女「ずっと明かりの消えた街で」

1:HAM ◆HAM/FeZ/c2 2012/12/30(日) 12:39:58 ID:UiaHaZ4Y

男「お姉さん、こんなところでなにしてんの」

女「……」

男「ん?」

女「……」

男「あ、御免、別に怪しい者じゃないよ」

男「ね、ギターの練習してるの?」

女「……」コク

男「ちょっと聴いてみたいな」

女「……」コク



2:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 12:49:32 ID:UiaHaZ4Y

~♪~

男「んん、いい音」

女「……」

男「うまいね」

男「あ、僕、別にギター詳しいわけじゃないけどね」

女「……」

男「……」

女「……」

ジャン

男「すごい」パチパチ

女「……うん」コク



3:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 13:02:06 ID:UiaHaZ4Y

男「それ、お姉さんのオリジナル?」

女「……」コク

男「へえ、すごいな」

男「他にも、曲ある?」

女「……」コク

男「聴かせて聴かせて」

女「……ん」コク

~♪~



5:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 13:10:39 ID:UiaHaZ4Y

ジャン

男「はあ……ありがとう」

男「ちょっとね、気分が悪かったんだけど、お姉さんのギター聴いて気分が良くなったよ」

女「……そう」

男「あの、僕と話すの、嫌だった?」

女「……ん」フルフル

男「そ、そっか」

男「なんか、あんまり喋ってくれないからさ、無理させてたら悪いな、と思って」

女「……」フルフル



6:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 13:16:47 ID:UiaHaZ4Y

男「歌ったり、しないの?」

女「……」コク

男「どうして?」

女「……」

男「あ、えっと、あんまり突っ込んだ話はしない方がいいかな」

女「……」

女「自分の声が、嫌いだから」

男「……ふうん」



7:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 13:30:02 ID:UiaHaZ4Y

女「低くて、醜い声」

男「そうかな、別にそうは思わないけど」

女「私は嫌い、この声」

男「……そっか」

男「それで、あんまり喋ってくれなかったんだね」

女「……」コク

男「でも僕、お姉さんの声、別に変だと思わないけどなあ」

女「……」



8:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 13:37:20 ID:UiaHaZ4Y

男「だから、歌うのも嫌いなんだ」

女「……歌うのは好き」

男「?」

女「歌が好きで、好きで、ずっと歌ってたの」

女「それこそ毎日、声がかれるまで」

男「……」

女「そうしたら、いつのまにか、こんな声になってたの」

男「かれちゃったんだ、声が」

女「そう、もう一生分出しちゃったの」



9:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 13:46:48 ID:UiaHaZ4Y

男「ハスキーボイスって、言われない?」

女「言われる」

男「いいじゃない、ハスキーボイス」

女「私にとっては、悪口よ、それ」

男「……そっか」

女「だから、あまり声を出さないようにしてるの」

男「学校とか?」

女「学校とか」



10:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 14:02:25 ID:UiaHaZ4Y

男「大学生?」

女「うん」

男「音楽サークルとか」

女「入ってない」

男「どうして?」

女「バンドをしたいわけじゃないし」

女「好きにギターが弾けたら、それでいいの」

男「……ふうん」

女「あんたは?」

女「こんな時間にフラフラしててもいいの?」

男「それはお互いさま」



11:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 14:13:10 ID:UiaHaZ4Y

女「私は一人暮らしだから」

男「そう」

男「両親は心配しないの?」

女「両親はもういないの」

男「あ、そうなんだ、御免」

女「いつも、謝られるのよね」

女「こういうときに謝るのって、なんか違うと思うんだよね」



13:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 14:20:54 ID:UiaHaZ4Y

男「じゃあ、そりゃあ、大変だね」

女「学費も生活費も、伯父さんが出してくれてるから、大変じゃないわ」

男「そっか」

男「じゃあ、いい身分だね」

女「皮肉になったわよ」

男「御免、失敗した」



14:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:07:13 ID:UiaHaZ4Y

女「卒業したら、ちゃんと働いて返すわ」

男「偉いね」

女「当然のことでしょう」

男「そういう当然のことをできる人が、減ってるからね」

女「……そ」

男「偉いよ」

女「……そ」



15:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:13:12 ID:UiaHaZ4Y

男「でもやっぱり、夜中に女の子一人は危ないよ」

女「そうね、変な男の人が話しかけたりしてくるかも」

男「それ、僕のこと?」

女「くふふ」

男「ひどいな」

女「くふふ」

男「ははは、笑い声、素敵だね」

女「っ」



16:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:19:52 ID:UiaHaZ4Y

女「……」

男「あ、御免、気に障ったかな」

女「別に、声のことは言われ慣れてるし」

男「……」

女「ね、煙草持ってる?」

男「ん」ゴソゴソ

女「一本頂戴」

男「……はい」

女「ありがと」シュボ

男「……」



17:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:25:32 ID:UiaHaZ4Y

女「なに、煙草吸って悪い?」

男「いや、別に」

女「そんなことだから声がガラガラになるんだ、って?」

男「言ってないよ」

女「思ってる顔してるよ」

男「ん……」

女「どうせ声は戻らないし、いいんだ」

女「ギターが弾ければそれでいいし」



18:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:30:29 ID:UiaHaZ4Y

男「ほんとは歌いたいんじゃないの?」

女「……」

男「歌うの、好きなんでしょ?」

女「好きだよ」

女「でも、この声で歌ったって、滑稽なだけだもん」

男「そんなことないよ」

男「聴かせてほしいな」

女「やだ」

男「そこをなんとか」

女「やだ」



19:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:40:01 ID:UiaHaZ4Y

男「ね、君の声、いつかれちゃったの?」

女「……」

女「一年前くらい」

男「そっか」

女「うん」

男「どう思った?」

女「私は音楽の神様に、嫌われたんだなあって」

男「絶望した?」

女「自分に失望しちゃった」



20:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:48:46 ID:UiaHaZ4Y

男「声が元に戻ったら、歌いたい?」

女「そりゃあ、もちろん」

女「歌うことが、なにより好きだったんだから」

男「……」

男「じゃあさ、目をつぶって」

女「へ?」

男「いいから」

女「よ、よくないよ」

男「いいから」

女「よ、よくないよう」



21:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 15:58:30 ID:UiaHaZ4Y

男「痛くないから、ね」

女「な、なに!? なにをされるの!?」

男「じゃあもう、目をつぶらなくていいから、のど、見せて」ピト

女「ひゃああ」

男「ん、こりゃあ治らない」スリスリ

女「んんん」

男「時間が前に進めば、の話だけど」スリスリ

女「んんんん」



22:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/30(日) 16:10:57 ID:UiaHaZ4Y

男「はい、もういいよ」パッ

女「……」ドキドキ

男「御免ごめん、驚かせちゃったね」

男「もう、大丈夫だよ」

女「なにがもう大丈夫よ、いきなり人ののど触ったりして……」

女「っ!!」

男「……」

女「声が……戻ってる……」

男「うん、綺麗な声だね」



30:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 12:23:34 ID:y/tP8QGw

女「え、なんで? なんで?」

男「ははは」

女「え、なに、魔法? 貴方魔法使い?」

男「ははは、どうかな」

女「医者?」

男「魔法使いのあとに医者が来るとは……驚きだね」

女「神様?」

男「うん、それが一番近いね」



31:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 12:33:03 ID:y/tP8QGw

女「え? 夢? 夢を見ているの?」

女「気付いたらベッドで毛布をかぶって寝ているの?」

男「夢じゃないよ、現実だよ」

男「僕にとっても、君にとっても」

女「……」

女「あ、あの、ありがとう」

男「ん、お安い御用だよ」



33:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 12:42:19 ID:y/tP8QGw

女「どうして?」

男「ん?」

女「どうして、こんなこと、してくれたの?」

男「だって、君の歌が聴きたかったから」

女「……そんな理由で」

男「僕、音楽が好きなんだ」

男「素敵な音楽が聴けなくなるのは、寂しいでしょ」

女「そ、そりゃあそうだけどさ」



34:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 12:47:42 ID:y/tP8QGw

女「でも私みたいな素人の声を……」

男「もう、いいからいいから、歌ってよ」

女「……」

男「僕は君の歌が聴きたくて、やったんだから」

男「その声なら、歌ってくれるんでしょう?」

女「……うん」

男「楽しみだ」



35:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 12:56:06 ID:y/tP8QGw

~♪~

女「……ふぅ」

男「すごい、素敵な歌だね」パチパチ

女「ん、ありがとう」

男「ずっと、歌を作っていたの?」

女「うん、歌を作っているのは、楽しいから」

男「声がかれちゃってても?」

女「うん、誰にも聴かせなかったから、平気だった」

男「じゃあ、僕が最初のリスナーだね」

女「リスナーって」

女「ラジオじゃないのよ」

男「ははは、言葉、変だったかな」



36:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:03:55 ID:y/tP8QGw

女「ね、あんた、どこから来たの?」

男「ん?」

女「普通の人間じゃないみたいだけど、さ」

女「魔法使いでも医者でもなんでもいいんだけど、さ」

男「……」

女「どこから来たのかなって」

男「……」

女「それくらいなら、教えてくれないかなって」

男「明日から、来たんだ」

女「え?」



37:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:11:22 ID:y/tP8QGw

男「僕は明日から来た」

女「……」

女「未来人ってこと?」

男「いや、ちょっと違うんだけどさ」

男「僕が未来から来たってこと、信じる?」

女「ん、うん」

女「なんか、ただの人間じゃない雰囲気は感じてるよ」

女「でも、未来人がなぜ私の声を治せたのか、よくわからないんだけど」

男「治したんじゃない、時間を戻しただけだよ」

女「時間を?」

男「ああ」



38:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:16:49 ID:y/tP8QGw

女「私ののどがかれる前に、戻したってこと?」

男「そういうこと」

男「だから、いずれまた、その声はかれてしまう」

女「……」

女「そっか」

男「御免ね、万能じゃなくて」

女「いいの、十分よ」



39:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:23:06 ID:y/tP8QGw

女「時間を戻して、明日から今日に来たってこと?」

男「そう、そういうこと」

女「どうして?」

男「ん……」

女「今日に、なにか、やり残したことがあるの?」

男「ん……そうだね、そうかもしれないね」

女「なによ、歯切れの悪い答えね」

男「うん、説明が難しくて」

男「というか、君に本当の話をしてもいいものかって、思って」

女「ふうん」



40:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:32:28 ID:y/tP8QGw

女「決して過去の人間に、未来人だということがバレてはいけない」

男「そんなルールはないんだけどさ」

女「ま、もう破っちゃってるしね」

男「はは、そうだね」

女「じゃあ、過去の人間に未来を教えてはいけない」

男「そういうわけでも、ないかな」

女「よくわかんないな」



41:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:41:04 ID:y/tP8QGw

女「明日はどうなっているの?」

男「そう、それ」

男「それを、どう説明したらいいだろうか」

女「明日が重要なのね」

女「明日……明日……なにかあったかしら」

女「祝日でもないし、特別なことも、なかった気がするなあ」

男「この街に関わることなんだけど、ね」

女「へえ」

女「なにが起こるの?」

男「……」

女「……え? え?」



42:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:46:59 ID:y/tP8QGw

女「もしかして、すごく不幸な話かしら」

男「……」

女「ねえ、明日、この街は正常に動いているの?」

男「……」

女「私は!! 私は生きてる!?」

男「……」

女「ねえ、私は、生きてるの!?」

男「……」

女「死んで……るの?」

男「……うん、おそらく、ね」

女「そんな……」



43:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:52:54 ID:y/tP8QGw

男「この街は……明日……なくなるんだ」

女「嘘……」

男「うん、信じてもらえないと思うけど、さ」

女「……」

男「だから、最後に君の歌を聴きたいな、と思って、来たんだ」

女「最後に……私の歌を?」

男「うん、君のギターの音、僕は知っていたから」

女「……」

男「ずっと、聴いていたから」



44:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 13:56:36 ID:y/tP8QGw

女「そんなことのために、戻ってきたんだ」

男「戻ってきたというか、戻したというか」

女「どう違うの?」

男「んっと、なんかね、人間が考え出したタイムパラドックスとか平行世界とか、あるでしょ」

女「わかんない」

男「んん、つまり、ここで僕らが出会った未来と、出会わなかった未来と、どちらも存在するっていう考え方とか」

女「ああ、はいはい」

男「それはね、ないの」

女「は?」

男「僕だけなんだ、未来を変えられるのは」



45:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 14:01:30 ID:y/tP8QGw

女「やっぱ神様なんじゃん」

男「ま、そうかな」

女「神様って普通の男の子の姿なのね」

男「今日は、ね」

女「いつもは違うの?」

男「女の子のときもあれば、猫のときもあるよ」

女「あら、可愛い」

女「猫で来てほしかったなあ」

男「それ、最初に言ってほしかったにゃあ」

女「む、可愛くない」

男「ははは」



46:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 14:07:42 ID:y/tP8QGw

女「明日、街が無くなるって、具体的にはどうなるの?」

男「大きな地震が、この街を襲うんだ」

女「……そう」

男「誰も予期していなかった、大きな大きな地震」

女「それで、街は……」

男「ああ、もう、明かりが灯らなくなるんだ」

女「ひどい……」

男「そうだね」

女「それは、止められないの?」

男「天災を無理に止めると、どうしてもどこかで不具合が出るんだ」

女「そう……」



47:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 14:16:01 ID:y/tP8QGw

男「明日止めても、例えば火山が噴火したり、別の場所に地震が起きたり」

男「あるときは隕石が降ってきたこともあったよ」

女「そう……」

男「だから、天災は、もう、僕の手には負えないって諦めていた」

女「仕方ないよね」

男「御免ね」

女「ううん、一日だけ、声を戻してくれただけで、十分よ」



48:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 14:25:46 ID:y/tP8QGw

男「君の声は、まだ当分、かれないよ」

女「え?」

男「半年、それくらいは歌えるよ」

女「そう……」

男「嬉しそうじゃないね」

女「……」

女「私、歌うのも好きだけど、この街も好きなの」

男「……」

女「やっぱ、悲しいな」



49:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 14:30:29 ID:y/tP8QGw

女「明日、どうしようかな」

女「逃げ出しちゃおうか」

女「それとも、運命を知ってもなお、この街に残ってともに死ぬ?」

男「……」

女「どうしたら、いいかな」

男「歌を」

女「え?」

男「歌を、歌ってよ」

女「……今?」

男「いやこれからも」

女「……」



53:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 16:21:21 ID:y/tP8QGw

男「君のその声、ずっと聴いていたいな」

女「……」

男「だから、僕は明日から来たわけだし」

女「……」

男「はは、僕にこれ以上言えることはないかな」

男「あとは君が決めて、ね」

女「……うん」

男「地震の時間も、教えておこうか?」

女「……いい」

男「そっか」



54:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 16:29:32 ID:y/tP8QGw

女「ねえ、この街で、壊れずに残る場所はないの?」

男「……」

女「少しでも、そこにみんなを避難させたり、さ」

男「できないよ」

女「……」

男「そんなことをして、誰かが信じる?」

男「君だって、半信半疑だろう?」

男「のどが治ったのは偶然で、明日の話は僕の大嘘かも知れない」

女「……そんな」



55:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 16:41:42 ID:y/tP8QGw

男「この街に残るのは、やめた方がいい」

男「生きたいのなら」

女「……うん」

男「明日は生きて、思いっきり泣いて、そして歌を」

女「……歌えるかな」

男「歌えるさ、君なら」

女「半年だけ、ね」

男「煙草をやめれば少しは伸びるよ」

女「くふふ、そうね」



56:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 16:47:04 ID:y/tP8QGw

……

男「……」

女「……」

男「静か、だね」

女「うん」

男「もう行かなきゃ」

女「そう、お別れね」

男「最後に、もう一度歌が聴きたいな」

女「……うん」コク

男「最初のやつが、いいな」

女「……うん」コク



57:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 16:53:01 ID:y/tP8QGw

~♪~

男「ありがとう」

女「……」

男「明日も、歌ってね」

女「……」

男「きっと、だよ」

女「……うん」コク

男「じゃあ、おやすみ、さよなら」

女「……さよなら」



59:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 17:25:01 ID:y/tP8QGw

―とある喫茶店―

「ご注文はお決まりでしょうか?」

「えーっと、ケーキセットにミルクティーを」

「私、プリンパフェに珈琲」

「かしこまりました」

……

「でさー」

「うふふ」

「信じられないんだけどー」

「ねー」



60:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 17:29:42 ID:y/tP8QGw

~♪~

「あ、この曲」

「あ、知ってる」

「震災復興ソング、だよね、これ」

「そうそう、誰が歌ってるか一切不明、ってやつでしょ」

「気になるよねえ」

「しかも売り上げの99%を復興支援に寄付したって噂だよ」

「あとの1%は?」

「そりゃ、まあ、生活費じゃない?」

「そっか、だよねえ」

「多分ね」



61:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 17:36:29 ID:y/tP8QGw

~♪~

『発売から10ヶ月、今もなおこの曲へのリクエストは続いています』

『この曲は、売り上げの99%が復興支援として使われていることで有名ですが』

「あ、ほらほら、やっぱり」

「すごいよねえ」

『震災から、明日でちょうど一年となります』

「もう、そんなに経つのかあ」

「実感、ないよねえ」

『本日、そのアーティストAからのメッセージが届いているので読みあげます』

「へえ」



62:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 17:43:01 ID:y/tP8QGw

~♪~

『私の曲を聴いてくださっているみなさん、こんにちは』

『いつもありがとうございます』

『一年前のあの日、私の街が壊されてしまいました』

『悔しくて、でも自分にはどうすることもできなくて、ずっと泣いていました』

『私にできることは、歌うことしかない』

『そんな偉そうなことを言える立場でもない、ただの素人であった私は』

『ずっと明かりの消えた街で、途方に暮れていました』

『でも、歌を、私の歌を聴きたいと願ってくれた人がいること』

『そのことが、私の心を折らないでくれたのです』

『震災が起こる前にハンディカメラで撮った映像をがあったので、それをPVにして』

『必死に作ったこの曲が、今も皆さんのもとへ届いていること、嬉しく思います』



63:以下、名無しが深夜にお送りします 2012/12/31(月) 17:49:26 ID:y/tP8QGw

~♪~

『今も復興は終わっていない、それを伝えたくてメッセージを送りました』

『私はずっと、明かりの消えた街で歌い続けます』

『これからも、ずっと』


「はぁ~すごいね」

「募金、してこよかな」

「はは、あんたが?」

「いいじゃん、気持ちだよ、気持ち」

「じゃ、じゃああたしも、しよっかな」


女「……」

女「……くふふ」


★おしまい★



元スレ
女「ずっと明かりの消えた街で」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1356838798/
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          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2018年04月17日 13:06
          • 衝撃の実話

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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