【艦これ】安楽椅子の松風
松風「お疲れ様だね秘書艦、姉貴ならまだ輸送任務から帰ってないんだ。おかげで相部屋の僕はこうして一人で暇潰しさ」
電「暇潰し? 何もしていないように見えるのですけど」
松風「動かずにできる暇潰しなんていくらでもあるよ。例えば……仮説的推論、とかね。結果から仮定を推理する遊びだ」
電「でも、推理のためには事件が必要なのです。動かないと事件は……いえ、こんな寂れた港町の鎮守府じゃ、動いたって見つからないですね」
松風「推理小説の探偵じゃないんだ、別に殺人事件が起きてなくてもいいんだよ。ただちょっとした謎があって、原因がわからない。どんな仮定を置けば成り立つか考えるだけだから、正解だってどうでもいい」
松風「それから事件でさえ自分で探しに行く必要もない。こうして座って、何か面白い謎を持ってきてくれる誰かを待ってるだけでも楽しいんだ」
電「はぁ……」
松風「そんなわけで、君もよければ遊びに付き合ってみないかい」
電「その、いくら大規模作戦が終わったばかりだといっても、まだ業務中ですし……」
松風「ほんのちょっとした息抜きさ。なんでもいいよ、不思議に思ったことを教えてもらえれば原因を仮定してみよう」
電「……そうですね、でしたら少しだけ」
松風「酒保と共通の倉庫で食材を管理してるからね、ちょうどいい立地なんだろう」
電「今日は臨時休業の張り紙があったのです。仕入れ不足で料理の提供ができないとか……明日には店を開けるそうなのですが」
松風「それは珍しいね……戦艦や空母が毎晩飲み食いに来ても営業に響いたことはなかったのに」
電「どうですか? 不思議なことと言われて、ふと思い出したのですけど」
松風「鳳翔さんが急病になって、それを隠すために店を閉めたってことは?」
電「今朝お会いしましたが、お元気そうに見えたのです」
松風「なるほど……張り紙自体は本当、と考えていいかな」
電「先日の大規模作戦、ですか」
松風「そう。作戦が終わって彼女たちが帰投すれば、祝勝会だって開かれる。急激に需要が増えた結果、仕入れが足りなくなったんだろう」
電「でも、これまで作戦成功後には必ず飲み会があったのです」
松風「説明できないのはそこだね。『なぜ今回に限って食材がなくなる事態が起こったのか』……何度も作戦成功を見届けてきた鳳翔さんが、こういった時の需要の伸びを見誤るのは不自然だ」
松風「そこでこうは考えられないかな? 需要が想定以上に伸びたんじゃなく、供給が想定よりも少なかった……つまり、食材の仕入れを十分に行えなかったからだ、ってね」
松風「確かに、最近あちこちで噂に聞く敵の兵糧攻めとは現状全く無縁だ。そこで次の疑問が浮かんでくる。『なぜ食材を十分量仕入れられなかったのか』……これについてはどうかな?」
電「どうかな、と言われても……仮定に対して仮定を考えたって、なんの材料もないのです」
松風「仮定を重ねているのは間違いないけど、だからって思考材料がなくなるわけじゃないさ。知っての通り、あの店の食材は酒保と同じ倉庫で管理してる」
電「酒保の側で倉庫に大量に物を置いていたから、食材を十分入荷できなかった……ということですか?」
松風「結果を説明できる可能性の一つとして、ね。さあ、ここで次の疑問だ。『他に物が置けなくなるほど倉庫にあったものはどこに行ったのか』」
松風「店は明日から通常営業なんだろ? 倉庫に置かれてるものは今日にはなくなるわけだ」
電「あ、だったら……」
松風「今日中に運び出されたか、使われたか……仕入れと仕込みの時間を考えたら、もう存在しないと考えていいだろうね」
電「他の場所に移動させただけ、ということは?」
松風「あり得なくはないけど、可能性は低いかな。もし保管可能な場所が別にあるなら、影響が目に見えるリスクを避けてそっちに最初から置けばいい」
松風「むしろ、今日まではあの場所に置いておく必要があって、外に運び出したと考える方が自然だろう?」
電「今日出撃予定の駆逐艦……ですか? 確かに補給や艤装の整備でも、倉庫に立ち入ることはありますけど……」
松風「駆逐艦が搭載するドラム缶にはそこそこの量の物が詰められる。例えば『何か』を隠したドラム缶を用意しておいて、それを遠征予定の駆逐艦が目的地に運べば、誰にも気づかれず鎮守府外への持ち出しができるだろうね」
電「……それで、その『何か』というのは……?」
電「でも、ここまで想像してしまうと気になるのです」
松風「そんなもの、いくらだって考えられるさ。ひょっとしたら開発に失敗した物資を秘密裏に不法投棄してるのかもしれない。あるいは近隣の漁業関係者にこっそり配って回るお礼の品かもしれない」
松風「それとも、もしかすると……」
電「そんな、まさか……」
松風「『何か』は深海棲艦に渡す賄賂で、駆逐艦は知らず知らず協力させられているのかも……」
電「……」
松風「……あっはは! なんてね、冗談さ! 可能性としてはあり得るってだけで、何の証拠もないデタラメだよ」
電「ふぅ……ほ、ほんとに怖かったのです……」
松風「ごめんごめん、ちょっと悪趣味だったかな。付き合ってくれてありがとう、いい暇潰しになったよ」
松風「そう言ってもらえると嬉しいね」
電「でも、今のお話、いくつか気になることがあって……」
松風「いやいや、だから裏取引なんて今適当に考えた――」
電「――どうして、艦娘は何も知らないと信じられるんですか?」
電「そもそも松風さんの推理が正しいとすれば、倉庫にある『何か』は常に艦娘の目に触れる危険性があります」
電「鳳翔さんは仕入れを少なくせざるを得なかった時、何の疑問も持たなかったんでしょうか? そうでなくとも倉庫に普段からよく出入りする彼女なら、いつ『何か』を見つけてもおかしくないのに?」
松風「それは……」
電「駆逐艦も同じなのです。仮に普段はうまく隠し通せたとしても、実際ドラム缶を持ち出す段になって中身を確かめたら? 輸送中に敵の襲撃に遭って、意図せずドラム缶が破壊されたら?」
電「事態が露見するリスクを考えるなら、作戦に関係する全員が内容物を知っていた方がよほど合理的なのです」
松風「……」
松風「……何かな?」
電「秘書艦なら遠征から帰投した艦とは執務室で話せるのに、どうしてわざわざ輸送作戦を担当する旗艦の部屋を直接訪ねてきたんでしょう?」
松風「……提督には聞かれたくない相談事でもあったんじゃないかな」
電「例えば、『何か』の輸送が上手くいったかどうか、でしょうか?」
松風「……面白い仮定だね」
電「そこで関係者に一番近い艦に最低限の情報だけ与えて、真実が推測可能か聞き出すことにした……姉妹艦が帰投する前を見計らって」
松風「おかしいな。それじゃまるで……」
電「まるで秘書艦がすべての計画を立てたみたいだ、ですか?」
電「当然の仮説ですよね? 倉庫の管理も、遠征のローテーションも、各艦への連絡も、全部秘書艦の仕事なのです」
電「もし今までの仮定がすべて成り立つなら、まさに一番可能性が高いと思いますけど」
松風「……」
電「さて、真実に近づきすぎた松風さんには……」
松風「……え?」
電「もちろん朝風さんにも後でお願いするので、三人で、なのですが」
松風「いや、あの、それは構わないけど」
電「……ごめんなさい、やっぱりちょっと悔しかったのでお返ししたのです」
松風「ああ、なんだ、そういうことか……心臓に悪いね」
電「それじゃあ電はそろそろ執務に戻るのです……たまには実物を直接確かめるのも悪くないと思いますよ?」
松風「そうだね、楽しみにしておくよ」
松風「ああ姉貴、お疲れ様。電にはもう会ったかい?」
松風「……それなら本人から直接聞いた方がいいか。僕も今日知ったところでね」
松風「まさか、そんなことするはずないだろ? ホントに信用ないなぁ」
松風「僕なんかより彼女の方がよっぽど演技派だぜ? さっき二人で話してたんだけど――」
松風「――てなわけで、上手いことしてやられて……姉貴? どうしたのさ?」
「……なぁ、姉貴?」
「釈然としない」話を作ってみたくて書いたので、
探偵っぽいタイトルにスッキリした解決を求めて開いた皆様にはお詫びの言葉もありません。
全部すぐに出てこない福江ちゃんが悪い(バケツ250個使用)
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コメント一覧 (13)
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- 2018年05月28日 02:19
- >>電「次の外出日に、司令官さんへのプレゼントを一緒に選んでほしいのです!」
>>電「もちろん朝風さんにも後でお願いするので、三人で、なのですが」
最後の朝風の反応は「中身」を見たんだろうね
三人で、と強調しているところから朝風は少なくとも無事で※1の言う通り事情を話したから仲間になれよってことかな? 始末するなら今すぐにやっているだろうし
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- 2018年05月28日 04:17
- まあ口封じは無いだろ、松風が自分で答えを出したところなのにわざわざ電が真実を自分から教えているわけだし
今後は深海勢力に輸送する艦娘にもグルになってもらって安全にやりたいんでしょうね
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- 2018年05月28日 07:56
- そして強奪されるわけだな(4ー2周回中)
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- 2018年05月28日 08:19
- 艦娘が深海側と繋がってるなんてあるわけないじゃないですか
ねぇ大淀さん?
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- 2018年05月28日 11:39
- タイトルで何故かエマニエル婦人の如く椅子に腰掛ける松風を想像してしまった
中身が全然違った、訴訟
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- 2018年05月28日 13:21
- ※6
全裸に帽子だけとかエ口チックですね(ハァハァ
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- 2018年05月28日 15:48
- 電は敵も救いたいってよく言っているから一番深海側と和平を結びそうだよな
今回の件も優しさからくるものだと信じている
……そこを真の黒幕の大淀につけこまれている(確信)
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- 2018年05月28日 18:33
- なかなか面白かった
電ちゃんは優しさオチでオネシャス
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- 2018年05月28日 18:46
- 大淀「SSで名前も出てきていない私が黒幕扱いされて、電ちゃんが優しいから深海棲艦達と手を組んでいるんだと擁護されている、ふざけんな!」
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- 2018年05月28日 21:54
- 大正浪漫ないでたちのお嬢さんが安楽椅子探偵ってのはオシャレでよいね
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- 2018年05月29日 07:00
- 深海勢が強奪した食材を大規模輸送機する時期をかなり細かい時間まで判っちゃうくらい有能なおおよ…任務娘さんが黒幕な筈がないじゃないか!
2-4でデイリー南西任務を終わらせるという狂気の沙汰を一週間も続ければ福江もお茶も海苔も米も貯まってウハウハだよ!
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- 2018年06月06日 22:56
- そう思うだろう?今回の奪還作戦で、輸送には不可欠のワ級艦隊が少なすぎるとは思わないかね?菱餅や秋刀魚とは状況が余りにも異なるとは思わんかね?
何か重大な事を見落としてるような気がするんだが・・・大淀?あれ?何処に行ったのかな
>>松風「……提督には聞かれたくない相談事でもあったんじゃないかな」
>>電「例えば、『何か』の輸送が上手くいったかどうか、でしょうか?」
つまりは独断(提督は知らない)で深海側と密約を交わしている秘書艦の電に仲間として取り込まれた、共犯にされたオチってこと?