女殺し屋「殺らなきゃ意味ないよ」少年「で、できないよ……」
子犬「クゥ~ン……」
少年「わっ、可愛い!」
女殺し屋「それじゃこのナイフで殺して」
少年「えっ」
女殺し屋「犬ぐらい殺せなきゃ、人を殺せるようにはならないよ」
少年「だ、だけど……」
女殺し屋「殺らなきゃ意味ないよ」
少年「ううう……で、できないよ……」
女殺し屋「つまり、殺そうとしてる」
女殺し屋「それで私に弟子入りを申し込んできたわけだけど」
女殺し屋「たしかに、体を鍛えてナイフ術もある程度覚えたけど、それだけじゃダメだ」
女殺し屋「殺しをする上で最も重要なのは、殺しという経験を重ねていくことなんだからね」
少年「でも……!」
女殺し屋「……」
少年「!」
女殺し屋「ご飯にしよう。さっさと支度して」
少年「う、うん!」
少年(よかった……犬を殺さずに済んだ……)
子犬「クゥ~ン……」フリフリ
少年「さ、君はあっち行ってな」
女殺し屋「……」
ベチョッ…
少年「なにこれ……」
少年「この赤いのは……血!?」
少年「お父さん……! お母さん……!?」
少年「うわあああああああああああああああっ!!!」
~
少年「ああああああああああああああああっ!!!!!」ガバッ
少年「夢か……」
子犬「クゥ~ン」ペロペロ
少年「あっ……ありがとう……」
少年(あの日、お父さんとお母さんは首を切られて、血まみれで倒れてて……)
少年(気づいたら、ぼくは身寄りのない子供達が集まる施設にいた……)
少年(その後、ぼくは施設を抜け出し、女殺し屋さんのところに……)
少年(――絶対仇を討ってみせる!)
少年「仕事って、殺し?」
女殺し屋「殺し屋の仕事がそれ以外にあるのかい?」
女殺し屋「今日は遅くなるから、これで適当に飲み食いしな」チャリンッ
少年「う、うん」
少年「よーし、今日は酒場に行こうか!」
子犬「ワン!」
少年「マスター、ミルクください!」
マスター「あいよ」
マスター「ったく、ここでそんな注文するの、坊やぐらいのもんだぜ」
少年「へへへ……」
少年「君はこの肉食べな」サッ
子犬「ワン!」ハグハグ
少年「おじさん! お久しぶり!」
チンピラ「おめえが女殺し屋のとこに転がり込んでから、どんぐらい経つか……」
チンピラ「すっかり逞しくなったな」
少年「どうもありがとう!」
チンピラ「女殺し屋はどうしてる?」
少年「相変わらず。今日も“仕事”で」
チンピラ「仕事一筋ってかぁ! 大したキャリアウーマンぶりだぜ!」
少年「えっ、そうなの?」
チンピラ「おうよ」
少年「もしかして……おじさん?」
チンピラ「ぶふっ! んなわけねえだろう! あの女が俺みたいな三流になびくかよ!」
チンピラ「……にしても」ジーッ
少年「なに?」
少年「そ、そうかな?」
少年「一緒に暮らしてると、顔も似てくるものなのかな……」
チンピラ「かもな!」グビグビ
チンピラ「おめえの親父とお袋を殺した奴、見つかればいいな! 頑張れよ!」
少年「うん!」
女殺し屋「今日はどこ行ってたんだい?」
少年「酒場でご飯食べてきたよ」
女殺し屋「どうせチンピラの奴がいただろう」
少年「うん、酔っ払ってた」
女殺し屋「相変わらずだね、あのバカも」
少年「でね、おじさんに……お前と女殺し屋さんは似てるっていわれたよ」
少年「一緒に暮らしてると、似てくるものなのかな?」
女殺し屋「!」
少年「!」ビクッ
女殺し屋「一緒に暮らしてると似てくるなんて、そんなこと……あるはずないんだよ!」
少年「ご、ごめんなさい。変なこといって……」
女殺し屋「……」コホン
女殺し屋「さ、訓練を始めるよ!」
女殺し屋「遅い!」ギンッ
女殺し屋「ダメだダメだダメだ! そんなんじゃ到底仇なんか討てっこないよ!」
女殺し屋「かかってきな!」
少年「だああああっ!」
ドガッ!
少年「ぐあっ!」ドサッ
少年(なんだか今日の女殺し屋さんはおかしいな)
少年(いや、思い返してみれば、このところおかしいことが多い)
少年(いきなり犬を殺せ、なんてことをいうタイプじゃなかったのに……)
少年(なにか……焦ってるような感じだ……)
女殺し屋「……」
少年(今日の女殺し屋さんは、朝からすごい殺気だ)
少年(仕事の日はいつもピリピリしてるけど、今日は特にすごい)
子犬「……」ビクビク
少年(まるで、今日は大仕事が待ってるような――)
女殺し屋「ん?」
少年「今日、女殺し屋さんの身になにが起こるの? どうしてそんなに殺気立ってるの?」
女殺し屋「……今日は訓練はなしだ。あの犬と一緒にどこかに遊びに行ってきな」
少年「どうして?」
女殺し屋「いいから」
少年「イヤだ! 話してくれなきゃ行かない!」
女殺し屋「いいから、行くんだ! 両親みたいに首をかっ切られたくなきゃね!」
少年「!」
女殺し屋「……」
少年「ぼくは両親を殺されたってことしか話してなかったのに……」
少年「まさか、あなたが……!」
女殺し屋「だったらどうする? 目の前に仇がいるってことになるねえ」
女殺し屋「殺らなきゃあんたの両親は浮かばれない……殺らなきゃ意味ないよ」
少年「ぐ……!」
少年「うわぁぁぁぁぁっ! 殺してやるぅぅぅぅぅっ!」
少年「ぐはっ!」ドザッ
女殺し屋「悪いけど、今はあんたの相手をしてる余裕はない」
少年「ぐ……」
女殺し屋「最悪の相手を待たせてるからね……」
女殺し屋「もし私が生きて帰ってこれたら、改めて相手してあげるよ」
少年(生きて帰ってこれたら……?)
少年(凄腕の殺し屋であるこの人を、殺せる人なんて……)
女殺し屋「!」ハッ
暗殺者「よう」
暗殺者「気配を隠さなきゃならねえ仲でもねえし、荒っぽく入らせてもらったぜ」
女殺し屋「どうしてここが……果たし状では別の場所を指定していただろうに」
暗殺者「昔の女から誘いを受けて、どうしても興奮が抑え切れなくてな」
暗殺者「それに敵が指定した場所に、のこのこ出向くアホがいるかよ」
暗殺者「どうせ決闘場所になってた広場には、罠が仕掛けてあるんだろ?」
暗殺者「だからこっちからこのアジトを探し出して、来てやったんだよ」
女殺し屋「くっ!」
少年(なんだこの男……! 恐ろしい殺気を放ってる!)
少年(さっきまでの女殺し屋さんと同じぐらい……いや、それ以上だ……)
少年「!?」
暗殺者「でかくなったなぁ~」
少年「だ、誰だ! 誰だお前!」
暗殺者「なんだお前、まだ話してなかったのか?」
女殺し屋「……」
暗殺者「お前はな、俺ら二人のガキだよ」
少年「え……」
暗殺者「首をかっ切られて殺されたんだよな? 二人とも……この俺に」
少年「……!?」
暗殺者「おいおい混乱しちゃってるじゃねえか。可哀想に。お前から説明してやれよ」
女殺し屋「いいかい、よく聞くんだ」
少年「……」
女殺し屋「私たちがあんたの実の両親ってのは本当だ。あんたは私がお腹を痛めて産んだ子だ」
少年「……!」
女殺し屋「子供ができたとたん、こいつは私たちのもとを去った」
女殺し屋「だが、別にかまわなかった。こいつにまともな子育てなんてできっこなかったから」
暗殺者「ハハ」
女殺し屋「私は“仕事”をこなしつつ女手一つで、あんたを育てた」
女殺し屋「だけどある日、あんたは二人組の男女に誘拐されてしまったんだ」
少年「それがまさか……」
女殺し屋「あんたが両親だと思ってた二人……だよ」
女殺し屋「少し目を離したスキに……ってやつだった。本当にうかつだったよ」
女殺し屋「そこで背に腹は代えられないと、暗殺者に捜すのを手伝って欲しいと頼んだ」
暗殺者「その時のこいつ、可愛かったぜぇ……泣きそうなツラしてよぉ」
少年「……」
女殺し屋「暗殺者はあっという間に誘拐犯たちを捜し出して、二人でそこへ乗り込むことにした」
女殺し屋「私としては穏便にあんたを取り戻すつもりだったんだが、こいつは乗り込むなり」
女殺し屋「誘拐犯を二人とも殺してしまった。止める暇もなかったよ」
女殺し屋「だが、私はそれも仕方ないと思った……」
女殺し屋「なにより、自分の子供のためにこいつが動いてくれたのが嬉しかった」
女殺し屋「だけど、こいつは――」
少年「え……」
女殺し屋「理由を聞くと――」
暗殺者『え、だってこいつ、俺らのガキだろ?』
暗殺者『いうなれば殺し屋のサラブレッドだ』
暗殺者『こんな奴生かしておいたら、将来強敵になりかねないだろ』
女殺し屋「そう、こいつが私に協力したのは、子供や私への愛情のためなんかじゃなかった」
女殺し屋「危険な芽を摘み取るためだったんだ」
女殺し屋「急いで知り合いのやってる施設にあんたを預け、私も行方をくらました」
女殺し屋「そしたら数年後、仇討ちに燃えるあんたが私に弟子入りを志願してきた……」
女殺し屋「……これが私の知ってる、私から話せる全てだ」
少年「……」
暗殺者「あの時のお前の逃げっぷりは見事だったぜ」
暗殺者「この俺が殺そうとした相手を取り逃がすなんて、後にも先にもあれ一回きりだ」
暗殺者「母の愛のなせるワザってやつか? 泣かせるねえ」
暗殺者「だが、どうして今になって、俺に果たし状なんざ送ってきた?」
暗殺者「このガキと出会えたなら、そのまま二人で暮らしてりゃよかったろうに」
女殺し屋「決まってるだろう、この手であんたを討つためさ」
女殺し屋「あんたが生きてる限り、この子に安全な未来はないからね」
暗殺者「ハハ、よく分かってるじゃねえか」
暗殺者「かつての女と自分の実の子を殺せるんだからなァ!」シュバァッ
女殺し屋「ぐっ!」ギンッ
暗殺者「どうした、どうしたァ!」
キィンッ! ギィンッ!
少年(戦いが始まった……!)
女殺し屋「ぐっ!」ブシュッ
女殺し屋「くそっ!」ヒュッ
暗殺者「昔のお前はもっとキレがあったぞ? ガキのせいでぬるくなったか? 俺を失望させるな!」
少年(ものすごい殺し合いだ……)
少年(だけど、だけど……女殺し屋さんより相手の方が何枚も上だ!)
女殺し屋(しまっ――ナイフが!)
暗殺者「これで終いだ」
ドシュッ!
女殺し屋「が、は……っ!」ガクッ
少年「あああっ!!!」
女殺し屋「く……」ドクドク…
暗殺者「最後に一つだけ。お前はいい女だったよ」
女殺し屋「心にも、ないことを……」
女殺し屋「あんたはいつだって……自分と、殺しのことしか、考えてないだろ……」
暗殺者「ハハ、バレたか」
暗殺者「じゃあな」
暗殺者「ぐ……!?」
少年「ハァ、ハァ……」
暗殺者(あのガキ……女殺し屋のナイフを投げて……)
女殺し屋(今だっ!)ガシッ
暗殺者(首を!)
暗殺者「このアマ――」
女殺し屋「せぇやぁぁっ!」グイイッ
ボキッ!
暗殺者「や、やっぱり……そのガキ、殺しとくべき……だった、な……」
ドサッ…
女殺し屋「ぐ……」ドサッ
少年「しっかり!」ダッ
女殺し屋「あんたには、内緒にしといたことが、多すぎた……」
少年「ううん、もういいよ!」
女殺し屋「わ、私は……あんたには普通の人生を歩んで、欲しかった……」
女殺し屋「だけど、あんたが、私の噂を知ってか、弟子入りしに来た時……」
女殺し屋「やっぱり、あんたも、殺しの道を歩むのかって思った……」
女殺し屋「殺し屋の血からは、逃れられないって……」
少年「……」
女殺し屋「子犬を拾ってきて、殺せと命じた……」
女殺し屋「犬も殺せないようじゃ、私が死んだ後、到底生きてけるわけない、から……」
女殺し屋「だけど、あんたは殺せなかった……殺さなかった」
女殺し屋「あの時、私は、本当にうれし、かった……」
女殺し屋「あんたは私やあいつとは、違うって……。うっ、ゲホ、ゲホ!」
少年「!」
女殺し屋「お母さん、と呼んでくれるのかい……」
女殺し屋「あ、ありがと……」
女殺し屋「どうか、幸せに生きて、ね……」
女殺し屋「……」
少年「お母さん……」
少年「おかあさぁぁぁぁぁん!!!」
子犬「クゥ~ン」ペロペロ
少年「……ありがとう。慰めてくれるんだね」
少年(さようなら……お母さん)
少年(お母さん、ぼくはこの子と強く生きるよ……!)
……
青年(あれから――どれだけの月日が流れただろうか)
犬「ワン、ワン」
青年「おお、よしよし。いつまでも長生きしてくれよ」
青年「じゃあ、次の患者さんを呼んできてくれるかい」
犬「ワン!」
青年(人を殺す仕事じゃなく、生かす仕事についたんだ。喜んでくれるかい?)
患者「どうも~、先生」
青年「……聞いたよ。最近、リハビリサボってるって」
患者「あっちゃ~、バレちゃったか。すみません」
青年「せっかく怪我はよくなったんだから、あとはきっちりリハビリしないと」
青年「リハビリは、やらなきゃ意味ないよ」
おわり
「SS」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (8)
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- 2018年08月12日 04:24
- 殺らないなら帰れ
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- 2018年08月12日 04:37
- 殺ったモン勝ち
【名誉毀損どうぞ】「警察かかりつけの精神保健指定医に確認を」高須クリニックの高須克弥は、警察を退職した保護司など高齢者約百名が共同体となって2005年頃から2chなどインターネットサイト上で行ってきた、 気に入らない書き込みをする、大半が若者であるネットユーザーに対し、公権力を不当に行使して個人情報を調べ上げ、その情報を元に、ネットユーザーを精神的に詰める集団犯罪活動に加担してきた。錯乱したネットユーザーが自サツをしたり、無関係の人に対してのさっ傷事件を起こすこともあるが、全国の警察署かかりつけ精神保健指定医が、ネットに書き込んだことで不可解なパニックを引き起こし、警察沙汰となった人を数多く見てきており、彼らがこの、法や倫理、人権を無視した極めて非人道的な活動の事情をよく知っている。高須と高齢者たちはこの活動を「教育」という大義名分をもって行ってきたが、あくまでそれは口実であり、その実態は、彼らにとっての若者いじめであり、ストレス解消の趣味である。 メンバーの大半が警察OBである彼らに警察は口出しをすることができずに、事実上、やりたい放題となっている。
-
- 2018年08月12日 05:29
- 最後意味深なセリフやの
-
- 2018年08月12日 08:48
- いつやるの?
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- 2018年08月12日 12:10
- 後で
今なんだかだるい
-
- 2018年08月12日 15:09
- ※5
そんな事言わないでよドラえもん...
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- 2018年08月12日 20:30
- 糖質きめえ
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- 2018年08月14日 12:24
- 暗殺者雑魚すぎるぞ