【モバマスSS】美穂「このクッキーを、あなたに」
一年に一度の、女の子にとって特別な日。
わたしのカバンの中にも、昨日藍子ちゃんと一緒に手作りしたクッキーが入っています。
なのですが……。
※モバマスSSです。
[ビタースイート・タイム]小日向美穂ちゃんのお話。
P「お疲れ、美穂。しかし今日はどうしたんだ、そんなに急いで?」
美穂「今日はレッスンの時間が変更になっていたのをすっかり忘れていて……!」
まさか、こんな大切な日に遅刻してしまうなんて……。
事務所についたらプロデューサーさんにプレゼント、なんて考えていたんですけど……。
P「美穂が時間を間違えるなんて珍しいな。いつもしっかりしているイメージだったんだが」
美穂「そんなことないですよ。たまにお昼寝しすぎて寝過ごしちゃうこともありますし……」
美穂「違いますよ。今日は本当に時間を間違えていて……って、そろそろ行かないと本当に間に合わなくなっちゃいます!」
P「引きとめてしまって悪かった。レッスン頑張っておいで」
美穂「ありがとうございます! それじゃあ、行ってきますね!」
P「おう。急ぐのはいいけど、人にぶつかったりして怪我しないように気を付けてくれよ?」
美穂「はい!」
お察しの通り、とてもプロデューサーさんにクッキーを渡せるような雰囲気ではありません。
雰囲気どころか、そもそも渡す時間すらなかったですし。
そんなことより、そろそろレッスンの時間が。
早くしないと、本当に遅刻しちゃいます……!
美穂「す、すいません、トレーナーさん。少し、疲れているのかも……」
レッスン中も、なんだか調子が上がりません。
時間を間違えたり、レッスンで怒られたり、今日はなんだか冴えない一日みたい。
……藍子ちゃんに手伝ってもらって作ったクッキー、ちゃんと渡せるかなぁ……。
「そんなことで大丈夫なのか? もう少ししたらライブもあるんだろう?」
美穂「はい……」
「もちろんだ。その代わり、休んだら本気でいくからな」
美穂「あ、ありがとうございます……」
今日は調子が悪い、なんて口では簡単に言えますが、ライブも近づいてきているのでお休みするわけにもいきません。
下がり気味な気持ちを切り替えるためにも、一度休憩をいただくことにしました。
ですが、結局考えることはあのクッキーのことで。
どうやってプロデューサーさんにクッキーを渡そうかな、とか、おいしいって言ってくれるかな、とか、そんなことばかり。
『プロデューサーさん、これ……、藍子ちゃんと一緒に作ったクッキーなんです!』
『毎日お世話になっていますから、そのお礼に、って』
『プロデューサーさん、いつもありがとうございます!』
いつも感じている感謝の気持ちと一緒に、渡せたらいいな、……なんて。
想像していたら、少しだけ気持ちが高まってきた気がします。
そのためにも、まずはレッスン、頑張らないと!
美穂「はい! 今日もありがとうございました!」
ようやくレッスンも終わりです。
はやくプロデューサーさんに会いたくて、事務所に向かって急いで移動します。
これからプロデューサーさんにクッキーを渡すんだって考えると、心がとてもドキドキしてしまいます。
さっきの休憩の時に、渡すときの台詞もしっかり考えたから大丈夫!
って頭の中では考えているのですが、どうしても緊張してしまって……。
でも、そろそろ事務所に到着してしまいますし、一度落ち着いて深呼吸。
すー、はー。
よし、大丈夫そうです。
それじゃあ、覚悟を決めて……。
ガチャ
美穂「プ、プロデューサーさん! 少しだけ、お時間いただいてもいいでしょうか……って、あれ?」
返事をしてくれたのはプロデューサーさんではなく藍子ちゃん。
プロデューサーさんはお仕事でしょうか?
部屋の中には見当たりません。
美穂「藍子ちゃん、ありがとう! 今は藍子ちゃんひとり?」
藍子「そうなんですよ。さっきまでプロデューサーさんもいらっしゃったんですが、ちひろさんに呼ばれて出ていかれて……」
美穂「そっかぁ……」
美穂「うん。そうなんだ……。レッスン前はドタバタしてて、終わってから渡そうかなって思ってたんだけど……。」
藍子「そうだったんですね。プロデューサーさんもそのうち戻ってくると思いますし、美穂ちゃんがよければここでお話しながら待っていますか?」
美穂「藍子ちゃん……。うん、そうだね。お言葉に甘えて、そうさせてもらおうかな」
30分、1時間……。どれくらい2人で話していたでしょうか。
藍子ちゃんと一緒だと、いつの間にか時間が経っていてびっくりしちゃいます。
ですが、いくら待ってもプロデューサーさんは戻ってこなくて。
ただ時間だけが、事務所を通り過ぎていくのでした。
ガチャ
ちひろ「お疲れ様です。……あ、藍子ちゃん。まだ事務所にいたんですね」
藍子「美穂ちゃんと2人で話していて……。ところで、プロデューサーさんは? 打ち合わせはもう終わったんですよね?」
ちひろ「プロデューサーさんでしたら、打ち合わせが終わった後すぐに車で出ていかれましたよ? 他所で撮影している子を迎えに行くみたいです」
美穂「そんなぁ……」
藍子「そうなんですね。ありがとうございます、ちひろさん」
ちひろ「いえいえ」
美穂「クッキー、明日にしようかな……」
藍子「そうですね……。確かに、ここで待っていても仕方がないかもしれません」
美穂「はぁ……」
やっぱり、今日はなんだかダメな日みたいです。
クッキー、プロデューサーさんに渡したかったな……。
どうしたのかな? と心の片隅では考えますが、それを訪ねる余裕は今のわたしにはありませんでした。
藍子「…………そうだ。ねえ、美穂ちゃん。美穂ちゃんの都合がよければ、この後お茶していきませんか?」
美穂「え……? わたしは大丈夫だけど……。どうして?」
藍子「この間、すっごくお洒落なカフェを見つけて。 美穂ちゃんにも紹介したいなって思ってたんです」
藍子ちゃんに連れてきてもらった、少しお洒落なカフェ。
お店の中も落ち着いた雰囲気ですが、外ではイルミネーションが輝いていてとっても綺麗です。
藍子「イルミネーションも素敵でしょう? それより美穂ちゃん、注文は何にしますか?」
美穂「うーん、そうだなぁ……。藍子ちゃんのおすすめはありますか? せっかくだし、それをいただこうかなって」
藍子「そうですね……。美穂ちゃん、紅茶は苦手ではありませんでしたよね?」
美穂「うん。大丈夫だよ」
藍子「このお店は紅茶にすごくこだわっているお店で、マスターさんが海外から取り寄せた色々な紅茶があって、それでですね……」
美穂「藍子ちゃん、すとっぷです! せっかくですし、おしゃべりは注文を済ませてからにしませんか?」
藍子「確かにそうですね。それじゃあ……」
そう言うと、藍子ちゃんは店員さんを呼んで注文をしてくれます。
頼んでいるのはスコーンと……、聞きなれない名前ですが、紅茶……なのでしょうか。
美穂「おいしそう……! ところで、この紅茶ってどんなお茶なんですか? 少し聞きなれない名前だったから……」
藍子「これですか? これはディンブラというお茶で、癖がなくて飲みやすい紅茶なんですよ。『ディンブラ』という名前ではあまり耳にしないかもしれないですけど、他のカフェでも『ストレートティー』と言うとこの紅茶が出てくることが多いみたいです」
美穂「それだったら、どこかで飲んだことがある味なのかも?」
藍子「そうかもしれませんね。このお店のものも、スコーンにとっても合ってすごくおいしいんですよ」
美穂「そうなんだ……。それじゃあ、早速いただいてみますね」
一口飲んでみると……。ほんとです、すっごくおいしい。
スコーンにも合っていて、とっても幸せな気持ちになります。
藍子「そうでもないですよ。このお店も、お散歩の途中で見つけて入ってみた、ってだけですし」
美穂「見つけて入ってみたってだけだとしても、綺麗なイルミネーションに、おいしい紅茶。こんな素敵なカフェを知ってるなんて、やっぱり藍子ちゃんはすごいです! 尊敬しちゃいます!」
藍子「そんなこと言われたら照れちゃいますよ。そういえば、これは未央ちゃんに教えてもらったんですけれども……」
紅茶を飲みながら、藍子ちゃんとゆったり、けれどもたくさんおしゃべりをして。
クッキーを渡せなくてへこんでいた気持ちも少しずつリセットされてきて。
……だからでしょうか。
美穂「え、ええっ?! そそそそんなことになったらどうしましょう?!」
藍子ちゃんの言葉を聞いて、こんなに驚いてしまったのは。
確かに、バレンタインデー今日を逃してしまえば、プロデューサーさんに渡すのも難しくなるかも。
でも、今更渡す勇気なんてないですし……。
それに、今から、って……。
それって、今からここにプロデューサーさんが来て下さるってこと?!
無理無理無理!! そんなの無理です!!
美穂「もちろん、渡したいですけれど……。ほ、ほんとに今から……ですか?」
藍子「美穂ちゃんが渡したい……って考えているなら、今からですよ」
そう言いながら見せてくれた藍子ちゃんのスマホの画面には、
P『藍子がそこまで言うなら、ご一緒させてもらおうかな』
P『今からそっちに行くから、少し待っててくれ』
プロデューサーさんから送られたメッセージが映し出されていました。
藍子「大丈夫ですよ、美穂ちゃん。渡すときの言葉もちゃんと考えてるんですよね?」
美穂「それはそうなんですけど、それでもやっぱり緊張しちゃいます……」
藍子「ふふっ。美穂ちゃんらしいですね。そんなに緊張するのなら、一度深呼吸してみたらどうかな?」
美穂「そ、そうですね! …………すー、はー」
藍子「どうですか? 少し落ち着きましたか?」
美穂「うん、そうかも……。ででででも、やっぱり緊張しちゃいますよぉ……」
藍子「ダメでしたか……。…………あっ」
藍子「美穂ちゃん、後ろ、後ろです」
美穂「へ? 藍子ちゃん、後ろって……。……はわっ!?」
藍子ちゃんにそう言われて振り返ってみると、そこには……。
P「美穂、お疲れ様。藍子も、誘ってくれてありがとな」
藍子「いえいえ、プロデューサーさんも、お忙しいのにありがとうございます」
美穂「プ、プロデューサーさん!?」
P「おう。驚かしてしまって悪かったな」
美穂「いえ、大丈夫です……けど……」
美穂「え、えっと……。あのあの、これ、バレンタインのプレゼントでっ……。う、受け取ってくれますか……?」
P「もちろん。これ、開けてみてもいいか?」
美穂「大丈夫です……」
P「それじゃあ……。ん、これは……、クッキーか?」
美穂「はい! 手作りなんです! 藍子ちゃんに手伝ってもらって……」
藍子「プロデューサー、私からも、はい。とは言っても、中身は美穂ちゃんと同じですけどね」
P「ありがとう。すごくうれしいよ」
プロデューサーさんに受け取ってもらえて、うれしいって言ってもらえて、それだけで今日一日の悪いことが吹き飛んでしまいそうなくらい幸せな気持ちです。
藍子ちゃんのサプライズに緊張してしまって、伝えたかった言葉は吹き飛んでしまったけれど。
それ以上に、プロデューサーさんに喜んでもらえたことがすごく嬉しくて……。
P「……いや、どうして2人からはクッキーなんだろう、って思ってな。もらう立場で失礼なのはもちろん分かっているが、どうしてもバレンタインはチョコレートのイメージがあってな」
藍子「本当に失礼ですよ、プロデューサーさん? たしかにチョコレートを贈るという方が多いですけど、クッキーもバレンタインデーの贈り物としては定番なんです」
美穂「チョコレートと同じくらい、2人の気持ちを込めてますから!」
P「それは嬉しいな。後でゆっくり頂かせてもらうよ」
そう言って、また笑ってくださるプロデューサーさん。
2人で心を込めた気持ちを、受け取ってくださいね!
美穂「プロデューサーさん! あの、すすす、座ってください! 隣に……、よかったら!」
そしてこれからも、大好きなプロデューサーさんや、大好きな藍子ちゃんと一緒に、頑張っていきたいです!
ところで……。
プロデューサーさんは気付いていないみたいですが。
わたしがチョコレートではなくクッキーを贈ったのには、もちろん理由があります。
バレンタインデーのチョコレートが大好きな人に贈る『本命』なのだとしたら。
クッキーに込められた意味。それは……。
『恋人ではなく、友達でいたい』
もしもプロデューサーさんが意味を分かっていなかったとしても、です。
でも、わたしがトップアイドルになるためには、あなたと恋人になるわけにはいかないから。
それまでは、『恋人』ではなく『友達』のままでいたい。
そうでないといけないんです。
いつの日かわたしが一番上まで登ることができた、その時には……
クッキーじゃなくて、
大好きの気持ちをたくさん込めたチョコレートを。
あなたに。
いつか来るその日まで、待っていてくださいね。プロデューサーさん。
最後までお読みいただきありがとうございました。
クッキーもいいですけど、モバマスでのデコポンとホワイトチョコの手作りカップケーキもおいしそうですよね。
「シンデレラガールズ」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (8)
-
- 2018年02月14日 14:34
- モバP「これはドラゴン向きの味付けだね…」
-
- 2018年02月14日 15:06
- >>バレンタインデーのチョコレートが大好きな人に贈る『本命』なのだとしたら。
クッキーに込められた意味。それは……。
『恋人ではなく、友達でいたい』
コッヒカワイイ
他の恋愛脳アイドルも見習いたまへ
-
- 2018年02月14日 15:49
- こっひ かわいい
藍子 有能
-
- 2018年02月14日 21:43
- 熊本だと中の下レベルの女がよくここまで出世したばい
-
- 2018年02月15日 00:12
- 熊本アイドルの中では美穂は敗北者じゃけぇの
-
- 2018年02月15日 00:21
- ハァ…ハァ…敗北者…?
-
- 2018年02月15日 00:28
- ※5
取り消せよ! 蘭子!
-
- 2018年03月04日 23:36
- ※4※5
なんで福岡と広島に言われてるんだ…