【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
読み切り
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
なけなしの金で注文した蕎麦は、飯茶碗ほどの量。
しかも味が薄い。さらに蕎麦の質も悪い。
それに対して、正面の兵士の蕎麦。
大盛りである。くわえ海老が二本乗っている。
かな子の錯覚か、ほのかに輝いているように見える。
相手がじろりと睨んできた。
かな子はふっと目をそらした。
相手は、飛ぶ鳥落とす北軍の兵士である。
だが合戦は北軍が有利で、主要な都市はすべて抑えられていた。
南軍はその数を減らし、現在は敗走状態である。
かな子はどちらにも属していなかった。
討ち死にするのが怖い。
だがなによりも、飯を食えなくなるのがもっと怖い。
こういう振る舞いは少なからず住民の反感を買っていた。
さらに北軍は各地から兵糧をかき集め、
いくつもの地主や百姓を没落させたという。
恨みは多いが、誰も口には出せぬ。皆命が惜しい。
天かすがまだ残っている。そばの切れ端も。
それらは海老のうまみがしみて、たいそう美味かった。
だが、かな子はすぐに虚無感に襲われた。
ひどくわびしい気分である。
さらに、半端に食べたせいで、空腹感がより増した。
だが金がない。どうしよう。
かな子は、ちらりと自分の刀を見た。
季節は秋口。
鰻にあぶらがのって、たいそう美味い時期である。
どうせやるなら大物、そういう心算であった。
さすがに斬るのは忍びなかったので、脅すに留め、
首尾よく、まるまると太った鰻を手に入れた。
しかし捌き方もわからず、泥抜きもしなかったので、
出来上がった串焼きはひどい味だった。
なんたる、くたびれもうけ。
鰻屋家族が牢に入れられていた。
聞くところによれば、北軍大将に献上する鰻を逃してしまったという。
かな子は、しばらく食欲が失せるほどの罪悪感に襲われた。
自分の責任である。
しかも、鰻屋は“奪われた”とは言っていないらしい。
かな子のことを北軍に話していないのだ。
鰻屋は被害者どころか、かな子の命の恩人である。
飯が食えなくなるのは、怖かった。
しかしここで立ち止まれば、武士ではない。
そこで、鰻屋家族を解放することに成功した。
しかし場所は北軍のお膝元。
かな子1人ならまだしも、
鰻屋家族を連れては逃げられない。
考えあぐねていると、他の牢人達が、
かな子の方を小犬のような目で見た。
北軍に借金を踏み倒された挙句、
獄にまで入れられた商人。
南軍の指揮官。
みな哀れであった。
毒を喰らわば皿までよ、とかな子は全員を解き放った。
そして、彼女らと共に脱出することにした。
ちょうど北軍の兵舎が見下ろせる位置であった。
ひとしごと終えた、とかな子はどっかり腰を下ろした。
北軍の兵士に顔は見られていない。
街で口笛を吹いていようが、
せせっこましく蕎麦を食っていようが、かな子の自由である。
やれやれ、とかな子が周りを見渡すと、
人数が足りないことに気づいた。
上役に嫌われたという、暑苦しい女がいなかった。
どこへいったのか、とかな子が思っていると、
北軍の火薬庫が突如爆発し、辺りを煌々と照らした。
かな子が呆然と立ち尽くしていると、南軍の指揮官が肩に手を置いた。
この事はあらかじめ仕組まれたことであったらしい。
人数は2000人程度。
北軍が駐留していた町を占拠し、一勢力を築いているという。
しかし北軍の大将は、慌てなかった。
こちらの軍勢は18万。兵、とくに鉄砲隊が精強である。
鈍と鍬で武装した賊軍に、なんとかできるものか。
高笑いしながら、将軍は酒をすすった。
自分の人相書きが、賊軍の指導者として
全国に出回っているらしい。
一刻もはやく逃げ出せねば。
そう思って立ち上がるかな子の袖を引くのは、
茶碗いっぱいの飯である。
それを食っていると、明日でもいいかという気になる。
この集団を抜け出せば、かな子は再び流浪の貧乏暮らし。
せいぜい今のうちに腹一杯食って、
覚悟が決まったら逃げ出そう。
そうやって、明日、また明日と時間が過ぎていった。
賊軍が、敗走していた南軍と勢力を糾合して、
2万人にほどに増えたそうである。
こうなると、いかにこちらが数で
優っているとはいえ看過できぬ。
北軍の大将は、自身の軍勢を三村軍に差し向けた。
負けることはなかろう。
北軍の大将は、顔をしかめながら酒を啜った。
飯を食って、たまに昼寝して、
また飯を食っているうちに、
周囲は、かな子を三村軍の大将として祀り上げていた。
「三村さまー!!!」
「三村さまー☆」
「三村ちゃまー!」
かな子は、自分を慕う者達に四六時中取り囲まれている。
そして、仮に逃げられたところで待っているのは、
北軍からの執拗な追跡である。
かな子は大将飯を食いながら、さめざめと涙を流した。
「大将にもっと旨い飯を食わせねば」と奮起した。
かな子の指揮能力は低い。むしろ、無能と言って差し支えない。
だが、飯をたいそう美味そうに食うので、
それが周りの庇護欲求を誘うのであった。
周囲の視線は、さながら母鳥である。
三村軍の勢力が、14万ほどに膨れ上がったそうである。
聞くところによれば、かつて捕らえた
南軍の城ヶ崎美嘉が
民衆に演説を行って兵をかき集めているという。
特に、北軍に虐げられていた百姓達などが、喜び勇んで
三村軍に参加している。
だが、まだこちらが数では優っているし、
訓練も実戦も積んでいる。
運が三村軍に味方せぬ限り、負けることはない。
北軍の大将は、震える手で酒を煽った。
だが、内心はやけっぱちであった。
もうこうなれば、運命を天にゆだねるしかあるまい。
兵隊の管理も訓練も、
側近がやってくれているので、
かな子に仕事はない。
せいぜい北軍に敗れるまで、
たらふく旨い飯を食うのみである。
ゆったり泰然と構えるかな子。
周囲の側近達は、「大将としての風格が出てきた」と、
感慨を深めていた。
勝利ではなく、絶望の笑いであった。
三村軍の兵力は、現在50万。
破った北軍の指揮官を助命し、
登用することで勢力を拡大しているらしい。
無償で借り受けたという。
見返りは、幕府樹立後の交易権の確立。
つまり三村軍は勝利を確信していることになるのだが、
北軍の大将はすでに立てる腹もない。
そういう状況である。
あれよあれよという間に京に上った。
そして朝廷を包囲し、
三村かな子は征夷大将軍の官位を授与された。
これが三村幕府のはじまりであった。
病気も怪我もなく長生きしたが、
晩年餅をのどに詰まらせて、
惜しまれつつ亡くなった。
人々はかな子のことを、「食い意地将軍」と呼んで、
後の世まで語り継いだそうな。
元スレ
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1496400657/
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1496400657/
「シンデレラガールズ」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (21)
-
- 2017年06月02日 22:17
- いやそこは食いしん坊将軍だろ
-
- 2017年06月02日 22:37
- ↑版権そのままはまずいですよ!!
-
- 2017年06月02日 22:40
- かな子ェ・・・
-
- 2017年06月02日 22:48
- ヘレンさんよりこっちのほうがよっぽどギャグだな。
まあでも神輿は軽い方がいいって言うからな…。
-
- 2017年06月02日 23:18
- 他のみんなが全身全霊をかけて戦い、壮絶極まりない生き様と死に様で歴史を彩る中、飯を食ってるだけで頂点を極めてしまうとは……これも運命というものなのか。
-
- 2017年06月02日 23:23
- かな子は力士
-
- 2017年06月02日 23:41
- 大将として腹を括って安定感があった(物理)
-
- 2017年06月02日 23:57
- 牢から商人を助け出してしまった以降は確かに何しようが良い結果しか出なかったということですねとんでもねぇ立身出世だ
-
- 2017年06月03日 00:26
- さすが、かな子だ!なんともないぜ!
-
- 2017年06月03日 00:31
- 餅「敵将討ち取ったり!」
-
- 2017年06月03日 02:17
- 美味しいから大丈夫だったのか
-
- 2017年06月03日 04:31
- 日本よりは、古代中国的だね
-
- 2017年06月03日 07:40
- 劉邦みたいな?
-
- 2017年06月03日 08:20
- 個人的には、周による商掠奪以前の、倭人系集落国家時代の話っぽく感じる。
日本だと、飛鳥以前ぐらいがよく似てるかな。
いや、むしろ、滑稽モノの民話だな。吉四六とか色々ある。
ところで、黄色い声の、一番上は誰かな?続く2つは姉とちゃまで確定なんだが。
鰻屋にアイドルが配役されているのか、も。それらしい描写はなかったとは思うけど。
-
- 2017年06月03日 10:45
- 南北って言ってるんだから太平記相当でしょ
茜ちんは上役兼親族の富子おばさんみたいな人に嫌われたんだろうか
-
- 2017年06月03日 11:35
- >>14
>>15
好き。私男だけど抱いてもいいよ
-
- 2017年06月03日 12:35
- このシリーズにしては珍しく物悲しい雰囲気が無かったね
地位が手に入ると欲が出て我を通そうとする奴が多いのにね
-
- 2017年06月03日 16:18
- やはり餅は敵だったか
-
- 2017年06月03日 19:27
- かな子はいつも通り
しかしいかなるときにもいつも通り、故に最強
-
- 2017年06月04日 11:35
- 暑苦しい女→火薬庫→ボンバー!に笑った。
-
- 2017年06月04日 22:29
- >>4さんは
「軽いわけないだろ」って言うツッコミ待ちだった気がする…