男「捨て猫がいるから虐待してやるとするか。オラァァァッ!!!」ドゴォッ!!!
- 2018年01月14日 12:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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捨て猫「ニャ~ン」
男「虐待してやるとするか」
捨て猫「ニャン?」
男「オラァァァァァッ!!!」
ドゴォッ!!!
バキッ!
男「ダリャッ!」
ドゴッ!
男「セイヤァァァッ!!!」
ベキィッ!
男「はぁっ、はぁっ、はぁっ……全部クリーンヒットしたぞ……」
捨て猫「……効かんな」
男「ぐ……!?」
捨て猫「そんなパンチじゃ、吾輩は到底倒せんよ。ガードするまでもない」
男「……!」
男「だったら蹴りで――」シュバッ
捨て猫「戦略も整ってないのに、安易に蹴りなど出すべきではない」ガシッ
捨て猫「蹴り足をつかまれ、転がされてしまう。簡単にな」グイッ
男「うわっ!」ドサッ
捨て猫「通称“マウントポジション”だ」
捨て猫「この状態なら上の者は下の者をどうとでも料理できるが――」
捨て猫「とりあえず、パウンドで攻めようか」
ガッ! ゴッ! ガッ! ドカッ! バキッ!
男「がっ! ぐあっ! ……うげっ!」
捨て猫「そうやってパンチを嫌がり丸まってしまうと、簡単に背後に回られてしまうぞ」ガシッ
男「はうっ!?」
男(チョークスリーパー……! 全然外れない……!)
捨て猫「さらばだ」ギュゥゥゥ…
男(ああ……父、さん……)
…………
……
男「――はっ!」ガバッ
捨て猫「目が覚めたか」
男「俺は……負けたのか」
捨て猫「ああ」
男「いや、違うな……“勝負”にすらなってなかった」
捨て猫「……」
男「なぜだ……なぜ殺してくれなかったッ!」
男「そうだよ……」
男「だから俺は≪世を捨てた猫≫といわれる最強の猫であるあんたに挑んだんだ……」
男「虐待するという形で……」
捨て猫「勝つつもりでかかってきた相手ならば、敬意を表して殺してやったかもしれんが」
捨て猫「吾輩を首を吊る縄代わりにしようとする輩に、わざわざ死を与えてやるほど優しくはない」
男「ぐっ……!」
男「あんたは自分から世を捨てたが……俺は逆だ」
男「俺は捨てられた……! あの道場から……!」
捨て猫「破門か」
男「そうだ。才能がないって……!」
捨て猫「そんなことで死を選ぶとは、あきれ果てた奴だ」
捨て猫「仮にお前の自殺がニュースになったとして、お前に同情する奴は誰もいまい」
男「ぐっ!」
捨て猫「……道場だけに」
男「うるせえよ!」
捨て猫「……」
男「……」スッ
捨て猫「どこへ行く?」
男「死に場所を……探しに」
捨て猫「待て」
男「なんだよ?」
捨て猫「強くなりたいか?」
男「!」
捨て猫「吾輩が稽古をつけてやる」
男「強くなれるのか!? 破門された俺なんかが!?」
捨て猫「そんなことは知らん。お前次第だ」
捨て猫「だが……死ぬためとはいえ、吾輩に挑んできた人間は数十年ぶりだった」
捨て猫「その命知らずさがあれば、あるいは強くなれるかもしれん」
捨て猫「やるか?」
男「やります! やらせて下さい! 俺、絶対強くなってみせます!」
男「!」
捨て猫「貴様は体が出来ておらんな。まずはダッシュだ」
男「ダッシュ!? そんなことより稽古を――」
捨て猫「ダッシュにゃ!!!」
男「!」ビクッ
男「わ、分かりました……」
捨て猫「ついてくるがいい」サッ
男「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」
捨て猫「……」
男(こんなハイペースでもう20kmは走ってるのに、全然スピードが落ちない……!)
男(この猫のスタミナはどうなってるんだ……!?)
捨て猫「どうした! まだハーフマラソンの距離も走っていないぞ!」
男「は、はいっ!」
男(結局50kmも走らされた……! 死ぬ……!)
捨て猫「休んでる暇はないぞ。次は腕立て伏せだ」
男「えっ!? 走ったばかり――」
捨て猫「強くなりたいのなら、早くやれ!」
男「は、はいっ!」
男「くっ、くっ、くっ……!」グッグッグッ…
男「はいっ!」グッグッグッ…
捨て猫「スクワット!」
男「はいっ!」グンッグンッグンッ…
捨て猫「背筋!」
男「はいっ!」グイッグイッグイッ…
捨て猫「そもそも体が硬すぎる! 柔らかくしてやる!」グイッ
男「ぎええええええっ!」バキゴキボキメキ…
男「……」ムキッ
捨て猫「だいぶ体が出来上がったな」
捨て猫「では、このミットにパンチを打ってこい!」
男「はいっ!」シュバッ
バシッ!
男(おお、いいパンチが打てた!)
捨て猫「そうではない!」
男「え!?」
男「こうですか?」
捨て猫「そうそう。そのまま肘と手首のスナップを利用して殴る! これが最強の打撃だ!」
男「バカな……こんな猫パンチで敵を倒せるわけないでしょう!?」
捨て猫「猫パンチをバカにするにゃ!」
男「!?」ビクッ
捨て猫「……コホン、さあやれ!」
男「は、はいっ!」
ベチッ! ベチッ! ベチッ!
捨て猫「そうじゃない! もっと全身を使え!」
男「こうかっ!?」
ドゴォッ!!!
捨て猫「……!」ミシ…
男「す、すごい威力が出た……!」
捨て猫「そう、これが“真・猫パンチ”だ」ニヤ…
男「師匠、こんな山奥になんの用です?」
捨て猫「貴様も少しは上達したからな。スパーリングをさせてやる」
男「おおっ、スパーリング! 誰とですか!?」
捨て猫「ヒグマだ」
男「!?」
ヒグマ「……ウス。あなたの頼みじゃ断れねえな」
捨て猫「よし、じゃあやれ」
男「やれって……ヒグマと!? 死んじゃいますよ!」
捨て猫「心配するな、死ぬ前に止めてやる」
男「いや……一撃で死んじゃったらどうすんですか! 死ぬ前もクソもないでしょ!」
捨て猫「いいから……やれっ!!!」
男「は、はいっ!」
ドカッ! ガッ! ドカッ!
ヒグマ「ウガアアアアッ!」
男「げえっ……全然効いてない!」
ヒグマ「ガァッ!」ブンッ
男「ひいいいっ!」
捨て猫「もっと積極的に攻めろ!」
男「無茶をおっしゃる!」
捨て猫「どうだった、ヒグマは」
男「どうもこうもないですよ! 強すぎです! 筋肉と毛皮の塊って感じです!」
捨て猫「そう……だからこそ、格好の練習相手になるというわけだ」ニヤ…
男「あの……」
捨て猫「ん?」
男「師匠はあのヒグマに勝ったんですか?」
捨て猫「自分より実力が下の動物に従う野生動物がいると思うか?」
男「……」ゾッ…
捨て猫「攻めろ! 爪と牙をかいくぐれ!」
男「うおおおおおっ!」
ヒグマ「ガァッ!」シュバッ
男(ギリギリでかわして――)
男「猫パンチ!」
バキィッ!
ヒグマ「うぐっ……!」ヨロッ…
捨て猫「そこまで!」
男「そちらこそ」
捨て猫「何日も特訓に付き合ってくれてありがとう」
ヒグマ「いやいや……こいつはきっといい格闘家になる。俺が保証するぜ」
男「ありがとう、ヒグマさん!」
捨て猫「さ、次へ行くぞ!」
男「次?」
捨て猫「陸の次は……海だ」
男「船で沖まで出て……どうするんです? 潜水で肺活量を鍛えるとか?」
捨て猫「お~い!」
サメ「なんだい、猫さん」ザバ…
捨て猫「こいつを鍛えてやってくれ」
サメ「あいよ!」
男「え、ちょっと待って……まだ心の準備が……」
捨て猫「さあ、行ってこい!」ドンッ
男「うわぁぁぁぁぁっ!」
ザバァンッ!
サメ「あいよ!」
サメ「シャアアアアアアッ!」グワッ
男「ひいっ! 猫パンチ! 猫パンチ!」ザブザブ
捨て猫「どうだ、水中では陸とは勝手が違うだろう!」
男「ちがいまふ!」ブクブクブク…
男「空……?」
男(空ってことは鳥か? 鳥ならそんなに怖く――)
ワシ「クワァァァァァッ!!!」バッサバッサ…
男(で、でけえ! 化け物鳥じゃねえか!)
捨て猫「すまないが、こいつを鍛え上げてやってくれ」
ワシ「了解した」ガシッ
バッサバッサ……
男「ちょっ! どこ連れてくの? 助けてぇ~!!!」
捨て猫「どうだ、陸海空で学んだ気分は?」
男「海と空は必要あったのかな、と今でも疑問に思ってますが――」
男「とても充実した気分です」
捨て猫「それでいい」
捨て猫「ではゆくぞ……これより吾輩と実戦スパーを行う」
捨て猫「それで及第点を取れたら、貴様を捨てた道場へ向かうぞ!」
男「はいっ!」
…………
格闘家「せやぁっ!」シュバッ
武術家「でやぁっ!」ブンッ
道場主「……」
道場主「……む」ピクッ
格闘家「どうしました、師範?」
「たのもうっ!!!」
捨て猫「……」ザッ
武術家「……若!」
格闘家「これはこれは若、お久しぶりです」
男「久しぶりだな、二人とも。色んな大会で優勝しまくってるそうじゃないか」
格闘家「これも全て師範のおかげですよ、若」
格闘家「それより、破門された方がいったいなんの用です?」
男「……父さん」
道場主「なんだ」
男「俺は道場破りに来た! 立ち合ってくれ!」
格闘家「はい!」
武術家「はっ」
道場主「あの青二才の相手をしてやれ」
格闘家「へへへ、俺で終わらせてみせますよ。任せて下さい」
男「……」
格闘家「若、一発で終わらないで下さいね」ニタニタ
格闘家「いくぜぇっ!」ダッ
男「……」ヒュッ
パキッ!
格闘家「え……」ドザァッ…
武術家(なんだと!? 格闘家があんな軽い一撃で……!)
道場主「……」
武術家「はあっ!」ダンッ
シュバッ! ブンッ! シュババッ!
男「……」
捨て猫(いい連続攻撃だ。さっきの奴より数段実力は上だな。しかし――)
男(ヒグマの強靭さ、サメの鋭さ、ワシの素早さ、そして師匠に比べれば……)
ドゴォッ!
武術家「ぐ、は……っ!」ガクッ
男「しょせんは人間レベルだ」
男「……お願いします」
捨て猫「……」
捨て猫(こいつ……強い。あれだけの修行をしたヤツでも、勝てるかどうか分からぬ)
捨て猫(しかし、弟子を信じぬ師匠は……おるまい!)
捨て猫「貴様なら勝てるにゃ!!!」
男「はいっ!」
道場主「……さぁ、かかってこい!」ザッ
男「本気でいきます!」
道場主「ふんっ!」
ガシィッ!
男(あっさりと受け止められた!)
男「サメ頭突き!」シュバッ
ガツンッ!
道場主「ほう……」
男(ほとんど効いてない!)
男「ワシキック!」ズバッ
バシィッ!
男(陸海空の必殺技、全て見切られた……!)
道場主(一連の攻撃……まるで野生動物と戦ってるような気分にさせられた)
道場主「セイヤァッ!!!」
ズドンッ!
男「ぐ……!」ミシミシ…
道場主「この程度では、ワシは到底倒せんぞ」
男(とっておきを出すまでもなく勝てると思ったが、甘かった! さすが父さん!)
男(だったら今こそ出すしかない!)
男「猫パンチ!」ブオッ
ズギャアッ!!!
道場主「これが最大の技か?」シュゥゥ…
道場主「ならばワシの勝ちだ!」
ドゴォッ!
男「ぐ……!?」ミシミシ…
ズガッ! ドゴッ! バキィッ! ガッ! ズギャッ!
男(重い……! これが父さんの……本気かッ!)
捨て猫(今のあやつではあれ以上の攻撃はない! ……ここまでか!)
道場主「破ッ!」
ドボォッ!
男「げぼぉ……っ!」
男(後ろ回し――!?)
バキィッ!
男(意識が……)グラッ…
男(俺は……これで終わるのか……?)
男(このまま終わったら――)
男(ヒグマさん、サメさん、ワシさん……そして師匠に顔向けできん!)ダンッ
道場主「踏みとどまっただと!?」
捨て猫「おおっ!」
男「まだだ、まだ俺は出しきっていないッ!」
男(サメのような体さばきで空気をかき分け!)ザバッ
男(ワシのようなスピードで敵に接近する!)ギュンッ
道場主「ぬ!?」
男「これがッ! 陸・海・空・猫パンチだぁぁぁぁぁっ!!!」
ドゴォォォォォンッ!!!
道場主「ぐはぁぁぁ……っ!」
道場主「ぐぅぅ……み、見事だ……」
捨て猫「貴様……敗れはしたが、一道場の主に相応しい素晴らしい戦いぶりだった」
捨て猫「しかし、解せんことが一つだけある」
捨て猫「貴様ほどの男なら息子の素質や情熱に気づかなかったはずがない」
男「え……」
捨て猫「なぜ、きちんと鍛錬してやらなかった? なぜ、破門してしまったのだ?」
道場主「決まってるだろう……」
格闘家「……」
武術家「……」
捨て猫「!?」
道場主「だからわざとあまり稽古つけずに、破門にしたのに……!」
格闘家「若、すんませんでしたっ!」
武術家「申し訳ありません!」
男「え!?」
格闘家「俺たちも若の破門には大反対だったんですけど、師範にどうしてもと頼まれて……!」
武術家「冷たくしなきゃお前らも破門、と脅されて……」
道場主「そうだよぉ! こいつらときたら、“若には才能があるから”ってうるさくてさぁ!」
道場主「才能なんか関係ねえんだよ! とにかく危ない目にあわせたくなかったんだよっ!」
男「……」
道場主「うっ!」
捨て猫「息子が可愛い気持ちは分かる。だがいい加減……子離れしろ」
道場主「……はい」
道場主「これからは息子に道場を譲り、ワシは隠居させていただく」
男「ありがとう……父さん」
男「待って下さい! もっと教えを!」
捨て猫「もう貴様に教えることはない……これからは自分で腕を磨いていけ」
男「しかし!」
捨て猫「免許皆伝にゃ!!!」
男「……!」
捨て猫「……コホン。吾輩はこの世の片隅で貴様の武名が轟くのを待っているぞ」
男「師匠……ありがとうございましたっ!!!」ガバッ
………………
…………
……
武術家「師範、門下生が揃いました」
男「……よし」
男「通常の突き100本と、猫パンチ100本……始めっ!!!」
格闘家「オスッ!」
武術家「オスッ!」
「オスッ!」 「オスッ!」 「オスッ!」 「オスッ!」 「オスッ!」 「オスッ!」
捨て猫「ニャ~ン」
今日も捨て猫として、新たな挑戦者(つわもの)を待ち続けている……。
― 終 ―
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