凛「レッスンルームにヘレンがいた」【モバマス】
今日のレッスンルームは私一人が使う予定だったはずだ。
一応確認をしてみる。
うん。
間違いない。
やっぱり私一人だ。
なのになんで、この、おかしなダンサーがいるのだろうか。
無視か。割と傷つく。
ヘレンらしいと言えばヘレンらしいとも言えるかもしれない。
けどレッスンルームを勝手に使っておいて無視するのはいかがなものか。
せめて一言挨拶するとか、それくらいしてもいいんじゃないかな。
…けど、話しかけられたらそれはそれで困るんだけどね。
なぜなら、そもそも私は実はヘレンとはあまり接点が無いからだ。
一体全体正体が掴めない。
とにかく世界と共に踊っている。そういう女なのだ。
別に他アイドルに媚びを売ってるわけではない。
Pのことをいやらしい目で見てるわけでもない。
彼女には踊りと世界しか見えていないのだ。
それ以外の彼女の要素が見当たらない。
ほんと何者なのこの人。
こんなのが私と同じ定義にたっているのはにわかに信じがたい。
この事務所の人事部は無能の集まりでしかないのか。
一度志希を呼んできて、物事の定義付けについてたっぷりと叩き込んでほしいレベルだ。
クールというのは「かっこいい」とか「冷淡な」とか、そういう意味の言葉だろう。
私はgoogleに問いかける。オッケーグーグル。クールの意味。
なるほど、クールとはそういう意味のほかに「名人的な」とか「ずぶとい」とかそういう意味もあるらしい。
ヘレンそのものを象徴する形容語句じゃないの。
私は不服だがヘレンがクールであることに納得してしまった。くそう。
ヘレンがいるからといって、別にレッスンの邪魔になるという訳ではない。
このダンサーを無視して私はレッスンに集中すればいい。
むしろ普段のレッスンは他のグループと一緒にやるのが当たり前。
今日は私一人だったというのが珍しい。
今日のレッスンは「Trinity Field」の振り付けだ。
本当は奈緒と加蓮とレッスンするはずなんだけど、今日は彼女たちは別の仕事がある。
だから今日は私一人が先にレッスンしておいて、足を引っ張らないように予習をしておく、というのが今日の狙いだ。
♪~
♪~
リズムに合わせて私は身体を激しく動かす。
トライアドプリズムの熱い思いが込められたこの1曲。
聞くだけで私のマインドは溢れだす。
うん、今日の私のコンディションはなかなか良い。
自分でも驚くほどに身体が動く。
いつもは失敗しやすいステップも今日の練習は上手くいった。
うむむ、これが本番だったらいいのに。
突如レッスンルームに響く、閃光のような一声。
…声なのに閃光て。私、比喩のセンス零か。
もちろんその声の主は。
「ヘーイ!そんな踊りで満足するなんて…アナタもまだまだ未熟ね」
当然ヘレンだ。てか当たり前のように思考を読むな。怖い
まさかこの人、声だけでスイッチを…?
いやそんなはずはない。こっそり停止ボタンを押したのだろう。
それはさておき、私の踊りが未熟って…どういうこと?
「偉そうに言うね。ヘレンさん、私たちの曲の何がわかってるって言うの?」
私は負けじと反論する。Trinity Fieldは私たちトライアドプリズムの曲だ。
こんな意味不明なダンサーに何がわかる。
「アナタにも魅せてあげるわ…世界レベルの、ダンスの真髄を!!」
ヘレンはそう言うと、腰をこれでもかというくらい、激しく振り出した。
その直後だ。私が思わず唾を飲み込んだのは。
ヘレンはTrinity Fieldの振り付けを完璧にマスターしていたのだ。
まさか今の私の振り付けを見ていてそれを覚えたの?
それともこの日のために振り付けを覚えてきたというの?
いずれにせよ天才のそれであることには間違いない。
水の様に滑らかでしなやかに、炎のように熱い情熱をぶつけるダンス。
ヘレンが私に魅せたのは、まさに、おそらく私が理想としているTrinity Fieldの振り付けそのものだった。
ただ一つ、腰をこれでもかというくらい激しく振りながら踊っている点を除いては。
いや真面目にどうやってんのそれ。
違うこれは疑念だ。てかナチュラルに思考を読むな。
「いいわ。アナタがその気であるなら、私の世界レベルのダンスを伝授してあげるわ」
その気じゃないからいい。一人でやる。
てかこの人なんでこんな偉そうなの。
芸歴的には私の方が先輩だぞ。渋谷凛だぞ。
「反抗期…ね。私にもそんな時期があったわ…」
15歳はもう思春期の時期だろう。
…だめだ私、この人のペースに飲まれてる気がする。
「ならアナタは黙っておくだけでいいわ。私はアナタの隣で踊り続けるから」
ヘレンがそう言い放つと、再びラジカセからTrinity Fieldが流れ出した。
やっぱりこの人再生ボタン押してないじゃん。絶対おかしいって。
♪~
♪~
「FUN!HA!FUN!HA!」
♪~
♪~
「YEAH!YEAH!OH!YOYOYO!」
♪~
♪~
「SAY!HO!SAY!YAHOO!VERY!VERY!FUNFUNFUN!!」
どうしよう。邪魔だ。
…いやそれはなんかヘレンに負けた気がする。
ラジカセからはTrinity Fieldは流れ続けている。
Trinity Fieldは私たちの曲だ。こんな、よくわからない人に負けるなんて絶対に嫌だ。
私もヘレンに負けず腰を振る。
見て、私のダンスを。アンタなんかに負けないんだから。
しなやかで、美しく、気高く、それでいて熱い。改めて見ると素晴らしい踊りだ。
私の見様見真似の腰の振りでは到底及ばない。
このままではTrinity Fieldはヘレンのダンス曲となってしまう。
諦めてはいけない。何かあるはずだ。
ヘレンのあの動きを支える…根本的な何かが。
思い出せ…ヘレンに対抗できるヒントを…。
ヘレンがいつも口にしている言葉は「世界」
世界とはなんなのか?
「!」
「考えなさい。それは、自分自身よ!」
?
それはどういうこと?
たぶん間違いなく私に対するヒントなのだろうけど…。
私は精神を集中させる。
聞こえてくるのは、ヘレンの風の切る音と、そして。
私たちの曲「Trinity Field」。
…そうか、わかった。
過去も現在も未来も此処に或る、重なり合う「Trinity Field」
これが…私、渋谷凛に与えられた、かけがえのない世界!
これなら…これがあれば、私はヘレンに勝てる!
腰で光る螺旋を表現する。心なしか、私の周囲にはスパークが表れていた。
「…!世界のレベルを掴んだわね!私が押されているなんて…!」
「ふーん…この程度が世界レベルの踊り?案外簡単だったよ」
「ふふふ、見くびっては困るわね。私は実力の3%も出し切っていないわ。これについてきてこその、世界レベルよ!」
ヘレンの腰の動きがさらに速くなる。
あの腰に牛乳瓶を取り付けたら一瞬のうちにバターが出来上がるだろう。
しかし私にだってTrinity Fieldが懸かっているんだ。
この程度、普段の辛いレッスンで鍛えている私には造作もない。
そのままヘレンは風となった。
いやあくまでも比喩表現である。ヘレンのダンスのキレが激しすぎて、風のように姿が捉えられないだけだ。
本当に風になった訳じゃないなら、勝機はある。
私もヘレンと全く同じ動きをする。
そうすれば…見えた。ヘレンの姿が。実体を捉えた。
どう?世界レベルってのはそんなものなの?
ヘレンはまだ余裕そうに笑っている。
どうやらまだまだ楽しめそうだね。私だって、全力で行くよ。
とうとうレッスンルームを床、壁、天井と縦横無尽に駆け抜けるヘレン。
まさに世界レベルのダンスだ。
こんなことをされてしまえば、アイドルでない者ならば敗北は確定したも同然だろう。万物を魅了する美しいダンスだ。
だけど。
私は負ける訳にはいかないんだ。
私はトライアドプリズムの一人、渋谷凛だ。
Trinity Fieldは私たちの曲なんだ。ヘレンなんかに奪われるのは癪だ。
だから…ヘレンになんか、絶対に負けない!
「…!」
どうやら決着はついたみたいだ。
先に膝をついたのは…
「降参よ。まさかアナタがここまでできるなんて、思いもしなかった」
ヘレンだ。
私の勝ちだ。
…だけど。
これは彼女の敗北ではない。
彼女が私に手助けをしたからこそ、私が勝利したのだ。
すなわち私の勝利は、ヘレンの勝利でもある。
「いいえ。違うわ」
「ヘレン?」
「勝利したのはアナタの譲れない【世界】よ。だから誇りなさい。私に勝利したアナタ自身を」
…そうか。
ヘレンは私を倒したいわけじゃなかったんだ。
ヘレンの目的は私を世界レベルへと導くこと。それだけに過ぎなかったんだ。
今なら、ヘレンの思考が手に取るようにわかる。
私はもうさっきまでの私じゃない。私は、世界レベルに立ったんだ。
「喜んで受け入れるわ。また一つ生まれた世界に…乾杯ね」
熱い握手をヘレンと交わす。
お互いを高め合う仲間、か。
なんてかけがえのない存在なんだろう。
私はその余韻を味わい、しばらくヘレンの熱い手をぎゅっと握りしめるのだった。
ダンスレッスンに奈緒と加蓮はついて来れなかった。
なにこれ。
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コメント一覧 (30)
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- 2018年10月08日 05:26
- 私はついていけるだろうか ヘレンのいない世界のスピードに
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- 2018年10月08日 05:26
- なにこれって…
世界レベルでしょ
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- 2018年10月08日 05:57
- このしぶりんはヘレンの名を襲名しそう
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- 2018年10月08日 06:00
- 散々っぱら振り回された疑惑のある飛鳥くんが愕然としてそう
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- 2018年10月08日 06:04
- バター作れる腰の振りって、見てるだけで腰痛になりそうだな……
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- 2018年10月08日 06:12
- そんなヘレンの身長は158cm、更にヘレンの名はステージネームであり世襲制。
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- 2018年10月08日 07:24
- ヘレンさんがしぶりんに伝授したのは、もしかして伝説の「愛のグランド」か?
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- 2018年10月08日 07:27
- 次の日、そこにはスタジオで菜々さんに激しいダンスレッスンさせる
ヘレンの姿が!
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- 2018年10月08日 07:30
- 何があっても"ヘレンだから"というだけで済ませられる超絶パワーワード。
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- 2018年10月08日 07:50
- ※8
是非ともその柔軟性と筋力を伝授して差し上げて欲しいが、襲名制だし、多分古武道方式なんだろうなぁ。
(心技体全てを型稽古と実践で鍛えて、適性と才能と運がない者は故障や失命で脱落して行く修羅の道)
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- 2018年10月08日 07:52
- でもこういう女の眼前に世界レベルのオチ〇チン突き付けて赤面させたいんだよな
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- 2018年10月08日 08:26
- ※11
おいおいそのきんぴらゴボウで世界レベルとは笑わせる
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- 2018年10月08日 10:05
- 好きです
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- 2018年10月08日 10:30
- 放っておいたら宇宙になってそう
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- 2018年10月08日 11:08
- >「やるわね!!ならばアナタに世界レベルの頂点に立つヘレンの真骨頂を披露するわ!FINAL LESSONよ!100%、フルパワー中のフルパワーダンス!!」
CV玄田哲章じゃねーか
そのうちヘレンさん「3分でこのビルを平らにしてあげましょうか?」とか言いそう
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- 2018年10月08日 12:14
- >>Pのことをいやらしい目で見てるわけでもない。
おま言う
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- 2018年10月08日 12:28
- 文にいちいちパワーワード入れるのずるいわ
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- 2018年10月08日 12:30
- ※15
3分の内訳
2分59秒:ダンス
1秒:ヘーイ
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- 2018年10月08日 12:33
- クールの定義こわれる
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- 2018年10月08日 13:02
- ユニット名間違えちゃだめでしょ・・・
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- 2018年10月08日 14:04
- 世界レベルって、こわい
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- 2018年10月08日 14:57
- 世界レベルがゲシュタルト崩壊、何を言ってるかわからねーと思うけど読んでる俺も訳がわからなかったんだ
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- 2018年10月08日 15:39
- つまり、そういうこと
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- 2018年10月08日 16:49
- 民明書房にヘレンについての書籍ありそう
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- 2018年10月08日 17:08
- ヘレンさんなら生身でゲッダンできてそう
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- 2018年10月08日 21:52
- すべてをこえしもの=ヘレン
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- 2018年10月09日 03:34
- ギャグもシリアスも真顔でこなせるヘレンさんずるい
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- 2018年10月09日 12:49
- ナイス世界レベル
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- 2018年10月09日 15:49
- クールのいみがちがう
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- 2018年10月10日 19:54
- 名前が出ただけで面白い。それ世界レベル
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