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【相棒】杉下右京「呪いのビデオ?」修正版【前半】

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:21:04.78 ID:EAF0Yir90

相棒×リングのクロスssです。
このssは私が五年前に速報で書いた杉下右京「呪いのビデオ?」の完全リメイクになります。
当時の拙い文章を修正してさらに新規のエピソードも追加しました。
よろしければどうぞご覧ください。




2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:21:43.93 ID:EAF0Yir90

プロローグ



2016年 夏―――

「それではこちらでお待ちください。」



その日、警視庁特命係に所属する杉下右京は


先日、とある事件での負傷により車椅子を押しながらこの東京拘置所へと趣いていた。


これからこの施設に収監されている人物と面会を果たすためだ。


だがなにやら施設側が手続きに手間取っているために面会室で待たされる羽目になった。


そんな中、右京はこの面会室の天井にある天窓から外の様子を覗いていた。



「雨…ですか…」



どうやら外は生憎の雨模様らしい。


そういえばとここへ来る道中で空に雲が生い茂っていたことを思い出した。


雨…水…そんなことを思い浮かべているとある出来事がその脳裏に過ぎった。


それは今から3年前、右京たち特命係が追いかけた最悪の難事件。


それに纏わる難解な出来事と45年にも及ぶ悲劇の物語だった。



3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:23:08.74 ID:EAF0Yir90



第1話



8月25日 PM23:30


今から3年前の2013年8月25日。

その夜、都内某所にあるマンションで男性が変死体となって発見された。

すぐに通報を受けて駆けつけた警視庁捜査一課が現場の捜査を開始。

死因はこのマンションからの転落死と断定された。

一見してみれば事故と思えなくもないのだが…


「マンションから転落死か。それにしても…」


「一体何なんですかねこの顔は…?」


「俺も刑事歴長いがこんな顔は見たことねえな…」


被害者の男性は

捜査一課の伊丹、芹沢、三浦の捜査一課のベテラン刑事たちが

思わず身震いするような恐怖に引き攣った形相で亡くなっていた。

その変死体は死の直前、

まるで何か恐ろしいものを見たかのようなそんな恐怖を物語っていた。


「これってアレか?おい米沢、これは死後硬直でこうなったのか?」


「いえ、死後硬直でもこれほど顔面の筋肉が硬直するなんてまずあり得ませんよ。
こんな奇妙な事件は我々だけでは無理だと思い、その手の専門家をお呼びいたしました。」


「ちょっと待った!何だその専門家ってのは!?」


鑑識の米沢ですらこのケースは珍しいと言われてやはりどこか奇妙でならない伊丹。

そんな米沢の連絡を受けてとある専門家が現れた。

この手の怪事件には呼ばれずとも必ず駆けつける二人の男たち。

一人は身奇麗なスーツを着込んだ英国紳士風の男、もう一人はジーンズの若者。

そんな一見正反対な男たちがこの現場に参上した。



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:24:48.98 ID:EAF0Yir90



「どうも、その専門家です。」


「ゲッ…特命係…」


「これはこれは警部殿、お早いご到着で。」


「アハハ、米沢さんに呼ばれたので来ちゃいました。」


「それにカイトまで…まあ…確かにこの手の事件の専門家ですね…」


現れたのは警視庁特命係の杉下右京。それに甲斐享ことカイトの二人。

確かに米沢の言うようにこのような不可解な事件にはまさに打って付けかもしれない。

だが伊丹たちにしては特命係が事件に関わること自体が不愉快極まりないのだが…


「あのねぇ…警部殿。いつもいつも言ってますけど…」


「そう言っていつもいつも解決してくれちゃってますからね。」


「コラ芹沢!プライドを持て!」


最早捜査一課のプライドなど何処吹く風かの如く無視して

遅れてやってきた右京とカイトは

隣で伊丹たちの小言をハイハイと聞き流しながらさっそく事件の詳細を尋ねた。


「それで被害者の身元は?」


「被害者の名前は吉野賢三。仕事はTV局のディレクターです。
ただしここ1週間ほど会社を無断欠勤が続いていたそうですが…」


「1週間も無断欠勤…何故そんなことに?」


「その件についてなんですが…今被害者の同僚の方が来てくださっているんですが…」


芹沢に案内されて一人の男が右京たちの前に現れた。

被害者の吉野と同僚だというこの男。名前は小宮という。



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:25:22.17 ID:EAF0Yir90



「同僚の小宮です、あの吉野さんは本当に…」


「残念ですがお亡くなりになりました。
それで我々は彼が1週間も無断欠勤をした理由を知りたいのですが…」


「吉野さんが無断欠勤をした理由ですか…
その前に吉野さんの部屋を見せてもらえないでしょうか?」


被害者の吉野の部屋を見せろという小宮。

なにやら事情を察した伊丹たちはこの小宮を吉野の部屋に案内させる。

こうして小宮をマンションに入れるのだが…


「…」


ふと、周囲を見渡すと不審な車がマンションの前を通り過ぎた。

その車のナンバーは[品川 ぬ 23 -38] と記載されていた。

それは以前、右京たち特命係が関わった事件でその関係者が所有する車だった。



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:26:12.71 ID:EAF0Yir90



8月25日 PM23:50


さっそく吉野の部屋に入る右京たち。

だがその部屋は取材による資料が散乱していた。

過去に実在されたと思われる超能力者の資料。それに伊豆大島の三原山の資料。

だがそれ以上に驚くべき奇妙なモノに全員が注目した。


「これ…TVですよね?」


カイトが指すようにそれは居間にあるTVだ。

ガムテープによりモニター部分を覆っていたが

それが恐らく何かの拍子で解けたらしくモニター部分が見えていた。

右京たちが調べるとそのTVは特に何か異常があるわけでもない。

故障した形跡もないし機能にもまったく問題はない。

但し、TVのケーブル類を辿ると今時にしては珍しいモノがあった。


「おや、珍しい。これはビデオデッキですよ。」


「あの…警部殿…あまり現場をいじらないでくださいね…」


「ビデオって珍しいですよね。今ならレコーダーが主流なのに?」


「もしかしたらレコーダーにビデオの映像を編集しようとしたのかもしれません。」


「だから現場で勝手な真似をしないで…」


「ちょっとビデオデッキにあるビデオテープを取り出してみましょう。」


「だーかーらー!現場を荒らさないでください!!」


伊丹の怒声も虚しく勝手に捜査を進める右京とカイト。

そんな二人だがビデオデッキから取り出したビデオテープを見ると

そのラベルには『COPY』の文字が記されていた。


「COPYとは…つまりこれはダビングされたモノでしょうか?」


「ダビングってビデオテープの映像を他のビデオテープに写すことですよね。
けどこの部屋にビデオテープはこれだけですよ。一体何から写したんですか?」


カイトの指摘するようにこの部屋にはビデオテープはこの一本しか存在しない。

つまりこのCOPYと書かれたビデオテープがダビングされたモノならば

マスターテープなるモノがなければならないはず。

しかしそんなモノはこの部屋には置いていない。それでは何処に?


「とりあえずこのビデオの映像を見てみましょう。」


「まあビデオデッキもあるしなにより事件に関係しているかもしれませんからね。」


このビデオの映像が事件に関係するかもしれない。

そう考えた右京たちはさっそくビデオをセットして再生ボタンを押そうとした。

だがその時だった。



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:27:14.05 ID:EAF0Yir90



「ダ…ダメだぁぁぁぁ!?」


「このビデオを見ちゃダメなんだ!」


「頼む!見ないでくれぇぇぇぇ!!!!」


突然、今まで怯えていた小宮が錯乱したかのように

ビデオデッキに駆け寄ってそれを破壊した。

何度も何度もバン!バン!と床に叩きつけて機能出来なくなるまで壊す小宮。

それから壊したデッキからビデオテープを取り出して

そのテープをビリビリに破いて二度と再生出来ないようにしてみせた。


「ちょっと…アンタ!証拠品に何してんだ!?」


突然のことに怒声を上げる伊丹。

しかし伊丹の怒鳴り声は小宮の耳には届いてはいない。

それどころか彼は次第に妙なことを口走るようになった。


「まさか…嘘だろ…やっぱり噂は本当だったんだ…」


「どうする…次は俺だ…」


「俺の番だ…どうしたらいいんだ…?」


何か得体の知れない存在に恐怖し怯える小宮。

その姿はどう見ても尋常ではなかった。

とりあえず怯える小宮をカイトと芹沢が奥の部屋へと連れて行き

残った右京たちはそのまま捜査を続行した。



8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:27:48.05 ID:EAF0Yir90



散乱している資料の中にあるファイルが見つかった。

それは15年前に起きたとある事故の新聞記事をまとめたファイルだ。


「15年前に起きた事故のファイルだな。」


「掲載されている記事を読む限りじゃ事件性はない。これは今回の事故とは関係ないだろ。」


伊丹と三浦はそのファイルを一目見た程度ですぐにこの事故との関連はないと判断して

他の方へ移ろうとする。

だが二人が読み終えた後、このファイルを読んだ右京はある発見をした。


「確かに事件性はないように思われます。ですが奇妙ですよ。全員同じ日に死んでます。」


そのことを知ると伊丹たちは右京が持っていたファイルを再び注目した。

それには以下のことが記されていた。


大石智子:17歳 ○月×日 横浜の自宅にて急性心不全で死亡


岩田秀一:19歳 ○月×日 交差点をバイクで信号待ちしていた際に事故により死亡
(なお事故死する直前に急性心不全に見舞われてた模様。)


辻遥子:17歳 ○月×日 恋人の能美武彦とドライブ中に急性心不全で死亡


能美武彦:19歳 ○月×日 辻遥子と同くドライブ中に急性心不全で死亡


そこに記されていたのは15年前に死亡した4人の若者の事故死。

一見、彼らには何の接点もない。

だが同じ日に揃いも揃って事故死を迎えたとなればそれは不自然だ。

さらにこの奇妙な事故死を印象づける記述があった。



9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:28:37.73 ID:EAF0Yir90



「しかも彼らは死亡した時刻まで同じだそうですよ。」


「また警部殿は勝手に口を出して…確かに奇妙だとは思いますよ。けどねぇ…」


「既に15年前に事故死と断定されてるんです。こんなの調べようがありませんよ。」


確かに伊丹たちも奇妙だと思えた。

だがそれと今回の転落事故が何の関係があるというのか?

そんな疑問を抱いている間に米沢が吉野の遺体の検死結果を報告しに来た。


「たった今検死の結果が出ました。
被害者は転落する直前に心臓発作を起こして急性心不全で亡くなっていたとのことです。」


「また急性心不全ですか。
ファイルにあった被害者たちと同じ死に方…
果たしてこれを偶然で片づけて良いものでしょうかねぇ。」


「しかし急性心不全ということはつまり病気…事故でしょう。」


「そういうことだな。
被害者はベランダに出た途端に急性心不全になりそのまま転落した。
つまり事故という結論以外ないな。」


「現状で考えればそういうことになりますな。
ただそうなると被害者のあの恐ろしいモノを見た形相が気になるところですが…」


「そんなモン知るか。
とにかく事件性が無いならそれに越したことはねえ。
あとは関係者にいくつか事情聴取してそれでこの件は終わりだ。」


米沢の報告を聞いて吉野の転落死を事故として処理する方針を固める伊丹と三浦。

右京も現段階ではその方針を曲げるような証拠を見当たらないので

伊丹たちの判断は妥当だと思い反論することはなかった。

これでこの件はひと段落だとこの場にいる誰もが思ったその時だった。


8月26日 AM0:00


日付が変わったその直後、誰もが予想しえない恐ろしい事態が起きた。



10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:29:09.02 ID:EAF0Yir90






「 「 「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?」 」 」







11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:30:39.19 ID:EAF0Yir90



「小宮さん!しっかりしてください!」


「カイトくん!どうしたのですか!?」


「それが…小宮さんが急に苦しみ出して…」


先ほどカイトに連れられて居間で休憩を取っていた小宮が断末魔の悲鳴を上げた。

まるで何か得体の知れない恐ろしいモノに迫られるかのように恐怖する小宮。

彼の全身にその心臓が抉られでもしているかのような痛みが走った。


「うぐ…ぎぎぎぎぎぎ!!!!」


「おいどうなってんだ!こいつ何か持病でも抱えているのか!?」


「そんなこと知りませんよ…とにかく落ち着いて!安静にして!」


この事態に苦しむ小宮をどうにか鎮めさせようと努める伊丹たち。

だがいくら伊丹たちがベテラン刑事たちでも

突然発作を起こした人間に処置を施す術は持ち合わせていない。

だがそんなことを気にしている場合でもなくこのままでは小宮の命が危ない。

三浦は携帯を取り出して急いで救急車の手配をした。

伊丹と芹沢も同じく付き添っているカイトと何度も苦しむ小宮に呼びかけていた。

だがそんな彼らを嘲笑うかのように得体の知れない何かは小宮の命を…


「 「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」 」


壮絶な悲鳴を上げると同時に小宮は心肺停止状態に陥った。

その後、救急車が駆けつけて

小宮の心肺蘇生が施されたがその甲斐虚しく彼の死が確認された。



13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:31:23.06 ID:EAF0Yir90



8月26日 AM9:00


「 「馬鹿者ォォォォォォッ!!」 」


「刑事が関係者を目の前で死なすとは何事だ!」 


「お前たちは市民を守る警察官だろうが!一体何をやっていた!?」


「お言葉ですが…
小宮さんは急性心不全で亡くなってしまい…我々も手を施したのですが…」


「あまりにも突然だったものでどうすることも出来なかったのです。」


「一応病院の報告だと彼は病死扱いということですけど…」


「当然だ。こちらに落ち度があってたまるか。」


早朝、内村刑事部長の部屋でかつてないほどの怒鳴り声が響いた。

伊丹、三浦、芹沢の三人は昨日発生した吉野賢三の転落事故で

その直後に起きた小宮の病死を内村刑事部長と中園参事官から叱責されていた。

いくら不慮の事故とはいえ小宮の死は明らかに警察側の不始末だ。

何故この事態を避けることが出来なかったのか?

内村は三人にその責任の所在を問い質していた。


「それにしても事情聴取中に急性心不全はあまりにも世間体が悪過ぎます。」


「また謝罪会見か。痛たた…胃が痛くなってしまった。中園やっておけ!」


「えぇっ!またですか!?」


「何だ。不満があるのか?」


今回の事故死は警察の事情聴取中に発生した。

従って警察の責任問題は免れない。

そうなれば当然謝罪会見を行う必要がある。

そのため内村はその嫌な役目をいつも通り部下の中園に押し付けようとしていた。



14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:33:23.78 ID:EAF0Yir90



「ええ、不満です。」


「杉下…また現場に居たそうだな。今度という今度は…」


「お叱りは後ほど、
今回の被害者である吉野さんは
15年前に急性心不全で亡くなった4人の若者の急性心不全の病死を調査していました。
そして吉野さんご自身も転落する直前に急性心不全で亡くなっている。
それに同僚の方まで…
この一件を事故死で処理するのはあまりにも不可解、調べる必要があると思いますよ。」


「黙れ杉下!捜査に口を挟むな!」


「ちなみに被害者の吉野さんはTV局の人間です。
マスコミがこの事件をただの事故死として扱うとは僕には到底思えませんがね…」


同じく伊丹たちと共にこの場に叱責されていた右京とカイト。

黙れと言われても黙らないよなと心の中で呟くカイトを尻目に話を続ける右京。

本来なら内村は右京の話になど耳も貸したくないが

指摘されたようにマスコミに嗅ぎ回られては面倒なのは確かだ。

そこで部下の伊丹たちに小宮を死なせた懲罰の如くこの事故の捜査を担当させた。

ちなみに特命係はいつものごとく謹慎を命じられたのだが…

全員が退室する直前、内村はもう一度被害者の身元を確認していた。


「ひとつ聞くが転落事故で死んだのは吉野賢三という男なのか?」


「そうですが…それが何か…?」


「いや、なんでもない。下がれ…」


どういうわけか顔色の悪い内村。

右京たちが部屋を退室した後もなにやら思いつめた表情をしていた。

そんな内村の机の上にはある舞台のチラシがあった。

それは城南大学で開催される『仮面』という舞台の公演だった。

あの内村が舞台に興味あるのは少々疑問を抱いたが

さすがに今の興奮状態の内村に問うのは面倒だと思いさっさと退室した。



15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:34:18.42 ID:EAF0Yir90



8月26日 AM10:00


「よ、暇か?聞いたぞお前ら、また内村部長に怒られたそうだな…って元気ねえな。」


いつものように組織対策5課の角田課長が特命係の部屋にコーヒーを求めてやってきた。

しかしその特命係では…


「…ハァ…」


「落ち込んでますねぇ…」


「そりゃ落ち込みますよ、小宮さんは俺の目の前で亡くなったんですから…」


内村の説教を終えて特命係の部署に戻った右京とカイト。

だがカイトの心中は決して穏やかではない。

何故なら今回もう一人の被害者である小宮は自分の目の前で亡くなった。

それを思えばカイトもその責任を感じずにはいられなかった。


「それにしても吉野さんが調べていた事故は奇妙極まりないですねぇ。
被害者が全員、同じ日、同じ時刻に亡くなっていた。
偶然にしてもこんな確率はありえません。
被害者は何故こんな亡くなり方をしたのでしょうか?」


「そう言われても…けど改めて聞くと一連の事故ってオカルトっぽいですよね。」


ついカイトが口にしてしまったオカルトという言葉。

警察官たる者がオカルトなど馬鹿げた話を信じるわけにはいかないのだが…

だが被害者たちの死因を知るとやはりオカルトと疑うのも無理はなかった。

そんな時、コーヒーを飲んでいた角田課長は

右京が鑑識の米沢から拝借してきた

15年前の事故の資料にある被害者の名前を見てあることに気づいた。


「岩田秀一と能美武彦…この二人何処かで聞いたことある名前だな…何だっけ?」


「本当ですか?」


「ちょっと待ってろ。調べてくる!」


何か思い出したかのように部屋を退室して調べごとを始める角田。

その間に右京たちはある場所へ向かうことにした。



16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:35:06.12 ID:EAF0Yir90



8月26日 AM11:30


ここは被害者の吉野と小宮が勤めているTV局。

亡くなった二人の同僚から二人の近況を聞き込みしようとしたのだが…


「あ、また特命係!」


「まったく神出鬼没ですな警部殿…」


既に一課の伊丹たちが同僚の聞き込みを行っていた。

ちなみに彼らが聞き込みを行っているのは吉野たちと同じ部署に所属する早津という男。

しかし早津は伊丹たちの事情聴取に対してあまりにも尋常ではない怯え方をしていた。


「吉野さんと小宮さんの死について
何か心当たりはないか同僚のあなたにお伺いしたいのですが…」


「…」


「無駄ですよ警部殿。俺たちが聞いてもずっとこの黙りが続いてますから…」


そんな怯える早津に伊丹たちの事情聴取はあまり捗ってはいなかった。

しかしその様子は昨日吉野の死を知った小宮と同じ怯え方だ。

あの時、目の前で小宮に死なれたカイトは彼が同様の怯え方をしていると確信した。

だがそれが何を意味するのか?



17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:36:17.01 ID:EAF0Yir90



「失礼ですが亡くなられた吉野さんと小宮さん、それに早津さん。
あなた方三人はこの数日の間に何か奇妙なことに巻き込まれたのではありませんか?」


怯え続ける早瀬に右京はそんな質問をしてみせた。

今の早瀬の様子からして死んだ吉野と小宮と一緒に何かをしたことだけは確かだ。

しかも昨日の事態を察するに命の危険が関わっていると考えるべきこと。

だからこそ早津はこうして尋常ではない怯え方をしているのではないか。

そしてそのことを察した右京に早津は飛びつくかのように助けを求めた。


「吉野…小宮…あぁ…刑事さん助けてください…俺まだ死にたくないんですよ!」


「ちょ…ちょっと急にどうしたんですか!?」


「あれを見ちまった俺にはもう時間が無い…ダメだ…もうすぐ…俺は死ぬ…」


「落ち着いてください小宮さん!
そうならないためにも我々警察が絶対にあなたのことをお守りしますから!」


「ダメだ…やっぱり俺たちは呪われちまったんだ!?」


「呪われた?一体何にですか?」


呪われた。そう何度も訴える早津。

いきなりのことで何の話だかわからない伊丹たち。

この現代に呪い?馬鹿らしい。それに呪われたとして一体何に呪われたというのか?

思わず呆れ返ってしまった。

だが右京はそんな早津にこんな質問をしてみせた。


「それはひょっとしてビデオテープが関係しているのではありませんか。」


「何故それを?まさかあなた方もビデオを見たんですか?」


「いえ、僕たちはあのビデオを見ていません。
ですがあなたのその怯えた表情…そして小宮さんが死の直前に見せた不可解な行動…
それらを推理すればあのビデオに何かあると察することは出来ますよ。」


「…これから話すこと、刑事さんたちは信じてくれますか?」


「あなたが話すことが真実ならば我々はそれを信じるだけですよ。」


早津は小さく頷き怯えながらも語り始めた。

すべての始まりは今から15年前のことだった。

当時、このTV局に勤務していたディレクターの『浅川玲子』がある取材を行っていた。

それは当時の若者たちの間に広まっていた都市伝説に関する取材だった。



18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:37:37.53 ID:EAF0Yir90



「呪いのビデオ…それを浅川さんは追っていました。」


「呪いのビデオって…まさか…あの!?」


「おや、カイトくんはご存知なのですか?」


「まあ噂でしか聞いたことありませんけどね。
俺が中学生くらいの頃でしたね。その当時変な噂が流行っていたんですよ。」


それからカイトは右京に呪いのビデオについて語りだした。


【呪いのビデオ】


今から15年前の90年代中頃のことだ。

その当時、誰かが囁き出したとされる呪いのビデオの噂が中高生の間で広まり出した。

呪いのビデオを観た者は1週間以内に呪い殺される。

それもビデオを見た日の1週間後の同時刻に…

そんな都市伝説が巷で出回った。

だがそれはほんのひと時の間だけで気づけば誰もがその噂を忘れていた。

それに現代ではその呪いに使用されるビデオテープ自体が使われなくなった。

そのため今ではそのような噂は人々から忘れ去られていたはずなのだが…



19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:38:20.23 ID:EAF0Yir90



「15年前…俺たちは…
浅川さんの頼みでその件を調べていたんです。
そしたら…暫くして浅川さんが死んだって話を聞いて…その取材は中断されました。」


「その浅川さんは呪いのビデオの所為で亡くなられたのですか?」


「いえ、彼女は呪いのビデオを見て1週間経ったのに生きていたんです!
けどその後すぐに交通事故に合って死んだと聞きましたが…
それから15年後…俺たちも呪いのビデオを見たんです。
まずは 吉野さんが先に18日に見て…
次に翌日の19日に小宮さんが…それに俺が22日に…
順番通りなら次に死ぬのは俺なんですよ!」


次に死ぬのは自分の番だ。そう叫びながら怯える早津。

今の早津の話しが確かならば吉野と小宮は1週間前に呪いのビデオを観ていたことになる。

つまり呪いのビデオとやらの噂は本当だということになるのだが…


「あの…ちょっといいですか…警部殿。」


「今の話を聞く限りだと…その…捜査一課でオカルトは扱っていないというか…」


「まあその…我々も忙しいので…
今回は特命係にお任せした方が良いんじゃないかというのが僕たちの判断でして…」


「つまりは今の話を聞いて馬鹿らしくなって俺たちに丸投げってわけですか?」


「あのなぁ!捜査一課はオカルト専門外なんだよ!
まあ呪いのビデオとやらで死体でも出たら呼んでください。それでは!」


伊丹たちはこれ以上事件性が無いと判断し、

後は特命係に一任するといいさっさと帰ってしまう。

無理もない。こんなオカルトみたいな話をまともに聞く方がどうかしている。

それに今回の発端となった出来事も15年前ときている。

殆どの関係者が亡くなっていてそんな昔の話を今更検証することなど不可能に近い。

そんなわけでさっさと退散する伊丹たち。

残った右京とカイトは引き続き早津から事情を聞く事にしたが…



20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:38:59.96 ID:EAF0Yir90



「あの人たち…俺が言ったこと…
全然信じてなかったですよね…
あなたたちも馬鹿なこと言っているとそう思っていますよね…」


「いや…そんな事ないッスよ!俺ら信じてますから!」


不安になる早津を落ち着かせるカイト。

だがカイト自身も今の話を聞いて些か半信半疑だ。

伊丹たちの言うようにこんな話をまともに信じる方がどうかしている。

そんな当然のような反応を見せるカイトだが…


「あの…試しに何でもいいから俺を写してもらえますか? そうすればわかりますから…」


「わかりました、カイトくん。ちょっとやってみてください。」


「了解です。」


右京の指示を受けてカイトはスマフォを取り出して怯える早津の画像を撮った。

だが写った早津の画像は明らかに奇妙なものだった。

何故ならその画像に写った早津の顔は奇怪なまでに歪んでいた。

まるでこれが呪いに掛かった証拠でもあるかのように…


「それ…ずっとなんですよ…
呪いのビデオを観てからずっとそんな画像になって…
最初に気付いたのがTVのカメラに自分が映った時でした。
カメラの不調だなって思ってたんですけど…他の人はそんなことなくて…俺だけ…
ねぇ…俺やっぱり呪われているんですよ!刑事さん助けてよ!!」


「落ち着いてください!こんな画像の顔に靄が掛かったくらいじゃ人間死にませんから!」


「何言ってんだ!
呪いのビデオに関わってもう何人もの人間が死んでるんだぞ!
アンタらこの現状を見てもまだ信じられないってのかよ!?」


自分は呪われている。

人は死んでいるし自分もこうして呪われている証拠がある。

それなのに何故信じてくれない?そうカイトを責め立てる早津。

そんな最中、右京は冷静さを失いつつある早津に質問をした。



21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:39:44.05 ID:EAF0Yir90



「ひとつよろしいでしょうか。」


「ハァ…ハァ…一体何ですか?」


「先ほどあなたが仰った15年前に事件を調べた浅川さんは
1週間経っても死ななかったそうですがそれはつまり呪いを解いたということですよね。
つまり呪いを解く方法は必ずあるとそういうことじゃありませんか?」


早津の話しが正しければ15年前に浅川玲子は呪いを解いたはず。

つまり浅川玲子は呪いの解き方を知っている。

そう右京は早津に助言してみせた。


「そうだ…浅川さんが1週間経っても生きてたから…
てっきり俺たちはあのビデオはインチキだと思ったんです。
けど実際はこうして人が死んで…浅川さんは恐らく呪いを解く方法を知っていたんだ!
それさえわかれば俺も死なずに済むのに…」


「あの…亡くなった浅川さんは呪いのビデオに関して何か残してなかったんですか?」


「それが浅川さんは…事件のことは一人で調べていたらしく…
呪いを解いた直後に彼女は突然失踪して当時の資料は全部失われたんです。
そしてその時にオリジナルの呪いのビデオも焼いてしまったのでもう何も残ってません。」


「オリジナル?
それでは吉野さんの部屋にあった
あの『COPY』のラベルが貼ってあった呪いのビデオはダビングされたものなのですか?」


「当時、浅川さんか紛失しないようにと何本かテープをダビングしてたらしいんです。
詳しくは知りませんがその1本を恐らく吉野さんが入手したんだと思います…
そうだ…ビデオだ!あの呪いのビデオにこの呪いを解く鍵があるはずだ!
刑事さん、吉野さんが持っていたビデオはどこにあるんですか!?」


あのビデオにこの呪いのビデオの謎を解く鍵がある。

右京たちにビデオの在り処を求める早津。

だがそのビデオは昨日小宮によって修復不可能なまでに破壊された。

つまりビデオの謎を解きたくても肝心のビデオが失われてしまったのでは成す術がない。


「そんな…もうダメだ!あのテープが無ければ俺は…死んじまうよ!?」


「落ち着いてください。
我々があなたの呪いを解く方法を必ず調べます。あのテープの内容を教えて頂けますか?」


それから早津はテープの内容について細やかに説明をした。

彼はそのテープを一度しか観ていない。

それにも関わらずその内容を鮮明に覚えていた。

そしてその映像にあった場面をひとつも漏らすことなく右京とカイトに伝えてみせた。

彼が見た映像は以下の通りだ。



22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:40:21.96 ID:EAF0Yir90



冒頭のメッセージ


『終いまできけ、さもないと亡者に喰われるぞ。』


一人の老婆が画面の向こうにいる誰かに向かってこう話しをしている。

『その後、体はなあしい?しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。
いいか、たびもんには気ぃつけろ。うぬは、だーせん、よごらをあげる。
あまっこじゃ、おーばーの言うこときいとけぇ。じのもんでがまあないがよ』

それは何処かの地方で使われている方言。しかしその意味が何なのかはわからない。


鏡に映る髪を結う着物を着た30代後半~40代前半の女。

次にまた鏡に人が映るがそこには先ほどの着物の女性ではなく

髪が長くて白い服を着ている少女が映る。


何かに苦しむ人々の姿。白い布を被り指を指す男性。


新聞記事、噴火についての内容が記されている。


サイコロが振られる音。そして『嘘吐き!嘘吐き!』と人々から罵声される。


空が映るシーン。だがそれは何故か丸く映っている。


人の眼、何度か瞬きをしてその瞳に映る『貞』という文字。


井戸、周りは木々に覆われた森で井戸はかなり古く一部分が欠けている特徴のあるモノ。


最後にまたメッセージが出る。


『これをきいた者は、1週間後のこの時間に死ぬ運命にある。死にたくなければ…』


以上が早津の観た呪いのビデオの映像の内容だった。

それから早津はペンを取り画用紙に数枚の絵を描き出してそれを右京たちに見せた。

丸い何かから見下ろす一人の男、鏡、髪を結う女、髪の長い少女、新聞記事、噴火、

苦しむ人々、老婆、サイコロ、罵倒する人々、白い布を被る男性、井戸の光景、

そして『貞』と文字が書かれた絵。

正直どれも意味不明なモノばかりだ。

だがそれを見た右京とカイトは何かおぞましいモノを肌で感じる感覚に襲われた。

まるで今この瞬間、自分たちにも呪いが振りまかれたというそんな気分に陥った。



23:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:43:22.06 ID:EAF0Yir90



「これだけじゃ何がなんだかわかりませんよ…」


思わずそんな弱音を吐くカイト。

確かにこんな意味不明な絵だけで謎を解き明かすのは至難の業だ。

これではお手上げだとカイトが値を上げるのも無理もない。

しかし右京は今のビデオの内容でひとつ気になった疑問を早津にぶつけてみた。


「先ほどのお話でひとつ気になる点があります。
最後のメッセージに『死にたくなければ…』とありますが
それから先は何か表記されていませんでしたか?」


「それが…その…
肝心の最後の部分はないんです。
その所為で俺たちは呪いを解く方法がわからないんですよ!」


肝心の呪いを解く方法は表記されてはいない。

だから吉野や小宮もその方法を試みることが出来ずに

呪いのビデオによって死んだというのが早津の話しだった。

つまり1週間以内に15年前、浅川令子が解いた方法を見つけ出さなければならない。

その方法を行わない限り、早津は確実に呪いによって死ぬ。


「お願いです!俺にはもう4日しかないんです!
8月29日のPM19:00がタイムリミットなんです。
だからそれまでに呪いを解く方法を見つけ出してください!」


そんな鬼気迫る顔で右京たちに迫る早津。

残り4日、右京はなんとか呪いを解く方法を探してみると約束してその場を立ち去った。



24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:43:58.75 ID:EAF0Yir90



8月26日 PM13:00


「それでな、この岩田秀一と能美武彦の二人は
かつて銀龍会で麻薬を売ってた密売人なんだよ。
まぁそういってもこいつらは下っ端中の下っ端でな。
都内じゃ足が付くから
伊豆とか箱根辺りの街から離れたペンションに行って麻薬を売ってたんだよ。」


「なるほど、彼らは麻薬の前科がありましたか。」


「当時こいつらの客は
ほとんどが受験生のガキ相手で勉強の効率アップだとか言って商売してたらしいよ。」


TV局を後にした右京たちは特命係の部署に戻り

都合よく調査を終えた角田課長から報告を聞いていた。

15年前に病死として扱われた岩田秀一と能美武彦はかつて麻薬の売人だったということだ。


「それじゃあ亡くなった大石智子や辻遥子もその二人の客だった可能性があるんすか?」


「たぶんそうかもしれんな。
当時二人とも大学受験を控えていた。
恐らく気分転換程度の軽い気持ちで手をつけたんだろうよ。
麻薬に手を染めるヤツはそうやって軽い気持ちで手を出すもんだからな。」


その彼らが同じく死亡した大石智子や辻遥子と麻薬の取引で通じていた。

それが角田の見解だった。今の説明に右京たちも角田と同意見だ。

しかし彼らがもし呪いのビデオに関わって死亡したのなら

彼らは何処であのビデオを見たのか?それが疑問だった。


「ちなみにこいつらが取引場所として使っていたのが
静岡にある伊豆パシフィックランドっていう貸別荘だったわけだ。
俺も捜査で向かったが山と海に囲まれて絶景の場所だったよ。
慰安地にはもってこいの場所だね。」


「なるほどわかりました。カイトくん行きますよ。」


「ちょっと!まさか杉下さんもあんな『呪いのビデオ』なんて信じてるんですか?」


「以前言いましたが僕はオカルトに興味津々でしてね。
特に幽霊や超能力なんて興味を注がれませんか?」


今回の事件に

オカルトが絡んでいることもあり右京は興味津々で捜査に乗り出そうとしている。

そんな右京に呆れながらも同行しようとするカイト。

だが出発直前、コーヒーを飲みながら角田はそんな二人の出鼻を挫いた。



25:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:44:59.77 ID:EAF0Yir90



「けど今更行っても…もう何も無いけどね…」


「え?そこ今はもう潰れちゃったんですか?」


「ああ、15年前だったかな。
その別荘の床下にある『井戸』から『死体』が出てきてね。
それ以来気味悪くてお客さんが寄り付かなくなって施設は潰れちまったんだとさ。」


「『井戸』…『死体』…杉下さん…まさか…」


「課長、そのお話詳しくお聞かせ頂けますか?」


それから角田課長は伊豆パシフィックランドの顛末について話した。

それは今から15年前のこと。

当時角田課長率いる組対5課は

都内から離れた場所で麻薬の取引を行う岩田秀一と能美武彦の足取りを追っていた。

しかし彼らは事故死によって処理された。

だからといって二人の行いが有耶無耶になったわけではない。

二人が麻薬の取引に使用していた

貸別荘に趣いて取引の痕跡を調べようとした矢先のことだった。

その当時、ある二人組みが事故死した4人の直後に彼らが使用した貸別荘を訪ねた。

そして二人はどういうわけか貸別荘の真下にあった井戸を掘り起こして死体を発見した。


「ウチも当時その別荘に張り込みをしていたから
その事件はよく覚えているが死体を見つけたのは二人の男女だったそうだ。
男の方は『高山竜司』。女の方は…浅川玲子…確かそんな名前だったな。」


「浅川玲子ってそんな…けど二人は何で死体を見つけたんですか?」


「警察も事情を聞こうとしたんだが高山って男が翌日、自分の家で死んでてさ…
そんで浅川って女の方も事件後行方不明でわざわざ実家の方まで尋ねに行ったら
なんと驚いたことに親御さんが変死体で発見されてたんだよ!
まあ親御さんも歳だったし死因もわからなくはないんだけど…」


「急性心不全…ではなかったのでしょうか?」


「オォッ、さすが警部殿!よくわかったね。
そんで事件から暫くしてようやく浅川の所在が分かったんだが
その直後に浅川がトラックに撥ねられてさ、即死だったよ。
結局何で二人が死体を発見できたのかは今でも謎のままなわけだわ。」


今の話しを聞いて思わず背筋をゾッとさせるカイト。

呪いのビデオの信憑性とその不気味さがますます肌で感じ取れた。

そんなカイトを尻目に今の話しで右京はひとつだけ気になることがあった。



26:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:45:37.85 ID:EAF0Yir90



「井戸で発見された遺体は身元不明のまま処理されたということでしょうか?」


「いや、一応遺体の身元は判明しているんだがね…
親族が遺骨を引き取りに来てたみたいだしたぶん実家の墓に供養されてんだろう。」


「ちなみにその井戸で亡くなられた方のお名前はわかりますか?」


当然のことだが身元が判明していたのであれば井戸で亡くなった人物の名がわかる。

井戸から出てきた遺体の身元を調べればそれは呪いのビデオの謎を解く鍵になるはず。

それから角田は自分の机に戻り紙とペンを取り出してその遺体の人物の名前を書き出した。


「仏さんの名前…
何故だか知らんが頭にこびり付いて離れやしないんだよな。
それで名前は『貞子』、さだが『貞』の字の『山村貞子』という名だ。」


【山村貞子】


それが角田の書いた井戸で死亡したと思われる人物の名前だ。

右京とカイトは角田の書いた名前の『貞』という文字に注目した。

それは先ほど、TV局で早津から教えられた呪いのビデオの映像にあったもの。

あの『貞』という文字に関係があると確信した。

山村貞子…

これより特命係はこの女を巡って恐怖と悲劇に見舞われた物語に関わることになる。



27:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:46:27.45 ID:EAF0Yir90



第2話


8月26日 PM16:00


右京とカイトは先ほどの角田課長の話を聞いた後、

その足ですぐさま静岡県警の遺留品係を訪れていた。

その目的は勿論、井戸で死亡されたとみられる山村貞子についてだ。

貞子が死亡した原因を探るために何か遺留品はないのかと探りに来たのだが…


「まさかその日のうちに静岡県警の遺留品係を尋ねるなんて、杉下さん行動早過ぎですよ。」


「何を言っているのですか。
呪いが本当なら早津さんはあと4日しか時間がありません。
我々には時間も手掛かりも少ない。迅速に行動するに越した事はありませんよ。」


確かに呪いが本物なら早津には4日しか時間が残されていない。

それは呪いに陥っていないカイトには実感できない焦りと苛立ち。

早津の心境を察すれば一刻も早くこの事件を解くべきなのだが…

やはり他人事であること、

それに未だに呪いのビデオが本物か疑っている現状ではイマイチ身が引き締まらなかった。


「お待たせしました。伊豆パシフィックランドでの事件の資料です。」


「どうもありがとう。やはり思った通りです。カイトくん、これを見てください。」


当時の捜査資料からまず探り出したのは伊豆パシフィックランドの宿泊者名簿だ。

それには15年前に

岩田秀一、能美武彦、大石智子、辻遥子、その4人が宿泊していた形跡があった。

さらにそれから数日経過した日付には浅川玲子の名前が記されていた。

やはり彼らが伊豆パシフィックランドを訪れていたことは間違いないようだ。



28:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:46:58.32 ID:EAF0Yir90



「彼らが泊まった日、
この○月□日は…ひぃ…ふぅ…15年前の彼らが亡くなった○月×日の一週間前です。
つまり彼らは…」


「その時に呪いのビデオを観た…そういうことですか?」


「間違いありません。
その数日後に浅川玲子が泊まりに来た。
つまり呪いのビデオは伊豆パシフィックランド…
いえ、厳密にはあの井戸の傍にあった場所に在ったモノだった。
そしてそのビデオは浅川令子によって外に持ち出されたということになります。」


呪いのビデオとは元々あの井戸の傍に在ったモノ。

それを浅川玲子は持ち出していた。

その後も宿泊者名簿を読み漁るが

角田の話し通り井戸から遺体が出た日から客足がどんどん遠のいたらしく

その後の客足はパッタリと途絶えて施設が閉鎖されたことを示した。

まるで呪いの何かを感じ取った人々が恐れを為して近寄らなくなったかのように…



29:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:47:28.33 ID:EAF0Yir90



「これが…『山村貞子』の検視報告書です…」


続いて提示されたのは井戸で見つかった山村貞子の検死報告書。

だがそれを右京たちに差し出す職員は酷く顔色が悪かった。

とりあえず報告書に目を通してみるのだが…

するとそこには奇妙なことが記されていた。


「拝見します。これは…どういう事ですか…?」


「何かおかしな点でもあったんですか。」


「検視報告では山村貞子は井戸で死亡してから1年しか経過していないと記されています。
しかし発見者である高山竜司と浅川玲子の証言によれば
貞子が井戸に落とされたのは、その30年も前だということらしいです。」


確かにそれは奇妙なことだ。

15年前、浅川たちが山村貞子の遺体を発見した時には貞子はその1年前に死亡していた。

しかしその浅川たちが証言するには貞子は既に30年前に井戸に突き落とされたとのこと。

つまりこれは貞子が30年も井戸の中で生きていたということになる。

その話しを聞いてカイトは心の中でこう呟いた。

馬鹿な、ありえないと…

人間が井戸の中で30年も生き続けるなんて生物学上不可能なはず。

現実的に考えるなら何かが間違っていることになる。

それは浅川たちの証言かもしくは貞子の検視報告、

そのどちらかに誤りがあるということになるのだが…


「山村貞子が井戸の中で生きていたのは間違いありませんよ…」


そんなカイトの疑惑を遮るように職員はそんなことをボソリと呟いた。

見ると職員は先程よりも酷く怯えていた。

まるでかつて恐ろしくもおぞましい何かを見たようなそんな印象が漂っていた。


「詳しいお話を聞かせてもらえませんか。」


そんな職員に何故貞子が30年も井戸に居たのか尋ねる右京。

それから職員は恐らくは話したくはないだろうことについて

右京たちに当時の状況について語り始めた。



30:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:47:59.71 ID:EAF0Yir90



「あれは15年前、
私も現場に駆り出されたのですが…井戸の中に入ってみると…
壁のあちこちに山村貞子が壁をよじ登ろうとして痕跡がありました。」


「つまり山村貞子は井戸に落とされた時にはまだ生きていたということですか?」


「ハイ、私が壁を見回すと彼女の削げ落ちた爪が見つかりました。
検視報告書を見てください。山村貞子の手…ボロボロで…爪が全部割れてるでしょう…」


「確かに彼女の指はかなりの負傷が確認されています。」


この職員が語るには

15年前に伊豆パシフィックランドにて山村貞子の遺体が発見された際、

その現場はあまりにも悲惨なものだったらしい。このことからある事実が明らかとなった。


「恐らく山村貞子は生きながらあの井戸の中に閉じ込められたと思われます。
発見者の話によると井戸は分厚いコンクリートの蓋がされてあって
たとえよじ登ることが出来たとしても外に出る事は不可能だったはずです。」


「つまり山村貞子は自ら自殺したのではなく…」


「何者かの手により井戸に閉じ込められたということになりますね。」


今から45年前、貞子は何者かの手により井戸に落とされた。

そしてその中で30年間生き続けた。

それは恐らく地獄のような苦しみだったにちがいない。

しかしこうなるとさらなる疑問が浮かび上がる。

貞子を井戸に突き落としたのは誰なのか?そしてその理由は何なのか?


「ところで山村貞子の遺体は親族の方が引き取られたと聞きましたが?」


「山村貞子の叔父にあたる山村敬という老人が引き取りに来られました。
確か伊豆大島の実家の方へ亡骸を持ち帰り、その後に弔ったと聞いています。」


「大島ですか…
ところで山村貞子の死体が発見された井戸に行ってみたいのですが
現在でも井戸は存在しているのでしょうか?」


「あの場所…ご存知かもしれませんが死体が出た騒ぎで近寄らなくなりましてね、
けど何年か前に国がそこに施設を作りたいから買い取ったそうですよ。
何の施設だか明かされていませんが周辺住民もあんな薄気味悪い場所を
買い取るモノ好きがいてくれて助かったと喜んでいましたがね。」


どうやら井戸の周辺は

国がなんらかの施設を建てたようで無許可の立ち入りは禁じられているらしい。

つまり安易に立ち入ることはできない。

令状でもあれば話しは別だろうが残念なことに特命係は捜査権を持たない部署だ。

さらにこんな呪いの事件に捜査令状なんて出されるはずもない。

どうやらここにきて捜査が行き詰まったようだ。



31:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:49:08.15 ID:EAF0Yir90



8月26日 PM20:30


「…」


「杉下さん…思いつめた顔をなさって…何か考え事ですか?」


「まあこの人が考え事するのはいつものことなんで気にしないでください。
けど…どうしますか?当時の事件関係者のほとんどが死んでてろくに話を聞けませんよ?」


静岡県警から戻った右京とカイトは

その足で腹ごしらえにいつもの花の里へと訪れていた。

右京の前妻である宮部たまきより譲り受けた花の里を

笑顔の絶えない優しさの人柄で店を一人切り盛りする月本幸子。

そんな幸子が提供する食事を

余程お腹を空かしていたのか箸を進めるカイトに対して熱燗一杯嗜む程度の右京。

しかしそんな思いつめた態度を振り払うかのようにカイトへあることを告げた。


「明日、大島に行ってみようかと思います。」


「まさか山村貞子の遺体を引き取った山村敬を尋ねる気ですか?」


「えぇ、今のところ手掛かりはそれしかありませんからね。」


確かに今のところ手掛かりは山村貞子の遺体を引き取った山村敬なる人物しかいない。

しかしまさか呪いのビデオなどというオカルトを真に受けて

伊豆大島まで出向かなければならないとは…

暇な部署の特命係でなければ絶対に出来ないことだなとカイトはつくづく思った。


「なんとか彼女の足取りを掴めれば良いのですが。」


「呪いのビデオの内容…今のとこ判明したのは『井戸』と『貞』の字だけか。
せめてもうひとつくらいわかればな…何でしたっけ『しょーもん』がどーたらこーたら…」


「『しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。』
警察官ならこれくらい一発で覚えておくものですよ。」


「無茶言わないでください。
警察官全員が杉下さんなみの記憶力があるわけじゃないんですから…」


つまらない嫌味を言われて愚痴るカイト。

だがそんな二人の会話に思わず女将の幸子が反応した。



32:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:49:58.10 ID:EAF0Yir90



「あの…今のもう一度言ってもらえますか?」


「え?みんなが杉下さんなみの記憶力があるわけじゃないって言っただけですけど?」


「いえ…そこじゃなくてさっき杉下さんが仰った…」


「『しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。』のことですか?」


「そう、それです!
確か刑務所に居た時に大島出身の人がいて
その人がよく方言で言ってたんですよ。
『しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。』って!」


「まさかこんなところでヒントが出て来るなんて…それでこれ何て意味なんですか?」


「『水遊びばかりしていると幽霊が出て来るぞ』そんな意味だって言っていましたけど…」


『水遊び』それに『幽霊』…

幸子の話しを聞いて今回の事件にますますオカルトの雰囲気を感じ取るカイト。

これでは伊丹たち捜査一課が特命係に丸投げするのも無理はないなと呆れるほどだ。


「幸子さん、どうもありがとう。やはり大島に何かあるとみて間違いないですね!」


「けど早津さんの呪いの日まであと4日…
つーかもう今日も終わりますから実質3日くらいしかありませんよ。
そんな短期間で俺たち二人だけで
45年以上も前にいなくなった人間の足取りを追うのは正直厳しくないですか?」


「そうですね。ですが一応手は打っておいたので心配する必要はないと思いますよ。」


45年前に井戸で死んだ貞子の足取りを追う困難さは

最初から想定していたとでも言いたげな右京。

そんな右京がもうひとつ打った手とは…?

ちなみに…



33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:50:44.23 ID:EAF0Yir90



同時刻―――


「お疲れっす。」


「お先に失礼します。あれ?課長残業っすか?」


「まあな、特命の連中には世話になってるからちょっと調べ事をね…」


同時刻、組対5課の部署では全員が帰宅する中で

角田課長一人が右京からの頼まれ事をせっせと調べている姿があったとか…



34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:52:47.71 ID:EAF0Yir90



8月26日 PM21:00


「それではここで別れましょう。明日は遅れないようにしてください。」


「了解です。ガキじゃないんだからそんな心配しないでくださいよ。」


「ええ、わかっていますよ。ですが念のためにと思いましてね。」


花の里で腹ごしらえを終えた二人は明日に備えて今日はそれぞれ自宅への帰路についた。

だが右京は少しばかりカイトのことが気掛かりだった。

その理由は昨夜亡くなった小宮の死についてだ。


「カイトくん、小宮さんの死はキミの責任ではありません。」


「いきなりどうしたんですか?」


「いえ、もしキミが責任を感じているのならと思って…
あれはさすがに止めようがありませんでした。僕でも無理だったはずです。」


小宮の死について内村は自分たちにこそ責任があると言及した。

確かに警察官が目の前で人をむざむざと死なせれば問題であることは間違いない。

右京自身もその場にいながら何も出来なかったのは不甲斐なさを痛感していた。


「それでも責任を感じているのならこの事件を解決しましょう。
真相を解き明かすことが小宮さんの死を無駄にしない唯一の行いだと僕は思います。」


右京の言葉を受けてカイトは納得したように頷きその場を去った。

そんなカイトを若干不安そうな気持ちで見送る右京。

だが後に右京は後悔することになる。

この日、もしもカイトを一人で帰さなければ

あのような過ちを犯すことなどなかったかもしれないと…



35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:56:15.31 ID:EAF0Yir90



8月27日 PM13:00


「ご乗船ありがとうございました。またのご乗船をお待ちしております。」


高速ジェット船から乗客に対しての下船のアナウンスが流れた。

ここは伊豆大島の船乗り場。

高速ジェット船で東京からの船旅を経て大島へたどり着いた右京とカイト。

島の中心に位置する三原山に大海原に囲まれたこの島こそ山村貞子の生まれ育った場所。

この島に呪いのビデオの謎を解く鍵があると確信を持っていた。


「さて…それでは山村さんのお宅へ向かうとしましょうか。」


「その前に待ってください。
一応この辺りの駐在さんに来ることを連絡しておいたはずなんですけど…
誰も来ないなんておかしいな?」


「キミ…駐在さんを旅行会社のツアーガイドと勘違いしてませんか?」


そんなカイトに半ば呆れ気味に答える右京。

さて、そんな時だった。


「す・ぎ・し・た・さ~ん!お待ちしていました!!」


この港に何処からともなく右京を呼ぶ叫び声が響いてきた。

何故この島で自分を呼ぶ者がいるのか?

すぐにその声がする方を振り向いてみるとそこに居たのは…



36:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:56:58.60 ID:EAF0Yir90



―歓迎!特命係御一行様!!―



  大島へようこそ!!


なんとそこには

でかい垂れ幕を振りながら右京たちが来るのを待ちわびていた一人の男がいた。

それは制服姿の男性警官。

その警官を目の当たりにした右京は呆れながらにこう返事した。


「それでこんなところで何をしているのですか陣川くん?」


「ハッ!実は近年この大島にも犯罪の魔の手が押し寄せているようなので
この陣川公平が犯罪の魔の手から大島の人々を救うため派遣された次第です!」


「つまり何かヘマやらかしてここに飛ばされたってわけでしょ。何やってんすか?」


なんとこの大島に赴任していた駐在とは

かつて特命係と何度も因縁もあり自称特命係第三の男でもある陣川公平であった。

どうやら右京たちがこの大島に来ることを知り事件の匂いを嗅ぎつけたらしい。

そんなわけでこうして出迎えてくれたのだが…


「陣川くん、さっそくですが我々は山村さんのお宅へ行きたいのですが…」


「その前にせっかく垂れ幕まで作ったんですし、みんなで仲良く写真を撮りましょうよ♪」


「あのですねぇ…俺ら別に遊びに来たわけじゃ…」


「まあいいじゃないですか。
どの道フェリーは午後まで便がありませんし記念に一枚くらい。」


「それじゃあいきますよ。ハイチーズ!」


陣川に促されてポーズを取りながら写真を撮る三人。

それから右京とカイトは陣川の運転する車に乗り込み山村宅へと向かうことになった。



37:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:57:31.70 ID:EAF0Yir90



「いやー嬉しいな!杉下さんとまた捜査が出来るなんて♪今度はどんな事件なんですか?」


「別にまだ事件と呼べるほどのモノじゃないんですけど…」


「かつてこの島にいた山村貞子なる人物の足取りを追っています。
既に彼女は亡くなっていますが
その遺体を引き取ったという親戚筋の山村敬さんに会いに来ました。」


移動中、陣川に事の次第を説明する右京。

それから陣川も前任の駐在からある程度、

この島の住民について聞いていたらしく山村家について話し始めた。

その昔、山村家はこの島でも漁師たちの網元として取り仕切っていたらしい。

そんな山村家は現在この大島の南側にある差木地村で旅館を営んでいるそうだ。

その後、車を走らせるがその道中でこの島の中央に位置する三原山が見えてきた。

それはビデオの映像にあったとされる噴火の山だ。

あの噴火の山が三原山だとすれば

この大島が山村貞子にとって縁の地であることは間違いないようだ。



38:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:58:12.82 ID:EAF0Yir90



8月27日 PM14:00


「帰ってください!」


「あの奥さん…俺たちはお話しを聞きたくて…」


「養父はその貞子さんの所為で死んでしまったんですよ!
それもあなたたちのような本土の人たちに何度も関わったばかりに!?」


右京たちは訪れた山村家が営む旅館を訪れ、

女将である山村和枝に山村貞子についての話を聞こうとしたが…

この通り取り付く島もない状況だ。右京たちはまさに招かれざる客というべきだろうか。


「失礼ですがそれはどういう意味でしょうか?」


「よくも白々しい…とにかくお話する事はありません!お帰りください!」


「あのねぇ…奥さん…こちらは本庁から来ていて…」


「いえ、陣川くん。我々は今日のところは帰りましょう。失礼します。」


これでは話を聞くこともできない。

そんなわけで右京たちはこの場を引き下がるしかなかった。



39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:58:57.76 ID:EAF0Yir90



8月27日 PM19:00


「すみません。まだ夏休みの時期ですので旅館を取れなかったもので…」


「日帰りの予定がまさか1泊する羽目になるなんて、おまけに陣川さんの駐在所でとは…」


「なんだい!文句あるのか!?」


「元々日帰りで済ます予定でしたが、まあ夏休みだと思って満喫しましょう。」


ここは大島の南部に位置する差木地村の駐在所。

山村和枝から話しも聞けず、

おまけにシーズン中であるために宿も取れなかったので

この日は陣川が住み込みになっている駐在所で寝泊りすることになった。

そういうわけでせっせと三人分の布団を用意する陣川とカイト。

そんな二人を余所に物思いに耽る右京。

その理由は先ほどの山村和枝についてだ。

先ほど自分たちを激しく拒絶したあの態度、それがどうにも不可解だった。


「実は杉下さんたちには黙っていたのですが
これも前任の駐在さんから聞いた話なんですけどね。
15年前に当時の山村家の当主の山村敬氏が本土に行ったきり帰ってこなくて…
暫くしたら変死体で発見されたとか…」


「なるほど、そんな事があったわけですか。ところでお亡くなりになった原因は?」


「なんでも急性心不全だったとか…まあ歳だったんでしょうね。
かなりの高齢だったという話ですから、遠出した無理が祟ったんじゃないですかね?」


かつての山村家当主の山村敬が急性心不全で死んだ。

もしかしたらあの呪いのビデオを見た影響なのか?

それならば先ほどの山村和恵の態度もわからなくはないのだが…

そんな時、駐在所の中である写真を発見した。

それは苦しみ…もがいている人々、白い布を被っている男性の写真が貼られていた。



40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 00:59:30.45 ID:EAF0Yir90



「ああ、この写真ですか?57年前にこの大島で噴火がありましてね。
その時に撮られた写真だそうです。
なんでも大変だったらしいですよ。突然の噴火で住民は大混乱。
ガスは辺りに蔓延するし
当時はこの島にガスマスクなんて無かったから白い布を頭に覆って対応してたとか…
それで政府が救助隊を出した時にはかなりの被害者が出たって話ですよ。」


「杉下さんこれって…」


「ええ、間違いないようですね。」


57年前に起きた三原山の噴火。

当時の苦しみ悶える人々、それに白い布で頭を覆う人…

つまり57年前に山村貞子はこの大島で三原山の噴火を体験していたことになる。



41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:01:53.81 ID:EAF0Yir90



「ごめんくださ~い。」


そこへこの駐在所に50~60代くらいの女性が訪ねてきた。

女性は何やら荷物を持ってこちらへやって来たようだが…


「お、来た来た!女将さん待ってましたよ!」


「ハイ陣川さん、頼まれていた夕食持ってきましたよ。」


「陣川さん…これは一体どうしたんすか?」


「旅館は駄目だったけどわざわざお越しいただいたわけなので
せめてご馳走くらいはと思いまして近くの旅館に夕飯を用意してもらったんだよ。」


「オォッ!陣川さんなのに気が利きますね♪」


「それ…褒めてるつもりなのかい?」


どうやら陣川は知り合いの旅館に頼んで夕食の用意をしてくれていたらしい。

その厚意に思わず喜ぶカイト。

それから女将さんの手により豪勢な料理が運ばれてきた。

海に囲われたこの離島ならではの海鮮料理だ。

豪勢な料理に思わず涎を垂らしながら眺めるカイトと陣川。

そんな二人とは対照的に右京はこの女将にあることを尋ねた。


「失礼、女将さんにお尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか。」


「ハイ…なんでしょうか?」


「実はですね、恐らくこの島の方言なのですが…
『その後、体はなあしい?しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。
いいか、たびもんには気ぃつけろ。うぬは、だーせん、よごらをあげる。
あまっこじゃ、おーばーの言うこときいとけぇ。じのもんでがまあないがよ』
これの意味を知りたいのですがご存じありませんか?」


右京がこの女将に聞いたのはビデオのメッセージにあった方言だ。

あの老婆の方言、恐らく年配者の女将ならこの方言を知っているのではないか探ったみた。



42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:02:39.90 ID:EAF0Yir90



「随分と古い方言を使うんですね。
そんな方言はこの島でもかなりのお年寄りの人じゃないと使いませんよ。
確か意味は…」


『その後、身体の具合はどうだ? 水遊びばかりしていると、お化けがくるぞ。』


『いいか、よそ者には気をつけろ。 お前は、来年子供を生むのだ。』 


『娘っこだから、お婆ちゃんの言うことはよく聞いておけ。』


『地元の者で構わないじゃないか。』


それがあの方言の意味とのこと。

さすがにこれだけでは意味がわからないのだが…


「身体の具合はどうだ?水遊びばかりしているとお化けがくる?
よそ者には気を付けろ?お前は来年子供を生む?おばあちゃんの言う事は良く聞け。
地元の者でも構わないじゃないか?
これ…もう何の事だかさっぱりわからないんですけど?」


「つまりこれはお年寄りの忠告なのでしょうね。
里帰りした若い未婚の女性を心配しての忠告かもしれません。
若い女性のお身体の心配をして
よそ者つまり外の人間への警戒、子供の出産、大体こんなところでしょうか。」


恐らくこれはなんらかの忠告であると…

それでもこの方言が意味不明でもあることに変わりはないのだが…

さて、そんな質問ついでにカイトがこの女将にもうひとつあることを尋ねた。


「そうだ、女将さんくらいの年齢ならたぶん知っているんじゃないんですか?
俺たち山村貞子って女性を調べに来たんですけどね…」


「山村貞子ってひょっとして貞ちゃんのことかい?」


「山村貞子さん、ご存じなのですか?」


「ご存じも何も私はあの子とは同級生だからね、けどあの子は15年前に…」


「えぇ、確かに彼女は亡くなっています。
その山村貞子さんのことについて何か存じている事はありますか?」


カイトは思わず『ビンゴ!』とリアクションを取りながらもどうやら当たりを引いた。

この女将、どうやら右京たちが消息を辿っている山村貞子の同級生とのこと。

つまり貞子について詳しい情報が聞ける。そう思い色々と尋ねてみることにした。



43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:04:07.91 ID:EAF0Yir90



「アンタら、貞ちゃんのお母さんの山村志津子さんについて知っているかい?」


「志津子?いや…女将さん、俺たちは貞子さんについて聞いてるんですけど?」


「カイトくん、ここはとりあえず黙って聞いておきましょう。
それで女将さん、貞子さんのお母さんに当たる志津子さんとはどんな人でしょうか。」


「山村志津子…
昔からこの島にいる人たちは彼女の名前が出るとみんな口を閉ざしてしまうんだよ。」


なにやら悲しげな表情で山村志津子なる女性について思う女将。

それはこれから語られるのはある意味、悲劇ともいえる話しだからだ。


「もう随分昔…戦後のことだったわ。」


それは第二次大戦終了後のこと、

当時この島の海女だった志津子は連合国軍占領下の政策の一環として

伊豆大島沖の海中に投棄されていた役小角の像を引き上げた。

それが始まりだった。

この直後から志津子はある能力に目覚めた。

それは予知や透視といった所謂超能力というモノだ。

島民はこのことを眉唾モノだと思い誰も信じなかったが

一人だけ志津子の能力を信じた男がいた。

志津子の能力を確信したのは『伊熊平八郎』という本土から訪れた学者だ。

彼は志津子の言葉を信じた一人。

当時、妻子を持つ身でありながら

伊熊は志津子と不倫関係に陥りやがて子供を身籠り一人の女の子が生まれた。


「それが貞ちゃんだった。けどあの子は不貞の子だったのよ。」


不貞の子、つまり本来生まれるべき子供ではない不義の子だ。

それでも母の志津子は娘の貞子を愛してやまなかった。

いくら不貞の子でも実の娘、たった二人の親子に差して問題などなかった。

あの不幸な出来事が起きるまでは…




44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:04:43.06 ID:EAF0Yir90



「それから暫くして従兄弟の山村敬さんが
志津子さんを売り出そうとマスコミを集めて公開実験をやったんだよ。
実験は成功したらしいんだけど志津子さんはマスコミ連中からやれインチキだのと
衆に罵られてね…それが原因で発狂しておかしくなったのさ…」


「酷い話だな。山村志津子さんは見世物にされちまったわけですね…」


「酷いのはその後さ。その実験中にインチキだと騒いだ記者が死んじまったんだよ。」


それは突然の出来事だったと女将は語る。マスコミから糾弾に晒される志津子。

だがそんな糾弾を遮るように志津子を糾弾した記者の一人が倒れた。

その死因は急性心不全。

その死に様は胸を掻き毟るようだったとのことだが…


「ただの病死扱いだったけど
島のみんながこれは志津子さんが呪い殺したんじゃないかって当時噂されててね…」


「ひとつ聞きたいのですが、
その実験に娘である山村貞子さんは現場に立ち会わせていたのですか?」


「そうだと思いますよ。これは貞ちゃんから聞いた話ですから。」


実験の場に貞子もまた同伴していた。

そのことを聞いてなにやら思うところのある右京。

そんな女将に貞子についての質問を再度続けてみた。



45:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:05:19.37 ID:EAF0Yir90



「あなたは貞子さんと随分親しかったみたいですが彼女はどんな人だったのでしょうか?」


「大人しいけど優しい子でしたよ。あの出来事が起きるまではね…」


それから女将は酷く思いつめた顔をしながらあることを語り始めた。

それは57年前に起きた三原山大噴火についてだ。


「その日、貞ちゃんは島のみんなにこんなことを訴えたの。」


『もうすぐ三原山が大噴火を起こす。それで大勢の人たちが死ぬ。』


それは突拍子もない話しだった。

当時、三原山は噴火の予兆すらなく

さらに志津子の公開実験でインチキ騒動があったばかりなので

誰もがそんな志津子の娘である貞子の言葉に耳を貸さなかった。


「当然よね。あの時はほとんどの人たちが信じなかった。」


「だっていつもと変わらない平穏な一日だったもの。」


「だから貞ちゃんの言葉を受け入れた人は少なかった。」


しかし島の人たちの予想を裏切り三原山は大噴火を起こした。

貞子の予言通り島は大混乱。

誰も彼もが安全な避難場所を求めて島を彷徨ったという。


「一番の被害を出したのが島の南側に位置するこの差木地村。
この辺りに噴火で発生した毒性のガスが流れ出したの。ガスを吸った人たちは瞬く間に…」


女将は駐在所に張られてある当時の写真を見ながらそう語った。

その写真を見ながら切なげな表情を浮かべる女将。

どうやらここに飾られている写真はその当時のモノとのこと。

それから女将は写真と同じくこの駐在所に置かれているあるモノを右京たちに見せた。



46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:06:20.19 ID:EAF0Yir90



「これを見てください。
当時、貞ちゃんの言葉を信じた人たちだけは助かった。
山村家の人たちと偶然あの旅館に泊まっていた人だけです。」


それは当時、山村家周辺で生存していた者たちの生存者リストだ。

そこには4名の生存者が記されていた。

山村貞子、山村敬、伊熊平八郎、片山擁一

噴火当時、この差木地村で生存していたのはたったの4名だけだった。


「この名簿に志津子さんの名前が無いですね。志津子さんはどうなったのですか?」


「あの人はこの噴火で亡くなりました。自殺だったそうです。」


この噴火で志津子は火口に身投げを行ったという。

その行為はまさに三原山の怒りを鎮めるための人身柱だったと…

事実、その直後に噴火は収まった。

まるで志津子の生命が絶たれたことでようやくその怒りが鎮まったかのように…

だがそれでも大勢の死者が出た。

志津子をはじめとする大勢の人々が亡くなった。

そして生き残った人たちは…



47:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:07:57.54 ID:EAF0Yir90



「このことがあってから島の人たちはこう思うようになった。
貞ちゃんにも志津子さんと同じく…
いえ…それ以上に得体の知れない不思議な力が宿っているんだってね…」


かつて山村貞子は伊豆大島の噴火を予知した。

つまり彼女もまた母親の志津子と同じく超能力者であった。

それも母親以上の能力があるのだと誰もが確信した。

このことから噴火以後は誰も貞子と関わろうともしなかった。

まさに触らぬ神に祟りなしといったように…


「それから貞ちゃんは
小学校を卒業するとすぐに父親に引き取られて本土の方へ行きました。」


「それでは彼女が生前この島に帰ってきたことは?」


「母親の志津子さんの法事で一度だけ戻ってきた程度だと思います。」


話を終えたあと、女将は旅館へと帰った。

それから右京とカイトは先ほどの話しを呪いのビデオと照合してみた。

つまり山村貞子は何度目かの法事でお婆さんから忠告を受けていた。

『老婆の方言』『噴火の記事』『逃げ惑う人々』『白い布を被った男性』

これらは山村貞子が過去に体験した出来事だ。

つまり呪いのビデオは貞子の生涯が描かれている。

それを確信した二人は

もう一度山村家に行き、なんとしても今度こそ話しを聞き出すことを決意した。



48:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:08:55.26 ID:EAF0Yir90



8月28日 AM8:00


「山村さん、駐在の者です!
昨日も言ったように貞子さんの件でお話があるんですけど!」


右京、カイト、陣川の三人は朝早く再び山村家を訪れていた。

しかし留守なのか人の気配が無い。

外には車が置かれていて遠出をしたわけではないはず。

それにも関わらず何度も玄関から呼びかけても応答なしだ。

これでは埓が明かないわけだが…


「もしかしたら何かあったのかもしれません、家の中にお邪魔してみましょう。」


「いいのかな…こんなことしちゃって…」


「何を言うんだ!警察官が市民の安全を考えるのは当然じゃないか!」


「陣川くんの言う通りですよ。さあ、中へ入りましょう。」


「まったく都合がいいんだから…お邪魔しま~す。」


家の中に入ってみるもののやはり人の気配はしなかった。

三人はそれぞれ別れて家の中を探索することになり

その最中にカイトはある部屋に辿り着いた。

その部屋には割れた鏡が置いてある和室だがカイトはその鏡に見覚えがあった。



49:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:09:51.54 ID:EAF0Yir90



「この鏡…ひょっとして…」


割れた鏡の破片を手にするカイト。

手に取ってみると埃が積もっていて長年放置されていたことが伺えた。

しかしここは旅館だ。

毎日掃除されているのが基本のはずなのに

何故こんな風になるまで放置する必要があったのか…?


『フ~ン~♪』


そんな時、鏡の破片にある女性が写っていた。

それはとても長い黒髪が特徴的な和服姿の女性。

その女性が鼻歌を歌いながら上機嫌に自分の髪を丁寧に櫛で磨いでいた。

カイトは急いで背後を見渡した。しかしそこに女性はいない。

この部屋にいるのは自分だけ、それなのに鏡にはこの女性がハッキリと写っている。

馬鹿な…こんなことあり得るはずがない…

この超常的な現象に理解出来ず思考をフリーズしてしまうカイト。

そんな時、この鏡に写る女性が自分のことに気づいた。

気づいた女性は自分のことを睨みつけてきた。

それは間違いなく敵意、いや…悪意…むしろ…殺意に近いものだ。

このままでは間違いなく殺される。一瞬ながら死を覚悟してしまった。


「あぁ…また現れたのね…」


そこへ誰かが現れた。それは昨日会った山村和江だ。

そのうしろには右京と陣川たちもいる。

どうやら二人はこの旅館の何処かにいた山村和江を探し出したようだ。

そんな和江だが酷く険しい表情をしていた。

まるでこの部屋に入ることに嫌悪感を抱いているようなそんな様子だ。

そんな彼女の手から出血の跡が見られた。



50:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:10:51.13 ID:EAF0Yir90



「先ほど僕たちが和江さんを発見した時、彼女は手首を切り自殺を図ろうとしていました。」


「自殺って…何で…?」


山村和江が自殺を図ろうとしたことを聞きカイトは驚いた。

何故彼女は自殺を図ろうとしたのか?

まさか自分たちが訪れたのがその原因?

思わずそんなことを勘繰ってしまったがその理由はこの家にあった。


「正直…もう私疲れたんです…この家…呪われているから…」


「呪われている…どういうことですか?」


「この部屋は昔志津子さんの部屋でした。」


カイトが居るこの鏡が割れた部屋。

かつてこの部屋は志津子が使っていた部屋だという。

それから和江はこの部屋に立ち入ると右京たちにある古ぼけた一枚の写真を見せた。

その写真には女性が写っていた。和服姿の長い黒髪の女。


「マジかよ…」


写真を見て思わずそんなことを呟くカイト。

何故ならその女性は先ほどカイトが鏡の中から覗き見た女だったからだ。


「この写真の女性が山村志津子さんですね。」


「私は元々この家に嫁として入ったので
志津子さんどころか貞子さんのことも知らなかったんですけど…
15年前の事でした。
あなた方みたく貞子さんや志津子さんについて二人組の男女が訪ねてきたわ。」


今の話を聞き右京はその二人とは恐らく浅川玲子と高山竜二のことだと察した。

どうやら浅川たちも貞子のことやそれにここが貞子の出生地だということを調べたらしい。



51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:11:27.64 ID:EAF0Yir90



「それから数日後に本土で貞子さんの遺体が発見されたので
それを引き取ってくれとの連絡が入りました。
養父はその遺骨を引き取りに行って…それから…遺骨を海に埋葬したらしいです。」


「なるほど、ですが海に埋葬したのですか?」


「それは…
海は貞子の生まれた場所だと養父は常々そう言っていましたから。
養父が死んだのは…その直後のことでした。」


今の話を聞いて確かに気の毒ではあると思われた。

ここまでの話なら確かに悲しいモノではあるが山村和恵が自殺するようなことはないはず。

それなのに何が彼女をそこまで追い詰めているのか?


「けど山村さんは急性心不全だと伺いましたよ。高齢だったし仕方ないのでは?」


「何も知らないくせに…
あなた…養父がどんな顔で死んでいたかわかりますか!
まるでこの世のモノとも思えない恐怖に怯えた死に顔をしていたのよ!?」


恐怖に怯えた死に顔…

それを聞いて右京とカイトは思わず先日亡くなった吉野と小宮の死を連想した。

あの死に顔を思えば呪いを信じてしまうのは無理もないことだ。


「それから暫くしてからよ…ウチの中に幽霊が出始めたわ…
志津子さんの幽霊よ…
あなたたちが入ったこの部屋…
泊まりに来るお客から気味の悪い女が髪を結いながらこっちを睨みつけるって…
私も…何度も見ているわ…それがもう15年以上も続いてるのよ…」


それが和江の自殺しようとした原因だった。

志津子の霊がまるで呪いでもかけたかのようにこの家に居着いている。

それは和江にとってまさに生き地獄に等しいことだ。

そんな和江に右京はあることを尋ねた。


「こんな時にですがひとつお聞きしたいことがあります。
あなたは昨日僕たちが訪れた時に
『あなたたちのような本土の人たちに何度も関わったばかりに』と仰いましたね。
『何度も』…つまり僕たちや浅川さんたちの他にも
山村親子について尋ねに来た人がいるんじゃないのですか?」


「ええ…子連れの若い女性が貞子さんについて訪ねてきました。
女性は確か『高野舞』と名乗ってましたけど。
そういえば彼女が来てから志津子さんの幽霊が出始めたような気が…」


「高野舞…ですか。彼女は何故子供を連れていたのでしょうかね?」


「そんなこと知りませんよ…いいえ…もう何も知りたくない…」


和江はそのまま俯いてしまい泣き出してしまった。

最早、これ以上の聞き込みは彼女にとっては酷だ。

それから暫くして帰ってきた旦那に彼女を託し右京たちは山村家を後にした。



52:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:12:14.74 ID:EAF0Yir90



8月28日 PM12:00


「海が若干荒れていますね。」


山村家で聞き込みを終えた右京たちは

これ以上この島に居る必要はないと判断して去ろうとしていた。

だが何故か海は荒れ模様、天候のせいだとは思われるが…


「そうですね。けど運行には特に問題ないみたいですよ。」


「そうですか。ですが僕にはまるで行く手を阻まれているかのように思うんですよ。」


まるでこの呪いのビデオを巡る捜査を阻むかのように海は大荒れていた。

ひょっとしたらこれも呪いの一環ではないのかと…?

思わずそんなことを疑ってしまった。



53:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:12:56.91 ID:EAF0Yir90



「あ、いたいた!ちょっと待って~!」


しかし船乗り場に乗り込もうとした二人の前に

昨日駐在に夕食を届けに来てくれた女将が駆けつけてきた。


「アンタたち…貞ちゃんのことだけど…追いかけるのはやめときな…」


「それは何故ですか?」


「何故って…
アンタたちもわかったでしょ…貞ちゃんと関わった人はみんな不幸になるんだよ…」


貞子と関わった者はみんな不幸になる。確かにその通りかもしれない。

これまでわかったことでも貞子に関わった人間はほとんどが死んでいる。

15年前の呪いのビデオに関わった人間たち。それに貞子の親族たちも…

そのことを考えれば女将の忠告は正しいのかもしれない。


「何か理由があるのですか。」


「え…理由って…?」


「あなたがこうして僕たちに山村貞子の捜査をやめるように言うのは
何かあなただけが知っている貞子さんの秘密をご存知だからではありませんか。」


女将だけが知る貞子の秘密。

それを問われて思わず目を反らす女将。

それから二人のためにと思ったのか女将はその秘密を打ち明けた。


「もう昔のことだけど一度だけ山村の家に遊びに行ったことがあるのよ。
志津子さんの事件があってから暫くはあの家にあまり人が近寄らなくなったんだけど
私は貞ちゃんの友達だったから…親に黙って遊びに行ったのよ。
それでね…その時に既に気が振れた志津子さんが私を睨んでて…
それで恐くなった私は貞ちゃんとはぐれて家の中で迷子になったのよ。
その時だったわ、私は貞ちゃんを見つけたんだけど…けどそれは貞ちゃんじゃなかった。」


それはとても奇妙な出来事だった。

女将が子供の頃に山村家で遊んでいたら貞子の他にもう一人の少女が居たという。

だがそれは貞子であって貞子ではなかった。

まるで別人、女将が語るには貞子が二人いるように思えたとのことだ。



54:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:13:23.06 ID:EAF0Yir90



「ちょっと待ってください!それはつまり貞子さんの姉とか妹じゃないんですか?」


「いいえ…当時あの家に女の子は貞ちゃんしかいなかった。
その女の子は貞ちゃんと同じ外見をしてたけど貞ちゃんじゃない…
根拠のない直感だけど私にはその確信があった。
その子は長い黒髪で顔を隠していたけど
その隠れた顔から気味の悪い目つきで私を睨んできた。
恐くなった私は急いで逃げたんだけど…
気付いたらその子はいなくなっていた。それにいつの間にか貞ちゃんも戻っていたわ。」


長い髪で顔を隠した女の子…

それはまさしくビデオの映像にあった志津子と一緒にいた少女にちがいないと確信した。

だがそれと同時に山村貞子という存在がさらに奇怪なモノに思われた。


「だからアンタたち。
これ以上貞ちゃんに関わればアンタたちまで不幸になるよ。」


それが女将からの忠告だった。

確かに女将の忠告するようにもう貞子の足取りを追うのはやめるべきかもしれない…

そんな女将の忠告に対して右京は荒れた海を見つめながらこう呟いた。


「海、荒れていますね。山村貞子さんがこの島を出て行った時も荒れていたのでしょうか。」


「さあ…私には何とも言えないよ…けどそれがどうかしたのかい?」


「僕は思うのですが
この荒れた海と同じく人は荒波に飲み込まれても進まなければならない時がある。
確かに女将さんの忠告を聞くのは簡単です。
ですがそれは一人の人間の死に繋がる。
だから僕たちはこの歩みを止めるわけにはいかないんですよ。」


今回、右京たち特命係は15年前に呪いのビデオに関わった早津の命を救うべく動いている。

その彼らが捜査を中断すれば彼の命は失われる。

だからこそ彼らは捜査を続ける。たとえその先に邪悪な何かが待ち受けているとしても…



55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:14:24.39 ID:EAF0Yir90



「人は荒波に飲み込まれても進まなければならない時があるか…だから貞ちゃんは…」


「それってどういうことですか?」


「昔…貞ちゃんが将来の夢を教えてくれて…女優さんになりたかったらしいの…」


それは貞子がこの島を出る時に語ったことだ。

貞子にはある夢があった。それは将来女優になって舞台に立ちたいという夢。

別にそれは特別なことではない。

こんな辺鄙な島に住む女の子なら誰しもが一度は夢見ることだ。

だが貞子は夢見る女の子では終わらなかった。

風の便りで大人になった貞子はとある劇団に入ることが出来たらしい。


「確か飛翔という劇団だったかしら。そこで頑張っているという話を聞いたわ。」


「けど…貞子さんはもう亡くなったんですよね…」


「ええ、今にして思えばあの子のことを止めれば良かった。
それでも貞ちゃんは止められなかったかもしれない。あの子は本気だったから…」


貞子がこの島を出て行く日。それは今と同じく海が大荒れしていた。

それはまるで貞子がこの大島を出ることを禁じるかのようだった。

だがそれでも貞子はこの島を出てしまった。

たとえ誰に止められようと明日を夢見る少女を誰が止められたというのか…



56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:15:00.87 ID:EAF0Yir90



8月28日 PM16:00


「それじゃあ何か?二人して大島で一泊してきたってのかい?
まったく窓際部署は気楽でいいねぇ…
こっちは忙しい合間を縫って手伝ってあげたのにさ…」


「わかってますって。だからお土産買ってきましたから!ハイ、大島名物のくさや♪」


「お前さぁ…若いんだからもっと小洒落た物買って来いよ…」


大島から戻った直後、右京たちは警視庁の特命係の部署に戻っていた。

そこで留守中に調べ事をしてくれた角田に土産物を渡すカイト。

土産物に不服そうな角田だがそれは置いといて、留守中調べたことを報告した。


「まあそれはともかくとしてだ、調べておいた件だが面白い事がわかったぞ。
山村貞子の死体を発見した浅川玲子と高山竜司だが…
この二人なんと元夫婦だったんだとさ!」


「やはりそうでしたか。
若い男女が長時間一緒に行動しているのですから
もしかしたら二人はただならぬ関係かと勘繰っていましたが…なるほど。」


「それでな、二人には子供がいたんだが…
名前は『浅川陽一』といって事件当時はまだ小学1年生だった。
まぁ両親は死んじまって親類も高山竜司の方は天涯孤独だったようだし
浅川玲子も前に言ったが両親が死んじまっている。
それで仕方なく当時高山竜司の教え子ってのが引き取ったそうだ。」


「教え子が?
親族でもない人間が引き取ったんですか?いくら恩師だからってそこまでしますかね?」


「そんなこと言われてもわからん。とにかく二人は今でも一緒に暮らしているらしいぞ。」


「ちなみに浅川陽一を引き取った教え子の名前は?」


「当時大学生で今は城南大学の教授の高野舞って女だ。」


高野舞、それは先ほど山村家で聞いた

15年前に浅川たちが死んだ直後に貞子を追っていた女の名前だ。

どうやらここにきて山村貞子の他にも奇妙な接点が見受けられた。



57:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:15:45.40 ID:EAF0Yir90



「角田課長、山村貞子について何かわかったことはありますか?」


「そっちはさっぱりわからんかった。
何しろ45年も前に失踪した人間の足取りを掴むなんて無茶過ぎる…
当時彼女がなんらかの事件に関わっていたのなら
警察の捜査資料に名前くらい残っているかもしれんが生憎何も無くてな…
前科者のリストだって調べたんだぞ。それでも何も出なかったよ。」


「けど彼女は何かの事件に巻き込まれて『井戸』に閉じ込められた。つまりこれって…」


「そう、つまり警察も把握していない事件に彼女は巻き込まれた。
いえ…もしかしたら彼女自身が巻き起こしてしまったのかもしれませんね…」


「けど足取りは掴めず仕舞い…これでお手上げですかね?」


さすがの角田でも山村貞子の足取りを掴むことは困難だ。

大島を出てからの貞子には前科もなくその後の足取りは全く掴めなかった。

これでお手上げかと思われたのだが…


「フフフ、…と普通は思うだろ。
だが組対5課の課長を舐めるなよ!
実はな貞子の方は無理だったが父親の『伊熊平八郎』の居場所が判明したんだよ!」


「伊熊平八郎って山村貞子の父親ですよね!まだ生きてるんですか!?」


「ああ、奴さん以前は伊豆パシフィックランドのあった場所に家を持っていたらしい。
それを売り払ってあの貸コテージが作られたわけだな。
だが結核を患っているらしくて現在は『南箱根療養所』に入院している。」


貞子の父親である伊熊平八郎。

大島で聞いた話によると貞子の母である山村志津子の能力を発見した男。

そのことを知った右京たちは明日、南箱根療養所へと向かうことにした。



58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:16:36.79 ID:EAF0Yir90



8月29日 AM10:00


翌日、右京とカイトは朝早くに『南箱根療養所』を訪れていた。

その目的は

山村貞子の父である伊熊平八郎から呪いのビデオを解く方法を教えてもらうためだ。


「こちらが伊熊平八郎さんの病室です。」


二人は看護師に案内されて伊熊平八郎の病室を訪ねたが

彼は結核を患いその命は残りわずかといった様子であった。

ちなみに今日で早津の命は残り一日となる。


「ゲホッ…ゴホッ…」


結核患者特有の肺を患ったような酷い咳をする老齢の男。

この男こそ志津子の能力を見定め、さらに貞子の父親である伊熊平八郎。

ある意味、彼が山村貞子と志津子の母娘を苦しませる結果を生んだ張本人でもあるが…

しかしこうしてベッドに横たわる姿は哀れでしかなかった。


「伊熊さんは結核が悪化して
もう余命幾許もない状態ですのでくれぐれも無理はさせないであげてください。」


「わかっていますって。」


「出来れば我々と伊熊さんだけでお話ししたいので席を外してもらえますか?」


「わかりました。何かあれば知らせてください。」


こうして看護師は病室から出て行き、

室内には右京とカイト、それに伊熊平八郎の三人だけで話を始めた。



59:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:17:06.79 ID:EAF0Yir90



「伊熊さん、わかりますか?俺たちは警察の者なんですけど!」


横たわる伊熊に呼びかけるカイト。

だが未だベットに横たわる伊熊にカイトの声は届かない。

実はこの病室へ来る途中に看護師から聞いたが

伊熊は病状の悪化に伴い痴呆症を併発しているらしい。

そのため他の人間がいくら呼びかけても伊熊は応じようともしなかった。


「ダメですね。ピクリとも動きかねえや…」


さすがにこんな余命幾ばくもない容疑者でもない人間を

無理やり締め上げて聞き出すような手荒な真似をするわけにもいかない。

どうすべきかと悩むカイトだが…


「伊熊さん、僕たちはあなたの娘である
山村貞子さんについてお尋ねしたいのですがわかりますか?」


ベッドに横たわる伊熊に貞子のことを尋ねる右京。

その瞬間、今まで横たわっていた伊熊に変化が見られた。



60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:17:34.93 ID:EAF0Yir90



「サ…サダ…コ…?」


それは今にも掠れるような声の呟きだった。

先程まで意識がなかった伊熊が貞子のことを問われた途端に応じるようになった。


「サダコ…スマナイ…」


「ダガ…オマエハキケンナンダ…」


「ダカラワタシハオマエヲ……シカ…ナカッタ…」


何かを懺悔するかのように語りだす伊熊。

だがそれは独り言の呟きでその内容が何なのか右京たちにはさっぱり理解出来なかった。


「伊熊さん、単刀直入に要件を申し上げます。
僕たちは彼女の作った呪いのビデオの謎を解くためにこちらに伺いました。
何か心当たりはありますか?」


「ノロイ…ソウカ…アノコハイマデモノロイツヅケテイルノカ…」


呪いのビデオの謎を解く答えを伊熊から聞き出そうとする右京。

伊熊は志津子の能力を見出した学者だ。

それなら当然貞子にも力が宿っていたことを把握していたはず。

そんな彼ならビデオの呪いを解く答えを知っているはずだと思った。しかし…


「ムリダ…アノコノ…ノロイヲトクコトハデキナイ…」


「モシモノロイヲトクコトガデキルノナラ…ソレハ…ノロイヲフヤスシカナイ…」


「…やはりそういうことですか…」


伊熊が語る山村貞子の呪いの解き方。

それを知り俯いた表情で何やら察した様子を見せる右京。

どうやら答えを知り得たようだ。それも残酷な答えが…


「グフッ!」


その答えを聞いたと同時に伊熊は吐血。

この後、伊熊平八郎の容体は急変し彼は面会謝絶となってしまった。

これ以上の聞き込みは無理だと判断した二人はその場を立ち去るしかなかった。



61:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:18:47.70 ID:EAF0Yir90



8月29日 PM16:00


結局二人はろくな情報を得られずに帰ってきた。

だが右京と同行していたカイトはそうは思えなかった。

何故なら先ほどの診療所での伊熊との会話で既に右京はある確信に思い至っていた。


「あの…杉下さん…」


「はぃ?」


「本当はもう…呪いを解く方法わかったんじゃないんですか?」


「確かに…僕は…
山村貞子が仕掛けを施した呪いのビデオから助かる方法を見つけ出しました。
ですが…」


「それならすぐに早津さんに教えましょうよ!もう残り3時間しかないんですよ!?」


カイトは自らの正義感から右京に強く訴えた。

早津のタイムリミットは既に差し迫っていた。

しかし右京の口から出た返事は

ある意味そんなカイトの訴えを嘲笑うモノだったのかもしれない。


「カイトくん、これから僕が口にすることを大人しく聞く自信はありますか?
何があろうと…怒らず…そして絶望しないと…」


「わかりました、もう覚悟は出来ています。だから話してください。」


右京に促されて覚悟を決めるカイト。

やはりカイトの思っていた通り、右京は呪いのビデオの謎を解いていた。

そして右京はカイトの前で『呪いのビデオ』の真相を語り始めた。

だがそれは決してすべてが円満に解決するための糸口などではなかった…



62:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:21:17.68 ID:EAF0Yir90



「そもそも呪いのビデオを解く方法は至って簡単なのです。
知ってしまえば誰もが実行できる…そんな方法です。
山村貞子はそうやって呪いを増やそうとしていたのでしょうね。」


「呪いを増やす…どういうことなんですか?」


それから右京はあることを口ずさんだ。

それはビデオに語られていたとされるメッセージ。

『その後、体はなあしい?しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。』

『いいか、たびもんには気ぃつけろ。うぬは、だーせん、よごらをあげる。』

『あまっこじゃ、おーばーの言うこときいとけぇ。じのもんでがまあないがよ』

そう、老婆が語っていた方言のメッセージだ。

右京が言うにはこのメッセージこそビデオの呪いを解く最大のヒントだという。


「けどその意味って…
『その後、身体の具合はどうだ? 水遊びばかりしていると、お化けがくるぞ。
いいか、よそ者には気をつけろ。 お前は、来年子供を生むのだ。
娘っこだから、お婆ちゃんの言うことはよく聞いておけ。
地元の者で構わないじゃないか』
っていうお年寄りが良く言う忠告みたいなモンですよね。
これのどこにヒントがあるんですか?」


「全てがヒントなのではありません。
この言葉のある一部分…そう…
『うぬは、だーせん、よごらをあげる。』これが最大のヒントでした。」


『うぬは、だーせん、よごらをあげる。』

それは訳すと『お前は来年子供を生む。』という意味になる。

ここで大事なのは『よごら』つまり『子供』という言葉に注目してもらいたい。

『子供を生む。』

これこそが最大の手掛かりだった。



63:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:24:19.85 ID:EAF0Yir90



「岩田秀一、能美武彦、大石智子、辻遥子、高山竜司、
そして15年後に呪いのビデオを観て亡くなった吉野さんに小宮さん。
恐らく他にも被害者はいるかもしれませんがこれだけの被害者が出しながら
何故浅川玲子だけが1週間経っても生き残っていられたのか…
つまり他の被害者は1週間以内に行わなくて彼女だけが行ったことがありました。」


「浅川玲子のみが行ったこと…
それって山村貞子の死体を井戸から見つけ出したことじゃないんですか?
いや…ちがう…それなら何で高山竜司が死んだんだ?」


「浅川玲子と高山竜司もそう思っていたのでしょうね。
恐らく二人はこう考えたはず、井戸から貞子を救い出し供養すれば呪いは止まると…
しかし彼らは読み違えた。その結果、高山竜司のみが死んでしまった。」


山村貞子の遺体を井戸から見つけ出すことが呪いを解く方法ではなかった。

それはつまり呪いを解く方法は他に存在するということ。

右京の問い掛けにカイトは今までのことを整理してみた。

『お前は来年子供を生む。』

『呪いのビデオの噂を広める。』

『15年前、浅川令子のみがやったこと。』 

しかしカイトがいくら考えてもさっぱり思いつきもしなかった。

もうひとつ、まだ何かヒントが足りない。

そう思ったカイトは思考を辿らせた。もしかしたら見落としがあったのではないか?

これまでの経緯を思い出してみた。するとある出来事が頭を過ぎった。


「そういえば…吉野さんの部屋にあったビデオはダビングされたモノだった。」


そう、今回の事件の発端ともなった吉野賢三の転落死。

その現場となった彼の部屋で見つかった呪いのビデオにはCOPYのラベルが貼られていた。

つまりそれはあのビデオがダビングされたものだということになる。

そしてさらに先ほど伊熊平八郎から告げられたあの言葉…


『ノロイヲフヤスシカナイ…』


声は掠れていたがあれは紛れもなく『呪いを増やすしかない』と語っていた。

この一連の出来事を踏まえてカイトはある結論に達した。


「杉下さん…俺…わかっちゃった気がするんですけど…」


「まさか…けどそんな…」


「そんな簡単な方法で助かるんですか!?」


その結論に達したことで動揺した素振りを見せるカイト。

確かに答えはわかった。だがカイトはその答えに些か確信が持てずにいた。

何故ならその方法は…

単純でいてさらに誰もが実行しようと思えば簡単に行えることだからだ。

こんなモノが呪いを解く方法なのかと思えるほど

呆気ない解決方法であることにどうしても確信を持てなかった。



64:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:25:06.82 ID:EAF0Yir90



「そう…被害者の中で浅川玲子だけが行ったこと…」


「それは呪いのビデオの複製。」


「つまりダビングして他の相手に見せることなんですよ。」


それはなんとも単純明快な呪いの解き方だった。

15年前、確かにビデオをダビングしたのは浅川玲子唯一人。

彼女は偶然にもそれを行ったことにより一命を取り留めていた。

しかし何故こんな単純な方法で呪いを解くことが出来るのか?

カイトにはそこがわからなかった。


「山村貞子の目的ってなんですか!こんなことをして何になると思ったんですか!?」


あまりの単純な解決方法に思わず苛立ちを露にするカイト。

わざわざ大島まで行ってたどり着いた答えがダビングするだけとは…

どう考えても納得が出来ないとカイトは当然の疑問を右京にぶつけた。

そこで右京はカイトの疑問に答えるべく

ボードを用意してそれに三角形をピラミッド方式に4層ほど区切って書き込み

それぞれ上が上位層、2番目が中位層、3番目が下位層、そして4番目が最下層と説明した。


「この上位層をたとえば浅川玲子としましょう。
浅川玲子は生き残るために呪いのビデオを複製し誰かに見せた。
更に見せられた他者はそれを他の者に見せようとする、これが2番目の中位層です。
それから呪いのビデオは巡り歩き…
最後にこの4番目の最下層の人間たちに行きつきます。
しかし彼らは既に呪いのビデオの存在を知っている。
既にそこまで浸透しているのですから知らないという方がおかしい…
ですから当然見ないという反応をするでしょう。
そうなると死ぬのは3番目の下位層の人間たちが当てはまります。」


「何だよこれ…考えただけで頭がおかしくなる…
杉下さん…この連鎖が途中で途切れる可能性はありますよね?」


「勿論、いくつかはあるはずです。
ですがどれかひとつは必ず残って
この4番目の最下層まで辿り着くのだけは間違いありません。
そしてこの3番目の下位層…計算すれば全人類の4分の1…
およそ四人に一人が死ぬ計算になるでしょうね。」


「そんな…これじゃあまるでウイルスじゃないですか!?」


カイトが思わず口にしたウイルスという言葉に右京も思わず頷いた。

そう、これはまさにウイルスだ。

この相関図はまさに食物連鎖の淘汰に近いことを表している。

無論、今の話しは机上の計算であるため実際はこれよりも被害が大きいはず。

だがそれも未然に防がれた。

恐らく偶然だろうが26日に亡くなった小宮が呪いのビデオを壊してくれた。

それにより呪いのビデオは失われたのでこれ以上の被害が出ることはないのだが…



65:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:26:33.21 ID:EAF0Yir90



「それじゃあ早津さんが助かるには…」


「呪いのビデオを複製して他人に見せるしかありません。」


それが今も死に怯えている早津を助ける唯一の方法だ。

だがその方法を行うことは今となっては不可能だ。


「それなら…すぐにこのことを早津さんに教えなきゃ…あっ…」


「ようやく気づきましたか。
その呪いのビデオはもう小宮さんが吉野さんの部屋で
処分してしまったからテープをダビングすることは最早不可能です。
仮に出来たとして誰に見せる気ですか?
見せられた相手には更に他の誰かに見せてそれの繰り返し…
ですがそれもいずれは終わりが来て先ほど話した結果になるでしょうね。」


「つまり早津さんは助からないってことなんですか?」


「残念ながらそうなりますね…」


ビデオが失われては早津を助けることは不可能という結論に達した。

浅川がビデオの答えを教えなかったのはこれが理由なのだろう。

呪いの真実が知られたら間違いなくこの世は恐怖と混乱に見舞われる。

15年前にその可能性を危惧したからこそ

呪いの噂だけを広めて真実を秘密にしていたのかもしれない。

だがそれでもこれは特命係に依頼された事件。

いくら残酷な結末だろうとそれを受け入れる必要があった。


「それならせめてここまでの経緯を早津さんに話しましょう。
一応俺たちは
早津さんにこの件を頼まれた訳だしせめて最期まで付き合ってあげないと…」


「そうですね。彼にはすべてを知る権利があります。」


こうして右京とカイトは早津にすべてを伝えるべく彼の会社へ向かった。

しかし早津は会社には来ておらず、

問い合わせたところ、彼がずっと自宅に引きこもっていることを突き止めた。

それから早津の自宅に向かうのだが…

しかしその頃には残り時間十分を切っていた。



66:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:28:02.96 ID:EAF0Yir90



8月29日、PM18:50


右京とカイトは早津の家を訪ねてみると

彼は自分の部屋に引き籠っていて

まるで得体の知れない何かに怯えるかのように孤独に震えていた。

やはり自分の死期を感じ取り何かしら察してしまったようだ。


「早津さん!甲斐とそれに杉下です!このドアを開けてください!お話があるんです!」


「それってまさか助かる方法が見つかったんですか!?」


そんな早津の自宅を訪ねて安否を確認するカイトに右京。

どうやらまだ無事でいてくれたようだ。

しかしそれもあとわずか10分で彼の寿命は失われてしまう。

それをわかっていてもどうすることも出来ず…

この場にいる誰もが歯痒い思いに駆られていた。


「残念ですが…あなたを救う方法は見つかりませんでした。」


「そ…そんな…」


「本当にすみません…せめてあなたの最期まで俺たち付き合うことにしました…」


「そんな…俺…死ぬのなんて嫌ですよ…」


「まだやりたいことたくさんあるし…」


「それに…嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!死にたくなんかないよ!!?」


右京たちが居るのにも関わらず発狂して取り乱す早津。

無理もない。自分があと数分で死ぬとわかったのだ。落ち着けるはずがない。

それから右京とカイトは早津に呪いのビデオの経緯を説明した。

山村貞子のことやその母親の山村志津子、伊熊平八郎、等のことを…

しかし『呪いのビデオ』の呪いを解く方法だけは教えなかった。

これ以上下手な希望は持たせたくはないという配慮だったのかもしれない。


「なるほど、そういう事でしたか…山村志津子、伊熊平八郎、
確か浅川さんが当時吉野さんや岡崎さんにそんな名前の人たちを
調べるように頼んでいたのを思い出しましたよ。
あ、もう時間だ。不思議なモノですね…
人間死期を悟るとこんな穏やかな気持ちになれるなんて…」


覚悟を決めたのか先程とは打って変わって落ち着いた様子を見せる早津。

最早、彼は諦めがついていた。

しかしそんな最期を迎える早津に右京はあることを尋ねた。



67:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:28:41.38 ID:EAF0Yir90



「何故今頃になって15年前の呪いのビデオを調べたのですか。」


「それは…」


「思えば奇妙でした。
今回の一件は15年前に起きた呪いのビデオが深く関わっていた。
ですがそれは犠牲者を出した曰く付きの代物ですよ。
何故あなた方は今頃になって呪いのビデオを調べ出したのですか?」


それが今回の一件で右京が不可解に思っていたことだ。

呪いのビデオは15年前に何人もの犠牲者を出した忌むべきモノだ。

そのことは早津やそれに死んだ吉野と小宮も知っていたはず。

それなのに三人は呪いのビデオを調べていた。

何故15年経った今になってそんなことを調べ出したのか?


「わかりました。これは最後まで秘密にしようと思っていましたが…
なんかもう死ぬとわかったらどうでもよくなったので全部お話しますよ。」


死を悟った早津はなにやら察したかのようにあることを打ち明けようとした。

ちなみに彼はこのことを最後まで隠そうとしていた。

その理由はこれから話すことはある特ダネのスクープだからだ。



68:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:29:58.29 ID:EAF0Yir90



「実は俺たち…1ヶ月前にある人を張り込みしていました…」


「ある人って?」


「女性議員の片山雛子先生です。」


【片山雛子】 

その女の名前を聞き右京は思わず苦い顔を浮かべた。

片山雛子とは若手の国会議員。

父親である片山擁一の地盤を引き継いだ女性政治家であるが…

世間からは清廉潔白のイメージがあるがその実かなりの野心家だ。

ちなみに特命係もこれまで何度か彼女と対峙したことがあるが

その度にそれを逆手に取り己の糧としてすることがあるため、

さすがの右京も関わりたくない苦手な相手だ…


「片山議員は1ヶ月前ある場所へ頻繁に通っていました。その場所は東京拘置所です。」


「東京拘置所って刑事被告人を拘置する場所ですよね。
そんな場所に女性議員が何の用事があって頻繁に行ってたんですか?」


「それは…わかりません…けどわかったことが…
どうやら議員はあるプロジェクトを企んでいたらしいんです。」


「それが…『ProjectRING』…」


【ProjectRING】

彼らがやっとの思いで得た情報はその名称だけでそれ以外の詳細は掴めなかった。

だがそれでもこのプロジェクトには

15年前に起きた呪いのビデオが関わっていることがわかった。

そのために15年前に起きた忌むべき呪いのビデオを観てしまったわけだ。


「ハハ、もう時間か。」


そんな話の最中にいよいよ早津の死亡時刻が迫ってきた。

既に時刻は19時まで残り5秒を切った。


5…

4…

3…

2…

1…

0…

時刻はPM19:00になった。遂にやってきた早津の死亡時刻。

だが、事態は誰もが予想し得なかった展開に発展した。



69:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:30:31.88 ID:EAF0Yir90



「…」


「……」


「………生きてる?」


「あれ?俺は生きてる…生きてるぞぉぉぉぉぉぉぉ!?」


そう、早津は死んでいなかった。

それどころか彼は死亡時刻を過ぎても苦しむどころか元気よく飛び跳ねていたのだ。

これにはさすがの右京とカイトも首を傾げた。

何故こんなことになっているのか?

つまりこれは…呪いのビデオに呪いの効力はなかったということなのだろうか?

そんな時、右京の携帯に着信が入った。それは先日大島で会った陣川だった。


「もしもし陣川くんですか。今は立て込んでいますので後ほど…はぃ?」


いきなりの陣川の連絡に思わず反応する右京。

それから陣川は右京の携帯にある添付メールを送信してきた。

その添付されたモノを見て右京はこの奇妙な状況をようやく理解することが出来た。


「なるほど、そういうことでしたか。
どうやら早津さんは自分でも気づかないうちにダビングを終えていたのですね。」


「何を言っているんですか?大体呪いのビデオは小宮さんが壊したからダビングなんて…」


カイトが指摘するように呪いのビデオのダビングは不可能だ。

それは先日、小宮が壊してしまったので複製することは出来ない。

だがこの事態はある意味そのビデオのダビングという盲点を突くモノであった。


「絵ですよ。
早津さんが僕らに見せた呪いのビデオの内容を描いた絵…
あれが恐らくダビング代わりになったのでしょう。」


「けど…誰に見せたっていうんですか?あの絵を見たのは俺と杉下さんしか…まさか!?」


そこでカイトはこの事態をようやく察することが出来た。

何故呪いのビデオを観た早津が死を回避することが出来たのか?



70:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:31:10.08 ID:EAF0Yir90



「先ほど陣川くんが僕の携帯に転送した画像です。見てください。」


その理由をハッキリと明確にさせるため、

右京は先ほど陣川から送られたメールをカイトに見せた。

するとその画像には驚くべきモノが写っていた。


「そんな…俺と杉下さんの顔が…」


「どうやら山村貞子の『呪い』は既に僕らに行き渡っていたようです。」


その画像には左右に右京、カイト、それと中央に陣川が写っていた。

しかしまともに写っていたのは陣川のみで

右京とカイトの顔には以前にカイトが早津を写メで撮った時と同じく歪んでいた。

つまり早津は偶然にも右京たちに呪いを移してしまった。

こうして特命係は早津をビデオの呪いから防ぐことに成功した。

だがそれと同時に今度は彼ら自身が山村貞子の呪いに因われることになってしまった。



71:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:32:31.87 ID:EAF0Yir90



第3話


8月30日 AM6:30


「ねえ享…大丈夫なの?帰って来てから顔が真っ青なんだけど?」


「え…あぁ…大丈夫だって…」


翌朝、カイトは恋人の笛吹悦子と同棲しているマンションで朝食を取っていた。

だがカイトは用意された朝食の半分も食べれずにいた。理由は食欲がないからだ。

昨日、あれから自分がどうやってこのマンションに戻ってきたのか覚えていない。

この数日、早津の呪いを解くために奔走していたはずが…

いつの間にか自分が呪われていたとは…まさにミイラ取りがミイラにといった事態だ。

こうして呆然としているのも仕方ないのだが…

ちなみにカイトが右京と共に呪いのビデオの絵を見たのは8月26日のこと。

そして今日は30日、つまり猶予はあと3日しかない。

こうしてのんきに朝食を採っている間にも死亡時刻は刻一刻と迫っている。

一体どうすればいいのか?カイトの脳裏にはそんな考えばかりが過ぎっていた。


「ちょっと…本当に大丈夫なの?何かあったらちゃんと言いなさいよ。」


「何度も言わせんなって、俺は大丈夫だからさ。早く朝飯食おうぜ。」


こうして悦子に促されてようやく朝食を食べ始めるカイトだが…

頬張しく焼けたトーストに真っ赤なジャムを塗りつけようとした時だ。

こうして見ると血の色のような真っ赤だと思ったその時だ。

その瞬間、先日自分の目の前で死んだ小宮の死に顔を思い出してしまった。

まるで何か得体の知れないモノに怯える恐怖に引き攣った死に顔。

そして思った。

俺もあんな風に苦しんで死ぬのかな…嫌だ…あんな死に方は絶対に御免だ…

とにかく今は呪いのビデオに関する情報が欲しい。それはどんなモノだって構わなかった。




72:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:35:33.55 ID:EAF0Yir90



「な…なぁ…悦子ってさ…呪いのビデオの噂って聞いたこと…
ゴメン!今言った事すぐに忘れてくれ!それじゃ俺もう職場に行くわ!」


この時自分が悦子に何を言おうとしたのか…すぐに後悔し止めた。

いくら自分の命を守るためとはいえ

愛する者を犠牲にしたら死ぬより後悔するだろうと思ったからだ。


「ちょっと待って亨!今『呪いのビデオ』って言ったよね。
昔その噂についてちょっと気になる話を少しだけ聞いたことあるんだけど…」


「だからさっきの話は忘れろって…マジで!どんな話なんだよ?」


とにかく呪いのビデオに纏わる話ならなんでもいい。

カイトは藁にも縋る思いで悦子の話を聞きいった。

その話を聞き終えるとカイトは一刻も早く右京に伝えるべく職場に向かった。



73:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:36:55.76 ID:EAF0Yir90



8月30日 AM9:00


「杉下さん!重大な事がわかりました…っていねぇし…
やっぱあの人も所詮は人間か。
自分があと3日後に死ぬなんてわかれば仕事どころじゃないよな。」


それからすぐに特命係の部署に着くのだが…

いつもなら自分よりも早く着いているはずの右京の姿がなかった。

恐らく昨日のことで自分の死期を悟り恐くなって逃げ出したのではと…


「おはようございます。」


「うわぁっ!後ろにいたんですか!?
脅かさないでくださいよ…俺てっきり…いえなんでもありません。」


「はてさて何を言っているのやら…
それで先ほど大声で叫んでましたが何かわかったのですか?」


「実は俺…悦子に呪いのビデオの噂を聞いたんですけど…」


「まさかキミ…早津さんみたく悦子さんに呪いのビデオに呪いを…」


「いや!そんなことしませんよ!
まぁギリギリで思いとどまったんですけど…
…ってそうじゃなくて悦子が昔聞いた呪いのビデオに関わる噂話があるんですけどね。」


そしてカイトは悦子から聞いた話を右京に語った。

悦子が聞いた話によればとある女子学生が古い屋敷に迷い込んだ夢の話らしい。

その女子学生は広い屋敷の中で迷子になり、ふと気づくとある階段の前に近付いていた。

彼女はその階段を上ろうとするがその階段を上の階から奇妙な不気味さを感じてしまい、

階段を上ることが出来なかった。

だがそんな時だった。



『 『ギャァァァァァァァァァァァ!!!!!』 』



若い女の叫び声が聞こえた、気になった女子学生は屋敷を飛び出し声のした庭へ向かった。

そこには古びた井戸があり、

それに白い服を着た髪の長い女を襲う中年の男が彼女を殺そうとして…


「その長髪の女は中年の男によって井戸の中に落ちていったという話です。」


「ヒィィッ!?恐えな…何だそれ…怪談か?」


「あ、課長お早うございます…ていうか居たんですね。」


「コーヒー貰いに来たのにお前らが変な話をして気付かなかったのが悪いんだろ。
それにしてもさっきの話なんだよ…朝っぱらから恐がらせるなっての!」


カイトの話を偶然立ち聞きしてしまった角田。

そのままMyカップにコーヒーを注ぎながら欠伸を上げていた。



74:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:41:30.70 ID:EAF0Yir90



「おや、課長。徹夜でしたか?」


「まあな。お前さんたちは大島に行ってたから
知らんだろうがこっちはちょっと事件があったんだよ。」


実は右京たちが大島へ向かう前夜にとある事件が起きていた。

繁華街で危険ドラッグを卸していた元暴力団員加藤実が襲われるという事件だ。

被害者が組を破門になったチンピラであることから

角田たち組対5課はこの犯行を同業者のトラブルではないかという線で捜査していた。

話を終えてコーヒーを飲み干すと角田は再び自分のデスクへと戻って行った。

話は脱線したがともかく今の話で右京は気になることがあった。



75:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:43:26.38 ID:EAF0Yir90



「今の話ですがどこかおかしくありませんか?」


「そりゃ夢の中の話ですからおかしいところはあるでしょう。」


「いえ、そうではなく…何故その女子学生は階段の上に恐怖を感じたはずなのに
舞台が突然『井戸』の方に移るのかです…
『女子学生』、それに『中年の男』と『長髪の女』…
僕はこの物語にはあともう一人登場人物がいるように思えるのですがね…」


そんな風にカイトの説明を聞き入る右京。

そんな右京だがなにやら用意を始めていた。

それは先ほど他の部屋から持ってきたシュレッダーだ。

そのシュレッダーに何かの用紙をセットしている。

一体何をしているのかとカイトが気になって見てみると…


「これ…早津さんが描いた呪いの絵じゃないですか!」


それは右京たちが呪われる原因となった早津が描いた絵だ。

それをシュレッダーに入れる右京。そして…


「あぁ…絵が処分されていく…」


なんとシュレッダーによって絵は細かく切断されてしまい復元不可能な状態になった。

何故こんな真似をするのか?


「危険だからですよ。この絵は既にビデオの役割を行ってしまった。」


確かに今となってはこの絵が呪いのビデオの役割を担ってしまった。

それを考えれば処分は妥当なのかもしれないのだが…


「これで心置きなく死ねますね…ハハ…」


「そんなに早く諦める必要もないと思いますがね。
あと3日あります。必ず僕たちが助かる糸口は見えるはずですよ。」


その励ましに力なく頷くカイト。

だが呪いの力は本物だ。それに呪いを解く答えは既に出ている。

それなのに何を調べろというのか?



76:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:44:14.43 ID:EAF0Yir90



「それよりもキミにひとつ言っておきたいことがあります。
これから先誰に尋ねられようと決して呪いのビデオの内容を教えないでください。」


「え?だって絵なら…
杉下さんが処分しちゃったじゃないですか?内容なんかもう伝えられないですよ。」


「山村貞子の呪いは呪いのビデオに限らず…絵になっても呪いが有効でした。
つまりもしかしたらですよ…これは僕の想像になりますが…
彼女の呪いは手記や最悪…口頭での説明でも呪いが可能かもしれません。」


「そんな…今
更そんなこと言ってもこの件に関わっている人がどれだけいると思ってるんですか!?
山村貞子や伊熊平八郎のことを調べた角田課長や
花の里で老婆の方言を教えてくれた幸子さん!捜査一課の伊丹さんたち!
それに大島の陣川さんや山村和江さんにも
既に貞子の呪いが掛けられているんですか!?」


「いえ、彼らには肝心の呪いのビデオの内容は明かしていません。
大島で撮られた陣川くんの画像を見るに呪いに掛かっているのは今のところ…
僕たちだけのはず。
僕たちが『歩く呪いのマスターテープ』になっている可能性があります。」


つまりこれからは自分たちだけで捜査を行わなくてはならないことにある。

確かに特命係は常に単独で捜査を行ってきた。

しかしこの事件に隠れている得体の知れない何かを相手にするのに

自分たちだけでは余りにも心細い。

右京とはちがい、カイトにはその不安が重く伸し掛った。



77:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:45:20.88 ID:EAF0Yir90



8月30日 AM10:00


ここは城南大学。都内でも有数の進学校と噂されている大学だ。

この学校は近年文化系に取り組んでいて

演劇部などはその本格的な舞台を披露させていることから世間ではかなり注目されている。

その大学の一室にある高野舞のオフィス。

右京とカイトは15年前高山竜司の教え子であり、

浅川玲子と高山竜司の一人息子である『浅川陽一』を引き取った高野舞を尋ねていた。

現在、彼女は若いながらもこの大学の教授職を勤めている。

そんな彼女のオフィスに招かれた右京たちだがその部屋に右京はある疑問を抱いた。


「あの…警察の方がお話って一体…」


「その前にちょっと気になる事が、
大学教授の方なのにこの室内にはTVは勿論PCすら置いてない…
いえ、鏡面的な物がほとんど置いてないのはちょっと不思議に思いましてね。」


「あの…まさかそんなことを尋ねに来たんですか?」


「すみませんねぇ。細かいことが気になるのが僕の悪い癖でして…」


確かにこの部屋にはそんな鏡面的な類は置かれていない。

それを普段から細かいことを気にする右京が指摘するのも当然だが…

しかしこれは本題ではない。

そんな右京を尻目にカイトが今回高野舞を尋ねた本題に入った。



78:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:46:35.54 ID:EAF0Yir90



「率直にお伺いします。
高野さん、あなたは呪いのビデオについて何か心当たりはありますか?」


カイトが呪いのビデオ訪ねた瞬間、高野舞の顔は真っ青になった。

この反応を見た右京たちは彼女が呪いのビデオに関して、

何か重大な秘密を知っていると確信した。


「実は我々も『呪いのビデオ』を見てしまったのですよ…」


「俺たちのタイムリミットはあと3日しかありません。話してもらえませんか。」


「正直に申し上げます…私は…呪いのビデオは見ていません。
けど…その所為で私の恩師である高山竜司が死んだのは存じています。
私から言えるのはそれだけです…」


「いや…嘘だ!さっきの反応…あなたは間違いなく何かを知っているはずだ!」


「…」


カイトから激しく追求されたが舞はそれっきり黙秘した。

恐らく当時のことを口にしたくないのだろう。

さすがに令状も取れていない捜査なので強硬手段も出来ないが、

このままでは埓が明かないと踏んだ右京は彼女にある揺さぶりを仕掛けてみた。


「そういえばこの大学にはそのお亡くなりになった
高山竜司さんのご子息である浅川陽一さんが在学中だと聞いているのですが…」


「まさか…あなたたち…また陽一くんを使って…
帰ってください!もうお話することなんかありません!!」


陽一を引き合いに出されたことでさらに右京たちを拒む舞。

だがそんな時だ。



79:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:47:32.01 ID:EAF0Yir90



「舞さん遅くなってごめん。」


誰かがこの部屋を訪ねてきた。

それは見るからに大学生の少年、現在の浅川陽一だ。

どうやら右京は事前にこの陽一に舞の部屋を訪ねるように仕向けていたようだ。

本来ならこんなことはしたくはないのだろうが…

しかし右京たちも死亡時刻が迫っていた。従って猶予はない。

だからこそこんな手段に打って出た。


「あの…僕に話って何ですか?」


「キミのお母さんである浅川玲子さん、
それとお父さんである高山竜司さん。二人について話を聞こうと思ったんだ。」


「陽一くん、知っていることがあるなら教えて頂けますか?」


舞に代わって陽一から話を聞き出そうとする右京たち。

だが陽一からの返答は意外なモノだった。




80:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:48:01.11 ID:EAF0Yir90



「母さんと父さんのことですか?
母さんは僕が小さい頃に死んじゃったし…
父さんなんか生まれてから一度も会ったことすらないですよ。」


「お父さんと会ったことが無い!?」


「そういえば二人は離婚してますからね。
離婚したのは陽一くんが物心つく前のことだったのでしょう。」


父親である高山竜二と面識はないと言う陽一。

だがこうなると少し奇妙とも思えることがある。それは舞と陽一の関係だ。

生前、実の父親である高山ですらろくに会わなかった息子の陽一を

当時の教え子だった舞だけが引き取った。

いくら教え子とはいえ些か限度を超えているはず。

つまりこの二人は過去に…それも15年前に何かあったのではないのかと勘繰った。


「いけませんか!恩師の息子を引き取ったら犯罪とでも言う気ですか!?」


「失礼、気を悪くされたのなら謝罪します。
ですが実の父親ですらまともにあったことのない息子を引き取った。
美談ではありますが疑う余地がなくもない。
もしかしたらあなた方には15年前に何かそうなるだけの事件が起きたのではないですか?」


「あの…だから…それは…」


改めて15年前のことを問われて狼狽える様子を見せる舞。

確かに呪いのビデオに…いや…山村貞子に関わったのならこの反応は無理もない。

しかしだからこそこの二人の協力は不可欠だ。

そのためにも右京たちは自分たちの誠意を伝えてみせた。



81:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:48:42.06 ID:EAF0Yir90



「高野さん、その様子から察するにあなたも山村貞子の力に恐怖を感じているのですね。
確かに不安になる気持ちはわかります。ですがこれだけは約束させてください。
僕たちはあなたたちの平穏な日々は絶対に壊しません。」


「俺たち話を聞いたらさっさといなくなるんで、安心してください。」


「わかりました…
けどその前に陽一くんを外させてください。彼には教えられないから…」


「舞さん、僕はもう大人だよ。それに僕も気になってたんだ。
もうおぼろげな記憶しか覚えてないんだけど小学校の母さんが死んだ時期だけ
どうも記憶が曖昧で…僕も真実を知りたいんだよ!」


「知らせてあげるべきだと思いますよ。彼ももう大人です。」


「そうですよ、陽一くんはあなたが思っているほどガキじゃありませんって!」


「わかりました。それではお話します。あれは先生が亡くなった直後でした…」


そして高野舞は15年前に自分の身に何が起こったのかを

右京とカイト、それに浅川陽一に話し始めた。

舞が呪いのビデオに関わったのは高山が死んだ当日のことだった。

あの日、舞は高山の自宅を訪ねるとそこでは高山が恐怖にひきつった顔をして死んでいた。

その後、高山の死を不審に思った舞は

浅川玲子の同僚である岡崎と知り合い彼から呪いのビデオに関する話を聞かされた。

そして舞も高山の死が呪いのビデオに関わっているのだと確信した。

それから岡崎と一緒に当時失踪していた浅川玲子の行方を追うことになり、

暫くして浅川玲子とその息子である浅川陽一を見つけたが…


「当時の陽一くんは…貞子の怨念にとり憑いつかれていた…
だからあなたは当時の記憶がおぼろげなんだと思う。
まあこんな話を警察の方が信じてくださるとは思いませんけど…」


「いや!信じますから大丈夫ですって!」


「構わずお話を続けてください。」


信じられない話だがそれでも今は信じるしかない。

そう思い舞の話を聞き続けるのだが…

その後、岡崎はなんらかの理由で心を煩い精神病院に入院。

舞自身も何度か貞子の怨念らしきモノに触れそうになり危うかったと話す。



82:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:49:36.76 ID:EAF0Yir90



「その貞子の怨念により浅川さんはトラックに撥ねられて…即死でした。
私と陽一くんはその時現場に居たので…その時の酷い有様は今でも忘れられません…
そして私は呪いの謎を解くために貞子の生まれ故郷である大島へ向かいました。」


「やっぱりあなたは大島の…あの山村家に向かったんですね!」


これは大島で会った山村和恵の証言とも一致している。

どうやら舞が陽一を連れて大島に向かったのは間違いないようだ。

だがその時、実は二人の他にもとある同行者がいた。

それは当時の事件で精神科医として関わった『川尻』という男だ。

川尻は陽一にとり憑いついた山村貞子の怨念を

水に溶かして除去するというかなり危険な実験を行った。

舞の話によればその実験の前に、

最初の犠牲者である大石智子の死亡現場に居合わせていて、

後に精神病院に入院した倉橋雅美を使って実験を行ったが

その実験の所為で倉橋雅美は危うく死亡しかけたという極めて危険な実験だったらしい。

それから陽一を被験者として実験は開始されたが…

貞子の怨念は人の制御出来るモノではなかった。

貞子の怨念は暴走し実験の場にいた殆どの人間は貞子に殺されたという…

ちなみに貞子の叔父である山村敬もこの実験に参加していたとのことだった。


「そんな実験が行われていたのかよ…」


「なるほど、山村敬さんもこの実験に…
やはり彼の死も呪いのビデオに関わるモノでしたか。
しかしひとつ疑問があります。
それほど大勢の犠牲が出ながら何故あなた方だけが助かったのですか?」


「それは…先生が私たちを救ってくれたからです。」


「先生?つまり高山竜司さんのことですね。」


「あの実験の時…気付いたら私は井戸の中にいたんです…
必死になって一緒に井戸に落ちた陽一くんを探しいたんですけど見つからなくて…
諦めていたらそこへ先生が現れて…」


そんな舞の説明に陽一はかつて起きた出来事を思い出していた。

そういえば…自分は…その昔…井戸に落ちた記憶がある。

とても深い場所だ。それに呼吸も出来なくて息苦しくもあった。

それでもうダメだと諦めていた時だった。

誰かが救いの手を差し伸べてくれたことを思い出した。

あれは懐かしくも暖かいあの手は…あの時…助けてくれたのは…



83:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:50:04.85 ID:EAF0Yir90



「思い出したぞ!?そうか…あの人は父さんだったんだ!
小さい頃、舞さんと一緒に井戸に落ちた記憶があって…誰か男の人に助けられて…
それから手を握られて…その人の手を握った瞬間に怒りとか憎しみみたいな…
ドス黒い感情が一気に抜け落ちていった覚えがあります。」


「それから私は必死に井戸を這い上がりました。気がつくと元の場所に戻っていたんです。」


「なるほど、あなたが陽一くんを心配する理由がよくわかりました。
それにしても実験ですか…
かつて山村貞子の母親である山村志津子も無理矢理超能力の実験を行われた。
それがこうして陽一くんにも行われるとは因果ですねぇ。」


それが高野舞の知る、呪いのビデオとそれに山村貞子に纏わる話しだった。

どうやら山村貞子に関わる者は誰もが不幸を遂げる運命にあるようだ。

そしてこれで舞と陽一の関係にも納得がいった。

それに陽一だがこの話を聞いてあることを思い出した。

それは生前の母が自分にあることをさせた思い出だ。



84:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:52:02.70 ID:EAF0Yir90



「呪いのビデオ…そういえば思い出した事があるんですけど…
昔、母さんが僕に『ビデオをダビングしてお爺ちゃんに観せろ』って言ったんですよ。
これって何か関係ありますか?」


「それって…まさか…」


「なるほど、浅川玲子はそうやって息子であるあなたを助けたわけですか。」


これで合点がいった。

浅川玲子の両親が亡くなった原因。

それはこれまで右京たちが考えていたように呪いのビデオにあった。

しかし何故浅川の両親がビデオを観ることになったのか?それが疑問だった。

だがそれも陽一が絡んでいたとしたら話は別だ。つまりこういうことなのだろう。

15年前、陽一はなんらかの理由で呪いのビデオを観てしまった。

母親の浅川はそんな陽一をなんとしても救い出そうと必死だったはず。

そこでようやく答えにたどり着いたのがビデオのダビングだ。

浅川は陽一を救うためにその禁じ手を行った。第三者である両親にビデオを観せた。

その結果、陽一は助かった。だがそのせいで両親は死んだ。

つまりこうして陽一が生き延びた理由は母親の助けとそれに祖父母の犠牲があったからだ。


「それは恐らくですが…」


「ちょっと杉下さん!すまない。俺らもそれ以上は知らないんだ…」


「そう…ですか…」


そんな陽一に真実を告げようとする右京をカイトが遮った。

それは突発的な行動で右京もまさかカイトに遮られるとは思わなかった。



85:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:52:32.14 ID:EAF0Yir90



「ところで…精神病院に入院なされている岡崎さんなのですが、
先ほどの高野さんのお話では彼は呪いのビデオを観てないそうですね。
それにも関わらず岡崎さんは精神病院へ入院する事になった。
その辺の事情に何か心当たりはありますか?」


「そういえば…私と知り合った頃…
岡崎さんは女子高生に呪いのビデオの取材をしていました。
その子は沢口香苗というんですけど。ただ…その子も…」


「呪いのビデオで亡くなったのですか?」


「はい、私も見ましたがそれはもう酷い死に顔で…
私が知っていることは以上です。これ以上お話しすることはありません。」


「えぇ、大変参考になるお話でした。どうもありがとう。」


こうして舞と陽一から当時の話を聞き終えた右京たち。

それから部屋を退室しようとするのだが…

去り際、カイトが二人に対してこんなことを告げた。


「最後に俺からもいいですか?特に陽一くんに聞いてほしいんですけど…」


「何でしょうか?」


「今日のこと…いや…呪いのビデオなんか全部忘れちゃってください。
こんなこと憶えてたらあなたたち絶対不幸になっちゃいますから!
突然押し掛けて変なこと言ってると思いますけど…とにかくこれで失礼します…」


そんなことを告げながらカイトもまた舞の部屋を出て行った。

それから右京と合流するカイトだが…

そんなカイトに右京は先ほどのことを問い質した。



86:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:53:16.34 ID:EAF0Yir90



「キミ、先ほど僕が陽一さんに尋ねられた際…
思わず会話を遮りましたね。彼にはすべてを知る権利があったはずですよ。」

「そんな事言われなくてもわかってますよ…けど何も知らないとはいえ…
実の祖父を自分の命が助かるために犠牲にしたなんて俺には伝えられません…」


「なるほど、それがキミの考えですか。」


「何すか?文句があるなら聞きますけど。」


「文句なんてありません。それが正しいと思うならキミは胸を張るべきだと思いますよ。」


別に右京は今のことについて咎める気などなかった。

確かに真実を告げることは大事なことだ。

しかしそれも時と場合を考える必要がある。

特に今回の事件で絡んでいるのは呪いのビデオだ。

人を殺せるおぞましいモノを相手にしなければならないのに

そんな破を突くような真似をしてあの二人に害が出れば取り返しのつかないことになる。

一見正反対だが今回に至っては右京もまたカイトの意見を尊重してみせた。


「それよりこれからどうしますか?
確かに高野舞の話は参考になったけど結局実験は失敗してるし…」


「いえ…大変参考になるお話でしたよ。
なるほど、これで繋がってきました。
ところ次の場所へ行く前にちょっと寄り道しておきたいところがあります。」


「寄り道ってどこですか?」


「それはこの学校の演劇部です。」


高野舞からの聞き込みは終えたというのに何故かまだ大学に留まる右京。

そんな右京が次に訪れたのがこの学校の演劇部。

何故、この学校の演劇部を尋ねるのかというと

それは先日の内村部長の部屋にあったこの学校の舞台パンフレットを見たからだ。

あの内村が大学の演劇に興味を示したのが些か気になったようで少し覗いてみたい。

そんなわけでさっそくその演劇部を訪ねてみた。



87:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:54:37.28 ID:EAF0Yir90



8月30日 AM11:30


「よーし!それじゃあ今のところをもう一度!」


どうやらそこでは舞台のオーディションが行われているらしい。

主演希望の女子大生たちが

演出担当の学生たちが見守る中でその台詞を舞台の上で叫んでいた。

それから女性たちは一人ずつ舞台に立ち、壇上でセリフを読み上げていった。


「………もし」


「生まれ変わることができるなら…」


「それが神に逆らうことであっても…」


「私はあなたのそばに」


「あなたと一緒にいたい」


「ああ、面影さえも 鮮やかに浮かぶ」


「あなたに会うことができたなら なんといえばいいのかしら」


「すべてが夢ならば」


「夢から覚めた時 あなたがいてくれたら」


それがこの舞台に立つ主演女優のセリフだった。

この舞台の公演は『仮面』というモノ。

その内容は若い娘が交通事故で顔全面に火傷を負い、凄惨な形相になってしまった。

その娘は醜い素顔を晒したくないと仮面を付けるようになり人目を遠ざけるようになる。

しかしそんな娘が恋に落ちた。それは決して報われぬ恋。そんな悲恋の物語だった。

確かにその内容は娘の苦悩や罪悪感を描いた文学的な演目だ。

だが残念なことにそれを演じる女子大生たちの演技力が伴っていなかった。

恐らくこの中に主演を務めるだけの演技力を持ち合わせる女性はいないはず。

そんな風に見つめていた。

だが舞台の演出をしていた学生の一人がこう呟いた。



88:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:55:26.96 ID:EAF0Yir90



「やっぱり当時の飛翔の人たちじゃなけりゃ無理なのかな。」


その学生の口から出た飛翔という言葉に右京たちは聞き覚えがあった。

それは大島を出た貞子が入ったとされる劇団の名称だった。

気になった右京たちはこの学生に劇の内容について聞いてみた。


「失礼、ちょっとよろしいでしょうか。
この演劇ですが元々はどういった経緯でやることになったのですか?」


「あ、これですか?
実は…ちょっとオカルト的な演出を兼ねようと思ったんです。」


オカルト的な演出と聞いて思わず首を傾げるが…

だがその理由を聞いてみるとそれは本当にオカルトめいた話だった。

元々この舞台『仮面』の演目は45年前に飛翔という劇団が公演する予定だったらしい。

しかしそれは多難を極めたらしい。公演を行う直前に主演女優が事故死。

その後も代役の女優を用意するも次々と事故が相次ぎ劇団関係者も中止を考えていた。

そんな矢先のことだ。当時まだ入りたての研究生が舞台に上がった。

研究生は見事に主人公の娘役を演じてみせた。

そして研究生は認められて見事主演女優の座を取ってみせた。


「なるほど、確かに曰くつきの話ですねぇ。
ですがそれだけではオカルトとしての要素が薄くも思える。
もしかしてまだ何か続きがあるのですか?」


この話にはまだ続きがあるのではないか?

そう尋ねるとその途端、学生は険しい表情になった。

実は右京が指摘したようにこの話には続きがあった。

45年前、劇団飛翔はこの公演を行っていた。だがその公演中のことだ。

演劇中、なんらかのアクシデントが起きたらしい。そこで死人が出たとか…

それに後日、飛翔の関係者はほとんどが行方不明になったらしい。

まるで神隠しにでもあったかのように忽然と消えた。

それ以来この仮面の公演は忌み嫌われるようになりどの劇団でもやらなくなってしまった。

ちなみにその飛翔で何が起きたのか聞いたが

さすがにその学生も知らないようで当時の関係者でもなければわからないという。

これで行き詰まりかと思われたが、ふとこの公演の台本に注目した。

見るとこの台本、かなり古そうだが…



89:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 01:59:39.49 ID:EAF0Yir90



「飛翔で使われていたオリジナルの台本です。もうコピーしたんでよければ差し上げます。」


飛翔で使用されていたとされる台本。

そのページにあるスタッフ欄を捲ってみた。



スタッフ紹介

重森勇作:演出

×葉月愛子:主演女優

山村貞子:主演女優(代役)

有馬薫:劇団員

………

~スタッフ紹介~

遠山博:音効

立原悦子:衣装

内村完爾:雑用


それがページの一覧だ。

まず主演女優の方に注目したが×印が記されていた。



「恐らく先ほどの証言通り主演女優が亡くなったために急遽の処置だったのでしょう。」



「それじゃあ貞子はこの時に何かあって…」



恐らく貞子の身に何かあったのかもしれない。

思わぬ場所で手がかりを拾ったわけだが…

しかし右京はこの台本でもうひとつある事実に気づいた。

なるほど、だからあの時あそこにアレがあったのかとようやく納得ができた。



90:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:00:40.63 ID:EAF0Yir90



8月30日 PM14:00


先ほど高野舞より聞いた通り

右京たちはさっそく精神病院に行き、入院している岡崎を尋ねようとするが…


「え!岡崎さんは退院した!?」


「はい、1ヶ月くらい前に身内の方が引き取りに来ましたよ。」


どうやら岡崎はこの病院を退院したらしい。

しかしどうにもおかしい。ここは精神病院だ。

さらに岡崎はこの病院で既に15年以上も入院している重度の精神障害を抱えているはず。

それなのに今頃になって退院?何か奇妙に思えてならなかった。


「ちなみにお尋ねしたいのですが
引き取りに来られた身内の方はどんな人たちだったのでしょうか?」


「確か背広姿の男性が数名…だったと思います。
兄弟とか言ってましたけど顔は全然似てませんでしたね。アハハハ。」


「ちなみに退院されたのは何曜日のことでしょうか?」


「確か日曜日ですよ。休日を利用してやって来たと言ってましたからね。」


それから病院側に聞いたが

引き取った身内に関しては患者のプライバシーの問題でその詳細は明かされなかった。

この病院に岡崎がいなければ話にならない。

さて、どうするかと思ったわけだが…



91:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:01:06.62 ID:EAF0Yir90



「ところでここにもう一人入院されている倉橋雅美さんにもお話を伺いたいのですが…」


「彼女をですか?正直彼女の面会は許可しにくいのですが…」


「ある事件でどうしても彼女の協力を得たくて、どうかお願いします。」


「わかりました…担当の医師に言ってみます。私ちょっと席を外しますから。」


そう言って席を外す看護師。

その傍らで呆れた顔で右京に文句を呟くカイトだが…


「嘘言っちゃって…精神障害の人間の証言なんかに刑事能力は無いですよ。」


「おやおや、僕は別に嘘など言ってませんよ。
彼女は僕たちが追っている
呪いのビデオの事件に協力をしてくれたらそれは事実になりますからねえ。」


「ハイハイ、屁理屈捏ねたら杉下さんの右に出るヤツなんていやしませんよ…」


とりあえずこれで倉橋雅美と面会出来る手筈は整った。

それから1時間も待たされたが

ようやく二人は担当医師の立会いで倉橋雅美と面会することが出来た。

しかし右京とカイトは彼女が病室からこの面会室まで歩いてくる姿に思わずギョッとした。

何故なら彼女の視界に決して『ある物』を見せないために

看護師が布で隠しながらここまで歩かせてきたからだ。

そしてようやく会えた倉橋雅美と聞き込みをしようとするのだが

この15年間で彼女は驚くほどに窶れてしまった。

彼女の年齢はまだ30代前半だというのにその髪は最早白髪だらけ、

目も恐らく満足に寝てないのだろうか大きな隈が出来ていた。

倉橋雅美の状態を見たカイトはとてもじゃないが

彼女から満足な話は聞けないと判断するがそれでも右京は敢えて彼女に話を切り出した。



92:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:02:03.16 ID:EAF0Yir90



「倉橋さん、今日はあなたにお話が合って来たのですが。」


「…」


「呪いのビデオ…ご存知ですよね。」


「呪い…ビデオ…」


「あ…」


「ああ…」


「あ゛…あ゛ぁぁぁぁぁぁ!?」


呪いのビデオ。その言葉を聞いた瞬間、彼女はいきなり大声を叫び出した。


「倉橋さん!しっかりして…大丈夫ですからね、鎮痛剤用意して!早く!」

「ちょ…ちょっと本当に大丈夫なんですか!?」


彼女は髪を掻き毟りまるで何かに怯えてしまいその場で暴れ出した。

カイトも彼女が暴れないようにと抑えるのを手伝っていたが

その拍子に自分のスマートフォンを落としてしまった。


「いけねっ!携帯落っことしちまった…」


倉橋雅美は精神障害を患っている。

そんな彼女をこれ以上刺激させるわけにはいかない。

そう察したカイトが一刻も早く携帯を仕舞おうとしたのだが…


「あ…あぁぁ…キャァァァァァァァァァ!?」


その瞬間…

彼女はこの世のモノとは思えないほどの叫び声を上げてその場で気絶してしまった。

最早、話を聞くどころではない状態になった倉橋雅美はそのまま病室に連れ戻された。



93:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:02:41.29 ID:EAF0Yir90



「あの…俺…何かしました?」


「僕が見た限り
彼女はキミが落としたスマートフォンを見てあんな叫び声を上げたようですが…」


「けど…こんなモン見たくらいなのに何で気絶するほど怯えるんですか?」


自分の携帯を間近で見ながら確かめるカイト。

この携帯にはには特に異常なモノはない。

…ということは携帯についている何かを見ることを異常に恐がっているのか?

しかしそれは一体何なのか?

そのことで頭を悩ませていたら担当医師が先ほどのことで侘びに来た。


「いや…申し訳ない、こちらから最初に注意しておくべきでした。
彼女はTVの画面や鏡などを極端に嫌いそれに恐怖しているらしいんですよ。」


「TVの画面を?それは何故でしょうか?」


「実は彼女…ここに入った直後なんですが…
今はあんな状態ですがその頃はまだ口が訊けたんですけどね。
当時妙な事を言ってたんですよ。」


15年前、倉橋雅美がまだ辛うじて正気を保っていた頃のことだ。

入院当時の彼女はあるモノに対して極端に怯えていた。

それはTVだ。TVを見ることを極端に恐がっていた。

医師がその理由を尋ねると彼女はこう答えた。

『TVの画面から髪の長い女が出てきて自分を殺しに来る』

当時、その話しを聞いた医師たちは誰も彼女の言うことなど信じなかった。

勿論この担当医師だって未だに信じてはいない。

所詮は精神障害を患った患者の妄言。

だが一人だけいた。そんな彼女の妄言とも思える言葉を一人だけ信じた医師がいた。


「その一人とはもしや…
以前はこちらに勤務されていた川尻という名の医師ではありませんか?」


「えぇ…確かに川尻が私の前任の担当医でしたが…」


「それでは川尻先生が当時残した資料を拝見したいのですが残っていませんか?」


「そんな物残っちゃいませんよ。
川尻さんが死んだ時に何処かの役所の人たちが持って行きましたから。」


川尻が遺したと思われる倉橋雅美や呪いのビデオに関する資料。

それさえ得ればこの呪いを解決する糸口になるはずなのに…

ここでまたもや足止めをされるというのが実に歯がゆかった。



94:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:03:11.46 ID:EAF0Yir90



8月30日 PM16:00


「ハァ…結局捜査は進展したけどやっぱり肝心なことはわかりませんでしたね…」


ため息混じりで特命係の部屋に戻る右京とカイト。

そんなカイトが弱音と共に吐くため息には焦りと諦めが混じっている。

残り時間が少ないのにここまで進展しないのではどうしようもない。

そもそも情報が少なすぎるのだから。


「ですが明らかになったことがあります。
それは我々の他にも以前から山村貞子に関して動いている輩が居ることです。
恐らくProjectRINGとやらに関する連中のはず。」


「ああ、あの早津さんが言っていたあの…けどそいつらがいつ動いていたんですか?」


カイトが指摘するようにこれまでの聞き込みで

それらしき連中が動いた形跡は見当たらなかった。

もしそんな連中がいたら一体いつ動いてたのだろうか?


「先ほど精神病院に行った時、
岡崎さんが退院したという話を聞きましたよね。あの話を聞いて奇妙だと思いませんか。」


「奇妙って…
確か兄弟が連れて帰ったとかそんな話でしたよね。それのどこがおかしいってんですか?」


「確かに兄弟がいる事には何の問題もありません。
どこの家庭でも兄弟の一人や二人くらいはいるでしょう。
ですがいくらなんでも日曜日の休日に
背広姿で迎えに来る身内なんていると思いますか?」


「あ…言われてみれば…けどその連中岡崎さんを連れて行って何をする気なんだ?」


「まだそこはわかりませんが、まぁ察するに…ろくでもないことでしょうね。」


右京の言うようにカイトもろくでもない連中が関わっていると察することは出来た。

何故なら15年前の事件に関わっている連中だ。

この連中も関わっている以上は貞子の異力を把握しているはずだ。

それなのに何故進んで関わろうとするのか?そのことについて疑問を抱いていた。

それにカイトにはもうひとつ疑問に思える点があった。



95:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 02:03:47.60 ID:EAF0Yir90



「そういえば岡崎さんって何で入院してたんですか?
彼は別に呪いを受けたわけでもないんですよ。それなのにどうして?」


それは岡崎が精神病院に入院していたことについてだ。

岡崎は呪いのビデオを見ていないはず。

それはこの15年間、生きていることで証明されている。

それなら何故精神疾患になるほどの事態に陥ったのか?

当時の彼の身に何が起きたのかそれもまた疑問だった。


「これは僕の考えですが彼は貞子ではない別の呪いを受けたのではありませんか。」


貞子ではない別の呪い?

そんなことを告げられて首を傾げるカイト。

馬鹿な…ありえない…大体誰が岡崎に呪いなど与えるのかと…


「高野舞さんの説明によれば岡崎さんは精神病院に入院する前に
沢口香苗という女子高生に呪いのビデオに関する取材をしています。
恐らくこの沢口香苗が原因ではないのでしょうか。」


「沢口香苗?けど彼女は取材を受けただけですよ。それだけで呪いなんか…」


舞の話が正しければ岡崎は取材を行っただけのはず。

それだけで精神を患うような精神疾患が起きたりするはずがない。

そう思ったのだが…




96:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:57:23.28 ID:EAF0Yir90



「ここから先は…僕の想像になりますが…もしかしたら…
岡崎は浅川玲子から呪いのビデオの死を回避する方法。
すなわちビデオをダビングして誰かに見せることを予め伝えられていた可能性があります。
考えてみれば当然かもしれません。
関わった人間に対応策を教えていても当然だったはずですよ。」


「ちょ…それ本当ですか!?
いや…でも待てよ、それが本当なら岡崎は沢口香苗にダビングの方法を
教えてあげればよかったはずだ!
それなのに何で沢口香苗は死ななきゃいけないんですか!?」


確かに岡崎が呪いを解く方法を知っていたならそれを伝えればよかったはずだ。

それにも関わらず沢口香苗は呪いのビデオによって死亡した。

それは何故か?


「ここでひとつ注目すべき点があります。
それは川尻医師が行ったとされる実験です。
といっても陽一くんが被験者になった実験の方ではなく
昨日お会いした倉橋雅美が被験者として行われた実験ですがね。」


「その実験の席に『岡崎』も立ち会っていたという事ですか?」


「恐らくそうでしょう。
しかし実験は被験者である倉橋雅美が死にかけたという結果でした。
その光景を目の当たりにした岡崎さんはどういう心境だったと思いますか?」


「そりゃ恐怖したと思いますよ。
もしかしたら岡崎さんはその実験に立ち会うまで
呪いのビデオについては半信半疑だったかもしれないし…あぁっ!?」


たったいま自分が口にしたことでカイトもようやく気づけた。

もしも今まで半信半疑だった岡崎がその時点で呪いのビデオを信じたらどうなるのか?

それこそが沢口香苗の死に繋がる原因だった。



97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 06:57:54.88 ID:EAF0Yir90



「そう、実験を目の当たりした岡崎は呪いのビデオに恐怖し、
沢口香苗を見殺しにしてしまった…
その結果、呪いのビデオが世間に広まることはなくなりましたが…」


「代わりに今度は貞子ではなく沢口香苗の呪いが岡崎を発狂させたと…
なんてこった。この事件に関わる連中は軒並み不幸になっていきますね。」


「そうでしょうかね。不幸になる方の大半が面白半分で鬼の住処を突く者たちですよ。
昔から言うじゃないですか。触らぬ神に祟りなしと…
まあだからと言って殺人が許されるわけではないのですがね。」


触らぬ神に祟りなし…

右京が呟いた言葉だが確かにそうかもしれないとカイトは思った。

そもそも15年前の発端となった岩田たち4人も最初は面白半分でビデオを見たはずだ。

それがこのような事態を招いてしまった。

自業自得といえばそれまでだろうが…

だがそれでも殺人は許されるべき行為ではない。

もしも止められる方法があるのなら一刻も早くその方法を突き止めなければならない。

そう改めて覚悟を決めた時だった。


「警部殿~なにやら動き回っているようですなぁ。」


「ちょっとお話があるって内村部長が呼んでますよ~」


「うわ…」


そこへ現れた伊丹たち。

どうやらここまでの捜査状況を報告しろとのことらしいが…



98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:01:18.42 ID:EAF0Yir90



8月30日 PM16:30


伊丹たちに同行されながら

右京とカイトの特命係が内村部長の部屋に入ると

中園とそれに内村が相変わらず不機嫌な態度を取りながら待ち構えていた。


「貴様ら…事件には関わるなと言っておいたはずだぞ!」


「それに伊丹たち!
お前らも何故特命に事件の捜査を任せた!捜査一課の刑事としての責任感は無いのか!?」


「そう言われましても…」


「オカルトは捜査一課の専門外でして…」


「大体あの事件はもう自殺で方が付いたんじゃないですか?」


内村と中園の叱責に対してこの件を自殺と判断している伊丹たち三人。

確かに今のところ大した物証もなくそう判断するのも無理はない。

ところがそういうわけにもいかなかった。

そんな彼らの前に鑑識の米沢が内村の部屋に現れた。


「どうやら自殺と判断するには些か早計だと思います。
実は被害者の吉野さんの部屋から
被害者以外の指紋が見つかりまして。これで他殺の線が出てしまいましたな。」


「た…他殺!
だって被害者は急性心不全じゃないですか!?
他殺になるわけが…」


「もしかしたら第三者との間に急性心不全を引き起こす『何か』が起きて
被害者はその所為で死んだ…という可能性もあるかもしれん。
今一度徹底的に洗い直せ!」


「そういう訳だ、わかったなお前たち!」


珍しく冴えた判断を下す内村に対してうへぇといううんざりした顔で頷く三人。

まさか当初は自殺かと思えた事故に他殺の可能性が浮上するとは…



99:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:02:11.94 ID:EAF0Yir90



「ところで米沢さん。その発見された指紋は何処から出てきたのでしょか?」


「それがですな…
なんとあのTVに巻かれていたガムテープの粘着部分から指紋がベッタリと出てきまして。
こんな基本中の基本を見落とすとは鑑識の不手際と思われてしまいますなぁ…」


「確かあのガムテープ…取れ方が妙でしたね。
あの破れ方はまるでTVの外側ではなく内側から破れたみたいな破れ方でした。」

「それって…まさか…あの倉橋雅美が言ってたことじゃ…」


「高野舞のあの異常という程までに徹底した鏡面の無い部屋…
倉橋雅美のTVの画面を極端に嫌う衝動…倉橋雅美の証言…
あながち間違ってはいなかったのかもしれませんよ。」


今の米沢からの報告を確認するとこんな推理が出来上がる。

『TVから山村貞子が出てきてビデオを観た人間たちを殺している』

さすがにそれはない。

こんなことを誰が信じられるのかと…

さて、そんなことよりもこれで厄介な問題が起きてしまった。

つまりこれより捜査一課による本格的な捜査が始まる。

そうなるとこの展開は右京たちにとって非常にまずいことになるわけだが…



100:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:02:45.74 ID:EAF0Yir90



「おい特命係!何を話している?貴様らに発言を許可した憶えはないぞ!!
ところで貴様ら、この事件について色々と嗅ぎまわったようだな。
これまで調べた事を全部一課に寄こせ!」


「そうだ、他殺の件が見えた以上この件は捜査一課が行う!」


「ちょ…ちょっと待ってくださいよ!
どうすんですか杉下さん!
一課に情報を教えたら最悪一課の連中全員呪い殺されちゃいますよ!?」


やはりこうなるようだ。

元々特命係に捜査権など与えられてはいない。

いつも勝手に捜査を行っているだけだ。

そのため捜査一課に情報を寄越せと言われたら否が応にも提出しなければならないが…


「どうした?何故言えんのだ?従わなければ貴様ら二人を謹慎処分にしてもいいんだぞ!」


「3日間の謹慎だ。
まぁお前たちにとっては屁とも思わんだろうが
それでこちらの捜査の邪魔をしないというなら安いモノだ。」


「3日も謹慎!?
そんな事されたら3日後には俺たち死んじまう…
どうすんですか杉下さん!このまま謹慎処分なんか喰らう訳にはいないんですよ!?」


今まで得た情報を話すことは簡単だ。しかしそうれなればどうなるか?

恐らく貞子の呪いが捜査一課に広まる恐れがある。

そうなればどうなることか…

しかしこのまま伝えなければどうなるのか?

元々内村は特命係に対していい感情を抱いてはいない。

今もこうして嫌がらせを喜々として行っている。

そんな内村たちなら特命係に対して近親処分を下すなど喜んでやるはずだ。

そうなったら最後、右京とカイトはビデオの呪いによって死ぬ。

これは二人にとってまさに袋小路に立たされた状況だ。


「止むを得ないですね。もしかしたらこれも山村貞子の思惑かもしれません。」


ふと、右京が口にした山村貞子の名前。

それを聞いて伊丹たちは

ようやく話す気になったのかと思ったが一人だけちがった反応を見せる男がいた。



101:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:03:20.14 ID:EAF0Yir90



「ちょっと待て…今…何と言った…?」


それは内村だ。

内村は先ほどの右京の言葉にある反応をするが

右京はそんなことなどお構い無しに米沢にあることを頼んだ。


「米沢さん、ガムテープから発見された指紋ですが至急照合してほしい人物がいます。」


「そう言われましても…既に前科者や関係者の指紋を照合していますが?」

「いえ、それとは別で…
静岡県警の遺留品係の方に、ある人間の指紋と照合すれば恐らく一致すると思いますよ。」


「わかりました。それではすぐに問い合わせます。」


そういって大急ぎで確認作業に入るために部屋を出ていく米沢。

それと同時に伊丹たちが右京に詰め寄った。


「指紋が照合って…杉下警部はもう犯人が分かっているんですか!?」


「何だ、それなら事件は早期解決じゃないですか。」


「それで犯人は一体誰なんですか?」


今のやり取りを見て既に右京がこの事件の犯人に気づいていることを察した伊丹たち。

そんな伊丹たちは当然誰が犯人なのか教えろと言ってくるわけだが…


「杉下さん…大丈夫なんですか?捜査一課を巻き込んで…もしものことがあったら…」


「恐らくですが呪いのビデオのことさえ言わなければ…たぶん大丈夫かと…」


さすがに不安の色を隠せないカイト。

もしも事件の詳細を話したせいで呪いが拡散すればそれは取り返しのつかないことになる。

そんな不安でいるカイトだが

そこに今まで席でふふんぞり返っていた内村が立ち上がり

何か思いつめた表情で右京たちにあることを問い詰めた。



102:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:05:33.47 ID:EAF0Yir90



「杉下…お前…先ほど妙なことをほざいてたな。もう一度言ってみろ。」


「…と言いますと?」


「女の名前を言ったろう!もう一度言え!」


女の名前をもう一度言えと怒鳴り散らす内村。

そんな内村の顔は何か恐怖に怯えたそんな風に伺えた。

それと同じタイミングで先ほど照合に行っていた米沢が戻ってきたが…

その米沢もなにやら青ざめた表情でいた。


「米沢さん…照合終りましたか?その顔を見ると僕の予想通りのようですね。」


「杉下警部…私に何がなんだかさっぱりですよ…」


「おい!お前たちだけでわかった顔をするな!?我々にもわかるように説明しろ!!」


そんな彼らに苛立ちを覚えてつい叫ぶ中園。

そこで右京もようやく彼らにこの事件の事実を告げてみせた。



103:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:06:20.66 ID:EAF0Yir90



「それではご説明します。
被害者の自宅のガムテープから見つかった指紋は
45年前に井戸に閉じ込められ、そしてそれから30年後に、
静岡県の伊豆パシフィックランドにある貸別荘の床下にある井戸から
死体となって発見された山村貞子という女性のモノと一致しました。」


「 「なにぃぃぃぃ!?」 」


その報告に伊丹たちは驚きを隠せなかった。

今の話しが正しいのなら吉野を追い詰めた人物は45年前に死んだ人間ということになる。


「ま…まさかその山村貞子って女が犯人なんですか?」


「バカッ!そんなわけねえだろ!45年も前に死んだ人間が殺人なんか行えるもんか!?」


「けど指紋が…これはどう説明すれば…」


「杉下!貴様…こんな世迷言を調べていたのか!
ふざけるにも限度というものがあるぞ!謹慎だ!謹慎!とっととこの場を去れ!!」


そんな事実を聞いてこの場にいる誰もが信じられなかった。

このことを世間に公表することなど出来ない。

それをやれば警察の威信に関わる。きっと何かの間違いだ。

そう思い誰もがこの事実を認めたくはなかった。



104:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:06:46.12 ID:EAF0Yir90



「嘘だ…何故あの女が…」


そんな中、一人だけ恐怖と不安に蹲る男がいた。それは内村だ。


「杉下…もう一度聞くぞ…山村貞子は…45年前に井戸に閉じ込められたのか?」


「それは間違いありませんよ。
お疑いなら静岡県警に問い合わせてみてはどうでしょうか?
発見された当時の捜査資料は残っていますが。」


「いや…いい…」


内村は誰の目にも明らかであるように何か隠し事をしていた。

勿論それを見逃す特命係ではなかった。


「今度はこちらから質問させて頂きます。内村部長は何を隠しているのですか?」


「いや…私は何も…」


「正直に答えてください。
この事件で既に二人も亡くなってるんですから。
いや…今までの被害者をカウントしたら二人どころじゃないんですけどね!」


右京とカイトに詰め寄られる内村。

思えば最初に吉野賢三と小宮の死を報告した時から内村は何か様子がおかしかった。

今にして思えば明らかに動揺した素振りを取っていたように伺えた。

もしかしたらこの事件について何か知っているのではないか?

既にこの事件は二人の被害者を出している。

確かにオカルトといえばそれまでだがそれでも手を拱いてるわけにはいかない。

そのため、相手が刑事部長の内村であろうと問い詰める必要があった。



105:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:07:26.76 ID:EAF0Yir90



「おい杉下、何を言っている?何故部長がこの件に関わっていると思うんだ!」


そんな右京に中園は何故内村がこの件に関わっているのかと疑問の声を上げた。

そこで右京はあるモノをこの場にいる全員に見せた。

それは先ほど城南大学の演劇部で手に入れた飛翔が使っていた当時の台本だ。


「この台本ですがスタッフ欄に気になる名前が載っていました。」


その台本の一番下のスタッフの名前。

それは雑用係の名前だがそこにはこう記されていた。

内村完爾:雑用

それは紛れもなく内村の名前だった。


「45年前、内村部長はこの劇団飛翔となんらかの関わりがあったのではありませんか?」


「内村部長の年齢なら当時のことに関わっていても不思議じゃないですからね。」


飛翔の台本を見せて内村を問い詰める右京とカイト。


「お前ら!部長に対して失礼だろうが!」


「そうですよ!」


「いい加減にしてください!」


そんな特命係の無礼に怒った中園と伊丹たちであったが…

実はその矛先は右京たちにではなく…


「部長!いいから吐いてくださいよぉ!」


「つらいのもわかりますがねぇ…」


「一度やってみたかったんですよ。部長への尋問!」


「馬鹿者!節度を弁えんか!」


さらには調子に乗った伊丹たちにまで追求される内村。

こうなれば内村とてたまったものではない。

堪らず内村もついにその重い口を開いてみせた。



106:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:08:07.45 ID:EAF0Yir90



「45年前、俺は山村貞子と会っているんだ。」


ついにその重い口を開き語り出した内村。

それはかつて劇団飛翔で起きた出来事の一部だった。


「あれは俺がまだ学生の頃…
その劇団は飛翔と言って…そこそこ有名な劇団だった。
当時文学少年だった俺はそこでアルバイトをしながら演劇を間近で眺めていたわけだ。」


今の文学少年という発言に思わず苦笑いを浮かべる捜査一課の面々。

いつもならここで怒鳴り声のひとつでも上げるはずだが…

今日に限ってはその雰囲気ではなかった。


「ある日の事だ。葉月愛子という女が死んだ。
その女は劇団の主演女優だった。
葉月を失った劇団は厳しい状況に見舞われた。
公演を目前に控えていたのに主演女優が死んだので急遽代役を立てることになった。」


「その代役が山村貞子ですね。」


「そうだ。当時彼女はまだ研究生だったにも関わらずそれは見事に代役を演じた。
その姿は本来の主演女優だった葉月愛子以上の演技力と美しさを兼ね備えていた。
それを見た劇団の男連中は誰もが貞子を推した。」


あの偏屈な内村ですら認める貞子の美しさと演技力。

恐らくそれは素晴らしいモノだったはず。

だがそんな幸せの絶頂にいた貞子に不幸が訪れた。



107:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:09:09.14 ID:EAF0Yir90



「当時、劇団では不穏な空気が漂っていた。
主演女優が死んだのは誰かが意図的に殺したからではないかと疑ったからだ。
それで彼女を殺したという疑いの目を掛けられたのが…山村貞子だ。」


当時、『立原悦子』という女性スタッフが貞子に疑いの目を向けた。

劇団の誰もが貞子が犯人ではないかと疑ったが生憎と証拠はなかった。

それでも誰もが貞子を疑った。

主演女優が死んだことにより貞子は代役とはいえ主演の座を得ることが出来た。

真偽はともかくそんな貞子に疑惑が掛けられのは仕方のないことだった。


「まあ俺は貞子が殺したとは思わない。
それに貞子自身もそのことを強く否定していた。
だが貞子はまだ駆け出しの身で…俺はただの学生アルバイトだ。
正直庇いたかったがそうなると俺にも疑いの目が掛けられる。
そうなれば将来ある俺の身が危ないと思い…結局俺は彼女を庇うことが出来なかった…」


「部長って若い頃から器が小さかったんですね…」


「『三つ子の魂百まで』って事だな。元々ヒーローになれない性分なんだろ。」


当時は貞子のことを庇えなかったと悔やむ内村。

そんな内村に皮肉を呟く伊丹と芹沢とそんな二人を諌める三浦。

とりあえず捜一トリオは置いといて内村は貞子の話しを続けた。


「だがそんな貞子を庇う男が一人だけいた。遠山とか言ったか。
当時の先輩スタッフだがそいつだけが貞子は犯人じゃないと庇った。
まあ今にして思えばヤツは貞子に惚れてたのだろう。だから庇ったのだろうが…」


そんなことを憎たらしげに語る内村。

恐らく自分が救いのヒーローになれなかったことを妬んでいるのだろう。

まあそれはともかくとしてそれでも内村の貞子に対する評価は大きかった。



108:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:09:37.76 ID:EAF0Yir90



「確かに疑惑は拭えなかった。
だがそれでも彼女にはそんなモノを軽く補う天性の美しさがあった。
黒く長い髪が印象的でそれにあの神秘的な美しさ…
もしあのまま銀幕の舞台で活躍していたら恐らく後世に名を残す名女優だったはずだ。」


「しかし、そうはならなかった。そうですね。」


右京の問いに内村は静かに頷いた。

それから内村はあの日のことを語った。

それは劇団飛翔が舞台『仮面』の公演を行った日のことだ。


「あの日は今でも忘れられない。
公演があった日のことだ。俺は雑用係として裏方に回りながら舞台を覗いていた。
舞台に立つ貞子の演技には人を魅了させる力があったのは間違いない。
劇は見事なモノだった、誰もが彼女に魅了していたよ。
しかしそんな最中だった、舞台の音響からある音声が流れてきたんだ。」


それは奇妙な音声だった。

『的中!』 『的中!』 とわけのわからない男の声だ。

観客の誰もが何かの演出だと思った。

しかし舞台の壇上にいた貞子はそうとは思えなかった。

本来なら優雅に役を演じ無ければならなかった貞子に激しい動揺が走ったという。

そんな音声に怯える貞子。しかし異常はそれだけではなかった。

それからさらに奇妙な出来事が起きた。



109:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:10:07.24 ID:EAF0Yir90



「な…何が起きたんですか?」


「女だ…」


「気が付くといつの間にか40代くらいの中年の女が舞台に立っていた。 」


「見覚えの無い女だった…言っておくがその女は役者じゃないぞ。
観客席からも見えたが、劇団の連中がその女の存在に驚いていたからな…
それから奇妙な耳鳴りがした…思い出すと吐き気がするくらい嫌な耳鳴りだった…
そんな奇妙な現象を止めようと舞台袖から一人の男が貞子に近付いた。
その時会話の内容は聞こえんかったがその男は貞子を宥めようとしていたらしい。 」


「そして事件が起きた…」


「事件って…」


「何があったんですか?」


その舞台で何が起きたのか?

伊丹たちは思わず内村を問い詰めるが…

内村はこう告げた。人が死んだ―――



110:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:11:57.48 ID:EAF0Yir90



「貞子を宥めようとした男は急に苦しみだし…舞台から倒れた!
その光景を間近で見た貞子は悲鳴を上げた。
すると今度は天井から照明が落っこちてきて…
もう会場内は大パニックになった。俺も無我夢中で逃げ出したよ。
それからどうなったかは知らん。
ちなみに劇団員は山村貞子を含めてほぼ全員行方不明になったらしい。
生き残ったのは一部の…大道具や音響のスタッフくらいしかいなかったという話だ…」


それが内村の知る山村貞子に関するすべてだ。

やはり飛翔で貞子が絡んだ事件が起きていたことはハッキリとわかった。

だが今の話を聞いて右京たちはひとつ疑問に思ったことがある。


「しかし何でパニックを起こしたんですか?
内村部長の話し通りなら
舞台が成功していたら彼女には輝かしい未来が待っていたはずじゃないんですか?」


「確かにカイトくんの言う通りです。
彼女が会場内でパニックを起こす必要はなかったはずです。
それにも関わらずそのような大惨事が引き起こされてしまった。
少々引っかかりますねぇ。 部長、ひとつお尋ねしたいのですが…」


未だに怯える内村に対して右京はある質問をした。

それは…劇団で髪の長い少女はいなかったかという質問だ。

その質問に対して内村も居たような居なかったようなと曖昧な返答をした。

以上が内村からが話した事の詳細だった。

吉野や小宮の死に動揺したのも

どうやら最近この二人から呪いのビデオの取材について当時のことを聞かれたからだとか。

これで一応納得のいく説明はついた。

「ハァ…気分が悪くなってきた…
特命係、さっき言ったように…お前らは謹慎だ!
それと俺はもう帰る。あとのことは…中園…お前に任せる…やっておけよ。」


「ハッ!わかりました、お気を付けて!
聞いた通りだ。特命係は3日間自宅謹慎だ!さっさと家に帰れ!」


こうして右京とカイトは自宅謹慎を命じられてしまった。

しかしそれでも思わぬところから山村貞子の重要な手がかりを得ることは出来た。

だがそのせいで3日間の自宅謹慎を言い渡されてしまった。

これでは呪いの日まで動くことは出来ない。

また思わぬところで足止めを食う羽目になった。



111:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:14:26.83 ID:EAF0Yir90



第4話


8月31日 AM8:00


「ハァ…あと2日か…長いようで短かったな俺の人生…」


「あのさ亨、アンタ今日非番だっけ?」


「上司にいきなり3日間の謹慎を言い渡された。
まったく冗談じゃないっての、こっちは文字通り命懸けだってのによ…」


翌日、カイトはマンションで同棲している恋人の悦子にそんな愚痴を零していた。

結局内村部長の言われるがままに大人しく謹慎処分を受けた特命係。

カイトは残り2日のタイムリミットをこのまま大人しく部屋で過ごさなければいけない

自らの境遇に対して焦りと不安、そして諦めの感情が入り混じっていた。


「まったく…アンタ刑事になってからまだ1年しか経ってないじゃない!
そんな事じゃ出世出来ないわよ。
あーあ、こんな甲斐性なしの男は見限ってもっと将来性のある男とくっ付こうかな。」


そんなカイトを叱咤するかのように文句を言う悦子。

しかしそれでもカイトの反応は薄い。それどころか…


「いいんじゃねえの…俺たぶんあと2日で死ぬかもしれないし…」


「ちょっと!冗談だってば!本気にしないでよまったく!」

「なぁ…俺が死んで葬式やるとしても
絶対ウチのクソ親父だけは呼ばないでくれよ。
来たら俺絶対あの親父を呪うかもしれないから…」


何を馬鹿げたことをと嘲笑う悦子。

だがカイトの言葉には現実味があった。今の自分なら人を呪うことが出来る。

それはなにか確信的な思いがあった。



112:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:15:26.08 ID:EAF0Yir90



「ねえ…本当にふざけるのやめなさいよ!
亨…たぶん謹慎とか言われてふて腐れているだけなのよ。
外に出れないならTVでも観ようか。
昨日新作のDVDレンタルしてきたからさ気分転換に観ようよ!」


「TVねぇ…」


悦子の勧められるままにTVを観ようとしたカイトだがその時…

昨日、精神病院に倉橋雅美を尋ねた際に言われたあの言葉が頭を過った。


『TVの画面から髪の長い女が出てきて自分を殺しに来る。』


「ダメだ!TVを付けるな!?」


「ちょっと…亨…何してんのよ!?」


気が付けばカイトはガムテープを取り出しTVのモニターをグルグルに巻いていた。

自分でも異質に思えるこの行動。

それを見てようやくわかった。あの吉野の部屋で起きた出来事が…

吉野の部屋ではTVのモニターがガムテープでグルグル巻きにされていた。

つまり今のカイトと同じだ。吉野はTVから抜け出ようとする貞子を必死に止めようとした。


「そうか…だから吉野さんは…あんな行動をしたのか…」


ようやく吉野の異常とも思える行動が理解出来たカイト。

だがその一方で事情を知らない悦子はそんなカイトを心配そうな目で見つめていた。


「あのさ亨…アンタおかしいわよ!一体何があったのか話しなさいよ!」


「うるさい!もう俺の事は放っておいてくれよ!」


「…」


「怒鳴ってゴメン…けど俺…本当に余裕無いんだ…」


「わかった、私もう仕事に行くね。」


悦子に八つ当たりのように怒鳴り散らすカイト。

そんな自分の行いに自己嫌悪に陥った。

悦子は何も悪くない。悪いのは自分だ。

カイトは悦子に八つ当たりなんてする気はなかった。

しかし死への焦りが彼を徐々に追いつめていた。

リビングのソファーに寝っ転がり先ほどの悦子への八つ当たりを後悔した。



113:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:17:08.98 ID:EAF0Yir90



「どうしたらいいんだ…?」


最早どうすることも出来ない。

このままなら自分はビデオの呪いで死ぬだけ。

あのビデオの呪いは本物だ。それは自分も認めている。

それならどうしたらいい?ビデオの呪いを解決させる手段は…


「複製して誰かに…見せるしかないか…」


既に答えは出ている。

右京はその答えを否定しているがそれでも早津はこの方法を使って助かった。

それならば…

思い立ったカイトは紙と鉛筆を用意して絵を描こうとした。

それは先日、早津が偶然にも自分たちに行った方法だ。

呪いの絵を描いてそれを他人に見せて貞子の呪いを解く。

だが…呪いを解くにしても誰に見せるべきか…

見せた相手は呪いが降りかかるはず。それをわかっていながら見ようとする者はいない。

しかしそのことを伝えなければどうだろうか?それなら相手に見せても問題はない。

こうして呪いの解き方を自分の解釈で次々と解決していくカイト。

その様はまるで悪魔がとり憑いたかのように冴えていた。

それでは最後の問題だ。


「これを誰に見せたらいい…?」


問題は死ぬ相手を選ばなければならない。

この絵を見た人間には死んでもらう必要がある。

何故ならこんな厄介な呪いを他に撒き散らせるわけにはいかない。

だからこの呪いは小規模な犠牲で済ます必要がある。

そしてその小規模な犠牲は誰が好ましいか?

恋人の悦子?相棒の右京?それとも仲の悪い父親?どれも論外だ。

そうなれば死なすべき相手はいない。いや、そんなことはない。

この確実に死に至らしめることが出来る行いを有効に活用する方法があるとしたら…

そしてこの方法を本来用いるべき者がいるとしたらそれはまさしく…



114:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:18:52.78 ID:EAF0Yir90



「犯罪者たちだ。」


そう、犯罪者だ。

法で裁けず警察すら逮捕をこまねく犯罪者たちにこの方法を活用したらどうだろうか。

そうすれば彼らに制裁を与えることが出来る。

そのことを思いつくと同時にカイトの脳裏にある出来事が呼び起こされた。

それは親友の梶祐一郎の妹が殺された事件だ。

容疑者はすぐ逮捕された。だがその容疑者は薬物による心神喪失で不起訴処分となった。

そのことを不満に思った梶は妹への復讐に殺意を燃やすが

それを見かねたカイトはその容疑者に暴力という制裁を下してみせた。

そしてもうひとつ、カイトにはある秘密があった。

今朝の朝刊の事件欄を読むとある記事に注目した。


『繁華街で元暴力団員が暴行される!犯人は未だ不明!?』


それは昨日角田が捜査していた事件内容だ。

実は26日の夜、カイトはある瞬間に出くわした。

この元暴力団員が危険ドラッグを売り捌く光景だ。

それを目撃したカイトはある衝動に駆られてしまった。

目の前で早津の命を救えなかった無力感。そして法の目を掻い潜る犯罪者たち。

気づいた時には血まみれになったチンピラが横たわっていた。

昨日の話からして警察はチンピラ同士の仲違いによるものだと捜査しているから

決して自分に捜査の目を向けることはないだろう。

だからこの事実はあの右京にすら告げていない。自分だけの秘密だ。

もしもこの方法が成功するのなら自分は助かる。

いや、それだけじゃない。

もしかしたら犯罪被害にあっている人々の救済にも繋がるはずだ。

それを思えば自分のやっていることは善であるとそう思えた。



115:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:22:58.43 ID:EAF0Yir90



「何をしているのですか?」


そんな時、ふと誰かが背後から自分に声をかけてきた。

それは恋人の悦子ではない。それに不仲の父親でもない。

カイトは恐る恐るうしろを見た。するとそこにいたのは…


「どうも、おはようございます。」


「何で杉下さんがウチに居るんですか?」


「先ほどマンションのエントランスで悦子さんにお会いしましてね。
キミのことをどうかよろしくと言って部屋に立ち入ることを許可してくれました。」


どうやらこの部屋に右京を招いたのは悦子のようだ。

恐らく今の自分を心配しての配慮なのだろうが…

しかしこれは見られたくなかった。

この人に自分の醜い部分を晒したくはない。

そう思い描き上げようとした絵をすべて黒く塗り潰してしまった。



116:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:23:39.84 ID:EAF0Yir90



「何か…言わないんですか…」


「何を言えというのですか。」


「そりゃ…勿論…」


「絵を描いたことは咎めません。
いくら警察官といえど所詮は人間です。弱さを否定することなど僕にはできません。」


カイトの行動を弱さと語る右京。

どうやら右京は自分が絵を描いて死を回避することまでしか推理していないようだ。

さすがに自分の行いまでは知られてはいないとホッと安堵するのだが…

そんなカイトに対して右京はある質問をした。

それはカイトの行く末を決める大事な選択だった。


「カイトくん、僕はキミに強制はしません…が選んでください。
このまま残り2日間を部屋の中で大人しく謹慎するか…
それとも僕と一緒に捜査を行い、
呪いのビデオと山村貞子の謎を解き明かして生き残る方法を探索するか。
まあどちらを選んでも僕はキミの選択にとやかく言う気はありませんがね…」


まだ貞子の捜査を諦めていない右京。

その姿勢は警察官として正しいモノだろう。

だがそれと同時に自らの行いに激しい嫌悪感が募った。自分は何をしていたのかと?

だから思わずこんな質問をしてしまった。



117:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:24:08.09 ID:EAF0Yir90



「そ…その前にひとつだけ質問させてください。
何で俺なんかと…杉下さんの頭脳なら…
俺なんかいなくたって一人でどうにでもなるじゃないですか!」


カイトは当然の質問をしてみせた。

自分は昨日内村部長に自宅謹慎を言い渡されてからずっと怯えていた。

『残り2日間を大人しく家の中で過ごせ!』というのは…

今のカイトにしてみれば事実上の死刑宣告同然であった。

それにも関わらず自身と同じ境遇である右京は毅然と振る舞い今も堂々とした態度でいる。

それなのに何故自分が必要とされるのか?カイトにはそこがわからなかった。


「キミ、僕が山村貞子の『呪い』を恐れていないと本気で思っていますか?」


そう言うと右京は自分の手の震えを見せた。

カイトは初めて右京の弱い姿を見てしまった。

いつもは敢然と犯罪者の罪を暴く右京が他人に弱みを見せたのは

以前、特命係に在籍していた亀山薫、神戸尊にすら見せなかったはずだからだ。


「恐いのはキミだけではありません。
所詮僕もただの人間ですよ。
死が迫ってしまえばどんなに取り繕っても動揺を隠せませんからねぇ。
だから頼りになる相棒に傍にいてほしいと思っています。」


頼りになる相棒に傍にいてほしい。

そんな右京の頼みを聞いてカイトはほんの少しばかり嬉しかった。

何故なら自分はこの杉下右京に頼られている。

それを思えばなによりも誇らしく思えたからだ。

右京の本音を聞いたカイトにもう迷いは無かった。

そしてカイトは先ほど右京が問いかけた選択の答えを伝えた。


「しょうがないっすね。俺も杉下さんと一緒に捜査しますよ。
俺だって警察官です。山村貞子を野放しにするわけにはいきませんからね!」


「そうですか、ありがとう。
さっそく事件についてですが昨日の内村部長の話で色々と新事実が判明しましたね。」


そんなカイトの決断を軽く受け流す右京。

もう少しリアクションがほしいと呟くカイトだが…



118:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:24:47.65 ID:EAF0Yir90



「注目すべき点は内村部長がスピーカー越しで聞いたあの言葉です。」


「それって確か…
『的中!』…『的中!』って言葉の事ですか。
確かにおかしいですよね。これって何なんでしょうかね?」


「えぇ、気になって調べてみたんですよ。そしたらこんなモノが出てきました。」


そう言うと右京はある一枚の紙をカイトに見せた。

それは帝都新聞社の一枚の新聞記事であるが日付を見てみると1956年となっていた。

記事には一面でデカデカと右京たちが気になる文が掲載されていた。

その文とは…


―インチキ超能力者、実験中に人を殺す!?―


という見出しが載っていた。

記事の内容は二人が南箱根療養所で出会った伊熊平八郎が

山村貞子の母、志津子による超能力の公開実験についての記載であった。

その記事によると山村志津子は千里眼による超能力で様々な実験を衆目の前で

成功させるがある一人の記者が『インチキ!』と疑いの声を掛けた。

その言葉にショックを受ける志津子だが次の瞬間…その記者は急に苦しみ出して倒れた。

死因は急性心不全。

一応捜査は行われたが事件性は無いということで

志津子は逮捕されずに事故死として片付けられた出来事との記載だった。


「杉下さん…この記事って…」


「帝都新聞が57年前に発行した新聞です。
まぁこれは当時の記事をコピーした物ですが…
気になるのはこの文面です。ここを読んでください。」


その記事には以下のようなことが記されていた。

『実験にはサイコロを使いどんな目になるのかを当てるかを行う内容であった。』

サイコロ、確かビデオの絵にそれがあったはず。

つまりサイコロの絵は志津子の公開実験だった可能性が高いわけだ。



119:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:25:17.08 ID:EAF0Yir90



「それにしてもこの記事の内容酷過ぎですよね。
山村志津子に対する批判や中傷が酷過ぎますよ。
そりゃ死人が出たからしょうがないにしてもちょっと一方的じゃないですか?」


「おや、キミもそう思いましたか。
僕もそこに違和感があって、そのことについてこれから調べようと思うんですよ。」


「調べるたってどうすんですか?
この記事が書かれたのはもう57年も昔の事なんですよ。
書いた記者はとっくに死んでいるか…生きていたとしても定年になってますから。」


既に57年前の事件だ。

今の帝都新聞に当時の関係者などいるはずもない。

それに自分たちにはその伝手もないと思えたのだが…


「実は…帝都新聞には一人友人がいましてね。
まぁ現在は既に帝都新聞を辞めてフリーのジャーナリストですが…
これからお話を伺いに行きますよ。」


「帝都新聞に友人ねぇ、随分と都合がいいですね。」

「それとこれから行く場所は
キミも強ち無関係というわけじゃありませんよ。
ある意味、キミの先輩に当る人もいますから…」


こうして二人は右京の言う帝都新聞の友人に会いに車で向かう事になった。

しかし…そんな右京とカイトを尾行する一台の車が後ろにいた。


―「行ったか。」


―「ヤツら何処に向かう気だ?」


―「着いたようですよ、けどこのマンションは…」


―「間違いない、このマンションは…かつて杉下右京の相棒だった亀山薫のマンションだ!」



120:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:26:02.01 ID:EAF0Yir90



8月31日 AM10:00


「亀山くん、それに美和子さん、お久しぶりですね。お元気そうでなによりです。」


「そういう右京さんこそ、お変わりないようですね!」


「すみません…サルウィンに行ってから音沙汰無しにしてしまって…」


「あの…杉下さん…こちらの方々は?」


「おやおや、僕としたことが…紹介しましょう。
こちらは亀山薫くん、以前特命係で僕と一緒に働いてくれていた人です。
現在はサルウィンという国にボランティア活動をなさっています。
それとこちらは美和子さん、亀山くんの奥さんです。
彼女は以前帝都新聞社に勤めていましたが。」


なんと右京がカイトを伴ってやってきたのはかつての相棒である亀山薫のマンションだ。

現在はサルウィンでボランティア活動に励む亀山夫妻だが

どうやら所用のため日本に一時帰国したようだ。


「あぁ…なるほど、この人が俺の先輩…どうも、特命係の甲斐と言います。」


「あら!イケメンくんだ!」


「それじゃキミは俺の後輩になるわけか。
さあ、どうぞどうぞ!三人とも上がって、上がって!」


こうして亀山夫妻によって部屋へと招かれる右京たち。


「ささっ!亀山家特製のコーヒーですよ、どうぞお飲みください。」


居間に通された右京とカイトはテーブルに亀山が用意したコーヒーを飲んでみた。

普段は紅茶やコーラを飲む二人だがその味は…



121:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:26:39.42 ID:EAF0Yir90



「……頂きます。おや…これは…」


「いい豆使ってますね!どうしたんですかこれ?」


「でしょ!実はこれサルウィンで採れた豆なんですよ♪」


「薫ちゃんたら商才があったらしくあっちでコーヒーの豆を栽培して
この商売が軌道に乗っちゃって大成功しちゃったんですよ。」

「まあボランティアの海外援助だけに頼っているわけにはいかないですからね。
自分たちで何か出来るこがあればと思って始めたわけですけど…」


「悪いことではないと思いますよ。
それで現地の方々の生活が向上なされているなら
キミは自分がやっていることを誇るべきだと僕は思います。」


サルウィンでの活動を右京に伝えると同時にそのことを認められる亀山。

かつて一方的な都合で警察官を辞めてしまったが…

それでもかつての相棒に今の活動を認められることは嬉しいことだった。


「右京さん…あざーっす!
それで…キミが今の右京さんの相棒なんだっけ。え~と甲斐くん?」


「はい、そうです。
あ!俺のことはカイトって呼んでください。甲斐亨なんでカイト、覚えやすいでしょ。」


「はぁ~!特命係にこんな若いイケメンくんがやってくるなんて…
しかもこの子、右京さんから指名もらって特命係に来たそうよ。
捜査一課でヘマやらかして飛ばされた薫ちゃんとは大違い!」


「うるさいよお前!
言ってる事が親戚のおばちゃんみたいだぞ!
大体なぁ…指名って何だよ!?キャバクラじゃあるまいし…」


「誰がおばちゃんかね!?これでもまだお姉さんです!」


「愉快な人たちですね。」


「えぇ、彼らを見ていると飽きる気がしません。
ちなみにですが角田課長がいつも特命係に置いてあるコーヒーを飲みに来るのは
亀山くんがコーヒーを飲んでいたからですよ。」


「あぁ、なるほど…ってこんなこと聞きに来たわけじゃないでしょ!?」


積もる話もようやく終わり、右京はいよいよ本題に移った。

実は今回、話しを聞きに来たのは亀山の妻である美和子にあった。

日本に居た頃、美和子は帝都新聞の記者を勤めていた。

そのため帝都新聞について詳しい事情を知っているはずだと思いあることを尋ねた。



122:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:27:26.97 ID:EAF0Yir90



「正直…キミたちを巻き込みたくはないのですが…
僕たちも余裕が無くて…この記事を見てほしいのですが…」


「何だこりゃ?超能力?」


「この記事…帝都新聞のモノだけど…57年も前の記事ですね。」


「以前帝都新聞にお勤めになっていた美和子さんなら
この記事に関する詳しいお話をご存知ではないかと思いましてね。」


そのことを告げられて少々気まずい雰囲気になる美和子。

恐らく美和子はこの件に関して何か思うことがあるようだ。

それから意を決したようでそれを踏まえてあることを話し始めた。



123:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:28:05.62 ID:EAF0Yir90



「…けど…うん…まあもういいか。
私も帝都新聞辞めちゃったわけだし右京さんたちに話しても問題ないでしょう。」


「その言動から察するに何か曰くつきの話のようですが…」


「ハイ、私も帝都新聞に勤めていた頃…年配の先輩から聞いた話なんですけどね。
この話…現在でも社内じゃタブーにされている話でして…
その記事に載っている死んだ記者ってのがウチの…帝都新聞の記者なんですよ。」


「帝都新聞の記者?なるほど、仲間の記者が殺された。
だから山村志津子のことをこんなボロクソに叩いた内容を書いたわけですね!」


「いいえ、それだけじゃないの。この記事を書いた人は…死んだ記者の婚約者なのよ。」


「婚約者?つまり亡くなった記者の方とは恋仲だったわけですか。」


話は今から57年も前に遡る。

この記事を書いたのは『宮地彰子』という女記者はある人物を追っていた。

それは彼女の婚約者を殺した人間だ。

当時、警察は彼女の婚約者の死因を事故死と判断して捜査は行われなかった。

だが彼女は婚約者の死は殺人だと周りに言い続けた。

しかしそんな彼女の発言を新聞社の人間は誰も信じようとはしなかった。

そのため彼女は一人でその人物を追っていた。


「けど宮地さんもかなり違法スレスレでその人物を追っていたらしいです。
警察の調書を見たり実験の録音されたテープを手に入れたり…
他の新聞社がその事件を事故の見出しで出したのに
ウチだけ『山村志津子が人を殺した!』なんて
内容を書いたものだから当時のお偉いさんは怒り心頭だったそうですよ。」


「そりゃそうですよね。
一応病死なのに殺人の見出しになんてしたら嘘の記事書いたことになっちゃうし…」


「なるほど、山村志津子の公開実験を調べていたわけですか…
それで宮地彰子さんは現在どうなさっているのですか?
是非ともお会いして彼女からもお話を伺いたいのですがねぇ。」


美和子に現在の宮地彰子の消息を尋ねる右京。

だがそれは不可能だった。何故なら彼女は45年前に失踪したらしい。

45年前、彼女は同僚の記者に事件の真相を暴くと言ったきり帰ってくることはなかった。

そしてこれが帝都新聞において彼女の存在がタブーとして扱われている問題でもあった。



124:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2018/03/21(水) 07:29:25.29 ID:EAF0Yir90



「彼女が失踪する直前、ヤクザから拳銃を購入していたと同僚記者が証言していました。
その理由は恐らく婚約者を殺した相手に復讐するため。
だから帝都新聞では未だに彼女の存在がタブーとして扱われているんです。」


「誰かを殺そうとしたってまさか…」


「それで美和子さん、彼女は何処に行くのか行先を言ってはいなかったのですか?」


「ええ、一応言ってたいたそうですよ。ただ…」


「ただ…どうなされましたか?」


「その行先なんですけど…確か劇団だと言ってたそうですよ、名前が…」


その劇団の名前は飛翔だった。

つまりこういうことだ。

45年前、宮地彰子は貞子を殺害しようとした。

ヤクザから購入した拳銃はそのために使用したのだろう。

だが彼女の消息は今も途絶えたままだ。それどころか劇団飛翔の人間も…


「やはり彼女も劇団飛翔のメンバーと一緒に…」


「間違いないでしょうね。
宮地彰子と飛翔の劇団員は何らかの事件に巻き込まれてしまい…
恐らく全員亡くなられたのだと思われます。」


失踪した宮地彰子と飛翔の劇団員たちが今も生きているという可能性は低い。

恐らく45年前に死亡したとみて間違いないはず。

それが誰の手によって行われたのかは一目瞭然だ。



【相棒】杉下右京「呪いのビデオ?」修正版【後半】
元スレ
右京「呪いのビデオ?」修正版
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1521559264/
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