南条光「深海2000m」/小関麗奈「高度8000m」/南条光 小関麗奈「地上0km」/小関P 南条P 「エピローグ」

1:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:03:26 ID:thK

・四部構成の第一部



2:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:04:16 ID:thK

 戦いが終わる。アタシはステージから降りる。
 汗はかいてない。息も切れてない。いつも通りのパフォーマンスができた。
 
 Pが、タオルをくれる。それを笑顔で受け取って、ステージのほうを振り返る。
 対戦相手が、青ざめた顔で立っている。

 今はLIVEバトルの最中。アタシは先行でパフォーマンスをした。相手はそれを見ていた。

 曲がかかる。課題曲はおんなじだから、純粋に歌とダンスのレベルで競い合うことになる。

 出鼻からミス。そこから、相手のパフォーマンスが崩れはじめた。
 このLIVEバトルのために用意された曲はテンポがかなり速くて、歌のリズムとダンスのリズムを合わせるのが難しい。



3:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:04:41 ID:thK

 一度崩れてしまうと、立て直すのは……。

 相手の表情にあからさまな焦りが浮かぶ。必死に呼吸を合わせようとしてる。
 だけどうまくいかなくて、さらにミスが増える。

 がんばれ! あともうちょっとだ!!

 アタシは心の中で、相手のファンに負けないくらいの声を上げた。

 ふと、相手と視線が合う。アタシは、にっこりと微笑んで、ファイト、と片手をあげる。
 相手の顔に恐怖の色が浮かぶ。別に傷つかない。もう慣れた。
 
 音楽が止まって、へたり、と相手がステージに座り込む。相手のプロデューサーがあわてて駆け寄って、自分のアイドルを抱きしめる。
 感動的なシーン。思わず涙がでそうになった。



4:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:05:28 ID:thK

しばくして、ステージで結果発表がはじまる。

「勝者、南条光!」

 観客席から歓声が上がる。

「みんなぁ! 応援ありがとな!!」

 アタシはそれに応える。決まりきった、工夫のない応答で。
 相手は泣いている。アタシに負けて。

 観客は彼女のほうを見向きもしない。拍手もしない。健闘をたたえたりしない。
 観客には、彼女が見えていない。

 “南条”コールが始まる。声援が大きくなる。耳をふさぎたくなる。腕はアタシの意思にさからって、ガッツポーズを作る。声援がさらに大きくなる。圧勝、合唱、故障。

 みんなが壊れていく。アタシも壊れてしまう。アタシが壊してしまう。なにもかも。
 アタシは観客やファンにとってヒーローかもしれないけど、正義の味方じゃない。
 
 たしかに、正義は勝つというけど、アタシに負けたアイドルは悪じゃない。
 まちがってない。プロダクションの中に、正しくないアイドルなんていない。

 でも勝敗がある。そしてアタシは勝ちつづけている。
 たったそれだけ。それだけなんだ。



5:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:06:28 ID:thK

LIVEバトルが終わって、Pさんの車の中。

「つかれた」

 アタシはそうつぶやいた。身体はまったく疲れてない。

「おつかれさま」

 こっちを振り向かないで、Pさんが言う。こっちを見て欲しい。アタシはいまどんな表情でいるのか、教えて欲しいと思う。だけど無理だ。よそ見運転は悪。

「Pさん、今日で何連勝になったんだ?」
「98」

 Pさんの返事が、他人事のように聞こえる。
 そんなに勝ちつづけるやつが存在するのか? 特撮番組の主人公でも、一度くらいは負けるのに。
 
 アタシが“ヒロイックなアイドル”、なんていう売り出され方をされて、もう一年以上になる。
 
 はじめは楽しかった。
 運動はもともと得意だったけれど、ダンスを一から身体に染み込ませるのは大変だった。
 大変だったけど、充実してた。必殺技を必死で特訓するような気持ちだった。
 



6:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:07:21 ID:thK

 レッスンがはじまって2ヶ月で、ほとんどの動きを覚えた。
 3ヶ月、トレーナーが新しい人に変わった。
 5ヶ月、歌とダンスがかっちりと噛みあう。
 8ヶ月の頃には、息も上がらないし、汗もかかない。先にトレーナーさんが潰れてしまう。

 LIVEバトルに参加すると、アタシは最強だった。いや、最強だ。一度も負けたことがない。
 最近は何をしても退屈に感じる。10連勝くらいのとき、参加前にあった高揚感が、影も形もなくなった。
 誰もアタシのように歌えない、踊れない。

 いっそLIVEバトルを投げ出したいとさえ思うときがある。だけど、それはダメだ。悪いことだ。
 アタシを唯一信じてくれるPに対する裏切りだ。それはできな



7:訂正です 2018/07/01(日)22:08:08 ID:thK

レッスンがはじまって2ヶ月で、ほとんどの動きを覚えた。
 3ヶ月、トレーナーが新しい人に変わった。
 5ヶ月、歌とダンスがかっちりと噛みあう。
 8ヶ月の頃には、息も上がらないし、汗もかかない。先にトレーナーさんが潰れてしまう。

 LIVEバトルに参加すると、アタシは最強だった。いや、最強だ。一度も負けたことがない。
 最近は何をしても退屈に感じる。10連勝くらいのとき、参加前にあった高揚感が、影も形もなくなった。
 誰もアタシのように歌えない、踊れない。

 いっそLIVEバトルを投げ出したいとさえ思うときがある。だけど、それはダメだ。悪いことだ。
 アタシを唯一信じてくれるPに対する裏切りだ。それはできない。



8:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:09:25 ID:thK

 LIVEバトルがはじまってから、観客やファンのみんなはおかしくなった。
 対戦相手に対する敬意とか、敗者に対する尊重がなくなってる。
 
 いや、勝者に対しても、みんなは時々残酷な振る舞いをする。
 不人気のくせに。でしゃばりやがって。八百長だ。運営のゴリ押しだ。
 
 悪の組織に改造される一般人みたいだ。それじゃあアタシは悪の組織の戦闘員Nか? 
 みんなの高揚感が増していくほどに、自分が底無しの海に沈んでいくような気がする。

 息は上がらないけど息苦しい。
 汗はかかないけど、アタシはびしょ濡れになって、衣装がひどく重く感じる……。

「ついたぞ」

 車が女子寮の前に停まる。徳島から東京に出て、あまり家に帰ってない。アイドルのみんなと、プロダクションの息がかかった私立の高校に通っている。
 家に帰れない。アタシは、ただの無邪気な女の子に戻れない。Pの前でさえ。



9:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:10:20 ID:thK

「ただいま」

 自分の声が、女子寮の玄関ホールにこだまする。返事はない。
 みんな外に出ているのかもしれない。この女子寮には、退屈で寮の中をぶらぶらするような子はいない。
 仕事のある日は仕事をして、仕事のない日はレッスンにどっぷり漬かって、自分を磨く。
 そうしないと、アイドルの資格はたやすく失われてしまう。

「ただいま!」

 もう一度言う。久しぶりに、焦燥感が身体を襲ったから。なにに焦っているのか、自分でもよくわからないけどな。



10:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:11:25 ID:thK

 翌日の放課後。3人目の、ベテランのトレーナーさんとのレッスン。ベテトレさんの表情はいつも硬い。
 というかアタシの担当になってから、このひとが笑ったところを一度も見たことがない。
 けれど、アタシの動きや歌に厳しい注意がはいったことはない。アタシはこのひとの前で、一度もまちがったことがない。
 いや……多分、ある。1回目の時だ。ベテトレさんに言われた。

「キミにはアイドルとして、いや、ヒーローとしても決定的に欠けているものがある」

 アタシはびっくりして、ベテトレさんに何が欠落しているのか聞いた。でも、教えてくれなかった。
 自分の身体で失敗して、感じない限り、直らないものらしい。

 だけど、アタシは他のアイドルに負けたことがない。それが成功かはわからない。だから、ずっと自分の正体に気づけないままでいる。
 ベテトレさんも悪いひとだと思う。いつか正義の鉄槌が下されるにちがいない。



11:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:11:49 ID:thK

 彼は都内にある、完全個室の料亭に入った。歳は40を過ぎ、右足を少しひきづるような形で歩いている。
 予約はすでに済んでおり、スムーズに部屋に通された。室内には約束した相手がいる。

「やあ、プロデューサー。こんなところで会うなんて奇遇だな」

 南条光専属のトレーナー。ほおがすこし赤い。すでに酒が入っているのかもしれない。

「ぶらりと寄ったら店が混んでて、相席を頼まれたんです。
 まったくの奇遇ですね」

 彼が腰を下ろす。机の上には、お冷と箸以外には何も置かれていない。

「何も注文していないですか?」

「大家族で育ったせいか、ひとりでご飯を食べるのは性に合わないんだ。
 酒を飲むのも、な」

 トレーナーが机のよそにさげていた献立表を、彼に渡す。
 彼女はまだ20代だが、一回り年上の彼にも忌憚のない口をきく。



12:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:12:17 ID:thK

 彼はこういう場所に慣れていないので、適当にコースを選んだ。

「プロデューサー」

 トレーナーが、彼の傷だらけの手を指でつついた。

「南条はな……プロデューサー、よく聞いてくれ」

「光がどうしました?」

「アイツは、溺れかかっているよ」

 彼はトレーナーの指を払った。その顔には、怒り…不安、恐怖がないまぜになった皺が浮かんでいる。

「どういうことですか」

「自分の意志でアイドルをやれているわけじゃないってことさ」

「どういうことですか?」

 彼の語気がやや強まる。トレーナーを責めているわけではない。光がなにかに苦しんでいるとするなら、それに気づかない自分が許せないのだ。



13:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:12:55 ID:thK

 彼はもともと、仮面ライダーの俳優に憧れて育った。だが、自分の顔では俳優になれないと気づき、スーツアクター、スタントマンの道を選んだ。
 
 努力の甲斐もあり、彼はその職に就くことができた。さらなる努力を積んだ。ほかの者がやりたがらない、危険なアクションもどんどんこなした。彼の身体は傷だらけになった。だが、その傷は勲章だった。

 そしてある日、右脚がほぼ切断されかかる重傷を負った。彼の不注意でも、偶発的な事故ではない。制作側のヒューマン・エラーだった。
 
 右脚はなんとか身体につながったが、医者に、“もう二度とアクションはできない”と告げられた。そのことを制作側や友人に伝えると、彼はあっけなく捨てられた。
 
 契約は切られた。新しい仕事はさせてもらえない。特撮の人間は冷たい。彼に残されたのはわずかばかりの賠償金と保険金。あとは傷だらけで、障害持ちで、他にまともな職歴のない、あまりに不恰好で残酷な人生だった。

 彼はヒーローの世界に絶望した。そんな世界を無邪気に信じていた過去の自分を呪った。



14:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:13:41 ID:thK

 それでも食っていかねばならず、芸能関係の人間にすがって、346プロダクションに入社した。
 障害持ちということが功を奏した。障害者を雇用すれば、企業には助成金や税制上の優遇が与えられる。

 だがはじめ大した仕事は与えられず、“スカウトマン”の名目で外に放り出されていた。
 一日中喫茶店や図書館で時間を潰していても、何も咎められなかった。しかも、交通費や昼食代は経費で落としてもらえた。

 楽な仕事だった。だが、楽しくはなかった。
 情熱がまだ、身体のどこかでくすぶっていた。 

 彼は誰にも期待されていないにも関わらず、職務に精励するようになった。自分がこれぞと思った少女には、多少強引にでも声をかけた。なんどか警察の世話になったが、346のスカウトマンだと告げると、なんとも味のある顔で解放してもらえた。

 しばらく月日が経って。彼のスカウトした何人かが、総選挙でトップ20に割り込んだ。 
 その日から、周囲の目が変わった。憐れみや軽蔑が、尊敬と嫉妬になった。

 偶然ではない。
 彼自身は気づいていなかったが、彼には、他人の潜在的なパフォーマンスを見抜く力があった。それは養成学校や現場で何十人、何百人もの人間の成功と破滅を目にしたことで培われた第六感だった。



15:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:14:15 ID:thK

そのうちに、上層部から「プロデュースをしてみないか」、と声をかけられた。それは半ばやっかみと期待が入り混じった采配だったが、彼は了承した。
 彼はプロデュースでも成功をおさめた。だが、心が満たされたことはなかった。自分自身に心底うんざりしている者の心の中には、どんな喜びも湧き出でることはない。

 40代にさしかかったとき、ある少女を街で見かけた。彼女は、ショーウィンドウの奥にある、プレミアのついたライダーベルトを食い入るように見つめていた。
 髪はぼさっと乱れ、服装は年齢としても、少女としても相応でない野暮ったいTシャツとジーンズ。それだけなら、彼はただの特撮オタクの少女に声をかけなかっただろう。

「欲しいのか」

「うん。ここにしかないから、徳島から来たんだけど……って?」

 手入れが行き届いていないだけで、髪質自体にはしっとりとした艶がある。
 大きな瞳は、澄んでらんらんと輝く。
 ちいさく、形のよい鼻。あどけない唇。ふに、とやわらかそうなほほ。
 
「おじ…おにいさん誰?」

 彼は、過去に受けた屈辱が、赤い傷痕として顔に浮かび上がるような感覚を覚えた。
 彼女はヒーローに憧れている。昔の自分のように。
 彼女は本当にヒーローになれる。昔、そして今の自分とはちがって。

 だが、彼自身はとうにヒーローへの幻想を喪失している。
 その一方で、彼の第六感は、目の前の少女を求めてやまない。

「おじさんは……」

 彼は、嘘をついた。

「おじさんは、悪の秘密結社の一員なんだ」

 プロダクションの名刺を差し出す。

「君を、ヒーローに改造してあげる」

 ヒーローなど、この世にいない。目指すべき存在ではない。
 だが、彼はヒーローを求めた。南条光という少女に。

 そして光はいま、彼の期待に応えてくれようとしている。



16:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:14:43 ID:thK


 40過ぎの男が、10代の少女にすがっている。情けない。
 彼にはその自覚がある。
 だから、どんな些細なことでも、光の支えになってやりたいと思う。
 彼女の苦しみを取り除いてやりたい思う。

「南条は観客やファンの意思に流されてしまっているんだ」

 トレーナーの女が言う。

「そして、キミの期待にもね」

「俺が光の負担になっている、そういうことですか?」

 口振りはあくまで冷静に、彼は言った。トレーナーはふん、と鼻を鳴らす。

「キミは知らないだろうが、南条はまだ10代の少女だ。
 感情性が強く、ワガママで、大人の言うことなど耳も傾けないで、遊んでいたいはずの年頃だ」

「わかってます」

「わかってないよ」

 トレーナーは彼の言葉を切る。その表情にはやや、嗜虐的な色が浮かんでいる。

「アイドルになろうが、ふつうは自己中心的な箇所がどこかしらに現れる。
 それはこだわりとも言うし、個性とも言う。

 だがね、プロデューサー。南条にはそれが一切ない。
 あれではただの着せ替え人形だよ」

 彼には返す言葉がない。それは彼が、まともな人生を送ってこなかったことと、彼が男であること、それから、目の前の女のせいだ。

「キミに教えてやるがね、周りのエゴにさえ敏感でなかったら、南条光はただの女の子なんだよ。私とおなじように」

 トレーナーが微笑む。彼は料亭に来るまえ空腹だったが、今は胸が詰まるような異物感を覚えていた。



17:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:14:59 ID:thK

女子寮。南条光はぼんやりとテレビを見ていた。
 LIVEバトルに期待の新人が現れた、とテロップが出ている。音量は0にしてある。
 
 “ただいま20連勝! 目標は世界征服!!”

 光は毛布にくるまって、そのテロップを見つめる。

「20連勝なんてすごいな」

 声がひとりぼっちの部屋に響きわたる。

「世界征服なんて、まるで特撮みたいだな。あははは」

 乾いた笑いが、雨粒のつきはじめた窓にしみわたる。



18:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:15:20 ID:thK

「今度の相手はかなり手強いぞ」

 ベテトレさんが、レッスンの前にそう言った。

「“今度の相手は、かなり手強いぞ”」

 真似してみる。
 何回もおなじことを言われているから、結構ベテトレさんに似てたと思う。
 
「必死に特訓しないと負けるぞ」

 必死に、特訓。良い響き。
 ヒーローは努力を絶やさない。そうしないと、悪に負けてしまうから。
 
 レッスンが始まる。課題曲は、前回以上にテンポが速い。
 でも速いだけだから、アタシが速く動くだけでいい。とても楽チンだ。

 ダンスに歌を合わせる。アタシの呼吸は深い。
 ダンスで節約している息を、ボーカルに回せば体力は消耗しない。
 アタシは誰よりも深く潜ることができる。

 きっと、すべてが死に絶えた深海でも。



19:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:15:51 ID:thK

 LIVEバトルの当日。アタシははじめて対戦相手の顔を見た。
 知っている。ダンスがプロダクションの誰よりも上手いらしい。

 ひょっとして、アタシより?
 心のすみっこに、ほっこりと期待が顔を出す。

 でも負けてあげるわけにはいかないよな。
 ジャンケンで先行に決定。

 ステージの準備がされている間に、アタシは音響さんに声をかけた。

「曲のテンポをあげて欲しいんだ。1.2倍くらいでいいから」

 音響さんはかなりぎょっとした顔をした。
 たしかに、こんなことを突然言い出すのはワガママだ。

 ちょっと失礼だとも思う。
 だけど、ベテトレさんは必死でやれとアタシに言った。
 そうしなければ負けると言った。

 それに、楽チンなままのパフォーマンスじゃ、相手をがっかりさせてしまうかもしれない。
 あのひとだって、必死に勝ち上がってアタシに挑戦したんだ。
 全力でやらなきゃ、相手に悪い。



20:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:17:38 ID:thK

 準備が終わった。アタシはステージに上がる。
 舞台袖にいる対戦相手を見る。自信に満ち溢れていて、良い笑顔だ。

 ひとが笑顔だと嬉しい。アタシはアイドルだから。

 曲がかかる。アタシの身体は、宙から糸で吊るされたように、なめらかに動く。
 テンポにうまく対応できてる。心の中でガッツポーズ。

 ボーカルが入る。息がちょっと苦しい。だけど、まだまだ。
 もっと深く、もっと深く。思考がどんどんクリアーになる。

 身体が、もっときびきびと動く。
 
 観客からの声援。それにウィンクして、手を振る余裕がある。
 歓声がさらに大きくなる。

 これでどうだ!

 連続ループのとき、ちらりと舞台袖を見る。



21:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:18:04 ID:thK

 



 笑顔がない。悲しい気持ちなる。
 だけどパフォーマンスは、アタシの意思でも、止まらない。

 音楽が終わる。

「みんなぁ! 声援ありがとな!!」

 アタシの口がそう言う。
 




22:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:18:33 ID:thK

 しばらくして、相手のパフォーマンスが始まる。
 あれ? テンポがアタシのときと変わってない?

 相手の顔に、あからさまな動揺が浮かんでいる。音響さん、戻すの忘れてる。
 相手は必死にダンスをしている。

 一度動いてしまうと、曲を止めてやり直すことができない。観客が、そうさせない。
 パフォーマンスが乱れはじめる。

 顔がみるみる青くなる。息がうまく吸えていないんだ。
 このままだと……。 

「音楽を止めてくれ!」

 アタシは叫ぶ。だけど、観客の声にかきけされる。
 音響室に飛び込む。

「テンポが早すぎる! あのひとが危険だ!!」

 音響さんは、なにを言われているかわからない、という顔をしている。
 アタシ以外、みんなおかしくなってる。
 
 舞台を見る。相手の顔が苦痛で歪む。
 彼女を止めないと。

 舞台に上がろうとすると、警備のひとに止められた。
 パフォーマンスの邪魔をしてはだめだって。

 そしてついに、あのひとは曲の終盤で倒れた。
 ここでようやくみんなが彼女のことを見る。
 何人かは、スマートフォンで舞台を撮影している。

 対戦相手が、担架で外へ運ばれていく。



23:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:18:53 ID:thK

そのあとすぐに、アナウンスが入る。

「パフォーマンス未達成! 勝者、南条光!!」

 ひときわ大きな歓声が上がる。狂っている。
 アタシの片手が勝手に動いて、手を振る。ほおがうえに捻じ曲げられていく。
 アタシも狂っている。

 勝って、みんな笑顔になったのに、全然うれしくないんだ。



24:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:19:24 ID:thK

 翌週、LIVEバトル以外のお仕事が入った。
 なんと、ヒーローショーにサプライズ参加!!

 勝ち負けのない、良い仕事。いつも以上に、身だしなみをきれいにする。
 だらしない格好で出ていったら、こどもたちに申し訳ないだろ?

 しかもこのショーには、名前を思い出せないけど、アタシの好きだった俳優さんが出るんだ。何代目かまえの仮面ライダーのひと。
 スタントをつかわずに自分ですべての演技をこなす、とてもすごい人だった。

 Pさんに会場まで運んでもらって、アタシは意気揚々と楽屋に入った。
 あの人がいる! 今のアタシは子犬みたいだ。

「346プロダクションの南条光です」

 自分で思っていたより、かなり低い声が出る。おかしい。風邪はひいてないのに。



25:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:19:57 ID:thK

「おぉ、346さんとこの!」

 俳優さんが、ほがらかな笑顔でアタシを受け止めてくれる。

「まだ経験が浅く、ご迷惑をかけるかもしれませんが、全力でショーを盛り上げます。
 よろしくお願いします!」

 ちがう、こんなことが言いたいんじゃない。ここはアイドルじゃない。アタシだ。

「しっかりしてるね~。ぼくが君くらいの頃は、夏はカブトムシ、冬は雪合戦のことしか頭になかったよ」

「ありがとうございます!」

 ちがう。優先順位がこんがらがっている。アタシの伝えたいこと。アタシにもどれ。

「アタシ、」

 そこで言葉が詰まる。相手の名前がわからないから。

 “〇〇さんの演じる仮面ライダーが大好きでした!!”

 大好きならどうして忘れる? どうして?

 知らない間に記憶が操作されてるのか?

「アタシは……」

「まあ、今日はよろしく頼むよ」
 相手が言葉を切って、楽屋の外に出る。名前を聞こうとしたけど、できなかった。
 何かがおかしい…何か。視界がすこし暗くなる。



26:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:20:23 ID:thK

 いけない!

 アタシは頭をぶんぶんと振って、今日のパフォーマンスのことを考える。
 そうだ。アタシは仮面ライダー風の衣装を着て、司会のお姉さんに襲いかかる怪人を倒すんだ。そういう風に台本で決まってる。それさえやればいい。そうすればみんな笑顔、問題ない。

 ショーがはじまる。舞台袖から、観客席を見る。
 こどもより大人のほうが多くて、苦笑い。何人かはアタシのことを知っているだろう。 
 LIVEバトルで見た顔だ。

 アタシの出番。
 ステージの端からとことこ走って、怪人役の着ぐるみに飛び蹴り。
 ぶにゅり、とやさしい感触がする。

 体勢を立て直して、宣言。

「南条光、参上!」

 観客からは歓声がない。あのひとだれ? こどもたちが言う。
 心の中でまた苦笑い。知らなくてもしょうがない。

 パフォーマンスを続ける。

「ライダー、パンチ!」

 戦闘員役のひとが倒れる芝居。

「ライダー、チョップ!」

 怪人役のひとが苦しむ演技。

「「ダブルライダーキック!!」」

 あの俳優のひとと、一緒にフィニッシュ。怪人役のひとが倒れる。
 ここでようやく、こどもたちの大歓声。拍手、ライダーの名前の大斉唱。



27:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:20:48 ID:thK

 アタシはそそくさと舞台袖に隠れる。こどもたちにとってアタシは部外者だ。
 舞台の方で、あの俳優の人がこどもたちに言っている。

 この世に悪は栄えない。
 正義は必ず勝つ。

 こどもたち、きみも誰かのヒーローになれ。

 良い脚本だ。アタシも懐かしい気持ちなる。
 だけど、その気持ちが、観客席からの声で冷めてしまった。

 “南条光はアイドルなのに、なんでヒーローショーにいるんだ?”

 LIVEバトルに来ていたひと。アタシのファンだと言っていたひとが、そう言った。

 ショーが終わり、楽屋にみんなで戻ったとき、俳優のひとから声をかけられた。

「君は本当にアイドルなのか?」



28:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:21:05 ID:thK

 彼はひどく動揺した。
 南条光が電話で言った。

『アイドルを辞めたい』

 なぜ、と尋ねることができない。彼は理由に心当たりがある。
 だから、代わりに引き止める口実を、思いつくまま口にする。

「ファンが悲しむぞ」
『本当のファンならアタシを許してくれる』

「まだまだこれからじゃないか」
『なにが、だ?』

「やめないでくれ」
『ごめん』

 彼は、自分がひどく不器用な人間だと、改めて自覚した。スカウトうまくいっていたから、口の方も達者になったと勘違いしていたのだ。そう、器用に口先が回る人間なら、彼は今頃こんな場所はいない。



29:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:21:34 ID:thK

 トレーナーの女が言っていたことを思い出す。
 南条光は、周りの意思に流されている。

 彼は歯噛みした。自分はちがうと思っていた。自分だけは、光の味方だと思っていた。

 だが、本当に光の味方であれば、彼女の意思を尊重するだろう。
 俺のせいなのか。そう自分を責めながらも、舌は言葉を弾き出す。

「LIVEバトル」

『……もうどうでもいい』

「もうすぐ100連勝だぞ」

『どうでもいい』

「100連勝してからやめれば、みんなの記憶に残るぞ」

 彼は、携帯のスピーカーが息を飲むのを聞いた。

「光は、無敵のヒーローだって、みんなが……」

 主語がちがう。彼は身体中の毛が逆立つのを感じた。
 
 俺のエゴだ。光をスカウトすべきじゃなかった。彼女をただ、おもちゃ屋の前で指をくわえている子どものままにしておかなった。



30:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:22:00 ID:thK

 しかし2人が出会った時と同じように、彼は自分の第六感に逆らえない。ヒーローを求めて泣き叫ぶこどもを、無視することができない。

「どうせ勝つんだ。それに99は苦しみの9が続いて縁起が悪いんだから100勝してから、やめればいい」

 嘘だ。100勝しようが、1000勝しようが、彼は南条光を諦められない。

 情けなく彼女にすがり、自分の代わりにヒーローになってくれ、自分のヒーローになってくれ、自分を救ってくれ。そう願い続ける。

 この世に悪があるとすれば、それは俺だ。彼は携帯を持っていない方の拳を握りしめた。

 被害者ヅラをして、自分の弱さをかえって武器にして、光のような少女に何もかも押し付けてしまう。
 人生の敗北、人生の憂鬱をすべて、彼女がこれから贖ってくれると本気で思っている。
 
 いますぐ、“わかった”と言え。“わかった、今までありがとう”と言え。たった一言。



31:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:22:21 ID:thK

 だが。

 彼が躊躇している間に、光は答えた。

 答えてしまった。彼の望む答えを。

『わかった。100連勝して、最強のヒーローになってやる』




32:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:22:46 ID:thK

 アタシはLIVEバトルの会場で、また、初めて対戦相手を見た。
 麗奈。小関麗奈。世界征服を目論む、悪の帝王。
 そういうふれこみで売り出された、アタシとおなじような子。

 麗奈は、テレビで初めてみたときみたいに、不敵に笑っている。
 笑顔は好きだ。みんな笑顔のまま、アタシだけここからいなくなってしまえばいいのに。

 麗奈と2人でステージに上がる。

「アンタさあ」

 司会が話し出す前に、麗奈が言った。このライブハウス全体に響くような、声。

「99連勝でアタシとぶつかるなんて、ほんっとにツいてないわね!」

 挑発。こんなことは、はじめてだ。心が、ざわつく。

「アンタのおかげで、アタシの名前はアイドル界中に響き渡るわ!
 “あの”南条光を倒したアイドルだってさ!!」

 負けてあげようか。そんな言葉が思わず口から出そうになる。
 麗奈はとても元気だ。こどもは元気なほうがいい。



33:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:23:17 ID:thK

先攻後攻。ジャンケンをする。
 アタシはすこし驚いた。麗奈はズルをした。
 
 わざと後出しをして負けた。
 顔を上げて、麗奈の方を見る。不敵に笑っている。

 後攻は、先攻の動きを見ることになる。ここで、先攻の相手のパフォーマンスがうまくいっても、失敗してもプレッシャーがかかる。
 
 “本当に勝てるのかな” “おなじような失敗をしたらやだな”

 だから普通、みんなは先攻になりたがる。でもみんなを先攻にはできないから、ジャンケンをしてる。
 でも、麗奈は自分で後攻を選んだ。いままで、こんなヤツは知らない。
 まあどうせ……アタシが勝つけどな。



34:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:23:37 ID:thK

 ステージ。アタシが1人だけになる。曲がはじまる。
 身体はいつもどおりに動く。テンポは前ほど速くない。余裕だ。

 身体だけが、気持ちよく動く。楽しくない。
 アタシは深く潜り過ぎた。誰もここへはやってこない。
 
 どうせ最後だ。アタシはアドリブを入れて、動きをさらに激しくする。
 観客席から、耳障りな音が聞こえる。深い、不快が喉の奥からこみ上げる。

 構成を無視して、麗奈の方を見た。
 ヤツはまだ不敵に笑って、隣にいる女性になにか耳打ちをしている。



35:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:23:55 ID:thK


 笑ってやがる。アタシはこんなに苦しいのに。
 アタシがこんなに苦しんでるのに!!

 みんなが笑っている。
 みんなアタシのことを見向きもしないで、ばかみたいに笑ってる。

 もういやだ、もういやだ……もう、うんざりだ!!!

 パフォーマンスが終わったとき。
 アタシのほおが、ギリリギリリと、横にゆがんで開いた。

「みんなぁ! 声援ありがとな!!」

 口が滑って、ステージから降りる。



36:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:24:26 ID:thK

 入れ違いになって、麗奈が首をコキコキと鳴らしながらステージに上がる。

 アタシが席につくより前に、麗奈が叫んだ。

「愚民どもぉっ!
 しょっぱいパフォーマンスの時間は終わりよ!!」
 
 思わず振り返った。ハウス全体が、わずかに震えた。
 麗奈はマイクを使っていない。

 あんな小さな身体から、どうしてこんな声量がでるんだ?

「はじめなさぁいっ!!」

 アタシがぼうっとしている間に、曲が始まる。
 観客がざわつき始める。多分みんなの頭も、麗奈の声でいっぱいになっている。
 
 おなじ曲なのに、麗奈の構成はアタシとちがう。
 それどころかめちゃくちゃにアドリブを入れて、構成をすぐに変えて、立て直している。



37:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:24:49 ID:thK

 アドリブのほとんどは、観客への罵声だ。

「愚民どもぉっ!! もっと盛り上げなさいっ!!」

「そこ!! スマホ越しにアタシを見てんじゃないわよ!!!」

「ブーイングするなぁぁぁっ!! 」
 麗奈は観客に一切媚びない。観客を顧みない。
 気づけば、あっという間にパフォーマンスが終わっていた。

「アンタ達まあまあね! 次からはもっと頑張りなさい!!」

 麗奈が、吐き捨てるように言う。礼もしないで席にどっかりと腰をかける。
 アイドルとは思えないふてぶてしさだ。

 観客は静まりかえっている。嵐が通ったあとみたいだ。
 アタシのパフォーマンスのことなんて、多分誰もおぼえてない。

 自分の席に戻ると、Pがタオルを握りしめたまま呆然としていた。
 観客と同じような顔をしている。



38:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:25:12 ID:thK

「P、タオルをくれ!」

 アタシが声をかけると、Pさんは慌ててタオルをくれた。
 身体中、汗びっしょりだ。

 しばらくして、麗奈とステージに上がる。
 観客席からのブーイングも上がる。

「黙りなさい!!!」

 麗奈が一喝すると、また静かになる。
 麗奈は、完全に観客をコントロールしてる。

 勝敗は告げられるまでもなかった。



39:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:25:32 ID:thK

 帰り道の、Pさんの、車の中。
 アタシはベテトレさんに言われたことを思い出した。

 アイドルとして、ヒーローとして決定的に欠けているもの。 
 
 それはアタシ自身が観客に、ファンに、みんなに語りかけないことだった。
 
 自分の気持ちを、自分のこころを、伝えることをあきらめていたんだ。
 勇気を出さなきゃいけなかったんだ。誰かに分けてあげるくらいの勇気を。

 「P」

 相棒に声をかける。運転席が震えた。

「アタシはアイドルをやめない」

 アタシの気持ち。

「麗奈みたいなヤツは、アタシが倒さなきゃ」

 麗奈はひどいやつだ。
 きっといままで、LIVEバトルのたびに、アイドル達をこんな気持ちにさせていたんだろう。

「アタシが麗奈を倒す」

 ひとしずくの涙が、シートに濡らした。



40:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/01(日)22:25:55 ID:thK

~~~~~

小関麗奈「高度8000m」へつづく



小関麗奈「高度8000m」

2: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:16:43.11 ID:5DTrxNrT0

退屈、退屈。物心ついた頃から、そう思ってた。

周りの子どもバカに見えてしょうがない。一緒に遊べない。
周りの大人がまどろっこしく見えてつまらない。教わることなんてない。

親はいう。ほかの子と仲良くしなさい。年長者のいうことは聞きなさい。

そんなのは真っ平御免だった。

アタシはひとよりずっと高いところまで飛べる。
みんなに合わせていたら、人生の浪費。宝の持ち腐れもいいとこ。

長いものなんて知ったこっちゃないわ。

巻かれて、巻かれて身動きがとれなくなったらどうするの?
アタシの人生の責任はアタシしかとれないのに、どうして他のヤツの言いなりにならないといけないのよ?




3: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:18:00.75 ID:5DTrxNrT0

そんな調子で生きてたから友達もいないし、教師からも嫌われた。
足を引っ張るような人間は、こっちから願い下げだけど。

親ともうまくいってない。ママはアタシに何も言わないし、パパは口うるさかった。

誰に食わせてもらってると思ってるんだー。ハッ! 今思い出しても腹立つ。
カネで女を飼い慣らそうなんて、男のやることじゃないわ。

アタシは山形の家を飛び出して、ひとりで東京に飛び出した。
今の自分にでも出来る仕事。13の女の子にできること。

パッと思いついたのがアイドルだった。
346プロダクションあたりなら、アタシより年下のアイドルだっている。
アタシがなれない道理はない。



4: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:19:27.49 ID:5DTrxNrT0

でも今振り返って見ると、アタシの計画は穴だらけだった。

東京の街にとってアタシの財布は小さすぎた。アタシも小さかった。
1人で泊まるなんてできないし、夜遅くまで表をウロつくわけにもいかない。

アタシは警察の目をかいくぐり、一日一食で1週間を過ごした。
気分はさながら犯罪者。悪の手先。

その間もいくつかのプロダクションに行ったけど、門前払い。
保護者もいなくて、小汚い子どもだったかもしれないけど、お茶かご飯くらい出してくれてもよかったのに。

7日目にはもうほとんど眠れてなかったし、お腹もペコペコで、髪もボサボサだった。
ランドリー代がもったいなくて、服も洗ってなかった。ついでに身体も。

モウロウとする頭でたどり着いたのが、346プロダクションが主催してたオーディションの会場。
でもその時の格好じゃ合格しようがなくて、会場の周りをグルグルしたり、他の子を脱落させるためのトラップを作ろうとしたり。

そんなことをしてるうちに空腹の限界で、アタシはついに倒れた。



5: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:20:57.26 ID:5DTrxNrT0

最高にみじめな気分だった。本当のバカは自分だと心底思った。

子どもらしく子どもを満喫することもできなくて。
大人に守ってもらいながら、ゆっくり大人になることにも耐えられなくて。

このまま死にたいとさえ考えた。

涙がアスファルトに落ちる直前、なんか、ほけー、っとした女がアタシに声をかけた。
顔を上げると、その女のジャケットには、「346プロダクション」と大きくプリントされてた。

藁にもすがる思いで、その人に誠心誠意を込めてお願いした。

アタシをアイドルにしろ。

その女が、今のプロデューサー。
今のアタシは東京の女子寮にひとりで住んで、東京のガッコウに通ってる。

ちなみに両親は、アタシがアイドルになることに反対しなかった。社会の荒波にもまれればちょっとは大人しくなるとか、そう思ってるかもしれない。

けど実際。
アタシはそんな荒波の届かない、誰の声も届かないステージにいる。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



6: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:21:57.05 ID:5DTrxNrT0

冷静に分析して、アタシにはアイドルとして決定的なものが欠けてた。

空気が読めない。
礼儀知らず。
小生意気。
それから、ダンスの才能。

運動神経は悪くなかった。でもダンスの動きは、体育の授業とはワケが違う。

動作ひとつひとつの名前は覚えられる。
だけど、身体がついてこない。

ひとつの動きをモノにするのに、何週間もかかる。
トレーナーには注意されるし、それで余計に緊張して、またミスが増えるし。

しかもアタシは大人しく怒られるわけじゃなく、不貞腐れてレッスンルームから出ていったり、レッスン自体をサボったりした。



7: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:23:17.38 ID:5DTrxNrT0

結局トレーナー達の間をたらい回しにされて、4人目でまともなやつが担当になった。

「私はトレーナーの中のトレーナー。トレーニングを極めし女だ。

 師匠〈マスター〉と呼んでくれて構わないぞ」

「中二病キャラなんて今時アイドルでもやらないわよ」

その女をアタシはマストレと呼んでる。
マストレは、アイドルが出来て当然のことじゃなくて、アタシが出来るようになることを教えてくれた。

教わって数ヶ月で、並のアイドルくらいにはなれたと思う。

だけど、それと仕事がうまくいくかどうかは別問題だった。
学校にいたときみたいに、アタシはすぐに他の子や大人の顔を潰してしまう。

パンチじゃなくて口で。

こんなに頭が良いのに、周りを立てることができない。
ギョーカイジンに嫌われて、すぐに仕事がなくなった。



8: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:24:48.18 ID:5DTrxNrT0

仕事でいい思いしたことがないけど、何もしてないとアタシはおかしくなりそうだった。

アイドルを目指して上京。ステキな響き。
でも実際は、アタシはアイドル以外になり損ねただけ。

親のいうことを素直に聞く娘。
人当たりがよくてカワイイクラスメイト。
勤勉で授業の邪魔をしない生徒。
誰かのともだち。

アイドルを辞めたら、何が残る?

そんなアタシにスポットライトを浴びせかけたのが、LIVEバトルだった。
“アイドル達に適度な緊張感を与え、更なる高みへ導く”、だったっけ。

意義はよくわからないけど。
他にできる仕事もないアタシは、一も二もなくバトルに参加した。

5連敗。
アタシはファンや観客の顔色をうかがうことも出来なかった。
いい歳して年少アイドル追っかけてる人間の考えなんて分からない。
ああいうヒトは、中学生の女の子が通常には出会わない。怪人みたいに見える。

他の、頭お花畑で鈍感なアイドル達にアタシは負ける。
アタシは猫かぶるようなガラでもないし、可愛げがなかった。



9: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:25:49.97 ID:5DTrxNrT0

それで6戦目のとき。
先攻の相手はダンスも歌も、アタシよりずっと上手だった。

後攻のアタシはメチャクチャに緊張して、はじめからミスを連発した。
ステップはおぼつかない。歌詞は間違える。顔色もたぶん悪かったと思う。

会場がどんどん冷たく、沈んでいくような気がした。
痛いくらいの無音だった。音楽はまともに頭に入ってこない。観客の声援もない。

その沈黙が、アタシの鼓膜を震わせた。

「……うるさい」

そんなことを言ったような気がする。
その後から、アタシはパフォーマンスを本当にメチャクチャにしてしまった。

冷めた観客を罵倒した。
無関心な大人たちを攻撃した。
何もわかってないアイドルのファンを詰った。

そしたら、勝てた。ヤツらの考えることはよくわからない。所詮他人だもの。
LIVEバトルを続けるうちに評判、もとい悪い噂が広がって、いつの間にか「世界征服を目指す悪のアイドル」という肩書きを手に入れた。

世界征服って……特撮の悪の組織じゃあるまいし。



10: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:27:00.62 ID:5DTrxNrT0

仕事はどんどんLIVEに偏っていった。仕方ないわ。それ以外出来ることないし。
でも、心は晴れなかった。

チケットを買うヤツや自称ファンは、小関麗奈のものじゃないから。

ヤツらにとってアタシは、大声を出して場を盛り上げてくれるスピーカー。
一歩会場の外に出れば、すぐに記憶から消えてなくなっちゃう。

愚民どもはすぐに忘れる。自分の気持ちや、自分のしでかしたこと。
自分の人生にすら飽きっぽくて、いろんなことに手をつけては、片っ端から捨てていく。

会場で配られたアタシの応援グッズだって、出口のゴミ箱に捨てる。
でもアタシは、そいつらのおかげでアイドルとして生きながらえている。

LIVEが成功すると、はじめアタシを叩いていたギョーカイジンたちが手のひらを返した。

馬鹿馬鹿しい。世界征服なんて。
たしかにアタシには、LIVE会場を支配する特別な魔法がある。

でもそれは時限付き。会場が爆発するみたいに盛り上がっても、ヤツらの頭にアタシの存在は欠片も残らない。
主従関係が存在するとしたら、アタシはまちがいなく「従」のほう。まさに悪の手先。



11: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:27:27.19 ID:5DTrxNrT0

アタシは勝ち続けた。10連勝くらいしたとき、気づいた。

ここはひどく寒い。眩しい。あんまりにも高すぎて……。
アタシの姿を見るひともなくて、アタシのためにさえずる小鳥もいない。

アタシは今時小学生もやらないようなイタズラで、バトルまでの間をつないでる。
そうでもしないと。
そうでもしないと。



12: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:28:31.40 ID:5DTrxNrT0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

その女は自宅でLIVEバトルの映像を見ていた。
映っているのは南条光。98連勝という驚異的な記録を達成し、もうすぐ100に届く。

このままでは間違いなく、小関麗奈とぶつかる。

「レイナサマぁ……」

南条光は、ルックス・ダンス・ボーカル全てにおいて高い水準にある。
疑う余地がない天才。
世間的には「ヒーローなアイドル」として有名だが、その名に恥じない活躍を見せている。

ヒーロー。映像を見ている女にとって、小関麗奈はヒーローだ。

就活がうまくいかなかった。女には、社会で生きていくための資質が欠けていた。
あまりに人が好すぎた。
他人を蹴落としてでも、なにかを成し遂げたいという強い意志がなかった。

卒業間際になって、346プロダクションの臨時スカウトに採用が決まった。
だが、優しすぎる者にスカウトはできなかった。

スカウトの負の側面は、他人の青春に土足で踏み込んで、人生を捻じ曲げてしまうこと。
そして一切責任はとらない。ものの分別がつかない、年端もいかない少女を「自己責任」の一言で簡単に切り捨てる。



13: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:29:05.35 ID:5DTrxNrT0

彼女には、そんな残酷なことはできなかった。
すぐに無能の烙印を押され、簡単な事務作業や雑用を押し付けられるようになった。

あの日。
あの日は、オーディション会場の外で誘導をまかされていた。

会場にやってくる少女たちをドキドキしながら案内して、会場を去る少女たちには涙を添えた。

オーディションが終わる、午後3時ころ。
彼女は会場の周囲をぐるぐる回ってゴミ拾いをしていた。

こういう誰の迷惑にもならない作業に、彼女は心から安らぎを覚えた。
やはり自分には芸能関係は向いていないのだと思った。

仕事はもう辞めよう。
実家に帰り花嫁修業でもして、だれか理解のあるひとと結婚しよう。

そんな風に考えていたとき、薄汚れた格好の少女が倒れているのを見つけた。

オーディションで玉砕したのかな。
彼女がそう思って近づくと、その少女は顔を上げた。

洋服と同じように顔をすこし汚れていた。

だが、その瞳は強靭な意志を湛えていた……と女は思う。

「アタシをアイドルにしろ」

そう言われたとき、自分の生きる道が決まったと思った。
少女は「小関麗奈」と名乗った。



14: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:30:06.38 ID:5DTrxNrT0


女は麗奈に食事を与え、風呂に入れてやり、かいがしく世話をした。
まるで赤ん坊を産んだ母親のようだった。

かろうじて生きていたスカウトマンの肩書きで、麗奈をプロダクションに招いた。

だが麗奈は傍若無人かつ極めて自己中心的で、才能は認めれていたが、プロデューサー達に敬遠された。

そこで女に白羽の矢が立てられた。
ひろってきたなら責任を持って飼いなさい。

だが、彼女にアイドルのプロデュースのやり方はわからなかった。
自分のプロデュースにすら失敗したのだから、他人にどうこう言いたくなかった。
なので、自分からは何もしなかった。

麗奈の言葉に耳を傾け、麗奈のしたいようにやらせた。
営業をするのは麗奈が仕事をほしがった時だけ。それ以外は、本当に何もしなかった。
サボっていたのではない。アイドルの意志を尊重していたのだ。

はじめはうまくいかなかったが、LIVEバトルに参加してから麗奈は化けた。
麗奈はおおよそアイドルに必要な才能のほとんどが平均並みであったが、LIVE会場を掌握する能力に長けていた。



15: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:31:14.61 ID:5DTrxNrT0

1、肺活量。
ヒトの肺活量は平均で3000-4000mLほどであるが、麗奈は体力測定で10000前後という、トップスイマー並みの数値を叩き出した。
息が続き、筋肉のほうが動作についてくれば継戦時間が伸びる。歌いながら踊り、その間にファンと微笑ましく会話することもできる。

2、トークスキル。
麗奈のパフォーマンスは頻繁にスピーチや会話を挟み、観客やファンと交流する。
そうすることによって、彼女の存在感は、少なくともLIVE中は、見ている者の中で大きくなる。

3、構成力。
状況に即した対話を行うためには、台本があってはならない。
麗奈はその場で必要なワードを瞬時に計算し、パフォーマンスの間に割り込ませる。
そして、アドリブにより歪んだ進行も即座に修正し、ステージを壊さずに聴衆を満足させる。

南条光が天才ヒーローなら、小関麗奈はのパフォーマンスの怪物だ。
そして、ヒーローは怪物を倒すかもしれない。

女は、近頃麗奈がひどく悩んでいることを知っている。
その理由はわからないが、南条光に敗北することで苦悩は深まってしまうかもしれない。

女も悩んだ。
しかし、状況を打開するような能力を持ち合わせていない。
そのような力があったら、今頃こんな場所にはいないのだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



16: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:32:09.32 ID:5DTrxNrT0

次の対戦相手は……あの南条光だ」

マストレからそう言われたとき、アタシの背筋に電流が走った。
いつかはぶつかると思っていたけど、こんなにすぐ。

「南条のことは知っているな?」

「知らないバカがいるなら会ってみたいわね」

南条光。99連勝中の、バケモノ級のアイドル。
光のパフォーマンスは映像で見たことがある。嫉妬でおかしくなりそうだった。

光はアタシと1つしか差がないのに、アタシが持っていないものを全部持ってる。
ダンスの才能、社交性、ギョーカイジンに気に入られる方法、ファンの、心からの声援。

叶うことなら絶対に戦いたくなかった。

「怖いか?」

「ぜーんぜん」

嘘。怖い。怖くてたまらない。



17: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:34:02.88 ID:5DTrxNrT0

「今の光になら、麗奈は勝てるよ」

マストレがそう言った。耳を疑った。

アタシが? あのバケモノを相手に?

「私の妹が言っていたんだが、光にはヒーローとして欠けているものがあるらしい。  

 ヒーローでない者に、私の育てた怪物は絶対に勝てない」

「怪物って…アタシが悪役みたいに言うわね」

ヤツに欠けているもの。アタシの頭で考えても、わからない。
その欠けたピースは、アタシが持っているものなのかしら?

「それじゃあ、勝利を確実にするために今日もレッスンだ。

 まあ、麗奈は私が構成したパフォーマンスをいつもぶち壊しにするんだが」

「だってつまんないんだもん。

 マストレはトレーニングのプロで、プロのアイドルってわけじゃないし」

「貴様、師匠に向かってなんという口を……よーし今日はランニングからだ。

 まず西に100km」

「東京から追い出す気? 

 アタシは光から逃げないわよ」

 悔しいけどマストレのおかげで、ほんのちょびっとだけ自信がわいてきた。

 それにひょっとしたら。

 ひょっとしたら光は、アタシのいる場所まで来てくれるかもしれない。
 ヒーローみたいに空に舞い上がって。



18: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:35:32.31 ID:5DTrxNrT0

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生の南条光が目の前にいる。思ったよりもずっと小さい。
アタシより年上だけど、上背はこっちの方がある。

だけど、圧倒される。
どこか達観したみたいに、光はうっすらとほほえんでる。ヨユーって感じがする。

アタシは悔しくて、ステージの上で光に言った。

「アンタさあ」

大丈夫。声はいつもどおりに出てる。

「99連勝でアタシとぶつかるなんて、ほんっとにツいてないわね!」

ツいてないのはこっちの方。だけど精一杯虚勢を張っていないと、アタシはすぐにでも空中分解してしまう。

「アンタのおかげで、アタシの名前はアイドル界中に響き渡るわ!
 “あの”南条光を倒したアイドルだってさ!!」

我ながら、良い啖呵。
光はまだ笑ってる。



19: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:40:51.86 ID:5DTrxNrT0

先行後攻。アタシはいつもの癖で、わざと後出しをしてしまった。

たしかに後攻になると、相手がやらなかったパフォーマンスで観客やファンに評価してもらえる。

だけど今回の相手は、“あの”南条光。
コイツのパフォーマンスを見せられた後で、自分のパフォーマンスをする自信がない。

でも、ジャンケンの結果は覆せない。チクショウ。

光のステージが始まる。
今日も絶好調。そんな、なめらかで美しい動き。

あの才能が、1ピクトグラムでもアタシにあればよかったのに。

歓声が上がる。光を讃える声。光だけに向けられる、光のためのコール。
急に、光のダンスが激しくなる。ギアの数がアタシとは段違い。

構成としてはちょっと強引だけど、観客はよろこんでる。

アタシは隣にいるプロデューサーに耳打ちした。



20: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:42:07.85 ID:5DTrxNrT0

「負けるかも」

プロデューサーはびっくりした顔でアタシを見た。
こんな弱気なことを、コイツに言ったのは初めて。

なんでだろう。わかんないけど、心がすこし軽くなった。
プレッシャーでばかになってしまったのかも。

光がステージから降りるのと入れ違いに、アタシは舞台に上がる。
そして、叫んだ。

「愚民どもぉっ!
 しょっぱいパフォーマンスの時間は終わりよ!!」

音がよく通る……空気が澄んでる。

光が振り返る。アタシのテンションが、加速度的に上がっていく。

そう、そういう顔が見たかったのよ。こどもみたいに驚いちゃって。

「はじめなさぁいっ!!」

音楽が始まる。ダンスじゃ光には逆立ちしても勝てない。
だから、アタシはアタシにできることをするしかない。



21: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:42:56.25 ID:5DTrxNrT0

「愚民どもぉっ!! もっと盛り上げなさいっ!!」

自分が埋められない差は、愚民どもに埋めてもらう。
当然。アタシは帝王よ、肉体労働なんてガラじゃない。

「そこ!! スマホ越しにアタシを見てんじゃないわよ!!!」

スマホなんかじゃ、アタシを家に連れて帰れないわ。
せいぜい小さい頭に焼き付けることね。

アタシからの罵倒に、ブーイングが上がる。

「ブーイングするなぁぁぁっ!!」

アーッハッハッハ!! もうヤケクソね!
でも気分がいい。どうしてかしら………。



22: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:43:39.35 ID:5DTrxNrT0

気づいたら、音楽が止まってた。

「アンタ達まあまあね! 次からはもっと頑張りなさい!!」

そんな捨て台詞を吐いてステージから降りる。
勝っても負けても、どちらでもいい気になって、自分の席にどっかりと腰を下ろした。

プロデューサーが、すぐにオデコの汗を拭いてくれる。

「どうよ」

「いつもより眩しいです!」

なんか引っかかる言い方。でも今日だけ許してあげる。



23: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:44:06.73 ID:5DTrxNrT0

しばらくして。

光と一緒にステージに上がる。
観客からのブーイングも上がる。


「黙りなさい!!!」

会場が静かになる。

フン、採点はもう終わってんだから、こっちのやりたい放題よ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




24: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:44:53.28 ID:5DTrxNrT0

3日後、アタシはマストレに言った。

「ダンスを教えて」

「いままで何を教わってるつもりだったんだ?」

「鈍いわね。一から教えてってことよ」

アタシは、パフォーマンスの地力を上げなきゃいけない。
そうじゃないと、もう2度目はない。

「言われたとおりにやった試しがないじゃないか」

マストレはあきれて肩をすくめた。
でも、顔は笑ってる。

「麗奈、アイドルは楽しいか」

「まあまあね!!」

逃げ切ってやる。あのヒーローから。



25: ◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/04(水) 12:45:27.72 ID:5DTrxNrT0

南条光 小関麗奈「地上0km」へつづく



南条光 小関麗奈「地上0km」

2:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/06(金)22:34:16 ID:xhA

「ベテトレさんもっと! もっとだ! 早く立ってくれ!
 
 時間は刻一刻と迫ってるんだ! このままじゃ地球が麗奈に征服されてしまう!!」

南条光は、レッスンルームで声を上げた。

すでに開始から3時間。
光とトレーナーは休憩なしでトレーニングを行っていた。

「はぁーっ……はぁーっ、少し、休ませてくれ」

ベテラントレーナーは大粒の汗を流しながら、膝を床につけて肩を上下させた。
トレーナーになってそれなりの年月を積んでいるが、身体が担当アイドルについていけない。

「早くしてくれ!
 アタシは麗奈に絶対勝ちたいんだ!!」

光はこどものように叫んだ。

数ヶ月前の、行儀が良い孤独な少女はどこにもいなかった。
トレーナーは数ヶ月前の、“必死に特訓しないと負けるぞ”と言っていたどこぞの女を恨んだ。
光が全力を出すと、トレーナーはあっけなく突き放された。

だが、トレーナーは後悔していなかった。

光はさらに化けた。
目標を見つけ、瞳には強固な意志が宿っている。
表情には心底からの充実感がみなぎっており、見る者の心を魅了する。

プロデューサーが夢中になってしまうのも無理はない。

「今から、…はぁーっ、増援をふたり呼ぶから、あとはそのふたりと……やってくれ」

私と同じ苦しみを味わうがいい、と、ベテラントレーナーは妹達の電話番号を打ち込んだ。




3:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/06(金)22:35:41 ID:xhA

「勝者、小関麗奈!」


マスタートレーナーは、小関麗奈のLIVEバトルに随行していた。

「地力を上げる」という宣言の通り、麗奈はトーク以外のパフォーマンスにも熱心に取り組んでいる。
トレーナーは、自らの手で麗奈が育っていく感動に震えた。

麗奈は、名実ともに帝王になる。
トレーナーにははじめて出会った時から分かっていたことだが、周囲もそれを認めつつある。

現在49連勝。

前の麗奈も強かった。だが、今の麗奈はまさに無敵だ。
ダンスのキレも、ボーカルの伸びも、トークの構成力も他のアイドルから一歩も二歩も抜きん出ている。

このまま真の頂上に登りつめるまで見届けたい。
トレーナーはそう夢見る。

しかしいま最大の障壁が、光速で麗奈の背後から迫っている。
南条光。前人未到の連勝記録保持者。
そして、連勝記録を麗奈に断たれた少女。

トレーナーは妹の言葉を思い出す。

光は溺死しかかっていた。
だが、麗奈のおかげで蘇生した、と。

負けたというのに、妹の顔は嬉しそうだった。

南条光は小関麗奈の前に再び立ちはだかるだろう。より強大な力を身につけて。
勝負の世界に絶対はない。だがトレーナーは、麗奈を絶対に勝たせたい、と考えている。

トレーナーもひとりのファンとして、小関麗奈に魅せられているのだ。



4:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/06(金)22:38:25 ID:xhA

↑↑

「勝者、南条光!」

男は南条光のLIVEバトルを見守っていた。
もう、彼女にヒーローになってもらうという甘ったれた気持ちは捨てた。
ただひとりのプロデューサーとして、第一のファンとして彼女についていくことを誓った。

光は麗奈に敗北した。だが、再び立ち上がった。
誰のためでもない。自分自身のために。

そして再び、小関麗奈に立ち向かおうとしている。
プロデューサーの彼が光のためにできることは、あまり多くない。
それでも彼は、一秒でも長く光のそばにいたいと思った。

今度は、彼女の苦悩を一瞬でも見逃したくないと思った。

光がステージから降りてくる。
全力だった。全力のパフォーマンスで、相手を粉砕した。
相手は、清々しい顔をしている。相手も全力だった。

彼は新しいタオルで、光の顔を撫でた。
タオルの中で、光が笑う。

10代の、ワガママな少女の顔で。



5:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/06(金)22:39:35 ID:xhA

↓↓↓

女は、小関麗奈の衣装を選んでいた。

出会って初めて、「アンタに任せる」と言われた。
ひとりで大きくなって、ひとりで勝ち続けていると思っていたアイドルが、初めてプロデューサーの女を頼った。

女は困惑した。だがそれ以上に奮起した。
麗奈と出会って、女は自分の生きる道を見つけた。
麗奈と出会わなければ、優しさだけが取り柄のひととして終わっていた。

麗奈のためにできることなど、なにひとつないと思っていた。

だけど、レイナサマは私を頼ってくれた。私を、こんな私を!

今、女を無能と侮る人間はプロダクションには存在しない。
あの小関麗奈を育て上げたプロデューサーだと、皆がそう評価する。

女は真実、その評価に見合う人間になろうとしている。
女自身は気づいていないが、彼女にも特別なものが芽生えかけている。

麗奈の希望を的確に把握し、それが効率的に達成されるように計算する頭脳。
麗奈の力を、麗奈の魅力を余すところなく全世界に叩きつけてやるという決意。

プロデューサーとしては、他に望むべくもないもの。
これは、もともとは彼女が人並み以上に持ち合わせていたやさしさが開花したものだった。

南条光にもう一度、小関麗奈を分からせてやる。

女は不敵に笑った。



6:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/06(金)22:40:54 ID:xhA

↑↑↑↑

麗奈との再戦。
ライブハウスの控え室でPが言った。

「正直俺は、勝敗にはこだわってない」

アタシは言い返した。

「戦るまえからそんなこと言わないでくれ。

 勝つよ、必ず。約束する」

「勝ちたいか?」

「うん。これは誰のためでもないよ。
 申し訳ないけどPのためでもないし、ファンのためでもない。

 アタシが勝ちたいから、勝つんだ」

「それなら、いい」

Pは不安そうな顔で言った。
まだ昔のアタシが、Pの中にいるんだと思う。

臆病で、自分が孤独だと勝手に思い込んでたアタシ。
アイドルでもヒーローでも、女の子でもないアタシ。

だったら証明しなくちゃいけない。

アタシが最高だってこと。
Pがアタシをアイドルにしたのが、間違いなんかじゃなかったってこと。

そのために、勝つ。



7:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/06(金)22:42:06 ID:xhA

↓↓↓↓↓

「悪くない。いえ、最高だわ!」

衣装に袖を通しながら、アタシは第一の愚民をねぎらう。
これしかないと思う。今のアタシには。

「レイナサマ」

プロデューサーが、泣きそうな声を出す。

「抱きしめてもいいですか」

「フン、さっそくご褒美のおねだり?

 いいわ、来なさい」

アタシが両手を広げると、プロデューサーの腕がやさしく身体を包んでくる。

「どうか、無事で帰ってきて」

泣いてる。肩があったかい。
胸がいっぱいになる。

ママは、アタシをいつごろまでこうやって抱いてくれたんだっけ。

「馬鹿ねえ。命の取り合いをするワケじゃないのよ。

 帰ってくるわよ。
 必ず………勝つわ。絶対、もう一度」



8:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/06(金)22:43:22 ID:xhA

↑↑↑↓↓↓

2人の少女がステージの上に立っている。

南条光と小関麗奈。

彼女達の表情は、やわらかい。
今から対決するというよりは、気心知れた親友と対面するようであった。

「また懲りず来たわね」

「来たぜ。悪いが、今度は勝つ」

「悪いって言葉はアタシのためにあんのよ。
 
 今度使ったら使用料を取り立てるわ」

「請求はプロダクションにしといてくれ」

ふたりが笑う。

「悪いけど、勝つのはアタシよ。
 
 魔女に魔法をかけてもらったもの」

「この舞踏会にくるためにか?」

光はこのLIVEバトルのためだけに作られたヒーローコスチューム。
麗奈はまさに悪の帝王ような、黒を基調とした丈の長いドレス。

「ええ。最高の魔法を……ね」

先行後攻、ジャンケン。
麗奈が後出しをする。光はそれを読みながらも、あえて負ける。



9:訂正です 2018/07/06(金)22:44:32 ID:xhA

2人の少女がステージの上に立っている。

南条光と小関麗奈。

彼女達の表情は、やわらかい。
今から対決するというよりは、気心知れた親友と対面するようであった。

「また懲りず来たわね」

「来たぜ。悪いが、今度は勝つ」

「悪いって言葉はアタシのためにあんのよ。
 
 今度使ったら使用料を取り立てるわ」

「請求はプロダクションにしといてくれ」

ふたりが笑う。

「悪いけど、勝つのはアタシよ。
 
 魔女に魔法をかけてもらったもの」

「この舞踏会にくるためにか?」

光はこのLIVEバトルのためだけに作られたヒーローコスチューム。
麗奈はまさに悪の帝王ような、黒を基調とした丈の長いドレス。

「ええ。最高の魔法を……ね」

先行後攻、ジャンケン。
麗奈が後出しをする。光はそれを読みながらも、あえて先攻を取る。



10:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)00:54:11 ID:Ouz

↑↑↑↑↑↑↑↑

音楽は4分。曲調はラップメタル。歌詞はひとりぼっちの孤独を謳う。
その苦痛を表すように、音はかつてないほどに刺々しい。

息継ぎの難しいボーカルと、テンポの不規則なダンス。

一番の後に1分の間奏があり、その間のパフォーマンスは自由。

二番はほぼシャウトで歌い上げる。潰れず、美しく、透き通るように。
以降はテンポが加速し、そのリズムに乗せてさらに歌が激しくなる。

ボーカルにおいても、ダンスにおいても、トークにおいても、最高難易度の曲。
2人の対決にふさわしい曲。



11:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)00:55:46 ID:Ouz

南条光がステージに上がる。

「みんなぁ! 行くぞ!!」

前奏。敵襲を告げるようなアラーム。

光の身体がダンスへ滑り出す。
最高の舞台。最高の観客。最高の相手。

気分が澄みわたる。景色がクリアーに晴れわたる。

始まる、孤独の歌。
だが、聴くものを寂しげな気持ちにはさせない。

心が弾む。ゆるやかに上がる。身体が動き出す。

光はパフォーマンスで「団結」を表現する。

ひとりぼっちじゃないよ。みんながいる、と。

間奏。つんざくようなギターとドラムの轟音。
それに負けないように、光はギアを上げていく。

「アタシの名前を教えてくれ!」

光! 光! 光!

「アタシの名前を呼んでくれ!!」

光!! 光!! 光!!

名前のコールが次第に大きくなる。
それは大きな音のうねりとなって、ライブハウスを包み込む。

麗奈は不敵に笑った。

やるじゃない。

「みんなの力をアタシに分けてくれ!!!」

光!!! 光!!! 光!!!

演奏をかき消してしまうほど、会場全体が歓声で埋め尽くされる。



12:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)00:56:53 ID:Ouz

二番。
その歓声すらも上回る声で、光は歌い上げる。
孤独の痛みを。孤独の恐怖を。

観客達は胸を詰まらせ、歓声がトーンダウンする。
光は、この会場の空気そのものだった。
会場と、観客と、一体化する。

二番が終わる。
加速。ギアをさらに上げる。光の身体から汗が流れ、飛ぶ。
呼吸も苦しげなものになっていく。

がんばれ! あともうちょっとだ!!

観客の誰もがそう願う。

光の息が全て使い果たされるのと同時に、音楽が止まった。

「…っ…っ」

声を詰まらせながらも、光が叫ぶ。

「最っ高だ!! みんなはどうだった!?」

一際大きな歓声が会場を包み込む。
間髪入れずに、麗奈がステージに上がってくる。

光は片手を上げた。
その手に、麗奈が乱暴にハイタッチを決める。

プロデューサーの男の手を借りて、光がステージから降りていく。



13:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)00:57:51 ID:Ouz

↓↓↓↓↓↓↓↓

前奏。反撃の狼煙が上がる。
麗奈がやってきた。
そんな警告音が観客の耳を打つ。

「アタシの名前を言ってみろぉ!」

ややハウリングを起こしながら、麗奈が叫ぶ。
序盤から、飛ばす。

麗奈! 麗奈! 麗奈!

「サマを付けろ愚民どもぉッ!!」

レイナサマ!! レイナサマ!! レイナサマ!!

一番、歌が始まる。
光は「団結」を表現した。

だが同じ曲でも、麗奈の体現する音は異なっている。

「救済」。

麗奈は孤独を知っている。
だがそれをおくびにも出さず、あくまで帝王のように振る舞う。

誰よりもふてぶてしく。
誰よりも、力強く。
そして誰よりも、やさしく。

孤独な詞を、歌い上げる。

間奏。コンマの世界で麗奈は思考する。
もっと深く。もっと深く、踏み込む。

「アンタ達! コールが足りないわ!!」

レイナサマ!! レイナサマ!! レイナサマ!!

「腹から声をだしなさいっ!!!」

レイナサマ!!! レイナサマ!!! レイナサマ!!!

「やれば出来んじゃない! アンタ達最高よ!!」



14:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)00:58:35 ID:Ouz

二番。歓声に潜り込んでいくように、麗奈の声が会場にしみわたる。

はじめは花のように弱々しく。次には、炎のように熱く、猛々しく。
孤独感が、観客と麗奈の間で溶かされていく。

光は、自分の血液が燃え上がっていくような感覚を覚えた。

麗奈! お前はアタシをどこに連れて行く気なんだ!
悪には屈しないぞ!!

二番終了。
演奏がキリキリと会場を締め付けていく。
だが、全員がそれに抗う。

爆発しそうなほどの熱気が滾り、肌を焦がす。
痛いほどの興奮。身を焦がして、焦がして、魂に火がつく。

麗奈の動きはさらに激しくなる。
疲れなど、微塵も感じさせない。弱さなど、一寸も見せない。

最後まで、麗奈は帝王として君臨した。

「……みんな、ありがとう」



15:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)00:58:54 ID:Ouz

↓↓↓↓↓↑↑↑↑↑

観客達が、2人の少女を見守っている。

かつて孤独だった少女達。
孤独を打破し、ステージに上がったアイドル達。

対立も派閥もなく。怒りも敵対心もなく。
会場は静かに、待つ。

やがてくる終わりを。

「麗奈」

「なによ」

「アイドルって楽しいな」

「馬鹿ね。今頃気づいたの?」

2人は、手をつないだ。



16:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)00:59:16 ID:Ouz

「勝者、南条光!」

司会者が告げる。
光は、すぐにそれを喜ぶことができなかった。

麗奈は膝を壊していた。
テーピングを巻いて、サポーターを添えて、かろうじて舞台に立っていた。
丈の長いドレスはそのためのものだった。

「喜びなさいよ。アンタはこのアタシに勝ったのよ?」

麗奈が手に力を込める。
対決があった。だが、そこには敗者も弱者もいなかった。



17:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)05:53:37 ID:Ouz

エピローグへつづく



小関P 南条P 「エピローグ」

2:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)05:57:06 ID:Ouz

?



「レイナサマぁ……」

「なんでアンタが泣くのよ」

「くやしくてぇ……」

麗奈は女の頭を撫でた。

ふと、麗奈の携帯電話が鳴った。
知らない番号だった。

「出てください」

女が言った。
麗奈は、通話ボタンを押した。

スピーカーから、声がする。



3:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)05:57:37 ID:Ouz

「麗奈ちゃん」

麗奈は、身体を震わせた。

ママの声。

「な、なによ。嫌味のひとつでも……」

ひどく狼狽しながらも、麗奈は切ることができなかった。
言いたいことが、いっぱいあった。

どうやって伝えていいか、わからなかった。
彼女の頭脳を持ってしても。

だから、相手の言葉を待った。



4:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)05:57:55 ID:Ouz

「好きなときでいいから、かえってきなさい」

「パパは……」

「愚民と呼んであげなさい。きっとよろこぶわ。
 それじゃあ、また」

通話が終わる。
麗奈は、その場にぺたり、と座り込んだ。



5:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)05:58:14 ID:Ouz

「ねえ」

「なんでしょうか!」

「だきしめて」

「はい!」

プロデューサーの女が、麗奈を腕で抱く。
女の肩が、涙で濡れる。



6:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)08:25:29 ID:r37

「…………アンタを、アタシのママにはできないわ」

「なんでしょうか! 聞こえません!」

「アンタはアタシのコマで十分よ。
 
 ホラ、もっと強く抱きしめなさい!」

麗奈は女の胸に顔をうずめた。
声が、漏れないように。



7:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)08:25:57 ID:r37


「じゃあ、一週間くらい徳島に帰るんだな?」

「うん。家族を大切にしないやつはヒーローじゃないからな!」

LIVEバトルが終わり、車は女子寮の前に停まっていた。

「P、ちょっと肩を貸してくれないか」

光がプロデューサーに言った。
彼は運転席から降りて、お姫様にするように光に手を貸した。



8:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)08:26:28 ID:r37

言葉の割に、光の足取りは軽かった。
女子寮の扉が開く。その音が、ホールに響き渡る。

「それじゃあ、俺は……」

彼が去ろうとしたとき。
光が彼の背中を抱きしめた。

「P、ありがとう」

「なにがだよ」

「アタシ、いっぱいワガママ言っちゃって……やめるとか、やめないとか…色々」

「いいよ。これからたんまり稼がせてもらうからな」

男が笑う。



9:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)08:26:47 ID:r37

光が、彼の背中に顔をうずめながら、言う。

「Pは、アタシのヒーローだよ。最高の、ヒーロー……」

彼は、言葉を詰まらせた。
プロダクションの時計塔の針が、コチ、コチと音を立てて動く。



10:◆u2ReYOnfZaUs 2018/07/08(日)08:27:08 ID:r37

おしまい



元スレ
南条光「深海2000m」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1530450206/
小関麗奈「高度8000m」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1530674009/
南条光 小関麗奈「地上0km」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1530883986/
小関P 南条P 「エピローグ」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1530996987/
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         コメント一覧 (26)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 06:59
          • 永井産業
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 07:59
          • 2 最後のライブの描写は書き直して欲しい
            唐突すぎるもの
            それで台無し
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 08:01
          • 1 長い冗長もっとさっさとLIVEしてほしあ
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 08:03
          • 1 センスの欠片もないカス
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 08:04
          • 2人とも声がついてないからリアリティがない
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 08:05
          • 1 こんなに才能があるなら早く声がつくなりシンデレラガールズになるんじゃないですかねぇ?
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 08:09
          • 1 すっごい好きな展開なんで続編書いてください!
            一行も読んでないけどなw
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 09:19
          • 一人で何度もコメントするセンスのなさといったらないね
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 09:26
          • 作者の自演に決まってんじゃん
            宣伝するための常套手段だよ

            内容? 冒頭から読む気失せたわ
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 13:06
          • 1 クソつまらん
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 13:48
          • 叩くにしてももっと間隔開けろよ……1人でやってんのバレバレだぞ
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 15:09
          • ※11
            自演にしても頭使えよ…バレバレだぞ
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 18:17
          • 叩いてるのは↓の>>1と思われ

            https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1531065239/
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 19:18
          • ↑はいはい作者様作者様(鼻ホジ)
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 19:42
          • 土曜の朝昼間から作者に粘着とか悲しすぎる休日だな
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 19:51
          • 土曜だけが休日じゃない人なんだろ
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 21:44
          • ちょっと長い気もするけど普通にに面白かったよ
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 21:51
          • 普通にに
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 22:41
          • >>5
            ◯すぞ貴様
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 22:48
          • 普通にに
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月14日 22:52
          • 声がついてないって理由で叩くの酷すぎて草
            作者はともかく担当Pを傷つけんのはやめーや
          • 22. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月15日 01:18
          • 何かと思ったら
            難波笑美のツマラナイ糞スレ乱立させてた奴か
          • 23. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月15日 08:33
          • 酉ついてんだから自分で回避しろや
            ガ◯ジかよ…あぁガ◯ジだったか
          • 24. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年07月16日 11:59
          • ラノベっぽい表現が気持ち悪い
            ガキだけが読者だと思うなよ?
          • 25. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年10月04日 22:02
          • 5 光と麗奈がメインのSS自体少ないと思うけど、今まで読んだ中で1番良かった
          • 26. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年11月14日 03:00
          • ※24
            自分がガキではないと思い込んでいるうんたら

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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