桃子「見てお兄ちゃん、マイティセーラーのコスプレだよ」
今年の夏は何故だか蚊に刺されないと思っていたら、どうやら蚊は35℃を上回る気温では活動が鈍るらしい。夏の風物詩でさえ白旗を上げるような暑さに信じられないような人混みが加わり、桃子は自分が少しずつ不機嫌になるのを感じていた。
「会場は日傘を持ち込めないんだよ。もう少しだけ我慢してくれ桃子」
今日はお兄ちゃんと一緒にコミックマーケットにいる。しかし目的は買い物ではなくむしろその逆。企業ブースでシアター関連グッズの販売があり、アイドルたちは売り子として30分毎に交代でファンの皆さんに挨拶をすることになっていたのである。
「見てお兄ちゃん、マイティセーラーのコスプレだよ」
765プロ主演の特撮番組「アイドルヒーローズ」で百合子さんが演じているのがマイティセーラーだ。眼前の彼女のコスプレは全く見事で、百合子さんと同じ髪型で同じ衣装。ハサミでザックリ切ったのだろうか、あのよくわからない短さのセーラー服も見事に再現されている。
いつかは官能も書きたいね
アイドルヒーローズに出演しているわけではないが、やはり桃子も嬉しかった。アイドルがファンを楽しませ、ファンの姿を見てアイドルはもっと頑張れる。その関係性は何より素晴らしいものだ。
そんな中一人…いや二人…女性に近づいて深く屈み、見上げるようなアングルで写真を撮っている。どうやら女性のパンツを撮ろうとしているようだ。全く呆れた。悪いのは当然撮る側だが、撮られる側もやめてくれと言えばいいものを。
何も持っていなかった左手で口を押えたが嘔吐を止めるには至らず、その場で桃子は盛大に吐いた。朝食の菓子パンと先ほどまで飲んでいたスポーツドリンクの甘さが鼻を突き、胃酸の刺激が口腔いっぱいに広がった。
お兄ちゃんが必死に何かを言っているが全く耳に入ってこない。息すら苦しい。視界がぼやけてよくわからない。足の力が俄に抜け、膝から崩れ落ち、そして桃子は気を失った。
桃子の子役としての全盛期がいつだったかはよくわからない。あのCMに出演していた頃か、はたまたあのドラマで主役だった頃か。当時は相当ちやほやされたものだった。
桃子自身演技に自信はあり、そして相応に褒められ、持ち上げられた。願わくは世間からだけでなく両親からも認められたかったものだが…いや、今はその話はやめておこう。
どうもこの世界は、いや少なくともこの業界は、個人の努力だけではどうにもならないところがあると知った。
業界で生き延びるためにファンを楽しませないといけないという面はもちろんあったが、それ以上に、純粋に桃子は彼らを大切にしたかった。
素直に感謝を表して受け取るとそれは意外なほど軽かった。不思議に思い開けてみると中からは茶色い箱が出てきた。
「ははは、違うよ。それは踏み台さ。乗ってみな」
踏み台? 訝しみながら桃子はそれに乗ってみた。するとそこから見える景色に桃子は眼を見開いた。机が低い。ハンガーラックが小さい。これが大人から見える世界か!
桃子はそれを心の底から気に入っていた。
そうだ。桃子は体こそ小さいものの芸歴はそこらの新人よりずっと長い。それに収入だって多かったのだ。視線さえ同じ高さになれば対等に渡り合える。
桃子をクビにしたあの監督にも、桃子に聞こえるように陰口を叩いたあのスタッフにも、もう遠慮する必要は無い。踏み台の上で桃子はかつてない程の高揚感を感じていた。
これは定期的に開かれるもので、会話しながら1人ずつと握手し、ファンが持参したカメラで2ショットをサービスするものだ。
桃子はこれにさっそく踏み台を持ち込んだ。
ファンと同じ目線での握手。視線を合わせて行われるそれは、こそばゆいようでしかしとても充実したものだった。
どうやらそれはファンも同じなようで、素直に喜びを表現する者もいれば大いに照れてしまい会話にならないような者もいた。
桃子はいつも通りにファンとの2ショットを撮るつもりだったのだが、最初の順番のファンが桃子だけを撮りたいと主張した。
折角2ショットを撮れる機会なのに変わったファンだ。しかし断る理由もない。Pも問題ないと言っているのでファンの好きなように撮らせた。
彼は様々な角度から桃子を撮ると、満足げに帰っていった。変わり者もいたものだとその時は思ったが、驚いたことに、その次のファンも桃子だけを撮りたがった。その次のファンも、その次のファンも。
結局殆どのファンが桃子だけを撮っていった。
これも踏み台のおかげであり、踏み台が桃子もファンも満足させるのだと考えた。
それは間違っていなかったが、桃子にとっての踏み台とファンにとっての踏み台が全く別のものであるということを桃子は分かっていなかった。
純白のシーツとカーテンの中で桃子は目を覚ました。腕に点滴が刺さっている。まだ少し頭が痛い。
少しだけ体を起こすとお兄ちゃんと目が合った。
「桃子!! 大丈夫か?!」
「うん、もう平気…。それよりごめんなさい」
「いや、そんなことは気にするな。それより本当に大丈夫か?」
桃子は救急車で病院に運ばれて熱中症の手当てを受けた。今日の仕事については何も心配いらない。器用にリンゴを剥きながらお兄ちゃんはそう教えてくれた。
お兄ちゃんはそういってリンゴの乗った皿を差し出した。
折角だし頂こうと思って手を伸ばすと、お兄ちゃんの足元には桃子の踏み台があった。
「ああ、踏み台か? 桃子といるときにはいつも持ってきているぞ。まあ、病院では使わないけどな」
「あはははははは!! あっはははははははは!!」
桃子は笑った。心の底から笑った。
桃子は沸いてくる笑いに一瞬当惑したが、すぐに納得した。
だって考えてもみてほしい。桃子が大人と対等に渡り合うために、渡り合えると信じて使っていた踏み台は、なんと児童の性的消費のための装置だったのだ! こんなにおかしい話があるだろうか!
「いや、大丈夫…ほんとに大丈夫だから」
笑いすぎで浮かんできていた目尻の涙を拭いながら桃子は答えた。
過去の過ちをいつでも思い出せるように、いわば烙印としてこれから踏み台を使っていくのも悪くない。
しかし仕事の中で心細くなったときは、そんなことを都合よく忘れていつものように踏み台を使うのだ。
季節外れで腑抜けた味のするリンゴをかじりながら、桃子はそう考えた。
おしまい
なんつーかオチが弱いな
転まで良かったけど結があっさりすぎると言うかえ?これで終わり?感があるというか
でも楽しめた乙
今度は幸せな話も書いてね
オチは自分で書いててもそう思った
物語自体初めて書いたんだが楽しんでもらえたのならよかったよ
意見なんて幾らでも言ってくれ
展開ってのはもっと大きなどんでん返しってこと?
すごく説明下手で申し訳ないんだけどなんというか
ミリシタのイベントコミュで言うなら5話までやったあと6話すっ飛ばしてエピローグいっちゃったみたいなそんな感じがある
その感覚は確かにわかる
次はもっとオチに気を付けるよ
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コメント一覧 (6)
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- 2018年09月03日 02:50
- Chapter表記いらなくない?
あといらないシーンが多すぎますね かと思えばラストは無駄に駆け足
リズムとか一切認識出来てなさそう 凡人以下の駄作
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- 2018年09月03日 03:11
- 凡人以下の駄作、ってどーゆー日本国やねん
凡人以下にわかる様に教えてくれや
内容はまあ薄味やったな
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- 2018年09月03日 09:46
- ※1
作者のマルポ乙。聞く所によると、盗作発覚で界隈から追放喰らったんだって?
このSSの感想
割り切りの来る瞬間なんて、実際はこんなもんではあるが、文学書くならもっと筆力がいる。
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- 2018年09月04日 12:34
- くっさいの涌いとるのー
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- 2018年09月05日 22:06
- タイトルと内容が一致してないのでそこはもう少し考えた方が良いのではないでしょうか。他の作者さんのssはタイトルがそのまま内容の最初のセリフだったりということもありますがこの作品は違うように思えたので。最後の終わり方に関しては、先に感想を述べた方々と同意見です。逆に良かった点は、台詞と地の文のバランスが良く読みやすかった事、桃子が原作と同じ様に動いている事(違和感が無い)です。個人的にはとても面白かったので次回作楽しみにしてます。長文失礼致しました。
【決講】菜々「え?何を今更…」
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