【禁書】サローニャ「ロシアの殺し屋恐ろしあ」【前半】
- 2017年04月08日 13:10
- SS、とある魔術の禁書目録
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・”if”の世界。…の、未来。
・伊坂幸太郎著の『グラスホッパー』を軸に『魔王』、漫画の『魔王ジュブナイルリミックス』『ワルツ』とか他の伊坂作品とかの要素とかそれっぽい感をぐっちゅぐちゅに混ぜて、たまにパクr、…オマージュしたモノ。
・カプ有り。未定。多分上条×サローニャ、上条×蜜蟻、上インとか…?
・なんでも許せる人向け。
・わりと短編。需要無視の完全なる自己満足SS。
・ぶっちゃけスレタイをサローニャに言わせたかっただけ
戦争:ひとがいっぱいしぬこと。
酷く幼稚なその定義を是正されたのは私が10才だった頃。
現実の戦争はそう一言で言い表せるモノではなかった。
「ママぁああああああああ!!!!」「ひぎっ…!?」
「た、たずげっ…」
「う、ウワァアァアッッッ
アアっ
ぐちゃ。
ぐちゅ。
「や、やめろぉおおおおお!!!!」
「あひゅ…
「走れ!早く!はや、だっ
ドサ。ドサドサ。
ガシャン!!!ドガァァアンン!!!
バァン!タァン!タァンタァン!!
大事なモノも家も人も建物も名誉も友も家族も
燃え、消え、崩れ、折れ、壊れ、失くし、死に、抉られ、穴ができ、踏み潰されること。
それが、
” ”。
ーーーーーそして数年後。15才。
恐らくその時に”人が死ぬ事”を身近に感じすぎて
ジョ-シキ
【人として生きる上での大事なナニか】を失った私は。
私の祖国を踏み潰した国で、
「ひっ…なんで、ここは絶対安全なはずだろぉぉおおおおお!!!!」
「残念だったね。この世に『絶対』なんて事は絶対無いんだよ」
人を殺すお仕事ちゃんをしています。
サロ
ーニ
ャ
「お前!新しい家庭教師だって言ったじゃないか!」
「そりゃ言ったよ?嘘だけど」
「なん、おまっ、」
「だってそうしないと開けてくれないでしょ?家に上がんなきゃお仕事ちゃんできないじゃん」
「インターフォン鳴らしてさ、『すみませーん!ちょっとナイフで刺しに来ましたー♪』とか言っても開けてなんてくれないでしょ?」
「んな…?」
「え、もしかして入れてくれた?」
「な訳ねーだろ」
「でしょ?だから上司から言われてるんだよね。『コイツ留学考えてて、ロシア語に興味あるらしいから家庭教師だって名乗れ』ってさ」
「…なんで、私を…誰が…?」
「さー?上条ちゃんは何にも教えてくれないし私にはそーいうの言わないんだよね」
「上条ちゃんって誰だよ」
「私の上司。でさ、私も気になって私なりに調べたんだけどー」
「君さ、多分、能力を上手く使ってあちこち火をつけて回ってたでしょ?」
「は…?」
「ほらー最近ここらで放火事件多発してたじゃん?」
「ち、違う!私じゃない!」
「でさ、唯一死者が出た時があったんだけどー」
「聞けよ!」
「その死んだ子、君に逆らった子だったんだ」
「…」
「ほら、アンタって能力至上主義なんでしょ?で、そういう派閥を作ってて普段からレベル0を見下してた」
「他にもけっこー悪い噂もチラホラ」
「関係ないだろ」
「で、その死んだ子は唯一アンタに対して反抗した」
「だから?殺った証拠あんのかよ」
「んーん。ないよ?キレーに消されてた。あり得ないレベルで。」
「だろ?大体、そういうのやる奴こそーー」
「でもね?それは関係ないんだってば」
「?」
「あなたは統括理事会のメンバーの子供なんでしょ?お父さんは子供の悪い事した証拠なんて残さない」
「でもね、逆にそれが証拠になるんだよね」
「『誰も消せないような証拠を消せる奴は誰だ?何故?誰のために?』ってコト」
「…だとしても、」
「そうだね。まぁ仮にこの推論が間違っていてもそうであってもあなたは絶対逮捕されない」
「もしも万が一逮捕されてもお金ちゃん払えば出てこれるし」
「ルールを作ってるのは偉い人で、あなたはその偉い人に依怙贔屓されてる」
「きっといつか『そういえばそんな事もしたっけなぁ』ってヘラヘラ笑えるんでしょーよ」
「でも依頼者ちゃんはそれを納得しなかったんだよね」
「そんでさ、やっつけて貰いたいんだよ。社会的にじゃなく、物理的に」
「きっと依頼者はその子の両親ちゃんじゃないのかな?」
「ちなみにどっち?やった?やってない?」
「……」
「ま、どっちでもいいんだけどね。どちらにせよ殺すんだから」
「?!」
「お、お前!私はまだ12才なんだぞ!?」
「はぁ、それで?」
「こ、子供を殺すとか…その、ダメだろ!」
壁際に追い詰めたターゲットは目で必死に逃げ場を探している。
逃げ場?あるわけないじゃん。時間稼ぎなんて無駄だってーの。
「しかも!私は女だ!!」
「はぁ。それで?」
「女で!!子供だ!!!」
どうだ突きつけてやったぞ、と言わんばかりにこちらへウザったい顔を向けてくる。
「…それで?」
「ダメダメダメ!ダメでーす!!女は殺すのダメだし、子供はもっとダメなんでーす!!」
「はぁ。だから、なんで?」
「は、ハァ!?お前、お前…、お前バカかよ!!!」
失敬な。口喧嘩に一回も勝った事無いようなあんたにだけは言われたく無いんですけど。
「大体なぁ!『どんなにクソムカつく奴であっても人を殺しちゃダメだ』、なんて!世の中のジョーシキじゃねぇかよ!!!」
それをあんたが言うかね。
「…バッカじゃないの?」
「あぁ!?」
「だったら。アジアの某国ちゃんとか、今まさに宗教と思想でたくさんの人ブッ殺しまくってる奴にも同じ事言って来なよ」
「…違う。ぜーんぜん違うんだって。」
「『人を殺しちゃダメ』が常識じゃなくって、『ムカつく奴をバレないようにブッ殺す』のが常識なんだよ」
「で、君はしくじった。非常識な事しちゃった。それだけ」
「…お前、イカれてる」
「そう?さっきのあなたの『女で子供は殺しちゃダメ』ってのもイカれた意見だと思いますけど?」
「大体さぁ、なんで子供ちゃんを殺しちゃダメかなぁ?」
「子供はいずれ大人になるし、ナマイキだし。結局大抵は大した価値もない大人ちゃんになるじゃん」
「それに、女も男も価値に大した差はないでしょーよ」
「というか、それ言うならおじいちゃんやおばあちゃんは?」
「社会貢献とかしないし、労働力にはならない上にただでさえ少ない若者が無駄に必死に支えなきゃならないよ?」
「更に言うなら。その理屈で言うならさ、大人で男は殺されてもいいのかよって」
「そーいうの、サベツでしょ」
「こ、この…理屈理屈でくどいんだよ!!」
「それにな!こんな事してみろ!!父さんがすぐに警備員や私兵を動かす!マスコミだって騒ぎ立てるぞ!」
「お前は終わりになるんだ!!」
「…『そんな事したらすぐ警察機関に捕まる』『マスコミだって騒ぎ立てる』」
「『捜査機関が必死に捜査するし、追跡技術が発達したその街では逃げられない』…」
「よくさ、学園都市の外の人もそう言うんだよね」
「は…?」
「ぷぷ。変わんないっての。外も、中も」
「ねぇ。この街で未解決のこういう事件がどれくらいあるか知ってる?」
「…?」
「『チャーリー・パーカーに道で白人を十人殺していいとて言えば、楽器を捨てて演奏なんてやめるさ』」
「ゴダールの映画ちゃんで言ってたんだけどね」
「…?突然、なんだよ、何が言いたい?」
「とどのつまり。チャーリー・パーカーは白人ちゃんをブッ殺したくて仕方なかったのをサックスを吹くことで誤魔化してたんじゃね?って事」
「でもって、今の時代はさ、その”チャーリー・パーカーにとってのサックス”を持ってない人間ちゃんが山程いるって事」
「そんな、常識は、……だって、おかしいだろ、…こんなの、」
「ハイハイちゃん。ま、でもさ?あなたの理屈とか常識は知らないけどさ、」
「私もプロなもんで。」
「お医者ちゃんだって『男は治しません』なんて言わないし、風俗嬢ちゃんだってどんな不恰好な男が来てもサービスするでしょ?」
「私は殺すよ?平等に。男も女も、大人も子供も。」
そして私は。
私の背後のドアへ縋った少女の背中へ花粉を投げつけた。
術式が発動して心筋梗塞が始まる。
そして少女は
悶え、苦しみ、
そんで、ゆっくり動かなくなった。
トゥルルル。トゥルルル。
「はいはいちゃん。」
『終わったかよ、”綿”(わた)。』
「おういえーす。無事に終わりましたよん」
『だったらすぐに帰れよ?昔、インデックスってシスターは俺にこう言ったんだ』
『「とうま。お腹いっぱいになったんなら早く逃げよう?」ってな』
「それ食い逃げだよね?」
『しょーがないだろ?そんときの俺たちには貯金も覚悟もなかったんだから』
「じゃあ食うなよそして働けよ」
『ともかく。『もし悪い事しちゃったらさっさと逃げろ』って事だな』
…通信が傍受された時の事考えてって事でこんな遠回しな言い方してるらしいけど
本当にコレ意味あんの?上条ちゃんよぅ
「お土産ちゃんは何がいい?」
部屋を出て、街へ出て、人ゴミに紛れる。
あんまり駅にない物とか頼まないでくれると嬉しいんだけど。
『じゃあ、ひよこ饅頭。たまに食べたくなるんだよな、アレ』
…あるかなぁ?
上
条
復讐:被害者側から加害者側へ行く事。
そんで、善人から悪人にジョブチェンジするってことだ。
何せ、例えそれをやったそいつにやむにやまれぬ事情があっても、
そいつに『理解できないわけではない人間臭い理由』ってのがあっても、
そいつやそいつの周りの幸せをブチ壊してでも。
すり潰して、殴りつけて、蹴飛ばして、踏みつけて握り潰すんだから。
「…ひよこ饅頭…プラス、どら焼きでも良かったかな」
タッタッタッ、とスマホをいじる。
にしても。復讐ってのは本当に割に合わないよな。
だって、例えば誰か大事な人が殺されたから~とかなんだとかだったとして。
仮に復讐を成し遂げたところでたぶん殺された大事な人自身もきっと喜ばない。
…まぁ、死に際に「この軍用ナイフをあの野郎の眉間にブッ刺して私の仇をとってくれ!」とか言うようなワイルドすぎるヒロインじゃない限りは。
でも。
パッと思いついただけでもこれだけデメリットに塗れてるっていうのに
それでもそんなクレイジーな損得勘定ガン無視行為をしなければならないほどに。
人には、絶対的に許せない、赦しちゃいけない事ってのがある。
どっかのジョニーデップ似の偉人?は「右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せ」なんて言ったらしいけど、
俺は「右の頬を叩かれたから、そいつの右目にパンチして、捻って転ばして蹴っ飛ばしたわ」
そんな教えを広めたい気分だね。
ああ、あともう一つ。
「ついでに、ブッ殺しといた」
コレも追加で。
「はぁ…コメもレスもつかねーなぁ…」
結構高級マンション。そんで、小洒落たオフィススペース。
その仕事机に足乗っけてサイト巡回しながらぼやく。
ばたむ。
「ただいまちゃーん」
「おかえり。風呂沸いてるぞー」
革張りの高い椅子を回転させ、背中から帰宅してきた部下に声をかける。
「ハイ。ひよこ饅頭…は無かったからどら焼きちゃんにした」
「…そう来たかー…」
「?」
「や、こっちの話。」
「で。今日は見つかったの?」
「何がー?…お、栗が入ってる奴もあるじゃん」
「恋人の仇」
「…インデックスは別に恋人じゃねぇよ」
「じゃあそれ。」
「見つかってない」
「あっそ。…って、また上条ちゃんSS書いて遊んでたでしょ」
「バレたか」
「あ、つってもアレだぞ!?ちゃんと仕事はしたし、その合間にやってんだ、文句言われる筋合いはねぇぞ!」
「ハァ。サローニャちゃんは別にぜーんぜん構いませんけどー、本当に探す気あんの?」
「あるある。ありまくり。ただ上条さんはちょっとやる気を第七学区学生寮の7階に置いてきちゃっただけ」
「じゃあ今すぐ取りに帰りなよ」
「うるせーいいからさっさと風呂入ってこい。」
「とゆーかせめてサローニャちゃんが帰ってきた時ぐらいは仕事ちゃんしてくれませんかね?」
「こっちばっか働かされてるのに上司は仕事中遊んでるって感じすっからさー?」
「まぁ待てよ。インデックスだってこう言ってたんだぞ」
「『私は修行中の身であるからして一切の嗜好品の摂取は禁じられているけども』」
「『しかしあくまで修行中の身なので完全なる聖人の振る舞いを見せる事はまだまだ難しかったり難しくなかったり!』」
「ってな!つまり、『ついつい遊んじゃうのはしょうがない』って事だな」
「意思弱っ」
「なんでそうなんだよ。可愛いだろ?」
「ハイハイ。じゃあサローニャちゃんはお風呂入るんで」
バタム。
「…」
「どら焼きどら焼きっと」
「むぐ。」
「……」
「…インデックスと会った時から10年。…もう俺も25かぁ…」
なんとなく左手のくすんで鈍く光る指輪を眺める。
「…買った時はあんなにピカピカだったのになぁ。やっぱ安モンはダメだなぁ」
そんなツルツルで無垢な少年もヒゲボーボーで擦れたおっさんになる程の年月が経って尚。
指輪を見るたび殺意の衝動が猛り狂う。
蜜
蟻
恋慕:結局のところ手に入らない物を貪欲に欲し続ける呪い。
「お願いします!その情報を売ってください!」
「そぉねえ…どうしようかしらあ?」
顎に手を置いて、考えるフリくらいはしてあげる。
「ねえ。ビル地下アダルトショップのカウンターの前で土下座をしてる人って中々シュールな光景だと思うのよ」
「シュール。わかる?」
チラと見ると土下座から更に頭を下げて「お願いします!」と続ける。
別にあなたに向けて言ったわけじゃないわあ。
さっさと察して、土下座をやめて欲しいんだけど。
「その辺りどう思う?」
髪を掬い、耳に当てたスマホを土下座さんにも見えるように誇張する仕草をしてみる。
「お願いします!!!」
「…はあ。」
私は目の前の彼に「今私がしてる電話の向こうの相手に言ったのよ」と伝えたかったのだけど。
『そうだな。ちょっと今からそっちに行って見物したいくらいだな』
「あらあ?じゃあ本当に来る?」
1割期待、9割冗談で。
『行かないって。で、なんか掴んだって本当なのか?』
『もしウソとか大した情報じゃなかったら俺の睡眠時間返せよな』
「安心して。あなたが長年探してた情報よお」
『…誰だ?!どこの誰がインデックスを!!!』
「そーねえ。…3と6ってとこかしらあ」
『…あの、高くない?もう少し安くしてもらえませんか蜜蟻さん』
「あらあ?長年追い求めた喉から手が出るほど欲しい情報でしょ?これくらいの価値はあるんじゃないかしらあ?」
『足元見るなよ…長い付き合いだろ?』
「ええーどーしよっかしらあー」
『頼むって!上条さんも部下養ったりアレコレ揉み消したりで結構金使ってんだって!』
「ふーん。まああなたの頼みだしい?してあげなくもないけどお?」
『お願いします!蜜蟻様!』
「じゃあ明後日とか会える?」
『デートね。ハイハイわかった。』
「後で日時と場所送るわあ」
『…ありがとな』
「それじゃ、楽しみにしてるから」
ピッ。
「…さて」
「…お願いします…」
「まだ居たの?他のお客様のご迷惑にもなるからやめてもらえないかしらあ?」
いえ、店内には私とこの人以外誰も居ないのだけれど。
「教えてください!あいつは、」
「…そうねえ。」
「…じゃーあ。さっき彼に提示した額。それを払ってくれたら売るわあ」
「…いくらですか?3と6って、」
「3億6千万円。」
「」
あら、面白いくらい表情が凍ったわ
「…冗談、」「じゃないわあ」
ニッコリと笑って付け加える。
「ちなみに。彼は本当にそれをポンと払えるぐらいは稼いでるわよ」
「へ…?」
「一流の…報酬額が億単位じゃなきゃ引き受けない殺し屋とか…そうね、”劇団”とか”押し屋”、”自殺屋”…”火事屋”も雇えるわねえ」
「…つまり、あなたはそのぐらい他人に人を殺させてるような男にこれから狙われるって事よお」
「シスター殺しの犯人さん」
「…」
「んー…ま、払えないなら情報は売れないけど。あなたが良ければ私のとこで匿ってあげようか?」
「!」
「…いいんですか?」
「だって、もしあなたが彼に殺されちゃったら…彼、もう私を頼らなくなっちゃうかもしれないじゃない?」
「彼はシスターさんに首ったけだしい?」
「彼が囲ってる口リに走られても嫌だしい?」
「このままビジネスパートナーで終わる…なんてなったらそれこそ最悪じゃない?」
そして、何より。
「もう誰かの踏み台にされるのはゴメンなのよねえ」
ステ
イル
灰:今の僕自身。学習性無力感による生ける屍。
燃える。
燃える。
燃え盛っている。
別に金持ちそうだとか、家族用の大きめのマンションとかではないね。
どこまでも普通でパッとしない、平凡などこにでもありそうな学生寮マンションだ。
その一室から黒い煙がモクモクと空へ昇っていき、オレンジ色の揺らぐ炎があちこちを舐めている。
ぼんやりと死んだ魚の眼でダラリと見ながら口から零れそうになったタバコを咥え直す。
煌々と空へ立ち昇るオレンジ色、あちこちへと這わす炎の舌。
ギラついて、触れる物全てを焼き尽くす。
ああ…これは…たぶんかつての僕だ。
彼女が生きていて、それを見守っていた頃の。
必死に写メってSNS系サイトへアップロードしてる連中と燃える部屋をぼんやり眺めながら、僕は近くの公園のベンチに腰掛けている。
そういえばさっきコンビニで買ったサンドイッチがあった。
ガサガサビニール袋から取り出して、
ぼそぼそと咀嚼する。
まぐ。もさ、もさ…
………。
マズイな、コレ。
ところで御存知だろうか。
実はこの国の火事の原因トップ3は、
1位は放火で
2位がタバコの不始末、
3位はコンロによるものなんだ。
こんな所でも社会へ悪影響を及ぼすあたり”タバコ”という物は本当に百害あって一利なしなのだろうね
今度からはタバコの表記は
『喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります。疫学的な推計によると、喫煙者は肺がんにより死亡する危険性が非喫煙者に比べて約2倍から4倍高くなります。』
みたいに皆大体読まないような文句じゃなくて、
『コレ吸ったら死にます』
とシンプルにわかりやすく書いた方がいいんじゃないか?
僕を含め、愛煙家はそれでも止めないだろうけどね。
閑話休題。ちなみになんだが、あの部屋が燃えた原因は、
1、僕が魔術で火をつけた
2、ついでに吸ってた燃えたままのタバコをあの部屋でポイ捨てした
3、そういえばあの部屋の住人も殺す予定だったし抵抗したからそいつの頭をコンロに縛り付けて焼いていた
からだ。
「…そりゃあの部屋も燃えるだろうね。何せ火事の原因トップ3が揃い踏みだ」
「おっと、」
咥えてたタバコを落としてしまった。
「…ああ、クソ」
新しいタバコを咥えて火をつける。
「フー…」
…僕は今、この街、この業界で”火事屋”と呼ばれている。
ほら、火っていうのは便利だ。不要な物を燃やし、不都合な物や人を跡形もなく消してくれる。
要は頼まれたらこうして何でも燃やすんだよ。建物だけではなくて人も、物も、イベントとかも。
あの女の下にいるのも疲れたんでね。こうして自営業を始めてみたんだ。
まぁこれが案外上手くいった。もう10年くらい続けてる。
何せホラ、僕は元々”必要悪の教会”の人間だ。殺しは慣れてるし。
それに食いっぱぐれる事もない。
この街の住人は肉体年齢も低いが精神年齢も低い。
『僕が気に入らない事するからあんな嫌いな奴殺しちゃえ』
要約するとこんな感じの幼いモラルレベルの思考で平気でクラスメイトや同僚、研究室や商売敵、恋敵や秘書も先輩後輩までもを殺すのだから。
大人ならそういう自分と馬が合わない人とも折り合いをつけて付き合っていくものだろうに。
あー…アレかな。
この街の人間は身の回りが科学の力で便利になったから、今度は心の回りも便利にしたいのかもしれない。
自分の心地がいいように。自分の好きな人しか周りにいて欲しくないからと
そういえば。最近頻繁に連絡してきていたあの12才の少女から急にお呼びがかかってこなくなった。
『まだまだ燃やしてもらう』って言っていたし前金までもらってたんだけど。
「殺られちゃったかな?」
ま。こんな事は往々にしてよくある事だ。方々に恨みを買う事をしている依頼人ほどね。
「…なんだろうね、この虚脱感」
この生活に、飽きてきた。
もっと言うと、生きるのに飽きてきた。
でもコレは何も最近というわけじゃない。
それこそ10年前のあの日、僕が『君のために生きて死ぬ』とまで誓った彼女があっさり殺されてしまった時からだね。
守る役目は僕ではない男に取られたが…それでも見守ろうとしていたのに。
彼女を守って死ぬと決めていたのに。
肝心の彼女は僕より早くさっさと死んでしまった。
魔術師の僕が危険を犯してこの科学の街で生きているのは自分でも不思議だが、
恐らくは彼女の遺体と墓が安置されているこの街で彼女の墓守紛いの事をしたいのだろう。
十年前に彼女を任せていた彼は心がどこか壊れてしまったし。
(あの時は僕も彼を責め立てたが、今思えば正直彼に責任はあまりないようにも思う。)
何はともあれ。僕は生きる理由を失くしてしまった。
アレから何度も新しく理由を作ろうとも努力はしたが…ダメなんだ。
何もする気が起きなかった。
それでも生きなきゃいけないから自分の一番得意な『燃やす事』で食べてきたが…
うん、もう、お終いにしよう。
そうだな…燃やしてしまおう。
火事屋の最後の仕事は自分自身を燃やす事にしようか。
さぁ、どうやって燃やそうか。最後くらい、ーーーーー
とぅるるるる。とぅるるるる。
「…」
とぅるるるる。とぅるるるる。
「…」
とぅるるるる。とぅるるるる。
「…ハイ」
『火事屋さんに依頼をしたい』
「…」
「どうしても、ですか?」
『どうしても、です。』
「…御依頼、ありがとうございます。」
『受けていただけますか?』
「依頼内容によります。どのような御要望でしょうか」
…拒否するのも可哀想だし、コレが最後にしておこう。
サロ
ーニ
ャ
~上条事務所~
サローニャ「そういえば上条ちゃんってさ」
上条「ん?」
サローニャ「基本的に悪人ちゃんしか殺さないよねー」
上条「”悪人”の定義がわかんないんだけど」
サローニャ「じゃー、”非、合法的”な行為を行った人」
上条「ああ、それなら、まあ。そうだな」
サローニャ「なんで?」
サローニャ「『悪人なら殺していい』『俺は必殺仕置人!闇の狩人なのさ!』とかー、バカバカしー事を本気で思ってる?」
上条「思ってない。後半の厨二ロマンもな」
上条「つーか、それってそんなにバカバカしいか?」
サローニャ「えー?だってさぁ、世界的に見れば死刑制度存置国はかなり少ないでしょ」
サローニャ「つまりさ、多数決だよ。この国は基本的に多い意見に右に倣えが正しいんでしょ?」
サローニャ「じゃあ、少数派である死刑は正しく無いじゃん?」
サローニャ「もっと言えば。悪人だから殺す、のは間違ってんじゃない?」
サローニャ「誰かにとって不都合な良い人は殺しちゃダメで、悪い奴は殺していいなんてサベツだよ」
上条「何言ってんだ。多数決で多い意見が必ずしも正しいわけじゃないだろ」
上条「それにだな、死刑制度ってのはそもそも『悪い奴は要らないしムカつくから殺していい』じゃねーんだよ」
上条「すげー簡単に言えばさ、『悪い事した奴が死ねば、大体皆が納得するから』なんだって。」
上条「人殺しが死ねば死んだ奴の遺族の溜飲も下がる」
上条「政治家が判断ミスったら『全部秘書が勝手にやった』っつって、んで秘書が死んだらマスコミは叩かない」
上条「お国柄ってやつなんだろうが、『責任とって死ぬ』ってのは、それなりに効果があるんだよ」
上条「だから、だ。」
上条「ま、だから悪い事した奴は寿命より早く何かに殺されるんだよ」
上条「オトシマエつけろって奴」
サローニャ「ふーん…」
上条「ーーーーーーって言うと、なんか世の中の真実っぽいだろ?」
サローニャ「説明下手でよくわかんなかった、ってのが本音ですけど?」
上条「oh」
上条「ま、でも俺が悪人ばっか殺す依頼しか受けなくて、誰かにとって都合の悪い善人を殺さないのは」
サローニャ「殺さないのは?」
上条「多分…良い人を殺したらインデックスに怒られるからだなぁ…」
サローニャ「…ふーん」ムスッ
上条「…何むくれてんだよ」
サローニャ「べっつにぃ」プクゥ
サローニャ「上条ちゃんはほんとーにインデックスちゃんが好きなんだなーウザいなーってだけ」
上条「ウザいゆーな。人の『これが好き!』って気持ちってのはな、神様にだって止められねーモンなんだよ」
サローニャ「話変わるけどさ、この街って変だよね」
上条「何がだ」
サローニャ「この街は子供を預ける場所なのにさ」
サローニャ「殺し屋業界があって、業者は誰も食いっぱぐれなくて、殺し屋も標的もめちゃくちゃ人が毎日沢山死んでんのに」
サローニャ「どうしてこの街には人が居なくならないんだろうねー」
上条「そりゃあ、アレだろ。毎日人間が大量の牛さんを殺しまくってんのに焼肉が食べれなくなる事がないのと一緒の理由だな」
サローニャ「…どゆこと?」
上条「余ったり押し付けられた牛さんはストックするか育てて、業者が育てた牛は外から常に供給され続けるだろ?」
上条「で、学園都市って名前の焼肉店で。殺し屋とか研究者とか非合法な奴らがその牛さん達を焼いて食うって事さ」
サローニャ「あー…」
サローニャ「…っでー?今日はお仕事ちゃん無し?」ウダウダ
上条「そーだな。急な依頼が来ない限りは」
サローニャ「ふーん…」
上条「つまんなそうですね」
サローニャ「うん。ひまひまちゃんー」
上条「いいことじゃん。友達とでも会ってこいよ」
サローニャ「残念だけどーサローニャちゃんに友達はいません」
上条「マジかお前」
サローニャ「マジだ。何百人以上と殺してきてる殺人鬼ちゃんにお友達ちゃん出来ると思うのか」
上条「隠して付き合えばいいだろ?」
サローニャ「むりむり。むりーっ!」
上条「じゃーほら、同じ業界の…ほら、”蝉”っていたろ?あとはー、兄弟で殺ってたやつとか」
サローニャ「”蝉”は死んじゃったじゃん。その兄弟も」
上条「あ、そうだっけ?」
サローニャ「この業界ってさぁ、みーーんなすぐにいなくなっちゃうんだよねぇ」
上条「色々あるからな。標的被りとか、『あの業者信用できないから別で雇ったコイツで殺して口封じしとこ』とか」
サローニャ「でしょ。友達作るどころかサローニャちゃん自身いつ死ぬかわかったもんじゃないんだって」
上条「そうだなあ」
サローニャ「まぁその方がいいけどね。」
サローニャ「上条ちゃんみたいな仲介業者とは組まなきゃ仕事できないから最低限の付き合いっているけどさ」
サローニャ「それ以上の他の業者と仲良くなっていざという時その人を切れないとか裏切るとか引き金引けないとかなったら死ぬし」
上条「お前ドライだよなぁ」
サローニャ「そうでなきゃやってけないし」
上条「…そういやさ、前々から聞いてみたかったんだけど…一個すごいデリカシーない事聞いていい?」
サローニャ「にゃーに?」
上条「お前、いつも人を殺す時にさ、なんか思ったりすんの?」
サローニャ「?」
上条「ほら、例えば『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめry』とか」
上条「自分に死ぬほど言い訳したり、『生きるためだから』とか『しかたないから』とか」
上条「『てめーみてぇなゴミは死んじゃえー』とか?」
上条「なんか、そういうこれから殺す奴に対してさ、何か思うところとかあんのかなーって」
上条「ほら、俺はまだ人を殺した事ないんだけどさ。これから殺す事になった時に躊躇なくスムーズに殺せないと」
サローニャ「えー…?うーん…」
サローニャ「あ、一個思ってるかも」
上条「お、どんなん?」
サローニャ「『ちょっと悪いな』」
上条「…」
上条「え?そんだけ?」
サローニャ「うん。そんだけ。」
上条「へぇー…」
サローニャ「あ、ニュアンスとしてはアレに似てる」
上条「アレ?」
サローニャ「車ちゃん運転しててさ、大きい交差点でさ、渋滞しすぎてて信号を上手く渡れなかったとするじゃん」
上条「ほう」
サローニャ「で、交差点ちゃんのど真ん中あたりで他の車とも一緒に止まらざるを得なかったとする」
上条「他の奴からしたら死ぬほど迷惑で邪魔だろうな、その車」
サローニャ「当然、すんごーく交通の妨げになるじゃん?」
上条「そうだな」
サローニャ「で、思うじゃん。『あーゴメンゴメン。でも許してよ。そんなに言うほどめちゃくちゃたくさんの人達に迷惑はかけてないし、大した邪魔はしてないでしょ?』」
サローニャ『もうすぐ渋滞も解消だし?ね?すぐ渡るからさ。はいゴメンねー』」
サローニャ「みたいな?」
上条「…」
サローニャ「参考になりましたでしょーか?」
上条「そうだなぁ…」
上条「一個思ったのがさ」
サローニャ「はいはい?」
上条「今更だけど、やっぱお前は人殺しの才能があるよ」
サローニャ「そ?」
上
条
「でもさ、才能ちゃん活かして生きていけるのって最高だよね。」
トトト。やけにニヤケた顔でサローニャがこっちに来る。
大体こういう時は甘えてくる時だ。
案の定、
「仕事によるだろ。…というか上条さんの膝に乗ってくるな抱きついてくるな」
「えーっ?いーいーじゃぁーん。」
椅子に座ってる俺の膝の上に座って向かい合う形で。
「煩わしいんだよ。俺の自由が一つ減る。」
「でもー悪くない不自由でしょ?美少女ちゃんに抱きつかれてんだぞー?」
「俺の守備範囲は酒飲める年になるくらいだから。」
「…あと3年かー」
「何さりげなく18で飲もうとしてやがる」
「だってロシアじゃお酒ちゃん解禁は18才からだもん」
「この国じゃ20からだ。」
「大丈夫だよ。ロシア人の死因の30%はアルコールちゃんが原因なんだよん」
「最早アル中は国民性ってくらい。そのくらいロシア人とお酒ちゃんは切っても切れないほどなのさ」
「全くもって『大丈夫』の要素がないんだけど」
「え?この国の人は『皆がやってるなら大丈夫!』なんじゃないの?」
「否定はしないけど。」
「でもさぁー日本人もアル中ちゃんの人は多いし?国民性結構似たようなもんだしぃ?律儀に20歳ちゃんまで飲まないって子の方が珍しいんじゃない?」
「知らないって。アンケートでもとったのかよ」
「とってないけど経験則かな。サローニャちゃんの周りは飲兵衛ばっかだったもんで」
「ロクな大人がいなかったんだな…」
「そもそも。大人ちゃんが格好良かったら子供ちゃんはグレないんだよ」
「あっでもでも」
「なんだよ」
「上条ちゃんは格好いい大人だって、私は思うよ」
サローニャはニッコリ!と満面の笑みを浮かべて。
「…そりゃどーも」
俺の首元に顔を埋めた。
そーいや俺とコイツは付き合いがそこそこ長い。
コイツを、
サローニャ・A・イリヴィカを拾ったのは…えー、確か4年程前…だったかな?
路地裏でチンピラを殺して回ってる女の子がいるって蜜蟻から聞いたんで、(買ったんで)スカウトしたらいきなり襲ってきたんだ。
んで、ボコボコに返り討ちにして説教して、泣き出した所を抱きしめてみたらあっさり死ぬほど懐いた。(ご覧の通りに。)
尚、当時の上条さんにはお金が本気でなかったから一人養う(社員的な意味で)のもキツかった。
え?そんな状況で何故そんなロシアからの戦争孤児を拾ったのか?
いや上条さん別に口リコンじゃねーし、善意だとか自己満足の類いではないですから!
アレだよ。当時の俺が『俺の代わりにキチンと人を殺してくれる部下』を探していたからです。
あ、おわかりいただけるだろうか?
『俺の代わりに』
『キチンと人を殺してくれる』
『部下』
だ。
『俺の代わりに』。
噛み砕いて言うなら、『俺一人じゃ恐いよ。君も直接手伝ってくれよ』とか言わない奴って事。
当たり前だろ?俺は直接手を下したくないんだよ。
だからわざわざ人を雇うなんて死ぬほど面倒くさい事してるんだよ。
だから、賃金は歩合だとか日給やら時給や固定給なんてシステムじゃないんだよ。
だから、バカ高い”報酬”なんてもんを払ってんだぞ?
俺の手を煩わせるのは違うだろ?
だって、それは”お前の仕事”なんだからさ。
『キチンと人を殺してくれる』。
『あ?うん殺した殺したー』とかスマホ弄りながら返事するようなテキトーな奴ではない事。
当たり前だろ?こっちは”仕事”を頼んでんだぞ?
しかも一歩間違えたら即人生終了のな。
・こちらの指示以外の事をしない。
・何があっても依頼者と俺に関する一切の情報を漏らさない。
・少なくとも依頼者や標的に嫌悪感を抱かれない清潔感のある人受けする見た目を持つ
・トラブル起きたらホウレンソウ。
・どんな標的でも状況でも依頼完遂のみを念頭に置き、標的を確実に殺し、その死をしっかり確認する。
・どんな所に標的がいても忍び込め、調査もできる
・証拠は残さない。
・捕まらない。
・私情は絶対挟まない。
これらを遵守出来る事。尊守じゃないぞ?遵守、だ。
要は社会人として当たり前な事くらい守れる能力がある人間かって事だな。
で、『部下』。
そいつと俺は友人じゃないし、恋人でも家族でも、盃交わした兄弟とかでもない。
俺が上で、そいつが下。俺がどんな事をオーダーしてもそれに必ず従う事。
そういう人間関係を構築できる事。
…ところが、こんなそこらのバイトですら守れそうな事を守れない奴が多すぎた。
一人目。実行段階で人殺しになる事にビビってトンズラこきやがった。(その後標的に逆に狙われてそいつは殺された)
二人目。女。殺せたが証拠を残したり友人に殺した事を漏らしてしまい、そこから辿られて逮捕された。(俺は早い内からそいつ切ってたから助かった)
三人目。標的が予想以上に強すぎて(そいつに戦闘技術が無さ過ぎて)殺せなかった。
四人目。不真面目すぎ。仕事も何もかもテキトーすぎ。コミュ障すぎ。無能すぎ。(俺が話してる間とかずっとゲームやってた)
五人目。下剋上しかけてきやがった。(安心してくれ。上条さんはしっかり殴り倒して業者に依頼して殺処分してもらいましたのことよ)
六人目。元研究者。遺体を『貴重な高レベル能力者をそのまま捨てるなんて勿体無いから』と知り合いの研究所に横流ししようとした。(最終的に知り合いの研究所の元にはその元研究者の遺体が届けられたが)
七人目。元暗部。有能だったが過去にやらかしすぎてたみたいで敵が多すぎて商売敵に狙われすぎた(初任務で10の組織に攻撃されて死んだ)
八人、九人…十人目…
中々見つからなかったんだ。まともに働く能力がある『殺し屋』が。
…まぁ納得はできる結果ではある。
何故って、確かにこの街にはチンピラとか非合法な研究所や軍用クローン作るような奴やら運び屋だとか暗部だのなんだのと根性腐ったゴミ野郎は非常に多い。
だけど、まともに生きようとする人間もかなり多い。
人の命なんてなんとも思わない研究者ですら
『確かに犠牲は出したが、それでもこの研究で将来誰かを幸せにできる。ただ人を殺す事なんて非合理的な事はしない』
なんてイカレた正義漢と(非)常識を、思想だとか…そういうのを持っている。
要はアレだよ。まともな奴(まとも度合いは別にして)は踏みとどまっちゃうんだ。
心のどっかでブレーキかけちゃうんだよなぁ。
『こんな事してまで金を稼ぐ事もない』
ってさ。
そりゃそうだ。
きょうびこの国には最低賃金スレスレ研修期間だの短期バイトやマグロ拾い、殺人現場清掃だのエ口いお仕事だのなんだのと『少なくともギリギリ違法じゃないお仕事』が沢山ある。
某国じゃ一ヶ月働いても10万すら稼げない所だってあるが、日本ならやろうと思えば一週間働いて10万稼ぐのはそう難しいことじゃない。
そんな中で、『人殺しになる』っていう人類最大のタブーの内の一つをやるのは、
一度捕まれば人生と若さをかなり無駄に浪費する。出てきた時には社会に自分の居場所はどこにもない。
逆に『そこまでの事をしなければ金を稼げない』のは…
…まぁ、自ずと答えは見えてくる。
『そこまで堕ちるような、まともじゃない人間』だ。
ついでに。仮にまともな殺し屋がいてもそいつはわりとすぐに死ぬ。
あちこちから恨まれまくる仕事だからあちこちから逆に狙われるんだよな
だからこの業界で10年以上生きている奴は本当に珍しい。
実力と運、諸々がなければ文字通り死ぬんだから。
まぁそんなワケで。
外国人の見た目と(しかも客観的に見てかなり可愛い)国籍、年齢、能力、人格等の総合的合格ボーダーラインをクリアしていたサローニャを拾えたのはガチでラッキーだった。
普段から不幸な上条さんからしたら『オイ、まさか一生分の運使ったんじゃないだろうな?』と疑うくらいには。
サローニャは強かったし、俺の言うことはなんでも聞いた。(本当に『何でも』だ。一回ふざけて『抱かせろ』って言った時はこっちが非常に困った事になったほどに)
依頼も完遂率99%。通り名も業界に浸透してる。
有能だし、俺の中でも評価はかなり高い。
…なんだかんだでコイツとももう四年か。
仕事はもう慣れた。業界でもそれなりに名は売れている。商売も軌道に乗った。
そして、
そこに来て長年追い求めたインデックス殺しの犯人の情報が見つかる。
機は熟したのかもしれない。
ふと、頭の中でジョン・レノンの『イマジン』のワンフレーズが流れる。
…ああ、これ、神様も言ってるんじゃないだろうか。
『今が、その時。』
って。
蜜
蟻
「今日はどうしましょうか」
「そうねえ」
彼の好みの髪型はなんだったかしらあ?
脳内フォルダを開けて、彼に関する引き出しの三段目あたりを探ってみる。
…ああ、
『特になし。その子に似合っていれば』
そう、そうだったわあ。
彼って女泣かせよねえ。
好みに合わせようと思っても彼の好みって特にないのよねえ…
ショートにもロングにもセミロングにも反応無しだし。
彼の携帯に入ってる極めて個人的なブックマークやコレクションファイルの中の女優さん達も多種多様だものねえ
あ、ちなみに私の店の中で彼の携帯電話の画面を多角的かつ多面的にカメラで撮影した結果判明した事実よ?
昨今は本当に怖いわよねえ。
今は監視カメラなんて店内にも街中にもどこにでもあるんだから、どこからでも誰かが撮影できてしまうんだもの。
それを見れるどこかの誰かからしたら当人の『絶対誰にも見られていない』は誤用の意味でも正しい意味でも失笑ものでしょうね。
現代においては個人のプライバシーなんてあったものじゃないのにねえ?
まぁ中には自ら自分の位置情報とかプライベート情報を公開していく人もいるけど、その情報を誰がどう扱うかをもう少し考えるべきじゃないかしらあ?
例えば。
とぅるるるる。
「はい。蜜蟻です。」
『頼んでた件なのですが…彼が今どこにいるかわかりましたでしょうか?』
「ええ。彼は今第7学区の病院、305号室に。恐らくは15:00までいるかと思いますわあ」
『ありがとうございます。では報酬は確認が取れ次第』
「ええ。いつも通りにお支払いくださいね」
ピッ。
今の依頼者が探してる彼は借金をかなり抱えてるのよね。
だけど彼には娘がいて、その子は難病で入院中。だからその治療費のために借りたの。
あっ、でも別に私はこの情報を得るために何か特別なことしたわけじゃないわあ。
私が彼の位置を割り出せたのは彼の行動パターンを知ってたから。
彼ね、とあるSNS系サイトに登録してるの。それにかなり依存してるのよ。
だから二週間程彼の位置情報と発言内容から思考パターンが読めちゃうのよ。
発言内容から彼のスケジュールや、一つの行動から次の情報アップまでのタイムラグの予測…ログを見れば大体は予測できちゃうの。
生活サイクルや彼の会社の名前、その就業時間等がある程度固定されていれば更に精度はあがるわ?
後は病院に電話をかけて彼の身内のフリをして彼が今来ているか確認してもらうだけ。
誰でもできることよ?
ええ。無料で簡単にできるし、大したことじゃない。
・・・・・・・・・・・・・
本当に誰でもできちゃうのよ。こんな事ぐらい。
笑っちゃうわよねえ。これだけで30万円よ?
きっと15分以内には彼は捕まってどこかで体の中身と財布の中身を抜き取られてしまうのかもしれないけれど。
あら?でもね、これでも私自身が直接的にも間接的にも悪い事はした事ないわよ?
ただ、私は別に悪人ではないけれど、善人じゃないのよねえ。
私はあくまで誰かの道具。
私は誰にでも提供するだけ。それを使ってどうこうするのはその人のモラルに任せてるわ?
私というアイテムをどう使うか。それはその人次第ってだけ。
あの人には単なる道具としてじゃない付き合いをしてるけれどね?
「いかがいたしますか?」
「そうねえ…」
せっかく久しぶりに会うのだし…
じゃあ、私が中学生だった時。
彼と初めて会ったあの日と同じ髪型にしようかしら。
きっと彼は覚えてないし、気づかないでしょうけどね。
サロ
ーニ
ャ
サローニャ(パンイチにキャミ)「…」
上条「どーしたー枕抱えてこっち睨みつけてー?」スマホタップタップ
サローニャ「…ねぇ、サローニャちゃんそろそろ寝るんで」
上条「んーオヤスミーお疲れ様ァー」タップタップ
サローニャ「…寝るんだけど?」
上条「寝りゃあいいだろ。誰も止めねーよ」
サローニャ「んんっもう!」
サローニャ「私が一人で寝られないって知ってるでしょ!?」
上条「…5歳児ですかお前は」ハァ-...
サローニャ「へーんだ!戦争帰りの人だって殺した時のショックとか襲われすぎるのに慣れちゃってとか!フラッシュバックして寝られない人多いもん!」
上条「あのさぁ…さすがにいい加減一人で寝られるようになってくんない?俺まだSS書きたいんだけど」
上条「今いいネタ思いついてさぁ、」
サローニャ「うるせー寝ろ!昼夜逆転とかしちゃったら健康に悪い!」
上条「コレ書いたらな、コレだけ」
サローニャ「もー!明日出かけるんでしょ?!」プンスカ!
上条「んー」
サローニャ「ハァッ…んもぅ…。…で?今度はどんなお話書いてんの」
上条「んー?こう、この作品のキャラクターで再構成ものとか、マイナーキャラとのカプをさ」
サローニャ「ふーん。なんかつまんなそーだしエタりそー」
上条「んだとコラ」
サローニャ「だってさ、このキャラそもそも全くと言っていいほど知名度無いし不人気じゃん」
上条「再構成はみんな見るだろ。ほのぼのさせとけば更に」
サローニャ「だってコレどこまで再構成すんの?一巻?」
上条「いや5巻ぐらいまでやりたいなーって」
サローニャ「持たない持たない。そんだけ書くのにどれだけかかると思ってんの?」
サローニャ「ついでにたぶんそのキャラじゃ精々2巻くらいまでしか盛り上がんないって」
上条「そんなのわかんないだろ」
サローニャ「…あのさ、レスが欲しけりゃ主人公とメジャーヒロインとの甘いカプとほのぼのだけを書いとけばいいんだって」
サローニャ「下手にシリアスにしたり何スレも何スレもやったりして面倒臭い書き方しちゃうと読む方も飽きちゃうんだってば」
サローニャ「ご新規さんとかだって途中参加とか流し読みし辛いし」
上条「シラネ」プイッ
サローニャ「そもそもキャラ崩壊は一番避けなきゃいけないのに。上条ちゃんのSSのキャラはいつも『誰だお前』じゃん」チロリ
上条「それはお前、アレだよ」
上条「ほら、人間の細胞ってのは一年周期で総入れ替えされるだろ」
サローニャ「で?」
上条「例えば。一年会わない友人と現実で再会したって、そいつは自分の知る人物と同一じゃないんだよ。」
上条「で、だ。ただでさえ人間ってのはそんなに変わっちまうのに原作と違う事が起きたり年月が経ってる設定だったらお前コレもう、」
上条「完全なる別人に成長しちまうんだ。」
上条「ま、俺は『こういう事とかがあったらこのキャラはこうなる』って逆算したのを書いてるけど、そういうのを考えないで読んでる奴からは誰だお前に見えなくもない奴になっちゃうわけですなーコレが」
サローニャ「…上条ちゃんのは原作の時間軸のもありますけど?」
上条「…」
サローニャ「黙るのは肯定とみなします」
上条「いいんだよ、SSなんだから」
サローニャ「てーかさー、メジャーなキャラだけで書いとけばあまりその作品を知らない人でも楽しめるし、客層が広くなるでしょ」
サローニャ「そーいうのもマーケティングなんだって」
サローニャ「中年~中高生ぐらいの人達を相手にして、全員にわかる物を書けばとりあえず全員からプラスなりマイナスなりの評価もらえるでしょ?」
サローニャ「なのに上条ちゃんは中高年の一部の人達にしかわかんない物書いちゃってんの」
サローニャ「つまり最初から読む人の絶対値の総量が違うんだって」
サローニャ「100人に対して言葉を期待するのと、20人相手に言葉を期待するの、どっちがより多く言葉をもらえると思う?」
上条「いやわかるよ?わかるけどな?」
上条「…でもさ、そんなのつまんねーじゃん」
上条「周りの雰囲気とか、世間体を気にして、やりたいことができないような自分はちょっといやだ」
上条「何のための人生なんだ、って思うよ」
上条「…いいんだよ。確かにレスやコメはほしいけどさ、自分が本当に言いたい事や書きたい事やらなきゃ、それを形にする意味なんてどこにもないだろ」
上条「そもそも誰かの為にやってるんじゃない。自分が気持ち良くなりたいからやってんだよ」
上条「よく言うだろ、SS書くのはオナ○ーと一緒なんだって」
上条「俺が気持ち良いのが最優先。そのついでに誰かを楽しませられたら良かったね、でいいんだよ」
上条「俺は、『俺が書きたいもん』を書いて、それに対してチヤホヤされて、認められて、評価されたいんだよ」
上条「それだけは誰にも動かせない。紛れもない真実だ」
サローニャ「その内容のじゃ無理だと思うけどー?」
上条「るせっ。いいんだよっ!俺の良さがわかる奴にだけわかればっ!」
サローニャ「ふーん…?」パタパタ
サローニャ「その良さがわかる人、何人いるかなー?」クスクス
上条「知るかよ。それでもやってみるしかないじゃないか」
上条「ドアがあったら開けてみる。食いモンが出たら食ってみる。まずは行動。結果云々気にすんのはそれから、だろ」
上条「インデックス曰く、『求めよ、さらば与えられん!って主も仰ってるんだよ!』だ」
上条「ま、『悩まずにとりあえず「コレが欲しいんだ!」って世界に対してオーダーしてみろ』って事だな」
上条「大体、大人はただでさえ周りに気を使って我慢しなきゃいけない事ばっかりなんだしこういうとこでくらい」
上条「…」ブツブツ
上条「…」タップタップ
サローニャ「…」
サローニャ「でもやっぱりそんな格好つけた事言っても、結局いっぱいちゃんとした感想レスや褒めコメが欲しいんでしょ?」
上条「欲ぉお↑じぃぃぃいいい↑いいいいッッッ!!!!!!!↑」ウァァアァアアアアアア!!!
サローニャ「…素直でよろしいですこと」
サローニャ「そんなに話を書きたいなら殺し屋じゃなくて小説家になればいいのに」
上条「バカ野郎。俺が殺し屋やってんのは理由があるし、小説家なんてなったら食い扶持考えなきゃいけないじゃないか」
サローニャ「そりゃそうだけど」
上条「小説家なんてなったらさ、基本的に儲からないし書きたいもん書いてもたくさんある本の一冊にしかならないし、読んだ奴からのダイレクトな感想がわかんないだろ」
上条「それに、『元々興味があるジャンル』っていうまず手にとってもらえる二次創作物の強みも消えるし」
上条「別にどうでもいい作品が売れちゃったら書きたくなくても飯食うために書かなきゃいけなくなるだろ」
サローニャ「…売れる事は前提なわけね」
上条「あくまで趣味。それだけなんだよ」
サローニャ「ふーん…」
上条「…クソ、コメもレスもほとんどねー…」
上条「『気持ち悪い』…死ねっ!」
サローニャ「それは仕方ないんじゃにゃいかね」
サローニャ「千人いたら千通りの人生と価値観と趣味嗜好があんだから」
サローニャ「千人が千人絶賛するなんてほとんどあり得ないでしょ」
上条「知らねーよ。俺は気持ち良くなりたくて書いてんだから気持ち良くない事されたら嫌なんだよ」
サローニャ「そりゃ無理でしょ。作家が何を書くのも自由だけど、それを読んで何がしかの感想を書くのも読んだ人の自由なんだから」
上条「…」
サローニャ「端的に言うと、面白いものを書けない上条ちゃんが悪い」
上条「…確かにな。」
上条「じゃあ肯定的意見じゃない事書いた奴に『お前なんか嫌いだっ』って思うのも書いた奴の自由だよな?」
サローニャ「子供かよ」
サローニャ「てゆーかー。もーどーでもいーじゃん。つまんないもんはつまんないんだよ」
上条「つまんない言うな」
サローニャ「…いーから寝よ?同衾しよ?」キュ
上条「後ろからハグするな。耳元で囁くな息がかかるんだよ」
サローニャ「…」
サローニャ「妖精ちゃんの吐息ー」フゥ-
上条「おひゃっ!?」
サローニャ「ぷふっ。反応カワイイー」クスクス
上条「にゃろう」
サローニャ「ねぇ…もういいでしょ?サローニャちゃんも眠いのぉ…」
上条「…はぁ」
上条「何度も何度も言ってるけど。頼むから早く一人で寝れるようになってくれ」ガタッ
サローニャ「体質とか心的問題だからしょーがないって♪」
上条「お前なぁ…もう4年だぞ」
サローニャ「4年と半年だね。正確には」
上条「ったく…ほら」
サローニャ「はぁーい♪」
上条「嬉しそうにすんなってーの。上条さんはまだ夜更かししたいっつーのに」
上条「というか15歳とかってそういう父さんとか年上の人と~とかってめちゃ嫌がる頃なんじゃないのか?」
サローニャ「え?むしろバッチコイですけど」
上条「あのな、『誰かと一緒じゃないと寝れない』なんてな、15になってもそれとかな、あー、恥を知れよ恥を。恥ずかしがれよ」
サローニャ「大好きな上条ちゃんと一緒に寝るなんて…恥ずかしい♪///」テレテレ
上条「ちげーよ上条さんそんな恥ずかしみは求めてねーよ」
上条「ほら、さっさと寝ろ」
サローニャ「ちょっと、なんでいつもみたいに腕枕ちゃんしてくんないのさ」
上条「お前な、アレ結構痛いんだぞ?頭とかゴォリゴォリされるとかもうお前アレだからな?」
サローニャ「やーだー!してー!うでまくらー!」
上条「どんだけワガママだお前」
サローニャ「フーンだ。サローニャちゃんが居なかったら上条ちゃんだって何にもお仕事できないじゃん!」
上条「んな事ねーわ。社会においても『自分がいなきゃ回らない』なんてねーんだよ」
上条「代わりなんて幾らでも代用できるんだからな」
サローニャ「…」
上条「よし…いいか?今のは例え話だ。悪かった。俺が大人気なかった。すまん。ホントごめん。だから涙目になるのやめろ」
サローニャ「ふ、ふーんだ!ぐすっ、嘘泣きだもん!やーい騙されてやんのー」グズッ
上条「…ああ、わかったわかった。ほんとに例え話だからな?本気で言ってないから。別にお前の代わり幾らでもいるとか思ってないから」
サローニャ「…ほんと?」
上条「ああ本当だって。お前の代わりなんていないよ。俺にはお前だけだ」
サローニャ「ぜったい?」
上条「…ああ。絶対絶対」
サローニャ「嘘ついたら殺すから」グシグシ
上条「殺し屋に『殺す』って言われるとシャレにならないな」ハハ
サローニャ「もう。いいから腕枕して」
上条「へーへ」
サローニャ「♪」コテン
上条(はー…マジで面倒くさいな)
サローニャ「ねぇ上条ちゃん」
上条「なんだよ」
サローニャ「…この世に”絶対”なんてないんじゃないかな」
上条「なんだよ急に」
サローニャ「上条ちゃん今も絶対って言ったけど」
上条「…」
サローニャ「この世は”人の心”なんて凄く移ろいやすくて、常に変化し続けていくような…とても曖昧模糊な、予測不可能な変数で溢れているから」
サローニャ「想定外の事も予定外の事もたくさんあるし」
サローニャ「現時点で100%正しいなんて考えられてる理論や理屈はあくまで暫定的な正解や正義でしかないじゃん」
サローニャ「歴史的に言えば地動説や天動説もそうだったし、心理学者が本当に人の心を理解しているなら彼らは皆人生を上手く生きたはずだし、モテモテだったはずじゃん」
サローニャ「でも、例えば心理学者三大巨頭のアドラーは?フロイトは?ユングは?皆人生を成功させた?何がしかやらかしてるじゃん」
サローニャ「それに人間って『こうする事が一番正しいと思われる』とか『こうしなければならない』ってわかっていても出来なかったりやらなかったりするわけで」
サローニャ「合理的な生き方が出来ない生き物なわけじゃん。そんな”人の心”なんてもので世の中の物事は構成されているから」
サローニャ「この世に”絶対”は、絶対ないんじゃないかなって」
上条「…その理屈で言うと、その『”絶対”は絶対ない』って理論も暫定的な理論なんだから正しいとは限らないんじゃないのか」
上条「将来、あるいは俺達が感知していないだけで既に『”絶対”が絶対ある』っていう理論があるかもしれないワケで」
サローニャ「そーかなぁ?」
上条「じゃあ…ホラ、人がいつか必ず死ぬ事は絶対不変の真理だろ」
サローニャ「それはわかんないんじゃないかな」
サローニャ「ほら、何をしても死なない虫っているでしょ?」
サローニャ「とゆーかこの街で既にそんな噂があるじゃん。」
サローニャ「何をされても死なない髪の長い女の子とか、白いカブトムシから人間になる能力者とか」
上条「…そういやいたな…」
サローニャ「ひょっとしたら、世界のどこかに死なない人間がいるかもしれない」
サローニャ「ひょっとしたら、科学技術が進歩して200年後とかには不老が当たり前になるかもしれない」
上条「…で?結局何が言いたいんだ?」
サローニャ「だから、…さっきの、上条ちゃんの絶対も…絶対じゃないわけで」
上条「…じゃあ、かなりの高確率って言えば納得するのか?」
サローニャ「どのくらい?」
上条「99.9%代わりを見つけようとは思わないって」
サローニャ「ほんとに?」ムムゥ
上条「疑り深い奴だな。いいからさっさと寝ろって。眠いんだろ?」
サローニャ「むーっ…面倒くさいからあしらわれた感」
上条「察しがいいな。その通りだよ」
サローニャ「むか。」
上条「ロシア人は議論好きで、自分を論破できるぐらい賢い人が好きってのは本当なのか?ったく」ブツブツ
サローニャ「…かぷ。」
上条「痛っ、おまっ!俺の指噛むな!咥えんな!」
サローニャ「かじかじかじ。」
上条「おいやめっ、…変な事するならもう一緒に寝ないぞー?」
サローニャ「ひゃやー」チュ-ルルルチムチム。
上条「しゃぶるなしゃぶるな」
サローニャ「…」パッ
サローニャ「…」
サローニャ「…」ギュ
上条「抱きついてくるな。首に手を回すな足を絡めるな」
サローニャ「やだ。…やだやだ……私を捨てないで。」
上条「だから、」
サローニャ「私もっと頑張るから。これからも何人でも殺すから。私の代わりなんて作らないで。私以外の人と一緒にやっていくのやめて…」ギュゥ
サローニャ「やだぁ…私が上条ちゃんといるぅ…」ウルウル
上条(情緒不安定かよ)
上条(インデックスは俺といた時でもこんな風じゃなかったと思うんだけどなぁ)
上条(そういや『女が面倒臭いのは、万事を他人ありきで成り立たせるから』ってどっかで聞いたような)
蜜
蟻
「ほら、キャラメルモカフラペチーノ」
「ありがとう。」
「それで彼女とは最近どうなの?上手くやってる?」
「そりゃ誰の事を指してるんだよ」
「そりゃサローニャちゃんの事よ」
「いつも通りにブッ壊れてるよ」
「そう。優しくしてあげてね」
「優しくしてるよ」
「ちなみにどんな感じで壊れてるの?」
「倫理観と世間一般で言われる常識の欠落、情緒不安定、幼児退行に近い甘え、あとは…最近、」
「…最近?」
「たまに会話がおかしくなる。」
「どんな風に?」
「あー…例えばさ、本来ならAという質問に対してA'という質問の内容に対応した答えを提示しなければならないのに」
「あいつの場合はAという質問に対してどこからかB'の答えを持ち出してきて、そのままAという質問の話題から強引にBの質問の話題に持って行ったりするんだよ」
「それは…自分の世界だけで生きてる人によくある事じゃないかしらあ?」
「たまにいるわよ?知的障害だとか精神を病んだ訳でもないのに会話がキチンと成立してない人とか」
「そういうのってなんでそうなるんだろうな」
「まぁ理由は次の二つの内のどちらか一つよね」
「1、論点をわざとズラして突かれたくない所を隠したい」
「2、そもそも論点を捉えられておらず、理解出来ていない」
「恐らくは後者だと思うわ?」
「…だといいんだけどな」
「他に何か懸念が?」
「…ひょっとしたらなんだけど」
「ええ」
「あいつ、戦争のトラウマとか人を殺しすぎた事による罪悪感とかでの…『精神崩壊の前兆なんじゃないのか?』って」
「ほら、人間を一人殺すだけでも精神的な負担はデカいだろ」
「けど、もうあいつは俺の指示で少なくとも千人近くは殺してる」
「数をこなせば慣れて平気になるわけじゃない。ただ麻痺していくってだけだ。」
「タバコや酒とか、ブラックコーヒーの味を美味しく感じるようになっていくみたいに」
「自分では自分がおかしくなってる事に気付かないんじゃないか?」
「『自分はまともだ』って思ってる奴ほど、客観的に見たら壊れてるとかなんてよくある事だろ?」
「……」
「? なんだよ」
『あなたもね』の言葉は言えないわねえ。
「あなたは大丈夫?あなたも大事な人を何人も失って、」
「俺は大丈夫だって。何人も友達とか大事な奴が目の前で死んだけど慣れたし、サローニャに何人殺させても精神的ストレスはもう感じないし」
「…そう」
数秒前のあなたの言葉を返してあげるべきなのかしらあ?
「復讐遂げる前に壊れられたら困るんだよな…」
もし10年前の正義漢だったあなたが、今のあなたを見たら何て言うのかしらね?
「…一度カウンセリングでもしてみる?紹介するわよ?」
「いやいいよ…もうじき殺し屋も廃業してこの業界からも足を洗う予定だしな」
「あら?今更サラリーマンにでもなる気?」
「それもいいかもな」
「ふふ…履歴書になんて書くの?『自営業で殺し屋派遣会社やっていましたので人事管理及び営業には自信があります』とか?」
「一発で落ちるわ」
「…よかったら」
「?」
「よかったら、私の所に転がり込む?」
「ヒモになれってか?」
「私の仕事を手伝ってくれればいいわよ。いっそ結婚して専業主夫になる、でもいいわよ?」
「ありがとな。考えとくよ。」
「あら、具体的に何を考えるの?他にアテもないんでしょう?」
「お前な…サローニャはどうするんだよ。」
「…」
「あいつ放置して俺だけ幸せになるわけにはいかないだろ」
あ、一応彼女に対して思いやる気持ちってあるのね。
「彼女も独り立ちさせればいいじゃない」
「アイツなら不可能じゃないかもしれないけど、それは酷すぎだろ。それにあいつを一人にしたらまず真っ当な道は歩けない」
「この街なら児童養護施設なんて山ほどあるじゃない」
「この街の児童養護施設の実態もよく知ってるお前がそれを言うのか?」
「優しいのねえ」
「『その子と一緒に来ればいい』って言えないお前は、優しくないな」
「サローニャちゃんも引き取ってあなたを寝取られたくないだけよ」
「それ本気で言ってんのか?仮にあいつが今の俺達と同い年になったって手は出す気ないって」
「あら?そんなのわかんないわよ?私はだんだん歳をとるし、あの子はこれからどんどん綺麗になるわよ?」
「そしたら性欲の捌け口にするに決まってるじゃない」
「そこまで鬼畜じゃねーよ俺は」
「あーほら、サローニャの事は追々考えるよ。今はとりあえず例の情報を売ってくれ。格安で。お友達価格で。俺達の仲だろ価格で」
「そうねえ。逆にどのくらいならいいの?」
「出来れば1で。」
「半分以下?随分値切るのねえ」
「お前な、いくらなんでも3と6なんていきなりポンと出せるわけねーだろ」
「あら?確かあなたのメイン預金口座だけでも18くらいはあるはずだけど?」
「何で知ってんだ」
「情報屋を舐めちゃダメよお?」
「つーかさ、お前わかって言ってるだろ。18なんてあってもこの業界で生き残ろうと思ったら全然足りねーって」
「そ?」
「ファーレレ…土御門が死んだ時なんてモロそうだったろ?」
「ああ、随分懐かしい話ね。あなたが起業したばかりの時でしょう?」
「ああ。新しい後ろ盾用意とかコネクションとか逃亡費用とか寝る場所とか武器とか情報とか抗争用の殺し屋雇ったりで死ぬほど金使った。そんな経験してれば」
「死ぬほど?5ぐらい…だったかしらあ?」
「20だよ。わざと言ってるだろ…土御門の溜め込んでた金を全額勝手に使わせてもらったんだ」
「何かあったらすぐに金払えないと死ぬなんて日常茶飯事だろ。だから金はいくらあっても足りない」
「そうねえ。仮に今私がテーブルの下で銃を構えて『死にたくなきゃ全財産払え』とか言われたら払うしかないものねえ。」
「本気でそうなりそうだからやめろその例え」
「そんな事しないわあ」
「わかってるけどもだ」
「本当に要求するなら、『死にたくなければ今すぐ私と結婚して』にするもの」
「どっちも死ぬようなもんじゃないか」
「で、どうしたら1にまで下げてくれるんだ?」
「『今すぐ私と結k」
「それは無しで」
「…そーねー」
「じゃあ、この依頼を受けて完遂できたらってのはどう?」
「ん?」
「はい。メール見て」
「はいよ」
「二件の依頼よ。一件は多分簡単ねえ」
「……、……だな。コイツただのパンピーだろ?経歴とか名前とか能力見ても別にヤバい奴と繋がりは無さそうだし」
「ええ。これはサービスだけど本当にその人は所謂一般人サイドの住人。殺して騒ぐ人も少ないわ」
「ふーん…わかった。殺ってやる」
「で、中々のクセ者案件がそちらになりまあす」
「おいおい…一体どんな、」
「…お前」
「そ。」
「4人以上の殺し屋の”標的被り”案件」
「噂じゃ少なくとも”押し屋”と”自殺屋”、”スズメバチ”、”火事屋”が狙うみたいね」
「うーわ、全員報酬金額が億クラスの殺し屋じゃねーか…しかもステイルもいんのかよ」
「それで、私からの依頼内容は『誰よりも早く標的を殺してちょうだい』よ」
「…?」
「どうしたの?」
「…解せないな。なんでお前がこいつらの邪魔をそんなにしたがる?」
「だってその人達が嫌いなんだもの」
「嘘つけ。お前とコイツらに接点なんてまるでないだろ」
「実際に接点なんてなくったって、テレビのアイドルとかでもこの人嫌いってあるじゃない?」
「それだけで大金積んで億クラスの連中を敵に回すって?」
「そーよお?実際は大金積んでないし、しばらくの間は直接敵に回すのはあなただけどねえ」
「皮肉りやがって…ハァ…まあ他に手もないし…わかった。この条件を飲むよ。どっちも殺ってやる」
「ありがとう。あなたならそう言ってくれると思ってたわあ」
「ハァ…お前はもう少し有意義な金と時間の使い方した方がいいんじゃないのか」
「そうかもね。じゃあそうしてみようかしら」
「この後一瞬に映画でも観に行かない?」
「…俺にスピード命の依頼しておいてそれ言うんでせうか」
「それくらいいいじゃない。貴方達コンビの実力なら1日くらい遅れても余裕でしょ?」
「いやそうは言ってもな」
「ね?」
「…」
「ダメ?私、今日はせっかくお店休んで来てるのよ?ビジネスの話だけで終わるなんて悲しいわあ」
「ハァー…」
「…ちょっとだけ待っててくれ。簡単な方だけ完遂するようにサローニャに指示出してくる」
「ありがと。あなたのそういう優しい所が好きよ」
「俺もお前のそういう小憎たらしい所は嫌いじゃない…あ、もしもし。今から送るメール内容の依頼をすぐ確認して取り掛かってくれ」
「…」
引き伸ばし作戦成功ねえ。
十中八九、難しい方は失敗するでしょうけど…そしたらまた条件つけるだけだしい?
…そういえば、あなたさっき『もう少し有意義な金と時間の使い方した方がいいんじゃないのか』って言ったけど
ちゃんと使ってるわよ?あなたと会うためだけに。
あなたと丸1日デートするために情報屋もアダルトショップも2日間お休みにして失った莫大な逸失利益だとか、
あなたと関係を終わらせない為の条件作りの為にあの二つの依頼を他の仲介業者から無理矢理買い取った時に使ったお金とか
そういうの全部足した金額をあなたに見せたらなんて言うかしらあ?
…やっぱり呆れた顔でもう一回『もう少し有意義な金と時間の使い方した方がいいんじゃないのか』って言うのかしらねえ?
「お待たせ。終わったぞ」
「そう。ねえ、何観よっか?」
「『グラスホッパー』なんてどうだ?ほら、殺し屋の」
「…もっとロマンチックなの観ましょうよ」
あ、でも殺し屋が殺し屋の映画観たらどんな感想を持つのかはちょっと興味はあるかも。
サロ
ーニ
ャ
サイアク。
ひっじょーにサイアク。
その1、朝起きたら上条ちゃんご飯残していってくれなった。
その2、しかも情報屋の女と1日デートしに行った。
その3、いきなり依頼を受けて、しかも今日から調査開始(私が)
その4、上条ちゃん達がいる所は晴れてるらしいけど、こっちは土砂降り。
その5、ターゲットが
「ねぇ、どこに遊びに行こうか?サローニャ!」
やけにフレンドリーちゃんだ。
ヤバイ。
しくじった。正直コレめちゃくちゃしくじった。
まさかターゲットちゃんと直接接触してしまうとは。
いやね、コレ本当は調査時とか絶対ターゲットに接触しちゃダメなのね?
殺した後で『コイツ、最近被害者と一緒にいた怪しい奴です』とか言われて捜査線上に上がっちゃうような事は絶対タブーなんだよ
おまけに指示電話を一部聞かれてて上条ちゃんがうっかり私に『サローニャ』って呼んじゃったから本名を知られちゃってるわけで。
あー…上条ちゃんに怒られる…
多少の失敗なら上条ちゃんが業者に依頼してくれるけど…
余計なお金使わせちゃうとすごい怒るもんなぁー
あーもう。やんなっちゃう。
上条ちゃんに指示を仰ぎたくても今ここで変に逃げたらあとで『怪しい』って印象付けちゃうし…
とりあえずは調子を合わせておこう…
「そ、そーだねーゲーセンちゃんとかどう?」
「いいね!じゃあ行こっか!」
『雨?そんなのすぐやむよ!ほら行こう?!』
なーんて言いだしそうな晴れやかな顔で彼女は笑う。
…そんな顔を見てると少し嫉妬する。
きっとこの子、『心を刻まれるような不幸』なんて味わったことないんだろうなー、いいなーって。
「…ところでさ、一個聞いていい?」
「え?何?」
「何で私にいきなり『一緒にお茶しない?』って声かけてきたの?」
「サローニャちゃんはあなたから結構離れた席に座ってベーグルちゃんとコーヒーちゃんをいただいてたんだぜ?」
「このカフェ、今は雨宿り目的の人もたくさんいるのに…」
「まぁあなたとのお喋りは楽しかったし、別に文句があるってわけじゃーないんだけども さ」
彼女は「ああそんなこと」と言って。
「いやーあたしも暇だったしさ、外人の女の子がずっと自分のことをずっとチラ見しながら電話してたら流石に気にはなるよ」
「…なるほど」
あーうん。コレはミスですわ。言い訳はしないよ。
サローニャちゃん一生の不覚だぜ…
幸いまだリカバリーは効く。
そこはミスしないようにしないとね。
「それに電話の人、声がちょっと大きかったし」
「あーうん。そーだね。そりゃそうか」
…大丈夫。上条ちゃんも私も依頼内容に関する直接的な事は電話口で言ってない。
「それにサローニャは電話しだす前からさ、私が入った時からずっとそこにいるし…本とか広げてて暇そうだったから」
「あーうん」
「ちなみに何を読んでたの?」
彼女はテーブルの上の四つ葉のクローバーの栞が挟まった文庫本を指差した。
「ドストエフスキーちゃんの『罪と罰』。」
「へ、へー…わかんないや」
「だろーね。」
中学二年生の方の御用達小説でもある超ベストセラーだから読んでるかな、とも思ったけど。
「あ、」
「?」
「それ、反対から読んだら『つばとみつ』になるよね」
「…あ、ホントだ」
だから何だとは思うけど。
こういうアナグラムは嫌いじゃないかな。
「どういう話なの?」
「んー…すごーくザックリ、かなり削って簡単に言うと」
「学費払えなくて大学を中途退学したラスコーリニコフって青年が主人公なんだけど」
「へー?なんか名前はカッコ良さそーだね」
「でもね、そいつはちょっとイカレてるのね」
「どんな感じに?」
「家賃とか滞納しっぱなしで働かない超貧乏なラスコーリニコフがある時、『そうだ!ウチの近くに住んでる性悪な金貸しの強欲ババアをブッ殺して金を奪おう!』って考えてるとこから物語はスタートして」
「こっわ!」
「金貸しのおばあちゃんを斧で殺しちゃうの。」
「うわぁ」
「で、金目のもの物色中にたまたま帰ってきたおばあちゃんの妹も目撃者だからってんで殺しちゃうの」
「ええー…」
「元々ラスコーリニコフはね、大学でも『悪い事したとしても沢山いい事をしたら許される』とか、『ナポレオンとかマホメットのような、一部の非凡な人間は場合によっては人を殺しても許される』」
「っていうイカレた犯罪理論を論文で発表した事もあるんだよ」
「いいー…なんか、悪趣味だね」
「まぁ選民思想ってやつだね。」
「で、彼はすごいラッキーさで捕まらなかった。その後ラスコーリニコフの妹を争って、毒舌家なスヴィドリガイロフって人とか色んな奴が取り合いしたりとか色々あって…」
「自分と同じぐらい貧乏だけど家族に献身的なソーニャって子と知り合って…自分の罪を告白するの」
「へぇ」
「その時に『何で殺したのか』って説明するの」
「『僕はナポレオンになりたかったんだ』」
「『僕は老婆を殺したのではなくて、永遠に、自分を殺したのだ』」
「『どんな非道なことでも平気でやってのける人間が、人間の上に立つ者となるのだ。より多くの人間を無視できる者が、立法者となるのだ』」
「『僕は金のために殺したのではない。他のモノが欲しくて殺したのだ。自分が常人ではなく、非常人であるという証明が欲しかった』」
「…きっと、その人は自分の理想と現状のギャップがありすぎて、プライドのために殺したのかも」
「かもね」
「でね、その後罪悪感が増したラスコーリニコフは精神も病んでいって…で、最後には自首するの。」
「ラストはラスコーリニコフがいる刑務所にソーニャが来てくれて…」
「あー…もういいよサローニャ。やめなよ。そんなの読まない方が精神衛生的にいいって。」
「かもね。だけど、すっごく面白いんだよ。」
「確かにある種悪魔的で、倫理とかなくて趣味も悪いかもしれない。誰かを不快に、精神を病ませるような内容なのかもしれない。」
・・・・・・・・・・・・・
「でも、やっぱり面白いんだよ。『読ませる文章』ってのを書くんだよ」
「ふーん…あたし本読まないからなー…」
「何でもいいから、『ちゃんと”中身”がある』本は読むべきだと思うよ」
「えー」
「読めば語彙が増えるし、人間の深みとか、知識とか、自分の知らない事が出来たりする」
「読解力もつく。感情や抽象的な概念ちゃんを言語化する力に繋がり、複雑な、客観的な思考を可能にする」
「ほら、食事と一緒だよ。食べ物は体の栄養でしょ。んでもって本は、」
「本は?」
「人格への栄養ちゃんなのさ」
ドャァ。あー今私、自分がすっごいドヤ顔してるってわかる。
「ふーん…」
「あ、今度何か貸そうか?」
「遠慮しとく。あたし結局読めないまんまで借りっぱなしになりそーだし」
「あら残念ちゃん」
「ごめんねー」
「あ、そーいえば。これからどこかに遊びに行くのはいーんだけどさ」
「?」
「誰か待ってたんじゃないの?ほら、あなたの席にカップちゃん二つあるし」
「ん?ああー大丈夫大丈夫。初春…ああ、私の友達なんだけど、その子が風紀委員で忙しくなったからって遊びにいく約束ブッチされてさー」
「あらまー。御愁傷様」
「だから大丈夫!」
にぱっ!と太陽のような笑顔。
…へぇ。友達、ちゃんといるんだね。
いやまぁ友達くらいいるのは当たり前なんだろーけど。
…ああ、本当に嫉妬しちゃうかな。
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ありがとうございましたー」
「へー…そのファー付きのビビットピンクなウサ耳レインコート可愛いね」
「ありがとちゃん。あなたの傘も…あー、すごく透明感あっていいんじゃない?」
「あはは。無理にコンビニの傘褒めなくていいよ?」
「あ、ゲーセンさー私の行きつけでもいい?」
「え?うんいいよー」
「…」
「?どうしたのサローニャ」
「…ううん。別に」
思っちゃダメだ。
「あっ、そういえばあたしが欲しいぬいぐるみ入荷してたんだっけ?急がなきゃなくなっちゃうかも!」
「はいはいちゃん。それじゃいそごっか!」
一緒にいると楽しいとか、仲良くしたい、とか。
これから殺さなきゃいけないターゲットと親密になるなんて御法度すぎ。
当たり前でしょ。そんなの言うまでもない事じゃん。
殺す時の手が鈍る。
『情に流されて』、そんな私情で依頼を完遂できなかった殺し屋なんて大笑いもいいとこだ。
感情の奔流に蓋をしろ。心を閉ざせ。
これは、遊びに行くわけじゃない。
ただのターゲットの行動と心理、身辺調査なんだから。
情を移すな。ダメ絶対。
私は、”プロ”なんだ。
ラスコーリニコフのような、ただの『人殺し』じゃない。
私は『殺し屋』だ。
『人殺し』はただの自己満足。
殺すのも殺さないのも、途中で放り出すのも自首するのも贖罪なんてオナ○ーをしだすのも自分の気分次第だ。
けど、
『殺し屋』は違う。
『標的』がいて、『報酬』を払う『依頼人』がいて、『業界のルール』と『業者』がいて。
ムカつく事や我慢しなきゃいけない事、理不尽が山程あって。
失敗したらオールナッシング。
私がやってるのは『遊び』じゃない。
『仕事』だ。
己の仕事にプライドを持て。
己の仕事に妥協をするな。
上司(好きな人)に見捨てられない価値ある人間でいたいなら。
私は、ラスコーリニコフのような中途半端じゃない!
私は、
私は、
私は、『殺し屋』だ。
『そして、誰よりも自分を上手く騙せる者が、誰よりも楽しく暮らせるってわけですよ』
ーーーーーーーーードストエフスキー著:『罪と罰』よりスヴィドリガイロフの台詞
つーかぁ、おかしくね?>>1があちこちでサローニャ出して可愛さを目一杯伝えてるのに
誰もサローニャスレを立てて書かないとかおかしくね?影響とか感化されないとかおかしくね?
あり得んくね?異常じゃね?もはや超常現象じゃね?
短めな投下。
ステ
イル
やれやれ。全く我ながら面倒を引き受けたものだね。
これから死のうとしてる人間に荷物を増やさないで欲しいものだよ、全く。
雨が降りしきる中ダラダラと大通りを歩く。
バシャ。
うわ。最悪だ。
車にみずかけられた。
…クソ。ズブ濡れじゃないか。
正直すぐ乾かせる服はどうでもいいがタバコの火を消された事に腹が立つ。
ハァ。
新品のタバコに火をつける。
ふと、鏡を最近見る機会がなかった事を思い出した。
チラ、と顔を横に向けてブティックのショーウインドウに映る自分を見てみる。
…にしても。
これから死のうとしてるのだから当たり前なのだろうけど、
中々にくたびれていて…ああ、本当に今にでも死にそうな顔がそこにあった。
…はて、僕は前からこんな顔をしていただろうか?
…随分と酷い顔をしているな。
いや顔のパーツの整い具合についてじゃなくて(僕は幸いある程度整って生まれてるからね)、顔のケア具合についてだよ。
ヒゲが顎と口周り、モミアゲまで生い茂ってかなりモサモサしてる。
肌はボロボロカッサカサ。髪バッサバサ。唇パッサパサ。
目は生気がなくて焦点が合ってないし、ドローン…としている。
あ、ヨダレと鼻毛出てた。
…コレもし服装がキチンとしてなきゃホームレスと間違われても文句が言えないんじゃないだろうか。
とぅるるるる。とぅるるるる。
ハァ…また携帯が鳴ってる。
携帯電話なんて持つんじゃなかったな。通信霊装だけにしておけばよかった。
おかげでずっと縛られる。このコール音は閉塞感ばっかり感じさせる。
確かに携帯はなければ死ぬほど不便だ。
今はこれなきゃ仕事すらできない。
利便性が高いのは認める。けどほとほと不自由だ。
何処にいても呼び出されて、何処にいても誰かと繋がる事を強制されて。
応えなかったら『なんで応えてくれなかったの?』だ。
答えるのが面倒くさいから無視したなんて言えないのだから言い訳を考えなくてはならなくなる。
目の前で話しかけられた時と同じ対応をしなければならなくなる。
…時間的、場所的、他人と自分のパーソナルスペースまでの距離なんて現代においては無いに等しいのかもしれない。
まるで鎖だね。携帯に首輪つけられて大きな何かに飼われてるみたいだ。
…せめてこれが死んでる人にも繋がれば喜んで飼われたんだけどね。
とぅるるるる。とぅるるるる。
このコール音の連続は早く出ろよとせかされているような錯覚を覚える。
ああ、さすがにそろそろ出ないと。
画面の表示は
着信中:ジェーン
だった。
へぇ。よく僕の番号を消さなかったものだ。彼女達とはもう随分と会話すらしてなかったのに。
懐かしい。
僕をししょーと呼び慕う魔女三人娘、その1の子だ。
確かエンデュミオン事件当時は
緑のロングヘアー、猫耳帽子を被っていて、下着姿のような下半身。首元からヘソまで露出していた子だ。
扇を武器に風のエレメントを行使して…
…ひょっとして、彼女達はまだあの格好をしてるんだろうか。
だが今更何の用だ?
彼女達も元々、自身の術式に僕のルーンが組み込めないかと僕に絡んで来ていただけだし…
確かそれももう何年か前に諦めたのではなかったか。
「…ハイ、もしもし?」
『ししょー。今どこですか?さっきかけたのに出なかったから遂に死んでしまわれたのかと』
…さっきもかけてたのか。気づかなかったな。
「悪かったね。家に携帯を置いてあって」
『”携帯”電話なんですから、ちゃんと携帯してください。というか今時珍しいですよね?携帯を自分から離すって』
依存性高すぎだろ。
ある意味では麻薬やタバコよりタチが悪いんじゃないのか?携帯電話って。
『知ってますか?ししょー。最近の電話って持ち運べるんですよ?』
「知ってるよ。皮肉はよしてくれ…コンビニ行くだけだったんだ」
『おやそうですか』
「…というか君は未だに僕を『ししょー』と呼ぶんだな」
『ダメですか?ダメでも呼びますけど』
「僕は君…他の子もだが、正式に弟子にとった事はないだろ。君らが勝手に押しかけて、面白がって…僕をそう呼んでるだけで、」
『あ、本題なんですけど』
「自由か」
実はですね、と彼女は前置きをして。
『ししょーにお見合いの話が来てまして』
何故君がそんな話を持ってくるのかとか殺し屋の人間に持ってくる話としては非常識なのではとか。相手は誰だとか、
ああ、いや。色々と言いたい事はあるが答えは一つだね。
「断る」
『気持ちはわかりますがせめて話が終わるぐらいは辛抱して聞いてください』
「一応聞くが…相手は君じゃないだろうな」
『でしたら最初からそういいます』
「…他の」
『マリーベートやメアリエじゃないです』
「…僕は女性を幸せに出来るような男じゃないよ。仮に誰かと夫婦になったとしてもお互い不幸にしかならない」
『それには私もぶっちゃけ同意見ですが。…ししょーの旧いお知り合いの方なんですよ』
『会うだけどうですか』
「知らないね。どこの誰だか知らないが僕にも仕事があるんでね」
「そんなにどうしても僕と会合したければ学園都市まで来いって伝えてくれ」
『ええ。きっとそう言われると思いましたから少なくとも学園都市に出向かないと難しいと思いますよってお伝えしたんです』
なかなか有能じゃないか。マネージャーに欲しいくらいだ。
『そしたらですね、彼女、「喜んで行きます」って』
「…急ぎの仕事があるかr」
『聞きました。そしたら…「なんなら手伝いますし、ダメなら待ちます」との事です』
「……」
有能じゃないか。
『じゃ、断っておきますね』
「待った。……そいつの名前は?」
『あれ?受けるんですか?』
「NO。興味本位で聞くだけだよ。そこまで切羽詰まって僕を御指名する酔狂な旧い友人がどなたか知りたいんでね」
『えっとですね…イギリス清教…いえ、天草式十字凄教の』
…オイ、まさか
『神裂火織さんです。』
…まだ結婚してなかったのかい?神裂。
君、確か今年で…
『相当焦ってるんでしょうね。ああ、ちなみに私が仲介してるのは彼女がししょーの電話番号とか生活サイクルとか知らないからです』
「通信霊装…ああ、10年前の時に神裂とのは破棄したんだっけか」
『10年前?ああ、ししょーが手当たり次第やつあたりして迷惑千万なやさぐれマックスだった時ですか』
「皮肉るのはよしてくれ」
『で?どうします?』
「……」
面倒くさいな…正直勘弁して欲しいんだが。
「…いや、受けよう。彼女とはもう随分話してないし」
『お?ついにししょーも身を固めますか』
「固めないよ。話を受けるだけ、会って話すだけだ。…軽い同窓会みたいなものさ」
人生の最後に旧い友人に会うのも悪くはないだろう。
特に彼女とは同僚で、共通の大事な人が居た仲だし。
「さっきも言ったが一緒になってもお互い不幸にしかならないからね」
『まぁそう言わずに。本当に固めちゃってはいかがですか?ほら、イギリスの諺だって言ってるじゃないですかー』
「何を」
『「急いで結婚して、ゆっくり後悔しろ」』
「…それ、『急いで結婚すると後で後悔するぞ』って意味だろう?何か勘違いして使ってないか?」
『ええ。ですから神裂さんは逆に学んでしまったんじゃないですかね?って。』
『つまり、「じゃあ結婚焦らなくていいや!」って。で、焦らなすぎると今に至るって寸法です』
「…『ゆっくり結婚して、急いで後悔してる』になりそうってわけか」
『まだ結婚すら出来てないわけですから、その境地に至れるかも疑問ですけど』
ブブブ。ブブブ。
「…すまない、キャッチだ。後でかけ直す」
『承知しましたー。返事はさっきのを伝えておきますね』
「ああ。ありがとう。頼むよ」
着信相手は、
着信中:マリーベート
…魔女娘その2だな。茶髪でウェーブかかったショートで丸帽子かぶった子だった。
土のエレメントを使っていたっけ。
「…なんだい?」
『あ、お久でーすししょー』
「ああ。で?要件は」
『あっ、ひっどいなーししょー。もうちょっと私との会話を懐かしみましょうよ!』
「要件は?」
『ちえ。要件人間め』
「わかったから」
『はいはい…ししょー、今度受ける依頼の中で難しいとか、とんでもない内容のってあります?』
「何かに火をつけるって時点で、どれでも何でも難しくてとんでもない内容の依頼だ」
『あ、そういうんじゃなくて』
『例えばかなりの大物を殺す事になるとか』
「で?だとしたらなんだって言うんだい?」
『まあつまり。忙しくはないですか?って事です』
「…忙し、…いや、うん」
『暇ですね?割と』
繁忙期でないことは確かだね
『じゃあししょー、』
こほん。と可愛らしく咳をして。
『そろそろ借金返してください』
「僕は君に借りた覚えなんてない」
『いえ、確かに借りてるんですよ』
「へぇ?いつ?」
『ヒント!10年前、ししょーが酒に溺れてた時の酒代は誰が出してたでしょうか』
「僕が自分で」
『払ってないです。ししょー酔ってて『イギリス清教にツケといて』で出た時あったでしょ』
「…いや覚えてない」
『借用書、ちゃんと残ってますんで』
…そう言われるとそんな事もあったような気はしてくる。
「いくらだい?」
それなりに僕も貯め込んでいる。払えないほどじゃないだろう。
『2000£(約34万円)ですね』
まぁその程度なら…というかかなり飲んだな10年前の僕め。
「…じゃあ送金しておくから」
『あ、そういえば私近々学園都市行くんですよ』
「そうかい」
その頃に僕が生きているかはわからないが。
『どうせなんで、久しぶりに会いましょうよ』
「断る」
『じゃあ断る事を断ります』
「忙しいんだ」
『合わせますんで。それに借用書にも書いてあるんですよ?』
『「相手の要望する返し方する」って』
10年前の僕め…
『約束ぐらい守ってくださいよ。もう大人なんですから』
「わかったよ…」
こうなればさっさと終わらせるに限る。
『やった!じゃあししょー?また後で詳細について連絡しますんでー』
「…ああ」
ブツ。通話が終わる。
クソ、今すぐ学園都市はタイムマシンを発明してくれないだろうか。
そしたら10年前の己を思いっきりブン殴ってやるのに。
とぅるるるる。とぅるるるる。
…もうここまで来たら超能力なんてない僕ですら相手が誰かわかるよ。
案の定というか、コールしてきた相手は予想通りの人間だった。
着信中:メアリエ
魔女三人娘その3。
水のエレメントの箒を持って鍔広帽子を被っていたウェーブがかかった長い金髪の子だ。
『お久しぶりです。ししょー。』
「久しぶり。要件は?」
『…随分冷たくありませんこと?』
「愛想がないのは許してくれ。君の前に他二人と電話が連続で来ていてね」
『あらそうでしたの。』
コロコロと笑う声が電話の向こうから聞こえた。
『では短めに。』
「そうしてくれ」
『Index-Librorum-Prohibitorumの遺灰を狙っている人間がいます』
「…なんだって?」
思わず眉間に力が入る。
『あなたの大事な人がこの世にいた、最後の物証がなくなる可能性がある、と言いました』
「根拠は」
『イギリスのとあるパブで、そう漏らした人間が居ました。そして、その人間は学園都市に既に入ったとの事ですわ』
「…名前は?」
『あなたもよくご存知の人ですよ。名前はーーーーー』
「…」
…なるほど。
「…随分懐かしい名前だね」
『私もこれ以上の情報は残念ながら。ただお知らせしないとと』
「ああ、それは、…本当に必要な情報だったよ。ありがとう」
通話を切る。
「…ハァーッ……」
なんでこう、一つ一つ綺麗に身辺整理してから死んでいこうとした途端にこんな面倒ごとが今更顔を出すんだ。
もっと前に言ってくれたってよかったじゃないか。
そもそも殺し屋に見合い?昔のツケの金の支払い?今更10年前の死者の墓暴き?
最後を除いて随分俗っぽいイベントじゃないか。
殺し屋に到来するイベントは『自分の命を狙ってくる奴があらわれた!』とか『難しい仕事の依頼が来た』とか…
もっとそういうものばかりであるべきじゃないのか。
殺し屋なんて倫理やら人道に悖る事をしてる人間に何故友人との再会だの返済だの墓守だのをやることになるんだ。
ああ面倒臭い面倒臭い面倒臭い面倒臭い面倒臭い。
…ああ、そうだ。
この依頼が終わったら携帯電話なんてどこかへ投げ捨てよう。
今はまだ仕事と用事が終わってないから捨てられないが…
勿体無い?いいんだ。かまいやしない。
いかに現代人がトイレにまで電話を持ち込む時代と言えど、
どうせ地獄までは持ってけないのだし。
いっそ死ぬ前に。
最後くらい、不便でも不自由でも。
誰にも捕まらない自由が欲しい。
蜜
蟻
混濁していた意識が覚醒する。
気怠さが残る体が、眠ってしまう前まで感じていた温もりがない事に気付く。
…ホテルのベッドはふかふかで暖かいけど、人の暖かさほどはないのよね。
電気毛布…は嫌ね。アレは人工的な暖かさだから。
電気毛布じゃないけど人肌温度になる布団とかないかしら?
湯たんぽ…でもなくて。
どうでも良かったわね。彼はどこ行っちゃったのかしら。
…シャワーでも浴びに行ったのかしらあ?
バサ。
自分の体がある所から1mほど離れた所から物音がする。
目を開けてみたら彼が丁度ダークスーツの上着を羽織るところだった。
もう。3回戦目は無しって事よねえ。もうちょっとくらいゆっくりしていってくれればいいのに。
ベッドから裸身を起こして、その背中に声を投げかけてみる。
「…もう、帰るの?上条クン」
『まだ行かないで。』私の言葉に含まれてる副声音が彼に届いている事を祈る。
「ああ。悪いけどそろそろ依頼に着手しないと先越されちまうし」
「…そう」
「そう頬を膨らますなよ」
…自分が出した条件とはいえ、もう少しなんとかならないのかと思ってしまうわねえ。
「ねえ、最後にキス…」
「前にお前から情報買った時も、金なくて対価にカラダを払った時もそうだったけど」
「お前、上条さんがしてあげたらそのまま腕絡めてくるだろ」
「んで、なし崩しにもう一回戦に持ち込むだろ?」
「バレてた?」
「バレてるよ」
「そ。なら気をつけて帰ってちょうだい。あなたに何かあったら私、きっと死んじゃうわあ」
「へいへい…」
「あ」
「なんだよ」
「映画。グラスホッパー、面白かったわ」
「ああいう終わり方も嫌いじゃないだろ?」
手をヒラヒラさせて彼は部屋から出て行った。
「…」
もそ。
ベッドに横になる。
なんていうか…ドライよねえ?
ピロートークとかもそうだけどビジネスライク感半端ないというか。
彼との付き合いはそれなりに長いけど、心の壁とか距離が未だに縮められないのよね。
私の”心理穿孔”《メンタルスティンガー》では彼は一時的にしか思い通りに出来ないし。
前に一度だけやったら拳骨もらったものね。
…精神系能力者で一番この手のは得意なハズなのに。
あの人の心を惹きつけられないのはなんでかしらねえ?
やっぱり”インデックス”?
ずっと縛られ続けるのもどうかと思うし、引き摺らずに良い思い出にしていく方がずっといい。
彼にも何度も話をしてるけどねえ?
…よっぽど守りたかったのね。
妬けるわあ。羨ましい。
私にもあれぐらい心を砕いて欲しいわね。
…冷たくされてて、望みも絶望的なのに。
なんでこんなに執着するのかしらね
さて、と。
私も彼の妨害に勤しむとしましょうか。
鞄からスマートフォンを取り出して電話帳機能を起動させる。
スマートフォンって便利よね。
私の場合はコレさえあれば人の心だって操れる。
サロ
ーニ
ャ
~4年前:ロシア:エカテリンブルクのとある街~
さろーにゃ(11)「…」
さろーにゃ「…なくなっちゃった」
さろーにゃ「おとーさんも、おかーさんも、好きな子も、街も、友達も、家も、おばーちゃんが大事にしてた『小さな森』も…」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…ぜんぶ、なくなっちゃった…」
焦土と廃墟と化した自分の見知った街。
赤黒い肉塊になった知人。
骨すら残らなかった家族。
ああ。”攻め込まれる”って、こういう事なんだ。
あの悪夢のような総攻撃が終わって思ったのは、
『やっと終わったんだ!生きててよかった…!』
次に、『ああ、そういえばみんな死んじゃったんだったな』と思って。
最初は何も感じなかった。
実感なんかまるでなくって、『へぇー…そっか。死んじゃったんだ?ふーん』ぐらいにしか思わなくて。
しばらく歩いて。
私のおうちがなくなってるのと、たぶん私の家族の誰かの腕かなって物を見て
ようやく少しだけ理解が追いついた。
ああ。私、ひとりぼっちになったんだ。
さろーにゃ「…」ポロッ
さろーにゃ「…ぐすっ…これからどうしよう…」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…どうして?」
さろーにゃ「なんで?」
さろーにゃ「…」
兵隊「…ん?どうしたんだ、君」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「おにいさん」
兵隊「ん?」
さろーにゃ「ねぇ、なんで私の街はなくなっちゃったの」
兵隊「…」
さろーにゃ「ねぇ、」
兵隊「…学園都市と戦争したからだよ」
さろーにゃ「…どうして?」
兵隊「ロシアが仕掛けたからさ。色々事情があって、仕掛けなきゃいけなかったからってのはあるけど」
さろーにゃ「そう…じゃあ、私達がわるかったの」
兵隊「…学園都市側も事情を知ってたとは思うけどね」
さろーにゃ「…ふーん…じゃあ、」
さろーにゃ「私のまちを、私にとっての世界をこわしたのは、」
さろーにゃ「しってた上でやったんだね」
兵隊「そりゃ学園都市だってやられっぱなしになる訳にはいかないだろうさ」
兵隊「そんな事より…嬢ちゃんはこれからどうするんだい」
さろーにゃ「わかんない。もうおうちないし」
兵隊「…良ければおじさんが避難所まで連れて行ってあげるけど」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「あっ。やっぱ行きたいとこある」
兵隊「?」
さろーにゃ「くーこう」
兵隊「?」
さろーにゃ「くーこうちゃんに連れて行って。」
兵隊「くーこうって、…空港か?嬢ちゃん、そんなとこ行ってどこの国に行く気だね」
さろーにゃ「学園都市」
兵隊「…学園都市行って、どうする気なんだ?」
さろーにゃ「聞くの。」
兵隊「何を」
さろーにゃ「ひみつ。」
兵隊「…行っても飛行機には乗れないよ。お金やパスポートが無いだろう?」
さろーにゃ「あるよ。ヒコーキ乗るくらいのお金とパスポートちゃんなら私のうえすとぽーちちゃんの中のおさいふちゃんに入ってるから」
兵隊「…」
さろーにゃ「いいでしょ。このうえすとぽーち。おばーちゃんが作ってくれたの。何でも入るの」
兵隊「ああ…うん。いいねぇ~可愛いね。」
さろーにゃ「私のやつ、ぜんぶ入ってるんだよ。おかーさんのとかは入ってないんだよ?」
兵隊「…そーかい。そりゃあ、…いい物だな」
さろーにゃ「おかーさんはもういないけど」
兵隊「…」
兵隊「…」
兵隊「わかった。連れて行ってやるよ」
さろーにゃ「ありがとう」
兵隊「…」
さろーにゃ「ねぇ、へータイのおにーさん」
兵隊「んー?」
さろーにゃ「へータイさんはロシアのへータイさん?ヨーヘイさん?」
兵隊「…」
さろーにゃ「それとも…学園都市のへータイさん?」
兵隊「…さあて。なんだと思う?」
さろーにゃ「わかんないから聞いてるんじゃん」
兵隊「………」
兵隊「…ナイショだ」
さろーにゃ「けちー」
兵隊(言えるかよ)
~飛行機~
さろーにゃ「…」
CA「フィッシュオアビーフ?」
さろーにゃ「キーマカレーちゃん」
CA「えっ」
さろーにゃ「なんか急に食べたくなったの」
CA「そっ、そっかー」
さろーにゃ「キーマカレーちゃんが食べたいです」
CA「キーマカレーはちょっと無いかなー」
さろーにゃ「じゃあサラダちゃん」
CA「えー…一応ビーフなら付け合わせでサラダ出るけど…」
さろーにゃ「じゃーそれ」
CA「畏まりました。」
さろーにゃ「あのねおねーさん」
CA「あらなぁに?」
さろーにゃ「私ね、今からね…」
さろーにゃ「あの学園都市に行くんだよ。すごいでしょ」
CA「へぇーそうなんだね。すごいねぇ(そりゃこの飛行機は学園都市に向かってるしね)」
CA「学園都市に何しに行くの?」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「ひみつ」マガオ
CA(こえーよ!!何しに行くんだよ!!)
~学園都市:とある路地裏~
スキルアウト(中2)「でよぉ」
スキルアウト(中1)「マジっすか!」
スキルアウト(小6)「へー!」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…」ジ-
スキルアウト(中1)「あん?何見てんだよ」
スキルアウト(中2)「おっふ…きゃわわ…んだテメー犯してほしいのか?あーん?」
スキルアウト(小6)(センパイ、またイキッてる…)
さろーにゃ「ねぇ、ひとつ聞きたいんだけど」
さろーにゃ「『人にされて嫌な事はしてはいけない』」
さろーにゃ「『そういうルールが無ければ自分がそれをされるから』」
さろーにゃ「小さい頃に教わったよね。さろーにゃちゃんだって知ってるよ」
スキルアウト(中1)「ハァ?説教?テメー俺のこと舐めてんのか?コラァ?」
スキルアウト(中2)「自分が気持ち良ければそれでいいんだよ!他人なんて知らねーよ!関係ねーじゃん!」
スキルアウト(小6)「そうだそうだー(合わせておこう)」
さろーにゃ「ちがうちがう。聞きたいのはこっからなんだけどさ」
スキルアウト(中1)「あ…?」
さろーにゃ「私の住んでたとこね、なくなっちゃったんだ」
さろーにゃ「それでね、」
スキルアウト(中2)「なくなっちゃった?あーこの前の第7学区のヤツ?アレヤバかったよな。ドンマイドンマーイwww」ヘラヘラ
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「その第7学区のやつじゃないけど、おにいちゃん達はそうやって笑えてしまうんだね」
スキルアウト(中1)「そりゃ慣れてるしな。この街じゃビルが燃えるのも人がたくさん死ぬのも事故も日常茶飯事だし」
スキルアウト(中2)「つーかさ、多分なんだけどよ」
スキルアウト(中2)「隣の学区が丸ごと吹き飛んだとしても俺はヘラヘラ笑ってると思うぜ?」
スキルアウト(中2)「だってさ、ホラ。自分に関係なかったら、自分は痛くないだろ?」
スキルアウト(中2)「ザマァwww俺は助かったぁwって笑ってる」
スキルアウト(中1)「他人の不幸で飯ウマイww」
「「ウェーイwwww」」
スキルアウト(小6)(幼稚だよなぁ…本当にそう思っていても黙っていれば人からの自分の評価は下がらないから楽なのに)
スキルアウト(小6)(僕みたいに)
さろーにゃ「…」
スキルアウト(中1)「で?用は済んだのかよ?」
さろーにゃ「あ、ごめん。まだ聞いてなかった」
さろーにゃ「あのさ、もっかい言うけど」
さろーにゃ「『人にされて嫌な事はしてはいけない』」
さろーにゃ「『そういうルールが無ければ自分がそれをされるから』」
さろーにゃ「じゃあ、『嫌な事を実際にされたら仕返ししてもいい』って思う?』
スキルアウト(中2)「んんー…?」
スキルアウト(中1)「いいんじゃねー?だってムカつくじゃん!」
スキルアウト(中2)「だよな。やられたらやり返さなきゃ。じゃなきゃやられっぱなしじゃん」
スキルアウト(小6)「っていうかさ、それをされる方にだって理由があるからそういう事が起きるんだよ」
スキルアウト(小6)「やられた方は文句言っちゃダメさ。そもそも普段から強い奴との距離感を持つとか、出る杭にならないとかしなかったのが悪いんだよ」
スキルアウト(中2)「あ、安心しろよお前ら。もしお前らが誰かになんかされたら、俺がボコってやるよ!」
スキルアウト(中1、小6)「「あざーす!」」
スキルアウト(中2)「俺サイキョーだし!水流操作のレベル2だから!どんな奴でもボコって俺の怖さ見せつけてやるし!」
スキルアウト(中2)「ま、お前の居た所?無くなったんだっけ?」
スキルアウト(中2)「いい機会だったんじゃね?無くなるような所は『価値がない』って周りから判断されたって事なんだよ。アレだな、オワコンって奴だな!」
さろーにゃ「…」
スキルアウト(中2)「なんでもそうだろ?気にすんなよ。世の常なんだって!」
スキルアウト(中2)「参考になったか?」
さろーにゃ「うん、わかった!ありがとう!」ニッコリ!
スキルアウト(中2)「おー。…ん?何だ?その変な植ぶ」
スキ/ /ウト(中2)「つ
直後。
「ひっ、ぎぃいい「や、やめっ…ァアアアア!!!!」いい!!!!??」「う、うわぁぁあああぁあああがぁあっ!!?」
「いひゃ、いひゃい…!だ、誰、か、「助けないよ。だってほら、貴方もそうなんでしょ?」あああ「いだぁぁいいい!!!」ああ!!!!」
「ひ、ひぃ…!」
「ご、ごべんなざい!!悪かったって!な、なあ!何がそんなに気に食わなかっ、
「ぜんぶ。」
静
寂
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…あんたたちになにがわかるっていうの」
さろーにゃ「…学園都市は、酷い人しか居ないんだ」
さろーにゃ「こんな奴らに、私の故郷は」
~数ヶ月後~
飛空挺『第7学区近辺で、強盗殺人が相次いでいます。該当地域の学生は…』
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…こーやって、警告を出されても危機感とか実感って中々生まれないんだ」
さろーにゃ「だって本当なら犯人捕まるまで学校とか行かずに家に鍵かけて引きこもるとか、大きな施設にみんなで閉じこもるかするでしょ」
さろーにゃ「なのに、そーいう策は弄さない。頭では危険ってわかっていてもね」
さろーにゃ「ほら、例えばさ、大きな台風ちゃんとかが来た時もさ、ニュースで外の様子は見れるじゃん」
さろーにゃ「でもさ、最近の建物はしっかりしてるから…音はあまり聞こえないし、窓から雨を見ても『こんなものか?』と思ってしまう事ってあるじゃん?」
さろーにゃ「でさ、『酷い状態』って情報は頭にあってもね、そんな時に人はどうするかっていうと」
さろーにゃ「ドアを開けちゃうんだよ。」
さろーにゃ「それで、何か物が飛んで来て当たるとか、何がしかの痛い目にあって初めて『こりゃ本当に酷い台風だ』って実感する」
さろーにゃ「そうやって実際に痛い目にあわないと誰だって認められないんだ」
さろーにゃ「…今のあなたみたいに」
研究者「わ、私が何をしたって言うんだ!私は、何も!」
さろーにゃ「…」つナイフ
研究者「やっ、…あやや…いや!わかった!違う!私は確かにあの実験に関わってる!」
研究者「だから殺さないでくれ!」
さろーにゃ「…」
研究者「だって!これは仕事なんだ!やらなきゃいけない!嫌だろうがなんだろうがやらなきゃ生きていけないからだ!」
研究者「なぁ!君はどこの暗部の」
さろーにゃ「…うるさい。」
研究者「んがっ…!?が、ああ…ああ?」
さろーにゃ「ナイフ?安心して。使わないよ?およーふくちゃんよごれちゃうし」
さろーにゃ「今はね、私のじゅつしきで絞めてあげてるの。…正確にはナイゾーとか体のどこかが機能停止するんだけど」
研究者「な、なぜ、私、を、誰から頼まれて、」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「別に?誰も?」
さろーにゃ「私の自己満足。理由はあなたが学園都市の人だからだよ」
さろーにゃ「学園都市人はみんな悪い人ばっかりなんでしょ?ひどいじっけんばっかりしてるって」
研究者「そ、そんなの偏見、」
さろーにゃ「でもあなたもしてるんでしょ?じゃあ、同じだよ」
さろーにゃ「あ、ほら、この国の人達もさ?ニュースとかでよくやってるからって」
研究者「…?」
さろーにゃ「れいぷとかゴートウだとか。そーいうのをやるのは日本にいる外国人ばっかりだって思ってるじゃん」
さろーにゃ「そんな事ないのにね。日本生まれの日本育ちな生粋の日本人だってやる人はやるよ」
さろーにゃ「でも、ニュースでやるから『大体そういう特に酷い事をやるのは外国人だ』ってぼんやりとイメージしてる人は多いでしょ?」
さろーにゃ「それと同じだよ」
研究者(じゃあ君は)
さろーにゃ「この街に数ヶ月いただけでも知ったもん」
さろーにゃ「この街は、りんりを無視したおおきな実験場なんだ、って」
さろーにゃ「おとーさんもむかしテレビ見て『学園都市があんなに進んだ技術を持てるのは人権無視した合理的実験がたくさんできるからだ』って」
さろーにゃ「そんなひどいことができちゃう人達の街なんでしょ」
さろーにゃ「だからね、さろーにゃちゃんが壊してあげるの」
さろーにゃ「特に悪そうな人がいたらこうやって殺して持ってたお金もらってご飯食べて、また殺すの」
さろーにゃ「わたしの故郷のカタキをとるの」
研究者「……」
研究者「い、カレ…て、ル…よ、きみ…」
さろーにゃ「…」
研究者「」ドサ
さろーにゃ「…そーしたのはお前らだよ」
・・・・・。
さろーにゃ「…」トコトコ
「ういはるー」「なんですかさてんさん」
さろーにゃ「…」ジ-
さろーにゃ「なまえ…」
さろーにゃ(そういえば…もうずーっと私のなまえ呼ばれてないや)
さろーにゃ(そりゃそうか。なまえバレたらやばいし、この国で私のことしってる人なんていないもんね)
さろーにゃ「…というか、もう今後一生…誰も私のなまえなんて呼ばないんじゃないかな?」
さろーにゃ(こんびにちゃんとネカフェちゃん、後は路地裏とかホテルへ行って悪者ちゃんタイジ)
さろーにゃ「…わたし、なにしてんだろ」
~夜の公園~
さろーにゃ「…」キィコ...キィコ...
さろーにゃ「…」
さろーにゃ(私、コレいつまでやればいいんだろ。)
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…なんか、もうわかんない…」
さろーにゃ(…そろそろネカフェちゃん行こ…)
「よう。いい夜だな」
さろーにゃ「!」バッ!
「…お前だろ?最近手当たり次第に悪人なら誰彼構わず殺しまくってるクソガキは」
さろーにゃ「…」スゥ...
「ああ、魔術だろ?知ってる知ってる。」
パキーーン!!!
さろーにゃ「…!?」
「ご覧の通り。お前に俺は殺せない」
「まぁ落ち着けって。別にお前をお仕置きしに来たわけじゃないし。」
「ほら、そこの自販機でジュースでも奢ってやるからさ?」
さろーにゃ「ナンパならまにあってます」
「いやナンパじゃねぇよ」
さろーにゃ「口リコンちゃんもまにあってます」
「口リコンでもねーから」
さろーにゃ「じゃあなんのごよーですか」
「ああ。ちょっとオニーサンとお話ししようぜ」
さろーにゃ「ユーカイだ!ユーカイ!」
「誘拐でもねぇよ」
さろーにゃ「むー」
「まぁホラ。何がいい?オレンジジュースか?」チャリンチャリン
さろーにゃ「こども扱いするのやめてもらえます?」
「じゃあ何がいいんだ?お嬢さん。」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…」スッ
「…オレンジジュースな、ハイハイ」ピッ
さろーにゃ「だって他に美味しそうなのないからだもん」
さろーにゃ「ちがうから。こどもだからオレンジジュースちゃん選んだんじゃないから。ちょーど飲みたくなったからだから」
「ハイハイ…」
・・・・・・・。
~ベンチ~
「お前さ、今そーやって生きてて楽しいか?」
さろーにゃ「…べつに。でも生きてるから。それで、ムカつくから」
さろーにゃ「嫌い。この街もこの街に住んでる人も」
さろーにゃ「他に…どうしたらいいかもわからないもの」
「…ああ、だよな。今のお前ってホントそんな感じだ」
さろーにゃ「…」
「『八つ当たりしながら生きてる』。」
さろーにゃ「ああん?」ムカチン!
「普段はネカフェで寝泊まりして、コンビニで飯買って、テキトーな悪人見つけちゃ殺して金を奪う」
さろーにゃ「…なんで、」
「何でお前のライフスタイルを知ってるかって?」
さろーにゃ「この、すとーかーちゃんめ!」ペチン!
「いてっ!違う違う。ストーカーでもねぇよ。裏で出回ってんだよ。お前の情報は」
さろーにゃ「じょーほーか社会って怖いね」
「ああ。今じゃ金で大抵のモンは買えるからな」
「個人情報も知識も武器も家も信用も仕事も名誉も」
「時には寿命とかな」
「んでよ、お前さ、狙われてんだよ。そろそろヤバイんだ。」
さろーにゃ「…ケーサツちゃん?」
「アンチスキルの事か?ちげーよあんな無能な素人集団じゃない。」
「もっと恐~い人達だよ。物騒な」
さろーにゃ「ええ…?誰?」
「お前は荒らしすぎたんだよ。裏稼業やってる奴らはある程度ナワバリだとか仕事の限定とか、いわゆる”住み分け”ってもんをやるけどそれをぐちゃぐちゃにしすぎた」
「だから、『このまま色々とやる気なら協力しあって始末しろ』って余計に色んな所に情報が出回ってんだ」
さろーにゃ「例えば誰に?」
「そりゃお前、色んな奴にだよ」
さろーにゃ「その中でも例えば?って言ってるの!バカジャナイノー?」
「…じゃあ俺がもし、『あの超有名な暗部組織の”浜面さん”だァアアアア!!!』とか言ってお前わかるのかよ」
さろーにゃ「わかんにゃい!」キリッ!
「だろ」
「で、な?別に殺すのは良いんだよ。この街では日常茶飯事だし、この街は悪人のが多いくらいなんだから少しは減った方が世の為だ」
「けどな、業界のルールとか裏稼業のモラルってのはあんだよ。悪党にだって秩序があるんだ」
「人間が密集して生きる生物である以上はどうしたってそういうのが必要になるんだ」
さろーにゃ「元々悪い事してる人達なのにモラルなんて変な話だね」
「そうしなきゃ上手く悪い事ができないからな」
さろーにゃ「それで?結局私に何を言いたいの」
さろーにゃ「ダラダラ、ダラダラ…オハナシ長くてつまんないよ」プクゥ
さろーにゃ「もしコレがデートだったら私もう帰ってるよ」
「あーハイハイ。悪かったな。じゃあ言うけど」
さろーにゃ「あ、言っとくけど」
さろーにゃ「『殺しをやめろ』とか『祖国へ帰れ』とか『自首しろ』ってのなら聞く耳持たないから」
さろーにゃ「ついでに、『一晩いくら?』もね」
「安心しろ。どれもちがうから」
「お前、俺と組まないか」
さろーにゃ「…」
「いい腕だ。殺人手段の凶器は花粉や種子。それでアナフィラキシーショックでも起こすような人間じゃない限り殺人の物的証拠にはならない。」
「対魔術を組まれなきゃ、お前は殆ど最強の暗殺者になれる」
「なぁ、憎いんだろ?この街の奴等が」
さろーにゃ「…」
「いいさ。殺せよ。ドンドンピシピシ殺しちまおう。」
「ただし今みたいに利益を生むわけでもなく何の意味もなくイタズラにポンポン殺すのはマズイんだよ。目をつけられる。」
「そんで目をつけられたらお前は集団で狙われて数の暴力に殺されてこれ以上殺す事ができなくなる」
「お前だって出来る限り、力の限りよりたくさん殺したいだろ?」
「だからお前は業界に詳しい誰かと組んで目をつけられないように上手く殺し回るべきなんだよ」
さろーにゃ「…」
「俺ならそれを教えてやれる。金も今よりたくさん入る。」
「悪い話じゃないだろ?」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「おことわり。」ブンッ!!!
「おっと」ヒョイッ
さろーにゃ「具体的にどんなお仕事ちゃんになるかは知らないけどー、さろーにゃちゃんはお前ら学園都市人の言う事なんか聞いてやらない」
「学園都市人ってなんだよ、そりゃ。なんとなく言いたい事はわかるけどさ」ケラケラ
さろーにゃ「日本とは違う独自の世界がこの街にはあるんでしょ。それならもうこの街は『学園都市』って名前の国じゃん」
さろーにゃ「私の街を踏み潰したのは日本人じゃない。日本の国土にあって違う人種。学園都市人なんだ」
さろーにゃ「ころしてやる。みんな、みんな!」
さろーにゃ「人間ちゃんは痛みを知らなきゃ本当の意味での理解をしないでしょ!」ブンッ!
さろーにゃ「お前にもわからせてやる!!!」ブンッブンッ!
さろーにゃ「私がどんな死に方しようが私の勝手だもん!」
「はー…」
「で、お前はまた勘違いするわけだ」
さろーにゃ「…?何をぶっ!?」
「今のコレと同じだよ。おんなじ。」バキャ!バキッ!
「”俺が”お前に何かしたか?」
さろーにゃ「うぐぅ、げほっ、」
「ジュース奢ってやったし、話をしただけ。それに金も生きる意味も無いお前にそれをもたらすビジネスチャンスを持って来た」
さろーにゃ「おぐぅっ…!」
「なのになーんで殺されそうにならなきゃいけないんだ?」
さろーにゃ「…お前が学園都市の、」
「そう。お前の故郷を潰したのは”学園都市”だ。”俺”じゃない。」バキャッ!!
「学園都市に住んでる奴が全員お前の街を踏み潰すのに関わったわけじゃない」ガッ!ガッ!
「こんなのちょっと考えれば…いや、考えるまでも無い事だろ」ゴスッゴスッ
「つうかさ、わかってたんだろ?お前も」
「だから言ったんだ。『八つ当たりだ』って」ベシッ
「手当たり次第じゃなく、悪い事してる奴ばっか狙ってた辺り『良い奴』を殺す事に心のどっかで抵抗があったんだろ?」バキャッ
「つまりさ、薄々お前もわかってたんだろ」グイッ
「『この街の奴等の殆どは私の街を潰した奴等と関係ない』ってな」
さろーにゃ「…」
「だから。罪悪感があったから…わざわざ悪人ばっかを狙った。」
「『悪い奴は殺していい。きっとこういう奴等が街を潰した奴等と繋がってる』」
「そんなことを考えてな。…でもよ、お前がそんな事したって何にもならない」
「そんで、それも薄々わかってたんだろ?」
さろーにゃ「…」
「例えもし仮にこの街の住人全員を皆殺しにしたってお前の街は返ってこないし、死んだ命は戻らない」
「それどころか自分の命まで寿命が来る前に失う結果になる」
「でも復讐ごっこをしなきゃ心が持たないから殺ってたんだ」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…」
「なぁ、そろそろいいんじゃないか?」
さろーにゃ「…何が」
「リスタート、だよ」
「いい加減、今のつまんねぇ人生を変えようぜ」
「お前の家族だってさ、お前が幸せになることを望んでるんじゃねぇの。形はどうあれ」
さろーにゃ「…」
「でも、お前、自分の幸せがなんなのかわかんないんだろ」
さろーにゃ「…うん…」
「今のままでそれがわかると思うか?」
さろーにゃ「…おもわない……」
「俺ならきっとそれを一緒に見つけてやれる」
さろーにゃ「…」
「お前、勿体無ぇよ。殺しの腕も悪くない。むしろ優秀だ。」
「そんな奴がこのままその内どっかの組織に捕まってボコられて死ぬなんて悲しすぎるだろ」
さろーにゃ「…」
「お前、今のままじゃ”ただの人殺し”だぜ?」
「どうせ殺すなら”殺し屋”になれよ。」
さろーにゃ「…そんなのどっちも同じじゃん。どっちもただの犯罪者だよ」
「いーや。違うね。天と地ほども違うね。」
「そういうのも教えてやるよ。”プロ”と”道楽”は全く違うんだ」
さろーにゃ「…」
「ただの人殺しで人生終了…お前、そんなつまんねぇ結果でいいのか?」
「…なぁ」
「お前は何才まで生きて、どんな意気込みを持ってそこまで生きるつもりなんだ?」
「”生きる”って、ただ呼吸してメシくってクソを出す事じゃねーぞ?」
「お前、そんな死んでるみたいに生きてていいのかよ。」
「お前の家族だってきっとそんな風に生きて死ぬお前を見てたら天国で嘆くと思う」ギュッ...
さろーにゃ「…!」
「大人としてもこのまま見捨てたくないんだよ。」
さろーにゃ「…」
「俺と来いよ」
「変えよう。お前の未来を」
さろーにゃ「…」
「大丈夫。俺が側についててやるから。」
さろーにゃ「…」キュ
さろーにゃ「…うん……!」ポロポロ
「そういや名乗ってなかったな」
「俺は、上条。」
上条「殺し屋仲介派遣会社【上条事務所】の社長だ」
さろーにゃ「しゃちょー!?」
上条「…今は社員いないから俺一人だけどな」
さろーにゃ「なんじゃそりゃ」プッ
上条「まぁ安心しろ。食うモンも寝る所も、収入についてももう困らない事は保証してやるよ」
さろーにゃ「へぇ?」
上条「俺がお前を稼げる”プロ”にしてやるよ」ニヤッ
さろーにゃ「おおー…かっこいいね?」
上条「全部ここから始めよう。」
上条「俺と…お前で。」
さろーにゃ「うん!」ニコッ!
上条(ちょれぇ。何でこう、アホとかガキってのはちょっと希望を持たされるとすぐに言い包められて騙されちゃうんだろうな?)
上条(本来ならバレてない今のうちにさっさと本国帰って保護してもらって少しでも真っ当な道を歩むのが正しいに決まってる)
上条(ま…こーやって。)
上条(『”悪いコト”がどうして悪いのか』、『何故してはいけないのか』)
上条(そういうのを理解せず、誰かに是正されないまま突き進んで。)
上条(悪い大人に丸め込まれて、子供は悪党へと自分の未来を誘導されていくんだな)ジ-
さろーにゃ「どうかした?」
上条「…なんでもないよ」
上条「『今時の若い奴は』って言う大人は多いけど、”今時の若くない奴”が今時の若い奴を作ったってのを忘れるべきじゃねーなって思っただけだ」
さろーにゃ「なにそれ?」
・・・・・・。
~上条宅~
さろーにゃ「ねぇねぇこれからどうするの?」
上条「身支度と下準備を整えた後に…コレらの3件仕事をしてもらう」つ
さろーにゃ「ふーん?」ヨイショ
上条「今渡したそれらが資料だ。」
上条「まぁ最初だし、手軽なのを選んどいた」
さろーにゃ「おおー…なんかオシゴトって感じ」
上条「それぞれファイル分けしてるから混ぜんなよ?」
さろーにゃ「んー」
さろーにゃ「…ねぇねぇ」
上条「ん?どっかわからないところがあったか?」
さろーにゃ「コレでさ、いくら儲かるの?」
上条「ん?まぁ必要経費差っ引いて…粗利…いや儲けって言った方がいいか。儲けは一件あたり300万円程だな」
さろーにゃ「さ、さんびゃくまん!?そんなに儲かるの!?」
さろーにゃ「さんびゃくまんもあったら…えーっと…オレオが幾つ買えると…」
上条(好きなのか?オレオ)
さろーにゃ「すっごいね!大金持ちちゃんじゃん!」ニヘ
上条「…」
さろーにゃ「?」
上条「…ハァー、あのな?”プロ”の殺し屋の依頼報酬金額が一件300万ってのはな、」
上条「むしろ大恥なんだ。お前、絶対他所で言うなよ?」
さろーにゃ「へ?」
上条「あー…まぁその辺りからだな…じゃあ教えてやる」
上条「実は俺のネームバリューがある程度あるからギリギリなんとか報酬額がこの位までになってるが、もしもお前が単独でこれらの依頼を受けたなら…」
上条「…まあ、相場からすると恐らく一件30万円ぐらいだな」
さろーにゃ「すっくなっ!?」
上条「ああ。むちゃくちゃ少ない。ところが…」
上条「”呼び名”がある奴。…要はプロとして名前が知られてる信頼と実力がある一人前の殺し屋の一件辺りの報酬額は」
上条「…ま、概算だしケースバイケースだが、」
上条「一件辺りの報酬額はゼロが7個つく」
さろーにゃ「」
さろーにゃ「え?えーっと、いち、じゅー…ひゃく、」
上条「…一千万クラスって事だ」
さろーにゃ「いっ、一千万?!一件が一千万!?」
上条「そーだ。素人とは文字通り『桁違い』なんだよ」
さろーにゃ「えー…なんでそこまでお金ちゃん払って…だって、私みたいなのなら30万で済むんでしょ?」
さろーにゃ「そこまでしてそんなに大金を払ってプロに頼まなくても…なんで?」
上条「『そこまでして』?『そこまでする事だから』だよ」
上条「依頼報酬金額が安い奴はな、例えば死体の後処理だとか、やった事の誤魔化し方だとか捕まらないための技術や知識、他業者とのコネが無かったり」
上条「しっかり殺せずにターゲットが生き延びちゃって依頼人まで報復に遭いやすかったり」
上条「…まぁ、単純に色々とハイリスク過ぎるんだよ」
さろーにゃ「へー…」
上条「バカに足りないのは、『自分が今とんでもなくリスキーな事してる』って自覚だ。」
上条「別に殺し屋とかだけの話じゃない」
上条「一般的な中小企業の何でもないような業務一つだって、細かく見て考えると『アレ?これ、誤魔化されてるけど実は結構ハイリスクじゃね?』って事は幾らでもある」
上条「営業マンが契約一つ取るのも、運送も、工場、警察機構だってどれも実はリスクがある」
上条「…自覚しろ。仕事ってのはそういうもんだ。危険や面倒を避けるために人や会社は金を払うんだから、金を手にしようと思ったらリスクを背負う事は当たり前なんだ」
さろーにゃ「ふーん…」
上条「…」
上条「いいか?わかっちゃいると思うが」
上条「『人を殺す』ってのは、世間一般の建前では絶対やっちゃいけない一番のタブーだ」
上条「何よりも罪深い。刑も重い。個人へのデメリットも半端ない。」
上条「…どんな理由があろうとも。”人殺し”ってのは重罪だ」
上条「強盗殺人の場合は…まあほぼ間違いなく無期懲役か死刑。」
上条「依頼人も殺し屋も自分が幸せになりたいからそいつを殺すのに、自分が不幸になったらバカだろ?」
さろーにゃ「…」コク
上条「『殺し屋をした場合』や『殺し屋に依頼した場合』で裁かれた判例もあるが」
上条「金銭等の報酬目的での殺人は裁判官の心証も兎角非常に悪い」
上条「例え未成年であったとしてもお前みたいに殺しまくってるようは奴には情状酌量もクソもない」
上条「依頼人も依頼人で殺人教唆…簡単に言うと犯罪を促した罪だが、それも本来の物よりずっと重くなるしそいつの社会的地位は木っ端微塵だ」
上条「…わかるか?仕事を失敗した時、そして、その後に依頼人と殺し屋に何が待ってるのか」
さろーにゃ「…」
上条「いいか?例えばもし仮にお前がミスったとして…お前の場合はどうなるか」
上条「普通は死刑か無期懲役。で、『運がめちゃくちゃ良くて』。何とか死刑を免れて最大限の量刑くらって、数十年後にムショから出てきた時」
上条「もう裏にも表にも自分の居場所はどこにもない。」
上条「裏社会ではミソがついた奴にまともなプロがやる仕事は回ってこないし、仮にあっても鉄砲玉みたいなモンばっかりだ」
上条「表では当然就職なんざまともに出来るわけねーし、バイトすら制限がつく」
上条「そんでまともに仕事ができないって事は、ある程度の金を得る手段もないって事だ」
上条「つまり、状況的にはさっきまでのお前に逆戻りなんだが…それにすら戻れないだろうな」
上条「何せ、数十年もムショに居ればもうそんな気力も体力も若さもない」
上条「しかもお前は外国国籍だから日本国籍の人間と結婚しない限りは生活保護も受けられない」
上条「つまりな…最終的に。失敗したお前の末路ってのはな、」
さろーにゃ「…」ゴクリ
上条「汚い格好で、年老いて、家も家族も金も無く。病気になっても治せずに…たった一人で路上で残飯漁りながら生きてくって事だ。」
上条「ーーーーー死ぬまで、ずーーーーっと…、な?」
さろーにゃ「」ゾッ
上条「お前、本当にそうなった時の自分を想像した事あるか?」
さろーにゃ「…」ブルブルブルブル
上条「だよな。けど、それがリアルにあり得てしまうんだよ」
上条「一回でも失敗したら依頼人の人生も180度変わっちまう。」
上条「実行犯のお前程じゃないにしろ、致命的なダメージを負う」
上条「…だから、依頼人は大金はたいてでも買うんだよ」
上条「”安心”を。」
上条「『この人なら確実に依頼を遂行して、誰にもバレないように捕まらないように殺してくれる』という”安心”。」
上条「その”安心”の度合い。それが殺し屋の報酬額なんだよ」
上条「依頼人や仲介業者が報酬額が低い殺し屋や素人に殺しを依頼するってのは様々なリスクが高いのを承知で雇うって事。」
上条「だから業界じゃあな、報酬額の高さがそのまま殺し屋のステータスになるんだ」
さろーにゃ「へー…」
上条「で?お前の報酬金額は幾らだったっけ?」ケケケ
さろーにゃ「うぐぅ!」
上条「でもさ、お前はとんでもなくラッキーだ。何せ俺っていうスーパーアイテムを手に入れた」
上条「現状と今までの危うさを痛みの教訓も無しにタダで教えてもらえた。」
上条「家と仕事と専属仲介業者を手に入れたし、今後の仕事でもよっぽどミスらない限りは俺が手を回すから捕まらない」
上条「報酬額も始めたばかりの駆け出しにしちゃ高い額」
上条「このチャンス、生かすも殺すもお前次第だ。」
上条「頑張ろうぜ」
さろーにゃ「…うん!」
・・・・。
~深夜~
上条「…」カタカタカタ
上条「?」
さろーにゃ「…」モジモジ
上条「どーした?明日は早くからお前の服とか買いに行くんだ。早く寝ろよ」
さろーにゃ「…」
さろーにゃ「…ねむれないの」
上条「明日が楽しみすぎてか?」ハハ
さろーにゃ「…」プルプル
さろーにゃ「…ずーっと、寝れてないの。」
上条「?」
さろーにゃ「エカテリンブルクでの…私の故郷がなくなったあの時の、いまでも…怖くて」
さろーにゃ「ネカフェちゃんでも朝方になって数時間寝れるくらいで」
上条「はあ」
さろーにゃ「ちょっと、ちょっとだけでいいから!」
上条「…」
さろーにゃ「…その、一緒に…」チラッ
上条「…」
さろーにゃ「ネテクレタラウレシイナ-...///」ポソッ
上条「…」
上条「…」ハァ
上条「しょうがないな…」ヨイショッ
上条(今コイツとの関係にヒビ入れんのもマズイしな…)
上条(まぁ、コイツとも恐らく一年未満ぐらいの関係だろうしな。)
上条(何件か仕事をやらせてみて、上手くやれそうなら”呼び名”持ちの奴と争う『あの依頼』をやらせて…)
上条(そんで、最後に口封じにコイツを業者に処分してもらう。ま、コレもその依頼の依頼人の要求だからな)
上条(こーいう商売はトカゲの尻尾切りのがいい。…まぁ、もしコイツがこの先一年以上生き延びるとしたら)
上条(コイツが報酬が億クラスの”プロ”になると確信するか…インデックスの復讐が済むか、)
上条(俺が死ぬか、俺がコイツをよっぽど気にいるか。)
上条(まぁ基本的にはどれもあり得ない。他の起こり得るリスクを考えてもコイツは間違いなく一年以内に死ぬだろうな)
上条(ま、それまでは精々ご機嫌取りしてやるか)
上条「…そういや、お前の名前聞いてなかったな」
さろーにゃ「え?私の情報は出回ってたんじゃ?」
上条「…本名、フルネームは出回ってなかったんだ。見た目と手口、出現場所ぐらいでな」
上条(本当は俺についてこさせるように言いくるめるための方便だったんだけどなアレ。『狙われてる』とか『情報が出回ってる』とか)
さろーにゃ「…サローニャ。」
さろーにゃ「サローニャ・A・イリヴィカ。」
上条「…そうか。じゃ、」
上条「おいで、サローニャ。腕枕してやるよ」ポフ
さろーにゃ「…うん///」タタッ
さろーにゃ「♪」ポスッ
上条「…」ポンポン
さろーにゃ「…」スリスリ
さろーにゃ「うにゅう…」
上条(また随分幸せそうな顔して)
さろーにゃ「おやすみ上条ちゃん」
さろーにゃ(ああ…)
さろーにゃ「あったかい…♪」モフ
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「どうしたの?サローニャ」
「はうっ!?」
おおっと。つい昔の事思い出してた
…懐かしいな。
さて、気を引き締めなきゃ。
そう。私は”プロ”だ。”呼び名”は綿(わた)。
真綿で絞め殺すように殺し、フワフワと捕らえられないようにと上条ちゃんがつけてくれた。
報酬金額は、億クラス。
主に殺すのが難しい非合法系の要人の暗殺と業界のやりすぎた人間、闇や暗部に関わりすぎた人間を始末する。
上条事務所唯一の、専属契約している殺し屋。
うむ。初心を忘れちゃダメダメちゃん。
「次、なんのゲームやろっか」
「そーだねーん」
…そんで、一つ疑問に思った事が。
「はー…今度中間テストなんだよなぁ」
「大変だよね」
「サローニャってどこの学校?」
「当ててみて?」
「えー?頭良さそうだし…霧ヶ丘とか?」
「残念ハズレ。でも私んとこももうすぐなんだよね」
ねぇ上条ちゃん。本当に殺すのはこの子で合ってるの?
「ですよね。でもさ、中間テストだの期末テストだの…本当にそんなのいると思う?」
「証明、としては必要だとおもうけど」
「なんの?」
「日本という国で、人間ちゃんとして生きていく上で」
「一番下のアンダーバー…本当にガチのミニマムな必要最低限の知恵があるかどうかの」
「…なんだかそれすっごくバカにされてる気分」
「そりゃそうだよ。なけりゃぶっちゃけバカにされちゃうもの」
「だってさ、本当に中学生のまま社会に出て戦っていかなきゃならなくなった時の事を考えてみなよ」
「周りは少なくとも高校、大学や大学院に行ってる人ばかりで、特殊なスキル持ちの人ばっか。」
「あーほら、スマホゲームちゃんとかで例えるとさ、」
「自分は完全に無課金なのに他ユーザーは廃課金しないと手に入らないSSR武器とか攻略知識とか強力なスキルといったアドバンテージ持ちなの」
「そんな中で課金無しで地道にレベル上げしても相当頑張らなければ勝てないし、レアアイテム掘りだので張り合おうとしても無駄でしょ?勝てるわけないもの」
「…今のうちに勉強しとこ。…多分モチベ保たないと思うけど」
だってさ、この子…どう見てもフッツーの子なんだよね。
さっきちょっと話した時も仕草だの業界の隠喩とかエージェントのコードネームの類いは出てこなかったし、闇とか暗部だとか裏稼業系の関係者とかの匂いもしなかったし。
本当にどこにでも居そうなただの中学生だ。
それを、『私が』殺す?
いやいやちょっと待ちましょーや。
先述の通り、私は権力者や要人やら裏稼業、闇に関わりすぎたヤツ、非合法な人達(たまにその家族ごとの皆殺しも含む)が専門。
上条ちゃんは基本的に『一番収入効率がいいから』とか『悪人なら殺してもインデックスは怒らないだろうから』ってんでそういう依頼しか受けない。
なのに一般ピーポーを?
専門外。畑違い。ほわーい?
いやまぁ…別に今までも一切こんな感じの依頼がなかったわけじゃないけど…
そんなのまだ私が100万クラスとかぐらいの時の話だし。
どう考えても億クラスの殺し屋ちゃんのやるような仕事じゃないんだよね。
後ろ盾も何も無い、たかがその辺の中学生殺すぐらいでもウチに頼むなら相場としてはどんだけ低くても…
まぁ、約一千万ぐらいかな?
腑に落ちない。
じゃあ実はこの子にはその辺の中学生じゃない側面が?
それなら何か凄いレア能力持ちだからか~とも思ったけど、メール添付の資料を見た限りは”風力使い”のレベル0ちゃん。
風力操作系能力ちゃんのカテゴリの中では下の下のランクの能力。
…まぁ、正直にはっきり言っちゃうと大して珍しくもない上に大した事も出来ない雑魚中の雑魚能力。
それでも出力があればまだマシだけどそれすらない。
つまり、レア能力の線はナシ。
じゃあ他に何か秀でたスキルがあるのか?と思いきやそーゆーのも特に無し。
強いて言うなら英語ちゃんを覚えるのがちょっとだけ早いぐらい。
でもそれだって日常生活レベルだし、スキルとしてはカウントされないぐらい。
じゃあ血縁者が悪党だとか?
うーむ。
うーむむむむむ。
謎。謎すぎ。
情報が足りないから考えることも判断も出来ないけど。
上条ちゃんは昔からそうだ。肝心な事はいつも言わない。
ーーーーーー
ーーーーーーーーー
『もしも都合よく誰かを動かしたいなら、そいつに余計なことを考える材料を与えちゃダメなんですよ』
『「私はあなたの味方です。あなたのためを想って言いますよ」と感じさせる話し方をして』
『動いて欲しい行動に必要な考えと行動、それから「もうこの件で生じるリスクについては全部考えたな」って思わせるんですよ』
『あとは、「これを手に入れれば現状打破できる」「希望」と「明るい未来」が待ってるって説明するだけです』
『そしたら客は、多少高くて要らなくても買っちゃうんですよ』
ーーーーーー
ーーーーーーーーー
…そういや前にそんなような事言ってたターゲットがいたっけ。
上条ちゃんも同じなんだろうか。
私を都合よく使えるだけの駒にするために。
……。
私は人形ちゃんじゃない。
…なんかワケもなくムカついてきた。
サローニャちゃんは都合がいい女じゃありませんから!
しょーがない。情報屋に依頼してこの件についての情報を…
あーでもでも。また上条ちゃんとの結婚資金貯金が減っちゃう。
イヤだなぁ…
……
もしお仕事ちゃんをするなら…二人きり→別れた後かな。その方がやり易い。
その時に相手が寝てたらなお良し。
食事して、お腹いっぱいにさせて帰宅させる。後は家へ理由つけて入って、それから花粉をぱふーっと。
うん、コレだね!
「ねぇサローニャ」
「ほぇ?にゃーに?」
「今日、私んちで泊まって勉強会とかしない?」
…へ?
「…えっ、と」
「ほら、あたしもサローニャも勉強しなきゃ。あたしはバカだから手を借りたいしさ?」
「あー、うん」
「あ、ゴメン何か用事があった?」
「いや…ないけどね」
「あたしの事嫌だった?」
「その聞き方はズルいよ。どう思っていても絶対『そんな事はない』って言わなきゃいけないじゃん」
「じゃあオッケー?」
「いいじゃんいいじゃん。あたし美味しい紅茶淹れるし、お菓子も買おうよ!」
お、おかし…!
友達と…お泊まり、勉強会…お茶…!
「あー、うん。オッケー」
「やった!」
ニコッ!!と擬音がつきそうな笑顔。
こんな事くらいでこんなに喜んでもらえるなら、
いやぁー憧れてたんだよねぇ。こーゆーの……
はうっ!?って!違う違う!ダメダメ!!今!仕事中!!
何ついつい流されてんだ私!!!
さっさと帰って報告と練り直ししなきゃ!
どーせ上条ちゃんもすぐ帰って……
……そういえば、上条ちゃんは今日デートなんだっけ。
…私に仕事押しつけて、業者に調査頼まずに私に直接こんな低ランクな仕事あてがって。
私以外のオンナと。
……むか。
むかむか!!むかむかぁー!!!
「…」
「どしたの、サローニャ」
「…電話しなきゃいけないとこがあるんだけど」
「え?うん。してこれば?」
「…私、今ちょーっと反抗期かも」
「反抗期」
「そ。」
『電話の声がうるさすぎてターゲットに感付かれたから電話かけられませんでした』って言い訳しよう。
「たまには仕事じゃなくて私のことで頭いっぱいになればいいんだよ」
ぷくーっと頬を膨らませる。
「あはっ!あははは!」
「なんだよぅ」
「ご、ごめ…っ、だってさ、」
「サローニャはよっぽどその人の事好きなんだって思ってさ」
「…そんなことないもん」
なんだか恥ずかしくて肯定できなかった。
「ぷくく。電話したら?」
「いいもん。しないもん。サローニャちゃんは都合のいい人形ちゃんなんかじゃないもん」
否定の意味も込めて、スマホの電源ボタンを長押しした。
「いこっ!今夜は思いっきり遊んでやる!」
「あははは!一応勉強会だよー?」
あーあ。仕事中にイレギュラーが起きたってのに。
ホウレンソウを怠るなんて”プロ”失格だ。
でも上条ちゃんが悪い。発端もそうだし、
私のことぞんざいにして構ってくれないし、ちゃんと教育してないのが悪い。
部下の失態は全部上司の責任だし!
フーンだ!
上
条
「…さってと。」
「えー…と。ヤバイ書類は処分した、生金はアタッシュケース。現行仕事の資料も入れた。拳銃も弾も持った、替えの服と財布、携帯」
「パソコンの中身は超マイクロUSBに移して携帯に。あとは…」
「サローニャの私物とかどうすっかな…」
チラッとあいつの部屋にかけられた洋服やらバッグ、化粧品…あとパンツ群を見る。
「…あんにゃろう。あんな布面積ワーオなのとかスケスケなのたくさん買いやがって」
恐らく俺に見せる気で買ったんだろうが。
「…オイ、クロッチオープンなんてどこで買った」
自然と苦虫を噛み潰したような顔になる。
個人の趣味に口は出したくない。
なんだけど…別に見たくなくてもそれを強制的に見せられる同居人としては出したくもなる。
十年前のインデックスとの同居時はそんな心配なかったんだけどなぁ。
(…つーか常日頃から引っ越す時に邪魔になるから私物を増やすなって言い聞かせて、)
あっ、そうか…俺の私物化してるこのソファーとかも…
「…チッ。今回のこの部屋と家具、結構気に入ってたのに」
諦めるしかない。
(この仕事やってて嫌な事の一つはコレクション趣味が持てないのと頻繁に住所と家具とクローゼットの中身が変わる事だな)
それにしてもサローニャからの定時連絡が来ない。
つーか電話を何度かけても繋がらない。
あんにゃろう…スマホの電源切ってやがる。
アイツどこで何やってんだ?まさか誰かに殺られたとか、襲われたか?攫われて拷問中とかか?
クソッ!オイまさかまた蜜蟻に金払わなきゃいけないってか?!
上条さんはこれでも貧乏なんだよ。
蜜蟻の奴、最近何かとつけて俺に軽い嫌がらせみたいな事してきやがるからイヤなんだよな…
「全く…もうすぐ”客”が来るってのに」
出来れば一緒に迎えたかった。どちらにせよ別れていくが、後で落ち合うのも楽になるからな。
ピピピ。ピピピピピピピピピピピピ。
携帯からアラームが鳴る。
「おっと。もう時間か」
「インデックス曰く、『不幸なとうまが時間通りに待ち合わせに来れるとは思えないんだよ』だ」
「早め早めに行動しないとな。不幸が起こる事前提で」
銀色のスタイリッシュなお気に入りアタッシュケースを引っ掴んで。
「よいしよっと」
事務所の窓を全開に開ける。
雨は上がっていた。珍しくラッキーだな。傘を持っていかなくて済む。
「忘れ物は…ないよな」
部屋をぐるぅり、と見回して確認。
窓の桟に足をかける。
下を覗けば遥か彼方にカターイかた~い地面が見える。
「逝くか」
断っておくが自殺するわけじゃない。
ちょっとマンションの11階から跳び降りるだけだ。
「よっこいせ」
窓から外へと身を踊らせる。
「ごがっ!?」
いったっ!!雨で濡れてたから滑って頭打った!
落ちる。
体に重力がかかって思うように動かなくなる。
物理法則に従って俺の体が遥か下の硬い地面へ向けて自由落下運動を始める。
ああ、仰向けで落ちたから空がよく見える。
居心地が悪い浮遊感。思わず顔をしかめる。
中々見る機会ってないよな。自殺者視点って。
奇妙な視点から見る貴重な風景を楽しむ。
直後、
俺の事務所があった階から轟音とともに爆炎が噴き出した。
「お”客”様一名御来店でーすってか」
「…派手にやりやがって」
あの炎の規模だと…こりゃ業務用フロア全部がやられたか。
…ステイルめ。
後でしっかり賠償請求してやる。
おっと、そろそろ到着かな。
ドサ。
ステ
イル
まったく。
まさか最後の仕事の依頼人から追加依頼が来るとはね。
面倒ごとは増やしたく無いが…人生最後の仕事に手を抜くのもそれはイヤだ。
しかし依頼内容は『上条当麻の事務所を燃やしてくれ』とは。
恨みを買うからね。この仕事は。
悪く思うなよ?
一先ずアイツが借りてると思しき部屋の確認。
それから買った情報通りにアイツが不在である事を電機メーターの数値の変化量で確認した。
そしてその下の階でペタペタと防水防火防腐加工したルーンカードを貼る。
ああ…そういえばなんだかコレも懐かしい作業だね。
思えばアイツに初めて会ったあの日もこの作業をした。
あの時とは文字通り火力と、そしてターゲットが違うが。
今回はアイツが住んでる部屋がある階を丸ごと全部焼く。
そのためにもいくつか情報を買ったが…
今じゃアイツも裏稼業の営みっぷりが板についてるようだ。
この高級マンションそのものも借りてる事務所も実質的には上条当麻の物だが、登記上は全部別の人間の名義になっている。
(つまり、名義を売る業者もいるからそいつらともコネがあると。)
オマケに事務所がある最上階フロアと一つ下の階は丸ごと誰も住んでない。
(仮に乗り込まれて発砲されたりと騒ぎを起こされても気づかれにくくするためか)
非合法な仕事を隠すためとはいえここまでするか。
口止めや名義貸与、その他にかかる費用を考えればこのマンションの用意だけで2億はいくぞ?
もうこの財産だけで遊んで暮らせるんじゃないかな?
「僕はそれを焼いてしまうのだけど」
「…”人払い”も完了、カードも設置完了、と」
これでもうここに用はない。
階段を降り、マンションから出て公共交通機関を使う。
電車で3学区分ほど移動する。
「…ふう。」
僕が自宅(仮)にしている学生寮。
最後の術式発動シークエンスはここから出す。
遠隔術式の方がバレないんでね。
机に広げた羊皮紙には魔法陣。
そこに”力”を解放するルーンを刻む。
着火。
魔法陣が光り、術式が完成。
…うん。問題なく稼働しているな。
今頃彼の家では豪炎が吹き荒れているだろう。
ああ、勿論僕もプロだ。
最上階の事務所と下の階以外は燃やさず、他へ被害は出ないよう計算して燃やしている。
フッ。
不在だった上条当麻と”綿”とやらは帰ってきてビックリするだろうね。
だが燃えた後に来たって警備員はロクに検証もしてくれないから犯人もわからない。
すぐに僕に辿り着くのも難しいだろう。
何せ事務所が丸ごと焼かれたとなるとアイツが現行で請け負っていた仕事や直近の仕事、色んなデータ等の復旧…
安全確保に今日の宿。
まずは体勢を立て直さなきゃいけない。
色々とお金も入り用だろうからね。
オマケに殺し屋業も暫く出来ないだろう。
仮に僕の情報を買ってもすぐに反撃には移れない。
「ふぁ…」
なんだか眠い。
「…」
マリーベートと会うのはいつだったかな
あとは…神裂との再会と、
……
…………
喉が、乾いた。
冷蔵庫に…何か、
あと、…ああ、タバコ。
…今、何時だ?
スマホ…どこ置いたっけ?
いつものとこに無い…
「よう。いい夜だな」
「…ッ」
「おっと、動くなよ?上条さんだって出来れば旧知の仲の奴を撃ち殺したくなんかないんだって」
銃、か。サイレンサー付きの。
サイレンサーがあったって大きな音が出るし、色んな意味で発砲は勘弁してもらいたいところだね。
「…どうしたんだい、突然勝手に侵入してきて」
「お互い様だろ?それに俺はドアノックぐらいはしたさ。お前が起きねぇから勝手に上がったけど」
「燃やしたのは悪かったよ」
「悪かったで済むわけないだろ?」
パスッ。
「っぐ、」
「安心しろ。腕に掠っただけだから」
「それ…学園都市製サイレンサーかい」
「いんや。メイドイン俺。勝手に違法改造した奴さ」
はは、僕の知ってる上条当麻はもう居ないらしいな。
油断したよ。
普段ならトラップタイプの術式が作動するけどこの男には通用しないよな。
武装用の術式がかけられてる服はそこらへんに脱ぎ捨ててある。
今の僕?パンイチで腕から血を流してるよ。
「…要求は」
「とりあえず、金。」
「幾らかな」
「とりあえず、有り金全部」
「強盗かい?」
「バカ言うな。オトシマエって奴だよ。悪い事した奴は悪い事されるんだよ」
「わかった、払おう」
「当然だ。んで、もう一つ」
「なんだい」
「お前、俺に手ェ貸せよ」
…何か僕にさせたい?
という事はすぐに僕を殺せない、か。
「…何をさせたいんだ?」
「お前さ、今度デカイ仕事やるだろ」
「まぁ」
「それさ、キャンセルしろ。んで、」
「断る」
「じゃあ断る事を断る。」
「なら断る事を断る事を断る」
「…なんかあるのか?その仕事に」
「いや?ただ…そろそろ足を洗おうと思っていてね」
「…ふーん」
「有終の美を飾りたいわけだ」
「そうだよ」
「ダメだ。諦めてくれ。その方がお前にとっても価値がある」
「へぇ?何かな」
「…インデックスを殺した奴がわかりそうなんだ」
「…」
「どんな手を使ってでも探し出して殺す。俺の今までの人生はそのためにあった」
「やっとだ。やっとなんだ」
「…誰だ?あたりはついてるんだろう?」
「いや、わからない」
「は?じゃあ、何故?」
「情報屋がその情報を掴んだらしい。3と6っつってきた」
「は…?」
いや確かに僕でもポンとは出せない額だが。
「…え、出せばいいじゃないか、それくらい」
「君の名声や億クラスの殺し屋を擁している事、資産から考えれば少なくとも15ぐらいはあるはずだろう」
「…」
「まさか、ギャンブルか何かにでも注ぎ込んだのか?」
「違う」
「なら、何故」
「…いいだろ、別に。それに、二つの依頼をこなせば1にしてくれるんだとよ」
「…それはそれでわからないな。またエラく安くなったじゃないか」
・・・・・・・・・・・・・
「…これが初めてじゃないからだ」
「…」
「もう、この手のは10回ぐらいはやってる」
「…」
「最初の頃はどれだけ苦しくても言い値で出した」
「けど、全部ガセだった。」
「だからさすがにもう言い値では出せない。けどアイツ以外にこの件を調査できる奴もいないんだ」
「自分で直接探した時も何一つわからないままで終わった」
「唯一の『希望』なんだよ。縋るしかないんだ。アイツに」
「ああたぶん…宝クジ買うみたいなもんだな」
「この現状を打破してくれるのは、希望を捨てないでいられるから、」
「君、その情報屋を信用しちゃマズイんじゃないのか」
「バカ言うな。アイツの情報はそれ以外は全部正確だし、何より”プロ”のサービスだ」
「でも全部ガセなんだろう?」
「ああ」
「なら…それ以外の情報屋は、」
「無駄だった。どれだけカモにされても金を出したけど無駄だった」
「…それならその情報屋が君に嘘をついて」
「かもな。でも他に手立てはない。それに、」
「もしかしたら。もしかしたら、今度はって」
「…」
呆れた。結局ギャンブルに注ぎ込んでるようなものじゃないか
「だったら君は今すぐその投資をやめるべきだ」
「ダメだ。俺はインデックスの仇を討つまで絶対止まらない」
「ダメだ止まれ」
「俺の人生だろ」
「…いいか?あの子は、もう居ないんだ!!」
「…」
「諦めろよ!!!いい加減に!!」
「今までだって、君はかなり人生を無駄にしてきただろう!」
「本当はもっと違う幸せだって選べた!」
「いや今だって!まだ間に合う!まだ選べる!」
「…なあ、なんなら…一緒に足を洗わないか」
「…」
…何をガラにもなく熱くなって
これじゃあ逆だな。まるでかつての上条当麻だ。
過去から飛んで僕に憑依でもしたか?
「…」
「…”選べる”じゃないんだ」
「もう、”選んだ”んだよ」
パスッ。
上
条
ステイルの背後の壁に黒い焼き焦げ穴ができた。
悪いな。詫びにお前の口座から持ってく時に壁の修理費ぐらは残しておいてやるよ。
「だから動くなって。殺しはしなくても腕の二本や三本、目ん玉やら臓器の一つや二つは撃ち抜くぞ」
「チッ」
ステイルは抜け目がない。
いや本当に抜け目がないなら今こうやって
きったねぇブリーフ一丁で銃をつきつけられはしないんだろうけど。
会話の途中でじわりじわりと衣服に向かってやがった。
…あんま言う事聞く気がないならいっそ手足全体に満遍なく弾痕残してやろうかな
「最近は銃弾だって高いんだ。無駄遣いはしたくないんだよ」
「なら魔術を習ってみるのはどうだい?残弾関係なしに撃ちまくり攻撃しまくりの無尽蔵魔術だって存在してるよ」
「オートで右手が打ち消さなきゃ採用したかもな」
会話しながらも俺は銃の照準をステイルの足の付け根に固定し続けてる。
行動不能にするには一番効果的だからな
「さっきの話だが」
「ん」
「君こそ今回だけは諦めてくれないかな?」
「お前の都合は知らねぇよ」
「今回一回だけじゃないか。今までずっとガセだったんだろう?ならきっと今回もそうさ」
「だけど僕のチャンスは一回こっきり。チャンスの重さを客観的に比較衡量したら僕の方が優先されるべきじゃないかな」
「かもな」
「…」
「けど、悪いけどさ、俺はそんなに優しくないんだ。俺は俺の都合で、俺の欲望を叶えるためだけに行動するんだよ」
「なぁ…俺もこう見えて結構忙しいんだ」
「あと何秒お前に時間割いてやればいい?」
「いいか?ラストチャンスだ。 よく考えて 発言しろ」
「ステイル。今回お前が受けた最後の仕事を放棄して俺に協力してくれるよな?」
「断る」
「残念だな」
パスッ。
ばたん。
「ふー…」
ステイルの自宅(仮)から出て、これからやる事を整理する。
まずはサローニャの現状確認。
自宅兼事務所…つまりは拠点の確保。
標的の現状確認と調査。
それから依頼の完了までに邪魔な奴への妨害策と排除策を講じる。
後は業者と話して色んなもんの処理の話。
…クソッ今日はSS書けねぇな
スマホをいじってサローニャにかける。
『おかけになった電話は、電波の届かない所か、電源が…』
切る。
…まだ繋がらない?
いやちょっと待て。今までそんな事は一回も無かっただろ。
いつも4コール以内には必ず出てたし、この仕事を始めた時からずっと『何があっても絶対出ろ』って言いつけてあっただろ。
オイ、オイオイオイオイ。
まさか?いやまさかだとは思うけど、
……死んだか?
情報屋から標的被りの案件を請け負ったんだ、同業者にも『上条事務所もその依頼を受けた』って情報も出回っただろうからな
他の奴らが『潰しやすそうな奴から先に潰しとこう』とか思っても不思議じゃない。
「オイオイオイオイ…勘弁しろよ…?」
今、今ここでサローニャに死なれるのは非常に困る。
インデックス殺しの犯人情報の件についてもそうだが、今後しばらくの殺し屋稼業をどう回せってんだ。
しばらくフリーの殺し屋を雇う事になるが依頼金額はどう頑張っても億クラスにはいかなくなる。
専属契約じゃない奴は簡単に裏切るしなぁ…
そうなると収入がガッツリ減るのは勿論だし、体勢を早急に立て直さなきゃいけない時に金が無いのは厳しすぎる。
トゥルルル。
「はい、上条です」
『あ、”下の階”の者ですけど』
チッ、サローニャじゃないのか。
「ああ、さっきはどうも。ウチの二階下のアンタの部屋のベランダに緊急避難装置置かせてもらったお陰で色々と助かったよ」
『うちのベランダから半分外へ飛び出すように固定された学園都市製超衝撃吸収ベッドに落ちただけでしょうに』
「まあな。それで何の御用で?」
『ほんとにこれで僕は学校を卒業できた事になるのか?』
「ああ。”落第防止”《スチューデント・キーパー》にすら見限られた引きこもりのアンタでも俺なら救える」
「教師に”ちょっと不正をさせる”なんて簡単なんだ。特に『教師が持ってちゃいけない、人には言いづらい性癖』を持ってる奴とかなんてな」
『よかった。あとはこの間の名義を貸した事の報酬なんだけど』
「ああ、20万振り込んどく。また頼むぜ」
『もちろん。あんたのちょっとした頼みを引き受け続けるだけで僕は追い出された学生寮からいいマンションに住めて』
『働かなくてもそこそこの収入が貰える。こんないい取引はないよ』
「そうだな。今後ともヨロシク」
『あんたには感謝してる』
「俺もあんたには感謝してるよ。じゃあな」
ピッ。
…バカだな、アイツ。
仮に卒業した事にはなっても実際にその『卒業できる能力』がないなら意味なんてない。
というか延々と引きこもり続けるつもりの奴に学歴なんているのか?
使いもしない、活かしもしないなら意味なんてないだろうに。
それに俺とアイツとの取引は全部イリーガルなものだ。
バレたらソッコーで逮捕モノのも多い。
そういう”秘密を守る手段”ってのはそれなりに必要なモンが色々とあるんだが…持ってないよな?
どうなったって知らねーぞ?
オマケに名義。
『名義を貸す』ってのがどれだけ恐ろしい事か一ミリもわかってない。
とんでもないリスクを背負う事になりかねない事をまるで理解していない。
いやぁフツーどれだけのアホでもわかる事だと思うんだが。
なのにも関わらずそんなトンデモリスクの見返り、その取引の一回の対価は約10~20万ほど。
割りに合わなすぎる。
リスクを考えたらこんな取引なんてせずにそこらのコンビニでバイトして生きた方がまだマシだっての。
…ま、普通に生きる能力が無いから今ああなってるんだろうが。
名義屋に紹介されたヤツって大抵そんな奴ばっかだな。
ああはなりたくないもんだ。
それはともかくサローニャだ。
トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。
トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。
幾度となくラブコールを繰り返す。
『おかけになった…ブチッを繰り返す。
あの野郎…未だに繋がらねぇって、ホントに殺られちまったのか?
…仕方ない。色々と確認するためにも蜜蟻から買うか。
ああクソ、また出費だ。
トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。
トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。トゥルルル。
蜜蟻…お前もかよ…
くそっ。不幸だ…!
ああクソ。
ちょっと落ち着こう。そこら辺のファミレスで本でも読むか。
『罪と罰』。いつも鞄に入れてるお気に入りなんだよな…って、あー…サローニャに貸したんだっけか。
”ミラーリング効果”だったっけ?親や好意を持つ人間の仕草や趣味なんかの真似をするってやつ。
えーっと…こっから一番近いファミレスは…っと。
「やめてください!」
「いやいや!別に何かするわけじゃないってぇ~」
「そうだよぉ?ちょーっとおクスリ打って気持ちよくしてあげるだけだからねぇ?」
ん?アイツら確か…スキルアウト上がりの弱小ヤク屋じゃん。
一回事業ミスって火消し作業の為に金借り過ぎて二人とも多重債務者になったって前に聞いた。
にしてもあいつらバカか?
ああいや失礼。バカか?じゃないな。
断言しよう。バカだ。明確に。
そういうのをやるならさ、天使の顔して近づかなきゃダメなんだ。
悪魔が人を騙す時は笑顔で近づいてくるもんだってのを知らないのか?
アホそうなターゲット見つけたら仲良くなって、ヤクをジュースに仕込むか「お菓子いる?」って仕込み入りの錠剤タイプのを食わしてスタート切らすんだよ。
そっから…まぁいいや。
首が回らない上にピンチで焦ってるからって雑な仕事すんのは首絞めるだけだと思うけど。
「…ッ!?」
…?なんだよ、お嬢さん。
『なんでこの人、私を助けようとしてくれないの?』
って顔してんな。
悪いけど、俺はもうそういうのはやらないんだ。
昔、そうやって知らない誰かを助けてたからインデックスは死んだ。
ホント悪いな。でもさ、それも食物連鎖ってヤツだぜ?
理不尽に命を奪われる、誰かに食い物にされる。利用される。
そんなの、地球が出来た時からのルールだろ。忘れてたのか?
人間に食い物にされ、搾取され、皮を剥がされて加工されて利用されて殺されていく動物さん達の事を思い出せよ。
お前も牛や鳥、豚や魚の死体を普段から食ってるだろ?
直接殺してなきゃオッケーなんて思ってないだろうな?
同じだよ。お前が命を消費してる事に変わりはない。
『誰でも日々、何かを”殺して”食って生きてる。』
弱いヤツから死ぬ。
運が悪かったヤツから死ぬ。
頭が悪いヤツから死ぬ。
一つの社会では生きる実力がないヤツから死ぬ。
死ぬだ殺されるだなんてただの日常だろ。
普段忘れがちなだけで。
おっと、「魚や動物と人間は違う」なんて言うなよ?
人間が定めた基準と常識なんかで語られたら魚だって憤慨するぜ?
人はいつか必ず死ぬ。死ぬ時は死ぬんだ。誰でもな。
生きてりゃ死ぬのは当たり前。
親も兄弟も友達も恋人も。
さほど驚く事でもない。そうだろ?
だのに人間はいつも死ぬ直前になると自分が死ぬ事を棚にあげる。
…ま、運が悪かったな。
ああ、もし死後の世界なんてもんがあったらインデックスによろしく言っといてくれ。
『ダメだよ、とうま』
『助けてあげて。』
…知るかよ。
話しかけてくるなよインデックス。
『辛辣!?それはさすがに傷つくんだよ二重の意味で酷いかも!』
『助けたくならないの?ほら、あの子とうまが嫌いな非、合法的な事されちゃうんだよ?』
「…なんで人間が時々無性に誰かを助けたくなるか知ってるか。」
「普段良い事をしてない事への罪悪感と、後で自分が見捨てる罪悪感にかられるのがイヤなだけなんだぜ、アレ」
『だったら余計に助ければいいんじゃないかな』
『誰かの為にじゃなくて。「自分が後でイヤな思いをしたくないから」って』
『それに、私を殺した人への復讐と人助けしないのは関係ないと思うんだよ』
「…人を助けるのはトラウマなんだ。だから、もう、」
『だめ。そしたらまたとうまは後悔するんだよ』
「…うるさい。幻聴のクセに俺に意見するな。」
『幻聴?何を言ってるのかな』
「じゃあ、お前はなんだってんだ」
「死んだら口はきけない。インデックスはもう2度と俺と口をきいてくれない」
「インデックスのフリするお前はなんだ」
『とうまの”良心”ってヤツじゃないかな』
「…はは、笑えるな。散々誰かに人を殺させて来た悪党にそんなモンまだあったのか」
『でも、同時に散々世界を救ってきたヒーローでもあるんだよ』
「10年前、そのせいで自分が一番失いたくなかったモノを失ったのにか…?」
『人はそれをトラウマって言うのかも。でもトラウマがあったって人の本質はきっと変わらないよ』
「本質?そりゃ記憶を失う前の”上条当麻”の人助け思考も含まれんのか?」
「なら教えてやるが、俺や”上条当麻”は別に世間一般が思ってるようなヒーローみたいな人間じゃない」
「”俺”の場合、記憶をなくした”俺”がインデックスと会った時、自分がどういう人間だったかわからなくなった」
「だから、なぞっただけだったんだ。ステイルや周りから聞かされていた”上条当麻”を」
「演じただけだったんだ。記憶を失ってないフリを」
「『自分がどんな人間か』どう生きたいのか。」
「記憶や生き方の経験や知識がないから、それが全くわからなかったから、ひとまずのアイデンティティ確立のための指針として」
「やってく内にそうすれば自分がある程度は楽しく生きていけるって知ったしな」
「ああ…前の”上条当麻”の記録も見たが」
「”上条当麻”が人助けをしてきた心理的理由は、要は自己防衛と”存在意義の確立”のためだったって事だろ」
「幼い頃の不幸による迫害。強烈な心的外傷による強迫観念に近いものが根底にあったからだ」
「『異常な程不幸であっても良い事をし続ければ嫌われない』」
「『自分と他人が事件に巻き込まれても自分が解決すればその他人からも悪く思われない』」
「『本当に困った時に人は誰も助けてくれない』」
「けど、もうそんなのに縛られる必要はない」
「”上条当麻”は死んだし、俺は結局守れなかった」
「『たかが一人救えなかったぐらい』とか『他にも愛せる女性はいる』とか、割り切ることも薄情になる事もできない」
「…俺はもう誰も助けない」
『あっ、あの子捕まっちゃった』
「…」
『このまま放っておいたらどうなるか。闇社会で生きてきたとうまならわかるよね?』
…そりゃな。
『あとね、』
『色々と理屈こねてたけど』
『結局は「またインデックスを失った時みたいに何か悪い事が起きるの恐いから助けたくない」って事でしょ』
は?そんなことは、
『私、そんなとうまは嫌いかも』
「………………」
「………はぁ…」
「わかったよ…行けばいいんだろ、行けば。」
『うん!えらいえらい!』
「なんだあいつ?一人でブツブツ。」
「幻想の友達《イマジナリー・フレンド》って奴じゃないか?」
「知らね。」
「何にせよ、”見えない何か”と喋り始めたら心が本格的に壊れ始めた証拠だろ」
サロ
ーニ
ャ
「へー?じゃあその上司の人とはもう4年半も?」
「うん!」
サクサク。お菓子ちゃん食べながら友達とお勉強ちゃん。
あー…なんだろ。今私すっごく幸せかも。
「サローニャ、さっきから凄い勢いでオレオ食べ過ぎじゃない?」
「美味しいんだもん」
ちょっと苦めのカフェオレちゃんに浸けて食べるのが実にハラショー。
「牛乳じゃなくて?」
「牛乳ちゃんだけじゃなくて。」
「あっ、そういえばさ、アイドルのミコミコいるじゃん?ほら”妹達”っていうグループの」
ああ、10年前の第3位だった人のクローンの?
よくアイドルなんて特にスキャンダルちゃんが恐い職に就いたよねぇ?
ぶっちゃけ避けなきゃヤバくない?
御自分の出自をお忘れじゃーありまーせんかー?
「可愛いよねーホントの七つ子なんでしょ?」
ああそういう設定なんだっけ。
七つ子…真実は2万つ子だし、ある意味全員同一人物なんだけど。
「そういえばサローニャちゃんは前に”妹達”と個人的に会ったことあるよ」
「えーウソウソ!ほんとに!?」
「ほんとほんと」
うん。私が”お仕事”しに行った時にその子達はちょーど枕営業させられそうになっててね。
言いませんけど。
ちなみにその時のターゲットは
立場利用して所属アイドルを変態盗撮してたプロデューサー、
枕営業率先してやらせようとしてたマネージャー、
枕営業先のセクハラパワハラやりまくり社長。
沢山の被害を受けたアイドル達とか社員がお金集めて上条事務所に依頼してきたんだよね。
『もう耐えられない。仇を討ってくれ』
って。
まぁなんか私が助けた形にはなったけど、たまたま殺しやすいタイミングがあの子達の番の時だったっていうか。
「どんなだった?!ねぇねぇやっぱ皆顔同じだった?」
「え?まぁねん」
んー。社長殺った時に同じ部屋に居ただけだったし?
皆顔くっしゃくしゃにして恐怖やらしなくて済んだ安堵やらで泣いてたからなぁ。
口止めは上条ちゃんに任せてたから顔なんてそこまで見てないってーか。
【禁書】サローニャ「ロシアの殺し屋恐ろしあ」【後半】
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サローニャ「ロシアの殺し屋恐ろしあ」
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サローニャ「ロシアの殺し屋恐ろしあ」
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