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【モバマス】早坂美玲「アイドルサバイバルin仮想現実」【その3】

関連記事: 【モバマス】早坂美玲「アイドルサバイバルin仮想現実」【その2】











676: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:28:50.34ID:cUGxJX090


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チャプター
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨


ゲーム開始88分時点



裕子「エスパーユッコここに推・参!!」

蘭子「我こそは仮想の庭園に降り立つ悪姫、ブリュンヒルデなり!」



陽動作戦開始


蘭子「今こそ我に力をもたらせ...!グリモワールよ!」


不本意ながら着込まざるを得なかった黒のパーカー、そのポケットは蘭子のスケッチブックを丸め込んで収納するにはちょうど良かった

破られた白紙のページが変化する。この状況に最適な道具へと



ヒョウくん「......」

翠(ボット)「今までで一番活きの良いお客様ですね」

四本の矢が翠の矢筒に装填された、これで彼女の能力はリセットされたことになる

翼竜の周囲の大岩、数分前に落ちてきた聖と美玲による流れ弾が同時に崩折れた

彼女の能力による固定が無くなったそれらが脆く倒れていく



裕子「おぉっ!地震ですか!?」

蘭子「ち、地形が変わっていくだと...!」

翠の能力を知らない二人からすれば、なんの前触れもなく周囲の瓦礫が倒れたようにしか見えない

その隙に一人と一匹は突く、瓦礫の砂塵を振り切って血管の浮いた羽が空を切る


裕子「むむっ!先手は取らせません!」


急接近する巨大な敵に彼女が選択した武器もまた瓦礫、自身の倍からある大きさのそれを担ぎ上げた


「さいきっく 念動力!!」



それはただの投石、ただし必殺の威力で翼竜とその背の翠を襲う





677:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/14(土) 11:30:52.75ID:cUGxJX090


対して彼女は弓を引かず、爬虫類の背にしっかりとしがみついた

それに応じるように翼竜は急上昇して、壁のようなサイズの岩石を躱し、降下する

そうして温存した矢を弓につがえる、相手を釘付けにして動きを制限する能力のために




翠(ボット)「___いない?」




ただし相手がいなければ意味はない


蘭子はおろか投石した本人である裕子の姿さえ消えていた


ズズゥン!!


大岩が一面のガラス窓を粉砕しながらビルに減り込む音が背後から聞こえた


翠(ボット)「岩に気を取られている内に隠れて...そのまま事務所まで抜けるつもりですか...」


矢をつがえたまま周囲を警戒しながら後ろへと体を回していく、背後には今まで守護してきた事務所があるのだ


翠(ボット)「(今となっては通してしまっても”構わない”んですけどね......まだそれには少し早いそうですし)」


数分前の仲間との会話を思い返す


それは、変わり果てた状況に対する自分たちの取るべき指針についてのやり取り



佐城雪美の能力によりもたらされた情報



八神マキノを始めほとんどのメンバーが消失したという事実にまつわる話し合いを___


ズルッ


ヒョウくん「......!」

翠(ボット)「!」


平衡感覚が狂い、視界が急勾配で傾いた



翠(ボット)「これは__!」


足場が傾いている、この場合足場とは翼竜と化したイグアナそのもの



「さーいきっくぅうう...」



完全に後ろを向ききった翠の目に裕子の姿が飛び込む


さっき自分の投げた岩の上に陣取り、大綱ほど太さの尻尾をむんずと掴んでいる姿が




678: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:32:41.46ID:cUGxJX090


裕子の傍らには蘭子がいた

ただしこっちは岩の上には着地していない、ふわふわと宙に浮いていた


その手の中には黒い傘

さっきまでなかったはずのそれがタンポポの綿毛のように蘭子を空へと引っ張り上げている


蘭子「我が力は刹那、超常の使い手よ...早急に決めてしまうのだ!(私の能力はすぐに切れちゃうので、裕子さん、さっさとやっちゃってください!)」


裕子「ううううぬぬぬぬ......!」


イグアナの翼が虚しく空を掻く、崩された体勢では満足な揚力など得られず

その巨体が大岩の上の裕子を軸に回転を始めた


翠(ボット)「(蘭子さんの能力は飛行?...それで裕子さんと共に死角から回り込んできたのですか!)」


猛スピードで流れる視界、弧を描く足場、傾く爬虫類の背中からでは姿勢を保てない


弓を射るなど以ての外だ


今の翠にできることはその翼の根元にしがみつくことだけ


翠(ボット)「だったら.........ヒョウさん!」

ヒョウくん「......!!」

翠がイグアナに合図を送る。そして傾いた背中から滑り降りた







裕子「テーレーポォオオオオト!!!!!」







同時に巨大な翼竜は、遥か遠くへ向けて背負い投げられた





679: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:34:07.00ID:cUGxJX090


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ゲーム開始89分時点


きらり「翠ちゃん以外は見張りもいなかったねー?」


愛梨「他の人たちが中にいるんですよ、きっと窓から見えただけでも四人くらいいましたし...」


杏「うぇえ...じゃあ杏たちの方が危ないんじゃないの...?めんどくさ...」


裕子と蘭子が姿を見せる少し前から行動を開始していた隠密組が事務所の裏手に到着した


きらり「杏ちゃん、そんなこといっちゃダーメ!ユッコちゃんたちも頑張ってるにぃ?」

その証拠に今も地響きやガラスの割れる音がそう遠くない場所からビル壁を反響してきていた

愛梨「でも武器がこんなものしかないのも事実ですしね...頑張らないと...!」

そういって手に掲げたのは料理用のナイフ、元は蘭子の体に刺さっていたものの一部だ

ニュウェーブの罠により蘭子を貫いた後、

何かの拍子に刃こぼれした一部がパーカーのポケットの中に引っかかっており、

それを愛梨が修復し、一本の新品のナイフになるまで復元した

ちなみに刃物に軽いトラウマを負った蘭子自身はそのナイフを使うことを忌避した


きらり「何かあったら~愛梨ちゃんにお願いだにぃ...」

愛梨「任せてください!ふんす、です!」


不慣れな手つきでナイフを構え意気込む愛梨をきらりがはやし立てる



その様子を杏はやや冷めた目できらりの背中越しに見ていた



杏「(愛梨が刃物を武器にねぇ......似合わない、というか先制攻撃とか無理だろうなぁ...)」





680: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:36:24.41ID:cUGxJX090


確かにこの世界はゲームで、敵は機械人形だ。

ここで誰をどう傷つけようと現実の人間関係は変化しない

だからといって自分のよく知る人間、それも仲間にナイフを突き立てられるか?

レーザービームや巨大な恐竜、動く箱といった現実離れした現象とはわけが違うのだ。

刃物などあまりにも現実的すぎる


杏「(水鉄砲とは違うんだから...完全にゲームだと割り切ってないと咄嗟に仲間のそっくりさんを攻撃する、なんてできないでしょ...)」


きらりの背中で心持ち態勢を整えた。事務所の中からは目立った音は聞こえてこない


杏「(いざとなったらこれ、杏が働かなきゃならない流れかなぁ......)」


がちゃり...


愛梨「それじゃ、入りますよ...私に続いてください...」


きらり「にょわぁー」

きぃい...

三人にとって正念場となるはずの扉が開く


杏「............」


愛梨の手の中で、ふらふらと揺れる頼りないナイフ

小声になってはいるものの、警戒心の欠けたきらりの掛け声


杏「...まぁ、もらった飴の分は頑張るよ...」





681: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:37:51.23ID:cUGxJX090


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チャプター
堀裕子&神崎蘭子



世界が静止した



裕子「あれー?」

蘭子「__!?」


裕子の足場となっていた岩が完全に崩れる前に、

蘭子の空飛ぶ傘に捕まることで避難はできていた

生地の薄い黒い傘は二人分の体重を感じさせない余裕さで宙を漂う


そんな二人を至近距離で眺める眼球が二つ



ヒョウくん「........」



裕子「本気で投げ...いえ、テレポーテーションさせたんですけどねー」

蘭子「目と鼻の先の危機に猶予はない!?(そんなこと言ってる場合じゃないですよ!?)」


投げ飛ばしたはずの大型翼竜がほぼ眼前にいた


裕子の能力を全開にした上で投げ飛ばされたはずのそれが、悠々と空中で態勢を整える

巨大な生物というのは体重も大きい分、動かすのは容易ではない。

だがその体重の大きさは一度速度がついてしまえばそれだけ大きな遠心力がかかるはずだ


いくら翼があるとは言え空中で急ブレーキをかける手段などあるはずが






翠(ボット)「......間一髪、ですか」





いや、一つだけある




682: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:39:50.18ID:cUGxJX090



裕子「ん?あのイグアナさん怪我してませんかね?背中のとこ」

蘭子「そんなことより、は、早く逃げないと...!」


裕子の指摘のとおり、イグアナの背中は僅かだけ傷ついていた


水野翠が突き刺した一本の矢により


翠(ボット)「能力発動......です」


「これで...ヒョウさんは私から60メートル以上離れることはありません」


コンクリートの地面に受身を取っていた彼女が毅然と起き上がる


翼竜の背中から”故意に”滑り落ちる寸前、

彼女は矢を足元、つまりウロコの背中に突き立てていた


これにより能力の対象となった翼竜は最低でも地に足をつけた翠から見て60メートルの一に固定される

鎖につないだ碇を海底に下ろした船が波に流されないように、こうして裕子の怪力も遠心力も全てキャンセルされた



翠(ボット)「足場ごと振り回された状態では弓は引けませんが......自分の足元に矢を突き刺すくらいは出来るんですよ...?」

裕子「???」

蘭子「この世界は我にそぐわぬ!!三十六計なり!(に、逃げますよぉ!)」





683: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:40:24.84ID:cUGxJX090



二人は翠の能力を知らない。だが状況のまずさは理解した。

不意打ちに失敗したのだ

蘭子が体を傾けると同時に重心の移動した傘はふわりと動き出す


だが遅い


翠(ボット)「能力...解除」


翼竜を保護する戒めが解かれた。碇が上がる


ヒョウくん「.........」



バサァッ!!



蘭子「ひっ!」

速度、重量、攻撃力、全てが段違い

今度は尻尾ではない。ヒョウくんの頭突きが二人に振り抜かれた



裕子「さ、さいきっく...えっと、ジャーーーンプ!!」



頭突きに合わせて両足を突き出した。膝を緩衝に頭突きの衝撃を相殺する

しかしそこは踏ん張りの効かない空中、結果として二人は風に巻かれる枯葉のように吹き飛ばされた


蘭子「きゃああああああ!!」

裕子「しっぱいですかーーー!?」


きりもみ式に回転しながらあっけなく遠ざかっていく


翠(ボット)「.........本当にこれで、よかったんですよね」

ヒョウくん「......」


消えていく二人の方向を見ながら、確認するように呟く




二人は、事務所へ向かって飛ばされていた




684: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:41:51.58ID:cUGxJX090

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チャプター
十時愛梨&諸星きらり&双葉杏


愛梨「一階はスルーして...一気に二階まで行きますよ...」


そういったのは十秒前


きらり「じむしつに踏み込むにぃー」


そういったのが五秒前


杏「なんで誰もいないのさ......」


そして現在

電気が通っていないせいで、窓から不自然なほどに燦々と注がれる月光だけが光源となった部屋

三人は知る由もないが、少し前に凛が踏み込んだことで荒らされた事務室にはいくらか人のいた形跡はあった

パソコンの備え付けられたデスク、倒れたソファ、割れた窓ガラス、穴の開いた壁


しかし、ここにいたであろうボットだけがいない


杏「えっとさ...最初、遠目に見たときは確かに誰かいたよね...?」


愛梨「はい...窓のそばに。それに今も外には翠さんたちがいるってことは...ここを守ってたはずじゃあ」

きらり「じゃあじゃあ~、みんな逃げちゃったゆ?」


暗い室内の中心できょろきょろと周りを見渡す

杏「誰もいないならいないで、早いとこ見つけるもん探したほうがいいのかもねー」

内心ほっと息を吐きながら、散らばった室内を目を凝らして観察する

元々ここにはゲームを有利にする何かを探しに来たのだから妨害はないほうが好ましいのだがこの状況は不自然だった


杏「(きらりのキーアイテムってなんだろ...きらりの場合...趣味関連のものとか...?)」

「(ダメだ、心当たりがありすぎる...なにせ小物集めが趣味みたいなもんだしね...)」


カタンッ


「!?」



685: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:43:11.98ID:cUGxJX090



びくりと三人が震える。気配のなかった室内、その隣の部屋からの物音


「だっ、誰かいますねっ!!」

最初に武器を構えたのは愛梨だった。しかし動いたのはきらりだった

「にょぉおお、わぁあ~~!!」


「ちょ、慎重に行動しないとっ...!」


杏を背に負ったまま一気に駆け出し、隣の応接間への扉を蹴破った

静寂を破壊して、一気に未知の空間が開ける


「あれあれ~?」


だが、そこも無人

ただし何もなかったわけではなかった


カラン、と乾いた音を立てて応接間の床にそれが落下する


愛梨「今、扉の裏から何か落ちませんでした?」

きらり「にゅ?これかに~?」

杏「なにこの安っぽいおもちゃ...」


きらりが拾い上げたそれに対して背中越しに杏が毒づく。

きらりの手のひらに乗るような大きさの、他愛ないおもちゃ



星形のディスクに対して



愛梨「そんなものが仕掛けてあるなんて...何かあるんですかね?」

三人は知らない、本田未央の能力を、それが遠隔で振動を伝えることを

その振動が応接間での物音を演出したことを



それが事務所に来た三人の気を引き、

時間を稼ぐためのものであったことを





686: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:44:08.38ID:cUGxJX090



ゲーム開始90分経過



ガッシャアアアアアアアンンン!!






裕子「ほわぁああっ!!」

蘭子「きゃあっ!!!」




突然の闖入者、すでに割れていた窓ガラスを窓枠ごと粉砕して、

黒傘とスプーンを構えた少女たちが飛び込んだ


愛梨「えぇっ!!?」

きらり「にゅにゅっ!!?」

杏「!...な、なんでこっちに来てんのさ!?」





驚愕した三人の表情がそこで白く染まる






白く灼けた夜空の照り返しを受けて





90分

それは命運を分かつ時間




___ゴォオオオオオオオオオ!!!!






687: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:45:09.02ID:cUGxJX090



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カタカタカタ


翠(ボット)「.........」


懐から出した星型ディスクを眺める。それは先程から絶えず震えていた


これは合図だ。『そこから逃げろ』というメッセージを込めた


「ヒョウく~~~ん!」


ビル街の死角、カラスの行動パターンから漏れた一画に翠を乗せた翼竜が着地すると同時にその足元に少女が駆け寄ってきた


小春(ボット)「うふふ~、無事に帰ってきてくれて嬉しいのです~」

翠(ボット)「小春さん、大事なお友達を貸していただいてありがとうございました...」

小春(ボット)「いえいえ~!」



未央(ボット)「いや~!まさにゆきみんの予言通りの展開でしたなー」

雪美(ボット)「......ぶい...」

卯月(ボット)「もーのすっごい大きな音でしたね!」



小さな少女に続いて、暗闇に潜んでいた他の影も姿を現す


その内の一人は振動を伝える能力で翠に合図を送った張本人

もう一人はその合図を送るタイミングを予知したボット

そして最後の一人は普通のボットだ



688: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:48:28.74ID:cUGxJX090



卯月(ボット)「それで翠さん!首尾の方は!?」

翠(ボット)「雪美さんの予言通りなら三人が事務所にいるはずですから...ヒョウさんが吹き飛ばしたのを含めて五人ですね」

未央(ボット)「おお~!つまりつまり、五人まとめて一網打尽!というわけだね」


本田未央、島村卯月、水野翠、古賀小春、佐城雪美


防御において最強と評された彼女らは拠点を放棄して、避難した


原因は二つ、「戦力外たちの宴」の情報班、戦闘班が共に壊滅したこと

そして彼女らが防衛していた事務所もまた、取り返しのつかないダメージを負うことが予見されたこと


どちらも雪美の能力がもたらした過去と未来の情報。無論、それを疑うものなどいない


だが、それですごすご逃げ出す彼女たちでもなく、ギリギリまでプレイヤーを待ち構えた


これがその結果だ


卯月(ボット)「それにしても...とんでもないですねー」

翠(ボット)「はい、私ももう少し脱出が遅れてしまえばどうなっていたことか...」


卯月が背伸びをして遠くを注視する

たった今、事務所を丸ごと飲み込んで街の一部が消滅していた。

そこには瓦礫すら残っていない


未央(ボット)「まさかひじりんがここまでやっちゃうなんて、みおちゃんビックリ!」


ボット、望月聖の最期の自爆には狙いなどなかった

割れた水風船のように無秩序に、無作為に四方を灼き尽くした


翠(ボット)「しかし...次はどうしたものでしょうか...」


居場所をなくしたボットが呟く


しかしそれは迷いではない、次なる行動への思索だ


なにせボットが成すべきことなど一つしかないのだから





ゲーム開始91分経過


双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

暫定勝者:ボット



689: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:50:30.06ID:cUGxJX090


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何もない、何もない


聖の能力を浴びた痕には何も残らない



「はぁっ...、はぁっ......!」



そこに新たに音が生まれる



「な、何が......?」


ガラリ

聖の攻撃から彼女を守っていた壁の最後の破片が脆く崩れる



もちろん、ただの壁で聖の攻撃を防げるわけもない



ただし、完全に破壊され貫通する前に【修復し続ければ】話は別だ





「...あれ?」



尻餅を付いた姿勢のままキョロキョロと首を振る、それに合わせてウサ耳が揺れる


寸前で能力を発動させ、事務所の壁の一部をバリケードにして、


彼女は生き残っていた





690: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 11:51:18.58ID:cUGxJX090






愛梨「......事務所は...どこですか?」




「...街の景色もなくなっちゃって......それに」




「...みんなは...どこに行ったんですか...?」





彼女だけは、生き残っていた





ゲーム開始90分経過

双葉杏+  0/300

諸星きらり 0/300

堀裕子+  0/300

神崎蘭子+ 0/100

望月聖(ボット) 消失

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CAUTION!

仮想現実空間運営用自律ボット

CHIHIROより池袋晶葉へ


・過度の情報が処理されました。容量不足によるパフォーマンスの低下にご注意ください


仮想空間稼働90分経過




691: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/14(土) 12:12:53.28ID:cUGxJX090


比較的早めに更新できて満足

安価は一回休み、次回はさっちゃんのチャプターです



それと蘭子ちゃんが能力で顕現してた武器一覧


no title


蘭子Pなら思い当たる節があったかもしれませんが、一応画像にしておきます

お読みいただきありがとうございました



693: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:07:16.90ID:G7ku7TiH0


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チャプター
輿水幸子&白坂小梅



聖の攻撃が一帯を灼き尽くす少し前



それよりは少し狭いとはいえ広範囲を薙ぎ払う一撃があった


南条光のものである


光を参考にしたボットは特徴として手加減を知らず、そして何より

【必殺技を決めたがる】

だから彼女は麗奈の攻撃を逆利用したことで手にした膨大な力のほぼ全てを放出した



頼子(ボット)「...参りましたね...私の集めたボットが全て無に帰してしまいました...」



ほたる(ボット)「...うぅ...折角ボットとしての役をもらえたのに...私ばかりか頼子さんにまで...」




光(ボット)「っす、すまない!アタシが逆転勝利にこだわったばかりに!」





694: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:09:06.12ID:G7ku7TiH0



数分前までは舗装されていた道路があったとは思えない惨状と静けさ


光の攻撃は麗奈は愚か勢い余ってその延長上にあった瓦礫のバリケードを巻き込んでいた


ほたるの能力により周囲の建物が老朽化していたのもあり、周囲の建物もその攻撃の前に砂塵と散った

近辺の空を埋めていたカラスの群れも例外なく消え失せた。

ほたる曰く新たな群れを呼ぶにはまだ時間がかかるらしい


そして件の攻撃がもたらした結末はそれだけにとどまらない



頼子(ボット)「死んで花実が咲く、などと言いますが...なるほど圧巻な光景です...」



シルクハットを指で押し上げ、荒れた都心を見渡す。平坦さの消えた地面

そこに月の光を鈍く照り返す粒がいくつも転がっていた。

どれも指先ほどのサイズで、波打ち際の貝のようにきらきらと存在を主張する



ほたる(ボット)「...こ、これ.....全部銃弾なんですか...?」



頼子(ボット)「弾丸だけでなくいくつか銃身も転がっていますね...それと見覚えのある瓶も...」


仮想世界のルール、【ボットは積極的にアイテムを破壊できない】


今、三人の周りを埋め尽くす銃器の類は全て、ビルの中に隠されていたものだが

先の攻撃により隠し場所だけを葬り去られ、こうしてその身を晒していた

砂金採りにおいて泥の中から金だけがザルで濾し取られるように


頼子(ボット)「私とほたるさんは一時的ではありますが...戦闘に能力が持ち込めなくなってしまいましたし...」


「...これらもありがたく使わせていただきましょう」


銃弾の海の中からいくつかサルベージする。壊すのではなく使用する分にはボットでも問題ない



695: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:09:50.47ID:G7ku7TiH0


ガシャンッ、カチッ


ほたる(ボット)「じゃ、じゃあ私も...この小さいのを一丁だけ...」

光(ボット)「アタシは自分の力だけでやっていくぞ」


次の戦いに向けての準備を進めていく


頼子(ボット)「それと光さん...しばらくしたら私とほたるさんは別行動をとりますので...」

ほたる(ボット)「わ、私と頼子さん...ですか?」

頼子(ボット)「ほたるさんの能力はどうやら敵味方お構いなしのようなので...出過ぎた真似、でしょうか...?」

ほたる(ボット)「あっ...す、すいません!こっ、こちらこそよろしくお願いします...!」

頼子(ボット)「いえいえ、こちらにも利があっての判断ですので、感謝されるようなことなど...」

光(ボット)「そっか、じゃあアタシはもう行くよ!」


次の戦い


つまりもうここにプレイヤーはいないのだ





少なくともボットの三人から見える範囲には





696: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:11:07.60ID:G7ku7TiH0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

丸く削れた天井から月が見える



「ぜぇ、ぜぇ...な、なな...なんなんですかもぅ!」


「さ、さっちゃん、すごい...映画の主人公みたいな、だ、脱出劇...」


元々、密かに行動していたところを一掬いに戦場に放り上げられたのだ

だから、隙を見て隠れなおした。下水道へ回帰する



幸子「全く、全く全くもう!カワイイボクがどうしてこんな日の当たらない場所をこそこそと...!」



度重なる衝撃や地割れの影響で照明すら疎らになった通路に臆することなく足を踏み出す

幸子は勇ましく、小梅はややホラーじみた雰囲気に興味津々な様子で


小梅「でも...しょ、しょーちゃんも、亜季さんも...れ、麗奈ちゃんもいなくなっちゃった、から...」


幸子「うぐ...まさか最年長でこの手のイベントに強そうな亜季さんが倒れるなんて俄かには信じられませんが...ボクたちだって負けません!」


走りながらスカートの裾に挟んでいた物を取り出す。小梅もさきほど同じものを手に入れた

幸子「幸い何故か武器が大量に転がっていたので、これでボクたちも戦えるはずです!」


小梅「...うん、しょーちゃんの分も、頑張る...」


女性の小さな手でも扱えるような小振りな拳銃、その銃身が破れた天井から届く月光の中で揺れた




二人は知らない

光を見ているのが自分たちだけではないことに



______________

 輿水幸子  119/200


______________
______________

 白坂小梅  119/200


______________


ゲーム開始85分経過

報告事項なし



697: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:12:33.89ID:G7ku7TiH0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「............」




「(...どうしたものでしょうか......)」




散らばった武具、見晴らしのよくなった夜空

背を預ける瓦礫も少なくなった場所で、あやめは黙考する



あやめ(ボット)「(奥の手を隠していた頼子どのはおろか、ほたるどのまで無力化してしまうとは)」



視線の先では三人が装備を吟味している、まるで死体の骨を拾うような作業

しかしあやめには能力を通してその光景は違ったモノに見えた


あやめ(ボット)「(わたくしにとって、全ての隠し刃は薬籠中の物、その場所は明らか)」


【音が視える】という音葉に似た能力の彼女にとって、アイテムは絶えずその所在を主張する灯火である


だから彼女にとって今の光景は


あやめ(ボット)「月見草の畑...といったところですかな」

頼子(ボット)「...?どうか、しましたか?」

あやめ(ボット)「いえ、お気になさらず...選別はお早めに...」


少し離れた場所にいた三人の一人の怪訝な表情に静かに返す



あやめ(ボット)「(そう、お早めに...)」




698: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:15:10.88ID:G7ku7TiH0



彼女にとって武具は灯火、だからこそ地下道に隠れていた一団を見透かした


だからこそ、今も少しずつこの場を離れようとしている二人分の存在も認識していた



あやめ(ボット)「(麗奈はおそらく光どのに敗れたとして...幸子に小梅ですか...)」


「(やはり大味な攻撃は悪手...)」


「(やはり光どのと別行動をとってから...頼子どのと追撃に参るとしましょう)」


そして彼女が選択したのが沈黙だった


南条光の能力、そして攻撃手段は忍の美学とはあまりに反する


ここで下手に地下道をひた走る二人の存在を示唆すればそのあとどんな乱戦、混戦が起きるかは想像するにあまりある


だからこそ今は、小さな二つの灯火を目だけで追い続ける


あやめ(ボット)「(委細支障はありません...まるで夜闇がわたくしに力を与えてくれるよう...今なら二人の息遣いすら伝わりそうです)」


正面突破を不得手とするボットとして、せめてこれくらいはしなくては

傍にあった丁度いいサイズの岩に腰掛ける


あやめ(ボット)「(今だけは束の間の解放を味わうといいです...)」


ゆらゆらと離れていく二つの反応、こうして地面を隔てて補足されているとは夢にも思うまい



グギッ



急にその二つの灯火が消えた、代わりに見えたのは大きな丸い反応



それが自分たちの真上にあった月だと気付いたのは、ゴキリと体内で音が鳴ったとき





699: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:17:39.66ID:G7ku7TiH0



いつの間にか

自 分の首 が真上を向 いてい



「(いや、向けられてッ...!!?声がっ!)」



いつの間にか自分の首元が締め上げられている

そのまま真後ろに無理やりひねられた


ゴギッ


真後ろを向いた視界が下手人の顔を捉える


「(なぜ、あなたが...?)」


目の前で揺れる「50」の数字が刻まれたプレート

それが彼女の見た最後の光景





?「ドッグタグ...」


?「本来、持ち主の死後にこそ真価を発揮するものではありますが...」



他の三人はこのナイトアサシンに気付いていない

それは、忍びの暗殺に匹敵する近接格闘技術




大和亜季「まさか”ゲームオーバーになった後に効果が発動する”と解釈されるとは」


星輝子「...あ、晶葉ちゃんなりの...ジョーク?...フヒヒ」


____________


大和亜季+  50/100


____________

____________


星輝子+  50/100


____________




ゲーム開始86分経過


浜口あやめ(ボット) 消失



700: ◆E.Qec4bXLs 2015/02/21(土) 10:19:00.13ID:G7ku7TiH0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ちょっと過激な暴力描写がありました。すいません



今回のSRで頼子さんの泣きボクロに初めて気づいた

惜しむらくは>>1が攻コストに全然ステ振ってないせいで走れない

そろそろどっかに所属するべきか


お読みいただきありがとうございました



次に開始するチャプターを選択してください

1、北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南

2、輿水幸子&白坂小梅

3、大和亜季&星輝子


安価下



701:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/02/21(土) 10:23:25.34 ID:OGj3liY60

3



705: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:02:26.08ID:QmKZ2G4k0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季&星輝子



亜季「頼子殿の能力によりユニットが強制解除されていたこと、それと我々が近くにいたこと」



輝子「そ、それが...私も一緒にい、生き返った...理由?」


亜季「で、ありましょうな...」


輝子「あぅ......れ、麗奈ちゃん、には...悪いことしちゃったな...」





頼子とほたるが去り、光が駆け去った後

代わってその場にいた二人が状況を整理していた

敗残処理にも似た空気が満ちる中で



亜季「それを言うなら、大恩ある幸子どのや小梅どのに報いることのできなかった私こそが愚物であります」

輝子「麗奈だけじゃなくて...さっちゃんやうめちゃんもいなくなったもんな...」

亜季「十中八九、戦死したのでしょう......」



心底から悔いた声で亜季が言う。急造ではあったが、あのプレイヤー五人のチーム中では自分が最も実戦に強いという自負があった


だが現実はどうだ


二人分の効力を発揮したことでおそらくもう使いものにならなくなったであろうドッグタグに目を落とす


亜季「おそらく私の蘇生能力はこのプレート二枚で品切れでありましょう...つまり私はまた、無力であります」

輝子「そ、そんなこと...ない、よ?」


最も破壊に向いていた麗奈はおろか、自分たちが命を拾うきっかけ、キーアイテムを授けてくれた幸子や小梅まで姿を消した

亜季「.........」

輝子「.........」

亜季「......ふぅーーー...」

輝子「.........?」

亜季「この腰抜けめがッ!!!」

輝子「フヒッ!?」

亜季が両手で自分の頬をひっぱたいた

破裂音が闇夜に響く

亜季「軍人たるもの、屍を乗り越えてこそ!!愚痴るだけの豚になるのはここまでであります!」

輝子「あ、はい...(一人で落ち込んで一人で立ち直った...)」

反省会はここまでとばかりに頭を切り替えた様子で力強く発された宣言

言うが早いか瓦礫を跳ね上げる勢いで地面に散らばった物資をかき集める

この場合の物資とはすなわち武器だ



706: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:07:40.02ID:QmKZ2G4k0



拳銃、猟銃、散弾銃、コンバットナイフにアサルトライフルがテキパキと亜季の体に装着されていく



亜季「頼子たちが残りのアイテムを処分していなくて良かったであります」

輝子「フヒヒ...亜季さん、コ、コマンドーみたいな格好に...」



ガンベルトといったご都合主義で便利なアイテムまで発掘したことで亜季の全身が凶器に埋まっていく


輝子「(私はユニット切られちゃたけど...さっちゃんたちはそのままやられちゃったんだよな...)」


相方の勇猛さに押されるようにして輝子もまた手近に転がった武力に手を伸ばす


輝子「(ぶっちゃけピストルの反動は私の腕力じゃ扱えないし...あっ、このナイフちっちゃいキノコみたいなのが付いてる...)」


技術を持たないことを自覚している輝子は多くを持たず一本だけ懐に忍ばせることにした





亜季「弾は装填!覚悟も充填!今こそ敵を殲滅し、最後は玉砕する覚悟であります!」





__ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



二人のいる場所から何本かの大通りを挟んで極太の破壊光線が横断したのはその宣誓と同時


よって輝子の耳にその口上が届くことはなかった


亜季「さぁ、輝子どの!!ともに手を取り戦いましょう!!」


網膜を灼くような激光を背景に歪な立ち姿が切り取られる


輝子「お、おお...!」


だが、何かは伝わったらしい

彼女は、差し出されたたくましい腕を、確かに掴んだ




ゲーム開始90分経過

報告事項なし



707: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:10:51.20ID:QmKZ2G4k0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
ボット



ほたる(ボット)「...あの」



頼子(ボット)「はい、なんでしょう」



光と別行動をとった後、高架の道路を並んで歩いていた


都会の中にあって広く視界を確保でき、カラスのいる空に少しでも近い地を探した結果だ


ほたる(ボット)「えっと、あやめさんはどこに...?」

頼子(ボット)「まさか光さんの攻撃に巻き込まれたとは思いませんが...」

ほたる(ボット)「ませんが...?」

頼子(ボット)「あの方のことですから...どこかに、隠れているのかもしれませんね」


マントを揺らす長身の影と剣を引き摺る小柄な影がアスファルトに伸びる


頼子(ボット)「それと、私の方からも伺いたいことが」

ほたる(ボット)「な、なんでしょう...?」

頼子(ボット)「ほたるさんの能力、おそらくそれと同等であろう藍子さんについて、です」

ほたる(ボット)「藍子さん、ですか?」

頼子(ボット)「はい、聖さんについては先の戦闘の前に聞きましたので」

ほたる(ボット)「は、はい...といってもどう説明したらいいのでしょう」

頼子(ボット)「少なくとも...貴女方三人が散開しているということには事情がある、とお見受けしますが」


ほたる(ボット)「そうですね...」




「藍子さんの力が操るのは、『重さ』です...」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



708: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:13:25.20ID:QmKZ2G4k0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


小柄な体が宙を回転し、異様に長い袖がその動きを追従する


「・.・・。!」


アナスタシア(ボット)「っあ!」


差し向けた氷柱の槍に袖が絡んだ。次の瞬間には袖はその姿を変える


アナスタシア(ボット)「(変身能力は...なんでもあり、ですか)」


植物の蔓のように、人体にありえない角度と長さに伸びた触手を頭の動きだけで躱した

同時に手首に纏っていた己の氷を巻き付いた袖ごとパージする


アナスタシア(ボット)「(しかしこの、小梅のボット...?どうして)」


改めて対峙している敵に注目する、それの見た目は白坂小梅のボットだった

少なくとも攻撃さえしてこなければ


「..・..。..・...」


その身体能力は13歳の少女どころか人間のものでもなく

びっくり箱のようにタイミングも本数も選ばず触手を飛び出させる様子は生物にすら見えない

本来なら能力を持たないはずの練習用ボットであるはずだが、アナスタシアはそれを知らない


アナスタシア(ボット)「シトー...?どうしてボット同士で、争わなくてはいけないのでしょうか...」


のあ(ボット)「...この不条理を踏まえた結末を、この子達の電脳が望んだからでしょう...」


五指に透き通った爪を形成する彼女に背中合わせになるようにして、のあが立った

その彼女の右腕もまた、瓦礫と鉄骨を取り込んだ異形


ただし大幅に抉られている


「...そうなんですよね」


廃墟ビルの中で月明かりがゆらいで、のあの対敵が姿を浮かばせる



藍子(ボット)「...仮想現実の容量の都合上、私みたいなのが全力をだそうと思ったらこうするしかないんです」




709: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:15:19.44ID:QmKZ2G4k0


高森藍子


『夜』のボット


全方位からの攻撃を強制的に減速し、


果ては完全に消滅させる


のあ(ボット)「(でも、それだけじゃ...いえ、そういう能力じゃあ、ない)」


物体に潜行し、同化する力を持つ彼女だからこそ感じる違和


彼女が操っているのは少なくとも『速さ』ではない


それだけでは最初、自分が忍ばせた遠隔操作の目玉が破裂することもなかった



のあとアナスタシアが背中合わせに立ち、それを藍子とあの子が挟んでいる

だが、この中で明確な味方同士であるのは身を寄せ合う二人だけ



この混戦状況は何も進展していない、


だからこそスタミナの続く限り何度でも仕切り直される


茶番のように、歌劇のように



710: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:19:18.71ID:QmKZ2G4k0



コツ、と

藍子の靴音が鳴る。


ゆったりとした服がありもしない風にたなびく




藍子(ボット)「.........」




パキ、と

肉食獣のツメを象った氷爪がアナスタシアの両手を包み込む




アナスタシア(ボット)「.........」




ゴトリ、と

のあの体内で重量を持った鉄塊がその位置を変えた




のあ(ボット)「.........」




ぶしゅる、と

小梅に似たボットの、細かった両腕が赤黒い風船のように膨らんでいく




「..・.。・...」




 無音


 無音


 無音



____カツンッ!




「!!!!!!」



711: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:22:04.92ID:QmKZ2G4k0





死角となる背中に隠されていた”氷の剣”が振り下ろされ




爆発した両腕から血まみれのカラスが”噴射”され




体内に同化させていた尖った鉄片がダース単位で”砲撃”される__







___その前に






藍子は移動を終えていた





のあと、アナスタシアと、小梅もどきの、全員に手が届く懐へと




同時に目の前の藍子がノイズのようにブレて消えた



のあ(ボット)「瞬間、移動...!」


藍子(ボット)「ちがいますよ?」





712: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:36:26.28ID:QmKZ2G4k0


減速 消滅 そして高速移動


高森藍子の手は二つに留まらなかった


その右手が大きく弧を描く

彼女は触れない、ただ近づけただけ

それだけで最も近くにあった小梅の、左肩からぶら下がった風船のような肉塊が掻き消え

能力を使いだす前の小梅の体に戻された

「・・・。・!・..」

アナスタシア(ボット)「シトー...!?」


右肩の肉風船が破裂し、カラスが発射される

それはアナスタシアの顔をかすめるようにして窓ガラスを突き破り、赤い飛沫と共に落ちて行った


藍子の手は止まらない



小梅の姿が掻き消えた、痕跡すら残さず



スイッチを切り替えたように、デスクトップ上のファイルでも削除するようにあっけなく



藍子の手は止まらない


アナスタシア(ボット)「!」

突き出された氷の剣が見えない何かに食い止められた

そのまま藍子の体から数センチのところで、凍った切っ先が消失していく



藍子の手は止まらない



のあが振り向きざまに含み針を放った

その唇から放たれたのは針とは到底言えないサイズの鉄杭で

しかしそれも藍子に触れることはなく、数センチ手前で杭の時が止まる


にこやかな表情が窓から漏れる月光で淡緑に塗られる



藍子の手は止まらない



次の瞬間、その顔が白く照らされた



713: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:38:41.42ID:QmKZ2G4k0






___ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!!





藍子(ボット)「ああぁぁっ!?」


引き戻した両手で目を覆う



窓の向こうから殺到した夜空を灼く白光が、藍子の瞳に注ぎこまれた



藍子(ボット)「ひっ、聖ちゃん...!」



ボットである彼女の網膜がダメージを負うことはない


それでも一瞬以上の時間、隙ができた




アナスタシア(ボット)「...一体何が起きた、のですか?」


のあ(ボット)「...この場の全員にとっての想定外の事象よ」



714: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:41:28.31ID:QmKZ2G4k0



アナスタシアは彼女の急変の理由がわからない、

のあも理解までに一瞬を要した


なにせ彼女たちからは高森藍子は

『薄暗い部屋の中で』いきなり悲鳴を上げたようにしか見えなかったのだから


のあ(ボット)「...退くわよ、何かがくるみたい」


アナスタシアを抱えてひび割れた壁に肩からぶつかる


体が肩から内壁に沈み込み、次の瞬間外壁へと吐き出された。壁抜けトリックのような光景


そのまま二人そろって落ちていく

その鼻先をかすめるようにして



のあ(ボット)「彼女のブラックボックスも...これでタネが割れたわね」



藍子が残ったままのビルを、聖の最期に放たれた波が包み込んだ




715: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:45:39.65ID:QmKZ2G4k0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ほたる(ボット)「重さ、というのは...実際の体重のことじゃないんですよ?」

「ボットのデータとしての重さ、容量の大きさ?、そういうもの、らしいです」

「私の能力もそれなりの容量ですが...それはあくまで作り出したカラスの分も合わせれば、の話です」

「藍子さんはその重さを変えて......えっと、つまり」


頼子(ボット)「それは、”この仮想現実の処理速度を部分的に変更する、ということでしょうか?」


ほたる(ボット)「コンピューターの知識はあまりないのですが、そんな感じだそうです」


頼子(ボット)「......大まかには、わかりました...」

「私たちボットにとっての現実であるこの仮想世界ですが、その実体は膨大な量の演算と結果」

「...こうして話し歩くことができるのも...別の現実、プレイヤーたちが元いた世界に設置された巨大なコンピュータが重力や摩擦、音の振動伝達を計算を行っているから」

「その計算が終わらない限りは...このデジタルの世界で枝から離れたリンゴが地面にまっすぐ落ちることも、カラスの羽が揚力を生む事実も起こらない、と」

「......そういう理解でよろしいでしょうか?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



716: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:50:37.59ID:QmKZ2G4k0



のあ(ボット)「藍子の能力...おそらくコンピューターの処理作業に介入し、それに負荷をかける力」


アナスタシア(ボット)「アー......なんとなく...わかります。」

「...古いゲーム機やパソコンで...一つの画面の中でたくさんのことが起きると、動きが鈍くなる...アレですね?」


のあ(ボット)「その理解でいいと思うわ...彼女は自分を中心とした空間に能力を及ぼしていた」

「だから近づくものは仮想での動作処理に荷重がかけられ、遅くなったように見える」


アナスタシア(ボット)「ンー、でも、私たちの武器や...小梅が消えてしまったのはどうしてでしょう?」


のあ(ボット)「......その現象を...強いてゲームに当てはめる......非現実的だけれども」



「...処理落ち、なのでしょうね」



アナスタシア(ボット)「...アー、処理、落ち?...藍子はずいぶん手の込んだことをしていたの、ですね?」


のあ(ボット)「途中の彼女の瞬間移動も、彼女の体に”反射して私たちの目に入る月光”を減速したことで、相対的に光より速く移動したから...つまり残像を作ったわけね」


「私たちが破壊光線の接近に気づくのが遅れたのも、あの部屋に飛び込んでくる光が減速して私たちが知覚するまでにラグがあったから、私たちには部屋が真っ暗なままに見えた」


「藍子が真っ先に反応していなければ脱出も叶わなかったでしょう」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



717: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:54:09.08ID:QmKZ2G4k0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ほたる(ボット)「藍子さんの能力は相手のデータを重くし続け、最後にはこの仮想現実が扱えない容量になり、弾き出されてしまうそうです」

「晶葉ちゃんなら詳しくわかるんでしょうけど...藍子さんの言葉を信じるなら、ここはそういう風になっている...とか」

「でも、藍子さんは心配もしていました。自分の能力のせいで仮想世界全体が”落ちて”しまわないかと...だからこそ省エネモードである夜にしか動けなかったんです」


頼子(ボット)「...でしょうね」

「...伝聞でどこまで真実を把握できたかは分かりませんが...文字通り埒外な方というのは伝わりましたし」


ボットの持つ能力の幅は多岐にわたる


卯月や泉のように「設定値」を操作するもの


のあや周子のように姿を変えるもの


輝子や音葉のように何かを生みだすもの


マキノや拓海のように条件付きで無敵になるものもいた


だが、これらはあくまで仮想現実という容器の中を泳ぐ為の尾鰭であって、そこから外の世界へ出ることはない

高森藍子は違う

彼女の力は容器の中に注がれた液体そのものに干渉する

外の世界、容器に液体を注ぐ蛇口を好き自由に引き絞る、そういう力だ



718: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:55:13.40ID:QmKZ2G4k0


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のあ(ボット)「そんな彼女にも例外があった...」

「...というよりその弱点が切欠で能力の全容が推察できたわ」


アナスタシア(ボット)「それがсвет、自分の目で知覚している光...ですか」


のあ(ボット)「そう。自分の瞳に触れる光まで遅くなれば...それは視える景色まで遅くするのと同じ...満足に歩くこともできなくなるでしょうから」


アナスタシア(ボット)「正体はわかりませんでしたが...あの光線に感謝、ですね...?」


のあ(ボット)「高確率で藍子は無傷でしょうけどね」



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719: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:57:05.69ID:QmKZ2G4k0



「はぁ...まだチカチカします...」


腰掛けた地面がゆっくりと降下していく


足元に荒廃した摩天楼を広げながら藍子はクシクシと目をこすっていた


目立った建物はもうどこを探しても跡形もない


「聖ちゃんも危ないです...あのタイミングであんな力を出すなんて...」

「もし、私がもうすこし能力を使っていたら容量オーバーじゃすまないですよ、もう...」


藍子が腰を下ろしているのはエレベーターではない。そういったものは先の一撃で分子一つ残さず消滅した



それは藍子の能力の加護を受けることで破壊をまぬがれた1メートル四方程のブロック


本来なら重力に引かれ速やかに落下しているはずだが、藍子の能力下においてその落下速度は鳥の羽のようにゆっくりで、


だからこそ、こうして安全かつゆるやかに藍子の体を地上に運ぶべく機能していた


「はぁ、のあさんはさっきので私の能力、理解しちゃっただろうなぁ...」

「見た限り、のあさんの能力って大容量だったから先に倒しておきたかったのに」

月に一番近い座標で、ふわふわのスカートが靡く


「............」


白光に灼けかけた瞳も既に大過ない、その視線まだ見ぬ標的へ定められる


「...やっぱり最優先はプレイヤーさんたちですねっ」


視線が一点に止まる


「あっ!丁度あそこにカラスさんが集まってるじゃないですか♪」


わざとらしくぽん、と手を打った


高森藍子は休まない

ゆるやかな侵蝕も止まらない




ゲーム開始92分経過


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720: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 10:58:38.27ID:QmKZ2G4k0



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ギリギリ一ヶ月以内に更新できました

ここまでお読みいただきありがとうございました


・活動中ボット

高森藍子

白菊ほたる 古澤頼子

南条光

高峯のあ アナスタシア

佐城雪美 本田未央 島村卯月 水野翠 古賀小春

二宮飛鳥 遊佐こずえ


次に開始するチャプターを選択してください


1、白坂小梅&輿水幸子 

2、十時愛梨

3、北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南


安価下



721:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/03/19(木) 11:31:41.99 ID:L6VHrwmDo


2



723: ◆E.Qec4bXLs 2015/03/19(木) 16:59:54.64ID:QmKZ2G4k0

活動中ボットに森久保をいれ忘れてました



724: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:05:10.80ID:4IFuXgNi0


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チャプター
十時愛梨


「けほっ」


「だれもいない......」


「というか...みんな、なくなっちゃった?」


バニーのウサ耳は動かない

修復可能な対象が消えた世界では


「私のことを守ってくれた事務所の壁も...これ以上は治らなそうです」


背中を預けていた瓦礫が自重で倒れた。あっけない音と共に瓦解する

愛梨もまた、その上に仰向けに倒れる


「...はぁ、ここって本当に事務所だったんですよね...?」


聖の最期の攻撃が掠った場所は塵一つ残らなかった

唯一の例外が愛梨と、その防壁及びその周辺部分

それらが小石程度のパーツとなって窪んだ地面を静かに埋めている


十時愛梨の能力は「修復」

脱いだ服だって元に戻すことができる


だが小石程度の残骸からビル一棟まで修復するほどの出力は、ない


背もたれをなくした愛梨が起き上がる

手をついて起き上がると、そこを中心に地面が膨張する

「わわっ!?勝手に能力が...!」

既に元気を取り戻した体で跳ね起きるも、彼女が手をついた場所から伸びた土くれは柱を象り、

不安定な地盤に生えたそれは自重でへし折れた


「きゃあっ!?」



725: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:06:52.49ID:4IFuXgNi0


起き上がり、立ち上がり、

そしてまた飛び退くようにして倒れこんだ

背後にまた瓦解の音を聞く

受身を考えなかった彼女を受け止めるには地面はささくれすぎている



「あいたたた...滑っちゃいましたぁ...」


今度は迂闊に地面に掌を押し付けないよう腹筋を使って起き上がり、背中を軽くはたく


「くすん...蘭子ちゃん達が運転する車はほとんどスリップとかしなかったのに...」


誰も返答するものがいない中、一人愚痴をこぼしながらも愛梨の指先が小粒の石を落としていく


その硬い手触りの中、一つだけ指の中で柔く折れる何かが挟まっていた


二本指でつまんだそれを月明かりに掲げる


愛梨「...これって」


それは緑色に照らされ、ひらひらと___









「___傀儡とは悲しいものね__」







静寂が破られた


手のひらサイズの膨張どころではない、地盤が山なりに隆起していく



726: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:08:14.08ID:4IFuXgNi0



「___どれだけ消耗しようと、損壊しようと」



盛り上がった体積があっという間に月から愛梨を覆い隠す



「一度相手を認識してしまえば___」



山頂が小さくひび割れる。声はそこから鳴っていた




のあ(ボット)「全力を振り絞るほかないのだから」



それは唇だった



愛梨「ひゃいっ!?ののののあさんの声がっ!?」


どこか抜けている、と評される彼女だが目の前で起きた現象から敵意を感じるのは早かった

くしゃりっと手の中のものを握り、膨らみ始めた石山から背を向け走り出す。同時に山の方も姿を変える


”鎌首をもたげる”とでもいうのか、山そのものが不自然に歪み山頂が愛梨に向けて折れ曲がる

愛梨の身長を上回る大きさがシャチやサメの頭部に似た形のシルエットを夜にくり抜いた


そのまま、射出される


荒々しく削れた地面の表面を滑るように愛梨の背中を追う

それは海面から突き出たサメの背びれのようで、


愛梨「わっわっ、何でそんなに速いんですかぁっ!?」


全力疾走を続けながら振り返り、よろけて地面に手を付く

バニーの耳が揺れる


愛梨の手のひらが触れた場所から柱が芽吹いた


後から迫る石の背びれ目掛け、柵となって立ちふさがる



愛梨「(私の能力って...こういうふうにも使えるんだ...!)」



727: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:09:16.10ID:4IFuXgNi0


立て直した姿勢を再度、次は意図的に崩すと両手で地面をなぞった

映像を逆再生するように、その場からメキメキと梁、柱、壁面が再生される


不完全で不安定なせいですぐさま根元から倒れていくが意味はあった


追跡者たるのあへの障害物として___



ガブリッ



のあ(ボット)「邪魔...でもないわね」



___微々たるものだが



愛梨「の、飲み込まれてます...」



____________

十時愛梨+  34/100


____________
____________

高峯のあ+  30/100


____________
____________

アナスタシア+ 40/100


____________



ゲーム開始101分経過

十時愛梨
VS
高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



728: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:10:37.11ID:4IFuXgNi0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

物体と同化する能力にとって障害「物」など存在しない


愛梨「どこかに逃げ込まないと...普通に走っても追い詰められちゃいます...!」


ガシャンッ!


ガラスの扉が倒れると同時に光の差さないフロア内に踏み込んだ

それなりに大きなビルなのであろう、奥行の広いエントランスを一直線に横切っていく


「(ちょっとやそっとじゃダメなら、ビルの壁や天井で邪魔しちゃいます!)」


背後を振り返る。ついさっき自分が突破した玄関を人間大の小山が、体を縮めながら入ってくるのが見えた

同化できるとはいえ、天井や支柱を破壊しないよう難儀しているようだ

それを認め、迷いなく奥の階段室へ向かう

どこからか漏れ入った月光が無機質に連なった足場の様子をはっきりさせている


愛梨「すーっ、ふーぅ......すーっ、ふーぅ...」


階段を前に深呼吸


右手は階段の手すりをしっかりと握っている

上の方から降ってくる月光のおかげで、階段の状態はよくわかった


「すーっ...ふーぅ、すーっ...ふーぅ」


白菊ほたるの能力により、形を保っているのが不自然なほど老朽化しているのは


触れた右手を中心に階段が修復されていく。左手は拳の形に握り締められたままに


「すーっ...」


それでも全てを元通りにはできない。もっと上階にまでは修復も追いつかない


「ふうっ!」


それでも駆け上がった




729: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:12:51.88ID:4IFuXgNi0


同時に階段室の扉が真っ二つに割れた。そのまま取り込まれる

それは高峯のあであって高峯のあだけではない

いくつもの無機物のパーツが編み合わさり、大きく膨らんだ体は既に人の形をなしていなかった


のあ(ボット)「万物を直す能力...いえ」


獣の爪のように尖った部位で手すりを切断する


「元の形を維持させる...そういう力ね」


すぐさま失われた部分が再生する。それに加え”同化できない”


「あの黒鳥のせいで私の本体も随分減らされたのもあるのでしょう」


上階からは足音が一定のペースで遠ざかっていく


「...ちゃんと手順を踏んで登る...それ以外の選択肢を奪ったつもりかしら」


今の高峯のあに定められた形はない

その歪な体が軋み変形すると、昆虫のような細長い多脚が姿を現した

「___この程度で?」



ダガッ!

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!



追跡を開始する


二本足の人間には決して真似できない、多重の足音、そして速度で階段を駆け上る





730: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:15:08.68ID:4IFuXgNi0


愛梨「こっ、怖すぎですよー!?」


吹き抜けを通して愛梨の目にも異形の姿が飛びこんだ

階段の狭い空間を埋め尽くす体が時に手すりや壁を蹴飛ばしながら猛然と這い上がってくる


愛梨「はやくっ...上へ逃げないと!」


水平移動においては障害物の通じないのあに叶わない以上、他の階には逃げられない


上へ、上へ



愛梨「(でも、どこまで上がって行けば...?)」



ガガガガッガツッ!



のあ(ボット)「気づいているのかしら...?」



ガガガガガッガガッ



愛梨「っふぅ!」



非常灯よりも強い光が階段を緑に照らす中で行われる追いかけっこ



「......もう、逃げられないことに」



終わりは近い


愛梨「あれ......?」


惚けた表情が緑に照らされる



愛梨「階段がなくなって...え?屋上...?」



彼女を覆い隠すものは何もない


階段室は途中で途切れていた。逃げ込む部屋もなくなっていた


摩天楼をどこまでも見通せそうな開けた視界


残酷なまでの開放感



愛梨「建物の上が......ない」





731: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:17:31.63ID:4IFuXgNi0



白菊ほたると望月聖の力


その影響から逃れられる建築物などない


今ある階段を全て登りきった彼女を迎えたのは虚空

柱すら残さず全ての上階が消滅した跡

文字通り何もなかった。そこがゴールだった



ガガッガガガガガガガガガガガッ!!


足元から音が這い寄る



愛梨「どど、どうしよう...逃げるばかりで気づかなかった...!」



くしゃり

と、左手が握られる

右手が手すりから離れる


修復能力の外れた階段が変形する

高峯のあの意思にそって


その瞬間、階段が崩れ、彼女は落ちた


愛梨「きゃああああああっ!!」


背中から落ちていく、空に浮かんだ月がスローモーションで離れていく


逃げ場も今いる足場も奪われ、空に向かって手を伸ばした


くしゃっ


愛梨「___あ」


左手からこぼれ落ちた


何もなくなったと思っていた場所で見つけ、なんの気なしに拾い上げた


大事な仲間の忘れ物




『__我が望めば、我に答えん___』





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



732: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:19:05.00ID:4IFuXgNi0



ガガガガガガガガガッ!

ガゴンッ!


のあ(ボット)「..........」


廃屋の蓋を跳ね除け、姿を現す

ねじれ曲がった階段の一部が打ち捨てられた


のあ(ボット)「どういうことかしら...」


見渡す限り、本来は廊下や室内の床だったであろう地面

柱も壁も、そして誰もいない平坦な荒廃


「どこに逃げたというの...」


歪な足を動かしビルの淵に立つ。そこから見えるのは隣に並んだビル

だが、決して飛び越えて行ける距離ではない。そのまま絶壁に目を落とす


「まさか、身を投げた...?」


パリンッ

地面に落ちたガラスが割れる。遥か高所から叩きつけられたそれは微塵に散った


「...わけ、ないわよね。捨て鉢になるような器じゃあ...ないもの」


顔を上げる


ボゴゴッ!!


同時にその体表を目玉が埋め尽くした

増殖した視野が正面のビルをつぶさに、睨めつけるように探索する

カラスの影響でひび割れ、ささくれ、傾いた壁面、荒廃と、



「......あの窓だけ...割れ方が不自然」



一点の違和





733: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:20:53.52ID:4IFuXgNi0



「老朽化じゃあない......誰かの力が及んだような」


のあの腰元から生えた鉄材の肢が一本発射される

回転しながら飛んだそれは違和感を消し去るようにその窓付近を抉りとる


「きゃっ!」


微かに聞こえたのは紛れもない標的の声。落剥した外壁のむこうにその姿もあった


愛梨「み、見つかっちゃいました...」


純粋にどうして見つかったのかわからないと言いたげな驚いたような顔の、数センチ横に鉄の肢に突き立っている

彼女へ向けて次の肢を発射しようとして、体を傾ける。互いに距離があるが命中させるのはボットの彼女には造作もない

粉砕された壁が老朽化の影響で粉となって、土煙のようにビルの谷間を舞う


のあ(ボット)「どうやってこの距離を克服したのかは知らない...だからその謎ごと沈んでもらうわ」


そんな煙幕など歯牙にもかけず、一本、二本......五本の肢が鉄槍として順次狙いを定めていく

既に一撃目で剥き出しになった通路では一瞬の間に愛梨が逃げて行ける方向などない


「......?...」


愛梨「よいしょっ...!」


「立ち向かうつもり?」


両者を遮るものはない、そこにあって彼女はまっすぐ立っていた



バサァッ!!



突如、土煙が強引に吹き散らされた


「......十時愛梨...何かしら、ソレは...」

「これまでの貴方の力の形とは...随分乖離しているわね」


明るい夜光が愛梨の背中から生えたソレに照り返される



それは羽だった



かつて、ほんの短い間だけこの世界にあって、

そして今、夢幻のように消えていくそれは

望月聖を早坂美玲が引き付け

廃屋の街から迅速に退避するために

神崎蘭子が顕現させた小さな異能





734: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:22:31.72ID:4IFuXgNi0





愛梨「蘭子ちゃんが使ってた時よりも持続時間は短いけど......」


彼女が拾ったのは小さな切れ端


スケッチブックのひとかけら


それは彼女の握られた手の中で修復され、萌芽の時を待った



「ちょっとだけお借りします!!」



次に愛梨の手の中に握られたのは、禍々しい鎌





ゲーム開始109分

十時愛梨
VS
高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



735: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:25:10.98ID:4IFuXgNi0



一投目


山なりに跳んだ肢が愛梨の足元を粉砕した

「肢」と表現するには太すぎるそれが床に穴があける

愛梨「ひゃあうっ!?」

後ずさりながら通路の奥に引っ込んだところに、


二投目


床ではなく窓ガラスが壁材もろとも吹き込んだ

一投目に比べると格段に細長く、派手な音や破壊はもたらさなかった。だからといって当たって無事に済むものでもない


「(私が直したのは能力そのものじゃなくて、スケッチブックのページだけ...)」


構えた鎌を使うに使えず、必死で足場を確保しながら頭を回す


愛梨「(だから一回使ったらページが消えて...今度はもう直せない...!)」


三投目


砕き落とされた壁の穴を通過し、愛梨のすぐそばにあった戸を貫通する


愛梨「ッ!(ここに逃げ込まなくてよかった~!)」


のあ(ボット)「.........」


向かい合う両者を遮る壁は剥がれ落ちて、逃走経路となる通路は穴だらけ

すぐそばの部屋に突き立てられた鉄肢は強力な牽制となった

愛梨「(一撃で当てないと...!)」


四投目



今度こそ外れなかった、退路もなかった



愛梨「きゃうっ!!」



衝撃が愛梨の腕を通して体を突き抜けた





736: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:27:10.71ID:4IFuXgNi0




正確に愛梨の胸元に食いかかった肢が、咄嗟に構えた鎌の柄に弾かれたにも関わらず



愛梨「あ、当たっちゃうトコでした...」


反動で痺れの走る両腕。防御が成功していながらダメージとして残留するほどの威力



それは愛梨にとってだけのダメージだけではない



愛梨「ああっ!!!?」



両手を見る、両手の間を繋ぐ柄を見る、禍々しくも頼もしい刃を見る


その鎌が茫として透け、消えかけていた


愛梨「ささ、さっきのガードだけで使った事にカウントされちゃうんですかぁっ!?」


慌てて振りかぶる。このまま黙って丸腰になるわけには行かない


かといって両者の距離は軽く見て10メートル、ビル同士の間隔としては狭く、対人戦において絶望的に広く遠い



結果


愛梨「でえぇーーーい!!!」


ぶん投げた


異形の装飾を振り乱して回転しながら飛んでいく


のあ(ボット)「........」


対してのあは既に動いていた、最後の一本を構え




見る間に愛梨への距離を詰めながら




737: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:28:48.47ID:4IFuXgNi0



愛梨「...え?」


合体したビルの一部を自分ごと大きく引き伸ばして


愛梨「ええ...!?」


スプーンですくい取った蜂蜜や水飴のようにビルが”引っ張られる”

その伸びきった頂点に高峯のあの上半身があった


のあ(ボット)「逸ったわね、十時愛梨」

愛梨「そんなことできるんですかぁ!?」


尾を引いて一気に肉薄する。両者の距離は3メートルを切った

投げられた鎌はのあに触れることもなく、空中ですれ違い向かいのビルへ飛んでいく


白菊ほたるの能力によりすり減らされた肉体

その残骸全てを投じた絶対不可避の捨て身技


ゴッ!


愛梨の胸が、今度こそ鉄槍に突かれた


「......あっ、え...?」


それはどちらの漏らした困惑だったか


鉄槍は深くは刺さらなかった

心臓まで届かなかった



のあ(ボット)「これは...?」


愛梨「ら、蘭子ちゃん...」




738: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:31:37.67ID:4IFuXgNi0



愛梨は見た


投げた鎌の能力が発動し、荒廃したビルの一角を食い尽くすのを


のあの”根元”がザックリと欠損するのを


愛梨は知る由もないが

それは装甲車や、土屋亜子を噛み砕いた時と同じ光景だったかもしれない


支柱を失い、必殺の勢いに歯止めをかけられた長大な体が重力に引き落とされていく

壁も窓も通路も破壊した、掴まって身を助ける箇所などない


のあ(ボット)「_____」


しくじった、たった一手の情報不足で


遠ざかっていく、十時愛梨の姿が頭上へと


瞳は驚きを隠すことなく向かいのビルに釘付けになっていて


そのまま落ちていく自分を見下ろした。まるで自分でも予想外だったと言いたげだ


そうよ、もっと驚愕した表情を向けなさい



こっちを見なさい



敗者を注視なさい



勝利を確信なさい



安堵しなさい



のあ(ボット)「____それが」






739: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:33:12.32ID:4IFuXgNi0



投げつけられた二本目の肢

肢というには余りにも太かった

それが真っ二つに割れる



その中央

くり抜かれた空間

そこから飛び出した華奢な体



アナスタシア(ボット)「небрежность......油断、です」





振り抜かれた拳

落ちる体



___________

 十時愛梨+ 11/100


___________





ゲーム開始110分

十時愛梨
VS
アナスタシア(ボット)

継続中



ゲーム開始111分経過

高峯のあ(ボット) 消失



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



740: ◆E.Qec4bXLs 2015/04/07(火) 22:35:26.00ID:4IFuXgNi0



次に開始するチャプターを選択してください


1、白坂小梅&輿水幸子 

2、北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南

3、大和亜季&星輝子

安価下



741:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/04/07(火) 22:58:55.90 ID:CCjMisTQO

2



745: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:09:17.79ID:R+0oSAgq0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南




凛が消えた



自分たちが探し続け、同じく自分たちを探し続けてくれていた仲間が

一辺の希望も残さない極光に灼かれていった


「ホント、どうしよ...」

「あぁ、頭が追いつかねえ...」


獰猛なまでに開放された空を見上げる。地上から下水道の天井までが丸ごと消失した今、それを遮るものはない

辛うじて残った地下の地面に仰向けに横たわった加蓮の声に、隣にへたりこんだ奈緒が反応する


加蓮「アタシのせいで凛が......まぁ、間違いなくやられちゃったよね」

奈緒「いや加蓮のせいじゃ...無理に後ろからケツ押してたアタシだって...!」

加蓮「そういうのを言いたいんじゃなくってさ」

奈緒「うん?」


自責を感じさせるセリフに、反射的に反駁しようとして先回りされる


加蓮「えーと、ほら...なんていうか」

奈緒「なんだよ」


加蓮「バカみたいにデカいビームだったじゃん?」

奈緒「あ?」


加蓮「あんまりに現実離れしすぎてて、凛に対する申し訳なさとかが吹き飛んじゃった...」


奈緒「.........あー、ごめん、わかる」



仰臥する彼女の横に並んで横たわる、癖っ毛が加蓮の耳元まで広がった





746: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:10:18.01ID:R+0oSAgq0




現実感の乖離



加蓮「とりあえずアレだね。現実に帰ったら凛にケーキでも奢ってあげるんだ」

奈緒「...おいやめろ、それ死亡フラグだぞ」



高度な演算で再現された仮想世界にいる間に無意識のうちに刷り込まれていた錯覚


感じた痛みが本当に自身の死へ直結しているような恐怖

他者の命を奪える本物の凶器を扱っているような昂揚

敵を殲滅することが最重要目的であるような逼迫感


昼の間にボット相手に繰り広げた戦いにのめり込んだ結果、生まれたそれらの感覚は



夜が始まってからの怒涛の展開の連続の前に吹き飛んだ



熟読していた漫画がトンデモ展開に突入したせいで醒めてしまうような

ありえない展開のせいで自分が夢を見ていることに気付いたような



747: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:11:34.12ID:R+0oSAgq0





「すっごいの見つけたよーーーっ!!」




加蓮「わっ!?」


地上から顔を覗かせそのまま下水道の底、加蓮の隣に滑り降りてくる小柄な影

奈緒「(なんだかんだで紗南の切り替えが一番早いんだよなぁ...)」

「(まゆや美穂がゲームオーバーになんのを間近で見てたから仕方ないんだろうけど)」




紗南「ほら!これ!タブレット!電源生きてる!」



探索から帰った少女は元気いっぱいにその戦利品を掲げた



掴んだ機器ごと両腕をぐっと前に突き出す

奈緒「うわっ、ホントじゃん......なんかのアプリが起動しっぱなしだけど」

加蓮「地図...だよね、これ......ってこれもしかしてアタシたちの...?」

紗南「そう!これアタシたちや他の人たちの居場所をマッピングしてるんだよ!」

身を起こした二人が紗南の手元に目を瞠る

奈緒「マジかっ!?」

加蓮「そっか...これで凛はアタシたちを見つけられたんだ...」

紗南「そう!!これさえあればアタシたちも仲間を見つけられるんだ!」

奈緒「やったぜ!」

「これにアタシらの能力もあれば鬼に金棒ってやつだ!」


パンッ、と軽やかな音とともに三人が自然とハイタッチを交わした



破壊しつくされた世界は一周回って娯楽としての一面を顕し

結果として三人から過剰な緊張感を取り除いた



ちょっとばかし無茶苦茶なだけで

所詮はゲームだから、と





748: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:12:13.94ID:R+0oSAgq0



______________

 神谷奈緒+  67/300


______________
______________

 北条加蓮+  67/300


______________
______________

 三好紗南+  67/300


______________








数分後






ゲームと現実の垣根は瓦解する







ゲーム開始110分経過

北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南

ユニット結成


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



749: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:13:15.61ID:R+0oSAgq0



チャプター
大和亜季&星輝子

____________


大和亜季+  50/100


____________
____________


星輝子+  50/100


____________





「いるでありますな...」

「フヒ?」



軍靴に包まれた忍び足が止まる、並んでいた細い足も動きをやめた

その後ろをついて回っていた菌類の歩みも続いて止まった


亜季「この並んだビルの向こう...不穏な存在を感じるであります」


大規模破壊の影響を免れたものの、ゴーストタウン化を避けきれなかったビル街のあいだを縫う道路


その一角で、静かに戦いが始まろうとしていた



ズンン...



輝子「......足音、地響き?...い、いるな、たしかに」


周りをキョロキョロしだした輝子も改めて亜季と同じ方向を向く

その視線の先、路地の隙間から細く切り取られた月明かりが漏れ出している



そこを巨大な影が遮った



ズンン...





750: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:14:17.99ID:R+0oSAgq0



亜季「相当なサイズでありますな」

輝子「わ、私のキノコよりも...重たそうだ」


根っこを手足のように生やしたボットが輝子の背後に揺れた


亜季「ですが、我々に撤退する基地などありません」


「ただ進むのみであります」


宣言と同時に亜季の手の中でグリップが回った


速やかに安全装置が外れ、引き金に指がかかる


輝子「フヒヒ...き、キノコ付きのナイフのちから...見せて、やるぜえ...!」


全身を銃器で包んで探索すること10分と少し、それらが振るわれる時が来た

ビルを挟んでもう一本向こうの通りまで約15メートル、そこへ至る道幅は1メートル半ば

その脇に背を壁につけて立つ、輝子も遅れて亜季に習った立ち姿で並んだ



亜季「いいですか輝子どの、まずビルの隙間を一気に走り抜けます...」

輝子「お、おう」

亜季「私が先行し、できる限りの弾幕を張りながら相手を攪乱します」

輝子「わ、わかった...」

亜季「そこで後援として輝子どのは新たにボットを召喚して下さい」

輝子「まかせろぉ...」


亜季「ですので今ここにいる分はここに置いていきます」

輝子「フヒッ!?」

ビックキノコ「ffFF!?」

亜季「いえ...その図体ではビルの隙間に入りませんし...」


ごくごく小規模のブリーフィング


だが、重要なことはここに至るまでに話し終えていた




751: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:15:40.47ID:R+0oSAgq0


ズン...



亜季「行くでありますよ...」


ここにきて亜季の声に緊張の火が灯る

何度となく繰り返された戦い。多対一、混戦、能力合戦


だが今から打って出る戦いはある一点において今までと違う


輝子「初めてだぜ...わ、私たちの方、から、い、挑むのは...」


自分たちから攻勢に出る、という点で


亜季「で、ありますな」



ジャキッ!!



亜季「3、2、1、0で一気に通り抜けます...いいですね?」

輝子「お、おっけー...」

腹の底に響く足音は少しずつ遠ざかっている



「3」



作り物の世界の作り物の銃が重みを増す



「2」



輝子のナイフが鈍い緑色に光った





「1」





「......こっそり......なんて...」





亜季「0!」













雪美(ボット)「......私には...お見通し......」




752: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:17:11.66ID:R+0oSAgq0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


まず初めに夜景が揺れた



ズズ...ズ


薄緑の夜空を闇色に切り取る建物の影が緩慢に揺らぐ



亜季「こ、れは...!?」




そしてビルが動き始めた



輝子「ヒャアアアァァハアアアァァァア?!」


たった今まで体を預けていた盾であり障害物そのものが牙をむく


ビルの隙間を駆け抜けるどころではない、その隙間は目の前で挟み潰された



亜季「向こうから...力尽くでこっちを押し潰す気でありますか!?」


倒れるでもなく崩れるでもなく、押し進んでくる広大な壁面

かといって同じようにこちらから押し返すことができる重量ではない


亜季「てっ、輝子どのォ!!」

輝子「ッシャアアア!!出番だぜ!!」


作戦ともいえない作戦は変更された


力押しのパワーゲームに


ビッグキノコ「FFFFff!!」


輝子の横に待機していたボットが傘頭を大きくもたげる

「ブチかませェエエエ!!」



ドゴォオォォオンンン!!!!!!





753: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:18:19.80ID:R+0oSAgq0



ビルの壁に大穴が開く、それでもビルの移動は止まらない


目に見えないレールに乗ったように容赦なく道路を横断していく

だから二人はそこに乗り込んだ、目指す目的地は変わらない

ビルの動きと逆行してビルの内部を走り抜ける


亜季「常識の通じない戦場であります、なっ!!!」

輝子「き、キノコが無駄に、ならなくて...よ、よかった、ぜ...」


ビルの中に取り残された資材、オフィス用の椅子や机を押しのけ飛び越えながら足を動かす

輝子の前ではキノコが無理やり道を切り開いていた

すぐにビルの裏手、向こうへ繋がる窓ガラスへ到達した


亜季「出鼻は挫かれましたが、我々に撤退はありません!!」

輝子「お、おお!!」


両手に構えられた二丁の銃口が火を噴く、ガラスが粉砕され、道がつながった


亜季「いっせーっ!!」

輝子「ノッォオオ!!!」

ビッグキノコ「F!!」




ガッシャアアアアアアンン!!




割れたガラスを蹴破って、ボットが一部の壁を叩きくだいて





そのとき一本の「矢」が壁から外れた




754: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:19:18.55ID:R+0oSAgq0



翠(ボット)「おや、力技で切り抜けましたか」


そして対峙する



「ヒョウ君、ファイトです~!」

「矢でも鉄砲でももってこいっ!」

「雪美ちゃんはちょっと離れててね」

「......私も......戦う...のに」


亜季「五対二!!?上等であります!!」

輝子「五対三、だけど、な...」


手始めに亜季の両手から鉛の雨が噴射した





ゲーム開始115分

大和亜季&星輝子
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

開始





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



755: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:20:33.07ID:R+0oSAgq0



円盤投げの陸上選手を思わせる動きで未央の腕がしなる


亜季が銃弾をばら撒くと同時、いやそれよりも若干早く振り抜かれたときには出現している



未央の肩から背中を覆う星型の円盤が


亜季「ぬうっ!?」


五芒星型の盾が銃弾の衝撃を振動として吸収し、跳ね返す

未央(ボット)「ふっふーん!見よこの防御力!」


反対側の腕にも出現させたそれを前面に掲げる


「しまむーの能力全てを注ぎ込んだ、ちゃんみお☆シールドは伊達じゃない!」


そのサイズは道路脇の用水路に潜ませていた時の小道具めいたものとは違う

盾として体幹の側面を十分に覆いながら、尖った五つの矛先を伸ばし地面に轍を穿っている


亜季「(面積、リーチ、硬度ともに厄介極まりない...,...ふざけた見た目の割に攻防一体でありますか)」


輝子「フヒヒ...こんだけおっきいなら......関係、ない!」

一歩遅れて胞子をまき散らしながらキノコの傘頭が振り下ろされた




756: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:21:58.46ID:R+0oSAgq0



島村卯月の能力は”能力の強化”

シンプル故に何にでも使える

ルールで雁字搦めにする能力である翠を除いて

小春を強化したことでイグアナを翼竜へと進化させ

雪美の危機感知能力を予知能力へと押し上げる足がかりとなった

無論その恩恵は未央にも及んでいたが、それは一度に出現させる数量に関してのみ



市原仁奈が欠けた今、彼女に「割り振られていた分」は




「ヒョウ君、カミツキ攻撃です~」



未央を押し潰す勢いで振り下ろされた頭突きが横殴りに阻止された


輝子「ヘェアッ!?」

ビッグキノコ「ffF...」


建物の二階ほどまで成長していた菌類は、それ以上の存在に咥えられ


植物食の動物にあるはずのない牙で真っ二つに断ち裂かれた



小春(ボット)「おっきなお羽だけじゃなくて~、かっこいいキバまで生えちゃいました~」



輝子「あ...ああぁあ...」

亜季「こっちも、別の方向で厄介であります、な!」


未央相手に牽制を続けていた銃弾が切れる、と同時に最後にそれを投げつけた


未央(ボット)「うおっ!?危なっ!?」

空いた片手には既に手榴弾が握られている



「輝子どの!伏せてください!」



犬歯を引っ掛けるようにしてピンが引き抜かれ手の平大の炸薬が宙を舞う

小春(ボット)「はい~?」


一瞬の間を置いて、爆発


巨大爬虫類の背中の上が炎上する



757: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:23:16.53ID:R+0oSAgq0



ヒョウくん「.....!」


羽ばたかせた翼が爆煙を吹き払い、ゴツゴツした背中がさらされる



小春(ボット)「はうぅ~、とっても熱かったです~」



そこには五体満足のまま、暢気に爆炎を浴びた感想を漏らす少女の姿があった



亜季「なんですと?!」

輝子「じょ、丈夫だな...おい...」


少女にあるまじきタフネス

これは卯月による強化だけでなく小春の能力による恩恵もある

古賀小春とヒョウ君はいわゆる一心同体の状態にあり、ユニットのように一つのスタミナを共有している

だがプレイヤーと違って、彼女たちはそのことを弱点としてはいない



小春(ボット)「うふふ~、ヒョウくんがへっちゃらなら、小春もへっちゃらです~」



彼女たちは防御力、耐久力といったステータスまでもを共有していたのだ

文字通り一心同体、つまり


「ヒョウ君がいる限り小春は負けませんし~、小春がいる限りヒョウ君もピンピンです~」


輝子「知るかァ!」


パンパンパァン、荒々しい手拍子が三度続けて鳴り響いた


その所作だけで輝子の身長の倍の背丈のボットが背後に並ぶ


輝子「キノコの恨みをォ思い知りやがれェエエエャヤアアア!!」


腹の底から響く雄叫び、それがゴングだった

菌糸と翼と根と牙が絡み合いシャウトが木霊する





758: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:24:30.87ID:R+0oSAgq0




亜季「ッ!...輝子どの...あまり離れては...」



未央(ボット)「あーらら、始めちゃったね~」



輝子を追った亜季の前に未央が躍り出た


亜季「...!」


未央の背後で爬虫類と菌類がビルを破壊し、奥に潜り込んでいく

人外同士の怪獣対戦を繰り広げながら遠ざかっていく輝子への道に立ち塞がれた



未央(ボット)「あっちはあっち、こっちはこっちでやろうよ、ね?」


亜季「.........上等であります!!」



こっちの戦いにはゴングはなかった

地面を蹴る音と発砲音と

跳弾音だけ







卯月(ボット)「うーん、ちょっと割り込めませんね~」



趣の異なる二種の戦闘から距離を置いて、そんな言葉が漏れた


翠(ボット)「仕方ありませんよ、不注意で卯月さんが欠けては元も子もありませんし」


能力を解除しながらも手に弓矢を携えたまま答えが帰る


雪美(ボット)「...大丈夫......すぐに......忙しく...なる」


戦場の真ん前の緊張の中、ポツリと呟かれた予言は不穏極まりなかった


「.......そう、ですか。だとしたら私の出番でしょうね」

しかしボットはそれが瞞しの類でないことを知っている




「......うん...いっぱい......近づいてきてる...から...」





ゲーム開始116分

大和亜季&星輝子
VS
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



759: ◆E.Qec4bXLs 2015/05/11(月) 00:25:00.38ID:R+0oSAgq0


チャプター
三好紗南のゲーム画面



_____________

name:神谷奈緒

category:プレイヤー

skill:倒したボットを通貨と
してチャージする。それを用
いることで、ストアを経由し
て仮想世界内に存在するアイ
テムを購入し現在地点に取り
寄せる
_____________


_____________

name:北条加蓮

category:プレイヤー

skill:自分以外のプレイヤー
1人をマークした地点に瞬間
移動させる。マークできる回
数はネイルの数だけ
_____________





762: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:29:17.58ID:xKRCPrHo0



チャプター
大和亜季&星輝子

__________

本田未央+ 95/100


__________

__________

大和亜季+ 49/100


__________



ダァン!ダァン!


ガィイン!!ガィイン!!


発砲、跳弾、発砲、跳弾


ダンッ!タタンッ!


踏み込み、のけ反り


ギィイイイインン!!!

ガリガリリリリリ!!


未央の通った道筋が削り取られる音



「(どういう仕組みなのか...あれに触れると皮膚が擦り剥けるどころでは済みそうもありません...)」



亜季の武器は銃火器、どれも当れば必殺の威力であることは保証されている

しかし相手の武器もどうやら玩具ではないらしい


未央の両肘を中心にそれぞれ広く展開された五芒の星型


四本の切っ先が上半身への攻撃を妨げ、残る一本が彼女の力強い腕に沿って真っ直ぐに亜季を目指す

そのシルエットは甲殻類の両肢を思わせた


「おっと、逃げられるとさすがの未央ちゃんもマズいからね~!」


それに弾丸を跳ね返す硬度の素材でありながら非常に軽いらしく、

身体能力では上のはずの亜季相手に身軽に立ち回り、的確に追走してくる


ギイイィィィインッ!!



763: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:31:00.18ID:xKRCPrHo0



「ぐぅうっ!!」


右からの突きを咄嗟に銃筒で止めた


その一撃だけで深い切り込みが口を開け、弾丸の出口がお釈迦になる


「とんだ粗製品であります、なッ!!」

突きの方向を逸らし、反対の手に握り直していた別の銃に火を噴かせる

「あぶなっ!?」

狙いもつけずに放たれた銃弾に未央が一歩引いた

だが、すぐに足を戻しながら追撃してくる

今度は両手の銃廷でそれを止めた、未央と両手同士で組み付く


未央(ボット)「ぐぐぐ~」


カリカリカリカリカリカリカリ...!!!


力比べ、に見せかけた時間稼ぎで思考をまとめる

亜季「......(やはり単純な筋力では私が上、この状態を維持したまま...何か策を)」


こうしている間も未央の矛先と接触した部分が目に見えてすり減り、削れていく


亜季「(なら、この妙な攻撃力は一体...恐らくこれが弾丸を弾いたトリックでもあるのでしょうが)」


カリカリカリカリカリカリカリカリカリ!!


「ふんぬぬぬうううう~~~!!」


銃廷の削り節が散り、夜闇に溶けていく


「(なんとか、しなくては...!)」


ガリッ!



764: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:33:46.48ID:xKRCPrHo0


耳障りな擦過音を立てて銃廷が滑った

肘に力を込め、腕を開くように未央の星の矛を押し返す

「わわっ!」

力押しにあっさりバランスを崩す未央、


亜季はそこへ踏み込んだ

破壊の両矛に抱かれるような位置取りへと、死中に活を見出すために


ゴッ!


未央(ボット)「あぃっ!?」


頭突き、開いた両腕で未央の肘を矛ごと抑える


ボッ!


「はぶっ!?」


よろけた胴に追い打ちの右膝、完全に体勢を崩させる

そこでようやく本命、二丁の銃を構えた腕が亜季に追いついた




タンタァン!!


命中


未央(ボット)「ご、ふっ...」



心臓と左胸に真っ暗な銃痕が並んだ

未央の体が真後ろに飛んでいく


破壊力を形成するためのサイズゆえに超至近距離からの攻撃を防げない


それが未央の”矛と盾”の弱点

亜季が銃を構えたまま残心する



亜季「で、あります



 がッ......!?」




765: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:37:37.58ID:xKRCPrHo0



視界が黄色に染まる


手の中の銃が落ちる


肩口から痛みが破裂する



亜季「あ、ぐぐ......?(反射的に避け、ましたが...)」



彼女の左肩にそれは突き立っていた



未央(ボット)「ふ、ふふ......ちゃんみおキャノン...だよ」



制服とジャージの隙間、銃痕の下からディスクサイズの星型がこぼれ落ちた



これは矛と盾ではない、


星型のチョッキだ


「これって、ある程度の衝撃を受け...ると爆ぜるんだよね...

まぁ、ちっちゃいサイズだと全然ダメージないんだけどね?」


開放された両腕をさすりながら体を起こす、鉛を体内に潜らせたとは思えない気丈さで


「...ちえりんや、ほっしーみたいなちっちゃい子も倒せないくらいだし?

でもこれと連動して吹き飛んだ、大きい方はどうかなー?」


体を起こした未央の傍らで、

さっきまで武器となっていた星型は切っ先を分離するように五つの小さな破片になっていた


チョッキに食い止められ形の歪んだ二発の銃弾とともに




766: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:49:20.02ID:xKRCPrHo0


亜季の左肩に刺さった三角錐の矛が少しずつ食い込んでいく

未央の手元を離れていながらも愚直に、ピラニアが肉を食い破るように


亜季「...連、動、ですと...!?ぐくっ、それにこれは!」


左腕は動かせないまま銃を手放した右手がその矛先に触れたとき、今更ながら未央の能力の一側面を理解した


亜季「(直に触れて初めてわかりました...これは高速で振動している!)」


削岩機やテーザーソーと同じ理屈

振動を衝撃の連打として破壊力を生み出し、対象を瞬時に蝕む仕掛け


亜季「がっ!!!」


首ごと持って行かれそうな振動を浴びながら星の刺を殴り飛ばす

空を裂く甲高い音を鳴らしながら飛んだそれは地面に刺さり、アスファルトを彫った


亜季「(ぬぅ!?風景がブれる...船酔い?、視界不良であります...!)」


痛みこそセーブされているとは言えダメージと振動の残響が目眩を引き起こす

亜季が膝を着くと同時、未央が立ち上がった


「(...ヒョウ君の翼の裏側に貼っつけた星から振動を送ってもらっててよかった~!)」


決して無傷ではないが大した痛手でもない、準備運動のように未央はその場で肩を回す


亜季「これだからボットの能力というのは...!」


近距離には星の矛と盾、遠距離からの攻撃には星の鎧が対応する

そして中距離までなら星の分解され、射出される


「厄介極まりない...であります!」


幾分か動作を回復した両腕で銃を構えた

最初のネックであった彼我の距離は充分開いた



767: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:51:54.47ID:xKRCPrHo0



未央(ボット)「おぉっと!!」


ガガンッ!!


銃弾の軌道が星の盾に衝突して地面に転がる

今度の星は一つだけだが更に大きくなり、彼女の身をカバーしていた

矛よりも盾としての役割を大きくしたらしい


亜季「(今の音は...?それに銃弾が...)」


彼女は預かり知らぬことだが翼竜の翼の下に仕込まれた星もたった今破裂した

だから今の未央は能力を通じて振動エネルギーを増幅することができていない

亜季が一瞬感じ取ったその違和を掻き払うように




「そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおれっ!!!」




未央は投擲した



少女一人の身の丈と同等の尖った円盤が空中で唸る

冗談のような大きさの手裏剣が亜季の首筋に飛び込む


亜季「ッ!...今度はこんな手を!」


空中で打ち落とせる質量と速度ではない

痛む左肩をかばいながら右側に飛んだ

その背後にあった空気を裂きながら車輪大の流星が奔った

無論逃げに徹するわけではない、そのまま落とした銃を拾い



亜季「(ここで牽制しておかなくては!)」


不安定な構えのまま、狙いを定めず未央の方向だけを頼りに引き金を引いた




そのときに、見た





768: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:53:54.54ID:xKRCPrHo0



亜季「_____!」



銃口の少し向こうで



右足を勢いよく振り下ろす未央を



亜季「(マズいマズいマズいであります!)」



彼女の足元には小さなスイッチ



それは星の鎧よりもわずかに小さな星型で



「はい、ドーーーン!」



未央の靴の下で小さな音が破裂する



そして衝撃は、振動として伝播して



亜季の真後ろで大破裂が起きた


必殺の尖端が空中で飛散する



亜季「(これは...避けられません!!)」





769: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:55:48.51ID:xKRCPrHo0





「ヒャアアアアッッッハアアアアアアアアアアアアア!!!??」

「は?」




飛んできたのは敵の武器だけではなかった


触手のような根と猥雑に絡みあった輝子が吹き飛んできた


星と尖端を絡め取り、亜季も巻き取られ、ゴロゴロと転がっていく





小春(ボット)「わ~い、やりました~!」



ウロコの背中で小春がはしゃぐ

さっきまでまとわりついていたキノコ三体を振り払い、その様子はすっきりしていた

本人としては輝子はおろかそれより更に年上の亜季まで倒してご満悦なのだろう

未央(ボット)「あらら......ここは確実に決めときたかったんだけどなー」

決定打を逃した未央としては面白くないが標的を一箇所にまとめられたと考えることにした

月があるとはいえ、少し目を向ければ光の届かない闇などいくらでも目に付く


「あれ?」


そんな風に誰かが隠れる可能性のあるポイントに走らせた視界がある事実を見つけた


「しまむー?...ゆきみん?...みどりん?」


仲間が見つからないという事実を




770: ◆E.Qec4bXLs 2015/06/07(日) 22:57:33.87ID:xKRCPrHo0



老廃したビル壁がひび割れ、粉を吹き

崩折れた二人の体にはらはらと降り注いでいた


亜季「しょ、輝子どの...」

輝子「フヒ......す、すまん」


壁にめり込んだキノコボットが消失する中、輝子は亜季の胸に上下逆に飛び込んでいた


自分の下で呻く亜季に、咄嗟に輝子が咄嗟に腰を上げたが、



亜季「実にナイスであります」



続く言葉は肯定の一言だった



輝子「フヒ?」

亜季「いいですか...そのまま少し耳を傾けていいてください」



そうしてその体勢のまま輝子にある作戦を耳打ちする


さっきまでは未央によって完全に「詰んで」いた亜季


だが輝子が将棋盤をひっくり返し、その命を拾った今


恐れるものなど何もない




ゲーム開始119分

大和亜季&星輝子
VS
本田未央(ボット)&古賀小春(ボット)

継続中


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



777: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:09:41.33ID:PMmm2VdB0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



>チュートリアルボット
___________

北条加蓮  10MC

神谷奈緒  10MC

三好紗南  10MC
___________

>ノーマルボット
___________

向井拓海 

単独撃破報酬 4800MC
___________

村上巴

ダメージ報酬 1200MC
___________

前川みく

多対一報酬  2400MC
___________


計8430MC


手のひらサイズの小さな画面を更に小さな文字が走る

奈緒「ポイントが貯まるって...まじでゲームじゃねえかよ」

紗南「美穂ちゃんと二人で倒したみくにゃんより加蓮さんが一人で倒した拓海さんの方がもらえるポイント高いんだ...細かいなぁ」

__________________

ハンドガンA 800MC  在庫わずか

ハンドガンB 800MC  在庫わずか

ハンドガンC 800MC  在庫わずか

マガジンA  400MC  在庫あり

マガジンB  400MC  在庫あり

マガジンC  400MC  在庫あり

ナイフ    300MC  在庫あり

ライフル   1000MC  在庫わずか

対戦車砲  3000MC  在庫わずか

手榴弾    600MC  在庫あり

自転車    500MC  在庫なし

戦車    15000MC  在庫あり

砲弾     3000MC  在庫あり

ジャンク品▽ 50MC  在庫あり

__________________



778: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:11:06.62ID:PMmm2VdB0


加蓮「戦車って何なのよ...知らないんだけど」

紗南「ん?言ってなかったっけ?この街のどこかに戦車が置いてるって」


ゲーム機とタブレットを装備した紗南が加蓮を振り返りながらきょとんと首をかしげる


奈緒「そういや、巴と戦ってる時に何回か爆弾落とされたような...」

紗南「それアタシー、戦車おいてる場所までは分かんないけど一応操作できたから」

加蓮「え?そのタブレットでわかんないの?」

紗南「うーん、アタシもそれは考えたんだけど...」

そういってタブレットの画面をあちこちとタッチする事に画面が波立つ

よく見ると画面に地図が表示されている状態は固定されたまま、そこに漂うドットだけが切り替わっていた


奈緒「これは?なんかあたしらの周りのプレイヤーが消えたり付いたりしてるけど」

紗南「多分感度みたいなのを調整してるんだと思う...」

加蓮の横から画面を覗こうとした奈緒の疑問にぼんやりとした答えが返った

紗南「ほら、今は空いっぱいをカラスが飛んでるし、何でもかんでも感知してたら画面見れなくなっちゃうから」


彼女の指が画面上を滑ると同時に画面が青い丸で埋め尽くされた。それらは全てボットの位置情報だ

アイドルも、戦車も、キノコも、カラスもその地図上では区別がつかない


加蓮「はぁーあ、これじゃ接触できそうなのはプレイヤーだけみたいだね」

奈緒「だから今まさにそのプレイヤーんとこに向かってんだけどな」

改めて、目的地となる方向を目視する

三人は今ゴーストタウンから廃墟へ、そして廃墟から跡地へと変貌した道を進んでいた

潤沢な装備への伝手を手に入れた彼女たちだったが、空を我が物顔で支配するカラスの群れを避けなければならないのは変わらず、自ずとそのルートは限られた

奈緒「しっかし、ネズミか虫にでもなった気分だ。あるいは洞窟探検隊」

低い天井から漏れ出した月光のエリアを回り込んで空からの視界をクリアする

崩れ、倒れ、均されたビル街。彼女たちが選んだのはその瓦礫の「下」だった

剥がれた壁材と建材がぶつかり合い支えあって出来たトンネル、不安定で不十分な隙間

しかし彼我の物量さを鑑みればその偶然の産物だけが彼女たちの細い命綱だった




779: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:13:13.02ID:PMmm2VdB0


紗南「トンネルが崩れてもアウト、トンネルの上から見つかってもアウト...スリリングだねっ!」

加蓮「はしゃいで壁倒さないでよ紗南」


余裕の表れか、自分たちを覆い隠すか細い通路を軽く小突く紗南を加蓮が窘める

奈緒が立ち止まり、それに続いて二人も足を止めた


「あそこか...」


誰ともなしに呟く

彼女たちはタブレットの指し示す激戦区を見通せる一にまで到達していた

大通りらしき平坦な道路を挟んですぐ向こうからはもう危なっかしい音が断続している


望月聖、高峯のあ、白菊ほたる、神崎蘭子、etc...

度重なる大規模破壊がもたらした街への傷跡

それらの間隙に立地していたおかげで全壊をまぬがれ、辛うじてビルの体裁を保った区画


奈緒「ここで止まれ。輝子と亜季さんも心配だがブリーフィングしとこう」

瓦礫と廃材の海の上の暗闇にくっきりと立ち並ぶ影を背景に足を休める

奈緒「状況を整理しようぜ」

「まずアタシたちは今、味方を増やすって方向で動いてる」

紗南「情報収集力とウエポンだけ偏って集まってるしね。あとは兵力でしょ」

奈緒「そーそ、アタシのスキルで武器はなんとかなるし、紗南のアイテム二つで他の誰かを探すのもぐっと楽になった、あとは実行するのみだ」

加蓮「で、とりあえず一番近いプレイヤーかユニットかな?...に会いに行こうってことで」

紗南「その前にボットとのバトルをクリアしないとね!」

ぱん、と音を立てて紗南の手がタブレットの画面を叩く

その指の下では赤と青の丸が震えながらぶつかり合うように位置を変えていた

その攪拌されたような蠢きはそのまま戦いの激しさを物語っている


奈緒「のんびりしてる時間もないが特攻かますわけにもいかねえ」

「相手の能力を把握した上で、必要となる最低限度の火力を”取り寄せる”ってことでいいな?」

加蓮「元々大荷物運べるメンツじゃないしね。アタシも紗南ちゃんも」


奈緒「にしてもどうだ紗南?相手か味方の能力は読み取れたりしたのか?」

紗南「うーん、何人かは...やっぱり離れてるとうまくいかないね」


タブレットを支える手とは反対の手に握られたゲーム機は少し前からサーチモードのままだ



780: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:14:26.78ID:PMmm2VdB0


彼女の能力は強力でありながら不便だ

今のサーチモードの場合だと広大な距離を開けたまま一方的に対象の情報を素っ破抜くことができるが、

それにはセンサーの直線上に正確に動く対象を捉え続けていなければならない

ましてや今は夜、対象は遠く、そして不可視だ


紗南「一応今まででちらほら読み取れたのが~~っと...」


記憶を掘り起こすようにゲーム機の角でこめかみをこする

地下下水道で偶然亜季の能力情報を探知したのがずいぶん昔に感じる

それから今に至るまで何度かアクセスを試みてはいた

しかしそれは、目隠し、物干し竿で金魚すくいをするようなムリゲーで___


紗南「輝子さん、未央さん、卯月さん、翠さん、小春ちゃん...大体ほとんどだよ!」


彼女が全力を以てチャレンジするに足るゲームだった


加蓮「さすがピコピコ娘」

「で、誰がボットだったっけ?確かその近くにいる亜季さんはプレイヤーだったよね?」

紗南「輝子さんと亜季さん以外は皆ボットだよ」


低くて脆い天井に気を遣い、足元に注意を払いながら質問を投げてくる加蓮の腰元では銃身が窮屈そうに挟まれている

このちっぽけで強力な武力のまま先を急ぐか、奈緒の助力を要するかは紗南からの情報次第だ


紗南「完全に囲まれてるのにまだ生き残ってるだけあって結構強キャラなんだよねー」

奈緒「ほーん、どんな能力よ?その様子だと画面から消える前になんとか頭の中にたたき込めたんだろ?」

紗南「うん!えっと...まずはねー」


ちらりとタブレットに目を落とす

地図上の青丸の一つを小突きながら記憶を掘り起こしていく



781: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:16:11.24ID:PMmm2VdB0



紗南「うぅん、ちょっとまってね。ちゃんと思い出すから...」

ゲーム機の能力と違い、タブレットは情報が揺らぐことはない

その薄い板は天上からの確固たる視点でこの街を見下ろしている


紗南「......まず、卯月さんの能力は強化系でね?...他のボットの能力だけに作用するみたい」




だが忘れてはいけない。その視界は何も彼女の持つ機械だけの特権ではない





「......言っちゃ.........ダメ...」





ゲーム開始120分


北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)



開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



782: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:17:51.45ID:PMmm2VdB0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


カシャン


奈緒「?」



慎重に足場を確認しながらあるくさなか小さな音を耳が拾った。


ともすればその足音にさえかき消されそうな小さな破裂音


奈緒「ストップ......どっかに誰かがいやがる...」

紗南「いや、それはわかってるけど」

警戒心を引き上げる奈緒に対し画面を小突いて紗南が言う


奈緒「そういうんじゃなくて...なんか変な音聞こえたろ、今?」





ズズズ...




加蓮「ん、この何かを引きずるみたいな音?」

奈緒「そうじゃなくて、もっと小さな......そう!ガラスが割れるみたいな」


前を見ていた奈緒が振り返る




ズズズズズズ!



だから動き出した光景の第一発見者は紗南だった

紗南「いやいやいやいや!ガラスどころじゃないでしょアレ!」



地面に生えた標識やガードレールをこそぎとり

電線を引きちぎり、カラスの群れを押しのけ



紗南「ビ、ビルまるごと動いてるじゃん!!」



加蓮「あんなの動かすって......のあさんレベルのボットがまだいるの?」

コンクリートの巨大墓標が動き始めた

奈緒「マズいマズいマズいって!!」

アスファルトが波打ち、際限なく粉々に砕けていく

そこをビルが砕氷船さながらに強引に割り進む

ビル街と奈緒達を隔てていた道路を横断して、彼女らを挽き潰そうと



783:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/11(火) 13:21:21.64ID:PMmm2VdB0


奈緒「あれを避けて回り込むぞ!」

加蓮「逃げきれるのこれ!?」

紗南「避けゲーなら得意だし!」

ビルの直線軌道上を大きく迂回するように走る


紗南「あっぶな、いっ!!!」

波打ち、逆立った地面を飛び越えた紗南の、数メートル背後をゴリゴリと蹂躙して通り過ぎていく

そして、奈緒たちがいた荒れた地面に突っかかるようにして停止した


加蓮「(このままビルのないとこまで逃げ切れる?)」

紗南「(よっし、どーやら曲がったり追尾したりはしないみたいだね!)」



だが猛追は止まらない



「...翠......次......あっち...」


ゴッゴゴン

走る三人の前にまたもビルが躍り出る。先のものより階数も少なく、その分速い


加蓮「二棟め!?」

奈緒「そりゃそうくるよなぁっ!?」


道路の先が横車を押すように無理やり遮られる

ガゴォン

紗南「うえっ!?」

三棟目、それは今までとは違った軌道を描いた

建材の基礎を引きちぎるように不自然に折れ曲がり、ビルディングの根元から大きく折損を起こしながら


そして二棟目の上に倒れ、完全に道路を封鎖した


数十トンの倒壊の衝撃で壁一面のガラスが煙のように宙に向かって噴き出す

紗南「いぃいいっ!?」

極小の凶器が月明かりの下降り注ぐ


奈緒「うわああああっ!?今までで地味に一番あぶねぇ!!」

加蓮「きゃあああ!」

来た道を急旋回、共に引き返す

軋む窓枠が荷重に負け、ガラスを吐き出しながら歪曲し破断する

何もかもが歪んでいく


その中にあって、厳然と真っ直ぐ天を向いた矢を見た


紗南「(......なにあれ?壁のひび割れのとこに...)」


四棟目は既に動いていた

退路と背後を封じた上での本命

ガードレールが飴細工のようにひしゃげ、道路に乗り上げる



784: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:22:52.27ID:PMmm2VdB0



奈緒「くっそ!!挟まれたか!?いや、ビルの隙間を抜ければあるいは?」


加蓮「いや、道路から降りて今まで来た道を引き返したほうが安全だって...」

奈緒「それじゃ味方と合流できねえし、向こうの思うツボだろ!」

加蓮「じゃあアンタがバズーカでも取り寄せて、ビルごとぶっ飛ばしなさいよ!」


決してパニックに陥ってはいない。だが焦りが二人の声を荒げさせていた


そして突破と撤退に揺れる二人を尻目に事態は際限なく悪化する




紗南「あ、それどっちもむりかも」



ア”ァア”アーーー



「カラスに気づかれた」



黒の奔流がなだれ込む




785:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/11(火) 13:24:28.05ID:PMmm2VdB0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季&星輝子


亜季「この地鳴りは...」

輝子「...また、何か、やらかしたな...これは」


ズズン...


未央(ボット)「あらら...折角この辺はまともな建物も残ってたのになー」


四角いシルエットが時にチェスのコマのように平行移動し、時に将棋崩しのように瓦解していく光景は遠目にもよく見えた

「...みどりん、最初の頃とは能力の使い方変わってきてるねぇ...」

小春(ボット)「あんな風にドカーンってしちゃうと、プレイヤーさんが見えなくなるんじゃないですか~?」


未央(ボット)「んー、だからゆきみんがいるんだろうね」


矢を中心とした能力範囲内の物体を強制的に翠から60メートルの位置へ固定する

瓦礫の巨塊も、人間も、恐竜も、建造物も、引き離され、あるいは引き寄せられ固定される

しかしそれを利用した攻撃はどうしても翠を中心とした円上の単調な直線移動にしかならない

だから彼女がいる


雪美(ボット)「これで.......ぺちゃんこ......できた?」


卯月の力の恩恵により勝ち得た月を侵食しCHIHIROの視界をジャックする力


仮想現実全域をも見通す力と、反撃不能の大規模破壊


未央(ボット)「だから、すぐ終わるでしょ」

ヒョウくん「...............」


爬虫類の翼竜は黙して語らない、その翼の下に星型のディスクが改めて備え付けられた

カリカリと空気を震わせる音が未央の両腕を覆う


「んじゃま!こっちも終わらせよっか!」


「は~い、わかりました~!」





786: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:26:50.08ID:PMmm2VdB0



  戦闘再開


対するは痛手を負ったプレイヤー二人

先程から動きがないままにボソボソと何やら言葉を交わしているようだが

未央(ボット)「待つわけないって」

小春(ボット)「ですです~」


ゴォオッ!!


未央の頭上を小春とその相棒が翔んでいく

亜季と輝子ビルに向かって一直線に、そのまま衝突寸前に急上昇


「あれ、避け......フヒッ!?」

「伏せるのです!!」


一拍遅れてウロコを纏った尾が叩きつけられた


巻き起こった風に前髪を吹き上げられながら未央が口笛を吹いた

尾先は窓も柱も叩き壊して壁の向こうに突き抜けている





ヒョウくん「.........!」


小春(ボット)「どうかしましたか~?」


尾先を食い込ませたまま一度、大きく羽ばたく


しかし、動かない。しっぽが抜けない。何かが尾先を掴んでいる


「フヒ、フヒヒヒヒヒ......」


瓦礫に埋もれたどこかで笑声が転がる


三体の巨大なきのこが根を伸ばし一体となって




「第二ラウンド開始だァアアア!!!」



翼竜を地面に縫い止めていた



787: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:29:39.47ID:PMmm2VdB0



小春(ボット)「むぅっ!ヒョウくん!」

短い呼びかけに即座に応じる


地響きと共に着地し、四本足で踏ん張るとともに尾を引きずり出す


「FffffF!」

尖った爪先が地を穿ち、菌類の群れはあっさり釣り上げられた

キノコのボットとプレイヤー1人が宙に投げ出される

小春(ボット)「ヒョウくん~食べちゃってください~」


自身を縫い止めていたビルから一歩退き、牙をむきだし真上を仰ぐ

自由落下する菌類と人間に狙いを定め

絶命必至の尖端を並べ陥穽が大口が天を向いた


未央(ボット)「ここで残る一人も追撃!」


入れ替わりに未央が破壊の跡地に踏み込んだ


「(輝子ちゃんが引っこ抜かれてったから......亜季さんはっと...)」


カラン...


「(!...はっけーん!)」


崩れた天井の一部が仕切りと化していた

その向こうから物音と確かな存在感


ギャリリリリリリリン!!!


把握した瞬間に未央の攻撃は遂行された


高速振動する刃を右から左へ一閃する、アスファルトが粉へと削られ砂塵が舞う

狙いは心臓、長身の部類である亜季の胸元にラインを引くイメージで

何の抵抗もなく刃先は硬い土くれに滑り込み、するりと隙間を切り開いた


「いっちょあがりぃ!」


両断された部分が盛大に砂煙を巻き上げながら崩折れた

そして、その向こうで真っ二つに断たれた人影を見た



「さらば亜季さん...今までで一番冷や汗の出る戦いだったよ......」



同時、未央の背後


ヒョウくんの牙がキノコのボットに刺し込まれ、彼らは食いちぎられた



788: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:34:57.00ID:PMmm2VdB0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一棟のオフィスビルの屋上、空っぽの貯水タンクの影


雪美(ボット)「...かれん...も...みんな、生きてる...」


白く小さな指が一点を指す。その先には密集、ではなく圧縮されたビル群

隙間風の吹く空間を全て蹂躙した跡地

しかし彼女の「眼」はそこまで追い込んでなお活路を見出したプレイヤーを見落とさなかった

だから次なる一手を支持しようと__


「ッ!」


__したところで瞠目する。その目は月に向けられたまま、しかし彼女の目には見えていた

見通せていた


卯月(ボット)「ど、どうしたの雪美ちゃん?お目目がものすごくパッチリしてるよ...?」


雪美(ボット)「...み、みお...こはる......」


翠(ボット)「お二人がどうかしましたか?」


四本目の矢を放ち、雪美からの次の指示を待っていた翠もその呆然とした少女の表情に戸惑う


「.....あぶない......避けて..........!」


届かぬ警告が知らず漏れ出す

なまじ全てを見通すことができるからこそ、伝える術がないもどかしさ


だが、


「......」

それで止まるようなボットではない


「あっちに」


次の対応策が動き出した




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



789:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/11(火) 13:36:02.84ID:PMmm2VdB0


小春(ボット)「ヒョウくん!!?」


未央(ボット)「ちょっ......えぇ?」


最初は音、次にたなびく煙

最後に哄笑


「いかに恐竜とはいえ、手榴弾入りのキノコソテーは辛いでありましょう」


「引ィっかかったなァ!!ヒャッハハア!!!」


翼竜の背中に新たに着地する影がある

翼竜は口から黒煙を吐き出しえづくように首を振っている

安定を欠いた飛行態勢が翼や肢を周囲にぶつけさせ不本意な破壊を生む

最もダメージを与えるであろう体内からの、それもほぼベストタイミングでの爆発

キノコボットに仕込まれていた爆弾は、食いつかれた衝撃で作動する仕掛けが施されていた

今、この戦場でそんなビービートラップに精通している者は一人しかいない




790: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:37:31.20ID:PMmm2VdB0




両断された「キノコボット」の影から身を出す小柄な影がある

未央の周囲には既に瓦礫の下を地脈のように走る根が張り巡らされていた

それは菌類が繁殖するための土台であり、同時にキノコの本体

それは死角から未央の武器に狙いを定めていた

「っ、このっ!!...とれないし!」

触れるだけで物体を切断する振動刃に幾重にも巻き付き、切り裂かれながらもさらに拘束を厚くしていく

今、この戦場でそんな不運にきのこボットを使いこなせる者は一人しかいない





亜季「銃は強力無比な武器ではない、よく思い知りました」

輝子「だから、フヒヒ...て...適材適所」




波打つウロコに足を踏みしめ引き金に指を添える

対するは無防備な少女




砕けたフロアに繁殖した沢山のトモダチと並び立つ

対するは孤軍の少女







791: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/11(火) 13:39:35.73ID:PMmm2VdB0



小春(ボット)「ヒョウくん......どうしてこんな」



亜季「状況に応じた部隊編成の結果でありますよ」



未央(ボット)「ぬぬぬ...みおちゃん一人にこの多勢...キッついなぁ」



輝子「ヒャハッ!!」

ビッグキノコs「FFffFF!!」



雪美(ボット)「......翠...」



翠(ボット)「...行ってきます!」



卯月(ボット)「あわわ、わ、私はどうしたら...!?」







ゲーム開始122分経過

大和亜季 VS 古賀小春(ボット)

星輝子 VS 本田未央(ボット)

開始

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



796: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:06:18.06ID:kuQkhjxe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



ビルには二種類の側面がある


住人や来訪者、日光や風景を受け入れる面

最低限度の通風孔と窓、排気口だけの面

前者は言わずもがな玄関口、だが実際は一面に限らず通りに相対する面、

通行人の目に触れる面は自ずとこれと同じように窓が大きいデザインにも建築家の意匠が凝らされるものだ


そして後者は建物間の狭い隙間、そちらへ向いた面だ

日の当たらない、車はおろか人の通らない、通れない空間

都会に限らず隣接するビルの隣り合う面は大抵が物寂しい

一棟のビルが更地となったとき、かつて隣接していた建物の壁は日の下に剥き出しになる。


それを見ればよくわかる

そこに並んだ窓は日光も人の出入りも丸ごと拒絶するように小さいのが



だからこそ水野翠は「その面」で三人を押しつぶすよう操作した

なぜならボットは学習するから


大和亜季と星輝子がやったような、迫り来る建造物に対し窓を叩き割って正面突破するような真似をされないように

人が通過することを想定していない壁面が向くような位置にプレイヤーを追い込み、潰す

元より、破壊こそ免れていたがカラスのせいで老朽化の進んでいた街並みだ。雪美の手、否、眼を借りればそれらの調整は容易い


かくして、完全に逃げ道を奪った上での囲い込み作戦は十全に成功した




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



797: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:08:25.93ID:kuQkhjxe0


___________

対戦車砲  -3000MC 


  残5430MC
___________



「つかっちまった...

......使っちまったぞおい!」


「うるっさい、聞こえてるってば...」


「あはは、危機一髪......」


光の差さないエントランスフロア奥


入り組んだ通路の先に彼女らはいた


加蓮「仕方ないって、奈緒の能力で壁をぶっこぬかなきゃ潰されてたし」


そう言う加蓮が腰掛けているのは対戦車砲の一撃に飛ばされた壁の破片だ

壁が衝突する直前。奈緒は初めて能力を使った

人の通る隙がないのならこじ開けえてしまえ、と見様見真似でぶっぱなした

ゴン、ゴン、と硬質な音が暗い廊下に反響する。奈緒が早々に役目を果たした砲身を拗ねたように蹴る音だ


奈緒「しかもこれ、弾一発しか入ってねえじゃねえか...コスパ悪すぎんだろ」

加蓮「はぁ、そんな愚痴んないでよ。次どうするか考えよ?」

身体的にはともかく、精神的には早くも回復したらしい加蓮が奈緒に歩み寄り肩に手を置く


加蓮「で、そっちは何か分かった?」

タブレットを眺めながら寝っ転がっていた紗南に声を投げる

紗南「これは、多分翠さんの能力かなー」

床の上に仰向けになった彼女の胸の上に置かれたゲーム機は「コントロールモード」にされている



798: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:11:48.12ID:kuQkhjxe0



奈緒「翠さんの?」

紗南「うんうん、なんでも...能力の範囲にあるものを60メートル先まで動かせるんだってさ!」

加蓮「だからってビル動かすの...?」

げんなりした表情で改めてボットの非常識っぷりに呆れかえる


そこで急にハッとしたように息を吸った

加蓮「60メートルってことは...」

奈緒「...げっ!」

加蓮の雰囲気から奈緒も続いて察した

「...そう遠くないところにいるってことか...気を付けねえと」


紗南「隣のビルだよ」


神妙な顔つきで芽生えた警戒心にあっさり事実を突きつける

タブレットの画面が奈緒に見えるような角度に構えながら


二次元図面上では三体のボットが三人のプレイヤーの傍にいた


奈緒「おぉう...シビアだ」

加蓮「だよねぇ...」

その事実を認識し、奈緒は床面に項垂れ、加蓮は嘆きながら天を仰いだ


加蓮「じゃっ、奈緒ばっかに負担もかけられないし」

ここでも最初に思考を切り替えたのは加蓮だった


加蓮「アタシの持ってる能力とやらで華麗に脱出しますか!」

加蓮の手の中で着け爪が踊った




ゲーム開始124分経過

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)

継続中



799: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:14:27.69ID:kuQkhjxe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季


どれだけ防壁の高い城砦であろうと、乗り越えてしまえばこんなもの

縦横無尽に空を駆けることのできるヒョウくんであろうと

背中に乗ってしまえば容易に振り落とされることはない


小春(ボット)「あわわわ...」

ヒョウくん「.........」


恐るべきことに同じ生物の背にいながら亜季と小春の間には10メートル近い距離があった

その二人の足元では動くに動けない翼竜が伏している。牙の隙間から漏れる煙の糸が途切れない

彼が亜季を振り落とそうとすればまず先に小柄な小春に危機が及ぶだろう


亜季「なにせ、同じ土俵に上がっているのですから。下手な擾乱は下策でしょうな」


プッ、と手榴弾のピンが吐き出された

それはウロコの上を2、3回跳ねながら視界から消えていった

代わって二丁のハンドガンが両の手に握られている


亜季「どうやら内側からの爆破は...効いたようですな!」


発砲開始

爬虫類の背中が戦場と化す


小春(ボット)「きゃう!」


放たれた三発の内、二発が小春の肩と腕に命中する

だが、小春とヒョウくんは一心同体。耐久性を共有しているため手応えは薄い


「ヒョウくん、おねがい~」


小春の姿がヒョウくんの背に並んだトゲのような背ビレに隠れる

巨大な爬虫類は背びれすらも巨大で、小春の頭の高さほどもある


亜季「逃がしません!!」


小柄な姿が消えた辺りに弾幕を張りながら駆け出す

ヒョウくんの背中を縦断しようとして、それはすぐに阻害された




800: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:16:28.89ID:kuQkhjxe0



ヒョウくん「...!......」


バサァッ!


弾丸の前に薄い膜が展開し、視界を遮る

亜季「ぬっ!?」


亜季の前に張り出したのは翼だった

本来飛行のためであるそれは外ではなく内に向き、亜季の進路を遮断した

緑と赤に脈打つ障壁にたたらを踏む


そこに追撃


亜季「!!?(尾が!?)」


彼女の体幹を凌駕する太さのウロコの鞭が

左右からの妨害に気を取られた亜季の脳天めがけて振り下ろされる

ダダン!!

発砲、二発の弾が対象を食い破る

そのまま体当たりした


亜季「(流石にアレはどうしようもないであります!)」


尻尾ではなく目の前の翼のバリケードに向けて

銃弾の衝撃でわずかにほころんだ防壁の間隙をこじ開けるように転がり込む

間一髪でウロコを帯びた鞭打を躱した

「っ!......ヒョウくん!真上に飛んでください~!」


鱗状の大地を転がりながらそんな声を聞いた

同時に飛翔音、大地の揺れを背中で感じる


亜季「無理やり飛ぶつもりでありますか!」

完全に身を起こすより前にコンクリの大地が遠ざかっていく

爬虫類の翼が羽ばたくたびに規則的に足元が揺れる


亜季「......ぬぬ、まさかこのまま暴れたりはしないでありましょうが...」


二丁銃の片方を収納し、空いた手で背びれの一本を掴み走り出した

足の下に広がるウロコの流れに注意を払い、足を滑らさないように慎重かつ迅速に


亜季「(さきほどの小春殿の声、何かに気付いたような様子でしたが...)」


視界の隅では真っ暗で規則的に並んだ窓が背景として下方へ流れていく

その速度へ追いすがるように前へ前へと地を蹴る



801: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:17:54.61ID:kuQkhjxe0


そして


小春(ボット)「あう...」


接敵した


規則性を持って並んだトゲの背びれに身を隠すようにして、小春はいた

空中では逃げ場はない。それはボットたる彼女も同様

そして両者は今、背びれを間に相対している

たった1メートルの間隔で


亜季「ここが、戦場であります」


動けない少女に銃口を突きつける

ゼロ距離に小さな額が迫る

引き金を引いた




ゲーム開始124分経過

大和亜季VS古賀小春(ボット)&水野翠(ボット)

開始



802: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:20:44.28ID:kuQkhjxe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



奈緒「いや、ここをお前の能力だけで乗り切るって...無理じゃねぇかな」

加蓮「うーん、やっぱりこの能力はアタシだけは対象外なんだね」


_____________

name:北条加蓮

category:プレイヤー

skill:自分以外のプレイヤー
1人をマークした地点に瞬間
移動させる。マークできる回
数はネイルの数だけ
_____________


”自分以外”

紗南のゲーム画面上に表示されたその文字を再度確認する

三人は悠長にも床に座り込んでいた


奈緒「この”マーク”ってのはどうやるんだ?」

加蓮「うん?それなんだけど、こうネイルでタッチする感じ?」


ギターピックのように指先に摘んだネイルで床を引っ掻く

すると加蓮の指の動きを追うように青いラインが闇に薄く浮かんだ


加蓮「こういう使い方はネイルが趣味の身としてはなんかこう......釈然としないけど」

紗南「赤外線に反応するインクみたい、ぼんやり光ってる感じがキレイじゃん!」

奈緒「これか...凛の好きそうな発色だな」


加蓮「ちなみにこれ、手でこすると消えるよ」

紗南「やり直しはアリかー、でも回数制限あるってことは...」

加蓮「最後には使えなくなるんだろうね」

ネイルは10枚。使える回数は10回

奈緒「少ないんだか多いんだか......うん?」


額に手を当てた奈緒の視線が紗南の隣に置かれたタブレットに吸い寄せられる


奈緒「ボットが動いてるな...しかも離れていってる」

紗南「うえっ?」


三つの丸の一つが群れから別れ、自分たちから遠ざかっていく

しかしそれは決して好機だけの意味合いを持たなかった


離れていったボットの目的地が紗南達には容易に想像がついたからだ


加蓮「もう一人のプレイヤーの方...亜季さんか輝子の方に近づいたね」


しかもそのプレイヤーは既に別のボットと戦闘中

二対一に持ち込まれようとしているのは明白だった



803: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:23:06.14ID:kuQkhjxe0



奈緒「様子見もここまでだな」


宣言するなり立ち上がる


加蓮「うん、今のうちにこっちからも攻めないとね」


奈緒の手に持たれたMP3プレイヤーの電源は既に入っている


紗南「よっし!ひっさびさにこっちのターンだ!!」


ゲーム機片手に奈緒と加蓮に並び立つ

加蓮「一応ボットが行った方向と逆から出よっか。そしたらアタシの能力も節約できそうだし」

奈緒「おっけ、あたしはライフルでも準備しとくよ」

紗南「じゃあまず出口探さないとね、一回の出入り口は他のビルでぶっ潰されてるし」


前方の二人が狭い通路の手を付き、暗い道を歩き出した

後ろに着いた紗南がふと、タブレットのバックライトを光源に使おうと思い立つ


「あれっ?」


そこで今しがた座っていた地べたに置き忘れていたことに気付いた


紗南「おっと、置き忘れてた...」

加蓮「忘れ物?早く来ないと置いてくよー」


数歩戻って床の上で煌々と光る四角形に手を伸ばす











そこで紗南の視界は








ゲーム開始125分経過

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒
VS
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット)

継続中



804: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:25:58.95ID:kuQkhjxe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季


とげで射抜かれた


亜季「ぐ、ぬ...」


足元にいる爬虫類の背には尖った背びれが並んでいる

それは分かっていた

このイグアナという種の特徴なのか、その背びれの形は「皮膜」というより「柵」に近い


身の丈に追いつくほどの長さの硬質なトゲだけに警戒はしていた


小春(ボット)「......」


引き金と指の隙間を射抜くように真っ直ぐに伸びたとげ

銃弾は小春の右側頭部を遥か遠く外れて飛んでいった


亜季「(こういうところが苦手なんであります...)」


硬直する

未だ自分は傷ついてはいない。だが少し手を動かせばその限りではないだろう


その”木製”のとげの”持ち主”が少し捻れば

とげの先に付けられた”鏃”が何をするか



亜季「(まるで全員で一体の戦闘マシーンであるかのような連携が...!!)」




翠(ボット)「.........」



ヒョウくんの背びれの向こう


亜季からの死角に飛び込んでいた翠の握った矢が銃を”射抜いて”止めていた





805: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:28:49.78ID:kuQkhjxe0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


トゲのように亜季の動きを牽制する矢


「こういう使い方は甚だ不本意です...」


変化は一瞬

翠も小春も亜季も動かないままにそれは起きた


「?!」


トリガーカバーに潜り込んでいた鏃を中心に白が拡散する

それは弓道における的の模様。白地に黒線のターゲットパターンが黒鉄を侵食していく


亜季「これは!!」

構えたまま銃のグリップから指を抜く

矢先以外の支えを失った銃が鏃に引っかかったままくるりと半回転した


そのまま射出される。60メートル先まで

翠が手を離した途端、矢は彼女の手を一人でに飛び出した


亜季「(この距離で、いやそもそもノーモーションで矢を!?)」


それが彼女の能力、放たれた矢とその周囲を60メートル先まで強制に排斥する

上半身を千切れんばかりに捻る。矢は彼女の脇腹の少し横を通過した

崩れた態勢を戻そうとする最中、彼女は見た


上方へと飛び続けたヒョウくんの高度がビルの屋上に並ぶほどになっていることを

その屋上に佇み、亜季へと視線を向ける二人の少女を




806: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:30:31.21ID:kuQkhjxe0




亜季「(___まさかあのボットが)」


少女たちの胸に灯る赤いバッジが警告灯に見えた



翠(ボット)「___初撃で亜季さんの手にも印をつけられたと、思ったのですが」


___あまくはありませんね__


亜季「!!」


ウロコに足音は響かない


眼下の光景に気を取られた隙に翠は「柵」のこちら側にいた


背負った矢筒に入っているのが二本


弓につがえられたのが一本


亜季と翠の距離は2メートルを切った



「___!!___」




翠の指が握っていた矢筈を放し

亜季の指はナイフの柄を掴んだ



一射



亜季が暗い闇の中に落ちていった




807: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:32:08.16ID:kuQkhjxe0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


小春(ボット)「翠さん、ありがとうございます~おかげで小春もヒョウくんも助かりました~」


上昇を止め、姿勢を立て直して滞空する翼竜の背で小春は息をついた

翠は背びれの向こう、ウロコの地面の端に片膝をついている

どうやら亜季が落ちていった行方を見ているらしい


小春(ボット)「大丈夫ですか~?」


背びれをかき分け、足を滑らさないよう翠に近寄る

翠は警戒の姿勢を解かない。瞬きも許さない何かを、異常を察しているようだ


小春(ボット)「(異常...といえば~、どうして翠さんは最後亜季さんに”矢で”攻撃したんでしょうか~?)」


水野翠の武器は「弓」ではなく「弓道」、そしてそれにまつわる規則


だからこそ彼女は今まで弓矢によるプレイヤーへの直接的ダメージを与えることはなかった

多人数で挑んできた142'sにも、瞬間移動を得意としていた渋谷凛にも、それどころか暴走した仁奈にも、空を埋め尽くしたカラスにも

足元を狙い、建物を狙い、時に不利になろうとその矢に原始的な暴力を許さなかった


小春(ボット)「変ですね~?もしかして、狙ったのは別のものだった、とかでしょうか~?」


よじよじと、一応の安全を図って四つん這いで慎重に翠の側に寄った

「あ......亜季さんです?」


眼下には手足を大の字に広げ、ぐったりとした長身の彼女の姿

腰に装備していた武器の一式が彼女を中心とした放射状に散らばっている


それがまるで地面に叩きつけられた彼女の飛び散った内臓や骨に見えた


「えっと~......」


言うまでもなくこの世界に肉体の爆損などというショッキングなエフェクトは存在しない


それに

ここが現実だとしてもそうはならなかっただろう、

何故なら



「亜季さん、近くないですか~?」



彼女が落下した地面は遥か下のアスファルトではなく、ビルの屋上のコンクリの床面だったから





808: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:34:42.75ID:kuQkhjxe0



翠の放ったらしき矢は亜季からだいぶ離れた場所に深々と刺さっている


老朽化したビルだからこそコンクリート相手にそんな業ができたのだろう


小春(ボット)「う~ん、ヒョウくんをもっとお空へ向けて飛ばせるべきでした~」


最後の一射の交差、翼竜の高度はビルの屋上を少し越えたところだった

あそこで翠の攻撃を避けても、不安定な態勢は完全に崩れ、地面への落下は避けられなかった


だから亜季はヒョウくんを、蹴ったのだ

自分を屋上へ向けて着地させるために


小春(ボット)「(すごい脚力ですね~。ヒョウくんの背中とあの屋上まで結構遠いのに~)」


だが、翠は残心を忘れなかったらしい

亜季に止めを差しきれなかったことにすぐさま気づいたのだから

ボットの知能でそこまでの考えに至り、すごいな~と小春は思った


翠(ボット)「...上......です...」


小春(ボット)「へ?...はい?」



「上へ...飛んでください......」



いままで沈黙していた翠から絞るような言葉が聞こえた

その意図するところは亜季への追撃、ではない


小春(ボット)「え、でも...折角のチャンスですよ~?」


脳震盪でも起こしているのか、動かない亜季を見下ろしていた視線を持ち上げ翠に向ける





809: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:37:27.44ID:kuQkhjxe0



その小春の目の前で


傾いた矢筒から二本の矢がするりと抜け、こぼれ落ちていった


「へ?」



翠の武器であり能力の要であり、誇り

それがあっけなく彼女の手を離れ夜闇を落ちていった



「翠さん...?」


「上です......遥か、上空まで........私を」



傾いたのは矢筒ではない

それを担いだ翠の体だ




「翠さん!!!!」




ナイフの刃が彼女の胸を貫き

その金属の「とげ」を背中側から覗かせていた




ゲーム開始125分経過
___________

 大和亜季+ 26/100
 

___________

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



810: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:41:01.73ID:kuQkhjxe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
輝子『フヒヒ...き、キノコ付きのナイフのちから...見せて、やるぜえ...!』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


視界が朦朧とする

亜季「(輝子どのの言う『キノコ付き』が何を指すのか不明でしたが...)」


咄嗟に受身を取ったがそれでも全身が痺れ指に力も入らない

震える手の中からナイフの柄が転がっていく



そのナイフには「柄」と「ボタン」しかなかった



「(......一説では、実用化には適さず、戦場での普及率は低いと聞きましたが...)」

「(......なかなかどうして...良い拾いものでありました)」


スペツナズナイフ


ボタン一つ押せば強力なバネの弾性力で刃を射出する武器

輝子に渡したものと同じものを彼女も持っていた



「(ただ、最後の瞬間そのことを思い出せたのは輝子どのの特徴的な比喩のおかげでしたな......はは)」



最後の一射



足元を蹴ると同時、腰に装備していたナイフのキノコ、もとい丸っこいボタンを押し込んだ

翠への反撃、と同時にビルの屋上へ向けて飛ぶための力に反作用を上乗せして


「...ま、まさしく”一矢報いる”でありま、けほっ!....」


月を背負い、巨大な翼を生やした竜が遠ざかっていく

「(.....とどめは必要ないと判断したのでしょうか?)」

あるいはそれは


今このビルの隣の屋上にいる二人のボットの役目なのか




811: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:42:59.97ID:kuQkhjxe0



パラパラ、と


矢が降って来た


「(おや、あれは翠どのの......ふふ、どうやら一矢報いることには成功していたようですな)」


力なく落ちたそれは、地面に刺さるどころか傷ひとつ付けなかった


「......しかし、私も早く回復しませんと...」


なにせ目下、最大の敵は依然健在なのだ

やっと倒した一人とはいえ戦いは終わらない

わずかに痛む腕で身を起こす


「......あれは...卯月どのに......雪美ちゃん?」


ぼやけた眼で隣のビルの屋上の影を認識した










そこで亜季の視界は










ゲーム開始125分経過

___________

 水野翠+ 0/100


___________



812: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:46:45.07ID:kuQkhjxe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「翠さん、翠さん...!!戻りましょうよ~!」



小春が翠にしがみつく

そうしないとぐったりと力の抜けた彼女の体は今にも堕ちていきそうだ


「卯月さんに頼みましょうよ~!卯月さんの能力で強化すればこんなのダメージになりません~!」


卯月の能力はそういうものではない、小春にもそれは分かっているはずだった



「まだ、あと......数秒...あるうちに......上へ...」



受けたダメージは致命傷だ

水野翠というボットが消失することは決定事項である

だからこそ高く飛べと彼女は言う



「ほら、見てください...小春さん」



だらりと垂れ下がった腕で遥か下方を指す

翠を支えていた小春が首だけを動かし、その指先を追う



「...............わぁ......」


「...あと2、3秒で、私は往きます......だか、ら」




戦場においてなお、

弓道に敬意を払い続けた実直な彼女の

最後の一手



「......一矢報いますよ、私は......」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



813: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:48:14.10ID:kuQkhjxe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


全員の視界が傾く



加蓮「ッ!!ちょ、脱臼しちゃうってこれ!!」




奈緒「おいおいおいおいおいいい!!!うっそだろぉ!?」




紗南「もうやだこのクソゲーーーーーーーー!!!」




亜季「.........やられた...!」





屋上の亜季、一階の加蓮たち四名の


阿鼻叫喚を閉じ込めて




コンクリートビルが一棟、夜空に浮かんだ






814: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/16(日) 13:50:48.35ID:kuQkhjxe0




見えない糸に引き上げられるかのようにぐんぐんと高度を上げていく



卯月(ボット)「はわぁー...すっごい...」

雪美(ボット)「.........みどり......ごめんなさい...」



巨大なビルとは言えないが、それでも膨大な質量と体積の塊を見上げる



未央(ボット)「.........天空の城?」

輝子「.........フヒ、ひ、飛行石?」



対象を水野翠から「60メートルの距離」に固定する能力



そして彼女は今、上空「60メートルの高度」をとっくに超えた位置にいた



カラスすら飛べない高空の層へと竜が飛び、その後を巨大な建物が続く



そして



「......翠、さん......」



見えざる糸は切れた



あとは物理の世界だ

致死の衝撃を蓄えて

コンクリ製の棺桶の

自由落下が始まる





ゲーム開始125分経過

水野翠(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



817:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/27(木) 14:43:35.72ID:pGRNmH0P0



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チャプター
星輝子



「まっさか、ほっしーがここまでの天敵に化けるとはねー...」



チュインッ!!

振動する刃同士をぶつけ、ハサミのように間にあった根を切断する


「フヒヒヒ、そ、その星飾り...見覚え、ある」


寸断された蔓に似た根がシュルシュルと輝子の背後に巻き取られた


「さっちゃんたちと、事務所に...行こうと、した...した......した」


崩れた天井や壁だったものの破片で床の模様はもう見えない

降り注いだ瓦礫で平坦な足の踏み場は消え失せた

そこを豪快に踏み砕く音がする。輝子の背後で濃密な気配が蠢く


「したときのヤツじゃねえエェエエカァアア!!?」

「「「FFFFFFFFFFF!!!」」」


輝子の両隣に並んだボットが一斉に駆け出した


未央(ボット)「もーう......やっとこさ縛りから抜け出したのにい!」


両腕を大きく振る、ブンと風を切る音が鳴る

それを上塗りして未央の肩から手首にかけて星がズラリと犇めき並んだ

地響きが近づく、彼女の体躯を縦にも横にも凌駕する図体を揺らし、群れが迫っていた


「また同じ手は食わないよっ!!」


もう取り囲まれるつもりはない

二本足を生やして走ってくる肉厚な壁にこちらからも突貫する

足元を這ってきた根を踏みつけ、先頭のキノコをぶん殴った

それだけで勢いを乗せた拳にボットの隊列が一気に崩れる


「ffFf!?」


少女の細腕から生み出される限界を超えた膂力

未央の倍近い体躯が吹き飛んだ


「くぅ~、効くなぁ...!」


___________

本田未央+  85/100


___________



818: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:45:24.79ID:pGRNmH0P0


キノコの群れ、その懐に完全に飛び込んでしまった

だが、距離さえ詰めてしまえば動きを拘束してくる根よりも疾く動ける


殴り抜いたのとは逆の腕での裏拳

キノコの体軸を真芯で捉えると、そこを中心にボットがくの字に折れ曲がる

___________

本田未央+  82/100


___________


「F!」

キノコの傘で視界が埋まる。別のボットによる頭突きだった

「ふんっぬ!!」

両腕をクロスさせて防御する。柔らかいが重量ある一撃に未央の膝が崩れた


次の瞬間彼女の腕が爆発する


輝子「うおっ...?」


爆発したのは両腕を覆っていた星型の篭手だった

かつて輝子の体前面を刺し傷だらけにした星の破片、それをさらに大きくしたものがボットに食い込む

ゼロ距離での炸裂の威力がボットの耐久力を上回った



その威力は使用者本人をも無事では済まさない


___________

本田未央+  79/100


___________



819: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:46:51.80ID:pGRNmH0P0



「いったた......」

痺れる腕をさする


「(やっぱ至近距離戦となると拳が武器になっちゃうんだよねぇ...)」


未央の能力が増幅させるのは振動、そして衝撃

亜季と戦う時はその能力の象徴たる星型をそのまま武器として振動させ

今、輝子と戦う中においては篭手として腕にまとい殴打の衝撃を増幅している

星型そのものを武器として成立させているのはその振動だが、それはどうやら相性が悪かったらしい


「(だからこそ、この肉弾戦用スタイルなわけだけど...)」


インパクトの瞬間に複数の星型を通して腕全体で衝撃を増幅する

これなら蔓を巻きつけられても振動を殺されることはない

爆薬を塗りたくったハンマーで物を叩くのと同じだ


「(........だから私もめちゃくちゃ痛い!!)」


立て続けに三体のボットを消滅させ、彼女も無傷では済まなかった


「ここが正念場...というか修羅場か、な!!」


瓦礫の下から生え出た新たなキノコに上段蹴りが決まる


___________

本田未央+  75/100


___________



未央のくるぶしから膝にかけて、脚線に沿って星型が並んでいた

輝子「......菌類の...根強さは、この程度じゃ...!!」

小さな手拍子とともに輝子を中心に重苦しい気配が充満した

彼女は相性としては有利なはずがジリジリと追い詰められていくような錯覚を感じている

輝子の倍の体長の物体がドスンドスンと物々しく進軍していく

そして


「みおちゃんパンチ!!」

「フヒッ!?」


のでんっ

間抜けな効果音を立て、

輝子の足元に吹き飛ばされたキノコが傘の部分から墜落した

距離は確実に詰まってきている



820: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:48:26.98ID:pGRNmH0P0



「な、なんでだ......?さ、最初の一撃をよけられたの......まずかったか.....?」


多人数で囲んで離れた場所から縛ってしまえば中距離から近接にしか対応していない未央に勝ち目はない

しかし、輝子は理解していなかった


ボット相手に同じ手を使い続けることの愚を


ゴォンッ!!


「あ......フヒ?」


アッパーを食らったキノコのボットが天井に突き刺さった

___________

本田未央+  71/100


___________


既に対応策は練り終わっている


「あう......亜季さんから貰ったのは...」


腕力に心許ない者にナイフは不向き

そう言われた輝子の懐には女性向けの小型の拳銃


「でも、こんなの...当たるわけないぞ......」


小さめに設計されたグリップはギリギリで輝子の手の平にも納まる

しかし、だからといって暗闇の中で一人大立ち回りを演じる未央を捉えられる根拠にはならない

だから輝子は友達を呼び続ける


「さあ!さあさあさあ!!この程度じゃ、止まらないっ、よ!」


身を削りながら未央は距離を詰め続ける


「フヒュウ......わ、私だって...友達に頼ってばっかりじゃ...」

___________

本田未央+  65/100


___________




ゲーム開始124分経過


星輝子VS本田未央(ボット)

継続中




821: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:50:08.68ID:pGRNmH0P0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


キノコの鳩尾らしき箇所を下から上へ向け殴り抜く



手の甲から肘にかけての小規模で痛烈な連爆、未央の顔が歪む


「これホントきつい...しまむーの能力強化が完全に裏目だよ......」


今の所未央は自分より体の大きいボットを全てほぼ一撃で沈めている。それも10体以上だ

キノコ自身が物理攻撃に弱いというのもあるのだろうが


「またきたよ...」


暗い正面に目をやればまたも傘をかぶった図体の、顔のないボットがこっちを向いている


「ふっ!!」


視認の直後には地を蹴る

このボット相手に距離を取られたまま立ち尽くすのは悪手

相手と違ってこちらには遠距離を攻撃する手段が地雷型しかないのだから


ベギッ

「うおっ!?」


踏み込んだ瓦礫が沈み込んだ。未央の膝から下が地下に潜り、そのまま食い込む

次の瞬間、未央の膝周りの瓦礫が吹き飛んだ。

膝の関節部に付けられた星型の爆発により


「ここで、足止めされるわけにはいかないからねっ!」


自由になった足を引き抜こうとし



「FFffff!!」


キノコが二本だけの肢体である足を踏ん張り、水平に跳ぶ

ミサイルのような尖頭を向けて飛んできた



三方向から同時に





822: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:51:47.60ID:pGRNmH0P0



「(ここにきて戦法切り換えた!?)」


今までは遠距離からの根を伸ばしての拘束を主眼にしてきたボット

それを前触れなく放棄してのバンザイアタック


「(私の腕は二本しかないってのに......!)」


たとえ一体でも体重も体長も未央の倍近い存在である

体当たりされて無事で済む道理がない


「(やっば、まだ足抜けてないのに...!)」


未央の背中に甲羅ができた

それは星の形をしている


「こんな不安定な状態で殴れるかっ!!」


ならば斜め右方、斜め左方、背後の三方へ対処するにはこれしかない

胴を守るように両腕を交差させ、膝を踏ん張る



背中、両肘に三つの弾頭が着弾した



ドォン!!!



和太鼓を強く叩いたような音が一発

同時に三方から飛来したキノコの弾頭は同時に跳ね返された


「ぐふぇ......キッついこれ...」


衝撃の伝播と増幅


それによって三つの衝撃を足し合わせ、三つの方向に反射した


突撃した勢いの三倍の勢いで弾き返されたのと同じだ


未央の周りでボットの姿が掻き消える

そして消えていたのはボットだけではない




「って...ほっしー?......輝子ちゃん?」



文字通り闇に飲まれたように


星輝子の姿が消えていた


未央の足元に転がった小石の音を残し、

フロアだった空間が、光だけではなく音すらなくしたように静寂に満ちる




823: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:54:27.92ID:pGRNmH0P0


「.........」


無音


「.........」


音はなかった




「はうっ!?」



それでも肌が感じた。文字通りに


「フヒヒ、力強い......カエンタケの...ような、たくましい足だ」



地面を埋める瓦礫と岩塊



そこにキノコの根っこを張り巡らし補強し


”トンネル”としての強度を上げた



「やっぱり、親友の、机の下の方が...居心地よかったけどな...」


そして今、輝子は未央が踏み抜いた地面の下にいた

ひんやりとした手ではっきりと未央の片足を掴みながら


「あー、だから根っこは使わなかったのね......」

「亜季さん...いらない、と...思ったけど...やっぱり、使うね」


地面の下から見上げる輝子、地面の上から見下ろす未央

二人の能力から考えて状況はどっちの優勢ということもなく対等である

ただし、輝子はこの場で機先を制していた

未央の足を掴んだのとは別の手にもった小さな拳銃の先が未央の顎を向く


パンッ!


「  こ、 ふっ...  ?」

鉛玉の威力に未央の顎が反り上がる

だから、ソレが見えた

輝子も未央の動きを追う中でソレを見た


未央(ボット)「.........天空の城?」

輝子「.........フヒ、ひ、飛行石?」


月を背景に余りにも大きく四角いシルエットが浮かぶのを


ゲーム開始125分経過

星輝子VS本田未央(ボット)

継続中



824: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:56:23.83ID:pGRNmH0P0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



冗談のような速度で窓の外の風景が流れていく


見るもの全てが傾き、それに追従してフロア中のものが一斉に転がり始めた


急変する状況、”床を”自由落下しながら咄嗟に曲がり角を掴んだ


加蓮「ッ!!ちょ、脱臼しちゃうってこれ!!」

両肩から弾けた痛みに顔をしかめる彼女の少し下で

奈緒「おいおいおいおいおいいい!!!うっそだろぉ!?」

通路の壁に精一杯手足をつっぱり体重を支える奈緒がいた

小柄な彼女にはそれだけで苦行だ。それに両足を広げるのはあまり女子のしていい格好でもない


紗南「もうやだこのクソゲーーーーーーーー!!!」


そこに背中で滑りながら紗南が落ちてきた

地面に落ちたタブレットを拾おうとした所でのこの災禍である

あっさり態勢を崩した彼女はタブレットもろとも加蓮の元に転がり込んだ


奈緒「どうなってんだ!?じ、地盤沈下か!?」

紗南「逆だよ!浮いてるんだよ!!このビル!」

加蓮「うっそぉ......とも言い切れないんだよね」


ガランガランと派手な音とともにフロア内のソファやモニュメントがパチ○コ玉のように視界からフェードアウトしていく


奈緒「浮いてるって...まさか大気圏外にでも捨てられるんじゃないだろうな!?」

紗南「あ~あるある!」

加蓮「なくもない......のかな?」


自棄気味な奈緒の叫びだったが、それを否定する材料は思い当たらない

向井拓海、梅木音葉、高峯のあ、古賀小春

ボットの中でも特に非現実的な力を行使していた層を相手取っていた彼女たちにとってはそれすら想定できるのだ


とにかく今やるべきことは強制的に一つに絞られた


「ボットが近くにいるとか関係ねぇ、脱出だ」

「脱出ゲー、タイムリミット付き、だね」

「紗南ちゃん、ちょっと重い...」

意志は固まった。あとは実行するのみ

奈緒「...で、どうしよう」

紗南「んー、とんでもない高さになるまでに、どっかから飛び降りるしかないよ」

奈緒「そうするか」

加蓮「......そっか」

言うと同時、奈緒が手足の力を弱め、すこしずつ通路をズリ下がっていく

紗南も加蓮にしがみついていた手を離すと小柄な体がすべらないようにそろそろと降りて行く



825: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:58:25.57ID:pGRNmH0P0



加蓮「............」


見上げると空が見えた。天窓ではなく壁ガラスを通して、

迫ってくる月と夜空の速度は異様に速い

残された時間は殆どないのだろう


加蓮「(ユニットが解消できればよかったんだけどね......)」


ポケットの中身を意識する。そこに眠るのは転送能力を持った十の爪

それがあれば奈緒も紗南も助けられる

だが、そのあとの生存の道は、ない


加蓮「(だってアタシが死んじゃえば...ユニットを組んでる二人も自動的に終わるし...)」


そして彼女の能力は彼女には作用しない

仲間を助けるためには、まず自分が助からなくてはいけない

全員が助かるか、全員が死ぬか

落としどころも妥協も折衷案も加蓮には残されてなかった


奈緒「加蓮!!」

加蓮「わっ!?」


足元のあたりから焦りを帯びた声が飛んでくる

見ると奈緒は少し降りた先、L字路の壁面に対し垂直に立っていた

隣にはタブレットとゲーム機をなんとかしてズボンに挟み込もうとする紗南


奈緒「早くこっち来いって!奥ならアタシがあけた穴が残ってるはずだろ!」

加蓮「あ、うん...」


つい気のない返事を返してしまう


彼女には予感があった。この脱出はうまくいかない、と


おそらくここはもう、飛び降りて無事に済む高さではないのだ





826: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 14:59:34.65ID:pGRNmH0P0


紗南「奈緒さん、やっぱりちょっとこれ持ってて」

奈緒「おう」


衣類の中に納まらなかった機器を手渡す

二人の間でタブレットの画面が暗闇を照らした

赤、青の点模様が束の間、通路を彩る


加蓮「.........あ」


ふつり


壁に映った丸が一つ、マッチの火のように消えた

色は青、ボットの色だ



どこかでボットが一体消えたのだ



小春(ボット)「......翠、さん......」




つまり、時間切れ

落下の時間




ゲーム開始125分経過

水野翠(ボット) 消失


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



827: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:00:38.12ID:pGRNmH0P0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
星輝子

___________

星輝子+  42/100


___________



建物が風船のように宙に浮く異景に


放心していた輝子と

反応していた未央と


先に次のステップに踏み込んだのは後者だった


右肘を中心に星形の盾が顕現する。篭手の時のような小ぶりのものではない

この盾は矛としても使うのだから

「せぇ...っのぉお!!」


ガリガリガリガリッ!!!


「ひっ!?」


未央の足元の地面、その下の輝子に向けて切り払う

足の踏み場もなかった大地が切り開かれ、輝子の通ってきた隠しトンネルが口を開けた


「こんな狭いトコよく通ってきた、ねっ!!」


自分の足を掴んでいた小さな手はもう離れている

輝子はモグラのように地面の下の隠し通路のどこかに引っ込んでいた


「かと言って真面目にモグラ叩きする気はないけどね~」


半分沈んでいた足を引き抜き、両肘を後ろに引き絞る

肘には既に星型が装備されていた。騎馬槍のごとく切先は長い


「(このモードならアタシも跳ね返ってくるダメージはないもんね!)」


小嵐さながら未央の腕が振るわれる

絨毯爆撃に地面がめくれ上がっていく


輝子「フヒヒ...ヤバいヤバい...」


頭の数センチ上で続く破壊音を聞きながら輝子は這っていた

キノコの根による補強はそう長くもたない

フロアの本来の床に積もった瓦礫を固めて作った擬似地下道




828: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:02:08.49ID:pGRNmH0P0



「キ、キノコは...本来、じ、地面の下のが.......本体だし...フヒヒ」


そんな狭い、道とも言えない道を逃走経路にできるのは輝子しかいない


「...これは、流石に無理......アレに気を取られなかったらなぁ...」


不意打ちは決定打にはならなかった

自分の策がおままごとに見えてしまうような圧倒的光景


「万一、未央ちゃん、倒しても...アレ、見せられると...」


亜季直伝の作戦は最初の一撃をきっかけに盛り返され、自分で考えた策も逆に自分がい表を突かれ

あげくに天変地異では済まない現象の目撃者になってしまった

要は逃げ腰だった。ここにきてボットの優勢を目に見えて感じてしまった

パラパラと、砂礫が降り注ぎ輝子の長い髪に絡まる


「ごめん、亜季さん......

ごめん、さっちゃん、うめちゃん......仇、まだ、取れない」


知らず、懺悔は漏れるが地べたを這い進む手は止まらない


どこかにいる敵を探し攻撃を続けるボットと

どこかにいる敵を恐れ逃走を続けるプレイヤー



結果的に逃げる者に運は味方しなかった



「どっせい!!」



未央がデタラメに振り続けた攻撃


その一つが偶然輝子に致命傷を与えた


___________

星輝子+  5/100


___________


「ぐえっ!?」


未央(ボット)「おっ?」


乱暴に裂かれた包装紙のように地面に細い亀裂が空き、輝子の姿が覗いた

今の彼女はもう、安穏とした住処を暴かれた蝉の幼虫のようなものだ


「下手な鉄砲なんとやら......努力って報われるんだね、やっぱ」






829: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:05:08.10ID:pGRNmH0P0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

咳き込んだら血が出た、というわけじゃないけど


でも、体の、芯の部分...何か大事なものが漏れそう


輝子「ぉお、おぉお......っ...ごほっ!」


すごく、痛い


ハンパないぞ、コレ......フヒ


腰と、お腹になにか当たったと...思ったら


「う、動けない、くらい痛い...な...」


細い手でお腹をかばう、我ながら頼りない

背中の中が、ビリビリして、足の感覚が消えてる

だからもう逃げられないな...


「フ、フヒヒ......き、聞こえる...」


狭くて暗い、キノコ特製の地下道に私の声が染み込む


あ、足音が聞こえる


数センチ上の地面...誰かが歩いてきてる、軽やかに



「ほっしー、みーつけた!」



壊された、私の...大事な隠れ家が上から覗き込まれた

妙に明るく降ってくる声は間違いなく本田未央ちゃんだな


誰とでも仲良くなるのが上手だったな、そういえば

私にはすごく難しいことだけど

だったのに


「じゃ、私みどりんの方にも加勢いかなきゃだから、ここでサクっとやっちゃうね?」


体中からトゲトゲが出て、ハリネズミみたいで


...そんな格好じゃ、だれとも仲良くなれないぞ......?


お腹から手を離す

一体でもいいからボットを呼びたい

べ、別に...悪あがきじゃあ、ない


できるなら


最後に、キノコのそばで

グラグラする視界の中で

手を叩こうと



830: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:07:03.50ID:pGRNmH0P0



「だめだって」


したのに

未央ちゃんの...槍...かな


手と手の間に割り込んで きて

てててて



   私


 お でこに刺


頭 の



  
 み
 ん

 な


___________

星輝子+  0/100


___________


ゲーム開始125分経過


星輝子VS本田未央(ボット)

勝者 本田未央(ボット)



831: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:08:56.47ID:pGRNmH0P0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



重力が消え、皮膚が泡立つ

内臓が喉元まで持ち上がる



紗南「あばばば!?」

奈緒「っ!?掴まれ紗南!!」

加蓮「そりゃこうなるよ、ね!」


近くにあったドアノブに両手でしがみつく、足は宙に投げ出されていた

今度は加蓮が下流になる番だった

頭上で、踏ん張る足場をなくした紗南を奈緒が掴み止めている

そしてその立ち位置からは否応なく分かる


奈緒「お、落ちてるじゃねえか!!?」


ビルの前面に貼られていたガラスを通して地面が見える

俯瞰での景色へと致死の速度で近づいていく


加蓮「(なんかないの!?なんでもいいからここで全員まるっと助かるような一手!!)」


ボットを探り操る紗南


武器を取り寄せる奈緒


加蓮「(でも、今ここなんだ、アタシが尽力するべきなのは!!)」


立つどころか座ることもできない傾斜に、もはや目視できる全滅の未来

どれほど加蓮が決意を固めようと猶予はない


ゴツッ!


加蓮「はぷっ!?」



鈍い痛みが思考を断ち切る


紗南「あっ、加蓮さんごめんっ!!」


前頭葉から後頭部まで響くような硬さと重さに頭痛がする


加蓮「いたた...これ、タブレットじゃん...」


さっきまで下方にいた紗南から落ちてきた薄くて硬い精密機器

それをキャッチする余裕はなかったが落ちる前になんとか確保した




832: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:10:20.87ID:pGRNmH0P0


加蓮「(これは失くせないって...!)」


手は使えないので膝と床、今は壁と同じだが、その間で力任せに押さえつけた

膝の圧力に負けタブレットの液晶画面が少し歪んだ


加蓮「.........あ、もう...」



落下が終わる



眼下のガラス越しにどこかのビルの屋上がアップに迫るのが見えた

それはまるでゲーム画面のようで


奈緒「加蓮!どこか別の部屋に飛び込め!!」

紗南「ソファか何かに捕まって!」


上から声が降ってくるが、もう遅い


加蓮「いや、この態勢でそれっ___」




   墜落


   衝撃


   轟音



  もう、掴まる場所はない





833: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:11:43.29ID:pGRNmH0P0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「_____なんで___?」


「ちゃんと、やったじゃん...私、倒したじゃん...」


「ちえりんや、しぶりんの時みたいに...逃がしたりなんてしなかったよ...?」


未央を襲った現象を説明する要素は三つ


第一に、輝子は自分の発言を忘れていたこと

茸の本体は地中の根であるということについて

そして最期のとき、フロアには十分な量の根が存在していた



第二に、今までキノコのボットは輝子の危機にこそ立ち上がってきたこと

傘を振りたくり、胞子をばら蒔き、巨大化してきた

輝子のスタミナが減少する度にそれは起きていた



第三に、未央は知らなかった

橘ありすのタブレットや向井拓海のバイク、村上巴の銃砲の例を

本体の消失後もこの世界に遺り続ける存在のことを



「.........マキノンについていって、しまむーに会って」


「仁奈ちゃん、みどりん、ゆきみん、こはるんと会って」


「五人組ユニットみたいなの組んで」


「事務所守って、でも守りきれなくて...」


「それでもやれるだけの事しようとして...」


「最後がこれって...」




「こんなのってな





ゲーム開始126分経過


本田未央(ボット) 消失



834: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:13:40.02ID:pGRNmH0P0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南



「...............あれ、生きてる?」



背中の痛みに閉じていた眼が開く


「奈緒...?紗南...?」


二人はすぐそこにいる、自分の上に折り重なっているが大して重くは感じない

傾いたフロアの隅に他のインテリアやソファも自分たち同様折り重なって溜まっていた


加蓮「いやいやいや、傾きって...」

「こんなに緩やかではなかった、よね?」


状況が変化している


いや、変化が中断された?


割れたガラスの向こうに映っていたはずの俯瞰の地面

それもいつの間にか普通の摩天楼に戻っている


加蓮「(この廃墟街を普通って言っちゃうあたり...麻痺ってるなぁ)」


不安定な角度で落下していたビルが何故か水平に着地していた

しかも自分たちに降り注ぐはずだった致死級のダメージもほぼなし


加蓮「いや、まさか綺麗に着地したからセーフとか......」

奈緒「ないない、ないよな.......?」

紗南「ぼ、防御魔法でも使った?」

奈緒「ねーよ」



835: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:15:46.38ID:pGRNmH0P0


積み重なってた三人の一番上から降りた紗南がガラスに近寄る

流石に紗南も無事に着陸出来たなどとは思っていない

不条理極まりないこの世界にもルールはあるのだから


紗南「考えられる展開としては...浮かぶ能力がまた発動したか、他のプレイヤーの助けかな?」


ビルは浮いているのか、どこか安全な場所に降りたのか

積み重なった観葉植物の鉢をどける、結果はすぐに出た


紗南「......どこだここ」


割れたガラスの向こうは地面だった

しかしコンクリートでもアスファルトでもない


紗南「月のせいで色までは分かんないけど......土、じゃないよね」


視線を向けると頂上らしき稜線も見えた。どうやら小さな山らしい

まさかビルごとワープでもしたのかと周囲の風景を見渡す


加蓮「あの半壊したビルは見覚えがあるね...」

紗南「ってことはこの小山がいきなり生えてきて、アタシたちが助かったってこと?」


今いる場所は周りのビルよりかは少し高い場所らしい

展望台から見たような風景が360度に広がっている



「紗南!!!加蓮!!あれ見ろ!」



切迫した声に紗南の背がはねる

「またカラスだ!!」

すでに羽音がそこらじゅうから聞こえ始めていた。空の一部が黒い

この街において高所は彼らの支配下にあるのだから

こんな場所にいれば寄ってくるのも当然だった


加蓮「......」

紗南「まずいまずい!」

奈緒「くそっ、奥の部屋に一旦引っ込むぞ!」

倒れた椅子を蹴っ飛ばしながら紗南の手を引き奥へ駆ける

内側へ向かう逼迫した二人を置いて加蓮だけが外を見ていた

奈緒「加蓮!お前も早く___」



加蓮「でも多分、このビルもう保たないよ」




836: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:17:45.57ID:pGRNmH0P0



静かにビルが震動する

ビルの窓枠や屋上に取り付いたカラスを中心にヒビが広がっていく


奈緒「げっ!」


だがビルの震動は老朽化だけが原因ではない

落と仕掛けたところを危なく回収したタブレットを覗く


加蓮「(あれ......このビル...もう一人プレイヤーいたんだ)」


何故か頭の中が静かになっていく

緊張と集中が程よい塩梅で胸に宿る感覚

これはチャンスなのだ。さっきまで何もできなかった自分への


加蓮「今度こそ」


カラスの羽音は聞こえるが、それに対処しようとする自分がいた

ポケットから手を出す、タブレットを体にしっかり引き寄せる

加蓮「奈緒、パス」

奈緒「はぁっ!?」



小さな薄片が奈緒の手に転がり込んだ。落とさないように慌ててキャッチした

紗南「ネイル?」

加蓮の能力のキーがささやかな青色を灯す

だが、ここで渡される意味がわからない


加蓮「...アタシにそれは使えないから。」


震動は続く、屋上のあたりにとどまっていた羽音は加蓮に迫っていく


加蓮「適当に時間稼いだら、それ使ってアタシを追いかけてきてね!」


ヒビだらけのガラスに靴底をぶつけるようにして蹴りつけた

けたたましい音を立て、絨毯サイズのガラスが飛び散った


そのまま足を踏み出し、

ビルの外へと踏み出した




「加蓮!?」



同時、ビルが軋む

二度目の落下に今度は奈緒達も素早く対応し、近くの柱に掴まる

遠ざかっていく背中に叫んだ


奈緒「___説明不足すぎる!!」






837: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:19:05.24ID:pGRNmH0P0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

八神マキノというボットがいた

彼女の移動能力の最大の特徴はその「安全性」に限る

即移動、後の、即退陣

どんな戦場に踏み込もうと、一方的に情報を集め、何処かへ消えていく

たった一人で諜報隊員として機能する



一方、加蓮の能力は一人では全く機能しないどころか安全の欠片もない

移動と撤退はできるが、それも対象となるのは他人だ

そして最後、戦場には加蓮だけが取り残されてしまう



加蓮「なんとなくわかった...アタシの能力は後衛向けだったんだ」

少し考えれば戦闘用でないことは分かることだが、それを実感として噛み締めていた

安全な場所から味方のプレイヤーを戦場に送り出し、ときには戦場から回収する



加蓮「(つまりまず、アタシが安全な場所に隠れて、それからあの二人を移動させる!)」



前線で戦うのではなく自陣に控えるのが彼女の本来の在り方ということだ

それは、かつては入退院を繰り返していた彼女のためのような能力



加蓮「(なんかそれって、アタシがまだ病弱だと思われてるみたいでムカつく......)」



カラスが迫ってくるのが背後から伸びた影でよくわかる

コンクリートでもない、、アスファルトでも土でもない地面に足音は響かない

柔い斜面を登らず、横凪に走り抜ける

このままいけば斜面は途切れている、その向こうは見飽きたビル群だ

加蓮「(現実なら捻挫じゃすまないよね...)」

斜面が途切れたふちで、足を踏み切り、跳んだ


背後から二人の声が聞こえた気がした




838: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:20:15.14ID:pGRNmH0P0



加蓮「(逆にアタシが自分の安全を確保してもあの二人がやられちゃ意味ないんだけどね)」


___でも、あの二人なら大丈夫だろう



思ったより隣のビルの屋上までは近かったようだ

着地の衝撃に足の裏から膝に痺れが伝播する


「いったぁ...」


膝をさすりながら状況確認、周りは無人で屋内に続く扉が空いている

丸で少し前までここに誰かがいたような痕跡


「......というかタブレットが指してた場所だねここ。さっきまでボットが三人くらいいたはず」


自分が今飛び降りてきた場所を振り返る。カラスは目標を見失い頭上を旋回している



そこで加蓮の口が惚けたように開いた



「なにこれ......」


屋上の端という危険な場所でありながら、呆気にとられた


さすがに”これ”はおふざけが過ぎる





839: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:25:28.18ID:pGRNmH0P0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


あまりに巨大過ぎると、それそのものを認識することすら難しい


地球が球形であることを知る術を地を這う虫が持たないように


高所から落下したビルを受け止めたのはコンクリートでもアスファルトでも土でもない山


そしてそれは山ですらなかった、

加蓮たちから見えていたのはそれの天辺の僅かな傾斜だけだったのだ


一般にその部分は「傘」と呼ばれている




「...これ...キノコじゃん」




それは菌類の塔


樹齢数百年の大樹のような軸と、ドーム施設のような傘


ビル一棟を突き刺してもその重量をものともしないサイズのキノコが生えていた



加蓮「...輝子ちゃん......?」

連想されるのは一人の少女

しかし、加蓮にそれ以上の連想を続ける手がかりはない


輝子の遺した最後のボットが限界まで巨大化し、

敵のボットを無残に押し潰したことなど知る由もない




それに、そんな終わったことを考えている場合ではなかった




   「..・・-。・・__・・:・;_・」




握っていたタブレットが掠め取られた



誰の気配もなかったはずだ。

それにどこから盗られたかも分からない


加蓮「はぁ!?」



840: ◆E.Qec4bXLs 2015/08/27(木) 15:27:17.02ID:pGRNmH0P0



振り返ろうとして視線が止まる。不届き者の姿をその目に捉えた

一羽のカラスが飛び去っていく、その手にタブレットを持って


加蓮「(って、なんであのカラス...手が生えてるの!?)」


そう、”手”に持って


カラスの嘴にカラス羽、そこから触手のような細い手が伸びていた

真っ黒な全身に対し赤くぬめった光沢を月に照り返して

それに月の光を反射しているのは手だけではない


そのカラスは何故か片翼にピアスを付けていた


加蓮「っか、返しなさいよ!!」


現状に思考が追いついてないままに追い始める

この数分間、予想通りにことが運んだことがない


空飛ぶイグアナに空飛ぶビルディング

巨大なキノコにピアスのついたカラス


「(マズいマズいマズい......もう少し後ならまだ良かった!)」

「(”このタイミング”はまずい!!!)」

ピアスのついたカラスが奪ったのはただのタブレットだ

だが、これがなくては



「奈緒達に、会えなくなるでしょうが!!」


奈緒に渡したネイルが頭をよぎる


「か、返しなさ___」


足場が消えた


「___え?」


足元が崩れて、視界が直下に落ちていく

三度目の正直、今度こそ地面に向かって加蓮の体が落下した


奈緒のこと、紗南のこと、凛のこと、輝子のこと

ネイルのこと、タブレットのこと、ピアスのこと

キノコのこと、カラスのこと


最後に考えるべきは建物の老朽化具合についてだった




「 .・__・・。。・・ ・」




異形のカラスが飛んでいく



842: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/12(土) 23:39:13.53ID:AWEzgMJ90



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
十時愛梨



ゲーム開始115分経過時点

___________

 十時愛梨+ 11/100


___________



アナスタシア(ボット)「......いませんね...」


手の平に残った氷の粒を払う

久方ぶりに降り立った地面に散らばったそれはすぐに溶けて見えなくなった


十分前 十時愛梨を突き落とした


突き落とした、というか殴り落とした


本当なら文字通り突き刺して完全に息の根を止めておきたかったのだが、

最後の瞬間に拳周りに纏う武器としては槍は時間がかかりすぎた


「本当に、落下、したのなら...」


一から穂先を作るより拳をコーティングさせ硬化させた方が早い

そして、その通りの結果も出た


「......あるはずなのですが」


のあの部品内の狭い空間に潜み、背後から不意を打つことに成功した



だが、ない



完全に倒したという確証がない


「......地面に、人が落ちた痕が、ありません、ね?」


高層ビルは軒並み朽ち果て倒壊していったが、それでも愛梨がいたのはそれなりの高さだ

だが、痕跡がない。この世界の性質上死体が残ることはないが、それでもだ


「(あの妙なノート...?もありませんし...)」


右腕の先を延長、補強するように氷柱が伸びると腕と一体化するようにして槍が生まれた

箒で人払いするように地面を薙ぐとそれだけで大した手応えもなく轍が地面を断つ


「(これほど...хрупкий......脆くなった地面が凹んですらいません...)」


カラスのもたらす破滅は確実にその波及する範囲を伸ばしている

最初から形骸に過ぎなかったこの街がその体裁さえ取り繕えなくなるのもそう先のことではないのかもしれない



843:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/09/12(土) 23:41:11.15ID:AWEzgMJ90


「......あの翼?...は何故か、消えていたので、飛んで逃げられたりはしていないでしょう...」


月明かりが眩しいとは言え、それは建物間の暗い隙間にまでは届かない

だから愛梨の最期を確認できなかったのだ

自然と月を見上げる

毒々しいまでの蛍光緑が丸く浮いていた


「......月はありますが......星はないのですね...」


何故自分が星を探すのかは分からない、ただじっと夜空を眺めてしまう

みくはあっけなく不意打たれたが戦果を残した

のあは最後の最後まで戦場の主導権を握り続けていた



自分は___



「___ッ!」



その場を全力で飛びずさった



右腕に不自然に偏った重量と咄嗟の反射行動のせいでバランスを崩しかける

それでも氷の槍を杖に転倒を回避、視線は自分がさっきまでいた場所から外さない

「何ですか......」

視界の端が確かに動く影を捉えた


ボットに気のせいなどありはしない


この世界で動くものなどボットかプレイヤーくらいのものだ


「......今度は狙われている?」


まさか十時愛梨が?

何らかの方法で安全を確保したあと

自分を待ち伏せしていた?



いや、ちがう



「...愛梨の能力は...こんなものでは、ないですね」


彼女の能力はこんなものではない



こんな不気味な気配を撒き散らすものではない





844: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/12(土) 23:43:36.48ID:AWEzgMJ90


月明かりが周囲の風景から黒く切り取った影

その隙間を縫いながら移動してきたりはしない


それに


「__どうして」


右方に消えたと思いきや正面に、

壁を這い上がったと思ったら反対側の壁から

影と影で同化するようにして姿を消しては現れ、アナスタシアを追い続ける


生物的な乱雑さ撹乱するように死角を探りながら迫りくる


「___どうして姿が見えないのですか?」



シルエットだけが存在する

シルエットだけが追いかけてくる

武器も持たない、実体もない相手だ

なのに何故自分はこれを振り切れない?


「____私は...」



両手に薄氷を張る

カミソリを模した薄くて硬い刃物を大きくしたものを武器に仕立てた



ここで前川みくの機動力があれば逃げ切るのは容易だった


「____私は...」


ここで高峯のあの空間制圧力があれば逃げる必要すらなかった


「___私だって」


早坂美玲を追い詰めたときを思い出す


佐久間まゆを出し抜いたときを思い出す


「____私だって一人でできます!」


また、音もなく影が現れた

後退を続けたアナスタシアの正面を滑るように突っ切ってくる


次は避けない、


活路を切り拓く


みくの分も、のあの分も生き延びる


「...行きます」



845: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/12(土) 23:44:21.48ID:AWEzgMJ90



足を踏み出す

両手を重ねる

手にまとったカミソリは重なり

厚い剣となった


ハート型の影が爪先に触れるタイミングに合わせて


氷の大剣を振り下ろした


















ゲーム開始116分経過









アナスタシア(ボット)

シグナル消失



846: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/12(土) 23:50:27.83ID:AWEzgMJ90


画面に浮かぶ赤い丸を見ているそのカラスはカラスではなかった

ボットでも、ひょっとしたらプレイヤーでもなかった



ただの小梅の友人だった



空に群れる他のカラスたちと逆行していく

そのカラスたちの隣を掠めるたびに

血濡れた黒羽が一枚、一枚抜けていく

タブレットを支える触手も枯れ木の如く動きが鈍い


高森藍子から逃げるために体の一部を切り離し、

残りのほとんどを置いてきた

残留物となった肉体の寿命も残り少ない



彼、あるいは彼女はいたずらを交えて遊びたかっただけなのだ



だから機械の回線に無理をして潜り込んだのに



ここまで深刻な事態にするつもりはなかった


今はただトモダチに会いたい

いつものように会って話がしたい




タブレットの表示を頼りに翔んでいく



だが、間に合わなかったらしい



やがてその姿は糸屑のようにほどけていき、消滅した



成仏したかどうかはまだ誰も知らない






ゲーム開始128分経過

白坂小梅(ボット) 消失



847: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/12(土) 23:51:50.54ID:AWEzgMJ90


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季




「......情けない話で、あります」



ナイフを握るが手応えがない


ビスケットを噛み砕いたような音が聞こえる

ふやけた視界の中、


手の中でナイフの柄が砕けていくのが見えた



「一度諦め、そして拾った命を無駄に散らすことになるとは...」


最後の落下のさなか。自分はこのゲームの続行を諦めていた

亜音速で墜落する戦闘機でさえ脱出方法を残しているというのに

自分にはもう退路がないと、全てを放棄していた



だが、どうだ



ビルの落下が何らかの要因で食い止められ、自分はこうして生きている


「無事、ではありませんでしたが......」


胸のポケットからこぼれ落ちた銃弾がボロボロの粒にほぐれた

自分の声も聞こえない



バサバサバサバサバサバサバサバサ!!!!!

ア”ァーー!!



カラスの爪が体中に食い込む

頭の横で鳴る羽音が耳障りだ


立ち上がるための体力すら失くし、

カラスが自分に群がっていた




848: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/12(土) 23:53:09.61ID:AWEzgMJ90



「......この烏合を振り払う余力もないであります」


気付いたときには身に纏っていた装備は全てガラクタに変わり果て

爪が食い込んだ場所から体から力が抜けていく

我が事ながらまるで死ぬ前から死んでいるような有様だ


「このまま黙って朽ちていくのは...悔しいであります」


打つ手は少ない


ドックタグは使い切った


装備した武器は無に帰した



だが、まだ周囲に散らばっている


翼竜の背から突き落とされたときに散らばったのが手付かずのままで


「私の体から離れていたのなら...カラスも触れてはいないはず...ですが」




849: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/12(土) 23:58:39.17ID:AWEzgMJ90


大の字に倒れたまま、腕だけを動かして最後の悪あがき

痛みを感じるどころか、感覚もなくなった指先が何かとぶつかった

残存した力を振り絞り、手の中に握り寄せる


これが亜季の最後の戦力だった



「.........手榴弾、なんとも芸のない...」


小関麗奈を思い出した


彼女は爆発や火薬にまつわる能力の持ち主だった

もしここに彼女がいたら今の自分を笑っただろうか



「......いや、麗奈なら」



もう片方の手を伸ばす

最後の花火がたった一個じゃつまらない

反対側にも同じような爆弾が転がっていたはずだ


「......『もっとド派手にやりなさい!』...でありますかな」


地面が頼りなく沈み始めた

おそらくこの下、ビル内にもカラスが飛び回っているらしい



精一杯伸ばした両腕にもカラスが貪りつき始めた

もう、体中を覆われて月も見えない

だから、思い残すことなどない




「これだけ老朽化してれば......」


「......ビル内の敵戦力を削ぐのも簡単でしょう」



親指がピンを弾き飛ばした




ゲーム開始127分経過

__________

大和亜季+ 0/100


__________


カラス(ボット)の稼働数が100羽を下回りました



850: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:00:30.90ID:QHSOWdrS0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南



「か、加蓮の馬っ鹿やろぉぉおおおお!!」


階段を二段飛ばしで駆け上る。全力で太ももを上げ続けるのキッつい!

しかも紗南の手も引っ張ってるからなおさら!!

狭い通路だってのに上から下までみっちり詰まったカラスが追いかけてくる


いや、追うというよりもはや詰まったまま後ろから押し込まれてるみたいだ

カラス同士の鳴き声にも悲鳴じみたのが混じってる気がする


数ばっかり多くて、しかも疫病みたいに街をボロボロにさせやがる

その証拠に、こうやって上ってる階段が下の方から砂みたいに消えていってるし!!


「なっ、なおっ、奈緒さん!!」


紗南がさらに強く手を握ってくる

もはや鳥の羽音が集まりすぎてプロペラの回転音にしか聞こえない

だから紗南も負けじと声を張り上げてきた


「加蓮さんのネイルッ!持ってるよね!!」

「あぁっ!!あるよっ!!」


でも、どこで使えってんだよ!!


ちょっとでも立ち止まったら黒羽のプロペラに巻き込まれてミンチだぞおい!!


加蓮の言いたいことはなんとなく分かった


要するにあいつの能力的に二手に別れないと意味がないってことだろ


「でもタイミング考えろよぉおお!!?」



階段を上りきり、次の階にたどり着いたが


そこも壁中ヒビだらけのカラスだらけ



はい、もう一階上けってーい!




851: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:01:33.27ID:QHSOWdrS0



「このビルがっ、高所に、突き立ってるせいなんだろうねっ」


紗南が息を切らせて話しかけてくるけど聴こえにくい


「だからっ、ココを狙ってっ!!仮想世界中の!カラスが!攻撃し始めてるんだっ!」

「こっちはなんで助かったかも分かってないけどな!」


一体何があんな高さから落っこちたビルを受け止められたってんだ?

巨人でもいたか?

だったらもう少し目立たない場所に下ろすくらいの仕事はしてくれよ!


どこもかしこも闇に溶けたみたいにカラスだらけ


月が出てなきゃ詰んでたぞ!










852: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:03:27.23ID:QHSOWdrS0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「げっ......」


よく上ったなアタシ...

それが最初の感想だった


「うぇ......一番上の階...」


厳密には屋上という手段もあるのだが、この階段は屋上につながっているタイプのじゃなかった

天井が丸でアタシ達をこのビルに閉じ込めて置くための蓋に思えてくるぜ


ガゴガゴゴキゴキと腹の中をかき混ぜられるような嫌な音が追いかけてきた


振り返るとアタシたちが登ってきた階段が「掻き混ぜられていた」



蹴込や踏み込み、踊り場が渦巻き状にひび割れ、黒い水がそれを吸い込んだ

飛沫や泡のようなものはよく見ると全てカラスの嘴や羽だった

洗濯機...じゃねえや。これはダム穴だ

底なしに周囲のものを飲み込む陥穽だよ



「このカラス......詰まってんじゃねえか...?」

「はぁー、はぁー...お互いに能力を発動し合ってる、とか...?」


もうこれは鳥類どころか生物かどうかも怪しい

最上階はこのビルの展望フロアだったのか少し天井が高い

そして部屋の数も少なく目に付くのは柱ばっかりだ


だから


「来てる......来てるってば...」

「分かるぜ...」


柱の間を縫いながら見飽きた黒い濁流が来ているのが見えた

背後の黒穴は数千羽のカラス同士がぎっちり詰まって逆に食い止められている



猶予は数秒


奈緒「加蓮、借りるぜ」

紗南「ワープ能力とか初めてっ!」


ここがゲームで助かった


現実だと疲労で手が震えて、ポケットの中を漁るどころじゃなかったし

紗南もホットパンツのポケットの小銭入れにしまっていたそれを取り出した

ここに来て紛失騒ぎとか起こさなくてよかったよ


さて、じゃあこのちっこい爪みたいなのを......



853: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:07:38.90ID:QHSOWdrS0




「えっと...紗南...どう使うんだこれ?」

「えっ___」



小さな命綱と共に戸惑うアタシを尻目に、

シュンと軽い音を立てて紗南の姿が消えた



「............」



紗南のいた場所には薄青い、線香の煙のような残滓だけ



おおおおおおいっ!?

お前はわかったのかよっ!?

あるいはゲーマーの勘か?


だが今はそういうギャグ展開やってる場合じゃねえんだよっ!!


カラスはもう群れとかいうレベルじゃねえ

羽毛の密度が膨れ上がって向こう側が見通せない

恐竜でも相手してる気分だ


背後で階段室がぶっ壊れる音がして詰まってた別群が放出されたのが分かった


「ちっきしょおおおおおおおお!!!」



指先につまんでいたネイルを両手で握りしめる

ボタンみたいに押すのか?

加蓮がやったみたいにどっかをなぞるのか?


チケットみたいにちぎればいのか?




使い方がわからないままに弄り回す___


バサバサバサバサバサササササササササ!!!!!!!!


___なんて時間はない!





854: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:09:51.01ID:QHSOWdrS0



アタシを取り囲んでいた空間が圧縮されて



真っ黒でバカでかい手の平がアタシを握り潰___




上から降ってきた天井が逆にそれを押しつぶした




同時に柱が、壁が、床が、蛍光灯が、窓が、窓枠が降り注いでくる



このバカみてえなカラスの物量と能力でビル自体が保たなかったか、って当たり前だろ!!


いったい何万羽ここに群がってきてると思ってんだよ!


多分それに加えて何らかの衝撃があったからだろうな!




強襲される瞬間思わず拳を握り込んだからか

加蓮のネイルがアタシの中指の爪に重なっていた


「___ん?」


気づいたときには景色は青一色塗りつぶされた



目に痛い月の緑色も、

目障りなカラスの黒色も、

目の前から消えていく



カラスの鳴き声が聞こえなくなって初めて、



アタシは加蓮の能力が使えたことに思い至った

そりゃ爪に装備する物だもんな






855: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:12:13.37ID:QHSOWdrS0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

こうして紗南の脱出から2秒ほど遅れてなんとかアタシも脱出できた


しかしこうしてネイルの使い方は分かったが

結構大事なことがまだまだ分かってない

別れ際に加蓮がぶん投げてきたセリフ

『適当に時間稼いだら、それ使ってアタシを追いかけてきてね!』



『追いかけてきてね』、と



あいつは確かにそう言った

だがこの能力的に考えてアタシ達は追うより追われる方だ


能力が一度しか使えないし、行ける場所は一箇所......らしい


加蓮がどこかにあらかじめマークしていた場所に先着していて、それをアタシたちが能力で追っかける?


そう考えたとしても瞬間移動よりも加蓮が早く遠くに行けるわけないし...

加蓮の足で先に着けるとしたらかなり近場だし、そんな場所じゃ避難にはならないし


咄嗟の弾みで言った可能性もあるにはあるが......





そもそもあいつはいつの間に、




そしてどんな場所にマークをつけてたんだ?






ゲーム開始127分経過

______________

 神谷奈緒+  47/300


______________
______________

 北条加蓮+  47/300


______________
______________

 三好紗南+  47/300


______________



856: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:13:49.46ID:QHSOWdrS0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
輿水幸子&白坂小梅




「カワイイボクと!!カワイイお化けっ子!!復活、です!!」

「お...お化けっ子...?」


久々に見上げた月に向かってボクはカワイク宣言しました


元きた...入口?というか陥没した地面の穴の場所には戻れませんでしたし

そのせいで下水道を右往左往する羽目になりましたよ


小梅「ふふ...薄暗くて...狭い、逃走劇」

「...ホラー映画...みたい...だった...!」

幸子「ひっ!!」


思い出させないでくださいよ!もう!


ボクは周囲の地理に目を配り、ここがどうやら橋桁の下の地下水路入口だと把握しました

下水道もそうでしたが、この水路には水が一滴もなかったので靴が濡れることもなく普通に歩いてこられたわけですね


「......?」

「どうしました小梅さん?」

「ゾ、ゾンビカラス...いない...ね」


袖をブラブラさせながらキョロキョロと周りを見渡していた小梅さんがぼそっとつぶやきました

ゾンビカラスというのは小梅さん命名で、まとわりついた物がボロボロに朽ちていったのを見て思いついたそうです


「ふふん、カワイイボクに恐れをなしたんでしょう」


なんて言ってる場合でもありませんが、大事なことなので

確かに地下に逃げ込む前は散々困らされたカラスも随分と疎らになりましたね

スカートと髪をパフパフとはたいて埃を落とします。特に汚れはないようでしたが気分的な問題で

勿論、周囲への警戒も怠りません。なにせボクはカワイイですから



「...それにしても」

「次はどこに向かったものかと思っていましたけど...」

「流石は輝子さんですね...」


かなり遠くに離れてはいますが特徴的なシルエットは見間違いようがありません

街中のどこにいてもあれなら特に注視することもなく嫌でも目に入ります




「お、おっきなマタンゴ......」




857: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:15:31.34ID:QHSOWdrS0



目に付く高層ビルが軒並み倒壊している中、

とんでもない大きさの茸が一本直立していました


そういえば以前に輝子さんから聞きましたね。世界一大きなキノコの......オニナラタケ、でしたか?


なぜか頂点のあたりにビルが突き刺さっているのが気になりますが


しかしまぁ、次の行動方針は決まりですね!!


「まず間違いありません!あれは輝子さんが生きていて、ボクたちに目印を残してくれたんですね!」


ビシッと遠方の茸へ向けた指を小梅さんに示します


「でも、あんなの...他の、ボットも集まっちゃうよ...?...ゾンビみたいに...」

「むむ...それは、そうですが...」


悔しいことですがボクたちは未だ白星を上げていません

仁奈さん、小春さんとヒョウさん、ほたるさん、光さん

その全員から敗走しているのが現状で、精々がカラスを何羽か追い払ったくらいです

むむう、と伸ばしていた腕を折りたたんで腕を組みました


「しかし...輝子さんがボクたちを待っていると思うと...」

「じゃ、じゃあ...もっかい...地下、通る?」

「それは固辞します」


確かにそうなると迂闊に近寄れません

物理的にも心理的にも遠のいた茸モニュメント(ビル添え)を改めて眺めます


って、あれは


「......へ?」

「.....ば、爆発...」


茸の傘とかいう部分に刺さっていたビル、

そのさらに屋上のあたりで小さな火が灯ったと思ったときにはもう崩れていました


折れるというより完全にぺっちゃんこ、柱や基礎が脆くなっていたんですかね

そのまま茸の上から斜めに滑り落ちていき、ビルだった物は見えなくなりました


「なんだったんでしょブッ!?」




858: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:16:45.14ID:QHSOWdrS0


ベチンと頭を叩き下ろされました!!何なんですか!?


「て、てて敵襲ですよ小梅さん!!」


痛む頭を庇う前に小梅さんに覆いかぶさります

まさかこのカワイイボクが何者かの接近を許してしまうとは!


「あぅぁぅ......さっちゃん、これ見て...これ...」


小梅さんが地面に倒れたまま何かを袖でぽふぽふ示します

見ると小梅さんの袖が下から照らされ薄明るく透けてました


「これは......スマートフォン、ではなくタブレットですか」


どうやらこれが上空から落ちてきたようですね

小梅さんの上からどきつつ袖をのけた下からそれを拾い上げました

画面には見慣れない地図、それに見慣れないマークが分布していますね




「青と赤の二種があるようですがこのマークはポキュッ!?」



今度はおデコに何か当たりましたよ!?銃弾ですか!?



859: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:18:13.25ID:QHSOWdrS0

ボクのカワイイ額に手を当て、カワイさが損なわれないうちに必死でさすります


動体視力に自信はありませんが、何かがタブレットの画面にぶつかりボク目掛けて跳ね返ったとみました


「はぅ......ボクのカワイイ頭になんの恨みが...」


顔をしかめながらも耳は音を逃しませんでした

キィン、カラカラと金属質の小さな小さな落下音が足元で囁いてますね

小梅さんに振り返りながら注意喚起を忘れません


「小梅さん、危ないから気安く拾わないでくださいね!それはこのボクのカワイイ額目掛けて落ちてくる不届きな___」



「......あ、これ......私の...ピアス...」

「あっさり拾った!?」


ピコン


「ほらぁ!不注意に拾うから変な音がぁ!!これは罠ですよ小梅さん!!」



ダメですよ!輝子さんに続いて小梅さんまでどこかに行ってしまうなんて!

我ながら外聞もへったくれもなく騒ぎ立て過ぎた気がします

この後に起きたさらなる急展開に比べたらこんなのちょっとしたハプニングだったんですから



奈緒「あ?」


紗南「おっ」


幸子「は?」


小梅「.....?」



気づいたら目前数センチのとこに人の顔


びっくりしすぎて今度こそボクは腰を抜かしました



ゲーム開始128分経過

白坂小梅 能力獲得



860: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:20:37.98ID:QHSOWdrS0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅



「加蓮の言ったまんまだったんだな」



アタシは加蓮の奴が持って逃げた筈のタブレットを裏返す



「あいつ、タブレットにマークしてたのか」



どこかのメーカー、多分晶葉が適当に考えたであろう架空のロゴマークの側に二本、青い線が走っている

回数制限があったせいで能力の使い方を練習する機会が全くなかったってのによくこんなの思いついたな


「カラスにキルされるか否かの瀬戸際でタブレットに落書きする余裕があったことの方がスゴいよねっ」


適当に座れる場所を見つけ一息ついた紗南の声が妙に弾んでいた。確かにゲームなら裏コマンドみたいなもんか


「いきなり持ってたタブレットの上に飛んでこられたボクの気持ちも考えてくださいよ...」


紗南の隣で幸子が膝を抱えて頬を膨らませている


幸子「むー!なんで仮想の世界に来てまでドッキリ三連発を味あわなければならないんですか!」

紗南「あはは、まぁまぁ奈緒さんはアタシとは時間差あったし...」

幸子「だからなんだというんですか、もう...」


聞けば空からタブレットが落ちてきたりピアスが落ちてきたり、それが尽くヒットして散々だったらしい


うーん、なんというか......相変わらず持ってる子だな...




「......で、だ」



タブレットはどうやら普通に動いてるな、液晶画面が割れてるなんてこともない

そして改めてためつすがめつ画面上を検める、注視すべきはさっきまでの戦場周辺

確か赤がプレイヤーだったな...

しかし、何度見直しても問題は解決していない





「.....加蓮はどこに消えた?」








861: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:22:12.33ID:QHSOWdrS0


ユニットを組んでいるアタシと紗南がこうして健在なんだ

つまり加蓮も間違いなくこの仮想世界にまだ生きている


幸子「どうやらその地図も街全域をカバーしているわけではなさそうですし。地図の範囲外にいるんじゃないですか?」

紗南「いやいや、それでもまだ三分も経ってないんだよ?そんな短い時間に十数キロも移動できる?」

奈緒「しかもあの加蓮がだぜ?......地下に逃げたってこれには映るってのに...」


なんかの間違いかと思って画面をタップするが、それでも変わるのはボットの表示数だけ

カラスとかアイドル以外のボットを感知するモードに切り替わってるんだろう

画面上に浮かぶアイドルのマークは変わらない




ずっと4つ


アタシたち四人分だけだ




幸子「まさかボクたち以外のプレイヤーが全滅しているとは驚きです」

「カワイイボクが勝ち残ったことは驚くに値しませんが!」


 はいはい、カワイイカワイイ

しかし幸子のブレなさは一周回って頼もしくすらあるな


紗南「加蓮さんは生きてるって......多分、ユニットだし」

幸子「どうですかね......頼子さんのような方もいましたし断言は難しいんじゃないですか?」

紗南「いや頼子さんの能力をアタシは知らないけども...」


積み重なった問題の山はまだ切り崩せそうにない
 
腹いせ混じりに画面を強く小突くと、最初よりずっと青い丸が少なくなった

これが恐らく残ったアイドルのボット


「これを全員アタシらで倒さなきゃなんねぇのかよ......」


「...でも...私、頑張る...よ...?」


ぶじゅる



862: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:24:33.42ID:QHSOWdrS0


並んで座った幸子と紗南の後ろ、瓦礫の影から小梅が顔を覗かせた

こいつもあるい意味、積み重なった問題の一つな気がする

ほら、幸子の笑顔も引き攣ってるし


「ほ、ほら...」

ぐしゅ、じゅる


そういって影になってた箇所から体を引きずり出す。文字通りに


「...もんすたー...ま、負けない、よ......?」

「おう、そうだな...」


小梅の右耳には赤く濡れたピアスがぶらついている

この世界じゃ流血表現は避けられてるみたいだし、だったらアレに付着してるのは血じゃないよな?


「しっかし、小梅ちゃんも随分化けたね...」


紗南が感心したように言う。まぁ紗南ならこういうのも見慣れているんだろう


「え、そう?えへへ...」


小梅が照れたように頭を掻く。いやなぜ照れる

あとそれをヒラヒラさせるな怖い


そう、怖い


「なぁ....それホントに能力の一部か?」


頭を掻く小梅の腕は見慣れたそれとはかなり違っていた



あの指先を隠した華奢で細い腕は、血管の浮いた触手に取って代わられ


少しだけ開いた首元では薄い鎖骨を包むようにして羽毛が生え揃っていた


美少女フィギュアに鳥や蛸の模型からちぎりとった部品を瞬間接着剤でまぜこぜにくっつけたビジュアル


そのパーツ同士がじゅるじゅると滴りながら蠢いていた




一応言っとくとこれでもだいぶマシになった方だ

能力覚醒時には人間の原型すらどっか行っちまってたんだから





863: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:25:39.30ID:QHSOWdrS0



「...えへへ......ゾンビみたいに、なれるなんて...夢みたい」


「仮想だから夢ではあるんだけどな」




________________

name:白坂小梅

category:プレイヤー

skill:
自律して動く物を吸収して自分の血
肉として使役する。硬度、耐久度な
どは吸収したものに由来するがスタ
ミナは増減しない
________________




多勢に無勢

消えたプレイヤー

化物になった仲間

一向に減らないボット




紗南「どうなっちゃうんだろこのゲーム......こんなグダグダでさ」






ゲーム開始136分経過

報告事項なし



864: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:26:32.60ID:QHSOWdrS0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はぁっ......はぁっ...!」

「......っ......!」




プレイヤーとボットによる盛大極まりない「潰し合い」

一目散にその場から逃げ去ろうと駆ける影がある

災禍に飲まれまいと、能力を使う間も惜しんで逃げていく



島村卯月と佐城雪美だ



「一旦退くにしても、どこに逃げましょう!?」

「そこ.....まっすぐ.........」


卯月が自分より小柄な雪美の手を引き、肩を抱えるようにして並んで足を動かす


「この二人で戦うにはもっと頑張らないと...」

「卯月......次......左」

「はいっ!逃走頑張ります!」


本田未央、市原仁奈、水野翠

戦力になる味方があらかた消えてしまった今、卯月の能力はほとんど意味を成さない

雪美の能力も今や卯月のサポートなしに高感度のアンテナとして機能していた

カラスの飛んでいない区域、プレイヤーのいない道へと舵を切っている



「.........でも...もう無理.....」


「ゆっ、雪美ちゃん今、何か言いましたかっ?」

疾走しながら問う。走りながらうまくは声を拾えなかったようだ



865: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:27:57.22ID:QHSOWdrS0


「プレイヤー......カラスさん......からは...逃げられる」


荒れ果てた街並にカラスは見当たらない



「でも___」



これまでの積み重なる能力闘争による被害に、大和亜季の自爆が引き起こした大量死が止めを刺したのだ


プレイヤーとも出くわさない。今や雪美の「目に映っている」のは四人だけだ


ボットも見当たらない、プレイヤーとの戦いに敗れたか___





「あ!卯月さんに雪美ちゃん!」




___彼女に取り除かれたからだ



彼女の歩みは非常にゆっくりしている

銃弾と能力が街をのたくり、傷跡だらになった街を観光でもしているように

二人の足が止まった


雪美(ボット)「......!...」

卯月(ボット)「...あれっ?藍子ちゃん!?」



藍子(ボット)「こんばんわ、夜のお散歩ですか?」



カラスが集まる場所に目星をつけ、

こうして出向いた頃には戦闘は終わっている

だから彼女がやることは残った者を一掃するだけであり、そこに分別はない



どれほど心強い味方であろうと彼女の能力にとっては使用を阻害する余分なデータでしかないのだから




866: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:29:06.49ID:QHSOWdrS0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


雪美は知っていた、高森藍子の行動方針を

そこにどんな原因があるかは分からないがとにかく彼女には見境がない

だから雪美はカラスやプレイヤーを避けながら、彼女も避けようとしていた



「少しずつ...『夜』が静かになってきましたね」



藍子の背後には彼女が出てきたビルがある

といっても扉から出てきたというわけではない

トンネル工事がされたように大きく穿たれ壁の穴からだ

回線を限界まで絞り処理速度を落とし、仮想の世界の盤上から払い落とす

オブジェクトもプレイヤーもボットも全て例外なく

だから彼女が通る道には何も残らず

彼女が歩けばそこが道になる


「...卯月.....!」

「きゃっ!」


今度は雪美が卯月の手を引いた。細い横道へと折れていく


「えっと!どうしたんですか雪美ちゃん!藍子ちゃんもボットでしたよ!?」

「......いいから...!...」


真新しい排水管の間を縦に並んですり抜けていく

そのまま2回3回と狭い角を曲がっていき、最後に開けた通りに出た
 
行き止まりや通れないほどに狭い道、崩れやすい壁の近くを避けた最短ルートを見つけるのは雪美にとってはお手の物だった


それでも



「いきなり逃げるなんて...私まだ何もしてませんよ?」




867: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:30:23.35ID:QHSOWdrS0



抜けた先の大通りに彼女は既にいた、

その歩いてきた軌道上の建物をすべて無に帰して


彼女は道を選ばなくていいのだ

真っ直ぐ歩くだけで追いつく


その緩やかな破壊を目にして遅まきながら卯月も理解した。目の前にいるボットは味方ではないのだと


「で、でもなんで...」

「仕方ないじゃないですか」


大穴の開いたビルが支えを無くし順に倒壊していく

その一部の藍子に雪崩ていった部分は例外なく減速し消失していった


「元々私たちは『夜』という第二ステージ用だったんですから」

「...?」


マイペースな藍子の解答はまだ要領を得ない

理解を求めるボットの脳か卯月の人格のどちらかがその続きを要求するように一歩踏み出した


「...そこ...じゃない.....!」


その一歩を雪美が引っ張り戻す

低い身長の彼女から下に向かって全力で引かれ、卯月の態勢が崩れる




そのまま二人の足が地面から離れた




「お久しぶりです~」


ウロコの尻尾に巻き取られ、翼竜の背にそっと下ろされる


最高速で飛んでいたわけではないが既に地面は遠く離れていった





868: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:31:39.60ID:QHSOWdrS0


「わわっ、小春ちゃん!?追いついてくれたんですか!?」

「ヒョウくんならひとっ飛びです~」



雪美はただ藍子から距離を取るためだけに逃げていたのではない

空を飛ぶ翼竜とその背の古賀小春から見つけやすい地点に移動していたのだ



「えっと~、逃げてたってことは藍子さんは拾わなくていいんですよね~?」

「うん......藍子も......私たち......狙ってる.....」

「へぇ~?」


眼下の大通りが遠ざかっていく

藍子の姿が手のひらに乗るほど小さく見える程に

卯月(ボット)「.....藍子ちゃん...どうして...」

ウロコに足を引っ掛けバランスを保ち藍子を見下ろす

その藍子がこっちに手を伸ばしているように見えた。決して手を振っているのではない

そんな友好的なものではなかった




その証拠に


景色が止まった



「ほら、カラスさんがほとんどいなくなったおかげで...」


「能力の範囲がこんなに広がったんですよ?」




いや、止まったのは自分の方だった





869: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/13(日) 00:33:04.06ID:QHSOWdrS0



ヒョウくんの翼が止まる、


重力によるヒョウくんの落下も止まる


急停止により慣性が働き、


三人の体が前に投げ出されるがそれもすぐに止まった


雪美の能力も止まり、


街を見下ろしていた目からの情報も止まった


風になびいていた卯月の長い髪さえもなびいた形のままに止まる







動いているのはマイペースな彼女だけだ


「昼の間にボットのほとんどが負けちゃって」

「プレイヤーの相手がいなくなったところで、『夜』が始まる予定だったそうですよ」

「だから私たちの能力は他のボットたちに割かれる分の数倍重いんです」



「だからもう、私たちと交代してください」



手のひらに包めるほどに小さく遠ざかった彼女らに伸ばした手


それを握り締めると同時に三体と一頭は消えた




ゲーム開始133分経過

島村卯月(ボット) 消失

佐城雪美(ボット) 消失

古賀小春(ボット) 消失



872: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:28:50.70ID:fDRms/c60


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「......これが風評被害ですか」

「え、ええと、あはは......所詮はゲームですし...」

「でもあれ...ボットとして成立しているのかはともかく......もう藍子さん要素皆無では?」

「ま、マイペースなところ...とか」



最もゆるやかで

最もふわふわで

最も有無を言わせなかった破壊の足痕を眺める


藍子の能力は今や、容易に近寄ることすらできない次元に到達していた

だから頼子とほたるも、距離をとって観察を続けているしかない

といってもなにも後方十数メートルの物陰から顔を覗かせている、なんてことはない

尾行出来る程度の距離では返り討ちに合うであろうことは分かっていた


だから空を飛んでいる

百羽のカラスの背に乗って


頼子(ボット)「これ...私、大丈夫ですよね?」

ほたる(ボット)「は、はい...!私のカラス、これは能力オフにしてますから...」


夜風にはためくシルクハットにマント、タイトスカートにモノクル

夜を彩る濃い青色が、夜に紛れる羽の上で静観を決め込んでいた

派手な青色のハイヒールの下では黒い羽毛が絨毯の形をとって足場を形成している


「忍者やヒーローと手を組むことはありましたが......」

「.....そんな怪盗でも、魔法の絨毯に乗ることになるとは思いもしませんでしたね」


そういえばあの二人はどこに行ったんだろう


ヒーローこと光さんはすぐに立ち去ってしまいましたし、忍者ことあやめさんもすぐに姿を消してしまいました

案外、藍子さんの能力の錆にでもなっていたりして



どちらにしても...



「藍子さんを徒に歩き回らせるのはよくありませんね...」



873: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:34:23.84ID:fDRms/c60



「はい...ですよね......あんなこと言ってたのに...周子さん以上に”性格補正”が入ってますもん...」


ボットは時折、ゲーム上の役目を果たすためにオリジナルの人格とは似ても似つかぬ部分をのぞかせる

容赦のない攻撃性だったり、奸佞極まりない深謀鬼略だったり、倫理なき捨て身だったり


「それもそうですが、先程からボット側の被害だけが顕著です」


プレイヤーの数が減っている上、まとまって行動し始めているのもありますが

なにより彼女のマイペースな進行では追いつくものも追いつけないでしょう


「...じゃあ...どうしましょう?」


背中から黒い翼を生やし、神話の悪魔のような姿で飛ぶほたるさんが聞き返してきました

といっても、彼女もボットならこの限られた条件下で私とそう大差ない案に思い至っているでしょう

それでもこちらへ確認をとるのは自分から提案すればそれが不幸につながると思い込んでいるからか


「私たちに出来る考えうる限りの」

「最大限の、攻撃...」


「......」

「..........」



「藍子さんを残りの皆さんのところまで導く」

「皆さんを藍子さんのところまで追い込む」



「ですよね」

「で、ですよね...えへへ」


「では恙無く進めましょうか」



黒幕気分で指を弾けば能力発動


一羽のカラスが私の盗品に早変わり


さぁ、道しるべを放ちましょう



874: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:37:00.00ID:fDRms/c60


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅



いきなりだった



まず話し合いの末、拠点を確保することが決定した


能力を持たないか、あるいは直接戦闘に向かない奴もいる中で加蓮を捜索するのは難しいだろうと意見が一致したからだ


それにアタシには、アタシたちが遅かったからといって加蓮がホイホイやられるとも思えなかった


これでもアイツはここまで生き延びてきた。間違いなく猛者の一人なんだから




じゃあ、次はどこに拠点を据えるべきかという話になった

これだけ荒廃した世界でまともな土地が残っているのかは甚だ疑問だったが候補がないわけでもなかった



そんな時だ、それなりに近くにあったビルが音を立てて崩れ出したのが

もともと建物は全部亀裂が入るか割るかしてたしカラスのせいで地盤とか基礎がやられてたのか傾いていた

変な言い方だがそういう事態には慣れてしまってたから、危険もなさげな距離だったのもあってぼんやりと眺めるに徹していた


遠くの方でゆっくりゆっくりと壊滅的な風景が進行していくのはどうしようもない

紗南はタブレットでそのビル付近のボットの所在を照らし合わせていて、

小梅は映画でも観てるような集中してんだか楽しんでんだかわかんない表情

幸子はなんか慌ただしく騒いでいた




そんな風に遠くに焦点を合わせてたから気付かなかったんだろうな



目線を遠くから近くへ、ビルからすぐそばの塀へ、上から下に動かしたときにはそいつはいた


塀の上にあしらわれた鉄柵の一本にちょこんと捕まった一羽のカラス


これまで散々苦しめられてきたそいつが何故か一羽だけ、そういえばあの鬱陶しい羽音が聞こえなくなっているのに気づいたのもここだった

いままで我が物顔で群れては襲ってきたそいつらのうちの一羽



大方他のボットやプレイヤーの能力で一網打尽にでもされたんだろう

一羽だけならぶっちゃけ拳銃一つのアタシにだって倒せる



だからアタシは銃口を向けた。カラスの野郎はまだこっちを見ている




875: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:38:38.99ID:fDRms/c60




いや、見てたんじゃない

後になってからわかった

あれは監視だったんだ






「こんばんわ......お会いできて幸いです」








”本隊”が来るまでの









ゲーム開始141分経過

白菊ほたる(ボット)

VS

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅

開始



876: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:41:03.19ID:fDRms/c60



地上に舞い降りた堕天使


蘭子さんが喜びそうなフレーズですね

しかし、ボクは自分のカワイさを余すところなく表現するためにそれなりの語彙力こそ持ってますが

他にその直観を例えようはありませんでした



ほたるさんの小柄な体躯に二対の黒翼が生えた姿は



奈緒「撃つべし!撃つべし!撃つべし!!」

紗南「エイムしてショット!エイムしてショット!」



頭の上から切羽詰った声と発砲音が降り注いできます

もう少し静かにお願いできませんかね!


しかし弾切れになる度に新しくマガジンを手渡すカワイイボクにそんな非難をする暇などありません

状況が非常に逼迫しているのは間違いないんですから



ほたるさんの飛び方は決して真っ直ぐではありません。だからこそ恐ろしいのです


下方に飛んだ時にはビルの割れた窓の中に潜り込み、そのままビルを倒壊させます


そうでなくともボクらよりも上方に向かって飛んだ時には割れたガラスが粉雪のように降り注ぎ危険です


その度にボクらの退路は狭められ、選択肢は目減りし、どこかへ追い詰められていくようです


彼女が縦横無尽な軌道を描くたび、近くに建っている建造物が崩壊しボクらに、そしておそらく彼女にも牙をむくのです






877: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:42:11.07ID:fDRms/c60




ぶちゃっ!!




幸子「ふぎゃーーー!!小梅さん小梅さん!!肉片がぁ!肉片がぁぁあ!!」



小梅さんの触手の先っぽがニキビのように潰れた拍子にボクの前髪に盛大に何かが降り注ぎました

慌てて頭を振ると、目に映った遠い地面にクラっときます。不安定な高所ではどうしてもスカイダイビングのトラウマが...



奈緒「次の弾幕張るぞ!!マガジンよこせ幸子ォ!!」

幸子「は、はいぃ!!」



不安定な状態から精一杯手を伸ばして手の中のズシリとした塊を手渡します

奈緒さんが投げ捨てた空マガジンは回転しながら落ちていき、闇の中へと見えなくなりました


小梅さんが能力を使いこなし始めてきたおかげで随分速く動けるようになりました

それでもやはり四人分の重さを背負ったままでは空を飛んでくるほたるさんを振り切るには速度不足です


小梅「最近のゾンビは...速く走れる...から、ふふふ」


耳元で銃声がエコーしてきました。



改めて状況を確認しておきましょう



ボクたちは今、四人でおしくらまんじゅうのような状態に密着、密集しています

そのまま小梅さんから伸びた触手?に梱包されるように巻き付いて固定された形です


小梅さんが長く伸ばした触手が蜘蛛の肢のように力強くしなりながら窓枠や柵を掴んで、

それを足場に壁を高速で這い進み、ビルの谷間をジャンプし、蜘蛛のように縦横無尽に恐怖の逃走中です





878: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:42:49.49ID:fDRms/c60



ほたるさんは自分の体躯以上の大きさの羽を自在に操り空を滑ってきてます


奈緒さんと紗南さんが絶えず攻撃を続けていますが、小梅さんの「肉塊」に巻かれている状態な上


モモンガとオランウータンを足したような移動方法で狙いなど付けられません


ほたるさんとは20メートルほどの距離がありますが小梅さんが一度でもブレーキをかけてしまえばジ・エンドなのは簡単に分かります!




なんたってボクはカワイイで___


紗南「幸子ちゃん弾倉パス!!」

幸子「は、はいぃい!!」




ゲーム開始146分経過

白菊ほたる(ボット)

VS

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅

継続中




879: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:46:10.56ID:fDRms/c60


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


現実はゲームのようにいかない


でもアタシ達がいるココは間違いなくゲームのはずで、

なのにシューティングゲーで鍛えた腕前でも弾は掠りもしないし

中ボスくらいのはずのほたるちゃんの動きの軌道は法則性を読み取れない


それに何より


紗南「なにもかも怖すぎるんだって!!」


勇気を出して銃を両手でホールドして、撃つ

反動で一気に崩れたバランスを小梅ちゃんからうにょうにょ伸びた「部位」を掴んで立て直す


でも弾が届く前にほたるちゃんは急降下してアタシたちの背後から消えた

ほたるちゃんが消えた先を目で追うと、どこかの建物の屋上が見えた。改めて落ちたらデス確定な高さにいる事実にヒヤリとする


小梅ちゃんが飛び移ったビルが傾きはじめた、根元からメキメキと嫌な音を立てて

そのまま紙吹雪みたいにガラスを吹き散らしながらほたるちゃんが飛び出した


背中から生やした羽を一度大きく羽ばたかせると、ガラスを散らして向かって急上昇を始める

あのカラスの羽でビルの芯をボロボロにしてきたんだ!

シロアリが柱の中を食い進んでいくみたいに!


「ちゃんと......つかまって、ね...」


小梅ちゃんの声が頭の後ろからぼそりと聞こえた

同時に触手がアタシ達に巻き付きぬちゃっとしたボディに引き寄せられる

幸子ちゃんがギャーギャー言ってたけどこのままじゃ舌噛んじゃうよ?



「せー......のっ」






880: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:48:07.21ID:fDRms/c60


蜘蛛みたいに何本も何本もあちこちに伸ばしてはビル壁を高速這い這いしていた腕、じゃなくて肢が大きくしなる



そのまま向かいのビルの窓へ跳躍した



眼下数十メートルを大通りが通過して行くのが見える



ゾンビは筋力が強いと言ってもそれでも四人分の重みに小梅ちゃんが落ちていく




いや、そもそもこのままじゃ速度も落ちて__





白菊ほたるの翼が一斉に震えた




__追いつかれる!!





羽毛でできた真っ黒な噴霧を吹き散らして爆発的に加速する





奈緒「近づけるもんなら!!!」


___________

対戦車砲  -3000MC 


  残2430MC
___________



奈緒の肩の上にずしりと大筒が体重をかける

弾切れの銃が放り捨てられ、同様に手からこぼれ落ちたストアの画面が開かれたMP3プレイヤーは幸子がキャッチした

弾頭に火が付いた瞬間、小梅の能力が奈緒達をより強く抱きしめ



「近づいてみやがれ!!」



ほたるの目が見開かれ

周囲数千枚のガラスが爆風にはぜた


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



881: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:52:53.29ID:fDRms/c60


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「...奈緒さん...ちょっと、危なかったよ...?」

「いや、ほんとゴメン...一応知識としてはあったんだけど」


無反動砲の原理

奈緒がほたるに向けてミサイル弾頭を放つと同時、

砲身の反対側からは発射の衝撃を相殺するガスが噴射していた

実は砲身自体は晶葉により軽量に「設定」されていたが作用反作用はその限りではない。

下手をするとほたるを攻撃するどころか全員が反作用で空中分解するところだった



小梅が対戦車砲を体の一部として取り込んでいなければ



無反動の機能を意図的に潰し、逆に反動を利用して飛躍していなければ




幸子「というか小梅さん...無機物も能力の対象でしたっけ?」

紗南「アタシも違うと思うんだけど...いろいろ曖昧な能力なのかな?」


キノコやカラスとRPGと人体が曖昧に混じり合った小梅の体をまじまじと眺める

今、彼女らは小梅が形成した羽により滑空していた 


小梅「...武器人間、みたいな感じだった...」


奈緒が放った砲撃の反動は小梅らをより高く押し上げ、雲間を抜けるようにビル街を上へ突き抜けた

急上昇した後の束の間、自分立ちよりも低くなった摩天楼を見下ろす

月を除けば今やこの仮想現実の世界で一番高所にいるのは彼女たちだけだった


奈緒「カラスがいなくなっちまってるな...」

紗南「すっごーい...どんだけ作りこまれてんだろこの街」

幸子「い、今更ながら、たたた...高すぎません!?早くちゃ着地しましょう!」

紗南「えー、もうちょっとこの風景を楽しみたーい」

小梅「...でも、ほたるちゃんに見つかるよ?このままじゃ...」

奈緒「まぁ、タブレットに表示されてるし生きてるのは間違いないだろうな......無事かはともかく」


銃を構えていた間、幸子に預けられていたタブレットを窮屈な姿勢から受け取る



882: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:53:42.97ID:fDRms/c60




結果的にほたるへの攻撃は成功した


速度を落とした小梅に肉迫しようと一方向に急加速したほたるに対して真正面からのカウンターが決まった形で

咄嗟に翼でガードしたようにも見えたが、彼女の翼はカラスが寄り集まったもの



その能力は何かを壊すことは出来ても、何かを守ることには絶望的に適していなかっただろう



小梅はコウモリに似た、血管の浮いた皮膜を展開させてバランスをとっていた。着陸に備え触手を太く捻り合わせてもいる


幸子「気のせいでなければあのあたり......地割れができてませんかね...」

紗南「うわ、ホントだ...何があったんだろ......あっちもでっかいクレーターしかないし」

奈緒「なんで観光気分なんだよ」





ゲーム開始151分経過

白菊ほたる(ボット)

VS

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅

プレイヤー側の戦闘放棄により続行不可能




883: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:55:05.97ID:fDRms/c60


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「...............」

「...............」

「...............」

「...............けほっ」

___________

白菊ほたる+ 43/100


___________



いくらなんでもバズーカはないでしょう


追い詰めるつもりが逆にダメージを受けすぎました

逃げ道を塞ぐためとはいえ、ビルを倒すのに集中しすぎちゃいました

はしたなくも大の字に手足を投げ出したまま月を見上げるしかありません


「...............」


こうしてみて、初めて分かりました

月がとっても綺麗です

でももうすぐ見えなくなるでしょうね


私の傍らには折れ曲がったサーベルがどこに刺さることもなく転がっています

このサーベルはカラスさんの動きを統御するための唯一のアイテムにして武器でした

カラスさんに防御させようと使用し、そのまま爆風でこの有様


そのせいでカラスさんは混乱してしまいました


見上げた夜空には無軌道で無謀な、黒々とした混沌が舞っています

カラスさん同士が空中で衝突し、もみくちゃになった幾つもの死体に

割れたガラス窓にきりもみ降下した子は自分からズタズタの死体に


「............けほっ......けほっ」


あぁ、地面に寝そべった姿勢だから分かります

大地の振動を背中で感じ取れています

私が自分の意志で、自分の能力で、限界ギリギリまで老朽化させてきたこの街が

カラスの擾乱によるダメ押しを受けて

私の真上に崩れかかってくるのが


「あぁ......あれは助かりませんね」





884: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:56:38.63ID:fDRms/c60



見える風景は単調に移ろう


私を月から覆い隠してしまうように傾いたビルが一棟


そのまま重力に耐えきれずにサックリ折れた建物の上半分、

10階から15階くらいの部分でしょうか?




不幸にも私の真上に降る数十トンの塊


その影はカラスの羽より真っ黒な闇色




「...私がいなくなったら.....藍子さん...どうなっちゃ





破砕音






ゲーム開始153分経過

白菊ほたる(ボット) 消失



885: ◆E.Qec4bXLs 2015/09/30(水) 22:57:55.78ID:fDRms/c60


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あらっ?」



気づいたときには目印のカラスさんが見えなくて

とっても慌ただしく暴れだしたと思ったら霞のように溶けちゃった


ほたるちゃんのカラスは確か、半自動...だったかな?

外部からの命令がない限り一番”狙いやすい”ボットやプレイヤーを追いかけるとか言っていたような...

だからこそ私には近づいてきませんし、カラスさんの集まる場所にいけば誰かしらに出会えると踏んだのに



「うーん...これは......」



でも、どっちにしても私の能力ではここは通れないか...


こんなに大きな切れ目が地面に走って、底なし川が干上がったみたいです


大きな崖の下を覗き込むとどうやら底はあるようで、何か車のようなものが沢山並んでるのが見える

でもこの高さは飛び降りれないかな、足場代わりにできそうなガレキでもあればいいんだけど


石ころひとつ残さず地面がぬぐい去られたみたい

こんな消滅の仕方を見ると聖ちゃんの仕業かな

私の能力ならどんな大きな障害物でも素通りできるけど

存在しないものは消せないもんね


「......あれっ?」


下へのお散歩は諦め、視線を戻せばひらひらした影が月に浮かんで

うにょうにょしたその影が、よぉく見ると何人かの子が

ぎゅっと肩を寄せ合った形だと分かって



「.............あはっ」








やっと会えたね、プレイヤーさん








ゲーム開始153分経過

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

開始


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



889: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 21:46:49.28ID:DmKI3qgD0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



一本の道があった



特に何の変哲もない道路にぽっかりと空いた穴から地中へと進む道

とあるサイキッカーが小刻みな破壊を積み重ねて掘り進み残った道だ


それは地下深くの空間から長く長く、地上に向かってゆるやかな傾斜を描いたままその形を保っていた

地面の下にあることで白菊ほたるも、望月聖も、高森藍子も自身の能力を深く及ぼすことはできなかったのだ

もっとも最後の一人の能力に関してはもはや地中の存在を押しつぶすのも時間の問題ではあるが、今はその時ではない



「...んー......ふわぁ...」



パタンパタンと小さな板が将棋倒しの要領で倒れていく

それは荒々しく掘り抜かれた地面の上を滑るように階段状に連なり、道と言うにはあんまりだった悪路を「通路」にした



「ただの識別信号でしかなかったバッジがここでは道を照らす灯火となる。原始時代、松明に灯る赤い火と共に洞窟を探検に踏み行ったボクらの祖先を想起せずにはいられないよ」



その光なき路に作られた青い階段を赤い警告色が三つ、ふらふらと揺れながら降りて行く

一本道を足跡で舗装していく彼女らの顔が狭い通路の中濃い赤色に照らされていた



「...先祖返りとかお断りなんですけど......でも洞窟の奥に籠ったままでいられるならそれもソレでありな気がしてきました...」



遊佐こずえ

二宮飛鳥

森久保乃々


戦場からも取り残され、彼女らは地下を目指す


全ての壊滅の起点となった月の、その光の当たらぬ場所へと逃れるように





890:訂正>>889足跡→即席 ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 21:50:09.28ID:DmKI3qgD0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
白坂小梅&輿水幸子&神谷奈緒&三好紗南



まるで黒い大河



月の光ですら照らしきれないほど深い溝が横たわり

右から左へと首を巡らせどその最果てを見ることはできない

辛うじて向こう岸に建造物の骸が並んでいるのが見て取れる


だからこそ川だ、それも特大の



奈緒「えっげつねえ...」



小梅の背から下界を見下ろし、呻く。幸子は逆に下を見ないように月を見ていた


紗南「あれ?...ゲームどこいったかな...」

ぶらり、紗南の身じろぎに連動して小梅の肉体も揺れる


彼女ら四人は今、宙空にいた。

廃墟と廃墟の辛うじて残った建材に触手を引っ掛けるように

道路をまたいでいるので長さにして30メートルほどの肉のハンモックだ


幸子「ああ、あの!そろそろ降りませんかね!?こんな高いところだとボットの方達にみ、見つかりますよ!?」


ハンモックを極力揺らさないように身を乗り出し小梅に声をかける

紗南が小梅の肉体に巻き込まれたゲーム機を引き抜こうと引っ張っているのでどちらにせよ揺れはひどかったが


小梅「でも、さ、幸子ちゃん...ここからだと遠くまで、みえる、よ?」

幸子「見晴らしなんて今はどうでもいいでしょう!紗南さんの道具があれば距離は無視できるんですから!」

奈緒「いや、ちげーよタブレット見ろ......この亀裂の向こうにボットがいんだよ」


愚痴る幸子を奈緒が窘める。自分たちは既に臨戦態勢を強いられているのだ

未知の敵はこの大河を挟んだ向こうにいる、ただその事実だけが重い

紗南「よい...しょっ」

そうこう言っている間に絡み合った触手とバズーカの間から紗南が目的のものを探り当てた

小梅「...ぁんっ...」

腕を引き抜くと同時に小梅から妙な声が出たが誰も気にしない



891: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 21:53:03.67ID:DmKI3qgD0


電子の世界においてさらに電子らしく振舞うバックライトが四人を照らす


紗南「さぁ、ここまで生き残ったエネミーの能力、暴かせてもらっちゃおうか!」


タブレットで敵の方角と距離を捕捉し、ゲーム機の能力でその正体をテキストに解き明かす

ここに来てようやく掴んだ磐石な布石を実行せんと機器を掲げた

ぶらり、真っ直ぐに腕を伸ばした勢いにつられ小梅の体がまた揺れる



幸子がうわずった悲鳴を上げかけ、すぐに止んだ

同時、

奈緒の瞬きも止まり

小梅の蠢きも止まり

紗南の笑顔も固まった





ブブブ



...ブツン




「は?」


彼女らの旅路を照らしてきた灯火がノイズを吐き


画面が消えた




892: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 21:54:39.85ID:DmKI3qgD0




紗南「ちょ、ちょっと待ってよ!!バッテリー切れなんて表示されてない!!」



真っ先に色を失ったのは紗南だ。彼女にとってゲームは命綱以上の意味を持つ

焦る手で電源ボタンを丁寧に入れ直す、だが黒く沈んだ四角の返事は雑音のみ


紗南「このタイミングで電池切れって絶対やばいフラグだって!点いてよ!」

奈緒「ノイズみたいなのがここまで聞こえてるんだけど...それ、故障じゃねえか?」

幸子「というか揺らさないでください...」


ブブブ、ブチッ


揺れる視界と腹に食い込む腕モドキに気分が悪くなる

そんな幸子の耳に届いていたノイズの音が変質する

もっと、生々しく、危機感を煽るような身近さをもって


ブチッ、ブチチチッ



幸子「というか」



ブチチィッ



それは電子音ではなかった






小梅「ぐ、ぁう...ぎ」





ゆがんだ眉宇、固く瞑られた目


端的に言って、小梅が苦しんでいた



「小梅さん!?やっぱり重かったんですか!?」

さっきまで縮こまっていた身を伸ばして小梅に手を伸ばす

バランスを崩せば小梅の体から真っ逆さまに落ちかねない姿勢への恐れより友人の異変の方が重要だった


「ち、ちがう...引っ張...」

「え!?」

「ひ、ひっぱら、れる...!」


ビチビチと破断していく音をその場にいた全員が聞いた

その中で、少しでも小梅の近くに寄ろうとしていた幸子は見た

カラスとキノコの根とバズーカとなんだかよく分からないもので構成された少女の体が裂けていくのを



893: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 21:57:10.65ID:DmKI3qgD0



両手側のビルを掴んでいた「腕」が細く、頼りなくちぢれていく


彼女らは気付くのが遅かった


ゆっくりと、ゆっくりと事態は進行していたのだ



奈緒「おい、おい、このビル...倒れてんじゃねえか......!!」



彼女らは高所で不安定な場所にいることを意識しないために、下を見なかった


だから気付かなかった。


小梅が掴まっていたビルの一階に起きていた異常に


斧を打ち込まれ続けた大木のごとくごっそりと一階が失われていたことに

瓦礫の一片も残さず、破壊音もなくまるで最初からそんなデザインであったかのように



その状態で建造物が建つ訳もなく、倒壊は始まった


ただし、音もなく”ゆるり”と、”ふんわり”と



「も、もう、む、りぃ...」

「ちょ、小梅さん落ちるっ!」

「アタシのゲームも落ちてるし!」

「意味がちげぇ...」



逃げ場のない空中で混乱と焦燥だけが膨らんでいく


そこは亀裂が限界まで充満した薄氷の上、


球皮に穴を空けた熱気球のゴンドラの中




ブヂンッ




命綱は切れた



894: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 21:58:42.81ID:DmKI3qgD0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あれ?あれれ......?」


プレイヤーさんが消えない?


やっぱりいくらなんでも遠すぎた?

ヒョウくんの時の倍は開いてるし


私の能力は重くて大きなものから順に”落として”いくもんね


だからなんとか上手いことビルの根元だけ消し飛ばせたけど


あんまり遠いと能力の密度も下がるし...


プレイヤーのみんなに能力を使うにはもっと近づかないと



あるいは


「いち、に...三人と...?...」


落ちていく人数はここからではよく見えない。

なんだかよく分からない形のもいるし


このまま地面に叩きつけられちゃうのかな


「そんな簡単にはいかないよね...」


ちょうど目の前に谷があることだし




「...もうひと押しっ」



地面も消しちゃえ




ゲーム開始154分経過

神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中



895: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 22:01:13.55ID:DmKI3qgD0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「これは...」



その威容は強固

その秘するは破壊

居並ぶ姿は千騎の鉄馬



乃々(ボット)「なんか、すごいんですけど......」

こずえ(ボット)「...んー......?...なぁにこれー?」


乱雑極まりないサイキック工事をされたトンネルを乃々の即席舗装で降りた先

そこは鉄と鋼に覆われた無人の軍事国家だった


「裕子さんと杏さんの会話を傍受したときはまさかと思ったけどね...」

「ほんとに戦車が並んでるんですけど...ゲームバランスとか崩壊なんですけど...」


乃々の言う通り、改めて見てもなんて光景だ。ここがもっと積極的に使われていたらボットの能力などなんらアドバンテージにならなかっただろう


「くるまー...?...のるのー?」

「そうだね...もしかしたらこれは、ボクらのような弱き存在への伏せ札だったのかもしれない」

ボクのオリジナルと同い年とは言え晶葉さんの思索はボクらの想像を超えているから何とも言えないが


こずえはさっきからずっと宙に浮いている

乃々が操っているタイル、いやパネルかな?

それによって形成された空飛ぶ箱からちょこんと顔を出して

なかなかに非日常な光景だ、そして同時に不可思議なマスコット性も感じる



「.........」

「そんな顔されても飛鳥さんを載せるのは重すぎてむ~りぃ~...」

「...何も言ってはいないさ。乃々はここまでボクらを助けてくれたしね、これ以上の無茶を要求する気はない」




896: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 22:05:00.90ID:DmKI3qgD0


それに聞くところによると彼女の能力は自身のスタミナを消費して成り立っているそうだ

やはり無茶はさせられない


ボクは無骨な手すりに肘を載せる、ここからは眼下に留め置かれた戦車を一望できた


空には大きく亀裂が開いているが残念ながらここは深淵、上から月光も届かない



「で、どうするんですか...?こんなもの...もりくぼには運べませんよ...?」

「問題ないさ、こういう場所には運搬用の通路なりエレベーターがあるものなんだから」



何もここにあるのは戦車だけではない。今こうして体重を預けている手すりも然り、

暗くて分かり辛いが、コントロールルームのような設備もここにはあるようだ



「懸案事項はこの施設にはどう見ても電気が通っていないということだ」

「......あー、ですね...もはや胸のバッジの灯り以外...何も見えませんし」

「そして万一電源を入れることができたとして、ここが遠からず発見されてしまうということだよ」


生憎とボクたちボットも一枚岩ではない、

藍子さんのように味方を必要としないどころか味方すら障害になる人もいることだし

翻って、プレイヤーの総数ももう片手で数えられるほどしかいないんだろうけど、一部脱落したにしては不自然な人物もいる


ボクは一向に好転しない事態を嘆くように目の上に手をかざし、ボクらの十倍以上背の高い天井を見上げる


そこに見えるのはまるで暗闇を細長く切り裂いたように覗く夜空


月光は見えど月は望めそうもない、もともとその月から逃げてきたようなものだけど

数分前までと違い派手派手しい破壊音もしない、コンクリの破片や鉄骨もとんでこない




897: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/18(日) 22:07:07.53ID:DmKI3qgD0

だからこそ

今までで一番理解(わか)らなかった


乃々(ボット)「ひゃうっ!?」

飛鳥(ボット)「.......ジーザス」



ボクらは何を見ている?

手品?

隕石?

世界の終焉?




「......おつきさまー...」


遊佐こずえ、正解

月が見える、満点の大夜空だ



天井はもう見えない




どうやら高森藍子さんが

土地ごと消し飛ばしてしまったらしい




「......んー?......あれー...さちこー?」

「そのようだ...」


その上に建っていた人と、ビルは残したまま



「まっままま、街が降ってきてるんですけどぉぉぉぉっ!!!???」


_____________

 森久保乃々+ 34/100


_____________
_____________

 二宮飛鳥+ 98/100


_____________
_____________

 遊佐こずえ+ 100/100


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ゲーム開始154分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

開始

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



900: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 22:55:26.88ID:Tj5D6oBp0







また、夢を見ていた





陥穽だらけのガラスの部屋の夢を



こずえ(ボット)「       」



音はない

目の前に空いた穴のそばにペタンと座り込んで

ぼんやりガラスの向こうに広がる風景を眺め下ろす

壊れた都市

割れた地面

疎らな街灯

慌てる人々

今はただでさえ歪んだ風景が輪をかけて歪んでいる



「      」



透き通っていたガラスは見る影もない

びっしりと亀裂に覆われていた



崩壊は近い




でも、



誰に何ができるんだろう



901:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/10/31(土) 22:57:08.88ID:Tj5D6oBp0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


手榴弾まで使って残りポイントが心許ないああもうどうしてこんなことに痛た無事か
小梅の能力むぅーりぃーしかし一体全体何だってんですかおい見ろ戦車だここももう
崩れるかもしれねぇ早く逃げないと一体どこに窓から出るかまるで塔だ排水管を伝っ
て下へへふわぁヤバいもうダメっぽいあれれ?ここどこぉ誰か怪我してねえかなるほ
ど自分を核とした空間をまるで粘菌のように動かして取り込んだ対象を除去している
のですかうおおおおお敵はどこだぁああああああああ!!!!このクローバーは四葉
早く脱出098osdするぞdgあっ!!アdsタシのゲーム直ったsdfgg!あの戦車をr5tthrd
動かして攻撃そのloiまえに;oボットの詳細をタブdfhdfレットはどdfgこですか急げ
5e22:24 2015/10/2167yまた次の攻撃がuy658e来るぞzzzzzzzz98uy0ws4ujhsjp;ka/gsu
09swe4046yi,u9olok0serfandfkjjfkdaauaweiofjojoioiojooioajoigkdvmz/.dd/z,./.:
]@;]:][;dc:@aew@;a[e:;d@;a][w@efr;fa@[[;wrfvv@l;s[erplgks@okjreolfmv:s;lerkg
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01010100101010101010110010101110110101

00 1 10 1 0 0 1 10 0 ___




痛いかい?

ボクは頭がガンガンするよ




902: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 22:58:51.68ID:Tj5D6oBp0



ザッピングされた情報が頭の中をのたくる



誰かと誰かと誰かの発した声が頭蓋の裏側をひどく引っ掻くんだ



加えて胸元の赤い光が視覚からも同じ場所をジクジクと突き刺す



「......CQ、CQ、こちら二宮......他の隊員の無事を確認されたし...」



ボクはちゃんと言葉を発せているだろうか、自分の声すら他人の雑音に塗りつぶされる



「*ちら森久****ずえさんは無事です...もりく**精神**クラッシュです...もうやめたいぃ...」


「このはこー.+++..じょ+*ぶー..+++」



なんとか頭の中の音と頭の外の音を聞き分ける

さぁ、そのまま対処し、対応し、適応するんだ


ボクはボット、時計の針より実直な傀儡

熱くも冷たくもならないレディオ__



「あの、飛鳥さん...?」



幸い、早いうちにチューニングのずれていた耳が精彩を取り戻した

ボットでありながら自身の能力を制御できないなんて笑い話にもならないからね


制御。今、乃々の能力が瓦礫を支えているように


「相変わらずだ、君の力は土壇場ほど強い...」

「褒められても......もう何もできませんよ...?」


地震や土砂崩れが起きたとき、生存者が瓦礫同士の小さな隙間から見つかるなんてことを聞くが、今がまさにその状況だろうか?


いや、ボクらは恵まれている方だね、別に地中深くに埋もれたわけじゃない

ちゃんと空も見える


どうやら乃々はこちらへ雪崩込んできた瓦礫を塞き止めてくれていたようだ

おかげでプレイヤーからこちらは見えない。あのタブレットさえなかったら、だけど





903: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 23:00:13.72ID:Tj5D6oBp0




「......しかしプレイヤーの方も中々どうして規格外じゃないか」



空に向かってそびえ立つビルの残骸を見上げる

随分とうずたかい山になってしまったものだ。

もしかしたら降ってきたのは街ではなかったのか?


「あれ、なんですかね...?」


相対的に高空から落ちてきた建造物の成れの果てとしては幾分不自然なモニュメント

不如意とはいえ会話を傍受していたボクにはそこまでの過程を見てきたように語ることができた


「どうやら高所からの落下で十分な速度がつく前にビルに着地したようだ」

「何言ってるんですか.....そんなのありえないでしょう...」


普段からなにかと眇められがちな乃々の目がさらに細まる

小梅や奈緒さん、そして紗南の能力を把握しているボクだからこそ組み立てられた推測だからね、それも仕方ない




奈緒さんの能力により出現した手榴弾


それを体内に取り込んだ小梅はすかさず他の三人を空中で確保する


対戦車砲で見せた時のように爆発に指向性を持たせ、推進力を得た


そして落下していくビルの一つに全員でしがみついた、あるいは小梅のボディをクッションにして着地した


あとは砕けたビルがわずかながらの緩衝材になってくれたんだろう


色々と無理のある危機の脱し方じゃないかな



「ふわぁ...」

「寝ている場合ではないよこずえ、いずれここも騒がしくなる」


藍子さんの能力範囲外に逃れた紗南のゲーム機が機能を取り戻したみたいだからね

そしてここには操作するにはうってつけの戦車が所狭しと並んでいるんだから


「乃々、こずえ...そろそろ耳を塞いだ方がいい」


さぁ、始まるよ



904: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 23:02:09.03ID:Tj5D6oBp0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅




________________

name:高森藍子

category:ボット

skill:
自分を中心とした周囲の回線速度を
落とす。効果範囲は仮想世界全体に
負荷をかけない程度に増加していく
________________





紗南「見えたっ!」


地面に斜めに墜落して、傾斜のついちゃった壁面をズルズルと滑りながら必死で愛機を掲げる

小梅ちゃんと奈緒さんの機転でビルにしがみつけたのはいいけど限界が来た


手榴弾という小さな破片しか飛ばせない。

だから小梅ちゃんは体を軽量化してさらに反作用を得るために触手の一部を吹き飛ばした

今は幸子ちゃんと奈緒さんが両側から抱えている


「よくやった小梅!!よーしよしよしよし!」

「流石小梅さんです!あとはボク達に任せてください!!」


といってもそのままアタシと一緒に滑り落ちていくだけ、なんとか速度が増す前に窓枠にでも捕まらないと!

このままじゃアタシのお尻も摩擦で限界だし!


奈緒「むんがぁっ!!!」


同じく尻餅をついたまま滑っていた奈緒さんが不安定な姿勢のまま地面、つまりビル壁に踵を落とした

流石にその程度で割れはしないはずなのに、ガラス面に蜘蛛の巣が広がり爆ぜた

ガラスともどもアタシたちもフロアに転がり込む



905: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 23:03:14.57ID:Tj5D6oBp0



幸子「なるほど...そういえばカラスのせいで何かと脆くなってましたね」


勿論ビル内の床だって盛大に傾いている。そこを柱にもたれて座るようにして転げないように耐えた

それにしてもまさか藍子さんがボットだったなんて

藍子さんはその場から動いていないのか、ゲーム機の角度を調整すると簡単に捕捉できた


奈緒「もしかして...これ、ラスボス藍子か?」

紗南「そりゃ、ここまで残ってるんだしね...」


まさしく、ラスト、だよね?


幸子「今度はこっちから攻勢に出ないといけませんね...」


アタシの手元を覗き込む奈緒さんに加え、アタシを挟んだ反対側からも幸子ちゃんがのぞき込んでくる

小梅ちゃんは幸子ちゃんの膝の上で休んでいる。お疲れ様小梅ちゃん

幸子「といっても今の所カワイイだけのボクにその手段はありませんが...」

今となっては幸子ちゃんだけが能力を持ってない。おそらくキーアイテムもこの動乱の中で壊れちゃったんだろう

あるものといえばスカートに挟んだちっさい拳銃くらい、でもそれならアタシや奈緒さんも持っている


紗南「大丈夫だよ幸子ちゃん、何事も適材適所!編成次第!役割理論!」

奈緒「最後は違う...」


何が出るかはお楽しみ

モードをサーチからコントロールへ切り替える

奈緒さんと小梅ちゃんだけにいいところは譲れない!

______________________
      MENU


→・戦車 
     アクセス可

 ・戦車
     アクセス可

 ・戦車
     アクセス可

▽ 1/5
______________________


あるじゃん

デカい砲弾《タマ》が!

さぁ、始まるよ!



ゲーム開始155分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中



906: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 23:05:12.50ID:Tj5D6oBp0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


私こと高森藍子の能力。その効果範囲はちょっと変わってるのかな...

まず、この世界の許容量を考慮してしか強化されないこと


そして次に、この能力は私を中心として回っているわけではない、ということ

仮想世界に存在する全てに重さを押し付ける空間...?...みたいなものは私が核であればそれで機能する



「私を中心点とした数メートル圏内」ではなく「私を含んだ数立方メートル内」が正解



だってそうじゃない歩くだけで地面が消えちゃってまっすぐ歩くことすらできないもんね

生物の授業でみた粘菌やアメーバの「偽足」と呼ばれる器官みたいなもの、かな?

彼らが核は動かさず体を細く細く伸ばして餌を取り込むように



私だって体積さえ一定ならこの空間をどこまでも細く小さく伸ばせる。さっきビルの根元だけを消し飛ばしたように

まぁ、あんまり遠くを狙うと先っぽの密度が小さくなっちゃうんだけど


打ち上げ花火が上がる。耳を突き刺す音が三つ四つ...鳴り止まない

そのまま月を撃ち抜くわけもなく正確に放物線を描きながら私に飛んできた

私に当たることもなくその小さな隕石の速度はゆるやかになっていく

それが戦車とかバズーカから発射される砲弾だと分かったのは完全に空中に止まってから


「......まだこんなものがあったなんて...」


向こう岸に伸ばしていた分を引き戻し、不可視の領域で砲弾を完全に包み込むとノイズと共にそれらは消えた

そのまま慎重に崖のふちに近づく、座り込んで恐る恐る覗き込んでも底はよく見えない

ただ、私が落とした建物のいくつかが斜めに立てかけて...建てかけて?あるのが辛うじて見えたから消しとこうっと

手をかざす、私の空間を操作する

建物は屋上の方から少しずつ、そしてあっけなく虚空に溶けていく

谷底が光ったのはそれと同時


「......ん?」


砲撃の第二波だった


時間差を置いて光っていった回数は全部で五回

五発の砲弾が私を狙って放たれたみたい


崖の底へ向けていた能力を上空に......いや、やめておこう


最低限身を守れる程度に空間を身に纏い、残った部分を細く鋭く長く研ぎ澄ます

その見えない切っ先で積み上がったビルを二つに割った。失敗しただるま落としのように建物は崩れていった


「さてと、できるかな」


立ち上がり、首を上へ向ける。そこにはゆっくりと私に近づいてくる五つの火薬塊

能力の密度を薄くしているから遅くなることはあっても消滅まではしない

だから、さわれる。



907: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 23:07:15.55ID:Tj5D6oBp0



背伸びして手を伸ばせば届く高さに最初に達した一発に指先を当てる


「よいしょっ、よいしょっ...」


よく見ると回転している鉛の砲弾に爪を引っ掛ける、弾頭はほんの少しだけ向きを変えた

私ではなく、谷底へ向くように。そのちょっとした作業を合計五回


「これでよしっ!」


一歩、二歩三歩...後ろに下がる。砲弾が私の能力範囲から外れるように


ゴォオッ!!!!

「きゃっ!!」


風が爆発したような音を立てて五発の砲弾が再出発したのが分かる

直後に今度は比喩ではない爆発音が崖中に響いた



私の空間では私以外の全てが致命的にゆるやかだ、

私からの干渉を妨げられない程に



「でも...何が起きてるか...暗くて見えない...」


音だけが私に状況を伝えてくれるけど、混ざりすぎてて何が何かわからない

支えをなくして倒れていくビル、埋もれる戦車...想像できるのはこの辺りかな


「...じ~~~......」

「......ダメか、見えない」


足を滑らさないように覗き込んでいた谷底から離れる


「やっちゃった...かな」


この場に見切りをつけて離れるべきか、とどまるべきか。判断材料は土塊に埋もれちゃった

よいしょ、と膝を伸ばして立ち上がる

月の光も届かない、倒壊音は止まない


「これ以上は...私じゃ何も出来ないかな...」


崖に背を向け歩き出す。次はどこに誰を探しに行けばいいんでしょう?


ほたるちゃんのカラスはみんな混乱したままいなくなっちゃ_____





足が沈んだ





908: ◆E.Qec4bXLs 2015/10/31(土) 23:08:04.78ID:Tj5D6oBp0



踏みしめていた地面がガクンと消失した感覚、ふわりと浮いた髪が目の前を斜めに漂う

そんな、嘘...私は地面には能力は使わないようにしてるのに___


「や、やっと...登れた ね?」


首をねじるように方向転換した視線の先。私の足元へ向けて地面を縦横に走る亀裂

傾いたビル、隆起した崖の縁、太い指、凹凸だらけの巨腕、瓦礫の体、ぽっかり浮いた白い肌


「よっしゃ!すまん小梅ぇ!もう一働き!」


巨人?ハリネズミ?怪獣?

何か大きな岩の生き物が崖の縁に手をついてこっちに身を乗り出して...?

ようやく尻餅をついた痛みがじんわりと染み入る

現状把握に専心していた電脳が、その正体を捉え始めた

あれは戦車だ

植物の根?やキャタピラでぐるぐる巻きにされた砲台の塊だ


「ファイヤです!!」


幸子ちゃんの声が聞こえ、光が拡散した

真昼のような風景に目を開けてられず

十発以上の攻撃的な花火が全て私に放たれたのが分からなかった



ゲーム開始157分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中



910: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:08:03.75ID:ZK1mscr50

チャプター
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅



藍子にとっては自分に出来ることを出来る程度に行使しただけに過ぎないんだろうが

ただそれが波及していく先が大惨事なのでは逃げる者にとってはたまったものじゃねえ



紗南「ロックオン!」


ゲーム機の画面がどうなっているのかは分からないが藍子をロックオンしたらしい

どん、と下腹部を持ち上げてくるような音が崖中に反響した

立て続けに撃ち上げられていく砲弾

アタシと幸子は見ているだけ。ただし、今辛うじて足場の体裁を保っているビルに何かあったら紗南と小梅を担いででも生き延びてやるつもりだ


「ファイヤー!!!」


攻勢の第一投、内臓ごと揺らすような重い音がここまで届いた

空気を切る音が遠ざかっていく


奈緒「..........」

紗南「..........」

幸子「......?...おかしいですね」


沈黙するアタシらの代わりに幸子が疑問符を浮かべた

そのあと続くはずの爆発音が聞こえない


幸子「紗南さん、本当に戦車を使ったんですよね?」


ガラス片を踏まないよう気をつけつつおそるおそる幸子が割れ窓に近づき、下方を覗く

だが、この暗闇で傾いたビルの中層からまともな風景が見下ろせるわけもなく、今度は視線を上へ向けた

ぶつぶつとボヤきながら窓枠をつかみ、身を乗り出す。そこで言葉は止んだ


奈緒「おい、どした?」


小梅に肩を貸したまま疑問の声を投げる。次いで訝しげに幸子の横顔を注視したとき、その様子に気づいた

幸子の口はパクパクと動いていた。黙っていたのではない、ただ呆気にとられ話す言葉をもたなかったのだ

雄弁な顔芸に紗南も異変の予兆を感じとったらしい、手元のキーを操作し戦車に次弾を装填する


「に、」

混乱しほつれていた思考が幸子の中で形を成す



「逃げましょう...!」



この現象を説明するには言葉と時間が足りなかった




911: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:09:59.52ID:ZK1mscr50


奈緒「逃げるって、どこに...上の方に何かあるのか」


幸子「ちっ、違います!!その”上”がないんですよ!!!」



「このビル現在進行形で消えてるんですから!!」



その叫び声に轟音が重なる。

「は?」

それはこの世界に起きた何度目の現象となるのか

もたれかかる支点を失ったビルがさらなる角度へと倒れ始めた



アタシたちの現在いるビルは藍子の対岸の崖に斜めに立てかかっていた、

それが倒れ始めている、幸子曰く支えとなっていた上階が消えていくことで

紗南「に、逃げっ!」

ゲーム機をポケットに押し込んだ紗南が階段の方を見る

奈緒「いや、逃げ場ねぇぞこれ...」

小梅「ぅえ...?」


肩を貸していた小梅を持ち替え、背負った。多分この方が逃げやすい

アタシたちがいた窓際とは反対側が崖壁と衝突し順々に押しつぶされていく

階段室もエレベーターも支柱も窓も、上から消滅し折れ曲がって消えていく


「というかっ、床がとんでもないことになってるんですよーーー!!」


小梅を背負ったアタシの手を紗南が掴む。紗南の肩を掴んだ幸子が手近な手摺にしがみついた

床の傾斜はどんどん酷くなる、このままでは反対側の窓から滑り落ちて戦車の硬い装甲の上へ放り出されちまう

それに多分こうしている間もビルは上から消えていっている。アタシたちの階が、あたしたちごと消えるのも秒読みだろう


「くそっ......幸子ォ!!」

「はいぃ!?」

「逆転の発想だ!!!」


言うが早いかアタシは床のカーペットを踏みしめた、急勾配だがまだ立てる!


そのまま小梅を背負ったまま駆け出した、途中で紗南も引っ張り立てる


「へ?え?ええっ!?こっちは割れた窓しかありませんけど!?」


どんどんとキツくなる傾斜に踵を打ち付けて登っていく紗南と幸子も遅れてついてきた

手はしっかりと握ったままだ

加蓮みたいに離れ離れになんて絶対しない


紗南「奈緒さんっ!!どうすんの!?飛び降りるの!?」


アタシたちの足音にガラスの砕ける音が混じった


「ちげぇ...よっ!!」



912: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:11:29.90ID:ZK1mscr50



大きく否定し、窓枠を踏んだ


狭くて暗かった視界が急拡大する


一瞬の浮遊感、でも落下の前兆だったそれはすぐに消えた


幸子「あっ」



アタシたちの足が新しい地面を踏む。ガラスでできた坂を




奈緒「駆け降りるんだよぉっ!!!」




床を滑り落ちるほどビルが傾けば、それは壁だった部分が坂になるのと同じだ

童話のシンデレラはガラスの靴で階段を駆けていったがアタシ達は逆。普通の靴でガラスの坂を全力疾走だ

ビルは崖にもたれかかっていた部分から消えながらどんどん倒れていく。これが完全に倒れきる前に地上に降りてどっかに隠れるんだ

カシャン、と軽い音を立てて紗南の踵がガラスを踏み割る


紗南「おわっ!?」


落下する前にその小さな肩を引っ張った、崩れたバランスを引き戻す


奈緒「急ぐのはいいが力みすぎるな!」


今のアタシ達は落とし穴の上をギリギリで走ってるようなもんだなんだからな!

幸子「奈緒さん!なんでしたらカワイイボクが小梅さんを預かりますよ!」

隣を危うげに走る幸子から声がかかる、よく見ると幸子はガラスの上ではなく細い窓枠を綱渡りのような足運びで走っていた。器用なやつだ


奈緒「いや、お前じゃ担げないだろ!身長一緒だし!」

幸子「うっ...しかしですね_」

奈緒「いいから前見て走れって!」

紗南「やっば!追いつかれる前に撃つよ!!!」

奈緒「いいけどっ!画面見ながら走るな!!」


注意を言い終わる前に向かう先の暗闇に小さな火が見えた。砲火だ

時間差を置いてまた五発


間違いなく藍子にも見えているだろう


「は?」


だって


「えっ」


こんな対応を返してきやがったんだから

幸子の呆けた表情が離れていく。いや、離れているのはアタシたちの方?

デカい切れ目を入れるように

ビルが中央で一直線に消失していた



913: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:12:54.10ID:ZK1mscr50


向こう岸とこちら側、幸子だけが取り残されたまま、分断されたビルが離れ離れに倒れていく

幸子「なんでボクは大抵こんな役回りなんですか!?」

奈緒「言ってる場合か!!」

たまらず立ち止まる、対岸は幸子を乗せたままぐんぐん遠ざかっていく。屋上の方から順次消えていくだけじゃなかったのかよ、おい!

奈緒「幸子!距離が開く前に飛び移って来い!!」

紗南「あ......奈緒さん」

奈緒「なんだ!?」

傾いていく地面、ゴリゴリ割れていくガラスに紛れて紗南の声が聞こえる

紗南「なんかその、ごめん...」

幸子に固定した視線、だがその言葉の意味を測りきれずつい紗南の方を向いた

視線の先、その紗南が申し訳なさげな表情で上を指差していた。上?

紗南「アタシの撃たせた砲弾...なんか、返って来た」

その言葉に遅れて空気を切る音が降ってくる

奈緒「ウッソだろおい...」

小梅「幸子、ちゃん...!」

アタシの背中で小さい体が跳ねた

体中からかき集められたなけなしの素材で無理に触手を練り上げる

奈緒「無茶だ小梅!幸子が飛び込んでくるのを待てって!」

小梅「で、でも...」

奈緒「このままじゃお前本体までなくなっちまう勢いだぞっ!」

さっきの落下のときに材料はほとんど吐き出していたのに!

って、そうだ!

「紗南!これキャッチしろ!」

小梅を背負ったまま変な姿勢で取り出したソレを放る

これで紗南のアイテムはゲーム機、タブレットに続いて三機目だな!

紗南「MP3プレイヤー?奈緒さんの?」

奈緒「そう!アタシがいろいろ取り寄せてたのはそれのおかっ.....!?」

喋ってる途中に着弾。一発はどこか遠くへ反れたが二発はアタシたちのビルの根元で爆発した

まだ二発、降ってくる。ああもう自分の能力を説明する時間なんかあるかぁっ!!

奈緒「ゴミでもいいから!なんか使えそうなもん出せ!」

紗南「えぇっ!?ちょ!」

奈緒「小梅も、紗南が出したモン取り込んで幸子救え!」

紗南「いやまだ操作法聞いてな」

小梅「.......えいっ」

言い終わるのを待ってなんていられない

アタシの頬を掠めながら紗南に向かって細枝のような蔓が突っ切る

そして着弾、足場となっていたビルのガラスが一斉に吹き飛び

アタシたちの視界は爆風の中で攪拌された

紗南の指が我武者羅に画面を走るのと

ビルが吹っ飛ぶのと


どっちが早かったんだ?




914: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:14:05.06ID:ZK1mscr50


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幸子「ぷわっ!?」


景色がシャッフルされて

突風に足払いをくらって

周りの風景を把握できない今、


落ちているのか飛ばされているのかもわかりません


ただ一つ分かるのは、奈緒さん達から離されているということだけ


「わっわっわっ...」


ビル壁に掴まれる物はもうありません、あった筈ですが今頃ボクと一緒に吹き飛ばされています



「って、それ危険なんじゃぁああああああ!!!?」



回転する視界が星を撒いたように禍々しく煌めいて

それが月光を照り返す幾千のガラスのナイフだと気づきました

着弾の爆音で耳が麻痺したからでしょうか?音が聞こえません

無音の世界の中でボクはもがいて、もがいて

ものすごい速度で暗闇から飛び出てきた



奈緒さんの二の腕がお腹にめり込みました


幸子「ぼふっ!?」


奈緒「幸子、確保ォオオオオ!!」


そのまま奈緒さんの腕に抱えられてかっ攫われていくボク

というか奈緒さんの速度がボクを抱えても全く低下する気配がないんですけどこの人こんなに力持ちでしたか?

不安定な姿勢で抱えられている内に遠くから喧騒が近づいてくる感覚と共に耳が治ってきました

ォォォオオオオオオオオオンンンンン!!!

代わりに耳朶に入り込んできたのはけたたましいエンジン音でした


幸子「でもまた耳が潰れそうです...」

奈緒「はぁ!?もっと大きい声で!!」

紗南「GOGO小梅ちゃん!!」

小梅「さすがに..ふ、不安定...」


よく見ると奈緒さんの反対側の腕には紗南さん、背中には小梅さんがいます

しかしボクら三人を担いでこの速さでビル壁...床を走れるはずもなく

その秘密は例に漏れず小梅さんにありました

___________

ジャンク   -50MC 


  残2380MC
___________



915: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:15:11.97ID:ZK1mscr50



幸子「なんですかこれ...」

小梅「ふふ...武器人間...みたい?」


ォォォオオオオオオオオオオオンンンン!!


小梅さんの足が回転しています

正鵠を射た言い方をするなら回転しているのはタイヤです


紗南「フュージョンだねフュージョン!!」


小梅さんの体から伸びたあれやこれの管がつながったタイヤ、その他諸々

バラバラに解体されてどう見ても廃棄品(ジャンク)のバイク



それら二つが合体して稼働していました



なんかどんどん人間離れしてません?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



916: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:16:47.69ID:ZK1mscr50



バイク


それも廃車同然のソレにアタシは心当たりはあった

加蓮の奴が言っていたヤツだ。暴走バイクを相手取った、と

一体どういう状況でバイクと戦うことになったのかは聞いてなかったが、その後アタシたちと合流できたということはつまりどうにかして逃げられたか、勝ったわけだ

最初聞いた時は半信半疑だった。その後の加蓮の人が変わったような頼もしさを見るとあいつはバイク相手にマジで勝ったのかもしれないと思ったな


だから今、小梅の足になっているのがその証拠物件になるんだな


バイク...拓海さんか、夏樹さんか里奈の誰かのものだろう加蓮は誰のだったか言ってたっけ?覚えてない


紗南「というかガソリンなしでタイヤだけで動かせるの...?」

小梅「うん...なんでだろ?...体にくっついてる、部分...は、自由に動かせるみたい?」

奈緒「じゃあなんでエンジン音鳴ってんだよ......」


ごついタイヤがガラスを踏み割っていくせいで乗り心地は割と最悪だが、

今の所難は逃れたはず。どうも藍子はその能力のせいか基本受身っぽいとこもあるしな


紗南「すごいよここ......戦車ばっかりだ...」

奈緒「さっきからずっとゲーム機いじってんな...」

幸子「というかタブレットはどこいったんですか?」


前と後ろから生えたタイヤに、車体?小梅の体を支えて安定させる太い蔓

で、他の蔓にまたがったりしがみついてる形だが、小梅に頼るの何度目だよ

不意に激しい揺れが納まる、砂利道から舗装された道へ踏み出した時みたいに

暗がりをただビルに沿って真っ直ぐに進んできたがどうやら地面に到着したらしい、傾斜の感じもなくなった

ようやく小梅が速度を落とした、エンジン音が止む。よく考えたらこの音かなり目立つんじゃ...?

小梅「どうする...とまる...?」

奈緒「ああ、そうだな...次はどっから昇るかって話になるんだが...」


紗南「ふふふ...その心配はないよ」


得意げな声で得意げに紗南の手元でゲーム機がくるりとこちらを向いた

そういやさっきも途中からずっとゲーム機いじってたな

紗南「前照灯ライトアップ!」

カチャッと音を立てて紗南の指が走ると目の前が白くなった。前照灯、確か戦車についてるライトみたいなものだったか?

それがアタシたちに向かって光をぶちまけた

奈緒「うおっ!まぶしっ!!!」

小梅「と、溶ける...」

ライトアップされた方向に対して小梅が影になっていた幸子だけがうまいこと目を守れたらしい

目の眩んでいたアタシたちに紗南の自身の元をなんとか言葉にしてくれたみたいだ

幸子「戦車の...階段?」

十秒ほど経ってようやく目が慣れてきた

なるほど幸子の言うとおりだ

キャタピラをギシギシ言わせながら戦車が戦車に乗り上げ、その上にさらに戦車が乗り上げ、段々違いに積み重なっていた

小梅「これなら...登れそう.....!」



917: ◆E.Qec4bXLs 2015/11/23(月) 00:18:34.75ID:ZK1mscr50

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


飛鳥(ボット)「行ってしまったね......ボクらには気づきそうなものだけど」


二つに割れたビルが消えかけのまま横たわる

落石にも注意だが、落ちてきた後も崩落のことを考えれば油断はできない


乃々(ボット)「これだけ暗いですし...胸元のバッジは隠してましたし...」


あとさっきから眠ったり起きたりを繰り返すこずえも乃々の箱の中に寝かせておいたしね

「こずえさんはどうして先程から眠り通しなんでしょうか...?ボットなのに変です.....」

乃々の目が静かな立方体を睨める。こっちの苦労も知らずに、とでも言いたげだ

「眠りというのは脳の情報を整理するために行われるそうだよ。もしかしたらボットも同じなのかもしれない」


「......はぁ、でも能力もないのにどんな情報を処理するって言うんですか?」

「それはこずえのみぞ知る....だね。きっと彼女には彼女の世界があるんだよ...そこはきっと広大で膨大なものなのさ」


コロン、と音がして


暗闇の向こうから一抱えほどの箱が転がり出てきた

それは一定の速度で瓦礫の上を躓くことなく進んでくる


「あれは乃々のだね。お使い帰りかい?」

「自動操縦ですけど...多分何か拾ってきたんでしょう...」


さらっと放たれた一言だけれど、乃々の能力は随分多機能なんだね

言葉を投げ合う間に件の箱はボクらの間に到着した


ガシャン

その中身がぶちまけられる



出てきたのは小さな拳銃と、弾が数発と___



「おや......こんな所で」

「今更渡されても困るんですけど......」




...こずえの世界はともかく、この仮想の世界の神はボク達にまだまだ戦いを命じるらしい



「...タブレットだね」

”さっさとプレイヤーを追いかけろ”ってことかな?




ゲーム開始158分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



919: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:14:11.75ID:yto3HjDV0


___________

ライフル   -1000MC


  残1380MC
___________



船の百倍の威力で揺れる小梅の体

戦車を丸めて固めた巨大な何かが疾駆する

どこからどこまでが小梅なのかを理解するものはいない

その体のあちこちから飛び出た砲塔に掴まっている三つの影がいた

奈緒「見たか......?」

紗南「最初の一撃は効いてた、といってもヨロけただけだけど...」


まるでどこぞの邪神のように足元から這い寄って不意を突く

やったことはそれだけ。だが我武者羅に特攻をかました訳ではなかった

藍子の狙いがビルに向いている内に、彼女の立っていた崖の麓に潜り込んだ

そしてそれは失敗した

後ろからの狙撃も、前からの砲撃の雨も霞と消えた

藍子に着弾する前に緩やかに動きを止め、そのまま消えた


だが、そこまでの行動の中で彼女の能力の死角を見出した

幸子「確かに考えてみれば当たり前でした。自分で自分の足元を危なくする訳ありませんもんね」

藍子の能力の弱点とも言えない程の、強いて言うなら構造的欠陥

自分の真下、足の裏より向こうを消失させられないこと

速度の低下ならまだしも、自分の落とし穴を自分で掘るなど余程の状況でなければ選択しようもない

紗南「ってことは地雷があれば藍子さん倒せるのかー。で、奈緒さん?」

奈緒「手榴弾しかないなー、瓦礫の下にでも埋めるか?いや、消されちまうな間違いなく」

万能に見えた能力に見えた思わぬ穴、だがそれを突くには手も時間も足りない

幸子「落とし穴はどうです?そこにあるものを消す事は出来ても、無いものなら消せないでしょう?」

奈緒「ふーむ、確かにそれが考えうる限りの有効打なんだが...」

紗南「道具は奈緒さんにお取り寄せしてもらえばいいとは思うんだけど...掘ってる時間がないよね」

時間

何よりも甚大なのは時間についての問題だった

歪な巨躯を懸命に駆けさせる小梅の右側の地面が消滅した

ドームサイズのスプーンで掬ったように滑らかな轍が遥か後方から伸びている

幸子「ひいっ!?来ましたよ!藍子さん!!」

奈緒「落ち着け、藍子のやつどうやらこっちが見えないままに狙ってきやがったな」

高森藍子という少女の形をしたボット自体はあまり俊敏な方ではない、広範な能力で補っていても視界が聞かなければ意味はない

いくら月夜でもここまで離れれば捕捉はされない

紗南「小梅ちゃんの攻撃に気を取られている隙に早めに”にげる”を選んでよかったね」

ボゴンッ!!!

たった今通った道に前触れなくクレーターが出現する

数秒出遅れれば消えていたのは地盤ではなく自分だった

紗南「うわーぉ......ヒヤリハット、神業だね」



920: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:15:43.55ID:yto3HjDV0


内心で冷や汗を噴出させながら背後をみやる


見えるのはクレーターと月と暗闇


半壊したビルの間をどこまでも奥まっていく闇の向こう

そこにいる見えない敵が見えない力で自分たちを脅かしている

それはいつになれば終わるか、どこまで逃げれば終わるか分からないのだ

例えばそれは

一寸先から一秒後にやってきても不思議ではない


ガクンッ


幸子「ぶわっ!?」

だしぬけに小梅の逃走が停止した

今までの不安定ながら継続されてきた駆動が夢だったかのように微塵も前に進まない

紗南「なに!?どしたの小梅ちゃん!?」



少女たちの逃走はここで終わる



奈緒「は...?」

小梅「なにこれ、お、押し返せない...!」



薄い青に染められた四角い飛行物体


森久保乃々の手足の延長


おびただしい数のパネルが紙吹雪さながら小梅の巨身に貼り付いていた





921: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:16:32.87ID:yto3HjDV0


幸子「小梅さん!このパネルみたいなのは取り込めないんですか!?」

小梅「うん、やってみたけど...べ、別のチカラで、動かされてる...」

じりじりと巨体が後退する。質量の暴力である小梅に対し物量の暴力が攻め立てる

奈緒「くそっ、やばいって!敵は藍子の他にも残ってたのかよ!!」

紗南「上には逃げられないの!?」

軋みを上げてずり下がっていく戦車の塊の異形から身を乗り出し、上空を見上げる

その目の先を見えない何かが掠める。紗南には何も見えなかったし誰にもそれは見えないだろう

だが、その直後視界にあったビル群の上半分が消滅したのだけは分かった

紗南「あぶなっ!?」

終わりは近い。今はまだ距離が空いているため藍子は能力の空間を細く伸ばすしかない

だが目の届く範囲まで近づいてしまえばもうそのような「絞り」はいらなくなる

ただ押し潰すだけ

幸子「そもそもこれはいったい誰の、にゃっ?!」

奈緒「うおゎっ!?」

ガクンと高度が下がり、幸子が舌を噛んだ

傾いた視界の中、さっきの深すぎるクレーターに踵が半ば落ちていた

重心が狂えばそのまま深く落ちていくのだろう

奈緒「...どうしろってんだ!前には進めねえ後ろは落とし穴!.....耐えようにも時間稼ぎは藍子を近づけるだけ!」

低い悲鳴が聞こえる。小梅と一体化した戦車が無理な荷重に擦れ合う音だ

奈緒「.....................?...」

耳の奥を針金で摩耗させていくような音の中

彼女の頭の中を、画策と機会との符合がひっかいた

奈緒「..........待てよ?」

その言葉は小さく空いた口の中で転がるだけ


紗南「小梅ちゃん!脱出するからなんか架け橋作って!」

小梅「わ、わかった...」


どう見ても機械質の体からつたが這い出ると手近な窓枠や非常階段に絡みついていく

最初に紗南がその中の一本を伝って脱出する

次に幸子が小梅に肩を貸しながら蔦の一本に掴まった

引き剥がされた小梅の体から一本だけ伸びた蔓が神経となって最後まで戦車の体に指令を下している

幸子「奈緒さんも行きますよ!もうココにはいられません!」

届いた声も染み入らず、奈緒の頭にあったのは一本の線

これまで散々振りまかれた大小の点を結んだ曲がりくねった一本の解



奈緒「小梅......多分、最後の一働き、してくれるか」




ゲーム開始163分経過

森久保乃々(ボット)&二宮飛鳥(ボット)&遊佐こずえ(ボット)
VS
神谷奈緒&三好紗南&輿水幸子&白坂小梅
VS
高森藍子(ボット)

継続中



922: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:17:43.05ID:yto3HjDV0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふむふむ......」

「なにがフムなんですか......?」

飛鳥が指で側頭部をぐりぐりと捏ねる

ラジオのチューニングをするようにゆっくりと、しかし小刻みに

「この先にいる四人が最後の一手を打つらしい」

「......さいごー......?おわるのー?」

「流石アイドル、流石シンデレラの卵。挫折や苦境に置かれるほど輝きを増すね」

「もりくぼに労働を強いたんですから...説明くらい欲しいんですけど...」

そう愚痴ると眼下を過ぎ行く藍子の後ろ姿を胡乱に見やる

二宮飛鳥、森久保乃々、遊佐こずえ

地下アイドルとは別の意味合いで地下に潜っていた三人は今、空にいた

浮いたパネルに乗って。乃々の能力のさらなる応用である

「説明なら彼女ら自身がしているさ。そしてどんな小さな囁きもボクのチカラならその内容も筒抜けさ」

「私たちにしろって言ってるんですけど......何も知らないもりくぼをタダ働きさせる積もりですか」

「ののー......ふきげんー...?」

宙を浮く箱に腰掛け優雅に足を組む。隣からジトりとした視線が向けられても飛鳥の姿勢は変わらない

「藍子さんがボクらの言葉に耳を貸すことはない以上、知ったところで無意味さ。時計の針は止まらないボクらは針の潤滑油さ」

「......このまま足止めして、藍子さんが残りの四人を倒して万々歳、もりくぼはもうそれでいいですよ...」

変わらず要領を得ない飛鳥にそっぽを向く、そこでこずえと目が合った

「ののー?」

「い、いえ何もないですはい...たまたまそっち見ただけで」

「乃々」

ガチャンと音を立てて飛鳥の手の中で黒い銃が目を覚ます

藍子の背中がその音に気づいた様子はない

「その答えは50点だ。そのままだとプレイヤーたちを屠った藍子さんが君たちを襲うだろう?」

「えぇえ...プレイヤーはこれで全滅でゲームセットじゃないんですか...?」

「なにごとも可能性は考慮しないとね。ボクに何かあったらこずえは君が守るんだよ?」

「何かってなんですか何かって...プレイヤーに特攻するんですか?」

「発想が突飛だよ......ただそうだね...」

撃鉄を弄びながら足を畳み、膝の上に顎を置いた

その耳が何を聞き、その脳裏が何に思いを巡らせているのか知る者は本人を除いて他にいない

空いた手がこずえの髪へ伸び、くしゃりと撫でた

「君たちの可能性に賭けるのも悪くないと思ったのさ」

「...もりくぼに期待しないで欲しいんですけど......こずえさんに任せます」

「............そうだね。きっとこの子は大きな可能性を秘めている」

「んんー?かのー......せー...?」

「ここまで生き伸びたんだ。そうでなければつまらないだろう?」


ラジオのノイズが止まらない


引き金に指をかけ、心を決める


心なんて、ないけども



923: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:18:41.47ID:yto3HjDV0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ひゅるひゅると遠くから音が近づいてきました

しかしそれも、ひゅぅるひゅうぅる、とゆっくり間延びしていくと

「......」

私の目でも追えるくらい速度になって、そのまま消えていきました

さっきからこうして離れたところかた撃たれてはいるのですが、効きません

ちょっと脅かすつもりで周りに拡散していた”空間”を縮めて丸めて、

「ぐいーーーっ!...と」

手足がどこまでも曖昧に伸びていく、自分の纏う見えない何かを操作する。それだけで月を背景にしていた遠くのビルのシルエットが一つ、消えました

ひゅるひゅると、またミサイルみたいな何かが飛んできました。今度は二発?

いえ、音が重なり合ってよく分かりませんがもっとですかね

「.........ちょっと、いやになってきたかも」

上腕をそらして振りかぶって斜め上へ、


で、振り払う


手の軌道、その延長にあったものが何もかも消えて、夜景を素通りさせました

そして根元の消滅した建物群がだるま落としよろしく、あとは私の手を借りずとも崩壊していきます


「ん、よく見える」


あの、全身デコボコのおおきな人形もよく見えます

「意外と近かったんだ.....もっと遠くに逃げられたものと思ったけ___」


どっ


「.........ふぅ」

そうやって手を振り下ろせばもう見えなくなりました

これでおしまい、のはずですが...

残骸すらない跡地ヘ足を運ぶと、やはりなにもありません。あちこちの隆起した地面だけだったけど

「.........?」

パリッ、耳の中に音が転がりました

うっかり聞き逃しそうな小さな空気のゆらぎ、どこか遠くからの音

上を向いた視界の隅に点滅

「残った人?」

まだあんなに遠くに?手を伸ばしても”空間”伸ばしても届かない距離に?

書割のような茫洋な背景に白い点


「......あやしい」

いくらなんでも、今の私でもすぐには届かない位置にまで一瞬では移動できません

だからここは......

伸ばしていた空間を自分に纏う、お饅頭をこねるように丸く、足元は薄めに

そして台風のように回転させながら拡散

そのまま道路沿いのビルを全て消し飛ばしました

開ける視界、閑散とする周囲、きょろきょろと索敵すると___

「......見つけました、なるほど。遠くと見せかけてちょっと近くにいたんですね」



924: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:19:54.65ID:yto3HjDV0


向かって右手のビル、

を消し飛ばしたもう一棟向こう、

の壁を削り落とした先のフロア



こっそりしていたようですし、今のぎりぎりで届かない場所まで下がってたようですが__

薄く広く伸ばした”空間”をぎゅっと縮めて、

一つの方向に伸ばす

誰にも防げない、跳ね返せない。なぜならそこにはなんにも無いから



奈緒「___!」

小梅「......__...」



一瞬、四人分いた人影のうちの二つが何かしたのが見えて



私の空間はその彼女たちに向けて限界まで伸びきりました




なのに、



届きませんでした


四人の影が離れていきます


そして私も、また、離れて



「__あっ」



踵がおぼつかなくなり、足元をみると。そこには何もなかった



暗い暗い、底知れない”空間”がずっと奥まで



私、落ちてる






925: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:21:25.51ID:yto3HjDV0






奈緒「っしゃあああああ!!」






今回の立役者、小梅を思いっきり抱きしめる

小梅「....あぅっ」


さっき藍子が開けた大穴、クレーターを戦車の塊で一時的に塞ぎ!


紗南のコントロールモードで藍子の視線を足元から逸している間にその罠を作動させた!


全フロアの東方向が半分消し飛んだ部屋で歓喜の声を上げる


幸子「ギリッギリじゃないですか...下手したらボクら消えてましたよ...」

奈緒「しっかたねえだろ!できる限り藍子の能力をこっちに引き寄せとかねえと、落とし穴の作動が遅くなっちまうとこだったんだから」


ゲーム機の説明は漠然としていたがあんだけ喰らい損なえばその概要は掴める


かといってもし藍子が気まぐれで周囲のビルを一斉に消すんじゃなく一棟一棟順番に消すやり方で来てたら危なかった

範囲を狭める代わりに全方位に向けての放射だったからこそのギリギリセーフだ


今頃自分であけた大穴の奥の奥、地の底まで落ち続けているであろう藍子を想像する

あいつは自分には能力を使えない。だから普通の重力加速度と普通の力積のおびて普通に墜落する


紗南「藍子さんからしたら余裕で射程圏内だったろうけど、だからこそ足元がお留守だったね!」

奈緒「だな!」


そこで天井にヒビが入った。文字通り半壊したビルが自壊しかかってるみたいだ

さっさと早く離れないとな。ようやっと小梅を下ろす。しっかし、なんつー軽さだ



926: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:22:54.23ID:yto3HjDV0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幸子「紆余曲折ありましたけど案外これでカワイイボクらのゲームクリアじゃないですか?」

紗南「だとしたらファンファーレの一つでも鳴ってほしいけどね」

小梅「ふぅ、つ、疲れた......」


奈緒は背後に小さい子らの声が遠ざかっていくのを聞きながら外を見た


ビル街の道路の真ん中にポッカリと空いた大穴


その穴の縁にはかつて戦車だったものの破片がこびりついている


すこしでも藍子よりも先に落下していくものがあれば、藍子はその落下速度を緩やかにして足場にしていただろう


彼女ら四人が藍子の力の使い方をそこまで予測していたかは不明だが、とにかく上手くいった


高森藍子はもう助からない

それは落下中の彼女自身も理解していた

せめて一矢報いようと最期の一手を打とうとも

自身の持つポテンシャルを最大限活用し、”空間”を細く細く

針のように、毛細血管のように細め、細長く伸ばそうと

自身が重力に引かれ離れていくのでは届きようがない




















飛鳥(ボット)「いやいや」


「これは驚いた。随分あっさり油断するじゃないか」


「でも、大事なことを忘れてはいけない」


「彼女のもたらす音無き破壊の真骨頂はそこではないだろう?」


「誰かを消滅させる程にその勢いを増す。破壊の輪廻こそが___」



「__まぁ、言葉はここでおしまいにしておこう」


「語るのも、そして聞くのも」


「見ていてくれ乃々」


「ボクは



927: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:24:59.93ID:yto3HjDV0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


右のこめかみに冷たく、硬い、小さな痛み



絞ろうとする人差し指がひどく重く、遅い



滅多に見開かれることのない乃々の、見開かれた瞳を見た



撃鉄の起きる音、引き金が絞られる音、弾丸が機構の内でせり上がる音すら聞こえそうだ



雑音のひどかったこれまでの世界に



ボクにとって世界一大きな銃声が聞こえた気がした



もちろん、聞こえるはずなどないのだけれど



少なくともその弾丸で自分の頭をフッ飛ばしたボクには



ああぁ、乃々、そしてこずえ



そんな目ではボクを見ないでおくれ



ボットか


プレイヤーか



誰かに負けることを想定して作られたボクの、






これが唯一無二のセカイへの抵抗なんだ



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



928: ◆E.Qec4bXLs 2015/12/13(日) 23:26:46.15ID:yto3HjDV0



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




最後の最期




自身の消失の未来を察した藍子は精一杯能力を活用した


彼女らの場所は落ちる前に確認していた



だから問題はそこに届かせることができるかどうか


そのままでは無理だった


細く細く伸ばしていっても間に合わない




だが、それは

誰か他のボットが消失しなければの話だ




結果として二宮飛鳥は自身の消失を自身の意思で選択し



藍子の一矢は届き得た




四人全員を屠るほどの体積はなかったが、問題はない



彼女たちはユニットを組んでいたのだから









ゲーム開始164分経過

二宮飛鳥(ボット) 消失

高森藍子(ボット) 消失

輿水幸子   0/200

白坂小梅   0/200


勝者:不明


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



933: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 10:58:24.14ID:pAJmyIhe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

___ゲーム開始171分経過時点



誰も知らない



仮想世界の片隅に巣食った瑕疵を


白坂小梅の傍にいた何者かが残した影響を


生ける命でないものを取り込んだ弊害を




誰も知らない




高森藍子の能力が最後に、わずかに世界の均衡を破ったことを


彼女の力本来の性質ならば起き得なかった事故が起きたことを


制御されたままの世界なら問題はなかった。だがそこには瑕疵があった


それに気づかないまま、限界近い出力を放ってしまったことを




誰かが知る



高森藍子の能力の限界値を僅かに引き上げた二宮飛鳥の行動の行く先を


彼女が撃ち抜いたのは自身のこめかみに留まらなかったことを



自分を砕き、力の上限を緩め、世界の制御機構を小さな瑕疵から破壊する

千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ

そんな連鎖反応の結末を




ゲーム開00111000010101010101始11111000164




934: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:01:19.54ID:pAJmyIhe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
池袋晶葉&一ノ瀬志希



『CHIHIROに1件のエラーが検出されました』



晶葉「......む?」


ゲームも終盤、ゲームオーバーしたアイドルたちを一足先に現実に回帰させるための準備を、と思った矢先の報せだった

別段エラー自体が予想外というわけではない。

完全に手放しで制御できるものなどないからこそ私と志希がここにいるのだ


志希「どったの?エラーって...」


その志希が後ろから画面を覗き込む。どうでもいいが私の肩に顎を乗せるな


晶葉「大概のケースでは自己修復できるようにしているんだがな。容量に空きがないときは外部から手を貸したほうが早いんだ」


そこまで言ったところで私の耳をくすぐるように志希の癖っ毛がざわめいで、不意を打たれて肩が跳ねた


晶葉「ふわっ!?その姿勢で頭を動かすなっ!」

志希「あのさー......なんかおかしくない?」


慌てて首を振ると特徴的な猫目と間近にかち合う

肩に頭を乗せられると想像以上に距離が縮まるらしい


晶葉「.....おかしい...?......あぁ、そういえば」


志希に言われ、思い返す。さっきまで志希がチェックに回っていたのは何処だった?

「容量が不足するわけがない」

志希が乗せている肩とは反対を向いて振り返る

そこにいるのはよく見知ったアイドルたち18名が無骨な鉄の卵の中で眠る光景

そのなかで特に注目すべきは5名


晶葉「緒方智絵里、神谷奈緒、北条加蓮、十時愛梨、三好紗南」

「今、生き残っているのはこれだけだ...他の物はリタイヤし、そのデータは一時的に別の場所に留め置かれている」


志希「別の場所?.........あー、『アレ』かー」

ようやく頭を持ち上げた志希の中に疑問が生じたがすぐに心当たりに行き着いたようだ

ゲームも終盤、リタイヤしたアイドルは13名

彼女らの意識は今深い眠りの中にある。

仮想の中の過剰な現実で受けたショックを癒し、トラウマの芽を摘むためだ

夢を夢で終わらせる、「さっきまでのは全て作り物だった」とちゃんと自覚させるためのセルフアフターケアのための時間だ


志希「じゃーおかしーよねー。いっちばん容量食う生きた人格データがこんだけ外れてるのに容量不足なんてさー」

晶葉「...だな、早急に対処しよう」




935: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:03:09.49ID:pAJmyIhe0



頭を切り替える、これは少しばかり異質な事態だと理解する


prrrrrrrrrrrrrrr


と、回り始めた思索に歯止めを掛けるように出し抜けに電子音が鳴った


晶葉「...なんだ、これから忙しくなるって時に...」


着慣れた白衣を漁ると見慣れた携帯電話が顔を出す。だが、


志希「...あり?晶葉ちゃん......アタシの耳が正しければさ___」


手の中の機械は行儀よく沈黙を守ったままだ


そうだ、数十分前に妙な電話がかかってきたから電源を切ったんだ


志希「___鳴ってるのソレじゃなくて...」


prrrrrrrrrnnrrrrrrnnrrrrrnnnnnn


電子音は鳴り止まない、ただ少しずつ音が変わっている?

耳をつつくような高い音から柔らかさを帯びた有機的、生物的な音に


志希「このコンピューターじゃない?」


nininyniyniniyninynynyiininiiiiiiiiinn


手元から目の前の大画面に視線を戻す


晶葉「なんでこんなものが......ここは外部から遮断されているんだぞ...」


__________________

to:Virtual Reality City System

from:tfPnvsoE/ifevvszerRs490o

sb:
__________________


それはメールの受信画面

だが、このコンピューターにインターネットなど繋がっていないぞ?

仮想現実を管理するので手一杯なんだし、それ専用なんだから

いや、だがこの無茶苦茶なアドレスには見覚えが......

そうだ、確かこれは佐城雪美のボットの___




原形を失くした電子音が最後に一つ鳴いた

猫のように



仮想空間稼働180分経過

ERROR

サーバとの通信処理でエラーが発生しました。アクセスできません



936: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:04:54.30ID:pAJmyIhe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南


___ゲーム開始179分経過時点




デスビームか!?



さっきまであたしらが隠れていた建物を見上げてそんな感想を抱いた


隣を歩いていた小梅が悲鳴もなく消え、一足遅れて幸子の驚愕した顔が霞のように失せた



そして目の前の建物は斜めに切断されていた


目算、四階の東から三階の西へとばっさり。

確かネットでみた真剣居合切りの動画じゃ藁束があんな風に斬られてたな


紗南「藍子さん以外に誰かいた......って考えるのは不自然だけど」

奈緒「結局、藍子の能力ってどういう仕組みだったんだよ...」


ゲーム機に表示されていたテキストで大枠は掴んだつもりだったが、最後に一矢報いられた

追撃は今のところない。小梅はしっかり仕事をしてくれたみたいだ


まさか最期の仕事になるとは...


あたしだってもうこれで終わりにしたい、なんだかもう色々出しすぎた

体は疲れた気はしないが、頭の中を雑巾絞りされたみてぇだ

近くのコンクリブロックに腰を落とす、紗南は隣でとっくの昔にへたり込んでいた


「ふぅー......」


「......はぁー...」


「あのさー奈緒さん...」


「...なんだ?」


「武器、どれくらい残ってる...?」


「あー...っと、...幸子が持ってたやつ回収してないし、大分減ったなぁ」


「そっか......でも、藍子さん倒したポイントで、また買い直せるよね.....」


「あー、そうだな.........なに買お」




937: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:06:42.22ID:pAJmyIhe0



というか、何買えばあの一癖も二癖もある連中に勝てるんだよ



ここに来てからの雑多な戦いを思い出す


メイド服着たあたし、赤い羽根を生やした音葉さん


どういう訳か共闘して、そのあと激闘した巴


何故か地属性みたいな能力だったのあさん、それとにゃん・にゃん・にゃん


いきなり飛んできたカラスの群れ、そしてチート能力者、藍子


「.........正攻法の通じそうな奴が一人もいねえ...」


思わず目元を覆って天を仰ぐ、どうやってここまで切り抜けてこられたの全くわからん


紗南「.....ん?」

奈緒「まーた、これか...」

ほとんど地べたに座っているからか、小さな地響きを肌で感じた

「まーた、どっかでドンパチやってんだろーな」

「もしかしたら加蓮さんかも?」

「だといいが、大分遠いな......」


伝わってくる震動の大きさに比べて、それらしき爆破音も破壊音も聞こえてこないことからそう判断する


それにしても、じゃあ一体今度は何が起きてんだ?


奈緒「紗南ー」

紗南「もう調べてるよー」


隣からカチカチとボタンを繰る音。


あー、現実に帰ったら積みゲー消化しないとな


奈緒「......ははっ」

紗南「?」


ゲームの世界に来てまでゲーム機に執心な紗南と自分に苦笑する


ズゥゥゥゥウウウン


震動はかなり大きくなって、もう地鳴りとか地響きといってもいいと思う







紗南「奈緒さん......これ見て」

奈緒「あぁ?.......ほう、この子もボット役なのか...何考えてんだ晶葉」

紗南「それもそうなんだけど...」




938: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:08:41.39ID:pAJmyIhe0


________________

name:遊佐こずえ

category:ボット

skill:
周囲に存在すクトは耐久力が自壊す
るバイクを運転しているプの的ゼロ
になると効果として遠距離攻間プレ
イヤー以外の物理ェ接触を無効よう
に遠方を詳細に視認可能。副次化す
る自立行動しなる的隔でゼロに近づ
け続ける。オブジボットプレイヤー
オブジェクトの防する。ダメージは
自身にしか反映されない
自分を中心とした度に増加していく
メガネを通し部に御力及び耐久力を
一定の時間間い物体と自身命中精度
が飛を溶け合わせ自分の一い程周囲
の回線速度を 落とす。効果範囲は
仮想世界全体に 負荷をかけなてス
コー撃の躍的に上昇する
________________



奈緒「...能力んとこ、バグってんじゃねえか」

紗南「そーじゃなくてさ!ほら気づかない?」

ぶんぶんと本体を掴んで上下に振る、いいのかそんなことして


奈緒「あぁ?」


あたしに分かるのはこうしている今も、画面に表示されてるこずえのステータスがバグって

「だーかーらーっ」

ぐいっと画面を突きつけられる、鮮やかな画面の文字が細かいところまでよく見える



紗南「なんでゲーム機をあっちこっちに向けてるのに、こずえちゃんが映りっぱなしなの?」

奈緒「あ......」



ズウウゥウンン...!!



そういやそうだ。この「サーチモード」とやらは感度が悪いからか、かなり正確に相手に差し向けないといけねぇんだったっけ?

じゃあ、こんなに振り回して画面固定って...


奈緒「本格的にバグったな...これがこずえワールドか...」


っていうか


ズウウウウゥウウウンン!!!



奈緒「次の敵が来やがったな...」


地響きは近づいている、誰かと誰かの戦闘は続いている

大通りを挟んでもう少し先、といったところか?そろそろ動いた方がよさそうだ

奈緒「さっ、紗南。一旦ここを離れよう、戦闘準備だ」



939: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:10:48.97ID:pAJmyIhe0


苦労して立ち上がり、紗南に向き合う



紗南「.........」



座ったままの紗南がぽかんとあたしを見上げていた


なんでそんな顔してんだ?ほっペつつくぞ


ガシャンッ!!


奈緒「うおっ?!」


力の抜けた手元からゲーム機がこぼれ落ちた

その意外に大きな破砕音に驚く


奈緒「何してんだおま...」


落ちた機械から紗南へ視線を向ける。

でも紗南の視線はあたしに向いてなかった


ズゥウウウウウウウウウンンンン


いよいよ無視できない大きさとなった地響きに周囲のガラスが割れた


紗南が見ているのは”コイツ”だ


何度も危機に窮しながらも手放さなかったゲーム機を思わず取り落とすほどのインパクトの獣が後ろにいる



「............」



振り返る




そしてあたしも、紗南と並んであんぐりと口を開けた


多分コイツはこの世界の中で一番デカい

半壊しているとは言え、高層ビルですらその威容を隠しきれていないから

地響きはそいつの足音だったんだ。だから移動速度も早く感じたんだ



でもそんな思考は後付けだった


今は頭の中をたった一文が埋めつくす








奈緒「なんでお前がいるんだよ!!!?」




ゲーム開始179分経鐔鰹輯鐔鐔



940: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:16:52.70ID:pAJmyIhe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




ガラスの夢が瓦解する



こずえの世界が瓦解する



池袋晶葉の用意したデジタルの世界において磐石だったシステム



そこの一部を白坂小梅の「あの子」がこじ開け、ひび割れた



こずえにもたらされるはずだった恩恵は根詰まりし、システム制御機構は瑕疵を負った



だから本来なら耐えられたはずの、高森藍子の肥大化した負荷に、わずかに耐え切れなかった



引き金を引いたのは二宮飛鳥で

見届けているのは森久保乃々で

その災禍の中心にいるのは


遊佐こずえ




「こずえねー」




「......みんなののーりょくー......もらったのー」



ボットと、その力を統括していたシステムは瓦解した

管理を離れた能力が一斉に、一箇所の穴からその先、こずえへ向けて流れ出す


乃々(ボット)「...........マジですか...」


ゲーム開始164分経過

遊佐こずえ(ボット)

能力獲得
能力獲得
能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得能力獲得
  ・
  ・
  ・
  ・
  ・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



941: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:18:02.08ID:pAJmyIhe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


こずえの髪が逆立つ、意思を得たかのように蠢くそれは毛量を増し、



解き放たれた



___能力発動『白菊ほたる』___



質量の限界を軽く無視する数の鳥がこずえという巣から飛び立つ

しかしその羽色は黒ではない

こずえの髪色を模した柔らかな白だ


数千羽の「白鳩」が黒い空を白く染めようと飛び立った


白い羽が追従するように振りまかれ八方へ拡散していく


乃々(ボット)「なんかこれ...とんでもないことになってる気がするんですけど......」


そう言いながら浮かぶ箱にしがみつく彼女の見つめる先、廃屋の頂点に座り込んだ幼女



遊佐こずえは今、台風の目となる





___能力発動『望月聖』___






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



942: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:22:00.58ID:pAJmyIhe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

___ゲーム開始166分経過時点


世界が変わり果て、終わり果てていく



頼子(ボット)「.........終末のラッパが鳴り響いたような風景ですね」


何羽もの天使がいた

白い鳩の姿を借りて、眩く羽を光らせて

絶対の攻撃力と絶対の防御力を湛えた白色の暴力が雲より速く向かってくる

それらは全て白菊ほたると望月聖の能力の混合だが、頼子にその答えを得る推理材料はない


「今の時分は......本当に夜でしたよね?」


鳩たちは重なり合いながら目を焼くような輝きを増していく


空を埋める密度が増すにつれて闇に沈んでいた街が姿を浮かび上がらせる


そこに原形を保っている建造物など残ってはいない

辛うじて建物としての体裁を保っていたものも、鳩の羽ばたきが起こす風に飲まれ消えていく



「......ローラー作戦...誰が黒幕かは知りませんが、戦いの締めくくりとしては...いい手ですね」



問題は敵味方区別なしというところか

闇に潜む怪物をあぶり出すかのように光が街を埋めていく

夜空を天使が食らいつくす


それはついに古澤頼子の周囲にも及んでいく

今の彼女は小さなオフィスビルなら余裕で見下ろせるような高さにいた。鳩に飲み込まれないわけがない



「さて、逃げるのも得策ではないようですし、やるだけやってみましょうか」



くいっと指を持ち上げる。指揮者のように


間髪いれずに振り下ろす。見えない軌跡の切っ先はこちらに最も接近している鳩の一群


頼子がとった動作はたった一つ。


指を上げて下ろしただけ



ただ、それだけで鳩の一群は姿を消した





943: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:23:21.62ID:pAJmyIhe0


目の眩むような羽だけを残し、何羽もの鳩の体が掻き消えた


「ふむ、どうやら力の源はその羽だけのようですね...本体になら攻撃は通るようです」


もう一度指を持ち上げると、頼子の背後で細い影が蠢く


うねるそれらは触手のようにも見えが、その正体はキノコの根だ

無論ただのキノコではない


星輝子に生み出され、彼女の脱落を以て極致の成長を遂げた超巨大な菌類


千年の時を経た大樹のような威容、それを支える夥しい本数の根


星輝子のキノコ愛が生み出し育てた能力の結晶も__



「___今...この時に限っては...私のコレクションです」



頼子の指が空を切る


破滅をもたらす鳥たちの洪水に、大自然の生み出した奔流がうねりを上げて雪崩込んだ



ゲーム開始166分経過

遊佐こずえ(ボット)

VS

古澤頼子(ボット)

開始



944: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:26:27.45ID:pAJmyIhe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

___ゲーム開始173分経過時点



見渡す限り生い茂ったキノコの根が鞭となり、しなる


「やはり本体....?というか鳩の体を狙うしかないようですね...」


プレイヤーの能力の一部を盗み、自分のものとする

そうして頼子の所有物と成り果てたのが、今の彼女の足場となっている菌類だ


今の頼子が10人並んで両腕を広げてもキノコの傘の端には届かない

彼女が50人縦に並んでもその全長には達しない


そんな菌糸の集合体を盗み、所有し、使役している


「どういう理屈かわかりませんが翼には全くダメージが通りません...」


こちら目掛けて飛翔する小動物の胴だけを正確に狙い打つのは難しい

一度に10の攻撃を仕掛けてもそれが通るのはよくて半数、残りの半数は翼に弾き返されそのまま消えていく

ならば、とばかりに次は100、1000と手数を増やし、攻撃を繰り出すのは普通なら気の遠くなる作業だ


だが古澤頼子はボット。機械的に最適な動きを行うことなど容易い


そしてついに


頼子(ボット)「第一陣は退けましたね......」


目に付く限りの鳥の影が薙ぎ払われたように粉砕された

これで”自分に狙いを定めていた”鳩の群れは殲滅できたことになる


改めて遠くを見やる。黒い夜空のあちこちが白抜きされている。鳩の群れがそう見えるのだろう

ブラックコーヒーに垂らされたミルクのような、夜と昼の歪なモザイクが360度。そんな光景


「っ!.......これは」


遠くばかりも見てはいられない


ソレは頼子の目の前にひらひらと小さな破片が空気抵抗に弄ばれながら降り落ちた

輝く小羽、散っていった鳩の残したものだった

雪というには人工色の強い、落下物。ボットはそれに風情など感じない


「...おそらく、これ一つだけでも充分破壊力を持つんでしょうね...」


そう言って一歩引く、上を見るとまだまだたくさん降ってきそうだ、一度キノコの上から非難するべきかもしれない


「これも、能力の一部ですね......”盗める”かどうか、試してみましょうか」


ちょうど目の前の宙空を漂う一枚に手を伸ばす

古澤頼子は怪盗の一面を持つ

盗むことができる容量に限度はない



945: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:29:29.55ID:pAJmyIhe0



だが、忘れてはいけない

古澤頼子が我が物と出来ているのは所詮は一部


対して遊佐こずえは、その身に全ての力を宿しているということを


___能力発動『桃井あずき』__


ぽてっ


激変


「..........んー」


ぽとんっ

頼子の視界が一変する


「.........こずえー...」


ぽすっ、ぽとっ

一時の安息は消えた、むしろ最初からなかった

ぽすんっ、ぽて、ぽとん


「いーーっぱい......なのぉー...」


ぽすん、と軽い音を立ててキノコの傘に着地する

尻餅もつかない、綺麗なフォームだった


頼子(ボット)「.........」



それが大体、30人目くらいの遊佐こずえだった



桃井あずきの能力___『ボットとアイテムの変換』

それは決してこんな不条理な現象を起こす力ではなかったはずだが、確かに現実だった

仮想の中の、現実だった







空から舞い降りていたはずの羽



その全てが次の瞬間には「遊佐こずえ」に変換されていた




946: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:31:04.44ID:pAJmyIhe0


小さな羽の一つが、小さな女の子の一人へ


「あれー......」

「......よりこー、ひとりなのー......?」

「それってー」

「とぉっても......らくちん、ねぇー?」


古澤頼子は考えた、ボットの脳は考えた


手持ちの手札でこの状況を覆す術を


遊佐こずえは特に深く考えることなく、ただ行動した







___能力発動『前川みく』____


















___能力発動『アナスタシア』__






___能力発動『高峯のあ』____





___能力発動『大石泉』_____



___能力発動『村松さくら』___


___能力発動『土屋亜子』____


___能力発動『上条春菜』____

___能力発動『結城晴』____

___能力発動『

_______

____

__


ゲーム開始173分経過

古澤頼子(ボット) 消失



947: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:33:41.53ID:pAJmyIhe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゲーム開始177分経過時点



遊佐こずえと遊佐こずえ、その隣に遊佐こずえ


その前後に遊佐こずえ、そしてその最奥に遊佐こずえ


巨大極まりない菌類の塔の頂点を埋めているのは極小の”一人の少女達”


「...それでー」

「......どうするー......?」

「...だれか.....さがすのー...」

「ここ、たかいー.....」

「でも、まち、むちゃくちゃー......」

「.........さがすのたいへん......だよぉー?」

「じめん......ふわふわ、してるー......?」

「.........」

「みつからない...ならー...」

「みーんな...」

「...ぺっちゃんこー.....」


要領を得ない言葉の羅列


その場にいる全員が同一人物だからこそ辛うじて意思が疎通しているが第三者に真意は読み取れない


ただ、そこで惹起する事態を眺めることしかできない

幼心が引き起こす手加減無き攻勢を


「じゃあー」

「やるよー?」




___能力発動『古澤頼子』____






948: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:35:08.97ID:pAJmyIhe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


___能力発動『古澤頼子』____



自分達の足の下にあったキノコはこずえの所有物となった



___能力発動『あの子』____



繊維がほどけるようにキノコの巨体がほつれ、ゆっくりと形状が変化していく


キノコの傘が細切れにされたように綻び、開いた隙間にこずえが次々飲まれていく



___能力発動『市原仁奈』____



こずえと巨大なキノコが一体化した

といっても最早その形を「キノコ」と呼ぶ者はいないだろう 



___能力発動『高峯のあ』____



地面の中に張っていた夥しい数の根ごと、地盤がめくれ上がり、剥がれていく



___能力発動『島村卯月』____



出力を限界まで上げた各々の能力が、一つの目的のために稼働する



ズズゥウウウウウウウウウウウンン



ソレはもうキノコではない。キノコに似た繊維で編み上げられた巨獣だった


地面から掘り起こされた短い足を持ち上げ、下ろす。それだけで大地は揺れた






949: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:37:39.68ID:pAJmyIhe0



「ちょっとー.....」

「......かわいくないのー」

「みため...かえるー?」


___能力発動『塩見周子』____


巨獣のざらついた肌が鮮やかに色づけられていく

月の光を吸い込んだような際立った緑色に


一歩進むと、ねじくれて節くれだった体表に整った毛並みが


一歩踏みしめると、モザイク状の凹凸だらけの頭部に目や口が


一歩地面を踏み割ると、全体的に丸く膨れた図体に尖った耳が




「......これでいいのー...」

「えへへー......かわいいー...?」

「...これでみーんな...」

「...やっつける、のー......」



ズズウウウウウウウウンン!!!!





奈緒「なんでお前がいるんだよ!!!?」
























『ぴぃぃぃいいいいいいいにゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!』








ボットの能力の集合体は甲高く鳴いた

終末を告げるラッパのように、高く高く


ゲーム開始179分経鐔鰹輯鐔鐔



950: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:40:07.12ID:pAJmyIhe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



乃々(ボット)「あばばばばば......なんですかこれ」


輝く羽で大災害を引き起こしている鳩

今まで見た生き物のどれよりも大きなぴにゃこら太

その両方の渦中、台風の目となっているのが目の前の幼い少女らしい



乃々(ボット)「こずえさん?ちょっと飛ばしすぎなんですけど......ついて行けないんですけど」

こずえ(ボット)「......んー.........なんでー?」

乃々(ボット)「なんでって...」


どうして攻撃の手を緩めないといけないのか。その問いはもっともだが、かといってこの方法はあまりよろしくない


特に、高森藍子という能力者を知っている以上、”やりすぎ”が何かを起こすということは察しがついている


だが、それを今のこずえに伝えるには乃々には中々ハードルが高そうだ。ボットでなければ不可能だっただろう



乃々(ボット)「飛鳥さんが言ってたじゃないですか......藍子さんは自分の能力を常に加減してたって...もりくぼたちも加減がいるんですよ...きっと...」

こずえ(ボット)「......かげんー...?」

「それって、しないとー.........どうなるのー?」

乃々(ボット)「どうって、そりゃあ.........サーバー全体がダウンしたりするんじゃないでしょうか...?」

こずえ(ボット)「さー...ばぁ?」

乃々(ボット)「だからですね......このゲームの演算処理?みたいなのを請け負ってる部分が......」

こずえ(ボット)「げー...む...」

乃々(ボット)「ほら、晶葉さんがいて...外の世界から...何してるんでしたっけ?」

こずえ(ボット)「あきはー......なかまー?」

乃々(ボット)「そういうんじゃないんですけど......ボットではないですし、生身ですよ...」

どうにもこうにも一向に理解を得られない


おそらくこずえは、この世界がゲームであるということを理解していないのだろう


こずえ(ボット)「.....あきはー?...どこー?」


乃々(ボット)「............外の世界ですよ...」


「...プレイヤーのみなさんは、この世界でどうなろうといずれそこに帰るんです」


こずえ(ボット)「............」




951: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:41:49.83ID:pAJmyIhe0



その言葉はこずえにとって青天の霹靂だった


例え自分が「やっつけても」みんな別のどこかに行ってしまうのだ


じゃあ自分がやっていることは何なのだろう?


なんのために?



「..................」


「......こずえさん?」


「......たりない、のー...」


「は?」





こずえは考える




こずえは顔も知らない誰かを「やっつけたい」


でもその誰かはボットと違って倒しても「どこかにいくだけ」




それではどうしたらいいか?



彼女に考えつく結論は一つしかなかった





「......みんな...とじこめる、のー...」





そしてまったく容赦がなかった








___能力発動『佐城雪美』__







952: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/07(日) 11:43:40.43ID:pAJmyIhe0




乃々(ボット)「え...何するつもりですか.....」



佐城雪美、飛鳥の言うところの《黒猫電話》


予知とは名ばかりの広域観測能力


CHIHIROに侵入し干渉しうる唯一の力





現実と仮想をつなぐ唯一の能力






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

晶葉「...なんだ、これから忙しくなるって時に...」

志希「...あり?晶葉ちゃん......アタシの耳が正しければさ___」

「___鳴ってるのソレじゃなくて...」

「このコンピューターじゃない?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「...せー......の...」



現実と仮想の間をつなぐ一本道

数本の回線からなる出入り口

一匹の黒猫と共にこずえはそこに侵入し




















___能力発動『高森藍子』___





圧し潰した


仮想空間稼働180分経過

ERROR

サーバとの通信処理でエラーが発生しました。アクセスできません

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



957: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:40:09.40ID:mCXY/M3p0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
一ノ瀬志希&池袋晶葉



「どういうことだ!!!」



”企業側”が用意したそこそこ広かったはずの部屋

今となっては縦横無尽に走るコードと、そこら中に群生したモニター類がモノクロのジャングルを形成している

それで当初より格段に狭くなった室内に私が上げた大声は思う存分反響した


志希「う~、晶葉ちゃんの不意打ち効く~」


背後でゴロゴロと白衣の猫娘が転がる音がする

立ち上がった拍子に私の方に引っかっかって転がったようだがそんなこと知るか

目の前に広がるのは不規則に並んだ液晶の窓。現実から仮想へ通じる覗き窓

俯瞰的な映像から、プレイヤーをランダムに追跡するカメラ映像、あるいはもっと間接的なもの、数値や稼働率を表示していた

いま、その全てが沈黙している。覗き窓は”向こうから”閉ざされた

いや、そんなことはいい。それは飽くまで目に見える変化だ。水面下、画面の下で起きている自体こそが深刻なのだ


「中にアクセスできんぞ!!何が起きた!」


窓だけではない、その向こうへと伸ばしていた”見えざる腕”もぷっつりと断ち切られた

私はCHIHIROへのアクセス権までも失っていたのだ

モニターはただの照明器具、キーボードはただのボタンのついた飾り物に成り果てた

何が起きたかはわかっている。メールが来て、それを開けたらフリーズした

現実にメールを出せる者はいない。だから出したのは仮想世界の住人だ

これがボットの力ということは、直前に雪美に話を聞いていたおかげですぐ頭の引き出しから取り出せた

だから今すべきは現状の早急な回復


「まずいまずいまずい...早く復旧しないと......」


私は何を見た?画面が閉ざされる前に何を目の当たりにした?


光る鳩、増殖するボット、巨大化したぴにゃこら太


なにより、一度は消失した大量の能力を一度に使用しているということ

そのどれもがとんでもない容量を食うのは明白だ。いくらプレイヤーが減ったとは言え、あんなバグを抱えていれば___




志希「___強制終了しちゃう?」




958: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:43:43.56ID:mCXY/M3p0


振り返ると、いつの間にか起き上がっていた志希が、それでも座り込んでふらふらと頭を振りながらこっちを見ていた

白衣の下からだらしなく剥き出された肩に、くねった髪がまとわりついている

ふざけているように見せかけてその眼は全く笑っていない


晶葉「それは考えた......実際に強制終了してもアイドル諸君に健康被害が起きるような設計はしていない」

志希「おお、やっぱそのへんの安全設計はちゃんとしてないとだもんね~」


そう、安全設計はしっかりしている。もしここに落雷が来て主電源が落ち、なおかつ予備電源が故障して使えなくなり強制シャットダウンされようと

速やかに仮想世界のプレイヤーを現実に引き上げることができる、そういう命綱に似たものが用意されている

仮に高森藍子の能力が暴走しようと巨大ぴにゃこら太が暴れてサーバーが処理落ちしようと、それで傷つくのはシステムだけ。人間は無事に済むのだ

しかしそれは飽くまで脱出口が確保されていればの話


晶葉「いま、強制終了して......安全が確保できるのは脱落者だけだ...」


晶葉「既にゲームオーバーになったアイドルは、精神が『こっち』にある......だからこの状況も問題ない」

志希「ふぅん?」

晶葉「だが......それ以外の者は今......中に取り残されていることになる」


緒方智絵里、十時愛梨、神谷奈緒、北条加蓮、三好紗南


彼女たちは梯子を外された。命綱を巻き取る装置を止められた。


そんな状態で仮想現実の電源を落とす勇気は、ない

だがこうしている今も仮想の世界では処理能力を超過しかねない事態が立て続けに起きている

いつ、向こうが処理落ちしてもおかしくない



今の状態でそうなったら..................そうなったら?



志希「それってヤバめ?」

晶葉「............」


私は黙って立ち上がると目の前で沈黙する画面に背を向けた

志希「およ?」

そのままつかつかと歩き出す。志希の横を通り過ぎた

アイドルの入ったカプセルの横も通り過ぎた


志希「どこいくのー?」


部屋の隅に置いてある私のカバンを引っつかむと力任せに持ち上げる


志希「帰るの?」


背後から放られた志希の声が背中を撫でる。私の返答はひとつだ





959: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:44:28.61ID:mCXY/M3p0




「そんなわけない!」




カバンから引きずり出した私のノートパソコンを持って引き返す


電源が点くが早いか即座にケーブルを取り出し端子を接続する


お飾りのキーボードならいらない。手に馴染んだこれこそが私の”腕”だ


仮想世界へのアクセスの道は未だ閉ざされたままだ。だが外から何も出来ないわけではない、はずだ



「志希、手を貸せ」

「面白そうだからいーよー」



相手はアイドルの人格と個性を詰め込んだ怪物

このままでは向こうの世界でこちらのアイドル五人と共に心中してしまう

だからこれは時間との戦いで、そしてアイドルとしても戦いだ


「いくぞ志希。」



晶葉「私たちのライブバトルだ」



仮想空間稼働182分経過

池袋晶葉&一ノ瀬志希

VS

ボット

開始



960: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:47:51.11ID:mCXY/M3p0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒&三好紗南



「どういうことだよ!!」



ぴにゃこら太のボットなんてどこにいた!?


紗南「いや、あれ...ぴにゃじゃなくてこずえちゃんだよ......」


後ろから声がする。紗南の手はまだゲームを落としたままだ

「はは...こんだけデカいんだもん......そりゃどこ向けてもセンサーに引っかかるわけだ...」

「言ってる場合じゃねえだろ!逃げんぞ!」


ゲーム機を拾い上げ、紗南の手を引き走り出す


『ぴいぃいいにぃいいやあああああ......』


あたしたちが逃げたのに釣られて、ぴにゃこずえ(仮)も動き出す。真っ直ぐ走れないくらいの地響きが追ってくる

走っても走ってもバカでかい影から抜け出せない。月の光に照らされたエリアに届かない

紗南「いくらなんでもクソゲーすぎ......クソゲーすぎ!!」

奈緒「二回言わんでも...」


『ぴぃいいいぃいいにゃああああああああああ......!!』


そこで耳を聾する大音声が物理的にあたしたちを襲った

突風が上から吹き付けられたように、一気に足が重くなって

足払いをかけられたようにすっ転んだ

紗南「きゃあっ!?」


あたしよりちっちゃい紗南も当然、風圧に煽られ地べたに突っ込んだ

地面に転がった拍子に視界が後ろを向く。そしてあたしらは見た

体積が膨らんでいる、いや違う


ぴにゃこら太の体の周囲を何かが飛んでいる




961: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:49:56.50ID:mCXY/M3p0


ぴにゃと似たような明るい緑の、

UFOのような隕石のような、そんな”バカでかいなにか”が飛んでる!?


その形状はアルファベットにも下手な子供が書いた平仮名にも見て取れて、

人工物なのにまるっきり意図の読めない


無理に説明するなら都会の広場にありがちな前衛的な彫刻、

それを遠近感が狂うくらい巨大にしたもの


紗南「...何アレ?」


あたしの隣に寝転がったまま紗南がこぼす。気持ちは分かる

あんなにデカいんだからなにか危ないってのは分かる、なのに妙に目を引く所為で警戒の仕方がわからない


あたしは”あんなの”を見たことがある

まだ忘れられない。あんなに苦しめられたんだから




















___能力発動『梅木音葉』___




アレは、ぴにゃの鳴き声を物体にしたヤツだ!!!!




次の瞬間、視界が緑色に染まり、次いで真っ黒に染まった

どうやら墜落してきたらしい






「奈緒!!」


加蓮があたしを呼んでる?

それがここでのあたしの最後の思考


ゲーム開始__分経過




962: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:52:19.44ID:mCXY/M3p0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「............」


「......うんー?」


数十メートルの離れた地面に地割れと共にめり込んだ、キングサイズの彫刻もどきが役目を終えて消えていく

その下には誰もいない。

当然である、無事で済むはずがないのだから消失していて必然だ

現実ならば原型すらとどめていない衝撃である


だから、彼女の疑問は別の点。仮想世界に起きた別の変化


「......はしごー?」


9割方壊滅したこの街において、今はぴにゃこら太のみが周りを見渡せる唯一の存在



遠目には最初それは細い塔に見えた、ひょろひょろと空へ向かって伸びている



問題はその頂上が見えないこと。天から垂らされた糸のように、上を見るとどこまでも伸びているように見える


「...なにあれー.......?」


遠目には分からない。だが、遠目から見て取れることからソレもまた巨大であることが分かる


『・・・・・ゴ・・・・・あ・・・』


変化はそれだけではない

飛び去っていく鳩たちの羽音とそれに随伴する倒壊音に隠れて、誰かの声が響き渡っている

壊れた拡声器を通したような不鮮明な音質の声、廃墟の街にふさわしい廃れた声音


『ここに・・・・・・ール・・・あつ・・・』


プレイヤーでもない、ボットでもない、生物にしては大きすぎる、建造物にしては細くて長すぎる


ぴにゃの頭上、頭の上に乗っていたこずえ達はそれを無視できない。拙い口調で話し合う


「......なにあれー...」


「...みにいくー?」


「じゃあ...こずえ...いってくるねー...」




___能力発動『八神マキノ』___



仮想世界随一の情報剽窃能力を発揮し、その場にいたこずえが一人消えた

擬似的な瞬間移動であの謎の存在を間近に眺めるために



963: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:53:37.69ID:mCXY/M3p0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

移動した先、こずえはまずゆっくりと視線を上にあげた

小さな少女の目には細長い箱が数珠つなぎに延々つながったオブジェに見えた


「...うんー?」


だが、はめ込み式の窓がある、移動に使われるであろう車輪がある、出入りするための扉がある

ボットはそれを見たことがない、この世界に今までなかったから

だが、プレイヤーはそれに見覚えがあるはずだ

声が聞こえる、その箱の連なりには拡声器ではなくとも”車内放送”に使うスピーカーがあるらしい


『・・・こ・・る電・・・・ルだ!!』


響き渡る池袋晶葉の声、それは外部からの干渉


『今い・・・イヤ・・・員ここ・・・れ!!』


それは今から3時間近く前、プレイヤーを詰め込み運んできた電車

現実と仮想を結びつけ安全にプレイヤーとなる彼女達の意識を運搬してきた機械

それが天から垂らされた糸となって、地面に対し垂直に突き立っていた

直接避難はさせられなくとも安全地帯、シェルターを用意する

声は繰り返し告げる。それらが外にいる彼女たちが今現在できる最大限の策




『ここにある電車がゴールだ!!今いるプレイヤーは全員ここに集まれ!!』




こずえに難しいことはわからない

だが「ごおる」とは「ぷれいやぁ」のためのものというのは分かる

だからそれを阻止しないといけないというのも考えついた



『ぴいいにゃああああ......』



八神マキノの力により得た情報が他のこずえにも伝わっていく

そして巨体が動き出す。元々プレイヤーを閉じ込めようとしていたのだから、ここで動かない訳はない



「そうはさせない!!!!」



夜闇を震わす鋭い声、言うまでもなくそれはこずえの声ではない

「ふわ?」

突然の強襲いこずえの反応が遅れる。元々早いとは言えない反応速度の彼女にこれは致命的だ

とくにその武器に対しては



964: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:55:05.66ID:mCXY/M3p0


閃光が空中を縫い鞭のようにしなるとぴにゃの体表、腹部のあたりを斜めに突っ切った


その巨体から見れば深い傷にはならないが、それでもぴにゃの肌は傷つき、その断面から中身の根を晒した


彼女はこずえではない、

だがプレイヤーでもない

ボットの中の一人、こずえの破壊的行進の中を能力を駆使して生き延びた強者


「これ以上の破壊活動はこの街のボットとして認められない!」


彼女は別にプレイヤーを助けるつもりは毛頭ない、

むしろ見つけ次第自分の手で決着をつけようと心に決めている

だから今こうしてこずえに立ち向かっている状況は彼女の矜持が生み出した



破壊される街

大量の戦闘員

巨大な怪獣



ここで立ち上がらなければ”ヒーロー”ではない




光(ボット)「アタシと決闘だ!!!!」



こずえ(ボット)「......なんでぇー...?」






ゲーム開始___分経過




南条光(ボット)

VS

遊佐こずえ(ボット)

開始



965: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:56:34.57ID:mCXY/M3p0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
プレイヤーズ



夢から覚めたら、また夢の中にいたんだけど...


あー、具体的に言ったほうがいい?

雲一つない、どこまでも落ちていけそうな青空の下で目が覚めた


どうやら仰向けに寝っ転がってるみたいだけど、背中は痛くないからやっぱり仮想の中かな

なんだか後頭部がふんわりとした何かに受け入れられているし

なんだか二度寝しちゃいそうな......


「紗南ちゃん、起きたかな~?」

紗南「はぁっ?!」


逆さまの顔に思いっきり覗き込まれた。アタシの青空が陰る

飛び起きそうになった、というか飛び起きたけど前頭部を柔らかい何かで受け止められる


愛梨「きゃんっ!?いきなりだねー...」


ここに来てようやく覗き込んできた顔が愛梨さんのもので、

アタシが飛び起きた拍子に突っ込んだのは愛梨さんのおっきい胸だったと分かった


紗南「.............」

「なんでアタシ、膝枕されてるの...?」


愛梨「う~ん、助けに入るのがギリギリだったせいで気絶してたから、かな?」


助け?気絶?仮想世界で?

じゃ、ここはそもそも仮想世界の地続き?

状況把握のために眼前のたわわな胸を避けて体を起こす、手をついた地面には植物の手触り


紗南「見渡す限りの野原...だね...」

愛梨「だね~?」





966: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/15(月) 20:57:43.85ID:mCXY/M3p0



街はどこいったの?


手元を見下ろす

コンクリート要素なんて欠片もない、地面についた手の指の隙間から伸びているのはどれも細い草


どれも同じ植物の葉、ゲームくらいにしか詳しくないアタシでも分かる種別


紗南「...これってアレ?」

愛梨「そうだよ~?」


わざわざ名前を上げるまでもなくお互いの認識が行き来する


”この野原”から連想できる人物がほかにいない


「よーお、紗南。そっちも目ェ覚めたか...」

紗南「あっ、奈緒さんに......」


声をかけられた先にはアタシ同様、ついさっき起き上がった感じで尻餅をついて座り込んだ奈緒さんと


「......加蓮さん!?」

加蓮「あはは...おひさ...カッコつけて別れたのに、なんかゴメンね?」


奈緒さんの隣で気まずそうに笑う加蓮さんがいた。こっちは膝をたたんで折り目正しく座っている

いよいよもってアタシの頭のキャパを越えようとしている事態に直面し、アタシは自分で考えることを一旦放棄した




紗南「一体何が起きたの智絵里ちゃん!!」

智絵里「ひうっ!?」



見渡す限りのクローバー畑で

最後の一人に質問を思いっきり投げつけた



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



969: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:39:49.16ID:u317hCDO0

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チャプター
プレイヤーズ



最初は愛梨さんでした



この空間に引き籠もっていると外の様子が見えないのでどうしても入口を開ける必要があるんです


それで扉を開いたところで愛梨さんが、落っこちてきました


はい、ほんとに。飛び込んでくる、じゃなくて落っこちる、です

驚きますよね、わたしの世界と外の仮想世界は変なつながり方をしてたみたいで...


しばらくは二人でお話しして、杏ちゃんのこと、きらりちゃんのこと、裕子ちゃんのこと、蘭子ちゃんのことを聞いて

外ではわたしの想像もつかない事態が進んでることを知りました


それで、その、わたしもじっとしてる場合じゃないと思って動き始めたんです


できるだけわたしの影が目立たない場所......あっ、わたしが隠れてる影ってハート型、クローバーの葉の形なので目立つんです

青空?...うん、普段は空が夕焼け色なんだけど、わたしが中に入ってる時は青くなるみたいで......え、きれい?...あ、ありがとう

とにかく路地裏の影を選んで動き回りながら様子を見て、それで加蓮ちゃんを見つけました

ものすごい数のカラスに追われてて、だから助けました

先回りして、足元からすぽっと掬い取る感じで。愛梨さんにキャッチしてもらいました


なんだかタブレットを失くしちゃたみたいなんだけど、それは見つからなかったかな...

それで、また話を聞いて......奈緒さんと紗南ちゃんは加蓮ちゃんを探してたんだよね?


ごめんなさい、わたしのせいで二人を不安にさせちゃたよね...



うん、わかった...でも...えっと......


あれ...?外で何かが...





......ゴール?




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



970: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:42:26.20ID:u317hCDO0


三つ葉ばっかりのクローバー畑と、どこでもドアを百倍お洒落にしたみたいな形の扉

その扉はどうやら智絵里と同室、もとい同じ空間にいる間は開け閉め自由で外も覗き見できるらしい


......ちなみに智絵里がいないとどうなるのかは聞いてない


サッカーボールとか一輪車とか、その他諸々見覚えのある衣服が転がってた気がするけど気にしない


そんなふうに大体の事情を把握したところで事態はまたあたしたちを置いていく


奈緒「ゴール...?」


あたしと紗南が智絵里から話を聞いている間、加蓮はいわゆる見張り係として外の様子を見ていた

相変わらず馬鹿デカいサイズで練り歩くぴにゃこら太だったがそれに対して何故かボットが戦いを挑んでいるらしい

ボットだったのは胸の赤いバッチがチラチラ光っているのが見えたからだが、どの個体なのかまでは暗くて見えん。紗南のゲーム機で調べるには遠すぎる

どんな能力なのか、こっちもこっちで身の丈以上にデカい光剣を振るっている......エクスカリバーかよ...


そして、件の落下物。あたしも覗き見たが、確かに電車が垂れ下がっていた


どこの災害地だよと思わないでもなかったが、この街の見た目は確かに被災地だった

とにかくこの状況は無視できない、なにせゴールだし、終着点だし、決着だし

そんなわけで自然、扉の周りに集まるようにしてあたしたちは言葉を交わす


奈緒「で、あれはどう聞いても晶葉の声だな......久しぶりに聞いたけど」

加蓮「そうだよねー、録音されてるみたいなカンジだけど...」

愛梨「ゴールか~、ついにたどり着きましたね~、でもどうやって近づきましょう?」

紗南「んー、このまま智絵里さんに相乗りさせてもらえばエネミーはオールスルーできるんじゃないの?」

智絵里「で、でも......扉をちょこっと開けて、外を見たりするから...絶対に安全じゃない、かな...?」

奈緒「ええっと...智絵里、今こうして扉が閉まってても移動自体はしてるんだよな?」

智絵里「は、はいっ、えっと、目隠し運転?......みたいなものなので、直進させるだけなら...」

加蓮「はー、改めて聞くとすごい能力...」

愛梨「わぁ~、楽チンですね~」

智絵里「え、えへへ.....」


紗南「でもこのまま電車まで行こうとしたらさー、ぴにゃの近く通ることになりそうだよ?」

加蓮「スルーできれば一番だけど...流れ弾が飛んでくる可能性の方が高いよね...」

奈緒「どうしたもんか......あのボットがこずえを倒してくれりゃ話は早いんだが...」

紗南「戦力差的にムリゲーだよあれは......アタシたちだって智絵里ちゃんがいなかったらデスだったろうし」


加蓮「とにかく、智絵里ちゃんはこのまま電車の方に近づいていける?」

智絵里「はい、やってみます...!」

奈緒「......それしかないかぁ...」




971: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:43:48.43ID:u317hCDO0

地面の上で暴れまわっている連中に対して地下を行くどころか、別空間を通っていく


多分安全なんだろうけど上手くいくかどうか、って点で完全に安心しきれない

ここに至るまでの2、3時間にいろんなことがあり過ぎた。そのどれもであたしは敗走している


だからかな、どうしても上手くいくビジョンがわかない。どうしたもんかな.....


奈緒「つーか、待てよ...」

紗南「?」

奈緒「うろ覚えだけどさ...このゲームの勝利条件って、殲滅戦じゃなかったか?」

智絵里「せんめつ、戦?みんなやっつけるって...こと?」

加蓮「ちゃんとは覚えてないけど、そういやそのために戦ってたんだっけ......」

愛梨「それって~...へんですよね~?」

奈緒「そーだよ、なんでゴールなんてもんを晶葉が用意するんだ?タイムアタックってわけでもなさそうだし」


まとまりかけた話に水を差すつもりはなかったが、あたしの言葉に全員が静かになっちまった

どこかから吹いてくる風に、クローバーがそよそよ揺れる音が聞こえそうだ

かといって黙りっぱなしじゃ話は進まないが、最初に口を開いたのはあたしじゃなかった


紗南「.........トラップかな?」

加蓮「ん~、でも晶葉の声だし、電車もリアルだよね...」

紗南「能力で晶葉ちゃんの声をコピーしてるとか?」

奈緒「ぴにゃと同じようにして電車も呼んできたとか、か?」

智絵里「うぅ......そ、そんな......もう何を信じたらいいんだろ...」

愛梨「う~ん、ニューウェーブのボットさんもいろーんな能力でしたから......ないとは言えないですね...」

加蓮「晶葉が管理者権限みたいなのでアクセスしてきてるってのは?」

奈緒「能力の線を除いたらそこら辺か...でもなんで今更...」


紗南「あっ!!ちょっと待って!」


あたしの隣に座っていた紗南が急に声を上げた。何故かこめかみの辺りを揉んでいる

何かを思い出そうとしているみたいに



972: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:45:30.74ID:u317hCDO0


智絵里「紗南ちゃん、どうしたの?急にそんな」

紗南「アタシたちココ...つまりこのゲームに来る前に晶葉ちゃんに説明されたじゃん?」

奈緒「あー、そうだったな...結構直前だったけど...」

愛梨「そういえば~、でもそのあとすぐに機械に入れられたせいでほとんど忘れちゃいましたよねー

紗南「うん、今思い出したんだけどあの時さ、晶葉ちゃん言ってたんだよ」


「”人体の安全面を考慮して、一定時間でゲームを終了する”みたいなことを」


加蓮「あっ!」

奈緒「言ってたような...」


いや、言ってたかどうか完全に保証はできない...あたしらは言ってしまえば「寝落ち」するように仮想世界に来た

その少し前の記憶には正直自信がない...少なくとも晶葉からの提案を断らなかったんだろうとは思うが...

でも少し考えれば分かる、いくらなんでも精神をゲームに飛ばすようなトンデモ装置を無制限に使い続けて体にいいわけない

あたしでも考えつくこと、晶葉だって折り込み済みだろう


愛梨「ん~~~~~...?」


今度はあたしの向かいにいる愛梨が額を指でグリグリしながら眉をしかめた

愛梨「じゃあやっぱりゴールしたほうがいいんですかね~?」

奈緒「だな......ゲームのやりすぎは良くないし」

加蓮「まぁ、体壊しちゃうよりはゲームオーバーの方がマシだしね......智絵里ちゃん、現在地分かる?」

智絵里「え、えっと...」


扉の正面で女の子座りしていた智絵里が腰を浮かせてドアノブに手を伸ばす

どこか上品な音と一緒にノブが回り薄く扉が開く

外の世界が薄く薄く切り取られ、隙間から騒音と暗闇が溢れ出した


















こずえ(ボット)「みーつけ...たー」





973: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:46:37.90ID:u317hCDO0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「きゃああっ!?」

「智絵里ちゃん?!」


智絵里がほんのり開いた扉が向こうから跳ね除けられる

底抜けに明るい青空の下、扉の外枠に沿って四角に切り取られた夜空

そんな夜空の中のちっぽけな人影、白みがかった髪が闇色の背景によく映える



こずえ(ボット)「......ここどこー?」



ぼんやりまどろんだ視界を見ているとひょっとしたらあたしたちは映ってないのかもしれないなんて思うが、

例えそうだとしても目の前のこの幼女は危険すぎる



奈緒「...きやがった」

智絵里「どうしてわ、わたしの能力の隙を...」

紗南「やっぱり何度見てもこずえちゃんだけ表示がバグる...」



「んん~~~......」

こずえのやつは暢気に髪に手を突っ込んで痒いところをポリポリしてやがる

加蓮が吹き飛んだ智絵里を抱き起こしているのを横目で確認しつつも正面を警戒する

体の後ろに隠したMP3プレイヤーの画面はとっくに目覚めてる、藍子を倒した分で貯金もある!



紗南「ねえ、こずえちゃんの髪、勝手に動いてない......?」

愛梨「...ん?なにか出てきましたね~?」




でも、それでも



「ふわぁ......」




___能力発動『古賀小春』___





入道雲のように膨らんだこずえの髪の中に___なにかいる!!

そいつは短い手足をふるって自分の体を引きずり出した

その寸胴体型はどうみても髪の体積どころかこずえの体よりも5倍はでかい

つまりあたしたちより倍以上デカい!!

その虚ろな双眸が高い位置からこっちを見下ろす

『ぴにゃっ』

愛梨「あ~、またぴにゃこら太ですねぇ...」

紗南「恐竜サイズの?!」

さすがに”外の”とは比べるまでもないが、かといって太刀打ちできるサイズじゃねぇ

これはちょっと規格外だろおい......!!



974: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:47:57.00ID:u317hCDO0



こずえに受け継がれた能力は少しずつ歪んでいく


カラスは鳩に、天使の翼は羽毛に、アイテム変換はボット増殖に、そして爬虫類は鈍重な獣に


古賀小春の能力は初期設定として「ヒョウくん」がボットの小春とセットであるからこその能力

しかしこずえにそんな分かり易いセットはいない、こずえに付き添うのは彼女の中で膨れ上がった能力だけだ


だからこそ「コレ」がここにいる

『ぴにゃっ、ぴにゃっ』

だから今、大型のぴにゃこら太がクローバー畑を蹂躙している


紗南「かっ、回避回避、かーいーひー!!!」

愛梨「言われなくてもっ!!」


緑の怪獣は短い手足で這うように移動し、プレイヤーを追う

四つん這い、それは人間以外の動物にとって最も早い移動方法だ


その速さで五人を分断する


愛梨、紗南、加蓮が扉に近い側に

奈緒と智絵里からはその三人も、そして扉も見えなくなる


こずえはいつの間にかぴにゃの背に乗っていた


「れっつ...ごーごー...」


丸まった巨大な腹部が地面と擦れ、そこに生えたクローバーを根絶やしにしていく

何の抵抗もなく、他のボットや凛に対して見せた獰猛さは欠片もない

ぴにゃが踏みにじったのは群生した植物だけではない



智絵里「あ...ぁ......」




新緑の世界が壊されていく。智絵里の世界が消えていく

無残な光景を前に膝をつく、仮想世界でなければ涙を流していたかもしれない




975: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:49:14.67ID:u317hCDO0



奈緒「っておいおいおいおいいい!!智絵里!能力でなんとかできないのか!」


智絵里にはおそらく奥の手がある。奈緒はそう推測していた。しかもボットの残骸からして確信に近い

崩れかけた姿勢を後ろから支え、そのままぴにゃから離れるように小柄な体を引きずっていく

後ろに体が引かれるにつれ垂れ下がった指の隙間を、三つ葉がざわざわと流れていく

だが、いつまでもぼやぼやしてられない。奈緒の呼びかけで濡れた瞳が焦点を取り戻す


智絵里「......わたしの...」

奈緒「うん、なんだ?」


智絵里「...わたしのもう一つの能力は、わたしがこの中にいるときは使えないんです......」


奈緒「......マジかよ!?」

智絵里「ひぅっ!?」


愕然とした拍子に声を上げてしまい、間近にいた智絵里が萎縮する


奈緒「あっと、すまん智絵里!...いきなり大声あげて」

智絵里「......いえ、いいんです...わたしの能力が不自由なせいで...」

奈緒「いや、いいんだ!!」

「逆に言えば智絵里さえ逃せばアイツは倒せるってことだろ!」


智絵里「えっ、えっ!?」


奈緒は智絵里の能力を具体的には知らない。それでも信用することに決めた

抱えていた小柄な体を精一杯の力で引き起こす


奈緒「智絵里、合図したら加蓮のとこに走るぞ...!」


そしてまず奈緒が能力を使った


>ノーマルボット
___________

高森藍子

強者撃破報酬  6000MC
___________

計7380MC



奈緒「よっし!藍子でかなり儲かった!これなら対戦車砲だって___!」



976: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:51:04.81ID:u317hCDO0

__________________

ハンドガンA 800MC  在庫なし

ハンドガンB 800MC  在庫なし

ハンドガンC 800MC  在庫なし

マガジンA  400MC  在庫なし

マガジンB  400MC  在庫なし

マガジンC  400MC  在庫なし

ナイフ    300MC  在庫なし

ライフル   1000MC  在庫なし

対戦車砲  3000MC  在庫なし

手榴弾    600MC  在庫なし

自転車    500MC  在庫なし

戦車    15000MC  在庫なし

砲弾     3000MC  在庫なし

ジャンク品▽ 50MC  在庫あり

__________________


奈緒「品切れしてるじゃねえか!!」

智絵里「ひゃう!?」

こずえ(ボット)「なにー?」




___能力発動『大原みちる』___

___能力発動『浜口あやめ』___


アイテムを見抜く能力と、アイテムを無効化する能力

プレイヤーたちは知る由もないが、仮想の街では今その二つを使った二次破壊が起きていた

第一次破壊が目に見えるオブジェクト、ボットの大量破壊

第二次破壊が通常ならボットには破壊不可能に”設定”されているアイテム類の除去

この世界にプレイヤーを閉じ込め、さらにその寄る辺を簒奪する



結果として”仮想空間内の任意のアイテムを取り寄せる”という奈緒の能力はほぼ封じられた


奈緒「あぁああああ、どういうこった...これぇ!」



加蓮「奈緒!!!!」


内心では多分に信用を置いていた力を奪われ動揺する奈緒に鋭い声が飛ぶ


智絵里「奈緒さんっ!こずえちゃんがこっちに....!」

ツッコミ気質なのか本気で焦っているのか奈緒の大きい声は、愛梨たちに向いていたこずえの注意を換えた



977: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:52:23.41ID:u317hCDO0



こずえ(ボット)「........なーおー...」


のそりとした動きで大きな影が二人を包む、それは加速的に濃さを増していく



奈緒「走れ!!」

智絵里「はっ、はいぃ!!」


あまりいいとは言えない足場を思い切り蹴り付ける


奈緒「加蓮のところだ!加蓮を追え!!」


必死に呼びかけながら視線は外さない。智絵里を置いてぐんぐん速度を上げていく



しかし、地面を蹴ったのは奈緒達だけではない、こずえ達もだ



「...とべー......とべよー」



ズンッ!!



___能力発動『大石泉』___



少しばかり開いていた距離が一気に縮まった


地面の弾性力を改竄し、ジャンプ台のようにたわませ、巨体が跳んだからだ


自分の倍以上ある図体がさらに倍以上飛び跳ねるという冗談のような光景に目がそらせない



智絵里「あぅっ!」

不自然な方向に視線を向けていたせいで智絵里が転んだ


そして転んだ先にはすでに奈緒がいた、さっきまで加蓮がいた地点に座り込んでいる


あと2、3秒後には二人のいる地点ピッタリにぴにゃが着地するだろう




奈緒「よく来た智絵里!」

智絵里「えっ」


しかし奈緒はそんなことにはもう頓着しない

表情に安堵すら浮かべ、智絵里の手に”ソレ”を手渡した


「......どーん...」


そんな風に発されたこずえの掛け声の百倍の音量とともに

ぴにゃこら太が二人のいた場所に全体重をかけてのし掛かった



978: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:53:24.23ID:u317hCDO0






肌を撫でてくれてるみたいな柔らかな草花から離れて、硬い地面に足をつく


いつぶりだろう、この街に立つのは


凛ちゃんを巻き込んで、どこかおかしくなってた自分を自覚して

怖くなって能力の中に引きこもっていた

でも、愛梨さんが来て、加蓮ちゃんが来て、みんなが来て

わたしのうっかりから全員が逃げ惑うことになって



奈緒さんと一緒に潰されかけて



それで___それで?







「ふぅーー......助かったぜ、加蓮」

「それはどうも、......まぁユニットだしね、当然の職務だよ」

「でも加蓮さーん、アタシのゲーム機に落書きするなんてひどいよー」




そうでした、最後の局面で先に脱出していた加蓮さんの置き土産


ネイルのアイテムで......ワープ?したんでした


周囲を見渡すとわたしが最初に入ってきたときにあったものは何も残ってませんでした


空の明るさも、冷たい建物も、緊張の滲んだ静けさも


それに、月も


愛梨「あれ~、お月さまが欠けてますね...月食?」


智絵里「...わたしは夜になる前に隠れちゃったから...」





979: ◆E.Qec4bXLs 2016/02/28(日) 22:56:48.19ID:u317hCDO0






『ここにある電車がゴールだ!!今いるプレイヤーは全員ここに集まれ!!』




外に出るとより一層大きく聞こえる晶葉ちゃんの声明

リピート再生みたいですけど、ここまでくると罠だと考えるのは無茶な気も...

それになんだか、晶葉ちゃんの声......ものすごく、何かを怖がってる?

罠や嘘で出せそうな声じゃない気がします、わたしが臆病だからそう思うのかもしれませんが


智絵里「い、一度電車の方へ行ったほうが...」


恐る恐るみんなに提案してみる。今まで引き籠ってたわたしの意見が聞き入れられるとは思わないけど


加蓮「あー、そだね」

奈緒「下からその予定だったしな...」

愛梨「ですねー、ちょっと智絵里ちゃんのおかげでいっぱい休めましたし~もうひと頑張りいきましょ~」

智絵里「えっ」

紗南「どしたの?自分から提案したのにそんな驚いて...」


なんだか簡単に話が進んじゃいましたね...


愛梨「あそこでボットとぴにゃが戦ってるあいだに行っちゃいましょう」


愛梨さんがと多くを指差しながら言いました、確かに遠くてよく見えませんが何かが戦っています

そのおかげでぴにゃこら太さんは電車から注意がそれてるみたいですし、やるなら今、ですよね


空へ向けていた視線を地面に下ろしました



どうやら”もう消えちゃった”みたいですね。

わたしの影の中に入り込んだこずえちゃんたちは




モバP「アイドルサバイバルin仮想現実」
元スレ
早坂美玲「アイドルサバイバルin仮想現実」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396415964/
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