剣と魔法と運送業【前半】
-王立物流協会 事務所-
男「おはようございます」ガチャ
点呼係「おはようございまーす」
先輩「お、男か」
男「あ、先輩」スッ フーッ…
<カチッ ピンポーン
点呼係「はーい5時30分、今日は特に脇見運転注意でーす」
男「先輩もこれから出勤ですか?」
先輩「今帰ってきたとこだ…んー」ノビーッ
男「夜運行だったんですね、お疲れ様です」
先輩「お前は今日は?」
男「西の街へ行きます。夕べ積み込みしといたんでこのまま出発です」
先輩「そか。気ぃつけてな」
男「はい、じゃ行ってきます」ガチャ
点呼係「あっ男さん伝票忘れてますよー!」ペラッ
男「いけね」
キュルキュル…ブォン!
男「ナビ起動っと」ポチ
ブゥン…
[精霊ナビゲーションシステムヲ起動シテイマス…]
クルンッ…パッ!
ナビ『おっはよーさん♪』ピョンッ
男「おはよう。今日も元気だな」
ナビ『あったりまえやん!ナビちゃんはいつでも元気やで♪』ニシシ
ナビ『ほんで?今日はどこ行くん?』
男「今日の運行は、王立物流協会の倉庫(ここ)から西の街へ武器防具の搬入だ」
男「荷物はもう積み込んであるからこのまま出発する。所要時間出せるか?」
ナビ『待ってなぁ…西の街までおよそ150km、所要時間4時間ってとこかいな?』
ナビ『カーゴの状態も道路状況も問題なし!オールグリーンやで♪』
男「了解。それじゃ出発するか」
男「今日もよろしくな」
ナビ『はいなぁ♪ほなれっつごー♪』
ブォン!ブロロロ…
ブロロロ…
男「…。」モグモグ
ナビ『朝ご飯?』
男「ん。最近ドライバーの間で流行ってる強壮剤入りのエナジーバーだ」
ナビ『なんや身体に悪そー…』ジト
男「まぁ多少はな。止まって食事出来る時ばかりじゃないから」ゴクンッ
男「西の街に着いたら少し落ち着いて食べられると思うから、それまでの繋ぎさ」
ナビ『あんま無理しやんでなー?途中どっか寄れるとこ探そかー?』
男「大丈夫だよ。今日は帰り荷もあるし、道が混み出す前に少しでも時間稼いでおきたいんだ」
ナビ『そかー。ほんならちょっとでも早く着けるようにルート再検索するわ♪』
ブゥン…
ナビ『再検索完了。こっから右手の山道を抜けると30分位まくれるでー♪』
男「街道を逸れるのか?魔物が出なければいいが…」
ナビ『そん時ゃそん時♪男ちゃん強いねんから大丈夫やろ!』
男「うーん…まぁ時間短縮出来るなら、行ってみるか?」
ナビ『そうこなくっちゃー!ほんならルート変更!ぶっちぎんでー♪♪』
男「おい!頼むから安全運転でな!」
[魔法石過給装置作動シマス…]
ガヒュン!ブォォォォ…!
男「おいおいおいおい」
ナビ『いっくでー♪♪♪』
バヒューーーーーン!
ブロロロ…
男「死ぬかと思った」グッタリ
ナビ『大丈夫やて!どんだけぶっ飛ばしても魔法石のジャイロ機構で荷崩れしぃひんし♪』ニコッ
男「荷物はそうかも知れんが生身の俺はそうはいかん!」
ナビ『でも予定よりかなり時間まくれたで?街の門が開く前に着けそー♪』
男「それは良かったよ、…ただ予定より魔法石の残り容量が少ない」
男「帰り荷を積む前に充填が必要だな」
ナビ『過給装置フルパワーで回したったもんなぁ、あー気持ち良かった♪』ケラケラ
男「これでも一応燃費とか気にしてるんだぞ?」
男「協会からも毎月の燃費目標を掲げられてるんだし」
男「今や運送屋もエコの時代だ」
男「毎年の査定次第ではボーナスやなんかも云々…」クドクド
ナビ『あーもうごめんやて!』
男「まぁ早めに到着出来るのは助かるけどな」
ナビ『せやから男ちゃんもまともなご飯食べなあかんよ?』
ナビ『何の為にかっ飛ばしたと思ってるんや!』プンスカ
男「ふふっ、心配してくれてありがとな」
ナビ『もう…』
ブロロロ…
守衛「男か、おはようさん」
男「おはようございます、今日は搬入です」ピラッ
守衛「はいよー」
守衛「ナビちゃんもおはよう!」
ナビ『おっちゃんおはよーさん♪』ピョコッ
守衛「やー今日も可愛いねー」
ナビ『やろー?』
ナビ『今日も元気で可愛いナビちゃんやで♪』クルッ
男「もう入れますか?」
守衛「ちょっと早いがまぁいいだろう」
守衛「いつもの第1倉庫で頼むよ」
男「了解です」
守衛「それじゃ開けるぞー」
ガコンッ!!ゴゴゴ…
((搬入車輌、入門シマス))
ピーッ、ピーッ
ゴゥンゴウン…
ナビ『いつ来ても思うけど…』
ナビ『ほんまデッカい倉庫やなぁ』キョロキョロ
男「西の街は武器防具の流通拠点であると共に、王国陸軍の本拠地もある軍の街だからな」
男「今日積んで来てるのは民間用だけどな」
ナビ『民間用ってその辺の武器屋さんとかで売られとぉ奴ってこと?』
男「そうだよ」
男「ここへ搬入された武器防具は、武器商人によって各地の町や村の販売店に卸される」
ナビ『ほぇー、ほんならここにその武器商人さん?が来るんやー』
男「実際には来ないよ」
男「商品を運ぶのは武器商人に委託された物流協会(うち)のカーゴだから」
ナビ『あ、そうなん?』
男「俺達が今乗ってる4t車よりもう少し小さいサイズだけどな」
ナビ『同僚ちゃんの乗っとぉ奴やな!』
男「そそ」
男「そうして運ばれた武器防具が勇者達を始め、色んな人の手に渡るわけだな」
ナビ『武器一つ取っても色んな人の手で運ばれてるんやなぁー』ウンウン
倉庫主任「物流はあらゆる産業の根っこを支える仕事だからな」
男「あ、主任さんおはようございます」
倉庫主任「おはよう。今日も搬入ご苦労様」
ナビ『おはよーさんやで♪』
男「これ今日の搬入明細です」ピラッ
倉庫主任「また沢山来たなー」
倉庫主任「しかし今や、武器防具も勇者や軍人だけが使うわけでもないからな」
男「市街地での魔族との衝突も増えてるみたいですしね」
倉庫主任「今や市民が自衛の為に武器を取る時代さ」
倉庫主任「さて、それじゃ荷降ろしを始めるとするか!」
男「お願いします。ウイング開けます」
ポチッウィーン…
ガヤガヤ…
男「さてご飯にするか」
食堂おばちゃん「あら男くん、今日も搬入かい?」
男「おはようございます」
男「そうなんです今荷下ろし中で」
おばちゃん「いつもご苦労さん!」
おばちゃん「今日も日替わり定食かい?」
男「はい、お願いします」
<はい日替わりいっちょー
<はいよー
同僚「おっ男じゃねーかww」
同僚「隣いいかww?」
男「おーお疲れ様。隣どうぞ」
同僚「今日はナビちゃん一緒じゃねーのかww?」ガタッ
男「今荷下ろししてるとこだから」
同僚「そかw」
同僚「しかしナビシステム様様だよなーwww」
同僚「カーゴの事殆どお任せ出来ちゃうもんなwww」カチャカチャ
男「ほんとに助かってるよ」
男「昔は荷馬車で運んで人力でえんやこらしてたのが嘘みたいだ」もぐもぐ
同僚「今日は王立倉庫からだろw?」
同僚「途中魔族には出くわしたかww?」ガツガツ
男「いや、ナビの奴が山道でショートカットしたんだけど」
男「一度も遭遇しなかったな」
同僚「ナビちゃんまじ有能ww」
同僚「今朝も街道沿いで魔族と陸軍の小競り合いがあったらしいぞwww」
男「そうなのか?」
同僚「おかげで街道は大渋滞ww」
同僚「俺なんか予定より2時間も到着が遅れちまったんだからよwww」
男「そういえば今日同僚のやってる便だったら」
男「もう西の街を出発してる頃だもんな」
同僚「魔族まじ迷惑www」
同僚「まぁそれも勇者がいずれ何とかしてくれるんだろうがwww」
同僚「お前今日帰り荷はw?」
男「B級品の武器防具を積んで王立倉庫へ戻るよ」
同僚「しばらく街道沿いは避けた方がいいかも知れないぞw?」
同僚「戦闘であっちこっち道路が損壊してるらしいしww」
男「そうするよ、事前に聞けて助かった」
男「ありがとな」
同僚「なんてことねーさw」
同僚「あ、じゃあ今度飲み行く時ナビちゃん連れて来いよwww」
男「魔法石持ち出したら怒られるだろ…備品だぞ?」
同僚「ですよねーwwww」ケラケラ
同僚「いやマジな話、お前とナビちゃんが羨ましいよwww」
同僚「今朝の渋滞でうちのナビの奴ずーっと機嫌悪くてさww」
男「そんな事もあるのか」
同僚「だから羨ましいって言ってんのw」
同僚「はいごちそーさんとw」ガタッ
同僚「じゃあな男ww帰りも気ぃつけてなww」
男「そっちもな。じゃあまた」フリフリ
ゴゥンゴゥン…
ナビ『あ!男ちゃんおかえりー!』フリフリ
男「積み下ろしご苦労さん。無事に終わったか?」
ナビ『任してーな!帰り荷の積載も完了!』
ナビ『ま、ウチはウイング開け閉めするだけで、主任さんが積んでくれはるんやけどな』
男「それでもカーゴを預けられるのは助かってるよ、ありがとな」
ナビ『えーんやで♪』ニコッ
ナビ『男ちゃんもご飯ちゃんと食べたー??』
男「あぁ、おかげさまでゆっくり食事出来たよ」
キュルキュル…ブォン!
ナビ『おっけ♪ほんなら出発しよか!』
男「そうだな、帰りも頼むよ」
ナビ『はいなぁー♪』
ブォン!ブロロロ…
ブロロロ…
ナビ『なぁなぁ男ちゃん男ちゃん』
男「んー?」
ナビ『あんなー?朝ウチらが積んできた武器防具って、そもそもどっから来たもんなん?』
男「あぁあれはな」
男「北の鉱山の麓に鍛治職人の里ってとこがあってな」
ナビ『ん?そこって男ちゃんの故郷やん』
男「そうだよ、話した事あったっけ?」
ナビ『そりゃ知っとぉやろそこは!』ビシッ
男「?まぁいいか」
ナビ『じゃあそっから王立倉庫までの物流も協会(ウチら)の仕事なん?』
男「もちろんだ」
男「里で作られた武器防具を倉庫まで運んだり」
男「それとは逆に、使い古されたB級品の武器防具を仕立て直す為に里へ持ち込んだり」
男「それらの運搬も王国からの委託で協会(うち)が一手に請け負ってるのさ」
ナビ『ほんならその鍛治職人の里へもいつか行くかも知れへんな!』
男「まぁ運行は基本ローテーションだから、そんな時が来るかもな」
ナビ『男ちゃんの故郷かぁ…♪』ウキウキ
ブロロロ…
男「帰りも山道ルートで行くぞ」
ナビ『ほぇ?急いでるん?』
男「いや、今朝また街道沿いで魔族と陸軍の衝突があったらしくて」
ナビ『そうなん!?』
ナビ『なんやウチの判断は正しかったわけやな』ムネハリー
男「偶然とはいえ助かったよ、ありがとな」
ナビ『えっへへー♪』テレテレ
男「そういう訳で街道周辺はまともに走れないらしいから」
男「帰りも山道ルートで行こうか」
ナビ『りょーかいやで♪』
ナビ『あ、でも帰りはあんま飛ばさへんで?』
ナビ『帰り荷はバラ積みやからジャイロ効いてても危ないし』
男「そもそもお前が勝手にかっ飛ばしたんだろうが…」
男「まぁいいや、安全運転で頼むよ」
ナビ『あいあいさー♪』
ブロロロ…
[前方ニ移動性ノ障害物ヲ確認]
[距離2000、コチラニ接近シツツアリマス]
男「ちっ、こっちにも魔族か!」
ナビ『あわわ、男ちゃんどーする?』
男「ここは一本道だ…」
男「向こうがこっちに気づいていようがいまいが、どの道接触するだろう」
ナビ『迂回した意味…』
男「まぁそう言うなって」
男「このまま速度を落として進行。向こうの出方次第で戦闘だ」
ナビ『了解やで!事務所に連絡入れとこか』
男「頼む」
ピピッ
ナビ『緊急連絡。現在復路にて魔族と接触する可能性あり』
ナビ『対象を確認後、止むを得ない場合王国物流協定第39条に則り戦闘行為に移行する』
[障害物マデ500]
<グルルッ…ゴガァ…
男「オークの群れか…20体はいるな」
ピピッ カチャ
配車係「お疲れ様です、災難ですねー」
ナビ『ほんまやで…きた!接触まであと15秒!』
男「お疲れ様です男です」
男「帰り荷が少しばかり増えそうですが大丈夫ですか?」
配車係「構いませんよ」
配車係「怪我と過積載だけ気をつけて下さいね」
男「了解です」カチャ
男「ナビ、カーゴ頼むぞ!」チャキッ
ナビ『はいなぁ!』グッ
ナビ『男ちゃん頑張ってな!!』
男「あぁ!」バタンッ
ダダッ…
男「ナビの言う通りだ、これじゃ迂回した意味がない」
オークの皆さん「ゴガァァァ」
男「お前達に恨みはないが、悪いな」
男「俺達は荷物を届けなきゃならないんだ」チャキッ
男「うおぉぉー!!」ダッ
バキッ!ドスッ!ザンッ!ザンッ…
オークの皆さん「グワァァァ」
ゴゥンゴゥン…
ナビ『おー始まった』
ナビ『…。』
ナビ『…男ちゃんつよ!』
ナビ『…。』
ナビ『…暇や』ポリポリ
ナビ『…。』
ナビ『あ、終わったかいな?』
ザッザッザッ
男「おーい!ウイング開けてくれー!」
ナビ『ほいさー!』
ピッ!ウィーン…
ドサドサッ!ドサッ!ガコンッ!!
男「いいぞー」
ピッ!ウィーン…シュパッ
ナビ『おつかれさまー!男ちゃん相変わらず強いなぁー!』
ナビ『ドライバーなんかより剣士とかの方が向いてるんちゃうん?』
男「今時フリーの傭兵なんて食べていくのも大変だよ」ハハッ
男「それにこの仕事もなかなか悪くないしな」
ナビ『そうなん?』
ナビ『まぁウチは男ちゃんと一緒におるの好きやからえぇけど♪』
男「ありがとな」ニコッ
男「さて、時間ロスしちまったが戻るか」
ナビ『おっけー♪ほな出発!』
ゴゥンゴウン…ブロロロ…!
ブロロロ…キキッ
男「ふぅ、到着」
ナビ『男ちゃんお疲れさま!』
ナビ『荷降ろしは倉庫の人達がやってくれるで、運行報告出し行こか♪』
男「了解。それじゃシステム落とすぞ」
ナビ『男ちゃんまた明日な!』ニコッ
男「あぁ、また明日な」
ナビ『おやすみぃー♪』フリフリ
[精霊ナビシステムヲ終了シテイマス…]ブゥン…
[魔法石ヲ取リ出シテクダサイ]ポンッ
男「お疲れ様でーす」ガチャ
先輩「おー男か、おつかれ」ヒラヒラ
配車係「男さんお帰りなさい」
男「戻りました」
男「ってか先輩、朝も会った気が」チャッ
[魔法石ヲセットシテクダサイ]カパッ
先輩「まぁこの業界だとよくある事だわな」ワハハ
男「ありますねぇ…」
男「退勤から次の出勤まで最低8時間あけなきゃいけないルールを」ヒソヒソ
先輩「逆手に取った配車を組む奴がいるからな…」ヒソヒソ
先輩「8時間あけばオッケーでしょ!昼夜逆転でも!みたいな」ヒソヒソ
配車係「ごほん!!」
先輩「何かあったのか?」
男「帰り道でオークの群れに出くわしまして」ピッピッ
[運行データヲ印字シテイマス…]ジジッ
先輩「あーそりゃ災難だったな」
先輩「戦闘したのか?」
男「えぇ、どうにか対処しました」
先輩「お前戦闘強いもんなー」ハハッ
先輩「実習いつもトップだったしな」
男「ナビにも言われましたけど大した事ないですよ」
男「それこそ元軍人の先輩と比べたら…」
先輩「その俺が言ってんだから間違いねぇよ」
先輩「お前の剣術は大したもんだ」ウンウン
男「ありがとうございます」テレ
男「まぁガキの頃から散々親父に鍛えられましたからねぇ」クスッ
配車係「速度オーバーD判定って何ですかこれ!!」
男「あ!やべ」
先輩「ナビちゃん飛ばすねー」ニヤニヤ
配車係「困りますよー!!」プンスカ
配車係「現行犯なら一発免停ですよ!?」
男「いやそれはそのナビが勝手に」アワアワ
配車係「言い訳になってません!!」
配車係「ナビを使用しているのはドライバーである男さんでしょ!!」
男「おっしゃる通りで…」
配車係「全く…」ギロリッ
配車係「今やこの業界もエコの時代なんですよ!?」
配車係「王国の監査でもつつかれるんですから」クドクド…
先輩「あーあ始まっちゃった」
先輩「そいじゃ行って来るわー」ガタッ
男「あっ先輩!ずるい!」
配車係「話は終わってません!」ムンズ
男「あぃ…」ゲンナリ
魔法石(ナビ)『男ちゃんごめん…』ボソッ
ゴゥンゴゥン…
男「おはよう」
ナビ『ふぁぁ…おはようさん』ネムネム
男「眠そうだな」
ナビ『だって今日めっちゃ早いやん…』
ナビ『つか朝?夜?まだ真っ暗やで』
男「今日の運行は東の港へ海産物を積みに行くんだ」
男「漁船が港へ戻ってくる夜明け頃に到着しようとすると」
男「この時間には出発しなくちゃならん」
ナビ『あーそれで今日は食品用のカーゴなんやな』
男「そういう事。所要時間出るか?」
ナビ『あいあーぃ…距離250km、6時前には到着すんで』
男「ちょうどいいな、積んでいく物はないからすぐ出発だ」
ナビ『おっけー。ほんならチャチャっとやったるかいな!』フンス
男「今日も頼むぞ」
ナビ『あいあぃさー。ふぁぁ…』
ブォン!ブロロロ…
ブロロロ…
男「海沿いは気持ちいいなー」
ナビ『真っ暗でなんも見えへんわ!』ビシッ
ナビ『…まぁ、でもこの時間やとさすがに道空いててえぇな』
男「この調子なら予定より少し早く着けそうだ」
ブロロロ…
-05:45 東の港-
ナビ『着いたー!』
男「やはり早めに到着出来たな」
ナビ『男ちゃん見てみー?朝日めっちゃ綺麗やでー!!』
ナビ『水平線がキラキラ光っとぉー!』キャッキャ
男「元気出たみたいで良かったよ」ニコッ
漁師「おう兄ちゃん!積みに来たのか?」
男「あっおはようございます、物流協会から海産物を積みに来ました」
ナビ『漁師さんや!おはよーさん♪』
ナビ『うはー筋肉半端ねー!』
漁師「ははっおもしれーお嬢ちゃんだな!」
漁師「積荷の準備は出来てるぜ!」
漁師「早速積んじまうかい?」
男「すごい…ケースに満載の魚がこんなに大量に」
ナビ『おっさかなー!!』
漁師「今日は大漁だったからな!気合い入れて積むぞ!」
漁師「おい野郎ども!」
ちぇーっす…ワラワラ…
漁師「兄ちゃんも頼むぜ!」
男「了解です。久々の手積みだな…」
ナビ『男ちゃん頑張って♪』グッ
ワイワイ…
男「疲れた…」グッタリ
漁師「なんだ兄ちゃんだらしねーな!」
漁師「俺らはこんなの毎日やってんだぜ!」ケロッ
漁師「普段ナビのお嬢ちゃんに頼ってばっかなんだろー?」ガハハ
男「確かに運動不足なのかも知れないですね…」
ナビ『男ちゃんお疲れ様♪』
ナビ『保冷装置作動よし!積み込み票印字完了やでー』ペラッ
男「おーありがと…漁師さん、じゃここにサインを」
漁師「あいよ!」カキカキ
男「ありがとうございます、じゃあこれ預かり証ですんで」
漁師「ありがとよ!」
漁師「で、これからどこまで運ぶんだ?」
男「物流協会(うち)の港湾倉庫です」
漁師「それならここから1時間もかかんねぇな!」
漁師「ま、気ぃつけてな!」ニカッ
男「ありがとうございます、それでは出発します」
ナビ『おっちゃんまたなー♪』フリフリ
漁師「あいよー!それじゃあな!」
バタン!ブロロロ…
ブロロロ…
ナビ『漁師のおっちゃんえぇ人やったなー!』
男「あぁ、それにたまには体を動かすのも悪くないな」
ナビ『最近はパレ積みばっかやもんなー』
男「昔は手積み手降ろしが基本だったからな」
男「さて、港湾倉庫に着いたら休憩だ」
男「こっちは倉庫の人が降ろしてくれるから助かる」
ナビ『海沿いでご飯やー♪』
ナビ『せや!荷物降ろしてくれはるんやったらウチもご飯連れてってーな!』
男「いいけどお前食事しないじゃないか」
ナビ『分かってへんなぁー』チッチッチ
ナビ『海見ながら男ちゃんとのんびりしたいねん!』
男「そうか?それならカーゴ停めたら一緒に行くか」
ナビ『やったー!』ピョンッ
ナビ『あ!でもあんまり魔法石揺らさんとってな?』
ナビ『あれ結構酔うねんかぁ』
男「カーゴに搭載してないとジャイロ効かないからな、了解」
ナビ『男ちゃんとごっ飯♪ごっ飯♪♪』ウキウキ
男「ふふっ。可愛い奴だな」
ブロロロ…
ナビ『とうちゃーく!』
男「漁師さんの言う通り近かったな」
港湾職員「おはようございます」
港湾職員「港から海産物の搬入ですね?」
男「はい、これが積み込み票です」
港湾職員「それでは3番のヤードに接車して下さい」
港湾職員「降ろしはこちらでやりますので」
男「よろしくお願いします」
男「降ろしてもらってる間魔法石(キー)抜いちゃっても大丈夫ですか?」
港湾職員「構いませんよ」
港湾職員「敷地内にカフェテリアがありますのでお食事や休憩に使って下さい」
ナビ『なーなー職員さん?』ヒョコ
ナビ『そこって海見えるん??』
港湾職員「もちろん、海っぺりですからね」
港湾職員「まぁ港なので砂浜とかはありませんけど」
ナビ『っしゃぁー!!』グッ
港湾職員「ふふっ。可愛らしいナビさんですね」
男「変わった奴でして…」タハハ
男「それじゃカーゴ付けますね、よろしくお願いします」
港湾職員「了解です」無線ピピッ
(ザザッ…3番に4tカーゴ付けます…はい、港からの海産物です…)
男「それじゃ朝食にするか」
男「しかし朝定食でアクアパッツァが出てくるとは…」
魔法石(ナビ)『わぁー海キラッキラしとぉー!』パァ
魔法石(ナビ)『あっ見てみて!船がおるよ!』キャッキャ
男「楽しそうで何よりだ」モグモグ
魔法石(ナビ)『う◯ぃーはひろいぃーなおぉー◯ぃーなぁー♪』ユラユラ
男「自分で揺れる分には酔わないんだな」カチャカチャ
魔法石(ナビ)『なぁー男ちゃん?あの海の向こうには何があるん??』ユラユラ
男「隣国だな。絹織物が名産で、王国で流通している製品の殆どが隣国産なんだぞ」ズズッ
魔法石(ナビ)『そっかー!』ユラユラ
男「その通り、協会(うち)の仕事だ」フキフキ
男「今はカーゴがそのまま乗り込める大型のシップがあるからな、海を跨いでの運行もいずれ回ってくるかも知れない」
魔法石(ナビ)『ほんまに!?』ピョンッ
男「おい跳ねるな割れちゃうだろ」
魔法石(ナビ)『えぇなー船旅!はよ回ってきぃひんかなー♪』ピョンピョンッ
男「楽しみだな」
魔法石(ナビ)『楽しみ楽しみ♪』ユラユラ
男「お、事務所からだ」
男「お疲れ様です男です」
配車係「お疲れ様です。運行は問題ありませんか?」
男「はい。今港湾倉庫で荷降ろししてもらっているところです」
配車係「順調なようですね」
男「今日は帰り荷はないんですか?」
配車係「それなんですが…」
配車係「実は乗せてきてもらいたい人がいまして」
男「人?協会の職員か何かですか?」
配車係「そうです。こちらの事務局の人間なのですが」
配車係「ちょうど今港湾倉庫に出張っていまして」
男「ここに?それならちょうどいいですね」
配車係「こちらから男さんのカーゴで帰路につくよう連絡しておきますので」
男「了解です」
配車係「それではお気を付けて」
配車係「くれぐれも!安全運転で!お願いしますよ!?」
男「分かりました…」ゲンナリ
ナビ『同乗者やろ?おっけー♪』
ナビ『旅は道連れ世は情けや!』ニコニコ
男「これからその人を乗せて物流倉庫へ戻るぞ」
ナビ『らーじゃー♪』
ナビ『どんな人なんやろー?』ウキウキ
男「そういえば名前聞いてないな」
ナビ『おっちゃんみたいなおもろい人やったらえぇなー♪』ウキウキ
ゴゥンゴウン…
男「と、いうわけで同乗者だ」
ナビ『…。』
男「こちら女。協会の事務局に所属していて」
男「血は繋がってないが、俺の姉貴だ」
女「はじめましてナビちゃん」ニコッ
ナビ『車両状態よーし。魔法石充填問題なーし。おーるぐりーんやでー。』ムスッ
男「おいどうしたんだよ、さっきまであんなに元気だったじゃないか」
ナビ『べっつにー。帰り荷も積んだんやしちゃっちゃと帰ろーや。』ムスーッ
男「帰り荷って…女は荷物じゃないぞ」
女「いいのよ男くん、私の方は準備出来てるから」
女「いつでも出発してくれて構わないわ」
男「すまない、とりあえず出発しよう」
男「ナビ、帰りも頼むぞ」
ナビ『あいあいさー。ほないくでー。』ムッスー
ブロロロ…
ブロロロ…
男「…。」
女「…。」
ナビ『…。』
女「…静かね」
男「突然どうしたんだ」
男「いつもはうるさい位にマシンガントークなのに」
ナビ『聞こえてんでー!誰がうるさいねん!』イライラ
男「いやそういう意味じゃないぞ?」
ナビ『そんなにウチが邪魔なんやったらえーわ!』フンッ
ナビ『回線オフっといたるからお二人で仲よぉー過ごしたえぇやん!』
ナビ『ほなごゆっくりー!』プチッ
男「全く何なんだ…」フーッ
女「ふふっ。モテる男はツラいわね」
男「茶化すなよ…今日はこんなんだけど」
男「いつもはほんとにいい奴なんだぞ?」
女「そりゃそうでしょうね」
女「男くんの精霊ナビなんだから」
男「?そりゃどういう」
女「…それにしても本当に久しぶりね」
女「入社時の研修以来かしら」
男「そうなるともう3年も経つのか!」
男「あの時は大変だったなー」
女「そうね」クスッ
男「荷物を運ぶだけの気楽な商売かと思いきや」
男「まさか戦闘実習があるとは」
男「まさか剣を取る事になるとは」
女「ふふっ。事務局では魔法詠唱の実習もあるのよ?」
男「そうなのか?じゃあ女も魔法を?」
女「基礎的なものだけね。例えば」
[光よ 世界を照らす恵の粒よ]
ポワァ…
男「手の中に光が!凄いじゃないか!」
女「喜んでもらえて光栄だわ」ニコッ
男「なんだかこうして話してると小さい頃の事を思い出すなー」
男「毎日一緒だったもんな」
女「…そうね」
ブロロロ…
ブロロロ…キキッ
女「運転お疲れ様。私はここで降りるわね」
男「あぁ、久しぶりに話せて楽しかったよ」
女「私もよ。ナビちゃんもお疲れ様」
女「邪魔してしまって悪かったわね」
ナビ『』オフラインデス
男「気にしないでくれ、あとでフォローしとく」
女「…彼女のこと、くれぐれもよろしくね?」
男「?まぁ、分かった」
女「それじゃ」バタンッ
男「お疲れ様」フリフリ
ナビ『…ごめん…。』シュン
男「お帰り」ニコッ
男「珍しいじゃないか、お前があんなに感情むき出しにするなんて」
男「何があったか話してくれるか?」
ナビ『うぅ…自分でもよぉ分からへんねん…』イジイジ
ナビ『あんな?あんな??』グズグズ
ナビ『男ちゃんとあの女さんって人の間に流れとぉ空気って独特やんか?』
ナビ『でな?あーこれウチ入っていかれへん奴や、ウチお邪魔虫やって思ったら…』ウルウル
男「そんな風に思ってたのか…」
ナビ『なぁウチをひとりぼっちにせんといて!?ウチには男ちゃんしかおれへんねん!』ウルウル
ナビ『ウチは実体のない精霊やからぁ!』
ナビ『もし男ちゃんが望んでもエッチな事とかしてあげられへんけどぉ!』シクシク
男「急に何を言い出すんだよ…」
ナビ『でも男ちゃんと一緒にいたいねん!』
ナビ『お仕事も頑張るからぁ!!』ブワッ
ナビ『お願い…一人は嫌やぁぁ…!!』ビエーン
男「ナビ…」
男「いつも助けてくれて感謝してるし、これからも一緒にやっていきたいと思ってる」
ナビ『ぅん…ぅん』ヒックヒック
男「女とは血は繋がってないが家族だ」
男「それ以外何もないよ」
ナビ『ホンマに…?』ヒック
男「お前が心配するような事はないよ」
ナビ『ちゃうて…あったってえぇねん…』フルフル
ナビ『っていうかウチが口出しする事ちゃうって頭では分かってんねん…』
ナビ『けど…』ウルウル
男「とにかくお前を置いてどっかへ行っちまうなんて事はないよ」
男「そこは安心してくれ」
男「だからこれからもよろしく、な?」ポンポン
ナビ『えへ…触れられへんけど嬉しいなぁそれ』
ナビ『あったかいわぁ…』
男「ふふっ。落ち着いたか?」
ナビ『……うん、もう大丈夫やで♪』ニコッ
ナビ『困らせてごめんな?』ペコ
男「いいんだよ」ニコッ
男「よし!それじゃ仕事締めちまいますか」
ナビ『がってん承知!やで♪』ニカッ
ブロロロ…
カンカン!カンカン!
ゴォォォォ…!!
<火事や!誰か水ー!!
<くそっ!火の勢いが治まらへん!!
<おい消防団はまだなんか!?
<俺の…俺の家がぁー!!
幼児「おとん!おかん!なんでや…!」オロオロ
村人「おいチビ!こんなとこにおったら焼け死ぬで!!」ダキッ
幼児「みんなー!!」ジタバタ
村人「まさか…まだ家の中に…!!」
村人「とにかくお前は逃げろ!今安全な所へ連れてくでな!!」ダッ
幼児「いややー!おとん!おかん!!」ジタバタ
幼児「うわぁぁー!!!!」
ブワァァァァ…!!
…
幼児「…ぉ…」ポロポロ
-18:00-
ブロロロ…
男「という訳で早速現実になった」
ナビ『海やぁー!!お船に乗って隣国やぁー!!』ドンドンパフパフ
男「これからこの間の港湾倉庫で海産物を積んで、そのままシップに乗り込む」
ナビ『ほうほう』
男「隣国の倉庫で海産物を降ろしたら、名産品の絹織物を扱う別の倉庫へ向かう」
ナビ『ふむふむ』
男「そこで帰り荷を積んだら元来た道程を辿って王立倉庫へ戻ってくる、と」
ナビ『了解ちゃーん♪時間出そか?』
男「頼む」
ナビ『んーと?今18:00やんな?』ピコッ
ナビ『あーしてこーして…えっ物流倉庫(ここ)帰ってくんの明日の24:00!?』ガビーン
男「とは言え、シップに乗ってる間は俺もお前もやる事がないから」
ナビ『あ、そっか』
男「拘束時間の割には負担は少ないと思うぞ」
ナビ『まぁ一応魔法石の充填は見とくわー』
ナビ『あ!男ちゃん協会員証(パス)持った?』
男「あ、いけね」
ナビ『頼むわ!それがないと入国でけへんやろ!』プンスカ
男「なんてな。実はちゃんと持ってる」ピラッ
ナビ『』スッ
[魔法石過給装置作動シテイマス…]
男「わーやめろやめろ!からかって悪かったって!」アセ
ナビ『ほんまにこの人は…』ハァ
ナビ『まぁえぇわ!準備おっけーばっちぐーって事で!』
ナビ『ほな出発すんでぇ♪』
男「今日もよろしく頼むぞ」
ナビ『はいなぁ♪』
ブロロロ…
ゴゥンゴウン…
ナビ『魚がかっちかちや』
男「ここの冷凍庫で凍らせてから、俺達の保冷カーゴに乗せて運ぶってわけだ」
ナビ『ぞっくぞk男「それ以上はいけない」
港湾職員「こんばんは」
男「あ、お疲れ様です」
男「隣国行きの海産物を積みに来ました」
港湾職員「準備出来てますよ」
港湾職員「それでは早速積み込みしましょうか」
男「よろしくお願いします」
ナビ『ウイングおーぷん♪』ピッ!シュイィィン…
ナビ『保冷装置作動よーし!』
男「おーさぶ。長旅だからな、大丈夫だとは思うが一応荷締めを確認しとくか」ガチャガチャ
男「シップは0:00に出航するから、このまま乗り込んじゃおうか」
ナビ『おっけー!お船っお船っ♪』ルンルンッ
港湾職員「それではこちらが伝票です。シップの乗り込み口で見せて下さい」ピラッ
港湾職員「道中お気をつけて」
男「ありがとうございます」ペコッ
ナビ『ほな行くでー!』
ブォン!ブロロロ…
ザァァァン…ァァァン…
魔法石(ナビ)『…ほぇー…。』ウットリ
男「海上は遮るものがないからな」シュポッ
魔法石(ナビ)『星がこんなに沢山見えるなんて…』
魔法石(ナビ)『ダイヤモンドぶちまけたみたいや』
魔法石(ナビ)『…。』
男「…。」
ザザァァァン…ァァァン…
魔法石(ナビ)『昼間の海はテンションめっちゃ上がるけど』
魔法石(ナビ)『夜はなんやこう…黙ってまうな』シミジミ
男「これはこれでいいよな」グビ
ナビ(魔法石)『あれ、男ちゃん何飲んでるん?』
男「修道院特製エールだよ」
魔法石(ナビ)『あー!仕事中にー!』
男「固い事言うなよ、運転してるわけじゃなし」フフッ
魔法石(ナビ)『…配車係さんには黙っといたるわ』フフッ
男「しかしいい眺めだ」
男「まさに天の光は全て星といったところか」グビ
魔法石(ナビ)『お酒飲みながらそれはアカンやつやて…』
ナビ(魔法石)『でもこの星空の下でってのが堪らんねやろなぁ♪』
魔法石(ナビ)『えぇなーウチも飲んでみたいなぁ』ユラユラ
男「酔ってみたいなら、ほれ」コロコロ
ナビ(魔法石)『いやぁぁ魔法石コロコロせんといて!酔う!酔うの意味が違う!!』コロコロ
ワイワイ…
ゴゥンゴゥン…
男「zzz」
ナビ『男ちゃん寝よったか』
ナビ『ぷっ寝顔ぶっさいくやなー』ケラケラ
ナビ『…でもその顔安心するわぁ』ニコニコ
ナビ『いつも頑張ってるんやから、のんびり休んでな?』
ナビ『今日もおつかれさま。明日もよろしゅう♪』
チュッ…
ナビ『触られへんけど、気分だけ。な』
ナビ『おやすみっ♪』
ナビ『着いたー!!』
男「んー良く寝た…」ノビーッ
男「さて、降ろし場は港のすぐ隣の倉庫みたいだから」
男「さっそく降ろしますか」
ナビ『あいあぃさー♪』
ブォン!ブロロロ…
男「おはようございまーす!」
ナビ『かっちかちのお魚やでー!』
隣国港湾職員「あいおはようさん。王国からだね?」
男「はい、港湾倉庫から海産物を積んで来ました」
隣国港湾職員「そりゃご苦労さん。船旅はどうだったね?」
ナビ『夜空がめっっちゃ綺麗やったでぇー♪』ウットリ
隣国港湾職員「そいつは良かったねぇ」
隣国港湾職員「ここらの海は比較的に穏やかだからね」
隣国港湾職員「さっそく荷降ろししちまうかい?」
男「そうですね、お願いします」
隣国港湾職員「あーすまないんだけど、うちは王国ほど人手がないもんでね」
隣国港湾職員「ドライバーさんも一緒に降ろしてくれるかい?」
男「もちろんいいですよ。それでは降ろしましょうか!」
ナビ『男ちゃんふぁいと♪』グッ
カツカツカツ…
女「…。」
先輩「お、女ちゃんじゃないか」
女「あら先輩さん、おはようございます」ペコッ
先輩「おはよう、相変わらず美人さんだな」
女「ふふっ、先輩さんも相変わらずお上手ですね」
先輩「いやいやマジだって!」
先輩「ところでさ、最近男に会ったか?」
女「えぇ、港湾倉庫からこっちまでカーゴに乗せてきてもらいましたけど」
先輩「そうか」
女「今日は男くんは?」
先輩「隣国へのシップ便で運行中。そろそろ向こうの港に着く頃だろう」
先輩「しかしカーゴに同乗か、羨ましいなー男の奴」
女「私と男くんはそういう関係ではありませんわ」クス
先輩「そうかい?そこは別に心配してねぇんだが…」
先輩「あぁ。この前ナビちゃんを泣かしちまったーって男が言ってたんだが」
先輩「女ちゃんの話を聞いたら何となく分かったよ」
女「…先輩さん、あなたはナビシステムについてどこまでご存知なんですか?」
先輩「俺か?まぁそもそも俺自身がナビ使ってないからなー」ポリポリ
先輩「一般的な知識以外大した事は知らないが」
先輩「それがどうした?」
女「そうですか…」
女「…。」
女「先輩さんに折り入ってお願いしたい事があるのですが」
先輩「何だ?金なら貸さねぇぞ」ケラケラ
女「違います!」
女「…男くんとナビの間で何か変わった事がありましたら、教えて頂けきたいのです」
女「お願い出来ますか?」
先輩「あぁ、構わねぇよ」
先輩「しかし本当に相変わらずだな女ちゃんは」
女「?それはどういう」
先輩「何でもねぇよ。全く男の奴が羨ましいなって話さ」
先輩「今度メシでもどうだい?」
先輩「近くにいい店があるんだ」
女「先輩も本当に相変わらずですね…えぇ、いいですよ」ニコッ
先輩「よっしゃ!じゃあ楽しみにしてるからな」
女「私もです。それでは何かありましたら、お願いします」ペコッ
先輩「あぁ、任せとけ」
先輩「じゃあ俺これから運行だから。おつかれさん」フリフリ
女「お気をつけていってらっしゃい」フリフリ
女「…。」
男「これでっ!最後っと!」ガスッ
男「ふぅ、終わった」
隣国港湾職員「いやぁ助かったよ。それじゃこれ伝票ね」
隣国港湾職員「それとこれは手伝ってくれたお礼に」スッ
男「いいんですか?ありがとうございます!」
隣国港湾職員「いいっていいって!」
隣国港湾職員「それでこれからどこまで?」
男「はい、このあと内陸の工場で絹織物を積んで帰る予定でして」
隣国港湾職員「それならここから街道をひたすら真っ直ぐだ」
隣国港湾職員「ただ、ここらは王国の街道と違って道路整備が行き届いているとは言えないから」
隣国港湾職員「道中気をつけるんだな」
男「分かりました、色々ありがとうございました」ペコッ
…
男「終わったぞー」フゥ
ナビ『男ちゃんおつかれさま♪』
ナビ『ん?それ何?』
男「あぁこれな、荷降ろし手伝ったお礼にって職員さんが」フワッ
男「隣国名産の絹で織ったストールだそうだ」
ナビ『へぇー!めっちゃ可愛いやん!』キャッキャ
男「俺が着けるのもアレだから、運転席にでも飾ろうかなと思って」
ナビ『あ!それやったらココなんかえぇんちゃう?』
男「助手席のヘッドレストか、悪くないな」マキマキ
ナビ『おぉー!いこくじょうちょやな?』ニコニコ
男「意味分かってんのか…?まぁいい、そろそろ出発するか」
男「所要時間出るか?」
ナビ『はぃな♪…んーざっと2時間半位かいな?』
男「了解。それじゃ出発だ」
男「頼むぞ」
ナビ『あいあぃさー♪』
ブォン!ブロロロ…
ブロロロ…ガタゴト
男「見渡す限りの田園風景だな」
ナビ『一面緑色やね!あれはなに育ててんねやろー?』
男「恐らく桑畑だろう、蚕の餌になるのさ」
ナビ『かいこ?』
男「蚕は蛾の一種で、そいつらが繭を作るのに吐き出す糸が絹織物の原料なんだよ」
ナビ『げー!かいこって蛾なん?』ブルッ
男「意外と可愛いんだぞ?」
男「翼を取るために養殖しているキメラなんかの方がよっぽどファンキーなビジュアルをしてるよ」ハハハ
ナビ『ってかキメラって養殖なんや…』
ブロロロ…ガタゴト
…
ガタンッガタンッ…
男「こんにちはー!物流協会から織物を積みに来ましたー!」
工場職員「王国からですね?はるばるご苦労様です」
工場職員「製品がまだ全部揃っていないので少しお待ち頂けますか?」
男「そうですか、構わないですよ」
工場職員「午後一番には用意できますので、良かったら近くの町でゆっくりしてて下さい」
工場職員「カーゴは積み込みヤードに停めておいてもらって構いませんので」
男「ありがとうございます、じゃあそうさせて頂きますね」
ナビ『ご飯やご飯ー!』
男「一緒に来るか?」
ナビ『もちのろんやで♪』
男「了解」
ピピッ…ポンッ!
…
テクテク…
魔法石(ナビ)『変わった街並みやなー』
男「真っ白な石造りの壁にとんがり屋根…この辺の伝統なんだろうな」
魔法石(ナビ)『可愛えぇなー?』キョロキョロ
男「さて、せっかくだからここらの名物を食べたいな」
魔法石(ナビ)『あ!なんか旗立っとぉで』
<ご当地名物!キメラ鍋! ヒラヒラ
男「…。」
魔法石(ナビ)『…。』
男「…ま、まぁせっかく来たんだ、ものは試し!」ガラッ
魔法石(ナビ)『せ、せやな!たのもー!!』
<イラッシャーイ
…
グツグツ…
魔法石(ナビ)『なんやめっちゃぐつぐつしとぉな、案外美味しそぉやん♪』ウキウキ
男「あぁ。あのままのビジュアルで煮込まれていたらと心配したけど杞憂だったみたいだ」
男「それじゃ早速…いただきます」ハフッ
もぐもぐ
魔法石(ナビ)『どう?』
男「…美味い!!」ババーン
男「鍋というより煮込み料理だな、トマトがよく合う!」パクパク
男「そして肉は若干固めだが、噛めば噛むほど味が染み出てくる!」モグモグ
魔法石(ナビ)『良かったぁー!やっぱご当地名物やんなぁ♪』
ガラッ!
<ラッシャーイ
客「お!美味そうな匂いだな、おーいこっちもキメラ鍋ー!」アイヨー
男「人気の店みたいだな」モグモグ
魔法石(ナビ)『なー♪』
<オーイキメラシメトイテー
<アイヨー!
ダンッ!
<ギャーーーースッ!!
男「!」ビクッ
魔法石(ナビ)『!!!』ビクビクッ
男「…。」ゴクンッ
魔法石(ナビ)『なぁ、今のって』ビクビク
男「…我々は命を頂いて生きているという事だな」
男「感謝して食べねば!」ガツガツ
魔法石(ナビ)『さ、さすが男ちゃん』
…
ガタンッガタンッ…
工場職員「お待たせしました、積荷の用意出来てますよ」
男「ありがとうございます、では早速積んでしまいましょう」
工場職員「ロールになってますので重機で積み込みます、ウイング開けてもらえばこっちでやりますんで」
男「了解です。ナビ、頼むよ」
ナビ『あいあぃさー!ウイングおーぷん!』ポチッウィーン
…
男「ありがとうございます、それでは出発しますね」
工場職員「よろしくお願いします」ペコッ
ナビ『ほないくでー!』
ブォン!ブロロロ…
…
ブロロロ…ガタゴト…
ナビ『…けほっ』
男「どうかしたか?」
ナビ『ん…。ここらってあんま舗装良くないやんか?ちょっと酔ぉたかも…』クラッ
男「マジか、ジャイロ効いてないのか?」
ナビ『んーなんかな?カーゴ自体もちょっと調子良くない?んかなぁ』クラクラ
男「少し休憩するか?」
ナビ『んーん!大丈夫!』フリフリ
ナビ『シップの出航時間もあるし、乗ってもうたら休憩出来るんやし』
ナビ『このまま行けるで♪』ビシッ
男「そうか、どうしても辛くなったらすぐに言うんだぞ?止まるから」
ナビ『ありがとぉな♪』ニコッ
ナビ『…。』フラッ
ブロロロ…
…
ピピッピピッ
配車係「ん?アラート?」チラッ
配車係「この車番は男さんか」
[精霊ナビシステムニ問題発生]
[魔法石カラノ魔力供給が低下シテイマス]
配車係「魔力供給が低下?充填が不足しているのか?」
プルルッ…プルルッ…カチャ
男「お疲れ様です男です」
配車係「お疲れ様です。今こちらの管理システムで男さんのナビに異常ありと出ているんですが」
配車係「出発前に魔法石の充填は確認しましたか?」
男「えぇ、出発前に満タンにしました」
配車係「おかしいなぁ…どうやら魔法石からナビシステムの方に充分な魔力が供給されていないみたいなんです」
男「何ですって?」
男「おいナビ、何か分かるか?」
ナビ『!』ギクッ
ナビ『し、知らんし』アセッ
男「…お前、嘘つくとすぐ分かるな」ハァ
…
男「どういう事なんだ?」
ナビ『え、えーっと』タラッ
男「ちゃんと答えろ!」ダンッ!
ナビ『!』ビクビクッ
キィィィィン…!
配車係「…っ!あの男さん、無線繋がってる時にあんまり大きい声は」イテテ
男「あ!すみません」
男「ちょっと状況確認して折り返します」プツッ
配車係「あっ!ちょ…!」プーップーッ
配車係「なんなんだよもう…」
…
シーン…
男「…つまり俺が寝ている間ずっとエンジンかけたままにしておいたと」
男「んで、帰りの充填が怪しくなってきたから自分への魔力供給を一時的にカットした…と」
ナビ『…ごめんなさい。』シュン
男「あのなぁ、カーゴの寝台にはちゃんと寝袋と毛布が積んであるんだから心配する事ないんだぞ?」
ナビ『だ、だって!海の上って綺麗やけどやっぱ冷えるし』アセアセ
ナビ『(それに、供給止めてでも男ちゃんと一緒におりたかったし…)』
ナビ『(なんて言われへんけど)』
…
男「気が付かなかった俺にも責任がある。ここから先はマニュアルで行くからお前は休んでろ」
ナビ『えっ!でも!!』
男「大丈夫だよ、積み込みは終わってるし来た道を戻るだけだから」
ナビ『(ちゃうねん…シャットダウンしたらお話でけへんやん…)』
男「魔力供給が低下した状態が続くと、お前の調子にも影響が出るかも知れないからな」
男「だから、な?」ポンポン
ナビ『うぅ…それズルいわぁ』ショボン
ナビ『了解やで。ほんなら男ちゃん気をつけてな』フリフリ
男「ははっ別に今生の別れでもあるまいし」
男「それじゃおやすみ」ポチッ
ナビ『あぃ、おやすみなさい…』フッ
[精霊ナビシステムヲ終了シテイマス…]
男「よし、行くか」
ブォン!ブロロロ…
…
女「そうですか、そんな事が…」
先輩「まぁ帰って来るだけなら男一人で何の問題もないけど」
先輩「一応大事を取ってナビちゃんは今日一日メンテナンスに出してるみたいだ」
先輩「しかし、愛だな」シミジミ
女「…。」
女「それでは、ナビが使えないなら男くんは今日はお休みですか?」
先輩「あぁ、あいつかー?」ニヤ
男「はぁ…はぁ…」タッタッタッ…
先輩「まぁペナルティって訳じゃねーんだが」スッ
男「ふぅ…ふぅ…」ガシッ
先輩「男は今日一日、同僚とコンビ組んで」シュボッ
男「ちわー!お届けものでーす!」ピンポーン
先輩「宅配だ」フゥーッ
…
ゴゥンゴゥン…
男「ミルクだの薪だの重量物を持っての階段の登り降り…」ハァハァ
男「宅配がこんなにキツいものだとは」フゥ
同僚「かーっwwなっさけねーなwww」ケラケラ
男「しかし…みんなして重たいモンばっか頼みやがって…」グッタリ
同僚「バーカwww重たいモンだから頼むんだろがwww」
同僚「この辺じーさんばーさん多いからなwwwしゃーないwww」
男「言われてみればそうだな…」
同僚「ほれ水分補給!気合い入れ直してもう一踏ん張りだwww」ポイッ
男「ありがとう…助かるよ」ゴキュ
…
同僚「どうせナビちゃんに頼りっきりなんだろーwww」ケラケラ
男「否定はできんな…この前も手積みの仕事だったんだが昔よりキツく感じたし」プハ
同僚「戦闘だけはアホみてぇに強かったのになwww」
同僚「最初の戦闘研修の時どこの剣士が迷い込んだのかと思ったぞwwww」
男「みんなに言われるがそんなに大したもんじゃないぞ?所詮素人に毛が生えた程度のもんだ」
同僚「いーやwあの動きはとても素人じゃねぇよwww」
同僚「故郷の親父さん仕込みだったかw?ホントにただの武器職人なのかねwww」
男「そういや若い頃の話は聞いた事がないな」
…
同僚ナビ『配達まだ20件以上残ってますのよ?』
男「いぃっ!?そんなに??」ゲゲッ
同僚「よゆーよゆーwww二人でやりゃあっちゅーまよwww」
男「お前ほぼ運転だけじゃんか!」
同僚「この王都中の街道から細かな路地に至るまでの道路網、番地、駐車禁止なんかの交通規制などなど…」
同僚「パーペキに把握している俺からハンドルを奪おうなど100万光年早いわwww」
男「光年は距離の単位だ…まぁいい、確かに細かな道まで知り尽くしているお前が運転する方が効率がいいな」
同僚「伊達に地元っ子じゃねぇっすよwww分かったら汗水たらしておきばりやすwwww」ケラケラ
男「あぁ、それじゃ行くか!」
同僚「れっつ脂肪燃焼www」
同僚ナビ『はーい出発致しますわ』
ブォン!ブロロロ…
…
ブゥゥン…ブゥゥン…
魔法石(ナビ)『…。』コポコポ
女「…。」ジーッ
女「それで、ナビの状態は?」クルッ
研究室職員「幸い、魔力供給の低下が一時的なものだったのでダメージは軽微です」
研究室職員「記憶や人格などの各種データの損傷もありません」
女「そうですか…」ホッ
研究室職員「ただ、ついでにここ最近の蓄積情報を確認したんですが」
研究室職員「ナビシステムの人格情報に変化が見られますね」資料ペラッ
研究室職員「ここです」トントン
女「外的要因による強い不安状態…」
研究室職員「ナビシステムの心理グラフと男さんの運行データを照らし合わせると」
研究室職員「数日前、港湾倉庫から物流倉庫へ帰ってくる辺りで心理状態に激しい動きが見られます」
女(私が同乗した時ね…)
研究室職員「具体的に言うと、対外的な自己価値の喪失に対する不安…」
研究室職員「見捨てられ不安、といったところでしょうか」
女「見捨てられ不安…」
…
研究室職員「自分の周りにいるべき庇護者を何らかの形で失うといった体験が原因となる場合があります」
女「…っ。」
研究室職員「現時点ではナビシステムの運用上大きな問題とは言いにくいですが」
研究室職員「今後、人格構造に著しい変化が見られるようになった場合…」
女「何らかの対応が必要になる、という事ですね?」
研究室職員「仰る通りです」
女「分かりました」
研究室職員「ナビシステムの性質上、ベースとなる人格情報を書き換える事は難しいですが」
研究室職員「月日と共に蓄積されていく情報についてはその限りではありません」
女「情報の蓄積…」
研究室職員「はい。蓄積された情報によって思考パターンや心理構造が変化…成長していく」
研究室職員「それこそがナビシステムの大きな特徴ですから」
女「大変参考になりました」ペコッ
ガチャ バタンッ
カツカツカツ…
魔法石(ナビ)『…。』コポコポ
…
ゴゥンゴゥン…
ナビ『たっだいまぁー!!』バーン
男「おかえり、調子はどうだ?」
ナビ『もうすっかりばっちりおーるおっけーやで♪』ピース
男「心配させやがって」
ナビ『ごめんなさいです…』フカブカー
男「まぁ、無事に戻ってきたなら何よりだ」ニコッ
ナビ『それよか男ちゃんは?昨日一日大丈夫やったん?』
男「助手として同僚の奴に散々こき使われたよ」
男「大変いい運動になった」ハハハ
ナビ『同僚ちゃんはどーちゃん共々加減知らんからなぁ』ケラケラ
男「どーちゃん?」
ナビ『同僚ちゃんのナビやからどーちゃんやで!』ビシッ
男「あぁそう…」
…
男「今日は今から物流倉庫(ここ)でB級品の武器防具を積んで、鍛治職人の里へ搬入だ」
ナビ『男ちゃんの故郷キター!!』ドンドンパフパフ
男「期待してるとガッカリするぞ?何にもない田舎の里だから」
ナビ『そんなんえぇねん!男ちゃんの故郷って所が重要やねん!!』クワッ
男「わかったわかった、顔が近い」
男「そしたらパパッと積み込みして出発しようか」
男「今日からまた、よろしく頼むぞ」
ナビ『うん!よろしくな』ニパッ
ナビ『ほな始めますかぁ?』
ゴゥンゴゥン…
…
カンッカンッカンッ…
男「着いたな」
ナビ『おぉーここが男ちゃんの故郷!』
男「鉄鉱石の採れる鉱山の麓には、ちょうど良く河も流れていて」
男「鍛治職人達にとってはうってつけの立地だったんだろうな」
守衛「男!?男じゃねーか!」
守衛「見ない間にずいぶん立派になりやがって!」バシバシ
男「いてて、お久しぶりです」
守衛「今日は仕立て直し用の武器防具だったな?男が運んできたとなりゃ親父さんも腕が鳴るってもんよ!」
守衛「お?今日は可愛い連れがいるのかい?」
ナビ『おっちゃんはじめまして!ナビちゃんやでー?』ピョンッ
守衛「おー元気いいな!」
ナビ『あったりまえやん!いつでも元気なナビちゃんやで?』ニコニコ
男「心配させといてよく言うよ」ハハハ
守衛「そしたら早速倉庫の方へ回ってくれるか?荷下ろし要員で若い衆集めといたからよ!」
男「ありがとうございます、それじゃ向かいますね」
ナビ『おっちゃんまたなー』フリフリ
守衛「はいよ!」
ブォン!ブロロロ…
守衛「あの訛り…北西の…」
…
男「大勢で下ろしたらあっという間に終わった」
男「皆さんありがとうございました」ペコッ
若者「いやだなー礼なんていいっすよ!」
若者「男さん、里の出身ですってね?同郷の仲間なんだからこの位なんて事ないっす!」ワハハ
男「…正直少し不安だったんです」
男「親父の跡を継がなかった俺の事、里の人はどう思っているのかと」
若者「…生き方は人それぞれです」
若者「俺は里出身ですけど、仲間内には他の町や村から移住してきた奴もいるんですよ?」
男「それは、鍛治職人に憧れて?」
若者「そうです!というか、大部分の奴は親父さんに憧れてってところですけど」ハハハ
若者「ちょうど休憩入ったとこだと思うんで、顔出してあげてって下さいよ!」
男「親父か…」
ナビ『…。』
男「そうですね、せっかく来たので親父とも少し話して行きます」
男「ありがとうございました」
若者「いえいえ!ではお気をつけて!」
ナビ『みんなばいばーい?』フリフリ
ブロロロ…
…
シュボッ!スゥゥ…
親父「…久しぶりだな」プハァー
男「あぁ、元気そうで何よりだ」
親父「お前に心配される程まだ耄碌してねぇよ」ハハ
男「そういう意味じゃ…」
親父「冗談だ。仕事は上手くいってるのか?」
男「何とかね、色んな場所に行けるってのは俺の性に合ってるのかも知れない」
親父「…お前が鍛治職人に向いてねぇってのは初めから分かってた事だ」
親父「だからうちを継がなかった事なんざ気にしちゃいねぇからな?」グシグシ
男「…!」
男「親父には勝てないな」ハハ
親父「当たり前だ、それに最近じゃ鍛治職人になりたいなんて殊勝な奴がいるんだぜ?」
親父「そういうわけで跡取りには困ってねぇよ」ハハ
親父「….吸うか?」スッ
男「付き合うよ」シュボッ!スゥゥ
スパァァ…モクモク
…
親父「背負って生まれちまったもんは仕方ない、だが」
親父「そんなもんに縛られる必要はない、お前の道を決めるのはお前自身だ」
親父「お前自身が決断して、責任はお前が取るんだ」
親父「いいな?」
男「?あ、あぁ何となく」
親父「苦しくなったらいつでも戻って来い」
親父「お前の居場所はここにある」
男「…ありがと」
親父「あの子にもそう言ってやれ」
男「(女の事かな?)あぁ、分かったよ」
親父「全く、たまには剣術の稽古でもつけてやろうと思ってたが」
親父「誰かさんが仕事をどっさり持って来てくれちまったからな」ハハハ
男「ふふ。みんな親父の事を尊敬してるみたいだな」
親父「まぁな、まだまだ落ちぶれるわけにはいかねぇって事よ!」フン
親父「そろそろ行くのか?」
男「あぁ、また来るよ」グシグシ
親父「帰り、気ぃ付けろよ」
男「うん」
テクテクテク…
親父「…。」グシグシ
…
ゴゥンゴゥン…
ナビ『おかえりー』フリフリ
男「ただいま」バタン
ナビ『おとさん元気そうやったー?』
男「相変わらずな、俺の心配事なんてお見通しだったよ」ハハ
男「まだまだ親父には勝てないな」
ナビ『…そっか』
男「てっきりお前も付いてくるのかと思ってたんだけど」
ナビ『久しぶりの親子水入らずやん!やっぱ邪魔したアカンなーって』
ナビ『でも、男ちゃんの顔見てたら行かんで正解やったわぁ』
男「ん?俺どんな顔してる?」
ナビ『んとね、いつもより優しい顔しとぉよ♪』ニコ
男「…なんか恥ずかしいな」テレ
男「さて、そろそろ出発するか」
…
ナビ『ん?なんか揺れとぉな?』
男「地震かな?」
グラッ…グラグラッ!…ガガァン!!
男「!!!!」ガシッ
ナビ『何なんこれ!?カーゴが下から突き上げられとぉみたいな揺れや!!』グワングワン
ピピッピピッ
男「こんな時に何だ!?」カチャ
男「はい!」
配車係「男さん無事ですか!?」
男「今鍛治職人の里なんですけど!突然めちゃくちゃ地面がゆれd」配車係「大変なんですよ!!!!!!」キィィィン…
男「…っく!何が起こってるんですか?」イテテ
配車係「今、鉱山の上空で大規模な戦闘が行われています!」
ナビ『上空?飛行タイプの魔族でも出たんか!?』
配車係「詳細は分かりません!ただ、こちらからも感知できる程の強力な広域魔法が使われているようで」
男「空中…強力な広域魔法…」
男「…まさか!」ハッ
…
配車係「とにかく里の周辺は危険です!過給装置全開で出来る限り遠くへ避難して下さい!!」
男「了解!」カチャ
ゴゴゴゴゴゴ…
ナビ『なになに?何が起こってるん??』アワアワ
男「…魔族の中でも空を飛べる奴は多くない」
男「その上、遠く離れた物流協会から感知できるほど強力な広域魔法が使えるものと言えば…」
男「…魔王しかいない」
ナビ『ま、魔王…!』サァッ
男「そして、魔王と互角に戦える存在はたった一人…」
ナビ『じ、じゃあ今ウチらの頭の上で魔王と勇者が戦っとぉって事なん!?』
ナビ『ヤバいでヤバいでヤバいで!!すぐにこっから離れな!!』ピッ
[魔法石過給装置ヲ作動シテイマス…]ブォォォォ
男「待て!里の人達はどうする!?」
ナビ『分かっとぉけど!でもこのままじゃウチらも道連れや!!』
男「そりゃそうだけど…放ってはおけないだろ!!」ガンッ!
カッ………
…ッドカァァァァァン
…
ナビ『ぐっ!…今は言い争いしとぉ場合やないやろ!!』キッ
ナビ『とにかく避難や!落ち着いたらまた助けに来よ!?な!??』
男「…そうするしかないか」ギリッ
ナビ『ほんなら行くで!しっかり掴まっとき!!』ブォン!
男「親父…みんな…無事でいてくれ」
バヒューーーーーン…!!!
…
ブロロロ…
ナビ『この辺まで来れば大丈夫かぃな』
ブロロロ…キキッ
シィィィン…
男「…。」
ナビ『…謝らへんで』キッ
ナビ『男ちゃんの仕事をサポートすんのがウチの役目やもん。みすみす危ない橋渡らせるなんてでけへんよ』
男「…分かってるよ」フゥ
男「冷静さを欠いていたのは俺の方だ、お前がいなかったらあのまま死んでたかも知れない」
男「すまなかった」ペコッ
ナビ『…顔上げてーな』フルフル
ナビ『いきなりあんなんなったら誰でもテンパるよ』
男「…。」
シィィィン…
…
ナビ『…ね。』
男「今まではただ目の前の仕事をこなして、例えば積荷が武器防具であろうが魔法石であろうが」
男「それが何の為のものか、何に使われてるかなんて考えもしなかった」
男「”それが仕事だから”」
男「そこで考える事をやめてしまっていた」
ナビ『男ちゃん…』
男「荷物を積んで、運んで、下ろして」
男「その先にあるものを想像する事すらしなかった」
ナビ『男ちゃん』
男「俺はこのままでいいのか…?」
ナビ『男ちゃんてば!』バンバン
男「!…悪い、どうした?」
ナビ『こーれ!』ツンツン
ピピッピピッ
[前方カラ移動体ガ高速デ接近中…距離1000]
男「っ!まさか別の魔族か!?」チャキッ
ナビ『…あ、待って?これは』
ナビ『…協会(うち)のカーゴやん!』パァァ
男「何だって!?」
ピピッピピッカチャ
男「はい!」
先輩「おー男!無事かー?」
…
ゴゥンゴゥン…
男「来てくれたんですね!」
先輩「ちょうど運行終わって帰ってきたとこだったからな」
先輩「倉庫にあるモンで取り急ぎ役に立ちそうなのを片っ端から積んできた」
先輩「応急手当の出来る医療品、食べ物、燃料、あと毛布やなんかも」
ナビ『先輩はん…』ウルウル
男「ありがとうございます!!」ペコッ
先輩「倉庫の物品は一応客からの預かり物だが、なぁに」
先輩「金で解決できるモンはそれでいい。人命には代えられん」
…
先輩「里の人の手も借りてみんなで運び込むぞ」
先輩「手、貸してくれるな?」
男「もちろんです!」ナビ『やったんで!』
先輩「ははっ、ホントにお前ら息ピッタリだなー」
先輩「あ、そうそう」
先輩「女ちゃんから伝言頼まれたんだった」
男「女から?」
先輩「”必ず無事でいて下さい”」
先輩「”決して無鉄砲に助けに行こうなどしないように”」
先輩「だってよ」
ナビ『…っぷぷ』
男「見透かされてるなぁ…」ハァ
先輩「火災が発生してるかも知れないから、軍の消防隊も要請してある」
先輩「そいつらとも協力出来る事があればやろう」
先輩「そんなとこかなー、んじゃあ行くか!」
先輩「道案内よろしくー」バタンッ
男「了解です!よしナビ、行こう!」
ナビ『はいなぁ!ほな出発?』
ブォン!ブロロロ…
ゴォォ…モクモク…
ブロロロ…キキッ
ナビ『着いたー!』
男「…煙が上がってるな」チラッ
男「中がどうなってるか、入ってみなきゃ分からないか」ガチャ
男「ここからは手作業で運び込むから、カーゴは頼むぞ」
ナビ『了解!男ちゃん、気をつけてな』
男「あぁ、じゃあまた後で!」バタンッ
<ウイング開けるぞー
<台車持ってこーい
<いくぞ、せーのっ
ナビ『始まったわ』
ナビ『…おとさん、他のみんなも』
ナビ『無事でいてな…』
パチ…パチパチ…ボワッ!!
ナビ『!』ビクッ
<ダメだ、炉に燃え拡がる!
<おい毛布あったろ!
<水で濡らして持ってこい!
ナビ『あかん!火、が…!』
ナビ『男ちゃんに知らせなきゃ…う』
ズキン
…
ズキン…ズキン…
ナビ『この光景…見たことある…?』ブルブルッ
ボワッ!ブワァァァァ…!
<消防隊来たぞー!
<こっちだ!おーい!
ズキン…ズキン…
ナビ『うち…これ知っとぉ…火が』
ズキンズキンズキンズキンズキン
ナビ『いやゃ…こわい…なんnあぐgg??!あついあついあttttttたすけtttt』
ッパァァァァァ…
ナビ『!!!』
ナビ『いやあああああああああああ』
…
ピーーーーーーーーーーーーー
…
カリカリ…
[報告書(特)ナビシステムの不正シャットダウンと動作不良について]
女「現時点で判明しているのは、人格情報の基幹部(ベーシック)に一部損傷が見られる事、と」カリカリ
女「記憶情報の一部が内側からロックされている事…」カリカリ
女「ふぅ」カタンッ
…
女「どうぞ」
先輩「おつかれさん」ガチャ
女「先輩さん!先日はありがとうございました」ペコッ
先輩「里での一件か?なんて事ないさ」
先輩「救援物資の運搬なんて運送屋がやらずに誰がやるんだ、ほい差し入れ」コーヒーコトッ
女「ありがとうございます」
先輩「ちゃんと休んでるか?少し痩せたんじゃないか?」ジーッ
女「ホントに相変わらずですね」クス
先輩「…ナビちゃん、どうだ?」
女「…。」フルフル
女「人格情報の基幹部(ベーシック)を外部から修復するのは難しいです」
女「というか、ほぼ不可能です」
先輩「そうなのか?」
女「…いただきます」ズズッ
女「…。」フゥ
…
女「元となるデータは、被験者の人格情報…心を魔法石に写し取ったものなんです」
先輩「男自身の心ってことだな」
女「正確にはその一部ですが」
先輩「話には聞いていたが、実際そんな事が出来るのか?」
女「魔法石と、高度な能力を持った詠唱士の力があれば」
先輩「なるほどねー、人の心ん中なんて複雑過ぎて他人には計り知れんからなぁ」スッ…シュボッ
女「あ、この部屋禁煙です」
先輩「う、すまん」シマイ
女「修復する方法があるとすれば、元となった被験者の心と魔法石をもう一度リンクさせて」
女「損傷する前の人格情報をサルベージするしかありません」
先輩「…今のあいつに出来るかな」
女「やってもらうしかありません」
先輩「そうか…」
先輩「俺からも少し話してみるよ」
女「お願いします」
先輩「女ちゃん、一人で気負い過ぎるなよ?」
先輩「そんな顔してちゃ美人が台無しだ」ニコ
女「ありがとうございます」クス
…
…
議員「…報告は以上です」
側近「ご苦労。さて、先日の鍛治職人の里での事故だが」
側近「救援に当たった軍の方から被害状況の報告を聞かせてもらおう」
側近「騎士長」
騎士長「はっ」ガタッ
騎士長「里の人的被害は死者はゼロ、軽傷者が数名出ている程度です」
側近「不幸中の幸いか」
騎士長「はい。しかし火災により炉の建屋が焼失、再建には時間が掛かるでしょう」
騎士長「それから、共同で救援に当たった物流協会からなんですが」チラッ
側近「申してみたまえ」
事務局長「では私から…」ガタッ
事務局長「えー里の人命保護を最優先と考え、物流倉庫での預かり品を持ち出しております」
事務局長「こちらが明細なんですが…」ペラッ
側近「どれどれ…むぅ」チラッ
国王「うむ」
側近「構わん。人命には代えられん」
側近「協会から王国宛に請求を上げたまえ」
事務局長「承知しました」
側近「しかし民間人に被害が出るなど本末転倒だ」
側近「勇者の力…早急に策を練らねばなるまいな」
…
国王「諸君」
国王「人は愚かな生き物だ」
国王「それは如何に強大な力を得ようと決して変わらぬ」
国王「いや、強大な力を持つに至ったが故に道を誤る事もままあるのだ」
国王「勇者による魔王の討伐は、民にとって希望の光」
国王「光は決して曲がらぬ」
国王「否、曲がってはならぬのだ」
国王「その事を肝に銘じてくれたまえ」
一同「はっ」
同僚「ちわーっすww物流協会でっすwww」
同僚「修道院名物の特製エールと薬草を積みに参りやしたーwww」
同僚「…おーいw」ダレカー
シイィィン…
同僚ナビ『人影がありませんね』
同僚「おっかしいなーw10時着の予定だったよな?」
同僚ナビ『はい。依頼書には確かに』
…ガタンッ!
同僚「!」ビクッ
…ガタガタッ!バタンッ!!
同僚「…誰かいるのか?」
同僚ナビ『扉の中からですわね』
同僚ナビ『見てきて下さいまし』
同僚「マジかw」
…
同僚「こんちわー…」チラッ
同僚「ぬぁぁ!!!」ビクビクッ
同僚ナビ『!どうしました!?』
同僚「ひ、人が…」
…
同僚「寝てる」
修道女「うぇぇ…もう飲めませぇぇん…」ヒック
…
シスター長「いやはや誠にお恥ずかしい」フカブカ
同僚「いやいやいいんすよw誰だって飲まなきゃやってられない時ってありますからwww」
シスター長「あの子の場合そういう次元ではなくてですね…」
<うぇぇぇ気持ちわるいぃぃぃぃ
<オロロロ
同僚「あーぁwww」
シスター長「彼女…詠唱士としての資質は素晴らしいのですが、あの通り酒癖が最悪でして」
<神は留守です!有給取ってカジノへ行ってます!!
<なんちってwww
同僚「確かにひでぇなwww」
同僚ナビ『しかも若干同僚さんとノリが似てますわね』
シスター長「近く、高度な詠唱の依頼が来ているのですが本人があの有様で…」
同僚「まぁ能力が確かなら、酒さえ飲まなきゃいいんじゃね?って気もww」
同僚「それによく見りゃなかなか美人じゃんかwwうはww高まるwwww」
…
修道女「んーなんれすかぁぁ?神の従者たる私をナンパれすかぁぁ???」グイッ
同僚「なんか来たwww」
修道女「まぁまぁそうカッカしないでくらさいよぉ」たゆん
同僚「!!!」カッ
修道女「お兄さんいい度胸してまふねぇぇ」ヘラヘラ
修道女「気に入った!まま、おひとつ」エールドゾー
シスター長「こら!いい加減になさい!」グイッ
同僚「や、やめろって!俺はこれから運転すんだから飲めねーよ!」アセッ
同僚「…チラッ」たゆーん
同僚ナビ『はぁ。同僚さんが草生やしてない時はマジトーンの時ですわ』
同僚ナビ『ちょっとお嬢さん。その辺で勘弁して頂けるかしら?』チョイチョイ
…
同僚ナビ『!!!』ピキッ
同僚「あ、やべw」
同僚ナビ『人の気にしている事をぬけぬけと…酔っ払いだからと言って聞き捨てなりませんわ!!!』ムキー
修道女「おーこわwボリュームも足りなければ余裕も足りないみたいねww」アハハハ
シスター長「あぁもう何たる醜態を…」オロオロ
同僚「と!とにかく荷物は確かに預かりましたんで!あざーした!」バタンッ
キュルキュル…ブォン!
修道女「あ!ナンパしといて逃げるなー!!」ジタバタ
同僚ナビ『ちょっと同僚さん!あのホルスタインにぎゃふんと言わせないと気が済みませんわ!』プンスカ
同僚「女同士の諍いに巻き込まれるなんてごめんだっつーのwwwそれじゃどーもwww」マニュアルモードオン
同僚ナビ『あ!ちょっ!』
ブォン!ブロロロ…
…
ワイワイ…ガヤガヤ…
男「あーもう次から次へと!」グイッ
同僚「煮詰まってるねーwww」ごくごく
男「勇者と魔王の戦闘で里は半壊…」
男「親父が機転を効かせてくれたお陰で里の人達は擦り傷程度で済んだけど…」
同僚「さすが親父さんww」
男「炉は焼失しちまったからしばらくは鍛治仕事も開店休業だ…」
同僚「まぁそりゃ仕方ねーっしょw里の人が無事ならきっと建て直せるさwwww」
同僚「人間そんなに弱かねぇってwww」ぐび
…
同僚「それなwwどうしちまったんだろ?火事場にビビったかwwww」
男「…。」グイッ
男「…そもそもナビシステムって何なんだ?そりゃ仕事は助かってるけど絶対に必要かって言ったら…」
同僚「そりゃお前あれだろ?物流協会(うちら)を実験台にしてデータでも取ってんじゃねwwww」
同僚「大方、ゆくゆくは軍事利用でもしようと思ってんじゃねーのwww」ぐびぐび
男「!っそうなのか!?」ガタンッ
同僚「ちーっと考えれば分かる事だろwww軍隊大好き国王陛下の考えそうな事じゃんかwwww」
男「どれもこれも戦争の為なのか…」ギリッ
…
先輩「だったらどうなんだ?」
男「え?」
同僚「あ、先輩ちーすwww」
先輩「おつかれ。あ、俺エールね」
同僚「おいっすww男は何飲むww?」
男「…タンカレー、ショットで」
同僚「あーあww了解ww」ガタッ
…
先輩「…さて、仮にナビシステムの運用が軍事利用を目的としたものだったとして」
先輩「それでお前とナビちゃんの関係は変わるのか?」
男「俺たちの関係?」
先輩「そうだ。コンビで色んな運行をして、色んな所で色んな人と関わって」
先輩「お互い助け合って色んな事を乗り切ってきたんだろ?」
ワイワイ…ガヤガヤ…
男「俺は…」
男「…。」グイッ
…
同僚「よく言ったwwいいぞー男www」
先輩「今ナビちゃんは何かに怯えて出てこれなくなってる」
先輩「手を差し伸べられるのはお前だけだ」
先輩「あの子とお前の心をもう一度リンクさせて、隠されてるものを見つけ来い」
男「俺の心と?どういう事ですか?」
同僚「お前インストールの時に説明あったろww」
同僚「ナビシステムは使用者の心を写し取って魔法石に閉じ込めたモンだってw」
男「全然覚えてない…」
先輩「俺は使った事ないからよく分からんが、インストールの際に記憶が飛ぶのはよくある事らしい」
同僚「あれ?先輩ナビシステム使ってないんですっけw」
先輩「選考に落ちたんだよ、あれも向き不向きがあるらしい」ぐび
先輩「とにかく、ナビちゃんと心を繋げられるのはお前だけだ」
先輩「今はそれだけ覚えとけ」
…
<ありやしたー!
先輩「すっかり遅くなっちまったな」
男「すみませんご馳走になってしまって」
先輩「なに、一応年長者だからな」
先輩「こんな時ぐらいカッコつけさせてくれや」
同僚「先輩ごちでーすwwwやだかっこいいwwww」ケラケラ
先輩「こいつ酔っ払ってんなぁ…ちゃんと帰れるか?」
男「ははっこれで案外大丈夫なんですよ」
先輩「そうなのか…?」ジーッ
同僚「やだ照れちゃうwww」ケラケラ
先輩「はぁ…男は大丈夫そうだな」
男「はい。っていうか先輩と話してシャキッとしちゃいました」ハハ
先輩「まぁあんまり気負い過ぎんなよな」
先輩「気ぃつけて帰れよ」
男「はい!それではおやすみなさい」ペコッ
先輩「はいよ、お疲れさん」フリフリ
同僚「おつかれサマンサーwww」フリフリ
…
同僚「微妙に飲み足りねぇなwwもう一軒行きますかwwww」
…
…カランッ
同僚「こんばんわっすw」ガチャ
同僚「お嬢さんお隣失礼しますよっとw」ストッ
女性「はいどうぞ…ん?」
修道女「あ!あなたは!」ビク
同僚「げっ!お前はこの前の酔いどれ(たゆんたゆん)シスター!」ビクッ
修道女「…その節は大変ご迷惑を…」フカブカ
同僚「あれw今日は普通じゃんw」
修道女「まだ来たばかりなので…」シュン
同僚「あーシラフだとそういうテンションなのねwwなら平気かwww」
同僚「むwしwろwww」チラッ
同僚「まぁ飲もうぜww俺フィディックをロックでwwwあんたは?」
修道女「ぼ、ボストンクーラーをお、お願いします」
…
<乾杯!カチンッ
同僚「つーかシスターが夜な夜な飲み歩いてていいのかよwww」クイッ
修道女「わ、私のところはエールを造っている位ですので」
修道女「その辺は緩いのです」クイッ
同僚「にしてもww緩いにも限度があんだろwwww」ケラケラ
修道女「あぁぁ…あの時の醜態はどうか忘れてくださいまし」シュン
同僚「インパクトあり過ぎて忘れらんねぇよwwwww」
同僚「つか聞いたぜ?詠唱士としての能力はマジモンだってww」
修道女「わ、私なんて全然大した事!」フルフル
同僚「いやいやwwwそうでなきゃ速攻追い出されてるだろwww」
修道女「うぅ…プレッシャーに弱いのです…」シュン
修道女「近々また高度な詠唱の依頼が来ていまして…」ハァ
同僚「んん?それってもしかして人とナビシステムを再リンクする的な奴だったりする??」
修道女「ご、ご存知なんですか?」
同僚「ご存知ご存知wwwだってその対象者って俺の同期の奴だもんwww」
修道女「そ、そうなんですか!?」
修道女「…。」ウツムキ
同僚「どしたー?眠いのか?」チョイチョイ
修道女「…同僚さんっっ!」バッ
同僚「っな、何だよ」ビクッ
修道女「わたし…かんどーしました…」ウルウル
同僚「今の話のどこに感動要素があったんだよwww」
修道女「わたひ、がんばりまふ!」スクッ
修道女「ぜったいにおふたいを!さいかい!させてみせまふ!!」フンス
同僚「ちょww呂律が迷子www急に立ち上がるからwwww」
修道女「どーりょーしゃん!わたひ!わたひは!!」ジタバタ
同僚「あーもー分かった分かったwwマスターお会計wwうん一緒でwww」ヨッコラセ
…
同僚「結局こうなるのねww」ヨイショ
修道女「えへへーwwどーりょーしゃんとみっちゃくwww」
同僚「肩貸して歩いてるだけだろがww…しかし」チラッ
修道女「…んー?どこ見てるのかなー???」クス
同僚「っ!いやあのべつにw」タジ
修道女「まー見られて減るもんでもないしww構わんよwww」ケラケラ
同僚「そう言われると逆に萎えるwww不思議www」ケラケラ
…
修道女「」スゥ…スゥ…
同僚「おぶった瞬間に寝やがったw」
修道女「」スゥ…スゥ…
同僚「まぁ、大変だとは思うが」
同僚「男の事、頼むぜ」
ブゥゥン…ブゥゥン…
女「気分はどう?」
男「なんだか緊張するよ」
研究室職員「楽にしていて下さい」
研究室職員「これから男さんの精神と魔法石とを再リンクします」
研究室職員「まず男さんには深い睡眠状態に入ってもらい、ナビシステムの心の中へ入っていきます」
研究室職員「現状ナビシステムの人格情報に損傷が見られる為、普段とは性格が異なっている場合があります」
研究室職員「あまり気にしないように」
研究室職員「上手くコンタクトが取れたら、ロックの掛かっている記憶情報にアクセスしていただきます」
…
男「?どうしたんだ急に」
女「あなたは忘れている、忘れていたかった…」
女「そういう記憶を直視する事になるからよ」
男「仕方ないよ、それに俺の記憶をナビの奴に肩代わりさせておくわけにもいかないし」
女「謝りたい事は他にもあるのだけれど…」
男「?」
女「いえ、直接その目で見てきて頂戴」
男「うん、分かったよ」
…
修道女「遅くなりましたー!」ハァハァ
研究室職員「詠唱士の方ですね?お待ちしておりました」
女「遅かったじゃない」
修道女「す、すみません!」ペコッ
修道女「あ、あなたが男さんですね?」
男「?はいそうですけど」
女「今回の再リンクには高度な呪文の詠唱が必須なの」
女「そこで王立修道院から選り抜きの詠唱士の方をお呼びした…のだけれど」チラッ
修道女「ど、同僚さんと約束しました!絶対にナビさんを呼び戻して来て下さいね!」たゆん
修道女「私、全力でサポートします!」たゆーん
男「同僚と?よく分かんないけど、あぁ」
男「必ずあいつを連れ戻して来るよ」
女「(負けた…)」クッ
…
ブゥゥン…ブゥゥン…
修道女「それでは詠唱を始めます」キリッ
スゥ…
[闇よ 月よ 全ての星々よ]
[夜の帳に舞い降りたる汝の名において]
[この者にひと時の安らかなる眠りを与え給え]
パァァァァ…
男「」zzzz
女「…寝たわね」
修道女「深い眠りです。フライパンでひっぱたいても起きません」
女「確かに」ペシペシ
修道女「続いて、男さんの精神と魔法石をリンクさせます」
女「頼むわ」
修道女「…」キッ
[数多の心の一欠片 全てを統べる金色の意志]
[夢と現の狭間に在りし 敬虔なる汝の名において]
[今ここに眠りし 小さき者達の魂を]
[慈愛の縁(えにし)で結び給え ]
パァァァァ…グワン!
修道女「…っく」ギリッ
男「」zzzz
女「(男くん…)」
女「(ごめんなさい…)」
研究室職員「魔法石とのリンクが始まりました!」
修道女「…。」ギリリッ
…
シィィィン…
男「…ん」パチ
男「ここが魔法石の中か…んっ」ノビーッ
男「まずはナビの奴を探すか」スクッ
男「ナビシステムを探すってのもおかしな表現だけども」クス
テクテク…
男「見渡す限り真っ白な世界だな」
男「動くものは何も見えないし、声も聞こえない」
ザザッ…ザザッ
女『男くん聞こえる!?』
男「女か?あぁ聞こえてるよ」
女『どうやらリンクは成功したみたいね』
女『どんな状況?周りに何か見えるかしら?』
男「いや、見渡す限り真っ白な…ん?」
女『何か見えるの?』
男「あれは」テクテク
…
女『…なるほどね、男くんとナビちゃんが最も長い時間を過ごしたのがカーゴの中ですものね』
男「とりあえず乗ってみるか」ガチャ
女『気をつけてね。精神世界は夢と想像力の世界』
女『なにが起こっても不思議じゃないわ』
男「…うん、さっそく実感してるよ」
女『!男くん!何があったの!?』
「あーもーうるさいなぁー」
「邪魔せんとって」
…
男「…探すまでもなかったな」
ナビ「ちゃーお?」フリフリ
男「久しぶりだな…心配したんだぞ?」
ナビ「…夢やってん、いや今も夢の中みたいなもんやけど」
男「?」
ナビ「男ちゃんの助手席に座んの?」ニコニコ
男「…ここでは実体があるんだな」
ナビ「せやでー?ほら見てみて!隣国でもらったストール巻いてみてん」フワッ
ナビ「なぁ似合うー??」
男「あぁ、よく似合ってるよ」ニコ
ナビ「えへへー?カラダがあるで、お望みならあんな事やこんな事も出来てまうでー?」ヘラヘラ
ナビ「とりあえず、触っとく?」モミ
男「バカ言ってんなよ…でも意外と元気そうで安心したよ」
ナビ「…そう思う?」
…
ゴゥンゴゥン…
ナビ「男ちゃんはな、ウチの中に色々置き忘れてん」
ナビ「っていうかウチ自身も忘れててんけど」
ナビ「…忘れたまんまでいたかったけど。」ハァ
ナビ「見に行くんやろ?その為に来たんやもんな」
男「あぁ、お前に持たせたままじゃいられないからな」
ナビ「…言うたな?」
ナビ「ほんなら行こか。ウチらの思い出再発見ツアー?」
ナビ「しっかり掴まっとき。」
ブォン!ブワァァァァ…!
…
ナビ「男ちゃん、ちっちゃい頃の事覚えとぉ?」
男「里にいた頃か?親父に剣術を叩きこまれたり…」
ナビ「他には?友達の事とかは?」
男「友達?…いたはずだな、よく思い出せないが」
ナビ「…ほんならその前は?」
男「その前?」
ナビ「里に来る前の事。」
男「里に来る前?いやいや俺は里が地元で…」
ナビ「ちゃうで。」フルフル
…
ナビ「ついでに、男ちゃんが親父って呼んどぉ人も」
ナビ「男ちゃんの本当の父親やない。」
男「っ!…おいおい何を言い出すんだ!俺は里の生まれで…」
ナビ「まぁまぁ。まずはそっからやな。」
ナビ「これからウチらの本当の生まれ故郷に行くで。」
ナビ「その場所が失われるその時へな。」
男「俺の本当の生まれ故郷…」
ナビ「そ。今から20年前の」カチッ
ガタンッブロロロ…
ナビ「北西の小さな村。」
ブロロロ…キキッ
ナビ「よぉ見とって。」
カッ…バヒューーーーーン…
…
ゴォォォォ…パチッパチッ
<おい!はよ逃げぇ!!
<がはっ!煙の勢いが…!
<誰か!まだ子供がおる!!
ブワァァァァ…!
男「ここは…」
ナビ「20年前、この北西の小さな村は焼失した。」
ナビ「この前の里ん時と同じ、勇者と魔王の戦闘の巻き添え食ぅてな。」
ナビ「殆どの村人が亡くなったんやけど、ウチらは奇跡的に助かった。」
ナビ「気ぃ失っとったおかげで煙をあんまり吸い込まんで済んだんや。」
ナビ「ほら、あれ見て。」
…
<いややー!おとん!おかん!
<来い!とりあえず安全な場所まで逃げるで!
男「おじさんが小さな子供を…!」
男「おい!あれが俺なのか!?」
ナビ「ちゃうで。よぉ聞いてて。」
<うぅ…おとん…おかん…
<お…とこくん…
男「っ!!!…今俺の名前を…」
ナビ「今燃えとぉあの家が、ウチらの本当の生家。」
ナビ「今おっちゃんに助け出されたあのちびっ子はな、女さん。」
男「女!?女だって!??」
ナビ「今ウチらはまだあの家ん中におんねん。」
ナビ「炎に巻かれて、逃げようにもどっちがどっちかも分からんよぉになって」
ナビ「ウチらの両親は亡くなった。」
男「そ、そんな…」ガクガク
ナビ「隣に住んでた女さんは、ウチら家族がまだ家の中におるのに気がついて」
ナビ「助け出そうとしたんや。」
…
ナビ「でも無理やった。そらそうやろ?ちびっ子一人でどうにかなる訳ないやん」
ナビ「アホな女さん。」クスクス
男「な、お前、笑って…?」ゾクッ
ナビ「なぁ男ちゃん、こっから見てても始まらんわ。」
ナビ「話聞いとぉだけじゃ実感できひんやろ?今あん中におる男ちゃんの意識に繋げるから。見てきて。」
男「あ、あの中に!?」ガクガク
ナビ「だいじょーぶやて。これは記憶の世界やねんから」ケラケラ
ナビ「ほな行ってきて。」スッ
男「おい待てっ!」グワン…グワングワン
…
ゴォォォォ…ブワァァァァ…!
男「…っく!」パチ
男「熱っ!ここは…暖炉の中か…!」
ゴォォォォ…パチッ!パチッ!!
男「煙がひど…えほっげほっ!」
男「何とかここから逃げなきゃ…通れそうな場所h ガシャーン!
男「!!っくそ!閉じ込められたっ」ガンガンッ
男「ダメだ、頭がぼーっとしてくる…煙を吸ったせいか…」クラクラ
男「誰か気付いてくれ…俺はまだここに…あっ!」
男「瓦礫の隙間から人影が見える…あれが女か…!」
男「…げほっげほっ!声を出そうにもこの煙じゃ…!」ハァハァ
男「頼む…気付いてくれ…」ギュッ
ブワァァァァ…!
…
男「このままじゃ死ぬ…助からない」クラクラ
男「あ、おじさんが女の手を」
男「行かないでくれ…俺を」
男「俺を置いて行かんとってくれ…」
男「お願いや…誰か…!!」
<くん…! おとこくん…!
ゴォォォォ…!!
男「うぅ…もう…あかんか」パタッ
男「頼む…一人に…せんと…って」ポロポロ
キラッ …パァァァァ
男「光が…なんや、へへ、お迎え、か…」ポロポロ
ブワァァァァ…!!
…
男「!!!」ビクッ
ナビ「はーいおかえりちゃーん♪」
ナビ「どうやった?って聞くまでもないか」ケラケラ
男「…うぅ」ポロポロ
ナビ「怖かったやろー?しんどかったやろー??」ニヤニヤ
男「…っ」グシグシ
ナビ「ウチらはあのまま気ぃ失って、あのすぐ後軍の救助隊に助け出された。」
ナビ「両親が亡くなって、天涯孤独の身になってもうたんやけど」
ナビ「そんなウチらを女さん共々引き取ってくれたんが、里の親父さん達やったっけワケ。」
男「…なんで、お前…ずっと…」ポロポロ
ナビ「言わんかったかって?せやからウチも忘れててんもん」アハハ
ナビ「ホンマに思い出してたくなんてなかった。」
ナビ「でもあの時、里の炉が燃え上がったのを見て」
ナビ「ぜーんぶ思い出してもた。」
…
ナビ「煙で喉が焼かれる痛み」
ナビ「暖炉の中に閉じ込められて」
ナビ「誰も助けてくれへんかって」
ナビ「女さんの姿が見えたけど」
ナビ「呼んどぉ声も聞こえたけど」
ナビ「こっちの声なんか届くはずもなくて」
ナビ「そのうちに連れて行かれてもぉて」
ナビ「また一人取り残されて」
ナビ「痛くて」
ナビ「熱くて」
ナビ「怖くて」
ナビ「悲しくて」
ナビ「寂しくて」
ナビ「…。」キュッ
…
ナビ「ちょ!ちょっと男ちゃん!こんなとこでアカンよぉ…///」カァァッ
男「お前一人に苦しい記憶を押し付けてしまって…俺…」ポロポロ
ナビ「…えぇんやで。」ナデナデ
ナビ「ウチこそ怖い思いさせてごめんな。」ナデナデ
ナビ「でもな?ほんまは知ってもらえて嬉しいねん。」ナデナデ
ナビ「知ってもらいたかってん。」
ナビ「ウチずっと…独りぼっちやったからぁ…うぅ」グスッ
男「…。」ポロポロ
ナビ「男ちゃぁん…ウチ…怖かった…」ポロポロ
ナビ「さびしかったよぉぉぉ」ポロポロ
男「…。」ギュッ
ナビ「うわぁぁぁあん…!!」ポロポロ
…
男「いいんだ、好きなだけ吐き出してくれて」
ナビ「…うん、もう大丈夫。」ニコ
ナビ「さて男ちゃん、しゃんとしよか。」トントンッ
男「…あぁ」スッ
ナビ「たぶんな、女さんはこの時の事を今も引きずってると思う。」
男「女が?」
ナビ「ウチらを助けられへんかった、それどころか置いてってしもた」
ナビ「その思いにずぅーっと縛られとぉと思うねん。」
ナビ「赦してあげられるのは男ちゃんだけや。」
男「赦すも何も俺は…」
ナビ「ウチらはそうかも知れんけど、女さんにとってはそうじゃないねん。」フルフル
ナビ「だから戻ったら言うてあげて?もう自分を責めんといてって。」
ナビ「もう自分を赦してあげてって。」
ナビ「そう言うてあげて?いや、ちゃうな。」
ナビ「そう言うてあげよ?一緒に。」ニコ
男「…あぁ、分かった」
…
パァァァァ…
修道女「…っく…!」ビリビリ
女「(リンクが始まってかれこれ30分)」
女「(転移魔法…それも人間の精神を実質二人分扱うという情報量)」
女「(それに高度な幻惑魔法を複合した詠唱で、魔法石とのリンク状態を保ち続けている…)」
女「(伊達に修道院の選り抜きじゃない…この人、只者ではないわ)」
女「(でも、さすがに)」
修道女「…っ!はぁ…はぁ」ビリビリ
パァァァァ…
女「加勢するわ」スッ…パァァァァ
修道女「!?お、女さん転移魔法を!?」
女「あなたのような高度で大出力の詠唱は到底出来ないわ」
女「せいぜいあなたの魔力を補ってあげる位かしら…っく!」ビリビリ
女「すごい魔力消費ね…私一人じゃ5分と保たないわ」ビリビリ
女「でも、少しは足しになるかしら?」
修道女「大助かりです!ありがとうございます!!」ビリビリ
女「それにしてもその底無しの魔力…あなた一体何者なの?」
修道女「…じ、自分でもよく分からないんですよね」ヘラッ
女「どういう事?」
修道女「…。」ニコッ
…
修道女「私はその中で寝息を立てていました」
修道女「そのまま修道院に引き取られた私は、シスター長さんの実の娘として育てて頂いたのです」
女「…辛い話をさせたわね、許して頂戴」
修道女「い、いえいえ!」ブンブン
修道女「…今のは、私が親に捨てられた話ではなく」
修道女「愛のある方に見つけて頂き、育てて頂いたという話」
修道女「私が、この世界から確かな愛をもらったという話なのです」
女「…!」
女「…愛、ね」
修道女「す、すみません!一応宗教家の端くれなものでこんな口調になってしまうのです」アセアセ
女「いいのよ。素敵なお話だったわ」
女「聞かせてくれてありがとう」
パァァァァ…
…
修道女「…女さんも一緒ですよ」ビリビリ
女「?どういう事かしら」ビリビリ
修道女「なんとなく分かります、目を見れば」
修道女「女さんにもきっと誰かの愛が注がれているはずです」
修道女「誰だって同じです、気付いていないかも知れませんが…」
女「…私に愛される資格なんてあるのかしら」ボソッ
修道女「?」
女「何でもないわ、それより中の様子はどうなのかしら」ビリビリ
女「だんだんキツくなってきたわ…」フゥ
修道女「ですね…上手くいってると良いのですが…っく!」ギリッ
パァァァァ…
…
女「!この声は!」
<女さん!ウチやで!
女「ナビちゃん!」
<心配かけてごめんなさい!ウチはもう大丈夫やでー!
女「そう…良かったわ」ホッ
<これから男ちゃんがそっちに戻るで!
<受け止めたってー!
修道女「す、すごい…!本当に魔法石の中に人の心が…!」
<んー?おねーさんだれー?
<まぁええか!ほなよろしくー!
…
修道女「…っく!はぁぁぁぁ…」パタッ
女「ちょっと!大丈夫!?」ダキッ
修道女「さ、さすがに疲れましたぁ…」グッタリ
女「見事にやり遂げたわね、大したものだわ」
女「お疲れ様、ありがとう」ニコッ
修道女「え、えへへ…やったぁ」ニヘラ
男「…ん」パチ
女「男くん!」
…
男「一時は焼け死ぬかと思ったけどな」ハハッ
女「…っ!!」
男「その話はあいつが戻ってから、な」
男「それよりその人大丈夫か?」
女「…かなり消耗しているわ、常人じゃそれこそ干からびる程の魔力を使い続けたのだから」
修道女「zzzz」スゥ…スゥ
スッ
男「初めて会ったけど、感謝しています」
男「あなたの力が無かったら、俺達は自分を取り戻せなかった」
男「本当にありがとう」ペコッ
修道女「zzzz」スゥ…スゥ…ニコッ
…
ブロロロ…
同僚「…なげーーーよwwwwwww」
同僚ナビ『あらそうですか?今日の配送はもう終わりでしてよ?』
同僚「つかスレタイ詐欺じゃねww魔法はともかく運送業どこいったwwww」
同僚ナビ『またわけの分からない事を…おや?事務所からですわ』ピピッピピッ
カチャ
同僚「おつかれサマンサwww」
配車係「…またわけの分からない事を」
同僚「んだよノリわりぃなwwどったの無線なんてwww」
配車係「ノリって…実は一件飛び込みで集荷の依頼がありまして」
同僚「でたでたww早く帰れると思った時に限ってこれだwww」
配車係「まぁそう言わないで下さいよ、なにしろ同僚さんご指名の依頼で」
…
配車係「その辺はご本人と話して下さい、協会は関知しませんので」フフッ
同僚「ご本人?あぁ荷主って事かww」
配車係「荷主というか…まぁとにかく向かって下さい、積み地は王立アカデミーですので」
同僚「了解しまくりですwww」カチャ
同僚ナビ『珍しいですわね、同僚さんご指名の集荷依頼なんて』
同僚「つーか初めてじゃねww時代がようやく俺に追いついたかwww」
同僚ナビ『…まぁキャラはともかく、ドライバーとしてのスキルは私も認めておりますわ』
同僚ナビ『私としても誇らしいですわね』ニコ
同僚「だろwwwんじゃまー行きますかwwww」
ブォン!ブロロロ…
…
修道女「…。」
同僚「…。」
修道女「ど、どーも」
同僚「まwたwお前wかwww」
同僚「しかし集荷なんてどったのwwしかもこんな所でwww」
同僚「あ、あれかwwさてはイケないおクスリでも製造して運ばせようってかwww」
修道女「…。」チョイチョイ
同僚「あん?で、荷物ってどれよww」
修道女「わ、私です…荷物」アハ
同僚「」
修道女「ダメ…ですかね?」ジッ
同僚「」
…
ブロロロ…
修道女「先日は誠に申し訳…」フカブカ
同僚ナビ『…顔を上げてくださいまし』ハァ
同僚ナビ『まぁお酒が入ってらしたのなら仕方ない…といえる範疇を超えてましたが』ジトッ
修道女「うぅ…」ビクビク
同僚ナビ『男さんとナビちゃんの一件、大変ご尽力いただいたとか』
同僚ナビ『ナビ(あの子)の友人としてお礼申し上げますわ』
同僚「俺からも言わせてくれ」
同僚「あいつらの為に頑張ってくれて、ありがとな」ニカッ
修道女「い、いえいえ」ニコッ
同僚ナビ『まーこれで前回の暴言についてはチャラにして差し上げますわ』
修道女「よ、良かったです…」ホッ
…
修道女「あ、あのその…」モジモジ
修道女「男さんとナビさんの事、同僚さんには一番先に伝えたくて…」
同僚「そーゆー事ねwwそういや連絡先とか知らんもんなwww」
修道女「それに…真っ先に会いたかったし」ボソッ
…
ササッ
同僚ナビ『(そういう事ですの?あなたも変わったご趣味を…)』ごにょごにょ
修道女「(そ、そうですかぁ?や、優しい所もあるんですよ?)」ごにょごにょ
同僚ナビ『(そこはまぁ分かりますが…とにかくそういう事なんですのね?)』ごにょごにょ
修道女「(どうやらそういう事みたいです…何しろこんな気持ち初めてで)」ごにょごにょ
ごにょごにょごにょごにょ
…
同僚ナビ『それより同僚さん、今回の件では修道女さんに大きなご恩があるのですから』
同僚ナビ『ここはひとつお礼の席でも設けて差し上げては如何でしょう?』
同僚「名案キタwwww素敵じゃないのwww」
同僚ナビ『男さん達の復帰祝いもありますしね』
同僚「お前さん頑張ってくれたしなwwみんなでぱーっとやるべwww」ポンポンッ
修道女「///」カァァッ
修道女「は、はい!ぜひ!」
…
修道女「お、お願いしちゃっていいんですか?」
同僚「まwかwせwろwww」ビシッ
修道女「じ、じゃあお願いしますね!」
同僚「おうよwwあ、そしたらお前さんの連絡先も聞いとくかww」
修道女「は、はい!」カキカキ
同僚ナビ『(まずは連絡先交換、次は大人数で…そこから徐々に距離を縮めて…)』
同僚ナビ『(いける…黄金パターンですわ)』ニヤリ
…
[BAR REQUIEM]
カランカランッ…
先輩「全員揃ったな」
同僚「おっけwそれじゃ始めますかww」
<乾杯!カチンッ…
同僚「ぷはwやっぱ一杯目はこれよねww」ぐび
男「そういえば今日は全員エールなんだな」
女「今回の功労者である修道女さんに敬意を表して、ね」ごく
修道女「な、なんだかすみません」アセ
同僚「でもこれ普通に美味いからなww」
先輩「修道女ちゃん達が製造したエールを、俺達運送屋が各地に運んで」
男「こうして色々な人の手に渡るわけか」
男「なんだか感慨深いな」グビ
…
女「修道女さん」チラッ
修道女「は、はい!」ごそごそ
コトリッ…
同僚「んー?何だそのデカい魔法石はww易でも立てようってかwww」
女「修道女さんに情報転移魔法のコツを教えて頂いたの」パァァァァ
修道女「今日の主役の登場です!」パァァァァ
ナビ『やっほーみんな?』ピョンッ
男「おぉ!」
同僚ナビ『私もおりましてよ』スッ
同僚「お前もかwww」
…
修道女「彼女達のデータだけを情報転移魔法で連れて来たんです」
先輩「また規則ギリギリな事を…」
女「まぁいいじゃないですか、始末書なら私が」
先輩「配車係の奴には黙っておくよ、ともかくこれで本当に全員揃ったわけだな」
同僚「それでは改めましてww」コホン
<乾杯!カチンッ…
…
同僚「過去との再会ねーw」
先輩「辛い記憶だとしても、今になって取り戻せたのならそれは何か意味のある事なんだと思う」
先輩「これからのあいつらの人生において、な」
修道女「む、無駄なものなんかないですよね!」ダンッ
先輩「だな、親父さんも喜ぶだろうよ」
同僚「あれ?先輩あいつの親父さんと知り合いなんすか?www」
先輩「直接面識はないけど、俺は元々軍出身だから」カランッ
先輩「親父さんの噂…伝説に近いな、そんな話はよく聞いたよ」
…
先輩「俺も同じのを。そうだな…何てったって先代勇者一行の一人だからな」グイッ
修道女「せせせ先代勇者一行!!?」
同僚「話がインフレし過ぎて一般庶民の俺にはついていけねぇwwwww」
先輩「俺だって同じさ、軍を抜けて今はただの運送屋」
先輩「世界の命運なんざ雲の上の話だ」
先輩「でも、修道女ちゃん程の能力があれば軍からも声が掛かりそうなもんだが…あ、何飲む?」
修道女「わ、私なんて全然っ!あ、アマレットジンジャーをお願いします」
…
修道女「…な、ない訳でもなかったんですけど」アセ
同僚「やっぱなwww」
同僚「で?断っちまったのかwwwまぁシスターが軍の仕事出来ねぇわなwww」
修道女「ぎ、逆です」
先輩「逆?」
修道女「わ、私元々が孤児ですからね」ヘラッ
修道女「今はシスター長さんの娘という事になっていますけど」
修道女「軍の偉い方にそういうの気にされる人がいたんじゃないですかね…なんて」ハハ
先輩「…お役所って感じだな、出自なんざどうだっていい事だろうに」ハァ
同僚「全くふざけた話ですね、今のコイツには何の関係もねぇのに…」チッ
修道女「(あ、草生えてない)」
修道女「ま、まぁ私としては何か皆さんの力になれるならいつでも!って感じですので!」
修道女「困った事があったら言って下さいね?」ニコッ
…
先輩「その時はよろしくな」ニコッ
修道女「は、はいです!」ビシッ
先輩「さて、んじゃそろそろ行きますか」スクッ
同僚「あれ先輩帰るんすかwww」
先輩「ちょっと他の奴とも話してくるのさ、まぁ…邪魔者は退散すっから」コソッ
先輩「(上手い事やれや、ジェントルマン)」ニヤ
修道女「?」
同僚「かーっwwwみんなそういうの好きねぇwwww」
…
同僚ナビ『ふふっ元気そうで安心しましたわ』ハイタッチ
ナビ『心配かけてごめんな?』
同僚ナビ『いいんですのよ、無事に戻ってらっしゃったなら』フルフル
ナビ『色々あって引き篭もってもぉてんけどな』
ナビ『男ちゃんが来てくれてん!』ニコニコ
同僚ナビ『聞きましたわ』
同僚ナビ『元々男さんの中にあった過去の記憶が』
同僚ナビ『コピーされるのではなく、ナビ(あなた)の側にそっくり移動してしまっていた…』
同僚ナビ『そういう解釈でよろしいかしら?』
…
ナビ『よっぽど辛かったんやろな、男ちゃん』
同僚ナビ『その時、男さんはまだ2歳位でしたのでしょう?』
同僚ナビ『深い心の傷となるのも頷けますわ』
ナビ『でもな?男ちゃんは来てくれてん』
ナビ『わざわざ見たくもない過去の記憶と向き合ぅて』
ナビ『ウチにだけ押し付けられへんからって』
ナビ『正直ね、嬉しかったんよ』
…
ナビ『せやろー!?ホンマ大好きやわぁ男ちゃん♪』ピョンッ
同僚ナビ『…あなたって人は』
ナビ『で、どーちゃんは最近どうなん?同僚ちゃんと上手くやっとぉ??』
同僚ナビ『私達は相変わらずですわ』フッ
同僚ナビ『彼と私は良い意味でのビジネスパートナー』
同僚ナビ『彼のドライバーとしての能力を認めこそすれ、特別な感情を抱いたりは致しませんわ…が』
…
同僚ナビ『実は最近同僚さんにも…』ひそひそ
ナビ『ほんまかいな!あ、あの修道女さんって人!?』ワクワク
ナビ『同僚ちゃんもたゆんたゆん好きやかんなー』ケラケラ
同僚ナビ『むっ…いえ実は、彼女の方からなのですわ』ひそひそ
ナビ『まーじーでー!?』ノケゾリー
ナビ『やるやん同僚ちゃん!隅に置けへんなー!』ニシシッ
ナビ『で?どーちゃん的にはその辺どぉ思ってるん??』わくわく
同僚ナビ『そうですわねー』ウーム
…
ナビ『ほうほう』
同僚ナビ『詠唱士としての能力も高く、将来的な事を考えても悪くないお相手かと』
ナビ『えーやんべた褒めやん!』キャッキャ
同僚ナビ『ただし…』
ナビ『ただし??』
<バカルディ!店にあるだけ持ってきて!!
<なんちってwww
同僚ナビ『…あれさえ無ければ』ハァ
ナビ『あららー絶好調やんなぁ』
…
女「バーにテラス席とは珍しいわね」
男「夜風が気持ちいいな」ストンッ
女「私はブルームーンを」
男「エールおかわり」
<乾杯 カチンッ…
…
男「あぁ、あの村が消えるその日をな」
女「…今更私から何も言う事は出来ないわ」フルフル
女「あの時の事が、まだ小さかったあなたの心をどれだけ傷つけたか」
女「私は生涯自分を赦す事は出来ないと思う」
女「何も出来なかった自分を」
女「それどころか、あなたを置き去りにしt男「もうさ、やめにしないか?」
女「男くん…」
…
男「確かに怖かった」
男「誰にも見つけてもらえずに、ただ死ぬのを待つしかないってのは」
男「今思い出しても震えるよ」
女「…っ」ギュッ
男「でもな?そんな状況で、女だけは俺を助けようとしてくれた」
男「必死になって俺の名前を呼んでくれた」
男「あの時の俺にも、それはちゃんと聞こえてたんだぜ?」
女「っ!だけどっ…!私はっ…!」
男「あの時は気付けなかった女の優しい心に、今回の一件でやっと気付けた」
男「ずっと苦しませてごめん」ペコッ
男「それ以上に、助けてくれようとしてありがとうな」ニコッ
女「…っっ!!男くん…」ジワッ
…
男「それどころか、今は感謝の気持ちでいっぱいだ」
男「だから、な?少しずつでいいから」
男「女は女自身のこと、赦したってくれへんかなぁ…?」ポンポン
女「うぅ…男くん…」グスッ
女「ごめんな…ほんまに…」ポロポロ
男「えぇて。もう過ぎた事やんか」ナデナデ
女「うぅ…あぁ…」ポロポロ
…
ナビ『男ちゃん、しっかり伝えてくれたみたいやな』ウンウン
ナビ『…でも、あの頭ポンポン』ジトッ
ナビ『やっぱりちびっと妬けるわ…』ムムム
…
男「今日は皆さんありがとうございました」ペコッ
ナビ『ました』ペコッ
同僚「いーって事よwwwパーっとやるいい口実だったわwwww」
同僚ナビ『またそんな憎まれ口を…』
先輩「明日から復帰だろ?気合い入れていけよ」
ナビ『まかしてーな!ウチらは最強のコンビやで♪』フンス
ナビ『な!男ちゃん!』クルッ
男「あぁ、これからもよろしく頼むぞ」
先輩「それじゃここらで解散とするか。みんな気をつけてな」フリフリ
同僚「おつかれさんでしたーwww」
男「みんなおやすみなさい」
…
先輩「お、どうだ気分は」
女「えぇすっかり、ご心配お掛けしました」
先輩「なぁに、男が付いてたんだから安心してたさ」スッ
シュボッ…
女「…先輩さん」
先輩「?」スゥ…
女「一本頂いても?」
先輩「あぁ構わねぇよ、ほい」スッ
先輩「えぇと火は」ごそごそ
女「ここにあるじゃないですか」グイッギュッ
先輩「お、おいおい」
ジジッ…ポワッ
…
先輩「シガーキスなんざ初めてだ…」ポリポリ
女「私もです」
女「…お嫌でしたか?」ジッ
先輩「うっ…全く女心ってのは分からんもんだなぁ」ポリポリ
女「ふふっ」スパァァ
…
ブロロロ…
ナビ『♪』ルンルン
男「ご機嫌だな」
ナビ『今日めっちゃ順調やんかぁ!珍しく荷待ち無しで積めたし』ニコニコ
男「大体待たされるからな、あそこの倉庫は」クスッ
ナビ『ウチらの日頃の行いがえぇからやなー』ウンウン
男「そうだな…」
男「…。」ボーッ
ナビ『んー?どしたん??』クルッ
男「…里での一件以降も、あちこちで軍と魔族の衝突が起きてる」
男「小競り合いから一般人に被害が及ぶ規模のものまで様々だが」
ナビ『そういえば増えたな』
男「…戦争は続いていて」
男「戦闘の度に傷付くのは普通に生きてる人達だったりもして」
男「…でも、俺達の仕事や生活自体にあんまり変化はなくて」
男「…。」
ナビ『過ぎてしまえば、自分の身に降りかからなければ』
ナビ『忘れてってまう…みんなそんなもんなんちゃう?』
男「分からんではないけど…それでいいのかなって思うんだよ」ウーム
ナビ『んー男ちゃんの言いたいことも分かんねんけどな?』
ナビ『ウチらは勇者やない、ただの一般人やから』
男「…世界の命運を憂いても仕方ない、そう言いたいのか?」
ナビ『そこまで言わんけどなぁ』
…
男「普通の日常か…それは確かにそうだけどな」
ナビ『ま、ウチは男ちゃんとおれればおーるおっけーやし♪』ニシシ
男「お前は気楽でいいよな…」ハァ
ブロロロ…
…
同僚「異動っすかww?」
所長「うんそう。運送屋だけに」ププッ
同僚「草枯れる」
所長「あ、でも異動はマジよ」
所長「異動ってか抜擢?やったじゃない同僚ちゃん」
所長「しかも新規事業の立ち上げメンバーだってよ??」グイッ
所長「いやー眩しいわー後光が差してるわー」
同僚「抜wwww擢wwwww」
同僚「新規www事業wwww」
所長「いよいよ時代が君に追いついてきたんじゃないのー?このこのー」ウリウリ
同僚「どうやらそのようですねwww」フッ
同僚「それで?新規事業って何やるんすかww?」
所長「え?知らない」
同僚「えっ」
所長「えっ」
…
所長「外部から顧問も呼ぶー?みたいな話ー?だったけど」フーッ
所長「とりあえず女ちゃんがプロジェクトリーダーになるみたいだからさー」
所長「明日の運行後にでも女ちゃんのとこに顔出してみてくれるー?」
同僚「深まる謎wwとりあえず了解っすwww」
所長「よろしくちゃーん」スタスタ
…
同僚「なんだか上手いこと乗せられてる気がwww」
…
カリカリ…
女「先人の知恵もなんとやら、面倒がらずに古い文献も漁ってみるものね」ペラ
女「今の魔術経典からは削除されている、情報転移や位相転移の詠唱…」フムフム
女「この辺を応用すればいけそうね…」ペラッ
女「問題は動力源、か」パタン
ドサッ
[禁書指定 それいけ!転移ちゃん!]
[禁書指定 カバでも出来る位相転移]
[禁書指定 絶対殲滅!爆撃☆どかん]
コンコンッ
女「どうぞ」シマイッ
先輩「おーす、おつかれ」ヒョコ
女「あら、お疲れ様」
女「遅くまで残業か?肌に悪いぞ」コーヒーヒョイ
女「ご心配どうも。でも今日は残業じゃないのよ」スッ
先輩「あぁ、いつもの趣味か」
…
先輩「…あんまり奥まで首突っ込んで噛みつかれても知らんぞ?」
女「深淵を覗くものはまた同時に、って奴かしら?」
女「構いやしないわ、この探究心を止める事は誰にも出来ないもの」クックッ
先輩「お前ちょっとこえーよ…」ヒキッ
先輩「だが、覗き込んでくるのは深淵だけじゃないかも知れないぞ?」
女「それこそ望むところだわ、鬼でも蛇でも出てきてみなさい」フフフ
先輩「…そんな可愛いモンだったらいいんだけどな」ボソッ
…
ワーワー!タンッ!タンタンッ…!
親父「おーし!今日の稽古はこれまでー!」
<ありがとーございましたー!
親父「ふぅ…ガキどもの相手もなかなかいい運動になるな」フキフキ
親父「しかし…あいつら見てっと」シュボッ!スゥ…
親父「思い出すなぁ」スパァァ…
…
<こいつしゃべれねーんだって!
<えーへんなの!
<おいなんかいってみろよ!
幼男「…」グスッ
幼女「こらー!またよわいものいじめしてー!」ダダッ
<わ!おんなだ!
<おとこおんながきたぞー!
<にげろー!
幼女「まったくあいつら…」プンプン
幼女「さ!男くんかえろ?」クルッ
幼男「…」コクリ
…
親父「まーアホどもの相手してもしゃーねぇさ」ゲラゲラ
親父「なぁ男!」ガシッ
親父「焦んなくていいんだぞ?」グシグシ
親父「声なんざ出なくったってお前はお前だ、女共々俺の大事な家族だ」
幼女「おじさん…」
親父「お前達の居場所はここにある。それだけ忘れんな、いいな?」
幼男「…」コクリ
親父「よし!」ニカッ
親父「まーそのうちコイツみたいにペラペラしゃべれるようになっからよ!」ゲラゲラ
幼女「なんかむかつくー」プクー
ワイワイ…
…
親父「お前ら何か欲しいもんあるか?あんまり高ぇもんはダメだかんな!」
親父「…って!サンタのじじいが!」
幼女「わ、わたし新しい本が欲しい!」
親父「女は本が好きだなー!分かった!ジジイに頼んどく!」
幼女「やったー!」
親父「男、お前はどうだ?」
親父「何か欲しいモンあったらこのサンタのカタログを指差してだな」ズイッ
幼女「おじさん!ゆめがこわれる!」
親父・幼女「!!」
親父「…何だ?ゆっくりでいいから言ってみ?」ナデナデ
幼男「お、おと…さん、て」
幼男「よ、よんで…い?」
幼女「お、男くん…!」ウルウル
親父「…っ!」ジワッ
親父「…ったくおめぇは無欲だな!修行僧かっつーんだよ!」グシグシ
親父「当たり前だろーが!パパでも親父でも好きなように呼んでいいぜ!」
幼女「うーんでもぱぱってかんじじゃないかも」
親父「そうだな…それに親父も…俺まだ30だし」ウーム
幼男「おと…さん」
幼男「おとさん!」ニコッ
親父「おうよ!じゃ決まりだな」ニカッ
…
側近「…。」
国王「…。」
事務局高官「…。」タラッ
側近「気になるな…この、男といったか」ペラッ
側近「先日の鍛治職人の里での事故現場に居合わせた際、過去の記憶のフラッシュバックによりナビシステムがダウン」
側近「本人は平気な顔をしていたのに、なぜナビシステムだけが…」
事務局高官「アカデミー研究員の話によれば、過去のトラウマの引き金になる記憶そのものが」
事務局高官「魔法石内部のナビシステム側にそっくり移動していたのでは、とのことで」
側近「共有ではなく移動だと?」
事務局高官「はい、原因は定かではありませんが…」アセッ
国王「…。」
側近「その後はどうなっておる?」
事務局高官「はっ、男との再リンクにより人格情報と記憶情報の相互共有に成功しました後は」
事務局高官「特に問題なく運行を行っております」
側近「…ひとまず落着、と見るか」チラッ
国王「いや」ギロッ
事務局高官「っ!」ビクッ
側近「その後は問題なし、と言ったが」
側近「再リンク後、その職員とナビシステムの関係性はどうなのだ?」
事務局高官「関係性、ですか…」
…
事務局高官「同じ運行でも拘束時間の短縮が見られたり」
事務局高官「総じて業務効率が上がっています」
側近「効率が上がったという事は、両者の連携が取れているという事だな」
事務局高官「はい。事務局としては良い傾向と捉えております」ニコッ
側近「…。」チラッ
国王「うむ」
側近「この男という職員とナビシステムについては、今後も注意を怠るな」
側近「何か変化があればすぐに報告するように」
事務局高官「し、承知しました」
側近「行ってよいぞ」
事務局高官「し、失礼致します」ソソクサ
…バタンッ
…
側近「北西の村の生き残りだそうです」
国王「涙の欠片、か…」
側近「可能性はあります」
国王「うむ。今はまだ可能性の段階だ」
国王「しかし備えは常にしておかねばなるまい」
側近「…あれから20年、早いものですね」
国王「…。」ギリッ
…
ブロロロ…
ナビ『ん?あれ同僚ちゃんのカーゴちゃう?』
男「ホントだ、ちょっと声掛けていくか」
キキッ
ナビ『同僚ちゃんやっほー♪』フリフリ
ナビ『…って、あれ?』
男「同僚の姿が見えないな、配達中か?」
同僚ナビ『あら男さん、お疲れ様です』
ナビ『どーちゃんおつかれ!』ハイタッチ
同僚ナビ『はいはいお疲れ様です…ふふ』ハイタッチ
男「同僚は配達中か?」
同僚ナビ『いえ、今日は別行動なのですわ』フルフル
ナビ『べつこーどー??』
同僚ナビ『その気になれば私単体で運行する事も可能ですのよ』
男「そうか、あいつの頭ん中の道路についての情報を使ってって事か」
同僚ナビ『そういう事ですの』
同僚ナビ『ま、実際の積み下ろし作業は作業員の方にやって頂いてますが』
タッタッタッ…
作業員「お、お疲れ様でーす」ハァハァ
ナビ『おつかれちゃん!どーちゃんにこき使われてるんやなー?』ニヤニヤ
作業員「いやもうこのナビ…手加減ってもんを知らなくて…」ヘトヘト
同僚ナビ『情けないですわねーこの程度で』ジトッ
…
男「それで、同僚の奴は?」
同僚ナビ『事務局ですわ』
同僚ナビ『何でも新規事業の立ち上げメンバーに選ばれたとかで』
男「全然知らなかった、最近会ってなかったからなぁ」
ナビ『すごいやん!出世やん!』
同僚ナビ『…そう単純な話には思えないのですが』
男「そうなのか?」
同僚ナビ『何か気になるのです…男さんも話を聞いてみて下さいまし』
同僚ナビ『事務局に行けばいると思いますので』
男「分かったよ、お祝いの一つもしてやらなきゃだしな」
同僚ナビ『よろしくお願い致しますわ』
…
作業員「え!もう行くんすか!?」
同僚ナビ『ほら、ちゃっちゃと行きますわよ!』
作業員「うへぇ…」ゲンナリ
ブォン!ブロロロ…
男「あーぁ、大丈夫かなあの人」タラッ
ナビ『ホンマにドSやなどーちゃん…』
修道女「マッピングシステム?」
同僚「噂のwww新規事業www」
女「これは、この世界のありとあらゆる場所の地図情報を網羅して」
女「転移魔法と組み合わせる事で物流コストを大幅に削減する試みなの」
同僚「でもよーww物流コスト=俺たちの給料だぜ?」
同僚「自分で自分の首締めてる気がしないでもないんだがwwww」
女「短期的に見ればそうかも知れないわ、でも情勢は常に変化しているの」
女「同僚くんには、その優れた空間把握能力を活かして」
女「マッピングシステムの元となる、全世界の詳細な地図情報を構築してもらうわ」
同僚「世界をこの手にww熱いwww」
…
女「詠唱のスペシャリストである修道女さんにお越し頂いたってわけ」
修道女「す、スペシャリストだなんて私」アワアワ
女「ここに世界各地の地図を用意してあるわ」ドッサリ
同僚「おぅふww山のようwww」
女「これでも世界中を網羅するには全然足りていないの」
女「例えば人の手の及ばない高山や密林」
女「未発見の島なんかも出てくるでしょうし」
同僚「その情報いるww?そんなとこに荷物届けねぇだろwww」
女「いいから。そういった場所へは実際に行ってみて詳細な情報を集めてきてもらうわ」
女「察しが良くて助かるわ」
同僚「俺に伊◯忠敬になれとwww」
女「もちろん、修道女さんの負担にならない範囲でなら」
女「一緒に行ってもらっても構わないわ」ニコッ
修道女「え、ええぇぇ!??」
女「あくまで仕事に支障の出ない範囲で、ね?」ウインク
修道女「ど、同僚さんと…二人旅…///」
同僚「お前らほんっっっとに好きねーそういうのwwww」
同僚「まぁ良く分かんないけど、せっかくコンビ組むんだしwww」
同僚「よろしく頼むぜww」ニコッ
修道女「は、はいですっ!」ニコッ
…
カタカタ…カリカリ…
配車係「王立倉庫所属の50台を超えるカーゴ…」フゥ
配車係「毎日変わる仕事内容を考慮しながら、各車への仕事の割り振りをしつつ」
配車係「各ドライバーの労働時間や各種手当のバランス配分も考えて配車組みをしなければならない…」ウーム
配車係「誰かが勤務超過になる一方で、手当が少なく割に合わない誰かが出たりする事は極力避けなければいけませんからねぇ」
配車係「それらと並行して、車両トラブルや客先トラブルの対応など…」ハァ
配車係「行ったらすぐ積める!って聞いてた場所で実は1時間待ち!とかザラですからね!?」
配車係「1時間位…と思われるでしょうが」
配車係「1時間変われば結構違ってくるんですよ…」ウーム
…
配車係「なかなか骨の折れる作業なんですよ…」ハァ
配車係「なんて、独り言も増えてしまいますよね」ハハ
先輩「おはよーさん」ガチャ
配車係「あ、おはようございます」
フーッ…カチッピンポーン
配車係「今日は夜間便でしたね…と、23時30分です」
配車係「今日は特に過積載注意です」
先輩「はいよ」カキカキ
先輩「ん?そういうお前は夜勤ってわけでもないはずだが」
配車係「いやー配車組みが終わらなくて…」ハハ
…
配車係「ホントですよ!…同じ脳味噌を持ったパートナーがいたらどんなに楽か…」ハァ
配車係「あ、ナビシステムといえば男さん達はその後どうですか?」
先輩「再リンク後って事か?まぁ上手いことやってるみたいだな」
先輩「前にも増して息ピッタリ…ピッタリ過ぎる位にな」
配車係「ピッタリ過ぎる?」
先輩「あいつらな、最近会話が減ったんだと」
先輩「話さなくてもお互いの考えてる事が何となく分かるらしい」
配車係「なんだか熟年夫婦みたいですねそれ…」
…
配車係「その辺はばっちりですね」ペラッ
配車係「最近の男さん、勤務時間や燃費効率が目に見えて向上してるんです」
先輩「同じ運行内容で拘束時間が短縮したり燃費が良くなったりしてるって事は」
先輩「それだけあいつらの連携が取れてるって事だもんな」
配車係「このまま安定してくれればいいんですけどねー」
…
配車係「その為の配車係ですからね」ハハ
先輩「んじゃまぁ、行ってくるよ」フリフリ
配車係「はい!お気をつけてお願いします」ペコッ
配車係「と、もうひと頑張りだ」カタカタ
…
バサァッ!…
同僚「とりあえず王都周辺はこんな感じかwww」
修道女「すごい…こんなに細かい道の事まで把握しているんですね」
同僚「宅配ドライバーなめんなwwwそれに王都は俺の地元だしなwww」
修道女「王国周辺に関しては協会発行の地図でほぼ事足りますね」ペラッ
同僚「まぁ協会のカーゴが毎日走り回ってるわけだからなww」
修道女「同じ理屈で隣国やその周辺までなら…問題はその向こうですか」
同僚「大陸中央部とその東、いわゆる極東地域ってとこだなwww」
同僚「ここらは独自の文化が根付いていて王国(こっち)とはあんまり交易が盛んじゃないのよwww」
修道女「独自の文化ですか」
同僚「簡単に言うとクセがすごいwww」
…
修道女「この辺に関しては地図情報そのものがありませんね」
同僚「南の果てねwww噂じゃ精霊が暮らす不思議アイランドがあるとかないとかwwww」
修道女「せ、精霊ですか?」
同僚「そういうリアクションになるよなwww精霊ナビシステムじゃなくてガチの精霊らしいよwww」
修道女「じ、実在するんですかね」
同僚「分からんwwwでも未だに地図が作れない位だから人智の及ばない何かがいても不思議じゃねーわなwwww」
修道女「い、行ってみたいですね…」ゴクリッ
同僚「詠唱士としては気になる所だよなwww」
…
修道女「そ、そうですね!何事も一歩ずつですよね!」
同僚「おっけwwwそれじゃ早速行きますかwww」ガタッ
修道女「はい!最初の目的地は大陸中央部!平原地帯の…ここです!」ビシッ
[風の息吹よ 大地の鼓動よ]パァァァァ…
同僚「なんかダー◯の旅みたいwwww wまぁ実際にぶっ飛ばされるのは俺なんだがwww」
修道女「転移します!」ビリビリ
パァァァァ…バヒューーーーーン…
…
ゴゥンゴゥン…
男「と、いうわけで」
ナビ『どーゆーわけや』べしっ
男「同乗者だ」
同僚ナビ『おはようございます』
ナビ『おー!どーちゃんおはよーさん!』ハイタッチ
同僚ナビ『朝から元気ですわね』ハイタッチ
ナビ『今日はどしたん??』
同僚ナビ『同僚さんが例の新規事業にかかりきりでやる事がないのです』ハァ
同僚ナビ『今日は宅配もヒマそうでしたので、配車係さんに頼んで同乗させて頂きましたの』
男「たまには他の奴の仕事を見学するのも勉強になるんじゃないか?ってさ」
ナビ『そーゆーことね!どーちゃんなら大歓迎やで!』ニカッ
…
男「今日は西の街へ武器防具の搬入だ」
ナビ『最近多いなーこの運行』
男「軍と魔族の衝突がそれだけ増えてるって事なんだろうな」
男「それ自体は喜べる事じゃないが、軍備が整うことで傷付く人が減るのなら」
ナビ『ウチらの仕事も誰かの役に立ってるって事やもんな♪』
ナビ『うっし!ほんなら行きますかぁ』
男「あぁ、今日も頼むぞ」
ナビ『はいなぁ♪どーちゃんもよろしゅーね』ニコッ
同僚ナビ『勉強させて頂きますわ』
ブォン!ブロロロ…
…
ブロロロ…
男「…。」
ナビ『…。』
同僚ナビ『…。』
ナビ『…ん、はい』ポチッ
男「うん」
同僚ナビ『…。』
男「…。」
ナビ『…。』
同僚ナビ『…。』
男「…あ、あれ」
ナビ『はぃな』
同僚ナビ『…。』
男「…。」
ナビ『…。』
同僚ナビ『…あ、あの』
…
同僚ナビ『さっきからお二人、ほとんど会話してないですわね』
男「そうかな?」
同僚ナビ『なのにお互いの意図を正確に把握出来ていて、連携も完璧…』
同僚ナビ『見ていて少し気持ち悪い位ですわ』
ナビ『ひどいなーどーちゃん!』ケラケラ
同僚ナビ『気を悪くなさらないで下さいまし…でも一体どうやって会話なしで意思疎通を図っているんですの?』
男「んー何となく、かな?」
ナビ『なー。何となく分かってしまうねん、お互いの考えとぉ事』
同僚ナビ『何となく、ですか?』
…
ナビ『そーそー。で、この前の再リンクで更に絆が深まった的な?』ニコッ
同僚ナビ『まぁそれを言われれば…私と同僚さんとは全然違うもので驚いたのです』
ナビ『どーちゃん達はどんな感じなん?』
同僚ナビ『運行中ですか?んー同僚さんがあの調子ですからね』
同僚ナビ『カーゴの運転を含めて大まかな作業は同僚さんが行なって、私は配送時間の管理などのサポート的な役割ですわ』
男「分業制なんだな」
ナビ『なー!確かにウチらと全然違うかも』
同僚ナビ『そうですわね』
同僚ナビ『しかし配車係さんの仰るように、違う方の仕事ぶりを見るのも良い勉強になりますわ』
同僚ナビ『真似は出来そうにありませんが』クスッ
…
ビュォォォォォ…
同僚「さんみぃぃぃぃぃぃぃぃwww」
同僚「おい聞いてねぇぞww王国じゃもうコートもいらねぇってのにwwww」ガクガク
同僚「とりあえず目標地点はもうちょい北の方かwww」
ザッザッ
…
同僚「…ありゃここらで暮らしてる遊牧民じゃねぇかwwラッキーwww」
同僚「すんませーんwww」ブンブン
遊牧民「何だお前そんな薄着で、旅の者か?」
遊牧民「…ん?その紋章は…」ユビサシ
同僚「へ?あぁ協会員証(パス)かww」
遊牧民「という事は、お前さん西の王国の者か」
同僚「そーなんすよwwwいや話が早くて助かりますぅwww」ヘラヘラ
同僚「実はですねぇwww」
かくかくしかじか
…
遊牧民「そうか。西の王国の者とあれば無碍には出来ん」
遊牧民「ついて来い、案内する」
同僚「あざーっすwwwお願いしますwww」
ザッザッ…
…
カリカリ…
修道女「ふぅ、とりあえず王国周辺の地図情報の編纂はこんな所ですか」パサッ
修道女「でも…仮に世界中の地図情報を網羅出来たとして」
修道女「実際に品物を転移させるにはどうしたら良いのでしょう…?」
修道女「毎回私が転移魔法を使うわけにもいかないでしょうし」
修道女「女さんは転移システムと仰っていましたが」
修道女「そんなものを動かすのに一体どれだけ膨大な魔力が必要なのか…見当もつきません」ウーム
修道女「地図でいう北の果て」トントン
修道女「存在する全てが凍りつく極寒の地」
修道女「世界中を、と言うならここもその範囲に入るのでしょうか…」
修道女「こことも交易を…?まさかね」
…
女「国王陛下が?」キョトン
事務局高官「僕も驚いたよ、まさか一介のドライバーとナビの話で陛下に呼び出されるとはね」
女「同感です…それで、陛下は何と?」
事務局高官「とりあえず男くんとナビシステムの動向から目を離すな、との事だ」
事務局高官「口ぶりからすると、男くんとナビシステムの親和性…シンクロ率とでも言うか」
事務局高官「それが高まっている事を気にされているようだったな」
…
女「再リンク以後、彼らの会話が極端に減っていると聞いています」
事務局高官「減ってる?増えてるんじゃなくて?」
女「もう言葉を交わさなくても大抵の事は理解し合えるようです」
事務局高官「それは凄いな、僕も女房とそんな風になれるといいんだが」ハハ
女「…それはさて置き、親和性が高まる事が何か問題になり得るのでしょうか?」
女「実際に男くんの業務効率は向上していますし、メリットしかない気がしますが」
…
事務局高官「ただ気にしているのは確かなんだろうけど」
女「一体何なんでしょう…」
事務局高官「今の段階では何とも。まぁ我々に出来る事はそう多くない」
事務局高官「とりあえず女くんも、彼らについて何か変化があれば教えて下さいね」
女「分かりました」
ガチャ カツカツカツ…
女「男くんとナビちゃんの親和性…」
女「さっぱり分からないわ、陛下は何を懸念しているの…?」
…
ゴゥンゴゥン…
同僚ナビ『今日はありがとうございました』ペコッ
男「お疲れ様」
ナビ『どーちゃんおつかれ♪まぁウチらの仲の良さは是非とも覚えて帰ってや!』ニカッ
同僚ナビ『またあなたって人は…あ、そういえば男さん』
同僚ナビ『同僚さんの所へは行かれましたの?』
男「それがまだなんだ、何ならこれから事務局に顔を出そうと思っててさ」
同僚ナビ『あらそうなんですの?それなら私も一緒に連れて行って下さいませんか?』
ナビ『お!それならウチも行くー?』
男「おい遊びに行くんじゃないんだぞ?…でもまぁ同僚も喜ぶかもな」
ナビ『せやろ?なー連れてってー??』
男「分かったよ、運行報告上げるついでに配車係さんに声掛けて行こう」
ナビ『やったー!』キャッキャ
同僚ナビ『お手数お掛けしますわ』
男「いいって。それじゃ行こうか」ピッ
[運行データヲ記録シテイマス…]
…
コンコン ガチャ
男「同僚お疲れ様…って、あれ?」
同僚ナビ『あら、あなたは』
ナビ『噂のたゆんたゆんハニー!』
修道女「み、皆さんお久しぶりです」ペコッ
…
男「新規事業…なかなか壮大なスケールなんだな」
ナビ『同僚ちゃん大抜擢やん!』
同僚ナビ『確かに、彼の力が認められたと思えば』
同僚ナビ『私としても鼻が高いですわ』
男「修道女さんも、今回は顧問として呼ばれてるんですね」
修道女「い、今の所同僚さんの編纂作業のお手伝いしかしてませんけど」アハ
同僚ナビ『あなたには専門の分野があるのですから』
同僚ナビ『いずれ存分に力を発揮されるのでしょう』
ナビ『おねーさんカッコえぇなー!』
…
修道女「はい、今ちょうど地図でいうこの辺りに」トントン
男「この辺…平原地帯か」
ナビ『こんなだだっ広いとこになんかあんのー?』
修道女「はい。大陸中央部の北のこの辺りだけ」グリグリ
修道女「地図情報がすっぽり抜け落ちているんです」
同僚ナビ『今ペンで囲った周辺はどうなんですの?』
修道女「あまり詳しくはないですが、少なくとも山や河などの情報は有ります」
男「そこだけ地図から抜け落ちてる…普通に考えれば…」ムム
ナビ『なにー?』
…
修道女「」
ナビ『あー武装勢力とか?』
同僚ナビ『ア◯カイダとかイ◯ラム国みたいな感じですわね』
修道女「」
ナビ『まーでも新規事業!って言うてババーンとやってんねから』
男「そうだよな」
同僚ナビ『当然、それなりの装備でご出立したのでしょうね』
男・ナビ・どー「ねー」
修道女「あばばばば」ブクブク
男「ち、ちょっと修道女さん!」
…
ビュォォォォォ…
遊牧民「西の王国の軍隊には、昔に世話になったんだ」
遊牧民「今は鞍替えして運送屋なんぞやってるって話は聞いていたが」
爺「本当だったんだな」
同僚「協会員証(パス)がこんな所で役に立つとはwww」
同僚「持ってて良かったwww」
同僚「ん?しかしこんな遠い所まで王国の軍が派兵されたなんて聞いた事ないぞwww?」
遊牧民「この辺りの人間なら誰でも知ってる事さ」
遊牧民「20年前のあの時、文字通り焼け野原となったこの地に」
遊牧民「王国の軍がいち早く救援に駆けつけてくれたんだ」
遊牧民「俺達は受けた恩を忘れないのさ」
同僚「素敵wwwここ来て良かったwww」
遊牧民「それ以外も、な」ギロリッ
遊牧民「こんな暮らしをしている我々だが、一応国家という共同体を構えている」
遊牧民「そして我々の国家は、西の王国とは交易を結ばない事になっている」
同僚「何でよーwwwそんなに恩義を感じてくれてるのにwww」
遊牧民「…行けば分かるさ」ギリッ
…
遊牧民「あれが、お前さんの言ってた場所…」
遊牧民「勇者の落涙だ」
…
先輩「女ー?いるかー?」コンコンッ
シーン…
先輩「あれ、出掛けてるのか」
スタスタ
先輩「あ、なぁ君」
事務局職員「は、はい?」
先輩「女君どこへ行ったか知ってるかな?」
先輩「ちょっとナビシステムの事で聞きたい事があってさー」
事務局職員「女さんですか?」
事務局職員「女さんなら港湾倉庫へ管理簿を取りに行って、そのまま直帰の予定ですが」
先輩「あ、そーなんだー!」
…
先輩「うーんそうだね」
先輩「じゃ"君の瞳に乾杯"とでも伝えておいてくれ」
事務局職員「え、えぇ!?」
先輩「ちゃんと気持ちを込めて言うんだぞ?」
先輩「なんだかんだ女性はそういうのに弱いものさ」ウインク
先輩「ほいじゃ失礼、ありがとねー」ヒラヒラ
事務局職員「な、なんだったんだ…」
…
先輩「しかも協会の書類を持って直帰って…んな訳あるか」
先輩「あいつ…何してるんだ?」
…
[BAR REQUIEM]
カランッ…
女「わけが分からないわ」クイッ
先輩「国王陛下のお出ましとは穏やかじゃないな」グイッ
女「男くんとナビちゃんとの親和性…」
女「それが向上すると何かが起こる…?」
女「ダメ…足りないピースが多過ぎる」ウーン
先輩「そもそもナビシステムって何なんだろうな」カランッ
先輩「あ、俺アードベッグおかわりね」
先輩「君は?」
女「…マティーニ、うんとドライで」
先輩「あらら…」
…
女「…ナビシステムが本格的に運用され始めたのは約15年前」クイッ
女「噂では、私達の故郷である北西の村での事故を受けて開発が始まったらしいんだけど」
先輩「20年前のあれか」
先輩「それについてなら、俺も少し調べてみたんだが」
女「何か分かったの!?」ガタッ
先輩「まぁ落ち着けって…どうやら20年前のあの時、被害を受けたのは北西の村だけじゃないらしいんだ」
先輩「公式な記録には残っていないが世界各地…とりわけ大陸中央部での被害が甚大だったらしい」
女「大陸中央部?」
…
女「消えた?破壊されたのではなくて?」
先輩「俺も昔のよしみで軍の奴に聞いただけなんだけどな」
女「協会(うち)に来る前は軍にいたんですっけね」
先輩「で、その消失した場所…今でも地図には載ってないらしいが」
先輩「地元では"勇者の落涙"と呼ばれてるらしい」
女「勇者の落涙…聞いた事もないわ」
先輩「…と、いう話を伝えに昨晩君のオフィスへ行ったんだが」
先輩「タイミングが悪かったらしい」
女「昨晩?…あぁ、事務局の高官に急に呼び出されてね」
女「男くんとナビシステムの事、くれぐれも頼むぞって念を押されちゃった」クス
先輩「…そうか」
先輩「恐らく勇者と魔王の大規模な戦闘だとは思うが」
女「そこでの被害を受けて、魔法石を用いたナビシステムの開発が始まった」
先輩「加えて言うなら、当時の陸軍が解体されて今の物流協会に再編成されたのもその頃だ」
女「…少しずつピースが揃いつつあるけど、まだ足りないわね」グイーッ
先輩「おいおい大丈夫か?」
女「大丈夫よ…ちょっと探究心に火がついてるだけ」フフッ
先輩「…そうなると止まらないからな、君は」
女「よく分かってるじゃない」ニコッ
先輩「…。」ハァ
先輩「そんなに気になるなら当事者に聞いてみればどうだ?」
女「当事者?…あっ」
…
遊牧民「この丘の向こうだ」
遊牧民「歩いてすぐだから見て来るといい。俺はここで待ってる」
同僚「なんすかwwここまで来て一緒に行かないんすかwww」
遊牧民「あそこは気が滅入る」
同僚「なんだよつれねーなwww了解っすwじゃ見てきますよっとww」
ザッザッザッ…
遊牧民「…。」ジッ
…
…オォォォォォオォォォ…
同僚「でけぇぇぇwww」
同僚「小高い丘を登った先がクレーターみたいになっててw」
同僚「直径は…そーねー東◯ドーム位かしらんwww?」
同僚「で?その中は…www」ノゾキー
同僚「っ!?」ゾクッ
同僚「は、はい…!?」
…
遊牧民「戻ったか」
同僚「…暗くて見えないとかってんじゃない」
同僚「クレーターの中の空間そのものがまるで切り取られたみたいに」
同僚「存在してない…」
同僚「なんだありゃ…何が起こったらこんな事になるんだ??」ガタガタ
遊牧民「…20年前のあの日、この地で勇者と魔王の大規模な戦闘があった」
遊牧民「恐らく、先代の勇者はそこで決着をつけるつもりだったのだろう」
遊牧民「持てる力の全てを出し尽くし、しかし魔王には深手を負わせたものの倒す事は出来ず」
遊牧民「その時の勇者の攻撃の残滓が、彼の失意の涙と共にこの地を抉った…」
遊牧民「そう言われている」
同僚「伝聞かいwww」
遊牧民「空間が消し飛ぶ程のエネルギーだぞ?近くで見物なぞ出来るわけなかろう」
同僚「それもそうかwww」
…
遊牧民「だがそれでも、少なくない数の同胞が巻き込まれて土地と共に消滅した」
同僚「し、消滅…!?」ギョッ
遊牧民「…いち早く駆けつけてくれた王国軍には感謝している」
遊牧民「勇者達の事も、仕方なかったと一定の理解はしている」
遊牧民「だが、結果として我々が同胞を…家族を失った事は確かだ」
同僚「…。」
遊牧民「勇者と、彼を擁立した王国…」
遊牧民「我々が王国と交易を結ばないのはそういった理由だ」
…
遊牧民「気に病むな、お前さんを責めるつもりはない」肩ポンッ
遊牧民「かつてそういった歴史があった、という話だ」
遊牧民「そして、その時の残滓…涙の欠片が」
遊牧民「ここから世界各地に飛び散ったのだ」
同僚「涙の欠片?じゃあそれが…」
爺「王国の方でも被害があったんじゃないか?」
同僚「えぇ、俺の同期の奴の故郷に」
同僚「…勇者の落涙、か」ジッ
…オォォォォォオォォォ…
…
ゴゥンゴゥン…
ナビ『えらい時間にえらい場所やな』
男「今日の運行は長丁場だからなー」
ナビ『えーと今日の積み地は…水の街?』ピラッ
男「街というか島だな」
男「街中に運河が張り巡らされているんだよ」
ナビ『運河って川?そんなとこカーゴで入っていけるん??』
男「いや、島内は車両通行禁止だ」
男「陸地から橋を渡った街の入り口近くに倉庫があって、そこで積むんだよ」
ブォン!ブロロロ…
…
ブロロロ…キキッ
ナビ『すごーい!海の上に橋が架かっとぉー!!』
男「橋の全長は約10km、さすがに街の様子は見えないな」
ナビ『海の向こうへ続く橋…ロマンチックやけどちびっと怖いかも』ブルッ
男「…帰って来れなかったらどうする?」ニヤァ
ナビ『いやぁぁやめてぇぇ!!』ブンブン
男「冗談だよ」ケラケラ
男「それじゃ行こうか」
ナビ『うぅ…今日の男ちゃんいじめっ子やぁ…発進しますぅ』ウルウル
ブォン!ブロロロ…
…
ナビ『海の上を…飛んでるみたいや』
男「ホントだな、走ってるというより飛んでる感じだ」
ナビ『鳥や!ウチは鳥になったんや…!』トリー
男「おーい帰ってこーい」
ブロロロ…
…
ブロロロ…キキッ
ナビ『とうちゃーく!』
男「港から6時間、なかなかの距離だったな…んー」ノビーッ
ナビ『男ちゃんおつかれさま!』
男「ナビもな。お疲れ様」ポンポン
ナビ『ん。へへっ♪』ニコッ
男「さて、早速荷物を積むか」
倉庫職員「おーいこっちこっち!」テマネキ
倉庫職員「バックで入って来ておくれー!」
男「了解でーす!」
ピーッ ピーッピーッ
…
パカッ…キラキラッ
ナビ『わぁ…すっっげー!!!』キャッキャ
男「クリスタル細工といっても色のバリエーションが豊富なんですね」
倉庫職員「豊かな色味もここらのクリスタル細工の特徴なのさ」スッ
倉庫職員「ちょっと持ってみるかい?」ズイッ
男「え、いいんですか?」
倉庫職員「どの道王国までアンタに運んでもらうんだ」
倉庫職員「どんなモンか知っておいてもらって損はない、そうだろ?」ニコッ
男「そ、それじゃ失礼して…」ソーッ
ナビ『お、男ちゃん落としたアカンで!フリやないで!!』ハラハラ
…
倉庫職員「クリスタルを薄く仕上げるのが職人の腕の見せ所なのさ」フフン
ナビ『そっか、薄ければその分軽くなるわけやな!』
倉庫職員「まぁ混ぜる色味によっても多少変わるんだけどね」
倉庫職員「どうだ、すごいだろ」ニカッ
男「す、すごいです」コクコク
ナビ『えぇなぁ…めっっちゃ綺麗…』ウットリ
倉庫職員「なんだいお嬢ちゃん、すっかり気に入ったみたいだねぇ!」
ナビ『こんなん女の子やったら誰でも惚れてまうって!』
倉庫職員「分かるよ!アタシも歳は食ったが心は女の子だからね!」ハハッ
倉庫職員「よし!ちょいとお待ち!」ゴソゴソ
男「?」
…
倉庫職員「クリスタル製の鈴だよ、お土産に持っていきな」チリンッ
男「えっ!いいんですか!?」
倉庫職員「可愛いお嬢さんには優しくってのがここらのやり方なのさ」ウインク
ナビ『うぉぉーマジかぃー!職員さんありがとぉー!!!』
チリンッ…
…
ナビ『伝票印字中ー』ジジジ ペリッ
男「じゃあ確かにお預かりしました」
倉庫職員「頼んだよ!」
倉庫職員「そういやそろそろランチタイムだね、街で食べてくんだろ?」
男「出来ればそうしたいな、と」
ナビ『ご飯っご飯♪』ウキウキ
倉庫職員「だったらすぐそこの桟橋からヴァポレットに乗って行くといいね」
倉庫職員「カーゴは倉庫の脇に停めてって構わないから」
男「色々ありがとうございます」ペコッ
ナビ『ホンマにありがとー!!』
倉庫職員「なんて事ないさ!水の街へようこそってね!」ニカッ
…
男「桟橋って事は舟か」
魔法石(ナビ)『職員さんの言ってはった…ば、ばぽ…』
男「ヴァポレットだったかな」
スーッ スーッ… ザブンッ
船長「あいお待ちどうさん」ゴトッ
男「すごい…手漕ぎなのか」
魔法石(ナビ)『カーゴがそこら中走り回っとぉ時代に…軽くカルチャーショックや』
…
男「座って乗って大人8人位が定員かな」
男「なるほど、手漕ぎだから本当に波の音しか聞こえない」
男「それと…」
魔法石(ナビ)『♪』チリンチリンッ
男「その鈴すっかりお気に入りだな」
魔法石(ナビ)『風に揺られる度にえぇ音が…ほんで可愛いし』ニコニコ
男「良かったな」ニコッ
魔法石(ナビ)『シップとは全然違うけど、こういうお舟もえぇな!ふぜーがあって!』ウキウキ
…
スーッ スーッ… ザブンッ
船長「はいお疲れさん」ゴトッ
男「ありがとうございました」ストッ
魔法石(ナビ)『船長さんありがとー!』チリンッ
男「さて、何を食べようかなー」
チョイチョイ
男「ん?誰か引っ張ったか?」キョロキョロ
魔法石(ナビ)『男ちゃん、下や!』
男「下?」ミオロシー
仮面娘「」チョイチョイ
男「のわっ!!」ビクビクッ
…
仮面娘「お前に言われたくないぞ石っころ」
魔法石(ナビ)『な、なんやと!?』ムカッ
男「まぁまぁ、迷子かも知れない」シャガミ
男「どうしたの?家族とはぐれちゃったのかな?」ニコニコ
仮面娘「お前、光を見たな?」
…
仮面娘「」クルッ
タタンッ… クルクルッ
仮面娘「嘆きの夜に星粒降った」♪
仮面娘「星の礫が島を屠った」♪
男「…な、なにを」
仮面娘「涙の欠片は揺るがぬ力」♪
仮面娘「その身を救うか」♪
仮面娘「食われて死ぬか」♪
仮面娘「どちらに転ぶか心次第」♪
クルッ タタタタッ…
…
魔法石(ナビ)『しっかしなんやあのチビっ子!ウチを石っころ呼ばわりしてからに!』ムキーッ
男「…。」ポカーン
魔法石(ナビ)『おーい男ちゃーん?』チリンチリンッ
男「光…嘆きの夜…」
男「涙の欠片…?」
…
男「…って事があったんですよ」
倉庫職員「あぁ嘆きの夜ね、20年前の」
男「20年前!?それって…!」
倉庫職員「ここから遥か北の大陸で勇者と魔王の戦いがあって、流れ弾が街に落ちたんだって」
倉庫職員「幸いこの街は運河や水路が張り巡らされてるから、大きな火災にはならなかったんだけど」
倉庫職員「それでも結構な人数が死んじまったもんだから、街の向こうの小島…まぁ本当に小さな島なんだけど」
倉庫職員「そこを丸ごと墓地にして埋葬したんだよ」
魔法石(ナビ)『島を丸ごと墓地に!?』
男「そうだったんですか…ちょうど同じ頃です、俺の故郷が同じような目に会ったのも」
倉庫職員「そうかい…まぁその頃は今より魔族の数も多かったって言うしねぇ」
…
倉庫職員「涙の欠片?そん時降ってきた流れ弾の事かねぇ」
倉庫職員「それは聞いた事ないねぇ、すまないけど」
男「いえいえ、色々とありがとうございます」ペコッ
倉庫職員「いいんだよ!」ニカッ
倉庫職員「あ、それとね」
…
倉庫職員「兄ちゃんさっき女の子って言ってたけど…ありゃ80過ぎのお婆さんだよ」
男「いいっ!??」
魔法石(ナビ)『う、嘘やろ…』ガビーン
倉庫職員「20年前に嘆きの夜に体験した事を、街を訪れる人に歌って聞かせて回ってるのさ」
倉庫職員「ま、20年前でも60過ぎだからやっぱりお婆さんなんだけどねぇ」ゲラゲラ
男「信じられん…てっきり迷子か何かだと」アゼン
魔法石(ナビ)『ホンマや…不思議な街やなぁココ…』ボーゼン
…
…
親父「女!久しぶりだな!」
女「すみません、全然顔も出せずに」
親父「なぁに気にすんな!若い奴が忙しいのはいい事だ」
女「おじ様も里の皆様も、お元気そうで安心しましたわ」
親父「ハハッ。あんなもんでくたばる程落ちぶれちゃいねぇよ」
親父「俺も、里の連中もな」ガハハ
親父「しかし珍しいじゃねぇか、事務局勤めだと運行には出ないんだろ?」スッ…シュボッ!
女「えぇ基本的には。今日はおじ様や里の皆様のご様子を伺いに」
親父「…って訳じゃねぇのは顔を見りゃ分かるぜ?」スゥ…スパァァ
女「…流石ですわ」
…
女「…おじ様のその言葉、どんな時も私の心の支えです」ニコッ
親父「それで、今日はどうした?彼氏でも出来たか!」ケラケラ
女「ち、違いますわ!」
女「…それはまた改めて」ボソッ
親父「お、おいマジか…」タジッ
女「コホンッ!…今日はどちらかと言うと、おじ様のお話を伺いに来ました」
親父「俺の?」
女「おじ様…もとい、先代勇者一行の一人」
女「伝説の剣士様のお話を、です」
親父「…。」スパァァ…
…
修道女「…。」ウツラウツラ
…バシュゥゥ!
修道女「っ!!」ビクッ
修道女「ど、同僚さん!?」
同僚「ただいまちゃーんwww」
修道女「お、おかえりなさい!」
同僚「いやぁ転移魔法って結構酔うのねコレwww」フラッ
修道女「ご、ご無事ですか!?」アタフタ
同僚「どうにかなwww運良く地元の人に案内してもらえたからよww」
修道女「じ、地元の人…!?」ビクッ
修道女「だだだ大丈夫でしたか!?首と胴体ちゃんと繋がってますか!??」グイグイ
同僚「何を縁起でもねぇwwwちょwwいってぇぇ引っ張るんじゃねぇぇwww」ジタバタ
…
同僚「…現実より、な」
修道女「?」
同僚「さてw地図ぷりーずww」
修道女「は、はい!」ババッ
修道女「今回調査して来られたのは地図上でいうここ、大陸中央部の北端ですね」ツンツン
同僚「そうそうここねwwいやーありゃ地図には表せねぇよwww」
同僚「だって存在してねぇんだもんwww予想の斜め上過ぎwww」ケラケラ
修道女「そ、存在していない…?」ポカーン
同僚「まーそういうリアクションになるよねwww分かるーwww」
同僚「とりあえず勇者泣き過ぎィ!っていう話よwwwww」
修道女「何が何だかさっぱりです…」
…
同僚「とりあえず今日もういいべwww飲んじゃうべwww繰り出しちゃうべwww」
修道女「し、しょうがないですねー!」
修道女「なんて。ホントにお疲れ様です」ニコッ
…
サァァァァァ…
男「ダメみたいだな」ガチャ
ナビ『シップ動かんてー?』
男「あぁ、出航まで3時間は掛かるみたいだ」
ナビ『さ、3時間!?』
ピピッ
男「お疲れ様です男です、えぇそうみたいです、シップの故障で」
男「分かりました、はい了解です」カチャ
…
男「どの道待つしかないってさ」
ナビ『あちゃー』
男「その代わり、明日は仕事が少ないから休みにしてもらっちゃったよ」
ナビ『そっか、ならまぁえぇか』
男「のんびり待つとしよう」フフッ
サァァァァァ…
…
ナビ『…。』チョコン
ナビ『(男ちゃんは時々本を読む)』
ナビ『(ウチは大体、男ちゃんの肩に乗っかって一緒に読む)』
ナビ『(おしゃべりでけへんのは寂しいけど)』
ナビ『(一緒に読みながら、男ちゃんの横顔をじっくり見られるこの時間が)』
ナビ『(案外好きやったりする)』ニヘ
男「…。」ペラッ
ナビ『(男ちゃん睫毛なが…)あっ』
…
ナビ『あ、ごめん』
男「ううん、どした?」パタン
ナビ『や、男ちゃん睫毛長いなーって』
男「えーそうか?」
ナビ『うん長い。でな?何で今まで気付かんかってんやろーって』
ナビ『…あ、眼鏡か。って』
男「そっか、仕事中はいつも眼鏡だもんな」スチャ
ナビ『おー眼鏡掛けるといつもの男ちゃんやー』
男「ははっそんなに変わるか?」
ナビ『うん変わる。なんや眼鏡してないと…エ口い』
男「ぶっ!なんだよそれ」アハハ
ナビ『いやマジやて。あれは良くない』ウーム
男「良くないって…ダメって事なのか?」
ナビ『逆や!エ口くて危ないねん』
男「…わけ分かんないなー」フフッ
…
男「平気だよ」
ナビ『ってか、一緒に読んでたけど』
ナビ『せつないお話やなぁ』
男「そうか?…うん、そうかもな」
サァァァァァ…
ナビ『雨、止まんね』
男「そうだな…」
…
ペラッ
男「…。」
ナビ『…。』ストッ
男「(ナビとの会話が減ったのは、話さなくても分かり合える事が増えたのも確かにある)」
男「(でも、多分それだけじゃない)」ペラッ
男「(ナビは間違いなく、世界中の誰よりも俺の事を理解してくれている存在だ)」
男「(だけど、俺はどうだろう?)」
男「(俺は彼女の事をどれ程理解しているのだろう?)」
…
男「…おい、見えちゃうぞ」
ナビ『!』ババッ
ナビ『み、見た!?』
男「いや、惜しくも」
ナビ『っ…お、惜しいんかいな』カァァッ
男「ってかそれ、その、中までちゃんと」
ナビ『あ、当たり前やろ!ノーパンで居ろっちゅうんか!?』
男「いやそうじゃなくて…くふふっまぁいいや」ケラケラ
ナビ『なんや笑ろてるし…』ジトーッ
…
男「(彼女は…俺の事…)」
サァァァァァ…
…
ブロロロ…
男「んー今日の運行もようやく終わりかぁ…んー」ノビーッ
ナビ『今回は長旅やったなぁ…でも色んな事あって楽しかったわぁ♪』
男「そうだな、素敵なお土産も貰えたし」チリンッ
ナビ『ロリっ子みたいなおばあちゃんに会ぅたり』クスッ
男「あれには驚いたな」クスクス
ナビ『その後入ったお店で食べてたん何やったっけ?』
男「イカ墨スパゲティか、あれにも驚いたな!美味しかったけど」
ナビ『男ちゃん口の周りも中も真っ黒やねんもん!ゾンビなったか思ったわ!』ゲラゲラ
男「鏡見て自分でも思ったよ」ハハッ
…
男「ん?」
ナビ『…いつまでもさ。こうしておれたらえぇな』
男「あぁ、そうだな」
ナビ『…。』ズキン
男「いつもありがとな、お前とのコンビは本当に仕事がやりやすいよ」ポンポン
ナビ『え、えへへ…せやろ?』ニコッ
男「本当にいつまでもこうしてやって行けたらいいな」
ナビ『せやな…』
ナビ『…。』
ナビ『…あんな?男ちゃん』
男「?」
ナビ『…好きやで』ボソッ
…
ナビ『最近な?ズキズキすんねん。』
同僚ナビ『ズキズキ?システムに不具合でも?』
ナビ『そうなんかなー』
同僚ナビ『どんな時に症状が出ますの?それによってはまたメンテナンスして頂いた方が…』
ナビ『うんとね、男ちゃんの事を考えとぉ時。』
同僚ナビ『男さん?』
ナビ『うん、男ちゃんの事好きやなーって思っとぉ時。』
ナビ『でも、それが上手い事伝わらへんなーって時。』
ナビ『…ホンマは伝わったアカンねやろな、って思う時。』
ナビ『なんでウチ生身の女の子じゃないねやろ、な、って時、とか。』ウルッ
同僚ナビ『本当に…あなたって人は』
ナビ『人…って言うてくれんのどーちゃんだけやで。』ヘラ
ナビ『だって人間ちゃうもん。ウチら』
同僚ナビ『…よろしいですか?』フゥ
…
同僚ナビ『しかし、例え誰かを元にした存在であっても』
同僚ナビ『私達がそれぞれ独自の"心"を持っている事は紛れも無い事実ですわ』
ナビ『こころ…』
同僚ナビ『そうです。私達はそれぞれ固有の心を持つ存在』
同僚ナビ『それがある限り、私達は少なくとも"限りなく人に近い存在"と定義されても間違いではない…』
同僚ナビ『と、私は考えていますが』
同僚ナビ『如何ですか?』
ナビ『限りなく人に近い存在かぁ…』
同僚ナビ『あなたの気持ち…恐らくは恋心と言うのでしょう』
同僚ナビ『それが本当の意味で叶うかどうか、私には分かりかねます』
同僚ナビ『ですが、少なくともそういう気持ちを抱く事それ自体は』
同僚ナビ『誰にも否定されるべきではないと思いますよ?』ニコッ
ナビ『どーちゃん…』ウルウル
ナビ『じ、じゃあ…えぇんかな?』
ナビ『ウチは男ちゃんのこと好きでいてえぇんかなぁ??』
…
同僚ナビ『私達に"心"がある何よりの証左でしょうからね』
ナビ『そ、そっかぁ…!』
ナビ『ウチ、男ちゃんのこと好きでいてえぇんや!』パァッ
同僚ナビ『…無責任な事は言えませんが』
同僚ナビ『友人として、あなたが幸福になれる未来が訪れる事を』
同僚ナビ『私は願っていますわ』ニコッ
ナビ『どーちゃぁぁん…ありがとぉ』ウルウル
…
配車係「(ナビちゃん達にまで"いないもの"扱いされる僕の存在って…)」ハァ
配車係「(でも…ナビシステムの"心")」
配車係「(それが、人間のものに限りなく近づいている)」
配車係「(陛下の懸念されている事って…この事なのか?)」
ワーワー…ワイワイ…
親父「ここのガキ共はホントにタフだ」
親父「あんな事故があったのに、こうして元気に遊び回ってやがる」シュボッ…スゥゥ
女「子供達の笑顔を見るとホッとしますね」
親父「そうだな。同時に、何とかしてその笑顔を守ってやらなきゃと思う」
親父「…普通ってな、いいもんだ」スパァー
…
親父「…。」
女「勇者の落涙という場所についての噂を聞きました」
女「20年前、その場所は先代勇者と魔王の戦闘によって土地が消失したそうですね」
親父「…。」
女「加えて、先日男くんとナビシステムの関係について、国王陛下から事務局へ進言がありました」
女「一介のドライバーに対して国王陛下が直々に、です」
女「陛下は間接的ではありますが、彼らの親和性が高まっていく事を危惧されているような口ぶりでした」
女「勇者の落涙と、その直後から始まったナビシステムの開発」
女「軍の解体と再編成」
女「陛下が危惧されている、人と魔法石の接近」
女「これらは全て関連しているように私は思うのです」
女「そしてそこには、何かが隠されているように思えてならないのです」
女「…その何かは、ひいては男くんの身に起こるかも知れない何かを示唆しているのではないか、と」
…
親父「女は昔から知識欲が半端なかったよな」ニコ
女「…そうでしたか?」
親父「そうとも。他の子供が玩具やなんかを欲しがる中で」
親父「お前はいつも新しい本を欲しがった」
親父「今のお前を見てると、あん時沢山本を読ませてやれて本当に良かったと思うよ」
親父「その知識欲が今のお前を作ってるんだからな」ニカッ
女「感謝しています」ニコッ
親父「…。」シュボッ スゥ…
…
親父「そうとも限らねぇと俺は思う」
親父「やってしまった事、それも取り返しのつかない事を…」
親父「そういう後悔はいつまで経っても消えやしねぇんだ」
親父「女ならそれが分かるだろう?」
親父「お前はあの時、男が閉じ込められた火事場に助けに入れなかった」
女「っ…。」
親父「お前はその事を悔やんでいるようだが、もしあの時お前がそこに飛び込んでいたら」
親父「お前は死んでたかも知れない」
女「…っでも!それは!」
親父「俺はお前を連れて逃げてくれた村の奴に今でも感謝してるよ」グシグシ
女「おじ様…」
…
親父「まぁお前のことだ、俺が言わなくてもいずれ答えに辿り着いちまうんだろうが」
親父「今はまだその時じゃねぇよ」
女「おじ様!それはどういう」
親父「よく調べちゃいるが、まだピースが足りてねぇな」
親父「"もうすこしがんばりましょう"ってとこだ」ガハハ
女「…。」
親父「それにな、話の順序が違うのさ」
女「順序?」
親父「男の奴に伝えてくれ、たまには剣術の稽古に来やがれ!ってな」
親父「そろそろ、あのすっとぼけた顔に喝入れてやらなきゃならねぇ」ガハハ
…
ワイワイ…ガヤガヤ…
<乾杯っ!カチーンッ
同僚「ぷはーwうめーwww」
修道女「ふふっ。一仕事終えた後の一杯は」
同僚「それなwww最高wwww」ニカッ
修道女「いつものREQUIEMも素敵ですけど、こういう気取らないお店もいいですねー」キョロキョロ
同僚「だろwwwここのフィッシュフライがまた美味いんだぜwww」
同僚「ちょっと待ってろwww」ガタンッ
…
同僚「おまたせちゃんwwwほら冷めないうちに食べなwww」ドンッ
修道女「わ!いただきます!」ハフハフ
修道女「んー美味しいー!スイートチリソースがまた合いますねぇ!」
同僚「分かるよその表情wwwどれw俺もいただきますwww」パクッ
同僚「エールが進むこと進むことwww」ゴクゴク
…
同僚「すんごいわよホントww空間が無いってwwわけわかめwww」
修道女「でも、それ程の大きな爆発の渦中にいて」モグモグ
修道女「先代勇者様はどうなっちゃったんでしょうか?」
同僚「さすがに死んじまったんじゃねーのかwww?泣き疲れてwww」
修道女「またすぐ茶化すんだから…」
同僚「そもそもよwwいくら勇者とは言え空間を消し飛ばす程のエネルギーをぶちかますなんて可能なわけww?」パクッ
修道女「んーさすがに独力では不可能でしょうねー」
…
修道女「そういった何かと勇者様の力が反応して、爆発を起こした…」
修道女「そう考えるのが自然ですね…ラス1もーらい」ヒョイ パクッ
同僚「あっww」
修道女「んーおいひー」もぐもぐ
同僚「ちょw慈愛の心はどこ行ったww」
修道女「美味しいものは別ですー」ニシシ
…
修道女「何ですか?」ゴク
同僚「いやwその魔法石との反応が偶発的なモンだったとしたらよww?」
同僚「それって事故だよな?」
修道女「…!そうかも知れませんね」
同僚「魔王に本気と書いてマジの一撃を叩き込もうとしたらw」
同僚「偶然ビッグな魔法石と反応しちゃってドカーーンwwwて事だろww?」
同僚「先代勇者まじ不憫wwww」
修道女「今の仮説が正しいとしたら、王国はその事実を隠してるってことになりますよね?」
修道女「もしそうなら、冗談抜きで勇者様が不憫過ぎます…」
同僚「そしてその爆発に巻き込まれた奴らもな…」ギリッ
…
ガラガラッ
同僚「ふぁーww美味かったww」
修道女「またいいお店教えてもらっちゃったー」フフッ
同僚「そういやお前さいきん飲んでもとっ散らからないのねwww」
修道女「私も少しずつ大人になってるって事ですよー!」ニコニコ
同僚「何よりですwww」
修道女「あ!ちょっと同僚さん!」ササッ
同僚「ちょw何ぞww」コソコソ
…
<ん…チュッ…
修道女「ま、街中でちゅっちゅしてますよー!」コソコソ
同僚「おやまぁお盛んなww」コソコソ
修道女「も、もしかして…」コソコソ
同僚「んww?」
修道女「ど、同僚さんもああいう事をその…あの…ご所望かな…なんt同僚「はい終了ww良い子は寝る時間よーっとwww」グイッ
修道女「あ!ちょっと!」
同僚「お子ちゃまには刺激が強いんじゃwww」グイグイ
修道女「そうやって子供扱いしてー!歳なんて大して変わんないじゃないですか!」ジタバタ
同僚「更に盗み見なんて趣味まで悪いwwwお天道様が見てますよwww」グイグイ
修道女「うぐ、それを言われると確かに…」
…
同僚「とっ散らからないって約束出来るひとーww」
修道女「はーい!」シュタッ
同僚「よーしww」
修道女「れっこらごー!」ウキウキ
…
同僚「…。」フゥ
…
ゴゥンゴゥン…
ナビ『積み込み終わったでー♪』
男「あぁ。さて次は…と、」
男「あれ、どこ行くんだっけ?」
ナビ『えー?今積んだB級品の武器防具を里の仮設工房へ持ってくんやろ?』
ナビ『もう頼むわぁ』ケラケラ
男「あーそうだった」
男「里の炉が治るまでの仮の施設を西の街の外れに作ったんだったな」
ナビ『そーゆー事!まぁここから1時間ちょっとやからすぐ着くけど』
男「了解。それなら早速行こう」
ナビ『はいなぁ♪ほな行きまっせー!』
ブォン!ブロロロ…
…
ブロロロ…
男「ん?あれ」ゴソゴソ
ナビ『どないしたん?』
男「いや預かり伝票どうしたかなって」ゴソゴソ
ナビ『バイザーんとこは?男ちゃんいつもそこ挟むやん』
男「あ、あった」
男「わるいわるい」ハハ
ナビ『あんなぁ…』ハァ
ブロロロ…
…
配車係「男さんがボケた?」
魔法石(ナビ)『せやねん。疲れてるのかも知らんけど』ハァ
配車係「それは単に忘れっぽいとかって事じゃなくて、ですか?」
魔法石(ナビ)『んーそれもあんねん。けど、えっそれ忘れる!?みたいな事とか』
配車係「例えばどんな事でしょう?」
魔法石(ナビ)『この前なんて先輩さんの名前が出てこんくて10秒位フリーズしてもうて』
配車係「最近出番少ないですからね…」
…
配車係「そうですねー。あ、これは重要な事なのですが」
魔法石(ナビ)『なにー?』
配車係「男さんが忘れてしまっている事…例えば人の名前とか」
配車係「ナビちゃんはしっかり覚えている事なのですね?」
魔法石(ナビ)『もちろん。むしろ男ちゃんの事やのになんでウチが教えてあげなアカンねん!みたいな事もあるわ』
魔法石(ナビ)『ウチはオカンちゃうねんで!って』
配車係「母でもなければ嫁でもないぞ、と」
魔法石(ナビ)『よ、嫁かぁ…』テレテレ
配車係「おーいナビちゃーん」フリフリ
魔法石(ナビ)『!』ハッ
配車係「全く可愛いんだから…」クスクス
…
配車係「僕の方からも少し聞いてみます」
魔法石(ナビ)『ホンマに?頼むわー!』
魔法石(ナビ)『ありがとな、配車係さんっ♪』ニコッ
配車係「(うっ…可愛い)」
配車係「(…僕もナビシステム欲しいな)」ハァ
…
先輩「男の物忘れ?」
配車係「はい。なんでも親しい人の名前まで出てこなくなるようで…先輩さんとか」
先輩「マジか」
同僚「最近出番少なかったからなwww」ケラケラ
ゴチンッ
同僚「いってぇwww脳天直撃セ◯サターンwwww」
先輩「全くお前は」ハァ
先輩「しかしそれはちょっと心配だな」
配車係「僕から本人には聞いてみようと思ってるんですが」
同僚「まぁアイツ元々ちょっと抜けてるとこあったっすけどねwww」
…
同僚「だってアイツ、ナビシステムが自分の心を写し取ったモンだって事も覚えてなかったじゃないすかww
同僚「ほら酒場で話した時www」
先輩「あぁ再リンクの直前か、覚えてるぞ」
配車係「ナビシステムのインストールによる記憶障害は一時的なもので、だいたい半日もすれば回復するのが一般的なんです」
先輩「え、そうなのか?」
…
先輩「じゃあ男の場合は元々そういう傾向があって、再リンク以降その症状が進んだって事か?」
配車係「かも知れません。ただ、ナビちゃんの方にはその記憶情報がしっかり残ってたりもしてるみたいで」
同僚「ナビちゃんにツッコまれながらもどうにかやってるわけかwww熟年夫婦かよwww」ケラケラ
先輩「むぅ….女にも話を聞いてみるか」
…
配車係「今日は同僚さんは内勤です」
同僚「報告書の作成wwwほらこの前新規事業のアレで飛んでった時のww」カキカキ
先輩「やっぱそういうの出さなきゃなんだな」
同僚「マジちょーめんどくせーっすwww大体地図の作成とか運送屋の仕事なんすかww?」カキカキ
先輩「抜擢された時はノリノリだったくせによく言うぜ」クスクス
…
…
先輩「単に運送業だけでなく、物流に関わるあらゆる仕事をするって訳だ」
同僚「まぁ色々やる事あんのは面白いからいいんすけどねww事務仕事は苦手だwww」
配車係「日がな一日事務所に缶詰め…日頃の僕の苦労が分かるでしょう」クックック
先輩「お前ちょっとこえーよ…」
…
カンッ!カカンッ!ダダッ…!
男「うるぁっ!」ブンッッ
親父「ほい」カカンッ
親父「ほらよっ」ズバッ!
男「っく…!ぐぬぬ…」ガキンッ…ギリリッ
親父「ふっ。そんなモンかよっ」ギリリッ…バシッ!!
男「のわっ」ヨロケ
親父「そい」ビシィッ
ピタッ…シィィィン
男「…くっ。参った」タラーッ
…
男「ガキの頃から比べれば腕も上がったと思ってたが…まだ親父には勝てないか」
親父「確かに、実戦で鍛えてる分動きは良くなってるぞ」シュボッ スゥゥ…
親父「ただ太刀筋に迷いがあるな」スパァァ
男「迷いか…」
親父「ほれ」スッ
男「ありがと」シュボッ スゥゥ
スパァァ…モクモク
…
親父「そこらのオーク位ならともかく、強い奴と対峙する時にそんなんじゃ」
親父「お前、死ぬぞ」
男「まぁ俺は運送屋だからな、そんなにヤバい魔物と遭遇する事はないだろうけど」ハハッ
親父「んなん分かるモンかよ、戦争中なんだぞ」
男「…そうだな」
親父「この前、女が来てな」
親父「お前の事えらく心配してたぞ」
男「女が?ナビとの再リンクも上手くいったし今更何を…」
親父「さぁな。お姉ちゃんはいつまで経っても弟の事が気掛かりなモンだ」ハハッ
…
親父「全部思い出したんだろ?」
男「あぁ、北西の村での事からな」
親父「…そうか」
男「親父、ほんとうn親父「あーそういうのいい!パス!」
男「パスって…」クス
親父「俺はお前と女の父親だ。以上!」
男「…うん」フフッ
…
親父「んー?」
男「涙の欠片って知ってるか?」
親父「…どこで聞いた?」
男「この前、運行で水の街って所へ行ったんだけど」
男「そこで聞いたんだよ、先代勇者と魔王が戦った時の話に出てきて」
親父「水の街…運河の島か」
男「そうそう!その街に流れ弾が飛んで来たのもちょうど20年前だって言うから」
男「ちょっと気になってさ、大した話じゃないんだけど」
親父「…。」
…
ナビ『(男ちゃんの長い睫毛)』
ナビ『(華奢な指先…ハンドルを握っとぉ時の腕の筋肉)』
ナビ『(はねた癖っ毛…優しい声)』
ナビ『(…はぅ)』キュン
同僚ナビ『…完全にやられてますわね』
ナビ『…茶色がかった深緑色の瞳』
同僚ナビ『ついに声に出し始めましたわ』
ナビ『笑うと見える八重歯…!』
同僚ナビ『…そのうち"おぉロミオ!"とか言い出しそうな勢いですわね』
ナビ『…なんか、聞こえる』
同僚ナビ『へ?』
…
同僚ナビ『ほんとですわ…何ですの?この呻き声みたいな響きは』ゾクゾク
ナビ『遠くの方から…なんや苦しそうやなぁ…』
配車係「~♪」カキカキ
同僚ナビ『生身の人間には聞こえていないようですわね…』ゾクゾク
ナビ『ってか、いたんやな配車係さん』
オォォォ…アァァァァ…
同僚ナビ『気味が悪いですわ』
ナビ『うん。でもなんか可哀想…』
…
うぉぉぉぉぉぉ!!!!
ナビ『!』ビクッ
同僚ナビ『!』ビクビクッ
同僚ナビ『こ、今度は何ですの!?』
ナビ『さっきのとは違う…今のは…近いで』
グラ…グラグラ…
…ドカァァン!!!!
…
同僚「というわけでwwww」
修道女「早速次なる場所へ向かいましょう!」バサァッ
同僚「次は~ここwww」トントン
修道女「独自の文化を持つ極東地域…」
同僚「その中でも一際トンがった国らしいぜwwwなんでも卵を生で食うらしいwww」
修道女「げげ!マジですか!?」
同僚「更にww悪い事をした奴は自分で腹切って死ぬらしいwww」
修道女「どういう状況なんですかそれ…」
…
修道女「だからこそ調査が必要、って事ですもんね」
同僚「そーゆー事www今回はお前も一緒に行くぞwww」
修道女「はい!この日の為にばっちり準備してきましたから」グッ
同僚「準備?あぁ装備とか食糧とかって事ねwww」
修道女「(し、勝負パンツとか…)」
修道女「(なんて言えねーです!)」カァァッ
同僚「ほいじゃまー行きますかwww」
修道女「はい!詠唱始めます」スゥ
…
[数多の空を駆け巡りし 勇壮なる汝の名において…]
グラグラ…グラ…グラグラ
同僚「ん?地震かwww?」
グラグラ…ガガァンッ!!!!
同僚「!!」ヨロッ
修道女「!!…っく」パァァァァ
同僚「おいおいなんかヤバそうだぞこれ」グラグラ…
…
<緊急警報 建物内にいる職員は直ちに所定のシェルターへ避難して下さい
<繰り返します 緊急警報…
同僚「緊急警報!?な、何だってんだ!!」
ガガァン!!ドカァァン!!
同僚「うおっ!!お、おい!なんかヤバそうだぞ!!」アセアセ
修道女「…っ」フルフル
パァァァァ…
同僚「今更詠唱は止められねぇか…」
同僚「しゃーねぇ!俺も男だ!」ダキッ
修道女「!!」カァァッ
[無限に翔ける翼の力で 我らを導き給え]
修道女「て、転移します!」
同僚「いっけぇぇぇマ◯ナムぅぅぅ!!!」
バヒューーーーーン
…
ガラガラッ…モクモク…
陸軍警備隊長「くそったれ!奴ら王都に直接攻撃を仕掛けて来やがった!!」
隊員「そこら中に攻撃の痕が…しかし、魔族の姿が見当たりませんね」キョロキョロ
隊長「逃げ足の速い奴らめ!とにかく人命最優先だ!!」
隊長「第1から第3部隊までは救援活動に当たれ!!」
隊長「第4部隊は索敵!!俺について来い!!」
隊員「了解!!ぬぁぁ魔族の野郎どもー!!」
バタンッ ブォン!…ブロロロ…
…
事務局長「被害の状況は!?」
事務局高官「物流倉庫への被弾が2箇所、預り荷への被害はいずれも軽微です」
事務局高官「職員達への人的被害も今の所ありません」
局長「そうか…」ホッ
女「ただ…」
局長「女くんどうした?」
女「ちょうど攻撃の最中に、同僚くんと修道女さんが転移魔法を使用しました」
局長「マッピングシステムか」
女「はい。もし仮に、魔族からの攻撃が高い魔力を用いた詠唱だった場合…」
局長「修道女さんの転移魔法と干渉し、転移の到達点にズレが生じる可能性がある…」
局長「そういう事だね?」
女「仰る通りです」コクッ
局長「マズいな…」
…
ウゥー!ウゥー!
警備部長「どこから攻撃されたか分からないだと!?」
職員「はっ。今調べておりますが、王国全域にある120の警備用の魔法石…」カタカタ
職員「そのどこにも魔族の出現は感知されておりません!」カタカタ
警備部長「人間のする事だ、如何に万全な警備体制を敷いた所でそれらが破られる事はある…が」
職員「残念ながら。しかし、そもそも魔族の出現すら発見できないなどという事は…」
警備部長「理論上有り得ない、か」
警備部長「どうなってやがる…まさか王国内部に…?」
…
<ドォォォン…!ドカァァン…!
親父「!」
男「!」
…モクモク
親父「…あっちは王都じゃねぇか」
男「ま、まさか!王都へ魔族の攻撃が!?」ダダッ
親父「っ!おい!待て!」ガシッ
男「こうしちゃいられない!協会や王都のみんなが…!」
親父「落ち着けって言ってんだよ!!!」クワッ
男「…っく」キィィン…
親父「ここから王都までどんなに急いだって2時間は掛かる、ドライバーやってりゃ分かんだろ!」
親父「王都には陸軍の奴らが常駐してるんだ、最悪の事態なんざそうそう起こねぇよ!」
男「で、でも…!」
親父「だから落ち着けって…!行くなとは言ってねぇ」
親父「ちょっと来い」スタスタ
男「…?」スタスタ
…
親父「里の炉があんなんなっちまう直前にな」ゴソゴソ
親父「ずーっと手を入れてた剣がようやく完成したんだよ…っと」ゴソゴソ
男「剣…?」
親父「あったあった」ガサッ
スチャ…キランッ
親父「持ってけ」スッ
男「親父…これって」スチャ
親父「俺が昔使ってた剣だ」
親父「お前の体格や剣技に合わせて仕立て直してある」
男「今使ってるのより少し短い…そしてすごく軽い」ブンッ
親父「お前の手に馴染むハズだぜ?何せ俺が育てたんだからよ」
親父「剣も、剣士もな」ニカッ
…
親父「いいか男」ズイッ
親父「迷いに克つんだ」
親父「剣に限らず、最後は腹括った奴が生き残る」
親父「勝とうとなんざ思うな」
親父「とにかく生き残れ」
親父「人間、生きててナンボだ」ニカッ
男「親父…分かったよ」
親父「気ぃつけて行ってこい」
親父「そして必ず無事で帰って来い」
親父「お前達の居場所はここにある」
男「あぁ…ありがとな」ニコ
…
…ヒュゥゥン…バシュッ!
ドサドサッ!!
同僚「のわっ!いってぇwww」
修道女「ち、着地失敗です…あ」
ぽよーん
修道女「あ、あの同僚さん…手をどけて頂けますか…///」
同僚「む、これは失敬wwまさにこれこそラッ◯ースケベwww」サッ
修道女「もう!むしろスケベの方を伏せて下さい!」
同僚「とりあえず手の残り香をばww」クンカクンカ
修道女「へ、変態!!」バシバシ
…
同僚「…どこだここww?」
修道女「真っ暗で何も見えませんね、広い空間だという事は分かりますけど」
同僚「段々目が慣れてきたなw」
同僚「ん?あのデカいまん丸いのは何ぞww?」
修道女「岩、ですかね?それにしては…ま、まさか魔法石とか!?」
同僚「いやいやいやwww魔法石にしちゃデカ過ぎでしょwwww」
同僚「ア◯ファード位あんぞwww」
修道女「ですよね、こんな巨大な魔法石なんて聞いた事が」
バババッ
…
修道女「急に灯りが…」
警備兵1「おい貴様ら!そこで何をやってる!!」ガチャ
警備兵2「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!!どうやって侵入した!!」ドタドタ
同僚「やべwwいっぱい来たwww」
修道女「わ、私達完全に侵入者だと思われてますよ!!」アセアセ
同僚「まぁ間違ってないわなww故意じゃねぇけどww」
警備兵3「武器を捨てろ!!」スチャ
警備兵4「両手を上げて膝を付け!!」
同僚「あのーww俺ら王国物流協会のモンでしてww」
警備兵5「む?確かにそれは協会員証…」
警備兵6「騙されるな!偽造したものに違いない!!」
警備兵7「そうだ!大体こんな所へ届け物などあるものか!!」
同僚「確かにwwウチら空荷でーすwww」パタパタ
修道女「ふ、ふざけてる場合ですか!!」
…
同僚「おい、ここから飛べるか?」ヒソヒソ
修道女「ど、どうでしょう…こういう場所では結界が張られている事も」ヒソヒソ
同僚「ってかよく見りゃアイツら王立騎士団じゃねぇか」ヒソヒソ
修道女「っ!という事はここって王国の中…!?」ヒソヒソ
同僚「どうやらそうみたいだな…とりあえずわけわかんねー外国じゃねぇなら」ヒソヒソ
同僚「どうにかなんだろ」ニカッ
…
同僚「ほらお前もww」
修道女「は、はいです!」ポイッ
警備兵8「んーどれどれ…同僚…王都在住…お前写真写り悪いなぁー」
同僚「やめてww気にしてるのにww」
警備兵9「こっちの娘は王立修道院の者のようです!」
同僚「実は俺達、物流協会の新規事業の担当でしてwww」ヘーコラ
かくかくしかじか
…
警備兵10「そうか、あの騒ぎで転移に失敗したと」
警備兵11「物流協会事務局と連絡が取れました!この者たちの言っている事は本当です!!」
警備兵12「と、いうわけだ。疑ってすまなかったな」武器シマイ
警備兵13「しかし不法侵入には違いないぞ?物流協会とは言え、配達でもないんだからな」
同僚「仰る通りでww」ヘヘーッ
修道女「す、すみませんでした」シュン
…
同僚「ありがとうございますぅwww」フカブカー
修道女「か、感謝します!」フカブカー
同僚「あw失礼ついでに何ですけどww」
警備兵15「ん?何だ?」
同僚「俺達文字通り飛んで来たもんで、帰り道が分かんねーんすわwww」
同僚「ここって王国のどの辺なんすかねww?」
警備兵16「あぁそうか。ここはな、王宮の地下にある部屋」
警備兵17「巨石の間だ」
…
ワイワイ…ガヤガヤ…
売り子「号外!号外!!」ペラッ
[王都襲撃は王国内部からの犯行か!?]
[暗躍するテロリストの影!!]
-物流協会事務局 女の執務室-
女「災難だったわね」
同僚「まったくひでぇ目に遭ったぜww転移した先が徒歩圏内とかwww」
修道女「ご迷惑をおかけしました」フカブカ
女「顔を上げて頂戴。2人のせいじゃないわ」フルフル
同僚「しかしあのデッカい魔法石www一体何なんだww?」
修道女「警備兵さんは巨石の間と仰っていましたけど…」
女「巨石の間…巨大な魔法石」
女「そんな話聞いた事もないわ」
修道女「私達の見たものが巨大な魔法石であるなら、私の詠唱と何らかの原因で干渉して」
同僚「転移魔法が邪魔されたってかwww」
女「そうね…と言うか、引き寄せられたのかも知れないわね」
修道女「引き寄せられた…それじゃ!」
女「まだ憶測だけれど」
女「何らかの意思が働いているのかも」
同僚「石だけにってかwww」ケラケラ
女「…。」
修道女「…同僚さん、一回ぶっていいっすか」ジトッ
…
男「みんな無事か!?」バタンッ!
魔法石(ナビ)『!お、男ちゃん…』ウルウル
魔法石(ナビ)『怖かったよぉぉぉぉぉぉ』ビエーン
男「あぁ、もう大丈夫だ」ナデナデ
配車係「お、男さん!」タタッ
男「配車係さん!無事で何よりです」
配車係「事務局を含めて、協会の職員は皆さん無事のようです」
男「そっか…良かったぁ」ホッ
配車係「市街地では軽傷者が出ているようですが、それでも大した被害は無かったようで」
男「親父の言ってた通りだ、さすが王国陸軍」
配車係「まぁそれはそうなんですが…」
男「どうしたんですか?」
配車係「…人で溢れて、かつ縦横に入り組んだ王都に攻撃が加えられて」
配車係「なのに1人の死者もない、というのは…」
男「不幸中の幸いでしたね」
配車係「…本当にそうでしょうか?」ペラッ
…
配車係「市街地で配られているタブロイドの号外です」
男「王国内部…テロリスト!?」
男「じ、じゃあ外から攻撃をされたんじゃなくて」
配車係「分かりません。タブロイドなんて面白おかしく書き殴ってナンボですから」
配車係「ただ王都の人達は疑心暗鬼に陥っているようで…」
魔法石(ナビ)『ヒック…ヒック』ウルウル
男「仕方ないです、みんな…」
男「怖かったんですよ、な」ナデナデ
魔法石(ナビ)『うぅ…』ウルウル
…
男「さて、集まったな」
女「明日から復旧作業やら何やらで忙しくなると思うから」
女「今の内に情報を付き合わせておきましょう」
同僚「知りたがりのおねーさんだな全くwww」ヒソヒソ
男「悪いな、昔からなんだ」ヒソヒソ
女「コホン!聞こえてるわよ」
女「まずは同僚くんの見てきた勇者の落涙ね」
同僚「ありゃあスゴかったwww空間が消し飛ぶって何だそりゃwww」
修道女「私は直接見たわけではありませんけど、それだけの膨大なエネルギーを放出する事は」
修道女「いかに先代勇者様であっても、独力では不可能です」
女「何らかのエネルギー源と先代勇者の力が反応して、大爆発を起こした…」
女「そういう事ね」
修道女「その可能性はあります」
…
女「水の街って、クリスタル細工で有名な?」
男「そうそう、まさにそのクリスタル細工を積みに行ったんだけど」
男「そこに流れ弾が飛んで来たのもちょうど20年前らしいんだ」
女「それじゃあ、もしかしたら勇者の落涙による被害だったのかも知れないわね」
同僚「…人が亡くなったのか?」
男「…あぁ、水の街近くの小島を丸ごと墓地にしたらしい」
同僚「…そうか」ギリッ
…
女「王宮地下の巨大な魔法石…巨石が、勇者の落涙を引き起こしたものだったとしたら」
女「事故後の王国軍の派兵、その後の軍の解体と再編成」
女「この辺りの辻褄が合うわね」
修道女「当時の王国軍が勇者の落涙から巨石を運び出して、その後事実関係を隠蔽する為に組織ごと解体した…」
同僚「展開が分かりやすくてwww」
男「でもさ、そこまでして巨石の存在をひた隠しにする意図は何だ?」
修道女「"不幸な事故がありました、原因はこの魔法石でした"」
修道女「先代勇者様はお気の毒ですが、それで話の筋は通りますもんね」
…
同僚「先輩ちーっすwww」
男「お疲れ様です、運行だったんですね」
先輩「あぁ、男の代打で西の街へな」
先輩「帰って来て驚いたぞ、なんだこの有様は」
魔法石(ナビ)『なぁなぁ、ウチもえぇかな?』ピョンピョン
…
魔法石(ナビ)『あんな?攻撃が始まる直前に変な声が聞こえてん』
女「変な声?」
同僚ナビ『地の底から響くような、苦しげな呻き声でしたわ』
同僚ナビ『それも、私達だけに聞こえていたようで』
男「ナビ達にだけ…?」
ナビ『でな?呻き声の方はな?遠くから聞こえとぉ感じやってんけど』
同僚ナビ『そのすぐ後、今度はもっと近い場所から』
同僚ナビ『そう、本当に耳元で叫ばれているかのような声が聞こえましたの』
ナビ『あれはビビったなぁ…でもそっちは呻き声というよりは咆哮やな?』
同僚ナビ『えぇ、勇壮ささえ感じましたわ』
…
女「王国内部に潜伏していた魔族が一斉に攻撃を仕掛けた…?」
男「でも警備網のどこにも魔族は引っ掛からなかったんだろ?」
先輩「俺もそう聞いてるぞ」
女「そこが分からないわね、魔族の反応がどこにも感知されないなんて」
同僚「そりゃやっぱアレじゃねww王国に反発するテロリスト集団www」
先輩「人間の敵は人間ってか、それもあり得ない話じゃないが…」チラッ
男「今のところ、全てが憶測か」
女「何かがまだ欠けているわね」ギリッ
…
側近「巨石の間に侵入者?」
騎士団長「はっ。物流協会の職員と王立修道院のシスターです」
騎士団長「話によると、物流協会の新規事業の一環で極東地域への魔法転移を試みたところ」
騎士団長「王都襲撃のタイミングと重なり、転移に失敗したとのことで」
側近「偶然迷い込んだという事か」
騎士団長「そのようです。彼らの身元と証言は物流協会へ照会済みです」
側近「そうか…むぅ」チラッ
…
騎士団長「っ!はっ」ゾクッ
国王「巨石の間の存在は極秘事項だ」スクッ
国王「我々と、私の近衛騎士団である君達以外には絶対に知られてはならん」
国王「その2名から情報が漏洩するような事は何としても避けるのだ」
国王「どんな手を使ってでも、な」
国王「言っている意味が分かるか?」ギロリ
騎士団長「は、はぁっ!」
側近「へ、陛下」
国王「構わん。事ここに至り、だ」
国王「侵入した2名と、その周囲の人間を監視せよ」
国王「公には手配を掛けるな、気取られぬよう秘密裏にだ」
国王「情報の漏洩を防ぐ為、止むを得ん場合は」
国王「…構わん、殺害しろ」
…
国王「事ここに至り、と申しただろう」
側近「しかし…侵入者2人はマッピングシステムの担当者」
側近「今消してしまうのは些か早計かと」
国王「大義の為ならば止むを得まい、駒はまた足せばよいのだ」
国王「…巨石の秘密は何としても守らねばならん」
国王「我らが希望、神の雷(いかずち)の為にな」
…
[BAR REQUIEM]
カランッカランッ…
同僚「ここよく無事だったなwww」
先輩「ホントだな」
男「なんだか…話が大事になってきましたね」グイッ
同僚「ホントそれww王国の秘密だテロリストだって話がインフレし過ぎwwwジ◯バブエかwww」グビ
男「俺達ただのドライバーだってのに」ハァ
先輩「全くな。あ、そういえば男さ」
…
先輩「配車係とは話したのか?」
男「配車係さん?」
同僚「話した事すら忘れてたりしてwwww」ケラケラ
先輩「おい止めとけよ…いや何だ、お前最近その…」
同僚「物忘れの具合はどうですかーお爺ちゃんwwww」ケラケラ
男「物忘れ?」
ゴチンッ
…
先輩「…配車係の奴がさ、ナビちゃんに相談されたんだと」
先輩「あの子、心配してるみたいだぞ?」
男「あぁそういう事ですか。いやぁお恥ずかしい」タハハ
先輩「そんなにしょっちゅう色んな事を忘れちまうのか?」
男「自分ではそれ程気にしてないんですけどね…まぁでも」
男「ナビに助けられてるから気にならないだけなのかなぁ」
先輩「疲れでも溜まってるんじゃないか?それとも何か悩みでもあるのか?」
男「悩み…うーん強いて言えば」
先輩「どうした?話なら聞くぞ?」
男「…ナビの事、ですかね」フッ
先輩「ナビちゃん?何かあったのか」グイッ
先輩「あ、俺アードベッグを」カランッ
男「グレンキンチーを」
…
先輩「そうか…ナビちゃんがね」
男「初めてですよ、女の子に好きだなんて言われたの」ハハッ
先輩「それで、お前はナビちゃんの事どう思ってるんだ?」
男「…。」グイッ
男「…好き、なんだと思います」ジッ
先輩「思いますじゃねぇだろ」バシッ
男「いてて…ですよね」
男「…でも考えちゃうんですよ、色々」
先輩「…。」グイッ
…
男「もし仮に俺達の心が同じ方を向いていたとして、その先は?とか」
男「魔法石の耐用年数は大体150年…」
男「俺が死んだ後、あいつはどうするんだ?とか」
男「そもそも俺なんかがあいつの事、本当に幸せにしてやれるのか?とか」
先輩「…そういう事か」フゥ
先輩「あのな男、まずn同僚「まずお前、ちょっと勘違いしてねぇか?」
男「あ、起きた」
…
男「そうは言うけどさ、考えちゃうんだよ」
同僚「そもそもよ、さっきから聞いてりゃデモデモダッテばっかじゃねぇか」フンッ
同僚「お前本当にナビちゃんの気持ちになって考えてるか?」
男「あいつの気持ち?」
同僚「そーだよ、お前が気にしてる事なんて全部自分の都合じゃんか」
男「そ、それは違うぞ」ムッ
同僚「違わないね。お前は自分が傷付かないように言い訳してるだけだ」
同僚「実体がない?先に死ぬ?んなこと関係あるかよ!」ダンッ
男「関係あるだろ!」カチン
男「1人取り残される気持ちはお前には分かんないよ!無責任な事言うな!」ダンッ
…
男「大体何だ?さっきから聞いてればお前の言ってる事は全部ブーメランじゃやいか」
同僚「何だと?」カチン
男「修道女さんとの事、お前どう思ってるんだよ」
同僚「あいつの話は今はかn」男「関係あるね!」
男「あれだけ真っ直ぐ気持ちを向けてくれてる人に対して、お前何やってんだよ!」
同僚「あいつは聖職者だぞ!俺なんかがおいそれと手を触れるわけにいくか!」
男「それこそ言い訳じゃないか!向こうはお前が手を取ってくれるのを待ってるんだぞ!」
同僚「うるせぇ!お前に何が分かる!」
男「何だと!?」ギロッ
同僚「何だよ!?」ギロリ
…
男「…っぷ」クスクス
同僚「…www」クスクス
男「っぷははは!」ケラケラ
同僚「これには大草原不可避www」ケラケラ
先輩「な、なんだぁ…??」ポカーン
…
同僚「まんま同じよーな事で悩んでやんのwww」ヒーヒー
男「似た者同士だなー」ニコッ
同僚「結局それなwww」ニカッ
男・同僚「マスター!お代わり!」
先輩「…ったくコイツらは」ハァ
…
ブロロロ…
同僚「久しぶりの本業だわさwww」
同僚ナビ『やっぱり運転席にあなたが居るのはしっくりきますわね』ニコッ
同僚「だろーwww?復旧工事で通れる道が限られてるがwww」
同僚「そこは地元民の意地www私めにお任せあれwww」
同僚ナビ『流石ですわね。時間管理はお任せ下さいませ』
同僚「頼むぜwwほんじゃ行きますかwww」
ブォン!ブロロロ…
ササッ
偵察兵「…。」
…
ブロロロ…
男「今日は北の山脈まで木材を積みに行くぞ」
ナビ『王都の復旧工事に不可欠やかんな!』
男「…襲撃の時、一緒にいてやれなくてすまなかった」
ナビ『大丈夫やで。どーちゃんも配車係さんもおったし』フルフル
男「…王都が狙われた今、確実に安全と言える場所はない」
男「配車係さんに交渉して、退勤後も魔法石(キー)を持ち帰る事にしたよ」
男「これでいつでも一緒だ」ニコッ
ナビ『え!え!!えぇ!!!?』
…
男「勝手に決めちゃったけど、いいかな?」
ナビ『お、男ちゃん…それって…』ウルウル
男「…ダメ、だったか?」
ナビ『んなわけあるかいな!おーるおっけーやで!!!』ピョンピョン
男「良かった、それじゃよろしく頼むよ」ニコッ
ナビ『ここ、こちらこそ不束者ですが』ペコ
男「ははっ何言ってんだよ」ケラケラ
ナビ『(男ちゃんと一緒…昼も夜も』ドキドキ
ナビ『(マジか…マジなんかぁ…)』ドキ
ドキ
ナビ『えへ…えへへぇ…』ニヤニヤ
ポチ
[魔法石過給装置ヲ作動シテイマス…]ブォォォォ
ナビ『あ』
男「おいおいおいおい」
バヒューーーーーン…!!!
ササッ
偵察兵「…。」
…
修道女「んー久しぶりに帰って来ましたー」ノビーッ
シスター長「おかえりなさい。お元気そうで何よりです」ニコッ
修道女「ただいま戻りました!」ペコッ
修道女「王都の襲撃で新規事業はしばらくお休み…」
修道女「その間、またみんなと一緒に神に仕えたいと思います」ニコッ
シスター長「…。」ジーッ
修道女「?」
シスター長「その事なんですが…」ハァ
修道女「へ?何ですか??」
シスター長「…お茶でも淹れましょうか」スタスタ
修道女「わ、私やりまーす!」タッタッ
…
シスター長「…これは私の勘なのですが」トクトク スッ
シスター長「…。」ズズッ
修道女「…。」ズズッ
シスター長「…あなた、恋をしていますね?」
修道女「…っ!げほげほっ!」
シスター長「やはりそうですか…」ハァ
修道女「…あ、あのっ」チラッ
シスター長「私はあなたの育ての親ですよ?顔を見れば分かります」
修道女「うぅ…そう、ですよね」シュン
シスター長「…ふぅ」コトッ
修道女「…。」ビクビク
…
シスター長「まぁ清貧に関しては、修道院でエールの製造を伝統的に行なっておりますので」
シスター長「嗜む程度、の飲酒は認められておりますが…」
修道女「た、嗜む程度…ですよね」タハハ
シスター長「オホン!自覚があるのならば、ここでクドクド申しません」
修道女「はい…すみません」シュン
シスター長「問題は貞潔。我々シスターは結婚はもちろん、男性との交際も認められておりません」
修道女「神の花嫁たる存在、ですね」
シスター長「そうです。この掟は飲酒云々ほど寛容ではありません」
シスター長「そこは承知しておいでですね?」キッ
修道女「…はい」
…パタパタ…チュン…チュンチュン…
…
シスター長「早いものですね」
シスター長「今でも思い出します…」
シスター長「あなたが小さい頃はそりゃーもう大変でした」ニコニコ
修道女「そ、その節はご迷惑を…」
シスター長「とんでもない!」フルフル
シスター長「子供のいる信者の方達に教えを乞いながら、悪戦苦闘の子育て…」
シスター長「本来子を成す事のない私達が、偶然にも授かった…」
シスター長「幸せで満ち足りた時間でした」
シスター長「あなたと過ごした時間は、私の人生における宝物です」ニコッ
修道女「し、シスター長…」ウルッ
…
シスター長「ですから王国正教会の掟も、あなたを縛り付けることは出来ないのです」
修道女「…っ!そ、それって!」バッ
シスター長「最後まで聞きなさい」
シスター長「…とは言え、一度は神の従者として仕えた身」
シスター長「自らの道を歩むのならば、けじめはつけなければなりません」
修道女「け、けじめって…嫌」フルフル
シスター長「ベールを脱ぐのです」
…
修道女「ここには!!私を愛してくれた神と…!!あなたが…!!」ポロポロ
シスター長「…家を捨てろ、神を捨てろ、などとは言っていません」ナデナデ
シスター長「ですがけじめとして、一度ここを離れる必要はあります」
修道女「…っく…ひっく…」ポロポロ
シスター長「安心なさい」ナデナデ
シスター長「あなたがどんな道を歩もうとも、神はあなたと共にあります」
シスター長「それは私も同じです」
修道女「し、シスター長ぉ…」ポロポロ
シスター長「あなたの家はここにあります。いつでも、いつまでも」ナデナデ
シスター長「結論を急ぐ必要はありません。じっくり考えてみると良いでしょう」
修道女「…はい」グスッ
ササッ
偵察兵「…。」
…
ゴゥンゴゥン…
兵士「ホントなんですって!」
先輩「陰謀論とか好きだなーお前も」ケラケラ
兵士「陸軍内部ではもっぱらの噂ですよ!?例の襲撃事件が!」
先輩「国王の自作自演だってか?んな事して何になるってんだ」シュボッ!スゥ
兵士「あ、ここ禁煙…」
先輩「ん?ほれ」スッ
兵士「あ、こりゃどうも…」シュボッ スゥ
…
先輩「新兵器?」スパァァ
兵士「何でも地図情報と転移魔法を組み合わせて、狙った場所にピンポイントで攻撃を仕掛けるって寸法!」
兵士「らしいです!噂ですけど!」
先輩「地図情報と転移魔法…」
兵士「ただ、分からないのが動力源なんですよねー」
兵士「今回王都内で被弾したのが約30箇所…」
兵士「それだけの場所を同時に、転移魔法も併用しての攻撃ですからねー」ペラペラ
兵士「そこいらの詠唱士や魔法石じゃーとても無理ですもん!」ペラペラ
兵士「…って聞いてます?」
先輩「…あぁ」
ササッ
偵察兵「…。」
…
偵察兵「…。」コソコソ
先輩「偵察兵ちゃんみーっけ!ぽこぺん!」タッチ
偵察兵「!!」バッ
先輩「待てよ」ガシッ
ギリギリッ…
偵察兵「…っく」
先輩「…元軍人を舐めんじゃねーぞボンクラ」ギロリ
先輩「何を探ってやがる?言え」ギリギリッ
偵察兵「…っ!」
先輩「その制服、騎士団だな」
先輩「軍とは別組織、国王陛下お抱えの私兵の登場か…」
先輩「おいおい陰謀論も捨てたもんじゃねぇってか?」
…
偵察兵「…ぅ」クラクラ
先輩「あぁ首締めてたらしゃべれねーか、悪い悪い」ユルメ
偵察兵「…っかは!げほげほ!」
先輩「ほれ緩めたぞ、言え」
偵察兵「…!」ババッ ダダダッ…
先輩「あっ!…逃げられちゃった」
先輩「何だよタッチしたじゃんかー」ケラケラ
先輩「でもま、大体ざっくりふんわりとは」
先輩「見えてきたんじゃねぇの?」ギロリ
…
ナビ「ここ…どこやろ」トボトボ
ナビ「真っ白でなーんも見えへんなぁ」トボトボ
ナビ「ん…?誰かおるな…」
ナビ「…男ちゃん?」
???「…。」
ナビ「なぁー男ちゃーん!ここどこ?」タタッ
…
???「…。」ギュッ
ナビ「っ!?ちょ、ちょっと男ちゃん!」カァァッ
ナビ「いきなりどしたん?寂しくなってもうたん??」アセアセ
???「…。」
ナビ「も、もう何か言うてぇな…間が持たんやん…」テレテレ
???「…。」
ナビ「なぁ男ちゃんってば…」チラッ
ナビ「…え?」
…
???「…。」ギュッ
ナビ「い、いや!離して!!」ジタバタ
ナビ「嫌や!アンタと一緒には行かれへん!!」ジタバタ
???「…。」ニヤァ
ナビ「ひっ!いや…いやぁぁぁ!」
…
魔法石(ナビ)『!!!』ビクッ
魔法石(ナビ)『…ゆ、夢』ガクガク
男「…ん、もう朝か」パチ
魔法石(ナビ)『っ!ご、ごめん起こしてもうた』
男「平気だよ…ふわぁー」ノビーッ
魔法石(ナビ)『(せ、せやった)』
魔法石(ナビ)『(夕べから、夜も男ちゃんと一緒におれる事になって)』
魔法石(ナビ)『(今日が初めての朝…やのに)』
…
男「どうした?怖い夢でも見たか」
魔法石(ナビ)『だいせーかい。もう…せっかくの初夜やったのに』ブー
男「初夜って…まぁ間違ってないけど」
男「おはよう、ナビ」ニコッ
魔法石(ナビ)『うん…おはようさん。男ちゃん♪』ニコッ
…
男「監視されてる?」キョトン
先輩「そうだ。俺とお前、恐らく同僚と修道女さんもな」
男「な、何で俺達が…?例の巨石の件ですか!?」
先輩「だろうな。とにかく国王陛下お抱えのネズミが出てきた以上、これは緊急事態だ」
男「き、緊急事態って言われても仕事もあるし…」
魔法石(ナビ)『せやで。これからまた港湾倉庫まで行くんやもん』
先輩「むしろ普通に仕事してろ、連中が気にしてるのは恐らく機密の漏洩だ」
先輩「なぁに、怪しい動きをしなきゃ何にもされねぇから安心しろ」
男「安心しろって言われても…なぁ?」
魔法石(ナビ)『見張られとぉって考えるだけで陰鬱な気になるわ…』
先輩「ははっ。まぁしばらくの辛抱だな」
…
男「それは、どういう」
先輩「仕事中にイチャイチャすんのも程々にしろって事だよ」ニカッ
男「なっ…!」カァァッ
魔法石(ナビ)『ちょっ…!』カァァッ
先輩「お前らホントに息ピッタリだなー!」ワハハ
先輩「…まぁそれは冗談として」
先輩「もはや俺達の敵は魔族だけじゃないかも知れん。それだけ忘れんな」
男「…分かりました」
…
ブロロロ…
先輩「地図情報、転移魔法、動力源…」
先輩「地図情報は有る」
先輩「何せ王都の中なんだ、詳細な地図情報なんぞいくらでも用意できる」
先輩「動力源も有る」
先輩「魔法石の蓄積できる魔力はその大きさに依存する、らしい」
先輩「例の巨石を使えば問題ないだろう」
先輩「となると、残るは…転移魔法」
…
先輩「…攻撃の瞬間、修道女さんは同僚と一緒にいた」
先輩「と、なると…いや」
先輩「そんなワケはない…」
ブォン!ブロロロ…
…
ブロロロ…
…ちゃん…とこちゃん…
男「…ん…」
ナビ『男ちゃんってば!!!』クワッ
男「!!」ビクッ
ブロロロ…キキッ
…
ナビ『大丈夫?気分悪いんか??』
男「俺…今、寝て…?」クラクラ
ナビ『うぅん。たぶん眠ってはなかった』フルフル
ナビ『なんや目ぇ開いたまんまぼーーっとしとって』
ナビ『話し掛けても何も!心ここにあらずみたいな感じやったで!』
男「心が…」
ナビ『なぁホンマに大丈夫!?体調悪いなら無理せんと休も!?』
ナビ『それか配車係さんに言うて代わりの人を…』
男「…それはダメだ、ただでさえ復旧作業でドライバーは大忙しなんだから」
男「少し休めば良くなると思う…心配掛けてゴメンな」ヘラッ
ナビ『そんなんえぇて!なら路肩寄って休憩しよ?な?』カチッカチッ
男「あぁ…」クラクラ
ササッ
偵察兵「…。」ピピッ
…
女「運転中に意識を?」
配車係「はい。今日の運行はナビちゃんのおかげで無事に終わりましたが」
配車係「僕としても、このまま男さんに業務に就いてもらうわけには」
女「分かりました。事務局の方で手配します」
女「まずは医療機関で検査を受けてもらいましょう」
魔法石(ナビ)『お、女さん…』オロオロ
女「大丈夫よ。人間もあなた達と一緒で、時々メンテナンスが必要なの」
女「きっとすぐに良くなるわ」ニコッ
魔法石(ナビ)『そ、そっかぁ…』ホッ
…
配車係「先輩さん、お疲れ様です」
女「あら、お帰りなさい」
先輩「おう、事務所(こっち)にいるなんて珍しいじゃないか」ヒラヒラ
女「男くんがね、運転中に意識を失ったらしいの」
先輩「男が?大丈夫なのか!?」
女「無事に帰って来てるわ、でもこのまま運行を続けるのは無理ね」
女「とりあえず明日にでも医療機関へ連れて行くわ」
先輩「それなら俺が連れてってやるよ、ちょうど明日休みだし」
女「ほんとに?助かるわ、それなら後で連絡するわね」
…
女「ホント、こんな時にね」ジトッ
先輩「まぁいいじゃないか、男の事は今あぁだこうだ言っても始まらんさ」
女「そりゃそうだけど…」
先輩「まぁ…いいからよ」ニコッ
女「…?」
…
ワイワイ…ガヤガヤ…
女「こういう肩肘張らない店も悪くないわね」
先輩「たまにはいいだろ?ほいおまっとさん」コトッ
<乾杯…カチンッ
…
女「一人酒が寂しいなんてガラじゃないでしょ?」
先輩「どうしても君と2人きりになりたくて、さ」ニコッ
女「ふふっ。その割には賑やかな店をチョイスしたものね」ニコッ
先輩「こんだけ騒がしきゃー盗み聞きもされねぇだろってな」ケラケラ
女「盗み聞き?…まさか」ハッ
先輩「そのまさかだ、監視されてる」
…
先輩「そーゆー事。しかも相手は王立騎士団」グビグビ
女「騎士団って…じゃあ陛下が直接!?」
先輩「声がでけーよ。んで、こっからは噂を元にした俺の推測だが…」
かくかくしかじか
…
先輩「だろー?何だか知らないが、俺達は相当デカい話に巻き込まれてるらしい」ニヤニヤ
女「もしその仮説が正しいなら、私達は兵器開発の片棒を担がされてる事になるじゃない!」
先輩「国王陛下とそのネズミが出てきたんだ、ほぼ決まりだろ」ニヤッ
女「…なんだか楽しそうね」ジトッ
先輩「そんな事ないさ」ニヤニヤ
女「どうだか…」ハァ
先輩「まぁそれはそれとして」
…
先輩「海はどうだった?」ニコッ
女「…え?」
先輩「君、俺が訪ねてった時に留守だった事あったろ?」
女「あ…あぁ、あの時ね」ドギマギ
先輩「実はあの時そこらの職員に聞いててな、ホントは港湾倉庫に行ってたそうじゃないか」
ズイッ
先輩「…お前、何か隠してんだろ」ギロリッ
女「…店、変えましょうか」フイッ
…
カランッ…
先輩「アードベッグ」
女「私も」
<お待たせしました
先輩「…。」グイッ
女「…あなたに嘘はつけないわね」フゥ
先輩「おかしいと思ったんだ」フンッ
先輩「同僚達はともかく、俺や男まで呼び出して情報の付き合わせ…」カランッ
先輩「そんな事する必要あるか?」
女「…。」
先輩「何を知ってる?」
先輩「そして何を隠してる?」
…
女「結果的には、ね」グイッ
先輩「結果的に?」
女「マッピングシステムで実際に荷物を運ぼうと思ったら、莫大なエネルギー源が必要になるわ」
女「それを賄う方策として、巨大な魔法石が用意されてるって事までは聞いてた」
女「ただ、それがどこから来たのか」
女「なぜ極秘にされてるのか」
女「探ってみたけどサッパリだったのよ」フルフル
…
女「えぇ。魔法石が海外から持ち込まれたのなら」
女「何らかの記録が残ってるんじゃないかと思ったのよ」
先輩「その調査は、事務局の仕事としてか?」
女「半分はね。もう半分は私の探究心」クスッ
先輩「全く君って奴は…」ハァ
…
女「とにかくカードを出し尽くしてみれば何か分かるかも、と思ったのよ」
先輩「俺達を偵察隊か何かと勘違いしてないか?」クスッ
女「気を悪くしないで頂戴。知りたがりなのは性分なの」
先輩「まぁいいさ、結果的に面白そうな展開になってきやがったしな」ニヤッ
女「やっぱり楽しんでるじゃない…怖い人」クスッ
…
先輩「つまり巨石の出所だが」
女「あとは力の制御なのよ…ん」ノビーッ
先輩「詠唱が出来れば誰でもいいってモンでもないのか?」
女「精神が保たないわ」フルフル
女「そこまでの莫大な魔力を使いこなすことは普通の人間じゃ無理なの」
女「それこそ修道女さんレベルの詠唱士が何人も必要でしょうね」
先輩「…。」フゥ
…
女「"問題ない"の一点張りよ」ハァ
先輩「問題ないって言う時は、大体何かあるもんだ」ニヤッ
女「同感ね。彼らはまだ何か隠してる」
先輩「国王陛下に騎士団…」
女「これ以上何が出てくるって言うのかしら」
…
男「何だかすみません、わざわざ送ってもらっちゃって」ペコッ
先輩「気にすんな。まぁ医者にじっくり診てもらって」
先輩「バッチリ治してバリバリ働いてくれや」ニカッ
男「分かりました、それじゃ」ニコッ
先輩「お大事にな」ヒラヒラ
…
医師「事情は分かりました。脳の状態を調べますのでこちらのベッドに横になって下さい」
男「んしょ、と」ゴロンッ
医師「楽にしていて下さい」スッ
男「ん?その注射は…」
医師「弱めの安定剤です」
医師「男さんの場合、カーゴの運転等で無意識のうちに緊張状態が続いていた事がストレスになっていたと思われます」
男「ストレスですか」
医師「はい。心が安定した状態で検査をする為に、ご協力下さい」チクッ
男「んっ…」
医師「そのまましばらく安静にしていて下さいね」スクッ
ガチャ バタンッ
男「…ぅ…ぁ」ウトウト
男「」zzz
…
騎士団長「監視対象者の中に、同僚の同期である男という職員がいるのですが」
側近の「ふむ…どこかで聞いた名だ」チラッ
国王「涙の欠片か」
騎士団長「昨日体調を崩して、本日より王立診療所へ入院しています」
側近「何?」
騎士団長「報告によれば、運行中に一時的に意識を失った様で」
国王「…ほう」
騎士団長「念の為、催眠剤で昏倒させてあります」
騎士団長「向こう24時間は眠ったままです」
側近「仕事が早いな、流石だ」
…
側近「何だ?」
騎士団長「別の監視対象者…先輩という元陸軍所属の者に、偵察兵が接触されました」
側近「監視がバレた、という事か?」
騎士団長「誠に申し訳ございません」フカブカー
側近「お前らしくないな」チラッ
国王「まぁ、構わん」
…
騎士団長「仰る通りです」
国王「それがどういう意味を持つのか、さえな」
騎士団長「…無言の圧力、という事ですか」
側近「左様。旧陸軍からの選り抜きで組織された王立騎士団と」
側近「たかだか寄せ集めの現陸軍、ましてや退役者だ」
側近「どんな馬鹿でも喧嘩の相手は選ぶものだ」
…
騎士団長「はっ!」
国王「引き続き対象者の監視を続けろ」
国王「男に関してはそのまま診療所にて軟禁しろ、面会謝絶とでもしておけ」
国王「男のナビシステム、魔法石を入手しろ」
国王「時は近い、油断するな」
国王「今回の失態は不問に伏す。だが次はないぞ」ギロリ
騎士団長「は、はぁっ!」ビシッ
…
魔法石(ナビ)『面会謝絶ぅ!?』
女「どういう事ですか?」
受付係「検査の結果、男さんの症状を鑑みて」
受付係「過度なストレスを避ける為、一時的に面会謝絶するようにと」
受付係「先生のご指示です」
女「じ、じゃあ…」
医師「症状自体は重いですが」ガチャ
受付係「あ、先生」
魔法石(ナビ)『せんせー!?お、男ちゃんどうなるん!??』アセアセ
医師「今すぐ命に関わるとか、そういった事はありません」
魔法石(ナビ)『そ、そっかぁ…』ホッ
…
女「そういう事ですか…分かりました」
女「それじゃ男くんを宜しくお願いします」ペコッ
魔法石(ナビ)『せんせー、お願いします!』ペコッ
医師「はい。お任せ下さい」ニコッ
魔法石(ナビ)『ほんなら女さんどーするー?』チリンッ
女「事務局へ戻る前に食事でもしていくわ」
カツカツカツ…
…
医師「私です。例の魔法石は女という事務局職員が所持しています」
医師「えぇ、はい。あとはお任せ致します。」
…
魔法石(ナビ)『昼間っからお酒かいな!』
女「ふふっ違うわよ。ここら辺のパブはランチの営業もしてるの」カランッ
<いらっしゃいませー
…
女「私の掌2つ分位かしら?ここのは肉厚で美味しいのよ」モグモグ
魔法石(ナビ)『それをまぁ3つも4つも…女さんどんだけ食べんねん』アキレ
女「あらそうかしら?」ケロッ
偵察兵「…。」ジーッ
…
女「ふぅ美味しかった」
魔法石(ナビ)『しかしあんだけ食べた分どこへ行ってんねや…』ジロジロ
女「あら、私こう見えて…」ニコッ
女「欲しい所にはしっかり付いてるのよ?」チラッ
魔法石(ナビ)『っ!うおー!すげー!!』キャッキャ
女「ふふっ。…なんなら挟まってみる?」スポッ
魔法石(ナビ)『わ!わ!!わ!!!』
魔法石(ナビ)『アカン…ここが理想郷(ユートピア)か…』ドキドキ
女「大袈裟ね、女の子同士じゃない」クスクス
魔法石(ナビ)『って、てか、女さんキャラ変わってへん??突然どないしたん??』ドキドキ
女「…そこでじっとしててね」ダッ
魔法石(ナビ)『わっ!な、何!?』ユラ
偵察兵「…!」ダダッ
…
女「はぁ…はぁ…」
女「ここまで来たら撒いたかしら?」フゥ
魔法石(ナビ)『(揺れる度にあっちゃこっちゃでぽよんぽよんとまぁ)』ウットリ
魔法石(ナビ)『(住みたい…ここに)』
女「さて、ここからどうしようかしら…」ガシッ!
女「!」
…
女「痛っ!ちょっと離しなさいよ!」
偵察兵「…。」ギリギリッ
魔法石(ナビ)『な、何!?女さんどないしたん!??』
偵察兵「…魔法石を寄越せ」
女「男くんの魔法石!?それが目的なの!??」
偵察兵「…寄越せ」ギリギリッ
女「っく!…そんなの持ってないわよ!!」ジタバタ
…
同僚ナビ『さて次の配達は、と』
同僚「この先の路地裏だなw…あ」
ガチャン!ギュルル!!
同僚ナビ『っ!ちょっと急旋回ですわよ!一体どうしたんですの!?』
同僚「…配達やーめっぴ」ガコンッ!
同僚ナビ『ちょっと何言って…っあ!あれ!!』
同僚「急な集荷依頼にも即対応ってな!!」
…
女「っ!同僚くん!!」
同僚「集荷依頼はこちらですかーwww?」
女「こんの…!離せってば!!」ガブリ
偵察兵「!」バッ
女「出して!!」ガチャ バタンッ
同僚「毎度ありーwww」
ブォン!ブロロロ…
偵察兵「…。」ヒリヒリ
…
ブロロロ…
女「助かったわ同僚くん。ありがとう」フゥ
同僚「びっくりしたわーwwwでも先輩の言ってた事マジだったのねwww」
同僚ナビ『監視されているなんてちっとも…』
女「私も偶然気が付いただけよ」
女「でも彼の言ってたのと違って、向こうから手を出してきた…」
女「状況が変わった、って事なの?」
魔法石(ナビ)『あの、女さん?』
女「あらごめんなさい、狭かったでしょう」スポンッ
同僚「んなっ!?ナビちゃんお前なんという羨ましい所からwww」
魔法石(ナビ)『控えめに言うて天国やったで』ツヤツヤ
同僚「おいちょっと残り香よこせwww」クンカクンカ
魔法石(ナビ)『にぎゃー!気持ちわるーっ!!』ジタバタ
女「もう!バカな事言わないでよ!」
同僚ナビ『全くこの人は…』ハァ
ブロロロ…
…
ブロロロ…キキッ
同僚「到着なりーwww」
女「ありがとね」
同僚ナビ『では私達は運行に戻りますわ』
女「えぇ、お気を付けて」フリフリ
魔法石(ナビ)『いってらっしゃーい!』
カツカツカツ…
ザッ
…
騎士団長「先程は私の部下がとんだご無礼を」
女「全く。騎士団の名に恥じない紳士的な方だったわ」ハァ
騎士団長「お恥ずかしい限りです」
騎士団長「ですのでここからは、あくまで紳士的に進めさせて頂きます」ペラッ
騎士団長「女、あなたを拘束する」
魔法石(ナビ)『た、逮捕状!?』
女「…どういう事?」ギロリッ
…
騎士団長「ナビシステムの私的な持ち出し、並びに機密情報の閲覧」
騎士団長「これらは犯罪行為だ」
女「こ、これは協会にきちんと許可を取った行為です!」
魔法石(ナビ)『せやで!配車係さんにお願いしたんやもん!』
騎士団長「夜な夜な飲屋街へナビシステムのデータを持ち出す事もか?」
女「そ、それは…」
騎士団長「それに機密情報の閲覧。あなたは禁書指定されている魔術文献を入手されていますね」
女「…レディの部屋に忍び込むなんて、本当に紳士の鑑ね」ギリッ
騎士団長「捜査ですので。無礼をお許し下さい」
…
偵察兵「…。」スッ
女「…っく、お優しいのね」ギロリッ
騎士団長「もはやその必要がないからだ」
魔法石(ナビ)『え!お、女さん!』アワアワ
騎士団長「所持品は後程お預かりします」
騎士団長「無論、魔法石もです」
女「ナビちゃん…!ごめんなさい…」
…
魔法石(ナビ)『へ??お、男ちゃん!?』
男「」zzzz
騎士団長「今は薬で眠っている。命に別状はないし、身体は健康そのものだ」
魔法石(ナビ)『男ちゃーん!!会いたかったよぉぉー!!』ビエーン
騎士団長「お前達にはここでしばらく生活してもらう」
魔法石(ナビ)『ぐすんっ…ぐすん…え…なにそれ?』ウルウル
騎士団長「国王陛下の御命令だ。お前達をここに閉じ込め片時も離れさせるな、と」
魔法石(ナビ)『意味わかれへんわ…男ちゃんと一緒におれるのは嬉しいけど…』グスッ
…
側近「ご苦労。」
騎士団長「御足労頂き恐縮です!」ビシッ
魔法石(ナビ)『おっちゃんだれー?』
騎士団長「無礼者。この方は国王陛下の側近。この王国で陛下に次ぐ高位の方だ」
魔法石(ナビ)『側近さん?へぇー偉い人なんやー』
側近「成る程。これが魔法石に宿りし人の心…」
騎士団長「では、私はこれで」
側近「うむ。引き続き頼むぞ」
騎士団長「はぁっ!」ビシッ
ガチャ バタン
…
魔法石(ナビ)『わ!男ちゃんの胸の上!』キャッキャ
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『呼吸に合わせて胸が動いとぉ…可愛い…』ニコニコ
魔法石(ナビ)『鼻のあなー♪ぷぷっローアングルやとおもろいなぁ』ケラケラ
側近「…。」ジッ
魔法石(ナビ)『側近さん?あんなぁ?』クルッ
側近「何だね?」
魔法石(ナビ)『ウチてっきり、怖い人達が男ちゃんとウチを引き離そうとしとるんやと思っててんかぁ』
魔法石(ナビ)『そーじゃないん?ウチら一緒におってえぇの?』
側近「あぁ。その通りだとも」
魔法石(ナビ)『なんだぁ…安心したぁ』
ホッ
…
側近「…。」スクッ
ガチャ バタンッ
ガチャリ!パァァァァ…
…
先輩「うぃっすー」ガチャ
配車係「おはようございます」
女「あら、おはよう」フリフリ
先輩「…ん?下手こいて捕まったと聞いたが、釈放されたのか?」
女「お陰様で。元々逮捕容疑なんて取るに足らないものだったし…んー」ノビーッ
先輩「あー逮捕の為の逮捕って奴か」スッ フーーッ
カチッ ピンポーン
配車係「8時28分です、今日は特にかもしれない運転を心がけて下さい」
…
女「バカ言わないで。建前上は正規の手続きに則った拘束なのよ?」
女「事情聴取の上、厳重注意で釈放。ただ…」ギリッ
先輩「ナビちゃん、か」
女「没収されたわ。あの状況じゃ突っ撥ねる事も出来ないし」ハァ
先輩「成る程。分かった」グイッ
女「ち、ちょっと、何?」
先輩「折り入って話がある。お前の部屋で構わん」
女「…?えぇ、分かったわ」
配車係「え、ちょ、運行」
ガチャ バタンッ
…
バタンッ
女「それで?話っt ガバッ
ギュゥゥッ…
先輩「…心配させやがって」
女「心配、してくれたのね?」フッ
先輩「…守れなくてすまなかった」ギュッ
女「…気にしないで、私だっていい大人なんだk グイッ
チュッ…チュ…
…
先輩「っはぁ…んく…」チュッ
女「…っぷ、もう…」
女「本当に強引なんだから」クスッ
先輩「…俺の前では強がらないでくれ」
先輩「今回は守れなかったが…あぁっくそっ…!」ギリッ
先輩「お前が居ないのは…しんどいんだ」ギュッ
女「…ん、私も、です」フフッ
ギュッ…チュッ…
…
国王「涙の欠片と魔法石が揃ったか」
側近「はい。彼らの惹かれ合う心が、共依存の状態にまで高まるのは」
側近「もはや時間の問題かと」
国王「…20年か、彼にもよく働いてもらったが」
国王「この辺りが潮時だろう」
側近「…鍛治職人の里での暴発以降、力の制御は困難になる一方でした」
側近「今回の措置は良い梃入れになるかと」
国王「全ては民の為、王国の為…」
国王「ならば私は、悪にでもなろう」
側近「…。」
…
ゴゥンゴゥン…
親父「男が入院!?」
先輩「運転中に一時的に意識を失ったそうで…」
先輩「命に別状はないそうですが、今は面会謝絶の状態です」
親父「むぅ…それで、魔法石はどうした?」
先輩「魔法石?…ナビちゃんですか」
先輩「…騎士団の連中に没収されました」ギリッ
親父「騎士団!?国王の私兵か!」
親父「あの野郎…何を企んでやがる」
親父「…まさか」ハッ
先輩「っ!?何か心当たりがあるんですか!?」
親父「クソッ!」ダダッ
先輩「あ!親父さん!」ダダッ
…
親父「この前女が訪ねてきた時には余裕こいてはぐらかしちまったが」ゴソゴソ
親父「クソ野郎…まさか向こうから時計の針を進めてきやがるとは」ゴソゴソ
先輩「ど、どういう事ですか?」
親父「あった…女の奴、自分が知らない事には何にでも首突っ込みたがるだろ?」
先輩「えぇそうですね、学者肌というか」クス
親父「だからはぐらかしたのさ、危なっかしくて仕方ねぇからな」
親父「それに、アイツやお前らがいくら調べた所で最後のピースは見つからない」スッ
先輩「これは…写真?」
…
先輩「ホントだ、ははっ親父さん変わんないっすねー」ニコッ
親父「お世辞はいいからよ、んでこの右側の男…見た事あんだろ?」
先輩「ん?この人は…陛下の側近の!?」
親父「そうだ。20年前のあの時、俺と共に勇者の落涙で全てを目撃した男」
親父「そして、ナビシステムの開発指揮を採った男」
親父「賢者だ」
…
先輩「それでこの真ん中に写っているのが、勇者の落涙で命を落とした先代勇者なんですね」
親父「それだよ、最後のピースは」
先輩「?」
親父「勇者はな、代替わりなんざしちゃいねぇのさ」
…
ピッ…ピッ…ピッ…
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『』zzzz
側近「わざわざご足労頂き恐縮です」
修道女「い、いえいえ私こそき、恐縮です」アワアワ
側近「前回の男さんと魔法石との再リンクの一件、報告を読ませてもらいました」
側近「過去に前例のない処置にも関わらず、見事にやってのけたそうで」
側近「感服致しました」
修道女「いやー大した事ないですよぉぉ」テレテレ
…
側近「現在、男さんと魔法石は深い眠りについています」
側近「男さんの抱える心の問題…過度のストレスが原因という事にしていますが」
側近「実は別の問題があるのです」
修道女「別の問題…?そ、それじゃ前回の再リンクになにか不備が!」アセッ
側近「いいえ。修道女さんの詠唱は完璧でした」
側近「前回は魔法石側の不具合でしたが、どうやら今回は男さんの方の心に原因があるようなのです」
修道女「男さんの心に…?」
…
側近「幼き頃の心の傷というのは、成長し大人になったからと言って簡単に癒えるものではないのです」
修道女「そうだったんですね…男さん」
側近「今回は男さんの心へ魔法石をリンクさせ、再度心の補完をしてもらいたいのです」
側近「彼の絶望感や孤独感を、魔法石の人格情報によって癒してあげて欲しいのです」
側近「お力を貸して頂けますか?」
修道女「も、もちろんです!」グッ
側近「ありがとうございます」ニコッ
…
ブロロロ…
親父「20年前のあの時、俺達は魔王との戦いにケリをつけようと考えていた」
親父「勇者が最大火力の詠唱を使う間、俺と賢者であいつの守りを固めてた」
親父「当時はまだあの辺にゃドラゴンなんかがゴロゴロ居たからな」ケラケラ
先輩「ど、ドラゴンですか…」
親父「…あの場所に馬鹿でかい魔法石が埋まってたのは全くの偶然だったんだ」ギリッ
…
ビュォォォォォ…
[天空高く聳え立つ 神をも砕く雷の王]ゴワァァァァァ…
勇者「…っく」パァァァァ
剣士「おらぁぁ!」ザシュッ
賢者「ふんっ!」バシュゥゥ
[我と汝の力を以って 全ての愚かなる者に]ギュワァァァァ…
勇者「…!!」ギリギリッ
[清浄なる一撃を与え給え]
剣士「くるか!!」バッ
賢者「これで終わりだ!!」ババッ
-ドクンッ-
…
剣士「ど、どうした勇者!!」
-ドクンッ ドクンッ-
…
賢者「…ちっ!力が暴走したか!?」
剣士「暴走だと!?」
-ドクンドクンドクンドクンドクン-
…
ギュワァァァァ…!!
剣士「おい!あぶねーぞ!!」
賢者「ダメだ…心が力に飲まれる!」
剣士「勇者!おいしっかりしろ勇者!!」
賢者「このままじゃ道連れだ…避難するぞ!」ガシッ
剣士「見捨てて行けるかよ!仲間なんだぞ!?」
賢者「一緒に死んでしまったら元も子もないだろう!!」
…
勇者「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」ギュワァァァァ…!!!
カッ…
…
親父「あの辺り一帯の空間を消し飛ばす程の爆発を起こしながら、消えた」
親父「…巨石に取り込まれたんだ」シュボッ スゥ
先輩「と、取り込まれた!??」
親父「事故の後、王国まで巨石を持ち帰った賢者は」
親父「勇者の心を宿した巨石の力を使い」
親父「魔族に反応して自動で攻撃をぶっ放つシステムを作ったんだ」
先輩「じ、じゃあ勇者は!!」
…
先輩「親父さん…あなた…全部知ってて…!」
親父「なんで勇者を助けに行かねぇかって?馬鹿だなお前」
親父「…あいつはな、多分利用されてる事にも気付いてるんだ」
先輩「知ってて…あえて?」ゴクリ
親父「力に魅了されてたって勇者は勇者だ」
親父「巨石の力を利用してでも、賢者や王国に利用されてでも…」
親父「魔王を討つという使命を果たそうとしてるんだ」
先輩「そんな…人としての存在を捨ててまで…」
…
先輩「野暮って…」
親父「だがな、勇者の決意は俺の息子にゃ関係ねぇ話だ」ギロリッ
親父「賢者…お前の好きにはさせねぇぜ!」クワッ
…
ピッ…ピッ…ピッ
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『』zzzz
修道女「こ、ここで詠唱するんですか!?」
側近「今回の詠唱は多大な魔力を必要とします」
側近「この巨大な魔法石であれば、修道女さんの魔力に大きな助けとなるでしょう」ニコッ
修道女「そ、それはまぁ…でも」
巨石「」シーン
修道女「(あの時は気付かなかったけれど、この魔法石…)」
修道女「(膨大な魔力以外の何かを内包している…これは…)」
オォォォォォ…オォォォ
修道女「(…声!?人の心!??)」ゾクッ
…
側近「…これだけ膨大な魔力が一箇所に凝縮すると、思念のようなものを形成する事があります」
側近「心配いりません。善なる光で満ちたあなたの心ならば」
側近「巨石の力はきっとあなたの味方をしてくれますよ」ニコッ
側近「では私はこれで。詠唱の邪魔をしてはいけませんからね」クルッ
修道女「…あっ!側近さん!」
ガチャ バタン
…
修道女「…仕方ありませんか」フゥ
修道女「男さん、ナビちゃん」
修道女「今助けますからね」スッ
パァァァァ…
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『…男ちゃん』ムニャムニャ
…
ナビ「…ん」パチ
ナビ「んぁーよぉ寝た」ノビーッ
ナビ「…ここどこ?」キョロキョロ
ナビ「え、ウチまだ寝てるん??」ホッペギュー
…
ナビ「この感じ、この匂い」
ナビ「この前とは違う…うん、きっとここは男ちゃんの心ん中や!」
…
ナビ「男ちゃんみーっけ?」ニコッ
ナビ「くすっ。夢ん中でも寝てるってどんだけ寝るねん」ケラケラ
ナビ「髪の毛…やわっこいなぁ」サワサワ
ナビ「相変わらず睫毛なが…へへ」スッ
チュッ
…
ナビ「んむぅ!!!」ビクッ
男「…寝ている間に唇を奪われるとは」クス
ナビ「は、はわわ////」カァァッ
男「奪っておいて赤くなるなよ」ケラケラ
ナビ「だ!だってタイミング!!」
男「…足りないな」スッ
ナビ「にぎゃっ!??」ビクッ
パタッ
…
男「…押し倒した」ドキドキ
ナビ「お、男ちゃん!?ウチな!??」
男「分かってる」ニコッ
ナビ「いやいや絶対分かって…へ…」
チュッ…チュ
ナビ「ん…」
男「んくっ…ナビ…」
ギュッ チュッ チュ
…
コンコン ガチャ
親父「よう」ニカッ
女「お、おじ様!??」
親父「職場訪問!…って場合じゃねぇ」
親父「時間がない、一緒に来てくれ」
女「ど、どうしたんですか!?どこへ行くんですか!??」
親父「巨石の…勇者の所だ」
…
先輩「同僚いるか?」ガチャ
同僚「あ、おつかれっすーwww」
先輩「ちょっとツラ貸せ」クイッ
同僚「なにそれ怖いwww」
先輩「時間がない。男が危ないかも知れない」
同僚「…っ!了解っす。なら診療所へ?」
先輩「いや…巨石の間だ」
…
側近「あのシスターの詠唱が上手く運べば、時を置かず心の補完は成就するでしょう」
国王「うむ。ではその瞬間をこの目で見届けるとしよう」スクッ
国王「贄を捧げる者の責任としてな」
ガチャ バタンッ
…
ドクン…ドクン…
-なぁ男ちゃん?-
-ウチら色んな所に行ったなぁ?-
-シップの甲板から見上げた、ダイヤモンドぶちまけたような星空…-
-キラキラ光る朝の水平線…-
-どこまでも続く隣国の田園風景…-
-水の街へ続く、海に架かる橋…-
-里が襲われた時、すぐに逃げるかどうかで喧嘩したやんか?-
-くすっ。男ちゃんと喧嘩するなんてあれが初めてやったんちゃう?-
-どれもこれも、大事な思い出…-
-ウチの宝物やで-
…
-昔の記憶に押し潰されそうな時-
-男ちゃん、来てくれたやんか?-
-自分だって辛いのに-
-うぅん、自分の事やからこそ辛いのに-
-…あなたは来てくれた-
-嬉しかったぁ-
-もう一人やないんやって-
-見捨てられたと思ってた過去の記憶が、ようやく天に帰ってくみたいな?-
-上手く言われへんけど…-
-でな?あん時決めてんか-
-男ちゃんが好き-
-ずっと側におりたいって-
…
ドクン…ドクン…
-俺はずっと寂しかった-
-俺には親父がいるし、女も、協会のみんなもいる-
-でも、心の奥にずっと埋まらない空洞があって-
-そこは冷え切った場所で-
-真っ暗で誰にも触れられない場所で-
-そこは多分、一生埋まらないんだろうなって…-
-ナビの中に置き忘れた、北西の村での記憶-
-あの時の孤独感や絶望感が空洞の正体なのかも知れない-
-再リンクでそれは分かったけど、分かったからって空洞が埋まるワケじゃない-
-俺はどうしたらいいんだろう?…-
…
-本当は嬉しかったんだ-
-聞こえないフリしてゴメンな?-
-俺も、お前のことが好きだよ-
-でもこの好きって、本物なのか?-
-俺はただ、無条件に俺のことを受け止めてくれるお前に-
-寄りかかりたいだけなんじゃないか?-
-そういう思いが消えなかった-
-俺はこのまま踏み出してもいいのかな?-
…
パァァァァ…
バタンッッ!!
親父「遅かったか!!」ダダッ
女「し、修道女さん!??」
修道女「…っく!お、女さん!?」ビリビリ
先輩「男!ナビちゃん!無事か!?」
同僚「おい!お前何やってんだ!!」
修道女「同僚さん!?な、何って…」ビリビリ
…
親父「賢者!てめぇ俺の息子を!!」チャキ
側近「久しぶりですね剣士。そうか涙の欠片は貴方の…」
側近「昔話は後にしましょう、物騒なものは仕舞って下さい」
側近「国王陛下の御前ですよ」
国王「始まったようだな」ズイッ
女「へ、陛下!」
国王「…諸君には感謝している」
国王「此度の我らが計画に際し、その力を存分に発揮してくれた諸君らは」
国王「まさに王国民の鑑である」
先輩「力を貸した覚えなんてないが?」
側近「分からんか。ここに集いし諸君ら全員が力を合わせ、この計画を実現に導いてくれたのだ」
側近「私からも礼を言うぞ」
同僚「何が何やらさっぱりwww普通に生きてるだけですがwww」
側近「普通に、か」ニヤッ
男「…」zzzz
魔法石(ナビ)『…』zzzz
-あんなぁ?心の空洞は無理に埋めんでもえぇんちゃうかなぁ?-
-埋めなくてもいい?-
-多分な、きっとみんな同じなんちゃうかなぁ?-
-同じ?誰の心にも空洞が?-
-多かれ少なかれ、な-
-でな?例えばそれを無理に埋めようとするやん?-
-誰かで、何かで…か-
-ぅん…でもきっと上手くいかへん。一瞬忘れる事は出来るかもやけど-
-…分かるよ、俺もそうだった-
-普通の人はみんなそう、でも…-
-普通の人は?-
-ウチと男ちゃんは特別なんやで-
-特別?-
…
-こんなに分かり合える存在ないよ?-
-…確かにそうかも知れない-
-やろー?ウチら最強のコンビやもん♪-
-ふふ。久しぶりに聞いたな-
-えへへ。だからな?男ちゃん…-
-ウチと一つになろ?-
…
パァァァァ…
側近「ここまで力が高まれば問題あるまい」
側近「修道女さん、もう結構です」スッ
パァァァァ…バシュンッ!!
修道女「…っく!は!」フラッ
同僚「ないすきゃーっちwww」ダキッ
親父「賢者、お前…」ギロリッ
親父「俺の息子を生贄にするつもりだな!?」
側近「礎、と言ってくれ」
親父「ふざけんな!何が礎だ!!」
国王「剣士よ」
国王「側近…賢者は知恵を貸してくれたに過ぎん」
国王「全ての責は国王たる私にある」
国王「恨むならば私を恨め」
…
親父「勇者が巨石に取り込まれて20年…」
親父「巨石の力に勇者の心が食い尽くされちまう前に」
親父「心の補充をしようって魂胆だよ!」スチャ
側近「無礼者!剣を仕舞え!」
女「そ、そんな…酷い…!」フルフル
…
国王「強大なる魔王の力を前に、人々を、世界を守る為」
国王「勇者を取り込んだこの巨石の力…」
国王「"神の雷"を制御する心が必要なのだ」
修道女「か、神の雷…!?」
側近「巨石の力を制御するには、揺るぎなき心の力が必要なのだ」
側近「20年前のあの日…勇者から飛び散った、悪を憎む善なる心の残留思念」
側近「"涙の欠片"を内包した男くんの心が、まさに適任だったのだ」
側近「が、火災により深い傷を負った彼の心だけでは不十分…」
側近「その為に彼の心の片割れたる魔法石との接近…心の補完が切望された」
国王「諸君らは、人の心という複雑で繊細な代物を上手く導き」
国王「彼らの心が惹かれ合うのを後押ししてくれたというわけだ」
女「そ、そんな…」
先輩「じ、じゃあ俺達がした事が…」
同僚「あいつとナビちゃんの為を思ってした事が…!?」
修道女「酷い…人の心を何だと思ってるんですか!??」ブワッ
…
側近「?」
親父「…俺の息子を舐めんな」ギロリッ
側近「愚弄などしていない。涙の欠片は…」
親父「俺の息子を変な名前で呼ぶんじゃねぇ!!!」クワッ
親父「男…とっとと目を覚ましやがれ」
男「…」zzzz
魔法石(ナビ)『…』zzzz
…
-俺達が、一つに?-
-せやでぇ。…あ、エッチな意味ちゃうで!?-
-…ま、まぁ、それもえぇねんけど…-
-あんなぁ?ウチら一つになったらな?この寂しさも消えると思うねん-
-心の空洞だって埋まるかもしれへんし!な!?-
-俺は…-
-…ウチと一つになろ?そしたらこの力も…-
-力?-
-この巨石の力もウチらのもんや-
-おいナビ、何言ってるんだ?-
-こっちへ…こっちへ…-
…
パァァァァ…
女「っ!巨石が光り出した…!?」
側近「いよいよ始まるか…」
先輩「男ー!!目を覚ませー!!!」
修道女「あぁ…神よ…」
親父「…。」ギロリッ
男「…っく!」zzzz
魔法石(ナビ)『…。』
…
男「…ん」パチ
ナビ「…。」
男「…お前、誰だ?」ムクッ
ナビ「…。」
男「ナビをどこへやった!?」
ナビ「…。」ニタァ
男「っ!?」ビクッ
ナビ「…もう疲れたんだよ、俺は」
グニャァァァァ…
勇者「独りで戦い続ける事に、な」パァァァァ…
…
勇者「代替わりしたって事になってんのか…酷いモンだな」ハハッ
勇者「俺はここでずっと戦ってきた。ずっとな」
男「ここって…そもそもここは…?」
勇者「巨石の中さ。俺はあの日北の荒野で、巨石の力を制御し切れずに」
勇者「この中に取り込まれたんだ」
男「取り込まれた!?じ、じゃあナビシステムと同じ…?」
勇者「ナビシステムってのは人の心を魔法石に写し取ったものなんだろ?」スッ
魔法石(ナビ)『』チリンッ
男「な、ナビ!!」
…
勇者「でな?この中から力を振るうには、善を望む強い心が必要なのさ」
男「誰よりも崇高な魂を持つとされる勇者だからこそ出来る芸当か…」
勇者「お褒めにあずかりどうも。だがな、俺も人間だ」ポイッ
男「ナビっ!!」パシッ
勇者「枯れる事のない膨大な力の奔流に晒され続け…」
勇者「終わりの見えない戦いに力を振るい続ける事に、もう疲れちまったんだよ」
勇者「俺の心がな」
…
勇者「同情なんざいらねーよ」フンッ
勇者「…欲しいのはお前の心だ」チャキ
男「な、剣!?」
勇者「お前の心を寄越せ」
勇者「魔法石に入ってる分とセットでな」ニヤッ
魔法石(ナビ)『…。』
…
パァァァァ…
国王「巨石が輝いておる…」
側近「準備が整いました、陛下」
国王「うむ…騎士団長!」
騎士団長「ここに」ズイッ
ズラズラッ…
国王「あとは任せたぞ」クルッ
騎士団長「承知しました」チャキッ
…
女「くっ…!外道め!」
同僚「これw確実に消されるパティーンwww」
修道女「ひぃっ…!」ガクガク
先輩「…はいそうですかって、簡単に消されるとでも思ったか?」ギロリッ
チャキッ…ブンンッッ!!!
同僚「ちょwww先輩そんな大剣どっからwww」
…
先輩「俺の女に手ぇ上げた阿保はどいつだ!?ここで根性叩き直してやっから腹決めろ!!!」ダンッッ!!
同僚「こぇぇぇぇ」ビクビク
女「もう…どさくさに紛れて何勝手に恋人宣言してるのよ」ハァ
女「…バカね」クスッ
親父「(今俺の女って言った!?ねぇ俺の女って言った!??)」
…
親父「手加減しねぇからな…子を持つ親を舐めんじゃねぇ!!」ブンッ
親父「全員散開!男達と巨石を囲むように広がるんだ!」
先輩「了解!」バッ
女「やるしかないのね」タタッ
修道女「わ、私戦いなんて…!」ビクビク
同僚「回復役なら出来んだろwwとりあえずこっち来いwww」ズイッ
…
パァァァァ…
勇者「…。」チャキッ
男「俺を殺そうって言うのか?」
勇者「この中にいる限り死にゃしねぇから安心しろ」
勇者「ま、斬られりゃ普通に痛いだろうけどな」ニヤッ
男「…っく!」ギリッ
…
男「な、ナビ!!」
魔法石(ナビ)『…男ちゃん、どうする?』
勇者「お、パートナーのお目覚めか」
男「ど、どうするって…」
魔法石(ナビ)『…あの人本気やで』ジッ
魔法石(ナビ)『形は歪んでしまっとぉけど、使命に燃える心はまだ残っとぉ』
魔法石(ナビ)『ウチらを取り込んででも…人の血で手を汚してでも』
魔法石(ナビ)『魔王を討ち取るつもりや』
勇者「そういう事だ。お前達には悪いが」
勇者「世界の平和という大義の為…」
勇者「お前達にはその礎となってもらう」
…
勇者「"普通"ね…」ギロリッ
魔法石(ナビ)『男ちゃん!話して分かる相手やないで!とりあえずこれ!!』
パァァァァ…ポンッ!
パシッ
男「こ、これは親父がくれた剣…!」チャキッ
勇者「ようやくやる気になったか」
勇者「ならば行くぞ…!」ダダッ
魔法石(ナビ)『男ちゃん!来るで!』
男「っ…ぬぁぁ!」
…
男「っく!!なんて剣速…!」ギリギリッ
勇者「そう言いながらきっちり反応出来てるじゃねぇか」ニヤッ
勇者「久し振りの実戦、そうでなくちゃ面白くねぇや!!!」ババッ
勇者「ぅおりゃぁー!!」ブンッ
男「っく!!!このぉお!!」ブンッ
ガキンッ!!キンッ キィンッ
…
男「…っはぁ…はぁ…」ギュッ
勇者「お前、さっき普通がどうとか言ったな?」スッ
勇者「…お前達の"普通"を守る為に、俺達がどれだけのモンを諦めなきゃならなかったか」シマイ
勇者「お前、考えた事あるか?」
男「…っく、どういう事だ」チャキッ
…
勇者「っはぁ!」ドカッ!バキッ!
男「ぐはっ!!」
勇者「剣士や賢者と違い、勇者はなろうと思ってなれるもんじゃねぇ」
勇者「ある日突然、啓示が下るのさ」ドカッ!バキッ!
勇者「それまで"普通"に暮らしてた俺は、啓示によってある日突然勇者に任命された」
勇者「そんな理不尽な事ってあるか?」
男「ぐっ…はぁはぁ」
…
勇者「友達と遊んだり、喧嘩したり」ゴスッ
勇者「誰かに恋をしたり」バシッ
勇者「"かったりーなー"なんて言いながら仕事したり」ドカッ
勇者「仲間と酒を飲んだり」ゲシッ
勇者「そういう"普通"を全部捨てて!」
ドカッ!バキッ!!
勇者「ただの若造が、いつ殺されるか分からない戦いの渦中に突然放り込まれて!!」
ブンッ!ドゲシッ!!
勇者「俺が諦めなきゃならなかった"普通"を謳歌するお前達の為に!!!」
ガシッ!ギリギリッ…
勇者「ずっと戦ってきたんだ!!!」
…
魔法石(ナビ)『男ちゃん!!』
勇者「…でもそれも終わりだ」ニヤッ
ブンッッ ポイッ
男「ぐはぁぁ!!」ズシャーッッ
勇者「使命は果たす。魔王はこの手で討ち取る」チャキッ
勇者「お前達も道連れだ」
…
ガキィィン!! キィン! キィン!!
親父「おらぁ!」ブンッ
騎士「ぐはぁ!」
親父「へっ…しかし、誰かを守りながら剣を振るうなんざ」
親父「あの日以来だな!勇者!」
先輩「お前か、それともお前か?女に手を上げやがったのは…」ギロリッ
先輩「腹は決まったのかよ!」
ブゥンッッ…ドカァン!
騎士「うわぁぁ!」
…
女「こんな事も出来るのよ!」バシュゥゥ
ドッカーンッッ!!
同僚「おいおい女ちゃんwwここ室内www」
修道女「やたらと火炎属性の詠唱を用いるのは危険です!」
女「ふふっ…まだまだ」ニヤッ
同僚「あいつwwwしっかり魅了されてねぇかwww!?」
修道女「マズいです!いくら広いとは言え、室内であんな火力の詠唱は…」
同僚「みんなも何だかんだ戦い難そうだしな…あwww」ピコーン
…
修道女「な、何か思い付きましたか!?」ササッ
同僚「はい女ちゃんも集合www」
女「何よ今いいところなのに」ブツブツ
同僚「あのな…www」ゴニョゴニョ
修道女「…そ、それなら何とかなるかもです!」スッ
女「いけそうね…私も手伝うわ!」スッ
パァァァァ…
グワァァァ…
…
同僚「ミラクルブースト転移魔法でwww」
女「巨石の間にいる私達を…」ビリビリ
修道女「騎士団の皆さん諸共まとめて転移させます!!」クワッ
パァァァァ…
バシュゥゥ!!!
…
カチャ…ポロッ
勇者「ん?なんか落ちたぞ」
魔法石(ナビ)『ホンマや、剣の部品ちゃう?』
男「どれどれ…あ、柄の丸い凹みって穴を塞ぐキャップだったのか」
男「…あ」ピコーン
…
男「これは多分、こう使うんだ」スポッ
カチャ…
魔法石(ナビ)『あらまぁなんと収まりのえぇ場所』スッポリ
パァァァァ…ブァン!!
オォォォ…
男「ナビと巨石の力を反応させて、強大な魔力を纏う魔法剣…」チャキッ
勇者「な、何だと…!?」
男「勇者さん」
男「これでもう一度勝負だ」チャキッ
…
…バシュゥゥ!!!
親父「な!?外に出た…?」ポカーン
先輩「転移魔法で全員外に放り出したのか!」
先輩「助かるぜ!これで思う存分…」チャキッ
騎士団長「っく!…こ、ここは市街地!?王宮から転移してきたのか」
騎士団長「まぁ良い!貴様らを討つ事に変わりはない!!」チャキッ
騎士団長「ゆくぞ!!!」ブゥンッッ
先輩「おらぁぁ!!」ブゥンッッ
ガキィィン!!キィン!キィンキィン!!
…
親父「ん?まだ何かあんのか?」
同僚「親父さんwこれ持ってって下さいwww」ポイッ パシッ
親父「これは…通信用の魔法石?」
同僚「イッツ☆ショータイムwww」
ピピッ
…
国王「さて、そろそろ頃合いか」
タッタッタッ…バタンッ!
警備兵「陛下!!」
側近「なんだ騒がしい!」
警備兵「報告します!き、巨石の間から…」
警備兵「男を除く全員が消失しました!」
側近「消失?…転移魔法か」ギリッ
国王「何だと!?しかしそんな事が可能なのか?」
側近「恐らく巨石の力を借りた超出力の転移魔法で…」
側近「巨石の間にいた者全員を一気に転移させたものかと…」
…
警備兵「分かりません、しかし…」
警備兵「現在、王都市街地の複数箇所で同時に戦闘が展開されていると報告が!」
国王「な、何だと!?」ダダッ
…
<キィン…ドカンッ…
国王「おい…これは…」
側近「…むぅ…」
国王「…市民を人質に取ったか…」ゴクリ
側近「あいつら…」ギリリッ
…
勇者「そんな…バカな…っく」ボロッ
男「これで分かっただろ、俺はあんたにも負けない力がある」
男「だから…もういいんだよ」
勇者「…っくふふ、ふははは!!」
男「…?」
勇者「あーっははははは!!!!」
勇者「はは…はぁ…うっ…く…」ポロポロ
勇者「あぁ…あぁぁぁ」ポロポロ
男「…。」スッ
ギュッ…
…
男「長い間、俺達の為に」サスサス
男「…本当にありがとうございました」サスサス ギュッ
勇者「俺は…俺は…!!」ポロポロ
勇者「うぉぉぉぁぁぁぁぁ」ポロポロ
魔法剣(ナビ)『…。』ウルッ
…
男「顔を上げて下さい」フルフル
男「あなたは元々、生身の人間ですから」
男「ここから出ようと思えば出られたはずなんです」
勇者「巨石の力に魅了された俺の弱さがそれを許さなかったって事か…」
…
男「勇者さん…」
勇者「だが、俺は諦めないぜ!」
勇者「人間として失われた時間は長いが、それでも俺は俺…」
勇者「魔王討伐に向けて!今度は俺自身の力で!」
男「俺にも出来る事があればお手伝いします」
魔法剣(ナビ)『マジか!!』
男「お前も手を貸してくれるか?」
魔法剣(ナビ)『あったりまえやん!なんたってウチら…』
男「最強のコンビだからな」ニコッ
男「ですが、その前に…」
勇者「…だな」ギリッ
…
…ブロロロ…
女「カーゴ…こんな時間に運行なんてあったかしら」
女「っていうかあれ…同僚くんのカーゴ!?」
ブロロロ…キキッ
同僚ナビ『集荷に参りましたわ!』
同僚「よう相棒wwささ乗った乗ったwww」グイグイ
修道女「え?え??」
女「今度は何をしようってのよ?」
バタンッ
同僚「騎士団狩りだよwww」
ブォン!ブロロロ…
…
同僚ナビ『私です!同僚さんは運転中なので私が騎士団の位置と人数をナビゲートします!』
親父「そいつは助かるぜ!なにせこいつら人数が…っとりゃ!」キィン!キィン!
同僚ナビ『王立騎士団は総勢100人の大所帯…ですが』
同僚ナビ『王都の街並みを隅々まで知り尽くした私達ならば』
同僚「どこに隠れてたって逃がさねぇよんwww」
女「更に同僚くんコンビの索敵情報を使って、私と修道女さんの詠唱を組み合わせて…」
修道女「攻撃魔法をピンポイントで転移!」
先輩「よし!これなら行けるぞ!」ブンッッ!
…
先輩「了解!」ダダッ
同僚ナビ『剣士様はその先3ブロックに渡って2人ずつ計6人ですわ!』
親父「おうよ!剣士様なんてこっ恥ずかしいぜ!親父で構わねぇよ!」ニカッ
…
女「了解!行くわよ修道女さん!」パァァァァ
修道女「了解です!」パァァァァ
同僚「そして俺は、そこら辺にいる騎士団の連中を追い回して一箇所に追い込む係www」
同僚「たかまるぅwwww」ガチャン
…
親父「おう!どした!」キィン!キィン!
先輩「この戦いが終わったら俺、親父さんに話が…!」ガキィン!
親父「あー聞こえない聞こえない!妙なフラグ立てんじゃねぇよバカ!!」
女「こっちには聞こえてるわよ…ホントにもう」クスッ
ブォン!ブロロロ…
…
勇者「お久しぶりです、陛下」ペコッ
男「…。」ペコッ
国王「勇者!?本当に勇者なのか!??」ガタッ
側近「…。」ギリッ
勇者「賢者も久しぶりだな、今は側近か」
勇者「何とか言ったらどうだ」
側近「…。」フンッ
…
男「そして、今回の俺とナビに降り掛かった出来事…」
男「全て公表して下さい」
男「勇者の命を犠牲にして、神の雷を作り出した事」
男「そしてその力を保つ為に、今度は俺とナビを…」
男「これは人の道に外れる行為です」
…
勇者「だが賢者、お前はそれを好機と捉え」
勇者「俺を一人の人間ではなく、兵器として利用してきた」
勇者「…俺はまだいい」
勇者「巨石の中とは言え、魔王を討つという使命の為にやってきた事は同じだからな」
勇者「だが、彼らにしようとした事は違う」
側近「…。」
…
国王「そなた達は大義を前に小さき者を蔑ろにするな、と言うが」
国王「それは理想論だ…詭弁とも言える」
国王「誰一人傷付ける事無く、全てを守り抜く…」
国王「それが出来るならば私だってそうしたい」
国王「しかし現実を見よ」
国王「魔王を前に、我々人間の力はあまりにも無力だ」
国王「民を、世界を守る為」
国王「側近…賢者の考えは次善の策であると考え、私は支持したのだ」
…
国王「違わんな。私は王国の為、世界の為」
国王「私は悪にでもなろうと覚悟を決めたのだ」
国王「そなたにその覚悟はあるか?」ギロリッ
…
側近「こんな時に何だ!?」ガチャ
騎士団長『わ、私です…』
側近「おぉ騎士団長!城下の争いはどうなった?奴らを仕留めたのだろうな!??」
騎士団長『そ、それが…あっ』
親父『おいーっす』
側近「なっ!剣士か!」
親父『騎士団だっけか?コイツら全員制圧したぜ』
側近「何だと!??」
国王「か、代われ!」バッ
…
親父『国王陛下か!安心しろよ、全員生け捕りだ』
国王「い、生け捕り…」
親父『まさか市街地で人斬りをするわけにゃいかねぇだろ』
親父『それにな、アンタ達と同じ土俵に立つつもりはねぇんだ』
国王「…どういう意味だ」ギリッ
…
親父『おい男!こんだけ騒がしきゃーさすがに目ぇ覚めたろ!!』
親父『そいつらにガツンと言ってやんな!!』ガチャ
国王「っく…」イテテ
男「親父ホントに声がデカいな…丸聞こえだぞ」クスッ
勇者「剣士…全然変わらないなあいつは!」ケラケラ
…
男「どちらにしろ早晩、みんなに説明しなきゃいけなくなるはずです」
勇者「陛下、俺はこいつらに教えられました」
勇者「力の使い方次第では、誰かを守りながら戦う事も出来ると…」
国王「…むぅ」
…
勇者「今度はこの手で!俺自身の力で!!」
勇者「魔王を討ち、平和を勝ち取ってみせます!!」
勇者「お願いします!!」フカブカー
男「俺からもお願いします!!」
…
国王「…分かった」
側近「へ、陛下!!」
国王「…おぬしらの言うことは所詮理想論」
国王「だが、国を統べるものとして」
国王「初めから完全無欠の答えを諦め、次善の策に甘んじた私は間違っていたようだ」
側近「陛下!それは違います!!」
側近「王国の…世界の将来を憂い、陛下は自ら道を踏み外してでも民を守ろうとした!!」
側近「そんな陛下を誰が非難できるでしょう!??」
…
国王「だが私は悟ってしまった」
国王「目的の為、自ら悪の道を歩まんとするような考え方は」
国王「魔王と何が違う?」
側近「そ、それは…」
…
国王「あぁ…勇者よ」
勇者「はっ!」
国王「私の最後の頼みだ」
国王「魔王を討て」
国王「平和を勝ち取ってくれ」
勇者「承知致しました!!」ビシィッ
国王「男くん、そして魔法石に宿りし心よ」
男「はい!」
魔法剣(ナビ)『はぃな!』
国王「勇者の力になってやってくれ」
男「分かりました!」
魔法剣(ナビ)『やったんで!』
側近「…くっ」ギリギリッ
…
ワイワイ…ガヤガヤ…
<乾杯!!!カチンッ
同僚「ぷはーうめーwwwww」グビ
修道女「今回はまた大騒ぎでしたねー」ゴクッ
女「この一件で王立騎士団は解体…騎士団長は修行の旅に出るそうよ」
先輩「いい心がけだな、女性に手を上げるなんざ、紳士の風上にもだ」
先輩「あ、ラス1もーらい」パク
女「あ!私狙ってたのに!紳士の風上にも置けないわね!」
先輩「旨いもんは別だ」ニカッ
修道女「それは同感です」ケラケラ
…
勇者「剣士もな!見た目は老けたが中身は全然だ!!」バシバシ
親父「それ褒めてねぇだろー!」ワハハ
…
同僚「陛下の気持ちも分からんではないが…やり方がマズかったな」
男「この国はこれからどうなるんだろうなー」
先輩「議会が中心になって、民主主義の国を作っていくそうだ」
修道女「色んなものが変わっていくんですねぇ…」
同僚「シリアスな顔しちゃってwwどうせ1時間もしたらとっ散らかっちゃうんだろwww」ケラケラ
修道女「また馬鹿にしてー!!」ムキー
…
ワイワイ…ガヤガヤ…
親父「エールおかわりお待ち!」ドンッ
勇者「お!サンキュー!」
勇者「それじゃ、かつての同士との…」
親父「再会を祝して…」
<乾杯!カチンッ
…
親父「自分でも不思議だよ」フフッ
勇者「でも、さすが剣士の息子だな!巨石の中で剣を交えたが、強かったぞ!」
勇者「剣の腕はお前と並び立つんじゃないか?」
親父「だろー??ガキの頃から鍛えてっからよ!」ワハハ
親父「血は繋がっていないが、女共々自慢の子供さ」ニコッ
勇者「…すっかり父親の顔だな」フフッ
…
勇者「陛下と約束したんだ、一から修行し直して」
勇者「今度こそ、魔王を討つ!」グッ
勇者「剣士はどうする?一緒に来るか?」
親父「俺は歳食っちまったからな…身体がもたんだろうよ」
親父「鍛治の仕事もあるしな、だからすまん」
…
親父「あの頃は魔王討伐に必死で、酒なんか飲んでる余裕なかったしな」ニカッ
勇者「まったくだ」ケラケラ
親父「あ、だったら代わりにあいつ連れてけよ!」
勇者「男くんか…確かに一緒に来てくれたら心強いな!」
勇者「今は物流協会だっけ?陸軍を再編成して出来たんだよな」
勇者「来てくれないかなー」ギシッ
…
勇者「そうするよ!いやぁ…しかし」シミジミ
親父「何だよ」
勇者「普通って、いいもんだな」ジワッ
親父「…勇者、おかえり」ポンポン
勇者「ははっ…ただいま」ニカッ
<おーし今日は飲むぞー!!
<店中の酒樽を空にする!!
ワイワイ…ガヤガヤ…
…
先輩「アードベッグを」
女「マルガリータを」
<お待たせしました
<乾杯…カチンッ
女「…あの時はビックリしたわ」フゥ
先輩「どうしても許せなくてな。君を傷付けようとしたあいつらが」
女「それにしたって…何もおじ様の前で啖呵切らなくても」クスッ
先輩「あれは勇み足だったか…」ハァ
先輩「だが、言った言葉に嘘はない」
先輩「俺は君の事、そういう風に思ってるんだ」グイッ
先輩「…君はどうなんだ?」
女「…。」カラカラッ
…
女「でもね…自信がないの」ハァ
女「私に人を愛する…愛される資格なんてあるのか、って」
先輩「愛の資格か…」
先輩「そんなモン必要ない!と言っちまう事も出来るが…」
先輩「強いて言うなら、とっくに持ってるんじゃないのか?」
女「私がその資格を?」
…
先輩「生きてるって事は、それ自体誰かに愛されてる証なんだ」
先輩「だから君も誰かを愛する事が出来る、愛される事を知っているからだ」
女「私が…」
先輩「今すぐじゃなくてもいい」
先輩「俺との事、少し考えてみてくれ」
女「…優しいのね」
先輩「強引になれないだけさ」グイッ
先輩「…戦闘みたいにはいかん」クスッ
…
修道女「私も同じので!」
<お待たせしました
<乾杯!カチンッ
同僚「今回も大活躍だったなwww」
修道女「最後まんまと利用されましたけどね…側近様め」グヌヌ
同僚「そういや側近…賢者ってどこ行ったんだww?」グビ
修道女「姿を消したそうですね」
同僚「陛下はともかくあの野郎wwやりたいだけやってトンズラかよwww」
…
同僚「先輩は女ちゃんを疑ってたみたいだけどなww」
修道女「まぁ勇者様と巨石の力が暴発したという事なんでしょうけど…」ウーム
同僚「あれだろ?ナビちゃん達が聞いたっつー呻き声www」
修道女「はい…一体何だったんでしょうねー」グビ
同僚「勇者にやられた魔族の亡霊とかだったりしてなwww」ケラケラ
…
修道女「うぅ…こうして一生いじられるのね…」シクシク
同僚「だって初登場時の衝撃が強過ぎてwwww」ケラケラ
修道女「むぅ…でも散らからなくなったのは同僚さんのお陰でもあるんですよ?」
同僚「だろーwwもっと褒め称えてくれて構わんwww」
修道女「またすぐ茶化すんだから…」クスッ
同僚「シリアスなの苦手なんだもんwww」
…
同僚「なんだよ急にww」
修道女「何でもないでーす」プイッ
同僚「…こちらこそ、だ」グビ
修道女「え?」
同僚「だから!…いつも助けてくれてありがとな」
修道女「…。」ポスッ
同僚「な、なんだよ急にもたれ掛かってきて…眠いのか?」
修道女「そうでーす。眠くて…もう死んでもいい位」フフッ
同僚「わけ分からん…」
…
修道女「(あ、また草生えてない)」
修道女「空いてますけど、どうしたんですかー?」
同僚「ちょっと行きたい所あるんだわ」
同僚「付き合ってくれや」
修道女「そ、そそそれって!でででデート的な!??」ガバッ
同僚「そういうんじゃねーよバーカww」クスッ
修道女「な、なんだ…」シュン
修道女「じゃあどこへ行くんですか?」
同僚「…ちょっとな」グビ
…
カランッ
男「ブルームーンで」
ナビ『あら珍しいやん』
<お待たせしました
<乾杯!
…
男「全然平気だよ。っていうか今になってみれば…」
男「意識を失ったのだって騎士団が何かしたんじゃないかっ?て気もするけど」クイッ
ナビ『そこは何とも言われへんけどな、でも…』
男「でも?」
ナビ『さすがに物忘れを無理矢理させるってのは出来ひんちゃう?』
男「そうだよな…やっぱり疲れてたのかなー」
…
男「ん?」ゴクッ
ナビ『国王はんの前で啖呵きってもうたけど、ホンマに魔王を倒しに行くん?』
男「そーれーなーーー」ギシッ
ナビ『…悩んでんねや』チョコン
男「あぁ…いくら親父に鍛えられたとは言え、俺はただの一般市民だからな」
ナビ『せやんなー。怖いよな』プラプラ
男「魔界…魔王…」
男「勇者さん達以外、誰も見た事のない世界…」ギシッ
男「…そこへ行って自分が剣を振るうってのが、想像もつかないんだ」
…
ナビ『今まで通り、一緒にカーゴ乗るんでもえぇ』
ナビ『戦うって言うなら一緒に行く』
ナビ『おとさんのお陰で、魔法剣として一緒に戦う事も出来るようになったしな』ニカッ
男「…それは、相棒としてか?」
ナビ『それもあるけど、ウチは男ちゃんの事好きやから。』
男「…うん」
…
ナビ『何?ほんなら修道女さんみたいに啖呵きったろか??』
ナビ『ウチは!男ちゃんの事が!!』ババーン
男「いいよいいよ!照れ臭い」アセッ
ナビ『なんやつまらんなー』ケラケラ
男「…。」
ナビ『…。』
…
男「赦す…?」
ナビ『せやでー。今回も勇者はんの抱えとぉ苦しみとか悲しみとか…』
ナビ『ぜーんぶ受け止めたって、最後は巨石から引っ張り出したワケやん』
ナビ『誰にでも出来る事ちゃうで』ウンウン
男「そうかな?」
ナビ『そーなの!』
…
男「慈しみ…」
ナビ『同僚ちゃんとも、他の誰とも違う…』
ナビ『男ちゃんのそういう所が、ウチは大好きなんよ。』ニコッ
男「ナビ…」スッ
ナビ『…だーっ!ちょ!タイム!』ヒラリ
男「あ、避けられた」
…
ナビ『大事な事ちゃんと言わんと、勢いでその、そ、そういう事を…』カァッ
男「あ、あれやっぱりお前だったんだな?」
ナビ『へ?』
…
男「俺まさか男同士で…!?って心配してたんだよー!」ハハッ
男「やっぱりお前だったんだな、いやー良かった!安心したよ」ホッ
ナビ『ホッ…ちゃうわぼけ!』シャー
…
ナビ『女の子はな!?分かってても言葉で言って欲しいねん!!』プンスカ
男「すまん、じゃあちゃんと言うよ」スチャ
ナビ『…ぁ、眼鏡』ドキッ
男「ナビ…俺はお前の事がsナビ『あーっ!た、タイムタイム!!!』アセッ
男「…今度は何だ?」ハァ
ナビ『やっぱ今日はダメ!男ちゃんお酒入っとぉもん!!』
男「こんなんで酔っ払わないぞ?」カタムケ
ナビ『いーやアカン!酔っ払っとぉ人はみんなそう言うねん!!』
男「それはまぁ確かにありがちだ」スチャ
ナビ『よし眼鏡かけたな!?もう一生かけとけ!!』
男「なんだそりゃ」ケラケラ
ナビ『全く…せやから今度シラフん時にちゃんと言うて??』
ナビ『な?な??』ジーッ
男「…その視線こそズルいよ」ハァ
…
ナビ『何の勝負やねん…まぁほなそういう事で!』ニシシッ
ナビ『(何でそこで眼鏡取るねん!あの眼はエ口い!直視でけへん!)』カァッ
ナビ『(あーモヤモヤするぅ…男ちゃんのあほ!エ口メガネ!)』ドキドキ
…
剣と魔法と運送業【後半】