喪黒福造「警察や暴力団の追跡から逃亡を果たし、別人になってみませんか?」 詐欺師「なるほど、別人になるんですか」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
豊島和成(49) 詐欺師
【逃亡者】
ホーッホッホッホ……。」
マイクを持った一人の参加者が、壇上に立って何かを話している。
参加者「以前の私は、うだつの上がらないサラリーマン生活をしていました」
「しかし、HLレボリューションに出会ったことにより、私は勝ち組になることができたのです!!」
「HLレボリューションのHLは、『ハッピーライフ』の頭文字ですが……」
「今の私は文字通り、幸せな生活を送っています!!」
この参加者に対し、拍手を行う別の参加者たち。さらに、他の人間が成功体験を話し、参加者たちが拍手を行い……。
壇上には、遂にあの男が姿を現す。
テロップ「豊島和成(47) HLレボリューション会長」
司会者「本日は、HLレボリューションの創業者である豊島和成会長にお越しいただきました!!」
歓声が上がり、拍手が起きる会場。会場は独特な高揚感に包まる。マイクを持ち、講演を行う豊島。
豊島「HLレボリューションは、一人ひとりがビジネスオーナーになれる画期的なシステムです!!」
「私は、この画期的なシステムを至るところに広め……。ネットワークビジネス革命を必ず成し遂げます!!」
豊島に拍手をする参加者たち。
テレビのニュースで、HLレボリューションの詐欺事件が報道される。
アナウンサー「HLレボリューションは、参加者たちに健康食品を販売していましたが……」
「消費者庁から一部業務停止命令を受け、事実上の倒産状態にありました」
「豊島会長はグループの破綻を隠し、会員たちから出資金を騙し取った疑いが持たれています」
全国紙「警視庁、HLレボリューションを強制捜査 出資法違反容疑」
「出資法違反 HLレボリューション幹部から聴取へ 警視庁」
警察により、証拠の入った段ボール箱がHLレボリューション本社から次々と運び出される。
さらに、逮捕されるHLレボリューション幹部たち。
とある暴力団本部。和室の中で、組の最高幹部たちが話し合いをしている。
最高幹部A「豊島和成のケツ持ちはうちの組だった。そもそも、あいつは俺たちの傀儡だったのだからな」
最高幹部B「豊島は、俺たちに都合の悪いことをいろいろ知りすぎている。今のあいつは、もはや邪魔者だ」
最高幹部C「あいつにはこの世から消えて貰うしかないな。口封じのために――」
テロップ「豊島和成(49) 元HLレボリューション会長」
豊島は着のみ着のままの姿であり、憔悴した顔をしている。
彼がいる客室のドアがゆっくりと開く。
豊島(鍵をかけたはずのドアが開いた……!……ということは、まさか!)
客室の中に、例の男――喪黒福造が入る。喪黒の顔を見る豊島。
豊島「お、お前は現地の暴力団の人間か!!どうせ、口封じのために私を殺しに来たんだろう!!」
喪黒「私は暴力団の人間ではありません。こういう者ですよ」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
豊島「……ココロのスキマ、お埋めします!?」
喪黒「私はセールスマンです。お客様の心にポッカリ空いたスキマをお埋めするのがお仕事です」
喪黒「いえいえ。私のやっていることはボランティアみたいなものですから……」
「心に何かしらのスキマを抱え、人生が行き詰まった人たちを救うための仕事ですよ」
「ほら……、豊島和成さんも心にスキマがおありのはずでしょう?」
豊島「ああ。見ての通り、今の私は……」
喪黒「よろしかったら、私があなたの相談に乗りましょうか?」
喪黒に心を開き、話をする豊島。
豊島「現在の私は、八方ふさがりの状態なんですよ。警視庁からは逮捕状が出され……」
「おまけに、全国各地の闇社会人脈からは命を狙われているんです」
喪黒「そうですか……。それは大変ですなぁ……」
豊島「私は警察に逮捕されたくないし、闇社会の連中に命を奪われるのもごめんですよ……!!」
「何で、私がこんな目にあわなければいけないんですか!!」
喪黒「だって、豊島さん……。あなたのやったことは紛れもなく犯罪ですから……」
「自分のやったことが自分に返ってきたまでのことでしょう」
喪黒「私は詐欺師ではありませんよ」
豊島「ふん。詐欺師の人間ってのは皆、『私は詐欺師ではない』と自己紹介するんですよ」
「何よりも、かく言う私もその典型例だったのだから……」
喪黒「ねぇ、豊島さん。あなたは、自分がやってきたことを反省していますか?」
豊島「そんなわけありませんよ。騙された人間が悪いんです。私の言葉を信じたバカどもに落ち度があったんですよ」
「強い人間が弱い人間を喰らい、賢い人間が愚かな人間を騙す。それが世の中なんですから……」
喪黒「でも……。あなたは警察に逮捕状を出された上、頼みとしていた暴力団に切り捨てられたでしょう」
豊島「まあ……。この私も、より強い人間にやられたってことです。結局、世の中が弱肉強食であることを証明したまでですから……」
喪黒「ですがねぇ……。あなた、こんな生き方をしていたら畳の上で死ねませんよ」
豊島「現に、そうなりかかっているから仕方ありませんよ」
喪黒「豊島さん。もう一度人生をやり直したいでしょう?犯罪歴とは無縁の、普通の人間として……」
豊島「できれば、そうしたいですね。だが、それは不可能というものですから……」
豊島「えっ!?」
喪黒「警察や暴力団の追跡から逃亡を果たし、別人になってみませんか?」
豊島「なるほど、別人になるんですか。さしずめ、身元不明のまま死んだ人間の戸籍を買い取り……」
「その上……。闇医者によって整形手術をして、別人になり済ますってことでしょうな」
喪黒「まあ、それに近いかもしれませんがねぇ……。私のやり方はもっと簡単ですよ」
豊島「一体、どういうことです?」
喪黒「豊島さんが別人になる手続きは、何から何まで無料で済むんですよ」
豊島「じゃあ……」
喪黒「私は、死亡したホームレスの戸籍を持っていますけどねぇ……」
「豊島さんに、それをただでプレゼントしますよ。今すぐに……」
豊島「そうなると……。私の整形手術の費用も、喪黒さんが負担してくれるってことですか」
喪黒「もっと手っ取り早い方法があります。さっさとこのホテルを出ましょう」
彼が持っているのは、目の穴が開いた白色の仮面だ。仮面には、鼻と唇の部分が浮き出ている。
喪黒「さあ、豊島さん。この仮面を顔に付けてください」
豊島「こ、これをですか?」
喪黒「そうです」
仮面を顔に装着する豊島。喪黒は豊島に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
豊島「ギャアアアアアアアアア!!!」
豊島「豊島さん。仮面を外してください」
仮面を外す豊島。喪黒から渡された手鏡を、豊島が覗き込むと……。
豊島「あーーーっ!!」
手鏡に映っている顔は、豊島とは別人のものだ。そう、彼がさっき付けていた仮面の顔が、今の豊島の顔になっている。
豊島「内村俊男……。これが今の私ですか」
「さしずめ……。本物のそいつは、ホームレスとしてとっくの昔に死んでいるんでしょうね」
喪黒「その通りです」
線路を走る新幹線。いつの間にか、喪黒と豊島は新幹線に乗って駅弁を食べている。
喪黒「これからあなたは、内村俊男としての新天地での生活が待っていますよ」
博多駅に到着する新幹線。新幹線を降り、駅の構内を歩く喪黒と豊島。
喪黒「しばらく、博多見物でもしましょうか」
豊島「ええ」
大濠公園。池を眺める喪黒と豊島。
豊島「私は福岡市で暮らすんですか。まあ、私は首都圏で派手に悪さをやりすぎましたからねぇ……」
喪黒「そうです。福岡は首都圏から遠いので、いい逃亡先になるでしょうなぁ」
喪黒「いえいえ……。私が豊島さんの逃亡の手助けをしたのは、あなたの人生のやり直しのため……」
「あなたを人間として更生させるためであって、犯罪者として生き延びさせるためではありませんよ」
豊島「そうなんですか……」
喪黒「だから、あなたには約束していただきたいことがあります」
豊島「約束!?」
喪黒「そうです。これからのあなたは、普通の人間として真面目に人生を送ってください」
「詐欺や犯罪に再び関わるような真似は、絶対にしてはいけませんよ。いいですね!?」
豊島「わ、分かりました。喪黒さん……」
とある小さなビル。作業服を着た中年女性と面接する豊島。内村俊男こと豊島の履歴書を見つめる中年女性。
中年女性「内村俊男さん……。ですね?」
豊島「はい」
清掃アルバイトの中には、内村俊男になり済ました豊島の姿がある。
とある企業ビル。ブラシを持って階段の清掃を行う内村こと豊島。
豊島(それにしても、久しぶりの肉体労働は身にこたえる……)
休憩中にタバコを吸う豊島。内村こと豊島に声をかけるバイト仲間。
清掃アルバイト「へぇ。内村さん、東京に住んでいたんですか」
豊島「そうですよ。ずっと、日雇いで食いつないできたんですけどね……」
「東京は何かと物価が高いから生活がきつくて……」
清掃アルバイト「それで、福岡に引っ越したというわけですね」
豊島「まあ、そういうことです」
仕事を終え、ワンボックスカーで帰りに向かう一同。後部座席にいる豊島。
豊島(俺が清掃の仕事を選んだのは、心の汚れを洗うためだったのかもしれんな……)
豊島(清掃の仕事だけでは、暮らしがきつい……。何か、バイトの掛け持ちでもしなくてはな……)
博多駅近くのビル。とある階の室内では、人材派遣会社の登録会が行われている。登録会に参加する豊島。
派遣の登録会で、参加者一同に対し女性スタッフが説明をしている。
豊島(ここにいる女性スタッフは、OLというよりは水商売風だ……。つまり、この会社は……)
翌日。豊島ら派遣社員を乗せたバスが仕事現場へ向かっている。
派遣社員たちに仕事の説明を行うバイトリーダーの男性。バイトリーダーの男は、チンピラのような風貌をしている。
豊島(やはり、この派遣会社は暴力団のフロント企業の可能性が高いな)
(さしずめ、このバイトリーダーの男も……。どうせ末端組員のヤクザか、準構成員の半グレなんだろうな)
とある工場。防塵服を着た豊島が、何かの製品の組み立てを行っている。
豊島(この間まで、高級車を乗り回していた俺が……。こんな身分に落ちぶれるとは……)
(それでも警察に逮捕されたり、ヤクザに殺されたりするよりはマシってことか……)
ある日の昼。清掃会社社員として、オフィス内の絨毯の清掃を行う内村こと豊島。彼は、何かの機械を持っている。
豊島(今の俺は、仕事も身分も何もかも不安定だ……)
(年を取って身体が衰えたら、肉体労働さえもできなくなるだろうな……)
ある日の夜。とある工場。防塵服姿の派遣社員たち。あのバイトリーダーが、誰かと喧嘩をしている。
バイトリーダーの男が、相手の胸ぐらを掴んで罵詈雑言を叫んでいる。
豊島(俺は、このバイトリーダーが嫌いでたまらない……。何て品性下劣な奴なんだ……)
(こいつは社会の底辺のチンピラのくせに、自分を一角の男と勘違いしてやがる……)
内村こと豊島の顔は防塵服に隠れているが、目つきからはうんざりした表情が見てとれる。
派遣会社のバス。居眠りをする派遣社員たち。後部座席に座りながら、考え事をする豊島。
豊島(口八丁で他人を騙せば、簡単に大金が手に入るのに……。真面目に働いても、金はなかなか儲からない……)
(世の中って本当に理不尽だな……。何も考えずただ真面目に働く人間は、所詮負け組ってことか……)
電柱の陰に隠れ、内村こと豊島を遠くから眺める喪黒。喪黒は金属のトランクを持っている。
歩道に金属のトランクを置き、そのまま立ち去る喪黒。当然、豊島は喪黒の存在に気づいていない。
豊島「お、何だこれは……」
金属のトランクが目に入る豊島。豊島がトランクの中を開けると……。
豊島「おおっ!!トランクの中に札束が詰まっているぞ!!」
慌ててトランクを閉じ、周囲を見渡す豊島。豊島はトランクを持ち、そのまま家路を急ぐ。
自宅アパート。トランクを開け、札束を数える豊島。
豊島「間違いない……。俺の目の前に1億円がある……。うーーん、1億か……」
思いがけない形で突然手に入れた大金を目にし、考え込む豊島。
豊島(この1億円を元手にすれば、何かしらの大きなことをやれそうだ……)
木内「内村。なんや、いきなり……」
テロップ「木内崇哉(42) 派遣会社バイトリーダー」
豊島「木内さん、いい話があるんですよ。私と組みませんか」
とある室内。参加者たちに講習を行う内村こと豊島。彼は、高級そうなスーツと腕時計を身にまとっている。
豊島「私は今まで職を転々とし……。少し前までは、清掃アルバイトと派遣社員の仕事を掛け持ちしていました」
「しかし、例のメソッドを開発したことにより……。私は成功者となることができたのです!!」
「あなたたちは、必ず大金持ちになれます!!未来を切り開くための鍵は、ここにあるのです!!」
内村こと豊島に、参加者たちが一斉に拍手をする。
高級ホテル。ラウンジでコーヒーを飲みながら、窓を眺める豊島と木内。豊島と同じく、木内もスーツ姿だ。
木内「内村さん……。いえ、内村先生。高額塾を主宰し、情報商材を販売するとはなかなかやりますね……」
豊島「おかげで私たちは、今や勝ち組だ。もっとも、商材を購入した末端の会員は破産への道まっしぐらだがな……」
喪黒「内村俊男さんこと、豊島和成さん……。あなた約束を破りましたね」
豊島「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私はあなたに言ったはずです。詐欺や犯罪に再び関わってはいけない……と」
「にも関わらず……。豊島さんは私との約束を無視し、情報商材詐欺に手を染めたようですねぇ」
豊島「私のやったことの、何がいけないんですか!!騙される方が悪いんですよ!!世の中は所詮、弱肉強食です!!」
喪黒「ほう……、それがあなたの答えですか。豊島さん、あなたの逃亡生活は今日で終わりです」
豊島「なっ……!?」
喪黒「約束を破った以上……、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は豊島に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
豊島「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受け、倒れる豊島。内村俊男としての彼の顔は……、元の豊島和成の顔へと徐々に戻っていく。
豊島の顔を見て、表情が変わる木内。木内は急いでラウンジを離れ、スマホで誰かと通話をする。
木内「……例の男が見つかりました!……はい!あいつです!!」
ラウンジで途方に暮れる豊島。しばらくした後、彼の元にカタギとは思えぬ男たち――福岡在住のヤクザたちが現れる。
ヤクザたち「豊島和成さん。一緒に来て貰おうか」
豊島「豊島和成だと?私は内村俊男だ!」
ヤクザたち「とぼけるな!!お前は豊島和成ちゃろうが!!」
ヤクザたちに両脇を掴まれる豊島。豊島はヤクザたちにより、ラウンジから連れ出されていく。
豊島がいなくなったラウンジの前にいる喪黒。
喪黒「私たちが暮らしている社会では……。『逃げる』という言葉は、何かと否定的な意味合いで使われがちです」
「しかしながら……。事と次第によっては、『逃げる』という行為が人生の活路につながる場合もあります」
「なぜなら、『逃げる』という行為もまた……。現実に対処するために本人が下した決断の一つなのですから……」
「自分自身と向き合い、自分で責任を持った上での判断ならば……。『逃げる』という決断もたまには必要でしょう」
「もっとも……、自分のやったことや、現実そのものから逃げることは不可能です。豊島さん、あなたはもう逃げられませんよ」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
元スレ
喪黒福造「警察や暴力団の追跡から逃亡を果たし、別人になってみませんか?」 詐欺師「なるほど、別人になるんですか」
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1539423501/
喪黒福造「警察や暴力団の追跡から逃亡を果たし、別人になってみませんか?」 詐欺師「なるほど、別人になるんですか」
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1539423501/
「SS」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (5)
-
- 2018年10月13日 20:20
- ミナミにはこんなアホがぎょーさんおりますわ…。
-
- 2018年10月13日 22:01
- ちゃり~ん
ちゃり~ん
-
- 2018年10月13日 22:34
- ドーンドーンドンタコス
-
- 2018年10月14日 05:14
- よろしおま!貸しまひょ!ただし…、
利息はトイチでっせぇぇっ!!
-
- 2018年10月14日 06:39
- 確かにちょいミナミっぽいかもな。このシリーズ書いてる人、一回くらい萬田さん書いてほしい。