【ミリマス】その想いに気付く時【杏奈×百合子】

1: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:07:54.60 ID:7eNavJSg0

書き溜めのみ、サクッと投下します
あんゆりが恋に目覚める話です



2: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:08:19.40 ID:7eNavJSg0

​今日は休日だから学校も無いし……アイドルのお仕事も無い、要するにオフの日。
最近はアイドルのお仕事が沢山入って来て……忙しかったから、何も無いというのは久し振り……。
だからなのかな……ただ家にいるというのが、どうも落ち着かない。

「劇場、行ってみようかな……」

このモヤモヤとした気持ちを解消するべくそう結論付けると、鞄を探し出して支度を始める。

室内でボール遊びをする人たちや、それを叱る人たち。
その傍らで微笑む人たちや、無視して創作活動に勤しむ人たち。
ーーそして、少し離れて自分の世界に入り浸り本を読む百合子さんの姿。
色々な人が頭の中を巡るけど、杏奈はいつも百合子さんのことばかり考えてる……かも。

杏奈と一緒にゲームをしたりもするけれど、好きなことに没頭する百合子さんを眺めているのも楽しい。
それで読み終わった百合子さんに話しかけると、読んでいた本の展開や感想を杏奈に教えてくれる。
感想を共有するのが楽しいのか終始目をキラキラさせてて、そんな百合子さんを見ていると杏奈まで楽しくなってくる。

「百合子さん、今日はどんな本を読んでるのかな……」

少し考えて、「きっとファンタジーだろうな」なんて小さく笑いながら家を出た。



3: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:08:46.75 ID:7eNavJSg0

劇場へと到着し、中へと入っていく。
長い廊下の分かれ道を迷うこと無く進み、事務所となっているその部屋の戸を開ける。

「おはようございます…」

部屋の中を見回しながら少し控えめに挨拶をする。
そんな杏奈に一番に気付いたのは劇場の事務員である小鳥さんで、こちらを見据えると同時にデスクワークを中断して微笑みかける。
仕事中でも頻繁に……それこそ百合子さんみたいに、妄想に耽っている小鳥さんだけど……今日は別に、そんなことはなかったみたい……。

「あら…杏奈ちゃんおはよう。確か今日はオフだったわよね?」
「家に居ても、退屈だったし…ここなら楽しいかな、って」
「そういうことね。…百合子ちゃんなら奥にいるわよ」

杏奈と百合子さんの仲が良いのは周知の事実で、事務所へと来た時は大体百合子さんの居場所を告げられる。
辺りを見回すと……事務所の中は想像通り、ボールが飛び交っていたり絵の具が散らばっていたりと賑やか……というよりは悲惨、かな……。
杏奈はそういう空気が苦手だから……混ざりたくはない、けどね……。

「ありがとう……ございます」

だから杏奈は、いつも百合子さんの隣にいる。程よく静かで……居心地がいい場所。
窓際まで歩いて行くと、テーブルに本を広げ椅子に座る百合子さんの姿が見えた。
集中しているのか、こちらには気付いてないみたい。

「百合子、さん…?」

本と腕の隙間から除く顔は何故か真っ赤で、どこか悶えているようにも見える。
普通じゃないよね……妄想が行き過ぎた、のかな……?

百合子さんは妄想に耽ることが多いから、本の中で出てきたみたいな「普通じゃない表情」をよく見せる。
だからきっと今日も同じようなものだろうと結論付ける。

杏奈に気付いていない百合子さんは、そのまま本を読み続けーーパタンと閉じる。さっき読んでいたのが最後のページだったみたい……。
どうだったのかな、面白かったのかな……。

「百合子さん。おはよう」
「あ、ああ、杏奈ちゃん!?お、おはよう!!」

ーー普通に挨拶をしたはずなんだけど……盛大に驚かせてしまったみたい、です……。



4: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:09:18.42 ID:7eNavJSg0

「百合子さん。おはよう」
「あ、ああ、杏奈ちゃん!?お、おはよう!!」

いつの間にか杏奈ちゃんがこちらを覗き込んでいたようで、自分でも驚く程おかしな声を上げてしまった。
さっきまでの私の醜態を見ていたのか、どこか心配するような視線を向けて来ている。

いや、心配事があるのは間違いじゃない。ないんだけどーーそれを杏奈ちゃんに話すのは、かなり恥ずかしい。
その悩みの原因は、昨日の夕方まで遡る。





ーー借りた本全部読んじゃったし、新しい本を借りに行こうかなーー

そんな思いの元、学校の帰り道で図書館に寄った。

本棚に収められている本を眺めながら、見慣れた表紙の本を取っては戻していく。
そろそろ新しい刺激が欲しいなんてことを考えーーふと事務所内の会話が頭を過ぎった。

ーー翼さん、恋ってなんですか?
ーー恋?それはね~……恋をするとその人のことしか考えられなくなって、とても苦しくて、でも心地良くて……
ーーよくわかんないです。

事務所で聞こえた翼と星梨花ちゃんの会話にあった、恋というジャンル。
あの時の翼の解説じゃ流石に分からないけど、考えてみれば読んだことはないと思った。恋愛小説なんて手に取る機会も無かったし、取ろうとも思わなかった。
でもこうして気になってしまった以上、取らないわけにはいかない。気になってしまったらそれを知るまで止められないのが探究心というもの。
そう思い立ち恋愛小説のコーナーに向かうと、様々な恋愛小説が並んでいた。

表紙とあらすじを見つつよく分からないなりに面白そうなものを適当に選び出し、テーブルに座って本を開く。
タイトルなんて見ても分からないから気にしない。知らないジャンルなんだから、内容を見た後にタイトルを評価すればいいだけ。

ーー主人公の女の子が仲の良いとある男の子を好きになり、様々な仕草を眺めるようになる。
そこから必要以上に近付いたりすることも増え、スキンシップを繰り返した後に遂に屋上へと呼び出すーー

恋愛小説の標準みたいなあらすじを見てからと言うものの、最初思っていたよりも食い入る様に文章へと目を走らせる。
妄想の中では主人公は私。そして主人公が好きになってしまった男の子ーー

ーーそこまで読んで、事務所で仲が良い杏奈ちゃんの姿が思い浮かぶ。
登場人物としては似合わないけれど……立場としては一番近いのかな、って思ってしまう。
妄想の世界では男の子か女の子かなんて区別は必要無い。そのためか滞りなく妄想を加速させていくーー



5: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:09:49.21 ID:7eNavJSg0

「百合子さん…何かあった、の…?」

ーーその結果がこれだ。

必要以上に感情移入した結果、中途半端に帰ってこれなかったのか杏奈ちゃんの顔を直視出来なくなってしまった。
直視しようとすると顔がカッと熱くなって、どうしようもなく恥ずかしくて逸らしてしまう。
それと同時に鼓動が早くなってーーまるであの恋愛小説の主人公と同じような状況に陥ってしまっている。
それこそ前から杏奈ちゃんのことが気になってたみたいにーー

「な、なな、何でもないよっ!!」
「そ、そう…?なんだか、様子がおかしいけど…」

ただ否定しようとしただけでこの様。話しかけるにも声が上ずってしまって、うまくお話出来ない。
恐らく「恋」であろうその感情は、鼓動を加速させていくばかり。
経験のない気持ちが痛くて、ずっと一緒に居たいのに早く離れたくてーー

「ちょ、ちょっとお手洗い行って来ますっ!!」

もう少しまともな理由はあったはずなのに。自分でもよく分からない言葉を残して逃げることしか、今の私には出来なかった。



6: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:10:15.00 ID:7eNavJSg0


「ちょ、ちょっとお手洗い行ってきますっ!!」
「えっ……」

百合子さんは杏奈と少し話すと、思い詰めた様子のまま逃げるように出て行ってしまった。
トイレに行くとは言ってたけど、多分違う。だって、百合子さんは普段お手洗いとか言わないし……
だから多分、これは杏奈から逃げる言い訳。

今まで不可解な行動を取ることはあったけど、杏奈を見て逃げ出すなんてことは無かった。
そう考えると……杏奈が何か悪いことしちゃったのかな、ってどんどん不安になって……

ーー杏奈を見てすぐ逃げちゃうくらいだもん……きっと杏奈が何かしちゃったんだよね……

「……はぁ……」

気分が晴れると思って来たのに、余計暗い気持ちになっちゃった。
大好きな百合子さんに避けられたことがとても辛くて、気分も最悪……


ーーチラリと窓から外を見ると、あんなに晴れていた空に雲が掛かってて。
まるで杏奈の気持ちが反映されてるみたい、なんて自嘲気味に呟いた。



7: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:10:40.33 ID:7eNavJSg0

「うぅ…」

杏奈ちゃんから逃げるように劇場を出た私は、近くの公園のベンチに座っていた。

「お手洗いに行く」なんて言っておきながらこんなところに居れば心配して探しに来る可能性もあるけど、今の私にそんなことを考える余裕は無い。
私の心は沸騰するような恥ずかしさと、杏奈ちゃんに対する罪悪感で埋め尽くされていた。

「なんで逃げちゃったんだろ……」

自分の行動を思い返してため息が出て来るが、このままここにいる訳にもいかない。
誰かに相談しようかと思ったけど、的確なアドバイスをくれそうなのは翼くらいで……客観的に見れば翼の会話を盗み聞きして自爆しただけ。相談するというのは気が引ける。
なら自分でどうにかするしかなくて、ただ思案する。

「わからないよ……っ」

でも知らない感情の解消法なんて分かるわけがない。

そして何よりも……あんな逃げ方して、杏奈ちゃんを悲しませたかなって思うと辛くなって。
あの程度の言い訳じゃ、きっと杏奈ちゃんは私が逃げただけだと分かってる。
今すぐにでも会って謝りたいけど、今のままじゃそれも叶わない。

悩んで、落ち込んで、奮起して……また悩んで。
そんなことを繰り返しているとーーふと、水滴が背中に当たるのを感じた。

「空、真っ暗……」

それが雨の前兆だと理解した瞬間、事務所に戻るべく立ち上がる。
でも、今は杏奈ちゃんと会うべきじゃないんじゃないかーーそう思うと竦んでしまう。
少し考えたのち、ゆっくりとした足取りで滑り台の下に潜り込む。

「……はぁ……どうしよ……」

二本の柱を支える支柱に腰掛けて、また深いため息を零す。
滑り台は上から降り注ぐ雨を受け止めてくれるけど、私の心の中の雨は止みそうになかった。



8: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:11:08.39 ID:7eNavJSg0

「……雨……降ってきた……」

事務所の窓の外を見つめてポツリと漏らす。
雲しか無かった空からは、今や大量の雨が降り注いでいる。

「百合子さん、どこ行ったんだろ……」

時間を置いたことでほんの少しだけ余裕を取り戻して、百合子さんを探そうと立ち上がる。

場所は……多分、劇場の外だろうね……劇場は、どこでも人がいるし……
百合子さんが悩んでいる時は……きっと人目につかないところで、一人で悩んでいると思うから……

「…………ッ!百合子さん……!」

そこまで考えて、現状の異常性に気付く。
この大雨の中、百合子さんが外にいる。出ていく時に傘を取り出す余裕なんか無かったはずだ。
きっとびしょ濡れだと思う。杏奈のせいで百合子さんが風邪を引いたりなんて考えたくなくて、とにかく急いで連れ戻さなければ拙いと思った。

「……急がないと……!」

鞄を漁って折畳み傘を取り出すと、周囲が困惑の視線を向けてくるのにも厭わずに劇場を飛び出した。



9: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:12:24.60 ID:7eNavJSg0

「はぁッ、はぁッ……」

それから杏奈は劇場の周囲を走り回り、百合子さんを探した。
傘を差していながらも走っていたからか杏奈の体は所々濡れてしまって、このまま探していると杏奈の方が体調を崩すかもしれない。
でも百合子さんが劇場に居ないことは分かってたし、今の杏奈にとって自分自身の体調なんか二の次だった。
中庭から街、道路を走り抜けーー行き着いた先は寂れた公園。
木のベンチなんかも古くなっているのが一目で分かるし、遊具も所々塗装が剥がれている。
そんな公園の中、滑り台の下。普段なら見逃してしまうような小さな空間に、百合子さんは居た。

「……百合子さん……」

滑り台が雨を防いでいるお陰で濡れてこそいないものの、チラリと覗かせるその表情はとても暗くて……百合子さんの放つ雰囲気に気圧され、足が竦む。
行かなきゃいけないのに。急いで連れ帰らなきゃ、ダメなのにーー

「動いてよ……っ」

あぁ……やっぱり杏奈、ダメダメだ……。
拒絶されるのが怖くて……足は動かないどころか、後ろに下がろうとしてる。
ここで進まなきゃ……後悔する、のに……。

「杏奈のせいで……百合子さんが辛い思いをするのは、嫌なの……!」

それでも全身を奮い立たせて、少しずつ前に進む。
一歩進むごとに足は重たくなるし、意識も朦朧としてきてる……。
でも、それでも……もう百合子さんを、傷付けたく無いの……!

「……杏奈、ちゃん……?」
「ーーぁ」

ーーその覚悟は、杏奈に気付いた百合子さんのたった一言で……決壊した。



10: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:12:53.91 ID:7eNavJSg0

滑り台の下で雨宿りを始めて数分。少しすれば止むだろうと思っていた雨は一向に弱まる気配を見せない。
「神様もお怒りなのかな」なんて考えて乾いた笑い声が漏れるが、杏奈ちゃんの悲しそうな表情が思い浮かぶと同時に笑みが消えた。
そしてまたどうしようかと悩んで、いっそのこと走って戻ろうかと思い始めたーーその時だった。

「はぁッ、はぁッ……」
「……杏奈、ちゃん……?」

振り返るとそこにいたのは、傘を片手に荒い呼吸を整えている杏奈ちゃん。
よく見ると服が所々濡れており、身体を傘に収める余裕が無い程に急いでいたのが分かる。
そんな私の視線に気付いたのか、杏奈ちゃんの表情が凍り付いた。

「っ!」

声にならない悲鳴を上げ、一歩後ずさる杏奈ちゃん。
それを見て、私は思わず滑り台の下から飛び出した。

これはきっと、神様がくれた最後のチャンスなのだろう。
許してもらえるかは分からないけど、それでも杏奈ちゃんに謝ってーー私のこの想いを、伝えるための。

「杏奈ちゃんっ!!」

遠かった距離を数秒で縮め、その身体を抱き寄せる。
抱き寄せた杏奈ちゃんからふわりといい匂いがして、少し気分を落ち着かせてくれる。



11: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:13:20.87 ID:7eNavJSg0

「ふぇ……?」
「ごめんね、ごめんね……!」
「ゆ、ゆりこさ……苦し……」

苦しそうな声を聞いてハッと我に帰る。
また傷付けてしまうところだったと後悔しつつ、距離を置いて再度謝罪を繰り返す。

「百合子さん……顔、上げてよ……」

そう言われ顔を起こすと、目に涙を浮かべた杏奈ちゃんが見える。
視線を合わせると同時に私の胸へ飛び込んで来た。

「杏奈、嫌われたのかなって思って……辛かった……」
「ごめんね……」
「なんで、杏奈のこと……避けてたの?」

そう問われ、思い浮かぶ答えは一つ。
この想いを杏奈ちゃんに伝えよう。

拒絶されてもいい。ありのままを伝えるんだーー



12: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:13:54.54 ID:7eNavJSg0

「私ね……杏奈ちゃんのことを見ると、ドキドキが収まらないの」

頭を撫でながら、腕の中の杏奈ちゃんに語り掛ける。

「一緒に居て欲しいって思ってるくせに、恥ずかしいからって拒絶して。やっと、気付いたの」

抱き締める腕を少し緩めて、杏奈ちゃんと視線を合わせる。
杏奈ちゃんは少し戸惑っているようだったけど、覚悟が出来たのかこちらを見つめ返してくる。

「私ーー杏奈ちゃんに恋してるんだ、って」
「ーーっ」
「杏奈ちゃんと一緒に歌ってる時間が好き。杏奈ちゃんと一緒にゲームしてる時間が好き。杏奈ちゃんと一緒に居る時間が好き」

鍵を開けたことで、想いは止まることなくどんどん溢れてくる。

「ーー杏奈ちゃんのことが、好きなの」

それは友達や家族に言うものとは違う、特別な意味を持った言葉。
こうしている今も杏奈ちゃんの匂いや感触、息遣いを感じてーードキドキが止まらない。

「杏奈ちゃんがこれから私のことをどう思っても受け入れるよ。でも……私は杏奈ちゃんのこと大好きだよって、伝えたかったの」

ちょっと声が上ずりながらだけど、なんとか言いたいことは言えた。
伝えたからと言って何が変わるわけでもない。だからきっと、これは一時の戯れとして片付けられ終わりを迎える。

「ーーっ」

瞼を閉じ、顔を伏せる杏奈ちゃん。きっと私に対する返答を探しているんだろう。
終わりを迎えることに寂しさを感じるけど、これは仕方の無いこと。
同性同士で生まれた一時的な感情。杏奈ちゃんのためにも終わらせるべきだし、覚悟も出来ている。



13: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:14:24.16 ID:7eNavJSg0

とくん、とくんと心臓が高鳴る中ーー杏奈ちゃんが瞼を開いた。

「ーーきっと、杏奈も同じ気持ち」
「へ……?」

覚悟が出来ていたからこそ、杏奈ちゃんの言葉に変な声が漏れてしまった。
驚く私を見ながら、杏奈ちゃんは口を開く。

「杏奈も……百合子さんに恋、しちゃってる」
「それってーー」
「……両想いだったんだね。えへへ」

はにかむ杏奈ちゃんが愛おしくて、思わず腕に力が入る。
今度は準備が出来ていたのか、杏奈ちゃんは抵抗せず受け入れてくれた。



14: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:14:53.18 ID:7eNavJSg0

「雨……上がった、ね……?」
「ホントだ……」

辺りを見回してみると、降り注いでいた雨はいつの間にか止んでいた。
でも相変わらず身体はびしょ濡れ。自覚すると同時に寒気が襲ってくる。

「う、寒っ……」
「そう言えばさっきまで、濡れてたんだよね……くしゅんっ」
「杏奈ちゃんまで……早く戻ろ?」

杏奈ちゃんの手を取って、事務所へと歩き出す。
お互いの気持ちが通じ合った今は、心の雨も止んでいた。

「百合子さん、あのね……」
「ん、どうしたの?」

不意に話しかけて来た杏奈ちゃん。
こちらを見つめるその表情は、どことなく期待に満ち溢れているように見える。

「……いっぱい恋……しよう、ね?」
「……うんっ!」

このドキドキは嘘じゃないんだな、って分かって。
手と心から温もりを感じて、自然と足早になった。



15: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:15:34.76 ID:7eNavJSg0




「そろそろ時間だしこの辺にしとこっか?」

ライブに向けて久々にユニットでのレッスン。
始めて1時間ほど経ち、疲れているメンバーを尻目に翼が終了の合図を送る。

「つっかれたぁ〜……翼は平気そうだね……」
「そう?結構疲れてるんだけどな〜」
「私はもうヘトヘトです……頑張らないと」

翼を羨む未来に、無表情ながら何か決意を固める瑞希さん。
いつもなら私も同じように疲れ果てているんだけど、最近はそれほどでもなかったり。
それは杏奈ちゃんも同じようで、レッスンを終えた今も余裕そうな表情で立っている。

「百合子ちゃんも杏奈も、最近調子良いよね」

翼は私たちの変化に気付いたのか、そんな風に声を掛けてくる。



16: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:16:04.67 ID:7eNavJSg0

「確かに、ここ数日は調子良いかも」
「なになに、最近二人とも何かあった?」

詰め寄ってくる翼に困惑しながら杏奈ちゃんへと目配せする。
私の視線に気付いた杏奈ちゃんは静かに頷くと、その口を開いた。

「何かあったのは、事実……だけど、内緒」
「え〜?どうしても教えてくれないの?」
「二人だけの、秘密……だから」
「ちぇー……良いなー、仲良しで」
「ふふっ」

不貞腐れる翼と反対に、私と杏奈ちゃんはお互いに見つめ合う。
一方通行だったあの時とは違って、今はお互いに恋してる。
それを認識できたのが嬉しくて、自然と笑みが溢れた。



17: ◆bncJ1ovdPY 2018/04/17(火) 00:20:13.90 ID:7eNavJSg0

終わりです
ちょっと最後急いだ感じはありますが、元々あんゆりは心から繋がってたってことに……なりませんかね?


過去作も載せておきます。同じくあんゆりですが、この話と直接の関連性はありません。
平和なあんゆりが欲しい方はどうぞ。

百合子「音責め」

杏奈「百合子さんに嘘をついてみる」



元スレ
【ミリマス】その想いに気付く時【杏奈×百合子】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523891274/
このエントリーをはてなブックマークに追加

  • 今週の人気記事
  • 先週の人気記事
  • 先々週の人気記事

        記事をツイートする

        記事をはてブする

         コメント一覧 (4)

          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年04月17日 16:50
          • 今回は工口抑えめだね
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年04月17日 17:19
          • あんゆりss増えろ
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年04月17日 19:05
          • 5 あんゆりは常に摂取しないと死ぬ劇薬
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年04月17日 22:26
          • 5 ※3
            寧ろ麻薬並みの中毒性あるわ
            ほんと好き

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

        カテゴリ別アーカイブ
        月別アーカイブ
        記事検索
        スポンサードリンク
        スポンサードリンク

        • ライブドアブログ
        © 2011 エレファント速報:SSまとめブログ. Customize by yoshihira Powered by ライブドアブログ