ブラック・ジャック「こいつは厨二病ですな」患者「我は闇の支配者なり!」
ブラック・ジャック「わたしの治療費は高くつきますぜ」
母「お金はいくらかかってもかまいません! お願いします!」
ブラック・ジャック「とにかく息子さんを診せてもらいましょう」
ブラック・ジャック「わたしにもできることとできないことってもんがあるんでね」
母「は、はい……」
患者「我が闇の炎で、全ての人類をひれ伏させ、世界をも支配するのだ!」
母「もう何ヶ月もずっとこんな調子でして……」
ブラック・ジャック「こいつは厨二病ですな」
ブラック・ジャック「元々は“中二病”という名前でしてね」
ブラック・ジャック「いわゆる思春期の少年少女にありがちな行動全般を指す言葉だったんですが――」
ブラック・ジャック「だんだんと意味が変わったり付け足されたりしていって」
ブラック・ジャック「今では“厨二病”と呼ぶことが多くなり」
ブラック・ジャック「お子さんのような自分は特別な力を持っていると思い込むようなケースも」
ブラック・ジャック「含まれるようになりました」
ブラック・ジャック「治す? ご冗談を」
ブラック・ジャック「はっきりいってしまえば、これは病気でもなんでもない」
ブラック・ジャック「このぐらいの年齢のお子さんなら誰でも通る道ですよ。無理に矯正させることはない」
ブラック・ジャック「そもそもわたしは外科医であって、青少年のカウンセラーじゃないんでね」
ブラック・ジャック「まァ、自然に治るのを待つんですな」
母「ところが、そうもいかないんです……」
ブラック・ジャック「どういうことです?」
患者「なんだ? 幼女よ」
ピノコ「まー失礼しちゃう! ピノコあんたより年上なんやかやね!」
患者「これは失礼した。君も我と同じ“選ばれし者”ということか」
ピノコ「選ばれち者ってなんなのよさ」
患者「選ばれし者というのはだね……」
ブラック・ジャック(あの二人、妙に話が弾んでるな……)
患者「よかろう」
患者「闇の炎よ、ほんの少しその力を示したまえ」ブオッ
ボワァッ!
ピノコ「アッチョンブリケ!」
ブラック・ジャック「これは……!」
母「そうなんです。あの通り、本当に炎を出せるようになってしまって」
母「一週間前にはボヤ騒ぎを起こして……」シクシク
ブラック・ジャック「こいつは重症だ……」
母「本当ですか!? ありがとうございます!」
母「やはり、脳の手術を……?」
ブラック・ジャック「手術? そんなもの必要ありませんよ」
ブラック・ジャック「お前さんの治療を始める」
患者「治療? ふっふっふ、あの我の母を名乗る女にそそのかされたか」
患者「もし我に指一本でも触れてみろ。君の体はたちまち闇の炎で焼き尽くされることだろう」
ブラック・ジャック「安心しな。お前さんには指一本触れるつもりはないよ」
患者「なるほど、君も“能力者”というわけか……」
ブラック・ジャック「…………」
患者「設定という言葉は気に食わないが、まァよかろう」
患者「我は暗黒よりも深い闇に住まう、闇の化身……この人間の姿は仮の姿だ。
手を振るえば、あらゆるものを焼き尽くす闇の炎を出すことができる。
ひとたび我が力を示せば男は下僕となり、女は愛人となる。
ゆえに人々は我を畏れ、こう呼ぶのだ。“闇の支配者”とな」
ブラック・ジャック「……それだけか?」
患者「え?」
ブラック・ジャック「なんというか、ずいぶん浅いねえ」
患者「な、なんだと!? ……貴様、焼き尽くしてくれる!」ボォッ
ブラック・ジャック「焼き尽くす前に、今度はおれの自己紹介を聞いてもらおうか」
私生活ではいつも黒いコートとスーツを身につけている。
免許を持っていないモグリの医者だが、手術の腕は世界一といってもいい。
医学界の重鎮が治せなかった難病を治したことも多々ある。
それどころか、コンピュータや幽霊、果ては宇宙人の手術をしたこともある。
ちなみにさっきお前さんと話してた女の子はピノコといっておれの大切な助手だ。
元々はある女性の腫瘍の中に入ってた脳や内臓だったんだが、おれが人として組み立てた。
モグリだけあって手術代は決して安くない。数千万円が相場ってとこだ。
だが、相手の事情によってはタダ同然で手術してやることも多い。
医者とはいえケンカも結構強く、チンピラ数人ぐらいならわけもなく倒せる。
ピストルを持った相手をメス投げでやっつけたこともある。
さて、そんなおれだが決して順風満帆だったわけではなく悲惨な過去を持っている。
おれは幼い頃、不発弾の事故で死にかけ、その手術跡は今でも全身に残っている。
その事故のせいで母親は死に、おれは今でも原因となった者たちへの復讐を企んでいる。
顔の色が違う部分は友達の皮膚を移植してもらったもので、その友達は既に亡くなった。
手術をしてくれた大恩人の本間先生も、残念ながら老衰で亡くなった。
その時、おれは医学の限界というものをまざまざと思い知らされたものだ。
こんなおれだが恋愛話がないわけじゃない。惚れたことも惚れられたこともあるし、
心が通じ合った相手もいた。しかし、だいたい悲恋で終わってしまっている。
助からない患者は安楽死させるというのが信条のドクター・キリコとはしばしば対立……」
患者「…………!」
患者(なんなのだこの男は……! それに比べて我の“設定”のなんとちっぽけなことか……!)
患者(うおおぉぉぉぉぉぉぉ……!!!)
患者「……あれ?」
患者「先生の話を聞いてるうちに……頭に宿ってた熱が冷めたみたいで……」
ブラック・ジャック「どうやら元に戻ったようだな」
患者「はぁ……。なんだかよく分からないけど、ありがとうございました」
ブラック・ジャック「これでもう、お子さんが炎を出すことはないでしょうな」
母「これで一安心ですわ」
母「ところで、代金はいかほど……」
ブラック・ジャック「代金? ああ、いくらか診察料を置いてってくれれば結構です」
母「そ、そうですか! 本当にありがとうございました!」
ブラック・ジャック「…………」
ブラック・ジャック「ん?」
ピノコ「どうちて、先生の話を聞いたや、あの人治ったの?」
ブラック・ジャック「たとえ炎を出せるようになっても、思い込みはしょせん思い込みってことだ」
ブラック・ジャック「自分よりもっとぶっ飛んだ人間の話を聞いたら、その仮面もあっさりはげる」
ブラック・ジャック「人のフリ見て我がフリが直る……ってとこさ」
ブラック・ジャック「そうだな」
ピノコ「なんれ先生の人生って、こんなにぶっ飛んでゆの?」
ブラック・ジャック「……手塚治虫に聞いてくれ」
END
元スレ
ブラック・ジャック「こいつは厨二病ですな」患者「我は闇の支配者なり!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1495559270/
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コメント一覧 (34)
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- 2017年05月24日 04:15
- 全部事実で草
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- 2017年05月24日 04:21
- ちょっとやそっとの設定じゃ勝てない
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- 2017年05月24日 04:27
- ワロタw
やっぱり手塚治虫がNO.1
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- 2017年05月24日 04:30
- これは良作
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- 2017年05月24日 04:40
- か、箇条書きマジック
ってフォローしようかと思ったけど、ムリだわ
が、が、が、設定ではなく
ところがどっこい
現実…
現実です…
今、思ったら最後の話ももの悲しいもんな
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- 2017年05月24日 05:27
- 「これァ病気じゃありませんよ、ただの熊本弁だ」
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- 2017年05月24日 06:46
- 手塚「だって悲劇大好きなんだもん」
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- 2017年05月24日 06:54
- 面白い
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- 2017年05月24日 06:54
- 患者「我は闇の支配者なり!」
ブラックジャック「ピノコ、バンソウコウはってやれ」
ピシャッ
患者「あれー?和登サンどこー?」
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- 2017年05月24日 07:55
- これは好き
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- 2017年05月24日 08:11
- 野犬の群れに襲われながら自分自身の開腹手術したとか、人間を飛行出来るレベルの鳥人間に改造したとかエピソードはもりもりあるからな
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- 2017年05月24日 09:31
- すぐに中二病の手術を執り行うだと魔界医師メフィストだもんな…
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- 2017年05月24日 09:54
- 自称「ブラックジャック」がちょっと痛いくらいで他は事実だもんなあ
しかもブラックジャック名も「間」という名字が父親と一緒なのが気にいらないってだけだろうし
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- 2017年05月24日 10:10
- 壮絶な人生だもんなあ
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- 2017年05月24日 10:27
- ドクターKでもいけるな
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- 2017年05月24日 11:14
- 羅列すると色々欲張りだけど、それを活かせてるから作り込みになってるんだろうな
手塚先生はすごいや
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- 2017年05月24日 11:44
- 超能力者と手術勝負したりもしたしなww
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- 2017年05月24日 12:34
- 比べる対象が悪いよな
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- 2017年05月24日 13:53
- なかなかおもろかったわ
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- 2017年05月24日 14:16
- これはいいSS
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- 2017年05月24日 15:31
- コート着込んでるから銃弾も爆弾も平気
患者の加害者に詫び入れさせるためだけにカヌー世界一周へ同乗
ピノコの裏口入学に大金を積む
まだまだあるぞォ! こりゃあそんじょそこらのじゃ敵わんわ
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- 2017年05月24日 16:14
- 子供の超能力者を(親と有名医師の横入りで駄目になったが)治療しようとしたこともあったよね。
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- 2017年05月24日 18:41
- くっころせーっ!!
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- 2017年05月24日 19:19
- 年季が違うんだよな
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- 2017年05月24日 20:01
- やっぱ手塚先生って神だわ
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- 2017年05月25日 01:40
- マジで今で言うチート主人公だもんな
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- 2017年05月25日 02:00
- チート主人公でここまで魅力があるのもすごいよなあ
ボンカレーはどう作ってもうまいのだ
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- 2017年05月25日 03:49
- 板尾創路のブラックジャック
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- 2017年05月25日 20:04
- 思えばこれだけの設定があったな
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- 2017年05月25日 21:20
- 設定(と言う名の事実)ギガ盛りで草
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- 2017年05月25日 22:18
- ここまでされたらもう何も言えないってレベル
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- 2017年05月26日 04:36
- 惚れさせた女の数も片手じゃ収まりきらんし美人ばかり。なのにブラックジャックから惚れたのは比較的地味な如月めぐみという不思議。
…ブラッククイーン桑田このみは、まあ一時の気の迷いだったということで
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- 2017年05月26日 18:34
- >ピノコ「なんれ先生の人生って、こんなにぶっ飛んでゆの?」
>ブラック・ジャック「……手塚治虫に聞いてくれ」
このメタネタが原作っぽくてワロタwww
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- 2017年05月27日 23:49
- ※33
言われてみたら原作も「もうページ数が残ってないからな」みたいなメタネタ結構あったっけか
久々に全部読み返したくなってきた