母ちゃん(20)「え?あなたが未来の私の子供なの…?」 俺(27)「そうだよお袋」
- 2017年12月04日 19:40
- SS、神話・民話・不思議な話
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母ちゃん「あんまりしつこいと通報しますよ…」
俺「時を越えて会いにきたんだ。平成29年から」
母ちゃん「…平成って…?」
俺「おい、どこ行くんだお袋」
母ちゃん「公衆電話です。不審者は警察に通報しなきゃ」
俺「まってくれ。だったら、俺が本当の息子だってこと証明してやる」
俺「あなたの名前はハルカ。現在20歳。血液型はA型。趣味は裁縫とガーデニング」
母ちゃん「ストーカーですか! あとガーデニングなんてしません」
俺「……そうだった。それは結婚してマイホームを買ってからか」
母ちゃん「なんなんですかあなたは」
俺「……そうだ。お袋は足の付根の内側に大きなやけどあとがあるな」
俺「子供のころに婆ちゃ…あんたの母親が誤ってこぼしてしまって大変なことになったって」
母ちゃん「え……どうしてそれを」
母ちゃん「家族しかしらないはずなのに…」
俺「息子だからだ。家族なんだよ。未来で俺たちは家族なんだ」
母ちゃん「私マンガテレビは嫌いなんです」
俺「俺の名前はタカシ!」
母ちゃん「…!」
俺「あなたがずっと、将来子供ができたらつけようとおもっている名前。女の子ならチカ」
母ちゃん「そんな…」
俺「これでも信じられないか。お袋」
俺「あんたはこのあと、ある男と出会う」
俺「大学の友達と二十歳のお祝いでバーにいくだろ」
俺「その時あんたに話しかけてくる男がいるはずだ」
俺「婆ちゃんからお袋たちの馴れ初めをちょこっと聞いただけだから、具体的にどういうシチュエーションかはしらないけど」
俺「その男と仲良くなってはいけない」
母ちゃん「確かに、このあとバーに行きます…」
俺「あぁ、旧来の友人であるミチヨおばちゃんとだ」
俺「ちなみにミチヨおばちゃんはアラサーで犬を飼い始めてから結婚をあきらめてずっと独身だ」
母ちゃん「それはどうでもいいわ」
俺「いいか! バーに行くな! 行ったとしても。話しかけてくる男と仲良くなるな!」
母ちゃん「誰なんです、その男の人は…」
俺「そいつは」
俺「俺の親父だ…」
俺「やめておくんだ」
母ちゃん「ちょっと混乱しているんだけど、もし、もしあなたが私の将来の息子なのだとしたら」
母ちゃん「どうやってここに来たの。」
俺「タイムマシンだ。未来なんだからそれくらいある」
俺「タイムマシンで時空を遡ってきた。とある目的のために」
母ちゃん「目的って…なんなの…。私に会ってなにがしたいの」
俺「…それはな」
俺「俺という存在を時空から抹消するためだ」
母ちゃん「え?」
母ちゃん「あっ」
俺「気づいたか。さすがは俺のお袋だ」
俺「そう、その男とあんたが恋仲にならなければ、俺はこの時空に産まれおちることはない」
俺「俺の存在はなかったことになるんだ」
母ちゃん「…嫌よ」
俺「死ぬわけではない、俺の存在そのものが最初から無かったことになるんだ」
俺「そこに痛みも苦しみもない」
母ちゃん「初対面だけど、いきなりそんなこと言われて不愉快な思いにないない人はいないわ」
母ちゃん「とにかく、いまは急いでるから、これ以上のお話は聞けません」
母ちゃん「…また今度」
俺「……しかたない。いきなりこんな話をして理解できるわけもないだろう」
俺「とにかく、男とは必要以上の接触をしないでほしい」
俺「あなたの息子からのお願いだ」
母ちゃん「…」プイッ
ミチヨ「ハルカこっちよ。今日は楽しみましょう」
ミチヨ「はじめてのお酒だっけ? ほんとあんたって真面目でいい子よね」
母ちゃん「……」
ミチヨ「どうしたの暗い顔して。ドンクライ」
母ちゃん「…ミチヨ。……アラサーになって犬は飼わないほうが良いわ」
ミチヨ「は?」
母ちゃん「(大体私だってちっとも信じてないし)」
ミチヨ「ハルカ~、ほら乾杯」
母ちゃん「うん……乾杯」
ミチヨ「成人おめでと~」
ミチヨ「ほら飲んで飲んで」
母ちゃん「あんまり…好きじゃないかも。それに飲み過ぎたらだめだし」
ミチヨ「あんたってお硬いよね。もっとはっちゃけたほうが人生楽しいのに」
ミチヨ「ほら~、あっちの席にイケメンいる~♪」
ミチヨ「イケてるメンズのことよ」
母ちゃん「男前ってこと?」
ミチヨ「男前…とはちょっと違うかな。まぁまぁどーでもいっしょ」
男「やぁ。さっきからこっちをみてどうしたんだい。ラブリーなお嬢ちゃんたち」
ミチヨ「きゃーん、お嬢ちゃんだって」
母ちゃん「はぁ…」
ミチヨ「それで~、この娘ったら20歳なのに彼の1人もいなくって」
男「そうなんだ。ハハハ、こんなに綺麗なのに」
母ちゃん「もー、からかって。ミチヨのほうが可愛いよ」
ミチヨ「ねー、いま彼女とかいらっしゃらないんですか?」
男「いないよ。なかなか奥手でね」
男「君たちみたいな可愛い子なら、お付き合いしてみたいとは思うけどね」
ミチヨ「うっそー、じゃあ私立候補しちゃおっかな」
母ちゃん「……いいんじゃない」
ミチヨ「え?」
母ちゃん「ミチヨ、付き合っちゃえば?」
男「それじゃ、ミチヨちゃんは僕がおぶるよ」
母ちゃん「ありがとうございます」
男「ええと、2人はアパートにすんでいるんだっけ」
母ちゃん「はい。ルームメイトなんです」
男「なかなかいい部屋じゃないか。可愛いものであふれているね」
母ちゃん「ミチヨの趣味なんです。この子動物とかかわいいものに目がなくって」
男「……男子禁制じゃなければ、ついでに少し飲み直さないか」
男「ミチヨちゃんは寝ちゃってるけど」
ミチヨ「ぐごー」
母ちゃん「ええと…」
『その男と仲良くなってはいけない』
母ちゃん「…!」
男「……なんだ。残念」
男「じゃあまたいつか。僕はいつでもバーにいるから」
母ちゃん「はい。ありがとうございました」
母ちゃん「(すごく優しくて良い人だったなぁ)」
母ちゃん「(もうちょっとお話したかった気もするけど、これでいいのかな)」
母ちゃん「(どうしてあんな変な人の言うことを真に受けてるんだろう)」
母ちゃん「タカシ……」
俺「なんだお袋」
母ちゃん「ひっ」
母ちゃん「私達の部屋ですよ!?」
俺「バカを言えよ。俺はこの時代に家がないんだよ」
俺「お袋の部屋で世話になって何が悪い」
母ちゃん「どうやって入ったんですか!」
俺「この時代の鍵は構造が単純だからな。ピッキングしやすかった」
俺「針金一本でチョチョイのチョイだぜ。って古いな」
俺「お袋。腹がへった。飯は?」
俺「酔っ払って寝てるだろ。朝には出ていく」
俺「夜はとめてくれ。警察につかまったら、身分を証明しようがない」
俺「なんせ俺はこの時代の人間じゃないからな」
母ちゃん「……」
俺「いつものチャーハンでいいぞ。べったべたのな」
母ちゃん「…作ったことないです」
俺「そうか、親父の味覚に長年あわせいで変な味付けになったんだな」
俺「畜生!」バクバク
母ちゃん「おいしい?」
母ちゃん「(なんで知らない人を泊めることになってご飯まで与えてるんだろう…)」
母ちゃん「(警察、通報したほうが……でもここまで色々知られてて報復とかされたら怖いし)」
俺「ごちそうさま」
俺「お、なんだか懐かしそうな古臭い映像だ」
俺「この俳優、たしか50そこらで脳梗塞で死ぬんだよな~。かわいそうに」
母ちゃん「……」
母ちゃん「あ、あの…」
俺「何だ?」
母ちゃん「……本当のことを教えてください」
俺「話のつづきを聞く気になったか? 一晩くらいは頭の整理していいんだぞ」
母ちゃん「あなたがいるせいで出来ません!」
俺「わかった。質疑応答してやる。なんでも聞いてよお袋」
俺「下馬場タカシ」
母ちゃん「下馬場……」
俺「さっきの男の名字と同じだろう」
母ちゃん「ほんとだ!」
俺「あんたはあいつと結婚して俺が生まれる」
母ちゃん「嘘よ! そんなはずない」
俺「いいや。あんたはこのまま行くとあいつと結婚する」
母ちゃん「なんでそんな自信満々にいえるんですか」
俺「俺がここにいるからだ」
俺「のちに特定の状況を引き出すための条件を指す言葉なんだが」
俺「そのフラグが完全に折れていない」
俺「この場合はあんたとあの男の仲だ」
俺「このさきあんたはあの男と再び会って、親密な仲になる」
母ちゃん「……」
俺「昭和人間だとピンと来づらいかもしれないな」
母ちゃん「会わなければ、あなたはここからいなくなってくれると」
俺「ここからではなく、この時空からだな」
俺「ハハハっ」
俺「そうだよ。お袋は俺のいうとおりにしてくれたらいい」
母ちゃん「その…お袋って呼び方やめてくれませんか! 気持ち悪い!」
俺「……じゃあ、ママか? ガキの頃はそうよんでいた気がする」
母ちゃん「う…私にはハルカって名前があります」
俺「わかった。俺としてはかなり違和感があるが、今はハルカって呼ぶことにする」
母ちゃん「どうして、あなたは消えたいんですか?」
俺「……消えたいわけではない」
俺「俺だって生きていたい。無論、このさきの展開で死亡するわけではないんだが、そこはまぁ、主観的にな」
俺「消えるも死ぬも俺にとっては等しいが、この時空にとっては大きく違う」
俺「俺の起こした全ての事象が消失するということだ」
俺「俺はそもそも生まれてはいけなかったんだ」
俺「なぜなら俺は、人類史唯一の汚点となってしまうからだ」
俺「だが俺の研究は違った」
俺「俺の率いる研究チームは某国からの命令で人類を滅ぼしかねないある細菌兵器を生み出してしまった」
俺「人を媒介として人へと伝染し、極めて殺傷性の高い細菌兵器だ」
俺「数十億人死んだ」
俺「そして今もなお感染が収まることはない。ワクチンもあるが、開発はとても間に合わない」
母ちゃん「なんでそんなことを…」
俺「この時代からほんの数十年後の話だ。きっかけはとある独裁国家がミサイルを他国へと発射したことだ」
俺「俺はその時科学者だった」
俺「ウイルスを軍事利用しようとした某国に依頼されて、研究費のためになんでも作った」
俺「それが、人類を滅ぼすことになるとも知らずにな」
俺「それがあんたの息子の業だ」
俺「という…ことでいいか」
母ちゃん「よくわからないわ」
俺「ただこの時空から俺が消えたら俺は満足する」
俺「もちろん、満足感に浸る脳みそも消失してしまうんだがな」
俺「俺が消えれば死で溢れた世界も何事もなかったかのように改ざんされるだろう」
俺「わかるか、ほんの数十年後の事だぞ」
俺「ハルカがまだ初老を迎えるよりも前の時代だ」
俺「想像してみろ。病と飢えと戦果に包まれた世界を」
母ちゃん「そんなこと言われたって…」
俺「そんな世界にしたくなければ、あの男と会うのをやめるんだ」
俺「俺がここにいるということは、こんな話をしてもにわかには信じられず、まだ会う気が有るということだな」
母ちゃん「こうしていまお話をできる相手が、消えちゃうなんて」
俺「消えたことが認知できないんだ。悲しいと思うことすらできない」
俺「だから、情なんて不要だ」
俺「お袋は優しすぎた。こっそりワクチンを与えたのに、病魔に苦しむ子供に分け与えて、死んでいった」
俺「みんな俺が殺したようなものだ」
母ちゃん「……」
俺「少し眠くなってきた。こっちへ飛んでからどうも頭痛がひどくてな」
俺「あれは欠陥品だ。まともにタイムワープできやしない」
俺「最初に過去の自分をぶん殴って、研究を辞めさせようとも思ったが」
俺「どうやら、同じ自分の存在する過去には飛べないようだ」
母ちゃん「どこでねる…? ベッド2つしかないんですけど」
ミチヨ「ぐごー」
俺「そういえば、昔はよく一緒に寝たな。親子河の字になって」
俺「あんな平凡な家庭で生まれ育った俺が、どうしてこんなことになったのやら」
母ちゃん「…今日はベッドつかってください」
母ちゃん「あなたが未来の息子なのかはともかく、真剣に困っている人を見捨てることはできません」
俺「…ありがとう、ハルカ」
俺「お袋はやっぱり昔から優しい人なんだな」
俺「……」
俺「ハルカ、まだ起きてるか」
母ちゃん「…なんですか」
俺「本当は、他にも俺を消滅させる方法はある」
母ちゃん「そうなんですか」
俺「だけど、俺にはそれは出来ないよ。そんなこと」
俺「何十億人も殺して、結果的にお袋も死なせてしまった俺だけど」
俺「20歳のハルカを……なんて」
俺「おやすみ」
母ちゃん「ううん…おはよう…」
母ちゃん「あれ…? ミチヨだけ?」
ミチヨ「うん。だけって?」
ミチヨ「も、もしかしてあんた私が酔っ払ってるうちに下馬場さん連れ込んで夜を明かしちゃったの!?」
ミチヨ「やっるぅうう!!」
母ちゃん「ち、ち、ちがうよっ!」
ミチヨ「また会いたいよね~、下馬場さん」
母ちゃん「う、う~ん……」
ミチヨ「かっこいいし、頭いいし、お金持ちだし。なんか大人の魅力があるよね」
母ちゃん「そう…なのかな」
母ちゃん「(まさか…!? 消えちゃった!?)」
その頃
俺「いいよな昭和の風景」
俺「平成生まれの俺にとっちゃなにもかも新鮮だが、どこか懐かしい
俺「ノスタルジーに浸るってやつだ」
俺「惜しいなこの風景が数十年でコンクリートジャングルになって、そして瓦礫と死体の山になるなんてな」
俺「お! あの凛とした後ろ姿はお袋…じゃなくて」
俺「ハルカ!」
母ちゃん「あっ、いた!」
俺「探した?俺を?」
母ちゃん「そうです。ふらふらされると困ります」
俺「いきなり現れてわけのわからないことばかり吹き込む男なんだ。いなくてせいせいするんじゃないか」
母ちゃん「そ、そんなこといっても」
母ちゃん「警察につかまると困るんじゃないんですか?」ヒソヒソ
俺「なにも悪いことはしてない。すくなくともこの時代ではない」
俺「元の世界ではビンラディン以上の賞金首だが、ここには俺の顔をしるやつすらいないからな」
ミチヨ「あ~、ハルカ! その人だれよ!」
俺「げっ、ミチヨおばちゃんも近くにいたのか…」
ミチヨ「ねぇハルカだれよこの失礼な男」
母ちゃん「ええと…」
ミチヨ「ん…? ジー」
俺「なんですか」
ミチヨ「なんか、あんたらすっごく似てるね」
俺&母ちゃん「!!」
ミチヨ「あんたお兄ちゃんいたの?」
母ちゃん「う、うう○この人は…」
ミチヨ「あー、従兄弟かなにか? こんなに似てるって結構めずらしいよね」
母ちゃん「そ、そうなの! うん、従姉妹のおにいさん。ね?」
俺「あぁ。いつもハルカが世話になってるな」
ミチヨ「やだ~、そんなことないですよ~」
ミチヨ「え~、ハルカにこんな従兄弟いたんだぁ」
ミチヨ「すっごい似てるよ。顔もなんだけど、もってる雰囲気っていうのかな」
母ちゃん「そう…なの…?」
母ちゃん「またね」
俺「どうやら俺とハルカは似ているらしい」
俺「当然だけどな」
俺「遺伝子的にとくに母親と息子は顔立ちが似やすい」
俺「他人からはっきり言われるのは照れくさいな」
母ちゃん「……やっぱりあなたは」
俺「タカシだ」
俺「下馬場ハルカの息子の」
俺「だけど、もうすぐその存在すら無に帰す」
俺「そうなるために俺はここへ来て、ハルカに接触したんだ」
俺「なにもかも目新しくって楽しい」
俺「こんな時代もあったんだなと、全てが感慨深い」
母ちゃん「…わかった」
俺「素直じゃないか。俺は不審者じゃなかったのか」
母ちゃん「なんでもかまいません」
俺「じゃあ朝飯をたべに駅前にいこう。行きつけの喫茶店があるんだ」
母ちゃん「はぁ?」
俺「まだあった…っていうのは変だな」
俺「もうある…か」
母ちゃん「なんでここ知ってるの」
俺「お袋と俺の行きつけ」
俺「君のお母さんは女学生の頃から通ってるって、店主に何度も言われた」
店主「いらっしゃいませ」
俺「あぁ、いたいた。若いなぁやっぱ」
俺「すいません。いつものナポリタンで」
店主「はへ? いつもって? ええと、ハルカちゃん…の彼氏?」
母ちゃん「ちちっ、ちがいます!」
母ちゃん「(ちょっと変な行動とらないで)」
母ちゃん「デートじゃありません! だいたいおかしいでしょう、仮にですよ、仮に私が親だとしたらデートなんて」
俺「何言ってるんだ。お袋が俺とのお出かけをいつもデートだっつってたろ」
俺「思春期の俺の腕を無理やり組んでさ。若作りなんてしちゃって」
俺「って、あんたの未来の事だよ! 俺のいうことにいちいちポカンとするな!」
俺「バカみてーに口を開く癖は昔からなんだな!」
母ちゃん「身に覚えがないことばかり言わないで下さい!」
俺「どれも時空に事象として刻まれている出来事なんだよ!」
俺「今現在は全く身に覚えがなくても、ふと頭をよぎることがあるかもしれないぜ」
俺「もうすぐ俺にまつわる事柄はきれいさっぱり消えるけどな!」
俺「昨晩もいったけど、怖いとは思うさ。俺の主観だとそれは死も同然だ」
俺「けどな、命を失うわけじゃないから不思議と人間の体がもつ生存本能は働かないんだ」
俺「だから俺は平然と自分を抹消するための行動をとることができる」
俺「間違っても首に縄をかける勇気があるわけじゃない」
俺「これは自殺ではないんだ」
母ちゃん「……」
母ちゃん「でも…あなたが消えたら悲しむ人も」
俺「いないよ。誰も。消えたことすらわからなくなる」
母ちゃん「そんなの…私は悲しい」
俺「わかんねー女だなぁ」
俺「うまい! この味だ! 何十年も同じなんだな!」
母ちゃん「このお店、ずっと未来まであるんだね」
母ちゃん「あんまりはやってないから潰れちゃうのかと…」
俺「お? 未来のことをききたがるなんて、いよいよ俺の戯言を信じるようになってきたか」
母ちゃん「…っ! ち、ちがいます」
母ちゃん「興味本位。あなたの、占いを知りたいだけ」
俺「占い…ね」
俺「母ちゃんさ、働きすぎには気をつけなよ」
俺「40歳くらいのころに胃潰瘍になっちゃう」
俺「あと原付きにも乗らないほうが良いよ。追突事故で程度は軽いけど骨折して」
母ちゃん「……そういう話はあんまりききたくないかなぁ…」
母ちゃん「えっと、なにかこれから良いことが起きるかなって」
俺「そうだなぁ……何をもってお袋が幸せだったかは憶測でしかないけど」
俺「うーん……」
俺「いろいろあるなぁ…」
母ちゃん「なになに?」
俺「…やっぱり」
俺「…やめとこう」
母ちゃん「教えてくれないんだ? いじわる」
俺「消える気が失せちまうよ」
俺「自慢じゃないが、お袋は俺と過ごす時間が一番楽しそうだった」
俺「遊園地いったり、一緒に演劇をみたり、ふたりでプールで遊んだり」
俺「それらが全部最初から消えてしまうなんて」
俺「消えて…俺が、お袋の中から…」
俺「悪い」
俺「やっぱ、タイムワープのときの時空の歪みで頭が変になったみたいだ」
俺「いまのは聞かなかったことにしてくれ」
母ちゃん「…」
俺「とにかく、ハルカはもうあの男に会わない」
俺「それだけは守ってくれ」
母ちゃん「…嫌です」
俺「どうして、どうして言うことを聞いてくれないんだ」
母ちゃん「……わからない」
母ちゃん「でも、なんとなく、結婚するならこういう人なのかなって」
母ちゃん「思っちゃったの。あの一晩、一緒にお酒のんだだけなのにね」
母ちゃん「不思議なことばっかり起きてる」
母ちゃん「あなたの話を聞いてると、運命って本当にあるんだって思っちゃった」
俺「運命…」
俺「…時空に刻まれた事象のことか」
俺「どうあっても、結婚するのか…あの男と…」
俺「なら、過去は…改ざん…出来ない…?」
母ちゃん「……」
俺「そんな…バカな!」
俺「(だが、改変された事実を誰が外から証明する? そんなこと全てを知る神以外誰も出来やしない)」
俺「(いまこの世界が100億回既に改変されていたとしても人々の記憶はそれに従い是正されて、誰もわかりやしないんだ)」
俺「無駄なのか…俺のしようとしていることは」
俺「(そうだ。心の中ではわかっていた。こんなのただの自己満足で、自分が罪から逃れて、許されたいだけだって)」
俺「俺は…うう」
母ちゃん「大丈夫よ。ママはわかっているからね」
俺「!?」
母ちゃん「あ、いえごめんなさい…私がママになったら、どんな風に子供を励ますかなって…」
俺「(何か方法はあるはず)」
俺「(俺さえ消えれば、俺が間接的に奪ってしまった数十億の命も何事もなかったかのように修正されて生きてゆけるはずだ)」
俺「(だがその肝心の方法は…)」
母ちゃん「大丈夫?」
母ちゃん「頭いたいなら、どこかへ移る? 公園にベンチがあるから横になれるよ」
俺「……あぁ」
俺「(俺にとって最も残酷なものでしかない)」
母ちゃん「なんだかね。話を信じる気になってきたの」
俺「そうか。ミチヨおばちゃんに似てるって言われたから?」
母ちゃん「違う」
俺「なら俺の話に信憑性があるからか?」
母ちゃん「ううん。それも違う」
俺「ならどうして」
母ちゃん「一緒にいて、なにか思うこと無い?」
俺「はあ…何も。別に母親であるあんたのことを一女性だとはおもえないし。いくら若くて綺麗でもな」
母ちゃん「そういうこと」
俺「…なるほど。お互いに遺伝子が異性としてみることを拒絶している。血の繋がりのあるなによりの証明だな」
俺「……」
母ちゃん「不思議だね。私がお腹痛めてうんだわけじゃないのに」
母ちゃん「なんかね…あなたが消える消えるって言うたびに、すっごく悲しい気分になるの」
母ちゃん「お願いだから…そんなこと言わないでタカシくん」
俺「お袋…」
母ちゃん「未来のあなたが何をしたかはよくわかりません。きっと許されないことなのでしょう」
母ちゃん「私がどんな死に方をするのかも、これ以上は怖くて聞けません」
母ちゃん「でもね、あなたが無くなってしまうのはそれよりももっと悲しいこと」
母ちゃん「違うわ」
俺「!」
母ちゃん「私達はいま生きてるの。だから、生きてるうちに悲しむのは当然なの」
母ちゃん「いま悲しくならない道を選ぼうとするのは当然なの!」
俺「……」
俺「昔、同じこと、言われたかもしれない」
俺「どうして俺は、お袋の言うことだけ聞いて生きていけなかったんだろう」
俺「どうして、科学者なんかに……馬鹿げた研究して…」
母ちゃん「仕方ないよ…息子だもの。いずれは巣立つ時が来る」
母ちゃん「でもこうして、また会いに来たんでしょう?」
俺「……あぁ」
俺「(そうか、俺は…)」
俺「(ただお袋に会いたかっただけなのかもしれないな)」
母ちゃん「私バカだから」
俺「そうだな」
母ちゃん「うう…」
俺「お袋、あのさ」
母ちゃん「なに?」
俺「チャーハン、うまかった。べったべたで」
俺「ずっとそのままでいいからさ。練習とか、すんなよな」
俺「毎週半ドンの昼飯に食わせてやってくれ」
俺「じゃあな…」
俺「帰る。未来に」
母ちゃん「うそ……」
俺「なんだ? 別れが惜しくなったか」
母ちゃん「そう…なのかな」
俺「大丈夫だよ。またすぐ会えるさ。今度はこんな姿じゃなくて、なーんもしゃべれない赤ん坊だけどな」
母ちゃん「タカシくん…」
母ちゃん「私、どうなるの? タカシくんの記憶をもったままいられるの?」
俺「いや、どうかな」
俺「タイムパラドックスについてはよくわかっていない。だれも過去の改竄に気づけ無い以上、証明しようがないからな」
俺「俺がこの時代でしたことがもしも俺の生きた時代のお袋に反映されているのなら、俺を科学者にはしていない。そういうことになるんだろうか」
俺「現在俺が科学者である以上、あんたからこの記憶は欠落するんだろう」
俺「或いは…いや、そんなことはないか」
俺「じゃあな」
母ちゃん「…元気でね。タカシくん」
俺「……う、なんて頭痛だ。二度と試すかこんなもの」
俺「何がタイムマシンだ。理論は完璧なのに、過去へ飛んだ事象を現在で認知できないなら」
俺「なんの意味もない。旅行にも使えんとは…」
俺「はぁ、はぁ…」
俺「これで計画は失敗だ」
母ちゃん「また失敗したの? もうやめときなさいってそんな危なっかしいわけわかんない研究」
母ちゃん「おばかさんのやることよ。人が過去を変えられるものですか」
母ちゃん「ひとが変えられるのはその人の生きる現在だけよ」
俺「うるせーな」
母ちゃん「いつまでもひきこもってないで。さぁ、お昼にしましょ」
俺「またべったべたのチャーハンかよ!」
母ちゃん「あんたが毎週食わせろって言ったから作ってるんでしょうが!」
俺「はぁ?」
俺「まあいいや、いただきます」
母ちゃん「召し上がれ。それ食べたら午後から仕事探すのよ」
俺「わかってるっての!! 科学者だろうがなんだろうが俺の天才頭脳なら余裕なんだからな」
母ちゃん「それはダメ」
おわり
◆以下、おまけ(小ネタ)になります。
失敗パターン
愛知県 愛知県警察:パトネットあいち
パトネットあいち 不審者情報(春日井警察署)
■発生日時
7月3日(月)午前8時00分頃
■発生場所
春日井市貴船町地内
■状況
車に乗車した男が、子供連れの女性に対して、「ブサイクのくせに子供なんか産みやがって」等と声をかけた。
遡りきれなかったんだな
元スレ
母ちゃん(20)「え?あなたが未来の私の子供なの…?」 俺(27)「そうだよお袋」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1512364977/
母ちゃん(20)「え?あなたが未来の私の子供なの…?」 俺(27)「そうだよお袋」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1512364977/
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コメント一覧 (39)
-
- 2017年12月04日 20:09
- 主人公が俺のssだけど綺麗に纏まってて良かった
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- 2017年12月04日 20:20
- なんの捻りもない作品なんだから落ちぐらいちゃんとつけていこうぜ。
-
- 2017年12月04日 20:40
- 何番煎じか分からんが普通だな。
次に期待
-
- 2017年12月04日 20:41
- BACK TO THE 母さん という漫画が絶賛発売中、なんだよなぁ…
-
- 2017年12月04日 20:49
- ※4
バック・トゥ・ザ・カーチャン
の方が語感はええな
-
- 2017年12月04日 20:50
-
素直に良かった
-
- 2017年12月04日 21:21
- 最初から最後まで楽しかった。
あと一番最後の遡りきれなかった奴も笑った
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- 2017年12月04日 21:31
- 理解力無くてすまんのやけど、最後の車の男とか子連れは誰?
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- 2017年12月04日 21:49
- リアル事案みたいよ。んであまりにも奇抜な事案だから、それをこのシナリオに当て嵌めて解釈してみるとわりとすんなり当てはまって、ネタと踏まえて遡りきれなかったやろうなというコメントがついたんでしょ。多分
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- 2017年12月04日 22:25
- 大学時代のマッマとか怖すぎて会いたくないわ
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- 2017年12月04日 22:39
- 元からニートだったのか、事象が改変された結果ニートになったのかどっちや
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- 2017年12月04日 23:05
- マイケルJフォックスくらいイケメンなら母ちゃんを自分に惚れさせてセクロスでもすればパラドックスで消えることが出来そうだな
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- 2017年12月04日 23:40
- あーなるほどな。
母ちゃんが、タカシを生まないことでではなく、タカシを生みつつ科学者にはさせないという形で未来を変えてくれたんやな。
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- 2017年12月05日 00:02
- 未来変えれてよかったね
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- 2017年12月05日 07:24
- おぉ!ってなるようなオチではないけどそっちの方が何事もなくなったっぽくていいよな
激しい起承転結が必ずしもいるとは限らないわけだ
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- 2017年12月05日 07:42
- 子を思う母の愛は強かった
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- 2017年12月05日 09:01
- なんかところどころに違和感あるよな
イケメンはしらないのに現代用語のストーカーやガーデニングという単語を知っていたり
-
- 2017年12月05日 11:35
- カーチャン…俺の為にいろいろしてくれてありがとう…
-
- 2017年12月05日 14:44
- 時代考証はガバだがそこを突っ込むのは野暮だろうよ
その辺は本職作家でも編集に校正してもらうからな
単純にストーリーがすごくよかった
-
- 2017年12月05日 15:06
- ※13
おまえ頭いいな
-
- 2017年12月05日 15:09
- ※19
言いたいことはわかるが、これは時代考証とかそんなレベルじゃなくて、前後の文の整合性すらとれていないという初歩的な話では。
-
- 2017年12月05日 15:22
- アラサーなんて言葉は最近、同居とは言っててもルームメイトと言い始めたのは
シェアハウスが浸透してからだから最近、イケメンはゲイのスラングでこれも最近
※で散々書かれてるな
人様に見てもらう目的でここまで長文書いてるんだから、もう少し言葉遣いに気を付けて貰いたいものだ
なんども見直してるはずだし、言葉に愛がないのかな?
-
- 2017年12月05日 15:27
- 英語クソつよカーチャンならgardeningとかroommateは分かっても略語のイケメンは知らないって言えるからセーフ
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- 2017年12月05日 16:59
- ※22
そんなとこでしかマウント取れないもんね
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- 2017年12月05日 17:16
- 粗はあるかも知れないが、単純にストーリーが良かった
母親に連絡したくなったな
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- 2017年12月05日 18:50
- ニートで良かったね・・・
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- 2017年12月05日 19:30
- 元々の計画で行くと、こういうのって親殺しのパラドックス(?)じゃない?
もし自分が生まれなかったらそもそも誰が生まれることを阻止するのか、ってやつ
そこを簡単に解決しようとすると
タイムマシンを使った時点で別の世界が生まれ元いた世界には何ら影響はない
って結果になるんじゃなかったっけ
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- 2017年12月05日 20:07
- ≫27
ほんと平坦で粗だらけのシナリオみたらわかるけど作者にそこまで考える力はないよ。
あと、科学でも何でもなく空想のsfなのだから、そこはある程度自由でいい、明確な答えがないわけだから。タイムマシーンがない限り、過去の改変で本当に記憶はなくなり、消滅する可能性だって否定できない。だからそれは野暮なツッコミってやつかと。
僕もどちらかという、僕も過去は変えられず世界線が変わる派だけども。
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- 2017年12月05日 20:32
- マンガテレビじゃなくてテレビまんがな
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- 2017年12月06日 00:30
- 唐突な「う○この人」で笑っちまった
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- 2017年12月06日 00:43
- 英語を知らない時代を舞台にしたドラマでサボりって言葉を使ってたみたいな凡ミスもあったらしい
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- 2017年12月07日 09:29
- なるほど!
俺が今ニートなのは俺の母親が努力してくれたおかげなのか!
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- 2017年12月07日 20:50
- ※31
それフランス語だからセーフ
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- 2017年12月08日 06:47
- 面白かった
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- 2017年12月09日 14:03
- 泣いた…
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- 2017年12月17日 00:40
- 脳には残らないかもしれないからメモとか取ってたんかな
ちゃんと約束通りチャーハン作ってるし
「科学者」の単語に即否定してるのは笑った
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- 2018年01月05日 04:20
- KNN姉貴と田所浩二
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- 2018年03月08日 01:40
- 戻った瞬間に改変に成功したけど自覚はないってことか、いいね
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- 2018年05月14日 15:13
- 主人公の頭良い設定の癖に主人公馬鹿すぎんだろぬ