【モバマス】沙紀「いつか君連れて」響子「抜け出して、愛の迷路」【川´3`)】

1: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 22:58:07.73 ID:UNLO+oxFo

※モバマス×山下達郎クロスSSです、ただし直接の絡みはありません
※デレアニ大人組登場、キャラブレ駄文注意



2: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 22:59:07.33 ID:UNLO+oxFo


~Only With You (Instrumental)
https://youtu.be/9_3VlJwLUH0



川´3`)「皆さんこんにちは、ご機嫌いかがでしょうか、山下達郎です」

川´3`)「毎週日曜日の午後2時からの55分間は私、山下達郎がお送りいたしますサンデー・ソングブックの時間であります」

川´3`)「TOKYO FMをキーステーションと致しまして、JFN全国38局ネットでお送りしております。早いもので、あっという間に…」

日曜日の昼下がり、寮のキッチンにはいつもラジオが流れてます。
アイドルのお仕事が入ってないときの私は、寮の皆のために夕食の下ごしらえ。お料理、得意だし、好きなんです。
この時間は「いつも通り」の日々の断片。劇的なことはなんにも起こらず、ただ緩やかな時を迷路のようにたどるだけ。
あの日、そんなふうに思っていたんです、わたし。


あの曲が流れてくるまで。





3: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 22:59:48.35 ID:UNLO+oxFo


川´3`)「…他にもたーくさんの方からリクエストいただきました。久しぶりにかけますネ、コレ」

川´3`)「1976年リリース、もう41年も経ちますか!NYにてチャーリー・カレロのプロデュースで録りました、私のソロでの1stアルバムよりタイトルチューン『Circus Town』」

Circus Town / Tatsuro Yamashita
https://youtu.be/8W9AMDt5DH8




4: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:00:23.31 ID:UNLO+oxFo



じゃがいもの皮をむく手が止まる。シンクに落としたことさえ気づかない。

すごい。何この音。今まで聞いたことない。
くすんでいそうなのにカラフルで、重々しそうで軽やかで。
聴いたこともなければ歌ったこともない、でもすっと入ってくるメロディ。
ああ、私の言葉じゃ全然足りない。もっと表現してくれる人がいるはず。

そして歌詞の最後のフレーズ。
ああ、あの人に歌ってもらいたい。そうなったらどんなに素敵だろう。
ぜんぜん違う世界に連れてってもらえるかもしれない。


私にアートを教えたくれた、あの人に。



5: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:01:07.77 ID:UNLO+oxFo

~~

沙紀P「え?今度のjeweliesで沙紀にこの曲を?」

武内P「ええ、五十嵐さんがぜひ提案してほしいと……」

沙紀P「へー響子ちゃんが!確かにあの二人仲いいですけど、それにしてもすごい直感ですね…意外というか」

武内P「担当外の私がいうのも何ですが、吉岡さんには、達郎さんの曲ですとより開放的な『DAYDREAM』のほうが合うかとも思うのですが……」( https://youtu.be/9CBEa0LssUs



沙紀P「あーたしかに!カーマインとかココブラウンとか、歌詞にポスターカラーの単語ふんだんに使ってますからね」

沙紀P「あと俺はそれ以上に、沙紀に男性ボーカル曲のカバーをさせていいものかどうか悩むんですよ。これ以上マニッシュなイメージが付きすぎるのもどうかと……」

武内P「一理あります。となると最終的には……」

両P「「あの人に聞いてみるしかない(です)か……」」



今西部長「沙紀君に達郎の『Circus Town』をか……」

今西部長「……それはいい、実にいい!ぜひやってみなさい」



6: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:01:41.22 ID:UNLO+oxFo

~~

ちひろ「プロデューサーさんたちって、楽曲関連になるときまって部長のところに聞きに行かれますよね?あれってどうしてなんですか?」

沙紀P「あ、ちひろさん知りません?部長って、もともと346の歌謡部門の統括プロデューサーだったんですよ」

ちひろ「え、そうなんですか!?全然知らなかった……」

沙紀P「『346の耳』と呼ばれていましたから。90年代にうち所属の俳優や歌手が出したヒット曲、全部何らかの形であの人関わってますよ」

武内P「謙虚な方ですので名前を自分から出すことはしませんが、アレンジャーや楽曲を見抜く目で一時代を築かれたんです。」

ちひろ「へぇ、そうなんですね……そういえば、たまに自分の席でヘッドホンつけながら曲聞いてる姿をみかけますけど……?」

沙紀P「あ、あれアイドル曲の最終チェックなんです。今西部長が頷くかどうかでその曲のヒットが決まるというジンクスまでありますから」

ちひろ(すごい、私以上に裏フィクサー感ある……!)

武内P「流石に部長になられてからは録音現場まで行かれることはなくなりましたが、時折楽曲制作のときに的確なアドバイスを下さいます」

武内P「例えば、これは輿水さんの担当の方から聞いた話なのですが……」



7: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:02:11.82 ID:UNLO+oxFo

~~

幸子P「いーかげんネタ的な方向じゃなくて、幸子の『カワイさ』ってのを演出しなきゃなあ……」

幸子P「でも『カワイイ』曲ってどんなんだ……?HALCALI調やフレンチポップじゃありきたりだし……」

幸子P「……あ、部長!『カワイイ』感じの曲調って、どんなのがありますかね?」

今西部長「『カワイイ』、か。色々あるけど、そうだね……」

今西部長「個人的には、久しぶりに『夢で逢えたら』のような、ウォール・オブ・サウンドの音世界を聴いてみたい、かな」

幸子P「……!」



8: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:03:00.48 ID:UNLO+oxFo

~~

沙紀P「それが『To My Darling…』に繋がったってわけか!」( https://youtu.be/2ZD1nAVMlBM



ちひろ「そういえば、幸子ちゃん大喜びしてましたもんねぇ。『そうです!これぞぼくのカワイイイメージにぴったりな曲ですよ!プロデューサーさんわかってるじゃないですか!フフーン!』って」

沙紀P「ちゃんと音壁を『カワイイ』の文脈で解釈できるバランス感覚がすごいわ……」

武内P「原点のスペクターサウンドにとらわれてしまうと、どうしてもソウルやソフトロックの文脈で解釈してしまいがちですからね……」

ちひろ「そういえば、プロジェクト・クローネの楽曲にも部長さんが関わっていらっしゃるんですか?」

武内P「いえ、あれは美城専務の直轄事業なので、楽曲制作もあの方が先導してます」

沙紀P「あ、ただ『Tulip』の制作のとき……」



9: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:03:44.09 ID:UNLO+oxFo

~~

(『Tulip』デモテープチェック中)

美城(おかしい……メロディは完璧なはずなのにアレンジになにかが足りない……)

美城(やはり詞と曲が合わないのか……?)

コンコン

今西部長「お邪魔するよ」

美城「……ご用件は?」

今西部長「いやあ、とおりかかったらいい感じの音が聞こえてきてね。……歌謡ファンクかい?」

美城「ええ、一応……」

今西部長「チョッパー、欲しいね」

美城(!)

美城「そうか、スラップベースですか……!」



10: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:04:10.71 ID:UNLO+oxFo

~~

武内P「それであのイントロになったわけですか……」( https://youtu.be/H0M1yU6uO30



ちひろ「確かに、今聞いてみると『Tulip』って専務さんの好みとはまた違ったかっこよさですよね……」

沙紀P「それを受けてキリンジの千ヶ崎さんを呼んでこれる専務の力もまた凄いというかなんというか……」

武内P「そういえば、PCSの『ラブレター』に岡野さんを抜擢したのも部長が……」ペラペラ

沙紀P「それをいうなら、『Frip Flop』でクラムボンのミトさんをよべたのだって部長が……」ペラペラ

ちひろ(すごい、もはや理解できない領域に……)

沙紀P「それにしても、あの情熱はどこから来るんだろうな……?」

武内P「偉大な、お方です……」



11: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:04:59.77 ID:UNLO+oxFo

~~

今西部長「千川くん、例の収録のスケジュール、決まったのかい?」

ちひろ「あ、気になりますか?ちょうど、定例会議の日と被ってるんですが……」

今西部長「……ああ、そうか。ありがとう」

ちひろ(……?)

~~

今西部長(……あれから41年か)



12: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:05:31.77 ID:UNLO+oxFo





『今この会社には自主レーベルが必要なんです!』

『大変申し訳ない、CBSソニーと話が決まりかけなんです。もしチャーリー・カレロのプロデュースで録れるなら別ですが……』

『年間予算5000万!? 何考えてんだ今西?』

『今西くん聴いた?RCAの小杉さんが新人のためにカレロのプロデュース取り付けたってさ!……今西くん?』







今西「……」ピッポッパ

今西「……もしもし美城くん?今度の会議だが……」



14: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/15(土) 23:06:34.85 ID:UNLO+oxFo

~Interlude~

川´3`)「吹田市の超常連、椎名和法さん」

『達郎さんこんにちは。私の13になる娘は、毎日ミスドに通い髪留めにフレンチクルーラー型を選ぶほどの大変なドーナツ好きです。その縁で小さいときから達郎さんの”ドーナツ・ソング”を繰り返し聴いています。ところがこの前会話していた時、「このドーナツにぴったりなリズムの曲って他にないの?!」と聞いてくるではありませんか。これはしめたと思い、The Strangeloves の I Want Candy をはじめとしたジャングル・ビートの楽曲を片っ端から教えています。諸活動で地元にいることが少ない娘のためにもぜひ、サンソンのいい音で I Want Candy をかけてください。達郎さんのおかげで、娘にオールディーズの英才教育を施すことができそうです!』

川´3`)「しめしめ、日本の未来は明るいゾ(笑)」

川´3`)「にしてもドーナツからストレンジラブスときましたか!ホントかよこれ(笑)」

川´3`)「すごい飛躍ですねぇ……キャンディだからお菓子繋がりかしら。またください」

川´3`)「ジャングル・ビート、私の『ドーナツ・ソング』でも使っておりますが(アコギ取り出し)

    ジャッ、ジャッ、ジャッ(ポン)ジャッジャッ!

    このリズムですね。オールディーズ好きの方なら、ボ・ディドリーの楽曲でおなじみだと思います」

川´3`)「The Strangeloves、もともとはNYのBob Feldman, Jerry Goldstein, Richard Gottehrerの三人が結成したソングライターチームでした。有名どころではThe Angelsに書いた”My Boyfriend's Back”がありますが。」

川´3`)「そんな彼らですが、1964年にブリティッシュ・インベンションの煽りをうけて、自分たちをオーストラリアの農村出身の兄弟バンドだと架空の設定をこしらえて売り出すことになります。トラベリング・ウィルベリーズの先駆けみたいなものですネ」

川´3`)「シンプルなリズム構成が実にロックを感じさせる楽曲が多いチームであります」

川´3`)「彼らの作品で最も有名なのがこのシングル。1965年リリースでございます、全米チャート11位まで行きました。The StrangelovesでI Want Candy」

The Strangeloves - I Want Candy
https://youtu.be/G6Vw9RGm1tM



~~~~~~



16: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:36:47.61 ID:I6Z5SfV7o




時々、ARTの意味ががよくわからなくなる。


曖昧な言葉なんっすよ、アーティストって。
もちろん、絵や造形だけでなく、何かしらの表現ができる人はみんなアーティストっす。
その意味で自分がアーティストであるって自信は全く揺らがないっす。

でも、

自分から溢れ出るものを表現するだけがARTなのか。
見てくれる人がいなければ、それはARTになるのか。
そもそも溢れ出るものは本当にオリジナルなのか。
もとがなければ何も表現できないんじゃないのか。

そういう細かいところが気になると、本当にARTをわかっているのかどうか、こんぐらがってくるんっす。
考えていてもしょうがないから、大抵の場合は先にアクリルカラーかスプレーペンキで塗りつぶしちゃうんすけど。



17: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:37:24.14 ID:I6Z5SfV7o


だから、響子ちゃんのアイデアで今回のカバーをするって決まったときは、ちょっとしたチャンスかなって思ったんす。
達郎さんのアルバムは結構聴いていたし、何より自分が「もとからある曲」でどこまで表現ができるのか、チャレンジになるって確信したっす。

アタシの考える、達郎さんの楽曲のイメージ。
どれもカラフルっすけど、初期の方は丸くかたどられた色とりどりのザラッとしたステンドグラスたちが縦横無尽に動いているような音色。
ざっくりしてるけど、光を当てると撹乱反射しそうな音たち。
これが『RIDE ON TIME』以降だとポスターカラーになるんすけど。

自分が表現するからには、色を載せるキャンバスがどんなのかを知っておきたいっす。
だからPさんに頼み込んで、リズムトラックを収録するスタジオを教えてもらって、オフの日に見学に行ったんすよ。そしたら、

今西「おお、沙紀くんじゃないか」

Pさんの代わりに、部長さんがいたっす。

~~



18: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:37:57.68 ID:I6Z5SfV7o

沙紀「部長さんって、よくスタジオに来るんすか?」

今西「最近は殆ど任せてるからご無沙汰だね。ただ生音録りだというから、ちょっと気になって覗いてみた」

今西「それに、達郎の楽曲だしね」ニコッ

その笑顔の裏に、何故かいろんな歴史を感じたっす。なんでっすかね?

~~



19: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:38:29.30 ID:I6Z5SfV7o


レコーディングのスタッフさんたちがしきりに部長さんに色々聞いてる姿を見て、こういうことに鈍感な私でも、すごく慕われてる人なんだなって分かったっす。
こういう人がいるから、自分も表現できるっすねなんて思ってると……

今西「……1テイク目終わったね。ちょっと流してくれるかい?」

Take 1 Replay…

アレンジャー「……どうですイマさん?割りと元のアレンジに近づけながら、音がよりハネる感じにしてみたんですけど」

今西「悪くないね。リズムパターンがスッキリして、歌いやすい感じにはなってる。沙紀くんはどうだい?」

沙紀「そうっすね…確かに聞き取りやすくていいっすけど、随分アッサリしてるっすね」

今西「……そうだな、もっと『アバれた』やつも聴いてみたいね、BPMあげて」


『アバれる』?


アレンジャー「……アバれちゃってイイっすかね?」ニヤリ

今西「……それをうまく纏められるから、君がいるんじゃないか」ニヤリ

うわっ。部長さんの表情が、いつもののんびりした時とぜんぜん違う。
部屋の気温が2度くらい上がった気がするっす。



20: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:39:11.80 ID:I6Z5SfV7o

アレンジャーさんが録音ブースに戻ってピアノからバンドメンバーに指示を出してるのをみながら、部長さんがアタシに一言。

「聴いててごらん」

〈テイク2ハイリマース、1234ッ!




変わったっす、音の景色が。

のっけからさっきまでなかったピアノのグリッサンド、それに乗じて暴れるフィルインの響き、ギターカッティングの音まで輝き出してる。

ほんのちょっとしかアレンジ変わってないのに、リズムが渾然一体となってる。

凄えっす!音が、濃いッ!!


今西「……これができるんだよ、彼らにはね」



21: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:39:42.96 ID:I6Z5SfV7o

沙紀「……このメンバーの皆さんって、部長さんが呼んだんすか?」

今西「いや、ほとんど現場に任せてあるね。ただ、面々の顔はよく知ってるのが多いな。たとえば…」

今西「ピアノ弾いてるアレンジャーの彼は60sから80sのアメリカンポップやソウルのアレンジパターンが完全に頭ん中に入ってるんだ。プレイヤーとしても白玉の響きがとんでもなく美しい」

今西「ドラムの彼は典型的なリムショットプレーヤー。スネアの音色の多彩さとキックの太さが魅力だな」

今西「ベース君はとにかく多彩だね。どんなグルーヴにも対応するだけの懐の深さを持っている。さしずめ新時代のウィル・リーって言ったら褒め過ぎかな」

沙紀「全員の特徴が頭にはいってるんすね……」

今西「まぁこれくらいしか極められるものがなかったからねえ……」



22: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:40:11.03 ID:I6Z5SfV7o

今西「沙紀くんは、『ARTISAN』って言葉を知ってるかい?」

沙紀「そういや、達郎さんのアルバムであったっすね」

今西「英語で『職人』って意味なんだ。実は、『ARTISAN』と『ARTIST』には同じ単語が含まれてるんだ。わかるかい?」

沙紀「……あっ。『ART』……」

今西「その通り。芸術家と職人、正反対のように思えて、実は同じ語源から始まっているんだ」

今西「バンドの彼らは、いわば音の『職人』だよ。忠実に頼まれた仕事をしながら、その中で自分にしかないニュアンスを出していく」

今西「名前が前に出るわけじゃないが、これも立派な表現者だと思わないかい?」

沙紀「……そうっすね」コクリ

~~



23: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:40:51.20 ID:I6Z5SfV7o

収録後……

沙紀「そういえば、部長さんって何か達郎さんと関わりがあったりするんすか?」

今西「……沙紀くんはなかなか鋭いなあ。よし、一つだけ教えてあげよう」

今西「達郎のアルバムで『JOY』ってライブ盤があるだろ?あれの一枚目の最後に入ってる……」

沙紀「『LOVE SPACE』っすか?」

今西「そうそう。あの直前に入ってる『コンヤハオールナイトー!』って野次あるだろ?あれ、僕だ」

沙紀「ええっ!本当っすか!?」

今西「今から事務所のサウンドチェックルームで確かめてみるかい?」

沙紀「うちの事務所、そんな部屋あるんすね……」

今西「いつもは美城くんが独占してるからね、少しくらい借りたってバチ当たらんだろう」

~~

その後、サウンドチェックルームのどでかいスピーカーで例のアレを聴いたんす。
普段はヘッドホンで聞いてるから、なんだか奇妙な気分になったっす。なぜって、






ホントに1981年の六本木PIT-INNに放り込まれたような音だったんすから。

Love Space (1981 PIT-INN)
https://youtu.be/Dgdy84fJpnQ




24: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 19:41:30.43 ID:I6Z5SfV7o

~Interlude~

川´3`)「最近は若い方からもよくお便りを頂きます。習志野市の安部菜々さん27歳」

『私はよく歌をうたうのですが、最近年下の友人に「声が若干オカンっぽくなったね」と言われ大変ショックを受けてしまいました。10代の頃のようなキラキラな声がほしい!還暦を超えても衰えず輝くような声の達郎さんは、果たしてどんなスペシャルなケアをしているのでしょうか?』

川´3`)「いやいや27ってまだ全然若いですよあーた!」

川´3`)「えー何も特別なことはしておりません。若い頃にやっていたタバコを一切やめてからはかなり喉の調子が良くなりましたが......」

川´3`)「あと、声帯というのは使わないほど衰えていくものなので、毎日15分ほどのヴォイストレーニングは欠かさないようにしております」

川´3`)「ただ若干厳しいことを申し上げるようですが、身体というものは否応なく加齢により変化していきます。その際に失ったものを追い求めすぎるのははっきり言ってナンセンスです。私以前にも申し上げましたが、その時に出せる声に応じていかに表現を変えていくか、またいかに維持していくか、表現者でありたいと思う以上は常に考えるべきだと思います。」

川´3`)「とはいえ、まだ若い方のようですのでいくらでも磨きをかけることはできると思います。頑張ってください!」

※この安部さんは同姓同名で10歳違い(※公称)のウサミン星人とは”おそらく”別人でしょう。えっ、なんで同じ名前かって?やだなあ、シャレデスシャレ……

~~~~~~



26: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 21:59:41.65 ID:I6Z5SfV7o


沙紀さんに誘われて、PVの撮影に参加したんです。

私が提案した『Circus Town』が推しの1曲になって、そのプロモーションのために作るんですって。
構成は沙紀さん扮するピエ口が魔法の刷毛を持って口ずさみながら日比谷の町をノーカットワンショットで駆け巡るというもの。これ、沙紀さんのアイデアなんですって!

私の役柄は歌詞の内容にそって、最後にピエ口と手を握って街頭へ逃げ込む少女。どうしてでしょう、なんだかドキドキしちゃいました。

でも沙紀さん、よっぽどこのPVに入れ込んでるみたいで、撮影終わってからもスタッフの人とモニターみながらずーっと話し込んでるんですよ、ずーっと。
そりゃあ、お仕事ですからイメージを合わせるのは大切ですよ?でも、この現場で同年代なのって私だけなんですから、やっぱり寂しいし、少しだけでもかまってほしいです。

だから、ミーティングが終わった頃合いを見計らって、沙紀さんを誘ってみたんです。


「一緒に逃げ出しません?」って


~~~~~~



27: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 22:15:40.11 ID:I6Z5SfV7o


沙紀「いやあ、屋上に逃げ込むだなんて、響子ちゃんもアクティブっすねえ」

響子「そうですか?だってあのままだと、沙紀さんずーっとPVのことしか頭にない感じですもん!」

響子「高いところに行って、空気吸ってリフレッシュした方がいいですよ?」

沙紀「あー…気ィ入れすぎだったっすかね。響子ちゃんほったらかしにして申し訳ないっす」

響子「そういえば沙紀さん、今回PVの制作にとても積極的ですよね。グラフィックアートと違って、結構制約あって大変じゃなかったですか?」

沙紀「うーん、そうっすねえ……前だったら、もっと自由に表現したいって思いがあったかもしれないっすけど」

沙紀「今回のカバーを通して、縛りのあるなかで滲み出す表現も、また『ART』だってわかったんす」

響子「縛りの中の『ART』……」



28: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 22:28:24.72 ID:I6Z5SfV7o

沙紀「この前部長さんに教えてもらったんすよ、職人という意味の『ARTISAN』って言葉に『ART』の文字が入ってるって」

沙紀「リズムトラックのレコーディングをみて思ったんすけど、私達の活動の裏では、沢山の人が『ARTISAN』として活躍してくれてるんすよ」

沙紀「部長さんも、アレンジャーさんも、ミュージシャンのみなさんも、PVの監督さんも、カメラマンさんも、衣装さんも」

沙紀「もちろん、コーディネートしてくれたPさんもっす」

沙紀「皆一人ひとりが仕事の中で精一杯表現して、そこから滲み出てるものが全部『ART』になってるんすよ」

響子「……」




29: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 22:36:38.15 ID:I6Z5SfV7o

沙紀「だから最近思うんすよ、自分は『ARTIST』であると同時に、『ARTISAN』でも有りたいって」

沙紀「ファンの皆の声に答えて、なおかつ自分の表現を目一杯やる」

沙紀「たとえ他の人の見えないところでも、満足してもらうためには出来る限り手を尽くす」

沙紀「たとえアイドルであってもなくても、そうやっていれば、いつでも『ART』を表現できるのかなって」

沙紀「まあ、そんなところっすかね」

響子「……すごいなあ、沙紀さん。私には真似出来ない」

沙紀「?」



30: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 22:48:27.56 ID:I6Z5SfV7o

響子「……私、スカウトされてこの世界に入ったから、そもそも表現したいものってなかったんです」

響子「最近はファンの皆さんの声援に応えたいってのがモチベーションになってますけど、果たしてそれって自分以外だとダメなのかって、思ってしまうこともあるんです」

響子「もし、いろいろな形で表現しようとして、自分が空っぽだったらどうしようって……」

響子「なんにも滲み出てこなかったら、どうしようって……」ナミダ

沙紀「……響子ちゃんは空っぽなんかじゃないっす」

沙紀「だって、アタシに『Circus Town』のカバーを提案してくれたじゃないっすか」

響子「……!」




31: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 22:58:16.72 ID:I6Z5SfV7o

沙紀「響子ちゃん、アタシに歌ってほしいから提案してくれたんすよね?」

沙紀「その時点で、もう響子ちゃんの意思が滲み出てるじゃないっすか!」

沙紀「アイデアを表に出すことで、もうそれは立派な『ART』なんすよ!」

響子「沙紀さん……」ホロリ

沙紀「……響子ちゃんは、無理して表現がどうのこうの考えないほうが良いと思うっす」

沙紀「ファンの皆のために頑張る。それだけで、響子ちゃんの『ART』が滲み出てくるっすから、絶対」

響子「……ありがとうございます、なんだか、元気が出てきました」

沙紀「それに…」


沙紀「もし表現の迷路に迷ったら、その時はアタシと一緒に抜け出せばいいんすよ」

響子「~~~!」//////



32: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 23:04:39.40 ID:I6Z5SfV7o

沙紀「あれ、どうしたんすか響子ちゃん?顔真っ赤にして?」

響子「~知りませんっ!感情が滲み出ただけですっ!」/////

沙紀「え、なんかアタシ、マズイこと言ったっすかね?」オロオロ

響子「自分の胸に聞いてみてくださいっ!」//////

響子(歌詞の最後のフレーズ、意味わかって歌ってんのかなあ、沙紀さん……)///////



33: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 23:06:48.34 ID:I6Z5SfV7o

~~~~~~

川´3`)「……というわけで今日はこのへんで」

川´3`)「日本コロムビアが出しております、346Productionに所属しているアイドルの歌うカバー曲を纏めた『jewelies』という企画アルバムシリーズがございます」

川´3`)「今回で4回目になるそうですが、その中の吉岡沙紀さんの一曲が、なんと私の『Circus Town』のカバーでございます」

川´3`)「私も、いろいろな人がいろんなカバーしてくれましたが、まさかの『Circus Town』ですよあーた!なんてシブい!」

川´3`)「さらに驚くべきことに、コーラス・ストリングス以外のリズムトラックは一発撮りですこれ。若手のスタジオ・ミュージシャンたちがバンドの如き気合のはいった演奏を聴かせるという……作者冥利に尽きます」

川´3`)「なんだか、こういう音源を聴いてると若い頃の自分に『お前の中のロックンロールはまだ生きているか?』と問われてるような気分になりますね……」

川´3`)「大丈夫、まだ生きてるよ」

川´3`)「素晴らしいカバーになったと思います、○月○日発売『jewelies cool vol.4』に収録されております、吉岡沙紀さんのカバーで『Circus Town』」

~~~~~~

今西「……」プカー

今西(どうだい達郎。俺の中のロックンロール、まだ生きてるだろ?)

~~~~~~



34: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 23:07:24.80 ID:I6Z5SfV7o


川´3`)「お送りいたしてまいりました山下達郎サンデー・ソングブック、いかがだったでしょうか。今週は『納涼リクエスト大会』でした、来週も引き続き……」

Groovin'
https://youtu.be/--FWkxQrTsA



~epilogue~

沙紀P「そういや沙紀、響子ちゃんがアレ勧めた理由って、お前見当ついてる?」

沙紀「そうっすね……色々話はしたっすけど、具体的な理由ってのは……」

沙紀P「アァ……やっぱ鈍感やなあおまえ」

沙紀「?」

沙紀P「歌詞の最後のフレーズ、もう一度声に出してみ」

沙紀「えーっと……『いつか君連れて抜け出すさ愛の迷…路……」

沙紀「え、ええッ!?」///

沙紀P「こりゃー響子ちゃんとの面会制限しなきゃなりませんかねぇ~」ニヤニヤ

沙紀「いや、ちが、そんなんじゃないっすよPさ~ん!」////



35: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 23:07:53.22 ID:I6Z5SfV7o

~~~~~~

川´3`)「山下達郎サンデー・ソングブック、来週もセイムタイムセイムチャンネルで皆さんごきげんよう。 さよなら。」



36: ◆CToYMTLgRvRe 2017/07/16(日) 23:13:12.03 ID:I6Z5SfV7o

終わりです。
アーティスト沙紀がアルチザンと呼ばれる人と接したらどんな風に成長するんだろう、そんなことを考えたらふと『音楽職人』山下達郎と絡ませたくなりました。
サンソンの再現がかなーり難しかったです。大目に見てくださるとこれ幸い。

デレマス過去作

奈緒「絵本を作ったって?」加蓮「うん、読んでくれる?」

楓「卯月ちゃんマジシンデレラガールでした」



元スレ
【モバマス】沙紀「いつか君連れて」響子「抜け出して、愛の迷路」【川´3`)】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1500127087/
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          • 1. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月17日 20:43
          • 川´3`)<俺はこんな唇厚くねぇぞ!
          • 2. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月18日 00:48
          • 川´3`)ζ*'ヮ')ζξ*'ω')ξ
          • 3. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月18日 19:29
          • ζ*'ヮ')ζ<街物語は名曲かなーって
          • 4. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月19日 09:40
          • 完全に音楽オタクのためだけに書かれたSS
            嫌いじゃない
          • 5. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月19日 10:21
          • なんでこのカップリングに食らいついたまま離れない奴が居るのか本当に謎ですよ
            嫌がる人が多い方が燃えるとかそういう性癖なのか?
          • 6. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月19日 14:49
          • 1 カップリングって発想が気持ち悪い
            友達でいいじゃん
          • 7. 以下、VIPにかわりましてELEPHANTがお送りします
          • 2017年07月19日 15:24
          • モバマスSSでブリティッシュインヴェンションなんて単語を見る日が来るとは思わなかったぜ

        はじめに

        コメント、はてブなどなど
        ありがとうございます(`・ω・´)

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