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【艦これ】利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目【前半】

関連記事:【艦これ】利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」【後半】





【艦これ】利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目【前半】






16:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/09/25(金) 18:47:53.69 ID:t+0zg2Jao

提督「──現状の再確認をするぞ。艦娘は全員、この湾から出ない事を前提とした行動を取る。兵装や資材等は出し惜しみせずに使い尽くす気で使う許可を与える。援軍が来た際は前に出過ぎない事と危険を感じたら即時撤退を必ず実行する事」

大淀「艦娘は錬度が低い子達や軽空母や正規空母、潜水艦の方々に加え、明石さんや私は母港にて後方支援に徹する事。また、天龍さんと龍田さんは例外的に母港付近にて照明弾を使った後方支援を担当。撤退して修理を終えた艦娘は、疲れが大きく残っている状態では再出撃させずに疲労を抜く事」

提督「防衛線は敵一隻すら通さないように広範囲に展開。また、この激戦の中で潜水艦は敵味方共に運用が非常に難しいと言える事から、対潜哨戒は最後方の安全域にて行う事とする。航空戦に関しては艦上戦闘機を主に使って制空権の奪取に勤める事。夜目が利き辛いので、同士討ちや衝突には充分に注意。──そして、私の傍には常に最低一人の艦娘を置いておく事」チラ

利根「我輩の事じゃな?」

大淀「はい。私は基本的に事務仕事ばかりをしていて不安ですので、利根さんがお願いしますね」

利根「うむ! 我輩に任せると良いぞ! 提督は我輩が護りきってみせよう!」

提督「利根には母港のいかなる場所での兵装使用許可を与える。万が一、敵が侵入してきた際は頼むぞ」

利根「うむ。我輩も最近は戦線に向かっておらなんだからの。大破撤退が以前よりも多くて心苦しかったのじゃ」

大淀「利根さんは所謂、最終防衛線です。提督をしっかりと護って下さいね?」

利根「任せておれ! 我輩は提督の剣となり盾となろうぞ!」

提督(……大淀から『護衛は最低でも一人付ける事』を絶対に譲れないと言われたが、本当に必要だろうか。ここに敵が来るという事は、前線が崩壊して敵が雪崩れ込むという事なのだが)

利根「念の為じゃ。保険は掛けておくものなのじゃろう?」

提督「……流石に私の考えている事が分かるようになっているか」

利根「当たり前じゃ。いったい何年もの間を傍らで暮らしてきたと思うておる」

提督「そうだな。ならば、次に私が言う事も分かっているな?」

利根「む? ……気を張り詰めておけ、かの?」

提督「いいや。──剣となって盾となるのは仕方が無い事だが、無理だけは絶対にしてくれるなよ」

利根「……くくっ、勿論じゃ。提督の嫌う行動など分かっておる。我輩は沈まぬし死なぬ。それに、我輩の回復力を知っておろう?」

提督「だから無理をするなと言っているんだ。過信と慢心は死を生むぞ」コツッ

利根「むう……分かったのじゃ」

大淀(……これで相思相愛ではないという話なのですから不思議ですよねぇ)

…………………………………………。



17:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/09/25(金) 18:48:24.89 ID:t+0zg2Jao

提督「…………」

大淀「…………」

利根「?」

提督「……順調だな」

大淀「ええ、順調に殲滅が終わりそうですね……」

利根「……順調なのに、どうしてそんなに難しい顔をしているのじゃ?」

提督「恐ろしく順調なのが逆に怪しいという事だ。相手の思惑通りになっているとしか思えん」

大淀「はい。ですが……何を考えて今の状況にしているのかも見当すらつきません。予想していた通り、敵の援軍は後方で控えていました。ですけれど……その援軍のタイミングもおかしいです」

利根「ぬ?」

提督「簡単に言えば、援軍を有効活用していないという事だ。初めは何を考えているのか予測しにくい不気味さがあったというのに、援軍が来てからは単純かつ愚かに物量で攻め落とそうとしか感じられん」

利根「……それは妙じゃのう。戦闘に乗じて侵入でもしてくる気かの?」

提督「その可能性は充分にある。故に侵入されないよう全面に展開させている」

利根「……では、その薄く広がった所を一点突破してくるとか、かの」

大淀「後方待機の方々が居ます。一点突破してこようものならば最前線は後ろの味方と合流して迎撃に出るようにしています」

利根「そこで我輩達の目を盗んで入り込んでくるのかのう……」

提督「その可能性も考えて潜水艦の四人は母港で待機させている。問題なのは、敵にそういった事が一切無くてただ我武者羅に突っ込んできているだけという点だ」スッ

利根「……うーむ。訳が分からんのう……。何がしたいのじゃ、深海棲艦は。──ここからも戦火が見えるのう。敵のものであっても、嫌なものじゃ」スッ

大淀「本当、不気味ですよね……」

提督「警戒はするに越した事はない。他にも考えられる可能性を……──ッ!?」ゾクッ

レ級「…………」ニィ

提督「逃げろ!! 走れ!! 眼下に敵だ!!」グイッ

大淀「え──!?」

利根「なんじゃと!?」

レ級「アッハハハハハァッ!!」

ドォン──ッ!!

…………………………………………。



18:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/09/25(金) 18:49:01.28 ID:t+0zg2Jao

金剛「──え?」

榛名「金剛お姉様! 敵を前にして余所見──……は……」

霧島「全門斉射ぁー!!」ドォンッ

比叡「……この付近の敵の殲滅を確認しました。金剛お姉様、榛名、どうし……ま……?」

霧島「? どうかしたのですか? 鎮守府の方を……見……」

榛名「鎮守府が……」

比叡「な……なんで……!? なんで鎮守府が燃えてるんですか!? 司令は敵を通さないようにって何重も防衛線を張っていたのに!!」

金剛「っ──!!」ザァッ

榛名「あっ……! わ、私も行きます!」ザァッ

比叡「どうして……どうして……!!」ザァッ

霧島「くっ……。付近の艦娘に告げます!! 敵との戦闘が終わり次第、鎮守府へ全速で戻って下さい!!」

霧島「……何がどうなっているんですか、これは」ザァッ

金剛「テートク……テートク……!」

榛名「は、はや……!」

榛名(活動停止して浮き舟になった深海棲艦の群れで動き辛いはずですのに、どうして着任して間も無い金剛お姉様が榛名達よりも速く動けるのですか……? ──この身のこなしは明らかに熟練されています。少なくとも、一年や二年の経験とは思えません)

榛名「っ……! 残骸が邪魔で……!」ザゥッ

榛名「────…………」

比叡「わっとと……! 危な……? …………榛名、どうしたの?」

榛名「……いえ。金剛お姉様が、とても速いと思いまして」

比叡「…………」

榛名「まるで数々の戦場を乗り越えてきた古強者みたいに、こんな動きにくい場所を物ともせず進んで行きました」

比叡「……………………」

榛名「今回、一緒に戦っている時に何度も感じました。……あの金剛お姉様は、もう居ないはずの『金剛お姉様』に匹敵する錬度を持っているって」

比叡「……行くわよ。鎮守府が燃えてるんだから、急いで救援に行かないと」ザァ

榛名「…………はい」ザァ

比叡(……隠し通すのは難しそうですよ、司令。どうするんですか……?)

…………………………………………。



19:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/09/25(金) 18:49:28.39 ID:t+0zg2Jao

レ級「……あー、火力調整は面倒臭いねぇ。ついつい派手にやっちゃった。生きてるかなぁ? 生きててくれよぉ?」キョロキョロ

レ級「おっ! 居た居た発見発見!」グイッ

提督「…………」

レ級「もしもーし。生きてるかーい? ……よしよし。返事は無いけど息はしてるしてる! 良かった良かった」

利根「ゲホッ、ゴホッ!」ガラッ

大淀「う、うぅ……」ヨロッ

レ級「うん? この人間と一緒に居た艦娘かなぁ?」

利根「!! 提督!」ダッ

レ級「おっとぉ! それ以上は近付かないようにねぇ!」ジャキッ

大淀「っ……!」

利根「ひ、人質か!? 卑怯じゃぞ!!」

レ級「なんとでも言えば良いんじゃないの? どんな手を使ってでも勝ちは勝ちなんだからさぁ?」

利根「くぅ……!」

瑞鶴「──何が起きたの!?」ザッ

加賀「…………っ!」ギリッ

飛龍「これ、は……?」

蒼龍「ひどい……」

赤城「深海棲艦……!?」グッ

翔鶴「赤城さん待って下さい! 提督が!!」

赤城「…………!」

レ級「うぅーん。良い感じに集まってきた。……だけど、もうちょっとだけ待っていようねぇ! 出来ればこの鎮守府のメンバー全員が来て、この人間の目が覚めるくらいまでさぁ!」

加賀「──何が目的ですか」

レ級「そいつも待った! 二回も三回も説明するのとか面倒だしさ、全員が集まったら言うよ。ブチ切れて一周回って冷静になってるようだし、従わなかったらどうなるか分かるよねぇ?」ジャキン



20:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/09/25(金) 18:50:02.83 ID:t+0zg2Jao

加賀「……そうね。今すぐ皆を呼び戻すわ」パヒュッ

レ級「おっ! この暗い夜に躊躇無く艦載機を発艦! という事は、お前が艦娘でも夜目の利く空母って事かな!?」

加賀「目聡いわね。どこで見ていたのかは知りませんが、合っていますよ。──で、私達はさっさと艤装を外せば良いのかしら」

レ級「話の早い艦娘だねぇ。お姉さん感激しちゃいそう。……まあ、武装解除は基本中の基本だし、さっさと外しちゃってね」

飛龍「……加賀さん」チラッ

加賀「……全員、艤装を外して。これは命令よ」

全員「……………………」

ガチャッ──ガチャガチャッ

レ級(……ほう。命令一つで全員が即座に行動をすると。よっぽどこの人間が大事なようだ。──だからこそ利用価値がある)

加賀「望み通りにしたわ。出来れば、私のお願いも聞いて欲しいくらいね」

レ級「そうだねぇ。お姉さん、今すっごく機嫌が良いから聞いちゃいそう」

加賀「提督を解放してくれるかしら」

レ級「そりゃ無理だ! 残念だけど」

加賀「そう」

レ級「まあそう焦らない焦らない。状況次第じゃ、ちゃーんと返してあげるからさ」

瑞鶴「……こんな事をしているんだから信用なんて出来そうにないわね」ジッ

レ級「そんな睨まなくても良いじゃん? 私はある目的の為に来ただけ。それさえ終わったら大人しく帰るって約束しちゃうよ」

瑞鶴「……………………」

レ級「良い感じに怒りと憎しみが篭もってるねぇ。ぶるっちゃいそう。──まあ、気長に待とうねー。全員が集まったら話を進めるから」

空母棲姫(……………………)

ヲ級(……姫)コソッ

空母棲姫(……工廠へ行くわよ。大回りをして、見付からないようにひっそりと)ヒソッ

ヲ級「…………」コクン

…………………………………………。



33:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/02(金) 20:05:36.46 ID:LN99fSJ5o

加賀「……これで全員よ」

レ級「へぇ。思ったより少ないもんだね。六、七十隻くらいかな? 百隻近く居るんじゃないかなーと思ってたんだけど」

提督「……なんだこの状況は」

金剛「────! テートク!」

レ級「おっ! 丁度良いねぇ! 起こす手間が省けたよ! ……で、これが何か分かる?」ジャキッ

提督「……なるほど。私は人質という訳か」

レ級「アハハハハァ! 理解が早いねぇ! まさしくその通り! 大正解! ご褒美に君達が気になってる侵入経路を教えちゃおう!」

提督「……………………」

レ級「別にさ、深海棲艦って海の上じゃないとダメって事はないんだよねー。そこは艦娘と同じ! だから陸を突っ切っただけだよん」

提督「……そういう事か。この暗い中、よくそんな事が出来たものだ」

レ級「海岸線がギリギリ見えるくらいの位置ならやろうと思えば出来るって。ちょーっと時間が掛かったけどね」

提督「それで、何が目的だ。多くの同族を犠牲にし、人質を取るくらいだ。それなりの理由があるんだろう」

レ級「あ、もう本題に入っちゃう? お姉さんとしては嬉しい限りだよ」

レ級「んでも、まあ薄々気付いてるんじゃない? ここで匿ってる深海棲艦……安っぽい言い方だけど、そいつには消えてもらわなきゃいけない」

川内「はぁ……? 深海棲艦を匿ってる?」

那智「意味が分からんぞ。どうして私達が敵を匿わなければならない」

レ級「いやいや! これが居るんだよ! そうだよねぇ……テイトクさん?」

提督「……ああ。居る」

神通「…………!」

羽黒「そ、そんな……! ど、どうしてですか司令官さん!? て、敵ですよね!?」

提督「もう少し後になってから知らせるつもりだった。すまない。……その深海棲艦だが、私達の敵ではない。その二人のおかげで私は提督として復帰できた。そして命の恩人でもある」

レ級「まあ、そういう事! んでもって私がその二人を消しに来たって訳。人間や艦娘と仲良く暮らしてる同族なんて見過ごせる訳ないじゃない? しかもそいつらは楽しそうにしているときた。情報を漏らす可能性もあるし、こっちにとっては邪魔者以外の何者でもない。そいつらを殺したら大人しく帰るから、ちゃっちゃと出してくれないかな?」



34:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/02(金) 20:06:16.72 ID:LN99fSJ5o

響「……理由は分かったけど、まだ分からない事があるかな」

レ級「あらら。説明不足だったかな?」

響「そうだね。君が目的を達成した後の説明が足りない」

レ級「……んー?」

響「仮に匿ってる深海棲艦を沈めたとするよ。そうなったら君は大人しく帰るって言った。──けど、司令官をどうする気だい。生きて帰る為には司令官を人質にし続けなければならない。どこまで司令官を連れて行くつもりなの?」

レ級「ああ、そういう事か。ちょーっと沖に出てもらうだけかな? 受取人として二人くらいまでならついてきて良いけど、なんだったら泳いで帰って貰おうか?」

響「……戦艦が二人でも良いって事だね?」

レ級「全然良いよぉ。もうオールオッケー。それくらいじゃあ私も沈まないだろうし、こっちとしても沈めるのは難しいから丁度良い感じなんじゃない?」

響「そっか」

響(……でも、司令官はこの交渉を受けそうにない気がする)チラ

提督「……………………」

響(司令官は、味方を見捨てたりしない人のはずだから。……どうするんだい、司令官)

レ級「ま、お前達にとって敵である深海棲艦を二人差し出すだけでテイトクさんの命を拾えるんだ。悪くない話だと思うけど」

全員「……………………」

レ級「んー? 分からないかな? 深海棲艦も倒せる。テイトクさんも助けられる。お前達にとってはメリットしかない。ほら、テイトクさんの指示なんか待たないでさっさと匿っている深海棲艦を出しちゃいなって」

提督「下らん」

レ級「……あ?」

提督「下らんと言ったんだ。多くの鎮守府にこれだけの被害を出したお前を、私が逃がすとでも思ったか?」

レ級「んー? じゃあ、この状況をどうするのかなぁ? お前はこうして私に拘束されている訳だけど」ジャキン

提督「簡単な事だ。──全員に言い渡す。私ごとこのレ級を撃ち抜け。必ず沈めろ」

金剛・瑞鶴「なっ──!?」

響「!!」

レ級「……ほう」



35:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/02(金) 20:07:08.02 ID:LN99fSJ5o

瑞鶴「馬鹿言わないでよ!! どうしてそんな命令が出来るの!? 自分ごと撃てって……そんなの出来る訳がないじゃないのよ!!」

全員「……………………」

瑞鶴「私達はそんな事、絶対に出来ない!! 提督さんを殺すなんて選択、する訳がないじゃない!!」

飛龍「……そうですよね」スッ

加賀「ここで殺しておかなければ、いけませんね」スッ

瑞鶴「────────────え?」

長門「何……?」

ガチャ……ガキンッ──ジャキッ

瑞鶴「え……え……?」キョロキョロ

ゴソ……ガチッカコン──

響(これは……予想外だ)

瑞鶴「う、嘘……でしょ……?」

長門「馬鹿な……お前達は自分達の提督を殺せるだと……?」

利根「……仕方が無いからの。……まあ、予想はしておったぞ」ジャキッ

瑞鶴「利根さんまで……!? ど、どうしてよ!? どうして皆そんな命令が聞けるのよ!?」

利根「……簡単じゃ。今回の戦い、あのレ級は非常に脅威であった。ここで倒しておかなければ後でどうなるか分からぬ」

瑞鶴「だからってそんな!!」

加賀「……もし逃がしてしまえば、今回みたいに多くの鎮守府が危険に晒されるわ。……必要な犠牲、ですよね……提督」

提督「そういう事だ。……すまないが、この母港で匿っている空母棲姫とヲ級の二人は逃がしてやってくれ。可能ならば面倒も見てやって欲しいが、無理だったら構わん。後は静かに暮らして人に脅威を与えないだろう。私の軍服を持っているから分かるはずだ」

提督「それと二人に伝えてくれ。すまなかった、と」

金剛「……………………」ガチャン



36:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/02(金) 20:07:55.42 ID:LN99fSJ5o

加賀「分かりました。──ソナーと爆雷を持っている子は、レ級が海の中へ逃げた時に追って確実に撃破する事。……第一手は、私がやります」

利根「譲らぬぞ。提督の介錯は我輩のものじゃ。そもそも、艦載機と砲撃では攻撃の速度が違うじゃろ」

加賀「……そうね。お願いするわ」

レ級「よく訓練された艦娘だ。まさか、自らの手で主を殺す事が出来るまで教育しているとはな」

金剛「…………」スッ

レ級「──だが、そうでない者も居るようだな?」ニヤァ

金剛「…………」ジャキッ

榛名「金剛お姉様!? ど、どうしたのですか!?」

霧島「どうして……」

比叡「……………………」

提督(こうなるか……)

金剛「……ソーリィ。私は、テートクを失いたくありまセン。……どうしてもテートクをキルしたいのでしタラ、私をキルしてからにして下サイ」

レ級「アハハハハハァ!! やっぱり新人クンは教育が完全じゃないみたいだ!」

加賀「厄介な……」ギリッ

提督「……金剛、自分が何をしようとしているのか分かっているのか?」

金剛「……ごめんなサイ。残されるのは、もう嫌なんデス。──でも、一緒に逝くのは……悪くないかもしれまセン」

提督「っ──そう、か……。仕方が無い事、だな……」

レ級「あ、そうなんだぁ……。艦娘同士の殺し合いが見れると思ったんだけど、残念だなぁ」

加賀「提督……」

提督「……………………」

レ級「まあ、どうするのかなテイトクさん? このまま私に殺されるも良し。あの二人を出して安寧を得る。あ、別の方法でも良いよ! 私としては面白かったらなんでも良いやぁ!」

提督(あの二人を取るか、金剛を取るか……。出来れば第三の選択肢があれば良いのだが、この状況では……)

提督(…………ん?)

空母棲姫「…………」ググッ

提督(屋上から空母棲姫が弓を?)

空母棲姫「…………」ジッ



37:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/02(金) 20:08:43.26 ID:LN99fSJ5o

提督(……なるほど、賭けに出たか。──やれ)コクリ

空母棲姫「…………」コクン

レ級「──あん?」

パヒュッ──!!

ドズンッ──!

レ級「があぁッッ!!? 目を……!?」

提督「金剛!!」ドンッ

金剛「! ハイッ!!」ジャキン

レ級「────!」フラッ

金剛「全砲門──ファイアー!!」

ドォン──ッ!!

提督「残っている弾薬を全て使い切るまで撃て! そこまですれば流石の奴もくたばるはずだ!!」

金剛「ハイッ!」

ドォン──! ドンドォン──!!

空母棲姫「……やりました」

ヲ級「姫、かっこよかった!」キラキラ

空母棲姫「一番の功績者は、私の頼みを聞いてくれた妖精達だ。ありがたかった」

艦爆妖精「馬鹿言ってんじゃねぇ。あれはお前さんの技術があってこそだ。誇りに思いな」

艦攻妖精「我々は艦娘用の弓と矢を貸し与えただけ……。デストロイ出来るかどうかまでの関与は不可能です」

艦戦妖精「最初はビックリしたけど、提督さんの匂いがついた服を羽織ってたから味方だと思ったのー」

空母棲姫「……まったく。あの方の鎮守府は妖精までもがお人好しですか」

艦爆妖精「そんな嬉しそうに言っても褒め言葉にしか聞こえないぜ?」

空母棲姫「……その頬を抓られたいのかしら」スッ

艦爆妖精「おっと! 俺は用事を思い出した! またな!」サッ

艦攻妖精「私も鎮守府の再建準備の道具を手入れするとしよう」

艦戦妖精「またなのー」

空母棲姫「逃げ足の速い……」

ヲ級「姫! 私達も、皆のとこ、行こ?」

空母棲姫「……まあ、もうバレているでしょうしね。怖がらせないように注意だけはするわよ」

ヲ級「うん!」

…………………………………………。



38:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/02(金) 20:09:20.26 ID:LN99fSJ5o

金剛「……全弾、撃ち終わりまシタ」

提督「よくやった。──だが、後で説教だ。自分から殺されにいこうとするのは何事だ」

金剛「テートク、それは人の事を言えないデスよ?」

提督「お前の場合は完全に巻き添えを貰いにいこうとしただけだろう。拾える命は大事にしろ」

金剛「ぅー……。納得できないデース……」

提督「……あと、礼を言わなければならないな。二人とも、顔を出しても良いぞ」

空母棲姫「はい」スッ

ヲ級「うん!」ヒョコッ

電「く、空母棲姫……なのです……」ビクビク

雷「もう一人はヲ級だけど……あれ絶対に改装されたヲ級よね……」ビクビク

暁「レ、レレディなら、怖がったりしないわ……!」ビクビクビク

響(ああ……やっぱり何も知らなかったら怖いんだね……)

グラッ……

ヲ級「わっ、と」

ズゥン──……

提督「……ボロボロだな。柱が倒れるとは」

ヲ級「ご、ごめんなさい……」オロオロ

提督「いや、どうせ鎮守府を建て直すまでには倒れていただろう。むしろ、今倒れたからこそ怪我人が出なかったかもしれん。気にするな」

ヲ級「ほっ……」

雷「……なんだか今までのイメージと全然違うわ」

電「とっても普通なのです……」

空母棲姫「その深海棲艦の上に倒れてくれたら良かったのだがな。あと数センチ違えば……」

提督「……後始末が大変そうだ」

空母棲姫「それもそうですね」

暁(……あれ? この空母棲姫ってどっちが素の口調なのかしら……?)

提督「さて、一先ずだが私はレ級の後始末をしよう。各員は入渠後、安全な区画で疲れを取ってくれ。金剛への説教は陽が昇ってからだ」

全員「はいっ!」

利根「では、我輩も提督の手伝いをするとしようかのう」

提督「そうか。手伝ってくれるとありがたい」

レ級「……………………」

ガギッ──!!

提督「!!」

レ級「……やっぱりさ、やるもんじゃないね。慣れない事は」

利根「な、なんじゃぁ!? 柱に手を突っ込んだぞ!?」

金剛「あんな状態でも動きマスか……!」

ブンッ──ズゥンンッ!!

提督「鉄筋コンクリートだぞ……! 化け物か……!!」

レ級「これだから面倒なんだ。こいつらみたいな奴は……」



50:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/12(月) 06:35:37.81 ID:yvhBltlso

空母棲姫「っ!」パヒュッ

レ級「────」パシンッ

空母棲姫(やはり、見えていたら対処されますか! ならば……)ダッ

ヲ級「姫!」タッ

空母棲姫(私が囮になって、倒してもら──)チラ

ドォン!

金剛「く、っぅ……! テートクは……無事ですね」

空母棲姫「────な……」

空母棲姫(狙いを、あの方へ変えた……?)

提督「!! 金剛、退けッ! 私も下がる!」ザッ

利根「!」タッ

レ級「外したか」カコン

利根「何をしておるんじゃ!! 最前列! 撃たぬかぁ!!」ドンッ

加賀「っ!」グッ

長門「くっ……」ガチンッ

レ級「…………」

金剛「!!」

利根「金剛よ、どけぇえええ!!!」ドン

ドォン!!

利根「かはっ……く、ぅ……!!」

提督「利根……! ──総員、鎮守府はもう気にするな!! 味方への誤射をしないようにするだけで構わん! レ級へ集中砲火せよ!! 被弾した者は必ず下がれ!! そして絶対に奴へ近付くな!!」



51:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/12(月) 06:36:04.42 ID:yvhBltlso

レ級「…………」ダンッ

提督「!!」

金剛「な……! こっちへ……!?」

長門「撃てぇええええ!!! 提督たちへ近付けさせるなぁ!!」ドォンッ

レ級「カハッ……! ち……!」チャコンッ

比叡「なっ! くっ……!」

瑞鶴「!!」サッ

バァンッ!

比叡「!? 瑞鶴さん!?」

瑞鶴「いったた……。良し……被弾は私だけ、ね。──ケホッ」

比叡「な……何やっているんですか!? あんな滅茶苦茶な庇い方なん──」

瑞鶴「そんな事は良いから撃ちなさい!! なんの為に庇ったと思っているのよ!!」

比叡「────!! は、はい!」ドンッ

ガァンッ!!

レ級「ガッ……! だが……少し、遅かったな」

飛龍「…………! ダメです……! これ以上は三人を巻き込んでしまいます!」ギリッ

加賀(ここまで来ると、流石に私では……)

レ級「────ッ!」グン

提督(ぐっ……! その柱は流石に……!!)

利根「あああぁぁァアぁぁアああアアアッッ──!!!」バッ

提督「な──!? やめろ利根!!」

ゴシャッ──!!

金剛「ひっ……!」



52:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/12(月) 06:37:24.19 ID:yvhBltlso

レ級「…………これを止めるか」

利根「ハハ……ハ……。お主、も……そんな身体で、よく、動くのう……?」ググッ

響「っ……!」ダッ

暁「響!?」

レ級「!!」グッ

利根「させぬ!!」グッ

レ級(! ……逃げられん)

響「…………っ!」ザッ

レ級「──……そう、か」

響「────」ガッ

利根「なるほど……口、の中か」

レ級(これが、人間と艦娘、そしてアイツらの)



響「──堕ちろ」

レ級(可能性か──)



ダァンッ──……!



レ級「────……………………」

ドチャッ……



53:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/12(月) 06:38:59.95 ID:yvhBltlso

雷「…………!! う、ぇ……!」

提督「……見ない方が良い。いや、見るな」

バサッ……

提督(…………流石にほぼ全員が顔を逸らしたな)スッ

提督「……動ける者は、動けない者を運んで入渠と補給を済ませておけ。……今度こそ終わった」

提督(……やはり、動ける者は少ないか。いや、吐き気を堪えるだけで精一杯なのも無理はない。いくら艦娘といえど、こんなモノへの耐性などあるはずがないのだから……)

響「…………」ペタン

利根「提督よ……服、汚れてしまうぞ」フラッ

提督「野晒しにするよりはマシだ。……金剛、動けるか」

金剛「なんと、か……」

提督「無理は承知している。……すまないが、利根をドッグへ運んでくれるか。最優先で利根を修復させてやってくれ。救護妖精も呼ぶ。異常が無いか確認して貰う」

金剛「ハイ。……利根、肩を貸して下サイ」スッ

利根「すまぬの……。はー……死ぬかと思うたぞ……」ヨロッ

提督「…………」ポン

利根「?」

提督「…………」ワシャワシャ

利根「……髪がボサボサになってしまうではないか」

提督「……待っているぞ」

利根「うむ……待っておれ。すぐに向かうからの」

フラ……フラ……

提督「……響」

響「……………………」

提督「響?」



54:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/12(月) 06:39:44.24 ID:yvhBltlso

響「……司令官」

提督「どうした」

響「……落ち着かせて。いつもみたいに、足の間に」

提督「……ああ」スッ

響「…………」フラ

提督(……いつもと言いつつ、向かい合わせなんだな)ソッ

響「……司令官の匂いだ」ギュゥ

提督「…………」ナデナデ

救護妖精「──派手にやったね」

提督「! 近くに居たのか」

救護妖精「あんだけドンパチしてりゃねぇ。……あー、こりゃ確かに見ない方が良いね。何人も吐く訳だよ」ピラッ

提督「そうだな。心の傷になりかねん」ナデナデ

響「…………」スリ

救護妖精「で、あたしはどっちをすれば良いんだい? 死体処理? 傷の手当て?」

提督「後者だ。ドッグで利根を最優先に、その次は入渠前の者を診てくれ」

救護妖精「あいよ」

救護妖精(……流石に内部から撃たれたら人間と同じようになるみたいだね。理論上そうなるのは知ってたけど、実物を見るのは初めてだよ)

救護妖精(──まあ、もう私には関係の無い事だね)スッ

ヲ級「うわ……」トコトコ

空母棲姫「……終わりましたね」スタスタ

提督「ああ。あの時、お前が機転を利かしてくれて助かった。ありがとう」

空母棲姫「上手くいって良かったです」

提督「懐かしいか?」

空母棲姫「? 何がでしょうか」

提督「弓を──いや、加賀の弓を握るのが」



55:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/12(月) 06:40:11.54 ID:yvhBltlso

空母棲姫「……気付いていたのね」

提督「あまりにも似ているからな。加賀もそう思っているだろう」

空母棲姫「まあ、純粋という訳ではありませんが。……私も、この子のように混ざってはいます」

ヲ級「?」

提督「混ざる、か……。なるほどな」

空母棲姫「そんな話よりも、私も何か手伝いたいわ」

提督「そうか。ならば、ヲ級と一緒にドッグへ行って応急処置をしてやっていってくれ」

ヲ級「はーい!」

空母棲姫「……まだ早いのではなくて?」

提督「誰の艦娘たちだと思っている?」

空母棲姫「はぁ……。それもそうでした……。問題が無さそうで怖いです」

提督「良い事だ」

空母棲姫「まったく……」

ヲ級「姫、今日は、よく、笑うね」

空母棲姫「……後で頬を抓るわよ」

ヲ級「可愛いのに……」

空母棲姫「…………」

提督「変わったな」

空母棲姫「……そうね。本当、色々と変わったわ」

空母棲姫(誰かさんのおかげで、ね)

……………………
…………
……



63:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/22(木) 02:15:55.64 ID:pcOuKf9wo

響「──どうしても?」

提督「すまん。後で迎えに行くから、今は皆の所へ行ってくれないか」

響「……約束だよ」

提督「約束だ」

響「分かった。……なるべく早くね」タタッ

提督「ああ」

救護妖精(あー……こりゃ、あの惨状を間近で見てトラウマ背負っちゃったかねぇ……)

提督「さて、こんな真夜中に二人で話とは珍しいな。どうした」

救護妖精「皆のチェックの報告だよ。誰もが聞ける場所で話す事じゃないでしょ?」

提督「…………そうだな。報告を頼む」

救護妖精(察しちゃったかね、これは……)

救護妖精「んじゃ、まず一件目。金剛と瑞鶴は深い傷だったから、少しの間は肉体的に負担の掛かる事はさせてあげないようにしてあげてね。レ級は流石の火力というかなんというか。ありゃ本当に脅威だよ」

提督「なるほど、分かった。二人には鎮守府復旧の間、裏方をお願いして貰おう」

救護妖精「ん。そんで二件目。入渠を終わらせた子は全員、健康だよ。疲労とトラウマは除くけどね」

提督「……響のメンタルケアは私にしか出来そうにないな」

救護妖精「だね。他の子はあたしと提督が時間を掛けてゆっくりとすれば良いけど、知っての通りあの子は心に少し根強く傷を負ってる。響が一番落ち着く事をすると良いさね。あと、しばらくの間は戦いから遠ざけておいてあげてね」

提督「ああ、そうしよう。──では、本題に入ろうか」

救護妖精「……………………」

提督「…………」

救護妖精「……単刀直入に言うと、身体の何もかもがおかしくなってた。艤装も、骨も、筋肉も、神経も、内臓も……心の方もね。治そうと……いや、直そうとするくらいならば新しく作り直した方が良いくらいに」

提督「────────」

救護妖精「一応だけど本人には言ってないよ。とりあえず絶対安静だって指示を出してる」

提督「……あの鉄筋コンクリートを受け止めたのがマズかったか」

救護妖精「原因の一つがそれだね。骨の状態を見てみると、原因は受け止めた事とその後の無理な力を入れた事の二つ。骨が砕けたくらいだったらまだマシだよ。その後で大きな負担の掛かる力の使い方をしたから余計に酷くなった。よく言われている事だけど、バイクで転んで鎖骨を折っちゃった時、バイクを起こした事で入院が三ヶ月伸びたっていうのと同じさ」



64:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/22(木) 02:16:33.97 ID:pcOuKf9wo

提督「治そうとしたらどれくらいの時間が掛かるか分かるか?」

救護妖精「最低で一年。いくら艦娘でも、人間だったら文句無しで死んでるくらいの重体なんだよ。今のあの子は満身創痍の状態。……正直さ、なんで生きてるのかよく分からないんだよね」

提督「……そうか」

救護妖精「執念か何かなのかねぇ……。身体に特別なにかある訳でもないようだし、それくらいしか思い付かないよ。まあ、生きている以上は良い方に向かうだろうね」

救護妖精(身体の内部からくる痛みの数々を耐えられたら、だけど……)

提督「……後遺症は出てくるのか?」

救護妖精「出ない方がおかしいと思うよ。もう艦娘として戦って貰うのは諦めた方が良いかもね」

提督「……………………」

救護妖精「……利根が荒れそうだったら、しっかりと受け止めてあげなよ?」

提督「いや、それは無い」

救護妖精「ん?」

提督「あいつならば……そうだな、まずよく分かっていない顔をする。そんな訳があるのか、とな。その後、時間が経ってからソレを感じて落ち込むだろう」

救護妖精(……ふぅん。確かに言われてみればそうなりそうだね)

救護妖精「ま、利根のケアも提督に任せるよ」

提督「ああ。──他に話してくれる事はあるか?」

救護妖精「いや、今ので全部だよ」

提督「そうか。ならば聞きたい。利根はもう寝てしまったか?」

救護妖精「ん。鎮静剤を打ったら寝たよ」

提督「確か金剛と瑞鶴も救護室で寝ているはずだが、ベッドは空いているか?」

救護妖精「うん? ……ああ、響辺りでも寝かせるのかね。空いてるよ」

提督「助かる。──では、後ほど救護室に向かう」

救護妖精「あいよ」

…………………………………………。



65:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/22(木) 02:17:01.47 ID:pcOuKf9wo

提督(……さて、第六駆逐隊たちはここの部屋へ割り振ったはずだ。……他の子たちは、もう寝てしまっただろうか)スッ

コツッコツッ──

ガチャッ──

提督(む、早い)

響「!」ギュゥ

提督「っとと。待たせたな」

響「ん……」スリ

提督「夜遅くにすまない。……しかし、全員起きていたんだな」

暁・雷・電「…………」コクコク

提督(三人がしがみ付き合っているのを見るに、ああやって安心しようとしているのだろうか)

川内「まあ……あんなのを見た後じゃ中々ね……」グッタリ

神通「姉さん、提督の前ですよ」

川内「ごめん提督……今夜だけはこのままで居させて……」

提督「構わん。楽にしておけ」

川内「ありがと……」

那珂「川内ちゃんは、ああいうのがダメだからねー……」サスサス

川内「むしろ普通にしている二人がおかしいと思うんだけど……。背中、ありがと……」

神通「そうでもありませんよ。私も少し、気分が良くありません……」

那珂「那珂ちゃんは川内ちゃんと暁ちゃん達のこの状態を見たら、なんかねー」サスサス

川内「うぅ……姉の威厳が……」

提督「どうしても抱え切れなくなったら、いつでも私の所へ来い。頭くらいならば撫でてやれる」

川内「ごめん……今お願い……」

提督「そうか」スタスタ

響「…………」トコトコ



66:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/22(木) 02:17:48.47 ID:pcOuKf9wo

提督「しかし、思ったよりも繊細なんだな」ナデナデ

川内「これが普通だってば……。第六駆逐隊の四人も、他の子達もそうじゃん……」

響「…………」ギュゥ

川内「……あー。ねえ提督、抱き付いて良い……?」ウトウト

神通「あら……」

那珂(わー、大胆……)

提督「いきなりどうした……」ナデナデ

川内「んー……第六駆逐隊の子達みたいにー、人肌を感じたら落ち着くのかなーって……」ウトウト

提督「……………………」

提督「……撫でるだけで我慢してくれ」ナデナデ

川内「えー! なんでー!!」ガバッ

那珂「川内ちゃん元気じゃん!?」

川内「……あれ?」キョトン

神通「あ、あはは……」

提督「…………」

川内「……んー…………でも、気分があんまり良くない……なぁ。割とマシになったけどさ」

響「川内さんも私の気持ちが分かるみたいだね」

川内「いやー、たぶん響ちゃんまではいってないとは思うけど……。──あ、そうだ! 今日は皆で一緒に寝ない? こう、一つの布団で寄ってさぁ!」

暁・雷・電「…………!」コクコク

川内「よっし! じゃあ床に布団引こう布団! しばらくはこのままで良いかもしれないね!」

提督(……人肌は落ち着かせる、か。響も、川内のようにいつもの調子に戻ってくれると嬉しいのだが)

提督「では、私たちはそろそろ向かう。何かあったら救護室へ来てくれ」

神通「はい。響ちゃんをよろしくお願いします」

那珂「元気になってねー?」

暁「……響」

響「ん」

暁「…………響はよくやってくれたわ。響が居なかったら、どうなってたか分からない……。だから、えっと……司令官を、皆を守ってくれて、ありがとう」

響「……うん。そう言ってくれると嬉しいよ。大丈夫。不死鳥は今、休んでいるだけだから」ギュゥ

響「少しの間だけ……。だがら、すぐに戻ってくるよ」

暁「分かったわ。……私達も、響には負けないから」

響「うん、勝負だよ」

提督「……朝も近付いている。集合は昼からだが、寝過ごさないようにしておくように」

神通「はい、分かりました。提督、響ちゃん、おやすみなさいませ」

…………………………………………。



73:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/29(木) 21:54:29.49 ID:cSuTfeTBo

響「ヤダ」

金剛・瑞鶴「……………………」

救護妖精(あー……言うと思ったよ)

提督「なぜだ……」

響「司令官も一緒に寝てくれないとヤダ」

提督「しかしだな……」

響「…………」ヂー

提督(これは困った……)

瑞鶴「……まあ、分からないでもないけどさ」

金剛「分かるのデスか」

瑞鶴「なんか落ち着くしね。お父さんみたいで」

金剛「では、響にとってはダッドよりもダディという感覚なのでショウかね?」

瑞鶴「ごめん金剛さん、その例え分かんない」

金剛「んー……日本語で言うならば『父さん』と『パパ』の違いみたいなものデス」

瑞鶴「あー、なるほど。なんとなく分かったわ。父親に甘えるみたいなものなのね」

響「むしろ、どうしてダメなんだい?」

提督「風紀の問題が一番だ。あの島ならばともかく、ここは大勢の目がある鎮守府だ。風紀の乱れは指揮の乱れにも繋がりかねん。なんでもかんでも規制するという訳ではないが、自由過ぎるのも問題があるだろう?」

響「…………」

提督「そう落ち込んでくれるな。寝るまでは膝の上でも脚の間でも構わん。それで手を打ってくれないか」



74:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/29(木) 21:55:03.32 ID:cSuTfeTBo

響「……膝の上が良い」

提督「分かった」ギシッ

響「ん、しょ……」チョコン

提督「…………」

金剛・瑞鶴(……向かい合って?)

響「……座りにくい」

提督「それはそうだ。ソファに背もたれがあるのは当然だろう? 私と同じ向きに座れば楽だぞ」

響「じゃあ、後ろから抱いてくれる?」モゾ

提督「どうしてそうなる……暁たちから何か変な知識でも貰ったのか?」

響「違うよ。ただ単純に、司令官の体温を感じたいんだ」

提督「……そうか」

響「うん。そうだよ。司令官は柔らかい温かさがある。抱き締められると、凄く落ち着くんだ。……なんて言えば良いのかな。守ってくれてる? そんな感じだよ」

提督「……………………」

救護妖精「まあ、それくらいなら良いんじゃないの? 治療と思いなって」

金剛・瑞鶴「?」

瑞鶴(なんだろ。何か違和感が……)

金剛(『それくらいなら』って、どういう意味が含まれているのデスかね……?)

提督「…………」チラ

金剛「?」

提督「…………」フイッ

金剛「…………?」



75:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/29(木) 21:55:43.89 ID:cSuTfeTBo

提督「分かった。響にとって落ち着くのならばやろう」

金剛(あ……)

響「うん、お願い司令官」

提督「ほれ」ソッ

響「……うん。これは良いものだ」ホゥ

提督「そうか」

金剛(なんとなくデスが分かったような気がしマス。きっと、テートクは本当の『金剛』の事を……)

金剛「……………………」ズキッ

金剛(? 傷が痛んだのでショウか)ソッ

救護妖精「ん? どうしたんだい金剛」

金剛「あ、いえ。少しデスが胸が痛みまシテ」

救護妖精「傷口でも開いたのかねぇ……ちょっと診察するから奥に来な」トコトコ

金剛「ありがとうございマス」スッ

瑞鶴「無理はしないでよ、金剛さん」

金剛「イエス。何かおかしいと思ったらすぐに伝えるデス。無論、瑞鶴も同じデスよね?」

瑞鶴「うん。私も変な我慢なんてする気は無いわ」

響「二人とも、身体は大事にしてね」

金剛「響もしっかりと休んで下サイね?」

響「勿論だよ。──ところで司令官。今日は一緒に寝てくれるかい?」

提督「寝るまで傍に居てやるから、それで勘弁してくれ……」

響「……うん」

提督「私も今夜はここで寝る予定だ。このソファで寝ているから安心しろ」ナデナデ

響「……ソファだと疲れが取れないよ。だから一緒に寝よう」

提督「そういう訳にもいかん。こればかりは譲らんぞ」

響「……分かった。諦める……」シュン

提督(……心が痛むな、これは)

…………………………………………。



76:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/29(木) 21:56:16.19 ID:cSuTfeTBo

金剛「すぅ……」

瑞鶴「くー……くー……」

響「すー……」

利根「…………」モゾッ

利根(……寒い……痛い…………)ボー

フラフラ……

利根「…………」

提督「…………」

利根「…………」ギシッ

提督(──む?)

利根(あったかい……)ソッ

利根「…………くー……」

提督(……まったく。寝惚けてここへ来たのか。そのままだと風邪を引いてしまうだろうに……。よっと……膝枕だが我慢してくれよ)モゾッ

利根「ん……………………くー……」

提督(…………利根……)

提督「……………………」ギュゥ

……………………
…………
……



77:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/29(木) 21:56:43.65 ID:cSuTfeTBo

提督「……………………」

利根「くー……くー……」

響「すー……」

提督(結局、響も来てしまった……。肩に寄り添うだけで良いとは言っていたが、この状態で寝ても疲れるだけだぞ)

ガチャ──パタン

提督(む)

救護妖精「……………………」

提督「…………」

救護妖精「……どうしてそうなってるんだい?」

提督「分からん」

救護妖精「はぁ……。提督もらしくないねぇ。何があったのさ?」

提督「……ん?」

救護妖精「提督だったら利根をベッドに戻していそうじゃないか。身体に悪いからーってさ」

提督「……言われてみればそうだな。絶対安静という指示を出すくらいだ。身体に障りそうな、こんな体勢をなぜ……」

救護妖精「…………」

救護妖精(これは……提督も重症なのかね……?)

救護妖精「……提督」

提督「どうした」

救護妖精「診察を受けな。これは医者としての命令だよ」

提督「……そんなに深刻か」

救護妖精「そうだねぇ。放っておけば深刻な問題になるかもね」



78:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/10/29(木) 21:57:12.74 ID:cSuTfeTBo

提督「分かった。昼過ぎに時間を空けておく。その時に──」

救護妖精「今すぐだよ。事は急を要する。まだ誰も起きていないんだから仕事には一番支障が出ないはずでしょ?」

提督「今すぐか……。二人を起こさないようにしなければな」ソッ

響「すー……」

利根「……くー…………」

救護妖精「見事な手際だね。──じゃあ、隣の部屋で診察するよ」トコトコ

提督「ああ」ツカツカ

利根「……………………」

ガチャ──パタン

救護妖精「さてと……。提督、まずはアタシの質問に正直に答えてね」

提督「診察じゃなかったのか?」

救護妖精「診察っていうよりもカウンセリングだよ。──単刀直入に言うと、提督は精神が弱っている可能性が高い」

提督「私が? まさか」

救護妖精「昨日の夜、利根があの三人のようになるんじゃないかって思わなかったかい」

提督「……ああ。確かに思った」

救護妖精「そして、利根がベッドから抜け出して提督の寝ているソファに来た時、提督は起きなかったかい?」

提督「起きたな」

救護妖精「妙な不安とかあったんじゃない?」

提督「……否定しない」

救護妖精(……踏み込むのはここまでかねぇ)

救護妖精「不安に感じたら周りに頼っても良いんだよ。提督って立場は誰にも頼る事が許されないなんて事はない。提督だって一人の人間なんだからね」

提督「……だが、示しが付かなくないか?」

救護妖精「私の知っている限りじゃ提督は艦娘から心底信用されている。それに、どっかの誰かさんとそっくりでお人好しだからねぇ。弱い部分を見せても逆に嬉しく思うんじゃないかね。頼ってくれたーってさ」

提督「…………」

救護妖精「まあ、そういう事さね。悩みがあったら何でも言ってきな。──深海棲艦の二人もそうだけど、隣で寝ている新人三人の事もね」

提督「なんの事だ?」

救護妖精「過去の行いから、私は視ると分かるんだよねぇ。あの三人が訳有りだっていうのが」

提督「……なるほど。お前も訳有りという事か」

救護妖精「そういう事さね。ただ、こんな事を言ったのは提督が初めてだよ。バレたら大問題だかんね」

提督「ならばなぜ言った?」

救護妖精「私だけが一方的に秘密を知っているのはフェアじゃないからねぇ。あと、提督の事を信頼しているからだよ」

提督「…………」

救護妖精「あの三人の事に関しては私の方からも手を回しておくから安心しておきな。不審に思う子は居るはずだかんね」

提督「……そうか」

救護妖精「あと、勿論だけど私の事も秘密にしてね」

提督「お前が黙っていてくれる限り、私も秘密にしておこう」

救護妖精「オッケー。──じゃあ、後で誰かに頼ってきな。提督は艦娘だけじゃなくてアタシにとっても大切なんだよ」

提督「……そうだな。のんびりとやるとしよう」

救護妖精「そうさね。こういうのは気長にのんびりやるのが一番さ」

…………………………………………。



88:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/07(土) 08:39:49.83 ID:XWru92Cuo

提督「──では内容を簡潔に繰り返す。戦艦・正規空母は瓦礫の撤去。重巡・軽巡・軽空母は再利用可能な物資の判別と整理。駆逐・潜水艦は掃除と入渠の終わっていない者や入渠では治らない傷を負っている者への応急手当だ。なお、これらとは別の指示を与えられている者はその指示に従うように」

提督「また、鎮守府の砲撃を受けた壁は非常に崩れやすく危険だ。装甲の薄い者は特に近付くな。以上だ。判断に困った事があれば私へ訊きに来い。私は臨時司令部室で事務作業をしている」

全員「はい!!」

提督「では、休憩の際は放送で知らせる。無論、無理はしないようにし、少しでも異常を感じた場合はすぐに救護班から手当てを受けろ。──この場の事は任せたぞ、加賀、大淀。大まかな処理の優先順位は渡した紙面通りだ。後は状況に応じて指示を変えてくれ」

加賀「分かりました。こちらはお任せ下さい」

大淀「提督もご無理はなさらないで下さいね」

提督「ああ」スタスタ

加賀「──さて、大淀さん。初期の指示は駆逐艦、潜水艦の子達の管理をお願いしても良いかしら。私はそれ以外の方々に指示を出します」

大淀「はい、分かりました。──朝潮型の皆さんは、まず用意されているテントを組み立てて下さい。陽炎型の皆さんはドックで入渠待ちの方々と入渠では治りそうにない方を判別し、後者の方を設置したテントで応急処置をお願いします。それ以外の駆逐艦、潜水艦の方は、瓦礫の無い工廠方面と食堂方面から掃除をお願いします」

加賀「戦艦・空母の方はこの転がっている鉄筋コンクリートから撤去をお願いします。その後の指示は後を追って説明します。重巡・軽巡の方は辺りに補給用として設置した弾薬や燃料を、軽空母の方は艦載機やその他資材を工廠へ運んで下さい」

加賀「以上です。何か質問や分からない点はありますか?」

全員「ありません!」

加賀「良い返事です。それでは、作業に移って下さい」

長門「──さて、まずはあのレ級が振り回していたこの柱からだな」

比叡「こんなもの……どうやって振り回していたんでしょうか……」

飛龍「実は普通に持てるとか? よっこい……しょっ──!」グッ

蒼龍「……どうなの、飛龍?」

飛龍「む……無理……!」プルプル

蒼龍「だよねー……。動きすらしないのが普通よねー……」

長門「まったく、本当にアレは化け物だな」

榛名「……これを受け止めた利根さんも凄いと思います」

長門「肩と腕で受け止めていたな。……恐らく、肉が潰れて骨が砕けただろう。身体の表面ではなく内部も含めた全体に激痛が走ったに違いない」

蒼龍「や、やだやだやだ! そんな痛そうな事言わないでよぉ!」

長門「む……すまない」



89:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/07(土) 08:40:53.17 ID:XWru92Cuo

赤城「さあ、お喋りはここまでにして運びましょう。私たちが動かなければ他の方々も動き辛いはずです」

長門「そうだな。では、私は根元を持とう」グッ

霧島「では、ご一緒しますね」ガッ

飛龍・蒼龍「…………」グッ

赤城「翔鶴さんはこちらをお願いします」グッ

翔鶴「はい。畏まりました」ソッ

榛名「私達も準備はオーケーです」ソッ

比叡「では、いきますよー! それー!!」グッ

ググッ……!

長門「む、ぅ……! これは……相当キツいな……!!」フラ

ドズン……

霧島「……いっその事、バラバラに壊してしまうのも手かもしれませんね」

長門「そうだが、今は工廠も忙しいだろう。道具を借りられれば良いのだが……」

赤城「困りましたね……」

ヲ級「──ね!」ヒョコッ

比叡「うひゃぁ!?」ビクン

長門「む……貴様か。どうした?」

ヲ級「私達も、手伝う!」

蒼龍「達って事は」キョロ

空母棲姫「……これだな」トコトコ

飛龍「え、あ……はい。かなり重いので、気を付けて下さいね」

空母棲姫「ああ」グイッ

ヲ級「えーい!」グイッ

長門「なっ……!」

赤城「…………!!」

翔鶴「たった二人で……」

霧島「なんて事……」

比叡「ひえー……」

榛名「…………」パチクリ

飛龍・蒼龍「…………」ポカーン



90:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/07(土) 08:41:29.05 ID:XWru92Cuo

空母棲姫「案外いけるな。これをどこへ運べば良い?」

長門「あ、ああ……。工廠の横に廃材置き場がある。その隣に置いてくれ」

空母棲姫「あの場所か。分かった」スッ

ヲ級「行ってきます!」

長門「……酷く負けた気分だ」

霧島「ず、頭脳ならば負けませんよ……!」

比叡(……頭脳……頭…………頭突き?)

霧島「……比叡お姉様、何か失礼な事を考えていませんか?」ジッ

比叡「そ、そんな事ないわよ!?」ドキッ

霧島「…………そういう事にしておきましょうか」

比叡(ほっ……)

飛龍「……………………」ヂー

蒼龍「? 飛龍、空母棲姫さん達がどうかしたの?」

飛龍「えーっと……提督の軍服と帽子、まだ着けてるんだなーって思って」フイッ

蒼龍「じゃないと敵と間違えられちゃうかもしれないじゃない」

飛龍「……まあ、そうだよね。うん、そう……」

蒼龍(あ、これ絶対に嫉妬してる)

飛龍「…………」チラッ

蒼龍「もー、可愛いなぁ飛龍めぇ!」ギュー

飛龍「わっわわっ!? い、いきなりどうしたのよ?」

蒼龍「いやいや、なんかこう、ね?」ナデナデ

飛龍「もう……」

長門「遊んでいるとあの方に吊るされるぞ」

飛龍・蒼龍「ご、ごめんなさい!」ピシッ

長門「うむ。──では、あの崩れて山となってた瓦礫を片付けるとしようか」

長門(……ここの鎮守府は、こんな状況でも温かいのだな。……調べた鎮守府異動の件……本当にやってみても良いかもしれないな。出来れば、希望者をこちらへ全員異動させたい)

長門(…………あの愚か者がくたばっているのであれば、その異動も楽に行えるのだが……どうなっているのやら)

…………………………………………。



91:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/07(土) 08:42:06.91 ID:XWru92Cuo

ヲ級「ね、ね、姫」

空母棲姫「どうしたのかしら」

ヲ級「私達、どうして、見られてるの?」

睦月・如月・初霜「…………」ジー

望月・弥生「!」ビクッ

空母棲姫「……そうなるのも無理はないわ。そっとしてあげなさ──」

ヲ級「え?」ブンブン

空母棲姫「……どうして手を振っているのかしら」

ヲ級「なんとなく?」ブンブン

空母棲姫「止めてあげなさい……困っているでしょう」

ヲ級「はーい……」スッ

空母棲姫「……仲良くなったら、いくらでも手を振って良いから。今は少しだけ我慢しておきなさい? きっと、いつか仲良くなれると思うわ」ナデ

ヲ級「うん!」ニパッ

初霜「……なんだか、普通ですね」ヒソ

睦月「本当……怖くないのです。むしろ……」ヒソ

弥生「方や無邪気で、方や丸くなった加賀さん、です……」ヒソ

如月「じゃあ、手を振ってみましょうかしら」フリフリ

ヲ級「!」ブンブンブン

望月「うわ……めっちゃ手ぇ振ってる……」

初霜「喜んでる……のかしら?」

睦月「あ、空母棲姫さんがヲ級ちゃんと何か話していますよ」

空母棲姫「…………」スッ

ヲ級「!」ピシッ

弥生「敬礼……なんで?」

望月「さあ……」



92:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/07(土) 08:42:49.99 ID:XWru92Cuo

初霜「ただの挨拶かもしれない……のかしら……?」

如月「そうだったら、如月たちも……ちゃーんとお返事をしなくちゃいけないわね」ピシッ

四人「……………………」

四人「…………」ピシッ

弥生「……行きましたね」

初霜「本当に普通なのね……」

睦月「……こんな事を言うのは変かもしれませんが……睦月、空母棲姫さんやヲ級ちゃんと仲良くなれそうと思っちゃったのです」

望月「仲良く、ねぇ……」

弥生「…………」

如月「まぁまぁ。仲良くなれそうだったら良い事よ? ねっ?」

初霜「……それもそうですよね。今度、何か話してみるわ」

睦月「初霜ちゃんが行くのならば、私も行くのですよ!」

如月「私も、何か話題を探しておきましょうっと」

望月「……あたしは、もうちょっと様子を見るわ」

弥生「弥生も、です」

暁「こらー! そこ、サボらないの!」ガンッ

響「あ」

五人「は、はーい!」タタッ



93:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/07(土) 08:43:37.64 ID:XWru92Cuo

暁「まったく。困っちゃうわ──って、あぁーっ!? なんで集めたゴミが引っくり返ってるの!?」

響「暁がさっき箒を当てたからだよ」サッサッ

暁「そ、そんなぁ!?」

雷「もう。暁ったら」サッサッ

電「で、でも、今日は風が弱いから飛んでいってはいないのです」

響「うん。それが幸いだね」

暁「うぅ……」

響「さ、今度は向こうだよ」トコトコ

暁「……うん」

響「? どうしたんだい。さっきの事はそんなに気にしなくても良いんじゃないかな」

暁「違うわよ。……響、あなた司令官と一緒じゃなくても平気なの?」

響「ん。大丈夫だよ。怖いのは夜だけさ。暗い中で赤色を見るのも……だけど。明るかったり一人じゃなかったら大丈夫さ」

暁「そっか……」

響「それに、今は皆が居るから何も問題無いさ」

雷「あら、もーっと私を頼っても良いのよ!」

響「その時はお願いするよ」

電「あ、あの! 私もお手伝いするのです!」

響「うん。ありがとう電」

暁「もう! 私が一番お姉さんなのよ! 頼るのなら私に頼りなさい!」

響「暁がいっぱいいっぱいになりそうだから、それは止めておくね」

暁「どうしてよーッ!!?」

響「冗談さ。お願いね、暁」

暁「ふん! まあ、レディはこのくらいの事で怒ったりはしないわ。懐は大きく、よ」

響「じゃあ、お姉さんの暁、次はどこを掃除する?」

暁「あっちよ! まだ誰も手を付けていないもの!」

響「了解した。さ、行こうか」

雷「はーい! 行っきますよー!」

電「なのです!」

響(……うん、やっぱり姉妹だ。こうしていると、とても落ち着く。……向こうではまともに話した事が無かったから、かな。今まで姉妹だけど姉妹じゃない感覚だったけど、今はとても……とても嬉しくて、姉妹だって感じる)

響(ここに来て、本当に良かった)ニコッ

…………………………………………。



103:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/13(金) 17:08:57.29 ID:sh+rnKJUo

提督「…………」サラサラ

利根「…………」カリカリ

金剛「…………」サラサラ

瑞鶴「…………」カキカキ

提督「……さて、一先ず早急に送る資料は今日中に作成できそうだ。これから電話口から報告をせねばならん。その間は引き続き今やっている仕事を頼む」スッ

利根「分かったのじゃ」カリカリ

金剛「了解デース」サラサラ

瑞鶴「……提督さん、お仕事すっごく早い」カキカキ

提督「これも慣れだ。それよりも、三人とも無理はしてくれるなよ? 疲れたりしたら休んでも構わないからな。特に利根。お前は本来安静にしておかなければならんのだからな」

利根「うむ。少しでも体調が悪いと感じれば、すぐに提督と救護妖精に伝えるぞ」

提督「ああ。──では、少しの間ここを頼む」

ガチャ──パタン

瑞鶴「……なんだろ。提督さん、なんかちょっと変わった気がする。なんだか急に心配性になったような……」

利根「うむ。良い事じゃ」カリカリ

金剛「…………?」サラ

瑞鶴「え? どういう事?」

利根「あれが提督の素じゃよ。言葉は悪いが案外、臆病なのじゃ」カリカリ

瑞鶴「臆病……? あの提督さんが?」

金剛「全くそうは見えまセン……」サラ

利根「単純に隠しておるだけじゃ。他人にのみじゃが、多少は無理をしても良い所でも引く。どうしても無茶をせねばならぬ時でも必ず逃げの道を作らせる」カリ

瑞鶴「でも、あのレ級の時なんて無理無茶無謀な事をしてたじゃない」

利根「あれは自分にだけであろう?」

金剛「……確かに」サラ

利根「どこか壊れてしまったんじゃろうなぁ……。自分の事は蔑ろにしがちではあるが、他人の事になると途端に安全策しか取らぬ」カリ

瑞鶴「……そう言われてみるとそうよね」

金剛「なんだか……寂しいデス」サラサラ

利根「あればっかりは許してやってくれぬか。過去にあった事があった事じゃ。そうなってしまってもおかしくない」カキ

瑞鶴「まあ……そうよね……」カキ



104:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/13(金) 17:09:27.21 ID:sh+rnKJUo

金剛「…………」ジー

利根「! ──ん? どうしたのじゃ金剛?」カリカリ

金剛「腕を伸ばして貰っても良いデスか?」

利根「……むぅ。どうしてじゃ?」カリカリ

金剛「利根も無理をする所はテートクと変わらないデス」

瑞鶴「え?」

利根「……むむぅ」

金剛「ホラ、テートクのインストラクション、デスよ?」ソッ

利根「……仕方が無いのう」スッ

瑞鶴(あ、そっか……身体、痛いんだよね……)

トコトコ──

利根「それにしても……ここの簡易ベッドはやけに柔らかいよの」ギシッ

金剛「きっと、利根の為に用意したのだと思うネ」ナデナデ

利根「ぬ? どうして頭を撫でるのじゃ?」

金剛「なんとなく、デス」ナデナデ

利根「…………」

金剛「…………」ナデナデ

利根(──ああ……そういう事かの? 我輩が少しでも落ち着けるようにと、こうしてくれておるのか……)

金剛「…………」ナデナデ

利根(提督がよく頭を撫でる姿を見ておるから、それに倣って……といった所じゃろう)

利根「ありがたいぞ」ニコ

金剛「いえいえ」ナデナデ

瑞鶴(……私も頑張らなきゃ)カキカキカキ

…………………………………………。



105:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/13(金) 17:09:56.32 ID:sh+rnKJUo

コンコンコン──

金剛「! ハイ、どうぞ」

ガチャ──パタン

提督「今戻った」

金剛「おかえりなさいデース」

瑞鶴「提督さん、おかえりなさい」

金剛(……あれ?)

提督「……ん? 利根は寝てしまったのか?」

金剛「イエス。少し無理をしようとしていまシタ」

提督「なるほどな。後で説教だ。すま──……いや、ありがとう、二人とも」

瑞鶴「気付いてくれたのも、横になるように促したのも金剛さんよ。……ごめんね、提督さん」

提督「……なぜ謝ったのかは分からんが、こういうモノは誰もが気付けるという訳ではない。そう思ってくれるだけで充分だ」

瑞鶴「あ」

提督「ん?」

瑞鶴(……そうだった。あの人の常識とここの常識は違うんだった。……やだなぁ、染み付いちゃってる)

提督「…………」ポン

瑞鶴「?」

提督「少しずつで構わない」

瑞鶴「……うん!」

金剛「……ところでテートク。何か良くない事でもありまシタか?」

提督「…………」

瑞鶴「……提督さん?」



106:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/13(金) 17:14:44.98 ID:sh+rnKJUo

提督「……無かったといえば嘘になる」

金剛「…………伺ってもよろしいデスか?」

提督「……………………」

瑞鶴「えっと……もしかして私達に関係する事?」

提督「ああ……」

金剛(……なんとなくデスが、予想が付きマスね)

瑞鶴「提督さん、私……知りたい」

提督「……………………」

金剛「…………」

提督「……長門が居る時に話そう」

金剛「分かりました……」

瑞鶴(それって……そういう事よね)

コンコンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛・瑞鶴「!」

長門「提督、質問があってやって来た」

提督「どうした?」

長門「空母棲姫とヲ級の二人が手伝ってくれたおかげで、瓦礫の撤去はそろそろ終わりそうだ。戦艦と空母は次、何をすれば良いだろうか?」

提督「そうか。明石、建造妖精、開発妖精が鎮守府の建て直しをするはずだ。その際に必要な資材の運搬や手伝いをしてくれるか」

長門「ああ、分かった。……それと、もう一つ質問したい事が出来た」



107:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/13(金) 17:15:13.98 ID:sh+rnKJUo

提督「なんだ」

長門「……二人の様子がおかしいが、何かあったのか?」

金剛・瑞鶴「……………………」

提督「……そうだな。丁度良い。長門、今夜みんなが寝静まった後、救護室へ足を運んでくれ。そこで話す事がある」

長門「了解した。……まさかとは思うが、その時にいつぞやに言っていた吊るすという罰を与えるのか?」

提督「それは現状が落ち着いてからだ。楽しみにしておけ。下田鎮守府の事で話がある」

長門「……なるほど、その話か。二人にはもう話したのか?」

提督「いや、まだだ。三人が揃っている時に話そうと決めた所だ」

金剛・瑞鶴「…………」

提督「……以上だ。戻って良し」

長門「はっ」ピシッ

ガチャ──パタン

瑞鶴「……あの、提督さん」

提督「どうした?」

瑞鶴「……大丈夫、よね?」

提督「……それについては夜に話そう。この場では誰が聞いているか分からん」

瑞鶴「うん……ごめんなさい……」

提督「…………」ナデナデ

瑞鶴「……えへ」ニコ

金剛(……少し無理して笑っているのが分かるネ)

提督(これだと、話すのが少し怖いな……。だが、隠すのも為にはならない、か……)

…………………………………………。



113:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/19(木) 11:42:43.31 ID:DUFOBdUYo

提督(……さて、時刻は二十時……そろそろ来る頃だろうか)

利根「くー……」

提督「……………………」ナデナデ

コンコンコン──ガチャ──パタン

長門「失礼する」

提督「来たか。……すまんが、少しの間だけ待っていてくれるか。それと、利根は寝ているからソファの方へ行こう」スッ

長門「了解した。しかし、何かあったのか?」

提督「見ての通り、金剛と瑞鶴、響がまだ来ていない。三人とも、今は姉妹艦と一緒だろう」

長門「なるほど。姉妹の交流という事か」

提督「私が言うのも変だが、堅苦しい言い方だな。ただ単なるお喋りでも良いだろうに」

長門「……私のキャラではない。むしろ『お喋り』という単語は悪い意味にしか聞こえん」

提督「難儀な性格だ。だが、それもここで長く暮らすと認識が変わるだろう」

長門「ほう?」

提督「下田鎮守府の事は多少耳にしていたが、今回は少し詳しく調べさせて貰った。率直に言うと、あれは独裁であり監獄だな」

長門「そうだな。否定のしようがない。だが、突き詰めると私達は消耗品にしか過ぎん。そうなる鎮守府も在るには在るだろう」

提督「違いない。しかし、消耗品と言ってしまえば私も艦娘と変わらんよ」

長門「……うん? どういう意味なんだ?」

提督「所詮、人も消耗品でしかないという事だ。艦娘の提督になる為には特別な何かが必要だというのは分かっているが、この国に蔓延っている鎮守府の数を考えれば極端に珍しい訳でもない。今は人手が足りないらしく、こんな私でもまた提督としてやれているが……前はもっと多くの提督が居たぞ」

長門「……なるほど。総司令部という観点から言えば、提督という存在もまた駒の一つにしか過ぎないのか」

提督「そういう事だ。死んでしまえば補充すれば良い話だからな。もっと大きく言ってしまえば、総司令部もこの国という枠組みの中では駒の一つでしかない。壊滅すれば新しく作り上げられる。そうなると形在るモノは全て消耗品だ」

長門「悔しいが反論のしようが無い。結局の所、どう意識するかで何もかも違って見えるという事か」

提督「頭がよく回るようで助かる。つまりはそういう事だ。──そして、私に付き従ってくれる艦娘に自分が消耗品だと思って暮らしている艦娘は居るように見えるか?」

長門「見えない。本当に普通だ。今を生き、明日を目指し、戦いという使命を除けば自由に暮らしている」



114:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/19(木) 11:43:20.66 ID:DUFOBdUYo

提督「私としては鎮守府の外にも目を向けて欲しいのだが、どうしてか全員が興味を持とうとしなくて困っているくらいだ」

長門「それはもう、そういうものだと諦めておく方が良いと思うぞ。私たち艦娘にとって、提督と鎮守府が全てだ」

提督「例外は目の前に居るようだが?」

長門「……意地の悪い人だ。貴方も提督であり、ここは鎮守府。それで良いだろう?」

提督「くっくっ。そうだな」

長門「……………………」

提督「どうした」

長門「いや……そういう笑い方もするのだなと思ってな」

提督「……似合わないとかは言うな」

長門「では、この言葉は呑み込んでおこう」

提督「そうしてくれると助かる。──さて、来たようだぞ」

…………コンコンコン──ガチャ──パタン

金剛「ソーリィ。遅くなってしまいまシタ」

瑞鶴「ごめんね。金剛さんと同じで話し込んじゃった」

響「イズヴィニーチェ……」トトト

響「…………」ギュゥ

提督「構わん。今はまだそういう時であってもおかしくない。むしろ、姉妹と話していて楽しかったかどうかを聞きたいくらいだ」

響「楽しいよ。本当、時間を忘れてしまいそうになるくらいにね」

金剛・瑞鶴「……………………」

提督「金剛、瑞鶴、どうした?」

瑞鶴「あの、さ……怒らない……?」

提督「何の事かは分からんが、言ってみろ。怒るかどうかなど聞く前からは分からんよ」

瑞鶴「えっと……心配してくれる翔鶴姉ぇと何気ない話とかしているのは、楽しいって思ったと同時に……ちょっと辛かったかも」

金剛「私もデス……」

響「…………?」

提督(……そういえば、長門はさっき『姉妹の交流』と言っていたな。という事は、向こうでは姉妹の交流をするのは珍しかったのか? その珍しい中にあったのが金剛と瑞鶴だったのかもしれん)



115:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/19(木) 11:43:55.53 ID:DUFOBdUYo

提督「そうか……」

四人「……………………」

金剛「……テートク……下田鎮守府はどうなりまシタか?」

瑞鶴「なんとなくは想像できるけど……それでも知りたいの」

提督「……………………」

四人「…………」

提督「……結論から言おう。下田鎮守府は壊滅した」

金剛「やっぱり……ですか」

提督「下田の提督は即死だったそうだ。敵の砲撃は司令部室に直撃したらしい。提督が居ない状態でも錬度の高い彼女たちは奮闘し、生き残った艦娘は数多く居たとの事だ」

瑞鶴「全員が沈まなかっただけマシなのかしら……」

金剛・長門「…………」

響「……金剛さん、長門さん」チラ

長門「今はどれくらい残っているんだ?」

提督「ゼロだ」

瑞鶴「────え?」

長門「……そう、か」

金剛(やっぱり、デスか……)

瑞鶴「え……? どういう、事? だって、さっき生き残った艦娘は一杯居るって……」

提督「提督の居ない艦娘だぞ。どうなるかは予想が付くだろう」

瑞鶴「……解体?」

提督「そうだ。全員、解体された」

瑞鶴「それって……もう、私たちと会えないって事?」

提督「そうなる。解体をした艦娘と会ったという話は聞いた事が無い。艦娘時代の記憶を失っているのか、それとも機密保持の為に監禁されているのか、それとも処理されてしまったのかは分からない。ただ言える事は、会う事は絶望的だという事だ」

瑞鶴「ちょ……処理って……」

提督「……あくまでも可能性だが、そういう事だ。同じ人間が何人も居る事はおかしい話だからな」

瑞鶴「…………」

長門「酷かもしれんが、諦めておく方が良いかもしれん」

金剛「……ハイ」

瑞鶴「……………………」



116:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/19(木) 11:44:28.19 ID:DUFOBdUYo

響「……話の延長になるんだけど、長門さんの扱いはどうなるの? 確か、教育の為にここに居させているんだよね」

提督「それに関してだが、長門は私が引き取る事となった。報告書を読む限りでは何も問題なく運用できていると判断されたらしく、解体か引き取りかを選べと言われたのでな」

長門「では、正式に貴方の艦娘となる訳か」

提督「そういう事だ。これからもよろしくだ、長門」

長門「ああ……。こちらこそよろしくだ」

提督「そして……金剛、瑞鶴」

金剛「……ハイ」

瑞鶴「…………」

提督「明日は自由にして良い。せめて、それで心を落ち着かせてくれ」

金剛・瑞鶴「…………」コクン

提督「……以上だ。では、これからは自由時間とする」

金剛「…………テートク」

提督「……どうした」

金剛「……今夜だけは、我侭を言っても構いまセンか」

提督「どんな我侭だ?」

金剛「傍に……傍に、居て下サイ。テートクは消えないと……安心させて下サイ……」

提督「……隣に座っておけ」

金剛「ありがとうございマス……」ソッ

響「……………………」

響(……金剛さん、本当に悲しんでるみたいだ。元司令官の事が好きなのは思い込んでいるだけだって思ってたけど……まさか、本当にあんな人が好きだったのかな)

響(そういう私も、前はあの人の事を……)

響「…………」



117:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/19(木) 11:44:55.36 ID:DUFOBdUYo

瑞鶴「……私は翔鶴姉ぇの所に行ってくる」スッ

提督「ああ。救護妖精には私が許可したと言っておく」

瑞鶴「ありがと、提督さん……」トボトボ

ガチャ──パタン

長門「……瑞鶴の気持ちも分からんでもないな。交流が深かったとは言えないが、私も陸奥や酒匂たちが少し気になっていたくらいだ」

響「…………」

提督「どうした、響」

響「ん、なんでもないよ。少し海を見てきても良いかい?」

提督「構わんが、私もついていった方が良いか?」

響「いや、今日は一人が良い。気遣ってくれてありがとう、司令官」スッ

響「……………………」トコトコ

ガチャ──パタン

長門「……大丈夫なのだろうか、響は」

提督「判断が難しいな……。少し無理にでも一緒になった方が良かったかもしれんが……」

金剛「……テートク、私は少し心配デス」

提督「今は自分の事だけを考えて良いんだぞ、金剛。──長門、すまんが響の様子を見てきてやってくれないか」

長門「ああ、分かった」スッ

利根「──いや、それは我輩に任せてくれぬか」トコトコ

提督「む、起こしてしまったか」

利根「少し前に自然と起きたのじゃ。寝ておくと少しマシになったのう」

提督「そうか。……しかし、お前こそ自分の身体を大事にしておかなければならんだろう。許可は出さんぞ」

利根「すまぬが行かせてくれ。響の問題は、恐らく我輩でないと解決できぬぞ」



118:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/19(木) 11:45:22.59 ID:DUFOBdUYo

提督「響の問題? それはこの間のレ級の事ではなくか?」

利根「そうじゃ。じゃが、もし我輩だけでは無理じゃと思うたら……その時は提督を呼ぶぞ」

提督「……………………」ジッ

利根「……………………」

提督「……ああ。頼んだぞ、利根」

利根「うむ! 任された!」

提督「だが、身体に大きな負担は掛けない事。これだけは約束してくれ」

利根「分かっておる。我輩も早く元気になりたいからのう。──ああそうじゃ、金剛よ」ヂー

金剛「ハ、ハイ」

利根「……今夜だけじゃからな。じっくり堪能しておくと良い。普段ならば押し退けてやるからの」

金剛「──ハイ」

利根「うむ! では、行ってくるぞ!」ガチャ

パタン──

金剛「……利根にしか解決できない問題とは何でショウか」

提督「それは分からん。ただ言える事は、私は利根を信じるという事だ」

長門「信頼しているのだな」

提督「当然だ。こんなにも私の事を信用し、信頼し、尽くそうとしてくれる子達を信頼するなと言う方が難しい」

長門「だが、そうだと言って無条件に信頼するのか?」

提督「無論違う。いつもの利根であれば私は止めていただろう」

長門「ほう」

提督「あの目は何かを確信している目だった。私の気付いていない響の何かを、利根は感じ取っているのだろう」

金剛「何かを……」

金剛(……何を感じたのでショウか。私には、急に響が落ち込んだようにしか見えなかったデス……。一体、何があったのデスか……?)

金剛「……………………」

提督「…………」ポン

金剛「?」

提督「利根に任せておけ。さっきも言ったが、今は自分の事を一番大事にして良いんだ」

金剛「……ハイ」ソッ

提督(む? 肩へ寄り掛かってきた?)

金剛(ごめんなサイ利根……そして、ありがとうございマス。今夜だけ……この夜だけデスから、許して下サイ……)

提督(……こういう時、あいつはこうしろと言うんだろうな)ナデナデ

金剛「!」

金剛(──ああ……あのアイレットでテートクに抱き締められて……頭を撫でて下さった時の事を思い出しマス……)

金剛(温かくて、優しくて、落ち着けて……私が『テートク』に望んでいたモノ……)ジワ

金剛(今夜だけ……お二人のご好意に甘えてしまいまショウ……)

…………………………………………。



125:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/27(金) 20:22:21.93 ID:bJL9FGiDo

響「…………」

響(私は……おかしいのかな。なんだかんだで好きだと思っていた、あの人……。それは、私が無知だったからってものだった。けど、その人が死んだっていうのに悲しんでない……。むしろ、そうなって当然の事を今までやってきたんだからとさえ思ってる)

響(あの人だけじゃない。あまり会話とかもした事がなかった皆も沈んだか解体されたっていうのに、私は大して辛いって思ってない。ほとんど他人だったから……。なのに、長門さんは瑞鶴さんの気持ちが分からない事もないって言ってた。私には……正直それが分からなかった)

響「私は……冷たいのかな」

利根「それはどうかのう」トコトコ

響「! ……利根さん、動いて良いの?」

利根「あまり良くないらしいが、どうしても響が気になってのう」

響「……………………」

利根「外には出なかったのじゃな」

響「……夜の外は、怖いから……思い出しそうになるから」

利根「それも当然じゃろうな。あれは響には強過ぎる刺激じゃ」

響「……利根さん。利根さんは、どうして私を見に来たの?」

利根「うん?」

響「だって、利根さんって本当は絶対安静なんでしょ? それなのにどうして私を?」

利根「……まあ、なんとなく何を悩んでいるかが予想できたからのう」

響「予想?」

利根「うむ。大方、自分は心が冷たいとか思うておるんじゃないか、とな」

響「!!」

利根「やっぱりのう」

響「…………なんで分かったの?」

利根「まあ、似ておるからの。我輩と響は」

響「……あの島で確か言ってたね」



126:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/27(金) 20:23:00.63 ID:bJL9FGiDo

利根「うむ。どことなく似ているとな。──それで、過去の味方をどうとも思っておらん事じゃが、実は我輩もそうなのじゃよ」

響「……………………」

利根「あ、信用しておらぬな?」

響「そりゃね。どうでも良いって思ってるのなら、私を追い駆けたりしないよ」

利根「うむ、そうじゃ。ならば、どうして追い駆けたか考えてみぬか?}」

響「…………私の事を、どうでも良いって思ってないから?」

利根「正解じゃ。我輩はお主の事を放っておけぬからここへ来た。そして、そうならば更に疑問が生まれるじゃろう」

響「どうして放っておけないか──だよね」

利根「うむ。どうしてじゃと思う?」

響「…………………………………………」

響「…………」フルフル

利根「ぬ、分からぬか」

響「分からない。どうしてなんだい?」

利根「簡単じゃ。我輩は響を有象無象の一人と思うておらん」

響「…………?」

利根「簡単な話、我輩は深く接した者以外には淡白なのじゃよ。この鎮守府には数十人の艦娘が暮らし、助け合い、笑い会っておる。が、それだけの数ともなれば不仲も起きるじゃろう。そもそもとしてほとんど会話せん者も居る。我輩にとってその会話をあまりせぬ相手は、極端な話どうなろうと気に留めないのじゃ」

利根「例えばこの鎮守府には潜水艦が何人か在籍しておるが、我輩と任務や役割が噛み合わず話した事など無い。もしかすると向こうは我輩の事を覚えておらぬ可能性もある。なんせ少ない潜水艦ではなく、数ある重巡の中の一人じゃからな。覚えておらんでも無理はない」

利根「そこでもし潜水艦の誰かが任務中に沈んでしまったとしよう。じゃが、我輩にとってはその者との思い出も無ければ会話すら無いのじゃ。多少思う所はあっても、悲しむかと言われたら首を傾げる。例え我輩が涙を流したとしても、三日もすれば元の生活に戻っておるじゃろう」

響「……なるほどね。私とはあの島で一緒に支え合ってきた。色々と話した事もある。だから放っておけない、か」

利根「そうじゃ。可能性の話じゃが、別の鎮守府では響という名前の駆逐艦が沈んでいるかもしれぬ。もしくは解体されているかもしれぬ。じゃが、それを我輩が聞いた所で何も思わぬぞ。別の鎮守府の話じゃからな。我輩と何も関わっておらぬ相手の話を聞いても、同情こそはすれど悲しむ事などせんよ。要はどれだけ意味のある共通の時間を積み重ねてきたか、じゃ」

利根「そこで質問じゃ。ありえぬ話じゃが、もし提督が金剛や瑞鶴を解体すると言ったら響はどう思うかの?」



127:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/27(金) 20:23:34.13 ID:bJL9FGiDo

響「嫌な気分になる。それと同時に抗議するね」

利根「そうじゃろう? それはあの島で共に暮らしてきているからではないか? 色々と思い出があるからじゃろう?」

響「……うん。たぶんそうかもしれない」

利根「うむ。では更に質問じゃ。そんな響は、本当に心の冷たい艦娘かの?」

響「……………………」

利根「…………」

響「……でも、姉妹艦だよ」

利根「うん?」

響「下田鎮守府では暁たち姉妹艦も居た。部屋も違ったし、話した事もほとんど無かった。けど、姉妹艦だ。それでも私は少し嫌な気分になりはしても、辛いって思わなかった。これは心が冷たいんじゃないの?」

利根「そうかのう。少しでも嫌な気分になったのならば普通じゃと我輩は思うぞ。というよりも、それは長門と何が違うのじゃ? 長門はああいうキャラじゃから少しでも弱い所を見せると印象的じゃろう。それでも、長門の感じた『思う所』と響の思うた『嫌な気分』に大きな差は無いと思うぞ?」

響「じゃあ元司令官の事はどうなの。私はあんな人でも好きだって思ってた。今の司令官に優しくしてもらって、普通の艦娘として接して貰っているから異常だったって思えるけど、かつては好きって思っていた人が死んでも何とも思わないのは──」

利根「どうしてそんなに『自分は冷たい』と決め付けたいのじゃ?」

響「──え?」

利根「我輩にはそういう風に見えるぞ? 自分は冷たい艦娘じゃーって決め付けようとアレコレ言っているようにしか聞こえぬ」

響「……………………」

利根「何か理由はあるのじゃと思うが、そんなに自分を卑下せんでも良かろう?」

響(……言われてみると、どうして私はこんなに自分を責めてるんだろ)

利根「その顔を見るに、気付いていなかったようじゃな。……原因が何かは分からぬが、ゆっくり自分と向き合ってみると良いかもしれぬぞ」

響「……うん。そうしてみる」

利根「うむうむ。さて、それでは響はこれからどうするのかの?」

響「司令官の傍で寝たい」

利根「ハハハハッ! なるほどそうきたか! うむ、それも良いじゃろうな!」

響「じゃあ、今日も利根さんと一緒だね」

利根「あー……それじゃが、今夜は我輩一人じゃ。今夜だけじゃが我輩の席は金剛に譲っておるからのう」

響「……へぇ」

響(前々から思ってたけど、利根さんって色々と強いね。私だったら嫉妬しそうだ)

響(……嫉妬?)

利根「それでは、戻るとしようかのう。悩みは少しくらい晴れたかの?」スッ

響「うん。スパスィーバ」スッ

響(ああ……そっか。私、司令官の事が──)

響(──いや、これは口にしないでおこう。ひっそり……うん、ひっそりと想うだけで良い)チラ

利根「~♪」トコトコ

響(それだけは許してね、利根さん)

…………………………………………。



128:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/11/27(金) 20:24:01.21 ID:bJL9FGiDo

ガチャ──パタン

金剛「!」ビクッ

利根「戻ったぞー」トコトコ

響「ただいま」トコトコ

提督「おかえり」

金剛「…………」スッ

利根「む? どうしたのじゃ金剛? さっきのままでも良いのじゃぞ?」

金剛「えっと……それは、その……」

利根「言うたではないか。今夜だけじゃ、と。我輩の事を考えてくれるのは嬉しいが、今はお主が一人でも立てるようになるべきじゃろ」

金剛「…………」ジー

利根「?」

金剛「……ありがとうございマス」ソッ

利根「うむ!」

提督(……なんだかんだで利根も成長しているものだ)ナデナデ

利根(うむうむ。提督もしっかり頭を撫でておる。今はそうするのが良いじゃろう)

コンコンコン──ガチャ──パタン

響「お疲れ様、救護妖精さん」

救護妖精「うんありがと。……ん? あれ、瑞鶴はどしたの?」

提督「今頃は翔鶴の所に居るはずだ。少し事情があってな、今日と明日はこの部屋に居ないかもしれん」

救護妖精「あー……なんとなく察しがついたよ。まあ、仕方ないかねぇ。明日になったら翔鶴の居る部屋に行ってみるよ」

提督「助かる」

救護妖精「そんじゃ利根と金剛、寝る前の検査するから隣の部屋へ来てくれるかい」

利根「うむ、良い結果が出ると良いのう」

救護妖精「どういう結果が出るのか想像するまでもないね」

利根「む。我輩とて早く良くなるよう身体は労わっておるのじゃぞ?」

救護妖精「だったら執務なんて投げ捨てて大人しく寝ていな」

利根「むむ。むむむむ……困ったぞ。反論が出来ぬ」

救護妖精「まったく……」

救護妖精(……ま、命があるだけ良かったってものかね。いつかは治るんだから)

救護妖精「さっさと治してそこら辺を走り回れるようにしなよ」

利根「うむ!」

金剛「ハイ」

…………………………………………。



140:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:29:28.09 ID:LwV9gPUqo

提督「──ふむ。あの騒動で本部に連絡する事は粗方終わったな」サラサラ

利根「後は鎮守府の再建と金剛と響のケアだけじゃな」カリカリ

提督「お前の身体の全快を忘れるな」サラサラ

利根「忘れておらぬよ。じゃが、こればっかりはどうしようもないじゃろう?」カリカリ

提督「執務をこなさずにベッドの上で大人しくしていれば、もっと早く治るだろ」サラサラ

利根「残念ながらそれは出来ぬ相談じゃな。ずっとベッドの上では精神的に辛くて治るのが遅くなりそうではないか?」カリカリ

提督「なるほど、そう返すか」スッ

利根「ほれ、こっちも終わったぞ」スッ

提督「だいぶ早くなったな。日付が変わる前に終わるのは珍しい」

利根「ふふん。我輩も成長しておるという事じゃ。ほれ、文字を書くスピードも上がって字も綺麗になったじゃろ?」

提督「そうだな。初めの頃と比較したいくらいだ」

利根「それも良いのう。我輩がどれだけ成長したのかが分かるぞ」ゴソゴソ

提督「別の方も成長しているようだ」

利根「そうじゃろうそうじゃろう? 頑張ったのじゃ!」ゴソゴソ

提督「初めは書類の見分け方すら分からなかったお前が、今じゃしっかりとした秘書だ。嬉しいものだ」

利根「見分け方どころか書く事すら酷いものではなかったか」パラパラ

利根「ほれ、これが当時のじゃ。小さな子供が書いたかのような字じゃなぁ」スッ

提督「今でなら汚い字と言えるな」

利根「うむ。……自分で言うのもアレじゃが、よくまあここまで綺麗になったものじゃ」

提督「字をあまり書かないから汚かったのであって、綺麗な字を書く素質はあったという事か」

利根「そうだと良いのう」

提督「利根は違うと思うのか」

利根「単純に我輩は他の人の綺麗だと思うた字をちょこっと真似ただけじゃからな」

提督「そうか。だが、それでも字が上手くなる者とならない者で違いは生まれるんじゃないか?」

利根「ふーむ……そういう事にしておくかのう。──それよりも、金剛と響がそろそろ来る頃じゃな」



141:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:29:59.24 ID:LwV9gPUqo

提督「ああ。今日は珍しく仕事の話をしなくても良い時間になるぞ」

利根「本当に珍しいのう。こんなのは初めてではないか?」

提督「初めてではないが、滅多に無い事だ。お前も今日はゆっくりとティータイムを楽しむと良い」

利根「ティータイムか。似合わぬのう」

提督「どうした。そんなにティータイムが嫌いか?」

利根「そんな事は微塵にも思っておらぬぞ。──さて、金剛が準備しやすいように我輩は準備の準備をしておこうかのう」スッ

提督「ふむ?」

提督(……珍しく利根の言っている意味がいまいち分からなかったな。ティータイムが似合わない……? …………まあ、そこまで深く考えなくても良いか)

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

響「こんばんは、司令官、利根さん」トコトコ

響「…………」ソッ

金剛「お疲れ様デス」

利根「うむー! 来たかー! 金剛よー、準備の準備はやっておいたぞー」

金剛「分かりまシター。……あれ? 今日の執務は終わったのデスか?」スッ

提督「ああ、ついさっきな」

金剛「利根も成長していっているのデスね」スタスタ

利根「そうじゃ。我輩も少しずつじゃが育ってきておるようじゃぞ」

響(……利根さんも変わってきてるんだね)スッ

提督「ん? 今日はくっついていなくて良いのか、響」

響「うん。ある程度は大丈夫になってきてるからね。これからは少しずつ慣れて行こうと思うよ」

提督「そうか。偉いな」ナデナデ

響「ん……」



142:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:30:42.29 ID:LwV9gPUqo

コンコンコン──

提督「む? 入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー提督さん、みんな」

提督「瑞鶴か。珍しいな」

瑞鶴「うん、最近は来てなかったからね。なんだか来たくなっちゃったの」

提督「そうか。──今、利根と金剛がティータイムの用意をしている。一緒に楽しむか」

瑞鶴「うん!」

響「……瑞鶴さん」

瑞鶴「? どうしたの、響ちゃん?」

響「瑞鶴さんは、もう大丈夫なの? あの鎮守府の事」

瑞鶴「あー……んー……。大丈夫って言ったら大丈夫だけど、思い出したらやっぱりちょっと……って所はあるかしらね。だけど、それくらいかしら」

響「……強いね」

瑞鶴「そういうんじゃないって。たぶん、私はちょっとドライなだけよ」

提督「ドライの割にはここへ来てくれたようだが?」

瑞鶴「……うーん。じゃあ、なんて言うのかしら」

提督「さてな。ドライではないとだけ私が保証しておこう」

瑞鶴「そっか。うん、そうしておくわ」

瑞鶴(なんというか、ホント優しいわよねー。……でも、言葉だけでも嬉しいな)

利根「──金剛よ。気になったのじゃが、どうして湯は沸騰しきらねばならんのじゃ?」

金剛「それはデスね、紅茶は少しでも温度が低いと美味しく抽出が出来ないのデス。五度違うだけで味がかなり変わってくるデース」

利根「ふむふむ、なるほどのう」

提督(今度はお茶か。……本当、色々な事を覚えようと頑張っているな)

…………………………………………。



143:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:31:10.88 ID:LwV9gPUqo

瑞鶴「じゃあ、また明日ね。お茶とかお菓子とか美味しかったわ」

響「おやすみ、司令官」

金剛「グッナイ、テートク、利根」

提督「ああ。また明日も頼む」

利根「良い夢を見るのじゃぞー」

ガチャ──パタン

提督「さて、私達もそろそろ寝るとしようか」

利根「うむ、そうしようかのう」

提督「もうすっかりとここで寝るのが当たり前になったな」

利根「何年もずっと一緒に寝ておったからのう。もはやこうでなければ熟睡できぬようになったぞ」

提督「もう三年になるからな」

利根「じゃのう。随分と長いようで短いものじゃ」

提督「時間の流れなんてそんなものだ。存外に時間というものは速く流れていく」

利根「本当じゃ。我輩も随分と物事を覚えてしもうた」

提督「そうだな。そこでだ利根。お前が頑張ってきているのを私は良く知っている。希望するなら何かを与えようかと思う」

利根「なぬ? それは本当か?」

提督「ああ。何か欲しい物はあるか?」

利根「欲しいモノ……のう。あるにはあるが……」

提督「そうか。ならば言ってみろ。問題が無ければ取り寄せるぞ」

利根「ふーむ……じゃが、のう……」

提督「歯切れが悪いな。そんなに難しい物なのか?」

利根「難しいと言えば難しい。いや、とびきりに難しいやもしれぬ」

提督「ふむ。まあ、言ってみろ」

利根「……うむ。そうじゃのう。ダメ元で言ってみるかの」チラ

提督「ん? 私の手を見てどうした?」

利根「…………すぅ……はぁー……」

利根「……提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」



144:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:31:45.39 ID:LwV9gPUqo

提督「……む?」

利根「えーっとじゃな。……ほれ、左手の薬指じゃ。暇そうにしておるではないか」

提督「……なるほど、そういう事か」

利根「そういう事じゃ。……のう? とびきりに難しかろう?」

提督「そうでもないな」

利根「そうじゃろう? …………む? 今なんと言った?」

提督「そうでもないと言ったが?」

利根「……いや、我輩が言うのもアレじゃが、良いのか? 我輩じゃぞ?」

提督「何が言いたいのかは分からんが、お前だから良い。一緒に風呂やベッドに入っているのはなぜだと思っていた」

利根「……なんと。なんとなんと」

提督「意外だったか?」

利根「かなりの。……しかし、思うてみれば当たり前のようにしておった風呂や就寝も、普通では一緒にせぬな」

提督「今頃になって気付いたか。よっぽどあの島で常識が失われていたらしい」

利根「みたいじゃな……。それと……少し気になった事があるぞ」

提督「なんだ?」

利根「……夫婦になったとして、何か変わるのかのう?」

提督「……………………」

利根「……………………」

提督「……変わりそうにないな」

利根「じゃな……」

提督「強いて言うならば、加賀辺りが酷く落ち込みそうだというくらいか」

利根「想像に容易いのう……」



145:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:32:50.61 ID:LwV9gPUqo

提督「それと、私とお前の指に指輪が嵌められるという事だろう」

利根「指輪……」チラ

提督「どうした」

利根「いや……改めて指輪と言うと、なんだか少し気恥ずかしくなっての」

提督「ほう。ならば指輪は要らんか?」

利根「いぢわる者め。欲しくない訳がなかろう」

提督「クックッ。そうだな。欲しくない訳がない。──だったら、本部へ送る申請書を書いておこう」スッ

利根「のう、指輪は種類などあるのか?」チラ

提督「いや、一種類しかない」サラサラ

利根「なんじゃ……。選択肢など無いのじゃな」

提督「今は深海棲艦と戦争中なんだ。指輪に金属を回してくれるだけありがたいものだろう」サラサラ

利根「それもそうじゃな。最近、めっきり深海棲艦と戦うどころか普通に話しておるから麻痺しておった」

提督「……戦う事になった時に影響を出すなよ?」

利根「その点は弁えておる。安心するが良いぞ」

提督「そうか。ならば良し」サラサラ

利根「あ、そうじゃ! 我輩、結婚したら二人でピクニックに行きたいぞ!」

提督「ピクニック? 遠くへは行けんぞ」サラサラ

利根「鎮守府の目の前に山というか丘があるじゃろう? そこではダメか?」

提督「……まあ、そこならば大丈夫か」サラサラ

利根「やったぞ! 決まりじゃな!」



146:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:35:05.17 ID:LwV9gPUqo

提督「随分と慎ましい新婚旅行だな」サラサラ

利根「我輩にとっては充分な旅行じゃぞ。何せ、陸で鎮守府以外の場所に行く事なぞほぼ無いからの」

提督「それもそうだな。──よし、後は本部へ送るだけだ」

利根「なんだか少しドキドキしてきたのじゃ……!」

提督「初心な奴め。散々お互いに裸も見ているだろうに」

利根「それとこれとは別なのじゃー。結婚じゃぞ、結婚」

提督「そうだな。──さて、朝に送る書類へ組み込む為にもさっさと寝るぞ」スッ

利根「うむ! 分かったのじゃ!」タタタ

利根「何をしておる提督よ、早く来ぬかー」ポンポン

提督「そんなにベッドを叩かんでも良いだろう。すぐに行く」スタスタ

利根「ふふん。楽しみじゃからなー」

提督「結婚書類を出す事に興奮して寝れなくなる姿が目に浮かぶ」ギシッ

利根「……本当にそうなりそうじゃ。じゃが、この高鳴る気分を止める事なぞ難しいぞ」モゾモゾ

提督「すぐに寝られるように頭を撫でてやるから寝ろ」ナデナデ

利根「どうせなら抱き締めてくれぬか」

提督「注文の多い嫁だ」ソッ

利根「少しだけじゃから許してくれぬか」ギュゥ

提督「このくらいならば注文がある方が嬉しいものだ」

利根「……夢みたいじゃなぁ」

提督「夢はこれから見るものだ。──さて、良い夢を見ろよ、利根」

利根「うむ! おやすみじゃ、提督よ」

提督「ああ、おやすみだ、利根──」





──── 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 Normal End────




147:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/14(月) 19:38:32.91 ID:LwV9gPUqo

以上で三つのエンディングの内のノーマルエンドが終わりです。残りのトゥルーとIFも後日に投下していくのでお楽しみ下さいませ。

なんとか一つのルートは今年中に終わった。後二つのルートや。頑張る。



148:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/12/14(月) 19:39:39.27 ID:wxrqokEY0


残りのルートも無理せずに頑張ってください



155:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:49:07.53 ID:G0gfHGYMo

前スレ922からルート分岐します。
状況としましては瑞鶴と響が提督の艦娘として皆と紹介し、金剛さんはまだ提督室の隣でひっそりとお菓子を作っている辺りです。ついでにヲ級の意外な料理の才能が芽生えてきた辺りでもあります。

投下していきますね。



156:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:49:40.94 ID:G0gfHGYMo

利根「…………」コックリコックリ

提督(ん? ──ふむ。もうそんな時間か)チラ

飛龍「……提督、利根さんをどうしますか?」ヒソ

提督「寝かせてやろう。何年もこのくらいの時間には寝ていたんだ。眠くなるのも仕方が無い」ヒソ

飛龍「分かりました。毛布を取ってきますね」ヒソ

提督「いや、ベッドで寝かせてやろう。このままでは寝ても疲れる」ヒソ

飛龍「……………………」

提督「……すまんな」ポン

飛龍「いえ……大丈夫、で──あっ」

利根「…………」ゴンッ

利根「むがっ……!?」パチッ

提督「む。起きてしまったか」

利根「す、すまぬ! 寝てしまっておった! むぐぐ……ど、どこまでやっていたのか……!」

提督「利根、今日はもう寝てしまえ」

利根「いや、出来る所までやるぞ。提督も忙しいじゃろ」

提督「ならばこう言おう。その状態でどれだけの事が出来る。ミスは限りなく減らせるか?」

利根「む……む、むぅ……」

提督「いつもならばこのくらいの暗さになっていると寝ていただろう。無理はするな」

利根「むう……むむむむむ……」

提督「……珍しく聞き分けが悪いな」

利根「……我輩が頑張れば、その分だけお主が楽になるからじゃ」

飛龍(ああ、だから頑張っているんですね)

提督「体調を崩してしまえばその分だけ負担が掛かるぞ。それに、この調子ならば時間はまだある。心配するな」

利根「……………………」

提督「まだ理由が必要か?」

利根「…………むぐぅ……。分かった……。この一枚を最後にするのじゃ……」スッ

提督「そうしておけ」



157:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:50:25.07 ID:G0gfHGYMo

利根「提督は眠くないのかの?」カキ

提督「少しだけだ。寝ようと思えば寝られる程度といった所か」ペラ

飛龍「提督も無茶はしないで下さいね?」カリカリ

提督「ああ。飛龍、お前もな」ペラ

利根「……よし、終わりじゃ。飛龍、ここまで進めておいたぞ」スッ

飛龍「ふむ……分かりました。ゆっくり休んで下さいね?」

利根「すまぬ。後は頼む……」トコトコ

利根「おやすみじゃー……」モゾモゾ

飛龍(あれ……。当然のように提督のベッドへ入りましたね……)チラ

提督「…………」ペラ

飛龍(提督も気にしていない様子ですし……それがもう当たり前なんですかね……?)

飛龍「……良いなぁ」ボソッ

提督「……………………」

提督「利根、すまんが自分の部屋で寝てくれるか」

利根「ぬ?」

提督「時と場を弁えろと言っているんだ」

利根「む、そうじゃった。すまぬ」モゾモゾ

利根「では、また明日じゃ提督、飛龍よ」

提督「ああ、良い夢を」

飛龍「おやすみなさい」

ガチャ──パタン

飛龍(利根さんって、本当に提督と一緒に居るのが当たり前になってるんだなぁ……)

提督「飛龍」

飛龍「? 何ですか?」

提督「さっきの事だが、一応釘を刺しておく。誰にも言わないでくれ。私の注意不足だ」

飛龍「え、は、はい……」

飛龍(注意不足……? どういう事ですかね……?)

提督(……この書類に集中していて、利根がベッドに入るのを何とも思わなかったとは。私も島暮らしで色々と鈍ったという事か……)

飛龍「…………」カリ

提督「…………」サラサラ



158:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:50:51.28 ID:G0gfHGYMo

飛龍「……あの、提督」

提督「どうした」サラサラ

飛龍「……………………」

提督「……む?」

飛龍「……だ、誰にも言いません。だから……教えてくれますか? 利根さんの事をどう思っているのかを」

提督「気になるか」サラサラ

飛龍「はい……」

提督「そうだな。近くに居て当たり前の存在にはなっている。流石に三年近く片時も離れる事がなかったらそうなるだろう」サラサラ

飛龍「……そこに恋愛感情はありますか?」

提督「恋愛感情……。難しいな。それに関しては何とも言えん。少なくとも、さっきの利根の行動を見て何とも思わなかった点を考えると普通ではないと言えるが」

飛龍「…………」

提督「……飛龍、お前も今日は寝てしまった方が良い」

飛龍「え……?」

提督「そんな状態では仕事に手が付かないだろう。後の事は私に任せて──」

飛龍「…………」ジワ

提督(ああ……やってしまった……。今の飛龍に今の言葉はマズかった……。飛龍にとっては今の時間が特に大切だというのに……)

飛龍「……ごめんなさい。確かに、このままではお仕事になりませんね……」フイッ

提督(そんな急いで顔を隠しても、もう涙が見えてしまっているのは分かっているだろうに……)

飛龍「後の事……お願いします……」スッ

提督「──待て、飛龍」

飛龍「…………はい」

提督「振り向かなくて良い。そのままの状態で立っていろ」スッ

飛龍「……………………」



159:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:51:42.39 ID:G0gfHGYMo

提督「悪かった……。そんな気持ちにさせてしまったのは私のせいだ」ポン

飛龍「…………っ」

提督「私が寝るまでの間はこの部屋で好きにして良い」ナデナデ

飛龍「……何でも、ですか?」

提督「ある程度までだがな」

飛龍「では……隣に、居させて下さい……」

提督「ああ」スッ

飛龍「…………」スッ

提督「…………」

飛龍「…………」

提督「…………」サラサラ

飛龍「…………」

提督「…………」サラサラ

飛龍「……お茶、淹れてきますね」スッ

提督「……ああ」

提督(どうしてやれば良いものか……)

…………………………………………。



160:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:52:09.09 ID:G0gfHGYMo

飛龍「…………」カリカリ

提督(結局、仕事をするという形で落ち着いたか。顔付きも多少は良くなっている。──とは言っても、もう終わってしまうのだが)サラサラ

飛龍「……提督、こちらは終わりましたよ」スッ

提督「ああ。こっちももう終わる。──いや、終わった」スッ

飛龍「お疲れ様です。纏めておきますね」スッ

提督「……ああ」

飛龍「……大丈夫ですよ。そんなに気にしないで下さい。ちょっとだけ私の弱い部分が出ちゃっただけですって。朝になれば、またいつもの私に戻りますよ」

提督「……………………」

飛龍「もう……真面目なんだから」スッ

提督「…………」

飛龍「……頭、撫でてくれますか? それで今回の事は水に流せますから」

提督「……こんな事で良いのか」ナデナデ

飛龍「これだから、ですよ。小さい子以外に提督が頭を撫でるなんて事、ほとんど無いじゃないですか。……私にとって、こうやって頭を撫でてくれるのは凄く嬉しい事なんですよ?」

提督「……そうか」ナデナデ

飛龍「そうなんですっ。…………はぁー……やっぱ良いなぁこれ」

提督「…………」ナデナデ

飛龍「……うん、ありがとうございました」スッ

提督「もう良いのか?」

飛龍「ええ! もう元気一杯ですよ!」

提督「……………………」

飛龍「?」

提督「……すまんな。気を遣わせてしまって」

飛龍「あちゃ……バレましたか」



161:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:52:51.89 ID:G0gfHGYMo

提督「なんだかんだでお前は私の事をよく理解しているからな。私が何を思っているのかなど、お前はお見通しなのだろう?」

飛龍「全部が全部って訳じゃありませんけどね。表情とか声とか、そういう小さな変化に気付くだけです」

提督「私はポーカーフェイスだと思っていたのだが」

飛龍「ええ。でも、完璧じゃあないですよ? ほとんど感覚に近いですけど、ちょっとだけ違うっていうのは分かります」

提督「……特訓でもして完璧に近付けるべきだろうか」

飛龍「だったら私も特訓をして、もっと分かるようにするだけです」

提督「お前へ負担を掛けたく無いのだが……」

飛龍「ちっとも分からない方が負担になっちゃいます」

提督「……そうか。ならばこのままの方が良いな」

飛龍「逆に、私のやっている事が提督の迷惑になっていないかって思うくらいです。ほら、隠しているのに今何を思っているのかを知られちゃうなんて良くない事もあるじゃないですか」

提督「私は気にしていないからその点は心配するな。例外などお前一人だけだからな。飛龍が黙っていてくれるのならば知られていないとほぼ同義だ」

飛龍「……えへへ」

提督「なぜ笑った……」

飛龍「いえ、ただなんとなく嬉しく思っただけですよ」

提督「……そうか」

飛龍「そうなんです。でも、提督も辛い時は私達を頼っても良いんですよ?」

提督「限りなく善処するよう考える努力をしておく」

飛龍「もうそれ、やらないって言っているようなものじゃないですか……。メッ、ですよ」

提督「だがな……」

飛龍「むしろ、私達はそれで心配する事もあるんですからね? 少しくらいは吐き出しちゃって下さい」

提督「むう……」

飛龍「考えてくれるだけでも良いですから、ね? ──さて、そろそろお休みにならないといけませんね。もう後少しもすればマルフタマルマルです」

提督「ああ。良い夢を見ろよ、飛龍」

飛龍「私はバッチリですよ! 提督も良い夢を見て下さいね」

提督「私は夢をほとんど見ないから、それは難しいだろう」

飛龍「もう……。──おやすみなさい、提督」

提督「おやすみだ」

ガチャ──パタン

提督(……今度、何か甘い物でも渡しておくか。本当、苦労を掛けさせてしまうな……)

……………………
…………
……



162:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:53:34.78 ID:G0gfHGYMo

金剛「…………」

金剛(流石に少し暇になってきまシタ。……そういう時はベッドで横になるのが一番デス)ギシッ

金剛「んー……♪」コロン

金剛(なぜかは分かりまセンが、このベッド、とても気分が良くなる時があるデス。何か特別な何かがあるのデスかね?)

金剛(誰かに護られているというか……そんな不思議な気分デス)

コツッ──コツッ──コツッ──

金剛(! テートクですか?)ガバッ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「元気にしているか」

金剛「イエス。コンディションはグッドデース」

提督「そうか、良かった。……すまんな」

金剛「何がデ──」

金剛(ああ……間宮が言っていた『私をここへ押し込んだと思っている』の事デスか)

金剛「問題ナッシング。これからはテートクの艦娘として頑張れるデス!」

提督「…………」ポン

金剛「?」

提督「ありがとうな、金剛」ナデナデ

金剛「────────」

金剛「──はい。ありがとうございます、テートク」ニコ

提督「…………」ピタッ

金剛「? どうしたデスか?」

提督「…………」

飛龍(──私達を頼っても良いんですよ?)

金剛「…………?」



163:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:54:09.99 ID:G0gfHGYMo

提督「……いや、少し思い出してしまっただけだ」スッ

金剛「……辛いデスか?」

提督「それなりにはな……。だが、いずれこの痛みも和らぐだろう。新しい思い出と記憶によって痛みは悲しみだけとなり、やがて寂しい気持ちへとなってくれる」

金剛「前へ進んでいるならば、変わりマスからね」

提督「ああ。前へ進んでいる証拠だ」

金剛「どうか、忘れないであげて下サイね?」

提督「勿論だ。──話は変わるが、明日は金剛を正式にこの鎮守府の艦娘とする予定だ。その上の話だが、初めは多少の手を抜くという事を頼む」

金剛「着たばかりなのに強いのはストレンジだからデスか?」

提督「そういう事だ。いくら戦艦だからとは言っても、私達が向かう海域は錬度が足りない艦娘によるゴリ押しは出来ないような所だからな」

金剛「了解デース。フォローできるようなミスを少しするように心掛けマス」

提督「それと……初めはあまり良い空気が流れないと思う。その事は覚えておいてくれ」

金剛「……覚悟はしていマス」

提督「どうしても辛かったら言うんだぞ?」

金剛「イエス。その時はテートクを頼りにするデス」ニコ

提督「では、もう一日だけ我慢していてくれ。後で瑞鶴と響が来るはずだから、少しは寂しくなくなるだろう」スッ

金剛「あ、待って下サイ」ヒョイ

提督「うん?」

金剛「今回はクッキーを焼いてみまシタ。ティータイムの時にお茶菓子として皆と食べて下サイ」スッ

提督「……悪いな。ありがとう」スッ

金剛「今の私はこのくらいしか出来まセン。少しでも皆さんの、そしてテートクのお役に立ちたいデス」

提督「充分だよ」ポンポン

金剛「他にも何か出来る事があったら言って下サイね?」

提督「ああ。──では、私は戻る」

金剛「行ってらっしゃいませ」

ガチャ──パタン

金剛「……明日、デスか。大丈夫……きっと、大丈夫デスよね」

…………………………………………。



164:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:55:00.89 ID:G0gfHGYMo

提督「──本日の任務は以上だ。加えて、この鎮守府に新しくやってきた艦娘を紹介する。……入ってきてくれ」

比叡「ッ──!!」

榛名「────────」

霧島「…………」

金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! よろし……」

全員「……………………」

金剛「…………く……」

金剛(……やっぱり、混乱しているようデス。どうしまショウか……)

長門(やはりこうなるか……)

比叡「……司令、一つよろしいですか」

提督「……許可する」

比叡「嫌な予感はしていましたけど、これは一体どういう事ですか?」

提督「見ての通りだ」

比叡「また……私は一緒に出撃しなければならないんですか……!」

提督「……行く行くはそうするつもりだ」

比叡「っ!!」グッ

霧島「比叡!?」

パァンッ──!

提督「…………」

比叡「…………!」ギリッ

金剛「ひ、比叡……?」

比叡「!」ハッ

比叡「……すみません」

提督「予想はしていた。グーでなかっただけ良かったと思っている」ポン

比叡「…………」



165:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:55:28.37 ID:G0gfHGYMo

提督「お前がどれだけ金剛の事を慕っているのかは分かっているつもりだ。……この後、執務室へ来るように。利根と飛龍は午後から執務に入ってくれ」

利根「わ、分かった」

飛龍「……はい」

比叡「……………………」

提督「良いな、比叡?」

比叡「……分かりました」

提督「よろしい。──榛名と霧島は金剛にこの鎮守府の案内を頼んで良いか?」

榛名・霧島「は、はい!」

提督「頼む。……色々と話しても構わん」

榛名「提督……」

提督「以上だ。朝礼は終わりとする」ツカツカ

比叡「…………」トコトコ

金剛「……テートク」

提督「なんだ?」

金剛「どうか……お手柔らかにお願いしマス」

提督「勿論だ」ツカツカ

金剛「…………」

榛名「……あの」

金剛「……ハイ」

霧島「これから、この鎮守府の案内をしますね。……それと一緒に、なぜ比叡があんな行動を取ったかの説明もします」

金剛「分かりまシタ。お願いするデス、榛名、霧島」

榛名「お任せ下さいね。……金剛、お姉様」

金剛(……これは、予想以上に受け入れられるのが難しいかもしれまセンね)

金剛(無理もないのは分かりマスが……少し、辛いものがあるデス……)

…………………………………………。



166:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:55:57.94 ID:G0gfHGYMo

ガチャ──パタン

提督「さて比叡」

比叡「……はい。どんな罰も受けます」

提督「そうか。ならばソファに座れ」

比叡「はい」スッ

提督「さて……お前には話さなければならない事がある」スッ

比叡「…………?」

提督「憶えているかは分からないが、あの金剛や瑞鶴、響は一度会っている」

比叡「会ってる……?」

提督「憶えていなかったか。私と利根が居た島──そこに居た三人があの三人だ」

比叡「……そうですか。──って、あの三人は別の鎮守府の艦娘じゃありませんでした?」

提督「そうだ。三人の希望もあってこの鎮守府に籍を入れる事となった」

比叡「……………………」

提督「私はあの三人を放っておく事が出来ない。共に支え合って暮らしてきた事もある。だから私は受け入れたんだ」

比叡「……もう『前の』お姉様達を、忘れるという事ですか?」

提督「いいや、忘れんよ。……むしろ、細かい部分まで思い出しているくらいだ」

比叡「ならばなぜ……!? 司令はどうして三人を受け入れようと思ったんですか!?」

提督「……三人に頼まれたから──というのもあるが、言われた事もあるからだ」

比叡「何をですか……?」

提督「もし自分達が沈んだ立場だったら……立ち止まらず、忘れずに前に進んで欲しい」

比叡「────────」

提督「私に付き従ってくれていた三人だったら、確かにそう言うだろうと思ったよ。いつまでも過去に囚われていて身動きが取れなくなっている姿を見せたら悲しまれそうだ」

比叡「…………」

提督「お前はどう思う、比叡」



167:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:56:27.84 ID:G0gfHGYMo

比叡「……私は…………」

提督「……………………」

比叡「…………いえ。私も、お姉様達に囚われないようにしなくちゃいけないかもしれませんね」

比叡「そもそも、私たち艦娘はいつも死と隣り合わせなんです。どれだけ錬度を積み重ねても、圧倒的な暴力の前では沈むのも当たり前です。……どうしてでしょうかね。いつの間にか、心の底では沈まないって思っていました」

比叡「いえ、何があっても、司令ならば沈ませないって思ってしまってました」

提督「…………」

比叡「……でも、私達がやっているのは戦争です。むしろ、お姉様達が沈むまで誰一人として欠ける事が無かったのが奇跡だったんです」

比叡「沈ませているのだから沈む事もある。総司令部からの伝達でも毎月に何人も何十人も沈んでいるってあったのに……本当、沈むのなんて当たり前の事だったんですよ」

比叡「それが……たまたまお姉様達だっただけの話なのに……」ジワ

提督「……比叡」

比叡「!」ゴシゴシ

比叡「──引っ叩いてごめんなさい、司令。私は、もう大丈夫です! 改めて罰を与えて下さい」

提督「…………」スッ

比叡「? どうかしましたか、しれ──」ポン

提督「……今まで耐えてくれてありがとう、比叡」ナデナデ

比叡「ぇ────」

提督「…………」ナデナデ

比叡「…………」ジワ

提督「…………」ナデナデ

比叡「ぅ、ぁぁ……」ポロポロ

比叡「酷い……酷いですよぉ……! 司令は厳しくしていれば良いんです……! 優しくするのは、金剛お姉様にだけで良いんですよ……!」ポロポロ

比叡「なんでいつもみたいに吊るそうとしないんですか……! なんでいつもみたいに、罰を与えようって……言わないんですかぁ……。なんで……なんで……?」ポロポロ

提督「今のお前に罰を与えるほど鬼ではないつもりだ」ナデナデ

比叡「うあぁぁ……ぁああぁぁぁ……」ポロポロ

…………………………………………。



168:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:56:59.46 ID:G0gfHGYMo

比叡「…………」

提督「落ち着いたか?」

比叡「……司令に泣き顔見られました」

提督「まあ、そういう事もあるだろう」

比叡「なんだかすっごく恥ずかしいです……」

提督「そうか」

比叡「……司令もなんだかんだで寂しそうな雰囲気だった癖に、いつもの調子に戻ってますし」

提督「宥めていた側だからな」

比叡「……もー」フイッ

提督「…………」

比叡「…………」チラ

提督「お前も、受け入れてくれるか?」

比叡「……時間が掛かりますよ」

提督「いくらでも掛けて良い。前に向かってくれるのならば。私も前に進む」

比叡「…………はい。私、頑張ります!」

提督「ああ、頼んだぞ」

比叡「少しずつ、ですけどね」

提督「金剛も分かってくれるだろう。悪い子ではない」

比叡「そうですよね! なんたって『金剛お姉様』には違いないのですから!」

提督(……言っている意味はなんとなく分かるのだが、艦娘と人間の感性の違いだろうか)

比叡「どうかしましたか、司令?」

提督「いや、特に。──では、戻って良いぞ比叡」

比叡「はいっ! 今回はお話が出来るように頑張ります!」

提督「ああ」

提督(……私も、しっかりと心の整理をしなければな)

…………………………………………。



169:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 14:57:35.43 ID:G0gfHGYMo

提督(……さて、二人が来る前に少しは仕事を進めておくか)スッ

コンコンコン──

提督「む? 入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「失礼します」

提督「どうした飛龍。執務は午後からだぞ」

飛龍「では、どうして書類が広がっているんですかね?」

提督「多めに時間を取っていたからな。比叡が退室すれば執務もする」

飛龍「そうするだろうと思って来たんですよ、提督」

提督「なるほどな。……利根はどうした?」

飛龍「……えーっと…………」

提督「内緒で来たという事か」

飛龍「……はい」シュン

提督「……まあ、理由は察している。口裏は合わせておくから、利根が来ても少し前に来たばかりと言っておけ」

飛龍「──はい!」スッ

提督「しかし、お前も不思議な子だよ」サラサラ

飛龍「何がですか?」カリカリ

提督「色々な意味で、だ」サラサラ

飛龍「もう……なんですかそれ」カリカリ

提督「だから、色々な意味でだ」サラサラ

飛龍「むー……」カリカリ



170:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/22(火) 15:00:02.34 ID:G0gfHGYMo

提督「ところで飛龍、わらび餅をどう思う?」サラサラ

飛龍「唐突ですね。透明でぷにぷにしているという話は聞いた事がありますけど、実際には見た事が無いのでなんとも……」カリカリ

提督「そうか。やはり、間宮に聞いた方が良いな」サラサラ

飛龍「気になるんですか?」カリカリ

提督「少しな。砂糖を使わない物もあると耳にしてな」サラサラ

飛龍「へぇー……。という事は、提督も食べられる可能性があるって事ですか」カリカリ

提督「そうなるな」サラサラ

飛龍「……私も少し気になってきました」カリカリ

提督「そうか。それは良かった」サラサラ

飛龍「ん? んんん?」

飛龍(どういう意味だろ?)

提督(少し考えれば気付くだろうが、仕事に集中させて有耶無耶にさせておこう)

提督「ほら、無駄話は終わりだ。執務に集中するぞ」サラサラ

飛龍「えーっと……はい」

飛龍(保管している資材は……っと──)

……………………
…………
……



179:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:17:33.72 ID:HhmmbTiJo

飛龍「うーん……」トコトコ

加賀「あら、そんなに唸ってどうかしたのかしら、飛龍?」

飛龍「あ、加賀さん。……実はですね、今日はなんだか嫌な予感がしたんですよ」

加賀「嫌な予感?」

飛龍「ええ。一昨日から今日までが加賀さんと私の航空哨戒じゃないですか。それで違和感が……」

加賀「違和感……? 特に異常だとは思わなかったのだけれど」

飛龍「気にする程ではないかもしれませんが、少し敵の数が増えているような気がしませんか? ほとんど感覚なんですけれど」

加賀「……気にするほど多くなったかしら。でも、言われてみれば多くなっている気もするわね」

飛龍「ですよね? 今までもこういう事はありましたけど、増えている割に対空射撃も大人しい気がしますし、撃墜されている数も記録を見ると減っているんです」

加賀「確かに対空射撃も大人しいかもしれないわ。被撃墜数も少なくなっているのは私も気が付いています。だけど、それは提督が戻ってきた事によるものかと思ったのだけれど……」

飛龍「やっぱり加賀さんもそう思っていますか。……提督に報告してきます。杞憂かもしれませんが、一考するのも悪くないと思いますから」スッ

加賀「そうね。私も一緒に報告するわ」スッ

飛龍「ありがとうございます」トコトコ

加賀「でも、よく気が付いたわね? 私は全く気にしていなかったわ」スタスタ

飛龍「私も書類の数字に注目しなければ気付かなかったと思います。なんだか最近、艦載機の消耗が少ないなって思ってから哨戒して感じたくらいですから」

加賀「なるほどね。私も秘書艦になるよう提案してみようかしら」

飛龍「えっと……たぶん却下されますよ?」

加賀「冗談よ」

飛龍「そ、そうですか……」スッ

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

提督「む? どうした。今は昼の休憩中だろう」

飛龍「提督、報告をしに来ました」

加賀「些細な事かもしれないけれど、耳に入れておいた方が良いと思ったの」

提督「なるほど。何があった?」

飛龍「最近、艦載機の消耗が少ないですよね。哨戒時の被撃墜数が減っています」

提督「ああ、そうだな」

加賀「けれど、ほんの僅かですが深海棲艦の数は増えているように感じます。今までこういう事は何度もあったから異常だとは思わなかったけれど、流石に被撃墜数が減っているというのは少しおかしいわ」

提督「……ふむ」

飛龍「私達の杞憂かもしれませんが、提督はどう思われますか?」

提督「……………………」

提督「……そうだな。確認しておいて損は無いだろう」スッ

加賀「確認、ですか?」

提督「そうだ。あの二人の所へ行くぞ」

…………………………………………。



180:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:18:01.90 ID:HhmmbTiJo

空母棲姫「……これで良いのかしら」

間宮「はい。本当に覚えが早いですね……。もう教える切り方が無くなりました」

ヲ級「こっちも、出来たよ!」

伊良湖「では味見を…………うん! 良い仕上げですよ」

ヲ級「やった!」

提督「──すまないが、邪魔をするぞ」

間宮「あら? 提督さんに……加賀さんと飛龍さん?」

空母棲姫「どうかなされましたか?」

ヲ級「お腹、減ったの?」

提督「いや、そういう訳ではない。空母棲姫とヲ級に頼みたい事があって来たんだ」

空母棲姫「珍しいですね。何があったのですか」

提督「艦載機を飛ばして索敵をして欲しいのだが、頼めるか? 沖合いで少し気になる事があってな。確か、深海棲艦の使う艦載機はどれも人類の技術を上回っているのだろう?」

空母棲姫「……可能な事は可能ですが、それは良くないのでは。私達に兵装を与えるという事と同じです」

提督「何か問題があるか?」

空母棲姫「私達は深海棲艦です。いくらなんでもそこまで許可を与えるのは、目の前の敵に刃物を渡して殺しても構わないと言っているのと変わりません」

提督「常人ならばそう思うかもしれんが、私はお前達の事を信用している。絶対にそんな事をしない、とな」

空母棲姫「……皆もこの方を説得して下さい。流石にそれは行き過ぎだと」

飛龍「……提督は頑固ですからねー。それに、私も悪くはないと思います」

間宮「この機に久し振りに飛ばすのも良いかもしれませんよ」

伊良湖「これだけ一生懸命に料理を作る方に悪い方は居ないですもの!」

加賀「そうね。それに、私もなんだかんだで貴女達の事を信用しているわ。この鎮守府をどうにかしようと考えているのならば、いくらでもチャンスはあったはずよ。食事に劇物を混ぜるとかね。あと、貴女達の料理からも味だけではない温かい何かを感じました」

空母棲姫「……………………」

提督「そういう事だ。どうしても嫌だと言うのであれば無理強いはしないが、ダメか?」

ヲ級「ダメなの、姫?」

空母棲姫「この子まで……。はぁ……どうしてこうなるのでしょうか……」

提督「日頃の行いのおかげだな」

空母棲姫「まったく理解し難いです……」

提督「諦めろ。他の場所では知らんが、この鎮守府ではそういうものだ」

空母棲姫「……本当、馬鹿ばっかりなんですから」

飛龍(あ、なんだか嬉しそう)

提督「決まりだな。出来れば今すぐに索敵をして貰いたいのだが、手は空いているか?」

間宮「はい。丁度さっき一区切り出来たところですので大丈夫ですよ」

提督「そうか。ならば着替えを待つ。その間に工廠へ向かっても大丈夫なルートを確保、並びに工廠の妖精達に事情を説明しておこう」

ヲ級「はーい!」

…………………………………………。



181:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:18:29.78 ID:HhmmbTiJo

開発妖精(……本当に深海棲艦だよねぇ)

建造妖精(ホント……なんでこの深海棲艦は提督さんと仲良しなのー……?)

提督「──さて、どうだ?」

空母棲姫「…………居ますね。非常に嫌な奴が」

ヲ級「レ級……!」

飛龍・加賀「────!!」

空母棲姫「しかも、何やら勢力を蓄えているようです。……正直、相手にしたくない量ですね。数え切れませんが、百や二百なんて数字ではありません」

ヲ級「こんなに、集めて、どうするんだろ……?」

提督「……まさかとは思うが、この鎮守府を狙っているのかもしれんな」

空母棲姫「その可能性は大いにありますね。何せ、貴方や私達はあのレ級と因縁がありますから」

加賀「……提督、どうするの?」

提督「決まっている。先手を取って潰すまでだ」

飛龍「でも……どうやってですか?」

提督「簡単な事だ。総司令部に報告して複数の鎮守府と連携した大規模殲滅作戦を展開すれば良い」

加賀「なるほど。数には数を、ですね」

提督「そういう事だ。今すぐにでも連絡を入れよう。空母棲姫、ヲ級、助かった」

ヲ級「えへー」ニパッ

空母棲姫「……ありがとう、ございます。少しでも時間を稼げれるよう、撹乱させる為の情報を流しておきます」

提督「頼んだ」

提督(まだぎこちないが、礼を言うようになったか。少しは素直になったな)

空母棲姫「──では、索敵機は作戦展開中の艦娘に撃墜されて貰います」

提督「ああ」

開発妖精「えっ!? 捨てちゃうの!?」

建造妖精「思ったよりも資材を使ったから勿体無いような……」

空母棲姫「戻っていく所を見られるのは非常に危ういわ。深海棲艦に近付く時は周辺の索敵から帰ってきたという風に出来るけれど、万が一でも鎮守府に入っていくのを見られたら大問題よ」

開発妖精「……あれ? じゃあ、どうやってここから見付からないように発艦できたの?」

提督「今日の航空哨戒は加賀と飛龍。そして、目視での哨戒は比叡だ。低空で飛ばし、なおかつ事情を知っているからこそ見付からないように出来た事だ。演習も遠征も出ていないしな」

建造妖精「ほえー……」

提督「さて、見付からない内に戻っておこう。開発妖精、建造妖精、邪魔をしたな」

開発妖精「えーと……うん」

提督「どうした?」

建造妖精「深海棲艦とも、仲良くなれるんだなーって思って……」

提督「この二人が特殊なだけだ。他の深海棲艦ならば、まずこうならないだろう」

空母棲姫「ですね。間違いなく攻撃をしてくるでしょう」

開発妖精・建造妖精(深海棲艦にも色々居るんだなぁ……)

……………………
…………
……



182:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:18:56.58 ID:HhmmbTiJo

利根「提督よ、書類の処理が終わったぞ!」

提督「そうか。今日もご苦労だった利根、飛龍」スッ

飛龍「教えた事もしっかりとこなせるようになっていますし、処理速度も充分ですよ」

利根「本当か!? 頑張った甲斐があったのじゃ!」

飛龍(……ええ。寂しいですけど、もう利根さん一人でも秘書として務められそうですね)

飛龍「ですので、明日からはもう利根さん一人でも大丈夫だと思います」

利根「む? 何を言っておるのじゃ?」

提督「その件についてだが、まだ飛龍は執務をこなしてくれ」

飛龍「え?」

提督「執務もそうだが、他にも色々と教える事があるだろう?」

飛龍「それは……あるにはありますけれど、必須とうい訳ではありませんし……」

提督「あと、今回の件でもう少し飛龍には書類に目を通して貰いたいと思った。この二点だ」

利根「む? むむ? 何かあったのかの?」

提督「飛龍が小さな違和感に気付いてくれたおかげで、遠洋で力を蓄えていた深海棲艦の群れを発見できたんだ」

利根「なんと! 大手柄ではないか!」

飛龍「い、いえいえ。そんな……」

提督「いや、利根の言う通りだ。あのまま放っておけば大事になっていたのは間違いないだろう」

飛龍「う……。な、なんだか、恥ずかしいですね……」

提督「くくっ。褒められて恥ずかしがる事はないだろう」

利根(む?)

提督「まあ、そういう事だ。飛龍、利根のサポートを頼んだぞ」

飛龍「……はいっ!!」

利根(ふむ……ふむふむ……)

利根「さて、では我輩はそろそろ部屋に戻るとするかのう」スッ

提督「む? 珍しいな。いつもは時間ギリギリまで居るというのに」

利根「そういう気分の日もあるものじゃ。──では、おやすみじゃ二人とも」フリフリ

提督「ああ。良い夢を見ろよ」

飛龍「おやすみなさい」

ガチャ──パタン



183:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:19:23.67 ID:HhmmbTiJo

飛龍「……本当に珍しいですね。いつもは私と一緒に退室するのに」

提督「利根も一人になりたい日がある、か……まあ、嘘だろうがな」

飛龍「え?」

提督「変な気を遣ったように感じた。何か思う事があったのかもしれん」

飛龍「……何があったのでしょうかね」

提督「そればっかりは私にも分からん。流石に心の内の詳細までは読む事は出来ないからな」

飛龍「うーん……」

提督「考えても分からない事だ。真実は利根にしか分からん。ところで飛龍。飛龍はどうする」

飛龍「え? どうする……とは」

提督「何か雑談でもするか? それとも仕事の終わりに一杯でもやるか?」

飛龍「ああ、なるほど。……んー、そうですねぇ…………どうしましょうか」

提督「なんだ、部屋に戻りたいのか?」

飛龍「そ、そういう意味じゃないです! ……久々に提督とお酒が良いなとは思いましたけど、許してくれるかなって思っただけでして」

提督「構わんぞ。今日は早く終わったからな。明日に影響が出ない範囲であれば私も付き合おう」

飛龍「え、ホントに?」

提督「ああ。近々、大規模な作戦が始まるしな」

飛龍「やった! じゃあ、とっておきのお酒を持ってきますね!」

提督「嬉しそうだな」

飛龍「それは勿論! だって、提督とお酒なんて何年振りか分かりません!」

提督「それもそうだな。もう三年以上か」

飛龍「そうですよ。もうホントに久し振りなんだから!」



184:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:19:55.13 ID:HhmmbTiJo

コンコンコン──

飛龍「あら?」

提督「こんな時間に珍しいな。──入れ」

ガチャ──パタン

瑞鶴「やっほー提督さん」

響「遊びに来たよ」

金剛「失礼しマス」

ヲ級「こんばんはー♪」

空母棲姫「お邪魔します」

提督「遊びに来たというのも気になったが、この面子が揃ったのも気になるな」

飛龍「本当に凄く珍しい面子ですね」

響「私はいつものように部屋から抜け出して外で海を眺めていたよ」

瑞鶴「そこに、なんだか眠れなくて外を歩いてた私と会って」

金剛「ナイトの鎮守府を歩いていた私が二人を見つけまシテ」

空母棲姫「久し振りに海へ出たいと、せがんだこの子に手を引かれた所で鉢合わせしました」

ヲ級「したの!」

飛龍「……凄い偶然ですねぇ」

響「金剛さんと瑞鶴さんはともかく、私と空母棲姫さん達はいつか会ってただろうね」

提督「二人はどうして今日に限って外に出たんだ?」

瑞鶴「だって……今この鎮守府の空気って凄く重いし」

金剛「私も気を遣われているのが居た堪れなくなりまシテ……」

空母棲姫「食事中も静かなようでしたし、貴方の『金剛』がそれだけ影響を与える立ち位置に居たというのがよく分かります」

飛龍「ああ、なるほど……」

瑞鶴「? 何か大きな事情でもあるの?」

飛龍「えーっと……それはですね……」チラ

提督「……私は金剛と婚約していたからな」

瑞鶴「……え!?」

響「そうなの?」

提督「ああ。そうだ」

金剛「デモ……私、テートクがリングを指に付けている所を見た事が無いデス。……私や瑞鶴のように仮では無いのデスよね?」

提督「結局、渡せずに居たからな」スッ

瑞鶴(指輪を入れる箱……。まだ保管してたって事は、つまりそういう事よね?)

提督「だが、いい加減に決別するべきだろう。今度、海で眠っている三人の所へ花と一緒に供えるか」

瑞鶴(……と思ったけど、大丈夫そうね。ちゃんと気持ちの整理、出来たのかしら)



185:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:20:21.75 ID:HhmmbTiJo

響「その時は私も付いていって良いかな」

提督「ん? 構わないが、どうしたんだ」

響「ちゃんと挨拶しておきたいからね。これから司令官のお世話になります──って」

瑞鶴「あ、それ私も行きたい。提督さん、良い?」

提督「ああ。飛龍と金剛はどうする?」

飛龍「勿論行きますよ。そろそろ行きたいなって思っていましたから」

金剛「……そうデスね。私も行くデス。紅茶とスコーンを用意して、三人がティータイム出来るようにしマス」

提督「きっと三人も喜ぶだろう。日程が決まったら伝えよう」

ヲ級「私も、作りたい!」

空母棲姫「貴女は黙っていなさい」ポン

ヲ級「? どうして?」

瑞鶴「えーっと……」

響「…………」

提督「すまないヲ級。また今度作ってきてくれないか? 近い内に今ここに居る者達でお茶会を開こう」

ヲ級「あ、お菓子、作ってきてるよ!」パッ

飛龍「あら、自分で作ったんですか?」

ヲ級「うん!」ニパッ

飛龍「頑張っていますね」ナデナデ

ヲ級「えへー♪」

飛龍「提督、さっき言っていたお茶会、今やってみるのは如何ですか?」

提督「ふむ。構わんぞ」

金剛「それでは紅茶を淹れてくるデース!」

瑞鶴「金剛さんの紅茶とかすっごく久し振りよね」

響「うん。本当に久し振りだ。司令官、長門さんも呼びたいのだけど良いかな?」

提督「寝ていなかったら構わん」

響「そっか。じゃあ呼んで来るね」タタッ

提督「心配無いとは思うが、誰にも見付からないようにな」

響「勿論だよ。──じゃあ、行ってくるね」

ガチャ──パタン

提督「……飛龍、良かったのか?」ボソッ

飛龍「はい。お酌はまた今度という事で」ボソッ

瑞鶴「ん? 何か言った?」

提督「すまん。独り言だ」

瑞鶴「独り言? もう……皆が居るのに独り言って……」

提督「そういう事もあるさ。平和だからな」

瑞鶴「ん、そういう事にしておいてあげるわ」

…………………………………………。



186:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:21:02.32 ID:HhmmbTiJo

長門「……こんな時間に茶の会とは随分とのんびりしているな」

提督「たまたまだ。こんな事は滅多に無い」

長門「むしろ『お茶会』は何かの隠語で実際は緊急作戦会議か何かかと疑ったくらいだ。……本当に言葉そのものだとは思いもしなかった」

響「ああ、だからやけに張り詰めた雰囲気だったんだね」

空母棲姫「何をそんなに身構えているのやら。そんなに私達が脅威に見えるか」

長門「可能性として考えるのは許してくれないだろうか。私はお前たち二人の事を良くは知らないんだ。……艦娘と深海棲艦が一緒の席に着いているという事も違和感ばかりだ」

空母棲姫「それが普通だな。そうやって認識してくれていると、私も本来は敵だというのを忘れずに済む」

提督「そのまま忘れてしまっても良いだろうに。少なくとも、今この場に居る全員は敵だと思っていない」

空母棲姫「だが……あまりに馴れ馴れしくするのは艦娘達の為にならないのでは」

提督「そうでもない。極論を言ってしまえば、艦娘と深海棲艦の違いは我々人類に危害を加えてきたかどうかの差でしかない。逆に艦娘が人間を襲い、深海棲艦が人間の味方をしていれば立場は逆転している。危害を加えてくるのならば敵。協力するのであれば仲間。お前たち二人が例外だというのは皆も分かってくれるだろう」

空母棲姫「確かに貴方の艦娘であればそうなりそうですが……」

提督「全ては認識次第だ。敵という認識ならば敵。味方という認識ならば味方。お前たち二人は今、味方という認識に置かれているという事だ。行動でな。そもそもの話、お前たち二人は私達に危害を加えてきたか? 逆に協力をしてくれただろう」

ヲ級「お魚、とか?」

提督「ああ。あれは本当に助かった。あのままでは飢え死にするのは間違いなかった」ナデ

ヲ級「えへー」ホッコリ

空母棲姫「……………………」

提督「まだ納得できないか?」

空母棲姫「…………はぁ……まったく、どうしてそんな風に割り切れるのかしら……」

提督「変わり者だとは常々言われている」

響「違いないね。ここにも変わった艦娘しか居ないし」

瑞鶴「待って。まさかそれって私も含まれてる?」

響「にゃぁにゃぁ」

瑞鶴「ッ!?」ビクンッ

五人「?」

瑞鶴「そ、そそそうねぇ……? 確かに変わり者ばっかりよねぇ?」

飛龍「? ──あ、金剛さん。そろそろお湯が沸く頃ですよ」

金剛「了解デース。淹れてくるネ」スッ

飛龍「ありがとうございます。──ところでヲ級ちゃん、お菓子は何を作ってきたんですか?」



187:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:21:48.25 ID:HhmmbTiJo

ヲ級「ワッフル! 間宮さん、伊良湖さん、褒めてくれた!」スッ

空母棲姫「もうベタ褒めでした。甘い方も甘くない方も、初めて作ったとは思えないと言っていたわ」

長門「! ……確かに、良い香りだ」

瑞鶴「……ん? もしかして長門さんって甘い物が好きだったの?」

響「そうなんだ?」

長門「む……いや、そのだな……。…………嫌い、ではない……」

提督「そうか」

長門「……なんだ。悪いか? 悪いのか?」ジッ

提督「味の好みなど個人差が激しいものだ。好みで人を左右するようなものでもないだろう。食の好みに口を挟むような者はここには居らんよ」

長門「……そ、そうか。うむ。そうだな。味覚で人は決まらない」

提督「ああ。だから、これからは間宮と伊良湖が甘味を振舞った時も遠慮なく口にして良いぞ」

長門「~~~~~~っ!」

提督「恥ずかしがる事でもない。どうせ向こうでは口にしたくても出来なかったのだろう? ここならば誰も気にせん。むしろ、間宮も伊良湖も手を付けない事から甘い物が嫌いなのかと思っていると言っていた」

長門「……変ではないのか?」

提督「どこが変になるんだ。さっきも言ったように好みなど個人で大きく違う。堂々としていれば何もおかしく思われん。むしろ変に気にしていると周囲もおかしな目で見るぞ」

長門「なるほど……ふむ……」

提督(……長門も頑固な子か。……いや、プライドが高いのか? 自分の好きな物を抑えつけても仕方が無いだろうに)

金剛「お待たせしまシタ」

ヲ級「紅茶、初めて……!」キラキラ

金剛「紅茶は良いものデース。きっとお二人も気に入ってくれマス」スッ

ヲ級「♪」ワクワク

提督「さて、全員に行き渡ったようだ。頂こう。──ヲ級、少ない包みの方が甘くない方か?」

ヲ級「うん!」

提督「うむ。分かった」スッ

響「じゃあ私達はこっちだね」スッ

長門「…………」スッ

空母棲姫(素直に甘い方を手に取りましたね)スッ

飛龍「私も甘くない方を頂きますね」ヒョイ

提督「ふむ、珍しいな」

飛龍「たまには良いかなって思いまして」

提督「そうか。──では、私も頂こう」モグ

ヲ級「どうっ?」ワクワク

提督「ふむ……バターの味がとても良い。これは紅茶とよく合う」ズズッ

金剛「甘い方もとっても美味しいデース!」

瑞鶴「これが初めてなんて、とても思えないわね……」

響「才能かもね」

ヲ級「えへー」ニコニコ



188:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2015/12/25(金) 20:22:17.97 ID:HhmmbTiJo

長門「…………」モグモグ

長門(……非常に美味い。甘さもくどくなくて、すっきりとしている)

ヲ級「ね、ね、どうっ?」

長門「ぅ……む…………美味い、ぞ」フイッ

ヲ級「♪」ニコニコ

長門「…………調子が狂ってしまう」ハァ

空母棲姫「素直になってしまえ。我慢は良くないぞ」

提督「そうだ。頑固であれば頑固である程この現状に頭を痛めるぞ」

長門「全くもってそうだな……。こんな無邪気な顔を見せられたら、今まで警戒していたのは何だったのかと思ってしまう……」

ヲ級「?」パクパク

長門「ああほら、欠片が口の端に付いているぞ」スッ

ヲ級「! ありがと!」ニパ

長門(……本当に、敵とは思えないな)

空母棲姫「……私も、もう少し認識を改めなければな」

長門「ん?」

空母棲姫「…………」フイッ

長門(……本当、私たち艦娘も深海棲艦も……なぜ戦っているのだろうな。二人に訊いてみたいとは思うが──)チラ

金剛「今度スコーンも焼いてみまセンか?」

ヲ級「すこーん?」

響「英国のお菓子だよ。紅茶と一緒に食べると凄く美味しいんだ」

金剛「テートク、今度また隣の部屋をお借りしても良いデスか?」

提督「構わんぞ。その時は私に鍵を取りに来るようにな」

瑞鶴「あ、私も見てみたい」

ヲ級「楽しみ! ね、姫?」

空母棲姫「そうだな。新しい料理を覚えるのは楽しい」

飛龍(素直になってきてるなぁ)ニコニコ

空母棲姫「……なんだ、その母親が子供に向けていそうな目は」

飛龍「いえいえ。素直が一番、って思っただけですよ」

空母棲姫「……ふん」

長門(……この空気を壊したくない。機会があったときにでもするか)

……………………
…………
……



197:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/03(日) 13:09:36.81 ID:W7PXa9gvo

提督「──では、朝礼を行おう。まずは連絡事項からだ。皆も知っての通り、現在は深海棲艦が沖で力を蓄えている。が、総司令部からの伝達により我々の鎮守府は周辺海域の警邏に当たる事となった」

利根「警邏……? なぜじゃ。多くの深海棲艦がおったのじゃろう?」

提督「確かに多くの深海棲艦は居たが、索敵により三つの鎮守府の戦力を合わせれば充分に殲滅出来るであろう数だそうだ。また、我々の鎮守府よりも近くにある鎮守府が作戦に入り、私達は裏方をせよとの事だ。他の敵が作戦域に入ってこれないよう見回るのも重要な仕事なので、警邏と言っても厳重に警戒する事。良いな」

全員「ハイッ!」

提督「今回の遠征は警備任務と海上護衛任務の二つを行う。今回は先程言った中規模作戦の関係上、従来のモノとは異なり重巡の子達も出て貰う。だが、今まで出したことは無いので慣れない点もあるだろう。よって旗艦は慣れている者に任せる」

提督「警備任務は龍田を旗艦とし、熊野、暁、響、雷、電の六人で行う。海上護衛任務は天龍を旗艦とし、那智、羽黒、夕立、時雨、春雨の六人だ。天龍、龍田、頼むぞ」

天龍「おう! 俺に任せとけって!」

龍田「は~い。任せてね~」

提督「その他の者は自分の仕事がある場合はそれに従事する事。演習は中規模作戦を展開している間は控える。いつ何が起きるか分からないので、いつでも出撃できるよう心構えはしておいてくれ。──以上だ。何か質問はあるか? ……………………無いようだな。朝礼は終わりだ。各自、持ち場に就け」

全員「ハイッ!」

…………………………………………。



198:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/03(日) 13:10:14.78 ID:W7PXa9gvo

提督「──さて、私達は私達の仕事をするとしよう。いつもより書類が多いから心しておくように」

利根「うむ、了承したぞ」

飛龍「はい。……とは言っても、多くなってもこのくらいなんですね」

提督「増えた書類の数だけは大した事はないが、一番面倒なのが資材の確認だ。帳簿と実際の数字が合っているかどうかを確認する作業は面倒極まりない」

飛龍「ぅえ……。あの資材を全部確認するんですか……?」

提督「そうだ。帳簿と違っていて、物資支援する際に足りませんでした……となったら大問題だろう?」

飛龍「ああ、なるほど……。前の大規模作戦の時に確認していたのはそういう事だったんですね」

提督「まあな。整理はするようにしているから多少はマシだが、それでも確認だけで多くの時間は掛かる」

利根「ふむ……ふむふむ」

飛龍「? どうかしたんですか?」

利根「なに。思うてみれば資材を数えた事が無かったからのう。提督よ、その確認作業を我輩に任せてくれぬか?」

提督「速い数え方を知っているのか言ってみろ」

利根「縦横奥で掛け算すれば良いのじゃろう? それが出来ぬ場合は地道に数える。これでどうじゃ?」

提督「ほう。成長していっているな。正解だ」

利根「ふふん。我輩とて少しずつじゃが育つぞ。──では、我輩は向かうとしよう。帳簿を借りてゆくぞ」スッ

提督「頼んだ」

ガチャ

利根「…………」チラ

飛龍「?」

利根「…………」グッ

パタン

飛龍「……利根さん、なんでサムズアップしたんですかね」

提督「まったく……」

飛龍「え……? 提督は今ので分かったんですか?」



199:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/03(日) 13:10:47.40 ID:W7PXa9gvo

提督「なんとなくはな。大方、私と飛龍を二人きりにさせようという所だろう」

飛龍「……………………え? なんでですか……?」

提督「そこまでは分からん。……一体何を考えているんだろうな。ここ最近の利根は何を考えているのか分からん事が多々ある」

提督(あの島では伴侶になりたいとまで言っていたが、それだとしたらなぜ……?)

提督「……考えていても分からんな。私達は私達の仕事へ入るとしよう」

飛龍「はい。では、お茶を淹れてきますね」スッ

提督「頼む」

提督「…………」ジッ

提督(……ふむ。今回の中規模作戦は慢心しないように全力で掛かるようにせよ、か。あのレ級を相手にするのだから、流石の総司令部も警戒するよう指示を出すか)

提督(こっちの報告すべき内容は……ふむ。この辺りは利根が資材を確認し終えてからか。では、まずはこの書類から手を付けるとしよう)

提督「…………」サラサラ

提督(……しかし、利根は何を考えているんだろうか。あいつの事ならばほとんどの事が分かるつもりで居たが、まだ分からない事もあるものだな)サラサラ

提督(いや、利根も変わってきているから分からない事が出てきたという方か? ……なぜ利根は私と飛龍を二人きりにさせたか、を解明すれば分かるだろうか)サラサラ

提督(利根自身の成長速度は充分。という事は初めに約束した『秘書艦として不充分でありながら上達が見込めない場合は降りて貰う』は当て嵌まらない。それとも、別に好きな男が出来たか?)

提督(……それこそ有り得んか。この鎮守府には私以外の男性は居ない。加えて、利根はいつも私と居て他の男性と接する機会など無かったはずだ)

提督(……分からんな。利根に何があったんだ?)

飛龍「──あれ? 提督、どうしたんですか? 何か書類で悩む事でもありました?」トコトコ

提督「む、いかん。手が止まっていたか」サラサラ

飛龍「提督が考え事で仕事の手が止まるなんて珍しいですね。何があったんですか?」

提督「まあ、少しな……」

飛龍(たぶん、利根さんの事なんだろうなぁ。私も利根さんが何を考えて二人っきりにしてくれたのか分からないし……)



200:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/03(日) 13:11:18.34 ID:W7PXa9gvo

飛龍「では、気分転換にお茶をどうぞ」スッ

提督「ありがた…………飛龍、これは」

飛龍「えっと……はい。見ての通りです。今日は日本茶ではありませんよ」

提督「……私は紅茶にはうるさいぞ」ズズッ

飛龍「お、お手柔らかにお願いします……!」

提督「…………」

飛龍「…………」ドキドキ

提督「……煎茶と紅茶は淹れ方が違うのは知っているか?」

飛龍「え……嘘……」

提督「飲んでみれば分かる」

飛龍「…………」コクコク

飛龍「…………………………………………」

提督「どうだ?」

飛龍「……美味しくないです」

提督「次からはほうじ茶と同じように沸騰直後の熱湯を使い、二分くらい待ってみろ。それだけで大きく変わる」

飛龍「ごめんなさい……」

提督「……………………。しかし……紅茶か」

飛龍「淹れるのは、ダメ……でしたか?」

提督「ダメという訳ではない。日本茶だろうと紅茶だろうと淹れる茶に制限を付ける気は無いぞ。……何の理由があって紅茶にしようと思ったんだ?」

飛龍「その……そろそろ紅茶が飲みたくなるんじゃないかなって思って……」

提督「…………」

飛龍「…………」ビクビク

提督「……飛龍、こっちへ来なさい」

飛龍「は、はい……!」ビクッ

飛龍(どうしよう……怒らせちゃったかな……)ビクビク



201:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/03(日) 13:11:59.73 ID:W7PXa9gvo

提督「…………」スッ

飛龍(うぅ……立ったって事は、絶対に何かあるよね……。やっぱり、紅茶を淹れるべきじゃ──)

提督「…………」ギュゥ

飛龍「──ぇう……?」

提督「…………」

飛龍「あ、あああの、提督……!? な、なんで抱き締めッ……!?」ドキドキ

提督「すまん……少し、このままにさせてくれ……」

飛龍「あ、ぅ…………はい……」

提督「……………………」

飛龍(…………ああ、そっか──)

飛龍(──そうだよね……提督は気丈に振舞っていただけだったんだ……)ソッ

飛龍(婚約までした想い人を失って辛くないはずなんてない……。あの島にずっと居た理由は、ただ総司令部の人に命じられていたからなんかじゃなかったんだ……)

飛龍(嫌な言い方になっちゃうけど、金剛さんの事を傷から記憶に昇華させる為でもあった。……だから、今回みたいな不意打ちの紅茶で色々と思い出したのかな)

飛龍(……ごめんなさい、提督)

提督「……すまなかった」スッ

飛龍「あ……はい……」

提督「……それと、飛龍にはお仕置きをせねばならんな」

飛龍「えっ……!? う……はい……」ビクッ

提督「これからは紅茶も淹れられるよう、しばらくの間は私を相手に紅茶の練習をしてくれ」

飛龍「────え?」

提督「どうした、聴こえなかったか?」

飛龍「い、いえいえ!! ちょっと意外だと思っただけです!」

提督「そうか。では、良いか?」

飛龍「はい! 喜んでお受けしますね!」

提督(……こういう事か、利根。お前という奴は……まったく……。お前は、本当にそれで良いのか──?)

…………………………………………。



214:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/15(金) 16:57:28.59 ID:WK+LXA78o

飛龍「──それでは、おやすみなさい提督」

利根「おやすみじゃー」

提督「二人も良い夢を見るようにな」

──パタン

利根「さて、我輩たちもゆっくりと寝るとするかのう。飛龍、おやすみじゃ」

飛龍「はい。おやすみなさい」

利根「~♪」トコトコ

飛龍(……うーん。やっぱり利根さんが何を考えているのか分からないなぁ。かと言って訊く事なんて出来ないし……)トコトコ

飛龍(……提督の身体、大きかったなぁ。包み込まれたって言葉がそのまま当て嵌まっちゃった)トコトコ

飛龍「…………えへ」

加賀「あら飛龍。執務はもう終わったの?」

飛龍「ひゃぁ!? あ、か、加賀さん……!」

加賀「……どうかしたの? それとも、そんなに私が怖かったのかしら」

飛龍「ああいえ、すみません……。少し考え事をしていたもので……」

加賀「そう。──ところで飛龍、これに付き合ってくれないかしら」クイッ

飛龍「? ……あ、もしかして良い銘柄でも手に入ったんですか?」

加賀「ええ。前にも飲んだ常きげんよ。この間は頂いたから、今度は私がお返しね」

飛龍「なるほど、あのお酒ですか。美味しかったですもんね。──あ、でも明日も執務があるので、程々で許して貰えますか?」

加賀「勿論よ。さあ、行きましょうか」

飛龍「はいっ!」

加賀(……あら? この香り……)

…………………………………………。



215:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/15(金) 16:58:01.92 ID:WK+LXA78o

飛龍「──さて、今日はどんな味が好みですか?」

加賀「今日は私が用意するわ。誘ったのは私だもの」

飛龍「分かりました。では、日向燗でお願いします」

加賀「ええ、少し待っていて頂戴ね」スッ

飛龍「あ、そうだ。なんなら提督も呼んじゃいます? 嗜む程度であれば乗ってくれるかもしれませんよ」

加賀「……いえ、今日は止めておきましょう」

飛龍(あれ……加賀さんなら二つ返事するかと思ったんですけど……)

飛龍「……もしかして、何かありました?」

加賀「出来れば提督の前で話したくない内容なの。……少し、昔を思い出してしまって」

飛龍「昔、ですか」

加賀「ええ。──はい、日向燗よ」スッ

飛龍「ありがとうございます。頂きますね」スッ

加賀「んっ……。やはり良いわね。私にはこのお酒にこの温かさが一番合うわ」

飛龍「私も程々が良いと思います。──うん、美味しい!」

加賀「程々が良いと言いながら、熱燗が一番好きな癖に」

飛龍「味の移り変わりを楽しむのもお酒ですよ」

加賀「答えになっていないわよ。でも、その気持ちは分かるわ。私もたまに熱いのを飲みたくなるもの」

飛龍「お酒は嗜むものですからね」

加賀「ええ」クイッ

飛龍「……………………」チビチビ

加賀「…………」

飛龍「…………………………………………」

加賀「……………………」



216:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/15(金) 16:58:31.57 ID:WK+LXA78o

飛龍「昔の話、でしたよね」コトッ

加賀「……ええ」チラ

飛龍「大丈夫ですよ。ここは誰も使っていない部屋です。誰かが来るなんて事はまずありません」

加賀「……そうよね。来ないわよね」

飛龍「?」

加賀「なんでもないわ。……飛龍、貴女は提督が居なくなった時の事を覚えているかしら」

飛龍「……それは勿論」

加賀「……本当、前にも言ったけれど、提督が壊れていると気付かなかった事がおかしかったわ」

飛龍「前にも言ったじゃないですか……それは仕方が無いですよ」

加賀「それでも、よ」チビ

飛龍「……あの時の提督が何をしていたのかを知っているのは、まだ私達だけですよね」

加賀「そのはずよ。貴女が情報を漏らしていなかったらの話だけれど」

飛龍「誰にも言えませんよ。……言える訳ありません」

加賀「……そうよね……ごめんなさい」

飛龍「あ、い、いえ。こちらこそすみません……」

加賀「…………あんなに優しい顔をしながら利根の首を絞めていた提督は、もう二度と見たくないわね」

飛龍「はい……。しかも、利根さんも喜んだ顔をしていたので……その、少し怖かったです」

加賀「私達が引き剥がさなかったら、もしかしたら利根は死んでいたかもしれないわね」

飛龍「本当……あの時のお二人ほど怖いモノを見た事が無いです」

加賀「……私なら、あの状態の提督に迫られたら動けないでしょうね」

飛龍「私なんて腰が抜けちゃいそうです」

加賀「……でも、少し興味があるわ」



217:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/15(金) 16:59:01.05 ID:WK+LXA78o

飛龍「えっと……加賀さん?」

加賀「冗談よ」

飛龍「本当ですか……?」

加賀「……九割ほどは」

飛龍「一割は本音なんですね……」

加賀「そう言う飛龍はどうなのかしら」

飛龍「興味が全く無いと言うのは嘘になりますけれど、私は優しい方が好きです」

加賀「優しくされ続けていると、時には刺激を求めるらしいわよ」

飛龍「そ、そうなんですか……?」

加賀「だから私達は安心して出撃が出来るのではなくて? 普段は提督に優しくされて、戦闘になれば生きるか死ぬかの戦いをして刺激を得る。その死線を潜り抜けた時なんて悦びで一杯になる人ばかりでしょう?」

飛龍「そう言われたらそうですけど……。それだったら私は今のまま優しくしてくれる方が良いです。刺激は深海棲艦との戦いだけって事で」

加賀「……本当は、私達のこの感覚もズレているのよね」

飛龍「……そうですよね。絶対に沈まないという前提ですからね」

加賀「そんな事、あるはずが無いというのに……」

飛龍「……………………」

加賀「…………」

加賀「……私達に見付かった後の事も忘れるに忘れられないわ」

飛龍「……提督が総司令部へ打った信号の事ですよね。……総司令部もまさか、あんな催促をされるとは思わなかったでしょうね」

加賀「なんて打っていたのかを提督の口から聞いただけだから、もしかしたら違うかもしれないわよ」

飛龍「うわ……そういう事言っちゃいます? 提督だから本当にありそう……」

加賀「……ただ、大まかには本当でしょうね。一先ず言える事は、提督は自分が流刑になるように報告した……ね」

飛龍「普通、そんな人なんて居ませんよね。……それでも戻って『提督』として働ける辺り、そこまで人手が不足しているのでしょうか」



218:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/15(金) 16:59:36.69 ID:WK+LXA78o

加賀「そうとしか思えないわ。でなければ、下田鎮守府の提督は変わっているはずだもの」

飛龍「あ、あはは……。私、あそこの艦娘にだけはなりたくなりです……」

加賀「私もよ。道具として扱われるのは遠慮しておきたいわ」

飛龍「……そう思えば、私達はまだ幸運だったのかもしれませんね」

加賀「提督の代わりを勤めていた人の事かしら。……そうね。腕はまだまだ未熟だったけれど、ちゃんと私達の声を聞いてくれたもの」クイッ

加賀「…………」

飛龍「はい、ぬる燗ですよ」スッ

加賀「……いつの間に用意していたの?」

飛龍「ひっそりと、です」

加賀「……ありがたいわ」スッ

飛龍「いえいえ」

加賀「話は変わるのだけれど、最近の提督はどう?」

飛龍「どう、と言われましても……普通ですよ。前とほとんど変わりありません」

加賀「私にはそう見えないわね」クイッ

飛龍「え?」

加賀「貴女と何かあったのではなくて、飛龍?」

飛龍「えっ?」ビクッ

加賀「…………」ジッ

飛龍「…………」ビクビク

加賀「ほら、言ってみなさい」

飛龍「うぅ……なんで分かるんですか……」

加賀「一体、貴女とどれだけ長い間を過ごしてきていると思っているの? 四年以上よ。貴女が今日、提督室から出てきた時の微妙な変化くらい分かるわ」



219:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/15(金) 17:00:04.90 ID:WK+LXA78o

飛龍「あ、あはは…………えーっと、ですね」

加賀「…………」

飛龍「……辛そうに、抱き締められました」

加賀「…………? 辛そうに?」

飛龍「提督も、まだ心の整理が出来ていないんだと思います。気丈に振舞っているだけで、まだ金剛さん達の事が忘れられていないんでしょうね」

加賀「……そうなのね」チビ

加賀「それで、秘書艦の貴女はどうするのかしら?」

飛龍「私はサポート役ですよ」

加賀「最近は貴女がメインとなっている事くらい分かるわ。直に利根は普通の子と同じになるでしょうね」

飛龍「まだ分かりませんって」

加賀「だったら、もしそうなったらどうするのかしら」

飛龍「もし、ですか……。そうですね……………………提督に任せるかもしれません」

加賀「受身なのね」

飛龍「ゆっくりで良いんです。今は提督が自然と癒される事が大事ですから」

加賀「……そう言いながら、どこかで攻めそうな気がするわ」

飛龍「さて、それはどうでしょうかね。それも事の成り行き次第です」

加賀「そう。……まあ、貴女なら提督の傍に居ても納得できるわ」

飛龍「え?」

加賀「あら、意外だったかしら。こう見えても私は貴女の事を買っているのよ? ……むしろ、なんて言われると思ったのかしら」

飛龍「……少しお小言が来るかと思いました」

加賀「正直ね。でも安心なさい。私では難しいくらい分かっているわ」

飛龍「そうでしょうか」



220:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/15(金) 17:00:35.53 ID:WK+LXA78o

加賀「そうよ。私だったら、紅茶を淹れるなんて事できないもの」

飛龍「……気付いてたんですか」

加賀「案外、分かるものなのよ。紅茶も香りを楽しむものでしょう?

飛龍「…………」

加賀「……私だったら、腫れ物を扱うように紅茶へは手を出さないわ。例え、提督が望んでいると分かっていても気付いていない振りをするでしょうね」

加賀「だから飛龍。提督の事、お願いするわ」スッ

飛龍「あれ、今日はもう良いんですか?」

加賀「程々にと言ったのは貴女よ」スタスタ

飛龍「えっと……残ったお酒はどうするんですか?」

加賀「提督と一緒に飲みなさい。あの方の事だから、帰ってきてから一滴も飲んでいないのでしょう?」

飛龍「ええっと……」

加賀「貴女はここで待っていると良いわ。……それに、きっと提督もそれを望んでいるはずよ」

ガチャ──パタン

飛龍「加賀さん……。────あ」

飛龍「そっか……利根さんも、加賀さんと同じで……」

飛龍「…………私なんかで、本当に良いのかな……」

…………………………………………。



225:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/19(火) 17:26:48.39 ID:06b6WQ4uo

コンコンコン──。

提督「入るぞ」

飛龍「は、はいっ!」ビクッ

ガチャ──パタン

提督「どうした飛龍。こんな夜中に話があると……酒?」

飛龍「あ、えっと……さっきまで加賀さんと嗜んでいたものでして……」

提督「……飛龍が呼んでいると聞いてやってきたのだが、状況が掴めん。どういう事だ?」

飛龍「加賀さんが提督を呼んでくると……。加賀さん、提督にはなんて言ってましたか……?」

提督「飛龍から大事な話がある──とだけだ。それ以上の事は自分の口からは出せないとも言っていたかな」

飛龍「うぅ……そういう所はイジワルするんですね加賀さん……」

提督「ふむ。大事な話というのは無いのか」

飛龍「はい……。提督と一緒にこのお酒を飲みなさいと言ったくらいです……」

提督「常きげん……? 聞いた事の無い酒だな」

飛龍「加賀さんの好きなお酒ですよ。なんでも、石川県の地酒だそうでして、ほんの少し辛口なお酒です」

提督「ふむ……」

飛龍「……提督、飲んでみます?」

提督「少し悩んでいる。あともう一押し欲しい所なのだが」

飛龍「あともう一押しって……。それって飲みたいって事じゃないですか」

提督「……………………」

飛龍「…………? 提督? どうしました?」

提督「……………………」

飛龍(……あ、もしかして)

飛龍「一緒に、飲みます?」

提督「ああ。一緒に飲もうか。対面に座るぞ」スッ

飛龍「もう……。あと一押しってそういう意味でしたか」



226:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/19(火) 17:27:29.81 ID:06b6WQ4uo

提督「基本的に酒は誘われた時のみにしているのでな」

飛龍「……初めて知りました。辛口のお酒がお好きですから結構飲んでいるのかと思っていましたよ。──あ、温かさはどれくらいが良いですか?」

提督「熱燗で頼む」

飛龍「はい。少し待っていて下さいね」

提督「……しかし、酒か。もう何年も口にしていないな」

飛龍「ずっとあの島で暮らしていましたからね。ここに戻ってきても忙しそうにしていて、それ所ではありませんでしたし」

提督「なるほど。だから酒の誘いが無かったのか。帰ってきたら酒の一杯や二杯はあるやもしれんと思っていたから不思議に思っていたぞ」

飛龍「忙しい所にお酒の話を持っていったら叱られちゃいそうですからね。最近は利根さんの教育だーって感じですから誘いづらいんだと思いますよ」

提督「そのおかげで色々と集中できて助かっていたよ」

飛龍「皆さん、良い方ですからね。提督の教育の賜物ですよ。──はい、熱燗です」スッ

提督「ありがたい。私の教育もあるだろうが、何よりもお前達が良い子だからだ」クイッ

提督「! ふむ。すっきり切れるな。この濃い辛さも美味いものだ。加賀が好くのも分かる」

飛龍「お気に召したようで良かったです。このお酒は特に燗で飲むのが良いお酒らしいですよ」

提督「ああ。これは飲むだけで燗が良いと分かる。そこまで酒に詳しくなくても分かる程だ。ほら、飛龍も飲んだらどうだ」

飛龍「私はさっき飲んで──あっ」

提督「うん?」

飛龍「……飲みたいのは山々なのですが、あともう一押し欲しい所ですね」

提督「なるほど。ならば飛龍、私と酒に付き合ってくれ」

飛龍「はい、喜んで!」

提督「ほら、器を持て」スッ

飛龍「ありがとうございます。──ふぅ……やっぱり、お酒はこういう辛いのを熱燗で頂くのが一番です」ホゥ

提督「もう一つ辛くしてみるか? 飛びきり燗でな」

飛龍「流石にそこまで辛くするのは……。私では無理でした……」

提督「冗談だ」

飛龍「もう……」

提督「くくっ」

飛龍「えへへ」



227:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/19(火) 17:28:08.19 ID:06b6WQ4uo

提督「……さて飛龍。肴は何かな?」

飛龍「……………………」

提督「む?」

飛龍「な、何も考えていませんでした……」ションボリ

提督「そうか。ならば、お前が知りたそうにしている話でもしてみようか」

飛龍「私が知りたそうに、ですか?」

提督「酒の席で話すようなものではないが、酒のせいで口が滑ったと言い訳が出来る」クイッ

飛龍「ふふっ、どうぞ滑って下さいな。どんなお話ですか?」チビチビ

提督「私があの島へ行く原因となった時の話だ」

飛龍「……なるほど、そのお話ですか。確かに深い部分までは話してくれませんでしたね」

提督「元凶は知っての通り、金剛、瑞鶴、響を失った事だ。だが、その後の事はあまり知っていないだろう?」

飛龍「……はい」

提督「あの時の私は、三人を失った事で正常な判断が下せなくなっていたのは知っての通りだ。その状態で取った行動が、利根にやってしまったアレだな」

飛龍「例の首を絞めていたアレ……ですね」

提督「ああ。なぜあんな事をしたか、なのだが……私を慕ってくれるお前達が、どうして誰かに殺されなければならないのか──と考えたからだ」

飛龍「えっと……それがどうしてアレになるんですか?」

提督「誰かに殺されてしまうのならば、私が殺せば良い。……それが理由だ」

飛龍「…………」

提督「ハッキリ言ってくれて構わない。明らかに異常だった」

飛龍「……そうなってしまうのも無理はありません。だって、提督は大事な子を三人も失ってしまったんです。しかも……」

提督「…………」

飛龍「…………」

提督「……アレを見たのは、飛龍と加賀だけだったか?」

飛龍「……はい。他の子達には教えていません」

提督「ありがたい。他の子達を余計に不安にさせなかった事と、それでも私を慕ってくれて、ありがとう」

飛龍「誰だって、おかしくなってしまいますよ。ああなってしまうのは仕方の無い事だったんです」



228:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/19(火) 17:28:42.54 ID:06b6WQ4uo

提督「……飛龍」

飛龍「?」

提督「隣に来て貰っても良いか?」

飛龍「勿論です」スッ

提督「……怖くないのか?」

飛龍「あの時の提督でしたら少し怖いですけど、今は全然です」

提督「……そうか。嬉しい事だ」

飛龍「……提督。一つだけ、失礼な事を聞いても良いですか?」

提督「酒のせいで滑ってしまうのも無理はないだろう」

飛龍「くすっ……。……今も、苦しいですか?」

提督「そうだな……。苦しい事には変わりない。だが、この苦しみはいつか時間が忘れさせてくれるだろう。苦しみは時間によって昇華され、記憶になるだろう」

飛龍「……後ろ、失礼しますね」スッ

提督「ああ……」

飛龍「…………」ギュゥ

提督「抱き付いてきてどうした?」

飛龍「少しくらいでしたら、こうする事で和らぐかな……と」

提督「そうか……」

飛龍「はい……」

提督「……温かいな」

飛龍「お酒で火照っていますから」

提督「なるほど。ならば、もう少し火照らせてみようか」

飛龍「……これ以上のお酒は、めっ──ですよ? 明日のお仕事に響いちゃいます」

提督「その点は安心しろ。──飛龍、後ろを向かせてくれ」

飛龍「え? は、はい」ソッ

提督「…………」クルッ

飛龍「…………?」



229:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/19(火) 17:29:10.66 ID:06b6WQ4uo

提督「お前だけズルい」ギュ

飛龍「ひゃっ」ビクッ

提督「…………」ポンポン

飛龍「あ、あの……真正面は……その……」

提督「嫌か?」

飛龍「……イヂワル」ギュゥ

提督「……温かいな」

飛龍「……私は顔が熱いです」

提督「飲みすぎたか?」

飛龍「バカ……」

提督「飛龍が望むならば、今日はここで一緒に寝てしまいたいな」

飛龍「!」

飛龍(それって、もしかして……)

提督「…………」

飛龍「…………」

提督「……………………」

飛龍「……………………うん」コクリ

提督「では、徳利の中身は全て飲んでしまうか。燗冷めさせるのも勿体無い」

飛龍「は、はい。……お隣、失礼しますね」スッ

提督「さっきまで抱き合っていたのに、隣に座るくらい遠慮しなくても良いんじゃないか?」

飛龍「お、お酒が悪いのっ。ほろ酔いになってきたんですっ」

提督「くくっ、そうか。──ん? っとと、そんなに入れていなかったんだな。これで全部か」スッ

飛龍「ええ。ほら、嗜む程度に留めておくべきだろうと思いましたし……ね?」



230:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/19(火) 17:29:41.20 ID:06b6WQ4uo

提督「ふむ……。半分ずつ飲むか」

飛龍「えっ!」

提督「器は一つだが、交互に飲めば問題無いだろう?」

飛龍「そ、そうよね! こ、交互に飲めば……うん!」

提督「初心な奴め。ひとり二航戦サンドとやらを人前でやったとは思えんくらいだな」

飛龍「……イヂワル」ソソッ

提督「ん? 肩を寄せてどうした」

飛龍「……サンド程じゃないけど、肩くらいならあったまるかなーって」

提督「…………」ナデナデ

飛龍「ん……」

提督「心も温まる」

飛龍「えへへ、良かった」

提督「先に頂くぞ」クイッ

飛龍「では、残りを私が」コクコク

提督(……私が口を付けた所で)

飛龍「んっ……ふぅ……」チラ

提督「…………」ワシャワシャ

飛龍「あ、あああ! 髪が乱れるじゃないですか! 私、ただでさえ癖っ毛なのに!」

提督「まったく……」スッ

飛龍(…………? 照れ隠し、なのかな)



231:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/19(火) 17:30:10.28 ID:06b6WQ4uo

提督「明かり、落とすぞ」

飛龍「!」ピクン

パチン──

飛龍「…………」ドキドキ

提督「…………」モゾモゾ

飛龍「…………っ」ドキドキドキ

提督「……どうした。ほら、入ってこい」

飛龍「は、はいっ!」モゾ

提督「……手は出さないから安心しろ」

飛龍「……え?」

提督「ん?」

飛龍「え、あれ……?」

提督「……………………」

飛龍「…………あー……」

飛龍(早とちりしちゃった……。うぅ……さっきまで良い雰囲気だったのに……)

提督「……飛龍」モゾ

飛龍「…………? ひゃっ──!」

提督「すまんが、今日はこれで我慢してくれ」ギュゥ

飛龍「は、はい……!」ドキドキ

提督「もう少し……もう少しだけ、待っていて欲しい」

飛龍「……はい」ソッ

飛龍「いつまでも、待っていますからね。ゆっくりで構いませんので、いつかは……」

提督「ああ……。いつかは、お前を真正面から見れるように……」

飛龍「そう思ってくれるだけでも、私は嬉しいです──」

……………………
…………
……



239:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/25(月) 00:06:55.76 ID:9mdLHh9Ko

利根「…………」カリカリ

飛龍「提督、この要請書の事なんですけど──」

提督「……ふむ。またこんなにも資材を要求するか。流石にレ級相手では──」

飛龍「やっぱりそうですよね……。どうしてもあの戦力を相手ですと──」

利根「…………」チラ

利根(うむ。うむうむ。二人の距離はしっかりと縮んできておる。このまま順調にいけば、必ず二人はくっ付くじゃろうな。……まあ正直、傍から見ている立場からすれば、さっさと将来を誓い合えば良かろうにと思うがのう)ズズッ

利根(……ふむ。紅茶もまた一段と腕を上げておる。元から日本茶を淹れるのが上手かったから、紅茶に慣れるのも早いものじゃのう)カリカリ

利根(まあ……少しばかり心が寂しいがの)カリ

利根(……なんじゃろうなぁ。あの物の無かった島の方が心が豊かじゃったかもしれぬ。……いや、これは考えるべきでない事じゃな。二人に失礼じゃ)カリ

利根(すぐに慣れると良いのじゃがなぁ……)

ポン──

利根「む?」クルッ

提督「どうした、利根」

飛龍「お疲れですか?」

利根「む? むむ? 何がじゃ?」

提督「さっきから声を掛けても心ここに在らずだったぞ。悩み事があるのならば言ってくれ。私も心配になる」

飛龍「それと、無理もダメですよ?」

利根「────────」

提督「……何をそんなキョトンとしているんだ。疲れているのを無理しているんだったらベッドに放り投げて寝かし付けるまで見張るぞ」

利根「…………」

飛龍(あれ……? なんだかすっごい柔らかい微笑みを向けられているような……?)



240:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/25(月) 00:07:26.46 ID:9mdLHh9Ko

利根「言葉に甘えてしまっても良いかのう」

提督「無理をしていたのか。まったくお前ときたら……」ヒョイ

利根「ぉおわっ?」

提督「言っただろう。ベッドに放り投げて寝かし付けると」スタスタ

利根「な、なぬ!? 本当に投げるのか!?」ビクッ

提督「流石に投げるなんて事はしないがな」ソッ

提督(……お前には色々と無理をさせてしまってすまない。そして、ありがとう)ヒソ

利根(!! ……我輩は、その言葉だけでも充分じゃよ。提督よ、飛龍を大事にしてやってくれるかの?)ヒソ

提督(言われずとも、だ)ポンポン

利根「むう……我輩は子供か? そんな頭をポンポンされねば寝れぬという訳ではないぞ」

提督「ほう、ならば止めておこうか」

利根「まったく……提督はダメじゃな。女心が分かっておらぬ。ほれ、さっさと仕事をせぬか。飛龍が待っておろうに」

利根(飛龍が嫉妬しておるぞ。早く愛でてやらねばならんじゃろ?)ヒソ

提督(お前という奴は……。後で何か奢ってやる)ヒソ

提督「良い夢を見るんだぞ」スッ

利根「ならばカーテンはちゃんと閉めてくれぬか」

利根「…………」コクリ

飛龍「!」

提督「分かった」

シャッ──

利根「ついでに耳栓も借りるぞー」

提督「ああ」

飛龍(今の利根さんの合図って、つまり……)

利根(さて、これでまた二人の距離が縮まれば良いのじゃがのう──)



241:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/25(月) 00:08:14.24 ID:9mdLHh9Ko

提督「……さてと飛龍」

飛龍「? どうしました?」

提督「私達も少し休憩しよう。隣に座って貰って良いか?」スッ

飛龍「え? はい」スッ

提督「良い子だ」ナデナデ

飛龍「! もう、提督ったら。私は子供じゃありませんよ?」

提督「ふむ、ならばやめておこうか」スッ

飛龍「……ごめんなさい。今だけ子供にさせて下さい」

提督「珍しく我侭だな」ナデナデ

飛龍「その……」

提督「ん?」

飛龍「…………えっと、そうですね……なんだか、羨ましくって……」

提督「……何か取ってつけたような理由だが、甘えてみるか?」

飛龍「甘える……」

提督「ああ。飛龍はなかなか甘えようとしてこないからな。今回はどう甘えても構わんぞ」

飛龍「ど、どんな甘え方でも良いんですか?」

提督「流石に限度はあるがな。──さあ、どんな甘え方をしてくる?」

飛龍「じゃあ……膝枕が良いなぁ」

提督「膝枕?」

飛龍「えっと……ダメでしたか?」

提督「いや、そんな事で良いのかと思ってな。──ほら、いつでもこい」

飛龍「あれ?」

提督「うん?」



242:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/25(月) 00:08:43.04 ID:9mdLHh9Ko

飛龍「あ、いえ。なんでもありません。……失礼しますね」ソッ

提督(……私の知っている膝枕と飛龍の知っている膝枕は何か違いでもあるのだろうか)

飛龍「…………」

飛龍(本当は提督に膝枕をしたかったけど、これもこれで良いなぁ……。なんだろう。安心する……)スリ

提督「…………」ナデナデ

飛龍「あ、それ気持ち良いかも……」

提督「ふむ、そうか」ナデナデ

飛龍「♪」ニコニコ

飛龍「提督、実はですね、さっきの膝枕って言ったのは私がしたいなーって意味だったんですよ」

提督「む、そうだったのか?」

提督(……いや待て。それは飛龍が甘えさせる側になっていないだろうか)

飛龍「でも……提督の膝枕も凄く良いです。なぜかは分かりませんが、温かい気持ちになってホッとします」

提督「分からないでもない。心を許している相手に身体を預けるというのは、私もなぜか心地良く感じるよ」

飛龍「あ、提督も分かりますか。──本当、人って不思議ですよね。こうしてただ膝枕をして貰っているだけなのに、すっごく嬉しい気持ちになるなんて」

提督「私で嬉しく思ってくれてありがたい」

飛龍「それは勿論、そう思って当然ですよ。盲目になっていますからね」

提督「…………」

飛龍「おまけに聞く耳も持たなくなってて」

提督「…………」

飛龍「更には──…………?」

提督「……………………」

飛龍「……提督、どうかしましたか?」

提督「……いや、なんでもない」



243:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/25(月) 00:09:13.75 ID:9mdLHh9Ko

飛龍「なんでもないって事はないでしょう? 提督、凄く辛そうな顔をしていますよ」スッ

提督「大丈夫だ。ほら、横になっていて良いんだぞ」

飛龍「……提督、見れば分かるんですよ?」

提督「…………」

飛龍「今の提督は、なんだかヒビの入ったガラスみたいに壊れてしまいそうです」

提督「……………………」

飛龍「…………」シュン

飛龍「……ごめんなさい」

飛龍(私では、話せない内容だったんだろうな……)

提督「お前が悪い訳じゃないんだ。……すまない」

飛龍「…………」

提督「……同じだったから、つい……な」

飛龍「同じ……?」

提督「昔、金剛と話した内容と、な。お前はどこか金剛と似ている所があるのかもしれん」

飛龍「そうなんですか?」

提督「少しだけだがな」

飛龍「……私も、金剛さんみたいになれたら良いんですけどね」

提督「私は、飛龍は飛龍のままが良いと思う」

飛龍「え?」

提督「金剛のようになっても、それは金剛の代わりにしかならん。私は飛龍を真っ直ぐ見れるようになりたい」

提督「……この間にも言ったが、もう少しだけ待ってくれ。ちゃんと、お前を真正面から見れるようになるから、な?」

飛龍「──はいっ」

提督「さて、貴重な休憩時間なんだ。存分にゆっくりと休もう」

飛龍「はい! ……じゃあ膝枕、良いですか?」

提督「する方か?」

飛龍「いえ、される方で。……あんまりにも心地良かったものでして」コテッ

提督「くくっ。頭も撫でてやろう」スッ

飛龍「えへへー」

飛龍(私を私のままで、か。……うん。私も、その方が嬉しいな。ありがとうございます、提督)

飛龍(そしてこの時間をくれた利根さんも、ありがとうございます──)

……………………
…………
……



248:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/31(日) 20:23:04.72 ID:K0+3EKFxo

コンコンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「飛龍です。ただいま夕刻の哨戒から戻ってきました」ピシッ

提督「哨戒内容と現場の報告をしろ」

飛龍「はい。──敵影は見当たらず。また、これといって変わったモノなどもありませんでした。他の艦娘たちも至って真面目に取り組んでいるようです」

提督「何も問題無いな。ご苦労だった」

飛龍「いえいえ。……ところで提督、手に持っているそれはどうしたんですか?」

提督「これか。これは、片割れのペンダントだ」

飛龍「片割れ、ですか?」

提督「ああ。このペンダントは本来、二つで一つとなる物なんだ。よく見れば分かるが、錨が欠けた物に見えるだろう?」

飛龍「言われてみれば確かに……」

提督「時に飛龍。お前は右と左、どっちが好きだ?」

飛龍「と、唐突ですね……。正直に言ってどちらも変わりは無いんですけど……強いて言うなら左ですかね?」

提督「そうか。ならば左を渡そう」スッ

飛龍「ん? んん? すみません……話の先が見えないのですが……」ソッ

提督「右側は私が。左側は飛龍が。それで意味は分かるか?」

飛龍「────────」

提督「……気に入らなかったのならば言ってくれ。センスにはあまり自信が無いんだ」

飛龍「い、いえ! そういう訳じゃなくて……! あの……なんて言えば良いんでしょうか……」

提督「正直に言ってくれ」

飛龍「いえ……あの…………なんだか、顔がニヤけてしまいそうになって……」



249:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/31(日) 20:23:36.85 ID:K0+3EKFxo

提督「そういう事か。ニヤけてしまっても良いんだぞ」

飛龍「…………」トコトコ

提督「む? 後ろに回ってどうした」

飛龍「……照れているのを隠す為、かな?」ギュッ

提督「なるほどな」

飛龍「えへへー……♪」

提督「喜んでくれたようで何よりだ」

飛龍「そりゃあ嬉しいですって。なんだか、特別な気分になるでしょ?」

提督「そうだな。よく分かるよ」

飛龍「……あ」ソッ

提督「うん? 離れてどうした」

飛龍「一つ気になったんですけど、これって提督にとっては二回目ですか?」

提督「……そうだな。飛龍の物とはデザインが違うが、渡している。その片割れは引き出しの奥に仕舞ってある」

飛龍「……着けているのを見た事が無いような」

提督「渡した当日に逝かれてしまったら、な。誰も知らないはずだ」

飛龍「……そういう事だったんですね」

提督「ああ」

飛龍「提督」

提督「なんだ?」

飛龍「私のも、金剛さんのも、大事にして下さいね?」

提督「勿論だ。……むしろ、お前こそ沈むなよ?」

飛龍「誰が沈んでやるもんですか。まだまだ提督としたい事があるんですから、この先八十年くらいは元気で居るつもりですよ」

提督「百までか。良いな。私も百まで生きよう」



250:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/31(日) 20:24:05.13 ID:K0+3EKFxo

飛龍「…………」

提督「…………」

飛龍「……何言っているんですかね、私達」クス

提督「さてな。たまには良いだろう」ニヤ

飛龍「……それにしても利根さん、あまり来なくなりましたね」

提督「あいつなりに気を遣っているんだろう。利根も私の艦娘の一人だからな」

提督「──まあ、あまり気を遣わない者……いや、そうなっても仕方の無い者は居るが」チラ

飛龍「?」

コンコンコン──。

提督「入れ」

ガチャ──パタン

ヲ級「遊びに、来たよ!」ブンブン

空母棲姫「……すみません。どうしても行きたいと言っていまして……」

飛龍(なるほど。存在を秘密にしている二人ならそうなりますよね)

提督「という事は、また何か作れるようになったのか?」

ヲ級「うん! 今日は、おせんべい、作ってみた!」パッ

提督「煎餅か。珍しいな」

空母棲姫「小麦粉を少し余らせてしまったので、それに胡麻を混ぜて練り、油で揚げてみました」

提督「ふむ。では、四人で食べるとするか。飛龍、すまないがお茶の準備を頼んでも良いか?」

飛龍「分かりました。ほうじ茶で良いですか?」

提督「ああ。それで頼む。少し冷めてしまっているだろうが、湯はあったよな?」

飛龍「はい、ありますよ。少し待っていて下さいね」トコトコ



251:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/31(日) 20:24:34.38 ID:K0+3EKFxo

ヲ級「お茶ー♪ おせんべー♪」ニコニコ

空母棲姫「本当、この子ったら……。ごめんなさいね……」

提督「気にしなくて良い。ヲ級の性格からして、人と触れ合いたいのだろう」

空母棲姫「……確かにそんな風に見えます。ですが……」

提督「私は困ってはいないから安心してくれ」ナデナデ

ヲ級「えへー」ニパッ

空母棲姫「……………………」

提督「溜め息を吐かなくなったな」

空母棲姫「いい加減、慣れました。溜め息を吐きそうになる事はもはや日常茶飯事なので」

ヲ級「!」ピクン

飛龍「──お待たせしました。お茶を持ってきましたよ」トコトコ

ヲ級「飛龍のお茶、私、好き!」

飛龍「ありがとうございます。私も美味しそうに飲んでくれるのは嬉しいですよ」コトッ

ヲ級「熱い?」

飛龍「熱いですよー。だから、気を付けて飲んで下さいね」ナデナデ

ヲ級「はーい!」

提督「……ふむ」

空母棲姫「? この子を見てどうかしたのですか?」

提督「なに。そろそろ皆の前に出しても良いだろうかと思ってな」

飛龍「あ、確かにそろそろ良いかもしれませんね」

ヲ級「!! もう、隠れなくても、良いのっ?」ワクワク

提督「ああ。明日の日が暮れた頃、皆の前に紹介する。それからは鎮守府内を自由に歩き回って良いぞ」

ヲ級「やった!」



252:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/31(日) 20:25:02.78 ID:K0+3EKFxo

空母棲姫「…………」

提督「どうした。まだ不安か?」

空母棲姫「少しだけ……」

提督「安心しておけ。この鎮守府に居る子達ならば分かってくれる」

空母棲姫「…………反論できなくて嬉しいのやらなんとやら……」

提督「良い事だ。──さて、そろそろお茶会といこうか。飛龍も座ってくれ」

飛龍「はい」スッ

ヲ級「! 今日は、提督さんと、すっごく近いね?」

飛龍「あっ」

提督「良いものだぞ」

空母棲姫「……もしかして、お邪魔でしたか?」

提督「さてな。一つ言える事は、このお茶会を楽しもうという事くらいだ」

空母棲姫「もう……。そんな曖昧な返事を……」

飛龍「…………」チラ

提督「お前はここに居てくれよ?」

飛龍「ぅ……少し、恥ずかしいです……」

提督「今日ばかりは私の我侭だ。近くに居てくれ」

飛龍「もー……」

提督「くくっ」

提督(……まあ、こういうのも悪くはない。全ての物事は、止まる事無く流れていくのだから──)

提督「幸せにしてやるぞ、飛龍」

飛龍「……提督も幸せにしますからね!」

提督「ああ、楽しみにしているよ──」



253:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/31(日) 20:26:41.93 ID:K0+3EKFxo

──── 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 IF End────




254:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/01/31(日) 20:31:32.95 ID:K0+3EKFxo

飛龍ルートはここまでです。本当に穏やかに終わっていく締め方でした。こんな平和的に終わる長編物語を書いたのってどれくらい振りだろ……。

さて、次の投下からこの物語のトゥルーのルートを書いていきます。
たぶん皆さん気付いていると思うのですが、利根さんのルートと飛龍のルートのどちらもが提督と利根の問題があやふやのまま終わっています。これを直接的に解決するのがトゥルーです。
また一週間以内くらいにくると思いますので、もう少々この物語とお付き合い下さいませ。



260:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:55:34.99 ID:7SUR/2U5o

前スレ907からの分岐です。
金剛さんが正式に鎮守府の一員となる少し前に、甘くないスコーンを焼いていた辺りです。

投下していきますね。



261:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:56:11.45 ID:7SUR/2U5o

金剛(……さて、そろそろ焼き上がる時間デス。オーブンから取り出しまショウ)スッ

金剛「ふむ……ふむふむ。見た目はグッドです。後は味の方デスが……」

金剛「…………」モグモグ

金剛「……甘味が無くて、私の口には合わないデス。メープルシロップを掛ければ美味しいと思いマスが……」

金剛「うーん……。テートクは美味しいと言って下さるでショウか……」

コツッ──コツッ──コツッ──

金剛(! テートクですかね?)ソワソワ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「調子はどうだ、金剛」

金剛「私は元気デス。テートクは……なんだか雰囲気が少し暗いデスね? 何かあったのデスか?」

提督「まあ……ちょっとした総司令部からの面倒事だ。段ボール箱三つ分の書類をいきなりドカンと送られてきた」

金剛「み、三つ……。大人の人でもスッポリ入れそうなアレですよね……?」

提督「そうだ」

金剛「……お疲れ様デス」ペコッ

提督「長年サボっていたツケだろう。──ところで、何か作っていたのか? スコーンを焼いているような匂いがするが」

金剛「!! 分かるのデスか?」

提督「多少はな」

提督(『金剛』がよく作っていたからな……)

金剛「ぁ……」

提督「ん? どうした」

金剛「い、いえ……」

金剛(…………きっと、テートクの『金剛』も同じようにスコーンを作っていたのデスね……。失敗しまシタ……)

提督(……ああ……この子はたぶん『金剛』の事を考えているんだな。さて……どうしようか……)

金剛「……………………」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「…………」ポン

金剛「…………?」



262:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:56:42.65 ID:7SUR/2U5o

提督「……ありがとう」ナデナデ

金剛「……ごめんなさいデス」

提督「どうして謝る?」

金剛「私は、気を遣わせてしまっていマス……。本当でしタラ、テートクが喜べるようにするべきなのに……」

提督「その気持ちだけで充分だ」ナデナデ

金剛「でも──」

提督「充分だよ、金剛。そう思ってくれるだけで、私は嬉しい」ナデナデ

金剛「……ハイ」

提督「なあ金剛。そのスコーン、一つ貰っても良いか?」

金剛「え──。勿論デスけど……」

提督「けど?」

金剛「…………いえ、ぜひ召し上がって下サイ! とっても久し振りデスが、上手く出来まシタ!」

提督「ああ、頂く」ヒョイッ

金剛「…………」ドキドキ

提督「…………」モグ

金剛「……お口に合いマスか?」ドキドキ

提督「……うむ。良いな、これは。美味い」

金剛「リアリー!? やったデース!」

提督「金剛、確かに防音になっているとは言ったが、少し声を抑えてくれ」

金剛「あぅ……ソーリィ……」シュン

提督「だが……」

金剛「…………?」

提督「やっぱり、お前はそうやって明るい方が似合っている。正式にこの鎮守府に籍を置く事になった時は、素を出してくれ」

金剛「──ハイッ」

提督「うむ。良い返事だ」



263:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:57:17.06 ID:7SUR/2U5o

提督(私としても、暗い金剛を見るのは辛いからな……)

金剛(……ああ……やっぱり、私を見ると思い出してしまうのデスね)

金剛「……………………」グッ

金剛(私は、テートクの為に何かしたいデス)

金剛「テートク」

提督「ん、どうした」

金剛「ご無理はしないで下サイ。……もし、どうしても私の姿を見るのが辛い時は、そのように言って下サイ」

提督「……何かするつもりなのか?」

金剛「ホラ、髪型を変えてみるとイメージが変わるかもしれないデス」ホドキホドキ

提督「髪型を?」

金剛「ハイ。……よいしょ…………今は手で支えているだけデスが、ポニーテールです。どうデスか?」スッ

提督「より活発なイメージになったな」

金剛「こうすれば、少しは意識を逸らせるかな……と思いまシテ」

提督「……なるほどな。だが、それは気持ちだけ受け取っておく。私の事を考えてくれるのは嬉しいが、金剛は自分の好きなようにやっていてくれ。いつもその髪型で居るという事は、その髪型が気に入っているんだろう?」

金剛「確かにそうデスけど……。それよりも私の好きなようにとは……?」

提督「島に居た時にも言ったかもしれんが、ずっと出撃続きで自分のやりたい事も何も出来なかったのだろう? この鎮守府で出来る範囲だったら好きな事をやっても良いんだぞ」

金剛「…………それでは、お言葉に甘えさせて頂きマス」

提督「ふむ。何がしたいんだ?」

金剛「──私は、テートクの為に何かをしたいデス」

提督「────────」

金剛「テートクが笑顔になれるようにしたい……。それが、今の私のやりたい事デス」

提督「……そうか」

金剛「ハイ」



264:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:57:50.48 ID:7SUR/2U5o

提督(私としても、暗い金剛を見るのは辛いからな……)

金剛(……ああ……やっぱり、私を見ると思い出してしまうのデスね)

金剛「……………………」グッ

金剛(私は、テートクの為に何かしたいデス)

金剛「テートク」

提督「ん、どうした」

金剛「ご無理はしないで下サイ。……もし、どうしても私の姿を見るのが辛い時は、そのように言って下サイ」

提督「……何かするつもりなのか?」

金剛「ホラ、髪型を変えてみるとイメージが変わるかもしれないデス」ホドキホドキ

提督「髪型を?」

金剛「ハイ。……よいしょ…………今は手で支えているだけデスが、ポニーテールです。どうデスか?」スッ

提督「より活発なイメージになったな」

金剛「こうすれば、少しは意識を逸らせるかな……と思いまシテ」

提督「……なるほどな。だが、それは気持ちだけ受け取っておく。私の事を考えてくれるのは嬉しいが、金剛は自分の好きなようにやっていてくれ。いつもその髪型で居るという事は、その髪型が気に入っているんだろう?」

金剛「確かにそうデスけど……。それよりも私の好きなようにとは……?」

提督「島に居た時にも言ったかもしれんが、ずっと出撃続きで自分のやりたい事も何も出来なかったのだろう? この鎮守府で出来る範囲だったら好きな事をやっても良いんだぞ」

金剛「…………それでは、お言葉に甘えさせて頂きマス」

提督「ふむ。何がしたいんだ?」

金剛「──私は、テートクの為に何かをしたいデス」

提督「────────」

金剛「テートクが笑顔になれるようにしたい……。それが、今の私のやりたい事デス」

提督「……そうか」

金剛「ハイ」



265:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:58:16.79 ID:7SUR/2U5o

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……そうだな。とりあえずは、今晩あたりで一緒にティータイムでもするか」

金剛「! ハイッ! お待ちしていマス!」

提督「金剛、何時まで起きていられる」

金剛「深夜でも問題ナッシングです。……流石に三時とかですと辛いデスが」

提督「ならば、零時にここへ来るとしよう」

金剛「ハイ! 楽しみにしていマス!」

提督「…………」ポン

金剛「?」

提督「ありがとう」ナデナデ

金剛「!」

提督「では、私は執務に戻る。また今夜に」

ガチャ──パタン

金剛「……テートクの顔、穏やかでシタ」

金剛「少しは、お役に立てているのでショウか……?」

…………………………………………。



266:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:58:43.24 ID:7SUR/2U5o

提督「──さて、今日の執務はこれで終わりだ。ご苦労だった、飛龍」トントン

飛龍「お疲れ様です、提督」

提督「ああ。今日はもう休んで良いぞ」

飛龍「はい。──あ、そうだ。一つ良いですか?」

提督「ん?」

飛龍「これから何かご予定とかありますか?」

提督「……そうだな。一つ入っている」

飛龍「あら、そうですか……」

提督「何かあったのか?」

飛龍「ああいえ! 大した事ではありませんから」

提督「ふむ?」

飛龍「ええーっと……ただ、お酒に誘おうかなっと思っただけです。ほら、まだ日も跨いでいませんし」

飛龍(何より、なんだかいつもよりも誘いやすそうな雰囲気でしたしね)

提督「そういう事か。すまんが、それはまた今度にしてくれ」

飛龍「はい。また誘いますので、提督の都合が良い時に飲みましょう」

提督「ああ、そうしよう。──では飛龍、良い夢を見ろよ」

飛龍「はい! おやすみなさいませ」

ガチャ──パタン

提督(……さてと。約束の時間までかなり余裕があるな)

提督「……………………」チラ

提督「月夜に照らされた海、か……」

提督(そうだな。久し振りに夜の海でも眺めてみるか)

…………………………………………。



267:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:59:10.26 ID:7SUR/2U5o

提督(……暗いな。月が昇っているとはいえ、半分だけの光では波くらいしか見えるものがない)スタスタ

提督(本当にどこまでも吸い込んでいきそうなほど黒い。……深海に沈むと、こんな風に暗くて黒いのだろうか)

響「…………」ボー

提督「む、響?」

響「! ……司令官? ビックリしたよ」

提督「私こそ驚いたぞ。こんな時間にどうしたんだ?」

響「なんとなく部屋を抜け出したくなってね」

提督「……ふむ」

響「向こうに帰りたいとかじゃないよ。それだけは先に言っておくね」

提督「ならば、他に思う所があるのか」

響「ん、そうだね……。皆が優しい所が少し辛いかな」

提督「優しい所が?」

響「うん。暁や雷、電が優しいんだ。私を相手に普通にしようと努力してくれてる」

提督「…………」

響「私を見て、話して、一緒に居て、三人は辛いはずだよ。そうだっていうのに、三人は私と普通にしてくれてるんだ。……そんな三人の姿を見るのが、私は少し辛い」

提督「だから部屋を抜け出したのか」

響「うん。ごめんよ、司令官」

提督「謝る事ではない。いずれ、三人も響も慣れる事だ」

響(司令官みたいに……とは言わないでおこうかな)

提督「響」

響「なんだい司令官?」

提督「お前には、目の前に広がる海がどう見える?」



268:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 18:59:45.07 ID:7SUR/2U5o

響「……………………なんだか、私や司令官みたいに見えるよ。誰かが見ている時は至って普通のようにしているのに、夜になって見る人が居なくなったら暗くて冷えてしまっている姿を見せるから」

提督「……そうか」

響「…………」

提督「…………」

響「金剛さんや瑞鶴さんも、同じなのかな……」

提督「……それは二人に聞いてみないと分からないかもな」

響「うん……」

提督(…………ん?)チラ

長門「──二人してこんな所で何をしているんだ?」

響「! ……海を見ていたんだよ」

長門「なぜまた夜の海なんかを……。暗くてほとんど何も見えないだろう?」

響「なんとなく、かな」

提督「そうだな。なんとなくだ」

長門「……はぐらかしているように感じるが、まあ良いか」

提督「お前こそ、こんな夜中にどうしたんだ?」

長門「少し夜風に当たりたくなってな。時々だがこうやって夜、外に出ているんだ」

提督「そうか。意外だな」

長門「……意外か?」

提督「就寝と起床のどちらも規則正しくしていそうなイメージがある」

長門「なるほど。出来れば私もそうしたいものだな」



269:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/06(土) 19:00:14.12 ID:7SUR/2U5o

響「長門さんも休みは不定期だったからね」

提督「それで体内時計が狂ってしまったのか?」

長門「そんな所だ。何も無いのにいきなり目が覚めてしまう事もある。そういう時はこうして夜風に当たっているぞ」

提督「…………」ポン

長門「……なぜ頭に手を置いた」

提督「やはり、お前も苦労していたんだなと思ってな」ナデナデ

長門「私を子供扱いか……」

提督「ただの労いだ。素直に受け取っておけ」スッ

長門「むぅ……」

提督「──さて、私はそろそろ中へ戻るとしよう」

響「もう行っちゃうの?」

提督「金剛と約束をしていてな」

響「私も行って良い?」

提督「そうだな。金剛も喜ぶだろう。──長門、お前はどうする」

長門「ふむ……。お邪魔させてもらおうか。その内、眠気もやってきてくれるだろう」

提督「決まりだな。では、行くか」

…………………………………………。



277:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/13(土) 23:07:19.03 ID:5gqbYN2eo

コツッ──コツッ──コツッ──

金剛「!」ソワソワ

カチャッ……ガチャ──パタン

提督「待たせた」

瑞鶴「お邪魔しまーす」

響「やあ」

長門(……甘い匂い)

金剛「ワォ。皆、来てくれたのデスね」

提督「外では響と長門に、廊下を歩いている途中で瑞鶴と会ってな。事情を知っている者だから誘ったんだ」

金剛「なるほどデス。では、お湯も沸いているので、すぐに紅茶を淹れるネー」ソッ

長門「……本当、随分と元気になったな」

金剛「そうデスか?」

瑞鶴「うん。あそこに居た時とはもう全然違うわよ」

響「枯れ掛けた花に水をあげたような感じだよね」

長門「うむ。確かにそのような感じだ」

金剛「枯れ掛けたって……まるでお婆ちゃんみたいな言い方デス……」

提督「流石に婆さんは無理がある。どんなに悪く見積もってもお姉さんだろう」

瑞鶴「提督さん的には今の金剛さんはどんな風に見えるの?」

提督「うら若き乙女」

金剛(……少し照れマスね)テレ

響「私は?」

提督「頭の回る聡明な子、だな」

響「ハラショー」



278:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/13(土) 23:07:58.15 ID:5gqbYN2eo

瑞鶴「じゃあ私や長門さんはどうなの?」

提督「瑞鶴は少女というのがピッタリと当て嵌まる。長門は……そうだな」

長門「…………」

提督「……プライドの高い女性だろうか」

長門「……なんだか私にだけ毒があるように聞こえるのは気のせいか?」

提督「まだ長門の事はよく分かっていないからどうもな。第一印象より少し踏み込んだ部分までしか判断できん」

長門「私はそんなにもプライドが高いように見えるのか……」

瑞鶴「うん」

金剛・響「…………」コクコク

提督「喋り方や仕草、自分の趣味を隠す所など特に」

長門「~~~~~~ッ」

提督「ついでに言うと、素直になれない不器用な子にも見える」

長門「……酷く、落ち込むなそれは…………」ズーン

響「こればっかりは性格だから仕方が無いのかな」

長門「……なるべく早く直すよう善処しよう」

提督「私は無理に変えようとしなくても良いと思うが」

長門「気休めの言葉は受け取らんぞ……」

提督「変えるなとは言っていない。そういうのはゆっくりで良いんだ。周りに迷惑を掛けている訳でもないだろう? むしろ、急に変えようとするとストレスにもなる上、周りも心配する。そういうものは自分のペースで変えていく方が上手くいくものだ」

長門「……ああ、なるほど。そういう事か」

瑞鶴「…………? 何がそういう事なの?」

長門「いや、すまん。駆逐艦の子達が揃ってこの方の事をお父さんみたいだと言っていたのを思い出してな。それでなるほどと思ったんだ」

金剛「言われてみれば確かにそんな感じもするネ。──お待たせしました。アッサムですヨ」



279:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/13(土) 23:08:24.29 ID:5gqbYN2eo

瑞鶴「良い香りねー。どういう紅茶なの?」

金剛「深いコクと力強い味の紅茶デス。味が強いデスので私はミルクティーが一番合うと思いマス」

響「じゃあ、私はミルクティーにするね」

瑞鶴「私もミルクティーにしてみる」

提督「私はストレートで頂く」

金剛「長門はどうしマスか?」

長門「では……ミルクティーで」

金剛「分かりまシタ。──まずは提督の分デス」ソッ

提督「ありがたい」

金剛「そして……ハイ、三人の分デス」ソッ

瑞鶴「ん? 金剛さん、なんで提督さんのと私達のでポットが違うの?」

金剛「ミルクティーにする時は茶葉の量を多くすると、とっても美味しくなるデース。飲み比べると分かるデスよ」

瑞鶴「へぇ……。あ、ミルクってどれくらい入れるの?」

金剛「お勧めは紅茶の半分くらいデス」

長門「半分……? そんなにも入れるのか」

金剛「イエス。ストレートティーに同じ量を入れるとミルクの味に負けてしまいますが、そうならないように茶葉を多く入れるのデス」

響「そうなんだ。じゃあ早速」スッ

響「……美味しい。紅茶って、こんなに美味しいんだ」

瑞鶴「何これ。支給品の紅茶と全然違う。砂糖も入ってないのに、淹れ方が違うだけでこんなにも美味しくなるんだ」

長門「これは……」パチクリ

金剛「長門も気に入ってくれたようデスね」ニコニコ

長門「ああ。こんなに美味い紅茶を飲んだのは初めてだ」



280:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/13(土) 23:08:51.32 ID:5gqbYN2eo

金剛「テートクはどうデスか?」

提督「ああ、美味いぞ。スコーンも頂こうか」スッ

瑞鶴「あっ私も」

金剛「瑞鶴、このスコーンはプレーンですからジャムやメープルシロップ、クリームを付けると良いデスよ」

響「金剛さんのお勧めは?」

金剛「少し悩みマスが、私はクリームを付けるのが一番だと思うデース」

瑞鶴「クリームね。分かったわ」

金剛「たっぷりと付けるのが秘訣ネ」

瑞鶴「じゃあ……このくらい?」

提督「もう少し多くするくらいだ。──ああ、それくらいだな」

金剛「!」

瑞鶴「~~~~~~!! 最高……っ! こんなに美味しいお菓子を食べたのって初めてかもしれないわ……!!」

金剛(……確か、テートクは砂糖が苦手だったはずデス。という事は……)

提督「どうした金剛? お前も食べて良いんだぞ」

金剛「──アハ。皆の美味しそうに食べてくれる姿に気を取られちゃったデース」

長門「これほど美味い菓子を作ってくれたんだ。私も大満足だぞ」

金剛「ありがとうございマス!」

金剛(……このティータイムは、失敗だったかもしれまセン)

提督(ふむ……)

…………………………………………。



281:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/13(土) 23:09:26.60 ID:5gqbYN2eo

金剛「……………………」カチャ

金剛(よく考えれば、当たり前の事でシタ……。私達はテートクの事をよく知っていませんが、テートクは『私達』の事をよく知っているのデス……)

金剛(大体の好みも、どういう事が苦手なのかも、テートクは分かっているはずデス……。だから、私が手の込んだお菓子や紅茶を用意しても、それはテートクの『金剛』が既にやっている事のはずデス……)

金剛「……辛く、思い出させてしまっただけデス。本当、私はダメな艦娘デス……」

金剛(こんなだから、私は──)

コンコンコン──

金剛(────っ? ……誰デスか? 私を知っている人ならば、誰もこんなノックなんてしないはず……)

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「……え?」

提督「さっき振りだな。少し時間をくれないか?」

金剛「ええ……それは構わないのデスが……何かあったのデスか?」

提督「何かがあったのは金剛、お前だろう」

金剛「────────」

提督「今回のティータイム、失敗したと思っていないか?」

金剛「……は、い…………」

提督「やはりな。途中で様子がおかしかったから、そうだと思った」

金剛(怒られるのでショウか……)ビクビク

提督「今回、ティータイムを提案したのは私だというのを忘れていないか?」

金剛「…………? あ──」

提督「ようやく気付いたようだな。そういう事だ。私は、今回のティータイムは良い時間だったと思っていた。金剛や瑞鶴、響に長門が小さいながらも喜んでいただろう? ああいう時間がお前達には必要だと、改めて思ったくらいだ」

提督「金剛が何を思って罪悪感を覚えたのかまでは分からないが、その罪悪感は杞憂だから安心しろ。実際に、紅茶を飲む私は辛そうな顔をしていたか?」

金剛「…………」フルフル

提督「そうだろう? お前は頭が回る。そして少し臆病だ。自分が悪かったと思ってしまうのも過去を考えれば仕方が無いが、そんな事はないと伝えておく」

金剛「…………」

提督「…………」

金剛「……………………」

提督「……大丈夫だ」ソッ

金剛「っ……!」ピクン

提督「大丈夫だよ、金剛」ナデ

金剛「…………」ジワ

提督「また、機会があったら美味い紅茶を淹れてくれ。楽しみにしているから、な?」ナデナデ

金剛「……はい…………っ」ポロ

金剛「はい……! はいっ……!」ポロポロ

金剛「ありがとう、ございマス……! 本当に……本当に、不安だったのデス……! 迷惑しか掛けていないんじゃないかと……余計な事しかしていないんじゃないかと……!」ギュゥ

提督「……雨が止むまで、私は傘になっておこう。雨宿りくらいならば出来るはずだ」ナデナデ

金剛「うぁぁ……ひっく…………ぁぁ……」

…………………………………………。



289:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/21(日) 01:42:19.62 ID:Y/xJyOjdo

金剛「……もう、大丈夫デス」

提督「そうか」スッ

金剛「……えへ。なんとなくデスが、分かった気がしマス」

提督「何がだ?」

金剛「今はまだ秘密、デス」

提督「そうか……」

金剛「ハイ。この先どうなるかは分かりまセンが、もしかしたら言えるかもしれないデス」

提督「ふむ」

金剛(期待すると同時に、抑えておいた方が良いかもしれまセンけれどね……)

金剛「ところで、もうこんな時間デスけれど朝は大丈夫なのデスか?」

提督「すぐにでも寝れば問題無い。心配してくれてありがとな」

金剛「いえいえ。お身体は大事にして下サイね?」

提督「ああ。皆の心配する顔はあまり見たくはない」

金剛「もう……そっちデスか」

提督「こればっかりは性分だ。諦めろ」

金剛「むぅ……──!」ハッ

金剛「ほらほら、早くスリープして疲れを取って下サイ。でなければ明日辛いのはテートクですヨ」グイグイ

提督「そうしておくか。──では、良い夢を見ろよ、金剛」

金剛「ハイッ。テートクも良い夢を見て下サイね」

ガチャ──パタン

金剛「…………」トコトコ

カチン

金剛(……さて、鍵も掛けましたし片付けの続き──は、もうこれでお終いデスね)カチャ

金剛(であれば、私もそろそろお休みするとしまショウか)パチン

金剛(よいしょ……)コロン

フワッ

金剛「あ──……」

金剛(……なぜでショウか。たまにあるのデスが、こうして横になっていると誰かに護られているような気分になりマス……)

金剛(……この鎮守府は、本当に不思議な事で一杯デス)

金剛(艦娘をあんなにも大切に扱って下さるテートクに、深海棲艦の二人、そして本当は違う提督の艦娘の私達……。どれも普通ではありまセン)

金剛(このベッドもそうデス。こんなにも心が落ち着けるなんて、本当に不思議デス)

金剛(今日も、ぐっすりと眠れそうデスね──…………)

……………………
…………
……



290:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/21(日) 01:42:54.62 ID:Y/xJyOjdo

提督「──さて、今日の執務はこれで終わりだ。今日はよく最後まで起きていたな、利根」

利根「まあ、そういう事もあるのじゃ」

提督(……うん?)

飛龍「それでは、私はそろそろ部屋に戻りますね」スッ

利根「む? なんじゃ。今日はやけに早く帰るのじゃな」

飛龍「加賀さんにお酒を誘われていましてね。提督と利根さんも一献どうですか? 良いお酒が入っていますよ」

利根「そうじゃのう。我輩は次に回すとするかの」

飛龍「ありゃ。用事でもありましたか」

利根「うむ。ちっとばかし厄介事がの」チラ

飛龍(ん……? 提督の方へ視線を……?)

提督(……私に関係する事か)

提督「すまんが飛龍、今ばっかりはタイミングが悪い。また今度誘ってくれるか?」

飛龍「……はい……分かりました」シュン…

提督「良い夢を見ろよ」

飛龍「はい……」

ガチャ──パタン

提督「──それで、何があったんだ利根? 今まで起きていたのもそれを伝える為か」

利根「うむ。些細じゃが気になる噂を耳にしての」

提督「噂?」

利根「なんでも、夜に幽霊が現れるらしいぞ」

提督「見間違いか寝惚けていたか、それとも誰かが面白がって流したという可能性は」

利根「無論、その可能性もあるじゃろうが、限りなく低いじゃろう。内容が内容じゃ。面白半分で流す奴なぞこの鎮守府に居らん」

提督「……何を見たと言うんだ」



291:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/21(日) 01:43:22.06 ID:Y/xJyOjdo

利根「……………………」

提督「…………」

利根「……金剛じゃ」

提督「なんだって……?」

利根「信じにくい話じゃが、あの金剛らしいぞ」

提督「それは、今隣に居る金剛を見掛けたという事ではないんだな?」

利根「うむ。我輩達のよく知る、我輩達が壊れる切欠となった金剛……。半分ほど透き通っており、おまけに艤装付きだったそうじゃ」

提督「…………」

利根「提督よ、我輩は幽霊というもの自体は信じておる。じゃが、金剛の幽霊となると話は別じゃ。……あやつは、沈んでしまったのじゃからな」

提督「……必ずとは言えないが、艦娘が沈めば深海棲艦となる。幽霊になるはずが無い……か」

利根「うむ。──ちなみにじゃが、その話をしておった者達にはこれ以上、話が広がぬよう口止めをしておいた」スッ

提督「良くやった。では、確かめに行くぞ」スッ

利根「うむ。……こればっかりは、真相を確かめねばならん」

ガチャ──

提督「……利根」

利根「うん? どうしたのじゃ?」

提督「もしも、その噂が本当だったらどうする」

利根「…………さあ、のう……。まずは見付けてみねば分からぬ」

利根「眺めるだけか、何をしておるのかと話し掛けるか、地に手と頭を擦り付けて謝るか……どうするのかは、分からぬ」

提督「……そうか」

利根「そう言うお主はどうするのじゃ、提督よ」

提督「…………さあ、な。私も分からん」

利根「やはりか……」

提督「……一先ず、幽霊とやらを見付けるぞ。色々と問題が起きるかもしれんからな」

利根「うむ」

──パタン



292:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/21(日) 01:43:52.74 ID:Y/xJyOjdo

利根「…………」キョロキョロ

利根「一応聞いておくが、この部屋に居る金剛に関する話はせぬ方が良いのじゃな?」

提督「ああ。こんな時間とはいえ、誰に聞かれるか分からん」

利根「了解じゃ。……ところで提督よ」トコトコ

提督「どうした」スタスタ

利根「なぜ、幽霊は現れたのじゃろうな」

提督「さあな……。心配で様子を見に来た……とかだったら可愛いものなんだが」

利根「……もしそうならば、提督は本当に慕われておるのう」

提督「提督冥利に尽きる」

利根「こうやって冗談を言えている内は、まだ問題無いのう」

提督「ああ……。──ちなみに、どこで見掛けたとかは言っていなかったのか?」

利根「む……すまぬ。それは聞いておらなんだ。用を足しに行った時に見付けたとは言うておったから、恐らくそれまでのどこかじゃろう」

提督「ふむ。一応、鎮守府を回って見てみるか。別の場所でも見掛ける可能性はある」

利根「うむ。そうするかの」

スタスタスタ──

────────。

??「……………………」

…………………………………………。



296:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/28(日) 20:31:43.87 ID:7Iq+mEEgo

利根「……居らぬのう」

提督「居ないな。噂は噂にしか過ぎんという事だろうか」

利根「もしくは、今日たまたま会わなかっただけかもしれぬ」

提督「その可能性も高い──が、今日はもう遅い。お前はそろそろ寝ておけ」

利根「無論、提督も寝るのじゃよな?」

提督「私の性格を知っているだろう」

利根「知っておるから念押ししておるんじゃろうが。我輩の体調を気遣うお主が、自分の体調を気遣わないとは説得力が無くなるぞ」

提督「……仕方が無いな。今日は切り上げだ。次の夜にまた探すとしよう」

利根「それがベストじゃろうな。……ところで提督よ」

提督「どうした」

利根「此度の幽霊騒動じゃが、金剛を表に出す事に影響は出ぬか?」

提督「丁度、私もその事について考えていた所だ。そろそろ金剛もこの鎮守府の一員として迎えようと思っていたが、少し難しくなった」

利根「やはりか」

提督「金剛の幽霊を見たのは利根が聞いた者だけとは限らん。その上、幽霊を見た者からすると、ここで金剛を迎え入れる事となれば不気味に思うだろう」

利根「そうなるのう。……という事は、見送りか」

提督「残念ながらな……。ほとぼりが冷めるまで、また金剛には我慢してもらうしかない」

利根「仕方が無いのう……」

提督「……もしかしたら、金剛の幽霊が現れたのには意味があるかもな」

利根「なんのじゃ?」

提督「さて。それは私にも分からない。そもそも、本当に意味があるのかすらも分からん」

利根「全ては予想でしかない、という事じゃな」

提督「そういう事だ」

利根「金剛の幽霊が現れた意味……か。何かありそうな気がするのう……」

提督「どんな意味があると、お前は考える?」

利根「漠然とありそうと思っただけじゃな」

提督「そうか」

利根「……しかし、残念じゃ」

提督「ああ……残念だ。あそこに押し込んでおくのは、金剛にとってもあまり良くない」

利根「深夜くらいは外出許可を出してみてはどうじゃ」

提督「一考しておこう」

提督(……金剛の幽霊が現れた意味、か。……私に愚痴の一つでも言いに来たのだろうか。それとも、ただ単に会いに来たくなっただけ……というのは夢を見過ぎか……)

…………………………………………。



297:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/28(日) 20:32:23.49 ID:7Iq+mEEgo

金剛「…………?」

瑞鶴「え、金剛さんは待機? なんで?」

響「何があったんだい、司令官」

提督「昨日、ある問題が発生した。それが原因で金剛には悪いが、もう少しここに居て欲しいんだ」

瑞鶴「問題?」

提督「ああ。この鎮守府で、幽霊が目撃された」

瑞鶴「え……」ビクッ

金剛「ゴースト、デスか」

響「……それだけ?」

瑞鶴(え、みんな怖くないの!?)

利根「ただの幽霊ならば無視して構わぬが、金剛の姿をしておるのが問題なのじゃ」

金剛「私……?」

提督「正確にはこの鎮守府に存在していた金剛だ」

響「…………ッ」

金剛「────」

瑞鶴「…………!」ビクビク

提督「もしかしたら、私に文句の一つでも言いに来たのかもしれんな」

金剛「それは無いと思いマスけど……」

利根「うむ。想像も付かん」

響「二人に同意かな。私も全然思いつかない」

瑞鶴「…………」コクコク



298:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/28(日) 20:33:46.81 ID:7Iq+mEEgo

提督「深く関われば相手の欠点や不満に思う部分などいくらでも出てくるものだ」

提督(無論、その部分も含めて愛おしいが)

瑞鶴「……えっと、つまり、提督さんはその金剛さんに不満とかってあったの?」

提督「ある事にはあったぞ」

瑞鶴「へぇ……どんな事?」

提督「まずは無理をしがちな所だな。しかもそれを隠そうとする。もう少しは私を頼ってくれても良いと思うのだが。それと、アイツは私に対して盲目だった。いや、盲目は言い過ぎか。並大抵の事であれば受け入れてしまうんだ。ハッキリと言う所は言うのが救いだったか。あと、私を悪くない意味で困らせる事も多々あったな」

金剛(ナゼだか私にも当て嵌まっている所があるような気がするデス……)

響「喧嘩とかもしたの?」

提督「すぐに収拾は付いていたが、たまにしていたぞ」

利根「二人が喧嘩をすると怖いのじゃぞ。誰一人、あの加賀ですら近付こうとせんのじゃからな」

瑞鶴「うわぁ……それってよっぽどよね……」

響「どっちが折れてたの?」

提督「どっちもだ。冷静に考えて、互いに自分の悪い部分を言って丸く収まっていた」

瑞鶴「何それ……すっごく羨ましい」

利根「そうなのかの?」

金剛「……私達は、あの方に逆らえまセンでシタから」

瑞鶴「…………」コクッ

響(夫婦や主従関係どころか、奴隷って感じだったしね)フイッ

響「それでも、やっぱり聞く限りじゃ文句なんて言いそうにないかな」

提督「ふむ。どうしてそう思ったんだ?」

響「勘、かな。女の勘」

提督「……響が女の勘と言うと、妙に信じてしまうな」

利根「うむ……。しかし、そうとしても深海棲艦にならずに幽霊になったのかは分からず仕舞いじゃぞ」



299:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/28(日) 20:34:30.44 ID:7Iq+mEEgo

瑞鶴「──え? ちょ、ちょっと待ってよ!」

利根「む?」

響「……利根さん、今の」

提督(……マズったな)

金剛「…………」

利根「む……すまぬ、提督」

提督「仕方が無い。空母棲姫やヲ級が居るんだ。いずれバレていただろう。……そういう事だ。あくまで可能性だが、艦娘は沈むと深海棲艦となる可能性が高い」

響「……どうしてそう思ったんだい」

提督「三人も薄々気付いていたと思うが、二人──特に空母棲姫はどこかで見た事のある姿と言動をしていないか」

瑞鶴「それは……思った事はあるけど……」

提督「私の予測だが、空母棲姫は加賀が沈んだ姿ではないかと思っている。深海棲艦だというのにも関わらず艦娘に詳しいのも、そう考えれば納得がいく。ヲ級は……今の所分からん」

瑞鶴「で、でも! 沈んだら確実に深海棲艦になる訳じゃないのよね? それだったら、幽霊になる可能性だってあるんじゃないの……?」

提督「今まで艦娘の幽霊というのを聞いた事が無い。私も提督だ。もしそのような事例が他の鎮守府にあれば耳へ入ってくる」

提督「……それどころか、艦娘が沈んだ後はどうなるのか──それを知っている者は誰も居ない。帰って来たという話も無い。死体として浮き上がってきたという話も無い。こればっかりは流石におかしいと思わないか?」

響「……仮にそうだったとしても、実際に金剛さんの幽霊が出ているんだよね。これはどういう事なのかな」

提督「それが分からない所だ。私の予想が外れているのか、それとも何か特別な理由があったのか……」

瑞鶴「……私は、予想が外れていて欲しいなって思う。だって、それってつまり過去の仲間を殺してるって事だし……」

提督「その点に関しては人間同様に死後、悪霊となった者が退治されるようなものだと思っていたのだが」

瑞鶴「……うん。そう思うようにするわ。……その方が、気が楽だもん」

提督「話を戻すが、最低でも幽霊騒ぎが解決するまではここに居て貰えないだろうか」

金剛「分かりまシタ」

利根「……即答じゃのう」

金剛「…………? えっと、何かおかしかったデスか?」

提督「……お前も、どことなく全てを受け入れようとする節があるな」

金剛「あれ……え……?」



300:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/28(日) 20:35:25.07 ID:7Iq+mEEgo

響「もう少し不満を言ったり、代わりに何かを要求すれば司令官の気が楽になるって事?」

提督「それもある。……そうだな。直接訊くのは苦手だが……何か欲しい物はあるか?」

金剛「欲しい物……」

四人「……………………」

金剛「うーん……うー、ん……?」

利根「……些か無欲が過ぎぬか?」

瑞鶴(まあ……あんな暮らしと比べたら、ここでのんびり出来るだけでも天国だしねぇ……)

金剛「…………えっと、では……時々、ここで今みたいにティータイムをしまセンか? 長門や、空母棲姫にヲ級も交えてデス」

提督「……そんな事で良いのか?」

金剛「え。これでも結構無茶を言ったつもりなのデスけど……」

利根「……感覚が大いに違うのう」

提督「……一先ずはそれで手を打とう。また何かあったら言ってくれるか?」

金剛「ハイ」

金剛(……これ以上、望む物が無いって言ったら逆に困られてしまいそうデス)

…………………………………………。



301:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/02/28(日) 20:35:54.32 ID:7Iq+mEEgo

瑞鶴「それじゃ金剛さん、おやすみ」

響「またね」

利根「温かくして寝るのじゃぞー」

提督「良い夢を見てくれ」

金剛「グッナイ、デース」

瑞鶴「……ねえ提督さん。迷惑かもしれないけど、部屋まで送ってもらって良い……? 怖くて……」

提督「そこまで苦手だったのか。分かった。送ろう」

瑞鶴「ありがと……」

ガチャ──パタン

金剛「…………」カチン

トコトコ……ポフッ

金剛「……私は、そんなにもおかしいのでショウか。……とは言っても、他にしたい事は…………」

金剛「…………テートクの為に何かをしたい……? うーん……」

金剛(……深くは考えないようにしまショウか。思い付いたものがテートクにとって困る事という可能性もありマスし)

金剛(それにしても……ゴースト、デスか……。テートクの金剛は数年前に沈んだと聞きましたが、なぜ今になって……? どんな意味があるのでショウか……)

金剛「本当にテートクへ文句を……? まさか。出会ってからまだ日は浅いデスが、とても魅力的な人だというのは分かるデス」

金剛「……それとも、こう思うのすらおかしいのでショウか。デスが、三人も文句を言いに来たとは思いにくいと言っていまシタし……」

金剛「いっそ、ゴーストと話す事が出来れば良いノニ……。そうすれば、どうしてゴーストとして現れたのかも聞けマスし……」

金剛「……寝てしまいまショウ。叶わない夢は望まない方が良いデス。……いえ、叶わないからこそ、夢というのかもしれまセンね」モゾ

金剛「……………………」スゥ

??「…………」スッ

金剛「……………………」スー

??「…………」ナデ

金剛「ん……?」パチッ

金剛(…………? 今、誰かに頭を撫でられたような……?)キョロ

金剛(……そんな訳ないデスよね。まどろみの中で、誰か優しい人が撫でてくれたのと勘違いしたのでショウ)

金剛(もう一度、さっきの夢を見たいデスね……。なんだか、凄く優しかったデス……)スゥ

??「……………………」

……………………
…………
……



305:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/06(日) 19:00:22.66 ID:YC7of8ero

提督「…………」サラサラ

利根「……うーむ? 飛龍よ、この部分はどうすれば良いのじゃ?」スッ

飛龍「どれですか? …………ああ、先月の書類にある資料を前提としていますので、それを参考にして──」ゴソゴソ

利根「ふむ。ふむふむ」

コンコンコン──。

提督「ん? 入れ」

ガチャ──パタン

長門「失礼する」

提督「長門か。どうしたんだ」

長門「一つ、報告せねばならん事がある」

提督「報告? もう就寝時間前だというのにか?」

長門「先程、幽霊を見たと言う子が居た」

提督・利根「!」

長門「非常に怖がっていたので部屋まで送ったが、その時に私も幽霊とやらを見掛けたのでな」

飛龍「……この鎮守府に幽霊が出るなんて初めて聞きましたよ。大丈夫だったんですか?」

長門「ああ。まるでこっちが見えていないかのように廊下を歩いていたぞ」

提督「……長門」

長門「どうした」

提督「その幽霊は、どんな姿をしていた」

長門「艤装を着けた金剛だったが、それがどうした?」

提督「利根、飛龍。私は少し席を外す。そのまま執務を続けてくれ」スッ

飛龍「え? は、はい……」

利根「…………」

提督「長門、幽霊を見掛けた場所へ案内してくれないか」

長門「良いだろう。こっちだ」

ガチャ──パタン

飛龍「……幽霊ですかぁ。小さい子は怖がりそうですね」

利根「…………そうじゃの」

飛龍「? どうしたんですか利根さん? なんだか難しい顔をしていますけど」

利根「まあ、我輩にも色々とあるのじゃ」

飛龍「…………?」

…………………………………………。



306:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/06(日) 19:00:49.00 ID:YC7of8ero

長門「見失ったのはここだ」

提督「見失った?」

長門「ああ。どこへ行くのか少し気になったのでついて行ったのだが、ここで見失った。初めに見掛けた場所はこっちだ」スタスタ

提督「……ふむ」スタスタ

提督(こっちの方にあるのは……)

長門「この分かれ道の右で見掛けた。丁度、幽霊も曲がった所だったな」

提督「……なるほど」

長門「何か分かった事でもあったのか?」

提督「そうだな。幽霊の自室だった場所から提督室へ向かっているように思える」

長門「……その言い方をするという事は、幽霊の金剛というのは」

提督「ああ。……沈ませてしまった金剛だ」

長門「…………そうか。ならば、幽霊は何か目的があるのかもしれんな」

提督「何の目的かは分からんがな」

長門「……少し気になったのだが、貴方はまだ幽霊を見ていないのか」

提督「ああ。今回の件で提督室へ用がありそうという事は分かったが、それだったらまだ提督室付近で見ていない事から謎が深まるばかりだ」

長門「ふむ……」

提督「……………………」

長門「……それと、もう一つ気になる事があるのだが」

提督「なんだ?」

長門「その幽霊を見掛けたというのが睦月と弥生でな。酷く怖がっていた」

提督「幽霊に何かされたのか?」

長門「いや、幽霊という存在に怯えていた様子だった。まだ小さな子供だからな。幽霊が怖いのだろう」



307:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/06(日) 19:01:16.20 ID:YC7of8ero

提督「ふむ……。明日の演習に響いてしまいそうだな」

長門「うむ。そこで、明日の演習は二人の代わりとして私に任せてくれないだろうか。私ならば都合も簡単につけられるし、私自身がそろそろ身体を動かしたい」

提督「相手は下田鎮守府だぞ」

長門「ほう。それは良い事を聞いた。むしろ望む所だ。向こうの艦隊を教育し、尚且つあの馬鹿者の反応を窺いたい。私が演習に出る事を強く希望したと言っておいて貰えないだろうか」

提督「……お前、そんなに非道な事をする奴だったか?」

長門「指揮官があまりにも酷い事をしないのであれば、私も反発などせず従うのだと分からせたい。……気付いてくれなさそうなのが心配の種の一つだが」

提督「もしもお前の希望通りまともに指揮を執るようになるのならば、下田の艦娘の待遇も良くなるという考えか」

長門「そういう事だ。頼めるだろうか」

提督「良いだろう。この後、メンバー変更の連絡を入れておく」

長門「ありがたい。……本当、下田の提督が貴方であれば良かったのにな」

提督「代わりにこの横須賀へ下田の提督が着任していただけだ。何も変わらんよ」

長門「……それもそうだな。全ては、運命という事か……」

提督「そうだな……」

提督「ところで長門。お前はそろそろ部屋へ戻っておいた方が良い」

長門「む。どうしてだ?」

提督「明日の演習があるからだ。いつまで起きておくかは個人に任せているが、今のまま幽霊探しを続けていては部屋へ戻れるのはいつになるか分からん」

長門「ふむ、了解した。私は部屋へ戻っておこう」

提督「ああ。後は私に任せて明日への力を蓄えておけ」

長門「ふふっ……勿論だ。明日は必ず勝利へ導いてやろう」

提督「頼もしい言葉だ。──では、良い夢を見ろよ」

長門「おやすみだ」スタスタ

提督(……さて、私はもう少し探して回るか)スタスタ

提督(それとも金剛、もしかしていつものように困らせに来ただけなのか……?)

…………………………………………。



308:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/06(日) 19:01:43.19 ID:YC7of8ero

金剛『…………? ここは、どこデスか? 周りが真っ白で、何も見えないデス……』

金剛『なのに眩しくない……? ──ああ、これは夢デスね。こんな真っ白な空間は現実にあるはずがないデス。それに、私はテートクの隣の部屋に居るはずデス』

金剛「……………………」コツ

金剛『? ……貴女は…………』

金剛「…………」

金剛『私……? ……いえ、私ではない金剛なのデスね』

金剛「…………」コクッ

金剛『こんな事は初めてデス。ここはどこなのか、何の為にこうなっているのか、貴女は何か知っているのデスか?』

金剛「…………」コクッ

金剛『では、教えてくれマスか?』

金剛「…………」

金剛『…………?』

金剛「…………」

金剛『……あの、もしかして声が出ないのデスか?』

金剛「…………」コクン

金剛『困りまシタ……。どうしまショウ……』

金剛「…………」パクパク

金剛『……………………あ、えっと……すみまセン……。私は口の動きだけでは言葉は分からないデス……』

金剛「…………」ソッ

金剛『……あの? 私のおでこを触って、どうか──』

ズキン──!

金剛『あぅ……!?』

金剛「…………」ペコッ

金剛『い、今のは……ッ?』

ガバッ──!

金剛「はっ──! はっ──!」

金剛「……さっきの夢は一体──ッ」ズキッ

金剛「──え、これって…………まさか……?」

金剛「…………良いデスよ。お貸ししマス。でも、無理だけはしないで下サイね?」

…………………………………………。



323:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/14(月) 19:53:33.99 ID:623KBLNVo

大佐「……いやはや驚きました。あの長門が言う事を聞いているとは。どのような手段で大人しくさせたのですか?」

提督「私は特別な事などしておらんよ。逆に、どういう問題があったのか私には分からなかったくらいだ」

大佐「…………」

提督「大佐、君の鎮守府の話は聞いている。もう少し艦娘を大切にしてみてはどうだろうか。長門は大佐への愛想が尽きたとは言っていたが、まだ待っているようだったぞ」

大佐「……………………」

提督「艦娘が心を開いてくれれば、必ず大佐の良き戦力となろう。騙されたと思っても良い。まずはやってみないか?」

大佐「……考慮しておきます」

提督「そうか。……む?」

大佐「…………!」

提督(……下田の艦隊は二隻目の戦艦が大破か。残る有効的な攻撃手段は空母のみで、こちらの艦隊は損傷軽微。これは勝敗が決したか)

大佐「…………」

提督(制空権もこちらが完全に確保した。これで詰みだ。──ああ、とうとう降参したか)

大佐「…………」イラ

提督「大佐、君がどういう指示を彼女達に出したのか私は知らない。だが、数年前と今回の演習を見れば分かる。出来れば細かな指示を出してやってくれ」

提督「そうでなければ、勝てる戦も勝てなくなってしまうぞ」スタスタ

大佐(あの馬鹿共が……! こいつに勝てないのはいつもの事だが、降参するとは何を考えているんだ……!! まったくもって不愉快だ!)ツカツカ

大佐(大体こいつもこいつだ。長い間、提督の椅子から退いていたというのに、いきなり帰ってきたと思えばまた中将の椅子に座っていやがる。なんの嫌がらせだ)

大佐(ああクソが……。向こうの駆逐艦共が嬉しそうにアイツに手ぇ振っているのを見ると虫唾が走る)

大佐(はー……壊してぇ)

大佐(俺は安全な場所から姿も声も見せずにこいつらが苦しんでもがいて抗っているのを淡々と見ていたい)

大佐(はー……そんな方法でもありゃ良いのに……)

長門「…………」ジッ

大佐(……あ? 何見てんだあいつ)

長門「……………………」フイッ

大佐(クソが……。たかが兵器の分際で哀れんだ視線を送ってきやがって……。…………あー、そうか。長門は待っているとか言っていたな。俺の様子を見ていたって所か。まあ、今ので完全に愛想も尽きただろうし、もうどうでも良いわ)

大佐(はー……壊してぇ……)

…………………………………………。



324:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/14(月) 19:55:06.94 ID:623KBLNVo

長門「…………」トコトコ

提督「どうした長門。下田の大佐と話していたが、何かあったのか」

長門「ん……ああ、まあ……少しな……」

提督(……長門の望んだ通りにはならなかったのだろうか)

長門「……予想外だった」

提督「ん?」

長門「まさか、この鎮守府に移籍したいのならば中将と話をしてから決めろと言われるとは思わなかった」

提督「……ふむ」

長門「どういう訳かを聞いてみたが、答えずだ。貴方の許可を貰い、私が移籍を希望するのならば提督も移籍申請書を上に通すと言っていたよ」

長門「……結局、アレは何も変わらないのだな。どうして私が貴方の指示に従っているのか、まったく分かっていない。……困ったよ、本当に」

提督「お前はどうするんだ?」

長門「どうするも何も、ここへ移籍の希望を出すという手しか私には残っておらんよ。……向こうの鎮守府へ戻っても、流れ作業のように解体されるのがオチだ」

長門「……尤も、貴方が私の移籍を認めてくれるかどうかから始まるのだがな」

提督「言わずもがな認める。解体されなければ、またいつか向こうの艦娘達と顔を合わせる事もあるだろう」

長門「ありがたい……」

提督「何はともかく、演習をしてどうだった」

長門「……そうだな。本当に、何も変わらないんだなと思ったよ。まともな作戦指示を与えず、個々の力でなんとかさせているやり方は、か弱い」

提督「いや、お前自身がどう思ったかについてだ」

長門「私か? ……どうだった、か。ふむ……………………久々に戦闘が出来て良かった、だろうか」

提督「そうか。ここへ移籍となった際には出撃もしてもらうようになる。その時を楽しみにすると良い」

長門「……ああ。楽しみにしておこう」ニコ

提督「無理をして笑顔を作らなくても構わん」ポン

長門「……まったく。そうやって艦娘の頭を撫でるのは癖なのか?」

提督「私個人が好んでいるだけだ」ナデナデ

長門「……本当、不思議な人だ」

…………………………………………。



325:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/14(月) 19:55:33.43 ID:623KBLNVo

ヲ級「♪」パクパク

瑞鶴「ほら、口に欠片がくっついてるわよ」ソッ

ヲ級「ん、ありがと!」ニパッ

瑞鶴(……可愛いなぁ)ナデナデ

響「また美味しくなってるよ、金剛さん」モグモグ

金剛「喜んで下さったようで何よりデス」ニコニコ

空母棲姫「……どうしてこうなったんだ」

利根「何がじゃ? そんなに不思議な事かの?」

長門「……まあ、普通ではないのは確かだろう」

提督「そうだな。そこは否定しない。利根がこんな時間まで起きているのもかなり珍しい」

利根「何か目が冴えてのう」

空母棲姫「……………………。……しかし、本当に私達を呼んでも良かったのですか? 移動している途中で私達が見付からないとは限りません」

提督「なるべく見付からないよう手配している。もし見付かっても私の子達ならば理解してくれるだろう。……流石に一度に大勢へ見付かると混乱はすると思うが」

空母棲姫「もう……またそうやって楽観的に……」

利根「む? むむむ?」モグ

瑞鶴「? どうかしたの、利根さん?」

利根「いやなに。このクッキーが何かどことなく懐かしいような気がしてのう」モグモグ

響「懐かしい?」

利根「うむ。どこかで食べたような気がするのじゃが……うーむ?」

瑞鶴「提督さんも食べたら分かるのかしら」

提督「……すまないが、私は甘い物が苦手でな」

瑞鶴「あ、そうだった……」

響「こっちの甘くないのはどうかな?」

提督「ふむ。そっちはまだ口にしていないから食べてみよう」

長門「…………」

空母棲姫「どうした。今日はやけに静かだな」

長門「……まあ、私もそういう日くらいある」

空母棲姫(……何かあったのでしょうね。けれど、あまり言いたくない事なのかもしれないから、ひっそりとしておきましょうか)

利根「どうじゃ、提督よ?」

提督「……確かにどことなく懐かしいような気はするが、いまいち分からん」

利根「ふうむ……そうか……」

…………………………………………。



326:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/14(月) 19:56:00.28 ID:623KBLNVo

利根「では、我輩もそろそろ寝るのじゃー」

提督「ああ。良い夢を見ろよ」

金剛「おやすみなさいませ」

ガチャ──パタン

提督「──さて。全員が帰った事だし、私ももう少しすれば部屋へ戻るとしようか」

金剛「あ、少し待って下サイ」

提督「うん?」

金剛「実は、テートクに相談がありまシテ……良いデスか?」

提督「ああ構わんぞ。どうしたんだ?」

金剛「……テートクの金剛についてデス」

提督「…………ふむ」

金剛「テートクは、出来るのならば会いたいと思いマスか?」

提督「無論、そうだ。そう思わない理由など無い」

金剛「分かりまシタ。……少しだけ待っていて下サイね」スッ

提督「……む?」

提督(目なんて閉じてどうしたんだ……?)

金剛「…………」パチ

提督(……雰囲気が少し変わった? しかし、これは……)

金剛「……………………」ニコ

提督「…………」

金剛「提督、分かりますか?」

提督「────────」

金剛「あは。流石テートクです。今ので分かってくださったようデスね」

提督「まさか……こんな事が……」









金剛「第一艦隊旗艦金剛、ただいま帰投しまシタ」



331:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/21(月) 18:59:20.71 ID:lFglZpsro

提督「……本当に、お前なのか?」

金剛「ハイ。テートクとの秘密も全部覚えているデスよ」

提督「……ペンダントはどちらを貰った」

金剛「左デス。……今は海の底に沈んでしまっているので心底悔やんでいマス」

提督「…………」

金剛「テートクは、まだ持っていマスか?」

提督「引き出しの奥へしまってある。……見るか?」

金剛「……いえ。片方が無いのは寂しいデスから……」

提督「……そうか」

提督「……ところで金剛。お前は、どうしてここへ居るんだ?」

金剛「それは分かりまセン。気付いたら海の上で立っていて……色々と悩みまシタが、鎮守府へ戻る事にシタのデス。……デスが、皆さん私の事が見えていないようでシテ。私も最近まで皆の声が聴こえなかったので、少し寂しかったデス……。おまけに、テートクもしばらく居ませんでシタし……」

金剛「デモ、最近になって声が聴こえまシタ。私と同じ声の、この子の声デス。初めは幻聴かと思いまシタがやっぱり聴こえたのデス。そして今日、身体を貸して下さいまシタ」

提督「身体を借りた理由は、私へ文句を言う為か?」

金剛「それも一つデスけど、一番はもっと別デス」

金剛「──テートクと、またお話がしたかった。私が沈む前に思った事が、今叶いました」

提督「……そうか」

金剛「……むー。テートク、なんだか反応が薄くありまセンか? 正直、今にでも抱き付こうかと思っていたデスよ?」

提督「今まで幾度と無く夢に見た、絶対に叶わないと思っていた光景なんだ。少し混乱している。あと、その身体は借り物だから抱き付くのはやめておけ」

金剛「ウー……。デハ、髪を梳いてくれマスか?」

提督「まあ……そのくらいならば許してくれるかな。ブラシを取ってくる」スッ

金剛「ハイ。待っているデース」

ガチャ──パタン



332:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/21(月) 18:59:49.63 ID:lFglZpsro

金剛「……………………」

金剛(……別に、抱き締めても問題無かったりするんですよね。まだ小さいですが、この子も──)

金剛(…………どうなるのでしょうかね、これから)

ズキッ──

金剛「──っう! ……やっぱり、長くは保たないデスか。無理はしない約束デス。名残惜しいデスが、お返ししマスね……」スッ

金剛「ありがとうございました──」

金剛「……………………」パチッ

ガチャ──パタン

提督「…………」

金剛「!」

提督「……………………」

金剛「……えっと」

提督「……逝ってしまったか」

金剛「い、いえ! まだ私の中に残って寝ているデス。慣れない事でシタので、お互いに耐えられなくなって……」

提督「……そうか。無理をさせてしまってすまない」

金剛「謝るのは私デス……楽しくお話させてあげたかったのデスが……」

提督「お前は何も悪い事なんてしていない。むしろ私達の為に協力してくれて、ありがとう」ポン

金剛(あ……頭、撫でて……)

金剛「……………………またっ!」

提督「うん?」

金剛「また、お話しをしてあげて下サイ。私も、お二人が気の済むまで協力しマス」



333:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/21(月) 19:00:30.38 ID:lFglZpsro

提督「だが、それはお前たち二人の負担になる」

金剛「私の事ならば問題ナッシン、デス。──いえ、協力させて下サイ。私も何かの役に立ちたいデス」

提督「…………」

金剛「……ダメ、デスか?」

提督「……あいつが許可を出すならば、私は止めない。だが、無理だけはするなよ?」

金剛「──ハイッ!」

提督「すまんな」

金剛「今はこれが私のやりたい事デスから」

提督「そうか。──では金剛、一つ訊ねる。お前は髪を触られるのをどう思う?」

金剛「髪、デスか? ンー……」

金剛「!」

金剛「知らない人に触られるのはディスライクですが、テートクならば別デス」

提督「……そうか。ならば、椅子に座って後ろを向いてくれるか? 今回の礼として髪を梳きたい」

金剛「リアリー? ありがとうございマスっ」チョコン

提督(……金剛もこういう反応をしていたな。ただ、こんな儚げな笑顔はしていなかったが)スッ

金剛(……嬉しくて即答してしまいまシタが、目の前で別の女性と仲良くするのって良くない事デスよね)

提督(こうして見ると、何もかも同じという訳ではなく小さな違いはあるものなんだな)

金剛(あ……とっても優しくて気持ち良いデス……。…………ごめんなサイ。今回だけ、許して下サイ……)

…………………………………………。



334:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/21(月) 19:00:58.15 ID:lFglZpsro

提督「…………」サラサラ

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「おはようございます」

利根「おはようなのじゃ提督よ」

飛龍「……あれ?」

利根「ぬ?」

提督「おはよう。どうした、何かあったのか?」

飛龍「ああいえ、なんとなく提督の雰囲気がいつもと少し違うなって思いまして」

利根「飛龍もそう思うたか。どことなく別次元に居るような雰囲気じゃのう」

提督「ふむ、そうか」

提督(昨晩の事が顔に出ていたか。……後で利根にだけは金剛の事を言っておくとしよう。利根も金剛と話して心の内にある壊れた部分を直した方が良い)

利根「何かあったのかの?」

提督(……だが、今は誤魔化しておくか。実際に見た夢を話して、飛龍にも悟られないようにしなければならんな)

提督「単純に妙な夢を見ただけだから安心してくれ。私が艦娘と同じく海の上を滑って作戦指示をしている内容だったんだ」

飛龍「なんですかその危険な夢は……」

提督「私としては状況を自分の目で見れる上、随時作戦命令を伝えられて素晴らしいと思ったのだが」

利根「被弾どころか至近弾ですら身体が弾け飛ぶじゃろ。何を言うておるのじゃ」

提督「ダメか」

利根「当たり前じゃ。そんな事が出来れば人間でなく艦娘かそれに近い何かじゃぞ」

提督「残念だ。……まあ、そんな夢を見たからいつもと雰囲気が違うのだろう」



335:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/21(月) 19:01:43.62 ID:lFglZpsro

提督「ところで、今日は手早く仕事を終わらせるぞ。やるべき事がある」

飛龍「やるべき事ですか?」

提督「ああ。利根は覚悟しておけ」

利根「か、覚悟じゃと!? 我輩、何かやってしもうたのか!?」ビクッ

提督「その時になれば分かる」

利根「う、うぅ……怖いのじゃ……」ビクビク

飛龍「あ、あはは……。頑張って下さい……」

利根「提督よ、飛龍はどうなのじゃ!?」

提督「お前だけだ」

利根「ひぃ……。絶対に我輩が何かをやったパターンじゃ……」ビクビク

提督「まあ、そんなに怖がるな」

利根「無理じゃ……」

飛龍「て、提督……お手柔らかにお願いしますね」

提督「善処しよう」

利根「善処ってなんじゃぁあああっ!!?」

提督「利根、煩くするのならば今から吊るすぞ」

利根「…………っ!」ピシッ

提督「よろしい。──では、朝礼が始まる前に少しでも執務を片付けておこうか」

利根・飛龍「は、はい!」

…………………………………………。



340:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/28(月) 21:04:24.98 ID:Ugy7wxb8o

ガチャ──パタン

提督(さて、執務を進めるとするか)スッ

提督「……………………」サラ

提督「む……」

提督(……手が進まん。昼食後の軽い休憩時間はいつも執務に当てていたというのに)

提督「…………」チラ

提督(そうだな。少し金剛と話をしようか。金剛も一人で暇をしているかもしれない)スッ

ガチャ──パタン

提督(今までこんな事は無かったというのに……自分の事ながら自分の事が分からん……。…………良し。周りに誰も居ないな)

コツッ──コツッ──コツッ──

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「! テートク? どうシタのデスか?」

提督「執務に手が付かなくてな……。すまないが、話し相手になってくれないか?」

金剛「ハイっ。喜んで」

金剛「! ……えーっと、中でスリープしているので起こしマスね」

提督「いや、そういう意味ではない。必要以上の無理はしてくれるな」

金剛「デスが……」

提督「それは夜に頼む。その時に利根も連れて来て二人に話をさせたいんだ」

金剛「利根とデスか?」

提督「ああ。あいつも『金剛』と話をして、少しでも心を癒すべきだ」

金剛「……大丈夫でショウか」

提督「利根ならば大丈夫だ。話す事で改善されると信じれる」

金剛「そうなのデスか……?」



341:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/28(月) 21:05:11.60 ID:Ugy7wxb8o

提督「ああ。死者は何も口にする事が出来ない。故に残された者は死者が何を思っているのか、想像をするしか出来ないんだ。利根はあの三人が自分を責めているかもしれないと思っていて申し訳ないという気持ちが強いのだろう。それを癒せるのは、沈んでしまったあの三人の内の誰かだ」

金剛「なるほど……」

提督「頼めるか?」

金剛「勿論デス。協力させて下サイ。それが、今私が出来る事デス」

提督「ありがとう、金剛」ナデ

金剛「…………♪ ────!!」パッ

提督「どうした?」

金剛「ノー、デスよテートク。私の中にはテートクの大事な人が居るデス。頭を撫でるのは私ではなくその人の為にやるべきネ」

提督「……そうか」

金剛「…………」ズキッ

金剛(……ナゼ、胸が痛むのでショウか)

提督「すまなかった」

金剛「い、いえ。私の方こそすみまセン……」

提督「…………」

金剛「…………」

提督「……そろそろ執務に戻らるべきか。時間を取らせてしまってすまん」スッ

金剛「い、いつでも!」

提督「…………」

金剛「……いつでも、待っていマス。デスので、また来てくれマスか……?」

提督「……ああ。また来よう」

ガチャ──パタン

金剛「…………どうして私は、上手く言えないのでショウか。もっと、別の言い方があったはずなのに……」

金剛「私の中に居る人ならば、テートクを傷つけずに出来るのでショウか……」

…………………………………………。



342:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/28(月) 21:05:41.66 ID:Ugy7wxb8o

利根「……テートクよ? 覚悟をしろと言うておったというのに、なぜ金剛の居る部屋へ行くのじゃ?」トコトコ

提督「直に分かる」

利根「むぅ……?」

コツッ──コツッ──コツッ──

カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「いらっしゃいデス」

提督「調子はどうだ、金剛?」

金剛「バッチリです。いつでも大丈夫デスよ」

利根「む? むむむ? 何の話じゃ?」

金剛「……テートク、良いデスか?」

提督「頼む」

金剛「はい──」スッ

利根「…………?」

金剛「…………」パチッ

金剛「──久し振りデスね、利根」

利根「んんんん? 久し振り……?」

金剛「現場の判断で私が提案シタ輪形陣。瑞鶴を中心として、先頭に私、左舷に響、右舷に利根。気を紛らわす為のお菓子の雑談」

利根「!!」

金剛「陣形はともかくとして、雑談の内容まではテートクに報告していないデスよね、利根?」

利根「……なぜお主が知っているのじゃ、金剛よ」

金剛「つまり、そういう事デスよ」ニコ

利根「……………………」

金剛「…………」ニコニコ

利根「っ!」ガバッ

金剛「ワォ!?」

利根「うぅ~~~~!!」ギュゥゥ

金剛「ふふ……。ただいまデス、利根」ナデナデ

利根「~~~~~~ッ!!」ギュゥ

金剛「しばらくそっとしておいた方が良いデスね」

提督「そうみたいだが……大丈夫なのか?」

金剛「あれから実は少しずつ練習をしていまシテ、慣れてきたので昨日より長く出られるデス」

提督「……ありがとう」ナデ

金剛「んー……♪」

…………………………………………。



343:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/03/28(月) 21:06:08.02 ID:Ugy7wxb8o

大佐「……はーつまらねぇ。世の中クソだな。この海みたいに真っ黒で面白い事なんてほとんどありやしねぇ……」

大佐「提督業も楽じゃねえし……。好きに出来る女に囲まれて暮らせる点については良い事だけどよぉ……中には反抗的な奴も居やがるし」

大佐「どーすっかなぁ……。また瑞鳳あたりにでも首絞めとかしてみるか? あん時の泣き顔は癒されるし。でも後が面倒だしなぁ……」

レ級「──へぇ。面白い人間じゃん」

大佐「あ? ────ッ!!?」

レ級「やあやあ人間クン。私が誰か分かるよねぇ? 君達の敵である深海棲艦! その一人だよぉ?」

レ級「実はさぁ、君がとある所の鎮守府から帰ってきた時から、ずーっと目を付けていたんだよねぇ。君、素質あるよ」

大佐「……何が言いたい」

レ級「君が大敗北しちゃったあの鎮守府……あれ、壊してみない?」

大佐「……おい」

レ級「んんー? 何かなぁ?」

大佐「その話、詳しく聞かせろ」

レ級「…………」ニヤァ

…………………………………………。



348:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/07(木) 18:30:23.84 ID:FqZl1Y2ko

利根「……………………」

提督「落ち着いたか?」

利根「……それなりには落ち着いたのじゃ」

金剛「まるでスカードな夢でも見た子供のようでシタ」

利根「こうなるのも仕方がなかろう……。まさか、お主とまたこうして話せるなどとは夢でしか出来ぬと思うておったのじゃぞ」

金剛「私もお話できて嬉しいデス。お二人が帰ってきてから伝えたい事もありマスしね」

提督「伝えたい事?」

利根(……恨み言か何かじゃろうか)

金剛「ハイ。──まず言わなければならない事として、私……いえ、瑞鶴も響も、二人の事を恨んでなんていないデス。沈んだ私が言うのデスから確実ネ」

利根「────」

金剛「二人とも、私達の事を引き摺らずに立ち直って欲しいデス」

提督(──その言葉は……)

金剛「二人なら必ず立ち直れマス。私はそう信じているネ。……ただ──」

金剛「──私達の事、忘れないで下さいね?」

提督「────────」

金剛「これが、私の伝えたい言葉デス。きっと、瑞鶴や響も同じ事を思っているはずデス」

提督「……金剛」

金剛「ハイ、どうかしまシタか?」

提督「すまん……」ギュゥ

金剛「ん……。あったかいデス……」ソッ

提督「少しだけ……このままで……」

金剛「ハイ。喜んで」

利根(……ああ、なるほどのう。これには敵わぬ。敵うはずがないのじゃ)

利根(やはり、提督には金剛が必要なのじゃな。……うむ。良い雰囲気じゃ)



349:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/07(木) 18:30:58.86 ID:FqZl1Y2ko

金剛「…………」スリ

提督「……ありがとう、金剛」スッ

金剛「私も久々にテートクを堪能できたデース」ニコニコ

提督「二人とも、みっともない姿を見せてすまない」

利根「何を謝っておるのじゃ。そうなるのも無理はなかろう?」

金剛「私はお二人に会えただけで胸が嬉しい気持ちで一杯デス」ニコニコ

利根「まあしかし、あんなに弱々しい背中の提督を見れたのはラッキーかもしれぬのう」ニヤ

提督「まったくこいつときたら……」

利根「しかし、一番は金剛とまたこうして話す事が出来た事じゃな。不安が一気に無くなったぞ」

金剛「不安、デスか?」

利根「うむ。金剛達は我輩を恨んだり妬んだりしておるのではないかと不安になっていての。いくら状況が仕方が無かったとはいえ、我輩だけ生き残ったのじゃ。そう思われても不思議ではない。それ故に我輩も沈むべきではなかろうかと思った事もあった」

利根「じゃが、金剛はそんな事がないと言うてくれた。……我輩は、その言葉だけでも救われた気分じゃよ」

金剛「なるほど……。帰ってきた利根の様子がおかしかったのはそれが原因だったのデスね」

提督(…………ん?)

金剛「テートクも少しおかしい様子デスが、利根のように何か不安があるのデスか?」

提督「いや、また別の事だ。……ところで金剛。もしかすると、この鎮守府へ戻って来たのは最近の事なのか?」

金剛「んー……二年くらい前デス。少なくとも、私が帰ってきた時はテートクと利根は居なかったデス」

提督「……そうか」

金剛「…………」

利根「?」

提督「……つまり」

金剛「うぅ……そうデス……迷っていまシタ……」



350:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/07(木) 18:31:41.81 ID:FqZl1Y2ko

利根「ま、迷った?」

提督「やはりか」

金剛「だってだって! 方位も何も分からなかったのデスよ!? どこかの鎮守府の艦娘を見付けるまでウロウロと海を彷徨っていたデース……」

利根「なんと……。羅針盤はどうしたのじゃ?」

金剛「妖精が居ないのでクルクル回るだけでシタ……」

利根「……羅針盤は妖精が居らぬと壊れるのか」

提督「そうらしいな……」

金剛「陸へ着いても知らない場所でシタので、この鎮守府に戻るまで苦労したネ……」

提督「…………」ナデナデ

金剛「ん……♪ その苦労も、これで癒されるデス……」ホッコリ

利根「……変わらぬのう、金剛よ」

金剛「イエース! 私はいつまでも私デース!」

利根「くくくっ……。うむ。やはり金剛は金剛じゃな」

金剛「今の利根もいつもの利根っぽかったデー……ス?」フラ

提督「!」ソッ

利根「む……。大丈夫か、金剛よ」

金剛「……ソーリィ。もう……タイムアップみたい、デス……」

利根「何を謝っておるのじゃ。お主らはこんなにも頑張ってくれておるではないか」

金剛「……サン、キュゥ…………」カクン

提督・利根「…………」

金剛「…………っ」ピクン

金剛「ん……」スッ



351:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/07(木) 18:32:08.97 ID:FqZl1Y2ko

提督「……大丈夫か?」

金剛「!!」ビクンッ

金剛「……ごめんなサイ」

提督「どうやら寝惚けているようだ」

金剛「え……?」

利根「うむ。寝惚けておるようじゃの」

金剛「え、えっと……」

提督「特訓をしていたと聞いたぞ。ありがとう」

金剛「そ、それは……その……」

利根「我輩からも礼を言うぞ。話させてくれて、本当にありがたかった」ニパッ

金剛「!」

金剛(……利根がこんなに無邪気で明るい笑顔をしたの……初めて見たデス)

利根「うん? どうしたのじゃ金剛? そんな不思議なモノでも見たような顔をして」

金剛「あ、いえ、その……利根がそんな風に笑ったの、初めて見たので……」

利根「ふむ?」

提督「自覚無しか。利根、お前は今、私から見ても懐かしい笑みを浮かべていたぞ」

利根「む? むむ? そうなのかの?」

提督「ああ。昔見た良い笑顔だった」

金剛(という事は、さっきの笑顔が利根の本来の笑顔なのデスね)

金剛「少しでもお役に立てたのでしたら嬉しいデス」ニコ

提督「ああ。とても良い仕事をしてくれた」ソッ



352:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/07(木) 18:43:09.55 ID:FqZl1Y2ko

金剛「! 頭を撫でるのはノーですよ、テートク」

提督「む。そうだったな……」スッ

利根「むぅ? なぜ頭を撫でるのはダメなのじゃ?」

金剛「私の中にテートクの金剛が居るからデス。その手は、私ではなくこの方の為にあると思うデス」

利根「……ううむ」

金剛「だって、お二人は愛し合っていたのデスよ? それなのに、目の前で私がとっても優しくされるのはいけない事デス」

利根「とっても……?」

提督「…………」

金剛「……あの、もしかして」

利根「うーむ。流石に頭を撫でるのを『とても優しく』と言うのは少し大袈裟じゃよのう?」

提督「ああ」

金剛「…………」シュン…

提督「だが」ポン

金剛「…………?」

提督「私達の事を考えてくれて嬉しいぞ」ポンポン

金剛「……あの、頭は」

提督「撫でてはいない」

金剛「デスが……」

利根「このくらいならば、お主の中に居る金剛も文句は言わぬよ」

金剛「うぅ……」

利根「! のう提督よ。今夜は三人──いや、四人で寝るのはどうじゃ?」

提督「却下だ。だが、私抜きならば構わんぞ」

利根「むう……それだと意味がほとんど失うのじゃが……」

提督「諦めろ。風紀を乱し過ぎるのは良くない」

金剛「…………」

金剛(あれ……? 私、残念に思ってるデス……? …………やっぱり、なのデスか……?)

金剛(でも……それは……)

利根「むうぅ……全くもって残念じゃ……」

金剛(ひっそりと……ひっそりと、仕舞いまショウ……)

……………………
…………
……



356:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/16(土) 22:18:54.72 ID:aWpC+zuEo

提督(──さて、皆が来る前に仕事をするか。珍しく書類の数が少ないが、やっておく事に越したことはない)スッ

提督(最近は段々と幽霊騒ぎも収まってきていて、そろそろ金剛をあの部屋から出せるかもしれん。金剛もいい加減、自由に歩き回りたいだろう)

提督「……む? 一時的な出撃の待機命令?」

提督「……………………」

提督(……本人の希望と実績による下田鎮守府提督の担当海域拡大? その能力の審査の為、一時的に横須賀鎮守府は哨戒と、昨日までに予定されていた遠征以外の出撃待機を命ずる……。あんな戦術を取っていた者が、希望と実績による担当海域の拡大?)

提督(妙な胸騒ぎがする。あんな指揮の執り方をしていて、急に変わる訳が無い。……あの四人に大佐の事を訊いてみるとするか)

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

飛龍「おはようございます、提督」

利根「今日も良い天気で執務のやり甲斐があるぞ!」

提督「おはよう二人とも。……その執務だが、今日ばかりはさっさと終わらせるぞ」

利根「む? 何かあったのかの?」

提督「そんな所だ。どうしても調べたい事が出来た」スッ

飛龍「……また総司令部から無茶な注文でもされたんですか?」スッ

利根「ふぅむ、なになに?」

利根・飛龍「……………………」

利根「…………むぅ?」

飛龍「確かに下田の提督は強大な戦力となる艦娘自体は持っていましたけれど、指揮能力の方は……」

利根「良くないのか?」

提督「今まで『敵を倒してこい』『必ず勝て』といったようなモノがほとんどだと耳にしている」



357:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/16(土) 22:19:22.64 ID:aWpC+zuEo

利根「……まさかとは思うが、激励ではなく作戦内容なのか?」

提督「そうだ」

利根「例え我輩が指揮を執る事となっても、そんな指示は出さぬぞ……」

提督「そんな、利根でもしないやり方をしていたのが下田の提督だ。これは明らかに怪しい」

利根「自分で言うたのは確かじゃが、真正面から同じ事を言われると心にくるものがあるぞ!?」

提督「利根のように作戦指揮に関する知識がほとんど無い者でもしないであろう事をしてきていたのが下田の提督だ、という意味だ。お前に戦術や戦略の事を教えた事など無いから、出来なくて当然だろう」

利根「それはそうじゃが……」

提督「ちなみに、九割はお前が自分から言ったから便乗しただけだったりする」

利根「やはり悪意しかないではないか!?」

提督「私がイヂワルだというのは知っているだろう?」

利根「むー……。嫌なのに嫌な気分になれぬ……」

提督「そんなに私の事を嫌いになりたかったのか」

利根「……我輩とてそろそろ拗ねるぞ」

提督「では、拗ねられる前に真面目な話に戻ろうか」ポンポン

利根(ううむ……こうして優しくされると許してしまうのが困りものじゃ……)

提督「私は四人に大佐の事を訊こうと思っている。大佐が普段、どのような指揮を執っていたのかを詳しく調べ、その上で本当に成果を挙げられるような人物なのかどうかを判断しよう」

飛龍「では、長門さんに瑞鶴さんや響ちゃんをお呼びした方が良いですか?」

提督「いや、表立って行動に出すと他の子に何があったのかを聞かれるだろう。世間話を装って調べようと思っている」

飛龍「なるほど。普段から皆と会話している提督だからこそ怪しまれないという訳ですか」

提督「そういう事だ」

利根「ふむ。では我輩達に出来る事は、このやたらと少ない書類を片付ける事くらいなのじゃな?」

提督「ああ。待機命令が解除されるまでは哨戒以外にまともな行動も出来ん。終わり次第、自由行動に入って良いぞ」

…………………………………………。



358:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/16(土) 22:19:54.05 ID:aWpC+zuEo

雷「いっくわよー! それっトス!」パスッ

暁「チャーンス!! 暁アターック!!」バシィッ

響「……明後日の方向に飛んでいったね」

如月「あらあらぁ……」

電「こ、こういう事もあるのです!」

暁「…………」

睦月「あ、長門さーん! ボール取って下さいますかぁー!」

長門「ん? ──ああ、これの事か。ほら」ポーン

睦月「ありがとうですよー!」ブンブン

長門「…………」フリフリ

雷(あ、なんだかすっごく優しい笑顔)

提督「長門」

長門「!!」ビクンッ

提督「む? 驚かせてしまったか」

長門「……提督か。まあ……そういう事にしておいてくれ……」

提督「ふむ。ところで今、時間はあるか?」

長門「あるが、どうかしたのか?」

提督「今から話す事は世間話をしているような風体で話して欲しいのだが、下田の大佐に関して質問がある」

長門「……何か問題を起こしたのか?」

提督「逆だ。異常なほど優秀な戦果を挙げ始めた」

長門「優秀な戦果? そんなバカな」



359:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/16(土) 22:20:20.21 ID:aWpC+zuEo

提督「だが、事実だ。朝礼の時に話した待機命令も大佐の担当海域拡大の審査の為だ。そこで長門、お前に訊きたい。大佐はやれば出来るような人物なのか?」

長門「…………いや、難しいな。しっかりとやれば並の成果を得られるかもしれんが、あくまで並だ。私が知る限りでは尤も意欲的に執った作戦でさえ中の下といった成果だったぞ」

提督「中の下と評価したが、最近では最上と言っても過言ではない戦果だそうだ。何があればそうなると考えられる?」

長門「指揮を執っている者が変わったとしか考えられないな。それ以外でと言われれば、私が夢を見ているという可能性しか残らない」

提督「という事は『敵を倒してこい』『必ず勝て』といった命令が多かったのも事実か」

長門「ああ。それに加えて罵詈雑言もあった。……本当、よくそれで今までやってこれたと逆に感心してしまいそうだ」

長門(……それと比べるのも失礼なほど、ここは温かく優しい空気で満ちている。本当……どうしてここまで違いがあるのだろうな……)

提督「他に詳しい指示などは無かったのか?」

長門「ん、そうだな……。総司令部から送られてくる資料は毎回渡され、頭に叩き込めと言っていたくらいだ。たまに作戦指示を出す事もあったが、大抵はその資料の内容とほぼ同じだったぞ。結局は現場の判断でほぼ全て決めていた」

提督「……そうか。教えてくれて助かった」

長門「なに。このくらいお安い御用だ。……だが、私もどうやってあの愚か者が戦果を挙げているのか気になる。下田鎮守府では何か人事異動があったりはしていないのか? 提督を補佐する役が新しく作られたりとか」

提督「そういう話は今の所耳に入ってきていない。そもそも、部外者は鎮守府に近付く事すら許されていないから人手不足の現状では補佐役も居ないだろう」

長門「そうなのか。……ん?」

提督「どうした」

長門「いや、ふと気になった事があってな。国を護る為だというのに、どうしてそんなにも人手不足なのだ? 人を集めるくらいならば徴兵でもなんでもあるだろう? そこから訓練を重ねていけば──」

提督「長門」ジッ

長門「っ!」ゾクッ

提督「その話には足を踏み入れるな。そして、決して誰にも言うな。絶対にだ。もし今後も踏み入ってくる場合は……あまり使いたくない手を使わざるを得なくなる」

長門「……了解した」

提督「……すまんな。こればっかりはどうしても言えない機密なんだ」ポン

長門「いや、私の方こそすまない……。今後気を付ける。あと、頭を撫でるのは……その……」

提督「この癖は直さんぞ」

長門「むう……」

…………………………………………。



363:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/24(日) 17:30:38.28 ID:byy5ee08o

督「ふむ……」

提督(四人に聞いてみた所、初めに聞いた長門と同じ答えが返ってきた……。やはり、下田の提督が戦果を挙げるのは異様か)

提督(ならば、どうやってそんな戦果を上げられるようになる? ただの偶然か? ……いや、偶然などという不安定で不確定なもので戦果が何回も続く訳が無い。根本に何かがあるはずだ)

提督「…………参ったな。本当に何をすればいきなり戦果が挙がるようになったんだ? それとも私へ情報が届いていないだけで、本当に補佐か何かでも来たのだろうか……。今度、足を運んでみるか……」

コンコンコン──

提督「ん? こんな時間に誰だ……? ──入れ」

ガチャ──パタン

ヲ級「てーとく、さん! こんばんは!」

空母棲姫「……すみません」

提督「……なるほど。理解した」

空母棲姫「どうしても会いたいと仰っていまして……」

提督「空母棲姫も居る事だ。誰にも見付かっていないのだろう? それならば構わんよ。だが、こんな時間に来るのは珍しいな?」

ヲ級「なんだか、嫌な予感、するの」

提督「嫌な予感?」

ヲ級「うん!」

提督「どんな嫌な予感なんだ?」

ヲ級「えーと……んーと……。良く、わかんない」

提督「……………………」

空母棲姫「……この調子なんです。けれど、ここまで頑なに言うのも初めてなので、何か分かればと思って来てみました」

提督「ふむ……。嫌な予感か」

空母棲姫「何か心当たりがあるのですか?」

提督「……結びつきそうにもない、こじ付けならば一つある」

ヲ級「こじ付け? なんだろ?」



364:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/24(日) 17:31:05.76 ID:byy5ee08o

提督「最近、ここの鎮守府に一番近い鎮守府が異様な戦果を挙げているらしい。そこの提督はとてもそんな戦果を挙げられる者ではなく、その鎮守府で何かあったと思えるくらいだ」

空母棲姫「人事異動があったとかではなくて?」

提督「そういう話も耳にしていない。一応、そこの鎮守府とここはそれなりに繋がりがあってな。お互いの状態を確認し合う為にそれなりの情報交換は行われている」

空母棲姫「……差し出がましい事だけれど、私達をここへ置いておくのは非常に危険ではないかしら。もし私達が見付かったら大変よ」

提督「その点に関してはこちらから止めているから安心して良いぞ。流石に大勢へ見付かるとどうしようもなくなるが……」

空母棲姫「では、今後より一層気を付ける事にします」

提督「ありがたい。──話を戻すが、そこの鎮守府の動きが妙な事から、何か関係しているのかもしれないと思っている。通常の手段とは思えない戦果はただただ不気味だ」

空母棲姫「通常の手段ではない……」

提督「…………」

ヲ級「偵察、してみる?」

提督「偵察? どのようにだ?」

ヲ級「ほら、私達の、艦載機を、造ってから、使って」

空母棲姫「……何を馬鹿な事を言っているの、貴女は」

ヲ級「すっごく遠くから、見えるよ! 気付かれないくらい、遠くから!」

空母棲姫「そういう事を言っているんじゃありません。私達に兵装を持たせる事に問題があると言っているのよ。私達は深海棲艦。本来は提督やここの皆とも敵なのよ。そんな相手に武器を渡すのは良くないでしょう?」

ヲ級「あ……そっか……」

提督「ふむ、悪くないな」

空母棲姫「ええ。悪く……なんですって?」

提督「二人の偵察機を使って、その鎮守府を遠くから偵察。深海棲艦の技術は我々の技術を遥かに超えている事から、気付かれないように異変が起きていないかを調べるのに打ってつけだ」

空母棲姫「却下よ。いくらなんでもそこまで許可を与えるのは、目の前の敵に刃物を渡して殺しても構わないといっているのと変わりません」

提督「お前たち二人はそんな事をしないと私は信用している。私の中では、二人はもう他の艦娘の子達と同じく仲間だ」

空母棲姫「それでもダメです。他の方々が不安に思うはずよ」

提督「ふむ。ならば皆が不安に思わなければ良いんだな?」

空母棲姫「……………………」

提督「どうだ?」

空母棲姫「……良いでしょう。必ず貴方を説得してみせます」

…………………………………………。



365:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/24(日) 17:31:34.55 ID:byy5ee08o

開発妖精・建造妖精「出来たよー」

空母棲姫「馬鹿ですか貴女達は」ツネー

開発妖精「いひゃいいひゃい!? な、なんでぇぇえ!?」

空母棲姫「敵の兵装を造ってしまうだなんて何をやっているんですか。わざと失敗させるという手もあったでしょう」ジィー

開発妖精・建造妖精「勿体無いし……提督さんが信頼してるし……」

空母棲姫「……はぁ。どうしてこうもお人好ししか居ないんですか……」

提督「諦めろ。お前が今まで私へ築き上げた信頼の賜物だ」

空母棲姫「私は常識的にしていただけだというのに……」

利根「それが信頼を生んだのじゃよ」

飛龍「そうですよ。少しずつ、他の皆にも存在を打ち明けて良いと私は思います」

ヲ級「!! そうすると、自由に、お散歩、できる?」キラキラ

提督「範囲は限られているが、出来るようになるぞ」

ヲ級「やった! 姫、その時は、一緒にお散歩、しよ?」ニパッ

空母棲姫「……はぁ。どうしてこうなったのでしょうか……」

瑞鶴「まあ……なんとなく予想できたけど」

響「そうだね。二人なら間違っても襲ってこないって信用できるよ」

空母棲姫「……本当、どうしてこうなったのかしら」

提督「だが、常に警戒されていて監視されるのも気分が悪いだろう?」

空母棲姫「…………それは……そうですが……」

提督「そういう事だと思っておくと少しは気が楽になるんじゃないか?」



366:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/04/24(日) 17:31:52.34 ID:byy5ee08o

空母棲姫「……納得はしたくないけれど、そう思っておく事にするわ。本当は私達に気遣いはしなくても良いというのは忘れないで頂戴ね?」

提督「頭の片隅の外に置いておく」

空母棲姫「もう……」

利根「……ふーむ。なんだか振り回す旦那と、それを受け入れる嫁という風に見えるぞ」

響「なるほど。確かにそう見えるね」

空母棲姫「よ、め……?」

提督「…………」

ヲ級「姫、お嫁さんに、なるの?」

空母棲姫「……利根? ちょっとこっちで話をしましょう」ニッコリ

利根「な、なんじゃその満面の笑顔は!? 酷く怖いぞ!?」ビクッ

空母棲姫「それはそうでしょうね。私は今、怒っているもの」ガシッ

利根「ひっ!?」

空母棲姫「提督。少し教育してきますので、偵察機の発艦は後でお願いします。──そうですね。ロープもお借りします」ズルズル

利根「な、なぜ怒るのじゃああああああああ!!?」ズルズル

飛龍「……連れていかれちゃいましたね」

提督「……まったく利根の奴め。空母棲姫にあんなことを言ったらああなるくらい分かっていただろうに」

瑞鶴「でも……正直、私もそんな風に見えたかも」

ヲ級「ねー」

提督「……二人とも、空母棲姫の前で言うと吊るされるぞ」

瑞鶴「そ、それは嫌かなぁ……」

ヲ級「口は、災いの元……」

開発妖精・建造妖精(……なんだかんだで提督に染められちゃってるなー)

…………………………………………。



373:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/04(水) 21:41:03.31 ID:AlRXC7gio

提督「──それで、1編隊には少しばかり多いが、この髑髏型偵察機を誰が使うかだが」

空母棲姫「飛龍がするべきです」

ヲ級「久し振りの、艦載機……!」ワクワク

飛龍「空母棲姫さんが一番だと思います」

利根「我輩は水上機しか分からぬからパスじゃ」

提督「……見事に意見が分かれてしまった」

空母棲姫「飛龍……なぜ私を候補に挙げたのかしら?」ジィ

飛龍「だって、この中で艦載機運用能力が一番高いのって空母棲姫さんだからですよ。……悔しいですけど、私では同じ条件で勝てそうにありません」

利根「……まあ確かに、制空権を確保されているのにも関わらず的確に相手へ攻撃を仕掛けるなどという芸当が出来るのはお主くらいじゃのう」

ヲ級「んー、そうだよね。姫、やろ?」

空母棲姫「…………」

提督「だそうだが、どうする空母棲姫?」

空母棲姫「……悩みます」

ヲ級「どうして?」

空母棲姫「敵である私に兵装を本当に与える直前にまで来てしまった事と、提督を説得出来るという自信がほとんど無くなってしまって私が折れてしまいそうだからよ……」

提督「よし。そのまま折ってしまおう」

空母棲姫「軽々しく言わないで下さい……」

提督「ふむ……。──空母棲姫、私に力を貸してくれないだろうか。今の私には、お前の力が必要だ」

空母棲姫「……その言い方はズルいです。断れないじゃないですか……」

提督「私はズルい人間だよ。──そして飛龍にも頼みがある」

飛龍「? なんですか?」



374:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/04(水) 21:41:39.78 ID:AlRXC7gio

提督「この髑髏艦載機を取り扱えるか試してみて欲しい。もし可能であれば、その技術を取り入れて飛龍たち空母の強化にも繋がる。……もしかすると、下田鎮守府と全面戦争する可能性だってゼロではないからな。備えはあればあるほど良い」

利根「全面戦争とは怖い単語じゃのう……」

提督「その他にも、あのレ級がいつ来るかも分からん。飛龍と加賀の二人でも制空権を確保できなかった事を考えると、あいつ自身も艦載機運用能力は高い。こちらも強化が出来るのならばするべきだ。……恐らく、あのレ級は狙った獲物を逃さない」

飛龍「……なるほど。あれ一隻であの制空力は確かに脅威です。どんな手を使ってでも、私達は提督をお守りします!」

提督「こら飛龍。『どんな手でも』なんて軽々しく言うんじゃない。お前達が私を大事にしてくれるのは分かっているが、それも限度を考えろ。まずは自分の身を守れ。他人の事を気にするのはそれからだ」

飛龍「ぅ……はい……」シュン…

瑞鶴「…………」ジー

響(どうしたんだい、瑞鶴さん)ヒソ

瑞鶴(ん……良いなって思ってね)ヒソ

響(……うん。私もそう思うよ)ヒソ

提督「では二人とも、頼んだぞ。──まずは空母棲姫。発艦後、海面ギリギリの高度を維持しつつ沖へ向かえ。それから下田鎮守府へ向かわせろ」

空母棲姫「分かりました」

提督「次に飛龍。同じく発艦後、海面ギリギリの高度を維持しつつ沖へ向かい、そのまま旋回や最高加速、最高速度、その他諸々を覚えろ」

飛龍「了解です!」

提督「では、やれ!」

空母棲姫・飛龍「はい!」

ヒュパッ──!

空母棲姫「──ん、私の方は少し動きが重いけれど大丈夫よ」

飛龍「……あの、私の方はうんともすんとも言いません」

提督「む?」

飛龍「というより、意識の連結が出来ません……。これ、艦載機ですよね……?」

提督「……すまん。私は艦娘や深海棲艦ではないから分からん。空母棲姫、何か心当たりはあるか?」



375:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/04(水) 21:42:14.82 ID:AlRXC7gio

空母棲姫「……もしかすると、艦娘は深海棲艦の装備を使う事が出来ないのかもしれないわね」

提督「識別信号でもあるのか?」

空母棲姫「いいえ、そんなものは無いわ。……ただ、私もこればかりは感覚で使っているものだから説明が難しいわね。飛龍もそうでしょう? 艦載機をどうやって自在に操っているかなんて、考えた事無いわよね?」

飛龍「えっと、はい」

提督「ふむ……。開発妖精、深海棲艦の技術を艦娘用の艦載機に移転できるか?」

開発妖精「それはちょっと難しいっていうか無理かも……何もかも違い過ぎて……。提督の持ってたサンプルも分解して理解するのに苦労したよー……」

提督「そうか……残念だ……」

利根「……しかし、どこからそんなサンプルを手に入れたんじゃ?」

提督「お前と一緒に釣ったアレだ」

利根「なんでそんなもの持って帰ってきたのじゃ……」

提督「何かに使えるかもしれんと思ってな」

瑞鶴「ま、まあ……それで今回はこうして空母棲姫さんの艦載機を作れた訳だし、ね?」

響「……少し気になったんだけど、良いかな」

提督「どうした」

響「確か横須賀から下田まで直線距離でも100kmくらいはあったよね? そんなに燃料は保つの?」

空母棲姫「私達の兵装に燃料は必要無いわ。強いて言うならば、後悔の念や怒りなど、負の感情が燃料であり、全てのエネルギー源よ」

利根「という事は、今もお主は何か負の感情を持っているという事かの?」

空母棲姫「そうなるわね。貴方達に対しては無いけれど、深海棲艦としての私の中にある蓄積された負の感情を使っているわ。──ああ、なるほど。だから艦娘は深海棲艦の兵装が使えないのね」チラ

飛龍「えーっと……私だって悔しいって思ったり悲しい気持ちになったりしますよ?」

空母棲姫「その度合いが違うのでしょうね、きっと」



376:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/04(水) 21:42:44.87 ID:AlRXC7gio

響「……でも、ヲ級さんは負の感情があるように見えないけれど」

ヲ級「ね、ね。何か、遊ぶ道具って、無い?」

建造妖精「んー……ここは遊び場じゃなくて工廠だからねー……」

ヲ級「ぁぅー……」

開発妖精(この子、暇なんだろうなぁ……)

空母棲姫「あの子もあの子で何か抱えているのだと思うわ。私は怒りと後悔がほとんどだけれど、全員が全員同じとは思えないもの」

提督「深海棲艦にも色々とあるのだな」

空母棲姫「そうよ。……ただ、私達は例外だと思うけれど」

利根「人間や艦娘に心を開いてくれる深海棲艦など滅多に居らんじゃろうなぁ」

空母棲姫「利根、もう一度吊るしてあげようかしら?」ニッコリ

利根「ひっ……!」ビクンッ

提督「だが、そうしてくれたからこそ今の私達が居る。お前も、あの時に様子を見るという事をしてくれたからここに居るんだ」

空母棲姫「…………確かに、嫌いではありませんが……」

提督「素直になっても良いんだぞ。私は勿論、ここに居る者達はお前達を仲間だと認めている」

空母棲姫「……そうやって篭絡した子は何人居るのかしら」

提督「さて。篭絡しようと思ってやっている訳ではないから分からん」

利根「この鎮守府に居る全員が篭絡されておるようなものではないか」

提督「空母棲姫、後で利根を吊るそうか」

空母棲姫「良いですね。二人で合わせて時間も倍という事でどうでしょう」

提督「良い案だ」

利根「さっきから我輩の扱いが酷くないか!?」

提督「こうやってお前をイヂるのはとても心地良い」ワシャワシャ



377:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/04(水) 21:43:29.64 ID:AlRXC7gio

利根「むぅー……。いい加減にせぬと拗ねるぞ……」

提督「それは困るから、ここらで止めておこう。拗ねられてしまったら愛でるの範疇を超えてしまう」

利根「もう半分拗ねておるわ。……後で背中にのしかからせてくれたら許すのじゃ」

提督「その程度で良いのならば」

利根「うむ! 約束じゃぞ!」

提督「ああ、約束だ」

空母棲姫「……………………」

空母棲姫(……本当、仲が良いわね。少し……少しだけ、羨ましいです)

提督「ふむ」

空母棲姫「…………? 何かしら。私の顔に何か付いていて?」

提督「よく観察するとお前は分かりやすい──いや、分かりやすくなってきた、と思ってな」

空母棲姫「……………………なんですって?」

提督「そのままの意味だ。怒っている時など顕著に。今のように哀愁を感じている時も弱々しい表情をするようになっている。嬉しい時も口元は笑っているしな」

空母棲姫「……貴方達が悪いのよ、貴方達が」

提督「良い悪事だ。これからもいつも通り接するとしよう」

空母棲姫「もう……」

飛龍(あ、嬉しそうな顔ですね)

利根(なるほど。確かに分かりやすいのう)

瑞鶴(……なんだか、ここの加賀さんに似てる?)

響(旦那さんとお嫁さん……うん。やっぱりそう見えるね)

空母棲姫「──沖へ出たわ。これから周囲を警戒しつつ下田へ向かいます」

提督「ああ。任せた」

…………………………………………。



385:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/12(木) 01:55:14.23 ID:Jqc775X6o

空母棲姫「……妙ですね」

提督「妙? 何かあったのか」

空母棲姫「何かが『あった』というよりも、あるべきモノが『無い』と言った方が正しいです」

利根「あるべきモノ……?」

空母棲姫「海と空、その両方の哨戒が無いわ。所謂がら空きの状態よ」

瑞鶴「がら空きって……おかしいわね。最低でも偵察機で哨戒はしていたわよ。私も何回かはやった事があるし……」

響「鎮守府近海の警備も駆逐艦四隻で随時やっていたよ」

空母棲姫「……そのどちらも見当たらないわ。もう鎮守府全体が見えている距離なのに……どういう事なのでしょうか……」

飛龍「……防衛に回すべき戦力すら使って深海棲艦を倒しているのでしょうか」

提督「流石にそこまでおかしい事をするとは思えんが……。一体どうなっているんだ。空母棲姫、ギリギリまで近付けるか?」

空母棲姫「分かりました。山を背にしつつ建物内部の様子を調べます」

空母棲姫「…………やけに艦娘の姿が少ないわね。本当に防衛に回すべき戦力すら戦闘に駆り出しているのかしら」

瑞鶴「えっと……数が少ないように見えるのは、ほとんどの艦娘が自分の部屋で休んでるからだと思う。休める時に休まないと、いつ無理を言われるか分からなかったから……」

空母棲姫「なるほどね。……それにしても、嫌な雰囲気の漂う鎮守府ですね。まるで、悪魔でも住んでいるかのようです」

瑞鶴・響「……………………」

空母棲姫「貴女達の想像している意味とは違うわ。もっと別の、何か異質な雰囲気よ」

瑞鶴「……異質?」

空母棲姫「ええ。言葉で表現しにくいけれど、化け物が潜んでいるかのような……そんな異質さよ」

提督「二人とも、心当たりはあるか?」

響「……私は無いかな。あの司令官は化け物っていうより権力と暴力で捻じ伏せる人だったしね」

瑞鶴「私も響ちゃんと同じ。心当たり所か見当すらつかないわ」

提督「そうか……。空母棲姫、撃墜されても構わん。隠密に調べられるだけ調べてくれ」

空母棲姫「分かりました」

…………………………………………。



386:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/12(木) 01:55:40.73 ID:Jqc775X6o

ヲ級「!」ピクン

提督「む。どうした?」

利根「何かあったのか?」

ヲ級「ご飯の仕込み、そろそろ、しなきゃ!」

空母棲姫「…………」

利根「ほう、もうそんな時間か。通りで腹が空いておる訳じゃ」

提督「……そうだな。行ってきて良いぞ。瑞鶴、利根、見付からないように先行を頼む。そして、空母棲姫は任務中だと伝えてくれ」

利根「うむ、心得た」

瑞鶴「うん、分かったわ」

ヲ級「いってきまーす!」タタタ

瑞鶴「ああ、こら! 走らないの!」タタタッ

利根「ヲ級は元気じゃのう」タタッ

響「いってらっしゃい」フリフリ

空母棲姫「……あの、提督」

提督「そうだな……空母棲姫は機体を回収してからなら良いぞ。恐らく配膳の頃になると思うが──」

空母棲姫「待って下さい。機体を回収と言いましたか?」

提督「ああ、そう言ったぞ」

空母棲姫「……もう突っ込みません。お前なら問題無い、と仰るのでしょう?」

提督「よく分かっているじゃないか」

空母棲姫「いい加減、慣れます。……貴方はお人好し過ぎます。いつか、足元を掬われるわよ」

提督「それくらいの見分けは出来ているつもりだ」



387:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/12(木) 01:56:17.87 ID:Jqc775X6o

空母棲姫「またそうやっ──偵察機が艦娘に見付かりました」

提督「む、見付かってしまったか。仕方が無い。もっと沖の方へ逃げるように動け。もし残れば低空飛行で戻らせよう」

空母棲姫「分かりました。…………? おかしいですね。撃墜しようとしてきません」

提督「対空兵装をまともに装備していないのか?」

空母棲姫「いえ、駆逐艦四隻ですが対空砲は装備しています。……まるで、偵察機を確認しているかのようですね」

提督「……ふむ」

空母棲姫「……………………何の冗談かしら。何もしてこなかったわ」

提督「……無駄な戦闘を避けたかったという訳でもないのか? 傷を負っていたりはしていたか?」

空母棲姫「少なくとも無傷でした。砲を向けてくるという事もしてきませんでしたので、本当にどういう事か……」

響「……ねえ、駆逐艦が四隻って言ってたよね。艦名まで分かるかい?」

空母棲姫「艦は暁型が三隻と不明の艦が一隻よ。……そうね、貴女を白くしたような艦娘だったわ」

響「装備は全員、両脇に高射装置付きの高角砲と水上電探だったのかな?」

空母棲姫「……なぜ分かったの?」

響「やっぱり」

提督「……なるほど。その駆逐艦たちは下田鎮守府の近海警備という訳か」

響「うん。この辺りでその編成、その装備なら下田鎮守府で間違いないと思う」

空母棲姫「でも、敵の偵察機を見過ごすなんて、どういう事なのかしら……。戦果を挙げているという話だったけれど、こんな事をしていたら戦果なんてとても──」

空母棲姫「…………」

提督「もしかしたら、そういう事かもしれんぞ」

空母棲姫「いえ、でもそれは……」

響「? どういう事なんだい?」



388:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/12(木) 01:56:44.55 ID:Jqc775X6o

提督「空母棲姫やヲ級以外にも人間へ協力している深海棲艦が居る、という可能性があるという事だ。そして、その深海棲艦には艦載機を扱う者が居る」

響「……確かに居てもおかしくないと思うけれど、どっちかって言うと鹵獲して利用しているって言った方がまだ信じられるかな」

提督「これは提督と総司令部にだけ言われている事だが、鹵獲は禁忌とされている」

響「禁忌? なぜなんだい?」

提督「鹵獲した鎮守府は、必ずその深海棲艦によって破壊されてきている。一体何をしたのかは分からんが、どの深海棲艦も異常な強さになったとの事だ。無論、鹵獲された深海棲艦も協力なんてしていない」

響「……じゃあ、下田に居る深海棲艦は自らの意思で協力しているって事?」

提督「そうなる。……あくまで下田鎮守府に深海棲艦が居れば、の話だが」

空母棲姫「……本当に居るかもしれませんね」

提督「ほう」

空母棲姫「あの鎮守府から感じる化け物のような雰囲気は、凶悪な深海棲艦のモノだと言われると納得できます。恐らくですが、あの島で会った戦艦と同等かと思われます」

提督「だが、なぜ深海棲艦が仲間を大量に沈めるなどという事をするんだ? その理由が思い付かん」

空母棲姫「それは……私も分かりません。そんな事をして何があるのか……」

提督「……担当海域を広げさせ、大きな権力を手に入れてから総司令部を乗っ取るつもりか?」

空母棲姫「少し無理があります。非常に難しく時間も掛かる上、事を知った者達が蜂起してしまえば簡単に叩き潰されてしまいます」

提督「そうなるな。……一体、何を考えているんだ?」

空母棲姫「分かりません……。ですが、用心するに越した事はないかと」

提督「ああ。気を付けておくとしよう。──気を付けるにあたってだが、やはり空母棲姫の偵察機は回収しておきたい。これからも下田鎮守府を偵察する際にはその機体を使っていこう」

空母棲姫「分かりました。必ず帰還させます」



389:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/12(木) 01:57:11.01 ID:Jqc775X6o

響「…………」ジー

空母棲姫「? 何かしら」

響「なんだか嬉しくなったから、つい」

空母棲姫「嬉しく?」

響「うん。そうやって空母棲姫さんが協力してくれていると、凄く心強いからね」

空母棲姫「……煽てても何も出ないわよ」

響「私の正直な感想さ。空母棲姫さんは信頼できる。それが、より一層強く思えたよ」

空母棲姫「……まったくもう。貴女も提督に影響されてしまったのね」

響「きっと、空母棲姫さんの事を知った人ならばそう思うさ。──司令官、今度、暁たちに会わせてみないかい?」

提督「ふむ……そうだな。悪くない。まずは暁と雷、電の三人に紹介してみるか」

空母棲姫「本当に大丈夫かしら……」

提督「私を信じろ」

空母棲姫「……良いですね。提督の言葉なら、少しだけ安心できます」ニコ

提督「ほう」

空母棲姫「!!」ハッ

空母棲姫「…………」フイッ

響(照れてる)

提督「…………」ポン

空母棲姫「……なぜ、頭に手を?」

提督「ゆっくりで良い。ゆっくりと、歩くような早さで」

空母棲姫「……………………」コクリ

響(……なるほど。これは確かに『篭絡』かもしれない。随分と優しくて、相手に任せた篭絡だけどね)

…………………………………………。



396:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:19:49.63 ID:kMfYaA4Ao

金剛「──二日後に、私をデスか?」

提督「ああ。幽霊騒ぎもほとんど収まってきている。そろそろ金剛をこの部屋から出しても良いだろう」

金剛「……大丈夫でショウか」

提督「……正直に言うと、初めは一悶着があるだろう。だが、大きな問題にはならないと信じている」

金剛「ならないではなく『信じている』なのデスか?」

提督「そうだ。確実だとは私も自信を持って言えない……だが、私はあの子達を信じる。きっと理解してくれる、と」

金剛「──ハイ。私も、テートクとこの鎮守府に居る皆さんを信じマス」ニコ

提督「ああ。きっと大丈夫だ」

金剛「……ところでテートク。そろそろもう一人の私とお話ししマスか?」

提督「嬉しい申し出だが、無理はしていないか?」

金剛「ハイ。今日も調子はベリーファイン、デス!」

提督「…………」

金剛「……あの、テートク? どうかしまシタか?」

提督「いや、一つ気になった事があってな」

金剛「気になった事、デスか?」

提督「うむ。意識を引っ込めた方とも会話が出来るのか、とな」

金剛「えーと……?」

提督「つまり、お前と中に居る金剛と同時に話す事は可能かどうか、という疑問だ」

金剛「んー……似たような事ならば出来ると思うデス」

提督「というと?」

金剛「表に出ている方が、中に居る方の言葉を代弁するという方法デス」



397:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:20:17.04 ID:kMfYaA4Ao

提督「なるほど。それは負担が少ないのか?」

金剛「どうでショウか……やってみマスね」

提督「頼む」

金剛「では──」スッ

提督「む?」

金剛「…………」パチッ

提督・金剛「…………?」

金剛「えーっと、少し聞いてみるデス」

提督「お前もそう思ったか。聞いてみてくれ」

金剛「ハイ。……………………どうやら、まずは私とテートクを会わせたかったらしいデス。……気を遣い過ぎデース」

提督「なるほど、そういう事か。……なんだか申し訳ないな」

金剛「イエス……」

提督「……しかし、間接的にとはいえ三人で会話をする事も出来るのは良い発見だ」

金剛「良い発見、デスか?」

提督「ああ。今までは表に出ている方としか会話をしていなかっただろう? つまり、部屋の中に三人居るのに一人だけ除け者にしているような状態だった。それが解消できると分かったのは良い事だ」

金剛「なるほど。確かにそれはグッドな発見デース!」

提督「それで、負担の方はどうだ? やけに疲れるとか違和感とかはあるか? 中に居る金剛も答えてくれ」

金剛「……………………この子に負担は無いようデス。違和感は声を出そうとしているのに声が出ていない事くらいだそうデス」

提督「ふむ、そうか。お前はどうなんだ?」

金剛「んー……なんと言いマスか、変な違和感はあるデス」

提督「変な違和感?」



398:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:20:43.29 ID:kMfYaA4Ao

金剛「イエス。抽象的デスが、ぽわーっとしているような、ふわふわとしているような……そんな、寝起きでまどろんでいるような感じネ」

提督「ふむ……。あまり良くない事なのだろうか」

金剛「そうなのデスか?」

提督「いや、私の勝手な推測だ。根拠も何も無い」

金剛「……そう言っている時のテートクの言葉は当たっている事が多かったデス。何かあるかもしれまセンね」

提督「そう不安にさせるんじゃない。中に居る金剛も不安に思うだろう。──中に居る金剛も違和感などはあるか?」

金剛「……………………特には無いそうデス。強いて言うならば、心の中で会話しているみたいなこの状態が不思議な感覚だそうデス」

提督「ふむ、そうか。二人とも、何か異常があればすぐに言うんだぞ」

金剛「分かりまシタ。この子も頷いてくれたデース」

提督「うむ。……しかし、一つ疑問に思った事があるんだが」

金剛「? どうかしまシタか?」

提督「今表に出ている金剛が姉で、中に居る金剛が妹のような立ち位置になっていると思ってな。何かあったのか?」

金剛「いえ、特に何かがあったという事は無いデス。自然とこうなりまシタ」

提督「ふむ。そうか」

金剛「……………………」ホッコリ

提督「? どうした? そんな優しい笑顔を浮かべて」

金剛「この子から小動物のようにシスターと呼ばれたので、庇護欲が掻き立てられまシテ」

金剛「ん……?」

提督「! どうした金剛」

金剛「……ソーリィ。そろそろ限界のようデス。頭がボーっとしてきまシタ……」

提督「そうか……。ゆっくり休んでくれ」ナデ



399:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:21:09.78 ID:kMfYaA4Ao

金剛「んー……♪ グッナイ、テートク……。また、こうや……て……」スッ

提督「……おやすみ」ナデナデ

金剛「!」ピクン

提督「おかえり、金剛」ナデ

提督「気を遣ってくれてありがとう」スッ

金剛「いえ、私はこのくらいしか役に立てないデスから……」

金剛(……最後の一撫では、わざとだったのでショウか? ……嬉しいと思うのは、良くないのに)

提督「そんな事はないから安心しろ。そして、些か気にし過ぎだ。もっとお前のやりたいようにやっても良いんだぞ」

金剛「えっと……ハイ」

提督「うむ。──ところで、体調は大丈夫か?」

金剛「ハイ。それに関してはノープロブレム、デス」

提督「ふむ」ジッ

金剛「…………? あ、あの、テートク? どうかしたデスか?」

提督「少しずつだが、お前の事が分かってきたからな。さっきの言い方から察するに、気にしなくても良いくらいの何かがあるのだろう?」

金剛「! うぅ……ハイ……」

提督「どういう状態なんだ?」

金剛「……ほんの少しデスが、頭がポーっとしマス。重力が半分になったような、軽い浮遊感もあるデス」

提督「そうか。時間も時間だ。今日はもう寝てしまおう」

金剛「ハイ。分かりまシタ」

提督「それと、二日後に備えて心の準備はしておいてくれ」

金剛「心の準備デスか?」



400:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:21:36.81 ID:kMfYaA4Ao

提督「ああ。あくまでその時の金剛と私は初対面だ。それを忘れないでくれ」

金剛「なるほど。本来ならば知らない事を知っていたりしているとおかしい、という事デスね」

提督「そういう事だ。頼むぞ」ポンポン

金剛「あ、また……」

提督「このくらいならば良いだろう?」

金剛「むー……」

提督「不安ならば姉に聞いてみると良い。きっと笑われるぞ」

金剛「……本当にそうなりそうデース」

提督「それと、二日後は私がこうしても困った顔をしないでくれ」

金剛「う……が、頑張りマス!」

提督「よろしい。──では、また明日な、金剛」スッ

金剛「ハイ。おやすみデス」

提督「おやすみだ」

ガチャ──パタン

金剛「……………………」

金剛「シスター……本当にこれで良いのデスか……?」

……………………
…………
……



407:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:00:30.04 ID:4Y1+l+d4o

暁「私達に特別な用事って何かしら?」トテトテ

雷「きっと、とっても大事なコトよ! 司令官が特定の艦娘を呼ぶだなんて滅多に無いもの!」トコトコ

電「はわわ……! 一体どんな事なのでしょうか……!」トコトコ

響(……さて、大丈夫だとは思うけど、暁がちょっと不安かな)トコトコ

雷「着いたわ! ノックするわね!」スッ

暁「あ! 私! 私がする!」

雷「ちゃんと三回ノックするのよ?」

暁「ぅ、バカにしないでよね。そのくらい分かってるわよ」

響(これは知らなかったと見た)

コン……コン……コン……

提督「入れ」

ガチャ──パタン

響「司令官、言われた通り来たよ」

雷「それで、特別な用事って何? 何なのかしらっ?」キラキラ

電「…………!」ワクワク

暁「…………っ」ソワソワ

提督「その事なんだが、まずは約束して欲しい事がある」

暁「約束?」

提督「ああ。今日の事は非常にランクの高い機密だ。この事は誰に何を聞かれようと、鎮守府から漏らさないと約束してくれ」

電「ハ、ハイなのです!」ピシッ

暁「わ、分かったわ!」ピシッ

雷「はいっ!」ピシッ

響「了解だよ、司令官」ピシッ



408:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:01:02.91 ID:4Y1+l+d4o

提督「それともう一つ。絶対に大声を出さないでくれ。良いな?」

四人「!」コクリ

提督「よろしい。──二人とも、出てきて良いぞ」

ヲ級「はーい!」ヒョコッ

空母棲姫「…………」スッ

三人「────ッ!!?」ビクッ

暁「ピ──!?」

響「はい、静かにね暁」ムギュ

暁「んぎゅーっっ!!?」モゴモゴ

雷・電「…………」

響(二人は顔が真っ青になって声も出ない、か。やっぱりそうなるよね)

提督「見ての通り、二人は深海棲艦だ。だが、この二人は私や利根の命の恩人でもある」

電「……え?」

空母棲姫「またそうやって誤解を招くような……」

提督「事実だろう? あの時、食糧を確保できるという保証なぞ無かった。そんな中で大量の魚や貝、海草を採ってきてくれたのは誰だったかな?」

空母棲姫「それは……」

提督「私ならばなんとか出来るだろう──と思うのは間違いだ。どうにもならん時なんていくらでもあるし、判断のミスもある。あの時はどうにもならない状況だったのはお前も分かっているんじゃないのか?」

空母棲姫「…………」

提督「それに、私の悩みを解消してくれた事も忘れんぞ」

空母棲姫「あれは──……いえ、貴方には何を言っても勝てそうにないわ……」

ヲ級「私、あの時の、魚が一番、好き! 今度、採ってきて、良いっ?」キラキラ



409:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:01:29.92 ID:4Y1+l+d4o

提督「もう少し状況が落ち着いてからならば良いぞ。きっと、間宮や伊良湖だけでなく皆が喜ぶだろう」

ヲ級「わーい!」ピョンピョン

三人「……………………」パチクリ

響(なんとなく、こうなるのは予想できたよ)

電「……あの、司令官さん」

提督「どうした、電」

電「……私の勘違いでなければ、二人は敵……ですよね? 空母ヲ級と空母棲姫ですよね……?」

提督「間違ってはいないが、大きく違う点がある」

雷「違うところ……?」

提督「そうだ。見ての通り二人は敵対していない。むしろ、協力してくれているくらいだ。さっきも言ったが、私と利根がこの鎮守府を離れて島暮らしをしている際にも生きる手助けをしてくれた。私にとって、この二人は皆と同じく仲間だ」

三人「…………」ジー

ヲ級「?」ニパー

雷「……司令官、二人が敵じゃないっていうのは司令官を見て分かったわ。けど、どうして私達にそれを教えたの?」

提督「簡単だ。二人は深海棲艦である以上、身を隠しながら行動しなければならない。それをなんとかしてやりたいと思ったからだ」

電「えっと……皆が受け入れてくれれば、鎮守府の中を自由に歩けるようになるから……なのです?」

提督「そういう事だ。それでまずは電たちに紹介する事にした」

雷「……でも、流石にちょっと怖いわ」

響「まあ、そうなるよね」トコトコ

暁「ひ、響……?」

響「二人とも、調子はどうだい?」

ヲ級「今日も、元気、だよ!」

空母棲姫「……悪くはない」

響「それは良いって事なのかな?」



410:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:01:56.77 ID:4Y1+l+d4o

空母棲姫「む…………はぁ……そういう事ね」

響「…………」ニヤ

空母棲姫「本当、貴女はこの方に影響されているわね?」

響「されるなっていう方が無理だと思うよ」チラ

空母棲姫「それもそうね」チラ

提督「褒め言葉として受け取っておこう」

空母棲姫「もう……これなんだから……」

三人「…………」

電(あれ……? なんだか普通なのです……)

雷(なんか深海棲艦とか敵って感じがしないわ……。深海棲艦なのに……)

暁(…………)

暁「……思ったんだけど、どうして響はその二人と仲が良いの?」

提督「簡単な話だ。教える前に響にバレてしまった。それで三人よりも先に交流していたって所だな」

暁「……そうなのね」

提督「ああ。良かったら響と同じく仲良くしてやってくれ」

暁「……私はもう少し様子を見るわ」

雷「じゃあ、私はこれからちょっとだけお話ししてみようかしら」

電「わ、私もなのです」

響「私はいつも通りかな」

暁「う……わ、分かったわよ! 私も一緒に居るわ!」

提督「お姉さんは辛いな」

暁「うぅー……」

空母棲姫「無理はしなくても良いのよ?」

暁「この人に言われると、なんか複雑な気分……」

提督「まあ、直に慣れるだろう」

暁「ううぅー……」

…………………………………………。



415:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:06:10.10 ID:dCKzIXvTo

提督「──とまあ、今言ったように暁たちは空母棲姫たちと打ち解けたと言って良いだろう」

金剛「やっぱりデスね。あの二人ならばすぐに仲良くなれると思いまシタ」

提督「そして、お前もすぐに皆の中に溶け込めるだろう」

金剛「それは……どうデスかね? 皆さんにとって、私はやっぱり──」

提督「大丈夫だ。初めこそ動揺されるだろうが、すぐに受け入れてくれるさ。瑞鶴と響の時もそうだった。心配する事はないぞ」ポンポン

金剛「……ハイっ」ニコ

利根「うむうむ。そうじゃぞ」ニコニコ

利根(──うむ。良い雰囲気じゃのう。やはり提督はこの笑顔が一番じゃ。きっと、この笑顔を引き出せるのは金剛だけじゃろうなぁ)

利根(いや……『金剛』だから、なのかのう? 金剛であり『金剛』でもあるから、この笑顔に出来るのじゃろうか)

利根「うーむ」

金剛「? どうシタですか、利根?」

利根「なんだか今日は眠くなるのが早くてのう。すまぬが、我輩は先に寝るのじゃ。眠気には逆らえぬ」スッ

提督「……ふむ」

金剛「珍しいデスね?」

利根「こういう事もあるじゃろうて。──では、おやすみなのじゃー」

利根(しっかりと堪能しておくのじゃぞ、提督よ)ニヤ

ガチャ──パタン

金剛「グッナ……もう行ってしまいまシタ。なんだか今日の利根、不思議な感じでシタね?」

提督(……あいつめ、変な気を回したな)

提督「まったく……」

金剛「?」



416:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:06:42.60 ID:dCKzIXvTo

提督「まあ、あいつが深読みをしたという所だ」

金剛「深読み、デスか?」

金剛「──あ、なるほど」

提督「教えて貰ったのか」

金剛「ハイ。けど、本当にシスターは皆さんの事をよく分かっているデスね。私にはどういう事なのか検討もつかなかったデス」

提督「何年も一緒に居るから分かる事だ。そうでなかったら分からないのが普通だろう?」

金剛「……………………」

提督「うん?」

金剛「ぁ……い、いえ。なんでもないデス」

提督「……そうか」

提督(……下田の仲間達の事を、よく分かっていなかったのだろうか)

金剛「! ……あ、あの…………」

提督「どうした?」

金剛「私が何を考えていたのか、分かってしまったデスか……?」

提督「いや、分からんよ。出来るのは憶測くらいだ」

金剛「……なんだか、テートクならば私の考えていた事を言い当てそうデス」

提督「さて、それは分からんな」

金剛「…………? えっと、それはどういう…………あぅ……分かりまシタ……」

提督「……金剛、この子に何かを吹き込んでいるな?」

金剛「……………………テートクはこういう時に頑固になるから、何を考えていたのかも教えてくれなくなると言っていまシタ」

提督「…………」フイッ

金剛(顔を背けた……という事は、当たっているのデスかね?)

提督「ところで話は変わるが、明日の準備は出来ているか?」

金剛「正式に私が在籍するお話デスね。ハイ。ちゃんと頭の中でイメージトレーニングも出来ていマス」

提督「よろしい。ならば、最終確認として私と会話をしてみよう。明日の予行演習だ。──金剛、これからよろしく頼む」

金剛「ハイ。こちらこそよろしくデス」ペコ

提督「……ふむ。硬いな」

金剛「あう……硬いデスか」

提督「そうだな。硬い。もっと素直に自分を曝け出して構わんのだぞ?」

金剛「それは失礼のような……」

提督「……ふうむ。ならば──」

金剛「えっと、それでしタラ──」

提督「────────」

金剛「────? ────────!」

…………………………………………。



417:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:07:13.32 ID:dCKzIXvTo

利根「…………」ボー

利根「……綺麗な月じゃのう。星々も自己主張するかのように強く輝いていて良い夜空じゃ」

利根「…………」モグモグ

利根「うむ。うむうむ! ヲ級に空母棲姫め、また腕を上げおったな? 美味い饅頭なのじゃ。……まあ我輩一人じゃから、ちと寂しいがの」

利根「うーむ。誰かを呼んでみるかの? 筑摩……はまだ鎮守府に居らなんだな。まったく。一体いつになったらこの鎮守府にやってくるのじゃ。姉不幸者め」

利根「まず駆逐艦の皆はもう寝ておるじゃろうなぁ。軽巡の者もそろそろ寝る頃のはずじゃ。重巡は……たしか今日、軽空母の皆と酒を飲み交わしておるんじゃったか。我輩は酒が飲めぬから邪魔をする訳にもいかぬな」

利根「となると戦艦や空母の者たちじゃな」

利根「加賀や赤城はどうじゃろうか? ……無理じゃな。会話が続かずに饅頭を食い尽くされるだけじゃ。飛龍と蒼龍も今日は何か予定があると話をしておったのう。鶴姉妹は……なんだか寝ておりそうじゃから止めておくかの」

利根「戦艦は……正直、金剛型の三人とは特別仲が良いという訳でもないからのう……。簡単に話をする程度じゃし。それに、四人ではこの饅頭の量は少な過ぎる」

利根「という事で残るは長門じゃな。……む。いかん。長門の部屋はどこじゃったかの……?」

利根「……うーむ。仕方が無い。今日は一人で居る事にするかのう。流石にヲ級と空母棲姫の二人を呼ぶ訳にはいかぬしのう」

川内「──あれ? 利根さん?」

利根「うん?」クルッ

川内「やっぱり利根さんだー! どうしたの、こんな夜に? 夜戦?」

利根「どこに敵が見えるというのじゃ、どこに。そういう川内こそこんな夜にどうしたのじゃ? また夜戦病でも発症したのかの?」

川内「さ、流石にそれはもう無いかな。もう提督に吊るされたくないから……」

利根「クックッ。この鎮守府で一番吊るされておるからのう。──まあ、なんじゃ。これも何かの縁。一緒に饅頭でも食わぬか?」

川内「え、お饅頭!? 良いの!? やったー!」チョコン

利根「うむ。月を肴に饅頭を食べておったのじゃが、そろそろ一人は寂しくなってのう」

川内「あれ、提督と一緒じゃなかったの?」

利根「提督はちと用事があってのう。邪魔をせぬよう抜け出したのじゃ」



418:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:07:38.80 ID:dCKzIXvTo

川内「ふーん? 提督も忙しいよねー。あ、いっただきまーす!」パク

利根「どうじゃ? 塩味のある饅頭も美味いものじゃろう」

川内「本当だ、おいしー!! これ利根さんが作ったの?」

利根「我輩は料理なぞ出来ぬよ。これはお裾分けしてもらったものなのじゃ」

川内「という事は間宮さん達かな? へぇー、お饅頭にお塩っていけるものなんだねー」モグモグ

利根「たしか、塩味で甘さが引き立つとか言うておったぞ。不思議な話じゃよのう」

川内「あ! それ聞いた事がある! 西瓜に塩を掛けるってやつだ!」

利根「それと同じじゃな。──ところで川内よ、こんな時間に外に出てどうしたのじゃ?」

川内「ん? やっぱ夜が恋しくなってさー。部屋の中だと静かにしないといけないから外に出てきたんだー」モグモグ

利根「なるほどのう。本当に川内は夜が好きじゃなぁ」

川内「そりゃもうね! だって夜だよ! こう、血沸き肉躍るって言えば良いのかな? そんな感じだよ!」

利根「……やはり夜戦病が発症したのではないのか?」

川内「いやいや、本当にただ歩き回ってるだけだよ。前みたいに騒いだり海へ出ようとしたりしないって」

利根「クックッ。あの時の提督と川内の様子はまだ憶えておるぞ。あれは辛かったじゃろうなぁ」

川内「そ、その話はやめよ? ね? あの時の提督を思い出したくないからさ……?」ビクビク

利根「さて、それはどうしようかのう?」ニヤ

川内「利根さんも提督みたいにイヂワルしないで!? ……ん?」チラ

利根「む?」チラ

利根(ぬ……あれはヲ級と空母棲──あ、気付いて隠れたか)

川内「……ね、ねえ利根さん。今何か見えなかった?」

利根「うん? 何かって何じゃ?」



419:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:08:08.05 ID:dCKzIXvTo

川内「いや、ほら……さっき誰かがあそこに……」

利根「何を言うておるのじゃ川内よ。夜戦病の中毒症状で見えない敵でも見たのかの?」

川内「いやいやいやいや!! 絶対に誰か居たって! こっち見てたってば!!」

利根「じゃが、今は居らぬのじゃろ?」

川内「そ、そうだけどさぁ……。もし敵とかだったら危ないよ」

利根「深海棲艦がこんな所に居る訳なかろうて。それに、深海棲艦ならば一瞬見ただけでも深海棲艦と分かるじゃろう?」

川内「あ、それもそっか。……うーん。でも、なんだか敵っぽく見えたんだよね」

利根「ほれ川内。饅頭じゃ」スッ

川内「え? えーっと……あむ」パク

利根「食って少し落ち着くが良いぞ。それに、もし敵ならば我輩が見逃しておらん」

川内「うーん……? まあ、利根さんがそう言うのなら……」モグモグ

利根「ところで川内よ、お主は星の事が分かるか?」

川内「星? ……全然わかんない」

利根「では、提督から聞いた星の話をしてやろう。北極星というのは知っておるか?」

川内「えっと、確か常に北にある星だっけ?」

利根「うむ。そんなものじゃ。その北極星じゃが、実は我輩たちが見ている北極星は四百年前の姿らしいぞ」

川内「四百……? えーっと、どういう事?」

利根「北極星の光が地球へ届くまで四百年の時間が掛かるという話じゃ。つまり、北極星が今この瞬間に消えて無くなっても、地球では四百年後まで北極星が見えておるという事なのじゃ」

川内「……え!? 光ってあの光だよね!? パッて光ってパッて消える光だよね!? あれって一瞬で向こう側に届くんじゃないの!?」

利根「どうやら光にも速さがあるらしいのじゃ。なんでも、一秒で地球を七周半するらしいぞ」

川内「七周半!? って、そんなに速いのに四百年も掛かるってどれだけ遠いの!?」



420:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:09:55.85 ID:dCKzIXvTo

利根「途方もない遠さじゃなぁ。前に教えて貰ったが、何千兆キロだとか言っておったのう」

川内「うっわー……もうすっごく遠いってくらいしか分からないや……」

利根「ちなみに一番近所の銀河は何千京キロだそうじゃ」

川内「京って兆の一つ上だったよね!? なにその遠さ!?」

利根「他にも色々と聞いたぞー。そんな遠くからやってくる星の光でも影が出来るとか──」

川内「新月の夜って真っ暗で何も見えないのに、影って──」

利根「それが、綺麗な空気の場所じゃと──」

川内「見てみたいなぁ──」

利根「そして──」

川内「うんうん! ────!」

利根「────」

川内「────!」

…………………………………………。

ヲ級「危なかったね、姫」

空母棲姫「油断していたわ……。これからはもっと気を付けましょうか」

ヲ級「はーい。私も、もっと気を付けるね」

空母棲姫「ええ。後で利根にお礼を言いましょう。逸らかしてくれたみたいだもの」

ヲ級「うん! 次は、あのお饅頭よりも、もっと美味しいの、作る!」

空母棲姫「きっと利根も喜んでくれるわ」

……………………
…………
……



428:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:19:06.74 ID:QDsZQ4q2o

提督「──本日の任務は以上だ。加えて、この鎮守府に新しくやってきた艦娘を紹介する。……入ってきてくれ」

比叡「ッ──!!」

榛名「────────」

霧島「…………」

金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! よろし……」

全員「……………………」

金剛「…………く……」

金剛(……やっぱり、こうなりマスよね)

金剛「えーと、私、どこかおかしかったデス?」チラ

提督「いや、どこもおかしくはない」

長門(……こうなるのも無理はないだろう)

比叡「……司令、一つよろしいですか」

提督「……許可する」

比叡「嫌な予感はしていましたけど、これは一体どういう事ですか?」

提督「……………………」

比叡「……………………」

飛龍(……あれ? なんだか……?)

利根(提督も辛そうじゃな……)

提督「……見ての通りだ」

比叡「…………………………………………」

榛名「…………」ハラハラ

霧島(大丈夫かしら……)



429:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:19:33.43 ID:QDsZQ4q2o

金剛「……比叡?」

比叡「っ!」ハッ

比叡「……いえ、ごめんなさい。司令が何も考えていない訳なんてないのに……」

提督「辛い思いをさせてすまない……」

比叡「…………」

金剛(……えっと、一応ひっそりとしておく方が良いデスよね?)

提督「そして金剛。来て早々に見苦しい姿を見せてしまった」

金剛「! ノープロブレム! 気にしないで下サーイ!」

提督「ありがたい。──そして、金剛に鎮守府の案内を誰かに任せようと思っている。希望者は居るか?」

加賀「私がします」スッ

提督「そうか。加賀ならば分かりやすく教えられるだろう。頼む」

加賀「ええ、お任せ下さい」

提督「ああ。……比叡」

比叡「……はい」

提督「この後、提督室へ来るように。……ちゃんと説明をする」

比叡「…………はい」

提督「以上だ。何か質問のある者は居るか?」

響「司令官、比叡さんにする説明を私達が聞いても良いのかな」スッ

提督「比叡にだけは聞かせる言葉もあるから、一緒にというのは諦めてくれ。その後ならば聞きたい者だけに教える。比叡が拒否しなければ比叡から聞いて貰っても構わない」

響「うん、分かったよ」

提督「……………………さて、他に質問のある者は居ないようだな。解散」

…………………………………………。



430:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:20:03.97 ID:QDsZQ4q2o

コンコンコン──

榛名「はい、どうぞ」

ガチャ──パタン

金剛「……ただいまデース、マイシスターズ!」

霧島「! おかえりなさい、金剛お姉様」

榛名「おかえりなさいませ。加賀さんの案内は終わったのですか?」

金剛「イエス! とっても分かりやすい説明でシタ! ──ところで、比叡はまだ戻っていないデスか?」

霧島「まだですね。……比叡にだけするお話とは、一体なんでしょうか」

榛名「どういうお話なのでしょうか……」

金剛「…………」

金剛(こういう時は、どう声を掛ければ良いのでショウ……)

コンコンコン──ガチャ──パタン

比叡「ただい──! おかえりなさいませ、お姉様」

金剛「比叡こそおかえりデース!」

霧島「……司令とのお話は、どうだったの?」

比叡「司令に泣かされました」

金剛「!? ど、どういう事デスか比叡!?」オロオロ

比叡「あ、えっとですね……司令がどうして金剛お姉さまを再び受け入れたのかを聞いて、その後に私の頭を優しく撫でてくれたんです。それでなんだか涙が出てきて、司令に泣き顔を見られてしまいました」

金剛「そうだったのデスね、どういう事なのかと思ってビックリしたデス……」ホッ

三人「!」

榛名(……少しだけですが『金剛お姉様』と違います。私の知っている『金剛お姉様』は、苦笑いでもこんなにも弱々しい笑顔ではなかったはずです)

霧島(まったく同じという訳ではないようですね。……別の『金剛お姉様』……ですか。なんだか、妙な気分です……)

比叡(…………)



431:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:20:30.42 ID:QDsZQ4q2o

金剛「? どうかしまシタか、三人とも?」

榛名「い、いえ……榛名は大丈夫です」

霧島「答えになっていないわよ、榛名」

榛名「ええと、それは……」

金剛(──やっぱり、ここの榛名も大人しい子のようデスね。ただ、向こうの榛名と違って目が据わっていないからか、なんだか普通の大人しい子に見えるデス)

霧島「もう……。『大丈夫です』って口癖は直すようにと司令からも言われているでしょう?」

榛名「うぅ……」

比叡「…………」

金剛「まあまあ霧島。榛名もきっと、つい出てしまっただけデスよ。ネ、榛名?」

榛名「……はい」コクン

金剛「ゆっくりと直していきまショウ。出来ないなんて事は無いはずネ」ナデ

榛名「……はい!」

霧島(……ふむ。『金剛お姉様』よりも少し甘いようですね。……ですが、それと同時に優しさももっと柔らかく感じます)

比叡「……………………」

金剛「? 比叡?」

比叡「!! は、はい! なんでしょうか」

金剛「いえ、ボーっとしていたようでシタので……。疲れているデス?」

比叡「…………かも、しれないです。もしかしたら、司令に泣かされたから疲れてしまったのかもしれません」

金剛「……もし良かったら、テートクがどんな話をしていたのかを聞いても良いデスか?」

比叡「それは……」チラ

霧島「……私は聞きたいと思っています。司令が何を思っているのか、どう想って受け入れたのかを知りたいです」



432:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:20:59.97 ID:QDsZQ4q2o

榛名「私も、知りたいです。どういう理由なのか、とても気になっています」

比叡「……分かりました。司令もこうなるのを予想していたでしょうし、どんな話をしていたのかを話しますね」

比叡(ただ……金剛お姉様が別の鎮守府の捨てられた艦娘とかそういう部分は言わないようにしないと……)チラ

金剛(確認をするような目……。きっと、比叡は口裏合わせの準備はオーケーなのかと聞いているのでショウね。大丈夫デス。私はテートクの事をほとんど知らない、ここへ来たばかりの『金剛』と思って話しマス)

金剛「私の準備はオーケーです。比叡、話してくれマスか?」

比叡「はい。──司令はウェーク島で何年も三人の事を考えながら暮らしていて、とある事に気付いたそうなんです。『今の自分を、三人が見たらどう思うか』と。それで────────」

霧島(…………ああ……その言葉は金剛お姉様が言いそうな言葉ですね)

榛名(だから提督は戻ってきて、そしてこちらの金剛お姉様を受け入れたのですね)

比叡「その時に言った事なんだけれど、私達も気を付けないといけないと思います。司令ならば私達を沈ませないと妄信してはいけないと。総司令部からの伝達でも毎月、何人もの艦娘が────────」

金剛『……ええ。私達も、その事をすっかりと忘れてしまっていまシタ。比叡と同じく、心のどこかで安心していたのでショウね』

金剛(! 起きていたのデスか?)

金剛『今さっき起きたばっかりデース。──どうデスか、私の自慢のシスターズは?』

金剛(良い子たちデス。本当、こうして見ると姉妹というのはこれがノーマリティだと思えマス)

金剛『ノーマリティかどうかは分かりまセンが、この子達はこれが普通デス。仲良くして下サイね、マイシスター?』

金剛(──ハイッ! マイシスター!)

比叡「──って、あれ? お姉様、話聞いてますか……?」

金剛「……ソーリィ。ちょっと感傷的になってて聞いてなかったデス」

比叡「もー……」

……………………
…………
……



433:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:21:45.48 ID:QDsZQ4q2o

レ級「──さぁて、そろそろ準備とか良いんじゃないかな、大佐クン?」

大佐「その前に戦力の方を聞かせろ。集まった深海棲艦の数はどれくらいなんだ?」

レ級「ざっと七百ってところかなぁ? まっ、あの鎮守府の十倍くらいは居るんじゃない?」

大佐「十倍か。くっ……くくくっ……如何に奴が優秀でも、これだけの戦力差があるなら余裕だ!」

大佐「くく……感謝してやるレ級。お前のおかげで奴をブッ潰す事が出来そうだ」

レ級「これだけ戦力を用意したんだからさぁ、ちゃーんとこっちの計画も忘れないでよぉ? じゃないと……ゴミムシらしく地べたを這いずり回るだろうからさっ」ニヤァ

大佐「分かってる分かってる。あの鎮守府に裏切り者の深海棲艦が居るんだろ? そいつはちゃーんと逃がさないようにすっからよ」

レ級「じゃあ聞くけど、陸に逃げられそうになったらどうするのかな?」

大佐「奴の鎮守府にプレゼントを送っておいた。それを奴が読めば、陸へ逃げようとしないだろうよ」

レ級「へぇ……? じゃあそっちは任せよう!」

大佐「お前こそ艦隊の指揮をミスすんじゃねえぞ」

レ級「だーいじょうぶだって! ……あの蝙蝠どもは殺さなければならんからな」

大佐「…………!」ゾワッ

レ級「そんじゃ! 強襲する日程を決めよう! なんだったら今からでも──」

瑞鳳「──あ、提督……こんな所に居た、の……で……ッ!?」ヒョコ

レ級「って……あーらら。見付かっちゃった」

大佐「ちっ……面倒な……」

瑞鳳「ぇ……え……? し、深海……棲艦が……な、なんで……?」カタカタ

レ級「はーい動かないでねぇ。ついでに喋らないように」ジャキッ

瑞鳳「っ!」ビクッ

レ級「うぅーん、良い子だ。……でさぁ? 今ここで起きている事は全部忘れてくんない? ロケットスタートを決めようとしたのに邪魔をされるのは御免だからさぁ?」



434:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:22:12.58 ID:QDsZQ4q2o

瑞鳳(で、でも、それって……)チラ

大佐「…………」

瑞鳳(提督……どういう事なの……? 助けて……助けて……っ!)カタカタ

大佐「良い事を考えた。レ級、強襲する日はこいつを徹底的に口止めしてからにしよう」

瑞鳳「────ぇ……?」

レ級「ううん? 何する気なのかな?」

大佐「こいつは色々と具合が良いから処分するのは勿体無い。だから絶対にこの事を漏らさないよう、その身に教え込ませるんだよ。そう……色々な手段を使って、なぁ?」ニヤ

瑞鳳「……………………う……そ……」ペタン

レ級「へぇ……随分と高尚な趣味を持っているんだねぇ。お姉さんドン引きしちゃうかも」ニヤ

大佐「口をそんな楽しそうに歪ませていたら説得力の欠片も無いな」

レ級「あ、バレた? ギャハハハハ!」

瑞鳳(提督が……深海棲艦と……)

大佐「じゃあ……早速『教育』するかぁ」グイッ

瑞鳳「ぁ……」

大佐「運が悪かったなぁ瑞鳳。大丈夫だって。絶対にこの事を言えないようにするだけだからよぉ」ニヤァ

瑞鳳「ヒッ──!」

……………………
…………
……



441:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:26:55.88 ID:/ahWj/2No

ヲ級「こっんだってひょー♪ こっんだってひょー♪」ペタペタ

空母棲姫「ああほら、右側が高くなっているわよ。献立表は皆が見る物なんだから綺麗に張りましょう?」

ヲ級「!! ホントだ! 姫、ありがと!」ニパー

空母棲姫「……本当にこの子ったら。ほら、貼り終えたのだから食堂へ戻るわよ」ナデナデ

ヲ級「はーいっ」ニコニコ

天龍「──ん? おお、姫にヲ級じゃねえか。何してんだ、こんな所で」

ヲ級「てんりゅー! 献立表、張りに来てた!」

天龍「お、マジか! んじゃあ早速チェックしねえとな!」トコトコ

龍田「天龍ちゃんったら本当にご飯が好きよね~」スタスタ

天龍「なーに言ってんだよ龍田! 飯が嫌いな奴なんて」

ヲ級「居ない!」

天龍「なー?」ニカッ

ヲ級「ねー♪」ニパー

空母棲姫「……いつの間にこんなに仲良くなったのかしら」

天龍「ん? いやー、こいつって人懐っこいだろ? ちょっと遊んだらこうなったぜ」

ヲ級「てんりゅー、優しい!」

空母棲姫「そうなのね。良かったわ」ニコ

龍田「貴女も、だ~いぶ馴染んできたみたいね~」ニコニコ

空母棲姫「段々と肩肘を張るのが馬鹿らしくなってきたの」

空母棲姫「そして……全員がお前のように警戒をしてくれると、私も自分の立場を忘れずに済むのだがな」

龍田「あらあらぁ~。何の事かしら~?」

空母棲姫「では、私もとぼけるとしましょうか」

龍田「それが良いわよ~。……私は貴女から残り香が消えるまで、このままだもの」

空母棲姫「……残り香?」

龍田「さあね~? これ以上は言えないわ~」

空母棲姫「…………?」

空母棲姫(残り香……? 一体なんの話だ? ……………………今朝、潜ったせいで磯臭いのでしょうか……? いえ、お風呂はしっかりと頂いていますし……)

龍田「…………」ニコニコ

空母棲姫(……提督と同じくらい読めないわね、この艦娘は)

…………………………………………。



442:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:27:22.09 ID:/ahWj/2No

提督「──さて……執務が終わってしまった」

利根「終わったのじゃー!」

飛龍「量が少ないですからね。……本当、私達は待機していて大丈夫なのでしょうか。こう何日も待機ばかりですと不安で仕方がありません」

提督「安全に関しては、よっぽどの事でもない限り問題無いだろう。だが、こうも一部の遠征と演習以外やる事がないと暇を持て余してしまう。それをどうしようか」

利根「我輩にとってはそっちの方が問題じゃぞ」

提督「まったくだ。鎮守府内の大掃除でもしようかと本気で思っているくらいだぞ」

コンコンコン──

提督「む? 入れ」

ガチャ──パタン

金剛「失礼しマス」

提督「金剛か。どうした?」

金剛「空母棲姫とヲ級からのお届け物デース。チーズを練りこんだタルトだそうデスよ。おやつにして下サイと言っていたデス」

利根「おお! 新作か! 丁度執務も終わった事じゃし、お茶にしようぞ! ……──って、うん? 当の二人は居らぬのか?」

金剛「夕飯を腕によりを掛けて作ると張り切っていまして、手が離せなかったみたいデス。間宮と伊良湖も忙しそうにしていまシタ」

利根「ほほう。何か良い事でもあったのかのう?」

金剛「どうなのでショウかね……?」

飛龍「そういえば今朝方、空母棲姫さんとヲ級ちゃんが張り切って海へ出ていましたけれど、何か関係があるんですかね?」

提督(なるほど、そういう事か)

利根「む。何やら一人だけ理解したようじゃぞ」

提督「何の事やら」

飛龍「……これは完全に分かっていますね」



443:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:27:57.19 ID:/ahWj/2No

金剛「テートク、どういう事なのデスか?」

提督「さて、どういう事なんだろうな」

飛龍「金剛さん、提督はこうなったらテコでも動きませんよ。なにせ、頑固者ですから」チラ

金剛「むぅ……」

利根「ほー、これは珍しいのう。金剛が不満そうな顔をしておる」

飛龍「本当です。初めて見たかもしれませんね」

金剛「!! ご、ごめんなさい……」

提督「何を謝っているんだ。むしろ良い事だと思ったぞ」

金剛「…………? あの……どういう事デスか……?」

提督「金剛は自分を抑え過ぎている所があった。ならば、不満を露に出来るほど心を開き始めてくれているという事だろう?」

金剛「…………」パチクリ

利根「ほほう。これは言っている言葉の意味は分かるが理解が追いついていないようじゃのう」

金剛「…………」

提督「……そんなに予想外だったのか? ほら、深呼吸だ。まずは吸って」

金剛「……すぅ」

提督「そのまま吸い続けて」

金剛「…………!」

提督「まだまだ」

金剛「…………!」プルプル

提督「…………」

金剛「…………!!」プルプルプル

飛龍「あ、あの……?」



444:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:28:23.60 ID:/ahWj/2No

提督「よし、吐いて良いぞ」

金剛「はぁぁ……! …………うぅ……テートク、酷いデス……」

提督「すまない。──少しは落ち着いたか?」

金剛(あ……本当デス。なぜか冷静になっているデス)

金剛「そういう事だったのデスね。ありがとうございマス」ペコ

利根(……人というものは思考が麻痺すると言われた事を忠実に行うんじゃなぁ)

提督「しかし、そんなになるまで意外だったのか?」

金剛「……今まではそんな事は出来ませんでシタので。なので混乱してしまいまシタ。でも、もう大丈夫デス」

金剛「──だって、テートクですから」ニコ

提督「そう思ってくれて嬉しいぞ」ポンポン

金剛「うぅー……また……」

提督「諦めろ。こればっかりは譲らんぞ」

金剛「この間までは少し遠慮して下さっていたノニ……」

提督「嫌か?」

金剛「……その問い掛けは卑怯デス」フイッ

利根「卑怯じゃな」

飛龍「えーっと……」

提督「どうやら私に味方は居ないようだ……」

利根「いやぁ。流石にそれで庇うのは無理があるぞ?」

提督「…………」

金剛「えっと、その……」

提督「…………」



445:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:28:54.34 ID:/ahWj/2No

金剛「……………………たまになら、良いデス……よ?」

利根「ほれ、金剛が折れてしまったではないか」

提督「ではそれに甘えるとしよう」

利根「まったく……」

金剛「ええと……あの、私は紅茶を淹れてきますね?」スッ

提督「頼む」

金剛「ハイ! 任せて下サーイ!」

飛龍「……それにしても、タルトを作ったお二人は何を作っているんでしょうかね?」

利根「気になるよのう。……一人だけ気付いておるのはズルいのじゃ」チラ

提督「違っているという可能性もあるんだぞ?」

利根「ならば言ってくれても良いではないかー」

提督「合っている可能性もあるからな」

飛龍「では、お茶の時間はお二人が何を作っているのかを予想してみましょう」

利根「うむ! 提督よ、お主と同じ結論だった場合は同じじゃと言うのじゃぞ?」

提督「同じ結論だった場合はな」

利根「絶対に当ててみせるぞー!!」

…………………………………………。



455:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:14:49.09 ID:FYyqU5wUo

天龍「うおおおおっ!!! なんだこれ!? なんだこれ!!?」キラキラ

島風「海の食べ物がいっぱーい!!」キラキラ

比叡「ひえぇー……」

川内「良いじゃーん!! 良いよね、こういうの! 好きだなぁ!」キラキラ

赤城「あれは……鯛……!? アワビにサザエ……!! 鮪やカツオまで……!!!」キラン

加賀「素晴らしいです」キラキラ

間宮「今日はいつも頑張って下さっている皆さんへの労いとして、私たち四人が腕を振るってみました。食材の調達は空母棲姫さんとヲ級ちゃんの二人です」

ヲ級「いっぱい、獲ってきた!」

空母棲姫「生態系を壊さない程度にしていますので連続ではできませんが、たまになら出来ると思います」

川内「おおー!!」キラキラ

那珂「川内ちゃんが夜戦以外でこんなに目を輝かせるのも珍しいねー」

神通「気持ちは分かりますよ」ワクワク

那珂(あ、神通ちゃんも楽しみにしてる)

利根「──ふむ。当たったようじゃ」

飛龍「提督の予想って本当に当たりますよね」ワクワク

提督「二人に海へ出る許可を出したのは私だからな」

利根「なんじゃ。それでは最初から知っておったのではないか」

提督「魚を取りに行きたいから海へ出る許可が欲しい、としか言われておらんよ。後の事は全て想像だ」

利根「それがあるのと無いのとでは大違いじゃろうに」

提督「さて、早速夕食としようか」

利根「あ、逃げおったな。──まあ、我輩もそんな事より早く食べたいのじゃ!」トコトコ

提督「そうだな。海産物は新鮮な内に食べるのが一番だ」



456:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:15:19.91 ID:FYyqU5wUo

川内「ほらー! 提督も早く席に着いて着いて! 早くご飯にしようよー!」

空母棲姫「後は提督だけですよ」

提督「分かった分かった。すぐに座る」スタスタ

提督「──さて、全員居るようだ。間宮、伊良湖、空母棲姫にヲ級も席に着いてくれ」

間宮「え? 私達もですか?」

提督「ああ。これだけ豪勢な夕食なんだ。今日は全員が一緒に楽しもう。もし食べる順番があるのならば食べながら教えてくれるか?」

伊良湖「…………」チラ

空母棲姫「諦めましょう。提督は頑固なので折れてくれないわ。──それに」

川内「…………!!」ワクワク

赤城「…………」ソワソワ

加賀「…………」ヂー

空母棲姫「一秒でも速く食べたがっている子が居るのだから、そうしましょう?」

間宮「もう……。ご飯は各自でよそって頂きますよ?」

全員「はーい!」

間宮「では、五つある羽釜にちゃんと列で並んでよそって下さいね。勿論、喧嘩はメッですよ」ニコ

天龍「おっしゃあ!!! 天龍様が一番だぁ!!」ダッ

島風「おっそーい!」ヒョイッ

天龍「あっ!? ちっくしょ!!」

島風「へへーん! 私には誰も追いつけないんだからねー!」

加賀「頂きました」スッ

赤城「一番近い羽釜でしたので、楽で良かったですね」ニコニコ



457:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:15:56.05 ID:FYyqU5wUo

長門「本当、皆して元気だな」スタスタ

響「長門さんはゆっくり後ろに並ぶんだね」

長門「急ぐ必要もあるまい。余裕を持つのは大事だぞ」

暁(レディだ……!!)

雷「暁が何を考えているのか丸分かりね!」

電「なのです」

川内「まだかなーまだかなー」ヒョコ

神通「姉さん、列から乱れないで下さい」

川内「だってー。気になるしー」

熊野「あまり列から乱れすぎると、提督から叱られますわよ」

川内「!!!」サッ

鈴谷「あっははー! やっぱり提督が怖いんじゃーん!」

川内「……そういう鈴谷さんは怖くないの?」

鈴谷「……ごめん。怖い、怒らせたくない……」ビクッ

川内「だよねー……」

加賀「鯛のお吸い物が最高です」ズズー

赤城「お刺身もぷりぷりとしていて赤身もトロも何もかも美味しいですねっ」モグモグモグ

那珂「はやっ!? もう食べてる!!?」

川内「おぉーい!! 早くご飯を取らないと全部無くなっちゃうよー!!」

天龍「うおおおおおおおおッッ!!! 急いで飯をつぐぞおおおおおお!!」

伊良湖「み、みなさーん! そんなに急がなくても大丈夫ですからぁー!!」



458:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:16:22.46 ID:FYyqU5wUo

飛龍「ふふ。皆さん、本当に元気ですよね」ニコニコ

利根「まったくじゃのう」ニマッ

金剛「アハ。見ているだけで楽しくなるデス。──はい、テートクの分デスよ」ニコ

提督「む? ついでによそってくれたのか。ありがたい」

金剛「いえいえー」ニコニコ

比叡「お姉様ー!! どこですかー!!?」

金剛「あ、比叡が呼んでいますので行ってきマス。──今行くデース!」タタッ

蒼龍「飛龍も負けていられないわよー。そのまま提督と一緒に食べてきなさい。今は皆、ご飯に夢中だからさ?」

飛龍「えっ!? え、えーっと……………………うん……」テレ

蒼龍「もう本っ当に可愛いなぁ飛龍はー! 頑張っておいでー!」

空母棲姫「それにしても……今日は一段と騒がしいわね。海の食べ物でこんなにも変わるだなんて思わなかったわ」

ヲ級「魚! 貝! 焼いたり、煮たり、刺身、美味しい!!」

空母棲姫「ええ、本当にね。これだけ喜んでくれると、作った甲斐があったというものです」ニコ

提督「良い顔だ。似合っているぞ」

空母棲姫「……恥ずかしいです」フイッ

ヲ級「姫、素直に、なってきてる!」ニコニコ

空母棲姫「……私をからかう口は、この口かしら?」ツネー

ヲ級「えふぇふぇー」ニコニコ

空母棲姫「でも……良い気分ですね。とても胸の奥が温かくなります」

ヲ級「うん!」

提督「ああ、本当に良い喧騒だ。ここは元気と希望が満ち溢れている」

ヲ級「提督も、笑ってて、良い顔!」

提督「お前もだぞ」ナデナデ

ヲ級「えへー」ニコニコ

提督(……願わくば、こういう時間が続いて欲しいものだ)

…………………………………………。



459:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:16:48.95 ID:FYyqU5wUo

川内「いやぁー。堪能したねぇー」キラキラ

神通「とても良かったです」ホクホク

那珂「二人ともすっごく良い笑顔だよー」ニコニコ

川内「そういう那珂も満面の笑みでしょー?」

那珂「あんなの美味しくない訳ないじゃん! もう那珂ちゃん、体重の事を忘れて食べちゃいそうだったよ!」

神通「あら。食べたら食べた分だけ訓練をすれば消費されますよ」

川内「おっそろしい事を言わないでよ……。流石にあれだけ食べた後だとキツいってー……」

神通「けれど、本当に美味しかったですよね。私は鯛のお吸い物が一番良かったです」

川内「私は蛸の刺身かな? あの歯応えと引き締まった味は最高だったなぁ」

那珂「天ぷらが一番だったけど、油物だから那珂ちゃんは控えめにしなきゃだったのが辛かったよー! カ口リー高いのに、あの味は反則だって!!」

川内「あ、確かに天ぷらも美味しかったね! 赤城さんなんて目ぇキラキラさせてたし!」

那珂「赤城さんは美味しいものなら何でもキラキラさせてるじゃん!?」

川内「いやまあ、そうなんだけどさ。なんだか特に天ぷらを気に入ってなかった?」

神通「言われてみるとそうでしたね。天ぷらを手に取ってからしばらくは天ぷらを口にしていました」

川内「ほーんと、今日のご飯は美味しかったねー」

那珂「またあったら良いよねー」

神通「生態系は壊さない程度に……と仰っていましたから、次はいつになるかは分かりませんね」

川内「だねー。で、ところでさー。二人は空母棲姫さんとヲ級ちゃんの二人をどう思ってる?」

神通「……難しい質問ですね」

那珂「そう? 那珂ちゃんはもう仲間の一人かなって思ってるよ」

川内「やっぱり? 私もそんな感じかな。ヲ級ちゃんなんて人懐っこいし、空母棲姫さんなんてお母さんみたいだしさ」



460:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:17:15.23 ID:FYyqU5wUo

神通「それは……そうですけれど……」

川内「神通は何か不安要素があるの?」

神通「……ええ。いつか、私達が深海棲艦と戦うのを躊躇う日が来るのでは──という不安があります」

川内「んー……。あるのかなぁ、そういうのって」

神通「姉さんは、そうはならないと仰るのですか?」

川内「だってさ、なんだかあの二人だけは別じゃん? 上手く説明は出来ないんだけど、敵って感じがほとんどしないっていうか……むしろ、私達とあんまり変わらないっていうか……?」

那珂「あ、それ分かる! 隣に居ても怖くないよね!」

神通「ですが……」

川内「たしかに神通の言ってる事も分かるよ。けど、不思議じゃない?」

神通「不思議、ですか?」

川内「うん。深海棲艦ってさ、一目で『敵』って分かるよね? だけど、あの二人は敵って感じがほとんどしない。これって、何かがあるって思わない?」

神通「何か……」

那珂「例えばどんなの?」

川内「まあそれは分かんないんだけどさ……」

那珂「分からずに言ってたの!? 何かあるって那珂ちゃん思っちゃったよ!!」

川内「だって本当に感覚なんだからさー」

神通(……本当、あの二人には何があるのでしょうか)

……………………
…………
……



466:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:56:32.40 ID:2Rmk4WMMo

ちょっとだけ内容がエグいかもしれないので、耐性の無い方は次の行間が埋まっている1レスを読み飛ばす事を推奨します。内容的には『づほがグロ的にもエ口的にも酷い目にあった』ってものです。
ちなみにエ口描写は欠片もありません。

以上、注意文でした。



467:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:57:06.91 ID:2Rmk4WMMo

 ──誰も助けは来ない部屋で、私は床をボーっと眺めていた。
 いや、眺める他ないと言った方が正しいのかもしれない。なにせ私は今、手に鎖を巻かれて逃げられないようにされている。それに……これから起こる事への準備として、体力は欠片も使いたくなかった。
 急造された地下の一室──。天井にぶら下がった何個かの電球と床に放り置かれたいくつかの『道具』の数々、そして壁や床に残った夥しい血の跡。それが、今の私の世界。
 今まで辛い事なんて沢山あった。無理難題な指示を必死にこなそうとして疲れ切った身体を無理矢理に動かし、たまに提督の情欲を受け止めるのが前の私の日常だった。提督が使えないと言った子には轟沈命令を出す事さえあった。
『もうこんな毎日はヤダ……』
 泣きそうになりながらそう思っていた私だけど、今はこう言える。そんな毎日の方が遥かに良かった──と。
 だって、肉を削がれる事も無ければお腹に大穴を空けられる事も無いんだから。泣き喚けば喜ばれ、無反応でいようとすれば悲鳴をあげさせるような事をされる。
 そして、四肢を千切られて悲鳴で喉が潰ようと、頭を強く殴られて視力を失っても終わる事なんて無い。私は艦娘であり、生きてさえいれば高速修復材で大抵の状態であれば、その場で直ってしまう。背骨は竜骨みたいなものだから傷つける訳にはいかないと言っていたから、それ以外の事はされるのだろう。
 そんな生活が、少なくとも一週間は続いている。時間の感覚がもう無くなってしまっているから正確じゃないけれど、それでも一週間以上は経っていると思う。
 初日は首を絞めた状態のまま何度も何度も殴られた。意識が薄れてほとんど何も考えられなくなったのが最後だったと思う。
 二日目も同じだったけれど、反応が悪くなったと言って釘を身体に打ち込まれた。お腹に十数本くらい打ち込まれた時に吐血したら、提督とレ級は満足そうな顔をしていたっけ……。
 三日目は骨を折られた。指や腕、足の骨を余す所なく折って、私の悲鳴を楽しんでた。変に折られて骨が皮膚を突き破った時は心底痛かった。身体の内側から壊されているような感覚で、自分の足が有り得ない曲がり方をして、千切れたような痛みが全身を襲ってきた。ここから、私は死ぬ方が良いと思い出した。
 次の日は、出来るだけ二人の興味が無くなるように努めた。出来る限り反応をしないようにすれば、さっさと殺してくれると思ったからだ。──それは、甘い考えだったと今は思う。反応しないのならば反応するようにされる。当然の事だ。今までのやり方でダメだったら、別のアプローチをするに決まっている。それを、私は分かっていなかった。
 用意されたのは、何百キロあるのか分からない真っ赤に燃える鉄の塊。流石に奥歯がガチガチと鳴って、自分が今までで一番怖がっているのが分かった。提督が私を床に押し倒し、右腕を真っ直ぐ伸ばすようにと命令した。もちろん腕は震えていて、身体は腕を伸ばすのを拒否していた。何をされるのか分かっているからこそ、身体が恐怖で固まっていた。
 提督はそんな私の腕を取って、まるでエスコートでもするかのように優しく伸ばさせてきた。その状態で動くな──と命令された私は、覚悟する他無かった。
 提督が離れ、レ級が赤い鉄の塊を私の右腕に落とす。骨が砕けて肉を内側から裂き、鉄の重みで潰された肉はその熱で焼かれる事となった。
 我慢なんて出来る訳もなく、私は悲鳴と共に残った腕で鉄の塊をどかそうとした。左手が焼けて激痛が走ったので、ほとんど反射的に手を離した。その間も私の右腕は焼かれ続け、嫌な臭いが部屋に充満していたと思う。
 結局、私は痛みで失神した。起きた時には身体がなんともなっていなかったから夢かと思ったけれど、肉の焦げた臭いが現実だと教えてくれる。そして……次もまた、焼けた鉄が用意されていたっけ。
 ただ違ったのは、痛みで悲鳴をあげる私を見ながら劣情を解消してきた事だろうか。
 今日は、どうなるんだろう……。

 コツン──。

「……ああ…………」

 休憩は終わりらしい。また、今日も痛みに耐える時間がやってきた。
 できれば、痛くも苦しくもないのが良いな……。

……………………
…………
……



468:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:57:35.33 ID:2Rmk4WMMo

利根「暇じゃぁ……」

飛龍「お仕事も終わっちゃいましたしね……。それにしても、下田の審査っていつまで続くのでしょうか」

提督「審査はあと一週間もあれば終わるはずだ。そろそろ事が起きるだろうから覚悟しておけ」

利根「む? どういう事なのじゃ?」

提督「下田から機密文書が送られてきていてな」スッ

──我、如何ナル時モ総司令部ヘの連絡可──

飛龍「……えーっと…………? なんですか、これ?」

提督「簡単に言えば脅迫状だ」

利根「……これのどこが脅迫なのじゃ?」

提督「字面だけでは分からないが、今朝の偵察で分かった事がある。向こうはこちらに空母棲姫とヲ級が居ると確信している──そう見て間違いないだろう」

飛龍「何かあったんですか?」

提督「──レ級が居た」

二人「!!」

提督「あの鎮守府には、私達の因縁の相手であるレ級が居る。こちらが相手に気付かれないよう索敵できているように、向こうも気付かれないように索敵している可能性が充分にあるだろう」

提督「それを踏まえてこの文書の意味を読み取るならば『おかしな行動を見せれば、総司令部へ即座に横須賀は危険分子だと報告する』という事だ」

飛龍「でも、それって向こうも同じじゃないですか? 向こうもレ級を置いていますし」

提督「条件が違う。向こうは出撃が自由に出来るが、こっちは出来ない。総司令部から視察が来たという理由で同じように海へ逃げても、空母棲姫とヲ級は下田によって沈められてしまうだろう。そんな事、私には出来ん」

利根「むう……では、どうすれば良いのじゃ?」

提督「正直に言って、詰みに近い。打破をしたいのならば見付からないようにこの鎮守府を抜けて下田に潜入して暗殺するか、馬鹿正直に相手するしかない」

飛龍「暗殺なんて無茶ですから、相手をしなければならないという事ですか……」

提督「ああ……。まず間違いなく使ってくる駒は深海棲艦のみだ。向こうは痛手ゼロというのが腹立たしい」



469:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:58:02.19 ID:2Rmk4WMMo

利根「…………む? そもそも、どうして下田はここを狙うのじゃ?」

提督「そこは分からんから予想しか出来ないが、私怨があるのかもしれんぞ」

利根「私怨……? どうしてまた」

提督「この間の演習の時、長門をアッサリとこちらへ移籍させた事が引っ掛かっている。向こうからすれば、アッサリと言う事を聞いている長門が面白くないはずだ」

飛龍「そんな事で……」

提督「後で下田の事を知っている四人にも聞いてみる。……私の予想が外れていて、レ級も空母棲姫たちと同じく良い意味で協力しているのならば良いのだが」

利根「夢物語じゃのう……」

提督「ああ……」

飛龍「……空は、こんなにも蒼くて平和なのに」

提督「所詮、人間の本当の敵はまた別の人間という事だ。深海棲艦を相手にするよりもずっと性質が悪い」

利根「……どうして、同じ種族で争わねばならんのじゃろうなぁ」

提督「人間がそれだけ汚れているという事だろう……。私もまた、その内の一人だ」

飛龍「提督が、ですか……?」

提督「私も、だ。私にとって絶対に許せない事をしていれば、私は障害の全てを排除して目的を達成するだろう」

利根「まあ、どうせ提督の事じゃ。その時は我輩たちも許せぬような内容なのじゃろうな」

提督「さあな。そればっかりはどうなるか分からん」

利根「道を踏み外しそうになったら、しっかりと戻してやるからの」

飛龍「それは、提督の艦娘にしか出来ない事ですからね」

提督「ああ。頼りにしているぞ、二人とも」

…………………………………………。



470:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:58:31.27 ID:2Rmk4WMMo

瑞鳳「ぁ…………ぅ……」ビクンッ

下田提督「ふぅー……スッキリした」

レ級「あーあー。こんなにしちゃって……可哀想に」

下田提督「今回、肉体的に壊したのはお前だろうが」

レ級「そうだけど、精神的に壊したのは君じゃないかなぁ?」

下田提督「そもそも可哀想だなんて欠片も思っていないだろ。流石に手足を挽き肉にするとは思わなかったぞ俺は」

レ級「平然と見ている所か、この状態で犯した癖に……。もしかして、私よりも残虐なんじゃない?」

下田提督「さあなぁ? ま、楽しんだ事は楽しんだんだ。そろそろ、あの鎮守府を壊しに掛かろうか」

レ級「おっ! 良いね良いねぇ! 私もそろそろ頃合いだと思っていたんだよねぇ!」

下田提督「ククク。とことんお前とは気が合う」

レ級「そうだねぇ。もうさ、艦娘じゃなくて深海棲艦の提督になっちゃえば良いんじゃない?」

下田提督「自由に艦娘を犯せなくなるだろ。却下だ」

レ級「ギャハハハハ!! そんな理由で提督やってるなんてねぇ! 本当、面白い人間だわ!」

レ級「んじゃまあ、楽しく殺して殺されよっかぁ!!」

…………………………………………。



477:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:01:24.01 ID:Hk1ZnPxgo

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「こんばんはデス」

提督「金剛か。そっちから来るとは珍しいな。どうした?」

金剛「変な話しデスが……なんだか会いたくなっちゃいまシテ」

提督「……そうか」

金剛「呆れちゃいまシタか……?」

提督「いや、少し意外だっただけだ。だが、本当に珍しい。ただ会いたくなっただけとは」

金剛「迷惑だったら言って下サイね?」

提督「迷惑なものか。気が向いたらいつでも来て良いぞ」

金剛「! ありがとうございマス!」

利根(……のう、飛龍よ。これはもうアレじゃよな?)ヒソ

飛龍(そうっぽいですよね。良い事……なんでしょうか? 提督のお気持ち次第だとは思うんですけれど……)ヒソ

利根(ちなみにじゃが、我輩は受け入れる準備は出来ておるぞ)ヒソ

飛龍(!! ……強いなぁ、利根さん)

提督(一体どんな内緒話をしているのやら……)チラ

提督「さて、三人ともここに居るだけでは暇だろう。特定のメンバーを集めて小さなお茶会でも開くか? 少し聞きたい事もある」

金剛「聞きたい事デスか?」

提督「ああ。それは全員が集まってから話そう。少し待っていてくれ。瑞鶴と響、そして長門を呼んでくる」スッ

金剛「……なるほど。──では、私はお茶を用意しマスね」

提督「ああ。頼んだ」

…………………………………………。



478:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:01:50.04 ID:Hk1ZnPxgo

瑞鶴「──それで、下田鎮守府に何があったの? あ、この紅茶も美味しい」チビチビ

提督「ほう、察しが良いな」

瑞鶴「この面子よ? もう何かがあったっていうのは分かるわ」

長門「そうだな。とうとうあの愚か者が首にでもなったか?」

響「……むしろ、嫌な予感がするんだけど」

提督「その通りだ。下田鎮守府でレ級を確認した」

四人「!!!」

長門「待て!! なんだそれは!? 一体どういう事なんだ!!」バンッ

提督「言葉通りの意味だ」

響「……つまり、あの人は深海棲艦と手を組んだって事で良いのかな」

提督「状況的に見てそう考えても良いだろう。レ級の話は聞いているが、とてもこちら側に協力をするような奴だとは思えん」

金剛「……………………」

瑞鶴「……やっぱり、辛い?」

金剛「……ハイ」

長門(深く関わった者だからなのか、それとも未練が残っているからなのか……。金剛の事だ。恐らく前者だろう。……心優しいのか、それとも私がドライなだけなのか)

響「それで司令官、私達に何か聞きたい事があるのかな」

提督「ああ。下田の提督が深海棲艦と組む理由を考えて欲しいんだ。恐らくレ級から下田の提督へ誘いがあったと思うのだが、それを受け入れた理由がいまいち不明瞭だ」

瑞鶴「……ん? 考えるのは良いんだけどさ、提督さんはそれを聞いてどうするの?」

提督「対応を変えなければならない。脅されているのか、それとも率先してやっているのか……。もし脅されているのならば、いずれ艦娘を相手にする事も考えなければならない」

響「率先してやっていても同じじゃないのかな?」

提督「それは無いだろう。艦娘を使ってしまえば足が付く。そうすると後で総司令部に言い訳が出来なくなってしまう」



479:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:02:19.65 ID:Hk1ZnPxgo

瑞鶴「なるほどね……。それで、受け入れたっていうより……たぶん自分から進んでやっていると思うわよ」

響「そうだね」

長門「間違いなくそうだな」

提督「……金剛もそう思うか?」

金剛「…………」コクン

提督「そうか……。では、どうして自ら進んでやっていると思った?」

瑞鶴「だって、なんか妬んでいそうだもん」

響「うん」

長門「ああ。間違いなくそうだろうな」

提督「ふむ……。妬むというのは私に対してだよな?」

瑞鶴「そうね。こっちに演習に来た時に、なんかそんな感じがしたし。提督さんを妬んで襲ってくるっていうのは考えられるわね」

提督「そうか。……しかし、妬みだけでこんなリスクの高い行動に出るのか?」

金剛「……あの方は、自分の思い通りにいかないと周りが見えなくなってしまいマスから」

提督「ふむ……では、本当に感情に任せた行動なのか」

長門「充分に有り得る……というよりも、それ以外に思いつかんな。あの愚か者は後先を考えない」

提督「ならば、基本的に向こうは我々に危害を加えるべく動いているという前提で対応しよう。ただ……そうではないという意思が見えた場合は救出するぞ」

瑞鶴「救出ねぇ……。なんだかすっごく不思議な感じ」

提督「不満か?」

瑞鶴「不満っていうか……似合ってない? あの人の場合は自業自得っていう感じが強くて……」

提督「……変わるものだな、瑞鶴」

瑞鶴「そこは艦娘も人も同じなのかもね。……まあそれに今は私、提督さんの色に染められちゃってるし?」

瑞鶴「……でも、本当はちょっと自己嫌悪してるんだけどね」



480:妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:03:01.27 ID:Hk1ZnPxgo

提督「……すまなかった」

瑞鶴「良いわよ良いわよ。たぶん、私もどこかで吐き出したかったんだと思う。むしろ、言わせてくれてありがとね」

提督「……そうか」

長門「…………それで、これからどうするのだ?」

提督「鎮守府内全員に招集を掛けて近い内に大規模な戦闘がある可能性を連絡する。幸い、装備は充実しているから後は心構えだけだろう」

飛龍「……………………」

飛龍(でも、なんだか嫌な予感がするんですよね……。なんだろう、この嫌な感じ……)

利根「防衛戦は好きではないのう……。海と違っていくらでも物資はあるが……こう、なんとも言えぬ感覚が──」

ドンドンドンッ──ガチャッ!

大淀「提督! 大変です!!」

提督「敵か」スッ

大淀「え──? は、はい!! 深海棲艦の軍勢が近くに来ています!」

提督「数はどれほどだ」

大淀「暗いので断定できませんが……最低でも五百は居るようです」

利根「五百じゃと!? 一人で七人相手にしなければならぬではないか!!」

提督「大淀、電信室で鎮守府内全域に緊急出撃命令を出せ。全員、兵装を確認した上で外へ出すんだ。そして周辺の灯台を全て使い、海へ向けて照らせ。この夜の中ではまともに戦えん」

大淀「畏まりました。……提督、ご無理だけはなさらないようお願いします」

提督「勿論だ。行け、大淀」

大淀「ハイッ!!」

タタタタッ──!

利根「では、我輩たちも行くとするかの。事は一刻を争う」スッ

提督「ああ。そうしよう」

金剛(……覚悟を、決めまショウ)グッ

…………………………………………。



【艦これ】利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目【後半】
元スレ
利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1442473049/
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