【モバマス】椎名法子「バレンタインとドーナツと」
地の文。短いです。数レスで終わります。
日付を戻して朝、彼女は大きなリュックサックを背負って出かけた。
なにしろ手提げカバン程度では到底納まらないのだ。
その日街では紙袋いっぱいのチョコレートを持った少女がよく見られたが、彼女のそれはドーナツであった。
人の笑顔を見るのが好きだった。
生来のドーナツ好きも相まって、このバレンタインが訪れるのを指折り数える姿があるほどだった。
そんなことだから、前日には友人の顔を思い浮かべてはドーナツをひとつ作ったし、思い浮かばなくなってからも随分と作った。
余る分には自分で食べてしまえば良いとの思いもあったが、それ以上に不足分が出てしまうのが嫌だったのだ。
周囲は一日笑顔と感謝の言葉に溢れていて大満足の面持ちで帰路についた法子であったが、胸中には僅かな心残りがあった。
その日は急な仕事によって彼女のプロデューサーは事務所を訪れなかった。
そのため彼にだけドーナツを渡すことが出来なかったのである。
家に帰ってからもなぜだかそればかりが妙に気になって、そうしてなかなかに寝つけぬまま夜が明けようとしていた。
まだ十三歳の少女はその感情に十分な名前を与えることができなかった。
それを想うほどに体が熱を持つのを感じた。
悲しいとも寂しいとも違っていて、胸はくるしいはずなのに嫌ではないのがただ不思議だった。
法子がそれを恋だと気づくには、まだいましばらくの距離があった。
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コメント一覧 (2)
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- 2018年02月15日 17:43
- この後、滅茶滅茶自分で自分を慰めた
ここにドーナッツを乗せるともっと素敵にならない?