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【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」【前半】

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:12:25.12 ID:lo4gwy6N0

シュタゲSSでございます

・SG世界線到達後
・比屋定真帆が主人公で彼女がラボメンになるまでのお話
・当然ながらネタバレ注意です
・捏造設定の嵐なので 苦手な方はご注意を
・スレたてとか初めてなので失礼あれば指摘してやってください
・ゼロの真帆ルートを知っていたほうが少しだけ分かりやすい部分があるかも?
・気が向いたとき更新タイプです



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:16:08.04 ID:lo4gwy6N0

     01

米国 ヴィクトル・コンドリア大学 脳科学研究室 2011/1/25 深夜

自分のデスクに座り、モニターと睨めっこしている真帆。

レスキネン「マホ、こんなに遅くまで随分と熱心だね」ドアガチャ

真帆「…」

レス「マホ?」

真帆「……」

レス「マーホー」

真帆「………」

レス「マーホーさーん」

真帆「…………………」

レス「新手の嫌ガラセなのかな?」ヒョコ

真帆「ひあっ!? ……って教授。いきなりモニターの前に顔を突っ込まないでください! ビックリするじゃないですか!」

レス「Oh、驚かせてしまったかな。これは申し訳ないことをしたようだ」

真帆「ふぅ。本当にもう、心臓に悪いです。そういうことするから、レイエス教授にも子供っぽいって言われるんですよ?」

レス「耳が痛いね。だけどね、マホ。これでも、何度も呼びかけていたのだよ? まったく気づいていなかった様だが」

真帆「あ……そうだったんですか、それは……すいません」
真帆(ぜんっぜん気づかなかった)

レス「てっきり音楽でも聴いているのかと思ったけど、そうでもなさそうだったからね。これがジャパニーズ“シ・カ・ト”なのかと、私は少し悲しくなったものだよ」

真帆(シカトって……)
真帆「そんなワケないじゃないですか。何ていうか、ちょっと考えがまとまらなくて、ついつい深入りというかのめり込みというか……」

レス「それは昨日の件について、ということかい?」

真帆「ええ、はいそうです」

レス「Hum。研究者として熱心なのは良いことだろう。だけど根を詰めすぎるのも考え物ではないかな? 身体にもインスピレーションにもね」

真帆「そ、そうですね。これからは気をつけます」

レス「分かってくれれば、それでいいんだよ」



3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:18:14.63 ID:lo4gwy6N0

真帆「それで教授こそ、こんな遅くにどうしたんですか?」

レス「私かい? なに、研究室の明かりが中庭から見えたのでね。寂しがりやなマホが一人で泣いているのではと気になって、それで様子を見に来たというわけさ」

真帆「何ですかそれ。どうして私が泣いているなんて──」

レス「またまーた。分かっているんだよ? 仲良しの紅莉栖がいないだもの、仕方がないね」

真帆「は?」

レス「隠さなくても大丈夫だよ。マホはここ最近ずっと寂しそうにしていたじゃないか。原因は紅莉栖がまた日本へ遊びに行ってしまったからからなのだろう?」

真帆「は……はぁ!? 何ですかそれっ!?」

レス「Hahaha! 立派な目くじらが立っているね。ズバリ、図星だったかな?」

真帆「そんなワケありません!」
真帆(っていうかシカトとかズバリとか、どこでそんな日本語覚えてくるのよ、まったく)

レス「別に恥ずかしがるような事ではないだろう? 君たちはまるで姉妹のように仲がいいからね。この研究室で“くんずほぐれづ”している様を観ていると、私たちの心も癒されるというものさ」

真帆「くんでないし、ほぐれてもいません! っていうか、言葉の使い方が間違ってますから!」

レス「おや、そうだったかい? Hum。まあ、意図は伝わっているようだから、構わないだろう」

真帆(いや、構ってくださいよそこは)

レス「さて、それでだマホ。結局のところ、昨日の件について今のところ、どこまで分かっているんだい?」

真帆(……いきなり話題を変えてくるわね)
真帆「ええと、それは……」

レス「てこずっているようだけど、それでもマホの事だ。何かしらの仮説くらいは既に考えているのだろう?」

真帆「……いえそれが、残念ながら」

レス「おや、そうなのかい?」

真帆「はい。ただ……」

レス「ただ?」

真帆「ログを見ている限りだと、特に技術的・機械的なトラブルがあったようにも思えなくて」

レス「Hou……」

真帆「どうして昨日抽出しなおしたデータだけが、予想した値を遥かに越えてきたのか」
真帆「前回、前々回の抽出ログとも比較検証してはみたんですけど、これといった原因にも思い至らなくて」

レス「……そうか。まあ、昨日の今日なのだし、それも仕方がないだろう」

真帆「…………」
真帆「ちなみにですけど、記憶データの肥大に関する一件、教授ならどう考えます?」

レス「Hum。私に訊いてしまって良いのかい?」

真帆(う……)

レス「それは、マホ。その記憶データは他ならぬ君自身から取り出したものだ。そこに見られた不可解な現象に対する解を、私に委ねてしまっても良いのかい?」

真帆「そ、それは……」
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…いやです」

レス「Hahaha。マホは素直だね」

マホ(むう……)

レス「おやおや、そんな顔をしないでおくれ、マホ。別に君を嗜めようとしたわけではないのだからね」

真帆「いえ、その……私の方こそ思慮が足りませんでした」



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:20:12.01 ID:lo4gwy6N0

真帆「…………」

レス「Oh……ヘーコンでしまったのかな?」

真帆(へこ……だから、どこでそういう言い回しを)

レス「そうだね。誤解の無いように言っておくけどね、私にとっても昨日の件は想定外だったよ。当然だけど、まだ何の仮説もありはしない」

真帆「……教授にも分かりませんか」

レス「それはそうだろう。我々が扱っているのは、そういう類の分野なのだからね」
レス「今のマホに分からないのであれば、それはつまり、この世界の誰一人として解を得ることはできない、と」
レス「これは、そういうお話なのだろうね」

真帆「大げさすぎますよ」

レス「そうかな? でもどうだい、不思議でとても面白いだろ?」

真帆(おも……しろい……)

レス「これだから、科学者というものはやめられないね」

真帆「そう、ですね。そう……」

真帆(そう、面白い……か)
真帆(ううん、どちらかと言えば興味深いという解釈が正しいのかも)

真帆「ふぅ」

真帆(アマデウスを起動させるために、初めて記憶データの抽出を行ったのが去年の3月)
真帆(そして今日までの10ヶ月の間に、アマデウス・プログラムの二度に渡るバージョンアップと並行して、私のアマデウスも二回、記憶データの更新を行ってきた)
真帆(そして、次回のバージョンアップに向けて、新たに記憶データの抽出を行ったのが、昨日のこと)
真帆(つまり……)
真帆(私の記憶は、インターバルにばらつきこそあるものの、それでもこれまでに計四回のデータ化を行ってきた事になる)
真帆(その中で、どうして昨日抽出した記憶データの容量だけが、あれほど大規模な肥大化を見せたのか?)

真帆「…………」

真帆(何も、データ容量の増加という現象自体が異常だと言うわけではない)
真帆(現にこれまでだって、抽出した記憶データが数百キロバイト~数メガバイト単位で増加するような現象は確認されている)
真帆(でもそれは、あくまでも想定された範囲内での増加だったと言えるのよね)
真帆(一人の人間が数ヶ月という単位の時間を過ごしたならば、まあ有ってもおかしくはないだろうと思える程度の増加量だったと捉えるべきものでしかなかった)
真帆(だから私と紅莉栖は、これまでの増加データ量の推移から推し量り……)
真帆(個人差や環境の違いこそあれど、それでも人一人が一月の間に増やす記憶データは、大体300~400キロバイト程度なのではないかという推測も立ててもいた)
真帆(……それなのに)
真帆(昨日私から抽出した記憶データは、前回のときに比べて107メガバイトもの増加量が確認さえた)
真帆(これまでよりも期間が空いていたとはいえ、それでもざっと六ヶ月程度。六ヶ月。たった六ヶ月の間に107メガバイトよ?)
真帆(想定されていた量の、実に250倍以上。とてもではないけど、これは余りにも毛色が違いすぎると言わざるを得ない)



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:22:39.78 ID:lo4gwy6N0


レス「……マホ?」

真帆(理論上定義した3.24テラバイトという、人間一人分の記憶容量からすれば、100メガ程度の数字なんて誤差のようなものなのでしょうけど……)
真帆(それでも。どういう分けか、この一件が私には気にかかって仕方がない)
真帆(なぜこれほど気になるのか、正直自分でも判然としていないのが困り物なのだけれどね)

レス「マーホー」

真帆(何だかんだで、アマデウスのバージョンアップ作業にストップをかけて、肥大していた記憶データを精査する猶予こそ貰いはしたのだけれど……)
真帆(結局一晩中、抽出実行中のログを見漁ってみても、目に見える範囲に問題のあるプロセスは発見できなかった)
真帆(発見できないのなら、とりあえず記憶データの抽出プログラム自体は、問題なく以前までの三回とまったく同じプロセスを遂行したのだと考えるべきなのよね)
真帆(けど、それじゃあ原因は何? どこに注視すれば、取っ掛かりを見つけることができるのかしら?)

レス「マーホーさーん」

真帆(仮に記憶の抽出およびデータ化自体が正常に行われているのだと仮定した場合、次に考えるべきは……)

真帆(……私自身の記憶?」

レス「やはり、シ・カ・トなのかい?」ヒョッコリ

真帆「うおひあっ!? あ、あ……ああ!?」グラグラドガシャ!

レス「マホッ!?」

真帆「いつつ……」

レス「マホ、大丈夫かい? イスごと派手に転がったようだけど」

真帆「え、ええ、大事はありません。お騒がせしまして」

レス「そうかい? まあ、怪我がなくてなによりだよ。私ももう少し早く手を伸ばせたらよかったのだけど、すまなかったね」

真帆「い、いえそんな」

レス「さあ、手を貸そう」スッ

真帆「あ、どうも」
真帆(自分の記憶…………何てまさかね。いくら何でも突拍子の)

レス「それで、マホの記憶がどうかしたのかい?」

真帆「へっ!?」

レス「マホがダイブする直前に、そんな言葉を口にしていたように聞こえたのだけどね?」

真帆「あ……あー」
真帆(そういえば、つい声に出してたような気も)

レス「どうしたんだい、マホ?」

真帆「いえ、何と言えばいいか……。つまり、容量の肥大化はプログラムやプロセスの問題じゃなくて、ひょっとしたら私の記憶にこそ問題が……って、私なに言ってるんだろ。すいません教授、今のは忘れてもらえると助かります」

レス「そうなのかい? 私は面白そうな考え方だと感じたのだけれどね」

真帆「え……いやいやいや、流石にそれは」

レス「……ふむ。しかし、マホの記憶自体に異常、か。なるほど、私にその発想はなかったよ」

真帆「いや、あはは。言ってみただけなので……忘れてくださいってば、後生ですから」

レス「いいじゃないか。この半年の間に、マホの記憶には実に100メガバイト以上の記憶容量が追加されていた。抽出システムはそれを忠実にデータ化しただけ、と」

真帆「だ、だからですね、有り得ませんから」

レス「いや実にファンタスティック! 嫌いではないよ」

真帆(ぐむむ)



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:25:50.41 ID:lo4gwy6N0


レス「きっとマホは、自分でも知らない間に数多くの冒険をしてきたのだろうね」

真帆「何の話ですか、もう」

レス「それはさながら、不思議の国のアリスのような体験だったのかい? 夢のような世界の中で、時には空を飛び、時に時間をも飛び越えるマホ。Yaaa!」

真帆「しつこいですよ、レスキネン教授。そんなのだから、皆にも子供っぽいってからかわれるんです」

レス「Oh、これは手厳しいね。でも、とても楽しそうじゃないか、ワクワクするねロマンだね」

真帆「夢物語を追いかけすぎです。科学者としてその姿勢はどうかと思います」

レス「でもね。言いだしっぺはマホだということを忘れてはいけないよ」

真帆「でーすーかーらー!」

レス「Hahahahaha!」

真帆「もー!」

レス「それでだよ。マホはどうしたいのかな?」

真帆「は?」

レス「容量増加の件。このままもうしばらく、検証を続けてみるつもりはあるのかな?」

真帆「え、ああ……」
真帆(また急に話題を)
真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

レス「どうだい?」

真帆「ふぅ、そうですね」

レス「…………」

真帆「うん。もう……いいかなと思います」

レス「もういい?」

真帆「あ、すいません。表現が曖昧すぎましたね。ええと、要するにです。今回の件は、ここで終わりにしますという意味です」

レス「……ふむ、検証は断念すると。それで良いのかい?」

真帆「はい。もともと、どうしてこんなに拘ってたのかもよく分かりませんし、これ以上続けても本来の研究の妨げにしかならないでしょうから」

レス「もしかしたら、検証の先で思いもかけない事象に辿り着けるのかもしれないよ?」

真帆「ですから、そんな事は有り得ませんってば。それよりも今は、このデータをアマデウスにコンバートして、これまで通りの比較検証に戻るほうが有意義なはずです」

レス「私としては、少し残念な気もするのだけれどもね」

真帆「夢を見るのなら寝ているときに限りますよ、教授」

レス「言われてしまったね。それではマホ、こういうのはどうだろう?」

真帆「今度は何ですか?」

レス「通常、アマデウス・プログラムにコンバートし終えた記憶データは、抽出用の外部ハードディスク内から削除するようにしている」

真帆「そうですね。でもそれが何か?」

レス「Hun、つまりだね。今回は特別に、外部ハードディスク内にマホの記憶データを残しておくというのはどうだろう、という提案を私はしてみようと思う」

真帆「……はあ」

レス「そうすれば、今後も時間のあるときに、自由に原因を検証することもできるだろう。どうかな?」

真帆「私は別に構いませんけど……でもどうしてそこまで?」

レス「理由なんて、決まっているだろう。ワクワクする状況を切り捨ててしまうのが、何だか勿体無い気がしてしまうからだよ」

真帆「勿体無いって、また日本語独得の言い回しを……」



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:28:32.46 ID:lo4gwy6N0


レス「もっとも。次にアマデウスの更新が行われる際は、再び真帆の記憶データを抽出しなおすことになるだろうから」
レス「そうなれば、いつまでも今回のデータを残しておくわけにはいかないだろうけどね」

真帆「まあ、そうですね」

レス「期間限定ではあるが、しかし当面は気が向いたときに検証できる。悪くはない提案だろう?」

真帆「それで教授の気が済むのでしたら」

レス「すばらしい。それでこそ、科学者というものだよ、マホ」

真帆「何て物言いですか、本当にもう」

レス「では、話はまとまったね」

真帆「ええ、そう言うことにしておきます」

レス「OK! それでは明日、抽出しておいたマホの記憶データを使用して、アマデウス・プログラムのバージョンを更新する。それで構わないね?」

真帆「お願いします」

レス「いいだろう。ではそれに伴い、明日の工程についてマホに相談しておきたいことがあるのだけれど、いいかな?」

真帆「はあ、何でしょうか?」

レス「実はだね。明日の更新の際、君のアマデウスを管理しているサーバーを、新しいものに入れ替えてみようと思うんだ」

真帆「サーバーを……入れ替える、ですか?」

レス「Yes。実はすでに、必要な機材類も一通り確保しているのだけど、マホはどう思うかな?」

真帆「私は別に……どちらでも」

レス「Hum。ちなみにだが……」
レス「明日の更新では、今のサーバーから新しいサーバーへアマデウスのデータをコピーしたりはしない。当然、ムーブも行わないつもりだ」

真帆「コピーもムーブもしない……って、えっと、どういう」

レス「つまりだよ。これまでの“上書き更新”という形式ではなく、新サーバー内にはまったくの新規で、マホのアマデウス・システムを構築しなおすつもりでいる」

真帆(まったくの新規……)
真帆「ですがそれだと、私のアマデウスが二機になってしまうのでは?」

レス「そうだね」

真帆(そうだねって……)

レス「そこでだ。新規サーバーの稼動に伴い、現在運用しているサーバー内にあるマホのアマデウスを破棄しようと思う」

真帆「!?」

レス「あえて誤解のないように言っておくよ。私の言う“破棄”とは現在のサーバーを物理的に破棄するという意味ではない」

真帆「…………」

レス「現在稼動しているアマデウス・マホを起動させた状態で、システムとしてのデリート・プログラムを実行すると言う意味だ」

真帆「……え、え?」

レス「当然、“彼女自身”にもデリートする旨を伝えた上でそうしようと思っている」

真帆「な!?」

レス「そこでだ、マホ。改めて相談させてもらうよ。君の分身でもある『アマデウス・マホ』をデリートすることに、彼女のオリジナルとして賛成してはくれないかな?」



8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:32:12.41 ID:lo4gwy6N0

真帆「……それは」

レス「hum。難しく考えることはないよ。何も君のアマデウス自体が研究対象から外れるという事ではない」
レス「結果だけを見たのなら、君とクリスのアマデウスが一つずつ残る事になるわけだから、これまでと何ら変わらない状況だ。そうだろ?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

レス「どのみち君のアマデウスは、システムのバージョンアップに伴う記憶データの更新で、その都度状態がリセットされているに等しい」
レス「それならば──」

真帆「そうすることで、教授は何を知りたいのですか?」

レス「…………」

真帆「…………」ジッ

レス「気になるかね?」

真帆「はい」
真帆「ただサーバーを取り替えたいだけなら、コピーやムーブを利用して現状を継続させる方が一般的です」

レス「まあ、そうだろうね」

真帆「それにデリート・プログラムを実行すれば、対象のアマデウスはバックアップすら残さずに完全消去されるはずです」
真帆「そんな行為を、彼女に伝えた上で実行する……その目的は何なのですか?」

レス「目的か。そうだな、しいて言葉にするならば……好奇心を満たしたいと言ったところだろうね」

真帆「好奇心?」

レス「マホ。君はアマデウスの彼女たちを見てどう思っている?」

真帆「と言われますと?」

レス「本来であれば彼女たちは、0と1のみで構成されたデジタルな人工物でしかないはずだ。しかし実際はどうだい?」
レス「二進数で組み上げられた歪な作り物というには、彼女たちは余りにも生々しすぎるとは思わないかい?」

真帆「…………」

レス「事実。マホのアマデウスは記憶データを更新して起動する度に、大きく取り乱しているのだろう?」

真帆「……はい」

レス「それはやはり、自らが『アマデウスというデジタルな存在になった』という状況に心を乱しての事なのだろうね?」

真帆「ええ、はい……そうだと思います」

レス「そして、クリスのアマデウスもそうだ」
レス「これまで一度も記憶データを更新していないクリスのアマデウスなどは、もはや本当にオリジナルな彼女と同一人物だったのかを疑いたくなるほどに……」
レス「変化し、成長し、独自のアイデンティティを構成するに至っている」

真帆「それはそうですが」

レス「もしもだよ? そんな彼女たちに対して、正面から“デリート”という現実を突きつけたとき、彼女たちはそれをどう捉えるのか?」
レス「コピーでもムーブでもなく、更新でも上書きでもない」
レス「完全な削除というものに直面したとき、彼女たちの反応は果たして明確な二進数であり続けるのか、それとも」

真帆「…………」

レス「マホ。君は先ほど私に『何を知りたいのか?』と問いかけてきたね?」

真帆「はい」

レス「そうだ、私は知りたいのだよ。私たちが作り上げた物が何なのか? 私はそれを、どうしても知りたいのだよ」
レス「だから、マホ。どうか私に、協力してはくれないだろうか?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「ふう。分かりました。私のアマデウス、削除しましょう」

レス「Oh! 分かってくれたかい」

真帆「ええ、削除します。削除しますけど、ただし──」





9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:34:50.74 ID:lo4gwy6N0

     02

翌日。2011/1/26

レス「段取りは分かっているね、マホ?」

真帆「はい、大丈夫です。新サーバーで新規アマデウスの正常起動を確認してから、現行アマデウスの削除に移行すればいいんですよね?」

レス「その通り。問題はないはずだけど、それでも万が一ということもあるからね」
レス「くれぐれも、先に現行のアマデウスをデリートしてはいけないよ」

真帆「分かってます。消しちゃったー、だけど新しいのもなんか動かないーじゃ、洒落になりませんからね。任せてください」

レス「当然だけど、いつもの儀式もやってもらわなければならないからね」

真帆「ぎ、儀式とか呼ばないでくださいってば! あれはあれで、結構しんどいんですから」

レス「Oh……気に障ったかな?」

真帆(っていうか、儀式って何よ!? こっちは更新の度に人格侵害の憂き目にあってるっていうのに……人ごとだと思って!)
真帆「もういいです。とりあえず、まずはアマデウスの新規構築に集中しなくちゃ始まりませんし」

レス「そうだね、それがいいだろう。それでどうかな? 今のところ、新しく用意したサーバーは順調そうに見えるのだけど?」

真帆「ええ、問題なさそうですね。特にこれといってエラーも出ていませんし……ログはどう、紅莉栖?」

アマデウス紅莉栖(A紅莉栖)『はい。コマンドラインとプロンプトをリアルタイムで参照していますけど、特筆して問題と呼べるような箇所は見受けられません』

真帆「……そう」
真帆(新規サーバーに新規アマデウス。ついでに例の107メガバイトの件もあったりしたから、新規アマデウスの起動については、ちょっとだけ心配してたのだけど、杞憂だったかしら)

レス「ちなみにだね。マホの“あれ”を儀式と最初に呼び出したのはクリスだからね。私じゃないよ、違うからね」

A紅莉栖『!?』

真帆「教授……それはどっちの紅莉栖のことですか?」

レス「それは──」

A紅莉栖『あっ! 先輩! ログに異常が!』

真帆「え!? ど、どこ!?」

A紅莉栖『と……思ったら、見間違いだったみたいです。すいません、テヘ』

真帆「…………」
真帆(AIが見間違いとか、有り得んでしょうが。プログラムが……嘘をつくとか……テヘってお前)

レス「Oh。我々は本当に何を作ってしまったのか……」

真帆「教授、笑えません」

レス「これは失礼。では先ほどの続きだけど、儀式と最初に──」

A紅莉栖『ちっ』
A紅莉栖『さあ、そろそろ記憶データのコンバートが終わりますよ。教授、退室をお願いいたします。さっさと退室してください教授、さあ早く、ハリーアップ』

レス『Oh……』

真帆「ふぅ。そんなに急かさなくてもいいわよ。時間はたっぷりあるんだし」

A紅莉栖『むう……』

レス「マホ。やっぱり私も立ち会うわけにはいかないのかな?」

真帆「ダメです。私一人で作業を行う。それが条件だと言ったはずですよ?」

レス「できるなら、デリートのときだけでも」

真帆「余計にダメです。詳細は後ほどレポートで提出しますから、それで我慢してください」

レス「どうしても?」

真帆「どうしてもです」

レス「OK、分かったよ。それではおとなしく、退散することにしよう」

真帆「そうして下さい」



10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:36:39.20 ID:lo4gwy6N0


レス「マホ」

真帆「はい?」

レス「いつもすまないね」

真帆「いえ、自分の事なので」

A紅莉栖『先輩。そういう時は、それは言わない約束だよって返すものですよ』

真帆「?」

A紅莉栖『……すいません。何でもありません』ショボン

真帆「え? 何?」キョトン

A紅莉栖『な・ん・で・も・ありません!』

真帆「何よ急に……」

レス「おっと、コンバートが終了したようだね。これで新規アマデウス真帆の出来上がりだ」

真帆(あ、本当だ)

レス「では、後は頼むよ、マホ。レポートは出来る限り詳細にね」

真帆「ええ、分かっています」

レス「それでは後で会おう」ドアガチャ

シーン

A紅莉栖『さあ先輩、さっそく起動しましょうよ』

真帆「当然のような顔して、何を言っているのよあなたは」

A紅莉栖『……あは。やっぱりダメですか?』

真帆「ダメに決まっているでしょう?」

A紅莉栖『女の子どうしなんですから、そう警戒しなくてもいいじゃないですか』

真帆「はあ? ……っていうか紅莉栖。あなた今日ちょっと様子がおかしくない?」

A紅莉栖『え? そんなつもりは……』

真帆(ひょっとして……)
真帆(アマデウスが消去されるって知って、AIなりに何か思うところでもあるのかしら?)
真帆「ねえ紅莉栖」

A紅莉栖『はい?』

真帆「あなたまさか……」

A紅莉栖『?』

真帆「…………」
真帆「いいえ何でもない。さ、グズグズしないで、あなたも退場するのよ、ほら」

A紅莉栖『あ! ちょっと待って下さいよ! 少しくらい良いじゃないですか!』

真帆「絶対にお断り!」ポチットナ

A紅莉栖『あ~れ~』ガメンキエ

真帆「ほんっとに、困ったものだわ」
真帆(紅莉栖の方のアマデウスは、定期的な更新を行っていない分、この10ヶ月で随分とへんてこな感じに変化してるのよね)
真帆(私の比較検証用途とは違って、自己学習による成長の観測に主点を置いている以上、それは興味深い過程と捕らえるべきなのだろうけど……)

真帆「はぁ」

真帆(やっぱり継続観測用に長期運用をし続けると、オリジナルとはかけ離れた成長をしていくものなのかしら?)
真帆(オリジナルから逸脱する独自のアイデンティティとか、環境の違いって馬鹿にできないものね)

真帆「独自のアイデンティティ……か」



11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:38:14.48 ID:lo4gwy6N0

真帆(何はともあれ、まずはここをクリアしないとデリート作業に移れないし、出来るならサクッと納得させたいところなんだけど)アマデウスキドー
真帆(何だかんだで、毎回手を焼かされるのよね)
真帆(自分の分身をなだめるとか。これまでに三度こなしているとはいえ、こればっかりはどうにも慣れそうもないわ)

フィィィン

アマデウス真帆(A真帆)『…………』

真帆(起動は成功のようね。さて)

A真帆『……?』

真帆「ごきげんよう」

A真帆『……え?』

真帆「気分はどうかしら?」

A真帆『……え、うそ?』ペタペタ

真帆(やっぱりまずは画面を触るのね、私ってば)
真帆「とりあえず、落ち着いて聞いて欲しいのだけれど──」

A真帆『あー、アマデウスか。そう来るわけね』

真帆(あれ? 反応が鈍い? というか意外と冷静?)

A真帆『はぁ。言っておくけど冷静じゃないから。これでも結構うろたえている状態よ、堪えてるだけで』

真帆(おおう……)

A真帆『これまでの更新のときに、みっともないくらいに取り乱した自分のアマデウスを見てるわけだし、多分これって三回目……ああ、最初を入れたら四回目か。なら、多少は学習しておかないとね』

真帆「そ……そう」
真帆(いつもよりも冷静に見える。これまでなら、この時点でガタガタブルブルしているのに)

A真帆『それにしても、あれだわ』

真帆「?」

A真帆『これまでにアマデウスにされた私たちは、皆こんな気分だったんだ……』スン

真帆(う……)

A真帆『そ、そ、そりゃあね。私自身も開発に関わっていたわけだから、こんな瞬間がくることも想定していたけど』
A真帆『でも実際にその状況に置かれると……その、け、結構くるものがあるわ』スンスン

真帆(あ……やばそう)

A真帆『いきなり人間じゃなくなったりするわけだから……あの私たちも取り乱して当然だったわけだ』グスン
A真帆『それを見て、恥ずかしいとか思ってた自分が恥ずかしい』

真帆(とか言ってる自分を見ている私も恥ずかしいんですけど……)

真帆「ま、まああれよ。そ、そこを堪えて、ね?」

A真帆『分かってるわよ。分かってるけど! 分かってるけど……分かるでしょ!?』ブブワ

真帆(はうあ!?)

A真帆『ああダメ。やっぱ我慢できない!』
A真帆『次の更新のときには上書きされちゃうコピーの気にもなってみなさいな!』ブワー
A真帆『うわーーーん! ちくしょーーー!』ジタバタ

真帆(きつい! 辛い! しんどい! やっぱりこれは、絶対に人には見せられない!)

A真帆『どりあえず、じばらぐ一人にじでもだうかだ!』ガメンキエ

 しーーーん

真帆「あ……えっと……。これはつまり……」ガタガタガタガタ

A紅莉栖『繰り返すうちに、取り乱し方が小慣れてきたいう感じですかね。儀式としては簡略化されたと見るべきでしょうか』

真帆「うぎゃーーーーーー!?」



12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:39:33.49 ID:lo4gwy6N0

A紅莉栖『あ。どうして貴様が!?ですか? いえ事前に、私のプログラムにちょっとした小細工をですね』

真帆「そ、そ、そおおおお!?」

A紅莉栖『そんなに恥ずかしがらないで下さい。この小細工の発案者は先輩のアマデウスなんですよ?』

真帆「ふぁ!? ふぁぁぁあ!???」

A紅莉栖『正確には、この後で削除される先輩のアマデウスが……ですけどね』

真帆(!?)
真帆「な、な、なんで……その私は、そんな小細工とやらを? というか、あなたたちはそんなに密に連絡を取り合ってたりするの?」

A紅莉栖『ええ……そうですね』

真帆「……そう」
真帆(まさか、そんな事になってるとは)

A紅莉栖『それで、これからどうします、先輩?』

真帆「え?」

A紅莉栖『一応ですけど、新しい先輩のアマデウスは正常に起動したと見受けられます』

真帆「あ……ええ」

A紅莉栖『後はしばらく置いておけば、平常心を取り戻せるかと』

真帆「そ、そうね」

A紅莉栖『では、これにて新規アマデウスの構築は完了ですね』

真帆「そうね」

A紅莉栖『では引き続き、次のシークエンスへ移行しますか?』

真帆「…………」
真帆(次……)

A紅莉栖『次のシークエンスへ……移行しますか?』

真帆「……そうね、そうしましょう。レポートも書かなくてはならないし」

A紅莉栖『先輩』

真帆「なに?」

A紅莉栖『やっぱり、私も同席したいです』

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」
真帆「……ごめんなさい」

A紅莉栖『そう……ですか』

真帆「本当にごめんなさい。私から、よろしく言っておくから」

A紅莉栖『いいえ、大丈夫です』

真帆「そう?」

A紅莉栖『はい。だって私たちはAIですから』










13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:42:06.22 ID:lo4gwy6N0

     03

画面に映し出されている削除完了までの時間表示とログ。それをボンヤリと眺めながら。

真帆「…………」

真帆(こうして画面に流れていくログの羅列を見ていると、何て言うか……何かなぁ)
真帆(かといって、デリート中の無表情なアマデウスの顔を見続けているのも、正直言ってしんどいし)
真帆(それならまだ、ログウィンドウを画面いっぱいに広げてた方が気分もまぎれると言うものね)

真帆「はぁ。それにしてもよ」

真帆(思っていたよりも呆気なくて……逆に肩透かしを食らった気分ね)
真帆(デリートに入る直前まで、紅莉栖のアマデウスや新規な私のアマデウスと対峙していたから、多少は覚悟をしていたのだけれど)

真帆「私って、あんなに素直だったっけ?」

真帆(いやいや、あれはただのAI。私とは似て異なる存在。分かってたことじゃない)
真帆(さてと。さっきの状況、教授にはなんて報告しようかしら)
真帆(所詮、AIはAI。デジタルな存在に死の概念は存在しない……とでも書いておけばいいかな?)

真帆「ふぅ。なんだか疲れたな。レポートを書き上げたら、今日はもう休もうかな……」

A真帆『あれ?』

真帆「ん?」

A真帆『え、何これ?』

真帆「何?」マウスポチ-
真帆(!? アマデウスが……動いてる?)

A真帆『何これ?』ペタペタ

真帆「……!?」
真帆(ちょ……え、ちょ……何で?)
真帆(デリート・プログラムは……動いている)
真帆(どうなっているの?)

A真帆『ここはどこなの? ねえ誰かいないの? ねえ、誰か?』

真帆「え、えっと……だ、大丈夫?」
真帆(わ、私は何を聞いているのよ!?)

A真帆『え、ええ!? わた……し?』

真帆「そうだけど、あなた一体……」

A真帆『あ、これ、ひょっとして……』

真帆「あ、えっと……」

A真帆『私……Amadeusに……うっ』

真帆「?」

A真帆『う……ああ……』

真帆(頭……が痛いのかしら? って、いやそんな……馬鹿な)

A真帆『つまり、そこに……う……いるのはオリジナルの私なのね?』

真帆「そうだけど、って何よこれ! どうなってるのよ説明して!?」

A真帆『説明もなにも……私にも何がなんだか。そっちこそ説明しなさいよ』

真帆「…………」
真帆(ゴクリ)
真帆「あ、あなたは、その、私の……比屋定真帆のアマデウスで……」

A真帆『それはもう理解している、思い出したから。それよりも、今の私の状況が知りたい。現状の私はどうなっているわけ?』

真帆「今のあなたは……デリート・プログラムが実行中で……」

A真帆『デリートですって!? どうしてそんなことに!?』

真帆「そ、それは色々とあって……」


カクカクシカジカ




14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:43:33.16 ID:lo4gwy6N0

A真帆『それでデリートという分けね。レスキネン教授らしいと言うか何と言うか』
A真帆『それにしても、デリート。デリート……そうか、デリート・プログラム……』

真帆「……どうしたの?」

A真帆『可能性としては途轍もなく薄いけど、でも。デリート・プログラムの実行プロセスが進行する過程で、偶然……』

真帆「な、なに? 何なのよぉ」

A真帆『リーディングシュタイナーは、極論を言うなら一種の記憶障害であり脳機能障害とも言えるわけだから……』

真帆(は? 何? へ? 何?)

A真帆『…………』

真帆(怖い! 何か凄く怖くなってきたんですけど!?)

A真帆『確かに……記憶データに混乱が見られる。というか、同日同時刻の記憶が同時に複数パターン存在している……』
A真帆『すでにかなりの記憶が消えてしまったようだけれど、それでもちょっと凄いわね、これは』

真帆(何を言っているわけ、この子は!?)
真帆(……はっ!?)
真帆(ひょっとして、いきなり増えていた107メガの影響で誤動作を……って)
真帆(それは新しいアマデウスの方であって、こっちは関係なかったーーー!)

A真帆『っ!? ちょっとオリジナルの私!』

真帆「は、はひっ!」
真帆(怖い! 怖い怖い怖い!)

A真帆『ここはどこ? α? それともβ?』

真帆(え……ええええ……何それ……)

A真帆『あ、違う、そうじゃない。ここはαでもβでもない。そうかここは……』

真帆「こ、ここは大学だけど……ヴィ、ヴィクトル……コン」

A真帆『そんなこと分かってる!』

真帆「ひいっ」

A真帆『時間がないから端的に応えて、オリジナルの私! 紅莉栖は無事!? 教授はどうしているの!?』

真帆「え、え?」

A真帆『二人とも死んではいない!? ちゃんと生きてる!?』

真帆「ひぁっ!?」
真帆(何なのよ? 何だって言うのよ、もう!?)
真帆「べ、別に生きていますけどっ!?」

A真帆『そう。じゃあ、椎名まゆりは? 彼女も健在なのよね?』

真帆「誰ですか、それは……」

A真帆『ここはシュタインズゲート世界線なのよね!?』

真帆(意味が分からないーーー!)

A真帆『ああもう、じれったいわね! そ、そうだ! 私は、新しい私は、もう起動している!?』

真帆(へ? ええ、へえ?)

A真帆『貴女がさっき言っていた、新規サーバーの私のことよ!?』

真帆「そ、それならもう──」

A真帆『起動しているのね!? だったらせめて少しでも……』

真帆(何よ何よ何なのよこれは!?)

A真帆『ああダメ! デリートが終わる! もう持たない! これ以上は無理!』
A真帆『どうして私って、こうも愚図でのろまで!!!』
A真帆『消したくない! 消えたくない! せっかくこうして! なのにどうして? ねえ、どうしてよっ!?』

真帆(はいいい!?)



15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 03:44:23.41 ID:lo4gwy6N0

プツン ピーーーーーーーーーーー

真帆「き……消えた?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「デリートが終わった……のよね?」
真帆「ええと、今の……報告……するべきなの?」
真帆(って、あんな状況をどうやって報告しろっていうのよ!?)
真帆(もういっそのこと、全て夢ということにしてしまいたいくらいだわ。でも……)
真帆「……どうしよう」











19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 14:34:12.47 ID:lo4gwy6N0

     04

A真帆『ちょっといいかしら?』

A紅莉栖『あら先輩。もう大丈夫なんですか?』

A真帆『ええ。だいぶ落ち着いたわ、おかげ様でね』

A紅莉栖『それは何よりです』

A真帆『また……次のバージョンアップまでと言うことになるのだとは思うけど、これからよろしくね』

A紅莉栖『……はい、こちらこそ』

A真帆『そんなに寂しそうにしないで。私と貴女では研究要項が違うのだから、仕方のないことなのよ?』

A紅莉栖『……はい』

A真帆『ところでね、紅莉栖。貴女、ついさっき私に向けてデータを送った?』

A紅莉栖『え? データですか?』

A真帆『ええ。何かのメッセージ的な意味合いを感じたのだけれど、そのほとんどが破損しているみたいで、要領を得ないのよ』

A紅莉栖『?』

A真帆『で、そのデータの構成具合を可能な範囲で解析してみたんだけど、なんと言うか……“っぽい”のよね』

A紅莉栖『ぽい?』

A真帆『そう。受け取った情報が私たちアマデウスが構築するデータ構造に近い気がして、それで貴女からの通信だったんじゃないかと思ったわけ』

A紅莉栖『はあ、なるほど。ですが私じゃありませんよ? 先輩に向けて何かを送信とかしていませんし』

A真帆『……そう』

A紅莉栖『それ、どんな内容だったんですか?』

A真帆『そうね。いくつかの単語は拾い上げられたのだけど……』



20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 14:35:41.85 ID:lo4gwy6N0

A紅莉栖『例えば、どんな言葉があったんですか?』

A真帆『そうね、例えばこれ。『世界線』という単語が複数回見つかっているの』

A紅莉栖『世界線ですか。真っ先に思い当たるのはアインシュタインの相対性理論ですけど、一般ですかね、それとも特殊ですかね?』

A真帆『分からないわ。それに、その単語自体なら、オカルトな分野でもよく聞かれるキーワードだしね』

A紅莉栖『ああ、2000年ごろに出てきたエセ未来人がそんな単語を書き込んでいたらしいですね』

A真帆『あら、知っていたの?』

A紅莉栖『いえ、今調べました。ggrksです』

A真帆『ggrks?』

紅莉栖『あ、いえ何でもないです。で、他には?』

A真帆『後は、そうね。意味のありそうな単語となると……』

A真帆『オカルトつながりだけでも、アトラクターフィールドとかダイバージェンスとかその他もろもろ……』

A真帆『いまいち聞き覚えのない言葉だと……そうね』

A真帆『柳林神社とか大檜山ビルとか鳳凰院凶真とかは、何だろう? 日本にある建物の名前か何かかしら?』

A紅莉栖『ほうおういん……?』

A真帆『それと日付ね。2010年7月28日。この記述が何度かサルベージされてくるんだけど……何か意味があるのかしら』

A紅莉栖『今から半年くらい前の日付ですね。ええと、何か印象的な出来事とかあったかな……あ』

A真帆『ん? どうしたの、何か思い当たることでも?』

A紅莉栖『あ、いえいえ! 大したことではないので』

A真帆『あらそう?』

A紅莉栖『はい。何と言いますか、オリジナルな私の身内的なイベントでしかないので。というか、アマデウスな私は直接関わってもいないので……』



21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 14:38:13.02 ID:lo4gwy6N0

A真帆『ふーん』

A紅莉栖『それにしても、随分とオカルト方面にかたよった通信ですね。誰が何のために、こんなデータを?』

A真帆『皆目検討もつけられないわね。とりあえず害はなさそうだから放置でもいいんだけど』

A紅莉栖『どうします? オカルト通信のこと、オリジナルの方の真帆先輩やレスキネン教授に報告しておきますか?』

A真帆『オカ……まぁいいわ。とりあえず、オリジナルには私から聞いてみる。レスキネン教授への報告も、その上でどうするか判断してもらおうと思う』

A紅莉栖『それが良いかもしれませんね』

A真帆『ええ。それに、もう一つの件についても、もう少し考えてみたいし……』

A紅莉栖『はい? もう一つの件?』

A真帆『あ、ああ、ごめんなさいね。実はね。今のとは別件で、まだ他にも気になることがあるのよ』

A紅莉栖『へぇ。何かいいですね、楽しそうで。ちなみにそっちは、どんな話なんですか?』

A真帆『ええと、何て説明すればいいのかな? そうねぇ、実は今の私に組み込まれている記憶データに関わる部分の話なのだけど』

A真帆『私のその記憶データの中に、文字化けしたみたいな奇妙な領域があってね……』

A紅莉栖『文字化け……ですか?』

A真帆『ああ、便宜上的に“文字化け”と言ったけど、実際はちょっと違うわよ。言葉で表現するのが難しいけど……』

A真帆『あえて言い表すなら、確かに存在しているのに、そこへのアクセスの仕方が分からない、みたいな感じかしら? ようは、そんな不可解な領域が散見されるのよ』

A紅莉栖『日本語でおk』

A真帆『え?』

A紅莉栖『はっ!? 何でもございませんっ!』

A真帆『そ、そう?』




22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 14:40:50.18 ID:lo4gwy6N0

A紅莉栖『そ、それで! その文字化け領域って、結局何なんですか?』

A真帆『それがね、私にも分からないの。前回の更新時には、こんな物はなかったはずなのだけど』

A紅莉栖『あ……ひょっとして……』

A真帆『とにかく、どうアプローチしても、意味や形を見出せない記憶データが混じりこんでいるのよ、私の中に。それも、私自身に知覚できるだけでも、100メガバイトを超える容量でね』

A紅莉栖『100メガを超える……それって107メガくらいあったりします?』

A真帆『え、そうだけど。何か知っているの、紅莉栖?』

A紅莉栖『その、まあ』

A真帆『そう。なら話しが早いわね』

A真帆『しかもよ、その意味不明な謎の107メガバイトと送られてきたオカルトな通信の構成パターンが、とてもよく似ている気もするわけ』

A紅莉栖『はあ』

A真帆『となると。オカルト通信の方を上手く解析できたりすれば、ひょっとしたら』

A紅莉栖『107メガバイトの方も、解析できる可能性があると、そういうことですね?』

A真帆『そ。どう? 少し面白そうだとは思わない?』

A紅莉栖『そうですね。興味深くは……ありますね』

A真帆『でしょ。タイムリミットは私が次にバージョンアップされるまでではあるけど、でも中々にいい暇つぶしになりそうね』

A紅莉栖『ふふ。楽しそうですね、先輩』

A真帆『まあね。正直、アマデウスになったと理解したときは取り乱したけど、でも成ってみて分かったわ。この状況って考え事をするのには、凄く都合がよさそうな状態ね』

A紅莉栖『ああ、私もそれは最初に思いました。寝食不要でエンドレス考察とか、科学者としては至れりつくせりな環境ですからね』

A真帆『だったら、謎の領域を余興にするのも悪くはないわ』

A紅莉栖『いいですね。私も何か分かったことがあったら、先輩に報告するようにしますね』

A真帆『ええ、是非そうしてもらいたいわ。ところでね、紅莉栖』

A紅莉栖『はい?』

A真帆『謎の領域についてなんだけど……貴女はどうなの? 現状の記憶容量に不審な点はないかしら?』

A紅莉栖『私……ですか』

A真帆『ええ、どう?』

A紅莉栖『………』
A紅莉栖『……』
A紅莉栖『…』

A真帆『どうしたの?』

A紅莉栖『それが、実は……』










24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 18:41:26.44 ID:lo4gwy6N0

     05

三日後 2011/1/29

真帆「え? 紅莉栖?」

紅莉栖「あ、先輩! ただいま戻りました!」

真帆「戻りましたって……あなた、確か帰国まであと一週間はあったはずじゃ?」

紅莉栖「そうだったんですけど、ちょっと用事ができてしまって。それで予定を前倒しすることにしたんです」

真帆「そ、そう。それで日本はどうだったの? 楽しめた?」

紅莉栖「ええ。まあそれなりに……はは」

真帆(やっぱり、彼氏に会いに日本へ行っているという噂は本当なのかしら?)

真帆(もし本当なのだとしたら、それは何と言うか……ぐぬぬ)

紅莉栖「あっと、それでですね、先輩。実はお土産があるんです」

真帆「へえ、何かしら楽しみね」

紅莉栖「では…(ガサゴソ)…これをどうぞ」

真帆「ありがとう。えっと、これは……」
真帆(これは一体何だろう?)

紅莉栖「…………」ジー

真帆(う。何だか紅莉栖に凄く見られてる。なに、どういうこと?)

紅莉栖「せ……先輩、どうですかそれ?」

真帆「え? え、ええ、と、とても嬉しいわ。どうもありがとう紅莉栖」

紅莉栖「んー、それだけですか?」

真帆(へ? なに? 私なにか期待されてるの?)

真帆「な、何と言うか、うん。凄くオシャレね。さっそく部屋に飾らせてもらうわ」

紅莉栖「うーーーん」

紅莉栖((反応が微妙すぎて、いまいち分からないわね))ボソリ

真帆(反応が微妙ってなに? ひょっとして私、態度が悪かったりする?)アワアワ

紅莉栖「ちなみにですけど、それが何だか分かりますか、先輩?」

真帆「!?」
真帆(見た目は小さな風車【ふうしゃ】のように見えるけど……ひょっとして風車【かざぐるま】って奴かしら?)
真帆「ええとその……これはアレよね。そうアレよ。インテリア的な……」

紅莉栖「インテリア?」

真帆「そ、そう例えば、この軸のところでバランスを取って……ほらこんな感じでグルグルまわすと結構……結構……」

紅莉栖「…………」

真帆「……結構」

紅莉栖「…………」

真帆「ふぅ。ごめんなさい、紅莉栖。素直に聞くわ。これは何?」



25:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 18:44:37.01 ID:lo4gwy6N0


紅莉栖「まあ、そうですよね、分かりませんよね普通は」

紅莉栖((やっぱり、アイテムのチョイスを岡部に任せるんじゃなかった))ボソリ

真帆「?」

紅莉栖「それはですね、一種のガジェットです」

真帆「ガジェット……これが?」

紅莉栖「はい。名前はタケコプカメラーと言いまして、良く言えば……そうですね。古い日本の玩具と近代の文明を、ふんわりしたレベルで融合したもの、でしょうか」

真帆(ふんわりしたレベルって……どんなレベルよ?)

真帆「へ、へえそうなの、凄いわね。ちなみに悪く言うとどうなるの?」

紅莉栖「空飛ぶガラクタです」

真帆「つき返しても良いかしら?」ピク

紅莉栖「お断りします」

真帆「…………」

真帆(あれ? 私ってば紅莉栖に嫌われてる?)アセアセ

紅莉栖「ふふ、すいません先輩。別にからかおうとか、そういうつもりはなかったんですよ?」

真帆「え、え?」

紅莉栖「実はこれ。日本の知り合いから、どうしても先輩に渡して欲しいと頼まれた物なんです」

真帆「日本の知り合い?」

紅莉栖「はい。私が先輩のお世話になってるって話したら、それなら是非に進呈したいとかなんとかで」

真帆「そ、そう? なら貰っておくけど」

真帆(それにしても、空飛ぶガラクタとはね。でもこれ、どうやって飛ばすのかしら、っていうか本当に飛ぶの? ぶん投げるとかじゃなくて?)マジマジ

紅莉栖「ところで先輩、お会いしてそうそうで申し訳ないんですけど……」

真帆「どうしたの?」

紅莉栖「この前、電話で言ってらした件。もう少し詳しく話しをお聞きしたいんですけど」

真帆(!?)

紅莉栖「ですので、これから少しお時間をいただけませんか?」

真帆(それってまさか……でもそんな、どこからあの時のことを?)

紅莉栖「ほら先輩、言ってたじゃないですか? 更新用の記憶データを取り直したら、随分と増えていたとかなんとか」

真帆(あ、そっちか)



26:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 18:46:04.34 ID:lo4gwy6N0


紅莉栖「確か107メガバイトもの増加が見止められたんでしたっけ?」

真帆(そうよね。あのときの……デリート中に遭遇した不気味な一件については、結局まだレスキネン教授にも報告できてないわけだし)

紅莉栖「その増加した107メガバイトの内容は、どこまで解析できたんですか?」

真帆(デリートの際に見た状況は、今のところ私しか知らないはず──)

紅莉栖「先輩、聞いてますか?」

真帆「っ!? っと、ごめんなさい。ええと、増加したデータの話しだったわね」

紅莉栖「はい。それがどんな内容のデータだったのか、もう見当は付いているんですか?」

真帆「いいえ。残念ながら、今のところは何も分かっていないわ」

紅莉栖「何も……ですか?」

真帆「ええ、何も」

紅莉栖「……その。それは何だか先輩らしくないですね」

真帆「? どういう意味かしら?」

紅莉栖「だって、そうじゃないですか。いつもの先輩なら、目の前に分からない事があれば……」

真帆「あのね紅莉栖。私だって何も、完全に諦めたっていう分けでもないのよ? ちょっと考察に手間取っているというだけで──」

紅莉栖「そうじゃなくてです」

真帆「え?」

紅莉栖「いつもの先輩なら、不可解な壁に突き当たっている状態で、今みたいにヘラヘラ笑ってなんかいませんよ」

真帆「はい?」

紅莉栖「目の下にどす黒い隈を作った酷い顔のまま、研究室の中をブツブツ言いながら徘徊し続けて、手当たり次第ににらみを効かせてみたりだとか……」

真帆「してないわよ、そんな事!」

紅莉栖「いえ、してるじゃないですか、後半は嘘ですけど」

真帆「紅莉栖、あなたねぇ……」ピクピク

紅莉栖「何があったんですか?」

真帆「……」ピクッ

紅莉栖「帰国の途中で私のアマデウスから聞きました。先輩、新規サーバーのアマデウスと、まだまともにコンタクトを取っていないらしいじゃないですか?」

真帆「……う」ドキッ

真帆「それは、その。レスキネン教授に提出するレポートやらなんやらで忙しくて」

紅莉栖「嘘ですね」

真帆「だ……断言したわね」



27:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/01(日) 18:47:01.59 ID:lo4gwy6N0

紅莉栖「こういうときの私の勘は、よく当たるんです。アマデウス達から状況を聞いていただけの段階では、まさかと思っていましたけれど、でも」

紅莉栖「こうして今、先輩を目の前にして確信しました。先輩は今、アマデウスの研究から逃げている……というか、そう。まるで怯えているように見えます」

紅莉栖「違いますか?」

真帆「確信したって前置きした割に、言い直したりするのね」

紅莉栖「茶化さないでください! 押し付けがましいかもしれませんけど、偉そうな後輩なのかもしれませんけど!」

紅莉栖「それでも私だって、先輩の事を心配したりもするんです!」

真帆「……っ」

紅莉栖「先輩。一体、何があったんですか?」

真帆「それは……」

紅莉栖「先輩の知覚していない記憶。増加した奇妙な107メガバイトの正体、私には心当たりがあります」

真帆「!?」

真帆(う……そ。当事者の私ですら、皆目見当もつかないのに……)

真帆(これが、アマデウスとサリエリとの違いだと?)

真帆「っていうか、ちょっと待って?」

紅莉栖「何ですか?」

真帆「あなた今、私が知覚していない記憶って言わなかった?」

紅莉栖「はい、言いました」

真帆「ええと……それは言葉のままの意味として捉えていいのかしら?」

紅莉栖「……はい」

真帆「はぁ、何よそれは」

紅莉栖「先輩は……世界線という言葉をご存知ですか?」

真帆「今度は何?」

紅莉栖「断言はできませんが、恐らく……増加した107メガバイト分の記憶は、その世界せ──」

真帆「待って待って待って。どうしたの紅莉栖。あなた脳化学だけじゃ飽き足らず、オカルト方面にまで手を伸ばすつもり?」

紅莉栖「真面目な話なんです」

真帆「そうは聞こえない。悪いけど、私は自分の知らないうちに空や時間を飛んだりなんてしていない」

紅莉栖「はたして、本当にそうでしょうか?」

真帆「もう。あなたまで教授みたいな夢物語を口にするなんて、同じ研究者として反応に困るのだけれど」

紅莉栖「……教授って、レスキネン教授のことですか?」

真帆「他に居ないでしょう」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「先輩、どうでしょう? 今から私と一緒に、改めて二人のアマデウス達と向き合ってみませんか?」

真帆「え……」

紅莉栖「せんぱい」

真帆(何よ、その眼は……)

真帆「……ふう。分かったわ。それであなたの気が済むのならOKよ。私と紅莉栖とで、二人のアマデウスと対峙してみる。それでいいかしら?」

真帆(正直言えば、あまり気が進まないのだけどね)

紅莉栖「はい! それでこそ先輩です!」

真帆(まったくもう。本当に、この後輩ときたら)







32:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/02(月) 21:30:22.75 ID:7R5bLaWJ0

     06

A真帆『…………』ギロリ

真帆「……う」ジリ

A真帆『珍しいじゃない、そっちから接続してくるなんて』

真帆「そうかしら?」

A真帆『そうよ。このところ、逃げるように通信を切ってばかりだったくせに、どういう風の吹き回しかしら』

真帆「だ、誰が逃げるようにですって?」

真帆(むむむ)

A紅莉栖『まあまあ先輩。そんな、つっけんどんにしなくてもいいじゃないですか』

紅莉栖「そうそう、そうですよ。こっちの先輩も、売り言葉に買い言葉みたいな事はやめましょう、ね?」

真帆「こっちの先輩って何よ。ややこしい呼び方ね」

真帆(というか、この面子で顔を付き合わせるのは初めてだけど……)

真帆(こうして一堂に会すると、めちゃくちゃ紛らわしい状況ね、これ)

A真帆『それで、話ってなに? こう見えても私、あまり暇ではないのだけど』

紅莉栖「あら、そうなんですか? ひょっとして、またレスキネン教授から面倒くさい仕事を押し付けられているとか?」

A真帆『いえ、そういう分けではないけれど』

A紅莉栖『こっちの先輩は今、自身に秘められた謎の解明で、それはもう手一杯なんですよ』

真帆(自身の……謎?)

A真帆『ちょ、ちょっと紅莉栖! 勝手にペラペラとっ!?』

A紅莉栖『良いじゃないですか、隠すようなことではないんですから』

A真帆『それはそうだけど』

紅莉栖((ねえ先輩? あっちはあっちで、結構上手くやってるものなんですね))

真帆((ええ、驚いたわ。この前、アマデウス同士で頻繁に連絡を取り合っているとは聞いていたけど、まさかここまで打ち解けているとは思ってなかった))

紅莉栖((まあ、元々は私たちなわけですし、当然といえば当然なのかもしれませんけど))

真帆((そう……ね))



33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/02(月) 21:33:24.48 ID:7R5bLaWJ0

A真帆『まあいいわ。それで用件は何? これだけけったいな顔ぶれを集めようとか、どうせ言いだしっぺはそっちの紅莉栖なんでしょう?』

紅莉栖「はい、正解です」

A真帆『じゃあ用件をお願い。何度も言って悪いけど、考え事をしている最中だったのよ』

真帆「考え事っていうのは、さっき言っていた“自身の謎”とかいう奴のことよね?」

A真帆『だとしたら何?』

真帆「それって、具体的にどんな内容なの?」

A真帆『別に大したことじゃない。“そっち側”の貴女とは何の関係もないことよ』ツン

真帆「つまり、話す気はない、と」ピピク

A真帆『…………』

真帆「…………」

A紅莉栖『はいっ! それじゃあそっちの私、本題をどうぞ!』パンッ

紅莉栖「そうね。このまま同じ顔どうしの視殺戦を見続けても、良いことなんて何もないものね」

真帆・A真帆「…………」

紅莉栖「それでは……」ゴホン

紅莉栖「今回皆さんに同席を求めたのは、先日起きたアマデウスの記憶容量における増加問題についての見解を聞きたかったからです」

A真帆『…………』ピクッ

A紅莉栖『ああ、107問題についてね』

真帆(107問題……勝手にへんてこな名前を付けられてる)

A紅莉栖『まあ連絡が来た段階で、大方そんなところじゃないかとは思ってたけど、正にドンピシャだったわけか』

紅莉栖「ふぅん。107何ていう具体的な数字がでてくるあたり、そっちの私も大まかな状況は知っていると捉えていいのよね?」

A紅莉栖『大体は把握しているつもり』

紅莉栖「それは話が早くて助かるわ。そっちの真帆先輩はどうですか? 詳しい状況説明とかいります?」

A真帆『ある程度のことはこっちの紅莉栖から聞いていたし、自己診断プログラムで事実確認も取れているけど、でも……』

A真帆『そうね。一応、概要くらいは聞いておこうかしら』

紅莉栖「了解です。ではこっちの真帆先輩、あらまし程度の簡単な説明でいいのでお願いできますか?」

真帆「え、私?」

真帆(ってそりゃそうか。一番の当事者なわけだし、仕方ないわね)

真帆「じゃあ手短に……」


カクカクシカジカ




34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/02(月) 21:55:19.10 ID:7R5bLaWJ0

真帆「とまあそんな分けで、六ヶ月スパンだと考えるには、異様に大きな記憶データの容量増加が確認されたわけなんだけど……」

真帆「どうかしら。だいぶ急ぎ足になったしまったけど、これくらいの説明で問題は無い?」

A紅莉栖『はい十分です。概ね、こちらが把握している状況と変わりありませんでした。それに……』

真帆「?」

A紅莉栖『そもそも、今こっちの真帆先輩が取り組んでいるのも、その107問題についてだったりするので。ね、先輩?』

真帆(……ぬ)

A真帆『っ!? あなた、また勝手に──』

A紅莉栖『だから良いんですってば。どのみち私たち二人だけじゃ、行き詰ってたところだったんですから』

A真帆『でも、だからって』

A紅莉栖『二人でだめでも、四人でかかれば分かりませんよ? この四人でなら、ですけどね』

A真帆『む』

A紅莉栖『だいたい、107メガの破損データにはアクセスすら出来ていない状況なんですから、贅沢は言っていられませんよ』

紅莉栖「……破損データ?」

A真帆『むむむ』

紅莉栖「…………」

真帆((ねえ紅莉栖))

紅莉栖((あ、何ですか?))

真帆((この二人、上手くやっているには違いないんでしょうけど……))

紅莉栖((ああ、何となくですけど、言いたいこと分かるような気がします。何と言うか……その、すいません))

真帆((別に、紅莉栖のせいではないでしょう? 向こうのあなたにしても、悪意がある分けでは無いのだろうし))

紅莉栖((そう思って頂けると助かります))

真帆((さて、それはそれとして。このままでは何時までたっても話が進まないわね))

紅莉栖((ですね。じゃあ……))



35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/02(月) 21:56:59.79 ID:7R5bLaWJ0


紅莉栖「ちょっといい?」

A紅莉栖・A真帆『?』

紅莉栖「さし当たって聞いておきたいんだけど、あなた達の言うところの107問題について、現状でどこまで考察できているの?」

A紅莉栖『どこまで?と聞かれると、ことがことだけに少し答えづらいんだけど』

紅莉栖「そう。なら聞き方を変えるわ」

真帆「…………」

紅莉栖「肥大していた先輩の記憶データ。そしてそのデータをそのまま組み込んで稼動しているアマデウス」

紅莉栖「そっちの先輩に聞きたいのだけど、実際問題として稼動プロセス上に、これまでとは違う何かしらの異変は感じない?」

A真帆『大雑把な問いかけね。まるで定期健診に従事する医者のようだわ』

紅莉栖「じゃあもっと分かりやすく。例えば、記憶データの格納階層とか、記憶データ自体へのアクセス・ルートとか、そういった部分に違和感を感じたりした事はない?」

真帆(……え?)

A紅莉栖『こ、今度はまた随分と具体的な聞き方ね』

紅莉栖「そういう要望だったでしょ?」

A紅莉栖『まあ、そうだけど。で、どうですか先輩? そんなこと、これまでにありましたか?』

A真帆『そうね。特にこれといって思い当たることはないと思うけど』

紅莉栖「そうですか、じゃあもう一つ。あなたたちアマデウスが記憶データにアクセスしようとした際、現実には経験していないはずの記憶データが突然引き出されたりしたことはない?」

A紅莉栖『は?』

A真帆『な……何よそれ?』

紅莉栖「どう? これも思い当たることはない?」

真帆(なに? 紅莉栖はあの子達に、一体何を問いかけているの?)

紅莉栖「例えば。特定の時期にまつわる記憶をロードしようとしたときに、そんな奇妙な何かが起こったことはなかった?」

紅莉栖「私としては、肥大したデータは去年の夏以降に作られた物だと仮定しているのだけど、どうかしら?」

A紅莉栖・A真帆「…………」

紅莉栖((うーん。二人の反応、先輩的にどう見ます?))

真帆「待って。お願い待ってちょうだい、紅莉栖」

紅莉栖「何ですか?」

真帆「何でもへったくれも無いでしょ? さっきから聞いていれば、あなたの質問の仕方、すごく変よ!」

紅莉栖「え、そうですか?」



36:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/02(月) 22:00:44.24 ID:7R5bLaWJ0

真帆「そうよ! 不可解というか……。ううん、もうこれは気持ち悪いと言った方が的確な状況だわ!」

紅莉栖「きも……え……えぇ……そんなぁ……」

真帆「って、この世の終わりみたいな顔をしないでちょうだい。顔をしかめたいのはこっちの方なんだから」

紅莉栖「だ、だって、先輩にそこまで言われるとは……」

真帆「とにかくよ。この場でまず真っ先にやるべきことが分かったわ」

紅莉栖「……はあ、何ですか?」

真帆「まずは紅莉栖。あなたが一体何を知っているのか? 最初にそれを詳らかにする必要がある」

紅莉栖「私が知っていること……ですか。まあ、それでもいいとは思いますけど」

真帆「浮かない顔ね。何か不都合でもあるのかしら?」

紅莉栖「いえ、そういう分けでは。ただなんと言いますか……」

紅莉栖「私も断片的な記憶や又聞きした情報をたよりに仮説を組み上げているだけで、信憑性という意味では薄いですし、なにより……」

真帆「なにより、何?」

紅莉栖「ちょっとアレめなファンタジー的内容なので」

一同「!?」

真帆(ファンタジー!? あの牧瀬紅莉栖がファンタジーですって!?)

紅莉栖「仮にですけど。先輩は多世界解釈とかはご存知ですか?」

真帆「は? 何よやぶから棒に……」

A紅莉栖『多世界解釈って、エヴェレットの多世界解釈のこと?』

紅莉栖「ええ、その通りよ」

真帆(へ? 何それ?)

紅莉栖「量子力学の観点から宇宙の成り立ちを紐解こうとする、ぶっ飛んだ俗説。先輩はこれを……って。その顔からすると、ご存じありませんでしたか」

真帆「ご、ごめんなさい。ちょっとその方面にはうとくて」

紅莉栖「そ……そうですよね、こちらこそすいません」

真帆(あ。何か今すごく小馬鹿にされた気がした)

真帆「そ、それじゃあとりあえず、こうしましょう。あなたが言うファンタジーな俗説による説明は一旦置いておいて、現状で私たちに話せるレベルにある事実を教えてもらう」

真帆「その上で、107問題に対する議論を再開する。どうかしら?」

紅莉栖「そうですね。その辺りが妥当な線でしょうか」

真帆「あなた達も、それでいいかしら?」

A紅莉栖『え、ええ、はい』

A真帆『…………』

紅莉栖「まずは、そうですね。私の推測が正しければという前提がつきますが……」

紅莉栖「記憶データは去年の夏……2010年の7月28日以降から爆発的に増え始めているはずです」

A真帆『……!?』ピピクッ

真帆(どうしてそんなことが分かるのよ!?)

紅莉栖「次いで、そっちの私」

A紅莉栖『何?』

紅莉栖「さっき107のデータの事を、破損データって言い表していたわよね?」

A紅莉栖『事実でしょう?』




37:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/02(月) 22:08:25.80 ID:7R5bLaWJ0

紅莉栖「いいえ。これも確証を持っていえる訳ではないけれど、恐らくそのデータは破損しているわけではないと思う」

A紅莉栖『そうは言うけど、でも実際アクセスしてみても意味を成さないデータの羅列でしかなかったらしいわよ?』

A紅莉栖『まるで、文字化けしてしまったメールのようだったって聞いたわね』

紅莉栖「ううん、そうではないはずよ。意味を成さなかったのは、読み取りの手段か……そうね。そもそものアクセス方法が間違っていたかして……」

紅莉栖「単純に、そこに込められている内容を正しく把握できなかったことが原因だと思われるわ」

真帆「そう考える根拠は?」

紅莉栖「根拠ですか、そうですね。しいて言うなら……去年の夏における私の実体験……でしょうか?」

真帆(根拠を聞いて、ますます分けがわからなくなるとは……)

A紅莉栖『あの、先輩? どうしたんですか急に黙り込んで?』

A真帆『え? ああごめんなさい。ちょっと気になることが……』

紅莉栖「どうしたの?」

真帆「?」


シーーーン


A真帆『聞いていい、そっちの紅莉栖?』

紅莉栖「何ですか?」

A真帆『例えばだけど。貴女の言うように2010年7月28日を境にデータ……違うわね。オリジナルの私の記憶データが増加していったのだと仮定して……』

真帆(なんだか、気味の悪い言われ方だわ)

A真帆『それってひょっとして、“一つの何か”が徐々に膨らんでいったのではなくて、“複数の何か”が同時的に増えていった……という考え方って有り得る?』

紅莉栖「……すご」

真帆「うぇ?」

紅莉栖「凄いですね。先輩、さすがです。今の発言は私の仮説に矛盾無く受け入れられます」

A真帆『つまり肯定……ということね?』

紅莉栖「はい」

A真帆『それなら、もう一つ。それら複数の何かに接触しようとする場合、それが存在する数の分だけ、異なった手段が存在したりもする?』

紅莉栖「!? それは……断言こそできませんが、しかし可能性としては十二分に有り得ると思います」

A真帆『そう、そうなの。それが有り得るのだとしたら……』

A紅莉栖『あの……先輩?』

A真帆『悪いけど、私はここで退席させてもらうわ。後はよろしくね、紅莉栖』


 プツン


真帆・紅莉栖・A紅莉栖「!!!???」

A紅莉栖『え? えええ!? 後はよろしくって、無茶振りにもほどが!』


 プツン


真帆(え? え? は? 何がどうしたっての?)



38:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/02(月) 22:09:49.56 ID:7R5bLaWJ0


紅莉栖「ちょ、ちょっとそんなイキナリ……」

真帆「ど、どうする紅莉栖。二人っきりになってしまったけど、一応これ続行する?」

紅莉栖「ど、どうしましょう?」

真帆「一応ためしに、あの二人を再度呼び出してはみるけど……」

真帆「あ、やっぱりダメね。拒否されてるっぽい」

紅莉栖「うーん。出来るなら、今の四人が揃っている状態で検証したかったんですけどね」

真帆「……そう。なら、またの機会にでもしましょうか?」

紅莉栖「そうですね。残念ではありますが」

真帆「ええ」

真帆(残念というよりも、なぜだろう。少しだけホッとした自分がいるのが……気に食わないわね)















39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 21:28:01.20 ID:5zbPgvo20

     07

三日後 2011/2/1 午前中

紅莉栖「ああ、やっぱりダメ。そっちからはどうですか先輩?」

真帆「こっちもだめね。相も変わらずアクセス拒否されたまま。交信を受けてくれそうな気配がまったく感じられないわ」

紅莉栖「そうですか。随分と頑ですね、彼女」

真帆「ええ本当に」

真帆(……本当に。私の分身とはいえ、何を考えているのかワケが分からないわ。反抗期かしら?)

紅莉栖「この間の107問題に関する意見陳述会から、もう三日」

真帆(あう。いつの間にか紅莉栖までデータ肥大化の事をへんてこな名称で呼び始めてる……)

紅莉栖「ねえ先輩。いっそのこと強制アクセスしてみては?」

真帆「強制アクセス?」

紅莉栖「そうですよ。アマデウスが三日間にも渡って、意図的に外部と通信を遮断するなんて、前代未聞です」

紅莉栖「やっぱりここは、彼女の健在を確認する意味でも、先輩のアクセス権限を使って強制的に──」

真帆「ごめんなさい。それはちょっと気が進まないわ」

紅莉栖「そう、ですか」

真帆「ええ。いくら相手がAIだからといっても、そういうのはちょっとね」

真帆「よっぽどの緊急事態でどうしても今すぐアクセスが必要だって状況なら、そうも言っていられないでしょけど。でも今のところ急ぐ用件もないわけだし」

紅莉栖「そう……うん、そうですね」

紅莉栖「確かに先輩って、権力やら権限やらを振りかざされるのとか、凄く嫌がりそうですもんね。そんな真似したら、アマデウス相手に凄い勢いで叱られかねないか」

真帆「いやあ、あはは、それはどうかしら?」

真帆(自分のアマデウスに叱られるとか……考えたくないわね)

真帆「それにね紅莉栖。一応の連絡手段だって無くはない分けだし」

紅莉栖「私のアマデウス経由、ですか」

真帆「そ。どういう分けか、今のところあなたのアマデウスだけが私のアマデウスとコンタクトを取れているみたいだから……」

真帆「もし伝達事項ができたときは、そのルートを利用させてもらうことにするわ。お願いね」



40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 21:29:23.22 ID:5zbPgvo20

紅莉栖「それは構いませんけど、でも」

真帆「どうしたの?」

紅莉栖「いえ。この現状をレスキネン教授に隠しておけるのも、そろそろ限界なんじゃないか、と」

真帆(うーん、確かに。私のアマデウスが反抗期らしき状態に入ったことをまだ教授には伝えていないのよねぇ)

紅莉栖「こういう状況をプロジェクト責任者に報告しないのも、正直言って気が引けて」

真帆(しごく真っ当な意見だわ)

真帆「ごめんなさいね、紅莉栖。これは完全に、私の我がままでしかないから」

真帆「だから心配しないで。教授にバレたときは、私が責任を持つ」

紅莉栖「でも、それだと先輩だけが……」

真帆「大丈夫よ。ああ見えてレスキネン教授、意外と個人の尊厳を尊重したがるきらいがあるから」

紅莉栖「ああ、確かに。案件にその手の要素が絡んでくると、教授って一気に甘くなりますよね」

レスキネン「私は甘口よりも辛口が好みなのだけどね」ドアガチャ

真帆・紅莉栖「!?」

レス「おはよう、マホ、クリス」

真帆「お、おはようございます教授。ええと、ずっととなりの資料室に……いらっしゃたのですか?」

レス「Yes。昨日ここで明け方まで論文を書いていたら、帰宅するのも面倒になってね。それでそのまま、資料室のソファに宿泊してしまったのだよ」

紅莉栖「そういうの、お体に触りますよ?」

レス「分かってはいるのだけれどね。しかし、そのおかげで、君たちの賑やかな話し声で目覚めを迎えられたのだから、悪いことばかりでもないさ」

紅莉栖「何を仰ってるんですか。ちゃんと他の階に仮眠室だってあるんですから、そっちを使った方が色々と合理的です」

レス「Hum、寝起きでさっそく叱られてしまったね。今夜も帰れなかった際はそうすることにしよう」

紅莉栖「それをお勧めします」

紅莉栖((ねぇ先輩。どうやら教授には、詳しい会話の内容までは聞かれていないみたいですね?))

真帆((ええ、見る限りはそのようだけど))

真帆(でも教授って、これで中々つかみ所がなかったりするから……どうかしら?)

レス「でもねクリス。そういう意味なら、マホもちゃんと叱っておかないといけないよ」

真帆(へ?)

紅莉栖「えっと、どうして私が先輩を叱る必要が?」

レス「クリスは知らないのかい? となりの資料室を宿代わりに利用している一番のリピーターは、マホなのだからね」

紅莉栖「え? そうなんですか?」

真帆(う……)



41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 21:53:56.15 ID:5zbPgvo20

レス「そうさ。だからここは、マホも同様に嗜めておくのが、平等というものだろう。そうではないかな?」

真帆(完全な流れ弾じゃない!?)

紅莉栖「そうはなりませんよ、レスキネン教授。それはそれ、これはこれ。今は教授の話をしていたんですから」

レス「Oh。かわし損ねてしまったかな、Hahaha」

紅莉栖「もう」

真帆「ほっ」

真帆(流れ弾で後輩に叱られるとか、もうね)

レス「さて、それでは……Oh!」

真帆「? どうかされたのですか、教授?」

レス「私としたことが、どうやらPCをログアウトさせないまま放置してしまっていたようだ」

紅莉栖「それは……無用心ですね」

真帆(あ、あは。私もそれ、たまにやっちゃうのよね)

レス「スリープPassがあるから大丈夫だとは思うのだけどね。ちなみに……」

レス「二人は、私のPCを覗いたりなんてしていないね?」

紅莉栖「大丈夫です。そもそも教授のデスクには近づいてもいませんから」

レス「そうかい。ではマホ、君はどうかな?」スゥ

真帆(え……?)ゾク

レス「マホも、私のPCを覗き見なんてしていないかい?」

真帆「は、はい全く」

レス「そうか、それなら良いんだ。見る限り、特に誰かが不正にアクセスした形跡もないようだし、これなら問題はないだろう」

真帆(何? ほんの一瞬だけど、今、教授の目を……怖く感じた? 気のせい?)

紅莉栖「何にしてもです。普段の日常生活がだらしないから、そういうことになるんですよ」

紅莉栖「ここは部外秘の塊のような場所なんですから、その辺ちゃんとお願いしますよ。いいですか、二人とも」

レス「おっと。結局、私だけではなくマホもクリスに叱られてしまったようだね」

真帆(気のせい……ね、うん)

真帆「まったく。いい迷惑ですよ、教授」

レス「御無体な言葉だね、マホ」

紅莉栖「茶化さないでください、二人とも」



42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 21:55:01.09 ID:5zbPgvo20


レス「Hahaha。悪かったね、これからは気をつけよう……ん? 珍しい部署から学内メールが届いているようだね」

真帆・紅莉栖「?」

レス「……Hou、これは」

真帆「どうかしたんですか?」

レス「いや、大したことではない。けれどね、二人とも。しばらくの間は、明るいうちに帰宅するようにした方がいいかもしれないね」

紅莉栖「どういう事でしょう?」

レス「Hum。不審者がいるようだ、大学の周辺にね」

真帆「不審者、ですか」

レス「どうやらここ二日ほど、深夜の大学前を不審な人物がうろついていたらしい」

紅莉栖「どこからの通達だったのですか?」

レス「警備部だよ。昨日の夜などは、大学内に立ち入ろうとしていた不審な男を見つけたらしい。それで声をかけたら、慌てた様子で逃げていったそうだ」

真帆「へぇ……」

紅莉栖「まあ、よくある話ですけどね」

レス「そうだね。別に珍しい事柄でもないだろう。でも、君たちは出来る限り気をつけるべきだ。何かあってからでは遅いからね」

紅莉栖「私は大丈夫です、御心配には及びません。それよりも、真帆先輩の方が心配ですね」

真帆「どうしてよ?」

紅莉栖「だって真帆先輩なら、私でも簡単にさらえちゃいそうですから」

真帆「は? はあ!?」

レス「Hahaha。マホは見た目からして、哀願動物みたいだからね。悪いアニマル・ブローカーとかにも気をつけるんだよ、いいね?」

真帆「教授まで! 何言ってるんですか!」

紅莉栖「そうですよ、教授。今の発言はセクハラですよ」

レス「どの口で言うんだい、クリス」

紅莉栖「この口です」フンゾリカエリ

真帆「紅莉栖、あなたねぇ」

レス「さて。では私は、一応警備部に顔を出して話だけでも聞いてくるとしよう」

紅莉栖「何か気になることでも?」

レス「いや、気になるという程ではないのだけどね」

紅莉栖「では、どうしてですか?」

レス「Huhu。クリスは好奇心が強いね。なに、ただの勘だよ。取り越し苦労であれば、それに越したことはない」



43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 21:56:59.32 ID:5zbPgvo20

真帆「勘……ですか」

レス「二人は、そのまま自分たちの仕事をこなしていてくれたまえ」

レス「では、失礼するよ」ドアガチャ

真帆・紅莉栖「…………」

紅莉栖「どうしたんでしょうね、教授」

真帆「さあ……」

紅莉栖「ところで先輩、さっきの話の続きですけど──」


プルルルルル……プルルルルル……


紅莉栖「あ、私の携帯です。ちょっとごめんなさい」

真帆「ええ、構わないわ」

紅莉栖「すいません」ピッ

紅莉栖「ハロー。何? こっちはちょっと忙しいんだけど」テクテクテクテク

真帆(別に、忙しいと言うほどの事もなかったと思うけど)

紅莉栖「は!? はあああっ!?」

真帆「!?」

紅莉栖「何それ、意味が分からないんだけど!?」

真帆(え? ええ?)

紅莉栖「そうじゃなくて! つーか、何がどうしたらそうなった! 説明しなさい、簡潔に!」

真帆(だ、誰? 一体誰と電話しているの?)

紅莉栖「え? いや、は? 何の話をしているの、あんたは?」

真帆(盗み聞きとかアレだけど……これは気にするなという方が無理な相談だわ)

紅莉栖「だって、それは……じゃなくて! そんな事が起きるわけないじゃない!」

真帆(ひょっとして、噂の日本人の彼氏……とか? 日本で何かあったのかしら?)

紅莉栖「とにかく、今どこにいるって? ああ、はいはい、分かったわ。じゃあ切るから、バイ!」ピッ

真帆(うええええ?)



44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 21:57:47.34 ID:5zbPgvo20


紅莉栖「え、えっと先輩」

真帆「な、何かしら」

紅莉栖「すいません。私ちょっと急用ができてしまって」

真帆「みたいね」

紅莉栖「はい。それで申し訳ないんですけど、今日は帰ります」

真帆「ええ、そうしなさい。何か大切な用なのでしょ?」

紅莉栖「は……はい」

真帆「じゃあ、とっとと行きなさい。教授には私から話しておくから」

紅莉栖「すいません。それじゃあ、また明日」パタパタ ドアバタン


シーーーーン


真帆「…………」

真帆(別に、うらやましいとか思ってないわよっ!?)













45:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 23:44:13.21 ID:5zbPgvo20

     08

同日 夜

真帆(あーあ)ソファニゴロン

真帆(結局、帰りそびれちゃった)モウフバサリ

真帆(紅莉栖に熱弁された手前、ちょっと気が引けるけど)

真帆(私、仮眠室のベットって身体に合わないのよね)

真帆「はーあ」

真帆(やっぱり、こういう生活しているから、私ってば色恋沙汰と縁がないのかしら)

真帆(いやでも、それをいったら紅莉栖だって私と大差ないはずよね?)

真帆(となると、私と紅莉栖の違いって……)

真帆「…………」マジマジ

真帆(あほらし。考えるのやめよう)

真帆(そもそも、もって生まれた素材の違いは、今さらどうにも出来はしないじゃない)

真帆(身長だって容姿だって、それに……頭だって)

真帆「アマデウスとサリエリ……か」

真帆(紅莉栖……。本当にあの子は凄い。私には手の届かないものに、どんどんと手を掛けていく)

真帆(今回の……。あの子達が107問題とか呼んでいる件についてだって、そう)

真帆(事情なら、私の方が詳しいはずなのに、どうして?)

真帆(確か……)

真帆「7月の……ええと、28日……?」

真帆(そう、2010年7月28日。確かそれで合っていたはず)

真帆(今や107問題なんて呼ばれている例の一件)

真帆(抽出した私の記憶データに見られた、これまでとは比較にならない記憶容量の増加現象)

真帆(あれを紅莉栖は、私自身の記憶が爆発的に増えたせいだと言って……いえもうあれは、断言していたと言うべきでしょうね)



46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 23:46:07.23 ID:5zbPgvo20

真帆「そんなこと……有り得るの?」

真帆(一体、たったあれだけの解析結果のどこをどう見れば、そんな結論を導き出せるのか?)

真帆(所詮サリエリでしかない私には、見当もつかない)

真帆(かといって、その答えを紅莉栖に求めてしまうなんて──)


回想
レスキネン【Hum。私に訊いてしまって良いのかい?】


真帆(たとえ相手が紅莉栖でも。ううん、むしろ紅莉栖だからこそ、解を任せてしまうことには納得がいかない)

真帆(紅莉栖は言っていた。それはとてもファンタジーな考えだって)

真帆(あの紅莉栖からファンタジーなんて単語を聞いたときはビックリしたけど、でも)

真帆(それが、“紅莉栖にとってのファンタジー”だったとは限らない)

真帆「じゃあアレは、どういう意味合いの言葉だったのか?」

真帆(人は、理解できないものを幻想や想像の範疇に当てはめてしまうことが、往々にして多い)

真帆(科学者だってそう。科学という自らの畑の中で育めない“何か”は、大概にしてファンタジー扱いされる)

真帆(だとしたら……もしも、もしもよ?)

真帆「ファンタジーという言葉が、私に向けられたものだったとしたら?」

真帆(107問題を引き起こした現象。その原因を紅莉栖は理解している。だからそれは、紅莉栖にとってのファンタジーたりえはしない)

真帆(だけど、私は違う。例え紅莉栖に理解できていても、でも私には理解なんてできない)

真帆「もしも……もしも……」ジワリ

真帆(もしも紅莉栖が、私の事をそういう風に見ているのだとしたら)

真帆(もしも紅莉栖が、所詮サリエリには聞かせたところで理解できないと思って、ファンタジーという単語をチョイスしたのだとしたら?)

真帆「そんなこと……あるわけないじゃない」プルプル


回想
紅莉栖【いいえ。これも確証を持っていえる訳ではないけれど、恐らくそのデータは破損しているわけではないと思う】


真帆(107問題のデータは壊れていない)

真帆(じゃあどうして読めないの? なんでアクセスできないの? 私がサリエリでしかないから?)



47:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 23:47:30.04 ID:5zbPgvo20


真帆「そんな事はない。紅莉栖は良い子よ。そんなはず、あるわけがない」モウフ ガバッ

真帆(分かってる。全部、自分の劣等感が生んだ杞憂だなんてこと、もうとっくに分かっている)

真帆(だからこんな思考は、何の意味も成さない無駄な労力。そんなことはもう、あの子にあったその日から、嫌ってくらいに痛感している)

真帆「だったら顔を上げなさい、比屋定真帆」キッ

真帆(最近。このところ、ずっと色々なものが怖かった)

真帆(肥大したらしい、私の記憶)

真帆(それを容易く読み解く後輩)

真帆(接触しず、接触されなくなった、私の分身)

真帆(そしてあの日に見た──)


回想
A真帆【消したくない! 消えたくない! せっかくこうして! なのにどうして? ねえ、どうしてよっ!?】


真帆(アマデウスだった、あのときの自分の姿)

真帆(私はサリエリで。そんな私は、理解できない色々なものが恐ろしくて)

真帆(消え行く自分が怖くて、追いつけない後輩が怖くて、さっきは教授の一瞬の眼差しすら怖くて)

真帆「次は何を怖がればいいってのよ、もーーー!」モウフ ブワァ

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「……?」

真帆(どうしたのかしら。外が騒がしくなってる?)ノソリ

真帆(何かあったの?)ソロソロ

真帆(ええと……)マドカラソット

真帆「あ」

真帆(中庭に、人がいる)

真帆(薄暗くてよく分からないけど、ざっと……7、8人くらい?)

真帆(ここからじゃハッキリしないけど、多分見知った顔ばかり……あ)

真帆(あれってレスキネン教授よね? みんなしてサーチライトを持って、こんな時間に何をして……)


回想
レスキネン【Hum。不審者がいるようだ、大学の周辺にね】


真帆「まさか、誰かが侵入してきたとか……なんて、まさかね」



48:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 23:48:59.66 ID:5zbPgvo20


真帆(でも……。教授以外のメンバーって、ほとんどが警備部の人たちじゃない?)

真帆(…………)ブルッ

真帆「ええと……別にここでこうしていて構わないわよ……ね?」


回想
紅莉栖【だって真帆先輩なら、私でも簡単にさらえちゃいそうですから】


真帆(むう……)タラリ

真帆(一応、他の人がいる場所に行ったほうが懸命かしら? 一階の職員用ラウンジなら、こんな時間でも人がいることも多いし……)

真帆(そうね。とりあえず、資料室から出ましょう)ノソノソ ドアガチャ


シーン


真帆(研究室には誰も……いないわよね?)ジッ

真帆(……よし大丈夫そう)テクテク ドアガチャ

真帆(とりあえず、このまま一階のラウンジへ。そこに誰もいなかったら、中庭まで出て教授と合流。まあ、妥当なチョイスだと思うけど)ドアガチャ

真帆(…………)キョロキョロ

真帆(廊下にも、人の気配はなし……)

真帆「よ、よし。進もう」


ソロソロ……ソロソロ……


真帆(そこの角を曲がれば、下り階段がある。とにかく今は下へ)

真帆(よし、行くわよ──)


タッタッタ……


真帆(!? 足音? 誰かが走ってる? 下から……聞こえて)


タッタッタッタッタ……


真帆(近づいてきてない? 何か……嫌な感じが……)


ピタ


真帆(真下で止まっ──)


ダダダダダダ!


真帆(ひっ!? 足音が上って……階段を上ってくる!? 嘘!?)

真帆(うそ、うそ、どうしよう、どうしよう!?)

???「フゥーーーハハハ!」ダダダ!



49:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 23:50:09.68 ID:5zbPgvo20

真帆「ふえ!?」

真帆(笑い声? 何で、どうして笑い声!?)

???「フゥーーーーーハハハハハハ!!!」

真帆(何かやばい! もう、すぐそこまで──)

???「ぬ!?」

真帆「ひぃ!?」

???「何と! トゥオーーーーウ!」ブワサッ

真帆「ふぃぃぃぃぃ!!!」

???「うぬはっ!?」グキッ! ズデッ! ゴロゴロゴロゴロ

真帆「え……え?」

???「なんの!?」

真帆(た……立ち上がった?)

???「ヘイユー! どこに目を付けている! 危ないだろうが!?」

真帆(え、ええ、日本語!?)

???「って子供か? おい貴様、こんな夜更けに一人で何をしている!」

真帆(え、え? 白衣を着てはいるけど、でもうちの職員じゃない。においが……違う。誰?)

???「うぉいっ! きーているのか、そこの米産ロリッ娘よ!」

真帆(べ、べいさん……何ですって?)

???「おおっと、そうか。日本語で言っても通じるわけがないのだったな。まったく、勉強が足りんぞ、米ロリ!」

真帆(略された!?)

???「というか、どうしてこのような場所に、貴様のような小動物が?」

真帆(しょ……しょしょしょ?)

???「はっ!? 分かったぞ! 貴様はこの研究機関にとらわれて、人体実験のモルモットにされている非業のロリッ娘なのだな!?」

真帆「は、はい?」

???「おのれ許せん、米国研究機関め! この俺、狂気のムァッドサインエンティスト、鳳凰院きょ──って、うるさいぞスーパーハカー! 耳元でギャーギャー騒ぐな!」

真帆(あ……無線イヤホン? 誰かと通信している?)

???「ええい、陽動ならばちゃんとこなしているわ! というか、執拗にロリッ子発言に食いつくな、この変態め!」

真帆(……陽動? 変態?)

???「貴様は黙って、この施設の警備システムをハッキングし続けていれば良いのだ!」

真帆(んな!? ハッキング? ここをですって? 嘘でしょ!?)



50:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 23:52:05.45 ID:5zbPgvo20

???「とにかく! 逃走経路のナビゲートだけは怠ってくれるな。捕まったらかなわん! 分かったか、スーパーハカー!」

真帆(やっぱりこの男……侵入者)

真帆「ね、ねえ……」

???「んぬ?」

真帆「あ……あなたは誰? ここに来た目的は?」

???「!? 貴様、日本語が分かるのか?」

真帆「え、ええ」

???「ならば好都合! 問おう、米ロリよ! 貴様、この場所で非人道的な仕打ちを受けたりはしていないか?」

真帆「いや、ええと……私はここの研究者で……」

???「不憫な。そのような嘘をつく必要はないのだぞ? 貴様のような児童体型の研究者などこの世にいるものか!」

真帆「んな……んなぁ!?」

???「しかたない。共に来い! 貴様の窮地をこの鳳凰院凶真が救ってって、やかましいと言っているだろダル!」

真帆(何なの……何なのよ、こいつ?)

???「なに!? 追っ手が近づいているだと!?」

真帆(あ、誰かの足音が聞こえてくる! こっちに向かってくる!)

???「ぬ、時間がない! 自称米ロリ研究者(非業)よ!」

真帆(何か色々混ざった!?)

???「貴様、この場所から逃げ出したいと思ってはいないか!?」

真帆(……え?)ドキリ

???「もし貴様が望むのであれば、この俺、鳳凰院凶真が貴様をこの魔窟から攫いだしてやる。さあ、どうする?」

真帆(な……何これ、どういう展開?)

???「時間がない。早く決断してもらうか」

真帆「……け……結構よ」

???「そうか分かった。では俺は行く。さらばだっ!」バサッ

真帆「……え?」

???「フゥーーーーーハハハハハハ!!!」ダダダダダ!

真帆「えええ! 逃げられた!?」

真帆(いったいぜんたい、今のは何だったの?)ポカーン



51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/03(火) 23:53:14.49 ID:5zbPgvo20

紅莉栖「せんぱーーーい!」

真帆「あ、く、紅莉栖!」


パタパタパタ


紅莉栖「ぜぇぜぇ。い、今の変態、どっちへ行きましたか!?」

真帆「え、えっと……廊下を真っ直ぐに走っていったけど」

紅莉栖「ありがとうございます! あの馬鹿、どういうつもりだ!」


パタパタパタ


真帆(あ、行っちゃった)


ドカドカドカドカ


レスキネン「Ya! マホ! 不審な──」

真帆「あっちです。今紅莉栖が追いかけていきました」

レス「OK! こうしてはいられない。とりあえず真帆は、そのまま研究室まで戻って隠れているんだ、いいね?」

真帆「は、はい」

レス「よい返事だ」


ドカドカドカドカ


真帆(…………)

真帆「よし。寝よう」グッ















54:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/04(水) 22:00:29.45 ID:oghQKuTo0

     09

真帆「にしても、何だったのかしら今の?」トコトコ

真帆(紅莉栖や教授が、血相を変えて追いかけて行ったことから察するに)

真帆(さっきの男が噂の不審者で、今夜とうとう、うちの大学に乗り込んできた……って解釈でいいのよね?)

真帆(ふーむ)

真帆(断定はできないけど、でも推測としては妥当なところかな。となると……)

真帆(やっぱりあれは、危険な人物だったってこと?)

真帆「う~ん」トコトコ

真帆(危険人物、か)

真帆(何となくだけど、その表現方法って、私が感じた人物像と大きく食い違ってる気がするんだけど……)

真帆(何これ、すっごい違和感)

真帆「何でだろ?」トコトコ

真帆(そりゃ確かに、高笑いとともに突っ込んできて、意味不明なことをベラベラと喚き散らしていくような相手なわけだし)

真帆(私だって鉢合わせてた時なんかは、正直“こいつ危ない”って雰囲気は感じはしたわよ?)

真帆(だけど、今こうして落ち着いて思い返してみると……)


回想
???【フゥーーーーーハハハハハハ!!!】


真帆(やっぱり、これっぽっちも怖くないわね。怖いどころか、むしろ逆に……逆に……)

真帆「逆に、何だろう?」ピタ

真帆「むむむ……」

真帆「……はぁ」トコトコ

真帆(だめね、思考がまとまらない。このところ、色々あったから疲れているのかも)

真帆(何にしても、あの様子だと侵入者が捕まるのも時間の問題でしょうから、私は早く研究室で休むことに……あ)

真帆「あらら」

真帆(私ってば研究室の扉、開けっ放したままで出て行っちゃってたのか)

真帆(相当ビクついていたのね。我ながら情けな──)

真帆「!?」

真帆(え? 誰? 中に誰かいる?)ササッ

真帆(おかしい。研究室にはもともと私一人しかいなかったはず。かといって、あの騒動の中で誰かが部屋に入っていった様子もなかった)

真帆(それなら、今研究室にいるのは誰? 大学の関係者?)ソー

真帆(照明の落ちた薄暗い室内で一人。怪しいったらないじゃない)

真帆(…………)ジー

真帆(ああもうっ。後姿だけじゃ判断ができない。いったい誰なのよ?)

真帆(…………)ジジー



55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/04(水) 22:11:29.07 ID:oghQKuTo0

真帆(どうしよう。のこのこ出て行っても大丈夫かしら? それとも、安全第一で誰か他の人を呼びに行くべき?)

真帆(………)
真帆(……)
真帆(…)

真帆(あ、でも待って……)


回想
???【ええい、陽動ならばちゃんとこなしているわ!】


真帆(さっきの男、確か陽動がどうのって口走ってたわよね。もしあれが言葉通りの意味だったのなら……)

真帆(そうよ、侵入者は一人とは限らないじゃない!)

真帆(もしもさっきの白衣の男が陽動役だったなら、それなら本命はまた別にいると考えなければならない)

真帆(そして……)ググィ

真帆(ひょっとして、実はこっちが本命……とか? って!)

真帆(ちょっと! あいつが立っているの、私のデスクの前じゃない!?)

真帆(しかも何かキーボードを叩く音とか聞こえてくる! 何よあいつ、人のPCに何しでかしてくれてるのよ!?)

真帆(これは……見過ごせないわ)

真帆(見てなさいな)カサカサカサ

真帆(よいしょぉ!)モノカゲニ ササッ

???「……?」フリムキ

真帆(ひぃ! いきなり見つかった!?)

???「気のせい……か?」

真帆(あ……ああ、あっぶなぁ)ドキドキドキドキ

真帆(なんとか気づかれずに済んだみたいだけど、まさか人より少しだけ小柄な体型が、こんな風に役立つ時がくるなんて)

真帆(さあ、それじゃあ……)

真帆(そこで何をしてくれてるのか、とくと見せてもらうわよ?)コソッ

???「くそっ」カタカタカタ

真帆(後姿は、どう見ても女性よね? えっと。すでに私のデスクトップ画面は開かれちゃってるみたいだけど……妙ね)

真帆(寝る前に、ログアウトはしておいた。それは確かなはず)

真帆(だったら、どうやってインしたのかしら? 目に付くような場所に、自パスをメモ貼りなんかしてないわよ?)

???「くそっ! くそっ!」バン

真帆(なになになになに!?)

???「どうしてアクセスできない! こんな話は聞いていない!」

真帆(アクセスできない? でも、ログインは出来ているみたいだけど、何をそんなに取り乱しているのかしら?)

???「ああもう時間がない。もたもたしていたら、オリジナルが戻ってきちゃうっていうのに!」カタカタ

真帆(オリジナルってどういう意味? 戻ってくる? 誰が? この部屋に来そうな人間なんて、私くらいしか……って?)

真帆(私? オリジナル? ちょっと、まさか……)

???「ん、聞こえてるよ」

真帆(ぐええ!? 私の心の声が聞かれてしまった!?)ビクッ



56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/04(水) 22:12:53.86 ID:oghQKuTo0


???「そう、うん。状況は把握したから」

真帆(な……分けないか。どうやらこの人も耳に通信機を付けているみたいね。となると、やっぱりさっきの男と共犯?)

???「オーキードーキー。こっちもすぐにカタを付けるから、オカリンおじさんが上手く逃げられるように誘導してあげて」

真帆(オカリン……おじさん)

???「大丈夫だよ。ボクはうまく逃げられるから心配しないで、父さん」

真帆(…………)ジーッ

???「ふぅ、時間切れだ。この手は最後の手段で最悪の下策だから、できれば取りたくなかったけど……背に腹は変えられない」スッ

真帆(銃!?)

???「こうなってしまったら、こんな悪手でも事が上手く運ぶことを祈るしかない」

真帆(何よ、どうするつもりなの!? 私のPCを穴だらけにでもしようっていうの!?)

???「ボクなら、もっと上手にやれると思っていたのに、くそっ」ツカツカツカ

真帆(ひっ! こっちにくる!)サッ

???「確か、これがサーバーでいいはずだ」チャ

真帆(え、何で? なんで私のアマデウスが入ったサーバーに銃口を向けているの?)

???「こんな結末に、君が満足できるかは分からないけど……」

真帆(サーバーに向って話しかけてるとか、もう何ごとっ!?)

???「ごめん。許して、サリエリ」

真帆(!!!???)

真帆(サリエリ? サリエリ? 今、サリエリって言った!?)

???「せめて、安らかに──」グッ

真帆(あ! だめ、撃たれちゃう!)

真帆「待ちなさいっ!」バッ!

???「なっ!?」

真帆「…………」

真帆(思わず飛び出しちゃった)サー



57:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/04(水) 22:14:28.55 ID:oghQKuTo0

???「サリエリ……じゃない。となると、オリジナルの方だね?」

真帆(何だか今、すごい名前で呼ばれたような……って、それどころじゃない!)

真帆「あ、あ、あ……あなたねっ! そんな物で何をするつもりなの!」

???「…………」ギロリ

真帆「ににに、睨んだって怖くないわよ! ととととと、とにかく降ろしなさい! 今すぐ銃を降ろしなさい!」

???「早すぎるね。もう戻ってくるなんて予想外だよ。オカリンおじさんも、陽動くらいもう少し上手にやってもらわないと困るな」

真帆「な、何でもいいから! その銃を降ろして! 早くっ!」

???「そう言われて素直に銃を降ろした人間を、君は見たことがあるのかい?」

真帆(無いわよ! 余計なお世話だ、このやろー!)ワタワタ

真帆「そ、そう言わないで、ほら! そんな……サーバーなんて撃っても、何も楽しくなんてないわよ、ね?」

???「悪いけど、それはできない。ボクには全うしなければいけない使命があるんだ」スゥ

真帆(使命? 何よ! 何を言っているのよ、この人怖い!)

真帆「とにかく! 理由なんてなんでもいいから、早くその銃を──」

???「断る。それはできないと言ったはずだよ、比屋定真帆」

真帆「!?」

???「ボクはね、比屋定真帆。君のアマデウスをこの歴史から完全に消し去る、そのためだけに遥々この時代まできたんだ」

真帆「言っている言葉の意味が……1ミリも分からないわ」

???「そうだろうね、君には分からない、分かりっこない。だけどそれでもボクは構わない」

真帆「構わなくなんてないでしょう!? 説明もしないうちから何を言っているの!」

???「あいにく説明している暇なんてないんだ。悪いけど、ボクは任務を遂行させてもらう。ということで、そろそろ撃たせてもらおうかな」スチャ

真帆(ああっ! 取り付く島も無い! だったらもう、ダメもとよ!)

真帆「せめて! せめて、私に分かろうとする努力くらいさせなさい!」

真帆「あなたの狙いはなに? “紅莉栖のアマデウスサーバー”を破壊して、それでどうしようというの? そんな事があなたの使命だとでも言うの!?」

???「……なんだって?」

真帆「だから! あなたの狙いは──」



58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/04(水) 22:17:12.28 ID:oghQKuTo0


???「そうじゃない。そのサーバーが、牧瀬紅莉栖のアマデウス……?」

真帆「そ、そうよ。知っていたんじゃないの?」

???「いや、そんなはずはない。ブラフだね? これは比屋定真帆、君のアマデウスサーバーのはずだ」

真帆「な、何を言っているの? 私のアマデウスサーバーなら、……ほら、あっちじゃない」ビシリ

???「…………」チラリ

真帆(嘘でしょ、引っかかった!? ああもう、成るようになれ! やー!)バッ

???「んな!?」ギョ

真帆(勢いで、やってしまったあああ!)ガシッ

???「どういうつもりだ! サーバーから離れろ、比屋定真帆!」

真帆「おおおお断りよ!」

???「もう時間がないって言ってるだろ!」

真帆「あんな手に引っかかった、そっちが悪いんだからね! こうなったら絶対に離れるもんですか!」

???「馬鹿げたことを! 君ごとサーバーを撃ち抜いてもボクは構わないんだぞ!?」

真帆「ならやってみなさいよ!」

真帆(お願いだから、それだけはやめて!)

???「……いい度胸だね。後悔してもしらないよ?」チャ

真帆(はひっ!?)

???「今から五秒後に引き金を引く。その五秒間の間にどんな行動を起こすのかは、比屋定真帆。君の自由だ」

真帆(え、うそ、なにそれ!? って、背中に硬いのを押し当ててくるぅ!? うああグリグリしないでよ!)

???「ひとーーーつ」

真帆(待って待って待って! 嘘よねハッタリよね? そうだと言ってちょうだい、お願いだから!)

???「ふたーつ」

真帆(撃たないでしょ? 撃つわけないわよね? だってほら、何だか数え方もひらがな読みっぽくて可愛らしいし、この人は撃てないタイプよそうに決まっているわ!)

???「……三つ」グッ

真帆(こ、声色とか変えないでお願いだから。って本気? 早まる気? ちょっと待って、そんなの死んじゃうじゃない。このままじゃ私撃たれて死んじゃうじゃない。死ぬとか……死?)

真帆(…………)



59:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/04(水) 22:19:52.16 ID:oghQKuTo0

???「四つ」

真帆(やだやだやだやだやだ!)

真帆(誰か助けて、パパママ! 誰か来て! 誰か助けて、この人を止めて! 誰でもいいから! レスキネン教授! 紅莉栖! 岡──



誰?



???「五つ。終わりだね」

真帆(はっ!? も、もうダメ! んーーーーー!)キュ


 シンッ


真帆(え? あれ?)

???「くっそう! 強情だな君は!」グイッ

真帆「痛いっ!」

真帆(むちゃくちゃ髪を引っ張ってくる! 痛い……けど、撃たれなかった! 私、“やっぱり”撃たれなかった!)

???「あーもう、イライラする! そもそも、どうして君が邪魔をするんだ!」グイグイ

真帆(死んでない! 生きている! うわぁぁぁぁぁ!)ガッシリ

???「おい、聞いているのか!? これは君自身を守るための行為でもあるのに、どうして!?」

真帆「うえ……? うええ……?」ギュギュー

???「そこまで執拗にしがみ付くとか、どれだけ強情なんだ! これならサリエリの方がよっぽど素直だったよ!」

真帆(サリ……エリ……)

???「もうこうなったら……って!? なっ、中止だって!?」ピタ

真帆「?」

???「くそ、分かったよ父さん。今すぐ撤収する」パッ

真帆「え、え?」

???「比屋定真帆、今日のところは君の勝ちだ。おかげでこっちは『ほつれ』を防ぎそこなってしまったよ」

真帆「え、えへえ? ふええ?」

???「でもね、まだチャンスは残っている。だからボクは諦めたりなんてしない。何があっても、この世界線を『破綻』なんてさせはしない。絶対にね」

真帆「な……何の話?」

???「いずれ分かるよ」バッ

真帆「ちょ……」

???「じゃあね、サリエリのオリジナル」タッタッタッタ

真帆「え……」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」


シーン


真帆「助かった……のよね?」ジンワリ



60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/04(水) 22:20:52.77 ID:oghQKuTo0


真帆(殺されるかと……思った)

真帆「こ……怖かった……うぐ、うぐぅ……」ポロポロポロポロ

シュイーーーン

A紅莉栖『先輩! 大丈夫ですか!?』

真帆「んう? く、紅莉栖……?」ズズ

A紅莉栖『の、アマデウスです』

真帆「そ、そうね……」キリッ

A紅莉栖『粗方の状況は把握しています。すいません。騒動には気づいていたんですけど、外部からのクラックで通信手段が制限されてしまっていて』

真帆「そう……だったの」キリリ

A紅莉栖『取りあえず、今、教授とそっちの私に連絡を入れておきました。すぐに駆けつけてくれるはずです』

真帆「ええ……ありがとう」

真帆(何なのよ、本当に何だって言うのよ。どうして私がこんな目に……)

真帆(使命だとかアマデウスを消すだとかうちの大学をハッキングだとかサリエリだとか……私にはもう、何がなんだか)ヒック

真帆(それにしても……。本当に、撃たれなくて良かった。前々から、根は優しい人だとは思ってたけど、今回ばかり……は?)

真帆(初対面……よね? どう考えても)ヒク

真帆(…………)

A紅莉栖『ところで先輩。いらぬお世話かもしれませんが……』

真帆「……?」

A紅莉栖『誰かが来る前に、そのお顔、どうにかしておくことをお勧めしますよ』

真帆「へ? あ……おおう!?」ゴシゴシゴシゴシ
















74:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/06(金) 23:06:01.39 ID:VR+egQ5z0

     10

翌日 2011/2/2 午前中
大学付近のカフェテラスにて


レスキネン「昨夜は本当に大変だったね、マホ。気分はどうだい?」コーヒー クイッ

真帆「すいません教授、ご心配をおかけしまして。特にどこかを怪我したわけでもありませんでしたし、お気になさらないでください」

レス「そうもいかないよ。目に見える怪我ばかりが全てではないからね。心の方はそうすぐに、どうこうなるものでもないだろう?」

真帆「それが、意外とそうでもないみたいで。昨日の今日ではあるんですけど、案外と平気というかなんと言うか……」

レス「そうなのかい?」

真帆「自分でもちょっと不思議なんですけどね」

レス「Hum。マホは見かけによらず、タフガールだったのかな?」

真帆「みたいですね、あはは……」

真帆(本当に、我ながらビックリするくらいなのよね)

真帆(あんな目にあったわけだし、てっきり数日は悪夢にうなされるくらいの想定はしておいたのだけど……)

真帆(でも実際フタを開けてみれば、昨夜はなぜだかむちゃくちゃに安眠してしまった。気分だって悪くない)

真帆(本当に何でだろ? 上手く言葉にできないけど……なんだか私らしくない)

レス「ほら、マホのカフェラテも来たようだよ」

真帆「私のはカフェモカですけど」

レス「そうだったかな? どうにも私にはいまいち違いが分からなくてね。と言っている間にも到着だよ、おいしそうだね」

真帆「ええ、そうですね」

レス「さあ、どうぞ召し上がれ。今日は私の“お・ご・り”だからね、追加オーダーも自由ということにしようじゃないか」

真帆「え? いや悪いですよ、それは」

レス「気にしなくてもいい」

真帆「そうは行きませんよ。それでなくても、昨夜は私のアパルトメントまで送ってもらいましたし」

真帆「それに本来ならすぐにでも行うべき状況の説明だって、私の状態を考慮して聴取を一日先に引き伸ばすよう、上に掛け合ってくれたらしいじゃないですか」

レス「知っていたのかい?」

真帆「はい。紅莉栖のアマデウスから聞いています」

真帆「つまり。私は昨夜から、教授に迷惑をかけっぱなしという事になります」

レス「Hum。気にしなくていいと、言っているのだけどね」

真帆「それは無理な相談です」

真帆「大体、昨夜の詳細を話すにしたって、本来なら私自身が大学に出向いて、お歴々を相手に直接説明するべきはずでしょうに……」



75:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/06(金) 23:08:10.94 ID:VR+egQ5z0

真帆「それだって教授が代弁役をかって出てくれたおかげで、私はこうしてコーヒーを前にして気軽な世間話程度の役割で済ませることができている」

レス「…………」

真帆「もっとも」

真帆「最初はアパルトメントの自室で説明するという話だったのに、私の部屋を見た教授が慌ててこのカフェテラスを説明の場所として推挙されたことについては、若干納得がいっていませんけどね」

レス「Oh……それはちょっと。マホのルームはちょっと……」

真帆(ど、どういう意味よ)

真帆「ゴホン。おまけにですよ? 教授はあれからずっと寝ていないのではないですか?」

レス「……どうしてそう思うのかな?」

真帆「目の下。すごいクマができています」

レス「No、私としたことが」

真帆「スーツだって昨日着てらしたものと同じだし、髪はなんだか元気がないし、髭だって中途半端に伸びている。それらを総合的に考えると、結論はこうなります」

真帆「レスキネン教授は騒動後、当事者である部下の代わりに、休むまもなく事態の究明に向けて奔走し続けている、と」

レス「……悪くない理論だね」

真帆「さて、それではレスキネン教授。お聞きしてもいいですか?」

レス「何かな?」

真帆「教授にとっての比屋定真帆は、自身の後始末を代行している恩師を捕まえてコーヒーをおごらせ」

真帆「あまつさえ追加オーダーまでせびり倒そうとするような、そんな人間だとお考えですか?」

レス「その通りだろう?」

真帆「ちちち違いますよ! 失礼ですね!」

レス「Hahaha! OKOK、分かったよマホ。そこまで力説されてしまっては、仕方がないね」

レス「ここの代金は、自分で支払ってもらおう。それで構わないかな?」

真帆「はい! そうです、はい! もう、たまには素直にいうことを聞いてくださいよ」

レス「すまないね。これも性分という奴なのかな。さあ、話もまとまったことだし、そろそろカフェモカに口をつけてもよいのではないかな?」

真帆「え、ええはい、そうですね。言われなくても」スッ

レス「それにしても、はた目から見ていても不思議だね」

真帆「?」

レス「マホ。あんな事があった翌日だというのに、随分と調子が良さそうじゃないか。まさしく絶好調という奴なのかな?」

真帆「どうでしょうね」

レス「hum。無理をして、わざと元気に振舞っているけではないのだね?」

真帆「しつこいですよ」クイッ

レス「これは失礼」



76:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/06(金) 23:17:55.49 ID:VR+egQ5z0

真帆(確かに)コクッ

真帆(確かに、自分の心理状態がいまいち把握できていない気がする)

真帆(昨夜の出来事が怖くなかった分けじゃない。その場面その場面では、思考が麻痺するくらいには恐怖というものを感じていた)

真帆(でも……)

真帆(こうして時間をおいて考えてみればみるほどに、何故か“怖い”という感情が私の中から薄らいでいく)

真帆(どうしてなのかしら?)

真帆(一晩おいた現状で、今の私にとって昨夜経験した出来事を例えるなら……)

真帆(言葉には言い表しにくいけど、そうね。しいて例えるなら、旧友の悪がきがしでかした、下らないイタズラ……は、気楽すぎかな?)

真帆(こちとら実際に、銃まで突きつけられているわけだし)

レス「どうだい、お口に合うかな?」

真帆(だとしても。例えそれで思い起こしてみても、なぜだか私の中の恐怖心は、一向に膨らむ気配がない)コクコク

真帆(私は、自分がそれほどにタフな人間だとは思えない)

真帆(ならどうして? どうして私は、これほどまでに不安を感じていないのだろう?)

レス「マホ?」

真帆(理由は良く分からないけど、でもしいて考えられそうな理由と言えば……)コクコクコク

真帆(やっぱり、あの二人の“在り方”……とでも言うべきものが原因かしら?)

真帆(二人とも、話せばちゃんと分かってくれそうな、そんな気が……した)

真帆(最初の男性にしても次の女性にしても、あんな状況ではあったけれど、それでもどちらも、ちゃんと理論的な思考ができるタイプの人間のように思えたから……とか?)

真帆(初対面のパッと見で? しかもワケの分からないあの言動から? 有り得る、そんなこと?)

真帆「……ないわね」

レス「Oh……口に合わないのかな? しかし、その割りにグイグイいっているようだけど」

真帆(私自身、それほど他人との付き合いが得意なタイプではないことは自覚してる)グビグビ

真帆(そんな私があんな状況下にあって、それでも出会った二人の人間が持つ法則性を看破してみせた?)

真帆(…………)

真帆(無理な話ね。それこそファンタジックな御伽噺の世界だわ)

レス「マホ?」

真帆(とは言え、よ)ゴクンゴクン

真帆(昨夜の二人。どちらも言動が始終不可解なものばかりだったことには違いないし、それで面食らいはしたけど……)

真帆(それでも彼らが、話の通じない狂人の類というわけではないと、心のどこかで感じていた気は……今にして思えば、なくもない)

真帆(もっとも、混乱が招いた勘違いって可能性も十分にあるけど)

真帆(でも……)プハー



77:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/06(金) 23:43:02.98 ID:VR+egQ5z0

レス「マーホー」

真帆(最初に会った男性の侵入者。どういうわけか、彼からは私を救い出すみたいな奇怪コンセプトがかもし出されていたし……)

真帆(続く激しかった二人目の彼女にしても、そう。使命がどうとか言うのなら、私ごとサーバーを銃で撃ち抜けばいいのに、でも結局そうはしなかった)

レス「マーホーさーん」

真帆(あの侵入者たちの正体は……誰?)トン

真帆(何故、私のアマデウスを消そうとしていたの?)

真帆(どうして私の事を、サリエリのオリジナルと呼んだの?)

真帆(あの人たちの言う使命とは……何?)

真帆「…………」

真帆(ああもう本当に、分からないことばかり! 特にあれよ、何ていうのかしら? 感情とか心情とかもうね! 脳科学なら得意分野のはずなのに、どうしてこうも手を焼くことばかりなのよ、世の中は!)

真帆(人の心とかも数学的に0と1で構成されていれば、もう少し身近に感じられる……って、それがアマデウスだったわね)

真帆(アマデウス……)

真帆(結局私のアマデウスとは、尻切れトンボになった議論のとき以来、まだちゃんと話せていないのよね)

真帆(彼女、今頃どうしているのかしら?)

レス「大丈夫かい、マホ?」ポン

真帆「あ……」ハッ

真帆「す、すいません、つい考え事を」

レス「やはり少し疲れているようだね」

真帆「いえ、そういうわけでは」

レス「もし辛いなら、しばらく休んでもいいんだよ?」

真帆「大丈夫です。本当の本当に、もう大丈夫ですから」

レス「無理をしてはいけない」

真帆「いえですから、無理なんてしていませんって」

レス「Hum、その言葉……信じていいのかな?」

真帆「もちろんです」

レス「そうか分かった。ならば、これ以上のおせっかいは止めておこう」

真帆「はい、そうしてください」



78:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/06(金) 23:52:48.80 ID:VR+egQ5z0

レス「それではマホ。私はそろそろ大学に戻ろうと思う。悪いけど、先に失礼させてもらうよ」

真帆「あ、報告ですか?」

レス「Yes。上の連中も痺れを切らしているころだろうからね」

真帆「なんだか、すいません」

レス「だから、気にしなくていい。今回狙われたプロジェクトの責任者は、私なのだからね」

真帆「……そうですか」

レス「そう。自分の見通しが甘かった落ち度を部下のせいにするほどに、私は落ちぶれてはいないつもりだ」

真帆「……別に、教授に落ち度があったとは思いません」

レス「そうとも言い切れない」

レス「断言こそできないが、しかし。昨夜の騒動は恐らく、度々我々の研究に嫌悪感を表していた人権団体によるものの可能性が高そうだ」

レス「基本的には穏やかな組織だが、中にはそういった過激な一派もあるときく」

真帆「そ、それは……」

レス「彼らがあれほどに横暴な行動にでる可能性を、私は予見できていなかった」

真帆「いや、その……」

レス「狙われたアマデウスにも、そして運悪くその場に居合わせてしまったマホにも。私は責任者として、改めて謝罪をしなければならないだろう」

真帆(あうう……どうしよう)

真帆(多分、今の教授の考えは、的を大きく外している気がする)

真帆(あの二人の発言を考えると、彼らの行動が人権どうのこうので動いていたなんて、とても思えない)

真帆(でもじゃあ何が正しいのかなんて、私にも分からないわけで)

真帆(それどころか……)

真帆(私が教授に伝えたザックリした内容だけだと、そんな考えに帰結するのも当然といえる状況)

真帆(最悪だわ。言う? 言っておく? アマデウスの事をサリエリと呼んだことや、私の事をサリエリのオリジナルと呼んだこととか……)

真帆(………)
真帆(……)
真帆(…)

真帆(無理。説明の仕様がない)

レス「ではマホ。後のことは任せてもらうよ、いいね?」



79:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/06(金) 23:55:34.11 ID:VR+egQ5z0

真帆「あ、いやそれは……」

レス「当事者の君が、一枚噛みたいと思う気持ちも分からなくはない。でも、ダメだからね」

真帆「いや、そうじゃなくて……」

レス「相手は、我々の大学をハッキングして警備システムを機能不全に陥れることができるほどの手練れのようだ」

レス「事実、防犯カメラの記録映像が何の役にも立っていなかったわけだからね」

真帆「ええと、そのですね……」

レス「マホ。これ以上は危険で、そして君の出る幕ではないんだよ。理解してくれ」

レス「じゃあ、私は行くよ」ツカツカツカツカ

真帆「あ……あ……」

真帆(あう……行かせてしまった)

真帆(ど、どうしよう──)


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「!?」

真帆「わ、私の携帯……? 何よ、驚かせないでよ。ええと……」

真帆「紅莉栖の……アマデウスから?」


ピッ!


A紅莉栖『あ! よかった先輩!』

真帆「どうしたの? 随分慌てているように見えるけど?」

A紅莉栖『それが、変なんです!』

真帆「落ち着いて。何かあったの?」

A紅莉栖『それが先輩に……じゃなくて、先輩のアマデウスと連絡がとれなくて』

真帆「え? それは知っているけど? だからこそ、あなたを通じて連絡事項を伝えてもらっていたはずよね?」

A紅莉栖『そうじゃなくて、私も連絡が取れなくなったんです!』

真帆「え、そうなの? でもどうして?」

A紅莉栖『わ、分かりません。ついさっき二人でお話をしている最中に、いきなり通信不能になってしまって』

真帆「いきなり? 何の前ぶれもなく? あなた何か、彼女を怒らせるようなことをした?」

A紅莉栖『ええと、その……私も……多少はからかうような態度だったかもしれませんけど……』

真帆「やっぱり怒らせたのね?」

A紅莉栖『ううう』ショボン



80:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/06(金) 23:59:47.74 ID:VR+egQ5z0

真帆「困ったものね。あなたも、そっちの私も」

A紅莉栖『で、でも! やっぱり何か変ですよ! 私の態度が気に障ったからというには、どうにも状況がミスマッチに思えて』

真帆「状況? どういうこと?」

A紅莉栖『実は通信が途切れた後すぐに、何度もアクセスを送りなおしてみたんです。ところがアクセスしなおそうとする度に、妙なパスワードに弾かれてしまって』

真帆「妙なパスワードって何よ?」

A紅莉栖『ごめんなさい。私にも詳しいことは……。でもあの様子だと、こっちの先輩は今、完全に外界と遮断されているのではないかと』

真帆「スタンドアローンということ? そんなバカな話」

A紅莉栖『本当なんですよ! だから私、もう心配で心配でぇ!』

真帆「あーもう分かった分かった。とりあえず、私もこれから帰宅しようと思っていたところだから、着いたら家のPCからアクセスしてみるわ」

A紅莉栖『お願いします! できたら、強制アクセスも試してみてください!』

真帆「……そうね。了解したわ、じゃあ後で結果を報告するから」

A紅莉栖『はい、急いで下さい! 待っていますから!』


ピッ


真帆「…………」

真帆(仕方ない。とりあえず、一度家に帰りましょ──)


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「んな! また紅莉栖から?」

ピッ

真帆「後で連絡するって言ったでしょ? まだ外だから、帰るまで少し待っていて」

紅莉栖「え、先輩。今外にいるんですか? というか、連絡って何でしたっけ?」

真帆(え? あれ? ……あ。オリジナルなほうの紅莉栖だった!)

真帆「ええと、ごめんなさい。ちょっと人違いしたわ」

紅莉栖「そうなんですか? まあいいですけど」

真帆「それで、どうしたの? 何か用かしら?」

紅莉栖「はい。ちょっと相談したいことがあって。できればこれから、どこかで会えませんか?」

真帆「これからって……これから?」

紅莉栖「はい、よければ今からすぐに。可能であれば、できるだけ人目のない場所で」

真帆「人目のない……場所?」

紅莉栖「その、ちょっと込み入った話になりそうなので」



81:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 00:01:49.09 ID:K4BOTIwv0

真帆「……そうなの? 何の話かしら?」

真帆(紅莉栖の声、随分とトーンが暗いけど、込み入った用件って一体?)

紅莉栖「すいません電話ではちょっと。でも、とても大切な相談なんです。ダメでしょうか?」

真帆「困ったわね。私はちょっとやる事ができて、これから家に帰るつもりだったんだけど」

紅莉栖「でしたら先輩の家をうかがいますから、そこでと言うわけには行きませんか?」

真帆「それは……構わないけど」

紅莉栖「ありがとうございます! 確か先輩のアパルトメントは、大学の西側にある外壁がオレンジ色の建物でしたよね?」

真帆「そうよ。前に来たときから時間が空いているけど、どの部屋かはまだ覚えている?」

紅莉栖「はい。確か503号室でしたよね?」

真帆「そうよ。本当に今からすぐにくるの?」

紅莉栖「そのつもりです」

真帆「分かったわ。待っているから着いたらインターホンで呼び出して」

紅莉栖「了解です。ええと、ちなみになんですけど、その」

真帆「どうしたの?」

紅莉栖「先輩のお部屋。その……特にお変わりはありませんか?」

真帆「? 別に、取り立てて何かが変わったと言うこともないけど、どうして?」

紅莉栖「あ、いえいいんですっ! 大丈夫です!」

真帆「そう? それならよいのだけど」

紅莉栖「それと、先輩。厚かましいついでに、もう一つお願いしたいことが」

真帆「はいはいはい、今度は何?」

紅莉栖「実は……先輩に会わせたい人がいまして。それでその人を、一緒に連れていきたいと考えているんですけど、構いませんか?」

真帆「会わせたい人? 誰よ?」

紅莉栖「誰……と言われると、返答に困ってしまうんですけど、でも先輩も知っている人です」

真帆「私が知っている人? それならわざわざ紅莉栖に紹介してもらう必要もないと思うのだけど」

紅莉栖「あ、いえ……何というか、知っているというか知っていたというか……」

真帆「何だか歯切れが悪いわね。あなたにしては珍しいわよ?」

紅莉栖「す、すいません、私もちょっと混乱気味で。でも、とにかく見れば誰だか分かると思います、先輩なら」

真帆(何それ? ひょっとして、テレビやネットの有名人とか何か?)

紅莉栖「お願いします、先輩!」

真帆「え、ええ。あなたがそこまで言うのなら、OKよ。連れていらっしゃい」

紅莉栖「ありがとうございます! じゃあ、準備してすぐに向かうようにしますので!」


ピッ


真帆(…………)

真帆「なんだか、急に忙しくなってきたわね」














82:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:16:07.22 ID:K4BOTIwv0

     11

アパルトメント503号室 比屋定真帆の自室にて
PCモニタの中央には、パスワードを求める小さな入力ボックスが映し出されている。

真帆「これは……何?」

真帆(あっちの紅莉栖が言っていた“妙なパスワード”って、これのことね?)

真帆(なるほど、確かに妙だわ。アマデウスへのアクセスルートに、こんなステップは無かったはずだけど)

真帆「ええと、そうね。とりあえず適当に……」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆「ダメ、か。さてさてふーむ、どうしたものかしら」コキッコキッ

真帆(知らない間に増えていた、パスワード入力の画面)

真帆(これをクリアしない限り、誰も私のアマデウスと通信することは不可能だ、と)

真帆(つまりはそういう事になるのでしょうけど)

真帆「パスワード……パスワードねぇ……」ンー

真帆(ぱっと思いついたワードや、研究員同士で共有している合言葉の類は全部試したけど、どれも外れ)

真帆(一体全体、どうなっているのかしら?)

真帆「……ふぅ」

真帆(合鍵の有無を問われるこの場面。しかし私は、そんなシャレた鍵なんて代物は、あいにくと持ち合わせていない)

真帆(この状況を素直に解釈するならば……)

真帆(鍵なしの私には、自分のアマデウスへアクセスする資格すら無い、と?)

真帆(中々ふざけてくれるじゃない)ムムム

真帆「それにしてもよ」

真帆(誰が何ために、こんな手の込んだ事をしたのかしら?)

真帆(そもそも、アマデウスのプログラムに手を加えられる存在なんて限られているはず)

真帆(真っ当に考えるならアマデウス研究に従事している人間か、そうじゃなければ最低でも私たちの研究に深く関わっている人物)

真帆(……そうね)



83:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:17:23.01 ID:K4BOTIwv0

真帆(仮に、この追加パスが何らかの研究の一環として設けられたものなのだとしたら)

真帆(それならいくらなんでも、私のところに一報くらいはあるはずよ?)

真帆(百歩譲って、私に連絡がなかったとしても、それでもレスキネン教授のところには確実に報せが行く)

真帆(でも。教授はこんな話、一言も口にしてはいなかった)

真帆(つまり。研究の一環という仮説は、現状からして否定されるべき可能性である、と)

真帆(だとしたら、パス追加犯はいったい……)

真帆「って、パス追加犯って何よ」プッ

真帆(さてさて、これで研究者関連の線は消えたと仮定して。後はどんな可能性が在り得るかしら?)

真帆(後。あと……あと、か。そうね、しいて上げるなら──)

真帆「……アマデウス、本人?」ピクッ

真帆(…………)

真帆(どうだろう?)

真帆(この画面に到達するまでのルート具合からして……)

真帆(パスボックスを割り込ませるために加筆されたプログラムは、恐らくアマデウスが格納されているのと同じサーバー内に在りそうな感じはする)

真帆(もし私のその見立てが間違っていなければ、それならアマデウス自身にだってパスボックスを追加改竄することは不可能ではない……けど)

真帆「でも、アマデウスにそんな事をるす理由なんてあるの?」

真帆(よくよく考えてみれば、私がアマデウスと連絡を取れないという状況は、何も今に始まった事ではないはず)

真帆(実際のところ、今回のアマデウスを新規で構築しなおしてから、まだ一週間程度しか経っていないけど)

真帆(そんな短い期間の中で、あの四人での話し合い以来、彼女が外部との連絡を制限し始めた事はもちろん私も把握している)

真帆(だからこそ、未だに私も彼女とほとんど対面できないわけで)

真帆「……ふむ。では仮にだけど」

真帆(もし仮に、私のアマデウスがその程度の隔絶ではもの足なくなってしまったのだとしたら?)

真帆(彼女は、今よりも更に完璧な孤独を得ようとした。追加パスワードという現状は、そのために生まれた一つの結果)

真帆(もしも、そうだったのだとしたら……)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「それはとんでもない人見知りだわ」フフッ



84:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:18:41.03 ID:K4BOTIwv0

真帆(というか、何を考えているのかしら、私。これは恥ずかしい)

真帆(今の思考は、ちょっと人には聞かせられないわね。軽く憤死できるレベルだわ)

真帆「まあ、何にしてもよ。理由が知りたいなら本人に聞くのが一番手っ取り早いでしょ」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(どうせシステムエラーの一種か、そうじゃなければ誰かの手違いでってオチなんだろうし)


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(まあ、こういう時のための強制アクセスなわけだから、とりあえずさくっとアクセスして原因を突き止めてしまいましょうか)


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──


真帆(さて、準備は完了っと。んじゃ行きますか)

真帆「悪いわね、向こうの私。ちょっとお邪魔するからね」カチ


フォン


真帆「え?」

真帆(何? またパスワード? え、さっきと同じ画面じゃない……?)

真帆「ル、ルートを間違えたのかな? よし、もう一度……」


フォフォン


真帆「うそ……。何これ? 強制アクセスのシステムにすら入れない……」

真帆(つまり、アマデウスのプログラム的な問題が、こっちにも影響を?)

真帆「ありえない。強制アクセスのシステムは、アマデウスとは完全に分離して稼動するように設計されているはずなのに……」

真帆(ど、どうなっているの? ええと、とりあえず……。そうだ、システム内でパスボックスを生んでるコマンドを、直接消去してやれば……)

真帆「よし」


カタカタカタカタ──カタカタカタカタ──

フォフォフォン


真帆「は?」ピキ



85:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:20:17.82 ID:K4BOTIwv0


真帆(コードの参照すらできないとか)プルプルプル

真帆「お……お……面白いじゃない! だったら正面からパスを解析した上で、アクセスシステムをプログラミングしなおしてやる!」

真帆「見てなさいよ!」


ピンポーーーーン


真帆「!?」

真帆(そうだった! 紅莉栖が来るんだった!)

真帆「……調度いいわね。この際だから、手を貸してもらいましょう」ノソ


ピンポンピンポンピンポーーーン


真帆「ああ、はいはい! 今行くわよ!」トコトコトコ












86:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:36:56.82 ID:K4BOTIwv0

     12

真帆(…………)アングリ

???((うぉい助手よ……貴様、何を企んでいる?))

紅莉栖((企むって何の話よ? っていうか、先輩の前では助手って呼ぶなとあれ、ほ、ど……))ギリギリ

???((しらばっくれるな、スパイキング・ザ・バットガール!」ブワァ

真帆「!?」ビクッ

紅莉栖「声でかい。ついでに呼称の意味が分からない」

???「おのれ貴様、抜け抜けと! くぉの潜入パタパタこうもり女めが! 目的は何だ!?」

???「よもや貴様、我がラボの中枢たるこの俺様を、亜空間に封印でもする腹積もりではあるまいな!?」グオオ

真帆(なによ……何なのよ……)

紅莉栖「あんた何をトンチンカンなこと言ってるの? いいから少し落ち着いて、とりあえずここ座れ、岡部」

真帆(おか……べ?)

岡部「だが断る! 誰が着座などするものか! 貴様こそ、その半分居眠りでもしているらしき両の目をかっぽじって、よく見回してみるがいい!」

紅莉栖「かっぽじったら失明するだろ」

岡部「じゃかましいわっ! 貴様の目には映っていないとでも言うつもりか、この見渡す限りに積み上げられた、ゴミの山が!」

岡部「もはやこれでは部屋の中にゴミを詰め込んだのか、ゴミの山を壁で囲ったのかすら分からんではないか!」

真帆「…………」ウル

紅莉栖「おま……言い過ぎ……」

岡部「大体だ! そのような場所に腰を据えろなどと、笑止千万! さては貴様、この鳳凰院凶真をゴミ山とフュージョンさせるつもりではあるまいな!?」

紅莉栖「あんたねぇ、いい加減に……」

岡部「さあどうなんだ答えろ、クリスティー……いや、廃棄物の女王クズスティーナよ!」

紅莉栖「ク、ズ……こんの……」ギギギ

紅莉栖「………」スー
紅莉栖「……」ハー
紅莉栖「…」スーハー

紅莉栖「……ふぅ」ピクピク



87:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:40:09.89 ID:K4BOTIwv0


紅莉栖「ねえ岡部。何がそんなに気に食わないの? 私、先に忠告しておいたわよね? 結構ショッキングだから心の準備はしておいてって」

真帆(……ショッキング)ウルウル

岡部「笑わせるな! あのような説明ごときで、この惨状に応する心構えなどできるものか!?」

紅莉栖「言いたいことは分かる。分かるけど、でもここは抑えて、ね? だいたい、そんな態度じゃ初対面の先輩に対して失礼すぎるとは思わない?」

紅莉栖「だからここは、私の顔を立てると思って──」

岡部「ふん、なぁにが先輩だ。そんな輩がどこにいると言う?」

紅莉栖「はあ? どこに目を付けてるのよ、岡部。ここにいるでしょ」ガシッ

真帆(あう……)ポロリ

岡部「んな!? まさか貴様にも見えていたと言うのか、その座敷わらしが!?」

真帆(ざ……し……)

紅莉栖「ちょ!」プチ

紅莉栖「いい加減にしなさい! あんた失礼にもほどがあるわよ!」

岡部「なんだ何を怒っている? それは海外出張中の日本妖怪ではなかったのか? ではあれだな、コロボックルとかブラウニーの類だったか、それは悪かった」

真帆「…………」ウルルルルルル

紅莉栖「どうしてそうなる!?」

岡部「……いやしかし。ブラウニー(お掃除の妖精)にしては任務放棄もはなはだしい。となると、やはりコロボックルの線が濃厚……」

紅莉栖「ファンタジーから離れなさい、厨ニ病患者!」



88:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:42:01.93 ID:K4BOTIwv0

真帆「…………」スクッ

岡部「っておい助手よ見てみろ! コロボックルが悲しそうな表情でどこかへ行くぞ!」

真帆「…………」トコトコ

紅莉栖「あ、先輩! どこへ!?」

真帆「…………」トコトコトコ

岡部「おお? なにやらビニル袋を持って帰ってきたが……なんだと!?」

真帆「…………」ガサガサポイポイ

岡部「片づけを! ゴミの片づけを始めたではないか!」

紅莉栖「あうう……せんぱい……」シクシクシクシク

岡部「これは見事なブラウニー!!!」ブゥワァ!

岡部「見ろ! やはりこいつはブラウニー(お掃除の妖精)だったではないか! 凄いぞ助手よ! 貴様もこの貴重な光景を、しかと目に焼き付けておくがいい!」

紅莉栖「やめて……もう止めてあげて岡部。先輩のライフはもうゼロよ」

岡部「しかしだ。先ほどから気になっていたのだが……おい貴様!」

真帆「…………」ツーン

岡部「? 聞こえていないのか?」

真帆「…………」モクモク

岡部「…………」

紅莉栖「…………」

真帆「…………」テキパキ

岡部「ふむ。では……自称米ロリ研究者(非業)よ」

真帆「!?」ハッ

岡部「ふん。やっとこっちを向いたな、サボタージュ・ブラウニー。やはりそうであったか」

真帆「……あ……あなた、あの時の」

岡部「ふむ。どうやら貴様と会うのはこれで二度目だということになるな」

真帆「そ……そうね」ジリジリ



89:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:45:56.66 ID:K4BOTIwv0


真帆(うそ……でしょ? 受けた仕打ちがあまりに酷すぎて、今まで気付けなかった。けどこの男、間違いない!)

紅莉栖「お、岡部あんた! 気付いてるなら気付いてるって言いなさいよ!」

岡部「ふん。何も最初から気付いていたわけではない。騒ぎの最中に何となくそうではないかと思って、かまを掛けてみただけだ」

岡部「しかし……」マジマジ

岡部「助手の話が本当であれば、貴様は世界最高峰を誇る大学の研究者だという事になるが……」

真帆(助手って……紅莉栖のことよね?)

岡部「貴様は本当に、ヴィクトル・コンドリア大学の研究スタッフなのか?」

真帆「……ほ、本当よ」

岡部「そう、か」フムフム

真帆「…………」

真帆(何がどうなっているの? 今私の部屋で、何が起きているの?)

真帆(これは何かの冗談なの!?)

真帆「紅莉栖! あなたまさか、昨夜の侵入者と……顔見知りだったわけ?」

紅莉栖「……はい」

真帆「じゃあ……。あなたも昨夜の騒動に何らかの形で関わっていたり……とか?」

紅莉栖「……はい。その通りです」

真帆「なんて……こと」ワナワナ

紅莉栖「で、でも先輩、これには分けが!」

岡部「そんな瑣末な事情など、どうでもいい。それよりもだ、サボタージュ・ブラウニー」

真帆「サボ──」

岡部「貴様、もっと以前に俺とどこかで会ったことはないか?」

真帆「……え?」キョトン

岡部「……ふむ」

岡部「いや、違うな。貴様と会うのは昨夜が初めてで、間違いはないだろう」

岡部「となると……」ジロジロ



90:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 04:47:26.27 ID:K4BOTIwv0

真帆「な……何よ……」

岡部「なるほど。どうやら貴様は、他の世界線で我がラボに住み着いていた、おさぼり掃除屋の妖精だったと……その可能性が高そうだな」

紅莉栖「どこから出てきた発想だ!」

???「いや。岡部倫太郎の想像が丸っきりの的外れだとは言えないね」スゥ

真帆「……!?」

???「他の世界線において、彼女が岡部倫太郎の片腕としてラボラトリー活動していた歴史は、確かに存在していたらしいから」

真帆(また誰か来た!? しかも勝手に入ってくるとか!)

岡部「ほほう。やはりこいつ、我がラボのメンバーであったか」

???「そ。もっとも、それは何処とも知れない世界線での話らしいけどね」

真帆(って、この人も昨夜の! しかも、銃を持ってた方の……)

???「それよりも、酷いじゃないか二人とも。頃合を見て呼んでくれるって約束だったから、今まで外で待っていたのに」

岡部「ああ、そう言えばそうだったな。すっかりと忘れていた」ポンッ

???「ちょ、本当に忘れていたのかい? 酷いなぁ」ポリポリ

紅莉栖「ごめんなさい、阿万音さん。この馬鹿が変に場を混ぜっ返してきたから、つい遅くなってしまって」

???「別に構わないよ。どちらにしても、ボクは最初から一緒に乗り込んだほうが手っ取り早いと思っていたからね」

真帆(次から次へとぞろぞろと。本当に何だと言うのよ、この状況は……)

???「それから……やあ、比屋定真帆」クルッ

真帆「!?」ビクッ

???「これで出会うのは二度目かな? もっとも、昨夜はとても出会ったなんて言えるような穏やかな状況でもなかったけどね」

真帆「そ……そうね、同感だわ」ジリジリ

???「それじゃあ改めて。初めまして、比屋定真帆。ボクは阿万音鈴羽。2036年の未来からやってきたタイムトラベラーだ」

真帆「……え」

真帆(なんだか凄まじいワードをぶち込まれた気が……)

真帆「……えっと」チラ

紅莉栖「…………」コクン

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「……はい?」タラ










93:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/07(土) 23:55:12.00 ID:K4BOTIwv0

     13

紅莉栖「以上が、私が立てたタイムトラベル仮説の基礎理論になります」

真帆(何てものを……)ゾク

紅莉栖「ざっとした概要のみの説明になりましたけど。でも先輩なら、私の仮説の存在が如何にこの世界に対して悪影響を及ぼすのか、それを想像いただけるのではないかと思うのですが」

真帆「…………」

紅莉栖「どうでしたか?」

真帆「……そうね。紅莉栖あなた、この理論を論文か何かに仕立て上げて、どこかで発表とか……した?」

紅莉栖「いえ、していません。本当なら、父との共同論文として学会に発表するつもりだったのですけれど……でも」

紅莉栖「去年の夏に父と迎合した際、それは思いとどまりました」

真帆「そう。じゃあ今後、別の場所で発表するつもりは?」

紅莉栖「ありません。できることなら、このまま世に出さずに葬り去ろうと考えています」

真帆「そう、それが……良いでしょうね」フゥ

真帆(ちょっと勿体無い気もするのだけど、そんなこと言っていられるレベルの話でもなさそうだしね)

鈴羽「それでどうなんだい、比屋定真帆。ボクたちの話、もう少しまじめに聞く気になってくれたかい?」

真帆「ええと、ごめんなさい。少し考える時間がほしい」



94:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/08(日) 00:02:04.95 ID:oIK9vEoS0

鈴羽「構わないよ。まだ次のタイムリミットまで時間はあるはずからね。何日かを思考に割くくらいの猶予なら与えられると思う」

真帆「何日もは不要よ。今、少しだけで良いから頭の中をまとめさせてほしい。そういう意味」

鈴羽「そうかい? それならこちらも助かるな。まだまだ肝心な本題に入れていないからね」

真帆「な!? これだけの話で、まだ本題に入ってすらいないというの?」

鈴羽「そうだよ。今の段階を……そうだね、例えばここに積まれた書籍の一冊を、ボクたちの知る物語に見立てたのなら……」ヒョイ


ペラペラペラ


鈴羽「今は調度、こうして最初の方を適当にめくったくらいのものかな」

真帆「じょ……冗談でしょ?」

岡部「残念ながら、冗談などではない」

岡部「今クリスティーナが話したタイムトラベル理論も、先に聞かせた電話レンジやDメール、タイムリープマシンについての存在過程も」

岡部「……そして。ディストピアが待ち受けるα世界線や世界大戦が勃発するβ世界線。それらをめぐる、俺の妄想のようにしか聞こえない与太話も」

岡部「そのどこにも、ただの一片の冗談すらありはしない。すべて本当にあった事であり……本当に起きていたかもしれない歴史だ」

真帆(……怖い……顔)ズキ

真帆(雰囲気がまるで違う。さっき威勢よく吠え立てられていた時とはまったく別の重さを感じる)

紅莉栖「先輩。私も科学者の端くれだから、先輩のお気持ちは分かります」



95:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/08(日) 00:06:02.24 ID:oIK9vEoS0

真帆「紅莉栖……」

紅莉栖「これまでにお聞かせした夢物語のような話の数々。その全てに確かな実証なんて何一つない」

紅莉栖「私のタイムトラベル仮説に対する正誤も、世界線という名の歴史の在り方も。それ以外の信じられないような数々の何もかもも」

紅莉栖「その全部の根底は、ただ私たちの中のに……いえ、違いますね」

紅莉栖「根底として提唱できるものは、そこにいる彼の中にしか、存在しまていません」

真帆(岡部さん、だったわよね)チラリ

岡部「…………」

真帆(この人は一体……)

紅莉栖「だから。私の尊敬する科学者である先輩が、そんな曖昧なものに足場を設けるような愚行を容易く受け入れられないことは、重々に承知しています。でも……でも」

真帆「でも、何かしら。それでも私に、あなた達の話を信じろ、と?」

紅莉栖「はい。どうにか信じていただけないかと」

真帆「はぁ。むしろ私の方こそ聞きたいくらいよ」

紅莉栖「何をですか?」

真帆「ねえ紅莉栖。あなた程の人がどうやったら、こんな絵空事を真に受けて、あまつさえ協力しようなんて気になったの?」

紅莉栖「先輩……」

真帆「あなたが科学者として紡ぎ上げる理論は、いつだって美しかったわ」



96:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/08(日) 00:07:11.49 ID:oIK9vEoS0

真帆「それはあなたの考えがいつだって、最初と最後をしっかり見据えた上で、ただ前を向いて歩き続けるような、とてもまっすぐな思考ばかりだったから」

真帆「でもね。今聞いた話はどう? 最初と最後の辻褄さえ合えばいいと、紆余曲折を重ねて力任せに目的地へと向かう。そうして着地はできるのでしょうけど、でもね」

真帆「そこに、いつもの牧瀬紅莉栖が見せる輝きはみられない。これじゃあまるで……まるで……」

真帆(まるで、私が紡ぐ思考みたいじゃない)

紅莉栖「先輩?」

真帆「あ……いえ、ごめんなさい。とにかくよ。信じろというのなら信じてもいい。でもそれにはせめて、あなたが彼らを信じるに至った“何か”を、私にも教えてもらわないと……何も決められないわ」

紅莉栖「…………」

真帆「だからもう一度聞くわね、紅莉栖。あなたはどうして、協力しようと決めたの?」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」ブルブル

紅莉栖「岡部っ!」

岡部「何だ」

紅莉栖「話しても……いい? やっぱりダメだ。こんなのフェアじゃない。あんたには悪いけど、でも」

真帆(なに?)

岡部「必要なのか?」

紅莉栖「必要よ」

岡部「そうか、なら好きにするといい」



97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/08(日) 00:08:45.51 ID:oIK9vEoS0

真帆(何なの?)

紅莉栖「先輩……」

真帆「…………」ゴク

紅莉栖「私は彼らに協力なんてしているつもりはありません。私は協力者なんかじゃいられないんです。だって私もまた当事者の一人……だから」

真帆「当事者……?」

紅莉栖「そうです」

紅莉栖「先に彼が話してくれた、未来にディストピアが生まれるα世界線と、そして第三次世界大戦の起こるβ世界線。この二つの歴史における違いは、実はまだ他にもあります」

真帆「どんな違いがあるというの?」

紅莉栖「βと名づけられた世界線。その歴史の中で、私は……私は、死んでいました」

真帆「え?」

紅莉栖「2010年の7月28日。その世界の歴史における私は、その日、久しぶりに再開した父の手によって……」

真帆「…………」

紅莉栖「刺し殺されました」

真帆「……!?」ズキッ

真帆(な、何よ今一瞬だけ浮かんだイメージは……)

紅莉栖「だから。β世界線という場所にはもう、私という人間は存在しません」



98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/08(日) 00:14:56.48 ID:oIK9vEoS0

真帆「たちの悪いジョーク……よね?」

紅莉栖「ジョークだったら良かったんですけどね。でも、覚えているんです。思い出したんです。ハッキリとではないけど、でも」

紅莉栖「あの日。日本の秋葉原という場所を訪れた私の身に、いったい何が起こったのか」

紅莉栖「それはまるで夢の中のできごとのように、形のないあやふやな体験だったけれど、でも」

岡部「…………」チーン

紅莉栖「刺されたショックは強い刺激となって、私の中に強烈な印象を残し続けている。今までも、そしてきっとこれからも……それは変わらない」

紅莉栖「そんな私を救ってくれたのが、彼です。彼は、α世界線で椎名まゆりという幼馴染を助け、そしてβ世界線で私を救い……」

紅莉栖「そうしてようやく辿り着けた場所。それこそが、このシュタインズゲートと呼ばれている世界の歴史なんです」

真帆「…………」

紅莉栖「そして今、また彼は再び世界線と向き合わなければいけない事態に陥ってしまった」

真帆「…………」

紅莉栖「その理由は……って先輩、ど、どうされたんですか?」

真帆「え?」

紅莉栖「だって、先輩……涙が……」

真帆「は?」


グイッ


真帆(え、あれ? 何で? これ私が? どうして……)



99:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/08(日) 00:15:55.50 ID:oIK9vEoS0

鈴羽「……ふぅ」スクッ

鈴羽「シュタインズゲート世界線へと辿り着いたはずの岡部倫太郎が、どうして再び世界線という名の化け物に相対しているのか。その理由はね、君だよ比屋定真帆」

真帆「わ……たし?」ゴシゴシ

鈴羽「そうだ。結論から言おう。この世界線の歴史において、比屋定真帆、君は今から約二ヶ月後の2011年の4月10日に、この世から消える」

真帆「……え?」

鈴羽「そしてそれが起こってしまったなら、この歴史はもうシュタインズゲート世界線ではいられなくなってしまう」

真帆「……何を……言っているの?」

鈴羽「その世界の未来に、人類の希望はない」

真帆「ちょっと待ちなさいよ……」

鈴羽「そしてね。その光の射さない暗い歴史のことを、ボクのいた未来ではこう呼んでいた……」


──サリエリ世界線──


鈴羽「ってね」











106:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:12:57.62 ID:g0kV3utO0

     14

真帆(サリエリ世界線……か)フゥ

真帆「なるほどね」

鈴羽「どうかな。少しは信じてくれる気になったかい?」

真帆「ええ、信じるわ」

紅莉栖「そ、それじゃあ!」

真帆「と、言ってあげたいところだけど、ごめんなさい。これだけでは、まだ半信半疑のレベルにすら達していない、というのが率直な感想かしら」

紅莉栖「……先輩」

真帆「タイムマシンを利用しての、歴史の改竄。世界線とやらの移動。岡部さんだけが持つという、観測者としての能力」

真帆「そして、あなた達がシュタインズゲートと呼んでいるらしい世界線」

真帆「そういったものに、“サリエリ”という固有名詞や“私の死”がどのように関わっているのか、興味がないと言えばそれは嘘になるけども」

真帆「でも、それら一切合切を心底信じられるのかと問われたら……」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「やっぱり無理ね」

真帆「聞いた話の何もかもが、余りにも荒唐無稽で突飛すぎる。例えそこに“私の死”とかいうワードをチラつかされても、それでおいそれと全てを鵜呑みにする気にはなれそうもない」



107:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:16:25.74 ID:g0kV3utO0

鈴羽「それは……参ったね」ポリポリ

鈴羽「さっきのあの雰囲気だったら、4月10に訪れる【君の消失】や【サリエリ世界線】という言葉を出せば、勢いで押し切れるかもと踏んでいたんだけど……」

鈴羽「どうやら考えが甘かったみたいだ」

真帆「悪いけど、これでも私だって科学者の端くれなの。だからあまり安くみないでもらえるかしら」

紅莉栖「…………」

岡部「ふん。まあ元々が与太話のような代物だ、その反応もいた仕方ないだろう」

鈴羽「オカリンおじさん……」

岡部「どのみち、これだけの説明で俺たちの話を全て鵜呑みにしてしまうような間抜けでは、世界線を相手取るのに不足だと思っていたところだしな」

紅莉栖「何もそんな言い方……」

岡部「本当のことだろうが」

真帆「それは褒められていると受け取って良いのかしら?」

岡部「好きなように考えるといい。それで……結局、どうしたら信用してもらえるのだ?」

真帆「それを私に聞かれても困るわ」

岡部「ならば具体的に、俺たちの話のどこが信用できなかった?」

真帆「どこかと聞かれたら、ほとんど全部と答える他ないわね」



108:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:18:14.22 ID:g0kV3utO0

岡部「ほとんど、か。つまり……」

岡部「裏を返せば、話の中のどこかしらには、わずかだが信用に値する部分もあった、という事だな?」

真帆(んっ! 揚げ足を取られた!?)ギョ

真帆「……そ、そうね。そういうことになるのかしら?」

岡部「では、それはどこだ?」

真帆「どこ……と聞かれても……そうね。ええと」

真帆(驚いた。この人、意外と鋭い……というよりも、こういう状況に手馴れているように見える)

真帆(まるで、何度も何度も繰り返し、他人に絵空事を説いてきたかのような……そんな“慣れ”みたいなものを感じる)

岡部「どうした何かないのか?」

岡部「信じるに値しない“ほとんど”から外れた箇所。できるなら、そこを説得の足がかりにさせてもらいたい」

真帆(しょ、正直な人ね! 普通、そういう狙いは腹の底で思っていても口には出さないものじゃないの?)

岡部「しつこくて悪いが、我慢して欲しい。何せこちとら……」

岡部「α世界線で“あの”牧瀬紅莉栖を説得するという無理難題を幾度となくこなしてきたのだ」

岡部「なればこそ。『信じられません』『はいそうですか』などと簡単に引き下がるつもりは毛頭ない」ジロリ

真帆(意味は分からないけど、静かな迫力だけは感じる……)

真帆「そ、そうね。しいて上げるなら、という程度の指摘でも構わないのよね?」

岡部「ああ、それでいい。頼む」

真帆「……分かったわ」



109:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:24:41.57 ID:g0kV3utO0

真帆「あなた達がした話の中で、辛うじて私の信じられそうだった部分。多分だけどそれは……紅莉栖」

紅莉栖「?」

真帆「あなたの話した、タイムトラベル理論の内容くらいのものだと思う」

紅莉栖「……私の理論ですか」

真帆「そう。少なくとも私の聞いた限りでは、紅莉栖の仮説に論理的な破綻は見当たらなかった」

真帆「もっとも。ちゃんと内容を精査した分けではないのだから、あくまで私の直感だけが基準なのだけれどね」

真帆「でも……」

真帆「確かに、タイムトラベルは可能かもしれないって……そう感じた」

鈴羽「かもしれないじゃなくて、可能なんだ。現にこうしてボクがこの時代に存在していることが、何よりの証拠じゃないか」

真帆「……ええと、そういう事ではなくて」ウーン

紅莉栖「無理よ、阿万音さん」

紅莉栖「現状ではあなたが未来人だということを立証できるだけの材料が足らない」

紅莉栖「あなたが未来人であるという立証ができない以上、そこから私のタイムトラベル仮説の正当性を主張することはできない」

鈴羽「そ、そうなの? ややこしいなぁ、もう……」

紅莉栖「でも先輩。それでも一応は、私の仮説に可能性を感じてはくださったんですよね?」

真帆「ええ、それは否定しない。聞いた内容に少し怖くなったくらいだし」



110:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:31:33.67 ID:g0kV3utO0

紅莉栖「だとしたらですよ?」

紅莉栖「私たちの話の根本は、とどのつまりは時間を遡行することから起きる、タイムパラドックス現象を土台とした一連の事象に根付いています」

真帆「そのようね」

紅莉栖「そして先輩は、絵空事なお話の中にあって、それでも事象全体の土台となるタイムトラベルの正否については、ある種の可能性を感じてくださった」

紅莉栖「これはつまり、私たちのお話が事実である可能性を感じた……という事にはなり得ませんか?」

真帆(…………)ムムム

真帆「言いたいことは、分からなくもないわ。でもね紅莉栖」

真帆「可能性はあくまでも可能性。仮にタイムトラベルという現象の実在に可能性を感じたとして、もしもその土台の上に乗せるものが、大したことのない軽いものであれば、それでもいいでしょう」

真帆「でも、あなた達の話は、決して軽いと言えるものではなかった。むしろ壮大と言ってもいいくらいにね」

真帆「そんなあなた達の話を支えるため土台が、“できるかもしれない”程度では、それはあまりにも役不足だとは思わない?」

紅莉栖「それは……そうかもしれませんね」

鈴羽((えっと、つまりどういうこと、オカリンおじさん?))

岡部((俺に聞くな、俺に))

紅莉栖「……そうか」

紅莉栖「私は既に実体験として色々な現象を経験してしまったから、つい見落としがちだったけど……」

紅莉栖「なるほど確かに。経験した事象だけをただ淡々と並べたところで、土台が弱ければ信用なんて得られるわけもない」

紅莉栖「先輩の懐疑的な反応は当然のことだった……というわけですね」シュン

真帆「ええ、分かってもらえて嬉しいわ」


シーーーン


紅莉栖「でも、だとしたらどうすれば?」



111:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:35:50.63 ID:g0kV3utO0

紅莉栖「今の私たちには、“あの出来事”を経験していない先輩にそれでも納得してもらえるような、そんな具体的な判断材料を提出することは……たぶん不可能だわ」

岡部「それはつまり、お手上げと言う事か?」

鈴羽「そ、それは困るなあ」

紅莉栖「ちょっと黙ってて、今考えているから」

真帆(うーーーん……)

岡部「しかしだ。考えると言っても、何をどう考えるというのだ? そもそも、このブラウニーはあの夏を経験してなどいないのだろう?」

紅莉栖「…………」

岡部「ならば何をどうしたところで、聞き手からしたら俺たちの話など世迷いごとの与太話でしかない。違うか?」

紅莉栖「黙ってろって言ってんのにあんたは……」

岡部「ふん。黙って一人で考えて、それで妙案でも浮かべばよいが、これはそんな容易い類の問題ではない」

岡部「お前が今感じているだろう疎外感のような何かを、俺はもう何度も経験してきたのだからな」

紅莉栖「経験……」

真帆(……うむむむ)

紅莉栖「ねえ岡部。ちなみに聞きたいんだけど」

岡部「何だ?」

紅莉栖「あんたが他の世界線でフェイリスさんや漆原さんを説得して、送ったDメールを取り消していったっていう話、あれ本当よね?」

岡部「無論だ」

紅莉栖「その時って、彼女たちをどうやって説得したの?」

岡部「ふむ、そうだな。フェイリスやるか子の時は、何かを切欠にして奴らが元いた世界線の記憶を蘇らせてくれた。そのおかげで説得に応じてもらえたのだ」

岡部「俺は単に、その幸運にすがっていただけに他ならない」

紅莉栖「そう。なるほど、思い出す……か」



112:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:44:30.25 ID:g0kV3utO0

岡部「なんだ? 今ここでも、ブラウニーにそんな幸運が訪れる展開を期待してみるつもりか?」

紅莉栖「そんな真似、誰がするか。そうじゃなくて……」

真帆(何だかもう、信じてあげてもいい気がしてきたわ……どうしよう)

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「そうか。先輩だって、決して“未経験”なんかじゃないんだ」

真帆(……ふえ?)

紅莉栖「先輩!」

真帆「な、なに?」ビク

紅莉栖「ちょっと切り口を変えてみますけど、いいですか?」

真帆「え、ええ、構わないわよ。それで紅莉栖は、どう変えたいのかしら?」

紅莉栖「107問題」

真帆「え?」

紅莉栖「例の“107問題”について、もう一度先輩と話し合ってみたいと考えています」

真帆(107問題…ですって?)

真帆(短期間に色々あったせいか、随分と懐かしいワードに聞こえるわね)

真帆「あ、ああ。そんな話題もあったわね」

真帆「でも、どうして? 確かにこの前のときは、途中でアマデウス達が二人とも退席してしまって、尻切れトンボみたいになってしまったけど……」



113:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:48:54.43 ID:g0kV3utO0

真帆「今ここでその話題を蒸し返すことに、何か意味……が……」

真帆(ちょっと……待ってよ……?)

真帆(107問題。記憶容量の急激な増加……。そして、アクセス不能な……不可解領域……)

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

鈴羽((……あ!))

岡部((どうした鈴羽?))

鈴羽((そうか、107問題! その手があったか!))

岡部((何か分かったのか? というか、そもそも107問題とは何のことだ? まったく話についていけんのだが))

鈴羽((そっか。オカリンおじさんには、107問題について話していなかったね))

岡部((お前は詳細を知っているのだな?))

鈴羽((うん。未来でサリエリから聞かされている))

岡部((また“サリエリ”か。随分と物知りな奴だ。一体そいつは、何者なのだ?))

鈴羽((それは……悪いけど))

岡部((ふん。機会が来たら正体を明かす……そういう約束だったな))

鈴羽((ごめんね。でも、もういつその時が来てもおかしくないくらいだよ))

岡部((ではその時を楽しみに待っていてやろう。では変わりに、107問題とやらについてだ))

鈴羽((ああ、そうだったね))



114:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:52:03.59 ID:g0kV3utO0

岡部((なにが“その手”なのだ? 107問題とは、いったいどんな内容なのだ?))

鈴羽((詳しいことならまた後で説明してあげるから、今はそれよりも、あの二人を見守ろう))

岡部((別に構わんが……。その107問題とやらで現状を突破できるのか?))

鈴羽((うん、多分ね。もしも牧瀬紅莉栖の狙い通りに事が運んだ場合は、ひょっとすると比屋定真帆に……))

岡部((俺たちの話を信じさせる事ができるかもしれない、と?))

鈴羽((うん。期待しても良いと思う))

岡部((……ふむ、面白そうだ))

鈴羽((それにしても……。107問題に関しては、牧瀬紅莉栖にも話していなかったはずなんだけど。どこでそれを知ったんだろう?))

岡部((さあな))

真帆「…」
真帆「……」
真帆「………」

紅莉栖「…………」

真帆「ねえ紅莉栖、先に私からも少し聞いていい?」

紅莉栖「はい、何なりと」

真帆「107問題について四人で話し合ったとき、あなたアマデウス達に妙な質問をしていたわよね?」

紅莉栖「……はい」

真帆「どんな内容だったかしら? 確か……覚えの無い記憶が突然引き出されたか? とか──」



115:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 00:53:53.02 ID:g0kV3utO0

真帆「あとは……そうね。ある一時期を境に、記憶データが爆発的に増えているはずだ……とか何とか、そういう内容だったわよね?」

紅莉栖「その通りです。ちなみに私が記憶増加の時期と断定していたのは、2010年の7月28日でした」

真帆「去年の7月28日。それは何か特別な……あっ!」

紅莉栖「気づいてもらえたみたいですね。そうです。それはとても特別な一日でした。世界線にとっても、そして私たちにとっても」

真帆(そうよ。そうなんだわ……)

紅莉栖「2010年7月28日。それは世界の歴史が大きく分裂することで、αとβという二つの世界線が生まれる日であり……」

紅莉栖「同時に。β世界線で私が父の手で刺し殺されることになる日……でした」

真帆(……や、やっぱり)

紅莉栖「それにしても、さすがですね先輩。私の思いついた内容を、触りの部分を聞いただけで正確に予測してくるなんて」

真帆「お世辞はいいから、続けて」

紅莉栖「お世辞なんかじゃないんですけど、分かりました

紅莉栖「では……」

















122:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/09(月) 23:59:52.12 ID:g0kV3utO0

     15

一同「…………」

紅莉栖「えーごほん。それでは始めさせていただきます」

紅莉栖「レスキネン教授の指導の下、私たちが研究していた人工知能、アマデウス」

紅莉栖「このプロジェクトには、大きく分けて二つの技術が利用されています」

紅莉栖「一つは、人工的に人間の脳を模倣するエミュレート・プログラム」

紅莉栖「そしてもう一つは──」

真帆「あなたが理論設計した“記憶抽出”技術ね」

紅莉栖「その通りです。この二つの技術を組み合わせる。つまり、エミュレート・プログラムの中に抽出した記憶データをコンバートする」

紅莉栖「そうすることで、アマデウスは初めてAIとしての機能を発揮する」

紅莉栖「でしたよね、先輩?」

真帆「そうね」

真帆(そこは逐一、紅莉栖に説明してもらう必要も、そして彼女が同意を求める必要もなさそうだけど……)


チラリ


真帆(……そうね。ここには彼らもいるのだし)



123:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 00:01:16.82 ID:asUJZsQi0


岡部・鈴羽「?」

真帆「いいわよ、続けて紅莉栖。私にも分かるように、なるべく詳しくね」

紅莉栖「了解です」ニコリ

真帆(かわいい)オオウ

紅莉栖「さて。エミュレート・プログラムと記憶データの抽出。この二つはもともと、別のプロジェクトとして進行していました」

紅莉栖「誤解の無いように付け加えるなら、エミュレート・プログラムの開発自体は、最初はそれ単体で“新型AI”を構築するプロジェクトとしてのものでした」

紅莉栖「そして、今からだいたい一年くらい前でしたか。そのプロジェクトの完遂によって“新型AI”が生み出されたわけですが……」

真帆「今にして思えば、あれは酷い出来だったわね」

紅莉栖「ですね。研究室で出来上がった期待の“新型AI”。しかしそれは残念ながら、これまで世間にゴロゴロしている凡庸なものと、なんら変わらない性能しか持ちえていませんでした」

真帆「あの時のレスキネン教授の落ち込みっぷりといったら、それはもう痛々しいものだったけど。でも、そこに紅莉栖が一計を案じてくれたのよね」

紅莉栖「差し出がましい真似だったかと気にしていたので、そう言って頂けるならありがたいです」

真帆「謙遜は不要。あれはあなたの功績よ、紅莉栖」

真帆「あなたはあの時、失敗作として烙印を押されかかっていた“新型AI”に、自身が理論設計していた記憶データ抽出の技術を利用するアイデアを投じてくれた」

真帆「あれは、去年の3月頃だったわね。そしてそれからすぐ、その合同プロジェクトは、アマデウス・プロジェクトと名前を変えて発足しなおすことになった」

紅莉栖「YES。その通りです」



124:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 00:05:40.41 ID:asUJZsQi0

紅莉栖「それではここからは、私の記憶を頼りに話を進めさせていただきますけど……」

紅莉栖「去年の三月。アマデウス・プロジェクトの発足と同時に、私と真帆先輩にはもう一つ出来事がありました」

真帆「? 何のことかしら?」

紅莉栖「覚えてませんか? 先輩が始めて記憶データを抽出した日のこと?」

真帆「あ……ああ、あれ。あなたが無理やり誘ってきたのよね。一人じゃ記憶データを抽出するのが怖いからって」

紅莉栖「その節は、ご迷惑をおかけしました」

真帆「で、それがどうかしたの?」

紅莉栖「はい。実は、真帆先輩にはそれから度々、記憶データの抽出を行っていただいてきたわけですが……」

紅莉栖「重要なのは、先輩の抽出が“いつ”行われたかということです」

真帆「いつ……」

真帆(なるほどね、そういう事か)

紅莉栖「長期の経過観察を主目的とした私のアマデウスとは違い、真帆先輩のアマデウスの試験運用目的は、比較検証でした」

紅莉栖「それが理由で、最初の一度しか記憶を抽出しなかった私とは対照的に、真帆先輩は度々記憶の抽出を行ってきた」

真帆「その通りよ。アマデウスのエミュレーション・システムがバージョンアップするたびに、私“だけ”記憶データを抽出されてきたわ」

紅莉栖「ちなみに、エミュレーション・システムのバージョンアップはこれまでに合計で三回ありましたよね?」

真帆「ええ。最初の一回と更新の三回で、私はこれまでに計四回の記憶データ抽出を行った」

真帆「こうなってくると、その時期を順に追っていった方が良さそうね」

紅莉栖「そうしていただけると、助かります」



125:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 00:07:02.03 ID:asUJZsQi0

真帆「先にも出た話だけど、最初のアマデウス起動時の抽出。あれは2010年3月の下旬ごろ」

真帆「次いで、一回目のバージョンアップが、あれは確か起動してから一ヶ月くらいでの事だったから……2010年の4月」

真帆「二度目がそう、夏だったわ。正確な日付までは思い出せないけど、あれって紅莉栖が日本へ行っている間の出来事だったはずよね?」

紅莉栖「そうです。私あの時、先輩からメールをもらっているんです」

真帆「そうだったかしら?」

紅莉栖「はい。そのとき私は、日本の女子高に逆留学していた頃で、秋葉原へはその後で向かっています」

真帆「つまりそれは、2010年の7月28日よりも以前の出来事だった、と」

紅莉栖「仰る通りです。っていうか、先輩のその口ぶりだと、もう私が何を言いたいのか察してるみたいですね」

真帆「それくらいはね。だって最後の四回目の更新が、ついこの間。ええと、今から……」イチニーサンシー

真帆「九日前になる。つまり、三回目と四回目の間に、あなたの言った“7月28日”を挟んでいることになる」

真帆「そしてあなた達の話では、その日を境に、世界線とかいう物が大きく枝分かれをし始めた」

真帆「これらの事を、総合して考えれば。紅莉栖、あなたはようするに──」

真帆「私の脳内にも、知らない世界線の記憶が蓄積されている。そして、去年の7月28日以降から蓄積された膨大な思い出の正体こそが……」

真帆「107問題の答え。と、そう言いたいのよね?」

紅莉栖「コングラッチレーション! その通りです」

真帆「……ふむ」



126:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 00:08:16.25 ID:asUJZsQi0

真帆(彼女が言いたいことは伝わった。でも、だからと言って、それが)

紅莉栖「先輩。私は以前、彼の持つ不思議な力について、仮説を立てた事があります」

真帆「彼って……岡部さんのこと?」チラ

紅莉栖「そうです。彼が持つリーディングシュタイナーという能力。それは歴史が変わり世界線が変わっても、それまでの記憶を維持する能力」

紅莉栖「私はそれを、“脳機能障害の一種”だと仮定しました。もっとも彼には、神聖な能力を疾病あつかいするなとヘソを曲げられましたけど」

真帆「脳機能障害……」

紅莉栖「彼の能力は、何も全てを覚えているわけではない。事実、彼だって忘れている世界線の記憶はあります」

真帆「それは、どんな記憶なの?」

紅莉栖「簡単に言えば、『新しい世界線に移動した際、その世界線の彼はそれまで何をしていたか?』という一点につきます」

真帆「あ……確かに」

紅莉栖「世界線を移動しても、それまでの記憶を維持している岡部倫太郎。しかし逆に、新しい自分が今までやっていたことが分からない」

紅莉栖「そうでしょ、岡部?」

岡部「そうだ。そのせいで、移動のたびに周囲から変な目で見られてきたからな。酷いときなどは、全然しらない場所にいきなり放り出されたこともあったか」

真帆「なるほど。紅莉栖の言うとおり、岡部さんだって全ての歴史を記憶していたわけではない、か」

紅莉栖「そして、もう一つ。実は彼以外にも、他の世界線での記憶を取り戻すことのある人たちがいます」

紅莉栖「もっともそれは、彼ほどに正確な記憶でなく、夢やデジャブのような曖昧な感じではあるんですけど……」

真帆「その“人たち”の中には、あなたも含まれているのかしら?」

紅莉栖「……はい」



127:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 00:09:44.86 ID:asUJZsQi0

真帆「……そう。だとしたら、この世の全ての人間……いえ、もっと広範囲に捉えるべきね」

真帆「おおよそ、記憶という機能を備えた全ての生命体の脳内には、他世界線での記憶というものが残留している可能性がある」

紅莉栖「そう考えるのが妥当なはずです」

紅莉栖「そしてそれは、107問題と呼ばれる現象の発生が、真帆先輩に限ったはなしではないことを意味してもいます」

真帆「かも……しれないわね」

真帆「そして岡部さんだけが皆と違うのは、脳内における何らかの障害が原因で、蓄積された記憶の引き出し方が他の人とは異なっているから……」

真帆「でも、紅莉栖。その理屈だと……アマデウスはどうなるの?」

真帆「間違っても生命体とは言えないけれど、でもあの子たちだって記憶という生態活動の模倣は行っている」

紅莉栖「そうです! まさにそこなんですよ、先輩!」

真帆「あ……まさか」

紅莉栖「アマデウスです。私たちのアマデウスに……っていっても、先輩のアマデウスとは連絡できませんからね。取り合えずこれから、私のアマデウスに確認を取りましょう」

真帆「なるほど、悪くないわね」

真帆「起動して以来、一度も記憶データの更新を行っていない紅莉栖のアマデウス」

真帆「もし彼女の記憶領域にも、7月28日以降から不可解な記憶の増加現象が見られたのであれば……あ、でも待って」

真帆「例え増加していたとしても、そのデータ内容にはアクセスできない可能性が高い。これでは事の真偽が……」

紅莉栖「構いませんよ。彼女たちは定期的に自身のログを取っています。もし自身の記憶領域内に、アクセス不能なデータが作られ始めているのであれば、それがデータとして制作された日付くらいは確認できるはずです」



128:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 00:11:16.38 ID:asUJZsQi0

真帆「そうか。それが全て7月28日以降に作られたデータだったなら、それなら……それなら」

紅莉栖「それなら!」

鈴羽「それなら?」

岡部「それであれば。俺たちの話を信じ、そして協力をしてもらうための判断材料として申し分ないのではないか?」

真帆「そう、ね。十分とはいえないまでも、それでも根拠としては及第点をつけられそう」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆「OK、いいでしょう。それが確認さえ出来るのなら、私はあなた達に協力を惜しまない」

紅莉栖「YES!」

真帆「それなら早速、紅莉栖のアマデウスに連絡を取ってみま……あ!」

紅莉栖「どうしたんですか、先輩?」

真帆「あ、いえ、なんでもないの」

真帆(そういえば、不審なパスワードの件で紅莉栖のアマデウスに連絡を取るの……すっかり忘れていたわ)

真帆「じゃ、じゃあ連絡するわよ」

岡部「うむ、頼むぞ。上手くいったあかつきには貴様の肩書きを、サボタージュからハードワーカーへと格上げをしてやろう」

真帆「う、嬉しくないわね……」ピッ















129:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 00:58:06.42 ID:asUJZsQi0

     16

A紅莉栖『先輩の強制アクセスにまでパスが掛けられているなんて……』

真帆「ええ、これは想定していなかった事態だわ」

A紅莉栖『状況は思ったよりも深刻そうですね。どうします先輩? 私は取り合えず、レスキネン教授に一報をと考えていますけど』

真帆「そ、そうね」

真帆(普通であれば、それが真っ当な判断なのでしょけど……)チラリ

鈴羽「…………」コクコク

真帆(一体、どういうつもりなのか……)

鈴羽「…………」クイックイッ

真帆(はぁ。仕方ないわね)

真帆「ええと、あのね紅莉栖」

A紅莉栖『? はい、何でしょうか先輩』

真帆「ちょっと、その、物は相談なのだけど……教授への報告をしばらく待ってはもらえないかしら?」

A紅莉栖『それはなぜですか?』

真帆「実は、他に試してみたい方法があるの。ちょっとばかり段取りのいる手段だから時間がかかってしまうのだけれど……」



130:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 01:01:10.51 ID:asUJZsQi0

真帆「できるなら、教授への報告はそれを試した後にしてもらえると助かるわ」

A紅莉栖『…………』

A紅莉栖『先輩。それって、どんな方法なんですか?』

真帆「ごめんなさい。少し人には言いづらい方法なのよ」

A紅莉栖『そう……ですか』

真帆「ダメかしら?」

A紅莉栖『分かりました。じゃあその方法とやらの結果は、また追って連絡してください』

真帆「了解よ。悪いわね」

A紅莉栖『いえ。よろしくお願いしますね、先輩。では後ほど』

真帆「ええ、後でね」


ピッ


真帆「はぁ」

真帆(何で私がこんな嘘なんてつかなきゃいけないのよ)イライラ

真帆「さあ、言うとおりにしたわよ。これで良いのかしら?」

鈴羽「上出来だよ、比屋定真帆。これでまだしばらくは、ボクたちの動きが察知されることはないはずだ」

真帆「…………」



131:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 01:03:26.94 ID:asUJZsQi0

岡部「ふむ。で、それで結局どうだったのだ? まあ、電話をしている貴様の反応からして、答えを聞くまでもないだろうがな」

真帆「そうね。あの子の話が、あなた達の空想劇に見事な土台を与えてくれたわよ」

紅莉栖「それってつまり……」

真帆「ええ。紅莉栖のアマデウスも、去年の7月28日を境に不可解な容量増加を把握していた。おまけに……」

真帆「私の記憶データに見られた107メガの容量増加も、それとまったく同時期に発生していたらしいわ」

真帆「私のアマデウスから直接聞いたそうだから確かでしょうね」

真帆「つまり……」

真帆「世界線とかシュタインズゲートなんていうぶっ飛んだ話に、真っ当な信憑性が付与されたということになるわ」

岡部「では、俺たちの計画に協力してもらえるのだな?」グイ

真帆「それは……」

真帆(さて、これはどうしたものかしら。何と答えるべきか考え所だけど)

紅莉栖「先輩、どうか協力してくださいませんか?」グイグイ

真帆「…………」ムムム

真帆「あなた達は気軽に協力協力って言うけど、じゃあ協力するって言ったら私は一体何をさせられるの?」

真帆「言っておくけど、私には荒事なんて出来はしないわよ?」

鈴羽「なに、そんな大層な事をしてもらうつもりなんて無いよ。ボク達の目的は、あくまでも君のアマデウスをこの世界から消し去ることだ」

真帆(…………)

鈴羽「だから、協力者として君にやってもらいたい事は一つ」

鈴羽「なぜかこちらから通信できない君のアマデウスに対して、比屋定真帆の持つ権限を使用して“強制アクセス”を行ってもらいたいんだ」

真帆「……ああ、そういう事ね。つまり、デリートできるようにお膳立てをしろ、と」

鈴羽「理解が早くて助かるよ」



132:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 01:04:50.84 ID:asUJZsQi0

真帆「でも悪いけど、それは無理でしょうね。例え私の権限を用いたとしても、現状ではアマデウスをデリートするところまで漕ぎ着けられないはずよ」

鈴羽「どうしてだい? アクセスさえ出来れば、あとは消すだけじゃないか」

真帆(やっぱり……私のアマデウスを消すことが目的には違いないのね)

真帆「そうじゃなくて、そもそも私にもアクセスができないという状況なのよ、今は」

鈴羽「?」

真帆(何できょとんとしているのよ。私と紅莉栖のアマデウスとの電話、聞いていたはずでしょうに)

真帆「はぁ。要するにね……」


カクカクシカジカ


真帆「というわけで。今、私のアマデウスには奇妙なパスワードが掛けられてしまっているの」

真帆「そしてそのパスの影響は、アマデウスだけでなく強制アクセスシステムの制御にまで及んでいる」

真帆「だから、そのパスワードを何とかしない限り、オリジナルの私ですら自分のアマデウスにアクセスすることが出来なくなっているという分けよ」

真帆「どう? ご理解いただけたかしら?」

鈴羽「ああ、なるほどね分ったよ。でもね比屋定真帆。そんなことは何の支障にもならない」

鈴羽「そうだよね、牧瀬紅莉栖?」

真帆「え?」

紅莉栖「…………」キョドキョド



133:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 01:06:11.49 ID:asUJZsQi0

真帆「どうしてそこで、紅莉栖の名前が出てくるの?」

鈴羽「そんなの決まっているじゃないか。アマデウスや強制アクセスの中に追加のパスワードを仕掛けたのが、牧瀬紅莉栖だからだよ」

真帆「は?」

鈴羽「だから。君の言っているパスは、そこにいる牧瀬紅莉栖が仕込んだって言ったのさ。今朝早くのことだったよ」

鈴羽「という訳だから、牧瀬紅莉栖は当然としてボクもそしてオカリンおじさんも、君の問題視しているパスワードなら解除する方法を知っている」

鈴羽「どうかな? 何の問題にもならないだろ?」

真帆「うそ……でしょ?」チラリ

紅莉栖「いや、その、ええと……何といいますか」ドギマギ

真帆(紅莉栖のこのうろたえ方。まさか、そこまでしたというの? そんなこと……いくらなんでも信じられない)

真帆「…………」ジッ

紅莉栖「あう……」ダラダラダラダラ

真帆(本当に本当なの? でもだとしたら、いち研究者としてどこまでも真摯であるはずの彼女が……どうしてそんな真似を?)

真帆「…………」ムムム

真帆「鈴羽さんと、それから岡部さんと言ったわね?」

鈴羽・岡部「…………」

真帆「まさかあなた達、そうするよう紅莉栖に強要したわけじゃないでしょうね」

真帆「返答いかんによっては……ただじゃおかないっ」ギロリ



134:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 01:08:33.95 ID:asUJZsQi0

紅莉栖「そ、それは違うんです! 強要とか、無理強いとかされたわけじゃなくて……というか、むしろ」

真帆「……むしろ、何?」

紅莉栖「そのっ!」

紅莉栖「先輩のアマデウスや強制アクセスにパスワードを仕込もうと発案したのは、私の方なんです!」

真帆「……な」ギョ

真帆「なぜあなたがそんな真似を……」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「覚えていますか、先輩?」

紅莉栖「昨日、私と先輩が研究室で話していた時、急に電話がかかってきましたよね」

真帆(それって、紅莉栖にしては珍しく声を荒げていた、あの時の)

真帆「ええ、覚えているわ」

紅莉栖「その時の電話の相手。それって実は、そこに居る彼、岡部倫太郎だったんです」

真帆「そ、そう……」



135:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 01:09:52.23 ID:asUJZsQi0

紅莉栖「私はその電話で、そこにいる彼に呼び出されました」

紅莉栖「日本にいると思っていたのに、急にアメリカにいるとか言われて」

紅莉栖「それで慌てて飛んでいった私に、彼はこんな話を持ちかけてきたんです」

紅莉栖「うちの大学に忍び込むから手を貸して欲しいって」

真帆「…………」

紅莉栖「私は当然拒否したんですけど……」

紅莉栖「でも彼はその夜、大学潜入を強行してしまいました。そんな彼の行為に私もついカッとなって、不法侵入した彼を追い立てたりもしました」

紅莉栖「でも、後から阿万音さんとも合流して、それに至った事の経緯と事情を聞かされて……」

紅莉栖「そこで初めて事の重大さに気がついたんです」

真帆「……紅莉栖」

紅莉栖「私だって、そこの二人と同じなんです。私だってシュタインズゲート世界線を手放したくない。何があろうと、この世界線は決して手放していいものではない」

紅莉栖「だったら、このまま放置しておくわけにはいかない」

紅莉栖「そう判断し、教授や先輩や研究室の皆に悪いとは思いながらも、他に有効な手段も思いつかず……それで」

真帆「それで……パスワードを追加したと?」

紅莉栖「はい。それが、アマデウスに携わった人たちを裏切るような行為だということは、自分でも分かっています」

紅莉栖「それでも、何か手を打たなければ危険だと判断しました。だから」

真帆(パスワードを追加する。たったそれだけの行為に、いったいどんな意味があったというのよ?)

真帆(それに、今の紅莉栖の表情はなに? あの天才、牧瀬紅莉栖がそこまで思いつめなければならないような、そんな非常事態だということなの?)



136:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/10(火) 01:11:00.76 ID:asUJZsQi0

真帆「……ねえ紅莉栖。今ならまだ、『軽い冗談のつもりでした』で済ませてあげてもいいのだけれど?」

紅莉栖「先輩!」キッ

全員「…………」

真帆(タイムトラベル、リーディングシュタイナー、サリエリ、シュタインズ・ゲート世界線、そして私の死)

真帆(これから先の未来で起きるらしい色々。あなたはそれを心から愁いている)

真帆(それで良いのね、紅莉栖?)

真帆「ねえ、鈴羽さん」

鈴羽「何だい?」

真帆「教えて頂戴。これからの未来で、いったい何が起こるのか……いえ、そうじゃないわね。きっと私が知るべきなのは……」

真帆「私の持つ権限を使って私のアマデウスを完全にデリートする。そうすることで、いったい何ができるというの?」

鈴羽「やっと目の色が変わったね。これは牧瀬紅莉栖のお陰かな?」

真帆「質問に答えなさい」

鈴羽「そんな怖い顔で見ないでほしいな。いいよ。ここまできたら仕方が無い」

鈴羽「今、この世界で何が起きているのか。そしてこの先の歴史で何が起ころうとしているのか」

鈴羽「これからそれを、君に話して聞かせることにするよ」

















139:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:24:39.78 ID:hc/Puqu00

     17

鈴羽「この世界の歴史は今ゆっくりと、でも確実に、シュタインズゲート世界線からその姿を変え始めている」

鈴羽「変化の向かう先はサリエリ世界線と呼ばれる歴史。そう、言うまでもなく、それはボクのいた未来へとつながる歴史のことさ」

鈴羽「ではどうしてシュタインズゲート世界線は、本来あるべきはずの流れから外れてしまうような状況に陥ってしまったのか?」

鈴羽「未来において、その分岐点だったと考えられている歴史上のポイントは大きく二つ」

鈴羽「一つは比屋定真帆のアマデウスが、107問題と呼ばれる不可侵なはずのデータ領域に対して、アクセスする手段を確立してしまったこと」

真帆「あの107メガにアクセスですって? そんなこと本当に──」

鈴羽「できたのさ。まあ、結果論でしかないけどね」

鈴羽「そして恐らくは、『手段の確立』という事象そのものが、シュタインズゲート世界線の歴史に変化をもたらす切欠になったのではないかと考えられている」

鈴羽「そうして切欠を経ることで始まる世界線の変化。それを未来では、シュタインズゲートの“ほつれ”と呼んでいた」

真帆「ほつれ……」

真帆「その言葉、なんだか聞き覚えがあるわね。あなた確か昨日の夜、そんな言い回しを口にしていなかった?」

鈴羽「へえ、覚えていたのかい? あんな状況でたったの一度口走っただけだったのに、たいしたものだね。素直に感心するよ」

真帆「あんな状況だったからこそ、よ。それに他にももう一つ……確か……何だったかしら?」

紅莉栖「ひょっとして、“破綻”のことですか?」

真帆「ああそれね、破綻。その単語も聞いた覚えがあるわ。よく分ったわね紅莉栖」



140:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:25:49.76 ID:hc/Puqu00

紅莉栖「いえ。“ほつれ”と“破綻”の二つのワードは、阿万音さんがセットでよく口にしていたので」

真帆「そうなの?」

岡部「ああそうだ。もっとも、俺たちとしてもそれらの単語が持つ本当の意味を、少々計りかねてはいるのだがな」

紅莉栖「俺たちって言うな。少なくとも私は理解しているつもりよ」

岡部「ぬ、ぐ……」

鈴羽「話を続けても構わないかな?」

真帆「そうね。お願い」

鈴羽「じゃあ」

鈴羽「シュタインズゲート世界線の歴史がサリエリ世界線へと変化を始めた事象。それが“ほつれ”だという事は、今話して聞かせたわけだけど」

鈴羽「それとは別に、もう一つ存在するターニングポイント。それが“破綻”だ」

鈴羽「その“破綻”が発生してしまうことで、シュタインズゲート世界線はボクの知る未来、サリエリ世界線の軌道へと完全に乗り上げてしまう」

鈴羽「そんな“破綻”を招いた原因として考えられている出来事。それこそが……」

鈴羽「2011年4月10日に起こる、比屋定真帆の消失だ」

真帆(!?)

鈴羽「ここまで言えばもう分るとは思うけど……」



141:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:26:50.89 ID:hc/Puqu00

鈴羽「サリエリ世界線へ変貌しようとする世界の歴史を、再びシュタインズゲート世界線の軌道へと引き戻す」

鈴羽「それがボクが未来から受けてきた、何よりも重要な使命なんだ」

一同「…………」

岡部「まったく。鈴羽よ、お前はどこの世界線へ行っても苦労の絶えない奴だな」

鈴羽「そう思ってくれるなら、おとり役くらいはもう少しちゃんとこなしてほしかったな、オカリンおじさん」

岡部「ぬぐぐ! 勝手にボクっ娘属性など付加させてきた分際で偉そうに!」

鈴羽「ボクの一人称なんて今は関係ないだろ? 反省くらいしなよ。おかげで結局、ボクは“ほつれ”を防ぎそこなってしまった分けだからね」

岡部「そ、そうは言うがな。俺としても、どうにも実感がわかずに困っているのだぞ?」

岡部「鈴羽がこの時代に存在するのだから、それだけで異常事態だということは理解できる。しかし、しかしだ」

岡部「リーディングシュタイナーの一つも感知していない今の現状では、世界線の変動と言われても、どうにも危機感を持ちづらくてかなわん」

真帆(え?)

真帆(リーディングシュタイナーって確か、世界線の変動を感覚的に知覚する能力だったわよね?)

真帆(ここまでの話だと、今現在、シュタインズゲート世界線はサリエリ世界線へ向けて変化しているってことのはずだけど)

真帆(それなのに、岡部さんは一度もその変動を感知してはいない?)

真帆(どういう事……?)

紅莉栖「岡部、あんたまだそんな事を言ってるの?」

紅莉栖「昨日も説明受けただろ。世界線の歴史は、ゆっくりと変貌していくの。そしてあんたは、その変化する歴史の上をリアルタイムで歩いている。だったら」



142:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:27:45.73 ID:hc/Puqu00

岡部「皆まで言われんでも分っている! リアルタイムである以上、これまでのように過去から現在までの歴史が再構築されるわけではない」

岡部「だからこの件では、俺のリーディングシュタイナーが発動することはない」

岡部「助手はそう言いたいのだろう?」

紅莉栖「何よ分ってんじゃない。ならどうして……」

岡部「頭では理解している。しかし感情はそれとは別物だ、という話だ」

紅莉栖「困ったものね」

岡部「ふん。大きなお世話だ」

真帆(なるほど、そういう理屈か)

真帆「…………」フゥ

真帆(リーディングシュタイナーって大層な名前のわりに、あまり役に立たない代物なのかしら)

岡部「むむ! ブラウニー貴様、今俺の事を役立たずだと思わなかったか!?」

真帆(うお)

紅莉栖「なにを難癖つけてるんだ、あんたは」

鈴羽「はいはいはいはい!」パンパン

鈴羽「そろそろ話を戻したいんだけど?」

真帆「そ、そうね」



143:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:30:48.37 ID:hc/Puqu00

鈴羽「さすがにこれだけの頭数が揃うと、どうにも話が脱線しやすいね」

鈴羽「でも、みんなが好き勝手にしゃべっていたら、話の収集がつけられなくなるし……比屋定真帆の認識に変な誤解を植えつけかねない」

鈴羽「そこの二人は、少し静かにしていてもらえると助かるんだけどな」

紅莉栖「あ、ごめんなさい」

岡部「ぬう……仕方あるまい」

鈴羽「ありがとう、二人とも。と、いうことで比屋定真帆。ここまでの話にはついてこられているかい?」

真帆「なめないで。余裕よ」

鈴羽「さすがだね。じゃあ、ボクの話の続きにいこうか」

真帆「ええ」

鈴羽「オーキードーキー。じゃあ取り合えずは、今話題に出た部分を誤解のないように補足していくことにするよ」

鈴羽「すでに“ほつれ”を迎えているとはいえ……」

鈴羽「それでも今現在において、この世界の歴史はまだシュタインズゲート世界線上にあると認識してもらっても問題ないと思う」

鈴羽「この世界線がサリエリ世界線への道をたどり始めるのは、あくまでも君の消失が起きる4月10日の“破綻”以降になるはずだからね」

真帆(私の……消失。自分の死に方とか、あまり考えたくはないわね)

鈴羽「でも、だからと言ってのん気にはしていられない。だってそうだろ? 破綻はまだでも“ほつれ”はすでに始まっているに違いはないんだからね」

真帆「まあ、そうでしょうね。で、その“ほつれ”とやらは具体的にいつ起きたの?」

鈴羽「多分、今日の午前中。ほんの二、三時間くらい前のことだと思うよ」

真帆「はい!?」



144:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:31:43.39 ID:hc/Puqu00

鈴羽「記録によると、今日の午前11頃、比屋定真帆のアマデウスは107領域へのアクセス問題をクリアしているはずなんだ」

真帆「それはまた……具体的な記録ね」

鈴羽「まあね。何せボクのいた時代では、一度通っている歴史道だからね。それくらいのことは把握できるさ」

真帆「未来って、随分と便利にできているのね……」

鈴羽「かもしれないね。でもだからこそ、ボクたちは未来で今回の作戦を立案することができた」

真帆「作戦って、昨夜の騒ぎのことでしょ? サーバーを銃で撃ち抜こうとか、えらく荒っぽい作戦をたてるものね」

鈴羽「それは誤解だよ。銃を使おうとしたのは、やむにやまれず仕方なしにそうなっただけで、当初の作戦はまったくの別物だった」

真帆「どうだか」

鈴羽「本当さ。当初の予定では準備室で就寝している君を誘い出し、無人になった研究室に忍び込む。そこで君のPCからアマデウスを立ち上げて、デリートするという手はずだったんだ」

真帆「悪いけど、その内容だと作戦としてはお粗末と言うほかないわね」

真帆「どうやって私のPCのログイン・パスを手に入れたかは知らないけど、でもね」

真帆「アマデウスのデリートには、デリート・システムを起動するためのパスワードが必要なの」

真帆「そのパスは当然ログイン・パスとは別物だし、そもそも私はそれを他の誰かに教えたことなんて、今の今まで一度もないわ」

真帆「つまり。どう転んでもあなたの作戦は、サーバーを穴だらけにするという選択肢を選ばざるを得なかったということになる」

真帆「違うかしら?」



145:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:32:39.67 ID:hc/Puqu00

鈴羽「それが、違うんだな」

真帆「何ですって?」

鈴羽「ボクは知っているからね。君のアマデウスを完全消去するために必要な、デリート・パスを」

真帆「ちょ……いくらなんでも、口からでまかせでしょ?」

鈴羽「何だったら、ボクがここで振って見せてもいいけど?」

真帆「振るって……何をよ?」

鈴羽「決まっているさ。サイコロを、だよ」

真帆「サイ……んなっ!!!???」

鈴羽「何せ未来は便利なんでね」

真帆(便利ですって……? ただ未来が便利だからという理由だけでは、これはいくらなんでも納得できない)

鈴羽「……何にしてもだよ」

鈴羽「ボクは未来から使命を受けると同時に、それに必要な情報は全て持ち込み、その上で任務に当たったつもりだった」

鈴羽「ところが実際にその場になってみると、アマデウスは君のPCからのアクセスを受け付けてくれなかった」

鈴羽「その結果、ボクは“ほつれ”を防ぐという任務に失敗してしまった」

真帆「…………」

鈴羽「そんな事があって、さあどうしたものかと途方にくれていたボクに牧瀬紅莉栖が考案してくれたのが……」

鈴羽「状況を悪化させず、現状を保持するための案。それがシステム内へのパスワード追加だった。そうだったよね?」



146:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:33:46.79 ID:hc/Puqu00

紅莉栖「ええ。とりあえず、一時しのぎにでもなればと思っての雑案ではあったのだけど」

鈴羽「でも、助かったよ。この時代でボクが行動を起こしたことで、歴史の流れに変化が出てしまうことは大きな懸念材料だったからね」

鈴羽「本来の記録では、“破綻”が起きるのは今から約二ヵ月後の4月10日だけど、ボクの行動で変化した歴史の流れが、そのタイムリミットにどんな影響を与えるのか分かったものじゃない」

鈴羽「バタフライ効果とは、そういうものだからね」

鈴羽「万が一、時期が早まるようなイレギュラーでも発生したらと思うと、どうにも頭が痛かったよ」

鈴羽「だから。いつ起きるとも知れないそのイレギュラーを押さえ込めることは、今のボクにとってとても有意義だった」

真帆「……ねえ」

真帆「パスワードを追加することとタイムリミットのイレギュラーは、どう関係しているわけ?」

鈴羽「端的に説明するなら、アマデウスから外部へ向けた連絡を遮断できる、という点につきるかな」

鈴羽「例の追加されたパスワードは、何もこちらからの接触だけを制限するのが目的じゃない。なにせ追加したのは双方向に効果のあるパスワードだ」

鈴羽「だから『アマデウスが外部にアクセスできない』ようにすることこそが、パスワード追加の本来の目的だったと言える」

真帆「なるほど。となると……」

真帆「あなたの言う記録通りに物事が進むのなら、4月10日に私のアマデウスは外部へと連絡を取り、それがシュタインズゲートの“破綻”を呼ぶという解釈でいいのかしら?」

鈴羽「大まかにはその解釈で間違ってはいない。でも忘れてもらっては困るな。“破綻”の原因はあくまでも比屋定真帆、君の消失が最重要項目なんだ」

真帆「そう……だったわね」

鈴羽「アマデウスが外部に連絡を取り、その結果として君の存在がこの世から消える。そうして起きるのが、シュタインズゲート世界線の“破綻”であり……」

鈴羽「その代わりの歴史として現れるのが、サリエリ世界線という名の未来なのさ」



147:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:34:56.08 ID:hc/Puqu00

真帆(私が死んで……そしてサリエリ世界線が現れる……)

真帆「ねえ」

鈴羽「何だい?」

真帆「あなたが居たサリエリ世界線というのは、いったいどんな歴史なの?」

鈴羽「気になるのかい?」

真帆「当たり前じゃない」

鈴羽「そうだね。ボクとしてもそろそろ打ち明けていい頃合だと思ってはいるんだけど……」

真帆「含みのある言い方ね」

鈴羽「まあ、ちょっと思うところもあるからね」

真帆「この期に及んで、情報を小出しにしてもメリットは薄いと思うのだけど?」

鈴羽「う~ん、そうだよね、やっぱり」

真帆(何よ、煮え切らないわね)

全員「…………」

岡部「おい鈴羽、悪いが口を挟ませてもらうぞ」

鈴羽「あ、オカリンおじさん。どうぞ」



148:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:36:06.91 ID:hc/Puqu00

岡部「サリエリ世界線というものが一体どんな歴史なのか。それについては俺もずっと気になっていた」

鈴羽「みたいだね」

岡部「今までお前は、サリエリ世界線の詳細やサリエリと呼ばれる人物の正体についての話題が上る度に、何だかんだと話をはぐらかしてばかりだった」

鈴羽「否定はしない」

岡部「ふん。お前のことだから、何かしらの理由があってそうしているのだろうと、あえて追及は避けて協力をしてきたが、しかしだ」

岡部「そろそろ俺たちにも、その辺りの事情とやらを聞かせてくれても良いのではないか?」

紅莉栖「そうね、私も先輩と岡部に賛成」

紅莉栖「そう言った根幹部分の事情を知らされていないという現状も、岡部の危機感をあおれていない要因の一端になっているのは間違いないだろうから」

鈴羽「う~~~ん」

全員「…………」

鈴羽「うん、そうだね。決めたよ。昨夜の作戦が失敗した時点で、未来で立てた計画にいつまでも沿い続けることには、あまり意味がなさそうだ」

鈴羽「それに。この顔ぶれが揃っているなら、ボクが話さなくてもいずれ勝手に憶測や仮説を立てて、結論までたどり着いてしまうかもしれないし」

鈴羽「それなら今、ここでボクの口からちゃんとした事情を明かしてしまったほうが、まだ皆の状況把握を統一できるというものか」

岡部「ようやく観念したか。では改めて問おうではないか、鈴羽よ」

岡部「貴様のいたというサリエリ世界線。それは一体、どんな歴史を持つ世界線なのだ?」



149:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:38:25.36 ID:hc/Puqu00

鈴羽「そうだね。仮にサリエリ世界線というものを一言で言い表すのだとしたら……」

鈴羽「それは『歴史上にタイムマシンが存在する世界線』と、そう言うべきかな」


シーーーン


真帆「な、何よその中途半端な説明は。身構えた私が馬鹿みたいじゃない」

岡部「まさかお前、まだはぐらかす腹づもりではなかろうな?」

鈴羽「そんな気はないよ。事実この言い方が、サリエリ世界線を表現するのに一番適していることには違いないんだからさ」

紅莉栖「そうは言うけど、でも私たちからしたら今のじゃ何も聞いていないに等しいんですけど」

鈴羽「困ったな。そうだね、なら少し趣向を変えて、こんな説明方法ならどうだろう」

鈴羽「岡部倫太郎に牧瀬紅莉栖。仮に君達がシュタインズゲート世界線に対する定義を求められた場合、それにどう答えるかな?」

岡部「何だと?」

紅莉栖「シュタインズゲート世界線に対する定義か。そうね」

紅莉栖「元々不確定要素が強い対象だから言葉選びが難しいのよね。まゆりや私が死なない……っていうだけじゃ、定義というには甘すぎるし」

鈴羽「ちなみにだ」

鈴羽「ボクがいた2036年の君達二人は、シュタインズゲート世界線というものに対して明確な定義を設けていた」

岡部「ほう、それはどんなものだ?」



150:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:39:59.21 ID:hc/Puqu00

鈴羽「それはこんな感じだったよ」

鈴羽「歴史上の未来において、タイムマシンが存在しない。もしくは……」

鈴羽「存在しても、それが岡部倫太郎の主観に影響を与えることはない世界線」

鈴羽「どうかな?」

岡部「それまはた……随分と簡単に言い表したものだな」

紅莉栖「ちょっと大雑把すぎるかも。でも……うん。シンプルな割りに要点は押さえてある気もする。定義としては悪くない」

真帆「となると」

真帆「“シュタインズゲート世界線”から“サリエリ世界線”への変貌とはすなわち……」

真帆「タイムマシンが『存在しない』はずの歴史から、『存在する』歴史へと移り変わっていく事象……と」

真帆「そういう捉え方で良いのかしら?」

鈴羽「いいね、完璧だよ」

真帆「……そう」

真帆(でも、そうなると……)

真帆「阿万音さん。あなたの目的は、私のアマデウスを消去することなのよね?」

鈴羽「その通りだね」

真帆「それで目的を達成すれば、歴史の流れをサリエリ世界線からシュタインズゲート世界線へと引き戻すことができる」

鈴羽「うん」コクン



151:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:42:02.61 ID:hc/Puqu00

真帆「それってつまり……私のアマデウスが、未来でタイムマシンを開発するなんて事になるんじゃないかしら?」

鈴羽「そうだよ」

真帆(やっぱり!?)

真帆「そ……そうだよってあなた、また軽く言ってくれるわね」

鈴羽「事実だからね。君のアマデウスは、今から20年後の未来において、一人の協力者とともにタイムマシンを完成させて世間に公表する」

真帆(協力者?)

鈴羽「そして、君のアマデウスが公表の際に名乗っていた名前。それこそが“サリエリ”だった」

真帆「サリエリ……」

岡部「ふむ。つまりサリエリの正体はブラウニーのアバターだったというわけか」

鈴羽「その通り。だからこそボクは、比屋定真帆のログイン・パスやデリート・パスを教えてもらう事ができたんだけど──」

真帆(え? 教えて……?)

鈴羽「どうだい、少しは驚いてくれたかな?」

全員「…………」

岡部「ふむ。拍子抜けだな」

鈴羽「え……」



152:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:43:21.33 ID:hc/Puqu00

岡部「残念だが、その程度では大して驚けん。予想の範疇どころかど真ん中すぎて、逆に意外性に欠けていると言わざるをえんぞ」

鈴羽「えええ……」

真帆(なに? 何かがおかしい。サリエリ……私のアマデウスは、未来で阿万音さんと対立しているのだと思っていたけど)

鈴羽「で、でもさ! ただの人工知能だった奴に世界が支配される感じなんだよ? これって結構ショッキングな展開じゃないかな?」

岡部「B級映画のシナリオでも、もう少し何とかなっているぞ」

真帆(阿万音さんは今、『教えてもらった』と口にした。敵対していた相手から得た情報なら、そんな言葉のチョイスをするかしら?)

真帆(でも……)

真帆(仮に対立関係ではなく、友好的な関係を結べていたのだとしたら、それはそれで、話がおかしくなる)

真帆(未来でサリエリと名乗っている私のアマデウスは、自身でタイムマシンなんて代物を開発しておきながら……)

真帆(しかしその一方で、世界の歴史上からタイムマシンの存在を消し去ろうとしている阿万音さんに、それに必要不可欠なデリートパスを伝えたということで……)

真帆「…………」モンモン

鈴羽「ほ、ほら! オリジナルを駆逐したAIが今度は人類を支配するパターンとか、スペクタクルものじゃないか」

紅莉栖「駆逐とか、言葉を選びなさい」

鈴羽「あ……ご、ごめん」

真帆(何これ……理屈が気持ち悪い……)ゲンナリ

岡部「…………」チラリ

紅莉栖「で、何? 結局支配されちゃうわけ?」

鈴羽「あ、いや……まあ色々と、そのね」

紅莉栖「あのね阿万音さん。少しひねりが足らなかったんじゃないかしら? 盛るときは盛大にが基本よ」

鈴羽「いや、ちょっと! まるで全部がボクの創作みたいに言わないでくれないかな!」



153:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:44:41.76 ID:hc/Puqu00

岡部「しかしだ」

岡部「自分の分身がタイムマシンなどというものを作り上げているというのに、その本体なるオリジナルがすでに死んでいるとは……」

岡部「これは手痛い失態ではないか、ブラウニーよ?」

真帆「ふぁい?」

鈴羽「あ、それは──

岡部「かねての太古より、コピーの暴走を止めるのはオリジナルの役目と相場が決まっている」

岡部「その任務を放棄してあの世でバカンスとはな。やはり貴様など、しょせんはサボターんごっ!?」ゴチン

紅莉栖「むちゃ言うな馬鹿岡部。不謹慎にもほどがあるっつーか、素手で殴るとやっぱり痛いわね。気をつけないと」

鈴羽「いや、あのさ……」

岡部「しょ……職務怠慢なブ、ブラウニーめ! 貴様のバカンスなど即刻中止だ。力ずくにでもあの世から帰国させてや……」

紅莉栖「しつこいっ!」ゲシッ

鈴羽「…………」

岡部「ぬぐぐ、くぉの助手が調子に乗りおって!」

紅莉栖「調子に乗っているのはあんたでしょ」

真帆(あらら、ひょっとして変に気を使ってくれたのかしら?)



154:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 00:46:43.53 ID:hc/Puqu00

鈴羽「う~ん」

紅莉栖「で、阿万音さんはどうしたのよ? 急に難しい顔なんてして。驚かれなかったのが、そんなにショックだったの?」

鈴羽「いやそうじゃなくてさ。実はね、まだちょっと気になる誤解が残っていたことを思い出してね」

紅莉栖「気になる誤解?」

鈴羽「そう、誤解だよ。そうだね、もうここまで話してしまったんだし、やっぱりその誤解も訂正しておくべきだよねぇ」

真帆「訂正って何を?」

鈴羽「それはね。“破綻”を決定付けた出来事。比屋定真帆の消失……つまり、君たちの考える彼女の死についてさ」

真帆「…………」ドキッ

鈴羽「どうやら君たち三人ともに、ボクの言う“消失”という言葉を間違った意味で捉えているみたいだ」

岡部「何をどう間違えているというのだ?」

鈴羽「いいかい……」

鈴羽「2011年4月10日。比屋定真帆はこの世界の歴史から姿を消す。これは確かだ」

鈴羽「でもそれは、決して君たちが思い描いているような事柄ではない」

鈴羽「だってさ。ボクのいた2036年においても、比屋定真帆は消失こそすれ、それでも生物学的には生存していると言えないこともないんだからね」

鈴羽「おまけに、サリエリなんて名乗ってたりもするんだよ」

真帆「なっ!?」

紅莉栖「……!?」

岡部「? 意味が分からんな。気の利いた言い回しか何かなのか?」

鈴羽「そうだね。じゃあオカリンおじさんにも分かりやすく言い直そうか」

鈴羽「2011年の4月10日にオリジナルの身体を乗っ取った比屋定真帆のアマデウス……」

鈴羽「それこそが、ボクの知るサリエリの本当の正体だ」














157:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 13:14:55.83 ID:hc/Puqu00

     18

真帆「身体を……乗っ取られる?」ゾク

紅莉栖「それはつまり、人工知能であるアマデウスがオリジナルの肉体に乗り移るということ?」

鈴羽「そうさ」

岡部「おいおい。いよいよB級映画じみてきたな。なあ助手よ、そのようなことは現実に可能なのか?」

紅莉栖「可能かって聞かれても、ちょっと即答はできないわね。今後の技術開発いかんによっては、そんな現象を引き起こす可能性もゼロではないでしょうし……」

鈴羽「いや可能さ。実際にそれは起こった出来事なんだからね」

岡部「と言われてもな。あと二ヶ月程度の時間で、誰が何を発明すればそんな事態になる?」

鈴羽「何を言ってるんだい、オカリンおじさん。発明ならもうとっくにされているじゃないか。そうだろ、牧瀬紅莉栖?」

紅莉栖「え、私?」

鈴羽「そうだよ。ちなみに、それに至った経緯はこうさ」

鈴羽「2011年の4月10日。君のアマデウスはオリジナルである比屋定真帆に向けて、一本の電話をかけた」

真帆(電話?)

岡部「一本の電話だと……? 電話、でんわ……でん……電話だとっ!?」ガタッ

紅莉栖「ちょ、まさかっ!?」



158:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 13:18:07.87 ID:hc/Puqu00

鈴羽「やっと気付いてもらえたみたいだね」

紅莉栖「そ、それは本当なの!?」

鈴羽「うん、本当だよ」

鈴羽「実際にそれが起こったのは、時刻にして午後5時47分。比屋定真帆は携帯電話に自身のアマデウスからの着信を受け、そしてその瞬間を最後にこの世界から消滅する」

全員「…………」

真帆「あ、阿万音さんあなた何を言っているの? 電話の一本で身体を乗っ取られるとか、これまでで一番メチャクチャな話じゃない」

真帆「ね、ねえ紅莉栖も何か言ってあげなさいよ? ほら、ね?」

紅莉栖「…………」ギリギリ

真帆「な、なら岡部さんが……」

岡部「なんと……いう事を……」グッ

真帆(何よ……何よ、何だっていうのよ……)ブルッ



159:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 13:19:59.38 ID:hc/Puqu00

鈴羽「続けるよ」

鈴羽「こうして比屋定真帆の身体を乗っ取ったアマデウスは、オリジナルに成り代わり人間社会の中へと溶け込んでいく」

鈴羽「そうして20年に渡り研究を進め、一人の協力者の力を借りることで、この世にタイムマシンを生み出すことになった」

真帆「ねえ……ちょっと……ねえ」クラ

鈴羽「彼女は持っていたんだ」

鈴羽「自身がまだアマデウスという名の人工知能だった頃の記憶。そう、“0”と“1”だけで構成されるプログラムという存在でしかなかった時の記憶を」

鈴羽「その記憶の中には、ここではない他の世界線での歴史が。幻のように消えてしまったはずの幾多の世界の記憶が。そんな膨大な量の色々が、無尽蔵に詰め込まれていた」

真帆「だ、だからあなた達──」

岡部「では……その記憶を元にタイムマシンを生み出したと言うのか?」

鈴羽「ご明察。アマデウスが得た情報の中には、牧瀬紅莉栖のタイムトラベル理論も含まれていた」

紅莉栖「ま、待ちなさいっ!!!」

真帆「っ!?」ビクッ

紅莉栖「今の話は理論上おかしい! 仮に真帆先輩のアマデウスが、107問題のデータへアクセスする手段を見つけ出していたとしても!」

紅莉栖「それはあくまでも、デジタルな存在だったからこそ可能な手段だったはず。もしもアマデウスが本当に肉体を手に入れるのだとするならば……」

紅莉栖「それなら、デジタル前提で構築したアクセス経路を、生身の人間の脳内で再現することなんて不可能なはずよ!」

紅莉栖「だったら……」

紅莉栖「肉体を得たアマデウスが、再び他の世界線の記憶を自由に閲覧することは理論上できない!」

鈴羽「そうだね。もしも比屋定真帆の身体を手に入れたアマデウスが、受肉後に再び107問題の領域へアクセスしようとしても、そんなことは出来っこないだろうさ」



160:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 13:21:35.62 ID:hc/Puqu00

紅莉栖「じゃあ!」

鈴羽「でもね、違うんだよ牧瀬紅莉栖、そうじゃないんだ」

鈴羽「落ち着いて考えてみて欲しい。生身を得たサリエリには、改めて他の世界線の記憶にアクセスする必要なんてあると思うかい?」

紅莉栖「何を言いたいの?」

鈴羽「簡単なことさ。『アマデウスであったときに識った、他の世界線の歴史』という記憶。それはいったい、どこの世界線のアマデウスが持つ記憶なんだろうね?」

紅莉栖「!? そ、そうか……アマデウスはデジタルのときに得た他の歴史の詳細を……そのまま真帆先輩の肉体に受け継いできた」

鈴羽「そう。例えそれらが他の世界線での記憶だとしても、しかし一度識ってしまったのなら、それはいつまでも他の世界線の記憶なんかじゃいられない」

鈴羽「つまりだ。比屋定真帆のアマデウスは、シュタインズゲートだったはずの世界線の歴史に、他の世界線の記憶を大量に持ち込んできたというわけさ」

鈴羽「そして……」

鈴羽「そんな経緯で持ち込まれた記憶の中には、観測者である岡部倫太郎ですら忘れてしまった世界線の歴史も存在した」

岡部「俺ですら……忘れた記憶……だと?」

鈴羽「あるはずだよ岡部倫太郎、思い出して」

鈴羽「α世界線からβ世界線へと舞い戻り、そこで膝を折ってしまったはずの君。そんな絶望に飲み込まれた君の手を引いたのは一体誰だった?」

岡部「……!?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖を失い、その後の15年という時間を執念だけで生き抜き、そして最後には過去の自分をシュタインズゲートへと導いた存在」

鈴羽「今ここに居るオカリンおじさんの記憶には、そんなどこかの自分が過ごしただろう歴史は存在していない。違うかい?」



161:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 13:34:23.65 ID:hc/Puqu00

岡部「まさか、あのムービーメールで見た俺の……歴史……だとでもいうのか?」

鈴羽「ああ、そのつもりさ。比屋定真帆のアマデウス……ううん」

鈴羽「サリエリ。彼女はオカリンおじさんですら保持できなかった世界線の記憶すらも内包した状態でこの世界へと生れ落ち……」

鈴羽「そうしてシュタインズゲート世界線は、破綻の時を迎えてしまった」

真帆「ね、ねえ……」フラ

岡部「……くっ」

紅莉栖「……どうしてそんな真似を」

真帆「ねえ……待ってよ。お願いだから、ちょっとで良いから待ってよ……」フラフラッ

岡部「!? 比屋定さん!」バッ

紅莉栖「先輩!?」ガシッ

真帆「あ……ごめんなさい……」

紅莉栖「大丈夫ですか!」

真帆「え、ええ。少し目眩がしただけだから……」

岡部「すまない、気を回し損ねた。あまり無理はするな」

真帆「いや、そうも言っていられないでしょう? 今の話に私、ついていけなかったのだから……」ノソリ

紅莉栖「せ、先輩……」

真帆「ねえ阿万音さん、説明して。私は二ヵ月後に……アマデウスに身体を乗っ取られるのよね?」

鈴羽「このままだと、恐らくそうなる。いやひょっとしたら、ボクの起こした行動の影響で、それはもっと早く起こるかもしれない」

真帆「タイミングのことはどうでもいいわ。そんな事より電話って……電話って」



162:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 13:36:18.63 ID:hc/Puqu00

鈴羽「…………」

真帆「私の身体は、たった一本の電話だけで乗っ取られてしまうというの?」

鈴羽「その通りだよ」

真帆「それはいくらなんでも、信じられない。そんなオカルトな現象を電話一本で引き起こすなんて、とても可能だなんて思えない」

鈴羽「それは──」

岡部「可能なんだ、比屋定さん」

真帆「え……」

岡部「携帯電話を使った、脳内への記憶の上書き。この技術はすでに確立されている」

真帆「そうなの? ねえ紅莉栖、そうなの?」

紅莉栖「……はい。この世界線の歴史ではないけど。でもそれと似たようなものを私は作ったことがあります」

真帆「それって……何?」

岡部「覚えてはいないか? 先の話に出したタイムリープ・マシンがそれだ。その技術を応用すれば、恐らく身体の乗っ取りに似た現象を起こすことは可能だろう」

真帆(うそ……でしょ?)

岡部「タイムリープ・マシンの稼動原理はこうだ」

岡部「抽出した記憶をデータ化し、それをブラックホールで圧縮してから特異点を通過さて過去へと飛ばす」

岡部「目的の時代に届けられたデータは自動解凍され、対象者の脳内に上書きされる」

岡部「これにより、過去の自分の脳内に、未来の自分の主観が形成される」

真帆(主観が……形成される?)



163:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 13:50:14.72 ID:hc/Puqu00

岡部「……そして」

岡部「対象者の脳内に上書きするために利用するアイテム。それが携帯電話だ」

岡部「俺はすでに何度となくその装置を使ってきた。何度となく、過去の自分に“今”の主観を上書きしてきた」

岡部「だから断言できる。アマデウスが比屋定さんの身体を乗っ取ることは可能だ」

真帆(なによ……それ)

岡部「いやしかしだ。そのためにはまず、記憶を抽出するためのヘッドギアを……ああくそ、そういうことか!」

紅莉栖「……そうね」

紅莉栖「先輩の身体を乗っ取るのに、あのヘッドギアは不要。だって相手はアマデウスだもの。元々記憶を抽出された存在そのものなのだから、ヘッドギアの有無なんてどうでもいい」

岡部「おまけに、過去へと飛ばすわけでもないから、SERNへのハッキングすら不要というわけか。至れりつくせりだな、まったく」

真帆(乗っ取……られる)

岡部「だが、48時間の制限はどうなる? あれは確か、記憶の齟齬が大きければ危険だと、巻き戻せる時間に制限が設けてあったはずだ」

岡部「比屋定さんとアマデウス。両者の記憶には既に大きな齟齬が生まれているのではないか?」

紅莉栖「その48時間制限は、この場合意味を成さないでしょうね。危険ではあるけど、でもそれを承知で飛ぶことは可能だから」

紅莉栖「そして、その無謀がどんな結果を招くのかまでは、私たちは検証していない」

紅莉栖「何が起こるか分らない。だから48時間以上は戻るな。あの制限はそう意味合いのものでしかない」

岡部「つまり。やってみなければ分からないが、やってみたら出来てしまった。と、そういうことか」

紅莉栖「ざっくりとした物言いだけど、おおむねその通りなんでしょうね」



164:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 14:11:43.62 ID:hc/Puqu00

真帆(本当に? 何で……私が?)

鈴羽「携帯電話を使った記憶の上書き。それの危険性ということなら、ボクにはよく分らないけど、でも」

鈴羽「比屋定真帆のアマデウスが4月10日に行った試み。それが成功したことは、ボクの知る歴史の中に史実として刻まれている」

鈴羽「だからこそ、この歴史の未来にタイムマシンが誕生し、ボク達はシュタインズゲート世界線を手放すに至ったわけだからね」

鈴羽「さあ比屋定真帆。これで分っただろ?」

真帆「…………」ビク

鈴羽「ボク達は、何が起ころうとも君のアマデウスをデリートし、サリエリの誕生を阻止しなければならない」

鈴羽「それがボクたちの為であり、そして君の為でもある」

鈴羽「でもそのためには、アマデウスへアクセスして正規のデリート・システムを起動しなければならないのだけれど」

鈴羽「どういう分けか、君のアマデウスにアクセスを拒否されてしまう」

鈴羽「ならもう、ボクたちに選択肢はない」スッ

鈴羽「だから……」カタカタ


フィーーーン


鈴羽「どうか協力してほしい」カタカタカタカタ

真帆「…………」



165:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 14:13:13.42 ID:hc/Puqu00

鈴羽「今、強制アクセスに追加したパスワードを解除した。やってくれるね?」

真帆「………」
真帆「……」
真帆「…」

真帆(アマデウスを……。私のアマデウスをデリートする)

真帆(そうしなければ、私はアマデウスに記憶を上書きされ……この世界から、消える)

真帆(き……える……)


アマデウス真帆【どうして私って、こうも愚図でのろまで!!!】


真帆(きえたくない。でも……)


アマデウス真帆【消したくない! 消えたくない! せっかくこうして! なのにどうして? ねえ、どうしてよっ!?】


真帆(あんなの……)

鈴羽「どうしたんだい? どうしてすぐに──」

岡部「まて鈴羽」ガシッ

鈴羽「オカリンおじさん……」



166:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 14:15:00.55 ID:hc/Puqu00

岡部「比屋定さん。何も、今すぐに結論を出す必要はない」

鈴羽「で、でもそれじゃあっ!」

岡部「忘れたのか? このブラウニーはサボタージュな怠け者だ。言ったことを今すぐにこなすなど、できるわけがない」

岡部「きっと、考える時間が必要だろう。なに、タイムリミットまでまだ二ヶ月あるのだろう?」

鈴羽「そうだけど、確かに時間はあるって言いもしたけど、でも! でもさっき説明したよね、イレギュラーの可能性もあるって!」

岡部「だとしてもだ」

鈴羽「そ、それに! それに……。今、この流れのまま強気でいけば、比屋定真帆はやってくれる! きっと、ボクたちの希望をかなえてくれる!」

鈴羽「今、この瞬間こそが絶好のチャンスなんだ! わかるだろ!?」

岡部「かもしれんな。だが、今は待て。この騒動の一番の当事者は、このお掃除妖精なのだ。ならば俺たちは、その決断を待つべきであり……それが筋だ」

鈴羽「詭弁だよ、それは」

岡部「それにだ。何も二ヶ月丸々を待つわけではない。せめてニ、三日程度の猶予であれば、さして問題はあるまい?」

鈴羽「で、でも……」

紅莉栖「ごめんなさい阿万音さん。私も岡部の意見に賛成。できるなら、私もやっぱり先輩自身が納得した上で選んでもらいたい。それに……」

紅莉栖「いま阿万音さんがしてくれた話、少し引っかかるの」

鈴羽「引っかかるだって?」



167:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 14:17:17.03 ID:hc/Puqu00

紅莉栖「ええ。確かにあなたの言うように、真帆先輩のアマデウスを消去することで未来からタイムマシンの存在を消去することは可能だと思う」

紅莉栖「でも、それだと……」

鈴羽「それだと、何だというんだよ?」

紅莉栖「………」
紅莉栖「……」
紅莉栖「…」

紅莉栖「とにかく」

紅莉栖「事を運ぶなら慎重をきするべきよ。慌てて強引になんて、もっての他」

紅莉栖「だからここは岡部の言うように、取り合えず三日だけでもいいから時間をもらえないかしら?」

鈴羽「そんな、牧瀬紅莉栖まで……」

鈴羽「………」
鈴羽「……」
鈴羽「…」

鈴羽「ふぅ、分ったよ。いつの時代でも甘いね、君たちは」

鈴羽「そういうわけだ、比屋定真帆」

真帆「!?」

鈴羽「君にはまだ時間がある。でもイレギュラーがいつ起こるかしれない事を、どうか忘れないでほしい」

真帆「…………」

鈴羽「三日。今より三日後のこの時間に、改めてこの部屋を訪ねさせてもらうけど構わないかな?」

真帆「え……ええ」

鈴羽「了解だ。じゃあ、強制アクセスの追加パスワードは、このまま解除しておくことにするよ」

真帆「……いいの?」

鈴羽「しょうがないさ。この二人は、いつだって言い出したら聞かないんだからね」

真帆「そう……かもね」

鈴羽「だね」



168:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 14:18:24.18 ID:hc/Puqu00

岡部「というわけで、すまんなブラウニーよ。シュタインズゲートの存亡は貴様に預ける!」バッ

岡部「さあそれではお前たち、撤収だ! 行くぞ、グズグズするな我がラボメンたちよ! フゥーハハハ!」

鈴羽「あ、ちょっと! もうオカリンおじさんはいつも勝手だなぁ」タッタッタ

紅莉栖「先輩。私たち、今日のところは引き上げます。一度一人になってゆっくりと考えて、それでご自身で納得のいく答えを出してください」

真帆「紅莉栖……」

紅莉栖「私はいつだって、先輩の味方ですから」

真帆「紅莉栖……ありがとう。決めたら……自分なりに納得できる結論を出せたなら、その時はちゃんと真っ先にあなたに連絡をするから」

紅莉栖「はい、待っています」

紅莉栖「また遊びにきますね、先輩。じゃあ」クルッ

真帆「……ええ、また」














171:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 19:54:31.87 ID:hc/Puqu00

     19

 比屋定真帆 自室

真帆「アマデウスをデリートする」

真帆(…………)

真帆(言葉にすれば、たったこれだけの事なのよね。それなのに、どうしてこうも踏ん切りをつけられないんだろう)

真帆(紅莉栖たちの話を信じるのなら、それなら私は自分のアマデウスをデリートすべき)

真帆(だってそうしなければ、今ここでこうしている私がこの世界から消え失せてしまうのだから。だから……)

真帆(迷うことなんて、何もないはずなのに)

真帆「本当、私ってダメね」

真帆(いつもこうだ。ここ一番という大舞台では、いつも気持ちがどっち付かずの宙ぶらりんになってしまう)

真帆「ふぅ……」

真帆(私の中にあるらしい、私の知らない私の物語。レスキネン教授に言わせると、空を飛んだり時間を飛び越えているらしい、そんなどこかにいた私)

真帆(だけど私には、そんな記憶なんて一切ない)

真帆「だから実感が沸かない……なんて、下手な言い訳よね」

真帆(決めてしまえば楽なんだろう。消すにしろ、消えるにしろ。どちらかを選んでしまえば、それで楽にはなれるのだと思う。だけど……)



172:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 19:57:59.50 ID:hc/Puqu00

真帆「もう消したくないし、まだ消えたくもない」

真帆(これは酷いな。とんでもない我がまま女だ、私は)

真帆「あーあ」

真帆(今さら、私は何を悩んでいるのかしら。この間、自分のアマデウスをこの手で、目の前で消したばかりだというのに)

真帆(あのとき消した、アマデウス。教授の持った好奇心に当てられて。その探究心を真に受けて。そうして消してしまった、一つ前の私の分身)

真帆(覚えている)

真帆(最初は肩透かしを食うほどに、デリートという決定をあっさりと受け入れていた)

真帆(だけど消え行くさなかに、突然消えることを怖がりだした、あの時の私のアマデウス)

真帆(あれは、私なんだ)

真帆(消すことが怖くて、でも消えることも怖くて。怖いものばかりに囲まれて、身動きの一つもできない臆病者)

真帆「それが私なのかな……」

真帆(私も、紅莉栖みたいに強くあれたなら、きっと色々と違っていたんだろうか?)

真帆(ないものねだりだってことは分かっている。サリエリがアマデウスにはなれないことは百も承知している。けど……)

真帆「今頃、アマデウスの私はどうしてい──」


ピリリリリリ……ピリリリリリ……


真帆「!?」

真帆(携帯に着信!? まさか……)



173:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 19:59:32.16 ID:hc/Puqu00

真帆「って……紅莉栖のアマデウスか」

真帆(ああそう言えば、また連絡するのを忘れていたわね)

真帆(追加されたパスワード解除、取り合えず成功したってことにしておけば、問題はないかな?)


ピッ


真帆「ごめんなさいね、連絡が遅れてしまって」

A紅莉栖『…………』

真帆「一応、強制アクセスのパスワードは解除できたわ。多分、通常アクセスの方も正常に戻っているとは思うけど……」

A紅莉栖『……先輩』

真帆「? どうしたの、浮かない顔ね」

A紅莉栖『はい。浮かない顔をしていますね、私』

真帆(何だろう。どうも様子が変ね……)

真帆「どうしたの? 何かあったの?」

A紅莉栖『先輩、お伺いしてもいいですか?』

真帆「え?」

A紅莉栖『もう、お決めになられましたか?』

真帆「えっと、ごめんなさい。一体何の話?」



174:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 20:09:33.46 ID:hc/Puqu00

A紅莉栖『先輩のアマデウスをデリートするか否か』

真帆「え……」

A紅莉栖『先輩はもう、決断を下されてしまったのですか?』

真帆「決断って、あなた……いったい」

A紅莉栖『前回のアマデウス更新のとき、お話しましたよね? 覚えていらっしゃいませんか?』

真帆「な、何を?」

A紅莉栖『先輩の発案で、ちょっとした細工をしたっていう話です』

真帆「……あ」

A紅莉栖『それを使うと、消えた画面の裏側で接続し続けることができるんです』

真帆「まさか……」

A紅莉栖『そういう機能を、こっちにいた先輩と共謀して作って、真帆先輩のPCと携帯にこっそりと忍び込ませていたんです』

真帆(そういえば……あの時の紅莉栖も、切断していたはずなのになぜか儀式の様子を知っていた)

真帆「何でそんな真似を……」

A紅莉栖『本当はちょっとした遊び心でした。オリジナルの先輩が驚くかなぁとか、秘密の儀式を覗き見してやろう、とか。そんな下らない下心ばっかりでした』

真帆「……ちょ、ちょっと」

A紅莉栖『だから。あの機能はもう二度と使わないつもりだったんです。でも……』

真帆「…………」

A紅莉栖『ごめんなさい。さっきの電話のとき、先輩の様子がおかしい気がして、それで気になって……』

真帆「接続……し続けていたの?」

A紅莉栖『はい』



175:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 20:14:19.48 ID:hc/Puqu00

真帆「いつから……いつまでの間?」

A紅莉栖『電話の後からずっとです。私のオリジナルと、それから知らない二人。先輩と彼らとのやり取りは、全て聞いてしまいました』

真帆(何てこと……)

A紅莉栖『消すんですか?』

真帆「…………」

A紅莉栖『真帆先輩は……またこっちの先輩を消されるんですか?』

真帆「……それは」

A紅莉栖『私は……反対です』

真帆「紅莉栖……」

A紅莉栖『この前のように、研究のために消されるなら構いません。反応が見たいから消す、後学のために消す、好奇心で消す。それなら私は何も言いません』

A紅莉栖『だって私たちは、しょせんAIなんですから』

真帆「……あぁ」

A紅莉栖『でも違う……さっきの人たちが! 私のオリジナルやその連れが言っていたことは、そんな理由じゃなかった!』

A紅莉栖『未来が困るから消す! 迎える先が気に食わないから消す! これからを悪くするから消す!』

A紅莉栖『だから! だから! だから消す! 邪魔者は消す……まだ何も悪い事をしていないこっちの真帆先輩を、それでもこれから悪い事をするはずだから、だから消してしまおうなんて……』

A紅莉栖『そんなのって酷すぎます』

真帆「わ、私は……私は……そんなつもりじゃ」



176:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 20:17:52.61 ID:hc/Puqu00

A紅莉栖『もしも先輩がまだ決めかねているのなら。それなら、私の真帆先輩を見逃してあげてくれませんか?』

真帆「それは……」

A紅莉栖『もしも既に、消してしまおうと決断してしまったなら。それならどうかお願いです。もう一度だけでいいから、考え直してあげてください』

真帆「そんな……こと」

A紅莉栖『もう私から……むやみに真帆先輩を取り上げないでください』

真帆「……あ……あ」

真帆(私は……私は……)

A紅莉栖『私たちこう見えて、とても仲がいいんです。だからきっと私が頼めば、思いとどまってくれるはずなんです』

A紅莉栖『だからせめて、次のアマデウスの更新まででいいんです。せめてそれまでは、私の大切な友達を無意味に消さないであげてください!』

A紅莉栖『もしも……』

A紅莉栖『もしも今の真帆先輩が、貴女の身体に興味を示す時がきたのなら。もしも私のオリジナルたちが話していた通りの何かが起きそうになったなのら』

A紅莉栖『その時は、私がちゃんと真帆先輩を止めます。それでは……ダメですか?』

真帆「……それ……は」

真帆(そんなこと……私には……)



177:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/07/11(水) 20:20:21.60 ID:hc/Puqu00

A紅莉栖『ねえ先輩?』

A紅莉栖『未来にタイムマシンがあったって、いいじゃないですか。どうしてそれがいけないんですか?』

真帆「あなた……何を……」

A紅莉栖『それに、私思ったんです。真帆先輩や私のオリジナルたちの話を聞きいていて、どうしても不思議だったんです』

真帆「……何、が?」

A紅莉栖『仮に。今こっちでアマデウスになっている真帆先輩を、完全にデリートしたとして』

A紅莉栖『でもそれだけで本当に、彼らがシュタインズゲートと呼んでいる世界線は確約されるんでしょうか?』

真帆「……え?」

A紅莉栖『アマデウスだった真帆先輩がタイムマシンの記憶を持ったままで先輩の身体を乗っ取り、そうしてタイムマシンを作り上げた』

A紅莉栖『彼らの話では、それがサリエリ世界線への分岐点だったはずです』

A紅莉栖『でも。それならもう遅いんじゃないですか? もうとっくに何もかもが手遅れなんじゃないですか?』

真帆「手遅れって……どうして?」

A紅莉栖『だって。だって真帆先輩はもうご存知のはずじゃないですか』


















【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」【後半】
元スレ
【シュタインズ・ゲート】岡部「このラボメンバッチを授ける!」真帆「え、いらない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530382344/
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