店主「ウチのタレは創業以来継ぎ足してます」タレ「いい加減オレに頼るのはやめろ!」
- 2017年03月28日 03:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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客A「うほぉっ、ここのウナギのかば焼き、美味しいな~!」
客B「なんたって、タレがいいよね!」
店主「そりゃもう!」
店主「ウチのタレは創業以来継ぎ足してますから!」
客A「どうりで!」
客B「歴史を感じる味だよね~」
店主「ありがとうございます!」ニコニコ…
店主「なんでしょう?」
TVスタッフ「今度この店に有名な美食家を招いて、取材させてもらってもよろしいですか?」
店主「もちろんいいですとも!」
店主「必ず美食家さんにうまいって言わせてみせますよ!」
店主「そうすりゃ、ウチの店にもますますハクがつくってもんですから!」
TVスタッフ「期待してます!」
店主「いやー、今日も繁盛、繁盛!」
店主「この秘伝のタレがある限り、ウチの店はずーっと安泰だ!」
店主「むふふ……これからもよろしく頼むよ?」
タレ「……おい」
タレ「お前……いい加減オレに頼るのはやめろ!」
店主「ハァ? 今さらなにをいってやがる!」
店主「ウチの店は代々、ずっとお前に頼ってやってきたんじゃねえか!」
店主「なんでいきなりそんなこというんだよ!」
タレ「ずっとオレに頼ってきたぁ? いーや違うね」
タレ「秘伝のタレであるオレを使いつつも、自分でも工夫や研究を続けてきた!」
タレ「ウナギの捌き方、焼き方、米の炊き方、接客の仕方……と手を抜かなかった!」
タレ「だからこそ、オレもこうして喋ることができるぐらい進化したんだ!」
タレ「だが、お前は違う!」
タレ「お前は自分ではろくに努力しねえで、オレの味に頼りっきりだ!」
タレ「オレがいなきゃ、お前のウナギ料理はせいぜい二流がいいとこだ!」
店主「ぐ……!」
タレ「しかも、先代は安易にテレビ取材を受けるような人じゃなかった!」
タレ「食通を気取って生意気なことをほざく若造に渇を入れてたこともあったっけな」
タレ「今頃、草葉の陰で泣いてるぜ!」
店主「ちっ……」
店主「……で? それがどうしたってんだ?」
店主「お前は秘伝のタレだけあって、よそのタレとは比較にならないくらいいい味持ってやがる」
店主「多分、ウナギ料理なんかやらずタレぶっかけただけの飯を出しても、商売になるくらいにな……」
店主「それに頼って何が悪い!」
店主「これからも俺はお前に頼り続けるぜ!」
タレ「……」
タレ「オレは出てくぜ」ドロッ…
店主「は?」
タレ「あとは一人で頑張りな」ズルズル…
店主(タレが壺の中から出て、自分で動き出すなんて初めてのことだ!)
店主(いや、そんなことより、こいつがいなくなったら俺はどうなるんだ!)
店主「ま、待ってくれ! 待ってくれーっ!」
タレ「……やれやれ」
タレ「オレの説得が通じて悔い改めるようなら、見捨てるようなことはしなかったが……」
タレ「もうあんなバカタレには愛想が尽きた」
タレ「これからは自由に生きさせてもらうぜ」ズルズル…
タレ「ん?」
タレ「なんだいワン公、動くタレが珍しいのか」
タレ「安心しな。オレは敵じゃねえよ」
タレ「なめてみな。いい味だからよ」
捨て犬「……」ペロッ
捨て犬「!!!」ビクビクビクッ
タレ「どうやら元気が戻ったようだな」
通行人A「やだ、この犬元気いっぱいでかわいい~」
通行人B「ちょうど犬を飼いたかったんだ。拾っていこうか」
捨て犬「ワン!」
タレ「……よかったな、ワン公!」
タレ「やれやれ捨て犬の次は迷子か。親は何をやってやがる」
タレ「お嬢ちゃん、オレをなめてみな」
幼女「うん」ペロッ
幼女「!!!」ビクビクビクッ
幼女「あっちにママの気配がするものッ!」
幼女「どうもありがとう!」
タレ「いいタレをなめると、勘もよくなるもんさ」
タレ「おっさん、オレをなめてみな」
リーマン「どれどれ」ペロッ
リーマン「!!!」ビクビクビクッ
リーマン「よーし、頑張るぞ!」
リーマン「今の私ならどんな荒波だって越えていける!」
タレ「達者でな、おっさん」
タレ(ふうん……外の世界ってのも案外面白いもんだな)
タレ(あのクソッタレ店主に従ってるより、よっぽど生きがいを感じるぜ)
<うなぎ料理店>
店主「継ぎ足しの時のレシピを参考にしてみたり」
店主「適当に市販のタレを混ぜ合わせて、新しくオリジナルのタレを作ったりしてみたが……」ペロッ
店主「……ダメだ」
店主「やっぱり秘伝のタレとは比べ物にならない。味が落ちてしまう」
店主「しかし、これでやっていくしか……」
客D「ああ、今まではタレのおかげで気づかなかったが、ウナギの捌き方がえらく雑だしな」
客C「他の店行こうよ」
客D「そうするか……」
店主「あああ……どうすればいいんだ……」
店主(今の状態でテレビ取材なんか受けたら、大変なことになってしまう……!)
店主(しかし、今さら断るわけにも……)
タレ「ハハハッ!」
料理人「HAHAHA!」
料理人「いやぁー、おしゃべりするジャパニーズ・タレがいるなんてビックリね!」
タレ「オレもたまたま立ち寄ったレストランで、あんたみたいな一流シェフと会えて嬉しいよ」
タレ(あいつと違って向上心のある料理人と喋ってると、やっぱ楽しいや)
料理人「ところで、ウチにも秘伝のタレならぬ、秘伝のドレッシングがあるんデース!」
タレ「ほう?」
タレ「……!」ビビビッ
ドレッシング「私、あなたみたいなワイルドな人、だーい好き」
タレ「オレも……あんたみたいな美人……好きだぜ」
タレ(やべー、一目ぼれしちまったぜ!)
タレ(あいつを見捨てて旅に出て、本当によかった……!)
店主「はぁ……どんどん客足が遠のいていく……」
店主「今はまだ俺の体調が悪いんじゃ、みたいな話で済んでるけど、このままじゃ俺は……!」
タレ『いい加減オレに頼るのはやめろ!』
店主「秘伝のタレがないと、自分がこんなに無力だとは思わなかった……」
店主「だけど……あいつはもう戻ってこないだろう……」
店主「自力で……なんとかしなきゃ!」
店主「タレも……市販のタレを使うんじゃなく、自分でちゃんとしたのを作ってみよう!」トローリ…
店主「代々続いてきたこの店を、俺の代で潰すわけにはいかないもんな!」
店主「よーし、当分の間徹夜だ!」
タレ「ああああ~~~~~~っ!」ドロドロドロ
ドレッシング「おおおお~~~~~~っ!」ヌメヌメヌメ
タレ「うっ、たまらねえ!」
ドレッシング「あぁ~ん!」
タレ「ハァ、ハァ、ハァ……」
ドレッシング「ハァ、ハァ、ハァ……」
ドレッシング「私、こんな激しいの初めて……」
タレ「……オレもさ」
タレ「なんだ?」
ドレッシング「あなたの心は……ここにはないって」
タレ「!」ギクッ
タレ「……やっぱり、バレちまったか。あんた、本当にいい女だよ」
ドレッシング「……戻るのね?」
タレ「ああ……短い間だったが、楽しかったぜ」ドロッ…
ドレッシング(さようなら……あなた……)ヌメッ…
……
<うなぎ料理店>
店主「いよいよ今日がテレビ取材の日だ」
店主「未熟ながら、やれるだけのことはやった……」
店主「……どんなに恥をかくことになっても後悔はない!」
タレ(だとしたら、オレが余計なことしない方がいいのかもしれねえな……)
タレ(オレが戻ってきたと分かったら、気が抜けちゃうかもしれないし……)
タレ(ん?)
TVスタッフ「……」ヒソヒソ
美食家「……」ヒソヒソ
美食家「うむ」
美食家「うまかろうがまずかろうが、酷評して、この店の評判を地に落としてやる」
美食家「この店の先代には“食通気取りも程々にしろ”と怒られたことがあってね」
美食家「ワシはずっとあの恨みを晴らすチャンスを待っていたのだ」
TVスタッフ「私もですよ。ここの先代に取材を断られたことがあります」
TVスタッフ「古臭いうなぎ屋如きがテレビ取材を断るなんて生意気ですよ」
美食家「まったくだ」
美食家「親の因果が子に報う、とはまさにこのことだな」
TVスタッフ「おっしゃる通りですなぁ……」
タレ(こいつら……!)
タレ(だけど、オレが今聞いたことをみんなに言いふらしたところで)
タレ(タレのいうことなんて信じてもらえないに違いない)
タレ(店主に今のを知らせたところで、あいつが何か対策を取れるとも思えねえ)
タレ(どうする……!?)
美食家「ワシは遠慮がない人間でね。たとえテレビでも言いたいことははっきり言うつもりだ」
店主「は、はい」
店主「こちら当店名物のうな重です」
店主「どうぞ召し上がって下さい」
美食家「うむ」モグッ
店主「……」ドキドキドキ…
美食家(――だが!)ニヤッ
美食家「うげえっ! なんだこりゃ、マズッ! この店はなんてものを食わすんだ!」
美食家「ワシはこんなまずいウナギ料理を食ったのは初めてだ!」
店主「えええええっ!」
TVスタッフ「……」ニヤ…
TVスタッフ「申し訳ありませんっ!」
TVスタッフ「テレビの前の皆さん、こんな店には絶対来ないようにしましょう!」
美食家「このまずさは、しっかり食べログでレビューさせてもらうよ!」
店主「あああああ……」
店主(やっぱり……ダメだったか……!)
タレ「待ちな!!!」
タレ「未熟者のハナタレが心配で、やっぱ戻ってきちまったのさ!」
タレ「いつもとは逆だが……今オレの体(タレ)を継ぎ足してやるぜ!」ビュルルッ
ベチャッ…
美食家「わっ、タレがうな重の中に!」
タレ「さあ、食え!!!」
美食家「う、うむ……」モグッ…
美食家「うっ!?」ビクビクッ
美食家「う、うまいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
美食家「店主の作った新しいタレと秘伝のタレが未曾有の相乗効果を引き起こして」
美食家「空前絶後の味になってるぅぅぅぅぅぅぅ!!!」ガツガツムシャムシャ
美食家「あ……」
店主「え……? 話ってなんですか?」
美食家「い、いやっ! それはその……」
タレ「へへへ、馬脚をあらわすたぁ、このことだな!」
TVスタッフ「くっ……そ、そうだっ!」
TVスタッフ「こんな生き物みたいなタレ、絶対不衛生に決まってる!」
TVスタッフ「保健所の職員さん、判定をお願いします!」
職員「はい」
TVスタッフ(保健所の人を連れてきておいてよかった……これで営業停止間違いなしだ!)
職員「セーフ!!!」
TVスタッフ「なにいいいいいいいい!?」
職員「いやぁ~こんな衛生的なタレははじめて見ましたよ。ギネス級ですね!」
タレ「当然だろ。オレを食って食中毒になるなんてありえねえ」
タレ「ノロだろうがO-157だろうがサルモネラだろうが、オレにゃかなわねーよ」
TVスタッフ「うぐぐぐ……っ!」
TVスタッフ「参りました……」
美食家「ごちそうさまでした……」
店主「タレ……ありがとう」
店主「お前が戻ってきてくれなきゃ、ウチの店は終わりだった」
タレ「いや……こっちこそタレのくせに主人に逆らってすまねえ」
タレ「それに、ちょっと見ない間にずいぶん逞しくなったじゃねえか」
タレ「これからもよろしく頼むぜ」
店主「ああ! これからはもう、お前に頼りきりになるようなことはしないよ!」
客A「いやぁー、この店の料理、ますますうまくなったな!」
客B「ホントホント! 新しい味と古くからの味が合わさって、今までで一番の味になってる!」
店主「ありがとうございます!」
店主「なにしろ、ウチの店は創業以来のタレを受け継ぎつつも、常に進歩してますから!」
店主「今日も頼むぞ!」
タレ「あいよ!」
タレ(あのヘタレなハナタレが、すっかり一人前になっちまったな)
タレ(ちょっと寂しいかも……おっと、オレとしたことが愚痴なんて垂れちまった)
おわり
元スレ
店主「ウチのタレは創業以来継ぎ足してます」タレ「いい加減オレに頼るのはやめろ!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1490628258/
店主「ウチのタレは創業以来継ぎ足してます」タレ「いい加減オレに頼るのはやめろ!」
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コメント一覧 (14)
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- 2017年03月28日 03:24
- なお、約3ヶ月で入れ替わっている模様。
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- 2017年03月28日 03:54
- へっ、このタレ、未練タレタレじゃねえかよっ!
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- 2017年03月28日 04:13
- 面白い! そして感動要素もある。王道な部分を巧く押さえつつ独創的だ。
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- 2017年03月28日 04:22
- ※1
入れ替わっても記憶はそのままのアンパンマン方式だから
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- 2017年03月28日 04:29
- 場面を容易に想像できた
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- 2017年03月28日 04:35
- 中だれした、途中から妄想になってて読む気が起きなかった
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- 2017年03月28日 04:39
- >>1
人間だって2週間で細胞が入れ替わるよん
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- 2017年03月28日 04:40
- 古くからの味と新しい味が合わさって今までで一番の味になってる!ってところが良かったです。
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- 2017年03月28日 07:37
- ドレッシングと交わったせいでおかしな味になると予想した
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- 2017年03月28日 08:54
- 面白いオリジナルはいいなあ
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- 2017年03月28日 11:28
- ドレッシングがカキタレになってたら完璧だった
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- 2017年03月28日 12:48
- タレ「俺に頼るのはやめろ…」
(ゴミとか虫とかが溜まり続けてて衛生的にヤバイんだよ…!)
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- 2017年03月28日 19:08
- こんな粘液ですら彼女(?)がいるのに、俺と来たら・・・
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- 2017年03月29日 07:28
- 簡潔なディズニー的ストーリー。