【モバマス】多田李衣菜「サバの味噌煮」
前作
塩見周子「ぜんざい」
多田李衣菜はダイニングルームで、前川みくの帰宅を待っていた。
2人はユニットを組んで長いが、ここのところ、個別での出演が増えている。
だがそれによって、かえって李衣菜は、
みくへの思いやりが深まっていくような気がする。
寮のルームメイト、仕事仲間、どれにも当てはまらない温かな気持ち……。
収録で疲れていて、なにかと食生活が偏りがちなみくのために、
腕によりをかけて作られた料理。
だが、李衣菜はかすかな不安を感じていた。
扉が開く音。
李衣菜はぱたぱたと玄関に向かった。
「たっだいまにゃ〜!」
みくが帰ってきた。
「ばっちり!
お茶の間のみんなもみくに夢中になること間違いなしにゃ!!」
みくは意気揚々をダイニングへ向かう。
「良い匂いがするにゃ〜」
「うん…ご飯もちょうど炊き上がるようにしておいたから」
李衣菜は新妻のように甲斐甲斐しく、みくの後ろを追った。
だが、ダイニングに入った途端、みくは声を低くした。
みくが目にしたのは、李衣菜が用意した夕食。
普段のみくなら、李衣菜の献身をねぎらうなり、感謝するなりしただろう。
テーブルの上に、魚料理さえなければ。
「りーなチャン、みくがお魚嫌いなの知ってるよね」
あからさまに不機嫌な顔をして、みくが言った。
それに怯えたわけではないが、李衣菜はか細い声で返事をした。
「うん…でも、お魚には栄養がいっぱいあって、
私は…ただみくちゃんの身体のことが心配で…」
「健康管理くらい、自分でできるよ!!」
みくは他のアイドルと比べて、デビューが少し遅れた。
その影響か時々、異様なほど他者からの干渉を嫌う。
腫れ物のように扱われた時期が、彼女の自立心をささくれ立てせてしまったのだろう。
だが、本来のみくは心優しい少女である。
李衣菜が怯えているのに気づいて、顔をそっと伏せた。
「…大声出してごめん。
でもみくは、疲れたときは好きなものを食べたいの…にゃ」
外で食べてくる、とつぶやいて、みくは部屋から出て行った。
けれでも胃袋は空腹を訴えていたから、夕食をとることにした。
ほかほかの炊きたてご飯を、お椀によそってテーブルへ。
一人分の「いただきます」が、やけに部屋に響く。
ほうれんそうの胡麻和え。
きちんと水を絞って味付けをしたので、箸あたりがしんなり優しい。
口に含むと、青臭さを一切感じさせない、
ほうれんそうと胡麻のおだやかな風味が舌に広がった。
野菜の調理で腕前が知れるというが、その点で李衣菜は、
かなりの水準に達していた。
塩を軽くふって、ただ焼いただけの料理だったが、
その“焼いただけ”が良い仕事をしていた。
キャベツやパプリカは、砂糖をまぶしたのかと疑うくらい芳醇な甘み。
子どもたちに敬遠されがちなピーマンとナスも、御馳走へと変わっている。
李衣菜自身でも驚くくらい、ご飯が進んだ。
スーパーで特売であったため追加した料理であったが、
出汁は粉を使わず、昆布とかつおぶしから煮出した。
それが功を奏し、身体にしみじみと行き渡る、良い仕上がりになっていた。
そして彼女は、とうとう、みくと自分を引き裂いた相手と合間見えた。
今回の料理の中で、李衣菜がもっとも自信を持っていた一品である。
みくの嫌う魚臭さを最小限にすべく、最大限の努力をした。
わざわざ郊外の魚屋に出向いて、パックにされる前の新鮮なサバを手に入れた。
血抜きや臓物抜きも手際よくこなし、霜降り(お湯のまわしかけ)で身を締めた。
酒、生姜、味噌を絶妙なバランスで使い、時間をかけてゆっくりと煮込んだ。
少なくとも、調理は完璧だった。
それでは味の方はどうか。
それでいてわざとらしくなく、きちんと味噌の旨味と調和している。
手間をかけた分、魚の身はほろほろとやわらかく、口の中でとろける。
今晩の夕食はすべて、最高の出来だった。
だからこそ、李衣菜は悲しかった。
みくちゃんに食べてほしかったなあ…。
李衣菜はゆったりとサバを味わいながら、
改めてみくの存在が、出会ったころよりも、
自分の中で大きくなっているのを感じた。
明日の昼食にするつもりである。
だが、みくが食べるはずだったサバの味噌煮を、箸で持ち上げた時、
不意に涙がでてきた。
私は、いらない。
みくは、アスタリスクではなく、
前川みくという1人のアイドルとして、十分以上に活動できている。
健康や食事だって、李衣菜がいなくても、1人でなんとかするだろう。
李衣菜は知っている。
他のアイドルや、みくのファンよりも、知っている。
前川みくは、すごい女の子なのだと。
憧れのロックなアイドルは、まだ遠い。
いや、ひょっとしたら、
アイドル人生を全てかけても、見つかるかどうかわからない。
親友の木村夏樹は
「その“わからない”に、“だけど”を返せるのがお前のロックだ」
と言ってくれた。
だが、どうしようもなく心細いときがある。
「塩分注意…なーんて…」
李衣菜は、涙がお弁当箱に入らないように、
顔をしばらく上げていた。
お弁当箱におかずを詰め終わって冷蔵庫にしまったとき、
どっと疲れがやってきて、ダイニングで眠ってしまったのだ。
時計を見ると、プロダクションに行く時間が迫っていた。
立ち上がると、猫柄のブランケットが床に落ちたが、
李衣菜は気にもとめずに身だしなみを整えた。
そして部屋を出る直前、お弁当のことを思い出して、
冷蔵庫を開けた。
おかしいな。
李衣菜は台所を探した。
そしてまさかと思って引き出しを開けてみた。
みくのお弁当用の箸が、なくなっていた。
李衣菜はきゅうと胸が苦しくなって、その場にうずくまった。
レッスンに遅れるのもロックかな…。
李衣菜はしばらく、痛いくらいにあたたかい気持ちを、抱きしめていた。
元スレ
多田李衣菜「サバの味噌煮」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1503840924/
多田李衣菜「サバの味噌煮」
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コメント一覧 (21)
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- 2017年08月28日 13:28
- いいね!( * )
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- 2017年08月28日 14:14
- りーなは重い女よ…
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- 2017年08月28日 14:46
- みく「あんなに言ったのにお弁当にまで魚が入ってるにゃ…」
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- 2017年08月28日 15:07
- 3
天の道を往き総てを司る多田
「おばあちゃんが言っていた。食べるとは人を良くすると書く。このサバ味噌を食べることでアイドルは疎か人としても一つ上を目指せるかもしれないよ?」
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- 2017年08月28日 15:48
- これ東京の水で作っちゃってるけどいいの?
京都の名水とか買って作った方がいいんじゃない
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- 2017年08月28日 16:01
- ※5
お前みたいなクソが一人でも減りますように
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- 2017年08月28日 16:57
- りーな「お題!さばを味噌で煮込んだもの!さばのみそ煮!!」
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- 2017年08月28日 17:17
- 卯月さりげなさ過ぎる
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- 2017年08月28日 17:19
- 東京の水じゃアカンやろなぁ
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- 2017年08月28日 17:24
- みくも関西の水で作った料理なら食べただろうに
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- 2017年08月28日 17:48
- 東京の水使っちゃどんな上等な食材もたちまち生ごみに早変わり
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- 2017年08月28日 17:49
- りーなの方がヒロインしてるのは珍しいな
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- 2017年08月28日 18:34
- 鯖を仕入れるためにパック詰めされる前の品(恐らく築地市場)買いに行くリーナが東京の水なんて使うと思ってんの?
Amazonかメルカリで新鮮な水買ったに決まってんだろ
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- 2017年08月28日 19:31
- ※1
いくらユニット名とはいえ
ケツ穴を※欄に載せるとは何事ですか
恥を知りなさい
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- 2017年08月28日 22:51
- 馬鹿ばっか
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- 2017年08月28日 23:07
- 甲斐甲斐しい新妻りーな最高
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- 2017年08月30日 01:45
- 一応料理SSなのにその辺の主婦ですら知ってるような情報さえ出てこなくて草生える
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- 2017年08月30日 02:19
- >>17
その具体的内容を書けよ
ただ馬鹿にしたいだけに見えるぞ
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- 2017年08月31日 00:33
- 前作のコメもそうだけど何か悪い事書いたわけでもないのに迷惑コメ多すぎだろ。自分の好みに合わないものはスルーで、好みだったものにコメントすればいいのにな
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- 2017年08月31日 01:28
- 文体からして迷惑コメ連投してるのは前のSSの米欄荒らしと同じ人だぞ。水道水で作ったなんてどこにも表記されてないのにやたら水道水にこだわってるし
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- 2017年08月31日 02:00
- 作者が関西の水Pって呼ばるようになりそう