【モバマス】安部菜々「little braver」
週末はアイドルの卵たちが歌って踊り、まばらなファンがサイリウムを振るこの場所も、今は誰もいません。
……ここは昔と何も変わりません。
ナナが初めてステージに立ったあの日から。
そして、ナナがあの人にあったあの日からも……変わらずずっと、ただそこにあるだけ。
快くステージを開けてくれたオーナーさんにお礼を言って、密室の中にはナナがひとりだけ。
目を閉じて静かな空間に身を任せると、本当に、あの頃に戻ったみたいでした。
広い宇宙の中で、ひとりぼっちのような。
深い闇の中で、迷子になってしまったような。
無数の星々の下で、誰も自分を見てくれていないような。
そんな、あの頃の気持ち。
うろ覚えのメロディー。あの頃の自分が必死に作った、オリジナル曲のうちの一つ。
第何章のそれだったかは、もう忘れてしまったけれど……確か、あの日も歌った歌。
ラジカセもなく、アカペラで口ずさみながら、ナナはステージの上に立ちます。
誰もいないステージ。あの時は……そりゃ、ちょっとは聞いてくれるお客さんもいたけれど。
それでもメイドカフェの頃からのお客さんもほとんど来てくれなくなっちゃってたし、チェキを撮りたいって人もあんまりいなくなっていたっけ。
そう、歌い終わってもこんな風に、まばらな拍手が聞こえるだけの……
聞こえるはずのない拍手。
狭い空間の中で、その音の発信源は、すぐに見つかりました。
「やっぱり、ここに居たんだ」
「プロデューサー、さん……なんで」
ここに来ているなんて、誰にも伝えていないのに。
でもすぐに、プロデューサーさんはそういう人だったのを思い出します。
「前に、ここに連れてこられたこともあったからな。最近の様子に違和感もあったし……昼休み終わっても帰ってこないって聞いて、ひょっとしたら、ここに来てるんじゃないかと思って」
「あ……えへへ、プロデューサーさんにはナナが何を考えているかなんて、お見通しなんですね」
そう。ここは、プロデューサーさんとナナが、初めて会った場所。
アイドルナナの、始まりの地。
「すみません。ミーティング、サボっちゃいました」
「別にいいだろ、特別なにか伝達があるわけでもないし……みくは心配してたから、あとでお茶でもいれてやってくれ」
「あはは……ちゃんと謝っておかないといけませんね」
笑い声が、薄暗い空間の隅へと吸い込まれていきます。
沈黙が、二人の間に広がりました。
「また、不安になった?」
直球でした。やっぱりナナ、この人には隠し事なんてできないみたいです。
そうなんですよね。この人は、ナナの秘密を知っていて……それでもずっと、ナナと一緒に歩いてきてくれた人なんですよね。
だから……ナナも、素直に今の気持ちを告白することにしました。
「不安、だったんです。そんな、大したことじゃないんですけどね」
改めて、ナナはステージを見まわしました。当時のナナが、必死に歌ったステージ。
「今のナナはもう、ここでひとりで歌うなんてできないな、って」
「そりゃあそうだろう。ファンクラブ限定の招待制にしたって、この箱じゃあ……」
「あ、いや、そうじゃなくってですね」
慌てるナナを見て、プロデューサーさんは黙ってナナの話の続きを促します。
なんだか、観覧車の時みたいで……そういう風に話をちゃんと聞いてくれるの、ずるいなあって時々思います。
人生崖っぷち、お先真っ暗だと思っていたあの頃。
夢は遠くて。まるでナナ自身が、夢から遠ざかっていくみたいで。
そんな未来の見えない暗闇の中で、毎日が不安でいっぱいだったナナを見つけてくれたのが、プロデューサーさんでした。
プロデューサーさんに救われた、アイドル・ナナ。
シンデレラの魔法は、いつか解けるのかもしれないけれど……でも、十二時の鐘が鳴った後に、屋根裏で踊ることができる自信は、今のナナにはありませんでした。
「運命の出会い? そうだな……どっちかというと信じてる方かな。ナナは?」
「ナナは、信じてるんです。だって、きっと私たちは特別だから」
「特別?」
ナナは、強く頷きます。
赤い糸……とは少し違うかもしれないけれど。
少なくともナナにとっては、プロデューサーさんは運命の人でした。
運命を、変えてくれた人。
幼い日々に描いた夢。
宇宙からやってきて、歌って踊れる十七歳のお姫様。
月の向こう側に光る、ウサミン星……勝手に宇宙に描き足した、ナナしか知らない星。
「あの頃のウサミン星は、ナナ以外の誰の目にも映っていませんでした。自分にしか見えない夢を一人で見続けるの……なんだか、疲れちゃって」
やめちゃおうかな、とは何度も思っていました。
若い子たちは、どんどんチャンスを掴んでいって……ナナはこの狭くて暗い宇宙にひとりぼっち。
今ならまだ、引き返せるかもしれない。
そんな弱音が何度も頭をよぎって、でも幼い日の夢を見捨てることなんてできなくて。
進むことも戻ることもできない、そんな日々。
そう。それはまるで……二回目の誕生日のようでした。
アイドル・ナナとして、プロデューサーさんと出会った特別な記念日。
「だから……プロデューサーさんにとっても、ナナとの出会いが運命の出会いだったらいいなって」
照れ隠しに、最後に「ぶいっ」とポーズをとって笑って。
プロデューサーさんも、ナナと一緒に笑ってくれました。
胸の奥にしまっていた気持ちを吐き出したら……少し、気持ちが楽になったみたいでした。
今だって、不安がないわけじゃない。ライブの前には、手が震える。
眠れない夜もある。明日には、ガタがきてアイドルのできない体になっているかもしれない。
今の幸せな毎日は夢で。目が覚めたら、またこの暗闇に戻ってしまうのかもしれない。
それでも。
あの日、ナナを見て「面白い」と言ってくれたその言葉に、ナナは確かに救われたんです。
「一人で見る夢はつらいけど……プロデューサーさんが隣で同じ夢を見ていてくれるなら、この先何があったって、ずっと……そう、ずっと!」
あったかい手。ナナに勇気をくれる、背中を押してくれる手。
この人が手を握って隣を歩いてくれるなら……きっと、大丈夫。
手の震えも、自然と収まっていました。
「えへへ……立ちっぱなしもなんですし、そろそろ出ましょうか」
手は握ったまま、ナナとプロデューサーさんは地上階へと戻ります。
すっかり季節は春になっていたけれど、外ではもう日が傾いていました。
まるで、夢みたいに、きれい。
「ふえっ……」
ナナの手が、一段強く、ぎゅっ……と握られました。
歩きながら、プロデューサーさんの横顔を見つめます。
「俺が菜々をスカウトできたのは、菜々が諦めなかったからだ。何度も何度も諦めそうになって、出口の見えない闇の中で怯えながら、それでも夢を叶えたいって勇気を胸に、戦い続けていたからだ」
プロデューサーさんを見ているのがなんだか気恥ずかしくて、ナナはまた前を向きます。プロデューサーさんの手を、ぎゅっと握りしめながら。
「自分で思っているよりもずっと、菜々は強いよ。菜々が自分らしくあることを捨てていたら、きっと俺は、菜々を見つけられなかったと思う。あの日、お互いがあの場にいたから、今の俺たちがある」
「だからきっと、俺たち二人は特別だったんだ」
ちらり、と覗き見たプロデューサーさんは、顔を上げ一点を見つめていました。
視線を追ったその先にあったのは……CDショップの大看板。
愛梨ちゃんや凛ちゃん、卯月ちゃんたちが椅子に腰かけているポスター。
第六回総選挙。その開催を知らせる広告でした。
「今の……ですか?」
「言ってただろ、夢を持ち続けていたいって。俺が出会った頃の菜々の夢は、アイドルになることだった。なら、アイドルになった今の菜々が叶えたい夢は?」
ホント、ずるいなあ、この人は。
ナナがあのステージに来た理由も、ナナが自分の気持ちを告白した理由も全部わかってて。
わかってて、あの看板を見上げて、そんなことを聞いてくるなんて。
そんなこと、ずっと前から決まっていました。
頑張っていれば報われる……なんて簡単なほど、この世界は甘くない。
そもそも、他のアイドルが自分より頑張っていないなんて、そんなことはありえない。
それでも。
「楓さんの前で、誓ったんです。夢から逃げない、夢を追いかけるって」
勝てるかなんて分からない。でも、勝てないなんて思いたくない。
ナナを憧れだと言ってくれた楓さんの前から、みくちゃんの前から逃げたくない。
精一杯、アイドルとして輝いて、そして。
「今のナナの夢は……ウサミン星人として、シンデレラガールになることです」
世界で一番のアイドルに。
宇宙で一番の、アイドルとそのプロデューサーになるために。
「だから、プロデューサーさん」
永遠の十七歳らしく、ウサミン星人らしく。
「なりましょう、一緒に、トップアイドルに!」
「ああ……一緒に」
昔に聞いた御伽噺。世界の果て、虹の根元には、宝物が埋まっている。
菜々の見ている世界の果てには、いったい何が待っているんだろう。
ちょっと不安だけど、プロデューサーさんとならきっと。
どんなに険しい道が待っていても、虹の彼方にだって、ウサミン星にだって、跳んでいける。
さあ、一緒に。旅の終わりを見に行こう。
これは私の自己満足です
元スレ
安部菜々「little braver」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1493047825/
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コメント一覧 (12)
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- 2017年04月25日 21:19
- 楓さんと一騎討ちかとか思われてたのにふみふみ以下って
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- 2017年04月25日 22:22
- ウサミンは第7回シンデレラガールになるから見とけよ見とけよ~
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- 2017年04月25日 22:41
- そんなん、関Pがここまで気張るとは誰も思わなかったろ?
王道は強いんだよ、万遍なくヘイトを集めず支持される
色物は…
前回第五回は15位までに中間ランキングされたアイドルが全員入った
各属性三位も横滑りだったが今回は声付き勢が軒並みエントリーしてないから巻き返しありそう
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- 2017年04月25日 22:43
- ※1
言うてもずっと楓>菜々は変らない図式だったし、ここ1年の扱いが其処まで良かったわけでもないからしゃーない
それに無料票は如何しても声無しや選挙前後の登場キャラ(背景やアニメ含む)に向くからね
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- 2017年04月25日 23:48
- 本田しね
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- 2017年04月26日 01:46
- 気高き夢のため愛する人のため出来ない事なんて一つもなさそう
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- 2017年04月26日 01:55
- そんな弱さなんて哀しいもんだろうな
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- 2017年04月26日 02:03
- 7位になるように調整かけてるだけやぞ
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- 2017年04月26日 08:19
- 総選挙に気が向いてるせいかチェキという自爆ワードに何一つ反応していないな。
選挙で上位を取るよりも自分が応援するアイドルの一番になるという気持ちが大事なんだよ。(圏外アイドル担当の常套句)
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- 2017年04月26日 16:24
- 菜奈さんが「小さき勇者」なんて言うものだからてっきりKADOKAWA版のガメラの話でもするのかと
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- 2017年04月27日 08:22
- 守るべきモノがあれば誰だってリトルブレイバーなんやで
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- 2017年05月02日 22:08
- ちょいちょいバンプファンおるのに草