丈夫?』
男 「えっ……ああ、いや、うん。何でも、ないよ……ッ」
――このネコとアヒルを使えばね、君の『自分だけの現実』を広げられるかもしれないんだよ!
――素晴らしいだろう? 君がなぜネコとアヒルとしか意思の疎通ができないのか、
――そして、どうして鳴き声からしか意思を導き出せないのか……その謎が解けるかもしれないんだ!
――ゆくゆくは、その答えを元にして、人間以外の存在にも『自分だけの現実』を――――――
ネ&デ 『『男!!』』バリバリバシバシ
男 「痛ッ……! って、あ……僕は……」
ネ 『ねぇ、男』
デ 『しっかりと聞いておいてね』
男 「え……?」
ネ&デ 『『私たちは、男と一緒にいて、幸せだから』』
デ 『……だから、そんな顔をしないでよ』ファー ナデナデ
男 「………………」
男 「……うん。ありがと、ネムサス、デイジィ」ニコッ
ネ&デ 『『ッ……!(あの笑顔は反則でしょっ……)』』
男 「? どうかしたの?」
プルルルルル
男 「ん? あ、電話だ……って、嫌な予感しかしないわけですが……こうなったら居留守を……」ピッ
白井 『もしもし? 男さんの携帯電話ですのねっ?』
男 「? あー……ふざけない方がよさそうですね?」
白井 『そうしていただけると助かります。緊急事態です』
白井 『またスキルアウト絡みの事件です。女の子がひとり、スキルアウトの1グループに拐かされました』
男 「えっ……ええっ!?」
幼女 「……はぁ、おにいちゃん遅いなぁ」
幼女 「会う約束をしたのは来週だけど、昨日もここ通ってたし、今日も通るよね」
幼女 「ねー、ミケタ。ミケタもおにいちゃんに早く会いたいよねー?」
ミケタ 「ナーナーナー ニャーニャーニャー (うーん。やっぱり今は幼女ちゃんが何を言ってるのか分からないや)」
ミケタ (男の兄貴がいたときは分かったんだけどなー)
幼女 「むー……おにいちゃん遅いなぁ……」
?? 「「「「………………」」」」
幼女 「? あの人たち、何やってるんだろ?」
ミケタ (えっ? いや何ちょっと!)
ミケタ (幼女ちゃん! 何であんな怪しげな人達にズンズン近寄ってくの?)
?? 「「「「………………」」」」
ミケタ (だってあの人達、北斗の拳に出てきそうな感じの格好なんだよ!?)
幼女 「へへへ……なんかヒーローさんみたいだよねー」
ミケタ (――とか言ってるんだろうなあの顔は! くそぅ、天然で萌ゆすなぁ幼女ちゃんは!)
幼女 「……あのーっ、何をやってるんですかー?」
?? 「「「「…………!!」」」」 ビグゥ!!
幼女 「……ふぇ?」
?? 「「「「…………」」」」コクン
?? 「見られたな」
?? 「「「「…………」」」」コクン
幼女 「ふぇ、ふぇー? み、ミケター……」ギュッ
ミケタ (くっ……なんだコイツら……一人を除いて、みんな目が死んでる……?)
?? 「ならば致し方あるまいな……」パチン「スキルアウトの諸君。『拉致』、だ」
?? 「「「「…………はっ」」」」ザザザッ
ミケタ 「フニャッ!?(しまった……! 囲まれた!)」
幼女 「え……な、何、ですかぁ……?」
?? 「「「「…………」」」」ババババッ
幼女 「ひッ――」
幼女 「キャーーーーーーーッ!!」
ミケタ (ッ……このまま幼女ちゃんもろとも車に詰め込まれる……!)
ミケタ (ならッ……!)ガブリ シャッシャッ シャキーン
ミケタ (せめてコレを……!)ヒラリ・・・ヒラリ・・・ポト
ミケタ (男の兄貴……お願いだ! 気づいてくれよ!)
バダン ブッブーーーー……!
ミケタ (兄貴、早く来てくれよ……! それまで……幼女ちゃんは俺が守るから……!)
スキルアウト内の1小グループによる犯行と特定。
誘拐の目的は今のところ不明。
アンチスキル及び風紀委員総出で捜索に当たる。
なお、風紀委員が犯行グループ、もしくは被害者を発見した場合、速やかにアンチスキルに連絡すること。
決して、学生だけの軽率な独断専行は取らないこと。
白井 『ですが、それがいま分かり得る全てであることはたしかですの』
白井 『ご協力、いただけますわね?』
男 「………………」
白井 『………………』
男 「……怖いだの何だの言ってられないよね」
男 「僕にも小さな女の子の友達がいるからさ、他人事じゃないし」
白井 『それでは……っ』
男 「うん! 昨日の事件との繋がりも考えられるし、乗りかかった船だ。付き合うよ、白井さん」
白井 『……なかなか卑怯な声を出しますのね。不意打ちでしたわ』キュン
男 「えっ? なに?」
白井 『な、何でもありませんの! では一秒でも早く第177支部に来てくださいですの!』
男 「……ん、了解だよ!」
男 「……ってわけなんだ。だから、ごめん。僕はこれから風紀委員に行かなくちゃ」
ネ 『あらそう。じゃ、さっさと行きましょうよ』
デ 『男の職場なのよね? 楽しみだわぁ』
男 「……はい?」
男 「……いやちょっと待った! 遊びじゃないんだって!」
男 「本当に危ないことに巻き込まれるかもしれないんだ! だからふたりは家に先に――」
ネ 『――帰って? やきもきしながら待ってろって?』
デ 『その方がよっぽど危険だわ。鳥類は高血圧に弱いのよ?』
男 「いや、でも……!」
ネ 『男、あんたには私たちが必要。……そうでしょ?』
男 「そ、そうだよ。だからこそ、ふたりに傷ついたりしてほしくないんだ」
デ 『ふふん。なら簡単なことじゃない。私たちを守ってね? 男』
男 「………………」ハァ
男 「分かったよ。分かりました。着いてきてください、ネムサス様、デイジィ様」
男 「ただし、ひとつだけ約束してほしい」
ネ&デ 『『? 何よ?』』
男 「僕がもし……あり得ないだろうけど、犯人と接触したとする」
男 「そうしたら、とにかく逃げてくれ」
ネ 『なっ……そんなこと!』
デ 『できるはずないでしょ!』
男 「それでもしてくれ。絶対に……間違っても犯人に立ち向かったりしないこと。すぐに逃げ出すこと。いいね?」
ネ&デ 『『でもっ――』』
男 「それが約束できないのなら、ふたりを連れて行くことはできないよ」
ネ&デ 『『………………』』
男 「………………」
ネ 『……分かったわ。私たちは男が『逃げろ』って言ったら、一目散に全力で逃げ出す』
デ 『そして、すぐに助けを呼んで駆けつけるわ!』
男 「…………」フッ「……分かったよ。頼りにしてるよ」ナデナデ
白井 「にゃっ……! お、男さん!? 騒々しいですわよ!」
白井 「……って何ですの!? そのネコさんとアヒルさんは!?」
男 「説明は後でします! 僕たちも早く捜索に加わりましょう!」
白井 「……?(いつになくやる気ですけど……なんか、肩すかしというか、落ち着かないというか……)」
男 「……白井さん?」ズイッ
白井 「ッ――!! な、何でもありませんの! さ、行きますわよ!」パシッ ダッ
男 「にゃはぁ! い、いきなり引っ張らないで!」
ネ 『ほぅほぅ……このツインテロリが白井……』
デ 『へぇ……こういう胸のぺったんこなのが好みなの? 男』
男 「お前らはお前らで変なこと言うな!」
白井 「初春はアンチスキルも含めた全情報管制のチーフをしていますので待機中です」
男 「うわぁ……初春さんってすごい人だったんだなぁ」
白井 「固法先輩は、○○Tシャツ先輩とペアで捜索に加わっています」
男 「……? ああ、きょにゅ――○○Tシャツの坊主頭の方ですね」アセアセ
白井 「今回は、わたくしと貴方がペアということになります」
白井 「パトロールも捜索も、風紀委員は二人一組が原則ですの」
白井 「絶対にわたくしから離れないでくださいましね」
男 「……あ、うん。分かりました」
ニャーニャーガーガー!!
ネ 『コラ! 何ベタベタしてんのよ男!』
デ 『白井もくっつき過ぎよ! ババァ声のくせに!』
男 「ババァ声いうな」
ノラ1 『うんにゃ、そんな怪しい連中は見とらんよ』
ノラ2 『見てたとしても、近づかないだろうねぇ』
男 「……そうだよなぁ。よっぽど頭がお花畑じゃなきゃ、近づかないよなぁ……」
男 「ん、分かった。ありがとう。ほら、煮干しだよ」
白井 「…………」
プルルルルル ピッ
白井 「もしもし?」
初春 『白井さんですか? 初春です』カタカタカタタタタタタ
初春 『たった今、アンチスキルの方から遺留品のデジタルデータが送られて来ました』カタタタタタ
初春 『今からそちらに転送しますので、確認をお願いします』ktktttttttt
白井 「了解ですの!」
白井 「男さん! ちょっとこっちに来てくださいまし!」
男 「はい! ……どうしたんですか?」
白井 「たった今、初春から連絡がありましたの。誘拐現場の遺留品のデジタルデータが転送されるとのことです」
ピルルルルル……
白井 「っ……来ましたわ」
男 「あ、僕にも見せてくださいよ」ズイッ
白井 「えっ……?(ち、近い……! 近いですわよ男さん!)」
白井 「えっ、ええええと……て、添付ファイルのダウンロード……と」
白井 「こ、これですわね! 開けましたわ!」
男 「?(白井さんどうしたんだろ? 体調でも悪いのかな?)」
白井 「そしてこれが、現場写真のファイル……」
白井 「? この3Dデータは何ですの?」ピッ ブゥン
男 「!!?」
白井 「何ですの、これ? ワッペン……?」
男 「これ……このネコのワッペン……!」
白井 「えっ? お、男さん? どうされましたの?」
男 「間違いない……あの子のだ……」
―― 幼女 『おにいちゃん。ミケタを助けてくれて、ありがとうございました』 ――
男 「あの子が……? 誘拐されたのって……あの子、だったのか……ッ!」バン!
男 「…………ッ」コクン「間違いない、です……これは、あの子のです……ッ」
男 (誘拐現場は、僕の高校から第177支部へと向かう道の途中……この前あの子と会った場所だ)
男 (もしかして、元気なミケタの姿を僕に見せるのが待ちきれなくて……)
男 (けれど今日こそは非番だった僕がそこを通らなくて……)
男 (だから、あそこでずっと待ってて……誘拐されたのか……?)
男 「ッ――!!」ゲシッガン!
白井 「お、男さん! 何をしてらっしゃいますの!?」
男 「僕の……僕のせいだ……僕のせいだ!」
男 「僕の……くそっ……僕の、せいだ……」ポロポロ
白井 「………………」
ネ 『……可哀想』スリスリ
男 「うっ……うぅ……」ポロポロ
白井 「……ふん。とんだ筋違いでしたの」
白井 「やはり少しでも見直したわたくしがバカだったようですわね」
男 「ッ……」キッ
ネ 『なっ……と、取り消しなさいよ!』フシャアアアアア!!
デ 『そ、そうよ! アンタ何様よ!』ガーーーーーッ!!
白井 「あら? 何を取り消せばいいんですの? そこの泣き虫坊やに、一体何を?」
ネ&デ 『『なッ――』』
男 「………………」
白井 「ほぅら、何も言い返すこともできないじゃありませんの」
白井 「この白井黒子様がはっきり申し上げましょうか?」
白井 「――泣くだけしか能のないレベル1なんて、やっぱり風紀委員には不要ですわ、と」
サッ……ピトッ
男 「えっ……? 白井、さん……?」
白井 「泣くだけで、彼女が戻ってくるのですか?」
白井 「泣いていれば、貴方は楽になるのですか?」
白井 「少なくとも、わたくしはあなたの泣いている姿なんて見たくありませんの」
白井 「貴方が今、何を成すべきなのか……それは貴方が知っていますね?」
男 「…………っ……」コクン
白井 「ふふ……なら、それをすればよろしいではありませんか」
白井 「ねぇ、多くの生命の恩人……レベル1の『特殊感応力者』さん」
白井 「っ……(ち、近い! っていうかわたくしは一体何を……!?) い、いえいえですのー」サササッ
男 「ネムサスも、デイジィも、ありがとう」
ネ&デ 『『……うん。……ううん』』ササッ
男&白 「「えっ?」」
ネ&デ 『『白井さん。ありがとう』』
白井 「………………」ワ、ワタクシデスノ?
白井 「あ、えーと……ど、どういたしまして、ですの」
……ニコニコニャーニャーガーガー……
男 「……ん? 待てよ? 今なにかおかしかったような……」
男 「……ま、いっか」
白井 「了解ですの」ピッ ブゥン
男 「……やっぱり」
白井 「? 何がやっぱり、ですの?」
男 「ねぇ白井さん。そもそも何でワッペンが遺留品として残ってたんだと思いますか?」
白井 「それは……被害者が自分の危機をしらせるために……」
男 「小学校低学年の女の子が、怖い連中に連れ去られる時に、そんなことができると思います?」
白井 「……そうですわね。では、犯行グループが誤って引きちぎってしまい、そしてそのまま残された……とか」
男 「そうですね。その考えが一番まともだと僕も思います」
男 「けどさ、よくワッペンを見てください。これ、明らかにおかしいんですよ」
白井 「……? どこがですの?」
男 「切り取られた断面です。なんかボコボコした小さな穴が空いてますよね」
白井 「はぁ……そういえばたしかに……裁縫の跡……ではなさそうですわね」
男 「そうですね。裁縫をしたことのない独身女性なら分からないでしょうけどね」
鉄装&黄泉川 「「――クシュン!」」
ネ 『? 何かしら?』
デ 『何言ってるのよネムサス。アンタがしょっちゅうふすまに空けてる穴と同じじゃない』
ネ 『あっ……もしかして、爪研ぎをする前の……?』
男 「そう。ふすまの固さを確かめるために爪で空けるあの穴だよ」
白井 「……!? と、いうことは、まさか……!」
白井 「拐かされた幼女さんは……ネコを連れていらしたということですの?」
白井 「そして……飼い主と共に連れ去られる直前、ワッペンを剥がして落とした……」
男 「ええ。彼女がそこにいた理由から考察しても、それは確実だと思われます」
男 (ミケタくん……君はきっと、僕にこれを伝えたかったんだねよね)
男 「白井さん、知ってますか? この学園都市に存在するすべてのペットには何があるか」
白井 「……? あいにくと動物にはあまり興味がないものでして」
男 「発信器……ですよ。捨てネコや野良犬の増加抑止のための、ね」
男 「そうです。だから今すぐ学園都市のペットを総括している団体に連絡を!」
白井 「わ、分かりましたわ!」ピピピッ「初春! ペット! ペットですの!」
男 「っ……はぁ……これで、間違いはないはず……」
男 「何か分からないけど……疲れたぁ……」
ネ&デ 『『………………』』ジーーーーーッ
男 「? 何? その目は」
ネ 『ううん、べっつにぃー』
デ 『そうそう。ちょっと惚れ直したってだけよ』
男 「………………」
男 「……そりゃどうもありがとう」
――被害者の飼い猫が被害者と共に連れ去られた可能性大。
――飼い猫に付けられた発信器から、犯人グループが潜んでいるとおぼしき場所を特定。
――ポイント/○○○○○○へ、アンチスキル全実働部隊は急行せよ。
――繰り返す。ポイント/○○○○○○へ、アンチスキル全実働部隊は急行せよ。
――なお、風紀委員各位には、念のため、さらなる捜索活動を要請する。
白井 「初春!? どういうことですの、これは!?」
初春 『……仕方ないじゃないですか』
初春 『ペットの発信器の信号データを提供させるなんて、アンチスキルでなければ不可能ですよ……』
初春 『だから、白井さんたちが見つけた情報を、アンチスキルに提供するしかなかったんです……』
白井 「だったら何故! なぜ、風紀委員であるわたくしたちには、位置座標が隠匿されておりますの!?」
初春 『それは……アンチスキルからの要請で、』
初春 『子どもたちには、これ以上危険な真似はさせられないから、と……』
白井 「ッ……また……また子ども……!? また子どもと言って、わたくしたちを締め出しますの!?」
初春 『……すみません』シュン
白井 「…………いえ、わたくしが言い過ぎましたわ。初春、貴女は何も悪くありませんのにね」
男 「………………」
男 「いえ、いいんですよ。たしかに、子どもが危険なことをやるよりは、大人がやった方が健全ですしね」
白井 「………………」
ネ 『ちょっと男! アンタはそんなんだからいつもいつも貧乏くじばっかり引くのよ!』ニャーッ
デ 『そうよ! 少しはハングリー精神ってモンを持ちなさいよ!』ガーッ
男 「……はは、無茶言わないでよ……(でも、何だろう?)」
男 (この胸騒ぎは何だろう? 頭にピリピリ来るような痛みも……)
男 (この、とてつもない嫌な予感は何なんだろう……?)
ナー……ナー……ナ……パタン
男 「!!? ね、ネコ!?」
ネコ 『あっ……男の兄貴ぃ……』
男 「……!? まさか、お前ミケタか!?」
ミケタ 『そうでさぁ……良かった。兄貴に会えたぁ……』
ミケタ 『話せば長くなるんですが、一つだけ先に言わせてください……』
ミケタ 『――罠です! 僕の発信器はすでに取り外されています!』
男 「えっ……? だ、だって、発信器っていうのは、動物の足に埋め込まれて――ッ!!」
グチャッ ドロッ ……
男 「ミケタ……その足……お前……」
男 「まさか……発信器をえぐり取られた足で……走ってきたっていうのか!?」
ミケタ 『僕のことなんてどうでもいいんです……紛らわしいヒントを残してしまった僕のせいだから……』
ミケタ 『兄貴! 早く! 奴ら……突入してきた皆さんを、一網打尽にするつもり何です!』
白井 「初春! 至急です! 至急! アンチスキルに突入中止の連絡を入れなさい! 罠ですの!」
男 (嘘……でしょ……?)
黄泉川 『諦めんのが早いじゃん。もちっと努力しろよ少年』
黄泉川 『……ふっ、三十点、ってトコじゃん? 少年』
黄泉川 『ま、せいぜい頑張るじゃん? 期待のネコ新人』
男 (また……また、僕の、せいで……?)
黄泉川 「まず、建物の四方をそれぞれの班が固める。その上で、わたし率いるA班が内部へ突入し、子どもとネコを救出する」
黄泉川 「連中は再三に渡る対話要求にすべて無言で返した。これ以上の待機は子どもの安否に関わってくる」
黄泉川 「ただし、中にいる犯行グループも、あくまで我々が守るべき子どもである!」
黄泉川 「それを肝に銘じた上で、この突入作戦に当たれ! 以上だ!」ビシッ
一同 『はッ』ビシッ
………………
鉄装 「……あ、あのー……黄泉川隊長~……?」ソーッ
黄泉川 「…………」ギロリ
鉄装 「い、いえ、……な、何でもありませ~ん……」スゴスゴ
鉄装 「……ご、ごめんねー、花飾りちゃん。先輩、作戦前で気が立ってるから、また後で聞くよー」
初春 『そ、それじゃ遅いんですって! だから! その建物、罠なんで――』ガチャン!
鉄装 「……まったくもう。中間管理職の辛さ、誰か少しは鑑みてよね……」
黄泉川 「作戦決行!」
バァン! ポイポイ! シュー!!……タタタタタタ……
黄泉川 「? ……誰もいない……?」
隊員1 「隊長! ネコもどこにも見当たりません!」
黄泉川 「そんなバカな……発信器の位置はたしかにここで――」
キラン
黄泉川 「あれは……ッ! まさかッ!」
黄泉川 「くそッ、総員退避――」
――カッ!!――
鉄装 「重要な情報だったらどうしよう……私だけでもお話聞いておけばよかったかな」
鉄装 「……はぁ……装甲車で待機って、暇だなぁ……」
ッドォォォオン……!!
鉄装 「――ひっ……! な、何!? 何事!?」バン!
ガラガラガラガラ……
鉄装 「嘘……」
鉄装 「……まさか、花飾りの子は、このことを……?」
鉄装 「私の、せい……?」
鉄装 「皆さん……? 先輩……? 嘘……嘘、だよね……?」
?? 「くくくっ……」
?? 「バーカ。能力者でもない大人が余計なことするからそうなるんだよ」
?? 「アンチスキルの衝撃吸収率の高い防護服……そう厄介でもなかったな」
?? 「いかに防御力が高くとも、パワードスーツというわけじゃない」
?? 「だったら圧倒的な質量で押し潰してしまえばいい……」
?? 「くくっ……まさか昨日頂いた対戦車砲の弾頭がこんなに役に立つとはな」
?? 「懐古趣味もそう悪いモンじゃない、か……くくっ、くくくく……!」
?? 「さぁ、今度はどいつが来るんだ? アンチスキルの別部隊か? それとも……」
?? 「来てくれるのか? なぁ、風紀委員よぉ……」
白井 「なっ……う、初春? 今、何と言ったのです?」
初春 『……ですからっ』 ヒグッ 『……っ、アンチスキル実働部隊……ほぼ、全滅……』
初春 『……隊員、全員の、安否は……っ、確認、されていません……っ!』
男 「………………」
男 (また、僕は間違えてしまった……)
男 (僕のせいで……黄泉川先生は……ッ)
男 (僕は……)
ネ 『…………』シャッ
デ 『…………』ペシン
男 「? ネムサス? デイジィ?」
男 「………………」コクン
男 (……ありがと、ネムサス、デイジィ。僕は本当に、君たちに支えられてばかりだ)
初春 『ごめんなさい……っ! ごめんなさい白井さん! わたしのせいです……! わたしの……!』
白井 「ッ……! 違いますの。わたくしの責任です……」
白井 「わたくしが……わたくしがしっかりと情報を整理してから、貴女に情報を伝達すべきでしたの……!」
白井 「……わたくしの、せいですの……ッ!」
男 「………………」
男 「……白井さん、初春さん、それは違うよ」
男 「責任の所在なんてどうでもいいです。僕にあろうが、白井さんにあろうが、誰にあろうが、ね」
男 「大事なのは、今ある事実をもって、これからにどう繋げていくかでしょう?」
男 「アンチスキルは敗北しました。なら、この街を守れるのは、他に誰がいるでしょうか?」スッ
男 「……この腕章をつけた、風紀委員たる僕らしかいないでしょう?」
男 「僕たちが嘆いていても、何も戻ってはきませんよ」
白井 「………………」
男 「それを僕に教えてくれたのはあなたでしょう。優しい優しい、レベル4さん?」
白井 「………………」フッ
白井 「……まったく、キザったらしいセリフを長々と……欠伸がでますわ」
白井 「ですが、まったくその通りですわね。……我々風紀委員の底力を見せて差し上げましょう」
ニコニコ ニコニコ
初春 『……あのー、わたしいつの間にか空気になってたんですけどー?』
男 「さ、ミケタ。無理をしたんだから、しっかりと休んで怪我を治すんだよ?」
ミケタ 『兄貴……面目ないです。僕のせいで、皆さんに迷惑をかけてしまって……』
男 「何言ってるんだよ。君が怪我をおしてでも僕らの元に来てくれたから、」スッ サワッ
男 「僕たちは犯人の居場所を知ることができたんじゃないか」
ミケタ 『兄貴……』ニャーン
男 「こんな酷い怪我をしながら走るなんて……本当に、すごい勇気だ。僕も見習いたい」
男 「だから、あとは僕に任せて。僕ら風紀委員が絶対に、幼女ちゃんを助けだしてみせるから」
ミケタ 『……はい、兄貴。幼女ちゃんを、お願いします……!』ニャー!!
男 「うん!」サッ ガラッ 「……それじゃ、白井さんが表で待ってるから……。行ってくるよ」
ミケタ 『御武運を、兄貴!』
男 「……さて、と。……すいません」
従業員 「はい、何か?」
男 「風紀委員の者です。ひとつお聞きしたいのですが……」
男 「裏口ってありますか?」
ネ 『……ねぇ、男。本当にいいの?』ニャー
男 「……白井さんには悪いけど、よく考えたら中学一年生女子を僕のワガママに巻き込むわけにはいかないでしょ?」
デ 『彼女はレベル4なのよ?』ガー
男 「たとえ白井さんが大能力者であろうと何であろうと、年下の中学生ってことに変わりはないよ」
男 「………………」
男 「……人がいる場所で、容赦なく爆発物を爆発させる連中かー」
男 「はは……正直な話、物理的に怖すぎて、精神的な恐怖はなくなっちゃうよね」
男 「怖いけど……ねぇ? 白井さんに怪我とかしてほしくないし」
白井 「奇遇ですわね。わたくしも怪我などしたくはありませんわ」
男 「でしょう? だから――ってにゃはぁっ!?」
白井 「まったく。来るのが遅いと思ったら……これですの?」
白井 「臆病で脆弱で惰弱でひ弱で情けなくてとにかく弱い男さん」
白井 「大変残念なことに、貴方はオツムも弱いということを存じておりますから」
男 「言い過ぎじゃない? ねえ、言い過ぎじゃない?」
白井 「臆病なくせにこういう馬鹿なことをすると、知っておりましたから」
白井 「ですので、一分おきにテレポートで両出入り口を往復してましたの」ニコッ
男 「………………」
男 「……ミケタの治療室まで一緒に来ればよかったのでは?」
白井 「………………」
白井 「……単独行動をしようとしていたお馬鹿さんがそれ以上舐めたことをおっしゃるというのなら、」
白井 「腰、蹴りますわよ?」
男 「ごめんなさい全面的に僕が悪かったので足を振り上げるのはやめて!」
白井 「パートナーを置いて勝手にどこかに行こうとするからですの」
ネ 『……ふふ……』ナー
デ 『……ふっ……』クァー
男 「……なんだよ、その笑いは。結局蹴られた僕を見てそんなに楽しいか?」
ネ 『違うわよ。ね、デイジィ』
デ 『そうね、ネムサス。ライバルに対して宣戦布告の笑みだもの』
白井 「………………」
男 「意味が分からないよ……っと」
男 「初春さん、犯行グループの居場所は特定できましたか?」
初春 『もう少し……もう少しです……』ピーピッ
初春 『あっ、出ました! いま位置座標を送ります!』
白井 「……なるほど。わたくしのテレポートならすぐの位置ですわ」
白井 「行きますわよ、男さん!」パシッ! ヒュン!
白井 「着きましたわ。……って、ここは……」
男 「昨日の商店街……?」
白井 「……なるほど。灯台もと暗し、というわけですわね」
白井 「事件が発生する直前まで、ここには現場保存のためのアンチスキルがいたはずですの」
白井 「誘拐事件が発生し、常に人手不足のアンチスキルは、ここにいた人員も招集したのでしょう」
白井 「直前まで警備があった場所……アンチスキルの目を誤魔化すにはもってこいではありませんか」
男 「なるほど……」ギリッ「犯行グループは安穏とここに隠れて、黄泉川先生たちを……!」
白井 「……どうしますの? 本当にわたくしたちだけでやりますの?」
白井 「せめて第177支部の、固法先輩たちにだけでも増援を頼んだ方が……」
男 「……言ったでしょう? これは僕のワガママなんです」
男 「固法さんたちを巻き込めませんよ (というか、本当なら白井さんも巻き込みたくないんだけど……)」
白井 「……分かりました。わたくしももう何も言いはしませんわ」
白井 「けれど、ひとつだけ訂正させてくださいな」
白井 「”僕の”ではなく、”僕たちの”、ですわ。わたくしたちはパートナーなのですから」
白井 「貴方が何と言おうと、わたくしだけは巻き込まれますからね?」ニコッ
男 「う、うん……!」 ドキッ (薄々とは気づいてたけど……白井さん、その突然の笑顔は反則だよ……)
ネ&デ 『『……(今は空気読んであげるけど後で覚えておきなさいよ男……!)』』シャーッシャーッ バサバサッ!
白井 「……男さん」ウルッ
男 「へっ? あ、はい! な、何でしょうか!?」
白井 「わたくし……突入する前に、男さんにひとつだけ、言っておきたいことがありますの……」シナッ
男 「ひにゃっ!? し、ししししししし白井さん!? (うわっ、良い香り……身体柔らかい……)」
白井 「……あの、ですね……怒らないでくださいましね……」ウワメヅカイ
男 (まさか……まさか……これが伝説の……幻の……!!)
男 (女の子からの告白タイム!?)
男 「お、怒ったりするわけ、な、ないじゃ、にゃいですか」
白井 「そうですの……良かった」ニコッ
男 「…………」ドキドキドキドキ
白井 「あの、男さん……あの、ですね……」
ドキドキドキドキドキドキドキドキ
白井 「――ごめんなさい、ですの」ヒュン …… トン!
男 「?」
男 「……へ?」
男 「って、何でそんなものが僕の制服を壁に縫い止めているのです!?」
ヒュン ヒュン ヒュン …… トン! トン! トン!
男 「へっ? わ、わわっ、動けない!」
ネ 『ち、ちょっと白井!?』
デ 『男に何をするのよ!』
男 「!? ちょっ、し、白井さん!?」
白井 「………………」フッ
白井 「……そちらのワガママも聞いて差し上げるのですから、」スッ
白井 「こちらのワガママを聞いてくれてもよろしいでしょう?」
男 「わ、ワガママ……?」
白井 「わたくし一人が突入する……それがわたくしのワガママですの」
白井 「あら? 貴方がそれを言いますの? 先ほどわたくしをまこうとした男さん?」
男 「そ、それは悪かったですけど、僕たちはパートナーなんでしょ? 風紀委員は二人一組が基本だって……」
白井 「そうですわね。ではこういたしましょう」スッ
男 「あっ、僕の腕章!」
白井 「これで男さんは風紀委員とは認められなくなりました」
白井 「ならば、わたくしは風紀委員として、貴方を危険な場所へ連れて行くわけにはまいりません」
男 「そんなのって……そんなのってないよ!」
男 「僕は風紀委員だよ! 白井さんのパートナーだよ!」
白井 「……わたくしはレベル4ですから……なんて、傲慢なことは言いませんわ」
白井 「ただ、男さん。わたくしは、あなたに傷ついてほしくないだけですの」
男 「そ、そんなの……」
白井 「――ESP研、被検体NO.00103」
男 「なっ……!?」
ネ&デ 『『ッ……!?』』
白井 「男さんが風紀委員に推薦された際、男さんの過去を調べさせていただきましたの」
男 「………………」
白井 「貴方は本当にお強い方ですのね……と、馬鹿なわたくしはそれを知ったときに感激いたしました」
白井 「そして、愚かなわたくしは、惰弱な貴方の姿を見ていて、失望いたしました」
白井 「……本当に愚かですわね、わたくしは。貴方の強さは、一分も変わらずそこにあったというのに」
白井 「そして、貴方の強さの裏に、古傷が今も疼いているとも知らず……」
男 「………………」
白井 「ねぇ、男さん。貴方はもう十分傷ついたでしょう?」
白井 「だからもう、傷つかなくていいのですわ」
白井 「聞き込み調査程度ならいざ知らず、こんな直接的な危険に身を置くことはないのです」
白井 「……それに、約束いたしましたしね」フッ「わたくしがあなたを命を賭してでもお守りいたしますわ、と」
男 「………………」
白井 「では、ごきげんよう、男さん。またすぐにお会いいたしましょう」ヒュン
ネ 『………………』
デ 『………………』
男 「……白井さん、知ってたんだね。僕たちのこと」
ネ 『そう、みたいね……』
デ 『風紀委員だもの。当然といえば当然よ……』
男 「………………」
ネ 『……ねえ、男』
男 「? なに?」
デ 『大声で鳴きましょうか? そうすれば誰かが見つけてくれるかも』
男 「ダメだよ。離れてるとはいえ、こんなところに一般人を呼べないよ」
ネ 『じゃあどうするの?』
男 「……このままでいいんじゃない?」
男 「四肢を縫い止められたままで、さ。何もできない弱い僕にお似合いじゃない」
男 「……事実だよ」
ネ 『……あらそう。じゃあひとつ聞くけど、もしその楔が取れたら、男はどうするの?』
男 「……この見事にコンクリにめり込んでる鉄矢が取れたら?」
男 「……ははっ、僕は弱いレベル1だからね。白井さんのワガママに甘えて、もちろんここから逃げ出すさ」
デ 『へぇ……言ったわね?』
シャキン キラン
男 「……へ?」
バリバリバリバリバリ!!! ツンツクツンツクツンツクツン!!!
男 「にょわぁぁぁぁああ! くすぐったこそばゆ痛いぃぃぃいいいい!」
ネ 『ふぅ……ざっとこんなモンかしら?』
デ 『上出来ね。制服の縫い止められていた部分は全部破いたわ』
男 「……うぅ……お礼を言うべきなのか、恨み言を言うべきなのか……」
ネ 『どっちでもお好きな方をどうぞ』
デ 『でもその前に、さっさとここを逃げ出しましょう』
男 「……へ?」
ネ 『あらあら? 何を間抜けた声を出してるの? 男』
デ 『白井のワガママに甘えて、逃げ出すんでしょう?』
ネ 『そうよねぇ。腕章のない男はただの一般人だもの』
デ 『そもそも男はただのレベル1ですものねー』
男 「………………」
デ 『モタモタしてると置いてくわよー?』
男 「……お前たちは本当に……意地が悪いな……」
男 「僕は確かに、弱い弱い低能力者だよ」
男 「どっかの万年入院野郎みたいな根性もないよ」
男 「ただの惰弱な、ひ弱な、脆弱な、そんな独り言野郎だよ」
男 「けど、爆弾を平気でぶっ放すような連中の相手を、中学生ひとりにさせられるかよ……」
男 「大切な女の子を置いて、ひとりで逃げ出すような真似が、できるかよ!」
ネ&デ 『『………………』』ニタニタニタニタ
男 「……ふん。笑いたければ笑えばいいよ」
ネ 『ふふ……男のバーカ』ニャォン
デ 『惚れ直してたに決まってるでしょ?』グァン
白井 (とりあえず商店の屋根に転移してみましたけれど……)
白井 (これは何というか、あまりにもベタベタな方々ですわねぇ……)
白井 (そういえば、男さんがおっしゃってましたっけ? ホクトの……キノコ?)
白井 (ともあれ、ただのスキルアウトのようですわね。数は5)
白井 (わざわざ男さんを騙す必要もなかったかもしれませんわね)
白井 (……ふふ、まあ、あんなことを言ってしまったのですから、完全に嫌われたでしょうね)
白井 (いえいえ、普段からしてあんな態度を取っているのですから、元より嫌われていましたか)
白井 (……っと、こんな下らない考え事は後ほど、ですわね。今は女の子の救出を第一に)
白井 (女の子の姿は見当たりませんか……なら、直接彼らに問うしかありませんわね)
シュン!
白井 「……なんですの、この張り合いのない方々は?」
白井 「ろくすっぽ抵抗もせずに、ただ拘束されるなんて、スキルアウトらしくもない」
不良1 「………………」
白井 (……何か様子が変ですわね) 「もしもし? アナタ、さらった女の子はどちらにやったのです?」
白井 (答えない……? いえ……)サッサ パチン
不良1 「………………」
白井 (やはり、脊髄反射をしてませんの)
不良2 「………………」
白井 「全員が全員、同じ状態ということですの……?」
白井 「一体――」
?? 「――くく……っ! ありがたいなぁ! 本当に風紀委員が乗り込んできてくれるとはな!」
白井 「……!?」
?? 「くくっ……名乗れ、ということか? しかしそれは遠慮しておくよ」
白井 (スキルアウト……ではありませんわね。あの服装は、間違いなく学生服ですわ)
白井 (かといって事件と無関係とは思えませんわね)
学生 「何せレベル4と相まみえるのは始めただからなぁ。警戒して損はないだろう」
白井 「あら、殊勝な心がけですわね。しかし何故わたくしがレベル4だとご存じで?」
学生 「くくく……あれだけ派手に暴れていて、アングラな連中に顔が割れていないとでも思ってたのか?」
学生 「常盤台中学唯一のテレポーター――大能力者の白井黒子」
白井 「……それはどうも。ですが、ファンクラブを作るのなら陽の当たる場所でお願いいたしますわ」
学生 「それなら安心しろ。俺は陽の当たる場所で生きる一般学生だよ」
白井 「そうですの。でしたら、詳しいお話はぜひ、我が支部にてお願いいたしますわ」
白井 「ジャッジメントですの。事件の重要参考人として、アナタの身柄を拘束させていただきます」
白井 「取り巻き? ……ああ、このスキルアウト五人のことですの?」
白井 「お目々が悪いのですか? 見てのとおり、この方たちは地面に縫いつけてありますわ」
学生 「くくっ、へぇ……俺にはそうは見えないんだがなぁ?」
白井 「……?」
学生 「……スキルアウトの諸君、『戦闘』だ」
不良1~5 『…………っ』ピクリ
白井 「な、何ですの、一体?」
1 「………………」プルプルプルプル ビリッ
白井 「なっ……!(あの頭悪そうですけど頑丈そうな革の服を自力で破いた……!?)」
ビリッ バリッ ビリッ ……
白井 「ッ……なんていう馬鹿力ですの」
白井 (結局全員が鉄矢から逃れてしまいましたの。しかも囲まれましたわね)
白井 「……なるほど。これがアナタの能力、というわけですのね」
白井 「他人を意のままに操る……あまり趣味の良い能力ではありませんわね」
学生 「くくっ、やはりお見通しか。さすがだな、レベル4」
学生 「まあ、体内に直接異物を送り得るお前の能力の方がよほどえげつないと思うがな」
白井 「つまり、昨日のこの商店街でのスキルアウト同士の抗争事件も、アナタの仕業ということですのね」
学生 「ふん、そういうことになるな」
学生 「無能力者のクズ共を使って少し遊んだだけだがな」フッ
白井 「……まあ、わたくしもそれなりの能力者ですの」
白井 「努力をする気もなく、ただ徒党を組んで暴れ回るだけの連中を是とする気はありませんが」
白井 「しかし、だからといって人間を駒にして遊んでいいという理由にはなりませんわよ?」
学生 「……くく、さすが風紀委員様はおっしゃることが違う」
不良1~5 『………………』
学生 「ああ、ちなみにそいつらの筋力のリミッターは外してある。だから独力で服を破けたわけだが……」
学生 「くくく……あまり無茶をさせると死ぬかもなぁ。何せ筋肉に負担が尋常ではないからなぁ」
白井 「っ……本当に趣味の悪い殿方ですのね。どこかの類人猿の見境無さの方がよほど心地良いですわ」
白井 「……いいでしょう。まずは彼らをどうにかすることにいたしましょうか」
白井 (とはいえ、鉄矢による拘束が効かない状況で、どう戦闘不能にすればいいのでしょう)
白井 (……待ってくださいまし。そもそも、何故戦わねばならないんですの?)
白井 「……その前に、ひとつだけよろしいでしょうか?」
学生 「なんだ?」
白井 「あなたのさらった女の子はどこにいますの?」
学生 「くくっ……テレポーターであるお前に、そんなことを教えると思うか?」
白井 「っ……!(一筋縄では行きませんわね。やはりスキルアウトとは違う……)
白井 「……? この商店街にふさわしい、古き良き大きな丸ポスト……? ッ……ま、まさか……!」
学生 「ははっ、さすがに察したか。あいにくと小さな子どもを殺す趣味はないもんでな」
学生 「しかしまあ、口封じのために拐かしたものを殺さないというのも意味がないだろう?」
学生 「くく……だから、彼女には勝手に死んでもらおうと思ったというわけだ。この中でな」
学生 「このまま放っておけば、二、三日で死ぬだろうなぁ」
白井 「アナタは……アナタは、本当に、胸がムカつくぐらいにゲスな殿方ですのね……」ギリッ
学生 「ちなみにこの丸ポストは希少価値の高いコンクリート製……質量は150キロを超すが、」
学生 「どこかのレベル5の出来損ないならともかく、お前にそれだけの質量を動かす力があるのか?」
白井 「ッ…… (わたくしの能力の限界値を超えていますの……)」
白井 (そしてわたくしの能力では、中の女の子を移動させることもできない……)
白井 「くっ……ならば、することはひとつですの!」
白井 「アナタを拘束し、その後に女の子を救出いたしますわ!」
学生 「くくくっ……良いなぁ、その顔」
学生 「お願いだから、駒如きに負けてくれるなよ? なぁ」
学生 「そこの女を叩き潰せ」
不良1 「……ウォォォオオオオオ!!!」ブゥン
白井 「ッ……」ヒュン トン
不良2&3 「「ウォォォオオオオオオオオッ!!」」ブン ブゥン
白井 「くっ……(スピードが先までと段違いですの)」
白井 (あの能力者がしっかりと操作をしているから……)
白井 (そして、筋力のリミッターを外されて、無理な動きを強要されているから……)
白井 (……それにしても、五人もの人間を同時に操作できるなんて、大した演算能力ですの)
白井 (ですが……まあ、)
白井 「……」 タタタッ ヒュン
不良4 「…………ッ……!?」 ドガッ
白井 「……渾身のテレポート・ニーバットですの。おやすみなさいませ」 スタッ
不良4 「………………」
白井 「やはり……気絶させれば操作はできないようですわね」
白井 「理由は、対象の脳波に変化が現れるから……といったところでしょうか」
白井 「そして巧妙に動いてはいますが、ナイフなどの道具は使えそうにありませんわね」
白井 「……何も恐れないこと、そして爆発的な筋力は確かに脅威ですが、」
白井 「レベル3、といったところですわね? アナタの能力レベル」
白井 「その程度では、レベル4であるわたくしには届きませんわよ?」
白井 「投降するのなら今の内にどうぞ」
学生 「……くくっ、ひとりを倒しただけで自慢気だな」
学生 「指令を変更する。『殺戮』だ」
学生 「……やれ、愚鈍ども」
白井 (指令の変更、ですか)
白井 (なるほどなるほど。最初に大枠で指令を渡すことにより、操作を円滑にしていますのね)
白井 (先まではわたくしと『戦闘』するためだけの動きを操作すればよかった……)
白井 (だから五人もの人間を同時に操作することができますのね)
シャキン キラン
白井 「ッ……!」
学生 「気をつけろよぉ、レベル4」
学生 「今度は『戦闘』なんてちゃちなモンじゃない」
学生 「『殺戮』だぜ?」
不良5 「………………」 ダッ シュン!
白井 「くっ……」
学生 「くくっ……ヘタに飛び込めば怪我するぜぇ?」
白井 (ふむ……今度は『殺戮』。殺すための手段なら何でも操作可能……)シュン
白井 (殺害の手段として、ナイフを扱うこともできる、と)トン
白井 「……ま、どちらにしろわたくしの敵はないですわね」 サッ
ヒュン トントントン!!
不良2&3 『!!!?』
白井 「たとえ鉄矢で拘束することが叶わなくとも、」 ダッ ヒュン
ドン! バン!
白井 「――一時的に動きを止められればそれで十分ですわ」 スタッ
不良2&3 『………………』
不良1&2 『――――……ッア!!!』ブン! ブゥン!
白井 「そして、『殺戮』の条件では、あまりにも的が定まりすぎますのよ」サッ
白井 「首か頭かの二者択一なんてナンセンスですの」 ピトッ ヒュンヒュン バン!
不良1&2 『……!!?』
白井 「わたくしの手に触れられた者は、皆差別なく地に伏せることとなりますの。そして、」 ヒュン!
ズドン!
白井 「どうですの? わたくしのテレポート・ニードロップを喉に喰らった感想は?」
白井 「ほほほほ……もう意識がありませんか。これは失礼をいたしました」
学生 「………………」
白井 「さて、と」
白井 「お望み通り、取り巻きは片づけましたの。……覚悟はよろしいですわね?」ニコッ
白井 「あら。先ほどまでの威勢は一体どこへ行きましたのやら。怖じ気づきまして?」
学生 「……ふっ……くくくっ……」
学生 「くくくくくっ……! なるほど、これがレベル4か」
学生 「良いなぁ……やはり良い……! レベル3などではダメだ!」
学生 「もっと上へ……もっともっと上へ……! レベルを上げなければダメだ!」
白井 「……? 負け惜しみ……には聞こえませんが?」
学生 「? 何を言ってるんだ、お前。まさか俺が負けたとでも思ってるのか?」
白井 「あらら? 気でも違いましたの? アナタの駒は全員倒しましたのよ?」
学生 「くくっ……だから何を言っているんだ? 駒ならほら、目の前にいるじゃないか」
白井 「?」
学生 「常盤台のレベル4……その身体、貸してもらうぞ……!」
白井 「ッ!!? (何ですの!? この、頭の内側を撫でられるような感覚は……!)」
学生 「俺の能力名は『AIMドライバー』。お察しの通り、相手を意のままに操る能力だ」
学生 「しかしいくつかの制約がある」
学生 「一つに、この能力は学園都市の能力者にしか通用しない」
学生 「何故なら、この能力は能力者のAIM拡散力場を介してその能力者の脳髄を支配するからだ」
学生 「だから、手駒にならないアンチスキルは爆弾で埋めておいた」
学生 「そして二つめに、駒とする能力者のレベルによって、操作の難易度が変わるということだ」
学生 「簡単に言えば、コイツらのようなレベル0ならば何人でも操れるが、」
学生 「レベル1、レベル2と位が上がるにつれてそれも難しくなる」
学生 「俺が今まで操れたのは、最高でレベル3を一人まで……俺と同レベルまで、だ」
学生 「くくっ……くくくくッ! 良い感じに弱らせてくれたじゃないか、雑魚ども」
学生 「お前の脳波が良い感じに乱れてる……ちょうどよく、つけ込みやすいくらいにな!」
キィィィィィィィィィィン……
白井 「ッ!? ッ!!! ヒッ、ぐっ……!!(何ですの……身体が、動きませんの……)」
学生 「くくくくくくくくくくっ……脳髄支配領域、20%オーバー」
学生 「……同じ常盤台なんだ。『心理掌握』くらい知ってるだろう?」
学生 「奴は人間の脳髄の記憶領域、感覚領域を支配するが、俺は運動領域と演算領域を支配することができる」
学生 「俺はレベル4にシフトし、いずれはレベル5となるだろう」
学生 「くふふふっ……くくく……! そして俺は、あの学園都市第一位を操り、第一位に成り変わる!」
学生 「俺が……! この俺が、次代の学園都市第一位になる……!」
白井 「くっ……! ふ、ふっ……大した、野望、です、のね……!」
学生 「……? ふん、まだ口をきけるとはさすがだな」
白井 「です、が、その、お馬鹿な、誇大妄想、こそ、が、アナタの器の、小ささを、物語っています、わね……」ニヤリ
学生 「なッ……!? 口の利き方に気をつけろ! 俺は未来の学園都市第一位だぞ!」
白井 「ふふっ……小さい、小さい……どこぞの、殿方や……あの人には、絶対に、届かない……」
白井 「アナタ、ごとき、では……とあるレベル0や、レベル1には……絶対に、敵わない……」
白井 「アナタは、人の意志を、無視し、駒感覚で、人を操り……とある、ネコさん、を、苦しめた……」ゼェ、ゼェ
白井 「アナタは、小さな、女の子を、拉致し、狭く暗い場所に、閉じ、こめた……」ハァ、ハァ
白井 「アナタは、強力な、爆弾を……人が、死ぬかもしれない、ことを承知した、上で、使用した……」ゼェ……ゼェ……
白井 「アナタは、とある、ネコさん、の、足を、己の目的のために、切り開いた……」ハァ……ハァ……
白井 「そんな、アナタ……では……! 絶対に……彼らには、勝て、ない……!」
学生 「くっ……! お、俺の罠にかかった間抜けは口をつぐんでろ!」
学生 「脳髄支配領域、70%オーバー! これでもう余計な口はきけないだろう!」
白井 (演算領域も支配するということは、やはりわたくしの身体だけでなく、レベル4も操られる、ということですのね)
白井 (……まあ、わたくしレベルの能力者なら、止める手立てはいくらでもありますか)
白井 (ああ……もう思考もままならなくなってきましたの……)
白井 (……わたくし、どうなるのでしょう?)
白井 (レベル4という名の災害をまき散らした後、いずれ死ぬのでしょうか……?)
白井 (………………)
白井 (……やっぱり、嫌、ですわね……今さらですけど……死にたく、ないですわね……)
白井 (よく考えたら……ふふ、わたくし、まだ中学生ですものね……)
白井 (死にたくなんて……ないに決まってますわ……)
白井 (お姉様ぁ……)
学生 「――脳髄支配領域、90%オーバー! くくっ、これで……これで、俺もレベル4――」
白井 (男、さん……っ)
バヂン!!
学生 「ッ――!!?」
白井 「へっ……?」フラリ
男 「――大丈夫、ですか?」ヒシッ
男 「白井さん」
白井 「男、さん……?」
男 「……まったく、人の存在をうそって……それ酷過ぎじゃないです?」
白井 「なぜ……? なぜ、来たんですの……?」
男 「なに言ってるんですか。白井さんが言ったんじゃないですか」フッ
男 「またすぐにお会いしましょうって」
男 「僕はただその言葉の通り、白井さんに会いに来ただけですよ?」
白井 「っ……バカ、ですわ……本当に……度し難い、バカ、ですの」
男 「ふふ? それはどうも。でも、こんなに無茶した白井さんも、バカなんですからねギュッ
白井 「男さん……」キュッ
学生 「チィッ……一体何が――ッ!?」
男 「ッ……!! (敵!?) ――ッ!?」
学生 「……お前……お前、103、か……?」
男 「君は……102……?」
ネ 『えっ……? 嘘……』
デ 『……でも、あの顔は、間違いないわ……』
学生 「ESP研、被検体NO.00103……お前が……お前が何でこんなところに……!」
男 「君こそ……NO.00102……何で君がこんなことを!」
――103 『へっ……? あ、こ、こんにちは!』
――102 『何だよぉ。そんなにかしこまるなよ』
――102 『俺はNO.00102。お前の直前のナンバーだよ』
――103 『あっ、そうなんだ。初めまして、僕の名前は――』
――102 『ち、ちょっと待て待て! 研究所じゃ名前はタブーだぜ』
――102 『みんな番号で呼び合う決まりなんだ』
――103 『あっ、そっか……えっと、僕は、103だよ。よろしくね』
――102 『おう! よろしく!』
102 「お前のせいで……いや、その金魚のフンたちのせいで、接続が絶たれたのか……」
102 「相変わらず気持ちの悪い脳波だ……動物のようで、人間のような……気色の悪い脳波……」
102 「能力開発の途中経過として生み出された副産物がそんな出来損ないなんだから、まったく笑えるな」
ネ&デ 『…………っ……』
男 「なっ……訂正しろ! 102!!」
102 「うるさいな……お前は黙ってろよ……!」
102 「お前は何もかもを捨てて研究所から逃げた弱虫だ」
102 「そんなカスに、俺に異を唱える権利があるとでも?」
102 「……なぁ、俺はレベル3になったよ」
102 「お前はどうなんだ? 聞くまでもなく、どうせレベル1のままなんだろう?」
男 「………………」
102 「……すごいって、思ってたのに……憧れていたのに……」
102 「能力開発が怖くなって逃げ出したお前に、俺に何を言う権利もない!!」
白井 「……ふふ……」
102 「ッ……何が可笑しい、白井黒子!」
白井 「あらあらあら、これがおかしくなくて、一体何が可笑しいというのでしょうか」
白井 「男さん。貴方は胸をお張りなさい」
男 「白井さん……?」
白井 「言ったでしょう? わたくしは貴方の過去を知っています」
白井 「貴方がESP研究所を逃げ出した理由も、知っていますの」
白井 「ネムサスさんとデイジィさんに対する強引な能力開発をやめさせるためという、その理由を知っていますから」
白井 「……何が弱虫ですの……何が逃げ出した、ですの……」
白井 「大切な存在を……ネムサスさんとデイジィさんを守るために!」
白井 「そのために己のレベルシフトの可能性も捨てて! 研究所からの莫大な見返りも捨てて!」
白井 「……それがこの街で生きる能力者にとって、どれだけ勇気のいる行いか……」
白井 「それをなせる男さんが、どれほどお強いか……」
白井 「アナタには分からないでしょう! 何者かの威を借ることしかできないアナタには!」
102 「ぐッ……くっ……そったれがぁぁぁあああ!!」
102 「お前の高説なんか聞く気はないんだよ白井黒子ォ!!」
102 「この街は結局レベルが全てだ! 能力が全てなんだよ!」
102 「俺はそれを知っている……だからッ、お前の身体を支配する!」
キィィィィィィィィィィン……
白井 「ッ……くぅ……!!」ギュッ
男 「し、白井さん!?」
102 「なぁ、103よぉ……お前がいなくなった研究所で、俺は必死に努力したよ……」
102 「研究所で注目の的だったお前に成り代わるために、必死で努力した……」
102 「そして、ようやく得た力がこれなんだよ……ッ!!」
102 「俺はレベル4を支配し……レベル4にシフトするッ!!」
102 「今度こそ終わりだ、白井黒子ッ!」
白井 「ッ――!!?」
男 「白井さん!!」
ネ 『白井ぃ!』
デ 『白井ッ!』
白井 「……………ッ…」フッ
白井 「ふふ……殿方に、背中を、預けている、というのも……悪くはありませんわね……」
白井 「ですが……男さん、わたくしにはもう、何もできません……」
白井 「それ、どころか……レベル4、を、暴走、させる、災厄と、なるでしょう」
白井 「逃げて……逃げて、ください……」
白井 「早く、逃げて……ください……ッ!」
男 「嫌だ……! 絶対に嫌だ!」
フッ
白井 「……そう言うと、思って、ましたの……」ニコッ
白井 「でしたら、これ、を……っ」サッ
男 「これは……風紀委員の、腕章……」
白井 「ふふ……恥を、承知で、お願い、いたしますの……」
白井 「わたくしの、パートナーさん……」
白井 「わたくしを、たすけて、ください……ッ」
男 「………………」
男 「……わかりました」パシッ
男 「僕は風紀委員として……白井さんのパートナーとして……」ギュッ
男 「絶対に、白井さんをたすけてみせる……!!」
白井 「ッ――ぐッ……!!」
キィィィィィィィィィィン……キィィィィィィィィィィン……
白井 「ッ――――……ッ……ァア……ッ!」
102 「終わりだ、白井黒子! 支配領域、100%到達!」
白井 「ッァ――――……」
白井 「………………」ダン!
男 「ッ――」サッ
男 「白井さん……?」
白井 「………………」
男 「白井さん……白井さん!」
白井 「………………」
102 「くくくくく……ははははははははッッ!!! やった……! とうとうやったぞ!」
102 「俺はレベル4にシフトしたッ!」
男 「………………」ギリッ
ネ 『……なに、男』
デ 『………………』
男 「……『逃げろ』」
ネ&デ 『………………』
男 「……ほら、早く。……早く『逃げろ』!」
ネ 『……ッ、分かったわ』――トン
デ 『わたしたちは逃げるわ』――バサッ
男 「………………」
ネ 『男……ッ、……くっ』――ダッ
デ 『無茶、しないでよ……!!』――ヒュン
男 「………………」
102 「あんなケダモノ庇って研究所を逃げ出したりするから……こんなことになるんだよ」
男 「………………」
102 「……なぁ、103、お前もさ、やり直せるんじゃないか?」
102 「今からでも遅くはない……研究所に戻って、もう一度被検体にしてもらえよ!」
102 「お前の能力はきっと強くはならないだろう……だが、きっと科学の発展の役に立つ!」
102 「もう一度さ……あの楽しかった日々をさ……やり直してみようぜ?」
男 「……ごめん。それはできないよ。というか、ありえない」スッ
男 「これが分からないかな? そんなはずはないよね?」
102 「……? それは、風紀委員の腕章……?」
男 「そうだよ。僕は僕だから。そして風紀委員だから……だから君の誘いには乗らない。乗れない」
男 「改めて名乗ろうか、102……いや、事件の主犯さん?」フッ
男 「――風紀委員です。諸犯罪の現行犯で、貴方の身柄を拘束します」
102 「せっかくこちらが下手に出てやれば……つけあがるなよ、103!」
102 「お前が風紀委員? 馬鹿な。レベル1のお前に何ができる!」
102 「なぁ……お前の目の前にいるのは、レベル4だぞ? 大能力者だぞ?」
102 「怖いだろう? 恐ろしいだろう? 逃げ出したいだろう!?」
男 「………………」
男 「……ねぇ、102」
男 「君は一体、何を恐れているの?」
102 「ッ――!?」
102 「これがレベル4……『AIMドライバー』の力だッ!」
102 「白井、指令だ。目の前の男を『破壊』しろ」
白井 「………………」スッ
男 「……へぇ、白井さんの鉄矢、か」
102 「くくくッ! くははははははッ!! さあこれがレベル4だ!」
102 「心臓に穴を空けて! 抵抗することも許されず、一瞬で死ね! 103!!」
男 「………………」
………………
白井 「………………」
102 「……? な、何故……!?」
102 「何故、テレポートしないんだ!?」
102 「な、何だと……!?」
男 「自分の能力くらい、しっかりと理解しておきなよ、102」
男 「君の能力は、能力者の脳髄の運動領域と演算領域を支配する……っていうものだったね」
男 「それがレベル3にまでなったのなら、確かに侮りがたい能力だろう」
男 「けどね、102。たとえ弱っている白井さんを支配できたからといって、君がレベル4になったというわけじゃない」
男 「君は能力者を操り、その身体だけでなく能力までも扱うことができる」
男 「けどね……レベル3程度の演算能力しか持たない君に、レベル4が扱えるわけがないだろう?」
男 「それも、レベル4の中でもとびきり複雑な、11次元絶対座標の計算なんて……」
男 「たとえ白井さんの脳髄なら可能だとしても、それを操作する君の脳髄の演算能力じゃ無理なんだよ」
102 「……ッ――!」
男 「……君はまだレベル3だ。残念だったね、102」
男 「これ以上不毛なことを続けたって意味ないだろう?」
男 「君がしたこと全て、僕は絶対に許さない。けれど、君が自分の意志で投降するというのなら、」
男 「僕はその意志をできる限りくみ取り、減刑を申し入れることもできる」
102 「――ふざ……け――……るな……ッ!」
102 「……ふざけるなよッ!! 103!!」
102 「上から目線で物を言うんじゃねぇよ! お前は何様だ! ただのレベル1だろうがッ!」
102 「もう研究所にお前はいない! お前は正道を外れた落伍者なんだよ!」
102 「そんなお前が……お前が何で……いつもいつも……俺の前に立ちふさがるんだよッ!」
男 「………………」
男 「……そうか。わかったよ」
男 「102。君は、僕を恐れているのか……」
102 「ッ……!!」
男 「かつて研究所の中心だった、僕の幻影に怯えているのか……」
――NO.00103のことか? まぁなぁ……あれは逸材だったからな。
――我々のような日陰の研究者にとって、唯一の希望の星だった。
――ネコとアヒルに対しAIM拡散力場を用いて脳波を混濁させることができる能力……。
――一見してつまらない能力に見えたが……まさかこうも化けるとはな。
――103の脳波をネコとアヒルに移植し、ネコとアヒルの間に脳波のコネクションを作るまではいったのだが。
――その後……ネコとアヒルに能力開発実験をする直前で、彼は研究所から消えた。
――……あのネコとアヒルの脳波を用いて、他の動物への脳波の移植も可能だった。
――そしてゆくゆくは、移植を繰り返した脳波を、人工知能……世界最高の頭脳へとインプットし……。
――その脳波をレベル5とリンクさせ……最高の演算能力を持つレベル5が完成する……はず、だったのだが。
――……我々にはもう何も残されてはいない、か。
――ふむ。NO.00102も、結局は失敗作だったしな。
102 「俺は……俺こそが、最高のレベル5になる存在なんだよ!」
男 「………………」
102 「……っ、わかった……俺はまだレベル3なんだよな……なら……」
103 「見せてやる……見せてやるよ! レベル1ッ! これがレベル3の底力だ……!」
103 「白井。指令は変更しない。目の前の男を『破壊』しろ」
白井 「………………」 スッ ヒュン
男 「なッ……!? テレポート!?」
男 (何で……!? 何で白井さんが消えたんだ? テレポートは使えないはずじゃ――)
103 「考えてる暇があるのか? レベル1。俺は『破壊』と言ったんだぜ?」
103 「――死ぬぞ? お前」
シュッ!! ドガッ!!!
男 「ッ――――……!!!?(背後からの攻撃!?)」 バダン
白井 「………………」
男 「白井……さん……――ッ!?」ドン!!!
男 「くそッ……!! ごめん、白井さん!」ダン!!
白井 「…………ッ……」サッ
男 「ッ……ッ……ッ……(何で……何でテレポートを……?)」
102 「ははっ、お前こそ不勉強じゃないか? 103。学園都市にはな、レベル3のテレポーターも存在するんだよ」
102 「11次元絶対座標を計算しなくともいい……そんなテレポーターがなぁ」
男 (……そういえば、聞いたことがある……相手の死角にだけ移動するテレポーターの話を)
男 (なるほど……どこへ移動するかを明確に頭に思い描くことによって、細かい演算を無視できるのか……)
男 「(……だったらッ!) ――うぉぉおおおおおおおおおッ!!!」 ダン!!
白井 「………………」 パシッ
男 (よしっ! 捕まえてしまえば――)
102 「くくっ……かかったな、バーカ」
白井 「………………」 ギュッ クルン バン!!
男 「――――ッ!? しまった……関節を……!」
102 「このレベル4、なかなか動かしやすい身体だからまさか、とは思ったが……くくく」
102 「女子中学生に取り押さえられる男子高校生というのも、何ともシュールな光景だな」
102 「不慣れなテレポートを使わせるよりは、近接戦闘に持ち込んだ方がいいとは思ったが……まさかここまでとは」
男 「ッ――! くッ……(これは、昨日と同じだ……僕は白井さんに、単純な力比べで勝てなかったんだ……)」
男 (僕は……くそ……何でこんなに弱いんだよ……! 僕は、高校生なのに……男なのに……)
男 (何で中学一年生の女の子に、勝てないんだよ!!)
男 (……――ん? 待てよ……?)
男 (小さな中学一年生の女子に、同じく小さいけど高校一年生の男子が、単純な暴力で勝てない……?)
男 (……一般的に考えたら、それってありえないんじゃないか?)
男 「――……!! (白井さんの手つきに違和感がある。昨日と違って……慣れていないような感が)」
男 「………………」
男 「……なるほど」
男 「ふふ……まぁ、他人に戦わせるようなことをしてたのなら、当たり前かな」
102 「……? 何が言いたいんだ」
男 「……白井さんってさ、すっごく華奢だし、一見してただのか弱いお嬢様じゃない」
男 「でもその実、すごいレベル4だし……それを取ったって、近接格闘術も大したレベルなんだよ」
男 「……けどさ、単純な力で、高校生に敵うはずはないよね?」
102 「なに……?」
男 「僕はずっと白井さんの力が強いんだとばかり思ってた」
男 「けど、実際はそうじゃなかったんだ」
男 「彼女は、ただ単に、力の使い方が上手いってだけだったんだよ」
男 「それは単純に、白井さんの身体で最も効率良く力を引き出す方法を、操者の君が知らないからだ」
男 「だから――」 シュッ カシッ
102 「ッ……!! 関節技を、抜かれただとッ!?」
男 「こうなるんだよ。腕を痛めること覚悟で無茶すれば、簡単に抜け出せる」ジンジン
男 「……白井さん、やっと捕まえた」
白井 「………………」
男 「……ごめんね。守るとか言っといて、好き勝手やらせちゃってさ」
102 「くっ……だがどうする!? そいつは仲間なんだろう!?」
男 「そうだね。彼女は大切なパートナーだよ」
102 「なら――」
男 「そう。ならば――」ヒュン
ドガッッッ!!!!
白井 「ッッッ…………!!! …………」クタッ
男 「……ごめんね、白井さん」
男 「軽蔑してくれても構わないよ、102」
男 「鳩尾に全力で膝を一発入れた。気絶しないはずがないよね」
102 「お前は……」
男 「……僕は白井さんから色んなことを学んだんだ」
男 「仲間のために戦うってことも、彼女に教えてもらったんだよ」
男 「だからね……僕は白井さんを守るためなら、何だってする」
男 「たとえ、白井さんを傷つけることになろうとね」スッ
白井 「………………」
男 「ごめんね、白井さん。ちょっとだけ眠っていてね」
男 「……もう、終わらせるからさ」
男 「大人しく僕に捕まるか、それとも抵抗するかい?」
102 「ふん……仲間が仲間なら、お前もお前だな」
102 「あとは俺だけ? 寝言は寝て言え」
102 「手駒がなくなったら、新しい手駒を作るまでだ」
102 「今度はお前だよ、レベル1」
キィィィィィィィィィィン……
男 「ッ……!?(これが……102の能力……ッ!?)」
白井 「………………」
男 「ッ……くそっ……それでも……ッ!」ドン!
102 「なッ……前進した、だとッ!?」
男 「幼女ちゃんの、ためにも……白井さんの、ためにも……負けられ、ないんだよ……ッ!!!」ドン!
102 「ッ……く、来るな! 大人しく俺の手駒になれ!」
102 「お前はレベル1だ! 俺はレベル3だ! 1が3より大きいわけがないんだよ!!」
102 「低能力者は強能力者には勝てないんだよ!」
男 「そうだね……そうかも、しれない……ッ!」ドン!
男 「1と3、どちらが、大きいのか……それは明白なことだろう……」ドン!
男 「……けどね、102。それでも1は、足掻くことが、できるんだ」ドン!
男 「足掻いて、足掻いて……何かがあって、1が増えて、また1が増えて、そして、3に並ぶことを……」ドン!
男 「そんな奇跡を……待つことが、できるんだよ……!」ドン!
102 「来るな……こっちに、来るなぁぁぁあああッ!!」
102 「ッ……脳髄支配領域、50%を突破!」
102 「なのに……何故お前は動けるんだよぉぉぉおおおおッ!!?」
男 (動けよ! 止まるな! 動け!)ドン!
男 (あと少し……あと、少し……!)ドン!
男 (白井さんを、守るために……ッ!)ドン!
男 (幼女ちゃんを、救いだすために……ッ!)ドン!
男 (黄泉川先生たちの無念を晴らすために……ッ!)ドン!
男 (ミケタの想いを、覚悟を、無駄にしないために……ッ!)ドン!
男 (動け、動け、動け、動け……届けッ!)ドン!
102 「の、脳髄、支配領域……80%、突破……!」
102 「と、止まれよッ! 動くなッ! 何で動けるんだよぉ!?」
男 (ッ……く……と……ど、け……!)……ドン
102 「脳髄、支配、領域……90%……91……92……93……!」
男 (く……そ……とど、け……と、ど、……け……)…………ドン
102 「――96……97……98! 99! ――」
男 (と………………ど……………………ッ……) ………………
男 (…………く……そ……っ…………)ピタッ
102 「……はは……はははっ…………ははっははははっ……」ペタン
102 「か、勝ったっ……103に、勝った……」
男 「………………」
102 「俺の……俺の、勝ちだ……!」
102 「ははっははははははははっ! 103に、勝った!」
男 「………………」
102 「はっはっはっはっは……はははははははははははははっっっ!!!!」
――ネコト
102 「!? 何だ、今の……空耳、か……?」
――――アヒルガ
102 「!!!?」
――――――チカラヲアワセテ
102 「なッ……何だッ!?」
――――――――ミンナノシアワセヲー
ネ 『早く! 急ぐわよデイジィ!』ダッ
デ 『わかってるわよ! 早く……一刻も早く、助けを呼ばないと!』バサッ
ネ 『あっ……人間よ!』
通行人1 「? ネコとアヒル……?」
デ 『ちょっとすいません! お願いします! 力を貸してください!』ガーガーガガガガー!!!
通行人1 「うわっ、何このアヒル? 怖っ!」サササッ
ネ 『あっ、ちょっと待ちなさいよ!』ニャーーーーッ!!
ネ 『……ダメね。通じないわ』ニャー……
デ 『っ……何で! さっきは確かに白井に通じてたのに!』ガーガーッ!!
ネ 『ダメよ。……やっぱり、私たちはまだ不完全だから……』
デ 『だから……男が近くにいて、なおかつ本当に伝えたいことじゃないと、人間に言葉は伝えられない……』
ネ 『ッ……! どうやって助けを呼べばいいの!?』
デ 『…………ッ……』ギリッ
? 『あっれー? ネムサスちゃんにデイジィちゃんじゃないッスかぁ! チィーッス』
タマオ 『な、何だ、ってのはまたご挨拶ッスねー』
デ 『うっさいこのヘタレ猫!』ブチッ!!
タ 『痛いッ! 毛をむしらないでほしいッス!』
デ 『うるさい! 私たちはこんなことしてる場合じゃないのよ!』
タ 『ど、どうかしたんッスか? よろしければ力になるッスよ?』
ネ 『ネコに何ができるのよ……』
タ 『あのーネムサスちゃんもネコっすよねー?』
タ 『っていうか、そういうのって差別だと思うッス!』
タ 『人間よりもネコの方が役に立つときだってあるッス! ほら、ネコの手も借りたい……とか言うでしょ!?』
デ 『それは意味が違――………………』
ネ 『………………』
ネ&デ 『――――ああああっ!!』
タ 『にゃはぁっ!? な、何ッスかいきなり大声出して!』
タ 『えっ……//// あ、愛してるって……///』
デ 『さすがねタマオ。お礼に毛をむしってあげる』ブチブチッ!!
タ 『ギャーーーーッ! そ、それは遠慮するッス!』
ネ 『さぁ、そうと決まれば早速行動よ!』
デ 『そうね……とにかく私たちが大声を張り上げないと……』
ネ 『……ねぇ、タマオ、もしよかったら……』
タ 『協力ッスか? 任せてください。合点承知ッスよ!』
ネ 『……ありがと、タマオ』フッ
タ 『////////』
タ 『そ、それでオイラは何をすれば……?』
ネ 『とにかく、できる限りのネコを集めて』
タ 『……? ネコを、ッスか?』
ネ 『そう。……本当にお手柄よ、タマオ。良いことに気づいてくれたわ』
デ 『本当にね……何で私たち、人間を呼ぼうとしてたのかしらね?』
ニャーニャニャーニャニャーニャニャニャーニャーニャニャニャニャー
ニャーニャニャーニャニャーニャニャニャーニャーニャニャニャニャー
ニャーニャニャーニャニャーニャニャニャーニャーニャニャニャニャー
ガーガガーガガーガガガーガーガガガガー
ガーガガーガガーガガガーガーガガガガー
ガーガガーガガーガガガーガーガガガガー
ガーガガーガガーガガガーガーガガガガー
助けてください。助けてください。
学園都市に住まう、すべてのネコとアヒルへ。
助けてください。助けてください。
私たちの大切な人が、いま危機的状況にあります。
助けてください。助けてください。
私たちを助けてくれるという方は、中央通りに来てください。
子ネコ 「……ニャー」
ネコ 「ニャッ」スクッ ダッ
子ネコ 「ニャニャッ」スクッ タッ
ブチ 『……ふぅ、ま、旦那のことじゃ、仕方がないよねぃ』ヨッコラセ
ブチ 『命の恩人の危機を見過ごしたら、オイラの名がすたっちまう』ダッ
ミケタ 『兄貴が……危ない?』 スクッ 『痛ッ……けど、幼女ちゃんのために、兄貴が危ない目にあってるんだ……』
ミケタ 『だったら……痛かろうが何だろうが、僕も行かなきゃ!』タッ
アヒル1 『男さんのピンチかぁ……』
アヒル2 『正直あんまり、ぴんとこないけど……』
アヒル3 『でも、男さんと遊べなくなるの、嫌だよ?』
1&2&3 『『『……行こう!』』』バサッバサッバサッ!!!
?? 「ったくよォ、何だァ今日は? ニャーガーうるせェ日だな」
?? 「えーっ!!? ってミサカはミサカは驚きを露わにしてみたり! あなたって動物嫌いだったの?」
一通 「……オイオイ、オマエ、俺が動物好きの優しいヤロォに見えっか?」
打止 「うん! ってミサカはミサカは自信を持って断言してみたり!」エッヘン
一通 「…………チィッ……」
一通 「……!? ってェオイ。何だありゃァ!」
打止 「えっ……ってミサカはミサカは――って、ミサカはミサカはミサカはなんて言うか混乱してみる!!!」
一通 「……さすがの俺でも度肝ォ抜かれたなァ……」
一通 「何だよ、あのネコとアヒルの行列は……」
一通 「……ダメだ」 ブン スカッ
打止 「ダメじゃないもんダメじゃないもん! ってミサカはミサカは駄々っ子をやってみたり!」
打止 「着いていきたい着いていきたい着いていきたいーーーー!!」
打止 「あのネコちゃんとアヒルちゃんの群の行き着く先にミサカも一緒に行きたいのー!!」
一通 「あンな意味わからねェモンに着いていくヤツはどこのアホだ!」
打止 「ここのアホだ! ってミサカはミサカはちょっとカッコつけてみたり!」
一通 「…………」ゴン
打止 「痛ーーーーーっ!」
一通 「ったく……」 プルルルル 「あン? ……芳川か?」
一通 「……はァ!? 黄泉川が怪我したから見舞いに来いだァ? ふざけンな何で俺がそンな――」
打止 「……ネコちゃん……アヒルちゃん……うぅ……」
一通 「………………」
一通 「……いや、気が変わった……いつもの病院だな? わかった。すぐ行く」ピッ
一通 「おィ、ガキ。黄泉川が怪我したらしいから病院行くぞ。だからネコもアヒルもなしだ」
上条 「……それで、結局これは一体何なのでせう?」
?? 「私に聞かれたってわかるはずないじゃない……(ってもネコとアヒル可愛いなー)」ポー
?? 「お姉様は順調にギャップ萌えキャラを育成していらっしゃいますね、
とミサカは若干のあざとさに辟易としながらコメントします」
インデックス 「……っていうか、あのネコとアヒルの大群以上に気になることがあるんだよ」
イ 「何でとうまが短髪とクールビューティと一緒にいるのさ!」ギラン!!
上条 「ま、待ってインデックスさん! 早まらないで! 上条さんの頭部はもう限界なのです!」
御坂 「……ったく、アンタ達うるさいわねー」
ミサカ 「……お姉様」
御坂 「あん? 何?」
ミサカ 「あの中にいぬがいます、とミサカは簡潔に報告します」
御坂 「は? あのネコの大群の中に、イヌが?」
ミサカ 「言語的コミュニケーションに齟齬が生じています、とミサカは面倒になりながらも説明を続けます」
ミサカ 「ぶっちゃけて言いますと、あの中に我が飼い猫が紛れています、ということです」
上条 「……何やってんだ、あの我が家の穀潰し二号は?」
イ 「………………」ギランガブガブ
上条 「ギャーーーーーッ!!」
御坂 「ふーん……なんか面白そうね」
ミサカ 「その点に関しては、お姉様とまったく同意見です、とミサカは肯定の意を示します」
上条 「あん? ってオイ! 何さりげなく列の最後に並ぼうとしてんだよWミサカ!」
イ 「あ、短髪ー、クールビューティー、わたしも一緒にいくんだよー!」
上条 「ってぇオイ、お前もかよ! ちょっ、衆人環視の中あの列に並ぶのは、ちょっと……」
上条 「あぁぁぁぁぁぁあああ……! 不幸だぁぁぁぁああ!」ダッ
102 「な、何だよ、この歌は……一体どこから……?」
男 「………………」
102 「な、何なんだよ……何なんだよ!」
シュシュ ダッ!!
ヒュン バサバサッ!!
102 「なッ……!? お前ら……!」
ネ 『そこまでよ! NO.00102!!』
デ 『神妙にお縄につきなさい!!』
102 「っ……言葉がわかる……103は研究所を出ても未だに成長を続けてるっていうのか……ッ」
102 「だがなッ! お前たちが来た程度では何も変わらねぇんだよ!」
102 「お前たちの脳波に乱されないように演算式も変更してある!」
102 「今さらお前たちが戻ってきたところで――ッ!?」
ビジ…ジジッ…ジッ
102 「何だ……?」
デ 『そう……ネコとアヒルの脳波を同調させるという改造』
ネ 『普段なら私はアヒルと、デイジィはネコと会話ができるってだけだけど……』
デ 『ちょっと応用すれば、こういうこともできるのよね……』
ジジジ……ジジジジジッ!!
102 「なッ……なんだとッ!? 103とのリンクが――」
ネ 『――極小規模領域に集った大量のネコとアヒルの脳波を同調させ、大規模なネットワークを構築する』
デ 『ふふ……ねぇ102。いくら演算式を変更したからといって、そこまで巨大な異物に対応できるのかしら?』
102 「ッ――!?」
ジジ……バヂン!!!!!
102 「ッ……リンクが、切断、された……!?」
102 「たかが……たかがレベル1に……俺のレベル3が、破れただと……?」
ユラリ
102 「……ッ――――!!!!?」
ユラリ
男 「……だから言っただろう? 奇跡が起こるのを待つ、って……」
102 「ッ……!!?」
ユラリ
男 「そして今のは……起るべくして起こった……みんなが作ってくれた奇跡だ……」
男 「……もちろん覚悟は、できてるんだよな? ……NO.00102」
ユラリ
102 「く、来るなッ! 来るなぁぁぁぁあああッッッ!!!」
男 「………………」ダッ!!!
男 (ネムサス、デイジィ……本当にありがとう……)
男 (だからあとは僕に……僕に任せて……)
男 「――歯を食いしばれ、なんて優しいことは言わないよ」ブゥン
102 「!!!!!!」
男 「ただみんなの痛みを、苦しみを……思い知れッ!!!」 ドゴォォォオオオッ!!!!
男 「………ふっ………」フラッ バタン
ネ 『男!』
男 「あっ……ネムサス……デイジィ……ありがとう……お前たちの、おかげだ……」
デ 『もう喋らないで! 苦しいんでしょ!?』
男 「いいんだ……僕のことより、白井さん、を……」
ネ 『……白井なら大丈夫。規則的に息を立ててるわ』
男 「そ、そっか……よかった……」
男 「……あっ、よ、幼女ちゃんは……?」
白井 「っ……の……中、です、の……」
男 「白井、さん……?」
白井 「郵便……ポストの、中、ですの……早く……誰かを、呼ばな、ければ……」
白井 「ッ……操られた反動、でしょうか……? 身体が、思うように、動かないん、ですの……ッ」
男 「僕も、です……ッ携帯電話……ッ」
白井 「……うっ……!!?」
男 「白井さん……? 白井さん!?」
ネ&デ 『白井!?』ダッ
男 「っ……誰か……誰か……――」
? 『ネコとアヒルの行列に着いてきてみれば……何よこの時代錯誤な商店街』
? 『大分壊れていますね、とミサカは冷静に分析してみます』
? 『うわー……あんまり美味しそうな物はないかもだね』
? 「いや、っていうかあの、お嬢様方? 明らかに入っちゃ行けないようなテープが貼ってあったのですが……」
上条 「――っておい! 人が倒れてるぞ! これ、白井……? うわっ、これ男じゃねぇか!」
男 「上条……くん?」
上条 「お、オイオイお前大丈夫か!?」
男 「僕は、どうでも、いい……それより、白井さんと……あの、ポストの中に、閉じこめられてる……女の子、を……」
上条 「……」 フッ 「わかった。俺たちに任せとけ」
男 「……うん……」…………
大量のネコとアヒルが唄う姿を見たという。
――ネコとアヒルが力を合わせてみんなに幸せを――
おわり
男 「痛ぁぁぁぁあああッ――――――!!! 痛い! 痛い! 痛いです固法さんやめて!」
固法 「……ふふ……あらあら男くんったら怪我してるのに元気ね」ニコッ
固法 「けど病院では静かにしなきゃダメだから、またお仕置きね」ドン!!
男 「ッ~~~~~!!!」
坊主さん 「お、おいおい……固法、それぐらいにしといてやれよ」
坊主 「じゃないとそろそろ死ぬぞ? 男の奴」
固法 「ああッ!!?」クルッ
坊主 「――い、いやいや、何でもありません」アセアセ
坊主 (……さすが元ヤン。迫力が違う)
固法 「ふふ……ふふふふふ……」
固法 「さて……私たちに何の相談もなく馬鹿なことをした男くん?」
固法 「二度と笑えなくしてあげるから、覚悟しなさいね?」
男 「………………」
坊主 「すでに笑えなくなっているように見えるんだが……」
冥土帰し 「やあ、いつかの少年? 久しぶり――」
男 「ギブギブギブギブギブ――――ッ!!」
固法 「あらあら、こんなのまだ序の口よ?」
冥土帰し 「………………」
冥土帰し 「……まぁ、僕に言えたことではないかもしれないけれどね?」
冥土帰し 「病院のベッドの上で女子高生にプロレス技をかけさせるなんて、」
冥土帰し 「少年? 君もなかなかマニアックな趣味をお持ちのようだね?」
固法 「まったく……全然連絡がつかなくなって、心配したんだからね……?」
固法 「事件を早く解決したかったっていう気持ちは私にもわかるわ」
固法 「早く女の子を助けたかったっていう気持ちも、すごくわかる」
固法 「けど……せめて私たちには頼ってくれてもいいじゃない……」
固法 「何が巻き込みたくなかった、よ……!」
固法 「私たちだって、あなたたちと同じ風紀委員なんだからね!」
男 「………………」
固法 「……? あれ? 反応がないんだけど……」
坊主 「……固法」
固法 「な、なに?」
坊主 「説教垂れる前にまず男の背中から下りろ。そろそろ本当に死にそうな顔だ」
冥土帰し 「あまりにも過激なことやって入院日数を増やすのは勘弁してね?」
男 「固法さん……厳しいひとだとは思ってたけど、怒ると怖いんだなぁ……」
男 「そういえば初春さんが元ヤンとか言ってたけど、冗談じゃなかったんだ」
男 「っていうか、去り際のこと、本当かな……」
男 「五十枚の始末書って……どんだけだよ」
男 「しかも今週中って……」
男 「っていうか……」
男 「白井さんと初春さんは無事かなぁ……」
男 「固法さん、相手が女の子だろうと容赦なさそうだし……」
男 「………………腰が痛いよぅ……」
冥土帰し 「もしもし? 独り言のオンパレードの中悪いんだけど、」
冥土帰し 「そろそろ検診をさせてもらってもいいかな?」
男 「……また脱ぐのか。っていうか、僕の裸なんて誰が喜ぶんだよ……」スルッ
冥土帰し 「……ふむ」スッ
男 「……にゃはん!」
冥土帰し 「……ふむふむふむ……」ペタペタ サスリサスリ
男 「……あっ……あっ……ああっ! ……や、ん……あん……!」
冥土帰し 「ふむん……」 サッサッサッサ……
男 「んっ……あっ、ん……ん……ぁ、っん……そこっ……」
冥土帰し 「ふむ……少年、」
男 「……あっ、は、はい……どうですか?」
冥土帰し 「変な声を出すのやめてくれないか?」
冥土帰し 「精密検査でも問題は見受けられなかったし、大丈夫、ということかな」
男 「……まぁ、べつに何をしたわけでもないですしね」
男 「痛めた腰をおして大立ち回りをしただけですし」
冥土帰し 「君のその物言いにはまったく、医者としては呆れざるを得ないね?」
男 「?」
冥土帰し 「たしかに君は若いから、ちょっとやそっとの負担を腰に与えたところでビクともしないだろう」
冥土帰し 「けどね? そういったダメージが着々と溜まっていき……老後に悲惨な末路を辿ることになるんだよ?」
冥土帰し 「……この腰へのダメージでは……将来は寝たきりかな?」
男 「えっ……?」ゾゾッ
冥土帰し 「というのは冗談だけどね? この僕が処置をしてそんなことになるはずがないだろう?」トン
冥土帰し 「ともあれ、今日は一日ゆっくりと入院していきなさい」
男 「……はい、ありがとうございます(本当に名医だったんだなぁ……)」
冥土帰し 「……ああ、そうそう……」
冥土帰し 「僕が言うべきことかはわからないけど……お疲れ様。ヒーロー君」
上条 「失礼するぞー、男ー」
土御門 「見舞いに来たぜよー」
青髪 「男ー、往生しとるかー?」
冥土帰し 「………………」
上条 「あっ…………」
冥土帰し 「……なるほどね?」チラッ
男 「?」
冥土帰し 「君のお友達だったとは、何となく何かを納得してしまった気分だね?」
上条 「ま、毎度毎度……ご迷惑をおかけしているのでせう……」
冥土帰し 「ま、いい。それじゃ、お大事に、少年」ガラッ
土&青 「「いぇーぃ!!」」パンパンヒューヒュー
男 「……君たち、ここは病院だから静かにね?」
土御門 「そんなこと男に言われたくはないんだにゃー」
青髪 「せやなー、さっきの叫び声、病院の外まで聞こえとったしなぁ」
男 「……君たちは僕のお見舞いに来てくれたんじゃないの?」
上条 「当然だろ、男。あ、でも思ってたほどヤバそうじゃないのな」
土御門 「本当なんだにゃー。こんなんだったらわざわざ来ることなかったんだぜぃ」
青髪 「まーまー、カミやんも土御門も落ち着き落ち着き。ボクらは病院に看護婦さんを見に来たって考えればええやんか」
上条 「えー……でも、俺は看護婦さん見慣れてるっていうか……もはや『いつものアイツ』って認識されてるしなぁ」
土御門 「悪いにゃー、青髪ピアス。オレは舞夏のナース姿にしか興味ないんだぜぃ。見たことないけど」
青髪 「こ、コイツら……」
男 「…………君たち……」プルプル
青髪 「せ、せやせや! 男やんガツンと言ったって!!」
男 「三人ともこっから出てけ! バカ!」
ネム 『――でね、男ったら本当に草食なのよ』
デイ 『そうそう。私たちが何度迫っても身体を触りもしないのよ?』
白井 「はぁ……そうですの」
白井 (何でわたくし、ネコとアヒルの愚痴を聞いてますの……?)
初春 「うわぁ……すごいです白井さん! わたし感激しました」
初春 「本当にネコさんとアヒルさんの言葉がわかるんですね!」
白井 「まぁ……そうですけれど……(言葉面だけならファンシーですけれど、内容は愚痴ですの)」
初春 「それにしても本当に可愛いですね……ネムサスちゃんとデイジィちゃんでしたっけ?」スッ
初春 「初めまして。わたし、初春飾利っていいます。よろしくね」
ネム 『……何? この頭弱そう……っていうかお花畑な女は』ニャーン
デイ 『頭がお花畑で実際にお花畑があるって……ないわー、この女』ガー
初春 「わっ、わっ……白井さん白井さん! 何て言ってるんですか?」
白井 「……初春」 ポン 「世の中には知らない方がいいこともあるんですのよ?」
白井 「……で? 一体男さんは病室で何を騒いでおりますの?」
白井 「というか、すごく嫌な予感がするというか……嫌な方の声が聞こえたような気がするのですが……」
初春 「? お友達がお見舞いに来ているようですねー。ともあれ、お邪魔しましょう?」
ガラッ
初春 「失礼しまーす。――ッ!?」
白井 「……失礼いたしますの。――はぁっ!?」
ネ&デ 『男ー? 大丈夫ー? ――なッ!?』
青髪 「――お、おおお落ち着け! 男やん! と、とにかく脱げ! ほら脱げ!」
土御門 「そうなんだにゃー! みんな男が脱ぐのを楽しみにしてるんだぜぃ!」
男 「や、やめろー! 人を勝手に脱ぎキャラにするな!」
上条 「……ああ、そういや脱ぎ女はいるけど、脱ぎ男っていないもんな」
男 「静観してないで助けろーっ! この薄情者ぉーっ!」
男 「………? ………」 ギギギ ピタ 「……あ、」
白&初&ネ&デ 『………………』サササッ
初春 「……ですよねー。男さんって見るからにBLの受けキャラって感じですもんね」ハァハァ
ネム 『男……せめて……人間の異性になら……敗北もやむなしと思ってたけど……』
デイ 『まさか……人間の同性に目覚めるなんて……』
男 「ちょっ、待っ……みんなどんだけ面白い勘違いをしているの!?」ササッ
初春 「……!? そのはだけた胸元を隠す仕草! グッジョブです!!」グッ ハァハァ
男 「そして初春さんあなたは一体どちらへ向かおうとしてらっしゃるの!?」
白井 「……恥ずかしがる必要はありませんよ、男さん」ススッ
白井 「わたくしも似たようなものですから……ええ、お気持ちはわかりますわ」ススッ
男 「わかってほしくない上に、言葉の割には身体はしっかり後ずさってますよね!?」
青髪 「あー……随分可愛らしいお見舞いさんやなぁー。じゃあボクらは帰りますわー」ダッ
土御門 「そうするぜぃ。オレたちもこのまま残ってるほどヤボじゃないんだにゃー」ダッ
男 「あっ……アイツら……面倒臭くなったから逃げたな……!!」
上条 「アイツらはアイツらでお前のことを元気づけたかったんだろ」
男 「……ふん。そんなのわかってるよ」
上条 「……」 フッ 「それじゃ、俺も失礼するよ。お大事にな、男」ポン
白井 「……殿方さん」
上条 「おぅ、白井、お前もお大事にな」ポン
男&白井 「…………か、上条くん!」 「……殿方さん!」
上条 「あん? ハモるなよ。お前ら仲良いな」フッ
上条 「で、何だ?」
男&白井 「「………………」」コクン
男&白井 「「ご協力、感謝致します」」ペコリ
上条 「……なんだ、そんなことかよ」
上条 「そりゃどういたしまして。じゃーな。早く学校来いよー?」
ガラッ
白井 「ま、あの殿方さんですからねー」
初春 「で? で? 男さんの貞操は守られたんですか?」ハァハァ
男 「初春さんその話はもうやめにしない?」
ネム 『まったく……男は本当にガードが柔らかいんだから』
デイ 『そんなんじゃ本当にいつか喰われちゃうわよ!』
男 「お前らもその話はもうやめない?」
白井 「ええ、まぁ……何故か腹部にダメージがあったらしいのですが、それ以外は特に何もありませんでしたから」
男 「………………(ごめん白井さん。それ、僕がやりました)」
白井 「精密検査でも何も見つかりませんでしたし、もう退院していいとのことですわ」
男 「あっ、そうなんだ……僕は今日いっぱい入院って言われたのに……」
白井 「ま、男さんとわたくしとでは鍛え方が違いますもの」
男 「全面的に同意するに吝かではないよ。……鍛えよう」
ネ&デ 『そうそう、少しは鍛えないと暴漢に喰われちゃうんだから』
初春 「………………」ハァハァハァハァハァハァ……
男 「ねぇそのネタいつまで引っ張るの? そして初春さん怖いよ?」
ネム 『ま、冗談はこれくらいにしておくとして……』
デイ 『聞いてよ男! すごいんだから!』
男 「……? 何かあったの?」
デイ 『なんと、男が近くにいなくても私たちの言葉が人間に通じたのよ!』
男 「へっ……? えっ!? ほ、本当に!?」
ネム 『ええ……まぁ、』チラッ
デイ 『そう……制約はあるんだけど……』チラッ
男 「え……?」
ネム 『言葉が通じたのは、誰かさんだけだったのよ』
デイ 『つまり、彼女とは脳波のリンクができたってことなんだけど……』
ネム 『どうもね……男がかなり信頼を寄せている相手じゃないとダメみたいなの』
デイ 『ただの友達レベルではダメね。仲間でもダメ。……より深く相手を信頼していないとダメみたい』
白井 「………………」カァッ
男 「えっ……ええっ……!?」
男 「い、いや……そ、そんな……そんなことは……べ、べつに僕は、白井さんのことを――」
ネム 『あらぁ? 白井さん、ですって?』ニヤリニャー
デイ 『ふふ……男? 私たち、言葉の通じた相手が白井だなんて一言も言ってないわよ?』ニヤリガー
白井 「…………ッ……」カァ
初春 「………………」ニヤニヤニヤ
ネム 『………………』ニャーニヤニャーニヤ
デイ 『………………』ガーニヤガーニヤ
男 「………………」
白井 「………………」
初春 「……あっ、いっけない」 テヘッ 「わたし、佐天さんと約束してたんでした」
白井 「……ッ! そ、それでしたら是非わたくしも――」
初春 「だーめでーすよー、白井さーん。男さんにしっかりと事件の結果報告をしてくれないとー」
初春 「また固法先輩に怒られますよー?」
白井 「ッ――初春……あとで覚えてろ、ですの……!」
初春 「なんでも、わたしの友達があの中央通りのネコちゃんとアヒルちゃんの大群を見たそうでして」
初春 「その立て役者であるおふたりのお話をしたら、是非お会いしたいと言ってるんです」
ネム 『……ふん。仕方ないわねぇ』
デイ 『会ってあげないこともないわよ? ヘティクリーチャムがあれば、だけど』
初春 「もちろん。プレミアムの方を差し上げますよー」
男 「ね、ネムサス! デイジィ! さ、寂しいからここにいてほしいなー……なんて言ってみたりー……」
ネム 『ふふ……ねぇ、男? 私たちはやっぱり、どんなに頑張ってもネコとアヒルなのよ』
デイ 『……残念だけど、私たちは愛妾に甘んじることにしたの』
ネ&デ 『だから、せめて正妻は、私たちの気に入った相手にしようと思ったってわけ』チラリ
男 「せっ……正妻って……っ」チラ「………………」カァッ
白井 「……ッ…………」カァッ
白井 「……う、うううう初春! ほ、本当に覚えていなさいよ!」
初春 「おお怖い。それではおふたりさん、ごゆっくり」ガラッ ノシ
ネ&デ 『ベッドもあることだし、頑張りなさいよー、男ー』トコトコバサバサ
初春もねことあひると会話出来てるような……
つまり初春も……
それは男が近くにいるから、という設定です。
わかりにくくてごめん……。
ネムとデイジィは男がそばにいなくても人間の言葉を解します。
ですが、基本的に伝えることはできません。
ラストで102が少し言っていましたが、
どうやら男が近くにいれば伝えることができるようになったようです。
白井さんが特別なのは、男がいない廊下でもネムとデイジィの言葉がわかったことです。
我ながらわかりづらいです。ごめん。
男 (いや……っていうか、あれは明らかにわざとだった……くそっ、あのアニマルズめ……!)
男 (大体なんだよベッドって! ベッドがあるから何だよ。何をするんだよ! あっ、ナニをするんだ……)
男 (って僕のバカ! 何つまらないギャグを脳内で飛ばしてるんだよ!)
男 (………………)ポワンポワンポワン(――ッ! いけない! 一瞬でも想像してしまった自分が許せない!)
男 「………………」チラッ
白井 「………………」
男 (き、気まずい……! 誰か助けて……)
………………
上条 「――ックション!」
上条 「……? 何だか胸騒ぎがするが……」
上条 「何となく放っておくべきな気がするから、いいか」
上条 「さーて……今日の晩ご飯は何にするかなー、っと」
白井 (ち、ちちちちちちょっと待ってくださいですの!)
白井 (そもそも、わたくしは愛してやまないのはお姉様で……)
白井 (脆弱で惰弱でひ弱でとにかく情けなくて弱い男さんなどでは……)
白井 (――男さん、などでは……)
白井 (わたくし! なぜ否定しませんの! 簡単なことでしょう! ちょっと本心を偽ってしまえば――)
白井 (って、本心を偽るってなんですの!? わたくしは男さんのことなんて、心の底から愛――)
白井 (ってだから何を考えていますのわたくしは!)
白井 (わたくしは! べつに、男さんのこと、なんか……)
白井 (………………)
白井 (……っ、何故……?)
白井 (――何故、こんなにもわたくしの心臓は高鳴っておりますの……?)
白井 「………………」
男&白 「「……あっ、あのっ――」」
男&白 「「!!!」」
男&白 「………………」
男 「……し、白井さんから、どうぞ」
白井 「い、いえいえ。男さんの方から、どうぞ」
男 「あっ……はい。じゃあ……お言葉に甘えて……」
白井 「………………」ドキドキ
男 「あ、あの……白井さん……」
白井 「は、はひっ、ですの……(こ、声が裏返った……わたくしのバカ!)」ドキドキドキ
男 「……ぼ、僕は、ですね……」
男 「し、しししし、白井、さんの……白井さんの……!」
白井 「………………」ドキドキドキドキドキドキドキドキ
男 「白井さんの…………………………報告が、聞きたいです…………(僕のバカぁーーーーーっ!!)」
白井 (ってわたくしは何をガッカリしていますのーーーーっ!!)
白井 「で、では、事件解決後の報告をいたしますの」オホン
男 「は、はい……お願いします……(うぅ……)」
白井 「まず第一に……本事件においての死者数はゼロですの」
白井 「罠にかかったアンチスキルの面々も、酷くとも骨折程度の怪我で済んでいますの」
男 「そうですか……それは本当に良かった……」ホッ
白井 「そして肝心の幼女ちゃんですが……」
男 「……!!」
白井 「幸いにしてさらわれてからずっと気絶していたようでして、」
白井 「外傷はおろか、心の傷もないとのことですの」
男 「……良かった」 ハァ 「あの元気な笑顔が陰るのなんて見たくありませんからね……」
白井 「………………」プクゥ
白井 (……はっ! わたくしはなぜ頬を膨らませておりますの!?)
白井 「ああ……彼はアンチスキルの取り調べに素直に応じ、犯行を自供しているそうですわ」
白井 「過酷な能力開発の果てに……レベル3で伸び悩んでしまった己の能力……」
白井 「それに耐えかねて、度々レベル0を操っては喧嘩をさせていたそうですの」
男 「………………」
白井 「ただ、大規模な事件を起こしたのは、商店街の抗争騒ぎが初めてだそうですの」
白井 「その成功に味をしめてもう一度同様の犯行をしようとスキルアウトを手駒としたところを……」
男 「……幼女ちゃんに見られ、口封じのために連れ去った、と」
白井 「ええ……しかしそれは近隣住民に目撃されていて……だからこそ、彼はそれを逆に利用することにした……」
白井 「――レベル4へのシフト。そのために邪魔なアンチスキルをまず処理し、」
白井 「能力者であるわたくしたち風紀委員の突入を待っていたそうですの」
白井 「……まぁ、レベル4にはなり得なかったわけですが……悲しいですわね」
男 「ええ……まともに能力を研鑚していけば、もしかしたら本当に……すごい能力者になっていたかもしれないのに……」
男 「102……君をそこまで追いつめたのは……僕、なんだよな……」
男 「えっ……?」
白井 「……」 フッ 「責任の所在なんてどうでもいい……のではありませんでしたか?」
白井 「大事なのは、今ある事実をもって、これからにどう繋げていくか……ですわよね?」
男 「白井さん……」
白井 「守りましょう。この学園都市を。風紀委員として」
白井 「……それが、102さんにしてあげられる、唯一のことではありませんか?」ニコッ
男 「……はい」
男 「………………」
男 (ってだからその突発的な笑顔は本当に卑怯だって!)
男 (可愛すぎだろコンチクショウ!!)
男 (く、くそっ……こ、今度こそ……)
男 「あ、あの、白井さ――」
――コンコン
男 「にゃっはぁ!!?」
男 「……どうぞっ!」
ガラッ……
男 「……? ――ッ!?」
白井 「? (初老の紳士? 一体どちらさまですの?)」
紳士 「……」 ツカツカツカ 「……久しいな」
男 「ッ……!! 何で……何でアナタがこんなところに!」
紳士 「お見舞い、だよ。……ふむ。彼女らはいないのか……」キョロキョロ
男 「ッ――渡さないぞ! ネムサスとデイジィは絶対に、アナタたちなんかには渡さないッ!」
紳士 「ふっ……私も嫌われたものだな、被検体 NO.00103 ……いや、男くん?」
白井 「被検体……? ま、まさか――!」
男 「……何で! 何でまた僕の前に現れるんだよ……!」
男 「何で……何でだよ! 答えろ、所長!」
所長 「………………」
白井 (この方が、ESP研の……所長ですの!?)
――我々はきっと、君を知り合いすべてに自慢するだろうなぁ。
――? 僕のことを? みんなに自慢するの?
――そうだよ。君は我々の希望の星、だからね……恥ずかしながら、今でも自慢しているよ。
――……へへ、恥ずかしいけど、嬉しいな……。
――君の能力は、いずれこの学園都市のみならず、全世界に幸せをもたらす力となるだろう。
――? 世界を、幸せに?
――そうだよ。……だから、頑張ってくれるな?
――……うん! 僕、しょちょーのために、みんなのために頑張るよ!
所長 「………………」
白井 「……あ、あのー、」
所長 「……何かな? お嬢さん」
白井 「睨み合っていても何も始まりませんし、とりあえずイスにお座りになってくださいな」
男 「……! 白井さん! その男は、そもそもの元凶なんですよ!?」
白井 「だからこそ、ですわ」フッ
白井 「今回のような事件が二度と起きないように、しっかりとお話を聞いておくべきではありませんか?」
男 「ッ――……」
白井 「………………」
男 「……わかった。わかりましたよ」フン
白井 「……では、どうぞ」スッ
所長 「どうもありがとう。可愛らしいお嬢さん」
白井 (……なかなかのナイスミドルですわね)
所長 「だからお見舞いだと言っただろう?」 スッ 「……ひとつ二千円のホットドックだ。ほら」
男 「……怪我人になんてモン買ってくるんですか……。アナタは……何も変わっていませんね」カシッ
男 「ともあれ、どうもありがとうございます。後ほど頂きますよ」
男 「……では、建前はしっかりと受け取って差し上げたんですから、本当の理由を教えてくれますね?」
所長 「……君は変わったな。かわいげのない。昔はあんなに可愛かったというのに」
男 「……!? 昔って……いつの話をしてるんだよ!」
所長 「それはもちろん、君がまだ小学校低学年の頃……」
所長 「ああ、そういえば懐にフォトブックがあったんだ」スッ
男 「スーツの懐に入る大きさじゃないだろ!! アナタは本当に何なんだよ!」
所長 「……見るかい? お嬢さん」
男 「なっ……!!?」
白井 「!? ぜ、是非、み、見せてくださいですの!(小さい頃の男さん……キタコレ!!)」
白井 「……!!!」ジュルリ
所長 「そしてこれが、授業参観時に隠し撮りをした男くんだ。懸命に手を上げる姿がまた可愛い」
白井 「……!!!!」ジュルジュル
所長 「次が……ああ、これは小学校での初めてのプールの授業だ。溺れかけている写真もある」
白井 「お、おおおおお男さんの水着姿!! スイムキャップ!!」
所長 「どの男くんも至高にラブリーで至上に可憐だろう?」
白井 「は、激しく同意ですの!!」ズズズズ……ジュルッ
所長 「……よろしければこのフォトブック、差し上げようか?」
白井 「!!!!?? ほ、ほほほほ本当ですの!?」
所長 「私はデジタルデータを持っているからね……では、贈呈しよう」スッ
白井 「……あっ……ありがとうございますですの!!」ギュッ
男 「わーーーー!!! わーーーーーーーー!!!! 聞こえない僕には何も聞こえないーーー!」
男 「……アナタは本当に一体何をしに来たんだよ!!」
所長 「いや……正直同好の士を得られただけでも大した成果なのだがな」チラッ
白井 「………………(ふふふふふ……男さんの小さい頃の生写真♪)」
所長 「……では、そろそろ本題に入ろうか? 男くん」
男 「………………」
所長 「………………」チラッ
白井 「あっ……では、わたくしは……」スッ
男 「白井さん」
白井 「……? 何ですの?」
男 「……お願いです……」
男 「ここにいてください」
白井 「………………」スッ
白井 「わかりましたわ。わたくしのパートナーさん」フッ
男 「……ありがとうございます」フッ
所長 「否定はしない。彼の罪についての全責任は研究所……いや、私にある」
所長 「我々は彼に……君が抜けた分のすべてを押し付けた」
所長 「君ほどの素質があるわけではないと知りつつ、君ほどの結果は得られないだろうと知りつつ、」
所長 「……彼にすべてを押し付けたんだ。期待もされていないのに結果を要求される……」
所長 「それがどれだけ彼を苦しめたのか……今さら後悔しても、遅いことはわかっているのだが、な」
男 「………………」
男 「……だったら何だって言うんです? 謝りたいのなら直接102に謝ればいいでしょう?」
所長 「そうだな……もちろんそうするつもりだが、」
所長 「その前に、私は君にひとつお願いを聞いてもらいにきたのだよ」
男 「……お願い?」
所長 「恥を忍んでお願いする……」スッ
所長 「この通りだ。ESP研に……戻ってきてはもらえないだろうか?」
男 「……顔を上げてくださいよ、所長」
所長 「………………」
男 「……ッ」 ギリッ 「顔を上げろと言ってるんだよクソジジィ!!」バッ
白井 「お、男さん! 落ち着いてくださいな!」
所長 「……君が頷いてくれるまで、顔を上げるつもりはない」
男 「そうかよ……そうかよ! だったらそのまま帰れ! そしてそのまま死んじまえ!」
男 「102のことを後悔しているといったその舌の根も乾かないうちに、何なんだよそれは!!」
男 「僕が抜けた穴を102で無理矢理塞ごうとして……今度は102が抜けた穴を、僕で塞ぐつもりなのかよ!!」
男 「102は決して許されない罪を犯した……それは、僕の責任でもあるだろう……」
男 「けれど……だけどッ! 僕は絶対に研究所には戻らない!」
男 「僕を裏切り、ネムサスとデイジィを実験材料にしようとしていたオマエらの所になんて、絶対に戻らない!!」
所長 「だが……もう一度、チャンスをくれないだろうか?」
所長 「もう一度……私を信じてはくれないだろうか?」
所長 「私は……ESP研は、もう絶対に君を裏切らない」
所長 「もちろん、ネムサスくんやデイジィくんに無茶な実験をしたりはしない」
所長 「……今回のことで思い知ったよ。ESP研を変えなければならないとね」
所長 「日向に出ることを許されない、日陰の研究者だと、自分たちを蔑み、そして子どもたちに無茶を要求する」
所長 「……そんな研究所の体質を、変えなければならないとね」
所長 「私は君に約束する! 君を絶対に裏切らない! そして研究所をまともな場所にする!」
所長 「――だからお願いだ、男くん!」
所長 「研究所に、戻ってきてくれ……!」
男 「……ダウトですよ、所長」
男 「僕の能力の最終的な行く末……『レベル5の演算能力の向上』」
男 「あの実験が続く限り、ネムサスやデイジィが安息でいられるはずがない」
男 「違いますか?」
所長 「ああ、その点については心配しなくてもいい。あの実験は永久凍結されたからな」
男 「えっ……!?」
所長 「……箝口令が敷かれているのだが……まぁ、君たちは風紀委員だから大した問題はあるまいな」
所長 「今年の七月のことだ……世界最高の頭脳、『樹形図の設計者』が何者かの攻撃を受けて破壊された」
男 「……それが本当であるという証拠は? あるんですか?」
所長 「ッ……そ、それは……」
白井 「――それでしたら、わたくしが保証いたしますの」
白井 「『樹形図の設計者』を搭載していた人工衛星『おりひめI号』は、何者かの攻撃を受け、撃墜された……」
白井 「それは本当のことですわ」
白井 「まぁ……先日、ちょっとした事件に巻き込まれましてね」
白井 「いけ好かない女から教えてもらいましたの。証拠の残骸も見ましたのでご安心を」
男 「………………」
白井 「………………」
男 「……わかりました。信じます。大切なパートナーの言うことなら、信じない道理がありませんから」フッ
所長 「信じてくれるか……ありがたい。……どうもありがとう、お嬢さん」
白井 「いえいえ……フォトブックのお礼ですの」
所長 「……世界最高の頭脳の消失……つまり、あの実験はこれ以上続ける意味をなくしたんだよ」
所長 「行く末にレベル5の強化という具体的かつ金になる結果があったからこそやっていた実験だ」
所長 「凍結が解除されることは永遠にない」
男 「………………」
男 「……でも、だったら何で……? 何で、今さら僕を研究所に?」
所長 「名付けて……そうだな、『ネコとアヒルが力を合わせて人類に幸せを』計画……とでも言おうか?」
男 「………………」
白井 「………………」
男&白 「「…………はあ?」」
所長 「むぅ……まぁスベるとは思っていたが、ここまで嫌そうな顔をされるとはな……」
男 「……冗談言うだけなら帰ってください」
所長 「ところがどっこい……冗談じゃないのだよ」サッ
男 「これは……実験計画の試案……?」
白井 「どれどれ……? って、『ネコとアヒルが力を合わせて人類に幸せを』計画って書いてありますの!!」
男 「うわっ……堅苦しい文章の上にこんな間抜けなタイトルが……い、居たたまれない……っ!」
所長 「散々言ってくれるな。……まぁ、これを学園都市予算申請窓口に提出したときの受付嬢の顔の方がもっと酷かったがな」
所長 「当然のことながら、予算は1円も下りなかった」
男 「……でしょうね」
所長 「ネムサスくんとデイジィくんが学園都市中のネコとアヒルを集めたそうじゃないか」
所長 「そして、彼女らのネコとアヒルの脳波リンク特性によって、すべてのネコとアヒルの脳波が繋がれた……」
所長 「そのとき、近くにいた人間は一様に、ネコとアヒルが歌う唄を耳にしたらしい」
所長 「ふっ……しかも、その唄を耳にした人間は……皆が皆、何となく幸せな気分になったという話だ」
所長 「……その話を聞いたときに、ふと思いついたんだよ」
所長 「――ならば、全世界のネコとアヒルがその唄を歌ったら、どうなるのだろう、とね」
所長 「そう……素晴らしいとは思わないか?」
所長 「聴くと何となく幸福な気持ちになれる唄が、全世界に流れるんだ……」
男 「ち、ちょっと待ってください!」
男 「あれは……あのネットワークは、ネムサスとデイジィによれば、
極小領域にネコとアヒルが大量に集まったからこそできたことだって……」
所長 「ふむ……ならば極大領域……地球規模でネコとアヒルの脳波を繋ぐ方法を考えよう」
男 「ほ、本気、なんですか……?」
所長 「ふっ……当然。私は本気だよ」
所長 「本気で、人類を……世界を幸せにするつもりだよ」
所長 「子どもが苦しむような世界を、変えるつもりだよ」
所長 「それが……唯一の、102に対する贖罪となるだろうからな」
男 「………………(102への……贖罪……か)」
所長 「風紀委員の仕事も続けてもらって結構だ」
所長 「週に一回程度……一緒に……もう一度、一緒に頑張ってみないか?」
男 「………………」チラッ
白井 「………………」フッ
白井 「……わたくしは、とても素晴らしい実験計画だと思いますわよ?」ニコッ
男 「……うん。ありがとう。僕もそう思う」ニコッ
所長 「――!!?」
所長 「で、では――」
男 「はい……パートナーの後押しもあったことですし……」
男 「……所長……僕の、学園都市での……お父さんみたいな人……」
男 「もう一度……もう一度、一緒にやり直しましょう」
男 (………………。……ねぇ、102。僕は頑張るよ)
男 (風紀委員としてこの街を守り、君を待つ)
男 (そして……君が罪を償って戻ってきたときのために……幸せな世界を作るから)
102 「っ……ここは……?」
? 「おや? 存外早いお目覚めですね」
102 「ッ――!? 誰だ!!」
? 「おやおや……起き抜けから元気な方ですね」
102 「なっ……? お前は、海原光貴……!!」
海原 「へぇ……自分を知っているとは、少し驚きです」
102 「……レベル4の顔と名前は全部一致させているからな。まあ、無駄な努力だったわけだが」ギリッ
海原 「なるほどなるほど……ですが残念。自分はレベル4の方の海原光貴ではありません」
102 「……? 何が言いいたいんだ、お前?」
海原 「言ってもどうせわからないでしょう? わかったとしても、
あなたのような科学サイドの人間は自分を認めないでしょうし」
102 「………………」
102 「……ふん、なるほどな。我がことながら妥当な罰だと思うぜ?」
102 「正規のアンチスキル実働部隊を壊滅させたんだ……これくらいの懲罰を覚悟するべきだったな」
102 「つまり、俺は学園都市暗部に落とされた……っていうことだろう?」
海原 「ふ……理解が早くて助かります」
海原 「あっ、勘違いのないように申し入れておきますが、自分はあなたの雇い手ではありませんよ?」
海原 「自分もあなたと同じ、使い潰される側の人間です」
海原 「あなたをしっかりと暗部に導けと、上からのお達しがありましてね」ニコッ
102 「……ッ!(なんて笑い方をしやがる……!)」
海原 「暗部に落とされた低レベル能力者は、大抵がすぐに死にます」
海原 「ですがあなたは違う……それなりに面白い能力を持っている」
海原 「だから、あなたはどうやら、それなりの仕事を与えられるようですよ?」
海原 「まぁ、結局、ほとんどが少し保ってから死ぬんですけどね?」フフッ
102 「……ふん、ならわざわざ死ぬまでこき使われる気はないな」
102 「どうせお前をどうにかしたところで、学園都市全体を敵に回すだけだ」
102 「そして俺は、学園都市に大人しく搾取される気もない」
海原 「へぇ……? ならどうされるおつもりですか?」
102 「殺せ。お前のその薄っぺらい笑顔なら……人殺しくらい簡単にできるだろう?」
海原 「『薄っぺらい笑顔』、ですか。……くくっ、言い得て妙ですね。あなたはなかなか勘が鋭いようだ」
海原 「ですが、お断りいたします。死にたいのなら、死ぬときに勝手に死んでくださいよ」
海原 「うーん、困りましたねぇ。そういうことをされると本当に面倒だ」
海原 「……ああ、そういえば、上層部からあなたを動かす一言をもらってきてたんでした」
102 「……?」
海原 「『きちんと言うことを聞かないと、どこかのレベル1を暗部に引っ張り込みますよ?』」
102 「ッ――!!?」
102 「……ふん、あいつが暗部に落ちたところで……俺には……」
――――『――……えっと、僕は、103だよ。よろしくね』
102 (…………くそっ……)
海原 「どうされました? 御加減でも悪いのでしょうか」
102 「……っ、くそったれが……」
102 「……いいだろう。お望みどおり使い潰されてやるよ」
海原 「助かります」
102 「………………」
海原 「? どうかされました?」
102 「……102、だ」
海原 「……? ヒトマルニ、さんですか? 変わったお名前ですね」
102 「ふん……名前なんて、表の世界に置いてきた」
102 「俺は道を違えたあの時からずっと……102以外の何者でもなかったんだからな」
海原 「……自分にはよくわかりませんが」 ニコッ 「大した覚悟だとは、思いますよ?」
102 「それはどうもありがとう」
海原 「……ふふ、では改めまして、102さん」
海原 「ようこそ、学園都市最暗部へ」ニッ
102 (…………なぁ、103。俺は多分、近いうちに死ぬだろう)
102 (俺はお前に謝る気はない……だが……)
102 (……ありがとう、親友。最後の最後で、俺の道をほんの少しだけでも、正してくれて)
男 「…………はぁ」
白井 「……? 何ですの、その溜息は?」
男 「いえ……ネムサスとデイジィに何の相談もなく、ESP研への復帰を决めちゃったな、って思いまして」
白井 「ふふ……本当にお優しい方。そんなこと、お二人なら快諾してくれるに決まってるではありませんか」
男 「そう……そうですよね」
男 「……ありがとうございます。白井さん」ニコッ
白井 「いえいえ、ですの」ニコッ
男 「………………」
白井 「………………」
男 「………………」
男 (……決めた。今度こそ、ちゃんと言おう……!)
男 「白井さん……」
男 「……さっきの、続きです。いいですか?」
白井 「は、はい……ですの……(お、男さん、真剣なお顔……)」ドキドキドキ
男 「僕は……白井さんに、ひとつ、言いたいことがあります……(し、白井さん、可愛すぎる……!)」ドキドキドキ
白井 「は、はいぃ……!(お願い……! 後生ですから裏返らないで、声!)」ドキドキドキ
男 「言っても……いいでしょうか……っ?(ああ……もうっ……心臓が、飛び出るぅ……)」ドキドキドキ
白井 「……はい……!」ドキドキドキドキドキドキ
男 「……あ、あの! ですね! あの……僕は……ずっと……白井さんの、ことが……」ドキドキドキドキドキドキ
白井 「………………」ドキドキドキドキドキドキ
男 「僕は……白井さんの……白井さんの、ことが――」
初春 「ち、ちょっとマズイですってぇ~」ズルズルズル
?1 「今さら何言ってるの、初っ春ぅー」グィグィ
?1 「白井さんが入院してんでしょー? だったらお見舞いに行くのが友達ってもんでしょー」グィグィ
初春 「で、ですからー! 白井さんはもう退院してるんですってば、佐天さん!」ズルズルズル
佐天 「はぇ……? そうなの?」ピタッ
?2 「へっ……? ちょっと、私そんなこと聞いてないわよ?」ピタッ
初春 「で、ですからぁ! 佐天さんも御坂さんも、人の話を聞かずに引っ張るから……」
御坂 「うっ……ま、退院したっていうんなら問題ないか」
御坂 「ってことはアイツ、もう病院にいないのよね?」
初春 「えっ……そ、それは……」
佐天 「……?」 ピーン 「……初春? さては何かを隠しているな?」
初春 「えっ? そ、そんなことないですよ!? ないない! あるわけないですよぉ!」
佐天 「……怪しい」
初春 「………………」プイッ
佐天 「初春?」
初春 「………………」プイプイッ
佐天 「ああそう……そういう態度を取るんなら……こっちにだって考えはある」
キラン キランキラン キランキランキラン !!
御坂 「さ、佐天さんの目が輝きを増していく……!」
佐天 「初春?」
初春 「……ッ……」ビクッ
佐天 「ふふふ……ふふふふふふ……」
佐天 「初春のぉー……今日のパンツは何色かなーーーーっ!!?」
バサァ!!
?? 「……ッ…………」ハナヂプー
?? 「わわっ、ってミサカはミサカは相方が吹き出した鼻血の赤に驚いてみる!」
?? 「……ッ…………も、桃色……だとッ……!?(中学生も、ワルかねェな……)」フッ
初春 「うぅ……酷いですよ佐天さん……」グスッ
佐天 「酷いって言うんならそっちだよ初春!」ビシィ!
佐天 「白井さんが、いま良い感じになってる男の人と病室で二人っきりなんて……」
佐天 「そんな面白そうなことを黙ってるなんて、初春は本当に酷い奴だ!」
初春 「お、面白そうって……やっぱり佐天さん――」
佐天 「さっ、こっそり覗きに行こっ、初春、御坂さん、ネムちゃん、デイちゃん」ニコッ
初春 「はぁ……結局そうなるんですよね……」
佐天 「何いってんのさー、初春ぅ。御坂さんだって気になりますよね?」
御坂 「えっ……? って私!? い、いや、べつに私は……」
佐天 「――もし、その男って奴がJCも食べちゃうようなゲスだったら?」ボソッ
御坂 「なっ――!?」
佐天 「先輩として……ルームメイトとして……心配じゃないんですか?」
御坂 (い、いやいや、まさかそんな……)
御坂 (いやっ、やめてくださいまし! げへへへへ……やめろといってやめる奴がいるかよぉ)
御坂 (わ、わたくしには、お姉様という、操を捧げると決めている相手が……)
御坂 (そんなこと俺の知ったことかぁ!! キャーーーーーーッ)
御坂 「……はっ!! 私としたことが、何をくだらない妄想を……!」
御坂 「……っ、でも、有り得ないコトじゃないのよね……」
御坂 「……ま、まぁ、ちょっとだけなら……」
佐天 「やたっ。じゃ、男さんの病室へー! レッツゴー!」
ネ&デ 『……ふぅ……やれやれ……男も苦労するわね』
初春 「? (何でしょう、このナイスミドルは……)」
ネ&デ 『………………』
所長 「……ふっ…………」 ……カツカツカツ……
初春 「? ネムちゃん? デイちゃん? どうかしましたか?」
ネ&デ 「ニャーン」 「ガーガー」
初春 「? ……ま、いっか」
佐天 「おーい、初春ー! 置いてくぞー!」
初春 「あっ、はーい。すぐ行きますよー! ……さ、ネムちゃんとデイちゃんも、行きましょう」
所長 「…………ふっ、彼女らも変わったな」
所長 「外見のみならず、中身も強くなったようだ。男に守られるしかなかったあの時とは大違いだな……」
所長 「………………」
所長 「……それにしてもあの姦しいグループ……」
所長 「……全員が男子中学生であれば、なお良かったのだがな」
初春 「さ、佐天さん~~~。やっぱりやめましょうよー……」
佐天 「ここまで来て今さら何言ってんの。ほら、初春と御坂さんも、早く早く!」
ネ&デ 『………………』ピトピトッ
佐天 「ほらほらっ、ネムちゃんとデイちゃんも乗り気だよ」
御坂 「………………」ピトッ
初春 「御坂さんまで~~~~……うぅ……えーい、ままよ……!」ピトッ
男 『白井さん……』
佐天 (おっ……想像してたより可愛い声じゃん)
白井 『は、はい!? ……な、何ですの?』
佐天 (うっわ……白井さんが超緊張してる声出してるー。かっわいぃー)
男 『……さっきの、続きです。いいですか?』
佐天 (うわー、こっちも緊張してるじゃない。なんか初々しいなー……ってさぁ)
佐天 (もしかして、これマジで告白タイムなの?)
御坂 「………………」ゴクリ
男 『僕は……白井さんに、ひとつ、言いたいことがあります……』
初春 「うっひゃぁ……!」ボンッ
白井 『は、はいぃ……』
ネ&デ 『……男! 頑張りなさいよ!』
男 『言っても……いいでしょうか……っ?』
佐天 (うわー……なんて言うか、いちいち確認するあたりがいい男じゃない)
御坂 「……く、黒子の、声じゃない……! こんな女々しいの、黒子じゃない……」ゴクリ
男 『……あ、あの! ですね! あの……僕は……ずっと……白井さんの、ことが……』
初春 「………………」ボンボンボンボボボン!!! 「ふにゃぁ~~~~……」 タオレッ!!
佐天 (えっ……あ、ちょっと、初春? 倒れてこないで――ッ)
男 『僕は……白井さんの……白井さんの、ことが――』
御坂 (ちょっ……佐天さん? 初春さん? っ……倒れ……)
佐天 (あっ……ドアの手すりに、手が絡まっ――)
男 「――白井さんの、ことが、好――」
ガラガラガラ……ドダンドダンドダン!!
男&白 「「…………!!!!!!」」ビグッ!!!
佐天 「あ、痛たたたたたたた…………」
佐天 「……って……あれ?」
白井 「………………」
初春 「………………」
御坂 「………………」
佐天 「………………」テヘッ
佐天 「……し、失敗失敗っ」ペロッ
………………
佐天 (み、みんなピクリとも動かない……)
男 (お前がこの病室に来たせいで、不幸がまた僕に回ってきたじゃないか!)
上条 「――ックション! ……うぅ……さっきから一体何なのでせう? この悪寒は?」
男 (……ま、待て待て。落ち着け……冷静になれ)
男 (少しくらい不自然でもいい……このまま、白井さんだけを連れて)
男 (どこかへ行って……そこで、もう一度告白をすればいい)
男 (そ、そうだよ。そうだよ! それしかない!)
男 「………………(よしッ……今だ……!)」
男 「あ、あの、白井さ――」サッ
白井 「お姉様ぁーーーーん!!!」シュン
男 「えっ……?」スカッ
男 「…………えっ?」
白井 「お姉様お姉様お姉様ーん! ああんもう、久々のお姉様の香りに黒子はもうどこかへ行ってしまいそうですの……」
男 「………………」ポカーン
御坂 「ちょっと! は、離れなさいよ!」ズィ
白井 「ああんもう! お姉様ったら意地悪ぅ。いつものことではありませんの」ダキッ
男 「い、いつもの……こと……」
御坂 「あ、ち、ちちちち違うのよ? 君! べつに私は――」
白井 「ああ、そうでしたわねお姉様! わたくしとしたことが、ハグの前の……」ンー
白井 「熱いベーゼを忘れておりましたわね。もう、黒子ったらお馬鹿さん!」ンーーーー
男 「べ、ベーゼ!? キス……!!?」
白井 「いやん! お姉様、痛いですの! ……でも黒子、お姉様にならいくら叩かれても平気ですのよ?」ニコッ
御坂 「………………」ゾワッ ブルブルブル
男 「し……し、……白井、さん……?」
白井 「あっ、そうですの! ねぇお姉様! 黒子ちょっと用事を思い出しましたの!」
白井 「ちょっとお付き合いくださいましね! さ、行きますわよ!?」
御坂 「ちょっ、く、黒子!?」
白井 「……それでは、男さん。また第177支部でお会いしましょう。ごきげんよう」シュン
男 「………………」
初春 「………………」
佐天 「………………」
ネ&デ 『………………』
男 「……うっそーん」
男 「そもそも僕みたいに女々しくて根暗でジメジメしてて独り言上等でひ弱で惰弱で脆弱で
とにかく情けなくて弱い男なんかが中学一年生に告白なんてしようとしたからこうなったんだ
ああもうなんていうかもう本当に何なんだろう僕のバカ僕の莫迦僕の馬鹿
そもそも十三歳って犯罪じゃないかいや僕はまだ十六歳だから大丈夫なのか
いやもうなんて言うかどうでもいいや大体犯罪になるようなことするつもりなんて
これっぽっちもなかったしね僕は臆病だからクククククうわーもう僕のアホー……」ガンガンガンンガン……
男 「………………」ウゥ……
初春 「………………」
佐天 「………………」 ソーッ ガシッ 「……!!」
初春 「佐天さん?」 ニコッ ギリギリギリッ 「さすがにここで逃げたりしたら怒りますよ?」ニコニコッ
佐天 「……は、はい……」
佐天 (……ん? でもそもそもこの事故の原因って初春じゃん……)
初春 「? 何か言いたいことがおありですか? 佐天さーん?」
佐天 「いっ、いえいえ……とんでもございませんよ、初春さん」ダラダラ
ネム 『…………まったくもう……!』
デイ 『…………世話の焼ける……!』
初春 「……あー、男さん?」
初春 「ほ、ほらほら、元気出してくださいよ!」
佐天 「そ、そうですよ! ほら、次がありますよ、次が!」
男 「ふふ……次、か……つまりこの恋は終わった……と」
佐天 「あっ、いや……そういうつもりじゃ……」
男 「ふふふふ……ふふふ……はは……ピエ口ー♪ ピエ口なー、僕ー♪ ふっふーん♪」
初春 「あっ、壊れました」
佐天 「なんていうか……いっそ清々しいまでの壊れ方だね」
男 「……んん? ああ、ネムサスぅ……君は今日も綺麗だね……惚れ惚れするよ……」
デイ 『男!』
男 「ん? ああ、デイジィ……君は今日も魅惑的だ……なんか胸がドキドキする……」
初春 「じ、重傷ですね……」
佐天 「えっ? なにあのひとちょっとこわい」
ネ&デ 『…………ふぅ』シャッ バサッ
バリバリバリバリバリバリバリ!!!! ゲシゲシゲシゲシゲシゲイシゲシ!!!!
男 「顔面痛ぁぁぁぁあああああっ!!!」ドダンバダン!!
男 「なっ……何をするんだよ! ネムサス! デイジィ!」
初春 「あっ、正気に戻った」
佐天 「ねー初春ー、今さらだけど、ネムちゃんとデイちゃんが日本語喋ってるよ?」クィクィ
初春 「情報貧民層の佐天さんはちょっと黙っててください!」
ネム 『男……耳をかっぽじってよく聞きなさい!』
デイ 『さっき白井を『奪い取って』いった女……』
ネム 『奴の名は御坂美琴……』
デイ 『……常盤台の『超電磁砲』よ』
男 「なっ……あ、あの子が、学園都市第三位の……『超電磁砲』……!?」
ネム 『そう! あの悪名高い、『超電磁砲』よ!』
デイ 『気に入らないという理由で不良を何百人と始末してきたという、あの『超電磁砲』よ!』
佐天 「……ねー、初春。なんかいい感じに脚色されてない?」
初春 「いえ……御坂さんの今までの不良撃墜数を鑑みるに……あながち何百人というのもありえなくはないかと」
男 「……ふふ、そうか。そうかそうか……『超電磁砲』か」
男 「なら仕方ないよね。弱い男の僕より……強くて格好いい女の子の方がいいに、決まってるモンね」
ネ&デ 『………………』
バリバリバリバリバリバリバリ!!!! ゲシゲシゲシゲシゲシゲイシゲシ!!!!
男 「痛いぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!!」
デイ 『あなたも男でしょ!? なら惚れた女ぐらい――』
男 「えっ――?」
ネ&デ 『奪い取ってみせなさいよッ!!!』
男 「………………」
男 「………………」
男 「……奪い、取る……」
男 「僕が……『超電磁砲』から……白井さんを……奪い取る……!!!」
初春 「………………(人間とネコとアヒルの間に生まれた、美しい愛の形……)」ウルウルウル
佐天 「ねーねー初春ー。何であのひとネコとアヒルに自己啓発されてるのー?」
男 「……いいだろう……『超電磁砲』……」
男 「君が僕の恋路を邪魔するというのなら……」
男 「白井さんを……その強さで惑わすというのなら……」
男 「……たとえ君が超能力者の一人であったとしても……」
男 「……たとえ僕がただの低能力者でしかないとしても……」
男 「僕は君を……君を超える……!」
男 「『超電磁砲』、御坂美琴……僕は君を乗り越えて! そして!」
男 「――白井さんを……取り戻してみせる!!」
初春 「………………(うぅ……男さん……わたしはいつでもあなたの味方ですからね……応援してますから……)」ウルウルウルウル
佐天 「……うわー……もうどこから突っ込んだらいいのかわかんない」
佐天 「ま……わたしは意地悪だから教えないけどさ」ペロッ
佐天 「さっき御坂さんに迫ってた白井さん、明らかに挙動不審だったんだけどね」
白井 「――ックシュン!!」
御坂 「うわっ……人の顔に向けてくしゃみしないでよ!」
白井 「し、失礼をいたしましたの……」
御坂 「……はぁ」
御坂 「ったく、このバカ。照れ隠しならもっと上手にやりなさいよね」
白井 「!!? な、何のことですの!?」
御坂 「わざとらしい真似すんな。まったく……」
白井 「っ……だ、だって……」 モジモジ 「は、恥ずかしかったんですもの……」
御坂 「!!!!(い、いつもの数千倍は可愛い……こ、これが恋の力……)」
白井 「で、でもですね……わたくし……やっぱり、あのお方のことが……男さんのことが――」
御坂 「はいストップ」
御坂 「それは私じゃなくて、本人に言いなさい。もしくは、さっきみたいに言われなさい?」
白井 「…………!!!!」ボボボン!!!
御坂 「………………(あー……今さらだけど、この子今までずっと損してたんだなー)」
御坂 「? なにその唄? ……ああ、そういえばあの時、ネコとアヒルの群れが歌ってたヤツじゃない」
白井 「ふふ……男さんのテーマソングですの」
白井 「ねぇ……お姉様」
御坂 「? 何よ、黒子」
白井 「……ふふ、聞いてくださいます? 今回の事件のお話」
御坂 「……風紀委員の守秘義務とかは?」
白井 「今回に限り適用外ですの。だって……」
白井 「わたくしの大好きな、とあるお方の活躍を、是非お姉様に聞いていただきたいんですもの!」
御坂 「……ふぅ……」
御坂 「まったく……ごちそうさま……。……じゃ、存分に話しなさいよ。満足するまで聞いてあげるから」
白井 「…………はいっ、ですの!」
――♪ネコとアヒルが力を合わせてみんなの幸せを♪――
おわり
「とある魔術の禁書目録」カテゴリのおすすめ
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コメント一覧 (5)
-
- 2018年10月15日 16:04
- アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアィ!!
-
- 2018年10月15日 17:56
- くっそなつい
続編あるけど未完なんだよなこれ…
-
- 2018年10月16日 06:30
- 完結したから上がったと思ったんだけど未完なのね…残念。
-
- 2018年10月22日 20:53
- 微妙ッスねぇ
古っ!