わがしかし ③
わがしかし
わがしかし ②
ヨウ「…なん…だと…?」
ココノツ(…………?)
ココノツ「えっと、ちょっとコンビニ行ってくるね」
ヨウ「なん…だとぅ…!?」
ココノツ「……?」
ココノツ「コンビニ行って…」
ヨウ「なん……だとっ……!?」
ココノツ「…店番頼むね」
ヨウ「もう!ココノツのいけずゥ…!」
ヨウ「何だもなにもないよ…」
ヨウ「終わるんだよ…っ…ついに!」
ココノツ「えっ…」
ヨウ「…クソぅ…せっかくここまでやってきたってのに…」
ヨウ「こんなのってありかよ…!」
ココノツ「え、ちょっと待って…」
ココノツ「終わるって…えっ、まさか…」
ココノツ(こんな…急に…?)
ヨウ「クソッ…こんなことになるなら…」
ココノツ「父さん…本当に終わるの…?」
ヨウ「…あぁ、終わる…」
ココノツ「…………!」
ヨウ「今年度いっぱいで…」
ヨウ「TBSラジオのエキサイトベースボールが…終わっちゃうだよォ!!!」
ココノツ「………え?」
ココノツ「ったくあのクソ親父…紛らわしいことを…」
ココノツ「てっきり今度こそ本当に店が閉店になるのかと…」
「あら、ココノツくんじゃない」
ココノツ「あれ、ほたるさん」
ほたる「こんなところで会うなんて奇遇ね」
ココノツ「そ、そうですね」
ココノツ「ええ、ちょっとコンビニで買い物でもと…」
ほたる「ふゥん…」
ココノツ「えっと、ほたるさんは…?」
ほたる「ん?ココノツくんに会うためにここで待ち伏せしていたところよ」
ココノツ「え……?」
ココノツ(いや、さっき「奇遇ね」って言ってたじゃ…って、そんなことはどうでもいい)
ココノツ(僕に会うために待ち伏せ…?一体何のために…?)
ほたる「…………」
ココノツ「…………」ドキン
『何だろう…この空気…』
『この感じ…前にもあったな』
『あのときは、確か夏の終わりで…』
『夏の終わりと一緒に…ほたるさんが…』
ココノツ「…え、あ…はい」
ココノツ「えっと…不吉って言われてる赤い花…ですよね」
ココノツ「確か…秋頃に咲く」
ほたる「うん、大体合ってるわね」
ほたる「でも、だいぶ間違っているわ」
ココノツ「え…?」
ほたる「墓場に植えられているのは、その毒性で野生の動物を寄せ付けさせないため…という理由があるわ」
ほたる「お供えものや遺骨を荒らされないために…ね」
ココノツ「へ、へぇ…」
ほたる「そして、彼岸花の花言葉は…」
ほたる「“あなたを想う”…そして…」
ほたる「…“また会う日まで”…」
ココノツ「…えぇ、まあ…」
ほたる「…ま、今は3月だから、彼岸花の季節ではないのだけれど」
ココノツ「…………」
ほたる「…ねえココノツくん、いつも側にあったものが、ある日突然消えてしまったって経験…ない?」
ココノツ「…あります」
『…ずっと、頭の片隅では予感していたんだ…』
『いつか、楽しい時間も終わりが来るんじゃないか…って』
『…でも、考えないようにしていたんだ』
『だって…僕は…』
『……………』
ほたる「ココノツくん、ココノツくん」
ココノツ「……っへ!?な、なんですか…?」
ほたる「いや、だからね…」
ほたる「ちょっと行きたいところがあるから、付き合ってくれないかって」
ほたる「うーん、やっぱりここは落ち着くわねぇ」
ほたる「あら…ヨウさんは?」
ココノツ「え、店番頼んだはずなんですけど…」
ココノツ「…あのクソ親父、また店ほっぽらかして…」
ほたる「そう…ええっと、どこにしまったかしら」ガサゴソ
ココノツ「ほ、ほたるさん…?」
ほたる「…あ、あった!」
ココノツ「あ、彼岸花…」
ほたる「ふふ、造花だけどね」
ほたる「今日は、これをシカダ駄菓子に届けにきたのよ」
ココノツ「え…」
ほたる「やっぱり、お別れにはこの花かなと思ってね」
ココノツ「………!」
ほたる「これ、しばらくお店で飾ってくれないかしら?」
ほたる「また会う日まで…っと」
ほたる「それじゃ、今日はもう帰るわ」
ほたる「さようなら」
『…言え、言うんだ…』
『今度こそ、ほたるさんは本当にいなくなるつもりなのかもしれない…』
『いなくなってからじゃ…会えなくなってからじゃ…』
『もう…遅いんだ…!』
ほたる「え?」
ココノツ「いなくなるのは…もう会えなくなるのは嫌です!」
ココノツ「たとえそれが仕方のないことだとしても、僕は嫌です…!」
ココノツ「ずっと…ここにいてほしいんです!」
ほたる「…………」
『たとえ、それが必然だったとしても…』
『やっぱり、いなくなってから後悔したくない…』
『大切なものは、いつだって…』
ココノツ「…………」
ほたる「あなたは、やっぱり私が見込んだ通りの人だわ」
ココノツ「え…」
ほたる「そうよね、ココノツくんだって…嫌よね」
ほたる「ココノツくんだって…」
ほたる「梅ジャムが消えるなんて…絶対に嫌よね…」
ココノツ「……はい」
ココノツ「……はい?」
ココノツ「…ん、んん…?」
ほたる「ココノツくんも知ってるでしょうけど」
ほたる「梅ジャムは“梅の花本舗”の社長である高林博文社長が一人でレシピを考え…」
ほたる「製造、販売に至るまでの全てを、70年間たった一人で行ってきた、伝説の駄菓子よ」
ほたる「その社長が、つい先日体調の不良を理由に勇退…その歴史に幕を閉じたわ」
ほたる「以前からレシピの引き継ぎは一切しないって話していたから、いつかこんな日が来るんじゃないかって思っていたけれど…」
ほたる「やっぱり、いざなくなってしまうと…寂しいわね」
ほたる「そういうわけで、梅ジャムを偲んでこれ(彼岸花)を置きに来たわけなのだけれど…って、ココノツくん?」
ココノツ「……へ?……」
ほたる「なんだか、言葉では言い表しにくい表情をしているわね…」
ココノツ「…え、えーっと…」
ほたる「…もしかして」
ほたる「違うこと想像してた?」
ココノツ「………!」ドキッ
ほたる「……ふふっ、まあいいわ」
スッ
ココノツ「あ、梅ジャム…」
ほたる「もう殆ど出回ってないから、探すのに苦労したわ」
ほたる「また、いつか会えるといいのだけれど」
ココノツ「…そうですね」
ほたる「それじゃあ、今度こそお暇するわ」
ほたる「またね」
ココノツ「…はい、また」
「おい~っす」
ココノツ「あ…サヤちゃん」
サヤ「あれ、ヨウさんは?」
ココノツ「ああ、どこかでプラプラしてると思うけど…」
サヤ「ふ~ん、大変だねぇ。店長代理も」
サヤ「…あっ、彼岸花だ」
ココノツ「ああ、それはさっきほたるさんが…」
サヤ「ほたるちゃん?」
サヤ「いや、会ってないけど…」
ココノツ「あれ、そっか…」
ココノツ「そういえば、サヤちゃんも何かご用?」
サヤ「あぁ、そうだった」
サヤ「はいこれ、おすそ分け」
サヤ「うん、ばーちゃんが持ってきたんだけど、数が多いからさ」
ココノツ「そ、そっか。わざわざありがとう」
サヤ「いえいえ、どういたしまして」
サヤ「まったく、ばーちゃんお彼岸になる度に気合入れて作るのはいいんだけど…」
サヤ「毎度毎度、作りすぎなんだよねぇ」
ココノツ「え、お彼岸?」
サヤ「ん?ああ、それは秋分のお彼岸だね」
サヤ「今は春分のお彼岸」
ココノツ「へ、へ~…」
ココノツ「お彼岸っててっきり、秋だけなのかと思ってた」
サヤ「あー、まあ確かに秋のイメージ強いよね」
ココノツ「そっか、春分…」
ココノツ「…なんで秋と春で二回あるんだろう?」
サヤ「この時期は向こうの世界(彼岸)とこっちの世界(此岸)が繋がりやすくなるから」
サヤ「ご先祖様のお墓まいりをしたり、こうやっておはぎを作ってお供えするみたいだよ」
ココノツ「そ、そうなんだ…」
ココノツ「サヤちゃん、随分詳しいね」
サヤ「えへへ、ばーちゃんからの受け売りだけどね」
サヤ「ちっちゃい頃から毎年聞かせれてるから、いい加減耳タコだよ」
ココノツ「そっか…」
ココノツ「これ、サヤちゃんにあげるね」
サヤ「ん?梅ジャム…?」
ココノツ「それ、もう廃盤だからなかなか手に入らないんだよ」
サヤ「へ~、そうなんだ」
サヤ「でも、そんな貴重なもの貰っちゃっていいの?」
ココノツ「ほたるさんがくれたんだけど、僕はちっちゃい頃から散々食べてるしね」
ココノツ「どうせなら、食べたことないサヤちゃんにと思って」
サヤ「そっか、じゃあ貰っとく」
サヤ「せっかくだから、コーヒーでも淹れる?」
ココノツ「うん、お願い」
ココノツ「ねえ、サヤちゃん」
サヤ「ん?」
ココノツ「えっと…」
ココノツ「いつも、ありがとう」
サヤ「…な、なんだよ急にぃ~」
サヤ「そういうの照れるからいいって」
ココノツ「…………」
ココノツ(また会う日まで…か…)
梅干しの果肉部分である梅肉を用いたジャム風食品。甘くて酸っぱいその味に虜になった子どもは数知れない。せんべいにかけて食べると絶品。
販売元である梅の花本舗は昭和20年ごろから続く老舗だが、なんと創業当初から従業員は社長の高林博文氏ただ一人。
たった一人で70年間近くその味を守り続け、駄菓子文化に多大な貢献をしてきた。
2017年12月に体調不良を理由に勇退。惜しまれつつもその歴史に幕を下ろした。
餅米とうるち米を混ぜたものにあんこをまぶした和菓子。
古来から来客の際のもてなしや子供のおやつ、また法要の際などに供された伝統的なお菓子。
その発祥時期について詳しくは判明していないが、江戸時代の書物におはぎに関する記述があったことからも、少なくとも200年以上の歴史はあると推測される。
季節によって名称が“おはぎ”だったり“ぼたもち”だったりとややこしい。
理由として春であれば「牡丹」、秋であれば「萩の花」が咲くことから、これらの名称が使われているという説があるが、一年中おはぎの名称で売っているお店もある。
お墓に供えられるのは、古来より小豆には魔を滅する力があると信じられていたから…だとか。
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コメント一覧 (8)
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- 2018年03月18日 01:42
- 良い
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- 2018年03月18日 07:04
- 原作でありそう
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- 2018年03月18日 10:06
- やっぱりほたるさんはあの世の人……
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- 2018年03月18日 10:39
- このシリーズほんとすき
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- 2018年03月18日 10:42
- 70年も一人で作ってたってすげえな
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- 2018年03月18日 16:14
- 途中から梅ジャムかなと思ったら梅ジャムだった
ニュースで見かけたが食べたことはなかった
一度食べておけばよかったな
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- 2018年03月18日 23:50
- 梅ジャム食べたことないんだよな
どんな味がするんだろ
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- 2018年03月22日 00:55
- このシリーズほんとすこ