西住みほ 「 暗い凱旋門、ですか? 」
- 2018年08月18日 18:10
- SS、ガールズ&パンツァー
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みほ(大学選抜との試合も終わって、数週間後)
みほ(あの試合では、色々な人にお世話になった、感謝してもしきれない、沢山の恩がある)
みほ(すぐには返せない、でも、絶対にお礼は伝えたくて)
みほ(裏で廃校を免れるために奔走してくれたお母さん、一緒に戦ってくれた黒森峰のみんな)
みほ(まずは、地元のみんなにお礼を伝えよう、伝えきれなかったことも、全部全部)
みほ「ただいま」
みほ(フェリーから降りて、地元に繋がる電車に乗る、見知った風景、流れる雲)
みほ(3連休とあって車内はちょっとだけ人が多い、知らない人もいる、知ってる人も、いる)
みほ(でも、話しかけられない、顔を上げられない、だって)
乗客「見ろよあいつ、ほら、大洗の西住の妹、あいつのせいで、黒森峰は...」
みほ(だって、ここには、黒森峰があるから)
乗客「そう言うなよ、前の試合の活躍凄かったじゃん、おらが町のヒーローだよ」
乗客「だとしても、去年の失態は見過ごせねーよ、それに、その後黒森峰を」
みほ「...っ」
みほ(次の言葉を聞きたくなくて、停車した駅で降りる、いつかと同じ、逃げるように)
みほ(地元の駅まで数駅くらい、歩けない距離じゃない、けど)
みほ「あ...」
みほ(閑静な住宅街、駅のすぐ外には黒森峰の幟が立っていて)
みほ(黒森峰時代の友人も住んでる住宅街、家へ帰るには、ここを通らないといけない)
みほ(どうしたらいいんだろう、俯いて、前を向いたら、そしたら)
後輩「みほ、先輩...?」
みほ「あ、久し、ぶり...」
みほ(私を見つめる視線、もちろん覚えてる、戦車道で一緒だった虎弐先輩の、妹さん)
みほ(先輩は、お姉さんは、2つ上の実力者だった、優しくしてくれた先輩だった)
みほ(何度か、この子とも話したこともある、お姉さんに憧れています、って)
みほ(いやだ、思い出したくない、だって、そのお姉さんの、先輩の最後の言葉は)
『勝ちたかった、勝ちた、かった、よぉ...っ』
みほ(泣き崩れる先輩、違う、先輩『達』、私のわがままで夢を掴めなかった先輩達)
みほ(私が大洗で見つけた戦車道の代償は、先輩方の涙だと、そんなの、そんなの)
後輩「みほ先輩、どうしたんですか?」
みほ「あ、ごめんね、えっと、元気にしてるかな」
後輩「はい、元気にしてますよ」
みほ「そう、なんだ、今は黒森峰の戦車道チームにいるの?」
後輩「...そうだったら、良かったんですけど」
みほ「...?」
みほ(俯く妹さん、あれ、この子って、こんなに暗い人だっけ)
後輩「姉が、何をしてるか知っていますか」
みほ「...ごめん、分からない」
後輩「ですよね、みほ先輩が、知ってるわけありませんよね」
みほ(表情は見えない、でも、チラッと見えたその目元)
後輩「だって、逃げましたもんね」
みほ(その眼は、私を睨んでいて)
みほ「ひっ」
後輩「姉は、大学でも戦車道をしています、でも、特待じゃないんです、優勝出来なかったから」
後輩「特待じゃない戦車道ってね、お金がかさむんですよ、私が、戦車道を断念したくらいに」
みほ「っ、ぁ、ご、めん」
後輩「先輩、みほ先輩、私が戦車道を断念した時に、あなたは何をしてたんですか」
みほ「っ!」ダッ
みほ(それ以上聞きたくなくて、その場を離れる、家へ、家へと、走って、走って)
みほ(走り疲れて、立ち止まる、でも、止まったら周りの人がこちらを見てる、ような気がして)
みほ「ごめ、ん、でも、ちがうの、ちがう...っ!」
みほ(耳を塞いで、無我夢中で走って、家に辿り着いた時には夕日が田んぼを赤く染めていた)
ガラッ
しほ「みほ、お帰りなさい、遅れるなら連絡してくれないと...みほ?」
みほ「おかあ、さん...」
しほ「みほ、どうしたんですか、そんなに息を切らし、て」ダキッ
みほ「おかあさん、わたしの戦車道、まち、まちがって、るの...?」ポロポロ
しほ「...どうしたの、帰ってくるなりそう言われても、何も分からないわ」
みほ「ごめ、んねっ、でも、わたしも、何も、分からないのっ、分からない、分からない、でも...っ」
しほ「...そういう時もあるわ、でも、何も分からない時は、本当に分からないの、だから」スッ
しほ「まほが帰ってくるまでよ、ほら」ヨシヨシ
みほ「あぅ、っ、ぅぅぅ、うあぁぁ、お母さん、お母さん...っ!」
まほ「ただいま、お母様、みほが帰ってきてるとお聞きして」チラ
まほ「...みほも、そんなに甘えることがあるんですね」
みほ「...んぅ」スゥスゥ
しほ「まほ、そんな喜ばしいことではないわ」
しほ「この子、泣きながら帰ってきたの、あなた何か知ってる?」
まほ「みほが泣きながら、ですか、そうすると十中八九、黒森峰時代のことじゃないでしょうか」
しほ「私の戦車道が間違ってるのか、と言いながら泣いてたわ」
まほ「やはり黒森峰での、最後の試合のことで何か言われたんでしょうね」
しほ「誰の目から見ても正しいとは言わないわ、でも、あれも立派な戦車道よ」
しほ「...何があったか、聞くしかないようね」
みほ「...ん、おかあ、さん」
しほ「おはよう、みほ、まほも帰ってきてるわ」
みほ「うん、ありがとう...」
しほ「みほ、何があったの」
みほ「...」
まほ「みほ、辛いかもしれないが、教えてほしい」
みほ「おねえ、ちゃん...」
まほ「話は聞いてる、自分の戦車道が正しいかどうか、分からなくなったらしいな」
まほ「戦車道に普遍的な正しさはない、それは、人それぞれ決めるものだ」
まほ「でも、自分が正しいと思った道は、決して疑っちゃいけない」
まほ「それを私が学んだのが、みほの戦車道からだ、それほどみほの戦車道は芯が強固だと思う」
まほ「そんな戦車道を、他の誰でもないみほ自身が悲観する姿を私は見たくない」
まほ「力になりたいんだ、みほ、一人の戦車道競技者として、姉として、それに、ファンとして」
まほ「だから、教えてほしい、みほ」
みほ「...私、知らなかったの、戦車道にあれだけ、お金がいるって」
まほ「黒森峰は、確かに年間の会費も大きな額だから、余計に必要だろう」
みほ「私は、出来て当たり前の環境だった、から...」
しほ「今までプロリーグがなかった要因の一つでもあるわね、特待じゃなければ、誰でもは出来ないわ」
まほ「誰に、言われたんだ」
みほ「今、黒森峰の子、二つ上の先輩の、妹さん」
まほ「その子は知らないが、だいたい誰の妹か予想はつく」
まほ「戦車道を部活レベルでしている大学は私立が多い、親の負担も大きい」
まほ「でも、黒森峰はそういう高校だ、特待生として戦車道を行える子は、ほんの一握りしかいない」
しほ「...折角のゆったりとした帰省だから、みほには気楽に過ごしてほしい、けど」
まほ「9月末だからな、もしかしたら、大学が休みの先輩方もいらっしゃるかもしれない」
まほ「私も、留学の手続きで忙しい、お母様も然りだ」
まほ「一人で出掛けると、辛い思いをするかもしれない」
みほ「...でも、私、みんなにありがとうって伝えないといけないから」
みほ「お母さんにも、お姉ちゃんにも、それに、黒森峰のみんなにも、」
まほ「黒森峰に行く時くらい、私が隣にいようか?」
みほ「ううん、お姉ちゃんも忙しいだろうから、私1人で大丈夫だよ」
まほ「何かあったら、いつでも力になるからね」
みほ「うん、ありがとう、お姉ちゃん、それにお母さんも」
みほ「何かあれば、連絡するね、それじゃあ、おやすみなさい」
翌日
みほ(電車が揺れる、時間はお昼前、人の数はまばらなのに、私のことを見つめない人はいない)
みほ(私は大洗女子学園の代表として感謝を伝えに行く、だから、大洗の制服を着て)
みほ(少し前、ここにいるみんなが応援した高校を倒した高校、見られるのは、当たり前で)
みほ(みんな敵なのかなって、思う、1年前の今日と、同じように)
みほ(それでも、黒森峰の地位を確立した家の子供だから、それも、みんな知ってて)
みほ(だから、露骨に嫌味を言ってくる人はいない、ひそひそと、こちらに聞こえないように)
みほ(みんな西住の姓を恐れて、この家で良かったな、って)
みほ(そんな安心感を覚える自分に、吐き気がする、去年、それを嫌って出たのは私なのに)
みほ「黒森、峰...」
みほ(黒森峰学園艦の最寄りに降りて、それを見上げる)
みほ(1年前、私が通っていた高校、1月前、私達が倒した高校)
みほ(今日は月に一度の寄港日、タラップが学園艦と陸を繋いでる)
みほ(タラップの入口には、門が立っている)
みほ(ベルリンのブランデンブルク門をイメージした、大きな大きな門)
みほ(黒森峰学園艦は、寄港日以外も、ある場合に限り寄港する)
みほ(それは、戦車道チームが優勝した時、その時だけ、あの門を通る)
みほ(みんなの憧れ、みんなの夢、それがあの門、あの、凱旋門)
みほ(この門を戦車でくぐるのがみんなの夢だった、私も、少し悔やんでる)
みほ(1年間、敗者としてくぐった門、でも、今回は敗者としてじゃない)
みほ(勝者としてくぐる凱旋門、たったひとりの、凱旋者を祝う門)
みほ(黒森峰は誰一人経験していない蜜の味、そんな醜い優越感を直視したくなかった)
エリカ「久しぶりの黒森峰はどうかしら」
みほ(ふと、声を掛けられる、顔を向けると、同行をお願いしたエリカさんの姿があった)
みほ「エリカさん、すいません、無理を言って」
エリカ「別にいいわよ、勝手に入り込まれた方が迷惑だし」
エリカ「あなたのことだから、てっきり恐れをなして逃げたかと思ったけど」
みほ「伝えないといけないから、感謝も、謝罪も」
エリカ「ふん、まあみんなが優しくて、聞いてくれるといいわね」
みほ「...うん」
エリカ「ほら、行くわよ」
みほ(エリカさんに手を引かれて、凱旋門が私達を迎え入れてくれる)
みほ(入船管理局を抜けて、エスカレーターを上がる、その先には、黒森峰の校章と本校舎、そして)
小梅「お久しぶりです、みほさん」
みほ(黒森峰の現行チーム、感謝を伝えるべき人達)
みほ(タラップのすぐ前、船の縁、潮風が髪を徒に乱して)
みほ「皆さん、お久しぶりです...」
エリカ「...お礼を伝えに来たんでしょ、そんなシケた表情しないで」
小梅「そうですよみほさん、私たち、一緒に練習した仲じゃないですか」
みほ「...そう、だよね」
みほ(エリカさんは呆れたような表情、小梅さんは困ったような表情で私を慰める)
みほ(みんなも苦笑いであったり、優しい表情であったり、少なくとも、睨むような人はいない)
みほ(もっと、みんな私を責めるような表情だと思ってた、だから私は黒森峰を見限った、のに)
みほ(逃げ出した私を温かく受け入れてくれる、心が、締め付けられる)
エリカ「ほら、みほ、みんなに言うことあるんじゃないの」
みほ「あっ、えっと、その、みんな、今日は集まっていただいてありがとうございます」
みほ「今日は、大洗女子学園の代表として、皆さんに感謝を伝えに来ました」
みほ「本当に皆さん、ありがとうございました」
みほ「皆さんのお蔭で大洗女子学園は廃校を免れて...」
みほ(違う)
みほ「皆さん忙しい合間を縫って、わざわざ大洗まで来訪していただき...」
みほ(違う、私が伝えたいのは、こんなことじゃない)
みほ「私は今日、皆さんに感謝を、伝えに、これ、てっ...」ポロッ
みほ(私が、伝えたいのは)
小梅「...みほさん?」
みほ「ごめ、んね、みんなっ、わたし、違う、違うのっ」
みほ「わたし、ずっと黒森峰のこと、嫌いだったの、だって、大会後、いじめ、られて」
みほ「絶対に見返そうって、思って、でも、ほんとは、みんなは守ってくれてっ!」
みほ「先輩にいじめられても、みんなは守ってくれて、声も掛けてくれて、なのに」
みほ「私、みんなに助けてもらってばっかりなのに、私が壁を作って、逃げ出して」
みほ「ごめんなさい、ごめん、なさい、うぁ、あああぁぁ...っ」
エリカ「...なによ今更、私たちの気持ちも知らないで」
エリカ「アンタの言う通りよ!私たちはアンタを守ってたのに!何も言わずに逃げ出して!」
エリカ「今さら気付いても遅いのよ!この鈍感みほ!」
小梅「エリカさんっ、そんなにみほさんを責めないで...」
エリカ「...私は、私はアンタとあの門をくぐるのが夢だったのよ!」
みほ「エリカ、さん...」
エリカ「なのに、みほは地元から祝われない勝者で、私は地元から祝われる敗者で」
エリカ「違うの、そんな、そんな凱旋、望んでなかった、のにぃ」グスッ
エリカ「バカみほ!鈍感みほ!帰ってきなさいよ、来年一緒に、くぐりなさいよぉ...っ」
みほ「えりか、さん、でも、来年も、私は、わたしは...」
エリカ「知ってるわよっ、でも、それでも、伝えたかったの、言いたかったの...っ」
みほ「ごめん、ごめんなさいっ、みんな、助けてくれたのに、なのに...!」
エリカ「謝んなバカみほ!この、ばかぁ...っ」
――――――――――――――――
――――――――
―――
みほ「ごめんね、エリカさん、取り乱しちゃって」
エリカ「べづにいいわよ泣き虫みほ」ズズッ
小梅「エリカさん、ハンカチどうぞ」
エリカ「泣いでない...」グスッ
みほ「ありがとう、みんな、お話聞いてくれて」
小梅「なんてことないですよ、私たちも、みほさんの気持ち聞けて嬉しかったです」
直下「色々あったけど、紛れもない黒森峰の同級生ですから、また来てください」
みほ「うん、また来るよ、次は無限軌道杯で会おうね」
みほ「それじゃあ、私はこれで」
後輩「みほ先輩、昨日以来ですね、こんなところに何の御用ですか」
みほ「っ!」
後輩「昨日はどうしたんですか、逃げるなんて、酷いですよ」
みほ「あ、それ、は...」
エリカ「ちょっと、どうしたの」
後輩「逸見さん、初めまして、お会いしたかったです」
後輩「去年卒業した虎弐の妹です、お見知りおきを」
エリカ「ああ、あの人の、妹をよろしくって言われたのに、結局入らなかったのね」
後輩「ええ、誰かさんのせいで決勝負けてしまいましたからね」
エリカ「は?それとこれとは関係ないじゃない」
後輩「関係ありますよ、姉が特待で行けなくなったせいで、私は戦車道を断念しましたから」
後輩「自分は何の不自由もなく戦車道をして、転校先で優勝して」
後輩「同級生とも和解して、全部全部ハッピーエンド?ふざけないでよっ!」
後輩「あんたのせいでどれだけの人の人生が狂ったと思ってるの!」
後輩「あんたの!エゴのせいで!」ガシッ
みほ「ひっ、ごめんなさいっ!」ビクッ
エリカ「何してんの!」
後輩「逸見さんは黙っていてください!」
エリカ「虎弐先輩が大学で費用掛かるから戦車道を諦めるですって?甘ったれるんじゃないわよ!」
エリカ「確かに大学での戦車道は費用が嵩むけど、特待じゃなくてもある程度の助成金は出るはずよ!」
後輩「その程度が知れてるから言ってるんじゃないですか!」
後輩「黒森峰のパンツァージャケットを着て、戦車道をやって、あの凱旋門をくぐって」
後輩「その夢を、あんなエゴで潰された私の気持ちが分かるんですか!」
小梅「あんなエゴって言わないでください!」
小梅「私は、確かに救われたんです!みほさんに、人生を救われたんです!」
小梅「私のヒーローを、そんな風に言わないでくださいっ!」
みほ「小梅さん...」
後輩「っ、くそっ、どいつもこいつも、日和見主義者が...っ!」
みほ「あの、ね、虎弐さん、本当にごめんなさい、でも、これだけは聞いて」
みほ「大洗でも、費用的に続けるのが難しい子はいたんです」
みほ「それでも、自分でバイトしたりして、その費用を捻出してました、私も手伝いました」
みほ「大洗と黒森峰だったら、練習の頻度も違います、参考にはならないかもしれません」
みほ「でも、先輩も同級生も、黒森峰の人でバイトしながら競技を続けた人は知ってます」
みほ「それこそ、虎弐先輩だって、バイトしてたじゃないですか!」
後輩「っ、それ、は...」
みほ「戦車道を続けたいのに、出来なかった半年のことは、本当にすいません」
みほ「だけど、今からでも遅くないはずです、私も協力します、だから...っ」
後輩「...うるさい、うるさぁぁい!なにも、何も知らないくせに!」
後輩「あなたが、あなたが私の何を知ってるの!」
後輩「戦車道をするのに何も困らないあなたが、黒森峰を逃げ出したあなたが」
後輩「姉にも劣らないような才能をもつあなたが、私の何を知ってるのよ!」ガシッ
みほ「私は、虎弐さんがずっとお姉さんに憧れて、黒森峰に憧れていたことを知ってます!」
みほ「戦車道が大好きな虎弐さんを、知ってます!知ってるんです!」
みほ「だから、お願いだから、もう一度、戦車道を...っ」
後輩「黙れ...黙れえええぇぇぇぇ!」ドンッ
みほ「ぇ...」
後輩「ぁ」
みほ(妹さんに押されて、タラップを踏み外して、フワッと体が浮いて)
みほ(茫然、絶望、立ち尽くすみんなの中で、エリカさんだけが手を伸ばしてくる、けど)
みほ(みんなは遠のいて、いって...)
――――――――
―――
小梅(みほさんが、死んだ)
小梅(虎弐さんに押されたみほさんは、タラップを踏み外して、エスカレーターを転がっていって)
小梅(地上へと落ちていくみほさんは、何も声を出さずに、赤い液体を撒き散らして)
小梅(タラップ途中の、エスカレーターとエスカレーターを繋ぐ踊り場に叩き付けられるまで、だいたい10秒くらい)
小梅(10秒前まで元気だったみほさんは、遠くから一目見ても分かるような、もう、そういう状態で)
小梅(茫然としてる人、涙を流す人、救急車を手配する人、色んな人がいた)
小梅(周囲の一般生徒も、入船管理局の人も集まってきて、悲鳴が響き渡って)
エリカ「うぁ、ああぁ、あああぁぁぁ...っ」
小梅(エリカさんは、顔を覆い隠して、聞いたこともないような声を出していた)
後輩「あっ、ちが、う、わたしは、そんなつもりじゃ...」
小梅(虎弐さんは、震えることしか出来ずに、その場で突っ立っていて)
小梅(何を思っていたか覚えていない、でも、気付けば手がスッと伸びていて)
小梅「ころして、やる」
小梅(震える彼女の首に手を掛けて、指にグッと、力を込めて、そして...)
エリカ(みほが死んだ)
エリカ(必死に手を伸ばしたけど、全然届かなくて、鈍い音、10秒くらい)
エリカ(転がり落ちてる間、足がすくんで動かなかった、あそこで追いかけてたらと、何度後悔したか分からない)
エリカ(みほがようやく止まって、一目見て、分かってしまって、涙が止まらなかった)
エリカ(嗚咽を零してたら、不意に後方が騒がしくなって)
エリカ(見てみると、小梅が虎弐の首を絞めてて、みんなが止めているところだった)
エリカ(私も急いで止めに入って、力づくで小梅の手を離す)
エリカ(その時の小梅の眼を、絶望と殺意を混ぜたような暗い目を、私は一生忘れないだろう)
エリカ(みほの状況を最初に確認したのは、隊長、まほさんだった)
エリカ(役所から、留学に必要な書類を学校に届ける途中に、鈍い音がして、タラップを駆け上がって、それを見た)
エリカ(まほさんは聡い方だ、見た時に理解したはずだ、でも、受け入れられなかったんだろう)
まほ「だれかっ、だれか手伝って、首、戻したら大丈夫だから、ほら、戻そうっ、なあみほっ!」
エリカ(まほさんは、気が触れてしまっていた)
エリカ(結局、虎弐さんは傷害致死で送致された、詳しいことは知らないけど、彼女もまた壊れてしまったらしい)
エリカ(お姉さんも大学を辞めたと風の噂で聞く、一家は、黒森峰から完全に姿を消した)
エリカ(お葬式の時、まほさんは正気にこそ戻っていた、けど、椅子から立ち上がることが出来ないくらい号泣していた)
エリカ(西住流家元は、お葬式の最中でも毅然とした対応だった、でも)
しほ「みほ、ごめん、なさいっ、みほ、ああ、うああぁぁぁ...っ」
エリカ(枕花の時に泣き崩れて、立ち上がれなかった、残酷すぎる光景を、直視出来なかった)
エリカ(大洗の友人も、黒森峰のみんなも、みんなが泣いていて、或いは茫然としていて)
エリカ(出棺、これが最後だと思うと、私も涙が止まらなかった)
エリカ(みほは去年、味方の命を救った、同時に、少なくない人の人生を変えた)
エリカ(あのまま流れる戦車を見過ごしていたらどうなってたか、いつも思っていた、けど)
エリカ(結局、見過ごしていた方が多くの人の人生を狂わせたのかもしれないと)
エリカ(みほは、身を以て証明した)
――――――――
―――
優花里「と、このように西住殿の帰省は一歩間違えれば命さえ危うかった中」
みほ「今まさに私の貞操が危ういけどね、どこから侵入したのかな秋山さん」
優花里「今こうして元気なのは、西住殿の地味性もとい敵を作らない性分の為だと思いますっ!」
みほ「あはは、喧嘩なら買うよ秋山さん表出ろ」
優花里「私は、西住殿の判断は間違ってなかったと思います!」
みほ「そうだね、少なくとも今から110番する判断は間違ってないと思うよ?」ニッコリ
優花里「凄い、西住殿にありがとうって言われちゃいましたぁ」
みほ「明日お医者に掛かりましょう、頭のですよ、秋山さん」
優花里「えへへっ」
おしまい
黒森峰みほ「もし流されたのが私の戦車だったら?」
西住みほ 「みんなの心の闇、ですか?」
西住みほ 「 ミスト、ですか? 」
黒森峰みほ 「 ミホニスト・ウォーです ! 」
最後まで読んでいただいて有難う御座いました。
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コメント一覧 (19)
-
- 2018年08月18日 18:11
- ミホニスト小梅ちゃんを讃えよ
-
- 2018年08月18日 18:23
- 何が面白くて書いたのか……
-
- 2018年08月18日 18:24
- 秋山が出てきた時点でみほが流されたSS思い出したがやっぱり作者同じだったか
-
- 2018年08月18日 19:14
- 楽しい話を書けない性分なのかね、同情するよ
-
- 2018年08月18日 20:02
- どうせ書くならこういうネタでちゃんと書ききれや
-
- 2018年08月18日 20:16
- しほさんみほのカバーに回ってるフリしてるけど1番追い詰めたのあなたですよね
-
- 2018年08月18日 21:48
- あー大丈夫だよ
カーボンあるから何されてもしななーいから。
-
- 2018年08月18日 21:55
- 未だに※6みたいなこと言ってるヤツがいるのか…
-
- 2018年08月18日 22:10
- まさか死ぬとは思わなかった…からのおい秋山wwwww
でもあながちあり得ない話でもないのが怖い
-
- 2018年08月18日 22:51
- また貴様か秋山ァ!
-
- 2018年08月18日 23:06
- 小梅(震える彼女の首に手を掛けて、指にグッと、力を込めて、そして...)
ミホニストの時のドリルはどうした
この人のSS好き。ミストのやつとミホニストのやつが特に
-
- 2018年08月19日 02:18
- ミミミが黒森峰じゃないあたり、優勝してないとか関係ないわな
-
- 2018年08月19日 05:45
- ※12 ミミミは出身校違うけど島田流の門下生で亜里寿の側近役だぞ。その島田流を黒森峰出身にするのとおかしくなるってだけの話だから、大学選抜の部隊長に黒森峰出身がいないとかは無関係とまではいかなくても大した意味は無い。
-
- 2018年08月19日 08:54
- ほんとに、何が楽しくてこんな話書いたんだろう
-
- 2018年08月19日 12:54
- なかなかのお手前で。
-
- 2018年08月19日 17:29
- 毎回後味最悪の書くなぁ
落ちに優香里出して有耶無耶にするの何か腹立つわ
-
- 2018年08月19日 18:42
- ※16
ツンデレ?
-
- 2018年08月19日 20:33
- 久しぶりやね
-
- 2018年08月22日 19:05
- ※17 星4は言うても読み応えあるし、読みやすいからやな
後味最悪だから2度と読みたくはないよ