卯月「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝完結編】

1: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/19(土) 21:34:52.78 ID:YaYYfmrb0



ごめんなさい。


止めに来てくれて…ありがとうございます。




でも……





なにも出来ないのは、もう嫌なの








2: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/19(土) 21:37:50.57 ID:YaYYfmrb0


偶像喰種346サイドの完結編です。
たぶん、このスレで話が終わると思います。

グロテスク描写は省いていく予定ですが、
それでもアイドルの死亡シーン等ショッキングな展開がありますのでご注意ください。

前作
楓「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝中編】



5: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:54:49.84 ID:0nnYzKIl0


――――――――――――――――――――


凛(――普通に勉強して)

凛(――普通に就職して)

凛(――普通に人間ごっこをして)


凛(――借り物の戸籍でどこまで行けるか分かんないけど)

凛(――何も難しい事はない。普通に生きればいいんだから)

凛(――いつか、殺されるまで)


凛(――半年前までの私なら、そう思っていた)


凛(――そして今は)

凛(――全力で歌って)

凛(――全力で踊って)

凛(――全力で輝いて見せるって)


凛(――そう決めて、全力でアイドルをやってる)



凛(――いつか、殺されるまで)



凛(――踏み壊されるその瞬間まで、精一杯輝き続ける光のように)

凛(――私は、舞台の上に立っていたいと思っていた)



凛(――でも、蘭子はそれを)


凛(――『呪い』だと言った)


――――――――――――――――――――



6: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:55:36.03 ID:0nnYzKIl0


――――――――――――――――――――


武内P『――この度、企画した「笑顔の橋」の主な形式として……』

P『基本的には、参加する人間と皆さんを含む"喰種"の混合ユニットを作成します』

P『そして同じ舞台で同じ曲を共に歌ってもらうこと、またそれまでのレッスン等を通して両者の親交を深め』

P『それによって完成した共存の形をファンの"喰種"の皆さんに見てもらうことで』

P『人間と"喰種"の相互理解の形を知ってもらうことが目的となっています』

P『これらの企画は、神崎さんの意志から始まりました』

P『……神崎さん。皆さんにも、貴女の主張を伝えてください』


蘭子『うむ。感謝するわ、我が友』



蘭子『――この「儀式」は、我が僕たちを、同胞たちを「呪い」から解放せんとするものよ』

蘭子『我が右方の翼はいずれ射られ堕ち往く運命』

蘭子『そして左方の翼のみがエデンの飛翔を許される』

蘭子『我が右の同胞たちは、いずれ訪れる十二時の鐘を疑わず踊り続ける……』


蘭子『――否!!』



7: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:56:15.01 ID:0nnYzKIl0



蘭子『我らが翼は、地に堕つる門へとつながってはいない!!』

蘭子『ヒトに射られる為に私達は飛んでるんじゃない!』

蘭子『"喰種"だから、いつかは殺されて死ぬだなんて、そんなの……』


蘭子『そんなの、当たり前みたいに受け入れないでっ!』



蘭子『私、わかるもん! こっちから話しかけたら、分かってくれる人はたくさんいるもん!』

蘭子『飛鳥ちゃんだって、美穂ちゃんだって、芳乃ちゃんだって……』

蘭子『私達が"喰種"だからって、ちゃんと変わらずに受け入れてくれるって分かるもん……!』


蘭子『だから、皆ももっと人間のみんなを見てよ……!』

蘭子『このライブで、プロデューサーが作ってくれた舞台で……!』

蘭子『一緒に踊って、ファンのみんなを笑顔にするステージを作って……』

蘭子『そしたら、わかるはずだもん……!!』


蘭子『人間も"喰種"も、何にも変わらないって……!!』

蘭子『菜々さんは殺されて当たり前なんかじゃないんだって……!!』


――――――――――――――――――――


凛(――終わりの方には、涙でぐしゃぐしゃになっていた蘭子の訴えで)

凛(――私達はまた、揺らぎ始めた)

凛(――ずっとずっと、当たり前、これだけは仕方ないって思っていたことが)

凛(――あんなに必死になって否定されたのだから)



8: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:57:12.46 ID:0nnYzKIl0


凛(――そして、蘭子が間違ってないって証明したくて)

凛(――あの後すぐに動いた子がいた)



『――うん』

『そうだよね、らんらん』

『私も、そう思う。受け入れてくれる人は、ちゃんといるよ』



凛(――そう言った翌日に―――――)


『…美嘉姉の話を聞いてさ。ずっと、納得できなくて』

『どうしようか迷ってたんだけど、らんらんの話を聞いてやっと踏ん切りがついたんだ』

『ほら、皆』


『受け入れてくれる人は、ちゃんといたよ』



未央『ね、茜ちん!』



凛(――未央が)

凛(――あっさりと、垣根の一つを飛び越えてしまった)



9: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:58:43.23 ID:0nnYzKIl0


凛(――流石に、蘭子の訴えから自分の正体をバラしちゃう子が出たのは予想外だったのか)

凛(――未央のあまりの行動力に、プロデューサーがすごく慌てていたのを覚えてる)

凛(――あれだけ狼狽えてたのは……プロデューサーには悪いけど、ちょっと面白かった)


P『こっ……今回は、日野さんが本当に"喰種"を受け入れられる方であり問題は発生しませんでしたが』

P『やはり、隣にいる仲間が"喰種"だった時のショックは…人によって簡単に計り知れるものではないと思います』

P『ですので、これからは皆さんの安全を確実に守るため、これ以上の人間の皆さんへの秘密の暴露を禁止します』


P『……………………せめて』


P『……せめて舞台に立つまでに、隣に立って歌う方に十分触れて、その方を理解するまで』

P『待ってはいただけませんか……』


凛(――プロデューサーの必死な訴えが効いたのか、それとも)


杏『杏も今は正体バラすのやめといた方がいいと思う』

杏『人間よりの生活してた未央ちゃんだから判別出来たことだし』

杏『今、杏たちが同じことやって即通報ルートって危険性はゼロじゃないしね』

杏『少なくとも今はやめとこ。うん』

杏『いや、未央ちゃんはバラしていいって話じゃないからね』

杏『未央ちゃんもこれ以上はやめてね?』


凛(――めずらしく慌ててた杏の制止が効いたのか)

凛(――それ以上、人間に直接正体を明かす子は出なかった)


凛(――私も……まだ、未央みたいに一線を飛び越える度胸はなくて)

凛(――奈緒にも加蓮にも、私が"喰種"だってことは言えてない)



10: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 22:59:49.74 ID:0nnYzKIl0


凛(――でも)

凛(――蘭子が泣きながら主張して、未央が裏付けを取ってしまった二日間で)

凛(――菜々さんが死んでから、ずっと引っかかってた胸のつっかえが)

凛(――いつのまにか、無くなっていた)


凛(――「もしかしたら、受け入れてくれるかもしれない」)

凛(――「目の前にいる二人は、分かってくれるかもしれない」)


凛(――そんな願望が、少しでも現実に近づいたからなのかな)



凛(――「笑顔の橋」の告知から、みんなは人間の誰と組もうかって)

凛(――すごく、楽しそうに話してる)

凛(――それはシンデレラプロジェクトだけじゃなくて、ほかの皆も)


凛(――ああ)

凛(――きっと皆、現実を受け入れようとしていただけで)

凛(――本当は、この世界に変わって欲しかったんだ)


凛(――そういう、私だって)



11: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/20(日) 23:01:05.66 ID:0nnYzKIl0


凛(――卯月は、美穂と一緒に歌いたいって嬉しそうに笑ってる)

凛(――未央はもちろん、茜と藍子と)

凛(――私も、奈緒と加蓮と歌いたい)


凛(――同じステージに立って、全てを打ち明けられる関係になりたい)


凛(――誘おう)

凛(――会ったらすぐに、いつものマックで)

凛(――あの鼻を刺す揚げ物の匂いも、今は待ちきれない)


凛(――はやく、2人に会いたい)





――――――――――――――――――――





凛(――その日は結局)


凛(――奈緒も加蓮も、いつまで待ってもマックに来なかった)


凛(――次の日になっても会えなくて、連絡も取れなかった)



凛(――そして茜も姿を消した)


――――――――――――――――――――



14: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:31:51.56 ID:a7a4yjAC0


~「笑顔の橋」企画発表と同日、橘美樹と市原ギンによる忠告の翌日 346プロダクション~


セクギルP「……休暇、ですか?」

早苗「そ! 菜々ちゃんが死んじゃって、皆も落ち込んでるから」

早苗「あたしに近い人だけでも、郊外連れ回して元気になってもらえたらなって思ったの」

早苗「だから、今日の予定だけでいいからキャンセルして欲しいのよ。突然のことでビックリさせちゃってるのはごめんだけど」


P「……」

P「……まあ、早苗さんのワガママは今に始まった事じゃないですし」


P「仕事はこっちで何とかしますから、『ちゃんと』皆を元気づけてやってくださいね」

早苗「む! ちゃんとって、あたしはいっつもちゃんとしてるわよー!」

P「どうだか」


――――――――――――――――――――



15: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:32:20.21 ID:a7a4yjAC0


――――――――――――――――――――


早苗「――よっし! 全員乗ったわね!」



早苗(――あたし、雫ちゃん、ありすちゃん、仁奈ちゃん)

早苗(――拓海ちゃん、有香ちゃん、桃華ちゃん、友紀ちゃん、心ちゃん)

早苗(――あたしが『人間』って断定できる子は、とりあえず全員車に乗せられた)


早苗(――皆にはひとまず、プロデューサー君に話したまま『日帰り旅行』って言ってる)

早苗(――あたしの嘘に気付いてるのは、たぶん心ちゃんだけ)

早苗(――本当は、CCGの本局に真っすぐ向かう)



早苗(――あ…駄目)

早苗(――残してきた子達のことがずっと頭をぐるぐる回ってる)

早苗(――もっと連れてこれる子もいたんじゃないかって)

早苗(――里奈ちゃんや夕美ちゃん、美優ちゃんのことじゃない)

早苗(――あの子たちは"喰種"だってほぼ確信してる)

早苗(――CCG本局にはRc判別ゲートがあるし、連れてきた子は検査を受けなくちゃいけない)

早苗(――連れてきたら、あの子たちは確実に死ぬ)


早苗(――あたしが悩んでるのは、有香ちゃんや友紀ちゃんのユニット仲間のこと)

早苗(――ゆかりちゃん、法子ちゃん、幸子ちゃん、紗枝ちゃん)

早苗(――なんでもっとあの子たちと関わらなかったんだろって、すごく後悔してる)

早苗(――もしあの子たちが人間だったら、危険な場所に置いてきたってことになるんだから)

早苗(――でも、もしあの子たちが"喰種"で、こっちに連れてきてたとしたら……)

早苗(――菜々ちゃんみたいな終わり方を目の前で見せられるなんて、有香ちゃんや友紀ちゃんには惨すぎる)


早苗(――だから、あの子たちに何も起きないことを願って)

早苗(――あたしは、ゆかりちゃん達を車に乗せなかった)


――――――――――――――――――――



16: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:32:59.49 ID:a7a4yjAC0


――――――――――――――――――――



早苗(――この時の判断を、あたしは死ぬほど後悔することになる)

早苗(――理由はふたつ)

早苗(――ひとつは、あたしがゆかりちゃんと法子ちゃんを車に乗せなかったせいで……)

早苗(――有香ちゃんの人生を壊してしまったこと)


早苗(――そして幸子ちゃんを連れてこなかったせいで)



早苗(――346プロダクションを壊してしまったこと)



――――――――――――――――――――



43: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:13:02.41 ID:GXSjOIe50


~「笑顔の橋」企画発表の翌々日、未央から茜へのカミングアウト翌日―――





―――茜および奈緒・加蓮失踪の翌日 CCG本局~





橘「片桐さん」

橘「輿水幸子さんの身柄を、無事保護しました」

橘「喰種に襲われていたところを捜査中のギンが発見し、検査の結果『人間』と確定したため」

橘「彼女も皆さんと同じく、十分な説明のもと施設への入居を同意していただきました」


橘「そして、輿水さんの証言をきっかけに」





橘「キャッスルの正体が判明しました」





――――――――――――――――――――



18: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:35:08.34 ID:a7a4yjAC0


――――――――――――――――――――



凛「……茜も?」

未央「……うん。…その、しぶりんがいつも話してる奈緒ちゃんと、加蓮ちゃんも?」

凛「うん。連絡が取れない」

未央「……それって」

凛「……3人とも、攫われた」


未央「もしかして、私が正体を話したから……?」

凛「そうかもしれない。…誰が何のために攫ったのかは分かんないけど」

凛「346プロに"喰種"がいるってことを人間に知られたくない人がいたのかもね」


未央「……! ど、どうしようしぶりん!」

未央「私のせいで、茜ちんが……奈緒ちゃんと加蓮ちゃんまで……!」


凛「落ち着いて未央。未央は何も間違ったことなんかしてない」

凛「茜に話しただけなのに、奈緒と加蓮まで攫う意味も分かんない」


凛「悪いのは未央じゃない」



19: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/30(水) 23:35:37.28 ID:a7a4yjAC0


未央「……しぶりん?」

凛「未央。悪いけど、付いて来てくれる?」

凛「卯月は巻き込めない」


未央「……? いいよ。いいけど……」

未央「ついて行くって、どこに?」

凛「茜と奈緒と加蓮のところ。……あの子達を攫った奴らのところ」

未央「…???」

未央「場所……分かるの?」

凛「探せるよ」





凛「私の嗅覚で、奈緒と加蓮の匂いを追う」



凛「3人を取り戻すよ、未央」



26: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:24:17.91 ID:DZlpiiFh0


~凛、未央による捜索開始と同時刻~


美穂「『笑顔の橋』?」

卯月「うん! プロデューサーさんが企画してくれたライブなんだけどね」

卯月「その宣伝のために、音楽番組で歌わせてくれることになったの!」


美穂「へー! いいなあ、楽しそう!」

卯月「えへへ……それでね。美穂ちゃんにも出て欲しいの!」

美穂「え? …私も!?」

卯月「うん!」


卯月「プロデューサーはね、宣伝のために私、李衣菜ちゃん、蘭子ちゃんを代表として出してくれたんだけどね」

卯月「その時に……」



武内P『「笑顔の橋」は、表向きは人と人をつなぐメッセージを人に届けるライブをコンセプトとしていますが』

P『本当の目的は「人と喰種」を繋ぐメッセージを喰種に届けるライブです』

P『ですので、今回の宣伝には人間アイドルの皆さんと仲の良い島村さん、多田さん、神崎さんに』

P『その人間アイドルの方と共に出演していただくことで、視聴した喰種に皆さんが構築した「信頼の形」を見ていただきます』



卯月(……えっと、"喰種"の話は喋っちゃダメだから……)


卯月「大切な友達と出演することが大事だって言われたんです!」


美穂「! 卯月ちゃん……!」



27: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:24:45.24 ID:DZlpiiFh0


卯月「だからね、その宣伝は1週間後で、すごく大変なレッスンに美穂ちゃんを突き合せちゃうんだけど……」

美穂「いいよ! やろうよ!」

卯月「!!」

美穂「私、卯月ちゃんに誘ってもらってすごく嬉しいんです!」

美穂「卯月ちゃんに『大切な友達』とまで言ってもらえるなんて……!」

美穂「えへへ。宣伝だけど、やっと卯月ちゃんと一緒のステージに立てるんだなって思ったら……」

卯月「美穂ちゃん……!」


卯月「うんっ! よろしくお願いします!」

美穂「こちらこそよろしく、卯月ちゃん!」


――――――――――――――――――――


卯月(――よかったあ。ほんとに急なお仕事になっちゃったから、受けてもらえるか不安だったけど……)

卯月(――美穂ちゃんが『一緒にお仕事ができて嬉しい』まで言ってくれるなんて)


卯月「……」


卯月(――『喰種が殺されて死ぬのが当たり前なわけがない』)

卯月(――私は、そんなこと思ってたつもりじゃなかったんだけどなあ……)

卯月(――自分で、気付いてなかったのかな)


卯月(――私も、"喰種"だからアイドルになれないって言われて、だけど必死で頑張って)

卯月(――プロデューサーさんに拾ってもらえて、それでアイドルになれて……)

卯月(――結局、アイドルになったその先も)

卯月(――いつ殺されて死ぬか分からない、そんな厳しい世界だったけど……)


卯月(――もし、そうしなくても済む道があるなら)

卯月(――私はそのために、皆のために何かしたい)


卯月(――私なんかに何が出来るかなんて分かんないけど、出来ることがあるなら)

卯月(――島村卯月、全力で頑張ります!!)



28: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:25:39.74 ID:DZlpiiFh0






卯月(――それにしても)

卯月(――なんで未央ちゃんは宣伝メンバーに選ばれなかったんだろ?)

卯月(――茜ちゃんに正体まで話して、一番うまくいってると思うのになぁ……)


卯月(――プロデューサーさんに、何か考えがあるんでしょうか?)


――――――――――――――――――――



29: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:31:34.01 ID:DZlpiiFh0


――――――――――――――――――――


未央(――"喰種"は元々)

未央(――人間と比べて、視力や聴覚、嗅覚がずっと強い)

未央(――私が人間と"喰種"を見分けられるのも)

未央(――人間には分からないくらい僅かな"喰種"の匂いをかぎ取れるから)


未央(――ただ、才能の違いなのかな)

未央(――"喰種"の中には、他の喰種よりずっと強い感覚を持ってる子もいるみたい)

未央(――例えば杏ちゃんは目も耳も鼻も、他の皆よりずっと良い)

未央(――私達には聞こえないほど遠くにいた、きらりんの足音を聞きとって咄嗟に隠れたくらい)

未央(――ほかにも、りーなは耳がすごくいい)

未央(――何百メートルも離れたみくにゃんの悪口を、きっちり聞き取り怒って走って行ったくらい)


未央(――そしてしぶりんは、すごく鼻がきく)

未央(――一度嗅いだ人の匂いは、絶対に忘れなくて)

未央(――らんらんが半喰種だって気付いてた数少ない子だったし)

未央(――合宿の水鉄砲合戦では隠れても無駄無駄だったし)

未央(――私やしまむーが迷子になった時は、何度も正しい場所に連れ戻してくれた)



30: ◆AyvLkOoV8s 2017/08/31(木) 13:34:18.26 ID:DZlpiiFh0


未央(――だから、しぶりんの鼻に間違いはなくて)

未央(――今回もしぶりんに任せれば、茜ちんも、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんも、すぐに取り戻せるって思った)

未央(――私は甘かった)


未央(――今回だけは、しぶりんが間違っていて欲しかった)





未央「……あのさ、しぶりん。これ、冗談なんだよね?」

凛「…こんなことで冗談は言わないよ」

未央「じゃ、じゃあ、今日は体調が悪かったとか……」

凛「……熱を出した時も、匂いを間違えたことなんてない」

未央「……本当に、ここから3人の匂いがするの?」


凛「…………うん」





凛「346プロダクションの地下入口」



凛「……信じられないけど、3人は346プロの地下にいる」



34: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:01:02.91 ID:GXSjOIe50


凛「……」

未央「しぶりん……」



未央(――前に、プロデューサーやちひろさんから話を聞いたことがある)

未央(――喰種組織『キャッスル』)

未央(――大きさもアジトの場所も、何も分からない組織)

未央(――分かっているのは、あちこちのプロダクションから可愛い人間アイドルを誘拐してるってことだけ)

未央(――その被害者には346プロも入ってて)

未央(――人間でも大事なアイドルを攫って行く『キャッスル』は絶対に許せないって)

未央(――ちひろさんが怒っていたのを、よく覚えてる)


未央(――茜ちん、奈緒ちゃんや加蓮ちゃんを攫ったのも『キャッスル』の仕業じゃないかって)

未央(――私は思ってた)


未央(――正直、わけの分かんない組織に立ち向かうことはすごく怖かったけど)

未央(――それでも、しぶりんのおかげで、場所が分かりさえすれば)

未央(――戦いを避けて、ささっと友達3人を連れ戻すくらいなら)

未央(――私は怖くない)

未央(――臆病な私でも、それくらいは勇気を振り絞ってやるって)

未央(――私らしくもなく、息巻いてたんだ)


未央(――それが)


未央(――こんなところにたどり着くなんて)



35: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:01:33.71 ID:GXSjOIe50


未央(――346プロダクション)

未央(――お姫様になりたい女の子の夢を叶える場所)

未央(――たとえ、"喰種"であっても)


未央(――しまむーは、ただ純粋にアイドルになりたくて)

未央(――私は、"喰種"の私でも出来ることがあるって知りたくて)


未央(――しぶりんは―――――)


凛「……」


未央(――"喰種"だからって諦めてた、一生懸命になれることを探したくて)

未央(――この346プロに来たんだっけ)


未央(――それなのに)

未央(――ここは……)



未央(――346プロに、何があるっていうの?)



凛「……未央」



凛「行こう」





36: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:02:04.13 ID:GXSjOIe50


未央「ッ……!!」

未央「行こう、って……」

未央「待ってよしぶりん!」

凛「…未央も付いて来て。歩きながら話すから」


凛「この入口、たしかただの通路だったはず」

凛「ただ、長い道が続いて……そのまま進めば、普通に346プロの内部に出る」

凛「……多分、あれだと思う。未央も見たことあるでしょ?」


凛「赫子の壁」


未央「!!」


凛「莉嘉たちが使ってた、勉強部屋のそれとは全然違う」

凛「私でも、匂いで気付けないくらい精巧なカムフラージュがされてる」

凛「奈緒と加蓮の匂いを辿らなきゃ、私もここが分からなかっただろうね」


凛「……ここだ。ここで2人の匂いが途切れてる」

未央「……ここが……」


未央(――しぶりんが言った、匂いの途切れた場所は……)

未央(――ただの、レンガでできた壁にしか見えなかった)

未央(――触っても匂いを嗅いでも、周りの壁と何も変わらないように感じた)

未央(――これが赫子でできた壁だなんて、証明する方法なんてない)


未央(――この1個以外には)


凛「……下がってて、未央」ビキ


未央(――しぶりんの首筋から、鋭くて赤い羽がいくつも飛び出して、壁に刺さった)

未央(――そしたら、壁はウネウネと動いて……)

未央(――信じたくは無かったけど……)


未央(――さらに下に続く道が、現れた)



37: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:07:53.37 ID:GXSjOIe50


凛「……嘘でしょ?」

未央「……」


未央(――道が開けた瞬間、しぶりんの表情が変わった)

未央(――それまでは、まだ迷いがあるって感じの顔だったんだけど)

未央(――まるで、想像してた以上にひどい真実を聞かされたような……)


凛「信じたかったけど、もう駄目だよ。未央」

凛「346プロは、こんな道を隠してた」

凛「奈緒と加蓮の匂いも、ずっと強くなった」


凛「もう信じられない。ちひろさんも、今西部長も……」

凛「……プロデューサーも」



凛「3人の匂いがする」

凛「3人とも、ここを通ってる」


未央「!!?」


未央(――プロデューサーまで!?)



38: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:08:20.74 ID:GXSjOIe50


凛「…ずっと、そんなわけないって思ってた」

凛「ここで、知らない誰かが、勝手に悪い事をしてて」

凛「プロデューサーは、ただ346プロで仕事をしてるだけで、関係ないって」


凛「……なのに」

凛「プロデューサーの匂いが、すごく強いんだよ」

凛「一回だけじゃない。何度もここを通ってる」

凛「他の匂いにも、覚えがあるんだ」

凛「共演した同じ346のアイドルのプロデューサー」

凛「たまに顔を合わせる、役員の人」

凛「一緒にお仕事をしたことがある、346プロや他所の人間アイドル」

凛「……みんな、記事に載ってた人だ」


凛「『キャッスル』に攫われて行方不明になった人たちだ」



39: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:09:18.60 ID:GXSjOIe50


凛「未央」


凛「どうしよう、気付いちゃった」


凛「…『キャッスル』は――――――――――」





凛「キャッスルの正体は346プロなんだ」



凛「346プロのアイドルが攫われてるのは……」





凛「全部、346プロの自作自演なんだ」





未央「―――――!!」



40: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:09:47.03 ID:GXSjOIe50








「さすがに予想外でした。匂いだけでそこまで推理できちゃうなんて」









41: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/01(金) 12:10:13.71 ID:GXSjOIe50


凛・未央「「……え?」」


未央(――周りを見渡しても、誰もいなかった)

未央(――なのに、声だけが聞こえた)

未央(――どこから聞こえたのか、誰の声なのか)

未央(――その答えはすぐに分かった)


未央(――長く続く通路の天井)

未央(――私達の頭のすぐ上から)


未央(――ぶよぶよとした赫子が垂れて)


未央(――真っ赤な目をしたちひろさんが、私達を目掛けて飛び降りてきたんだ)



ブスッ


未央(――それが分かった次の瞬間、目に激痛を感じた)

未央(――痛くないもう片方の目を必死に動かすと)

未央(――注射器の針が刺さっているのが見えた)

未央(――ちひろさんが、右手に持った注射器で私を)

未央(――左手でしぶりんの目を、それぞれ突き刺して)


未央(――そしたら、ちひろさんが今度は両手を放して)

未央(――私達2人の顔に手を添えて)



未央(――2つまとめて地面に叩きつけた)



未央(――それが、気絶するまでに見たものの全部だった)


――――――――――――――――――――



46: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:56:50.38 ID:SEAxogu10


~CCG本局~


早苗「『キャッスル』の正体が分かった……!?」

橘「はい。…と言っても、まだ証言と状況証拠から『キャッスルである可能性が最も高い団体』を絞り込めたと言う段階ですが」

早苗「…幸子ちゃんが、キャッスルの正体を知ったの?」

橘「いいえ」


橘「正確に申し上げれば、輿水幸子さんの証言の一部に気になるところがあり」

橘「調査を進めたところ、『キャッスル』と思われる団体の手がかりを得た……と言うべきでしょうか」

早苗「…?」

橘「…すみません。今のことは確定事項ではなく、皆さんの混乱を避けるため捜査対象の名前をぼかしてお話しする必要があったんです」



橘「そして、早苗さんにお伝えしたい事がもう一つ」

橘「輿水さんとは別に、もうひとり『キャッスル』について情報提供をしたいと言う方が現れました」

橘「私はこれから、その情報提供者と面会を行います」


早苗「…それは誰?」

橘「今お話しすることは出来ません」

橘「…ただし、例外として」



橘「片桐さんも面会に立ち会っていただけるのであれば」



橘「捜査対象の名前を含め、今現在『キャッスル』について知りうる全ての情報を片桐さんに開示できます」


――――――――――――――――――――



47: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:58:12.46 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


早苗(――立ち会いを断る理由なんてなかった)

早苗(――美樹ちゃんも、私の返事は最初から分かってたみたいで)

早苗(――あたし達はそのまま、もう1人の証人が待っている応接室に向かった)


早苗(――美樹ちゃんが言ったことを要約すると)

早苗(――その証人は、いわゆる『内部告発者』)

早苗(――"喰種"が運営している組織で働いていた人間だったけど)

早苗(――その組織について、ある情報を知ってしまったことで)

早苗(――告発を決めた……って感じね)


早苗(――美樹ちゃんは、証人に会うまでキャッスルの正体を教えてくれなかった)

早苗(――でも、もうすぐ分かる)

早苗(――この扉の向こうに、関係者がいる)

早苗(――ユッコちゃんを攫った犯人に、もうすぐたどり着ける)


早苗(――さあ)

早苗(――今までの悪事のツケ、全部清算してもら――――――――――)





「…君は、片桐早苗か」

「こうして直接話をするのは初めてだな」

「君を含む我がプロダクションのアイドル数名が、CCGに保護されていると言う情報は本当だったんだな」



早苗(―――――え?)

早苗(――この人が……)

早苗(――『内部告発者』)


早苗(――ってことは)

早苗(――『キャッスル』って)

早苗(――まさか)


早苗(――まさか!!)



「……気付いたようだな」


「真実は君の想像している通りだ」



「初めまして、橘美樹準特等捜査官」

「貴女の御息女は、短くも良い活動をしてくれた」





美城「346プロダクション所属、常務の美城だ」


――――――――――――――――――――



48: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:58:38.08 ID:SEAxogu10


~346プロ地下潜入の同日・夜 346プロダクション地下~


凛「……」

凛(――ここは……?)

凛(――真っ白で小さな個室……何も置いてない)

凛(――私は確か……346プロの隠された地下入口を見つけて)

凛(――ちひろさんに襲われて、目に針を刺されて……)


凛「……!」


凛(――そうだ! 346プロは……!!)


「お目覚めですか?」


凛「ッ……!!」

凛(――この声は……!!)



ちひろ「こんばんは、凛ちゃん」

ちひろ「よく眠れましたか?」



49: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:59:05.43 ID:SEAxogu10


凛「ッ!」ギリッ

凛「…ふざけた、こと、言わないでよ……!!」ググ

凛「……返して……!」

凛「奈緒と加蓮を……茜を、返せっ!!」


凛「ッ!?」ズルッ


ドシャ


凛(――なにこれ)

凛(――身体が、思うように動かない)

凛(――力が入らない……?)


ちひろ「あまり無理をしない方がいいですよ」

ちひろ「ただでさえRc抑制剤のせいで、しんどい思いをしているのですから」

凛「Rc……?」

ちひろ「凛ちゃんも知ってると思いますが、私達"喰種"の身体能力はRc細胞によって底上げされています」

ちひろ「これは白鳩も使ってる、Rc細胞の活動を抑制するお薬ですよ」


ちひろ「……まったく忌々しい」



50: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 09:59:34.68 ID:SEAxogu10


凛「……アンタ……!!」

ちひろ「ん? どうしましたか? 何か聞きたい事でも?」

ちひろ「ああ! 奈緒ちゃんと加蓮ちゃん、あとついでに茜ちゃんの居場所を知りたいんですね?」

ちひろ「それもそうですよね、わざわざこんな所にまで3人を取り戻しに来たんですから!」

ちひろ「それとも未央ちゃんの居場所でしょうか?」

ちひろ「優しいですねえ、凛ちゃんは」

ちひろ「あっちはあの子の自業自得だと言うのに」


凛「!!」

凛「未央をどこにやったの!?」

凛「あんた達は私達に隠れて何をしてるの!?」


ちひろ「まあまあまあ、がっつかなくても全部説明しますよ」


ちひろ「どうせ口止めするんです」


ちひろ「それなら最初から、大切なアイドルの知りたいことを教えてあげる優しさはあるんですよ?」



51: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:00:03.11 ID:SEAxogu10


凛「…どの口が……!!」

ちひろ「はいはい。…えっと、まずは神谷奈緒ちゃんと北条加蓮ちゃんの行方ですね」


ちひろ「あの2匹は、今回協力していただいたマダムの一人にお礼として差し上げました」

ちひろ「ああ、協力って言うのは菜々ちゃんが死んだときそれ以上346を詮索されないようにするため」

ちひろ「『安部菜々と言う"喰種"は「清廉潔白の346プロ」に潜り込んでいた』と言うストーリーの作成を手伝ってもらったってことです」


ちひろ「協力者の名前は『ビッグリリィ』」

ちひろ「少女同士、あるいは美少年同士の触れ合いを眺めるのが大好きらしくて」

ちひろ「ちょっと変わった方法で日々の癒しを得ている方です」


ちひろ「本人曰く、買った人間の少女2人を同じところに監禁して」

ちひろ「毎日少しずつ少しずつ身体のパーツを切り取って食べながら」

ちひろ「為す術もなく体を失い死にゆく絶望の中、唯一の救いである互いの存在を求めあい」

ちひろ「互いに縋るように身を寄せ合う姿が最高に尊い、だとか」


ちひろ「そうですねえ……今頃あの2匹は」


ちひろ「手足のない身体で互いを慰め合っているんじゃないでしょうか?」


ちひろ「これが『なおかれ』なんですねえ」



52: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:01:22.31 ID:SEAxogu10


凛「―――――」


ちひろ「…おや? どうしました?」

ちひろ「凛ちゃんには、まだ刺激が強すぎましたか?」


ちひろ「…まあいいでしょう。じゃあ次、未央ちゃんの安否ですね」

ちひろ「とりあえず五体満足ですよ。ほら」グイッ


未央「……」ドサッ


凛「! 未央!!」


ちひろ「凛ちゃんはともかく、未央ちゃんは少し悪い事をしちゃいましたからね」

ちひろ「まさか、あんなにも堂々と自分が"喰種"だとバラすなんて」

ちひろ「いや危ない危ない。こっちの事まで知られたら取り返しのつかないことになってましたよ」

ちひろ「なので未央ちゃんには、少しばかり、肉体的にも精神的にもきついお灸を据えてあげました」


ちひろ「でも、人間に育てられたとはいえ喰種。素晴らしい回復力ですね」

ちひろ「お腹に大穴を開けられたと言うのに、食事さえすればもう傷一つない」



53: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:01:55.60 ID:SEAxogu10


凛「未央、未央!? 大丈夫!?」

未央「……あ……」

未央「しぶ、りん……」


凛「未央……あいつらに何をされたの!?」

未央「何、って、あ……」

未央「っう……!」


未央「ごめんっ、ごめんなさい、しぶりん」

未央「わたしのせいで、茜ちん、が……!!」


凛「……茜?」



ちひろ「そしてこれが次の答え」

ちひろ「茜ちゃんはこうなりました。はいっ」



凛(――あの女は、未央を連れてきた入口から)

凛(――ボーリング玉ほどの何かを鷲掴みにして、私と未央のところまで放り投げた)

凛(――思わず受け取ると、細い糸がいくつも生えている感触が手から伝わって来た)

凛(――すぐに、髪の毛だって分かった)


凛(――これを持ったのは、初めてじゃなかった)



ちひろ「そうそう、これは未央ちゃんに向けて話してますけど」

ちひろ「茜ちゃんがどうやって死んだか、凛ちゃんに話すかどうかは未央ちゃんが決めていいですよ」



54: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:02:55.74 ID:SEAxogu10


凛(――もう、限界だった)


凛「―――――ふざけるなッ!!!」

ちひろ「…はい?」

凛「あんた達は一体何なの!? なんでこんなひどい事が出来るの!?」

凛「頭おかしいよ!! 狂ってるよ!! 人間を何だと思ってるの!?」

凛「こんなっ……346プロがこんなところだって知ってたら!」

凛「私はここでアイドルになんかならなかった!!」


ちひろ「……」


ちひろ「……はーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


ちひろ「今まで散々散々、346の恩恵を受けておいてひっどい言い様ですね」

ちひろ「自分も化け物だって自覚、あります?」


凛「はあ!?」


ちひろ「…あー、そう言えば」

ちひろ「私達がこれだけ裏でがんばってるの、ほとんどのアイドルは知らないんですよね」

ちひろ「まあ、私達はアイドルの笑顔が生きがいですから文句も言いませんけど……」


ちひろ「……いいでしょう」

ちひろ「凛ちゃんが知りたがってる346プロの事、全部教えてあげます」


ちひろ「答え合わせの時間といきましょうか」


――――――――――――――――――――



55: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 10:04:16.30 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


美城「とあるきっかけにより、私は知った」

美城「長大な歴史を誇る老舗ブランドを謳った、我が美城プロダクションは」

美城「その実、美しい城などではなかった」


美城「あれは無垢なる人間の少女で身を隠し、少女を喰い荒らし」

美城「そうして放り棄てられた人間の骸を礎にして作られし穢れた城」


美城「片桐早苗。君も存分に聞くがいい」



美城「私の知る全てを話そう」


――――――――――――――――――――



59: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:07:48.12 ID:SEAxogu10


早苗(――美城常務が語った真相は、簡単に言えばこういうことだった。



346プロダクションは"喰種"の身体能力に目を付けた人間の美城一族が、

その能力と、お金や生活補助との交換を吹っ掛けたことで生まれた会社。


美城一族以外の幹部や管理職、プロデューサー、女子寮の管理人、事務所の清掃員まで、

運営に関わらないような事務員を除いたほぼ全てのポジションで"喰種"が働いてる。


また、当然っちゃ当然だけどアイドルもその半分以上が"喰種"。

人間と"喰種"のアイドルを両方置いておくことでCCGや人間へのカモフラージュを作って、

「ご飯」を定期的に供給したり学校や教育を手配したりすることで、

ほかのアイドル事務所と比べて"喰種"が安心して生活しアイドル活動を続けていける環境を作った。


……ここまでが、表向き"喰種"アイドルや常務が元々聞かされていたお話。



ああ、あと346プロの秘密を知った人間はこっそり始末してるって話だけど、

良い悪いはともかく、目撃者は消さざるを得ないって言うのは、私もまだ納得できる……

問題はここから。



346プロが人間アイドルを雇うのはカモフラージュのためだって言ってたけど、

本当はもっとおぞましい理由がある。



60: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:08:21.30 ID:SEAxogu10


346プロは、"喰種"アイドルを守るために色々な事をしなくちゃいけない。


狩りの出来ない"喰種"のために、ご飯を用意する。

学校にいけない"喰種"のために、教材や勉強場所を用意する。

"喰種"としての正体を隠すために、偽の戸籍やRc検査診断書を用意する。

職員やアイドル個人の正体がバレた時、ほかのアイドルまで捜査が行かないよう根回しやもみ消しをする。

(分かりやすい例が菜々ちゃんの時のこと)

荒っぽい野良喰種が346プロに来ないよう牽制する。


そして、完全に"喰種"アイドルの正体を隠すには346プロだけの力じゃ足りない。


だから周りの喰種組織と協力して完璧な情報を隠す形態を確立した。



でも、周りの喰種組織はタダで協力してくれるわけじゃない。

346プロにしか出せないものがあるから、みんな協力してくれる。


346プロは、それを『財産』って呼んでる。





346プロは協力の報酬として、人間のアイドルを誘拐して報酬にしている。



61: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:08:47.01 ID:SEAxogu10


周りの"喰種"にとって、可愛い女の子はそれだけで価値のあるご飯になる。

アイドル事務所なんだから、可愛い女の子が集まるのも当然。

それにレッスンで鍛えられて、エナジードリンクや『レシピ』で整えられたしなやかな身体は評価が高くて、

346プロを手伝えばそれが貰えるようになるんだから、皆喜んで仕事をする。


でも定期的に自社のアイドルが減っていけば、誰だって不審に思う。


そのために、346プロは『キャッスル』って言う架空の組織を作り上げた。


あちこちのアイドルを攫い、どこかに出荷する極悪組織。

その実は、346プロが自分のところのアイドル失踪を誤魔化すために他所の子もまとめて攫ってるだけ。


そして、346プロから喰種組織に売り飛ばされた人間は、一部のお金持ちの喰種に―――――





―――――その先を聞いて、あたしは吐いた)


――――――――――――――――――――



62: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:09:15.34 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


ちひろ「―――っと、こんなところですかね」

ちひろ「どうです? 自分を支えた皆のやってることを知った気分は?」


凛「…………」

凛「……あ……」


ちひろ「…あーらら。絶句しちゃってますね」

ちひろ「一応補足ですが、『キャッスル』として攫った他所の子は346の子より肉質がずっと劣るため」

ちひろ「適当に下っ端にばら撒いて処理してます」


ちひろ「あと、普通なら346から出す子は『レシピ』に従って施術を行うのですが」

ちひろ「奈緒ちゃんと加蓮ちゃんに関してはビッグリリィの要望により、施術を行わずそのまま提供してるんですよね」

ちひろ「あそこの場合、再生能力は邪魔にしかなりませんからね」

ちひろ「…おーい? 今何気にすごい伏線貼りましたよー?」

ちひろ「聞こえてますかー?」


ちひろ「……ダメですかねこれ」



63: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:09:42.54 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


早苗「ッ……おえっ……うええっ……!!」


橘「…大丈夫ですか、片桐さん」


早苗「ぐっ……はあ、はあ」

早苗「ごめ、なさ……美樹ちゃ、ん……」


橘「いいえ、片桐さんの心情を鑑みず聴取を行った私にも責任があります。本当に申し訳ありません」

橘「すぐに医務室までお連れします。少しだけお待ちください」


早苗「はっ、はあっ……」


美城「……」

美城「……すまない、片桐君。君への配慮が欠けていた」

美城「堀裕子の居場所を除いて、君が知りたい筈の情報はすべて話した」

美城「彼女の居場所までは、私も突き止められなかった」


早苗「……ぐっ……う、う……!!」


早苗「……どう、して……?」


美城・橘「「?」」


早苗「どうして、あいつらは……!」

早苗「こんなひどいことを、平気で出来るの……!?」


美城「……」


美城「……そうだな」


美城「理由だけなら、私にも推測できる―――――」


――――――――――――――――――――


凛「どう、して……」

ちひろ「お」


凛「どうして、そんな、残酷なことが出来るの……?」


ちひろ「……まーだ分かりませんか」

ちひろ「何度も言ってる筈なんですけどねえ」


ちひろ「私達がここまでする理由なんて、ひとつだけですよ」


――――――――――――――――――――



64: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:10:11.13 ID:SEAxogu10











「すべてはアイドルのため」










ちひろ「これくらいやらなきゃ、"喰種"はステージに立てないんですよ」


美城「そして、このような吐き気を催す行為の支えなしに輝きを得られないなら―――」





美城「―――――"喰種"にくれてやる城やドレスなどない」

美城「骸を礎にしなければ保てない血まみれの城など、壊して当然の害悪だ」


――――――――――――――――――――



65: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:10:44.62 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


ちひろ「……さて、お仕置きとお説教はこれまでにして」

ちひろ「とりあえず、凛ちゃんも未央ちゃんもこのまま帰っていいですよ」

ちひろ「命なんて奪いません。ちゃんと出口まで案内します」


ちひろ「誤解しないでほしいんですが、私達にとっては」

ちひろ「お二人も守るべき大切なアイドルだって事は変わらないんです」


ちひろ「未央ちゃんは"喰種"としての自覚がちょーっと足りなかったみたいなので、厳しい躾をしてしまいましたけど」



ちひろ「……さて」

ちひろ「分かっているとは思いますが、ここで見たこと、聞いたこと、知ったこと、気付いたことは全て他言無用でお願いします」

ちひろ「もしお二人以外のアイドルの誰かに、このことを伝えたのなら……」


ちひろ「今度は卯月ちゃんと美穂ちゃんが」

ちひろ「その次は李衣菜ちゃんと夏樹ちゃんが」

ちひろ「これは骨が折れそうなので勘弁してほしいんですけど……さらに次は蘭子ちゃんと飛鳥ちゃんが」

ちひろ「未央ちゃんと茜ちゃんの代わりになります」


ちひろ「大切なお友達にこんな気持ち、させたくないでしょう?」

ちひろ「ね、未央ちゃん♪」



ちひろ「……それでは、今日はお疲れさまでした」

ちひろ「また明日から、夢に向かって頑張ってくださいね♪」

ちひろ「我々はその姿勢を、心より応援します♪」


――――――――――――――――――――



66: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:11:19.24 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


美城「……片桐君の様子は」

橘「とりあえず落ち着きました。…聴取を続けても?」

美城「構わない。だが、証言は一通り済ませた筈だ。まだ何か聞きたい事があるのか?」

橘「ええ。あと一つだけ」



橘「どうして貴女がそこまで知っている?」



美城「……何かおかしいか?」

橘「ええ。『キャッスル』……いえ、346プロダクションは長い間、その正体を隠し続けていた」

橘「我々の捜査の糸にすらかからなかった」

橘「忌まわしいことに奴等は我々の目を他所に逸らし続け、我々は騙され続けた」


橘「その346プロが、貴女に情報をリークされる可能性を考えていなかったとは思えない」

橘「一朝一夕の調査で手がかりなしの状態から得られる情報にしては、あまりにも精密かつ大きすぎる」

橘「……どうやって知った?」



67: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:12:02.23 ID:SEAxogu10


美城「……やれやれだ。『あの情報』だけでは信用してもらえないのか?」

美城「わざわざ担当アイドル4人を君たちに売ったと言うのに」

美城「一人は捕獲したと聞いているぞ?」


橘「ええ。貴女が我々の信用を得るために提供した情報……」

橘「『速水奏、塩見周子、宮本フレデリカ、鷺沢文香の4匹は"喰種"である』」

橘「4匹が揃って行動しているときに、ギン達に襲撃してもらって」

橘「前3匹には逃亡を許したものの、鷺沢文香の捕獲には成功した」

橘「……それぞれの赫眼も確認して、残る一人『大槻唯』の検査と保護も行い」

橘「大槻唯が人間だということも含め、貴女の提供した情報は嘘偽りない真実だと証明された」


美城「……それでもまだ、私が君たちを嵌めようとしていると?」

橘「怪しい箇所がひとつでも見つかれば疑うのは当然だ」

橘「なぜ知った。なぜここまでの情報を手に入れられた」

橘「答えろ」



68: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:13:18.75 ID:SEAxogu10


美城「……"喰種"とは言え恩人だから、できれば命だけは見逃してやりたかったのだがな」

美城「良いだろう、話そう」


美城「私がこの真実にたどり着いたのは、私自身の裏付けによって得られたものでもあるが……」

美城「そもそものきっかけは、とある"喰種"アイドルによるリークだった」

美城「内容は、『彼女』が独自に掴んだ346プロの違和感」

美城「そして、そこから構成された『彼女』自身の推論」


美城「制裁を恐れて証拠を掴めなかったため、裏付けを私に丸投げしたのだろうが」

美城「驚くことに、彼女の推理はほぼ当たっていた」

美城「あとは簡単だ。仮説さえ立てられれば、あとは証拠を集めるだけでいいのだから」

美城「奴等の武器は『気付かれないこと』。真実の欠片にさえ気付いてしまえば、容易に辿り着ける」


橘「……『彼女』の名前は?」

美城「…………」



美城「―――『佐久間まゆ』」



美城「佐久間曰く、彼女は君たちが346プロ職員から輿水幸子を保護したことを知ってリークを決意したようだ」

美城「"喰種"とは言え、大した先見の明だ。346プロの対応を予期し、私に集めた情報と推理を渡したのだからな」


橘「……」



69: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:14:21.03 ID:SEAxogu10


橘「…分かりました。ひとまず、貴女が一人の"喰種"を見逃すなどと堂々と宣ったことについては、後回しにしましょう」

橘「それはそれとして、意味が分からない。なぜ"喰種"がそんなことをしたのですか?」

橘「自分の安全な居場所を壊すだけだと言うのに。気が狂ったのですか?」


美城「その理由までは聞けなかった」

美城「……ともあれ、私にとっては十分に信用できる情報だ」

美城「そちらでも情報の裏付けを取ると良い。あまり難しくはないだろう?」

橘「ええ。当然です」


橘「……最後に確認しますが、美城さんが"喰種"だと把握している346プロのアイドルは」

橘「リークした4人に加え、佐久間まゆの合計5人のみ」

橘「間違いはありませんか?」

美城「ああ。それ以上は本当に知らない」


橘「分かりました。ではこれで、美城さんへの聴取を終わります」

橘「これより美城さんにはCCGの保護下に入っていただきます」

美城「構わない。君たちの許可なく、私から346に連絡など取らないと誓おう」

橘「…ご協力、感謝いたします」


――――――――――――――――――――



70: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:14:49.10 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


早苗「……ん……」

「お、目が覚めたか」

早苗「……ギンちゃん?」

市原「おう。体は平気か?」

早苗「なんとかね。…聞いたわよ。幸子ちゃんをあいつらから守ってくれたって」

早苗「ありがと」


市原「ハッ、別に構わねーよ。仕事だ仕事」

市原「こっちこそサンキューな。奴らが動く前に仁奈たちを連れてきてくれて、すげー安心した」

早苗「……もう。そんなに娘を心配するなら、ちゃんと会ってやればいいのに」

早苗「すぐ近くで皆と遊んでるわよ」


市原「…出来ねえよ。アタシは仁奈に会う資格なんかねえ」

市原「こんなクソでバカな母親よりアンタらの傍にいた方が……アイツにとってずっと良い」

市原「アタシに出来ることは、仁奈のために金を稼ぐことだけだ」


市原「…知ってんだろ? 仁奈の親父のこと」



71: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:15:17.69 ID:SEAxogu10


早苗「…うん、知ってる」

早苗「仁奈ちゃんのお父さん……あなたの夫は、海外になんて行ってない」

早苗「治療費にお金がかかるから、あなたがずっと喰種を倒して稼がなきゃいけないって……」

市原「……そこまで知ってンなら、分かるだろ?」

市原「アタシは、仁奈を親父に合わせてやりてえ」

市原「アイツ見殺しにして仁奈のところにノコノコ行けっていうのかよ」

早苗「……あのねえ」


早苗「お金が必要なら、私達がいくらでも稼いであげるわよ……」

早苗「資格とか寝ぼけたこと言ってないで……母親らしく仁奈ちゃんと遊んであげなさいよ」

早苗「仁奈ちゃんはずっと、ママが大好き、ママに会いたいって、言ってるんだから……」

市原「……!!」


市原「……どっちにしろ、今は無理だ」スクッ

市原「まず346プロを追い詰めなきゃいけねえ」


市原「早苗サン。アンタはゆっくり寝てろ」バタン


――――――――――――――――――――



72: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:16:33.75 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


ちひろ「……おや。プロデューサーさん、こんばんは」

ちひろ「ええ。凛ちゃんと未央ちゃんが、こっちに気付いちゃいまして」

ちひろ「釘は刺したのですが……きっとプロデューサーさんにはご迷惑をおかけすると思います」


ちひろ「……ああ、それともう一つ。あの二人について」

ちひろ「少し状況が怪しくなったので、ご報告したい事が」


ちひろ「神谷奈緒と北条加蓮の捕獲の際、一匹の人間アイドルに現場を目撃されました」

ちひろ「…ご存知でしたか。ええ、輿水幸子です」

ちひろ「規則に従って、幸子ちゃんを排除しようとしたのですが……」

ちひろ「運悪く、近辺を捜査していた白鳩に保護されてしまいました」

ちひろ「その後、交戦したときに一名、マスクが外れたらしく……」


ちひろ「万が一、あれに職員の顔を特定された場合……証言によって我々346プロが窮地に陥る危険があります」

ちひろ「もしそうなった時のため……例の職員を、その担当アイドルを含め切り捨てる準備を行ってください」

ちひろ「よろしくお願いします」


――――――――――――――――――――



73: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:18:38.93 ID:SEAxogu10


――――――――――――――――――――


(――事実、輿水幸子さんが保護されることで)

(――その後の動きに触発された常務の行動――翌日の出来事だったため、この時は知る由も無かったのですが――を含め)

(――346プロダクションは崩壊の道を辿ることになりました)

(――ですが、それは職員の正体が露見した事ではなく)

(――もっと別の方向……私にとっては、予想もつかない場所であり―――――)



(――私にとって考えられる限り最悪の方向から、シンデレラの城は崩れてしまうのです)



――――――――――――――――――――



74: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:19:25.92 ID:SEAxogu10


~CCG本局 輿水幸子保護直後~


ギン「輿水幸子、だよな。落ち着いたか?」

幸子「は、ははは、はいっ……! ぼ、ボクはもう平気です!」

ギン「んなガタガタ震えなくても殺しやしねーよ。もう検査で人間だって分かってんだぞ」

幸子「え……そ、そうなんですか?」

ギン「おう。…つか、本気で殺されると思ってたのかよ……」

幸子「し、仕方ないじゃないですか! ボクは実際殺されかけたんですからね!!?」

ギン「"喰種"にな」



ギン「……で。美樹サンも到着が遅くなるらしーし、今からアタシが簡単に質問する」

ギン「取り調べだ」

幸子「…あの。取り調べって普通、容疑者に使う言葉じゃ」

ギン「うるせーぞ意味がわかりゃいいんだよ」


ギン「…ともかく。幸子、お前を殺そうとした奴を追い詰めるために必要な質問だ。分かるな?」

幸子「わ、わかりました」

ギン「ん、オッケー。じゃあまず……お前を襲った奴の顔は見たか?」

幸子「…見ることには、見ました」

ギン「じゃあ、そいつの顔や声に見覚えは? どっかで会ったことあるか?」

幸子「……いいえ。あんまりにも特徴のない顔でしたから、会ったかどうかなんて……」


ギン「……ま、そうか。アタシもちらっと見たが、あれはモンタージュ作っても特定キツいぞ」

ギン「わりいな幸子。とりあえず取り調べは終わりだ、あっちで仁奈たちが待ってるから行ってこい」



75: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:19:59.91 ID:SEAxogu10


幸子「えっ? もう終わりですか?」

ギン「つっても奴らの情報なんて持ってねーだろ? お前があんなのと関わりがあるとも思えねーし」

ギン「……あ、悪い待った」


幸子「? まだ何か?」

ギン「美樹サンに取り調べン時は絶対これ聞いとけってやつ忘れてたわ」

ギン「いつも美樹サンに任せっきりだったからな」

ギン「座れ幸子。もうちょい付き合え」

幸子「ええ……なんですかそのいい加減な指示は」

ギン「うっせ」


ギン「まあ、なんだ。一応聞きたい事があんだよ」

ギン「えーと……ちょっと待て。これだ」パラパラ


ギン「……『あなたの周りに、変わった子供はいませんか?』」


幸子「はい?」



76: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:22:14.97 ID:SEAxogu10


幸子「なんですか、それ?」

ギン「お前の周りに"喰種"らしき奴がいないかって質問だよ」

幸子「いえ聞きたいのはそっちじゃなくて、なんで手帳を朗読して」

ギン「続けんぞ」


ギン「『いつも見すぼらしい恰好、学校に行ってる様子がない』」

ギン「『年齢の割に言葉をあまり知らない、食べ物の好き嫌いが異常に多い』」

ギン「あとは…『粗暴な面が目立つ子』とか。お前の周りにそんな奴いないか?」

幸子「拓海さん」

ギン「バカ野郎そいつは人間だってさっき言っただろ」

幸子「友紀さん」

ギン「今の証言そのままそっくりあいつらに教えてやろうか?」

幸子「すみませんでした」



幸子「いや……そんな子いませんよ。346プロの皆はちゃんと学校に行ってますし、優しくて良い子ばかりですし」

幸子「まあボクには敵いませんけどね!!」

ギン「はいはいカワイイカワイイ」

幸子「ちょっと!!」



77: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:22:40.49 ID:SEAxogu10


幸子「…で、なんですそれ? そんなので"喰種"かどうかなんて分かるんですか?」

ギン「そりゃ、"喰種"は人間と違ってまともな教育受けてねーからな」

ギン「もちろん学校に行ってやがる例外もあるが、普通なら正体がバレるからそんなとこ行かねえ」

ギン「あと、まともな金もねーしな」

ギン「だから、"喰種"は学校に行かなかった結果、文字もろくに読めねーのがほとんどなんだよ」

幸子「へー……」

幸子「……」










幸子「……文字が、読めない?」



78: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:24:05.36 ID:SEAxogu10


ギン「!」

ギン「……なんか知ってんのか。思い当たるやつがいるな?」

ギン「お前の知り合いに字が読めない奴がいるんだな?」

幸子「!! い、いえ、そんなことは……!!」

ギン「嘘をつくなよ。"喰種"を庇うのは重罪だぞ」

幸子「庇ってませんって! だ、大体……」

幸子「ボクの周りは皆優しくて良い子ばっかりって言ったじゃないですか!!」

幸子「あの人が"喰種"なわけない!!」

幸子「大体、あの人は、幼いころ病気だったから、ろくに勉強できなかったって……!!」

幸子「紗枝さんがそう言ってたんです!!」

ギン「……」


ギン「……別に、そいつを疑ってるわけじゃねえよ」

ギン「逆に考えろ、幸子。お前が今考えた奴を調べて、それで無実の人間だったら」

ギン「疑惑は晴れる。拓海たちと同じように、そいつは絶対人間だって安心できる」


ギン「だから話してみろ。本当に優しくて良い子なら、そいつは人間のはずだろ」


幸子「ッ……!!」



79: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:24:33.06 ID:SEAxogu10


幸子「……本当に、無実だって証明してくれるんですよね?」

ギン「ああ」

幸子「み、見たことがないから疑えるんです! 実際あの人を見たら、そんなわけないって思うんですから!!」

ギン「分かったよ。お前を信じる」

幸子「きっ……聞きましたからね!? その言葉、信じますよ……!?」


幸子「……」



幸子「……ち……」







80: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/02(土) 23:25:01.25 ID:SEAxogu10











幸子「…………ちえり、さん」










幸子「……………………緒方、智絵里さん」



92: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:14:01.38 ID:i7c+7Ubm0


~1年前~


「紗枝。すまん、お前に謝らなきゃいけない事がある」

紗枝「…はい? いきなりどないしはったん、そない頭さげて」

「俺は……紗枝のほかにも、プロデュースしたい子が出来たんだ」

「そして、その子は人間だから……俺は『準1級プロデューサー』の申請をする」

「だが、準1級Pは人間のプロデュースと引き換えに、様々なリスクを負う」

「…紗枝。お前にも危険が付きまとう」

「どうか、俺が人間を……輿水幸子と、姫川友紀をプロデュースすることを、許してくれ」


紗枝「……へー」



紗枝「えらく度胸のある御方やわあ。そないな風に堂々と浮気する人、初めてやなあ」

「!?」



93: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:14:31.41 ID:i7c+7Ubm0


「うっ、浮っ……!? ち、違うぞ紗枝! 浮気とか、そういうことじゃ!!」

紗枝「いややわあ、プロデューサーはん。ほんの冗談どす」

紗枝「プロデューサーはんは、うちがついて行くって心に決めたお人」

紗枝「プロデューサーはんが決めたことやったら、反対する理由なんかあらへん」

紗枝「その…幸子はんと、友紀はん? が、プロデューサーはんの惚れた方なんやったら、うちもお傍で見守りますえ」

「紗枝……」

紗枝「でも……せやなあ」

紗枝「うちをずっと支える言うてくれたお人が、他の子によそ見するんをただで許すんは……なんや惜しいなあ」

紗枝「……あ!」


紗枝「そうや、プロデューサーはん。代わりに……」



紗枝「プロデューサーはんが隠してること、うちに全部教える言うんはどうどす?」



94:僕は大阪人です。だから京都弁がおかしくても許して ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:15:36.76 ID:i7c+7Ubm0


「…は? 隠してる、って……」

紗枝「なんやプロデューサーはん、会社のことや思うしうちのためやって分かってたから今まで黙っとってんけど」

紗枝「うちに隠れて悪いことしとるなー思うてて」

「…!!」

紗枝「…うちは、プロデューサーはんを見損なったりしまへん」

紗枝「うちのために悪いことして、それをうちに隠して、苦しまんといて」

紗枝「プロデューサーはんなら、お話するのに、周りに聞いてる人だれもおらん所知ってはるやろ?」

紗枝「プロデューサーはん。プロデューサーはんの抱えてること、うちにも抱えさせてください」

紗枝「……な?」

「紗枝……」


「……分かった。全部話すよ」

「だが……紗枝、ごめん。お前を苦しめることになる」


――――――――――――――――――――



95: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:16:39.37 ID:i7c+7Ubm0


――――――――――――――――――――


紗枝「……そういうこと、やったんやなあ」

紗枝「『キャッスル』、『財産』、『人間アイドルを雇う理由』……」

紗枝「えらいこと、聞いてもうたなあ」

「…すまん」


紗枝「うちは大丈夫…どす。今聞いたことは、ちゃーんと誰にも言わんで内に秘めときます」

紗枝「うちが会う人間の子が、財産にされるって分かっても……うちはちゃんと、その上を歩きます」

紗枝「やることも、目指すことも、変わりまへん」

「……」


紗枝「……それで、プロデューサーはんが準1級になる言うことは」

「ああ。紗枝も知っている通り、プロデューサーは一人の例外を除いて全員が喰種だ」


「そのうち戦闘能力の高い喰種は、喰種アイドルを受け持つ1級P」

「弱い喰種は、人間アイドルを受け持つ2級Pに割り振られる」

「そして1級Pは、申請を行い準1級Pとなることで喰種と人間アイドル両方を担当できるようになり」


紗枝「準1級のプロデューサーはんは、担当の人間アイドル……幸子はんと、友紀はんを『財産』の候補から外してもらえる」

紗枝「…その代わりに、担当する喰種アイドルは人間に近付く分、正体を見破られる『りすく』が上がる……」

紗枝「せやから、うちにあない必死になって頭下げたんや」


紗枝「ほんまに、惚れた人には真っすぐなお方やなあ」



96: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:17:24.43 ID:i7c+7Ubm0


紗枝「…ふう」

紗枝「プロデューサーはん。幸子はんと、友紀はんに会うときを楽しみにしてます」

紗枝「うち以外に、プロデューサーはんが惚れた子がどないな子なんか。今から楽しみやわあ」

「……」

紗枝「…? どないしたん、プロデューサーはん」

紗枝「もう、隠してることはない思うてたんやけど…?」

「……ああ。隠してることは、もうない」

「だが、話せることはある」

紗枝「……?」



「紗枝。今から話すことは、出来るだけ一言一句間違えずに覚えて欲しい」

「もし紗枝が白鳩に捕まって、346プロについて尋問された時は……」

「この情報の価値が、紗枝をあいつらから助けてくれる筈だ」


「……もし、この情報が必要になった時は。俺がどれだけ時間をかけてでも紗枝を助けに行く」

「俺を信じて、戦い続けてくれ」


――――――――――――――――――――



97: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:18:54.47 ID:i7c+7Ubm0


~美城常務による内部告発の2日後・CCG本局~


~特等捜査官会議~


―――和修吉時/喰種対策局 局長

―――安浦清子/特等捜査官

―――御坂矜持/コクリア監獄長

―――田中丸望元/特等捜査官

―――橘実(ミノル)/特等捜査官

―――丸手斎/対策Ⅱ課 特等捜査官

―――宇井郡/準特等捜査官

―――篠原幸紀/特等捜査官

―――法寺功介/準特等捜査官

―――黒磐巌/特等捜査官


―――橘美樹/準特等捜査官



望元「ンン…まさか特等会議に3人もの準特等が参加するとは」

清子「能力を見込まれてのことでしょう。何か問題でも?」

吉時「何も問題はないよ田中丸特等。宇井準特等も法寺準特等も、期待の逸材だし……」

望元「いやいや、反対などしていませんぞ。橘レディが残した功績は、ここを参加する名誉にも匹敵するさ」

黒磐「うむ」

美樹「…ありがとうございます」

丸手「呼ばなくたってどーせあの非常識女の席が空くだけだろ」

篠原「まあまあマル…舞ちゃんもケガあっての引退でもあるんだし、ちゃんと娘も育てなきゃいけないんだから」

宇井「でも日高特等……たまに来ますよね」

法寺「訓練所に突然現れては捜査官達を叩きのめしていく様は…すっかり皆のトラウマになっているようですね」

実「彼女でさえ仕留められなかった『リトルバード』……奴は死んだのか、未だ生きているのかすらわからんな」



98: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:20:35.59 ID:i7c+7Ubm0


吉時「…まあ、関係のない話はここまでにしようか」

吉時「橘準特等には、輿水幸子さんの証言から『キャッスル』の正体を突き止めた経緯を事細かに説明してもらいたい」

美樹「承知しました」ガタ


美樹「判明のきっかけは輿水さんの証言より」

美樹「『年齢にしては漢字の能力が低い』様子を見せた緒方智絵里」

美樹「また、緒方智絵里の様子を『幼いころ病気だった』とフォローした小早川紗枝」

美樹「以上、346プロ所属のアイドル2人に喰種容疑が掛かったことです」


美樹「『キャッスル』につながる可能性があるとして2人の戸籍や提出されたRc診断書を精査したところ」

美樹「両方、巧妙に作成されたフェイクであることが判明しました」



美樹「小早川紗枝に関しては、現時点で捕獲済みであり」

美樹「検査の結果、喰種だと判明」

美樹「有益な情報を持っていると判断し、コクリアに収監しました」

美樹「小早川紗枝の尋問については御坂監獄長に一任しています」



99:最初はsideMの人達を捜査官にしようとしましたが↓ ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:23:32.70 ID:i7c+7Ubm0


篠原「紗枝ちゃんがキャッスルの正体をバラしたってことかい?」

丸手「篠原。喰種を『ちゃん』付けすんな」

篠原「…ごめん。うちのチビ達がファンだったんだよ。正直ショックだ…」

黒磐「気を落とすな篠原。美里も安部菜々のファンだった」

実「……」

望元「死して尚、捜査官の純粋な心にさえ爪痕を残す喰種アイドル……厄介ですな」

法寺「橘準特等。説明の続きをお願いします」


美樹「…失礼しました。篠原特等の心境を考慮し、以降小早川紗枝をS、緒方智絵里をCと言い換えます」

美樹「確かにSは346プロの情報を所持していましたが、キャッスルが346プロだと突き止めた結果は我々の捜査によるものでありSの捕獲以前の話です」

美樹「先ほども述べた通り、SおよびCの戸籍や診断書は巧妙に作成されたフェイクでした」


美樹「しかし京都の地主である小早川家の娘であるSはともかく…」

美樹「Cの家族関係を調査したところ、ホームページで紹介されていた家族構成とは異なり、両親との関わりが一切見られませんでした」

美樹「恐らく親すらいない野良喰種だったCですが、その程度の喰種が用意できるような精度のフェイクではなかったのです」


美樹「Cが346プロに潜り込む際、何者かの手引きがあったと考え」

美樹「346プロ内部にまだ喰種が混ざっていると見て、捜査を続けていましたが―――」


清子「現実は混ざっているどころではなく、喰種そのものの組織だったと」

美樹「安浦特等の仰る通りです」



100:あの子らをちょっと知って「なんか違うな」と思ったので原作のオッサン連中に出てきてもらいました↓ ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:24:44.06 ID:i7c+7Ubm0


宇井「その後に、346プロダクションの常務が内部告発した……んでしたっけ」

美樹「ええ。それまでの捜査の結果では、キャッスルの第一容疑者として346プロが挙がる程度に留まっていましたが」

美樹「美城常務の告発とその後の裏付けにより、346プロの職員がキャッスルとして少女誘拐を行っていると正式に確定しました」

美樹「また御坂監獄長のご報告によると、Sの尋問によって得られた情報から……」


御坂「そこからは私が直接話そう。こは…Sは美城さん以上に346プロの運営等について詳しかった」

御坂「同じく346プロに所属するアイドルのうち、誰が喰種かまでは話そうとしないが」

御坂「それ以外…346プロが利用している喰種組織や、あとは346プロと類似した…」

御坂「つまり、346と同じように喰種が運営しているアイドル事務所の情報がぽんぽん出て来る」

御坂「今後も有益な情報源になると判断し、Sの廃棄は当分見送りだな」


御坂「『誰に仕込まれたのか、交渉が上手くて下手に拷問も出来ない』と灰崎が嘆いていた」


法寺「…346プロに所属する喰種アイドルは、全員事情を知っているということですか?」

御坂「いや、それは違うだろう。S本人も


『アイドルやったら、多分知っとるのはうちくらいちゃう?』


と主張していた」


美樹「それに、私が所有権を主張し私の手で尋問している鷺沢文香…」

美樹「『H』は、キャッスルについていかなる情報も持ち合わせていませんでした」

美樹「Sが例外と言うだけで、本来346プロに所属する喰種アイドルはキャッスルについて一切知らされていないと見るべきでしょう」



101:各捜査官の階級は無印12巻あたりで亜門、真戸親子、滝沢、有馬以外の捜査官は大体出す予定 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:27:16.00 ID:i7c+7Ubm0


黒磐「そういえば、おが……Cの話がまだだが、そっちはどうしたんだ」

美樹「止むを得ない事情があり、放置しています」

黒磐「…止むを得ない?」


丸手「こっからは俺が言う。346プロが人間アイドル雇ってる目的は聞いてるんスよね?」

清子「…カモフラージュと、周辺組織への『餌』としての提供ね」

望元「聞けば聞くほどひどい。もはや人間を道具としか思っていない」

丸手「実際そうっスよ望元さん。…んで、346プロの人間の使い方はもう一つある」

丸手「万が一、捜査が入った時に使う保険……言っちまえば、人質だ」


丸手「あんたらも聞いてんだろ。今朝、こいつがCCG本局の正門前に放り投げられてた」ドサ

篠原「ああ。確か……」

丸手「SおよびCの調査を任せた局員と、その風景の写真だ。こっちの動きを完全に把握してやがる」

丸手「…連中、事務所のセキュリティはほぼザルだっつーのにアイドルの事となるとガードがクソみたいにかてえ」

丸手「CやSでさえこっちが最初から疑ってたから、ようやくそれっぽい情報を掴めたレベル」

丸手「どっちか分かんねえ状態で捜査を始めたら、何日かかるか分かったもんじゃねえ」


丸手「それだけならまだいい」

丸手「あのクソ野郎共……資料だけじゃなくとんでもねえ置き土産していきやがった」





丸手「『水本ゆかり』、『椎名法子』」


丸手「橘ンとこで保護した中野有香のお友達で、今は人間だって判明してるが―――――」



102: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/07(木) 21:28:55.60 ID:i7c+7Ubm0











丸手「―――――資料と一緒に半殺しで転がされてやがった」







丸手「特に水本ゆかりは両手の指全部ぶった切られてて」

丸手「椎名法子は意識が戻る見込みすらねえらしい……クソが」



110: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:47:03.11 ID:I/+amali0


黒磐「SやCを調査した仕返しか」

吉時「その二人を攻撃したのは…橘準特等のところで保護された中野有香さんへの当てつけってことかな」

宇井「なんですかそれ……!! そんな理由で!?」

法寺「落ち着いてください宇井くん」


法寺「…しかし、これでは捜査も確保もやりようがありませんね。強制介入を行ってもアイドルの何人かは確実に巻き添えを喰らいます」

篠原「問題は何より『所属アイドルが人間か喰種か分かってない』うえに『調べさせてくれない』、か」

清子「…まさか、人質を助けられないからって346プロを見逃す気じゃないでしょうね?」


実「方法がないわけでもないだろう。時間効率は悪くなるが、奴等に見つからずにアイドルの情報を探ることも不可能じゃないはずだ」

実「…一人二人の犠牲を前提とするなら、この事実を公表して346プロの信用を失わせることもできる」

御坂「奴らも保護したアイドルと収監したアイドルの様子までは監視しようが無い。そこから情報を得ることも可能だな」


丸手「そうっすね。時間をかければかけるほど奴等は利を失っていく」

丸手「……元々、長期戦に持ち込む気も無えみたいですが」パサッ



111: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:52:36.69 ID:I/+amali0


丸手「置き去りにされた資料は調査風景だけじゃなかった」

丸手「ご親切にでかでかとタイトルまで書いてやがる」


法寺「…『346プロアイドル避難計画書およびCCGに許可する捜査一覧』、ですか?」ペラ

清子「内容を要約すると……


『346プロダクション全職員のプロフィール。また、それらが全て"喰種"であることの証明』

『人間、喰種問わず所属する全アイドルの「野外ロケ」と称した避難計画、および避難完了予定日』

『避難完了までにCCGに対して許可する行動一覧……職員プロフィールの精査や346プロが支援を受けている周辺組織に対しての捜査など、所属アイドルに関係しない行動。そして速水奏、塩見周子、宮本フレデリカ、佐久間まゆ、以上4名の指名手配と捜査』

『「避難完了日には全職員を346プロダクション本社に待機させる」という旨の誓約書』


……そして、二言だけの手書きメモ。


『姫を置いて城を去る家臣などいない』

『1週間だけ時間をくれ 罪も罰も我々が負う』」



宇井「人間も喰種も、アイドルは全員遠くにやって職員だけ残る?」

篠原「マル。これってつまり、346プロ『自体』は……」


丸手「完全に掌の上で転がされてて気に入らねえが、そう言うことだ」

丸手「アイドルを盾に活動を続ける気なんざさらさらねえ。…346プロは―――――」



丸手「―――大事なお姫様だけ逃がして自壊する気だ」



丸手「『お姫様』に人間は入ってねえみたいだがな」


――――――――――――――――――――



112: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:55:11.66 ID:I/+amali0


~小早川紗枝 確保直後 346プロダクション深部~


ちひろ「…KBYDPさん。先ほどの行為を深く謝罪します」

ちひろ「あなたの拘束には、もはや何の意味もありませんでした」

ちひろ「もう少し早く、美城常務が内部告発に足る情報を掴んでいたと把握できていれば……」


KBYDP「…過ぎたことに怒っても意味なんかありませんよ」

KBYDP「それに俺は…準1級Pの申請をした時すでに、幸子や友紀を通していつか紗枝が捕まるかもしれないってことも」

KBYDP「そのとき俺はあんたらに押さえつけられて、紗枝を助けにいけないだろうってことも想定してました」

KBYDP「だから、俺は殺させないために346プロの全部を紗枝に教えました。だからおあいこです」


KBYDP「失礼します。今から俺は、紗枝の情報が尽きないうちにコクリアから助け出さなきゃいけないので」

KBYDP「紗枝は仲間を売る子じゃないし今は売る必要も無いと思いますけど、他の子についてはまあ祈っててください。では」


ちひろ「ええ、紗枝ちゃんを無事に助け出してください。応援しています」



113: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:56:05.99 ID:I/+amali0


ちひろ「…もう。幸子ちゃんや友紀ちゃんが保護されてるのを良いことにペラペラと好き勝手言っちゃって」


ちひろ「それに、私の知らないところでアイドルが全滅しかねない情報をあっさり話しちゃうんですから」

ちひろ「これだから、プロデューサーというものは侮れないんですよ」


ちひろ「本当に、担当アイドルの笑顔のためなら」

ちひろ「世界中の誰を犠牲にしたってかまわない人たちばかり……」


ちひろ「ですが許します」

ちひろ「あっさりとした裏切りには困りましたが、その意志には敬意を払いましょう」

ちひろ「我々に歯向かえど、その心は同じなのですから」



114: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 16:58:39.59 ID:I/+amali0


ちひろ「…さあ、1級および準1級プロデューサーの皆さん。お話はすでに聞いていますね?」

ちひろ「当然のことですが、あなた達が働くのはは幹部のためでも346プロのためでもない」


「ええ」


JKTP「すべてはアイドルのため」

肇P「自分が見つけたシンデレラのためなら、自分の命など惜しくもない」


早耶P「すべてはアイドルの笑顔のため」
         ユメ
日菜子P「お姫様に幻を見せてあげられるなら、代わりに命を喰らい屍を背負うことも厭わない」


輝子P「すべてはアイドルの輝きのため」

美優P「全てを捧げた少女がお城で輝けるなら、喜んで血の河を渡り骨の階段を積み立てる」

            タベル     タベル     タベル     タベル
留美P「喰べるしかない、奪うしかない、守るしかない、失うしかない、間違うしかない」

NWP「ならば、運命を呪い涙を流す少女に代わって我々が喰べましょう」

ガルパP「灰に塗れても運命に抗い精一杯生きようとするシンデレラを、血に濡れた俺達の手で最期まで守り続けよう」


ブルナポP「そして、命を奪った報いを受ける時が来たら」

フリスクP「愛した子達、無実の子達に降りかかる断罪の刃を、すべて我々が飲み込み静かに失せましょう」

藍子P「お城を失ったシンデレラが、何の罪も知らず何の罰も背負わされずまた歩き出せるように」



ちひろ「素晴らしい心がけです!!」

ちひろ「愛する担当アイドルのためなら、何だって出来てしまう」

ちひろ「ここのプロデューサーは全て、そんな気狂い喰種の集まりだと私は知っています」


ちひろ「微力ですが、私も皆さんが見つけたシンデレラのため」


ちひろ「この手を血に染め、精一杯の策略をめぐらせましょう」





ちひろ「……とりあえず、我々を探る白鳩にご自分の立場を分からせるため」

ちひろ「そうですね。保護された有香ちゃんに因んで、ゆかりちゃんと法子ちゃんでも攫って痛めつけますか」

ちひろ「ゆかりちゃんはフルートを嗜むそうですし、演出のために指でももいでしまいましょうか」


ちひろ「では……」



115: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/09(土) 17:01:20.48 ID:I/+amali0






ちひろ「―――――『最終隠匿プロトコル』の準備をお願いします」





――――――――――――――――――――



121: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:29:08.24 ID:nATks/WC0


~凛・未央による346プロ潜入の翌日 渋谷家~


渋谷父「…凛の様子は?」

渋谷母「今日は家にいる、って」

渋谷母「仕事は入ってないから心配しないでって言ってたけど……」

渋谷父「…そうか」


渋谷父(……夜遅くにやっと帰って来たと思ったら、あの落ち込みようだ)

渋谷父(何があった、凛?)


渋谷父「……話を聞くのは後にしよう。何があったのかは分からないが、凛にはゆっくりと休んでもらって―――」


「……あの。渋谷さんのお父様とお母様ですね」


渋谷父母「「!!」」


渋谷母「あなたは……!」


――――――――――――――――――――



122: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:29:37.32 ID:nATks/WC0


~凛の部屋~


凛「……」ボフ

ハナコ「キューン……」

凛「……ただいま、ハナコ」ナデ


凛「私は大丈夫だよ。心配しないで……」



123: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:30:05.57 ID:nATks/WC0


凛「……」


凛(――ちひろさんは)


凛(――あの後、私と未央に特に攻撃することもなく)

凛(――普通に出口まで案内した)


凛(――未央は、ちひろさんに何をされたか話してくれなかった)

凛(――お腹に穴をあけられたことだけは知ってるし、無理に聞くことでもないけど)


未央『……しぶりん。ゴメン、今日はひとりで帰らせて』


凛(――ただ傷つけられただけじゃない筈だってことは、何となく分かったんだ)

凛(――346プロの真実を聞かされた私とも、また違うことを考えてた……)

凛(――そんな風に見えた)


凛(――家に帰って、お父さんとお母さんに怒られかけて)

凛(――でも、二人ともすぐに私が変だって思ったみたいで)

凛(――すぐに何も言わなくなって)


凛(――『ご飯』だけ置いて、部屋で一人にしてくれた)



凛(――お腹がすいていたことに気が付いた)



124: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:30:39.91 ID:nATks/WC0


凛(――346プロを出てから、家に帰るまで)

凛(――どこか、ふわふわした気分だった)

凛(――まるで、悪い夢を見ていたかのような)


凛(――でも、お腹がすいて)

凛(――お母さんが出してくれた『ご飯』をかじった瞬間に)



凛(――それは幼いころからずっと食べていた人肉の味だと気付いて、私は現実に引き戻された)



凛(――私は"喰種"だ)

凛(――今まで何を勘違いしてたんだろう)

凛(――346プロに入ったからって、人間みたいになれるわけがなかった)

凛(――人間みたいに、何も考えずがむしゃらに走って行けるのがおかしいことに、なんで気付かなかったんだろう)


凛(――考えてみれば、私達を隠すために)

凛(――何も悪い事をしてないなんて、そんなわけない)


凛(――分かってる)

凛(――本当に悪いのは、346プロだけじゃない)

凛(――ずっと346プロに居座り続けた、私もなんだ)


凛(――知らなかっただけだ)

凛(――私達が何も知らなかっただけで)

凛(――奈緒や、加蓮みたいに)

凛(――私や未央が悩んでいる間、ずっと人間の誰かが犠牲になっていたんだ)


凛(――私は、結局化け物なんだ)



125: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:31:12.32 ID:nATks/WC0


凛(――それに気付いてからは)

凛(――まるで変えようのない事実から逃げるように)

凛(――346プロに入ってから今までのことを思い出してた)


凛(――『踏み込めば、今までとは別の世界が広がっています』)

凛(――その言葉を聞いて、"喰種"でも何かに夢中になれるのかなって思って)

凛(――アイドルになった)


凛(――デビューライブの時、卯月や未央と一緒に"喰種"が人前に立つ不安にぶつかった時)

凛(――プロデューサーが迎えに来てくれた)

凛(――プロデューサーの本音を初めて聞いた)


凛(――サマフェスの時は、すごく楽しかった)

凛(――山ほどのファンレターを貰った)

凛(――どこまでも走って行けるって、確信した)

凛(――裏で、女の子がひどい目にあってることなんか、考えもしなかった)


凛(――あの時も、あの時も、あの時も)


凛(――何も知らなかっただけで、私達のために)

凛(――罪もない人たちが、たくさん死んでたんだ)



126: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:31:42.59 ID:nATks/WC0


凛(――プロデューサーに会いたい)

凛(――でも、会うのが怖い)

凛(――問い詰めてやりたい)

凛(――何も聞きたくない)


凛(――私に、世界が広がるだなんて言っておいて)

凛(――プロデューサーは、私達に真実を隠してたの?)

凛(――プロデューサーも、知ってて黙ってたの?)


凛(――プロデューサーも)





凛(――私達のために、人をたくさん殺したの?)







「……渋谷さん」



127: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:32:13.09 ID:nATks/WC0


凛「!!」


「…ご両親に許可をいただきました」

「部屋に行っていいから、娘に会ってあげなさいと……」



凛「……あ……」



凛「プロ、デューサー」










武内P「……入っても、よろしいですか」



128: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:33:46.63 ID:nATks/WC0


――――――――――――――――――――


凛「……どうぞ」

P「ありがとう、ございます」


P「…本日、渋谷さんのお宅に訪問したのは」

P「重要な連絡を、渋谷さんに伝えたかったからです」


P「346プロダクションの閉鎖と、アイドルの皆さんの解雇が決定しました」



凛「……そっか。…バレたの?」

P「はい。美城常務が、我々の知らぬ間に情報を手に入れ……内部告発したと聞いています」

凛「…これからどうするの」

P「346プロは、閉鎖宣言を行うわけではありません」

P「我々は1週間のうちに、表向きは野外ロケと称して」

P「人間・喰種を問わず、少しずつ郊外まで移動していただき」

P「CCGがアイドルを区別できていないうちに身を隠していただくことになっています」

P「シンデレラプロジェクトの皆さんにも、最後の仕事が終わり次第」

P「各自、脱出していただく事を説明しています」


P「渋谷さんには、シンデレラプロジェクトの皆さんと共に東京から脱出するか」

P「ご家族と一緒に東京を去るか、選ぶことが出来ます」

凛「……うん、分かった」

凛「多分、父さんと母さんと一緒に逃げると思う」

凛「…皆には、顔を合わせられないと思うから」


P「……分かりました」



129: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:34:38.04 ID:nATks/WC0


凛「……連絡はそれだけ?」

P「……はい」

凛「……そっか」

P「……」

凛「……」


P「……」



P「……驚かれないのですね。346プロが無くなると聞いても」

凛「うん」

凛「そうなるだろうな、って思ったから」


P「……千川さんから、お話は聞いています」

凛「……うん」


P「……渋谷さんの御友人を、本田さんの御友人を奪いました」

P「本当に、申し訳ありませんでした」

凛「……」


凛「……プロデューサー」



凛「プロデューサーは、どこまで知ってるの」



130: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:35:30.08 ID:nATks/WC0


P「…渋谷さん…」


凛「答えて。奈緒と加蓮を攫ったのはプロデューサーなの?」

凛「茜を殺したのはプロデューサーなの?」

凛「未央を傷つけたのも、プロデューサー?」

凛「プロデューサーは全部知ってて、私達に黙ってたの?」

凛「私達のプロデュースの裏で、罪もない人をたくさん攫って、殺したの?」

凛「そうしておいて、『笑顔の橋』をやろうとしたの?」


P「……」


凛「……ごめん」

凛「別に、怒ってるわけじゃないよ」

凛「一晩考えて、そうするしかなかったんだって分かった」

凛「私達の正体を隠すために、打てる手は全部打った」

凛「善悪なんて考えてる余裕はなかった……そういうことでしょ」



131: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:37:33.90 ID:nATks/WC0


P「……すべて答えます」


P「本田さんへの処遇に、私は一切関わっていません」

P「あれは千川さんの独断であり、私に報告が回ったのもつい先ほどのことです」

P「ビッグリリィへの報酬に神谷さんと北条さんを選定したのも誘拐を実行したのも、私ではありません」


P「……ですが、日野さんを攫ったのは私です」

P「私があの場にいれば、本田さんに制裁など加えません。ただ、規則に従い日野さんの処分は迷わず行っていたでしょう」

P「『財産』についても……私に選択権があれば渋谷さんに近しいお二人は選ばなかっただろうというだけで」

P「対象が出来るだけ関わりのない人間アイドルに代わっただけで、誘拐や売買そのものに躊躇はしません」


P「私も他の1級、準1級Pと変わらず、346プロの真実をすべて把握しています」

P「渋谷さんをスカウトし、シンデレラプロジェクトが正式に発足してから」


P「神谷さん、北条さんを除いた3名のアイドルを『財産』として誘拐し、日野さんを除いた2名のアイドルを口封じに処分し」

P「数百の捜査官や喰種を、この手で殺しました」


P「……皆さんのプロデュースを行っていた傍らで」


P「神崎さんや、本田さんに、人間の皆さんと深い繋がりを持って欲しかったのは、紛れもなく私の本音です」

P「『笑顔の橋』も、神崎さんの願いを最大限尊重したい一心で企画しました」

P「……ですが」


P「皆さんの命を失わせないことが、第一です」

P「……大切なものには順番があります」



132: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:38:22.60 ID:nATks/WC0


凛「そっか」

凛「……じゃあ、最後にひとつだけ教えて」


凛「プロデューサーが最初に担当した、3人のこと」


P「……!!」

P「なぜそれを……!?」


凛「未央がアイドルやめかけた後、今西部長が話してくれたんだよ」

凛「昔、とっても真っすぐな男がいたって」

凛「その人はアイドルの幸せを心から願ってたけど」

凛「アイドルが心から笑顔になるには、どうすればいいか真剣に考えて行動して……」

凛「その結果、プロデューサーが担当した3人は死んじゃったって」


凛「だから、プロデューサーは私達のために人を殺すようになっちゃったの?」


凛「プロデューサーの口から教えてほしい」



133: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:40:49.63 ID:nATks/WC0


P「……」


P「…どこにでもあるような、つまらない話です」


P「私が最初にプロデュースした3名のアイドルは、人間が好きな方ばかりでした」

P「神崎さんや本田さんのように、"喰種"の身であっても人と対等にかかわることを心から望み」

P「大切な御友人が攫われ、346プロの真実を知った時は、泣いて私に救いを求めました」

P「私はその願いを叶えたい一心で、346プロダクションに対立しました」

P「私には、それを可能にする力がありました」

P「人間の御友人を助け出して、彼女たちはご自分が喰種であることを話し」

P「それを御友人に受け入れられた彼女たちは、本当に心からの笑顔を見せてくれました」



P「そして、1週間もしないうちに」

P「御友人は恐怖に耐えきれず、彼女たちを通報しました」


P「3人の命は、絶望と泣き叫ぶ声と共にいとも容易く奪われたのです」


P「更なる被害を食い止めるため、私は御友人を殺し」

P「積み上げたものは、すべて無意味に消失しました」



134: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:42:29.84 ID:nATks/WC0


P「渋谷さん」


P「許してくれとは、言いません」

P「私は、広がっていく世界が屍の上に立つ幻だと知っていて貴女を引きずり込みました」


P「それでも、出来ることなら貴女に幸せな夢を見てほしかった」

P「それが虚構でも、広がっていく世界をその目で見て欲しかった」

P「それで貴女たちが笑顔でいられると思ったから、私はそれで良かった」


P「"喰種"に生まれたならば、喰べるしかない。奪うしかない」

P「すべての喰種が、自分の運命に苦しんでいる」


P「ならば、せめて我々が代わりに奪えばいい」

P「そうすれば、せめてアイドルは自分の運命を忘れられる」

P「我々が代わりに背負うことで、皆さんは輝ける」

P「嘘の世界でも、騙されていても」


P「私は皆さんが、生きて笑顔でいてくれるなら、それでよかった」


凛「…………」



135: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:43:13.77 ID:nATks/WC0


凛「……そっか」


凛「プロデューサーも、辛かったんだね」

凛「大丈夫。恨んだりしないよ。プロデューサーのこと、とっくに許してるよ」


凛「根っこは、私が見たままのプロデューサーと全然変わらなかった」

凛「公園で言ってくれたことは、私が信じた言葉は、嘘じゃなかった」

凛「私達を守るために、ずっと優しい嘘をつき続けてくれてたんだね」


凛「……もう、私のことはいいよ」

凛「あとは皆を見ててあげて」


P「……渋谷さん」

凛「ごめん。346がなくなるまでまだ時間はあるみたいだけど」

凛「もう私はそっちにいけない」


凛「大丈夫。最後の仕事は、なんとなく想像つくから。それはちゃんと見てる」

凛「テレビの前で応援してる」


凛「卯月たちは、まだ真っすぐに夢を見続けてる」

凛「卯月や蘭子の夢は、プロデューサーが支えてあげて」







136: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:43:50.45 ID:nATks/WC0


凛「プロデューサー」





凛「さようなら。元気でね」





P「…はい。渋谷さん」





P「さようなら。どうかご無事で」




――――――――――――――――――――



137: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:45:19.13 ID:nATks/WC0


――――――――――――――――――――


P「……本日は、凛さんとの面会の許可をいただき」

P「本当にありがとうございました」

P「……凛さんと、あなた方の無事を願っています」


渋谷父「ああ、ありがとう。君の言葉に嘘が無いことは何となく分かる」

渋谷父「…"喰種"の聴力が恐ろしくなるな。話は全て聞いてしまったよ」

渋谷父「君が悪くないことも分かる。娘のために必死で働いてくれていたことも」

渋谷父「……感謝は、している。君のおかげでこの1年、娘は本当に楽しそうだった」



渋谷父「……君を責めはしない。だが―――――」





渋谷父「―――――二度と娘に関わらないでくれ」



――――――――――――――――――――



138: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:46:08.98 ID:nATks/WC0


――――――――――――――――――――










――――――――――――――――――――



139: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:46:55.21 ID:nATks/WC0




プロデューサー。



あなたに会えてよかった。あなたが私のプロデューサーでよかった。



あなたは私が信じた通り、すごくアイドルや、私の事を考えてくれる、素敵な人だった。



怯えて隠れるしかない人生だって思ってたけど。



あなたが連れ出してくれた先は、すごく楽しかった。



あなたのおかげで、卯月や未央にも会えた。大切な仲間もできた。



プロデューサーには、本当にありがとうって思ってるんだよ。



……でも。私がアイドルをやってることで。



理不尽に殺されていく罪もない人が、いたのなら。



たくさんの人が、夢を踏みにじられたなら。



私が踏み出したせいで、生きられたはずの人が泣いて死んでいったのなら―――――







140: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 10:47:28.71 ID:nATks/WC0











アイドル、ならなきゃよかった。










――――――――――――――――――――



142: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:51:17.00 ID:nATks/WC0


――――――――――――――――――――


未央『茜ちん、あーちゃん』

未央『ふたりに話したい事があるんだ』


未央『ずっと隠し続けてたけど、言わなくちゃって思って』



未央『私、本当は"喰種"なんだ』



藍子『……未央、ちゃん?』

茜『……?』



143: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:51:44.65 ID:nATks/WC0


茜『"喰種"ですか? 喰種って言うと、確か……』

未央『うん。見た目は人に似てるけど、人の肉しか食べられない生き物』

未央『こんな風に、目の色も変わるよ』ギョロ

茜『……!!』


茜『……未央ちゃんが冗談を言ってるわけじゃないんですね』

未央『うん。今まで隠しててごめん』

未央『でも、茜ちんには知ってて欲しかった』

未央『本当の友達に、なりたかった』

茜『……そうですか』


茜『……つまり……』



144: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:52:20.75 ID:nATks/WC0






茜『……今まで私相手に手加減していたと言うことですね!?』





未央『えっ』





藍子『……そっち!?』



145: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:53:10.47 ID:nATks/WC0


茜『なめないでください! 私も知っています! "喰種"は人間の何倍も速く走れると!!』

茜『しかしそのようなポテンシャルを持っていながら、私と走った時はあんなに遅かった!』

茜『本気を出せば私など追い抜けるはずなのに!』

茜『こうしちゃいられません、未央ちゃん! 勝負です!』

茜『喰種の未央ちゃんと私、どちらが速いか!!』

茜『今一度手加減なしの真剣勝負で決めようじゃないですか!!!』


未央『ちょ』

未央『ちょっと待って待って待って待って!? 問題はそっちじゃないよね!?』

未央『私言ったよね!? "喰種"だって! 人の肉しか食べられないって!!』

未央『食べられるかもしれないって考えなかったの!?』

茜『何ですって!? 私食べられちゃうんですか!?』

未央『食べないよ!?』

茜『そうでしょう!!』

未央『……え? あ、あれ?』



146: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:54:12.54 ID:nATks/WC0


茜『未央ちゃん! あえて話すなら、私は未央ちゃんに一つだけ言いたい事があります!』

未央『は、はい』


茜『…未央ちゃんや藍子ちゃんが私に隠し事をしてるって、私はちゃんと気付いてました』

茜『聞かれたくない事みたいでしたから、黙ってましたけど……』

茜『でも、寂しかったです。本音で語り合えてない気がして』

茜『私は、未央ちゃんと藍子ちゃんと仲間じゃないような気がして』


未央・藍子『『……!!』』


茜『でも、未央ちゃんが秘密を話してくれました!』

茜『怖かったと思います! でも話してくれました!!』

茜『私と本当の友達になりたいとまで言ってくれました!!』

茜『私はそれがすごく嬉しいです! 未央ちゃんと本当の仲間になれたから!!』

未央『茜ちん……』



147: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:55:40.46 ID:nATks/WC0


茜『だから藍子ちゃんも!』

藍子『!』

茜『藍子ちゃんが何を隠してても、私は藍子ちゃんを嫌いになったりはしません!!』

茜『もちろん、無理には聞きませんが……』

茜『それでも、藍子ちゃんが私を傷つけるだなんて考えてません! 未央ちゃんが私を食べるだなんて考えません!!』

茜『未央ちゃんや藍子ちゃんがどんな子でも、私はお二人が大好きです!!!』


藍子『茜ちゃん……!!』



藍子『…ごめんね、茜ちゃん』

藍子『私も、隠してた。私も、未央ちゃんと同じ"喰種"なの』

藍子『……"喰種"の私でも、今まで通り友達でいてくれますか?』


茜『……』



茜『……何っ!? 藍子ちゃんまで"喰種"だったんですか!!?』


未央『いや気付いてなかったんかい!?』



148: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 11:56:22.57 ID:nATks/WC0


茜『ま、まあ、藍子ちゃんまで"喰種"だったことには驚きましたが……』

茜『変わりません!! むしろ、今まで以上に強く結ばれた仲間!! 戦友!! マブダチです!!!』

茜『今から本当の本当に全力で走りましょう!! 自分を隠す必要なんてどこにもありません!!』

茜『行きますよっ……ボンバー!!』


藍子『……』

未央『っ……』


茜『ほらどうしたんですか二人とも!! 私は一緒に走りたいです!!』

茜『行きますよ! ボンバー!!』


藍子『ぼ、ぼんばー!』

未央『……あはは』


未央『…うっし! 走るか! ボンバー!!』


茜『その意気です未央ちゃん! 藍子ちゃん!! 体をほぐして!! 位置について!!』

茜『走る先をまっすぐ見て!! 思いっきり息を吸って……!!』



『『『ボンバー!!!』』』



――――――――――――――――――――



149: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/10(日) 12:05:10.16 ID:nATks/WC0


――――――――――――――――――――


藍子(――なんであの日、茜ちゃんに正体を話したか聞いたら)

藍子(――蘭子ちゃんが『受け入れてくれるに決まってる』って言ってくれて)

藍子(――だから、蘭子ちゃんが正しいって証明したくて)

藍子(――茜ちゃんに全てを知ってもらおうとしたって話してくれました)


藍子(――『最初から信じてた』って、未央ちゃんは言ってましたけど)

藍子(――あのとき、未央ちゃんは)

藍子(――すごく、怖かったんだと思います)


藍子(――私が同じ"喰種"だって思われないように、話し方に工夫をつけて)

藍子(――もしもの時は、自分だけ犠牲になろうとした)

藍子(――それだけ怖かったのに、勇気を振り絞って一歩を踏み出してくれたから)

藍子(――私も、茜ちゃんともっと仲良くなれました)


藍子(――ありがとうって、言いたいんです)

藍子(――今までの不安を、取り払ってくれた未央ちゃんに)

藍子(――抱えてた不安を、簡単に壊してくれた茜ちゃんに)


藍子(――なのに)


藍子(――どうして2人とも、346プロに来てくれないんですか)


――――――――――――――――――――



155: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:03:21.60 ID:sYHaExIf0


~凛・未央による346プロ潜入から4日後 346プロ~


藍子「……閉鎖?」

藍子P「ああ」


P「……すまない、どうやら白鳩は346プロの秘密に気付いてしまったらしい」

P「上が『これ以上の活動は不可能』と判断してな」


P「藍子をトップアイドルにしてやりたかった」

P「でも、俺がプロデュースしてあげられるのはここまでみたいだ。ごめんな」



156:振り分け画像見返したら夕美が人間扱いになってた。夕美は喰種設定です。 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:05:37.46 ID:sYHaExIf0


藍子「ッ……」

藍子「……ううん。分かってます」

藍子「覚悟は、してました。いつまでも、このままアイドルを続けられるとは、思ってませんでした」

藍子「私だって、346プロに来るまでは……"喰種"がこんな世界にいられるなんて思ってなくて」

藍子「だから…こんな優しい世界にいられたことが……本当に夢みたいでっ……!」

藍子「……」


藍子「……本当に、終わりなんですか?」

P「終わりじゃないさ」

藍子「…えっ?」


P「確かに、346プロは終わりだ」

P「だが藍子の人生が終わるわけじゃない」

P「俺も346プロも、全力でお前を逃がす」

P「ここは無くなるけど、藍子が生きている限り夢を見ることはできる」

P「見た夢を実現するための時間だってある」


P「それは藍子の仲間だってそうだ」

P「生きていればまた会える。またやり直せる。また作り直せる」

P「ただちょっと危険から逃げて、しばらく身を隠すだけだ」


P「忘れるな、藍子」

P「君の未来はまだ無限に広がってる」

P「ここでの思い出や、いつか隣に立った仲間たちが、また立ち上がらせてくれる」

P「……そうだろ?」



157: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:08:50.04 ID:sYHaExIf0


藍子「…プロデューサー、さん」

P「だから藍子。泣かないでくれ」

P「十二時の魔法が解けても、シンデレラはまだ頑張れるだろ?」

藍子「……」

藍子「……はいっ」


P「よし良い子だ。さすがは俺の見つけたシンデレラ」

P「じゃあ脱出方法を簡単に説明する」


P「藍子にはこれから、野外ロケの仕事が入る」

P「これは全員同じだ。喰種も、人間も」

P「わざわざ『仕事』の名目にするのは、人間アイドルから事情を隠すため」

P「あとは、全員同じ理由にすることで誰が人間で誰が喰種か判別させなくするためだ」


P「すごく急な話だが……藍子には明朝までに必要な荷物をまとめて、バスを使って指定の場所まで動いてほしい」

P「俺はついて行けないから、ちゃんと一人でやる事を覚えて動いてくれ」

P「できるな?」



158: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:09:51.59 ID:sYHaExIf0


藍子「明朝? ほ、ほんとに急な話です……それも一人で……ひとり?」

藍子「あ、あの! プロデューサーさんはついてきてくれないんですか!?」


P「……ああ。ついて行けない」

P「俺は残って、仕事しなきゃいけないからな」

P「346のプロデューサーがほぼ全員"喰種"だとは気付かれてるらしくてな」

P「俺がついて行ったら藍子にもマークがついてしまう」

P「だから一緒にはいけないな」


藍子「そんな! じゃあ、プロデューサーさんはここでっ……!」

P「そうだな。俺はここで死ぬと思う」

藍子「い、嫌です! そんな事、絶対いやです!」

藍子「プロデューサーを置いて逃げるなんて……そんな話、いきなりされても……!!」

P「ははっ」


P「なんで急な話なのか分かっただろ?」

P「藍子は優しいからな。絶対そう言うと思ったよ」



159: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:12:32.61 ID:sYHaExIf0


藍子「いや……嫌です……こんな急に、お別れなんて……!!」

P「……俺から言えることはもうない」

P「大事なことはさっき言った」

P「藍子はちゃんと『はい』って言えた」


P「俺はずっと、藍子を応援してる。ずっと藍子の味方だ」

P「……良い子だから、ちゃんと言うこと聞いてくれ。な?」

藍子「ッ……グス……」


――――――――――――――――――――


藍子(――分かってます。駄々をこねたって、どうにもならないって)

藍子(――プロデューサーさんや346の皆さんは、最初からそのつもりだったんです)

藍子(――自分を犠牲にしてでも、最後まで私達を守ってくれる気だったって……)


藍子(――もし、プロデューサーさんが守ってくれなかったら)

藍子(――私もきっと、ああなってたって)



『指名手配 She is Ghoul』


『速水奏』

『塩見周子』

『宮本フレデリカ』

『佐久間まゆ』



「フレデリカさんたづ、"喰種"だったんだか? わだすも一緒にお仕事すだことあっだのに……」

「そういえば、数日前からお姿を見ていませんでしたわね。まゆさんも、プロデューサーと旅行に出かけたきり帰ってきませんわ」

「まさか"喰種"が紛れ込んでいたのに見抜けなかったなんて……この冴島清美、超☆風紀委員として一生の不覚です!」

「複雑でありますな……悪い人達ではないと思っていましたが、あれは演技だったのでしょうか」


藍子(――人間のみんなは、奏ちゃん達が悪い人だったんじゃないかって疑い始めてる)

藍子(――あんまり関わってなくても、同じ事務所の仲間だったのに)


藍子(――その"喰種"が、今ここにいるって知ったら)

藍子(――私も同じことを言われちゃうのかな)



160: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 16:13:19.22 ID:sYHaExIf0


藍子(――ううん。茜ちゃんは、ちゃんと受け入れてくれた)

藍子(――分かってくれる人はちゃんといたんだよ)


藍子(――だから、お願い)

藍子(――346プロに来てください)

藍子(――メールの返事をください)

藍子(――会いたいよ、茜ちゃん)

藍子(――会いたいよ、未央ちゃん……!!)





「……あっ」





藍子「!!」

藍子(――この声!!)バッ



「わっ、見つかっちゃった!」

「…参りましたなあ。皆の様子だけ見て、どっか行くつもりだったのに」


藍子「……み」


藍子「未央ちゃん……!!」



未央「……やっほー、あーちゃん」


未央「三日ぶり」


――――――――――――――――――――



161: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:05:09.63 ID:sYHaExIf0


~近くの喫茶店(346御用達。外伝前編参照)~


未央「……そっか。あーちゃんは明日出ていっちゃうんだ」

未央「うん、私もプロデューサーから聞いてるよ。346がなくなるって」

未央「最後の仕事はCPに回してくれるみたいでさ」

未央「テレビ放送もちゃんとやってくれるみたいだし、どっかでそれ見てからこの町を出ようって思ってる」


藍子「最後の仕事……『笑顔の橋』、ですか?」

未央「そ。来週その宣伝ライブをしまむー達がやる予定だったんだけど、ご存知の通り来年までもたないからさ」

未央「それでも、りーなやしまむー、らんらんはやりたそうだったから」

未央「その放送が終わって、みほちー、なつきち、あすあすと一緒に皆東京から出て」

未央「それで346アイドルの避難は完全に終わり、なんだって」

未央「CCGにバレないようこっそりやるから(本当は人質取ってるから手出しされないんだけど)、CPも大丈夫って言ってたよ」


未央「出演するのはCPの全員じゃなくて、しまむー、らんらん、りーな。あとらんらんのお願いでアーニャも参加するんだけど」

未央「私としぶりん以外は、楽屋で応援するみたいだよ」


未央「宣伝ライブって体だけど、最後の仕事でやれるだけやりたいって、らんらん達は本気でさ」

未央「余裕があればでいいから、あーちゃんもテレビで見てあげて欲しいな」



162: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:05:43.62 ID:sYHaExIf0


未央「……で」


未央「今まで来なかったのは、家族と折り合い付けなきゃいけなかったから」

未央「ほら、話したでしょ? 私は人間に育てられたって」

未央「このままじゃ確実に重罪人コースだったからさ。みんなには先に夜逃げしてもらったんだ」

未央「…皆して一緒に来い一緒に来てってずっと揉めたから、私はCPのみんなと逃げることにしたって言ったんだ」


藍子「…逃げることにしたって、『言った』?」

藍子「じゃあ、本当は……」

未央「うん。一人でどっか行くことにしたよ」

未央「しぶりんと同じでCPの皆には会い辛くて。…あーでも、ホームレス暮らしなんてやったことないからなあ」

未央「今までお仕事で貯めたお金はそこそこあるし、家を借りてもいいか」


未央「……そっから先は、どうしようかなあ」

未央「学校には、いけそうもないからなあ」


藍子「……」



163: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:06:28.53 ID:sYHaExIf0


藍子(――久しぶりに会った未央ちゃんは、どこか異様な雰囲気でした)

藍子(――私と話している時も、時々独り言のように呟いています)

藍子(――3日前までの未央ちゃんと比べて、何処が、とははっきり言えないけど)

藍子(――それでも、何かがおかしくなった事は分かります)

藍子(――まるでさっきのプロデューサーみたいに)


藍子「……?」


藍子(――何が? 今の未央ちゃんは、なにがプロデューサーに似ているの?)

藍子(――現実を見ていない目。悪い意味でふわふわとした喋り方)

藍子(――どこか悲しそうな顔)

藍子(――まるで、このまま何処かに消えていってしまいそうな……)


藍子(――あ)


藍子(―――――!!!)



藍子「……ッ、未央ちゃん!!」

未央「!? お、おおうッ!?」


未央「ど、どしたのあーちゃん? あーちゃんらしくないよ、いきなり大声出して」

藍子「……未央ちゃん」


藍子「今の未央ちゃんの様子……」

藍子「ついさっき会った、私のプロデューサーと同じ表情をしてました」

未央「……ん? どゆこと?」


藍子「今の未央ちゃんの顔……」



藍子「生きることを諦めた人の顔です」



164: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:06:58.06 ID:sYHaExIf0


未央「!」

未央「……そっか」


藍子「……否定、してくれないんですか?」

未央「…そーだね。そうかも」

未央「CPの皆に会いたくないのも、家族と一緒に行かなかったのも、こうやってあーちゃんとお喋りしてるのも」

未央「多分、終活気分なんだ」

未央「べつに自殺とかはする気ないけどさ」

未央「どこかで死に場所みつかるかな、くらいは考えてる」

藍子「そんなのダメです!」

藍子「なんでそんな事、軽々と言えるの!? 未央ちゃんに何があったの!?」

藍子「死ぬとか、終活とか、そんなこと言う人じゃなかったのに!」

未央「私のせいで茜ちんが死んだからかな」

藍子「だからってそんな……」


藍子「……茜ちゃんが、死んだ?」



165: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:09:02.99 ID:sYHaExIf0


未央「死んだ」

未央「私のせいで死んだんだよ」


未央「346プロはさ。メチャクチャ徹底して秘密を守ってた」

未央「茜ちんが、私とあーちゃんが"喰種"だって知ったこと、すぐに掴まれてたみたいで」

未央「すぐに捕まって、殺されちゃった」


未央(……財産のこととかは言うのナシにして、これくらいなら話してもいいよね)


未央「少し考えれば、分かる事なのにね。プロデューサーにペナルティくらい聞いとけば良かったのに」

未央「勝手に行動して、勝手に秘密ばらして。何様のつもりなんだろうね、私」


藍子「……!!」

藍子「……で、でも。それでも!!」


藍子「私は未央ちゃんに生きて欲しいです! 茜ちゃんが死んだからって、未央ちゃんのせいじゃないし、未央ちゃんまで失いたくないです!!」

藍子「お願いです、そんな、自分の事を責めていなくならないで……!!」


未央「……あーちゃん」



藍子「……そうだ。一緒に暮らしませんか?」

藍子「私、何かあった時はお母さんの実家に逃げるって家族で決めてたんです!」

藍子「未央ちゃんもこっちに来ませんか!? ううん、来てください!!」

藍子「お父さんもお母さんも歓迎してくれます! 未央ちゃんのこと話したら、会ってみたいって言ってくれたんです!!」

藍子「必要なものなら、たぶんなんでもあるから……このままいなくならないでください!!」

藍子「何をやったって、未央ちゃんは大切な友達なんです!!」

藍子「だから……だからっ……ヒグッ……」


未央「……もー」

未央「私ってば、ほんとに愛されてたんだなあ」


未央「お父さんもお母さんも兄貴も弟も、すっごくしつこかったし」

未央「これだけ言ってくれる友達もできた」

未央「……幸せ者だなー、私」



166: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:11:32.50 ID:sYHaExIf0


未央「でも、できないや」

未央「私みたいなのが傍にいたら、きっとあーちゃんも悪い子になっちゃうから」

未央「あーちゃんはふわふわで優しくて、私の憧れの女の子だったから」

未央「おんなじ"喰種"なのに、あーちゃんは人間と変わらず優しかったから。そういう所が大好きだったから」

未央「どうか、あーちゃんにはずっとそのままでいて欲しいな」


未央「…じゃ、そろそろ行くね―――」


ドスッ


未央「……もー。あぶないなあ」

未央「ちょっと壁えぐれてるじゃん」


藍子「…行かせません。絶対に行かせません」バキキ

藍子「茜ちゃんが死んだからって、未央ちゃんのせいじゃないんです」

藍子「そんな下らないこと考えてるなら、私だって厳しくなります」


藍子「……傷つけてでも、暴力に頼ってでも」

藍子「このまま死にたいなんてふざけたこと言うなら、私だって戦います」

藍子「このまま未央ちゃんを動けなくしてでも、引きずってでもうちに連れていきます」ギョロ


藍子「それくらいの才能なら、私にだってあります」



167: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:12:19.45 ID:sYHaExIf0


未央「…そういや、あーちゃんの赫子初めて見たなあ」

未央「私と同じ甲赫だったんだ。思ったより分厚くて固そうだけど、刃がついてないのはあーちゃんらしいや」

未央「参ったなあ。こっちはあーちゃんを傷つけたくないんだけどなあ」


藍子「じゃあ黙って私のところに来てください」

藍子「私は本気です……!!」


未央「まーったく……」

未央「……仕方ないかあ。これ以上、嫌われたくなかったんだけどな」


未央「実はね、あーちゃん」

未央「家族ともめた時、みんな最後まで私を外に出してくれなかったんだよ」

未央「兄貴なんかは、ずっと私にしがみついて離してくれなくて」

未央「まあ、やろうと思えば"喰種"の力で引き剥がして強行突破も出来たけどさ」

未央「でもそんなことしたらケガさせちゃうの目に見えてるし」


未央「それでね。結局、どうやって家を出たかなんだけど」

未央「『ある事実』を言ったら、皆すごく動揺したんだ」

未央「その隙をついて、家を出て、今ここ」

藍子「……?」


未央「よーく聞いてね、あーちゃん」

未央「私のせいで茜ちんが死んだって言ったでしょ? あれ、ちょっと違うんだ」

未央「まず私が散々に痛めつけられちゃってね。すごいもんだよ、お腹に穴空いたもん」

未央「一応治ったんだけどさ。やっぱりすごく体力使うみたいで、苦しくて苦しくて」

未央「食事も最低限にしかとってなかったからさ、お腹もすいちゃって」


未央「そんな時に、目の前に茜ちんを連れてこられた」

未央「茜ちんは、捕まってることも忘れて私の心配ばっかりしてくれて」

未央「そして、すっごくいい匂いがして」


未央「ここまでお腹がすいたの、実は初めてだったんだ」

未央「だから"喰種"の飢えが地獄だってこと知らなくてさ」


未央「あんまりお腹がすいたもんだから、意識も途切れ途切れで、何も考えられなくて」

未央「必死に声かけてくれる茜ちんのことも、耳に入ってこなくて―――――」





未央「そのまま――――――――――」







168: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:13:39.21 ID:sYHaExIf0











未央「食べちゃった」










未央「私、茜ちんのこと食べちゃった」





未央「気がついた時には、茜ちんの顔以外見れたもんじゃなくなってた」

未央「あ。涙でぐしゃぐしゃになってたから、顔も見れたもんじゃないのか」



169: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:16:19.11 ID:sYHaExIf0


藍子「―――――」



未央「……ほら。効果てきめん」スッ


未央「恨んでいいよ。気持ち悪いって思っていいよ」

未央「だってそうでしょ。信じてくれた友達を食べたんだもん」

未央「もう誰にも会わない方がいい。このまま死んだ方がいい」

未央「……本当に、生きてるだけで気持ち悪い」



未央「じゃあね、あーちゃん」カラン



未央「あーちゃんのコーヒー、好きだったよ」



170: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:17:13.27 ID:sYHaExIf0


――――――――――――――――――――


藍子「……っ!」ハッ


藍子「―――未央ちゃん!!」ガチャ


藍子「……あ……」



藍子(――何秒か後に、私は我に返って)

藍子(――店を出て未央ちゃんを探したけど)

藍子(――もうとっくに、影も形も見えなくなってしまっていました)


藍子(――分かってます。同じ"喰種"でも、未央ちゃんは私よりずっと足が速い)

藍子(――今から追いかけても、もう追いつけないってことくらい)


藍子「……うっ……」ヘタリ


藍子(――どうして気付けなかったんだろう)

藍子(――未央ちゃんが死にたがってた、本当の理由に)

藍子(――少し考えれば、分かりそうなものだったのに)

藍子(――どうして分かってあげられなかったんだろう)


藍子「ううっ……ぐすっ……ひっく……」


藍子(――お願い。死なないでよ、未央ちゃん)

藍子(――会いたいよ。このままお別れなんて嫌だよ)


藍子「未央ちゃんっ……ううっ……」

藍子「……うああぁぁぁぁぁああああ……!!」


藍子(――どうして。どうしてこんなに)


藍子(――こんなにいきなり、皆いなくなっちゃうの)



――――――――――――――――――――



171: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 18:18:27.63 ID:sYHaExIf0


――――――――――――――――――――



未央「……ここまでくれば、もう追っかけてこないかな」

未央「……」


未央「……泣かせちゃったなあ」

未央「こんな目に遭わせるなら、お喋りなんかしないで見つかった時点で逃げてた方がよかったかなあ」


未央「こんな調子なら、CPの皆にも会わない方が良さそうかなあ」

未央「応援くらい、言ってあげたかったんだけどなあ」


未央「……」



『あなたはちょっと、自分の立場が分かっていないようなので』

『"喰種"が本当はどんなものなのか、身体に教えてあげます』

『私達は"喰種"。どうあがこうと、人喰いの人殺しなんですよ』



未央「……」



未央「……これから、どうしようかな」



未央「せっかくなら、誰かを守って死にたいな……」



――――――――――――――――――――



175: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 22:01:09.21 ID:sYHaExIf0


――――――――――――――――――――


丸手「――奴らの置手紙に、346プロ最後の仕事も書かれてた」

丸手「12月25日の金曜日、音楽番組への生放送ゲスト出演および346プロダクション単独ライブ宣伝」

丸手「あとはシンデレラプロジェクトほか選抜メンバー7人によるステージ出演だ」

丸手「で、避難完了日も同日」

丸手「こいつらを最後に346プロのアイドルは全員避難完了ってわけだ」


篠原「そして避難完了日には346プロ全職員を本社に待機させる、ってことは……」

吉時「皆の考えている通りだ。キャッスル討伐作戦は1週間後の12月25日」

吉時「番組終了時の午後9時ちょうどを以て開始する」

宇井「"喰種"が出ているかもしれない番組をそのまま放送させるんですか? 少なくともCは"喰種"だと分かっているのに……」

法寺「しかし人質が最後の一人まで残っている可能性がある以上、中止させるわけにもいきません」

清子「手間はかかるけど、346プロを壊滅させてから調べるしかないわね」

実「不可能ではないな。アイドルの行き先を調べて検査を受けさせれば、時間こそかかるが確実に喰種アイドルを追い詰められる」


吉時「そうだ。無闇に人質を危険に晒すこともない」

吉時「最優先はキャッスルの資金源および人脈を断ち社会的に無力化すること」

吉時「ただし346プロが大人しく捕まるとは考えられないから、十分な編成で討伐に臨む」

吉時「たとえそれが彼らの計画と一致していようが、ね」



176: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 22:01:46.34 ID:sYHaExIf0


丸手「…あー、そのことなんですがね局長」

吉時「なんだい? 丸手特等」

丸手「その番組出演メンバーへの対処について、『やらせろ』ってうるさい奴がいるんですよ」

吉時「誰だ?」


丸手「黒井上等です」


黒磐「! 崇男か」

篠原「ああ……なるほど。なんであれ喰種のアイドル見逃せって、あいつ絶対納得しないもんな」

丸手「そうだよ。作戦を聞いた黒井の野郎が、イヤミ並べたてながら迫って来やがったんだよ」

丸手「……つーわけで局長。出演メンバーの確保および駆逐について、黒井上等が単独でやりたいって言ってるみたいなんです」

丸手「方法についても、あてはあると」

吉時「…ふむ。どんな方法だ?」


丸手「この間『飛び級』で入局させた、3人の新人捜査官にやらせるそうです」

丸手「彼等なら顔が割れてない上に、実力も申し分ないと言っていました」

丸手「そうやって捕らえた喰種アイドルを情報源にして、同じアイドルの捜査を効率よく進めていくとも」


吉時「新人……なるほど、彼らか」


丸手「ええ」



177: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/11(月) 22:02:18.50 ID:sYHaExIf0




丸手「天ヶ瀬冬馬、伊集院北斗、御手洗翔太」



丸手「以上3名が黒井上等捜査官の指示の基で」



丸手「『キャッスル討伐作戦』と並行して―――――」





丸手「―――『346プロ所属アイドル捕獲・保護作戦』を遂行します」





181: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/12(火) 19:53:50.76 ID:Z1xPk/XU0


――――――――――――――――――――


~特等捜査官会議 終了~


実「そう言えば美樹。市原一等が捕らえて君が所有権を持っている『H』、サギサワのことだが」

実「あれはまだ生かしておくのか?」

美樹「いいえ。まともな情報を持っていなかったし、近々廃棄するつもりよ」

美樹「せめて同類の振り分けに使えるかと思ったけど……何をやっても口を噤んだままだし」

美樹「ろくな交渉材料がない以上、生かしておく必要もないわね」

実「そうか」


実「なら、君の手を借りられるのもここまでだな。あとは私達に任せてほしい」

実「だから美樹は、その……ありすに構ってあげてくれないか」

美樹「!」

実「他に仕事があったとはいえ、私がろくに協力できなかったせいで君を忙しくしてしまった」

実「きっとありすも寂しがっている」

実「情けないが、特等として私はこれからもっと忙しくなるだろうから……せめて君だけは、あの子の側にいてやって欲しいんだ」

美樹「実さん……」


美樹「…そうね、分かったわ。一足先にお休みして、ありすと一緒に待ってる」

美樹「でも無茶はしないで。あなただってありすの父親なんだから」

実「分かっているさ」


――――――――――――――――――――



191: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 21:45:45.09 ID:LaJhCUBn0


――――――――――――――――――――


橘「……もしもし、ギン?」

市原『もしもし美樹サンか。どした?』

橘「捜査について、特等会議が終わったところなんだけど……」

市原『おお、終わったか! 作戦はいつだ? クインケの新調も終わったしいつでもいけるぜ』

橘「気合十分ね。あと、キャッスル討伐作戦のことだけど」

橘「橘特等ほか特等の皆さんに引き継いでいただくことになったわ。だから私達の出番はここでおしまい」

市原『そーかそーか、ここでおしまい……』

市原『……は?』


橘「任務終了よ。貴女も私もしばらく休暇。娘に構ってあげなさいって言われたわ」



192: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 21:48:00.90 ID:LaJhCUBn0


市原『ちょ……ちょっと待てオイ! 美樹サン知ってんだろ!?』

市原『こっちはハルオの治療費と仁奈の養育費稼ぐために喰種狩らなきゃいけねえンだよ!』

市原『休暇とか取ってられるか!』


橘「あら、言ってなかった? 市原ハルオ二等捜査官の治療のこと」

橘「片桐さんが桃華ちゃんを通じて櫻井家に協力してもらったのよ」

橘「今後、市原二等の治療費は櫻井家が全額負担してくれるらしいわ」


橘「『櫻井家の者が、娘を喰種の巣窟から救い出してくれた恩人のために、娘の友達の父親を助けないわけがない』ってね」


市原『……え……』

橘「だから……ありすのことがあったとは言え、私の援助を断ってまで仕事し続ける理由がなくなったのよ」


市原『……あ……い、いや待て!』

市原『カネのためだけじゃなくて、ハルオをあんな風にしやがった「隻眼」だって探さなきゃいけねェし……』

橘「まだ影も形も見つかってないでしょ。少なくとも今やることじゃないわ」



193: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 21:50:39.49 ID:LaJhCUBn0


市原『ぐ……』

橘「……いい加減、仁奈ちゃんから逃げるのやめたら?」

市原『に、逃げてなんかねェよ。……実際、教育に悪いって思ってンだよ』

市原『こんなのが近くにいたら、仁奈がまともに育たねえって……』

橘「……はあ」


橘「ギン。貴女の今のクインケ、何て言う名前だったっけ?」

橘「私、あれ長くて覚えられないのよ」

市原『美樹サンが言う時は『アニマル』でいいって言ってんだろ』

橘「はいはい。それで? 本当はなんて名前?」

市原『……ウサギドラゴンヒツジオオカミパンダペンギンサメイカコアラ獅子舞アライグマカエルヒヨコニワトリツバメクマイヌサルリス旗ゾウハチ亀サンバ』

橘「……何か増えてない?」

市原『2コ足したんだよ。前のはウサギドラゴンヒツジオオカミパンダペンギンサメイカコアラ獅子舞アライグマカエルヒヨコニワトリツバメクマイヌサルリス旗ゾウハチだ』

橘「もういいわ、とにかく」


橘「娘がやった仕事をいちいち暗記する熱意があるならね、その間違った方向の親バカっぷりを少しは娘の前で見せてあげなさい」

橘「上司命令よ、今すぐ片桐さんや仁奈ちゃんがいる宿舎に向かいなさい」

市原『う……』

市原『……~~~~~ッ!!』


市原『……クソっ、分かったよ。行けばいいんだろ行けば』

橘「お見舞いは私が代わりに行ってあげるから。ちゃんとお喋りしてあげなさいよ、じゃあね」ピッ


橘「……ふう」



橘「……私も、人の事言えないわね」


――――――――――――――――――――



194: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 23:03:33.74 ID:LaJhCUBn0


~某総合病院~


「ギ……ン……仁、奈……」

「見……ゲエだろ……キリン………」

「せか、ち……ブツブ…………なんだぜ…………」


橘「……お久しぶりね、市原二等」

橘「ごめんなさい。今日はギンのお見舞じゃないの」

橘「しばらくは仁奈ちゃんにかかりっきりで、夫の貴方は後回しになるかもね」



橘(――市原ハルオ)

橘(――ギンの夫で、仁奈ちゃんのお父さん)

橘(――CCGアカデミージュニアスクール卒業後、ギンと共に止むを得ない事情により)

橘(――アカデミーを経由せずCCGに入局、3等捜査官からの活動開始となる)

橘(――周囲の冷ややかな視線の中、生まれた仁奈ちゃんのために必死で喰種の駆逐に臨んでいた市原夫妻だったけど)


橘(――二年前、仁奈ちゃんが生まれて7年目……市原二等は望まぬ引退を強いられた)



195: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 23:04:09.57 ID:LaJhCUBn0




橘(――『Rc細胞過剰分泌症』、通称『ROS』)



橘(――本来、喰種だけではなく人間の体内にも微量に含まれるRc細胞が、何らかの異常により過剰に生成される症状)

橘(――特徴は赫子に似た嚢腫の形成。症状が進行した市原二等は、今や意識が朦朧とし寝たきりになっている)

橘(――治療法は発見されておらず、Rc抑制剤で進行を抑えることが唯一の対処法となっている―――――)



橘(――原因は判明していない。ただ、きっかけは分かっている)

橘(――2年前の、『隻眼』による突然の襲撃)

橘(――10年以上前に、子供と思われる年齢にて既にSSSレート喰種『リトルバード』とほぼ互角に争った『隻眼』は)

橘(――当時の襲撃にて捜査官や一般市民を喰い散らかすだけでなく)

橘(――何人かの被害者に自身の赫子を埋め込み、操り人形にして『遊んだ』)


橘(――そのうちの一人が、捜査官の一人として立ち向かった市原二等)

橘(――手術によって一命を取りとめたものの、恐らく異質な赫子が直接体内に混入した影響でROSが発症し)

橘(――今も、人としての生き方、人としての喜びをすべて奪われ続けている)



196: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/13(水) 23:06:25.68 ID:LaJhCUBn0


橘(――ギンは夫の病気を仁奈ちゃんに明かしていない)

橘(――2年前から『海外に行った』と嘘をつき続けて、裏では市原二等の高い治療費と仁奈ちゃんの養育費を絞り出すため)

橘(――そして夫を壊した仇の『隻眼』にたどり着くために、喰種を殺し続ける生活を送っていた)


橘(――彼女の経歴を嫌う捜査官達に、助けを求めることもできない)

橘(――私が援助を申し出たこともあったけど、ありすがいるから受け取れないと躱し続けた)

橘(――ずっとずっと、本当は母親に甘えたいのに我慢している仁奈ちゃんから目を背けながら……)



橘「……ようやく、貴方の治療費を支払い続けてくれる人を見つけたわ」

橘「ギンは戸惑っていたけど、ようやく母親としての仕事に向き合えそう」

橘「仁奈ちゃんが貴方のことを知るかどうかは、まだ分からないけど……心配はいらないわ」

橘「だから目が覚めた時は……また貴方や、仁奈ちゃんの好きな動物園にたくさん連れて行ってあげて」


橘「…私も、貴方と話すのはこれまでにして……私の娘に会ってくるわ。どうかお元気で」


――――――――――――――――――――



200: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/14(木) 23:56:55.46 ID:BatE9BoQ0


――――――――――――――――――――


市原『……美樹サン』

市原『あたしはな、ゴミみてえな人間なんだよ』

市原『2人そろって喰種に喰われたから親もいねえ、金もねえ、頭もねえ』

市原『ジュニアじゃ2人でバカばっかやってろくに勉強もしねえ』

市原『卒業間際に後先考えねーでヤることヤって、養う準備もしてねえのに仁奈を産んで』

市原『クソみてーな三等捜査官からじゃなきゃCCGに入れなくてバカにされまくったバカ2人なんだぞ』


市原『仁奈を346に入れた時もそうだ』

市原『ただ仁奈と同じくらいのガキがたくさんいるみたいだから、家でアタシの相手するよりマシだろと思って入れたんだよ」

市原『ろくに調べもしねーでよ。アタシのせいで、仁奈が食い物にされるところだったんだぞ』

市原『アイツの父親だって守れなかった。仇すら取れてねえ』

市原『仁奈のために何かしようとしても、仁奈の近くにいようとしても、仁奈のためになった事なんか一つも無かった』


市原『仁奈の口癖聞いたことあるか? アタシの影響で、もう口が悪くなってる。このまま一緒にいたら、アイツまでクソになるぞ』

市原『今の仁奈は、周りにいい女がたくさんいる。あいつらと一緒なら、仁奈はまっすぐ育つ』

市原『アタシはただ、"喰種"狩ってアイツの金稼げりゃいいんだよ』

市原『"喰種"狩って、仁奈が生きやすいようにするしかできねーんだよ』


市原『母親なんか、名乗る資格ねーんだよ』


市原『……なんでアタシが、あの子を産んじまったんだろうな』



市原『もっとまともな親のところに生まれてりゃ、もう少し幸せになれたのによ』


――――――――――――――――――――



201: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 00:06:21.81 ID:ZGZy65VF0


1レスだけですが今日はここまで。アイマス一挙放送までに笑顔の橋直前まで進めたいんだけど明日までにいけるかなあ……

>>199
なるほどです

設定ではジュピターがアイドル→捜査官に変わってる前例がありますし設定だけ変えてキャラを登用する手も十分ありだとは思うのですが、

個人的にはアイマスのアイドルは基本、アイドルとして活躍していて欲しいなという願望が強いみたいなので、すみませんが提案は見送らせてもらいます。


せっかくのご意見を活用できず申し訳ありません



203: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:05:22.09 ID:ZGZy65VF0

>>202
その辺どうしようかなとは思ったのですが、
名前の出てないモバマスアイドルは一応全員生きてます。

キャッスルについては流石に個人では気付けないように346が情報統制しているのもあって
人間、喰種を問わずアイドルのほぼ全員が気付いておらず、
346プロが喰種のための事務所と言う事実は、気付いてる人間がいてもみんな黙って放置してますね。
特に名前の出てない限り、出荷されてる人間アイドルは他に346に所属している名もないモブアイドルです。

何人か裏で犠牲になってた方がリアルかなとは思ったのですが、
特に話に影響もなく死んでるのはモブっぽくて流石に可哀想だったので

ちょっと不自然かなとは思いつつ、話を進めるうえで死ぬ必要がない限り皆には生きててもらってます。


キャラクターの扱い方は

特に意味もなく、もしくは十把一絡げの扱いで死ぬ(無駄死に。タタラ) << 特に活躍せず生き恥をさらす < 1キャラクターとしてちゃんとストーリーに必要な役割、意味を得て死ぬ ≦ ちゃんと活躍して、尚且つ生き残る

の順に価値が生まれるものだと思っています



204: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:07:01.86 ID:ZGZy65VF0


――――――――――――――――――――


橘(――ギン。あなたが仁奈ちゃんの母親にふさわしいかどうかは、私が決めることじゃないけど)

橘(――それでも、少なくとも今だけは、あの子達にはあなたの存在が必要よ)


橘(――ただでさえ、今は)

橘(――"喰種"でもないのに、大事な人を傷つけられた子まで出てしまった)



~CCG 外部ゲスト用宿舎~


美樹「―――失礼します。橘です」

早苗「…おかえり、美樹ちゃん。ちょっといい?」

美樹「……? はい」

早苗「どうしても、美樹ちゃんに聞きたい事があるって……不安がってる子がいるの」

早苗「有香ちゃん」


有香「……お疲れ様です」


美樹「……こんにちは。中野有香さん」



205: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:07:39.73 ID:ZGZy65VF0


有香「あっ、あの……美樹さん」

有香「美樹さんが、あたし達に外の事を話せないのは、ちゃんと事情があるって分かってるんですけど……」

有香「そ、それでも……どうしても聞きたくて……」


美樹「……水本ゆかりさんと、椎名法子さんのことですか?」

有香「! 二人はどうなったんですか!? 無事なんですか!?」

有香「あたし……あたし! 自分だけこっちに逃げて、ゆかりちゃんも法子ちゃんも置いてっちゃって……!」

早苗「……何度も言うけどね。2人を連れてこなかったのは、あたしの判断よ」

早苗「有香ちゃんにさえ、こっちに来るまで『お出かけ』としか言ってなかったんだから」


有香「早苗さんのせいじゃないです……でも、2人は人間です! あたしには分かります!」

有香「今からでも、保護してもらうことは出来ませんか!? 大切な友達なんです、2人に何かあったら、あたし、あたし……!!」


美樹「……」


美樹(――今誤魔化しても、意味はない……わね)



206: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:08:22.18 ID:ZGZy65VF0


美樹「―――中野さん」

美樹「お二方は、もう……」

有香「……ッ!」

有香「もう、どうなったんですか……!?」

有香「まさか、食べられて……」


美樹「いいえ、2人とも生きています。今はただ、こちらの病院施設で入院しています」

美樹「……それでも、重症です。一命こそ取りとめていますが、担当医いわく以前と同じ生活は困難だと」

有香「……そんな」


有香「……あの」

美樹「面会はできません」

美樹「全てが終わるまで、皆さんにはこの宿舎からの外出、連絡を許可できませんし……」

美樹「我々の口頭によるもの以外、外部情報はこれまで通り一切遮断させていただいております」

美樹「どうか、ご理解ください」


美樹「……お力になれず、申し訳ありません」


有香「……ッ……」

有香「……いえ。今の2人のことだけでも、教えてくれてありがとうございます」

有香「……生きてるん、ですよね。それが知れただけでも……」


美樹(――仲間や、家族)

美樹(――本当のそれらを、"喰種"のせいで失う人達がいる)


美樹(――私は、一人の喰種捜査官として)

美樹(――こんな悲劇を、ひとつでも無くさないといけない)

美樹(――いえ。『ひとつだけでも』じゃない)

美樹(――『すべて』無くさないといけない)



207: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:10:48.78 ID:ZGZy65VF0


美樹(――でも)

美樹(――中には、背負う必要のない罪、罪ですらないものの意識に苦しむ子もいる)


幸子「……なんですか、友紀さん。ボクは別に、そんなにべったりくっつかれなくても……」

友紀「いーじゃんいーじゃん。あたしが幸子ちゃんにくっついてないと、不安でしょーがないんだよー。たすけてさっちー」

幸子「……仕方ないですねえ。ボクは優しいので、イヤがったりしませんけど……!」

幸子「…………」カタカタ

幸子「……ありがとう、ございます」

友紀「なんの話かなー」


美樹(――輿水さんは、緒方智絵里の正体をギンに伝え、キャッスルに繋がる入口を伝えてくれた英雄)

美樹(――でも、本人からすれば……友達を間接的に殺した、人でなし)

美樹(――それは間違ってるって言っても……耐えられる人ばかりじゃない)


美樹(――辛いのは、本当の友達を失う人だけじゃない)


美樹「……片桐さん。向井さんも」

美樹「いま中野さんにご説明した通り、キャッスルへの捜査が完了するまでは一切の外出・連絡を許可できません」

美樹「窮屈な思いをされることは承知しています。どうか、ご協力下さい」


拓海「……言われなくても分かってるよ、ンな事」

早苗「連絡なんてしたくても、出来やしないようになってるから安心しなさい」

美樹「ご協力、感謝します」


美樹(――片桐さんも、向井さんも。もしくは、佐藤さんも)

美樹(――恐らく、仲間の誰が"喰種"だったか見当がついている)


美樹(――今、それを聞き出す必要はない)

美樹(――最後には頼らなければいけないかもしれない)

美樹(――でも、今ほかに情報源を得られるなら)

美樹(――たとえまやかしでも、友達を売る辛さを強制することはない)


美樹(――ただでさえ、これから346プロは崩壊する)

美樹(――仲間や親友、思い出の場所が全部、虚像となって消えていく)

美樹(――その様を見せてあげることすらできない。何も分からないまま、失ってしまう)


美樹(――引き金を引くのは、刃を振り下ろすのは私達)



美樹(――その事実に、向き合わないといけない)



208: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:11:34.79 ID:ZGZy65VF0


美樹(――それでも)ガチャ


桃華「……あら! お帰りなさいませ、ありすちゃんのお母様」


唯「ミキミキおかえりちゃ~ん、今ちょーイイとこに帰って来たね~」ニヤニヤ

雫「おかえりなさい~。仁奈ちゃん、すごく幸せそうですよ!」


美樹「…ふふ。本当に幸せそうね」



仁奈「えへへー♪ ママのお膝に乗ったの、すげー久しぶりでごぜーます!!」ニコニコ

ギン「……………………おう」タジタジ



仁奈「早苗おねーさんから聞いたですよ! ママはしばらくお仕事ねーから、いーっぱいお休み出来るって!!」

仁奈「ママ、いつも忙しくてたいへんでやがりましたから、仁奈うれしーです!」

心「お? 仁奈ちゃん、この隙にたくさんママと遊んでもらうつもりだな? この甘えん坊め~☆」ニヤニヤ

仁奈「えへへー、ママには仁奈のダンスも歌もたっくさん見てほしーです! アイドルやって、色んなきもちになれたですよ!!」


ギン「い、いや……別にアタシが見る必要ねェし……」

心「見ろよ☆」

ギン「う……」


仁奈「…ママ……仁奈と遊ぶの、イヤですか?」

ギン「は? ち、ちげーよ。遊びたいに、決まってるだろうが」


仁奈「じゃあ仁奈と遊んでくだせー!」

仁奈「ママ、いっつもつらそーにしてやがるです。皆言ってたですよ、アイドルになったらみんなを笑顔に出来るんだって!」

仁奈「ママも笑顔になってくだせー!」


ギン「……仁奈……」


ギン「……分かったよ。悪かった。……仁奈がそれでいいって言うんなら、気が済むまで遊ぶから」

仁奈「!!!」


仁奈「わーい! ママとやりたいこといっぱいあるですよ! ウサギの気持ちにもなるですしゾウさんの気持ちにもなるですし、あとあと―――――!!」



美樹「……なんとか、うまく行ってるみたいね」



美樹(――それでも)

美樹(――この幸せな親子を、幸せな人たちを、壊させたくない)



209: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:12:24.58 ID:ZGZy65VF0


美樹(――何より)


「……」ギュ

美樹「!」

美樹「……ふふっ」


美樹「どうしたの、ありす?」



ありす「……あっ」


ありす「ち、違います! 今のは、その、つい裾を握ってしまっただけで……」

心「お? ありすちゃんもママに甘えたいのかな? 甘えたいんだろ☆」

ありす「ただのクセです! 別に仁奈ちゃんが羨ましくなったとかじゃ……! …ハッ」


美樹「…そうね。私も実さんも、ありすのこと一人で大丈夫だって思っちゃって」

美樹「甘えちゃってたのは、私の方ね。ごめんね、今まで寂しい思いさせちゃって」

美樹「今日から、しばらくお休みだから。ギンと仁奈ちゃんみたいに、私もありすとたくさん遊んじゃおうかな」


ありす「……!!」


ありす「お、お休みなら……いい、んだよね」

ありす「……どうしても、じゃないんだけど……お話ししたい事があって……」


ありす「……聞いてくれる?」


美樹「うん。ありすのお話、たくさん聞きたいな」




美樹(――喰種捜査官として、こんなことを考えるのは駄目かもしれないけど)

美樹(――それでも、何より)

美樹(――この子に幸せになって欲しい)

美樹(――この子が、笑顔で生きていけるように、戦いたい)



210: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:14:00.16 ID:ZGZy65VF0




美樹(――どうか、叶うなら)



美樹(――ありすと実さん、そして私の3人で)



美樹(――"喰種"のいなくなった世界を迎えたい)



美樹(――まやかしなんかじゃなく、本当に幸せでいられる日を迎えたい)



美樹(――もし、それが叶わなくても。私や実さんが、奴らの牙にかかって、あの子のそばにいられなくなっても)



美樹(――せめて)



美樹(――この子の未来を、幸せに生きていける未来だけは、絶対に守りたい)



美樹(――喰種捜査官として……いえ、それよりも、この子の母親として)



美樹(――この子の幸せだけは、絶対に守らなきゃいけない)





211: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:15:04.09 ID:ZGZy65VF0




美樹(――そのためなら――――――――――)



ありす「お母さん」

ありす「このお仕事が終わったら、お母さんに紹介したい人がいるの」

ありす「私ね。唯さんと一緒に、美城常務のところで『プロジェクトクローネ』ってグループに入ったんだよ」

ありす「そこで、素敵な人と出会って……」


ありす「鷺沢文香さんって言ってね」

ありす「すごい人なんだよ。知的で、おしとやかで……」

ありす「いつも、勉強になることをお話してくれて」

ありす「私の憧れの人で……」


ありす「お母さんがその時、忙しくなかったら、でいいの」

ありす「だから、全部終わったら文香さんに会って、仲良くなって欲しいな……」


美樹「……」

美樹「……本当に好きなのね。文香さんのこと」


ありす「……!!」カア

ありす「そ、尊敬してる人ですっ!」


――――――――――――――――――――



212: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:16:14.57 ID:ZGZy65VF0


――――――――――――――――――――


心「ママー!」

ギン「いきなり何やってんだお前」

心「なにって、察しろよ☆ ありすちゃんが甘えやすくするために、少しでも周りが幼児退行してやってんだよ☆」

ギン「頭おかしいんじゃねえのお前」

心「恥を忍んでやってんだよ☆ おい無表情で中指立てんな☆」

ギン「悪かったな。FuckFuckFuckFuckFuckFuckFuckFuck」

心「ボケ過ぎたのは謝るから娘の前でFワード連発すんな! 仁奈ちゃんが真似したらどーすんだ!?」

ギン「あっヤベ、いつものクセが……! 今のは忘れろ仁奈!」

仁奈「ふぁっくって何でごぜーますか?」

ギン心「「忘れろ!!」」


心「もー。仁奈ちゃんと距離を置きたがった理由は身をもって分かったけど、も少し言葉遣い考えろよ☆」

ギン「……そうだな。仁奈に真似させねーように、気ぃ付けねえとな」

心「少しは上司を見習えよ☆ あっちはTHE・レディってかんじなのに」

ギン「……あんたらの前じゃな」


心「お? なんか引っかかるもの言いだな? 美樹ちゃん、意外と私生活はだらしないとか?」

ギン「そういうワケじゃねーよ。ただ、あのヒトの仕事っぷりがえげつねえんだよ」

心「……えげつない?」

ギン「ああ」


ギン「美樹サン、過去に尋問官もやってたことがあってな」

ギン「アタシもパートナー組んでから、何回か美樹サンの尋問に立ち会ったことあるんだけどよ……」



ギン「あの人は"喰種"の前じゃ、アタシよりえげつねえ」


ギン「……まあ、同情する気なんかねえけどな」


――――――――――――――――――――



213: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:17:48.63 ID:ZGZy65VF0


~夜~


橘「……もしもし。ええ、私です御坂監獄長」

橘「申し訳ありません。ありすが寝付いてから、仕事に移りたくて……」

橘「はい、休暇中です」

橘「ですが、あと一つだけ…どうしても今やっておきたい仕事がありまして」

橘「……ありがとうございます」



~コクリア 独房~


「……はあ、はあ……」


ガチャ


「……!」



橘「……こんばんは。こんな時間だけど」


橘「捜査に協力してもらうわ」



橘「鷺沢文香さん」





214: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:18:49.45 ID:ZGZy65VF0


文香「……!!」

文香「……あ、あああ……!!」


橘「今日は『シンデレラプロジェクト』のメンバーおよび小日向美穂、木村夏樹、二宮飛鳥について」

橘「この中に、『緒方智絵里』以外で"喰種"はいる?」


文香「……い」

文香「…………いえ、ません」


文香「……何度も……言っています……」

文香「……友達を、売ることは……できません……!!」


橘「……そう」ジリ


橘「」グイッ


文香「ひっ……!」



橘「…知識量の割に、学習能力のない子ね」

橘「今度は何をしてあげましょうか?」


橘「また目に火箸を刺されたい?」

橘「また爪を延々と剥がされ続けたい?」

橘「また耳に虫でもいれてあげましょうか?」

橘「また人間の料理を延々とねじ込んだ方がいい?」


橘「拷問のレパートリーなら、あなたが本で読んだ以上に知ってるわよ」


文香「……っ……く、う……!!」



文香「……殺してください……」

文香「私から……あなたに、あげられる情報なんて……ないんです……」

文香「私のページは、もう、ここで終わりだって、知ってます……」

文香「はやく……殺してください……楽にしてください……」


文香「殺して……もう……解放、してください……!!」



215: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:19:46.85 ID:ZGZy65VF0


橘「頼まれなくても、もうあなたは用済みよ」

橘「もう廃棄することにした。何を言っても言わなくても、近いうちにあなたは死ぬ」

橘「その日まで、あなたはずっと身体を抉られ続ける」

橘「……同類を売った方が、まだ楽に死ねるわよ」


文香「……いやです」

文香「もう、それしか……縋れるものが無いんです……」

文香「友達を裏切ったら……もう……本当に何も、なくなってしまうから……」

文香「だから……このまま、殺してください……!!」


橘「……つまらない自己満足ね」



橘「安心しなさい。別にもう、あなたに期待することなんてない」

橘「情報を得られれば幸運、くらいに思っていただけ……」



橘「……だけど、そうね。もし、今日私が求める情報を差し出してくれたなら……」







橘「最後に、ありすに会わせてあげる」





216: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:20:54.59 ID:ZGZy65VF0


文香「――――――――――っっ!!!」



橘「娘が言っていたわ。尊敬してる人だって、知的でお淑やかな女性だって」

橘「とても会いたがってたわ。あなたも、ありすに会いたくないかしら?」


文香「っあ……あああ……!!」


橘「この資料を見て。今必要な情報は、シンデレラプロジェクトの誰が"喰種"なのか」

橘「どうせ庇っても、あなたには何の得もない。あなたはそのまま、ひとりで死んでいく」

橘「情報をくれても、あなたは死ぬ。でも、最後にありすに会うことは出来る」

橘「当然、情報が一言一句正確だったことが条件だけど」

橘「あなたが売るのは、シンデレラプロジェクトのメンバーだけ。他の仲間には逃げられるでしょうね」


橘「……どっちがいいかしら?」



文香「あ……」


文香「あああああ……」

文香「ありす、ちゃん……うう、ああああああ…………!!!」



文香「……あ……」


文香「……ごめんなさい」


文香「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


文香「許して……くださ、い……!!」



橘「……それで? 誰が"喰種"なの?」


文香「……」


文香「…………」


文香「…………ぜ」



217: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:22:04.66 ID:ZGZy65VF0






文香「……全員、です……」





文香「美穂、さん。夏樹さん、飛鳥ちゃんは……3人は、人間です」

文香「でも、シンデレラプロジェクトは……全員、"喰種"です」

文香「人間は、ひとりもいません……」


橘「そう」



文香「……約束です。ありすちゃんに会わせてください」

文香「一目でいい……一目見られるだけで、いいんです……」

文香「ありすちゃんは、ずっと私を慕ってくれて……すごく、可愛らしくて、愛しくて……!!」

文香「もう何もいらないから、ありすちゃんに会いたい……」


文香「お願いです……ありすちゃんに会わせてください……!!」



橘「……」


橘「……可哀想に」

橘「痛みでまともに物を考えられなくて、ただ一つ仲間に縋ることでしか、現実に耐えられなかった」

橘「そのたった一つの支えを手放してまで……ありすに会いたかったのね」


橘「ありすが愛しかったのね……」スッ



橘「あなたは、十分役に立ってくれた。これで、黒井上等達の作戦もやりやすくなるわ」

橘「だから…………」





218: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:24:06.12 ID:ZGZy65VF0




ズパッ



文香「……え?」



橘「ご苦労様。そのまま楽に死になさい」


橘「何もいらないからありすに会いたい? 何様のつもり?」


橘「会わせられる訳がないじゃない。娘をたぶらかしておいて、取り入っておいて……」



橘「娘を惑わす害獣が」





文香「そ、んな……」


文香「……あり……す、ちゃ……」


文香「――――――――――」



――――――――――――――――――――



橘「……もしもし、黒井上等?」

橘「私よ、橘準特等。夜遅くの連絡だけど、どうせ残業していたんでしょう?」

橘「あなた達の助けになる情報を得たから、電話させてもらったわ」



橘「……ええ、そうよ。サギサワからようやく得た情報」

橘「極限状況で、唯一の希望に縋ってようやく出した情報だから、信憑性は高いはずよ」


橘「……ええ。オガタの偽造診断書があんなに精巧だったのも納得ね」



219: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/15(金) 13:25:34.76 ID:ZGZy65VF0








橘「『シンデレラプロジェクト』のアイドルは全員"喰種"よ」







橘「小日向さん、木村さん、二宮さんの3人さえ保護できれば……」



橘「あとはもう、気遣いも容赦もいらないわね」



――――――――――――――――――――



236: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:45:33.83 ID:fvrq08M/0


――――――――――――――――――――



そして、魔法の解ける日が来る



――――――――――――――――――――



237: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:46:05.52 ID:fvrq08M/0


~12月25日 TOKYO MIX 放送スタジオ~

~楽屋~



美嘉「凛と、未央は……来れない?」



武内P「…はい」

みく「そんな……どうして!? シンデレラプロジェクト最後のお仕事なのに……!」

P「……」



P「……先日、日野茜さんと神谷奈緒さん、北条加蓮さんが行方不明になりました」

P「346プロでは『キャッスルの仕業だ』と結論付けられています」


P「……本田さんも渋谷さんも、そのことに責任を感じてしまい」

P「独自のルートで脱出を行う、と連絡を受けました」


P「よって……島村さん、神崎さん、アナスタシアさん、多田さんが『笑顔の橋』に出演し、放送が終わったあとは」

P「渋谷さんと本田さんを除く皆さん……そして、城ヶ崎美嘉さんの計13名で東京外への脱出を行います」



238: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:46:32.78 ID:fvrq08M/0


みく「……っ!!」

みく「じゃ、じゃあ……茜チャンは、未央チャンが喰種だって話したからいなくなったってことですか!?」


P「はい。キャッスルにとって、本田さんやアイドルの皆さんが"喰種"だと」

P「人間に知られては都合が悪かったため、日野さんに手を掛けたと思われます」


美嘉「…なにそれ。茜がCCGにアタシ達のことバラすとでも思ってたの!?」

美嘉「先に手を出してるのは向こうじゃんか……未央が可哀想だよ……!!」

美嘉「未央はただ、アタシたちを勇気づけようとしてくれただけなのに……!」


P「……止められなかった、私の責任です」

P「申し訳ありません」


アーニャ「プロデューサー……」



卯月「……」



卯月「……間違い、なんですか?」



239:訂正。 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:47:15.44 ID:fvrq08M/0


みく「……っ!!」

みく「じゃ、じゃあ……茜チャンは、未央チャンが喰種だって話したからいなくなったってこと!?」


P「はい。キャッスルにとって、本田さんやアイドルの皆さんが"喰種"だと」

P「人間に知られては都合が悪かったため、日野さんに手を掛けたと思われます」


美嘉「…なにそれ。茜がCCGにアタシ達のことバラすとでも思ってたの!?」

美嘉「先に手を出してるのは向こうじゃんか……未央が可哀想だよ……!!」

美嘉「未央はただ、アタシたちを勇気づけようとしてくれただけなのに……!」


P「……止められなかった、私の責任です」

P「申し訳ありません」


アーニャ「プロデューサー……」



卯月「……」



卯月「……間違い、なんですか?」



240:訂正。 ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:47:54.48 ID:fvrq08M/0


美嘉「えっ?」


卯月「未央ちゃんが、茜ちゃんと、本当の仲間になろうとしたことは……」

卯月「ほんとに、間違いなんですか?」


みく「卯月チャン…?」


卯月「私、どっちかというと世間知らずで……もしかしたら、間違ったことを言ってるのかもしれません」

卯月「……それでも、未央ちゃんは、いつも私や凛ちゃんを助けてくれて……」

卯月「裏ではずっと悩んでて、サマフェスでファンレターをもらった時、すっごく嬉しそうに笑ってて……!」


卯月「そんな未央ちゃんが、私達のために、みんなと私達を繋いでくれたことが」

卯月「間違いだったなんて思いたくないですっ!!」


卯月「私は、あきらめたくないですっ! 人間のみんなと仲良くなること、未央ちゃんや凛ちゃんだって、ずっと願ってたこと!」

卯月「私だって、美穂ちゃんと本当の友達になって、今日だけじゃなくって、また一緒に歌いたいから……!!」

卯月「もう『喰種だから』って、好きな事を我慢しなくてもいいようになりたいからっ……!!」


卯月「だから、未央ちゃんや凛ちゃんが来れないなら、見せたいんです!」

卯月「私は、こんなに美穂ちゃんと仲良くなれたよって」

卯月「喰種とか、人間とか、そんなの関係なくて……秘密を話すことは出来ないけど、これだけ仲良くなれたんだよって」

卯月「未央ちゃんが悩んで、出した答えは、間違いなんかじゃないって……!!」


卯月「この最後のライブで、2人に見せたいんですっ!」



李衣菜「卯月ちゃん……!」


李衣菜「……うん、その通りだよ卯月ちゃん! 今更"喰種"がどうとか言って縮こまるのはロックじゃないよ!」

李衣菜「私だって、ちゃんと皆に見せてあげたい! なつきちとこんなに仲良くなれたって!」

李衣菜「ちゃんと分かってくれる人はいるんだって!」

李衣菜「ね、蘭子ちゃん!」


蘭子「……!」

蘭子「……ククク。感謝するわ、雷鳴の姫君よ。笑顔の姫君よ」

蘭子「我らこそ、下僕たちに道を示すもの。暗闇に双翼の軌跡を示すもの」

蘭子「我が翼。白銀の妖精に、我が共鳴者」

蘭子「今こそ始めましょう。我らが大翼の舞う舞台を!!」



241: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:48:41.30 ID:fvrq08M/0


莉嘉「……えーと」

莉嘉「蘭子ちゃんが言ったのって、アーニャちゃんと飛鳥ちゃんのこと?」

みりあ「そうだよ! どっちも大切って言ったんだよ!」

きらり「…それが、蘭子ちゃんの答えなんだね」


美波「……『なにも変わらない』って、言ってくれたもんね」

美波「頑張ってね、蘭子ちゃん。李衣菜ちゃんに、卯月ちゃんも」

美波「アーニャちゃんも、蘭子ちゃんのこと支えてあげてね」


アーニャ「ダー! ランコも、アスカも、アーニャも……なにも変わらないです」

アーニャ「ミナミ、言ってくれました。あの時の笑顔は、私もランコも、変わらなかったって……」


美波「うん! だから、胸を張って行ってきて」

美波「ここからちゃんと見てるから!」



かな子「あ、あのね蘭子ちゃん」

蘭子「む?」

かな子「今まで秘密にしてたんだけど……じゃんっ!」

蘭子「……これはっ!?」


かな子「えへへ。今日のために、ちょっと時間つくって……」

かな子「蘭子ちゃんの大好物、プリンを作ってきました!」

蘭子「わあ!」

かな子「今日のライブが終わったら、飛鳥ちゃんたちとはしばらくお別れになっちゃうから」

かな子「だから、その前に……蘭子ちゃんの大好きなプリンを一緒に食べて欲しいなって思ったの」

智絵里「わ、私もお手伝いしましたっ」

蘭子「かな子ちゃん、智絵里ちゃん……」


智絵里「蘭子ちゃん。私も、蘭子ちゃんに勇気づけられました」

智絵里「だから、精一杯のエールです……ふ、ふれーっ、ふれーっ!!」


蘭子「……!!」



242: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:49:33.38 ID:fvrq08M/0


美波「……よし! じゃあ皆、円陣組むよ!」

美嘉「お、やっちゃう?」

美波「ええ! 凛ちゃんと未央ちゃんはいないけど……2人にも届くって信じてるから」



美波「……改めて言うね」

美波「私達は、"喰種"だけど」

美波「合宿の時……あんなに楽しそうに笑ってた顔は、人間と何か違うだなんて思わない」

美波「346プロはなくなっちゃうけど、また皆歩き出せる」

美波「私達は、それを知った」


美波「だから、みんなにも教えてあげましょう!」

美波「人間と喰種は、ちゃんと仲良くなれるって!」

美波「卯月ちゃんが、李衣菜ちゃんが、蘭子ちゃんが作った絆を、みんなに見てもらいましょう!」


卯月「はいっ!」

李衣菜「おうっ!」

蘭子「うんっ!」



美波「今日のことは、ずっと忘れない!」

美波「ライブに出れない皆も、蘭子ちゃんたちをしっかり見守りましょう!」

「「「はーい!!!」」」


美波「行くわよ! シンデレラプロジェクトー……」


「「「ファイト! オー!!!」」」




243: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:50:09.67 ID:fvrq08M/0


――――――――――――――――――――


ワイワイ

ガヤガヤ


杏「……」

杏「……ねえ、みくちゃん」


みく「……ん? どうしたの杏チャン」

杏「みくちゃんはさ。人間と喰種が分かり合えるって思う?」

みく「思わないよ」

杏「バッサリいったね」


みく「だって信じられないものはしょーがないんだモン」

みく「夏樹チャンや美穂チャンだって、みくたちのこと通報するかもしれないって。まだ思ってる」

杏「……」


みく「でもね」


みく「りーなチャンや卯月チャンを信じることは出来るよ」

みく「人間と仲良くなったりーなチャンのこと、卯月チャンのこと、蘭子チャンのこと……」

みく「みくは大好きだよ」

みく「……それに、ナナチャンも人間が大好きだったから」

みく「助け合って暮らした人間が大好きって言ってたナナチャンのこと、みくも大好きだから……」


みく「……だから、みくは人間を信じないけど!」

みく「人間を信じた友達は信じるにゃ!」


みく「だから、もし夏樹チャンや美穂チャン、飛鳥チャンが裏切って、通報なんかしたら……」

みく「その時はみくが食べてあげるにゃ♪」


杏「怖っ」



244: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 15:50:37.43 ID:fvrq08M/0


杏「……ま、いいや。みくちゃんが問題起こしそうになくて安心した」

杏「ただのノロケだったよ」

みく「の、ノロケってなんにゃ!」

杏「ばいばーい」


杏「……」

杏「……よっ、プロデューサー」


P「……双葉さん」


杏「なんか固い顔してるよー。もっとダラっとしなよ」

杏「……ま、無理も無いか」





杏「ちょっと顔かしてくんない?」

杏「話したい事があるんだけど」



246: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 19:48:58.07 ID:fvrq08M/0


――――――――――――――――――――


コンコン


卯月「? はーい。どちら様ですか?」ガチャ


美穂P「こんばんは」

卯月「あれ? もしかして美穂ちゃんの……」

美穂P「そう、担当P。美穂には先に現場に行ってもらってる」

美穂P「今のうちに、卯月ちゃんにお礼を言っておこうと思ってね」

卯月「? お礼、ですか?」


美穂P「美穂が君のこと、すごく楽しそうに話すんだよ」

美穂P「すごく頑張り屋だから、一緒にレッスンしてて楽しいって」

美穂P「人間とか喰種とかそんなの関係なく、君のことを一人の友達として見てくれてる」

美穂P「…俺も、美穂のそういう姿にはちょっと救われたんだ」

美穂P「俺も卯月ちゃんと同じ喰種だけど……」


美穂P「美穂は俺のことも、こんな風に好いてくれてたのかなってな」

美穂P「それに気付けて、今すごく嬉しいんだ」


美穂P「まあ、一緒にいて楽しいのは君だけで俺の方はそうでもないかもしれないけど……」



247: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 19:50:45.92 ID:fvrq08M/0


卯月「……そんなこと……」

美穂P「別にそれでもいいけどな! こっちはいい年したオジサンだしな!」

美穂P「……」


美穂P「…俺は。俺だけじゃなく、人間のアイドルを担当してるPは」

美穂P「このライブが終わったら、もうお別れだからな」

美穂P「一級Pと違って、もう一生会えなくなるかもしれない」

美穂P「でも美穂のプロデューサーでいられてよかった」


美穂P「……『笑顔の橋』は、人間と喰種の絆を見せるためのライブだったっけ」

美穂P「ありがとな、卯月ちゃん」

美穂P「少なくとも、3人のしがないプロデューサーは救われたよ」


美穂P「…これは、飛鳥Pと夏樹Pを含めて3人分のお礼です」

美穂P「うちのアイドルと仲良くしてくれてありがとうございました」ペコリ


美穂P「最後のライブ、俺達も精一杯応援するから頑張ってください」




248: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 19:51:21.60 ID:fvrq08M/0


卯月「……!!」

卯月「はいっ! 私も美穂ちゃん達とはしばらく会えなくなりますけど……」

卯月「それでも、美穂ちゃんと仲良くなれてよかったです!」


卯月「島村卯月、美穂ちゃんと一緒に……みんなで頑張ります!!」


美穂P「……うん。頼んだ」



――――――――――――――――――――



卯月「…それにしても……そっか……」

美穂P「ん?」

卯月「もう、美穂ちゃんのプロデューサーさんも……美穂ちゃんに会えなくなるんですね」

美穂P「まあね。もう346の手出しは無いんだし美穂に正体を明かしてもいいんだけど」

卯月「346が?」

美穂P「…今のは忘れて。仮に美穂に正体を話して受け入れてもらっても、美穂に罪を背負わせることになる」

美穂P「あと、俺は346の職員だからね。君達を逃がすために、346に残らないといけない」

美穂P「それは君達のプロデューサーも同じだろ」

卯月「ッ……」


卯月「……はい」



249: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 19:52:01.81 ID:fvrq08M/0


美穂P「……ああ。その様子だと、あいつともお別れになることはちゃんと聞いてたのか」

美穂P「みんな明るいから、また話してないのかと……」

卯月「……はい。避難は、美波さんと美嘉ちゃんに任せるって……」

卯月「プロデューサーさんは、放送が終わったら346プロに戻るって……」


卯月「……でも、プロデューサーさんはそれでも、このお仕事を残してくれました」

卯月「だから、ちゃんと歌いきって……もう大丈夫って、伝えたいんです」

卯月「プロデューサーさんは、私の夢を叶えてくれた人で……大切な、人だから」


美穂P「…こんなに想われてるなんて、プロデューサー冥利に尽きるな」

卯月「……それに」

美穂P「?」


卯月「ここに来る前……プロデューサーさんに、お話してもらったことがあるんです」



『……私は最後に、346プロへ戻ります』

『向こうで捜査官達の注意を引き、皆さんに避難をしていただくためです』

『……どうか、泣かないでください』


『私の最後の望みを、どうか聞いてください』



250: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 19:52:28.81 ID:fvrq08M/0



『―――この失っていくしかない世界で』



『唯一の望みは、つながること』



『植えた種子が花を咲かせること、花がまた種子を落とすこと』



『見よう見まねで焼いたハンバーグを、美味しいと喜んでもらえること』



『私と関わったことで、少しでも皆さんが笑顔でいられること』





『自分の行動が、生きた時間が、無意味じゃなかったと思えること』





『……それが、私にとっての希望です』

『どうか、これからも笑顔でいてください』



卯月「……だから、私は最後までちゃんと」

卯月「笑顔で歌って、踊ります」

卯月「ちゃんと、皆に見てもらいます」


美穂P「……そうか」

美穂P「……なんか、自分が恥ずかしいな」


美穂P「これだけ辛い思いをしている子が、それでいて必死に頑張ってる子がいるのに」

美穂P「自分は、『逃げ切れた』なんて安心してしまっただけだなんて」


卯月「……?」

美穂P「…ごめん、こっちの話。美穂のところに戻るよ」


――――――――――――――――――――



252: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 21:25:54.91 ID:fvrq08M/0


~TOKYO MIX 屋上~


杏「ん。これ、杏の奢りコーヒーね」

P「…ありがとうございます」カシュ

P「……それで、話と言うのは」


杏「…んーとね。杏もちょっと、正直に言っとこうかなってことがあってさ」

杏「プロデューサー、さっきは上手く話したよね」

P「……?」


杏「『茜ちゃんはキャッスルに誘拐された』って話」

杏「ウソはついてないもんね」


P「!!!」

P「……双葉さん、それは……!」


杏「杏ね。全部知ってた」

杏「知ってたって言うか、聞こえてた。杏、耳すごくいいから」


杏「346プロの地下に部屋があったことも、凛ちゃん未央ちゃんのことも」

杏「キャッスルのことも、財産のことも」

杏「……人間の女の子がたくさん、殺されてることも」


杏「凛ちゃんが気付く前から、ずっと前から全部聞こえてた」

杏「……知ってて、黙ってた。プロデューサーにも、皆にも言わないで、見て見ぬふりしてた」

杏「どうにもならないことをわざわざ喋って、全部台無しにするのはバカみたいって思ってたから」

杏「だってそうじゃん。きらりや、智絵里ちゃんやかな子ちゃんが、あんなに楽しそうにしててさ……水させないじゃん」


P「……」


杏「別に、プロデューサーを責めるつもりなんてないよ」

杏「気持ちは、なんとなく分かるからさ」


杏「でも『まだやる』って言うなら……ちょっと言っておかなきゃって思った」



253: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/23(土) 21:28:50.36 ID:fvrq08M/0


P「……それは」


杏「杏、全部聞こえてたって言ったでしょ。『最終隠匿プロトコル』のこと。プロデューサーがこれからしようとしてること」

杏「やめてよ。やめようよ。せめて蘭子ちゃん達の友達だけは奪わないであげてよ」

杏「プロデューサーがトラウマ持ってるのも分かるよ。でも、今からやろうとしてることは何の意味もないんだよ」

杏「美穂ちゃん達は、杏たちのこと話したりなんかしないよ」

杏「だからっ……!」


P「……その願いは、聞けません。3人を失ってから、私は決めたのです」

P「どのような犠牲を払ってでも、皆さんが生きていられる確実な手をとると」

P「仮に、皆さんに計画を知られても……生きてさえいれば、また笑顔を取り戻せるはずですから」


P「……どうしても止めると言うのであれば」


P「力づくで私を止めてください」



杏「……」

杏「……出来る訳ないじゃん。杏だって、流石に敵わないよ」


杏「『隻眼の王』とか呼ばれてるくせに……」

杏「……まぎらわしいんだよ、その呼び方」



P「……双葉さんは、楽屋に戻ってください」



P「放送が始まります」



――――――――――――――――――――



259: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 20:52:08.11 ID:GqKxECQN0


~渋谷家~


渋谷父「……持っていくものはこれで全部か」

渋谷母「凛ー? 準備できたー?」

凛「…うん。荷造りはもう終わってるよ」

凛「行こっか、ハナコ」



渋谷父母「「……」」


渋谷父「……凛」

凛「どうしたのお父さん?」


渋谷父「お前も知ってる通り、この車にはちゃんとカーテレビが内蔵されてる」

渋谷父「だから、卯月ちゃん達のライブ放送を見ることも出来るんだが……」


凛「……別にいいよ。見ない」

凛「……見ると、辛くなるから」

凛「もう会えるかどうかも分かんないしね」


渋谷父「……そうか」



260: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 20:53:05.26 ID:GqKxECQN0


凛「……ごめんなさい」

父母「「?」」


凛「私が……アイドルになりたいって言わなかったら」

凛「こんな風に、夜逃げしなくても済んだのに」


渋谷父「……そんなことは」



渋谷父(――そんなことはない、と言いたかった)

渋谷父(――凛がアイドルになると決めた時から……すべてを捨てる覚悟はできていた)

渋谷父(――家も、仕事も、妻も……私の命も)

渋谷父(――妻も同じだ)


渋谷父(――退屈な世界を押し付けていたことに、ずっと悩んでいた)

渋谷父(――だが娘は、そこから一歩を踏み出すきっかけを掴んだ)

渋谷父(――それは私にとって、とても嬉しい事だった)


渋谷父(――娘が笑顔でいてくれるなら、それで良かった)



渋谷父(――だが……本当に、私は私が情けない)

渋谷父(――今まで信じていた物の真実を知って絶望する娘に、かける言葉が見つからない)



261: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 20:53:35.05 ID:GqKxECQN0


渋谷父(――このままでは、凛はきっと後悔をひきずって生きていく)

渋谷父(――私は、父として親として、この子の傍にいてあげることしかできない)

渋谷父(――だが―――――)



「……あ、あのー………」

「もしかして、今出るところ……だった?」


渋谷父「……?」

渋谷父「!」


渋谷父「君は……!!」



凛「……未央?」



未央「……どうも! しぶりんにしぶりんのお父さんお母さん、みんなの未央ちゃんです」


未央「テレビ見れるところが見つからなくて、いけたらしぶりん家で放送見せてもらおうかなって、思ってたんだけど……」

未央「……そう、だよねー。そんなヒマなかったですよねー」



262: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 20:54:03.07 ID:GqKxECQN0


渋谷父「……!」

未央「…じゃ、家族に水いれるのも悪いし、未央ちゃんはこれで……」


渋谷父「待ちなさい」


未央「は、はいっ!?」


渋谷父「……家でテレビを見せてあげることは出来ないが、車にもテレビはついている」

渋谷父「家庭の事情は、凛から聞いている」



渋谷父「あと一人くらいは乗れるから、未央ちゃんも一緒に逃げよう」



渋谷父「卯月ちゃんも一緒だ。楽しい逃避行にしよう」



――――――――――――――――――――



263: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 20:55:05.67 ID:GqKxECQN0


――――――――――――――――――――





「…………」





「……」スッスッ



三条馬『目標1、渋谷家が車での移動を開始しました』

三条馬『目標2、本田未央も同乗しています』


黒井『報告御苦労。車種とナンバープレートは確認したか?』

三条馬『ナンバープレートを識別できる写真を撮影しました。添付します』

黒井『確認した。別動隊のヘリに追跡させるから、三条馬一等は報告に従って先回りしろ』

黒井『私も「潰し」を終わらせてから合流しよう』

三条馬『承知しました』


北斗『黒井上等。これ本当に向こうにはバレてないんですか?』

黒井『ああ。勘は当たっていたようだな』

黒井『丸井のやつに連絡をとったが、346がこっちに向かう様子はない』


黒井『シンデレラプロジェクトのクズどもやその親は、最早スケープゴートとして扱われている』

黒井『その他のアイドルごっこをしている喰種どもを確実に逃がすために、二十にも三十にも手を打っているな』

黒井『スタジオの小娘共はともかく、その親にまで見張りをつける気はなかったようだ』




264: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 20:57:07.86 ID:GqKxECQN0


冬馬『なあオッサン』

黒井『どうした冬馬』

冬馬『このLINEでの連絡、今すげー辛いんだけど』

翔太『冬馬君、話聞いていなかったの?』

翔太『音声通信は感覚に優れた喰種に聞かれる危険があるから出来ないってクロちゃん言ってたじゃん』

冬馬『それは分かってるよ!』

冬馬『そうじゃなくてだな、周りの野郎どもの視線が痛いんだよ! この時間になってもまだスマホ弄ってるから!』

北斗『耐えろ冬馬。マナーより任務だ』

翔太『僕らには関係ないもんね~♪』

冬馬『翔太てめえ!』


三条馬『まあまあ……マナーが悪くて目立ってもダメだし、早く作戦の最終確認に移りましょう?』

三条馬『3人の待機場所の確認だけど』

三条馬『翔太君はCP楽屋付近、北斗君は舞台裏、冬馬君は観客席よね?』

翔太『うん』

北斗『はい』

冬馬『おう』

三条馬『ちなみに、北斗君に確認とるけど……今3人の保護は出来る?』

北斗『いえ、無理ですね』

北斗『エンジェルちゃんたちの担当Pが離れないので、ライブ前の強行突破は危険かと』

北斗『やっぱり作戦通り、放送終了後を狙うしかなさそうです』

三条馬『了解』

三条馬『翔太君はまだ待機ね、強襲は出演組と楽屋組同時にやるから』

翔太『おっけー』

三条馬『そして冬馬君は、何か舞台に変わったところはある?』

冬馬『ねえな。予定通り放送が始まるみてえだ』

冬馬『で、俺のやることはライブ出演組が何か変わった動きをしてねえか見張る』

冬馬『放送が終わったら北斗と合流』

冬馬『その頃には北斗が小日向美穂、二宮飛鳥、木村夏樹3人の人間を保護してるはずだから』

冬馬『俺は残った出演組を死なねえ程度に痛めつけて確保……だろ?』

三条馬『よろしい!』

翔太『楽屋組は殺していいんだよね?』

黒井『遠慮はいらんぞ。証言を引き出すのは出演組の数人でいい』

黒井『1対多のハンティングはお前が最も得意とする戦闘だからな』

三条馬『運よく生き残った喰種がいたら、それは確保しておいてね』

翔太『りょうかーい』



265: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 21:01:18.74 ID:GqKxECQN0


冬馬『作戦の確認も終わったし俺は切るぞ』

冬馬『放送が終わる8:55に一回メッセージを確認するから、何か変更があるならそれまでに言えよ』

北斗『了解』

翔太『ライブ楽しんでね~♪』

冬馬『ふざけんな。喰種のライブなんか楽しめるわけねえだろ』

北斗『魅了されるなよ☆』

冬馬『しねえよ。喰種はお袋の仇だ。放送が終わり次第あいつらの全てをぶっ壊してやる』

黒井『フン、それくらいのやる気を持ってくれなければ困る』


黒井『では武運を祈る』



――――――――――――――――――――


冬馬「……」ブツッ

冬馬「すまん、悪かった。ほら電源切っただろ、こっち見んな」

冬馬「……」


冬馬(――お袋は)

冬馬(――お袋は何も悪くねえのに、喰種に喰われて死んだ)

冬馬(――その日から俺は決めた)

冬馬(――何年かけてでも、喰種共を一匹残らず駆逐してやるって)


冬馬(――俺の才能を見抜いて、鍛えてくれた黒井のオッサンには)

冬馬(――上に取り計らって俺みてえな子供を特別入局させてくれたオッサンには感謝してる)

冬馬(――おかげで一人の戦力として、こうして作戦に参加できた)

冬馬(――本当は討伐戦で活躍したかったが、贅沢は言わねえ)


冬馬(――俺はこの場で、一人の喰種捜査官として)

冬馬(――正義を執行する)



266: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/24(日) 21:01:48.43 ID:GqKxECQN0


冬馬(――喰種は一匹残らず駆逐すべき敵だ)


冬馬(――神崎蘭子、多田李衣菜、アナスタシア)

冬馬(――そして、島村卯月だったか)


冬馬(――『笑顔の橋』だと? くだらねえ)



冬馬(――俺が)


冬馬(――喰種なんかに)



冬馬(――笑顔なんかに、絶対に魅了されたりなんかしねえ―――――!!)



――――――――――――――――――――



269: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/25(月) 17:53:44.44 ID:w/Ci7sMw0


――――――――――――――――――――



卯月「美穂ちゃん! おまたせ!」

美穂「あっ、卯月ちゃん! 衣装すごく似合ってるよ!」

卯月「ほんと? えへへ、ありがとう!」



卯月(――小日向美穂ちゃん)

卯月(――会った時は尊敬する先輩で、今は大切な友達)

卯月(――最初はたしか……)


卯月(――そうだ)


卯月(――デビューライブのときに、アドバイスをもらったんだ)



卯月(――凛ちゃんと未央ちゃん)

卯月(――ニュージェネレーションズで出た、デビューライブのとき)



270: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/25(月) 17:55:10.84 ID:w/Ci7sMw0


卯月「……」

美穂「? どうしたの卯月ちゃん?」

卯月「…うん、ちょっとね。未央ちゃんと凛ちゃんのこと思い出してて……」


美穂「そういえば今日は二人とも来てないんだね。具合が悪いの?」

卯月「うん……今日は、えーと……体調不良で、応援に行けないって」

美穂「そうなんだ……残念だなあ。今日の卯月ちゃんを2人にも見て欲しかったのに」

卯月「……ううん、大丈夫! 二人ともテレビで見てくれてるって信じてますから!」

美穂「! そっか! じゃあテレビの向こうで応援してくれてる二人のためにも頑張らなきゃね!」

卯月「はい!」



卯月(――『このまま終わりたくない』って、言ってたんです)

卯月(――いちど挫折したとき、未央ちゃんが、凛ちゃんが)

卯月(――"喰種"に生まれたことに、負けそうになったけど)

卯月(――まだアイドルやめたくないって、言ってたんです)



卯月「―――プロデューサーさんっ!」

武内P「はい。島村さん」


卯月「私っ……プロデューサーさんにアイドルにしてもらえて」

卯月「本当に嬉しいですっ! 本当にありがとうございますっ!」

卯月「だから私がもらったもの……ここで全部だして」


卯月「みんなに、笑顔になってもらってきます!!」





271: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/25(月) 17:55:54.99 ID:w/Ci7sMw0


卯月(――そして、サマフェスのとき)

卯月(――私達に、ファンレターが届いたとき)


卯月(――未央ちゃんは、泣きながら笑ってました)


卯月(――『アイドル、やめなくて良かった』って)


卯月(――泣きながら喜んでくれたんです)



卯月(――今は、凛ちゃんも未央ちゃんも)

卯月(――大切な友達を失って、すごく苦しんでます)

卯月(――でも、それで今までを否定してほしくないから)


卯月(――あの時の気持ちを忘れてほしくないから)

卯月(――また、あの時みたいに笑ってほしいから)


卯月(――だから、私も今日、笑顔で)


卯月(――たとえ最後のライブになっても、最高の笑顔で)


卯月(――歌って、踊って見せます)



P「はい。最後まで、ちゃんと見ています」


P「いってらっしゃい」

卯月「いってきます」



卯月「―――島村卯月、頑張ります!!」



――――――――――――――――――――



272: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/25(月) 17:56:31.60 ID:w/Ci7sMw0


――――――――――――――――――――





「きいてください」





「「「 Take me☆Take you !!!!!!! 」」」





――――――――――――――――――――



273: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/25(月) 17:57:01.45 ID:w/Ci7sMw0


――――――――――――――――――――



冬馬「……!?」


冬馬(――今出てるアイドル9人のうち、誰が"喰種"で誰が人間なのか)

冬馬(――俺はちゃんと、確認していたはずだった)

冬馬(――気を抜くつもりは無かった)

冬馬(――だが、見ればわかると思っていた)

冬馬(――人間と、醜悪な"喰種"の違いなんて)



冬馬(――だから俺は、目を疑った)



冬馬(――見分けがつかなかったんだ)

冬馬(――"喰種"どもの、特に島村卯月の)


冬馬(――そいつらの浮かべる笑顔が、あまりにも)

冬馬(――隣で人間が浮かべてるはずのそれと、全く変わらないくらい)



冬馬(――目を奪われるような、心を握られるような笑顔だったんだ)



――――――――――――――――――――



274: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/25(月) 17:57:41.95 ID:w/Ci7sMw0


~渋谷家 車内~


未央「……ほら、見なよしぶりん」

凛「うん」

未央「しまむーは変わらないなあ」

凛「……うん」


凛「出会った時と変わらない」



凛「すごく綺麗な笑顔だよ、卯月」



凛「……最後に、見れてよかった」


――――――――――――――――――――



277: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:21:25.97 ID:wXlrPCRN0


――――――――――――――――――――





そして、幻想の壊れる時が来る





――――――――――――――――――――



278: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:26:15.71 ID:wXlrPCRN0


~346プロダクション本社付近 『キャッスル』殲滅部隊~


望元「ンン……橘ボーイ」

望元「結局、ワイフと市原レディは今回の作戦に参加しないんだね?」

実「ええ。妻の役目は終わりました、これ以上美樹に仕事を押し付けるわけにはいきません」

実「あとの実戦くらいは、夫の私がやらないと」

望元「エクセレンッ! 妻想いのいい夫じゃないか、だが生き残って初めてよきハズバンドとなりパパとなるのだ」

望元「それを忘れちゃいけないよ」

実「ええ。分かっています」


実「ありすのためにも、生きて346プロを……『キャッスル』を殺しつくします」



ザザッ


丸手『田中丸特等。伊集院二等から連絡が来ました。8時55分、予定通り放送が終わったようです』

丸手『あとは向こうの要求通り……』


望元「ナイスジョブ伊集院くん! と伝えておいてくれ!」

望元「確かこの後は、『346プロ所属のプロデューサー4匹が帰還するまで待て』だったね?」

望元「そしてマンキー4匹が本社に入ったのを確認次第……」


丸手『はい、作戦開始です。帰ってこなかった場合は黒井達に任せて作戦決行します』


望元「OK! それと偵察隊からの報告も受けているよ!」

望元「奴等の資料に記載されている346プロ職員は、例外を除いてほぼ全員、今日までに346プロに入ってから一切外出していないようだ」

望元「数日の偵察の間、本社には徒歩で進入し、その際なにかおかしいものを運搬している様子もなかった」

望元「大人しく狩られに戻って来たのは確かだね」

丸手『例外ですか? 俺は聞いてないんですけど、4人のプロデューサー以外にも誰か戻ってきてない奴がいるんです?』

清子「『今西』という男と『佐久間まゆ』の担当プロデューサーよ」

清子「この2匹と佐久間まゆは美城常務の密告前から姿を消して、一度も本社に戻ってきていないわ」

清子「例外はそれだけね」

丸手『誰だよ報告サボりやがったの……まあいいか、後だ後』

丸手『346の周辺組織は既にマークしてる……プロデューサーや役員ひとりでどうにかできるとも思えませんし』

丸手『そいつらは無視して作戦を進めます』

清子「了解」



279: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:28:39.16 ID:wXlrPCRN0


――――――――――――――――――――


丸手「……」

丸手(――あと1分で9時か)

丸手(――くそっ)


丸手(――キャッスルの奴等の思い通りにことが進んでるからか)

丸手(――どうもイライラしてきやがる)


丸手(――いや、それだけじゃねえ)

丸手(――何だこの……何か見落としてるような感覚は)

丸手(――まだ奴らが、何か切り札を隠してるような……)


丸手(――大体、何かおかしくねえか)

丸手(――奴等は資料にこう書いてた)

丸手(――『アイドルを確実に逃がすため、人間と喰種を混ぜこぜにして避難させる』と)

丸手(――こんなもの、簡単に対処できる)


丸手(――一旦アイドルを逃がした後で『喰種の疑いがあるからRc検査するぞ』と日本全国に散らばったアイドル共へ通達すりゃ済む話だろうが)

丸手(――無実なら出てくりゃいい、わざわざ"喰種"と勘違いされて殺されたい人間がいるはずもねえ。いるとしたらよっぽどのバカだ)

丸手(――所属アイドル183人の名簿くらいどこからでも手に入る)

丸手(――来た奴は人間、で検査に来なかったアイドルを"喰種被疑者"として捜査すればいい)

丸手(――喰種を庇うやつも出そうだが、全員ってわけでもねえだろう。証言を引き出すことも不可能じゃない)

丸手(――時間がかかるのは変わらねえだろうが、それでも確実に捜査は進む)


丸手(――こんなもの、一時しのぎにしかならねえ筈だ)



丸手(――346プロは老舗だ。今まで俺達の目を逸らしてきた奴らだ、それぐらい分かってるはず)

丸手(――じゃあ何でこんな穴だらけの方法を……)


ザザッ



『―――えー。マイクテス、マイクテス』

『会場にお越しのみなさーん。こーんばーんはー!』


丸手「……あ?」

丸手(――放送? どこからだ?)


丸手(――346プロのスピーカーからか!?)



280: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:31:30.18 ID:wXlrPCRN0


『本日は346プロダクションにお越しいただき、誠にありがとうございます』

『私、事務員の千川ちひろと申します』

『「笑顔の橋」のライブ放送は見ていただけましたかー?』

『とっても素敵な舞台でしたね!』


実「……千川ちひろ?」


『喰種対策局の皆さん』

『本日まで私達の準備を待っていただき、本当にありがとうございました!』

『おかげでアイドルの皆さんの避難もほぼ無事完了しました!』

『感謝感激です! ゆかりちゃん達の苦労も報われるというものです!』


宇井「……どの口が……!!」ピキ


『……ところで』



『お察しの良い捜査官……たとえば、対策Ⅱ課の方はお気付きかもしれませんが』

『実は私達のやり方、結構な穴があります』

『人間と喰種を一緒に逃がしても、検査の通達をして人間を呼び戻せば』

『検査に来なかった子は"喰種"って分かっちゃうんですよね』

『もちろん、来ないでくれる人間の子がいないとも限りませんが……』


丸手(――気付いてる?)


『……そ、こ、で!』

『346プロダクションの先輩方は、本社にある改装を施しました!』


『知ってましたか? 346プロの地下にはたくさんの部屋や通路があること』

『皆さんが突き止めた「保管所」だけでなく、あらゆる建物への抜け道が存在することを』


丸手(――抜け道!?)


『ああいえ、職員の我々は一人たりとも逃げてませんよ?』

『……失礼。まゆちゃんのプロデューサーと今西部長は例外ってことで』

『ただ、ここ数日は「あるもの」を運ぶためにこの地下通路を利用していました』


『何を運んでいたか、分かりますか?』



281: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:32:32.52 ID:wXlrPCRN0


丸手(――まさか)


丸手「……おい。大至急、本局に待機させてる戦力でもう一個部隊を編成しろ。任務は潜入と救助だ」ザザッ

丸手「あ? いきなりすぎる? うるせえぞ緊急命令だっつってんだろ!」

丸手「そうだよ、救助用の部隊だ!」


丸手「あいつら……最初から『見逃す』気なんか無かったんだよ」



『実はですね。その346の地下通路が繋がってる建物、ちょっとしたゲストが来ておりまして』

『私達はゲストを捕まえて、地下から346に戻ってもらったわけです』

『ああ、ゲストって言い方じゃ分かりづらいですねごめんなさい』

『要するに、「人質」ってことですよ』


『ほら。皆さんにご挨拶してあげてくださいよ』



『関裕美ちゃん?』





282: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:33:21.77 ID:wXlrPCRN0


「「「―――――!!!」」」



裕美『っ……やだっ! 離して! 触らないでっ!』


『分かりますよね?』

『そう。避難したはずの関裕美ちゃん本人です』

『この子だけは正体を話しておきますが……ちゃんと人間ですよ?』

『検査していただければ、私の言っていることが本当だと分かってもらえるはずです。……まあ』


『生きて取り戻せれば、の話ですけどね』


実「……まさか、他にも」


『そう! 今「まさか」と思っていただけた方は大正解です!』

『私達はロケと称して人間、喰種問わず指定した建物に向かってもらいました』

『そして関ちゃんのように、こちらの方々だけを捕まえて……こっちに連れ戻した』



『ですよねえ!』パチンッ





『―――人間アイドルのみなさん!!!』







283: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:37:43.50 ID:wXlrPCRN0


ザザッ



『ンーっ!』


『ンウー!』


『むっ……うー、うー!』


『んむー!!』





『喋られては困るので、猿轡ごしの御挨拶となりましたが!』

『こちらでもがいていらっしゃる方全員、当346プロダクションの人間アイドルとなっております!』

『その数、実に50匹以上! そちらで保護されていないほぼ全員です!』

『誰が人間アイドルかまではお話できません! だって目的に反してしまいますから!』


『ん? 目的は何ですって……? よくぞ聞いてくれました』

『目的は3つ! 口封じ、あなた方喰種捜査官の殲滅、そして目くらまし!』


『まず検査で呼び出した人間アイドルにシンデレラのことを喋られては困るので、口封じに殺します』

『次に、我々は人質を取っており……ついでに報道ヘリも呼ばせてもらってます』

『つまりここで逃げれば……CCGは人質を見捨てたクズとしてニュースに載る!』

『そうしてこの子達を取り返すしかなくなったあなた達を、我々がホームで迎え撃ち殲滅する……これが二つ目』

『100%とはいかないでしょうが、大打撃を与えることはできるでしょうね』


『そして3つ目の目くらましですが』

『これが関ちゃん以外の名前を出せない理由です』

『我々は最終的には、人間アイドルの皆を!生きたまま!残さず!食べてしまいます!!』

『私達の胃袋に収まってしまえば、それがどのアイドルだったかまでは分からない……』

『そうして残ったシンデレラたちが行方をくらましてしまえば、誰を追えばいいかすら分からなくなる……』


『最高の夜明けになりますよね!』



284: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:44:49.10 ID:wXlrPCRN0


『さて、前置きはここまでにして―――――』

『とりあえず、あなた方には1時間あげましょう』

『こちらの時計で午後10時になったと同時に、まずは関ちゃん含む4人をいただきます』

『あとは、夜明けちょうどに全員平らげられるようペースを調整して人間アイドルを食べていきます』

『そうならないためにも! 捜査官の皆さんは死ぬ気でかかって来てください!』


『迎え撃つは我が346プロ自慢の一級・準一級プロデューサー、またまた50名以上!』

『少ないと思いますか? いえいえ、その分実力は保証しましょう』

『なにせ一人一人が最低SSレート! すくなくとも特等単体と互角に渡り合える猛者の方々です!』

『でも100人もいないのは確かですからねー……もしかしたら勝てるかも知れま』ズレロオォォ


裕美『ひいっ……やっ……嫌っ……!』ズリュゥ


『……あー、失礼しました。今のは一級Pのひとりが耐えきれず関ちゃんの丸いやつを舐めた音です』

『よりにもよって舐めるのがそこですか……流石に引くわぁ……』


『じゃあ、気を取り直しまして』

『大事な人間アイドルが殺されないように、頑張って戦ってくださいね!』

『では……これより「最終隠匿プロトコル」を開催いたします』


『会場の皆さんが素敵な魔法に包まれますように』ブツッ


――――――――――――――――――――



285: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:45:21.10 ID:wXlrPCRN0


――――――――――――――――――――


丸手「っ好き勝手言いやがって……!!」ビキビキ

望元『……どうする、丸手ボーイ? 私は奴らへの怒りで自慢のヘアスタイルが爆発しそうだ』

丸手「…『死んでもいい優秀なヤツ』で隊を組み、346本社へ先行させてください」

丸手「最大でも死者が隊の2割を切ったら帰還、こっちで相手の戦力と攻略法を割り出します」

望元『分かった。では私が隊長を務めよう、実ボーイとは違って独身だからね』

丸手「頼みます」ブツッ


丸手「……てめえらの思い通りにいくと思うなよ……!?」ギリギリ


――――――――――――――――――――


ちひろ「……ふう」プツッ


ちひろ(――さてさて始まりました『最終隠匿プロトコル』)

ちひろ(――とりあえず、ここまでは予定通りですね)


ちひろ(――一級Pの皆さんは、自分の担当アイドルを守るために喜んで仕事してくれる)

ちひろ(――準一級Pの皆さんについては担当アイドルを、たとえ人間であっても例外として本当に避難させている)

ちひろ(――『準一級Pの担当する人間アイドルは、例外として財産の候補および最終隠匿プロトコルの殺害対象から除外する』)

ちひろ(――個人的には癪だけど、それが準一級Pの正式な権利であり人間に惚れたPの反逆を防ぐための策だから大目に見ましょう)

ちひろ(――その条件を飲む以上、担当外の人間アイドルには我関せずでプロトコルに協力してくれますしね)



286: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:48:18.17 ID:wXlrPCRN0


ちひろ(――そして人間アイドル担当の、二級Pは―――――)



乙倉P「―――出せ! ここから出せえ!!」

ビートシューターP「聞いてないぞこんなの! 話と違うぞ!」

響子P「言ってたじゃないか!『最終隠匿プロトコル』の時は人間アイドルも一緒に逃がすって!!」

GBNSP「さっき裕美のこと舐めやがったクソ野郎出せコラア!! ぶっ殺してやる!! その舌引っこ抜いて口の中串刺しにしてやる出てこいオラア!!」

メロイエP「……」

セクギルP「……」



ちひろ(――彼らは所詮、精々Aレートの弱い喰種から選んだ方達)

ちひろ(――カモフラージュのため探させた人間に情がうつり、惚れこんで全てを捧げる喰種が出るのはいつの世も同じ)

ちひろ(――でも、この世は弱肉強食)

ちひろ(――勝手を振る舞えるのは強者の権利)

ちひろ(――二級Pを捕らえて一か所に放り込むのも、一級Pなら容易くできる)


ちひろ(――彼らがどれだけ人間を愛しても)

ちひろ(――その脆い爪は私達には届かない)



287: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 17:49:51.61 ID:wXlrPCRN0


ちひろ(――すべて計画通り)

ちひろ(――ただ懸念があるとすれば)



ちひろ(――『隻眼の喰種』、高垣楓の乱入)



ちひろ(――彼女には特別遠くへと避難してもらった)

ちひろ(――だけどもし、楓さんがこの中継を見ていたなら)

ちひろ(――楓さんが、気まぐれで人間アイドル達を助けようと思い至ったなら)

ちひろ(――何の対策も無ければ、少なくとも日が変わる前に)

ちひろ(――かつての『隻眼の王』が降臨して、状況はひっくり返される)

ちひろ(――作戦は確実に潰される)


ちひろ(――この状況を予想して、近くで待機していないとも言い切れない)


ちひろ(――彼女に対抗できるのは、私達の側で彼女を封殺できるのはただ一人)


ちひろ(――高垣楓の到着に、『彼』が間に合わなければ全て終わる)



ちひろ「……だから、あまり余裕が無いんです」


ちひろ「はやく『お仕事』を終わらせて帰って来てくださいね……?」



ちひろ「プロデューサーさん」



――――――――――――――――――――



291: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 23:01:18.52 ID:wXlrPCRN0


~同日午後8時57分 TOKYO MIX スタジオ出口~


武内P「―――これで、本日のお仕事は終了です」

P「皆さん、本当にお疲れさまでした」

「「「ッ……」」」

美穂「お、お疲れさまでした! 来年のライブも頑張りましょうね!」

飛鳥「ああ、お疲れ様。初めて蘭子と立った舞台だが……愉しかった」

飛鳥「ライブ本番では何が見れるか、期待してるよ」

夏樹「アタシも今日は全力を出し切った!」

夏樹「……楽しかったぜ、だりー。皆もな」


蘭子「……!!」

蘭子「我が友っ……プロデューサー……飛鳥ちゃん……!」タッ


グイ


李衣菜「…ダメだよ、蘭子ちゃん。もう皆全力でライブして、疲れてるんだから」

李衣菜「あの、プロデューサー! 今日は本当にありがとうございました!」

李衣菜「なつきちも! 今日はすごく楽しかった!」

李衣菜「……」


李衣菜「……またねっ!」


夏樹「!」

夏樹「……ああ。アタシが紹介したバンド、ちゃんと聴いとけよ?」

李衣菜「うんっ!」


アーニャ「……行きましょう、ランコ」

アーニャ「プロデューサー」

P「はい」

アーニャ「やみに、のまれよ!」パッ

P「!」

アーニャ「……ほら、ランコも。挨拶、しましょう」

蘭子「アーニャ、ちゃん……」


蘭子「っ……我が友よ。そして共鳴者よ」

蘭子「我が授かった翼はいずれ進化をとげ、この世界を支配するものとなろう」

蘭子「それまでしばし別れの時ッ!」


蘭子「―――闇に呑まれよ!!」


P「……ええ」

P「私の翼を、あなたに授けます」

P「アナスタシアさんにも。もちろん、多田さんにも島村さんにも、アイドルの皆さんすべてに」


飛鳥「……? 別れの時とは、随分と変な例えをするな」

飛鳥「まあいい。君の翼の進化とやら、楽しみにしているよ」ニヤ



292: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 23:01:47.05 ID:wXlrPCRN0


卯月「プロデューサーさん」

卯月「本当に、本当に……ありがとうございました」

P「こちらこそ」

P「……」


P「とても素敵な、あなただけの笑顔です」

P「どうか忘れないでください」


卯月「はいっ!」


卯月「美穂ちゃんも……またね!」

美穂「うん! またね!」


P「……それでは」

P「私は本社に戻ります。シンデレラプロジェクトの皆さんは、新田さんと城ヶ崎美嘉さんのご指示に従って移動してください」

「「「はいっ!」」」



李衣菜(――私達は"喰種"だってバレちゃいけないから)

李衣菜(――お別れの時に、泣くことは出来なかった)

李衣菜(――これで、プロデューサーとはお別れ。なつきちとも)

李衣菜(――プロデューサーとは、もう二度と会えなくなるかもしれない)


李衣菜(――でも)

李衣菜(――私、頑張りますよ。頑張りますから)

李衣菜(――プロデューサーからもらったもの、346プロでもらったもの、全部持って)

李衣菜(――前に進んでいきますから)

李衣菜(――だから……メソメソしてるなんて、ロックじゃないよね!)


李衣菜「……行こっか。みんなが待ってる」


李衣菜(――また会おうね、なつきち)

李衣菜(――また二人で組んで……)

李衣菜(――どこかにいるかも知れないプロデューサーに、今度は私達の歌を届けるんだ)


――――――――――――――――――――



293: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 23:02:15.14 ID:wXlrPCRN0


――――――――――――――――――――


P「……さようなら」


美穂「え? 何か言いましたか?」

P「いいえ。ただの独り言です」


P(――シンデレラプロジェクトのプロデューサー)

P(――その仕事は、今終わった)

P(――最後に、皆さんの笑顔を見られてよかった)

P(――本当は、全員に登場してほしかった)

P(――……)


P(――せめて)

P(――私の事は恨んでくれていい)

P(――ただ、あの笑顔が……渋谷さんと本田さんの元へと、届いて欲しい)


P(――それだけは、願わせて欲しい)



P(――あとは)

P(――皆さんの命を守るため)


P(――ひとりの"喰種"として、仕事をするだけだ)



294: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 23:04:25.22 ID:wXlrPCRN0


P「小日向さん。二宮さん、木村さん」

P「本日のライブに協力していただいた皆さんに、担当プロデューサーからお伝えしたいことがあるようです」

P「機密事項のため、下の防音設備が整った収録スペースを借りています」

P「皆さんのプロデューサーには、私も連絡事項がありますので……どうかそちらで待機していてください」


飛鳥「? そうなのかい?」

美穂「わ、分かりました」

夏樹「! ……分かった。待ってるぜプロデューサー」


美穂P「?」

飛鳥P(――なんだ? 機密事項?)

夏樹P(――そんなの予定にないぞ。たしかこの後は、4人そろって346に戻るんじゃ……)

美穂P(――このまま何も言わずに別れるつもりだったんだけどな)


P「担当プロデューサーの方々は、こちらに」


――――――――――――――――――――


美穂P「……なあ、シンデレラプロジェクトの担当さん」

美穂P「もしかして俺達に気を遣ってくれたのか?」

夏樹P「! 最後に正体を明かす時間と場所をくれたってことか?」

武内P「……」

夏樹P「だったら余計なお世話だぞ。罪滅ぼしのつもりかもしれないが、別に346を恨んでるわけじゃないしな」

飛鳥P「同感。今まで犠牲になった子達のことは悲しいけど……結局は担当アイドルに関係のないことだ」

美穂P「俺達は別れを言う気も秘密を話す気もないよ。美穂をこっちの事情に巻き込みたくない」

武内P「……」



武内P「余計なものかどうかは」



295: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 23:04:58.39 ID:wXlrPCRN0








「あなたたち『弱者』が決めることではありません」









296: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 23:06:19.60 ID:wXlrPCRN0


~TOKYO MIX 収録スペース~


美穂「言われるままに来ちゃったけど……」

飛鳥「プロデューサーの話って何だろう?」

夏樹「……」


夏樹「……アタシもよくわかんないけどな」

夏樹「ただ、今のうちに思い出しておいた方がいいんじゃないか」

夏樹「プロデューサーと出会って、一緒に歩いてきた道を」


美穂「プロデューサーさんと?」

飛鳥「おいおい……君も何を言うんだ、夏樹さん?」

飛鳥「まあ、初めて出会った時のことは思い出しておくにこしたことはないが……」


ガチャ


飛鳥「おや。噂をすれば」





ギイイイイイイイ


美穂「プロデューサーさん!」

美穂「あの、お話って一体……」

美穂「……え?」


美穂(――少し時間が経って、待っていた防音ルームに入って来た人は)

美穂(――私のプロデューサーさんじゃなくて、卯月ちゃん達のプロデューサーさんでした)


美穂(――そして、何かがおかしいと思いました)


美穂(――心なしか、瞳が濁っているように見えました)

美穂(――まるで深い闇のように)


美穂(――目線を少し下にずらして、ようやく何がおかしいのかに気付きました)


美穂(――真っ黒なスーツに、なにか赤いものが飛び散っていたんです)


美穂(――これは、何?)



297: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/26(火) 23:06:45.42 ID:wXlrPCRN0


P「……本日は、シンデレラプロジェクトの皆さんにご協力いただき」

P「本当にありがとうございました」


P「……そして、申し訳ありません」ギョロ

P「皆さんには、CPの皆さんのために―――――」バキキ





P「今ここで、死んでいただきます」





――――――――――――――――――――



299: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/27(水) 00:14:25.97 ID:MI53UYkP0


――――――――――――――――――――


李衣菜「……ふー」

李衣菜(――終わっちゃったなあ)

李衣菜(――346プロでのアイドル活動も)

李衣菜(――プロデューサーとのアイドル活動も)


李衣菜(――やっぱり、ちょっときついなあ)


≪―――9時になりました≫


李衣菜(――ん)


李衣菜「もう9時か、皆のとこに急がなきゃね」

アーニャ「シトー? リーナ…時間、分かるんですか?」

卯月「時計なんてありませんよね?」キョロキョロ

李衣菜「あ、そっか。これ聞こえるの私だけなんだ」


李衣菜「前に話したでしょ。私は周りより耳がいいみたいでさ」

李衣菜「たぶん、↑の部屋でテレビのアナウンスか何かが聞こえたんだと思う」

李衣菜「……あっ。今、何か中継やってるみたいで―――――」



≪―――えー。マイクテス、マイクテス≫

≪会場にお越しのみなさーん。こーんばーんはー!≫



李衣菜「……えっ?」



300: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/27(水) 00:15:25.20 ID:MI53UYkP0


蘭子「…李衣菜ちゃん?」

李衣菜「い、いや何でもないよ? ちょっとびっくりしただけ」

李衣菜「何か、ちひろさんのアナウンスが聞こえてきてさー」

李衣菜「おっかしいなー。私達が最後の仕事だって聞いてたけど、何やってるんだろね? あはははは」


≪―――ですよねえ!≫


≪―――人間アイドルのみなさん!!≫


李衣菜「は、はは……」


李衣菜「…は?」


李衣菜(――え、なにこれ)

李衣菜(――人質? 口封じ?)

李衣菜(――これって、今の346プロの中継ってこと?)

李衣菜(――『最終隠匿プロトコル』? 何の話をしてるの?)


李衣菜(――人間アイドルを全員……殺す?)


卯月「あの、李衣菜ちゃん? 皆のところに……」


李衣菜「……待ってよ」


李衣菜「なに、やってんの? ちひろさんも、プロデューサー達も」

李衣菜「アイドルみんなで避難するって言ってたじゃん」

李衣菜「なのに、人間アイドルだけ連れ戻したって……」

李衣菜「アイドルのみんなを食べる、って……?」

李衣菜「……!?」



李衣菜(――ニュースの内容がよく分からない私の耳に)

李衣菜(――今度は、別の声が飛び込んできた)

李衣菜(――くぐもった声だった)

李衣菜(――私は、こんな響き方をする音を知ってる)


李衣菜(――みくちゃんや未央ちゃんがレコーディングしてる時)

李衣菜(――外にいた私の耳には、ちょうどこんな風にくぐもった歌声が届くんだ)

李衣菜(――防音設備の整った部屋から、聞こえてくる時の声だ)


李衣菜(――でも、今聞こえてきた声は歌声なんかじゃなかった)

李衣菜(――なにかケガをしたときのような、叫び声だった)


李衣菜(――そして、声にも聞き覚えがあった)





李衣菜(――なつきちの声だった)







309: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/29(金) 19:31:39.23 ID:aBqgUD9y0


~TOKYO MIX 楽屋~


莉嘉「……終わっちゃったねー」

みりあ「終わったねー」

きらり「みんな綺麗だったねえ」

智絵里「……うん」

みく「…これからどうする?」

美嘉「どうするもこうするも、まずは生き抜くだけだよ」

美嘉「大丈夫! 生き方はちゃんとアタシが教えたげるから」

かな子「……きっと、また戻れますよね」

美波「戻れる、はちょっと違うかな。少し時間はかかるかもしれないけど……必ずここに来れるよ」

杏「……ま、生きてりゃ何でも出来るでしょ」


杏「……」



杏(――今は9時か)



310: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/29(金) 19:33:16.48 ID:aBqgUD9y0


≪―――えー。マイクテス、マイクテス≫

≪会場にお越しのみなさーん。こーんばーんはー!≫



杏(――あー。結局、最終隠匿プロトコルは予定通り始まるんだ)

杏(――でも杏たちは皆、今この放送を見る手段がない)


莉嘉「ちゃんと皆、蘭子ちゃん達のライブ見てくれてるのかなー?」

かな子「感想、気になるよね……」

きらり「でもスマホはPちゃんに預けちゃったから、きらり達は見れないにぃ……」


杏(――杏たちのスマホは、プロデューサーに没収された)

杏(――『足がつく可能性があるから処分する』)

杏(――『代わりに出演組に、こっちで用意したスマホを持って行ってもらう』)

杏(――って建前だったかな)


杏(――よく言うよ)


みりあ「蘭子ちゃん達まだかなあ。迎えにいっていい?」

杏「やめときなよ。蘭子ちゃん達、もうスタジオ出てこっち来てるよ」

杏「入れ違いになると思うし、待ってた方がいいんじゃない?」



311: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/29(金) 19:33:46.51 ID:aBqgUD9y0


杏「……それに」

杏「すぐそこを全裸の男がうろうろしてるみたいだよ」


かな子「ええっ!?」

莉嘉「なにそれヤバくない!?」

杏「あははウソウソ」

みく「杏ちゃん! 変な冗談はやめるにゃあ!」

杏「ゴメンゴメン。怪しい人は誰もいないよ」


杏(――いないよね?)

杏(――うん。白鳩も敵対する喰種もいないはず)


杏(――あとは、杏たちの近くの楽屋でスマホ弄ってる子が気になるけど……)



翔太「……」スッスッ


翔太『ねー北斗君。もうキャッスル討伐作戦は始まってるんでしょ?』

翔太『まだ楽屋組殺しに行っちゃダメなの?』

北斗『少し待ってくれ。CPと離れたエンジェルちゃんとそのPが移動してる』

北斗『確保・駆逐・保護は同時だ』

北斗『俺はエンジェルちゃんの保護に向かうから』

北斗『冬馬はCP4人の確保を頼む』


翔太「……」プツッ

翔太(ヒマだなー)ウロウロ



杏(――足音からして、まだ子供。…男?)

杏(――出演者の親戚とかかな)

杏(――白鳩にこんな子供がいるとも思えないし……)





杏(――それより蘭子ちゃん達だよね)

杏(――早く戻って来てよ)

杏(――みんなが真実知りそうでヒヤヒヤす……)



李衣菜≪なのに、人間アイドルだけ連れ戻したって……≫

李衣菜≪アイドルのみんなを食べる、って……?≫



杏(――げっ)



312: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/29(金) 19:37:47.36 ID:aBqgUD9y0


李衣菜≪なつきちっ!≫

アーニャ≪リーナ!?≫

蘭子≪い、何処へ向かう!?≫


杏(――あー)


李衣菜≪なつきちがケガしてる!≫

李衣菜≪よく分からないけど、なつきちが叫んでるのが聞こえた!≫

李衣菜≪下の収録スペースに行ってくるから、みんなは先に戻ってて!≫


杏(――あーあー)


蘭子≪まっ……待って! 私も行く!≫

アーニャ≪私も行きます!≫

卯月≪じゃ、じゃあ私も……!!≫


杏(――あーあーあー!!!)



杏(――あんのバカプロデューサー!)

杏(――焦るのも分かるけどさ! 李衣菜ちゃんの耳の良さ分かってなかったな!?)


みりあ「ねー、迎えに行っちゃダメ?」

杏「ダメ。絶対出ないで」

みりあ「…杏ちゃん? どうしてピリピリしてるの?」

杏「……何でもないよ」


杏(――あーもー……杏知らないからね)

杏(――蘭子ちゃん達が凛ちゃん達みたいに真実を知ろうと、それでショック受けようと杏なにも出来ないからね)

杏(――せめて楽屋の皆には何も知らせないようにしてあげるから)



杏(――そっちはプロデューサーが何とかしなよ)


――――――――――――――――――――



314: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 12:09:02.08 ID:tOgUoRhE0


~収録スペース~


李衣菜「……あ……」


李衣菜(――収録スペースへの分厚い扉を開けると)

李衣菜(――そこにはさっき別れたばっかの4人がいた)

李衣菜(――プロデューサー、なつきち、美穂ちゃん、飛鳥ちゃん)

李衣菜(――なつきちたちのプロデューサーは見当たらない)


李衣菜(――美穂ちゃんと飛鳥ちゃんは、部屋の隅で震えていた)

李衣菜(――追い詰められて、それ以上逃げ場がないって感じだった)


李衣菜(――なつきちは、プロデューサーの目の前で蹲ってた)

李衣菜(――左手を押さえてて……)

李衣菜(――なつきちの足元には血が垂れてる)


李衣菜(――プロデューサーは、赫子を出してた)

李衣菜(――鋭くて分厚い甲赫の刃)

李衣菜(――先っぽには、赤い血が付いてた)



李衣菜(――プロデューサーが、なつきちを殺そうとしてた)



李衣菜「……プロデューサー……」


李衣菜「……な、に……」





李衣菜「―――何やってんですかっ!?」





315: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 12:11:37.35 ID:tOgUoRhE0


蘭子「我が、友?」

卯月「プロデューサーさん……?」

アーニャ「プロデューサー……」


武内P「……!」

P「なぜ皆さんがここに……!?」


P「……」


P「……新田さん達に合流してくださいと、言ったはずですが」

P「どうしてここに?」


李衣菜「聞こえたんですよ、なつきちの叫びが……!」チラ

李衣菜「…防音設備で防いだつもりですか? これくらいの距離なら聞こえるんですよ」


李衣菜「そんなことより、これはどういうことですか!?」

李衣菜「ワケ分かんないですよ、何でプロデューサーがなつきちたちを殺そうとしてるんですか!?」

李衣菜「最終隠匿プロトコルって何ですか」

李衣菜「人間アイドルの皆を集めて、殺そうとしてるって……」


李衣菜「全部説明してくださいっ!!」


蘭子「……!?」

蘭子「人間アイドルの、みんなを?」


P「……」


P「皆さんの命を守る為です」

P「どうか、このまま新田さん達のところへ戻ってください」

P「皆さんはもう、逃亡する身である自覚を持ってください」


P「……いえ、多田さんは勘違いをしています」

P「私は木村さん達を殺すつもりはありません」



316: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 12:12:44.21 ID:tOgUoRhE0


李衣菜「いやですっ!!」

李衣菜「そんな見え見えの嘘までついて……殺す気がないなんて、信じられるわけないじゃないですか!!」

李衣菜「なつきちから離れてくださいっ!」

李衣菜「離れないなら、力づくでも引きはがします……!」ジリ


蘭子「っ……!」ジリ

蘭子「…プロデューサー。飛鳥ちゃんから離れてください」

アーニャ「……」ジリ


卯月「プロデューサー、さん……」



P「……そうですか」

P「……申し訳、ありません」グッ




李衣菜(――そこからのプロデューサーの動きは、まるで見えなかった)

李衣菜(――足に力を込めたかと思うと、いつの間にか私の真横に立っていて)

李衣菜(――目で追う前に、右目に焼けるような痛みが襲った)


李衣菜(――そしたら力が抜けて、立っていられなくなって)

李衣菜(――やっと後ろを向けたと思ったら)

李衣菜(――卯月ちゃん、アーニャちゃん、蘭子ちゃんまでもが、同じように倒れこむのが見えた)


李衣菜(――あとはプロデューサーの両手に、合計4本)

李衣菜(――空っぽの注射キットが握られているのが見えた)


李衣菜(――どう動くことも出来なかった)



P「……Rc抑制剤です。"喰種"に打てば、赫子だけでなく身体能力をも抑えられます」

P「これでもう、皆さんは私を止めることが出来なくなりました」


P「……申し訳ありません。皆さんには、まだ夢から覚めないでいて欲しかった」



317: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 12:14:10.45 ID:tOgUoRhE0


P「すぐに終わります」

P「すべてが終われば、皆さんを楽屋へとお連れします」

P「せめて、目を瞑っていただけませんか」



李衣菜(――身体が動かない)

李衣菜(――プロデューサーが、なつきち達に歩み寄っていく)

李衣菜(――立てない)

李衣菜(――甲赫を振り上げて、なつきちを叩き切ろうとしてる)

李衣菜(――息もまともに出来ない、苦しい)

李衣菜(――なんで。どうして?)

李衣菜(――プロデューサーは、人間と喰種を繋ぐために)

李衣菜(――こんな仕事を持ってきてくれたのに)

李衣菜(――ずっと、応援してくれたはずなのに)

李衣菜(――なのに、人間みんなを殺すって)

李衣菜(――私の大事な人まで)

李衣菜(――なんで)



李衣菜(――全部、嘘だったの?)



318: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 12:16:17.52 ID:tOgUoRhE0


(――やめて)


(――お願いやめて)


(――殺さないで)


(――立ってよ)


(――お願い動いてよ)


(――このままじゃ殺される)


(――やだ)


(――やだ)


(――そんなのやだ)



(――大切な人なの)



(――お願い)





(――飛鳥ちゃんを殺さないで)





李衣菜(――その瞬間だった)


李衣菜(――何かが、プロデューサーを横から殴りつけた)


李衣菜(――プロデューサーは咄嗟にガードして、それでも壁に叩きつけられ)


李衣菜(――壁を破って、隣の部屋に落ちていった)


李衣菜(――『それ』は、大きな赤い翼に見えた)




李衣菜(――すぐに羽赫だと分かった)


李衣菜(――だれの?)



319: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 12:17:22.92 ID:tOgUoRhE0


P「かっ……!?」


P(――赫子?)

P(――誰か、また来てしまったのか?)

P(――違う。神崎さん達以外はここの事に気付いていない)

P(――じゃあ、誰が……)


P「……?」


P(――今破った壁を乗り越えて、誰かがこちらに歩いてくる)

P(――いったい……)


P「―――――!!」


P(――そうか)

P(――Rc抑制剤は、確かに全員に打った)

P(――だが、『彼女』には効かなかったんだ)

P(――彼女があまりにも強い赫子を持つから)



P「……神崎さん……!!」



P(――神崎さんが、『隻眼の喰種』だから)



蘭子「……プロデューサー」


蘭子「もう一度伝えるわ」ビキ



蘭子「飛鳥ちゃんから離れてください」



――――――――――――――――――――



320: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 12:25:56.32 ID:tOgUoRhE0


~収録スペース付近~


北斗「……」

北斗「」スッスッスッ


北斗『冬馬。今どこにいる?』


北斗『冬馬?』


冬馬『悪い。LINEを開くのが遅れた』

冬馬『もう観客席から退場して、今玄関にいる』

北斗『分かった。エンジェルちゃん達とCP出演組は今一緒に行動してる』

北斗『俺達も合流しよう。一階の収録スペースだ』

冬馬『了解。すぐ行く』

北斗『急いでくれ、ちょっと余裕がない』

冬馬『どういうことだ?』



北斗『CPのプロデューサーが、思ったよりずっと強そうだ』

北斗『今は仲間割れが起きてるらしく時間がありそうだが、いつまでもつか分からない』

北斗『冬馬が間に合わなかった場合、俺一人でエンジェルちゃん達の救助に向かう必要がある』


北斗『俺は死ぬかもしれない。死んだらごめんよ』


――――――――――――――――――――



322: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 19:59:25.67 ID:tOgUoRhE0


――――――――――――――――――――


飛鳥(――神崎蘭子)

飛鳥(――自身を『魔王』と称し、ゴシックに身を包む少女)

飛鳥(――ボクと同じ、セカイを切り取る者)


飛鳥(――しかし、共に食事や遊戯を重ねるうちに)

飛鳥(――これはただの人懐こい少女だと気付くようになった)

飛鳥(――言葉を組み換えて空気を飾る)

飛鳥(――よく言えばデザイナー、悪く言えば臆病者)


飛鳥(――表層こそ異質だが、その根は至極単純な存在)


飛鳥(――それが神崎蘭子だと思っていた)


飛鳥(――彼女が"喰種"かもしれないとは、考えたこともなかった)

飛鳥(――ボクだって"喰種"について全くのド素人というわけじゃない)

飛鳥(――かつてはそのヒトと異なる存在に興味を持って、ボクなりに調べたこともあるんだ)

飛鳥(――だから、"喰種"はヒトやコーヒー以外の食物を拒絶することぐらい識っている)


飛鳥(――奏さん達が"喰種"として指名手配された時、ボクは)

飛鳥(――『ああ、確かに』と思った)

飛鳥(――あのような『孤高』の字が似合う人のそれこそ、"喰種"が持つ特徴なのだろう……と)

飛鳥(――呪いを持って生まれた存在を、ボクはただ憐れんだ)


飛鳥(――一方、ハンバーグやプリンを蕩けた笑顔で頬張る彼女の姿は"喰種"の姿と一致するはずもなく)

飛鳥(――それが演技とも思えず、ボクは当然、喰種容疑者から彼女の名前に×を引いた)


飛鳥(――蘭子は悲劇とも、血の匂いとも無縁の、ただの等身大の14歳と思って付き合っていた)



323: ◆AyvLkOoV8s 2017/09/30(土) 19:59:56.33 ID:tOgUoRhE0


飛鳥(――だから)

飛鳥(――だから、ボクは目の前の光景を信じることが出来なかった)


飛鳥(――神崎蘭子の衣装は首筋にヒビが生じ、赫い翼が噴出していた)

飛鳥(――ボクから見えた左目は、ただの赤い瞳だったから、あれは"喰種"とはまた別の存在なのかと思った)

飛鳥(――だが蘭子がボクに振り向いた時、それは違うと直ぐに分かった)


飛鳥(――黒い眼球)

飛鳥(――赤ではなく、赫い瞳孔)

飛鳥(――無機質な恐怖がにじみ出るような右目と)

飛鳥(――ヒトとして光を反射する優しい左目の両方で)

飛鳥(――蘭子はボクを、ボク達を見つめていた)



蘭子「……飛鳥ちゃん」

蘭子「今まで隠してて、ごめんね」


蘭子「飛鳥ちゃんは、皆の事は殺させないから」


飛鳥(――微かに震える声で、彼女はそう言った)


飛鳥(――そして壁に空けた穴に手をかけ、乗り越えようとする姿は)



飛鳥(――このまま蘭子が、どこか別の場所に消えていくように見えた)


飛鳥(――ボクはただ、蘭子の言葉に返事も出来ず)


飛鳥(――黙って見つめることしかできなかった)



――――――――――――――――――――



326: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:34:44.25 ID:McMGTohp0


――――――――――――――――――――


美嘉「……なんか、音しなかった?」

美波「うん……遠くで何かぶつかった音……かな?」


杏「スタッフさんがケンカしてるみたいだよ」

杏「うわー激しい殴り合いだー」


みく「ええ……?」


杏「聞いてる限り、大したことじゃないよ。待っとこうよ」



杏(――蘭子ちゃん、派手にやるなあ……)

杏(――ちょっと皆も怪しみだしてるじゃんか)


杏「……」


杏(――もう話しちゃおうか?)

杏(――どのみち報道されてるなら、遅かれ早かれ皆真実を知る)

杏(――知ったころには問い詰める相手が死んでるってだけだ)

杏(――それに蘭子ちゃんが戦ってくれるなら、みんなで加勢すればあるいは……)



杏(――いや、ダメだ)

杏(――蘭子ちゃんでもプロデューサーには勝てない)


杏(――プロデューサーはただの"喰種"だ)

杏(――ただの喰種なのに、隻眼の王って呼ばれてる)


杏(――それはプロデューサーが、『元』隻眼の王を)

杏(――高垣楓を倒してスカウトした、ただ一人の喰種だから)


杏(――そんなプロデューサーと蘭子ちゃんとじゃ、実力が違いすぎる)


杏(――蘭子ちゃんは勝てない)


――――――――――――――――――――



327: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:35:23.15 ID:McMGTohp0


――――――――――――――――――――


P「……神崎さん」


P(――引き離されてしまった)

P(――今は私と小日向さん達の間に、神崎さんが立ち塞がっている)

P(――彼女達を殺すには、神崎さんをどかさなければいけない)


P「それは、できません」

P「離れるのは貴女です」


P(――難しく考えることはない)

P(――ただ近付いて、押しのければいい)

P(――戦う必要など、何処にも―――――)


蘭子「ッ!!」ビキキ


ゴッ


P「ッ!?」ズサ


P(――近づけない)

P(――今のは、神崎さんの羽赫だ)


P(――なんだあの量は)

P(――まるで大河のようだ)

P(――一度にあれだけの赫子を放出して、私を近づけさせない)



328: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:35:53.90 ID:McMGTohp0


P(――羽赫の弱点は長期戦)

P(――歩を止めず、神崎さんに赫子を出させ続ければ、あるいは―――――)

P(――いや)


P(――時間がないのは私も同じ)

P(――時間をかければ、多田さん達が抑制剤から回復する)

P(――異変に気付いて、新田さん達が合流するかもしれない)

P(――そうなれば、皆はきっと小日向さん達を逃がしてしまう)


P(――そして、また―――――!!)



P「……神崎さん」

P「お願いします。そこをどいてください」

P「私の最後の仕事を、妨害しないでください」


P「あなた達のためです。……きっと小日向さん達は、いずれ恐怖に負けてあなた達を売ってしまう」

P「もしくは、人間にとって重罪の圧に負けて」

P「そうなる前に、手を打たないといけないのです」


蘭子「そんなわけない!」

蘭子「飛鳥ちゃんも美穂ちゃんも夏樹さんも、大事な友達だもん!」

蘭子「私達のことを売るわけない!!」


P「……」


P「……最終警告です」

P「そこをどいてください」


P「さもなくば、私は神崎さんを傷つけてでも無力化しなくてはいけない」


蘭子「どかない!!」


P「……」



P「わかりました」




329: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:36:34.06 ID:McMGTohp0


――――――――――――――――――――


李衣菜「……!」


李衣菜(――私はただ、聞こえてくる音で2人の様子を掴んでいた)

李衣菜(――蘭子ちゃんが、プロデューサーの『最終警告』を断った瞬間)

李衣菜(――プロデューサーの雰囲気が、変わった気がした)


李衣菜(――ビキビキバキバキと音が聞こえてくる)

李衣菜(――この音を知ってる。赫子……甲赫を出す時の音だ)

李衣菜(――でも、なにかおかしいと思った)

李衣菜(――音が長いんだ。あまりにも長い時間、甲赫を変化させる音が聞こえてくる)


李衣菜(――そして)

李衣菜(――何かを切る音が聞こえた)

李衣菜(――何かを二本、たぶん肉と骨。切り離されて飛んで行った)


李衣菜(――すぐ後に、何か重いものがドサリと落ちる音が聞こえた)



李衣菜(――蘭子ちゃんの両足が切り飛ばされた音だと気付くのには、しばらく時間がかかった)




330: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:37:52.76 ID:McMGTohp0


――――――――――――――――――――


杏(――遂にやったか)

杏(――ああもう、蘭子ちゃんパニックになってんじゃん)

杏(――プロデューサーはプロデューサーで、精神的にダメージ受けてるの丸わかりだし)


杏(――蘭子ちゃん)

杏(――こっからじゃ何も言えないけど、大人しく引いた方がいい)

杏(――つーか普通は戦えなくなる。お願いだから戦えなくなって)

杏(――もしかしたらとは思うけど、そこから再生できるようなら)

杏(――蘭子ちゃんは更に地獄を見ることになるよ)


杏(――だって)


杏(――プロデューサーは)



杏(――『赫者』だ)


――――――――――――――――――――



331: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:38:45.23 ID:McMGTohp0


――――――――――――――――――――


蘭子「えっ? あっ、え……」

蘭子「あし、私の、あし……どこ……」

蘭子「……あ……」


蘭子「あ、あ、ああ、……あああああああああああ!!!」



P「『甲赫』で『羽赫』の喰種を貫けば、再生が効かなくなります」

P「個人差こそありますが、食事なしで足は再生しないでしょう」

P「……申し訳ありません。仕事が終わればすぐに、回復を……」グジュリ


P「…!?」


蘭子「あっ……あっ、あっ……!」ジュグ

蘭子「うあっ、痛、つ、うああああ」ズズズ

蘭子「はっ、はあっ、はあ……ふー、ふー、ふー……」ズル



P(――なんだと?)


P(――何もなかったかのように、神崎さんの足が再生した)



332: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:40:02.15 ID:McMGTohp0


P「神崎さん」

P「お願いです、もう止まってください」

P「立ち向かわないでください」

P「また、貴女を傷つけなければいけなくなります」

P「もうやめてください」


蘭子「ああ、あ……!」

蘭子「……い」

蘭子「いや、だ……」


蘭子「飛鳥ちゃんは、わたしがまもるんだ」

蘭子「ともだち、なんだもん」

蘭子「みすてるなんて、できないもん」

蘭子「だから……あ、ああああ、あああああああ」



蘭子「―――ああああぁぁああああぁぁああ!!!」ビキキキキ



P「―――――ッッッ!!!」


P(――なんだ、この赫子の『量』は!?)

P(――こんなの、普通じゃない)

P(――神崎さんが、『隻眼』だから……ば……)


P(――今なにを考えた!?)

P(――違う、違う違う違う!!)

P(――神崎さんを化け物扱いするな!!)

P(――何も変わらないと言ったはずだ!)

P(――神崎さんも、私の大切なアイドルには変わらないと!)

P(――島村さんや、アナスタシアさん達となにも変わらない筈だと理解したはずだ!!)



333: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:40:51.58 ID:McMGTohp0


P(――それで、どうする?)

P(――また、足を切り落とすのか?)

P(――それで神崎さんが止まるのか?)

P(――そんなはずがない)

P(――なら、どうしろと?)

P(――刻み続けろとでも言うのか?)


P(――やるしかない)


P(――何度も何度も切り続けろというのか!?)

P(――守ると決めた相手を?)

P(――見ただろう、あの苦しむ姿を)

P(――何があっても守ると決めた筈のアイドルが、目の前で足を失い痛みに泣く姿を!!)

P(――あれをやり続けろと言うのか!?)


P(――だがやるしかない)

P(――何をしてでも、アイドルの命を守ると決めた)

P(――どんな犠牲を払ったとしても、生きてさえいれば、笑顔を取り戻せると知った筈だ)

P(――あの三人みたいな目に、神崎さん達を遭わせたいのか?)


P(――嫌だ)

P(――絶対に嫌だ)

P(――もう、死んでほしくない)


P(――もういなくならないでほしい)


P(――なら、やるしかない)

P(――大切な命のために、手を汚し続けろ)


P(――傷つけろ。踏みにじれ)


P(――神崎蘭子の心が折れるまで、あるいは再生力が尽きるまで)


P(――彼女を切り刻み続けろ)


――――――――――――――――――――



334: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:41:43.87 ID:McMGTohp0


――――――――――――――――――――



『彼はとても可哀想な男だ』


『最初から彼は、アイドルの幸せを一番に願って行動し続けた』

『はじめに担当したアイドルに対しても、それは変わらない』

『だが、彼や彼の大切な人が生きるには……世界は残酷過ぎた』

『強者が弱者を喰らう世界で、彼の大切な子達はいとも容易く命を消し飛ばされた』


『彼は力を求めた』

『力を求めて、人も喰種も関係なく、他者を喰らい、他者から奪い続けた』

『今度こそ自分の大切な人たちを奪われないように』


『346プロのプロデューサーは、皆そうだ』

『彼らが見つけたシンデレラを、その輝きを、その幸せを一番に想い……そして、守るには奪うしかないと気付いてしまう』

『そしてみんな狂っていく』


『自分が一番に想っていたはずの命の重さを、忘れてしまう』


『……どうすれば良かったんだろうね』


――――――――――――――――――――



335: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:42:43.39 ID:McMGTohp0


――――――――――――――――――――


P(――正面から神崎さんが来る)

P(――右腕と右足を切り飛ばして、蹴飛ばす)

P(――すぐに再生し、また私に飛びかかる)

P(――今度はタイミングを合わせ、達磨にした)

P(――首を掴んで、地面に叩きつける)

P(――手足が生える前に、赫包を狙う)

P(――一つは残さなければいけない。数を正確に把握する)

P(――赫子の噴出口は、赫包は4つ。なら3つ抉り出せばい)

P(――羽赫の一斉掃射を受けた。距離を取られてしまった)

P(――もう肘、膝のところまで再生している)

P(――もう一度だ。もう一度くりかえせ)

P(――両腕を切り飛ばす)

P(――切り飛ばしたと同時に、また羽赫を受ける)

P(――量が衰える気配はない)

P(――それどころか、甲赫の鎧を剥がされかけた)

P(――神崎さんはボロボロと涙をこぼしている)

P(――口を引き結んで、私をまっすぐににらみつけ、痛みに耐えて私と戦っている)

P(――意識が飛びそうなのを必死に堪えて、私の前に立ち塞がり続ける)

P(――そんな顔をしてまで戦わないでくれ)


P(――なにが貴女をそこまで駆り立てる)

P(――そんなに傷ついてまで、なぜ二宮さんに執着する)

P(――自分を大切にしてくれ)

P(――もう嫌だ貴女と戦うのは苦しいんだ)

P(――なぜ守りたかった人を痛めつけ続けなければいけないんだ)


P(――はやく折れてくれ)

P(――頼むから)


P(――誰かのために苦しむのはやめてくれ)



336: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:44:27.95 ID:McMGTohp0








ドスリ









337: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:45:08.70 ID:McMGTohp0


P(――?)

P(――神崎さんじゃない)

P(――神崎さんは前にいる。今の攻撃は後ろからだ)


P(――誰だ?)


「……はは……」


「……気持ちは分かるが……」


「……あんた、焦りすぎだ」


「……とどめを刺すのを忘れてたぜ……」



P(――あなたは)

P(――いや、それどころじゃない)

P(――踏み潰してでもこいつを退かせ)グッ


ゴギッ


「かっ……!」



338: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/01(日) 18:54:34.82 ID:McMGTohp0


(――ああ。やっぱり、俺の力じゃ、一級Pには叶わないか)

(――その中でも、『隻眼の王』だもんなあ)

(――俺に出来たのは、ほんの数秒、気を逸らすくらい……)


(――でも、それで十分だ)



(――すごいな、あの神崎蘭子って子)

(――赫子の相性をひっくり返して、あの隻眼の王の鎧を剥いだ)

(――大量の羽赫に晒されて、中身も一撃でボロボロだ)

(――あっちは無傷。…いや、再生したのか)

(――どっちにしても化け物だ)

(――一分も持たずに死ぬだろう俺とは大違いだ)



(――『あの子』は……)

(――そうか。壁の向こうか)

(――ここからじゃ見えない。もう這いずって顔を見に行く力も残ってない)

(――ただ音を聞けば、無事だってことだけは分かる)


(――なあ、シンデレラプロジェクトのプロデューサーさん)

(――あんたには同情する。あんただって、アイドルを守りたかっただけなのは分かる)

(――気付いてたかな。あんたの表情が、蘭子ちゃんとそっくりだったこと)


(――でも、俺だってそうだ)

(――俺にとっても、あの子は俺が見つけたシンデレラだ)


(――初めは、仕事として『財産』のために適当にスカウトしてきたのは確かだ)

(――こんな所に連れてきてから、大切な人になってしまった)

(――悔やんでも遅かった。俺には力が無くて、あの子を逃がすことが出来なかった)

(――ただ逃げ切れることだけを祈り続けた)

(――力のない自分が悔しかった)



(――人間も喰種も関係ない)

(――プロデューサーなら、誰だって同じだ)

(――飛鳥Pや夏樹Pも同じだ。だから、俺に託して肉をくれた)


(――俺だって)



美穂P(――俺だって、美穂に幸せになって、生きて欲しいのは同じなんだ)


美穂P(――守れて、よかった)



美穂P(――――――――――)



――――――――――――――――――――



343: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/02(月) 21:07:13.25 ID:GZXcOG7g0


――――――――――――――――――――


~346プロ本社前 車内司令室~


丸手「……―――……」ブツブツ

丸手「被害は―――抜け道は―――戦力は―――――…」ブツブツブツ


丸手「…クソッ」


丸手(――完全にマウント取られた)

丸手(――相手は最低SSレートの集団、戦場もあっちのホームだ。守備が盤石すぎる)

丸手(――現在9時30分、人質の最初の殺害まであと30分……)

丸手(――だが、奴らが律義に時間を守る筈もねえ)


丸手(――アイドルの犠牲者をひとりも出さず作戦遂行は不可能だ)

丸手(――畜生)


PRRRRRRR


丸手「……なんだ?」


丸手「もしもし……何だお前か」


丸手「何の用だ、崇男?」


――――――――――――――――――――



344: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/02(月) 21:08:55.37 ID:GZXcOG7g0


――――――――――――――――――――


武内P「……」


P(――ここは……)

P(――ああ、そうか)

P(――私は、神崎さんに赫子を剥がされて……)


P(――私は、収録スペースの床に寝そべっている)

P(――人間アイドルの方達が、私を取り囲んでいる)


P(――小日向さんは、担当プロデューサーの亡骸を抱えて涙を流している)

P(――私が殺した)

P(――二宮さんは、少し離れた壁に寄りかかりこちらを睨んでいる)

P(――殺されかけたのだから当然だ)

P(――木村さんは、右手だけで器用に左手を止血している)

P(――左手の指が動いていない。抵抗された時に私が斬った影響だろう)

P(――3人とも、つい先ほどまで私が殺そうとしていた)

P(――今は出来そうにない)

P(――身を起こす体力も、まだ回復していない)


P(――多田さんは、木村さんから離れて蹲っている)

P(――島村さんは……)



P(――そこで初めて、自分の頭が何かに乗せられていることに気が付いた)

P(――気付いた直後に、顔に水滴が滴り落ちたのを感じ取った)

P(――意識を真上に向けると)


P(――島村さんが、私に膝枕をしていて)



P(――そして私の顔を覗き込みながら、涙を流していた)



345: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/02(月) 21:11:15.23 ID:GZXcOG7g0


P「…島村さん? なぜ、泣いて……」


飛鳥「なんで泣いてるか、だって? よくものうのうと言えたものだな」

飛鳥「ボク達のプロデューサーを殺しておいて」

飛鳥「…今まで散々、ボク達人間を虐げておいて」


P「! なぜそれを……」


夏樹「…全部、親切なヒトが教えてくれたんだよ」

夏樹「財産の事も、キャッスルの事も、最終隠匿プロトコル…だっけ? の事も」

夏樹「アンタら……裏でとんでもなく悪いことしてたらしいな」


夏樹「安心しなよ、楽屋で待ってる子達は多分まだ知らない」

夏樹「チクるつもりもない。そんなのアタシらが決めていいことじゃない」


夏樹「その代わり、だりーと卯月はアンタがなんとかしろ」

夏樹「さっきからずっと、自分のことばっか責めて泣いてるんだよ」


P「自分を……せめて……?」



346: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/02(月) 21:13:55.66 ID:GZXcOG7g0


夏樹「…頼むから、なんとかしてくれよ」

夏樹「アタシらじゃ何言っていいか分かんねえよ……」



卯月「グスッ……ヒグッ……」

P「島村さん……どうして、ご自分を責めるのですか」

P「島村さんは、何も悪い事をしていないのに」


卯月「……だって……だって……!!」

卯月「私がアイドルになりたいなんて言ったから……」

卯月「プロデューサーさんは、そのためにっ、たくさんの人を殺したんですよね……?」

卯月「私のせいで……みんなが死んだのも、全部私のわがままが原因で……!!」


P「!!!」

P「…ち、違います。どうして島村さんが悪いと言えるのですか」

P「島村さんは、ただ当たり前の願いを持っただけです。罪は全部、それを奪わせないために手を尽くした私のものです…!」

P「私は、皆さんが心の底から安心してアイドルを続けてもらうために……!!」



卯月「―――――友達を殺してまでアイドルなんてやりたくないっ!!!」



P「……え」



347: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/02(月) 21:14:56.98 ID:GZXcOG7g0


卯月「私がアイドルやりたいなんて言わなかったら、プロデューサーさんに拾ってもらえなかったらっ……」

卯月「まだっ、死んだ誰かは、死んだアイドルの人は、まだ生きていられたんですよね……!?」

卯月「それなのに、私がアイドルやってることでっ……」

卯月「なにもわるくないのにっ、プロデューサーさんや、周りの喰種の人にっ、アイドルが殺されて……ひどいことされて……」

卯月「プロデューサーさんにっ、たくさん人殺しさせてしまって……」


卯月「どうやって、償ったらいいんですか……?」


卯月「もう、私のせいで死んだ人は帰ってこないのに……」


P「……あ……」


李衣菜「……プロデューサー」

李衣菜「私、喰種に生まれたからって大人しくしてるのが嫌で」

李衣菜「せっかく生まれたんだから、ロックなアイドルになりたいって、好きなものになりたいって」

李衣菜「そう思って、アイドルになったのに」

李衣菜「なのに、何も考えないでみくちゃんとケンカして、みんなと仲良くなって」

李衣菜「少しは、お客さんとか、仲間の皆に何かあげられたかなって思ったのに」


李衣菜「私がアイドルやるために、何人も死んだんですよ」

李衣菜「なつきち達の、大切な人まで」

李衣菜「もう少しで、私がアイドルやってることでなつきちまで死んじゃうところだったんですよ」


李衣菜「何が『笑顔の橋』ですか」


李衣菜「こんなことになるなら、アイドルなんてやらなきゃよかった……!!」



348: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/02(月) 21:16:07.34 ID:GZXcOG7g0


P「……そんな」

P「…わ、私は、ただ」

P「皆さんに、違う世界を見て欲しくて」

P「それで、これからも、生きてさえいてくれば」

P「また、笑顔を取り戻してくれると……」


P(――あれ)

P(――その結果、私は何をした?)

P(――『笑顔の橋』などと言っておきながら、アイドルの皆さんの、大切な人を殺そうとした)


P(――そして、多田さんを苦しめて)


P(――島村さんを泣かせた)


P(――笑顔でいてほしかった、だけなのに)



P(――挙句、そのために神崎さんにまで苦痛を与えて―――――)


P「……あ」


P「……神崎、さんは?」

P「それに、アナスタシアさんは……」


飛鳥「出ていったよ」

飛鳥「アーニャは、蘭子にしがみついて無理やり付いて行った」


飛鳥「……『私がやらなきゃ』って言いながら」

飛鳥「ボクから逃げるように出ていった」

飛鳥「自分を化け物扱いして、泣きそうな顔でいなくなった」


飛鳥「ボクは声をかける事すらできなかった」



飛鳥「蘭子は……」



349: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/02(月) 21:17:38.78 ID:GZXcOG7g0






「346プロへ人間のみんなを助けに行った」





「まるで罪滅ぼしをしに行くようだった」







飛鳥「……止められなかった、蘭子に何も言ってやれなかったボクの気持ちが分かるか?」



――――――――――――――――――――



353: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:26:24.01 ID:fRPw4LRD0


~346プロ本社 内部~


ちひろ(――現在、9時45分)

ちひろ(――人間アイドルの最初の殺害まであと15分……)


ちひろ(――プロデューサーさんはまだ戻ってこない)

ちいろ(――楓さん、来るなら今のうちに来て欲しいんだけどなあ)


藍子P「……ちひろさん」

藍子P「何か白鳩のやつら…捜査官の一部が移動してますが」

藍子P「……特等捜査官も、何人か移動しています」

ちひろ「えっ? ……本当ですね。ここを放棄して何処にいくつもりで……」


ちひろ(――もしかして『あっち』に?)

ちひろ(――人質を諦めてまで、実利を取りにいきましたか?)


ちひろ(――あくまで念のための『保険』とはいえ)

ちひろ(――智絵里ちゃん達に手を出されるのは気持ちのいいものではありませんね)

ちひろ(――プロデューサーさんはまだ向こうに残っているはず)

ちひろ(――それなら皆の護衛を任せられるし、そもそも予定ではアイドルの皆ももう移動している筈だし)

ちひろ(――よほどのことが無ければ、シンデレラプロジェクトの皆が死ぬことはないはず……)


ちひろ(――ごめんなさい、プロデューサーさん)

ちひろ(――貴方には説明しなかったけど……智絵里ちゃんが"喰種"って、白鳩にはとっくにバレてるんです)



ちひろ「白鳩がTOKYO MIX スタジオを狙いにいく危険性があります」

ちひろ「人質の殺害予定を早めて警告を入れましょう」


ちひろ「……それで向こうが留まらないようなら、智絵里ちゃん達に殿を押し付けた意味があったというだけです」



354: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:28:42.75 ID:fRPw4LRD0


ちひろ「関ちゃんをここに」


藍子P「はい」グイッ

裕美「うっ……」


ちひろ「残念でしたね、裕美ちゃん」

ちひろ「捜査官達があなたを見捨てなければ、あと15分は生きていられたのに」

裕美「えっ……え?」

ちひろ「ご安心を」


ちひろ「出来るだけ醜い跡をつけて殺してあげますから」グッ

裕美「……え」


裕美「やだ」

裕美「た たすけて」



ちひろ(――これで後戻りはできなくなる)

ちひろ(――『あの人』が来ても、言い訳が効かなくなる……)

ちひろ(――プロデューサーさんが戻ってきていない今、かなり危ない橋を渡ろうとしている……)

ちひろ「……」


ちひろ(――来ませんよね?)

ちひろ(――裕美ちゃんを殺した直後に来るとかナシですよ?)

ちひろ(――来るなら今のうちですよ?)

ちひろ(――ここまで待ったんですから、もう殺しても来ませんよね?)グググ



夕美P「! 来ました! ビルの上を跳ねて異動しています!」

夕美P「ちひろさん! 羽赫の喰種がこっちに向かってきてます!」



ちひろ「―――――あっぶなああ!!!!」パッ


裕美「ッ!? かはっ、はあっ……!」


ちひろ「ほんっとにギリギリに来ますねあの人は!」

ちひろ「もう少しで怒りを買うところだったじゃないですか! 助けるつもりならもっと早く来てください!」

ちひろ「美優Pさん、迎えに行ってあげて!」



ちひろ「―――人質の解放を条件に、楓さんを説得して白鳩を殲滅してもらいます!!」



355: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:31:20.22 ID:fRPw4LRD0


ちひろ「藍子Pさんは裕美ちゃんを皆の部屋に戻して! 念のためまだ拘束は解かないでくださいね!?」

ちひろ「ああもう殺されなくて良かったですね裕美ちゃんは! 死ねば良いのに!」


藍子P「ほら、立ちなさい。君も俺達も運が良かった」グイッ


裕美「…え、あ…」

裕美「……たす、かった……?」


――――――――――――――――――――


ちひろ「…もう、本当に心臓に悪い……」


ちひろ(――最初の人質を殺さず、時間を置いたのにはちゃんと理由がある)

ちひろ(――それは『隻眼の喰種』の楓さんが救助に来た時、取り返しがつくようにしたから)


ちひろ(――もし楓さんが人間アイドルを助けに来て、数人でも私達がアイドルを殺していたなら)

ちひろ(――間違いなく、私達は彼女の怒りを買って容赦ない殲滅を喰らったでしょう)

ちひろ(――そうなれば完全に詰み)

ちひろ(――実際、プロデューサーさんはまだ到着していなかった)


ちひろ(――でも、プロデューサーさんの遅れを考慮して一時間待ち)

ちひろ(――それで誰も殺していないうちに楓さんが間に合ったのなら)

ちひろ(――交渉と説得で、楓さんを白鳩と戦う味方にできる望みがある)

ちひろ(――先ほど放送で言った通り、白鳩の殲滅だって目的の一つ)

ちひろ(――『アイドルを守るため』なら、協力してくれる可能性がある)


ちひろ(――人間アイドルを全員解放することが協力の最低条件になるだろうから、目くらましと口封じは出来なくなるけど)

ちひろ(――楓さんなら……救助のために集まってくれた白鳩の大隊を容易く蹴散らせる)


ちひろ(――解放した人間アイドルだって……確実性は下がるけど、あとから殺しに行くことだってできる。職員が無事なのだから)

ちひろ(――手間がかかるから、出来れば来てほしくなかったんですけどね)


ちひろ(――ああでも、CPの皆のところに白鳩を行かせずに済むからある意味良かったのかも)

ちひろ(――でもすごく複雑な気分)


ちひろ「……あーもー。こんだけ悩むことになるから嫌なんですよ」

ちひろ「楓さんと言い日高特等といいかつてのリトルバードといい、規格外の存在……」


ちひろ「『化け物』って言うのは」



356: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:32:31.62 ID:fRPw4LRD0


捜査官「なんだ……?」

捜査官「何か飛んできたぞ」

捜査官「――!! 羽赫の喰種!?」

捜査官「奴等の増援か!?」


ザザッ

美優P『楓さんが到着したようです』

美優P『暴れられる前に、中に入れて事情を説明します』


ちひろ「ええ。よろしくお願いします」

ちひろ(――はあ。ちゃんと交渉に乗ってくれればいいけど)


美優P『楓さん。まずは中にどうぞ』

美優P『お話したい事があって―――――』


美優P『……ん?』

美優P『……あれ?』



美優P『楓さん、なんでそんなに身長が縮んでるんですか?』



美優P『……いや違う。どう見ても楓さんじゃない。だれだ、おま―――――』



美優P『ぐあああああああああっ!!!』ブツッ





357: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:34:36.81 ID:fRPw4LRD0


ちひろ「!!!?」ガタッ


ちひろ「玄関近くを担当してるプロデューサーさんに緊急の連絡です!」

ちひろ「謎の羽赫喰種を相手に美優Pさんの通信が途切れました!」

ちひろ「羽赫喰種の素性確認をお願いします!!」


ちひろ(――楓さんじゃない!?)

ちひろ(――それなのに、今のは―――――)

ちひろ(――美優PさんだってSSレートの喰種ですよ!?)

ちひろ(――それを、こんなにもあっさりと……)


輝子P『ウグッ!』

留美P『ま、待ってくれ! せめて話を聞いて……うがああああああ!!?』

日菜子P『ちひろさん! 正体が分かった! あの子はシンデレラプロジェクトの……っうわあああっ!!』


『―――――』ザザッ


ちひろ「……シンデレラプロジェクトの?」


『―――――通信機? だれか、聴いてるんですか』


ちひろ「……この声は」



『―――安心してください。殺してはいません。……殺したくもないです』

『でも、プロデューサーにやったように……少し回復まで時間のかかるケガをしてもらってます』


ちひろ「あなたは……」


『傷つけてごめんなさい。でも……』





ちひろ「蘭子ちゃん?」


蘭子『みんなを返してもらいます』



358: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:36:44.99 ID:fRPw4LRD0


ちひろ(――通信機は、それが放り投げられる音を立てて)

ちひろ(――あとはもう、だんだん遠くなっていく爆発のような破裂音と、悲鳴だけを響かせていました)


ちひろ(――蘭子ちゃん?)

ちひろ(――なんで、蘭子ちゃんがここに?)

ちひろ(――プロデューサーさんはどうしたの?)

ちひろ(――万が一、CPの誰かに計画がバレた時は)

ちひろ(――プロデューサーさんが無力化する手はずだった)

ちひろ(――それは蘭子ちゃんが相手だったとしても同じこと)

ちひろ(――むしろ蘭子ちゃんがいたからこそ、あの人はCPの担当に回ったのに……!!)


ちひろ(――楓さんを封殺できる人ですよ?)

ちひろ(――『隻眼の王』とまで呼ばれる喰種ですよ?)

ちひろ(――まさか勝ったと言うの?)



ちひろ(――蘭子ちゃんが、『隻眼の王』に?)


――――――――――――――――――――


NWP「ぎゃっ!」パアンッ

ガルパP「ぐえっ!」ドオンッ

JKTP「何だよこのっ……ぐはっ」ガシャアアア



アーニャ「……」

アーニャ(――ついて行くって、無理やりしがみついたものの)

アーニャ(――本当について行くだけで精いっぱい……)

アーニャ(――ランコ、本当に強かったんですね)



「うっ……」

「なんて無茶苦茶な子だ」

「この様子じゃ……一級Pと二級Pの区別すらついてないな」

「強くてもまだ、何も知らない子供ってことか……」

「目についた端から……俺にまで赫子を撃ち込みやがった……」

「…まあ、いいか……」



アーニャ「?」



359: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:37:20.15 ID:fRPw4LRD0


アーニャ「……ニキュウ?」

「! あんたは、蘭子ちゃんと同じシンデレラプロジェクトの……」

アーニャ「……アーニャも、あなたを見たことあります」

アーニャ「だれかの、プロデューサー」


アーニャ「……本当に、346プロのプロデューサーは……人間のアイドルを、殺そうとしていたんですね」


「……」


「……ちがうさ。いや、確かに最初はそのつもりだったが」

「よく見ろ、ここは檻の中だ。喜んで担当アイドルを殺そうとしてる奴が、こんなところにいるもんか」

「たとえ人間でも……担当したアイドルを危険に追いやりたいプロデューサーなんか、この346プロにはいない」


「笑いたいなら笑ってくれ。俺たち二級Pは、弱いから」

「弱い奴に喰種アイドルのプロデュースはさせられない。二級Pは人間のオーディションやスカウトに回される」

「周辺組織へのエサ探しだ」

「その子へのプロデュースだって、ただのカモフラージュ」

「いつか出荷されるだけだってのに、必死こいてレッスンやってるのを見守って」

「ムダになるって分かってるのに、仕事みつけるために走り回って」


「それでな。皆いつの間にか、担当アイドルに情が湧いてくるんだ」

「自分に守ってやれる力もないのに、どうかこの子が財産に選ばれませんようにって、毎日祈るようになるんだ」

「だから……蘭子ちゃんだったか。あの子が来てくれて、このクソみたいな組織を潰してくれて、二級Pの皆は感謝してる」

「実際は俺達も一緒に痛めつけられたが……これは何もしなかった罰だと思うことにする」

「むしろ、お釣りをあげたい気分だ」



360: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:38:21.90 ID:fRPw4LRD0


アーニャ「……アーニャの、気のせいですか?」

アーニャ「あなたは……ぜんぜん、嬉しそうじゃないです」


「嬉しいさ。一級Pのクソ野郎どもが、為す術なく転がされるのを見るのは」

「一矢報いたんだ……嬉しいに、決まって……」


「……」


「……畜生……」

「なんで、もっと早く助けてくれなかった」

「こんなに強いなら、なんでもっと早く気付いてくれなかった」

「こんなに簡単に立ち向かえたなら、あんな事させやしなかったのに……!!」


「……ゆかり……」

「……法子ぉ……!!」


「ごめん……何もしてやれなくて、助けてやれなくて……!!」


「何でもっと早く、あの子に助けを求めなかったんだ……!!」


――――――――――――――――――――



361: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:42:19.44 ID:fRPw4LRD0


――――――――――――――――――――


メロイエP『……ごめん。いい大人が、愚痴ってるところ見せてしまった』


メロイエP『人間アイドルの皆が監禁されてる場所は音で大体わかるだろう』

メロイエP『だが無理に助け出さない方がいい。この状況なら、待たせてれば白鳩の奴らが勝手に救助してくれる』

メロイエP『周囲の一級Pさえ排除すれば、自分で脱出させるよりむしろ部屋の中にいた方が安全かも知れないしな』


メロイエP『……君が付いてきた理由は何となく想像がつく』

メロイエP『蘭子ちゃんが心配で仕方なかったんだろ。ちらっと見たが、あれは罪の重さから逃げたくて仕方がない奴の顔だ』

メロイエP『……あの子は、この先どうなるんだろうな』


メロイエP『大事な人なら守ってあげてくれ。失ってからじゃもう遅いからな……』


――――――――――――――――――――


アーニャ「……」

アーニャ(――プロデューサーが、倒れた後)

アーニャ(――現れた『あの人』に、真実を聞いてから)

アーニャ(――ランコ、すごく苦しそうでした)

アーニャ(――私も、つらかった。でも、ランコは、もっと)


アーニャ(――ミナミ、ごめんなさい。何も言わないで、出ていって)

アーニャ(――でも、あんなランコを、ひとりにしたくなかった)



362: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:42:57.07 ID:fRPw4LRD0


早耶P「うう……」

雪美P「無茶苦茶だ、あんなの……!」



アーニャ(――ランコが走って行ったあとは)

アーニャ(――プロデューサーのみんなが、倒れています)

アーニャ(――強い人ばかりだと、聞きました)

アーニャ(――それを、こんなに簡単に……)



アーニャ(――ちひろさんも)



ちひろ「……うう」


ちひろ「最初は……隻眼とはいえ、なんで、こんな……」

ちひろ「戦ったこともない子供がと、思いましたが……」

ちひろ「その、赫子の使い方を、見て……実際に喰らって……やっと分かりました」


ちひろ「無尽蔵の刃」

ちひろ「止まることのない、洪水のような羽赫の波で、まるごと飲み込んで……」

ちひろ「……そうですよね。津波に勝てる戦士なんか、いるわけないですもんね」

ちひろ「『隻眼の王』も、そうやって……」

ちひろ「…いえ。こうなってしまえば、あなたが新しい『隻眼の王』になるのか……」


ちひろ「そんなのを、50人以上を相手に、わざわざひとりひとり……本当に無茶苦茶……」

ちひろ「その体のどこに、そんなものが……ああ。命を削れば……」



363: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/03(火) 23:43:53.98 ID:fRPw4LRD0


ちひろ「……台無しだ」

ちひろ「お前のせいで、全部台無しだ」

ちひろ「用意した策も、かき集めた屈強なプロデューサー達も、こんなのがひとりいれば全部台無しにされる」

ちひろ「いつもいつも、強い人は勝手ばかり……自分の都合で、全部ぐちゃぐちゃにして持って行ってしまう……」

ちひろ「くだらないワガママを、力づくで押し通して……」

ちひろ「暴虐に付き合わされる、身にも、なってくださいよ……!」



ちひろ「……化け物め……!!」



アーニャ(――本当に)

アーニャ(――みんなを逃がすために、ここの人たちを倒して、本当に……)


アーニャ(――本当に『あの人』が言った通りに、なりますか?)


アーニャ(――みんなランコを、怖がらずにいてくれますか?)



蘭子「……」

蘭子「……行こっか、アーニャちゃん」

蘭子「大丈夫。これでみんな、助かったから……」


蘭子「これを見れば、黒井さんの言った通り……」



蘭子「捜査官のみんなも、私達"喰種"を見直してくれるから……!!」





369: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 21:53:22.27 ID:4Qn4Dpkl0


――――――――――――――――――――


「……あんた、焦りすぎだ」

「……とどめを刺すのを忘れてたぜ……」



北斗「……」スッ



~個人 北斗⇔黒井~


北斗『CPのプロデューサーが無力化されました』

北斗『二宮飛鳥ちゃん達を巡って、CPメンバーの神崎蘭子と衝突したみたいです』

北斗『動画も撮影しましたから、載せておきます』


黒井『報告ご苦労。私も到着した』

黒井『ざっくりとだが、動画も確認した。神崎蘭子は隻眼か』

北斗『隻眼って2年前のですか?』

黒井『あれは左が赫眼だ。2匹目ということだろうな』

黒井『我々で対処できる相手ではない。奴には立ち去ってもらう必要がある』


北斗『どうやるんですか?』

北斗『あと、まだ来てませんけど冬馬どうしましょうか』

黒井『長年培った業を見せてやる。耳を塞いでおけ』



370: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 21:54:58.05 ID:4Qn4Dpkl0


~グループ『jupiter』~


冬馬『悪い! 何か火事がおきたみたいで、他のスタッフや出演者がパニック起こしてやがる!』

冬馬『人込みでそっちに行くのは時間がかかりそうだ……!!』

北斗『こっちの問題はしばらく気にしなくて良さそうだよ』

北斗『内部分裂を起こしてCPプロデューサーが自滅した』

黒井『私も合流したからお前の仕事はまだない』

黒井『だがCPのプロデューサーが復活した時は冬馬の出番だ』

黒井『その時に備えて、お前には避難者の誘導を任せる』

冬馬『分かった』


翔太『さっきの火災ベル、なんかすごく大きくなかった?』

翔太『黒ちゃん何か弄った? けっこー耳痛いんだけど』


黒井『喰種の聴覚対策だ。昨日忍び込んでやった』

黒井『聴覚に優れた喰種がまともに聞けば、耳が使い物にならなくなる』

黒井『コクリアで実証済みだ』


黒井『これで出演者組と楽屋組は互いの様子が察知できなくなる』

黒井『安心して任務に移れ』


翔太『了解~』



黒井「……さて」



371: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 21:55:46.26 ID:4Qn4Dpkl0


~収録スペース~


ジリリリリリリリリ……



蘭子「はっ……はっ……はっ……」


アーニャ「ランコ! 大丈夫、ですか?」

蘭子「…大丈夫。大丈夫だよ」


蘭子「それより、李衣菜ちゃん。さっきの『最終隠匿プロトコル』って、どういう……?」

李衣菜「ッ……!!」

蘭子「……李衣菜ちゃん?」

李衣菜「……ごめん。さっき打たれた注射のおかげなのかな」

李衣菜「耳が悪くなってるみたいだから、まだマシなんだけど……」

李衣菜「……頭がガンガン言ってる……」

卯月「李衣菜ちゃん……」

李衣菜「……大丈夫、話せるよ。今はもう聞けないけど、さっきニュースじゃ……」





黒井「そこから先は私が説明しよう」


「「「!!!」」」



372: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 21:56:19.82 ID:4Qn4Dpkl0


黒井「ウィ、346プロのアイドル諸君」

黒井「私は黒井崇男、こっちは伊集院北斗だ」

北斗「チャオ☆」


黒井「ともに、喰種捜査官だ」


夏樹「!」

飛鳥「……喰種、捜査官」


卯月「え……!?」ジリ



黒井「ノンノンノン、心配はいらないよ喰種のアイドル諸君」

黒井「殺そうと思ってここに姿を現したわけじゃない」


黒井「私は君……蘭子ちゃんだね? 君の仲間を守らんとする姿に感銘を受けてね」

黒井「君に『あるお願い』をしに来たんだ」



黒井「まずは全てを教えよう」

黒井「キャッスル、財産、最終隠匿プロトコル……私達CCGが掴んだ情報を」

黒井「君達のいた346プロの正体と、その目的について」


――――――――――――――――――――



373: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 21:57:31.91 ID:4Qn4Dpkl0


――――――――――――――――――――


卯月「『キャッスル』の正体が、346プロのプロデューサー……?」

李衣菜「『財産』は人間のアイドルの事で……協力してる組織に売ってるって・・・・・」

アーニャ「最後は、人間のアイドルをみんな、ころす……」

蘭子「……プロデューサーも、裏でずっと……」



黒井「……彼らも、仕方のないことだったのかもしれない」

黒井「ああでもしなければ、君達アイドルの秘密を我々から隠せなかっただろうからね」



黒井「すべて君達のためにやったことだ」

黒井「特に、蘭子ちゃん。君の存在はとても珍しい」

黒井「君のような隻眼の喰種がいると分かれば、もみ消しも簡単なことではなくなる」

黒井「君の正体を隠すためには、益々多くの犠牲を払う必要があっただろう」


蘭子「……!」

蘭子「そんな……私の、せいで……?」


黒井「……悲しい事だ。皆が君を憎んでいる」

黒井「君のためと言って、彼らがどれだけ多くの命を弄んだことか……」

黒井「犠牲になった人にも、家族がいたはずなのに」


蘭子「……あ……」


黒井「……だからこそ、君に頼みたい」

黒井「これは君の、君達の名誉を取り戻すためのお願いでもある」





黒井「346プロで戦って、人間アイドルの皆を救ってはくれないか」





黒井「そうすれば、君はきっと……みんなの英雄になれる」


――――――――――――――――――――



374: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 21:58:37.08 ID:4Qn4Dpkl0


~9時50分 346プロ正門前~


捜査官「おい、降りて来たぞ!」

捜査官「さっきの羽赫喰種だ!」


実「……カメラの様子だと、あの喰種が中の職員たちを片付けたらしい」

実「本当にやるとは……」


蘭子「……」スタッ



蘭子「―――待たせたわね。我が片翼よ」


蘭子「御覧の通り、我が半身を為す少女達はその命を脅かされず」

蘭子「魂を救済したわ」

蘭子「我が名は神崎蘭子。ヒトの身と喰種の牙を共に持って生まれし存在」


蘭子「―――我こそは、ヒトと喰種を繋ぐ『隻眼の王』!!」


蘭子「さあ、同胞たちよ。こちらは我が盟友アナスタシア」

蘭子「此度の救済を以て、我等は其方の下に親愛の橋を架ける……」


蘭子「今こそ祝杯を挙げる時よ」



蘭子(――黒井さん)

蘭子(――私、やったよ)

蘭子(――みんなを助けられたよ)

蘭子(――だれも死んでないよ)


蘭子(――私、知らなかっただけなの)

蘭子(――私のことを隠すために、プロデューサーたちが人を殺して)

蘭子(――私のせいで人がたくさん死んでるなんて、分からなかっただけなの)


蘭子(――だから、その分私は人を助けるから)

蘭子(――今まで悲しませたぶん、今度は私が皆のために戦うから)


蘭子(――もう、いいんだよ)

蘭子(――もう、喰種も人間も、泣くことなんか無いんだよ)


蘭子(――もう、人間と喰種は仲良くなれるんだよ……!!)



実「……君が、346プロを倒してくれたんだな」

蘭子「うん!」

実「人質も、全員無事なんだな」

蘭子「はい!」


蘭子「―――さあ! この手をとりなさい!!」



実「……ああ」



375: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 21:59:08.77 ID:4Qn4Dpkl0








実「攻撃準備」







実「撃て」







――――――――――――――――――――



376: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 22:00:00.24 ID:4Qn4Dpkl0


――――――――――――――――――――



(――私がちょうど、346プロについた時)

(――CCGの捜査官達が、二人の女の子を取り囲んでいるのが見えました)

(――一人はよく知ってる子。神崎蘭子ちゃん)

(――もう1人も、知ってる子。アナスタシアちゃん)


(――蘭子ちゃんは、涙ぐみながら)

(――嬉しそうに、捜査官達に語り掛けていました)


(――でも次の瞬間)

(――いきなり、アーニャちゃんの表情が青ざめて)

(――蘭子ちゃんに覆いかぶさって)


(――そして、二人を取り囲んだ捜査官達が銃を構えて)



(――蘭子ちゃんとアーニャちゃんの体は、羽赫でバラバラになってしまいました)



――――――――――――――――――――



378: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 22:00:52.72 ID:4Qn4Dpkl0


~TOKYO MIX 楽屋~



杏「ぐっ……ああっ、クソッ……!!」

きらり「杏ちゃん? 大丈夫? ねえ、杏ちゃん!?」

杏「やめろきらり……大声出すな……!!」

きらり「うゆっ……ご、ごめんなさい」

杏「……くっそ……」


杏(――なんなんだよ、さっきのバカでかいサイレンは!!)

杏(――耳が痛い、冷や汗が止まらない、頭が痛くてまともに立ってられない……!!)

杏(――どう考えても普通のサイレンじゃない)

杏(――誰だか分かんないけど、仕込んでやがったな……!?)


杏(――蘭子ちゃん達の様子がもう聞こえない)

杏(――蘭子ちゃんがプロデューサーに勝った、それ以降のことがもう何も分からない!!)

杏(――杏の勘が言ってる。このまま何もしなかったら間違いなくやばいことになる! 絶対!!)



ガチャ



翔太「失礼しまーす。…さっきのベルすごくうるさかったけどさ。みんな大丈夫?」


杏「あ……?」

杏(――何だこの子)

杏(――さっきまで近くの部屋にいた子か)


翔太「おねーさん達が心配で来ちゃったんだけど……あれ」


翔太「そのテーブルの上にあるのって……何かのお菓子?」



かな子「! そ、そうなの! 蘭子ちゃんが帰って来た時のために、プリン作ってきたんだけど……」

かな子「あなたも友達を待ってるのかな? 良かったら、あなたも食べる……?」


翔太「えっ、いいの!?」


かな子「うん、いいよ! 作りすぎちゃったから、おすそ分け!」

翔太「ありがとう! おねーさん優しいね!」



翔太「…でも、いらないや。ボク甘い物苦手だし」



翔太「それに」





翔太「"喰種"の作ったものとかさ。食べる訳ないじゃん」



379: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 22:02:18.73 ID:4Qn4Dpkl0


かな子「……えっ?」





ズパッ





智絵里「……えっ」

杏「……え」


杏(――耳が痛くて、まともに音が聴けなかった分、こっちが働いたのかな)

杏(――その光景は、すごくゆっくりと杏の目に焼き付けられた)


杏(――まだ中学生くらいの子供が、かな子ちゃんのプリンを叩き落として)

杏(――そのまま、かな子ちゃんの髪をひっつかんで)


杏(――もう片方の手には、いつの間にかナイフを握ってて)

杏(――引き寄せたかな子ちゃんの首に、ナイフを当てて……)





杏(――そして、かな子ちゃんの首が落ちた)


――――――――――――――――――――



380: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/04(水) 22:03:03.47 ID:4Qn4Dpkl0


――――――――――――――――――――



黒井「もしもし。私だ丸手特等」

黒井「そっちに送った化け物はどうだ? ちゃんと仕事をしてくれたか?」

黒井「…はははははっ!! そうかそうか、うまく行ったか!!」

黒井「化け物と言えど所詮小娘だな! あんな演技に騙されてくれるとは!」


黒井「……ところで丸手」

黒井「人間アイドルが全員生きて救助されたんだ。さっきの賭けは私の勝ちだろう?」

黒井「ならこっちの奴等は……よし許可を出したな。言質は取ったぞ」

黒井「アデュー」ブツッ



黒井「……」


黒井「……さて」





黒井「楽しいクリスマスパーティーをしようじゃないか」





黒井「―――殲滅戦だ」



――――――――――――――――――――



386: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:50:45.49 ID:9ZY2Twcv0


――――――――――――――――――――


凛(――お父さんと、お母さんとのお別れは)

凛(――突然やって来た)



三条馬「黒井上等。渋谷凛と本田未央を捕捉しました」

三条馬「渋谷家の父親、母親は共に先制攻撃で死亡」

三条馬「これで北海道の双葉家と大阪の前川家を除き」

三条馬「島村家、三村家、新田家、多田家、赤城家」

三条馬「シンデレラプロジェクトの血縁者はすべて駆逐しました」



凛(――卯月達のライブが終わって、346プロの様子が映って)

凛(――それから、車で走り続けていたとき)


凛(――いきなり、フロントガラスに槍が二本、飛んできて)

凛(――運転席と助手席にいたお父さんとお母さんごと、車を貫いた)


凛(――車は道路の端に衝突して、動かなくなった)



三条馬「これより、渋谷凛と本田未央の駆逐に移ります」



凛(――破壊された車と私達は)

凛(――白鳩たちに囲まれていた)


未央「……あ……」

未央「……そういう、ことなんだ」

未央「ずっと追いかけられてたんだ……」


凛(――逃げ道はない)

凛(――逃げる場所も)


凛(――逃げる意味も)

凛(――逃げて、生きる理由も)


凛(――もういいや)


凛(――殺すなら、さっさと殺して)


凛(――うん。それでいいよ。銃を構えて)


凛(――私達に銃口を向けて)


凛(――引き金を引いて)


凛(――やっと、死ねる)


未央「……」


未央「……やっぱり、できないなあ」



387: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:51:14.54 ID:9ZY2Twcv0


凛(――え?)


凛(――なんで)


凛(――なんで、死んでないの)


凛(――銃声は聞こえたのに)


凛(――なんで未央が、私に覆いかぶさってるの)


凛(――なんで未央だけ、血まみれなの)



未央「……あー……」

未央「やっぱり、ダメかあ」

未央「しぶりんに、トラウマ、あたえちゃうから」

未央「ここで死に、たくは、なかったんだけどなあ」


未央「私の赫子じゃ、両方守るのは、無理かあ」



凛「……み、お?」


未央「ごめんね、しぶ、りん」

未央「しぶりんの、しに、たい、気持ち、わかるから」

未央「ほんと、は、このまま……らくにさせてあげたかったん、だけど」


未央「でも、しまむーの、笑顔、みてさ」

未央「しぶりん、を、このまま、終わらせたく、なかったから」

未央「死なせ、たく、なかったから」


未央「……お願い。しぶりん。生きて、ほしいや」

未央「できれば、あんな風に、わらって、しんでほしいんだ」


未央「ごめんね、しぶりん」


未央「いきて」



388: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:51:43.59 ID:9ZY2Twcv0


凛「……そんな」


凛(――『勝手な事しないで』って、言いたかった)

凛(――でも、未央は自分の言いたい事ばっかり言って、私の話を聞いてくれなくて)

凛(――最後の力を振り絞るように、跳ねて)


凛(――目の前にいた女の人を、その甲赫で刺したんだ)

凛(――人間にとっては、間違いなく致命傷。ためらいもしなかった)


凛(――人を殺したことなんか、なかったはずなのに)



捜査官「三条馬一等!!」

捜査官「虫の息だ! 殺せ!!」



未央「しぶりんっ……走れええ!!」


凛「っ……!!」


凛(――血まみれで叫ぶその姿に)

凛(――私は、まともに考えることも出来なくて)

凛(――気が付けば、必死で走っていた)


凛(――未央が開けてくれた道を)

凛(――振り返ることもできずに、走っていた)



凛(――背後で、大量の血の匂いがした)

凛(――未央のものだと、すぐに分かった)


凛(――もう助からない時の匂いだと、私は知っていた)


――――――――――――――――――――



389: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:52:10.53 ID:9ZY2Twcv0


――――――――――――――――――――


杏(――周りみんなの叫び声)

杏(――今は頭が痛くて仕方なくなる音のはずなのに、何も痛みを感じない)

杏(――まるで、幻覚を見てるみたいだ)


翔太「……んー。クロちゃんは確か、耳の良い喰種ならダメージが半端ないって言ってたけど……」

翔太「この中じゃ、そこのおチビちゃんになるのかなあ?」


杏(――かな子ちゃんを殺した子供が、杏の方を見る)


翔太「ごめんねー、万が一逃がしたら不味いかもしれないし」

翔太「チビちゃんが―――次ねっ!!」


杏(――子供が、杏の方に飛んでくる)

杏(――杏は、まともに逃げられなかった)

杏(――ナイフが、杏の首に向かってくのを、ただ見てるだけで―――――)


智絵里「杏ちゃんっ!!」


杏(――それなのに、杏がまだ生きていられたのは)


杏(――智絵里ちゃんが、一番に動いて杏を庇ったから)



翔太「……あれー、ハズレかあ」



杏(――あれ)


杏(――なんで智絵里ちゃんが倒れてるんだ?)



390: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:53:00.71 ID:9ZY2Twcv0


翔太「まあいいや、次」


智絵里「……あっ……」


智絵里「……させ、ないっ!!」


翔太「えっ」



杏(――倒れたはずの、智絵里ちゃんが)

杏(――子供に、しがみついた)

杏(――子供に必死に、抱き着いて、離さない)


杏(――子供は、智絵里ちゃんに)

杏(――智絵里ちゃんから離れようとして、何度も何度も、ナイフを刺す)

杏(――智絵里ちゃんは、涙をぼろぼろと流しながら)

杏(――絞り出すような声で、必死に叫ぶんだ)



智絵里「にっ……にげ、てえ」

智絵里「はや、く」

智絵里「はや、げ……ぶ、あ……!!」


美波「……はっ!」

美波「美嘉ちゃん! きらりちゃん! みくちゃん!」

美波「皆を連れて逃げて!!」


杏(――美波ちゃんが、一番最初に我に返って)

杏(――美波ちゃんの指示で、みんな部屋から慌てて逃げてく)


みく「……杏チャン! ぼーっとしてないで逃げーや!!」


杏(――杏は、その場から立てなくて)

杏(――みくちゃんに引きずられながら、楽屋を出ていく)



391: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:53:30.03 ID:9ZY2Twcv0


杏(――最後まで残ってたのは、美波ちゃんと、きらり)

杏(――美波ちゃんは、智絵里ちゃんを助けようとしたけど)

杏(――きらりちゃんに止められて、無理矢理外に追い出された)


杏(――肉を断つ音と、智絵里ちゃんの首が転がる音が聞こえた)

杏(――智絵里ちゃんの時間稼ぎで、みんな外に出られた)


杏(――いや、違う)

杏(――きらりだけ、ドアのすぐ近くに)


杏(――まるで中から誰も出さないように、突っ立ってた)


杏(――かな子ちゃんが死んでから、ずっとぼーっとしてた杏の頭は)


杏(――やっと冷えていった)





杏「―――――何やってんだよきらりっ!!!」







392: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:55:18.31 ID:9ZY2Twcv0


杏(――内側から、肉にナイフを突き立てる音が聞こえる)

杏(――きらりは甲赫を出して、扉を塞いでいる)

杏(――杏は)


杏(――みくちゃんの手を振りほどいて、楽屋に戻ろうとする)


みく「! 何やってんの杏チャン!? 戻ったら杏チャンまで死ぬよ!?」

杏「はなせっ……はなしてくれ!」

杏「きらり! きらりぃ!! 何やってんだよ早く出てよ!!」

杏「なんできらりが残ってんだよ! 杏が代わるからっ……はやく出てきてよ!!」


きらり「……杏ちゃん」


杏(――ドアに張り巡らされた赫子の内側から、きらりのか細い声が聞こえてくる)


きらり「ごめんねえ、杏ちゃん。きらり、ぜんぜん動けなくて」

きらり「かな子ちゃんも、智絵里ちゃんも、きらりのせいで死んじゃった」

きらり「杏ちゃんの、大切な人なのに」


杏「はあっ!? ……きらりのせいじゃない!! 全部杏のせいだ!!」

杏「杏、黙ってたんだ! キャッスルの事も財産の事も、知ってて全部黙ってたんだよ!!」

杏「それで皆をわざと部屋の中から出さなくて……そいつのことも危険だって気付けなくて……だから今こうなったんだ!! きらりの何が悪いって言うんだよ!!」

杏「杏が代わるよ!! 杏はすごく悪い事してたんだからさあ!! 杏が死ぬべきなんだよ!! きらりは杏よりずっと生きて、やりたいことあるだろうがあ!!」

杏「はなせっ、みくちゃ……はなせ、よおおおおお!!!」


きらり「……」

きらり「……杏ちゃんが、なんのこと、言ってるか、わかんないけど」

きらり「きらり、わかるにぃ。杏ちゃんは、皆に心配かけたくなくて、秘密を守ってたんだよね?」

きらり「話しちゃったら、きっとみんな、傷ついちゃうから……」

きらり「とーっても優しい杏ちゃんだから、仕方なく隠してたって、きらりは分かるゆ」


杏「っあ……そんな、こと……」


きらり「それにね。きらり、おっきいから」

きらり「いっかい、みんなに喰種だってバレちゃったら……もう隠れられなくて、おしまいなの」



きらり「もう生きていけないんだあ」



杏「あっ……」


杏(――一瞬、力が抜けた)

杏(――その隙に、みくちゃんは杏を引っ張って)

杏(――杏はきらりが、きらりの姿が、きらりの声が、ずっと小さくなっていくのを見ていた)


杏(――やっと痛みが引いてきた耳には)

杏(――大きい体が倒れる音が聞こえて、それからは何も響かなくなった)



393: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:56:23.26 ID:9ZY2Twcv0


杏(――かな子ちゃん)


杏(――何も知らないでヒトを食べていた自分が嫌で)

杏(――その分、周りの人間を幸せにしようとして、お菓子作りが上手くなった女の子)

杏(――CANDY ISLANDでのお仕事で、色んなところに行って)

杏(――色んな人が、かな子ちゃんのお菓子を美味しいと言ってて)

杏(――杏はお菓子の味なんか分からないけど)

杏(――ただ、お仕事を重ねて、周りの人にたくさん『ありがとう』を言われてるうちに)

杏(――だんだん自分に自信を持っていくかな子ちゃんを見ているのは)

杏(――救われていくかな子ちゃんを見るのは、嫌いじゃなかった)


杏(――智絵里ちゃん)

杏(――アイドルになる前は、親も家も無くて、まともな女の子の暮らしも出来なかったって聞いてる)

杏(――そんな暮らしをしてても、アイドルを諦めきれなくて)

杏(――女の子の幸せを諦められなくて、346プロに来たって言ってた)

杏(――待ってたのは、バラエティの仕事ばっかりだったけど)

杏(――そんな中で、一度だけブライダルの仕事があったんだっけ)

杏(――智絵里ちゃんのために用意されたウェディングドレス)

杏(――あれを初めて見た智絵里ちゃんは……本当に嬉しそうだった)

杏(――ここに来てやっと、智絵里ちゃんは)

杏(――女の子の夢を叶えられたんだよ)


杏(――きらり)

杏(――あの変な口癖は、派手にしてれば逆に怪しまれないからって聞いた)

杏(――ずっと、怖がられるのを怖がってた)

杏(――そんな大したもんじゃないことなんて、すぐに分かるのにさ)


杏(――だってほら)

杏(――346プロのちびっ子たちには、すごく懐かれててさ)

杏(――風船できらりの像を作るなんてさ。怖がられてたら、そんなのされないじゃん)

杏(――まして)

杏(――あんなの見せられて、ちびっ子たちの前ではすごく喜んで)

杏(――その後、杏と2人っきりになったら)

杏(――『とっても嬉しい』って、泣いてるんだ)


杏(――あんなの……ただの優しい女の子じゃなくて、なんなんだよ)



394: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:57:48.68 ID:9ZY2Twcv0


杏(――だからさ)

杏(――プロデューサーの気持ちも、ちょっとは分かるんだ)


杏(――この346プロは、全部嘘でできた事務所だけど)

杏(――でも、いつか覚める夢でもさ)

杏(――こんないい笑顔見てたら、壊す気になれないじゃん?)


杏(――プロデューサーも、ちひろさんも、他の人達もさ)

杏(――みんな、あんな顔が見たくて人殺ししてたんでしょ?)



杏(――みんな)





杏(――こんな終わり方したくなくて、必死だったんでしょ)





杏(――ほら)



杏(――必死こいて生きようとして、局から脱出したら)



杏(――目の前には、たくさんのサイレン)



杏(――見慣れた白い服の集まり、みんなしてアタッシュケース持ち)



杏(――杏たちの幸せは、眠りと幸せな夢だけ)



杏(――夢から覚めたら、少し泣いて、ハイ死んでください)



杏(――現実にこんなのしか待ってないんだったらさ)





杏(――黙ってる以外に、どうすりゃよかったんだよ)


――――――――――――――――――――



395: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:58:20.08 ID:9ZY2Twcv0


――――――――――――――――――――










――――――――――――――――――――



396: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 19:59:02.49 ID:9ZY2Twcv0


――――――――――――――――――――



「――ふんふふふん、ふーんふふふふふん」

「ふふふふん、ふふふん、ふふーふん」



(――鼻唄?)

(――この曲、は)


(――『おねがいシンデレラ』……?)

(――途切れ途切れで)


(――今にも、消えてしまいそうな……)


(――ここは、どこ)


(――私は……)



「……気が、付きましたか」


「おはよう、ございます、蘭子ちゃん」



ちひろ「夢は醒め、ましたか」





397: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 20:00:49.86 ID:9ZY2Twcv0


蘭子「……ちひろ、さん?」

蘭子「なんで……」


ちひろ「なんで? 何の話、です?」

ちひろ「なんで、あんなにボロ、ボロだったのに、ここに、いるかっ……ですか?」

ちひろ「……貴女もアイ、ドルだからっ、に、決まってる、じゃないですか……」


蘭子「……?」

ちひろ「本っ当に、呑気な、子、ですね……」

ちひろ「覚えて、ないんで、すか?」


蘭子「覚えて……」

蘭子「……!!」

蘭子「私、撃たれて……!!」


ちひろ「ええ……アーニャ、ちゃん、ごと、一斉、掃射で」

ちひろ「あなたも、バラバラに、なりました」

ちひろ「……それなのに、服以外、完治、と、いうのは」

ちひろ「さすが、というしか、ありませんね」


蘭子「アーニャちゃん、ごと……っ!!」


蘭子「―――アーニャちゃんは!?」

蘭子「アーニャちゃんは、私を庇って……!!」


ちひろ「……はあ」

ちひろ「すぐ横、ですよ。横」


蘭子「横……」


蘭子「……うそだ」


ちひろ「…現実、ですよ。それが、現実」



ちひろ「その、バラバラ、死体が、アーニャ、ちゃんです」



ちひろ「まだ、首から、上がキレイで、きれいなまま、で、良かった、ですね」

ちひろ「……集めるの、苦労したんですからね」

ちひろ「なんだって、こんな、死体なんか、あつめたんで、しょうか」

ちひろ「ばかばか、しい」



398: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 20:04:39.47 ID:9ZY2Twcv0


蘭子「ああ……そんな……やだ……!!」



ちひろ「……ヒュー……コヒュー……」



ちひろ(――もう声が出ない)

ちひろ(――指一本動かせない)

ちひろ(――ああもうくだらない)

ちひろ(――結局こんな終わり方なんて)


ちひろ(――目の前の小娘に罵詈雑言を並べ立ててぶちまけてやりたい)

ちひろ(――こんなもののために全部壊したのかって)

ちひろ(――私達の、ささやかな夢だったのに)



ちひろ(――人間を大量に使い捨てたのも)

ちひろ(――秘密を知った喰種を消したのも)


ちひろ(――秘密を探った凛ちゃんに真実を突きつけたのも)

ちひろ(――未央ちゃんに消えないトラウマを植え付けたのも)

ちひろ(――シンデレラプロジェクトの皆を殿にして、先にほかのアイドルを逃がしたのも)

ちひろ(――その、凛ちゃん以外の家族を、騙して、家に残ってもらったのも)


ちひろ(――全部、くだらない私利私欲のためだとでも思っていたのですか)


ちひろ(――いいじゃないですか、ささやかな夢くらい見たって)

ちひろ(――いいじゃないですか、喰種が輝く舞台に立ったって)

ちひろ(――いいじゃないですか、また舞台に立ってもらうために全部失ってでも生き残ってもらったって)

ちひろ(――いいじゃないですか、そのために)


ちひろ(――冷徹になってでも、残酷になってでも、打てる手をすべて打っても)


ちひろ(――きらびやかで、幸せな夢の、世界を、つくることの)

ちひろ(――何が悪いと言うのですか)



399: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/05(木) 20:06:16.41 ID:9ZY2Twcv0


蘭子「っ……そうだ……まだ、手はある……!」

蘭子「楓さんが、教えてくれた、方法が……!!」



ちひろ(――ああもう。やめろと言ってあげたい)

ちひろ(――まだ、現実を見たくなくてもがいているのですか)

ちひろ(――そんなことをしても、アーニャちゃんは戻ってこないですよ)



蘭子「やった……成功した……」

蘭子「これで、アーニャちゃんが生き返って……!!」


蘭子「……あ、あれ」



ちひろ(――ああほら)

ちひろ(――それはもう、アーニャちゃんじゃないですよ)

ちひろ(――楓さんの物真似ですか)


ちひろ(――死体に、蘭子ちゃんの赫子を埋め込んでも)

ちひろ(――それは)



ちひろ(――ただの動く死体ですよ)



ちひろ(――あーあ。思った通り、泣きじゃくってる。泣いて、後悔してる)

ちひろ(――ああ……こんなに無様にもがいてる姿を見せられるなら)

ちひろ(――助けない方が、良かったかなあ)

ちひろ(――こんなに、傷ついた体に鞭打って)

ちひろ(――致命傷を負いながら、蘭子ちゃんと、アーニャちゃんだったものをかき集めて)


ちひろ(――もうすぐ死にゆく私が、見せられるのが、こんなものだなんて)


ちひろ(――なにが、『私が引き付けますから』、ですか)

ちひろ(――私が、死ぬのは、変わらないんじゃないですか)



ちひろ(――楓さん)



408: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:09:53.29 ID:hJ19nLRW0


――――――――――――――――――――







――――――――――――――――――――



409: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:11:08.22 ID:hJ19nLRW0




「アーニャちゃん」

「美波さん」


「今日は、一緒に走ってくれて……その」

「ありがとう、ございました」


「今日は、その……二人に」

「お話したい事が、あって……」



「みんなは、私の赫子を見て」

「『強そう』って、『強い赫子を持ってていいな』って」

「魔王様みたいで、私にぴったりだねって言ってくれるんですけど」

「私は、この体……あんまり好きじゃないんです」


「…えっと! お父さんとお母さんからもらった身体が嫌いってことじゃないんです!」

「お母さんは、会えないけど……」

「ずっとひとりで育ててくれて、愛してくれて、今でも、大好きで」

「お父さんは、顔も分からないけど……やっぱり好きで」


「……そうじゃなくて」

「私はこの力が、ちょっと怖くて」

「私が憧れた力って言うのは、上手く言えないんだけど、何でもできて」

「一生懸命働いて、私のせいで、誰にも頼れなくて、ひとりで寂しそうにしてるお母さんも」

「物語に出てくるような魔法が使えたら、助けてあげられるから……」

「そんな魔法みたいな力に、憧れたんです」


「……私の力は、そんな理想の力じゃなくて」

「ただ、人を……傷つけるものだから」

「だから、怖くて……」


「私は、ただ」



「お母さんや、プロデューサーや、美波さんみたいに、だれかを助けられたら」



「そんな存在になれたらいいな、って……」



「だから、言葉だけでも真似したかったのかも……」



――――――――――――――――――――



410: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:11:42.67 ID:hJ19nLRW0


――――――――――――――――――――


凛(――鼻の中を切り裂くような冷たい空気)

凛(――その中を漂ってくる懐かしい匂いを、必死にたどって)

凛(――親友と、大好きだった両親の匂いを、振り切って走った)


凛(――ほかに行くところなんてなかったから)


凛(――卯月)

凛(――プロデューサー)


凛(――ううん、他の誰でもいい)


凛(――好きな人の側にいたくて、ひとりぼっちでいたくなくて)

凛(――傷んでいく喉を我慢して、走り続けた)



凛(――やっと、仲間の匂いが濃くなったと思ったら)

凛(――鬱陶しくて仕方ない、あの白いコートも見えた)

凛(――回り込んで、でも道路からは回り込めなくて)


凛(――仕方がないから、建物を登ったら)


凛(――仲間の匂いは、車の中から漂っていたんだと気付いた)



凛(――それは白鳩の護送車だった)



411: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:12:12.16 ID:hJ19nLRW0


凛(――卯月と、プロデューサーの匂いはしない)

凛(――あとは、何人か欠けてる)


凛(――美波。みく。杏。みりあ。莉嘉。美嘉)


凛(――匂いは、たぶんこれだけ)


凛(――あとはどこに行ったんだろう)


凛(――考えたくなかった)


凛(――考えたくなかったのに)


凛(――目の前に突きつけられた)


凛(――なんで、ここで皆を見つけてしまったんだろう)


凛(――なんで、今見つけてしまったんだろう)


凛(――目の前の有機パネルには)



凛(――卯月が映っていた)



凛(――手足を縛られて)


凛(――くせのついた髪は、乱暴に引っ張られていて)


凛(――その表情は、今にも泣きそうで)



凛(――知らない男が、その首に刃を当てていた)



412: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:13:39.95 ID:hJ19nLRW0




黒井『ウィ、マダム。エ、ムッシュ』

黒井『そして各方面にまんまと逃げのび、安堵しているだろう346プロダクション喰種アイドルの諸君』

黒井『私はCCG上等捜査官の黒井だ』


黒井『これでも放送機器の扱いには心得があってね。TOKYO MIXスタジオをお借りして、こうして緊急放送をさせてもらっている』

黒井『ああ、心配はいらないよ。優しい上司がすべて責任を取ってくれると言ってくれたからね』



黒井『……さて、346プロの喰種ども』

黒井『同僚を生贄にして、まんまと自分は逃げおおせたと思っていたか?』

黒井『ざあ~んねんっだったなあ! 計画は完全に失敗だ!』

黒井『頼りの職員共は全滅し、人間アイドルはすべて救出した』

黒井『こちらの捜査官は大して死んでいない。…ああ、失礼。ゼロではない。訂正しておこう』

黒井『ともかく、君達を守っていたものは全て消え失せた』


黒井『……さて』



黒井『次はお前たちだ』



黒井『先ほど述べた通り、捕らわれのアイドルはすべて救出済みだ』

黒井『あとは、346プロの名簿から彼女たちの名前を引くだけ―――』

黒井『残ったお前たちを、これから「喰種被疑者」として容赦なく捜査する』


黒井『勿論、猶予は差し上げよう。お前たちが本当に"喰種"だと証明されるまで』

黒井『その後どうするか? それはこの娘にやる通りだ』


卯月『……や、あ……!』


黒井『……許されるとでも思ったのか?』

黒井『みんな346プロがやりました、だから私達は人を殺していません』

黒井『だって私達はアイドルになりたかっただけだから! ただ知らなかっただけなんですう!!』


黒井『ふざけるな』


黒井『一匹残らず、探し出してやる』

黒井『346プロのクズ共も、その他のアイドル紛いのクズ共も』

黒井『すべて探し出して、我々は罰を与える』

黒井『殺しつくしてやる』


黒井『何も悪い事をしていない? なにを勘違いしている』



黒井『お前たち喰種が、生きたいと思うこと』



黒井『―――それこそが罪なのだ』



413: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:14:45.91 ID:hJ19nLRW0






卯月『……ご』



卯月『ごめ、なさい、ごめん、なさい』



卯月『やだ、やだ。ころさ、ないで』



卯月『たすけ、ママ、あ、プロ、でゅ、さ』



卯月『みお、ちゃん』



卯月『りん





     ちゃ』



――――――――――――――――――――



凛(――最初に見た筈の笑顔は、もう無かった)


凛(――その笑顔だけは、ずっと変わらないでいてくれると思っていたのに)


凛(――罪悪感と、恐怖が入り混じった泣き顔だった)


凛(――どうにもならない身体を、ぎしぎしと必死でゆすって)


凛(――何も悪くないのに、ごめんなさいと繰り返して)





凛(――その姿は、まるで『処刑』だった)

凛(――卯月は、何も悪くない筈なのに)

凛(――あの男は、まるで自分が正義だとでも言うように)



凛(――断頭して、命を奪い取った)

凛(――あの子の笑顔も、夢も、全部)



414: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:16:08.87 ID:hJ19nLRW0






「ごめんなさい」





「間に合わなかった」





「私のせいで、凛ちゃんの大切な人まで」





「奪ってしまいました」







415: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:16:49.81 ID:hJ19nLRW0


凛「……え」



凛(――いつの間にか、隣に蘭子がいた)

凛(――いや)

凛(――本当に、蘭子なの?)


蘭子「……どうしたの、凛ちゃん」

蘭子「ああ。もしかして、この服?」

蘭子「これはね、盗んじゃった」

蘭子「流石に、ボロボロの衣装じゃ……恥ずかしくて」


凛(――ちがうよ、蘭子)

凛(――服の事じゃない)

凛(――どうしてそんな顔をしてるの、ってことだよ)


凛(――どうして蘭子は、そんな悲しい顔で笑ってるの)


蘭子「……救えなかった」

蘭子「卯月ちゃんも」

蘭子「アーニャちゃんも」

蘭子「かな子ちゃんも、智絵里ちゃんも、きらりちゃんも」

蘭子「……プロデューサーも」

蘭子「未央ちゃんと李衣菜ちゃんは、逃げ切れたのかな」

蘭子「無事だといいな」


蘭子「……私」



蘭子「私、決めたよ。凛ちゃん」




416: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:17:36.04 ID:hJ19nLRW0


凛「……蘭子?」


凛(――私が何か言葉をかける前に)

凛(――蘭子は屋上から飛び降りてしまった)


凛(――落ちていきながら、蘭子は壁を駆けて)

凛(――叫ぶように、翼がその体を押し出していく)


凛(――突き進む先は、美波達が乗せられている護送車)



凛(――そして爆発音が鳴り響いた)



凛(――焼け死んでいく人間たちと、羽に貫かれて絶命する人間たちと)


凛(――車から這い出て、息を飲む仲間たちに囲まれて)


凛(――周囲を揺らめく赤い炎に、その身体は照らされていた)


凛(――燃え盛る火と一緒に揺れる、蘭子の翼は)


凛(――どうしてなんだろう)



凛(――すごく綺麗だった)



――――――――――――――――――――



417: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:20:59.20 ID:hJ19nLRW0


――――――――――――――――――――


凛(――プロデューサーには、結局会うことが出来なかった)


凛(――その後のニュースで、捕まってしまったことを知った)





凛(――私達は、とにかく捕まらないように逃げた)


凛(――必死で逃げ回っているうちに、時間は過ぎたみたいで)


凛(――ふと時計を見ると、ちょうど12時を指していた)


凛(――なんで、こんなに嫌な偶然ばかり続くんだろう)





凛(――とっくに魔法は解けているのに)



凛(――なんで今更、見せつけてきたんだろう)



――――――――――――――――――――



418: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:21:32.53 ID:hJ19nLRW0


――――――――――――――――――――










――――――――――――――――――――



419: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:22:38.40 ID:hJ19nLRW0






「美波さん」





「ごめんなさい」


「私、アーニャちゃんを守れませんでした」


「私のせいで、アーニャちゃんをひどい目に遭わせてしまいました」


「私のせいで、みんな死んだんです」


「346プロは、みんなを守ってたのに」


「どんなにひどいことをしても、喰種にとってはたった一つの拠り所だったのに」





「だから、もうこれ以上は奪わせません」


「私が、346プロの代わりになって戦います」


「今度は誰も死なせない」



「今度は私が、皆のために戦うから」



420: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/06(金) 20:25:25.94 ID:hJ19nLRW0











「私がみんなを守るから」










――――――――――――――――――――



429: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:23:45.21 ID:OtjLsYf80


――――――――――――――――――――







――――――――――――――――――――



430: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:24:13.56 ID:OtjLsYf80


~1月1日 某公園~


美城「……」ペラ


美城(――346再編に当たって、問題は山積みだな)

美城(――資金も施設もスタッフも、一から集め直さなければならない)

美城(――あれは外道の巣だったが)

美城(――たしかに安定した企業だった)


美城「……」フー



「あけましておめでとう、常務」

「隣いいかしら?」



美城「!」

美城「……ああ。構わん」

美城「それと、あけましておめでとう」



美城「速水」



奏「…また仕事で悩んでるのね」



431: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:24:53.29 ID:OtjLsYf80


奏「差し入れよ。缶コーヒーだけど、この辺りじゃ一番美味しいの」


美城「そうか」カシュ

美城「……確かに美味だな」


奏「お互い、やっと一息つけたみたいね」

奏「年末はそっちも慌ただしかったみたいだし……」

美城「……」


美城「…速水」

美城「私を殺しに来たのか」


奏「あら、どうして?」

奏「何か後ろめたい事でもあるの?」クスクス


美城「思い出話をしに来たわけではないだろう」

美城「聡明な君が気付いていないとは思わん」

美城「私はCCGの信用を得るため、君達4人の情報を売った」

美城「そのために、鷺沢文香は命を落とした」


美城「いつかは、その代償を払う日が来ると思っていた」



432: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:26:14.38 ID:OtjLsYf80


奏「そう?」

奏「私も周子もフレデリカも、あなたの事を恨んでる訳じゃないわよ?」

奏「むしろ、財産のことを知った時は、常務らしいなって思った」

奏「それに何より……短い間だったけど、クローネでの活動は楽しかったもの」

奏「常務がいじわるされてて、下積みばっかりで終わっちゃったけどね」


美城「……そうか」

奏「今は人間だけの346プロを再編してるってところかしら?」

奏「あのまま346が無くなっちゃったらどうしようって、思ったけど」

奏「と言うか、私が言うのもなんだけど……評判とか、大丈夫なの?」

奏「世間の目はすごく厳しいと思うのだけど」


美城「その点だが、心配はいらない」

美城「確かに、346崩壊の直後は激しいバッシングを受けたが」

美城「今後の経営について、私はある勝算を持って密告に向かった」

美城「そして読みは当たっていた」


美城「喰種が経営しているアイドル事務所は、346だけではなかった」

美城「小早川紗枝が提供した情報の中には、目線逸らしのために密告する多事務所のリストもあってな」

美城「346がCCGに目をつけられかけた時は、他の喰種事務所を密告して事なきを得ていたようだ」

美城「よって346を皮切りに、喰種の経営しているアイドル事務所は次々と摘発された」


美城「今の民衆にとって、摘発されていない事務所は『喰種がいるかもしれない事務所』」

美城「そして346は一番最初に……言ってしまえば『浄化』された事務所だ」

美城「父を含む私以外の美城一族は逮捕された。裁判はまだだが、積極的に喰種に協力していたことから死刑判決が下るだろうと聞いている」

美城「今の代表取締役は私が務めている。悪逆非道の346プロを密告し、喰種の敵、人間の味方となった私が」


美城「よって、346プロは現時点で『一番信用できる』事務所になった」

美城「高価だが、新しい事務所にはRcゲートを設置し『人間だけの』アイドル事務所として再スタートを切るつもりだ」


美城「……これは想定外だったのだが、黒井上等の緊急放送を含め」

美城「シンデレラプロジェクトのメンバー数名が駆逐された事は広く知れ渡った」

美城「"喰種"だとしても彼女たちはアイドルだった。当然、人間のファンもいた」

美城「CCGが受けた批判、攻撃に比べれば、私個人の風当たりなど無いに等しかった」


奏「すごく荒れた……と言うか、今でも荒れているものね。346プロのアイドルを擁護した人が喰種扱いされていたのは……失礼だけど、ちょっと笑っちゃった」



433: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:27:39.97 ID:OtjLsYf80


奏「それにしても……浄化って、随分とひどいことを言われたものね」

奏「でも、そっか。それならありすちゃんと唯はアイドルを続けられるのね」

奏「良かったら『応援してる』って伝えておいてくれないかしら?」


美城「……」

美城「……その話だが」


美城「『最終隠匿プロトコル』にて保護したアイドルと、その後検査のために招集し人間だと証明されたアイドルに意志を確認したが」

美城「左手首から先を欠損した木村夏樹、意識不明の椎名法子、両手の全指を欠損した水本ゆかり、重傷で保護された神谷奈緒、北条加蓮を除いて」

美城「生還した90名の人間うち10名が346プロから退社した」

美城「輿水幸子、五十嵐響子、中野有香、脇山珠美、森久保乃々、桐生つかさ、片桐早苗、浜口あやめ、向井拓海」

美城「そして橘ありすだ」


奏「……!」

奏「……あら。CCGもまだ、346プロのアイドルを全員判別できたわけじゃないのね」

奏「裕子が攫われる直前なら、346プロに所属していた人間アイドルは100名よ」

奏「裕子と、殺された茜、あとケガした人を含めても3人足りないわ」

奏「…まあ、一人はグレーだからカウントしていいのか分からないけど」

奏「誰が人間アイドルって分かってるの?」


美城「辞退者やけが人を除き、346プロでの活動続行の意志を表明した80名は」

美城「小日向美穂、櫻井桃華、道明寺歌鈴、乙倉悠貴、関裕美、白菊ほたる、福山舞、今井加奈、奥山沙織、横山千佳」

美城「太田優、棟方愛海、大原みちる、遊佐こずえ、大沼くるみ、相原雪乃、西園寺琴歌、楊菲菲、柳清良、榊原里美」

美城「安斎都、大西由里子、古賀小春、丹波仁美、池袋晶葉、原田美世、二宮飛鳥、上条春菜、佐々木千枝、松永涼」

美城「大和亜季、荒木比奈、松本紗理奈、松尾千鶴、岡崎泰葉、高橋礼子、服部瞳子、木場真奈美、水野翠、八神マキノ」

美城「浅利七海、高峯のあ、篠原礼、氏家むつみ、藤井朋、結城晴、桐生つかさ、鷹富士茄子、十時愛梨、市原仁奈」

美城「大槻唯、姫川友紀、及川雫、龍崎薫、難波笑美、依田芳乃、佐藤心、並木芽衣子、沢田麻理菜、矢口美羽」

美城「愛野渚、真鍋いつき、小関麗奈、メアリー、的場梨沙、財前時子、若林智香、ナターリア、相馬夏美、槇原志保」

美城「杉坂海、北川真尋、小松伊吹、三好紗南、キャシー、村上巴、首藤葵、冴島清美、南条光、イヴ・サンタクロース」

美城「付け足すと、木村夏樹は怪我こそしているものの復帰の意志をはっきり示している」


奏「志希と穂乃香と柚が欠けてるわね。あと80人の名前を何も見ずに言えるのは……ええ、流石ね」

美城「さらっと欠けた3人を指摘できる君が言えた立場ではない」


美城「……ところで、グレーと言うのは?」

奏「志希よ。あの子『半人間』だもの、流石に検査を受けるのは危ないと思ったのかしらね」



434: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:29:12.77 ID:OtjLsYf80


美城「そうか。まだ捜査対象には人間が混じっていたのか」

美城「上条春菜、佐々木千枝、荒木比奈、松本紗理奈は保護後の呼びかけで戻って来た」

美城「あれで全てだと思っていたのだがな。『準一級制度』は、この時のための保険でもあったか」

美城「……そして、奴らの殺戮は意味があったと言うことか」


奏「…ああ、少なくともその場で駆逐はされないように、ってことね」

奏「人間嫌いのちひろさんが、やけにあっさり譲ったなと思ったら」


奏「……それで」


奏「良かったのかしら? 私に、そんなに情報をペラペラと喋っちゃって」

美城「私の目的は346プロダクションの完塞だった。それは既に達成している」

美城「君こそ、まだ判明していなかったアイドルの情報を喋ってよかったのか?」

美城「私がまた密告するとは思わなかったのか」

奏「貴女がそうするなら、大人しく受け入れるわ。これでも常務の事は結構好きだもの」


奏「……さっき、『思い出話をしに来たわけではないだろう』って言ったでしょ」

奏「いいえ、思い出話をしに来たの。多分これが、常務に会える最後のチャンスだと思ったから」

奏「これから増々、余裕がなくなって来ると思ったから」





奏「教えてくれないかしら。346プロの最終隠匿プロトコルが失敗に終わった後」


奏「CCGに何があったのか、ありすちゃんに何があったのか」





常務「いいだろう。だが、そちらの情報も寄越してもらう」


常務「シンデレラプロジェクトに何があったのか、高垣楓が何をしたのか」


常務「君も知ってる全てを話してもらうぞ」





――――――――――――――――――――



435: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:29:53.77 ID:OtjLsYf80








「皆さん」


「私は"喰種"です。正確に言えば、2年前皆さんにご迷惑をおかけした『隻眼の喰種』です」


「最後に一回、皆さんに遊んでほしくて……今日カミングアウトを決意しました」


「CCGの皆さん。これから346プロの喰種の皆を探し、なぐーる、そうですね」


「かつてのお城で待ちます。私の強さは知ってる筈ですから、ちゃんと準備をして来てくださいね」



「私を殺しに来てください」





「私もそうします」







436: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:30:28.98 ID:OtjLsYf80






「ああもう」


「何でこんな、痛い目に遭うことが分かってたのに」


「わざわざこんなところに首を突っ込んだのかしら」


「346は最悪な組織だったし、楓ちゃんは相変わらず自分勝手だし」


「私は、こんなマヌケな死に方しそうだし……」


「……ああ、でも」



「正しいとか、間違ってるとか」


「そもそもそんなモノないのかもしれない」


「自分が今まで選んできたことは、自分の罪に出会えたことは」


「あの手のかかる子と346プロに入った事は」


「バカな小娘4人と、子供みたいにはしゃいだ事は」


「……今日、誰かのために死ねることは」


「『良かった』と思うわ」





「……うん」

「……今日なら死ねる」




437: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:31:08.20 ID:OtjLsYf80


奏「白鳩が蘭子を蜂の巣にした時、どうしてちひろさんはあの子を助けられたのか」

奏「それは、ある喰種が乱入して代わりに戦ってたからなの」

奏「誰なのかは言わなくても分かるわよね」


奏「その後、その場では一人も殺さないで」

奏「撮影していたヘリに向かって宣言をした」

奏「『346プロで待つから、殺しに来なさい』って」


奏「白鳩は346プロ相手の時よりもしっかりとした編成で、楓さんを殺しに来た」

奏「でも、楓さんも一人で立ち向かったわけじゃない」


奏「川島瑞樹さんに、三船美優さん」

奏「この2人も一緒に戦っていたの」


奏「…それと、白鳩は正体に気付かなかったみたいだけど」

奏「カメラで宣言をしたことで、楓さんのファンだった喰種が大勢集まって来た」

奏「結果、白鳩は予想以上に大人数を相手に戦うことになって」

奏「結局、楓さんは倒されちゃったけど……代わりに白鳩は多くの捜査官を失った」


奏「噂では、特等の何人かが『タケウチ』って言う鎧を使っていたみたいね」



438: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:31:36.24 ID:OtjLsYf80


――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――



439: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:32:30.96 ID:OtjLsYf80






「……美樹サン? 早苗サンか?」


「あんた、誰だ」


「何でなんにも言ってくれねえんだ……?」


「みんなどこにいるんだ」


「仁奈は……」





「いやだっ」


「仁奈に会いてえ」


「頼むから、仁奈に会わせてくれ」


「一緒にいたいって、言ってくれたんだ」


「もう寂しい思いはっ、させねえって、決めたんだよ」


「どこだ、仁奈っ」





「に……な……」







440: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:33:33.06 ID:OtjLsYf80


美城「確かに、高垣楓は重大な被害をCCGに与えた」

美城「だが、以前の業務が不可能になるほどではなかった」

美城「それだけCCGは何事もなく復活し、346の枷を失くした今、君達をすぐ追い詰めていただろう」


美城「だが、そうはならなかった。何故か?」

美城「それは高垣楓討伐作戦と同時に起こった」

美城「ある"喰種"たちによって、CCG本局が襲撃されたからだ」


美城「機材も局員も問わず、奴らは捜査局の基盤に壊滅的な被害を与えた」

美城「本局防衛に回っていた捜査官達も、その強大な力に容易く命を摘み取られた」


美城「その犠牲の中には、橘美樹準特等と市原ギン一等も含まれていた」


美城「万が一のことを考え、娘を一人にしないために」


美城「彼女たちは、比較的安全なはずの本局警備についていた」



441: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:34:03.69 ID:OtjLsYf80


――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――



442: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:34:35.02 ID:OtjLsYf80






「……あ」


「あー」


「へえええい、かもーん」


「べいべー、さんきゅううう」


「べりいストロング、サイキックパわー、いえーす」




「うしみたい」



「おさかなくわえた」



「さなえさああああん」







443: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:35:48.98 ID:OtjLsYf80


美城「高垣楓討伐作戦を含め、すべてが終わった後」

美城「残った局員をかき集め『キャッスル』に誘拐されたアイドルの捜索が行われた」

美城「……『死亡が確認されなかった』アイドルはたった3名だった」


美城「ビッグリリィに提供された神谷奈緒、北条加蓮」

美城「救助され、『生還』はした」

美城「だが、ビッグリリィの嗜好により、まるで手を繋いだ2人を反時計回りに削るかのように」

美城「神谷奈緒は右足を、北条加蓮は左腕以外の手足を切断されていた」

美城「現在、神谷と北条は入院中だ。リハビリこそ受けているが……」


美城「神谷はともかく、北条のアイドル復帰は絶望的だと言われている」



美城「そして、生存を確認されていないものの死体も発見されなかったアイドルがもう1人」

美城「通称『マッド』と呼ばれる喰種に提供された堀裕子だ」

美城「『マッド』の居住地に置かれていた資料によると、奴は『レシピ』なる技術を346プロに提供していて」

美城「自身も堀裕子にいくつかの実験、施術、拷問を行っていた」

美城「本人の日誌曰く、『4つ全て埋め込めた』らしい」


美城「そして、捜査官達が突入した時には……『マッド』は頭部を破壊され、絶命していた」

美城「そして窓は鉄格子ごと砕かれていた。まるで何かが脱走したかのようだったと聞いた」


美城「……『マッド』が346に提供した『レシピ』の詳細も、同場所に保存されていた」

美城「どうやらこれは、人間に施すことでその肉質を喰種にとってさらに美味にする効果があるようだ」


美城「堀裕子は現在、行方不明として扱われている」



444: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:36:15.70 ID:OtjLsYf80


――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――



445: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:37:11.55 ID:OtjLsYf80






「……早苗さん」


「あんたも見ただろ。CCGを襲撃した奴らの顔をよ」


「アタシも、言っちまえば弾かれ者だからよ。あいつらの気持ちも分かる気がするんだ」


「……里奈はどんな気持ちなんだとか、考えねえわけじゃねえんだ」


「でもよ……だからっつって、あいつらのやった事を許すことは出来ねえ」


「橘も、仁奈も、家族を奪われたんだ」


「もしあいつらが、これからも同じことをするって言うんなら……」


「アタシは、それを黙って見逃すわけにはいかねえ」




446: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:37:59.56 ID:OtjLsYf80






「……捜査官の皆さんが、教えてくれました」


「ゆかりちゃんと法子ちゃんがあんな目に遭ったのは、CCGへの牽制だったけど」


「2人が犠牲になった理由は、一人で逃げたあたしへの当てつけだったって」


「それ以外は、特に意味なんか無かったんだって」


「……それだけの理由で、ゆかりちゃんは一生フルートを吹けなくなって、自分で出来たはずのことが、たくさん奪われて」


「法子ちゃんは、大好きなドーナツも食べられない、お話することも出来ない」


「何もできない身体にされてしまいました」



「あたしは、絶対にあいつらを許せません」


「何の罪もない人を平気で犠牲にした346プロも」


「その犠牲の上に平気で胡坐をかいて、へらへらとアイドルを続けていた奴らも」


「……二人が傷つけられていた時、何もできなかった、傍にすらいなかったあたし自身も」



「……それと。あたしに、ちょっとしたお話がありました」


「もしかしたら、ゆかりちゃんと法子ちゃんを治せるかも知れないってお話が」


「ただ、その技術はすごく危なくて……下手に手術をしたら、その人を不幸にしてしまうかもしれないから」


「だから被験者が欲しいと言っていました」


「あたしは『適性アリ』でした」



447: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:38:37.64 ID:OtjLsYf80






「……父も母も、私の誇りでした」


「私を守るために、皆を守るためにいつも喰種と戦って」


「両親は最期まで、その務めを果たしました」


「だから、悲しくなんてありません」


「泣くこともしません」


「それは、お父さんとお母さんへの侮辱です」





「……桃華さん」


「誘ってくれて、ありがとうございます」


「仁奈ちゃんのこと、よろしくお願いします」


「……でも」





「私は大丈夫です」



「一人で歩けます」



448: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:40:06.65 ID:OtjLsYf80


美城「高垣楓討伐作戦では、橘実特等捜査官が殉職し」

美城「CCG本局防衛では、橘美樹準特等捜査官と市原ギン準特等捜査官が命を落とした」


美城「『奴等』によって、二人の少女が天涯孤独となった」


美城「櫻井家の申し出によって、市原仁奈は櫻井家の養子として迎えられたが」

美城「橘ありすはそれを断った」


美城「橘はCCGジュニアアカデミーへの編入を決めた」

美城「同時に、向井拓海と中野有香はCCGへの入局を決めた」


美城「…さきほど述べた通りCCGは一部の346アイドルのファンにバッシングを受けている」

美城「よって、同じく346のアイドルで喰種の被害を受けた橘や中野に」

美城「CCGの一員として宣言を行ってもらうことで、CCGの支持を回復しようとする動きがある」


美城「また、これはただの噂に過ぎないが」

美城「現在、346プロの残骸として発見された『レシピ』を応用し」

美城「喰種捜査官に喰種の能力を付与する計画が進行しているらしい」


美城「……どちらにしろ」


美城「君達と橘は、次に会うときは敵同士だと思いなさい」


奏「……」



449: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:40:32.96 ID:OtjLsYf80


――――――――――――――――――――



――――――――――――――――――――



450: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:41:26.56 ID:OtjLsYf80






「だりー、喰え」


「そうだ、アタシの左手だ」


「あんたのプロデューサーに斬られそうになった時、咄嗟に突き出しちまってな」


「おかげで即死しないで済んだけど……アタシには分かる。もうこの手は動かねえ」


「だからよ、だりー。こいつを喰って、お前は逃げろ」


「ちゃんと生き延びて……あとアタシの手はこんなのだから、ギターもちゃんと練習しろ」


「ついでに言えば、どうしてもって時以外は人を殺すなよ?」


「そして、何年かけてでもいい」


「生きて戻って……絶対アタシと、またセッションしようぜ」



451: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:42:29.19 ID:OtjLsYf80


奏「……ちゃんと仲良くなれた人間と喰種だっていたのに」

奏「私達は、そうはならなかったのね」


奏「知ってる? シンデレラプロジェクトの大半が死ぬか、捕まるかしたのに」

奏「どうして多田李衣菜だけは逃げられたのか」


奏「表じゃ、木村夏樹を食べて逃げたって言われてるけど」

奏「本当は、『食べさせてくれて』、『逃がしてくれた』って言ってたわ」

奏「私達は、李衣菜みたいにはなれないけど……」


奏「悪い喰種になりたくなくて頑張ってる『良い喰種』がいることも、忘れないであげてね」


美城「……君は『悪い喰種』になると?」


奏「ええ。もう、戻れないもの」

奏「私も参加したの。そのCCG本局襲撃にね」

奏「文香が死んだかどうかだけ、確かめたかった」

奏「……ある捜査官の持ってたクインケから、文香の匂いがしたわ」


奏「私らしくもなく、その時だけは冷静じゃなくなってた」


奏「殺した後で、その捜査官がありすちゃんに似てることに気付いたの」


奏「……これでいい人でいようだなんて。ありすちゃんが可哀想だと思わない?」



452: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:43:00.83 ID:OtjLsYf80


美城「……」

奏「さてと。色々教えてくれてありがとう、美城常務」

奏「これから私達は、『悪い喰種』としてCCGと戦う予定なの」

奏「私達の王様の意向でね。……だから、もうこれっきりにして会わない方がいい」

美城「……どういうことだ。なぜ戦う」


奏「王様が言ったのよ。『キャッスルがいたから、CCGはそっちとばかり戦ってたから、346プロの皆は安心できた』」

奏「『だから、私も同じことをする。残った皆が安心して暮らせるように、私がキャッスルの代わりになって戦う』って」


奏「組織の名前も決まってるみたい」

奏「ドイツ語で『蝕むもの』を表す言葉」



奏「エクリプス」



奏「……王様にとっては、色んな思いが詰まった名前らしいわね」



453: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:44:00.20 ID:OtjLsYf80


美城「私に口出しをする権利がないのは分かっているが、それでも言わせなさい」

美城「……その先に幸せなどないぞ」


奏「……そうね。きっと、惨たらしい最期が待ってる」

奏「それでも、今この辛さから逃れるために……せめて、仲間の無事に縋り続ける」


奏「そんな王様を見てられないから、私達も一緒に行ってあげるの」

奏「一人になるのは、誰だって怖いもの」



奏「さようなら、美城常務。どうか無事でいてちょうだい」

奏「346プロの子達はなるべく巻き込まないようにするから……そっちも、危ない所には行かせないでね」


美城「……ああ。さようなら。……もう、どうにでもなればいい」


美城「君も塩見も、宮本も。その手を止めるつもりがないのなら」



美城「―――神崎蘭子とともに、堕ちてしまえばいい」



――――――――――――――――――――



454: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:44:33.58 ID:OtjLsYf80


――――――――――――――――――――










――――――――――――――――――――



455: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:45:02.33 ID:OtjLsYf80











この世界は、間違っている












456: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:45:32.89 ID:OtjLsYf80



この世界は、間違っている


タベル
奪うしかない


タベル
守るしかない


タベル
失うしかない


タベル
間違うしかない





……私の救いは



眠りと、幸せな夢だけ





……私の救いは…………



――――――――――――――――――――



457: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:46:36.09 ID:OtjLsYf80


~高垣楓討伐作戦 当日~



「……お願い」


「行かないで」


「私、ちゃんと言ったのに」


「アーニャちゃんも、蘭子ちゃんも」


「何も変わらないって」


「『隻眼の喰種』だからって」


「蘭子ちゃんが戦う必要なんて、どこにもないのに」


「だから」





「……後生よ……」


「行かないで……」


「私達のためなんかで、人殺しにならないで……!!」



458: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:47:21.43 ID:OtjLsYf80


「……」


「ほんとに、強いんだね」

「美波ちゃん……杏たちのなかじゃ、結構強かったと思うんだけど」

「まるで手も足も出ないなんて」



「……美波ちゃんも、ああ言ってんだしさ」


「ねえ、蘭子ちゃん」

「蘭子ちゃんが『それ』、やる必要ないんじゃないの」



「生き延びればいいじゃん、ふつーにさ」

「待ってる人達も、ちゃんといるんだよ」

「死んじゃった人たちだって」



「みんな、蘭子ちゃんに生きて欲しいって思ってるよ」

「……杏だって、力づくで止めることは出来ないけど」

「蘭子ちゃんにこんなこと望んでるの、蘭子ちゃん以外にいないと思うよ」



459: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:47:55.21 ID:OtjLsYf80


「……うん」


「でも、私が全部壊しちゃったから」


「だから、責任はちゃんと取ろうって思うんです」


「もう死んじゃった人たちは、取り返せないけど」


「これから誰かを助けられる力があるなら、それを使いたいから」


「もう誰も、失いたくないから」





「美波さん」

「杏ちゃん」



「止めに来てくれて、ありがとう」



「……でも…………」







460: ◆AyvLkOoV8s 2017/10/07(土) 11:48:28.25 ID:OtjLsYf80
















蘭子「なにも出来ないのは、もう嫌なの」















偶像喰種外伝 Cinderella Ghouls



~終~



元スレ
卯月「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝完結編】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503146092/
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          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 17:28
          • 題名の段階できつい
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 18:08
          • 東京グールの二次創作だけあってタイトルも中身も上っ面でスカスカだな
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 19:08
          • 軽く飛ばし読みしたけど3レスに1回くらい

            ○○(───ナンチャラカンチャラ)
            みたいなのがガッツリ出てきて笑いがこらえられなくなったw
            どんだけ罫線好きやねん
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 19:13
          • タイトルで満足!
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 19:19
          • amazarashiの無駄遣いやめろ
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 21:01
          • 冴島清美(魔獣装甲)「ホ○ーと同様に人を害し人の世に陰我を振り撒き人の世の風紀を乱す喰種は全て駆逐しなければ」
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 21:24
          • ほんとだっせえポエムだよな
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 21:42
          • 3回にわたりまとめてくれるように懇願して
            ようやく念願叶ったらこの酷評ぶりとか
            作者の気持ちを思うとあまりにもかわいそう
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 21:52
          • まぁ誰もまとめで読みたいなんていってないですし
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 22:20
          • このSSを読み切れる奴だけが本物の喰種だ!
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 22:47
          • デレマスキャラ死にまくってるんでしょ
            ちょっとねー
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月12日 23:26
          • ※11
            喰種クロスな時点でこうなる事はわかりきってた。

            喰種なんて平成ライダーの怪人と同じでどんなに怪人の方にも同情出来る部分があっても人間とって皆殺しにした方がいい存在でそれを主役にした作品に大団円は不可能だからね。

            イヤなら読まなきゃいいし批判されるのがイヤなら書かなきゃいいのにって事に成る確率が高いクロス素材だよ。
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月13日 00:40
          • 東京喰種が叩かれるのは強キャラドヤ顔使い捨てシナリオが原因だぞ。
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月13日 01:16
          • ※13
            どんな作品でもそうだろ何言ってんだよwwとあるとか最たる例だろwwあれインフレが過ぎるどころの話じゃねぇぞww
          • 15. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月13日 01:27
          • とあるを例に挙げてる辺り笑えるわ
          • 16. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月13日 14:18
          • お前ら、渋では八幡クロスの他に実力至上主義の綾小路までPにしだす節操のない奴まで出たんだぞ
            これくらい耐えるんだ!
          • 17. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月13日 23:36
          • >楓「拝啓、忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩」【偶像喰種・外伝中編】
             
            これ何でタイトル勝手に【後編】を【中編】改変して掲載してるの?
              
          • 18. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月14日 11:58
          • しんどかったが胸糞悪さは1級品だ。面白かったと断言出来る
          • 19. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月15日 01:05
          • なんかこう…なぁ…。
            言い様のない不快感に襲われてるわ…。
            デレマスが喰種的なのと無縁だからギャップでしんどいのかもしれない。
            話は割と面白かったけど、アイドルがガンガン死んでくのは辛すぎた。
            総合的に読んで後悔してる。
          • 20. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月16日 20:31
          • 面白かったけど二度と読みたくないです…
          • 21. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年10月22日 11:37
          • 最終的にCPメンバーで生存は蘭子、凛、李衣菜、美波、杏、みく、みりあ、莉嘉+美嘉か
            響編ではLiPPSメンバーが暗躍してたけどCPメンバーの動向は全くわからなかったんだよなぁ

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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