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狐神「おぬしはお人好しじゃのう」 其ノ貮【後半】

関連記事:狐神「おぬしはお人好しじゃのう」 其ノ貮【前半】





狐神「おぬしはお人好しじゃのう」 其ノ貮【後半】






590: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:20:24.96 ID:RJRubkLg0






共和国首都の聖騎士長「やれやれ、いい加減諦めてくれませんかね」

レライエ「ふん、貴様のようなガキに我が捕まるわけが無いであろう」

レライエ「効果が切れれば再び振り出しに戻る」

共和国首都の聖騎士長「そうなる前に拘束したいのですが」

レライエ「拘束か……不便な術だなこれは」

レライエ「たしかに今の我は無力だが、同時に貴様らも我を滅する手段が無い」



591: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:22:11.71 ID:RJRubkLg0

レライエ「我を捕らえて術が解けるのを待たねばならないという事か」

レライエ「我が逃げ切ればこの術は無意味だったというわけだ」

共和国首都の聖騎士長「無意味ではありませんよ」

レライエ「話しながら斬りかかってくるとは野蛮だな」

共和国首都の聖騎士長「急がないといけないのでね」

共和国首都の聖騎士長「……この術のお陰でさっきの状況を打破し、隊を配備する十分な時間を稼げました」

共和国首都の聖騎士長「ここで貴女を捕らえられないならば、正攻法で攻め落とすまでです」

レライエ「正攻法で攻め落とす? われの配下の練度を貴様らと同等に考えるな」

共和国首都の聖騎士長「確かにこちらは苦戦しているようですね……」

レライエ「それに加えてここは我のダンジョンである。この空間が我らの味方なのだ」



592: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:23:02.80 ID:RJRubkLg0

レライエ「貴様らに敗れる理由がない」

共和国首都の聖騎士長「なるほど……」

共和国首都の聖騎士長「──ならばやはりここで貴女を倒すべきね……!」

レライエ「遅いぞ愚か者……が……?」

レライエ(足が……動かん……!?)

共和国首都の聖騎士長「念には念を……念には念を……それが私のやり方です」

共和国首都の聖騎士長「妖精化の術だけじゃないんですよ、こちらの手札は」

共和国首都の聖騎士長「さあ、終わりです……!」

レライエ「……ッ!」


レライエ「────クッ……ハハッ……ハハハッ!」


共和国首都の聖騎士長「っ!?」



593: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:24:31.63 ID:RJRubkLg0

レライエ「…………ほう?」

レライエ「心の臓を狙ったが、どうにか腕で防いだか……流石だな」

レライエ「だがそれで十分だ。これで詰みだ」

共和国首都の聖騎士長「ま……さか……」

レライエ「そう、目の前で貴様と話していたのは我ではない」

レライエ「本物の我は既に術から解放されていたのだ」

共和国首都の聖騎士長(幻術を利用した替え玉か……!)

レライエ「念には念をか……」

レライエ「もう少し警戒するべきだったな人間」

レライエ「さあ、我の毒矢は効くぞ……?」

共和国首都の聖騎士長「くっ……!」



594: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:25:49.59 ID:RJRubkLg0






お祓い師「中心部は後どれ位だ?」

狐神「もう少しじゃ。敵の気配もあらんし、焦らずに行くとしよう」

お祓い師「わかった」

お祓い師(やはり親父が先行したお陰だろうか……。戦線を抜けたら中心が近いのに敵の気配が無い)

狐神「おぬしよ」

お祓い師「ん?」



595: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:29:05.84 ID:RJRubkLg0

狐神「携行食を寄越せい」

お祓い師「ああ……ほらよ」

狐神「うむ」

お祓い師「流石に疲れたか?」

お祓い師「直線距離はそうでもないのかもしれないが中心に近づくほど地形が入り組んでいるからな……」

狐神「いや、まだ体力的には余裕があるのじゃが……」

狐神「まあなんじゃ、保険と言うのかの」

お祓い師「保険?」

狐神「うむ」

狐神「今はおぬしとわしの二人での行動。有事の時に頼れる仲間らは離れた場所……」



596: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:29:41.88 ID:RJRubkLg0

狐神「わしらが持つ身を守る力の中で最も有効な手段は逃げることじゃ」

狐神「もしもの時にこの迷宮の端から端まで逃げられるような力を蓄えおくべきじゃろう?」

お祓い師「まあ、それもそうだな」

狐神「じゃろう?」

狐神「……さて、おぬしよ」

お祓い師「どうした?」

狐神「話しておる内に着いたようじゃぞ」

狐神「目的地の入り口に、って事じゃが」

お祓い師「あれは……教会か……」

お祓い師「教会はそのままの形で残っているんだな」



597: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:31:05.21 ID:RJRubkLg0

狐神「さしずめ征服の象徴と言ったところじゃろうな」

狐神「あそこの地下にお父上がおる」

お祓い師「中に敵の気配は?」

狐神「感じられる限りでは……無い」

お祓い師「……よし、行くか」

狐神「うむ」

お祓い師「内装もそのままだな」

お祓い師「方向は?」

狐神「こっちじゃ」

お祓い師「な……」



598: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:31:43.29 ID:RJRubkLg0

お祓い師「ここは教会の中心、礼拝堂だ。こんな目立つ所に隠し扉が……?」

狐神「ええと、ここじゃのう」

お祓い師「絶対神の像の裏側……確かにそんなところを覗く奴なんているわけが無いか」

狐神「地下への階段が続いておる。これを降りれば着くじゃろう」

狐神「……む……?」

お祓い師「狐神……?」

狐神「おぬしよ! 伏せい!!」

お祓い師「なっ!?」

お祓い師(硝子を突き破って何かが飛び込んできた……!?)

共和国首都の聖騎士長「ぐっ……」



599: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:32:36.36 ID:RJRubkLg0

お祓い師「お前は……!」

共和国首都の聖騎士長「おや……貴方が何故ここに……?」

お祓い師「そんなことよりお前……左腕が……!」

共和国首都の聖騎士長「ああこれはですね……」

共和国首都の聖騎士長「彼女……レライエは戦争を引き起こす悪魔であると同時に毒矢を射る狩人……」

共和国首都の聖騎士長「腕に一矢貰ってしまいましてね……切り落とさなければ体中の肉が腐り落ちてしまうところでした」

狐神「なんと……」

お祓い師「部下と一緒に行動していなかったのか?」

共和国首都の聖騎士長「いえ、途中までは一緒だったのですが……」

共和国首都の聖騎士長「向こうの手勢の大部分を引き付けてくれましてね、お陰で命拾いしましたよ」



600: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:34:06.68 ID:RJRubkLg0

共和国首都の聖騎士長「ですが向こうの頭は私にご執心のようでしてね……それはそれはしつこく追いかけてくるんですよ」

共和国首都の聖騎士長「今も窓の外から何人かを従えて弓でこちらを狙っている筈です……」

共和国首都の聖騎士長「絶対にこの祭壇から顔を出さないでくださいね」

お祓い師「ああ……」

お祓い師(だがこのままでは膠着状態が続くだけだ……)

お祓い師(何とかあの地下への入り口を開けに行かないと……)

お祓い師「狐神、矢で射られないようにあの入り口を開けに行く方法は……」

狐神「無い」

お祓い師「な、無いだと?」

狐神「うむ。外で構えておるという弓兵どもは相当の練度じゃ」



601: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:36:25.93 ID:RJRubkLg0

狐神「そやつが言うように少しでも顔を出せば瞬く間に射られてしまうじゃろう」

狐神「当然あの鉄扉を悠長に開けている時間など許してはくれぬじゃろうな」

狐神「わしに出来るのは意志がある者の行き先を変えることであって幻覚を見せることではあらん」

狐神「弓兵の狙いを撹乱するという使い方も出来ぬ」

共和国首都の聖騎士長「ふう……八方塞がりですね」

共和国首都の聖騎士長「これで彼女らがぐるっと回ってあちらの入り口から現れでもしたら……」


レライエ「現れでもしたら、どうする?」


狐神「…………!」

共和国首都の聖騎士長「っ……!」

共和国首都の聖騎士長(流石狩人を名乗るだけはありますね……上手く追い込まれていたとは……)



602: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:38:48.62 ID:RJRubkLg0

お祓い師(ん……? なんだ……?)

共和国首都の聖騎士長「……いやいや、これは参りましたね……」

お祓い師「…………」

レライエ「ふん、コソコソと逃げ回りおって」

共和国首都の聖騎士長「応急処置をしたとはいえ、この怪我で相手をするのはちょっとキツいですから」

レライエ「ふん、よく言うわ」

レライエ「貴様、ランクはA1級であったか……」

共和国首都の聖騎士長「らしい、ですね」

レライエ「誇って良いぞ、貴様は我よりも強い」

レライエ「我は名前こそ多少は世に行き渡ったようだが、所詮A2程度の力しか無い」



603: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:40:13.00 ID:RJRubkLg0

共和国首都の聖騎士長「まあランクなんてものは実績なんかも加味しますから、正確に強さの尺度としては使えないでしょう」

レライエ「ふん……狐女よりも狐らしいな貴様は」

レライエ「……我はA2止まりの悪魔ではあるが、ここは我の迷宮である」

レライエ「ここに居る時だけは、我もS級という領域に片足を踏み込める」

レライエ「その我をここまで追い詰めた貴様もあるいは……」

共和国首都の聖騎士長「……まあ何にしても、この通り片腕が無くなってしまいましたから」

共和国首都の聖騎士長「勝てる見込みは全く」

レライエ「どこまでも謙遜するか……その片腕でエルフの弓兵を相手にあれほど立ち回っておきながら」

お祓い師「エルフの弓兵だと……!?」

狐神「何か驚く事なのかの?」



604: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:41:20.77 ID:RJRubkLg0

お祓い師「ああ……奴らは人外でありながら人とはもちろん、他の人外と交わることすらも嫌う森の民だ」

お祓い師「数百年……約千年前に魔王軍と人類が全面的に衝突した時でさえ、彼らの多くは不干渉を貫いたと言う……」

レライエ「実際多くは王国と北方連邦の間……自治区に今も引きこもっている」

レライエ「しかし我らに賛同する者も一定数いるということだ」

レライエ「人間が支配し、人間のみが生きることを許されるこの世は正されなければならない」

レライエ「貴様も人外ならばそう思わんか、狐の娘よ」

狐神「…………」

狐神「確かに今の世の中はわしらにとっては暮らしにくいのう」

狐神「わしらにだって人間と同じように生きる権利があるじゃろう」

狐神「この世は変わらねばならないとこやつは言っておったが、わしもそう思う」



605: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:41:50.28 ID:RJRubkLg0

レライエ「ほう……末裔がか」

お祓い師「…………」

狐神「じゃがおぬしらのやり方には賛同できぬ」

レライエ「…………」

狐神「様々な命が集まって出来上がったこの社会もまた一つの大きな生き物であると言える」

狐神「生き物は、社会は急には変われぬ」

狐神「無理に形を変えようとすれば、亀裂が走り、ボロボロと崩れるだけじゃぞ」

レライエ「この世が変わるまでゆるりと待てと言うのか?」

狐神「じっくりと変えていくのじゃ」

レライエ「その間にも同胞達は虐げられ、死んでゆく」



606: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:42:46.01 ID:RJRubkLg0

狐神「おぬしらがこうした行動を起こせば、それに巻き込まれた者たちが死んでゆく」

レライエ「目的も同じ、経過も同じならば既に動き出した流れに乗れば良いと思わんか?」

狐神「本当に目的が同じかのう?」

狐神「おぬしらはの目的は本当に平等な世なのかのう?」

レライエ「…………」

狐神「いや、おぬしに関しては分からぬが、“おぬしら”はどうなのかの?」

レライエ「……こちらに下るつもりは無い、と」

狐神「そうじゃな」

レライエ「……ならば、話は終わりだ」

レライエ「貴様も同胞の一人……我らに従うと言うのならば見逃してやろうとは思ったが」



607: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:43:35.60 ID:RJRubkLg0

レライエ「残念だが死んでもらう」

狐神「…………」

レライエ「しかし何故ここ貴様らがいるのかと思ったが……なるほど末裔は気がついたか」

レライエ「その懐の魔石を使って氷の退魔師を結界から解放しようと考えたな?」

お祓い師「…………」

レライエ「だが残念だったな……それは不可能である」

狐神「……!」

お祓い師「……何故だ……」

レライエ「貴様が考えた通り、あの結界は閉じ込められた者自身の力のみを写し出し、魔石などはその内に含まれない……」

レライエ「しかしあの結界はその者の本来の力……つまりは潜在する力の限界を写すのだ」



608: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:51:02.82 ID:RJRubkLg0

レライエ「どれ程優れた者であっても自分の潜在能力をすべて引き出す事は出来ない」

レライエ「そしてその差はその石ころ程度で埋められる差では無い」

レライエ「術者というのは日頃から魔石を身に着けている者が多い……その程度は考慮にあったに決まっているであろう」

お祓い師「クソッ……」

レライエ「貴様を殺すことで我らは千年の因縁に一つケリをつける事ができる、末裔よ」

レライエ「それでは死ね──」


共和国首都の聖騎士長「油断は良くないですよ」


レライエ「がっ……!?」

共和国首都の聖騎士長「おっと、眉間を撃ち抜くつもりだったのですが……やはり慣れない物は駄目ですね」

レライエ「きさ……ま……!」



609: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:54:36.68 ID:RJRubkLg0

共和国首都の聖騎士長「最近流行りの小型の鉄砲……拳銃ってやつですね。ずっと隠れて生きていた貴女方はご存じないかもしれませんが」

共和国首都の聖騎士長「隠し持つには良いんですよ、これ」

共和国首都の聖騎士長「普通の弾ですので致命傷では無いでしょうが……その腕ではしばらく弓は射れませんね。これでおあいこです」

レライエ「我の腕を……! 許さん……!!」

共和国首都の聖騎士長「私の事ですから他にも何か隠しているかもしれませんね……迂闊に動かないほうが良いかもしれませんよ?」


レライエ「……クッ、同じ手に二度も引っかかるとはマヌケだな……!」


共和国首都の聖騎士長「まさか、また身代わりの……!?」

レライエ「貴様がどういう人間かはいい加減わかった」

レライエ「こちらだって慎重になるというものだ」

共和国首都の聖騎士長「……!」



610: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:55:04.77 ID:RJRubkLg0

レライエ「騙し合いでは幻術に勝るものは無いな。真が見えないのだから仕方はないが……」


お祓い師「──いや、“見えてたぜ”」


レライエ「なっ……!」

お祓い師「あいにく俺には並の幻術は効かないんでね」

お祓い師「道具師に貰った札の威力、どんなものか試させてもらうぜ……!」

レライエ「がっ!?」

お祓い師(おお、すげえ爆発だ……!)

お祓い師「よし、トドメを……!」

狐神「待て! 何か来おる!」

エルフの弓兵A「レライエ様!」



611: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:58:12.36 ID:RJRubkLg0

エルフの弓兵B「奴らからお護りしろ!」

お祓い師「弓兵が飛び込んできやがった……!」

共和国首都の聖騎士長(今ですね……!)

お祓い師「何だ!?」

狐神「礼拝堂が崩れる!?」

共和国首都の聖騎士長「氷の退魔師殿と戦っている最中にちょっと細工をしておきました」

お祓い師「どこまでも準備がいい人だなあんたは……」

共和国首都の聖騎士長「そういう性格なものでして」

共和国首都の聖騎士長「さて、この隙に逃げましょう」

エルフの弓兵A「逃がすか! 射て!」



612: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:58:56.08 ID:RJRubkLg0

狐神「左に避けい!」

お祓い師「うわっ!」

共和国首都の聖騎士長「レライエのような力に寄るものでは有りませんが、エルフも毒矢の扱いに長けています」

共和国首都の聖騎士長「当たらないように気をつけましょう」

お祓い師「腕切り落とすのは勘弁だな……」

狐神「目的地が遠ざかるのう」

お祓い師「俺の案じゃ無理だって分かった訳だし、今は引くしか無い」

お祓い師(当然今後はこの辺りは近寄り難くなるわけだが……)

お祓い師「こうなったらもう、レライエを俺たちで倒すしか無いか……」

狐神「結局一番頭を使わない方法になるのじゃな」



613: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 20:59:38.61 ID:RJRubkLg0

お祓い師「頭は使わないと倒せねえよ!」

お祓い師「とにかく今は包囲される前に遠くへ逃げるぞ!」

レライエ「逃、が、すか馬鹿めが……!」

お祓い師「こいつ……!?」

共和国首都の聖騎士長「もう傷口が……!」

お祓い師「これもダンジョンの恩恵か……!」

狐神「とにかく何かに隠れねば!」

レライエ「そこから退くなよ……もう片腕も落としてやろう……!」

お祓い師「(どうする……?)」

狐神「(向こうの角までは姿を見られずに行けるじゃろう)」



614: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:00:13.82 ID:RJRubkLg0

レライエ「ッ!」

お祓い師「なっ!?」

共和国首都の聖騎士長「……!」

共和国首都の聖騎士長(あ、あと少しずれていたら当たっていましたね……)

狐神「(物陰なのにどうやって……!?)」

共和国首都の聖騎士長「(どうやら矢の軌跡を曲げられるようですね……)」

共和国首都の聖騎士長「(ここに身を潜めていても袋の鼠です。急いで先へ進みましょう)」

お祓い師「(き、狐神……!)」

狐神「(分かっておる……!)」

狐神「…………」



615: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:03:04.55 ID:RJRubkLg0

狐神「(今じゃこっちへ!)」

レライエ「…………!」

レライエ「腕を置いていけ、この……!」

お祓い師「ぐっ!?」

狐神「おぬし!?」

お祓い師「かすっただけだ……! だが……!」

共和国首都の聖騎士長「毒はすぐに体を蝕みます! 処置の方法はこれしか有りませんのでご容赦を!」



616: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:03:33.65 ID:RJRubkLg0






お祓い師「はあっはあっ……ここまで来れば……」

狐神「うむ……追って来る気配はあらん」

共和国首都の聖騎士長「さっきトドメを刺せれば良かったのですが……どうにも拳銃というのは扱いが難しいですね」

共和国首都の聖騎士長「撃ち切っても一発しか当たりませんでした」

お祓い師「どっちにしても小さな鉛玉で仕留めきれたかは微妙だ……」

共和国首都の聖騎士長「それは確かにそうですね」



617: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:04:09.99 ID:RJRubkLg0

狐神「それよりもおぬし、大丈夫かの……?」

お祓い師「ああこれか? 正直に言うと滅茶苦茶痛い。泣きそうだ」

お祓い師「矢が当たった部分をナイフで削ぎ落としたんだからな」

共和国首都の聖騎士長「乱暴な処置で申し訳ありません……」

お祓い師「いや、これしか方法が無かったなら仕方が無いさ」

お祓い師「同じように腕を落とす羽目にならなかっただけマシさ」

西人街の聖騎士長「おう、無事だったか」

共和国首都の聖騎士長「どうも」

西人街の聖騎士長「って、腕が……!」

共和国首都の聖騎士長「ああこれは……まあ色々と」



618: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:07:17.67 ID:RJRubkLg0

共和国首都の聖騎士長「応急処置はしたのですが、一応衛生班に見てもらいたいですね」

西人街の聖騎士長「あ、ああ……」

お祓い師「で、状況は?」

西人街の聖騎士長「相変わらず膠着していて中々踏み込めねえ……」

共和国首都の聖騎士長「そうですか……」

共和国首都の聖騎士長「こちらはダンジョンの主をあと一歩まで追い込みましたが、すんでのところで……」

狐神「追い込まれていたのはわしらの方じゃったがの」

共和国首都の聖騎士長「あれは作戦の内です」

狐神「どうだかのう……」

共和国首都の聖騎士長「ふふふ……」



619: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:07:50.38 ID:RJRubkLg0

共和国首都の聖騎士長「まあこうして敵の陣営の中を駆け回って、向こうの大体の残存戦力の目星がつきました」

西人街の聖騎士長「勝機は?」

共和国首都の聖騎士長「おそらくあの感じでしたら数で押し切れば、いけます」

共和国首都の聖騎士長「主力は既に氷の退魔師殿が削ってしまいましたからね。残りはほぼあの弓兵隊だけです」

共和国首都の聖騎士長「拠点に残っている団員をもう少しこちらに回して、敵陣を囲みましょう」

西人街の聖騎士長「わかった。早馬を向かわせよう」

お祓い師「ちょっと待ってくれ」

西人街の聖騎士長「ん?」

お祓い師「ついでに食料の補給も頼みたい」

西人街の聖騎士長「食料? 腹でも減ったのか?」



620: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:10:01.72 ID:RJRubkLg0

お祓い師「いや、親父の分だ」

お祓い師「流石に水筒や携行食は持っていたはずだが、それももう尽きるだろうからな……」

狐神「なるほど。伝説の術師も生き物である以上食は必須ということじゃな」

お祓い師「ああ、そういう事だ」

西人街の聖騎士長「なるほど、それではその事も伝えさせよう」

お祓い師「頼む」

西人街の聖騎士長「そういえばお前の考えた方法は駄目だったのか?」

お祓い師「まだ試していないが、やる前にレライエに無駄だと言われた」

西人街の聖騎士長「敵の言葉を鵜呑みにするのか?」

お祓い師「いや、理にかなった事を言われたんでな……」



621: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:10:56.84 ID:RJRubkLg0

お祓い師「そもそも賭けに近い案だったから、こうなったら正攻法で行くだけだ」

西人街の聖騎士長「なるほど?」

西人街の聖騎士長「それじゃあ増援到着前に出来ることを済ませちまうか」



622: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:11:31.65 ID:RJRubkLg0






お祓い師「増援到着から三時間……」

お祓い師「まさかここまで簡単にいくとはな」

共和国首都の聖騎士長「残存兵力も地形も把握しており……」

共和国首都の聖騎士長「敵の主力は氷の退魔師殿がほぼ片付けてしまいましたから、数で勝る我々が負けるはずがないです」

お祓い師「それはそうだが……」

お祓い師(やはり聖騎士長のような優秀な頭が二人もいると戦術的面でも大きく違うみたいだな)



623: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:14:23.91 ID:RJRubkLg0

お祓い師(そういう立場に立ったことが無い俺には到底無理な芸当だな)

共和国の聖騎士A「団長。敵のエルフの弓兵を新たに捕らえました」

共和国首都の聖騎士長「ご苦労様。術での反撃をされないようにきちんと対策しておいてくださいね」

共和国の聖騎士A「はっ!」

お祓い師「捕虜か?」

共和国首都の聖騎士長「ええ」

共和国首都の聖騎士長「……この戦いはまだ始まったばかりです。大陸中に出現したという他のダンジョンが全て同様に上手く攻略されているとは限りません」

共和国首都の聖騎士長「それに先ほど貴方が説明してくれたように、このダンジョンは敵の陽動に過ぎない……」

共和国首都の聖騎士長「この規模ですら陽動に過ぎないのです……」

お祓い師「…………」



624: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:15:04.32 ID:RJRubkLg0

共和国首都の聖騎士長「おそらくこれから、大陸全土を巻き込んだ大きな戦乱が起こるのでしょう」

共和国首都の聖騎士長「そこで大事になるのは、なるべく敵を増やさず味方を増やすことです」

共和国首都の聖騎士長「森の民は我々の味方になれる可能性があります」

お祓い師「今まで倒した奴らは、味方にはなり得ないと」

共和国首都の聖騎士長「そうですね」

共和国首都の聖騎士長「彼らのような純粋な悪意の塊はどうしようも無いのです」

共和国首都の聖騎士長「貴方はこの先、人と人外が平等に生きていけるような世の中を目指していきたと言っていました」

共和国首都の聖騎士長「それは具体的にどのように」

お祓い師「……法だ」

お祓い師「法で彼らにも人間と同じ権利を与えるしか無い」



625: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:16:07.75 ID:RJRubkLg0

お祓い師「人の世で共に生きれば、例え人外であってもそこに適応して生きていけるはずだ」

共和国首都の聖騎士長「確かにそれは可能でしょう」

共和国首都の聖騎士長「ですが……」

狐神「じゃが、それはこれから生まれてくる者たちに限る」

狐神「わしらのように、既に人外として生きてきた者達は人外として振る舞うことでしか力が得られぬ」

狐神「わしがおぬしの力に依存しておるようにのう」

お祓い師「その通りだ……」

お祓い師「だが今生きている奴らを救う方法もあるはずだ」

共和国首都の聖騎士長「その方法とは?」

お祓い師「魔石だ。俺たち術師が魔石から力を得られるように、人外にも魔石から力を供給する方法があるはずだ」



626: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:17:22.88 ID:RJRubkLg0

お祓い師「現状では単純な力への応用しか出来ないが、研究が進めば必ずどんな人外にも適用出来るはずだ」

共和国首都の聖騎士長「なるほど……」

お祓い師「法の整備も、術の開発もとてもじゃないが俺の力では無理だ……」

お祓い師「他人任せにはなってしまうが、それらが達成されれば必ず平等な世界が訪れる」


レライエ「────そんな世は訪れないッ…………!!」


お祓い師「がっ……!?」

共和国首都の聖騎士長「なっ!?」

お祓い師「レラ……イエ……!」

狐神「おぬし! まさか……!」

レライエ「…………」



627: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:18:50.13 ID:RJRubkLg0

西人街の聖騎士長「てめえ、何してやがる!」

レライエ「チッ……!」

共和国首都の聖騎士長「一体どこから……!」

レライエ「フン……」

レライエ「ここは我の迷宮だ……回り道ぐらい把握している」

レライエ「この怪我では確かに上手く弓は射てないが、矢を直接突き立てる事ぐらいは出来る」

狐神「矢が……! おぬしよ……嘘じゃ……!」

共和国首都の聖騎士長「とにかく矢を抜いてください!」

共和国首都の聖騎士長「しかし腹部となると私のように切り落とす処置は出来ない……」

お祓い師「…………」



628: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:20:24.34 ID:RJRubkLg0

狐神「どうして、こんな……」

狐神「嫌じゃ……嫌じゃあっ……!」

西人街の聖騎士長「やりやがったな……」

レライエ「……せめてもの反撃だ」

レライエ「もう我々の敗北は決定したようなのでな」

西人街の聖騎士長「どういう意味だ……」

レライエ「……どういうカラクリかは知らないが、氷の退魔師が結界を破ったようだ」

西人街の聖騎士長「何……?」

レライエ「各ダンジョンには撤退用に転送魔法陣が一回分だけ支給されていた……」

共和国首都の聖騎士長「転送魔法陣……! そんな高度なものを……!」



629: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:21:21.62 ID:RJRubkLg0

レライエ「だが氷の退魔師が現れては撤退どころではないのでな」

レライエ「急遽強力な兵を転送してもらったのだが……全滅とは笑えるな。ふん、どちらが怪物か……」

レライエ「転送陣無しではもう我らは撤退はできん……」

レライエ「せめて滅せられる前に一つ嫌がらせをしに来たという訳だ」

狐神「貴……様……! よくも……!」

狐神「殺してやるッ……!!」

レライエ「さあ来るが良い。殺せるだけ殺して、我も死のう」

レライエ「……“我々の目的はもう果たされたのだからな”」

狐神「このォッ! 死ねェッ!!」

西人街の聖騎士長「嬢ちゃん待て!」



630: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:23:36.58 ID:RJRubkLg0

お祓い師「そうだぞ落ち着け!」

狐神「止めるなァ! 離せ!!」

狐神「…………ん?」

共和国首都の聖騎士長「おや?」

西人街の聖騎士長「なっ!?」

レライエ「な……」

レライエ「何故生きている……!?」

お祓い師「おい、勝手に殺すなよ」

レライエ「馬鹿な……! 我の毒矢は即効性……掠りでもすれば直ぐに……!」

お祓い師「だから、掠りもしなかったんだよ」



631: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:24:35.98 ID:RJRubkLg0

レライエ「なっ……」

お祓い師「ギリギリでな……この通り」

共和国首都の聖騎士長「ジャケットの下に氷の鎧……!」

レライエ「貴様は氷の術は扱えないはずでは……!」

お祓い師「だから、完全に使えないわけじゃ無いんだって」

お祓い師「本来は親父用に用意したものだが、魔石があればこの程度なら使える」

お祓い師(さっき譲ってもらった本、少し読んでおいて助かったぜ……)

お祓い師(だが思った以上に扱える……。血のおかげか?)

レライエ「こ……の……!」

レライエ「ならばもう一度やるまでだ……!」



632: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:25:10.19 ID:RJRubkLg0

お祓い師「狐神! 力借りるぜ!」

狐神「う、うむ!」

レライエ「次は心の臓に突き立ててやろう……!」

お祓い師「矢ってのはそうやって振り回す物じゃないぜ!」

お祓い師「燃えろっ!」

レライエ「ぐっ!」

お祓い師「弓が無きゃ大した事無いのな」

レライエ「舐めるな人間風情がッ……!」

お祓い師「ッ……!」

狐神「油断するな馬鹿者! 掠めでもしたらお終いなのじゃぞ!」



633: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:26:36.40 ID:RJRubkLg0

お祓い師「分かってる!」

レライエ「この……ちょこまかと避けおって……!」

お祓い師「避ける、逃げるが専売特許なんでな!」

狐神「……! おぬしよ!」

お祓い師「おっとっと……!」

エルフの弓兵B「離れろ下衆が!」

エルフの弓兵A「レライエ様!」

エルフの弓兵B「ご無事ですか!?」

レライエ「貴様ら……何故……!」

レライエ「貴様らは逃げろとあれ程……!」



634: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:28:20.09 ID:RJRubkLg0

エルフの弓兵A「レライエ様を置いて逃げるなど出来ません」

レライエ「……馬鹿者が……!」

共和国首都の聖騎士長「…………」

共和国首都の聖騎士長「我々も援護しますか」

西人街の聖騎士長「…………」

西人街の聖騎士長「援護……ねえ」

エルフの弓兵A「レライエ様には触れさせん!」

西人街の聖騎士長「……ふう」

西人街の聖騎士長(殺さない程度にいくか……)



635: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:29:09.49 ID:RJRubkLg0

レライエ「……末裔よ」

お祓い師「…………」

レライエ「せめて貴様だけでも殺す……」

お祓い師「お断りだ」

お祓い師「俺はこの後大事な約束が控えているんでな!」

レライエ「当たるか愚か者!」

レライエ(せめて一矢は……!)

レライエ(せめて一矢は打たねば終われん……!)

レライエ「ぐう……! あああっ……!」

狐神「あやつ、あの腕で弓を射ようと……!?」



636: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:29:56.31 ID:RJRubkLg0

狐神「気をつけるのじゃ!」

お祓い師「おうよ!」

レライエ「ッ…………!!」

レライエ(射抜け!!)

お祓い師「……!」

お祓い師「燃えろッ!!」

レライエ(矢を宙で燃やし切った……! だがその程度は読めている……!)

お祓い師(爆炎の陰から……!)

レライエ(次こそ貰った……!!)

レライエ「…………」



637: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:31:17.44 ID:RJRubkLg0

レライエ「…………なっ…………居ない……?」

狐神「……そこにはおらぬよ……おぬしの相手は」

レライエ「幻……覚……だと……!?」

狐神「否、ただおぬしが飛び込む方向を間違えただけじゃ」

狐神「これがわしの狐火じゃ」

レライエ「ぐっ…………! この…………!」

お祓い師「俺達の勝ちだな」

レライエ「がっ…………!」

レライエ「まだ……まだだ……!」

お祓い師「こいつ……!」



638: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:32:05.60 ID:RJRubkLg0

共和国首都の聖騎士長「……やれやれ。一体何が貴女をそこまで?」

レライエ「貴様……! 我の部下はどうした……!」

共和国首都の聖騎士長「ああ、それらもう向こうの聖騎士長さんが……」

レライエ「…………!」

レライエ「許さん…………!」

共和国首都の聖騎士長「貴女は何故、何のためにこのダンジョンの主という役を務めたのですか?」

レライエ「そんな事語るまでもないであろう……!」

レライエ「人外が虐げられずに生きていけるような世界にするためだ……」

レライエ「それが魔王様の望んだことだった……!」


九尾「──それは違うわ、レライエ」




639: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:33:06.82 ID:RJRubkLg0

お祓い師「なっ……!」

狐神「おぬしは……!」

レライエ「きゅ、九尾様!? 何故ここに!?」

お祓い師(母さん!?)

九尾「あの子はね、平等な世界になって欲しかっただけなの」

九尾「人とか人外とか、そういう区別を無しにね」

九尾「いま貴女たちがやっていることは魔王の意思に反するわ……だから魔王の名を関するのは辞めてもらえないかしら」

レライエ「……ッ!」

共和国首都の聖騎士長(気当たりだけでこれですか……)

共和国首都の聖騎士長(九尾……とんだ大物が出てきましたね……)



640: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:34:17.47 ID:RJRubkLg0

レライエ「ですが……」

レライエ「ですが、魔王様の声は人間には届かなかった……! そして争いが起こった……!」

レライエ「争いが終わり、それからはずっと敗者のままだった……! 千年間も、ずっと!」

九尾「…………」

レライエ「千年という時は決して短く無い……! だが何も変わらなかった! 我らは虐げられ続けたのですよ!?」

レライエ「人間とは分かり合えない……絶対に……」

九尾「…………一度の失敗で何を言っているのかしら」

九尾「一度駄目だったのであれば、もう一度やれば良い」

九尾「今がその時なのよ」

レライエ「九尾様……」



641: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:35:01.57 ID:RJRubkLg0

レライエ「それでも我は……」

九尾「……よく見なさい」

九尾「ここに既に何人も、かつての私達と手を取ってくれそうな人間がいるわ」

レライエ「あ…………」

九尾「千年前にできなかったことを、今もう一度始めるのよ」

九尾「本当は“あの子”を待つつもりだったんだけど……流石に千年は待ちすぎたわ」

九尾「これが良い機会なんじゃないかしらね」

レライエ「九尾様……我は……」

レライエ「…………」

九尾「とりあえずダンジョンの結界は解いて」



642: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:35:28.74 ID:RJRubkLg0

九尾「続きはその後話しましょう」

レライエ「…………はい」

お祓い師(“あの子”ってのは一体誰のことだ?)

お祓い師(話の流れからするとおそらくは……)

お祓い師(……いや今は考えても無駄か。それよりも……)

お祓い師「これで一件落着か……」



643: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:36:07.01 ID:RJRubkLg0






氷の退魔師「よう、無事だったか」

お祓い師「親父……」

お祓い師(転送陣からの増援とやら、親父と母さんの二人にやられたって事か……)

お祓い師(そりゃ全滅もするよな、あの二人を相手にすれば……)

お祓い師(親父が結界を破れたのは式神の術を使って母さんに力を借りたからか)

お祓い師(俺でさえ狐神から力を借りればA級と渡り合えるだけの力を得られる)



644: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:36:50.84 ID:RJRubkLg0

お祓い師(あの二人だと一体どれほどの力が……)

九尾「…………」

お祓い師(……俺の方を見ているのか?)

九尾「……えっと、あの……」

九尾「ひ、久しぶりね」

お祓い師「……久しぶりって言ってもほんの数日前のことだろ、母さん」

九尾「えっ……!? き、気づいて……!?」

お祓い師「いや、親父に聞いた」

九尾「お、お前勝手に……!」

氷の退魔師「いやいや遅かれ早かれバレることだろうが」



645: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:37:45.45 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「狐のお嬢さんの方は薄々感づいていたみたいだし」

狐神「当たり前じゃ」

九尾「それは……」

九尾「まあ、その通りだけれども……」

九尾「…………」

お祓い師「…………」

九尾「な、何を話せば良いのかわからないわ……」

お祓い師「同じく……」

お祓い師「二十半ばになって初めて母親と会うことになるとは思いもしなかったからな」

九尾「あ……」



646: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:38:22.82 ID:RJRubkLg0

九尾「そのことは、ごめんなさい」

九尾「私は……」

お祓い師「今は詳しくは聞かないよ」

お祓い師「でも、いずれ聞かせてくれると嬉しいかな」

九尾「……ええ」

氷の退魔師「いやあ、こうして家族全員が集まれるようになったのは良いことだな」

氷の退魔師「ここに未来の娘候補も居るわけだし」

九尾「なっ……」

お祓い師「娘候補って……」

狐神「まあ確かに、わしとおぬしが番(つがい)になれば娘と呼べなくも無いが……」



647: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:39:07.58 ID:RJRubkLg0

九尾「……待ってちょうだい」

氷の退魔師「ん?」

九尾「誰と誰が番になると……?」

氷の退魔師「だから、俺たちの息子が狐の嬢ちゃんとだよ」

氷の退魔師「いやいや血は争えないな。親子二代揃って狐を捕まえてくるとは」

九尾「駄目です!」

お祓い師「か、母さん……?」

九尾「この小娘いつの間に息子に色気を……!」

氷の退魔師「色気って……古今東西の男を取っ替え引っ替えしていたお前の言える台詞かよ……」

九尾「それとこれとは話が別です!」



648: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:41:21.91 ID:RJRubkLg0

九尾「息子に相応しい器量の持ち主かどうか、見極めが必要よ……!」

狐神「ふん、望むところじゃ」

九尾「その余裕、いつまで続くかしらね……!」

お祓い師(何だこれ……)

氷の退魔師(うちの嫁に鬼姑の気質があったとは……)

九尾「……それに貴女は理解しているのかしら?」

狐神「何をじゃ?」

九尾「人と人外が伴侶となるその意味を」

狐神「…………」

九尾「人間と人外ととではその寿命に大きな差があるわ」



649: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:44:10.48 ID:RJRubkLg0

九尾「うちの息子は半妖ではあるけれども、その体はほとんど人間と言える」

九尾「どんなに健康体であったとしても、百年後には確実にこの世を去っているわ」

九尾「でもその時、貴女はきっと生きている。その先もずっと生き続けるのよ?」

狐神「それは、そうじゃな……」

氷の退魔師「いま嬢ちゃんの命はお祓い師を依り代とすることで永らえている。そうだろう?」

お祓い師「ああ」

氷の退魔師「だがそういった人外を救う方法を俺たちは研究している」

氷の退魔師「直ぐにとは言わないが、遠くない未来に実用化するつもりだ」

氷の退魔師「だから嬢ちゃんは今の紐付けされた命からは解放される」

狐神「ほう、それは素晴らしいのう」



650: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:44:42.28 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「だろ? それが完成すれば嬢ちゃんも人外としてまっとうな時間を生きていけるようになる」

狐神「ふむ、それは飛び跳ねるほどに嬉しいことじゃ」

狐神「じゃが、要らぬ」

お祓い師「な……!」

氷の退魔師「…………」

九尾「……それがどういう意味なのか、わかっているわよね」

狐神「うむ」

狐神「わしは、それで良いのじゃ」

お祓い師「狐神……」

氷の退魔師「……なるほど、これは想像以上だ」



651: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:45:18.24 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「な、そう思うだろ?」

九尾「……ふん、知らないわよ」

氷の退魔師「これなら認めてやっても良いんじゃないか」

九尾「それとこれとは話が別よ!」

狐神「良かろう、ならば実力で認めさせてやろうではないか」

九尾「小娘が舐めた口をきくのね……」

狐神「いい加減子離れしたらどうじゃ年増め」

九尾「ぐぐぐ……!」

狐神「ぬうう……!」

お祓い師「……式はまだ先になりそうだな」



652: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:46:06.21 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「俺が生きている内に頼むぜ。孫の顔ぐらい見てみたい」

お祓い師「俺に言われてもなあ……」

お祓い師「……そういえば、親父はどう考えているんだ?」

氷の退魔師「どう、とは?」

お祓い師「さっきの問についてだよ。親父なんて四十年もしない内にくたばると思うけど、母さんは違うだろ?」

九尾「…………」

氷の退魔師「あー、別に気にしたことねえな」

氷の退魔師「数十年なんて長寿な人外にとっては一瞬かもしれねえが、俺にとっては一生分だ」

氷の退魔師「一生分も俺のために割いてくれるだけでありがたいって思うね」

九尾「ふん、残される側のことを全く考えていない発言ね」



653: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:46:49.70 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「気にして欲しいのかよ」

九尾「まさか。むしろあなたがそういう人だから夫にしたのよ」

九尾「長命の種の最期は自殺であることがけっこう多いの」

九尾「常に置いて行かれる立場に絶望してね」

九尾「でも私はその段階は越えたわ」

九尾「……それでも“その時”が来ると、やっぱり多少は考えてしまうのよね」

九尾「だからこの人みたいなのが私には丁度良いのよ」

氷の退魔師「価値観は人それぞれ、だな」

お祓い師「親父は世間一般からはかなりずれていると思うけどな……」

お祓い師「……しかし、やっぱり敵わないな」



654: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:47:39.18 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「ん?」

お祓い師「親父はいつも一歩二歩先を行っている」

お祓い師「どんな人外にも力を供給する方法……発想まではあったんだが、既に実行に移っていたとはな」

氷の退魔師「そりゃあお前……」

氷の退魔師「俺はお前よりも二十年以上早く生まれているから、ただそれだけだろ」

氷の退魔師「これから先はお前次第なんじゃねえのか?」

お祓い師「親父……」

氷の退魔師「だが、一歩二歩程度ではなく千里は差があるから精々頑張るんだな」

お祓い師「うるせえ、言われなくてもそのつもりだ」

氷の退魔師「期待しないで待っているとするわ」



655: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:49:09.69 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「さて、とっとと後処理して俺は出国しないとな」

お祓い師「出国? どこに行くんだ?」

氷の退魔師「法国さ。既に対策本部が立ち上げられているはずだ」

氷の退魔師「俺も手伝いと交渉にな」

お祓い師「交渉……?」

氷の退魔師「俺が個人的にやりたいこともあるんだが、世話になったこの街の教会の手伝いもしてやろうかと思ってね」



656: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:52:04.43 ID:RJRubkLg0










お祓い師(西人街の一件から既に一月が経過した)

お祓い師(ダンジョン化した街は元に戻りはしたが、その爪痕はまだ深く残っている)

お祓い師(しかし新しい体制になった教会の主導のもと、着実に以前の活気を取り戻している)

お祓い師(新体制と言ったが具体的には何があったか)

お祓い師(実は西人街から共和国の教会関係者が撤退したのだ)

お祓い師(大神官は元は王国の人間だったが、最終的には共和国の教会に属していた)



657: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:52:44.07 ID:RJRubkLg0

お祓い師(その大神官の不正のもみ消しと引き換えに撤退をした……)

お祓い師(それも理由の一つではあるがそれ以上に、単純に各国が自国のことで手一杯になったことが大きい)

お祓い師「“領土、未だに奪還できず”……か」

狐神「また新聞を読んでおるのか」

お祓い師「毎朝の習慣だからな」

お祓い師「それに“出発前”に情報を仕入れておくことは大事だ」

狐神「それで、何か進展はあったのかの?」

お祓い師「いや、相変わらず新生魔王軍に侵略された領土はほとんど奪還できていないらしい」

お祓い師「王国、帝国、共和国の三国をまたがる広大な土地に加えて南部諸島連合国の一部も占拠されてしまったらしい」

狐神「見事にしてやられた、ということじゃな」



658: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:53:35.91 ID:RJRubkLg0

お祓い師「ああ」

お祓い師「大陸各地に出現したダンジョン……その多くは人間側の強力な人員を拘束するための囮だった」

お祓い師「親父がやられたようにな」

お祓い師「魔王軍を名乗る集団が各地にダンジョンを出現させれば、当然各国は万全の兵力で対応に当たる」

お祓い師「親父と同じようなSランクの人間たちもしばらく身動きが取れなくなってしまったらしくてな」

狐神「その隙きに向こうは主力を総動員して侵略を開始したわけじゃな」

お祓い師「未だに結界に囚われたままの人も多いみたいでな」

お祓い師「中々反撃に転じられないらしい」

狐神「一月経った今でもかの?」

お祓い師「ああ。食料なんかは外から補給できるから問題はないんだがな……」



659: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:54:48.05 ID:RJRubkLg0

お祓い師「親父は母さんとの式神契約のお陰で脱出できたが、幸運としか言いようがない」

お祓い師「式神契約は皇国の中ですら、今の時代では珍しい術だからな」

狐神「ううむ」

お祓い師「大陸は今混乱の渦中だ。俺の力なんて微々たるものだが少しでも力になりたい」

狐神「じゃから“こんな時”なのに旅立とうと言うのじゃろう?」

お祓い師「それは……本当にすまん……。旅行と兼ねてってことでここは一つ」

狐神「ふん。別に気にしておらんわい」

お祓い師「いやいや、顔が」

狐神「なんじゃ?」

お祓い師「何でもないです」



660: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:55:37.05 ID:RJRubkLg0

狐神「……まあ良い」

狐神「しかしおぬし、なんじゃ」

狐神「今からおぬしにやることなんてあるのかのう」

お祓い師「……それは言わないでくれ……」

お祓い師「この一ヶ月で戦況は良くならないが、世の中はだいぶ変わったもんな」

狐神「親父殿の功績もあってのう」

お祓い師「……まあな」

お祓い師「まずは一つ、皇国が正式に皇国内の教会を管理することになった」

お祓い師「今までは外国が管理する教会しか無かったが、西人街の教会を中心とした皇国の管理下の教会が出来たことで教会会議に皇国も出席が可能になった」

狐神「教会会議……法国とやらで行われておるやつじゃな」



661: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:56:49.62 ID:RJRubkLg0

お祓い師「ああ。これは親父が皇家の人間と前々から計画していた事らしい」

狐神「故郷の外の国の長と繋がりがあるとは流石じゃのう」

お祓い師「本当に訳がわからん……」

お祓い師「どうやら以前、山間の集落での親父の話の中に出てきた陰陽師っていうのが皇家直属の人間らしくてな。そこからの繋がりらしい」

狐神「なるほどのう」

お祓い師「現在教会会議に参加できる国は総本山の法国に加えて王国、帝国、共和国、そして皇国になった」

お祓い師「そしてその会議で決定したこと、これが変化したことの二つ目だな」

狐神「退魔師協会の独立じゃな」

お祓い師「ああ。これからは退魔師ギルドとして教会からは完全に切り離された組織として運営されていくことになった」

お祓い師「親父が教会からの指示を待たずにダンジョンへの突入を決定した理由はこれだったんだ」



662: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:57:18.80 ID:RJRubkLg0

お祓い師「教会とは別に動ける身軽な組織の有用性をアピールしたってわけだ」

お祓い師「実際、西人街のダンジョンは大陸で一番早く攻略されたらしい」

お祓い師「これで以前よりももっと自由に仕事が出来るようになる」

狐神「確かにたまに面倒なこともあったからのう」

狐神「しかし変化といえば一番大きいのはやはり……」

お祓い師「ああ」

お祓い師「人外にも人間とほぼ同じ法が適用されるようになったことだろうな」

狐神「うむ」

お祓い師「当然、様々な理由からまだ完全ではないが……」

狐神「それでも、ようやくわしらにも居場所が出来た」



663: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:58:02.26 ID:RJRubkLg0

狐神「意外じゃったのがこんなにも早く各国がこのような体制になったことじゃな」

狐神「もっと時間がかかるものだと思ったのじゃが」

お祓い師「おそらく狙いは新生魔王軍への兵力の流出を阻止するためだろう」

お祓い師「人から隠れてい生きていくことに疲れてしまった人外が軍門に下る可能性は十分にあった」

狐神「まあ目的が何であれ、随分と住みよい世の中になったものじゃ」

狐神「実際には戦争の真っ只中だって言うのにのう」

お祓い師「皇国は戦線から遠いから実感が湧きにくいよな」

狐神「それなのにわざわざ自ら出向こうとしている馬鹿者をわしは知っておるがのう」

お祓い師「さて誰だろうな」

狐神「誰じゃろうなあ」



664: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:58:58.29 ID:RJRubkLg0

狐神「新婚旅行なのに治安が悪い方へ向かおうとはとんだ大馬鹿者じゃ」

お祓い師「ははっ、ほんとに馬鹿だなそいつは」

狐神「ふふふっ」


狼男「あっ、お二人ともこんな所にいたんですか!」


お祓い師「もう時間か?」

狼男「いえ、まだ少し時間はありますが主役二人が消えてしまってちょっとした騒ぎになってますよ」

お祓い師「おっと、直ぐに戻らないとな」

狼男「そうしてください」

狼男「自分は先に戻っていますね」

お祓い師「ああ、わざわざ悪かったな」



665: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 21:59:31.25 ID:RJRubkLg0

狐神「ご苦労であった」

お祓い師「…………」

狐神「なんじゃ、わしの晴れ姿に見惚れたかの?」

お祓い師「ああ綺麗だ」

狐神「あ、相変わらずつまらんやつじゃ……!」

お祓い師「お前は随分とからかい甲斐があるよ」

狐神「うるさいわい!」

お祓い師「暴れんなって、せっかくのドレスが汚れるぞ」

狐神「こんなに裾が長いのが悪いのじゃ」

お祓い師「お前が王国式が良いって言うからわざわざ取り寄せてもらったんだぞ」



666: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:00:20.21 ID:RJRubkLg0

狐神「わかっておるわ」

狐神「いい加減待たせ過ぎておるから戻るとしよう」

お祓い師「だな」

お祓い師「いい加減腹は括れたか?」

狐神「む……」

お祓い師「頼むぜ、誓いのキスは必須なんだよ」

狐神「大勢の前で接吻を強要するとは破廉恥な文化じゃな」

狐神「じゃがまあ、一度ぐらいならば許してやろう」

お祓い師「よし、それなら新郎新婦の入場としますか」

狐神「さあっ、覚悟は決まった! 行くとしようかの!」



667: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:01:48.76 ID:RJRubkLg0

お祓い師「馬鹿っ! こういう時は男がリードすんだよ!」

お祓い師「まず走るなっ! 転ぶ!」

狐神「えっ……ああああああっ!!」

お祓い師「おわあああああっ!?」





狼男「──それでは新郎新婦の入場です」

狼男「盛大な拍手でお出迎えください」


《本編・完》



668: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:03:26.77 ID:RJRubkLg0

《現状のランク》

S3 氷の退魔師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 赤鬼青鬼

B1 狼男
B2 お祓い師 トロール
B3 フードの侍 小柄な祓師 

C1 下級悪魔 エルフの弓兵
C2 マタギの老人
C3 河童

D1 若い道具師 ゴブリン
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔



669: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:10:06.86 ID:RJRubkLg0



《エピローグ》


狐神「────とまあ、こんなもんじゃろう」

お祓い師「おいおい、そこからが本番だろ」

お祓い師「各国を渡り歩いて新生魔王軍と対峙して……」

狐神「馬鹿者、そこから先はおぬしは脇役じゃろうが」

狐神「その辺りの物語は書店に行けば必ず売っておる勇者の冒険譚を読めば幾らでも書いてあるわ」

狐神「おぬしが主人公なのは精々ここまでじゃ」



670: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:10:44.16 ID:RJRubkLg0

お祓い師「うぐ、まあそうだけどよ……」

狐神「それで、なんで突然昔話なんかしたくなったのじゃ?」

お祓い師「……なんとなくだよ」

狐神「…………」

狐神「ああそうじゃ、林檎の皮を剥いてきたぞ」

お祓い師「おや、俺の手元に来るまでに全部残っているのは珍しいな。いつもは誰かさんがつまみ食いしてしまうのに」

狐神「うるさいわい」

狐神「今日は二人で食べたかったのじゃ」

お祓い師「……そうか」

お祓い師「それじゃあ頂くとする」



671: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:12:56.61 ID:RJRubkLg0

狐神「どうぞ」

お祓い師「……ちょっと硬いな」

狐神「そ、そうかのう」

狐神「それなら今摩り下ろして……」

お祓い師「いや、食えなくはない」

お祓い師「それよりも何か話そう」

狐神「…………」

狐神「ああ、そういえばあの時……」

狐神「あの時のことはまだ許しておらんからな!」

お祓い師「あの時……?」



672: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:13:39.04 ID:RJRubkLg0

お祓い師「ああ、お前がおぼこと知らずに酒の勢いで……」

狐神「違うわい! それも許しておらぬが違う!」

狐神「まあ酒のせいであるのは同じじゃが……」

狐神「おぬしが何かやらかす時は決まって酒絡みじゃ」

お祓い師「その言葉はそっくりそのままお前に跳ね返るぞ……」

狐神「む、そんなことはないじゃろう」

お祓い師「お前はほとんど記憶がなくなるから余計にタチが悪い」

狐神「わしは確かに酒には弱いが粗相はせぬ!」

お祓い師「いやいや」

狐神「絶対じゃ!」



673: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:16:32.37 ID:RJRubkLg0

お祓い師「いや……」

狐神「ぐぬぬぬぬ……」

お祓い師「わかった、俺の負けだ」

狐神「それで良い」

お祓い師「……ふっ」

狐神「……なんじゃあ、笑いおって」

お祓い師「いや、お前と話していると本当に面白い」

狐神「今更じゃのう。一緒になって何年経ったと思っておる」

お祓い師「確かに随分と時間が経ってしまったな」

狐神「わしがこの姿に生まれてからの時間を考えれば些細なものじゃがのう」



674: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:17:27.93 ID:RJRubkLg0

お祓い師「……本当に良いのか? 何なら今からでも……」

狐神「良いと言っておろう。これはわしの本心からの選択じゃ」

お祓い師「……そうか」

お祓い師「近頃、自分が何故生まれてきたのか考えることが多くなった」

狐神「随分と青いことを考えるのじゃな」

お祓い師「いや、これは一生の課題だと思うぞ」

お祓い師「剣を取って世界を脅威から救い出すためか、知の力を以って世界の謎を解き明かすためか、または……」

お祓い師「そのいずれでもなかった。その器ではなかったな」

お祓い師「実際にやってのけたのは、親父や勇者達だ」

狐神「おぬしも凡百とは比べられぬ程には活躍したと思うがの」



676: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:19:18.36 ID:RJRubkLg0

お祓い師「さっきは脇役って言っていたがな」

狐神「わ、脇役にしてはということじゃ!」

お祓い師「……確かに俺は後世に少しは名を残せたかもしれない……」

お祓い師「ただし、俺でなくても良かったのは確かだ」

狐神「…………」

お祓い師「確かに西人街の一件の後の旅で俺は登場人物として選ばれたが、俺が死んでも代打がいたはずだ」

お祓い師「世界にとって俺は代えがたい何かでは無かった」

狐神「そんなことを言ったら、この世に生を受けた殆どの者はそれに当たるわい」

お祓い師「そうかもな……」

お祓い師「……悪い、水を取ってくれないか」



677: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:21:07.22 ID:RJRubkLg0

狐神「う、うむ」

狐神「飲めるかの?」

お祓い師「ああ、ありがとう」

お祓い師「……生き返る気持ちだ」

狐神「たかが水で大げさじゃのう」

お祓い師「かもな」

狐神「さて、夕食は何にするかのう」

狐神「希望があれば言うが良い」

お祓い師「……お前も料理するようになったんだもんな。改めて考えると感動するな」

狐神「失礼じゃな!」



678: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:21:44.89 ID:RJRubkLg0

狐神「おぬしだって別に得意なわけではなかろうが」

お祓い師「人並みに出来れば十分だっての」

お祓い師「食事当番に関しては実質俺一人だっただろう」

狐神「もう昔の話じゃろうが」

お祓い師「まあな」

狐神「それで、夕食は?」

お祓い師「ああ……」

お祓い師「もう少し話していたいから待ってくれないか」

狐神「……わかった」

狐神「少し眠くなってきたのう」



679: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:22:35.57 ID:RJRubkLg0

お祓い師「布団に入ってもいいぞ」

狐神「いや、じゃが……」

お祓い師「平気だっての」

狐神「それではお言葉に甘えて……」

お祓い師「どうぞ」

狐神「相変わらず細いのう」

お祓い師「言う程じゃないだろう」

狐神「わしに取っ組み合いで勝てぬようではまずいのではないのかの」

お祓い師「お前は狐だからな。野山で暮らしていた奴には勝てねえよ」

狐神「雌に負けるのは恥じた方が良い」



680: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:26:31.41 ID:RJRubkLg0

お祓い師「……俺は頭脳派なんだよ」

狐神「……頭脳派? 誰が?」

お祓い師「俺がだって言ってんだろ」

狐神「……くくくっ……あははははっ!」

狐神「頭脳派……頭脳派と来たか! あはは! これはおかしい!」

お祓い師「笑いすぎだろう……」

狐神「いやいや、久々に面白い冗談を聞いたのでのう……!」

お祓い師「俺たち二人の中で相対的にって意味だ」

狐神「暗にわしが馬鹿だと言っておるな」

お祓い師「どちらかと言うと阿呆だな」



681: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:27:01.08 ID:RJRubkLg0

狐神「変わらぬわ!」

お祓い師「悪かったから暴れるな。痛い」

狐神「あ、ああ、済まぬ」

お祓い師「お陰で眠気が覚めた」

お祓い師「いや嘘だ」

狐神「何も言わぬ前にばらすな阿呆」

狐神「まあ眠いのはわしもじゃ」

お祓い師「…………」

狐神「…………」

お祓い師「……なあ」



682: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:27:45.54 ID:RJRubkLg0

狐神「なんじゃ?」

お祓い師「お前は楽しかったか? 俺と出会ってから今まで」

狐神「ふむ……」

狐神「何度も命の危機に瀕して、お互いすれ違いも有り怒る日もあれば泣く日もあった」

狐神「そんな日々のことかの?」

お祓い師「いや……なんかすまん……」

狐神「ふふっ……じゃが楽しか楽しく無いかで言えば、楽しかった」

狐神「史上の幸福というものでは無いのかもしれぬが、日々それなりに面白く過ごせたわい」

狐神「現に積もり積もった今日、こうやって笑えておる」

お祓い師「……そうか」



683: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:28:17.89 ID:RJRubkLg0

お祓い師「それが聞けて安心した」

狐神「それではその問をおぬしにも聞くとしようか」

狐神「おぬしはどうであった? 今日までの日々は有意義なものであったか?」

お祓い師「……まあ、ぼちぼちだな」

お祓い師「ぼちぼち満足な毎日だったよ」

狐神「なんじゃあ。とても幸せでした~、と言えぬのか」

お祓い師「お前の返答と同じだろうが」

お祓い師「だがまあ……」

お祓い師「そんなぼちぼち幸せな毎日が送れて、今この瞬間は最高な日だって言えるな」

狐神「…………」



684: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:31:48.03 ID:RJRubkLg0

狐神「それは、良かった……」

お祓い師「なんだ、泣いているのか?」

狐神「なっ、泣いておらぬわ! よく見ぬか!」

お祓い師「そうか……泣いてはいないか」

狐神「……おぬし……」

お祓い師「そういえば聞いたか? 狼男のところに孫が一人増えたらしいぞ」

狐神「む、そうなのか」

お祓い師「手紙が来ていたんだが読んでいないか」

狐神「あー、そういえば来ていたかもしれぬ」

お祓い師「孫……か……」



685: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:32:36.80 ID:RJRubkLg0

狐神「どうしたのじゃ?」

お祓い師「いや、もういい加減俺たちの時代じゃないんだなって」

狐神「その身体でまだ現役のつもりじゃったのか?」

お祓い師「いやいや、まさか」

お祓い師「ただ時間の経過を実感しただけだ」

狐神「確かに人間は寿命が短いからのう」

狐神「人外は寿命が長いものが多いから、世代という概念はあまり無いかもしれぬ」

狐神「極端な例を除いてお互いの歳などあまり気にせぬしな」

狐神「まあ人の寿命が短いとは言ったが、生き物全体で見れば長い方ではあるがのう」

お祓い師「確かに、獣や鳥や魚や虫……そんなのはもっともっと短い時間を生きているな」



686: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:33:15.52 ID:RJRubkLg0

狐神「わしの山の仲間も瞬く間に死んでいった」

狐神「たまたまわしが山の主として化けて出ただけで、場合が違えば百以上も昔にわしも失せていたじゃろう」

お祓い師「そうなっていたら俺とお前が出会うことも無かったか……」

狐神「くくっ、おぬしの寿命も随分と縮まっていたじゃろうな」

お祓い師「そうかもなあ」

お祓い師「随分とお前には助けられたよ」

狐神「それはお互い様じゃな」

狐神「おぬしがいなければあの山火事の時点で死んでおったわい」

お祓い師「あの時はコソ泥しに行っただけなのにな」

狐神「初めはの」



687: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:34:10.03 ID:RJRubkLg0

狐神「じゃが二度目はわしを助けるために戻ってきてくれた」

お祓い師「……きっかけっていうのは分からないものだな」

狐神「全くじゃ。わしもあの時は目の前の金の亡者とつがいになるとは思ってもおらんかったわい」

お祓い師「夫に向かって酷い言いようだな……」

狐神「おぬしは金銭に関して意地汚すぎるのじゃ」

お祓い師「お前は考えなしに使いすぎだ」

狐神「そう言う割には最近はおぬしも幾分か羽振りがよかったがのう」

お祓い師「流石に若い頃のままという訳にもいかないだろう」

お祓い師「それに、皇国で広く言い伝えられている事によると、あの世に渡る時の賃金は大した額ではないらしいじゃないか」

お祓い師「年老いてから多くを抱えても無駄になる」



688: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:35:07.99 ID:RJRubkLg0

お祓い師「遺す分は十分にあるからな……」

狐神「うむ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……なあ、狐神」

狐神「……なんじゃ」

お祓い師「今までありがとうな」

狐神「……突然別れの言葉のようなことを言いおって」

お祓い師「……ぼちぼちなんて言い方したが、俺にとっては十分すぎるぐらい幸せだったよ」

狐神「……勿論わしもじゃ」

お祓い師「お前と一緒にこうやって家庭を持てて、良かった」



689: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:36:25.78 ID:RJRubkLg0

狐神「そんなの……わしから礼を言いたいぐらいじゃ……」

狐神「おぬしのお陰でわしは……」

お祓い師「狐神……聞こえているか……」

狐神「聞こえておる。わしはここにおるよ」

お祓い師「聞こえていたら、いいんだが……」

お祓い師「最期にもう一度だけ言わせてくれ……」

狐神「聞こえておる、大丈夫じゃ」

狐神「わしはここじゃ。手を握っておるよ」

お祓い師「狐神……」

狐神「うむ……なんじゃあ」



690: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:38:25.58 ID:RJRubkLg0



お祓い師「…………愛している。ありがとう…………」


狐神「…………うむ、わしもじゃ…………」


お祓い師「…………」

狐神「…………」

狐神「おやすみ……お疲れ様じゃ……」

狐神「……“依り代”であるおぬしの力が消えた瞬間、急に意識が遠のいてきたのう……」

狐神「……じゃが流石に、同時には逝けぬか……」

狐神「……けほっけほっ……」

狐神「……なあ、おぬしよ」

狐神「……さっきおぬしは脇役だと言ったが……」



691: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:39:41.82 ID:RJRubkLg0

狐神「……確かに英雄譚に語られる主人公では無かったが……」

狐神「……わしにとっては、おぬしが英雄じゃったよ……」

狐神「……わしの物語では、おぬしが英雄じゃった……」

狐神「…………愛しておるよ、わしだけの英雄…………」

狐神「……とんでもないお人好しの、おぬしが大好きじゃった……」

狐神「……わしも少々眠い……」

狐神「……久々に二人で眠るとしよう」

狐神「…………」



692: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:40:35.37 ID:RJRubkLg0






男性の声「父さん、母さん、入るよ」

男性の声「母さん……?」

男性の声「……これは……」

男性の声「…………」

男性の声「……最期まで仲が良さそうで……」

男性の声「抱き合って寝るなんて本当に年甲斐が無い……」



693: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:41:05.19 ID:RJRubkLg0

女性の声「どうかしたの?」

男性の声「うん。数日は少し忙しくなるかも」

女性の声「え……それって……」

男性の声「うん……」

男性の声「…………おやすみなさい、お父さん、お母さん」

男性の声「本当にお疲れ様」


《エピローグ・完》




695: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:48:57.66 ID:RJRubkLg0

《猫》


※《妖刀》編の後に当たります


フードの侍「こっちの方だと思うんだけど見つからないなあ……」

フードの侍(長い間拠点にしていたあの町を出て既に二週間が経過したわけだけど)

フードの侍(国境を越えて帝国入りする前に一つ、目的の物があると私の身体は言っている)

フードの侍(ご主人様が打った刀の内、盗まれた物を回収するのが私の使命)

フードの侍(どういう訳か、私の身体はご主人様の刀がある場所がわかる)

フードの侍(刀を見つけたら売却のリストと比較して、それが盗まれたものだとしたら基本的には回収をしている)



696: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:50:23.66 ID:RJRubkLg0

フードの侍「皇国内のは全部確認し終わったと思っていたんだけど、今回は運が良かったなあ」

フードの侍「しかしこの辺にあるはずなんだけど見当たらない……」

フードの侍「周りに民家があるような気配もないし、持ち運ばれている最中だと考えた方が良いかもね」

フードの侍「そうなると……うん。あの馬車が怪しいかも」



697: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:52:49.07 ID:RJRubkLg0






フードの侍(うーん、あの馬車……普通の行商人の物じゃないね……)

フードの侍(全員武装しているし、何よりも……)

フードの侍(あの中に死体を積んでいる。猫又の嗅覚は死体には敏感だからわかるよ)

フードの侍(死体はまだ新しいもの……恐らく商品という訳では無いだろうね)

フードの侍(事情はわからないけど、邪魔になった人を処理したばかりって感じかな)

フードの侍(捨てないで持ち歩いているのは、さっきまで開けた土地だったから)



698: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:55:50.74 ID:RJRubkLg0

フードの侍(森に差し掛かったから、この辺で捨てていくつもりなんじゃないかな)

フードの侍(ご主人様の刀があそこになるのは間違い無さそうだけど、正規に購入されたものである可能性は低いね)

フードの侍(ただしまだ可能性の話で、そうではなかった時は面倒なことになるから手出ししにくいなあ)

フードの侍(何より相手は人間だし……)

フードの侍(不意打ちなんかすれば“行商人に襲い掛かった悪い人外”の出来上がりだもん)

フードの侍(何なら中の死体も私のせいにされるかも)

フードの侍(うーん、困ったなあ……)

商人風の盗賊A「ん……?」

商人風の盗賊A「そこにいるのは誰だ!」

フードの侍(あっ、やばっ……!)



699: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:56:28.76 ID:RJRubkLg0

商人風の盗賊B「どうした?」

商人風の盗賊A「そこの草むらに誰か隠れていやがる」

商人風の盗賊A「出てこないと鉛玉ブチ込むぞ」

フードの侍(参ったなあ……)

フードの侍(仕方がない、変声の札を使って……)

フードの侍「(待ってくれ。私はただの旅の者だ)」

商人風の盗賊B「ん? 随分とチビだな」

フードの侍「(…………)」

商人風の盗賊C「おい、どうするんだよこいつ」

商人風の盗賊B「丁度“荷物”を捨てるところだったんだ。こいつも片付けちまって問題ないだろう」



700: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 22:59:33.46 ID:RJRubkLg0

商人風の盗賊C「へへっ、それもそうだな」

商人風の盗賊A「そういうことなら新調したこいつの試し斬りだ」

フードの侍(あの刀……! 見つけた……!)

商人風の盗賊B「オイオイ、それは今回売りに行くやつじゃねえか」

商人風の盗賊A「そのつもりだったんだが、一度手に持ってみたら妙に馴染んでな……」

商人風の盗賊A「取り分から差し引いていいから俺のものにさせて貰うぜ」

商人風の盗賊B「そんなに気に入ったって言うなら良いけどよお……」

商人風の盗賊A「避けんなよ。掠っただけじゃ斬れ味がわかりにくいからな」

フードの侍「(黙って斬られる奴があるか)」

商人風の盗賊C「おい、あのチビも刀を持ってやがるぜ」



701: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:00:17.42 ID:RJRubkLg0

商人風の盗賊A「面白え……」

商人風の盗賊A「行くぜっ!」

フードの侍「(フン……!)」

商人風の盗賊A「受け流したか、やるじゃねえか!」

フードの侍(あの刀の力は何だ……。確認できるまでは不用意に踏み込めない……)

商人風の盗賊A「ボサッとしてんじゃねえよ! 次行くぜ!」

フードの侍(は、速い……!)

フードの侍「(ぐうっ……!)」

商人風の盗賊B「ん……?」

商人風の盗賊C「こいつ、フードの下を見れば人外の女じゃねえか!」



702: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:01:09.51 ID:RJRubkLg0

商人風の盗賊C「低い声は何か術を使っていたのか」

商人風の盗賊B「かなりの上玉じゃねえか……。これはバラす前に楽しめそうだな」

商人風の盗賊C「オイオイ正気かよ。女とは言っても人外だぜ」

商人風の盗賊B「お前人外とヤッたこと無いのかよ?」

商人風の盗賊B「身体は無駄に頑丈だからな、多少雑に扱っても死なないから最高だぜ?」

商人風の盗賊C「それは……ククッ、面白そうだな」

フードの侍(分かり易い小悪党だね……。こんなのばっかり)

商人風の盗賊B「という訳だから、殺すなよ」

商人風の盗賊A「出来れば、な」

商人風の盗賊B「あ?」



703: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:01:46.33 ID:RJRubkLg0

商人風の盗賊A「この刀、どういう訳か知らねえが使っていると気分が良い」

商人風の盗賊A「何なら斬り刻んでやりたいぜ……!」

商人風の盗賊B「まあほどほどにな」

商人風の盗賊A「オラア! 行くぞメスガキ!」

フードの侍「むっ、ガキじゃないよ!」

フードの侍「その刀、私のご主人様のものだから返して」

商人風の盗賊A「あ? お前この刀のこと知っているのか」

フードの侍「まあね」

商人風の盗賊A「こいつは最高だな……! 力がどんどん湧いてくる……!」

フードの侍(あの刀……恐らく憑依型だ……)



704: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:03:44.76 ID:RJRubkLg0

フードの侍(辻斬りが持っていたのと同じタイプかもしれない……)

商人風の盗賊A「ちょ……ちょこまかよ逃げんるんじゃ、ねえよ……」

商人風の盗賊A「斬れねえ、だろうが……」

フードの侍(だけどあの感じは……)

商人風の盗賊A「クソッ……早く斬りてえ……! 斬り刻みてえ……!」

商人風の盗賊A「……あー……」

商人風の盗賊A「お、お前でいいや……クククッ……」

商人風の盗賊B「がっ……!? て、てめえ……!」

商人風の盗賊B「ごふっ…………」

商人風の盗賊C「何やってんだてめえ! 正気か!?」



705: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:04:34.81 ID:RJRubkLg0

商人風の盗賊A「あ、あはあ……気持ちがいい……」

商人風の盗賊C「ち、近づくんじゃねえ……!」

商人風の盗賊A「キモチイ……キモチイイなあ……!」

商人風の盗賊C「おい……! やめろ……!」

商人風の盗賊C「ぐああああっ!!」

商人風の盗賊A「キモチイキモチイ……」

商人風の盗賊A「……ん……?」

商人風の盗賊A「あは……心臓突かれた」

商人風の盗賊A「ごはっ…………!」

フードの侍「注意が仲間の方に向いたお陰で楽に仕留められたかな」



706: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:05:26.97 ID:RJRubkLg0

商人風の盗賊A「…………」

フードの侍「辻斬りと比べると自我がかなり無くなっている感じだった……」

フードの侍「今思えばあの辻斬りも刀に操られていたとはいえ、だいぶ相性が良かったのかもしれない……」

フードの侍「…………」

フードの侍(使用者に取り憑くこの刀……ご主人様は何でこんな物を作ったんだろう)

フードの侍(この間折った辻斬りの物以外にも何本か確認している……)

フードの侍(ご主人様の作った刀の内、死ぬ間際の作品の多くはこのタイプの刀だった)

フードの侍(一体何故……)

フードの侍(ご主人様と過ごしたあの日々で、何かきっかけになる出来事なんてあったかな……)

フードの侍(…………)



707: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:06:00.57 ID:RJRubkLg0

フードの侍(……あれ……?)

フードの侍(今まで気にしたことがなかったけど、絶対おかしい……)

フードの侍(私、ご主人様とどれだけ一緒に過ごしていたんだ……?)

フードの侍(一番古い記憶はご主人様がまだ幼い頃……よく遊び相手になっていた……)

フードの侍(そしてご主人様が亡くなったのは、三十歳に差し掛かる手前……)

フードの侍(私が今の姿になったのは、ご主人様が亡くなった後……餓死した後に目覚めたらこの体だった)

フードの侍(つまり私は猫の姿で三十年近く生きていたってこと……!?)

フードの侍(幾らなんでも有り得ない……猫はそこまで長寿じゃない)

フードの侍(…………)

フードの侍(まさか……いやでも……)



708: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:06:48.05 ID:RJRubkLg0

フードの侍(もしかして、私は今の姿になる前も人外だったのでは……!?)

フードの侍(妖刀や魔剣などに対して嗅覚が優れるようになったのは、ご主人様の無念を晴らすために芽生えた能力)

フードの侍(つまり今の姿に生まれ変わった時に手に入れた力)

フードの侍(それなら、死体に対して敏感な嗅覚が元々私にある力……)

フードの侍(私はただの飼い猫が死んで人型の化け猫になったのではなく、猫又が死んで人型に生まれ変わったってこと……?)

フードの侍(なんでそんな事を忘れていたんだろう……生まれ変わった時に記憶に欠落があったのかな……)

フードの侍(……猫又と普通の猫を見間違えるはずがない。つまりご主人様は私を猫又と知って一緒に居続けたってこと?)

フードの侍(何か……何か思い出せそうな……)

フードの侍(ご主人様……)



709: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:07:15.72 ID:RJRubkLg0






猫又「にゃあ」

妖刀の刀鍛冶「ああ、ごめんごめん」

妖刀の刀鍛冶「仕事に熱中しちゃってね。今からご飯を作るよ」

猫又「にゃあ」

妖刀の刀鍛冶「さて、今晩は何にしようかな……ゲホッゲホッ」

猫又「にゃあ!」



710: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:07:50.79 ID:RJRubkLg0

妖刀の刀鍛冶「ゴホッ……大丈夫だよ、心配しないで。栄養のたくさんあるものを食べないとね」

猫又「にゃあ……」

妖刀の刀鍛冶「お前は昔から変わらず元気でいいね」

妖刀の刀鍛冶「ああいや、皮肉とかでは無いよ」

妖刀の刀鍛冶「お陰様で毎日楽しいからね」

猫又「にゃあ……」

妖刀の刀鍛冶「願わくば、意思疎通ができれば良いんだけどね。私はお前の考えていることは詳しくはわからないから」

猫又「にゃ!」

妖刀の刀鍛冶「ああ、早くご飯にしろって?」

猫又「にゃあ!」



711: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:08:16.76 ID:RJRubkLg0

妖刀の刀鍛冶「おや、違ったか。難しいなあ」

妖刀の刀鍛冶「…………」

妖刀の刀鍛冶「……お前が人間になるのは無理だろうけど」

妖刀の刀鍛冶「私が人外になったら、お前の気持ちもわかるようになるだろうか……」

猫又「にゃあ……」

妖刀の刀鍛冶「うん、まあ取り敢えずご飯にしようか」

妖刀の刀鍛冶「…………」

妖刀の刀鍛冶「私は所詮刀鍛冶だ。そんなことは無理に決まって……」

妖刀の刀鍛冶「……いや、もしかしたら……」

妖刀の刀鍛冶「……やってみる価値はあるかもしれない」



712: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:09:39.05 ID:RJRubkLg0






フードの侍「…………」

フードの侍「この記憶は……」

フードの侍(……ご主人様があの忌まわしい妖刀を作っていたのは、人外に近付くためだった……?)

フードの侍(私の気持ちを知るために……)

フードの侍(…………)

フードの侍(こんな危険な刀は辻斬りの時みたいに直ぐに折るべきなんだけど)

フードの侍(今回は、今回だけは他のと一緒に持って行こうかな……)

フードの侍(これは、ご主人様の成し遂げられなかった想いの形だからね)



713: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:10:08.13 ID:RJRubkLg0






フードの侍(ようやく森を抜けられた)

フードの侍(帝国との国境も目の前まで迫っているな)

フードの侍(刀は皇国外では珍しいものだから高値で取引されているらしい)

フードの侍(探している盗品の刀の中には、さっきみたいな堅気じゃない商人が国外で売りさばいた物もあるはず)

フードの侍(大変だけど、大陸中を旅して見つけ出さなくちゃ)

フードの侍(それが今の私が生まれた理由だから)



714: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:11:59.49 ID:RJRubkLg0

フードの侍(…………)

フードの侍(……終わったら、全てが終わったらどうすれば良いんだろう)

フードの侍(今の私が生きている理由が無くなったら、その後はどうやって生きていけば良いんだろう)

フードの侍(……生きている理由が無くなったなら死んでしまっても良いのかな)

フードの侍(そうすればご主人様とも……)

フードの侍(……いや、違う)

フードの侍(あの狐の神さまも、本来の生きる理由はとっくに失われていた)

フードの侍(だけど彼女は今も生きている)

フードの侍(理由は新しく作ればいい。もしかしたら、理由なんてそんな重要なものじゃないのかもしれない)

フードの侍「……うーん、そうだなあ」

フードの侍「彼女みたいに、恋をしてみるのも有りかもしれないな」

フードの侍「……さて、帝国を目指して行きますか!」



715: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:13:19.76 ID:RJRubkLg0

《九尾》


※本編の三十年程前です


氷の退魔師(たまたま帝国に居る時にこんなデカい案件が来るとはな……運がいいぜ……)

氷の退魔師(元魔王軍の四天王、九尾の目撃情報か……)

氷の退魔師(滅してやんなきゃ先祖に顔向けできない。なんて言ったってうちの先祖は……)

帝国退魔師協会の組員A「あここにおられましたか氷の退魔師殿」

氷の退魔師「ああ、どうかしたのか」

帝国退魔師協会の組員A「ええ。皇国から例の方々が到着しました」



716: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:14:10.03 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「陰陽師ってやつか……わかった今行く」

氷の退魔師(陰陽師……皇国独自の退魔集団……)

氷の退魔師(九尾の出自が皇国だから呼ばれたらしいが、果たして実力の方はどんなものかな)

長髪の陰陽師「おや、貴方が氷の退魔師殿ですか?」

氷の退魔師「ああ。あんたが皇国から来た陰陽師か」

長髪の陰陽師「ええ。よろしくお願い致します」

氷の退魔師(こいつ……優男に見えてかなりの使い手だ……)

長髪の陰陽師「流石、噂に聞く退魔師一族の当主ですね。感じるオーラが一般のそれとは違います」

長髪の陰陽師「若いのに凄まじいものです」

氷の退魔師「ふん。それはあんたもな」



717: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:14:42.94 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「いえいえ。私なんてまだまですよ」

氷の退魔師(実力があるくせに謙遜する奴は苦手だ。底が知れなくて気味が悪い……)

氷の退魔師「まあいい。本題に移ろう」

長髪の陰陽師「ええ」

長髪の陰陽師「今回目撃情報があったという九尾について、ご存知の内容も多いとは思いますが、私の方から簡単に説明させていただきます」

長髪の陰陽師「まず九尾というのは皇国で生まれたとされる化け狐です」

長髪の陰陽師「その名の通り九つの尾を持つ狐で、皇国では人に害をなす物の怪であるとも、天からの使いの神獣であるとも考えられています」

氷の退魔師「はっ、魔王軍四天王の内の一体が天からの使いとは笑わせるな」

長髪の陰陽師「確かに現代に一般的に伝わる書物には、九尾は魔王軍の幹部として猛威を振るったと記されていますね」

氷の退魔師「……何が言いたい」



718: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:17:33.73 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「会ってみないと分からない、ということですよ」

氷の退魔師「……皇国には人外と共生する文化がある土地が多いと聞くが、ちょっとボケてんじゃねえのか?」

氷の退魔師「相手は人外、更には魔王軍の幹部だぞ? 話し合ったら仲良しこよし出来るかもしれないって思ってんのか?」

長髪の陰陽師「それはわかりません。しかし相手を知らずに事を進めていくのは良くない」

長髪の陰陽師「人間にだって良い者と悪い者がいます。彼らだって同じなのですよ」

氷の退魔師「ちっ、話にならないな」

氷の退魔師「俺は別行動を取らせてもらう」

長髪の陰陽師「それは駄目です」

氷の退魔師「駄目って言ったってなあ……」

長髪の陰陽師「九尾の説明の続きを聞いてください」



719: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:18:53.65 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「九尾の名は千年前の魔王軍の件以前にも、以降にも幾度登場しています」

長髪の陰陽師「そして九尾の現れた国は滅ぶとされており、それ故に厄災を運ぶと言われています」

氷の退魔師「おいおい。完全に悪い狐で決定だろう」

長髪の陰陽師「まあ伝承に過ぎませんから」

氷の退魔師「…………」

長髪の陰陽師「そして九尾が国を滅ぼした方法ですが、これは色香によるものだと言われています」

長髪の陰陽師「九尾は非常に美しい女性の姿を取ることが出来ると言われており、魅了の力を以って王や領地の当主を堕落させて国を衰退させたと言われています」

長髪の陰陽師「今回は個人が勝手な行動を取った場合、その魅了の力にやられてしまったと判断します」

氷の退魔師「ここの全員が敵の術中に嵌まる可能性のほうが高くないか?」

長髪の陰陽師「勿論、実動隊と待機組に分けて全滅は避けるようにしますし、隊には精神系の術に特化した者を連れて行きます」



720: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:19:39.52 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「伝説の物の怪にどれ程対応できるかはわかりませんが」

長髪の陰陽師「取り敢えず今回は我々に従って頂けますか?」

長髪の陰陽師「何か問題があれば次は貴方の立案に従いましょう」

氷の退魔師「…………」

氷の退魔師「……わかったよ。取り敢えずは従おう」



721: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:20:16.64 ID:RJRubkLg0






帝国退魔師協会の組員A「目撃情報があった場所はもうすぐです」

氷の退魔師「同じ場所に留まっているとは考えにくいが……」

長髪の陰陽師「もしいたとすれば、何らかの理由があるということでしょうね」

氷の退魔師「ん……? 向こうに何か……」

長髪の陰陽師「廃村……ですかね」

氷の退魔師「あそこが根城だったのかもしれないな」



722: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:20:46.55 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「止まってください。誰かがいます」

氷の退魔師「あれは……」

栗毛の男の子「ひっ、人攫い……!」

氷の退魔師「子供……?」

栗毛の男の子「助けて……!」

長髪の陰陽師「落ち着いてください。私たちは悪い人じゃありませんよ」

氷の退魔師「…………」


???「人の子よ、お逃げなさい」


氷の退魔師「…………!?」

長髪の陰陽師「後ろへ避けてください!」



723: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:21:27.00 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師(地面が抉れた……!)

???「さあ、皆の所へお逃げなさい」

栗毛の男の子「う、うんっ……!」

氷の退魔師「なるほど、お前が……」

???→九尾「こんな僻地に随分と大所帯で何の用かしら」

九尾「悪いけれどこの先へ通すわけにはいかないの」

九尾「お帰り願うわ!」

氷の退魔師「こっちもそういう訳にはいかなくてね!」

長髪の陰陽師(くっ……! 話す間もなく……!)

帝国退魔師協会の組員A「うっ、うわああああっ!?」



724: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:23:55.84 ID:RJRubkLg0

帝国退魔師協会の組員A(一撃でさっきまで木が生い茂っていた所が更地に……!?)

帝国退魔師協会の組員A(なんて力なんだ……! これがSランク同士の闘い……!)

氷の退魔師(向こうはいわゆる神通力って奴を使っているのか……)

氷の退魔師(畜生の分際で神の力を名乗るとはな……!)

氷の退魔師(魅了の力とやらを使われる前に、殺す!)

九尾「先頭の二人は人間にしてはかなりやるわね」

氷の退魔師「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ……すぐに殺してやる……」

九尾「お前さんの力はどこか懐かしい感じがするわね」

氷の退魔師「……残念だが初対面だ」

氷の退魔師(口車に乗せられるとまずい……早く片付けないと)



725: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:24:25.14 ID:RJRubkLg0

九尾「ああ、“彼”の子孫ね」

氷の退魔師「……!」

九尾「流石に千年経った後の子孫じゃ顔も似てないし、性格もぜんぜん違うけど」

九尾「感じる雰囲気は彼そっくりね」

氷の退魔師(落ち着け……魔王軍の四天王ならうちの先祖を知っててもおかしくない……)

氷の退魔師(目の前のやつが敵であるということに変わりはない)

九尾「ちょっと焦って攻撃しちゃったけど、よく見ると勘違いだったようね」

九尾「悪かったわ。ここまでにしましょう」

氷の退魔師「なっ……!」

氷の退魔師(どういうつもりだ……)



726: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:25:14.83 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「良かった……我々も争いに来たわけでは無いのです」

九尾「それでは何の用でこんな所まで?」

長髪の陰陽師「貴女に用事があるのは確かなのですが……そうですね……」

長髪の陰陽師「オウム返しで申し訳ないのですが、貴女は何故こんな所にいるのですか?」

長髪の陰陽師「伝説の妖狐が潜んでいるとなると、我々人間も気が気で無いので……」

九尾「なるほど。そうねえ……」

九尾「ここに留まっているのはさっきの子供達のためよ」

長髪の陰陽師「先ほどの子供は人間の子のようでしたが、一体何が……?」

九尾「予想はついている思うけれど、孤児よ」

九尾「麓の町は路地で寝るには少し物騒な所だから、山の中の廃墟の方がまだ安全だと思ってここを根城に生活しているみたい」



727: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:26:00.49 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「人伝に聞いた話ですが、鉱山が駄目になって失業者で溢れてしまったようですね」

九尾「そうみたいね」

九尾「あの子達は身寄りのない者同士で集って何とか暮らしていたみたいなんだけどね」

九尾「この辺りも最近安全じゃなくなってしまったの」

長髪の陰陽師「伝説級の危険な人外でも出たんですかね」

九尾「ふふっ、面白い冗談ね」

九尾「残念ながら今回問題になっているのはどうやら人間のようなの」

長髪の陰陽師「人間……盗賊なんかでしょうか」

九尾「まあ似たようなものね」

九尾「最近この辺りに人攫いが出ているらしいの」



728: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:26:41.36 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「なるほど人攫いですか……」

九尾「それであの子たちが困っている所に、偶然私が通りかかったから今は面倒をみているの」

長髪の陰陽師「そのようなことが……」

氷の退魔師「信用できないな」

九尾「…………」

長髪の陰陽師「氷の退魔師殿……」

氷の退魔師「女狐が子供を善意から保護している保証なんてどこにもない」

氷の退魔師「もしかしたら保存食程度に考えているかもしれないだろう」

長髪の陰陽師「さっきの子供の感じからは大丈夫そうでしたが?」

長髪の陰陽師「一旦討伐作戦は中止としましょう」



729: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:27:14.20 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「お前、お人好しが過ぎるんだよ……騙されやすい性格だぜ」

氷の退魔師「大体、こんな最高の獲物を前に引き下がれるかよ」

九尾「…………」

長髪の陰陽師「……退魔師殿!!」

氷の退魔師「っ……!」

氷の退魔師「てめえ、何しやがる……!」

長髪の陰陽師「いい加減にしてください!」

氷の退魔師「……!」

長髪の陰陽師「……人外退治を愉しまないでください。彼女には敵意が無いのがわからないのですか」

氷の退魔師「……魅了の力にやられたんじゃねえだろうなお前……」



730: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:31:05.04 ID:RJRubkLg0

長髪の陰陽師「後ろに控えさせている子が反応していないのでそれはないです」

長髪の陰陽師「話がややこしくなりそうだったので黙っていましたが、私の部下には淫魔がいます」

長髪の陰陽師「たとえ相手の格が違っても反応ぐらいは出来るはずです」

氷の退魔師「淫魔の部下だと……」

長髪の陰陽師「人外を従えてはならないという規約はありませんからね」

氷の退魔師「…………」

氷の退魔師(陰陽師の言うことを信じるとすれば……)

氷の退魔師(敵意がないだと……人外のこいつが……?)

九尾「…………」


栗毛の男の子「お、お姉さんから離れろ!」

栗毛の女の子「そ、そうだ! お姉さんに酷いことしないで!」



731: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:31:59.24 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「……! さっきの……」

九尾「二人共出てきては駄目だと言ったでしょう」

栗毛の男の子「で、でも……!」

栗毛の女の子「こいつら悪い奴らだよ!」

九尾「大丈夫よ、ちょっと勘違いがあっただけだから」

氷の退魔師「…………」

九尾「……私のことが信用できないという気持ちは分かるけれど」

九尾「一旦休戦してくれないかしら。この子たちを巻き込んでしまうわ」

氷の退魔師「……案内しろ」

氷の退魔師「子供たちの所に案内しろ。自分の目で見て判断する」



732: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:33:19.17 ID:RJRubkLg0

九尾「……丁度いいわ。相談したかったこともあるから」

長髪の陰陽師「相談ですか?」

九尾「ええ、この先のことで少し」



733: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:34:57.30 ID:RJRubkLg0






氷の退魔師「こんなに子供が……」

九尾「鉱山に関わる仕事は危険が多いから、この子たちみたいな孤児が増えやすいの」

九尾「最近は随分と人間の技術も上がってきて、需要が急激に増えているから無茶な作業も多いみたいね」

氷の退魔師「ああ。特に石炭の需要が増えているらしい」

九尾「あら。さっきと打って変わってちゃんと会話してくれるのね」

氷の退魔師「子供たちの衣服が清潔なものだし、不健康な痩せ方もしていない……」



734: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:35:41.19 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「少なくともちゃんと面倒をみているということはわかった」

九尾「わかって貰えてたようで何よりだわ」

九尾「それで相談というのが、あの子たちに関する事なんだけれども」

九尾「私はこの先ずっとここに留まる訳にもいかないの。だけどあの子たちをここに置いて行くのは心配で……」

氷の退魔師「なるほどな……」

氷の退魔師「俺の知り合いに孤児院をやっている奴が居るが、紹介してもいいぞ」

九尾「あら、それは助かるわ」

長髪の陰陽師「これで解決ってことで良さそうですね」

氷の退魔師「わざわざ王国から呼ばれて来たのに、これは退魔師の仕事じゃねえな……」

長髪の陰陽師「たまにはこういう事も有りますよ」



735: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:36:38.31 ID:RJRubkLg0

氷の退魔師「まあ、たまには悪くもないな」

長髪の陰陽師「でしょう?」

氷の退魔師「ああ」

氷の退魔師「…………」

氷の退魔師「……あんたみたいな考え方っていうのは、やっぱり皇国だから育まれるものなのか?」

長髪の陰陽師「どうでしょうね……別に国は関係ないと思いますけれど」

長髪の陰陽師「皇国の文化について知りたいなら、九尾さんに道すがら聞いてみてはどうでしょうか」

長髪の陰陽師「私よりもずっと詳しいはずですよ」

九尾「それは暗に私が年寄りだと言っているのかしら?」

長髪の陰陽師「まあ年の功と言いますし」



736: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:38:19.44 ID:RJRubkLg0

九尾「最初は金髪の方が失礼な奴だと思ってたけれど、長髪も長髪でムカつくわね……」

氷の退魔師「待て、道すがらってどういう意味だ」

長髪の陰陽師「お二人で子供たちを孤児院まで連れて行くのでしょう?」

氷の退魔師「俺はそんなつもりじゃ……」

九尾「ええ、そうよ」

氷の退魔師「なっ、お前……!」

九尾「私も初対面の人は信用できないもの。ね?」

氷の退魔師「ぐっ……」

九尾「そういう訳でしばらくよろしくね、退魔師さん?」

氷の退魔師(面倒事の予感……!)



737: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:39:04.15 ID:RJRubkLg0






氷の退魔師「……と、まあ。こんな感じで何やかんやあって今にい至るわけだ」

お祓い師「何があったら結婚まで到れるんだよ……」

氷の退魔師「親の惚気話なんか聞きたいか?」

お祓い師「……遠慮していおく」

氷の退魔師「だろ?」

お祓い師(今の話からどうやったらこんなデレデレジジイになるのかは少し気になるが……)

お祓い師(長くなりそうだし、聞くとしても別の機会だな……)



738: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:42:41.98 ID:RJRubkLg0

以上で書き溜めていた短編も含めて完全に終了です。
二年近くもお付き合い頂きありがとうございました。

以下sage進行でだらだらと呟いていきます。
早くhtml化しろと怒られそうですが許してください。



739: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:45:34.52 ID:RJRubkLg0

このスレで完結しなかったら嫌だったのでレスへの反応は極力控えていました。
淡々と無視をしているようで申し訳なかったです。スレが閉じるまでは反応できたらと思っています。



740:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/08/23(水) 23:45:59.32 ID:uItIfOy6O

約2年間お疲れ様でした!
いつも楽しく読ませて頂きました。
ありがとうございました!



741: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/23(水) 23:51:39.19 ID:RJRubkLg0

>>740 ありがとうございます

さて、回収されなかったワード(勇者や魔王)などについてなんですが……。
本来勇者を主人公とする本編があって、それに関わる人達のスピンオフを沢山書きたいと思い、この文を書き始めました。
スピンオフから書き始めたらこの二人を結構気に入ってしまって、いつの間にか今に至ると言うことです……。
ですので、勇者を主人公とする本編も当然書きたいと思っているのですが、またダラダラと二年近くかかってしまう気がしてならないんです。
それでどうしようかと思っていまして(最後の短編のように一章一章をコンパクトにすることも考えています)



746: ◆8F4j1XSZNk 2017/08/24(木) 00:45:51.53 ID:iDBbA+UJ0

最終的なランクを載せ忘れていたので上げてきます


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師 

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 赤鬼青鬼

B1 狼男
B2 お祓い師 トロール
B3 フードの侍 小柄な祓師 

C1 下級悪魔 エルフの弓兵
C2 マタギの老人
C3 河童 商人風の盗賊

D1 若い道具師 ゴブリン
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔



元スレ
狐神「おぬしはお人好しじゃのう」 其ノ貮
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474192815/
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          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 10:27
          • こうやって一気にまとめるのやめない?
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 10:43
          • 途中で纏められたら「途中でまとめんなボケ」とか言うんでしょうなあ※1様は
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 14:32
          • 一気まとめは嬉しいけど面白いか面白くないか教えて
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 15:06
          • 面白かったよ
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 15:21
          • エロあった?
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 16:42
          • 5 続編待ちわびてました
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 16:55
          • 気合で読了
            面白かった
            エロはほぼ無し
          • 8. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 20:48
          • よさぬかベイマックス
          • 9. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月24日 22:20
          • エロ期待したけど無くて良かったかな
            こういう結末って媒体によって色々制約があるのかな、良かったです
          • 10. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月25日 22:22
          • よんだひと誰かあらすじ教えて
          • 11. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月26日 04:49
          • 懐かしくてワロタ
          • 12. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月28日 18:44
          • 懐かしいな。
            途中まで読んでたけど忘れてたわ。

            主人公無双じゃないし、俺は好きよ、こういうの。長いけど
          • 13. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年08月31日 03:21
          • 最後に作者が言ってるのだが、この作品はスピンオフでメインの話はまだ作ってないけど今後書く予定だそうだ。この作品に愛着がわいてズルズルと書いたらしい。スピンオフということでシナリオ当初の目的のみを達成して世界観と背景設定を広げて唐突に数十年後になり老後エンドで終わる。
            作中表現では脇役だからお話はここでおしまいとのこと。なので今後この主人公、ヒロインはメインストーリーがでてきても活躍することはないと思われ。まぁ結論いうと、このエンドはない。
            ご都合主義とかどうとかではなく、お話としてスピンオフだからと終わらせるのは不完全燃焼でしかない。
            そもそもそんなスピンオフから書くんならもっと盛大なストーリーとか想定しないとこの作品みたいに物足りない駄作でしかなくなる。非常にもったいない。
          • 14. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年09月03日 04:22
          • やっと読み終えた
            なんというか…
            俺も九尾と結婚したいなって思った

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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