【ガヴドロSS】天真=ゼルエル=ホワイトの憂鬱
- 2018年06月11日 20:10
- SS、ガヴリールドロップアウト
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一つ下の妹は、一見おとなしそうみえるが、無鉄砲で突拍子のない行動をとることが多々あった。
それは、姉である私にとって、悩みの種であった。
数年前、天界。
ガヴリールの家
ゼルエル「ガヴリール!どういうことだ、そんな服がびしょびしょの状態で家に帰って来て!お前は一体、外で何をしていた!」
ガヴ「あ、いえ…ゼルエル姉さん…違うんです、こ、これは…その!
…そう、よそ見をしていたら誤って川に落っこちてしまって…」
ゼルエル「嘘をつけ!知っているぞ!小さな子が川で溺れていたのをみて、助けるために川に飛び込んだんだろう!
さっきお前が助けた子の親御さんがお礼にうちにやってきたからなっ」
ガヴ「んな…し、知っていたんですか姉さん!それなのに知らないフリをしてっ、私を試すような真似をして…、ひ、人が悪いです!
…って、いたあ!また…!」
ゼルエル「馬鹿者!そうでなくても、お前がそんな目をきょろきょろしていたら、少なくともウソをついているくらいわかる!
まったくお前というやつは!運動神経0のくせに後先考えずそんな真似をして!一歩間違えば、お前まで危険な目にあっていたぞ!」
ガヴ「け、けど…ゼルエル姉さん…、目の前でおぼれている人がいるのに助けないわけには…」
ゼルエル「見てみぬふりしろと言っているわけじゃない。そういう時は回りのオトナに助けを求めればいいだろう!
ちょっと考えればわかることだ、少しは頭を使え、まったく!」
ガヴ「……、ご、ごめんなさぃ…」
ガヴ「ええ、ゼルエル姉さん…次からは気を付けますから…」
ゼルエル「ああ」
そして、その数日後
ゼルエル「…ガヴリール…なんで体中、傷だらけで腕に大きなあざをつくって家に帰ってきてるんだお前は?」ぷるぷる…
ガヴ「え、…い、いや…!あのあのね姉さん…!!こ、これはその…ち、違うんです!よそ見して歩いていたら、崖から落っこちちゃって…あいたあ!!」
ガヴ「み、見てたんですね千里眼で!い、いくら姉さんでもそういうのよくないですよ、その…、プライバシーの侵害ですっ!
それって下界でいうところのストーカーとかシスコ…、…あいたた!!!!ほ、ほっぺたをつねらないでください、あいたた………!!」
ゼルエル「まだ、まともに自分の翼で空すら飛べない半人前のくせに!なんでそういう無茶をするんだ!
そーーいうときは!ちゃんと空を飛べる周りのオトナを呼べばいいんだ!!!」
ガヴ「だ、だって…だってええ…!!こ、子猫があ…」
…………
「ガヴリール」の無鉄砲な行動の数々は、姉のわたしにとっては大きな悩みの種だった。
ハニエル「ゼルお姉ちゃん…、ガヴお姉ちゃんがさっき半ベソかいて部屋に閉じこもってから、全然でてこないけど…」
ゼルエル「ああ…まあ、確かに今日は結構きつく言い過ぎたかもしれないが…いいんだ。しばらく放っておけ」
ハニエル「ゼルお姉ちゃん…あんまりガヴお姉ちゃんを怒らないであげて…ガヴお姉ちゃん、悪いことはしてないよ」
ゼルエル「それは……、…まあ、分かってるさ」
ゼルエル「…にしてもハニエル、お前は小さいのに本当に利口でいい子だな…、お前は大きくなってもガヴリールのように
この姉を困らせないでくれよ…よしよし」
ハニエル「わ、頭をわしゃわしゃしないでよゼルお姉ちゃん!」
………
もちろん、分かっている。
ガヴリールの危険を顧みない突拍子のない行動は、すべて他のだれかを助けるためだ。
困っている人をみると放っておけない。
ガヴリールのそういう性格は美徳だと思っている。
身を呈して人助けするアイツを、本来なら姉として褒めてあげるべきかもしれない。
………
ゼルエル「(いや、けど…それにしたって後先を考えない行動が多すぎる…危なかしくってとても見てられない…)」
ゼルエル「(いつかアイツのそんな行動が命取りになるのではないかと思うと、私は…、…、姉として、不安でしょうがない)」
一人にして放っておくと何をしでかすか怖くて見てられない。
姉として、放っておけない。
………
ゼルエル「(ガヴリールのやつが一人前の天使になるまで、もっと私が傍にいて守ってやらなければなるまい)」
ゼルエル「(そうだ…、アイツがもう、傷つかないように…、
私が妹を守ることができるくらい強い天使にならなければ…!)」
…………
力をつけなければならない。危なっかしい妹を守るため。
そう誓ったわたしは、日々の天使力を身に着けるための鍛錬に一層励むようになった。
鍛錬を腐るほど積んできた私は、いつの間にか同世代の天使に比べて力をつけすぎてしまったらしい。
図らずも、わたしは、天使学校で注目をあびる存在となってしまった。
【天使学校】
『おい、聞いたかよ…今回のテストもぶっちぎりだったらしいぜ…ゼルエルさん』
『ああ…数多くいる名家の家柄の天使を差し置いて…信じられない。彼女は名家の出ではないのに…』
『こんなすごい成績は前代未聞らしいわよ…こんな優秀な人は初めてだ、って先生が…』
『名家の中でも…歴代優秀な天使を多く輩出してきたあの『白羽家』の一族すら敵わない優秀さとかなんとか…』
ゼルエル『……』
ただ、別に悪い噂を立てられていたわけではなかったので、放っておいた。
それが、まずかった。
………
『なんでも優秀なゼルエルさんだけれど…、なかでも天使力はものすごいらしいわ…ものすごい破壊力で……、噂じゃあもう学校の先生でもかなわないって…』
『オトナの天使が束になってもかなわないらしいわ…』
『徒党を組んだ大悪魔を一瞬で返り討ちにしたって…』
『ドラゴンを一撃で倒したとかなんとか…』
………
いやいやいや。さすがに天界にドラゴンはいないだろう。
そう。私の噂はいつの間にやら、あることないこと、どんどん大きく膨らんでしまったのだ。
『すごいわ…ゼルエルさん…かっこよすぎ…なんかもう、アレね。天使というより、力や戦の神様みたい…』
『そうね、その手に、神様と同等の絶大な力をもった天使……、なんて形容すればいいのかしら』
『さしずめ…、そう…”神の腕”、ね』
なんか変なあだ名がついてしまった。
【天界のとある大学】
「エルさん…ゼルエルさん」
ゼルエル「え…あ、ああ」
クラスメイト「どうしたの、珍しく上の空だったけど」
ゼルエル「え、ああ、いや…ちょっと…昔のことを思い出していて…、それで、どうした」
クラスメイト「ええ、教授がゼルエルさんを呼んでたよ。話があるから時間が空いた時に部屋に来てほしいって…」
ゼルエル「教授が…?わかったすぐいく」
教授の部屋に向かうため、廊下を歩くゼルエル
ひそひそ…
「あ、みてみてゼルエルさんよ、いつ見ても凛々しいわね、声をかけてみようかしら」
「だめよ…私達なんか相手にされないわ…同じ大学にかよっていられるだけでも幸せものよわたしたちは」
「ゼルエルさん…すげえオーラだな…この間は、大悪魔サタンを瞬殺したって話だし…」
「上級悪魔を全員整列させてケツバットかましたって話は本当なのかな」
「私はオトナのサラマンダー相手に馬乗りになってタコなぐりにしたって聞いたわ…」
「すごいわ…まさに神の腕ね!」
………
ゼルエル「(はあ…)」
ゼルエル「(なんだその噂は…もはや一つも身に覚えがないんだが…一人歩きしすぎだろう、私の噂)…んっ?」どんっ
天使A「いった…、この僕の肩にぶつかってくるなんて…、良い度胸してるね…この僕を誰だかわかって…」
ゼルエル「あ、ああすまない…考え事をしていて。大丈夫か?」
天使A「って、ひやああわあああああああ!!ぜ、ゼゼルエルしゃああんん!???ひっ、す、すみま、すみません…、
ぼ、僕のようなレベルの低い天使がゼルエルさんにぶつかってしまって…!」がくがくがく
ゼルエル「え、い、いや…だから、今のが私がぶつかって…って、大丈夫か…なんか体ガクガクしてるが…」
天使A「す、すみません、すみません…だ、大丈夫ですから…そ、そのごめんなさいっ、失礼しますっ!!」
ゼルエル「え、あ、おい…!」
ひそひそ…
「すごいわ…いつも傲慢でいばってばっかりいた名家の天使が、ゼルエルさんにびびりまくって逃げていったわ!」
「くう…爽快だぜ…さすがゼルエルだ…さすが、神の腕、だな」
「ああ、すげえわ…"神の腕"の名は、半端ないな」
……
ゼルエル「………」
長年一人歩きし続けた私の噂は、今や取返しのつかないレベルまで達していた。
大学内での私は、顔なじみの一部の天使を除くと、何か超常的な存在のように扱われる始末。
人間界でいうところの仏とか菩薩とかだろうか…、なんかこう…、そういう感じの、畏怖の対象みたいになっていた。
………
ゼルエル「(ああもう…)」
ゼルエル「(…なんでこんなことになってしまったのか)」
少し憂鬱な気分になりながら長い廊下を歩いていると、教授の部屋前にたどり着いた。
…部屋に入ると、教授がさらに憂鬱になるような相談を持ち掛けてきた。
【教授の部屋】
ゼルエル「不良天使?」
教授「ああ、近頃、このあたりで迷惑行為を行う若い天使達が問題となっていてな…彼らをそういう名で呼んでいるんだ…」
にもおけないような行為を繰り返していて…、人によっては暴走天使、とかチーマー天使とか呼んだ方が的を射ているのでは、という声もあがっていたりして…
ほかにも候補があってだな」
ゼルエル「あの…その不良連中の呼称の話はどうでもいいのですが…その話が一体…」
教授「ああ、まあ…実はその不良天使が最近、とうとう、この大学の校門付近をたむろするようになってな…
大学の生徒たちも怖がってしまって困っているんだ…このまま彼らを野放しにしていると、学業にも支障がでてしまうだろう」
ゼルエル「はあ…」
教授「そこでゼルエル君…その……、君の力でなんとか追い払ってもらえないかな?」
ゼルエル「………、は?」
ゼルエル「い、いやいやいや…もしかして私の力を使って、その不良天使たちを追い払えっていうんですか!?私はそんな野蛮なことをするつもりは…!」
教授「いや、そうは言っていない。君は、それほどの力をもっておきながらとても謙虚でまじめで…周りからも非常に尊敬されている。
君ほどの天使の言葉であれば、連中も聞く耳をもってくれるかもしれないとおもって」
ゼルエル「買いかぶりすぎです!今ある周りの評価は、勝手に噂が広がったもので、もともと、
神の腕だなんて呼ばれるほどの大それた実力は私にはありませんし…!」
ゼルエル「それに…、確かに長年、強い天使になるために研鑽を積んできたと自負してますが…、それは、その………、わたしは……、ただ…」
外部のオトナの天使や、私のような大学の職員がいくら説得しても彼らはちっとも聞く耳をもってくれない…迷惑行為をやめようとはしないんだ」
ゼルエル「しかし…」
教授「ゼルエル君…、人助けとおもって…優秀な君の力をかしてくれないか…このとおりだ」
ゼルエル「……」
………
ゼルエル「はあ…」
了承してしまった。
自分の妹を守るため。
そう誓って長年、研鑽を積んで得た私の力は、ちょっとばかし、イキったキッズもロクに追い払えないようなオトナの天使に利用されようとしている。
ゼルエル「まあ…わたしとて天使だ。なんにせよその連中を追い払うことが周りのみんなのためになるのなら、やぶさかではないがな…」
気になる方もいるかもしれない。一応、話しておくと。
アイツは今、下界で暮らしている。
下界に紛れて暮らすことで下界の人々を学び、正しい道へと導くため。そして、その経験を踏んで、一人前の天使として天界に再び戻ってくるためだ。
かつて私が通ってきた道でもある。
下界に降り立つまえのガヴリールは、だいたいこんな感じのことを言っていた。
このとき、アイツは、天使学校を首席で卒業するほどの優秀な天使にまで成長していた。
幼少のころはどんくさくて危なっかしいところがあったアイツが…
…それはもう、目を見張るほどの成長っぷりであった。
もう、私が守ってやる必要もないのかもしれない。
アイツなら下界での暮らしを通し、さらなる成長をとげ、私を超えるほどの優秀な天使となって帰ってくるだろう。そんなふうに思っていた。
……想っていた、の、だが…
ゼルエル「(いや、よそう………、今、アイツのことを考えるのは…)」
ゼルエル「……ん?」
ゼルエル「なんだ、ハニエルから電話か…、もしもし?…
…なに!?」
ハニエル『うん、ガヴお姉ちゃん、今日の朝ね、突然、家に帰ってきたの。今は部屋にいるけど…』
ハニエル『それにしても、事前の連絡がなかったしびっくりしたよ。…突然、一体どうしたんだろうね
帰ってきた理由を尋ねても話してくれないし…』
ゼルエル「………」
ハニエル『…けど、私が思うに、ガヴお姉ちゃん、きっとホームシックだったんだよっ、急に私達に会いたくなったんじゃないかなあ
…ふふ、可愛いよねガヴお姉ちゃん♪だからさ、ゼルお姉ちゃんも今日はガヴお姉ちゃんのためにも早く家に帰ってきて…』
ゼルエル「ふっ」
ハニエル「えっ、なにゼルお姉ちゃん!?今なんかわたしのこと鼻で笑わなかった!?」
ゼルエル「ああすまないハニエル…お前はホント純粋でいい子だな…だが、あのバカに限ってそんな可愛いメンタルを持ち合わせていると考えないほうがいい」
ゼルエル「下界で堕落しきったダメダメな生活を送ってるアイツのことだ!
下界に来たこの姉に向かって、イヌをあてがわせて追い払った時の恨み…忘れていないからな!!」イライラ
………
そう。なにがどうしてこうなったのか。
ガヴリールは今や、駄天使。下界の娯楽に触れたアイツは、あろうことか堕落しきった生活を送る駄目天使に成り下がってしまったのだ。
そんなアイツが盆や正月ならいざしらず…アイツにとって窮屈なこの天界に…私がいる実家に自発的に戻ってくることがあるだろうか…?
否である。
ハニエル「え、そ、そうなのかな…けどガヴお姉ちゃん、そんなことは一言も…」
ゼルエル「何も言わないやつなんだ昔からなっ!まあいい!事情はわかった!今日は用事をすませたら、すぐに家に帰るから!
ガヴリールに久しぶりに教育的指導をしてやる!」
ハニエル「え、あ、あの…ゼルお姉ちゃん」
ゼルエル「ハニエル!私が帰るまでガヴリールの動向にくれぐれも注意しろよ!そして…もし、ガヴリールのやつが、私が帰るより前に
不穏な動きを見せたら、遠慮はいらない。……折れ!」
ハニエル「いや何を!?」
…………
ゼルエル「はあ…」
ゼルエル「教授から妙な頼まれごとをされたと思ったら…、我が家の問題児がひさしぶりに帰省…か。悩みが増えて、憂鬱なことこの上ないな…」
ゼルエル「…まあいい。ガヴリールの話はあとだ。まずは教授のいう、その不良天使、とかいう連中をあたってみるか…」
………
教授の話では、迷惑行為をはたらく不良天使達は、よく大学の校門あたりにたむろして、出入りする天使達に迷惑をかけているらしい。
ゼルエル「(わたしは、普段、周りに目立たないよう裏門から下校してるから、そんな連中みたことがなかったが…、どれ)」
その言葉をたよりに大学の校門あたりまで足を運ぶと、
………
不良天使1「Yo―Yo、そこの姉ちゃん、待ちなよ、HEY、YO!俺たちと、イカした茶あ、しばこうYO!」
不良天使2「へいへい、そこの彼女!可愛いねえ、俺たちとシースベーターいかない?」
不良天使3「きゃははは!なにそれマジウケるwwwwwwじわるわwwwwwwそれって、マジ卍じゃん!」
不良天使4「それな、それなwwwwマジ草生えるwwwwwwwwきゃはは!」
ゼルエル「……」
教授の話では、迷惑行為をはたらく不良天使達は、よく大学の校門あたりにたむろして、出入りする天使達に迷惑をかけているらしい。
ゼルエル「(わたしは、普段、周りに目立たないよう裏門から下校してるから、そんな連中みたことがなかったが…、どれ)」
その言葉をたよりに大学の校門あたりまで足を運ぶと、
………
不良天使1「Yo―Yo、そこの姉ちゃん、待ちなよ、HEY、YO!俺たちと、イカした茶あ、しばこうYO!」
不良天使2「へいへい、そこの彼女!可愛いねえ、俺たちとシースベーターいかない?」
不良天使3「きゃははは!なにそれマジウケるwwwwwwじわるわwwwwwwそれって、マジ卍じゃん!」
不良天使4「それな、それなwwwwマジ草生えるwwwwwwwwきゃはは!」
ゼルエル「……」
彼らは大学の校門前をわざわざふさぐような形で座りこみ、ぎゃあぎゃあとバカ騒ぎをしたり、出入りする学生にちょっかいかけたりしていた。
年は、ガヴリールと同じか…少し、下だろうか。まだ、天使学校にかよってるくらいの年齢にみえる。
立ち振る舞いや言動は下界の若者を真似してるつもりなのか。つたない知識で真似してるからか、意味は不明だ。
なんか微妙に用語の使い方が間違ってる気もするし…
校門を出入りする学生も彼らと関わりたくないのだろう。目を合わさないように避けて通っている。年下の天使相手に情けないことだ。
しかしまあ、状況はよくわかった。
不良天使2「はあ?迷惑って…、なんか言ったか?そこの女…って、おいおい金髪美女じゃん!てか檄マブじゃん!俺たちと茶しばかない??へへ…」
不良天使1「YO!YO!そこの金髪美女!迷惑って誰のことだYo!HEY!」
ゼルエル「こんなところで騒いでいたら、周りの人に迷惑だろう。そんなことまでわからない歳ではあるまい。まして、お前たちも天使なのだから」
不良天使3「はあ?なんなの、アンタ」
ゼルエル「天使学校はどうした。この時間ならまだ下校の時刻ではないはずだ」
不良天使3「はあ?天使学校なんてだりーところ、行ってないし。ていうか、なに、さっきから。マジウザいんだけど、おばさん」
ゼルエル「おばっ…!」
不良天使4「きゃははは!おばさんって!草生えるっ、ちょっと顔立ちがいいからって澄ました顔してんじゃねえっての!」
不良天使3「そうよ!それにその着物姿に髪飾りもだっさ!!!今時の天使のかっこじゃなくないwwwじわるwwwwwww」
ゼルエル「(落ち着け…、こいつらを力で追い払うのは簡単だが…、力をふるって、これ以上、世間に妙な噂が広まっても困る)」
ゼルエル「(…ここは年上の天使として、オトナの対応を心掛けねば…)」
ゼルエル「…お前たち、そんな立ち振る舞いやしゃべり口調…、下界の”不良”だの”ヤンキー”だのの真似事をしてるつもりかもしれないが…、
そんなことでは一人前の天使にはなれないぞ。今すぐやめるべきだ」
不良天使2「はは…金髪のねえちゃんよお…俺たちをそんな下界にいる人間と同じレベルにしないでもらえるかなあ…」
不良天使3「ふふ、そうよそうよ!私らを呼ぶときはさあ、ちゃんと”堕天使”って呼んでくれなきゃ!」
ゼルエル「……あ?」
時代は不真面目な堕天使!堕天使って、なんかもう響きがカッコいいし、最高じゃん!?」
不良天使1「時代は堕天使だYO!!!」
ゼルエル「んな…!な、何バカなこと言ってるんだお前たち!正気か!?」
不良天使2「はは…まあ、アンタみたいな普通の天使にさあ…俺たちのセンスが理解できないかなあ、まあ仕方ないけど」
ゼルエル「ばかな!!毎日毎日、ジャージ着て家に引きこもってパソコンでゲームとかして、ぐーたらして!
部屋もぐっちゃぐっちゃで日夜逆転するような生活をするやつに…、なりたいとか正気なのか!!??」
不良天使2「え、いや…そ、そんなこと言ってないじゃん…、そういうことじゃなくてさあ…
俺たちが言ってる堕天使ってのは、こう……天使なのに悪魔みたいなチョイ悪なことするみたいなさあ…」
不良天使3「そうよ…、アンタ言ってるの、それただのぐーたらで駄目な奴じゃん…あたしらそんなんじゃないから。
っていうか、流石にそんな駄目な奴、天界にはいないでしょ…」
不良天使4「そ、そうよ…そこまでじゃないわよ私達…そんな人と一緒にしないでよ」
ゼルエル「え!?あ、あああ!そ、そうだ!そうだよな、そ、そんな駄目なやつ、天界には、い、いるわけないし、
なりたいともおもわないな!わ、わかってたさ!うんうん!私も知らないしなっ、あんな馬鹿!」ドキドキ
あぶない。うっかり、愚妹の下界での醜態をばらすとことだった…、って違う違う。
人に迷惑行為をするような天使になりたいだなんて、あってはならないことだ!悪魔になります宣言だぞそれ!天使としてもっとまじめに生きるんだ!」
不良天使3「はあ…ホントなんなのアンタさっきからさあ!天使学校のセンコーじゃあるまいし…どこの何物よアンタ」
ゼルエル「私は、天真=ゼルエル=ホワイトといって、ここの大学に通っているものだが」
不良天使1「…え?」
不良天使2「天真、ゼルエルゥ…?なんか聞いたことあるようなないような…」
不良天使1「い、いやあれじゃね…、ゼルエルって、確か…、”神の腕”…じゃなかったっけ…?」ひそひそ
不良天使2「はあ?いやそんなわけないじゃん…そんな有名人がこんなところいるわけないじゃん」ひそひそ
不良天使1「いや、けど”天真”って言ったら……」ひそひそ
私達にまっとうな天使になってほしいんだったらさあ…、私達と勝負する?」
ゼルエル「え?」
不良天使4「きゃははは!それいい!じわるわ!私達、4人とさあ!勝負して勝てたらさあ!
ここどいてあげるし、まじめに天使学校かよってあげてもいいわよ!」
ゼルエル「…」
なんというわかりやすい挑発だ。おもいっきり乗ってやりたい。
そして、とっとと生意気なガキどもを軽く蹴散らして終わらせたい。
しかし、年上の天使としてここはジッとこらえる。
不良天使3「はあ、何よ私達より年上のくせに怖いんだ?だっさ!マジ卍じゃん!ぷぷ」
不良天使4「ほんとほんと!さっきまで偉そうな口たたいてたくせに!かっこ悪wwwじわるwwwww」
ゼルエル「どうしてもというのなら、平和的な勝負なら構わないが…、例えば、ええっとその…そう、ババ抜き的なだな…」
不良天使3「いや流石にそれはねーよ!」
不良天使4「そうよ!全然スタイリッシュじゃないわよ!」
不良天使2「ほら、見てみろよ!あの金髪のねーちゃん!勝負持ち掛けられたら途端にビビってやんの!
ほかの年上の天使と全然変わらねえじゃん!あれがあの、”神の腕”なわけねえって!」
不良天使1「い、いやけど…”天真”って、名前は…やっぱ…」
不良天使2「たまたま苗字が一緒なだけだよ!まあ、仮に、ホントにこのねーちゃんがあの“神の腕”だったとしても、きっと、実際は大したことねえんだよ!
噂を聞く限り、妹の”ガヴリール”がそうじゃん!
天使学校を主席卒業とかなんとか言っといて、下界で大失敗したって話だし、姉貴もどうせ見掛け倒しだろ!」
ゼルエル「なに…?」ぴく
ゼルエル「そこのお前、いまガヴリールって言わなかったか?ガヴリールが一体、なんだって?」
不良天使2「はあ?知らないのぉ?”神の腕”の妹、天真=ガヴリール=ホワイトの話だよ!
なんでも、下界で修行中の身であるのにも関わらず、とんでもないことしでかしたのがバレて、一部で噂になってるぜ、へへ」
ゼルエル「えっ!?」
ゼルエル「(下界でとんでもないことって、…もしかして…、バレたのか?
…ガヴリールのやつが駄天使になったことが…。下界で、ダメダメでぐーたらな生活をしてることが…天界で噂になってるのか…!?)」ダラダラ…
ゼルエル「え、い、いや、あの…そ、それはだな…、…、誤解というかなんというかだな…」おろおろ
不良天使2「…なんかあれらしいじゃん?
ガヴリールって、死ぬはずだった下界の女の子を、勝手に天使の力を使って助けたらしーじゃん。
しかも、本来は治るはずのなかった盲目の病を治すという、おまけ付きで」
ゼルエル「……え?」
不良天使2「はは、天界はカンカンに怒ってるらしいぜ!死ぬはずだった人間の運命を天使の力を使って変えるだなんて、とんでもないことしたもんだよ、
やべーよ、そんなことして、天界からどんなペナルティをうけることやら…」
不良天使3「えー、なにそれ!?天使の力を1人の人間に”えこひいき”して使ったってこと!?それ御法度じゃん!?
最悪、天界追放されるんじゃないの!?ばっかじゃないの!?」
不良天使4「マジうけるwwww天使学校主席とか言って、私達よりバカじゃんwwww」
ゼルエル「………」
ゼルエル「(あいつ…)」
ゼルエル「(ガヴリールが下界から突然、こっちに帰ってきてる、という話…、アイツが何かよからぬことを考えていたわけではなく…、
下界で天界のルールを破った天使の力の使いかたをしたことがバレ、天界から“呼び出し”をくらったから…ということか。
何らかの処分内容を本人に言い渡すために…)」
そして、処分内容が決定するまでは、謹慎もかねて、ガヴリールは下界に帰ることは許されていないのだろう。
だから、アイツは自宅に帰ってきたんだ。正確には、帰ってこざる負えなかったのだ。
ゼルエル「(アイツ…!)」
ゼルエル「(天使の力を天界のルールを無視して使ったとなれば、天界からかなりキツイお咎めをうけることになるだろう。
いや、そんなことをすれば、最悪、天界から追放される可能性もある…、天界から見放されれば、私達天使はまともに生きてはいけないというのに…
それを1人の人間を救うためにあっさりとルールを破るとは…)」
変わらない。
他のだれかを助けるためなら、後先考えず突拍子のない行動にでるガヴリールの性分。
昔から何も変わっていない。
いずれわが身を亡ぼしかねないと思い、姉として、何度も叱りつけ、忠告してきたつもりだったのに…
ゼルエル「……あのバカ」ぼそ
馬鹿なことして天界にしかられちゃうんだから、ほんとゴミだよな」
不良天使3「そうそう、きゃはは!ほんとバカな先輩っ!真面目に天使やったって、そんなことになったら、ほんとだっさいわ。
やっぱ時代は、私たちみたいなちょい悪な”堕天使”が流行るっていうか?」
不良天使4「ほんとっ!同級生でガヴリールを尊敬してるやつ多いけど、そいつらもホントアホだわ!クズばっかり!
ほんと天界バカばっか。やっぱ堕天して“悪魔になります宣言”するのがナウでヤングだよねっ」
不良天使1「お、おい…やめとけって…これ以上」
ゼルエル「……」
………
みたことか。お前の後先考えない行動は、後輩のキッズ達にすらバカにされているぞ。
自業自得だ。天界を追放されかねんレベルのとんでもないことをしでかしたのだのだから。
姉の忠告を無視して、突拍子のない行動を積み重ねてきた結果だ。
もちろん、かばうつもりは毛頭ない。
不良天使3「あー、ええっとそれでなんの話だっけ?ああ、そうだ
……アンタ、私たちとの勝負、どうすんの?まさか大学生にもなる天使が私たちと勝負するの、怖いわけじゃないよね??くすくす」
不良天使2「まして、アンタがほんとにガヴリールの姉、”神の腕”っていうんなら、なおさらだよね?」
不良天使4「ほらほら、来なよ!その”神の腕”のちから、私たちにみせてよww」
ゼルエル「……」
ゼルエル「わかった。じゃ、”ほんの少し”、だけ」
不良天使達「え?」
どがしゃああああああああああああああん!!!!!!
【突如、天空から降り注ぐ1本の巨大な光の柱。ゼルエルと不良天使達のすぐ隣をかすめ、そのまま地面に突き刺さった。】
………
しゅうううう……
不良天使2「え、……え?え?なに…今の光…急に何が……え?まさか………」
不良天使3「……え、なに…このでっかい穴…、底が…見えない…さっきまでなかったのに…なんで…」
不良天使4「ま、まさか今の光で……、え、…え?」
不良天使1「……はあ、はあ……、だ、だから…いったんだ…ひい…」
………
不良天使4「…え、ふぇ?」
ゼルエル「………、今回、妹のガヴリールはやったことは、お前たちが言う通り、天界が定めたルールを無視した行為だ。とても褒められたことではない」
ゼルエル「だがそれでも、下界の人間のため、天界からのお咎めを覚悟のうえ、やったことだ。
こんなことを言えば、天界の連中は怒るかもしれないが、私はそういう心優しさ、慈悲深い性分をもった妹のことが好きだし、姉として誇りすら感じている」
ゼルエル「なぜならそれは、ある意味では、一人前の天使が持つべき最も重要な要素でもあるからだ。
その点ではガヴリールは天使として姉の私よりずっと先を行っている、とも感じている」
ゼルエル「……、少なくとも、一人前の天使になるための一切の努力を放棄して迷惑行為をはたらき、
こんなところでくすぶっているお前たちに、私の妹の行いをバカにされる筋合いはない。その資格もない…」
ゼルエル「要するに何が言いたいかというと」
ゼルエル「これ以上、大事な妹であるガヴリールをバカにするのなら、私はお前たちを許さない」
不良天使達「………」
がくがく…
不良天使2「ふぁ……、やっぱ…か、神…神の腕…だったんだ…ひいい」がくがく
不良天使1「ほ、ほら…だ、だから言ったんだ…はううう…」がくがく
不良天使3「ご、ごめんな…ごべんださい…ごべんばばい…」ぶるぶる…
不良天使4「ああ、神様…助けで…だずげてぐださい…」ぶるぶる…
ゼルエル「え、あ、あの…ちょっと」
ざわざわ…
【騒ぎを聞きつけ、集まってきた天使達…】
「なんだなんだ、今の揺れは!?急に何が起きたんだ」
「なんか突然、光の柱が大学あたりに!な、なんだこの巨大な穴は!?」
「悪魔たちの襲撃か!?それとも天変地異!?い、いやだああまだ死にたくない!」
「衛生兵!衛生兵を呼べええ!!!」
「え、ちょっとまってあれ…ゼルエルさんじゃね?まさか、さっきのものすごい力の正体は…」
ゼルエル「……………………………」
ゼルエル「(し、しまったああああ!ガヴリールのことで、ちょっと頭に血がのぼってしまって…
し、しかし、加減したはずだったのに、こんな大ごとになるとは…ま、まずいぞ…なんとかごまかさないと…!)」
………
ゼルエル「な、」
ゼルエル「な、なんちゃって!なんちゃって…」
不良天使達「………」
ゼルエル「び、びっくりしたかな、君たち…、こ、この穴はその…ま、まあ冗談であの…、そ、それに別に、今の、妹の話も全然ウソっていうか…、
わ、わたしもあのバカな妹には、ほんとうんざりしてるっているか…だな」
不良天使1「あ、あの…語尾にYOとかつけて話してすみませんでした…なんかその…下界でかじった知識でカッコいいと思ってしゃべってました…
すみません。調子乗ってました…だから、そのホント勘弁してください、〇さないでください…」ガチガチ…
ゼルエル「いや、いやいやいや!そんなことするわけないだろっ!」
不良天使2「お、おれも…最初らへん、き、金髪姉ちゃんとか失礼なこと言ってすみません…、、あの…、
これからはまじめに天使がんばりますから…ぜ、ゼルエル様」
ゼルエル「いや、別に様づけしなくてもいいから!ちょ、ほんとやめてっ」
不良天使3「私も…マジ卍とか意味わかってなくて言ってました…それであの…妹さんのこと…バカにしてほんとすみません…
もう二度と言いません…二度と…」ぶるぶる
不良天使4「私も…、ごめんなさい…だ、だから…食べないでください、う、吐き気が…おえええ!」
ゼルエル「いや食べないから!?っていうか、お前たち私をなんだと思ってるんだ!!」
「おいおい、あの光の柱…やっぱゼルエルさんかよ…すげえ」
「いや…ていうか、実は私、力使ってるところ、初めてみたんだけど…まじやばくない?」
「あの子達…、ゼルエルさんの逆鱗に触れたのね…おいたわしや…もう助からないわ…あの子達」
「やはり神の腕って、すごいな…噂以上じゃないか…なんかもう、天使じゃなくてよくね?ホントに神様でよくね?」
「ああ、やっぱ神の腕って…ぱねえなあ、なんか俺、涙でてきたわ。祈っていいのかな?」
「ええ、わたしも…ああ、ゼルエル様……」
……………
ゼルエル「あ、み、みんな…ち、違う、こ、これは違っ…、ああああああああ!もう!!!これは違うんだああああ!!!」
教授「いや、ご苦労だったねゼルエル君。君の見事な働きぶり。この目で見させてもらったよ」
ゼルエル「誰かに見られているような気配はしてましたが…教授の”千里眼”でしたか」
教授「しかし、オトナたちの言うことさえ聞かなかったあの連中を一瞬で黙らせるとは…流石ゼルエル君…、
けど、あの、校門のすぐ横にあんなに巨大な穴を作られると、ちょっと…あの」
ゼルエル「す、すいません!あの穴は今日帰るときに、力で塞いでおきますからっ!」
教授「いや、まあなんにせよとても助かった。ありがとうゼルエル君」
ゼルエル「………」
教授「何かね?」
ゼルエル「その……、天使としては不適な発言かもしれませんが…、
できれば、今回の私の働きについて、教授に”見返り”を要求したいのですが…」
教授「見返り?君がそんなことを言うとは珍しい。なにかね?」
ゼルエル「ええ、…力をふるうことしか脳がなく人脈関係に乏しい私に、ぜひ教授の人脈の広さを、お力沿いしていただけないでしょうか」
…………
日が沈み、あたりはすっかり闇に包まれていた。
ゼルエル「はあ…」
不良天使達の一件を終わらせたわたしは、あのあと、少しやるべきことをやって。
ようやく、今、帰路に就いているところだった。
疲れる一日であった。
たまたま引き受けた頼まれごとがきっかけとなって、ここまで疲労してしまうとは…
しかし、天使の力をふるったのは、いつ以来だったろう。
多くの人にみられたこともあって、私の関するおかしな噂話がさらに輪をかけて広まったりしないか。心配だ。
“神の腕”などという肩書きが災いして、力を使うのにも、細心の注意を払わなければならないのが私なのであった。
薄暗い夜道を歩きながら、物思いにふけってみる。
そもそも、こんな肩書きがほしくて鍛錬を積み、強くなったわけじゃない。
わたしが、強くなったのは、そもそも何のためだったか。
なんのためにあそこまで鍛錬を積み、力を付けたのか。なんのために…。
疲れ切った頭の中でそんなことを考えていると、気づけば我が家の目の前にたどり着いていた。
家の玄関の扉を開けた。
ゼルエル「……、ただいま」
ガヴリール「おかえり、お姉ちゃんっ!」
ガヴリールがいた。
けど、下界にいたら大好きなお姉ちゃんに急に会いたくなっちゃって!」
ガヴリール「あ、それと、この恰好はね、お姉ちゃん!大好きなお姉ちゃんに最高のおもてなしをしてあげたいという可愛い妹の歓迎スタイルだよっ!」
ゼルエル「………」
疲れ切った私の頭をさらに痛くさせる存在が目の前にいた。なぜか猫耳メイドの恰好をして。
そうであった。コイツだ。わたしに鍛錬を積ませるきっかけとなった元凶。昔っから私の悩みの種。
ガヴリール「さあ、さあ、はいって!お姉ちゃん!いっぱいおもてなししてあげるね☆」
ゼルエル「……」
用するに、自分が天界に戻ってきている理由をわたしに悟られまいと、私にテキトーにイイ感じの態度をとって、話題をそらそうと必死なのだ。
“妹萌え萌え作戦でなんとかゼルエル姉さんの追求を煙に巻こう、へへっ”、とか腹のうちでそんなことを考えてるのがバレバレだった。
というか、あれ、ちょっと待て。これって、前に私が下界のコイツの家に訪れた時とネタが一緒じゃないのか…。
もっとひねろうという心意気さえ感じられないじゃないか!どんだけ浅はかなんだこいつは!
幼少のころには、無鉄砲で突拍子のない行動で私をさんざん悩ませて。
一方、天使学校では、なぜか首席卒業。立派に成長した姿を見せたかとおもえば、下界でコロッと駄目でぐーたらな天使になるというフェイントをかまし。
しかし、それでも、他のだれかを助けるためなら、昔と同じように無駄な行動力を発揮し、
そういう他人に優しいところは、何だかんだ幼少のころからちっとも変わらなくて…
本当にうんざりする妹だ。
思えばこの妹は、このわたしに、ほとんど姉らしい役割をさせてくれたためしがない
危ない橋ばかりわたるものだから、姉として、一度だってまともに褒めてあげれたことはない。
そして、
せっかく鍛錬を積み、培ってきた力で、一度だって、守ってやれたためしだってない…
つくづく、”神の腕”、なんて、大それたくだらない肩書だ。
わたしは、この無鉄砲な妹の行動ひとつ思い通りとすることができないのだから…
ゼルエル「はあ…」
ガヴリール「どうしたの、お姉ちゃん!ため息なんかついてっ!はやく、はいってはいっ…あいだああ!!!」
ゼルエル「知っているぞ、ガヴリール!下界で天界のルールを無視して、天使の力を使ったそうだな!」
いつもより3割増しでげんこつをくらわしてやった。
姉として私にできること。
それはいつも通り、このバカな妹をこっぴどく叱りつけることだ。
ガヴリール「け、けど、それは…」
ゼルエル「言い訳をすんじゃない!!」
ゼルエル「天界のルールを破るだなんて……、天界にどんなお咎めをくらうことになるか…想像つかなかったのか!!」
ガヴ「う…」
ゼルエル「そんなことをすれば、最悪、天界から追放される可能性だってあるかもしれないというのに!!そうなったらもう終わりだ、
天界から見放されれば、私達天使は生きていくことなど絶対に無理だ!それに!」
ゼルエル「そうなれば、母さんや父さん、ハニエルや…、、わたしとも、二度と会えなくなったかもしれないんだぞ!!このバカ!!」
ゼルエル「少しはなぁ!……、お前のことを想っている人も考えて行動しろっ!!このバカ!」
ガヴ「………ゼルエル姉さん」
しかし、ガヴリールの顔をみて怒鳴っているうちに、少し、目頭が熱くなっていくのを感じた。
いかん。
姉としての威厳を保つため、目の周辺に力を入れるのに必死になっていると、
ガヴリール「………、ご、ごめんなさぃ…」
私の目をそらしながら、ガヴリールがそうつぶやいた。
その顔は、ふてくされたような、しょぼくれたような、なんとも言えない表情。そういえば、幼少のときも叱った時はこんな顔をしていた気がする。
反省しているようにもみえる。しかし、今日は、これくらいで納めるわけにはいかない。
このくらいでは、まだ叱り足りない。
わたしは、もう一度、右手を振り上げ…それを再びガヴリールの頭に…
【そっと、ガヴリールの頭を撫でるゼルエル】
ガヴリール「え…、ねえ、さん?」
ゼルエル「………」
ガヴリール「あいたたた…!ちょ、何して、ちょ」わしゃわしゃわしゃ
ガヴリール「ちょ、何すんだよゼルエル姉さん!頭をわしゃわしゃすんなよっ!」
ゼルエル「ふん」
ガヴリール「なにすんだよもう…、せっかく整えた髪がぐしゃぐしゃじゃん」
ゼルエル「下界ではもともとそんなボサボサ髪のくせに何を言っている。
…とはいえ、まあ、やってしまったもんはしょうがあるまい。あとはもう、せいぜい、天界からの審判の時を待つんだな」
ゼルエル「ああ、ただいま、ハニエル」なでなで
ハニエル「お父さんとお母さん、遅くなるって」
ゼルエル「そうか、それじゃあ夕ご飯にしよう」
ガヴリール「あ、あの…ゼルエル姉さん……、ええっと、その…」
ゼルエル「なに突っ立てるんだガヴリール」
ガヴリール「え?」
ゼルエル「たまに帰ってきたんだから、お前も夕食を作るのを手伝え」
ガヴリール「う、うん」
…………
わたしもまだまだ修行が足りない。妹の表情をみて、これ以上、叱る気がうせてしまった。
まあ正直なところ、この役割も、楽ではないのだ。
可愛くてしょうがない妹を叱る、という姉の役割も。
それから数日後…
ハニエル「もう帰っちゃうのガヴお姉ちゃん」
ガヴ「ああ、一応、天界からの処分も決まったし、とりあえず下界に帰っていいみたいだからな」
ゼルエル「しかし、あれだけのことをしといて、主な処分内容が仕送り減額程度で済むとは…、とんでもなく悪運のいいやつだ」
ガヴ「いやいや、仕送りが減るなんて死活問題だし…、今月から課金どうしよ…これ以上、バイトのシフト増やすとか死んでもいやなのに…って、あいた!」
ゼルエル「お前というやつは、今後に及んでまだ下界での遊ぶことを考えてるのか!」
ガヴ「ああもう、ごめんごめん、わかったって姉さん!」
ゼルエル「おそらく、この程度の処罰で済んだのは、お前が腐っても天使学校を首席で卒業した天使だったから。その功績を考慮してのことだろう、
だがそれも今回の一件で貯金を使い果たしたと思え…次、似たようなことやったら、やばいぞ」
ガヴ「わ、わかったよもう…」
ガヴ「え?」ぐいっ
【ガヴリールの胸ぐらをつかむゼルエル】
ゼルエル「下界では品行方正な生活態度で暮らし、修行に励むように、な!」
ゼルエル「お前が下界でぐーたらな生活をしていること、いまだ天界にはバレていないようだが…、
お前の行動など私にかかれば、四六時中監視できることをゆめゆめ忘れるなよ」
ゼルエル「近々、抜き打ちで下界にお前の家に出向いてやる、
くだらんおもてなしなどせんでいいから、それまでに少しは天使らしく真面目な生活をしとくんだぞ、いいな」
ガヴ「は、はひ…」
少し、強めに脅しておいた。ちゃんと効力を発揮すればいいのだが。
ガヴ「ああ」
ガヴ「あ……、あのっ、……ゼルエル姉さん」
ゼルエル「なんだ?」
ガヴ「その…、…、あの……ありがと」
ゼルエル「はあ?」
ゼルエル「何を言ってるお前は?礼を言われるようなことをした覚えはないが…」
ガヴ「あ、ああ………、まあ、いろいろだよ、いろいろ…そ、それじゃあ」
ゼルエル「?」
………
そしてさらに、数日後…
【とある天界の大学】
ひそひそ…
「みろよ…ゼルエルさんだゼルエルさん!…ああ、皇后しい」
「昨日のすごい揺れ、ゼルエルさんが力のせいらしいわよ…」
「すごいわ…あれほどの力を振るえるだなんて…信じられないわ…けど、どうしてそれほどの力を使ったのかしら」
「どうも昨日は、大学の入り口に大悪魔が侵入してきて、それを追い払うために力を使ったとかなんとか…」
「すごいわ…そうやって私達のことをいつも見守ってくださるのね…ああ、涙が出てきたわ」
「ほんとね…流石は”神の腕”ね」
………
まあ、予想していた通り。学内はあの一件の私の話題で持ち切りになっていた。いうまでもなく、事実と異なる妙な尾ひれがついていた。
ゼルエル「まったく、憂鬱なことだ…」
クラスメイト「けど、素行の悪かった天使達を一日で更生させるだなんて流石だわ。
風の噂では、ゼルエルさんに叱られて以来、彼らはまじめに天使学校に通うようになっているらしいわよ」
ゼルエル「そうか…、まあ、あれくらいの年頃だし、天使といえど、一時の気の迷いで道を踏み外すくらいはあるだろう。
私が諭さなくても、きっと放っておけば過ちに気づき、まっとうな天使の道に戻ってきてたと思うがな」
クラスメイト「さすがゼルエルさん、あれくらいの年頃の天使のキモチがよくわかっているのね。そういえば、ゼルエルさんにも妹がいらっしゃいますけど」
ゼルエル「ああ、二人な」
クラスメイト「一つ下のガヴリールさんは天使学校を首席されたとか……それほどの妹さんであれば、一時たりとも道を踏み外す心配がなく、安心ですね」
ゼルエル「ふっ」
クラスメイト「(あれ…鼻で笑われた?)」
その夜……
【天真家】
ゼルエル「ただいま」
ハニエル「おかえり、おねえちゃん。今日もおそかったね」
ゼルエル「ああ、すまないなハニエル。さっそく夕ご飯にしよう」
ハニエル「…お父さんとお母さんも相変わらず帰りが遅いし、また2人での食事に戻っちゃったね」
ゼルエル「ああ」
ハニエル「数日だけだったけど、ガヴお姉ちゃんが帰ってきてたときは賑やかで楽しかったのね」
ゼルエル「騒がしかっただけだ」
ハニエル「んもう、またそんなこと言ってっ!」
ゼルエル「……、しかし、なんだったんだアイツ、最後に妙なことを言っていたな。
私に対してお礼をいうとは…キモチの悪いやつだ…あれはまた何かたくらんでいたのか」
ゼルお姉ちゃんが、あの不良のお兄ちゃんたちを追い払ったご褒美に、知り合いの多い大学のせんせいに、ガヴお姉ちゃんの
”しょばつ”を軽くしてもらえるよう天界の人に頼んでもらったから、そのお礼だよ」
ゼルエル「………」
ゼルエル「………は?」
ハニエル「あと、不良のお兄ちゃんたちにガヴお姉ちゃんの悪口言われたときに、ゼルお姉ちゃんが怒ってくれたから、
きっと、そのお礼もあったとおもうよ」
ゼルエル「え、いやちょっと…ちょっと」
ハニエル「私もびっくりしたよ。滅多に自分の力をつかわないゼルお姉ちゃんが、ガヴお姉ちゃんのことになったら、
あそこまで力をふるって人に怒るなんて…、やっぱりガヴお姉ちゃんのこと大事に思ってるんだね、ふふ、」
ゼルエル「いやいやいやちょっとまて!??」
ゼルエル「ハニエル!な、なぜお前がそのことを知っている!?あの日、大学であった出来事を、なぜお前が!?
そ、それにその口ぶりだとガヴリールもそのことを知っているっていうのか!?」
ハニエル「え?うん、知ってるよ?”千里眼”で観てたもん。
だってあの日、ゼルお姉ちゃんたら、せっかくガヴお姉ちゃんが家に帰ってきてるのに全然帰ってこないから…
どこであぶら売ってるんだろう、って思って…、ゼルお姉ちゃん、気づいてなかったんだね」
ゼルエル「だ、誰かに"千里眼"で見られている気はしていたが…教授だけだとばかり…、お、お前がもう”千里眼”を使えるようになっていたとは…!
は、ま、まさかガヴリールのやつも私の行動をのぞき見してたんじゃあ…!?」
ハニエル「ううん、ガヴお姉ちゃんは千里眼を使ってないよ」
ゼルエル「そ、そうか…」
ハニエル「だから、ガヴお姉ちゃんがこっちにいる間に、あの日のゼルお姉ちゃんの行動は洗いざらい私が話したんだよ」
ゼルエル「いやだから何してくれてんの!?ハニエル!!」
『ガヴリールは天使として姉の私よりずっと先を行っている』きりっ
『これ以上、妹をバカにするのなら、私はお前たちを許さない』きりっ
とか!」
ハニエル「けど、ゼルお姉ちゃんたら、ああやっていつも、ガヴお姉ちゃんのことを影で褒めてあげたり、守ってあげてるんだねっ!、
ふふ、流石は私達の”お姉ちゃん”だね。
………あれ、なんでゼルお姉ちゃん、膝から崩れ落ちて顔真っ赤にして涙目になってるの?」
ゼルエル「は、ハニエル…その、それはつまりその…ガヴリールは今回の私の行動をすべて…」
ハニエル「え?うん、だからガヴお姉ちゃん、全部知ってるよ?」
ゼルエル「ぎゃああああああああ!!!」
ゼルエル「も、もももう駄目だハニエル。わ、わたし、今から、ガヴリールの家に行ってくる…行かないと」
ハニエル「え?言ってどうするのおねえちゃん…?」
ゼルエル「いや…ガヴリールの息の根を止めないと」
ハニエル「急に何言ってんのゼルお姉ちゃん!?」
は、離せハニエル!離すんだ!行かせてくれ、ガヴリールのところへ!!ぶっ〇さないとアイツを!!」
ハニエル「こ、こらゼルお姉ちゃん、何いってるの!それにバカな言動なんかじゃないよっ!
ガヴお姉ちゃんだって、私がゼルお姉ちゃんの話をしてる間、なんか顔真っ赤にさせて耳ふさいでベットでバタバタのたうち回りながら、
『も、もう話さなくていいからハニエル!もうやめて!ほんとお願いします!』
とか言って恥ずかしがってすごい照れててたけど、すごくかわいかったし…!それに、なんか、とっても嬉しそうだったよ!」
ゼルエル「ぎゃあああああ!!ハニエルお前、わざとか!わざとなのか!いやもういいから!ホントお願いだから、!これ以上やめてくれええええ!!!」
…………
……、私の日々の暮らしには、つくづく憂鬱なことが多い。
“神の腕”として。 姉として。
私の憂鬱な日々は当分、終わりそうにない。
おしまい
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コメント一覧 (14)
-
- 2018年06月11日 20:50
- うーん
-
- 2018年06月11日 22:23
- はぁ好きぃ···
-
- 2018年06月11日 22:25
- よろし
-
- 2018年06月11日 22:28
- OVAからみの話か よかったぞ
-
- 2018年06月11日 23:00
- この一つ一つの長ったらしい説明口調がなければ良いかもしれん
-
- 2018年06月11日 23:06
- うーんこのハニ畜
-
- 2018年06月11日 23:15
- 良いといえば良いがガヴハー要素が足りないから星4
-
- 2018年06月11日 23:25
- 正直好き
-
- 2018年06月12日 00:04
- いいんじゃないかな
-
- 2018年06月12日 03:20
- ここ最近で一番クオリティ高いのでは
-
- 2018年06月12日 11:35
- ゼルエル姉さんが一番
-
- 2018年06月12日 12:34
- まともな姉SS
-
- 2018年06月13日 09:18
- しゅき
-
- 2018年06月14日 11:08
- 姉妹ss良いですわゾ^^~